――――零番目の世界・勇者の伝承を紡ぐ村・地下室
パッ
スタッ
勇者「ここか……勇者の祠の御神木の隠し地下室……」
勇者「ここから冒険が始まったんだな」
勇者「……っと、感傷に浸るのは魔王を倒してからだ」ダダッ
カッカッカッカッ
ザッ
勇者「なんだこりゃ……?空がどす黒く濁ってる……それに……」
勇者「…………ここからでも感じる……ドデカい魔力ととんでもない数の魔力があっちの方角に固まってる……」
勇者「……そうか、最後の国って俺がいた国なのか……じゃあ王都へはルーラで行けるな」
勇者「待っててくれよ、みんな!!!!」
勇者『ルーラッ』!!!!!!
ドヒュンッ!!!!!!
※関連記事:長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
【1】
【2】
【3】
【4】(完結)
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長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
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――――――――
あるところに一人の少年がいた。
小さな村でごく普通の少年として育った彼はある日自らの過酷な運命を知ることとなった。
そんな彼を支えたのは別の世界の九人の勇者とその仲間達。
勇者達は彼に自らの持てる全てを教えた。
彼が運命の荒波に飲まれぬように、一人の人間としてその運命に立ち向かえるように。
時には共に戦い、
時には共に笑い、
時には共に怒り、
時には共に泣き、
互いを支え合った。
いつしか少年は勇者達にとっても大切な仲間となっていた。
そして今、ここにはかつての少年はいない。
一人の孤高なる勇者がいるだけである。
勇者はこの世界を救うため風を切り、雲を抜け、巨悪に苦しめられている人々の元へと向かっている。
眼下には山や川、いくつもの滅ぼされた村や街やが広がっている。
それらの頭上を通り過ぎ、勇者は行く。
世界のために。
人々のために。
何よりも自分自身のために。
仲間との誓いを胸に。
――――王都・王宮前広場
わー!!わー!!
ウオォォォ!!!!
キィン!!
ガキィン!!
兵士A「ここから先へは行かせんぞ魔族め!!」
キィン!!
魔族A「クハハハハ!!人間ごときが俺達に勝てるわけがないだろうが!!」
カッ!!
ドガァン!!
兵士A「うわーー!!」ドサッ
兵士B「兵士Aーー!!うおぉーー!!」ブンッ
魔族A「おっと」
スカッ
兵士B「なっ!?」
魔族B「隙だらけだぜぇ兵士さん」ビュッ
ドゴッ!!
兵士B「が……!!」ガフッ
魔族A「おい、さっさと殺っちまえよ」
魔族B「まぁそれもいいけどよ……腹減らねぇか?」
魔族A「……たしかに」ニヤリ
兵士B「!?」ビクッ
魔族B「本当は女子供の肉が一番美味いけど……まぁ人間の肉に変わりはねぇ」ジュルリ
兵士B「や、やめろ、やめろーー!!!!」
魔族A「あ~~……」
兵士長「私の部下なんか食べても腹を壊すだけだぞ?」
ザンッ
魔族A「が……はぁ!?」ドサッ
兵士B「兵士長!!!!」
魔族B「テメェ……よくも魔族Aを!!!!」グアッ!!
兵士長「ぬぇい!!」
キィン!!
キキィン!!
ガキィン!!
魔族B「へぇ……人間にしては少しはやるようだな……」
魔族B「だがここまでだ、可愛い部下と一緒に消し飛べ!!」
魔族B『イオナズ……!!』
ドスッ
魔族B「な……!?」
兵士A「人間舐めるなよ……魔族め」ハァハァゼェゼェ
魔族B「く……そ……」ドサッ
兵士長「無事だったか、兵士A」
兵士A「えぇ……まだちょっと頭がクラクラしますがね」
兵士B「兵士長……状況は芳しくありません……第二、第三、第六師団はほぼ全滅。残りの第一、第四、第五、第七、第八師団も……」
兵士長「あぁ、騎士団もほぼ全滅だと連絡があった」
兵士B「騎士団が!?」
兵士A「どうなっちまうんだ俺達……」
兵士長「来い!!なんとしても国王と姫様だけはお守りするんだ!!」ダダッ
兵士A・B「ハッ!!」ダッ
兵士A「……はぁ……しっかし華のない人生だったなぁ……せめて一回ぐらいは可愛い女の子とらぶらぶちゅっちゅしたかったぜ……」
兵士B「お前じゃ一生無理だろうよ」
兵士A「うるせーイケメン!!テメェにゃモテない男の悲しみなんかわからねぇんだ!!」グスッ
兵士長「まだ死ぬと決まったワケじゃないだろう?そう悲壮的になるなよ」
兵士A「でも兵士長……このままじゃ……」
兵士長「私は希望の光とやらを信じるつもりだ」
兵士B「と言いますと……城の占い師が予言した光の勇者のことですか?」
兵士長「あぁ」
兵士A「そんな予言なんかアテになりませんよ、勇者だかなんだか知りませんがホントにいるんなら早く助けにこいって話ですよ」ケッ
兵士長「だが例え占いでも心の支えにはなるだろ?それに……私にはどうしても勇者が現れる気がしてならんのだ」
兵士B「それは何故……?」
兵士長「自分でもわからん……だが闇が存在するなら光もまた存在するべきだとは思わないか?」
兵士A「……前から思ってたんですけど兵士長ってすげープラス思考ですよね」
兵士長「まぁな、悪い考えは下の者に伝染する……人の上に立つ身としてプラス思考でいることは必要なことだと思う」
兵士A「ま、そういうとこ俺は嫌いじゃないですけどね」
兵士長「そうか……私はお前が嫌いだがな」フッ
兵士B「俺もです」ククッ
兵士A「なぁ!?アンタらなぁ!?」
兵士長「……っと、無駄話もここまでだな」
ザザザッ
魔族C「おい、また人間だぞ」クチャクチャ
魔族D「ったく、ウジャウジャ湧いてきやがって……お前らアリンコかよ」
魔族E「さっさと片づけちまおうぜ」
兵士長「少しの時間も無駄にはできん!!一刻も早くここを突破し国王と姫様をお助けするぞ!!」チャキッ
兵士A「合点!!」チャッ
兵士B「了解!!」チャッ
わー!!わー!!
ウオォォォ!!!!
――――王宮・王の間
ブシャアアァァ!!
騎士団長「ぐ…………は……」ドサッ
国王「騎士団長!!」
姫「お、お父様!!」ダッ
国王「来るな!!」
姫「!!」ビクッ
炎の四天王「おうおう、護衛も死んじまって絶体絶命だってのに娘の身を案じるとは泣かせるなぁ」ニタニタ
国王「く……この国ももう終わりじゃ……大人しく降伏しよう……じゃからせめて国民達には手出ししないと約束してくれんか?」
国王「そのためならわしの命など喜んで差し出す……この通りじゃ」バッ
炎の四天王「あーあ、一国の主が敵に頭下げるなんて……情けねぇなぁ」ケッケッケ
国王「…………」ギリッ
炎の四天王「でもそのお願いは聞いてやれねぇんだわ」
国王「な!?」
炎の四天王「俺達は魔王様からこの国を破壊し虐殺し尽すことを仰せ遣っている」
炎の四天王「まして魔王様の望みは人間共の完全支配だ、今まで墜としてきた国でも生き残った人間はみんな奴隷として使っている」
炎の四天王「それなのにお前一人の命で他の人間を見逃して欲しいだ?笑わせるぜ、お前何様だよ?あ、王様か……グハハハハハ!!」ゲラゲラ
国王「ぬぅ……おのれぇ!!」
炎の四天王『メラミ』パチィン
ボウゥッ!!
国王「ぐ……ああぁぁあ!!!!」
姫「お父様ぁーーー!!」
炎の四天王「おいおい、死なない程度に加減してやったってのに大げさな奴だなぁ」
炎の四天王「さて」ジロッ
姫「!?」ビクッ
炎の四天王「噂には聞いてたけどお前美人だな、この美貌なら魔王様もきっと気に入るハズだ」クックック
姫「な、何を……」
炎の四天王「なぁに、お前は無傷で生かしといてやるって言ってんだよ」
炎の四天王「ちょっと頭の中いじって魔王様に絶対の忠誠を誓わせてやるよ」ケッケッケ
バァン!!!!
炎の四天王「ぁあん!?」
兵士長「そこまでだ!!魔王軍!!」ハァハァ
兵士A「そうだそうだ!!俺達のアイドル、姫様に指一本触れてみろ!?この兵士長と兵士Bが黙っちゃいないぜ!!」
兵士B「お前もだよ」
ガンッ
兵士A「いてっ」
姫「兵士長!!兵士B!!」
兵士A「あ、あの~姫様?俺もいますよ~」
炎の四天王「なんだよおどかしやがって……人間の兵士か」
兵士B「兵士長、あれを!!」
国王「う……ぐぅ……」シュウゥ
騎士団長「」
兵士長「こ、国王!!騎士団長!!」
兵士長「貴様……行くぞ、お前達!!!!」
兵士長「ぅおおおおおお!!!!!!」ダッ
兵士A「おりゃああああ!!!!!!」ダッ
兵士B「はぁあああああ!!!!!!」ダッ
炎の四天王「雑魚はすっこんでろ!!」
炎の四天王『ベギラゴン』!!!!
ゴオオオォォォ!!!!
兵士長「ぐ……あぁぁ!!」
兵士A「うわ……っ!!」
兵士B「が…………!!」
ドサドサドサッ
シュー……プスプス
姫「な!?そ、そんな……!!」
炎の四天王「ったく、余計な手間かけさせやがって……」
国王「に……逃げろ……姫……」
兵士長「姫……様……」
兵士A「熱つ……ぐぅ……」
兵士B「お逃げ下さい……」
炎の四天王「ホラ、こっちに来いよ、姫さん」ケッケッケ
姫「…………嫌です!!」バシィッ
炎の四天王「…………あ゛?」ギロッ
姫「お父様やお城の皆さん……国の皆さんに酷いことをする魔王などに付き従うぐらいでしたら……ここで死んだ方がマシですわ!!」キッ
炎の四天王「……その言葉……本心だな?」ゴゴゴゴゴ
姫「えぇ!!悔いたりしません!!」
炎の四天王「なら望み通りにしてやるよ…………ここで死ねぇ!!!!!!」グアッ
兵士長「ひ、姫様ぁ!!」
姫「………ッ!!」ギュッ
ガキィーーーーーーン!!!!
勇者「危ねぇ~……間一髪ギリギリセーフ、ってとこかな」ヘヘッ
姫「…………!?」パチッ
兵士長「な……何者だアイツ……?」
炎の四天王「な、なんだテメェは!?俺の一撃を受け止めるなんて……タダ者じゃねぇな!?」
姫「あ、貴方は一体……?」
勇者「俺は…………」
勇者「この世界の勇者さ!!」ニッ
姫「ゆ、勇者様……?」
炎の四天王「勇者!?勇者だと!?ば、馬鹿な!!あの村はたしかに俺が指揮を執って全滅させたハズ……なのに勇者が存在するなんてあり得ねぇ!!!!」ワナワナ
勇者「ところがいたんだなぁ……一人だけ生き残った少年がさ」
炎の四天王「ぐ……だ、だがそれがどうした!!例え勇者でも俺達魔王軍と魔王様に勝てるワケがない!!」
炎の四天王「今ここでケシ炭にしてやる!!!!」
勇者「…………」チラッ
勇者「ここで闘うのは得策じゃないな……もっと広いところじゃなきゃ俺も暴れられないし」
炎の四天王「うおおお!!」ダッ
勇者『バシルーラ』!!
バァンッ!!
炎の四天王「な……!?」
ビューーン!!
勇者「よし、外に出たな……他の魔族共々片付けてやる」
姫「あ、あの!!勇者様!!」
勇者「あぁ、姫さんか……へぇ~……見たことなかったけどすげー美人だな、噂通りだ」
姫「先程は危ないところをありがとうございました」ペコッ
勇者「いいっていいって、それよりもっと早く来れなくてすまなかったな、王都がこんなにメチャクチャになっちまってるなんて……」
姫「…………」
勇者「でも後は俺に任せとけ!!魔王なんざ軽くぶっ飛ばしてやるからよ!!」ニカッ
姫「は、はい!!」
勇者『トベルーラ』!!
フワッ……ギュンッ!!!!
兵士A「っう……へ、兵士長……アイツは……」
兵士長「あぁ、間違いない……俺達の希望の光、勇者だ!!!!」
――――王宮前広場
わー!!わー!!
ウオォォオ!!
勇者「……すげぇ数の魔族だな……だけど負けるつもりはない!!」
炎の四天王「テメェ……さっきはよくも吹っ飛ばしてくれたな……」
勇者「あそこじゃお前も闘いづらいだろ?俺も本気出せないしさ」
炎の四天王「ほざけ!!お前ら!!人間共は後でいい、コイツを真っ先に潰せ!!」
魔族達「ハッ!!!!」
――――――――
数えきれないほどの魔族達が勇者へと襲いかかる。
或る者は手に武器を携え、また或る者は呪文を放とうと身構えている。
圧倒的な数の殺気を―――常人なら卒倒しかねない殺気を―――その身に受けつつも勇者は至って冷静だった。
呪文を使う時はそうあることが求められるからだ。
ワン『第一段階として世界に満ちる魔力の知覚』
勇者はまず静かに目を閉じた。
ワン『第二段階として自分の中の魔力を変換して扉を造る』
次に己の中で魔力を高めていく。
ワン『第三段階で自分の発するスペルが鍵となり扉を開く』
自らの放つ呪文……そのイメージをハッキリと形にする。
ワン『そして最後に世界に満ちる魔力が扉を通って放たれる』
そして呪文の名と共に蓄えられた魔力が解放され大爆発を引き起こす!!!!
勇者『イオグランデッ』!!!!!!
カッッッ!!!!
ドッガアアアァァァァーーーーン!!!!!!!!
魔族の群れ「ぐあああぁぁぁーーー!!!!」
大気中の塵を利用し広範囲に渡り魔力の爆発を起こすのがイオ系の呪文である。
中でも勇者が今放った呪文は極大呪文……つまり最強の破壊力を持つ呪文だった。
修行により培われた勇者の膨大な魔力と相まってその爆発は千を超える魔族を一瞬にして無力化する規模となった。
爆発の余韻は今尚大地を、大気を揺らし続けている……。
勇者「ワン……どうだ?呪文も知らなかった俺が今じゃこんなすげー呪文だって使えるんだぜ」
――――――――
イオグランデによる爆煙の中から一つの巨大な影が躍り出た。
勇者の20倍……いや、30倍はあろうかという巨大な影は真っ直ぐに勇者へと突き進んでくる。
勇者「!?」
大地の四天王「フハハハハ!!たいした威力の呪文だ!!だがな、部下達は倒せてもあの程度の爆発では俺は倒せんぞ!!!!」ギュンッ
ガシィッ!!
岩肌の巨大な魔族が勇者を両手で鷲掴みにする。
その姿はさながら大男が小さな羽虫を握り潰そうとしているかのようである。
ググググググ……!!!!!!
大地の四天王がその手に力を込める。
彼は魔王軍で魔王に次ぐ怪力の持ち主。
その気になれば山をも動かすことができるとさえ言われている。
大地の四天王「このまま潰れてしまえぇ!!!!!!」
大地の四天王は全身にみなぎる力を握力へと変え勇者を握り潰す。
しかし……その手は微動だにしない。
彼の手に包まれている勇者は潰れていない。
大地の四天王「な……にぃ!?」
こめかみに青筋を浮かべ歯をくいしばり手先に力を込める大地の四天王。
だが彼の両手は力の入れすぎで小刻みに揺れるだけである。
勇者「……なんだよ、これが全力か?」
大地の四天王「!?」
勇者「ぅ……ぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
雄叫びと共に勇者が全身に力を込める。
ググ……
グググ……!!
全力で握っているにも関わらず徐々に開いてゆく大地の四天王の両手。
そして……
勇者「だぁっ!!!!」
バァンッ!!
大地の四天王「ば……馬鹿な!!俺の怪力から逃れるなどそんな…………!!」
勇者「これで怪力自慢のつもりか?ハッ、笑わせんな。お前じゃツーの50%にも勝てないだろうよ」
言うと勇者は空中で左足を前にする形で半身に構え深く腰を落とした。
体重は左足に三、右足に七の割合でのせる。
勇者「せやぁああ!!」ドンッ!!
掛け声と同時に大地の四天王へと突進する。
狙いは心中線、鳩尾。
腰の捻りと同時に左手を引き右手を突き出す。
勇者の全力と全体重ののった拳が大地の四天王の急所を真っ直ぐに捉えた。
勇者『正拳突きぃぃ』!!!!!!
ドゴオッッッ!!!!!!
大地の四天王「ぐっはああぁぁぁぁ!!!!!!」
大地をハンマーで打ちつけたような重々しい音と共に大地の四天王は吹き飛んだ。
……自分の掌よりもずっとずっと小さい人間の手によって。
勇者「ツー、いつか100%本気のお前と組手がしてみたいもんだな」
―――――――――
意識を失い地上へと落ち行く大地の四天王。
その姿を尻目に勇者は次の行動に移っていた。
わー!!わー!!
ウオオォォォ!!!!
先程爆裂呪文で千の魔族を倒したとは言え広場にはまだ数えきれない魔族が王国の兵士達と闘っている。
眼前を見下ろすと勇者は静かに腰から下げた愛剣を抜いた。
『天叢雲剣』。
勇者が苦難を共にした『草なぎの剣』の生まれ変わった姿だ。
刀身には鮮やかな青の紋様が細工されている。
誰もが息を飲むほど美しい剣である。
勇者は剣を高々と天へと掲げた。
ゴロゴロ……
ゴロゴロゴロゴロ!!!!
魔族F「な、なんだ!?」
魔族G「雷雲だと!?」
勇者は広場にいる魔族一人一人の位置を把握するために意識を集中する。
十分な精神統一の後、勇者が叫ぶ。
勇者「くらえぇ!!」
勇者『ギガデイーーーンッ』!!!!!!
カッッ!!
ピシャァ!!!!
ズガガガガガーーーーン!!!!!!
魔族達「ぎゃああぁぁぁーーー!!!!」
古より勇者のみが扱うことを許された稲妻の呪文、デイン。
その最高クラスの呪文がギガデインだ。
勇者が呼び出した雷雲より放たれし千のいかずちは広場の魔族達を的確に狙い撃った。
本来広範囲に向けて放つこの雷撃の呪文を複数の対象に、それも正確に命中させることができたのは勇者の力量があればこそである。
地上へと落とされた高密度の魔力の落雷を受けた魔族達の多くは断末魔を叫ぶのもままならぬままに炭と化した。
勇者は剣を抜いた時と同じように静かに鞘へと納めた。
キィン!!
勇者「デイン系は勇者の呪文だったな……俺もアンタに負けないようなギガデインが使えるようになったぜ、スリー」
――――――――
風の四天王「まだまだだぁ!!」バサッ
大きな翼を生やした魔族が空を駆ける。
風の四天王。
大地の四天王がパワーの四天王だとするならば彼はスピードの四天王である。
その疾風の如き疾さは魔王すら一目置いているほとだ。
彼の本気のスピードは一般人には目に留めることすら許されない。
正に神速の魔族と言えよう。
風の四天王「先程の爆裂呪文と雷撃呪文でかなりの数の魔族を倒したみたいだけどな、まだ魔王軍の兵士は半分以上残ってるぞ!!!!」
勇者「言われなくてもわかってるよ」
風の四天王「それにな、貴様はここで俺達に倒されるんだ!!!!」
風の四天王「ピーーーー!!!!」
バササササササササササササッ
疾風の魔族A「風の四天王様!!」バサッ
疾風の魔族B「我らが来たからにはこやつの命もここまで!!」バサッ
疾風の魔族C「行きましょうぞ!!!!」バサッ
風の四天王の口笛によって上空へ現れたのは十二人の疾風の魔族。
風の魔族直属の上級魔族である彼らもまた背中に翼を有している。
そのスピードはやはり魔王軍随一である。
風の四天王「行くぞぉ!!」
疾風の魔族達「ハッ!!!!」
ビュワワワワッ!!!!!!
風の四天王の合図を受けて最大戦速へと加速する疾風の魔族達。
今勇者の回りには風の四天王と疾風の魔族達が超スピードで飛び回っている。
計十三対の翼が目にも留まらぬ速さで勇者を翻弄する。
勇者は肩幅より広く足を開き若干前屈みになり、おもむろに左右へ両手を広げた。
風の四天王「フハハハハ!!この速度で飛び回る俺達に呪文を当てる気か!?」
風の四天王「やってみるんだな!!呪文を外した時が貴様の最期だ!!!!」ビュワッ!!
勇者「別に、当てるつもりなんかないよ」
風の四天王「何!?」
勇者『バギムーチョ』!!!!!!
ビュワーーーーーッ!!!!!!!!
ゴウゥッッッッ!!!!!!!!
風の四天王「な……あ!?」
今勇者が放った呪文は空気を操り突風、真空波を起こす真空呪文。その極大呪文である。
戦闘で相手に致命傷を与えるためならこの呪文で発生させた巨大な真空波の竜巻を相手にぶつけるのが効果的だ。
だが勇者はそうしなかった。
空中において自分を中心に大規模化な気流のうねりを発生させるためにこの呪文を使ったのだ。
疾風の魔族A「ぐぁ……!?」グラッ
疾風の魔族B「何ぃ!?」グラッ
翼で空を舞う風の四天王、疾風の魔族達は突如として起こった気流の洪水によってバランスをとれなくなり、為す術もなくきりもみ状態となった。
ヒュッ!!
ザンッ!!
疾風の魔族K「ぐあぁ!!」ヒュー
風の四天王「!?」
ヒュッ!!
ザンッ!!
疾風の魔族L「きゃー!!」ヒュー
風の四天王「な、なんだ!?」
ヒュッ!!
風の四天王「!!」
勇者「よう、お前が最後だな」
風の四天王「ち、ちくしょぉおおー!!」ブンッ
サッ
勇者「ハァッ!!!!」
ザンッッッ!!!!
風の四天王「ぐ……はぁ……!!」ガフッ ヒュー
鳥が鳥たる所以は翼で大空を自由に舞うことができるからだ。
翼を失った鳥は鳥ではない。
風の四天王の苦し紛れの攻撃を空中浮遊の呪文で優雅に避わし勇者は彼の体を二つに切り裂いた。
勇者「『鳥系や空を飛ぶ魔物にはバギ系の呪文が有効だな、と言うのもバギ系は風を起こす呪文だから上手く気流を乱してやれば空を飛ぶ魔物はバランスがとれなくなって隙が出来る』だろ?フォー、アンタから教えて貰ったこと……ちゃんと覚えてるからな」
――――――――
水の四天王「ちょっと!!大地の四天王だけじゃなくて風の四天王もやられちゃったわよ!?」
炎の四天王「狼狽えんな!!アイツは暢気に空に浮かんだままだ、このまま撃ち落とせばいい!!」
炎の四天王「弓隊!!呪文隊!!前へ!!!!」
弓隊・呪文隊「「「ハッ!!!!」」」ザザザザッ
魔王軍の中でも遠距離攻撃を担当しているのが弓隊、呪文隊である。
その名が示す通り弓隊は弓術の名手が在籍している隊だ。
しかも彼らはただ弓矢を使うだけではない。
矢尻に魔力を伝わせることによって矢のスピード・破壊力・命中精度を向上させているのだ。
呪文隊は呪文使いのエリート集団だ。
通常呪文は一度に一つの呪文を使うことしかできないが呪文隊に在籍する魔族は同時に二~三種類の異なる呪文を使うことができる。
勿論その精度、威力共に申し分ない。
炎の四天王「撃てぇーーー!!!!!!」
弓隊「はぁっ!!!!」
ビュビュビュビュッ!!
ヒュンヒュヒュンッ!!
呪文隊『メラゾーマ』!!!!
ボオォォォ!!
呪文隊『マヒャド』!!!!
ビュワァァ!!
呪文隊『バギクロス』!!!!
ズバババッ!!
魔力を帯びた矢と火球、吹雪、真空波。
数多の悪意が勇者に向けて放たれた。
空中に飛翔呪文で浮かぶ勇者はこの弾幕にとって格好の的である。
勇者「…………」スゥ…
勇者はそれらを見切ろうともせずに静かに目を閉じた。
炎の四天王「目を閉じただと!?諦めやがったか!!」
しかし違った。
勇者は意識を深く深く集中する……。
ヒュッ
ササッ
スッ
クルッ
サッ
炎の四天王「な……なんだと……!?」
炎の四天王は驚愕した。
勇者は目を瞑ったまま矢と呪文の雨を避けているからだ。
まるで川の流れのように流麗に、
まるで洗練された舞踏のように鮮やかに、
一片の無駄のない動きで攻撃を避けてゆく。
ついには全ての攻撃を避けきった。
勇者「ふぅ…………」パチッ
勇者「目で視ようとしないで魔力を感じる……か。ファイブ、この力は俺の中ですげー財産になったぜ」
――――――――
弓隊、呪文隊の猛攻をしのいだ勇者は地上へと降り立った。
目標は魔王軍の指揮官、炎の四天王。
勇者『ピオリム』
キュワン!!
勇者「よーい……ドン!!」ダンッ
己の身を羽の如く軽くする身体能力強化の呪文をかけると勇者は大地を力強く蹴り敵陣へと駆けた。
魔族達「うおおおおお!!」
風の四天王の言っていた通り相当数の魔族がまだ残っているようだ。
勇者はそんなことに構わず向かってくる敵を蹴散らしてゆく。
勇者『回し蹴り』!!!!
ドガガガガッ!!
勇者『真空波』!!!!
ザザザザンッ!!
勇者『岩石落とし』!!!!
ドゴゴゴーーーン!!!!
勇者『マグマ』!!!!!!
ビキ……ビキビキビキ!!
グツグツグツ!!
ゴッパァ!!!!
その場にいた魔族の中には勇者に見とれる者すらいたという。
勇者が放つ技…………その研ぎ澄まされた技の冴えとおよそ常人には扱うことのできないであろう技の多彩さに。
勇者『グランドクロスッ』!!!!
キィンキィン!!
カアアァァァ!!!!!!
戦場を駆ける一人の戦士。
その後ろ姿は魔に染まった者達にすら光輝いて見えた。
これが技の極みなのか、と。
勇者「シックス、俺がこうして色んな特技を使うことができるのもお前がダーマ神殿に連れていってくれたからだな。感謝してるぜ!!」
――――――――
炎の四天王「魔巨獣を出せっ!!」
魔族H「ま、魔巨獣ですか!?し、しかしまだ戦場には我が軍の兵士が相当数おります!!暴走しては……」
炎の四天王「構わねぇ!!アイツさえ仕止められるんならそれでいい、暴走したら俺が処分する、それでいいだろ!?」
魔族F「ハ、ハッ!!」
呪文隊の魔族達が巨大な円を描く。
地面には魔族の文字と記号が並べられた魔方陣。
魔族達が自らの手を切り血を流す。
その血が地面へと……いや、魔方陣へと吸い込まれてゆく。
勇者「!?」ハッ
魔族の兵士達との闘いの最中であった勇者はその異変に瞬時に反応した。
禍々しい異質な魔力がこの場に現れようとしている。
魔力知覚に長けた勇者はそれを感じ取っていた。
魔巨獣「ガアアアァァァァーーーーー!!」ゴウッ!!
けたたましい叫び声と共に戦場に一つの巨影が現れた。
魔巨獣は元は魔族の死刑囚達である。
死刑になる変わりに魔王の強大な魔力によって複数人の魔族が合成され、理性を奪われ、獣となった姿だ。
理性が無くなったことで命令を聞かせることはできなくなったのだがそれでもその膨大な魔力と溢れんばかりの力は十分すぎる戦力となる。
実際いくつかの人間の国を壊滅させた主戦力は彼である。
魔族I「う、うわぁ!!魔巨獣だ!!」
魔族J「に、逃げろぉーー!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく魔族達。
ズン……!!
ズズン……!!
魔巨獣「グアアァァァーーー!!」
その巨大な体は大地の四天王を遥かに凌ぐ。
王国の城と同じかそれを超える巨体である。
勇者「でけぇな……まぁ図体がデカいだけじゃ俺には勝てねぇけどなッ!!」ダンッ
魔巨獣の巨大な右腕が勇者を襲う。
それを難なく避わし勇者は魔巨獣の体の真下へと滑りこんだ。
愛剣を地面に突き刺し叫ぶ。
勇者『ジゴスパークッッ』!!!!!!
地面に刺さった天叢雲剣を中心に巨大な魔方陣が地面に浮かぶ。
それはこの世界と魔界とを繋ぐゲート。
魔方陣の中心から黒々とした魔界のいかずちがほとばしる!!
ズガガーーーン!!!!
バリバリバリバリ!!!!
魔巨獣「ギャォオオ!?」
ドシーーン!!!!
足元からの強力な雷撃にバランスを崩した魔巨獣はその場に倒れた。
下からの攻撃を受けて倒れながらに自らの足元へと目を向けた魔巨獣は目を疑った。
そこには誰もいなかったからだ。
勇者「こっちだデカブツ!!!!」
魔巨獣「!?」ハッ
上空からの声に魔巨獣は上を見上げた。
しかし遅かった。
勇者の手には巨大な光の剣が握られていたのだ。
飛翔呪文で加速し真っ直ぐに魔巨獣の顔へと向かってくる。
降り下ろされたその光の剣……それは『勇者』の秘剣。
勇者『ギガスラッシュッッッ』!!!!!!
ズバァーーーーーーーンッッッ!!!!!!
魔巨獣「ギャォオオオオオ!!!!」
大地の震えのような断末魔の叫びと共に魔巨獣は命を絶った。
魔獣として肉体を弄ばれた哀れな魔族達にとって、死は唯一与えられた安息なのかもしれない……。
勇者「勇者の秘剣ギガスラッシュ……ちゃんと使えるようになったぜ、セブン。他の世界で勇者の職を極めるって約束、ちゃんと守っただろ?」
――――――――
ザッ……
勇者「よう、あんたがこの戦場の指揮官だろ?」
炎の四天王「まさか魔巨獣までやられるとはな……」
水の四天王「フンッ、四天王が二人もやられた時点で十分想定できたことだろ?」
炎の四天王「チッ……だが俺達はそう簡単には倒せんぞ!!」
水の四天王「あぁ!!死ぬのはアンタの方だよ!!!!行くよ、炎の四天王!!!!」
炎の四天王「わかってらぁ!!二人でいくぞ!!!!」
燃え盛る炎をイメージさせる造りの巨大な斧を構え炎の四天王が勇者へと向かってきた。
周囲の空気すら凍らせる氷の鞭を片手に水の四天王もそれに続く。
重たい斧の一撃は威力こそ高いが動きが直線的になってしまう。
それをカバーするように変幻自在の鞭さばきが勇者を襲う。
勇者「…………」スッ サッ
水の四天王「ハハハ、どうだい?アタシ達のコンビネーションは!?」
炎の四天王「斧と鞭を極めた俺達二人がかりではさすがのお前も手も足も出まい!!!!」
勇者「極めた……?これでか?」
勇者はそう言うと一歩踏み込んだ。
炎の四天王「!?」
爆発的な加速により炎の四天王の脇を通り過ぎたかと思うと水の四天王の間合いの内側、つまり鞭による攻撃が不可能な超近距離へ接近したのである。
水の四天王「な………!?」
勇者「……ゼシカならこんなに簡単に間合いの内側にいれてくれないよ」
ザンッッッ!!
水の四天王「が…………!?そ、そんなばかな……アタシが…………」ドサッ
神速の居合で水の四天王を両断する。
炎の四天王「テメェーーーー!!!!」ゴウッ
勇者「……ヤンガスならそんな大振りはしないな」ブンッ
ガキィーーーーーン!!!!
ヒュンヒュンヒュンヒュン……
超重量の斧を弾き飛ばされ炎の四天王は狼狽した。
炎の四天王「ば……ばかな…………」
勇者「アンタらさ、全ッ然武器を極めてなんかないよ。武器は己の体の一部…………それが分かってないようじゃあさ」
炎の四天王「お、おのれぇ…………!!!!」
勇者「エイト、今闘ったらお前からでも一本とれるかな?そんときは…………なんか飯でも奢ってくれよな」
――――――――
炎の四天王「この俺様を……炎の四天王を舐めるなよぉ!?」ゴオゥ!!
炎の四天王の体が二回りほど大きくなった。
彼の体躯は彼自身の精神と深く結びついている。
とりわけ闘争心、怒り、憎しみ…………そういった感情がそのまま彼の力となるのだ。
身に纏う炎もその激しさを増し、猛っている。
炎の四天王「俺が……この俺が負けるわけないんだ!!!!下等な人間なんかに!!!!ムシケラにぃーーー!!!!」
ゴオオオォォォ!!!!
彼の怒りの炎は激しさを増しあたり一面を焼き尽くさんとしている。
うねり、轟き、燃え上がる赤々としたその業火は彼の憤怒を如実に表している。
怒り狂う炎の四天王の眼をじっと見据え勇者は口を開いた。
勇者「アンタ……命を懸けた死闘ってもんをしたことねぇな?」
炎の四天王「ぁあん?何ワケわかんねえこと言い出してんだテメェは?」
炎の四天王「俺様が命を懸けるぅ?ハッ、馬鹿なことぬかすんじゃねえよ!!人間ごとき焼き殺すのになんで命なんか懸けなきゃならねぇ!?」ゲラゲラ
炎の四天王「俺様は無敵なんだよぉぉーーー!!!!」
炎の四天王『煉獄火炎』!!!!!!!!
ゴオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!!
炎の四天王が吐き出したのは燃え後に炭すら残らないといわれる地獄の業火。
灼熱の炎が勇者に向けて放たれた。
その瞬間、勇者の見せた動きは炎の四天王が全く予想だにしていないものだった。
勇者「だああああああぁぁぁぁぁ!!!!」ダンッ
炎の四天王「な!?俺の炎に自分から飛び込んできただとぉ!?」
ブワアアァァァッ!!!!
死中に活を見出す。
己の身を敢えて危険にさらすことで僅かな生を手繰り寄せる術を掴む。
勇者は燃え盛る火炎の中に自ら突撃し、内側から火炎をかき消した。
勇者「せやぁっ!!」
ヒュバババン!!!!
ブシャアアアァァ!!!!
炎の四天王「が…………は…………!?」
炎の四天王「なんで……なんでこの俺が人間なんかに………!?」
勇者「命のやり取りをする闘いでは力も経験も勿論必要だけどな、それ以上に生への意志が重要になってくる……命を懸けてないお前には生にしがみつこうって気持ちがないんだよ。それが絶対的な敗因だな」
炎の四天王「ちくしょ……お……」ガフッ
ドサッ……
勇者「ナイン、直接は教えてもらってないけどさ、お前が俺に教えたかったことって……きっとこのことだったんだろ?命を懸けるってことの本当の意味、わかったつもりだぜ」
――――王宮・王の間
兵士A「よっしゃあああぁぁあ!!」
兵士A「見たか!!我らが勇者サマの力を!!」ハーハッハッハ!!
兵士B「……ったく、ついさっきまで勇者なんか信じない、みたいなこと言ってたのにゲンキンな奴だよ」ハァ
兵士長「国王、お怪我の具合は……」
国王「だ……大丈夫じゃ……なんとか生きておるわ……」ヨロヨロ
姫「父上……」
国王「それより兵士長、さっきの若者は……」
兵士長「はい、彼こそが我々が待ち望んでいた光の勇者です」
国王「それは誠か!?」
兵士長「えぇ、その証拠に単身魔王軍と渡り合い……その半数以上を無力化、敵の指揮官四名も討ち取ったようです」
国王「な、なんという強さじゃ……しかし今の話を聞く限りじゃと魔王軍は相当な痛手を受けたようじゃな……」
国王「この戦は我々の……いや、勇者殿の勝ちか?」
兵士長「いえ……おそらくこれからが本番になります」ゴクッ
――――王宮前広場・上空
勇者『ベホマ』
パアァァァ
勇者「ふぃー、体力全快っと」
勇者「さてと……そろそろ本命の出番か?」チャキ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
勇者「空が震え大地が怯えている……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ピシッ!!
勇者「空に切れ目……!?」
ピシッピシッ!!
パリィィィン!!!!
グゴゴゴゴゴ……!!
魔王「フッフッフ……はじめまして、だな、勇者。……よく一人で我が魔王軍と渡り合うことができたものだ」
勇者「お前が魔王か……思ってたよりもずっと小さな……」
魔王「巨大な化け物だとでも思っていたか?いかに魔族の王と言っても姿かたちは他の魔族達とそう変わらないだろう?」
勇者「あぁ……でも他の魔族達とは比べもんにならないようなすげー悪の魔力を感じる……流石は魔王って感じだ」
魔王「まぁそうであろうな……ときに勇者よ、貴様がここにこうして現れるということは予想しておったよ」
勇者「何!?」
魔王「あのテの預言の類いは外れた試しがないからな……完全に村の人間を殲滅したつもりでもどこかに生き残りがいる……そんな気がしておったのだ」
勇者「へぇ~……で、今その魔王を倒す勇者と相対してるワケだけど……どうする?尻尾を巻いて逃げてみるか?」
魔王「クハハハハハ!!!!小わっぱが偉そうな口をききおって!!」ゲラゲラ
魔王「貴様誰にモノを言っているかわかっているのか?」ククク
魔王「我は魔族の頂点に立ち、神をも凌駕する力を持ち、世界を混沌へと導く者……魔王なるぞ!!」ゴオッ!!
魔王「この世は全て我のために存在するのだ……そのためにはまず人間などという下らぬ生物に支配された地上を我がものとしなければならない!!」
勇者「へっ、強欲の塊ってか」
勇者「お前がもしピサロみたいに人間に憎しみを抱いてたんなら俺が助けてやろうと思ったけどさ、お前は人間を虫ぐらいにしか思っちゃいない……」
勇者「だったら俺も全力でお前を叩き潰せるってもんだ!!」ゴオッ!!
魔王「面白い……元より我らはこうして闘うことが宿命づけられているのだ……」
魔王「来い、勇者よ!!その頭蓋を砕き、四肢を切り落とし、臓物を潰し、この世に生を受けたことを後悔させてやるわ!!」ゴオッ!!!!!!
勇者「勝負だ、魔王ぉーーー!!」ゴオッ!!!!!!
――――――――
戦闘が始まるとほぼ同時、先に仕掛けたのは魔王であった。
魔王「ケシ炭と化せ!!」
ゴアアアァァァ!!
魔王の体内の火炎袋から吐き出された灼熱の炎。
先の戦闘で炎の四天王が放った煉獄火炎よりも温度の高いその火炎が勇者を包み込む。
ゴオオオォォォ!!
魔王「クックック……これで終わりではあるまい?」
勇者「当たり前だ」ニッ
魔王の灼熱が命中する寸前、勇者は火炎の吐息と吹雪の吐息を軽減する光の衣を身に纏う呪文を唱えていた。
そのため熱によるダメージは受けず無傷だったのだ。
魔王「な……無傷だと!?」
魔王が驚くのも無理はない。
勇者の放った呪文『フバーハ』はブレス攻撃によるダメージを"軽減"する呪文なのだ。
そう、決して無効化する呪文ではない。
にも関わらず勇者が無傷ということは勇者のフバーハが魔王の灼熱の威力を完全に相殺するほどの魔力を秘めているということである。
ある程度のダメージを見越していた魔王はこの初手によって勇者の力が自らの想像の遥か上にあることを悟った。
だが……
魔王(だがそれで貴様の勝ちという訳ではない!!)
魔王はその膨大な魔力を両の手へと集中させた。
魔王「メラゾーマ……」
ボウゥゥゥッ!!
勇者「!? 左手にメラゾーマを留めている……何をするつもりだ?」
魔王「マヒャド……」
カアアァァァ
勇者「今度は右手にマヒャド……」
魔王「フッフッフ……喰らうがいい、全てを無に帰す極大呪文を!!!!」
バチバチ……
バチバチバチ……!!
魔王は左手の火球と右手の冷気の球を一つの魔力の塊へと合成してゆく。
膨大な魔力と抜群の魔法センスがなければ成功し得ないこの呪文の合成。
炎と氷という二つの相反する力を全く同じ魔力で重ね合わせ新たな呪文を生み出す。
二つの力がスパークして生まれたその異質な魔力に触れたものを全て消え去ってしまうと言われる禁じられた消滅呪文。
巨大な光の弓を引き絞り、魔王はつがえた矢を放った!!
魔王『メドローアッ』!!!!!!
勇者(これは……ヤバい!!!!)
勇者は直感的にこの呪文の恐ろしさを理解した。
おそらく直撃を喰らえば跡形も残らないであろうと。
ここで勇者がとれる行動は二つ。
避けるか迎え撃つか、だ。
避けた時に隙ができることを考えた勇者はここで後者を選んだ。
勇者『マホカンタ』!!
勇者の目の前に巨大な光の壁が現れた。
魔王の放った光の矢は光の壁で跳ね返され再び来た道を戻ってゆく。
このまま進めば魔王に直撃するハズだ。
しかし魔王はこの勇者の行動を読んでいた。
前方の巨大呪文を目の当たりにした勇者はその呪文への対応へ意識を向けざるを得ない。
その隙を突いて背後へと回り勇者の首を刈る。
それが魔王の算段であった。
魔王愛用の武器、血に塗られた朱の大鎌を次元の彼方から呼び寄せた魔王は既に勇者の後ろで大鎌を振りかぶっている。
魔王(終わりだ、勇者!!!!!!)ブンッ!!
ガキィィーン!!
魔王「!?」
勇者は前を向いたまま剣を頭上へと構え魔王の攻撃を防いだ。
勇者「そんなこったろうと思ったよ、魔王!!」ビュワッ
キィン
キキィン
ガキィン
勇者「おらぁーーー!!!!」
魔王「くっ……!!」
勇者の猛攻を必死に耐える魔王。
いや、正確に言うならば耐えることしかできないのだ。
魔族の長たる魔王が、だ。
それほどまでに勇者の剣撃は激しく、隙が無かった。
しかも一撃一撃が重い。
少しでも気を抜けば致命傷受けてしまうだろう。
勇者「貰ったぁ!!」
魔王「ほざけ青二才が!!」バッ
魔王は一度後方へ大きく飛び退き勇者と距離をとると勇者めがけて火炎の極大呪文を放った。
魔王『メラガイアー』!!!!!!
魔力の大火球が勇者へと飛んでゆく。
勇者「しゃらくせぇ!!!!」ビュッ
ズバンッ!!
魔王「な……なんだと!?我のメラガイアーを切った……!?」
勇者「一気にたたみかける!!!!」キッ
勇者「うおおおお!!」ドンッ
勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!
ビュバッ!!バリバリバリバリ!!
魔王「ぬおぉ!?」
勇者『真空隼切りッ』!!!!
ザザンッ!!
魔王「ぐ……!!」
勇者『氷雪五月雨斬りッ』!!!!
ヒュバババ!!キラキラキラ!!
魔王「がぁ!!」
勇者『火炎諸刃斬りッ』!!!!
ザンッ!!ゴオオォォ!!!!
魔王「ぐはぁ……!!」
勇者「これで…………終わりだぁぁ!!!!」
バチバチバチバチバチバチ!!!!!!
魔王「!!!!」
勇者『ジゴスラッシュッッッッ』!!!!!!!!
ザンッッッッッ!!!!!!!!
魔王「ぐああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
勝敗が決した!!
――――王宮広場前・上空
魔王「ぐ……うぅ……」ヨロッ
勇者「へぇ……流石腐っても魔王……まだ死んじゃないか」
魔王「誰が腐っておるだと……!?……うっ、がふっ」ゴフッ
勇者「どうした、第二形態に変形したりしないのか?」
魔王「フッ……我にはそんな力はない……」ゼェゼェ
魔王「全く信じられんな……これが伝説の勇者……九人の勇者の力を受け継ぎしこの世界の勇者か」
勇者「!? お前なんでそのことを知ってるんだ!?」
魔王「クククッ……簡単なことだ、貴様の村にあった九人の勇者の伝説……あの勇者達の世界はこの世界とは別の世界だがそれでいて近しい平行世界……あの憎き精霊がその勇者達を利用しない手はあるまい」
魔王「まったく、貴様は本当にたいした奴だ……我が例え万全の状態であったとしても貴様に勝つことはできなかっただろう……」
勇者「なんだ?今日は体調が悪かったとでも言いたいのか?」
魔王「あぁ……我が膨大な魔力……その大半をあることに使ってしまっていてな……」フフフ……
勇者「……なんだよ、あることって……?」
魔王「勇者よ……お前の住んでいた村……我々魔族の間でなんと呼ばれていたか知っているか……?」
勇者「…………?」
魔王「…………『魔王の伝説を紡ぐ村』、だよ」ニタァ
勇者「!?」
魔王「わかるか!?九人の勇者達がいるということは即ち九人の魔王達がいるということと同義!!」
魔王「おそらく私の前に現れるであろう伝説の勇者……そやつが我が力を超える存在であろうことは分かっていた」
魔王「どんなに預言が本当のこととならぬようにしようとも恐らく勇者の登場を覆すことはできぬ……」
魔王「だから我は考えたのだ……そして行き着いた!!!!我も精霊と同じマネをしてやろうと!!!!預言を覆せぬのならば預言を超える存在を作り出せばいいということを!!!!」
勇者「な……じゃあまさか!?」
魔王「そう!!九人の魔王達に師事を仰いだ究極の魔族の存在!!!!それこそが我の答えだ!!!!!!」
魔王「はあああぁぁぁぁ……!!!!!!」
ヒイイィィィン!!!!!!
勇者「くっ……!!やめろ!!!!」ビュッ!!
ザシュッ!!!!
魔王「がふっ…………!!」ボタタタ……
魔王「く……クックック……だがもう遅い……さぁ出でよ!!」
ピシッ!!
ピシピシピシッ!!
バリーーーンッ!!
???「…………ただ今帰りました、父上」
勇者「父上!?」
魔王「おぉおぉ……我が息子よ……逞しくなって……」
魔王の息子「父上…………」
魔王「我はもう力尽きる……最後の力でお前をこの世界に呼び戻したのだ……」
魔王の息子「…………はい、存じております……」
魔王「今こそお前に魔王の位を譲ろう……」
魔王「お前の手で……魔族の世界を…………」ヒューーー ドサァ
魔王の息子「…………」
勇者「お前が新しい魔王ってか……?」
魔王の息子「そうですね……」
新・魔王「父上の遺志を継ぎ、たった今より私が魔王となりましょう」
勇者「そうか……お前だったのか」
新・魔王「なにがですか?」
勇者「第五の世界で魔力知覚を習得してからさ、色んな世界に行ったけど……いつも魔王の近くに禍々しいどす黒い気を圧し殺したような魔力を感じてたんだ」
勇者「最初は魔王の側近か何かだろうと思って気にも留めなかったんだけど……やっぱりおかしいな、って思うようになってさ、ずっとモヤモヤしてたんだ」
勇者「だけど謎が解けたよ……あの魔力の正体はお前だったのか」
新・魔王「えぇ……おそらくそういうことになるのでしょうね」
新・魔王「フフフッ、それにしても楽しみですね」
勇者「何がだ?」
新・魔王「九人の勇者の教え子と九人の魔王の教え子……光と闇の特異点同士が闘ったらどちらが強いのか、気になるじゃありませんか」クククッ
勇者「何言ってやがる、いつの時代どの世界でも魔王は勇者に倒されるって決まってんだよ」ニッ
新・魔王「ならば私が勇者を打ち倒す最初の魔王となりましょう」
新・魔王「お手合わせ願いますよ……!!」ドンッ!!
勇者「お前を倒せば本当に終わりだ…………全力でいかせてもらう!!」ドンッ!!
――――――――
先手を仕掛けたのは勇者だった。
高速接近から左薙ぎで新・魔王の頭部を狙う。
新・魔王は腰に差していた黒刃の大剣を素早く抜き放つと勇者の初撃を受け止めた。
一撃目を止められた勇者は即座に剣を放し深く体を沈めた。
沈みながら急速左回転。
左の踵で下段回し蹴りを放つ。
突如として新・魔王の視界から消えた勇者だったが新・魔王は取り乱すこともなく距離をとるため軽く後ろへ下がった。
勇者の蹴りは虚空に弧を描いた。
だがこの二手目までは勇者にとっては想定の範囲内だった。
本命は次の三手目。
回転の勢いをそのままに体のバネを活かして相手に飛びかかる。
それと同時に先程手放した剣を右手で逆手に持ち相手を突く。
二撃目を避けて油断しているところへの追い撃ち。
避けられるハズのない一撃。
それを新・魔王は避けた。
勇者のこのトリッキーな動きを読むことは不可能。
勇者の逆手突きが放たれたのを"見てから避けた"のだ。
勇者(コイツ……なんて速さだよ!!)
その尋常ではない反応速度に勇者は戦慄した。
戦慄に浸る暇もなく撃ち下ろされる黒刃の大剣。
勇者は逆手持ちの剣を持ち換えずにその腹で相手の太刀筋をそっと逸らした。
大振りの黒刀が勇者の右半身を紙一重で通りすぎる。
勇者「!?」
と同時に勇者はあることに気づく。
新・魔王がいない。
視界から相手が消えたことに動揺はしたものの勇者の体は、本能は、相手の魔力を的確に感じ取っていた。
勇者「下か……!!」
新・魔王は消えたわけではなかった。
先程の勇者と全く同じように剣を放し身を沈め、下段回転回し蹴りの体勢へと移っていたのだ。
勇者は相手の下段攻撃が来るよりも早く右の手首をさっと引き剣先を下へと向けた。
振り降ろされる勇者の突き。
既に攻撃の体勢へと移っている新・魔王にとってこの一撃を避けることはできない。
即座に左手の籠手で防御をはかる。
ガキィィィーーーン!!!!!!
金属同士がぶつかり合いけたたましい異音を奏でる。
舞い散る火花。
勇者の一撃を防いだ新・魔王の攻撃はまだ止まってはいない。
回転により十分に威力を増した下段蹴りが今勇者を捉えようとしている。
そこで勇者は跳んだ。
右手に持った剣、その剣先を軸にまるで棒高跳びのように空中を踊った。
先程の突きはこの動作のための布石にすぎなかった。
新・魔王の頭上を弧を描くように通りすぎる勇者。
その左手から呪文が放たれる。
勇者『メラガイアー』!!!!!!
先刻魔王が放った極大呪文に劣らぬ威力の大火球を至近距離で新・魔王へと唱える。
この距離、この体勢ならばいくら超スピードの持ち主であろうとも避けることは叶わないだろう。
火炎による攻撃で怯むであろう新・魔王へ勇者が次に仕掛けるべき攻撃を考えていた時、新・魔王もまた呪文を唱えた。
新・魔王『イオラ』
空いた右手を体の横へと広げ爆裂呪文を放ったのだ。
その標的は勇者ではなかった。
自分のすぐ横の何もない空間に向けての爆発。
新・魔王はその爆風を利用し自身の身体を吹き飛ばすと勇者の真下から緊急回避、巨大な業火を避けることに成功した。
対象を失った大火球が虚しく地へと落ちてゆく。
勇者はまたも戦慄せざるを得なかった。
回避不可能な体勢からの全く無駄のない緊急回避。
勇者の方が先に呪文を唱えたのだから後から呪文を唱えた新・魔王の呪文が先に発動するのは不可解かもしれないが実際はそうではない。
強力な呪文であればあるほどその詠唱から発動までのタイムラグが大きくなるのである。
つまり極大呪文を唱えた勇者よりも後に中級呪文を唱えた新・魔王の呪文が先に発動してもおかしくはないのだ。
だがそれは理論上の話である。
ほんの一瞬のタイムラグの隙を突いて呪文を唱えるなどという芸当は歴戦の勇士ですら思いもよらない手段であろう。
時間にして数秒にも満たないこの攻防の中で勇者は理解した。
この新・魔王の並外れた反応速度と戦闘センス、それが自分よりも上であることを。
そして新・魔王もまた理解していた。
勇者の鍛え抜かれた剣技・体術・呪文……そのどれもが超一級品であることを。
今ここに相対している伝説の勇者、彼が己の全力を懸けるに相応しい相手だと、自分の宿敵なのだと悟った。
それと同時にある一つの感情が沸き上がってきた。
新・魔王「クククク……フハハハハハハ!!!!!!」
勇者「!?」
勇者「なんだよ……何が可笑しいんだ?」
新・魔王「いえ……嬉しいのですよ」
新・魔王「貴方は本当に素晴らしい……私が全力を懸けて闘うに相応しい相手だ」
新・魔王「少し心配していたのですよ、もし伝説の勇者がたいした実力もなく呆気なく勝敗がついてしまったら……と」
新・魔王「しかしそれもただの杞憂にすぎませんでしたね……フフフ、あぁ、魔族の神よ!!私に至福の時を与えて下さったこと、心から感謝致します!!!!」
勇者「そりゃどうも……ホラ、お前の剣」ヒュンッ
勇者「丸腰のお前に勝っても本当に勝ったって言えないからな、返してやるよ」
新・魔王「これはこれはご丁寧に」パシィ
新・魔王「しかし良いのですか?これで貴方の勝機はまたグッと遠退いてしまったのですよ?」
勇者「関係ねぇよ、どのみち俺が勝つんだからな」
新・魔王「フフフ……たいした自信ですね」
勇者「自信……?いや、違うな」
勇者「覚悟だ!!!!!!」ドンッ
再び仕掛ける勇者。
それを迎え撃つ新・魔王。
キィン!!
ガキィン!!
キキィン!!
カガキィン!!
ガキィン!!
キィン!!
超次元での一進一退の攻防が繰り広げられる。
相手の太刀を交わしては斬り込み、斬り込んでは受ける。
全く無駄の無い二人の剣戟はさながら完成された剣舞を見ているかのような優雅ささえ漂わせていた。
その一撃一撃が相手の命を絶たんとする必殺の太刀であるにもかかわらず……。
勇者(チッ……魔力知覚で動きを先読みしてもコイツの動きについていくのがやっとだ……少しでも気を抜いたらやられる!!)
新・魔王(私のスピードについてきているだけでなく常に一撃必殺の一太刀を狙っている……少しでも気を抜いたら終わりですね!!)
キィン!!
ガキィン!!
勇者「行くぜぇ!!」
激しい斬り合いの中、勇者は吠えた。
仕掛けるなら今しかないと判断したからだ。
剣の師匠を追い込み、魔王に致命傷を与えた勇者の最強連続剣技、その一太刀目が繰り出される。
勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!
ガキィン!!バリバリバリ!!
新・魔王「くっ……!!」
相手の右肩、右利きの敵ならば最も防御のしづらい位置への魔法を纏った高速の突き。
そこからさらに体勢を崩すため、瞬きすら許されない疾風の二連撃を叩き込む。
勇者『真空隼……』
新・魔王「甘い!!」ビュッ
勇者「!?」
ガキィーーーーン!!
勇者「ぐぐ…………!!」
勇者(……俺の必殺技が見切られただと!?)
勇者の連続剣技は最後の必殺剣を確実に命中させるためにその前の四つの剣技で相手の体勢を崩すことで完成する技である。
無論体勢を崩すのが目的とは言え一撃一撃が致命傷を与える一撃であることは言うまでもない。
その流れるようなコンビネーション、勇者でさえ気づいていなかった一瞬の隙をを突いて新・魔王はこの勇者の奥義を破ったのだ。
新・魔王のケタ違いのスピードと研ぎ澄まされた直感がそれを可能にした。
キィン!!
ザザッ
距離をとる両雄。
勇者「へへっ、どうやら長い戦いになりそうだな」チャキ
新・魔王「えぇ、その様ですね」チャキ
ドンッ!!
ガキィーーーーーン!!!!!!
二人の剣がぶつかり合う度に空が、海が、大地が揺れた。
――――王宮・王の間
キィン!!
ガキィン!!
ガキィン!!
キキィン!!
兵士A「……一体どっちが勝つんだ……?」ゴクッ
兵士B「かれこれ三時間はああして斬り合っている……剣の闘いでこれほど闘いが長引くなどとは信じられない……両者ともなんて体力と集中力なんだ……」ゴクッ
兵士長「お互いの力量が全く同じなのだろうな……でなければとっくに勝敗はついている」
兵士長「……気づいているか?」
兵士A「何がですか?」
兵士長「広場の我が軍と魔王軍の闘い……すっかりおさまってるだろ」
兵士A「あ!!そう言えば!!」
兵士B「人も魔族も闘うことを止め、ただ静かにあの二人の闘いを見ている……」
兵士長「分かっているんだ、あの二人のうち勝った方の軍勢がこの戦の勝者となることを……」
兵士長「私達にはただ勇者殿の勝利を願うことしかできんがな」
兵士A・B「…………」
姫「勇者様……」ギュッ
キィン!!
ガキィン!!
ガキィーーーン!!
――――――――
勇者「ゼェ……!!ゼェ……!!」
新・魔王「ハァ……!!ハァ……!!」
勇者・新・魔王「うおおおおおおーーーー!!!!!!」
キィン!!
勇者「ぐ……!!」ピッ
ガキィン!!
新・魔王「ぬぅ……!!」スパッ
キキィン!!
ガキィン!!
両者が熾烈な闘いを初めてから既に三時間が経過していた。
闘いの初めこそ攻撃を受け、それを切り返すという剣舞のような闘いが行われていたが時間が経つにつれお互いに少しずつ防ぎきれない攻撃が増えてきた。
いかに世界最強の二人とは言えこの長時間に亘る真剣勝負においてスタミナが減り集中力が欠けてゆくのは無理もない。
むしろこの二人だからこそここまで闘いを続けることができたのだろう。
しかし今尚お互い致命傷は受けていない。
満身創痍になりながらも集中力の糸は途切れることなく、全身全霊を懸けた斬り合いが続けられている。
キキィン!!
ガガッ!!
ガキィン!!
キィン!!
勇者「ハァ……!!ハァ……!!……チッ、しつこいなぁ……そろそろ倒れろよ!!」
新・魔王「ゼェ……!!ゼェ……!!……それは私の台詞です……!!」
勇者(このまま長期戦に持っていっても埒が明かないどころか俺が不利……)
勇者(アイツは見てから反応できるスピードを持ってるが俺は魔力知覚による先読みで闘ってるようなもんだ)
勇者(この先一瞬でも集中力が切れたらアウト……ならここで勝負を決める!!)
キン
新・魔王「!?」
勇者は剣を納めた。
新・魔王「どうしたのですか……?まさかここまで来て勝負を諦めるつもりですか?」
勇者「いや……その逆だよ」
勇者「ここで勝負を決めさせてもらう!!!!」
バチバチ……
バチバチバチバチバチバチ!!!!
新・魔王「……!!」
勇者の左手に高密度の魔力が集中……その性質を雷撃へと変え、紫に輝く光の剣と化した。
新・魔王「なるほど……そのために剣を納めたのですか……」
勇者「あぁ……俺の残りの魔力を込めた必殺剣ギガブレイク、コイツで決めてやる!!」
新・魔王「フフフ……良いでしょう……ならば私も全魔力を込めたこの剣で迎え撃ちましょう!!!!」
新・魔力「はあああぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」ゴウッ!!
新・魔王の体から黒々とした禍々しい魔力が吹き出される。
その邪悪な魔力が新・魔王の持つ剣へと集まってゆく。
どす黒い血のような魔力に包まれたその魔剣は一振りで大地を裂き海を割るほどの力を秘めていることだろう。
勇者「…………」スゥ…
新・魔王「…………」チャキ…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
両者は最後の斬り合いに向けて構えをとった。
新・魔王(…………?)
ここで新・魔王が勇者の異変に気づいた。
……おかしい。
何故左手に光の剣を出したのだろうか?
先の戦闘で勇者が右利きだということは分かっている。
全力で斬りかかるのなら両手ないし利き手に剣を構えるべきだ。
なのに何故勇者は左手に剣を……?
勇者「…………行くぜ」ニッ
口の端に笑みを浮かべると同時に勇者は右の掌を新・魔王へと向けた。
新・魔王「!!」
勇者『イオナズン』!!!!!!
カッ!!!!
ドガアアァァン!!!!!!
新・魔王「くっ!!」
いかに反応速度に長けた新・魔王であっても不意を突かれた呪文に対応することはできなかった。
上級爆裂呪文を至近距離で放たれ新・魔王の周囲は爆煙に包まれた。
モクモクモク……
新・魔王「くっ……右手を空けておいたのはこのためでしたか!!」
爆裂呪文によるダメージは軽微。だが新・魔王は完全に勇者をロストした。
モクモクモク……
新・魔王(勇者には魔力知覚という技がある……爆煙の中でも正確な私の位置を知ることができるというわけですか……)
新・魔王(この煙の中から私を狙うつもりでしょうが……私はそんなに甘くはありませんよ……!!)
新・魔王は全魔力のこもった魔剣を上段に構え全神経を集中した。
新・魔王「………………」
風の流れ、
煙の動き、
空気の震え……それらを極限まで研ぎ澄まされた五感で感じとる……。
新・魔王(来るッ!!!!)
ブワッ!!!!
もうもうと立ちこめる新・魔王正面の煙の中から勇者が超スピードで突進してきた。
左半身を前に出す形で振りかぶったその左手には真の勇者にのみ使うことを許された紫電の剣が握られている。
そして今その秘剣を放つ!!!!
勇者「だあああぁぁぁーーー!!!!!!」
勇者『ギガブレイクッッッ』!!!!!!!!!!
右薙ぎで放たれた勇者の秘技。
真っ直ぐに新・魔王の胴へと光の太刀が向かっていく。
新・魔王「はああぁぁぁっ!!!!」
サッ!!
ブンッ!!
勇者「!!!!!!」
勇者の懇親の一撃を身を引いて避わす新・魔王。
五感を研ぎ澄ませ勇者の一撃に備えていた新・魔王は勇者の奇襲を見事に避け切ったのだ。
そして……
新・魔王「さらばです、この一撃で散りなさい!!!!!!」
回避と同時に上段に構えていた黒刃の大剣を振り降ろす。
先程攻撃を外した勇者は隙だらけ……この一撃を避けることは不可能。
長きに渡る死闘の決着は新・魔王の勝利で幕を閉じた!!!!
…………かに思われた!!
勇者「……あぁ、お前がな」ニッ
新・魔王「!?」
カアアアァァァ!!!!!!
爆煙の中から光輝く何かが姿を現した。
それは勇者の右手に逆手に持たれた紫電の剣であった。
新・魔王「な……にぃ!?」
新・魔王(もしや左手のギガブレイクは囮……この爆煙も視界を遮っての奇襲が目的ではなく右手の本命を隠すための……!?)
勇者「二刀流だあああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」
勇者『ギガクロスブレイクゥーーーーー』!!!!!!!!!!!!!!
ズバアァァァンッッッ!!!!!!
新・魔王「が…………はぁっ!!!!!!」
ブシャアアァァァ!!!!!!
勇者の光の太刀が新・魔王の体を切り裂いた。
彼の身体から飛び散る深紅の血飛沫が王都の上空を舞った。
そう、遂に勇者が勝利を収めたのだ!!!!
――――王宮前広場・上空
新・魔王「が……!!がふっ……!!うぅ……」ボタタ
勇者「ハァ……ハァ……!!へへっ……俺の勝ち……だな」ゼエゼエ
新・魔王「ぐぅ……まさかこの私が負けるとは思いもしませんでしたよ……」
新・魔王「魔王の子として育ち魔王達に師事を仰ぎ……魔族の頂点に立つに相応しい力を得たこの私が……ただの人間の少年に敗れるとは……ね……うっ!!」ガフッ
勇者「……おしゃべりはそこまでた新・魔王…………さよならだ」チャッ
新・魔王「フフフフフ……何を言っているのですか?闘いはまだ終わっていませんよ?」
勇者「……負け惜しみはよせ、さっきの一撃は明らかに致命傷だ。この闘い、俺の勝ちだ」
新・魔王「えぇ……そうですね、たしかに私は敗れました……」
新・魔王「しかし我々魔族はまだ敗れてはいません」フフフッ
新・魔王「……これがなんだかわかりますか?」スッ
勇者「……!?なんだこれは……?ただの宝玉みたいだけど……禍々しい魔力が秘められてる……!!」
新・魔王「……これは『進化の秘法』と呼ばれる秘術……その結晶体です」フフフッ
勇者「『進化の秘法』だと……!?」
新・魔王「えぇ!!貴方もよくご存知でしょう?第四の世界で魔族の王ピサロを破壊の化身デスピサロに変え、第五の世界では強欲な人間の男を最凶の魔族へと変貌させた秘術ですよ!!」
新・魔王「私はエビルプリーストとミルドラースの元で進化の秘法を学び……遂に真の力を解放させるに至ったのです!!」
新・魔王「さあ、進化の秘法よ……私に魔族の王たる……いや、魔族の神たる力を与えたまえ!!!!!!」
カアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!
魔族I「な、なんだ!?身体が浮かんで……!?」フワッ
魔族J「新・魔王様の宝玉に引き寄せられる……!!」フワッ
大地の四天王「」 フワッ
風の四天王「」フワッ
水の四天王「」フワッ
火の四天王「」フワッ
魔巨獣「」フワッ
魔王「」フワッ
魔族K「お、おい!!やられちまった魔王様達もだ!!」フワッ
勇者「一体何を……!?」
新・魔王「神……それは万物の創成主にして全知全能の存在……」
新・魔王「私が神になるべく考えた末に行き着いた答え……それは全ての魔なる生命体を吸収し全ての力を得ること!!圧倒的な魔の力を!!」
勇者「……!?」
新・魔王「さぁ、魔族達よ!!私の血となり肉となるがよい!!!!!!」
カアアアァァァーーーーー!!!!!!
魔族達「うわーーー!!」ギュンッ
魔族達「助けてくれーーー!!」ギュンッ
魔族達「ぎゃーーー!!」ギュンッ
グチャ……
グチャグチャ……
ゴチャ……
ゴチャゴチャ……
ズモモモモモ……
ドクン……
ズモモモモモ……
ドクン……ドクン……
メキメキ……
バキバキ……
ドクン……ドクン……!!
ドクン!!!!!!
カッ!!!!!!!!!!!!
バサァッ!!!!
真・魔王「ゴアアアァァァァーーーーー!!!!!!」
ズオッ!!!!!!!!
勇者「く……お……!?」
真・魔王「素晴ラシイ……ナント素晴ラシイ力ダ……!!力ガ溢レテクル…………!!!!!!」
真・魔王「私ハ……私ハ真ノ魔王トナッタノダ……フハハハハ!!フハハハハハハハハハ!!!!!!」
勇者「なんて馬鹿デカい図体だ……それにこの魔力……!!」
勇者「参ったな……新・魔王との闘いでこっちはボロボロ、魔力も殆ど残ってないって言うのに…………」
真・魔王「クックックッ……勇者ヨ何ナラ見逃シテヤランデモナイゾ……?」
真・魔王「地上ガ私ノ支配下トナッタ後モ貴様ダケハ生カシテオイテヤロウ……一生ヲ苦シミナガラ過ゴスガ良イ……ククククッ」
勇者「……そんなのまっぴらごめんだな……」
勇者「俺は『勇者』、人々の希望の証だ、最後の最後まで希望を捨てるわけにはいかねぇんだよ!!!!」
真・魔王「ソウカ……最後ノチャンスヲクレテヤッタトイウノニ愚カナ奴ヨ…………」
真・魔王「ナラバ!!今ココデソノ人間ノ希望トヤラヲ粉々ニ砕イテクレルワァ!!!!!!」ゴオッ!!
――――――――
真・魔王「ハアアアァァァ!!!!!!」
真・魔王は六つある巨大な手それぞれに魔力を集中させた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
まだ呪文を唱えてすらいないというのに大地が悲鳴をあげている。
真・魔王『メラガイアー』!!!!
ゴオオオォォォ!!!!
真・魔王『マヒャデドス』!!!!
パキパキパキィ!!!!
真・魔王『イオグランデ』!!!!
ドガアアァァン!!!!
真・魔王『ギラグレイド』!!!!
ボワアアァァァ!!!!
真・魔王『バギムーチョ』!!!!
ビュオオオォォ!!!!
真・魔王『ドルマドン』!!!!
ズガアアァァン!!!!
火・氷・熱・風・爆発・闇、六種の極大呪文が一斉に放たれた。
真・魔王の持つ強大な魔力によってその威力をおぞましいまでに高めた呪文達は王都を瞬く間に地獄絵図へと変えた。
勇者「くっそぉぉ!!」シュバッ
勇者は六つの極大呪文を避けるのに精一杯だった。
マホカンタで跳ね返そうにも、自分の魔力を大きく上回るこの人外の呪文達を跳ね返すことは不可能だからだ。
真・魔王「フハハハハ!!ドウシタ勇者ヨ!!」
ギュギュギュンッ!!!!
勇者「ッ!!」
真・魔王の持つ三本の尻尾。その先端には巨大な口がついている。
咬まれたら肉を引きちぎられ骨を砕かれるのは明白……それほど鋭い牙と力強い顎を有している。
尻尾A「キシャァ!!」ギュンッ
尻尾B「シャァ!!」ギュンッ
尻尾C「ガアァ!!」ギュンッ
勇者「ちぃ……!!!!」ビュンッ
凄まじいスピードで勇者を追跡してくる尻尾達。
満身創痍とは言え神速の速さで空を駆けることのできる勇者が引き離すことのできないスピードだ。
三尾のコンビネーション攻撃を巧みに避わしつつ勇者はどう攻めるべきかを考えていた。
自分の残り少ない体力と魔力……それでどうこの巨大な敵を倒すのか。
と、その時、突如突風が巻き起こった。
勇者「なぁ…………!?」グルン
真・魔王の持つ巨大な六つの翼、それらが勇者に向けて羽ばたきを起こしたのである。
バランスを崩した勇者は体勢を立て直そうとその場で急ブレーキをかけた。
それがいけなかった。
ガシィッ!!
勇者「しまっ……!!!!」
真・魔王の持つ巨大な六本の腕の内、上の二本の腕が勇者を捕えた。
勇者「ぐ……うぅぅ……があああ……!!!!!!」
グググググ!!
大地の四天王の握撃をも振りほどいた勇者であったが真・魔王の怪力から脱出することはできない。
真・魔王「フフフ……モガケモガケ、勇者ヨ……」
城よりも大きな真・魔王の体躯。その頭とも言える部分にある人間サイズの魔族の上半身がある……おそらくこれが真・魔王の本体なのだろう。
真・魔王本体とおぼしきその体は組んでいた腕をほどき両の掌を勇者へとかざした。
真・魔王『ジゴスパーク』
バリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!
勇者「ぐぁああああああああ!!!!!!!!」
真・魔王の放った魔界の雷が勇者の身を焼き焦がす。
パッ
勇者「ぐ…………うぅ……」ヒュー
ドサッ
真・魔王の握撃とジゴスパークから解放された勇者は飛翔呪文を唱えることすらできずに無惨に地へと落ちた。
真・魔王「ドウシタ、勇者?モウ終ワリカ……?」
勇者「ぐ……うぅ……」
虫の息の勇者は地面にうつ伏せで倒れている。
体力も魔力も殆どカラの勇者……だがそれでも彼の瞳は希望の光を失ってはいなかった。
勇者(何か……何かないのか……!?)
勇者(俺のありったけを……全てを懸けて……アイツを倒す術は!?)
勇者(俺の体力全部なくなったっていい、俺の魔力全部なくなったっていい、アイツを倒せるだけの強烈な一撃を…………!!)
勇者(……!!!!)ハッ
そこで勇者の脳裏をよぎったのはある一つの呪文。
契約こそすれ使うことはないだろうと思っていたある呪文。
いや、できれば使いたくはないと思っていた禁断の呪文。
その呪文なら或いは真・魔王を倒せるかも知れない……。
勇者(……あの呪文か……第一の世界で爺さんに教えて貰ったけど……一度も使ってはないけど……あの呪文なら……!!)
勇者「…………へへっ、やっぱこれっきゃねぇのか……な」ググッ
真・魔王「ソウダ勇者!!ソウデナクテハ面白クナイ!!」
勇者(これが多分最後の攻撃になる……だから俺の……俺の命全てを懸けてぇ!!)
勇者「行くぜ!!真・魔王ォォォ!!!!!!」ドンッ!!
勇者は空を駆けた。
一心不乱に、
ただ真っ直ぐに、
真・魔王を目指して。
尻尾A「シャァ!!」ギュン
尻尾B「シャァー!!」ギュン
尻尾C「ガアァ!!」ギュン
勇者「うおおおおーーーー!!!!!!!!」ギュンッ
ガキンガキンガキン!!
尻尾A・B・C「!?」
真・魔王「ヌォ!?」
真・魔王(コノ……スピードハ……!?)
真・魔王の尻尾達の攻撃を超スピードで避わすと勇者は真・魔王の懐へと飛び入った。
勇者「このままお前をブッ潰すッ!!!!!!」ビュワッ!!
真・魔王「イイ気ニナルナヨ!!!!」ゴゴゴゴゴ
真・魔王『六連……ドルマドン』!!!!!!!!
勇者「!?」
ズガガガガガガガガガガガガァァァァン!!!!!!
圧縮された闇の超魔力に押しつぶされた勇者。
いかに最上級の防具に身を固めた勇者であろうともこの圧倒的な破壊の力の前には骨すら残らない。
いまだ消え去らぬ黒々とした魔力の球体。
ヒュバババババンッ!!
真・魔王「!?」
突然その球体に幾つもの筋が入る。
ズッバアアァァン!!!!!!
勇者「…………」
真・魔王「バ……バカナ……私ノ極大呪文ヲ斬リ裂イタダト……!?」
真・魔王「貴様ハ虫ノ息ダッタハズ……!!ドコニソンナ力ガ……!?」
勇者「わからねぇだろうな……」
勇者「これが命を懸けた人間の力だあああぁぁぁーーー!!!!!!」
シュッ!!
ガガッ!!
真・魔王「!? キ、貴様……放セ!!」
真・魔王の本体と思われる魔族の半身を羽交い締めにする勇者。
勇者「いいや、放せねぇな……!!」ググッ
真・魔王「貴様……コンナコトデ私ヲ倒ス事コトガデキルトデモ思ッテイルノカ!?」
勇者「あぁ……思ってるさ……」
真・魔王「何ヲ馬鹿ナコトヲ……!!魔力モカラ同然ノ貴様ニ何ガデキルトイウノダ!?」
勇者「あぁ……たしかに俺の魔力はスッカラカンだ……だけどな、俺の残り少ない魔力でもお前を倒せる呪文があるんだ」
真・魔王「…………貴様マサカ!?」
勇者「ご名答……使用者の命と引き換えに発動できるこの呪文は魔力をほとんど消費しない代わりに超大規模な爆発を引き起こす……」
勇者「その威力は使用者の力量に比例する……今の俺が使えばイオグランデの比じゃねぇだろうなァ……!!」
真・魔王「グ……オオオォォォ……!?」
勇者「お前はここで俺と一緒に死んで貰うぜ!!!!」ニヤッ
真・魔王「ヤ、ヤメロ…………!!ソレデハ貴様モ……!!」
勇者「言ったろ?……俺は勇者……人々の希望の光なんだよぉぉお!!!!」
真・魔王「ウオオオオォォォォーーーー!!」
勇者『メガン……』
真・魔王「ハアアアァァァ!!!!!!!!!!」
ブワッ!!!!!!
バチィ!!
勇者「ぐぁっ!?」
突如として真・魔王を包み込んだ禍々しいオーラ。
真・魔王を羽交い締めにしていた勇者だがそのオーラに弾き飛ばされた。
勇者「こ……これは……!?」
真・魔王「フ……フフフフフ……危ナイトコロダッタ……マサカ『メガンテ』ヲ唱エヨウトシテクルトハナ……」
真・魔王「……コノ『闇ノ衣』ノ発動ガ少シデモ遅レテイタラサシモノ私モ命ハナカッタデアロウナ」クククッ
勇者「『闇の衣』……!?」
真・魔王「第三ノ世界ノ大魔王ゾーマガ持ッテイタ絶対障壁ダ……」
真・魔王「闇ノ衣ガ発動シタ今、何人タリトモ私ニ触レル事ハデキヌ!!!!」
勇者「く…………!!」
勇者(もう少し早くメガンテを唱えてさえいれば……!!!!)
ビュッ!!
ガシッ!!
真・魔王「……」ニタァ
勇者「!!!!」
真・魔王「息絶エヨ、勇者ヨ!!!!」
ブンッ!!!!
巨大な手で勇者を鷲掴みにした真・魔王は力任せに勇者を地面へと投げつけた。
ギューーーン!!!!!!
ドッガーーーーン!!!!
石畳の王宮前広場に叩きつけられた勇者。
直径十数メートルに亘り広場の石畳を吹き飛ばす勢いで地面に激突した勇者の全身には強烈な痛みが走り、彼の意識を遠のかせた。
真・魔王「フフフ……アレデハイクラ勇者ト言エド生キテハオルマイ……」クックック
真・魔王「サテト……」ギロッ
王宮へと視線を移す真・魔王。
その視線の先には壁と屋根の崩れ去った無防備な王の間があった。
さらにそこに立つ人間の中の一人へと焦点を合わせる。
姫「…………!!」ビクッ
真・魔王「ホホゥ……姫ヨ……人間ニハ惜シイホドニ素晴ラシイ美貌ダナ……気ニ入ッタゾ……私ノ妻ニシテヤロウ」フフフッ
姫「い、嫌です!!!!」
兵士A「そ、そそ、そうだ!!姫様をお前みてぇな化物に渡すもんか!!」ガクガク
兵士B「姫様をお守りするのが俺達の役目!!」ザッ
兵士長「そのためならばこの命惜しくはない!!!!」ザッ
真・魔王「ククク……勇者ナライザ知ラズ、タダノ人間ニスギナイ貴様ラガ私ニハムカウカ……」
真・魔王「勇者モソウダガ人間トハ理解シガタイ生物ダナ……他人ノタメニ自ラノ命ヲ懸ケルナドトハ……」クックック
???「てめぇにゃ一生わかんねぇだろうな……」
真・魔王「!?」バッ
聞き覚えのある声に真・魔王は振り返った。
王宮前広場……いまだ粉塵の立ちこめるその広場の中心に一人の男が立っていた。
身体中打撲と切り傷だらけ。初めて着た時は光輝いていたその防具は彼から流れ出た血で汚れている。
立っているのもやっとといったその男だったが、その目にはまだ力強い光が消えることなく宿っていた。
姫「勇者様!!」
真・魔王「貴様……生キテ……!?」
勇者「へへっ……勝手に殺すなよ……」ヨロッ
真・魔王「分カラヌノカ!?貴様デハ私ニ勝ツコトハデキヌノダ!!」
真・魔王「マシテ今ノ貴様ハ立ッテイルノガヤットデハナイカ!!全身ニ激痛ガ走リ息ヲスルノモツライハズダ!!」
真・魔王「ナノニ何故立チ上ガル!?」
勇者「…………さぁ?自分でもよくわかんねぇんだ」
真・魔王「何…………!?」
勇者「全身痛くて……意識が遠くなって……そのまま寝ちまおうかと思ったんだけどさ」
勇者「…………やっぱダメだった」
勇者「世界のどこかに……今も涙を流してる人がいる」グッ
勇者「絶望にうちひしがれてる人がいる」ググッ
勇者「助けを求めている人がいる」グググッ!!
勇者「そういう人達の涙を拭って、励まして、助けてやるのが俺の使命だろ!?」
勇者「だったら……いくら俺が死にかけてようが!!そんなこと関係ねぇんだよ!!」
勇者「世界中の人達に希望を……!!」
勇者「優しさを……!!」
勇者「勇気を与える……!!!!」
勇者「それが『勇者』なんだよ!!!!!!!!」ドンッ
「よく言ったァーーーーー!!!!!!」
勇者「!?」ハッ
勇者は天を仰いだ。
勇者の耳に届いた優しく力強く懐かしい声。
その声は死の淵に立たされた勇者が聞いた幻聴かもしれない。
しかし勇者は確信していた。
天より聞こえたその声が幻などではないことを!!
勇者の遥か上空。
一羽の神鳥が大空を滑空してくる。
その背中には九つの影。
???「流石俺の弟子だな」
赤の法衣を身に纏い額飾りをした金髪の少年が声高らかに言った。
???「いーや、俺の弟子だね、ご先祖様でもこれは譲れねぇぜ」
全身青ずくめの服に頭にゴーグルをつけた筋肉質の少年が不平を漏らした。
???「二人ともそんなことはどうでもいいだろう?」
紫のターバンに紫のマントを着けた精悍な青年が二人を制した。
???「そうだよ、勇者は僕達みんなの弟子なんだからさ」
緑の頭巾を被った少年が言った。まだあどけなさの残るその声だが、芯に強い意志を感じる。
???「そういうことだな」
青髪の少年が言う。彼の物腰にはどこか気品が漂っている。
???「ま、でも弟子って言うのもちょっと違うんじゃないか?」
緑の髪に額当て、スライムピアスをつけた青年が力強い声で言った。
???「たしかに弟子じゃちょっと可哀想だね」
オレンジのバンダナを頭に巻いた青年が優しそうな声で言う。
???「ふふっ、その通り、もう勇者は弟子じゃないね」
茶髪の少年は答えた。人間とはどこか違う、不思議な雰囲気を漂わせた少年だ。
???「あぁ!!俺達の立派な仲間さ!!!!」
黒髪に額当てをした少年がマントをなびかせてどこか嬉しそうに叫んだ。
勇者「……み……みんな!?」
――――――――
ワン「よぅ!!勇者ぁ!!」ニヤッ
ツー「なーにくたばりそうな顔してんだよ!!」ヘッ
スリー「一人でよく頑張ったね!!」ニコッ
フォー「助けに来たぜ、勇者!!」フフン
ファイブ「私達も共に闘おう!!」フッ
シックス「ピンチの時には助けに来るぜ!!」ニカッ
セブン「だって僕達友達でしょ!!」エヘヘ
エイト「さぁ、行こうか!!」ニッ
ナイン「僕達の絆の力をみせてあげようよ!!」フフッ
勇者「そんな……どうして!?」
ラーミア『私ですよ』
勇者「ラーミア……!?」
ラーミア『私は異なる時代、異なる世界を自由に行き来することを神に許された存在』
ラーミア『私の加護を受けた者もまたその資格を得るのです』
ラーミア『『レティス』という名で第八の世界でエイトに会った時に貴方の話を聞きましてね、第三の世界でも貴方に会ったことを思い出したのです』
ラーミア『それから詳しい事情を聞き、他の八つの世界を巡り九人の勇者達と共にこの世界へと貴方を助けに来たのです』
ラーミア『最高の助っ人でしょう?』フフッ
勇者「クソッ、ルビスの奴め……そんな方法あるなら先に教えてくれよな」ヘヘッ
真・魔王「ェエイ!!オノレ勇者共メ!!」
真・魔王「数ガ増エタトコロデ所詮は人間!!コノ私ハ倒センゾ!!!!」
真・魔王は六本の腕を全て勇者達に向け叫ぶ。
真・魔王『六連…………イオグランデ』!!!!!!
一発で街一つを消し飛ばしかねない大規模な爆発。
その六倍のエネルギーの超爆発が勇者達に向けて放たれた。
勿論その爆発は勇者達を灰にするだけに止まらず王都を裕に消し飛ばすだろう。
勇気「ヤバいぞ!!」
シックス「わかってる……ナイン、行くぞ!!」
ナイン「うん、任せて!!」
シックス「全力でブチかますぞ……はあああぁぁぁぁ!!!!!!」
シックスが放とうとする技は広範囲に亘り巨大な爆発を引き起こすもの。
イオ系の呪文とは全く原理の異なるその技は超圧縮した魔力を瞬間的に暴走させることで発動する。
そのすさまじいまでの威力はさながら宇宙誕生の超爆発……
その名は……
シックス『ビッグバンッッッ』!!!!!!
ナイン「……この宇宙に瞬く数多の星々達よ……今こそその力を解き放て……!!!!」
夜空に輝く星達には不思議な力がある。
時には人々を導き、
時には人々を惑わせ、
時には人々を温かく見守る。
輝く天の星達の持つ魔力を自らの身体を媒体として解き放つ奥義……
ナイン『グランドネビュラッッッ』!!!!!!
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!!!
カッッッッッッ!!!!!!
ドガアアァァァァーーーーン!!!!!!
真・魔王「ヌ……ォオ!?」
シックスとナインの放った究極奥義が真・魔王の極大呪文とぶつかり合う。
激しい爆発はこの大地を激しく揺さぶった。
しかし勇者達は無事だった。
六番目の勇者と九番目の勇者の目論見通り等しい高エネルギーの大爆発によって真・魔王の極大呪文は相殺されたのだ。
シックス「ヘヘッ、どんなもんだ」ニッ
ナイン「何度ここを消し飛ばそうとしても僕達が防いでみせるよ」ニコッ
真・魔王「コレナラバドウダァァ!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
勇者「!? 空が……!?」
空に立ち込める暗雲、それが巨大な黒い渦巻きを作ってゆく。
ゴロゴロゴロ……!!
ピシャァ!!
真・魔王「魔界ノイカズチヲコノ世界ヘト呼ビ出ス『ジゴスパーク』……シカシ我ガ魔力ヲモッテスレバ魔界ノ雷雲ゴトココニ召喚スルコトガ可能ニナル……!!!!」
真・魔王「ソノ威力ハ通常ノジゴスパークノ数十倍……クラエェ!!」
真・魔王『真・ジゴスパーク』!!!!!!
真・魔王が魔界のいかずちを解き放とうとしたその時、空に異変が起きた。
黒く渦巻く雷雲……それがもう一つ現れたのだ。
真・魔王「ナ……アレハ……モウ一ツノ魔界ノ門!?私以外ニ誰ガ……!?」
ファイブ「私さ」
真・魔王「!?」
ファイブ「エルヘブンの民……かつて神々に魔界と地上とをつなぐ門の開閉をする力を与えられし一族……」
ファイブ「今はもうその力は弱まってしまったけど私の母は特別強力な力の持ち主でね、その血を引く私も修行の果てにこうして魔界の門を開くことができるようになったというワケさ」フッ
ファイブ「さぁ、私もいくよ……」
ファイブ『真・ジゴスパーク』!!!!!!!!
ピシャァ!!
ゴロゴロゴロゴロ!!
ズガガガガァァン!!
バリバリバリバリバリバリィ!!!!
けたたましく鳴り響く雷鳴。
空一面を覆い尽くす黒き雷撃。
真・魔王の攻撃と五番目の勇者の攻撃が激しくぶつかり合う。
地上の勇者達は絶え間なく明滅を繰り返す上空のいかずちの光によって照らされる。
真・魔王「グヌゥ……小癪ナァ……!!」
真・魔王「ダガ貴様達ニ私ヲ倒スコトハデキヌ!!私ニ闇ノ衣ガアル限リナァ!!!!」
パアアアアァァァァ!!!!!!
真・魔王「!? コ、コノ光ハ……!?」
勇者の上空を舞う神鳥ラーミア。
その背には後に伝説の勇者『ロト』の称号を冠することとなる一人の男が立っていた。
高く掲げられた彼の右手に握られた神々しい輝きを放つ光の宝玉。
黒く濁った空のせいで薄暗い王都全体をまばゆく温かな光が包み込んでゆく。
シュオオォォォォ……!!
真・魔王「ナ……ニィ……!?馬鹿ナ!!不可侵ノ絶対障壁、闇ノ衣ガ消エ去ルナドトハ……!?」
真・魔王を包んでいた邪悪なオーラが消え去ってゆく……。
スリー「この『光の玉』は『闇の衣』を消滅させる温かな光を放つ……」
スリー「いつの時代……どの世界でも……邪悪な闇を晴らすのは一筋の光ってことさ」ニッ
三番目の勇者は不敵に微笑んだ。
真・魔王「……闇ノ衣ナド無クトモ私ノ圧倒的ナ力ノ前ニハ貴様ラハ虫モ同然……!!」
ギュバババ!!
尻尾A「シャァ!!」ギュン
尻尾B「ガァ!!」ギュン
尻尾C「グルルアァァーーー!!!!」ギュン
真・魔王の持つ三本の尾は上空から降下、地面スレスレの高さを這うように勇者へと近づいて行く。
その前へと立ちはだかる男がいた。
ツー「勇者、お前には俺の100%……見せてなかったな……見せてやるよ、俺の全力を!!!!」ニッ
ツー「はああぁぁーーーー!!!!」
ムキムキ……!!
ビキビキビキ!!
二番目の勇者の全身の筋肉が硬化し隆起する。
魅せるための筋肉ではない。
度重なる実戦によって鍛えられたその筋肉の鎧にはとてつもない力が凝縮されている。
尻尾A「ガァッ!!」
サッ!!
ガチィン!!
尻尾A「!?」
一本目の尻尾の攻撃を左へと避けたツーは脇を締めコンパクトに、かつ破壊力抜群の右ストレートを放った。
ツー「フッ!!!!!!」
ドゴオッ!!!!!!!!!!
尻尾A「ゲギャァ!?」
一発K.O.。
続く攻撃に備える。
左右から迫り来る第二第三の尾。
ツーを挟み撃ちにするつもりのようだ。
その動きを見切ったツーは高く飛んだ。
尻尾B・C「!?」
ドカアアァァン!!!!
尻尾B・C「ギャォオ……!?」クラクラ
二本の尾が互いにぶつかり合う。
その隙をツーは逃さない。
上空から二本の尾に向けて攻撃を仕掛ける。
ツー『百烈・爆裂拳ッッッ』!!!!!!
ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!
尻尾B・C「ギャオーー……!!!!」ズズゥン
鋼の肉体から放たれた百の拳を受けて残りの二尾も沈黙した。
ツー「鍛え方が足りんなぁ……諸君」ニッ
真・魔王「グ……ヌヌヌ……!!オノレ!!オノレオノレオノレ!!勇者達ヨ!!アクマデ私ニ立チハダカルカ!!」
ワン「あぁそうさ、それが勇者と魔王の宿命……だろ?」ニッ
真・魔王の眼前、飛翔呪文で一番目の勇者が空に浮かんでいた。
真・魔王「ホザケェ!!!!」
真・魔王『メラガイアーーーーッ』!!
真・魔王本体の両の手から放たれし灼熱の大火球。
全てを焼き焦がすその焔が真っ直ぐにワンへと向かう。
ワン「魔王っつってもまだまだだな……」
ワンは両手を自分の前へと突きだし魔力を集中させた。
ポゥ……
ワンの掌に現れたのは小さな火球。
ボゥ……
真・魔王「ソノ小サナ火ノ玉デ私ノメラガイアーヲ相殺スルツモリカァ!?」
ボオゥ……
ワンの放った火球が次第に大きくなる。
メラメラメラメラ……!!
ワン「相殺……?違うな……飲み込んでやるっつーんだよ!!!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
真・魔王「オオオ……!?」
真・魔王のメラガイアーすら超える巨大な炎の塊は優雅な鳥へとその姿を変えた。
炎の不死鳥。
その優美なる姿と絶対なる破壊力を合わせ持つ火炎呪文の究極形は古来より魔界では賞賛と畏怖の念を込めてこう呼ばれる……
ワン『カイザーフェニックスッッッ』!!!!!!!!
不死鳥は優雅に真・魔王へと飛び立つ。
先程真・魔王が放った大火球を飲み込み、その炎の激しさを増し、襲いかかる。
ゴアアアァァァァァァァ!!!!
真・魔王「グアアアァァァァーーー!!」
真・魔王の全身が炎に包まれた。
ワン「どうだ勇者、俺もちゃんとすごい呪文使えるようになっただろ?」ニッ
ワン「後は任せたぞ、お前ら!!」
セブン「うん!!」
エイト「フォーはどれにするの?」
フォー「上の右手にするかな」
エイト「じゃあ僕は真ん中の左手にするよ」
セブン「僕は下の左手にするね」
フォー・セブン・エイト「だあああぁぁぁぁ!!!!!!」ドンッ!!
掛け声と共に真・魔王へと空を駆ける三人の勇者達。
しかし彼らの剣は鞘に納められたままである。
フォー『ギガデイン』!!!!!!
広場の魔族達を一掃した勇者の放ったギガデインに勝るとも劣らぬ超強力な魔力の雷撃。
その雷撃は真・魔王へと放たれたのではなく第四の勇者の右手めがけて落ちてゆく。
ズガァァーーーーン!!!!
バリバリバリバリ!!!!
千のいかずちが彼の手の中へと集中し圧縮され、青白い光を放つ一振りの剣へとその形を変えた。
彼が振り抜くその剣は、魔なる存在を倒すことを運命づけられた天空の血を引きし地上の勇者にのみ扱えるという、闇を切り裂く稲妻の剣。
フォー『ギガソードォォォ』!!!!!!
エイト「はああぁぁぁぁぁ!!!!」
八番目の勇者の手には光の剣が握られていた。
勇者の秘剣『ギガスラッシュ』。
幾多の勇者が数多の闇を屠ってきたであろうその剣は雷撃呪文と同じく勇者の証である。
キイイイイィィィィン!!!!
バチバチバチバチ!!
エイトの持つ光の剣の輝きがより強まっていき、刀身に纏う雷撃も激しさを増してゆく。
勇者の真の勇気に呼応し光の剣が真の力を解放したのだ。
それは闇夜に轟く紫電、その権化。
エイトは高密度の魔力の大剣を振りかぶり、その技を放った。
エイト『ギガブレイクッッッ』!!!!!!
キィン!!!!
真・魔王の持つ六本の腕。
その左下に位置する巨腕が光の結界に包まれた。
使用者のオーラによって形成されるその結界を内側から破壊することは不可能。
完全に身動きを封じられることとなる。
セブン「ぅおおおおおおおお!!!!!!」
七番目の勇者の手にもまた光の剣が握られていた。
しかしその剣はギガソードの様ないかずちの剣ではなく、ギガスラッシュのような光の剣でもない。
神の手を持つと称される格闘神『ゴッドハンド』。
格闘術を極めたもののみが放つことのできる闘志の剣。
自ら放った光の檻ごと相手を両断する究極剣が振り降ろされる。
セブン『アルテマソードォォォ』!!!!!!
ザザザンッ!!!!!!
真・魔王「グアアァァァ!!!!!!」
真・魔王の腕が三本、同時に切り落とされた。
並の剣では傷一つつけることすら叶わぬ鋼鉄の皮膚が切り裂かれ、どんな巨木よりも太い骨肉が断たれたのだ。
真・魔王「憎イ……!!貴様達勇者ガ!!貴様達ノ持ツ光ガ私ノ闇ヲカキケソウトスル!!!!」
真・魔王「消エテ無クナレ!!塵スラ残サズ!!跡形モナク!!!!」
真・魔王「ハアアアアアァァァァァ!!!!!!!!」ゴオッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!
真・魔王の持つとてつもない魔力が膨張を始める。
空を振るわせ、
海を怯えさせ、
大地を泣かせる災害に等しいその強大な魔力が暴走しようとしているのだ。
『マダンテ』。
古よりその使用を禁じられてきた最強の秘技。
己の持つ全魔力を解き放ち暴走させ、周囲のあらゆるものを破壊し無に帰すと言われる魔道の超奥義。
仮に一般の魔法使いがこの技を放ったとしてもその凄まじい破壊力は小さな村一つなら跡形もなく消し去ることができる。
それを神をも超えし魔力を持つ真・魔王が放とうとしているのだ。
その大破壊はこの王都を滅ぼすだけに留まらず、この王国を……いや、この大陸すら根こそぎ吹き飛ばすだろう。
スタッ
ファイブ『ベホマ』!!
パアアアァァァ!!
温かな治癒の光が勇者の傷を癒す。
勇者「ありがとう、ファイブ」
ファイブ「だが体力を全回復できるベホマでも一発で完全に回復しないとは……相当手酷くやられたみたいだね」
勇者「あぁ、でもずっと楽になったさ」
スタッ
ナイン『MPパサー』!!
パアアアァァァ
ナインの持つ魔力が勇者へと流れ込む。
ナイン「僕の魔力を勇者に分けてあげたよ。流石に勇者の魔力を全快にはしてあげられないけれど……これでまた闘えるハズさ」
勇者「ありがとう、ナイン」
勇者「でも……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
勇者「あの野郎ついに最後の攻撃をするつもりらしいな……あんなの喰らったら今度こそおしまいだ」
ナイン「うん、次が僕達にとっても最後の一撃になるだろうね」
ファイブ「勇者……聞こえるかい?」
勇者「……なにが?」
ファイブ「……目を閉じて」
勇者「…………」スゥ
ファイブ「耳をすませて」
勇者「…………」
ファイブ「心を静かにさせるんだ」
ファイブ「今の君になら……聞こえるハズだよ」
勇者「…………」
――――――――
『……さま!!』
どこからか誰かの声が聞こえる。
『勇者様!!』
それは人々の心の声。
勇者の名を呼ぶ声。
兵士長『勇者殿……!!』
兵士A『勇者サマ……!!』
兵士B『勇者様……!!』
国王『勇者……殿……!!』
姫『勇者様!!』
世界中から声が聞こえる。
男『勇者様……!!』
女『勇者様……!!』
農夫『勇者さま……!!』
神父『神よ!!勇者様にお力を……!!』
子供達『ゆうしゃさま!!』
先生『勇者様……!!』
人々『勇者様!!』
人々『勇者様ー!!』
人々『勇者さん!!』
幾つもの声が勇者を呼ぶ。
祈りを込めた声で勇者を呼ぶ。
希望を込めた声で勇者を呼ぶ。
勇気を込めた声で勇者を呼ぶ。
女の子『お願い、勇者様……私たちを……ううん』
女の子『この世界を守って!!!!!!』
――――――――
勇者「…………」
ファイブ「……聞こえただろ?」
勇者「……うん、確かに聞こえたよ」
ファイブ「負けるわけにはいかないね」フフッ
勇者「あぁ!!俺がみんなの……世界中の希望の光になる!!!!」グッ
ナイン「そう、この世界の勇者は君なんだ……最後の一撃……準備はいいかい?」
勇者「おう!!!!」ドンッ
勇者は空高く飛んだ。
勇者の真下。
地上では九人の勇者達が上空の勇者を囲むように円を描いて立っている。
ツー「最後の仕上げだな」
フォー「あぁ、勇者に全てを託すとしよう」
シックス「俺達はこの世界の『勇者』じゃないからな」
エイト「これでもし勇者が負けちゃったらどうする?」フフッ
ワン「魔王なんざに負けるようなら俺が勇者をぶっ飛ばしてやる!!」
スリー「魔王じゃなくて勇者をかい?」クスクス
ファイブ「まぁ気持ちはわからないでもないがな」ククッ
セブン「大丈夫、勇者は敗けないよ。僕達がついてる。それに……」
ナイン「世界中の人達の想いを背負ってるんだからね!!」
皆が天に手をかざし、勇者へと叫んだ。
スリー「勇者!!!!俺達の!!!!!!」
ワン「希望と!!!!」
ツー「力と!!!!」
スリー「勇気と!!!!」
フォー「意志と!!!!」
ファイブ「愛情と!!!!」
シックス「夢と!!!!」
セブン「友情と!!!!」
エイト「想いと!!!!」
ナイン「絆の力を!!!!」
九人の勇者達「受けとれええぇぇぇーーーーーー!!!!!!!!」
九人の勇者達『ミナデイン』!!!!!!!!!!!!!!!!
ドオオオォォォォォン!!!!!!!!!!!!
轟音と共に天が裂けた。
強い絆で結ばれた仲間達がその心を一つにした時にのみ放つことができるとされる究極の雷撃呪文『ミナデイン』。
その人知を超えた破壊力は人の扱う呪文などとは比較することすらできず、『神の怒り』と呼ばれている。
この雷撃には九人の勇者の想いと力の全てが込められている。
ズガガアアァァァァーーーーーン!!!!!!!!
勇者は天へと掲げた剣でそのいかずちを、仲間達の想いを、人々の想いを受け止めた。
勇者「感じる……みんなの温かな力を……」
勇者「本当にありがとう、みんな……」
勇者「後は……この剣に俺の全てを込めるだけだぁーーー!!!!」
バチバチバチバチ!!!!!!!!
バリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!!!
勇者の想いに応じるようにいかずちが形を変え……
カアアアァァァァーーーーー!!!!!!!!!!!!
今、邪悪な暗闇を断たんとする巨大な光の剣となった!!!!
勇者「行くぞぉー!!真・魔王ぉぉお!!!!!!!!」
真・魔王「良カロウ!!!!貴様ラ人間ノ全テヲ私ガ否定シテクレルワ!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
九人の勇者達「行けぇ!!!!勇者ーーー!!!!!!」
勇者「うおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」ドンッ!!
真・魔王「ハアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」バッ!!
勇者『ミナ・グラン・ブレイク』!!!!!!!!!!!!!!!!!!
真・魔王『マダンテ』!!!!!!!!!!!!!!!!!!
カッ!!!!!!!!
そして、世界が光に包まれた!!!!!!
――――王都・上空
勇者「………………」
真・魔王「………………」
勇者「……ぐっ!!うぅ!!」ガハッ
勇者「ハァ……ハァ……」
真・魔王「……何故ダ?」
真・魔王「…………何故コノ私ガ…………!?」
ブシャアアァァァァ!!!!!!
――――王宮前広場
ワン「やりやがった……勇者の奴やりやがったぞ!!!!」
ツー「ハハッ!!やったな!!勇者!!!!」
パアァ…………
スリー「空を覆っていた禍々しい雲が消え去ってゆく……」
フォー「青い空と太陽の温かな光が何よりの贈り物だな」フフッ
ファイブ「勇者に先を越されてしまったな」
シックス「ん?たしかにそうだなぁ」
セブン「僕達も勇者に負けていられないね!!」
エイト「うん……この温かな太陽の光と人々の歓喜の声を聞くために……ね」
ナイン「僕達も勇者だものね」ニッ
――――王都・上空
シュルルル……
勇者「!?」
新・魔王「ぐ……う……」
勇者「新・魔王に戻った……!?」チャキッ
新・魔王「フフ……そう身構えることはありませんよ、勇者」
新・魔王「他の魔族達を取り込み無理矢理進化をした私はもうじき灰となって消えます……それが因果というものです」
ボロッ
ザアァ……
勇者「…………」
新・魔王「……消えてしまう前に一つお聞きしても良いでしょうか?」
勇者「……なんだ?宿敵のよしみで聞いてやるよ」
新・魔王「フフッ、ありがとうございます」
新・魔王「私は……どうして貴方に勝てなかったのでしょうか?」
新・魔王「貴方は勇者達に、私は魔王達に、それぞれ師事を仰ぎ修行に励んだというのに……」
勇者「………………」
勇者「……同じように修行した俺達だけどな、俺にあってお前になかったもの……わかるか?」
新・魔王「さぁ?……それは一体……」
勇者「『仲間』さ」
新・魔王「仲間…………」
勇者「そんなものあったって馬鹿馬鹿しいってお前は思うかもしれないな、自分が圧倒的な力を持っていればそれで事足りる、絆なんて何の役にも立ちはしないってさ」
勇者「でもな、理屈じゃないんだ」
勇者「大切な人のために、自分の全部を、命を懸けようっていう想いが……人を何倍にも強くするんだ」
勇者「他の世界の魔王達はお前がピンチだと知ったら命を懸けてでも助けに来てくれるか?」
新・魔王「…………」
勇者「多分駆けつけてはくれないだろうな……でも勇者達はこうして助けに来てくれた。俺の師匠達は俺の最高の仲間だ」ヘヘッ
新・魔王「仲間との絆……ですか」
新・魔王「たしかにそれは私にはないものですね……」フフッ
ザアァ……
新・魔王「…………勇者よ、この勝負貴方の……いえ、貴方達人間の勝ちです……」
勇者「……ありがとう、新・魔王……これからも俺は命ある限りこの世界を守って行こうと思う」
勇者「人々の笑顔が絶えない平和な世界をつくるために…………敗けたお前に恥じないようにな」
新・魔王「フフフッ、そうですか、楽しみですね……」
ザアァ……
新・魔王「あぁ……闘いに破れ死にゆく時だというのに何故私の心はこんなにも晴れやかなのか……」
新・魔王「もし魔王と勇者としてではなく、貴方と会うことができたなら私も……」
勇者「新・魔王……」
新・魔王「……いえ、なんでもありません」フフッ
ザアァ……
新・魔王「さようなら、勇者……我が宿敵よ……」
ザアァ……
フッ
勇者「あぁ……新・魔王……」
勇者「…………じゃあな」
――――王都・王宮前広場
シュー……
スタッ
勇者「ふぅ……王都もすっかりメチャクチャになっちまったな……こりゃ復旧に何年かかるか……」
ダダダダッ
勇者「?」
兵士長「勇者殿ぉーー!!」
兵士A「勇者サマーー!!やりましたね!!」
兵士B「ご無事ですか!?」
兵士C「ホントすごかったッスね!!」
兵士D「広場で闘ってた時に雷で助けてくれてありがとうございました!!」
兵士達「……勇者様のおかげで……」
兵士達「……本当にありがとうございました……」
わいわいがやがや!!
勇者「いや、俺は仲間と一緒に俺にできることをしただけだよ」ハハハッ
姫「しかし勇者様がこの世界をお救いになられたのは紛れもない事実ですわ」ニコッ
兵士A「姫様!!」
姫「この国の者を代表してお礼を言わせていただきますわ……ありがとうございました」ペコッ
勇者「あ……う……えーと、その……」
勇者「ど、どういたしまして」
兵士達「うおおおおおーーーーー!!!!!!」ヒューヒュー!!
国王「私からも礼を言わせてもらうぞ、勇者殿」
兵士B「国王様」
兵士長「お体の具合は……」
国王「なに、お前達の介抱のおかげで随分楽になったわい」
国王「ところで勇者殿よ」
勇者「はい」
国王「娘を嫁に貰ってくれんか?」
勇者「!?」
姫「おおおお父様!?////」
国王「娘ももうそろそろ嫁にいくなり婿をもらうなりしてもいい年頃じゃしの、世界を救った勇者殿が相手ならわしも安心して娘を任せられるわい」
姫「でもあまりにも急すぎますわ!!」
国王「まぁまぁ……お前も勇者殿が夫なら満足じゃろ?」
姫「それは……」チラッ
姫「…………そうですけど……////」
勇者「え、いや、……ぇえ?な、何これ?」
兵士A「俺達の姫様がぁー!!」ウワァーン
兵士C「ズルいッスよ勇者様!!」
兵士達「そーだそーだ!!」ブーブー
兵士達「うらやましいぞコノヤロー」ブーブー
兵士達「死ねー!!」ブーブー
わいわいがやがや
国王「どうじゃ、うん?」
勇者「えーっと……その……まだ返事はできないです、俺姫様のこと何にも知らないし……姫様だって俺のこと何にも知らないワケだし……それなのに結婚とか……」
姫「勇者様……」
国王「ハッハッハ!!それでこそ勇者殿じゃな、まぁ返事は今でなくても良い。じっくりと考えてから答えを聞かせてくれ」
国王「さぁ、何をしておる皆のものよ!!魔王は倒れ魔王軍は滅び去ったのじゃ!!偉大な勇者様の勝利を祝って宴の準備をせんか!!!!」
兵士達「うおおおぉぉぉ!!」
姫「宴には出席なさって下さいますよね、勇者様?」
勇者「あぁ、そのつもりだよ」
バサッ!!
「ところがそうはいかねぇんだな~」
姫「!?」
勇者「みんな!?」
ワン「おいおい勇者、自分の世界を救ったらそれでおしまいかよ?」ニッ
勇者「え?だって……」
ツー「俺達は勇者だからな」
スリー「困っている人がいたら無償で助けるよ」
フォー「でもそれは相手が一般人のときだけだ」ニヤッ
勇者「どういう……」
ファイブ「勇者同士には無償の手助けなんてないってことさ」フッ
シックス「そうそう、借りはちゃんと返さなきゃな♪」
勇者「なぁ!?」
セブン「僕達は君に修行をつけてあげたし、今回の闘いでは君を助けてあげたよね?」
エイト「今度は君が僕達に協力する番じゃないかな?」ニコッ
ナイン「防具代は倍返しって言ったよね、勇者♪」フフッ
勇者「お、お前らなぁーー!!」
ラーミア『さぁ、どうしますか、勇者?』フフッ
勇者「……………………」
勇者「そんなの決まってんだろ?」ニッ
姫「勇者様?」
勇者「悪いな姫さん、俺ちょっと行ってくるわ!!」
姫「……はい!!私、勇者様がお帰りになるのを待っていますわ」ニコッ
タンッ
スタッ
勇者「頼むぜ、ラーミア!!」
ラーミア『はい』
バサッ!!
バサッバサッ!!
兵士A「……おい、あれ勇者サマじゃないか!?」
兵士B「ホ、ホントだ!!」
兵士長「勇者殿!!一体どちらへ!?」
国王「ま、待つんじゃ勇者殿!!」
兵士達「勇者様ーーー!!」
勇者「へへっ、ごめんなみんな、でもな……」
勇者「これが『勇者』の…………いや、俺の宿命なのさっ!!!!」ニカッ
――――――――
――――
――
―
――――星の海
ラーミア『まったく、ルビス様は何故あんな回りくどい真似をなさったのですか?』
ルビス『あら、回りくどい真似とは?』
ラーミア『とぼけないで下さい、勇者のことです』
ラーミア『わざわざ九つの世界で修行させたりしなくとも他の世界の勇者を勇者の世界へと連れて行って、魔王と闘って貰えば良かったではありませんか』
ラーミア『私に申しつけて下さればそれぐらい簡単に……』
ルビス『それでは無意味なのです……と言うよりもその方法は上手くいかなかったでしょうね』
ラーミア『何故です?』
ルビス『勇者達に『他の世界が危ないから助けて欲しい』とでも言うのですか?』
ルビス『彼らは自分達の世界を救うために闘いに身を投じたのです、その上で他の世界の話などされても実感が湧かないでしょうし、その闘いに真に想いを懸けることはできなかったでしょう』
ラーミア『…………』
ルビス『九人の勇者が勇者を助けに来てくれたのは勇者が彼らの大切な仲間だったからですよ』
ルビス『もっとも魔王側も息子を九つの世界で修行させていたのは予想外でしたし……九人の勇者達が最後の決戦で勇者に力を貸してくれるかどうかは賭けでしたがね』
ラーミア『世界の命運がかかっていたというのに『賭け』とはまた随分と適当なのですね』ハァ
ルビス『いいえ、私は信じていましたよ?』
ラーミア『…………?』
ルビス『人間達の持つ絆の力を……ね』フフッ
――――――――
――――
――
―
――――――――
勇者達と魔王の死闘から長い歳月が経った。
魔族によって破壊された町並みも無事に元通りとなり、
人々は再び訪れた平和の中で互いに手を取り合って過ごしている。
――――ここはとある小さな村。
長老「…………と、言うのが零番目勇者様のお話じゃ」
少年A「すげー!!やっぱり何度聞いてもかっこいいよなー!!」
少年B「だよなー!!」
少年C「でもその後この世界の勇者様はどうなったんだろうね?」
少年A「馬鹿だなぁ、他の世界の勇者様達と協力して別の世界の魔王を倒して回ったに決まってんじゃん!!」
少年B「やっぱかっこいーなー!!」
長老「いや、実際そんなかっこいいもんじゃなかったぞぃ……鶏好きと卵好きの喧嘩の仲裁をさせられたり、花嫁泥棒を手伝わされたり、タバサと姫さんの板挟みにあって窮屈な思いをしたり……」ハァ
少年達「???」
長老「あ、な、なんでもないぞぃ!!なんでも!!」ホッホッホ
タッタッタッタ
少年D「ハァ……ハァ……遅れてごめんなさい、長老様」
少年A「遅せーぞ~」
少年C「もぅお話聞き終わっちゃったよ~」
少年B「お前みたいにどんくさいやつは勇者様達みたいに強くてかっこいい人になんてなれないな」ゲラゲラ
少年A「まったくだな」ケタケタ
少年D「うぅ……」ショボーン
長老「これこれ、いつも言っておるじゃろ?勇者とは勇気ある者、腕っ節の強さなど関係ないと」
長老「どんなに小さくても心に勇気の炎が灯っている限り、誰もが『勇者』じゃよ」ニコ
少年達「はぁ~い」
少年D「あ、あの……長老様、今からでもまた勇者様達のお話聞かせてもらえませんか……?」
長老「いいともいいとも」ウンウン
長老「さて……」
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」ニッ
―――THE END―――
888 : 以下、名無しが深夜... - 2012/02/19(日) 04:20:31 feX.vMfs 869/871ふぃ~~、長くなりましたがこれでおしまいです。
なんとか1スレで完結できて良かった(笑)
ベッタベタの王道すぎる長編ですが最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございます
短いラノベ一冊分ぐらいの量があるんでこれから読んでみようかなって方にとってはいい暇つぶしぐらいにはなるんじゃないでしょうか?ww
それではノシ
904 : 以下、名無しが深夜... - 2012/02/20(月) 16:53:59 HsYSBQIo 870/871ども、>>1です
こんな長いSS誰も読んでくれないんじゃないかと思ってましたが、思ってた以上に読んでくれた人がいたみたいで嬉しい限りです
このSSを読んでくれた人たちが少しでも楽しいひと時を過ごしてくれたなら幸いです
蛇足かと思いますがちょいと訂正と補足をさせていただきます
【補足】
・Ⅰの主人公は『剣神』『バトルロード』のデザインで描写
・Ⅴの主人公の一人称が『私』なのはDS版Ⅵの隠しダンジョンより
ビアンカと話すときだけ『僕』って設定
あと気になるところがあったらオリジナルの設定
最後に、
自己満足の駄文長文にお付き合いくださりありがとうございます
支援、乙くれた方、本当にありがとう
叩きでもコメくれた方、悪いところ指摘してくれてありがとう、今後に役立てます
では
こういうSSが読みたかった!