――――第七の世界
パッ
勇者「第七の世界到着ーっと」スタッ
ザザーン……ザザーン……
勇者「ここは……船の上か……海ばっかりだなぁ……って当たり前か」アハハ
勇者「しっかし随分デカい船だなぁ……」キョロキョロウロウロ
ドンッ!
勇者・???「うわっ!!」ビクッ
???「お前誰だ?」
勇者「ビックリしたな~、なんだ子供か……」
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【1】
【2】
【3】
【4】(完結)
元スレ
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
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???「オイラ『コドモ』じゃねぇぞ、オイラは『ガボ』だぞ」
勇者「ハハッ、変わった奴だな~」
ガボ「…………」クンクン
勇者「? な、なんか変な臭いするか?俺」スンスン
ガボ「お前いい奴だな、セブンと臭い似てるぞ」
勇者「セブン?名前からして七番目の勇者っぽいな……」
勇者「なぁガボ、俺をそのセブンのところに連れてってくれないか?」
ガボ「わかった!!」
――――海賊船マール・デ・ドラゴーン・船長室
???「……そうか、ダメだったか」
???「はい……せっかく手掛かりをくれたのにすみません」
???「いや、謝るのは私の方だ……不確かな情報ですまなかったな」
バァン!!
???「?」
ガボ「セブン!!コイツがお前に会いたいって!!」
セブン「え……僕に?」
勇者「やっぱり!!緑の頭巾にトカゲ!!七番目の勇者だ!!」
セブン「え?な、七番目……?」
――――
シャークアイ「別の世界から来たとは…………まったく不思議なこともあるものだな」
マリベル「なんか胡散臭いわねー……実は魔王の手先なんじゃないの」ジトー
勇者「違うっつーの」
マリベル「じゃあセブンとグル組んでドッキリとか」
セブン「ぼ、僕はそんなことしないよ!!」
マリベル「わかってるわよ、わったく冗談通じない男って嫌ね」
セブン「よく言うよ、マリベルだって人の冗談に本気でキレるクセにさ」ボソ
マリベル「な ぁ に ?」
セブン「なな、なんでもないよ」アハハ~
メルビン「ふむ……勇者殿は相当腕が立つようですな、しかもまだまだ伸びしろがある……そんなところでござるな」
アイラ「わかるの?」
メルビン「伊達にこの歳まで現役ではござらんよ」
勇者(このじいさんどことなくライアンに似てるな~)
メルビン「申し遅れた、吾輩メルビンと申す。数百年前神と共に魔王と闘った兵で、今はこの時代に復活した魔王を倒すべくセブン殿と旅をしている」
勇者「す、数百年前!?だからこんな爺さんなのか……」
マリベル「そんなに長生きなワケないでしょ、神様が来るべき危機に備えてつい最近までメルビンを封印してたのよ」
アイラ「まぁ封印された時が既におじいちゃんだったみたいだけどね」
勇者「へぇ~」
アイラ「私はアイラ。神に仕えるユバールの民の踊り子で剣士もしているわ、よろしくね」
勇者「よろしく、アイラ」
マリベル「私はマリベル、フィッシュベルの網元、アミットの娘なんだから」
勇者「そ、そうか、よろしく~」
勇者(なんか第五の世界にいたデボラって人にちょっと似てるな……)
ガボ「オイラはガボだぞ!!よろしくな、勇者!!」
勇者「おぅ、よろしくなガボ」
セブン「ガボは本当は狼の子でね、訳あって今は人間の姿をしているんだ」
勇者「狼!?……なるほど、だから鼻が利くのか」
ガボ「おう!!」
セブン「僕はセブン、フィッシュベルの漁師の息子だよ。それと水の精霊の加護を受けた人間でもあるんだ、よろしくね勇者」
勇者「あぁ、よろしく!!……ところでそっちの人は?」
シャークアイ「む?私か?」
シャークアイ「私は海賊『マール・デ・ドラゴーン』の頭領にしてこの海賊船の船長を務めるシャークアイという者だ」
シャークアイ「数百年間封印されていたのをセブン達に助けて貰ってな、今はセブン達に協力しているというワケだ」
勇者「メルビンみたいなもんか~……なんか数百年とかスケールデカいよなぁ」
セブン「僕達は過去の世界と今の世界を行ったり来たりする旅をしてきたからね、慣れちゃってるとこもあるけど」フフッ
マリベル「……で、セブン。この世界での勇者の修行はどーすんのよ?」
セブン「そうだね、じゃあとりあえずダーマ神殿に行ってみようか」
勇者「!? この世界にもダーマ神殿があるのか!?」
セブン「え?それは勿論あるけど……」
メルビン「勇者殿の口ぶりから察するに他の世界にもダーマ神殿があるようでござるな」
勇者「うん、前の世界ではダーマ神殿で職業を極める修行をしてたからさ」
セブン「へぇ~、じゃあ話が早いや、早速ダーマ神殿へ向かおう!!」
――――ダーマ神殿
セブン「驚いた……勇者は下級職を全部極めているんだね」
勇者「まぁな」ヘヘッ
マリベル「でもなんで下級職を全部極めてから上級職を極めるなんて回りくどいやり方したのかしら?」
アイラ「たしかにそうね……」
セブン「推測だけど……六番目の勇者はこの世界にもダーマ神殿があることに気づいてたんじゃないかな?」
メルビン「なんと!?」
セブン「第六の世界と第七の世界……合計二十日で全ての職業を極められるようにしたんだと思うんだ。だから最初の十日では戦闘の基礎である下級職を全て極めさせた……」
勇者「……たしかに第六の世界で初日にシックスに他の世界の勇者の伝承について聞かれたな……」
勇者「特に七番目の勇者の伝承は詳しく聞かれたっけ、『どんな技を使ったんだ?』とか『どんな呪文を使ったんだ?』とか……」
セブン「多分その話で七番目の勇者……つまり僕の技や呪文の多彩さから六番目の勇者はこの世界にもダーマ神殿があるに違いないって確信したんだろうね」
ガボ「……???」
勇者「そっか……そんなことまで考えて……やっぱ勇者達はみんなすげぇな!!」
セブン「そうだね、おかげでこの世界で勇者は上級職を極めることに専念できるね」ニコッ
マリベル「ほら、方針が決まったんならさっさと転職してきなさいよ」
勇者「っしゃあ!!燃えてきたぜ!!」
――――第七の世界・三日目・ルーメン周辺の山地
勇者『火炎斬り』!!!!
ズバッ!!ゴオォッ!!
ローズバトラー「キシャアーー……!!」
ズズーン…
勇者「ふぅ……来る日も来る日も魔物との闘い……」
勇者「闘うことを宿命づけられた俺にふさわしい荒んだ日々だな……」フッ
マリベル「なーに哀愁漂わせてかっこつけてんのよ」ドゲシッ
勇者「あいたっ!!」
勇者「だってさ~、第六の世界に続いてこの世界でも魔物と闘ってばっかだぜ?俺も嫌になるよ~」ハァ
マリベル「そのうんざりするような魔物との闘いにあたし達は付き合ってやってるのよ?」
ガボ「オラは楽しいぞ?♪」
マリベル「アンタは黙ってなさい!!はーあ、疲れたわ~休憩しましょうよ」
セブン「そうだね、みんな疲れただろうし少し休もうか」フゥ
アイラ「勇者は順調に上級職を極めてるみたいね」
勇者「うん。だけど船乗りとか知らない職業もあったからな~……どの世界でも全く同じ職業ってワケじゃないんだなぁ」
セブン「でも前に勇者がやったっていう遊び人はこっちの世界で言う笑わせ師と同じようなものみたいだし大体は対応してるみたいだね」
勇者「それでもモンスター職ってのは初耳だったな~。第六の世界にはドラゴンとはぐれメタルの職業しかなかったけどこの世界には他にもいっぱいモンスターの職業があるんだろ?」
メルビン「うむ、モンスター職の数は通常職よりも多いでござるな。もっともモンスター職に就くためにはそのモンスターの『心』が必要でござるがな」
勇者「第六の世界の『さとりの書』みたいなもんだな……」
アイラ「時間が限られてる勇者じゃ全部のモンスター職を極めることはできないでしょうから残念ながらモンスター職はパスするしかないわね」
勇者「チェッ、せっかくだからモンスター職っていうのもやってみたかったなぁ」
セブン「まぁまぁ、通常職でもほとんどの呪文や特技をマスターすることはできるんだしさ、そこは我慢してよ」アハハ
勇者「まぁ俺に時間がないのはたしかだからな、できることを精一杯やるだけだ」
セブン「うんうん、その調子だよ」
セブン「…………っと、マリベル……後は任せていい?」
マリベル「わかったわよ、ほら、行ってきなさい」
セブン「うん。ごめんね、勇者。僕は用があるから……」
勇者「あぁ、いってらっさい」
ガボ「今度こそ見つかるといいな」
セブン「そうだね、じゃあ頑張って!!」
セブン『ルーラ』!!
ビュンッ!!
勇者(…………)
勇者「……なぁなぁマリベル、セブンって一体何の用があるんだ?昨日も用があるって言って途中でいなくなったし……」
マリベル「石版探しよ」
勇者「石版……?あ、あれか!!過去の世界に行くためには砕かれた石板の破片を集めて一つの絵にしなくちゃならないんだよな!!」
アイラ「よく知ってるわね」フフ
メルビン「セブン殿は未だ完成していない石版の欠片を探しに行っているのでござる」
勇者「へぇ~……」
マリベル「ま、そんなのただの建て前だけどね」
勇者「え?」
マリベル「石版探しはただのついで、本当にアイツが探してるのは…………友達よ」
勇者「友達……?」
マリベル「そ、友達」
ガボ「キーファのことだな?」
メルビン「キーファ殿……たしかグランエスタードの王子の……」
マリベル「そ、セブンの親友だったわ」
マリベル「何をするにも二人一緒、いつも二人でいたずらして……あたし達がこうして旅をするきっかけを作ったのもアイツね」
マリベル「でも旅の途中、アイツある理由で過去で生きて行くことを決めたの」
マリベル「その時にあたし達のパーティを離脱して……そのまんま」
勇者「そのまんまって……会えないのかよ?石版で過去の世界に行けば簡単に会えるんじゃないのか?」
マリベル「世界各地を旅する一族と一緒に旅をしてるからね、一つの場所には長くいないみたいなのよ。だから会いたくてもどこにいるかわかんないってワケ」
アイラ「…………」
マリベル「ホント、馬鹿よね……」
マリベル「惚れた女を守るために親友と別れたキーファも、その親友にまた会うために過去へ行って世界中を探して回ってるセブンも……ね」
勇者「…………」
勇者「……でも俺セブンの気持ちわかるな」
マリベル「……そうなの?」
勇者「うん。俺の仲良かった友達……もう死んじゃったから会えないけどさ、そのセブンの友達は過去の世界のどこかにいて生きてるんだろ?」
勇者「だったら、会える可能性が0じゃないなら、俺も探しに行くと思うな……」
マリベル「会ってどうするワケ?キーファはもうその一族の一員でこっちの世界には帰ってこれないのよ?それなのに会ったってつらいだけじゃない」
勇者「うーん…………まぁ会えたらそれでいいんじゃない?」
勇者「馬鹿な話して『じゃあな、またな』って別れてさ、そんで十分だよ」
マリベル「………………ふ~ん………………」
マリベル「………………男ってみんな馬鹿なのね」ボソッ
勇者「え?何?よく聞こえなかったんだけど……」
マリベル「いいのよ、なんだって。ほら、休憩おしまい!!ガボ!!」
ガボ「おぅ!!」
ガボ「すぅーーー……」
ピーーーーッ!!
ローズバトラーB「シャア!!」ガサガサ
ローズバトラーC「キシャア」ガサガサ
勇者「ちょ、いきなりだな!?」
マリベル「アンタには時間がないんでしょ?休んでないでさっさと闘いなさいよ!!」
勇者「……自分で休憩したいって言ったクセに……」チェッ
マリベル「何か言ったかしら?」ゴゴゴゴゴゴ
勇者「い、いえ!!直ちに戦闘を開始致します!!」
メルビン「なにやらいつものセブン殿とマリベル殿を見ているようでござるな」ニッ
アイラ「ホントね」クスッ
――――夜・ルーメンの宿屋
ガボ「がぁー……ぐぅー……」
マリベル「すやすや」
アイラ「すー……すー……」
メルビン「ぐぅ……ぐぅ……」
勇者「…………」パチ
勇者「…………」キョロキョロ
勇者「…………」ソロリソロリ
パタン…
アイラ「…………」パチ
メルビン「…………」パチ
メルビン「む?アイラ殿もでござるか」
アイラ「メルビンこそ」
メルビン「吾輩老いたとは言え戦士でござるからな、寝込みを襲われないように熟睡はしないため眠りが浅いのでござるよ」
アイラ「フフ、私も同じよ」
アイラ「でも勇者はなんだってこんな夜中に外に出ていったんだろうね?」
メルビン「うむ、それが気になるでござるな」
アイラ「ちょっと後つけてみましょっか」ニッ
――――ルーメン周辺の山地
勇者「ハァ……やっぱ上級職は極めるのが大変だな……何回『口笛』吹いたことか……」
勇者「いやいや、めげるな俺!!頑張れ俺!!」
勇者「すぅーーーー……」
ピーーーーッ!!
ローズバトラーQ「シャア!!」ガサガサ
ヘルクラッシュN「ガオォ!!」ドシンドシン
ガサッ
勇者「よっ!!」ダッ
勇者『五月雨斬り』
ズババッ
ローズバトラーQ「ギャゥ!?」
ヘルクラッシュN「ギャオゥ!?」
勇者「あちゃー……まだ一撃じゃ倒せないか、他の勇者達みたいに上級の魔物も一撃で倒せるようにならないとなぁ、っと」
勇者『岩石落と……』
ローズバトラーQ「シャ……」ヨロロ
ヘルクラッシュN「ガゥ……」ヨロロ
ドッシシーン
勇者「……ってあれ?」
アイラ「一人で夜中に何してるのかと思ったら」
メルビン「修行をしているとは驚いたでござるよ」
勇者「アイラ!!メルビン!!」
勇者「なんでここに?寝てたと思ったのに……」
アイラ「私達は眠りが浅いからね、それより勇者こそ何してるのよ」
メルビン「修行に熱心なのは結構でござるが一人では万が一の時に助けもないし危険でござる」
勇者「あ~……うん、ごめんごめん」アハハ
勇者「でもなんとかして職業を早く極めて時間を作りたいなぁ……って」
アイラ「そんなに急ぐこともないでしょ?修行は順調なんだし……」
勇者「それはそうなんだけど……」
メルビン「?」
勇者「今日マリベルからセブンの話を聞いたからさ、修行が早く終わったら俺もセブンの友達探し手伝えないかなぁって思ってさ」
勇者「ほら、俺ってどの世界でも他の勇者に世話になってばっかりだからさ、たまには恩返しもしたいかなぁ……なんて」ナハハ
メルビン「なるほど、そういうことでござるか」ニコッ
アイラ「可愛いとこあるじゃないの」フフッ
メルビン「しかし昼間魔物と闘って疲労しているのに夜中もこうして魔物と闘うのはやはり危険でござるよ、しかも一人で」
勇者「う……はーい……」キン
勇者「じゃあ宿屋に戻るか」
アイラ「あら、どうして?」
勇者「え?だって今、夜魔物と闘うのはダメだって……」
アイラ「"一人で"闘うのはダメって言ったのよ」フフッ
メルビン「吾輩達もお手伝いするでござるよ」ニカッ
勇者「え……」
アイラ「セブンにはいつも世話になってるからね、恩返ししたいのは私達も一緒よ」
メルビン「吾輩昔の戦友は一人も生きておらぬ故セブン殿や勇者殿のように会える可能性が0でないのなら世界中探してでも会いたいという気持ちはよくわかるでござる」
勇者「二人とも……」
メルビン「さぁ、では月夜の修行と参ろうではござらんか」チャキ
勇者「あぁ!!」チャッ
――――第七の世界・六日目・洋上
シャークアイ「左舷弾幕薄いよ!!なにやってんの!?」
海賊A「左舷弾幕張れーー!!」
シャークアイ「三番から五番、撃てぇ!!」
海賊A「了解!!三番から五番、撃てぇ!!」
ドン!!ドドン!!
ギャオース「ギャオォ……!!」
グレイトマーマン「ぐふっ……!!」
海賊B「魔物共め、七つの海を支配する海賊、マール・デ・ドラゴーンを舐めるなよ!?」ギャハハ
海賊C「おととい来やがれってんだ!!」ガハハ
勇者「すげー、メチャクチャ頼りになるな。流石海賊、海の闘いはお任せって感じだな♪」
シャークアイ「ハハッ、まぁな。海上での闘いには慣れたか?」
勇者「お陰様でな♪今まで海の魔物と闘う機会なんてなかったしいい修行になったよ」
シャークアイ「それはなによりだ」
セブン「職業の方はどう?」
勇者「おぅ!!ついさっき海賊も極めたぜ!!」グッ
セブン「じゃあ残りはゴッドハンドと天地雷鳴師と勇者だけ?」
勇者「おぅよ♪」フフン
セブン「すごいな~、こんなに早くに職業を極めていけるなんて」
勇者「フッフッフ、まぁ秘密の……おっと、これ以上は言えねぇな」ニヤッ
マリベル「何よ、なんか隠し事があるわけ?」
勇者「別に~」ニタニタ
マリベル「アタマくるわね~」イラッ
アイラ「フフフッ」クスクス
メルビン「フム」ニッ
ガボ「?」
セブン「二人は何か知ってるの?」
メルビン「さて、吾輩は何も」チラッ
アイラ「私も」チラッ
セブン「あー、あやしいな~」笑
シャークアイ「セブン、勇者が今の職を極めたのならダーマ神殿へ向かうのか?」
セブン「そうですね」
シャークアイ「ここからなら船で行くのもルーラで行くのもたいして時間はかかるまい、送っていってやろう」
セブン「ホントですか!?ありがとうございます!!」
マリベル「じゃあ着くまであたしは下の宿屋で休んでるから」
アイラ「私達もそうしましょうか」フワァ~ァ
メルビン「うむ、吾輩も最近夜遅いのでここいらで仮眠を……」アワワ
セブン「ガボはどうする?」
ガボ「オラはセブン達と一緒にいるぞ!!」
セブン「そっか、じゃあ僕と航海の手伝いでもしてようか」
ガボ「おう!!」
勇者「お、面白そうだな、じゃあ俺もやる!!」
シャークアイ「そうか、では……」
セブン「第三、第四マストを畳んで来ればいいですか?」
シャークアイ「言わなくてもわかっているか、さすが漁師の息子だな。ではよろしく頼む」ハッハッハ
セブン「はいっ」タタッ
ガボ「ほっ」タタタッ
勇者「あ、待てよ!!二人とも」タタッ
――――
セブン「勇者ぁ、そっちのロープ引いてー!!」
勇者「よっしゃ、わかったぁー!!」
勇者「ガボ、いくぞ」
ガボ「おう!!」
勇者・ガボ「せーのっ!!」グイッ
スルスルスル……
勇者「えーと、これをこうして……」クルクル……キュッ!!
勇者「これでよし!!」
セブン「ありがとう、二人とも!!」
セブン「こっちに登っておいでよ!!」
ガボ「勇者早く」タタンッ
勇者「お前は身軽すぎるんだよ!!……っと」タンッ
セブン「どう?ここからの眺めは」
勇者「ぉ……おぉ!!」
勇者「海も綺麗だし水平線の向こうに見える沢山の島も綺麗だな♪」
セブン「でしょ?♪」
セブン「あの島には何があるんだろう?この海の向こうには何があるんだろう?って、そんなことを考えるとわくわくしない?」ニッ
勇者「あぁ、たしかに!!」
セブン「そのわくわくが僕がこの冒険を始めたきっかけなんだ」
勇者「そうなの?」
セブン「うん。元々この世界には僕たちの故郷の島しかなくてね、他の島や大陸なんかどこにもなかったんだ」
勇者「あぁ、昔魔王が世界を切り取ってバラバラにしちゃったんだっけ?」
セブン「そうそう」
セブン「一つの島に一つの城と一つの村。それしかない世界に退屈してさ、友達と一緒に島中冒険して……謎の遺跡を見つけて……それからは遺跡の謎を解こうって毎日が新鮮だったなぁ……」
セブン「遺跡の謎を解いて初めて知らない島に行った時、すっごく興奮した」
セブン「初めて魔物と闘った時、すっごくドキドキした」
セブン「それからも知らない島に行く度に『ここには何があるのかな、って』いつもわくわくしてたな~」
セブン「知らない何かを知った時、見たことのない何かを見た時、聞いたことのない何かを聞いた時……自分の中に新しい世界が広がる」
セブン「だから僕は知りたいくて見たくて聞きたくて、こうして旅をしているんだと思うんだ」
勇者「へ~……」
セブン「勇者は冒険とかしたことある?」
勇者「いや、ほとんど村で生活してたからな~、たまに遠出して王都まで遊びに行ったくらいかな」
セブン「そっか。勇者が自分の世界を平和にできたらさ、世界中を旅してみなよ。きっと勇者の知らないものや知らないことがいーぱいあるハズだよ♪」
勇者「そうだな~、その時はそうしてみよっかな」
勇者「まぁ今こうして色んな世界に行ってるのが既に大冒険だけどな」ハハッ
セブン「たしかに」ハハッ
海賊C「おーーい!!そろそろダーマに着くぞーー!!」
セブン「わかりましたー!!今行きまーす!!」
――――第七の世界・十日目・ダーマ神殿
神官「それでは勇者よ、『勇者』の気持ちになって祈りなさい」
勇者「…………」ゴクッ
神官「おお、この世の全ての命を司る神よ!!勇者に新たな人生を歩ませたまえ!!」
パアァァ
勇者「……!!」
神官「これで勇者は『勇者』として生きてゆくことになった。生まれ変わったつもりで修行を積むが良い」
勇者「…………」
メルビン「なんとか間に合ったでござるな」
セブン「予定じゃ今日の夕方ぐらいに転職する予定だったからね。むしろ早いくらいだよ」
セブン「……どう?晴れて『勇者』になった気分は?」
勇者「すげーしっくりくる……ゴッドハンドも良かったけど『勇者』がやっぱり一番俺に合うな、自然な感じがするし……」ギュッ
セブン「そっか、僕も『勇者』が一番しっくりくるしそういうものなのかもね」フフッ
マリベル「じゃあさっさと魔物と闘いに行くわよ、アンタ今日でこの世界とはお別れなんでしょ?」
勇者「あぁ、そのことなんだけどさ……セブン」
勇者「その……セブンの友達探し、俺も手伝うよ」
セブン「え?」
勇者「その時間をつくるためにアイラやメルビンに手伝ってもらって修行を早めてきたんだ」
勇者「俺の魔力知覚は人探しにも役立つと思うし」
セブン「…………」ジトー
マリベル「な、なによ」
セブン「いつから知ってたの?って言うかなんで喋ってるんだよ」ムスッ
マリベル「そ、そんなのあたしの勝手じゃない」
セブン「はぁ~……弱ったなぁ」ガシガシ
セブン「勇者、君は自分の世界を救うために少しでも力をつけておかないとならないんでしょ?その気持ちだけで僕は十分だよ」ニコッ
勇者「そう言うと思ったけどさ、最後に恩返しさせてくれないか?」
勇者「『勇者』の職を極めることなら他の世界でもできるしさ、な?」
セブン「…………」
メルビン「セブン殿、勇者殿はセブン殿に恩返しがしたいと夜中にも魔物と闘って修行していたのでござる」
アイラ「そうよ。セブンは優しいからこういうのは嫌かもしれないけど……たまには自分のわがままに他人を付き合わせるのもいいんじゃない?」
ガボ「オラもキーファに会いたいぞ!!」
セブン「……みんな……」
勇者「…………マリベルは?」
マリベル「何馬鹿なこと言ってるわけ?こうしている間にも世界は魔王の手に堕ちようとしているのよ?」
マリベル「そんな中一人の馬鹿が友達に会うために時間を割くなんてホンット馬鹿馬鹿しいったりゃありゃしないわ!!」
セブン「…………」
マリベル「……でもま、たまにはその馬鹿に付き合ってあげないこともないわよ」フンッ
セブン「マリベル……」
セブン「ありがとうみんな……じゃあ……今日一日だけ、僕のわがままに振り回されてくれないかな?」
勇者「あぁ、任せとけ」ニッ
――――石版世界・ウッドパルナ周辺
メルビン「しかしどうやってキーファ殿を探すのでござるか?」
ガボ「臭いか?」
マリベル「臭いって……アンタは今までどうやって探してたのよ?」
セブン「その世界の町の人に聞いたりして近くにユバールの民がいないか聴き込み調査かな」
マリベル「……よくそんな根気がいるマネしてたわね……」
セブン「へへっ」
マリベル「褒めてないわよ!!」ビシッΣ
勇者「まぁそこで俺の出番なワケだ」ニッ
勇者「俺は人や魔物の魔力を知覚することができるからな、それを使って探してみるよ」
勇者「アイラ、ユバールの民って何人ぐらいで行動してるんだ?」
アイラ「そうね……二十人弱ってところじゃないかしら、多くて三十人か……」
勇者「OK、じゃあ人の魔力を感じとったら地図を見て町や城以外のところにそれぐらいの規模の集団がいたら怪しいってことだな」フム
セブン「すごいね、そんなこともできるんだ」
勇者「あぁ、でも俺はファイブみたいに知覚範囲がまだそんなに広くないからな、島だったらその島の真ん中ぐらいまで行かなきゃならないしデカい大陸なら何ヵ所か回らなきゃならないだろうし」
勇者「ホントはキーファって奴の魔力の波長を知ってたら一発でわかるんだけどな……」
セブン「でもずっと効率良くキーファを探せるよ♪」
ザッ……
アイラ「ここが大体この島の中心ね……」
勇者「………………」スゥ…
勇者「………………」
勇者「………………」パチ
勇者「セブン、地図くれるか?」フゥ
セブン「はい」
勇者「ん~…………ダメだな、この島にはいないみたいだな」
セブン「そっか……」
マリベル「なにグズグズしてんの、いないと分かったら早く次の石版世界に行くわよ、時間がないんだから」
セブン「そ、そうだね!!」
――――石版世界・マーディラス周辺
アイラ「中々見つからないわね」
マリベル「ホントよ、やっとそれらしい集団見つけたと思ったら盗賊のアジトだった時は発狂しそうになったわ」イラッ
勇者「マリベル暴れてたもんな~」アハハ
メルビン「まぁとは言え犯罪を未然に防ぐことができたのは良かったでござる」
セブン「それぞれの石版世界が同じ時代ってワケじゃないからね、別の時代ならその場所にユバールの民がいるかもしれないし、もしかしたらキーファのいない時代ってことも有り得るからね」
マリベル「アンタよくこんな途方もないことしてたわね」
セブン「へへっ」
マリベル「だから褒めてないわよ!!」ビシッΣ
勇者「時間的にここが最後かな……」
勇者「………………」スゥ
勇者「………………」
勇者「………………」パチ
ガボ「地図だぞ」
勇者「ありがとう」
勇者「ん~と、こことここと…………ん!?」
セブン「どうしたの!?」
勇者「ここ、山の中に20人くらいの集団がいる。今度は動物っぽい魔力も感じたし当たりかもしれない!!」
メルビン「最後の最後で当たりがきたでござるな!!」
セブン「キーファ!!」ダッ
マリベル「あ!!待ちなさいよ、セブン!!」ダッ
――――山中
セブン「こっちでいいの、勇者!?」ビュッ スタ ビュッ
勇者「あぁ、あの谷の下だ」ビュッ スタ
ガボ「人の臭いが近いぞ!!」ダダッ
セブン「……ほっ!!」スタン
セブン「…………」キョロキョロ
セブン「……これは……」
わいわい がやがや
スタッ
メルビン「……どうやら大規模な商人隊……キャラバンの様でござるな」
アイラ「ユバールの民の伝統的なテントもないし……ハズレね」
マリベル「あーあ、一日探して回ったのに結局見つからなかったわね」ハァ
勇者「……役に立てなくてごめんな」
セブン「ぅうん、いいんだ、みんながこうして僕とキーファのために力を貸してくれただけで嬉しいよ」ハハッ
勇者「でも……」
商人A「……あの~、すみません」
セブン「はい?」
マリベル「何よアンタ、売り込みならお断りよ」
商人A「いや、違います」
セブン「マリベル、いきなり失礼だよ……どうかしたんですか?」
商人A「旅人さん、もしかしてセブンさんですか?」
セブン「え!?……どうして僕の名前を……?」
商人A「やっぱり、キーファさんの名前を出したからそうじゃないかと思ったんですよ」ニコッ
マリベル「ちょっと!!オッサンキーファを知ってるの!?」
商人A「オッサンて失礼な……私はまだ20代です!!」ムッ
商人A「私達のキャラバンは世界各地を旅していましてね、何ヵ月か前にユバールという民族と少しの間行動を共にしていたんですよ」
アイラ「ユバールの民と……」
商人A「そこでキーファさんに出会いましてね、いやぁ逞しくて愉快な方でしたよ」
セブン「そうですか……キーファは元気に……」
商人A「おーい、商人B、商人C」
商人B「なんだ?」
商人A「この人がセブンさんだって!!ホラ、ユバールの民のキーファさんが話してくれた!!」
商人C「え!?本物かよ!?」
セブン「あの……もし良かったらキーファのこと、キーファが話してくれた話のこと、聞かせて貰えませんか?」
商人A「えぇ、勿論」ニッコリ
――――
セブン「ハハハハッ!!あれはたしかに傑作だったなぁ~、あの時のホンダラさんの顔といったら!!」
商人B「ホントにそんなマネしたのかよ!!」ゲラゲラ
商人C「キーファさんの作り話だと思ってたのになぁ」ケタケタ
勇者「ろくでもねーー!!」ヒーヒー
セブン「その後マリベルにも同じことしようとしたんだけど直前に王様にバレちゃって……」
マリベル「ちょっと、それ初耳よ!?」キッ
セブン「しまった!!」
アハハハハ!!
アイラ「……楽しそうね、セブン」
メルビン「そうでござるな」
アイラ「キーファには会えなかったけれど……これで勇者も頑張ったかいがあったわね」
メルビン「うむ」
商人A「しかしこうしてセブンさんに会えるとは思ってもみませんでしたよ」
商人B「まったくだなぁ」
セブン「それは僕も同じですよ、まさか僕達以外にキーファを知る人にこうして会えるなんて」
商人A「…………キーファさん、言ってましたよ」
商人A「『今の生活は充実してるしこの道を選んだことを後悔はしてない。けどセブンと一緒に冒険できないことだけが心残りなんだ』って」
セブン「…………」
商人A「この話をする時のキーファさんは決まってどこか遠い遠いところを見るかのように……少しだけ寂しそうな目をして言うんです」
商人A「でもその後、必ずニッコリ笑って言うんですよ」フフッ
商人A「『でもどんなに離れていても俺達は一緒だから寂しくなんてない。セブンもそう思ってるハズだ』ってね」ニコッ
セブン「そうですか……」
マリベル「…………」
勇者「…………」
商人「『なんたってアイツは俺の弟分だからな』とも言ってましたね」ハハッ
セブン「弟分、ですか」ハハッ
商人D「旦那ァーー!!そろそろ出発しましょうやー!!そろそろ日も暮れるしあまり遅くならないうちに次の町に着かないとー!!」
商人A「わかったーー!!」
商人A「では私達はこれで」ペコッ
商人B「アンタ達に会えて良かったぜ」ヒラヒラ
商人C「じゃあなー」ヒラヒラ
商人A「お元気で」
セブン「はい、こちらこそ今日はありがとうございました」
わいわいがやがや……
ガボ「行っちゃったな~」
マリベル「結局キーファには会えなかったわね」
セブン「うん……でも、もういいんだ」
勇者「え?」
セブン「キーファは元気でやってるってことがわかったし、それに……僕達は離れていても一緒だからね」
セブン「キーファがそう言ってくれたんだ、それなら僕も寂しくなんかないよ」ニコッ
メルビン「セブン殿……」
勇者「セブン」
セブン「うん?」
勇者「俺色んな世界で色んな人達に出会ったけど……必ず別れの時が来た」
勇者「だけど別れてもずっと一緒だと思ってるし、みんなもそう言ってくれた」
セブン「…………」
勇者「だからさ、別れは悲しいかもしれないけど出会えたことに意味があると思ってるよ」
セブン「……うん、そうだね。僕もそうだと思う」
セブン「この先何年経っても僕はキーファのこと忘れないよ。きっとキーファも僕のこと覚えていてくれると思う……」
セブン「……だって僕達は友達だからね」ニッ
勇者「あぁ、そうだな」ニコッ
キラキラキラ……
ガボ「!? 勇者が光ってるぞ!?」
メルビン「これは一体……!?」
キラキラキラ……
勇者「……お別れの時間か」
アイラ「そう……」
ガボ「勇者、オラ勇者と一緒にいられて楽しかったぞ!!」ニカッ
勇者「あぁ、俺もだよ、ガボ」ニッ
ガボ「もう会えないのか……?」
勇者「…………わからない、けどもし会えたら、また遊ぼうな♪」
ガボ「あぁ♪」
勇者「アイラ、メルビン……夜中まで修行に付き合ってくれてありがとうな」
アイラ「いいのよ、おかげでセブンの楽しそうな顔が見れたし」
メルビン「うむ、勇者殿もご自分の世界のため……いや、自分自身のために頑張って下され」
勇者「うん!!」
勇者「マリベル……」
マリベル「…………なによ」
勇者「色々キツいこと言ったりしてたけどマリベルが優しい娘なのはわかってるからな?」
マリベル「な、なによいきなり!?//」
勇者「もう少し素直になった方がいいと思うぜ」ヘヘッ
マリベル「うるさいわ!!さっさと行きなさいよ!!//」
キラキラキラ……
セブン「お別れだね、勇者」
勇者「うん……色々世話になったな」
セブン「そんなことないよ、むしろ世話になったのは僕の方さ」
セブン「今日はありがとう。商人さん達に会ってキーファの話を聞けたのは勇者のおかげだよ」
勇者「まぁそれぐらいしかできなかったけどな」ナハハ
キラキラキラ……
勇者「……なぁ、俺さ……世界が平和になったら楽しい時には一緒に笑って、悲しい時には一緒に泣いてくれる……そんな友達を作りたい」
勇者「……できると思うか?」
セブン「大丈夫、きっとできるよ」ニコッ
勇者「へへっ、ありがとう」
セブン「でも僕達だって友達だからね?忘れたりしないでよ?」
勇者「うん、勿論!!」ニカッ
セブン「頑張ってね、勇者。僕達も応援しているよ」
勇者「あぁ、セブン達もな」
キラキラキラ……
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
ガボ「勇者……ホントに消えちまったぞ……」
アイラ「なんだかあっという間だったわねぇ……」
メルビン「勇者殿にご武運があらんことを」
マリベル「…………」
マリベル「……ねぇ、セブン」
セブン「なに?」
マリベル「アンタホントにもうキーファを探さなくていいわけ?ホントは会いたいんじゃないの?」
セブン「うん……それはホントのこと言ったら会いたいよ?」
マリベル「じゃあ……」
セブン「でもね」
セブン「キーファが自分の選んだ道を一生懸命生きているのなら、僕だって自分の選んだ道を一生懸命生きなきゃ、って…………今日キーファの話を聞いて思ってさ」
セブン「だから僕は魔王を倒して、世界を平和にして……父さんの跡を継いで漁師になるんだ」
メルビン「ハハッ、世界を救った漁師でござるか」ハッハッハ
アイラ「おかしな話ね」クスクス
セブン「なんだよ~、そんなに変?」苦笑
マリベル「……でも……キーファはアンタに会いたいかもしれないじゃない」
セブン「大丈夫、きっとキーファもそれぞれがそれぞれの道を生きていくことを望んでいるよ」
マリベル「……なんでわかるのよ?」
セブン「なんたって……」
セブン「キーファは僕の自慢の友達だからね♪」ニッ
――――第七の世界・石版世界のどこか
男「おーい、キーファ!!もう上がっていいぞー!!」
キーファ「はい!!お疲れ様でーす!!」
キーファ「ふぅ~、疲れた疲れた」
ライラ「お疲れ様、キーファ。これ」スッ
キーファ「お、ありがとう」ゴクゴク
ライラ「貴方が私達と一緒に旅をして随分経つわね」
キーファ「あぁ、ユバールの民の一員として生きていくことにも大部慣れてきたよ」
ライラ「…………」
キーファ「どうした?」
ライラ「……私は今でも思うの、貴方はセブンさんと一緒に旅を続けていくべきだったんじゃないか、って……」
キーファ「なんだよ、俺がユバールの民の守り手じゃ不服なのか?」
ライラ「そうじゃないの!!貴方がこうして私と一緒ににいてくれること……私はすごく嬉しいわ」
キーファ「だったら……」
ライラ「……でも、セブンさんは貴方にとってかけがえのない大切な友達だったのでしょ?それなのに……」
キーファ「なぁに、そのことなら大丈夫さ」
キーファ「俺は自分でユバールの民として生きることを決めて自分の意志でセブン達と別れたんだ」
キーファ「セブンもそのことの意味をよくわかっているハズだ」
キーファ「アイツは俺のことを応援してくれてるよ、そして自分の人生を一生懸命生きてるだろうさ」
ライラ「……セブンさんの旅はとても過酷なものとなるハズよ……?心配じゃないの?」
キーファ「ん~……心配じゃないと言ったら嘘になるが……それもきっと大丈夫だ」
キーファ「ライラはセブンのことどう思った?」
ライラ「え?どうって……とても優しそうな人だなって……」
キーファ「でもさ、ちょっとガキっぽくて頼りなさそうじゃなかったか?」
ライラ「えぇっと……」
キーファ「ショージキに、な?」
ライラ「す、少しだけ……」
キーファ「だよなぁ」クックック
キーファ「でもさ、アイツはああ見えてしっかりした奴なんだよ」
キーファ「内に秘めた強さがあるって言うかさ、実はすげー頼りになる奴なんだ」
キーファ「だから大丈夫。俺がいなくてもアイツはやっていけるさ」
ライラ「……随分自信満々なのね」フフッ
キーファ「まぁな、なんたって……」
キーファ「セブンは俺の自慢の友達だからな♪」ニッ
――――星の海
ルビス『お帰りなさい、勇者』
勇者「ただいま~」
ルビス『……おや?雰囲気が違いますね?』
勇者「え?そうか?」
ルビス『えぇ、今まで見てきた他の勇者達と同じ顔つきになってきたと言いますか……』
勇者「あ!!あれじゃないか、『勇者』に転職したから」
ルビス『なるほど、だから勇者としての風格が出てきたのですね』
勇者「……なぁルビス、俺ってまた他の世界の勇者やその仲間達に会えるかな?」
ルビス『……そうですね……残念ながらそれはできないでしょうね……』
ルビス『こうして私の力で貴方を別の世界に飛ばしてはいますがこれは大変危険なことなのです』
勇者「危険?」
ルビス『えぇ……その世界に本来いるハズのない人間がその世界に現れるということは世界の因果律に影響を及ぼしかねませんし歴史が変わったりすることもあります』
ルビス『それに別世界への生物の転送はとても大きな魔力を必要とするのです』
ルビス『私は世界の観測者であり守護者……本来なら数多の世界に干渉することを許された身ではありません。ですから私の力ではもう……』
勇者「……そっか……」
ルビス『……寂しいのですか?』
勇者「うぅん。会えなくたって平気さ、アイツらは俺の大切な友達だからな」
ルビス『そうですか……』
勇者「……それと魔王軍の方は……?」
ルビス『…………既にいくつかの国が滅ぼされました』
勇者「ッ!!」
ルビス『……つらいでしょうが今は……』
勇者「わかってる、今は力をつけることに専念しろ、だろ?」ギリッ
ルビス『…………はい』
勇者「大丈夫、二十日後にはこの俺が魔王に一泡吹かせてやるよ」グッ
――――第八の世界
パッ
クルッ
スタッ
勇者「フッ……見たか、俺の華麗な着地を」キラン
勇者「……って誰もいないか」アハハ
勇者「さて、早いとここの世界の勇者を探さないとな……ここはどこかの町か……」キョロキョロ
???「違う!!わしは魔物じゃない!!」
荒くれA「嘘をつけ!!緑の皮膚の人間がいてたまるか!!」
荒くれB「俺達の町を襲いに来たんだろ!?」
ギャーギャー!!
勇者「…………?」
???「だからわしは呪いでこんな姿をしているだけで元は人間なんじゃ!!」
荒くれA「安っぽい嘘つきやがって!!」
荒くれB「そんなわかりきった嘘に俺達が騙されるかよ!!」
勇者「あの~……どうしたの?」
荒くれA「おぅ!!この魔物がこの町を襲いに来やがったんだ、それを俺達がいち早く発見してな、これから締め上げようとしてたところだ」
???「だから違うと言っておるのに……この無礼者めが!!」
荒くれB「あんだ?テメェ、偉そうに!!」
勇者「…………」ジー
???「な、なんじゃ?」
勇者「オッサン達、コイツは悪い奴じゃないみたいだ。見逃してやってくれないか?」
荒くれA「ぁあん?なんでそんなことお前にわかるんだよ?」
勇者「う~ん…………」
勇者(正直に悪の気を感じないって話しても信じてくれないだろうからなぁ……)
勇者「……だってホラ、いかにも弱そうじゃん」
荒くれB「む……たしかに」
荒くれA「言われてみればこんなチンチクリンが強い魔物だとは到底思えねぇな……」
???「黙って聞いておれば好き勝手言いおって!!」ムキー
勇者「な、そんなワケでさ、見逃してやってくれよ。もしもの時は俺がどうにかするからさ」
荒くれA「チッ、わかったよ」スタスタ
荒くれB「あーぁ、つまんねぇ。久々に暴れられると思ったのによ」スタスタ
勇者「ふぅ……無事で良かったな」
???「フンッ、まぁ一応礼を言っておこう」
勇者「いいっていいって、ただもう町に入っちゃダメだぞ、山で静かに暮らすんだ。人間の中には魔物はみんな悪い奴だって思ってる奴も沢山……」
???「だからわしは魔物じゃないと言っておるだろうが!!」ガー!!
勇者「ぇえ?いや、それはいくらなんでも無理があるだろ~」苦笑
???「ぬぬー、失礼な奴め……!!」グヌヌ
勇者「じゃああれか?ジェダイの騎士なのか?」
???「そうそう、緑のライトセイバーで……って違うわぃ!!」ビシッ
???「もぅいい、証人がいるからちょっとついてこい!!」グイッ
勇者「あ、おい!!」
――――パルミド郊外
ゼシカ「トロデ王ったらどこほっつき歩いてるのかしらね?」
ククール「パルミドでは酷い目にあったって言うのに懲りないよな」
???「たまにはハメを外したいんじゃないかな?」アハハ
ヤンガス「でも遅すぎでげすよ、置いていっちまいましょうぜ」ハァ
トロデ「なーにが、置いていっちまいましょうぜ、だ」ヌッ
ヤンガス「おっさんいつの間に!!」ビクッ
トロデ「お前はわしの家来のエイトの子分なんだからわしの家来も同然なんだぞ!?主君を置いていく奴があるか!!」コノ!!コノ!!
ヤンガス「俺の兄貴はエイトの兄貴だけでだって何度も言ってるだろ!!」コノ!!コノ!!
勇者(…………野獣と魔物…………)
勇者「……って、あー!!バンダナにネズミ!!八番目の勇者!?」
エイト「……?」
エイト「えーと……こっちの人は……?」
トロデ「おぉ!!そうだ、忘れていた。町で悪漢に絡まれたわしを助けてくれたんじゃ!!えーと…………」
勇者「あ、俺は勇者。よろしく」スッ
エイト「こちらこそ、よろしく」ギュッ
キイィィィン!!
エイト「…………っ!?」ヨロ
ククール「どうしたエイト!?」
ゼシカ「大丈夫!?」サッ
ヤンガス「やいテメェ!!兄貴に何しやがった!?」
エイト「だ、大丈夫だよ、みんな」フゥ
エイト「……そっか、短い間だけど改めてよろしくね、勇者」ニコッ
――――
ククール「……どうにも胡散臭いな」
ゼシカ「たしかに突拍子もない上に話が大きすぎてビックリしちゃったわ」
エイト「そこをなんとか信じてあげてくれないかな?」
ヤンガス「あっしは兄貴が信じろと言うなら信じるでげすよ!!」
ゼシカ「まぁ嘘だとしても悪い人じゃなさそうだし……」
ククール「どの道俺にはたいして関係のない話だしな」フンッ
トロデ「やはりただ者ではないと思っておったぞ」フフン♪
ヤンガス「自己紹介が遅れやした、あっしは元大盗賊のヤンガスでがす!!今は足を洗って大恩人である兄貴の舎弟をしているんでげす!!」
エイト「舎弟って……そんなんじゃなくていいっていつも言ってるのに」ナハハ
勇者「よろしく、ヤンガス」
ゼシカ「私はゼシカ、ゼシカ・アルバートよ。兄さんの仇を討つために旅に出て今はエイト達と一緒に旅をしてるの。よろしくね、勇者」プルン
勇者「…………」
ゼシカ「? どうかしたの?」プルルン
勇者「あ!!いや、な、なんでもない!!よろしくな、ゼシカ」アハ、アハハ
ククール「俺はククールだ。目的が同じだからコイツらとつるんでる、教会の聖騎士団の一員だが……そんなガラでもないんだがな、よろしくな」
トロデ「そしてわしがトロデーン城の王、トロデじゃ!!ラプソーンの杖の呪いでこんな姿をしておるが本当はもっとハンサムなのだぞ!?」
ヤンガス「後半は怪しいけどな」
トロデ「フン、モサい男に言われたくないわい」
ヤンガス「なんだとぉ!?」
エイト「まぁまぁ、二人とも」ハァ
トロデ「こっちが我が娘のミーティアじゃ、本来ならそれはもう美しい姫なんじゃがミーティアにも呪いがかけられておってな、今はこんな馬の姿じゃ……」ウゥ
ミーティア「ヒヒィン……」
勇者「……へぇ……だからなんかこの馬からは温かな感じがするんだな……早く元に戻れるといいな」ナデナデ
ミーティア「……♪」コクン
エイト「僕はエイト、トロデーン城の兵士だったんだけど今は呪われた城とトロデ王、ミーティア姫を元に戻すためにこうして旅をしてるんだ」
勇者「うん、よろしく」
エイト「……あ、あと僕の相棒のネズミのトーポだよ」スッ
トーポ「ミーミー」
勇者「…………」ジー
勇者「トーポも呪いか何かをかけられてるのか?」
エイト「? そんなことないよ、トーポはただのネズミだけど……どうかした?」
勇者「いや……それにしてはなんか変な感じがするな……」ジトー
トーポ「ミ!?」ギクッ
勇者「なんつーかオッサン臭いっつーか……」
トーポ「ミミ!?」ギクギクッ
勇者「まぁ気のせいだろ」
トーポ「ミー……」ホッ
ヤンガス「ところで兄貴、勇者に何の修行をつけてやるんでげすか?」
エイト「うん、そのことなんだけど……」
エイト「僕は勇者に剣術を教えてあげようと思うんだ」
勇者「剣術ぅ!?」
勇者「いやいや、だって俺剣の扱いには慣れてるぜ?剣技もいくつか使えるし魔物だって倒せる、今さらそんな……」
エイト「ふふ、そんなに自信があるなら僕がちょっと相手してあげるよ」ニコッ
エイト「えーと、たしか袋の中に桧の棒が二本……あ、あったあった!!」
エイト「はい、勇者、これ」ポイッ
エイト「先に相手に一太刀入れた方が勝ちでいいね?」
勇者「わかった」パシッ
エイト「先に言っておくけど全力でかかってきなよ?」
勇者「わかってるって!!よーし、見てろよ!!」
エイト「ゼシカ」
ゼシカ「えぇ」
ゼシカ「じゃあ…………始め!!!!」
勇者「だぁっ!!」ビュッ
エイト「ほっ」ガッ
勇者「せやっ!!」ブンッ
エイト「はっ」カッ
スカッ
コッ
ガッ
バシッ
ガガッ
ゼシカ「勇者の攻撃全然当たらないわね……全部防がれてる」
ククール「あんな無駄だらけの動きじゃ当たり前だ」
勇者「…………あれ?」ハァハァ
エイト「どうしたの?こんなもの?」
勇者「なろっ!!でやぁ!!」ブンッ!!
エイト「……」サッ
エイト「はぁ!!」ビュバッ
ドンッ
勇者「が…………っ!!」ガクッ
ヤンガス「さっすがぁ♪兄貴の勝ちでげす!!」
勇者「ぐぅ……おかしいな……今まで魔物と闘ってもこんなに手も足も出ないなんてことなかったのに……」ヨロッ
エイト「わかった?君の剣術はにわか仕込みの我流剣術、ただがむしゃらに剣を振り回しているのとたいして変わらないんだよ」
エイト「我流なのは僕も変わらないけど……でも『剣を使う』んじゃなくて『剣術』として昇華してあるからね、どうしたって君との差はできるよ」
勇者「そういうもんなのか……」フーム
エイト「特に一対一で闘う時にこの術があることとないことじゃ大違いだからね、君は魔王と闘うんでしょ?なら剣をもう少し使えるようになるべきだね」
エイト「勿論最終的には勇者には僕と同等かそれ以上の剣の腕になってもらうからね?」
勇者「おぅ、わかった!!」
エイト「剣を極めたのは僕の他にもう一人いるんだけど……」チラッ
勇者「?」
ククール「俺はパスだ、お前が教えてやるんだな」フッ
ゼシカ「そう言わずに修行に付き合ってあげたらいいじゃない」
ククール「先生、ってガラでもないんでね」
エイト「僕とククールじゃ剣術のスタイルが違うからククールも教えてあげて欲しかったんだけど……仕方ないね」苦笑
――――第八の世界・三日目・
ゴッ
勇者「ぐえっ!!」
ガッ
勇者「がっ!!」
ドッ
勇者「ごふっ!!」
勇者「」ピクピク
エイト「ほらほら、そんなんじゃいつまで経っても僕から一本取れないよ?」ハハッ
勇者「うーー!!まだまだぁ!!」ダッ
ブンッ
ビュッ
エイト「またそうやってすぐ力んで大振りになる……隙だらけだよ」ビュッ
ガスッ
勇者「ごっ!!」ヨロロ
エイト「あ!!ごめん!!いいのが入っちゃったね……大丈夫?」アセアセ
勇者「こ、これぐらいなんでもないぜ!!次いくぞー!!!!」
エイト「うん、その意気だよ」
エイト(……まだまだ粗削りだけど最初と比べるとこの短期間でずっと良くなってる……これならホントに十日でなんとかなるかもしれないな)
ガガッ!!
ゼシカ「毎日飽きもせずよくやるわね」
ヤンガス「でも勇者も一日目と比べて随分とやるようになったよな」
ゼシカ「まーね、……あれ?ククールどこか行くの?」
ククール「あぁ、修行をただ見てるだけなんて退屈だからな、カジノにでも行ってくる」
ヤンガス「遊ぶ金は……」
ククール「大丈夫、俺のポケットマネーだ。それぐらいの甲斐性はあるさ」
ククール「それじゃ」ヒラヒラ
ヤンガス「……まったく、アイツはいつもクールぶってると言うか……付き合い悪いよな。アイツのあーゆーとこがいけすかねぇんだ」チッ
ゼシカ「そお?結構面倒見のいい優しいところあるのよ?」
ヤンガス「アイツがかぁ?」
ゼシカ「うん。普段気取ってるけど不器用なんじゃないかな~……ちょっぴり照れ屋さんなのよ」ウフフッ
勇者「だぁぁぁ!!……ぐはっ!!」
――――夜・ベルガラックのバー
ククール「さて、そろそろ帰るか」
バニーA「えぇ~~、ククールちゃんもう帰っちゃうのぉ?」
バニーB「夜はこれからでしょ~?」
バニーC「そうよぉ~」
ククール「悪いな、今日はこれから他の女と約束があるんだ」
バニーB「えぇ~、つまんなーい」
バニーA「また来てくれるんでしょ?」
ククール「そうだな、最近は時間もできたから明日にでも来るよ」
バニーC「ホント!?嬉しい~」ギュッ
ククール「コラコラ、離せって」ハハッ
ククール「じゃあな」ピッ
バニー達「またね~」
――――エイト一行のキャンプ付近
ククール「……ふぅ、大分遅くなっちまったな……まぁみんな寝てるだろうし気にすることはないだろうけど……」
ブンッ!!ブンッ!!
ククール「……?」
勇者「せい!!」
ブンッ!!
勇者「はっ!!」
ブンッ!!
勇者「かぁ~、やっぱりまだまだなんだろうなぁ……いつまで経ってもエイトから一本取れないし……」ハァ
勇者「しかし修行あるのみ!!」
勇者「せい!!」
ブンッ!!
勇者「はっ!!」
ブンッ!!
ククール「……お前は剣と一つになれてないんだよ」
勇者「おわっ!!ククール!?なんでここに……!?」ビクゥッ
ククール「ふん、ただの気まぐれだ」
ククール「それよりお前、何を考えて剣を振ってるんだ?」
勇者「え?何を考えてって……やっぱ上手く剣を使えるようにならないとなぁって」
ククール「それが間違いなんだ」
勇者「?」
ククール「剣の達人にとって剣とは自分の体の一部のようなもんだ……お前は自分の手や足を上手く使えるようになりたい、なんて思うか?」
勇者「……」フルフル
ククール「だろ?手や足は自分の思い通りに動くから上手く使うもクソもないからな」
ククール「剣もそうだ。上手く使おうってのがそもそもの間違いだ」
ククール「剣という道具を使うんじゃなくて剣という体の一部を使うという意識が大事なんだ、そうすれば無駄な動きも減るし大振りだってしなくなる」
勇者「そうなのか……」
ククール「まぁ言ってすぐできるもんじゃないけどな」チャキ
勇者「!?」
ククール「酔いざましにはちょうどいいだろ、稽古つけてやるよ」
勇者「…………あ、ありがとう!!ククール!!♪」
ククール(…………やれやれ、こりゃしばらくバニーちゃんはお預けだな)
――――第八の世界・六日目
ゼシカ『双竜打ち』!!
ビュバッ!!
勇者「くっ!!」サッ
ガガッ!!
勇者「だぁ!!」ダンッ
ゼシカ「はっ!!」
ビュッ!!
勇者「っと!!」サッ
勇者「もらった!!」ブンッ
ゼシカ「甘い!!」タンッ
クルクル、スタッ
勇者「あぁー!!もぅ!!あとちょっとだったのに!!」
エイト「たしかに惜しかったね~」
エイト「『大事なのは間合い』。鞭の方が間合いが長いからね、相手の攻撃を避けながら自分の間合いに持っていく……言ったことちゃんとできてるね♪」
ゼシカ「ホント、正直危なかったわ」フフッ
ヤンガス「しっかしこの数日でよくここまで腕を上げたでがすな~、きっと兄貴の指導が良いんでげすな♪」ウンウン
エイト「ははっ、ありがとう。じゃあ次はゼシカと一緒にヤンガスも手合わせしてあげてくれないかな?一対多数ってシチュエーションもあると思うし」
ヤンガス「了解でげす!!」
勇者「うへぇ、二対一かよ」
ヤンガス「兄貴の期待に応えるためにもこの勝負絶対に勝たせてもらうぜ」ヘッヘッヘ
ゼシカ「それは趣旨が変わってると思うけど」苦笑
ククール「ふわぁ……朝からよくやるな」テクテク
エイト「あ、ククール今起きたの?おはよう」
ククール「あぁ」
エイト「…………ありがとうね」
ククール「ん?何がだ?」
エイト「またまたぁ、とぼけちゃって」フフフッ
エイト「夜中勇者に稽古つけてくれてるんでしょ?」
エイト「勇者の動きを見てればわかるよ、格段に良くなったし……ところどころククールらしい動きもしてるからね」
ククール「……別に、ただの暇潰しさ」
エイト「ふふっ、そういうことにしておくよ」クスクス
ヤンガス『烈風獣神斬ッ』!!!!
勇者「のわーー!!」
――――夜
勇者「いちち……」
エイト「ヤンガス、やりすぎだよ~」
ヤンガス「すいません兄貴!!しかしあっしも兄貴の舎弟第一号として後輩に負けるワケには……」
勇者「俺はエイトの舎弟じゃない!!」ビシッΣ
ヤンガス「ぇえ!?違うんでげすか!?」
エイト「違うよ~、第一ヤンガスも僕の舎弟なんかじゃなくて仲間だし」アハハ
ヤンガス「兄貴……あっしは一生兄貴についていくでがす!!」ウルウル
エイト(う~ん……どうしたもんかな)苦笑
ゼシカ「エイト、そろそろご飯にしましょうよ。運動したから私もお腹ペコペコよ」
トロデ「うむ、わしも腹が減ったな」
ヤンガス「おっさんは何もしてないだろうが」ケッ
エイト「じゃあご飯の仕度をしなくちゃね、少し待っててね」
勇者「あ~い」
トロデ「勇者、お主ミーティアに食事を持っていってやってくれんか?ミーティアも話相手ができて嬉しいみたいでな」
勇者「ん、了解」
――――
勇者「はい、ミーティア姫。飯だよ」
ミーティア「ヒヒン」ムシャムシャ
勇者「しっかしな~、お姫様が草と水食べるしかないってのはあんまりだよな……」
ミーティア「ヒヒン、ブルルル」
勇者「だよな……ホントに酷い呪いだ」チッ
ミーティア「ヒヒーン、ヒヒン」
勇者「え?そうなの?例えば?」
ミーティア「ヒヒン、ヒヒーン、ヒン、ヒヒン」
勇者「なるほどな、たしかにこうして呪われなかったらずっと城のお部屋で暮らしてたかもしれないもんなぁ……色んな世界が見れて幸せってのも頷けるよ」
勇者「でもエイトやトロデ王達と話せないのはつらいんじゃない?俺は魔物となんとなくなら話せるから、その要領でミーティア姫とも話せるけどさ」
ミーティア「ヒヒン、ヒヒヒン」
勇者「え!?そうなの!?」
ミーティア「ヒン」
勇者「じゃあさ、今夜のククールとの稽古が終わったらその場所教えてくれよ!!俺がミーティア姫をそこに運んでくからさ」
ミーティア「ヒヒーン♪」
エイト「おーい!!勇者ーご飯できたよー!!」
勇者「おーう!!今行くー!!」
勇者「じゃ、また後でな♪」
ミーティア「ヒヒン♪」
――――夜更け
勇者「……」コソコソ
ミーティア「……?」
勇者「だって急に俺とミーティアがいなくなったらみんな心配するだろ?だからみんなを起こさないように……な?」
ミーティア「ヒヒン」
ミーティア「ヒヒン、ヒヒーン?」
勇者「あぁ、そのことなら問題ない。俺に任せてくれ」ニッ
――――ベルガラック南の森・上空
ビュワッ
ミーティア「ヒヒーン」
勇者「な?すごいだろ♪トベルーラって言ってルーラの応用呪文なんだ」
勇者「これなら鳥みたいに自由に空飛べるからな、行ったことないとこでも行けるし空飛ぶ魔物とも闘えるぜ」
ミーティア「…………ヒヒン、ヒヒヒーン」
勇者「……たしかに、馬を抱えて空を飛ぶってのはものすごくシュールだな」苦笑
ミーティア「ヒヒン?」
勇者「大丈夫!!鍛えてあるから重くなんてないぜ!!」
勇者「ところで方向合ってる?」
ミーティア「ヒヒ~ン」
勇者「オッケー、もうちょい森の奥か」
ビュワッ
――――少し前・エイト一行のキャンプ
トロデ「おい、エイト」ユサユサ
エイト「すぴ~……すぴ~……」
トロデ「エイト!!」ビシッ
エイト「ふがっ!?」
エイト「ふぁ……なんだ、トロデ王じゃないですか……どうかしたんですか?」ネムネム
トロデ「わ、わしの可愛いミーティアがどこにもおらんのだ!!」
エイト「え!?」
トロデ「またパルミドの時のように拐われてしまったのかもしれない……!!」アワワワ…
エイト「まだそうと決まったわけじゃないですよ。僕が探してきますから」
トロデ「た、頼むぞ!!」
エイト「……」チラッ
ヤンガス「ぐがぁ~……ぐおぉ~……」
ゼシカ「くぅ……くぅ……」
ククール「すー……すー……」
エイト(勇者もいない……差し詰め勇者とミーティア姫で散歩でもしてるんだろうな。トロデ王も心配性だからなぁ……)
エイト「神鳥の魂で……」
カァッ!!
ビュワッ!!
エイト『そこらへんにいると思うんだけどな~……』バサッバサッ
エイト『…………あ、あれだ』
エイト(馬抱えた人間が空飛んでるってシュールすぎるでしょ)
――――不思議な泉
勇者「へぇ~……この泉なのか……たしかになんか不思議な感じがするな」
ミーティア「ヒヒン」カポカポ
ミーティア「……」ゴクゴク
カアアァァァ……!!
勇者「ぉお!?」
ミーティア姫「…………」
シュウゥゥ……
勇者「お、おおお!!すげー!!ホントに人間になったー!!!!」
ミーティア姫「ふふっ、こうして元の姿に戻るのは久しぶりです」
勇者「へえぇ~~……」ジーー
ミーティア姫「どうかなさいましたか?」
勇者「いや、馬の時でも綺麗だったけどさ、やっぱり人間の姿も綺麗だなぁ、って思ってさ」アハハ
ミーティア姫「もぅ、勇者さんったら……誉めても何も出ないですよ?」ウフフ
――――木陰
エイト「なるホドね、この泉に来たかったわけか」
ウフフフ
アハハハ
エイト「ミーティア姫も楽しそうだし……トロデ王には悪いけどそっとしとこうかな、しばらくしたら帰るだろうし」
――――
ミーティア姫「私の14歳誕生日のことだったのですけれど、お父様は急なお仕事が入ってしまって他国に赴かなければならなくなってしまったのです」
ミーティア姫「楽しみにしていた誕生日パーティーにお父様が出席できなくなったことが私は残念でしたが王女としてわがままも言えませんから寂しくても我慢しました」
ミーティア姫「そしたら夜にお部屋のドアをノックする音が聞こえました」
ミーティア姫「誰かしら?と思ってドアを開けると……そこにはエイトが立っていました」
ミーティア姫「息を切らせて額には汗を浮かばせて、『誕生日おめでとう』って言って私に小さな包みを渡してくれたのです」
ミーティア姫「その包みの中には青い硝子細工のブローチが入っていました……」
ミーティア姫「後で知ったことなのですが私の誕生日パーティーにお父様が出られなくなってしまったと知ったエイトはお城のお仕事が終わった後にトラペッタの町まで行って私のためにそのブローチを買ってきてくれたらしいのです」
ミーティア姫「そのブローチは今でも私の宝物です」ウフフ
勇者「ふ~ん………………ミーティア姫さ」
ミーティア姫「はい?」
勇者「エイトのこと好きなの?」
ミーティア姫「え!?な、なんですか急に!?」
勇者「だってさっきからエイトの話ばっかりだし」
ミーティア姫「うぅ……私としたことが……そんなに分かりやすいでしたか?」
勇者「そりゃあもう。顔に書いてあるよ」ケタケタ
ミーティア「うううう~~~////」カァ
ミーティア姫「…………エイトは優しくて頼りになる素敵な方です……でも……私とエイトが結ばれることはあり得ません……」
勇者「なんでだよ?あれか?王女と家来じゃ身分が釣り合わないとか言うのか?だったら……」
ミーティア姫「……それもあります。家臣との色恋沙汰など王家の身にはあってはならないことです」
勇者「身分なんて関係ないじゃねぇかよ!!俺が前に会った勇者は一介の旅人だったけどお姫様と結ばれたし、旅の一族の娘に一目惚れして城を離れた王子だっていた、自分が王家の人間だって知らなかったとは言え宿屋の娘と結婚した王様だっているんだぞ!?」
勇者「だから身分だの立場なんて大した問題じゃねぇよ!!」
勇者「大切なのは自分の気持ちだろ!?」
ミーティア姫「ふふ……勇者さんはとても真っ直ぐなのですね」ニコッ
勇者「はぐらかすなよ」ムッ
ミーティア姫「私もできることならエイトと結ばれたい……しかし私には…………」
キラキラキラ……
勇者「!?」
ミーティア姫「あら?もう時間切れみたいですね……もう少しこうしてお話ししていたかったのに残念です……」
勇者「そんな……」
ミーティア姫「勇者さん、今日は楽しかったです。さぁ、お父様達が心配するといけませんからキャンプへ帰りましょう……」
勇者「…………」
パァァァ……
シュウゥゥ……
ミーティア「ブルルルル……」
――――第八の世界・七日目
勇者「ぜぁっ!!」
ガガッ
ビュバッ
エイト「はぁっ!!」
ガキーン
ゼシカ「勇者、また腕を上げたわね~、昨日より一回りも二回りも強くなってるじゃない」
ヤンガス「あぁ、兄貴も少しだけ本気になったみたいだな」
ゼシカ「それにしても……なんだか勇者変じゃない?」
ヤンガス「どこがだ?」
ゼシカ「なんか……腑に落ちないことがあるみたいな……そんな顔してる」
キィン
エイト「いいね、昨日よりもずっと良くなってるよ、その調子その調子♪」
ガガキン
勇者「…………」
勇者「…………なぁ、エイト。昨日……聞いてたんだろ?」
エイト「何が?」
勇者「ミーティア姫の呪いを解くことのできる不思議な泉での話だよ」
勇者「ミーティア姫と話した時すぐ近くにエイトの魔力を感じたからな、隠れて聞いてたんじゃないか?とぼけたって無駄だぞ」
エイト「その能力はずるいなぁ」苦笑
勇者「お前はどうなんだよ?」
エイト「どうって?」
勇者「だからとぼけんなって!!…………お前はミーティア姫のこと好きなのか?」
エイト「う~ん…………真面目に答えた方がいいよね?」
勇者「当たり前だろが」
エイト「僕はミーティア姫のこと……多分好きだよ」
勇者「じゃあ……!!」
エイト「でもそれはできないんだ」
勇者「なんでお前までそんなこと言うんだよ!!」
エイト「昨日ミーティア姫が言っていたみたいに僕達は身分があまりに違いすぎる」
エイト「それに…………」
エイト「ミーティア姫には婚約者がいるんだ」
勇者「婚約者!?」
エイト「うん。サザンビークっていうお城の王子様だよ」
エイト「二人の結婚は前々から決まっていたんだ。ミーティア姫が産まれる前からね。」
エイト「二人が結婚すればトロデーンとサザンビークの関係も今よりずっと良くなる。お互いの国の繁栄にも繋がるしね」
勇者「でもミーティア姫はお前のことが……」
エイト「王家同士の婚約の破棄……これが何を引き起こすと思う?」
勇者「え?それは……」
エイト「…………下手をすれば戦争が起きる」
勇者「な……」
エイト「もっとも、それは最悪のケースだけどね。でも国同士がギクシャクしてわだかまりができることは間違いない」
勇者「…………」
エイト「それをミーティア姫は分かっている。トロデーンという国を、民を誰よりも愛しているミーティア姫だから、個人の感情に走ることはできない」
エイト「それを分かってるから、僕も…………ね」
勇者「…………」
ガキィン!!
ヒュンヒュンヒュン……
勇者「あ…………」
ピタッ
エイト「はい、僕の勝ち」ニコッ
エイト「さぁ、勇者は時間がないんだろ?僕達の問題なんか気にせず修行に専念しなきゃ」
勇者「………………あぁ」
――――夜
勇者「ごちそうさまー」
ゼシカ「お粗末様でした」
ヤンガス「あー、食った食った」ゲップ
エイト「ヤンガス、行儀が悪いよ」苦笑
ヤンガス「おっと、コイツは失礼しやした」ヘッヘッヘ
トロデ「エイト、ミーティアに夕飯を持って行ってやってくれんか?」
エイト「はい、わかりました」スクッ
テクテク
勇者「………………」ムゥ…
ゼシカ「どうしたの?勇者。朝からなんだか難しそうな顔してるけど」
ヤンガス「便秘か?」
ゼシカ「そんなワケないでしょ」ビシッ
勇者「う~ん…………なぁゼシカ」
ゼシカ「なに?」
勇者「ミーティア姫の婚約者の王子様ってどんな人だかわかる?」
ゼシカ「それってチャゴス王子のこと?それは知ってるけど……でもどうして?」
勇者「えっと……昨日ミーティアと話してて婚約者がいるって聞いたからさ、どんな人かなぁって」
ゼシカ「そう。えっとね……太ってて我が儘でエロくて自己チューで悪戯好きで怠け者で臆病者で見栄っ張りで克己心がなくて情けなくて感謝の『か』の字も言えないような他人を見下した奴よ」ペラペラ
勇者「………………は?」
勇者「…………マジ?」
ヤンガス「マジ」コクン
ゼシカ「お父様は立派な人なのにどうしてあんな風に育っちゃったんだろうなぁ……」
ゼシカ「こう言っちゃなんだけどミーティア姫が可哀想よね……ホントの姿は可憐ですごくいい娘なのにあんな豚みたいな奴と結婚させられるだなんて……」
ヤンガス「そういや赤いトカゲを狩りに行った時にアイツ姫さんでロデオとかやってやがったな」
ゼシカ「あったわね……乱暴されてミーティア姫も嫌がってたわね」
勇者「……………………」
勇者「…………」スクッ
ゼシカ「? 勇者どこ行くの?」
勇者「……ちょっと」
スタスタ
ゼシカ「どうかしたのかしら?」
ヤンガス「さぁ?」
――――
エイト「もういいのですか?ミーティア姫」
ミーティア「ブルルル!!」
エイト「あ、ごめんごめん。二人でいる時は呼び捨てで敬語もナシだったね」アハハ
ミーティア「……」コクン
エイト「……ミーティア?」
ミーティア「……?」
エイト「……勇者、すごくいい子でしょ」
エイト「他人のために心を痛めて熱くなって本気で悩める人ってそうはいないと思うんだ」
エイト「勇者はそれができる人なんだ……きっと大切に育てられてきたんだろうね」
エイト「そんな勇者にだから僕も力を貸してあげたいんだ」
エイト「ミーティアが元の姿に戻るのが少し遅くなっちゃうけど……我慢してくれるかな?」
ミーティア「ヒヒン」コクン
エイト「ふふ、ありがとう」ナデナデ
ミーティア「…………♪」
ザッ
勇者「…………」
エイト「勇者?どうしたの?」
勇者「エイト、修行の最終日に俺と真剣勝負してくれ」
エイト「え?何をいきなり……」
勇者「今までの修行の成果を計る……言うなりゃ免許皆伝の試験みたいなもんとしてさ」
エイト「じゃあ僕は九頭龍閃を撃てばいいのかな?」
勇者「そうそう、神速の抜刀術を会得するために……じゃなくて!!」
エイト「ごめんごめん」ナハハ
勇者「……ったく……んでさ、その真剣勝負、俺が勝ったらエイトは俺の言うことなんでも一つ聞くってのでどうだ?」
エイト(…………)
エイト「なるほどね、そういう魂胆か」フフッ
勇者「…………」
エイト「でも僕が勝ったら僕には何かメリットがあるの?」
勇者「え!?そ、それは……」
エイト「じゃあ僕が勝った時のことは後で考えておくよ」クスクス
勇者「じゃあ……」
エイト「うん、その勝負受けて立とう」ニコッ
勇者「よっしゃ!!」グッ
勇者「……っと、そうと決まったらこうしちゃいらんねぇ!!ククール探して稽古つけてもらわなくちゃ!!」ダダッ
エイト「頑張ってね~」ヒラヒラ
エイト「…………ホントにいい子だね」
ミーティア「…………」
エイト「ねぇミーティア、もし僕達が勇者の様に自分の気持ちに正直に生きられたなら……」
ミーティア「…………」
エイト「…………いや、なんでもない」
エイト「さてと、勇者の師匠として僕も負けるワケにはいかないからね、頑張らないと」
エイト「あ、そうだ。ミーティア。君に頼みがあるんだけど……」
ミーティア「……?」
――――第八の世界・九日目・夜
キィン
ガキン
キキィン
ククール「ふぅ……まぁこんなもんだろ」
勇者「今日はもう終わり?」
ククール「だってお前明日勇者と真剣勝負するんだろ?」
ククール「昼間はエイト達と修行して夜は俺と修行してクタクタなんだからもう休んどけよ」
勇者「でも……」
ククール「体調を整えるのも立派な修行だ」
勇者「う……は~い」
勇者「……ククール、俺って強くなったかな?」
ククール「俺が教えられることは大体教えたしエイト達との修行もちゃんと形になってる。数日前と比べたら見違えるほど強くなっただろうな」
勇者「ホントか!?」
ククール「あぁ……だがエイトは強いぞ?多分俺よりも」
勇者「…………」
ククール「ま、早く寝て明日に備えるんだな。遅くまで野郎なんかに付き合って俺も眠いんだ」フワァーア
勇者「今までありがとうなククール!!おやすみ」
ククール「おやすみ」
勇者「俺も早く寝ないとなぁ……」
勇者(………………明日エイトに勝てたらエイトとミーティア姫をくっつけることができる…………かもしれない)
勇者(……でも俺でホントにエイトに勝てるのか?昼間だって一本も取れなかったってのに……)
勇者「………………」
勇者「……だー!!くそ!!やっぱもう少し体動かしてこう!!」チャッ
勇者「ほっ!!」
ビュッ
???「夜中まで精がでるのぅ」ザッ
勇者「誰だ!?」チャキ
トロデ「わわ!!わしじゃ!!」
勇者「なんだ、トロデ王か……」フゥ
トロデ「わかったら早く剣を納めい!!」
勇者「あ、ごめん」スッ
勇者「……で、どうしたの?」
トロデ「うむ、勇者が昼も夜も剣の修行に勤しんでおるからわしも少しばかり稽古をつけてやろうかと思っての」
勇者「はぁ?稽古ってトロデ王が?」
トロデ「そうじゃ。こう見えてトロデーン流兵法を極めておるからな、そんじょそこらのヒヨッ子よりはずっと強いんじゃぞ?」
トロデ「奥義を体得したわしは木の棒で刃物を受け止めることだってできるんじゃ」エッヘン
勇者「へぇ~……(棒読み)」
トロデ「な!?お前疑っておるな!?」
勇者「だってエイトやククールならいざ知らずトロデ王が剣の達人って……」
トロデ「ふん、まぁいいわい」
トロデ「お前の修行を見ておったがまぁ大分剣の扱いがマシになったな」
勇者「はぁ、そりゃどうも」
トロデ「じゃがまだ自分の剣術のスタイルを確立してはおらん」
勇者「どういうこと?」
トロデ「エイトやククールから学んだ剣を振るっているにすぎんということじゃ」
勇者「そうは言ってもなぁ……俺剣の扱いに関しちゃ素人に毛が生えたレベルだったし自分のスタイルなんて言われても……」
トロデ「別に剣に限ったことじゃなくてもいいんじゃよ、体術と組み合わせるとか呪文も使ってみるとか……お前の今まで学んできたことを分解して、混ぜ合わせて、新しく1つの形に作り変えるんじゃ」
勇者「俺が今まで学んできたこと……か」
勇者「………………」
勇者「!!」
トロデ「何か思いついたか?」ニッ
勇者「あぁ!!トロデ王のお陰だよ!!」
トロデ「ではその閃きを形にできるまでわしが付き合ってやろう」スッ
勇者「ありがとう!!よーし……行くぞ!!」ダッ
――――第八の世界・十日目
勇者「zZzZ」ムニャムニャ
エイト「……それでこんなところで寝てるんですね」
トロデ「うむ」
トロデ「いや~、わしもついつい熱が入ってしまってな、気がついたら日が上っておったのじゃ」ハッハッハ
エイト「トロデ王は今日の僕と勇者の試合については」
トロデ「勿論知っておる」
トロデ「ついでに勇者が勝ったらお前が勇者の言うことをなんでも聞いてやるという約束についてもな」
エイト「え……」
トロデ「その上でわしは勇者に肩入れしたんじゃ」
トロデ「わしは一国の主だがそれ以前に娘を持つ一人の親じゃ」
トロデ「いつの世も親が願うのは子の幸せだけじゃよ」ニッ
エイト「…………」
トロデ「勇者も疲れておるんじゃ、寝かしておいてやれ」テクテク
勇者「zZzZ」
――――夕方
勇者「……はっ!?」ガバッ
ゼシカ「あ、やっと起きたわね」
ククール「結局日中ずっと寝てやがったな」
勇者「え!?あれ!?もう夕方!?」
勇者「……そうか、俺修行の後に5分だけ横になろうとして……」
ヤンガス「完全に死亡フラグだな」ゲラゲラ
勇者「……っていうかみんな起こしてくれよ!!」
エイト「流石にそろそろ起こそうとしてたけどね、あんまり気持ち良さそうに寝てたものだから」クスクス
勇者「あぁーーー!!貴重な一日がぁーー!!」ガシガシ
トロデ「じゃがお陰で体調は万全じゃろ?」
勇者「た、たしかにそりゃそうだけど……」
エイト「じゃあ早速だけど始めようか」チャキ
勇者「!!」
ヤンガス「お!!遂に最後の修行でげすな!!」
ゼシカ「どっちも頑張れ~って言いたいとこだけど……今回は勇者を応援しちゃおうかな」ウフフ
ククール「酒場が開くまで暇だからな、俺も見物してってやるよ」フン
トロデ「お前さんはちっとも素直じゃないのぅ」フフッ
エイト「ルールは簡単。先に相手に一太刀入れた方が勝ちだよ」
勇者「いつもと同じだな」
エイト「うん。準備はいい?」
勇者「いつでも」
エイト「怪我してもククールにベホマで治してもらうから遠慮なく全力で闘っていいよ」
勇者「最初からそのつもりだ」
勇者「フッフッフ……秘密の特訓の成果を見せてやるぜ」スッ
エイト「それは楽しみだ」サッ
エイト「ヤンガス」
ヤンガス「はいでげす!!」
ヤンガス「では……」
エイト「…………」
勇者「…………」ゴクッ
ヤンガス「始めぇっ!!」
勇者「だぁっ!!」ドンッ
エイト「でやっ!!」ドンッ
ガキーーーン!!!!
キィン
ガキン
キン
キキン
ガッ
キキィン
キン
勇者「なんだよ、手加減してくれてんのか?」ビュッ
エイト「いくらなんでも寝起きの君に最初から本気で斬りかかったりしないよ……っと!!」
ギィン
エイト「ウォーミングアップはこれぐらいでいいかな?」ビュッ
勇者「へっ、そりゃどう……も!!」ビュバッ
ガキーーン!!!!
ヤンガス「やっと本気の打ち込みが始まったか……」
ククール「剣の闘いってのは一瞬の勝負だからな……よほど実力が拮抗していない限りそう長引きはしないだろう」
エイト「はっ!!」ビュッ
勇者「よっ!!」
ギギギギ……
キィン!!
エイト「剣の腹を受け流して太刀筋を変える技か……ククールの得意技だね」
勇者「あぁ、昨日やっとできるようになったばっかりだけどな!!」
キィン
ガキン
キィン
エイト(勇者、本当に強くなったね……もう剣術に関しては達人の域だよ)
エイト(……これで心置きなく本気を出せるよ)ニッ
勇者「? 何笑って……」
エイト「はっ」ビュバッ!!
勇者「!? くっ!!」
ガキーン!!
エイト「せやぁっ!!」ビュンッ!!
勇者「……っ!!」サッ
勇者(これがエイトの本気か……!!なんつー剣さばきだよ!!)
勇者(昨日までの俺ならすぐやられちまってた!!)
勇者(昨日までの俺なら……な)
エイト「はぁっ!!」ビュッ
勇者「よっ」サッ
エイト「もらった!!」
エイト『火炎斬……』
勇者「上段突きからの縦斬りでの火炎斬り」
エイト「え!?」
キィン!!
エイト「な……」
勇者「はぁっ!!」ビュッ
エイト「くっ!!」サッ
エイト『隼……』
勇者「俺の太刀を左に避けてからの隼斬り」
エイト「!?」
キキィン!!
エイト「なんで僕の動きが……!?」
勇者「魔力の知覚だよ」
勇者「呪文を使わなくても魔物が動く時にはその魔物の魔力の波動が動きに呼応して変化する」
勇者「魔物ほど大きな変化はないけどそれは人間だって同じだ」
勇者「魔力の知覚を応用すれば人間の動きを読むこともそう難しいことじゃないぜ!!」ビュッ
エイト「なるほどね……やっぱりその能力はずるいや」フフッ
サッ
エイト「でもなんで今まで使わなかったの?」クスクス
勇者「うっ……うるさいなぁ!!」
ガキン!!
勇者(昨日トロデ王にヒント貰うまで忘れてたからな……第三の世界での最初の修行の時もそうだったけどどうも俺は一つのことをしてると他のことは考えられないみたいだ)トホホ
勇者「はぁっ!!」
エイト「せいっ!!」
キィン
ガガキィン
ガガッ
ガキーーン
エイト「やるね、勇者。ここまでできるようになるとは思ってもみなかったよ」
勇者「へへっ、ありがとうよ」ニッ
勇者「……でもそろそろ終わりにさせてもらうぜ……俺の必殺技でな」スッ
エイト「必殺技……?」
勇者「あぁ、昨日トロデ王との修行で編み出した俺の必殺技だ」ニッ
エイト「へぇ……面白そうだね……受けて立つよ」チャッ
勇者「吠え面かきやがれ!!」ダンッ
勇者『稲妻疾風突きッ』!!!!
ビュッ!!
エイト「!?」
ガキーーン!!バリバリバリバリ!!
エイト(稲妻斬りと疾風突きの合わせ技!?)
勇者「まだまだぁ!!」
勇者『真空隼斬りッ』!!!!
ビュババッ!!
ガキキィン!!
エイト「くっ……!!」
エイト(今度は真空斬りと隼斬りの合わせ技……)
勇者『氷雪五月雨斬りッ』!!!!
ヒュババババッ!!
キィンキィンキィンキィン!!
エイト(マヒャド斬りと五月雨斬りの合わせ技に……)
勇者『火炎諸刃斬りッ』!!!!
ガキィン!!ゴウゥ!!
エイト(火炎斬りと諸刃斬りの合わせ技か!!)
ザザーッ
勇者「うおおおっ!!!!」ブンッ
ガキィン!!
ヒュンヒュンヒュン
エイト「しまっ……」
勇者「もらったぁーーー!!!!」
ゴゴゴゴゴ……!!
バチバチバチバチバチバチ!!!!
エイト(これは……!!)
エイト「ヤバい!!!!」
勇者『ジゴスラッシュ』!!!!!!
ズガガーーーン!!!!!!
バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!
ヤンガス「兄貴ぃ!!!!」
勇者「!?」
エイト「危ないところだったよ……」
勇者「…………なっ!?」
エイト「ジゴスパークのいかずちでギガスラッシュを放つ合わせ技とは……正直恐れいったよ」フフッ
勇者「光の剣!?」
エイト「魔力を剣の形にとどめたまま剣として使う……ギガスラッシュの応用技さ」
エイト「まさか奥の手を使うことになるとは思ってなかったけどね」
勇者「チッ……そう上手くはいかないってか」ハァハァ
エイト「そういうこと♪」
エイト「それよりさっきの合わせ技……随分と体力を消耗したんじゃない?」
勇者「大きなお世話だ」ゼェゼェ
エイト(ああいう応用技は体力の消費も魔力の消費も半端じゃない……。勿論勇者もそのことを分かってたからここぞって時の決め技にしたんだろうけど)
勇者「ハァ……ハァ……」
エイト(このまま持久戦に持ち込めば楽に勝てるけど……)
エイト「それじゃつまらないね」
勇者「?」
エイト「これを最後の打ち込みにしよう」
カアァァァ!!
勇者「!?」
バチバチバチバチ!!!!
エイト「いいかい?」
勇者「…………へっ、やっぱ最後はそうなるか」ニッ
カアァァァ!!
バチバチバチバチ!!
勇者「…………」
エイト「…………」
グゴゴゴゴゴ……!!
勇者「だあっ!!」ダンッ
エイト「はっ!!」ダンッ
勇者・エイト『ギガスラッシュ』!!!!!!!!
カッ!!!!!!!!
勇者「……」ザッ
エイト「……」ザッ
勇者「…………」
エイト「…………」
勇者「…………チッ」ピッ
エイト「僕の勝ち……だね?」ニコッ
勇者「あぁ、悔しいけどやっぱ敵わねぇや」ハハッ
ヤンガス「やっぱり兄貴は最強でげす!!♪」
ゼシカ「でも勇者もエイトの剣を弾き飛ばすなんてすごいじゃない!!ホントは危なかったんじゃないの?」
エイト「うん、あとちょっと光の剣を出すのが遅かったらやられてたよ」アハハ
勇者「ちぇっ、惜しかったな~」
ククール「まぁ十日間の修行の成果にしちゃ上出来なんじゃないか?」
勇者「あれ?ククールも褒めてくれたりするんだ」
ククール「俺をなんだと思ってるんだ」ハァ
勇者「そういやエイト、お前が勝ったんだから何か……」
ゼシカ「? 負けた方は勝った方になにかする予定だったの?」
勇者「……まぁそんな感じ」
エイト「じゃあ……これを持っていって欲しいんだ」スッ
勇者「へ?ブローチ……?」
勇者「まさかこれって!!」
エイト「うん。僕がミーティア姫に昔あげたものだよ」
エイト「後で知ったんだけどトラペッタって町に住んでいた高名な魔法使いが念を込めて作ったものなんだって。邪悪な力を祓うお守りとしての効果があるみたいだしきっと勇者の役に立つと思うんだ」
エイト「ミーティア姫も是非君に持っていって欲しいって……ね?」
ミーティア「ヒヒン♪」
勇者「でも……これミーティア姫の宝物だったんだろ?ホントにいいのかよ?」
ミーティア「ブルルル……♪」
勇者「何!?マジかよ!!……たしかにそりゃそっちの方がいいな」ニコニコ
ヤンガス「? 姫さんはなんて言ったんだ?」
勇者「ん~……秘密♪」ニカッ
ミーティア「ブルルル……♪」
キラキラキラ……
勇者「お……」
ゼシカ「ゆ、勇者!?」
トロデ「身体が光だしたぞ!?」
勇者「うん……もうお別れの時間ってことだ」
エイト「そっか……」
キラキラキラ……
ヤンガス「勇者、ここまで強くなったことを兄貴の舎弟として誇らしく思うぜ」
ヤンガス「その調子で魔王って奴もぶっ倒しちまえよ」
勇者「うん、頑張ってくるよ、ヤンガス」
ゼシカ「えーと……こんなこと言うのも変だけど身体には気を付けてね?」
勇者「ホントに変だな」ケタケタ
ゼシカ「もう!!からかわないでよ!!お別れの言葉なんて何言ったらいいのかわかんないから……その……」
勇者「ありがとう、ゼシカ。気持ちだけで十分だよ」ニコッ
ゼシカ「…………勇者なら勇者の世界を救うことができると思うわ、頑張ってね」ギュッ
勇者「のわわっ!!////」カアァ
スッ
勇者「……ククール……夜中剣の稽古つけてくれてありがとうな」
ククール「あぁ、やっとお守りから解放されると思うとせいせいするぜ」
勇者「ひどいなぁ」苦笑
ククール「お前はエイトの教え子であると同時に俺の教え子でもあるんだ、魔王だかなんだか知らないが負けたら承知しないからな」フンッ
勇者「あぁ、必ずギャフンと言わせてやるぜ」グッ
キラキラキラ……
勇者「トロデ王もありがとうな」
トロデ「何、気にするな。わしもこの世界からお前さんの勝利を願っておるぞ」
ミーティア「ヒヒーン……ブルルル……」
勇者「ミーティア姫もありがとうな」
キラキラキラ……
エイト「勇者……この十日で本当に強くなったね」
勇者「ありがとう。まぁまだエイトには及ばないけどな」ハハッ
エイト「君にはまだまだ可能性がある……残り十日で本当の強さを手に入れるんだよ」
勇者「あぁ、やるだけやってやる」
キラキラキラ……
勇者「エイト、さっきミーティア姫から聞いたけど……」
エイト「うん、大丈夫。僕は約束は守るよ」ニコッ
勇者「そっか、なら心配いらないな」ニカッ
エイト「だから僕とも約束してくれないかな?」
勇者「……?」
エイト「必ず君の世界を救ってみせるって」
勇者「へへっ、言われなくたってそのつもりさ」ニッ
キラキラキラ……
エイト「じゃあ勇者……元気でね」
勇者「あぁ……ありがとうな、みんな」
キラキラキラ……
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
ククール「行ったか……」
ゼシカ「あっという間だったわね~……」
ヤンガス「ところで兄貴。ミーティア姫との約束ってなんでげす?」
エイト「え?それは……」
――――七日目・夜
エイト「あ、そうだ。ミーティア。君に頼みがあるんだけど……」
ミーティア「……?」
エイト「君に昔あげたブローチ……あれ勇者にあげてもいいかな?」
エイト「あれって聖なるお守りの効果があるみたいでさ、勇者の役に立つと思うんだ」
ミーティア「ブルルル……」コクン
エイト「ふふ、ありがとう」
エイト「その……代わりにはならないかもしれないけどさ」
ミーティア「……?」
エイト「ミーティアが元の姿に戻ったら……その時は僕の君への想いを伝えるよ」
エイト「身分や立場なんて関係なく、一人の男として」
ミーティア「……」
エイト「その時は……僕の想いを聞いてくれるかな?」
ミーティア「……ブルルル♪」コクン
エイト「うん、約束するよ」
――――
エイト「それは……秘密さ」ニコッ
ゼシカ「え~気になるな~」
エイト「ま、そのうち……ね♪」
トロデ「しかし勇者は魔王とやらに勝てるかのぅ……」
ヤンガス「あれだけ強くなりゃ楽勝だろ」
エイト「そんな甘いワケないよ」
エイト「現時点で勇者には足りないものが三つある」
ゼシカ「三つ?」
エイト「うん。一つはすぐ解決できると思うけど……後の二つは勇者次第かな」
エイト「まぁ第九の世界の勇者がきっとどうにかしてくれると思うけどね」
ゼシカ「ふ~~ん……」
バサッ
ククール「なんだ?」
バサッバサッ
ヤンガス「あれは……」
フワッ……ザッ
レティス『まったく、ここ数日ラプソーンに対して何も対策をとるわけでもなくこんなところで何をしていたのですか?』
ゼシカ「レティス!!」
エイト「ごめんごめん。ちょっと人助けをね」アハハ
レティス『人助け……?』
エイト「うん、短期間で弟子をとってたんだ」
レティス『弟子……ですか?』
ヤンガス「おうよ、兄貴がみっちり剣術を仕込んだんだからな、勇者の剣の腕もピカイチになったってもんだぜ」
レティス『勇者!?その弟子の名は勇者というのですか!?』
ヤンガス「ぁあ?そうだけど……」
レティス『………………』
エイト「レティス……?」
レティス『エイト、彼のことを詳しく聞かせてもらえませんか?』
――――星の海
勇者「ただいま~……っと」
ルビス『お帰りなさい、勇者』
勇者「エイトには剣術を習ってきたぜ♪これで魔王とのタイマンもバッチリだ」
勇者「…………次が最後の世界だな」
ルビス『えぇ……長いようで短かった貴方の修行の旅も残すところ十日です』
勇者「呪文の修行から始まって筋トレ、実戦訓練、勉強、魔力知覚、職業に剣術か……色々やったなぁ……」
勇者「あと十日でどこまで強くなれるか……だな」グッ
勇者「……魔王軍の方は?」
ルビス『………………』
勇者「……状況は良くないみたいだな」
ルビス『……予想以上に魔王軍の進行スピードが早く……最悪の場合あと十日で最後の国も魔王軍の手に墜ちてしてしまうかもしれません……』
勇者「十日!?ギリギリじゃないかよ!!」
ルビス『えぇ…………』
勇者「くっ……こうしちゃいられねぇ!!ルビス、俺を今すぐ第九の世界へ!!」
ルビス『しかし……』
勇者「大丈夫、昼間たっぷり寝てたからまだまだ元気だ」
ルビス『……わかりました。早く行けば早く行っただけ早く帰ってこれますからね』
ルビス『……いきますよ、勇者』
勇者「あぁ!!」
――――第九の世界
パッ
スタッ
勇者「暗いな……夜か」
勇者「……早いとこ九番目の勇者を見つけないと……」
勇者「ここは城下町か……今までその世界の勇者の近くに転送されてきたんだからそこらへんにいるとは思うけど……」キョロキョロ
勇者「……ん?あれは……」
???「ちょっとナイン~、もう日が暮れちゃってるんですケド~」
ナイン「ん~、そうなんだけどね、ちょっと待って」ガサガサ
???「さっきからそればっかりじゃ~ん、明日でもいいんじゃないの?」
ナイン「じゃああとちょっとだけ……ね?」ガサガサ
???「まったく、1Gの足しにもならないような頼みよく聞くわね……お人好しにもほどがあるんですケド~」ハァ
勇者「こんばんわ」ニッ
ナイン「あ、こんばんわ~」
???「ちょっとナイン、誰この変なの?」
勇者「変なのとは失礼だな」ムッ
???「へ?」
ナイン「え!?ひょっとして君サンディが見えるの?」
勇者「このちっさい妖精のことだろ?」
サンディ「ウソ~、信じらんない。アタシのこと見える人間がいるなんて……」
サンディ「アンタももしかして天使なの?」
勇者「いや、れっきとした人間だ」
ナイン「じゃあなんで……」
勇者「妖精を引き連れて天使って呼ばれてるし……うん、間違いないな」
ナイン「……?」
勇者「ごめんごめん、こっちの話。……ま、すぐわかるよ。俺は勇者、よろしくな」スッ
ナイン「あ、え~と……僕はナインだよ。よろしくね」スッ
ギュッ
キイイィィン!!
ナイン「…………これ……は!?」フラッ
サンディ「ちょ、ちょっとナイン!?ダイジョーブなの!?」
ナイン「う、うん。大丈夫……」
勇者「な?すぐわかっただろ?」ニッ
ナイン「うん、そうだね」フフッ
サンディ「? ちょっとどーゆーこと?」
ナイン「後で詳しく話すよ」
ナイン「そうだね……じゃあ自己紹介が必要だね。僕はナイン、今はワケあって光輪も天使の羽もないけど正真正銘の守護天使だよ」
ナイン「ほら、サンディも自己紹介して」
サンディ「ワケわかんないけど……まぁいいわよ」フン
サンディ「アタシは天の方舟の運転手のサンディちゃんよ、よろしくね勇者」
勇者「よろしく、サンディ」
ナイン「運転手はアギロさんでしょ?」
サンディ「バイトだって似たようなもんだし!!」
勇者「さて、ナイン。とりあえず早速修行を……」
ナイン「うん、でも……」
勇者「?」
ナイン「今探し物をしててね、それが見つかったらね」
勇者「探し物……?」
サンディ「そーそー、町の女の子が大切な髪飾りを無くしちゃったとか言ってね~、昼間からずっと探してんのよ」
サンディ「別に高価なご褒美が貰えるワケじゃないんだから別に頼みを聞いてあげることもないと思うのに……」ハァ
ナイン「まぁまぁそう言わずにさ」ハハッ
勇者「ナイン、悪いけど俺には時間がないんだ、今こうしている間にも俺の世界じゃ……」
ナイン「………………」
ナイン「……わかった、じゃあこの髪飾り探しを最初の修行にするよ」
勇者「はぁ!?」
勇者「だからそんなことしてる時間なんて……!!」
ナイン「言ったでしょ、これも修行だって。ホラ、早く早く」ガサガサ
勇者「……っ、わかったよ!!」ガサガサ
サンディ「…………?」
――――
ナイン「見つけたーー!!」
勇者「随分かかっちまったな」ハァ
サンディ「ホントよ、もぅ待たされてるアタシの身にもなってよ」
ナイン「でも探しながら勇者のことを話せて良かったよ」
サンディ「他の世界の勇者ねぇ~……ま、この世界って他の色んな世界と繋がってるみたいだしそこまで驚かないけど……」
勇者(他の世界と繋がってる……?)
ナイン「さてと、今から女の子のところに届けに行こうか、まだ起きてたらいいけど……」
勇者「俺も行くの?」
ナイン「勿論♪」
――――
ナイン「こんばんわ~」
おばさん「はいはい……おや?どなただい?」
女の子「あ、昼間のお兄ちゃん!!」
ナイン「こんばんわ」ニコッ
女の子「どうしたの?」
ナイン「はい、これ」スッ
女の子「え!?これあたしがなくした髪飾り!?お兄ちゃんが探してくれたの!?」
ナイン「うん、遅くなってごめんね」
女の子「ううん、ありがとう♪」
おばさん「あらあら、わざわざすまないねぇ」
ナイン「こっちのお兄ちゃんも一緒に探してくれたんだよ」
勇者「え、俺は……」
女の子「ありがとう、お兄ちゃん♪」ニパッ
勇者「え、えっと……どういたしまして」
おばさん「どうだい、たいしたおもてなしはできないからご飯でも食べていかないかい?」
ナイン「いえ、宿に戻らないとならないので」
女の子「じゃあね、お兄ちゃん♪今日はホントにありがとうねー」ブンブン
ナイン「じゃあね」ニコッ
キィ……パタン
ナイン「…………」テクテク
勇者「…………」テクテク
ナイン「勇者、女の子に感謝されてまんざらでもなかったでしょ?」
勇者「まぁ……な」
ナイン「感謝の気持ち、屈託ない笑顔。お金や物なんかじゃなくてそれが何よりのお礼だよね」フフッ
ナイン「勇者、君は自分の世界を救わなければならなくて焦ってるのだろうけど……」
ナイン「小事を成せない人間が大事を成せるかい?」
勇者「…………」
ナイン「世界中の人々の笑顔は必ず一人一人の笑顔から成り立ってるんだよ」
ナイン「さっきの女の子の笑顔、忘れないでね」
勇者「そう…………だな」
ナイン「うん、分かればいいよ。これが一番大事なことだからね♪」
ナイン「さ、明日から本格的な修行だ。今日はゆっくり休もう」ニコッ
――――第九の世界・二日目・セントシュタイン城下町・リッカの宿屋
リッカ「起きろーーー!!」
バサッ
ナイン「わわっ!!」
ドテッ
ナイン「痛たた……」
サンディ「くくくっ」クスクス
リッカ「もう朝よ、ナイン」
リッカ「さっきから何度も起こしたのにちっとも起きないんだもの」
ナイン「どうも朝弱くて」アハハ
ナイン「……あれ?勇者は?」キョロキョロ
リッカ「昨日一緒に泊まった人のこと?それなら、ほら」
勇者「はっ!!せい!!」
ビュッ
バッ
リッカ「朝早くから外で体を動かしてるみたいね」
リッカ「ナインも勇者さんを見習わなきゃね」ウフフ
ナイン「ハハッ、まったくだね」苦笑
――――宿屋裏
ナイン「おはよう、勇者」
勇者「おぅ、今起きたのか」
ナイン「起こしてくれたら良かったのに」
勇者「なんか起こすのも悪い気がしてさ、修行の前に体慣らしておこうと思って」チャキ
ナイン「………………」ジー
勇者「……? どうした?」
ナイン「勇者、まさか君その格好で魔王と戦うつもりだったの……?」
勇者「へ?なんか変か?」キョロキョロ
ナイン「ごめん、言い方が悪かったね。『その剣で魔王と戦うつもりだったの?』って聞いたんだ」
勇者「剣って……」チャッ
ボロッ
勇者「んな!!!!」Σ
ナイン「刃がところどころ欠けててボロボロじゃないか」
勇者「そういや第三の世界でスリーに貰ってからずっとコイツを振ってきたんだもんな……」
勇者「魔物との闘いも剣術の修行もずっとこの一振り……そりゃボロボロにもなるか」
ナイン「勇者にそれだけ使われていて折れてないってことは相当な業物だってことはわかるけど……それにしても今のその剣が最終決戦に相応しいとは言えないなぁ」
勇者「うーん……そうだよな……」
ナイン「よし、ちょっとついてきて」
――――リッカの宿屋
勇者「宿屋に何かあるのか?」
ナイン「まぁね……彼さ」
勇者「……彼? 変わった形の釜があるだけでどこにも人は……」
???「おはようございます、ご主人様」
勇者「!!?? かか、釜がしゃべった!?」ビクッ
ナイン「彼はカマエル。錬金釜っていう魔法の釜だよ」
カマエル「はじめまして、カマエルと申します」
勇者「ふえぇ……第六の世界で喋る蛙には会ったけど無生物が喋るとはなぁ……」
カマエル「ご主人様、錬金なさいますか?」
勇者「ナイン、レンキンって?」
ナイン「錬金術って言ってね、複数のアイテムを合成して新しいアイテムを作り出す技術があるんだ」
ナイン「カマエルにアイテムを入れるとアイテム同士の相性が良ければ錬金が成功する、ってワケ」
勇者「なるホド、便利な釜だな~」
ナイン「ええっと……はぐれメタルの剣と……オリハルコンと……スライムの冠を入れて」
ガチャガチャ
ナイン「カマエル、よろしくね」
カマエル「はい、かしこまりました」
グツグツグツ……
カッ!!
勇者「!?」
ナイン「できたかな」
カパッ
ナイン「『メタルキングの剣』の完成さ」チャキッ
勇者「おー!!すげー!!ホントに別のアイテムが出来た!!」
ナイン「銀河の剣は僕のだからあげられないけれど……これが今僕が君にあげられる剣の中で一番強い剣だよ」スッ
勇者「え、じゃあ……」
ナイン「うん、君にあげるよ」ニコッ
勇者「マジかよ!!うっわ!!ありがとうナイン!!」
サンディ「相変わらずのお人好しね……ただであんな名刀あげちゃうなんて」
ナイン「フフッ、いいんだよ」
勇者「よっ」チャキ
スラァ……
キラン
勇者「………………」
ナイン「どう、勇者?」
勇者「うん、すげー切れ味良さそうな良い剣だな」
勇者「けど……」
ナイン「けど?」
勇者「なんか草なぎの剣と比べて全然手になじまないなぁ……と思って」
ナイン「それは仕方ないよ、勇者がずっと握ってきた剣とは全く別の剣なんだし……これから新しい剣に慣れていくしかないよ」
勇者「そうか」
ナイン「ホントは君の草なぎ剣をベースに錬金してより強力な剣を作ることができたらそれが一番なんだけどその剣はこの世界にはないものだから僕は何も錬金の情報を知らないからね……」
勇者「錬金の情報?」
ナイン「錬金の成功のために必要なヒントのことだよ。この世界には数百数千ってアイテムがあるんだから、その膨大なアイテムの中で相性の良いアイテムの組を選ぶことはほとんど無理に近い」
ナイン「だから錬金が成功するヒントになるような言い伝えや噂話が頼りなんだけど……さっきも言った通りその剣はこの世界には存在しないからヒントもない、ってこと」
勇者「そっか……」
ナイン「何か錬金の情報になりそうなことを他の世界で聞かなかった?」
勇者「そう言われてもなぁ……」
ナイン「まずは……そうだね、この剣にまつわる話とか」
勇者「えっと……なんだっけな、たしかヤマタノオロチとか言う蛇の化け物の尻尾から出てきたって聞いたな」
ナイン「じゃあ蛇に関係のある話を何か聞いたことないかい?」
勇者「へび……ヘビ……蛇……」
勇者「…………何か、何かあったような……」
『これは……蛇?』
ナイン「何か思い当たることがあったの?」
ミネア『これは……蛇?』
ミネア『……蛇の隣に……鉱石?金属の欠片でしょうか?……それが三つと……青い宝石が1つ……』
ミネア『蛇がそれらを食べて……龍になりました……』
勇者「そうだ!!ミネアが言ってた占い!!きっとあれはこの錬金のための占いだったんだ!!!!きっとそうだ!!」
ナイン「占い?」
勇者「あぁ、蛇が三つの石と青い宝石を食べて龍になるって占い……これって錬金のヒントになるんじゃないか!?」
ナイン「ふぅ~む……たしかに試してみる価値はありそうだね」
ナイン「石……多分鉱石や金属のことかな?それならプラチナ鉱石やミスリル鉱石、オリハルコンあたりかな……青い宝石って言うのがわからないけどそれっぽいものをを手当たり次第に試してみれば……」
ナイン「勇者、なんとかなるかもしれないよ」ニッ
勇者「ホントか!?」
ナイン「うん。とりあえず僕は錬金に必要になるかもしれないアイテムの調達に行こうと思う。それにちょっとした用事もあるし」
勇者「じゃあ俺もアイテム探し手伝うよ」
ナイン「いや、君は修行をしていてくれないかな」
勇者「そうか、わかった。……けど、ナインはどんな修行をつけてくれるんだ?」
ナイン「うん……そのことなんだけどね、勇者」
ナイン「正直僕が勇者に教えられることはほとんどないよ」
勇者「え?」
ナイン「呪文、体力、剣術、戦闘知識に戦闘訓練……もう君がやるべき修行は一通り終わってるんだ」
ナイン「だから……君にこれを渡すよ」スッ
勇者「これは……地図?」
ナイン「うん、『宝の地図』と言ってね、異世界のダンジョンへ繋がる地図さ」
ナイン「今君に渡した地図には異なる世界にいる十三の魔王と大魔王の分身が封印されている」
勇者「!!」
ナイン「地図に示されたの場所に行って地図を使えばダンジョンへいざなわれ魔王達と闘えるよ」
勇者「じゃあ最後の修行は……」
ナイン「そう、魔王との一対一の闘いだよ」ニッ
ナイン「君は自分の世界で魔王とその軍勢に一人で挑まなければならないんでしょ?」
ナイン「この修行はそのための最終ステップだよ」
ナイン「いいかい?」
勇者「あぁ、わかった。やってみる」グッ
勇者「でもせっかくならまさゆきの地図が欲しかったな~」
ナイン「あれは色々といけないからね」苦笑
勇者「冗談だよ」ヘヘッ
勇者「じゃあそうと決まれば早速出発だ!!行ってくるぜ!!」ダダダッ
ナイン「うん、頑張ってね。夜にはここに帰ってくるんだよ」
ナイン「……さてと、僕も行かなくちゃ」タッ
――――鬱蒼と生い茂る森の上空
ビュワッ!!
勇者「……ここらへんかな」
フッ
スタッ
勇者「へへ、やっぱ最初は竜王でしょ」ニッ
勇者「魔王との闘いとはな……今までの修行の成果を全部発揮しないと勝てないだろうな……」
勇者「でも魔王が率いる魔族の大軍に喧嘩売ろうってんだ、他の世界の魔王一人に勝てないでどうする」
勇者「…………よし、行ってみるか!!」バッ
カアアアァァァ!!!!
勇者「おわっ!!ホントにいきなりダンジョンが出てき…………」
勇者「!!」
勇者「邪悪な魔力……このすぐ先に竜王がいる……!!」ゴクッ
カツカツ……
竜王「誰だ貴様?わしを王の……」
勇者「『王の中の王、竜王』だろ? 知ってるぜ」
竜王「ホゥ……わしのことを知っているとは感心じゃな。…………それにしても貴様中々腕が立つと見た」
竜王「どうじゃ?世界の半分をやるからわしの仲間にならんか?」
勇者「へへっ、お決まりの質問だな」
勇者「答えは勿論……」チャキッ
勇者「NOだ!!!!!!」ドンッ
――――旧ガナン帝国
サンディ「ねぇねぇナイン~」
ナイン「ん?なに?」
サンディ「勇者の奴一人で行かせちゃって大丈夫だったの?」
サンディ「たしかにアイツは強そうだったけど……宝の地図の魔王達は半端じゃなく強いよ?アンタだって魔王達と闘う時はルイーダの酒場の仲間と協力して闘ってるっしょ?」
サンディ「それを一人で闘わせるなんて……」
ナイン「心配しなくても平気だよ、今の勇者じゃまず勝てないだろうから」
サンディ「うんうん、やっぱりそうよねぇ…………って、はぁ!?勝てないワケ?」
サンディ「それって超ヤバくない!?何無茶な修行押し付けてんのよ!?死んじゃったら修行どころじゃないじゃん!!」
ナイン「落ち着いてよ、サンディ。僕は"今の"勇者じゃ勝てないって言ったんだ」
サンディ「どういう……」
ナイン「勇者がこの世界に来た時、勇者には足りないものが三つあった」
ナイン「一つは全力で闘える武器がないこと。これは今から解決するとして……」
ナイン「今回の修行が上手くいけば残りの二つを補える」
ナイン「もっとも、危険な賭けだけどね……」
――――竜王の地図
勇者「……がふっ」ゴパッ
竜王「フハハハハ!!先程までの威勢はどうした、小僧!!」
勇者「……っくそ、いい勝負できると思ったのに……ここまでボロボロにやられるとは思わなかったな……」ハァハァ
竜王「かあぁぁぁぁ!!!!」
ゴオオォォォ!!!!
勇者「くっ!!」シャッ
勇者『マヒャ……』
竜王「甘い」ニヤリ
勇者「マズい!!」
ブンッ
勇者「……尻尾が……」ズキッ
勇者「!!!!」
勇者(しまった!!今までくらったダメージのせいで動けな……)
ドギャッ!!!!
勇者「ぐぁっ!!」メキメキ
ドサッ
勇者「ぐ……畜生……」ゼェゼェ
竜王「まだ息があるか……。だがその中途半端な強さが地獄の死を与えることになる」ニマァ
ガシッ
勇者「!!」
竜王「このままわしの手の中で息絶えるがいい!!」
ギュウウゥゥ!!!!!!
勇者「が……ああ……!!!!!!」メキメキビキビキ
勇者(ぐ……だ、ダメだ、抜け出せない!!!!)
竜王「フハハハハハ!!そうれ、これで終わりじゃ」ギュッ!!!!
メキメキメキ!!!!
勇者「ぐぁああ…………!!!!」ミシミシミシ
勇者(っ……頭がボーっとしてきた……指先に力が入らない……)
勇者(あれ?おかしいな……なんかすげー静かだ……何も見えないし何も聞こえない……さっきまで感じてた激痛もどっかいっちまった……)
勇者(冷たい空気でいっぱいのただ真っ暗な部屋に一人でいるような感じだ……)
勇者(もしかして俺……このまま死ぬのかな……?)
勇者(死んだら仲間がザオリクで……って、クソッ、俺一人で闘ってたんだ)
勇者(それに遺体もある程度の原形を留めてないと蘇生呪文は効かないらしいしな……このままミンチになっちゃったら生き返るもクソもないじゃないかよ)
勇者(……じゃあ……これで終わりなのか……?)
勇者(俺はここで死ぬのか?)
ドクン……
勇者(使命も果たせずに、約束も守れずに、ここで死ぬのか?)
ドクン……
勇者(俺は他の勇者達とは違うのか?……結局世界を救うことなんてできないのか……?)
ドクン……
勇者(こんな中途半端じゃなく……)
ドクン
勇者(俺は……俺は…………!!!!)
ドクン!!!!
――――旧ガナン帝国
サンディ「なんなのよ、その足りないもの二つって?勿体振らずに教えなさいよ」
ナイン「一つ目は……死の覚悟さ」
サンディ「死の覚悟……?」
ナイン「そう。勇者は今までの修行を通して生と死の境目での命のやりとりをしたことがない」
ナイン「魔物との闘いの時、他の世界の勇者やその仲間達がサポートしていてくれたみたいだしね」
ナイン「勇者はこれから修行なんかじゃない、本当の死闘を魔王と繰り広げることになると思う」
ナイン「しかも勇者の場合は他人の助けなんてない、孤独な闘いになる」
ナイン「そんな勇者に死を感じたことがないっていうのは重大な問題だよ」
サンディ「そうなの?」
ナイン「そりゃそうだよ、だって相手も命を懸けて闘いにくるんだからね。そんな相手に今の勇者が闘いを挑んでも勝つことはできないよ」
ナイン「死の恐怖を知らない人間が本気で命を懸けることなんてできないんだから」
ナイン「だから今のうちに死というものを肌で感じる必要がある……意識が薄れ、視界が霞み、耳が遠くなる……その時はっきりと感じる黒々とした、冷たい、無機質な『死』というものを」
ナイン「……それを感じることができて初めて『死』と表裏一体をなす『生』というものを感じることができるんだから……」
サンディ「ふ~~ん」
ナイン「命のやり取りをする闘いでは力も経験も勿論必要だけどそれ以上に生への意志が重要になってくる……月並みな言い方だけど『気持ちが大事』ってことだね」
サンディ「じゃあ最後の一つは?」
ナイン「それは……」
――――???
勇者『!?』ハッ
勇者『あれ……ここは!?』
勇者『俺さっきまで竜王に握り潰されそうになってたのになんでこんな真っ白なとこにいるんだ……?』
???『よう』
勇者『誰だ!?』バッ
???『『誰だ』とは随分なご挨拶だな』クックック
勇者『な……嘘だろ?お前は……』
勇者『お、俺ぇ!?』
勇者『ご名答、俺はお前さ』ニヤ
勇者『どういうことだよ!!なんで俺が二人も……つーかお前偽者だろ!!』
勇者『おいおい、勘弁してくれよ俺は正真正銘お前さ、それに勇者は俺とお前だけじゃないぜ』
勇者『!?』
勇者『そうそう、俺も勇者さ』スゥ…
勇者『俺もな』スゥ…
勇者『俺もだな』スゥ…
勇者『ほら……な』
勇者『なな、なんで俺がこんなにいっぱい!?竜王のまやかしか!?』
勇者『俺のクセに物分かりが悪いな、お前』ハァ
勇者『俺達全員お前でお前は俺達全員だ』
勇者『人の中にはいくつもの自分がいるもんなんだよ、だから"勇者"はお前の中に無数に存在するんだ』
勇者『なんかよくわかんねーけど……まぁいい、それよりここはどこでどうして俺はこんなところにいるんだ!?教えてくれ!!』
勇者『お前自信の強い想いよってお前の精神はここにいざなわれたのさ』
勇者『俺の想い……?』
勇者『そーそー、お前がさっき死にかけてるとき『本当の勇者になりたい』とか思ったからだよ』
勇者『なーにが本当の勇者だよ、笑わせるっての』ケタケタ
勇者『な、なんだよお前!!俺のクセに生意気だぞ!!』
勇者『じゃあ聞くがお前なんかが本当の勇者とやらになれると思ってるのか?』
勇者『村の少年Aとして育ってきたお前が、他の世界の勇者達のようになれんか?』
勇者『ぐ……な、なれる……いや、なってみせる!!』
勇者『口ではなんとでも言えらぁな』
勇者『まったくだな、そもそもお前の薄っぺらい使命感なんざたかが知れてるんだよ』
勇者『何ぃ!?』
勇者『本当の勇者になりたいだの自分の世界を救うだのほざいてるけどさ、純粋にそう思ってるワケ?』
勇者『そんなの当たりま……』
勇者『俺が世界を救えたらカッコいいなー』
勇者『!!』
勇者『他の勇者達みたいに強くなれたらすごいなー』
勇者『!!』
勇者『魔王なんて倒した日には人気者じゃね?』
勇者『!!』
勇者『こんなことこれっぽっちも考えてないなんて言えるのかよ?』
勇者『それは……』
勇者『ほーらな、お前の気持ちなんてその程度なんだよ』
勇者『ただかっこいい自分に酔ってみたいだけ』
勇者『そこらへんのガキと何一つ変わりゃしねぇ』
勇者『わかったか?お前は所詮村の少年Aにすぎないんだよ』
勇者『ち、……違う!!俺は勇者で……魔王を倒して……村のみんなの仇を討って……世界を救って……』
勇者『自己満足に浸るのか?』
勇者『カッコイ~自分に酔いしれたいのか?』
勇者『みんなからチヤホヤされたいのか?』
勇者『違う!!』
勇者『違わねぇよ』
勇者『違う違う!!』
勇者『違わないっつーの』
勇者『違う違う違う!!』
勇者『もういいだろ?認めちまえよ』
勇者『違う……俺は……俺は…………本当の勇者に…………』
――――旧ガナン帝国
ナイン「それは……」
ナイン「使命感が足りないことさ」
サンディ「はぁ?」
ナイン「納得いかない?」
サンディ「だって勇者は昨日の夜だって今すぐ修行を、ってアンタに頼んでたし今朝だって修行のために体動かしてたじゃない」
サンディ「ヤル気も十分すぎるぐらいあるし使命感がないようには思えないんですケド」
ナイン「まぁね、勇者はたしかにやる気があるし自分の使命を果たそうと一生懸命だ」
ナイン「けど…………自分の全てを懸けてはいない」
サンディ「……?」
ナイン「世界を救いたいっていう勇者の気持ちは本物だよ。そこに嘘偽りはない」
ナイン「だけど世界を救うために自分の命を引き換えにしてもいいか、って聞かれたら躊躇してしまうだろうね」
サンディ「なるほどね、気持ちは嘘じゃないんだけど覚悟が足りてないってワケ」
ナイン「そうそう、覚悟が足りてないって言い方がしっくりくるね」
ナイン「自分の使命の重さを心の底から理解した上で自分の命を、自分の全てを懸けて闘う覚悟。それが今の勇者に足りない最後のものだよ」
ナイン「生への意志、勇者としての使命。この二つを自覚した時……勇者は本物の"勇者"になるだろうね」
――――???
勇者『ったく、さっさと認めちまえばいいのによ』
勇者『まったくだ、こんなに強情だとはな』
勇者『だから違うんだ!!俺は……』
勇者『違わねぇっつってんだよ!!!!』
勇者『!!』ビクッ
勇者『いいか、俺達はお前自身なんだ』
勇者『お前がいくら否定しようがお前の心のどこかに今言ったような気持ちがあるのは事実なんだよ』
勇者『でも……!!』
勇者『だからまず自分自身の弱さを認めろ』
勇者『認めたくない気持ちもわかるがな。自分から逃げるな、自分を否定するな』
勇者『弱い自分を見つめて、醜い自分と向き合え』
勇者『その上で強くなりゃいいじゃねぇか』
勇者『弱い心のない人間なんていやしないんだぜ?』
勇者『本当の強さってのはな、弱さを知ることから始まるんだよ』
勇者『…………』
勇者『お前に……見せてやるよ』スッ
勇者『!?』
キイィィィン!!
ウオオオオオオオ!!
男『た、助けてくれ!!家で家族が待って……ぎゃあっ!!』ドサッ
わーわー!!
女『や、やめて下さい!!きゃーー!!』
わーわー!!
シスター『お願いです、貴方達に少しでも情というものがあるのでしたらどうかこの子達だけでも……ぐふっ!!』バタッ
わーわー!!
老人『せめて安らかに死にたかったわい……』ゴフッ
わーわー!!
女の子『お父さーーん!!お母さーーん!!』ウワァーン!!
勇者『これは…………』
勇者『今のお前の世界だよ』
勇者『人間と魔族の戦争?そんなもんじゃねぇ、魔族による人間の虐殺だ』
勇者『平和ボケした人間達に魔族と闘える奴なんてほんの一握りしかいないからな、まして魔王になんて勝てっこない』
勇者『………………』
わーわー!!
女の子『うわぁーーーん!!』グスッヒグッ
勇者『………………』グッ
勇者『ようやくその気になったみてぇだな……心の底から、よ』
勇者『ま、世界がピンチだとか言われても生の現場を見てないから実感沸かなかっただろうけどよ』
勇者『もう大丈夫だな?』
勇者『……あぁ』
勇者『いいか、お前は弱い』
勇者『"勇者"だって人間だ、完璧なんかじゃねぇ』
勇者『まずはそれを受け入れろ』
勇者『でも弱いお前にもできること、あるだろ?』
勇者『したいこと、あるだろ?』
勇者『しなきゃならないこと、あるだろ?』
勇者『それに命懸けてみろよ、お前の全部をな』
勇者『……あぁ!!』
勇者『ったく世話の焼ける俺だぜ』
勇者『行ってこいよ、俺』
勇者『お前は"勇者"なんだからよ!!!!』ニッ
――――竜王の地図
勇者「…………」
竜王「フハハハハ!!くたばりおったか!!まぁわし相手によくもった方だとは思うがな!!」
勇者「…………俺はまだ死ねない」ボソッ
竜王「む!?」
勇者「俺の世界を救うまで……死ぬわけにはいかねえんだぁーーー!!!!」
バァン!!!!
ブシャァアアーーー!!!!
竜王「ぐあぁ!?わ、わしの手がーーー!!」
ヒュッ
スタッ
勇者「…………」
竜王「き、貴様よくもぉーーーー!!!!!!」ギャオォーー!!!!
勇者「"勇者"の秘剣に……」
バチバチバチ!!
勇者「真の勇気が加わりし時……」
バチバチバチバチバチバチ!!!!!!
勇者「その剣もまた真の力を解放する!!!!」
キイィィィン!!!!!!
竜王「!?」
勇者『ギガブレイク』!!!!!!
ザンッ!!!!
竜王「が……!?」
ブシャァアアーーー!!!!
竜王「ば、馬鹿な……世界の王となるべきこのわしが……」
竜王「こんな……ガキ一人に……」
ズズーーン!!
勇者「やっと……わかったよ」
勇者「"勇者"ってもんの重さが……さ」
キン!!
――――旧ガナン帝国
サンディ「で、なんでここに来たワケ?ガナサダイはもう倒したっしょ?」
ナイン「会いたい人がいてね……って正確には人じゃないか」アハハ
ナイン「この本棚だね」
ナイン「おーい、大賢者さーん、起きて下さいよー」ツンツン
本「ふわぁぁ……誰だい?せっかく人が気持ち良く寝てたっていうのにさ」
ナイン「お久しぶりです」
本「なんだ君か~」アワワ
サンディ「なるホド、この本に会いに来たってワケね?」
本「口うるさい奴もいるね」
サンディ「なな、なんですってー!!本のクセに生意気なんですケド!!」
本「あーうるさいうるさい、だから苦手なんだよ……それに僕は元は人間だって言ってるだろ?」ハァ
本「で、用件はなんだい?何か用があるから僕に会いに来たんでしょ?」
ナイン「はい。極大呪文の呪文書をお借りしたくて……」
本「ん~……あれは本当に強力な呪文だからそう易々とは貸せないんだけど……君の頼みなら仕方ないね」
カアアアァ……
バサバサドサドサ
本「ほら、持って行きなよ」
ナイン「ありがとうございます♪」
本「じゃあ僕はまた寝るから~おやすみ~」
ナイン「あ、待って下さい。お聞きしたいことが」
本「もー、今度は何?」
ナイン「『草なぎの剣』って知ってますか?」
――――リッカの宿屋
ギィ……
勇者「ただいまー」
ナイン「おかえり、勇者」
サンディ「なんだ、ちゃんと生きて帰ってきたじゃ~ん」
ナイン「そうだね、それに……」
勇者「?」
ナイン「朝とは別人のようだ」
ナイン「……"勇者"の顔つきになったね、勇者」
勇者「……もしかしてあぁなることがわかってて俺を魔王と闘わせたのか?」
ナイン「まぁね」ニコッ
勇者「ひっでぇな~……危うく俺は死にかけたんだぞ?」苦笑
ナイン「ごめんね……でもあぁするしかなかったんだ」
勇者「わかってるよ、ありがとうな、ナイン。お陰で大切なことが分かったよ」
ナイン「ふふっ、どういたしまして」
ナイン「あ、勇者。君に渡したいものがあるんだ」
勇者「何?」
ナイン「これさ」スッ
勇者「これは……呪文書か?」
勇者「メラガイアー……バギムーチョ……どれも知らない呪文だな」ペラペラ
ナイン「とびきり強力な呪文……極大呪文って呼ばれてる呪文の呪文書だよ」
ナイン「今の君なら扱いこなせると思う、これからの闘いに役立てて」
勇者「なんか何から何まですまないな」
ナイン「いいんだ、人のために何かをするのが天使の性だからね」ニコッ
ナイン「僕が天使でいられるのもあと少しだろうし」
勇者「…………?」
サンディ「ナイン………」
――――第九の世界・六日目・夜・リッカの宿屋
ボワンッ!!
モクモクモク
勇者「エホエホッ!!」
ナイン「ケホッケホッ」
サンディ「ちょっともう勘弁してよ~」ケホケホ
勇者「またダメだったな~」
ナイン「う~ん……時の水晶も違かったか~……」
勇者「もう三つの金属ってのがオリハルコンじゃないんじゃないか?」
カマエル「オリハルコンと草なぎの剣の相性は良いようですしそれはないと思いますよ」
勇者「そっか~……でもナインが持ってるもので"青い宝石"に当てはまりそうなもんはもう全部試しただろ?」
ナイン「あと一つだけ試してないものがあるよ」
勇者「おっ、何!?」
ナイン「このブルーオーブさ」スッ
キラキラキラ……
勇者「すげー綺麗な宝玉だな……空よりも海よりも青い……」
勇者「きっとこれだ!!」
サンディ「今度こそ成功してよ~」
カチャカチャ
ナイン「これで良し」
ナイン「頼むよ、カマエル」
カマエル「はい、かしこまりました」
グツグツグツグツ
カッ!!!!
ボワーーーン!!!!
勇者「のわーー!!」
ナイン「おへっおへっ!!」
サンディ「もうホンットサイアク!!」
ナイン「あれ~?ブルーオーブでもダメか~……絶対そうだと思ったんだけどな~」ポリポリ
勇者「俺もそうだと思ったんだけどな~……他になんかないの?」
ナイン「う~ん……僕にはもう心当たりはないな~……」
サンディ「もうそんな宝石なんかないんじゃないの?」
勇者「ミネアの占いが外れてるってか?」
サンディ「所詮は占いでしょ~?」
ナイン「それはそうだけど…………」
ナイン「!!」ハッ
勇者「どうした?」
ナイン「そうか……そういうことか」
サンディ「なんなのよ?」
ナイン「草なぎの剣は元々この世界には存在しないものだよね?だったらその錬金に必要なものもこの世界には存在しないものなんじゃないかな?」
サンディ「え?じゃあ別の世界にしかないものってこと?」
ナイン「うん」
勇者「え~、もう他の世界には行けないんだぜ?完成できないじゃないかよ」ハァ
ナイン「勇者は何か他の世界の物持ってないの?」
勇者「何かって……硝子細工のブローチぐらいしか……」コトッ
ナイン「これって……」
サンディ「青いわね……」
勇者「ぇえ!?もしかしてこれ!?」
ナイン「可能性はあるんじゃないかな?」
勇者「だってこれ宝石じゃなくて硝子だぞ?」
サンディ「見方によっては宝石に見えないこともないんじゃない?」
勇者「そ、そうか…………よし、ダメで元々って言うしな、やってみるか」
カチャカチャ
勇者「カマエル」
カマエル「はい、いきますよ」
グツグツグツグツグツグツ
カッ!!!!
ピカーーー!!!!!!
勇者「おわっ!?」
ナイン「これは……!?」
シュウゥゥ……
カマエル「ご主人様、錬金大成功です♪」
ナイン「やったね勇者♪」
勇者「あ、あぁ!!まさかエイトから貰ったブローチがこんなところで役に立つとは思わなかったな……」
カパッ
チャキッ
スラァ…………
キラン!!
サンディ「綺麗な刀身ね~」
ナイン「うん……一目見ただけでこの剣の秘めたる力が伝わってくるよ……勇者、どう?」
勇者「……すげー手に馴染む……草なぎの剣よりもっと手に吸い付く感じだ」
勇者「ありがとうな、カマエル」
カマエル「いえいえ、ご主人様のご友人のお力になれてなによりです」
勇者「そうだ、この剣にも名前をつけなきゃな、う~ん……何がいいかな……」
ナイン「『天叢雲剣』……なんてどうかな?」
勇者「アマノムラクモノツルギ……?」
ナイン「大賢者さんから聞いたんだけどね、草なぎの剣の別名らしいよ」
勇者「へ~……かっこいいな、それ!!」
勇者「よし、じゃあこの剣の名前は『アマノムラクモノツルギ』に決定だ!!」
ナイン「やっと全力で戦える武器を手に入れたね」フフッ
勇者「これで残りの修行も全力で闘えるってもんだ」ニッ
ナイン「そういえば勇者はいつこの世界を去るの?」
勇者「俺が他の世界にいられるのは初日の朝から数えて十日目の日が沈んだ時までだな」
ナイン「あれ?でも勇者ってこの世界には夜に来たんじゃなかったっけ?」
勇者「あ!!たしかにそうだ!!じゃあよくわかんねーや……でもどうして?」
ナイン「この世界を去ったらいよいよ最後の決戦なんでしょ?だったら最後の日は気力体力を万全にしておかないとならないな、って思って」
勇者「そっか……たしかにそうだな」
ナイン「う~ん……そう考えると……十日目の朝にでもこの世界を去ることになるんじゃないかな」
勇者「十日目の朝か……」
ナイン「九日目は修行を早めに切り上げてゆっくり休みなよ、それがいいと思うな」
勇者「OK、じゃ俺は早速……」ウズウズ
ナイン「その剣で宝の地図の魔王と闘って来たいんでしょ?」
勇者「ハハッ、バレバレだな」
ナイン「顔にそう書いてあるもん」フフッ
ナイン「じゃあ僕も用があるから行くとするよ」
勇者「どこに?」
ナイン「それはナイショさ♪」ニコッ
――――第九の世界・九日目・ダークドレアムの地図
ダークドレアム「ぶるあああああああああ!!!!!!」
勇者『私を呼び醒ます者は誰だ?』
ダークドレアム「私を呼び醒ます者は誰だ?」
勇者『私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり……』
ダークドレアム「私は破壊と殺戮の神ダークドレアムなり……」
勇者『私は誰の命令も受けぬ……全てを無に返すのみ……!!』
ダークドレアム「私は誰の命令も受けぬ……全てを無に返すのみ……!!」
ダークドレアム「…………って誰だ貴様は!!人の台詞をことごとく先に言いおってぇ!!!!」
勇者「いやー、ごめんごめん。アンタとの闘いってすげー印象に残っててさ、つい」ナハハ
ダークドレアム「……? 何を訳のわからぬことを……貴様に会うのはこれが初めてのハズだが……?」
勇者「こっちの話だ」ククッ
勇者「今は職業も勇者で剣術も極めたし頼れる武器もある……あの時とは違うぜ」チャキッ
ダークドレアム「…………まぁいい、……血湧き肉踊るとはこのことを言うのだろうな……対峙しただけで分かる貴様のその力……良い闘いになりそうだ」フフフ
勇者「俺も最後の相手がアンタで良かったぜ、相手にとって不足無しってな」
勇者「いくぜっ!!!!」ドンッ
ダークドレアム「ぶるああああああああああ!!!!!!」ドンッ
――――リッカの宿屋
勇者「っぅ~……やっぱダークドレアムはとんでもなく強かったな……ありゃバケモンだ」
勇者「でもどうにか勝つことができたし……自信もついたかな」ヘヘッ
リッカ「あ、お帰りなさい、勇者さん」
勇者「おぅ、ただいま。いつも出迎えありがとうな」
勇者「ナインは?」
リッカ「帰ってきてますよ、なんでも勇者さんのこと驚かせるんだって張り切ってました」ウフフ
勇者「へぇ~~……でもそういうことは俺に言わない方がいいんじゃないか?驚きも半減するって言うか……」
リッカ「あ…………たしかにそうですね」テヘヘ
――――
ギィ……
勇者「よ、ただいま」
ナイン「おかえり、勇者。いよいよ明日だね」
勇者「あぁ……なんだかあっという間の三ヶ月だったよ」
ナイン「フッフッフ……最後の決戦に旅立つ勇者に僕からサプライズがあるんだ」ニヤ
勇者「お?なんだよ、勿体振らないで教えてくれよ」
ナイン「……これさ!!」
ジャーーン
勇者「え?これって……」
ナイン「そう、最上級の防具だよ♪」
ナイン「マントに鎧、額当てにグローブ、ブーツ、腕輪……どれも超一級品さ♪」フフン♪
ナイン「剣術を極めた勇者なら盾なんかいらないと思って用意してないけど……」
勇者「うおーー!!すげーー!!やっぱり勇者はマントだよな!!あ、これ『星降る腕輪』だろ!?スリーが装備してたの見てずっと憧れてたんだー!!!!」キラキラ
ナイン「喜んでくれて僕も嬉しいよ♪」
勇者「これ、ホントに貰っちゃっていいのか!?」
ナイン「勿論さ♪僕からの餞別だよ」ニコッ
勇者「ホントありがとう!!ナイン!!!!」ギュッ
ナイン「いいのいいの、さ、明日に備えて今日は早めに休みなよ。お風呂沸いてるから先に入っちゃってね」フフッ
――――夜更け
勇者「…………」
勇者(明日はついに決戦か……思い返せば色々あったな……)
勇者(九つの世界で修行をして俺は確かに強くなった)
勇者(だけど手にしたこの力よりも……もっと大事なもんを勇者達から教えてもらったなぁ……)
勇者(もしかしたらルビスはそういうもんを俺に知って欲しかったのかな……)
勇者「はは、考えすぎかな」
ナイン「なーに考えてるの?」ヌッ
勇者「おわっ!?」ドキーーン
勇者「な、なんだナインかよ、おどかすなよな」ハァハァ
ナイン「ごめんごめん、部屋見回しても勇者がいないから探してみたら廊下で一人で窓の外眺めながら物思いにふけってたからさ、どうかしたのかなぁ、って」
ナイン「よく眠れなかった?」
勇者「いいや、そんなことないぜ?ぐっすり眠れたよ」
勇者「ただなんか早くに目が覚めちゃってさ、落ち着かなくて……ボーっとしてた」
ナイン「そっか……じゃあ僕も少しこうしていようかな」
勇者「夜の風は涼しいからな」
ナイン「うん、そうだね」
勇者「……」
ナイン「……」
勇者「…………」
ナイン「…………」
勇者「………………」
ナイン「………………」
勇者「…………なんか無言って気まずいな」苦笑
ナイン「ホントだね」アハハ
ナイン「…………不安なの?」
勇者「え?」
ナイン「明日は最終決戦でしょ?だから……」
勇者「あぁ、そのことか。…………うーん……なんて言うか心がふわふわしてもやもやしてちょっぴり怖くて……ドキドキもしてて……そんな感じかな?」
ナイン「それを不安って言うんだよ」フフッ
勇者「そうか」苦笑
勇者「他の勇者達も魔王との決戦の前はこんな気持ちになるのかな……」
ナイン「きっとそうだと思うな……"勇者"だって人間だもの」
ナイン「僕も……不安なんだ、エルギオスと闘うことが……何より自分が天使でなくなってしまうことが」
勇者「え?天使でなくなるって……?」
ナイン「天使っていうのはね、自分より位の高い天使には刃向うことができないようになっているんだ」
ナイン「堕天使エルギオスは元は最上級天使。堕ちてしまった今でもそれは変わらない……つまりどの天使も彼と闘うことはできない」
ナイン「でもこのまま彼を放っておいたら世界が滅ぼされてしまう」
ナイン「だから僕は願いを叶える果実の力で人間になろう、って決めたんだ」
勇者「でもそれじゃナインが……」
ナイン「うん、もう二度と天使には戻れない……人間として生きて行くしかないだろうね」
ナイン「でも……大切な友達が、仲間が、世界中の人達が、悲しい思いをするのだけは絶対に許せないんだ」グッ
勇者「ナイン…………」
ナイン「『誰かのためにその身を捧げる』……これも天使として生まれた僕の宿命なのかな」フフッ
ナイン「人間になろうとは決めていたけど……正直悩んでるところもあった。だけど君と出会って決意を固めたよ」
勇者「俺と出会って……?」
ナイン「うん。不安や恐怖と闘いながら世界中の人々のために闘ってるのは僕だけじゃないんだな……って思って」
ナイン「僕が最後の決断をできたのは……迷いを振り払うことができたのは勇者のおかげさ」
勇者「…………でもナイン、村の伝承ではナインは堕天使を倒したって語り継がれていたんだ」
勇者「これってナインが人間になったってことだろ?」
勇者「俺と出会わなくても結局は……」
ナイン「そんなの……関係ないよ」
ナイン「勇者の村の伝承で僕のことがどう語り継がれてるか知らないけどね、今ここにいる僕は君に支えられて人間になることを決めたんだ」
ナイン「だからやっぱり君のおかげなんだよ」
勇者「ナイン……」
ナイン「きっと他の勇者達も君に助けられたことがいっぱいあるんじゃないかな?」
ナイン「君が勇者達に出会えたことを感謝しているように勇者達も君に出会えたことを感謝していると思うよ」
ナイン「勿論、僕もね」ニコッ
勇者「……ありがとう……」
ナイン「…………話している間に夜が明けてきたね」
勇者「…………」
キラキラキラ……
勇者「お……」
ナイン「お別れの時間……だね?」
勇者「あぁ……」
勇者「ナイン、俺精一杯やってくるよ。勇者の……いや、俺の使命を果たしてみせる」
ナイン「うん、僕もだ」
キラキラキラ……
勇者「色々とホントにありがとうな、高価な武具までもらっちゃって……」
ナイン「それは気にしないでって言ったでしょ……じゃあ勇者が魔王を倒したら倍返しにしてもらおうかな」フフッ
勇者「うへぇ、それはルビスにつけといてくれよ」苦笑
キラキラキラ……
ナイン「……勇者、例えどんなにつらくても……挫けそうでも……諦めないでね」
勇者「勿論だとも」
ナイン「"勇者"は人々の希望の象徴……君の心の希望の光が消えないことを願っているよ」スッ
勇者「ありがとう」ギュッ
キラキラキラ……
勇者「じゃあ……行ってくる」
ナイン「うん、いってらっしゃい」ニコッ
キラキラキラ……
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
ナイン「行っちゃったか……」
サンディ「寂しいの?」ヒョコッ
ナイン「まぁね……それよりありがとう、サンディ」
サンディ「何が?」
ナイン「僕と勇者がゆっくりお別れできるように自分は出てこないで我慢しててくれてたんでしょ?」
サンディ「は、はぁ~?意味わかんないし、勘違いもいいとこなんですケド~」
ナイン「ふふ、じゃあそういうことにしとこうか」クスクス
ナイン「勇者も決戦に旅立ったことだし……僕も最後の決戦へと向かおうかな」
サンディ「遂にエルキモスとの最終決戦ってワケね」
ナイン「エルギオスだよ、エルギオス」フフッ
サンディ「もう、わかってるちゅーの!!わざとよわざと!!」
ポッポーーー!!
ナイン「あれは……」
ガシュガシュガシュガシュ
ポッポーーー!!
キキィ……
アギロ「よう、ナイン、サンディ」
ナイン「アギロさん!!」
サンディ「店長!!」
アギロ「だから店長じゃねぇつってんだろ!!」
ナイン「どうしてここに……?」
アギロ「女神様……セレシア様っつったっけか?あの方からの声が聞こえてな、ナインを迎えにセントシュタインまで行けってよ」
ナイン「そうですか」
アギロ「覚悟は決まったみてぇだな?漢のツラしてやがるぜ」
ナイン「はい、行きましょう。エルギオスを倒しに神の国へ!!」
アギロ「おぅ!!出発……」
サンディ「進行ぉーーー!!」
ポッポーーー!!!!
ガシュガシュガシュガシュ!!
サンディ「はぁ……」
アギロ「どうした、ため息なんかついて」
ナイン「幸せが逃げちゃうよ?」
サンディ「アンタのせいよ!!」ジロッ
ナイン「え!?僕!?」
サンディ「だってアンタが女神の果実を食べて人間になっちゃったらもうアタシ達のこと見えなくなっちゃうんでしょ?」
サンディ「そんなのってあんまりだよぉ~」
アギロ「馬鹿野郎、漢の決断にとやかく言うんじゃねぇ」
サンディ「でも……」
ナイン「大丈夫だよサンディ、人間になっても消えていなくなっちゃうワケじゃないしサンディのこともアギロさんのことも忘れないよ」
ナイン「それにもしかしたら何かの出来事でまた天使に戻れるかもしれないでしょ?」
サンディ「ナイン……」
ナイン「そういうワケだからさ、悲しまないでよ」
サンディ「……うん、わかった……その代わりアタシのこと忘れたら毎日寝てる間に顔に落書きしてやるからね?」
ナイン「ははっ、わかったよ」
ナイン「さてと……それじゃ」ゴクッ
ナイン「いただきま~……」アー
ナイン「…………?」
サンディ「何よ、どうしたの?」
ナイン「いや……今声が聞こえなかった?」
サンディ「アタシは何も言ってないケド?」
アギロ「俺も何も……」
ナイン「…………ホラ、また」
サンディ「はぁ?アンタ頭おかしくなっちゃったの?」
アギロ「…………ん?」
ナイン「どうかしたんですか?」
アギロ「……なんだありゃ?」
ナイン「あれは…………!?」
――――星の海
勇者「…………ルビス」
ルビス『いよいよ決戦の時ですね』
勇者「魔王軍は?」
ルビス『既に最後の国を陥落させつつあります……王都まで攻め込まれてますから……時間の問題かと……』
勇者「分かった」
ルビス『落ち着いているんですね?』
勇者「自分でもなんでかわからないけど心が静かなんだ……でもその奥底には熱い何かが煮えたぎってるって感じかな」
ルビス『そうですか……勇者、準備は良いですか?』
勇者「あぁ、気力体力、申し分ないぜ!!」
勇者「ルビス……今までありがとうな」
ルビス『え……?』
勇者「ルビスがこうして力を貸してくれなかったら俺は何もできない何も知らないただのガキのまんまだったと思うんだ」
勇者「だから……ありがとう、ルビス」
ルビス『………………』
勇者「……ルビス?」
ルビス『いえ……少し驚いてしまって……』
勇者「なんで?」
ルビス『貴方に勇者という過酷な運命を背負わせてしまったのは私です……ですから恨まれても仕方ないと思っていたのです。それなのにこうして感謝されるなどとは……』
勇者「…………」
ルビス『私の方こそ貴方にお礼を言わなければなりませんね、貴方が勇者で本当に良かった……ありが……』
勇者「おっと、そこから先は魔王を倒してからだ」ニッ
ルビス『ふふっ、そうですね』
ルビス『いきますよ、勇者』
勇者「あぁ!!頼む!!!!」
ルビス『行きなさい、勇者よ。今こそ貴方が悪を切り裂く光の剣となるのです!!!!』
カアアァァァァァァ!!