長老「~はじめに~
・このSSは魔王・勇者系SSじゃ。
・ドラクエの二次創作SSじゃが、オリジナルの設定やドラクエ本編ではありえない設定も存在するぞぃ、二次創作ということで許してほしいのぅ。
・書き溜めはしてあるぞぃ。
・書きたいこと書いておったらとてつもなく長くなってしもうた、すまんのぅ。最後まで読んでくれたら泣いてお礼するぞぃ。
・>>1は厨二病全開じゃ、痛々しくても我慢してほしいのぅ。
・>>1は文章構成力もない上にシナリオ力もないからのぅ、途中で読むのを飽きてしまうかもしれんが優しく見守ってくれるとうれしいのぅ。
・誤字脱字には気を付けたつもりじゃがそれでも多少のミスはあると思うからの、温かく見守ってくれるとうれしいのぅ。
・>>1は『嫁にするならビアンカ、恋人にするならフローラ、愛人にするならデボラ』派じゃ、異論は認めないぞぃ。
それでは本編を始めるとしようかのぅ」
※関連記事:長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
【1】
【2】
【3】
【4】(完結)
元スレ
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1329495347/
――――とある小さな村
長老「今日は何番目の勇者様のお話をしようかのぅ?」
****「じいちゃんまたそれかよ……俺もういい加減聞き飽きたよ」
長老「ん?そうか?」
****「当たり前だろ!?物心ついた頃からじいちゃんからいつもいつもその話ばっかり聞かされてて耳にタコができそうだよ……」
長老「いやいや、この村に代々伝わる勇者様達の伝承じゃぞ、何度でも聞かせてやるわぃ」
****「だー!!もー!!
一番目の勇者が竜の王を倒して、
二番目の勇者が破壊の神を倒して、
三番目の勇者が殺戮の神を倒して、
四番目の勇者が魔族の王を倒して、
五番目の勇者がえーっと……あの影の薄い……そう!ナメック星人!……じゃなかった、魔界の王!、を倒して、
六番目の勇者が異次元の魔王を倒して、
七番目の勇者が世界を切り離した魔王を倒して、
八番目の勇者が悲しみの魔王を倒して、
九番目の勇者が墮天使を倒したんだろ!?」ゼェゼェ
長老「おぉ、よく覚えておるのぅ流石わしの孫じゃ」ホッホ
****「関係ないって!!、だいたいさ、勇者の伝説なんか聞いても何の役にも立たないっつーの」
長老「そんなことないじゃろ、勇者様達が如何にして世界を救ったか知っておれば何かの役に立つじゃろうて」
****「何かってなんだよ……そりゃこの世界にも魔王なんて危ないやつがいたらそん時は勇者の伝承が役に立つかもしれないけどさ」
長老「ほっほっほ、なるほどのう。そうなったらもしかしたらお前が世界を救うかもしれんな?
そしたらお前も勇者の仲間入りじゃな」ニッ
****「んなことあるわけないだろ?自分で言っといてなんだけど魔族は何千年も前に精霊様に封印されたんだしさ……てか俺狩りに行くからおとぎ話は村の子供たちにでもしてるんだな、じゃ」タッタッタ
長老「ふむ……しょうがない奴じゃ」ポリポリ
子供A「ちょうろうさまー、きょうもゆうしゃさまのはなししてー」ニパ
子供B「してー」ニパ
長老「ん?おぉそうかそうか、じゃあ今日は三番目の勇者様の話をしようかのぅ。
あるところにアリアハンという国があってのぅ……」
――――村入口付近
友A「よっ」
友B「おせーぞぉー」
****「悪ぃ悪ぃ、じいちゃんにつかまってた」
友B「またかよ」笑
友A「長老はホントにお前のことが可愛いみたいだな~」
****「ん~……まぁな、親父も母ちゃんも俺が小さい頃死んじゃったしばあちゃんはそれよりずっと前に死んじゃったから家族は俺しかいないからなぁ」
友A「………」
友B「ま、お前も長老のこと大事にしてんだろ?」
****「はぁ?だれがあんなモーロクじじい!!」
友B「とか言ってぇ~、この前小遣い全部注ぎ込んで王都で高ぇお茶買ってきたの知ってるぜ?」
****「なな、なんでそれを!?」
友A「くくっ」
友B「へへへっ」
****「くぅ……!!さ、さっさと狩り行こうぜ!!今日も誰が一番デカい獲物仕留められるか勝負だからなッ!!」ダダダッ
友B「あ、待てよ!!」
友A「よし、負けないからな!!」
――――村付近
???「この村で間違いねぇのか?」
???「えぇ、この村で間違いありません」
???「可能性のある二十八の村を調査した結果ここにそれだと思われる石碑や勇者を奉る祠を発見いたしました」
???「よし、全兵に命ずる。この村を殲滅しろぉ!!一人たりとも逃がすなァ!!」
???「はっ!!!!」
ザザザザザザッ!!
――――山中
****「ふぃー、随分遠くまで来ちまったなぁ~。まぁそのおかげでこんなデカい獲物がとれたんだけどな」ポンポン
猪「」
****「こりゃ今日も俺が一番だな……俺ってば天才かもな」ニヤッ
****「村に帰るのにはちょっと時間がかかっちまうな……まぁのんびりいくか♪」ズリズリ
ドオン!!
ドオンドオン!!
****「!?」
****「なんだ今のすげー音!?」
タッタッタ
****「!!!! む、村が!!」
――――とある小さな村
タッタッタ
****「ハァハァ……な、なんだこれ……家も畑もメチャクチャだ……」ダダダッ
****「!!!!」
****「オェ゛ェ゛エエエ……ゲェェ……ひどい……みんな……し、死んでる……うぷっ……」
ガサッ
****「だ、誰だ!?」ビクッ
友A「あ……ぐぁ…………」
****「と、友A!?大丈夫か!?しっかりしろ!!」
友A「そうか……お前は無事だったんだな……よかっ……た……」
****「喋るな!!今手当てを……」
友A「いや……内臓が何個か潰れて……るんだ……俺はもう助からな……い……」ヒュウ…ヒュウ…
****「畜生!!ちくしょうチクショウ!!一体どうしてこんな!!」
友A「む……村からすごい音が聞こえたから友Bと狩りから引き返したんだ……そしたら……村のみんなが襲われててそれで……」
****「友Bは!?」
友A「……見ない方がいい……」グスッ
****「……っ!!」
****「どこのどいつがこんなことを……!!」
友A「ま……魔族だ……」
****「!?」
友A「俺は……魔族を見たことは……ないけど……直感的にわかった……今まで感じたことのないあのおぞましい気配……あれは魔族……だ……」
****「な……だって魔族は……それになんのために……」
友A「それは俺もわからない……長老なら何か……知ってるかもしれない……」
****「!!!! じいちゃん!!」
友A「はや……く……長老のとこ……ろ……」
****「友A!?」
友A「」
****「友Aぇぇーーー!!!!」
友A「」
――――長老の家
バァン!!
****「ハァ……ハァ……グス……じ、じいちゃん!!じいちゃんどこだ!?」ヒグッ
長老「……その声は……」
****「!! じいちゃん!!俺だよ!!」ガバッ
長老「おぉ……お前は無事なんじゃな?……良かったわい……もう目が見えん……村はどうじゃ……?」
****「グス……ヒッグ……ダメだ……家は焼かれて村人はみんな殺された……友Aも……友Bも……八百屋のおじさんも隣のおばさんも……みんなみんな殺された!!」
長老「……生き残ったのはお前だけということか……?」
****「わかんないけど……たぶん俺だけだ……たまたま遠くに狩りに出てて帰ってくるのが遅れて……それで…………」グスッ
長老「そうか……お前がそうなのか……」
****「…………?」
長老「お前にこの村の秘密を……代々長老だけが知る秘密を話そう……」
****「……グス……ズズ……それが今回のことと関係あるのか……?」
長老「あぁ……その通りじゃ……」
長老「この村の本当の名前はのぅ……【勇者の伝説を紡ぐ村】と言うんじゃ……」
****「……勇者の……伝説を紡ぐ村……?」
長老「村に古くから伝わる九人の勇者様の伝承……それを代々語り継ぐのがこの村の民の使命なんじゃ……」
****「で、でもだからってそんなことでこの村が襲われていい理由にはならないだろ!?」
長老「……そうじゃな……じゃがのぅ……勇者の伝説はもう一つあるんじゃ」
****「ど、どういうことだよ?」
長老「それこそが零番目の勇者の伝説じゃ……」
****「零番目の……勇者……?」
****「なんだよそれ……聞いたことねぇよ……」
長老「そう……零番目の勇者の伝説こそが代々長老にのみ語り継がれる伝承……そしてこの世界の勇者じゃ……」
長老「そして零番目の勇者の伝説は冒頭しか書物に記されておらん……
【世界に再び闇が広がりし時、この村より生まれし一人の若者が世界の闇を打ち払うべく立ち上がることになるだろう】
……とな」
****「この村……?」
長老「……それが……おそらくお前じゃよ」
****「!?」
長老「この村の生き残りはお前一人……ならばお前こそが伝説の勇者じゃろうて……」
****「……俺が……」
勇者「勇者……!?」
長老「どこで伝承を知ったかわからぬが魔族達はこの村から『勇者』が生まれることを恐れてこの村を襲ったんじゃろう……」
長老「……勇者様を奉る祠……その隣に生える御神木の根本に隠し部屋がある……そこに向かうんじゃ……そこで……精霊様のお告げを……」
勇者「じ、じいちゃん!?」
勇者「いきなり俺が世界を救う勇者とか言われてもワケわかんねぇよ!!俺アホだしいつも悪さばっかりだし大勢の人の役に立つことなんてできっこねぇよ!!」ブワッ
長老「勇者……それでもお前はやさしい子に育った……そのやさしさこそが"勇者"に一番大事なことじゃないかのぅ?」
勇者「じいちゃん……」ヒッグ
長老「この間お前がわしにお茶をくれたじゃろ……?」
勇者「あぁ……」グスッ
長老「あのお茶のぅ……めちゃくちゃ苦くてとびきりマズかったわぃ……ヒヒッ」
勇者「なんだよ……それ……ヘヘッ」ポロポロ
長老「……でものぅ……すごく……すごく嬉しかった……胸の奥がじーんと温かくなった……わしが今まで飲んだお茶の中で……最高のお茶じゃった……」ニコリ
勇者「……じいちゃん……」ヒッグエッグ
長老「ありがとうのぅ……勇者……」
勇者「今度はもっと美味い茶飲ませてやるから覚悟しとけよ?」グスッ
長老「」
勇者「……へへ……なんとか言えよ……じいちゃん……」ブワッ
長老「」
勇者「なんで……なんで動かねぇんだよ……!!」ボロボロ
長老「」
勇者「俺を……一人にしないでくれよォ!!……じいちゃん!!じいちゃん!!じいちゃん!!」ボロボロ
長老「」
勇者「うわあああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
――――翌日・勇者を奉る祠
勇者「……なんとかみんなの墓は作り終わった……じいちゃん……友A……友B……みんな……安らかに眠ってくれ……」ポン
勇者「……しっかしこのデッケェ木の根本っつってもなぁ……」
ガサゴソ
ガコン!!
勇者「おわっ!!……下り階段だ……あ、案外簡単に見つかったな……よ、よし、降りるぞ」
シュッ ボゥ
カッカッカッカッ……
勇者「ん……広い部屋に出たな……石造りの小部屋か……特に何があるわけでもなさそう……ん?」
パァァァァ……!!
勇者「う、うわっ!!部屋中が光ッ」
???『……はじめまして……勇者……』
勇者「だ、誰だ!?」バッ
???『私はこの世界の観測者にして守護者……名をルビスと申します……今あなたの心に直接語りかけています……』
勇者「……ルビス……」
ルビス『ここに勇者であるあなたが来たということは世界に再び危機が訪れようとしていることは知っていますね?』
勇者「あぁ……」
ルビス『魔族は何千年も前に私が封印しました……しかし封印から逃れた一匹の魔族がその身を隠し、長い年月力を蓄え、ついに私の封印を解くほどの力を得たのです……そして自らを魔王と名乗り封印から解放した魔族達を手駒に世界を支配するつもりなのです』
勇者(そういうことか……)
ルビス『私は人間には真似できない不思議な力を使うことができますが戦闘力としての力は高くありません……ですから勇者、あなたに魔王を倒して欲しいのです』
勇者「ちょっと待てよ!!そんなこと言ったって俺はただの人間だぞ!?魔族どころか魔物と闘ったことすらない!!そんな俺がどうやったらアンタでさえ倒せない魔王を倒せるっつーんだよ!!」
ルビス『そう……今のあなたでは魔王には勝てない』
勇者「…………」
ルビス『だからこれからあるところである人達に師事して修行をしてもらいます』
勇者「修行?」
ルビス『そう……私の力で九つの世界・時代に生きる九人の勇者達のところへあなたを飛ばします。そこで勇者達に闘いを学ぶのです』
勇者「く、九人の勇者達に!?」
ルビス『えぇ……しかしそう長くは別の世界にあなたを飛ばすことはできません……次元を超えた出会いというのは様々な歪みを生むのです……』
ルビス『一つの世界にいられる時間はおそらく十日間が限界……つまり九人の勇者に一人につき十日ずつ、計九十日間の修行しかできないでしょう』
勇者「一人につき十日か……」
ルビス『この三ヶ月であなたがどこまで成長できるか……それに世界の命運がかかっているのです……それでもやってくれますか?』
勇者「……それがアンタの考えつく方法の中で一番可能性が高いんだろ?」
ルビス『……その通りです』
勇者「……わかった、俺やるよ」
ルビス『ありがとうございます』
勇者「でも三ヶ月後もこの世界はまだ無事なのか?」
ルビス『おそらく……大規模な魔族の進軍にはまだ時間がかかると思います』
ルビス『滅ぼされる国がいくつか出るかもしれませんが世界の全てが魔族の手に堕ちるには時間がかかるでしょう』
ルビス『とは言え犠牲になる人々が出るのは事実ですが……』
勇者「……くそっ!!」
ルビス『しかしあなたが魔王を倒さねば世界が完全に魔族のものになることになります』
ルビス『自らの無力がつらいでしょうが今は耐えるしかないのです……』
勇者「…………そうか……アンタも俺と同じか……自分の無力がつらいんだな……」
ルビス『……』
勇者「まかせろ、アンタの分まで俺が力をつけて魔王をボコボコにしてやるからさ!!」
ルビス『……フフッ』
勇者「な、なんだよ!!」
ルビス『勇者……あなたはとてもやさしいのですね……』
勇者「はぁ!?う、うるせぇな!!何言ってやがんだ!!////」カァ
ルビス『クスクス……失礼しました……さぁ、こうしている間にも魔族の脅威に怯える人々がいます』
ルビス『早速一番目の勇者の世界へとあなたを飛ばしますよ』
ルビス『準備はよろしいですか?』
勇者「……あぁ、わかった!!やってくれ!!」
カァァァァァア!!
勇者(じいちゃん……友A……友B……みんな……いってくるぜ……)
シュンッ!!
しーーーーん……
――――???
勇者(なんだここ……)
勇者(暗闇の中に色とりどりの小さな光……)
勇者(まるで夜空の中を飛んでるみたいだ……)
ルビス『勇者……私の声が聞こえますか……?』
勇者「……あぁ」
ルビス『その世界の勇者に出会ったらまず彼らの体に触れるのです』
ルビス『そうすれば私の声が……あなたの世界のことが……勇者達にわかるようにあなたに魔法をかけておきました』
勇者「へぇ……気が利くな」
ルビス『さぁ……旅立ちの時です、勇者よ!!』
キィィイイイン!!
勇者(う……光の一つに吸い込まれ……!!)
――――第一の世界
パッ
勇者「!?」
勇者「う、うわあああーーー!!」
ドシーン
勇者「あてててて……もうちょっとどうにかなんなかったのかよルビス!!」
しーーーん
勇者「なんだ、もう聞こえないのか……」
勇者「ここは……森だな……つーか勇者ってどこにいるんだよ」
勇者「見つけるだけで十日かかるなんてのはナシだぜ?」苦笑
ギラリ
ヒュバッ!!
勇者「のわっ!?」
ズバン
???「チッ、外したか」
勇者「い、いきなり何しやがんだテメェは!!」
???「だまれ魔王の手先!!俺の命を狙ってきたんだろ!?」
勇者「!?」
勇者「金髪に額飾り……赤い法衣……!!」
???「?」
勇者「で、伝承と同じだ!!ア、ア、アンタが一番目の勇者だな!?」
???「そらみたことか!!やっぱり俺の命を狙ってきたんじゃないか!!」
ヒュバッ
勇者「わっ!!」
シュビッ
勇者「とっ!!」
ビュバッ
勇者「ちょっ!!」
???「ちょこまかと避けやがって……!!」
勇者「無茶言うな!!誰が黙って斬られるかよ!!」
???「問答無用!!らあっ!!」
ブンッ!!
勇者「ひぃっ!!」
???「もらった!!」
勇者「な……裏拳!?」
バキイイィィ!!!!
勇者「ぐっはぁぁぁ」
キィィイイイン!!
???「!!」
???「なんだこれは……頭の中にお前のことが流れこんでくる……!!」
???「ゆ、勇者!?」
勇者「」ピクピク
???「……あ、あら~……」アセアセ
――――???のキャンプ
???「いやー、さっきはすまなかった!!この通り!!なっ!!」
勇者「勘違いで殺されかけたらたまんねぇっつの」ブツブツ
???「だから悪かったって」アハハー
???「……っと、自己紹介がまだだったな!!」
???「俺は伝説の勇者ロトの血を引きし者、ワンって言うんだ、よろしくな♪」
勇者「ワンさん……?」
ワン「なんだよよそよそしいな、ワンでいいよ」スッ
勇者「うん、わかった!!」ガシッ
ワン「……で、さっきお前に触れた時にお前のことがなんとなくわかった……その……つらかったな」
勇者「……あぁ……」
ワン「でもお前には時間がないのもたしかだ、俺がこの十日でバッチリ鍛えてやるからな!!」
勇者「お、おう!!」
ワン「じゃあまず手始めに使える呪文を教えてくれないか?」
勇者「……ジュモン?」
ワン「……は?嘘だろ?呪文も知らねぇの?」
勇者「し、知ってるしー。えーと……」
勇者『ポッポルンガ プピリット パロ!!』
しーん
勇者『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ!!』
しーーん
勇者『ティロ・フィナーレ!!』
しーーーん
勇者『エル・プサイ・コングルゥ!!』
しーーーーん
勇者「……」
ワン「……」
ワン「はぁ……これじゃ先が思いやられるぜ……」
勇者「ご、ごめん……」シュン
ワン「いいか、呪文って言うのはな、世界に満ちている魔力を己の中の魔力とスペルをきっかけにして解き放つことだ」
勇者「ふむふむ」
ワン「俺が今からやるから見てろよ」
勇者「……」ゴクッ
ワン『ベギラマァ』!!
ボウゥ!!
勇者「おわっ!!手から火が出た!!すげーー!!」
ワン「ふふん、そうか?」テレッ
勇者「で、どうやんの!?どうやんの!?!?」
ワン「えーとな、もう一度詳しく解説するとな」
ワン「第一段階として世界に満ちる魔力の知覚。第二段階として自分の中の魔力を変換して扉を造る。第三段階で自分の発するスペルが鍵となり扉を開く。そして最後に世界に満ちる魔力が扉を通って放たれる」
ワン「そんなイメージで呪文ってのが使えるんだ」
ワン「自分の魔力が切れたら扉は作れないから呪文を使うこともできなくなる」
ワン「唱えられる呪文は契約したものでなければならない。だけど契約したから使えるってわけじゃなくてだな、自分の中の絶対魔力がその呪文を使える値に達しないと…………って聞いてるか?」
勇者「」
ワン「勇者?」
勇者「わ、わけわからん……」
ワン「……」
勇者「ゆ、勇者って頭悪いもんだと思った……」
ワン「『勇者』ってお前のこと?」
勇者「いや、アンタのこと」
ワン「……ま、まぁ逆に褒められたと思っておこう」ピキッ
ワン「さて、じゃあまずは修行の第一段階から始めるぞ!!」
勇者「おーー!!」
――――第一の世界・二日目
勇者「……」
ワン「……」
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「………………」
ワン「………………」
勇者「………………」ピクッ
ワン「かぁつッ!!」
バシィッ
勇者「いだぁ!!」
ワン「集中力が足りないぞ勇者!!」
勇者「んなこと言ったって昨日も今日もひたすら瞑想じゃん!!」
ワン「だからぁ、世界の中の魔力を感じるんだよぉ!!それができなきゃスタートラインにも立てねぇんだって!!」
勇者「ぐぬぬ……!!」
ワン「力んでも意味ねぇっつの!!」
ビシッ
勇者「ぐはっ!!」
――――第一の世界・三日目
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「…………」ピククッ
ワン「……ハァ」
勇者「ぐ………」
――――第一の世界・四日目
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「…………」
ワン「…………」
勇者「………………くそっ……」
――――第一の世界・五日目
勇者「……だめだ……全然わかんねぇ……」
ワン「……」
ワン「酷なようだがタイムリミットまどあと五日だ……」
勇者「わかってるよ!!」ガンッ
ワン「……焦っても何の解決にもならねぇぞ」
勇者「んなこと言ったって俺が……俺がやらなきゃならねぇのに……!!俺ができなきゃならねぇのに……!!」ギリッ
勇者「なんで……なんで俺なんだよ!!こんな才能もねぇ俺なんかが、なんで勇者なんだよ!!くそっ!!」ガンッガンッ
ワン「少し休むか……」
勇者「でも!!俺には時間が!!」
ワン「いいから!!少し休め……」
勇者「……くそっ」チッ
――――川
ザパァッ
勇者「……プハァ」
勇者「くそ……ダメだ……俺って……くそぅ……」
ガサッ
ワン「……少しいいか?」
勇者「!?」
勇者(……そこの木の影か……)
ワン「俺ってさ……ロトの血を引きし者、とか言われてさ、いきなりラダトーム城に連れてこられたんだ」
勇者「……」
ワン「俺の住んでた町はさ、魔物に滅ぼされちまってさ、途方に暮れてたら今度は『お前が世界を救う勇者だ』ときたもんだ……」
勇者(俺と……同じだ……)
ワン「自分の運命の重さに耐えられずに……『早く世界を救わないと』『早く強くならないと』って見えない何かに押し潰されそうになったりもしたよ……」
勇者「……」
ワン「でもさ、ある日気づいたんだよ」
勇者「?」
ワン「俺は俺だよな、って」
勇者「……」
ワン「焦ったり重圧感じたりしてもさ、俺は俺だよ、他の誰でもない……だから……俺は俺にできることを少しずつでもやっていくしかないんだな、って」
勇者「……」グッ
ワン「お前は昔の俺と同じだ……『勇者』っていう重圧と使命に押し潰されそうになってる」
勇者「……」
ワン「だけど……お前はお前だ」
ワン「俺でも他の誰でもない。お前はお前なんだ」
ワン「だから焦ったり重荷を感じたりしてもさ、お前はお前にできることをやっていくしかないんじゃないかな?」
ワン「お前にできることをやる……それでこそお前自身だろ……?」
勇者「……」グッ
ワン「……つまんない話したかな?」ハハッ
勇者「いや……ありがとう」
勇者「すぅぅ…………」
勇者「だあああああああああああ!!」
ワン「ゆ、勇者!?」バッ
勇者「よしっ!!」パンッパンッ
勇者「俺は俺にできることをやる!!やるぞ!!」
ワン「フッ……その意気だ」ニッ
勇者「あとさ……ワン、ちょっと思いついた修行方法があるんだ」
ワン「?」
――――第一の世界・七日目・川
ザアアアアア……
勇者(……)プカァ
ザアアアアア……
勇者(……感じる……)
ザアアアアア……
勇者(……川の流れ……水の冷たさ……風の爽やかさ……大地の胎動を……)
ザアアアアア……
勇者(……そこに満ちる……温かで禍々しいそれでいて惹かれる力を……)
勇者(……これが……これが魔力……)
勇者(……わかる……わかるぞ!!)
勇者「掴んだ!!」
バシャッ
ワン「……どうやら上手くいったみたいだな」ニヤ
勇者「あぁ!!」
ワン「さて、じゃあ修行の第二段階に移る前にちょいと行かなきゃならないとこがある……ちょっとこっち来い」
勇者「?」
ザブザブ
ワン「しっかり掴まってろよ!!」
ワン『ルーラ』!!
勇者「の……わぁぁぁぁぁあぁーーー!!」
ビューーーーン
――――ラダトーム城
ドオン!!
ワン「よっと」
スタッ
勇者「わわっ!!」
ガンッ
ドサッ
ワン「くくくっ…」
勇者「飛ぶなら飛ぶって一言言えよ!!」ガバッ
ワン「悪ぃ悪ぃ」クックック
勇者(コイツめ……)イラッ
勇者「それはそうとどこ行くんだ?ここは城みたいだけど……」
ワン「え?あぁ、ここはラダトーム城。この世界唯一の城さ」
ワン「用があるのは図書室だ」
勇者「図書室ぅ?」
――――ラダトーム城・図書室
勇者「うわーー!!本ばっかりだ!!」
ワン「当たり前だろ図書室なんだから……」
老人「おや?ワン様ではありませんか?」
ワン「よぅ、じいさん、元気にしてるかよ?」
老人「いやいや、わしももう歳じゃな……給仕の娘のお尻を撫でたらフライパンで叩かれてしもうてのぅ、昔はワケなく避けられたのじゃが……」
ワン「だっはっはっ!!そんな元気がありゃあ十分だ!!」
老人「ほっほっほ!!」
勇者「ワンー、ここで何するんだ?」
ワン「あぁ、そうだったな、じいさん。この図書室にあるありったけの魔法書持ってきてくれないか?」
老人「……と言うとあの少年が契約をするのか?」
ワン「そういうこった」
勇者「???」
老人「ふむ……わかったわぃ、ちょっと待っておれ」
勇者「けいやく?」
ワン「初日に話しただろ?契約をした呪文しか使えないんだ」
ワン「呪文の契約ってのは魔法書って本に書いてある魔方陣を地面に書き写してな、そこで瞑想することで契約が完了する」
ワン「でも前も言ったように契約したらその呪文が使えるってワケじゃない、修行して力量が上がっていくうちに使えるようになる。でも契約をしてなきゃその呪文は使えない……つまり呪文の契約は呪文を使うための必要条件なのさ」
勇者「???」
ワン「えーと……とりあえず呪文が使いたいならその呪文と契約しないとダメってこと。わかった?」
勇者「そう言われりゃわかる!!」ビシィッ
ワン「そ、そうか」
老人「ほい、ワン様、これでよいかのぅ」
ドシーッン!!
勇者「!?」
ワン「ありがとな、じいさん」
勇者「ま……まさかこれ全部……?」
ワン「当たり前だろー、あ、あとどの呪文がどんな効果なのか、しっかり覚えるんだぞ」
勇者「マ……マジかよ」
ワン「じゃあ俺は別の用があるから、じいさん後は頼んだぞ」
老人「ほっほっ、任せなさいな」
勇者「ちょ、待っ」
老人「さぁて、久しぶりに鬼呪文教官の血が騒ぐわい」ニタァ
勇者「た、助けてぇぇぇぇーーー!!」
――――ラダトーム城・中庭
勇者「ホイミベホイミベホイムベホム……いやベホモ?ベホメ?」ブツブツ
勇者「……ん?」
???「うふふふ」
ワン「で、そいつが言うのです『ロトのしるしがないと認めないぞ!!』と、それで……」
勇者「いよっ!!」
ワン「のわっ!!ゆ、勇者ぁ!?」ビクッ
勇者「なんだよ、あからさまに驚きやがって」
ワン「じゅ、呪文の契約はどうした」アタフタ
勇者「え?あぁ、今朝から始めて……だいたい3分の1くらいかな?今は契約した呪文の暗記タイムであと30分後にテストだってさ……」ハァ
???「あの……ワン様、こちらの方は?」
ワン「え?あぁ、勇者と言う……えーと、私の弟子です」
???「勇者様?勇ましいお名前ですね?」ニコッ
勇者「あ、ども勇者です」ペコッ
勇者「えーと、アンタは……ワンの彼女?」
ワン「ブーーーーーー!!////」カァ
???「か、かかか彼女だなんてそんな……////」カァ
ワン「だだだ、誰が彼女かぁ!!このラダトームの姫君ローラ様だぞ!?恐れ多いわこのアホが!!」
ガンッ
勇者「……ってぇ!!」
ワン「ローラ様に謝れ!!この!!この!!」
グイグイ
勇者「わたたたっ!!」
勇者(……あれ?でもたしか『ローラ』って一番目の勇者の……)
ワン「姫様、私の弟子がとんだご無礼を!!」ヘコー
ローラ「いえいえ、気にしてはいませんよ、その……私もビックリしてしまっただけですし」モジモジ
ワン「……ったく、お前は早く図書室に戻れ!!」
勇者「わ、わーったよ!!」
タッタッタッ
ワン(……余計なことを……)ハァ
ピタッ
勇者「あ、ワンー、ローラ姫ーー!!」
ワン「?」
ローラ「?」
勇者「アンタ達すっごくお似合いだと思うぜーー!!」ヒュー♪
ワン「なっ////」カァ
ローラ「まぁ////」カァ
ワン「ゆ、勇者ぁーー!!貴様ぁーーー!!」
勇者「やべっ!!じゃ!!」
ドヒュン!!
ワン「……ったくアイツめ……」ギリギリ
ワン「姫様二度にもわたるご無礼、なにとぞお許しを!!」
ローラ「いえ……その……ワン様?」
ワン「はっ!!」
ローラ「私と『お似合い』と言われるのは……ワン様はお気分を害されますか?」
ワン「い、いえ!!光栄の極みです!!しかし私の様な一介の旅人が姫様と釣り合うとは思えません故……その……」
ローラ「そうですか……その……ローラも嬉しゅうございました」
ワン「……え?」
ローラ「……////」カァ
ワン「あ……////」カァ
ローラ「……////」モジモジ
ワン「……////」モジモジ
ローラ「……////」
ワン「……////」
――――第一の世界・九日目・夜
老人「……97点と、一応合格じゃの」
勇者「よっしゃああーー!!」ガッ
老人「しかしのぅ、命のやりとりをする魔物との戦闘の最中に間違った呪文を唱えることは死に直結する。本来は100点じゃなきゃ合格させたくないところじゃよ」ポリポリ
勇者「あぁ……だが今は紙と机とペンから解放された喜びをゆっくり味わわせてくれ……」ジワッ
老人「まったく……呪文の契約自体は昨日で終わったと言うのに呪文の内容を覚えるのに一日かかるとは……やれやれじゃのぅ。ほっほっほっ」
ワン「……お、終わったとこみたいだな」
老人「えぇ、呪文の契約とわしの呪文講座は今終わりました。あとは勇者の努力次第じゃて」
勇者「ありがとうな!!じいさん!!俺頑張ってすげー呪文使えるようになるよ!!」
老人「そうかいそうかい、楽しみじゃのぅ……ワン様もいい加減ベホマぐらい……」
ワン「わーー!!わーーー!!」
勇者「?」
――――第一の世界・十日目・ラダトーム城付近の森
ワン「よし、始めろ」
勇者「……ふぅーー……」
勇者(まず世界の魔力を感じる……)
勇者(次に自分の魔力を感じる……)
勇者(そして自分の魔力で扉を造るイメージ……)
勇者(最後にかけ声と共に扉を開け放ち世界の魔力を扉を通過させて変化させる!!)
勇者『ギラッ』!!
ボウッ!!
勇者「で……出た……出たぞーー!!」
ワン「よくやったな、勇者!!」ニッ
勇者「あぁ!!ありがとうワン!!」
ワン「だがまだ呪文を出すまでに時間がかかりすぎる。最終日の今日は不安定な体勢や動きながらでも即座に呪文が使えるように練習するぞ!!いいな!?」
勇者「はいっ師匠!!」
――――
勇者「ハァ……ハァ……」
ワン「もう日が暮れるな……」
勇者「だめだ……魔力ももうカラだよ……」ガクッ
ワン「だけどこの一日で随分と早く呪文が唱えられるようになったじゃないか」
勇者「へへ……」ニカッ
ワン「……もう十日か……早いもんだ……お前とももうお別れだな……」
勇者「ワン……」
勇者「あ、あのさ、お前も竜王を倒さなくちゃならないって言うのに十日も俺に稽古つけてくれてありがとうな」
ワン「気にするな、俺はずっと一人旅をしてきたからな、お前と過ごしたこの十日間は楽しかったぜ」
勇者「お、俺も!!つらい思いもしたけど楽しかった!!」
キラキラキラ……
勇者「!?」
ワン「!?」
勇者「か、体が光って……」
ワン「どうやらお別れの時みたいだな……」
勇者「……」
キラキラキラ……
ワン「俺さ、お前に二つ内緒にしてたことがあるんだ」
勇者「?」
ワン「実は俺さ……呪文十個ぐらいしか使えないんだ」
勇者「ハァ!?」
ワン「攻撃呪文ならギラとベギラマ。回復呪文ならホイミとベホイミくらいかな」
勇者「な、なんだよそれ!!中級呪文がいいとこじゃねぇかよ!!」
ワン「だな!!」
勇者「なに開き直ってんだコノ野郎!!じゃあ俺はそんな奴に先輩面されて指導されてたワケか!?」
ワン「だな!!」
勇者「だから何開き直って……」
ワン「……ぷっ」
勇者「……くっ」
勇者・ワン「だっはっはっはっ!!」
勇者「くくくっ……で、もう一つの秘密は?」
キラキラキラ……
ワン「あぁ……それがな、普通は0から呪文が使えるようになるまで早くて一ヶ月はかかるもんなんだ」
勇者「……え?」
ワン「だから十日でここまでできるようになったお前はすげー素質あるよ。お前は才能のないグズなんかじゃない!!胸を張れ!!」
勇者「……ワン……」
ワン「呪文の初歩しか教えられなくてごめんな……後は他の世界の勇者とやらに任せることにするよ」
勇者「うぅん……ありがとな……」
ワン「これからも呪文の修行は怠るなよ!?俺もお前に負けないように呪文の練習してもっとすげー呪文使えるようになるからよっ!!そんで竜王なんてパパッと倒してやる!!」
勇者「ハハッ、わかった♪俺も負けないぜ!!」
キラキラキラ……
ワン「……元気でな……勇者」
勇者「あぁ……ワンもな……」
勇者「あ、俺からも一つ言わせてくれ!!」
ワン「?」
勇者「無事竜の王を倒したらさ、その時は世界を救った勇者として堂々とローラ姫に告白しろよ!?」
ワン「な、ななな、何言ってやがんだお前!!お、俺は別に……!!」カァ
勇者「バレバレなんだよ、バカ」ニヤニヤ
ワン「ぐぬぬぬ……////」
勇者「な、漢と漢の約束だぜ?」
ワン「……わ、わかった」
勇者「じゃ指切りだ」
ワン「よし……」
勇者・ワン「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!!、と」
キラキラキラ……
ワン「勇者……」
勇者「なんだよ?」
ワン「俺はこの世界を救ってみせる……だからお前も自分の世界を必ず救えよ」
勇者「あぁ……!!」
キラキラキラ……
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
ワン「……また一人旅……か」
ワン「……じゃあな、勇者……」
――――???
勇者(……ここは……最初に来た星の海か……)
ルビス『第一の世界はいかがでしたか、勇者』
勇者「あぁ……ルビスか……一番目の勇者……ワンには呪文を教わったんだ……世の中俺の知らない不思議なことでいっぱいだなぁ……」
ルビス『そうですか、実りある十日間を過ごせたようですね』
勇者「……うん」
ルビス『では今は休みなさい、明日の朝になる頃次の世界へとあなたをいざないます』
勇者「わかった!!」
勇者(……なんか……)
勇者(夜空の中で寝るってのは不思議な感覚だなぁ……)
勇者(……zZzZ)
――――第二の世界
パッ
勇者「フゴッ!?」
ドシーン!!
勇者「あいだぁっ!!」
勇者「つつつ……なんつー起こし方だよ……ルビスの奴狙ってやってるんじゃねぇだろうな!!」ワナワナ
勇者「……まぁた森か……」
ガサッ
勇者「?」
???「ごきげんよう……あなたは?」ニコ
勇者「へ……?お、俺は勇者って者だが……」
???「勇者さん?勇ましいお名前ですのね」ニコッ
勇者「え……と、そりゃどうも」
勇者(ん……?聞き覚えのある台詞だな……しかもこの娘どこかで見たことあるような……)
勇者「……」ジッ
???「どうかなさいましたの?私のお顔に何かついてますの??」
勇者「あ、い、いや、そういうワケじゃ…………あ!!」
???「?」
勇者(そうだ!!ローラ姫だ!!この娘ローラ姫に似てるんだ!!)
勇者(……ってことはこの娘が……)
???(おーい、プリン~。どうかしたか~?)
プリン「あ、ツーさん!!」
ツー「ん?誰コイツ?」
勇者「青ずくめの服にゴーグル!!に、二番目の勇者!!」
ツー「???」
ツー「二番目ぇ?なんのことだ……?てかなんなんだお前?」
勇者「え……?あぁ……そうか……えっと……ちょっと握手してくれないか?」スッ
ツー「ハァ?いきなり握手してくれとか怪しすぎるだろ」
プリン「あら、いいじゃないですの、握手ぐらい。ほら」ピト
勇者「あっ」
プリン「なんともありませんわよ」フフッ
勇者(……あ、あれ?)
ツー「ム……プリンがそう言うなら……」ガッ
キィィィイイイン
ツー「くっ……頭ん中にコイツのことが……!?」
プリン「ど、どうしましたのツーさん!!」アセアセ
ツー「い、いや、大丈夫……なんでもない。そうか……勇者ってのか、俺はツー。よろしくな」
勇者「あ、あぁ、こっちこそよろしく」
勇者(プリン姫には何も起こらなかった……どうやらその世界の勇者にしか俺のことは伝わらないみたいだな……)
――――ツー一行のキャンプ
ツー「クッキー、遅くなってごめんな」
クッキー「ホントですよ~、一人で退屈だったんですよ?」
クッキー「一人じゃトランプもできないし……ん?こちらの方はどなたですか?」
ツー「ん、あぁ、詳しくは後で話すよ。ただこれから冒険はちょっと中断してな、俺はコイツに稽古をつけてやらなきゃならないことになったんだ」
クッキー「えー!?なんでまた!?」
ツー「だからそれも後で話すって」
クッキー「まぁ僕はのんびりできてそれはそれで良いですけどね~」
ツー(相変わらずののんびり屋だ)
クッキー「あ、今『相変わらずののんびり屋だ』って思ったでしょ?」
ツー「な、なんでわかった!?」ギクッ
クッキー「わかりますよ、なんだかんだで付き合い長いですからね」
プリン「フフフッ」
勇者「ぇえっと……」
クッキー「あ、僕はクッキー。クッキーでいいよ」
勇者「あ、俺勇者」ペコ
プリン「もうご存知と思いますが私はプリンと申します。プリンで構いませんわ」
ツー「んで俺がツーだ。みんなタメ口でいいぞ……っと、あぁそっか、悪ぃ悪ぃ。修行の話だったな、んーと……そうだなぁ……お前がどのくらいの力量なのか知りたいからな、軽く組手でもしてみるか!!」
勇者「く、組手!?」
ツー「そぅ、組手」
クッキー「お、これは面白そうですね♪」
プリン「ツーさーん、勇者さーん!!どちらも頑張って下さーい!!」
ツー「ほら、かかってきな。組手っつっても呪文もアリだぜ?本気で来な」ニッ
勇者「ぐっ……」
勇者(組手なんてしたことないや……昔友Bと喧嘩したくらいか……?)
勇者(しっかし……対峙してわかる……これが勇者の気迫!!命のやりとりでない闘いでさえ身体の隅々まで意識を集中しているのがわかる……スキがない……!!)ツー…
ツー「どうした、来ないのか?」ジリッ
勇者「くっ……いくぜ!!」ダッ
ツー(真っ正面から突っ込んでくるだけか……つまんない奴だな)
勇者「うおおおお!!」
ダダダッ
勇者「今だ!!」
勇者『イオッ』!!
カッ!!
ボウンッ!!
ツー「!? 呪文で視界を!?」
カツンッ
ツー「だけどな……物音で右から来るのが丸分かりだぜ!!」
ブンッ
ツー「!?」
コロコロ……
ツー「な、ただの石コロ!?」
勇者「もらったぁ!!」
ブワァッ!!
ツー(!! 呪文で正面の視界を遮り目眩ましをかけ横から攻撃するとみせかけ本当は爆煙を隠れ蓑に正面から攻める二重のフェイクか!!)
勇者「らぁぁ!!」
ドゴッ!!
勇者「勝負あっ……」
ツー「いい手だったが……こんなヘナチョコパンチ効くかよ」ニヤッ
勇者「なぁっ!?」
ツー「ふんっ!!」
ガンッ!!
勇者「ぶへぇいっ!!」
ドガンドガンドガン
バキバキバキ
ズズズーン
勇者「きゅう……」ピヨピヨ
ツー「あ、やべ……やりすぎた」アセアセ
クッキー「あーあ、ツーは馬鹿力なんですから、もぅ」
プリン「あらら、ですわ」
――――
ツー「いやー、悪かった。手加減って昔から苦手でさ、つい……な」アハハ
勇者「あの後プリンがベホマかけてくれたから良かったものの……一歩間違えた死んでるっつーの」ツーン
クッキー「笑いごとじゃありませんよ、ツー。まったく……で修行の内容は決まったんですか?」
ツー「あ、あぁそうだな。さっきの組手でわかったんだけどお前は全然筋力が足りてない。戦闘訓練・呪文の練習……これから何をやるにも筋力・体力は欠かせない。だから俺の受け持つ十日間は基礎ステータスの向上に努めようと思う」
勇者「うへぇ……基礎練かよ……」
ツー「なんだ、文句あんのか?」ゴキゴキッ
勇者「い、いえ!!何もありません!!」
ツー「よろしい。えーと、クッキー」
クッキー「なんですか?」
ツー「ちょっとローレシアまで飛んで貰えるか?」
クッキー「はぁ……僕はタクシーじゃないですよ……っと」
勇者「自分で飛べばいいじゃないか」
クッキー「あぁ、ツーは呪文が丸っきり使えないんですよ」
勇者「ぇえ!?勇者のクセに!?」
ツー「……」
勇者「……ぷぷっ」
ツー「……」ビキッ
ツー「いいんだよ、俺はその代わり力があるからなぁ!!」
グリグリ
勇者「ぎゃあああ!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
クッキー「大人気ないなぁ、もう」ハァ
プリン「楽しそうですね」フフッ
――――ローレシア城付近の山中
ツー「さてと、えーと……この石でいいかな……プリン、インクあるか?」
プリン「これでよろしいですか?」
ツー「サンキュー」
ピト
キュッキキュッキュ
ツー「これでよし!!」
勇者「?」
ツー「おい、勇者。この石を見ろ」
勇者「??? インクで"亀"って書いただけのただの石コロじゃないか」
ツー「よーく見てろよ……」
勇者「???」
ツー「むぅん……!!」
ビキビキビキッ
ムキムキムキッ
ツー「ちぇあぁッ!!」
ビュッ!!
ヒューーーン……
勇者「? 石を遠くまで飛ばす修行か?」
ツー「いや、今投げた石を拾ってくる修行だ」
勇者「ハァ!?」
ツー「いいか、物を探すって言うのはだな……」
勇者「いやいやいや!!ワッケわかんねぇよ!!この険しい山あんな小さい石コロ探せってのか!?そもそもこの修行どっかで見たことあるぞ!?」
ツー「つべこべ言わずに拾ってこい!!これは修行の第一段階だからな!!お前には時間がないってことを忘れるな!!さぁ行け!!」
勇者「~~~~~っ!!」
勇者「くっそ!!遭難したら探してくれよ!!」
ダダダッ
ツー「はいはーい。ここらへんは魔物もいないし修行にはもってこいだ、頑張れよ~!!」
クッキー「……さて、彼が何者なのか、どうして冒険を中断するのか、話していただけますね?」
クッキー「石探しなんて修行を押しつけてあなたが自分の時間を作ったのはそのためでしょうから」
ツー(コイツは変なとこで鋭いんだよなぁ……)
クッキー「今『コイツは変なとこで鋭いんだよなぁ……』って思ったでしょう」
ツー「な、なんでわかった!?」ギクッ
クッキー「なんだかんだで付き合い長いですから」ニコッ
プリン「うふふっ」
ツー「はぁ……ぇえっと……どこから話せばいいかな……っつっても俺は勇者のこと全部知ってるワケじゃないけどな」
クッキー「ふーん……なるホド、そういうことですか」
プリン「自分の世界を救うために別の世界へ行くだなんて……なんだかロマンチックですわね」
クッキー「こんなこと言いたくはありませんが、彼がハーゴンの手先というのは考えられませんか?僕達を作り話で油断させて隙をうかがっているとか」
ツー「いや、アイツに触れた時温かなものを感じた……あれは間違いなく精霊様の気配だ。そして優しい声でアイツのことを話してくれたんだ。だからってのも変かも知れないけど俺はアイツのこと信じるよ」
プリン「私も信じますわっ♪」
クッキー「はぁ……なんで二人はそうお人好しかなぁ」
ツー「なんだよ、お前はアイツのこと信じられないのかよ?」
クッキー「いいえ、そんなことないですよ。彼が悪い人でないのは目を見ればすぐに分かりましたから」ニコッ
ツー「じゃあいらんこと聞くなよ」ククッ
プリン「ふふふっ」
クッキー「透き通っていて真っ直ぐで、とても温かで……でも心のどこかに不安や悩み、苦しみが潜んでいる……そんな瞳でしたね」
クッキー「もしかしたら精霊様は力をつけるためだけに彼を修行の旅に出しただけじゃなく何か別の部分でも彼に成長して欲しくて僕達に彼の修行を頼んだのかも知れませんね」
ツー(コイツはたまにワケのわからんことを言う……)
クッキー「今『コイツはたまにワケのわからんことを言う……』って思いましたね?」
ツー「だからなんでわかるんだよ!!」ギクッ
クッキー「それは……」
プリン「『付き合いの長さ』ですね」クスクス
クッキー「おや、僕としたことが」ポリポリ
プリン「うふふっ」
クッキー「まぁさっきも言いましたけど僕はのんびりできて良いですけどね~……ツーも楽しめそうで良かったですね?」
ツー「んあ?」
クッキー「さっきの組手……およそ素人には考えつかない二段フェイント……彼、かなりの素質がありますから」
ツー「たしかに……な」ニッ
――――第二の世界・二日目・夜
勇者「た……ただいまぁ……」ヨロヨロ
ツー「お、お疲れ様」
勇者「だめだ……丸二日もかかっちまった……」ヘロヘロ
クッキー「いえ、むしろ二日で見つけてきたのは早かったと言えますよ。石が飛んでいった方向だけを手がかりに山中から小石を見つけてくるなんてよほど嗅覚の優れたどこかの戦闘民族の子供でもない限り数日かかりますからね~」
勇者「そ……そうかな」エヘヘ
ツー「なぁに照れてやがる。まぁ山中の小石探しってのは体力も集中力もフルに使うからな、良い修行だよ」
勇者「そっか……俺もうクタクタ……」ドサッ
ぐぎゅるるる~
勇者「腹も減ったし……」
ツー「ん、そうだな飯にするか……今日の晩飯当番は……」
プリン「はーい、できましたよー♪」
クッキー「……プリン……ですか……」タラ…
プリン「はい、勇者さんもたーんと召し上がれ♪」
勇者「め……飯だ……いただきまーす!!!!」
ガツガツガツ
勇者「………………!!」ドーン
プリン「どう?美味しいですか?」ニコッ
勇者「……と、とっても美味しいです」プルプルダラダラ
プリン「良かったですわ♪おかわりいっぱいありますからね~♪」
クッキー「……」ダラダラ
勇者「……クッキー?」ダラダラ
クッキー「……ん?」ダラダラ
勇者「……プリンの料理ってその……すごく個性的と言うか……前衛的と言うか……」ゲソッ
クッキー「……うん、言いたいことはわかりますよ……」ゲソッ
勇者「い、いつもこんな感じなのか?」
クッキー「えぇ……普段はなるべく料理は僕がやるようにしているのですが……たまにプリンが当番になる日がありまして……」
勇者「ルーラで町の宿屋にでも行って泊まればいいじゃないか……」
クッキー「そうしたいんですが……そうしない理由は二つあります」
勇者「二つ?」
クッキー「一つはルーラは街や城、任意の場所に瞬時に行くことのできる便利な呪文ですがそれ以外のところ……例えばサマルトリア南の森、ムーンブルク付近の砂漠……と言うように漠然とした場所に移動することはできないのです」
クッキー「ですから冒険者は冒険の最中にルーラで街に戻り宿に泊まるということはあまりせず野宿することが多いのです」
クッキー「聞くところによると勇者には修行の時間がないらしいですね。修行に適した今のキャンプ地に来るにはここから一番近いローレシアから歩いて来なければなりません。その移動時間の節約のためでもあります」
勇者「へぇ~……」
クッキー「そしてもう一つ……最大の理由が……あれです」
ガツガツガツ!!
ツー「おかわり!!」
プリン「はーい♪」
ツー「いやぁ、プリンの飯はいつ食っても美味いな!!」
プリン「ふふ、ありがと♪」
ガツガツガツ!!
ツー「またおかわり!!」
勇者「……嘘だろ……オイ……」
クッキー「ツーの味覚は常人の味覚とは著しく異なるらしく……プリンの料理を大絶賛して食べるのです……」
クッキー(とは言え美味しいものは美味しいと感じるらしいので『不味い』という認識が狂っているようですが)
勇者「……」
クッキー「……ですから僕の再三にわたる宿屋での宿泊の提案も『は?なんで?キャンプに不自由ないし別によくね?』で済まされる次第……」ウゥ
勇者「……つらかったんだな……」ウゥ
クッキー「……同じ苦しみを分かつことのできる友人ができて僕は嬉しいです……」グスッ
ツー「おーい!!お前らももっと食えよー!!」
プリン「そうですわ、遠慮することないですわよ~☆まだまだいーっぱいありますから♪」
勇者・クッキー「…………うん」ニコッ(泣
【この日、勇者とクッキーの間には同じ苦しみを乗り越えたことで確固たる友情が築かれたことは言うまでもない】
――――第二の世界・五日目
ツー「オラオラッ!!もっと速く走れ!!」
勇者「ぐぬぬ……!!無茶言うな……山道でしかもタイヤが重くて……ぐぅ……!!」
クッキー「勇者!!あの日の苦しみを忘れたのですか!!あの苦しみと比べたらこんなことなんでもないでしょう!!」
勇者「……!!」
勇者「ぅ、うぉおおおお!!」
ダダダダダダッ
クッキー「そうです勇者!!頑張って!!」グッ
ツー「なんかあの二人最近すげー仲良いよな……なんかあったのか?」
プリン「さぁ?でも良いことではありませんの?」ニコッ
――――七日目・夜
勇者「だぁ……今日もくたびれたぁ……」ドサッ
ツー「まぁ大分筋力も体力ついてきたよな、またプリンに頼んでラリホーでの熟睡とベホマでの体力回復だな」
勇者「うん……呪文って上手く使うと筋肉痛とかも治っちまうんだなぁ……ホントすごいや」
ツー「……なぁなぁ勇者、お前この世界に来る前は別の勇者に呪文の修行してもらってたんだろ?」
勇者「あれ?その話したっけ?」
ツー「最初にお前に触れた時にわかったんだ。だから俺は基礎ステータスの向上を修行にしたんだ」
勇者「なるホド」
ツー「んでさ、その勇者ってどんな勇者だったんだ?」
クッキー「僕も気になりますね」
プリン「私もですわ」
勇者「ぇーと……あ!!そうか!!そういやそうなのか!!ははーん、この時代はあの時代の後の時代だもんな~」
ツー「なんだぁ?」
勇者「ふむふむ」ジー
ツー「な、なんだよ」
勇者「ぅうむ」ジー
クッキー「な、なんですか?」
勇者「うんうん」ジー
プリン「どうしましたの?」
勇者「いや、お前らやっぱりワンとローラ姫に似てるな、と思ってさ」
ツー・クッキー・プリン「!?」
ツー「な、なんでお前がご先祖様の名前を知ってるんだよ!!」
クッキー「しかも会ったことがあるような口ぶりですね……」
プリン「もしかして……」
勇者「あぁ、前に俺に修行をつけてくれた勇者はお前達のご先祖様、アレフガルドを救った勇者、ワンだ!!」
――――夜更け
勇者「んでさ、アイツ姫様の前じゃ面白いぐらいオドオドしちゃってさ」ケタケタ
ツー「なんだそれ、伝承じゃ常に凛とした態度でローラ姫を魅了しやがて二人は恋に落ちたらしいぜ」
勇者「アイツ何嘘の伝承広めてやがんだっ!!」
一同「わっはっはっはっ」
クッキー「……まさかこうしてご先祖様の話を聞くことができるだなんて……これも精霊様のおぼしめしの賜物ですね」
プリン「そうですわね……」
勇者「あぁ……アイツは良い奴だったけどさ……ただ良い奴ってだけじゃなかったな……やっぱり『勇者』って感じだったな……」
ツー「……」
クッキー「……」
プリン「……」
ツー「『勇者』……か」
勇者「?」
ツー「……なぁ、勇者俺さ、呪文が使えないって話したろ?」
勇者「ん?あぁ」
ツー「だからさ、力だけは誰にも負けないように、呪文なんか使えなくても仲間の役に立てるように、ってずっと身体を鍛えてきたんだ」
クッキー「……」
プリン「……」
ツー「そんでさ、強さを求めていくうちに……いつのまにか力に飲まれちまった……」
勇者「……」
ツー「出会う魔物を叩き潰して、殺して、絶対的な勝利を欲した……」
ツー「んでさ、ある時……血まみれになった自分の拳を見て思ったんだよ」
ツー「これが『勇者』なのか?……って」
勇者「……」
ツー「魔物は悪……悪は根絶やしに……そうやって悪を殲滅する……それが勇者なのかよ?……って」
クッキー「……」
プリン「……」
ツー「そんなある日さ、森で魔物に襲われてる子供を助けたんだ」
ツー「そしたらその子がさ、魔物が怖くて涙流してたその子が、俺にニッコリ笑って言ってくれたんだ」
ツー「『ありがとう、お兄ちゃん』って……」
勇者「……」
ツー「そんで俺は思った……『あぁ……この笑顔が見たいから……この笑顔を守るために……俺は悪と闘うんだ……それが『勇者』なんだ』……ってな」
ツー「っつってもやることは前と変わってない。人々に害を及ぼさないように魔物を退治する……それが勇者の……俺達のやってること」
ツー「だけど……あの日から心の持ち方……何のために闘うのか、どうして闘うのか……それが俺にとって明確になったんだ……」
勇者「……」
ツー「もしお前がこれから自分のしてることがわかんなくなったら……『勇者』ってものがわかんなくなったら……お前の中の大事なもんに聞いてみたらいい……いつでもそこに答えがあるよ」
勇者「……ツー……」
ツー「……なーんてな!!脳筋の俺には似合わねぇ話だったかな」ハハッ
勇者「……やっぱりお前はワンに似てるよ……」
ツー「え?」
勇者「ワンもさ、俺が落ち込んでる時に道を指し示してくれたんだ……お前も俺に勇者の道を示してくれた……やっぱり血は争えねぇよな」
ツー「……かーっ!!ったく、ガラにもねぇ話して疲れちまったぜ!!今日はもう寝る!!」ガバッ
クッキー「フフッ」
プリン「うふふっ」
ツー「明日は地獄の方がまだマシって修行してやるから覚悟しとけよ!!」
勇者「うへぇ……そんなぁ」
――――第二の世界・十日目・夕方
勇者「298……」
勇者「299……」
勇者「ぐぬぬぬ……!!」
勇者「さん!!びゃぁくっ!!」
ドズンッ!!
勇者「ハァ……ハァ……」ゼェゼェ
ツー「……よく十日間俺の修行に耐えきったな」
勇者「……ったく、お前加減ってもん知らねぇんだもんな、何度死ぬと思ったことか……」
ツー「プリン、ベホマを」
プリン「えぇ」
プリン『ベホマ』!!
パァァ
勇者「ふぃ~……ふぅ……ありがと、プリン」
プリン「どういたしまして」ニコッ
ツー「さて……最後の修行だ……」
勇者「?」
ツー「もう一度俺と組手だ」
勇者「!!」
クッキー「勇者……あなたはこの十日で飛躍的に筋力・体力が向上しました。もう初日のように簡単にやられたりはしません」
勇者「……」
プリン「頑張ってね、勇者さん。今回だけはあなたの方を応援しますわ♪」
勇者「……ぁあ!!」
ザッ
勇者「よろしくお願いします」ペコッ
ツー「あぁ……」スッ
ジリ……ジリジリ……
クッキー「……はじめっ」
勇者「だぁっ!!」
ダンッ
クッキー(あの距離……初日には走って詰めていた間合いを一足飛びで詰めた……)
勇者「せぃ!!」
ビュッ
ツー「なんの!!」
ガッ!!
バッ!!
ブン!!
シャッ!!
ツー「どうした勇者!!こんな程度じゃないだろう!?」
勇者「へへっ、お前はどこのエリート王子だよっ!!」
ドゴッ!!
勇者「くっ!!」
ズザザー
勇者(よし、覚えたてのコイツで……!!)
勇者『ベギラマァ』!!
ボウゥ!!
クッキー「!! 中級呪文のベギラマ!!広範囲を焼く炎ですか!!」
ツー「甘いぜ!!破ァ!!」
ブンッ!!
ブワァッ!!
プリン「か、かき消した!?」
プリン(何者ですの!?)
チリチリチリ……
ツー(……いない!?)
勇者「後ろだ!!」ザッ
ツー「な……!!」
勇者「もらったぁ!!」
ツー(威力のあるベギラマは攻撃と見せかけ本命は目隠しとしての陽動!?)
勇者「おぉぉらぁぁぁ!!」
ドゴオッ!!
勇者「どうだぁ!!」
ツー「……」ニッ
ガシッ
勇者「なっ!!」
ツー「初日とは全然違う……良いパンチだったぜ」
ツー「はぁ!!」
バキィッ!!
勇者「ぐっはぁぁぁ!!」
ドゴンドゴンドゴンドゴンドゴン!!
バキバキバキバキバキ!!
ズズズズズーン!!
勇者「っつつ……だめだ、やっぱり敵わねぇや」苦笑
ツー「でもお前は強くなったよ」
ツー「さっきのフェイントもパンチも良かったし……何より俺が本気の30%で殴っても気絶してない!!」
勇者「こ、これで30%かよ……」ゾッ
クッキー「ツーの馬鹿力は底なしですからねぇ」ククッ
勇者「……ったく、敵わねぇや、ホント」ヘヘッ
ツー「ほら、立てよ」スッ
勇者「……ありがとう」ガッ
キラキラキラ……
ツー「!?」
プリン「こ、これは……!?」
勇者「あちゃー、もうお別れの時間か……どうやら十日目の日が沈むまでがタイムリミットみたいだ……」
キラキラキラ……
クッキー「勇者……」
プリン「勇者さん……」
キラキラキラ……
ツー「……勇者……」
ツー「これからもちゃんと身体鍛えるんだぞ!!お前はまだまだ強くなれる!!俺が保証する!!」
勇者「ありがとう、ツー……」
クッキー「短い間でしたが楽しかったです……勇者……」
勇者「クッキー……」
プリン「どうかお体にお気をつけて……」
勇者「プリン……」
キラキラキラ……
ツー「勇者、お前は呪文も使えるし闘いのセンスもある、だから他の勇者のところでもっと修行してもっともっと強くなれ!!俺は呪文は使えないけど……俺なりの闘い方見つけてもっと強くなってみせるぜ!!」
勇者「ハハッ……それ以上強くなってどうすんだよ」
ツー「……行ってこい、勇者」
勇者「あぁ……」
キラキラキラ……
勇者「あ、ツー……最後に一言」
ツー「……?」
勇者「お前は間違いなく『勇者』だ!!胸張って自分が信じた道を仲間と突き進めよ!!」
ツー「……あぁ!!ぁぁ!!そうするとも!!」
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
ツー「行っちまった……」
プリン「短い間でしたが本当に楽しかったですね……」
プリン「勇者さん……自分の世界を救えると良いですね……」
クッキー「えぇ……さぁ、僕達は僕達の世界を救うために進みましょう。とんだ寄り道をしてしまいましたしね」
クッキー(でも……たまには寄り道も良いものですね……)
ツー「今『でも……たまには寄り道も良いものですね……』って思っただろ?」
クッキー「な、なんでそれを!?」ギクギクッ
プリン「長い付き合いですものね、私達♪」
ツー「そーゆーこった♪」
クッキー「……まったく、敵わないなぁ」苦笑
――――星の海(勇者命名)
ルビス『お帰りなさい……勇者』
勇者「あぁ……ただいま、ってここに住んでるワケじゃないのにただいまってなんか変だな」
ルビス『フフッ、たしかにそうですね……二番目の勇者とはどのような修行を?』
勇者「あぁ……ひたすら筋トレしたり走らされたり……キッツかったぁ……でも見てくれ、この筋肉!!」
ムキッ
ルビス『素敵ですね……さぁお休みなさい、明日は第三の世界への旅立ちです……』
勇者「うん……おやすみ……」
勇者「……zZzZ」
――――第三の世界
パッ
勇者「……はっ!!」
???(!! ひ、人!?)
勇者「のわわわわ!!」
???(えーと、えーと、う、受け止めなきゃ!!)
ドシーン!!
???「きゃっ!!」
勇者「あつつつ……くそ、いい加減にしろよ……今度戻ったらちゃんと言わないと……」
勇者「暗いな……ここは洞窟かなにかか?」ムニュ
勇者「……?」ムニュ
勇者「……!!」
???「きゅう……」グルグル
勇者「うっわーーー!!な、ななな、なんで下に女の子がぁ!?」
カッカッ
???「この洞窟広いなぁ……僧侶ー、そっちはどうだ~?」ヒョコ
勇者「!!」タラー
???「!!」ギョッ
僧侶「きゅう……」
???「な、ななな、お前!!僧侶に乗りかかって何してやがる!!」
勇者「わ、ちょっ、まっ!!これは誤解だ!!」
???「うるさーい!!」
ゴウッ!!
???「どうしました?戦士?何やら騒がしいですが……」コッコッ
戦士「コイツが僧侶にあられもない仕打ちを……!!」
僧侶「きゅう……」
勇者「ま、待ってくれ!!これにはワケが!!」
ブンッ!!
勇者「わっ!!」
賢者「ほぅ……私達スリー一行の仲間を襲う愚か者ですか……わかりました、手加減はしませんよ!!」
戦士「オラァァァ!!」
ブンッ
勇者「ひぃっ!!」
賢者『メラゾーマ』!!
ゴウゥゥウ!!
勇者「あつあつっ!!あつ!!」
???「どうしたんだ、さっきから……」コッコッ
賢者「スリー様!!この者が僧侶に狼藉を!!」
スリー「ろ、狼藉!?」
勇者「た……助けてーー!!」
戦士「逃がさん!!」
スリー「…………」
スリー「…………やめろ」
賢者「……はい?」
スリー「やめろって言ってるんだ」
賢者「は、はぁ……」
スリー「まったく……賢者ともあろう者が情けないぞ?」
賢者「な、何がですか?」
スリー「彼の目をよく見てみろ、一片の濁りもない透き通った瞳だ」
スリー「あれは悪人の目じゃない」
賢者「……」
スリー「……っと」タンッ
戦士「うおおぉ!!」
勇者「ああああああ!!」
ガッ
スリー「そこまでだ、戦士」
戦士「ス、スリー!?」
スリー「彼は悪者じゃない、僧侶のことはきっと何かの間違いだろう。俺に免じて許してやってくれないか?」
戦士「むう……スリーがそう言うなら……きっとそうなんだろうな、うん」スッ
スリー「大丈夫か?」
勇者「あ……あ……!!」
スリー「?」
勇者「黒髪に額飾り、そしてマント!!」
勇者「アンタが三番目の勇者にして伝説の勇者ロトか!!!!」
スリー「ロト?人違いじゃないのか?」
スリー「まぁいいか、それにしても君はいつまでそこにへたりこんでるつもりだい?」クスッ
勇者「へ……?」ヘタッ
スリー「ほら、手を貸して」スッ
勇者「あ……」
グイッ
キィィィイイイン!!
スリー「っつう……なんだこれは……君の事が頭に……!!」
賢者「ゆ、勇者様!?」
スリー「だ、大丈夫」
賢者「貴様、やはりゾーマの手先か!!」
スリー「だからなんでもないってば、やめやめ」ハァ
スリー「ふぅん……そうかそうか」ジー
勇者「???」ゴクッ
スリー「ま、こんな暗くてじめじめところで話すのもなんだ、一旦外に出てそこでゆっくり話そう」
スリー「僧侶の手当てもしないとね」
僧侶「きゅう……」
――――洞窟外の森・スリー一行のキャンプ
戦士「がはははっ、なんだそんなことがあったのか、勘違いして悪かったな!!」バシンバシン
勇者「……ったく……なんで違う世界に来た時はいつも面倒ごとに巻き込まれるかな……」イライラ
僧侶「そ、その、ごめんなさい!!わ、わたしのせいで勇者さんが危ない目に遭ったそうで……わたし……」ウルウル
勇者「え、あ、う、……い、いやいや、全然気にしてなんかないよ、うん!!」
スリー「……」クスクスッ
賢者「……」ムッ
賢者「しかし……にわかには信じられません。この者が別の世界の……しかも勇者だなんて……」ジー
勇者「そう言われてもなぁ……」
スリー「人をあまり疑うのはよくないぞ、賢者。それに俺が聞いた精霊様の声が動かぬ証拠さ」
賢者「……えぇ……スリー様が信じろと仰るその一点でのみ私は今回の話を信じるに値する話と判断したのです」プイッ
勇者(……感じ悪いなぁ)
勇者「えーと、改めまして勇者です。短い間ですがよろしくお願いします」ペコ
スリー「俺はスリー。アリアハン出身の勇者……ってことになってるけど……まぁただの旅人ってとこじゃないかな?」ハハッ
スリー「彼が戦士。力自慢って奴だね。少し考えナシの行動が過ぎる熱い奴だけどとっても良い奴だ。俺達の兄貴分と言って良い感じかな」
戦士「よろしくな、坊主。戦士でいいぞ」
スリー「こっちは僧侶。我がパーティの回復主任だ。慌てん坊な上にそそっかしくてドジばかりだけどとっても優しい娘だよ。料理がすごく上手だから楽しみにしてろよ♪」
僧侶「な、なんだかスリーさんにそう言われると照れちゃいますぅ……////その……よろしくお願いします。わたしも僧侶、でいいです」
スリー「そして彼女が賢者。攻撃呪文も回復呪文も難なく扱う呪文のエキスパートさ。彼女の冷静さにはいつも助けられている。クールだからちょっと付き合いづらいかもしれないけど根は良い娘だから、勘違いしないでくれよ」
賢者「……賢者です」ツーン
勇者「はぁ~……なんか『結束感抜群のパーティに信頼感抜群の勇者』って感じだなぁ……」
スリー「ハッハッハ、褒めても何も出ないぞコイツゥ」
戦士「そうだぞ、坊主」ガッハッハッ
僧侶「ウフフッ」
賢者「……」ムスッ
スリー「さて、俺の修行だが……呪文の基礎と基礎体力作りはやったんだよね?」
勇者「うん」
スリー「ん~……じゃあ……実践訓練といこうか!!」
勇者「実践訓練と言うと……」
スリー「うん、魔物との戦闘さ」
僧侶「ま、まだ早くはないでしょうか!?その……危ないような……」
スリー「なぁに、まずは弱い魔物から慣らしていって段々と強い魔物にしていけばいいさ」
戦士「でもよぅスリー……」
スリー「それに俺達だって"魔物戦闘訓練"みたいものを受けたワケじゃないだろ?いきなり冒険に出てなんだかんだで闘ってきて、今みたいにうまくやれるようになったんじゃないか」
スリー「習うより慣れろ。今の彼なら中級モンスターぐらいなら倒せるだろうしね」
スリー「……あ、そうだ、素手はキツいな……えーと、ふくろフクロ……」ガサゴソ
スリー「ん、あった!!これでいいかな!!うん、刃も綺麗だし問題ないな」
スリー「ほらっ」ポイッ
勇者「わっ」パシッ
スリー「しばらくはそいつで闘うといい、メチャクチャ強力な武器ってワケじゃないけど八岐の大蛇って蛇の化け物の尻尾から出てきた業物、草なぎの剣だ」
勇者「……」
スラァ……
キラン
勇者「か、かっこいーー!!」
僧侶「とってもお似合いですよ♪」
戦士「あぁ、様になってやがるな!!」
勇者「そ、そうかなぁ」テレッ
賢者「スリー様、いくらなんでもあんなレアアイテムを授けることないのでは……」
スリー「だって俺には王者の剣があるし戦士には雷神の剣があるだろ?使わないもの大事に持ってたって仕方ないって」
賢者「ですが……」
スリー「まぁまぁ」
スリー「じゃ、まずは初級者コースからだ、みんな集まって……」
スリー『ルーラ』!!
――――アリアハン付近の森
スリー「よーし、いいか勇者。モンスターを倒すとモンスターメダルってのをたまに落とすんだ」
スリー「金銀銅の3種類があるんだけどね、どれでもいいから『大烏』『大ありくい』『魔法使い』『ホイミスライム』『バブルスライム』、この五匹のモンスターメダルをとってきたらこの初級ステージはクリアだ」
勇者「ぉお!!」
スリー「ステージをクリアしたら次のステージってゲーム形式で面白そうだろ?」
勇者「うんうん!!」
スリー「もしもの時のために戦士と僧侶もついていってやること」
スリー「ただしお前達が闘ったんじゃ勇者の修行にならないから勇者がどうしても危なくなった時に助けに入るだけだ、分かったか?」
戦士・僧侶「了解!!」ビシィッ
スリー「じゃ、気をつけて行っておいで、俺と賢者はここにキャンプの用意をしとくから」
勇者「はーい!!」
ダダダッ
戦士「あ、待て坊主!!」
ダダダッ
僧侶「あ、あ、2人とも待って下さぁ~い!!」
タッタッタッ
スリー「うーん、昔を思い出すなぁ……とは言えたかが一年前か」笑
賢者「……」
スリー「不服そうだね、賢者」
賢者「えぇ、いつ世界が大魔王ゾーマの手に落ちるかもしれないと言うのに十日も油を売るなどとは……私達は一刻も早くゾーマを倒し世界に平和を……!!」
スリー「まぁまぁ、そう焦らないの」
スリー「怒ってたんじゃせっかくの可愛い顔が台無しだ」
賢者「ななな……!!……も、もぅ!!////」カァ
スリー「それにこれはただの道草じゃないよ?」
賢者「……?」
スリー「人に何かを教えるってことは実は教える側の方が得るものが多いものなんだ。俺達もこの十日で得るところがあると思うな」
賢者「……」
――――夜
スリー「やぁ、おかえり。成果はどうだった?」
勇者「ん~……可もなく不可もなく……」キョロキョロ
戦士「どっちかっつったら不可だな」ガハハ
勇者「うるさいな!!」
スリー「そっか、メダルはどうだい?」
勇者「大ありくいの銅が一枚だけ……」
スリー「ふむふむ……思った通りだね」
勇者「?」
スリー「俺は適当に五匹の魔物を選んだワケじゃないんだ」
スリー「『大ありくい』……コイツは難なく倒せるだろうと思ってオマケとして入れたけど」
スリー「勇者、君は大烏との戦闘では攻撃が空を飛ぶ大烏に当たらずに仕止められないことが何度もあったんじゃないかい?」
勇者「!!」
スリー「魔法使いとの戦闘では間合いを詰めようとしてメラを食らったり……バブルスライムとの戦闘では攻撃しても相手に避けられたり……ホイミスライムとの戦闘ではダメージを少し与えてもふわふわした相手の動きが読めずにいるうちにホイミで体力を回復された……どうだい?」
勇者「……」ポカーン
僧侶「すごーい、全部当たってますぅ!!」
勇者「な、なんでわかったんだ!?」
スリー「それは簡単さ」
勇者「?」
スリー「俺も昔はそうだったからね」ニコッ
勇者「え?」
スリー「剣で相手を斬りつけようとただがむしゃらに相手に突っ込んでいった……でもそれだけで勝てるようなもんじゃないんだ」
スリー「大事なのはね、相手の隙を如何にして突くかってことさ」
スリー「これはどんな戦闘でも大事なことだよ、ただ考え無しに闘っては駄目だ」
スリー「それに君……今日呪文は使ったかい?」
勇者「あ……」
スリー「君に剣を与えたのは"剣での闘い"を意識させるためでもあったんだ」
スリー「もし君が素手で魔物を倒してこい、って言われたら君は間違いなく呪文を使っていただろうね」
スリー「戦闘において使える手は決して一つじゃない。自分の持てる手札を全て使って最善の闘いをする……これが闘いってものさ」
勇者「…………」
スリー「ま、長くなったけど『相手の隙を突く』『自分の使える手段をフルに使う』これを意識して明日は闘ってごらん?」
勇者「お、おうっ!!」
戦士「ガハハハ、お前の師匠役もなかなかのもんだな♪」
僧侶「スリーさんかっこいいですぅ……////」パァ
スリー「まったく、二人とも茶化さないでくれよ」ハハッ
賢者「……」
勇者(す……すげぇ……すげぇぇ!!これが伝説の勇者か!!)
スリー「さ、ご飯にしようか。僧侶、よろしく頼むよ」
僧侶「は、はひ!!」ビシィッ
――――深夜・スリー一行のキャンプ
勇者「ふっ、ふっ」
勇者「198……199……200っと!!」
勇者「ふー、今日の筋トレはおしまいっと」
勇者「次は呪文の練習……ってあんまりうるさくするとみんな起きちゃうかな、小さめに小さめに……」
勇者『メラミ』ボソッ
しーーん
勇者「あちゃー、まだメラミは出ないか~」
賢者「……」ジッ
勇者「賢者みたいなメラゾーマが使えるのはいつになるかなぁ~」
賢者「……」
スリー「勇者のこと気になるのかい?」ヌッ
賢者「……!!」ドキーーン
スリー「ん?」ニコッ
賢者「わ、私はその……寝つけなかっただけです!!おやすみなさい!!」
スリー「ふふふっ、やっぱり"良い娘"だね、賢者は」クスクス
勇者『バギマ』ボソッ
ビュオッ
スリー「やぁ、夜中まで精が出るねぇ」
勇者「あ、スリー!!」
スリー「呪文の練習かい?」
勇者「うん……ほとんどの呪文の契約はしたんだけどさ、まだまだ使えない呪文ばっかりだから」
スリー「ふ~ん……勇者はデイン系の呪文は使えるかい?」
勇者「デインって言うと……雷?」
スリー「そう、昔からねデイン系の呪文は勇者だけが使える呪文なんだ」
勇者「へぇ~……」
スリー「だからデイン系が使えるのは勇者の証ってことさ、君も早く使えるようになるといいね♪」
勇者「……あぁ!!」
スリー「ま、明日も早いし今日はもう寝なさい」
勇者「ん、おやすみスリー!!」
――――第三の世界・二日目・昼
スリー「さてと、ボチボチキャンプを片づけようかな」
賢者「今……ですか?」
スリー「うん、多分そろそろだと思うし……」
賢者「はぁ……」?
ダダダッ
勇者「スリー!!見てくれ!!言われた通りに残りの四匹のメダルもとってきたぞ!!」ニパッ
賢者「……!!」
賢者(もう……!?)
スリー「おー、すごいな、俺が思ってたよりずっと早かったよ♪しかもバブルスライムは銀メダルじゃないか」
勇者「へへっ♪」
タッタッタッ
僧侶「はぁ……はぁ……やっと追いついた……」コテン
戦士「お前にも勇者の勇姿を見せてやりたかったぜ」
勇者「相手の攻撃の後、攻撃の最中、とかに隙ができるのがわかってさ、反撃の時にそのタイミングを見切れるようになったんだ!!」
勇者「そしたらすげーうまくいってさ!!」
勇者「あとあと、呪文で態勢崩して隙作ったりしてさ!!」
勇者「全部スリーのアドバイスのおかげだよ!!」ニカッ
賢者(……ただの雑魚魔物を倒しただけなのにあんなに嬉しそう……)
スリー「そっか、でも飲み込みの早い勇者もすごいぞ♪」
スリー「さ、キャンプを片付けて次の場所に向かおうか」
勇者・戦士・僧侶「おー!!」
――――第三の世界・四日目・ダーマ神殿付近の山中
【メタルスライム達が現れた】
勇者「えーと……いっぱいいる敵をまとめて倒すには……これだ!!」
勇者『イオラッ』!!
【メタルスライムAにはきかなかった】
【メタルスライムBにはきかなかった】
【メタルスライムCにはきかなかった】
【メタルスライムDにはきかなかった】
【メタルスライムEにはきかなかった】
【メタルスライムFにはきかなかった】
勇者「あ、あれ~!?嘘ぉ!!」
戦士「がっはっはっはっ!!そいつらには呪文は効かねぇよ!!」
勇者「な……そんな魔物もいんのかよ!?」
勇者「じゃあ……」
勇者「だあああ!!」
ガキン!!
【ミス!!メタルスライムCはダメージを受けない!!】
勇者「かってぇぇぇ!!」ジンジン
僧侶「うふふっ、しかも早く倒さないと……」
【メタルスライムAは逃げ出した】
【メタルスライムBは逃げ出した】
【メタルスライムCは逃げ出した】
【メタルスライムDは逃げ出した】
【メタルスライムEは逃げ出した】
【メタルスライムFは逃げ出した】
【メタルスライム達いなくなった】
勇者「えーーー!?」
戦士「がっはっはっはっ!!」爆
僧侶「うふふっ」
勇者「くそー!!待ちやがれ畜生!!」
ダダダッ
戦士「おっと、勇者を追いかけねぇとな」
僧侶「あ、は、はい!!」
タッタッタッ
戦士「なぁ……僧侶?」
僧侶「はい?なんですか?」
戦士「なんか……アイツ見てると懐かしい気持ちにならないか?」
僧侶「戦士さんもそう思います?」クスッ
戦士「あぁ……さっきのメタルスライムにイオラとか昔のスリーそのまんまだろ?」
僧侶「そうですね……」シミジミ
戦士「……ここ……ダーマの近くだよな」
僧侶「はい……それがどうかしました?」
戦士「いや……昔賢者が転職したての頃にキャンプからはぐれたことがあったなぁ……って」
僧侶「でも賢者ちゃんは何事もなくスリーさんと帰ってきたじゃないですか」
戦士「そうだっけ?」
僧侶「そうですよぅ、たしか賢者ちゃんは一人で近くを散策しに行って……」
僧侶「帰りが遅いから賢者ちゃんを探しに行ったスリーさんが迷子になってしまって……」
僧侶「それで逆に賢者ちゃんにスリーさんが助けられたんですよ」
戦士「よく覚えてやがるな」
僧侶「だって2人きりとかうらやま……はぅ!!」
戦士「裏山?」
僧侶「な、なんでもないですぅ!!」
戦士「しっかしよぅ……あの日以来賢者って……付き合い悪くなったっつーかなんつーか……冷たくなったよな……」
僧侶「うん……別に普通に話せるけどなんだか近寄り難い空気かも……」
戦士「……わかるなぁ……」
僧侶「わたしのこと僧侶”ちゃん"って呼んでくれなくなっちゃったし……」
戦士「そういや俺も呼び捨てに……ってあれ?勇者は……?」タラー
僧侶「はわわ……み、見失っちゃいました」タラー
――――ダーマ神殿付近・スリー一行のキャンプ
スリー「ん~、メタルスライムを狩るのには流石に骨が折れるだろうなぁ」
賢者「えぇ、たしかにその通りですね」
スリー「よっと、しばらく暇だろうから俺もそこらへんブラブラしてくるね」
スリー「賢者は留守番よろしくっ」
スタスタスタ……
賢者「はいっ!!」
賢者(……)
賢者(……ここ……あの時の……)
――――賢者の回想
賢者「うぅ……ま、迷子になってしまったわ……」
賢者「スリー様ぁー、戦士さーん、僧侶ちゃーん、どこー!?」
しーーん
賢者「……」クスン
ガサッ
賢者「スリー様!?」ガバッ
豪傑熊「ガオォォォ!!」バッ
賢者「きゃあっ!!」ビクッ
豪傑熊「グルルル……」
賢者「ど、どうしよう……」
賢者「転職したてだから私すごく弱いし……こんな魔物まだ一人じゃ……」ビクビク
豪傑熊「ガァッ!!」
ドガッ!!
賢者「ひゃっ!!」ペタン
賢者「あ……あ……腰が抜け……」ガクガク
豪傑熊「グルルルゥ……ガアァァァ!!」
賢者「きゃーーー!!」
『ライデイーーン』!!
ズガーン!!
バリバリバリ!!
豪傑熊「ギャウン!?」
スリー「でやっ!!」
タンッ
ビュババババ!!
スタッ
豪傑熊「クゥン……?」
スリー「……ごめんね、熊さん」
豪傑熊「!!」
ズバババババッ!!
ドサッ……ズズーン
賢者「……ス、スリー様ぁ!!」
勇者「大丈夫だったかい?賢者?」ヨシヨシ
賢者「ご、ごめんなさい!!私……私……!!」
勇者「いいんだ、無事で何よりさ」ニコッ
賢者「…………はい」ウゥ
勇者「さ、キャンプに帰ろ?」
――――賢者の回想・スリー一行のキャンプ
スリー「やー、ただいまぁ!!」
戦士「遅ぇぞスリー!!」
僧侶「賢者ちゃんもー、心配したんですよ?」
賢者「ごめんなさい……」
スリー「いやぁ、賢者探しに行ったつもりが俺が迷子になっちゃってさ、賢者に助けられちゃったよ!!」ナハハ
賢者「え!?違……」
スリー「しー……、な?」ボソッ
戦士「がっはっはっ!!スリーらしいなぁ!!」ゲラゲラ
僧侶「もぅ、スリーさんったら」クスクス
スリー「いやぁ、失敗失敗」アハハ
賢者「……」グッ
賢者(私は……守られてばかりいてはいけない……スリー様をお守りできるように……いえ、世界にいち早く平和をもたらせるようにならないと……!!)
賢者(常に毅然とした態度で……常に冷静に……強くあらねば……!!)ググッ
――――第三の世界・四日目・ダーマ神殿付近の山中
勇者「だーめだ、見失った……」
勇者「あれ?戦士と僧侶は?」キョロキョロ
勇者「やべーな、早く戻らな……」
スカイドラゴンA「ガオオ!!」
スカイドラゴンB「グルルル!!」
スカイドラゴンC「ギシャア!!」
勇者「な、なな……空飛ぶドラゴン!?」
勇者「コイツらは流石にヤバいんじゃないか……!?」ツ…
勇者「……いや、でもここ数日で俺も大分強くなった!!やってみせるぞ!!」グッ
スカイドラゴンB「ゴアァ!!」
ボウゥ!!
勇者「!! 火炎の息か!!」
勇者『ヒャダルコ』!!
パキパキパキ
ジュワァ……
スカイドラゴンA「ガルル!!」
ビュワッ
勇者「よっ!!」タンッ
スカッ
スカイドラゴンA「ギャウ!?」
勇者「オラァ!!」
ヒュバッ!!
ズバッ!!
スカイドラゴンA「ギャウ!!」
勇者「げ……あんまり聞いてない!?」
スカイドラゴンA「グアア!!」
ビュッ!!
勇者「わっ……と!!」
ガキン!!
ギャリリリリ!!
勇者「くそ、怒らせただけになっちまったか!!」
スカイドラゴンB「ギャウ!!」
ブンッ
勇者「ほっ!!」ヒョイ
スカイドラゴンC「グアアア!!」
勇者「しまった!!もう一匹……」
ドカン!!
勇者「ぐっは……!!」ビキビキ
勇者「ぐ……効くぅ……」ヨロ
勇者『ベホイ…』
スカイドラゴンA「ガァァ!!」
バキィ!!
勇者「ぐあああ!!」ドサッ
勇者「ハァ……ハァ……こりゃヤバいな……」
勇者「逃げときゃ良かっ……」
スカイドラゴン達「ガアァァァ!!」
『ギガデイン』!!!!
ズガガガーーーン
バリバリバリバリバリバリ!!!!
スカイドラゴン達「ギャウーーン!!」
ドザドサドサ
ズズズーン
スリー「いやー、危ないところだったなぁ」スタッ
勇者「ス、スリー……」
スリー「スカイドラゴンはこの先の塔にしか出てこないハズなんだけど……まさか山にも出てくるとは……」
スリー『ベホマ』!!
パアァァ
勇者「う……た、助かったぁ……ありがとうスリー」
スリー「いや、いいってことさ。でも今回は俺が助けに来られたから良かったけど自分より強い相手と闘うことになったら逃げるのも大事な選択だからね?」
勇者「……うん」
スリー「……なんだか昔を思い出すなぁ……」
勇者「?」
ダダダッ
戦士「あー!!やっぱりスリーだ!!」
僧侶「雷が落ちたからそうだと思ったんですぅ」
スリー「まったくお前達は……下手すりゃ勇者は死ぬところだったんだぞ?」
戦士「面目ない」ポリポリ
僧侶「ごめんなさいですぅ……」シュン
スリー「勇者も勇者で勝手に一人でつっ走ってはダメだ」
勇者「……うん、ごめん……」
スリー「罰として三人は晩ご飯抜き!!」
勇者・戦士・僧侶「ぇえーーー!?」
――――第三の世界・四日目・夜・スリー一行のキャンプ
戦士「ぅう……」グギュル~
僧侶「ひぇ~ん」ギュルル~
賢者(…………)スースー
――――ダーマ神殿付近の草原
勇者「はぁ……」トボトボ
スリー「やぁ、夜の散歩かい?」
勇者「ス、スリー!?」ビクッ
スリー「夜も魔物は出るから危ないよ?」
勇者「うん……でもここらへんは見渡しも良いしいきなり襲われるなんてことはなさそうだ」
スリー「そうだね……よっ」ゴロン
勇者「?」
スリー「勇者も横になってごらんよ、星が綺麗だよ?」
勇者「……」ゴロン
勇者「……ホントだ……」
スリー「……何か悩み事があるみたいだね?」
勇者「……どうして……」
スリー「俺も何か悩みごとがあると一人でブラブラしたりするからね、君もそうかと思って」
勇者「ハハッ……スリーはなんでもお見通しだな……」
スリー「……」
勇者「……ここ最近魔物と闘ってきてさ、力がついてきたなー、って自分では思ってたんだけどさ……」
勇者「今日のスカイドラゴンにはボコボコにやられちまった……」
スリー「……」
勇者「でも俺が手も足も出ない魔物もスリーは一発で倒しちまうしさ……」
勇者「なんて言うか……『これが世界を救う勇者なのか』って思い知らされたって言うか……俺ってまだまだ勇者なんかになれないんだな……ってさ」グッ
スリー「……」
勇者「……」
スリー「……勇者、君は『勇者』ってなんだと思ってるんだい?」
勇者「……え?」
勇者「そりゃ……悪の親玉を倒して世界を平和に導くヒーローじゃないか?」
スリー「君はおかしなことを言うね?」ニコ
勇者「??」
スリー「君が今言ったじゃないか、『悪の親玉を倒して世界を平和に導く』のは『ヒーロー』なんだよ」
勇者「あ……」
スリー「じゃあ勇者ってなんだい?」
勇者「……」
スリー「いいかい……『勇者』っていうのは『勇気ある者』のことさ、それ以上でもそれ以下でもない」
勇者「勇気ある者……」
スリー「そう、世界を救うの人間が勇者ってワケじゃないのさ」
スリー「巨悪に立ち向かう勇気……人々を守ろうとする勇気……新しいことを始めようと一歩踏み出す勇気……自分の気持ちを相手に伝えようとする勇気……」
スリー「そんな勇気を持つ者……それが勇者さ」
スリー「だから勇者は一人なんかじゃない、百人……千人……いや、もっともっといる。勇者は世界中に沢山いるんだよ」
勇者「……」
スリー「俺は『勇者』って人々から呼ばれてるけど……戦士も、僧侶も、賢者も……みんな勇者さ……勿論君もね?」
勇者「……」
スリー「だから強い人間だけが勇者じゃない」
スリー「どんなに小さくても君の心に勇気の火が灯っている限り、君は間違いなく勇者さ」
勇者「……そっか……ありがと……なんか勇気が沸いてきた」ニッ
スリー「それは良かった」ニコッ
勇者「俺もスリーみたいな勇者になってみせるよ♪」
――――第三の世界・九日目・メルキド付近の森
勇者「じゃあ行ってくる!!」
スリー「あぁ、お前達二人もちゃんとついていってやるんだぞ」
戦士・僧侶「合点承知!!」
タッタッタッ
スリー「いや~、しかし元から実力があったとは言え九日でアレフガルドの魔物と戦えるようになるとはなぁ……本当にたいしたもんだ」
賢者「しかしここの魔物達は地上の魔物達とは比べ物にならないくらい狂暴です」
スリー「うん、だからここでは戦士と僧侶の三人で闘うように言ってある。まぁあの二人がいれば大丈夫だろう」
賢者「……そうですね……では私は飲み水を汲みに行って参ります」
スリー「ん、あぁすまない」
賢者「いえ……」
テクテク
――――川
バシャッ
賢者「結局とんだ道草を食うことになってしまった……スリー様は何をお考えなのか……」ハァ
???「ヒィーッ、ヒッヒ」
賢者「誰!?」バッ
バシャッ
コロコロコロ……
エビルマージ「まさかスリー一行の一人がこうして呑気に孤立するとは……やはり監視をつけておいて正解じゃったわい」
賢者「!! ゾーマの手先か!!」
エビルマージ「いかにも……さて、賢者よ……死んでもらうぞ!!」
賢者「スリー一行を舐めないことね、私一人でも貴方を倒すなんて造作もないことよ」
エビルマージ「誰がわし一人だと言った?」
賢者「!?」
エビルマージ『バシルーラ』!!
賢者「くっ……!!」
ビューーーン
――――岩山
ビューーーン……
クルッ
スタッ
賢者「ここは……」
フッ
エビルマージ「ようこそ賢者……ここはのぅ……」
魔物の群「ケケケケ……!!」
わらわら
うじゃうじゃ
賢者「……なんて数!!」
エビルマージ「貴様の墓場じゃあ!!」
エビルマージ「かかれっ!!」
魔物の群「ケケーーー!!」
ドドドドドドッ!!
賢者「……大丈夫……私一人でもやってみせる!!」
賢者『フバーハ』!!
フワッ
賢者『スカラ』!!
キュワン
賢者『ピオリム』!!
キュワン
バルログ「ケケー!!」
賢者『メラゾーマ』!!
ゴウゥ!!
バルログ「ギャーー!!
サラマンダーA「ガアァー!!」
サラマンダーB「ガアァー!!」
賢者「はっ」
ターン
サラマンダー達「!?」
賢者『マヒャド』!!
パキパキパキ!!
ビキビキビキ!!
サラマンダー達「」カキーン
魔物の群「ガアァーー!!」
ドドドドドド!!
賢者『イオナズンッ』!!
カッ!!
ドゴーーーーーン!!!!
魔物の群「ギャーーー!!」
プスプス……
賢者「……」
スタッ
賢者「ふぅ……もうおしまい?」ファサァ…
魔物の群「ぐぐぐ……」タジタジ
魔物の群「がぁぁぁ!!」
ドドドドドド!!
賢者「はぁぁぁ……!!」
エビルマージ「ふむ……やはりスリー一行の賢者……流石じゃ……じゃがのぅ……」ニヤッ
エビルマージ『マホトーン』!!
賢者『ベギラゴ……』
キィン!!
賢者「……っ!!」
賢者「し、しまった!!」
エビルマージ「ヒィーヒッヒ!!呪文が使えなければいくら賢者と言えど直ぐ様あの世逝きじゃろう」ニタァッ
賢者「なら……ハッ!!」
バキッ
キメラA「クケェ!?」
ドカッ
キメラB「クワッ!?」
エビルマージ「ほぅ……体術もなかなかのもの……じゃがいつまでもつかのぅ……ヒィーヒッヒッヒッヒ!!」ニタァ
――――
賢者(……くっ……補助呪文もそろそろ切れる……このままじゃ……)ハァハァ
サラマンダーG「ガゥウ!!」
賢者「……!!」ヒラリ
メイジキメラJ「クワッ!!」
ビュッ!!
ドカッ
賢者「か……はっ!!」ドサッ
ダースリカント「グルルル……!!」
賢者(……殺られる……!!)
ダースリカント「ガァアアア!!」
賢者(……そう言えば……前にもこんなことがあったな……)
賢者(……あの時はたしかスリー様が助けてくれたんだっけ……)
賢者(……あの日から強くなろうと決めたのに……私ってやっぱり弱いんだな……)
賢者(……1人じゃ何もできない……)
ダースリカント「ガァアアア!!」
賢者(戦士……僧侶……スリー様……ごめんなさい……)
『ライデイーーン』!!
ズガーン!!
バリバリバリ
ダースリカント「ギャウンッ!?」
賢者「……この呪文!!スリー様!?」ハッ
勇者「らぁぁ!!」
ズバッ!!
ダースリカント「ガ……」
ズズーン……
勇者「へへっ、ライデイン……使えるようになったぜ!!……っと」
勇者「大丈夫か賢者!?」
賢者「勇者……」
僧侶「賢者ちゃん!!怪我してますよ、今治しますからね!!」
賢者「僧侶……」
僧侶『ベホマッ』!!
パアァァ
サラマンダーG「ギャオーーン!!」
ゴウッ!!
戦士「邪魔だ蛇公!!」
ズバァン!!
サラマンダーG「ギャオォ……」
ズズーン
賢者「戦士……」
賢者「……どうしてここに?」
戦士「ハッ、馬鹿なこと聞くなよ」
僧侶「ピンチの時に駆けつけてこそ仲間でしょ」ニコッ
勇者「魔物と闘ってたら岩山の方で爆発音とかが聞こえてきたからさ、気になって様子を見に来たら賢者が一人で魔物の群れと闘ってたってわけだ」
勇者「さ、早く片付けちまおうぜっ」チャキ
賢者「……いい」
勇者「……あん?」
賢者「私一人でいい!!私一人でもやれる!!」
戦士「賢者……」
僧侶「賢者ちゃん……」
賢者「他の人なんかに頼らなくても私一人でも闘え……!!」
パシィ!!
賢者「え……?」
戦士「勇者、お前……」
勇者「馬ッ鹿野郎!!何強がってんだよ!!何かっこつけてんだよ!!」ガッ
勇者「強い奴は仲間に頼らないとでも思ってやがんのか!?ふざけんじゃねぇぞ!?」
勇者「この際ハッキリ言わせてもらうけどな!!俺お前のそういうすかした態度気に食わなかったんだよ!!!!」
賢者「なっ…………!!」
勇者「こんなに素晴らしい仲間がいるってのにいっつも『私は一人で平気』みたいに振る舞いやがって!!」
勇者「仲間のこと頼ってみろよ!!仲間のこと支えてやれよ!!」
勇者「だって……それが『仲間』ってもんだろ!!??」
勇者「俺には仲間ってやつはいねぇけどな、それぐらいのことはわかるっつーの」フンッ
賢者「…………」
戦士「……そうだぞ、賢者。お前は真面目なのはいいけどなんでも一人で抱えすぎだ」
僧侶「うん……賢者ちゃんが苦しい時は私達も一緒に苦しい思いするよ、それでね、楽しい時は一緒に楽しもうよ、ね?」ギユッ
賢者「戦士……僧侶……」
賢者「……ごめんなさい……私……間違ってました……その……こんな私でも仲間って言ってくれますか……?」
戦士・僧侶「もちろんっ!!」ニコッ
賢者「……ありがとう……二人とも……」グスッ
勇者「……ったく、手間かけさせやがって……」ヘヘッ
勇者「さて、じゃあ行くぞ!?」
賢者「えぇ!!」
賢者『バイキルト』!!
キュワン
勇者「ぉお!?」
賢者『バイキルト』!!
キュワン
戦士「おっ!!」
賢者『ピオリム』!!
キュワワワワン
賢者「今貴方達の攻撃力と素早さを強化しました!!」
勇者「力がみなぎってくるぜ!!」
戦士「サンキュー賢者!!」
勇者「だぁあ!!」
ダンッ!!
戦士「ぬぁあ!!」
ドンッ!!
賢者「一緒にいくよ、僧侶ちゃん……」
僧侶「え……今僧侶"ちゃん"って……」
賢者「……////」
僧侶「……うん♪賢者ちゃん!!せーのっ」
賢者・僧侶『バギクロスッッ』!!!!!!
ビュォォ!!!!!!
ズババババババッ!!!!
魔物の群「ぎゃーーー!!」
――――
エビルマージ「くっ……まさか仲間達が集結するとは……こうなっては勝ち目がないのぅ、一旦引くしか……」コソコソ
スリー「いやぁ……良かった良かった♪良いものが見れたなぁ」
エビルマージ「!? 貴様いつから!?」ビクッ
スリー「賢者も無事に心を開いてくれたしさ、俺達パーティの結束もより強まったよ」
スリー「こういう状況を作り出してくれた君にはその点少ーーしだけ感謝しようかな?」ハハッ
エビルマージ「わ、わけのわからんことを言いおって……!!」
エビルマージ『メラゾーマ』!!
ゴウゥ!!
エビルマージ「フハハハッ!!油断しておるからだ!!」
ブワッ!!
スリー「でもね……」
エビルマージ「な……効いていないじゃと……!?」
スリー「俺の仲間を傷つける奴は絶対に許さない!!」
エビルマージ『イ、イオナ……』
ヒュバン!!
ブシャァアアア!!
スリー「特別サービスだ……」
ドサッ
スリー「痛みを感じることなく逝けただろ?」
キィン!!
――――第三の世界・十日目・リムルダール付近の森
スリー「早いものだね……もう十日目か」
勇者「あぁ……」
スリー「さて、二人とも最終日もよろしく頼むよ?」
戦士・僧侶「ラジャー!!」
賢者「あ……スリー様」
スリー「?」
賢者「今日は私が勇者について行きます……構いませんか?」
勇者「へ?」
戦士「どういう風の吹き回しだぁ?」ニヤッ
賢者「もぅ!!ただの気分転換よ!!私は一人で大丈夫だから」
スリー「うん、わかった。じゃあ賢者、よろしく頼むよ?」
スリー「アレフガルドには昼はないからね、地上での夕方ぐらいになったら帰ってきてくれ」
賢者「はい、任せて下さい!!」
勇者「じゃ、よ、よろしく」
賢者「えぇ」
タッタッタッ
戦士「スリぃ~」
スリー「ん?なんだい?」
戦士「お前最初から勇者が賢者の心を開かせられるかもしれねぇと思ってやがったな?」ニヤッ
スリー「なんのことやら」シレー
僧侶「ふふっ、とぼけたって無駄ですよぅ、私達ちゃーんとわかってますから♪」ニコッ
スリー「二人とも買いかぶりすぎだよもぅ」苦笑
僧侶「だって私達の自慢のリーダーですもん、ね~♪」
戦士「なー♪」
スリー「はいはいっ」笑
――――第三の世界・十日目・地上・夕方
戦士「地上に出てきてどうするんだ、スリー?」
スリー「ん、お別れ前にちょっと勇者に良いものを見せてあげようと思ってね」
勇者「良いもの?」
スリー「すうぅぅ……」
スリー「ピーーーーー!!」
勇者「?」
戦士「なるほど」
僧侶「あぁ!!」
賢者「わかりました」
バサッ
バサッ
勇者「な、ななな!!なんだこのでっかい鳥!?」
スリー「この鳥は不死鳥ラーミア……俺達の仲間さ」
ラーミア『スリー……この者は……?』
スリー「あぁ、勇者っていうんだ。俺達の弟子って奴かな?」
ラーミア『勇者……弟子……ですか』ジー
勇者「ふぇ~……世の中には不思議な生き物がいるんだなぁ……」ジー
スリー「ラーミア、彼も乗せてあげられるよな?」
ラーミア『えぇ、大丈夫です』
勇者「え?乗るって……コイツに!?」
スリー・戦士・僧侶「そう!!」
――――大空
ビュオオ!!
勇者「すっげーー!!」
勇者「飛んでる!!高い!!」
戦士「勇者ぁ、あんまりはしゃいで落っこちても知らんぞ?」ガハハ
僧侶「最後に大空から夕やけを見せてあげるだなんて……スリーさん素敵ですぅ」
スリー「ハハ、そうか?」ニッ
勇者「いつか……」
スリー「?」
勇者「いつか俺も俺の世界をこうして眺めてみたいなぁ……」
スリー「きっとできるよ、その時は『これが俺が守った世界だ』って胸張って見ることができるだろうさ」ニコッ
勇者「うん!!」
キラキラキラ……
勇者「あ……」
戦士「勇者が光って……」
僧侶「え?え?」
賢者「…………」
スリー「そうか……お別れの時間なんだね……勇者」
勇者「……うん」
キラキラキラ……
戦士「……なんか……寂しくなるな……」
僧侶「勇者さん……」グスッ
賢者「…………」
キラキラキラ……
勇者「戦士……いつも修行に付き合ってくれてありがとな……」
戦士「ハッ、いいってことよ」
勇者「俺もお前に負けないように強くなるよ……」
戦士「あぁ、お前ならできるさ、頑張れよ……くそっ目から汗が出てきやがるぜ」グスッ
僧侶「勇者さん……うっ」ヒックエッグ
勇者「僧侶も修行に付き合ってくれてありがとう……料理とっても美味しかったよ」ニコッ
僧侶「あ、ありがとうございますぅ」グスッ
勇者「世界が平和になったら……僧侶ならきっと良いお嫁さんになれると思うな」ハハッ
僧侶「な、何言ってるんですか!!////もぅ……」グスッ
賢者「……」
スリー「ホラ、賢者も……」
賢者「……」
勇者「賢者……その……昨日はビンタしちゃってごめんな、それに酷いことも言ったし…………今日謝れなくて……」
賢者「……気にしてません」
勇者「そ、そっか……」
賢者「……ア……」
勇者「ア?」
賢者「ア、アンタなんかに何にも感謝してないんだからねッ!!////」カァ
勇者(け……賢者×ツンデレだとぉ!?)ガハッ
賢者「また仲間と仲良くなれたのも全然アンタのおかげなんかじゃないんだからぁ!!////」
勇者(……これはヤバい)
賢者「アンタなんかさっさと元の世界に戻って世界を救っちゃえばいいのよ!!////」
勇者「あ……あの……ありがとな、俺頑張るよ」
賢者「あと……」
勇者「?」
賢者「離れてたってアンタも私達の仲間なんだからね、私達のこと忘れたら承知しないんだから!!」ウル
戦士「そうだぞぅ勇者ぁ!!お前も俺達の仲間だ」グスッ
僧侶「勇者さぁ~ん」ヒッグ
勇者「みんな……」
キラキラキラ……
スリー「勇者……」
勇者「スリー……」
スリー「よく考えたら俺って君にたいしたこと教えてないな、ごめん」アハハ
勇者「そんなことない……大事なこといっぱい教えてもらったよ」
スリー「もっと強くなれよ……この世界は俺達が……君の世界は君が……平和を取り戻すんだ」
勇者「うん……」
スリー「さっき賢者も言ったけどさ、俺達は離れていても仲間だ。きっと今まで君と会った勇者達も、これから君と会う勇者達も、それは変わらないだろう」
スリー「君は1人じゃない。心の絆でいつも仲間と繋がってるってことを忘れるなよ」
勇者「……うん!!」
キラキラキラ……
勇者「なぁ……スリー……」
キラキラキラ……
スリー「なんだい?」
勇者「スリーはさ、『勇気ある者が勇者だ』って俺に教えてくれたよな?」
スリー「あぁ……」
キラキラキラ……
勇者「でもさ、俺思ったんだ」
勇者「人々に勇気を与えられるスリーみたいな奴が本当の勇者じゃないかな、って」
スリー「……そうか」フッ
勇者「うん、俺スリーみたいな勇者になりたい。自分の勇気の灯火を人々に分け与えられるような勇者に!!」
スリー「うん……頑張れよ!!」スッ
勇者「……あぁ!!」ガシッ
キラキラキラ……
勇者「戦士……僧侶……賢者……そしてスリー……ありがとう……」
キラキラキラ……
勇者「じゃあな……」
キラキラキラ……
フッ……
スリー「……さよなら、勇者」
僧侶「勇者さぁ~~ん」ビェェン
戦士「ったく、いつまで泣いてやがんだオメェは……こっちまで……くぅ」グスッ
賢者「あら?戦士さんも泣いているんですね、『鬼の目にも涙』って奴かしら?」
戦士「誰が鬼だ!!誰が!!」
賢者「うふふっ」
僧侶「……あれ?賢者ちゃん笑って……」
戦士「……ん?そういやお前が笑うとこなんて久しく見てねぇぞ?」
賢者「ぇえ?えーとその……わ、笑ってないです!!」プイッ
戦士「いーや笑った!!」
賢者「笑ってないですー!!」
僧侶「笑ったよぉ~!!」
賢者「笑ってないですってば!!」
スリー「……賢者に笑顔が戻ってきたのも勇者のおかげだね」ニッ
スリー「さ、ゾーマを倒したらみんなでうんと笑おうか!!」
戦士・僧侶「おー!!」
賢者「だから笑ってないですってばぁ!!」
――――星の海
勇者「……ここの星も綺麗だけど……あの夕陽も綺麗だったなぁ……」
ルビス『綺麗な景色はいつの日も人々の心を洗ってくれるものですから……』
ルビス『今回の世界はどうでしたか?』
勇者「うん……魔物と沢山闘ったなぁ……あ、この剣持ってきちゃった……」
勇者「まぁいいか……大切にしよう……」ギュッ
勇者「あのさ……スリーって奴はホントにすごい奴なんだ……あれが『伝説の勇者』って奴なんだなぁ……って思ったよ」
ルビス『そうですか……貴方も彼の様な勇者になれると良いですね……』
勇者「うん……」
ルビス『さぁ……おやすみなさい』
勇者「……おやすみ……」
勇者(あれ?何かルビスに言うことがあったような……ま、いいか……)
勇者「zZzZ」