<魔法学校>
賢者「火炎竜に有効な魔法は?」
魔法使い「えぇ~と、“ファイア”……っすかね?」
賢者「バカかね、君は!?」
魔法使い「!」ビクッ
賢者「火炎竜に炎で攻撃してどうするんだい! 餌を与えるようなものだ!」
賢者「まったく……君は魔力は申し分ないが、本当にセンスがないねぇ」
魔法使い「すんません……」
元スレ
魔法使い「神様ってのは、意地悪だな」マッチョ「うん……」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1336049355/
<格闘道場>
師範「突きを100本、始めっ!」
マッチョ「えぇ~い」ヒョロッ
マッチョ「やぁ~」ヒョロッ
師範「なんだそりゃ! オカマか、おまえは!?」
マッチョ「ご、ごめんなさい……」
師範「恵まれたガタイが泣いてっぞ、あァ!?」
マッチョ「うぅっ……ごめんなさい……」シクシク
魔法使い「神様ってのは、意地悪だな」
マッチョ「うん……」
魔法使い「なんで、こういうことするんだろうな」
マッチョ「うん……」
魔法使い「なぁ、探してみるか? 神に抗う方法を」
マッチョ「えっ?」
………
……
…
<村の酒場>
武術家「ンだよ、これだけかよ! シケてやがんなァ!」
村長「村中からかき集めたのですが、もうお金がなくて……」
武術家「──だとよ? どうするゥ?」
魔術師「ボクたち、キレると何するか分からないんですよねェ」
魔術師「村の人で武術家さんの技を試したり」
魔術師「うっかり炎魔法で、家を焼き払ったりしたくなっちゃうかもしれませんねェ」
村長「や、やめて下され!」
武術家「やめて欲しかったらよォ、態度で示してくれよ、な?」
武術家「おいジジイ、この村がなんで平和でいられるのか分かってんのか?」
武術家「俺たちがいるおかげだろうがよ!」
武術家「そうだろォ!? ──なァ?」
魔術師「えぇ、これっぽっちのお金で安全を買おうというのは」
魔術師「いささかムシがよすぎる気がしますねェ」
村長「しかし……もう本当にこの村にはお金がないのです……!」
魔術師「だったら、他の村から奪うなりなんなりすればいいじゃありませんか」
魔術師「村の安全を守るためには何でもするのが、村長ってモノでしょうが」
村長「そ、そんな……」
武術家「だがよ、俺たちも鬼じゃねェ」
武術家「え~と……今日は四本ボトルを空けたのか」
武術家「よぉ~し、んじゃ四日だけ待ってやる」
武術家「もし四日後までに、俺たちが望む金額を集められなかったら──」
武術家「マジで俺ら何すっか分からねェぞ」
魔術師「えぇ、村が火の海に包まれるかもしれませんねェ」
武術家「ほら、村を守りたいんなら、さっさと金策してこいや」シッシッ
村長(くそっ……コイツらめ……)
<集会所>
村長「……すまん。あんな連中を用心棒として村に引き入れた、ワシの責任じゃ」
青年「村長のせいじゃありませんよ! みんなで決めたことなんですから!」
村人「しかし……どうする?」
村人「この四日間で金を集められなきゃ、この村は終わりだ」
村人「アイツらは本当に村を滅ぼすつもりだろう」
村娘「きっとあの人たち……今までも用心棒を装って村に入り込み──」
村娘「色んな村を食いつぶしてきたのよ……!」
木こり「こうなったら戦おうぜ! やられる前にやれ、だ!」
村長「ムチャをいうでない、殺されるだけじゃ!」
村長「悔しいが、ヤツらが二人とも腕が立つということは紛れもない事実なのじゃ」
村長「村人総出でかかっても、まるで歯が立たんだろう」
木こり「だったら、このまま大人しく殺されろっていうんですかい!?」
村長「ワシに考えがある」
木こり「え?」
村長「まだワシはほんのわずかだが……金を残してある」ジャラ…
村長「この金を持って町へ出て、強い戦士を雇うのじゃ」
村長「そしてこの役目は……村娘、おぬしに託したい」
村長「おそらく女性の方が同情も引けるだろうし……」
村長「頼む、やってくれぬか?」
村娘「…………」
村娘「分かりました……頑張ります!」
<村の酒場>
魔術師「集会所がざわついてますが、なにやら企んでいるようですねェ」
武術家「ケッ、村を捨てて逃げるか、あるいは俺たちに立ち向かうか」
武術家「相談してやがるんだろうよォ」
武術家「どっちにしろ皆殺しだがな」グビッ
魔術師「もうこの村には金がありそうもないですしねェ」
魔術師「ボクらも、そろそろ他の村に移る時期が来たのかもしれません」
魔術師「──となれば、もうこの村は用済みですねェ」
魔術師「四日後には、村人ごと地図から消えてもらいましょうか」
武術家「よっしゃ、そうと決まれば飲むか!」
武術家「おい、酒が足りねェぞ! ジャンジャン持ってこいや!」ブンッ
パリィン!
マスター「ひっ、ひぃぃぃっ!」
翌日──
村娘「じゃあ行ってくるね、みんな」
村長「うむ……頼んだぞ。村の命運がかかっておるのじゃ」
青年「すまない、村娘ちゃん。ホントはついてってあげたいんだけど……」
村娘「ううん、アイツらなんだかんだいって村人の反乱を警戒してるから」
村娘「男の人が目の届かないところにいなくなったら刺激しちゃうと思う」
村娘「任せて。私一人でも、必ず強い人を探してくるから!」
青年「くれぐれも気をつけてくれよ」
村娘(町まではおよそ一日かかる……往復で二日……)
村娘(アイツらが定めた期限が、四日後……)
村娘(つまり町に滞在できるのはたった一日……)
村娘(村を救うために、絶対に強い人を見つけてこないと!)
丸一日を費やし、村娘はようやく町にたどり着いた。
<町>
村娘(初めて来たけど……やっぱり広いなぁ)キョロキョロ
村娘(帰る時間を考えると、この町にいられるのは今日だけ)
村娘(──急がないと!)
村娘はこの町で強い人を探すにはどうすればいいかを、町民たちに尋ねた。
「強い人を探してる? だったら、酒場だろうなぁ」
「そういう話は酒場がいいんじゃないか?」
「う~ん、酒場かな。もっとも、協力してくれるかは知らないけどよ」
「酒場にゃ、金と戦闘に飢えてるゴロツキがうようよしてるぜ」
「酒場ならあっちだ。でも、やめといた方が……」
<町の酒場>
ガヤガヤ……
村娘(うわ……村の酒場よりずっと広いや)
村娘(しかもまだ昼間なのに、男の人がいっぱい……)
村娘(ええい、ビビったら負け! 村の運命がかかってるんだから!)
村娘「あ、あのぉ……」
戦士「なんでぇ、テメーは?」
村娘「実は、私の村が悪党に占拠されてまして……退治してくれる人を探してるんです」
戦士「へぇ……で、いくら出せるんだ?」
村娘「予算はこれです……」ジャラ…
戦士「…………」
戦士「──バッカバカしい! こんなはした金のために命かけられっかよ!」
戦士「他を当たりな!」
村娘「……はい」
村娘(どうしよう……。やっぱりこれじゃ少ないんだ……)
スキンヘッド「よう、姉ちゃん」
村娘「はいっ!?」ビクッ
スキンヘッド「金くれるってんなら、ハナシ聞いてやってもいいぜ」
村娘「え、ありがとうございますっ!」
村娘「──というワケなんです」
スキンヘッド「ふうん、悪いヤツがいたもんだなぁ」
村娘「お願いできますでしょうか?」
スキンヘッド「早く金をよこせよ」
村娘「あ、はい」ジャラ…
スキンヘッド「へへへ、サンキュー」パシッ
スキンヘッド「じゃあな」スッ
村娘「!?」
村娘「ちょっと待って下さい! 悪党退治の話は!?」
スキンヘッド「あぁ? ちゃんとハナシは聞いてやっただろ?」
スキンヘッド「いったはずだぜ? 金くれるんなら、ハナシ聞いてやるって」
村娘「待って下さい! そのお金がないと──」
スキンヘッド「うるせぇっ!」ドンッ
村娘「きゃっ!」
スキンヘッド「そういや、そんな田舎の村の辛気臭いハナシを聞いてやったんだ」
スキンヘッド「おかげで酒がマズくなっちまった」
スキンヘッド「慰謝料が欲しいよなぁ……」ニヤッ
村娘「慰謝料……?」
スキンヘッド「姉ちゃん、体で慰謝料を払ってくれよぉ!」ガシッ
村娘「いやっ! ……やめてっ! ──誰かぁっ!」
「アイツまたやってるぜ」 「あの女の子も可哀想に」 「酒場なんかに来るから……」
魔法使い「オイオイ、つまんねぇことしてんなよ」
マッチョ「やめましょうよ……そういうこと」
スキンヘッド「あぁ? なんだテメェら──」
スキンヘッド「……あ」
スキンヘッド(コイツら……知ってるぞ)
スキンヘッド(魔法とパワーのコンビネーションで、数々の修羅場をくぐり抜けたという)
スキンヘッド(──傭兵兄弟!)
スキンヘッド(やべぇ、俺なんかが敵う相手じゃねぇ!)
魔法使い「さっさと女の子の手を離して、金を返してやらねぇと──」スッ
スキンヘッド(ゲッ、こんなところで魔法ぶっ放す気か!?)
スキンヘッド「すいませんっ! 許して下さいっ!」ペコペコ
マッチョ「じゃあ、早くお金を返してあげて下さい」
スキンヘッド「はいっ! 悪かったな、姉ちゃん」ジャラ…
スキンヘッド「失礼しましたぁ~」タタタッ
村娘「…………」ハァハァ
村娘「ありがとうございました! おかげで助かりました!」
魔法使い「なァに、気にすんなって」
マッチョ「気をつけた方がいいよ、酒場にはああいう人も多いから」
魔法使い「ところでアンタ、なんであんなハゲに絡まれてたんだ?」
魔法使い「少し前から見てたけど、あのハゲに長々となんか話してたし」
村娘「あ、はい実は──」
魔法使い「ふぅ~ん、なるほど。村で好き勝手ねぇ……とんでもねぇヤツらだな」
マッチョ「ひどいことをするなぁ……!」
魔法使い「そいつらはおそらく──“M&M”だな」
村娘「エムアンドエム?」
マッチョ「マーシャルアーティスト(武術家)とマジシャン(魔術師)」
マッチョ「“M&M”の通り名で恐れられた二人組なんだ」
マッチョ「かつては凄腕の傭兵コンビとして大活躍してたけど」
マッチョ「ある仕事で失敗したのをきっかけに信用を失い、姿を消しちゃってたんだ」
魔法使い「しかしまさか落ちぶれた挙げ句、ンなことやってるとはな」
魔法使い「まったくどうしようもないヤツらだ」
魔法使い「だが、もし腕が衰えてないとするなら──」
魔法使い「村人はもちろん、この酒場にいる連中でもどうしようもないぜ」
魔法使い「兵隊の小部隊くらいなら楽々返り討ちにするようなヤツらだ」
村娘「そんな……」
魔法使い「だが俺は……そんな手強い連中に勝てるコンビを一組だけ知っている」
村娘「え、だれですか!?」
魔法使い「オイオイ、話の流れで分かるだろ?」
村娘「いえ……全然分からないです。ごめんなさい……」
魔法使い「…………」
魔法使い「俺たち」ボソッ
村娘「あ……!(そういうことだったのか……気づかなかった)」
村娘「や、やっぱりそうだと思ってました!」
魔法使い(ウソつけ……)
マッチョ(うわぁ~かっこ悪いよ、兄ちゃん)
魔法使い「ゴホン」
魔法使い「さて、こっからはビジネスの話だ」
魔法使い「アンタ、いくら出せる?」
村娘「これが精一杯です……」ジャラ…
魔法使い「ふ~ん、この金額で“M&M”とやり合うってヤツはまずいねぇだろうな」
魔法使い「ハッキリいって、俺でもイヤだ」
村娘(やっぱりダメか……)
魔法使い「ただし、一つ条件を飲んでくれるなら、この依頼を引き受けてもいい」
村娘「えっ、なんですか!?」
魔法使い「アンタ、けっこう可愛いじゃん。俺のモノになってくれ」
村娘「えっ……」
魔法使い「俺たちだってこれでもプロだ。報酬に見合わない仕事はしたくない」
魔法使い「アンタの予算じゃ、俺たちを動かすには少し足りない」
魔法使い「……が、アンタが俺のモンになるってんなら、引き受けてやってもいい」
魔法使い「どうする?」
マッチョ「兄ちゃん、そんなの──」
魔法使い「テメェは黙ってろっ!」
魔法使い「──さぁ、どうする?」
村娘「…………」グッ
村娘「……分かりました」
村娘「私、あなたの女になります! だから……村を救って下さい!」
村娘「お願いしますっ!」
魔法使い「商談成立……だな」ニヤッ
村娘「でも……あなたたち、ホントに強いんですか?」
魔法使い「おっ、急に強気になったな」
魔法使い「まぁ雇われの身としては、雇い主の質問には答えてやらないとな」
魔法使い「俺たちの魔法と体術にかかりゃ、大抵の敵はペシャンコだぜ」
マッチョ「ペシャンコにはならないよ、兄ちゃん」
魔法使い「例えだ、バカ!」
村娘「つまり、あなたたちも“M&M”のようなコンビってことなんですか?」
魔法使い「……ん、まぁな。でも、少しちがうかもな」
マッチョ「うん、少しちがうね」
村娘「?」
魔法使い「ま、とにかくもう商談は成立してるワケだから」
魔法使い「あとはもう、俺たちもプロとして仕事をこなすだけだ」
魔法使い「もう町を出るには中途半端な時間だし、今日のところは宿に泊まろう」
魔法使い「明朝一番に出発ってことで、いいか?」
魔法使い「アンタのいう四日後の期限ってのには間に合うだろ」
村娘「分かりました」
<町の宿屋>
村娘(これで……私はあの魔法使いさんのモノになるんだ)
村娘(いったいどうされるんだろ、どこかに売られたりするのかな……)
村娘(色々悪いこととかされちゃうのかな……)
村娘(怖いよ……!)
村娘(でも、これで村が救われるのなら──!)
村娘(青年君……)ウルッ
<村>
村長「こんな時間まで、外で何をやっておる」
青年「…………」
村長「村娘が心配か?」
青年「えぇ、ぼくも町に行ったことがないですし、心配です……」
村長「うむ、しかし今は村娘を信じるしかない」
村長「明後日までに、村娘が強い戦士を連れてくるのを……」
青年「はい……」
青年(村娘ちゃん、とにかく無事に帰ってきてくれ……)
青年(たとえこの村が滅ぶことになっても、君だけは逃がしてみせる!)
<村の酒場>
武術家「──クソがっ!」
ドガシャァン!
魔術師「どうしましたか?」
武術家「久々に夢を見ちまったんだよ、あの時の夢を……!」
武術家「アイツらさえいなきゃ、俺たちは今でも傭兵でいられたんだ!」
魔術師「奇遇ですね、ボクも同じ夢を見てしまいましたよ」
魔術師「まァ、今はこうやって村々から搾り取って力を蓄える時期です」
魔術師「いずれ、借りを返すチャンスも来るでしょう」
武術家「ああ……ヤツらだけは許さねェ。いつか必ずブッ殺してやる……!」
翌朝──
<町>
魔法使い「さァ~て、出発するか!」
マッチョ「オッケー、兄ちゃん」
村娘「はいっ!」
魔法使い「お、やけに元気になったじゃんか」
魔法使い「俺のモンになるのがそんなに嬉しいか?」ニヤッ
村娘「そんなんじゃないです……!」
村娘「でも、これであの村の人々がやっと救われると思うと──」
村娘「私がどうなるかなんてのは、些細なことです」
魔法使い「ふぅん、アンタいい女だな。ますます気に入ったぜ」
道中──
村娘「でも、あなたたちって不思議な兄弟ですよね」
村娘「魔法使いさんはいかにも大人しそうな魔法使いって感じの外見なのに」
村娘「実際はすごくエネルギッシュな性格ですし……」
村娘「弟さんは体が大きいけれど無口で、とても優しいし……」
マッチョ「優しいだなんて、そんなことないよ……」テレッ
魔法使い「なに顔赤くしてんだよ」
魔法使い「ま、よくいわれるよ」
魔法使い「俺なんて黙ってりゃ、いかにもインテリ魔法使いって感じだろうし」
魔法使い「コイツは熊にだって勝てそうなガタイしてるだろ」
村娘「えぇ、まぁ」
魔法使い「弟は普段は虫も殺せないヘタレだが……」
魔法使い「仕事が始まればキッチリ殺れるヤツだからその点は安心してくれ」
村娘「は、はい……」
魔法使い「ま、本人の性質と才能なんてまったく関係ないもんさ」
魔法使い「神様ってのはそういう意地悪をするんだよ」
魔法使い「血を見るのが苦手なヤツに剣の才能を与えたり」
魔法使い「血に飢えてるようなヤツに医者の才能を与えたり」
魔法使い「性質と才能が完璧に合致してるヤツなんざ、めったにいねぇ」
魔法使い「だからこそ“M&M”みたいに才能を悪用してるヤツが、俺は嫌いなんだ」ギリッ
マッチョ「兄ちゃん……」
村娘「私、なにかいっちゃいけないことをいっちゃいましたか? ……ゴメンなさい」
魔法使い「いやなに、気にすんな」
魔法使い「話し込んだせいで歩くペースが少し落ちちまった。ちょっと急ぐぞ」
運命の日が訪れた。
<集会所>
村長「いよいよ今日じゃ……」
村長「もし村娘が強い戦士を連れて来れなければ……この村は終わりじゃ」
村人「果たして間に合うじゃろうか……」
木こり「もし間に合わなきゃ、その時は戦ってもかまわないですよね?」
村長「ああ、もう好きにするといい」
村長「だが、もう少し時間はあるはず。ギリギリまで村娘を信じるのじゃ」
青年(村娘ちゃん……)
ドガァンッ!
集会所の壁が壊れた。
村長「なんじゃ!?」
木こり「うおっ!?」
村人「うわぁっ!」
青年「壁が!」
パラパラ……
武術家「もろい壁だなァ、オイ。蹴り一発でこのザマだ」
武術家「おやおやおやァ~……村の男どもが雁首そろえてなにやってんだァ?」
魔術師「村長さん、金は用意できましたか?」
村長(くっ……まさかもう来るとは……!)
武術家「早く金よこせよォ、じゃないとコイツ殺しちゃうぞ?」ガシッ
村人「わ、うわわっ! やめてくれぇっ!」
武術家「へっへっへ、ほっそい首だぜ。早くしないと折れちまうぞ、オイ」グググ…
村人「く、苦し……!」
村長(村娘は……どうやら間に合いそうもないのう……)
木こり「くっ……いい加減にしろ!」
木こり「おまえらに払う金なんざ、ビタ一文もねぇよ!」ゴトッ
斧を持ち出す木こり。
村長「よ、よさんか!」
木こり「うおりゃあああああっ!」ブオンッ
パキン!
魔術師が指から放った魔力で、斧が粉々に砕け散った。
木こり「なっ……!」
武術家「オマケだ!」
バギィッ!
武術家の蹴りが、大柄な木こりを数メートル吹っ飛ばした。
木こり「──ぐはァッ!」ドカッ
木こり「あ、あぐぅ……」ズル…
青年(村で一番体力のある木こりさんが、一撃で……!)
村長(やはりこの二人は、ワシらが敵う相手ではなかった……)
魔術師「なるほど、これが答えというワケですかねェ?」
魔術師「いやはや、裏切られた気分ですよ」
魔術師「村の安全を守るボクたちに、奉仕する心がないということですから」
武術家「そういうこった!」
武術家「こっちもろくな金もよこさず村を守れ、なんてヤツら許せねェからよ!」
武術家「テメェらみたいな卑劣なヤツは、一人残らずブチ殺してやる!」
村長(もうダメじゃ……!)
武術家「年功序列だ。まずジジィ、テメェからあの世に行けや!」
青年「やめろぉっ!」
ボコッ!
武術家「それでパンチのつもりかァ? パンチってのはこう打つんだよォ!」
ゴガァッ!
村長「青年!」
青年「ぐあぁ……っ!」ヨロッ
武術家「オラッ、トドメだ! 死ねやァッ!」ブオッ
青年(死──!)
──その時だった。
グオアアアッ!
武術家「──うわっちィ! な、なんだ!?」
青年「うぅ……」ドサッ
巨大な炎が青年と武術家の間を横切り、青年をトドメの一撃から救った。
武術家(今のは……炎魔法か!?)
村長「なにが起こったんじゃ……?」
魔術師「あれは──!」
魔法使い「ヒーロー登場、なんてな」
マッチョ「ふぅ、危ないとこだったね。兄ちゃん」
村娘(あれ、なんで今……? 見間違いだったのかな……?)ハッ
村娘「青年君、大丈夫っ!?」
青年「うぅっ……村娘ちゃん……? よかった、無事に戻って来てくれたんだね」
村娘「うんっ……もう大丈夫だから……!」
魔法使い「……ふん」
武術家「テメェら、傭兵兄弟ッ!」
魔術師「なぜここに……!?」
魔法使い「久しぶりだな」
魔法使い「少し会わないうちに、ずいぶん落ちぶれちまったじゃねぇか」
武術家「テメェらのせいで、俺たちは……俺たちは……っ!」ギリッ
魔法使い「そう怒るなよ、ブサイクが台無しだぞ」
武術家「ンだと!?」
村娘「えっ、あなたたちアイツらを知ってるの!?」
マッチョ「うん、昔ちょっとね」
魔法使い「なに、本当に下らないことだ」
魔法使い「昔、俺たちとコイツらが同じ雇い主に雇われたことがあったんだ」
魔法使い「むろん、俺たちの方が活躍したワケだが」
魔法使い「コイツらときたら、俺たちの手柄を自分のものだといって」
魔法使い「報酬を水増し請求しようとしたんだが──」
魔法使い「他の傭兵の証言とかでそれが全部バレちまってな」
魔法使い「しかも、それがきっかけで過去に依頼金の持ち逃げとかしてたのも色々バレて」
魔法使い「傭兵としての信頼を完全に失っちまった、世界一アホな二人組だよ」
村娘(もっとドラマチックな因縁かと思いきや……予想以上にひどい話だわ……)
武術家「うるせェッ! 実力は俺たちのが上だったんだっ!」
武術家「マグレで名を上げた分際でよォ!」
魔術師「あなたたちのおかげで、我々は傭兵としてやっていけなくなりましてねェ」
魔術師「こんな田舎の村で、用心棒をせざるをえなくなったのです」
魔術師「あの時の恨みを忘れたことはありませんよ」
魔法使い「そういうのを逆恨みっつうんだよ、な?」
マッチョ「うん、兄ちゃん」
魔法使い「つーか、おまえら用心棒だったんだ」
魔法使い「どこの山賊かと思っちまったよ。いや、それは山賊に失礼か」
魔法使い「おまえらはただの寄生虫だもんな」
武術家「…………!」ブチッ
魔術師「なるほど、村の連中があなたがたを雇ったワケですか」
魔術師「しかしボクらとしても、あなたがた兄弟とは是非戦いたかった」
魔術師「助っ人を雇うなど、本来は村を焼き払っても足らない裏切りですが」
魔術師「今回ばかりは、村人たちには感謝しなければなりませんねェ」
魔術師「お二人と直接戦ったことはありませんが……戦えば勝つのはボクたちです」
武術家「そういうこった」
武術家「テメェら兄弟も、村の連中も、全部ブッ殺してやる!」
村娘「魔法使いさん……」
村長「ワシらはどうすれば……」
魔法使い「素人どもは下がってな」
魔法使い「なぁに、心配すんな」
魔法使い「俺らとコイツらの力量はほぼ互角……が、すぐ終わる」
村娘「えっ?」
集会所では戦えないため、村の広い場所に移動する魔法使いたち。
魔法使い「二対二、か」
魔法使い「こういうのはよ、やっぱ分かりやすく」
魔法使い「俺と魔術師、弟と武術家で対決するのがいいんじゃね?」
武術家「ふん、いいぜ」
魔術師「かまいませんよ」
魔法使い「よし、決まりだな」
魔術師「武術家さん」ボソッ
魔術師「あなたは一直線に魔法使いを狙って下さい」ボソッ
魔術師「速攻で一人を倒せば、ボクたちが数的有利に立てます」ボソッ
武術家「オッケェ……一撃で仕留めてみせるぜ」ボソッ
魔術師「ボクは開始早々マッチョに特大の魔法をぶつけ、弱らせます」ボソッ
魔術師「あの大きい体の通りタフでしょうが、魔法耐性は低いハズ」ボソッ
魔術師「魔法で弱ったところを、二人がかりで一気に倒してしまいましょう」ボソッ
武術家「へへへ、分かったぜ」ボソッ
魔法使い「うっしゃ、やるか! 気合入れてけよ!」
マッチョ「うん、兄ちゃん」
すると──
ダッ!
武術家(一撃で殴り殺してやるよ、このヒョロヒョロ野郎ォ!)
武術家「オラァァァッ!」
魔法使い「なっ──!」
武術家が魔法使いに襲いかかった。
ズドンッ!
メキメキィ……
ベキボキベキベキバキ……!
魔法使いの拳が武術家の腹にめり込み、骨と内臓を一気に破壊した。
魔法使い「おまえらのやることなんざ、お見通しなんだよ」
武術家「ごぼぉっ……!?」
武術家(な、なんだこのパンチは……!?)
武術家(この小さな体のどこに、こんなパワーが──!?)
武術家は上空に吹っ飛び、受け身も取れぬまま地面に落下した。
ズドォン!
魔術師「“プロミネンス”!」
ゴォォアアッ!
上級炎魔法が、マッチョめがけて飛んでいく。
マッチョ「“プロミネンス”」
グオォォォォアアッ!
しかし、マッチョの手から放たれたさらに大きい炎によって飲み込まれ──
魔術師「へ?」
──魔術師は一瞬にして、地獄の火炎の中に包み込まれた。
魔術師「ぐあああああっ!?」
魔法使い「生きてるかぁ~?」
武術家「がっ! ごほっ、ゲボォッ! ──あ、あ……ががっ……!?」
武術家「どっ……どうし……て……ゴボォッ!」
魔法使い「ハハハ、キツネにバカされたってツラだな」
魔法使い「脇腹ががら空きだったもんで、思いきり入れちまったよ」
魔術師「あ、あがが……あが、が……」プスプス…
魔術師(ど、どういうこと、だ……!?)プスプス…
魔法使い「お、弟よ。おまえも終わったか」
マッチョ「うん、兄ちゃん」
マッチョ「この村に来るまでずっと魔力を練り上げてたから、楽勝だったよ」
村娘(やっぱりだ! 見間違いじゃなかった!)
村娘(最初青年君を助けるために、炎を放ったのはマッチョさんだったんだ!)
武術家「こ、この……!」ヨロッ
魔法使い「お~お~、まだ立つか? けっこう根性あるじゃねぇか」
魔法使い「その根性に免じて、タネ明かしをしてやるよ」
武術家「タネ、だとォ……」ゴフッ
魔法使い「まぁ聞いてくれよ。おまえも少し休みたいだろうし」
魔法使い「俺たち兄弟は、神様に意地悪をされていた」
魔法使い『──なんでだっ!』
魔法使い『なんで格闘の才能がある俺の体はこんなに小さくて貧弱で──』
魔法使い『こんなに無駄な魔力を宿しちまってるんだ!』
魔法使い『魔法学校の授業なんか、全然ついていけてねぇってのによ!』
マッチョ『ぼくもだよ、兄ちゃん……』
マッチョ『ぼくも本当は魔法の方が面白いし、覚えが早いけど……』
マッチョ『体ばかり大きくなって、魔力は全然増えないんだ……』グスッ
マッチョ『体が大きいから道場に通ったけど、デクノボウってバカにされるし……』シクシク
魔法使い『いくらセンスがあったって、しょせん魔法は魔力、格闘は体力がモノをいう』
魔法使い『魔力がなきゃ強い魔法は撃てねぇし』
魔法使い『武術の世界も、体がしっかりしてなきゃどこかで頭打ちだ』
魔法使い『逆も同じだ。センスがなきゃいくら体力や魔力があったってどうしようもねぇ』
魔法使い『神様ってのは、意地悪だな』
マッチョ『うん……』
魔法使い『なんで、こういうことするんだろうな』
マッチョ『うん……』
魔法使い『なぁ、探してみるか? 神に抗う方法を』
マッチョ『えっ?』
………
……
…
魔法使い「ま、分かりやすくいうと──こんな感じだったワケだ」ガリガリ
魔法使いは棒切れで、地面に文字を書く。
おれ
格闘センス A
魔法センス E
体力 E
魔力 A
おとうと
格闘センス E
魔法センス A
体力 A
魔力 E
魔法使い「だから俺たち兄弟は、必死に探した……」
魔法使い「そしてついに見つけたんだ!」
魔法使い「体はそのままに、能力を入れ替えることができる秘術を!」
魔法使い「今俺の小さな体には、弟の熊みてぇなパワーが宿ってるし」
魔法使い「弟はパワーを失ったが、俺が持て余してた膨大な魔力を宿している」
魔法使い「こうして俺たちは、自分の才能に見合う能力を手に入れられた」
魔法使い「適材適所ってヤツだ」
魔法使い「俺たちは、神に抗えたんだ……!」
魔法使い「──とまぁ、タネ明かししてやったけど、少しは回復したか?」
武術家「!」ギクッ
魔法使い「回復できてるワケないよな。骨が内臓に刺さってるハズだ」
魔法使い「殺し合いってのは、結局は最初の一撃でほとんど決まっちまう」
魔法使い「スポーツじゃねぇんだ、一度大きな差がついたらもう逆転は無理だ」
魔法使い「だが、俺たち兄弟はこの最初の一撃を入れるのが得意なんだ」
魔法使い「俺が魔法タイプ、弟を格闘タイプ、だと思い込んでかかってきたヤツらに」
魔法使い「ズドン! ってやっちまえばいいワケだからな……まさに出オチだな」
魔法使い「もっとも普通に戦っても、おまえらくらいは戦えるがな」
武術家(くっ……くそぉ~……!)
武術家(コイツら……こうやって修羅場をくぐってきたワケか……)
武術家(油断してるところに、あんな一撃喰らわされちゃ一たまりもねェ……!)
武術家(俺は……こんなところで死ぬべき人間じゃないんだ……!)
武術家(死にたくない……!)
武術家「な、なぁ……俺を手下に、してくれないか……?」ゴホッ
武術家「た、頼むよ……! きっと、役に立てるぜ……?」
魔法使い「ほぉ、舎弟ねぇ」
魔法使い「おまえとしても、俺みたいな華奢なヤツにやられたなんてのはイヤだろうしな」
武術家「ああ! だから……アンタたちの下で汚名を返上するチャンスを──」
魔法使い「弟よ、コイツのトドメは譲るよ」
魔法使い「コイツ、俺に倒されたくないみたいだからよ」
武術家「えっ!?」
マッチョ「うん、兄ちゃん」
武術家「ま、待っ──!」
マッチョ「“ウインドカッター”」ビュオン
武術家「やだぁぁぁぁっ!」
ズバシュッ!
マッチョが放った風の刃で、武術家の首と胴体が離れた。
魔法使い「さてと、あとはおまえだけか」
魔術師「ぐぅ……っ!」
魔術師(くそっ……全身大火傷で、体が動かん……! 魔力も練れない……!)
魔法使い「こんがり焼けちゃってるな~……ミディアムってとこか」
魔法使い「魔術師は、やっぱ魔法使いの格好しているヤツにやられたいだろ?」
魔術師「ひぃっ! 動けぬ相手を……攻撃するの、ですか!?」
魔法使い「戦えぬ村人たちを脅すよりは、多少マシだと思うぜ?」ニヤッ
魔術師「!」ビクッ
魔術師「い、い、い、命だけはお許し──!」
ゴキッ!
魔法使いは魔術師の首を折り曲げた。
魔法使い「バカどもが……」
魔法使い「生まれつき、恵まれたセンスとそれに見合う能力を持ちながら」
魔法使い「クソみたいな人間に落ちぶれやがって……」
マッチョ(兄ちゃん……)
マッチョ『兄ちゃん、今日も大勝利だったね!』
魔法使い『ああヤツら、俺が肉弾戦を始めた時、メチャクチャ驚いてたぜ』
魔法使い『俺とおまえの能力を入れ替えて、大成功だったな!』
魔法使い『ハハハハハ』
魔法使い『ハ……ハハ……ハ……』
ガンッ!
魔法使い『クソッ!』
魔法使い『こんな不意打ちみたいな戦法で、なに満足してんだ俺はっ!』
魔法使い『俺は神に抗ったんじゃねぇ……逃げたんだ!』
魔法使い『生まれ持った体と才能でやってく自信がないから……逃げたんだ!』
魔法使い『おまえを巻き込んで……逃げたんだ……』
魔法使い『あの秘術は、一度やったらもう元には戻せねぇ……』
魔法使い『ちくしょうっ……!』ギリッ
マッチョ『兄ちゃん……』
戦いは終わった。
村長「ありがとうございました!」
村長「あなたたちのおかげで、村は救われました……!」
魔法使い「なに、いいってことよ」
マッチョ「アイツらがここまでのさばったのは、ぼくらが原因でもあるしね」
村娘「ところで私は……」
魔法使い「ん、ああ、これでおまえは俺のモンになった」
魔法使い「町で見た時、アンタはまさに俺の好みだったからな」
村娘「…………」
魔法使い「だが、よくよく見るとアンタ、俺の好みじゃねえや」
魔法使い「だから、いらねえ。もう好きにしなよ」
村娘「えっ……」
魔法使い「おまえみたいな田舎娘は、あの野暮ったい兄ちゃんがお似合いだよ」
魔法使い「これもまた、一つの適材適所だな」
村娘(魔法使いさん……)
魔法使い「あ、あと俺らって忘れ物しやすいタイプだけど、別に届けなくていいぜ」
村娘「忘れ物?」
村人「あれ、こんなところに金貨が入った袋が落ちてるぞ?」ジャラ…
村長「これは……あの二人に渡すハズの報酬では──」
魔法使い(ゲッ!?)
魔法使い「逃げるぞ!」ダッ
マッチョ「え!? ……あ、うん!」ダッ
駆け出す魔法使いとマッチョ。
木こり「あ、逃げちまった!」
村長「そうか……報酬はいらないということか……」
村娘「あ、ありがとうございますっ! 魔法使いさん、マッチョさん!」
青年「ありがとうございましたっ!」
次々と村民たちが二人に叫ぶ。
「ありがとう!」 「どうもありがとうっ!」 「また来てくれよっ!」
顔を赤らめ、村から逃げる二人。
スタタタタ……
魔法使い「くっそ~、俺たちがいなくなった後でだれかが金貨袋を発見して」
魔法使い「“貧しい村のために報酬を取らないなんて、なんてステキな人たちだ”」
魔法使い「──ってなる予定だったのに……」
魔法使い「恥ずかしすぎる……! ダサすぎる……!」
マッチョ「兄ちゃんはそんなキザなマネができるほど、器用じゃないもんね」
マッチョ「最初から素直に金も村娘さんはいらないっていっておいた方がよかったね」
マッチョ「やっぱり人間、能力に見合わないことはしちゃいけないね」クスッ
魔法使い「うるせぇっ!」
<END>
105 : 以下、名無しにかわ... - 2012/05/04 02:37:56 UwGmuCNJ0 65/65どうもありがとうございました