―正午―
~見滝原 マミのマンション~
ほむら「着いたわ。」
ハンター「ここか…。」
二人はマミが部屋を貸りているマンションの前に着いた。
そして門をくぐりマミの部屋の玄関に来た時、男の背中が急に軽くなった。
杏子「よっと。…ふわ~ぁ。」
男の背中から降りた少女はその小さな口から八重歯を覗かせ、大きな欠伸をした。
ハンター「起きたか。」
杏子「…あぁ。それよりここは?」
ハンター「マミのマンションだ。」
杏子「…!…マミさんのマンション!?…じゃあ、あたしはここで…」
杏子が全てを言い終わる前にほむらが押したインターホン応じてまどかがドアから現れた。
まどか「ほむらちゃん!それにハンターさんも!!…さやかちゃんは?」
彼女は開口一番、さやかの安否を尋ねて来た。
元スレ
ハンター「“ワルプルギスの夜”討伐依頼?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1328591722/
ほむら「落ち着いてまどか。」
ハンター「さやかなら無事だ。」
さやかはほむらの背中で寝息を立てている。
まどか「…!」
それを見たまどかは今にも泣き出しそうな顔になった。
ハンター「ちゃんと連れて帰るって言ったからな!」
まどか「…はい!」
ハンター「それよりマミは?」
まどか「マミさんなら…」
マミ「私なら…もう平気です。」
噂をすればなんとやら…奥のリビングからマミがゆらりと姿を現した。
マミの姿を見た男とほむらは反射的に身構える。
男は結界を出た直後に装備をほむらに渡したので完全な丸腰だ。
まどか「マミさん!?…まだ横になってなきゃダメですよ!!」
マミ「いいの…それよりこんなところではなんですから、どうぞあがって下さい。」
ハンター「…あ、あぁ。」
予想に反して落ち着いた態度の彼女に促され男とほむらは部屋へ入っていく。
杏子「マミ…さん。」
マミ「…!…杏子ちゃん…あなたもよかったらあがって。」
杏子は迷ったが皆に従い玄関のドアをくぐった。
マミのベッドにさやかを寝かせ、一同はリビングの背の低いテーブルを囲むように腰を下ろした。
マミ「まずはみんなに謝らないといけないわね…本当にごめんなさい。」
ハンター「気にしないで。あれは仕方なかったことだ。…それより腕は大丈夫か?」
マミ「はい。それなら問題ありません。」
傷跡ひとつ残っていないマミの右腕を見て男は胸を撫で下ろす。
ハンター「やむを得なかったとは言え…すまなかった。」
男は深々と頭を下げる。
マミ「ハンターさん!?やめて下さい!これは私が悪いんです!!私のせいで…」
男の謝罪に対してマミは顔前で大きく手を振ってうろたえる。
ほむら「いえ…全てはみんなにソウルジェムの秘密を話さなかった私の責任よ。」
杏子「…。」
ほむらは自身の“事情”をしらない杏子の為にも改めて全てを包み隠さず説明した。
ほむら「今まで黙っていて…ごめんなさい。」
マミ「気にしないで暁美さん。」
マミ「それはソウルジェムの秘密を知った私が取り乱すことを見越してのことだったんでしょ?」
ほむら「え…えぇ。」
マミ「私の方こそ、取り乱してしまってごめんなさい。」
ほむら「…。私は…。」
杏子「ほむら…お前も自分の願いに後悔しない為に精一杯頑張ってんだな。」
まどか「それより、なんとかしてみんなが魔法少女から元に戻る方法ってないのかな?」
ほむら「いつかキュウベェに聞いたけど…ないと言っていたわ…。」
ほむらの言葉で部屋は重い沈黙に包まれる。
ハンター「…そのことなんだが、俺に考えがある。」
唐突な男の発言に皆の視線が集まる。
ほむら「ハンター…?」
ハンター「なぁ、まどかちゃん。明日ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど。」
まどか「いいですよ!…でも手伝って欲しいことって何ですか?」
ハンター「まぁそれは明日のお楽しみってことで…。」
男は何やら自信ありげにふてぶてしく微笑む。
その顔を見た一同は目を輝かせた。
ハンター「それと…だ。杏子。」
杏子「なんだよ?相棒。」
男はあぐらをかいて座る自身の左膝の上にさも当然のごとく腰を下ろす少女に声をかける。
ハンター「お前、マミの部屋に住ませてもらえ。」
杏子・マミ「…え!?」
男の提案に杏子は思わずポケットから取り出したお菓子をポロリと落とした。
杏子「な!…何言ってんだよ!?」
ハンター「一日中教会に篭ってるより健全だろ?」
杏子「人をヒキコモリ扱いすんじゃねぇよ!」
うろたえる杏子などお構いなしに男は続ける。
ハンター「それに…にぎやかな奴がいた方がマミも退屈しないだろ?」
マミ「…。」
マミ「私は…杏子ちゃんさえよければ…。」
杏子「マミ…さん!?」
ハンター「…だそうだが、どうする?」
杏子「…マ、マミさんがそう言うなら…。」
マミ「うふふ…よろしくね。杏子ちゃん。」
杏子「あ…あぁ。また世話になるよ。」
男はそんな二人を見てしきりに頷いていた。
杏子「お前は強引だな。」
ハンター「よくそう言われるな。」
男は文句をブツブツと垂れ流す杏子の頭をわしわしと撫でながら、
彼女が先程落としたクッキーをその口に押し込んで黙らせた。
杏子「まったく…(ボリボリ)…お前には勝てる気が(ゴクン)…しないな。」
ハンター「勝てるつもりでいたのか?」
杏子「ははッ!言ってろ!」
男の挑発的な返事に少女は朗らかに笑う。
ほむら「とりあえず、話は一段落ついたけど…」
ほむら「あなたはいつまでそこに座っているのかしら?」
そんな少女の問掛けに男の膝にちょこんと座る杏子は口元をニヤリと歪めて答える。
杏子「なんだよ…もしかして妬いてんのか?」
ほむら「な!?」
部屋に妙な沈黙が訪れる。そこへ…。
さやか「あれ?みんないたんだ…。」
マミの部屋から眠たそうな目をこすりながらさやかがやって来た。
さやか「…ってか何この空気?」
まどか「…さやかちゃん。」
そんなさやかを見てまどかとマミは苦笑いを浮かべるのだった。
― 夕方 ―
あれからしばらく皆で雑談した後マミと杏子を部屋に残して少女達は帰って行った。
杏子「…なんていうかにぎやかなヤツらだな。」
杏子はやれやれと肩をすくめる。
マミ「うふふ。そうね。」
杏子「マミさんはホントにいいのか?その…あたしがここにいて…。」
マミ「昔は一緒だったじゃない。あなたが駆け出しの頃は…」
杏子「それは昔だろ?…あたしは一方的に出ていったってのに…。」
マミ「私はあなたがこの町に戻ってきてくれて嬉しかったわよ?」
杏子「……。」
マミ「おかえり、杏子ちゃん。」
杏子「……ただいま。」
― 夜 ―
~見滝原 ほむら宅~
男と少女はリビングで夕食を摂っていた。
ほむら「あなた、料理もできるのね。」
ハンター「一人で野営することも多いからな。見てくれの悪さはどうにもならんが…。」
今日の夕食は男が手掛けたのだった。
ほむら「…でもなかなかの味よ。」
ハンター「それは何よりだ。」
ほむら「ねぇ…さっきみんなの前で魔法少女を元に戻す方法に心あたりがあるって言っていたけど…」
ほむら「…本当なの?」
少女はにわかには信じられないといった様子だ。
ハンター「あぁ。そのことか。」
ハンター「俺はあまり頭のいい方じゃないが…」
ハンター「職業柄、一応だけど薬の調合とかには造詣が深いんだよ。」
ほむら「…!…じゃあ元に戻す薬か何かに心当たりがあるの?」
少女は男の方へぐいっと身を乗り出す。
ハンター「いや…さすがにそんな都合のいい代物はないよ。」
ほむら「…??じゃあどうするつもりなのかしら。」
ハンター「話すと少し長くなるけど…。」
男はそこで一旦軽く目を閉じ、テーブルの上で手を組んだ。
ハンター「化学の話になるんだけど“化学変化”って分かるかい?」
ほむら「えぇ…例えば鉄が酸化したり、錆びた鉄を元に戻したりすること…よね?」
ハンター「まぁそんな感じかな。」
ほむら「それがどうしたと言うの??」
ハンター「つまりだ。物質は違う物質に変化しても理論上は元に戻すことができるんだ。」
ハンター「つまり魂を別の物質…ソウルジェムに変化させたと考えれば…」
ほむら「…!…キュウベェは元に戻す方法を知っている!?」
ハンター「俺の勘だが…その可能性はかなり高いと思う。」
ほむら「でもどうやって?…あいつと交渉しても素直に戻してくれるとは思えないわ。」
ハンター「交渉なんてしないよ。」
ほむら「え?だったらなおさらどうやって…。」
少女は首をかしげる。
ハンター「脅して命令するんだよ…!」
ハンター「ヤツがこちらの条件を飲まざるを得なくなるように追い詰めてからな!」
ほむら「…?ますますわからないわ。」
そこで男は組んでいた手を解いて少女に真剣に向き直る。
ハンター「なぁ、ほむら。前にも聞いたけどキュウベェの目的って何だっけ?」
ほむら「それは…」
少女はキュウベェの目的を、以前に男に説明した内容を今一同語りだす。
キュウベェ、もといインキュベーターの目的は…。
少女の願いを何でもひとつ叶える代わりに魔法少女になってもらう。
だがそれは表向きの話だ。
彼の真意は魔法少女が魔女に変貌する際に発生する何らかのエネルギーを集めることにある。
ほむら「だから、キュウベェはそのノルマを達成する為に少女に契約を迫る。」
ハンター「そこだよ。だったらそのノルマが全く果たせなくなったら…エネルギーとやらが回収できなくなったらどうなる?」
ほむら「そんなことが可能なの!?…そもそもアイツはたくさんいて、それこそ世界中にいるのよ?」
ほむら「…それをどうやって阻止するの!?」
ハンター「俺になら…俺たち狩人になら可能だ。」
そこで男はPHSを取り出した…。
― 深夜 ―
~まどか宅 自室~
少女はベッドに寝そべり携帯を握りしめていた。
まどか(…さっきハンターさんから電話で言われたとおりにすればいいんだよね。)
少女はそっと目を閉じ心の中で“彼”に呼びかける。
まどか(…キュウベェ…話があるの。)
するとすぐに反応があった。
キュウベェ(どうしたんだい?こんな時間に?)
まどか(私…やっと自分の願い事が決まったの!…だから…)
キュウベェ(本当かい!じゃあボクと契約してくれるんだね!!)
まどか(うん。…だから明日、学校が終わってから来て欲しいところがあるんだけど…)
………。
キュウベェ(わかった!じゃあ明日そこで落ち合おう!)
まどか(…待ってるからね。)
彼とのやりとりを終えるとまどかは部屋の明かりを消して眠りに就いた。
―朝―
~見滝原 ほむら宅~
登校するほむらを見送った後男はPHSでギルドに連絡をとっていた。
ネコートさん「話は分かった…君の言うとおり“彼ら”をそちらに向かわせたよ。」
ハンター「流石は仕事が早いな!」
ネコートさん「まさかそんな事になっているとはね…それともう一つの件だが…」
ハンター「それはまだいい。」
ネコートさん「そうか…また何かあったら直ぐに言いたまえよ?」
ハンター「ありがとう…それじゃあ。」
電話を切ると男は自室へ戻り何やらポーチを漁り出した。
― 午後 ―
~見滝原 中学校 教室~
終礼のホームルームが終わり生徒達が帰り始める。
さやか「ま~どか~!ほむら~!一緒に帰ろ~!」
席の近い二人の少女の元にさやかが近付いてくる。
まどか「さやかちゃん…私今日は…」
ほむら「さやか。まどかはちょっと用事があるみたいだから今日は私と帰りましょ。」
さやか「え~。用事って何だよ~?」
ほむら「いいから、行くわよ!」
さやか「わっ!ちょっと!?ほむら~??」
ほむらはさやかをズルズルと引っ張っていった。
仁美「それじゃあ、私も先に帰らせてもらいますわ。」
まどか「あ、うん!仁美ちゃんもまた今度ね!」
クラスメイトを見送ったまどかは一人目的の場所へ向かった。
― 夕方 ―
~見滝原 高台 公園 ~
見滝原の町を見渡せる高台の人気のない公園に少女はいた。
その公園の隅のベンチにまどかは一人腰かけている。
キュウベェ「早かったね…待たせたかい?」
ふいに少女は小さな白い動物(?)に話かけられた。
まどか「キュウベェ…。私も今来たばっかりだよ。」
キュウベェ「そうか…じゃあ早速君の願い事を…」
ハンター「…その前に俺の話を聞けよ…キュウベェ。」
キュウベェ「…君は。」
キュウベェは声がした方を見る。
公園の入り口からはハンターと…二人の男がこちらへやって来る。
ハンターの後ろのイカツイ二人の男はともにTシャツにジーンズと言うラフな格好だ。
そして両手にバカでかいトランクを持っている。
キュウベェ「これはどういう…?それにその二人は何者なんだい?」
地獄兄弟(兄)「ドハハハハ…!俺達は人呼んで地獄から来た兄弟…ヘルブラザーズよ!なぁ!弟よ!」
地獄兄弟(弟)「おうとも兄者!俺達は泣く子も黙る上位ハンターだ!バハハハハ…!」
キュウベェ「…彼等も狩人なのかい?」
ハンター「あぁ。だが今はそんなことは関係ない。」
ハンター「キュウベェ…さやか、杏子、マミ、そしてほむらの四名を元に戻してやってくれないか?」
キュウベェ「それは無理だよ。何を根拠にそんな…」
ハンター「そうか…残念だ。」
あくまでシラを切る彼の態度を見て彼はPHSを取り出した。
キュウベェ「そんなもので何をするつもりだい?わけがわからないよ…。」
キュウベェは首を傾げてみせる。
ハンター「キュウベェ…お前、エネルギーとやらが回収できなくなったら困るよな。」
キュウベェ「そりゃ困るさ。ボク達にとっては死活問題だからね。」
それを聞いた男は不敵な笑みを浮かべる。
ハンター「今から俺がギルドに連絡して、お前が討伐対象として認定されたとしたらどうする?」
キュウベエ「そ、そんなことが…。」
ハンター「世界中の腕利き狩人達に永遠に追い掛け回されるのもいいかもな?」
キュウベェ「…本気かい?」
ハンター「あぁ。ただしさっき俺が言った条件を飲んでくれるなら見逃してやってもいい。」
キュウベェ「…断る!」
キュウベェの返答を聞いた男はあることを確信した。
ハンター(ヤツは今“できない”ではなく“断る”と言った。)
ハンター(つまり、魔法少女を元に戻すことは可能ということだ!)
ハンター「じゃあ仕方ないな。」
キュウベェ「…。」
男はPHSで何やら話始めた。
ハンター「俺だ、例のモンスターを討伐対象にして世界中に緊急以来を送ってくれ。…ああ。…よろしく頼む。」
キュウベェ「君は今何をしたか分かってるのかい?…このままでは宇宙は…」
ハンター「知らんな!それはお前らの理屈だろうが!!」
キュウベェの恨み節を男はピシャッと遮った。
ハンター「ただし、俺も鬼じゃない。条件を飲むなら討伐対象から取り消してやる。」
キュウベェ「……。」
ハンター「条件を飲む気になったらいつでもまどかにテレパシーとやらで連絡をよこせ!」
そこまで言うと男はポーチからペイントボールを取り出してキュウベェに投げつけた。
球がはじけるとピンク色の液体と強烈な臭いを巻き散らされた。
キュウベェ「なんのつもりだい?これは。」
ハンター「これでお前は狩られる者になった。」
ハンター「そして、この国でお前の討伐を担当するのはこの二人だ…。」
ハンターがそこまで言うと二人の男はずいっと前に進み出る。
地獄兄弟(兄)「うむ!では俺達の狩りを始めるとするか、弟よ!」
地獄兄弟(弟)「そうだな兄者!俺のライトボウガン“タイタンパンツアー”とォ…!」
地獄兄弟(兄)「俺のヘヒヴィボウガン“メテオフォール”との連携でぇ…!!」
地獄兄弟「地獄の業火ヘルファイアにて葬り去ってくれるわ!バハハハハ…!ドハハハハ!」
キュウベェ「…くっ!!」
キュウベェは二人の腕利き狩人に終われて公園から去って行った。
まどか「なんか可愛そう…かも。」
消えて行ったキュウベェを眺めながら少女は呟く。
ハンター「可哀想なもんか。ヤツは今まで願いを叶えると称してたくさんの少女達を犠牲にして来たんだ…。」
ハンター「これは然るべき報いでもあるんだ。」
まどか「…!…そうですね!」
まどか「でも、うまくいくでしょうか…」
ハンター「うまくいくさ。今頃世界中で追い掛け回されてあの無表情な顔でヒィヒィ言ってるかもな。」
まどか「ティヒヒ…それはやだなぁ。…けど、なんかうまくいきそうな気がしてきました!」
二人はしばらく笑いあって高台の公園を後にした。
~見滝原 市街地~
ハンター「今日は手伝ってくれてありがとな。」
まどか「ティヒヒ…どういたしまして!」
ハンター「じゃあ俺はこっちだから…またね。」
まどか「はい!」
高台の公園を後にした二人はそれぞれの帰路につこうとしていた。
まどか「ハンターさん!」
少女と別れ、歩き出した男の背に声がかけられる。
まどか「今日はありがとうございました!私、いっつも見てるだけだったから…」
まどか「少しでもみんなの役に立ててうれしかったです!!」
礼を言う少女に対し男は振り返らず、ただ手を振って去って行った。
男の姿が見えなくなってからしばらくすると少女の携帯が鳴った…。
まどか(この音はメール…。誰からだろ…?)
少女は携帯を取り出し画面を見る。
from:ハンターさん
to :********
sub : 無題
本文:狩りにおいても人生においても人にはそれぞれ役割のようなものがある。だから、君は焦らず君のできることをすればいい。
まどか(ハンターさん…。)
メールの文面を見たまどかは返信の文面を打ち終えると携帯をポケットに戻した。
まどか(私のできること…か。)
まどか「私も…みんなの為に自分らしく頑張ろう。」
少女は男が消えて行った方向をもう一度見てから再び家路を急いだ。
― 夜 ―
~見滝原 ほむら宅~
ハンター「ただいま。」
ほむら「おかえりなさい。…それで、どうだったの?」
ハンター「あぁ。それなら…」
男はリビングのテーブルの席に着くと先程の事の填末を話した。
ほむら「そう。ならうまくいったのね!」
ハンター「これでみんなは近々、晴れて魔法少女から解放されるはずだ。」
ほむら「ハンター…あなたには本当になんて言ったらいいか…」
その時男のPHSから呼び出し音が鳴った。
ほむら「…誰からかしら?」
ハンター「ギルドからだ。新たに支給品を要請しておいたからな……もしもし…」
男は電話に出て話し込んでいる。
ハンター「…え?…でも何で??…分かった。」
ほむら「…?…どうしたの?」
ハンター「ギルドの者が依頼が長引きそうだから依頼人の君に進展を聞きたいそうだ。」
そう言うと男は少女にPHSを手渡した。
ほむら「…もしもし?」
???「こんばんは。私はネコートと言う者です。依頼の状況はいかがです?何か問題はありませんか?」
ほむら「問題はありません。後はワルプルギスの夜さえなんとかできれば…。」
ネコートさん「ふむ。では事は順調に進んでいるのですね。」
ほむら「えぇ。…でもワルプルギスの夜は自然災害そのものとも言える超弩級の存在で…。」
ネコートさん「それならご心配なく。相手が超弩級ならば対するハンター君はG級…」
ネコートさん「猛者揃いの狩人達の頂点の一人にして、“無双の狩人”の異名を持つ男です。」
ほむら(“無双の狩人”…。)
ネコート「彼に任せておけば問題ないでしょう。…ただ…。」
ほむら「…ただ?」
そこまで言ってネコートは蛇足だったか…と思いつつも続ける。
ネコート「彼はどこか…戦場で死ぬ事を望んでいる節があるような気がしてならないのですよ。」
ほむら「…え??」
ネコート「いえ…私の勝手な思い込みです。忘れて下さい。…それでは依頼が無事達成されることを願っています。」
そこまで言うと電話が切られた。
ハンター「…で?何だって??」
ほむら「え?…えぇ。困った事があったらいつでも言って下さいって…。」
ハンター「そうか。あの人らしいな。」
少女は平静を取り繕ったが先程のやりとりが気になっていた。
その時、リビングのテレビの画面がCMから天気予報に移り変わった。
気象予報士「天気予報の時間です。日本列島の遥か南の洋上で発生した大型台風は勢力を強めながら徐々に進路を変え…。」
気象予報士「……今後も台風の進路に警戒する必要があるでしょう…続きまして明日の最高気温は……。」
ほむら(…来る!…あいつが!…ワルプルギスの夜が!!)
ハンター「…?…ほむら?」
男はテレビ画面を食い入るように見つめる少女に心配そうに声をかける。
ほむら「ハンター…もうすぐワルプルギスの夜が現れるわ。」
ハンター「…!!」
少女のその言葉で男に緊張が走る。
ほむら「さっきの天気予報からすると2、3日後といったところかしら。」
ハンター「2、3日後か…。」
ほむら「えぇ…。それまでにしっかり準備しておいてね。」
ハンター「あぁ!」
男は席を立つと自分の食器を流しに置いて振り返って少女に告げる。
ハンター「ほむら!…絶対に勝つぞ!!」
満面の笑みで振り返った男の口元には米粒がこれでもかと言うくらいもっさりと付いていた…。
ほむら「…ぷっ!くくっ……。」
それを見た少女は笑いを必死で堪えている。
男はその米粒を食べながら自分の部屋へと消えて行った。
ほむら「こんな時にまで大した余裕ね。」
近付く決戦を前にして尚、気遣いを忘れない男に少女はただただ感心していた。
― 深夜 ―
~見滝原 某所~
彼はひたすらに逃げ回っていた。
地獄兄弟(弟)「そちらへ向かったぞ!兄者!」
地獄兄弟(兄)「了解だ!任せておけィ!弟よ!!」
キュウベェ(どこへ逃げても追い掛けて来る!一体何なんだ彼らは!?…わけがわからないよ!)
そんな彼の後ろからサイレンサー着きの銃口から発射される無音の銃弾の嵐が遅いかかる!
キュウベェ「…ぐっ!しまった!!」
そしてついに銃弾の直撃を受け彼は絶命する。
地獄兄弟(兄)「ドハハハハ!仕留めたぞ!これで52匹目だァ!!」
地獄兄弟(弟)「バハハハハ!流石は兄者!…次は向こうに現れたようだ!!」
地獄兄弟(兄)「うむ!狩りは楽しいなァ!!」
地獄兄弟(弟)「まったくだ!!」
地獄兄弟「ドハハハハ…!バハハハハ…!」
彼の受難はまだまだ始まったばかりだった…。
― 朝 ―
~見滝原 中学校 教室 ~
さやか「…でさぁ~…」
まどか「…だよねぇ…」
ほむら「…ふふっ…。」
担任「は~い、みんな席に着いて~。」
担任のかけ声で生徒達はそれぞれの席に着いた。
担任「いきなりだけど、このクラスにまた人が増える事になりま~す…ってことで転校生~、入って来て~。」
先生の言葉に促され、転校生は教壇の上に立った。
さやか「!」
まどか「!」
ほむら「!」
担任「はい!じゃあ自己紹介して~。」
転校生「杏子…、佐倉杏子だ。…よろしく。」ムスッ
さやか「杏子ぉ!?」
まどか「杏子ちゃん!?」
ほむら「……。」
さやかは思わず席から立ち上がった。
担任「あら?二人とも知り合いなの?…じゃあ佐倉さんの席はそこね~」
杏子は担任が指差した場所…さやかのとなりの席にツカツカと歩いて行った。
さやか「なぁ、杏子。どうなってんのこれ?」
杏子「マミさんがちゃんと学校に行けってうるさくてな。あたしは嫌だったんだが…」
杏子「マミさんの遠縁の親戚ってことで転入させられたんだ。」
席についた杏子は仏頂面でさやかの質問に答えた。
さやか「そうか!これからよろしくな!杏子!!」
仏頂面の少女に対しさやかは嬉しそうに微笑む。
杏子「…あぁ。」
杏子は言葉少なく答えたものの、口元には笑みを称えていた。
― 正午 ―
~見滝原中学校 屋上~
午前の授業が終わり五人の少女は屋上で昼食を摂っていた。
さやか「それにしても杏子が教室に入って来た時はビックリしたなぁ~。」
ほむら「そうね。…私も驚いたわ。」
杏子「あたしもマミさんに言われてなきゃ来てないさ。学校なんて面倒臭い。」
マミ「あら…ダメよ、杏子ちゃん!学校にはちゃんと行かないと!」
杏子「うっ…、わぁかったよ!ちゃんと通うからそんな顔しないでくれよ…」
まどか「ティヒヒ…何かマミさん…お母さんみたい!」
マミ「お母さん!?…せめてお姉ちゃんと言ってほしいわ。」
そんな日常の何気ないやりとりに一同は笑い合う。
他愛のない話に花を咲かせる皆を見て、少女は意を決して話し始めた。
ほむら「盛り上がっているところ悪いのだけど…みんなに話があるの。」
ほむらの真剣な表情を見た一同は雑談を止め彼女の話に耳を傾ける。
ほむら「ここじゃなんだから今日学校が終わったら集まって欲しいの。」
マミ「分かったわ。じゃあ学校が終わったら、みんな私の家に来ない?」
マミ「先に帰ってお茶とケーキを用意して待ってるわ。」
さやか「あ!そうか、マミさんは今日授業、五時間目までだもんな。」
まどか「ほむらちゃん…ハンターさんにはもう言ったの?」
ほむら「あの人には今メールを送っておいたわ。」
杏子「いよいよ…か。」
杏子がそう呟いた時、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、少女達は屋上を後にした。
― 昼 ―
~見滝原 市街地~
迫る決戦を前に、男はまだ全てを見回れていなかった町を再び散策していた。
ハンター(取り敢えず一通りは回れたな。これで大体は…)
ハンター「…ん?」
その時、男のポケットから振動が伝わって来た。
男はその振動の元を取り出して開いた。
ハンター「…メールか。」
from:暁美 ほむら
to :******
sub :無題
本文:ワルプルギスの夜のことで皆と話し合うから、2時半頃に巴さんの家にあなたも行って先に合流しておいて。後から私達も行くから。
ハンター(今は1時ちょうどか…もう少し時間を潰したら行くとするか。)
ハンター「了解…っと。」
男はぎこちない手付きで返信の文面を打つと駅前の繁華街へと向かった。
― 午後 ―
~見滝原 マミのマンション~
マミの部屋の前に着いた男はドアの前でインターホンを鳴らした。
するとしばらくして慌ただしい足音と共にドアが開き、エプロン姿のマミが現れた。
ハンター「すまん、ちょっと来るのが早すぎたか?」
マミは鼻の先についたクリームを恥ずかしそうに拭って答える。
マミ「いいえ。そんなことないですよ。…それより、どうぞ上がって下さい。」
ハンター「それじゃあ、お邪魔するよ。」
男は少女の後に続いてリビングへと入って行った。
~マミの家 リビング~
男は部屋に入ると背の低いテーブルの前であぐらをかいて座った。
マミはテーブルに置かれている焼きたてのホールケーキを6つに切り分け、
紅茶と共に男に差し出した。
マミ「どうぞ、召し上がって下さい。」
男に差し出されたケーキは6つの中で一際大きな物だった。
ハンター「杏子のヤツが見たら何やら文句を言いそうだな。」
マミ「ですから、みんなが来る前に食べちゃって下さい。」
マミ「いつも助けてもらってばかりですから、そのお礼ですっ」
少女は満面の笑みを浮かべて男に感謝を述べる。
ハンター「じゃあ遠慮なく頂くぞ。」
男はイチゴの乗ったケーキに手をつける。
マミ「どうですか?」
ハンター「うまいな。すごく上品な味だ。」
マミ「お口に合って、何よりです。」
男の感想を聞いて少女は嬉しそうに答えた。
そんな少女を見て男は気になっていた事を口にした。
ハンター「もうふっきれたのか?」
男の問掛けに対し少女は間を空けることなく返す。
マミ「はい。さすがに全てを納得できたわけではありませんが…私はもう独りじゃないから…」
ハンター「そうか。」
マミ「それに、魔法少女から元に戻る方法にも見当があるんですよね?」
ハンター「そのことなんだが…多分近々みんな元に戻れるぞ。」
マミ「そうですよね。やはりそんな簡単には……え!??」
さらりと男の口から出た意外な返答に少女は思わずその手からフォークを落とした。
マミ「元に………戻れるんですか??」
ハンター「あぁ。詳しくは皆が集まってから話すが…。」
マミ「ハンターさんッ!!」
男が全てを言い終わる前に少女は男に抱きついた。
マミ「………ッ」
マミは男の胸板に顔をうずめて泣き出した。
男はそんな彼女の頭を優しく撫で、落ち着くのを待った。
しばらくして少女は落ち着きを取り戻すと、自身が魔法少女になった経緯を語りだした。
昔、家族三人でドライブをして時に車が崖から転落し両親は即死…。
自身も瀕死の重症を負うも目の前に現れたキュウベェに延命を願いやむを得ず契約したこと。
魔法少女になってからはずっと孤独であったことを…。
マミ「だから私はずっと解放されることを信じて戦って来たんです!」
マミ「そんな日が本当に…本当にやってくるなんてッ…!!」
ハンター「マミちゃん…お疲れ様。」
マミ「…はい……。」
再びマミの視界が滲んでいく…。
ハンター「君も、望んで選んだ訳じゃないんだな…」ボソ
マミ「…ふぇ?」
その時玄関のインターホンが鳴らされた。
マミ「あ…、みんなが来たみたいです。」
少女は男から離れると少し赤い目を拭いながら玄関へと向かった。
ハンター(そう。あの子達は近々、魔法少女から無事解放され救われる…。)
ハンター(俺も…いつかは救われるんだろうか…。)
もの思いに耽る男は、ハッと思い出したようにそそくさとケーキの残りを口に入れ、紅茶で流し込んだ。
そのタイミングを見計らったかのように少女達がリビングにやってくる。
杏子「よう、相棒!もう来てたのか。…それよりケーキ、ケーキ!」
ハンター「あぁ。お邪魔してるよ。」
杏子は早速ケーキを選ぶとあぐらをかく男の左膝の上に自身の指定席と言わんばかりに腰かけた。
ほむら「…お邪魔します。」
それを眺めながら男の右側に腰を下ろしたほむらは何やら仏頂面だ。
まどか「あれ?マミさんの目…なんか赤いね。」
マミ「そ、そうかしら?自分ではよくわからないわ。」
さやか「お~!マミさんのケーキ~!!」
そうこうしているうちにリビングに全員が揃った。
皆が揃ったところで杏子が気になりつつもほむらは話を切り出した。
ほむら「今日みんなに集まってもらったのは他でもない…前に話したワルプルギスの夜についてなの。」
ほむら「近々現れるヤツはとても強大な、自然災害そのもののような超弩級の魔女よ。」
ほむら「今まで何度挑んでも駄目だった…でも、今一度、みんなに力を貸して欲しいの!!」
マミ「私は協力するわ。一緒に戦いましょう!暁美さん!!」
さやか「あたしも戦うぞ!ほむらだけに全部背負わせたりするもんか!」
杏子「今更頼み事なんて水くせぇんだよ!…お前はあたしらにただ手伝えって言やいいんだよ!!」
ほむら「みんな…!」
ハンター「俺も闘おう。ヤツを倒し、お前らを守ることが今の俺の使命だからな。」
ほむら「ハンター…!」
さやか「ハンターさんも来てくれるんなら百人力だな!!」
ほむらは皆が快く引き受けてくれた事に深く感謝していた。
ほむら「ありがとう…絶対にワルプルギスの夜を倒しましょう!」
少女のかけ声に皆威勢の良い返事を返す。
まどか「ほむらちゃん…あたしも何か手伝えることないかな?」
ほむら「まどか、気持ちはありがたいけど…」
ハンター「そうだな、今回ばかりは安全な所に避難するんだ。」
まどか「…でも!!」
ハンター「まどか。ほむらの気持ちを汲んであげるんだ。」
まどか「…!そうですね。私は私のできることを、ですよね。」
ハンター「そういうことだ!…それから俺とまどかからもみんなに話があるんだ。」
男はまどかに目線を送る。
目が合ったまどかは真剣な表情で頷いた。
ハンター「実はこの前に心あたりがあるって言ってた魔法少女から元に戻る方法なんだが…。」
男とまどかは昨日の夕刻の出来事を皆に話した。
さやか「まどかの用事ってそのことだったのか…。」
まどか「うん。」
杏子「なるほどなぁ。だったらまどかに魔法少女になってもらってさ…」
杏子「ワルプルギスの夜を倒してから全員元に戻してもらった方がいいんじゃねぇか?」
杏子の一言に一同は目を見開いた。
まどか「私が…。」
ほむら「だ…駄目よ!それだけは認められないわ。」
ほむらは必死でその提案を拒否する。
場に訪れた沈黙に対して男はさらに続ける。
ハンター「それでは駄目だ…さっきも話したがこの話には大前提がある。」
さやか「前提って??」
ハンター「キュウベェに条件を飲ませるためにはエネルギ゙ー回収が困難な状況に陥らせる必要がある。」
ハンター「仮にまどかが契約したらヤツのエネルギー回収のノルマは達成されるだろ?」
杏子「…そうか!そうなったらキュウベェは条件を飲む必要がなくなって…!!」
ハンター「御名答だ。これはあくまで“交渉”ではなく“脅し”だからな。」
ハンター「脅迫材料がなくなればヤツに妥協する理由がなくなる。」
マミ「すごい!そこまで考えてたんですね!!」
さやか「さすがはハンターさん!頼りになりますなぁ!!」
皆から男に賛辞の声がかけられる。
ハンター「やめろやめろ…俺はてきればキュウベェみたいな詐欺師まがいな事はしたくなかったんだからな。」
ハンター「それに俺なんかより、見事キュウベェを誘いだしたまどかを誉めてやってくれ。」
まどか「え?私は何も…。」
まどかに皆の視線が集まる。
さやか「まどかも頑張ったもんな!」
マミ「うふふ…そうね。」
杏子「まぁ、お前にしちゃ上出来だ!」
ほむら「まどかもお疲れ様。」
まどか「ティヒヒ、私はみんなの為に何かできないかなって…ただその一心で…」
マミの部屋で来たる決戦への話合いをし、憂慮すべき事柄も解消された今、
しばらく談笑した後、皆決意を新たにし、それぞれの家路に着いた。
― 夜 ―
~見滝原 ほむら宅~
帰宅した男と少女は少々早めの夕食を摂っていた。
ほむら「まだ六時だけど夕食にしましょ。」
ハンター「そうだな。」
二人はテーブルの席に着き両手を合わせる。
二人「いただきます。」
大きな口で目の前のハンバーグを頬張る男に少女は話かける。
ほむら「あなたって本当になんでもできるのね…」
ほむら「相当色んな経験を積んでるみたいだけど年はいくつなのかしら?」
ハンター「多分25歳くらいだ。」
ほむら「25歳……くらい?」
男の顔は少女のその一言にほんの一瞬、能面のように無表情になった。
だが、男はすぐにいつもの瓢々とした表情に戻った。
ハンター「まぁ…20代も後半になると自分の年に無頓着になるものだよ?お嬢さん。」
ほむら「…。」
少女はとそんな風にとぼける男を見て、今まで遠慮してきたが、
最近どうしても気になって仕方がないことを聞いてみた。
彼の生い立ちとモンスターハンターになった動機を。
ほむら「ねぇ?ハンター…。」
ハンター「なんだ?」
ほむら「あなたはどうして狩人になろうと思ったの?」
ハンター「……。」
男は表情こそ変わらないものの押し黙った。
ほむら「…というよりも、あなたはどんな半生を歩んで来たのかしら?」
ハンター「なんで…そんなこと知りたいんだ?」
男の口調は穏やかだがそこには明らかに質問に対する拒絶が含まれている。
少女は構わず続ける。
ほむら「あなたが何か大きな物を抱えて苦しんでいるような…そんな気がしたから。」
ハンター「…。」
ほむら「それにあなたは前に、私に言ったわよね?“何でも一人で背負込むな”って。」
ハンター「……。」
ほむら「私はあなたのお陰で何度も救われたわ!だから!!…無理にとは言わないけど…。」
ハンター「………。」
尚も食い下がる少女に対して男は軽く目を閉じテーブルの上で手を組んだ。
そして瞼を持ち上げ「あまり面白い話ではないよ?」と断りを入れ、薄く笑いながら語り始めた。
ここより遥か西の大陸。
今は失き彼の祖国ではかつて、紛争が続いており彼自身も幼くして戦争で両親を失った孤児だったそうだ。
そして彼の父は英雄的なモンスターハンターでもあった為に彼もその力を期待され、幼少の頃より軍隊で戦士になるべく厳しく鍛えられた。
ハンター「生き方なんてとても選べやしなかったんだ。」
ハンター「ガキのころから遊びは訓練、友と呼べるのは一振りの模造刀。」
ハンター「11歳の頃生きる為に初めて戦場で人を手にかけた。」
ハンター「返り血を浴びて初めて人の温もりを知った。」
ハンター「ガキの頃の俺はよくこんなことばかり考えていたよ…。」
ハンター「昨日は二人、今日は三人、合わせて五人…明日は何人??」
ハンター「200まで数えてそこからは数えるのをやめた。」
ハンター「殺した数だけ軍での肩書きだけは立派な物になり…」
ハンター「人は自分自身ではなく自分の力しか見てくれない。」
ハンター「自分は人であるまえに都合の良い殺戮兵器なのだと嫌でも思い知らされた。」
ハンター「生き死になんてどうでもいい。」
ハンター「多くの命をひたすらに奪って来たのだからどうせ俺はロクな死に方はできんだろうと思っていた…。」
ハンター「そしてただひたすらに戦いに明け暮れ、19歳になった頃、インペリアルガードの筆頭に抜擢されたんだ。」
ハンター「そこで俺は国の第三皇女の少女に遣えることになったんだ。」
年の近い少女との触れ合いで男は人間味をとりもどしていった…。
何より彼女は男を友として一人の人間として見てくれた。
ある時は二人でこっそり宮殿を抜け出したりした。
少女「ハンター!早く早く!…こっちに来て!」
ハンター「そんなに走ると危ないぞ~。」
ある時は夜更けに宮殿のテラスで国の行く末を語ったりした。
少女「ハンター…あたしね、もう少ししたら…」
ハンター「どうしたんだ、急に?」
それは男にとって何よりも賭けがいのないものだった。
だが、ある日。
次期皇帝の座を狙う国の重鎮の一人が軍部を掌握しクーデターを引き起こした。
遠征から近衛騎士を率いて祖国へ帰ったハンターの目に飛び混んで来たのは、
いたるところから黒煙を上げる宮殿だった。
ハンター「何だ!?これは!…それより皇帝は…少女は無事なのか!?」
ハンターは反乱軍を斬り伏せながら宮殿へ向かった。
宮殿へ到達すると近衛騎士達を皇帝の元へと向かわせ、自身は第三皇女、少女の元へと向かう。
そして向かって来る反乱軍をことごとく返り討ちにし、ハンターは少女の寝室に辿り着いた。
少女「ハンター…来てくれると信じていたわ。」
ハンター「…!…少…女。」
少女は純白のドレスの腹部を真っ赤に染め、天蓋付きのベッドに力なく横たわっていた。
少女「はぁはぁ…ハンター…あたしね…」
ハンター「もういい…!もうしゃべるな!!」
男は震える手で少女を優しく抱き寄せる。
少女「もう…いいの。…それより…。あたしはこんなにもこの国を思ってきたのに…」
少女「信じてきた国と、民に裏切られて…こんな…ことになるなんて…。」
少女「…私のやって来たことは全部…無意味だったのかしら…」
ハンター「そんなことはない!君はいつでも立派だった!!」
少女「…………ッ」
少女はさらに息絶えるまで何かを口にしていたが、もはやハンターの耳には届いていなかった。
ハンター「うおおぉぉぉおおッ!!誰だ!誰がやったァ!!…殺してやる!……殺してやるぞぉッ!!」
~ほむら宅 リビング~
ハンター「そして俺は反乱軍を皆殺しにして、首謀者を血祭りにあげ、翌朝逃げるように国を去ったんだ。」
そこまで話しすと男は組んでいた手をさらに堅く握りしめる。
ハンター「俺はまた、色んなものに絶望してしばらく各地を放浪した。そんな中、風の噂で祖国は滅んだと聞いたよ。」
ハンター「それを聞いて、なぜか俺の中で少女との思い出が消えてしまうようなそんな気がしたんだ…。」
ほむら「……。」
ハンター「あいつはいつも他人の為に頑張っていた。…だから人の為に何かをすれば…」
ハンター「あいつとの絆を繋ぎ止められると思ったんだ…だから!」
ほむら「モンスターハンターに…なったのね…。」
ハンター「あぁ。それまでこの手を血に染めあげることだけをしてきたこの俺が…」
ハンター「誰かの役に立って…そして、“あいつ”のように人を傷つけないようにするには、それしか思いつかなかった。」
この男はほむらが想像していたことよりも遥かに重く深い闇を心に抱えていた。
ほむら「あなたは人間に深く絶望して…今も…自分の中の葛藤と戦っているのね……。」
目の前の男はよく見ると小刻に震えていた。
ハンター「さぁな…ただ、俺はあの時から今もずっと、誰かの為にと称して自分の為にしか生きれちゃいないがね。」
そんな男の背中を少女は後ろからそっと抱きしめる。
ハンター「…憐れみのつもりならやめてくれ…!」
そんな少女に男は厳しくいい放つ。
ほむら「…あなたは本当に強いのね。」
ハンター「どこがだ!…俺は強くなんかない!…今も自分の生き方にみっともなく迷っているだけだ!!」
ほむら「それでも!…それでも自分と向き合うことを諦めないじゃない!」
ハンター「……!」
ほむら「私は…、私はね…。」
一旦間を置いてほむらは静かに話し出した。
何度も時間を繰り返す内に心は擦り減り自暴自棄になりつつあったこと。
そして結果がどうあれ“今回”をもって最後にしようと思っていた事を。
ほむら「これは本当に誰にも言うつもりは無かったんだけどね。」
ハンター「…。」
ほむら「あなたのやってきたことで少なくとも私は…私達は救われたわ。」
ハンター「ほむら…君は……。」
ほむら「でもまさか最後の最後になって風の噂で聞いただけのモンスターハンターに助けを求めて…」
ほむら「ここまでやってくれるとは思わなかったわ。」
ほむら「…本当に、ありがとう。ハンターさん。」
ハンター「……。」
そして男から離れた少女がテレビを点けた時、気象情報が流れて来た。
気象予報士「勢力を強めて依然、北上を続ける五月末に発生した季節外れの超大型台風は、日本上空の梅雨前線とぶつかり…」
気象予報士「局所に甚大な被害をもたらすスーパーセルに変貌する可能性があります!…」
気象予報士「今現在、この超大型台風は九州を通過し…明日正午に首都圏に到達する模様で…」
ほむら「…いよいよ明日、この見滝原にワルプルギスの夜が現れるわ。」
ハンター「あぁ。」
ほむら「明日の為に今日はもう休みましょう?」
そう言うと彼女は踵を返す
ハンター「ほむら…ありがとう。」
男の例を聞いた少女は優しい微笑みを彼に向けると無言で部屋へ戻った。
ハンター(ワルプルギスの夜を倒して、あの子を救うことができれば…俺も答えが見付かるかもしれんな…。)
男も明日の決戦に向けて休むことにした。
― 決戦当日 朝 ―
~見滝原 ほむら宅 自室~
男が目覚めると外は風が吹き荒れ、空は厚い雲に覆われ雨が降り始めていた。
ハンター「…。」
ハンター(今日で…終わらせる!)
男がこの見滝原の地に来て今日で八日目の朝となる。
男はTシャツとカーゴパンツに着替え、大きなポーチを片手に自室を出た。
~ほむら宅 リビング~
ほむら「おはよう。…良く眠れたかしら。」
男が部屋を出ると、少女はリビングのテーブルの席に着いてティーカップを片手に本を読んでいた。
ハンター「あぁ。俺が来た最初の朝もそうやっていたな。」
ほむら「ふふ…。そうだったかしら?」
ハンター「今日は学校を休むのか?」
ほむら「いえ…さっき学校から連絡があって、今日は臨時休校よ。」
ハンター「そうか…。」
そんな時、玄関のインターホンが鳴らされた。
ほむら「は~い…どちら様ですか?」
ドアを開けた少女の前には羽飾りの着いた帽子を着たラフな服装の見慣れない人物が立っていた。
???「ハンターさんはいらっしゃいますか?」
ほむら「えぇ…いますけど?」
自分に不審な目を向ける少女に対しその人物は落ち着いた態度で話を続ける。
ギルドナイト「申し遅れました。私はギルドナイト。ハンターズギルドの使いの者です。」
ギルドナイトは羽つき帽子を取り浅く一礼した。
ギルドナイト「ハンターさんから要請を受け支援物資を届けるために来たのです。」
二人のやりとりを聞いていた男が奥からやって来る。
ハンター「すまないな。このポーチに入れてくれ。」
ギルドナイト「はい。…では。」
ギルドナイトは支援物資をポーチに詰めていく。
ギルドナイト「物資の内容は…応急薬、携帯食糧、秘薬、ネット、対古龍用の高性能小型爆弾でよろしかったですか?」
ハンター「あぁ。バッチリだ。」
物資を受け取った男はパンパンになったポーチを腰のベルトに賭けた。
ギルドナイト「あなたほどの人がこんな第一級装備を要求されるなんて…相手はどんな化け物なんです?」
ハンター「自然災害そのものみたいなものらしい…この天候もヤツの仕業だそうだ。」
ギルドナイト「なんと!…それではあなたがかつて葬った古龍、アマツマガツチ並みではありませんか!?」
ハンター「その程度で済めばいいけどな…。」
ギルドナイト「あ、あの嵐龍をもしのぐ怪物…!」
ギルドナイトのこめかみから一筋の汗が滴り落ちた。
ほむら「話の途中で悪いけどそろそろ行かないといけないわ。」
ハンター「そうか…すまないな。俺らはもう行くよ。」
ギルドナイト「分かりました。…ご武運を。」
ギルドナイトは再び一礼すると去って行った。
ほむら「ちょうど今、さやかと巴さんからメールが来たわ」
男がギルドの使者と話している内に携帯でのやりとりがあったらしい。
ほむら「二人とも街に向かったみたい…もちろん杏子も一緒よ。」
ハンター「そうか…。俺らも早速街に向かうか。」
ほむら「えぇ。そうしましょう。」
~見滝原 市街地~
男と少女は足早に市街地の中心部へと向かう。
先程より雨、風共に強まり、徐々に嵐の様相を呈してきた。
アナウンス「間もなく街に超大型台風が到達します!…近隣にお住まいの方は急いで学校など最寄りの避難所に向かって下さい!…繰り返します…」
街中にはアナウンスが響き、人々はもうすでにそのほとんどが避難所へ向かった後なのか、二人は誰ともすれ違わない。
ハンター「傘くらい持って来た方が良かったかもな?」
ほむら「こんな風じゃ役に立たないわ…それに、」
ほむら「あなたは傘を差したまま戦うつもりなのかしら?」
ハンター「あぁ~。その考えはなかったな。」
ほむら「バカなこと言ってないで先を急ぐわよ。」
ハンター「おう!」
人影のない、風雨が吹き荒れる街を、二人は軽口を叩きながら駆け抜けて行った。
~見滝原 避難所~
街に流れるアナウンスに従い少女は母と幼い弟と共に避難所に来ていた。
絢子「ふぃ~。ここまで来れば安全だろう。」
まどか「パパも無事かなあ…。」
絢子「大丈夫に決まってるわよ。あたしは今から避難して来た人の名簿を見てくるけど、」
絢子「あんたはここでおとなしくしてるんだよ?」
まどか「うん…ママも気を付けてね。」
絢子「外に出る訳じゃないから、心配いらないさ。」
そう言い残し絢子は広間を出て行った。
まどか(今日…なんだよね。)
まどか(みんながどうか無事に帰って来ますように…。)
少女は広間で一人、皆の無事を祈っていた。
~見滝原 市街地 中心部~
男とほむらが嵐の中、市街地の中心部に到着すると、そこには三人の魔法少女の姿があった。
マミ「暁美さん!ハンターさん!!」
杏子「やっと来たか。」
さやか「これで全員揃ったな。」
ほむら「えぇ。待たせたわね。」
ほむらも皆に従い魔法少女へと姿を変える。
そして男に盾から取り出した漆黒の鎧を渡していく。
男は受け取った鎧を足具、胴、腕甲、兜の順に服の上から装着し、
最後に兜の目元のみを覆う格子状のフェイスガードを下ろした。
ハンター「俺も準備完了だ。」
皆が男のその一言に頷いたその時…。
皆の視界が白一色に覆われ映画のフィルムの上映開始の時のようなカウントダウンが始まった。
―⑤―
ほむら「ワルプルギスの夜が現れるわ!…みんな、覚悟はいい?」
―④―
杏子「あたしはいつでもいけるぜ?」
―③―
―②―
さやか「ワルプルギスの夜…いよいよだね。」
マミ「みんな!頑張りましょう!!」
―①―
ハンター「…ッ!…来るぞ!」
カウントダウンが終わり、視界が元に戻ると、嵐はピタリと止んだ。
そして市街地上空を覆い尽す分厚い雲の中心に円形の裂目が生じ、
超弩級の魔女はその全貌を徐々に露にしていく…。
ワルプルギスの夜「アハハハハ…!」
マミ「あれが…ワルプルギスの夜…!!」
さやか「…で、デカイ!!」
杏子「ふん!…上等じゃん!!」
天から現れたその巨大な魔女は頭を下にして逆さまにして狂ったように笑いながら、市街地上空の宙に浮いている。
まるで人形のような外見だが、その青いドレスからは一本の軸の様な足が伸びており、
巨大な一枚の歯車にくっついている。
…そんな異様な風貌をしている。
ハンター「…相手にとって不足はなさそうだな。」
男は背中の長大な太刀の柄に手をかける。
ほむら「私が魔法を使って仕掛けるわ!…みんなは援護をお願い!!」
少女の飛ばした号令に皆は威勢の良い返事で応えた。
超弩級の魔女もそんな少女達の様子に気付き、その巨躯を反転させこちらをその視界に捕えた。
ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」
魔女は一際甲高い声をあげるとその体は円形の魔法陣に包まれる。
さらに魔女の周囲に無数の光点が出現し、それぞれから眩く輝く熱線が打ち出される。
先程止んだ雨の代わりに、一同に向けて無数の輝きの雨が降り注ぐ!
迫りくる光の時雨を、マミはマスケット銃で迎撃し、
さやかと杏子は各々剣と槍で受け流し、
男は太刀で素早く斬り払っていく。
ほむら「みんな!…もう少し持ち堪えて!!」
ほむらは自身を懸命に援護する仲間を気遣って声をかけた。
さやか「あたしはまだまだいけるよ!!」
マミ「くっ…手数が多いわ!」
杏子「こんなの全然大したことねぇってのッ!」
さやかと杏子は力強く応えるが、マミは力の性質上、少々分が悪い。
ハンター「キツくなって来たら俺の後ろに回って態勢を整えろ!」
男は少女達の前に進み出て、視認が困難な程の神速の斬撃で光をことごとく斬り払う。
斬り払われた光はあらぬ方向へ飛び去り、あるいは地に激突して破ぜる。
マミ「すみません!…少し下がります。」
マミは堪らず男の背後に避難した。
杏子「あんたも大した化けモンだな!」
顔色一つ変わらない男に対し、杏子は口元をニヤリと歪めて話しかける。
ハンター「あんなのと一緒にするな。」
顔がフェイスガードで隠れている男は口角を持ち上げて平然と返事を返す。
しばらく耐えると魔女が放った光の時雨が止んだ。
ほむら「今よ!巴さん、道を作って!!」
マミ「…!分かったわ。」
マミは再びいくつかのマスケット銃を召喚し、魔女に向けて魔力を帯たリボンを射出していく。
そのうちの数本が魔女を捕えた。
マミ「…暁美さん!」
ほむら「えぇ!」
ほむらは胸元に左腕の盾を掲げ、右手で触れる。
すると盾に内蔵された砂時計が起動した。
その瞬間、彼女以外の全てのモノは景色を含めて白と黒の二色に染まり、一切の動きを停止する。
ほむら「覚悟なさい!」
停止するモノトーンの世界で、唯一鮮やかな色彩を残す少女は魔女に繋がる道を疾走する。
そして魔女の巨躯に到達すると小さな“四角い物”を大量に盾から取りだし、隙間なく魔女に設置していく。
作業が終わると彼女は魔女から飛び降り、魔法を解除した。
時間停止が解除され、一同の目に飛び込んできたものは、魔女の側から落下するほむらと…。
赤い点滅を規則正しく繰り返す、無数の小さな黒い物で覆い尽された魔女の姿だった。
さやか「え!何あれ!?」
尚も落下を続けるほむらは盾からライフル銃を取りだし、設置した物の一つを狙撃する。
放たれ弾丸が魔女に触れたその時。
市街地上空は閃光と共に尋常ではない爆炎に包まれた。
杏子「…なッ!?」
ハンター「そうか!あの点滅は爆弾だったのか!」
マミ「…凄い!」
爆風に飲まれた魔女からは依然、黒煙が上がっている。
ワルプルギスの夜「アハハハハ…!」
しかし黒煙の中から尚も響き渡る狂った洪笑が魔女の健在を物語る。
事実黒煙が消え、大した痛手を負っていない魔女が姿を現した。
さやか「ほとんど効いてない!?」
ハンター「あの爆風をものともしないか…。」
魔女は着地したばかりのほむらを見付けるとその両腕を大仰に広げた。
すると魔女の周辺の高層建築物が根本から千切られて宙に浮き、魔女の周辺を乱舞する。
ワルブルギスの夜「アハ!アハハハ!」
マミ「いけない!ティロ…フィナーレ!!」
それを見たマミは魔力を練り上げ巨大な銃を召喚し魔女の周囲を光の奔流で薙ぎ払った。
マミが放った光の奔流で上空の構造体は全て消し飛ばされた。
ほむら「助かったわ。」
その隙にほむらは魔法で時を停め一瞬でこちらに戻って来た。
杏子「…!…いつの間に?」
ハンター「怪我はないか?」
ほむら「えぇ!…次は皆で一斉攻撃を仕掛けるわ!」
ほむらが次の作戦の詳細を伝えると全員、無言で頷き行動を開始する。
一同はマミを地上に残し男を先頭に魔女の胴を拘束するリボンを駆け上がる。
途中、一同を囲むように光点が出現し無数の光の筋が閃くが皆で協力してなんとか突き進んでいく。
杏子「あと少しだ!」
ほむら「巴さん!!」
魔女の胴まで後少しといった所でほむらはマミに合図を送る。
マミ「今ね!!」
指示を受けたマミは意識を集中し、リボンで魔女を囲むように輪っか状の足場を形成した。
ほむら「みんな持ち場について!!」
魔女を目前にほむらは叫ぶ。
それを合図に魔女を囲む円環状の足場に移動する。
ほむらは魔女の真後ろ、杏子とさやかはそれぞれ魔女の右側と左側に…そして男は正面に待機した。
それを見たほむらは皆に問掛ける。
ほむら「準備はいい?」
さやか「いいよ!」
杏子「おう!」
ハンター「やってくれ!」
皆の返答を聞いたほむらはリボンの輪っかの足場に右手をついて、
その上に盾を押し付け砂時計を起動した。
再び時間は停止し世界はモノトーンに染まる。
しかし、リボンの足場とその上の一同は白黒に染まらない。
ほむら「うまくいったわ!…けど、足場から両足を離してはダメよ!」
さやか「わ、わかった。」
杏子「あぁ。」
ハンター「了解した。」
ほむらの言葉を合図に男と二人の少女はそれぞれの得物を構える。
それを見たほむらは静かに息を吸い込み…。
ほむら「始めッ!!」
斉攻撃開始の号令を下した。
男は腰を低く落とし、太刀で滅多斬りにし、
さやかは剣を大量に召喚しそれらを突き刺していく。
杏子は両手の槍で斬り、払い、突きの乱舞を繰り出す。
ほむらは右手を足場に着いたまま、左腕をスナップさせ盾から様々な銃を取りだし、それらを拾い銃弾を浴びせていく。
しばらく時間一杯全力で攻撃した後再び、ほむらは皆に号令を飛ばす。
ほむら「魔法を解除するわ!」
その号令でほむらは停止を解除した。
時間が動き出した瞬間。
正面の男はポーチから取り出した対古龍用の小型爆弾を二つ魔女に設置した。
ハンター「退くぞ!みんな!!」
叫ぶやいなや男はリボンの道を駆け降りる。
そして残りの少女達は魔女から飛び降りる。
皆が魔女から離れるのを確認したマミは巨大な銃を二門召喚し魔女に放つ。
マミ「いけぇーー!」
二筋の光の奔流は魔女に直撃し、仕掛けられた爆弾は凄まじい爆発を起こす。
そこへダメ押しと言わんばかりに追撃が加わる。
さやか「くらぇぇ!」
さやかは召喚した無数の剣を雨のごとくを魔女に降らせる。
杏子「こいつも持ってきな!」
杏子は持っていた魔力を込め、巨大化させた槍を放った。
ほむら「まだよ!!」
ほむらは大型のハンドグレネードを4つ取り出し、両手で二つずつ投擲した。
ほむらの放った4つの手榴弾によって魔女は三度爆炎に包まれた。
ワルプルギスの夜「アハ…ハハ…」
炎が消え、ドレスがボロボロになり、無数の剣と巨大な槍が突き刺さり、黒煙をあげる魔女は堪らず徐々に高度を落とす。
杏子「おい!あれ見ろよ!」
地面に着地した杏子は魔女を指差して叫ぶ。
さやか「効いてる!効いてるよ!!」
マミ「やったわね!!」
ほむら「喜ぶのはまだ早いわ!」
歓喜に沸く少女達をほむらはたしなめる。
ハンター「そうだな!畳かけるぞ!」
男は背中の太刀を外し鞘を腰にそえた。
ほむら「そうね…けどみんなは巴さんの元に戻って。」
さやか・杏子「え?」
ほむら「あと僅な私の魔法を全て使ってトドメを刺すわ!!」
ハンター「わかった!だが無茶はするなよ!!」
ほむら「えぇ。」
男は少女の決意を汲み取りさやかと杏子と共にマミの元へ向かった。
三人がマミの元へと合流したのを確認し、ほむらは三度魔法を使う。
ほむら「これで最後よ。ケリをつけましょう…!!」
ワルプルギスの夜「」
魔女は随分と低空で停止している。
ほむら(あともうひと押しで…。全てが終わる…!)
時間停止魔法を使えるのはあとわずかであることを盾の砂時計が示していた。
少女は円形の盾から大小様々な“筒”を取り出し魔女を囲むように設置していく。
ほむら(長かった…。長かったけど……)
そして次にいくつかの大きな“箱”を設置していき最後に魔女の真下に巨大な“発射台”を設置した。
ほむら(まどか!…もうすぐ約束、果たせるからね!)
浮き立つ気持ちを押さえ、少女は魔女から距離を起き、魔女とマミ達の中間くらいの位置まで戻った時…。
盾に内蔵された砂時計の砂が尽き、時が再び刻まれ始める。
ワルプルギスの夜「アハハ…ハハ…ハ」
そして少女は息も絶えだえの魔女に向き直り言い放つ。
ほむら「消えなさい!!」
ほむらは盾から取り出した筒型のスイッチを押し込んだ。
その瞬間、先程設置した様々な物が起動する。
魔女の周辺に設置された、多数の大小の“筒”…グレネードランチャーやRPGから無数の榴弾が魔女に向かう。
また、いくつかの“箱”状の物…ミサイルランチャーから小型の赤外線誘導弾が多数撃ち込まれ…。
極めつけに魔女の真下の巨大な“発射台”からは中型の弾道ミサイルが発射された。
それらは真っ直ぐに標的に向かい、超弩級の魔女は自身の称号に違わぬ超弩級の火力をその身に受けることとなった。
それらが着弾した瞬間…轟音と共に目が焼かれるほどの閃光を放つ。
そして少し遅れて凄まじい熱波を伴った衝撃波が一同を巻き込む。
ハンター「ぐっ!」
男は衝撃波からさやか、杏子、マミをかばうように前へ進みでる。
マミ「きゃあ!」
杏子「うわぁっ!」
さやか「あち!あっちぃ!」
三人の少女は顔を臥せ、三を屈めている。
ハンター(凄まじい熱波だ!…あいつは…ほむらは無事なのか!?)
しばらくして衝撃波が収まり、男は顔をあげた。
そこには盾で顔を覆い、身を硬くするほむらの後ろ姿と…。
その少女の眼前にうつ伏せに地に倒れ臥す魔女の姿があった。
ハンター「ほむら…!…これは!!」
男は少女の右隣に駆け寄り、よろめく少女の肩に手を回した。
ほむら「ハンター…!…あ!…ワルプルギスの夜が…!!」
少女の眼前の魔女は地に突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。
ほむら「…やった!…ついにやったわ!!」
ほむらの勝鬨を聞き後方の少女達も歓喜の声をあげる。
さやか「やったぁ!」
マミ「やったわ!」
杏子「てこずらせやがって…」
三人の少女達は地に腰を下ろし限界近くまで消耗し、真っ黒に濁ったソウルジェムをグリーフシードで浄化することにした。
ほむら「…」
ほむらは無言でマミ達の方へ振り返る。
ハンター「君もソウルジェムを浄化しなくていいのか?…頑張り過ぎて真っ黒だぞ??」
少女は男に言われて気づく。
ほむら「え?…あぁ、そうね。」
彼女は慌ててグリーフシードを取り出した。
男はほむらの右隣の位置か真後ろを振り返り真っ直ぐに歩いていく。
そして周囲に異常がないことを確認してほむらを向き直った。
ハンター「…ッ!ほむらァ!!」
少女に向き直った男は鬼気迫った形相で走ってくる!
ほむら「え!…なに?…きゃあ!?」
少女は頭から飛び込んで来る男に突き飛ばされる。
そして突き飛ばされながら少女は見た。
目の前で男が下腹部に一筋のか細い深紅の光の直撃を受ける瞬間を…。
ほむら「ハンター!!!」
スローモーションのような一瞬の光景が終わると、目の前の男は吹き飛び、
二度バウンドしながら地面を転がっていった。
ほむらの悲痛な叫びと共に、ソウルジェムの浄化を終えた三人の少女の元に男は吹っ飛ばされて来た。
それを見た杏子とさやかは後ろから男を必死で受け止める。
さやか「大丈夫ですか!?」
杏子「相棒!…何があったんだ!」
マミ「二人とも!…あれ!!」
二人はマミの指差す方を見た。
杏子・さやか「…!」
こちらへ走って来るほむらの後方で、
ワルプルギスの夜はうつ伏せの体勢で頭だけを持ち上げている。
ハンター「う…、すまん、二人とも。」
さやかと杏子に両わきを支えられた男はよろめきながらも自らの足で立った。
ハンター「俺なら大丈夫だ…。」
その言葉を聞いて二人の少女は男から手を離した。
そこへ悲壮な顔をしたほむらが駆け寄ってきた。
ほむら「ハンター!!あなたその怪我!!!」
ハンター「…え?」
男は少女の目線の先、自らの下っ腹を見た。
ハンター「…これ、は。」
黒いの甲冑の胴は左下腹部の部分が砕かれ、断面は赤熱している。
貫通こそしていないが肉が焼け、おびただしい血が流れている。
男は反射的にポーチに手を突っ込み血止めの応急薬をひと瓶丸々ぶっかけて塗りたくった。
杏子「おい!そんなので大丈夫なのかよ!!」
左側を支えていた杏子は自身の服に付いた男の血を見て声を荒げた。
マミ「ハンターさん!?」
マミも心配そうに寄ってくる。
ハンター「少々痛むが問題ない。」
確かに彼の言う通り、露出した腹部は表面が焼けているが裂傷は浅い。現に出血は止まりつつあった。
ハンター「それより…ヤツを何とかしないと!」
魔女は地に両手を着き今まさに上体を起こそうとしている。
男は正面の魔女に向かって歩き出す。
ハンター「……うぶッ。」
しかし三歩ほど歩いた時点で突然、派手に血を吐きだし、膝から崩れた。
ほむら「ハンター!??」
男は前のめりに倒れるが、顔面が地面に激突するまえに目の前の少女に抱き止められた。
そしてほむらは彼を仰向けに寝かせて肩を支えた。
ハンター(…景色が、暗いな。)
マミ「ハンター…さん…」
ハンター(みんなの声が遠い…。)
さやか「しっかりして下さい!!」
杏子「嘘だろ?」
ハンター「みんな…俺なんかに…構わずヤツ…を…」
そこまで言って彼の体から一切の力が抜け落ちた。
ほむら「…そん……な。」
ほむらの脳裏にネコートの言葉がよぎった。
『彼は戦場で死ぬことを望んでいる節があるような気がしてならないのですよ』
ほむら「あ、あ…ぁ…」
一同がうろたえている間に魔女は歯車を下にして“正位置”で完全に立ち上がった。
さやか「危ない!」
そして魔女はその左目から先程と同じ深紅の光を少女達に放ち、浮上を始めた。
さやかは茫然と立ち尽くすほむらを抱え、
マミがハンターを抱き上げてそれぞれその場から飛び退いた。
頭を上に、歯車を下にした“正位置”になって浮上した超弩級の魔女は再び大きな魔法陣に包まれる。
途端、周囲の景色は赤く染まり、再び激しい風雨が巻き起こった。
マミ「まるで結界の中みたいね…。」
男を一旦下ろしてマミは呟く。
魔女がその両手を挙げると再び周囲の建物が地面から剥ぎ取られ、宙を舞う。
杏子「ほむら!お前はハンターを背負って一度ここから離れろ!!」
ほむら「…でも!」
さやか「ほむら!…頼むよ。」
ほむら(確かに、時間停止を使い切った以上、私はあまり戦力にならない…。)
ほむら「わかったわ…けど直ぐ戻るから!」
それだけ言い残し、ほむらは男を背負ってその場を離れた。
ほむらは男を背負って市街地の中心部から少し離れた所までやってきた。
そして男をやさしく降ろして仰向けに寝かせた。
遠くには魔女とそれに挑む少女達の姿が見える…。
ほむら「ほら、みんな頑張ってくれてるわよ」
ハンター「」
ほむら「私を…私たちを助けてくれるんじゃなかったの?」
ハンター「」
ほむら「…ねえ」
今にも消え入りそうなか細い呼吸を続ける男に少女は声をかけ続ける。
ほむら「…ハンター…」
ハンター「」
男の顔にそっと手を触れる少女の視界が段々と滲んでいく。
少女の問掛けも虚しく男は力なく横たわり、徐々に生気が失われていった。
一方その頃、男とほむらが離脱した後、
三人の魔法少女は息を吹き替えした魔女と戦っていた。
ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」
魔女は右手を振りかざすと彼女を中心に強烈な衝撃波が巻き起こった!
杏子「くっそぉ!」
マミ「きゃっ!」
さやか「うわぁぁー!!」
二人は全力でふんばって堪えたがさやかが吹き飛ばされ大きなビルに激突した。
マミ「さやかちゃん!」
マミはさやかに駆け寄り、グリーフシードを使用する。
さやか「ごめん!マミさん。」
杏子「このままじぁジリ貧か!!」
少女達は必死で抵抗するが、手持ちのグリーフシードがもう僅かしか残っていない。
杏子「…化け物め…!」
杏子は忌々しそうに吐き捨てた。
― 正午 ―
~見滝原 避難所~
キュウベェは追っ手から逃れる為、避難所へ潜り込んでいた。
キュウベェ(この人ごみの中なら彼らもヘタに手を出せないだろう…。)
キュウベェ(外の嵐の様子からして、ほむら達は苦戦しているみたいだね。)
そんな時、彼はある少女の姿を見つけた。
キュウベェ(あれは…鹿目まどか!)
それと同時に彼は一計を思い付いた。
彼は無感情な顔で少女に近付いていく。
キュウベェ「みんなが心配かい?まどか。」
少女は意外な人物(?)にいきなり声をかけられ驚いた。
まどか「キュウベェ!?…どうしてここに…?」
キュウベェ「それはどうでもいいじゃないか…それより君はまた何もしないのかい?」
まどか「私は…みんなを信じてるから…。」
キュウベェ「その皆は今窮地に立たされているよ。」
まどか「え!?」
キュウベェは先程から市街地の魔法少女達の魔力の反応が小さくなってきていることを感じていた。
キュウベェ(さすがにあのイレギュラーの男がどうしているかは分からないけど…まぁこの際それはいいか。)
キュウベェ「このままではみんなワルプルギスの夜に負けて力尽きるか…」
キュウベェ「勝てないことを悟って絶望し、魔女になってしまうだろう。」
うろたえる少女に対し彼は残酷な言葉を投げ掛ける。
まどか「本当…なの?」
キュウベェ「ボクは聞かれないことは答えないこともあるけど…嘘はつかないさ。」
まどか(そんな!…私も行かなきゃ……みんなの為に、私も出来ることしなきゃ!!)
キュウベェの話はまるで詐欺師のような口ぶりだったが、
気が動転していた少女は無言で広間の出入口へ歩き出した。
絢子「まどか…。」
まどか「私もパパとママの事大好きだから…」
まどか「自分がどれだけ大切にされて守られてるか分かってるから…」
絢子「……。」
まどか「自分を粗末にしちゃいけないことも分かってるよ。」
尚も食い下がる娘に母は黙って耳を傾ける。
まどか「だから今は違うの!…私も自分の大切なみんなを守りたいから!」
絢子「それはただ周りに流されたり、変なヤツにそそのかされた訳じゃないんだな?」
母は娘に改めて確認した。
まどか「うん。それに…私にしかできない事だから、今すぐ行かなきゃいけないの!!」
絢子「…絶対に……帰って来いよ…!」
まどか「うん!!」
絢子は自分の横をすり抜け嵐の中へ飛び出す娘を黙って見送った。
~見滝原 市街地 町外れ~
少女は嵐の中、避難所から市街地の中心部へと向かっていた。
まどか(ごめんなさい…ママ。…もしかしたら約束、守れないかも。)
キュウベェ「こっちだ!まどか!」
キュウベェに案内され、少女はみんなの元へと急いだ。
・
・
・
地獄兄弟(弟)「あれは…!見つけたぞ兄者!あそこだァ!!」
弟の声を聞いたその人物は避難所から駆け出して来た。
地獄兄弟(兄)「ドハハハハ…!でかしたぞ!弟よ!!」
地獄兄弟(兄)「…む?あの時のお嬢ちゃんも一緒のようだな!…まぁいい、追うぞ!!」
地獄兄弟(弟)「了解だ!兄者ァ!!」
二人の執拗なる追跡者は遥か向こうに見える標的の後ろ姿を追い掛るべく走り出した。
― 午後 ―
~見滝原 市街地 中心部~
中心部から少し離れた場所で少女はただただうつ向いていた。
ほむら「このままじゃ…みんなもう、もたないかもしれないから…」
ほむら「私も行ってくるね…」
ハンター「」
男の体からは体温が失われ、もはや呼吸をしているかどうかは分からない…。
ほむら「…今回で最後にするって決めたから…」
ほむら「どうせダメならみんなと一緒に玉砕もアリかもね…」
ほむら「そにしても…」
……悔しい。……
この男が現れてからは奇跡の連続だった。
マミが生き延びて、ソウルジェムの秘密を知っても尚、心を繋ぎとめた。
さやかを襲う絶望を打ち払い、彼女が魔女になっても救い出してくれた。
杏子はかつて失った魔法少女としての信念を…誇りを取り戻すきっかけをもらった。
ほむら「私も…あなたと一緒なら、この決戦の日を越えて…繰り返しの時間の向こう側に…」
ほむら「まどかと…みんなと一緒に笑って過ごせる、まだ見ぬ明日にいけると思ったのに…」
だが、少女が望んで止まない希望の未来は…もう手の届きそうな所にまで来ていたのに…。
後少しの所で彼女の掌から砂のようにさらさらとこぼれていった……。
ほむら「あなたに依頼を出した為に巻き込んでしまってごめんなさい…。」
ハンター「」
少女は物言わぬ男の上体を軽く起こし、力強く抱きしめた。
ほむら「…じゃあ…これでお別れね。」
少女は男を優しく寝かせるとゆっくり立ち上がった。
ほむら「…行って来るわ。」
???「やめて!…もういいんだよ?ほむらちゃん。」
ほむら「まどか!?…どうしてここに??」
死地に赴こうとしていた少女は目を見開いて振り返る。
キュウベェ「ボクがここに案内してあげたんだ。」
ほむら「キュウベェッ…!!!」
まどか「もういいの…。それより、ごめんね。」
まどか「今までずっと私と、みんなの為に頑張ってくれたんだよね?」
ほむら「………。」
まどか「そのおかげで今の私があるんだよ。」
ほむら「まどか…。」
まどか「だから、私もみんなと一緒に戦う!!」
ほむら「まどか…何を言って……?」
まどか「本当にごめんね、ほむらちゃん。」
ほむら「…いや…。」
まどか「…でも私、もう決めたから。」
ほむら「やめて…。」
まどか「私…魔法少女になるね。」
ほむら「…そんな…それじゃあ……。
ほむら「私が今までやってきたことは…所詮、無意味だったというの?」
キュウベェ「お話の途中で悪いけど…」
そこでまどかをこの場に案内した張本人は口を開いた。
キュウベェ「ほむら…君の切札の男もやられた今、君達の敗北はもはや間近だ。」
キュウベェ「それとも敗北を認めず、この時間軸を無為にしてまどかに更なる因果を背負わせるかい?」
ほむら「…私はッ!」
キュウベェ「まぁ、どっちにしても後悔のない選択をするんだね。」
ほむら「………。」
ほむらは無言でがっくりとうなだれた。
まどか「ほむらちゃん…私はみんなに自分らしく自由に生きて欲しいの…だから…。」
ほむら「………。」
ほむらは黙して何も語らず、その目からは涙が溢れていた。
キュウベェ「では異論もないようだし、改めて問おうか…。」
彼は真剣な眼差しの少女に向き直る。
キュウベェ「鹿目まどか…君はその魂を代価に何を願う?」
キュウベェ「因果の特異点たる今の君なら…どんな途方もない願いも叶えられるだろうね。」
少女は少し間をおいて応える。
まどか「私は……。」
―――――待ちなッ―――――
。
ハンター「……お前かァ?」
満身創痍の体を起こしてゆらりと立ち上がった男の姿がそこにはあった。
キュウベェ「……。」
ほむら「ハンター…?」
ハンター「“あいつ”の…泣く声が聞こえたんだよ…。」
フェイスガードが上げられた兜から見える彼の目は焦点が合っていない。
ハンター「誰だ…!“あいつ”にィ……」
まどか「ハンター…さん??」
ハンター「自分がやって来たことは無意味だったなんて言わせた奴はァッ!!!」
咆吼と共に男はゆっくりとキュウベェに向かって行く。
一歩、歩くごとに傷口が開いた腹から血が滴る…。
近付いて来る男の常軌を逸した迫力前にキュウベェは動けない。
そんな彼の首根っこを力一杯掴み、持ち上げる。
キュウベェ「ぐ…ぅ…なんの…つもりだい…?」
そして無言で彼を軽く放り投げ、背中の太刀で一刀の元に両断した。
抜き放たれた刀身は深々と地面にめり込んでいる。
ほむら「どうしたの!?ハンター??」
駆け寄った少女は尋常ではない様子の男の後ろから抱きしめた。
ハンター「聞こえたんだ…“あいつ”とお前の泣き声が…それに……」
少女に抱きしめられた男は徐々に正気を取り戻す。
ハンター「思い出したんだ…。」
ほむら「……え?」
ハンター「“あいつ”は自分の身の上を嘆いて死んでいった。」
ハンター「だが…今まで思い出せなかったけど、息を引き取るまでに…確かにこう言ったんだ…!!」
男の中で彼女の“最後の言葉”が蘇る…。
少女『ねぇ…ハンター…あたしのやって来た事は所詮無意味だったのかしら…?』
……………。
少女『…なんてね…。結果はどうあれ…自分の生き方に…後悔のなんて…してないわ……。』
少女『ただ…あたしは…生き方を…選べなかったけど…あなたは違うわ…。』
少女『あなたは…本当は…戦いが嫌いな…やさしい人…』
少女『だから…あなたは自分らしく…自由に…生きて……』
少女『…あたしの…大好きな人……ハン…ター………。』
少女『…………。』
ハンター「“あいつ”は、最後の最後まで…俺を気遣って……」
ハンター「…自分らしく自由に生きろと言ったんだ!!」
ほむら「…ハンター…」
後ろから自分を抱き締める少女を優しく振りほどき、男は前へ進み出る。
ハンター「俺はもう目を背けない…。自分の過去にも……自分の生き方にもだッ!!」
そして抜き身の大太刀を地面に突き差して、男は咆吼する。
その男の咆吼に応えるかの様に男は眩い金色の光に包まれていく…。
鎧の継ぎ目や装飾にふんだんに使われている、
“金獅子ラージャン”の黒毛は男の決意に呼応するかのごとくその真の輝きを取り戻す。
まどか「ハンターさん!?」
ほむら「ハンター…あなた!?」
男は漆黒の騎士から黄金の騎士へとその姿を変えた。
黄金の騎士の周囲は金色のか細い稲光が現れては破ぜて消えてゆく。
かつて大切な人を守れなかった深い悔恨が…
一人の魔法少女の涙が…
散りゆく男の魂を…
今一度、決して負けられない決戦の舞台へと呼び戻した…!
金色の男はポーチから黄色い秘薬の袋を取り出し中身の丸薬を噛み砕いた。
そして振り返り、少女に告げる。
ハンター「ほむら…決着をつけに行くぞ!…みんなが待ってる!!」
まるで夢でも見ているような心持ちになった少女は呟く。
ほむら「これは…奇跡?」
それに対して目の前の男は答える。
ハンター「それは違うな。」
ほむら「…え?」
ハンター「これは必然だ。…お前の声が俺を呼び戻してくれたに過ぎない、ただの必然。」
ハンター「奇跡は……」
そこで男は不敵な笑みを浮かべる。
ハンター「これから起こしに行くんだよ!!」
ほむら「…ハンター…!!」
深い絶望に沈んでいた少女の心に希望が戻る。
ほむら「そうね…行きましょう!」
地獄兄弟(兄)「おめぇ…若造か!?こりゃあ一体?」
地獄兄弟(弟)「ハンター!?…いやそれより、あの白いヤツは?」
キュウベェを追って来た狩人達も市街地へとやって来た。
ハンター「ヤツならそこだ。」
ハンターは二枚に下ろされたキュウベェだったものを指差した。
ハンター「任務中に悪いが、あんたらにはその子の側にいてくれ。」
ハンターはまどかの方へ向き直る。
まどか「え?」
ハンター「今さら避難所へ戻れとは言わんよ。…まどかはここで待っててくれ。」
まどか「わかりました!…私、ここでみんなの帰りを待ちます!」
ハンター「あぁ。………と、いうわけだが、頼まれてくれないか??」
地獄兄弟(弟)「任せておけィ!他でもないお前の頼みを無下にはできンからな!バハハハ!」
歴戦の狩人は豪快に笑う。
まどか「ありがとうございます。」
地獄兄弟(弟)「いいってことよォ!お嬢ちゃん!」
地獄兄弟(兄)「…おい、若造!!」
イカツイ男はトランクから取り出した大きな杭の様なものをハンターに投げて寄越した。
ハンター「これは…対古龍バリスタ拘束弾か。」
地獄兄弟(兄)「おうよォ!…役に立つかは分からんがなァ。」
ハンター「…ありがとう。」
地獄兄弟(兄)「気にするな!悔しいが、俺らにできることはそれくらいだからな!」
地獄兄弟(弟)「さすがの俺達もあんな化け物は相手に出来んからな…」
地獄兄弟(兄)「…そういうことだ!……若造共ォ…」
地獄兄弟(弟)「…死ぬんじゃねぇぞ…必ず生きて帰って来い!!」
まどか「ほむらちゃん!…ハンターさん!…私、信じてるからッ!!」
ハンター「あぁ!」
力強い返事を返し二人は皆の元へと急いだ。
~三滝原 市街地 中心部~
杏子「はぁ…はぁ…。…二人とも、まだやれるか?」
杏子は地に突き刺した槍を杖代わりにして体を支えている。
さやか「ぜぇぜぇ…なんとか…ね。」
さやかは両手を膝につき辛うじて立っている状態だ。
マミ「…当たり…前よ!」
マミも瓦礫に片手をついて倒れまいと踏ん張っている。
ワルプルギスの夜「キャハハハハ…!」
そんな少女達を見下すかの様に魔女は狂った笑いを辺りに響かせる。
ワルプルギスの夜「アハハハハ!」
遥か上空の魔女は無造作に左手を天に掲げた。
すると、巨大な魔法陣が瞬時に形成され、陣を中心に光の束が集約されていく…。
さやか「マミさん!杏子!…あ、あれ!!」
杏子「おいおい…冗談だろ?」
そして収束された光の束は巨大な白い煌めきの塊となって少女達に向けて放たれた!
少女達のソウルジェムは黒く濁り魔力は尽きかけている…。
マミ「…そんな!」
魔女が放った圧倒的な絶望は真っ直ぐに大地に向かって飛来する。
…今さら飛び退いても恐らく間に合わない…
三人の魔法少女達は己の死を覚悟した。
立ちつくす少女達の間を一筋の光が疾風のごとく駆け抜ける。
その光は地表近くまで迫る破壊の塊へと向かう。
一筋の金色の光が通過した直後、巨大な光球は少女達を避ける様に左右に分かれた。
大地に激突した二つの光球は凄まじい閃光を巻き起こす。
その閃光が消えると、少女達の前には太刀を鞘に納める金色の男の後ろ姿があった。
ほむら「遅くなってごめんなさい。」
さやか「ほむら!…どうして…!?」
ほむらは持っていた最後のグリーフシードを少女達に使った。
ほむら「戻って来るって言ったでしょ?」
杏子「それより…あの金ピカって……もしかして…!」
マミ「ハンター…さん?」
名を呼ばれた男は振り返り目元のフェイスガードを上げる。
ハンター「良く頑張ったな…後は任せろ!!」
その男の言葉を聞いた少女達の顔に生気が戻った。
マミ「でも、どうするんですか?魔女はかなりの高度まで浮上しています…」
マミ「私の今の魔力ではあそこまで道をつくれませんよ!」
マミは自身のソウルジェムを指し示す。
一つのグリーフシードを三人で分けたのだから、
確かに魔力は回復したが、微々たるものだ。
ハンター「それなら問題ない!…ほむら!!」
ほむら「えぇ!」
ほむらは男から“大きな杭”を受けとると、盾から固定式大型ボウガン“バリスタ”を出して設置した。
ほむら「道は私が作るわ!」
続いて少女はマシンガンを二丁取り出し魔女に向けてデタラメに撃ちまくる。
さやか「何やってんのさ?ほむら!…そんなことしたって…。」
ワルプルギスの夜「アハハハ…!」
飛来する無数の弾丸に対し、魔女は様々な大きさの円形の魔法陣を大量に出現させこれをしのぐ。
杏子「今のアイツに生半可な攻撃は効かねぇぞ!」
ほむら「いえ…これでいいの!!」
まるでハンターのようなふてぶてしい笑みを口元に浮かべ、少女はバリスタで狙いを定める…。
ほむら「…!…そこよ!!」
数多の障壁の間隙を縫って大きな矢は魔女と歯車を繋ぐ棒状の足に巻き付いた。
バリスタからは対古龍仕様の強靭なワイヤーが伸びている。
マミ「これが狙いだったのね!!」
ほむら「そうよ。」
ハンター「流石だな。…お前達はこのバリスタを守ってくれ。」
杏子「おう!…背中は気にするな!相棒!!」
杏子の返答を聞いた男は口元をニヤリと歪めてバリスタに飛び乗った。
ワルプルギスの夜「アハ!アハハハ!」
しかし魔女へと続く一筋の希望の道の途中に、
等間隔に三つの大きな魔法陣の障壁が形成された。
さやか「そんな!…これじゃあ…!!」
再び魔法少女達の顔に不安の陰が差した。
そんな中、一人の少女は落ち着いた様子で口を開いた。
ほむら「ハンター…後は任せたわよ。」
武器をほぼ使い尽したほむらはバリスタに手を置いて、続ける。
ほむら「見せてくれるんでしょ……奇跡を。」
ハンター「…あぁ!」
金色の男はフェイスガードを下ろして長大な太刀を静かに抜き放ち…
一筋の希望の上を駆け出した。
男は地を踏み抜かんばかりの勢いで突き進む。
そんな男の周囲に無数の光の光点が現れる。
マミ「…!…危ない!!」
光点から幾つもの煌めきの筋が放たれ男に襲いかかる!
しかし男は全く足を止めることなく輝きの時雨を斬り払う。
そして男が飛来する閃きを斬り伏せる度に、その刀は銀色の輝きを宿していく。
さやか「刀が…!?」
男が一つ目の障壁の前に差し掛かった時…。
彼は剣道の“担ぎ胴”の様な体勢で左肩にかついだ太刀から電光石火の袈裟切りを放った!
ハンター「気刃…斬りィッ!」
ワルプルギスの夜「……!」
男を阻む円陣の守りは銀の一閃にて切り裂かれ…霧散する。
男は魔女への道を尚も駆け上がる。
杏子「凄ぇ!あたしらの攻撃じゃビクともしなかった障壁を一撃かよ!!」
ワルプルギスの夜「キャハハハハ!」
魔女が再び不快な声で笑い出すと、バリスタの周りにも光点が出現する!
ほむら「来たわ!…絶対に死守するわよ!!」
ほむらは残り最後のマシンガンと拳銃を一丁ずつ出して応戦する。
マミ「ここが正念場ね!」
マミもマスケット銃を召喚し迎撃していく。
杏子「無理すんなよ!…マミさん!!」
杏子は多節棍になっている槍の柄をヌンチャクの様に振り回し、皆を守る。
さやか「さやかちゃんも頑張っちゃうよ~!!」
さやかは持ち前の回復力を生かして皆の盾役に徹した。
男が突き進むに連れ魔女の抵抗も厳しくなった。
飛来する閃光に加えて、魔女の周囲を舞う建造物の残骸までもが彼を襲う!
だが彼は輝きを受け流し、迫り来る残骸を緩急をつけた前後のステップで見切っていく。
ハンター(その程度で止められると思うな!!)
凄まじい猛攻を一身に受けても、皆の期待を背負う男は止まらない!
その上、煌めきを斬り払う彼の太刀を覆う銀の輝きは男が纏っているのと同じ金色となっていく。
第二の障壁は先程の物よりも一回り大きい!
だが、「それがどうした」と言わんばかりに、
男が放った金色の一閃は彼女の障壁を豪快に縦一直線に叩き切った。
魔女の元へ男は迫る。
ワルプルギス「アハハハハ!!」
それに対し魔女はまるで焦りを露にするかのように叫ぶ。
さやか「あと一つだな!!」
マミ「ハンターさん!!」
男の背後を死守する少女達からも歓声が上がる。
さらに接近する男に対し、魔女は光の嵐と残骸の乱舞に加え、
一度は彼を窮地に追いやった深紅の輝きをその目をから放った。
男は飛来する建造物の残骸を回避するため体が宙に浮いている…。
…回避不能。
…直撃は必死!
…万事休すか!?
ワルプルギスの夜「キャハ!キャハ!」
超弩級の魔女はこれ見よがしに勝鬨を上げる!!
その、か細い深紅の煌めきは男の胸元に吸い込まれ…
男の直前で更に細かい光の筋となって、彼を避けるように後方へ飛び去っていく…
ワルプルギスの夜「キャハ……!?」
男は自身の胸板を貫こうとした深紅の光を狙い済ました鋭い突きで捉えて返り討ちにした!
ハンター「それはもう見飽きたぞ…。」
男は最強の魔女を見下すかのように冷徹に吐き捨てた。
深紅の閃きを切り裂いた太刀はその身に纏う輝きを金色から紅へとさらに変化した。
着地した男の眼前に最後の障壁が近付く…。
男は右腕一本で逆手に持った太刀で下段から一迅の風の如き紅(クレナイ)の逆袈裟を繰り出した。
残像すら残さないその早業は音もなく、しかし鮮やかに一際大きな円陣を滅した。
ハンター「次は…お前だ…。」
ワルプルギスの夜「……ッ!」
自身を護る鉄壁の布陣はことごとく打ち破られ、
巨大な真紅の刃と化した大太刀を携えた、金色(こんじき)の煌めきはさらに勢いを増して迫り来る!
名実ともに“無双の狩人”と化した修羅は阻む物全てを蹂躙する。
男の怒濤の快進撃を目のあたりにした少女達から更なる歓声が上がる。
さやか「いける!いけるよ!ハンターさん!!」
マミ「…圧倒的ね!!」
杏子「あいつ…反則だろ…。」
皆が思い思いの歓声を上げる中、一人の少女は一同の顔を見て、呟く。
ほむら「みんな…!」
ほむらの気持ちを汲み取ったように一同は黙って頷いた。
そして、一斉に叫んだ。
ほむら「いけーー!!」
さやか「いけーー!!」
杏子「いけーー!!」
マミ「いけーー!!」
。
少女達の歓声に押される様に男は魔女へと跳躍した。
ワルプルギスの夜「ア~ハハハ!」
直後、男が先程までいた足場は深紅の光に薙ぎ払われ…ワイヤーはその役目を果たすと同時に焼き切られた。
無双の狩人は空中にて、諸手で握った紅の巨大刀を左腰に添え、刃を寝かせて下段に構える…。
ワルプルギスの夜「アハ…ハ…。」
万策尽きた最強の魔女は、眼前のその光景を、成す術なくただ見つめるのみ…。
そして男は自身の体に時計回りの力を加え、渾身の一撃を放った!
―――気刃大廻天斬り―――
。
紅(クレナイ)一閃…。
ワルプルギスの夜を両断するかの様に、景色一面に横一文字の真紅の輝きが一筋入った。
ワルプルギスの夜「ア……ハ…ハ…」
断末魔の声をあげる魔女に対し、
無双の狩人はさらに、右側に流れた巨大刀を頭上に構え、
落下し始めた勢いを利用し、兜割りの要領で無慈悲な追撃を放つ。
ワルプルギスの夜「………。」
景色を分断する横一文字に、さらに縦一文字が加わり、
超弩級の魔女を中心とした紅の十文字が、市街の上空に浮かび上がった…。
ワルプルギスの夜「」
最強の魔女は、自身の体を縦横に横断する十文字の裂け目から幾重もの光の筋を放ち…
その体は徐々に風化していく岩の如く、
さらさらと消えてゆく。
魔女が消えゆくに従って雨風は弱まり…そして止んだ。
魔女の姿が完全にかき消えた頃には、
市街地を覆う分厚い灰色の雲にも切れ目が生じ、
眩しい光が大地を部分的に照らすし出す。
その内の一条の光が照らし出した場所に…
…その男の姿はあった。
金色(こんじき)の鎧を纏いいしその者は、眩いばかりの輝きに包まれ、
中ほどから折れた太刀をゆっくりと鞘に納める。
そのあまりに神々しい姿は…
まさに英雄譚に出てくる、伝説の勇者さながらだった。
勇者は帰る。
自身を待つ者達の元へと。
勇者は彼を待つ少女達の喝采を一身に受け…奇跡の生還を果たした。
― 運命の日から二日後 ―
災厄の化身を見事討伐し、
歴史の表舞台では決して語られることはないが、
狩人達の間で後世まで語り継がれる新たな神話を打ち立てた英雄は、
しばしの休息を与えられていた。
~見滝原 病院 某病室 ~
ハンター「たまには休暇もいいが…」
ハンター「…退屈だな。」
大きな病院の一室にその英雄の姿はあった。
またしても喝采と共に生還を果たした男は、
皆とそれぞれの健闘を称え、労い、勝利の余韻に酔いしれた後、
男の負傷を心配した少女達にそのまま病院に担ぎ込まれたのだった…。
ハンター「こんな大きな個室なんて大袈裟だ。」
男はかなりの重症を負っていた為、昨日は丸一日、面会遮絶となっていたが、
医者も目を疑うほどの驚異の回復力を見せ、その翌日である今日、
晴れて面会遮絶は解除されたが、それでもしばらくは安静を強いられそうだ。
ハンター「だから病院は嫌いなんだ…」
男は点滴の管が繋がった右腕をぶらぶらさせている。
彼は誰かに分けてやりたいほどの退屈を持て余していた。
ハンター(せめて話相手くらい欲しいな…)
そんな彼の願いが届いたのか、廊下から足音が聞こえて来る。
その足音は男の病室の前で止まった。
丁寧な3回のノックの後、足音の主は部屋に入って来た。
マミ「こんにちは。お加減はいかがですか?」
まどか「ティヒヒ。お見舞いに来ました!」
ハンター「よく来てくれたな二人とも。…体の事なら問題ない。」
男は腕を振って健在をアピールした。
だが右腕の点滴の針が抜けそうになり、悶絶する。
ハンター「…!…あたた…。」
まどか「ハンターさん!?」
マミ「もう!…まだ安静なんだから無茶しないで下さい。」
ハンター「あぁ…そうだな。」
涙目の男を尻目にマミは小さな紙袋を取り出した。
ハンター「これは?」
マミ「ケーキを焼いて来たんです。」
マミ「病院食だけじゃ、物足りないと思って!」
ハンター「ありがとな。…また後で頂くよ。」
まどか「今食べないんですか?」
ハンター「あ~…さっき食べたばっかで腹一杯なんだ。」
まどか「あ…」
まどかは決戦の日、男が血を吐いていた事を思い出した。
激闘の後、あまりにも平然としていたので、二人ともすっかり失念していた…。
恐らくはまだ固形物は無理なのだろう。
まどか「じゃあ冷蔵庫に入れときますね。」
まどかは男の気遣いを汲み取ってケーキを冷蔵庫にしまった。
ハンター「それよりも、二人とも今日はサボリなのか?」
時計の短針は13時を差している。
マミ「学校はしばらくは休校なんです…嵐の影響で街もあちこち壊れちゃいましたから。」
ハンター「そうか…。」
男は少し真剣な面持ちになった。
マミ「でも私達みんなの家は大丈夫です。」
ハンター「それを聞いて安心したよ。無事で良かったな。」
マミ「はい!…ハンターさんも早く良くなって下さいね。」
マミ「私達は少しでも元気になってもらうためにお見舞いに来たんですからね?」
マミは少しはにかんだ笑顔を作る。
まどか「私はそれだけじゃないんですけどね。」
ハンター・マミ「…え?」
まどか「実は今日、もう一人、ハンターさんに会いたいって人がいるんですけど…。」
ハンター「俺に…?」
男は歯切れの悪いまどかの言葉を聞いて、頭の上に大きな疑問符を浮かべた。
まどか「入って来ていいよ。」
男とマミが不思議そうな顔をしている中で、その人物は部屋に入って来た。
キュウベェ「…。」
ハンター「お前…。」
マミ「キュウベェ…!」
病室は意外な珍客を迎え、空気が張りつめる。
キュウベェ「君に会いに来たのは他でもない…君と交渉するためだ」
ハンター「それは前に俺が言った条件を飲む気になったということか?」
キュウベェ「…認めたくはないけど、仕方ないからね。」
キュウベェ「まどかがもう魔法少女になってくれない以上、地道に契約の数でエネルギーの回収するしかないからね…」
キュウベェ「なのに世界中で追い回されて、契約もままならない。」
キュウベェ「お願いだから、君の仲間の狩人達をなんとかしてよ。」
ハンター「なら彼女達を元に戻せ……“全ての”魔法少女をな。」
マミ・まどか「!!」
キュウベェ「…!…は…話が違うじゃないか!!」
彼は顔色こそ変わらないが明らかに動揺しているように見える。
ハンター「ならそのまま永遠に追われる続けるか?…後何万回死ぬことになるんだろうな??」
キュウベェ「……。」
ハンター「……。」
二人の間の空気が氷つく。
キュウベェ「…わかったよ。その条件を飲もう。」
キュウベェ「今、存在する全ての魔法少女達を元に戻すよ。」
しばらくして、キュウベェは白い光を放ち始めた。
マミ「…!…私の…ソウルジェムが!!」
マミのソウルジェムは小さな白い光となって彼女の胸元に吸い込また。
マミ「…うっ……。」
マミは胸を押さえて苦しそうにしている。
まどか「マミさん!?」
マミ「私なら…平気よ。」
キュウベェを包む光が消えるとマミの痛みも収まったらしい。
キュウベェ「これでみんな元に戻したよ。」
キュウベェ「今度は君の番だよ。」
ハンター「分かった。」
男はベッドの枕元のPHSを手にとった。
ハンター「俺だ…例の討伐対象のモンスターの事だが…」
ハンター「監視をさらに強化して、討伐優先度を、最優先に切り替えてくれ。」
キュウベェ「君は何を言ってるんだい!?訳がわからないよ!!」
通話を終えた男にキュウベェはまくし立てる。
キュウベェ「これじゃあ約束が…!」
ハンター「約束?…俺はお前を脅しはしたが、約束なんてした覚えはないぞ。」
キュウベェ「そんなの理不尽じゃないか!!」
キュウベェが理不尽と言った瞬間、男の目付きが剣呑になった。
ハンター「…理不尽?」
キュウベェ「…!」
ハンター「お前は今まで願いを叶えると称して、どれだけの人間を食いものにしてきたんだよ…。」
ハンター「どれだけの人間が苦しんできたと思ってんだ!」
ハンター「そいつらの気持ちを考えたことはあるか!」
キュウベェ「…。」
ハンター「ほむらは親友との約束を守る為に自分を犠牲にして、苦しみながらも最後まで頑張った!」
ハンター「杏子とさやかは大切な人の幸せを願って、その魂を差し出した!」
ハンター「ここにいるマミは、生きることに必死で、過酷な運命を前に、選択すら許されなかった!」
マミ「ハンターさん…。」
ハンター「その苦しみや悲しみ、辛さをお前も存分に味わえ。」
ハンター「そうすればお前も感情ってモノが分かるようになるかもな。」
キュウベェ「…。」
長い沈黙の後、
キュウベェは「やっぱり人間は理解不能だ」 とだけ言い残して部屋を去っていった。
まどか「ハンターさん…。」
ハンター「自業自得だよ…まぁ、あいつがちゃんと反省したら…」
ハンター「討伐対象から解放してやらんでもない。」
それを聞いたまどかは安堵の表情を浮かべる。
ハンター「まったく…君は優しすぎるよ。」
まどか「ティヒヒ…。」
マミ「…………。」
まどか「…?…マミさん?」
マミは小刻に震えている。
マミ「私…。やっと…解放されたんですね…。」
ハンター「あぁ。」
マミ「長かった…!本当に…長かったけど…やっと…!」
少女の長きに渡る苦労が報われた瞬間だった。
― 夕方 ―
マミが落ち着くまで待って三人で長い間、話した後…
まどか「ハンターさん!今日はありがとう!!」
マミ「本当にありがとうございました!」
と、二人の少女は男に礼を言って帰って行った。
その後、ほむら、さやか、マミからのメールで、
ほむらとさやかと杏子も、普通の女の子に戻れたという報告を受け、
男はPHSの画面を見て満足気に頷いていた。
―入院三日目 朝―
ハンター「…。」
今ちょうど目が覚めた男は困惑していた。
ほむら「…。」
目の前にはほむらの顔がある。
それにしても異様に近い。
彼女は目を閉じたまま、前髪を手で押さえていて…
彼女の顔が…というより唇がゆっくりと近付いてくる。
…男が目を覚ましたことには気付いていないらしい。
ハンター(……。)
ハンター「ほむら?」
ほむら「…!」
男に名を呼ばれた少女は目を見開いてベッドから飛び退いた。
その顔は真っ赤だ。
ほむら「やっと起たのね。」
少女は髪をかきあげる。
ハンター「こんな朝から見舞いに来てくれたのか?」
ほむら「え…えぇ。」
先程のことが追求されなかった事に少女は胸を撫で下ろした。
ハンター「体は大丈夫なのか?」
ほむら「え?」
ハンター「魔法少女になる前は確か体が弱かったんだろ?」
ほむら「それなら大丈夫だけど…。」
少女はそこまで言って薄く笑い出した。
ハンター「どうしたんだ?」
ほむら「ふふ…。いえ……そんなことまで覚えてくれてたんだなって。」
ほむら「私の方が忘れてたくらいだわ。自分のことなのに。」
ハンター「それだけ苦労したんだな。」
ほむら「でも、あなたのお陰で報われたわ。」
ハンター「俺はほんの少し手伝いをしただけだよ。」
ほむら「そんなことないわ。私だけではどうにもならなかったもの。」
少女はゆっくりと窓のカーテンを開ける。
ほむら「まどかとの約束を果して、今日この日を迎えられたのは…」
そこで少女は男に振り返る。
ほむら「やっぱりあなたのお陰よ。…本当にありがとう……ハンターさん。」
少女は窓から射し込む朝日のように、穏やか微笑みを彼に向けた。
ハンター「どういたしまして。…役に立てたなら何よりだ。」
男は完遂された依頼に対する少女の礼を素直に受け取った。
そんな男を、少女は目を細めて慈しむように眺めていた。
それからしばらくして少女は再び窓の方を向いて男に話しかける。
ほむら「ねぇ…ハンター。あなたは退院したらすぐに別の任務に就くの?」
男は寂しげな少女の後ろ姿に答える。
ハンター「任務には就かんが、報告の為に俺が所属するギルドに行かないといけないんだ。」
ほむら「そうなんだ…。」
ハンター「帰りはまた長旅になりそうだよ。」
そこで少女は再び男に振り返る。
ほむら「じゃあ、あなたの旅の無事を祈って、私が魔法をかけてあげるわ。」
そう言うと、彼女はブラウスの胸ポケットからハンカチを取り出した。
ハンター「魔法?ほむら、君は…」
次の瞬間、世界は白と黒に包まれた。
少女は昨日、自身のソウルジェムが白い光に変わった時、
同時にそこから生じた僅なな“輝く砂”を辺りに振り撒いたのだった…
しばらくして世界は色彩を取り戻す。
ハンター「…!」
先ほどまで目の前にいたはずの少女の姿は、病室の入り口にあった。
ほむら「あなたが退院する日にまた、あなたの荷物を持ってくるわ。」
彼女は最後に一言だけ言い残して部屋を後にした。
少女の後ろ姿を呆けた顔で見送った男は少し間をおいてから気付く。
寝起きで乾いていた自身の唇がしっとりと濡れていることに…。
ハンター「…。」
我にかえった男はふと思う。
ハンター「そういえば、ほむらに言い忘れたな。」
ハンター「あいつは俺のお陰で救われたって言ってたけど…。」
ハンター「俺も、あいつのお陰で救われたんだよな。」
男は天井を見上げながら、唇にそっと触れる。
ハンター「その礼を…すっかり言い忘れてたな。」
ベッドで寝返りを打つと、少女が消えて行ったドアをただただ眺めていた。
― 入院六日目 昼 ―
二人の少女が男の病室に近くに差し掛かると何やら騒がしい声が聞こえてきた。
???「ドハハハハ!遠慮せず受けとれ若造ォ!…退屈しのぎくらいにはなるだろうよ!」
???「バハハハハ!お前も嫌いではあるまいッ!何せ男の必需品でもあるからなァ…!」
???「二人とも声がでかい!…医者に見付かったらに没収されれだろ!!」
杏子・さやか「…。」
さやか「何か…えっちぃ気配がしますなぁ。」
杏子「いや…あいつに限ってそんな事は…。」
そうこうしている内に、立ち尽くす少女達の前のドアが開き、イカツイ二人組の男が現れた。
さやか「あ…おっちゃん。」
地獄兄弟(兄)「む?決戦の日以来だな!嬢ちゃん達よッ!若造の見舞いに来てやったのか?」
杏子「まぁ、そんなとこだ。」
地獄兄弟(弟)「そうか!嬢ちゃん達が行ってやった方が、ハンターも喜ぶだろうなァ!」
地獄兄弟「ドハハハハ!…バハハハハ!」
騒がしい二人が去って行った後、
二人の少女は意を決してドアをノックして、ドアノブに手を掛ける。
部屋の中の男が“いかがわしい物”を見ている現場に遭遇しませんようにと祈りながら。
ハンター「よく来てくれたな、杏子!さやか!」
さやか「あ…。」
杏子「そっちかよ!」
ハンター「…何が??」
キョトンとする男の手には缶ビールが握られていた。
さやか「あたしらはてっきり…」
何かを言おうとしたさやかの前に、杏子はサッと進み出る。
杏子「病人が酒飲むなよな~…しかもまだ昼だってのに。」
ハンター「たまには昼から飲んでもいいんだよ!それに狩人に酒はつきものなんだよ。」
さやか「ほどほどにしないとダメですよ~?」
さやか「でもその様子じゃもう大分良くなったんですね!」
ハンター「あぁ。見ての通りだ!」
男は飲み干した缶をベッドの脇の机に置いて答えた。
ハンター「それよりお前らこそ、どうなんだ?」
ハンター「体が元に戻ってから、具合が悪くなったりしてないか?」
男の気遣いに少女達は笑顔で返す。
さやか「それなら大丈夫です!」
杏子「あたしも問題ないよ!」
ハンター「そうか。良かったな、お前ら!」
三人で一時間ほど話した後、さやかは「ちょっと約束があるんで!」と言って部屋の入り口へ向かった。
さやか「ホントにありがとっ!ハンターさん!!」
最後に、男に礼を言ってドアノブに手をかけた時だった。
ハンター「楽しんできなよ…デート。」
さやか「なななな…何でぇ!?」
さやかは慌てて振り返る。
杏子「いや、さっきからそんだけそわそわしてたら誰だって分かるだろ…。」
さやかは動揺する自身の心を落ち着けてから、
「行ってきます…」と呟いて廊下に 出て行った。
二人はそんな微笑ましいさやかの様子を見てひとしきり笑っていた。
ハンター「さやかは、上條君とうまくいってるみたいだな。」
杏子「まぁな。見てるこっちが恥ずかしいくらいだよ。」
杏子は掌で顔をパタパタと扇いでみせた。
ハンター「そういう杏子はどうなんだ?」
杏子「…どうって?」
ハンター「せっかく魔法少女から解放されたんだ…」
ハンター「年頃の女の子らしく、恋愛の一つや二つくらいしてみたら?」
杏子「ははっ!あたしはそんなのガラじゃねぇよ。」
杏子「ただ…」
ハンター「ん?」
そう言うと杏子は椅子から立ち上がり病室のドアに向かう。
そして振り返ると同時に男に何かを投げ渡した。
…それは林檎だった。
杏子「あたしが食いもんを渡す男はあんただけだけどな!…ハンター!」
そして再び男に背を向けると、
「あんたには本当に世話になった…ありがとう」と言い残し、その少女はそっと出て行った。
それからさらに十日後
6月某日…。
平穏な日常を取り戻した少女達の姿がそこにあった。
~見滝原 市街地~
マミ「じゃあ私達はこっちだから、またね…みんな!」
ほむら「そうね。それじゃあ私達も。…行きましょう、まどか。」
まどか「うん!みんなまた明日ね~!!」
さやか「あたしも今日は恭介と約束あるからこの辺で!!」
杏子「さて、と…じゃあ帰るか、マミさん。」
一緒に下校していた一同は帰り道の途中でそれぞれの帰路についた。
まどか「ティヒヒ。今日も楽しかったね!」
ほむら「えぇ。」
まどか「明日はみんなで遊びに行こっか?」
まどか「ふふ…。それもいいわね。」
ほむら(こうやってまどかやみんなと笑って過ごせるのはあなたのおかげね…)
…………… ハンター ……………
ほむら「……。」
まどか「…それでね……。ねえ聞いてる?ほむらちゃん!」
ほむら「…!…ごめんなさい。…ちょっと考え事をしていたの。」
まどか「最近そういうの多いよ、ほむらちゃん。」
ほむら「そ、そうかしら?」
まどか「やっぱり…ハンターさんのこと?」
ほむら「違うわ。あの人には感謝してるけど、別に寂しくなんか…。」
まどか「ほむらちゃん、寂しいんだ?」
ほむら「!」
聞かれてもいないことを親友に答えてしまったほむらは黙ったままうつ向いてしまった。
ほむら「…。」
まどか「…。」
しばらく黙ったまま歩く二人。
そんな時、まどかは何かに弾かれたかの様に顔をあげた。
まどか「そうか!」
ほむら「…どうしたの?急に。」
怪訝そうな顔のほむらに対し、まどかは瞳を輝かせる。
まどか「私も用事ができたから先に帰るね!」
ほむら「ちょっと!…まどか!?あなたの家はそっちしゃあ……。」
困惑する少女を置き去るようにしてまどかは走っていった。
ほむら「どうしたのかしら?」
どこかへ駆けていく親友を見送りながら、ほむらは再び歩きだした。
???「ここにおったか…ハンター。」
ハンター「…!…村長さん。」
遥か東の島国から帰還した男は、自身が所属するハンターズギルドのある地にいた。
ポッケ村長「工房もおヌシの太刀の修理には頭を抱えておるようじゃの。」
ハンター「えぇ…まぁ、もうしばらくはここにいますよ。」
ポッケ村長「ハンターよ、ヌシは今までほんにようやってきた…」
ポッケ村長「ヌシの狩人としての象徴である刀が折れたのはもう、おヌシが狩人として成すべきことをやり終えたからではなかろうか…。」
ハンター「そんなことないですよ。むしろ、今回の以来を通して改めて分かったんです。」
ハンター「俺が狩人として成すべきことを!」
ポッケ村長「…そうか。」
ハンター「はい!!」
???「お二人とも、お話の途中で申し訳ないが…ハンター、ちょっといいかい?」
ハンター「ネコートさん!」
ネコートさん「いきなりだが君宛てで緊急依頼が来ているのだよ。」
ネコートさん「依頼内容は“白い獣”をなんとかして欲しいという事らしい。」
ハンター「緊急依頼だって!?…けどまだ俺の刀は……。」
ネコートさん「そんなに危険は伴わないから大丈夫だよ。ちなみに、場所は君が一度行ったことがあるところさ」
ハンター「…?…ますますよく分からん依頼だな。」
ネコート「そして依頼人は…“魔法少女の友達”となっている。」
ハンター「…ッ!」
ネコートさん「まぁ、受けるか受けないかは君に任せるよ」
ハンター「そういう事か…受けるよ、今回モンスターハンターじゃなく、一人の個人としてね。」
ネコート「フッ…それもまた君らしいな!…たまには楽しんできたまえ。」
ハンター「あぁ!行ってくる!!」
―夕方―
~見滝原 ほむら宅~
学校から帰宅した少女は、主を失った部屋の前に立っていた。
ドアノブに手をかけ扉を開ける。
当然そこには誰もいない。
分かってはいるものの少女は軽く溜め息をついた。
ほむら(…。)
少女は少し後悔していた。
男は様々な依頼を受けて各地を飛び回らなければならない以上…。
彼が見滝原の地を離れる時に後ろ髪を引かれないようにと、敢えて引き止めなかったことを。
少女は奥に進んでいく。
そしてリビングの片隅の棚に置いてあるPHSを手に取った。
役目を果たしたそれは、電源ボタンを押しても画面は暗転したままである。
まるで、持ち主など最初からいなかったと言わんばかりだ。
ほむら(最後くらい甘えても良かったかしら?)
再び男が使っていたPHSを棚に置いた時、玄関の呼び鈴が鳴らされた。
ほむら「はい、どちらさ…」
少女がインターフォンの受話器を取る前に、玄関からドアの鍵が解除された音がした。
少女は何事かと玄関へ急ぐ。
そして絶句する。
少女がそこで確かに見た。
開け放たれたドアと、
その向こうに立つ、
少し長い髪をたなびかせ、
細身で、端正な顔立ちをした人物を。
少女はその姿を見るやいなや、その男の胸に飛込んだ。
男も少女の背中に優しく手を回す。
ほむら「ハンター!…どうして…?」
ハンター「一つ忘れてたことがあってね。君に礼を言ってなかった。」
ほむら「…え?」
ハンター「俺も、君のお陰で救われたんだ…」
ハンター「だから…ありがとう。」
それだけ言うと男は少女の背中から手を離そうとした。
ほむら「ハンター!!」
対する少女は男を離そうとしない。
ハンター「ほむら…」
そんな少女を見て男は困ったように微笑む。
ほむら「イヤぁ…。」
今離せばもう二度と会えないかも知れない…。
不安に駆られる少女はまるで駄々っ子のように“いやいや”をする。
そして爪先立ちになり、何かを懇願するかの様に目を閉じた…。
男は少女の閉じられた瞳から流れる涙をそっと拭い、
子供をあやすような手付きで彼女の頭をそっと撫でた。
ハンター「それは君がもっと大人になってからだ。」
ほむら「…ふぇ?」
少女はそっと目を開ける。
涙で滲む視界にはおだやかな男の顔が映った。
ハンター「急がなくてもいい。…君は流れ始めた時間を今からゆっくり歩めばいい。」
ハンター「それに俺も、時間はたくさんあるからね。」
ほむら「え?」
ハンター「俺は今回の依頼で、この国のキュウベェ討伐担当になったんだ。“魔法少女の友達”さんとやらに依頼されてね。」
ほむら「…!…それじゃあ!!」
ハンター「あぁ。ずっとこの国にいることになった。」
ハンター「だから君はゆっくりと大人になればいい…。」
ハンター「俺は…それまで待つよ。」
ほむら「ハンター…」
男の言葉を聞いた少女は今一度強く男を抱き締める。
ほむら「…大好き…。」
ハンター「…。」
男は黙して語らず、しかし彼もまた、少女を強く抱き締めた。
男は腕から伝わる温もりを感じながら思う。
かつて、ただ力を持つことをひたすらに望まれ、その身を戦場へと追いやり、
ただただ誰かを傷つけることを強いる自身の力を呪っていた。
だが、今はその力に感謝していた。
その力のお陰で、大切な人を守る事ができたからだ。
人々を災厄から護る守護者たるモンスターハンターとしては、いけないことなのかもしれないが、
男は目の前の小さな温もりのためにこの力を使おうと心に誓った…。
~ハンター“ワルプルギスの夜”討伐依頼?~
~ fin ~
522 : 以下、名無しが深夜... - 2012/02/23(木) 01:24:53 e9Egp1lk 413/413長々とお付き合い頂きありがとうございました。
皆様の暇潰しにでもなれば幸いです。
またしばらくしたら何か別の物を書くかもです。
それではまた―
ハンターにワルプルギスの夜が見えるってのもねないよね
シリアスなら魔法少女の素質がないと魔女が見えないってのは守った方がいいよ