1 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:35:01.77 EyxvIr6M0 1/19


デレP(以下P)「すみません。少し宜しいでしょうか」



(駅前のスクランブル交差点は、それに似つかわしいくらい多くの人が行きかい)

(人を見ることが生業である自分たちにとっては、うってつけの場所だ)



速水奏「私?」

「はい。突然恐れ入ります、私、こういうものです」スッ

「……?」

「芸能事務所のプロデューサーをしております。恐れ入りますが、あなたをスカウトさせていただきたく、お声がけさせていただきました」

「……」

「宜しければ少しお話をさせていただきたいのですが、お時間ございますでしょうか」

「……」

「……あの?」

「え? ああ。いいえ、突然でびっくりしてしまって」

「はは、そうですよね、すみません」

「それで? 芸能と言っても、いろいろあるでしょう?」

「聞いていただけますか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます。弊事務所は多岐にわたり芸能活動を支援しております。自分の担当はアイドル部門でして……」

「アイドル。あの、歌って、踊る」

「そうですね。雑誌モデルやCM、演技ができるならドラマなども仕事になるでしょうか」

「様々な活動を通し、仕事を経験されていく中で、歌手や俳優など好みに合わせた方向性へ行くことも可能で……」


元スレ
速水奏「プロデューサーさんにスカウトされた話」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751294101/

2 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:36:55.85 EyxvIr6M0 2/19


「ああ、もちろん今すぐでなくて構いません。今のお仕事などもございますでしょうから、最初の間は両立しながらでも」

「お仕事ねぇ。それで、私を、アイドルに?」

「はい。是非」

「どうして?」

「おっと……。どうして、ときましたか」

「だって、気になるでしょう?」

「そうですね。……まずは、この大勢の中で目を惹かれたから、です」

「そう?」

「目に留まることが、この職業の絶対条件。それを、あなたは満たしました」

「そして、声を掛けてからの立ち振る舞いもいい。眼鏡に色が入っているので少し見づらいですが、瞳の形も良さそうだ」

「なかなかに値踏みしてくれますね。評価は高いようですけど」スチャ

「気に障りましたらしつれ……」

「ばぁ。お望みの瞳は、こんな感じだけど、どう? プロデューサーさん」

「かっ」

「……奏……」

「ハーイ」

「…………あ~~……」

「くくっ……ふっ、あはははっ」

3 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:37:51.91 EyxvIr6M0 3/19


「言い訳にしかならないんだが」

「ふふっ、どうぞ」

「眼鏡しているし、髪型も変えていて……厚底で背も高いし」

「普段の格好だと、芸能人ってバレるくらいになっているのよねぇ」

「難儀なことで……」

「誰のせいかしら」

「……あと、声色も変えたな」

「気づいていないんですもの。つい、楽しんじゃった」

「はぁ……」

「ほら、いきましょう」

「うん?」

「スカウトで話を聞くのは、喫茶店でしょう?」

「…………そうですね……」

4 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:40:39.94 EyxvIr6M0 4/19


──喫茶店

(スカウトは、9割は話を聞いてくれず)

(1割の半分が話をまともに聴いてくれず)

(話を聞いてくれたとしても、そこから事務所預かりまでなってくれる人は、結局1%にも満たないだろうか)

(世の中は割と健常なものかなと、思わないでもない)

店員「お待たせいたしました。アイスコーヒーのお客様。こちらアイスティーです」カチャ…

店員「ごゆっくりどうぞ」スタスタ…

「……ふぅ」ゴクッ

「スカウトなんて、まだするものなのね」

「まぁ……ピンときたってやつだ」

「あら。それが、まさか私だったなんて」

「仕方ない。見つけた、って思ったよ」

「見つけたって、例えば宝物とか? そんな目ね」

「そう。原石だと思ったよ」

「ふふ……原石だった?」

「話してみてもね。上質だった」

5 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:41:44.33 EyxvIr6M0 5/19


「箱を空けてびっくりだ。もう磨いてあるんだから」

「そうねぇ。まだ途中かな」

「それは、殊勝だな」

「謙遜じゃないわよ。……でも、スカウトしたのが既にデビューしているアイドルだったなんてね」

「勘弁してくれよ」

「ああ、いえ。責めてないの。……むしろ、嬉しいかも」

「どうして」

「変装がちゃんとできていたとか」

「出来ていても、あまり意味かったんじゃないか」

「それこそ、どうして」

「俺が声をかけたってことは、特別な雰囲気が消せてないってことになる」

6 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:42:51.81 EyxvIr6M0 6/19


「んー…… 消せてない?」

「こなれてるな」

「ふぅん?」

「馬鹿にできないもんだぞ。それで詐欺の発覚とかあるくらいだ」

「こなれてる、ね。あーあ、もうジャージで出るべきかしら」

「実践している人もうちにいそうだけど…… 高校生なら
そこまで変じゃないだろ」

「でも高校生には見えないって、嫌ほど言われるのよねぇ」

「まぁ、それが雰囲気だ。……ぼさぼさした感じにしてみるか?」

「ん~。じゃなきゃ、とても変わってみるとか」

「変わってみる?」

「美嘉とか、唯みたいな」

「ギャル系? そうだな……見たくないとは言わないけど……」

「……ふぅん。プロデューサーさんの好みとは違いそうね」

7 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:43:56.74 EyxvIr6M0 7/19


「……最初からそうだった?」

「最初から?」

「あの時。海岸で会った時から」

「あの時も、私が目に留まった?」

「…………まぁ。何としてもアイドルに、とは思ったよ」

「キスをしてでも?」

「ごほっ…… 慣れないことをしてでも」

「といっても、あれは奏が言ったんだろう」

「そうね、そうだわ」

「……」

「さっき、私のことを殊勝だ、なんて言ったでしょう」

「そんなんじゃないの」

「うん?」

8 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:45:18.14 EyxvIr6M0 8/19


「やめたのよ」

「なにを?」

「背伸びするの」

「……ん~、そうなのか?」

「ご納得いただけない?」

「あまりね。好きでそう見せているのかなとは、思っていたけど」

「違うの」

「背伸びをしながら、背伸びをしていない」

「?」

「この矛盾がわかる?」

「…………いや、わからない」

9 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:45:57.83 EyxvIr6M0 9/19


「年相応に見られなくても、それが、私」

「そう思う様にしたの。思えるようになった」

「私の中の何かを変えたわけじゃない。私はずっと、私」

「勝手にされた評価に、応えなくっていいって、わかったの」

「……あの人が、飾るのをやめて、輝いたように」

「あの人? ……ああ」

「そう、あの人」

「おかげで、だいぶ生きやすくなったのよ?」

「そうだろうな」

(……ああ、そうか)

10 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:46:35.49 EyxvIr6M0 10/19


(周りがみな、特別視する。それに応えようと)

(いまの自分より、背伸びをして、しすぎて)

(いつしかその生き方に、慣れてしまっていた)


──アイドルになってしたいことは

──変身と籠絡と、あと……復讐?


(だから復讐なのだろうか)

(生きづらい生き方をしていた自分への)

(大人っぽいというレッテルを貼り続けられ、それに応え続けてきてしまった、自分への)

(いっそのこと、自分が活きる世界に行ってしまえと言う、それはほとんど身投げのような)

(復讐)

11 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:47:06.81 EyxvIr6M0 11/19


(それなら)

(背伸びをやめたというなら、それは)

「……」

「……生きやすくなったなら、まぁ、良かったんだろう」

「奏にとって」

「うん……」

「……でも、背伸びした方が、キスはしやすいわよね?」

「それは本当にわかりません」

「ふふ、連れない人」

12 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:47:38.98 EyxvIr6M0 12/19


「ちょっと前から思っていたんだけど」

「うん?」

「プロデューサーさんの好みなのかしら」

「なにが」

「さっき、私とわからなくても声を掛けてくれた」

「それって、そんな雰囲気がいいのかな、って」

「……そんなって?」

「私が言うのはおこがましいのだけど……」

「あいさんとか、留美さんとか……真奈美さんみたいな」

「そんな雰囲気の、女性」

「…………」

「……」

「……」

「え、そこで黙っちゃうの?」

「……あー……」

「否定できないんじゃないか、とは……」

「ふぅん」

「ふふっ……そうなんだ」

13 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:48:11.53 EyxvIr6M0 13/19


「…………何回でも、声を掛けると思う」

「え?」

「そこに速水奏がいたら、俺は」

「何回でもスカウトに行くよ」

「……」

「……」

「愛の告白?」

「さすがに違う」

「ふふっ、ふふふ……」

14 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:48:42.96 EyxvIr6M0 14/19


「いいよ。それは、まだ」

「少しずつ大人になるから」

「だから今は、自分の範囲で、背伸びを楽しみましょう」

(……矛盾することを受け入れて、成長していくのか)

「知らないうちに、どんどん凄くなるな」

「ふふ。そうよ」

「今日の私は、昨日より凄い。明日はもっと素敵になる」

「いろんな可能性があるってこと」

「ジャージもダサく着こなせるし、ギャルにもなれるかも?」

「無理をしなくなったから、背伸びをしないことも、うんと背伸びをしてみせることも、自由にできる」

「言葉遊びだけど……まぁ、奏らしいよ」

「ふふ……ね、やってみましょうよ」

「なにを?」

「なにって……」スッ

グイッ

「っと……」

「アイドルとプロデューサーよ。私たち」

「2人で、この世界を巻き込まなきゃ」

「悪巧みみたいだな」

「得意でしょう?」

「確かに……」

15 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:50:39.42 EyxvIr6M0 15/19


「とりあえず、ネクタイは離してもらっても?」

「いいわ」



「……ま、わかったよ」

「もっと仕事が欲しいってことでいいな」

「そういう要約、好きじゃないわ」

「えぇ……」

「月は照らされて輝くの」

「磨かれて宝石になっても、明かりが無ければ輝かない」

「明かりをつけるのは誰?」

「逆に言うけど、わかり難い言葉で煙に巻くの、奏の良くない癖だ」

「そう?」

「そう」

「……でも、嫌いとは言わないのね」

「……」ゴクッ

カラン

「言わないな」

「……」

16 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:51:31.66 EyxvIr6M0 16/19


「もう行かなきゃ」

「アイスティー、残っちゃった。せっかく頂いたのに」

「経費だよ」

「だとしても。せっかくなら、貰っていただける?」

「え? あ」

カラン

(グラスを交換された……)

「これで飲み切ったように見える?」

「意味あるか?」

「からかいすぎたお礼よ」

「……お礼と言うけどな」

「ストローにリップが付いてるぞ」ツンツン

「あら。じゃあ、それで飲むしかないわね」

「……」

「からかいのお礼でからかわれるのは初めてだよ」

「言ったでしょう? 背伸びはもうやめたの」

「私のやり方で、好きなだけからかっちゃう」

「開き直られるのもな……」

「ふふふ、大変ね、プロデューサーさん」

「お見送りは大丈夫よ。スカウト頑張ってね」

コツコツコツ…

「……」

ゴクッ ズズ…

「……はぁ」

「今日は帰るか……」

カラン

17 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:52:03.09 EyxvIr6M0 17/19


──後日

(……少し時間あるな。スカウトができるか……)

「おはよう、プロデューサーさん」ポン

「えっ。ああ、かな……でっ!?」

「……」

「……いや、まぁ、そういう着方も見るけどさ」

「制服スカートに色ジャージは、あまりにも……」

「芸能人オーラ、消せた?」

「ああ、消えた消えた」

「消えた、けど」

「けど?」

「素材が良さそうだから、アイドルやってみませんか?」

「ふふっ、もうやってまぁす」

18 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/06/30 23:52:54.58 EyxvIr6M0 18/19


「そうか」

「じゃあね、またあとで」

「美嘉に見つかるなよ」

「気を付けるわ」タッタッタ…

「……」



(駅前のスクランブル交差点は、それに似つかわしいくらい多くの人が行きかい)

(人を見るということについて、もっとよく考えなければいけないな、と)

(思ったりするのに、うってつけの場所だ)



「……」

「!」

「あの、すみません」

「少し宜しいでしょうか」





おわり

19 : ◆WO7BVrJPw2 - 2025/07/01 00:00:13.16 r7G2THvR0 19/19


お読み頂きありがとうございました。

奏、今年も誕生日おめでとう!
沖縄・福岡のシンデレラライブ行きながら作ったよー。
誕生日ネタは過去にやっているので、思うがまま書きたいことを書きました。



過去の奏SSです。よろしければどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
https://ayamevip.com/archives/53893754.html

速水奏「とびきりの、キスをあげる」
https://ayamevip.com/archives/53910133.html

速水奏「特別な、プレゼント」
https://ayamevip.com/archives/53955111.html

速水奏「今年のチョコが、渡せない」
https://ayamevip.com/archives/54316119.html

速水奏「恋愛映画は苦手」
https://ayamevip.com/archives/54605033.html

速水奏「月の丘の裏側まで」
https://ayamevip.com/archives/54783524.html

速水奏「ずるいひと」
https://ayamevip.com/archives/55568204.html

速水奏「練習はキスシーンの後で」
https://ayamevip.com/archives/55883848.html

速水奏は癒したい
https://ayamevip.com/archives/56334984.html

速水奏「眠り姫には口づけを」
https://ayamevip.com/archives/56782582.html

速水奏「私がなりたい、アイドル」
https://ayamevip.com/archives/57442211.html

速水奏「あなたの迂闊なプレゼント」
https://ayamevip.com/archives/58491147.html


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