1 : 名無しさ... - 26/07/01 00:41:36 E8sM 1/16

【注意】
・このSSは、大阪にある小さな芸能事務所である728プロに所属するアイドルとプロデューサー、その周辺の人々を描くシリーズの一作です。独自設定と独自解釈が多数あります。
・オリP出ます。
・地の文ありです。
・短いです。

以上を踏まえ、お付き合いくださいませ。

前作 姫川友紀「頑張っていつだって信じてる」
https://ayamevip.com/archives/59900067.html

元スレ
藤居朋「きっと、あたしが掴むもの」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1782834096/

2 : 名無しさ... - 26/07/01 00:43:15 E8sM 2/16

 もう何度目かも分かんないけど、窓の外に目をやった。六月のこの時間にしてはやたらと暗いこと以外何にも変わらない景色。外の電灯の光を浴びて、眩しい雨がアスファルトをたたいてる。
「……止まないわね」
「やな」
 しけた事務所の、ちょっとじめっとするソファー。そこを占領したあたしにコーヒーを置いて、Pは自分のデスクに戻っていった。珍しく仕事は終わってるみたいだけど、特にあたしに目を向けることはない。文庫本を取り出してページをめくりはじめた。
 軋む椅子があたしを代弁するように鳴く。目だけを上げて、すぐに戻した。あんたはそういう人よね。ふんだ。

3 : 名無しさ... - 26/07/01 00:43:21 E8sM 3/16

「なんでわざわざ離れんのよ」
「別にいいやろ」
「なによ、二人っきりでそんな離れる必要ある?水臭くなーい?」
 むうっと膨らんだあたしのほっぺは、Pの動きですぐに戻った。単純だとは思うけどね。

4 : 名無しさ... - 26/07/01 00:43:51 E8sM 4/16

 片隅に掲げられた木札ボードを見る。有名な刑事ドラマで見たことがあるやつだ。両面に名前が書いてあって、赤だったら今いなくて黒だったらいることになってる。「この方が好みだから」なんて言ってるけど、あたしは彼なりの見栄の張り方だと思ってる。あとお金もないし。
 で、その名札は今六枚ある。そのうちあたしとPのだけが黒い文字を見せていた。つまりここにはあたしとこの人しかいない。その事実はいつも通り、あたしの中にすとんと落ちた。
 別に珍しいことじゃない。スマホをいじったり、本を読んだり。やれる暇つぶしも色々ある。てかPはそうしてる。けどそんな気分じゃなかった。

5 : 名無しさ... - 26/07/01 00:44:01 E8sM 5/16

「……電車、止まってるんだって」
「ほーん」
「会話下手なの?」
「否定はせん。はぁ、どうしたもんかね」
 げんなりした声がする。その声色はあたしとの会話以外に何か面倒なことがあるみたいだった。
「ね、送ってってよ」
「今日電車や。車は修理に出しとる」
 沈黙。そういえばPの星座、今日の星占いで最下位だったっけ。
「……占い通りね」
「おのれ星占いめ」

6 : 名無しさ... - 26/07/01 00:44:31 E8sM 6/16

 テレビを点けてもずっと大雨の話しかしていない。数十年に一度レベルの大豪雨なんだから、それが当たり前なんだけど。いい加減飽きちゃって、占いだけ眺めて消した。また雨の音が遠く鳴る。Pは本に目を落としたまま尋ねた。
「どうする?タクシー呼ぶんやったら早いうちがええやろ」
「そうね……」
 それが、と言いかけて、光と轟音。二人同時に、ぴったりのタイミングで体が跳ねた。おずおずと顔が向かい合って、1、2、3、4、5。

7 : 名無しさ... - 26/07/01 00:44:35 E8sM 7/16

「……くくっ」
「……っははは!びくっ!びくって!大の大人なのにめっちゃビビるじゃん!」
「大人って言うならふじともやって大人やん!あんな猫みたいな跳ね方する!?」
「あんたにだけは言われたくないわよ!」
 しばらく馬鹿みたいに笑いあった。笑い顔の下には何もなかった。

8 : 名無しさ... - 26/07/01 00:45:44 E8sM 8/16

 泊まることにして、シャワーを浴びて。Pがためこんでたカップラーメンを食べて、またテレビを点けてすぐ消して。あたしの日常を過ごしてる横で、Pはただ静かにいた。顔のない通行人。出番を終えた端役。今の彼はまさにそれ。
 ふと思う。もしあの日、あんたの目線がちょっとずれてたら。今ここにいるのはきっと別の人で、もしかしたら誰もいなかったかもしれなくて。別のところで出くわしても、あたしが彼みたいな表情をしていたはず。それが重なり合ったことは、ある意味運命なんだとあたしは思う。

9 : 名無しさ... - 26/07/01 00:46:00 E8sM 9/16

 運命。彼の一番嫌いな言葉。あたしから見たらいびつで、彼にとっては真っ直ぐなそれ。彼とあたしが重なって作り上げるそれが、あたしにとってどうあるべきか。それがあの性格を作り出している。
 あたしに言わせればバカみたいなことだけど、それが彼の信じた何かだった。変に真面目で義理堅くて、バカな人だ。あたしが手を伸ばして、あの日つかみ取ったものなのに。
 でも今日だけは。あいつにも、運命に従ってもらってもいいような気がする。だって明日はー

10 : 名無しさ... - 26/07/01 00:46:07 E8sM 10/16

 小さく息を吐いて間合いを詰める。50センチぐらいになったところですっと離れた。やっぱりむかつく。
「ね、何かあった?」
「何かって」
「何かは何かよ。あんたが機嫌悪くなるようなこと」
「別に。しいて言うなら帰れそうにない事ぐらいや」
 いつもより平坦な口調。色々考えてる時の癖。
「あたしといるのがそんなにやだって言いたいの?」
「言うねぇ。今日はちょっと事情がちゃうやろ」
「事情?」
「ほら、明日が」
 明日。日めくりカレンダーは6月30日を主張してる。つまり。

11 : 名無しさ... - 26/07/01 00:46:11 E8sM 11/16

「あたしの誕生日」
「そ。ご家族と一緒に過ごすべき時間やのに」
 それは確かにそうだけど。でも。
「ま、それも運命よ。次の一年一番お世話になるのはあんたなんだから、あんたから最初に何かもらったっていいでしょ?」
「運命、ねぇ」
 一瞬顔が歪んだのは見逃さなかった。

12 : 名無しさ... - 26/07/01 00:46:53 E8sM 12/16

「まあ確かに次の一年ふじともは大忙しやろけど」
 Pはけっこう自信家だった。
「やからといって、最初に祝うのが俺である必要はないわけで」
「あるわよ。それがあたしの掴んだ運命で、あんたの果たす責任だもの」
 責任。あいつの信じる言葉。

13 : 名無しさ... - 26/07/01 00:46:58 E8sM 13/16

「そんな大掛かりなもんちゃうよ。責任があろうとなかろうと、俺はお前の誕生日祝うつもりや。ただ娘さんを預かってる身として、親御さんと一緒に過ごした方がー」
「あたしは大人だってば」
 沈黙。反論を探すように目線が上を向いて、すっと降りた。その目線の先ではデジタル時計が時を刻んでいる。思ったよりも時間が経ってた。
 3、2、1。0だけに染まると同時に、Pはあたしの目をまっすぐ見た。

14 : 名無しさ... - 26/07/01 00:47:07 E8sM 14/16

「誕生日おめでとう、朋。今年もよろしくな」

15 : 名無しさ... - 26/07/01 00:47:16 E8sM 15/16

 その言葉はくすみがどこにもなくて、だからこそ今年はあんたと一緒に色んなことをする一年になる、そんな予感がした。ううん、予感じゃないわね。それはきっと今年のあたしが掴んだ運命。だから思いっきり楽しむことにするわ。だって。
 それが一番、楽しいもの!


16 : 名無しさ... - 26/07/01 00:58:08 E8sM 16/16

ふじともハピバSSです。藤居朋は自分の置かれた現状を楽しもうとするからすごく好きなんですよね。ということで実践してもらいました。

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