美希「世界の中心で愛を叫ぶの!」【前編】
の続き
………………………
………………
医者「一口に白血病と言っても、大きく分けて二つの種類があります」
医者「すなわち、急性か慢性か、です」
医者「造血、つまり血を作る場というのは骨髄になるわけですが……」
医者「この骨髄で、造血機能を持たない悪性の未熟な細胞が増殖し、正常な造血幹細胞の働きを阻害することで、血液が作れなくなってしまうのが急性白血病」
医者「一方で、造血幹細胞が機能を保ったまま無秩序に増えすぎてしまい、ある時にそれらが急に悪性へ転化するのが、慢性白血病です」
医者「白血病が、血液のガンと呼ばれる所以ですね」
医者「まぁ、今のはどちらも骨髄性のものに関する説明でして、リンパ性だとまた少し違うのですが……」
医者「今回、患者さんが発症されているのは慢性骨髄性白血病になります」
高木「ち、治療は? 治る見込みは、あるのでしょうか……?」
医者「白血病の治療には、大きく薬物投与と造血幹細胞移植があります」
医者「薬物とは、いわゆる抗がん剤と呼ばれるものを投与して、悪性の細胞を壊します」
医者「この時、正常な造血細胞も巻き添えを食ってしまうのですが、正常な細胞の方が悪性のものよりも回復が早いのですね」
医者「そのため、一度細胞が失われた後、回復すると、正常な細胞の方が多くなります」
医者「これを一定のスパンで繰り返し行うことで、悪性細胞を根絶するわけです」
医者「ただ、抗がん剤による副作用もありますし、細胞が失われている間は感染症対策として無菌状態での管理が不可欠となります」
医者「というのが、急性の場合なのですが……」
律子「で、ですが……?」
医者「慢性の場合、悪性の細胞を壊すための抗がん剤治療というものが、急性転化後になるとあまり有効に働かないケースがほとんどなのです」
医者「そのため、増えすぎた造血幹細胞が急性転化する前、つまり慢性期に治療しておくことが非常に重要になってきます、が……」
医者「患者さんの場合……残念ながら、既に急性転化を迎えております」
高木・律子「……!!」
医者「そうなると、骨髄等の移植も視野に入れる必要がありますが……限られた時間の中で、ドナーが見つかるかどうかは不確定です」
医者「そもそも、骨髄移植という治療自体が患者さんにかなりの負担をかけるものです」
医者「何せ、免疫系の再構築を数年かけて行うことになりますから、そう簡単に行えるものではありません」
医者「成功率も、急性転化後である場合、決して高くはないのです」
律子「あっ……そ、そんな………」
高木「うむぅ…………!」
医者「当面は、抗がん剤を投与して経過を観察し、ドナーが見つかり次第、患者さんのご意向を伺います」
医者「いずれにせよ、急性転化後の長期生存例は少ないという事を、予めご承知おきください」
小鳥「私が……私が、あんなことをしたせいで……!」ポロポロ…
小鳥「私……何てことをっ!!」ボロボロ…
高木「よしなさい、音無君。彼は既にそういう状態だったんだ、キミのせいではない」
小鳥「ううっ、えぅぅ、ううぅぅ……!!」ボロボロ…
~病室~
P「おぉ、花持ってきてくれたのか、ありがとう」
春香「…………」
P「ははは、何て顔してるんだ。心配するな」
P「あ、そうだ。美希にこれ、渡してくれないか」スッ
P「しばらく預かっていたままだったからな。あいつも続きの日記、書きたいだろうし」
春香「……プロデューサーさん」ジワァ…
P「泣くなよ、美希にもよろしくな」
春香「…………」ペコリ
ガラララ…
P「………………」
P「日記も、やめた方が良かったかな……」
12月19日
美希、元気か?最近顔を見ていないから、心配だ。
仕事やレッスンには、ちゃんと行っているか?いつも俺が付いていたが、たとえ律子の手が回らない時でも、ちゃんとトレーナーや現場のスタッフさん達に失礼が無いようにするんだぞ。
皆も俺の見舞いに来てくれるのは嬉しいが、そんな暇があったら、もっと仕事を頑張ってほしいのが本音だ。俺なんかのために、余計な時間を割いてほしくない。冷たい言い方で申し訳ない。
俺はあくまで皆のプロデューサーだ。仕事上の付き合いなんだ。だから、必要以上に付き合ってもらわなくて良い。
俺が皆にとって、大きな存在になりすぎていない事を祈る。
~とあるラジオ局~
美希「………………」ペラッ…
春香「美希……」
パタン…
美希「本番、始まるの……もう行くね?」
春香「う、うん……」
美希「ハニー、知ってたんだね」
春香「えっ?」
美希「自分が、もう長くないって事……だから、俺の事なんてどうだっていいとか、そういう事、言ってたんだ」
春香「………………」
コンコン
スタッフ「星井さーん、そろそろご準備の方お願いしまーす」
美希「はいなの!」
デッデレ デンデレ デレ―ン!! ♪
『星井美希の、ロイヤルハニーフラッシュー!!』アッフゥーン!
美希「どうもー、ラジオの前の皆さんこんばんはなのー! ミキだよー!」
美希「今日も元気いっぱい! 楽しんで皆のお便り読んでいくからよろしくねー! 夜食用のおにぎりの準備はいいかなー?」
美希「はい。それじゃあ最初のお便りは、ペンネーム『アラブのラー油王』さんから!」
美希「星井美希さん、こんばんは。はい、こんばんはなの!」
美希「実は、私は先日恋人とケンカをしてしまいました……ふむふむ」
美希「大好きな竜宮小町が音楽番組に登場したのですが、その時間私は仕事だったため、恋人に録画を頼んだのです。うわぁ、ありがとう!」
美希「ところが、恋人が録画したのは竜宮小町ではなく、新幹少女が登場する別の番組。家に帰ってからそれを確認し、私は大激怒。あらあらなの……」
美希「ですが、恋人からは、そんなのどっちだって一緒でしょう、と居直られ、話は平行線のままです」
美希「一切口を聞いてくれる気配の無い恋人を見ると、私も歩み寄るスキがありません」
美希「美希さん、こういう時あなたならどうするのでしょうか? ムー……」
美希「ミキ的には、竜宮小町と新幹少女を一緒だって言い切っちゃう恋人さんも、正直うーんって思うけど……」
美希「あっ、新幹少女もすっごく良いユニットだよ? ミキもニューアルバム持ってるの」
美希「で、それは置いといて……たぶん、最初の投稿者さんのお願いの仕方も、見直してみたらいいんじゃないかな」
美希「ミキもね、大切な人から教わったの。人にお願いする時は、それなりの態度っていうものがあるんだって」
美希「お願いの仕方がテキトーだったら、お願いされた方も、テキトーにしていいんだ、って思っちゃうと思うの」
美希「よっぽど大事なお願いなら、これからはちゃんとお願いしておくの! ってことでどう? もうちゃんとしてたらごめんね?」
美希「あっ、あと竜宮小町をそれだけ大事に思ってくれてありがとうなの!」
美希「というワケで、ペンネーム『アラブのラー油王』さんからのお便りでしたー」
美希「さてさて続いては……はいこちら! ペンネームは、えー『First Step細胞』さん」
美希「……このペンネーム、雪歩怒るんじゃないかなー、大丈夫かなぁ。まぁいいや」
美希「星井美希ちゃん、こんばんは。こんばんはなのー」
美希「実は私、近々大きな手術を受ける事になりました」
美希「………………」
美希「……胃についた、悪性のしゅよう? を取り除く手術で、時間もかなりかかるそうです」
美希「生きるか死ぬかの瀬戸際らしいですが、その前に美希ちゃんの声が聴きたくて、お便りを出しました」
美希「美希ちゃん、どうかこんな私に元気をもらえる言葉を一つよろしくお願いします」
美希「………………」
美希「ミキにもね……実は、そういう人が身近にいるの」
美希「いや……前はそうだったの。その人は、白血病っていう病気だったんだけど……」
美希「ミキが一生懸命お仕事して、勇気づけたら絶対治る、って約束して……」
美希「その人もミキも、すっごく辛かったけど頑張って、頑張って……」
美希「なんとなんと! 無事に治ったのー!!」
美希「今ではその人も、元気に皆のためにお仕事してて、夜もあまり寝ないで頑張って……」
美希「今のミキがあるのは、その人のおかげかなーなんて、アハッ!」
美希「でね? ミキが言いたいのは、諦めずに一生懸命やるのって、すごく大事ってことなの」
美希「結果を先に求めるんじゃなくて、たとえ辛くても、頑張る事に意義がある、って……最近になって、ミキも分かったの」
美希「だから……だから……!」
美希「投稿者さんも、うぅ……どう頑張ったらいいのか分かんないけど!」
美希「絶対に治るって、成功するって信じるの! お医者さんを信じるの!!」
美希「だって、何も悪い事、してないのに……死ぬのって、おかしいでしょ?」ポロポロ…
美希「えっぐ、ひっぐ……大丈夫なの、絶対治るの……」
美希「元気になったら……また、お便りちょうだいね?」
美希「うっ、う…………」
美希「ごめんなさい……感極まって泣いちゃったの」グスッ…
美希「はい! 以上、ペンネーム『俺の72がふるふるフューチャー』さんからの……」
美希「あ、あれ? 間違えた、違う人だったよね? まぁいいや、この人の読むねー!」
美希「ていうか何このペンネーム! 72って何なのなの、もー!!」
美希「ミキにも千早さんにも失礼って思うな! まったく、次からはやめてね? えーと、星井美希さん、こんばんは……」
~翌日、病院~
タタタ…
看護師「あっ、病院内では走らないでくださいねー」
美希「ごめんなさいなの!」
タタタ…
ガララッ!
美希「ハニー! 昨日のラジオ聞いてくれた!?」
美希「は、ハニー……?」
P「…………おう、美希」
美希「ハニー…………髪の毛……」
P「ラジオ、良かったぞ。泣いちゃった時はどうしようかと思ったけどな」
P「ははは……ケホ、ウェホッ……」
美希「………………」トボトボ…
美希「…………?」
P父「だぁから俺ぁアイツに言ってやったべ!? あの時大人しく治療さ受けてりゃこんな事になるはずねぇべした!!」
P母「お父さん、病院の中で大声出すのやめなさいってば。迷惑でしょう?」
美希「お……お父さん、とお母さん?」
P父「ん? あぁ、アイドル事務所のアイドルさん」
美希「星井美希、って言います……ハニ、プロデューサーには、お世話に…」ペコリ
P父「いーいっ! アイツのためにそんな事言わねぇでけろ」
美希「えっ?」
P父「慢性期の時にちゃんと治療さ受けてりゃ、今頃とっぐに治ってんだ白血病なんて」
P父「そう言ったっけあの馬鹿、俺の人生なんだから好きにさせろー! とか抜かしやがって……」
P母「それも何度も言ってるでしょう? 貧乏な私達に、高額な治療費を一方的に負担させたくなかったんですよ、あの子は」
P父「なぁにが貧乏だべ!! てめぇの方がよっぽど貧しいくせに、生意気言う筋合いあんのかや!!」
P父「ん、おぉ悪い悪い」
P父「とにがぐ、あんな分からず屋なせがれの事はもう忘れて、あんたももうお見舞いは…」
美希「そんな言い方って、無いの……」
P父「あっ? 何すや?」
美希「あの人は……ハニーは、自分の最期の人生を、ミキ達に捧げようって……そう思って、765プロに来てくれたんだよ?」
美希「ミキ達の事、すっごく大事に思ってくれて……」
美希「お父さんが、自分の子供のことを、応援してあげないなんて、かわいそうなの!」
美希「お父さんなのに、ミキが大切に思っている人を、馬鹿にしてほしくないのっ!!」
P父「ちっ……あんの野郎、こんないたいけな子までたぶらかしやがったのか!!」ダッ!
美希「ち、違うのっ!! 勘違いしないで!」
P父「うるせぇー!! アイツの病室はどこだー!!」
P母「あなた、やめなさい! 落ち着いて!」
12月21日
今日は、ハニーのお父さんとお母さんに会ったの。
お母さんは普通に良い人だったけど、お父さん、キャラすごいね。
なんか、なまりもすごくて、実はあまり言ってる事、良く聞き取れなかったの。
でも、ハニーの事を悪く言ってる気がしたから、ちゃんと怒っておいたよ?
でもでも、本当はちゃんとあいさつしたかったなぁ。
実はね? ミキ、いつかハニーの両親に会った時のあいさつ、考えてたんだよ?
どうか、ミキがちゃんとお仕事いっぱいしますから、ハニーをください! って。
確か、こういう風に言うって、何かで見たの。
でも、たぶんミキ、お父さんにきらわれちゃったよね。あーあ……
ハニーの病気が治ったら、もう一度、ちゃんとあいさつに行くの。
だから、がんばって治して。約束だよ?
~病室~
P「はっはっは。そうか、親父とお袋に会ったのか」
P「ビックリしただろ? 偏屈な親父なんだよ、気にするな」
美希「……ハニー」
P「ん? あぁ、この帽子か?」
P「良いだろこれ。響が編んで持ってきてくれたんだ」
P「ハゲて頭が寒かったからなぁ。いやぁ、これ被ってると暖かいんだ」
美希「あ、あの……」
P「……?」
美希「実は、ミキも……編んできたの」スッ
P「えっ?」
美希「初めて編んだから、響のより全然、カッコ悪いけど……」
P「あ、えと……」
美希「………………」
P「ありがとう、美希。見るとすごく暖かそうだ」
美希「ううん、いいよ。やっぱミキの、いい……」
P「そんな事ないよ、良くできて…」
ガラララッ!
響「はいさーい! お見舞いに来たぞー!」
P・美希「!?」
響「プロデューサー、自分が編んだ帽子はどう? 暖かいでしょ!」
響「あっ、美希! 美希もプロデューサーのお見舞いにき……」
響「あ…………」
P「…………」つ 響の編んだ帽子
美希「…………」つ 美希の編んだ帽子
響「あっ、う…………」
響「……………………」
ポク ポク ポク ポク ポク ポク……
響「…………!」ティン!
響「あーっ! プロデューサー、何で自分の帽子持ってるんさー!?」
P「えっ?」
響「どっかで落としたかと思ったら、ここにあったのか!」
響「それを勝手に被ってるなんて、プロデューサー、ヘンタイも甚だしいぞ!!」バシッ!
P「へ、ヘンタイって……これ、そもそもお前がプレゼ…」
響「うるさいぞ!! これは自分が自分のために編んだものなの!」スポッ!
美希(大きさ合ってないの……)
響「プロデューサーは、そっちの美希が持ってきた方でも被ってればいいでしょ!」
響「ふんだっ! もうヘンタイプロデューサーの事なんて知らないからな!!」プイッ!
ガララッ ピシャッ!
タタタ…
響「はぁ、はぁ……!」
響「ふぃ~、我ながら迫真の演技だったぞ」
響「いやぁ危なかったぁ……それにしてもあれ、美希が自分で編んできたのかなぁ」
響「自分にも相談してくれれば良かったのに……」
美希「……響」
響「う、うわああぁぁっ!?」ビクッ!
響「な、何っ!? どうしたんだ美希! この帽子は自分のだからね!?」アタフタ…
美希「ううん、違うでしょ?」
響「うっ!」ギクッ!
美希「ハニー、すごく自慢してたの……響が自分のために編んでくれたんだって」
美希「それ被ってると、暖かいんだ、って」
響「う、うぐぐ……」
響「ご、ごめん美希!」ガバッ!
響「自分、美希のジャマをするつもりなんて全然無かったんだ! 本当だぞ!」
美希「何で謝るの?」
響「えっ? いや、だから、美希がプロデューサーの事好きなのに、それをジャマして…」
美希「ううん、そうじゃないの」
美希「響、お願い……その帽子、ハニーにあげて」
響「えっ!? じ、自分が編んだヤツをか? でも、美希の帽子は……」
美希「ハニーには、ちゃんとしたのを被らせてあげたいの」
美希「ミキのは、全然ダメダメだったから……」
美希「でも、いつかちゃんとしたのを編んで、ハニーにプレゼントしたいの。だから……」
美希「ミキに、編み物を教えて」
美希「お願い……お願いします、響」ペコリ
響「!? うわ、な、何で頭を下げるんだよぉっ! やめてよ、美希ぃ!」アタフタ…
響「いよし! そういう事なら自分にドンと任せて! 完璧な自分が、美希に完璧な編み物とお裁縫を教えてあげるさー!」
美希「うん!」
12月28日
昨日は、あずささんと伊織が面会に来てくれた。病室の都合で、一度に一人ずつしか面会できないし、白衣やマスクとかも付けてもらわなきゃならない。面倒をかけている。
話を聞くと、すごく頑張っているそうじゃないか。アイドル・クラシック・トーナメントっていう大きいオーディションに、765プロを代表してエントリーしていたそうだな。
最近は、テレビをボーッと見るしかやることが無いから、皆と話をするのは楽しい。この間は、面会に来なくていい、って言ったばかりなのにな。本当に情けない。
そうそう、一昨日は響達が来た。以前言っていた、沖縄のすごくキレイなビーチの写真を見せてくれたんだ。いつか絶対に連れて行くから、って響は言ってくれた。何度も。
先の話をされると、何でか少し辛い気持ちになる。そういえば、もう年末か。こんなにめでたい気持ちになれない年越しは初めてだ。
美希は、年末年始はどうするんだ?年越しも、そばじゃなくておにぎりなのか?仕事なのかも知れないが、体は大事にしろよ。
~病院~
美希「………………」
P父「せがれは、あんたの日記を、すごく楽しみにしている」
高木「……状態は、良くならないのですか?」
P父「ドナーは見つかったのですが……せがれは、骨髄移植による治療を断りました」
P父「医者から提示された成功率が、決して高くなかったのもありますが、おそらく、せがれはもう自分の着地点を見定めているのだと思います」
P父「もう、長くはないでしょう……」
高木「……そうですか」
美希「………………」
P父「私には、もうどうすることもできない」
P父「もう……こうなった以上、せめて最期まで、アイツの望む事をさせてやりたいのです」
P父「せがれは、あんたの事をいつも気にかけていた」
P父「どうか……そばに、いでやっでぐんねぇか」
美希「………………」
ガララ…
美希「………………」
P「………………」ボーッ…
テレビ『……さぁ、正解が出揃ったようです! それでは、運命の瞬間! ドゥルルルルルルルル… デデン!』
テレビ『あーっと! 正解はC「シマウマ」! 生っすかチーム以外全員正解!
天海春香率いる生っすかチーム、大きくブレーキです!』
テレビ『どうするんだよ春香! だからボクはずっとシマウマだって言ってただろ! だって、真以外は皆ライオンって言ったから……!』
P「はははは……」
コンコン…
P「…………?」
美希「ハニー……こんにちはなの」
美希「これ、春香達が出てるバラエティ?」
P「なかなか面白いんだ」
美希「病気……辛い?」
P「………………」
P「わはは……やっぱり春香はこういう番組だと光るなぁ」
美希「……うん。春香は、皆を笑顔にさせてくれるもんね」
P「あぁ、そうだな」
P「お、CMか……」
テレビ『青い空、白い砂浜、そして見渡す限りのエメラルドグリーンの海!』
テレビ『沖縄へ旅行の際は、ぜひ沖縄プラザホテルへ!』
テレビ『最高級のおもてなしを、あなたに』チャララーン♪
P「沖縄かぁ……」
P「この間、響が写真を持ってきてくれてなぁ」
美希「すっごくキレイなビーチってヤツのでしょ?」
P「そう……いやぁ、確かにキレイだったよ」
P「実際に見ると、もっとキレイなんだろうなぁ」
P「一度、行ってみたかったけどなぁ……」
美希「何で過去形になるの?」
美希「行こうよ」
P「えっ?」
美希「そこ、行こう?」
P「…………」
美希「もう、お仕事してないんでしょ? ヒマなんでしょ?」
美希「世界の中心、行こう」
P「…………あぁ、行くか」ニコッ
~夜、765プロ事務所~
伊織「それで、私にプライベートジェットを手配しろって言ってるのね」
美希「お願い、デコちゃん。デコちゃんにしか頼めない事なの」
伊織「だったらデコちゃん言うな!」
真「まぁまぁ伊織、非常時だからそこは穏便に、ねっ?」
伊織「まったくもう……でも残念だけど、プライベートジェットは無理よ」
伊織「今、お父様が北欧、お兄様が南米に行くのに使っているから、そうすぐには呼び戻せないわ」
美希「! そ、そんな……そんな事言ったって、ハニーにも時間が…!」
伊織「話を最後まで聞きなさい」
伊織「プライベートジェットが無理でも、水瀬家が株を持ってる旅行会社はたくさんあるのよ」
伊織「クラスを選びさえしなければ、株主優待と水瀬財閥のコネクションをフルに使って、たとえ年末年始でも、沖縄に行く便の座席を確保するのはそう難しい事ではないわ」
美希「!! で、デコちゃん……!」パァッ!
千早「問題は、どうやってプロデューサーを病院から連れ出すかだけれど……」
真美「あっ、それならね! パパから聞いたんだけど!」
真美「病院にもやっぱり新年のお休みってあるから、看護師さん達もお休みを取ってる、って言ってたような……」
亜美「もちろん、緊急の患者さんの窓口はお休みできないけどね!」
春香「いつもよりかは勤務するお医者さん達の人数が少ない、ってことかぁ」
貴音「それだけ手薄になる、ということですね」
律子「なーにを企んでるの、あんた達」ズイッ
雪歩「ひっ!? り、律子さん、小鳥さん……社長まで」
高木「私達にも、聞かせてもらえるかね?」
やよい「な、何でもないです! 何も悪いことしてないですよ!?」アタフタ…!
響「そうだぞ! ただプロデューサーを連れ出すのに最適な日を……モガモガ!」
真「と、とにかく! 律子達が心配するような事じゃないから気にしないでよ!」
あずさ「プロデューサーさんを、新年の日に病院から連れ出そうっていう計画を立てているんですよ~」
伊織「あ、あずさっ! せっかく隠していたのに何でバラすのよっ!」
あずさ「あら~、律子さん達だけ仲間外れにするわけにもいかないでしょう?」
小鳥「信用無いみたいですね、私達」
律子「はぁ~あ、まったく……私達が怒ると思って黙ってたんでしょう?」
美希「お、怒らないの?」
律子「怒るに決まってるでしょう?」
律子「でもまぁ、事情が事情だし……はいっ」バサッ
響「うおっ!?」
春香「……これは?」
律子「簡単だけど、病院の見取り図を作ったわ」
律子「プロデューサーの病室がココ……で、病院の出口がココ」
律子「プロデューサーの体力を考えると、なるべくエレベーターを使いつつ、最短ルートで出口へ行きたいところだけれど……」
律子「その場合、どうしてもこのナースステーションの前を通らなくてはならないわ」トントン
美希「あまり大人数でぞろぞろ歩いてたら、それだけで目立っちゃうの」
千早「少数精鋭で行った方が良さそうね」
伊織「でも、ここで待機している看護師の気を引くための、オトリ要因も必要よ」
「あーだこーだ……」
律子「それで……行く人間は、運転要員の私と、飛行機の手配要因の伊織」
律子「あと、途中看護師の気を引くオトリ要因の春香と響……で、美希ね」
春香「頑張ろうね、響ちゃん!」ガッツ!
響「ふふん、自分の演技は完璧だからな! なんくるないさー!」ガッツ!
律子「それと、最後にもう一度だけ確認するわ」
律子「私も少し勉強しただけだけど……今、プロデューサーにとって、免疫が著しく低下している状態で外出するというのは、自殺行為に等しいの」
律子「今回の沖縄行きが、そのまま致命的な病気を発症することに繋がって……最悪の場合、命を落とすことだって十分あり得るわ」
やよい「うぅ……」
律子「本当は、私の立場なら、あなた達を止めなくてはならないのかも知れない」
律子「でも……あの人が望むのなら、そうしてあげたいとも思うの」
律子「だから、美希……あなたが決めなさい。責任は私や社長が持つわ」
高木「うむ」
美希「………………」コクン
美希「……お願い、皆の力を貸して」
12月30日
ハニー、元気?
ハニーが事務所に来て、もう8ヶ月くらい経つのかな。
いっぱい色々な事を教えてもらったし、すごく、ミキ的には成長できたって思う。
本当に、たくさんの思い出をありがとう。
それで、とつぜんだけど、元旦の日、ハニーを沖縄に連れて行くことにしたの。
初日の出がのぼる前に、むかえに行くね。
~元旦の明け方、病室~
ガラララ…
律子「おはようございまーす……」
美希「……ハニー」
P「……美希」
P「お前の日記のおかげで、晴れやかな気分で年を越せたよ」
P「明けまして、おめでとう」
美希「……明けましておめでとうなの」
美希「今年も、よろしくね?」ニコッ
P「あぁ」
伊織「ぐずぐずしている時間は無いわ。早く出る準備をしなさい」
春香「うぅ……緊張で、心臓飛び出しそう……」ドキドキ…
響「うわぁ、すごい……外、いっぱい雪降ってるぞ」
ガララ…
律子「大丈夫ですか、プロデューサー。歩けますか?」
P「あぁ……大丈夫だ」ヨロッ…
美希「ミキに掴まって」
テクテク…
律子「ここを左に行った先が、ナースステーションね……」
春香「わ、私、ちょっと様子を見てきます」タタタ…
律子「あ、こら! もっと慎重に……!」
ササッ ソォーッ…
春香(えーと……今は、一人だけしかいないみたい)
春香(よぉし、ここで私と響ちゃんが上手く看護師さんの気を引かなきゃ)
春香(と、とにかく、一度戻って律子さん達に報告……)クルッ
ガッ!
春香「えっ? あ、きゃああああぁぁぁっ!!」
どんがらがっしゃーん!!
看護師「うわっ!?」ビクッ!
律子(は、春香っ!)
伊織(あんの馬鹿っ!! どうしてこんな大事な時にコケるのよ!!)
響「は、春香っ!! くっ……!」ダッ!
美希「あっ、響っ!」
春香「あいたたた……」
看護師「ど、どうかされましたか?」
春香「えっ? あ、あっ、いえ! あの、その……」ドギマギ…
春香「うっ、あいたたたたたっ! 今転んだから足が、足が捻挫を~~!!」
看護師「え、えぇぇっ!?」
ダダーッ!
響「大丈夫かっ、春香っ!!」バッ!
看護師「えっ、ど、どちら様ですか!? 面会の方ですか!?」
春香「あいたたたたたたっ!!」
響「春香、ちょっと自分に見せて……こ、これはっ!?」
響「た、大変だっ!! 心臓が複雑骨折しているぞ!!」
春香・看護師「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
響「大丈夫か!? しっかりしろ、春香ぁ!!」ユサユサ…
看護師「お、落ち着いてください! 心臓は骨折しませんよ!」アタフタ…
春香「あ、あいたたたた!! やっぱり心臓も何か痛いような気がしないでもないっ!!」
看護師「転んだだけなのにっ!?」
響「す、すぐに心臓マッサージをしなきゃ! 春香、仰向けに寝転がって!」ゴロン
春香「う~ん、う~ん……」
響「行くぞっ! えいやぁっ!!」ぼぐっ!
春香「おぼふっ!?」
響「春香ぁ、頑張れ!! 死ぬなぁ!!」ポロポロ… どむっ! ぼふっ!
春香「おうふっ! ぐふっ!!」
看護師「と、とにかく先生をお呼びしなくては……あぁ……!」オロオロ…
春香「く、くるひい……! 響ちゃん、もう少し手加減、ごふっ!! くるし…!」
タタタタ…
タタタ…
律子「早くエレベーターの中へ……!」
ウィーーン…
律子「ふぅ……とりあえず、大きな関門は越えたわね」
伊織「あの二人が馬鹿やってくれたおかげで助かったわ、本当に」
美希「もうちょっとだからね、ハニー。頑張って」
P「あぁ……うっ……」
美希「ハニー、大丈夫!?」
P「大丈夫だ……」
伊織「………………」
チーン!
ウィーーン…
律子「こっちよ」
タタタ…
律子「この通路を抜けて、扉を出れば……」タタタ…
ウィーーン…
律子「!?」ピタッ
伊織「ちょ、ちょっと! 急に立ち止まらな……!」
医者「ハハハ…」
警備員「ワハハ…」
伊織「何てこと……よりにもよって、ウチの車の近くで医者達が談笑してるだなんて!」
美希「そ、そんな……!」
P「…………どうする?」
律子「………………」チラッ
律子「……美希、あそこにタクシー乗り場があるわ」
美希「えっ?」
律子「あなたは、プロデューサーと一緒にタクシーに乗って空港へ向かいなさい。ここは私と伊織が引き留めておくわ」
伊織「わ、私もっ!?」
律子「他に有効な方法が無いのよ」
伊織「ひ、引き留めるって言ったって……!」
伊織「きぃーっ!! あーもう、こうなったら野となれ山となれよっ!」ダッ!
美希「あっ、デコちゃん! 走ったら危ないの、雪がっ!」
ザクザク…!
伊織「いま~~……!!」ザクザクザク…!
伊織「ダーイビィーングッ!!」バッ!
どしゃああぁぁっ!
医者・警備員「!?」ビクッ!
伊織「………………」ビチャビチャ…
医者「あ、あの……お嬢さん、大丈夫で…」
ガバッ!
伊織「大丈夫な訳ないでしょっ!? 何でこんな雪が積もってるのよ!!」
医者「うわぁ!?」ビクッ!
伊織「おかげで盛大に転んじゃったわよ!! どう落とし前つける気!?」
警備員「ちょ、ちょっとお客さん、落ち着いて…」
ザッ…
律子「遠目ではありましたが、今の一部始終を見ていました」キュピーン
医者「えっ、誰!?」
律子「私有地の中で除雪を怠ったことで、彼女のように損害を被る者がいた」
律子「これは、管理責任を問われても仕方が無いことですよね?」ギロッ
医者「うっ!? ちょ、ちょっと警備員さん、何か言ってやってよ」
警備員「わ、私はただ駐車場内の誘導だけを任されている身でして、除雪まではちょっと……道具も無いですし」オロオロ…
伊織「あなた達では話にならないわ。責任者を呼びなさい!」
医者「せ、責任者!?」
律子「院長の連絡先を教えてください。後は、私達がその人へ直接問い詰めますから」
医者「い、院長は年末年始でお休みを…」
伊織「お休みですって!? 急患が来たらどうすんのよ、何かあったら責任取れるの!?」
医者「いえっ、あの! ちゃんと緊急時の連絡体制は当然整っておりますので…!」
律子「今が緊急時なんじゃないんですかっ!」
タタタ…
美希「ハニー、こっちこっち!」
P「ちょっと……はぁ、はぁ、待ってくれ……」
美希「ごめんなさい……!」
ガチャッ バタン
美希「羽田空港まで、お願いしますなの!」
運転手「はいー、了解しました」
ブロロロロロ…
美希「……病院、抜け出せたね」
P「…………あぁ」
運転手「いやぁ、新年早々お出かけですか?」
美希「は、はい」
運転手「それも男女でねぇ。駆け落ちですか? わははははは!」
運転手「あっしも何度か経験がありますけどねぇ」
運転手「トシ取るとできないから、若いうちにいっぱいやった方が良いですよ。なぁんて! わははははははは!」
P「そうですね、ははは……」
美希「………………」
ブロロロロロ…
美希「ハニー……」
P「ん……?」
美希「ハニーのお父さんが、昔にちゃんと治療を受けてれば治ってた、って……」
P「………………」
美希「それを断ったのって、お金がいっぱいかかるからなの?」
美希「お父さんやお母さんに、迷惑をかけたくなかったからなの?」
P「それも、無いわけじゃないけど……」
P「薬で生かされる俺の人生って……何なんだろうと思ってな」
P「美希は知らないと思うが……昔の漫画で、こういう台詞があってさ」
P「たとえ火花のように一瞬だったとしても、閃光のように輝いてみせる。
……だったっけな、少し違ったかも知れない」
P「まさしく、そんなフレーズが頭をよぎったんだ」
P「俺の命は、人より短くなるとしても……」
P「大事なのは、その燃やし方なんだと思った……薬で生き長らえるよりも、きっと」
美希「………………」
ブロロロロロ… キキィッ
運転手「着きましたよ」
運転手「あぁ、お代はいいです。何やらお客さん達、ご事情があるようだし……」
美希「あ、あの……ありがとうございます」ペコリ
P「そう言わずに、受け取ってください。釣りはいらないから」スッ
運転手「あらら、いいってば……まぁいいや、毎度」
バタン ブロロロロロ…
美希「デコちゃんのメールを見ると……あっちかな」
テクテク…
~空港~
ガヤガヤ… ガヤガヤ…
テクテク…
P「はぁ……はぁ………」
美希「辛い、ハニー?」
P「はぁ…………はぁ………」
美希「……ここで、座って待っててね。今、手続きしてくるの」タッ
タタタ…
P「はぁ……はぁ…………」
美希「あのっ! 765プロの、星井美希です! チケットください!」
スタッフ「星井様ですね。水瀬伊織様よりお伺いしております」
スタッフ「大きなお荷物はございませんか?」
美希「ううん、無いです」
スタッフ「かしこまりました。では、こちら、チケットになります」スッ
スタッフ「ご搭乗の15分前までに、こちらのBゲートで手荷物検査を受けてください」
スタッフ「そして、ご搭乗の10分前までに、57番の搭乗口までお越し願います」
美希「はいなのっ!」
タタタ…
美希「ハニー!」
P「…………あぁ」
美希「まだもう少し時間あるから、ここで座って待ってようね?」
P「………………あぁ」
美希「………………」
P「………………」
ガヤガヤ… ザワザワ…
美希「すごい人だね。元旦だからかな?」
P「………………」
ザワザワ… ザワザワ…
ザワザワ… エェー… ザワザワ…
美希「…………?」スクッ
『当空港ロビーでお待ちのお客様に申し上げます』
『ただいま大雪の影響により、当空港の滑走路の除雪が難航しております』
『気象庁の発表によりますと、大型の南岸低気圧が関東を直撃しており、本日いっぱい天候は変わらない見込みであります』
『そのため、誠に申し訳ございませんが、本日フライトを予定していた全線を欠航とさせていただきます』
『なお、チケットの払い戻しにつきましては……』
美希「……けっこう?」
美希「えっ…………」
【JAL 900 沖 縄 07:35 欠航 大雪のため】
美希「…………!!」ダッ!
スタッフ「えー、払い戻しの方はこちら一列にお並びくださ…」
美希「ちょ、ちょっと待って!!」ガバッ!
スタッフ「うわっ!?」
美希「何で!! 何で飛ばないの!?」
スタッフ「そ、それは先ほどもアナウンスで申し上げたとおり、大雪で…」
美希「ダメなの!! 何でもいいから飛んでよっ!!」ガシッ!
美希「今日じゃなきゃ、今日じゃなきゃダメなの!!」
美希「どうしても今日行かなきゃいけないのっ!! お願い、ねぇっ!!」ユサユサ…!
男「おい、うるせぇぞ! ちゃんと後ろに並べ!」ドンッ
美希「キャッ!」ドサッ!
美希「うっ、う……くっ……」グッ…
「あれ……おい、あれ星井美希じゃねぇ?」
「本当だ……」
「うわー、かわいい……」
ザワザワ…
美希「うぅ……は、ハニー…………」
P「………………美希……?」
P「どうした…………」フラッ
バタッ…
美希「!!! ハニーッ!!」
ダッ!
美希「ハニーッ!! し、しっかり!!」ガバッ!
P「飛行機………」
P「…………飛ばないのか?」
美希「……心配しないで」
美希「今、ミキが、交渉するから……!」
美希「待っててね。絶対……絶対、行けるようにするから……!」ジワァ…
P「そうか…………」
P「雪、すごかったもんな…………」
P「やっぱ……ダメか…………」
美希「………………ッ」グスッ…!
P「それじゃあ…………」
P「また……こんどだな…………」
P「……………………」
P「……………………」
美希「…………また今度じゃ、ダメなの」
美希「今日じゃなきゃ……この次なんて、無いんだってばぁ!」ポロポロ…
美希「ハニィ……やだぁ、ハニーッ!! うっ、うあぁぁぁ……!!」ギュウ…!
美希「………………」
美希「何で…………何で、みんな、見てるの……?」
美希「助けてよ……」
美希「お願いします……お願いだから、誰か……」
美希「助けてください……」
美希「助けてください……!」
美希「助けてくださいっ!!!」
美希「助けてっ!! 誰かっ!!!」ボロボロ…!
美希「助けてくださいっ!!!」
………………
………………………
………………………
………………
女P「そう……サッカー部のレギュラーだったのね」
少年「うん。なのに、病気のせいでロクに学校にも行けなくなってさ」
女P「病気が治って、またサッカーができるようになるといいわね」
少年「うーん……実は、そうでもないっていうか」
女P「えっ?」
少年「こんな生活を続けてるせいで、体力もすごく落ちちゃってるの、分かるんだ」
少年「どうせ戻れたとしても、レギュラーを取れるなんて思えないし、それに……」
少年「皆、この頭を見て馬鹿にするに決まってるよ……」
少年「だから、父さんや母さんには悪いけど……本当はもう、どっちでもいいんだ、治療」
少年「続けても、続けなくても……すごく、迷惑かけてると思うから……」
女P「………………」
少年「僕の話ばっかじゃなくて、お姉さんの話も聞かせてよ」
少年「お姉さん、社会人? どんなお仕事しているの?」
女P「……プロデューサーよ」
少年「プロデューサー?」
女P「アイドルを育てて、芸能界に売り込むの」
少年「へぇー、芸能界!? すごい!」
少年「それじゃあさ! 色々なテレビの人とか、有名な芸能人とも知り合いなの!?」
女P「多少はね。サインも何枚か持ってるわ」
少年「うわぁー、すっげぇ!! いいなぁ!!」
少年「そういう、芸能人の人達と知り合えるから、プロデューサーっていうのになったの?」
女P「いいえ、そうじゃないわ」
少年「えっ、違うの? じゃあ何で?」
女P「私が、やらなきゃいけなかったから」
少年「? ……嫌々、ってこと? 本当はやりたくなかったの?」
女P「ううん、そんな事ないっ!」
女P「私にとってすごく大切な人がいて……その人の夢を、かなえなきゃいけないから」
少年「どうして、そうしなきゃいけなかったの?」
女P「えっ……」
少年「その人と、約束したの?」
女P「……いいえ、していないわ」
少年「じゃあ、その人からそうしてほしいって、お願いされたの?」
女P「………………」
女P「…………ッ……」
少年「あっ……ご、ごめん」
女P「ううん、いいのよ」グスッ…
女P「そうね……君の言う通りよ」
女P「あの人が自分にどうしてほしいのか、知ろうともしないで……」
女P「勝手に、あの人のためにこうしなきゃいけないとか、思い込むなんて……本当、おかしいわよね……」
女P「挙句、その思いを自分の本当の気持ちとすり替えて、自分を見失うなんて……」
女P「………………」
女P「もうこんな時間……それじゃあ私、行くね?」スクッ
少年「あっ、うん……」
少年「お姉さんっ」
女P「?」
少年「今日は、来てくれてありがとう!」
少年「また、話をしに来てくれる?」
女P「えぇ、もちろんよ」ニコッ
少年「えへへ……待ってるね!」
女P「お大事に。それじゃあ」
ガラララ…
女P「…………ハニー……」
~お寺~
コツ コツ…
高木「えぇと……どこだったかな、彼のお墓は……」キョロキョロ
高木「おぉ、あったあった」
高木「フム……これは、ひょっとして黒井か?」
高木「墓に黒いバラなどと……気遣いなのか嫌がらせなのか分からんな」
高木「まぁいいか」
高木「キミがいなくなって、もう何年になるかな……」
高木「当時アイドルだった子達は、それぞれが皆自分の進むべき道を見つけ、もがきながらも頑張って走っているようだ」
高木「気づけば、ほとんどがもうアイドルではなくなった。寂しくないと言えば嘘になるが、我々は彼女達の巣立ちを応援すべきなのだろう」
高木「ただ……自分の道を見失っている子が一人、いるようなのだ」
高木「今日、ここに来なかったかね?」
コツッ…
高木「ん?」
高木「噂をすれば影、か……」
女P「……高木社長」
高木「律子君から話を聞いてね。そろそろ来るのではと思っていたところだよ」
女P「高木社長、私は……」
女P「私は、ひどい女なんです」
女P「彼のためなどと、自分を騙して納得させて、彼の死を受け入れたつもりでいました」
女P「でも、春香の言うとおり……私は、受け入れてなどいなかった。ずっと逃げていました」
女P「だから……逃げたいのに、気づけば彼を探している」
女P「追いかけているのに、届かなくて……」
女P「目を塞いでいるのに、求めていて、見つからなくて……そんなの分かってるのに!」
女P「忘れられないんです……もうどうしたら良いのか、分からないんです……!」
高木「キミは、彼が天国に行ったと思うかい?」
女P「えっ?」
高木「…………」
女P「……分かりません」
高木「天国というのは、生き残された人が作るものだ」
高木「そこにあの人がいる、きっと幸せに暮らしている……そう願うのだ」
高木「それだけ、人が死ぬというのは、大変な事なのだね」
高木「彼は、自分の死を見定め、生きた証を、爪跡を残そうともがいた」
高木「残された者にできるのは、後片付けだけだ」
女P「後片付け……?」
高木「全てはキミの勇気次第だよ」
高木「彼が天国にいないと思うなら……彼の最期の言葉に、耳を傾ける勇気があるかどうか」
高木「残された事があるのだとしたら、それはきっとキミにしか片づけることはできない」
高木「忘れる必要などないさ、それだけ彼はキミにとって大きい存在だった。それでいい」
女P「…………はい」
高木「さて、そろそろ時間だな」スクッ
女P「どちらへ?」
高木「黒井に、バーへ誘われているのだよ」
高木「また嫌味ったらしい自慢話を聞かされるのだろう。やれやれ……」
高木「貴様が私に敵わないことを思い知るまで簡単にくたばるなよ、などとね……この間は、そんな事を言われてしまったよ」
高木「こっちの台詞だと、言い返してやったがね。ははは」
女P「ふふっ……社長達らしいですね」
高木「それでは、ここで」スッ
女P「ありがとうございました。くれぐれも、お体を大事に」ペコリ
高木「ありがとう」
コツ コツ…
女P「後片付け……か」
コツコツ…
女P「…………?」
ザッ…
春香「はぁ……はぁ……い、いた」フラフラ…
女P「は、春香っ!?」ダッ!
女P「春香、大丈夫!? まさか、歩いてきたの!?」
春香「まさか……タクシーを拾いながら、来たんだけどね」
春香「色々ちょっと、美希を探し回ってたおかげで、足、痛くって……えへへ」ニコッ
女P「無茶なことを……ごめんなさい」
春香「美希……お願い、どうか……」
女P「えぇ、分かっているわ」
春香「えっ……?」
女P「でも、その前に、少しやりたい事があるの。車に乗って」
女P「一度、私の家へ寄って……その後、病院まで付き合ってくれる?」
~病院~
少年「………………」ジーッ…
テレビ『しろいーゆきぃーのよぉーうにー ひかるぅゆきぃーのよぉーうにー♪』
テレビ『このぉ こーこーろをー しーろーくー そぉ~~めーてぇー♪』
少年「やっぱすごいなぁ、如月千早は……」
少年「プロデューサーって、こういうすごい歌手とも知り合いになれるのかなぁ?」
ガララ…
少年「?」
女P「……どうも。元気?」
少年「! お、お姉さん!」
少年「すごい、こんなに早くまた会いに来てくれるなんて!」
女P「嫌われていないみたいで、安心したわ」ニコッ
少年「まさか! お姉さん美人だもん!」
女P「最初、おばさんって言ってたクセに」
女P「……如月千早が好きなの?」
少年「あ、あぁこの番組? 大ファンなんだ。歌上手いし、キレイだし」
女P「そうね……ふふっ」
少年「ところで、また来てくれて、どうかしたの?」
女P「えぇ、実は……」ゴソゴソ…
女P「君に、これを渡したくて来たのよ」スッ
少年「それは……帽子? お姉さんが編んだの?」
女P「本当は、別の人に渡す予定だったのだけれど……結局、渡しそびれちゃって。だから、君にあげるわ」
女P「ここに置いておくから、看護師さんが来たら事情を説明して、消毒してもらってね。病院の規定で使えないようなら、捨てても構わないわ」スッ
少年「ううん、捨てるなんてとんでもないよ! ありがとう、大切にするよ」
女P「あのね……実は、私も昔、アイドルだったの」
少年「えっ……」
女P「その時に、私の大切な人……当時のプロデューサーを、白血病で亡くしたの」
女P「それも、慢性の骨髄性。おそらく、君と一緒ね」
女P「その人は、急性転化前の薬物治療をやめて、残された人生を精一杯生きたわ」
女P「君が行う、これからの人生の選択に、私から言う事は本来何も無いのだけれど……」
女P「あなたの人生は、あなただけのものだと考えているのなら、それは違う」
女P「ご両親のように、あなたを大切に思う人がいるということを、よく理解して」
女P「その上で、自分がやりたい事はこうだと思える道を探すのなら……」
女P「その道が見つかるまでの間、さっきの帽子をお供に使ってくれると嬉しいわ」
少年「……僕に、治療を続けろってこと?」
少年「お父さんやお母さんが休み無く働いてでも、学校の皆から馬鹿にされようとも……」
女P「大切な人の事を思うと、どうしても私、そういう視点でしか話せないみたい」
女P「勝手な事を言って、ごめんなさい」
少年「ありがとう、お姉さん」
少年「本当は僕、寂しいだけだったんだ、きっと」
少年「お父さんやお母さんの気持ちを無視して、自分の事しか考えてなかったと思う」
女P「私もついこの間、自分ばかり見てるって怒られたの。似た者同士ね、私達」ニコッ
少年「えへへ、おんなじか」ニコニコ
女P「それじゃあ私、用事があるから、これで」スクッ
少年「あっ、待って!」
少年「お姉さんの名前、教えてよ!」
少年「アイドル時代のお姉さんの動画、探して見てみたい!」
女P「星井美希、っていうの」
女P「ちなみに、千早さんとは昔、同じ事務所の同期だったのよ?」
少年「えっ」
女P「じゃあね」
ガラララ…
コツコツ…
ガチャッ バタン
女P「悪いわね、車の中で待たせてて」
春香「ううん、いいの」
春香「帽子、その白血病の子にあげたの?」
春香「プロデューサーさんのために、編んでた帽子……」
女P「その方が良いと思ったの」カチャッ
春香「……そっか」
ブキキキキキ ブオンッ!
ドッドッドッドッドッ…
女P「空港に向かうわ」
春香「うん」
ブロロロロロ…!
ブロロロロロ…!
女P「……あっ、そうだ春香」
春香「ん、何?」
女P「事務所に電話して。それで、律子さんにつないでもらえるかしら」
春香「あっ、うん。分かった」ポパピプペ…
プルルルルル…♪
女P「律子さんにつながったら、私の耳元に携帯を当てて。
悪いわね、運転中で手が離せないから」
春香「ううん、いいよ」
ガチャッ
『はい、765プロです』
春香「あ、小鳥さん。あの…」
『あぁぁぁ、春香ちゃんっ!? 良かった、今どこにいるの!?』
春香「ちょっと、車で美希と移動してて……あっ、律子さんに代わってもらえますか?」
『えぇ、律子さんね、ちょっと待ってね。律子さぁーん、春香ちゃん……』
『……もしもし春香?』
春香「律子さん、すみませんご心配をお掛けして……」
『説教は帰った時にでもたっぷりしてあげるわ。それで、どうかしたの?』
春香「えぇ、あの……美希に、代わります」
春香「美希……」スッ
女P「……星井です」
『随分と充実した休日を送ってたみたいじゃない?』
女P「えぇ、おかげさまで」
女P「ですが……すみません、あともう一日、お休みをください。私と、春香も」
春香「…………」コクン
『沖縄に行くんでしょ? もう空港で皆待ってるわよ』
女P「えっ?」
『伊織なんか今頃カンカンよ~? プライベートジェットまで手配したのにまだ来ないのかー、って。ふふふ』
女P「ど、どうして……何も話、してないのに……」
『何年あんた達と一緒にやってきたと思ってんのよ。気をつけて行ってらっしゃい』
女P「…………はい。ありがとうございます、律子さん」
『律子でいいわよ』
女P「えぇ……ありがとう、律子」
『休み、延びるようなら連絡しなさいよ。それじゃあね』
ピッ!
女P「……もう皆、待ってるって。急がなくちゃ」
春香「うん!」
春香「……ねぇ、美希」
女P「何?」
春香「ごめんね……私があの日、この、プロデューサーさんの最期の日記を、ちゃんと美希に届けてさえいれば……」
春香「きっと美希も、今まで、こんなに苦しむ必要なかったのに……ごめんね」グスッ…
女P「いいえ、それは違うわ春香」
春香「えっ?」
女P「最期の日記が私に届かなかったというのは、それは違うの」
………………
………………………
………………………
………………
医者「これまで、意識はしっかりしていますし、痛みもコントロールできています」
医者「息子さんは、良い経過をたどっていると言えると思います」
医者「ですが……いつ、もしもの事があってもおかしくはありません」
医者「仮にもったとしても、数日でしょう」
P父「……そうですか」
P母「あ、あなた……あぁっ……!」
~病室~
P「………………」カキカキ…
P「………………はぁ」コトッ
P「はるか……」
春香「はい…………」
P「これを、みきに……」スッ
春香「…………はい」
P「はるか………………」
春香「………………」
P「ごめんな、って…………みんなに……」
春香「! …………ッ」
ガラララ…
P「……………………」
ストン…
春香「…………」
千早「春香…………」
真美「はるるん……兄ちゃん、元気になってたんだよね?」
亜美「全部ドッキリで、ネタ晴らしする準備してたんだよね……そうだよね!?」ジワァ…
春香「……私、美希に日記を……」
春香「日記を、届けに行かなくちゃ……」タッ
伊織「ま、待ちなさいよ春香っ!」ガシッ!
春香「放して……!」バシッ!
雪歩「プロデューサーの具合、どうだったの……教えて、お願い……!」グスッ…
春香「………………ッ」フルフル…!
一同「!!」
タタタ…
響「うわああぁぁんっ!! いやだ、プロデューサー、プロデューサぁぁぁ……!!」ボロボロ…
あずさ「うっ、うぅぅ…………」ツーッ…
~オーディション会場~
ザワザワ… ガヤガヤ…
真「美希、集合時間になっても来ない……どうしたんだよ……!」ソワソワ…
やよい「早くしないと、もう受付時間過ぎちゃいますー!」ソワソワ…
貴音「…………美希」
律子「………………」スチャッ
ポパピプペ…
プルルルルル…♪
ガチャッ
『はい、765プロ…』
律子「小鳥さん、春香達から何か連絡はありましたか?」
『あっ、律子さん! まだ、連絡来てなかったんですね……』
『プロデューサーさん、もう…………昏睡状態に……』
律子「ッ……そうですか…………」
『美希ちゃん、会場に来ていないんですか……?』
律子「はい……病院にも、行っていないみたいですね……」
~765プロ事務所~
ガチャン
小鳥「美希ちゃん、アイドル・クラシック・トーナメントの会場にいないみたいです……」
高木「うむぅ…………そうか……」
小鳥「あの日……美希ちゃんが空港のロビーで、プロデューサーさんを抱きかかえて泣き叫んだのを、多くのメディアが取り上げて……」
小鳥「中には、二人の関係について悪意を持って邪推するような週刊誌まで……!」
小鳥「ネットでは、美希ちゃんを応援するコメントが多かったのですが……」
高木「どちらにしても、好奇の目にさらされた事に変わりはあるまい……彼女にとっては、大いにショックだった事だろう」
小鳥「はい……とても、15歳の女の子に耐え切れるようなものでは……」
ドンドンドンッ!
「765プロさぁーん! 元旦の星井美希さんの件でお聞きしたいんですけどぉ!」
「やっぱりあの男性と何か関係を持たれていたんでしょうかぁ!?」
「星井さん、まだ中学生ですよねぇ!? 何でもいいから一言お願いしますっ!」
高木「くっ……またか、いい加減にしてほしいものだな……!」
~街中~
タタタタ…
春香「はぁ、はぁ、はぁ……!」タタタ…
春香「美希……美希ぃ!」タタタ…
ツルッ
春香「うわっ!? きゃあああぁぁぁぁっ!!」
どんがらがっしゃーん!!
春香「あいたたた……まだ雪が溶けきって……」
春香「!? あ、あれ…………あれっ!?」バタ バタッ
春香「に、日記が……日記、どこかに落としたの……!?」
春香「そんなっ!! ウソッ、ウソだよね!?」ガサガサ…!
春香「どうして見つからないの!?」ガサガサ!
ガサガサ…!
春香「お願い、やめてよ……美希に、届けなきゃいけないのにっ!!」ボロボロ…
春香「どこ……どこかに、飛んで……!?」ガサガサ…
春香「……あっ!!」
春香「あった! あそこに落ちて……!」タッ
タタタ…
ブオオオォォォォォォッ!!
春香「えっ」
キキイィィィィィィィィッ!!!
ドンッ
トボトボ…
美希「………………」トボトボ…
「おい、見ろよあれ……」
「本物?」
「まさか、あんな何も変装しないで歩くかよ普通……」
ヒソヒソ… ザワザワ…
美希「………………」
―――俺がいなくなっても、アイドル続けたいと思うのか?
美希「褒めてよ……」ジワァ…
美希「うっ、ひっく…………ひっく……」グスッ…
ザワザワ… ガヤガヤ…
美希「…………?」
美希「何だろう、あの人だかり…………」
テクテク…
美希「………………」ソォーッ…
救急隊員A「えー池上通り堤方橋交差点付近にて人身事故!」
救急隊員A「女性、17歳、右下腿骨折、意識有り! 受け入れお願いします!」
救急隊員B「頑張ってください! もう少しで病院へ搬送しますからっ!」
春香「ぐっ、ぐうぅぅぅ!! うああぁぁ……!!」
美希「は、春香っ!?」ダッ!
美希「春香!? 大丈夫、ねぇっ!!」ガバッ!
救急隊員B「えっ! お知り合いの方ですか!?」
春香「み、美希っ……ぐ、はあっ……うっ!」
春香「に、日記……! 日記が、どこかに、落ちてっ……!!」
美希「日記っ!?」
春香「お、お願い……プロデューサー、さんのぉ……最期、が……!」
春香「う、うあぁぁっ……いっ……!!」
美希「日記が、この辺のどこかに落ちてるの!?」
春香「…………ッ!!」コクコク!
美希「分かったの!」ダッ!
ガサガサ…!
美希「くっ……!」ガサガサ…!
観衆A「お、この子ひょっとして…」
美希「ジャマ! お願い、どいてっ!!」ドンッ
観衆B「うわっ!?」
ガサガサ…!
美希「…………!!」ガサッ…
美希「……………………」
スッ…
救急隊員A「受け入れ先、見つかりました!!」
救急隊員B「すぐに病院へっ! さぁ、行きますよっ!!」ガシャン
春香「ま、待ってください! 待って……!!」
春香「み、美希っ!!」
美希「春香…………」
美希「日記が、見つからないの……」
春香「!!? そ、そんな……あうっ……!」
救急隊員B「すぐに搬送します! あなたも、同行していただけますか!?」
美希「ううん……ごめんなさい」
救急隊員B「!?」
美希「春香、ごめん…………ミキ、行かなきゃいけない所があるの」
春香「え、えへへ……もう、間に合わない、じゃない……?」
美希「うん、でも……」
美希「歌いに行かなくちゃ……約束だもん」
美希「ビデオに撮って、ハニーに見てもらわなくちゃ……!!」
春香「がん、ばって……!!」
美希「うん!」
救急隊員A「車、出します!!」
バタン!
ブオオオォォォン…! ピーポー ピーポー…
美希「………………」
つ 日記
~オーディション会場~
ワアアアァァァァァァァァッ!!! パチパチパチパチ…!!
やよい「……オーディション、終わっちゃいました」
真「くそぉ……あんなレベル、美希ならきっと楽勝なのにっ!」ダンッ!
貴音「………………」ギリッ…!
ザッ!
黒井「ハァーッハッハッハ! 今日は何しに来たんだね三流事務所ォ!」
冬馬「俺達の引き立て役にすらなれなかったとはな」
翔太「本当、肩透かし食らっちゃったよ」
冬馬「あのエンジェルちゃんは、最大のライバルになると思ったんですけどね。会えなかったのは残念ですよ」
律子「えぇ……私達もね」
黒井「まっ、どぉせ出てきた所で我がジュピターの勝利が揺らぐことなど…!」
バァンッ!
美希「はぁ、はぁ、はぁ……!!」
真「み、美希っ!!」
やよい「美希さん!!」
律子「……美希!」
美希「遅れて、ごめんなさいなの」
黒井「なぁにが遅れてごめんなさいだ! とっくにオーディションは終わったぞ!」
黒井「やはり、三流プロデューサーにホイホイ釣られる女は、時間にも下半身もルーズのようだな! ハァーッハッハッハッハッ!!」
真「!!! こんのぉっ!!」ガッ!
律子「や、やめなさい! 貴音も、真を押さえて…!」
貴音「止めないでください、律子嬢。恥を知るのは貴方です、この痴れ者っ!!」
黒井「おぉおぉ、殴るかね! 図星を指されて悔しいのならどうぞ殴るがいいっ!」
真「お前、お前なんかっ!! 美希が、どれだけ苦しい思いをっ!!!」
美希「いいの、真クン、貴音」
真「えっ……?」
美希「選考対象として、評価してもらえなくてもいいです」
美希「お願いです、エキシビジョンとして……ミキに1曲、歌わせてください」ペコリ
司会「えーっ、それでは! 本日遅ればせながらこのステージに舞い降りた、765プロの……!」
スタッフ幹部「良かったんですか、黒井さん? 連中にやらせて」
黒井「構わんよ。どうせ練習もロクにできているはずがない」
渋澤「へっへっへ、“どこぞの週刊誌”がある事無い事大げさに書いてやりましたからねぇ」
黒井「精神的に追い詰められた女が、子供のお遊戯のようなステージを晒したとあれば、それはまたネタとして美味しいのだろう?」
渋澤「違ぇねぇや、うひひひ」
貴音「美希……」
真「あんな連中、見返してやりなよ!」
やよい「美希さんっ! ファイトです!」
律子「ビデオはしっかり撮ってあげるわ。あんたもしっかりね」
美希「うん」コクリ
スタスタ…
美希「………………」
美希「…………………………」スッ…
https://www.youtube.com/watch?v=PBL3xo9NhP8
【アイドルマスター ミリオンライブ!】 追憶のサンドグラス 星井美希(CV:長谷川明子)
黒井・幹部・渋澤「」
冬馬達「」
真「す、すご……」
やよい「うっうー! 美希さぁーんっ!!」ピョンッ!
貴音「真、見事です……美希」
律子「…………プロデューサー……!」ポロポロ…
美希「~~~♪ ~~~~♪♪ッ!」タンッ タタン…!
貰っていた声 与えた愛も
覚えてる… こんなに覚えているのに
落ちる砂 戻したいのは
いつだって 僕のほうだったみたいだ
ウオワアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!! パチパチパチパチパチパチ…!!!
………………
………………………
………………………
………………
春香「……美希だったんだね」
春香「事務所の更衣室の奥に、日記を隠していたの……」
春香「あの時、日記が見つからないって言ってたけど……ちゃんと、拾ってたんだね」
女P「あの人の最期の日記は、今日までとても、読む勇気が起きなかった」
女P「読んでしまうと、もう終わってしまうと思ったから……あの人との繋がりが」
女P「いっそ、捨てようとさえも思ったわ」
女P「でも、それも無理だった。それこそ、あの人がいなくなってしまうものね」
女P「だから、家にも置いておけずに……事務所の、誰も目に付かないような場所に、ずっと置いておこうと思ったの」
女P「誰も、存在を忘れてしまうまで……その方が、楽になれると思ったから」
女P「ふふっ、おかしいでしょう? 笑ってくれていいのよ」
春香「…………ううん」フリフリ
春香「今日まで、一人で頑張ってきた美希を笑うことなんて、とてもできないよ」
春香「だから、私も……あの日記を更衣室で見つけた時、決心したの」
春香「美希がこれまで抱えてきた苦しみを、分かち合いたい……もう終わらせなきゃ、って」
春香「二人で、受け止めれば……苦しいのも、怖いのも、半分で済むでしょう?」
女P「………………」
女P「ありがとう、春香……私、春香の優しさにさえ、全然気づけていなかった」
春香「えへへ」ニコッ
ブロロロロロ… キキィッ
女P「……着いたわ」
春香「行こっか」
女P「えぇ」
ガチャッ
~空港~
テクテク…
女P「皆が待ってる、って行ってたけれど……」
春香「どこかなぁ?」
伊織「遅いっ!!」
女P・春香「!?」ビクッ!
伊織「いくらなんでも遅すぎよあんた達!! どれだけこのスーパープロデューサー伊織様を待たせる気っ!?」プンスカ!
真「まぁまぁ伊織、あまり怒ると健康に良くないよ」
雪歩「美希ちゃん、春香ちゃん。来てくれて良かった」
やよい「うっうー! 旧765プロアイドル、勢ぞろいですねーっ!!」
亜美「やっぱ、無理矢理お休みもらってきて良かったね、真美!」
真美「その分、戻ったら普段の倍以上チョ→激務だけどね、亜美!」
あずさ「うふふ、こうして旦那や子供とも離れて旅行するのって、ウキウキするわね~」
貴音「さぁ、沖縄で響が待っています」
千早「準備ができ次第、出発しましょう。美希、春香」
女P「皆……!」
春香「えへへ……皆、お待たせ!」
雪歩「あっ、そうだ!」
雪歩「空港で皆が集まったら、このタブレットで連絡しなさいって律子さんが……」ゴソゴソ…
伊織「あら? まだ何か用がある訳?」
ピッ! ピッ!…
ヴィン…!
雪歩「律子さん、今、美希ちゃんと春香ちゃんも来ました」
律子『おぉ~、やっと揃ったのね。ちょっと美希を呼んでもらえる?』
雪歩「はい。美希ちゃん、律子さんだよ」
女P「律子、何か用なの?」
律子『私じゃなくて、この子達があなたに言いたい事、あるそうよ』
女P「えっ?」
律子『ほら、あんた達。しっかし本当、こういう回線も速くなったわよね~……』
アイドル達『……プロデューサー!』
女P「あ、あなた達!?」
アイドルB『律子さんに教えてもらいました』
アイドルB『記録には残らなくとも、人々の記憶に残った伝説のオーディションの事を』
アイドルC『私達、すっごい人に指導してもらってたんだって、やっと分かったんです!』
アイドルD『ビデオ見たの! 今まで、正直ウザいなって思っててごめんなさい!』
アイドルE『皆であの後反省して、自分達なりに活動スケジュールを考えてきたんだ!』
アイドルF『これを見てください!!』バッ!
女P「! 一人一人の仕事量管理と、日毎のレッスンメニュー……まさか、全部あなた達で?」
アイドルA『プロデューサーのやり方を見て、私達も育ってきたんですよ!』
女P「……!!」
アイドルA『だから、プロデューサーも安心して、お休みしてきてください!』
アイドルC『こっちは心配いりませんから!』
アイドルE『沖縄土産、期待して待ってるからね!』
女P「……皆…………」
律子『はいはい、代わって代わって』ズイッ
アイドル達『えーっ』
律子『とにかく、怪我しないように気をつけて行ってくるのよ』
律子『それと、あなたが帰ってきた時のために、うんと仕事残しといてやりますからね』
律子『覚悟してなさい?』
女P「律子…………ふふっ」
女P「はいっ!」
律子『用件はそれだけよ、通信切るわね。じゃあ』
雪歩「あっ、はい。お疲れ様でした」
ヴィン…
春香「…………美希」
女P「……ハニーはあの日、この空港までしか来れなかった」
女P「絶対行くって、約束したもの……後片付けをしなくちゃ」
春香「うん……!」コクリ
~夜、沖縄 響の民宿~
響「そっかぁ……そういう大変な事があったんだなぁ」
響「律子が来れないのは残念だけど、明日に備えて今日はゆっくり休むといいさー」
女P「今日は、私達の貸切なの?」
響「もっちろんだぞ! いくらでも好きにくつろいでいってよ!」
伊織「急に押しかけてきたのに貸切って……普段からガラガラなんじゃないの?」
響「ちょ、ちょっと伊織、失礼だぞ! 自分、皆に気づかれないところで、すっごいアレを、調整をだな!」
貴音「何にせよ、響の手料理も久しぶりで真、美味です」モシャモシャ…
響「ふふん、そうでしょ!? チャンプルーもラフテーもいくらでもあるぞ! お酒は冷蔵庫から適当に出してね!」
あずさ「千早ちゃん、楽しんでるかしら~?」トローン
千早「あ、あずささん、もう酔ってらっしゃるんですか?」
真美「うりゃー、いおりんも飲め飲め→!」
亜美「亜美達の酒が飲めねぇのか→!」グイィ
伊織「あんた達じゃなくて響のお酒じゃない! や、やめな……グビグビ」
雪歩「あっはっはっはっ! すっごく楽しい、ねぇ真ちゃん?」
真「ゆ、雪歩はそろそろお酒控えた方がいいよ。ほらっ、この焼きそばでも……」
春香「皆ー、響ちゃんの新しいお料理持ってき、ってきゃああああっ!!」
どんがらがっしゃーん!!
響「うぎゃあーっ!! 何してるんさ春香ぁー、大丈夫かー!?」
真「だ、大丈夫だよ響! 料理は私と貴音が何とかキャッチしたから!」
貴音「そして既にいただいております」モシャモシャ…
亜美「うあうあー! お姫ちん独り占めしないでよー!!」
女P「あははははっ!」
伊織「なぁにを澄ました顔してんのよっ! 美希、あんたも飲みなさーい!!」グイィ~
女P「う、うわっ、ちょっと……グビグビ」
真美「うあうあー! あずさお姉ちゃんとゆきぴょんが脱ぎだしたぁー!!」
千早「み、皆! 二人を止めて!!」
やよい「うっうー! 何だかメラメラ―ってしてきたかもーっ!!」
「やいのやいの!!」
雪歩「すぅ……すぅ…………」
真「ほら、雪歩起きて。ちゃんと布団で寝ないと……」トントン
雪歩「ううぅん…………真ちゃん……」ギュッ…
真「やれやれ……ちょっと、雪歩もお布団の部屋に運んでくるね」
春香「はーい」
響「まったく……おとうに見られたら大変だったぞ」ガチャガチャ…
春香「旦那さんは、今はいないの?」フキフキ…
響「友達が来るからって言って、お金渡して外で過ごしてくるようにお願いしといた」
女P「そうなんだ……」カチャカチャ…
真「よしっ、と……酔い潰れた人の片付けは終了! 後は皆寝たし……」
真「何かやる事ある?」
響「ううん、平気だぞ!」
真「よぉし、じゃあ私もちょっと失礼して……」ガチャッ
春香「まだ飲むの?」
真「さっきは皆の世話をしてて、全然飲めなかったからね」プシュッ!
女P「私も、もう少しもらおうかな」
真「あ、まだあるよ。はいっ!」サッ
女P「ありがとう」
響「あっ、ちょっと! 自分のことも待ってよぉ!」
プシュッ!
一同「かんぱーい!」カチンッ!
響「グビグビ……ぷはぁ、働いた後の一杯はカクベツさー」
春香「あはは、何だか響ちゃん、おじさんみたい」
響「な、何だよ! 皆だって飲んでるじゃんか!」
真「ははは、そう怒らないでよ。海ぶどうもらっていい?」ヒョイッ
響「おいしいでしょ? 今日取って来たばかりなんだぞ!」
女P「皆、変わらないね」
真「逆に美希が変わりすぎなんだよ」
響「そうだぞ、最初誰だか分からなかったもん」
女P「ふふっ、そうかもね」
女P「変わらなきゃ、って思ってたから。私の場合」
女P「何でもかんでも、一人でできるように……立派な人に、なれるようにって」
春香「…………」
女P「でも、それももう今日でおしまい」
女P「昔のように、皆に迷惑かけてばっかりな星井美希に、戻ろうかなってね!」
真「め、迷惑かけるのは少し自重しようよ」
女P「あらっ? いいじゃない、昔だってそれでお互い上手くやってきたでしょう?」
貴音「そう、何事も貴女らしく……ですね、美希?」スッ
女P「貴音……うんっ」
響「貴音、さっきまでどこに行っていたんだ?」
貴音「月を見に…………私にも、一献いただけますか?」
春香「はい」
トクトク…
貴音「ここに集う仲間……そして故人との良き思い出に、今宵は酔いしれましょう」
アハハハハハハハ…!!
春香「そうだ思い出したぁ! 響ちゃんも、一時期プロデューサーさんに日記書かされそうになって…」
真「そうそう、美希にやいのやいの言われてたよね! 響も書けば良かったのに」
響「他人事のように言うなー! 大体、自分が書いたってプロデューサーが振り向いてくれるワケないでしょ!」
春香「あの時は、たぶん皆ほとんど横一線だったんじゃない?」
真「うん、そこまで美希だけを肩入れしては……ていうか響もやっぱ気があったんだ~」
響「うぎゃーうるさい、この話はやめるさ!! ハイサイ、やめやめっ!!」
春香「実は私も書こうとしてた時期あったんだー、日記」
貴音「ほう、それは真ですか?」
春香「うん、でもやっぱ美希とプロデューサーさんの仲を邪魔したら悪いかなって」
響「そうだったのか、自分もだぞ」
真「ふーん、そんなもんかなぁ。知ってた、美希?」
春香「いや、私そもそも美希とそういう話……あっ」
女P「…………スゥ……スゥ……」
響「寝てる……」
真「やれやれ……またお布団部屋に連れて行かなきゃ」
春香「ゆっくり休ませてあげて」
春香「本当に……今まで、無理をしてきたから。辛かっただろうから」
真「うん、分かってるよ」
春香「それにしても……久しぶりだなぁ、美希の寝顔見るの」
貴音「気持ち良さそうな、安らかな寝顔です」
貴音「良い夢を見ていると良いですね……」ニコッ
女P「スゥ…………スゥ…………」
女P「…………ハニィ……」
………………
………………………
………………………
………………
ナムアミダブ ナムアミダブ…
「葬儀会場は、ここね……」
「えっぐ、ひっぐ……うぅ……」
テクテク…
「あっ……」
「こちらに、ご記帳をお願いします……ありがとうございます」ペコリ
「星井さん、ちょっと」
「あっ、はいっ」タタタ…
「ミキミキ、髪切って……茶髪になってる」
「受付の、お手伝いしてる……」
………………
………………………
………………………
………………
「プロデューサーになりたいですってぇ!?」
「あのねぇ、美希……とても大変な仕事よ? そう簡単にできるものじゃないの」
「第一、高卒の私でさえ、業界関係者からの風当たりは厳しいものだったわ」
「あなた、まだ中学を卒業しようというトシでしょう? せめてもう数年…」
「ダメなの。今やりたいの」
「ハニーが何を目指してたのか……あの人が記憶から消えちゃう前に、知りたいの」
「美希……」
「……分かったわ。でも、せめてご両親の承諾を得てから…」
「うん、たぶんそろそろ来る頃だと思うよ?」
「えっ」
「ちょっと!! ウチの美希に何を吹き込んだんですか、765プロさんっ!!」バァン!
………………
………………………
………………………
………………
「……そうそう、それで『次へ』を押して、メールアドレスの設定をするのよ」
「う、うん……」カタカタ…
「ふふふ、思い出すわね」
「えっ?」
「プロデューサーさんが初めて事務所に来た時も、こうしてメールの設定をしたのよ」
「ハニーが……今、ミキ、ハニーと同じ道を通ってるの?」
「えぇ、そうね」
「そうかぁ……そうなんだぁ。えへへへ」ニコニコ
………………
………………………
………………………
………………
「向こうの人、全然、ミキの方を見て話してくれなかった……」
「当たり前よ。あなたみたいな若輩者に、誰も期待なんてしていないわ」
「そ、そんな……!」
「今日の打ち合わせは、余計な事を言わなかっただけ合格よ」
「あなたが先方の信頼を勝ち取るのは、まだまだ先」
「実力をつけて、実績を積み重ねていかなくてはね」
「実力と、実績……」
「ミキ、律子さんのお仕事、もっと見たいの!」
「言われなくともそのつもりよ。ほら、次行くわよ」
「はいっ!」
………………
………………………
………………………
………………
「うぅぅ……デコちゃん……」グスッ…
「美希……」
「ミキが面倒見てあげた子……全然、勝てなかった……」
「所詮、中卒のプロデューサーが育てるアイドルなんてたかが知れてる、って……」
「…………」
「悔しいよ……」
「ハニーに育てられたミキなのに……もうあんな事、言われたくない……!」ポロポロ…
「私もプロデューサーになるわ」
「えっ……」
「あんただけじゃ頼りないから、この伊織ちゃんも一緒に勉強してあげるわよ」
「それで、一緒に見返してやりましょう? にひひっ♪」
………………
………………………
………………………
………………
「やったぁー! 律子さん、オーディション合格しましたよ!」
「えぇ、良く頑張ったわね」
「美希さん。私、美希さんの指導のおかげで初めて…!」
「慢心しないで」
「えっ?」
「この程度じゃダメなの。もっと、もっと上を目指さなくちゃ」
「トップに立って、あの時私達を笑った人達を見返してやらなきゃ」
「み、美希さん……」
「美希さんって呼ぶのもやめて。私はプロデューサーよ」
「これからは、甘えは許しません。仕事中の言葉遣いにも気をつけて」
「春香……いいえ、春香さん、雪歩さん。あなた達もですから、お願いしますね」
………………
………………………
………………………
………………
「何をしているの! こんな事もできないでどうするの!?」
「違う、あなた達の事を言ってるんじゃない! 私の事を言ってるの!」
「こんな事で……あの人の思いを受け継いでいけると思っているの!?」
「もっと立派にならなくては……業界の人達からナメられないように!」
「たくさんお仕事をもらって、オーディションに合格させて、フェスに勝って!!」
「この子達を、トップに立たせて……!!」
「そのために、私は……もっと、他に出来る事は!?」
「もっと……!!」
………………
………………………
………………………
………………
「……新人のプロデューサー?」
「そっ。あなたにも、ようやく後輩ができるってことね」
「必要ありません」
「そう言わないで。後輩の指導をすることで、あなたも何かと勉強になると思うわ」
「そうでしょうか」
「そうよ。じゃあ、お世話お願いね、“先輩プロデューサー”さん」ポンッ!
「よろしくお願いします、星井美希さん」ペコリ
「よ、よろしくお願いします」
「……それで、このホワイトボードを使って、皆の予定を管理するんです」
「そうなんですか。うわぁ……真っ黒ですね」
「そうでなくては困ります。真っ黒にするのが私達の仕事なんです」
「な、なるほど」
「それじゃあ、まずはダンスレッスンが入っている子達を連れて行きましょうか」
タン タタン…
(こ、この人……)
「コウ美、いい感じだ。だがもう少し、3の後の引き足を速くすることを意識した方が良い」
「エリ子は、そう焦らなくていい。リズムは合ってきてるから、上半身をもっと大きく」
「マナ美は移動をもう少し早くして、アキ子達が元気良く踊れるスペースを確保してあげてくれ」
「はいっ!」
(本当に、新人なの? こんなに的確な指示を……)
「各自、今言った事に気をつけて練習を続けてくれ」
「星井さん、次は営業でしたね。そろそろ出ましょうか?」
「えっ、あっ、はいっ! 行きましょう!」
「ははは、そうですかあの765プロの」
「えぇ、御社の番組では、過去にウチの天海達がお世話になりました」
「いやいや、それほどでも。ほっほっほ」
(まさか、過去のアイドルの情報まで頭に入れてきてるの!?)
「そういう事でしたら、ぜひウチの番組でおたくの子達を使わせていただきましょう」
「ありがとうございます。皆、期待に応える良いアイドルばかりですので」ペコリ
「よ、よろしくお願いします」ペコリ
「私は、グラビアの撮影スタジオに行っている子達を迎えに行ってきますから、星井さんは先に事務所へ戻っていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ? で、でもそれなら私も……」
「おそらく、先方からの電話がそろそろ事務所にかかってくるはずです。これまで面識のある星井さんがご対応された方が、話も通りやすいでしょう」
「は、はい……」
「では、よろしくお願いします。また事務所で」
スタスタ…
「…………」ポツン
「……それじゃ、私先帰りまーす」
「あ、はいっ! 律子さん、お疲れ様でした!」
「お、お疲れ様でしたー」
ガチャッ バタン
カタカタカタ…
「えぇと、今日の実績はこんなところか……で、明日の資料は……」カタカタ…
「…………」
「星井さん、明日の打ち合わせは何人でしたっけ?」カタカタ
「えっ? あの、私達を入れて6人です」
「分かりました。じゃあ7部刷っておくか、人数増えるかも知れないし」カチカチ…
「……初日からすごい働きぶりですね。ずっとプロデューサーを志望されていたんですか?」
「えぇ、自分で選んだ道ですしね」
「だから、入ったら即戦力になれるよう、事前に詰め込める知識は一通り習得したつもりです」
「……そうですか」
「星井さんは、プロデューサーをやられて何年になりますか?」
「大体、10年くらいです」
「10年……随分お若い頃から、されていたんですね」
「そうですね……今にして思えば、無茶なことだったのかも知れません」
「そう……あの頃の私は、ただプロデューサーをやりたいという気持ちだけしかなかった」
「実際に、何をどうしたら良いのか、どんなスキルが問われるのか……まったく、考えもしていなかった」
「だから……今のあなたの話を聞いていると、自分が恥ずかしくて……」
「かつて、私を引っ張ってくれていた人がいて……その人みたいになりたかった」
「仕事が上手く行かずに、先方から陰口を言われた時だって……」
「その人が、馬鹿にされているように思えてしまって……なおさら、悔しかった」
「今にして思えば、ただ私個人が馬鹿にされているだけに過ぎなかったのに……」
「何もかも、その人を拠り所にしなくては、自分を保つことができなかったんです」
「なのに、自分では成長できた気になっていて……本当に、情けないなって……」
「そんな事ないよ、美希」
「…………えっ?」
「お前はこれまで、こんなにも立派にプロデューサーをやってこれたじゃないか」
「何でもできる子だとは思っていたが、アイドルのプロデュースまでできるとはな……正直、俺も驚いたよ」
「……えへへ、当たり前じゃない、ハニー」
「だって私、もうハニーより年上になっちゃったんだよ?」
「えっ!? う、そっ……本当ですか?」
「あははは、何でまた急に敬語になるの? いいよ、今まで通りで」
「そ、そうか……しかし、どうりで綺麗になったと思うわけだ」
「そうかな? 胸は、あまり成長しなかったけどね」
「元々でかかっただろ」
「ハニー。その発言、セクハラだよ?」
「うるさいっ!」
「ねぇ、ハニー……ハニーは、死んじゃう前に、悔いは無かったの?」
「やり残した事とか……私、ずっとハニーの無念を晴らしたいと思っていた」
「何か、私にできる事は無いの? 私、何かハニーが喜ぶ事をしてあげられるのかな……?」
「ううん、無いよ」
「!」
「俺は全て納得した上で死んだし、死んでからの美希達の成長ぶりにも満足している」
「それに、仮に悔いがあったとしても、美希にはそれを背負って生きて欲しくない」
「…………?」
「他の皆も、それぞれ納得した上で自分の道を歩んでいる」
「お前も、お前の今を生きてくれ」
「それが、お前に散々ワガママを押しつけてきた俺の、最期のワガママだ」
「……うん、分かったの」
「もう私、ハニーを目指すのは……追いかけるのは、やめるね?」
「だから、きっともう、こうして夢に見ることも無いのかもしれない」
「でも、これだけは許してほしいの」
「私は、ハニーの事を絶対に忘れないよ」
「あぁ」
「それじゃあ、そろそろお別れだな」
「ハニーは、まだ行かないの?」
「俺はまだやる事があるんだよ。メールもあと一本送る必要があるし、明日の打ち合わせの件で先方からの電話も待たなきゃならない」
「天国でも、同じお仕事してるの?」
「お前がそう思うのならな」
「アハッ……そっか、これ私の夢だもんね」
「そうだ! お前、まだ俺の最期の日記見てないだろ」
「えっ、うん」
「ちゃんと読んでおけよ。最期だけは俺、すっごく丁寧に書いたからな」
「えー、ホントにー?」
「本当だって! 綺麗な字にビックリするぞ。まぁ、沖縄に連れてきてもらえればそれでいいんだけどさ」
「分かった。朝起きたら読んでおくね?」
「あぁ、頼むぞ」
プルルルルル…♪
「おっと、ようやく電話来たか。じゃあ、俺もあと少ししたらここを出るから。達者でな、美希」ガチャッ
「うん」
「はい、765プロです……あぁ~どうもどうもお世話になっております、えぇ、明日の…」ペコペコ…
「…………えへへ」
「バイバイ、ハニー……」
ガチャッ…
………………
………………………
………………………
………………
美希「………………」パチッ
美希「……………………」
ムクッ…
美希「……………………」ポリポリ…
美希「ふわぁぁ…………あふぅ」
トン トン トン…
ガララッ
亜美「あっ、起きてきた!」
雪歩「美希ちゃん、おはよう」
響「もう10時だぞ、美希。まったく、相変わらず寝ぼすけだなー美希は」
美希「…………春香、あの……」
春香「うん、分かってる」
春香「日記、テーブルの上に置いてあるよ」
美希「………………」スッ
伊織「……さぁさぁ! 時間も時間なんだし、さっさと準備して行くわよー!」
真美「おぉ→っ!」ドタドタ…
伊織「美希、あんたもさっさとご飯食べて顔洗って来なさいよ! 仮にもプロデューサーなんだから、朝の準備は早いでしょ?」
あずさ「先にお外で待ってるわね~」
響「おとうー、車借りるぞー!」チャリッ
やよい「わぁー! 響さん、車運転できるんですかー!?」
真「私達も行こう、千早!」
千早「えぇ。それじゃあ美希、準備ができたらお願いね」
貴音「世界の中心……真、楽しみですね」
春香「…………美希」
美希「…………………」ペラッ…
春香「………………」クスッ
タタタ…
美希「…………………」ペラッ…
美希「……あはは、何これ。やればできるじゃん、ハニー」
美希「キレイな字……!」ポロポロ…
ブキキキキキ ブオンッ! ブオンッ!
ドッドッドッドッドッ…
千早「マイクロバス……大きな車ね」
響「なんくる荘の、送迎用バスだからな!」
伊織「あんた、これ運転できるの?」
響「もっちろん! 大船に乗ったつもりで任せてよ!」ドンッ!
タタタ…
やよい「あっ、美希さーん!」フリフリ
美希「皆、お待たせ!」
春香「美希っ! 後ろの方、席空いてるよ!」ポン ポンッ
バタンッ!
響「いよーし! それじゃあ世界の中心まで、いざ出発進行さー!」カチッ
バッタン バッタン
伊織「何でワイパーが動くのよ」
ブロロロロロ…! ガタゴト ガタゴト…
真美「ほ、本当に運転大丈夫、ひびきん!?」
響「平気さー。この道だって何度も通ったことあるんだぞ!」
千早「何だか、すごく道幅が狭いのだけれど……」
響「ここで左折さー!」グイィッ!
雪歩「あわわっ! 響ちゃん、ウィンカー!」
響「あっ、そっか」カチッ
亜美「左側がチョーギリだよギリぃー!!」
貴音「おや? 響、あそこに果物がなっています。ほら、あそこあそこ」チョイチョイ
響「えっ? あぁ、あれはサボジラって言って、黒砂糖みたいな味でシャリっとした…」
伊織「前見なさいよ前ぇーっ!!」
響「えっ? う、うぎゃあああぁっ!!」
あずさ「あら~? 一瞬、車が飛んだ気がするわ~」
真「響……運転代わろうか?」
美希「……ふふっ」ニコニコ
美希「ねぇ、春香」
春香「ん?」
美希「皆とここに来て、何だか分かった気がする」
美希「世界の中心が、どこにあるのか……どういう所にあるのか」
春香「……そう」
美希「良い天気だね」
春香「そうだねー」
ブロロロロロ…! ガタゴト ガタゴト…
美希「………………」
1月7日
ちゃんとレッスンには行ってるか?
確かそろそろ本番だったよな。いつもどおり落ち着いて、しっかりやれよ。
だが、たぶん、俺はオーディション結果の報告を聞けそうにない。
お前の喜ぶ姿を見れる日が待ち遠しいのに、明日が来るのが怖い。
やはり、俺達はそう遠くないうちに、ここでお別れになるようだ。
今日は、美希がこの先大人になって、未来を生き続けることを想像しながら眠る。
目を閉じると、お前の顔が次々に目の前に飛び出してくる。
おにぎりをほおばる大きな口。
くしゃくしゃに崩した、くったくのない笑顔。
ワガママを注意されて、ムキになってふくれたほほ。
車の助手席で、一人でしゃべり疲れた時の寝顔。
そして、辛いとき、いつも俺をはげましてくれたやさしい美希。
いつでもそばにあって、触れていたい。
無遠慮にお前が抱き着いてきたとき、腕に伝わるぬくもりが、一番愛おしかった。
たくさんの思い出が、俺の人生を彩ってくれた。
本当に、そばにいてくれてありがとう。
一年に満たない、お前と過ごした時間が、俺の生涯の宝物だ。
最後に、お願いがある。
俺の灰を、いつか響達と話していた、世界の中心でまいてほしい。
そして、お前はお前の今を生きてくれ。
お前に会えて良かった。元気でな。
~ビーチ~
ザザァァァァ…
真美「うっわぁー!! すっごくキレイー!!」タタタ…
響「そうだろー!? 沖縄の海はどこもキレイだけど、ここは本当に特別なんだぞ!」
あずさ「海風も、すごく気持ちがいいわね~」
千早「えぇ」
亜美「とりゃー! やよいっち相撲取ろう、相撲!」ガッ!
やよい「あっ! な、何を~! えいっ、えいっ!!」
美希「キレイね……」
春香「本当っ! こりゃ世界の中心って豪語するのもうなずけるよ」
春香「それじゃあ……はい、美希」スッ
美希「…………これが……」
春香「プロデューサーさんだよ……美希が、まいてあげて」
美希「……うん」
美希「…………」スッ
キュポッ
ビュオオオォォォォォォォォッ!
美希「きゃあっ……!」
ビュオォォォォォ…!
雪歩「……飛んでいっちゃった……あっという間に」
貴音「真、落ち着きのない事ですね」
真「お墓の下が、よっぽど居心地悪かったのかなぁ」
春香「天国へ、新しい子をプロデュースしに行ったのかもね」
美希「…………アハッ」
美希「なんともハニーらしいの!」
~おしまい~
340 : VIPに... - 2014/05/11 02:21:48.31 R3zVX9G80 304/304元ネタは、片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』です。
プロットは、映画版を基にしたつもりですが、元ネタ成分が薄くなった気がします。
美希に最後の台詞を言わせたかっただけなのに、前振りが長くなってしまいました。
英語や白血病治療のくだりは、可能な限り調べたり知人に聞いたりして書いたものの、実際と異なる描写もあることと思います。申し訳ございません。
ちなみに、映画版セカチューは今月で公開10周年だそうです。
まだご覧になった事の無い方は、この機会にぜひご覧いただければと思います。
駄文長文に最後までお付き合い頂いた上、暖かいご支援、ありがとうございました。
それでは、失礼致します。

