1 : 名無しさ... - 26/04/25 21:52:57 9Uuk 1/15

【注意】
・このSSは、大阪にある小さな芸能事務所である728プロに所属するアイドルとプロデューサー、その周辺の人々を描くシリーズの一作です。独自設定と独自解釈が多数あります。
・短いです。
・百合と解釈されうる要素があります。

以上を踏まえてそれでも良いと言って下さる方は、お付き合いくださいませ。

前作 【デレマス】死体を埋めた日【728プロシリーズ】
https://ayamevip.com/archives/59785074.html

元スレ
【デレマス】あなたと過ごす午前2時【728プロシリーズ】
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1777121577/

2 : 名無しさ... - 26/04/25 21:53:26 9Uuk 2/15

 見下ろした世界には街灯と信号機があった。時折エンジン音が交じるが、すぐに消えてしまう。当然のことだった。今は午前1時なのだから。
 だが、今日の橘ありすにとってそれは許しがたい事実だった。事実上の一人暮らしにしてはあまりに広い部屋、中身の偏った冷蔵庫、丁寧に埃が払われたマグカップ3つ。その全てが彼女の置かれた現状の要約であり、目を逸らすことの出来ない現実だった。
 こんな時、どうすればいいのか。他人に聞かれたなら、「対話型AIを使って」などと返したに違いない。実際、彼女は今までそうしてきたし、それは成功も収めていたのだから。だが今日だけは、その逃避が許されないような気がしていた。

3 : 名無しさ... - 26/04/25 21:54:11 9Uuk 3/15

 ベッドに寝転がり、当てもなくインターネットを彷徨う。ブルーライトにぼんやりと浮かぶ顔が窓ガラスに反射して、彼女の整った顔を映し出した。ちらりと視界に入れて、すぐに目を背ける。自分の不愉快な顔に耐えられなかった。
「……友紀さんが悪いんです」
 自分のためだけの言葉。
 一度流れてしまえば、止めることは出来ない。言葉というものがそうしたものであることを、彼女は9時間ほど前に知っていた。だが、知識と行動を即座に結びつけることは容易ではないのも、彼女は知っていた。

4 : 名無しさ... - 26/04/25 21:54:37 9Uuk 4/15

◇◇◇

「私のことを、ずっと甘やかそうとして。何も出来ないみたいな言い方して」
 違う。私が言いたいのはそんなことじゃないはずです。今すぐにでも謝って、仲直りしなきゃいけないのに。
「だいたいあの人は……」
 思ってもいないはずの言葉が、滝のように流れ落ちます。どこまでも深く落ちていって、心を、思い出を汚していくんです。止まって下さい。止まって。止まってよ!
 着信音が鳴ったのは、その時でした。

5 : 名無しさ... - 26/04/25 21:54:42 9Uuk 5/15

「……もしもし」
「ありすちゃん?起こしちゃった?」
 電話の相手は今一番声を聞きたくない人でした。何を言ってしまうか分かりませんでしたから。自然と、返す言葉にも刺が交じってしまいます。
「起きてましたけど……何ですか」
 10時間前に喧嘩したばかりの人は、少し柔らかい声になってとんでもないことを言い出しました。
「そっか。ねぇ、今からありすちゃん家行っていい?」

6 : 名無しさ... - 26/04/25 21:54:47 9Uuk 6/15

「今何時だと思ってるんですか!?1時過ぎですよ?」
「うん、でもどうしても会わなきゃダメなんだ」
「今じゃなきゃ駄目なんですか?」
「今じゃなきゃダメなの」
 友紀さんの声は、たまに見せるかっこいい顔をしたときのものでした。この人は、時々ものすごくストイックになるんです。その姿はとても凛々しくて、分からなくなります。あのだらけた姿と、生真面目な姿。どっちが本物なのでしょうか。

7 : 名無しさ... - 26/04/25 21:55:27 9Uuk 7/15

「……ありすちゃん?」
 頭を回る疑問を追い出すように、電話の向こうのトーンが上がります。慌てて出した答えは、思ったより素直に出ました。
「し、仕方ないですね……気をつけて来てくださいね」
「ありがと!すぐ行くからね」
 ぶつんと切れた電話を置いて、キッチンへ向かいました。

8 : 名無しさ... - 26/04/25 21:55:32 9Uuk 8/15

 鍵を開けると、友紀さんはぱたぱたと入ってきました。艷やかな髪からは、ほのかに雨の匂いがします。
「いやぁ、意外と降っててさー。車から走ったら濡れないで済むかなって思ったんだけどねぇ」
「傘を持ってこないからですよ……」
「えへへ。あ、タオルありがと!」
「床が濡れたら困るからです」
 半分だけ。半分だけはそれが理由。ちゃんと素直に全部言えたら良かったのに。

9 : 名無しさ... - 26/04/25 21:55:53 9Uuk 9/15



「それで、話って何ですか」
 柔らかい光の下で、ティーカップから揺れる湯気を挟んで向かい合います。友紀さんはあのかっこいい目になって、突然頭を下げました。
「ごめんね。昨日酷いこと言っちゃってさ」
「へ」
「あたしさ、ありすちゃんに酷いこと言っちゃったでしょ?ありすちゃんはあたしの妹だーってさ」
 小さく頷きます。私は友紀さんと同じ景色が見たいんです。

10 : 名無しさ... - 26/04/25 21:55:58 9Uuk 10/15

「それがさ、ちゃんと分かってなかったんだ。それを謝りたくて」
「あ、あの、怒ってませんから……そもそも私が大人げなく怒ったのが悪いんですし……」
 わざわざ来なくても、明日事務所で会った時に謝ってくれたら許したのに。律儀な人です。というか、らしくないような気がします。
 友紀さんは顔を上げて、紅茶で湿らせてから口を開きました。
「それと、一つお説教があります」

11 : 名無しさ... - 26/04/25 21:56:11 9Uuk 11/15

「ありすちゃんはさ、みんなと対等にやりたいんでしょ?」
 ぽかんとする私の前で、友紀さんは優しい口調を崩さないまま話し続けます。確かに大人げないことをしたとは思いますが、そこまで言わなくても……え?
「それならさ、もっとあたしたちを頼ってよ。ありすちゃんばっかり支えるなんておかしいよ」
「そんな、支えてなんて」
「支えられてるの。みんなそうだよ?唯ちゃんや朋ちゃん、周子ちゃんにプロデューサーだってそう。もちろんあたしも」

12 : 名無しさ... - 26/04/25 21:57:21 9Uuk 12/15

 心当たりが全くありません。私みたいなちっぽけな小学生が、大人になってからならともかく、他の人を支えられるなんて。でも友紀さんの目は、レッスン中のように真剣でした。
「あのね。対等な関係っていうのは、どっちかだけが支えちゃダメ。ありすちゃんがあたしを支えてくれてるんだから、ありすちゃんが辛いときにはあたしだって支えられる。そんな関係のこと」
「子供は支えられる人、ってことですか」
「そう。でもありすちゃんは『子供』じゃない。でしょ?」
 無言で頷きます。今の友紀さんは、私を対等に扱ってくれる。それは分かっていますから。
 一瞬だけ口角を上げた大切な友人は、何でもないことのように耳元で囁きました。
「だからさ、」

13 : 名無しさ... - 26/04/25 21:57:48 9Uuk 13/15


 ーもし寂しくなったら、言っていいんだよ。

14 : 名無しさ... - 26/04/25 21:58:30 9Uuk 14/15

◇◇◇

 その夜のことをありすは誰にも語らなかった。友紀も尊敬すべき友人の思いに従った。それは2人だけの秘密にしておくべきことであったからだ。
 ただ、翌日事務所で2人が雑談するのを見ていた大槻唯だけは、彼女たちが偽の姉妹ではなく親友同士になったということに気が付いた。それを口に出して騒ぎ立てたり、他の者が気が付いてから交わした会話に加わるようなことはしなかったけれど。


15 : 名無しさ... - 26/04/25 22:02:21 9Uuk 15/15

この2人は友人同士であって欲しい、というのが私の願いです。友紀が公式で「妹にしたい」といった仲ではあるのですが、ある程度仲が進展したのならそこは変わるだろうなと思います。
完結報告してきます

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