~某日/某芸能プロダクションの一室~
白菊ほたる「おはようございます」
プロデューサー「おっ、来たなほたる。こっち来なさいこっち」
ほたる「は、はい」
P「ほらそこの一番いい椅子に座って」
ほたる「え、でも」
P「いいからいいから」
ほたる「はい(ちょこん)」
P「かわいい」
ほたる「あの?」
P「気にしないでくれ。それより大事な話がある」
元スレ
【モバマス】白菊ほたる「ひゃくまんまい!?」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1775972552/
ほたる「大事な話……あっ、もしかして」
P「そう、そのもしかして」
ほたる「解雇ですね!」
P「違うからね!?」
ほたる「え、違うんですか」
P「なにが悲しゅうてデビューからさんざん苦労してようやっと活動が軌道に乗ってきたタイミングで首を切らなきゃならんのよ。ファーストアルバム。ほたる君のファーストアルバムの制作が決定したの」
ほたる「ふぁーすとあるばむ……」
P「そう、ファーストアルバム」
ほたる「ファーストアルバム? わたしの!?」
P「そうとも」
ほたる「気は確かですか!?」
P「もちろん正気だ」
ほたる「だ、だって私まだ3曲しか持ち歌が」
P「10曲ていど新曲を書き下ろしてもらう手はずだからだいじょうぶ」
ほたる「いいんですか、そんなぜいたくなこと」
P「シングルからの再録に新曲入れて10~13曲。ファーストアルバムならそんなもんだよ。ふつうふつう」
ほたる「……」
P「どうしたのポカンとしてさあ」
ほたる「なんだか、その、実感が、あの」
P「まあ、わかるけどねいろいろトラブルもあったし。ファーストシングルの発売日なんか季節はずれの台風が直撃して東京大停電だったし」
ほたる「ファンのみなさんがそれでもCD買いに行こうとするものだから、おうちにいてくださいって動画でお願いしたりしましたね……」
P「しかしそうした障害にもめげず、ほたる君は着実にアイドルとしてのステップを踏んできた。アルバムの初回生産数は一万枚。これはファン数の動向やここまでのライブの動員数などを分析した結果、ほたる君のアルバムであればこれだけ作っても制作費を回収できると僕たちが判断した数字なんだ」
ほたる「わたし、なら」
P「そ。君がこれまで積み上げてきた、アイドルとしての信用ってわけだ」
ほたる「私に、それが、あるんでしょうか」
P「なかったらちひろさんがオッケー出すわけないでしょうよ。あの人ほんっとお金には厳しいんだから」
ほたる「……ふふ、そうですね」
P「だいたい、不安に思ってる暇なんかないぞ。新曲収録したりジャケ撮したり、やること山積みなんだから、気を引き締めて頑張ってもらわないと」
ほたる「はい」
P「ファーストアルバムではこれまでと違った、様々なスタイルの曲に挑戦してもらうし、アルバム発売にあたって単独で取材を受けてもらうこともある。いろいろ新しい挑戦をしてもらうけど、頑張ってくれよ」
ほたる「……はい。なんだかようやく、実感がわいてきた気がします」
P「うん。顔色もよくなってきたな。いいぞいいぞ」
ほたる「あのっ、みんなに報告してもいいでしょうかっ」
P「事務所の仲間やご両親にならいいぞ。情報公開の期日に契約があるから、学校の友達とかに話すのは公式な発表の後にしてくれ」
ほたる「はい! ……ほんとに、ほんとに、アルバムが出せるんですね」
P「ああ、出せる」
ほたる「プロデューサーさん、ありがとうございます。ありがとうございます。ああ、楽しみだなあ……!!」
~数ヶ月後/女子寮・白菊ほたる個室~
ベッドほたる「うーんむにゃむにゃあるばむ……わたしのあるばむ……」
一般運送会社員「(ドンドンドン)白菊さーん(ドンドンドン)白菊ほたるさーん、お届けものでーす」
ほたる「(もそもそ)ふぁいなんれすか。おとどけもの?(ガチャ)」
一般運送会社員「はい。えーとこちらに署名を御願いします」
ほたる「はい(かきかき)ええとあのおとどけものって、いったい」
一般運送会社員「よーしおまえら運び込めー!!」
ほたる「え?」
運送会社員部下一同「失礼します!(ドドドドド)」
ほたる「ギャーーーー!?」
~30分後/某芸能プロダクション~
ほたる「(だだだだだ)プロデューサーさん、プロデューサーさん、プロデューサーさーん!!」
P「おお来たなほたる。待ってたぞ実はだな」
ほたる「待ってくださいまってください段階を追って確認させてくださいいきなり真実を聞いたら死んじゃうかもしれないから!」
P「ははは大げさな奴だなあ。いいぞ好きなだけ段階を踏むがいい」
ほたる「ありがとうございます」
P「ま、どれだけ段階を踏もうが答えは今ほたるが想像してる通りだと思うがな」
ほたる「うわあん! でも確認せずにはいられない!」
P「気持ちはわかるぞさあどうぞ」
ほたる「……あの、プロデューサーさん」
プロデューサー「なんだいほたる君」
ほたる「プロデューサーさんのデスクに積まれた、この段ボールは、なんですか」
P「うむ。この箱の中には君のファーストアルバムが入っているんだよ」
ほたる「私のファーストアルバム……ほ、ほんとうに?」
P「本当に。今日届くって言ってなかったっけか」
ほたる「言ってましたけど、本当に楽しみにしていましたけど、その」
P「どうした煮え切らない顔をして(段ボール箱開封)ほらね。入ってるだろう、君のアルバム」
ほたる「……本当に、本当に私のCDが入ってるんですねこの箱……」
P「もちろんだとも。シングルからの再録4曲に書き下ろし新曲8曲。メロウなのからポップなのまで幅広い曲調の楽曲を収録した、まさにアイドル白菊ほたるの名刺代わりというべきアルバムで……おお、みるみる顔が青くなってきたな」
ほたる「このマークのついた箱には、私のファーストアルバムが入ってるんです、よね?」
P「うむそうだ」
ほたる「この部屋を埋め尽くす段ボール箱のすべてに、同じマークがついてる気がするんですが」
P「当然中身は全部ほたる君のファーストアルバム」
ほたる「じゃあプロダクションの廊下と玄関とそのほかありとあらゆる部屋を埋め尽くしている段ボール箱の中身も、もしかして」
P「君のファーストアルバムだねえ」
ほたる「まさかと思いますがプロダクションの前に停まっているトラックの荷台に満載されているのも」
P「もちろん君のファーストアルバムで、さらに言うなら追加であと2台くる予定だ」
ほたる「……多くないですか?」
P「うむ。実は百万枚ある」
ほたる「多くないですか!?」
P「多いよねえ」
ほたる「え、百万枚。私のファーストアルバムを、ひゃくまんまい!?」
P「うむ、刷ってしまったのだ」
ほたる「いくらなんでも強気過ぎるのではないでしょうか!!!!!!」
P「うん。僕もそう思う」
ほたる「ならどうして!? というかたしか1万枚の予定でしたよね!?」
P「そのはずなんだが、なんか受注システムのエラーかなんかで発注数が百倍になってたらしくてねえ」
ほたる「えええええ」
P「ふつうまず物流センターに送ってそこから実店舗に流通させるんだが、ほらファーストアルバムじゃん? ほたる君、絶対最初に手にとってみたいと思ってさ」
ほたる「それは確かにそう思ってましたが!」
P「ドーンとCDの入った箱を並べて『ほうらこれがこれから全部町のCD屋さんにならぶんだぞう』とか言ってやりたいなあと思って送り先をプロダクションにしてもらったらこれこの通り」
ほたる「もうどこもかしこも全部私のアルバムで埋め尽くされるじゃないですか!!」
P「いやあ大変だったぞ。ちひろさんなんかCDに埋もれて身動きとれなくなっちゃって」
ほたる「ちひろさーん!?」
P「大丈夫救助済み。このままじゃプロダクションが機能しないから、今倉庫を押さえに行ってくれてる」
ほたる「よかった……よくないけどよかった……」
P「うむ。ちひろさんを危険な目にあわせることは許されないからな」
ほたる「でも、どうしてこんなことに」
P「それがどうもよくわからんのよなあ。途中で確認もしたし、今まさに工場と連絡とりあってるんだがどうも状況がよくわからなくてな。単純な入力ミスか、発注システムのエラーか、ほたる君を大々的に売り出したい僕が無意識の願望でつい百万枚と書いてしまったのか……」
ほたる「無意識の願望が巨大すぎる!!」
P「なにを言う(ギシギシ)プロデューサーはみんな担当アイドルにミリオンを取らせてやりたいと思ってる生き物なんだぞ(ギシギシ)」
ほたる「床が軋んでいますよプロデューサーさん。CDの重さのせいでしょうかプロデューサーさん」
P「これがミリオンヒットの重さというやつだよほたる君」
ほたる「冗談言ってる場合じゃないですよね!? いちだいじですよね!?」
P「ほたる君。ほたる君」
ほたる「プロデューサーさんは私に1万枚を売り上げる力があるとおっしゃいましたよね」
P「うむ言った」
ほたる「それはつまり百万枚売るのは絶対無理ってことでは!?!?」
P「まあうん」
ほたる「うわあんどうしよう。不幸ですよね。私の不幸のせいですよね!? プロダクションにとんでもない損害を与えてしまいましたよね!? わ、私のせいで、私のせいで」
P「まあ落ち着け。慌てたところで百万枚のCDは無くならない」
ほたる「そ、それはそうですが」
P「じたばたしても始まらんし、CDの正式発売日までには幸いまだ余裕がある。僕たちが善後策を検討するから、ほたる君はそれを待っていてほしい」
ほたる「でも、でも!」
P「僕たちがいままで、できないことを言ったことがある?」
ほたる「ありません。でも」
P「まかせとけ。な?」
ほたる「……はい。プロデューサーさん。すみません、ほんとうにすみません……!!」
P「ははは謝るなって。これでも僕は敏腕プロデューサーで通ってるんだからね。大船に乗ったつもりでゆっくり待っていてくれたまえよ」
ほたる「……はい……」
~同日夜/女子寮白菊ほたる私室~
関裕美「それでほたるちゃんの部屋こんな段ボール山積みになってるんだね」
松尾千鶴「女子寮の廊下も段ボール箱だらけで片側交互通行になってたね」
ほたる「うううご迷惑おかけします……」
岡崎泰葉「しかし、百万枚かあ」
ほたる「うううう(泣)」
裕美「百万枚って、どれくらいなの」
千鶴「新人アイドルのアルバムって出して1万枚ぐらいだから、その百倍かな」
裕美「千鶴ちゃんも初めてのアルバムそのくらいだった?」
千鶴「私は福岡のエリアボスだったから、もっと少なかったよ」
泰葉「地方アイドルがフルアルバム出すこと自体が快挙じゃない。初版の数は関係ないでしょ」
千鶴「ありがと……まあとにかく百万枚なんて、もう未知の数字というほかないね」
泰葉「そりゃそうだよ。私たちGBNSはまだそろって駆けだしアイドルだし、初版百万枚なんて売れてる人でもかなり強気な数字だよ」
裕美「うー。せっかく今日はほたるちゃんのファーストアルバム完成記念のお祝いと胴上げをする予定だったのに」
ほたる「気持ちはありがたいけどとてもそんな気持ちになれません……」
裕美「胴上げだけでもさせてくれない?」
千鶴「なんで胴上げにこだわるの」
裕美「だって祝いたいし……」
泰葉「まあお祝いは後だね」
裕美「えー」
泰葉「だっていま女子寮はほたるちゃんのファーストアルバムに占拠されてお祝いなんかするスペースどこにもないし」
ほたる「うわあんごめんなさいい」
裕美「謝らないの。ほたるちゃんのせいじゃないよ」
ほたる「だって」
裕美「ほたるちゃんのせいじゃない(ずずい)」
ほたる「は、はい」
千鶴「迫力で押し切った」
泰葉「さすが裕美ちゃんだ……」
ほたる「……でも実際、百万枚なんて、どうしたらいいものなんでしょう」
裕美「うーん、安売りするとか?」
泰葉「あ、それは絶対だめ」
ほたる「そうなんですか?」
泰葉「アイドルって人気の商売だもん。いきなり本来の価格から値下げして売り出したら、あ、この子は売れてないんだなって思われちゃうでしょ」
裕美「た、たしかに」
泰葉「安く売ったものは安く見られる。ファーストアルバムはそのアイドルの名刺というべきものだもん。ここで安売りしたら、ほたるちゃんのアイドルとしての価値が崩落しちゃうよ」
千鶴「そもそも、百万枚作って大損、って話なのに安くしたら意味がないでしょ」
裕美「言われてみればその通り」
泰葉「だいたい(段ボールごそごそ)こんなよくできてるのに! ほたるちゃんのファーストアルバム!!」
千鶴「そうそう。ジャケットも最高にかわいいし歌詞カードもこだわってるし」
裕美「また歌がいいよね歌が。プロモ版聞いたけどどれもすごくいい曲で」
ほたる「はい。どれも大好きな曲で。心を込めて歌って」
千鶴「そのすてきな、一生に一度のアルバムをいきなり安売りなんて、かわいそうじゃない」
泰葉「そうそう千鶴ちゃんいいこと言う」
ほたる「……でも、どうしたらいいんでしょう」
裕美「ほたるちゃん」
ほたる「プロダクションに、大損害を与えてしまいました。これが原因でプロダクションが傾いたり、と、倒産したりしたら。私のせいで。私のせいで、みんなを」
千鶴「うーん……」
泰葉「……まあ、大丈夫! とは言ってあげられないけど」
ほたる「はい」
泰葉「発注でちひろさんが数字のミスをするとは思えないし。いろいろ調べてからになるとは思うけど、こっちのミスじゃないということになれば賠償を請求できるかもしれないし、保険が適用される可能性もある。そんなに悲観するようなことにはならないと思うし、それに」
裕美「それに?」
泰葉「うちのプロダクションには高垣楓に島村卯月に渋谷凛に神崎蘭子にフリルドスクエアにって大人気アイドルをどっさり抱えた抱えた巨大プロダクションなんだよ。いちどの躓きで傾いたり倒産したりすると思う?」
裕美「そういえばそうだ!」
千鶴「190人とかいるもんね、うち」
泰葉「売れたり売れなかったり、一山当てたり大損したりは芸能界の常。今私たちにできることはないし、この件はプロデューサーさんに任せて、ほたるちゃんは自分の活動に集中するのがいいと思うよ」
ほたる「……でも、私のせいかもしれないのに」
裕美「ほたるちゃん」
ほたる「私が、不幸を呼ぶから。そうでなかったら、こんなこと起きなかったかもしれないのに。プロデューサーさんに大変な思いをさせずにすんだかもしれないのに」
千鶴「……ほたるちゃん」
ほたる「あっ、私のラジオとかライブとかで、買ってってなんども言ったらどうでしょう。毎回、一生懸命言えば、きっと少しは」
泰葉「だめ」
ほたる「泰葉ちゃん」
泰葉「必死になってると見られたら、絶対にだめ。買ってくださいと叫びづけるアイドルに、誰が夢を見るの」
ほたる「でも、でも、私、どうしたら」
泰葉「言ったでしょ。プロデューサーさんに任せること。自分の活動に集中すること。ほたるちゃんにできることは、それしかないよ」
ほたる「……ぐすっ……」
裕美「……ねえ」
千鶴「なあに裕美ちゃん」
裕美「やっぱりしようよ、ファーストアルバム完成のお祝い」
ほたる「でも」
裕美「でももストもない。だって冷蔵庫には賞味期限が明日までのケーキが今もスタンバイしてるんだよ。ほたるちゃんおめでとうって書いたやつが!!」
泰葉「あ、そうだった」
千鶴「実はお料理も下拵えしてあるのよね。そうか。あれ食べないと全部だめになっちゃうのか」
裕美「そう、だから絶対お祝いをするべき」
ほたる「で、でも、でも、そんな気分じゃ」
裕美「おいしいもの食べれば楽しくなる」
千鶴「断言しちゃった」
泰葉「この力強さはほんと見習いたい」
ほたる「でも」
裕美「だって、だって、すてきなアルバムができたんじゃない」
千鶴「裕美ちゃん」
裕美「すごい頑張って、すごいすてきな、初めてのアルバムが出来たんじゃない。祝ってあげなくてどうするの」
泰葉「……よし、ケーキ出しちゃおう」
ほたる「裕美ちゃん、泰葉ちゃん」
千鶴「段ボールを寄せてお料理できるスペースも作らなきゃ。裕美ちゃん手伝って」
裕美「がってん!」
ほたる「あの、あの」
千鶴「裕美ちゃんの言う通りだよ。祝ってあげなくちゃ」
ほたる「……うう、うう」
裕美「ファーストアルバムおめでとう、ほたるちゃん。お祝いさせてね」
千鶴「おめでとう」
泰葉「おめでとう!!」
ほたる「はい……はい……!」
泰葉「アルバムをどうするかは、プロデューサーさんが絶対なんとかしてくれるから。今は、ね」
ほたる「ありがとう。みんな、ありがとう……!!」
裕美「よしよし」
千鶴「さあ、腕によりをかけてお料理しちゃおうかな」
裕美「ほたるちゃんも一緒に段ボール寄せてー」
ほたる「……はーい!」
~同時刻/某芸能プロダクション事務室~
P「プロデューサーさんが絶対なんとかしてくれるから(キリッ)」
P「とか言われてるんだろうなああああああ今頃おおおおお(地面ゴロゴロ)」
千川ちひろ「いつもカッコつけてるからですよ全く」
P「仕方ないじゃないですか頼れるプロデューサーでいてやりたいじゃないですか(地面ゴロゴロ)」
ちひろ「ええ格好しいなんですからねもう。そんなんだから初恋泥棒とか言われるんですよ。で、何か思いつきましたか」
P「まさか(キリッ)」
ちひろ「とっときのキメ顔で情けないこと言わないでください・・・まあそうですよねー。ほたるちゃんはすてきな子ですが、新人で圧倒的に知名度が足りてません。ふつうの手段で百万枚をペイするのは不可能でしょう。安売りは論外。1万枚だけ残して、あとは潰したほうがいいまでありますね」
P「まあ僕の首は飛ぶかもしれないが、損はのちのち取り戻せばいいわけですしほたるにはそれができるだろうし。妥当な線かもしれないと思いはするんですが」
ちひろ「するんですが?」
P「絶っっっっ対ほたるが気に病むでしょ」
ちひろ「間違いなく」
P「……実際、どうですか」
ちひろ「外部の専門家にお願いして調査を進めているんですが、どうも悪意のある犯行の線が濃厚じゃないかと」
P「……」
ちひろ「同時期に、Aプロダクションの大御所さんのCD発注があったらしいんです。ほら、あの」
P「ああ、いろいろ噂のある」
ちひろ「その発注数が百万枚。大ざっぱに言うと、ほたるちゃんの分の発注とこちらのデータが入れ替えられていた、ということのようで」
P「そんなことできるもんなんですか」
ちひろ「できるかできないかで言えばできます。問題は誰がなぜそんなことをしたか、ということで」
P「なるほど……でも、それは、どうでもいいんですよ」
ちひろ「プロデューサーさん」
P「犯人の動機とか、なぜものごとがここまで進んでしまったかとか、そういうのは、いいんです。よくないけど、いいんです」
ちひろ「……」
P「ほたるのせいじゃない。商売にはリスクもあるし、悪意に足をすくわれることもある。ただそれだけのことだ。それだけのことだ」
ちひろ「プロデューサーさん」
P「だけど、ほたるは苦しむでしょう。CDを潰せば、それははっきり『損害』になる。プロダクションに大きな損害を与えて、あの子がそのまま、アイドルを続けられると思いますか。せっかく明るくなりはじめたあの子が、そのまま明るく花開いていけると思いますか」
ちひろ「……きっとずっと、自分の不幸がなければって考え続けるでしょうね」
ちひろ「……きっとずっと、自分の不幸がなければって考え続けるでしょうね」
P「そしたら、あの子は輝けない。アイドルを続けていけるかもわからない。それじゃ困る。あの子に負い目を負わせたままじゃだめなんです」
ちひろ「じゃあどうするんですか」
P「それがわからないんですよおおお(ごろごろごろ)」
ちひろ「百万枚ですからねえ」
P「ほたるに責任を感じさせないこと。ほたるのアイドルとしての価値を毀損しないこと。アルバムを破棄しないこと。その上でとにかく百万枚をさばく筋道をつけること」
ちひろ「無理ゲーじゃないですか」
P「無理ゲーですよね!!」
ちひろ「そもそも、ほたるちゃんに責任を感じさせない、というのが無理でしょう」
P「ですかねえ」
ちひろ「だって百万枚はここにあって、ほたるちゃんは自分の不幸のせいかもしれないと思ってて。その上、ほたるちゃん自身にはこの状況をどうにかすることができないわけでしょう」
P「ええ、まあ」
ちひろ「どういう方法をとるにしても、私たちがどうにかすることになるわけで。負い目を感じるなというのは」
P「……あ、閃いた」
ちひろ「……プロデューサーさん?」
P「そうか。僕たちじゃなく、ほたるがどうにかできればいいわけだ」
ちひろ「え」
P「ほたるがこの事態をどうにかできれば、負い目を感じる必要はない。むしろ僕たちを助けてくれるわけだから、胸を張っていいぐらいだ」
ちひろ「いや、そりゃそうなのかもしれないですが、どうするんですか。ほたるちゃんが買ってくれってどれだけ叫んだって、どれだけ頭をさげたって」
P「売らなきゃいいんですよ、売らなきゃ」
ちひろ「えええなに言ってんですか頭おかしくなったんですか」
P「ハハハ残念ながらすこぶる正気! ようしちひろさん手伝ってくださいこれから忙しいですよ(ギュ)」
ちひろ「あっプロデューサーさんの手が私の手をそっと優しく……じゃなくて! 手伝いますけど。手伝いますけど。その前にちゃんと説明してくださいなにトラックとか手配してるんですか。説明してくださいプロデューサーさーん!!!」
~数日後・白菊ほたるファーストアルバム発売予定日/都内某所若者の街~
(ブロロロロロロロ)
通行人A「ああっ、あれはなんだ!」
通行人B「なんかすごいでっかいトレーラーが突入してくるわ!!」
通行人A「なんか荷台に美少女が仁王立ちしているように見えないかい!?」
通行人B「本当だわ! すずらんと彼岸花がよく似合うはかなげ守ってあげたい系美少女が手折られぬ花のごとく荷台にスックと立っているわ!!」
【手折られぬ花】白菊ほたる「みなさん初めまして。白菊ほたるです!!」
通行人C「白菊ほたる……それがあの子の名前……」
群衆「なんだなんだなにが始まったんだ(ぞろぞろ)」
ほたる「今日は私のファーストアルバム完成記念イベントとして、この場で歌わせていただくことになりました。アルバムの中からえりすぐりの、とってもすてきな曲をみなさんにお届けできるのを、とっても幸せに思います」
(ウイイイインと荷台が展開しステージが完成。始まる前奏)
ほたる「では、聞いてください。まずは私の初めての歌。私の本当に大事な歌……」
◇
◇
ほたる「ありがとう、ございましたー!」
群衆(拍手)
通行人A「よかったよー!」
通行人B「すてきだったわー!!」
ほたる「ありがとうございます……! それで、あの。今日は、立ち止まってくださったみなさんに、プレゼントが、あるんです!!」
(さらに展開する荷台)
通行人A「ああっ、あれはなんだ!」
通行人B「CDアルバムよ。CDアルバムが満載されているんだわ!!」
ほたる「今日この場に集まってくれたみなさんに。私の歌をいいなと思ってくれる、すべての人に。私のCDアルバム、『手折られぬ花』を差し上げます! 条件はひとつだけ。アルバム裏面のQRコードを読みとって、公式サイトとメールマガジンに登録していただくこと。それだけです!」
通行人A「太っ腹すぎないかなあ」
通行人B「でも、歌はほんとにすてきだったし、かわいいし。もらってあげてもいいんじゃないかしら」
通行人C「そうだな。もうちょっと聞いてみたい気もするし、登録ぐらい大した手間じゃないから……」
ほたる「ありがとうございます! スタッフの誘導に従って、並んで、順番に……」
◇
◇
ほたる「……」
P「お疲れさん、ほたる君」
ほたる「プロデューサーさん」
P「あんがい、たくさん手に取ってもらえたじゃないか。滑り出しは好調かな、うん」
ほたる「はい……でも、あの」
P「ん?」
ほたる「いいんですか。その、無料で、配ってしまうなんて」
P「いいんだ。じゃんじゃん貰ってもらおう」
ほたる「でも」
P「僕が、このアルバムはほたる名刺代わりというにふさわしいって言ったの、覚えてるかい」
ほたる「……はい」
P「あれは文字通りの意味だ。アルバムというのは、それ単体で儲けを出すものじゃない。物販、ライブ。収益が大きい本筋に繋げる窓口なんだ」
ほたる「窓口……」
P「だから値引きして売るぐらいなら、いっそタダで配ればいいと思ってな!!」
ほたる「めちゃくちゃすぎないでしょうか!?」
P「いーやめちゃくちゃじゃない。今日アルバムを手に取った人が、それを窓口にしてアイドル白菊ほたるに興味を持てば。もう少し曲を聞いてみたい、ライブに足を運んでみたいと考えれば、アルバムは十分に役割を果たす。商品じゃなく、宣材と考えるんだ。こんな豪華な宣材を使ってるアイドル、ほかにいないぞワハハ」
ほたる「そりゃそうでしょうね!!」
P「むろん店舗や通販で事前に予約してくれていたファンには特典をつけた特別仕様を配布する手はずになっている。誰にも損はさせない」
ほたる「……そんなわけないじゃないですか。なに言ってるんですか」
P「ほたる」
ほたる「プロダクションが、損をしているじゃないですか。プロデューサーさんが、責任を取らされるじゃないですか」
P「そうかもしれないな」
ほたる「……」
P「だがそうなるかどうかはほたる君の肩にかかっているのだ! というかほたる君に助けてもらいたい切実に!!」
ほたる「わ、私に!?」
P「ウムその通りだ助けて(キリッ)」
ほたる「こんなキメ顔で子供に助けを求める大人のひと、はじめて見ました……!」
P「ウム僕も初めて助けを求めたが決して恥じない。だって必要なことだから」
ほたる「必要な、こと」
P「……CDを手にとっても、興味を持ってもらえるとは限らない。好みじゃないCDは中古ショップに売り飛ばされるかもしれない」
ほたる「……」
P「ほたる君はこれから、このトレーラーに満載したアルバムとともに全国を渡り歩いて路上ライブをする。そのスケジュールは公式サイトから見られるようにしてある」
ほたる「はい」
P「そこで歌を聞いた人がアルバムを手にとる気になるかどうか、アルバムを聞いてもう一度君の歌を生で聞きたいと思うか、物販に手を伸ばしてくれるかどうかはぶっちゃけ君の歌にかかってるのだ」
ほたる「は、はい」
P「ライブの割引。イベントへの入場券の代わり。僕たちはあらゆる手段でこのアルバムを白菊ほたるというアイドルに引き込む入り口に仕立て上げる。だが、その入り口まで通行人を連れて来ることは、君にしかできないんだよ」
ほたる「……私に、しか」
P「そ。だから、ほたる君に全力で歌ってほしい。君をもっと知りたいと、皆が思うように……僕は、きっと君にはそれができると、信じてる」
ほたる「……」
P「そうやって積み重ねていけば話題になるし物販やライブチケットの売り上げにつながって、CDの損なんてそのうち回収できる。そして次のアルバムはドカンと売れるって寸法よ、ワハハ」
ほたる「……私が」
P「ん?」
ほたる「私が、がんばれば、プロデューサーさんのお役にたてるんですか。プロダクションを助けられるんですか」
P「言ったろう、助けてくれって」
ほたる「はい」
P「僕もがんばる。君もがんばる。二人して、あのアルバム百万枚じゃ足りなかったって言えるぐらいにしてやろうぜ」
ほたる「……すてきな、アルバムですものね。私、大好きです」
P「僕もだよ。だから、やろうぜ、一緒にさ」
ほたる「……はい!」
ほたる(……それは、どのくらい本当のことだったのでしょう)
ほたる(大変なのは、間違いありません。しなくてよかったはずの、予定にない大仕事なのは、間違いありません)
ほたる(きっと、プロデューサーは大変です。もしかしたら、私を気にして、こんなことを考えてくれたのかも。そう思う気持ちは、どうしてもあって……でも)
P「さーてそれじゃこれから長いつきあいになる谷底号の装備について説明しようかな」
ほたる「谷底号。え、このトレーラー谷底号って言うんですか。縁起悪すぎないですか」
P「そう? いいと思うんだけどなあ」
ほたる(だけど、明るく胸を張って、私ならできるって言ってくれるプロデューサーさんの姿が。こんなのたいしたことないって笑っているお顔が、まぶしくて、うれしくて)
ほたる(胸がふるえる気がしました。背筋が延びる気がしました)
ほたる(歌いたいと思いました。聞いてくれるすべての人に届くように。このアルバムがすてきだって思ってもらえるように)
ほたる(そして、プロデューサーさんに。頼りにしてよかったと思ってもらえるようになりたいって、本当に、本当に、そう思ったんです)
P「まず寝室。我々は雑魚寝だけどほたる君にはプライベートをしっかり確保するから安心したまえ」
ほたる「ずっと車中泊なんですね、わかります」
ほたる(そう思えることがうれしかったから。そう思ってもらえる時が、誇らしかったから)
ほたる「やりましょうね、プロデューサーさん」
P「ああ」
ほたる(だから、私は)
ほたる(笑顔で、背筋を伸ばして、歩き出すことができたのでした……)
(おしまい)
51 : ◆cgcCmk1QIM - 26/04/12 22:14:07 ISvc 51/51最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

