勇者「魔王を倒してから、あれから二十年!」【1】
勇者「魔王を倒してから、あれから二十年!」【2】
勇者「魔王を倒してから、あれから二十年!」【3】
の続き
―― アノオー国首都の事件から一日後、魔王城 ――
勇者「……」ア~
勇者「……」イ~
勇者「……」ウ~
勇者「えお! かさたなはまやらわ! わ・お・ん! ヮ(゚д゚)ォ!」
勇者「……」ヨイショ
勇者「……」ヨイショ
勇者「……」ヨイショ
勇者「懐かしいですね。この静けさ」
勇者「なんかヘンテコな方便使うてた触手娘な料理番さん」
勇者「動きませんね!」ヨイショ
勇者「メッチャいかつい顔してるけど気は優しいガーゴイルの警備隊長さん」
勇者「動きませんね!」ヨイショ
勇者「なんでか本を濡らさずベタつかせず運ぶ天才スライムの図書司書さん」
勇者「動きませんね!」バシャーット
勇者「動けるようにしてあげますからね。すぐにね」
勇者「すぐですから。だからちょっと待ってて下さい。つーかガーゴイルさんすっげぇ重いな……」
勇者「……触手娘さんびっくりするぐらい軽いですね。スライムさんはこれえーっとば、バケツで」
勇者「掴めないんですよ。水状になっちゃって。変なもの混ざらないといいんですけども。そう。水さんもね」
勇者「水さんは……差別するわけじゃないですけど。こう。なんていうか。食器で運んであげようと思います」タプタプ
勇者「風さんは……どうしよう。えーっと。どこらへんで消えてるのか。とりあえず思いっきり空気吸い込みます」
勇者「ピンクの丸い生物も!」
勇者「かくやというぐらい!」
勇者「吸い込みます!」ギュオー
勇者「……」
勇者「吐き出します!」ボバー
勇者「そしてこちらが吐き出した空気を溜め込んでいく革袋になります。パンッパン。こん中に居てくれると良いんですが」
勇者「……」
勇者「炎さん。お部屋に行きますよ。なんかこうおもったより普通の部屋ですね? とか言っちゃって以降入れてくれなくなりましたけど」
勇者「勘弁して下さいよ。水さんが入ってるスープ皿ここの机に置いときますからね。目が覚めた時には目覚めのファックでもかまして貰って……」
勇者「……あれ? あの二人、まだそういう関係じゃないんでしたっけ? 清い交際とかぼく憧れます。爛れた交際も大好きなんですけどね、えへへ」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「土さん。ぼくのお部屋のベッドにいきましょ。睡眠姦とかもいいと思いますけど睡眠姦つーか今これ死姦ですしちょっとね」
勇者「でもパンツは拝……ぶっは! マジすか! あそこ丸出しのショーツどころかもうノーパンですか貴女! マジすか……!」
勇者「落ち着け。落ち着けぼく。流石に死んでる間にアレコレあかんだろ静まれよ股間のぼくよ……!」
勇者「はー……ふー……ああ、取り乱した。ところでなんでぼくの部屋にいるんですかね魔王」
勇者「ん。なに。なんか手に握られてますね。メモ用紙? 書き置きがあります。事切れる前になんとか書き殴ったのかメチャ見辛い」
勇者「なになに」
勇者「お前の装備を作り直すのは間に合わなかった? うんうん」
勇者「我が身体から鎧と剣を剥ぎ取れ? ……うん」
勇者「お前の身体にも合うはず? ……え」
勇者「健闘を祈る。 あ、はい」
勇者「……」
勇者「いや、おっさん、アンタ自分の体のサイズとぼくの身体のサイズ分かってます?」バイクライチガウンデスケド
勇者「……」
勇者「まあ、物は試しに。それじゃちょっと失礼して。あれこれどう外すのかな……あーっとこうして……ああして……」
勇者「……」ガチャガチャ
勇者「うん。なんていうかこう。すごいですね。一応ね。物の試しみたいな感じでね。着てみたら」
勇者「まさかジャストサイズフィットになるまで縮むとはね」
勇者「じゃーん」
勇者「勇者with魔王装備!」
勇者「漆黒の鎧! を纏い、漆黒の剣! を持つ、ぼく!」
勇者「姿見見てみて自分で自分に惚れかけました。なにこれ超格好いい!!」
勇者「元々魔王の装備ってカッコイイと思ってたんですよね! トゲトゲいっぱいついてて! ゴツゴツしてて! 手の先とか尖ってて!」
勇者「ゴツいくせに何か細い所はキュッと細くて遠い未来だとコジマ粒子で動いてそうな外見なんでめっちゃカッコイイとか思ってたの!」
勇者「っうううううううううん!」
勇者「ヒャッホウ!」
勇者「ひゃっほう(裏声)」
勇者「Wonderful!!!!!!!(軍団)」
勇者「テンションまじ爆上げ! 殺意は最初から噴火している火山が如し! 各位の死体それぞれのお部屋にセットよーし!」
勇者「各位の死体を黄泉帰らせる準備もそれとなくよーし! テンションオーケー! 殺意オーケー! 色々オーケー出撃準備オールグリーン!」
勇者「さぁ、行きますよ!」
勇者「さあ、逝かせますよ!」
勇者「さあってば! ほら!」
勇者「……」ペタン
勇者「……」アハ、スワッチャイマシタ
勇者「行きますし」
勇者「逝かせますし」
勇者「……さあってば……」
勇者「……」
勇者「ナメたらあっかーんーとか思うててもまだナメてましたよナメてたところを大打撃二回目なんですけど喰らいましたよ」
勇者「……まさかね。……先走って突っ込んできて炎さんに爆発四散させられてそこらへんに散らばってた天使共の欠片をね」
勇者「片付けきれてない欠片を媒体にそこから天界の門を開くとは思いませんでした。雪崩込んできて。取り囲んで。一気に……」
勇者「……転阻法。まあ。ぶっちゃけると。生き返った奴皆殺し結界ですわな。あれ発動するとは思いませんでしたよね~」
勇者「しかも。アノオー国から帰って来た直後にするとは。おもいっきり油断してました。ぼく以外みんなまた死んじゃった」
勇者「ぼく一人。この魔王城でぼくはまた一人です。この魔王城を……いつでも攻撃に取り掛かれるように囲んでる天使の軍勢も」
勇者「最前線で陣頭指揮を張ってると思わしきローガイも。初めてお目にかかる大天使様も。茫然自失してる間に取り返された女神さまも」
勇者「なつかしき……あの日の姿がなぜかそのままの魔法使いも……取るに足らないことです。……また、一人……」
勇者「……」
勇者「テンションあがったのに。殺意ばりばりなのに。身体。力、入んない」
勇者「……これ」
勇者「……やばいかも」
勇者「……ヒャッホウ」
―― アノオー国首都の事件から一日後、魔王城周辺 ――
大天使「正義は我らにあり、否、我らこそが正義そのもの、故に」
大天使「我らが屈することはなく、我らに寵愛された人間もまた屈するはずもなく、正義なき魔王軍ごときに正義たる天軍と人間軍が……」
大天使「と、実に怠慢と傲慢とが合わさって動かずじまい。見かねた女神さまが動かれたのを、見てやはり『ああ勝った』と動かず仕舞い」
大天使「魔王戦役における天界とはまさしくそのような有り様でありました」
大天使「勇者戦役でまたもそのような失態を演じるわけにはいかないのです」
大天使「此度もまたなのだろう、今回もまたなのだろう、どうせ愚鈍で恐れるにも足らない楽観主義者の集まりは何も出来ない」
大天使「勇者に、十分にそう思わせるために半月もの間これまでの惨状を見て見ぬふりをしてまいりました」
大天使「勇者が、人に何をしようとも……何人もの尊い命を奪おうとも……」
大天使「彼が塔から出てきた其の日に気付いていたのに……!」
大天使「……しかし、その、おかげで……見事に……不意を……」
国王「……」
国王「大天使殿」
国王「お気持ちは察する。余とて正味を言えばそれに何と思う気持ちはある、が、余にそれを言う資格が無いのも分かる」
国王「いや、そのような議論も何もかもを今は置き、初動の成功に浮かれず気を引き締めなおしましょうぞ」
国王「……相手はあの勇者でありますからな。どれだけ気を引き締めても足りぬ、それに……」
国王「早速予定外のことが起きておりますでな。奇襲、包囲、転阻法の起動からなる初動……」
国王「と、同時に、隠密作戦部隊投入による女神さまの奪還と。此の作戦に気づかれぬよう、怒りで飛び出してきた勇者を集中砲火しての足止め」
国王「奴が飛び出してこない挙句に隠密作戦部隊があっさりと女神さまを救出できたのはよいことですがな。女神さまの身柄的な意味でも弾の節約的な意味でも」
国王「のう、大賢者殿」
大賢者「ええ。女神様も何かされたような様子も無いとの事、ご無事であることお喜び申し上げます。それに勇者のあの様子」
大賢者「隠密作戦部隊からの報告を受け、あらため、透視魔法で確認してみたところ本当に呆けている様子ですわ」
大賢者「……」
大賢者「ワタクシが、こう、口にするのも少々憚られますが……」
大賢者「……二度目の、仲間たちの消失は相当堪えた様子で……」
大賢者「……」
大賢者「想定していた状況とは大きく異なりますが勝率は上がったかと。しかし大天使様、国王様」
大天使「承知致しております」
国王「うむ、軍を抱える身で一個人に負けるとは言いたくないが」
国王「空を埋め尽くすほどの天軍と。海を埋めるが如き船団、我らが人間軍の総員と。この完全なる奇襲、でもって」
国王「それに。女神さま。大賢者殿。大天使殿が揃って漸く……魔王一人に勝てるかどうか、と。なれば勇者相手にはまだ不足だと」
魔神「的確やね」
国王「無論そのことは弁えておるしその差を埋めるための策も幾つも有る。しかしこれならばと期待は出来る、呆けている今ならば」
大賢者「然り。想定外の事態でありますが運気はこちらに。出し惜しみはなしでいきましょう、ワタクシの活動時間もそう長く御座いません」
魔神「それもそうやね」
大賢者「今のうちに総攻撃を……」
大賢者「……」
大賢者「!?」
大天使「はっ!?」
国王「んぶぁっ!?」
魔神「どしたん? 総攻撃かけへんの? あ、そのまえにちょっと話聞いてくれへん?」
大天使「ま」
大賢者「ま……じ……っ」
国王「……っ」
魔神「魔神やでぇ。おっす、おっす!」ネブクロカタテニー
大天使「……魔神……さま……」
魔神「おっす!」ワテケンザン!
魔神「皆の衆元気してまっかー?」
魔神「天使長とかどやね。間違いを認められるようなったんは成長の証やね、せや! おっちゃん小遣いやろか!」
天使長「い、いえ、その、お、おおお、お構いなく……」
魔神「なんや! 若いもんが遠慮するこたないで! べつにおっちゃんの事昔あれやほらほれ女神派やから言うてほれー」
魔神「このくそアマを天界の長とするためにワテに色々難癖つけて魔界に放逐したときのこととかもう忘れてええねんて」
天使長「……」
女神「……」
魔神「アノオー国の王様いうんは君か! 立派な体格しとるな! 年柄年中ワインとか甘いモン採っとるからかえらい贅肉だるっだるんやな!」
国王「……初めてお目にかかりまする、余、いえ、私めは仰る通り――」
魔神「ええ、ええ! まどろっこしいのなしや! 贅肉ぽってりボデー仲間同士仲良くしよや! ワテもほれ食っちゃ寝しとるからこの通り!」
国王「ハ、ハハ……」
魔神「HAHAHA!」
魔神「あ、トモダチにはなるけど野球と政治の話は勘弁やで! 特に政治な! 君ほど頭も心も悪うとかようならんわ! 魔神の称号あげよか?」
国王「……」
魔神「魔法使いちゃんはどうやったっけ、会うたことあったっけか。あ、なかったわ、でもええねんて。こっそり見とったでー!」
魔神「ようもまあ同じ釜の飯食うどころか粘膜擦りおうとった恋人裏切ったなコイツー! みたいな。な!」
魔法使い「……」
魔神「でもええでー許したる、勇者くんに懇親の呪いかけられとんやったっけ、あれすっごいドギツイな!」
魔神「確か一日の始まりから一日の終わりまで二十才から九十歳ぐらいまでいーっきに加速するんやない?」
魔神「キッツいな! なんとか女神の加護と持ち前の魔力で全盛期の時間伸ばしとるみたいやけどー」
魔神「もう年老いると認知症とか骨粗鬆症とか発症して大変なんやろ。たまに耐えかねて発狂しとるもんな」
魔神「あれワテ思うんやけど『自分が送れない人生を送ってもらおう』的な意図になっとるんやないの。恨み篭ってえっらい方向に捩じ曲がっとるけどー」
魔神「キツイわー! ちょっと救けたろかしらと何度迷ったことか! でも自業自得やしこれからも元気に年老いとくとええわー」
魔法使い「……」
魔神「あ、女神ちゃん起きたんや? 何さっきからずーっと黙りこくっとんの」
魔神「あ、やから言うて喋らんで良え、貴様の声なんぞ耳に入れたら昼飯全部出るわ」
女神「……」
魔神「最初から、私は手段を選びません、私は人々のためになるなら如何なる手段も講じます、と、公言するならまだ潔いものを……」
魔神「仕方なかった、やるしかなかった、ああだここだ、ひとしきり言い訳並べて善人面のその醜い面見るだけでも吐き気がする!!」
女神「……」
魔神「あかん。つい素で喋ってもた、ともかく黙っとれ、黙っとるな、よし。んでな、皆の衆、こっからが本題やで?」
魔神「勇者くん。わての加護、与えることにしたから」
魔法使い「えっ」
大天使「!?」
国王「?」
女神「……!!?!!???」
魔神「勇者くん、わての加護でさらにパウワァアップ! ついでについでに! 今なら! 初回特典で!」
魔神「……」
魔神「いや、というか、これはスタンダードについていて当然だとは思うんだが。何故か女神が入れてないからやたら特別感出るだけでな……」
魔神「加護を与える以上もはや彼は我が息子にも等しいわけだな、で、息子に手を出されて憤怒せん親はそう居るまい? というわけで、だな」
魔神「あの子に手ぇ出したらワテ暴れ出すさかいに」
魔神「よろしゅうな」ニカッ
―― アノオー国首都の事件から一日後、魔王城正門前 ――
魔神「――とは、いうてみたもののなーそらなー来るわなー」
魔神「めがっさ進行準備進めとるやん」
魔神「めっちゃ隊列組んどるやんけー」
魔神「なんやえらいゆっくりしとるけどええんかアレ。素人目に見てもゆっくりやぞ、ゆっくりしていっとるね!?」
魔神「練度不足っちゅーことかな。天使どもも大天使も女神も賢者ちゃんもワンマンプレーできるもんやさかいなぁ」
魔神「程度の違いはあれど個々で強いと集の戦闘てあんまやらんもんな。そー思うと魔王くん優秀やったんやなぁ」
魔神「天使よりふつーに強い魔族ふつーに集軍して行軍させとったもんな、ああ人間界オワタわとか思うたもん」
魔神「しかし来てまうかーワシ懇親もとい渾身の脅し文句やったんやけどな」
魔神「けどまーなこのチャンス逃してもうたらもう勇者くん討つチャンスあらへんかもしれへん」
魔神「勇者くんただでさえ笑ろてまうほど強いんに魔王くんと四天王おったら無理ゲーやもんな」
魔神「魔王くんと四天王おらへん今がチャンスや、そやそや! ワシみたいな黒豚おっても問題あらへん!」
魔神「って」
魔神「ナメとんのかーーーー!!! そやむっちゃくっちゃナメられとるんやんやなワシ! 黒豚て! ひどいわ! あんまりや!」
大天使「……」
魔神「黒豚がどれほど愛されとる思うてんねん焼いてよし似てよし揚げてよし、メインからトッピングに酒のアテまで大人気やぞ!」
魔神「黒豚=ワシいうことはワシ=黒豚でありワシ=愛されやろ!? 愛して! 愛する黒豚が皆に警告しとんねんで!」
魔神「味に免じて、ここはひとつ黒豚の顔を立て……とかならんのか!? ほんっま天界集も人界集も愛が足りん!」
魔神「味に免じてたら世界崩壊の危機やもしれんから気持ちわかるけどな! ガッハッハッハ!」
魔神「やもしれんやなくて、危機やったわーワシうっかりーガッハッハッハー!」
魔神「……」
魔神「むなしい」
魔神「え、一人でノリツッコミしすぎるのこんなむなしいの。ワシもう限界よ? ワシたった数分でもう限界よ?」
魔神「二十年間も一人ノリツッコミしつづけまくる勇者くんてどないなっとんねん……」
魔神「二十年どころかそういや出てきてからもよう一人でぶつくさ言うとったな……」
魔神「……ようやく一人で喋らなくても済むようになった途端にコレやもんなほんっと天界集あたまおかしいんと違うか」
魔神「せめてあの時殺してやればよかったものを。殺せもせんのに中途半端に殺しに掛かるからこないことなってんねや」
魔神「つーかな。ちょっとそこの。ワシが黒豚ノリしとるときから居んの知ってんねんで」
大天使「……いや、その」
魔神「気の毒そうな目で見るんやめぇや! おどれが居るからワシボケとんのにおどれ何気まずそうな顔して突っ立っとんやコラァ!」
大天使「その……」
魔神「そのやあらへんわ! 突っ込まんかい! 突っ込めや! 突っ込んで! 手に持っとるその槍飾りかおい!?」
大天使「この槍で突っ込むのですか魔神様!?」
魔神「それや!」
大天使「これで!?」
魔神「違う!」
大天使「何が!?」
魔神「何がってお前こうあるやろ!」
魔神「ボケたら突っ込む、トークの基本やろ!」
魔神「誰もほんとにその槍でぶっ刺せ言わんわ痛いやろが!」
大天使「痛いで済む問題ではございませんけれども!」
魔神「それや! なんでそれせーへんのやさっき! ワシめっちゃ寂しかったやろが!」
魔神「ほんっともう君らとは解っとったけどノリ合わへん! コンビ解消させて貰います!」
大天使「コ、コンビも何も魔神様はとっくに天界から去られてえーと魔神様いうところのコンビは解散してますが……」
魔神「気持ちの問題や! もう君ら敵な敵! あんなこと言うたし天界から追放された恨みもあるけどほんまは元同族やし色々思うとこあってん!」
魔神「もうええ! 最後の一線きれてもうた! 宣戦布告とか律儀にしにきたんはえらいけど帰って全軍突撃してこんかい! 返り討ちじゃー!!」
魔神「……」
魔神「……ってまだ隊列出来てへんのかい! 君らこの期に及んでまだ勇者くんのこと舐めとるのか!?」
勇者「なめてますね」
魔神「なめとんな!」
魔神「せやななめとんな!」
勇者「せやろなめとるやろ」
魔神「な!」
勇者「な!」
天使長「な――!?」
魔神「ぎゃーーー!」
勇者「ぎゃーー!?」
魔神「え、ええ!? ちょっと勇者くん!? 何で居るの! さっきまで玉座の間でどえりゃあ凹んどったやろ!?」
勇者「いや、なんか正門の前むちゃくちゃ喧しいなって」
魔神「あ、ご、ごめんな」
勇者「ええんやで」
魔神「ありがとな」
魔神「やなくて! 立ち直り早やない!?」アトナンデチョットクチョウウツッテンネン
勇者「いや僕のメンタルどないなっとんねん言ったの貴方ですよ。僕のメンタルはもうオリハルコンもビックリですよ」
勇者「オリハルコンもビックリなぐらい固いのに折れても綿あめみたいにぴとっとくっつく脅威の新素材メンタルですよ僕のメンタル」
魔神「綿あめちぎってくっ付けても歪なんやけど! 元に戻ってそうで元に戻ってへん……」
魔神「……ああそっか、まだちょっと落ち込んでんのな」
勇者「はい」
魔神「わかったそこで大人しゅうしとき。ちょっとの間ワシやっとくから」
勇者「はい」ホンット、キョウイノニンジョウヤナ、マカイシュウ
魔神「じゃ、帰ってええで、大天使。それとも先に一戦、やっとくか?」
大天使「……はい?」
魔神「いくら力が衰えとるたぁ言え神は神、魔神は魔神。軍隊ぶつけりゃ勝てるやろーけど損害出るなー厭やなー」
魔神「私が先に戦って消しておけば勇者戦も恙無く済むなー」
魔神「とか、考えとったやろ? 勇者くんが居るんで出鼻挫かれたみたいやけど。勇者くんはほれ今こう無気力状態やし」
勇者「そふぁあああああ」
魔神「見い。人をダメにするソファもってきて寛ぎはじめてもうた!」
勇者「そふぁぁぁぁぁぁ」
魔神「ふざけとるようにしか見えんけど声がマジ死んどるからな……」
魔神「手出しして来ぃへんやろし。ちうかできひんやろし。ええんやでぇ大天使? 黒豚消しにかかってもええねんでー?」
大天使「……」
魔神「せやせや、そうこなな、こっすいこと考えとる癖して見た目凛々しく槍構えとるとこ見るとほんま己もあの女の眷属や思うわ」
魔神「ええでぇええでぇ。そんならやろか? やろうやろう。フフフ、ワシもなんやかんや優しいもんやで……」
魔神「……同族と、信奉した女が殺されてくとこ見んで済むようにしたるたぁなぁ。来いやあ!」
魔神「Hee!」
勇者「Haw!」
―― アノオー国首都の事件から一日後、魔王城正門前 の ソファァァァァァァ――
勇者「……」ソファァァァァ
勇者「……」ソファァァ
勇者「……」ソファ!
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」ウツラウツラ
勇者「……」コックリコックリ
勇者「……ん? ……眠い? ……あ、これ、魔法? やっば……ァー」スヤァ
勇者「……」
勇者「――」
勇者「ぼく、ゆーしゃ!」
父「うむ、お前は勇者だ!」
勇者「ちちうえ、まおー!」
父「うむ、父さん魔王だ!」
父「って、えー! 父さんまた魔王か! 父さんもたまには戦士とかやりたいよ!」
勇者「やーだー!」
父「んもう! しょうがないなー! しかしお前はほんとに勇者ごっこが好きだな」
勇者「だいすけ!」
父「うむうむ、いいことだ。勧善懲悪、世に悪は栄えた試しなしというし」
父「……ところでそれを言うならだいすけじゃなくて大好きだぞ、勇者よ」
勇者「ゆーすけ!」
父「さらに離れたな! フハハハそのざまではこの魔王を倒すことなど出来んぞ!」
勇者「でたなまおー! うおおお! これからのかつやくにごきたいくださいー!」
父「って、えー!!? 終わった! 終わった!? えっ? ちょっと待って今終わった!?」
勇者「おひるごはんですって。ははうえがよんでいます」
勇者「ざんねんだけどまたこんど、つきあってください」
父「お昼ご飯か! 母さんが呼んでるならしかたないな」
父「なあ勇者、それなら今度こそ父さん戦士をだな……」
勇者「ゆくぞまおー!」
父「はい」
父「……」
勇者「……」
父「なあ、父さん、戦士を」
勇者「なんですか、まおー」
父「なんでもないですはい」
勇者「ちちうえだいすき」
父「応よ魔王だろうがなんだろうがやったらぁ!」
父「――でねー! 勇者ってば父さんに全然主役やらせてくれねぇの!」
母「うふふふふ。いつもいつもノセられちゃってるあなたが悪いのよー」
父「かなぁ!? でもあの笑顔を見てると……」
母「かわいいわよねぇ、ついつい言うこと聞いてあげちゃうのよねー」
父「さすが母さんの子だ!」
母「あらあら、あなたの息子でもありますわよ、さすが私達の子です」
父「そう俺達の息子マジ天使!」
勇者「そしてそんなことめのまえでいわれるぼくは、まじはずか死」
父「ひゃっほう! そんな勇者もマジかわゆす!」
勇者「――」
勇者「……ぬありゃあ!!」カクセイ!!
勇者「……なんつー昔の夢を……郷愁の思い余りまくって死にたくなってきた……!」
勇者「くそったれめこの感触は女神様と魔法使いか! コロッといってるうちにサクッと作戦!?」
勇者「眠りの魔法とか子供だましみたいな魔法使ってくるとか思わなくてフッツーに油断してた!」
勇者「つーか僕は阿呆か! つーか僕は底抜けの阿呆だ! 油断してやらかしてんの何度目だってんですか学習しろー!」
勇者「お父様に叱られてしまいますね、勇者様(裏声)」
勇者「父上に叱られるどころか拳骨で頭蓋陥没させられますよ! あの方怒ったらほんっと恐いんですから!」
勇者「しかし、失敗を苦にして踏み出せないとさらに叱られてしまいますよ勇者様(裏声)
勇者「父上にさらに叱られるどころか母上にまで説教コースかもしれませんね! 精神的頭蓋が爆裂不可避です!」
勇者「では、勇者様(裏声)」
勇者「はい、気を取り直します!」
勇者「しっかし気分的に落ち込んでたらあんな魔法まで効くほど耐性落ちるとか僕の身体どうなって、って……」
勇者「やっばい魔神様! というかしまったまたやらかしたこんなことやってる場合じゃないんですって!」
勇者「こーゆーパターンのときは大概味方側がやられてるもんなんですよ!」
勇者「……あ、でも、魔神様のことだし天使長程度サクッと……」
魔神「おぶぶぶぉぉぉ……ゆ゛ゔじゃぐん、ぐっぼーじん……」
勇者「あ、メチャクチャボコられてますね」
勇者「……」
勇者「魔神様ァァァァア!?」
勇者「ちょっと! 予想を遥かに超えるボコられっぷりなんですけど!」
勇者「魔神様なのか黒餅様なのかわかんない顔になっちゃってるんですけど!」
魔神「……がいめいずるが……」
勇者「改名しなくていいです!」
勇者「というか大天使様の得物って槍ですよね! 槍と戦って刺し傷一つもないくせに顔面殴られ痕だらけってどういうことなんですか!」
魔神「……」
勇者「……ん? あ、耳貸せって?」
勇者「……はい、はい? なんとか不意打ちで槍を奪ったはいいけど? 手も足も出ない? 運動不足で?」
魔神「……」
勇者「……はい、はい? 思った以上に身体が鈍ってて? 色々大口叩いたのに手も足も出ないとか死にたい?」
魔神「ぐすっ」
勇者「あ、泣かないで、大丈夫、大丈夫ですから。ね! 僕、がんばりますから!」
勇者「僕、勇者ですよ」
勇者「ね、勇者ですから」
勇者「弱き者のために立つとかむしろ本懐ですし? なんかホントに力湧いて来たし?」ワレナガラホントドウナッテルンダロ、ボク
魔神「あかん……もうホントあかん……こないなっとる勇者君引っ張り出すとか……ワシ、改名する……」クロモチサマニナル・・・
勇者「いやたしかに黒餅っぽい体系ですけどっていうか顔徐々に戻ってきてるのは凄いですね!」
勇者「……致し方ありません。黒餅様を魔神様に改名し直させるという大事はあとで魔王たちに丸投げするとして」
勇者「僕はこっちの連合軍(しょうじ)を片付けますか。まったく、勇者も楽じゃありませんが、良いでしょう」
勇者「そこの大天使、むこうの女神様に魔法使いに王様たちに天使達全員に言ってますよ聞こえてますね?」
勇者「落ち込んでる暇なくなりました」
勇者「選手、交代です」
勇者「……というか、根が甘ちゃんなのか、戦闘ってもんを知らないのか、ミックスされて手がつけられない説推しますが」
勇者「いや、待っていて下さるのはありがたいのですけれども、待っていなくてもよろしいですよ、大天使様」
大天使「いいえ。迂闊に手が出せなかっただけですよ、今更仁義に悖るだとかいったことは言いません」
大天使「貴方はどう出るかわからない、そも、私一人では貴方に勝てない」
大天使「幸い、こちらの浮足立っていた陣営も、貴方が騒ぎはじめてから漸く気を取り直して攻撃態勢を整えたところです」
勇者「ああ、なんだ、また僕の悪い癖が出てるだけですか。すみませんね、どうも、僕は油断しまくり相手舐めまくりの傾向強いみたいで」
勇者「魔王と戦っているときにはこんなことなかったんですけれど。ああでも、申し訳ない、それで一つ思い出したことがございましてね」
勇者「数揃えても無駄ですよ」
大天使「……」
勇者「あ、いや、幾ら数があろうと質が駄目ってのもあるんですけど数を揃える事が先ず駄目なんです」
大天使「……はい?」
勇者「僧侶と女神様と僕と魔王のタッグ戦ってお聞きになりました?」
大天使「……はい」
勇者「魔王が、僕ら、僕と魔法使いと戦士と僧侶のパーティがね、見たことない魔法ぶっぱなしてたじゃないですか」
勇者「周りの被害を一切顧みないことで漸く使える、周囲殲滅型の魔法ね。まあ皆々様も色々と用意してきたみたいですが……」
勇者「……いや、しんどいですよ? ……だって、魔王城も、魔王城の中にいる皆も吹っ飛ばす羽目になっちゃいますからねぇ」
勇者「でもこの状況、たった一発で、どーんってね?」
大天使「!」
勇者「黒餅様」
黒餅「あいよ」
勇者「後で必ず、蘇生しますから」
黒餅「うん、よろしくな。準備どれぐらい掛かる?」
勇者「一分」
黒餅「うん。大天使に、女神に魔法使い相手に一分か。しんどいけどまぁなんとかなるやろ、命守る必要ないなら」
勇者「では」
黒餅「またな、勇者君」
勇者「……使うのは、初めてですね。……あ、魔法使いはなんか感づいたっぽいかな? 血相変えてら、ハハハ」
勇者「ああ、無駄無駄。流石にいくら鈍ってても魔神が捨て身で掛かっていけばレジストしてる暇無いです」
勇者「魔法使いもこういうの持ってるんでしょ? 女神様があとなんとかギリギリかな」
勇者「使う暇もありませんけどね、というか黒餅様凄いな、いくら捨て身になったからって大天使引っ張って突撃してっちゃった……」
勇者「……こうなると、先に戦士と僧侶と賢者殿やっといてよかったですね。あの三人が残っていたら成功しなかったかも」
勇者「なんかほんっと色々策練ってきてたみたいで。真正面から戦り合ったら勝てなかったかもしんないですから」
勇者「……やだなあ、皆、吹っ飛ばしちゃうの……」
勇者「……名前、どうしましょう。魔王のは、日輪よ喘げ、でしたっけ。魔王らしいニックネームというかなんというか」
勇者「じゃあ僕は勇者らしく。――光あれ」
勇者「ヒャッホウ」
続き
勇者「魔王を倒してから、あれから二十年!」【5】(完)

