1 : 名無しさ... - 25/07/26 00:03:06 2XgW 1/2120年後の魔法使いたちの話。
前作 モバP「誕生日のふじともが猛烈に甘えてくる」
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元スレ
姫川友紀「シンデレラの魔法」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1753455786/
腕時計をちらりと見る。本番まで一分を切っていた。
忙しく動き回るスタッフの人たち。蜂の巣をつついたような大騒ぎの中でも、しっかりと秩序がある。今頃スタンドには数え切れないぐらいのお客さんがいて、みんながあたしの色のペンライトを振っているんだろう。でも、その相手はあたしじゃない。今のあたしには別の役割がある。
「プロデューサー……行ってくるね!」
目の前の女の子とグータッチ。「楽しんでおいで!」ってあたしの声に、素敵な笑顔を浮かべて駆け上がる。弾けるような音と、何本もの光。
降り注ぐ歓声は、あたしの時に負けないぐらい大きかった。
ステージ裏で映像を眺めていると、ドアがノックされた。返事をする前にドアが開く。そんなことをする人は1人しかいない。
「友紀、どうや?」
「Pさん!」
数年前までのあたしのプロデューサー。そして今は、あたしのパートナー。このプロダクションの社長だ。知り合って20年にもなる。どんなバッテリーよりも息が合ってる自信があるし、Pさんのことなら何でも分かるんじゃないかな?
「体調も緊張も問題なさそうだったよ。あたしに似て本番に強いのかも!」
「ファーストライブでガッチガチやったのが何言うとんの」
笑いあいながら隣に座る。目の前のディスプレイでは、あの子ーあたしが初めて担当した彼女が、満員のファンの前で華やかに踊っていた。その姿はまさにスターで、緩くなった涙腺がじんわりと開き始める。
「感慨深いなぁ……」
「あの怖がりな子がシンデレラガールやもんなぁ。よう頑張ってたよ、友紀もあの子も」
「直接言ってあげてよ」
「絶対やらん。怖がりのくせに調子乗りやから、甘やかしたらあかんもん」
今までと違って、Pさんはあの子のことにあんまり関わっていなかった。そのせいかあの子はちょっとPさんを怖がっている。Pさんもそれが分かっているから、反抗期の娘を相手にするようなやり方になっていた。端から見るならとっても面白い。
Pさんは楽しげに尋ねた。
「で、○代目シンデレラガール見てどうよ」
「あたしから?」
「そう」
「んー……正直もっと上手くやれると思うよ。ダンスも、歌も、笑顔も。でもさ」
もう一度画面を見る。オレンジ色のかわいらしい服と、腕に巻いたリストバンド。弾けるような笑顔に、元気をくれるような歌。ちょっと音程は外してるし、笑顔も硬い。それでも。
「あの子が今見せられる、一番いいものを出してる。だから合格!」
「やな。プロデューサーらしくなってきたやん」
思い返せば、あの子と歩んで5年近くになるのかな。あたしがアイドルを引退してプロデューサーになってから、初めてあたし自身がスカウトしてきた子。最初にレッスンしたとき、昔のあたしより体が硬くてびっくりしたっけ。まさかシンデレラガールになれるだなんて。
そんな彼女が、今ステージでみんなを釘付けにしている。今後ずっとアイドルとして生きていけるだろう。それは誰が呼んだから?あたしだ。
ふと、何度か彼が言っていたことを思い出す。プロデューサーとは何だったか。
「……ねぇ、Pさん」
「?」
「あたし、魔法をかけてよかったのかな」
ーーー
真剣な顔をした友紀の言葉を聞いた俺は頭を抱えたくなった。俺と全く同じ悩みを抱えることになるとは!だが。
「何を悩んどんの。確かに友紀があの時会わなければ、あの子はもっと普通の人生送っとったと思う。けど友紀はあの子と会ってスカウトして、こんなところまで駆け上がっていった。何でや?」
今の俺はろくでもない顔をしていることだろう。嘘はついていないのだ、嘘は。彼女が苦しまないための言葉としてこれ以上のものはない。だから。
「それが運命やったんや。友紀とあの子の」
「!」
友紀の瞳が開く。その目の奥に、少しだけ安堵が見えた。良かった、本当に。悩むのは男の仕事でいい。
「見てみ。あの子、あんなに楽しそうやん。それは間違いなくあの子がアイドルとして輝く星のもとにあったからや」
「……そう、なのかな」
「そう。友紀は確かに魔法をかけたけど、その魔法は1を10にしたのであって、0を1にしたんやない。今のあの子が100になったのはあの子自身の力や」
ろくでもないことを言っているとは思う。だが、こうするしかないのだ。例え彼女の力を過小評価しても。俺は彼女をキルケにしていなければいけないのだ。キルケは魔法を解くことが出来る。
「やから、今はあの星を輝かせよう。それが魔法使い友紀の仕事や」
長い長い呪文を届けた口は、少しだけ震えていた。
ーーー
Pさんは嘘つきだ。見栄っ張りで、頑固で、とってもばかな人だ。だってあたしがPさんのこと、ぜーんぶ知ってるのを分かってて、強がるんだから。
Pさんがあたしと結婚した後も、ずっと悩んでいることはとっくに知ってる。いつも大胆で、勇敢で、それでいてとっても臆病な彼は、未だにあたしがもっと幸せになれる運命があったと信じて疑わない。
だから彼はああ言った。今あの子が辿り着いた未来が一番良い未来だと。もちろんあたしもそう思ってる。でもあたしはそれが気に入らない。もう昔とは違うのに。
ステージから夢見心地で降りてきたあの子を呼んで、そっと耳打ちをする。困惑交じりに頷いたあの子を見送って、誰にもバレないように小さく呟いた。これが、今Pさんに必要なもの。それを与える、たった一つの冴えたしかえし。
「……魔法、かけてあげるね」
ーーー
タバコを吸っていると、遠慮がちにドアが開いた。振り向いて少し驚く。先ほどまで友紀とはしゃいでいた彼女だ。うつむき加減に歩いてきて、横に座った。タバコの匂いがつくだろうに。
「……あの、社長」
「Pさんでええよ。呼ばれ慣れん」
「じゃあ、Pさん」
灰を捨てて、ゴミ箱に投げる。香りだけが残っていた。いつまでも残り続ける、古傷にも似たそれ。
「私、アイドル続けて良かったって思ってるんです」
「え?」
「プロデューサーから聞きました。私が辞めそうになったとき、引き留めるべきかずっと悩んでたって」
友紀のやつ、あんなことまで言いやがったのか。事務所のスローガンに背く行いだが、俺は引き止めないほうがいいと思っていた。彼女はこの世界にスカウトされている。
「……悩んだ。お前はスカウトで入ったから、魔法が解けたと感じたんやったらそれを尊重すべきやってな。実際あの時のお前はこの舞台以外の方が合ってると思ってた」
「確かにあの時、私は端役でした。それにとても幼稚で、だから許せなかった。でも、あそこで辞めていたら私はきっと何にもなれませんでした。出番さえもないただの人だったんです。だから、」
「最高の運命を、ありがとうございました」
……友紀のやつめ。この子がこんな言い回しをしたことはないのに。きっと俺がついた嘘のことなど、簡単に見抜いているのだろう。その嘘を咎めつつ、嘘が真実になるように仕向けているのだ。それが、彼女の俺にかけた魔法。
「……それは俺に言う言葉ちゃうやろ」
「プロデューサーには言いましたよ」
「そっか。ええ魔法使いに巡り会えたな」
そう、いい魔法使いだ。正しい運命を探り当てて、そこへの道筋を一緒に歩く。迷う人があれば、その言葉で救いを与える。友紀はその仕事を完璧にやってのけた。なら、今俺が為せることは何だ?たった一つしか無いじゃないか。
20年後も、誰もがシンデレラとその魔法使いでありますように。星が瞬き始めた空を見上げて願う。そんな俺を、今誰よりも輝くシンデレラとその魔法使いが、そっと見つめていた。
完
21 : 名無しさ... - 25/07/26 07:40:22 2XgW 21/2120周年ということで20年後の728プロです。20年だったらさすがにくっついた模様。
あと今回の作品は伏線を張りまくってます。そう遠くないうちに回収できるはずです。

