一つ前
美希「デスノート」 3冊目【3】
月「…………」
L「…………」
月「…………ん?」
パサッ
(無言で美希と春香を見つめていたLと月のすぐ傍に、どこからともなく、一冊の黒色のノートが落ちてきた)
(そのノートの表紙には『DEATH NOTE』という文字が書かれている)
月「! これは……」
L「『黒いノート』……ですね。おそらくは、星井美希が持っていた……」
月「…………」スッ
(ノートに手を伸ばす月)
L「! 月くん」
月「……もし今、この場に死神が居るのなら――……あえて僕達に触れさせるために、このノートを落としたとみるべきだ」
L「!」
月「勿論、僕達人間には死神が何を考えてそうしたのかなんて分からないが……あえてそうしたということは、少なくともそこには何らかの意図があるはず……まさか僕達を殺すためにはノートに触れさせることが必要、などということもないだろうしね」
L「それはそうかもしれませんが……しかし……」
月「竜崎。今、この場に死神が存在すると仮定するのなら……想定しうる死神の意図に沿った行動を取っておくべきだ。それこそ、僕達がここでノートに触らなければ即殺すつもりなのかもしれないだろう」
L「……そうですね。ただ、ノートに触れれば、おそらく……」
月「ああ。死神が直接視認できるようになるんだろう。あの時のミサと同じように」
L「…………」
月「だが、僕はそれでも構わない」
L「!」
月「それは勿論、そうしない方が殺される可能性が高いと考えられるからだが……しかし、それを抜きにしても……もう覚悟はできている」
L「月くん」
月「大体、ミサには本当の推理の内容を告げずにノートを触らせておいて……いざ自分の番になると触らないなんて、いくらなんでも虫がよすぎるだろう?」
L「……そうですね」
月「よし。じゃあ……触るぞ」
L「はい」
月「…………」スッ
(ノートを手に取る月)
月「………… !」
(次の瞬間、月の視線はある一点に釘付けになった)
L「? 月くん?」
月「……竜崎。『事実は小説より奇なり』とは……よく言ったものだな」
L「! ということは……」
月「ああ。……居るよ」
L「!」
月「いや……より正確には『居た』というべきかな。おそらく、僕達がここに来た時から―――ずっとね」
(月の視線の先には、月とLから2メートルほど離れた距離で、不敵な笑みを浮かべながら宙に浮いているリュークの姿があった)
リューク「……ククッ。今のお前達の会話、ずっと聞かせてもらっていたが……」
月「!」
月(言葉を……そうか。そういえばあの時、ミサも……)
リューク「まさか……分かっていたのか?」
リューク「この俺が―――『死神』が存在するということを」
月「! …………」
L「月くん。私にもノートを」
月「……ああ」スッ
(Lに向けてノートを差し出す月)
(Lはノートに触れると、すぐにリュークの存在に気付いた)
L「! …………」
月「竜崎」
L「……ええ……死神? でいいのかどうか、分かりませんが……」
L「本当に……いたんですね」
L「このような……存在が」
月「ああ。しかもどうやら……本当に『死神』らしい」
L「! ……そうなんですか?」
月「今、自分でそう言っていたからな。そうなんだろう? ……『死神』」
リューク「……ククッ」
L「!」
リューク「いかにも……俺は『死神』」
リューク「死神のリュークだ。よろしくな。ククッ」
月・L「…………」
L「言葉を……そういえばあの時、弥がそれらしきことを言ってましたね」
月「ああ。そしてやはり、この『黒いノート』を触った者にしか死神の姿は見えず声も聞こえない……僕達の推理通りだな」
L「はい」
リューク「ククッ。まさか俺の存在に気付いていただけじゃなく……そんなことまで読んでいたとはな」
リューク「大した奴らだ。逆にこっちが驚かされた」
L「あなたの……『死神』の存在の可能性を最初に考えついたのは月くんでしたけどね」
リューク「ほう」
月「…………」
リューク「何で分かった? 確かにお前達の言う通り……ノートに触れた人間にしか俺の姿は見えないし、声も聞こえない。推理なんてしようがないように思うが……」
月「……確証を得たのは一週間前だ。渋谷の撮影スタジオの監視カメラの破壊……あれをやったのはお前だろう?」
リューク「確かにあれは俺がやったが……それだけでか? いや、『確証を得た』という言い方からすると……もっと前から勘付いていたということか?」
月「僕が最初に『死神』の存在の可能性を考えたのは……星井美希の部屋に付けられたという監視カメラの件からだ」
リューク「! …………」
リューク(確かに、あれも俺が探したが……)
月「星井美希と天海春香が取っていた行動からして、星井美希は部屋に付けられていた全てのカメラの位置を把握しているとしか思えなかった。だがそのカメラの数は64個にも及んだという……いくらなんでも、それだけの数のカメラの位置を、そのどれにも映ることなく全て把握することなんて不可能だ」
月「普通の人間には……ね」
リューク「……なるほど。それでお前は、『人間以外の何かが存在している可能性』に勘付いた……ってことか」
月「ああ」
リューク「それは分かった。だが、そこからさらに……その『人間以外の何か』を『死神』とまで特定できたのは何故だ? お前達人間がよくする空想なら、『悪魔』とか『幽霊』とか……他にも色々思いつきそうなもんだが」
月「そこに大した理由は無い。ただ、この『黒いノート』……これがもし、僕達が推理した通りに『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』であるとすれば……そんな物が、この僕達人間の世界に当たり前のように存在しているなんて俄かには考え難い」
月「それならむしろ、それは僕達人間の世界に元々存在していた物ではなく、この世界とは『別の世界』に居る者……つまり『異界の者』によってもたらされた物である、とでも考えた方がまだ理解できる……そしてそうであるとすれば、『人を殺せるノート』である以上……その『異界の者』を表す言葉としては、『死神』という表現が最も適当だと思っただけだ」
月「だから今、本当に……そのような『異界の者』が存在し、それどころか……それがまさに『死神』そのものだったと知って……本当に驚いたよ。……『死神』。いや……」
月「『リューク』」
リューク「……ククッ。なるほどな」
リューク(こいつ……『夜神月』……)
リューク(まさか、ここまでとはな)
月「そして、リューク……お前は撮影スタジオの監視カメラを破壊した張本人であり……今、この『黒いノート』を僕達の前に落とした」
リューク「ああ」
月「一応、確認しておくが……この『黒いノート』は星井美希が所持していたものに間違い無いな?」
リューク「そうだ」
月「ということは……」
(浜辺に横たわっている美希と春香を一瞥する月)
月「やはり、この二人がキラ……だったんだな」
L「…………」
リューク「ああ」
月・L「!」
リューク「まあ厳密には、キラとしての裁きをしていたのはミキの方だけだったがな」
リューク「ハルカがしていたのはあくまでもミキの補佐のようなものだけだ」
L「しかし、天海春香も……星井美希がノートを使い始めるよりも前に、自らの意思でノートを使っていた」
リューク「!」
L「昨年のちょうど今くらいの時期から……彼女は約三か月かけて、765プロダクションを守るため……“765プロ潰し”計画の主要人物達を八人殺害した」
L「それが『アイドル事務所関係者連続死亡事案』の真相」
L「……ですよね? リュークさん」
リューク「ああ。その通りだ。よく調べてるじゃないか」
月「だが、今から一週間前のファッション誌の撮影の日……スタジオの更衣室内に仕掛けられていた監視カメラによって、星井美希はこの『黒いノート』の存在を“L”に認知されたことを知った」
月「そして彼女は直ちに天海春香に連絡を取り……“L”の監視の目を掻い潜って逃走した」
L「…………」
月「その後、星井美希と天海春香は、どこかで落ち合った末に……ノートに自分達の名前を書き――……」
月「自ら、命を絶った」
月「……そうだな? リューク」
リューク「……ああ」
(浜辺に横たわっている美希と春香に視線を向けるリューク)
リューク「全て、お前の言う通りだ」
リューク「この通り……ミキもハルカも死んだ」
リューク「つい、さっきな」
月・L「…………」
月「……ところで、僕達の推理が正しければ、この二人は別々にノートを所持していたはずだが……」
リューク「ああ。そうだ」
月「では、お前がこの二人にそれぞれ別々にノートを渡したということか? リューク」
リューク「いや、俺がノートを渡したのはミキだけだ」
月「? 何?」
リューク「ハルカにノートを渡したのはまた別の死神だ」
L「ノートごとに渡す死神が異なる……ということですか」
リューク「まあ必ずそうってわけでもないが、基本的にはな」
月「じゃあ天海春香にノートを渡した死神はどうしたんだ? そいつも僕達には見えていないだけでこの場に居るのか?」
リューク「いや、そいつはもうここにはいない。ミキとハルカの死を見届けた後に帰った」
L「帰った……?」
月「どこに?」
リューク「もちろん、俺達死神が住んでいる世界……死神界にだ」
月「死神界……」
L「…………」
リューク「そうだ。死神は皆そこに住んでいる。ノートを人間に使わせ、その人間に憑いている死神以外はな」
月「ということは……人間にノートを渡した死神はその人間に憑いていなければならない、ということか?」
リューク「ああ。その人間が死ぬまでな。そしてそれは死神界の掟でもある」
月「だから天海春香の死後、彼女に憑いていた死神は死神界に帰ったのか」
リューク「そういうことだ。あとついでに言っておくと、ハルカが持っていたノートももう人間界には無い。その死神が持って帰っちまったからな」
月「なるほど。だが、それなら何故……お前はまだ人間界に残っているんだ?」
リューク「…………」
月「いや、より正確に言うと……何故、お前は僕達の前に姿を現したんだ?」
リューク「! …………」
月「今の話からすると、本来であれば星井美希の死後、お前も死神界に帰ることになるはず……天海春香に憑いていた死神がそうしたように」
月「なのにお前はあえて人間界に残り、星井美希が使っていたノートを僕達の前に落とし、触らせ、自分の姿を視認させた……」
リューク「…………」
月「勿論、このノートに触れる前に言っていた通り……僕もお前が何らかの意図をもってそうしたのであろうとは考えたうえで、それでもあえてこのノートに触れることを選んだわけだが……」
月「だがその『何らかの意図』が何であるかまでは僕には分からない。まさか二人が死んだから、これまでの経緯を全部ご丁寧に解説することにした……などというわけではないのだろうが……」
L「…………」
リューク「ククッ。解説か……まあそれをすることも吝かではないが……お前の言う通り、当然俺の目的は別にある」
リューク「こうして、お前達の前に姿を現した目的はな」
月「何なんだ? それは……」
リューク「……それは後で話そう。その前に確かめておきたいことがある」
月「? 何だ?」
L「…………」
リューク「『夜神月』」
月「! …………」
リューク「そして」
L「…………」
リューク(こいつは……一応、本名では呼ばない方がいいか。こんなことで掟違反になっちまうのも馬鹿らしいしな)
リューク「『竜崎』だったな」
L「…………」
リューク「で、ミキの確信を信じるなら―――お前が“L”ってことらしいが」
L「!」
リューク「そうなのか?」
L「…………」
L(星井美希が私を『“L”である可能性が最も高い者』として疑っている可能性があるとは推測していたが……まさか確信まで得ていたとは……)
L(一体どのタイミングで? やはり二人だけでアリーナに行ったあの時……?)
L(しかしいずれにせよ、それなら何故……私を殺していない?)
L(あるいは、名前自体は既に書かれているがまだ死の時期が到来していないだけ……ということか?)
L(だが今……この場でそんな思考を巡らせても無意味か)
L(今、私が考え、判断しなければならないことは……)
L(この死神に……真実を話すべきかどうか)
L「…………」
リューク「ああ。一応言っておくが、俺に嘘をついても意味無いぜ」
L「!」
リューク「この通り、俺は俺で……自分のデスノートを持っている」スッ
(自分の腰に着いているデスノートを指差すリューク)
月「! 本当だ。というか……そのまま『デスノート』なのか。このノートの名前は」
リューク「そうだ。人を殺すノートだから、デスノート。分かりやすいだろう?」
L「…………」
リューク「そして、もう一つ」
リューク「俺達、死神の目には……人間の顔を見ると、その人間の名前が見えるんだ」
リューク「『その人間を殺すのに必要な名前』がな」
L・月「!」
月「殺すのに必要な名前……」
L「では、あなたの目には私の本名も見えているということですか」
リューク「ああ。ばっちり見えているぜ。お前の顔の上にな」
L「…………」
リューク「分かったか? つまり俺はいつでもお前達を殺せるということだ」
リューク「俺の気まぐれで死にたくなければ、俺の質問には正直に答えた方が良い」
L「…………」
月「だがその割には、さっき『竜崎』と呼んでいたが……」
リューク「ああ。死神の目で見える人間の名前を他の人間に教えてはならない、という死神界の掟があるからな」
リューク「お前が竜崎の本名を知らない可能性もあると考え……念の為『竜崎』と呼ぶことにしただけのことだ」
月「なるほど。確かに僕は竜崎の本名は知らない……まあ別に知りたくもないが」
L「…………」
月「しかし、『死神の目で人間の顔を見ればその人間の名前が分かる』……か。だとすると、天海春香はそれと同等の能力を保有していたということか?」
L「おそらくそういうことでしょうね」
リューク「いや、能力というか……ハルカが持っていたのは『目』そのものだ」
月「『目』そのもの?」
リューク「ああ。デスノートの所有者となった人間は、ある取引をノートの元持ち主の死神とすることで、自分の目を死神の目にすることができるんだ」
L「! 死神と『取引』……ですか。これも月くんが推理していた通りですね」
リューク「ほう」
月「……まあ、流石に『死神の目』を手に入れられるような取引だとは思わなかったが……しかし、『取引』というからには……人間から死神に対しても何らかの対価……代償を差し出すということか?」
リューク「ああ。死神の眼球の値段はその人間の残りの寿命の半分だ」
月「! 残りの寿命の半分……」
L「じゃあ、天海春香は……」
リューク「そうだ。あいつは自分の意思で死神と取引をし、死神の目を手に入れ……残りの寿命を半分にした」
リューク「勿論、その死神はあいつにノートを渡した死神であって、俺じゃないがな」
L「…………」
月「死神の目……か。僕はそれなりに長い間、天海春香の家庭教師をしており……その間、彼女をかなりの至近距離から観察したりもしていたが……全く分からなかったな」
リューク「ククッ。そりゃそうだ。死神の目といっても、見た目には普通の人間の目と何も違っては見えないからな」
月「なるほど……」
リューク「で、話を戻すが……とにかくそういうわけで、俺はいつでもお前達を殺すことができる」
L「だから、殺されたくなければ質問には正直に答えた方が良い……でしたね」
リューク「ああ」
L「…………」
月「竜崎」
L「……ええ」
L(勿論、現時点でもまだこの死神が嘘をついているという可能性は一応残る……が……)
L(星井美希と天海春香が死亡した現在において、あえてこの死神が私達に嘘をつく意味があるとは思えない)
L(そしてこの死神の言うことが本当だとしたら……私も夜神月もいつ殺されてもおかしくないということになる。ならば今は、その危険を少しでも回避するための行動を取るべき……)
L「……分かりました。では先ほどのリュークさんの質問に回答します」
L「私がLです」
リューク「……ククッ。やっぱりそうだったのか。ミキの直感も大したもんだな」
L「直感?」
月「…………」
リューク「ああ。覚えているか? 今から十日前、お前がミキと二人でアリーナに行った時のこと」
L「それは勿論、覚えていますが」
リューク「あの時、ミキは泣いただろう?」
L「はい」
リューク「どうやらそれこそが、お前がLだと確信した直接的な理由だったらしい」
L「! …………」
リューク「あの日、お前がハルカの心情について語った時……ミキは嘘でも演技でもなく、心の底から感動し……泣いていた」
リューク「だが一方で、ミキは既にお前がキラ事件の捜査本部に居ること、そして自分とハルカに嘘をついていることを知っていた」
L「! …………」
リューク「だからこう考えたそうだ」
リューク「『“嘘”で自分を“感動”させることなんて、普通の人間にはできるはずがない』『だからそれができた人間で、かつキラ事件の捜査本部に居る竜崎こそがLである』……と」
月「……なるほど。それで『直感』か」
L「ではやはりあの時、私が覚えた言いようもない不安は……」
リューク「ほう。じゃあお前もお前で、ミキに何かしら勘付かれているという自覚はあったのか?」
L「まあ……流石に星井美希のその思考過程までは読み切れていませんでしたが」
リューク「ククッ。それでも大したもんだ」
月「……リューク」
リューク「ん?」
月「お前は僕達をいつでも殺すことができると言ったが……じゃあ逆に、僕達がお前を……死神を殺すことはできるのか?」
リューク「! ……それは基本的には無理だ。死神は、頭を拳銃でぶち抜かれようと心臓をナイフで刺されようと死なないからな」
リューク「そして勿論、死神にはデスノートも効かない。ノートに死神の名前を書いたところで何の効果も得られない」
月「『基本的には』ということは……手段として全く存在しないわけではない、ということか? 死神を殺すための方法は」
リューク「まあな。だがどのみちお前達には無理だ」
月・L「…………」
リューク「……さて。じゃあ次は、俺がさっきの質問に答える番だな」
リューク「俺がお前達の前に姿を現した目的……それは――……」
月・L「…………」
リューク「これから、お前達にそのデスノートを使わせるためだ」
L「!」
月「何……?」
L「私達に……」
月「このノートを使わせる……だと?」
リューク「ああ」
リューク「俺は面白いものが観られればそれでいいからな。それが叶うのなら、ノートを使う人間は別にミキやハルカじゃなくてもいい」
月「では僕達にノートを使わせ……いや、二人に代わってキラの裁きを行わせ、そのさまを観て楽しもうということか?」
リューク「……俺は別に、お前達にキラの真似事をさせようとは思っていない」
月「? 何?」
リューク「そもそも、俺がミキにノートを渡した時も……俺としては、とにかく『面白いもの』が観られればそれで良かったんだ。だからノートの使い方についても、俺はミキに口出ししたりはしなかった」
リューク「犯罪者裁きも俺の意思とは無関係に、ミキが自分の意思で始めたものに過ぎない」
月「だがそれなら……誰にノートを渡しても良かったんじゃないか? 何故、星井美希に?」
リューク「俺はノートを渡す人間を探し始めた時点で、既にハルカがノートを使って他の人間を殺していたことは知っていたからな。それならば、ハルカから近い位置に居る人間にノートを渡した方が、より面白いものが観られるようになるんじゃないかと思ったんだ」
リューク「となると、後は誰に渡すかだが……ちょうどその頃、ハルカの仲間の765プロのアイドル達は皆、当時のプロデューサーに恨みを抱いているようだった。俺はこの中の誰にノートを渡しても、そいつの名前を書く可能性は高いだろうと思っていたが――……」
リューク「最終的には、最もデスノートとの親和性が高そうなミキを選び……ノートを渡した」
月「ノートとの親和性、というと……」
L「星井美希の持つ、天才的な嗅覚……でしょうか」
リューク「まあそんなとこだ。ミキは一度スイッチが入ると、人並み外れた集中力やパフォーマンスを発揮する……俺はミキのその特性に着目した」
リューク「その結果、仲間同士のはずのミキとハルカがそれぞれノートを持つ形となり、互いに殺し合うようにでもなってくれれば最高だったんだが……」
リューク「生憎、こいつらはそうはならなかった」
リューク「殺し合うどころか、最後の最後まで……互いに互いを守ろうとし……結果、最後には『こうする』道を選んだ」
リューク「もっとも、それはそれで……俺もそれなりに楽しむことはできたがな。ククッ」
月・L「…………」
リューク「だが、まだ足りない」
リューク「俺はもっと楽しみたいんだ」
月「……だからお前は、二人が死んだ後もなお、また別の人間に……僕達にノートを使わせ、楽しもうとしている……」
L「それが、あなたが私達の前に姿を現した理由……ということですか」
リューク「ああ。その通りだ」
月・L「…………」
月「……お前の行動理念は分かった。だが何故『僕達』なんだ? 『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』なんて……喜んで使いそうな人間は他にいくらでもいるだろう」
リューク「まあな。だが言っただろう? 俺はもっと楽しみたいんだと。そのためには、ミキやハルカよりも俺を楽しませてくれるような人間でなければならない」
リューク「となると、ミキとハルカをここまで追い詰めた人間……『“L”とその仲間』しかいない。俺はそう考えた」
月・L「…………」
リューク「それに『“L”とその仲間』なら必ず……ミキとハルカが死んだ後、最初にこの場所に来るはず」
リューク「だから俺は二人が死んでから、ここで待っていたんだ」
リューク「『“L”とその仲間』が来るのをな」
月「じゃあ、お前はその『“L”とその仲間』が『僕達』……つまり『竜崎』と『夜神月』であることまで分かっていたのか?」
リューク「そうだな。少なくとも“L”は来るだろうと思っていたし……ミキの得ていた確証を前提にすれば、それは『竜崎』なのだろうと思っていた」
L「…………」
リューク「さらにミキは、『竜崎』が“L”であるとの確証を得る以前から……『夜神月』についても、『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、ミキとハルカをキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていた」
リューク「『竜崎』はミキと最初に会った時から『自分は天海春香のファンだ』と嘘をついていたが、『夜神月』はその『竜崎』とずっと話を合わせていたからな」
月「…………」
リューク「だから俺は『竜崎』と共に『夜神月』がここに来てもおかしくないだろうとは思っていたが……仮に別の奴らが来たとしても、俺は同じ話を持ち掛けるつもりでいた」
リューク「さっきも言ったが、最初にこの場所に来るであろう奴らは、ミキとハルカをここまで追い詰めた張本人……すなわち『“L”とその仲間』以外には考えられなかったからな」
月「なるほどな。しかし、星井美希は……“L”が自分のみならず、天海春香をも疑っていたことにも気付いていたのか」
L「まあ……おかしくはないですね。星井美希が天海春香から、今からちょうど一年前……昨年の765プロダクションのファーストライブの日に、彼女が自分の後をつけていたファンを『心臓麻痺で』殺したという話を聞いていたとすれば……“L”がそれを端緒に彼女をも疑うようになることは容易に推測できるでしょうし」
リューク「ああ……そうか。ミキも同じことを言っていたが……やっぱりそういう風に考えるよな」
L「?」
月「どういうことだ? リューク」
リューク「ついでだ。教えてやるよ。そのハルカのファンだった奴を殺したのはハルカじゃない」
月・L「!」
リューク「昨年の8月1日……765プロのファーストライブがあった日の深夜だ。事務所での打ち上げを終え、帰宅しようとしていたハルカは――……」
(レムが春香にノートを渡した経緯を説明し終えたリューク)
リューク「……という経緯で、ハルカはデスノートを所持するようになったってわけだ」
月「ではファーストライブの日に天海春香のファンだった男を殺したのは、ジェラスという死神で……天海春香にとっては濡れ衣だったということか」
リューク「そういうことだ。もっとも、その後に起きた『アイドル事務所関係者連続死亡事案』についてはお前達の推理通り、全部ハルカの意思による殺人だがな」
L「そして……『特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす為にノートを使った死神は死ぬ』」
L「これがさっき、あなたがその存在をほのめかしていた『死神の殺し方』ということですか」
リューク「ああ」
月「……確かにこれなら、僕達がリュークを殺すことはどうやっても不可能だな。そもそもリュークが特定の人間に好意を持つような死神には見えない」
リューク「ククッ。まあ死神界では俺みたいな奴の方が普通だ。むしろジェラスみたいな奴の方がおかしい」
L「ですが……レム? でしたか。ジェラスと共に天海春香を見守っており、ジェラスの遺したノートを彼女に渡した死神……」
リューク「ああ」
L「彼……いえ、彼女もまた、天海春香に対して特別な好意を持っていたのでは? それが『アイドルのファン』としてのものであれ……」
L「だからこそレムは、ジェラスの遺したノートを天海春香に渡したように思えますが」
リューク「そうだな。レムもレムで、ハルカに対して特別な好意を抱いていたのは間違い無い」
リューク「そしてそれは、ノートをハルカに渡した後も同じ……ハルカが死ぬまでずっとそうだったはずだ」
月「だがそれなら何故、今……レムは僕達を殺していないんだ?」
月「天海春香に対し、特別な好意を抱いていたのなら……その復讐として僕や竜崎を殺してもおかしくない。あるいは好意を持った人間が死んだ後であっても、その人間に対する好意に起因して他の人間を殺すと死神は死ぬのか?」
リューク「いや、そのような掟は無い。死神が死ぬのは、あくまでも好意を持った人間が生きている前提の下、その人間の寿命を延ばす目的でノートを使った時だけだ」
月「だったら、何故……?」
リューク「まあ、そういう疑問を抱くのが普通だろうが……正直、レムの思考は同じ死神の俺にもよく理解できないところがあってな」
月「?」
L「どういうことですか?」
リューク「ほんのついさっき……ミキとハルカが死んだ直後の事だが――……」
月・L「…………」
【三十分前・海の見える浜辺】
(浜辺に横たわっている美希と春香を見下ろしているリュークとレム)
レム「この後もまだ人間界に残るだと?」
リューク「ああ。俺の勘が間違ってなければ、もうすぐここに別の人間達が来るはずだ。そして俺はそいつらにこのノートを渡す」
レム「! ……“L”……いや、ミキの話を前提にするなら竜崎……と、その仲間か」
リューク「ああ。おそらくな」
レム「そして次はそいつらにノートを渡し……使わせて楽しもうという腹か」
リューク「そういうことだ。こんな面白い遊び……ここでやめちまうのは勿体無いからな。ククッ」
レム「全く、お前という奴は……」
リューク「なんだ。お前は乗らないのか? レム」
レム「ああ。悪いが、私はもう死神界に帰らせてもらうよ」
リューク「ちぇっ。つれない奴だな」
レム「私はあくまでもハルカの命の結末を見届けたかっただけだ。それはジェラスの願いでもあったからね」
リューク「ふーん……じゃあ恨みとかも全く無いのか? そのハルカを死に至らしめるまで追い詰めた、“L”やその仲間に対して」
レム「…………」
リューク「『ハルカのファン』を自認していたお前の事だ。てっきりハルカが死んだ後、“L”やその仲間を皆殺しにでもするんじゃないかと思っていたがな」
レム「……勿論、そういった感情が全く無いと言えば嘘になるが……私はハルカが選んだ道を尊重したい」
リューク「! …………」
レム「だから今、私が“L”やその仲間に手を下すことは、ハルカの選択を蔑ろにすることになる……私はそう考えている」
レム「私は“アイドル・天海春香”のファンであり……ファンとは、アイドルの選んだ道を信じるもの」
レム「それがファンとしての矜持だからね」
リューク「ああ、そう……」
レム「後は……そうだな。ハルカとミキの亡き後、765プロが、そして765プロのアイドル達がどうなるのか……その行く末を、死神界からじっくり見届けさせてもらうとするよ」
リューク「ククッ。それはそれは、相変わらずご執心な事で。……ああ、そうだ。じゃあハルカの使ってたノート、俺にくれよ。一冊より二冊あった方がより楽しめそうだからな」
レム「……断る」
リューク「えっ」
レム「このノートは元ジェラスのノート……ジェラスの遺志とハルカの意思が宿ったノートだ。悪いが、それらを受け継ぐに足ると判断した者にしかこのノートは渡せない」
リューク「ああ、そう……」
レム「じゃあな。リューク。まあせいぜい頑張ってくれ」バサッ
リューク「……おう。またな。レム」
(翼を広げ、レムは空を飛んで死神界に帰っていった)
【現在・海の見える浜辺】
リューク「……まったく、変な奴だったぜ。まあ死神のくせに人間のアイドルのファンになっている時点で十分変だがな」
月「なるほど……いや、待てよ。レムは僕達を殺さなかったということだが……そもそも、星井美希が既に竜崎を“L”だと確信しており、また僕の事も『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、星井美希と天海春香をキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていたのなら……僕達がノートを使う使わない以前に……僕達の名前は既にこのノートに書かれているんじゃないのか?」
月「星井美希、または天海春香の手によって」
L「…………」
リューク「そうか。それもまだ話していなかったな」
月「え?」
リューク「竜崎……いや、“L”」
L「…………」
リューク「そして……夜神月」
月「…………」
リューク「結局、ミキとハルカは……お前ら二人を殺さなかったんだ」
月・L「!」
リューク「何なら自分達の目で確かめてみればいい。そのノートはミキとハルカが死んだ、ついさっきのままの状態だ」
月「…………」パラッ
(デスノートのページを捲る月)
リューク「どうだ? 書かれていないだろう?」
月「確かに、最初の2ページには犯罪者のものとおぼしき名前が書かれているが……」
L「1ページ目の前半に書かれている名前は、一週間前にカメラ越しに観た時のものと同じですね」
月「ああ。そしてその後に書かれているのも、この一週間で新たに裁かれた犯罪者の名前に間違い無い……」
L「ちなみにですが……リュークさん」
リューク「ん?」
L「このノートには、最初の方の何ページかを切り取ったような形跡がありますが……切り取った方のページに名前を書いても死ぬんですか?」
リューク「ああ。死ぬな」
L「なるほど。ではこれも月くんの推理通りですね」
月「そうだな」
リューク「推理?」
L「このノートをカメラ越しに確認するよりも前に、月くんは『ノート本体から切り取ったページや切れ端に名前を書いても殺せる』という可能性を考えていたんです」
リューク「……へぇ」
リューク(これも夜神月……か。そういえばさっき、目の取引のくだりでも……)
リューク(……なるほどな。こいつなら……)
月「しかし、切り取ったページに名前を書いても死ぬのなら……結局、そっちの方に書かれているという可能性は残るんじゃないのか? あるいは逆に、書いてから切り取ったという可能性も……」
リューク「前の方のページが切り取られているのは、単にミキが自分の判断で古いページを処分したからだ。勿論、今更その証明まではできないが……だがそんなことを言い出したら、ハルカが持っていた、レムが死神界に持って帰った方のノートについても同じ事が言えるだろ」
月「それはまあ、そうだが……」
リューク「証明できない以上、信じるか信じないかはお前達に任せるが……結論としてはミキもハルカも、お前達のいずれの名前も書いていない。さらに言えば、他の捜査員の奴らの名前もだ。ミキの父親も含めてな」
L「では二人は結局、自分達を追う者は一人も殺さなかった……ということですか」
リューク「そうだ。それにそもそもノートに名前を書かれていたら、その人間は最長でもその後23日間しか生きられない。それなら俺だって、流石に別の人間にノートを渡す」
月「! 23日間……」
L「それがノートで死の前の行動を操ることができる期間の上限……ということですか」
リューク「そうだ。もっとも、死因を『病死』にした場合はそれより長くなることもあるが……名前を書いた者が任意に設定できる範囲としてはその期間が上限だ」
L「……なるほど。確かに二人が私達を殺すとしても、いつ死ぬか分からないような不確定的な方法を取るとは考え難い……」
月「そうだな。だとすると……一応は信用しても良さそうだな」
L「ですね」
リューク「ククッ。それは何よりだ」
月「……じゃあ、二人が自分達の名前を書いたページは? それも切り取られているのか?」
リューク「いや、それもそのままだ。そのノートの一番後ろのページを開いてみろ」
月・L「!」
(デスノートの一番後ろのページを開く月)
月「! これは……」
L「……なんとなく予想はできていましたが……こういう使い方もできるんですね。このノートは……」
リューク「ああ。まあ俺も初めて見たがな。こういうケースは」
月「そうなのか?」
リューク「デスノートについてわからない事は死神にもたくさんあるからな」
月「なるほど。……だが、しかし……」
リューク「ん? 何だ?」
月「結局の所……何故なんだ? 最終的に『こうする』ことを選んだのだとしても……それとは別に、僕や竜崎の名前を書かなかった、というのは……」
リューク「…………」
月「自分達が死ぬことを選んだ後に書かなかった、ならまだ分かる。自分達が死ぬことが決まっている以上、もう僕達を殺しても意味が無いと考えてもおかしくはないからな」
月「だが、『その前』については話が別だ。リュークの話によると、星井美希が竜崎を“L”だと確信したのは今から十日前……二人がノートに自分達の名前を書いたと思われる、例の撮影の日の三日前だ」
月「そしてさらにそれよりも前から、星井美希は僕の事も『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、星井美希と天海春香をキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていたとの事だ」
月「そんな状況で、僕や竜崎を殺さなかった理由なんて……。しかも最大で23日間先まで行動を操れたのなら、極力自分達に疑いが掛からないようにして殺すことだってできたはず……」
L「…………」
リューク「……そうだな。じゃあ……」
リューク「少し長い話になるが……全て話してやろう」
月・L「!」
リューク「この世界の誰も知らない……二人のアイドルが演じた、最後の一幕を」
月・L「…………」
【一週間前(美希と海砂のファッション誌の撮影があった日)・都内某所】
(渋谷の撮影スタジオから移動してきた美希)
(美希は何かを待っているような様子で、一人路上に立っている)
美希「………… !」
(美希は、一つの人影が少し離れた先から自分の方に近づいてきていることに気付いた)
美希「…………」
(人影は一歩一歩、踏みしめるように歩き、美希のいる方へ近づいてくる)
(やがて人影は美希の正面に立つと、静かに声を掛けた)
春香「美希」
美希「……春香」
春香「…………」
美希「……ぷっ」
春香「えっ?」
美希「あはははっ。春香ったら、すごく変なカッコなの」
春香「なっ!? しょ、しょうがないじゃん! 美希からメールもらった後、とりあえずすぐ近くの服屋さんで目に付いた服買い漁って、コーディネートに気を遣ってる余裕なんて無かったし……」
美希「でも、だからってその取り合わせは無いの……ぷくくっ」
春香「も、もー! それを言ったら美希だっ、て……」
美希「ん?」
春香「……ホント、何着ても似合うよね、美希って……。パッと見あべこべなファッションなのに、なんか妙に様になってるし……」
美希「いやー、それほどでもないのー」
春香「むぅ……なんかめっちゃ悔しい……って、そんな事言ってる場合じゃないじゃん! もう!」
美希「あはっ。それもそうだね」
春香「……で、何があったの? 美希」
美希「……うん。じゃあとりあえず……入ろっか」
春香「…………」
美希「ミキと春香の全てが始まった……『この場所』に」
春香「……うん」
【765プロ事務所近くの公園】
(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている美希と春香)
美希「久しぶりだね。ここでこうして春香と話すの」
春香「……うん」
美希「でもまさか、本当に使う日が来るとは思わなかったな。ずっと前に春香と二人で決めた……『暗号』」
春香「……うん。そうだね」
美希「…………」
【(回想)現在から118日前(美希の高校の入学式のあった日)】
(765プロ事務所近くのファミレスで催された、真と雪歩、伊織と美希の大学・高校合同入学祝賀会の後)
(美希と春香は、一緒に帰っていた他のアイドル達と別れ、二人きりで帰路を歩いていた)
美希「――もし何か、少しでも危険な目に遭いそうになったら……その時は必ずミキに教えてね。約束なの」
春香「うん。もちろん。約束するよ」
美希「それじゃあ、明日の授業頑張ってね。春香」
春香「ありがとう。それじゃあまたね。美希」
(互いに背を向けて別れる美希と春香)
春香「…………」
美希「……あ、春香」
春香「ん? 何? 美希」クルッ
美希「えっと……これから先、ミキ達のうち、どっちかが危険な目に遭いそうになった時とかに備えて……緊急の連絡方法、決めとかない?」
春香「あー……そうだね。それは確かに決めといた方がいいね。これからまだ何が起こるか分からないし」
春香「今まで、デスノートやキラ事件に関する話は『電話やメールではなく、会ったときに口頭で』っていう風にしてたけど……本当にすぐに連絡を取る必要が生じた時に、それじゃ遅過ぎる場合もあるかもしれないもんね」
美希「なの」
春香「でも、やっぱり何らかの通信回線を使うのはリスクもあるんだよねぇ……もし私達のどっちかに危険が迫っている状況だとしたら、電話やメールの通信記録なんてLに真っ先にマークされてそうだし」
美希「あー、そっか……」
春香「あ。でもそうか。それなら……」
美希「?」
春香「要は、通信記録が調べられたとしても足がつかないような方法であればいいわけだから……勿論、電話の場合はリアルタイムで盗聴されてしまう危険も考慮しないといけないけど……」
春香「それでも……うん。この方法なら大丈夫なはず」
美希「? 春香?」
春香「美希。私達って、デスノートやキラ事件に関する話題以外だと、結構頻繁に電話やメールでやりとりしてるよね。私達がデスノートを持つようになる前と同じように」
美希「うん」
春香「つまり、私と美希が電話やメールでのやりとりを『していること』自体は怪しまれる要素は何も無い。だからそれを利用する」
美希「? どうやって?」
春香「ふっふっふ……そこで『暗号』ですよ! 『暗号』!」
美希「暗……号?」
春香「うん。私達二人にしか分からない、秘密の『暗号』を使うんだ。つまり他の人からは絶対に分からない、でも私達だけにはそれと分かる……そんな『暗号』を」
美希「あー、なんとなくわかったの。要は合言葉みたいなやつだね」
春香「そう。そして電話でもメールでも……『その言葉』をどちらかが使ったら、文脈にかかわらず、私達は予め約束していた行動を取るようにする」
美希「ふむふむ」
春香「もっとも、基本的には『暗号』を使った方の状況がどのようなものであれ、まずは状況と情報の共有が最優先となるはず……でもそれ自体はこれまで通り、直接会って行うしかない」
美希「電話やメールだと危ないもんね」
春香「そう。だから『暗号』が使用された際に私達が取るべき行動は……『二人で予め約束していた場所に行くこと』」
美希「そこで直接会って話すってことだね」
春香「うん。でも勿論、そこに行くまでに捕まってしまったり、後をつけられたりしていては意味が無い……」
春香「だから……そうだね。どちらかがその『暗号』を使用した時点で、少なくとも……『電話の場合は通話終了後、各々すぐに携帯電話の電源を切る』『メールの場合は、送信側は送信直後に、受信した側も返信はせず、メールを確認した時点ですぐに電源を切る』ことは必須だね。携帯電話の電源が入ったままだと、GPSで位置情報がばれちゃうから」
美希「あー、なるほどなの」
春香「そしてこれは言うまでもないことだけど……『目的地に向かう前に、尾行がついていないかを入念に確認する。もしついていた場合は尾行がなくなるまで絶対に動かない』もだね」
美希「はいなの」
春香「これは、私の場合は……レム。尾行の確認、頼んでもいい?」
レム「ああ。いいだろう」
春香「じゃ、美希の方はリューク、お願いね」
リューク「あ? 何で俺がそんなこと……」
春香「お願い。もしやってくれたら好きなだけリンゴ食べさせてあげるから」
リューク「……まあ、いいだろう。あくまで緊急時だけの話みたいだしな」
春香「ありがとう。リューク」
レム「……本当に現金な奴だな。お前は」
リューク「いいだろ、別に。というか、自分で言うのもなんだが……無償で人間に協力するお前よりはよっぽど死神らしいと思うがな」
レム「何とでも言え。私は私の意思でそうしているだけだ」
春香「えーっと……あと、『暗号』の使用時に私達がしないといけないことは……『移動開始後、できるだけ早い段階において、適当な店で服を買って全身を着替える』もだね。『暗号』を使う前の段階で、尾行なり防犯カメラなりで全身を観られている可能性もあるかもしれないから」
美希「流石春香。実に用心深いの」
春香「まあこれくらいはね。後は、『『暗号』が使われたら、互いにどんな状況であっても、またどれだけ時間が掛かろうとも、各々、必ず約束していた場所へ向かう』『先に目的地に着いた方は、どれだけ遅くなろうとも、もう一方が来るまで待ち続ける』……こんなところかな」
美希「すごいの春香。よくそんなに次から次へと思いつくね」
春香「いやいや、別に大したことないよ。これくらい」
美希「じゃあ後、決めとかないといけないのは、ミキ達がその時に向かう『場所』をどこにするのかと……肝心の『暗号』を何にするのか、だね」
春香「そうだね。まあでもとりあえず『場所』は……あの公園で良いんじゃない?」
美希「あの公園って……事務所の近くの?」
春香「そう。私が美希に全てを打ち明けた場所でもある……あの公園だね」
美希「……でも、危なくない? あんなに事務所の近くだと……」
春香「いや、逆だよ。美希」
美希「逆?」
春香「うん。元々、私達は同じ事務所のアイドル仲間同士……そんな私達が、自分達のどちらかが危険を感じるような状況下において……『あえて』事務所の近くで会おうとするなんて普通は思わない。……それならむしろ、私達のいずれにとっても縁もゆかりも無いような場所で会おうとする可能性の方を考えるはず」
美希「あー……だからその裏をかこうってことなの」
春香「そう。それに私は以前、あの公園の防犯カメラの位置を全部調べてたんだ。だからカメラに映らない死角も全て把握してる。直接会って話をするのにはうってつけってわけ」
美希「春香、そんなことしてたの? それって、ミキに全てを打ち明けてくれた……あの時よりも前に?」
春香「うん。その時にも話したけど、美希がノートを持ってること自体は、前のプロデューサーさんが亡くなったほとんどすぐ後に分かってたからね。とすると、美希がキラであっても、そうじゃなくても……いずれは、私もノートを持ってることを美希に話すことになるだろうって思ってたから」
美希「そうだったんだ」
春香「勿論、事務所の屋上とかでも話せなくはなかっただろうけど……話が長くなった場合、事務所の誰かに聞かれてしまわないとも限らなかったからね。それで美希に話す前に、事務所以外の場所をいくつか調べておいて……最終的に、防犯カメラの数自体が少なく、死角が多いあの公園がベストってことになったんだ」
美希「じゃあ春香があの時、ミキをあの公園に連れて行ったのも……」
春香「うん。最初から、話が長くなりそうだったらあそこに連れて行こうって思ってたんだ。もし美希も目を持っていて、私もノートの所有者だってことに気付いていたら、そこまで長い話にもならないかなと思ってたけど……実際、美希は全く気付いてないみたいだったからね」
美希「なるほどなの。じゃあ『場所』はそこで良いとして……肝心の『暗号』は何にする? 春香」
春香「うーん……まあ何でもいいといえば何でもいいんだけどね。私と美希の間でさえ『それ』と分かればいいんだから」
美希「でも、うっかり間違えて使っちゃったりしないような言葉にしないとダメだよね」
春香「そうだね。電話の場合はその場ですぐに訂正できるけど、メールだとそうはいかないからね。……となると、私も美希も、普段の会話でまず使うことがないような言葉……」
美希「あ」
春香「? 何? 美希」
美希「春香。あのね。ミキ、ちょっと良いの思いついちゃったの」
春香「え、本当? 何?」
美希「えっとね――……」
【(回想終了)現在から一週間前・765プロ事務所近くの公園】
(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている美希と春香)
春香「……で、結局そのまま決めちゃったんだよね。『おむすび』に」
美希「うん。でも良い案だったでしょ? ミキは普段『おにぎり』としか言わないから、まず間違えて使うこともないし」
春香「でもそれ、ぶっちゃけ美希の都合だけで、私の都合はほとんど何も考慮されてないよね……」
美希「うん。まあでも春香だし良いかなって」
春香「何で最後雑にするかな!?」
美希「あはっ。まあでも良いじゃん。……ちゃんとこうして、この公園で――……二人で会えたんだから」
春香「……まあね。でも……なんか懐かしいね。二人であの『暗号』を決めたのは、765プロの皆で美希や伊織達の入学のお祝いをした日だったから……もう四か月くらい前になるよね」
美希「……うん。そうだね」
美希「本当に……懐かしいの」
春香「…………」
美希「…………」
美希「あ。そういえば……春香」
春香「? 何? 美希」
美希「念の為に聞くけど……尾行の方は大丈夫だったの? 今日もついてたでしょ?」
春香「! ……うん。レムに確認してもらったんだけど、何故か、私がカフェで清美さんとお茶してる間にいなくなったみたい」
美希「そっか。なら良かったの」
春香「っていうか……美希。『今日も』ってことは……気付いてたんだね」
春香「尾行の事」
美希「……うん。5月の初め頃……ちょうど、東大の学祭が終わってすぐくらいの頃に……リュークが『見られているような気がして気持ち悪い』って言い出して……」
春香「! 東大の学祭の直後……レムが尾行に気付いて、私に教えてくれたのも同じ頃だった」
美希「…………」
春香「じゃあ美希は、今までずっと気付いて……?」
美希「……うん」
春香「じゃあ何で、美希……私に何も……」
美希「…………」
春香「私はてっきり、美希が尾行に気付いたら、不安を覚えて必ず私にそのことを伝えに来ると思ってた。だから美希がそれをしてきていない以上、美希は当然、尾行には気付いていないものだとばかり……」
美希「それは……」
春香「…………」
美希「……分かったの。春香」
美希「それも含めて……全部話すの」
美希「ミキが今まで、春香に言えなかったコト」
春香「!」
美希「そして今日、ミキが『暗号』を使った理由……つまり」
美希「今日、何が起こったのかを」
春香「……美希」
美希「あれはもう……今から半年以上も前になるね」
美希「この公園で、春香がそれまでのこと、ミキに全部話してくれて……デスノートのことや死神のこと、二人で初めて話したのは……」
春香「…………」
美希「あの時は、ほとんど春香が話してくれたけど……」
美希「今日は、ミキの番なの」
春香「美希」
美希「少し長くなるけど……聞いてほしいな」
春香「……分かったよ。美希」
春香「話して。美希が話したいこと、全部」
美希「ありがとうなの。春香」
美希「じゃあ、話すね――……」
春香「…………」
(美希は、これまで春香に話していなかったこととして、次の内容を春香に伝えた)
(尾行には気付いていたものの、春香に自分の事を心配させないために、あえて伝えていなかったこと)
(昨年のファーストライブの日に春香のファンが『心臓麻痺で』死んだ件から、Lが春香を美希と同じくらいのレベルで疑っている可能性があること)
(これまでの経緯と、三日前に自分と二人でアリーナを訪れた際の竜崎の言動から、自分は竜崎がLであると確信したこと)
(竜崎と話を合わせている夜神月も、竜崎と同じくキラ事件の捜査本部に居て、自分達をキラとして疑っている者である可能性が高いと考えていること)
(また自分の父親も、キラ事件の捜査本部にいるか、いないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあると考えられること)
(しかしまだ、自分はL=竜崎の名前をデスノートに書いてはおらず、その他、自分の父親も含め、自分達を追っていると思われる者の名前は一人も書いていないこと)
(以上の内容に続けて、美希はこの日に起こったこと、およびこの先起こりうることとして、次の内容を春香に伝えた)
(本日の撮影現場となったスタジオの更衣室内で、海砂にデスノートを触られてしまったこと)
(更衣室内にはLが付けたと思われる複数の監視カメラがあり、デスノートの存在と内容をほぼ確実に映像に撮られてしまったであろうこと)
(海砂は夜神月の指示で行動しており、海砂は夜神月から『かつて自分がキラの能力を持ち裁きをしていたが、美希と春香にその能力を奪われた』という旨の説明を受けていたこと)
(さらに海砂は、竜崎と清美も『夜神月の協力者』として認識しており、清美がこの日、春香と行動を共にしていたのは春香の動向を監視するためであったと考えられること)
(そしてL=竜崎は、この日得られた証拠――デスノートの存在と内容――をもって美希をキラとして断定し、その共犯者と考えられる春香と共に―――今すぐにでも、二人を逮捕する可能性が高いと考えられること)
美希「……っていう、感じなんだけど……」
春香「…………」
美希「は、春香……?」
春香「あ、ああ……うん。……ごめん」
春香「ちょっと、色々……混乱してて」
美希「……ごめんね。いきなり、こんな……」
春香「ううん。美希は何も悪くないよ」
春香「むしろ、全部話してくれてありがとう」
美希「春香」
春香「でも……そっか。そうなんだ……」
美希「…………」
春香「えっと……じゃあ美希は、その……ずっと前から疑ってたの?」
春香「竜崎さんが、Lだって」
美希「…………うん」
春香「…………」
美希「今も言ったけど、確信したのは……三日前に二人でアリーナに行った時だけどね」
春香「……そっか」
美希「…………」
春香「…………」
春香「でも、それなら何で私に……いや、私には言えないか……」
美希「……うん。春香は竜崎のこと……微塵も疑ってないみたいだったから」
春香「そっか……」
美希「…………」
春香「でも、まだ彼の名前は書いてないんだよね?」
美希「うん。書いてないよ」
春香「それは……元々、Lを殺すことは考えてなかったから?」
美希「…………」
春香「美希、前に言ってたもんね。『Lは犯罪者じゃないから、Lを殺したりするのは抵抗がある』って」
美希「……うん。でも……」
春香「でも?」
美希「最初は確かにそう思ってたんだけど……その、途中で……『Lが春香をミキと同じくらいのレベルで疑っている可能性がある』ってことに気付いてからは、ミキの中でも、考え方が変わってきて……」
春香「…………」
美希「『春香を守るためには、Lを殺すしかない』……そう考えるようになったの」
春香「! ……美希……」
美希「だから……竜崎がLであるとの確証さえ得られたら、ミキは彼を殺すつもりでいたの」
春香「? でも……美希はもうその確証は得ているんだよね? 三日前に……」
美希「……うん」
春香「じゃあ、どうして……? 私にその事は言えないとしても、死因を事故死か何かにして、竜崎さんの名前を書くことはできたはずじゃ……?」
美希「それは……」
春香「それこそ美希の言う通り、私は今の今まで、彼の事を全く疑っていなかったわけだから……心臓麻痺ならともかく、他の死因なら……」
美希「…………」
春香「確かにそれでも、私も一度は『美希が殺した』っていう可能性を疑ったかもしれないけど、美希自身がそれを否定しさえすれば……私はきっと、それ以上は美希を疑えなかったと思うんだけど……」
美希「……うん。そうだね」
美希「春香はきっとミキのコト、信じてくれるだろうから……ミキも、そうなっただろうなって思うよ」
春香「じゃあ、何で……」
美希「……ミキね。見たくなかったの」
春香「? 何を?」
美希「春香の……悲しむ顔を」
春香「!」
春香「美希。それって……」
美希「春香は竜崎のコト、本当に信頼してたでしょ? 自分の事を最も深く理解してくれているファンの一人として」
春香「……うん」
美希「そんな春香が、『竜崎が死んだ』なんて知ったら、きっとすごく悲しむだろうなって思ったの」
美希「たとえそれが、ミキの手によるものではなくても」
春香「…………」
美希「だったら、せめてミキがハリウッドに行ってから竜崎が死ぬようにすれば……春香のそんな顔は見なくて済むって思ったの」
春香「……そっか。でもノートで死の前の行動を操れるのは、名前を書いた日から23日間以内だから……」
美希「うん。だからまだ書けなかった。ミキがハリウッドに行くのは9月の半ば過ぎ……そこから逆算すると、名前を書けるのは早くても8月の終わり頃になるから」
春香「……そうだったんだ」
美希「…………」
春香「本当に……優しいね。美希は」
美希「……春香」
春香「尾行の事もそうだけど……私の事を考えて、ずっと……自分の中に抱え込んでくれてたんだね。……色んな事を」
美希「……うん」
春香「美希」ギュッ
(美希を正面から抱きしめる春香)
美希「……春香」
春香「……ごめんね。ずっと、ずっと……美希一人に、辛い思いさせて」
美希「……ううん。ミキこそ、ごめんね。こんなに大事な事……春香にずっと言えないままで」
春香「美希が謝ることじゃないよ。美希はただ……私の事を思って、そうしてくれてたんだから」
美希「春香……ありがとうなの」
春香「私の方こそ……ありがとう。美希」
春香「今までずっと抱えていたこと――……全部、話してくれて」
美希「……春香」
春香「だから、これから一緒に考えよ?」
春香「今から私達は、何を……どうすべきなのか」
春香「……ね? 美希」
美希「……うん。そうだね。春香」
春香「でも現実問題として、デスノートの存在と内容を映像に撮られてしまっていることがほぼ確実な以上……このままだと、私達がL……いや、竜崎さんに捕まるのもほぼ確実……か」
美希「…………」
春香「? 美希?」
美希「あ、ごめん。えっと……春香」
春香「何?」
美希「なんていうか、その……『竜崎がL』ってところ……なんか、普通に受け入れて、前提にしちゃってるけど……大丈夫なの?」
春香「…………」
美希「正直、まだ100%そうって決まったわけじゃないし……ぶっちゃけ、ミキが確信した根拠もほぼ直感みたいなもんだし……」
春香「…………」
美希「あと、『夜神月も捜査本部に居て、ミキと春香を疑っている可能性が高い』っていうのも、文字通り、可能性レベルの話だし……」
春香「……そりゃまあ、もっと時間があったら……色々考えたり、思うところもあったりしたかもしれないけど……」
美希「…………」
春香「でも今のこの状況じゃ、もうああだこうだと考えている余裕は無いし……それに、何よりも……」
美希「…………?」
春香「私は、美希を信じてるから」
美希「! 春香……」
春香「確かに、私は竜崎さんの事をファンとして信頼していたし、ライトさんのことも特に疑ってはいなかったけど……」
春香「でもだからといって、彼らに対する信頼が……美希に対するそれを上回るということは絶対に無い」
美希「春香」
春香「だから……竜崎さん達と美希、そのどちらかを信じるとしたら……私は当然、美希を信じる」
春香「ただそれだけのことだよ」
美希「! ……春香。ありがとうなの」
春香「いいよ、お礼なんか。仲間を信じるのは当たり前の事でしょ?」
美希「春香……」
春香「それに美希だって、私の事を信じてくれていたからこそ、今日……『暗号』を使ってくれたんでしょ?」
美希「それは……うん。その通りなの」
春香「なら、最後までお互いを信じて頑張ろうよ。私達は今までも、ずっとそうしてきたんだから」
美希「……そうだね。春香」
美希「一緒に頑張ろうなの。最後まで、一緒に」
春香「うん! 美希」
美希「とは言うものの……現状としては、今春香が言った通り……正直、厳しいよね」
春香「……うん。今日の件に加えて、これまでのこともあるから……このまま何もしなければ、私達は今日明日中にも捕まるだろうね」
美希「…………」
春香「捕まれば、当然ノートは押収される……ノートの検証をされればそれで終わりだし、されなかったとしても、ここまでの証拠がある私達を自由にするはずがない……」
美希「……そうだね。それにはミキも同意見なの」
春香「でも、一週間後にはアリーナライブが控えている……だから今、捕まるのだけは……」
美希「…………」
レム「ハルカ。ミキ」
春香「! レム」
美希「どうしたの?」
レム「私もずっと、今の状況でお前達が取り得る策を考えていたんだが……ノートの所有権を放棄する、というのはどうだ?」
春香「! ノートの所有権を……」
美希「放棄……」
レム「そうだ。そうすればノート自体を私とリュークに返すことになるから、今以上の物的証拠は出なくなるし……また同時にノートに関する記憶もなくなるから、もしお前達が捕まって、自白剤を投与されたり、ポリグラフ検査に掛けられたりしても絶対に証拠は出ない」
美希・春香「…………」
レム「そしてキラとしての決定的な証拠が無い以上は……いつか必ず、お前達が解放される日は来るだろう。そうすればまたノートを渡してやる」
レム「所有権をなくしたノートの所有権を再び得れば、関わった全てのノートに関する記憶が戻る……そうすればミキはまたキラとしての裁きを再開できるし、ハルカも765プロの邪魔者を消すためにノートを使えるようになる。……どうだ?」
リューク「いや、でもそれだと……『ミキとハルカが捕まった途端』にキラの裁きが止まることになるだろ。決定的な証拠が無いとはいっても、そんな状況でLがこいつらを自由にするとは思えないけどな」
レム「……だったら、二人が使っていたノートを一時的に他の人間に渡し、ミキに代わってキラの裁きをさせるようにすればいい。そしてLが二人を白だと判断し、解放した時点で……私かリュークがその時点のノートの所有者を殺してノートを回収し、二人に渡す。……これならどうだ?」
リューク「まあそこまですれば確かに大丈夫かもしれんが……でも俺がそれに協力する保証は無いぜ」
レム「お前は面白いものが観られればそれでいいんだろう? リューク。一度は頓挫したかにみえた状況からの、ミキの“理想”の世界の創世の再開……十分面白い展開だと思うが?」
リューク「それは、まあ……そうだな」
レム「そういうことだ。どうだ? ハルカ。ミキ」
春香「……ありがとう。レム。それは確かに良い案だけど……でもやっぱり、『今』私達が捕まる可能性は残っちゃうよね」
レム「! それはそうだが……しかしキラとしての決定的な証拠が出なければ、いつかは……」
美希「『いつか』じゃ、遅いの」
レム「ミキ」
美希「『いつか』自由になったとしても……『今』捕まってしまうんじゃ、意味が無い」
美希「だって、ミキと春香が―――765プロの皆と一緒に、アリーナライブを成功させて、トップアイドルになれるのは―――『今』しかないんだから」
レム「! …………」
美希「……だよね? 春香」
春香「……うん」
春香「ありがとう。美希。私の気持ち……代わりに言ってくれて」
レム「……ハルカ……」
春香「ごめんね。レム。そういうわけだから……その案は採れないよ」
レム「…………」
リューク「……ククッ。ここまで追い詰められた状況下においても、仲間と一緒にトップアイドルになることだけは諦めない……ってわけか」
美希「当たり前なの。そのためにミキも春香も、今までずっと頑張ってきたんだから」
春香「美希」
レム「……じゃあ、一体どうするんだ? さっきハルカも言っていたが……もうお前達が捕まることは既定路線なんだろう?」
レム「それこそ、L……いや、竜崎をはじめ、『お前達を捕まえる可能性がある者』を全員殺すことができれば、話は別かもしれないが……しかし今の状況で、そんなことは……」
春香「うん。ちょっと無理だろうね。現時点で顔と名前の分かる人は何人かいるけど、その人達を片っ端から殺したところで、私達が完全に安全となる保証は無い。……だよね? 美希」
美希「……そうだね。今となっては、もうノートの情報自体を完全に抹消することは不可能……捜査本部外にもバックアップが渡っていると考えた方が良いの」
美希「となると、たとえL……竜崎をはじめ、現時点でミキ達が殺せる人間を全員殺したところで、ノートの情報を知る人間を全て消すことは不可能」
美希「だからミキと春香は『アリーナライブ前に必ず誰かに捕まる』……これはもう、動かしようがない未来なの」
美希「このまま何もしなければ……ね」
春香「…………」
リューク「何もしなければ、って……じゃあまだ何か手があるっていうのか? ミキ。殺す対象が絞り込めない以上……そいつら全員をデスノートで『ミキとハルカを捕まえないように』操って殺すこともできないわけだろ?」
美希「そうだね。『その書き方』じゃ、必ず漏れが出る。ミキ達が捕まることは避けられないの」
リューク「……ん? なんだ、ミキ。その引っ掛かる言い方……」
美希「でも……『逆』なら」
リューク「? 『逆』?」
春香「………… !」
レム「? ハルカ?」
春香「……美希……」
美希「…………」
リューク「! ああ……なるほど」
リューク「それで『逆』……ね」
レム「! ……そういうことか」
美希「……うん」
美希「今日、ここに来るまで……春香に会うまで、ずっと考えてたの」
美希「ミキ達はこれから、何をすべきなのか……どうするべきなのか」
春香「…………」
美希「でも、やっぱり……『これ』以外の選択肢は無いと思う」
美希「ミキ達が、アリーナライブを成功させ――……」
美希「765プロの皆と一緒に、トップアイドルになるには」
春香「…………」
美希「春香」
春香「……美希」
美希「春香は……どうしたい?」
春香「! 私、は……」
美希「……ミキね。色々言ったけど……最後はやっぱり春香に決めてほしいの」
春香「私に?」
美希「うん。だって……アリーナライブのリーダーは春香だから」
春香「!」
美希「だからミキは、リーダーの決めたことに従うの」
春香「……美希……」
美希「…………」
春香「私は……やっぱりアリーナライブに出たい」
春香「アリーナライブに出て、ライブを成功させて……」
春香「765プロの皆と一緒に、トップアイドルになりたい」
春香「だって、私は……天海春香だから」
春香「私はアリーナライブのリーダーだけど、その前にやっぱり……私だから」
春香「だから私は、全員で走り抜きたい。今の全部で――……このライブを成功させたい!」
春香「それが私の果たすべき“使命”であり、私に命を与えて死んでいったジェラスの夢だと思うから」
美希「……春香」
春香「って、そういえば……昨日も同じこと言ったね。アリーナからの帰り道、美希とプロデューサーさんと三人で話してた時に……」
美希「……うん。あと、竜崎も同じこと言ってたの」
春香「えっ。竜崎さんが?」
美希「うん。三日前、ミキと二人でアリーナに行った時ね。『春香がこのステージに立った時に何を思うのか、竜崎の考えを聞かせてほしい』って言ったら……今、春香が言ったのと同じことを言ったの」
春香「そっか……そうだったんだ」
春香「それで美希は、その竜崎さんの言葉に感動して……」
美希「うん。ミキ思わず泣いちゃった。『竜崎はこんなにも春香のコト、わかってくれてたんだ』って思ったら……嬉しくなっちゃって」
春香「……美希……」
美希「だからその時、確信したの。やっぱり竜崎が―――Lだったんだって」
春香「……そっか。そういうことだったんだね」
美希「うん」
春香「でも、それなら……私も嬉しいな」
美希「春香?」
春香「たとえファンだったことが嘘でも……竜崎さんが、そこまで私の事を分かってくれていたのなら……アイドル冥利に尽きるってもんだよ」
美希「……うん。そうだね」
春香「……で、美希。とりあえず私の意思、というか気持ち的には、そういう感じなんだけど……」
美希「うん。分かったの。ミキは春香の思う通りにするの」
春香「……本当にそれでいいの?」
美希「え?」
春香「だって、私はそれで自分の“使命”を果たせるけど……美希には美希の……“理想”があるじゃない」
美希「…………」
春香「今ここでその選択をしたら、美希の“理想”はもう……」
美希「いいの」
春香「美希」
美希「勿論、本当にミキの“理想”を追求するなら……さっきレムが言っていたように、ここで一度ノートを捨てるべきなんだと思う。そしていつになるかは分からないけど、Lから解放された時点で、リュークかレムにノートの所有者を殺してもらって、もう一度ノートを渡してもらう……」
レム「…………」
美希「でもその手段を取って、ノートの記憶を取り戻し、キラの裁きを再開することができるようになったとしても……」
美希「それはもう、ミキにとっての“理想”じゃない」
美希「だってそれは……春香が自分の“使命”を果たせなかった世界だもん」
春香「!」
美希「キラの裁きが再び始まり、犯罪が減少し……たとえそれが世界中の人々にとって幸せな世界であったとしても、春香にとってそうじゃないなら……それはもう、ミキの“理想”の世界じゃない」
春香「…………」
美希「それならミキは、春香が自分の“使命”を果たせた方の世界を選ぶ」
美希「それこそが、春香にとって幸せな世界」
美希「ミキにとっての“理想”の世界なの」
春香「……ありがとう。美希」
春香「私は、幸せ者だよ」
美希「いいの。春香が幸せなら、ミキも幸せだから」
春香「……美希……」
リューク「……じゃあ、これでもうキラの裁きはおしまいか。残念だな」
美希「そうだね。もちろん、できるところまではするつもりだけど」
リューク「でもよ、ミキ。L……竜崎や夜神月、それから他の捜査本部の奴らとかはどうするんだ? 結局誰も殺さないのか?」
美希「うん。元々、ミキは犯罪者以外は殺したくなかったし……もうその必要も無くなったからね」
リューク「ちぇっ。つまんねぇの」
美希「あはっ。でもね、リューク」
リューク「? 何だ?」
美希「ミキとL……ううん、ミキと『竜崎』との勝負はまだ終わってないの」
リューク「? どういう意味だ?」
春香「美希?」
美希「ミキは一週間後のアリーナライブで……竜崎を魅了して、ミキのファンにしてみせるの」
リューク「!」
春香「竜崎さんを……美希のファンに?」
美希「うん。アイドルは観てくれる人を魅了してこそだからね」
美希「だからミキは、竜崎を魅了して……ミキのファンにしちゃうの」
美希「で、それができたらミキの勝ちなの」
リューク「? ……なんかよく分からんが……そういうもんなのか?」
美希「そういうものなの。……ね? 春香」
春香「あはは。そうだね」
春香「私もそれでいいと思うよ。美希らしくて」
美希「あはっ」
レム「…………」
美希「あ、でも……春香」
春香「ん?」
美希「竜崎や捜査本部の方はそれでいいとしても……黒井社長は……」
春香「ああ……もういいよ」
美希「いいの? ……殺しておかなくて」
春香「うん。前に美希も言ってたけど……黒井社長が死んで961プロの勢いが衰えたら、逆に他の事務所が勢いづいて……また“765プロ潰し”みたいな事が起きるかもしれない」
春香「もちろん今までは、『もしそういう状況になったとしても、そんな奴らは私が片っ端から殺してやればいい』って思ってたけど……もうそれも叶わないからさ」
美希「……そっか。それよりは、まだ黒井社長が生きている今の状況の方がマシってことだね。実際今は、961プロからもそれ以外の事務所からも、何の妨害も受けてないもんね」
春香「そういうこと。勿論、“償い”として、黒井社長は最大限に苦しめた上で殺してやりたかったけど……でも今の私にとっては、それよりも……これから先もずっとアイドルを続けていく、765プロの皆の将来の方が大切だから」
美希「春香」
春香「それに黒井社長にしても、今まで相当脅迫して苦しめてやったし、今もまだその脅迫自体は効いているはずだから……流石にもう同じような事はしないだろうしね」
美希「そうだね」
春香「あと、私が彼を脅迫した文章の中には『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』という文言も含んでおいたから……むしろこの先、黒井社長には生きていてもらった方が、他の事務所に対する抑止力になるかもしれないしね」
美希「なるほどね。……じゃあ結局、今、このノートに書く名前は……」
春香「……うん」
美希「…………」
春香「…………」
リューク「だが……ミキ」
美希「? 何? リューク」
リューク「いや、水を差すようで悪いが……」
リューク「お前も知っての通り、デスノートだって万能じゃない。実現不可能な内容までは操れない」
美希「…………」
リューク「つまり、お前達が『そうした』からといって、100%『そうなる』という保証は……」
美希「なるよ」
リューク「!」
美希「だって……『実現不可能』なわけないもん」
春香「美希」
リューク「…………」
美希「『実現不可能』な内容じゃなければ……言い換えれば、たとえ1%でも実現する可能性があるのなら……それはデスノートの力で100%『そうなる』」
美希「……そういうことでしょ? リューク」
リューク「それはまあ……そうだが……」
美希「だったら、100%『そうなる』の。……ね? 春香」
春香「……うん。そうだね。美希」
リューク「……まあそこまで自信があるのなら、もう何も言わないが……」
レム「…………」
美希「じゃあ……書こっか。春香」
春香「……そうだね。美希。決めた以上、早いうちに書いちゃわないとね」
美希「うん。ミキが書いちゃっていい?」
春香「もちろん。美希のノートなんだし」
美希「わかったの」
レム「……ハルカ」
春香「レム」
レム「本当に……これでいいんだな?」
春香「……うん」
春香「これでいい。これでいいんだよ」
春香「これが私達にとって……ベストな選択なんだから」
レム「……そうか」
春香「…………」
美希「あ、そうだ。春香」
春香「? 何? 美希」
美希「『場所』はどうする?」
春香「あー……そっか。決めといた方が良いよね」
美希「うん。まあ決めなくても大丈夫だとは思うけど……せっかくだし、決めておきたいなって」
春香「そうだね。……じゃあ……」
美希「…………」
春香「……海、が良いな。海の見える、浜辺」
美希「? 海?」
春香「うん。ほら、去年皆で行ったでしょ? 夏の海」
美希「ああ……懐かしいの」
春香「あれ、すごく楽しかったからさ。一応、今年の合宿でも海の近くには行ったけど……まだ6月で入れなかったし」
美希「あはっ。そんな理由で、なんて……」
春香「……だ、駄目かな?」
美希「ううん。そんなことないの」
美希「実に春香らしいの」
春香「あはは。そっか、良かった」
美希「じゃあ『場所』は……『海の見える浜辺』で決まりだね」
春香「うん。それでお願い」
美希「わかったの。……じゃあ、書くね」
春香「……ねぇ。美希」
美希「? 何? 春香」
春香「ずっと……一緒だね」
美希「うん」
美希「ずっと一緒なの」
美希・春香「最後まで」
美希「…………」
春香「…………」
美希「あはっ」
春香「ふふっ」
【現在・海の見える浜辺】
リューク「―――とまあ、そういうわけだ」
月「そういうこと……だったのか」
L「ノートを使って、自分達の運命を……」
リューク「ああ。だが今も言ったが、いくらデスノートといっても万能じゃない……どんな運命でも操れるというわけじゃない」
リューク「実現不可能な行動を書いた場合は、『死の状況』は書かなかったものとみなされてしまう」
L「つまりノートに『死の状況』を記載しても、本当に『そうなる』かどうかは実際に書いてみない限りは分からない……ある意味賭けだったわけですね」
リューク「そういうことだ。あと、これもついでに教えておいてやるが……一度デスノートに名前を書き込まれた者の死は、どんな事をしても取り消せない」
月・L「!」
リューク「だから、たとえ『死の状況』として書かれた内容が実現不可能なものだったとしても……『名前を書かれた者の死』自体は必ず実現されてしまうんだ」
月・L「…………」
リューク「だが、ミキとハルカは……その危険を踏まえてもなお、賭けに出た」
リューク「そして結果、賭けに勝った。まあこの場合、『勝った』と言っていいのかは分からんが……とにかくノートに書かれた内容はその通りに実現されたってわけだ」
L「なるほど……」
月「……しかし、一週間前のあの日……僕達の監視を掻い潜った後、二人が会っていた場所が……まさか『あの』公園だったとはな。……盲点だった」
L「そうですね。私達にとっては、『あの』公園でなされたノートの授受こそが……ノートの存在に気付いた端緒でしたからね。まさかその場所で落ち合おうとするなんて……私達からは絶対に出ない発想でした」
リューク「ノートの授受? ……ああ、ミキの部屋にカメラが付けられて……ハルカがミキの代わりに裁きをしていた時か。……お前ら、そんな早い段階からノートの存在に気付いていたのか」
L「最初は交換日記か何かだろうと思い、そこまでの特別視はしていませんでしたけどね」
リューク「ククッ。なるほどな」
L「…………」
L(そして、あの撮影の日の翌日……星井美希は、星井係長の着替えを持って警察庁に現れ、夜神局長と接触した……)
L(今思えば、キラとしては無防備過ぎる行動……だが星井美希には分かっていたんだ)
L(たとえ警察庁内で捜査本部の人間に直接接触したとしても……『あの場で自分が捕まることは絶対に無い』ということが)
L(だからこそ、堂々と姿を現し……そして、その行動の真の目的は……おそらく)
L(最後に一目、父親に……)
L「…………」
リューク「……さて、じゃあこれまでの経緯についての説明はこのへんにして……話を戻そう」
リューク「どうだ? お前達……これからミキとハルカに代わって、そのデスノートを使ってみないか?」
月・L「…………」
リューク「今の話だけでも、デスノートには無限の可能性があることが分かっただろう。ましてやお前達なら、ミキとハルカよりも、きっと……」
月「……お前を楽しませることができる、か?」
リューク「ああ。そういうことだ。ククッ」
月「…………」
リューク「さあ……どうする? 二人で協力して使ってもいいし、どっちか一人だけで使ってもいいが……」
リューク「とりあえず今、そのノートの所有権があるのは……先にノートに触れた方……つまり夜神月。お前だ」
月「! ……もしこのまま、僕がお前にノートを返したらどうなるんだ? 今聞いた話からすると、ノートに関する記憶が無くなるのか?」
リューク「いや、それはあくまでもノートを使って人を殺した場合だけだ。ノートを使っていない場合は記憶は消えない」
リューク「ただし俺の姿は見えなくなるし、声も聞こえなくなるがな」
月「……そうか」
L「…………」
月「リューク」
リューク「ん?」
月「そもそも、お前が星井美希にノートを渡した理由は『面白いもの』が観たかったから……だったな」
リューク「ああ。そうだ」
リューク「だが、もっと端的に言えば……」
月「?」
リューク「退屈だったからだ」
月「! ……退屈……」
リューク「そういう意味では、ミキにノートを渡したのは正解だった」
リューク「時間としては、八か月半ほどの付き合いでしかなかったが……それでも、それなりの退屈しのぎにはなったからな」
リューク「ただ、ミキはそれなりに優秀ではあったが……デスノートを使い続けるには――……」
リューク「優し過ぎた」
L「! …………」
リューク「ミキは、ノートを拾ってすぐに殺した事務所の前のプロデューサーと、半ば自棄になって名前を書いたクラスメイトの奴を除けば……本当に悪人しか殺さなかったからな」
リューク「もっとも、ハルカの方は少し事情が違うが……まあ、あれはミキがノートを拾う前の話だしな」
リューク「それに十日前の件にしたって、竜崎……お前がLだと確信した時点で、すぐに名前を書いていれば……また違った結果になっていたかもしれないしな」
L「それは……そうですね」
リューク「だから今回、こういう結末になったのは……ある意味必然だったのかもしれない」
リューク「ミキの、あの優しい性格じゃあ……仮に今回の危機を切り抜けられていたとしても、遅かれ早かれ、同じ結末になっていただろうと思う」
リューク「だがその点……お前達ならそんな事はないだろう」
月・L「…………」
リューク「さあ、夜神月。そして竜崎」
リューク「俺を……もっと楽しませてくれ!」
月「…………」
L「…………」
月「……ああ。そうだな。リューク」
リューク「!」
L「! …………」
月「……とでも言うと思ったか? 死神」
リューク「! …………」
月「以前、竜崎にも同じような話をしたが……確かに僕も、凶悪な犯罪者の報道を目にした時など……『こんな奴は死んだ方が世の中のためだ』などと思うことはある」
L「…………」
月「しかし、人が人を殺すことのできる唯一の手段は法律だ」
月「人類が長年にわたり知恵を出し合い、英知を結集させたもの……それが法律なんだ」
月「それを、ごく少数の人間の独断によって覆すことは許されない」
月「たとえその結果、犯罪が減少したとしても……それは平和でもなんでもない」
月「それは独善と言うんだ」
L「月くん」
リューク「…………」
月「だから……リューク」スッ
(手に持っていたデスノートをリュークに向けて差し出す月)
リューク「! お前……」
月「返すよ。死神。こんな物……僕達人間には必要無い」
リューク「……それがお前の答えなのか? 夜神月」
月「ああ」
リューク「……お前も同じか? 竜崎」
L「はい。私の言いたかったことは全て月くんが言ってくれました」
L「そのノートは私達には必要の無い物です。どうかそれを持って死神界にお帰り下さい」
リューク「……ああ、そう……」
月・L「…………」
リューク「だが……いいのか? そんな強気な態度に出て……。さっきも言ったが、俺はいつでもお前達を殺せるんだぞ?」
月「……だったら、殺せばいい」
リューク「何?」
L「…………」
月「死神に脅迫され、人を殺め続けることを強いられる人生を送るくらいなら……ここで死んだ方がましだ」
リューク「! …………」
月「その程度の覚悟なら、もうできている。このノートに触ることを決めた時……いや……」
月「竜崎と共に、星井美希と天海春香を捕まえると……決めた時に」
L「……私も、月くんと同じ気持ちです」
リューク「…………」
リューク「……ククッ。そこまで開き直られては仕方ないな」
月・L「!」
リューク「しかし実に残念だ。お前達なら、確実にミキ達よりも俺を楽しませてくれると思ったんだがな」
リューク「特に……夜神月」
月「!」
リューク「俺の……『死神』の存在にいち早く勘付き、さらに『切り取ったページや切れ端でも殺せる』という可能性などをも考えていた、お前なら……」
月「…………」
リューク「ククッ。間違えたかな。ノートを渡す順番を」
リューク「もし俺が、ミキよりも先にお前にノートを渡していれば、あるいは……」
月「…………」
リューク「まあ……過ぎた事を言っても仕方ない。お前達にノートを使わせることは諦めよう」
月「……僕達を殺さないのか? リューク」
リューク「ん? ああ……さっきのは、それでお前達の気が変わるならと思い……駄目元で言ってみただけだ」
リューク「それに今、お前達を殺してしまうと……『これから先』……一層、楽しめなくなりそうだからな」
月「! ……それは、どういう……?」
リューク「ククッ。さぁてね」
L「…………」
リューク「さて、じゃあ残念だが……このノートは返してもらうとしよう」スッ
月「……リューク」
リューク「? 何だ?」
月「最後に……答えられるなら答えてくれ」
(浜辺に横たわっている美希と春香を見やる月)
月「……魂、とでもいうべきものがあるとして……デスノートを使い、死んだこの二人の……星井美希と天海春香の魂は、どこにいくんだ?」
リューク「…………」
月「やはり……地獄にでも連れて行かれるのか?」
リューク「ククッ。生憎だが……俺達死神は『魂』などという概念を持ち合わせてはいない」
リューク「だが、一つだけ言えることがある」
リューク「天国も地獄もない。生前何をしようが死んだ奴のいくところは同じ……死は平等だ」
月「……そうか」
L「…………」
リューク「では……返してもらうぞ。デスノート」
月「ああ」
リューク「じゃあな。人間」
(月から差し出されていたデスノートを受け取るリューク)
(リュークがデスノートを手に取るのと同時に、月はノートから手を放す)
(その瞬間、月からはリュークの姿が見えなくなった)
月「! リュークの姿が見えなくなった」
L「……私にはまだ見えていますが」
リューク「ああ」
月「えっ」
リューク「竜崎……お前はノートの所有者ではなかったからな。単にノートに触っただけの人間に俺の姿を見えなくするには、一度その人間にノートの所有権を持たせ、その上で所有権を放棄させなければならない」
L「…………」
リューク「だから……竜崎。便宜上、次はお前にこのノートの所有権を渡す。そうしたらすぐに俺に返せ」
リューク「そうしておかないと、お前には俺の姿が見えるままになっちまう……それは『都合が悪い』からな」
L「! ……分かりました」
月「竜崎? 今どういう状況なんだ?」
L「……後で説明します。月くん」
リューク「そうそう。後はあの女……弥海砂も、俺の姿が見える状態になっちまってるからな。後であいつの所にも行って、お前と同じようにノートの所有権持って捨ててをさせないと……」
L「……随分徹底していますね。『もう死神界に帰るのなら』あなたの姿が見える人間が人間界に残っていたところで、そんなに大きな不都合があるとは思えませんが」
リューク「ククッ。まあ……『もう人間界に来ないのなら』……な」
L「! …………」
リューク「よし。じゃあ渡すぞ」スッ
L「……はい」
(リュークからデスノートを受け取るL)
リューク「そして、そのままノートを俺に返せ。それで俺達の関係は終わりだ」
L「…………」スッ
(受け取ったばかりのデスノートをリュークに向けて差し出すL)
リューク「ククッ。これで今度こそさよならだ」
リューク「じゃあな。人間」
(リュークがデスノートを受け取った瞬間、ノートもリュークもLからは見えなくなった)
L「! ……見えなくなった……」
月「竜崎? 一体、何が……?」
L「月くん。実は――……」
(リュークとの最後のやりとりの内容を月に伝えるL)
月「……なるほど。それでノートが見えたり見えなくなったりしていたのか」
L「月くんからはそういう風に見えていたんですね」
月「ああ。竜崎の手の中にいきなりノートが出現したかと思えば、竜崎がそれを前方に差し出した直後にまた見えなくなった」
L「なるほど。とすると、デスノートは『人間に譲渡する』という死神の意思があって初めて、我々人間にも認知できるようになる……ということですね」
月「そういうことだろうな。……しかし、それよりも気になるのは……あの死神、リュークの言動……さっきも、僕達を殺してしまうとこの先楽しめなくなる、みたいなことを言っていたが……」
L「はい。そして私からも自分の姿を見えなくするようにし……さらにこの後、弥の所に行って同じことをするとまで言っていました」
月「ならば……もう間違い無いな」
L「はい。あの死神……リュークは――――またそのうち、あのデスノートを人間に渡すつもりです」
月「そして人間にノートを渡した死神は、その人間が死ぬまで、その人間に憑いていなければならない……それは死神界の掟でもあるらしい」
月「つまりこの先、リュークからあのノートを渡される人間がいるとすれば……リュークはその人間に憑いていなければならなくなる」
月「その状況下において、ノートに触った事のある人間が、ノートの所有権を得て、それを放棄していなければ……その人間に近づいた場合、リュークの姿が見えることで、ノートの所有者が誰であるか分かってしまう。それを防ぐための措置だろう」
L「はい。弥はともかく、私がまたノートの所有者の捜査に乗り出せば……いずれはその容疑者として、ノートの所有者を目にする機会もあるでしょうからね」
月「……おかしいとは思ったんだ。わざわざ、僕達にノートを使わせるために人間界に留まっておきながら……あんなにあっさり引き下がるなんて」
L「ええ。おそらくリュークは、最初から二つのパターンを想定していたのでしょう。一つ目は言うまでもなく、私と月くんの双方、またはそのいずれか一方にノートを使わせ……そのさまを観て楽しむというパターン」
月「そして二つ目は……僕達がノートの使用を拒んだ場合に、他の者にノートを渡し……僕達にその者を追わせることで、それを観て楽しむというパターン……か」
L「はい。そして今まさに、その二つ目のパターンが現実のものになろうとしている……いえ、もう……『なった』と考えるべきしょうね」
月「そうだな。『自分の思い通りに人を殺せるノート』なんて……欲しがる人間は無数にいる。今日明日にも、自分の私利私欲のためにノートを使い始める人間が現れてもおかしくない」
L「あるいは、ノートがキラの理念に賛同する人間の手に渡れば……またキラの裁きを再開されてしまう可能性もありますね」
月「それならやはり……僕達がノートを持ったまま、誰も使うことがないよう、どこかに封印しておいた方が良かったかもしれないな。あるいはいっそのこと、焼却するなりして処分してしまうという手も……」
L「そうですね。一応はそのような手段もありえましたが……しかしリュークが私達を殺さなかったのは、まさに今月くんが言った通り、他の人間にノートを渡し、私達にその者を追わせ、そのさまを観て楽しむため……。そうであるとすれば、私達がノートを封印なり、処分なりしようとした時点で……今度こそ本当に私達を殺し、ノートを回収していたものと思われます」
月「そうなると結局、その後はまた別の人間にノートを渡されてしまうだけ……か」
L「はい。……おそらくは」
月「それならば結局……僕達にできることは一つしかないな」
L「はい。またあのノートを手に入れ、人を殺すような者が出てきたら……その段階でその人間を捕まえるだけです。その人間がキラの思想を持っていようがいまいが関係ありません」
月「そうだな。しかしその人間を追い詰めたところで、またリュークによって別の人間にノートが渡されてしまうかもしれない。もはやそうなるといたちごっこだが……」
月「しかし……それでも」
L「はい。それでも私達は、ノートを使う者を追い続けるだけ……いえ」
L「追い続けなければなりません」
L「リュークが『もうこれ以上は何度やっても無駄だ』と音を上げるまで」
月「根比べ、というわけだな」
L「はい」
L「私達とリューク……どちらが先に音を上げるか」
L「死神との命懸けの根比べです」
月「……本当に命懸けだな。リュークのあの性格じゃ、いつ気まぐれで僕達を殺すか分からないし……」
L「そうですね。結局は、彼が飽きたらそこでおしまい、という話に尽きるのかもしれません」
L「しかし、私達は……」
月「ああ。そうだな。竜崎」
月「僕達は逃げるわけにはいかない」
L「…………」
(どちらからともなく、浜辺に横たわっている美希と春香を見やる月とL)
月「もう既に、色々と……背負ってしまっているからな」
L「……そうですね」
月「……なあ、竜崎。この戦い……僕達は勝ったのかな?」
L「……そうですね。少なくとも、私個人としては――……負けです」
月「竜崎」
L「星井美希が私を殺さなかったのは、『天海春香の悲しむ顔を見たくなかったから』」
L「死神レムが私を殺さなかったのは、『天海春香の選んだ道を尊重したかったから』」
L「……皮肉だと思いませんか? 『熱狂的な天海春香のファン』という偽りの姿を演じ続けた私が……最後には『天海春香』という存在によって生かされたわけです」
L「誰がどう見ても、私の負けです」
月「…………」
L「また、容疑者と殺人の方法をほぼ完全に特定しておきながら……二人を逮捕する前にみすみす死なせてしまった」
L「これは明らかに私の探偵としての落ち度……この点でも私の負けです」
月「……それを言うなら僕も同じだ。竜崎」
L「月くん」
月「僕だって、『捜査本部に居て、星井美希と天海春香を疑っている可能性が高い者』とまで考えられていたんだ。いつ殺されてもおかしくなかった」
月「レムに殺されずに済んだことも、二人をみすみす死なせてしまったことも同じだ」
月「だから竜崎が負けというなら、僕も負けだよ」
L「……月くん」
月「だが結果として彼女達は死に……そして僕達は生き残った」
L「…………」
月「だからせめて僕は、この先の人生も精一杯……生きていこうと思う」
月「彼女達の分まで、などとおこがましいことを言うつもりはないが……せめて自分の人生を、悔いの無いように」
L「……それは私も同感です。月くん」
月「……ところで、今後の事だが……竜崎。星井美希と天海春香がキラだった事は世間には公表しない……そうだな?」
L「はい。そのつもりです。このような結果になった以上、今更そんなことをしても意味が無いですし……むしろ、事件に何の関係も無い765プロダクションの関係者を無用な風評被害に晒すだけです」
L「また『キラがいなくなった』と公表すれば、当然、悪事を働こうとする者も増えるでしょうから……勿論、これは犯罪の抑止力としてのキラの存在を肯定する意味ではありませんが……そうなると分かった上であえて公表する実益もありません」
月「そうだな」
L「ただ、この二人の死そのものは隠しようがないですので……世間的には、『ライブ終了後に二人で海に遊びに行き、浅瀬で遊んでいるうちに不運にも波に飲まれ、溺死した』……とでもしておくしかないでしょうね」
月「事務所の関係者は勿論、家族もいることだからな。このまま遺体を隠蔽して『行方不明』で押し通すのは流石に無理があるし……何より人道に反する」
L「はい。私も同じ考えです」
月「ただ……流石にプロデューサーにだけは真実を伝えざるを得ないだろうな。誤魔化せなくはないかもしれないが……彼の常人離れした洞察力に鑑みると、下手に隠すのは危険だろう。それを抜きにしても、彼は既に多くの情報を知り過ぎている」
L「そうですね。ライブ後はノートに書かれた内容の間接的な効果が働いており、ゆえに私からの連絡にも応答しなかったものと思われますが……その状態がいつまでも続くわけではないはずです。むしろ、書かれた内容が実現された今はもう解けていると考えた方が自然でしょう。ならば、全てをありのままに話した方が良いと思います」
月「彼なら、その秘密は誰にも漏らすことなく墓の中まで持って行くだろうしな」
L「はい。そうすることが星井美希と天海春香……そして残された765プロダクションの他のアイドル達にとっても最善の選択であると、彼ならすぐに理解するでしょう。『死んだ二人のアイドルがキラ事件に関わっていた』なんて……所属事務所のプロデューサーという立場からは絶対に表に出したくない情報ですからね」
月「そうだな。……あと、ノート自体はリュークに返してしまったが……僕が胸ポケットに仕込んでいた隠しカメラで、今日、この場所に着いてからの一部始終は撮影できている。勿論、リュークの姿は映っていないだろうが……少なくとも、僕が手に触れていた間のノートの内容は映像として残せているはずだ。捜査本部内で保管する記録としてはこれで十分だろう」
L「はい。それがあれば夜神さん達への説明もしやすいですしね」
月「ああ」
月「しかし……『デスノート』……か」
L「? 月くん?」
月「……竜崎。さっき、リュークも言っていたが……」
L「…………」
月「もし、『ノートを渡す順番が違っていたら』……キラになっていたのは僕だったかもしれない」
L「! ……何故、そう思うんですか?」
月「リュークが言っていただろう? 『退屈だったから』星井美希にノートを渡した……と」
L「はい。それが……何か?」
月「僕も……退屈だったから」
L「! …………」
月「リュークと僕は、ある意味同じだ」
月「僕もずっと……自分が今生きているこの世界、腐った世の中に……退屈を感じていた」
L「…………」
月「それにあのノートには……人間なら誰でも一度は試してみたくなる魔力がある」
月「だからもし僕が、星井美希よりも先にデスノートを手にしていたとすれば……」
L「…………」
月「そんな退屈な日常から抜け出すために……あるいは、この腐った世の中を革めるために――……」
月「僕が『キラ』になっていたかもしれない」
L「月くん」
月「もしそうなっていたら……竜崎とは敵同士になっていたかもしれないな」
L「……そうですね。ですが……」
月「…………」
L「キラになったのは星井美希であり、キラになっていないのが月くんです」
月「! …………」
L「それが……全てだと思います」
月「……竜崎……」
L「…………」
月「一つだけ……補足しておくよ」
月「確かに僕は、ずっと退屈を感じていた」
月「―――竜崎に出会うまでは」
L「!」
月「竜崎に出会ってからは……僕は今日まで、一日たりとも退屈を感じた日は無かったよ」
L「……私も同じです。月くん」
月「竜崎」
L「月くんと過ごしたこの捜査の日々は、とても刺激的で……退屈など微塵も感じませんでした」
月「……そうか。それなら良かった」
L「はい」
月「じゃあ改めて……これからもよろしくな。竜崎。……いや……」
L「?」
月「……よろしく。“L”」
L「……はい。こちらこそよろしくお願いします。月くん。……いえ……未来の警察庁長官殿、でしょうか」
月「それはまた……随分気の早い話だな」
L「月くんの能力なら、決して遠い話ではないと思いますよ」
月「はは。ありがとう」
月「それにしても……星井美希が、今日のライブで竜崎を本気でファンにしようとしていたとはな」
L「……はい。そのことですが……月くん」
月「? 何だ? 竜崎」
L「これもノートの効力だった、と言えばそれまでなのかもしれませんが――……私は今日のライブ中、確かに……ステージ上で輝く、“アイドル・星井美希”の姿に魅了されていました」
月「! 竜崎」
L「そういう意味では―――私はあの時、あの瞬間―――確かに『“アイドル・星井美希”のファン』になっていたのかもしれません。天海春香の時のような『偽りのファン』ではなく……『本当のファン』に」
月「…………」
L「そうであるとすれば、この点でも……私は星井美希に『負けた』ということになるのかもしれません」
月「……竜崎」
月(確かに、僕も――……今日のライブ中、自分の意識が丸ごとステージの方へ持っていかれそうな……そんな感覚に襲われた)
月(勿論それは竜崎が言うように、ノートの効力でもあったのだろう)
月(だがきっと、それだけではなく……)
月「…………」
L「月くん? どうかしましたか?」
月「……竜崎」
L「? はい」
月「星井美希も、そして天海春香も――……デスノートなんかより、もっと……“強い力”を持っていたのかもしれないな」
L「!」
月「…………」
L「それなら私達も……負けてはいられませんね」
月「……そうだな。竜崎」
月「共に頑張ろう。この先もずっと」
L「はい。月くん」
L「私達にも――……彼女達のような“強い力”があると、信じて」
【同日・死神界】
(死神界の穴から人間界を覗いているリューク)
リューク「……ククッ。まあどうせあいつらのことだ。俺がまたすぐに別の人間にノートを渡そうとしていることくらい……当然考えついているだろう」
リューク「しかしそんなことは大した問題じゃない。見つかったら見つかったで、また別の人間にノートを渡せばいいだけだ」
リューク「なんせ人間なんて、この世に何十億人もいるんだからな」
リューク「……さて、じゃあ次は誰にこのノートを渡すか……」
リューク「やはりまず思いつくのは……そうだな。たとえば熱狂的なキラ信者とか……お。あいつなんか良さそうだな。名前は、魅―――あ、人混みの中に紛れちまった。ちぇっ」
リューク「まあいいか。またそのうち目にする機会もあるだろう。死神を……デスノートを引き寄せるような人間なら」
リューク「あとは……そうだな。ミキとハルカの遺志を継ぎそうなアイドル、なんてのも面白いかもしれないな。たとえばあいつ……矢吹可奈とか」
リューク「ククッ。こうやって、色々と考えを巡らすのもまた面白! ……だが」
リューク「…………」
リューク「まあ、今日くらいは……なあ。ミキ」
リューク「これまでの間、俺を楽しませてくれたお前に敬意を表し――……」
リューク「俺も、お前と過ごしたこの八か月半という時間に思いを馳せるとしよう」
リューク「……なんてな。ククッ」
リューク「俺も少し、レムの奴の感傷がうつっちまったかな?」
リューク「…………」
リューク「なあ、ミキ……」
【一週間前(美希と海砂の撮影があった日)・765プロ事務所近くの公園からの帰路】
(春香と別れた後、帰路を歩いている美希)
リューク「……なあ、ミキ」
美希「? 何? リューク」
リューク「いや……本当にあんな書き方で良かったのか?」
美希「あんな書き方って?」
リューク「たとえばほら、『アリーナライブを成功させ、トップアイドルになって……』とか、そういう書き方だってやろうと思えばできたんじゃないか? まあ、それが有効かどうかは実際に書いてみないと分からんが……」
美希「もう、何言ってるの? リューク」
リューク「え?」
美希「もし仮に有効だとしても、そんなの何の意味も無いの」
美希「『自分達の実力だけで』トップアイドルにならなきゃ」
リューク「! …………」
美希「それに春香だって、あくまでも『実力以外の手段を使って』ミキ達を陥れようとした人だけ、デスノートを使って排除しようとしていたわけだし……実際、そうしていたの」
リューク「それはまあ……そうだが」
美希「だから、ミキ達がデスノートを使って実現するのは『アリーナライブを最後までやり切る』というところまで」
美希「ライブそのものが『成功』するかどうか……そして、ミキ達がトップアイドルになれるかどうか……」
美希「それは全部、ミキ達の実力次第……それでいいの」
リューク「……ククッ。なるほどな」
美希「あと……リューク」
リューク「ん? 何だ? ミキ」
美希「ミキと最初に会った日に、『デスノートを使った人間が天国や地獄に行けると思うな』って……言ったよね」
リューク「ああ……言ったな」
美希「ミキ、別にいいよ。それでも」
リューク「え?」
美希「たとえどこに行っても……春香さえ一緒なら」
美希「ミキはそれでいいの」
リューク「……そういえば、さっきもそう言ってたな。ミキ」
リューク「ハルカと『ずっと一緒』だと」
美希「うん。そうだよ」
美希「ミキと春香は、ずっと一緒なの」
【現在・死神界】
リューク「……ククッ」
リューク(ここまで使い勝手の良い道具が手元にあったのに、最後の最後……一番大事な場面ではそれには頼らず)
リューク(『自分達の実力だけで』トップアイドルに……か)
リューク(これはこれで“人間”らしくて面白……かもな)
リューク(なあ……ミキ)
リューク「……さて」
リューク「今度は……もっと面白いものを俺に見せてくれよ」
リューク「なあ」
リューク「―――“人間”」
リューク「……ククッ」パラッ
(笑いながら、手に持ったデスノートの一番後ろのページを開くリューク)
(そのページには、次の文章が書かれていた)
-----------------------------------------------------------
星井美希 天海春香 心不全
20××年8月1日
誰にも妨害されることなくアリーナライブを最後までやり遂げ、
誰にも捕まることのないまま海の見える浜辺へ行き、
第三者に発見される前に安らかな眠りの中で死亡。
-----------------------------------------------------------
了
447 : 以下、名... - 2017/01/22 03:13:59.87 uKLrxvWI0 963/963以上で本作品は終了となります。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
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