一つ前
美希「デスノート」 3冊目【2】

255 : 以下、名... - 2016/11/01 22:45:47.29 KY9Y/ibg0 848/963

【翌日・星井家】


【アリーナライブ当日】


美希「じゃあ、行って来るね」

星井母「ええ。頑張ってね。美希。会場に着いたら連絡するから」

菜緒「めっちゃ応援するからね!」

美希「……うん」

美希「ありがとうなの。ママ。お姉ちゃん」

美希「ミキ、一生懸命歌って踊って頑張るから……絶対、最後まで観ていてほしいの」

星井母「もちろん。最初から最後までしっかり見届けるわよ」

菜緒「そうそう。今日もお仕事でカンヅメのパパの分までね~」

美希「! ……うん。ありがとう」

美希「パパの分まで応援よろしくなの」

美希「それじゃ、行って来ます」

 ガチャッ バタン

菜緒「……それにしても、まさか美希がアリーナで歌ったり踊ったりするなんてねぇ~。正直、まだ実感湧かないわ」

星井母「…………」

菜緒「? ママ?」

星井母「……そうね。でもきっと、美希なら大丈夫よ」

星井母「私はそう信じてるわ」

菜緒「まあね。昔から何事にも物怖じしないしね。あの子」

星井母「……ええ」

256 : 以下、名... - 2016/11/01 22:47:42.33 KY9Y/ibg0 849/963

菜緒「さて、出発まではまだ時間あるし、もうちょっと部屋でゴロゴロしてよーっと」

星井母「もう、菜緒。暇なら洗濯の一つでも手伝ってよ」

菜緒「あはっ。それはまた今度なのー♪ なーんてねっ」タタッ

(からかうような口調で言いながら、二階に上がっていく菜緒)

星井母「……もうっ」

星井母「…………」

星井母(今日はいつも通りの美希……だったわよね。うん)

星井母(大丈夫。きっとこの前の違和感は私の気のせいだったんだわ)

星井母(そうよ。きっと……)

星井母「…………」








(自宅を出た後、道路を歩いている美希)

美希「……ねぇ。リューク」

リューク「ん? 何だ? ミキ」

美希「ミキ……“上手く出来てた”?」

リューク「……ああ」

リューク「上出来だ」

美希「そう」

美希「それなら……良かったの」

美希「…………」

257 : 以下、名... - 2016/11/01 22:50:18.02 KY9Y/ibg0 850/963

【同時刻・天海家】


春香「じゃあ、お母さん。そろそろ行くね」

天海母「あら。もうそんな時間?」

春香「うん。本番前にも色々確認したりしないといけないから」

天海母「そうなの。お母さんももう少ししたら出るから、向こうに着いたら連絡するわね」

春香「うん。ありがとう」

天海母「本当はお父さんも一緒に行けたら良かったんだけどねぇ」

春香「……しょうがないよ。お仕事だもん」

天海母「まあねぇ。でもせっかくの春香の晴れ舞台なのに……」

春香「いいよ。さっき、家出るときに『頑張れ。春香』って励ましてくれたから。私はそれで十分だよ」

天海母「そう」

春香「……うん」

天海母「そういえば、今日は夜神先生も来られるのよね?」

春香「! ……うん」

天海母「頑張ってね。春香。今日の頑張りが今後のあなたと夜神先生の関係を左右するわよ」

春香「しないよ! 何言ってんの、もう」

天海母「あら。緊張してる娘をリラックスさせてあげようっていう親心じゃないの」

春香「別に、そもそもそんなに緊張してないし」

天海母「そう? それならそれでいいわ。……ねぇ、春香」

春香「? 何?」

天海母「全力で楽しんできなさい」

天海母「青春は、あっという間なんだから」

春香「……うん。そうだね」

春香「ありがとう。お母さん」

258 : 以下、名... - 2016/11/01 22:54:58.72 KY9Y/ibg0 851/963

春香「それじゃ、行って来ます」

天海母「ええ。行ってらっしゃい」

 ガチャッ バタン

春香「…………」

レム「……ハルカ」

春香「? 何? レム」

レム「いや……」

春香「もう、いつまでそんな顔してるの?」

レム「…………」

春香「何度も話したじゃない」

春香「これが、私達にとってベストな選択なんだって」

レム「……ああ。そうだな」

春香「でしょ? だったら、いつまでもそんな浮かない顔してないで――……」

レム「…………」

春香「最後まで、しっかり観ててよね」

春香「今日の“私”のステージを」

レム「! ……ああ。もちろん」

レム「見届けるさ。私は、お前の……“アイドル・天海春香”のファンだからね」

春香「……うん。ありがとう。レム」

春香「…………」

259 : 以下、名... - 2016/11/01 22:59:51.12 KY9Y/ibg0 852/963

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「……竜崎。そろそろ、今日の監視要員に志願してくれた二名の警察官がこのホテルに着く頃だが……」

「分かりました。では夜神さん。お手数ですがその二人を迎えに行って頂き、この部屋まで連れて来てもらえますか?」

総一郎「分かった。……念の為に聞いておくが、この二人には、あなたも“L”として顔を晒すということでいいんだな?」

「いえ」

総一郎「えっ」

「流石にもう、私が皆さんと最初にお会いした時にしたような、『キラではないことを確かめるための質問』などはしませんが……それでもあえて私が“L”として顔を晒す必要までは無いと思っています」

「またこの少し後にも、私が呼んだ二人の応援要員がここに来ますが……彼らも“L”としての私の顔は知りませんので」

総一郎「では、どうするつもりなんだ? 面でも着けるのか?」

「そういえば、僕と大学で最初に会った時にはあのひょっとこみたいな面を着けていたな」

「この本部内だけならそれでもいいですが、流石にライブ会場でその出で立ちでは周囲から浮き過ぎますし……何より、星井美希・天海春香の両名から確実に不審に思われてしまいます」

相沢「確かに……」

松田「普通に素顔のままで一緒に遊園地とか行ってましたもんね」

「はい。なので今更顔は隠しませんが……今日これ以降は、私はあくまでも“L”の部下の一人である“竜崎”として行動するようにします」

「そして“L”役はワタリに演じてもらうようにします。……といっても、原則として私が“L”から聞いた指示を皆さんにお伝えする、という形を取るので、実際にワタリが“L”として皆さんに直接指示を出すような場面はほとんど無いだろうとは思いますが」

「それから念の為、皆さんもこの後は常に偽の警察手帳の名前を使うようにして下さい」

総一郎「分かった。……では、二人を迎えに行って来る」

「はい。すみませんがよろしくお願いします」

松田「……でも、竜崎が呼んだ方はともかくとしても、警察庁から来る二人って……僕らは絶対面識ありますよね? わざわざ偽名使う意味無いような気が……」

相沢「まあな。でも相手によっていちいち呼び分けるのもややこしいだろ。それに今日はずっとアリーナでの潜入捜査なんだし、いつ誰に名前を聞かれても困らないようにしておいた方が良い」

松田「あー、なるほど。それは確かにそうっすね。……でも、一体誰なんでしょうね? 警察庁から来る二人って……」

相沢「正直言うと、俺はかなり思い当たるが……」

松田「え? 本当ですか? 誰です?」

相沢「まあ、どうせもう直に来るだろう」

松田「もしかして、外れたらかっこ悪いとかって思ってます?」

相沢「……お前な」

松田「す、すみません」

 ガチャッ

相沢松田「!」

「来たようだな」

「はい」

260 : 以下、名... - 2016/11/01 23:03:43.06 KY9Y/ibg0 853/963

総一郎「……竜崎。二人を連れて来た」

松田「あっ!」

伊出「…………」

宇生田「…………」

相沢「やっぱり、お前らだったか」

伊出「……相沢」

宇生田「お久しぶりです。相沢さん」

相沢「志願してくれたんだな。二人とも」

伊出「ああ。『何だ今更』って思われるのは百も承知だが……」

相沢「そんなこと思うはずがないだろう。お前達だって、ずっと警察庁内で独自にキラを追ってくれていたんだ。ならば俺達は最初からずっと同志のはずだ。そうだろ?」

伊出「相沢」

宇生田「相沢さん……」

相沢「だから改めてよろしく頼む。共にキラを捕まえよう」

伊出「……ああ! こちらこそよろしく頼む」

宇生田「よろしくお願いします。相沢さん」

松田「伊出さん。宇生田さん」

伊出「おう。松田も久しぶりだな」

宇生田「相変わらず松田って顔してるな」

松田「ど、どういう意味っすか! でも……そっか。そういうことだったんですね」

伊出「ああ。そういうことだ。よろしくな」

宇生田「よろしく頼むぜ。松田先輩」

松田「せ、先輩って……」

宇生田「だって先輩だろ? この捜査本部では」

松田「そ、それはまあ、はは……とにかく、こちらこそよろしくお願いします! 伊出さん。宇生田さん」

261 : 以下、名... - 2016/11/01 23:10:35.80 KY9Y/ibg0 854/963

「……すみません。久々の再会に水を差すようですが……今後、お二人の事はここに書かれてある名前で呼ぶようにして下さい」スッ

(伊出と宇生田に偽の警察手帳を渡すL)

伊出「? 『伊田基秀』……?」

宇生田「俺のは『宇多川博康』……」

伊出「……なるほど。キラ対策の偽名の警察手帳、ってわけか」

「はい。もっとも、今のキラは『顔だけでも殺せる』可能性が高いので、もうあまり意味は無いかもしれませんが……念の為、これから先のやりとりは、各々、偽の名前で呼び合うようにして下さい」

伊出「分かった。ところで……あなたは誰だ? 警察庁の人間ではないよな?」

「申し遅れました。私は竜崎といいます。“L”の部下の一人です」

伊出宇生田「!」

伊出「Lの……」

「はい。この捜査本部では、私が“L”の指示を聞いた上で“L”に代わって指揮を執っています」

伊出「……なるほど。では、竜崎。今から言うことを、後でLに伝えておいてもらえるか?」

「? はい」

伊出「『あの時はすまなかった。ありがとう』と」

「! …………」

伊出「俺はあの時、『顔は見せられるが名前は明かせない』と言ったLを信用することができず、この捜査本部には加わらなかった。そしてその後は警察庁内で宇生田……いや、宇多川らと一緒にキラを追っていたが……結局、キラの正体の核心には何も迫れなかった」

伊出「やがて俺は、次第にあの時の事を後悔し始めた。何故あの時、『Lを信用し、局長達と一緒に捜査をする』という決断をする事ができなかったのか……と」

「…………」

伊出「そうして自分の無力感と後悔の念に苛まれていた中……今から一週間前、警察庁の全職員宛てに、『キラ事件の捜査に協力できる有志を募りたい』という連絡が局長からあった」

伊出「正直言って、胸が躍った」

伊出「『まだ自分にも役に立てることがあるのかもしれない』と思うと……居ても立ってもいられなかった」

伊出「だから俺は……こんな機会を与えてくれたLに、心の底から感謝の気持ちを伝えたい」

伊出「あの時、彼を信用できなかった事に対する詫びと共に」

「…………」

宇生田「私も伊田さんと同じ気持ちです。竜崎」

伊出「宇多川」

宇生田「Lに、謝罪と感謝の気持ちを伝えてもらえますか」

「……分かりました。伝えておきます」

262 : 以下、名... - 2016/11/01 23:15:55.87 KY9Y/ibg0 855/963

松田「ところで相沢さん……いえ、相原さん。分かってたんすか? この二人が来るって」

相沢「まあ、他に思い当たらなかったしな」

松田「流石……伊達に刑事やってないっすね」

相沢「……馬鹿にしてるのか? 松井」

松田「し、してないっすよ!」

宇生田「ところで、そちらの若そうな方は……?」

「ああ、すみません。僕は朝日月といいます」

宇生田「朝日……ん? 『ライト』って名前、以前どこかで聞いたような……」

「月くんはそちらにいる朝日局長の息子さんです」

宇生田「えっ」

伊出「局長の息子さん……って、確か……去年あった保険金殺人事件とかを助言して解決に導いたっていう、あの……?」

「ええ……まあ」

総一郎「息子はまだ大学に入ったばかりなのだが……そういった過去の実績などもあったことから、今は特例で捜査協力してもらっているんだ」

伊出「そ、そうだったんですか……」

宇生田「大学生でキラ事件捜査って……それはまたすごいな」

「いえ。まだまだ勉強中の身ですが、どうぞよろしくお願いします」ペコリ

伊出「ああ。こちらこそ」

宇生田「よろしく」

「……さて。そろそろ私が呼んだ二名の応援要員も来る頃です。部屋は事前に教えておいたのでここに直接来ます。なお先ほども言いましたが、皆さんは偽の名前を名乗るようにして下さい。勿論、彼らにも偽名を使うように予め伝えています」

「そして全員が揃った段階で……今日初めてこの本部に来られた方もいますので、まずはこれまでの捜査経緯をざっとお話しします」

「その後、今日の作戦の詳細をお伝えする予定です」

伊出「分かった。……って、あれ? そういえば係長と、模……ああ、本名はまずいのか。とにかく後二人ほど、この本部にいるはずでは?」

宇生田「そういえば……。もう先に現場に行ってるんですかね?」

「……そのお二人の事なら、別に本名で呼んで頂いても差し支えありませんよ」

宇生田「えっ?」

伊出「? 何故だ?」

「彼らがこの本部に来ることは、もうありませんので」

宇生田「? そ、それはどういう……?」

伊出「…………?」

「……これについても、後でまとめてお話しします」

総一郎「…………」

263 : 以下、名... - 2016/11/01 23:22:31.82 KY9Y/ibg0 856/963

(五分後)

 コンコン

「……どうぞ」

 ガチャッ

(ドアが開き、一組の男女が入室した)

「初めまして。本日のキラ事件捜査に協力させて頂くことになりました。Mark Dwelltonといいます」

「同じく協力させて頂きます。間木照子です。今日はよろしくお願いします」

(今の話し方……男性の方は日本人ではないな)

松田(またえらい美人を……竜崎のコネクションって一体……)

「お二人とも、わざわざご足労頂きありがとうございました」

「このお二人……マークさんと間木さんは、いずれも“L”の個人的なつながりからお呼びした方達です。その素性は明かせない……というか、私も“L”からは何も聞かされていませんので、その点はご了承下さい」

「では、こちらの皆さんもそれぞれ自己紹介をお願いします」

総一郎「朝日四十郎です」

相沢「相原修三です」

松田「松井太郎です」

伊出「伊田基秀です」

宇生田「宇多川博康です」

「……朝日月です」

「そして私が“L”の部下の竜崎という者です。今日は“L”に代わって皆さんの指揮を執らせて頂きますが……都度、状況に応じて“L”の指示・判断を仰ぎますので、その点はどうかご心配なく」

「というわけで、今日はこの八名で捜査を行いたいと思います。よろしくお願いします」

一同「よろしくお願いします」

「では、伊田さん、宇多川さん、マークさん、間木さんの四人には捜査状況をまだほとんど何もお伝えしていませんので……まずはそこからご説明したいと思います」

「我々が“L”の指揮の下、キラ事件の捜査を開始したのは昨年の11月末……『リンド・L・テイラー』という者を“L”の身代わりとしてテレビ中継に出演させたところから始まり――……」

(……間木照子こと、元FBI捜査官・南空ナオミ)

(Mark Dwelltonこと、南空の夫で現職のFBI捜査官・レイ=ペンバー)

(言うまでもなく、今の状況で捜査情報を知る者を増やすのはリスクがあるが……この二人なら問題は無い)

ナオミ「…………」

ナオミ(まさか、またこうしてLに協力することになるとはね)

264 : 以下、名... - 2016/11/01 23:25:04.63 KY9Y/ibg0 857/963

【一週間前(美希と海砂の撮影があった日)・アメリカ/ナオミの自宅】


 ピリリリッ

ナオミ「…………? 誰かしら?」

ナオミ「はい」

『Lです』

ナオミ「! L……」

『ご無沙汰しています。南空ナオミさん』

ナオミ「……またキラ事件の協力要請でしょうか?」

『流石、お察しが良いですね。その通りです』

ナオミ「……L。前にも言いましたが、その……」

『南空さん。半年ほど前に捜査協力をして頂いた後……『どうしても南空さんの協力が必要になった時に限り、再度ご連絡させて頂く』と言ったことを覚えていますか?』

ナオミ「それは……覚えていますが」

『今がその時です』

ナオミ「! ということは……」

『はい。本日私は、キラのほぼ決定的ともいえる証拠を入手しました』

ナオミ「! キラの……証拠?」

『はい。この証拠に基づき、今から一週間後……日本時間で8月1日に二名のキラ容疑者を逮捕します』

ナオミ「……つまり、私にその協力を……」

『はい』

ナオミ「…………」

『お願いできませんか? 南空さん』

ナオミ「……分かりました」

『! 南空さん』

ナオミ「私個人としては、あなたの事は本当に信頼していますし、尊敬しています。本心からいえば、できることならその捜査の全てに協力したいと思うくらいに」

ナオミ「ただ、今の私には愛する家族……夫がいます」

『…………』

ナオミ「ですので……L。捜査協力する代わりに、一つ条件を付けさせてもらえませんか」

『条件……ですか?』

ナオミ「はい」

『何ですか? それは』

ナオミ「―――私の夫も、今回のキラ事件の捜査に協力させて下さい」

『! …………』

266 : 以下、名... - 2016/11/01 23:35:48.98 KY9Y/ibg0 858/963

ナオミ「あなたなら、私の夫が誰で、どんな属性を持った人物かはもう既にご存知でしょう」

ナオミ「あなたがどんな捜査を考えているのかはまだ分かりませんが、少なくともあなたの期待に背くようなことは無いはずです」

『…………』

ナオミ「……と、いうのはある種建前で……本当は、単に私がこれ以上、彼に隠し事をしたくないからなんですけどね。現に、半年前の尾行捜査の際は相当怪しまれましたし……」

『その節は……大変ご迷惑をお掛けしました』

ナオミ「いえ。あと、これでも一応新婚ですし……彼に何の理由も告げずに単身で日本に渡る、というのもやはり抵抗感がありますから」

『……なるほど。それならいっその事、旦那さんにも全てを打ち明け、一緒に捜査協力を……ということですか』

ナオミ「はい。これが私の捜査協力の条件です。いかがでしょう?」

『……分かりました』

ナオミ「! L」

『元々、私もあと一人か二人、協力を頼めたら……とは考えていましたから。この点、確かにあなたの旦那さんなら文句の付けようのない人材です。むしろこちらからお願いしたいくらいです』

ナオミ「そうですか。それならよかったです」

『ただ、彼の所属は公にしてしまうと少し面倒な事になるので……あくまでもプライベートで日本に入国する、という体でお願いします。もちろん、必要な手続は全て私の方で行います』

ナオミ「ありがとうございます。こちらとしてもその方が助かります」

『では、旦那さんにはあなたの方からお話し頂いてもいいですか?』

ナオミ「はい。それは構いません。……ただ、できればその際、私が半年前にあなたの捜査協力要請を受けて動いていた事も含めて話したいのですが……よろしいでしょうか?」

『はい。もはやこの状況でそのくだりだけ隠す意味も無いのでそれは構いません。どうかよろしくお願いします』

ナオミ「ありがとうございます。彼は今でもたまに、あの時の事を気にしているような素振りを見せることがあるので……正直私としても、全部話してすっきりしておきたかったんです」

『それはご心労をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。……後は、肝心の旦那さんがこの捜査協力を快諾して頂けるかどうか、ですね』

ナオミ「その心配には及びません。夫は私と違って非常に正義感が強いので。それに今や、キラ事件は世界最大の関心事……その捜査、ましてや“L”の指揮下におけるそれに協力をしない理由は無いでしょう」

『それならいいですが……ただ、南空さん』

ナオミ「? はい」

『正義感なら、あなたも相当お強い方でしょう?』

ナオミ「……いえ。実のところ、私は決して正義感の強い人間ではないんです。FBIの捜査官になったのも、単に自分にその適性があったからで……何かしらの思想や哲学に由来しての事ではないんです」

『そうでしたか。それは少し意外ですね』

ナオミ「なので、私はどちらかというと……正義感よりも、あなたに対する信頼と尊敬からこの捜査に協力したいと思っているんです。L」

『……ありがとうございます。それはとても光栄な事です』

『では、旦那さんの協力が取り付けられたら……あるいは取り付けられなかった場合でも、近日中にご連絡下さい。なお、こちらの連絡先ですが――……』

267 : 以下、名... - 2016/11/01 23:50:48.84 KY9Y/ibg0 859/963

【現在・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


ナオミ(―――そんな経緯で、なし崩し的にレイも巻き込んでしまったけど……)チラッ

レイ「…………」

レイ(一週間前、ナオミから突然、『Lの捜査に協力してほしい』と言われたときは、かなり面食らったが……)

レイ(半年ほど前、お義父さん達に結婚前の挨拶をするために日本に行ったとき、ナオミが不審な動きをしていたことがずっと気になっていたが……それも今回と同じ件だったと分かり、それはそれですっきりした)

レイ(それに、キラは必ず滅ぼさなければならない社会悪……もう世界ではキラを認める声の方が多数派になりつつあるし、既にインターネット上などではそうなっているが……)

レイ(キラは悪だ。神を気取って犯罪者を片っ端から裁く行為など……絶対に許してはならない)

レイ(もっともこれまでは、捜査本部が日本警察内に置かれていたこともあり、私もFBI捜査官という立場からはアメリカ国内で独自に捜査を進める程度のことしかできていなかったが……)

レイ(今回、ナオミの導きで“L”が指揮を執るこの捜査本部に参加することができた)

レイ(捜査官としてではなく、あくまでも一私人としての捜査協力にはなるが……そんな事は大した問題ではない)

レイ(ここに来た以上は、全力でキラを追うだけだ)

レイ(ただ正直、ナオミがこの捜査メンバーに加わっているのは本意ではないが……だが彼女の手ほどきが無ければ、そもそも私はここに来ること自体できなかったわけで……それを考えればやむを得まい)

レイ(それにナオミもナオミで、元は優秀なFBI捜査官であったことに変わりは無い。辞めてからまだ一年も経っていないし……万が一にも不覚は取らないだろう)

レイ(何より、キラをこのまま野放しにはできない。“キラを捕まえること”。その正義の信念の下……私達は戦わなければならない)

レイ(私達自身の平和を守るために)

レイ「…………」

ナオミ(今のレイの目を見る限り……やっぱり正解だったみたいね。レイったら、いつになく燃えているみたいだわ)

「…………」

(『Mark Dwellton』……『間木照子』……か)

(普通に考えて、『Mark Dwellton』の方はどこか外国の警察官か何かだろうが……)

(『間木照子』の方は何者なのか気になるな。どう見ても日本人だし、しかもこんなに若い女性というのは……)

(! 日本人……女性……そうか)

(まだ僕がこの捜査本部に加わる前……天海春香が星井美希に『黒いノート』を手渡していた場面を、竜崎の指示で二人の尾行をしていた日本人女性……元FBI捜査官の『南空ナオミ』という人物が目撃したと聞いた)

(おそらくは……この『間木照子』と名乗っている女性が、その『南空ナオミ』だろう)

(それなら今回、竜崎が再び捜査協力を依頼したのも頷ける)

「――……そして次に、私達は日本全国の心臓麻痺死者を可能な限り洗い出しました。その結果、キラ事件の最初の犠牲者である新宿の通り魔……この者が殺された日の前日に、心臓に関する病気も既往歴も一切無いのに、『心臓麻痺で』死亡した者に行き着きました」

「その者は当時、株式会社765プロダクションのプロデューサーだった者。この者の死を足掛かりに、私達はさらに捜査を進めていき――……」

「最終的に、キラ容疑者を二名に特定しました」

「それが、765プロダクション所属アイドルである星井美希と天海春香」

「今日、私達が逮捕する予定の二人です」

268 : 以下、名... - 2016/11/01 23:57:07.77 KY9Y/ibg0 860/963

伊出宇生田「!」

レイ「アイドルが……キラ……?」

伊出「星井美希って……確か……」

宇生田「星井係長の……?」

ナオミ「…………」

ナオミ(『星井美希』と『天海春香』……)

ナオミ(半年前、私がLに依頼されて尾行していたのは、この二人以外に『萩原雪歩』というアイドルもだった)

ナオミ(『萩原雪歩』は『一人で焼肉を食べに行く』という少し風変わりな行動を取っていたから、Lにも一応報告はしたけど……)

ナオミ(この『萩原雪歩』が容疑者から外れ、『星井美希』と『天海春香』の二名に絞られたということは……)

ナオミ(Lが言っていた『キラのほぼ決定的ともいえる証拠』というのは……おそらく……)

「そして逮捕に踏み切る以上、当然、我々は既にこの二人がキラであるとする証拠を入手しています」

「ただこれは現物ではなく、それを収めた写真や映像ですが……しかしその内容から考えて、二人がキラである事のほぼ決定的な証拠となるものと判断しています」

レイ「一体何なんだ? そのキラの証拠というのは」

「はい。それは――……『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』。通称『黒いノート』です」

「私達は、これこそがキラの証拠……もとい、キラの殺人の道具そのものであると考えています」

レイ「! …………」

伊出「な、名前を書くと、書かれた人間が死ぬ……だと?」

宇生田「馬鹿な。そんなもの、この世に存在するわけが……」

ナオミ「…………」

ナオミ(やはり……私が三名のアイドルの尾行を開始してから六日目……公園で天海春香が星井美希に手渡していた『黒いノート』……)

ナオミ(あの時も少し不自然には思ったけど、所詮は年頃の女子同士……Lにも一応の報告はしたものの、実際には単なる交換日記か何かの類だろうと思い、そこまでの重要性は認識していなかった)

ナオミ(それがまさか、『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』だなんて……あまりに非科学的な話)

ナオミ(でもそれは、この先の説明を聞いてからでないと判断のしようが無いことね)

「……そのように思われるのも当然です。なので今から、この『黒いノート』の写真、映像を皆さんに実際にお見せします」

「そして、この二人をキラとして特定するに至った種々の状況証拠についてもあわせてご説明します」

「そうすればきっと、私達が今日、二人を逮捕すると決断したことにご同意頂けるものと思います」

レイ伊出宇生田「…………」

「では、まず『黒いノート』を写した写真ですが――……」

269 : 以下、名... - 2016/11/02 00:09:10.29 7ONm8XcO0 861/963

「――以上が、これまでの我々の捜査結果、および今日実行しようとしている作戦の概要になります」

伊出宇生田「…………」

レイ「……『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』に『死神』……か。なかなか、俄かには信じ難い話だが……」

ナオミ「でもこれまでのキラの裁きの傾向や、キラ容疑者が実際にそれとおぼしきノートを所持していたという事実を踏まえると……」

レイ「うむ……」

ナオミ「勿論、最終的な能力の確定とキラの特定にはノートの検証が不可欠でしょうけど……私は、現段階でキラ容疑者の二人……星井美希と天海春香を逮捕することに異論は無いわ」

レイ「……そうだな。いや、だが容疑者から自白を得られればノートの検証まではしなくとも良いのでは? ノートの性質上、検証をすると死人が出る可能性があるわけだし……」

ナオミ「それはまあ……そうね。でもそれは実際にキラ容疑者を逮捕してからの話だし、今ここで議論しなくても良いんじゃないかしら?」

レイ「確かに。まずはキラ容疑者の逮捕……それを最優先に行動することについては私も異議は無い」

「ご同意頂きありがとうございます。マークさん。間木さん」

伊出宇生田「…………」

「伊田さんと宇多川さんはいかがですか?」

伊出「確かに、突拍子も無い話だが……既に物的証拠がある以上、キラ容疑者を逮捕すること自体に異論は無い」

宇生田「私もです」

伊出「……ただ、俺はその事よりも……」

「星井係長と模木さんの件ですか」

伊出「……ああ。流石に予想だにしていない事態だったからな。……正直言って、まだかなり混乱している」

宇生田「私もです。正直、容疑者の名前として星井美希の名前が挙がった時点で、少し嫌な予感はしていたのですが……」

「星井係長と模木捜査員の件については完全に私達の失敗でした。その事自体は重く受け止めるべき事実です」

一同「…………」

「ですが、もう起こってしまったことはどうしようもありませんし……今はその現状を前提に、考えうる限りの最善の行動を取っていくしかないと考えています」

「それに星井係長と模木さんは今も完全監視下に置いています。つまりこれ以上の妨害行為はおろか、そもそも捜査に関わることすらできません」

「なので、気持ちの整理には少し時間が掛かるかもしれませんが……一旦、今はこの事は脇に置き、キラを逮捕する事にのみ全力を傾注して頂けませんか」

伊出「……ああ。そうだな。分かっている。俺だって自ら志願してここに来たんだ。“キラを逮捕する”……その目的だけは何があっても完遂したい」

宇生田「私もです。むしろ係長の為にも、何としてでもこの事件の真相を解明しなければならない……そう思っています」

総一郎「……伊田。宇多川」

相沢「そうだな。もうここまで来たら自分達の正義を信じて進むだけ……」

松田「正義……か。そうですね。もう世の中ではキラを肯定する人の方が多くなりつつありますけど……それでも、僕達のやろうとしていることは正義に違いないですもんね」

「その通りです。世の中のどれだけの人がキラを認めようと……キラのしている行いは間違い無く悪ですし、それを止めることは間違い無く正義です」

「だから私は、その正義の意思の下に、皆さんと一緒にキラを捕まえたい」

「そう思っています」

「……そうだな。キラを捕まえ、正義を実現しよう。竜崎」

「はい。月くん」

270 : 以下、名... - 2016/11/02 00:26:00.19 7ONm8XcO0 862/963

伊出「……で、今日の作戦だが……俺達は、とりあえずライブが終わるまでは普通に観客として会場に潜入しておけばいいんだな?」

「はい。ただ一応、ライブ中も星井美希と天海春香の動向には常に注意を払うようにしておいて下さい」

伊出「分かった」

宇生田「座席はもう決まっているんですか?」

「はい。伊田さんと宇多川さんは1階席、相原さんと松井さんは2階席、マークさんと間木さんは3階席になります。それぞれ二人一組で監視するようにして下さい」

相沢「そして竜崎と月くんは1階、アリーナ席のほぼ最前だったな」

「はい。位置的にもほぼ真正面……ステージ上からも確実に視認できる距離ですね」

「流石に僕達二人だけなら警戒されるだろうが……粧裕と高田も一緒だからな。まさかライブ直後に逮捕に動くなどとは夢にも思わないだろう」

「そうですね。ただ、逮捕自体は私が一人で行いますが……万が一にも事前に気取られ、二人に逃げられてしまっては元も子もありません」

「ですので皆さんには、ライブ終了後、会場の出入口等を分担して見張って頂きたい」

「まず、最も注意すべきは一般人が出入りできない関係者用扉です。ここはマークさんと間木さんでお願いします」

「そして相原さんと松井さんは、アリーナの外、その関係者用扉を出てすぐの位置で張っていて下さい」

「他方、観客に紛れて一般の出入口から出るという可能性も十分考えられますので……この出入口付近には伊田さんと宇多川さん。そして……」

「……かなりの混雑が予想されますので、月くんもこちらを見張って下さい」

「……ああ。分かったよ。竜崎」

「また、アリーナ内に設置されている防犯カメラの映像は全てこの捜査本部からも観れるようにしていますので、この映像の監視は朝日さん。お願いします」

総一郎「分かった。それとあわせて、星井君と模木の監視も……だな」

「はい。よろしくお願いします」

「以上が本日の作戦となります。もっとも、現場の状況次第では作戦を途中で変更する可能性も当然ありますが……その場合は私が“L”の指示を仰ぎながら都度皆さんに連絡するようにします」

「では皆さん。頑張っていきましょう」

「最後には、必ず正義が勝つと信じて」

一同「はい!」

271 : 以下、名... - 2016/11/02 00:31:30.20 7ONm8XcO0 863/963

【三時間後・アリーナ/控室】


(ライブ衣装に着替えた状態で待機しているアイドル・ダンサー一同)

奈緒「可奈。衣装ちゃんと入ったか?」

可奈「は、入りましたよ! 失礼な!」

奈緒「いや結局、合宿の後も可奈のおやつの量はあんま変わってなかったからなー」

可奈「そ、それは……でも、その分ちゃんとレッスンしてましたもん!」

奈緒「せやな。はは。よう似合うとるで」

可奈「奈緒さん。ありがとうございます!」

美奈子「二人とも、緊張の方は大丈夫みたいだね」

可奈「美奈子さん」

奈緒「せやなあ。もちろん、全然してないってことはないけど……ま、ここまで来たら後はもうなるようにしかならんしな」

星梨花「わたしも、緊張はしてるんですけど……でも、いい感じの緊張っていうか……今は早くステージの上で踊りたいっていう気持ちでいっぱいです」

美奈子「成長したね。星梨花ちゃん」

星梨花「はいっ! えへへ……」

杏奈「杏奈も……うん。早く皆と一緒にステージに立ちたい、な……」

百合子「ふふっ。やる気満々だね。杏奈ちゃん」

杏奈「……百合子さん。百合子さんは、どんな感じ……?」

百合子「もちろん、私もやる気に満ち溢れてるよ! もう逸る気持ちを抑えきれない……ぐっ! 静まれ……私のパトス……!」

杏奈「…………?」

百合子「ごめん、杏奈ちゃん。そんな可愛く小首を傾げられると私羞恥心に耐えられない」

志保「いよいよね。可奈」

可奈「志保ちゃん」

志保「今までの努力を信じて、最後まで頑張りましょう」

可奈「……うん! もちろん!」

可奈「…………」

可奈(大丈夫。大丈夫……)

可奈(この胸騒ぎは、きっと気のせい)

可奈(ライブ前で皆の気持ちが昂っている、この空気のせい)

可奈(だからきっと大丈夫)

可奈(そんな事よりも、今はライブに集中しよう)

可奈(それが何よりも……星井先輩や天海先輩のためになるんだから)

可奈「…………」

272 : 以下、名... - 2016/11/02 00:35:36.24 7ONm8XcO0 864/963

真美「……あり? そういえば兄ちゃんは?」

小鳥「さっきスタッフさん達と音響の最終確認をしていたから、もうすぐ来ると思うわよ」

「ホント、最後の最後までプロデューサーには頼りっきりだったなぁ」

「自分達一人一人のレッスン時間を均等にするために仕事のスケジュールを調整したりとか……そういうの全部一人でやってくれてたもんね」

貴音「真、あの方には感謝してもしきれません」

やよい「私もプロデューサーにはすっごくお世話になりました! もちろん、今もですけど!」

雪歩「今度、皆でお礼しなくちゃだね。もちろん律子さんにも」

律子「いいわよそんな。私は別に……」

社長「いやいや、律子君も陰の功労者だからねぇ。プロデューサーと二人三脚でよくここまで皆を引っ張ってくれたものだよ」

律子「社長……」

亜美「お、この流れは!?」

真美「鬼軍曹涙目コースきた!?」

律子「ば、バカっ。それはもう昨日やったでしょ!」

 アハハハ……

伊織「……ま、ちゃんとしたお礼はまた改めてするとして……にひひっ」

亜美「だね」ニコッ

律子「え? な、何よ。二人して、その意味深な笑い……」

あずさ「律子さん」

律子「え、あ、はい。何ですか? あずささん」

あずさ「ちょっと、じっとしてて下さいね」スッ

律子「……え?」

(律子の胸に、アイドル達が着けているのと同じ花を着けるあずさ)

律子「これ……」

あずさ「私達はいつも、律子さんと一緒ですからね」

律子「あずささん……」

伊織「にひひっ。ま、そういうことだから。今日も一日よろしくね。律子」

亜美「最後まで亜美達と一緒に楽しもうね! りっちゃん!」

律子「伊織……亜美……うぅ、もう! 開演前から泣かせるんじゃないわよ」

亜美「りっちゃん、ホントに泣いちゃダメだよ~」

律子「な、泣いてないでしょっ。もう……」

 アハハハ……

千早「…………」

273 : 以下、名... - 2016/11/02 00:42:18.62 7ONm8XcO0 865/963

春香「……ちーはやちゃんっ!」ドンッ

千早「ひゃっ! は、春香。もう、驚かせないでよ」

春香「あはは。ごめんごめん。……もしかして、結構緊張してる?」

千早「多少はね。でも大丈夫よ。ちょうど心地良いくらいの緊張感だわ」

春香「そっか。なら良かった。今日は最後まで頑張ろうね!」

千早「……ええ。頑張りましょう」

美希「…………」

 ガチャッ

「お、もう皆揃ってるな」

春香「プロデューサーさん。お疲れ様です」

アイドル・ダンサー一同「お疲れ様です!」

「おう、お疲れ。皆、良く似合ってるじゃないか」

アイドル・ダンサー一同「…………」ニコニコ

「……春香」

春香「? はい」

「今日がリーダーとしての最後の仕事だ。よろしく頼むぞ」

春香「……はい!」

美希「…………」

千早「いよいよね。美希」

美希「千早さん。……うん。そうだね」

千早「…………」

千早(美希の様子、やっぱりどこか……いえ。流石に気にし過ぎね)

千早(春香も今日は至って普通に見えるし……)

千早(それに本番までもう30分も無い。今は余計な事を考えないで、ライブに集中しなきゃ……)

律子「プロデューサー。そろそろステージ裏に移動する時間です」

「分かった。では社長。最後に一言、皆に激励をお願いします」

社長「ああ。……皆、これまで本当によく頑張ってくれた。今の君達の晴れ晴れとした表情が、これまで君達が積み重ねてきた全ての努力を物語っているように思う」

アイドル・ダンサー一同「…………」

社長「なので、今の君達に私が言えることはこれだけだ」

社長「君達自身がライブを楽しみ、そしてファンの皆を楽しませてくれたまえ」

社長「それがアイドルであり、それが765プロダクションだからね」

社長「以上だ。後は、私も君達のファンの一人として、観客席から君達の活躍を見届けさせてもらうことにするよ」

社長「またライブ後に会おう。健闘を祈る!」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

「……よーし! ファンの皆が待ってるぞ! 765プロの、そしてアリーナ史上に残る、最高のライブを見せてくれ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

「…………」

(いよいよ、か……)

274 : 以下、名... - 2016/11/02 00:50:09.95 7ONm8XcO0 866/963

【二十分後・アリーナ会場内/3階・関係者席】


菜緒「いよいよだね。ママ。あー、楽しみ!」

星井母「そうね。本当はパパも来れたら良かったんだけど……」

菜緒「まあ仕方ないよ。お仕事なんだし。それにまたすぐ次のライブもあるって」

星井母「……ええ。そうね」

天海母「あら? もしかして星井さん?」

星井母「えっ。ああ、天海さん。どうもお久しぶりです」

菜緒「えっ。天海って……天海春香ちゃんのお母さん?」

天海母「はい。いつも娘がお世話になっております」ペコリ

菜緒「い、いえ、そんな。こちらこそ、うちの美希がいつもお世話に……あ、私、美希の姉の菜緒です」

天海母「流石、妹さんに負けず劣らずの美人さんね。もしかしてあなたもアイドルを?」

菜緒「い、いえいえ! 私はただの学生でして……」

天海母「あら、そうなの? すぐにでもデビューできそうなのに」

菜緒「い、いや~……流石にそれは……あはは……」

星井母「あんまりおだてなくていいですよ。天海さん。この子はすぐ調子に乗るから」

天海母「別におだててるわけじゃ……あ、折角なのでお隣いいですか?」

星井母「ええ。もちろん」

天海母「では、お言葉に甘えて……」スッ

菜緒「ママは元々、春香ちゃんのお母さんとお知り合いだったの?」

星井母「ええ。765プロでは、未成年のアイドルの保護者を対象に、定期的に保護者説明会を開いてくれているのよ。そこで何回かお会いしていたから」

菜緒「あー。なるほどね。ママ、そういえば時々行ってるもんね」

天海母「アイドルの娘を持つ母親同士、色々と共通の悩みも多いですしね」

星井母「ええ。たとえば学校生活との両立とか……あっ、そういえば春香ちゃんは今年受験でしたよね?」

天海母「はい。でも幸いなことに、今はすごく優秀な家庭教師の先生に勉強を教えて頂いていて……当初の志望より高いランクの大学にも手が届きそうなんですよ」

菜緒「へー」

星井母「それはすごいですね。美希にも教えてもらいたいくらいだわ。あの子、本当にヤバくなるまで全然勉強しないから……」

天海母「それなら今度、美希ちゃんにも紹介して差し上げましょうか? 春香も元々は同じ事務所の高槻やよいちゃんから紹介してもらったって言ってましたし」

星井母「あら、本当ですか? それなら是非お願いしたいです」

天海母「じゃあ今度頼んでおきますね。あ、ちなみにその先生、頭が良いだけじゃなくてすっごくイケメンなんですよ」

菜緒「! は、春香ちゃんのお母さん! そういうことなら美希じゃなくて私に紹介して下さい!」

星井母「あんたね……」

天海母「あら。でもね~、私としては、あの先生には是非春香と良い仲になってほしいと思ってるのよねぇ」

菜緒「えー、そんなあ!」

天海母「ふふっ。でもライバルがいた方が春香にとっても良い刺激になるかもしれないし、いいわ。今度、あなたの事も紹介しておくわね」

菜緒「やた! ありがとうございます!」

星井母「まったく、もう」

菜緒「いいじゃん、これくらい。最近全然出会い無いんだもん」

天海母「なんだかいいわねぇ。青春って感じで。おばさん羨ましいわ。……あ、そろそろ始まるみたいね」

菜緒「よーし! 頑張れ美希ー! そして春香ちゃーん! 私、負けないからねー!」

星井母「何を言ってるのよ、あんたは……」

星井母「…………」

星井母(頑張ってね。美希)

275 : 以下、名... - 2016/11/02 00:58:01.91 7ONm8XcO0 867/963

【同時刻・アリーナ会場内/3階・観客席】


善澤「やぁ。暫くぶりだね。二人とも」

社長「おお、来たかね」

小鳥「ご無沙汰しています。善澤さん」

善澤「それにしても、まさかアリーナでライブとはな。一年前のごたごたが嘘のようだ」

社長「その節は、君にも色々と迷惑を掛けたな」

小鳥「本当、例の“765プロ潰し”計画の件……善澤さんに調べて頂かなかったら、私達だけじゃ何も分からないままでしたもんね」

善澤「いや、何。私は大したことはしていないさ。だがこうして、無事にこの日を迎えられて本当に良かった」

社長「うむ。後はここからアイドル諸君の頑張りを見届けるだけだ」

善澤「……ちなみに、黒井の奴はどうしているんだ? “765プロ潰し”計画の件については君に全面的に謝罪したと聞いたが……」

社長「いや、私もあれ以来連絡を取っていなくてね。ジュピターの躍進などを見る限り、961プロ自体は順風満帆のようだが」

小鳥「ジュピター、絶好調ですもんね。今や流河旱樹を完全に抑えて、男性アイドルの中では頂点に立ったと言っても過言では無いですし」

社長「うむ。だが黒井も黒井で、色々と大変だったのだろうとは思うよ。側近だった轡儀が亡くなった上、当時ジュピターの担当プロデューサーだった○○君までうちに移籍させたわけだからね。普通に考えて、相当な苦境に立っていたであろうことは想像に難くない」

小鳥「それでも会社の業績を落とさず、それどころか伸ばしてさえいるのは……黒井社長なりの努力の結果、ってことなんですかね。……でも正直言って、私は今でも全然許す気にはなれないですけどね。いくら謝罪したとはいっても、うちの事務所をあれだけ引っ掻き回したのは事実ですから」

善澤「それも当然の感情だろう。私も黒井のした事が許されるべきだとは思っていない」

善澤「だが、奴が今後は真摯にプロダクション経営に勤しみ、アイドル業界そのものの発展に寄与するのであれば……それが奴にとっての“贖罪”になるのだろうとは思う」

社長「ふむ。“贖罪”……か。確かにそうかもしれんな」

社長「奴も私も、元は同じ事務所で共にアイドルを育成していた者同士……互いに互いの信じた道を進むうち、いつかまた交わることもあるかもしれん」

社長「その時に、また昔のような関係に戻れたらいいと……そう思うよ」

小鳥「……もう。社長は本当に人が良いんですから」

社長「む? だ、ダメかな? 音無君」

小鳥「……いえ。それでこそ社長です。だから、私もそれでいいと思います」

社長「そうか。ありがとう。音無君」

善澤「ああ。それでこそ高木だ。……お、そろそろ始まるようだね」

社長「おお、いかんいかん。サイリウムの準備をせねば」

小鳥「…………」

小鳥(頑張ってね。皆!)

295 : >>276訂正 - 2016/11/26 15:02:52.13 a1FTt7Qy0 868/963

【同時刻・アリーナ会場内/2階・観客席】


北斗「さて、そろそろ時間かな」

翔太「他のアイドルのライブなんて滅多に観に来ないから、楽しみだなぁ」

冬馬「……フン。お手並み拝見といこうじゃねぇか」

冬馬「あいつが育てたアイドルがどれほどのもんか……しっかりとこの目で見定めてやるぜ」

北斗「冬馬。なんか随分楽しそうだな」

冬馬「あ? 別にそんな事……いや……そうだな」

翔太「冬馬君」

冬馬「確かに楽しみだ。あいつの育てた、俺達以外のアイドルのパフォーマンスを観るのは」

冬馬「そしてそれ以上に……そいつらを倒して、俺達が真のトップアイドルになることがな!」

北斗「ああ。そうだな」

翔太「目指すはてっぺん、だね」

冬馬「ああ!」

冬馬(負けねぇぞ! 765プロ!)








【同時刻・961プロダクション本社ビル内/社長室】


黒井「…………」

黒井(今日は765プロのアリーナライブの日か。……まあ、今更私にとってはどうでもいいことだが)

黒井(しかし結局、弥海砂を使って『黒いノート』を押さえさせるという作戦はどうなったのか……こうして765プロが普通にライブをしようとしている以上、まだ星井美希も天海春香も捕まっていないのは間違い無いだろうが……)

黒井(まあいい。もはや誰がキラであっても構わない。私は少しでも早くこの死の恐怖から解放されることを願うばかりだ)

黒井(しかし、キラの件を別にすれば……今日のライブは、あいつが765プロに移籍してからの最初の大きなライブ……まさにあいつが765プロのプロデューサーとして行ってきたプロデュース活動の集大成ともいえる)

黒井(だがあいつは言っていた。もしキラ事件が解決したとしても、もううちに戻ってくる気は無いと)

黒井(経緯はどうあれ、今の自分はもう『765プロダクションのプロデューサー』なのだと)

黒井(キラに脅迫されたが故のやむを得ない措置だったとはいえ……実に惜しい男を手放してしまったな)

黒井(そして言うまでもないことだが、轡儀も……)

黒井(だが、済んだことをいつまでもとやかく言っていても仕方がない)

黒井(焦ることは無い。時間はいくらでもある)

黒井(……命さえあれば、な)

277 : 以下、名... - 2016/11/02 01:16:25.74 7ONm8XcO0 869/963

【同時刻・アリーナ会場内/1階・アリーナ席】


粧裕「えーっと、この次の列だから……ぎゃっ! 本当にほとんど最前じゃん! すごっ」

清美「こんなにステージが近いのね」

「良かったな。竜崎」

「はい。こんなに至近距離で春香さんの生のパフォーマンスが拝めるなんて……もう死んでもいいです」

清美「…………。(そういえばそういう設定だったわね)」

粧裕「でもなんか意外だなー。竜崎さんがそんなに春香さんのファンだったなんて」

「そうですか?」

粧裕「うん。だってなんか、アイドルとかには全然興味無さそうな感じだったもん。学祭の時もそんなこと言ってなかったし」

「まあ私は隠れですからね。月くんとは違って」

粧裕「えっ。お兄ちゃん、まさか……」

「……竜崎。妹に勝手に変な事を吹き込むな。僕はやよいちゃ……高槻さんからチケットを貰ったから来ただけで、別にアイドルに興味があるわけじゃない」

「分かりました。妹さんの手前、今はそういうことにしておいてあげます」

「お前な……」

粧裕「清美さんは誰のファンなの?」

清美「え? 私? そうねぇ……正直、私もアイドルの事はあんまりよく分からないのだけど……強いて言うなら、やっぱり個人的に親交のある天海さんと星井さんかしら」

粧裕「そっかー。あれからも何回かあの時のメンバーで遊んでるって言ってたもんね」

「ついこの間も遊園地に行きましたしね」

「ああ」

粧裕「え、遊園地まで行ってたの? むー、お兄ちゃんってば、そういう時くらい私も呼んでよー!」

「粧裕は一応受験生だろ」

粧裕「そんなの言ったら春香さんだってそうじゃん」

「天海さんはいいんだよ。僕が教えてるんだから」

粧裕「何それー! 不公平ー!」

「……そんなこと言うなら、もう残りの夏休みは勉強見なくていいね?」

粧裕「うえっ! そ、それはだめ。今回の期末だって、お兄ちゃんに付きっきりで教えてもらえたから50番以内に入れたようなもんだし……」

「だったらワガママ言うな。粧裕」

粧裕「ちぇっ。はーい」

「仲睦まじい兄妹愛ですね。羨ましいです」

「今の会話のどこに羨ましがられる要素があったんだ」

粧裕「あーあ。ミサさんも来れたらよかったのにね。せっかくこんなに良い席なんだから」

「……仕方ないよ。海砂さんもアイドルだからね。急な仕事が入ることくらいあるさ」

「元々、私達が知り合ったのも学祭でのミサさんのライブがきっかけでしたしね」

清美「そういえばそうでしたね。まだあれからそんなに経っていないはずなのに、もう随分昔の事のように感じるわ」

「そうだね。……お、そろそろ始まりそうだ」

粧裕「ぎゃっ。もうそんな時間? あー、なんか緊張してきた。やよいちゃん、手振ったら気付いてくれるかな?」

「…………」

(やはりミサは来なかったな……それでいい)

清美(やっぱり夜神くんの言った通り、海砂さんは星井さんに……いえ。今は余計な事は考えない方が良いわね。あくまでも今日は普通にライブに参加することだけを考えて……)

「…………」

278 : 以下、名... - 2016/11/02 01:22:49.95 7ONm8XcO0 870/963

【同時刻・海砂の自室】


海砂「…………」

海砂(そろそろライブが始まる時間ね)

 ピリリリッ

海砂「……ヨッシー」ピッ

海砂「もしもし」

吉井『ミサ。具合はどう?』

海砂「……うん。ありがとう。大丈夫だよ」

吉井『そう。ならよかったわ。でも残念だったわね。せっかくの星井さんのライブだったのに』

海砂「まあ仕方ないよ。また次の機会を楽しみに待つよ」

吉井『そうね。今の765プロさんの勢いなら、またすぐに大きなライブやるでしょうしね』

吉井『今日はゆっくり休養をとって、また明日からの仕事に備えてちょうだい』

海砂「……うん。ありがとう。ヨッシー」

吉井『じゃあまた明日ね』

海砂「うん。心配掛けてごめんね。それじゃ」ピッ

海砂「…………」

海砂(次の……か)

海砂(……そういえばライトや竜崎、清美ちゃんは会場に行ってるのかな?)

海砂(今のミサには、もうそれすらも分からない)

海砂(ましてや、美希ちゃんが何を考えてキラの裁きをしているのかなんて……ミサに分かるはずもない)

海砂(でも……)

海砂(美希ちゃんがこれまでずっと、全力で“アイドル”頑張ってきたってこと……それだけはミサにも分かる)

海砂(だってそうじゃなかったら、ミサはきっと、あんなにも美希ちゃんに惹きつけられなかったはずだから)

海砂(だから……今はまだ分からないことだらけだけど、とりあえず今、これだけは言っておきたい)

海砂「―――ライブ、頑張ってね。美希ちゃん」

279 : 以下、名... - 2016/11/02 01:29:18.35 7ONm8XcO0 871/963

【同時刻・夜神家のリビング】


幸子「……ふぅ。家事も一段落したし、少し休憩にしましょう」

幸子「今頃、ライトと粧裕はライブを楽しんでる頃かしら」

幸子「それにしても、ライトまでアイドルのライブとはねぇ」

幸子(……まさかあの子、アイドルの隠れオタクとかだったんじゃ……)

幸子「なんて、考え過ぎね。単に家庭教師してる子がアイドルだったからチケット貰っただけって話だし……そもそも今日は、粧裕の保護者役として行ってるだけだもの」

幸子「さて、テレビでも観ましょうか」ピッ

幸子「……あ、またキラ事件の特番……」

幸子「…………」

幸子(大丈夫かしら。お父さん……)








【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「…………」

総一郎(今の所、ライブ会場内の防犯カメラの映像に不審な点は無い)

総一郎(しかし油断はできん。我々の裏をかき、ライブ中に何か仕掛けてくるという可能性もゼロではない)

総一郎(キラ逮捕の瞬間まで、集中を切らさないようにしなければ……)

ワタリ『夜神さん』

総一郎「あ、はい」

ワタリ『現在、ライブ会場内は異常無し。同時に、星井係長・模木捜査員の様子も変化無し。相違無いでしょうか』

総一郎「はい。相違ありません」

ワタリ『承知しました。ではまた15分後に』

総一郎「はい。よろしくお願いします」

総一郎(15分ごとのワタリからの定期交信……これも当然、竜崎の指示なのだろうが……)

総一郎(この交信の間隔からして……やはり私を信用しきってはいないということか)

総一郎(まあ無理も無いか。今、この捜査本部は私一人……その気になれば、星井君と模木の監禁を解くことなど容易いからな)

総一郎(無論、死んでもそんな事はせんが……)

総一郎「…………」

280 : 以下、名... - 2016/11/02 01:35:43.68 7ONm8XcO0 872/963

【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


星井父「…………」

星井父(もう、始まる頃か)

星井父(頑張れ……美希)








【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


模木「…………」

模木(今日は8月1日……予定が変わっていなければ、765プロのアリーナライブの日だ)

模木(元々、竜崎と月くんが観客として招待されていたはずだが、二人は予定通り向かっているのだろうか)

模木(あるいは、もう既に星井美希と天海春香が逮捕されているとしたら、ライブは中止ということも当然ありえるだろうが……)

模木(しかし、今もまだ私が解放されていないということからすれば、おそらくまだキラ事件は解決していない……)

模木(勿論、容疑者の逮捕は事件の解決と同義ではないが……)

模木(……まあ、ここであれこれ考えていても仕方がない)

模木(今の自分にできることは、キラ事件の終結と係長の心の平穏を祈ることくらいだ)

模木「…………」

281 : 以下、名... - 2016/11/02 01:49:48.48 7ONm8XcO0 873/963

【同時刻・アリーナ会場内/1階席】


伊出「なんか、すごい熱気だな……まだ始まってもいないのに」

宇生田「ええ。この席だとステージは遠いですが、大きなモニターがあるのでライブ中の二人の様子はあれで確認できますね」

伊出「うむ。後は公演終了後、速やかに出入口まで行けるよう、今のうちに動線を確認しておこう」

宇生田「はい」








【同時刻・アリーナ会場内/2階席】


相沢「しかし、2階席どころか3階席まであるとはなあ」

松田「そりゃあ、天下の765プロのライブっすからね。……はぁ~、これが仕事じゃなかったらなぁ……」

相沢「……お前、今日何しに来たか分かってるよな?」

松田「わ、分かってますって! 冗談ですよ! 冗談!」








【同時刻・アリーナ会場内/3階席】


レイ「……ここからだと、肉眼ではほとんどステージ上の細かな動きは確認できないな。モニターで観るしかない」

ナオミ「そうね。でも会場全体の様子は把握しやすいし、階段にも近いから、公演終了後はすぐに動けるわ」

レイ「そうだな。公演が終わり次第、他の観客にのまれないよう、速やかに例の扉の場所に向かおう」

ナオミ「ええ」

レイ「…………」

レイ(キラが例の二人のアイドルなのか、別の誰かなのかはまだ分からない)

レイ(だがいずれにしても……キラは悪)

レイ(だから私は、キラの逮捕に全力を尽くす)

レイ(それが正義)

レイ(FBI捜査官としては勿論……私個人としても)

282 : 以下、名... - 2016/11/02 01:55:39.52 7ONm8XcO0 874/963

【同時刻・アリーナ会場内/ライブステージ裏】


(円陣を組んでいるアイドル・ダンサー一同)

春香「……やっと、ここまで来たね」

亜美「色々あったよね」

美希「……でも、楽しかったの」

貴音「今日は大きな舞台ですが」

真美「みんなでいれば、広くないよね」

やよい「あんなに頑張ったんだもん!」

あずさ「皆で夢、叶えましょう」

伊織「にひひっ。あんたたち、しっかりついてきなさいよね」

「ボクだって負けないよ!」

雪歩「全力でファンの皆に届けようね」

千早「ええ。私達の歌」

「ダンサーも全力でついてきてよ!」

ダンサー一同「はい!」

春香「よーし! じゃ、いくよ!」

春香「765プロ! ファイトー!」

アイドル・ダンサー一同「目指せ! トップアイドル!」

「プロデューサー! 自分達のステージ、ちゃんと見ててよね!」

貴音「行って参ります」

「ああ! 行って来い!」

「…………」

(ステージ上へと続く階段を上がっていくアイドル一同)

春香「美希」

美希「春香」

春香「……頑張ろうね」

美希「……うん」








【同時刻・アリーナ会場内/1階・アリーナ席】


(ステージがスポットライトで照らされ、降りている幕にアイドル達のシルエットが映し出される)

「……いよいよですね」

「……ああ」

283 : 以下、名... - 2016/11/02 02:00:21.78 7ONm8XcO0 875/963









(―――『M@STERPIECE』の前奏が流れ始め、舞台の幕がゆっくりと上がっていく―――)









297 : 以下、名... - 2016/11/26 15:10:04.54 a1FTt7Qy0 876/963

(幕が完全に上がり、総勢十二名のアイドルがその姿を現すと、場内から一斉に歓声が上がる)

(同時に、場内のモニターには曲名を示す『M@STERPIECE』の文字が映し出される)

(メロディーに乗ったアイドル達の歌声が会場内を満たしていく)

アイドル一同『――――――♪』

粧裕「す、すごい迫力……! やっぱりテレビで観るのとは全然違う……!」

清美「…………」

清美(これが、アイドル……)

「……新曲、か……」

「…………」

「? 竜崎?」

「え、ええ……そうですね。『M@STERPIECE』……ですか。初めて聴く曲ですね……」

「…………?」

(何だ? 竜崎の様子が……)

「…………」

(“竜崎ルエ”としての演技か? “アイドル・天海春香”のファンとしての……)

(だが今、この場においてそれをする必要があるのは粧裕に対してだけ……しかし当の粧裕はステージ上のアイドル達に完全に目を奪われている。そこまでの必要性は……)

「…………」

(気のせい……ではない)

(舞台の幕が上がってから、ずっと)

(ステージ上から一つの視線が―――私という一点を捉え続けている)

(その視線の主こそ)

(私がずっと、追い続けてきた―――)




美希『――――――♪』




「…………」

(―――星井美希)




美希(……“竜崎ルエ”……)

298 : 以下、名... - 2016/11/26 15:15:47.83 a1FTt7Qy0 877/963

(視線をLに向けたまま、『M@STERPIECE』を歌う美希)




美希『――――――♪』

「…………」




美希(ねぇ。竜崎)

美希(覚えてる?)

美希(今から十日前。ミキと二人でこのアリーナに来た日)

美希(“約束”してくれたよね?)




―――ライブ、一生懸命頑張るから……ミキのコト、ちゃんと最後まで観ててね。約束なの。

―――はい。約束します。必ず最後まで全力で応援させて頂きます。




美希『――――――♪』

美希(“約束”……ちゃんと、守ってもらうからね)

美希「…………」

(曲が間奏に入ったタイミングで、美希はLから視線を外した)

「…………」

(妙だ。心がざわついている)

(この感覚、前にもどこかで……)

(! ……そうだ)

(今から十日前。星井美希と二人でこのアリーナに来た日)

(あの日、星井美希が涙を流している様子を目の当たりにした私は……言いようもない不安を覚えた)

(今のこの感覚は、あの時の感覚と極めて酷似している)

(そう。まるで―――)

(魂の奥の奥。精神の根幹を、強く揺さぶられているかのような――……)

「…………」

299 : 以下、名... - 2016/11/26 15:21:43.57 a1FTt7Qy0 878/963

(間奏が終わると、美希は再びマイクを手に『M@STERPIECE』を歌い始める)

(その瞬間、再び)

(美希の目とLの目が逢う)




美希『――――――♪』

「…………」




美希(ねぇ。竜崎)

美希(いや……“L”)

美希(今日まで、本当に色んなことがあったね)

美希(ミキがキミと初めて出会ったのは、ミキがデスノートを拾ってから二週間くらいが経った頃だった)

美希(“出会った”って言っても……あのトキはテレビの画面越しだったけどね)

美希(あの頃はまだ、お互いの顔も名前も知らなかった)

美希(それから暫く経ったある日)

美希(765プロの事務所に二人組の刑事さんが来た)

美希(あの時はもう駄目かと思ったの)

美希(でも)

美希(絶体絶命の状況で―――春香がミキを助けてくれた)

美希(それからまた少し時間が経って)

美希(ミキは、やっとキミに……“L”に出会えた)

美希(身代わりでも替え玉でもない、本物のキミに)




美希『――――――♪』

「…………」

300 : 以下、名... - 2016/11/26 15:29:56.71 a1FTt7Qy0 879/963

美希(生身のキミと初めて出会ったのは、東大の学祭の日だった)

美希(あの日キミは、春香のファンと嘘をついた)

美希(ミキも、春香からキミの本名を聞くまではすっかり信じてたっけな)

美希(今となっては懐かしいの)

美希(その後すぐ、二人で一緒にスイーツ屋さんに行ったね)

美希(あの時食べたいちごババロア、すごく美味しかったな)

美希(……ちなみにだけど)

美希(ミキね。パパ以外の男の人と二人で会ったのは、あのトキが初めてだったんだよ)

美希(つまりミキの初デートの相手はキミだったってワケ)

美希(そこんとこ、少しはコーエイに思ってほしいな。……なーんて、ね)

美希(そうそう。スイーツ屋さんの後、ミキの家に来てパパと会ったよね)

美希(あの時、竜崎もパパも必死に演技してたんだなって思うと……正直ちょっと面白いの)

美希(……ま、演技はお互い様だけどね)

美希(その後は、学祭の時に知り合ったメンバー……『竜崎と愉快な仲間達』で集まったりしたね)

美希(皆で『眠り姫』を観に行ったり、遊園地にも行った)

美希(そうそう。キミと二人で回ったお化け屋敷は結構スリリングだったよ)

美希(色んな意味で、ね)

美希(そして―――今から十日前。ミキはキミと二人きりでここに来た)

美希(今、ミキが立っているこの場所。アリーナのステージに)

美希(全く、こんなに短い間にミキと二回もデートできるなんて。キミはホントーに幸せ者だね。竜崎)

美希(……なんてね。あはっ)

美希(でも)

美希(どれもこれも、印象的な出来事だったけど)

美希(ミキは)

美希(今日を、“今”を―――キミにとって、最高の思い出にしてあげるの)

美希(竜崎)




美希『――――――♪』

「…………」

301 : 以下、名... - 2016/11/26 15:38:27.74 a1FTt7Qy0 880/963

美希(ねぇ。竜崎)

美希(キミはLで、ミキはキラだけど)

美希(今はそれも関係無いの)

美希(だって今、キミの目の前にいるのは―――)

美希(他の誰でもない)

美希(アイドル・星井美希だから)

美希(ねぇ。竜崎)

美希(今日は……いや)

美希(今日で)

美希(キミを、ミキのファンにしてあげる)

美希(春香の時みたいな“ニセモノ”じゃない)

美希(“ホンモノ”のファンに)

美希(ねぇ。竜崎)

美希(だから)

美希(キミにもっと見てほしいの)

美希(ミキのコト)

美希(そして)

美希(分かってほしいの)

美希(ミキの―――“全部”を!)




美希『――――――♪』

「…………」




(何だ? これは……)

(私はこれまで、捜査の過程で星井美希のライブ映像を何十回……いや、何百回と観てきた)

(しかし、今日のこのステージは……)

(私が今まで観てきたどのステージの映像とも違う)

(何が、と言われても明確には説明できないが――……)




美希『――――――♪』

「…………」




(奪われる)

(あの瞳から―――視線を逸らせない)

390 : >>302訂正 - 2017/01/21 12:11:55.85 BTrwrj0k0 881/963

(まさか)

(魅了……されているというのか? この私が)

(キラである、星井美希に……)

(馬鹿な)

(そんなことあるはずがない。いや……あってはならない)

(だが)

(今……私は)




美希『――――――♪』

「…………」




(星井美希の―――今日のこのステージが終わることなく、ずっと続けばいいのにと)

(そう思っている)

(そして同時に)

(彼女を―――“アイドル・星井美希”を)

(この先もずっと観ていきたいと)

(そう願っているのだ)

「…………」

303 : 以下、名... - 2016/11/26 15:54:12.02 a1FTt7Qy0 882/963

(『M@STERPIECE』の後奏が終わるのと同時、ステージの中央部に一列に並んだアイドル達がゆっくりと両手を上げる)

(その瞬間、場内は一斉に歓声と拍手に包まれる)

(ステージ上の美希は、真っ直ぐにLを見つめている)




美希「…………」

「…………」




(やがてステージの照明が消え、アイドル達の姿は見えなくなった)

粧裕「あーっ、最初っからすごかった~。あ、そうだお兄ちゃん! 私、何回かやよいちゃんと目が合ったよ! 多分気付いてくれてたと思う!」

「……そうか。良かったな。粧裕」

粧裕「? お兄ちゃん? どうかしたの?」

「……いや、何でもないよ。少し暑くてね」

粧裕「ああ、確かに暑いよね~。もう熱気ムンムンって感じ!」

「…………」

(何だ? これは……)

(曲の途中から、妙な感覚に襲われた)

(まるで、意識が丸ごとステージの方へ持っていかれそうな……)

「…………」

「……竜崎?」

「えっ。あ、はい。何ですか? 月くん」

「いや、何かボーっとしていたからさ。……さては案の定、春香ちゃんのステージ姿に見蕩れてたな? はは……」

「え? あ、ああ……まあ、そうですね……」

「…………?」

(何だ? その要領を得ない返答は……)

(今のは“竜崎ルエ”として自然な演技をすべき場面だろう)

(もっとも今は粧裕にさえ怪しまれなければいいという状況……そしてその粧裕はライブに夢中で竜崎の様子など微塵も気に留めていない……ならばあえて気にする必要も無い……か)

(……そうだな。それに今は僕も、ライブの方に集中すべき……)

(勿論、それは星井美希と天海春香の動向を監視するためだが……)

(それだけでなく……いや、それ以上に……)

(『そうしなければならない』……そんな気がする)

清美「…………」

清美(す、すごかった……。これが“アイドル”……)

清美(平静を装うとか、普通にするとか……そんなことを意識する必要が全く無いくらいに)

清美(ただただ、ステージに没頭させられていたわ)

「…………」

(……星井美希……)

304 : 以下、名... - 2016/11/26 16:00:28.96 a1FTt7Qy0 883/963

(五時間後・アンコール曲『虹色ミラクル』終了)

(歓声と拍手が鳴り止まぬ中、ステージの中央部に並んだアイドル達の中から春香が一歩前に出る)

春香『――皆さん! 本日は、765プロオールスターズライブ『輝きの向こう側へ!』にご来場いただき、本当に―――』

アイドル一同『ありがとうございました!!』

 ワァアアアアア…… パチパチパチパチ……

美希「…………」

(他のアイドル達が思い思いにファンに向かって挨拶をしている中、美希は無言のまま、客席の中の一点のみを見つめている)




美希「…………」

「…………」




(美希はLを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた)

美希『―――“キミは”ミキのファンになってくれたかな?』

「!」

美希『……なーんてね。あはっ』

「…………」

(美希の発言で、会場は一層の盛り上がりを見せる)

 ウォオオオオオオ!!!! ミキミキー!!!! ワァアアアアア……




美希「…………」

「…………」




(互いに見つめ合う美希とL)

(やがてステージの照明が消えると、互いに互いの姿が見えなくなった)




美希(……竜崎……)

(……星井美希……)

391 : >>305訂正 - 2017/01/21 12:17:31.36 BTrwrj0k0 884/963

(ほどなくして、アリーナライブの全公演終了を告げる場内アナウンスが流れ始める)

「……終わったか。では、竜崎。早く……」

「…………」

「? 竜崎?」

「え? あ、ああ……そうですね。すみません。月くん」

「…………」

粧裕「あー、来て良かった~っ。もう私、今日の事は一生忘れない!」

清美「……本当、すごかったわね。五時間も経っていたなんて思えないくらい」

粧裕「そうそう、ホントあっという間って感じ! ……あー、これしばらく余韻抜けなさそう」

「高田さん。粧裕。……悪いんだけど、竜崎が物販で買い忘れたグッズがあるらしいから、ちょっと今から一緒に行って来るよ」

清美「! ……ええ。分かったわ。じゃあ私と粧裕ちゃんは先に会場を出ておけばいいのかしら?」

「ああ。アリーナを出てすぐのところに喫茶店があったはずだから、後でそこで合流しよう」

清美「分かったわ。それじゃあ先に行っておきましょうか。粧裕ちゃん」

粧裕「うん。じゃあまた後でね。お兄ちゃん。竜崎さん」

「粧裕。くれぐれも迷子にならないように、ちゃんと高田さんについて行くようにね」

粧裕「こ、子ども扱いしないでよ! お兄ちゃん! 私もう中三だよ!?」

「はは。ごめんごめん。……じゃあ、悪いけど粧裕をよろしくね。高田さん」

清美「……ええ。分かったわ」

「さて……じゃあ僕達も行こうか。竜崎」

「はい。付き合わせてしまってすみません。月くん」

(清美・粧裕と別れ、連れ立って歩き出すLと月)

粧裕「もしかして、お兄ちゃんもグッズ買うつもりなのかな……。だとしたら、やっぱりお兄ちゃんも隠れアイドルオタク……?」

清美「……竜崎さんの付き添いらしいから、それはないんじゃないかしら」

粧裕「そっかぁ。それによく考えたら、もう既にアイドルを二人も家庭教師で教えてるわけだし……わざわざ隠す意味もないか」

清美「…………」

清美(このタイミングで、夜神くんと竜崎さんが二人だけで別行動……)

清美(私は何も聞いていないけど……今から何かするつもりなのかしら?)

清美(……いえ。夜神くんが私に何も言っていないということは……余計な心配はしなくていいということ)

清美(なら今、私にできることは……夜神くんを信じて、夜神くんの言う通りにすることだけ)

清美(そう。それでいい。それが夜神くんと私の未来にとって最善の選択となるはずだから)

清美(今は、それで……)

392 : >>306訂正 - 2017/01/21 12:20:14.51 BTrwrj0k0 885/963

(アリーナ内の通路を移動しているLと月)

「……ところで、竜崎。具体的なミーティングの場所はプロデューサーから聞くとしても、普通に考えて、おそらく関係者以外は入れないスペースだろうと思うが……一体どうやってそこまで潜入するつもりなんだ?」

「…………」

「竜崎?」

「ああ……すみません。そういえばまだ潜入の方法を説明していませんでしたね」

「ではとりあえず、これを首から下げておいて下さい」スッ

「? これは?」

「ワタリが偽造した会場内スタッフ専用の入館証です。これさえ身に着けておけば、誰にも怪しまれることなく関係者専用のスペースにも立ち入れます。なお関係者用扉の近くに張り込む予定になっているマーク・間木の二人にも既に同じものを渡しています」

「また会場内のロックが掛かっている扉の暗証番号も全てワタリが事前に解読しています。これで本来スタッフしか開けられない扉も全て解錠できます」

「なるほど。流石だな竜崎……いや、この場合はワタリか」

「それから、月くん。本来の作戦では、月くんは伊田さん達と一緒に一般の出入口を見張ることになっていますので……携帯からでいいので、今から私がアドレスを送るページにパス入力の上ログインして下さい」

「そのページからは、この会場の一般の出入口付近の防犯カメラの映像を観れるように設定しています。なので月くんは都度そちらの映像を確認しつつ、あたかも実際に現場に張り込んでいるかのような体で、伊田さん達と定期的に状況確認を行うようにして下さい」

「分かった。色々とありがとう。竜崎」

「いえ。あとついでにこれもお願いします」スッ

「これは……」

「はい。もうすっかりお馴染みとなったタイピン型の超小型マイクと……こちらは今日初めて使うものですが、超小型のウェアラブルカメラです」

「これらの音声と映像は、いずれもワタリのPCに“のみ”リアルタイムで転送されるように設定しています」

「! と、いうことは……」

「……はい。すみません。ワタリにだけは、月くんが私に同行して二人の逮捕に向かうということを伝えています」

「…………」

「そうしておかなければ、私達が二人とも死神に殺されてしまうような事態になった場合……その証拠をどこにも残せなくなってしまいますので」

「もっとも、その場合でも死神そのものの姿はカメラには映らないでしょうが」

「……そうだな。分かった。僕は自分が現場に行ければそれでいい」

「ありがとうございます。月くん」ピッ

(携帯電話を操作するL)

「……ワタリ」

ワタリ『はい』

「こちらのマイクの音声、カメラの映像はいずれも問題無く受信できているか?」

ワタリ『はい。いずれもクリアーに受信できています』

「分かった。では引き続きよろしく頼む」

ワタリ『分かりました』

(ワタリとの通話を終えたL)

「ではこれらは両方、月くんが身に着けておいて下さい」

「もし死神が私達を殺しにかかるとした場合、普通に考えて“L”である可能性が高い私の方を先に殺そうとするでしょうから」

「証拠は少しでも長く、多く押さえておきたい」

「……ああ。分かったよ」スッ

(月はLからマイクとカメラを受け取ると、マイクをズボンのポケットに、カメラをシャツの胸ポケットにそれぞれ仕込んだ)

308 : 以下、名... - 2016/11/26 17:03:04.42 a1FTt7Qy0 886/963

「でも、ミーティングが行われる部屋の手前までは『スタッフ』で通れるとしても……いざその部屋に踏み込む際はどうするんだ? このまま顔を出して行くのか、無駄を承知で顔を隠すか……」
  
「……死神の存在を考えれば、顔を隠して行くのは逆効果でしょうね。即座に星井美希・天海春香の敵とみなされて殺されてしまう危険がある」

「だが顔を出して行くとしても、警察、あるいは“L”の手の者だと名乗ればどのみち同じ事……ならばこちらの素性は何も明かさずに……いや、待てよ。そもそも僕と竜崎が顔を出して踏み込めば、その時点で星井美希と天海春香……あと高槻やよいには確実に反応されてしまうな」

「はい。なので、逆にそれを利用します」

「逆に? ……ああ、そういうことか」

「はい。“竜崎ルエ”は、天海春香がデビューして間も無い頃からずっと一途に彼女を追い続けてきた熱狂的なファン……そんな人物が『初めて天海春香のライブを生で観て、心の底から感動した。この感動と感謝の気持ちを彼女に直接伝えずにはいられなかった』などと発言したとしても……そこまで無理のある話ではありません」

「強引に踏み込んできた理由としてはそれで通っても……現実的な対応としては別問題だろうな。普通に考えれば即退出、となるだろうが……」

「しかし立場上、星井美希と天海春香は私達の存在を無視できません。その場に高槻やよいがいるのに『知らない人です』とは口が裂けても言えない」

「確かに。天海春香と高槻やよいの家庭教師をしている僕は勿論、竜崎も学祭の時に高槻やよいと面識を持っているからな」

「はい。とすれば、『元々の知り合い』というよしみで、ほんの少しの間だけ……星井美希と天海春香の二人を部屋の外に連れ出す、ということもあながち不可能ではないと考えています」

「またプロデューサーも当然その場に居るでしょうが、彼は『天海春香の家庭教師である夜神月』および『その友人または知人とおぼしき“竜崎”なる人物』という存在は認識していても、それらが『“L”』あるいは『“L”の関係者』であるとは認識していない」

「つまり、星井美希と天海春香の『元々の知り合い』である『夜神月』と『“竜崎”』がミーティングの場所に現れたところで、まさかそれが『“L”』あるいは『“L”の関係者』だとは夢にも思わない」

「ああ。既に竜崎から『ライブ直後に二人の尋問を行う』と明確に伝えている以上、プロデューサーは“L”の手の者が正面から踏み込んでくるものと思っているだろうからな」

「はい。なので、その場ではプロデューサーの存在は無視しても差し支えないでしょう」

「そして私達は星井美希と天海春香の二人を残りの765プロダクション関係者から隔離し、人目につかない場所で逮捕する」

「二人の身柄さえ押さえてしまえば後はどうとでもなりますから……速やかに他の捜査員全員を招集し、うち数名で星井美希と天海春香を捜査本部に連行……残りのメンバーで引き続きその他の765プロダクション関係者の監視を行う」

「星井美希と天海春香の二人を外部からの連絡を完全に遮断できる状況下に置くまでの間、だな」

「はい。765プロダクションの強固な団結力を考えれば当然の対応です」

「そうだな。ではその流れでいこう。竜崎」

「はい。よろしくお願いします。月くん」

「……もっとも、これはあくまでも死神が最後まで私達に干渉しないとすれば、と仮定しての話ですけどね」

「まあな。だがもうそこは開き直っていくしかないだろう。最終的にはどこかで僕達が二人の身柄を押さえなければならない以上、その際に死神がどんな行動に出るのかは予測しようがないわけだし」

「そうですね」

「……では、後はプロデューサーからの連絡を待つだけだな。といっても、ミーティングの時間と場所を伝えるだけ……そう時間が掛かるとも思えないが」

「そうですね。ただ事前に牽制しておいたとはいえ、彼が私に連絡をしてこないという可能性も十分にありますから……あと数分待っても連絡が無いようなら、私の方から電話を掛けます」

「ああ。そうだな」

309 : 以下、名... - 2016/11/26 17:15:52.39 a1FTt7Qy0 887/963

【同時刻・アリーナ会場内/1階席】


伊出「……すごい迫力だったな。これがアイドルのライブか……」

宇生田「……ええ。場内もまだ興奮冷めやらぬ、といった様子ですね」

伊出「アイドルのライブとしては、非の打ち所が無い完璧なものだった。そして例の二人も――……素人目に見ても、他のアイドル達に勝るとも劣らない、極めて高いレベルのパフォーマンスを発揮していたように思う」

宇生田「はい。それだけ今日のこのライブに懸けていたんでしょうね。……勿論、だからといって監視を緩める理由にはなりませんが」

伊出「その通りだ。俺達は俺達の仕事をしよう。出入口に急ぐぞ」

宇生田「はい!」








【同時刻・アリーナ会場内/2階席】


相沢「すごい……これが765プロのライブか。これだけの数のファンが集まるのも分かる気がするな」

松田「…………」

相沢「おい、松田? ……じゃない。松井?」

松田「え、あ、はい。何すか? 相沢さ……いえ、相原さん」

相沢「何すか、ってお前……まさか、普通にファンとしてライブを楽しんでたんじゃないだろうな……?」

松田「ええっ!? や、やだなあ。そんなわけないじゃないっすか。ちゃんと例の二人に不審な動きが無いかどうか観てましたって。はは……」

相沢「……まあいい。行くぞ」ダッ

松田「あ、はい。……って、ちょ、ちょっと待って下さいよ。何もそんなに急がなくても……」

相沢「俺達は一旦外に出てから例の扉の所まで回り込まないといけないんだ。ちんたらしている暇は無いだろ」

松田「そ、それは分かってますけど。はぁ……もうちょっと、ライブの余韻に浸っていたかったのになぁ……」

相沢「……お前な」

松田「じょ、冗談ですって! 冗談! さあ、急ぎましょう! 相原さん!」ダッ

 ドンッ

「わっ」

松田「あ、す、すみません!」

「い、いえ……」

相沢「? どうした?」クルッ

松田「あ、大丈夫っす。どうもすみません、急いでいたもので……」ペコリ

「……いえ」

松田「本当、すみませんでした。それじゃ」ダッ

相沢「……ったく、気を付けろよ」

松田「はは……」

(早足でホールの出口に向かって歩いていく相沢と松田)

冬馬「何だ? 今の奴ら。妙に急いでたみたいだったけど……」

翔太「…………」

310 : 以下、名... - 2016/11/26 17:25:16.02 a1FTt7Qy0 888/963

北斗「大丈夫か? 翔太。今、結構真正面からぶつかってたけど」

翔太「うん。それは全然大丈夫。だけど……」

北斗「?」

冬馬「何だよ?」

翔太「……いや、今の二人組、どこかで……あ!」

冬馬北斗「?」

翔太「分かった! 相原刑事と松井刑事だ!」

冬馬「え?」

翔太「ほら、前に僕達に話を聞きに来た二人組の刑事さん!」

北斗「あー……そう言われてみれば、あんな顔だった……かな?」

冬馬「俺は一瞬過ぎて分からなかったな。大体、あの時と違って私服だったし……つかお前、そんなのよく分かるな」

翔太「まあね。でも何であの時の刑事さんがこんな所にいたんだろう?」

北斗「そりゃあ……単に765プロのファンだったんじゃないのか?」

冬馬「まあこれだけの数の人間があいつらを観に来てんだ。刑事が一人二人混じってても別におかしくはねぇだろ」

翔太「ま、それもそうか」

冬馬「…………」

北斗「冬馬?」

翔太「どうかしたの?」

冬馬「いや……改めて、さっきのライブを思い返してた」

北斗「冬馬」

翔太「冬馬君」

冬馬「―――流石、だ」

北斗翔太「…………」

冬馬「あいつが……○○がプロデュースしただけのことはある。いや、こうでなきゃ面白くねぇ」

北斗「……ああ」

翔太「だね」

冬馬「あいつらの実力は本物だ。だからこそ俺達はあいつらに……○○が育てた765プロに勝つ」

冬馬「そして俺達が、真のトップアイドルになるんだ!」

北斗「ああ。そうだな。冬馬」

翔太「へへっ、燃えてきたね」

冬馬「おっし! ……北斗。翔太。そうと決まれば、早速帰ってレッスンすんぞ!」

北斗「ああ!」

翔太「そうこなくっちゃ!」

冬馬(見てやがれ! 765プロ。そして……○○)

冬馬(俺達は絶対に……お前らを超えてみせるからな!)

311 : 以下、名... - 2016/11/26 17:41:29.06 a1FTt7Qy0 889/963

【同時刻・アリーナ会場内/3階席】


レイ「……すごい迫力だったな。まさか日本のアイドルのレベルがこんなに高いとは」

ナオミ「確かにね。……って、何が目的でここに来たのか忘れてないでしょうね? マーク」

レイ「勿論だ。早く移動しよう。照子。ここからが本当の勝負だ」

ナオミ「ええ。そうね」

レイ「…………」

レイ(しかし本当にあの二人のアイドルが……キラなのか?)

レイ(少なくとも今日のステージを観る限り、彼女らが日々犯罪者を裁いているなんて、とても……)

レイ(いや……今は余計な事を考えている時ではないな)

レイ(キラが誰であれ、キラを捕まえることは正義)

レイ(ならば私は、その正義の実現に全力を尽くすだけだ)

ナオミ(……『星井美希』と『天海春香』……)

ナオミ(今日のステージを観る限り、この二人のアイドルとしての実力は紛れも無く本物だった)

ナオミ(アイドルとして完全なる成功を収めているこの二人が……本当にキラなのだとしたら)

ナオミ(そして今日、この二人が“キラ”として逮捕されるのだとしたら――……)

ナオミ(この事件は日本史上……いえ、世界史上……最も哀しい事件になるのかもしれないわね)

ナオミ「…………」








【同時刻・アリーナ会場内/3階・観客席】


小鳥「うぅ……本当に皆、よくここまで……。これはもう、間違い無く765プロ史上最高のライブでしたね! ね? 社長」

社長「…………」

小鳥「しゃ、社長?」

社長「え? あ、ああ……何だい? 音無君」

小鳥「何だいって……社長、今完全に魂抜けてましたよ」

社長「はは……すまんすまん。アイドル諸君の素晴らしい成長ぶりにすっかり感極まってしまってね。もう……何も言葉が出ないよ」

小鳥「社長……」

善澤「確かにそれは同感だな」

小鳥「善澤さん」

善澤「本当に、素晴らしいライブだった。ここに至るまでの苦労を知っているだけになおさらそう感じたよ」

小鳥「……そうですね。本当、そうですね……」

(目元をそっと指で拭う小鳥)

社長「音無君……」

小鳥「あはは……やだわ、もう。年取ると涙脆くなっちゃって。……さあ、じゃあそろそろ皆の所へ行きましょうか」

社長「うむ。そうだな。早く皆に労いの言葉を掛けてやらねば」

善澤「私も一緒に行っていいかい? 是非、アイドルの皆のライブ直後の感想を記事にさせてもらいたいんだが」

社長「ああ、勿論だとも。存分に取材してくれたまえ。では行こう。我が事務所の誇る、素晴らしいアイドル諸君のもとへ!」

312 : 以下、名... - 2016/11/26 17:49:57.48 a1FTt7Qy0 890/963

【同時刻・アリーナ会場内/3階・関係者席】


天海母「いやぁ、すごかったわねぇ。今まで観たどのライブよりも迫力があったわ」

菜緒「本当……すごかったですね。私、ちょっと泣いちゃった」

星井母「…………」

菜緒「ママ?」

星井母「え? ああ、うん。そうね……本当、すごかったわ」

天海母「星井さん。菜緒さん。良かったらこの後、一緒に控室に行ってみませんか? 多分会えると思いますよ」

菜緒「あ、いいですねそれ! 他のアイドルの子達とも話してみたいし」

星井母「……いえ、折角ですけど私はやめときます」

天海母「あら、そうですか?」

菜緒「えー? 何で? ママ」

星井母「今は美希も疲れてるでしょうし……やめておいた方が良い気がするの」

天海母「そう? ならやめておきましょうか。また家で会えますしね」

菜緒「ちぇっ。ざーんねん」

星井母「別に菜緒一人で行って来てもいいわよ」

菜緒「んー。まあいいや。今頃、皆で反省会とかしてるのかもだしね」

天海母「じゃあこの後、三人で軽くお茶でもしていきません? 確か、ここを出てすぐのところに喫茶店がありましたし」

星井母「ええ。それはいいですね」

菜緒「わーい! 私、ライブの感想会やりたいです!」

天海母「そうね。心ゆくまで語り合いましょう」

菜緒「えへへ、楽しみ~」

星井母「……それじゃあ、行きましょうか」

星井母「…………」

星井母(お疲れ様。美希)

313 : 以下、名... - 2016/11/26 17:57:45.62 a1FTt7Qy0 891/963

【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


星井父「…………」

星井父(時計が無いから正確な時刻は分からないが……外の太陽の傾き具合からして、ちょうどライブが終わった頃くらいか)

星井父(こちらから何か伝える時は、この机の真上にあるカメラに向かって……だったな)

星井父「……局長」

 カチッ

(何かのスイッチが入る音がした後、室内のスピーカーから総一郎の声が聞こえる)

総一郎『……何だ?』

星井父「美希は元気にしていますか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「ライブはもう終わりましたか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「私はまだ……美希の父親でいられますか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「分かりました。どうもありがとうございました」

総一郎『…………』

 カチッ

(スイッチが切れる音がした後、部屋にはまた静寂が戻った)

星井父「…………」

星井父(美希)

星井父(今の俺は、もうお前の父親とは名乗れないのかもしれない)

星井父(それだけの事をしてしまった人間だからな)

星井父(でも)

星井父(でもな。美希)

星井父(それでも、何があっても……お前は、俺の……パパの娘だ)

星井父(たとえお前が、本当に――……)

星井父「…………」

314 : 以下、名... - 2016/11/26 18:26:39.53 a1FTt7Qy0 892/963

【十五分後・アリーナ/控室】


(プロデューサーと律子が、ステージから戻ってきたばかりのアイドル・ダンサー一同と向かい合っている)

「皆。ついさっき、舞台裏でも言ったばかりだが……もう一度、改めて言わせてくれ」

「今日は本当に、本当に――――最高のステージだったぞ!」

「本当に……お疲れ様」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

「春香」

春香「! はい」

「……お疲れ様。リーダーとして、最後までよく頑張ってくれたな」

春香「……はい! ありがとうございます! プロデューサーさん!」

律子「本当によく頑張ったわね。皆。もう何も言うことは無いわ」

亜美「亜美達こそ、ありがとうね。りっちゃん」

あずさ「全部、律子さんとプロデューサーさんのお陰です。本当にありがとうございました」ペコリ

律子「亜美。あずささん……」

伊織「ほら、律子。約束通り、私の胸で泣いてもいいわよ?」

律子「ば、バカっ。……でも」

伊織「ん?」

律子「……ありがとね。伊織」

伊織「……ん」

美希「…………」

 ガチャッ

(ドアが開き、社長、小鳥、善澤が姿を見せる)

社長「やあ、皆。お疲れ様」

「社長。お疲れ様です」

アイドル・ダンサー一同「お疲れ様です!」

小鳥「最高のライブだったわ! 皆、グッジョブよ!」グッ

善澤「本当にお疲れ様だったね。皆。後でまたゆっくり話を聞かせておくれ」

「音無さん。善澤さん。どうもありがとうございます」

社長「いやはや、それにしても……偶然とはいえ、昨年のファーストライブの日と同じ、この8月1日に……またもこのような素晴らしいライブが観られるとは。本当に感無量だよ」

小鳥「去年のファーストライブも、それはそれですごかったですけどね。善澤さんに記事にして頂いたお陰もあって、皆が一気に売れるきっかけになりましたし」

善澤「いや何、私は大したことはしていないさ。皆の実力あっての事だよ」

春香「…………」

315 : 以下、名... - 2016/11/26 18:33:28.11 a1FTt7Qy0 893/963

社長「それでは、皆。もうプロデューサーや律子君からも言われた事だろうとは思うが……改めて、私の方からも言わせてくれ」

社長「今日のアリーナライブの成功、本当におめでとう!」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございます!」

社長「天海君」

春香「えっ。あ、はい」

社長「ライブのリーダーとして、今日までよく頑張ってくれたね。本当にご苦労様だった」

春香「い、いえ、そんな。私なんか、何も……ただ、皆が一生懸命やってくれたお陰で……」

社長「確かに、今日のライブの成功は皆の頑張りあってのものだ。その事自体は間違いない。でも、やはり私は……君がリーダーを務めてくれたからこそ、今日の結果につながったのだと思うよ」

春香「社長さん……」

社長「だから改めて言わせてくれ。リーダー、お疲れ様。天海君」

春香「……はい! ありがとうございます!」

美希「…………」

「よし、じゃあこの後は全員でミーティングだ。律子、皆の着替えが終わったら連絡してくれ」

律子「分かりました」

「では社長、善澤さん。俺達は一旦外に」

社長「うむ」

善澤「どれ、じゃあ私は今のうちに一服させてもらうとするかな」

「…………」

「……“ミーティング”……?」

社長「? どうかしたのかね?」

「……いえ。何でもないです。では出ましょう」

社長「? うむ」

 ガチャッ バタン

「…………」

(何だ?)

(何かしなければいけなかったような気がするのに……思い出せない)

「…………」

316 : 以下、名... - 2016/11/26 18:47:29.72 a1FTt7Qy0 894/963

【アリーナ/控室】


(プロデューサー、社長、善澤が退出し、部屋に居るのはアイドル・ダンサー一同、律子、小鳥だけとなっている)

(アイドル・ダンサー一同は着替えながら、思い思いに談笑している)

「間違いないよ! あれは絶対、センター試験の会場でボクの隣の席だった超イケメンの王子様! ほとんど最前の席だったから見間違えっこないもん!」

亜美「えー、そんなヒトいたのー? なら言ってよまこちんー! 亜美もイケメン王子様見たかったのにー!」

真美「そうだそうだー! 独り占めなんてずるいぞー!」

「あはは……ごめんごめん。ライブ中に皆の集中を乱したら悪いと思ってさ。でも、まさかボク達のライブに来てくれてたなんて……あ! もしかしてセンター試験の時にボクの事に気付いてて、それでボクを追っかけてここまで来てくれたのかな!?」

亜美「あ、ああ……うん。そうかもね。なんていうか、乙女モード入ってるまこちんはいじりにくいな……」

真美「でもいいな~。真美もイケメンの王子様にエスコートとかされたいな~」

伊織「もう。何ませたこと言ってんのよ」

亜美「そんなこと言ってー、いおりんだってイケメン王子様見たかったーって思ってるんでしょ?」

伊織「んなぅっ!? そ、そんなこと思ってないわよ!? ねぇやよい?」

やよい「へっ?」

真美「なんでそこでやよいっちに……」

亜美「困ったらとりあえずやよいっちに振って誤魔化すいおりんなのであった」

伊織「べ、別に誤魔化してないわよ!」

やよい「……んー。私もそんな人がいたなんて全然気付かなかったけど……でもいたなら見てみたかったかも」

伊織「え? そ、そうなの? やよい」

やよい「うん。だってすごくかっこいい人なんでしょ? それならふつーに見てみたいかなーって」 

伊織「あ、あらそう……まあ、それは……そうかもね。うん」

亜美「あはは。案外やよいっちの方がいおりんよりオトナだったりしてね♪」

真美「だね♪」

伊織「も、もう! 何なのよっ!」

 アハハ……

律子「……男性陣がいなくなった途端、ガールズトーク全開ですね……」

小鳥「まあたまにはいいんじゃないですか? アイドルとはいえ、皆、お年頃の女の子なんですし」

律子「そうですね。皆、同年代の子が当たり前のようにしていることもなかなかできませんからね」

小鳥「ええ。それに今日のライブの成功で、これからまた一層忙しくなるでしょうから……せめて今日くらいは、ね」

律子「はい」

317 : 以下、名... - 2016/11/26 19:02:15.63 a1FTt7Qy0 895/963

「ねぇねぇ、美希は気付いてた? 観客席の王子様!」

美希「……んー。ミキも気付かなかったな」

亜美「流石ミキミキ、そんじょそこいらのありふれたイケメン君なんて眼中にナシ、ってカンジですかな?」

美希「別にそういうわけじゃないけど」

「亜美。あの王子様は確かにイケメンだけど、そんじょそこいらにありふれてなんかいないよ」

亜美「わ、分かったよまこちん。分かったから瞳孔開くのやめて」

伊織「ていうか美希の場合、単にマイペースってだけでしょ」

美希「でこちゃんはもうちょっと自分に正直になった方がいいって思うけど」

伊織「わ、私は十分正直よっ! っていうかでこちゃん言うなあ!」

真美「でも実際、ミキミキのルックスに釣り合う男の人なんてそうそういないよね~」

亜美「うんうん。どうしてもミキミキの方が目を引いちゃうもんね」

やよい「今日のライブも、美希さんすっごくキラキラで……私、舞台の袖で観てて感動しちゃいました!」

「確かに、美希はいつもすごいけど……今日は一層際立っていた感じがしたね。去年のファーストライブの時もすごかったけど、正直あの時以上だったかも」

真美「うんうん。元々のルックスの良さもさることながら、なんかこう、人を惹きつける力がすごいんだよね。ミキミキって」

亜美「あー、それチョーわかる! 亜美も、一緒にステージに立ってる時はついついミキミキの方に目がいっちゃうもん!」

美希「……ありがとうなの。皆」

美希「皆からそんな風に言ってもらえると……ミキも嬉しいな」

伊織「あら。あんたにしてはやけに殊勝な事言うじゃない。……まあ確かに、今日の美希のパフォーマンスはまあまあだったけど……」

亜美「おっ! 出ました! いおりんのツンデ……」

伊織「あーもう! それはもういいってば!」

美希「……あはっ。でこちゃんも、ありがとうなの」

伊織「う……うん」

真美「おやおや~? いおりんってば、お顔が赤いですぞ~?」

亜美「さ~て~は~、ミキミキから素直にお礼を言われて照れちゃったのかな? かな?」

伊織「べ、別に照れてないわよっ! ……美希も美希で、今日に限って変に素直になるんじゃないの。調子狂うでしょ」

美希「え~。じゃあミキもでこちゃんみたいにひねくれた方がいいの?」

伊織「そういう意味じゃなくて……っていうか、別に私はひねくれてないでしょ! あとでこちゃん言うなって言ってるでしょ! もう!」

 アハハ……

美希「でも……良かったね。真くん。憧れの王子様にまた会えて」

「あはは……まあね。でも会えたっていっても、ボクが一方的に気付いたってだけで……その人が本当にボクを追いかけて来てくれたのかどうかなんてわかんないんだけどね」

美希「そうだね。でも、そうだとしても……ミキ的には、今日、真くんがその人とまた巡り合えたコトには意味があるって思うな」

「巡り合えたコトの……意味?」

美希「うん。だってこの先も……真くんの人生はずっと続いていくんだから」

「……え?」

美希「だから今日、真くんがその人に出会えたことは偶然かもしれないけど……それはきっと、意味のある偶然だったの」

美希「ミキは、そう思うな」

「美希? それ、どういう……?」

美希「……なーんて、ね。ちょっとソレっぽいこと言ってみたかっただけなの。あはっ」

「な、なんだよ、もう。びっくりしたじゃんか。はは……」

美希「……あはは。ごめんねなの」

春香「…………」

318 : 以下、名... - 2016/11/26 19:15:44.68 a1FTt7Qy0 896/963

千早「春香」

春香「千早ちゃん」

千早「もう皆から何回も言われていることだと思うけれど……それでも改めて言わせてちょうだい」

千早「ライブのリーダー、本当にお疲れ様」

春香「……ありがとう。千早ちゃん。といっても、本当に何も大したことはしてないんだけどね」

千早「そんなことないわ。さっき社長も言っていたけど、春香がリーダーを務めてくれたからこそ……今日の結果があるんだって思うもの」

春香「千早ちゃん……ありがとう」

春香「千早ちゃんにそう言ってもらえると……私、本当に嬉しい」

千早「春香……」

春香「…………」

「春香」

春香「ごめん誰?」

「初手から辛辣過ぎるだろ!」

春香「あはは。ごめんごめん。響ちゃん。最近ちょっとこのノリやってなかったから、つい」

「ついって! ……もう。いいか? 春香。今から自分が良いこと言うからちゃんと聞けよ! 分かった?」

春香「うん。分かったよ。響ちゃん」

千早「我那覇さん……自分で『良いこと』って言ってしまうのね……」

「えーっと……おほん。自分も、春香がリーダーで良かったって思うぞ! なんだかんだで、やっぱり春香が一番よく自分達の事を分かってくれてるって思うからな!」

春香「ありがとう響ちゃん。たとえ嘘でも嬉しいよ」

「いやホントだからね!? 確かに多少胡散臭い流れになってしまってはいたけど!」

春香「あはは。ごめんごめん。大丈夫。ちゃんと分かってるって」

春香「……ありがとうね。響ちゃん」

「う、うん……まあ、ちゃんと分かってくれてるんならいいんだけどさ……」

春香「ふふっ。響ちゃんは本当にかわいいなあ」

「も、もー! 春香はまたすぐそうやって自分をバカにするー!」

貴音「同意します。春香」ズイッ

春香「わっ。貴音さん」

「貴音。いい加減、その自分の背後からずぃっと出て来る登場の仕方やめないか?」

貴音「そういうわけにはまいりません。私は一日一回は必ず響の背後を取ることを日課としていますので」

「なんて嫌な日課なんだ」

貴音「つまりそれだけ響は可愛いということです」

「何がつまりなんだ……」

貴音「そして春香。此度のリーダーの大役、誠にお疲れ様でございました」

春香「貴音さん」

貴音「今日に至るまでに様々な不安や重圧があったことでしょう。しかし貴女は見事にそれらに打ち克ち、今日のライブを成功へと導いた」

貴音「真、大義でありました」

春香「貴音さん……。そんな、私は何もしてないですよ」

春香「ただ、皆を信じて今日まで進んできただけです」

貴音「その謙虚さもまた、貴女の掛け替えのない魅力です。皆が何も迷わず、惑わず、貴女と共に歩くことができた所以でありましょう」

春香「……ありがとうございます。貴音さんにそこまで言って頂けると、私……本当に嬉しいです」

319 : 以下、名... - 2016/11/26 20:38:54.16 a1FTt7Qy0 897/963

雪歩「春香ちゃん」

春香「雪歩」

雪歩「もう何番煎じか分からないけど……私からもいいかな?」

春香「もちろん! 雪歩の淹れてくれるお茶は何番煎じでも美味しく飲めるからね!」

雪歩「ふふっ。ありがとう。春香ちゃん。今日はお茶じゃないけどね」

雪歩「えっと……私もね。春香ちゃんがリーダーで良かったって思う」

雪歩「春香ちゃんが一度もぶれたりすることなく、真っ直ぐ前を向いて進んでくれたからこそ……私達は辿り着けたんだよ」

雪歩「光の海の、その先へと」

春香「雪歩……」

雪歩「うん」

春香「雪歩はやっぱりポエマーだね」

雪歩「はうっ!? ……わ、私、そんな……あ、穴掘って埋まってますぅ~!」

「うわぁ! 雪歩駄目だぞ! アリーナに穴なんか掘っちゃ!」

春香「あっはっは」

「春香も呑気に笑ってないの!」

春香「……ありがとうね。雪歩」

雪歩「! ……う、うん。えへへ……」

あずさ「春香ちゃん」

春香「あずささん」

あずさ「乗り遅れちゃったかもだけど、私からも言わせてもらうわね」

春香「はい。お願いします!」

あずさ「私も……皆の舵を取ってくれたのが春香ちゃんで良かったと思うわ」

あずさ「伊織ちゃんにも言われたことだけど……もしこれが私だったら、皆を漂流させちゃってたかもしれないし」

春香「あ、あはは……」

あずさ「ともあれリーダー、お疲れ様。しばらくはゆっくり休んでね」

春香「ありがとうございます。あずささん。……でも」

あずさ「え?」

春香「ゆっくり休んでなんか……いられません」

あずさ「春香ちゃん」

春香「だって私達はこれからも――……さらなる高みを目指して、進んでいかないといけませんから」

あずさ「……そうね。こんなところで満足していたら駄目よね。さらなる高みへ、か……ふふっ。じゃあ私もまだまだ頑張らないといけないわね」

春香「はい! これからも皆で一緒に頑張っていきましょう!」

あずさ「ええ。そうね。春香ちゃん」

春香「……皆で、一緒に……」

春香「…………」

千早「……春香」

春香「ん? 何? 千早ちゃん」

千早「…………」

春香「…………」

千早「……いえ、ごめんなさい。……なんでもないわ」

春香「そう? ならいいけど」

千早「…………」

320 : 以下、名... - 2016/11/26 20:49:05.35 a1FTt7Qy0 898/963

千早(春香の様子……やっぱりどこか、いつもと違うような……)

千早(そういえばさっき、真と話している時の美希の様子にも、少しいつもと違う雰囲気を感じたけど……)

千早(でも……何故かしら)

千早(本当なら、気にしないといけない事のはずなのに……『今はこれでいい』……そんな気がする)

千早「…………」

美希「……春香。そろそろ……」

春香「美希。……うん。そうだね」

「? 何だ? どこか行くのか? 二人して」

春香「うん。私と美希の共通の知り合いの人が観に来てくれてたから、ちょっとご挨拶にね」

美希「ちゃんとミーティングまでには戻って来るから、心配ムヨーなの。あふぅ」

「そっか。ならいいけど」

千早「……春香。美希」

春香「? 何? 千早ちゃん」

美希「どうしたの? 千早さん」

千早「……いえ」

千早「―――なんでもないわ。また、後でね」

春香「うん。……また、後で」

美希「じゃあね、なの。……千早さん」

 ガチャッ バタン

(春香と美希が出て行ったドアを見つめている千早)

千早「…………」

千早(今、私は何かを言おうとした……?)

千早(あるいは、出て行こうとする春香と美希を引き留めようとした……?)

千早(……分からない。分からないけど……ただ)

千早(今は、何も言わずに二人を見送るべきだと……そう思った)

千早(それが、最も良いことのように思えたから……)

千早(……そうよ。これで良かったのよ)

千早(だって二人は、すぐにまたここに戻って来るんだもの)

千早(だから、これで……)

千早「…………」

322 : 以下、名... - 2016/11/26 21:10:37.56 a1FTt7Qy0 899/963

(アイドル達同様に歓談しているダンサー一同)

奈緒「いや~、ホンマすごかったな~。あのお客さんの数! もう端から端までびっしり埋まってたやん」

美奈子「うん。ホントすごかったね。あとライブ中に天海さんも言ってたけど、本当に一番後ろの席までちゃんと見えたね。お客さんの顔」

星梨花「見えました見えました! わたし、もうすっごく感動しちゃって……今日のステージの事は、一生忘れません!」

杏奈「杏奈も……まだ、夢の中にいるみたい……ねむい……」

百合子「ありゃりゃ。杏奈ちゃんはもう完全にスイッチ切れかな。でもまだミーティングがあるんだから寝たらだめだよ?」

可奈「…………」

志保「お疲れ様。可奈」

可奈「志保ちゃん。うん。お疲れ様」

志保「次は私達がステージの主役を張れるよう、これからも頑張っていきましょう」

可奈「……うん! そうだね。一緒に頑張ろう!」

奈緒「おーいそこの熟年夫婦~。打ち上げの日程決めるで~」

志保「だっ、誰が熟年夫婦ですか! ……って、打ち上げの日程って……今日じゃないんですか?」

奈緒「ああ、全体のはな。ただほら、せっかく私らも長いことこのメンバーでやってきたんやから、ダンサーチームだけでもまた別に打ち上げしてもええんちゃうかって話してたんや」

美奈子「ちなみに場所はもう私の実家の店で決まってるから、後は皆のスケジュール次第ってこと!」

志保「ああ、なるほど……そういうことでしたか」

星梨花「確か、美奈子さんのおうちって中華料理屋さんなんですよね? わたし、すごく楽しみです!」

美奈子「あ、あはは……。確かにうちは中華料理屋だけど、星梨花ちゃんのおうちがよく行くようなお店とは大分雰囲気違うと思うよ……」

星梨花「? そうなんですか?」

奈緒「まあ店構えはいわゆる町の定食屋さんいう感じやけど……味はそんじょそこらの三ツ星店にも引けを取らへんで。ホンマごっつ美味いからな」

星梨花「そうなんですね! 楽しみです!」

美奈子「な、奈緒ちゃん。そんなにハードル上げないで……」

奈緒「にしし。でもホンマのことやん?」

杏奈「杏奈も……楽し……み……ぐぅ」

百合子「あーっ! 杏奈ちゃん! だから寝ちゃダメだって! 起ーきーてー!」

志保「……ふふっ。本当にもう、ライブが終わったばかりとは思えないくらい、皆元気ね。……ね? 可奈」

可奈「…………」

志保「? 可奈? 何を見て……?」チラッ

(志保が可奈の視線の先を追うと、ちょうど控室を出て行くところの美希と春香の後ろ姿が目に入った)

志保「天海さんと星井さん……どこへ行くのかしら? もうすぐミーティングなのに……」

可奈「……志保ちゃん」

志保「え?」

可奈「私、ちょっと行って来る」ダッ

志保「!? か、可奈? 行くってどこに?」

可奈「ごめん、すぐ戻るからー!」

(言いながら、可奈は美希と春香の後を追うように控室を出て行った)

志保「…………?」

323 : 以下、名... - 2016/11/26 21:22:06.72 a1FTt7Qy0 900/963

【アリーナ/控室前の通路】


(二人、肩を並べて無言で歩を進める美希と春香)

美希「…………」

春香「…………」

可奈「星井先輩! 天海先輩!」

美希春香「!」クルッ

(背後から聞こえた可奈の声に、思わず振り向く美希と春香)

美希「……可奈」

春香「どうしたの? 可奈ちゃん」

可奈「あ、その、えっと……」

可奈「…………」

可奈(な、何か……何か言わなきゃ……)

可奈(でも……何でだろう?)

可奈(何も言葉が、出てこない)

可奈「…………」

美希「―――ああ、そうだ。ちょうどよかったの」

可奈「え?」

美希「『確認』するの、忘れてたの」

可奈「……『確認』?」

美希「ねえ、可奈」

美希「ミキと春香……トップアイドルになれたかな?」

可奈「――――!」

春香「…………」




―――ちゃ~んと、その目で見ててね。ミキと春香が―――トップアイドルになるトコロ。




可奈「――――はい!」

可奈「星井先輩も、天海先輩も……間違い無く、トップアイドルです!」

美希「……そっか。ありがとう。それを聞いて安心したの。……ね? 春香」

春香「うん。……ありがとね。可奈ちゃん」

可奈「……いえ……」

可奈(…………?)

可奈(何だろう?)

可奈(この……気持ちは……)

可奈「…………」

393 : >>324訂正 - 2017/01/21 12:22:21.87 BTrwrj0k0 901/963

美希「……じゃあ、可奈。ミキ達、今からちょっと行くとこあるけど……またすぐに戻って来るから」

可奈「え、あ……はい」

春香「また後でね。……可奈ちゃん」

美希「じゃあね。可奈。……また、後で」

(美希と春香は可奈に背を向けると、再び前を向いて歩き始めた)

可奈「…………」

可奈(あれ? なんだろう)

可奈(今すぐ、星井先輩と天海先輩を呼び止めないといけないような、そんな気がするのに……)

可奈(なぜだか、上手く声が出せない)

可奈(なんで……?)

可奈(……いや、ダメだ。今、今二人に声を掛けないと――……)

可奈(もう、この二人には二度と会うことができないような……そんな気がする)

可奈「あ、あのっ!」

美希春香「!」クルッ

可奈「あ、わ、私……」

美希春香「…………」

可奈「私、ずっと待ってますから! お二人が戻って来るのを、ずっと、ずっと……!」

可奈「……だから」

可奈「必ず、また戻って来て下さいね……?」

美希「もちろんなの。可奈」

春香「大丈夫だよ。可奈ちゃん。そんなに心配しなくても、すぐに戻って来るから」

可奈「……はい! わかりました!」

(美希と春香は、可奈に軽く手を振ると、再び前を向いて歩き始めた)

(やがて二人が通路の角を曲がると、その姿は完全に見えなくなった)

(可奈はそれを見届けた後、パンダのぬいぐるみを二つ、ズボンのポケットから取り出すと、それらを胸の前で握りしめた)

可奈「…………っ!」ポロポロ

(可奈の両の目から涙が零れ落ちる)

志保「……可奈? どうしたの?」

可奈「! ……志保ちゃん? なんで……」

志保「いや、部屋を出て行くときの可奈の様子が気になったから……って、可奈? あなた……泣いて……?」

可奈「は、はれっ? お、おかしいな。何で私、泣いてるんだろう……?」

可奈「星井先輩も、天海先輩も……すぐにまた戻って来てくれるのに」

可奈「だから何も、悲しいことなんか……無いはずなのに」

可奈「……ね? そうだよね? 志保ちゃん」

志保「……可奈……」

可奈「お、おかしいね? あ、あは……あはははは……」

志保「…………」ギュッ

(可奈の身体を抱きしめる志保)

可奈「ひっ、くっ……う、うぁあああああああん」

志保「……よしよし」

志保「何があったのかは分からないけど……今は好きなだけ泣いたらいいわ」

可奈「し、しほちゃ……あ、ありが、と……う、ひぐっ……うわああああああん」

(その後十分ほど、可奈は志保に抱きしめられながら泣き続けた)

325 : 以下、名... - 2016/11/26 22:02:43.39 a1FTt7Qy0 902/963

【アリーナ/通路】


 ガチャッ

(男子トイレから出てきたプロデューサー)

「……ん? 美希と春香じゃないか」

美希「あ、プロデューサー」

春香「お疲れ様です。プロデューサーさん」

「ああ、お疲れ……って、どこ行くんだ? もうすぐミーティングだぞ」

美希「ちょっと知り合いの人のところに挨拶しに行くの」

春香「ちゃんとミーティングまでには戻りますから」

「……そうか。それならいいけど。くれぐれも遅れないようにな」

美希「はいなの」

春香「任せて下さい」

「…………」

美希「? プロデューサー?」

春香「プロデューサーさん? どうかしましたか?」

「……美希。春香」

美希「? はいなの」

春香「何ですか?」

「……俺は、忘れないからな」

「今日の、このステージを」

美希「! プロデューサー……」

春香「プロデューサーさん……」

「……じゃあ、早く用事を済ませてこい。待ってるからな」

美希「うん!」

春香「待っててくださいね! 約束ですよ! 約束!」

「……ああ。約束だ」

(プロデューサーと別れ、再び通路を歩き始める美希と春香)

「…………」

(何故今、俺はあんなことを……?)

(いや、だが今……そう言わないといけないような……そんな気がしたんだ)

 ピリリリッ

「……着信?」

「……『通知不可能』……?」

「……まあ、いいか」

「今は気に留めるようなことじゃない」

「そんな……気がする」

「…………」ピッ

(プロデューサーは着信には応答せず、そのまま携帯電話の電源スイッチを押した)

327 : 以下、名... - 2016/11/26 22:26:57.68 a1FTt7Qy0 903/963

【同時刻・アリーナ/関係者用通路】


「……切られました」ピッ

「何?」

「まあ予想しえた事態ではあります。プロデューサーとしての彼がそうさせたのか、個人としての彼がそうさせたのかまでは分かりませんが……」

「両方……だろうな」

「ですね」ピッ

「……ワタリ。プロデューサーと連絡が取れない。防犯カメラの映像に彼の現在の動向は映っていないか?」

ワタリ『はい。プロデューサーはライブ終了後、アイドル達と共に控室に入ったところまでは確認できていますが、その後は特に何も……。朝日さんにも監視してもらっていますが、私と同じ認識です』

「そうか。……星井美希と天海春香の携帯電話の位置情報は?」

ワタリ『いずれも会場内のままです』

「……分かった」

「携帯電話だけならあえて置いて行くということもありえるな」

「そうですね。この前の時とは違い、最初から二人で行動できるわけですから……カモフラージュのためにあえて置いて行くというのは十分ありえます」

「一応、会場内の捜査員にも確認を取っておきましょう。私は関係者用扉付近を張っている相原さん達とマーク達に聞きますので……月くんは一般の出入口付近を張っている伊田さん達の方をお願いします」

「分かった」ピッ

「……もしもし。伊田さんですか? 月です。現在、一般の出入口を少し離れた場所から見張っています。そちらはいかがですか?」

「ええ。……はい。……はい。……そうですか」

「……分かりました。では、引き続きよろしくお願いします」ピッ

「竜崎。今のところ、一般の出入口付近では星井美希、または天海春香とおぼしき人物の姿は見られていないとのことだ。事実、僕も先ほどから携帯で同所付近の防犯カメラの映像を観ているが……それらしき人物は見ていない」

「分かりました。関係者用扉付近も今のところ無いそうです」

「そうか。ただカメラの映像は定点固定だし、会場内は帰ろうとする観客の群れで非常に混み合っている……正直、見落としが無いとは言い切れないな」

「……そうですね。ただ、それぞれの出入口付近で張っている六名に加え、防犯カメラの映像自体はワタリも朝日さんも観ています。その全員が見過ごすということは……」

「……そうだな……」

 ピリリリッ

「はい」ピッ

ワタリ『竜崎』

「? どうした? ワタリ」

ワタリ『今、現在の映像と並行して少し前の時間の映像も観ていたのですが……今からほんの数分前、控室からほど近い通路で星井美希・天海春香の二人がプロデューサーと接触……一分ほど会話した後、別れた様子を確認しました』

「!」

ワタリ『どうやら三人とも、いつの間にか控室を出ていたようです。すみません。私も朝日さんも見落としていました』

「……プロデューサーと別れた後の星井美希・天海春香の動向は?」

ワタリ『ちょうどカメラの無い死角に消えていますが……方向的には関係者用扉とは逆方向でしたので、もし外に出るとしたら一般の出入口の方と思われます』

「分かった。二人の格好は?」

ワタリ『今日の会場内でも売られているライブ用Tシャツを着ています。それに加えて、普段の変装時と同様に帽子と眼鏡を着用……正直言って、この姿で観客の中に紛れられたら発見はかなり困難かと……』

「分かった。ではワタリは引き続きカメラの映像を隈なく追ってくれ。そして二人の足取りが分かったらすぐに私の方まで連絡を頼む」

ワタリ『分かりました』

「……月くん。今ワタリが話していた通りです。現在、二人は一般の出入口に向かっている可能性があります。伊田さんと宇多川さんに……」

「ああ。分かってる。二人に似た容姿の者を見かけなかったかを再度確認、およびこれからそういった者を見かける可能性があるため、より一層注意して見張るように連絡……だな」

「はい。お願いします。私は朝日さんに連絡しておきます」ピッ

328 : 以下、名... - 2016/11/26 22:45:15.68 a1FTt7Qy0 904/963

総一郎『もしもし』

「朝日さん。竜崎です。たった今、ワタリから連絡があった件ですが――……」

総一郎『ああ。ワタリにはあなたとの会話をこちらでも聞こえるようにしてもらっていたので経緯は分かっている。……すまない。私も、星井美希と天海春香……そしてプロデューサーの動きには気が付かなかったようだ』

「過ぎた事を言っても仕方ありません。ただ、少なくともこれで星井美希と天海春香の二人は一般の出入口から外に出ようとする可能性が高くなりました。今後はそちら方面のカメラの映像の監視を重点的にお願いします」

総一郎『分かった。二人を見つけ次第すぐに連絡する』

「はい。よろしくお願いします」ピッ

「竜崎。伊田さんにも再度確認したが……今現在、二人の姿は見ていないと」

「そうですか」

「どうする? 二人が控室から一般の出入口に向かっているのだとすると、僕達が今いるこの通路も通らない。ならば僕達も一般の出入口に向かった方が……」

「……そうですね」

(会場内の防犯カメラの数は全部で56個……その映像はワタリと夜神局長に監視してもらっているが、当然、その全てを同時並行で観ることはできない)

(一週間前、ファッション誌の撮影現場から逃走した星井美希を追った時と同じ……モニター一台につき、数台のカメラの映像を数秒ごとに切り替えて監視する方法。ワタリと夜神局長がそれぞれ違う映像を観るように切り替えていったとしても、二人で同時に観れる映像はせいぜい20個が限界)

(つまり、残りの36個のカメラの映像はリアルタイムでは確認できない……もしその中のどれかに映っていたとしてもリアルタイムでは検知されない)

(だとすれば、その時々で監視されている最大20個のカメラにさえ映らないように動けば、事実上監視の目をかいくぐることは……)

(いや、しかしそのような動き方は、予めこちらがどのカメラの映像をどういう順番で観ているかが分かっていなければ不可能だ。それに一般の出入口付近の映像は夜神月も都度携帯から確認しているし、現場には伊出と宇生田も張っている)

(この状況で誰の目にも留まらないまま、会場を出ることができるとは、とても……)

「…………」

 ピリリリッ

「はい」ピッ

ワタリ『竜崎』

「どうした? ワタリ」

ワタリ『今、また少し前の映像を現在の映像と並行して観ていたのですが……今から三分ほど前、星井美希と天海春香らしき人物が一般の出入口を通過し、会場の外に出て行ったことを確認しました』

「! …………」

「馬鹿な。僕も意識して観ていたのに……一体、いつの間に?」

ワタリ『18時5分20秒頃です。12番のカメラの映像の画面右下に……それらしき二人の人物の姿が』

「! ……本当だ。確かにこれは……間違い無いな」

「星井美希と天海春香だ」

「…………」

 ピリリリッ

「はい」ピッ

総一郎『……竜崎。すまない。今、ワタリからも聞いたと思うが……また見過ごしてしまったようだ。申し訳無い』

「……いえ……」

「…………」

(また『見落とし』……?)

(まだこれが夜神局長だけなら、星井係長への同情心からわざと……という可能性も無くは無いが……しかしワタリや夜神月まで、というのは……)

「…………」

329 : 以下、名... - 2016/11/26 23:22:17.61 a1FTt7Qy0 905/963

「竜崎。どうする? とりあえず再度、伊田さん達に確認を取るか……」

「……いえ。二人が出入口を通過してからもう五分は経っています。二人の姿を現認していたならとうに私に報告してきているはず……それが無いということは……」

「気付いているはずがない……か」

「……はい」ピッ

「ワタリ」

ワタリ『はい』

「至急、“L”として次の指示を捜査員全員に伝えてくれ。『星井美希と天海春香がアリーナから逃走した。今後は本部に居る朝日局長を司令塔とし、各自、都度連携を取りながら追跡捜査を行うように』と。そして朝日さんには『アリーナ近辺の防犯カメラの映像を監視しながら、適宜捜査員に指示を出すように』と」

ワタリ『分かりました。私はどうすれば?』

「ワタリはこれまで同様、朝日さんと同時にアリーナ近辺の防犯カメラの映像を監視してくれ」

ワタリ『分かりました。……竜崎はどうされるのですか?』

「……私は別に動く。念の為、『あっちの方』も使えるようにしておいてくれ」

ワタリ『それは大丈夫です。本日付で認証パスも通るように設定していますので』

「分かった。あと二人の携帯電話の位置情報だが、アリーナから少しでも動いているか? またはもう携帯の電源自体切られているか?」

ワタリ『二人とも電源は入っていますが……位置情報はいずれもアリーナのままです。もっとも、単にまだそこまで遠くに行っていないため、という可能性も高いですが』

「……分かった。もしそちらも動きがあれば連絡してくれ」

ワタリ『承知しました』

「では、引き続きよろしく頼む」

(ワタリとの通話を終えたL)

「…………」

330 : 以下、名... - 2016/11/26 23:58:33.38 a1FTt7Qy0 906/963

(そもそも……今回の二人の逮捕自体、何故私は『アリーナライブ後』にこだわった?)

(確かに、二人がアリーナライブを最優先に考え、行動するとした場合……『ライブ直後』が最も二人の警戒心が薄れるタイミングだった。それ自体は間違い無い)

(しかし一方で、ライブ前に下手な行動は取らないとしても……全てが終わった『ライブ直後』に我々捜査本部の人間を皆殺しにする可能性だってあったはず……いや、それは今でもある)

(何故私は、その可能性をもっと考えなかった?)

(いや……)

(という、よりも……)

「…………」

(それに、例のファッション誌の撮影の翌日……星井美希は、星井係長の着替えを届けるために単独で警察庁内に来ており、そこで夜神局長と対面しているが……)

(むしろあの場で彼女の逮捕を強行する、という選択肢も採りえたのでは?)

(確かに死神の問題はあった。加えてあの時点では、まだこれから何かしらの対応策が見つかるかもしれない、とも考えていたが……)

(しかしどのみち目にも見えない、それどころか実在するのかどうかさえも分からないような存在……)

(そんな不確定要素を理由にしてまで……本当に『ライブ直後』まで二人の逮捕を引き延ばさなければならなかったのか?)

「…………」

(他にもある。たとえば今日、ワタリと夜神局長に監視してもらっていた映像は、元々アリーナ内に設置されていた防犯カメラのものだけ……だがやろうと思えば、一週間前の撮影の日のように、アリーナ内の至る所……それこそアイドル達が使用する控室や更衣室にだって、監視カメラや盗聴器を設置することはできたはずだ)

(そして、そうしておけば……少なくとも今よりは、二人がアリーナから出て行くのを見過ごすような可能性は格段に低くなっていたはず)

(勿論そうは言っても、前の時のように死神にカメラを破壊されてしまうという可能性はあっただろう。しかしそれならば尚の事、カメラの数を少しでも増やしておくべきだったはず……なのに)

(何故私は、こんな簡単な事すら思いつかなかった……?)

(いや、私だけではなく、夜神月も……そして捜査本部に居る誰もが)

(何故今まで、全くこういったことを思いつかなかった……?)

「…………」

(私が今日のライブ中に味わった、星井美希に魅了されているかのような感覚……そして『今日のステージがずっと続けばいいのに』といった思考……)

(またプロデューサーも、二人の逃走行為を援助するかのように私との連絡を遮断……)

(そして極めつけは、捜査本部総出でこれだけの監視体制を張っていたのにもかかわらず、いざ二人がアリーナを出て行く際には誰もそれに気付かなかったという不自然な事態……)

(まるで全てが、“星井美希と天海春香の二人にとって都合の良いように”動いて……いや、“動かされて”いるかのような……)

(とすると、これは……)

「…………」

331 : 以下、名... - 2016/11/27 00:16:44.96 5FsTQ5780 907/963

「……竜崎。何故か今まで考えつかなかったんだが……」

「……月くん。おそらく私も同じ事を考えています」

「! じゃあ……」

「はい。……何故今日まで、我々は『アリーナライブ後に二人を逮捕する』ということを当然の前提として行動していたのか……ですよね?」

「……ああ。やはり竜崎も僕と同じ結論に行き着いたか」

「はい。あのノート……『黒いノート』に書かれていた『HOW TO USE IT』……その中にあった、『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』という記載」

「以前、私達はこの記載を根拠に、ノートに名前を書かれた者の『死の時間』をも操れるのではないか、という推理をしましたが……この『詳しい死の状況』というものが、単なる死の時間指定などにとどまらず、ノートに名前を書かれた者の『死の直前の行動』をもっと広汎に操作できるものだとしたら……」

「ああ。つまり……僕達捜査本部の人間を、『アリーナライブ“前に”星井美希と天海春香の二人を逮捕しないように』操り、殺すことも可能なのだとしたら……」

「はい。今日まで私達の誰も、『アリーナライブ“後に”二人を逮捕する』ということに何の疑問も抱かなかったということも頷けます」

「さらに、プロデューサーが私に連絡をしてこず、それどころか、私の電話に応答せずに切ったことも……彼も私達と同様、『星井美希と天海春香の邪魔をしないように』操られていたのだとすれば……辻褄が合います」

「僕と全く同じ考えだ。だがそうだとすると……二つほど、おかしな点があるな」

「そうですね。……まず一つ目は、今日、二人の逃走に気付く可能性があったのは……アリーナ内の防犯カメラの映像を監視していた朝日さんとワタリに、実際に二人が通過した一般の出入口を直接見張っていた伊田さんと宇多川さん。……そして、携帯で随時一般の出入口の映像を観ていた月くんの計五名……ですが」

「…………」

「今更言うまでもないことですが……このうち、月くんは既に二人に顔と名前を知られています。また朝日さんも、天海春香が『顔を見れば名前が分かる能力』を持っているという我々の考えを前提にすれば同様となります」

「伊田さんと宇多川さんは微妙ですが……二人とも警察庁の人間です。最悪、星井さんがどこかで星井美希に情報を漏らしていたという可能性も否定はしきれません」

「ですが……ワタリだけは別です」

「二人が顔や名前はおろか、その存在すらも認識できていないワタリだけは……どうやっても操ることはできないはず」

「そうであるとすれば、ワタリは行動を操られていないにもかかわらず……『偶然』、一度ならず二度までも、肝心な時に二人の動向を見落としていたということになる……ですが正直言って、そんな『偶然』は考え難い」

「そうだな。ワタリの能力の高さから考えても……今日の相次ぐ『見落とし』は不自然というほかないだろう」

「……そして二つ目は、僕達は今まで『ノートで死の直前の行動を操れる』という可能性に気付けていなかったのに……“今になってそれに気付くことができている”ということ」

「はい」

「そもそも理屈から言えば、『ノートで死の直前の行動を操れる』という可能性自体、対象者……つまり僕達が気が付くことがないように操ることができるはずだし、また星井美希と天海春香がそれをしない理由は無い」

「はい。そして月くんの言うように、もし今、私達がそのように操られているのだとしたら、それこそ死の直前まで……いえ、死の瞬間においても『自分はノートによって行動を操られている』という可能性には気付かないはずですし、そうでなければおかしい」

「だとすれば、操られているのは……」

「私達じゃ、ない……?」

「…………」

「…………」

「……行こう。竜崎。二人を探すんだ」

「月くん。でも、もし……『そうなら』……もう」

「『そうでも』だ。竜崎。……そうだろ?」

「……はい。そうですね」

394 : >>332訂正 - 2017/01/21 12:24:33.86 BTrwrj0k0 908/963

【三十分後・海の見える浜辺】


(美希と春香は、波打ち際から少し離れた浜辺で二人、砂の上に大の字になり仰向けに寝そべっている)

春香「…………」

美希「…………」

春香「ねぇ。美希」

美希「何? 春香」

春香「竜崎さん……“美希の”ファンになってくれたかな?」

美希「さあ……どうだろうね」

美希「まあでもやるだけのことはやったし、悔いは無いの」

春香「……そっか。悔いは無い、か」

美希「うん。春香は? 何か悔いがあるの?」

春香「……ううん。無いよ」

美希「そっか。それは良かったの」

春香「念願のトップアイドルにもなれたしね」

美希「そうだね。……ま、証人が可奈っていうのはちょっと頼り無いかもだけどね」

春香「あはは。まあ、いいじゃん。あんなに可愛い後輩が証人なら、願っても無いよ」

美希「……だね」

春香「……うん」

美希「……あ、でも」

春香「ん?」

美希「ミキね、やっぱり一つだけ……心残りがあるの」

春香「……何?」

美希「今日のライブ……やっぱりパパにも観に来てほしかったな、って」

春香「……来てた可能性はあるんじゃない? ……捜査で、さ」

美希「……ううん。だってミキのパパだもん。もし来てたら、ミキにはきっとすぐにわかるの」

美希「たとえあの広いアリーナの……どこにいたって」

春香「……そっか」

美希「……うん」

春香「…………」

美希「…………」

333 : 以下、名... - 2016/11/27 00:33:33.96 5FsTQ5780 909/963

春香「ねぇ。美希」

美希「何? 春香」
















春香「大好きだよ。美希」
















美希「あはっ。ミキも大好きなの。春香」

334 : 以下、名... - 2016/11/27 00:44:45.26 5FsTQ5780 910/963

【同時刻・上空/ヘリコプター内】


「……まさかヘリの操縦までできるとは思わなかったよ。竜崎」

「免許などなくても、勘でどこをどうすればどうなるかは分かります。月くんでもできますよ」

「しかし、もう使うことは無いだろうと思っていた新しい捜査本部のビル……まさか、完成日当日にいきなりヘリポートを使うことになるなんてな」

「はい。正直、私ももう使うことは無いと思っていたビルでしたが……念の為、今日から設備をフルで使えるようにワタリに準備させておいて正解でした」

「……だが、本当にこれが最初で最後になりそうだな」

「……そうですね」

「さて、僕達の読みが正しければ……」

「はい。私達が“気付いた”以上……そう時間は掛からずに“分かる”はずです」

「……ああ。そうだな」

ワタリ『竜崎』

「! ワタリ」

ワタリ『星井美希・天海春香の二人らしき人物の足取りを掴みました。今から十分ほど前に、アリーナを出た時と同じ服装で公道の防犯カメラに映っています。今から位置情報を伝送します』

「……海水浴場近くの歩道……か」

ワタリ『はい。ちなみに、携帯電話はやはり置いてきているようで、そちらの位置情報は未だにアリーナのままになっています』

「分かった。……ありがとう。ワタリ」

ワタリ『いえ。……お気を付けて。竜崎』

(ワタリとの通話を終えたL)

「…………」

「この位置だと……今僕達が飛んでいるあたりのほぼ真下になるな」

「そうですね。もう少し高度を下げます」

「! ……竜崎。あの浜辺……人が二人、寝ているように見えるが……」

「……そうですね。望遠カメラの映像を拡大します」

「! これは……」

「……はい。間違いありませんね」

「星井美希と天海春香です」

「…………」

「幸いにも、近くに少し開けた場所があるので……ヘリはそちらに降ろします」

「……ああ」

「行きましょう。……いえ、私達は行かなければなりません。月くん」

「……そうだな。竜崎」

335 : 以下、名... - 2016/11/27 00:51:57.58 5FsTQ5780 911/963

【十五分後・海の見える浜辺】


(近くにヘリを降ろした後、浜辺に向かって歩を進めるLと月)

「…………」

「…………」

(やがて二人の視界に、砂の上に寝そべっている二つの影が映る)

「星井美希と……」

「天海春香……だな」

(Lと月は、寝そべっている二人の傍らに立った)

「…………」

(月はおもむろに春香の手首に触れる)

(その後、深く息を吸ってから告げた)

「竜崎」

「…………」
























「天海春香は――――死んでいる」

336 : 以下、名... - 2016/11/27 00:54:44.76 5FsTQ5780 912/963

「…………」

「……竜崎」

「…………」

(Lはおもむろに美希の手首に触れる)

「……星井美希は……」

「…………」

(一拍ほどの間を置いて、Lは静かな口調で告げた)

339 : 以下、名... - 2016/11/27 00:58:16.98 5FsTQ5780 913/963

















「――――死んでいます」


















続き
美希「デスノート」 3冊目【4】


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