一つ前
美希「デスノート」 3冊目【1】
【五分前・渋谷区内撮影スタジオ/非常口】
ガチャッ
(周囲を見回しながら、非常口から建物の外に出る美希)
美希「……ホントに尾行の人はいないんだね? リューク」
リューク「ああ。いない。俺はこの建物の半径100メートル以内を何度も飛び回って確認したんだ。間違い無い」
美希「そこまでしてくれてたんだ。どうもありがとうなの。リューク」
リューク「何……まだまだ楽しめそうだからな。ククッ」
美希「…………」ピピピッ
リューク「ん? メールか?」
美希「うん」
リューク「…………?」
(美希のスマホの画面を覗き込むリューク)
リューク「! ああ……なるほど。『それ』か。そういえば大分前に決めてたな」
美希「そうなの」
リューク「ククッ。まさか本当に『それ』を使う日が来るとはな」
美希「……よし。これで送信、っと」ピッ
美希「で、次は……」
リューク「ん? まだ送るのか?」
美希「うん。今度はプロデューサーね」ピピピッ
リューク「プロデューサー? わざわざ連絡してから行くのか?」
美希「うん。黙っていなくなって、行方を捜されでもしたらかえって面倒だからね」
リューク「なるほど」
美希「……これでよし、っと。で、後は携帯の電源を切って……」ピッ
リューク「これで準備万端ってわけか」
美希「まあ、とりあえず携帯からは位置がばれなくなるってだけだけどね。後は――……」
【同時刻・都内某カフェ近くの路上】
(カフェを出た後、一人で路上を歩いている春香)
春香「……ん? メール?」ピッ
春香「! …………」
レム「ハルカ。それは……あの時の」
春香「…………」
春香(とりあえず、携帯の電源を切って……)ピッ
春香「…………」
【同時刻・渋谷区内撮影スタジオ/非常口前】
リューク「で、ミキ。ここから先はどうするんだ?」
美希「…………」
リューク「建物から出たのはいいが、街中には至る所に防犯カメラが付いている。そしていくら俺でもその全てを発見して破壊するのは不可能……いや、できたとしても時間が掛かり過ぎる。建物内の監視カメラとは付けられている数も範囲も比べ物にならないからな」
リューク「かといって何の対策もしないままに突き進めば、行く先々でカメラに映っちまう。そして今ミキが着ている服は最後の撮影時の衣装のまま……つまり、Lに観察されていたであろう衣装のままだ。一瞬でもカメラに映ったが最後、『あの場所』に辿り着く前に追い付かれるか、先回りされるかでアウトだ」
美希「…………」
リューク「さあ、どうする気だ? ミキ」
美希「……ここが渋谷で良かったの」
リューク「え?」
美希「ねぇ、リューク。渋谷ってどういう街だと思う?」
リューク「? どういうって……若者が多く集まる街、か?」
美希「そう。つまり……こういうことができちゃうってことなの!」ダッ
(途端、スタジオ前の路上に飛び出す美希)
美希「やっほー! 皆ー! 星井美希なのー!」
リューク「!?」
「えっ!」
「ミキミキ!?」
「うわっ、マジだ! ミキミキだ!」
「えええ!? 何で何で何で!?」
ザワザワ…… ザワザワ……
(一斉に、近くに居た若者達が美希の周りを取り囲み始める)
リューク「…………!?」
リューク(若者が多く集まる街、渋谷……。確かに、こんな場所で今を時めくアイドルの『星井美希』が声を上げれば、たちまちこうなる……が……)
「すげー! ミキミキだ! 本物だよ本物!」
「わー、ホントに美希ちゃんだ~! かわい~」
「服、めっちゃおしゃれ~」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
(瞬く間に、美希の周りには若者達による人垣が出来た)
美希「えへへ……わーい! 皆、ミキのために集まってくれてありがとーなの!」
リューク「…………」
リューク(どうする気だ? こんなに人を集めて……これじゃまともに身動きすら……)
リューク(! そうか……この状態なら……)
「ミキミキ、これテレビの撮影かなんか?」
「いや、オフじゃないの? スタッフとかいないし」
「ねぇ美希ちゃん、その服どこで買ったの?」
「ライブ近いけど練習とかどんな感じ?」
「俺、ライブ行くから! アリーナ席の最前!」
美希「きゃー。ミキ、そんなに一気に話し掛けられても困っちゃうのー」
アハハ…… カワイー ミキミキー
リューク「…………」
リューク(これだけ一か所に人が集まれば……しかも皆、少しでもミキに近づこうと、押し合いへし合いの状態になっている)
リューク(これならもしミキが一瞬カメラに映ったとしても、すぐにそれと特定するのは困難……少なくとも『一目見て判断できる』ようなレベルじゃない)
リューク(勿論、精緻に検証されればいずれは分かるだろう。しかしそれには時間が掛かる)
リューク(ミキの目的はあくまでも『あの場所』に辿り着くまでの時間を稼ぐこと……つまりそのためにあえて人を集め、自らの盾としたってわけだ)
リューク(……ククッ。なかなかやるじゃないか。ミキ)
リューク(だがカメラは一応これで凌げるとしても、いつまでもこの群衆に囲まれた状態を続けるわけにはいかない……当然、どこかでこいつらを振り切る必要がある)
リューク(そのあたりはどうする気だ? ミキ……)
美希「…………」
美希「よーし! じゃあ皆~」
「お?」
「何だ何だ?」
「どしたの、ミキミキ?」
美希「――かけっこしよっ! よーいドン!」ダッ
(突然、群衆の隙間を縫うように走り出した美希)
リューク「ウホッ!?」
「ミキミキ!?」
「ミキミキが走り出したぞーっ!」
「追いかけろーっ!」
「キャー! 美希ちゃんこっち来てー!」
「み、美希ちゃーん! み、みーっ!!」
美希「あはっ。こっちなのー♪」
リューク「! …………」
リューク(完全に周囲の人間の不意を衝いた動き……! 戸惑う皆の間を、持ち前の運動神経で掻い潜って……!)
リューク(そして人波の中心にいるミキが動けば、必然、それに伴って人波も大きく動き、うねりが生まれる)
リューク(そのうねりは別のうねりをもたらし、またそれを見た周囲の人間をもさらに呼び込む)
リューク(こうして可能な限りの多くの群衆を自身の周囲に引き付け、自らを隠す“壁”をより広範囲にわたって形成……)
リューク(普通なら少しでも目立たないように慎重に動くであろうこの状況下で、あえてこんな大胆な行動を取るとは……)
リューク(だが人が増えれば増えるほど、それに比例して振り切るのも困難になるはず……一体どうするつもりだ? ミキ……)
ワアアア…… ミキミキー! マッテー!
(混乱の渦の中、ひたすら走り続ける美希)
美希「やーん♪ ミキ待たないのー♪」
「ちょ……み、ミキミキ速過ぎ……!」
「も、もう無理ぃ……!」
「どうして諦めるんだそこで!」
「後は俺に任せとけ! うおおおっ! ミキミキー!」
美希「あはっ。皆、まだまだ元気いっぱいみたいだねー♪」
美希(さて、と……もうちょっとかな?)
美希「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
月「どの映像も人、人、人……やはり、この中から星井美希一人を探し出すのは容易ではないな。もっとも彼女が着替えていなければ、最後の撮影時の衣装のままのはずだが……しかしもはやこの状況では、着ている服がどうとかというレベルではない」
L「そうですね。ただ星井美希からプロデューサーに連絡があったのはつい先ほどの事のようですので、まだスタジオからそう遠くには行っていないと思われますが」
総一郎「しかし、今更ながらだが……何故、星井美希はわざわざプロデューサーに連絡したんだ? 黙って建物を出て行った方がより逃げる時間を稼げたのでは?」
L「確かにその考えも一理ありますが……現場からいなくなればどのみちすぐに気付かれてしまうでしょうし、またその時点で本人からの連絡が無ければ、当然、どこへ行ったのか行方を捜されてしまうでしょう」
L「一方、メールだけとはいえ、まがりなりにも本人から連絡があったのなら、念の為に確認の電話くらいは掛けるかもしれませんが、それがつながらなかったからといって、普通はあえて周囲を捜索するまでの事はしないでしょう」
L「つまり結果的に、星井美希としてはその方が逃げやすくなる……そう考えての行動だったと思われます」
総一郎「なるほど……」
L「またこの事から分かることとして……弥がどこまで私達の事情を星井美希に伝えてしまったのかは分かりませんが……少なくとも、私達がプロデューサーとつながっていることについては伝えていないものと思われます」
L「それがわざとそのようにしたのか、結果的にたまたまそうなったのかまでは分かりませんが……流石にその事が伝わっていれば、星井美希も安易にプロデューサーに連絡したりはしないでしょうから」
総一郎「確かにな」
L(つまり、彼はまだ使える……か)
月「…………?」
L「? どうしました? 月くん」
月「いや……気のせいか? どうも渋谷の映像を観ている限り、ますます人の数が増えていっているような……?」
L「……そうですね。というよりもむしろ、これは……」
総一郎「人のうねり? とでも言うべきか。何かこう……全体的に混沌としているような状態に見えるな」
月「ああ。まるでちょっとしたパニック状態にも見える。人が多過ぎてどこがその中心部なのかもよく分からないが……もしかしたら何かイベントでもやっているのかもしれないな」
L「……いずれにせよ、やはりこの状況で星井美希を見つけ出すのは極めて難しそうですね」
総一郎「うむ……」
ワタリ『竜崎。天海春香の方の防犯カメラの接続設定も終わりました。今からそちらのモニターのうち、三分の一程度をそちらの方に切り替えますが、よろしいですか?』
L「ああ。頼む」
ワタリ『では映します』
(次の瞬間、捜査本部内のモニターのうち、渋谷の映像を映しているものの一部が別の地点の映像に切り替わった)
総一郎「こちらはまあ……普通の人通りだな。これなら運良く天海春香が映っていたら分かるかもしれない」
L「そうですね。ただ向こうも、少なくとも普通の変装はしているはず……それでも今日の天海春香の服装が具体的に分かっていればまだ良かったのですが……」
月「現時点でそれを知っているのは……今日彼女を尾行していた松田さんか、行動を共にしていた高田しかいない」
L「はい」
総一郎「そういえば……そうだな。そして今は二人とも連絡がつかない状態……もっとも、松田はそのうちここに戻って来るだろうが……」
L「はい。ただそれも二、三時間後でしょうね。星井さんがそのように指示したのですから」
総一郎「では現状では天海春香の方の割り出しも難しい……か」
L「まあ……とはいえ、渋谷の人の渦の中から星井美希を見つけるよりはまだ目がありそうな気がします。それに天海春香の変装パターンについては相沢さんと松田さんにこれまでの尾行の都度、記録してもらっていたデータもありますし。ですので……月くん」
月「! ああ」
L「天海春香の判別・特定は月くんに任せたいと思います。三か月以上にわたり天海春香の家庭教師をしていた月くんなら……たとえ彼女が変装していても、あるいは見つけられるかもしれませんので」
月「分かった。やってみよう」
総一郎「竜崎。天海春香の方をライトに任せるということは……渋谷の星井美希の方もまだ諦めてはいないということだな?」
L「勿論です。ただ先ほども申し上げたように、この街中の映像からの特定は極めて困難ですので……この際、観察対象を星井美希が使うであろう交通機関に絞りましょう。いくらなんでも、この先ずっと徒歩で移動し続けるということは無いでしょうし、プロデューサーにメールを送ってからすぐに移動を開始したとしても、その時点からはまだ十分そこそこしか経っていないはずですから……駅やバス停にはまだ辿り着けていないとみていいでしょう」
総一郎「なるほど」
L「というわけで、私は渋谷駅構内の映像を重点的に確認しますので……夜神さんはバス停およびタクシー乗り場付近をお願いします」
総一郎「分かった」
L「ただ、そうは言っても街中を完全に捨てるのも怖いので……ワタリ」
ワタリ『はい』
L「暫くの間は交通機関を使わずに徒歩で移動する可能性や、ほとぼりが冷めるまでどこか人目につきにくい場所で身を潜めているという可能性……また既に路上でタクシーを捕まえて移動している、またはこれからそれをするという可能性もある。なので念の為、現在の街中の映像と並行して、16時35分以降の映像を可能な限り繰り返し再生し、それらしき動きが無いかを確認してほしい」
ワタリ『分かりました』
L「…………」
L(星井美希……天海春香……)
【同時刻・渋谷区内歩道上】
(大勢のファンや集まって来た群衆を引き連れながら走り続けている美希)
美希「…………」
美希(よし。そろそろこのへんでいいかな)
美希「皆、ちょっとごめんねなのー!」ダッ
(突然、人の波を掻い潜るように擦り抜け、近くの店の中に入る美希)
「えっ! ミキミキ?」
「店の中入っちゃった?」
「追いかける? どうする?」
ザワ…… ザワ……
(店の外で混乱しているファン達を尻目に、店内のトイレに入る美希)
美希「ふーっ……結構走ったから汗だくなの」
美希「さて、ちょっと一息入れつつ……」ゴソゴソ
(鞄の中から私服を取り出す美希)
リューク「! ……なるほどな。あれだけの数のファンを引き連れたままじゃ、どこまで行ってもついて来られちまうんじゃないかと思ったが……ここで私服に着替え、素知らぬ顔で外に出て行き……そのまま撒いちまうってわけだ」
美希「そ。今、外の皆は完全に『アイドル・星井美希』を認識している……撮影で使った、派手目の衣装を着たミキをね。だからここでミキが私服に着替えて出て行けば、絶対にそれがミキだとは分からないの。いつも使ってる変装用の帽子や伊達眼鏡もあるしね」
リューク「そしてLの方も……奴なら、今日ミキが最初に着ていた服くらいは当然覚えているだろうが……それも外の“壁”が機能している限りは関係無いってわけか」
美希「そういうことなの。それを抜きにしても、駅の方に近付けば近付くほど、自然と人の数は増えていくしね」
リューク「ククッ。なるほどな」
(数分後、私服に着替え、変装した状態で店の外に出る美希)
(店の前では、まだ美希が出て来るのを待っているらしき多数のファン達がたむろしている)
美希「…………」スタスタ
「ミキミキ、遅くない?」
「いや、でもまださっき入ったとこだし……」
「ていうか、ここで待っててもいいの?」
「さあ……」
リューク「……ククッ。ばれないもんだな」
美希「でしょ? さあ、ここまで来ればもう一息なの」
【五分後・渋谷駅ビル内】
美希「…………」
リューク「ようやく駅か。なかなかの逃走劇だったな。ミキ」
美希「まだなの」
リューク「えっ」
美希「……このへんでいいかな」
(駅ビル内のアパレルショップに入る美希)
リューク「? また店に入るのか? でももう着替える服無いだろ」
美希「無ければ買うだけなの。えーっと。これとこれとこれと……」
リューク「! …………」
美希「……ま、これくらいかな。すみません。これ全部下さいなの」
店員「かしこまりました。ではレジの方へどうぞ」
(レジで会計する美希)
美希「あ、できたらタグ全部取ってほしいの。あとこれ全部今すぐ着たいの」
店員「かしこまりました。それではそちらのフィッティングルームをご使用下さい」
美希「ありがとうございますなの」
リューク「…………」
(数分後、買ったばかりの服に着替えた状態で店を出る美希)
美希「どう? リューク。これでまたさっきまでとは全然イメージ違って見えるでしょ?」
リューク「……ああ。確かにこれなら分からないだろう。しかし、随分慎重だな」
美希「まあね。リュークも言ってたけど、今日元々着てたさっきの服はLには観られてるからね。今までみたいに人混みの中に紛れてたらともかく……改札や駅のホームにあるカメラにはほぼ間違い無く映っちゃうし、そうなったらほぼ確実に気付かれちゃうと思うから」
リューク「なるほどな」
美希「それに……『決めて』たしね。こうするって」
リューク「ああ。そういえばそうだったな」
美希「それと」
リューク「? それと?」
美希「何よりも、ミキは信じてるからね」
美希「春香のコト」
【同時刻・某電車内】
春香「…………」
春香(……美希……)
【十分前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「どうですか? 月くん。天海春香の方は」
月「いや……まだそれらしき人物は見当たらないな。やはり設置されているカメラの台数自体が少ないのと、複数台のカメラの映像を数秒毎に切り替えて観ているため、どうしても確認できる範囲に限界がある」
L「そうですか」
月「星井美希の方はどうだ? 駅構内には現れたか?」
L「いえ。こちらもまだ見つかっていません。やはり流石は渋谷駅……これだけの人の数となると、観察対象を改札や駅のホームに絞ってもなかなか難しいですね」
総一郎「バス停およびタクシー乗り場付近も同様だ。ただ最後の撮影時の衣装のままなら割と派手目の衣服だったし、カメラに映っていれば分かりそうなものだが……」
L「私は一応、途中で元々着ていた私服に着替えた、という可能性も考え……それに似た服装の女性も意識的に探すようにしていますが……こちらもまだ見当たっていませんね」
月「そうか……」
L「まあ、ここで焦っていても仕方ありません。できることを確実にやっていきましょう」
総一郎「ああ。そうだな」
月「ところで、竜崎。星井美希が建物を出たと思われる時点からもう十五分ほどになるが……『あっちの方』は……」
L「……そうですね。そろそろ連絡しておくべきですね」ピッ
【同時刻・撮影スタジオ】
出版社社員「大丈夫そうですか? 星井さん」
P「……ええ。電話はちょっとつながらないですが……こうしてメールも送ってきているので大丈夫だと思います」
出版社社員「そうですか。では今日はもうこの辺で解散とさせて頂いてよろしいでしょうか? 撮影自体は全て終了していますので」
P「ああ……そうですね。私の方は大丈夫です」
吉井「こちらも大丈夫です」
海砂「…………」
出版社社員「分かりました。では明日の予備日はどうしますか? 特に撮り直したい写真などがなければ、そのままキャンセルとさせて頂きますが……」
P「あー、そうですね……」
P(……『ノートは映像と写真に収めた』ってことだから、もうキャンセルでいいんだろうが……一応、Lに聞いてからの方が良いか?)
出版社社員「? どうされました?」
P「ああ、いえ……ん? 」ピッ
P(……メール? …… !)
P「あ、ちょっとすみません」
出版社社員「はい」
P(……『今日はもう解散で良い』『明日の予備日もキャンセルで良い』『今後の事はおってまた連絡する』……)
出版社社員「大丈夫ですか?」
P「……ええ。すみません。では明日もキャンセルで大丈夫です。ヨシダプロさんもそれでいいですか?」
吉井「はい。問題ありません」
出版社社員「分かりました。では撮影は本日分のみで終了とさせて頂きます。誌面は校正段階でお送りしますので、また別途ご確認をお願いいたします」
P「承知しました」
吉井「よろしくお願いします」
海砂「…………」
出版社社員「それでは、今日はこの辺で失礼させて頂きます。どうもありがとうございました」
P・吉井「ありがとうございました」
海砂「…………」
吉井「ちょっと、ミサ」
海砂「あっ、すみません。……ありがとうございました」ペコリ
吉井「もう。何ボーっとしてるの」
海砂「あ、あはは……ごめんごめん。ヨッシー」
海砂(いけない、いけない。普段通り、普段通り……)
海砂(正直言って、まだ事態を完全に受け容れることはできていない)
海砂(美希ちゃんが本当にキラだったこと……そして、その能力はライトから奪ったものだったこと)
海砂(彼女の傍には死神がいて、その気になればいつでも誰でも殺せるということ……)
海砂(そう、つまり……ライトでも)
海砂「…………」
海砂(なら今、ミサがすべきことは……たった一つだけ)
海砂(他の何に代えても、美希ちゃんとの“約束”を守る。そしてライトを絶対に死なせない)
海砂(キラのことは崇拝していた。キラが悪人を裁き、理想の世の中になることを心の底から願っていた)
海砂(でも)
海砂(今のミサは……世の中より……ライトが好き)
海砂(だからミサはライトを守る)
海砂(いや……守ってみせる)
海砂(絶対に!)
P「…………」
P(やはり気になるな……弥の様子)
P(先ほど更衣室から戻って来てからというもの……どうも心ここにあらず、という風に見える)
P(それにLの方も気に掛かる。あれだけ注意深く監視していたはずの美希が建物から出て行ってしまったというのに、特に対策を取ろうともせず……)
P(いや、むしろ……もう既に取っているのか? 俺に告げていないだけで……)
P(……その可能性はあるな。そもそも、これはLが俺をどこまで信用しているかという問題でもある)
P(『今後の事はおってまた連絡する』とのことだが……もしかするともうLは、俺に何も言わないまま、美希を捕まえる気でいるのかもしれない)
P(そんなの冗談じゃない)
P(俺は美希のプロデューサーだ)
P(今、美希がどんな状況にあるかも分からないのに……こんな形で梯子を外されてたまるか)
P(だからもし今、Lが俺に何の説明も無く美希の逮捕を強行しようとするなら、その時は――……)
P「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「……とりあえずプロデューサーには連絡しましたので、撮影現場の方はもう大丈夫でしょう」
総一郎「弥は? 何かフォローしておかなくていいのか?」
L「弥は……もうこちらからは接触しない方が良いと思います。というよりは……」
月「ああ。今、ミサに下手に接触すると……ミサか高田か、あるいは僕か、竜崎か……とにかく誰かが死ぬ可能性が極めて高い」
総一郎「! …………」
L「はい。先ほども同じ事を言いましたが……弥はほぼ間違い無く、星井美希との間で何らかの意思疎通を行っています。それが脅迫されたためなのか、キラへの崇拝心から寝返ったためなのかまでは分かりませんが……いずれにせよ、もうある程度こちら側の事情は星井美希に伝わってしまっていると考えた方が良い」
L「特に高田については確実に伝わっています。そうでなければあのタイミングで高田に連絡できるわけがないし、高田が携帯の電源を切る理由が無い」
総一郎「うむ……」
月「そして高田の事が知られたのであれば、その背後にいる者の存在と正体……つまり僕と竜崎が捜査本部にいる、ということも既に知られている可能性が高い。勿論、ミサの認識では僕がキラで竜崎はその崇拝者、ということになっているが……それが全くのデタラメだということは他ならぬ星井美希が一番よく分かるはずだ」
L「他の何者でもない、キラその者ですからね」
月「ああ。ゆえに今、ミサに接触してその事が星井美希に勘付かれたら一巻の終わりだ」
L「それに寝返っている方のパターンなら、それこそ弥本人から星井美希に即刻伝えられてしまうでしょうしね」
総一郎「……いや、待てよ。それならむしろ、ライトも竜崎ももうとっくに殺されていてもおかしくないのでは……? つまりまだ二人が生きているということは、弥もまだそこまでは話していないという可能性も……」
L「いえ。流石に、今私達が生きているからそうだと判断するのは早計だと思います。『今日の今日』で殺してしまえば、自分に対する嫌疑をより強めるだけですから」
L「『分かっているが、まだ殺せない』……今はそのように判断していると考えた方が自然です」
総一郎「なるほど……」
ワタリ『竜崎。星井美希および天海春香の携帯電話の通信記録が判明しました』
L「! どうだった?」
ワタリ『まず、星井美希ですが……16時35分頃に、天海春香とプロデューサー宛てに一通ずつメールを送っています。それ以外には電話の発着信も含めて何の記録もありません』
L・月・総一郎「!」
総一郎「メール……送っていたのか」
月「…………」
L「ワタリ。プロデューサー宛てのメールは『体調不良なので帰る』という内容のものだな?」
ワタリ『はい。そうです』
L「では、天海春香の方の通信記録は?」
ワタリ『はい。天海春香の方は、件の星井美希のメールを受信した以外は何の記録もありません。なお、その星井美希のメールにも返信はしていないようです』
L「……分かった。では星井美希が天海春香に送ったメールのみ、こちらのメインのモニターに出してくれ」
ワタリ『分かりました』
(次の瞬間、捜査本部内の一番大きなモニター画面に、メールの文章らしき文字列が映し出された)
L・月・総一郎「!」
L「……これは……」
--------------------------------------------------
From:星井美希
To:天海春香
件名:ミキなの。
春香、おつかれさまなの!
ミキね、今お仕事終わったところなんだけど、
ちょっと小腹が空いたから神田にあるおむすび屋さんに行ってみるの!
前に春香とも話してた、十穀米が美味しそうなとこね。
そういうわけで、もしよかったら春香も一緒にどう?
来れそうなら連絡ちょーだい、なの!
あはっ☆
みき
--------------------------------------------------
L「…………」
総一郎「神田の、おむすび屋……」
月「一応、調べてみたが……確かに一軒、該当するな。『十穀米を使用』という部分も合っている」
L「……では、少なくともこの文章で意図されているのはその店で間違い無いでしょうね」
総一郎「とすると、この一見普通に見えるメールが……」
L「まあ……可能性はありますね。メールの場合、今まさに私達がしているように、警察がその気になればいくらでも内容を調べられる……だからメールの文中にはあえて核心となる内容は書かず、単に天海春香を誘い出すだけの文面とした……」
月「だが文面をカムフラージュしたところで、こうやって会う場所を直接的に書いてしまったら意味が無いような気もするが……」
L「……そうですね。ただ、まだ二人の直接的な足取りが掴めていない以上……たとえ無駄であっても、この店の近辺も監視対象に加えざるを得ませんね」
総一郎「うむ……そうだな」
L「ワタリ。この店の近くに防犯カメラはあるか?」
ワタリ『店から少し離れた場所には……しかし、これだけでは十分な監視は難しいかと……』
L「……そうか」
総一郎「竜崎」
L「? はい」
総一郎「私が現場に行こう」
L「!」
月「駄目だ父さん。危険過ぎる」
総一郎「ライト」
月「星井美希達だけならまだしも、姿の見えない死神までいるかもしれないという状況……何が起こるか分からない」
総一郎「確かに、死神に動かれたらどうしようもないかもしれんが……しかしそれを恐れていては、二人を逮捕することなど永久にできんだろう」
月「! それは……」
L「…………」
総一郎「何、無茶はせん。もし二人を発見しても、その場での直接的な接触はしない。あくまでも監視を行うだけだ」
総一郎「それに張り込みは刑事の基本でもある。これまでの長い刑事人生……このような局面は何度もあった」
月「それなら……僕も一緒に行かせてくれ。父さん」
総一郎「! ライト」
月「僕はずっと父さんに憧れていた。父さんのような刑事になりたいとずっと思っていた。……勿論、今も」
総一郎「…………」
月「だから頼む。父さん。僕も一緒に……」
総一郎「……ライト。お前が初めてこの捜査本部に来た日に、私が言ったことを覚えているか?」
月「! それは……」
総一郎「私はお前にこう言った。……『お前が少しでも危険な目に遭いそうになったら私は止める。そしてその際には必ず私の指示に従え』……と」
月「…………」
総一郎「もっとも、事実としては、お前にはもう既に多くの危険な捜査を担当させてしまっている。元々家庭教師として接点を持っていた天海春香のみならず、キラ信者である弥に対する接触……」
月「…………」
総一郎「さらにお前に『キラ』の役を演じさせての、弥と高田に対する協力の依頼も……」
月「いや、でもそれらは僕や竜崎が……」
総一郎「ああ。確かにいずれの場合も、私はお前や竜崎の熱意と説得に負け……お前がこういった危険な捜査にあたることを追認してきた。そういう意味では今更なのかもしれない。だが今、この瞬間においては……最初の約束通り、私の指示に従ってもらう」
総一郎「ライト。お前はここに残れ。いいな」
月「…………」
月「父さんの理屈は分かる。でも……」
総一郎「忘れるな。ライト。どんなに推理力や考察力が長けていても、お前はまだ一介の学生に過ぎん」
月「…………」
総一郎「心配せずとも、お前はこれから勉強して警察庁に入るんだ。そうすれば、私と共に現場に張り込む機会などいくらでもあるだろう」
総一郎「だから……今日のこの場は私に任せろ」
月「……分かったよ。父さん。僕が現場に行くのは諦める」
総一郎「! ライト」
月「だが……」
総一郎「? 何だ?」
月「さっき、父さん自身も言っていた事だが……星井美希達はともかく、死神は父さんにとっても未知の相手……銃が効くとも思えない。結局、父さんが危険な事に変わりは無いだろう?」
総一郎「……それは否定せん。私とて、姿を見ることができない相手をどうこうできるなどとは思っていない」
月「だったら……」
総一郎「それでも、だ。ライト」
月「…………」
総一郎「それでも私は行かなければならない。一人の警察官として。そして……星井君の上司としてだ」
月「!」
L「……夜神さん。責任を感じておられるのですか。星井さんの件……」
総一郎「……竜崎。彼は私の部下であり、今回の件は私の管理下で起こった出来事だ」
総一郎「もし私が彼の行動に気付き、止めることが出来ていれば……相沢と松田が現場を離れてしまうことも無く、あるいは星井美希と天海春香の行方を見失うという事態にはならなかったかもしれない」
L「…………」
総一郎「だとすれば、上司である私がその責任を取るのは当然の事だ」
L「夜神さん」
月「父さん……」
総一郎「それにいずれにせよ、既存の防犯カメラだけでは十分な監視は難しいという事だ。ならばどのみち、誰かが現場に赴いて直接監視を行う必要がある」
L「……そうですね。そしてそれなら確かに……刑事として長年の経験を積んでこられた夜神さんがこの中では最も適任でしょうね」
月「! 竜崎」
総一郎「そういうことだ。ライト」
月「…………」
総一郎「お前はここに残って、竜崎と共にカメラと星井君達の監視を続けてくれ」
月「……分かったよ。でも、父さん」
総一郎「? 何だ?」
月「たとえ何が起ころうとも、絶対に生きてまたここに帰って来ると……それだけは約束してくれ」
総一郎「! ……ああ。勿論だ。ライト」
L「…………」
L(これもまた親子愛……か)
総一郎「……ところで、竜崎。私も、相沢達のようにマスクとサングラスを着けていった方が良いだろうか?」
L「そうですね……微妙な所ですが……私も月くんも、そして夜神さんも……もう既に『捜査本部にいる人間』として顔も名前も知られている可能性が高いわけですから……万が一、監視に気付かれた場合にはどのみち皆殺しにされるものと思われます」
L「それならばまだ、変に小細工せずに周囲の人通りの中に紛れてしまった方がばれにくくなるとも思います」
総一郎「確かに……どのみちばれたら終わりなら、まだそちらの方がましか」
L「それにノートではなく、死神が何か特別な力を使って人を殺すのだとすると……そもそもマスクやサングラスなど何の意味も無いかもしれませんしね」
総一郎「確かにそうだな。分かった。ではこのままの状態で行こう」
L「では夜神さん。よろしくお願いします。もし二人を発見した場合は、十分な距離を確保してから連絡して下さい」
総一郎「ああ。分かった」
L「またこちらからも、状況に変化があった場合はすぐに連絡します」
総一郎「ああ。頼む。……では、行って来る」
月「……父さん」
総一郎「? どうした? ライト」
月「くれぐれも忘れないでくれ。……さっきの約束」
総一郎「ああ。分かっている」
L「…………」
【三十分後・都内某所】
(一歩一歩、踏みしめるように歩いている春香)
春香「…………」
(その視界の前方に、一つの影が映る)
春香「!」
(春香はその影に向かって、さらに歩を進めていく)
(やがて影の正面に立つと、静かに声を掛けた)
春香「美希」
美希「……春香」
【二時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(相沢と松田は、一時間ほど前に捜査本部に戻って来ている)
(Lと月からこの日の一連の経緯を聞いた二人は、神妙な表情を浮かべたまま押し黙っている)
相沢「…………」
松田「…………」
L「お二人とも、そんなに落ち込まないで下さい」
相沢「あ、ああ……すまん」
松田「…………」
月「松田さんも」
松田「……ごめん。月くん。まだ、ちょっと頭が整理できてなくて……」
L「まあ……無理も無いですね。今暫くはゆっくり休んでいてください。いずれにせよ、今日はお二人とも尾行捜査でお疲れでしょうし」
相沢「その尾行捜査の結果が、このざまだけどな」
月「相沢さん」
相沢「……『星井美希達が監視の目をかいくぐって予測不能な行動に出てしまうという可能性もゼロではない』『だから、もし万が一そんな事態が生じたとしても、最後まで集中を切らすことなく尾行対象者の動向を注視してほしい』……昨日、竜崎にここまではっきりと釘を刺されていたってのに、俺は……」
松田「それは僕も同じですよ。相沢さん。係長から電話があった時、正直……少し頭をよぎったんです。『何で係長が?』って。『念の為、竜崎か局長に確認した方がいいんじゃないか?』って」
松田「でも、僕はそれをしませんでした。……勿論、竜崎も局長も月くんもいるこの捜査本部で、係長がそんな行動を取るなんて思いもしなかった、っていうのもありますけど……何よりも」
松田「……疑いたくなかったから。係長の事」
月「松田さん」
L「…………」
松田「なんて……刑事失格ですよね。こんな大事な局面で、碌に確認もしないままに自分の感情優先で判断してしまって……」
相沢「松田。それを言うなら俺だって同じだ。いやむしろ、お前より場数を踏んでいる分、責任度合いは俺の方が……」
L「あの」
相沢・松田「!」
L「もうそういうのはキラ事件が解決してからにしませんか」
相沢「竜崎……」
松田「…………」
L「繰り返しになりますが、今日の星井さんの行動は誰にも読めなかった」
L「そして同じ部屋に居ながら、私も月くんも夜神さんも、星井さんが部屋を出て行った事には全く気が付かなかった。それは更衣室のカメラが次々と破壊されていくという、想定外の事態が生じたが故ですが……それでも、我々が彼の行動を見過ごしてしまったということに変わりはありません」
L「その結果として、今のこの状況に至っているわけですから……責任や過失という意味では我々全員にそれがあるでしょうし、今ここでその大小を言い合っても無意味です」
L「今、我々がすべきことは、ただ一つ―――星井美希と天海春香を捕まえること。ただそれだけです」
相沢「……ああ。そうだな」
松田「まだ、キラ事件は終わってないですもんね」
月「そうですよ。相沢さん。松田さん。今はとにかく、キラを捕まえましょう」
相沢「月くん」
松田「……ありがとう。月くん」
L「! ……夜神さんから連絡です」ピッ
L「竜崎です」
総一郎『朝日だ。もう神田に来て二時間ほどになるが……相変わらず二人の姿は見当たらない』
L「はい。こちらでも件の店の周辺に設置されている防犯カメラの映像をリアルタイムで確認していますが、二人の姿は映っていません」
総一郎『そうか……他の場所も同様か?』
L「はい。星井美希がいた渋谷も、天海春香の位置情報が最後に確認できた場所の周辺も、監視を継続していますが……依然としてそれらしき人物は発見できていません」
総一郎『そうか……しかし、星井美希が天海春香にメールを送ったのが16時35分頃だったから……そこからもう三時間近くも経っているということは……』
L「……はい。二人がどこかで落ち合えたのかどうかまでは分かりませんが……おそらくもう、我々が監視している範囲には現れないとみた方がいいでしょうね」
総一郎『うむ……』
ワタリ『竜崎』
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『たった今、星井美希の携帯の位置情報が復活しました』
L「!」
月「電源を入れたのか」
L「ワタリ。星井美希の現在地は?」
ワタリ『どうやら自宅のようです』
L「! ……天海春香の方はどうなってる?」
ワタリ『天海春香の位置情報はまだ復活していません』
L「…………」
相沢「つまり……星井美希はもう自宅に戻っているが、天海春香はまだ戻っていない……ということか?」
月「そうですね。ただ、天海春香の家の遠さを考えても……『三時間』は掛かり過ぎだな。竜崎」
L「はい。『都内で星井美希のメールを受信した後、真っ直ぐ家に帰ったとすれば』……の話ですが」
松田「? どういうことっすか?」
L「つまり――『天海春香が家に帰る前に、どこかで星井美希と落ち合っていた』……とすれば」
松田「あっ」
月「二人が落ち合い、別れた後……都内在住の星井美希が帰宅している一方で、天海春香がまだ自宅に帰り着いていないとしても……何ら不自然ではない」
相沢「……なるほど。そういうことか」
総一郎『竜崎? どうした? 何か動きがあったのか?』
L「朝日さん。もう件の店の監視は止めて、捜査本部に戻って来て頂けますか」
総一郎『何?』
L「詳しくは後でお話しします。なお、相原さんと松井さんも一時間ほど前にこちらに戻られています」
総一郎『! ……分かった。ではすぐに戻る。また後で』
L「はい。よろしくお願いします」ピッ
L「…………」
(三十分後・総一郎が戻り、捜査本部には星井父と模木を除く捜査員全員が揃った)
総一郎「そうか……どこか別の場所で、二人が……」
L「はい。勿論、直接確認できたわけではないので、あくまで推測でしかありませんが……現実問題として、星井美希は『神田の店に行く』というメールを天海春香に送っていたにもかかわらず、その場所には姿を現さなかった」
L「また一方、天海春香も星井美希のメールには返信をしておらず、互いにすぐに携帯の電源を切っていることから電話での連絡もしていない」
L「よって、あのメールの文章には二人の間でしか通じない暗号のようなものが仕込まれており―――天海春香はそれを見るや、すぐに予め二人で決めていた特定の場所へと向かい、そこで星井美希と落ち合った……」
L「私はこの可能性が最も高いと考えています」
相沢「……だが、あの文章のどこにそんな暗号めいた要素があったんだ? 二人の関係からして、普段からメールでの連絡くらいは頻繁に行っていたはず……あんな当たり障りのない文章を他の無関係なメールとどう区別したんだ?」
L「それは分かりませんが……まあ要は二人の間でそれと分かればいいわけですから、予め、あの文章全体を一つの暗号文として決めていたのかもしれません。あの文章と一言一句違わぬメールを送信する……それを条件としておけば、他のメールとの区別も容易です」
相沢「ああ、なるほどな」
総一郎「確かに……前もってそこまで決めておけば確実だな」
L「はい。そして一方が他方にそのメールを送った時は、互いにすぐに携帯の電源を切り、予め決めていた特定の場所へと移動する……今日のような不測の事態が生じた場合に備え、前もってそういう取り決めをしていたものと考えられます」
月「だとすると、僕達はまんまと一杯食わされたってわけか」
L「……そうですね。誠に残念ながら、ですが」
松田「いや、でも待って下さいよ。じゃあもう……竜崎も月くんも、ほぼ間違い無く殺されるって事なんじゃ……?」
L・月「…………」
相沢「おい。松田」
松田「いや、だってさっき聞いた話からすると……ミサミサからミキミキに伝わっちゃってる可能性高いんですよね? 二人の事……」
松田「その状態でミキミキとはるるんがどこかで落ち合ったってなると、もう……」
L「……そうですね。なので今現在、まだ私達が生きているのは……二人が落ち合い、相談した結果……①すぐに殺すと足がつくと判断したため、まだ殺していない②殺しの行為自体はすでに終えているが、死の時間を操っているためにまだ死んでいない……のいずれかではないかと思われます」
相沢「? ①は分かるが……②はどういう意味だ? 『死の時間』とは?」
L「……実は、私はキラ事件の初期の頃から、『キラは殺す相手の死の時間を操れるのではないか』と考えていたんです」
相沢「殺す相手の死の時間を……だと?」
L「はい。キラは、顔と名前が分かる者ならいつでも自由に殺すことができる……つまり、人の死そのものを自由に操ることができる。ならば、その死の時間をも操ることができるとしても、そこまで不思議ではないのではないか……と」
相沢「なるほど……まあありえない発想ではないな」
総一郎「…………。(確かに、私と竜崎で星井美希の自宅での様子を監視カメラで観察していたときにそんな事を言っていたな……)」
L「そして今日、星井美希が所持していた『黒いノート』の現物……もっとも、映像越しではありますが……それを観たことで、その考えはより強固なものとなりました」
相沢「? どういうことだ?」
月「……あの『HOW TO USE IT』の記載か」
L「はい」
松田「? どういうこと? 月くん」
月「あの『HOW TO USE IT』の中にはこんな記載がありました。……『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』……つまりこの『詳しい死の状況』の中に『死の時間』も含まれるとするなら……竜崎の推理が裏付けられる」
総一郎「なるほど。つまりノートに『何時何分何秒に死ぬ』などと書けばその通りになる……ということか」
L「はい。ただ仮にそうだとしても、操れる時間の幅がどれくらいなのかは分かりません。せいぜい数時間の範囲なのか、または一年後でも二年後でもいいのか。あるいはそもそもそういった時間的範囲の制約すら無いのか……」
L「しかしいずれにせよ、『死の時間の操作』が可能であるのなら、先にノートに名前を書いておき、死ぬ時間は可能な限り後に設定しておく……そうすることで、可及的に自分達に疑いが掛からないようにする。……これくらいの事は思いついてもおかしくはないでしょうね」
松田「じゃ、じゃあ……もう竜崎や月くんの名前がノートに書かれているという可能性も……」
月「それは十分あるでしょうね」
総一郎「とすればおそらく、顔を知られている私と……模木もか。星井君はどうか分からんが……」
相沢「で、俺と松田は尾行の時のマスクとサングラスが有効なら……セーフかもしれないってことか」
L「そうですね。おそらくですが……お二人は大丈夫だと思います」
松田「…………」
松田「でもそう言われると……やっぱり複雑な気持ちですね。だって今のこの状況になった最大の原因は、やっぱり……」
相沢「…………」
総一郎「松田」
松田「あっ。すみません。相沢さんの事を言うつもりじゃ……ただ僕は、自分が……」
相沢「いや、いいさ。……分かってる」
松田「……すみません」
L「あえて、身も蓋もない言い方をしますが」
松田「え?」
相沢「竜崎?」
L「今の状況で、私達が負けることは無いです」
一同「!」
月「…………」
L「何をもって『勝ち』とするかによって、多少は意味合いが変わってくるかもしれませんが……たとえば、『私達のうちの誰かが生き残り、キラを捕まえて事件を終結させる』ことを『勝ち』と定義するなら」
L「私達は100%勝てます」
総一郎「……な、なぜそこまで言い切れるんだ? 竜崎。いくら相沢と松田が尾行時に顔を隠していたといっても、それが絶対の保証とまでは……」
L「ワタリの存在を忘れていませんか? 夜神さん」
総一郎「! ワタリ……そうか」
L「はい。確かに夜神さんの仰るように、相沢さんと松田さんの防御も絶対とまでは言い切れません」
L「つまりそれは、監禁中の星井さんと模木さんも含め、今ここに居る我々全員が殺される可能性があるという事ですが……」
L「ワタリだけは別です」
L「ワタリだけはこれまで一度も、キラ容疑者……もっとも、もう『容疑者』は取ってもいいように思いますが……である星井美希と天海春香のいずれとも、直接的な接触はおろか、同一地点に存在したことすらありません」
L「このような状況で、星井美希または天海春香が、その存在すら認識していないワタリの顔や名前を把握できているとはとても思えません」
L「よって最悪、今ここに居る我々が全滅したしても、ワタリだけは必ず生き残りますから……私達が勝つのはもう確定というわけです」
総一郎「確かに……」
松田「そう言われれば……そうっすね」
相沢「まあワタリ一人に全部背負わせるのは酷な気もするが……現実にそういう状況になったら仕方ないだろうな」
L「その点も大丈夫です。相沢さん」
相沢「え?」
L「詳しくは話せませんが……実は、私の後継者となりうる者達も育ってきていますので」
総一郎「! 竜崎の後継者……そんな者達がいたのか」
L「はい。まだ幼さの残る者達ですが、その才能は紛れもなく本物……必ずやワタリの力になってくれるでしょう」
月「…………」
月「……なるほど。言い方は悪いが、要は竜崎のバックアップ要員ってことか」
L「はい。簡単に言えばそういうことです」
松田「確かにそこまで整っているなら……勝つ分には勝てそうですね」
相沢「まあ俺達が全滅した場合も『勝ち』と言えるかは若干微妙だけどな……」
松田「そこは……でも今、竜崎も言ってたじゃないっすか。僕達の中の誰かが生き残り、キラを捕まえれば勝ちだって」
相沢「まあな。それにこれまで、俺達も命を懸ける覚悟でキラを追ってきたわけだしな」
L「そうです。前にも同じ事を言いましたが、これはキラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先かの戦い……」
L「ゆえに、たとえ一人でも生き残り、キラを死刑台に送ることができれば……それで我々の勝ちです」
総一郎「…………」
L「ですが勿論、それは『最悪そうなったとしても勝てる』というだけの話であって、やすやすと命を捨てるような行動を取るべきではありません」
L「だから考える必要があります。あくまでも犠牲ありきではなく……誰も命を落とすことなく、キラを捕まえられる方法を」
相沢「ああ」
松田「そうっすね」
総一郎「……だが、竜崎。死神はどう考える? もし仮に、死神が二人の障害となるような者を特殊な能力を使って殺すのだとすれば……ワタリにせよその竜崎の後継者にせよ、絶対に殺されないとは言い切れないのでは?」
総一郎「誰がそれをするにしても、二人を逮捕するためには物理的な接触が必要不可欠……だがもし、その瞬間に死神が動くのだとすれば……」
L「確かに、その『仮に』が成り立てばそうですが……私はその『仮に』は成り立たないと考えています」
総一郎「何故そう言えるんだ?」
L「……考えてみて下さい。もし死神が星井美希・天海春香の意のままに、二人にとって都合の悪い人間を殺してくれるのであれば、今日の件にしても、監視カメラだけを破壊するなんて中途半端な事はせずに、弥も高田も我々も軒並み殺してしまえばよかったはずです」
L「姿が見えない死神が人を殺したところで何の証拠も残らず足もつかない……であれば、そうするのが最も直截かつ簡便な手段だからです」
総一郎「確かに……」
L「しかし、実際には二人はそれをしなかった。……いや、できなかった。それは単純に、死神はそういう手伝いはしないからだと考えられます。その理由は――……」
月「……『死神は自分の楽しみのためにノートを人間に使わせていると考えられるから』……だろうな」
L「はい」
松田「? ど、どういうことですか?」
月「簡単な事だよ。松田さん。ノートのルールが英語で書かれていたことから、死神が人間にノートを使わせる目的……より具体的に言えば、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という、いかにも死神的……いや、この場合においては『悪魔的』と言ったほうが適切かもしれないが……そんな下卑た目的を持っていたであろうことが推察される」
月「それに加えて、『死神の姿を目撃したはずのミサは手にかけずに、監視カメラだけをピンポイントで破壊する』という行動からも……『死神はカメラを壊すなどの間接的な手伝いはするが、直接的にノートの持ち主の障害となるような人間を殺すなどの手伝いはしない』『それは他でもない、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という目的に自ら直接介入する事を避けるためである』……ということが容易に推測できる」
松田「いや容易にできないって……少なくとも僕には……」
相沢「じゃあ今の推理を前提にするなら……二人を逮捕する際、我々が死神に殺されるという可能性までは考慮しなくていい、ということか?」
L「はい。もっとも、完全に無視できるレベルとまでは断言できませんが……一応はそのように考えていいのではないかと思います」
松田「あ、でも……死神としては、あくまでも自分が楽しむためにノートを人間に使わせているわけですから……僕達がミキミキとはるるんを捕まえちゃったら、『もうこれ以上は楽しめない』って判断して、ミキミキもはるるんも僕達も、皆まとめて殺されちゃったりしませんかね?」
相沢「……あー……」
総一郎「それは……確かにそうかもしれんな」
月(……その可能性の話をしてしまうと、父さんがキラ逮捕の際に犠牲者が出ることを懸念し、二人を逮捕する行為そのものに消極姿勢になってしまうと考え……あえて僕も竜崎も言わなかったのに……なんで、松田さんはこういう時に限って妙に勘が働くんだ)
L(松田の馬鹿……)
総一郎「……しかし」
L・月「!」
総一郎「そこで思考を停止してしまっては、永久にキラを逮捕することなどできまい。……現に今日、私が神田に向かい、張り込みを行ったのもまさにその思いからだった」
総一郎「もっとも、結果的にそれは空振りに終わってしまったが……」
L「夜神さん」
月「…………」
総一郎「確かに危険はゼロではない。しかし誰かがやらねばならない……皆、そう思って今日まで戦ってきたはずだ」
総一郎「だから皆で考えよう。たとえ危険を完全にゼロにはできなくとも、可能な限りゼロに近付けることのできる方法を」
総一郎「そしてそれこそが……今竜崎が言っていた、『犠牲ありきではなく、誰も命を落とすことなくキラを捕まえられる方法』に他ならないはずだ」
総一郎「そうだろう? 竜崎」
L「……はい。その通りです。夜神さん」
相沢「そうですね。局長」
松田「僕達ならやれますよ。なんだかんだで、ここまで誰一人死なずにやってこれたんですから」
L「…………」
L(どうやら夜神局長は私が思っていたよりも、ずっと……)
L(本当の意味で、正義の人だったようだ)
月(立派だよ。父さん。それでこそ――……)
月(僕の目指すべき警察官であり、誇れる父……夜神総一郎だ)
相沢「しかし実際、どうすればいいんでしょうね? ……正直、姿の見えない相手なんか対処のしようが無い気が……」
総一郎「まあな。だが何か手はあるはずだ」
L「…………」
松田「竜崎も、まだそのあたりの対策は思いついていない感じですか?」
L「そうですね。正直、死神の方はまだ何も対策を思いついていません」
松田「死神の方は……ってことは、ミキミキとはるるんの方はもう考えついてるんですか?」
L「それはまあ、はい。まだ大まかな構想程度ですが」
松田「おお! 流石は竜崎」
相沢「そうなのか。では一旦はその竜崎の構想を聞かせてもらってから、死神の対策はそれをベースに皆で考えていけばいいんじゃないか?」
総一郎「そうだな。現状の構想で良いので、聞かせてもらえるか? 竜崎」
L「分かりました」
月「…………」
月(もし僕が竜崎なら……攻めの手は一つしかない)
L「結論から申し上げますと、私の構想は……『アリーナライブの終了直後に星井美希と天海春香を逮捕する』です」
一同「!」
月(やはり……竜崎は僕と同じ発想、同じ思考をしている)
L「……その顔」
月「!」
L「やはり月くんも私と同じ考えでしたか」
月「……まあね」
L「では、この先の説明はお譲りしましょうか?」
月「いや、いいよ。この本部の指揮を執っているのは竜崎なんだ。そのまま続けてくれ」
L「分かりました。では……」
一同「…………」
L「まず大前提として、我々、キラ対策捜査本部は一週間後のアリーナライブの日まで――正確には『アリーナライブが終わるまで』ですが――大きな動きはしない。……勿論、気付かれないように水面下での準備は進めますが」
相沢「いや、しかし……今の状況で星井美希・天海春香を一週間も野放しにするのは危険ではないか? せめてもう少し早い段階で彼女らの逮捕に動いた方が……」
L「……危険という意味ならもう既に危険ですし、安全という意味ならこのまま何もしない方が安全です」
相沢「? どういうことだ?」
L「先程も言いましたが、私と月くん、夜神さん、模木さん……そして星井さんは、もう既にノートに名前を書かれている可能性があります」
L「また今はまだ書かれていなくとも……今日、星井美希と天海春香がどこかで出会い、連携を取ったと考えられる以上……これから先、我々が少しでも不審な動きをしていると勘付かれたら最後、即座に名前を書かれてしまう……もうそれくらいに考えた方が良いでしょう」
L「よって、もう既に名前を書かれてしまっている場合なら、今焦って逮捕を急いだところで意味はありませんし……まだ書かれていない場合でも、こちらが無理に動くことでかえって書かれる危険が増すだけと考えられます」
相沢「しかし、このまま二人でどこかへ逃げてしまうという可能性もある……いくら大きなライブが直近に控えているといっても、キラとして捕まれば死刑……普通に考えて命の方が大事だろう」
L「……確かに、普通はそうでしょうね。しかしそういう意味で、彼女達は普通ではありません。たとえ捕まるリスクがあってもライブは必ず行う」
相沢「? 何故、そこまで言い切れるんだ?」
L「簡単な事です。あの二人……とりわけ天海春香にとっては、アリーナライブがそれだけ大事な事だからです」
一同「! …………」
L「これまでの天海春香の行動原理から考えるに、おそらく彼女にとって、765プロダクションは自分の命よりも大切な存在……」
L「そんな彼女にしてみれば、逮捕されるリスクを恐れて、アリーナライブの出場を放棄して逃走する選択肢など……最初から無いと言っていいでしょう」
総一郎「だが、天海春香はそうだとしても……星井美希の方はどうだ? 彼女には天海春香ほどの765プロに対する執着心は無いのでは?」
L「はい。それは私もそう思います。ですが、765プロダクション所属のアイドル同士の間には極めて強固な絆が存在している……それも事実」
L「その765プロダクション所属のアイドル同士である星井美希と天海春香が今、この状況でコンタクトを取り、今日起こった出来事を共有したとすれば……」
L「私は今、二人がこう考えている可能性が最も高いと考えます」
L「『それでも今は、一週間後のアリーナライブを優先しよう』……と」
一同「…………」
L「言うまでもなく、天海春香はそう考えるでしょうし……星井美希もまた、765プロダクションの仲間である天海春香との絆を重んじ、それに同調する可能性が高い……そう思います」
松田「で、でも……竜崎の言う通りに、ミキミキとはるるんがアリーナライブを優先させるのだとしても……別に僕達がそれに合わせる必要は無くないですか? 何故わざわざ、ライブが終わるまで待つ必要が……?」
L「今日の出来事が共有されているとすれば……二人はまず間違い無く、自分達がいつ逮捕されるか分からない状況にある、ということを認識しています」
L「とすれば当然、『アリーナライブの前に捕まることだけは絶対に避けたい』と考え、警戒しているはず……」
総一郎「……なるほど。つまり今は、二人の警戒心が最も強まっている時……ゆえにこのタイミングで仕掛けるのは危険、ということか」
L「はい。ですが逆に言えば、『ライブの前に捕まることなく、ライブを無事に終えられれば』……二人は必ず安堵する。すなわち、隙ができる」
L「そこを叩きます」
一同「! …………」
月「…………」
総一郎「つまり我々はライブが終わるまでは待ち……ライブが終わると同時に一気に踏み込み、二人の気が緩んでいるところを逮捕する……ということか?」
L「はい。それが最も成功確率が高い方法だと思います」
松田「じゃあ当日は僕ら皆、ライブ会場……つまりアリーナに潜入しておくってことですか?」
L「そうですね。皆さんにはそうしてもらうことになると思います」
相沢「? 皆さんには、とは? 竜崎は行かないのか?」
L「いえ、勿論私も行きます。ただ元々、私と月くんはライブに観客として招待されている立場ですので……他の皆さんとは異なり、正面から堂々と足を運ぶ形になるということです」
一同「!」
月「…………」
総一郎「ば……馬鹿な。この状況でそんな真似……殺してくれと言っているようなものじゃないか」
L「…………」
月「それは逆だよ。父さん」
総一郎「ライト?」
月「そもそも、星井美希が僕と竜崎をライブに呼んだのはライブの妨害をさせないためだ。彼女は天海春香とは違って、かなり早い段階から僕と竜崎の事を疑っていたはずだからね」
松田「ええと、確か……最前に近い席に来させて、竜崎と月くんがライブ中に変な行動に出ないかを監視しようとしたのだろう……ってことでしたよね?」
月「そうです。なのに当日、僕と竜崎がその席に居なかったら……まさに僕達が『変な行動』に出ていないか――即ち、『見えないところで何か企てているのではないか』――と疑われ、直ちに殺される可能性がある。……つまり結果的に、かえって危険度が高くなってしまうということです」
相沢「なるほど。だがそうせず、ちゃんと指定されたとおりの席に竜崎と月くんが姿を見せていれば……」
L「はい。勿論、今日の件でもう私達の正体にはほぼ気付かれているでしょうから、それをもって警戒を完全に解く、ということは無いでしょうが……少なくとも、『こうして普通に会場に来ている以上、今日のうちにどうこうするつもりはないのだろう』という程度には考えても……いえ、油断してもおかしくはありません」
総一郎「そのように油断を誘っておいて、その裏をかく、か……」
L「はい。攻撃こそ最大の防御です」
月「……ということだ。父さん。了承してくれないか?」
総一郎「……確かに、言われてみればその通りかもしれんな」
月「! 父さん」
総一郎「分かった。もうここまで来た以上は何も言うまい。実際、こうしてキラを逮捕直前まで追い詰めることができているのも、竜崎とライトの力があったからこそ……」
総一郎「ならば信じて賭けてみよう。二人の考えに」
月「ありがとう。父さん」
L「夜神さん。ありがとうございます」
月「それにステージの近くから星井美希・天海春香の姿を観れるということは、こちらから彼女らを間近で監視できるということでもあるしね」
相沢「向こうが監視するつもりで呼んだのを逆手に取り、逆にこっちが監視するってことか」
月「はい。まあそうは言っても流石にライブ中に何かするとは思えないですけどね」
相沢「まあな」
L「あとそれと……他の765プロダクション関係者に騒がれると色々と面倒ですので……二人を逮捕するにしても、一旦は全員まとめて監視下に置いてからとすべきでしょうね」
L「プロデューサーからの情報によると、幸いにもライブ当日には765プロダクションの関係者全員が会場に集合するとの事ですので……おそらくライブの終了後には全員で集まる場があるものと思われますし、無ければプロデューサーに指示してそういう場を作らせればいい」
L「後は我々が765プロダクションの関係者全員が集まっている場に急行し、星井美希と天海春香の身柄を確保……同時に、残りの関係者一同についても一定の時間――少なくとも、星井美希と天海春香の二人を外部からの連絡を完全に遮断できる状況下に置くまでは――引き続き監視下に置く」
L「以上が、二人を逮捕するための大まかな構想ですが……最初に断ったように、死神の対策についてはまだ何も思いついていません」
L「アリーナライブ当日まではまだ後一週間ありますので、それまでになんとか良い方法を考えましょう」
総一郎「うむ……そうだな」
L「それから、明日以降は星井美希・天海春香に対する尾行も止めにします。『黒いノート』の存在と内容を確認できた今、もはやカモフラージュとしての意味も無いですし……もうここまできたら怪しまれるかどうかではなく殺されるかどうかの問題ですので……あえてリスクを冒す必要も無いでしょう」
相沢「ということは……これでようやく、マスクとサングラスのセットからもお別れってことか」
L「はい。実に二か月半にも及ぶ尾行捜査……本当にお疲れ様でした。相沢さん。松田さん」
松田「長かったっすね……って、まだライブ当日の潜入が残ってますよね?」
相沢「ああ、そうか。じゃあその時はまたマスクとサングラスを……」
L「いえ。確かにお二人にも会場に潜入して頂きますが……流石にライブ会場でマスクとサングラスでは周囲から浮き過ぎてしまいますし、もし星井美希達に気付かれたら最後、それだけで『“L”が何かしようとしている』とばれてしまい、作戦が台無しになってしまいます」
松田「あー……それもそうっすね」
相沢「じゃあ俺達は素顔のままで潜入か」
L「はい。お二人の顔は知られていないはずですので、一旦はそれで大丈夫だと思います」
総一郎「では、竜崎。私はどうすればいいだろうか? 私の顔は既に二人に知られているが……」
L「そうですね。夜神さんの存在に気付かれると、イコール警察が張っていると即気付かれてしまいますので……申し訳無いですが、当日、夜神さんはここに残って留守番をお願いします」
総一郎「うむ……仕方ないな。分かった」
L「それにどのみち、この本部には誰か一人は残っておいてもらわないといけませんしね」
総一郎「……監禁している星井君と模木の監視……か」
L「はい」
総一郎「……分かった。ライブ当日は私が責任をもって二人を監視しよう」
L「よろしくお願いします。夜神さん。ただ、ワタリにも別の場所から同時に監視させるようにしますので、その点はご了承下さい」
総一郎「ああ。二人の上司である私が一人で見張るわけにはいかんからな」
L「はい。すみません」
一同「…………」
相沢「……ところで、竜崎。俺と松田は普通に観客として会場に潜入するってことでいいのか?」
L「はい。それでお願いします」
松田「でも僕達、ライブのチケット持ってないっすけど……」
L「チケットはプロデューサーに頼めばなんとかなるでしょう」
月「では、とりあえずはプロデューサーに連絡だな」
L「はい。彼には他の連絡事項もありますので、今から連絡してみます」
ワタリ『竜崎』
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『プロデューサーから連絡です』
L「! ちょうどよかった。つないでくれ」
ワタリ『はい』
L「Lです」
P『ああ。俺だ』
L「どうされました?」
P『実は、ついさっき……19時45分頃か。美希から電話で連絡があった』
L「! それは……何と?」
P『『今日は急に現場から帰ってしまってごめんなさい』という謝罪と、『でももうほとんど回復したので明日のレッスンは普通に行けると思う』という連絡だった』
L「……明日のレッスンも午前中からあるんですか?」
P『ああ。といっても、午前中だけだけどな。今の時期に根を詰め過ぎても良くないから』
L「そうですか」
P『ところで……L』
L「? はい。何でしょう」
P『まだはっきり聞けていなかったんだが……結局何だったんだ? 例の『黒いノート』とやらは』
L「…………」
P『夕方に電話した時には『まだよく分からない』と言っていたが……今でもそうなのか?』
P『少なくとも、何か書いてあるのか、いないのか……書いてあるとしたらそれはどういう内容なのか、くらいの事はすぐに分かると思うんだが……』
L「……ええ。それは勿論、最初にノートを映像で確認した時に分かっています。結論から言うと、『何か』は書かれていました」
P『? どういう意味だ?』
L「書かれてはいたんですが、それが何の言語なのかが分からず、検証に時間を要していました」
P『マイナーな言語だったってことか?』
L「マイナーどころか、どうやら現在、地球上に存在している言語ではないようです」
P『地球上の言語ではない……? じゃあ何か、宇宙人か何かの言語だとでも?』
L「あるいはそうであるのかもしれません。とにかく現在、私にはその言語が解読できていない。ゆえに書かれてある内容が分からないのです」
P『……ちなみに、書いてあるのはノートの中のページか? または表紙や裏表紙?』
L「書かれているのは表紙とその裏ですね。表紙には何かのタイトルのような文字……そしてその裏には何行かの文章が書かれています。その他、裏表紙および中のページには何も書かれていません」
P『……そうか』
L「ですので現状、このノートが何なのかは正直言って分かっていません。私が推理した通り、『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』なのか……それとも何の効力も宿っていない、ただのノートなのか」
P『…………』
L「とにかく、現状ではノートの実物を検証しない限り判断しようがない……もしノートのどこかにキラが裁いた犯罪者の名前でも書いてあればまた違ったのでしょうが、それもありませんでしたので」
P『……ではまだ、美希がキラであるという確証には至っていないんだな?』
L「そうですね。ただこれまでの状況証拠はありますし、実際にこんな怪しげなノートを所持していたという事実もあったわけですから、まだキラ容疑者の最有力候補であることに変わりはありません」
L「そして言うまでもなく、これは天海春香についても同様です。彼女の方のノートはまだ確認できていませんが、状況証拠があるのは星井美希と同じですので」
P『……分かった。では、この後はどうするつもりなんだ?』
L「はい。とりあえずは『黒いノート』の映像と写真を証拠として収めましたので……次はこのノートの所持者である星井美希、およびその共犯の嫌疑が掛かっている天海春香への尋問が必要だと考えています」
P『!』
L「そして、それを実施するタイミングは――……今日から一週間後、アリーナライブの終了直後とさせて頂きたい」
P『アリーナライブの終了直後……だと?』
L「はい。ライブ前は彼女達も気が張っているでしょうから、もし本当に彼女達がキラだった場合、そのタイミングで尋問をしたりすると必要以上にプレッシャーを与えてしまうことになりかねない……その結果、彼女達がどのような行動に出てしまうのか予測がつかない、という理由からです」
P『それでライブが終わった後、ということか』
L「はい」
P『しかしそれなら、何もライブ直後じゃなくてもいいんじゃないか? 流石に当日だと本人達の疲れもあるだろうし、翌日とかでも』
L「いえ。二人を尋問している間、事務所の他の方に騒がれても困りますので……」
P『……なるほど。その点、ライブの当日であれば、他のメンバーも全員会場に集まっており、まとめて監視下に置けるから都合が良い……か』
L「流石ですね。その通りです。……よろしいですか?」
P『……良いだろう。見方を変えれば、それだけ二人の潔白が早く証明されることにつながるとも言えるしな』
L「ありがとうございます。ではそういう方向で進めたいと思いますので、ライブの準備は予定通りに進めて下さい」
P『ああ。分かった』
L「それとライブの終了後ですが、765プロのメンバー全員で集まるような場はありますか?」
P『ああ。ライブ後には必ず全員でミーティングをするようにしているよ』
L「分かりました。ではそのミーティングの時間と場所が確定した時点で私に連絡して下さい。申し訳ありませんが、その場において星井美希と天海春香の二人を任意同行という形で連行させて頂きます」
L「また二人の尋問が終わるまではあなたも含め、765プロの方は全員その場で待機して頂くようにします」
P『……分かった』
L「それから、重ねてのお願いで恐縮なのですが……ライブ中も星井美希と天海春香の様子を監視・観察させて頂きたいので、可能であれば、ライブのチケットを六、七枚程頂けませんか? 座席の位置は問いませんので」
P『! それはいいが……あんたもライブ会場に来るってことか?』
L「いえ。流石に私は行きませんが……信頼できる者を何人か選び、観客として会場に潜入してもらうつもりです」
P『そうか。折角“世界の三大探偵”のうちの一人の顔を拝めるチャンスかと思ったんだが……流石に、世界の誰にも顔を知られていない“L”がアイドルのライブ会場なんかに素顔を晒すはずもないか』
L「……はい。申し訳ありませんが、そこはご容赦頂きたく思います」
P『分かった。で、肝心のチケットの方だが……機材開放席ならまだ融通が利くはずだ。それで手配しよう』
L「ありがとうございます。では差出人名は書かなくて結構ですので、今から指定する宛先に封書で送って下さい。郵便番号は――……」
【同時刻・プロデューサーの自室】
L『――……まで送って下さい。それと振込口座を教えて頂けますか。代金を振り込ませて頂きますので』
P「いいよ、金なんて……って言いたいとこだが、タダでチケット流したって音無さんにばれると面倒だな……分かった。じゃあチケットと一緒に事務所の口座を書いたメモを入れておくよ。適当な名前で振り込んでおいてくれ」
L『分かりました。では今日はこの辺で。何か事態が動いた場合はその都度……また何も無くともライブの前日には必ず連絡するようにしますので』
P「分かった。俺の方も何かあれば必ず連絡する」
L『はい。それではよろしくお願いします』
P「ああ。ではまたな」ピッ
P「…………」
P(……Lから、『美希と春香の二人をキラとして特定している』という話を最初に聞いた時……俺は『もし本当に二人がキラなら、罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない』と……そう思った)
P(いや……それは今でもそう思っている)
P(いくら犯罪者相手とはいえ、殺人は殺人……決して許されるものではないからだ)
P(だが、それはあくまでも『もし本当に二人がキラなら』の話……)
P「…………」
P(勿論、これまでの状況から……美希と春香が疑われること自体はやむを得ない事だと思う。また実際に美希の鞄から怪しげなノートも見つかっている)
P(……だが、それでも)
P(まだ美希が、春香が……あいつらがキラだとする、決定的な証拠は出ていない。もし既にそんな物があるのであれば、Lはライブなんて関係無く、とっくに二人を逮捕しているはずだからだ)
P(つまり『証拠があるのに逮捕しない』はありえない。しかし……)
P(『証拠は無いが逮捕する』は無いとは言い切れない)
P(だから今、俺が最も警戒しないといけないのは……)
P(Lの先ほどの説明は全て俺を油断させるための嘘であり……実際は、今すぐにでも美希と春香を逮捕しようとしている、という可能性……)
P(ならば今のうちに、二人を海外にでも逃がしておくべきか……?)
P(美希はハリウッド行きを早めればいいだけだし、春香もアイドルアワード受賞の実績がある。海外に売り込みに行かせるくらい別に不自然では……)
P(って、馬鹿か俺は。相手は“世界の三大探偵”だぞ。そんな小細工を弄したところで、逮捕されるのが数日延びるだけだろう)
P(だとすれば結局、今の俺にできることは……プロデューサーとして、美希と春香を最後まで支えてやることくらい……か)
P(……無力、だな……)
P「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「……はい。それではよろしくお願いします」
P『ああ。ではまたな』
(プロデューサーとの通話を終えたL)
L「……とりあえず、プロデューサーへの説明はこのあたりが限界でしょう。ノートの事を全てありのままに話してしまうと、これが二人を逮捕するための証拠になり得ること……すなわち、我々がもう二人を逮捕しようとしていることに気付かれてしまいますので」
総一郎「うむ。そうだな」
月「ところで、竜崎。さっきの電話で、プロデューサーには融通してもらうチケットの枚数を『六、七枚程』と伝えていたが……僕と竜崎の分のチケットは既にあるから、相沢さんと松田さんの分を割り当ててもまだ四、五枚余る。これは今ここに居るメンバー以外からも当日の監視役を配備するということか?」
L「はい。そうです」
L「アリーナはそれなりに広い会場ですので……ある程度の人出は必要と考えています」
総一郎「今ここに居るメンバー以外となると……我々とは別に、警察庁内で独自にキラを追っている者達なら何名かいるが……その中から有志を募るか?」
L「そうですね。それができれば非常に助かります。可能であれば、夜神さんから打診して頂いてもよろしいでしょうか?」
総一郎「ああ。分かった。では後で連絡しておこう」
L「ありがとうございます。あと私個人からも頼めそうなツテはありますので、並行してそちらにも当たっておきます」
総一郎「……ところで、竜崎」
L「? はい。何でしょう」
総一郎「まさにそのライブ当日の事だが……弥と高田はどうするんだ? 元々、竜崎やライトと一緒に行くはずだったと思うが」
L「とりあえず、弥は無しです。今の状況ではこちらからは連絡を取るべきではないと思いますし……また弥からも連絡は来ていないはず……ですね? 月くん」
月「ああ。電話もメールも一切来ていない」
L「では折角なので、ここで弥の現在の状況を確認しておきましょうか。ワタリ」ピッ
ワタリ『はい』
L「現在の弥の携帯電話の位置情報を教えてくれ」
ワタリ『今はもう自宅に戻っているようですね』
L「いつ頃から戻っているか分かるか?」
ワタリ『今から一時間ほど前……19時頃ですね。位置情報の履歴を辿ると、スタジオでの撮影が終わり、解散となった後……一度事務所に戻り、その後一時間ほど経ってから帰路に就いたようです』
L「分かった」
総一郎「だがこちらからはコンタクトを取らなくとも……ライブ当日、弥が自らの判断で会場に来るということはあり得るのでは?」
L「確かに、会場に来る可能性自体はあると思いますが……『弥が自らの判断で』は無いでしょう。今の弥の状況は星井美希から脅迫を受けているか、または自らの意思で寝返っているかのいずれかです。ならばそのいずれであっても、星井美希からの指示の範囲内でしか動かない……いえ、動けないものと考えられます」
総一郎「なるほど……」
L「もっとも、今の状況で私達に弥を接触させたところで何か意味があるとも思えませんし……星井美希としても、そんな無意味な指示はしないものと思われますが」
月「それにもしミサが会場に来たとしても、こちらの動きを悟られないように自然に対応すれば特に問題は無いしな」
L「はい」
【同時刻・海砂の自室】
海砂「…………」
海砂(ライトからは、未だに何の連絡も無いまま……少なくとも、あの死神が部屋のカメラを壊すまでの間……ミサが悲鳴を上げたあたりまでは、更衣室の様子を観れていたと思うけど……)
海砂(まあミサには美希ちゃんとの“約束”があるから、今はその方が都合が良いけどね)
海砂(それにきっと……ライトにはライトの考えがあって、今はミサに連絡を取らないようにしているはず)
海砂(そうじゃなきゃ、ライトがこの状況でミサに連絡をしてこない理由が無いからね)
海砂(だから今は……ライトの事を信じよう)
海砂(大丈夫。このままミサが何もしなければ、ライトが殺される事は無い)
海砂(それに美希ちゃんは、ミサの事を『今でも大切な友達だから』 って言ってくれた)
海砂(あの言葉は嘘じゃないと思う。……いや、嘘であるはずがない)
海砂(だから、ミサは美希ちゃんの事も信じる)
海砂(ライトと連絡が取れない今の状況は辛いけど……でもこれも、全てはライトを守るため)
海砂(―――ライト。ミサ、頑張るからね!)
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「次に、高田ですが――……」
ワタリ『竜崎』
L「どうした? ワタリ」
ワタリ『たった今、高田清美の携帯電話の位置情報が復活しました。場所は自宅のようです』
L「! ……そうか。では電源が切れる少し前くらいから、現在までの高田の通信記録を調べてくれ。おそらく弥の携帯からの連絡が記録されているはずだ」
ワタリ『それなら既に星井美希と天海春香の通信記録とあわせて照会を掛けていましたので、すぐに出ます』
L「そうか。では頼む」
ワタリ『……出ました。電源が切れる直前、確かに弥海砂のアドレスから送信されたメールを受信しています。そしてその直後、本文空欄のメールを同じアドレスに返信しています。その他の記録はありません』
L「分かった。では弥のアドレスから高田の携帯に送信されたメールをこちらのメインモニターに映してくれ」
ワタリ『はい』
(次の瞬間、捜査本部内の一番大きなモニター画面に、メールの文章らしき文字列が映し出された)
一同「! …………」
L「この内容……明らかに、弥が自分で考えたものではないですね」
月「そうだな。『GPSでの位置情報の特定』なんて……普通に考えて、ミサが思いつくはずがない」
L「とすると……星井美希の指示に従って弥が書いたか、または星井美希自身が弥の携帯を操作して書いたかのいずれかでしょうね」
月「ああ」
総一郎「しかしこのメールの受信後、その指示に従って空メールを返信……その後今までずっと携帯の電源を切っていたという事は……高田はまだ現状の把握はほとんどできていないということになるな」
L「そうですね。またこの時点においてもこの程度の情報しか伝達していないということは……星井美希としても、高田まで脅迫してどうこうしようとはおそらく考えていない」
月「極端な話、ミサの口さえ封じてしまえば高田からは確認の取りようがないからな。メールを送ったのはミサのアドレスからだし、それを星井美希が指示したとする証拠も無い」
相沢「結構考えているな……」
松田「でもそうなると……ライブ当日、高田も来る予定になってましたけど……そっちはどうするんですか?」
L「そうですね。今夜神さんも仰っていた事ですが……現状、高田はまだほとんど何も知らないし、また知らされてもいない。であれば……下手に彼女を動かす事で、かえって『“L”は高田を使って何かしようとしている』などと疑われかねない……ライブは予定通りに来させましょう」
月「ああ。その方が良いだろうな。どうせもう僕達とのつながりはばれているんだ。だったらむしろ向こうにもステージ上から堂々と監視してもらった方が都合が良い」
L「はい。ただ、明日のクッキングスクールは行くのを止めさせましょう。この状況であえて高田を単独で天海春香と接触させるのはリスクでしかありません」
月「そうだな」
相沢「いや、でもそれは……大丈夫なのか? 見ようによっては、それも『“L”が何かしようとしている』などと疑われたりは……」
L「勿論、嘘の理由で欠席していることはバレバレでしょう。ですが、その一事をもって事に及ぶほど向こうも馬鹿ではありません。星井美希・天海春香はあくまでもアリーナライブを最優先に考えて行動するはず……確証も無いままに下手を打つような真似はしないでしょう」
相沢「そうか。確かにここで事を起こせば、自らライブを台無しにしてしまうリスクがある……」
L「はい。だからこそ、『このままではライブが妨害されてしまう』という危険性を感じたときには……それこそ誰であれ、自分達の妨げになる者は殺すでしょうが……逆にそういった危険性を感じない限りは、ライブを無事に終えるまでは大きく動くことは無いはずです」
月「そうだな。それに向こうとしても、現状、ミサを封じている限り高田はほぼ無視できる存在のはず。仮病でクッキングスクールを休んだくらいでは動かないだろう」
総一郎「うむ。であればそのようにした方が良いな。今の状況で無用にリスクを負う事は避けるべきだろう」
L「はい。ではその方向でいきましょう。……月くん」
月「ああ。高田への連絡だな?」
L「はい。よろしくお願いします」
月「分かった。ちなみに話の持って行き方だが……向こうの認識を確認しつつ、それと矛盾が出ないよう適当に話を作り、自然な流れで今後の事も伝えるようにしようと思うが……そんな感じで良いか?」
L「はい。それでお願いします。先ほど確認したメール以外に連絡を受けていないという事は、特段口止めもされていないはずですので……おそらく高田はありのままの認識に従って話すでしょう」
月「ああ。そうだな」ピッ
【同時刻・清美の自室】
清美「…………」
清美(もう家に着いてから暫く経つし、とりあえず携帯の電源だけは入れたけど……大丈夫よね?)
清美(おそらくそのうち、今日の事について夜神くんから連絡があると思うし……その連絡を受けるためにも電源を切ったままでは……)
清美(でも私が電源を切っていた間も、特にメールなどの連絡は無かったみたい……一体今、どういう状況になっているの? そして海砂さんはどうなったの?)
清美(それに、夜神くんも……)
清美(今、無事……なのよね? 夜神くん……)
清美「…………」
清美(このまま待っていても連絡が無いようなら、もういっそ私から夜神くんに……)
ピリリリッ
清美「! 夜神くん!」ピッ
清美「はい」
月『清美か? 僕だ』
清美「夜神くん……良かった。無事だったのね」
月『ああ。僕は無事だよ。心配させてしまったようだね』
清美「いいの。夜神くんが無事ならそれで……」
月『ありがとう。清美』
清美「夜神くん……」
月『……だが、清美の方こそ大丈夫だったのか? 今日、途中から携帯の電源が切れていたようだったが……』
清美「ええ。その事なんだけど……海砂さんからは何も聞いていないの?」
月『ああ。弥からはずっと連絡が無いままなんだ。清美の方にはあったのか?』
清美「ええ。それが……16時半頃に、海砂さんから私宛てにメールが来たの」
月『弥から? ……そのメール、僕にも転送してくれないか?』
清美「ええ。ちょっと待ってね」
(月にメールを転送する清美)
月『……なるほど。そういうことだったのか』
清美「それで、私は言われるがままに空メールだけ海砂さんに返信して……すぐに春香ちゃ……天海さんから離れて、携帯の電源を切ったわ」
月『…………』
清美「でも、海砂さんから夜神くんに連絡がされていないというのは……どういうことなのかしら? ……あ、でもそもそも、夜神くんは監視カメラで海砂さんの様子を観ていたはずじゃ……?」
月『ああ。実は再生機器に不具合が生じてしまい……映像が途中から観れなくなってしまったんだ』
清美「えっ。そうだったの?」
月『ああ。だから弥が君にメールを送っていたことも今まで知らなかった。だが、そうか。そういうことだったのか……』
清美「夜神くん?」
月『……実は、今日の作戦は失敗に終わったんだ』
清美「! それは……映像が途中から観れなくなってしまったから?」
月『いや、確かに映像は途中で観れなくなったが……星井美希の最後の撮影のタイミングは、予め765プロのプロデューサーから教えてもらっていた。だから僕はその時を狙って弥に電話を掛けたんが……彼女が応答しなかったんだ。作戦失敗の直接的な理由はそれだ』
清美「応答しなかった……? 海砂さんが?」
月『ああ。その結果、映像は観れず、弥とは連絡が取れずという状況になってしまい、僕も現場で何が起きていたのか全く分からなかったが……今の清美の話で大体分かった』
清美「? どういうこと?」
月『清美。今転送してもらったメールだが……これはほぼ間違い無く、星井美希が弥の携帯を使って書いたか、または弥をして書かせたものだ』
清美「!」
月『おそらく星井美希は、今日、どこかの段階で弥が自分を訝しんでいることに気付き……何らかの形で脅迫したんだろう』
清美「脅迫……?」
月『ああ。具体的な方法は分からないが……少なくともこちらが映像を観れなくなってからだろう。映像に残っている範囲ではそんな事をしている様子は映っていなかったからね』
清美「じゃあ星井さんは海砂さんを脅迫し……私も協力者であり、天海さんの傍にいるということを吐かせたうえで、あのメールを……?」
月『おそらくね。そして清美さえ天海春香から離れさせてしまえば、後は自由に彼女と会うことができる。今後の方針を話し合うため、少しでも早く落ち合う事にしたのだろう』
清美「なるほど……だから海砂さんは夜神くんに連絡をしていなかったのね。星井さんに脅迫されている状況下にあるから……」
月『そういうことになる。ただそれを裏付ける証拠は無いから、あくまでも推測の域を出ないが……』
清美「……あっ」
月『? どうした? 清美』
清美「えっと、今更だけど……結局、海砂さん自身は無事……でいいのよね? 映像は途中から観れていないという事だし、今も連絡は取れない状況……もしかして、もう……などということは……」
月『ああ、それは大丈夫だ。プロデューサーから撮影自体は普通に終わって解散したと聞いている。弥もちゃんとマネージャーと一緒に帰ったそうだ』
清美「そう。それなら良かった。とりあえずは一安心ね」
月『ああ』
清美「それで夜神くん。私はこれからどうしたらいいの? 取り急ぎ、明日もクッキングスクールの体験入門があるのと、765プロのアリーナライブも一週間後に……」
月『そうだな。とりあえず明日のクッキングスクールは適当な理由を作って休んでくれ』
清美「ということは……明日の海砂さんと星井さんの予備の撮影は無しになったのね?」
月『ああ。プロデューサーに頼んでキャンセルにしてもらった。弥が今の状況になってしまった以上、明日の作戦遂行はもはや不可能だからね』
清美「それなら私が天海さんを見張る必要も無いものね」
月『そういうことだ』
清美「分かったわ。夜神くん」
月『そしてライブの方だが……こちらは予定通りに来てくれ。僕も竜崎も行くし、清美だけいないとかえって不審に思われかねない』
清美「分かったわ。でも海砂さんはどうするの?」
月『弥については本人の判断に任せるつもりだ。既に脅迫されている可能性が高い以上、こちらからは迂闊に接触できないからね。だから清美も彼女に対する接触は控えてくれ。そして弥がライブ会場に来た場合は極力平静を装って応対してほしい』
清美「分かったわ。でも……夜神くん」
月『ん?』
清美「星井さんが海砂さんを脅迫し、私にあんなメールを送ってきた可能性が高いということは……やっぱり星井さんが『今のキラ』だったと考えていいのね? そしておそらくは、天海さんも……」
月『ああ。勿論、まだ証拠が押さえられていない以上、確証は無いけどね。だがその可能性は極めて高いと僕は考える』
清美「……そう」
月『とにかく、作戦は一旦練り直しだ。星井美希が弥を脅迫したのだとすれば、星井美希……いや、星井美希と天海春香はキラの力を手放す気は無く、やはりあくまでも自分達が『キラ』として裁きを続けていくつもりなのかもしれない』
清美「でも、海砂さんが『最初のキラ』である夜神くんの協力者であることまでは、まだ……いえ、それも分からないわね」
月『ああ。弥がどこまで話したのか分からない以上、現時点では判断ができない。最悪の状況を想定するなら、僕の正体も全てばらされている事になるだろう』
清美「夜神くん……」
月『だから、清美。明日の体験入門を欠席する件も、天海春香には特に連絡しなくていい。星井美希にばれたとすれば、必然的に天海春香にも伝わっているはず……ならば今は下手に接触しないことだ』
清美「分かったわ」
月『さらにいえば、偽名を名乗っている竜崎はともかく、本名を知られている僕や清美はもういつ殺されてもおかしくない。今はそういう状況にある』
清美「! …………」
月『それでも、僕を信じて……ついてきてくれるか? 清美』
清美「……勿論よ。夜神くん。死ぬときは一緒だわ」
月『清美』
清美「それに、まだ諦めるような段階じゃないはずよ。もう一度考え直しましょう。キラの力を夜神くんに戻し……私達の理想の世界を創世する、その方法を」
月『……そうだね。ありがとう。清美。どんな方法が良いか、よく考えてみるよ』
清美「ええ。一緒に頑張りましょう。夜神くん」
月『ああ。そして共に創ろう。心の優しい人間だけの世界を』
(月との通話を終えた清美)
清美「…………」
清美(やっぱり、夜神くんからキラの力を奪ったのはあの二人だったのね)
清美(正直、まだ完全には受け容れられていないけど……でも、夜神くんが私に嘘をつくはずがないし……)
清美(……大丈夫。不安が全く無いと言えば嘘になるけど……私には夜神くんがついているんだもの。きっと大丈夫だわ)
清美(そう。きっと……)
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(清美との通話を終えた月)
月「……まあ、こんなところかな」
L「どうもありがとうございました。月くん。これで高田の方も大丈夫でしょう」
松田「さ……流石は月くんっすね。よくアドリブであそこまで淀み無く話を……」
月「まあ高田はある意味一番御しやすい相手ですから。それにああやってミサとの連絡も絶たせておけば裏も取りようが無いですしね」
L「高田が月くんの言う事を疑う事も絶対に無いでしょうしね」
松田「はは……ま、やっぱりイケメン大正義ってことかな……」
総一郎「…………」
相沢「? 局長? どうかしましたか?」
松田「なんか、妙に思い詰めた顔されてますけど……」
総一郎「ああ、いや……その、ライブの事で、ちょっとな……」
相沢・松田「?」
月「……粧裕の事か? 父さん」
総一郎「! ……やはりお前にはお見通しか。ライト」
月「…………」
松田「? 粧裕ちゃんって……? あ、そうか。今度のアリーナライブには粧裕ちゃんも……」
月「はい。僕や竜崎と一緒に行くことになっています。高槻やよいからチケットを貰っていますので」
総一郎「……高田の場合と同様に考えるなら、こちらの意図に気付かれないようにするためには、やはり粧裕も予定通りにライブ会場に行かせるべきなのだろうが……正直、私としては……」
相沢「局長」
L「…………」
総一郎「いや、すまん。勝手な事を言っているな……これでは星井君の事をとやかく言えん」
松田「いやいや、そんなことないっすよ!」
総一郎「松田」
松田「これくらい、普通の親なら自然な感情……そもそも係長の場合とは違って、粧裕ちゃんはキラ事件には全く関係無いんですから、無理に同行させる必要は……」
月「いや、今父さんも言っていたが……ライブ当日はこちらの意図に気付かれないように細心の注意を払う必要がある……であれば、たとえ僅かでも不審に思われるような余地を残すべきではない」
松田「! 月くん。でも……」
総一郎「…………」
月「大丈夫だよ。父さん」
総一郎「……ライト」
月「そもそも僕が一緒に行くんだし……竜崎だっている。僕達が動くときは高田に粧裕を見ておいてもらえばいい」
総一郎「…………」
月「大体、粧裕に『ライブに行くな』という理由付けもできないだろう? 『期末で学年50番以内』の約束も果たしたんだし」
総一郎「……そうか。そうだな」
総一郎「分かった。粧裕を頼むぞ。ライト」
月「ああ。任せてくれ」
L「……ところで、夜神さん」
総一郎「何だ? 竜崎」
L「星井さん達の監禁ですが……少なくとも、後一週間以上は継続することになりますので……星井さんの奥さんに『緊急の事件捜査が入ったから暫く帰れなくなる』とでも伝えておいて頂けますか?」
総一郎「ああ……そうだな。分かった。模木の方はどうする?」
L「模木さんは一人暮らしですので……とりあえずは大丈夫です。ただし預かっている携帯にご家族からの連絡が入った場合は同様の対応をお願いします」
総一郎「分かった」
松田「……実際のところ、キラ事件が解決したとしても……係長と模木さんはどうなるんでしょうね……」
相沢「まあ、流石に何らかの処分は免れないだろうな……いくらなんでも免職にまではならないと思うが」
総一郎「…………」
総一郎(星井君……模木……)
【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】
(一人、部屋のベッドに腰掛けている星井父)
星井父「…………」
星井父(携帯は取り上げられ、部屋のテレビも映らない。ドアは内側からは開けられないようにロックされている。まさに外界からは完全に隔絶された状態……)
星井父(そして言うまでもなく、部屋の至る所に監視カメラと盗聴器が付けられている)
星井父(だが、部屋の中ではこうして自由に動き回ることができるし……食事も運んできてもらえる。監禁というよりは軟禁に近い)
星井父(俺がした事を思えば……随分と良い待遇を受けているといえるな)
星井父「…………」
星井父(なあ。美希)
星井父(俺は今日、刑事として絶対にしてはいけないことをしてしまった)
星井父(市民を、国民を第一に守る警察官として、絶対にしてはならないことだ)
星井父(俺は全国民の命より、たった一人の……自分の娘の命を優先して行動してしまった)
星井父(この先、俺がどうなるのかは分からない。キラ事件の解決を待たずして、懲戒免職になるのかもしれないし……)
星井父(また、そうならなくとも……俺はもう警察に残るべきではないと思う)
星井父(家族の皆には多大なる迷惑を掛けてしまうことになるが……それが俺の付けるべきけじめだ)
星井父(今は、率直にそう思う)
星井父「…………」
星井父(なあ。美希)
星井父(やっぱりあのノートは……お前が悪ふざけで作っただけなんじゃないのか?)
星井父(あるいは、同じ事務所の……双海亜美ちゃんと、真美ちゃんだったか。よくいたずらされるって言ってたよな)
星井父(今回のも、彼女達の得意のいたずらだったんじゃないのか?)
星井父(お前は、それを知らないうちに鞄の中に仕込まれていただけだったんじゃないのか?)
星井父(なあ。美希)
星井父(もしもう一度会えたなら……俺にあのノートを真っ先に渡してくれないか)
星井父(そしたらいの一番に、最初のページに俺の名前を書いて、皆の前で言ってやるからさ)
星井父(“ほら、これはただのノートですよ”って)
星井父(“これで美希の無実は証明されましたね”って)
星井父(なあ。だから、美希……)
星井父(もう一度。もう一度だけでいいから……)
星井父「……会いたい、な……」
星井父「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】
(一人、部屋の椅子に腰掛け、窓の外を眺めている模木)
模木「…………」
模木(これでもう、自分がこの事件に関わることは無いだろう)
模木(あるいはこれが、自分が警察官として関わった最後の事件となるのかもしれないが……)
模木(それはもういい。ただ、今は……係長の事だけが気がかりだ)
模木(係長……)
模木「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「では、アリーナライブ当日の作戦の詳細は今後詰めていくとして……今日のところはこの辺で解散としましょう。皆さんも色々あってお疲れでしょうし」
総一郎「……いや、竜崎。私も残ろう」
L「夜神さん?」
総一郎「この後も引き続き、星井君と模木の監視を行うつもりなのだろう?」
L「それは……まあ。はい」
総一郎「ならば、二人の上司である私も一緒に残るのが筋というものだ」
L「……いえ、別にそこまで責任を感じて頂かなくても大丈夫ですよ? ワタリもいますし……」
総一郎「そうは言っておれん。そもそも、これは私の意地のようなものでもあるからな」
L「しかし……」
相沢「そういうことなら私にも残らせて下さい。局長」
総一郎「相沢。まさか、お前も責任を感じて……?」
相沢「まあ……それが全く無いと言えば嘘になりますけど。でもそれだけじゃなくて……残りたいんです。私自身の意思で」
総一郎「相沢……」
松田「僕も相沢さんと同じ気持ちです。残らせて下さい。局長」
総一郎「松田」
松田「それにこれって……局長が一人で背負い込むような話でもないと思いますし」
総一郎「…………」
月「僕も残るよ。父さん。どのみち後一週間程度の事だしね」
総一郎「ライト。お前は流石に……いや……」
月「…………」
総一郎「……分かった。ありがとう。皆」
総一郎「竜崎。そういうことだ。今後、星井君達の監禁が終わるまでの間……つまりキラ事件が解決するまでの間、我々もここに残らせてもらう」
L「……分かりました。そこまで仰るのなら……ただ、流石に全員連日居残りでは各自の負担が大き過ぎると思いますので……一日二、三人程度を目途とした交代制、ということでよろしいでしょうか?」
総一郎「ああ。それで構わない」
L「分かりました。ではよろしくお願いします」
月「……あっ」
総一郎「? どうした? ライト」
月「いや、ちょうどニュースの時間だと思ってね」ピッ
(部屋にあるTVをつける月)
総一郎「? ニュース…… ! そうか」
L「キラの裁きの報道ですね」
月「ああ」
TV『……20時45分になりました。ニュースをお伝えいたします』
一同「…………」
TV『まず、キラの裁きのニュースです』
一同「!」
TV『……本日20時頃、四名の犯罪者が心臓麻痺により死亡したことが確認されました。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めており……』
一同「…………」
L「まあ……ここで裁きを止めたらそれこそ自分がキラだというようなもの……当然でしょうね」
月「ああ。それにこんな所で引いてしまう程度の度量なら、最初からこんな裁きなどには手を染めていないだろうしな」
L「ですね」
総一郎「…………」
総一郎「竜崎」
L「『キラが誰なのかがほぼ特定できている状況下で、犯罪者とはいえ、キラの裁きによる犠牲者が新たに生まれていくさまをみすみす見過ごすべきではない』」
総一郎「!」
L「『だから『アリーナライブの終了後』というタイミングにこだわらず、少しでも早く二人を逮捕できる方法を考えた方が良いのではないか』……ですか? 夜神さん」
総一郎「……流石だな。そこまでお見通しとは……」
L「まあ、もう結構長い付き合いになりますしね」
総一郎「……分かっている。分かっているんだ。これは、私のエゴでしかないという事は……」
L「夜神さん」
総一郎「そして今、逮捕を急いて、逆にこちら側に犠牲を出すような事態だけは絶対に避けなければならないという事も」
総一郎「……分かっているんだ」
L「そうですね。犯罪者だから犠牲にして良いとは勿論言いません。ですがやはり、アリーナライブの終了後までは動くべきではない、という私の考えは変わりません」
総一郎「……ああ。それでいい。今日までこの本部の指揮を執ってきたのはあなただ。竜崎。ならば私はその判断に従うまでだ」
L「ありがとうございます。夜神さん。……でも」
総一郎「?」
L「夜神さんのそれは『エゴ』ではないと思いますよ」
総一郎「竜崎」
L「それは『エゴ』ではなく……『正義』なのだと思います」
総一郎「! ……竜崎……」
L「私は前にも言いました。『正義は必ず勝つ』と」
一同「…………」
L「我々が二人を捕まえるのが先か。二人が我々を殺すのが先か。……正直、現段階でそれは分かりません」
L「ですが、最後には必ず……正義の意思を持った者が勝ちます」
L「それだけは確かな事です」
総一郎「……ああ。そうだな」
総一郎「勝とう。皆。勝って……この事件を終わらせよう」
相沢「ええ。勝ちましょう。皆で」
松田「…………」
相沢「どうした? 松田。浮かない顔して」
松田「あ、いえ……ふと、やっぱりミキミキとはるるんがキラだったんだなって思うと、やっぱりちょっとショックで……」
相沢「お前な……俺達皆、死ぬかもしれないって時に……」
松田「そ、それは分かってますよ! っていうか、僕だって死にたくないのは同じっすから! ね、だから勝ちましょう! 皆さん!」
月「……竜崎」
L「はい」
月「勝とう。今、ここにいる僕達で」
L「……ええ。勿論です。月くん」
【一時間後・春香の自室】
レム「……ハルカ」
春香「? どうしたの? レム」
レム「いや……」
春香「? 変なレム」
レム「…………」
春香「さて、じゃあもうそろそろ寝ようかな。明日も朝からレッスンだしね」
春香「いよいよライブ本番まで後一週間だし、体調管理だけは万全にしとかないと」
春香「それから明日の午後は……」
春香「…………」
レム「ハルカ」
春香「…………」
レム「お前はこれで……本当に」
春香「いいんだ」
レム「ハルカ」
春香「いいんだよ。レム」
レム「…………」
春香「これで……いいんだよ」
春香「…………」
【同時刻・美希の自室】
(デスノートの一番後ろのページを開いたまま、じっと見つめている美希)
美希「…………」
リューク「本当にこれで良かったのか? ミキ」
美希「……もちろんなの」
美希「…………」
【翌朝・星井家のリビング】
【アリーナライブまで、あと6日】
美希「あふぅ。おはよーございますなの」
星井母「おはよう。美希」
菜緒「おはよー」
星井母「……これでよし、と。じゃあ菜緒、パパに着替え持って行って」
菜緒「えー。今日サークルの友達と遊びに行く約束してるって言ったじゃん」
星井母「だからその約束より少し早く出ればいいじゃないの」
美希「……パパ、泊まり込みでお仕事なの?」
星井母「そうなのよ。昨日の夜、上司の方から連絡があってね。緊急の事件捜査で暫く帰れそうにないんだって」
美希「……ふぅん」
星井母「ほら、菜緒」
菜緒「っていうか、ママが出勤途中に持って行けばいいじゃん」
星井母「そりゃ通り道ならそうするわよ。でも完全に逆方向なんだもの」
菜緒「ちぇっ。もう、しょーがないなー」
美希「……いいよ。ママ。ミキが行って来るの」
星井母「えっ。美希が?」
菜緒「わお。サンキュー。美希。でもあんたが自分からお手伝いの申し出なんて……何かあったの?」
美希「……別に。何も無いの」
星井母「でもいいの? 美希。今日も朝からレッスンなんでしょ?」
美希「時間にはまだ余裕あるし、大丈夫なの」
星井母「そう? じゃあ悪いけどお願いしようかしら」
美希「はいなの」
美希「…………」
(三十分後・支度を終えた美希)
美希「……じゃあミキ、そろそろ行くね」
星井母「あ、美希。あとこれ」スッ
(美希にメモを渡す星井母)
美希「? 何? これ」
星井母「昨日連絡して下さった、警察庁のアサヒさんって方の電話番号」
美希「!」
星井母「着替えとか持って行く時は事前に連絡下さいって」
美希「……パパの携帯じゃダメなの?」
星井母「ええ。パパは当分、携帯も碌に見れなくなるくらい忙しくなるからって」
美希「……分かったの。じゃあ霞ヶ関に着いたあたりでこの人に連絡するの」
星井母「じゃあ悪いけどよろしくね。それからレッスンも頑張って」
美希「うん。ありがとうなの。ママ」
菜緒「私も応援してるよー。マイプリティシスター」
星井母「もう、調子良いんだから」
美希「…………」
星井母「美希?」
菜緒「?」
美希「……うん。お姉ちゃんもありがとうなの」
美希「じゃあ、行ってきますなの」
ガチャッ バタン
星井母「…………」
菜緒「…………」
星井母「美希、なんかちょっと変じゃなかった?」
菜緒「確かに、妙に大人しい感じはしたけど……単にまだ眠かったとかじゃない?」
星井母「でもあの子が自分から手伝いを申し出たのだって何年か振りくらいだし……」
菜緒「それは私もちょっと驚いたけど……ま、夜になればまたいつもの美希に戻ってるって」
星井母「……そうね」
菜緒「それにしてもパパ、何日も泊まり込みの上に携帯も碌に見れなくなるくらい忙しくなるって……一体何の事件の捜査なんだろうね」
星井母「さあ……アサヒさんは『緊急の事件捜査』としか言ってなかったから」
菜緒「またキラ事件の捜査に復帰することになった、とかだったらやだなあ……。あんな事件に関わってたら命がいくつあっても足りないよ」
星井母「…………」
菜緒「あ、ごめん。ママ。そういうつもりじゃ」
星井母「ううん。いいの」
星井母「…………」
【三十分後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(星井父と模木の監視のため、今はLと総一郎の二人だけが捜査本部にいる)
総一郎「…………」
L「…………」
ピリリリッ
総一郎「! ……『朝日四十郎』用の携帯か。こっちが鳴るなんて珍しいな」
L「星井さんの奥さんじゃないですか?」
総一郎「ああ。そういえば着替えを持って来ると言っていたな」ピッ
総一郎「……はい。警察庁の朝日です」
総一郎「! …………」
L「?」
総一郎「……あ、いえ。失礼しました。わざわざすみません。では……そうですね。十五分後に警察庁一階の総合受付付近で。場所は……ああ、そうですか。ええ。ではよろしくお願いします。はい。……それでは」ピッ
L「……夜神さん?」
総一郎「……星井美希だった」
L「! …………」
総一郎「母親から頼まれて、星井君の着替えを代わりに持って来ると……」
L「それは……予想外でしたね」
総一郎「ああ。だが急に対応を変えるのもかえって怪しまれると思い、当初の予定通り私が警察庁に出向いて受け取る事にしたが……危険だろうか?」
L「いえ。それでいいと思います。今、星井美希と直接接触する者の数を無闇に増やすのは得策ではないですから」
総一郎「うむ……」
L「また言うまでも無い事ですが、くれぐれも、今日この場では……」
総一郎「ああ。それは勿論心得ている。荷物を受け取った後はすぐに別れるつもりだ」
L「それでお願いします。夜神さんは聞き取り調査の際に彼女と顔を合わせていますので、そこさえ上手く辻褄を合わせて頂ければ大きな問題は無いと思います」
総一郎「分かった。……ところで、これまで星井君が身に着けていた例の超小型マイクだが……一応、着けて行った方がいいか?」
L「そうですね。念の為、お願いします。私も受付付近の監視カメラの映像は観るようにします」
総一郎「分かった。……では、行って来る」
L「あ、夜神さん。最後にもう一つだけいいですか?」
総一郎「? 何だ?」
L「万が一、死神の姿が見えても決して反応しないようにお願いします」
総一郎「……善処しよう」
ガチャッ バタン
L「…………」
【十五分後・警察庁一階/総合受付付近】
総一郎「…………」
総一郎(もうそろそろ来るはずだが……)
総一郎「……ん?」
(入口から、帽子を目深に被り、眼鏡とマスクを着けた女性が入って来た)
総一郎(……あれだ。間違い無い。相沢と松田の尾行データの中にあった、星井美希の変装パターンのうちの一つ……)
総一郎(確かに、あれならまず星井美希とは分からないな。現に周囲の者も全く気付いていない)
総一郎(とすれば、ここで私がいきなり気付くのも不自然か。少し様子を見てから……)
「あの」
総一郎「えっ」
「アサヒさん……ですよね? なの」
総一郎「……ああ、はい。そうですが……ええと、星井美希さん……ですか?」
「はいなの」
総一郎「ああ、すみません。変装されていたので全く気付きませんでした。逆によく私だと分かりましたね」
美希「だって前に一度、うちの事務所に来たよね? あの体格のいい刑事さんと一緒に」
総一郎「……ああ。そういえばそうでしたね」
美希「ミキもね、刑事さんの名前、すっかり忘れてたんだけど……今朝、ママから『アサヒさん』って名前聞いて、どっかで聞いたことある名前だなーって思ってたの。それで今、受付の横に立ってる刑事さんの顔見て、『あっ! あの時の刑事さんだ!』って」
総一郎「なるほど」
総一郎(そうか……確かに、私の方は顔を隠していないのだから、向こうからはそういう反応にならなければ逆におかしいか)
総一郎(いきなり声を掛けられて少し驚いたが……大丈夫だ。今の所、特にボロは出していない。それに……)チラッ
美希「? どうしたの?」
総一郎「……ああ、いえ。改めて見ても……本当に分からないものだなと思いまして」
美希「ミキの変装?」
総一郎「はい」
美希「でしょ? まあ本当はこういうのしたくないんだけどね。でも律子がしろしろってウルサくて」
総一郎「はは……」
総一郎(死神の姿も……今のところは見えないな。もっとも、見えないだけですぐ傍にいるのかもしれんが……)
美希「…………」
総一郎「……では、それがお父さんのお着替えですね。お預かりします」
美希「あ、はい。よろしくお願いしますなの」スッ
総一郎「それでは、私はこれで」
美希「あの」
総一郎「? はい」
美希「やっぱり……パパには会えないの?」
総一郎「! ……ええ。すみません。今はとてもそのような余裕は……」
美希「そっか……まあ、そうだよね。会えるくらいなら最初から自分で取りに来てるよね」
総一郎「ええ。すみません」
美希「わかったの。じゃあパパによろしくお伝え下さいなの」ペコリ
総一郎「はい。それは伝えておきます。では」
美希「はいなの」
(美希は総一郎に背を向けると、そのまま振り返ることなく警察庁を後にした)
総一郎「…………」
総一郎(星井君が本当に動けない状況かどうか、確かめに来たのか……?)
総一郎(しかしそうなら、『父親が暫く帰れないのは、やはりキラ事件の関係なのか』程度の事は聞いてきてもおかしくなかったと思うが……)
総一郎(やはり竜崎の読み通り……今は向こうもアリーナライブを最優先に考えているため、極力目立った動きはしないようにしている……ということか?)
総一郎(確かにさっきの発言程度なら、父親の荷物を持って来た娘としては自然な発言……それだけで直ちにどうこうとはならないが……)
総一郎「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(警察庁内の受付付近の監視カメラの映像を観ているL)
(Lは同時に、総一郎の身に着けたマイクが拾う会話の音声も聴いている)
L「…………」
美希『――わかったの。じゃあパパによろしくお伝え下さいなの』
総一郎『はい。それは伝えておきます。では』
美希『はいなの』
L「…………」
【三十分後・都内レッスンスタジオ】
美希「おはようございますなのー」
P「! 美希」
美希「プロデューサー」
P「お前……大丈夫なのか?」
美希「うん。もうばっちりなの。それより昨日は勝手に帰っちゃって、本当にごめんなさいなの」ペコリ
P「いや、それはもういいが……でも、くれぐれも無理だけはするなよ? 今日のレッスンでも不調を感じたらすぐに休むようにな」
美希「はいなの!」
P「…………」
春香「おはよう。美希」
美希「あ、春香。おはようなの」
P「! …………」
春香「昨日、撮影スタジオで体調崩したって聞いたけど……大丈夫なの?」
美希「うん。もう大丈夫なの。軽い貧血みたいな感じだったけど、一晩ぐっすり寝たらすっかり元気になったの」
春香「そう? ならいいけど……でももうライブまで後6日しかないんだから、くれぐれも無理だけはしちゃだめだよ」
美希「はーいなの。っていうかそれ、今プロデューサーにも全く同じ事言われたんだけど……」
春香「うん。でも美希は一回言われたくらいじゃすぐ頭から抜けちゃうから、二回言われるくらいでちょうどいいでしょ?」
美希「あー! それはいくらなんでもヒドイ言い草だって思うな! ボートクなの! 名誉キソンなの!」
春香「あはは。ごめんごめん」
美希「もー! 春香のバカ!」プイッ
春香「あはは……」
P「…………」
(二時間後)
律子「……よし。じゃあ今日はここまでにしておきましょう。皆、良い感じに仕上がってるわ。最後までこの調子でね」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
律子「春香」
春香「! はい」
律子「後で今のレッスンの動画を送っておくから、今日来れなかった人にも共有しておいてくれる?」
春香「分かりました」
律子「皆、前日のリハーサルまで全員揃っての練習は出来ないけど、チームとしての意識は常に持ち続けるようにね」
律子「それじゃ、明日も来れる人は同じ時間に集合ね。自主練は任せるけど、くれぐれも疲れだけは残さないように。では、解散!」
アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」
(クールダウンしながら雑談している美希、春香、可奈)
可奈「天海先輩は今日もクッキングスクールですか?」
春香「うん。お料理は好きだし、良い気分転換になるからね」
可奈「星井先輩は何かご予定あるんですか?」
美希「今日はフリーなの。元々昨日の撮影の予備で空けてたんだけど、キャンセルになったから」
可奈「そうですか! じゃあちょっとだけ……可奈のダンスを見てほしいカナ~、なんて……」
美希「いいよ」
可奈「そんなこと言わないで下さ……えっ! いつもとりあえず一言目は『めんどいからヤなの』って言う星井先輩が!?」
美希「もう本番まで日も無いしね。もちろん嫌なら見ないけど」
可奈「わーわー! そんなわけないです! よろしくお願いしますー!」
美希「はいはい。じゃあ最初から通すの」
可奈「えっ! いきなりフルですか……」
美希「嫌なら別に」
可奈「わーわー! やります! やりますって!」
春香「……ふふっ。じゃあ私はこの辺で。頑張ってね。可奈ちゃん」
可奈「はい! ありがとうございます! 天海先輩!」
春香「…………」
美希「…………」
春香「じゃあ、また明日ね。美希」
美希「うん。またね。春香」
可奈「…………」
可奈(? 何だろう? この感じ……)
可奈(何も無いはずなのに、なんか……)
美希「可奈」
可奈「はっ、はい! やります! やりますからっ!」
美希「…………」
【一時間後・都内某クッキングスクール】
(クッキングスクールの体験入門を受講している春香)
(春香は他の受講生と会話することも無く、一人で黙々と調理をしている)
春香「…………」
講師「あら? あなた……昨日一緒に来られていた方は? お休み?」
春香「あっ、はい。お休み……みたいですね」
講師「……そう。ところで、あなた……」
春香「? はい」
講師「昨日から、もしかしてそうじゃないかって思ってたんだけど……」ズイッ
春香「え?」
(小声で春香に耳打ちする講師)
講師「……もしかして、765プロの天海春香さん?」
春香「! ……ええ。まあ」
講師「やっぱり! 私前からファンだったのよ!」
春香「えっ。そうなんですか?」
講師「ええ。あれは去年の……春頃だったかしら? ほらあなた、商店街で『太陽のジェラシー』のCDを手売りしてたでしょ?」
春香「!」
講師「実は私、あの時、あなたからそのCDを買わせてもらったのよ」
春香「そう……だったんですか」
講師「元々、アイドルとかにはあんまり興味無かったんだけどね。ただ、弾けるような笑顔でCDを売っているあなたを見て……すごく元気がもらえたような気がして。思わず突発的に買っちゃった」
講師「その結果、今ではすっかりあなたのファンよ。だからまたお会いできて嬉しいわ」
春香「…………」
講師「あ、ごめんなさい。勝手にお話しし過ぎちゃって」
春香「いえ……ありがとうございます。嬉しいです」
講師「お礼を言いたいのはこっちの方よ。今度のアリーナライブも頑張ってね」
春香「はい。ありがとうございます」
講師「それにしても……」
春香「? 何でしょうか?」
講師「……リボン外して眼鏡掛けてたら、案外分からないものなのね」
春香「あ、あはは……」
【同時刻・都内レッスンスタジオ】
可奈「星井先輩、ここなんですけど……」
美希「…………」
可奈「星井先輩?」
美希「えっ。ああ……ごめん」
可奈「大丈夫ですか? 星井先輩。やっぱりまだ体調が……」
美希「そんなことないの。可奈の今のステップは右足を寄せる位置が半歩分浅かったの。今ミキに聞こうとしたのはその時の違和感の原因についてでしょ?」
可奈「めっちゃ見てくれてる上にもう答えてくれてる!」
美希「じゃあそこだけ意識して、もう一回なの」
可奈「はいっ!」
美希「…………」
可奈「えっと……この位置から……」
美希「……ねえ、可奈」
可奈「? はい」
美希「あー……」
可奈「?」
美希「やっぱり、なんでもないの。……じゃあ、改めてもう一回」
可奈「? は、はい」
美希「…………」
【同日夜・美希の自室】
美希「さて、今日の裁きの対象は……っと」ペラッ
(スマホでニュースサイトを確認しながら、デスノートを開く美希)
リューク「…………」
美希「……家城谷克弥……」カリカリ
美希「……似志田九……」カリカリ
美希「……真野宮陵介……」カリカリ
リューク「…………」
美希「……よし。今日はこんなとこなの」
リューク「なあ、ミキ」
美希「何? リューク」
リューク「……いや……」
美希「…………」
【一時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(星井父と模木の監視のため、今はLと月の二人だけが捜査本部に残っている)
L「……そろそろですね」
月「……ああ」ピッ
(部屋にあるTVをつける月)
TV『……20時45分になりました。ニュースをお伝えいたします』
TV『まず、キラの裁きのニュースです』
TV『本日20時頃、三名の犯罪者が心臓麻痺により死亡したことが確認されました。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めており……』
L「…………」
月「…………」
【五日後・アリーナ/ライブステージ】
【アリーナライブまで、あと1日】
(ライブ本番と同じ会場でのリハーサルを終えたアイドル・ダンサー一同)
P「――よし。これで後は明日の本番を残すのみだ。皆、もう全て出し切ったか?」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
P「良い返事だ。これなら明日はきっと素晴らしいライブになる。最高のステージを俺に見せてくれ!」
伊織「だから、なんであんたのためなのよ?」
亜美「そうだそうだー!」
P「あ、あはは……そこやっぱツッコまれたか」
律子「でも、私も同じ気持ちですよ」
P「律子」
律子「これまでずっと皆を見てきて、私……この事務所でプロデューサーやってて、本当に良かったなぁって」
律子「今、心からそう思ってます」
P「律子……」
亜美「あれあれ~? りっちゃん、もしかしてお涙ちょちょ切れ系なカンジ?」
律子「! べ、別にそんなこと……」
真「へへっ。鬼の目にも涙、ってやつだね」
真美「いやいやまこちん、そこは『鬼軍曹の目にも』でしょ~」
律子「も、もうっ! 真面目に話してるのにからかわないでよ!」
千早「でも、私達がここまで自分達のダンスを完成させることができたのは……ずっと付きっきりでレッスンをしてくれた律子のおかげよ」
律子「千早」
千早「本当にありがとう。律子」
律子「! ……っ」
亜美「おおっ! きたきたきたぁー! これは涙目モードからガチ泣きモードに移行の予感ですぞ!」
真美「よっしゃあ! 皆の衆、一気に畳み掛けるのじゃあー!」
律子「こ、こらっ! もう、やめなさいってば! 大体まだライブ当日にもなってないっていうのに……」
伊織「そうそう。涙はライブ後まで取っておきなさい」
律子「伊織」
伊織「ライブ後は思う存分、私の胸で泣いていいから。……ね? 律子」
律子「……馬鹿」
亜美「でもでも~、いおりんの可愛いお胸じゃちょ~っと心許ないんじゃない~?」
伊織「は、はぁ? どういう意味よ! それ!」
亜美「いやいや、そこはやっぱり、あずさお姉ちゃんの実りに実ったどたぷ~んなお胸の出番かな~って。ね? あずさお姉ちゃん?」
あずさ「ふふっ。そうね。私の胸なんかで良ければ……いくらでもお貸ししますよ。律子さん」ニコッ
律子「あ、あずささんまで……もう、何を言ってるんですかっ」
アハハ……
P「…………」
亜美「? 兄ちゃんどったの?」
P「えっ」
亜美「なんかボーっとしてるけど……あ、もしかして~、兄ちゃんもあずさお姉ちゃんのお胸に顔を埋めたいとか~?」
P「アホか」スパンッ
亜美「あてっ!」
響「今のは亜美が悪い」
亜美「むっ。ひびきんのくせにナマイキだぞ!」
響「何で自分に飛び火!?」
亜美「んでんで~、一体何考えてたの? 兄ちゃん」
P「ん。別に……ただ」
亜美「ただ?」
P「ようやく……ここまで来れたんだ、って思ってな」
亜美「兄ちゃん」
響「プロデューサー」
P「……まあでも、感傷に浸るのはまだ早い。今伊織も言ってたが、それこそ明日のライブが終わってからだな」
真「そうですね! 今は明日のライブに集中、集中! ……ね? 雪歩」
雪歩「う、うん。……でも、いざ『もう明日なんだ』って意識すると、急に緊張してきたかも……」
真「あ……ごめん。雪歩」
雪歩「ううん。真ちゃんのせいじゃ……」
貴音「大丈夫ですよ。雪歩」
雪歩「四条さん」
貴音「これまでの貴女の頑張り、しかと見届けて参りました。何も不安に感ずることなどありません」
雪歩「……はい! ありがとうございます!」
真「そうだよ、雪歩。もっと自分に自信を持って」
雪歩「うん。真ちゃんもありがとう」
やよい「うっうー! 私もやる気出てきましたーっ!」
真美「おおぅ。やよいっちがいつになく燃えている……」
やよい「えへへ……だって、ずっとずっと明日のために皆で頑張ってきたんだもん。やる気が出ないわけないかなーって! ……真美は違うの?」
真美「えっ? そ、そりゃまあ、真美も真美なりに……燃えてるんだぜ?」
響「あはは。真美ってば、照れて口調がおかしくなってるぞ」
真「やよいの純粋で真っ直ぐな眼差しに見つめられたら無理も無いよね」
真美「も、もー! うるさいよ! この脳筋コンビ!」
響・真「誰が脳筋コンビだ!」
千早「――そういえば、明日は高槻さんの家庭教師の方も観に来られるのよね?」
やよい「千早さん。そうなんです! ライト先生と、妹で私の友達の粧裕ちゃんも来てくれる予定です!」
千早「そう。じゃあなおさら、一生懸命頑張らないといけないわね」
やよい「はいっ! 高槻やよい、一生懸命頑張りまーっす! えへへっ」
響「そういえばさ、春香。確かそのライト先生って、春香も家庭教師やってもらってるんだよね?」
春香「…………」
響「? 春香?」
春香「えっ。あ、ああ……うん。そうだよ」
響「もう。何春香までボーっとしてるんだ?」
春香「いや……別に。普通だよ」
千早「……春香」
春香「? 何? 千早ちゃん」
千早「いえ……なんでもないわ」
春香「そう」
千早「…………」
あずさ「春香ちゃんはライブのリーダーですものね。きっと目に見えない重圧とか不安とか……感じてるんじゃないかしら」
春香「あずささん。……そうですね。それはあるかもしれません」
伊織「……バカね。あんた一人で気負ったってしょうがないじゃない」
春香「伊織」
伊織「もし間違えたって、転びそうになったって……なんとかしてみせるわ。それが私達でしょ?」
春香「……ん。そうだね。ありがとう。伊織」
伊織「べ、別にいいわよ。お礼とかは……」
亜美「いよっ! 出ました! いおりんのツンデレ!」
真美「いや~、やっぱ一日一回はこれを聞かないとね~」
伊織「そ、そんなに言ってないでしょ! っていうか別に私ツンデレじゃないし!」
アハハ……
美希「…………」
千早「どうしたの? 美希。今日はやけに大人しいじゃない」
美希「千早さん」
千早「緊張してるの?」
美希「んー……そうだね。そうかも」
千早「……そう」
美希「…………」
千早(何かしら? この感じ……)
千早(さっき、春香にも同じような雰囲気を感じた)
千早(一見、普段通りの美希と春香のはず。なのに……)
千早(上手く言葉にできない。違和感、と言うべきなのかしら)
千早(……もちろん、ライブ前で私の気持ちが昂っているから、普段通りの二人がそう見えているだけなのかもしれないけれど……)
千早「…………」
P「はーい。注目注目」
亜美「そういえば兄ちゃんが喋ってる途中なのであった」
真美「もうすっかりだべりモード入っちゃってたね」
P「まあぶっちゃけもうこれ以上特に言うことも無いんだが、一応締めるだけ締めとくぞ」
P「兎にも角にも、泣いても笑っても明日で最後だ。皆、今日はなるべくリラックスして過ごし、明日の本番に備えるようにな」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
P「じゃあ最後、律子からも一言頼む」
律子「あ、はい。えっと……まあ正直言って、私からももうあんまり言うことは無いんだけど……今日はとにかく、栄養のある物を食べて早く寝ること。もし興奮して寝付けなくても、明かりを消してベッドに横になるだけでも疲れは取れるから、絶対に夜更かしはしないこと」
律子「そして、一番大切な事は……これまで積み重ねてきた時間と努力。そして自分の仲間を信じること」
律子「私からは以上よ。頑張ってね! 皆!」
アイドル・ダンサー一同「はい!」
P「よし。では、今日はこれにて解散。自主練は……するなとは言わんが、本当に程々にな」
P「明日を俺達765プロにとって、そして応援してくれるファンの皆にとって……最高の一日にしよう!」
アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」
(クールダウンしながら雑談しているダンサー一同)
奈緒「は~。遂に明日が本番かー……」
美奈子「奈緒ちゃん……もしかしてまた緊張してるの?」
奈緒「いや……もう大丈夫や。これまでずっと、ここに居る皆で一緒に頑張ってきたんやし……さっき律子さんも言うとったけど、後は今までの努力を信じるだけや!」
美奈子「おおっ! その意気だよ! 奈緒ちゃん!」
星梨花「そ、そうですよね……できる……できる……できる……」
百合子「せ、星梨花ちゃん。顔、強張ってるよ」
星梨花「えっ。あ、あわわ……」
奈緒「星梨花。別に緊張するんは悪いこととちゃうで? 私も、今大丈夫や言うたとこやけど……せやかて、全く緊張してないなんてことあらへんし」
星梨花「奈緒さん……」
美奈子「そうだよ。こんな大きなステージ、765プロの先輩達でさえ初めてなんだから。私達が緊張するのは当たり前だって」
星梨花「美奈子さん。……そうですよね」
星梨花「お二人とも、ありがとうございます。わたし、少し気持ちが楽になりました」
奈緒「ま、どうせ明日はもっとガチガチに緊張してまうんやろうから、それならいっその事、その緊張を楽しんだろうや」
杏奈「杏奈も緊張してる、けど……うん。それも含めて……楽しみたい、と思ってる……よ。ここに居る皆と……一緒に」
百合子「そうだね。杏奈ちゃん。緊張も不安も全部ひっくるめて……皆で一緒に楽しんじゃおう!」
杏奈「百合子さん。……うん。……ありがとう」
可奈「…………」
志保「……可奈?」
可奈「えっ」
志保「どうしたのよ。今日はえらく大人しいじゃない」
可奈「あー……いや、別に。普通だよ?」
志保「本当? まさか今になって『やっぱり辞めたい』なんて……思ってるんじゃないでしょうね」
可奈「へ? なんで?」
志保「だ、だってほら、その……合宿の時、私、あなたに……」
可奈「合宿? ……あー。『ついてこれないようなら、早めに言った方がいいんじゃない』ってやつ?」
志保「そ、そうよ。……やっぱり、気にしてる……の?」
可奈「あはは。そんな、まさか」
志保「可奈」
可奈「そんな昔の事、もうすっかり忘れてたよ」
志保「可奈……」
可奈「今私が思ってるのは、ただ一つ……『明日のライブを全力で頑張って、成功させたい』って事だけだよ。765プロの先輩達と、ダンサーの仲間の皆と」
可奈「そしてもちろん……志保ちゃんと」
志保「! ……可奈……」
奈緒「なんかもうツッコむ気すら失せるほどの夫婦感やな」
志保「な、奈緒さん!」
杏奈「完全に、二人だけの世界……」
百合子「めくるめく禁断の果実!」
星梨花「お二人とも、仲良しさんでうらやましいです!」
美奈子「わっほ~い! 皆、私のご飯を待たずしてもうお腹いっぱいだねっ!」
志保「も、もう! 皆してからかわないでよ!」
アハハ……
可奈「…………」チラッ
(他のアイドル達と話している美希と春香を見やる可奈)
美希「――――」
春香「――――」
可奈「…………」
可奈(いつも通り……そう。いつも通りのはず……なんだ)
可奈(でも、どうしてだろう?)
可奈(ここ数日、星井先輩の顔を見るたび……なぜだか胸がきゅぅってする)
可奈(いや、星井先輩だけじゃない。天海先輩の顔を見ても……そうなる)
可奈(私……どうしちゃったんだろう。ライブ前だから変に気が張ってるのかな……?)
可奈(……うん。そうだよね。きっと……)
可奈(ライブさえ無事に終われば、きっと……)
可奈(また全部、元通りになる)
可奈(星井先輩も、天海先輩も)
可奈(そして……私も)
可奈(うん。だから何も心配する事なんてないんだ)
可奈(そう。何も……)
可奈「…………」
(アイドル・ダンサー一同の様子を遠巻きに見守っている社長、小鳥、プロデューサー、律子の四人)
社長「いやあ……それにしても、今日のリハーサルは本当に素晴らしかった。もう感無量だ。今思い出しても涙が止まらないよ」グスッ
小鳥「しゃ、社長。本番は明日ですから……まあ確かに、今日のリハだけでも十分過ぎるくらい感動しましたけど……」
律子「この分だと、明日は多めにハンカチを持ってこないといけませんね」
社長「ああ。そうだな……ん?」
P「…………」
社長「君、どうかしたのかね?」
P「えっ。あ、はい。何でしょう?」
社長「いや、何か考え込んでいたようだからね。明日のライブ本番を迎えるにあたって、心配事でもあるのかね?」
P「……ああ、すみません。心配とかじゃないんですけど……ただ、あいつらの……皆のこれまでの頑張りを思い返していたというか……そんな感じです」
社長「そうか。それならばいいが……」
P「…………」
小鳥「でも本当、報われてほしいですよね。あの子達の努力」
律子「大丈夫ですよ。皆、今までずっと頑張ってきたんですから」
社長「ああ。彼女達が積み重ねてきた努力については、今ここに居る我々が証人だ」
小鳥「ですね」
律子「楽しみに待ちましょう。明日が来るのを」
社長「うむ。そうだな」
P「…………」チラッ
(他のアイドル達と話している美希と春香を見やるプロデューサー)
美希「――――」
春香「――――」
P「…………」
P(明日、か……)
【同日夜・プロデューサーの自室】
P「…………」
P(結局、例の撮影の日の翌日から今日までの六日間は特に何も起こらなかった)
P(しかし明日もそうであるとの保証は無い)
P(Lは俺に言った。『アリーナライブの終了直後に美希と春香の尋問を行う』と)
P(一つ考えられるのは……そう言って俺を油断させておき、当日のライブ前、またはライブ中に二人の逮捕を強行するという可能性)
P(そしてもう一つは、ライブの終了後、あくまでも任意同行という体で二人を連行し――ここまでは俺に予告していた通りだが――その後、そのまま二人を逮捕してしまうという可能性だ)
P(この二つの可能性を比較すると……やり易さでは圧倒的に後者だろう。前者だと俺の不意は衝けるだろうが、肝心の美希と春香の正確な動きをL側では捕捉しきれない)
P(勿論後者の場合でも、土壇場で俺がLを裏切って……という可能性は当然想定しているだろうが……所詮、一個人に過ぎない俺にできることなんて限られている。まして相手は“世界の三大探偵”の一人……まともに太刀打ちできるはずもない)
P(全て分かっている……読んでいる……)
P(だからこそ、Lは……)
P「…………」
ピリリリッ
P「……通知不可能……」ピッ
L『Lです』
P「……ああ。明日の件の連絡だな?」
L『はい。といっても、前にお伝えした内容の確認ですが……』
P「ああ。分かってる。ライブ終了後、ミーティングの時間と場所を連絡すればいいんだな?」
L『はい。お手数ですがよろしくお願いします。それから……』
P「?」
L『会場内の電波状況によっては、電話やメールがつながらない可能性もゼロではありませんので……“念の為に”会場内の防犯カメラの映像は、警察の協力を得て私の方でも観るようにいたします』
P「!」
L『ただ勿論、監視対象は通路や入場・退場口等に限り……たとえばアイドルの皆さんの更衣室などは一切観ませんのでその点はご安心下さい』
P「……分かった。だがまあこの場合、それを観る、と言われたところで俺が拒否できるような話でもないんだろうがな」
L『そうですね。ですが私としても、必要以上に無関係な第三者のプライバシーを侵害するのは本意ではありませんので』
P「……そうか」
P(このタイミングでこの発言……牽制か)
P(もし俺がLを裏切り、自発的に連絡手段を絶ったしても……そんな行為には何の意味も無いと)
P(『二人の行動を監視する術など他にいくらでもある』と……先に釘を刺しておいたってわけだ)
L『……では明日、よろしくお願いします』
P「ああ。こちらこそ。じゃあまた明日な」
L『はい。それでは』ブツッ
P「…………」
P(美希……春香……)
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「――では明日、よろしくお願いします」
P『ああ。こちらこそ。じゃあまた明日な』
L「はい。それでは」ピッ
L「……これで、プロデューサーの方は良いでしょう」
月「ああ。防犯カメラの事を話したことで、直前で裏切っても意味が無いことも分かっただろうしな」
L「はい。無論彼なら、こちらがそう考えて話した事まで悟っているでしょうが……それで特に問題はありません」
月「そうだな。むしろその方がこちらとしても安心できる」
L「はい。それと月くん。高田の方ですが……」
月「ああ。高田にはさっき連絡しておいたよ。と言っても、前に伝えていた事の繰り返しだが……明日は予定通りにアリーナに来ること。もしミサが来たとしても慌てる事無く普通に応対すれば良いこと。そして僕と竜崎が場を離れるようなことがあればその時は粧裕を頼む、と」
L「ありがとうございます。助かります」
松田「ええと……確か、高田には明日の作戦の事は何も話してないんでしたよね?」
月「そうです。彼女には『明日は二人から怪しまれないようにすることだけを考えて、普通にライブに参加してくれればいい』としか伝えていません」
相沢「そうか。高田にはノートの事も伝えていないもんな」
月「はい」
総一郎「……竜崎」
L「夜神さん。娘さんが心配なお気持ちは分かりますが……高田が月くんの妹である粧裕さんにどうこうするはずもありませんし、そこは信用して頂いても問題無いかと――」
総一郎「違う。その事ではない」
L「では、何でしょう?」
総一郎「あれから六日間、皆で様々な知恵を出し合ったが……結局、『星井美希と天海春香を逮捕する際』における『死神の対策』については良いアイディアが浮かばなかった」
L「……そうですね」
総一郎「勿論、だからといって……それを理由にして二人の逮捕を見送るべきではない。現に、あの撮影の日以降もキラの裁きは毎日滞りなく行われている……」
総一郎「本当なら今すぐにでも二人を逮捕しなければならない状況……それをこれ以上先延ばしにしてはならない。その事は百も承知だ」
総一郎「だがその事と……実際に『誰が』二人の逮捕に向かうかは別の問題だ。そうだろう? 竜崎」
L「……まあ普通に考えて、殺される可能性が最も高いのは実際に逮捕に向かう人間ですからね」
総一郎「そうだ。だから竜崎。ライブ前およびライブ中の潜入・監視は皆に任せるが――……」
L「……ライブ後の二人の逮捕は自分にやらせてくれ……と?」
総一郎「……ああ」
相沢「! 局長」
松田「それは、局長一人で……って意味ですか?」
総一郎「……そうだ」
相沢・松田「!」
L・月「…………」
相沢「な、何を……」
松田「局長。何で、そんな……」
総一郎「……それは、勿論――」
月「それが自分の責任だから、とでも言うつもりか?」
総一郎「ライト」
L「…………」
月「背負い込み過ぎだ。父さん」
総一郎「しかし、私には刑事局長としての責任が……」
月「馬鹿な事を言うな。父さんはそれで死んでも満足かもしれないが、残された母さんや粧裕はどうなる」
総一郎「……それは……」
月「…………」
総一郎「……だが、誰かが命を懸けてキラを逮捕しなければならない。それも事実だ」
月「! 父さん」
L「あの」
総一郎「!」
月「竜崎」
L「白熱しているところ申し訳ありません。でも、実はもうその件は私の中では決めているんです」
総一郎「えっ」
月「決めている……だって?」
L「はい」
L「アリーナライブの全公演終了後―――私が一人で星井美希と天海春香の両名を逮捕します」
一同「!」
総一郎「竜崎が一人で……だと?」
L「はい」
月「ちょ……ちょっと待て、竜崎。ライブ終了後、僕も一緒に二人の逮捕に向かうんじゃないのか? だからこそ、その時は高田に粧裕を任せると……」
L「すみません。月くんにも今の今まで言っていませんでした」
月「な……」
総一郎「竜崎。あなたがそう考えたのは……私と同じ理由か?」
L「厳密には少し違いますが……責任という意味ではそうですね。この状況で真っ先に命を懸けなければならない人間がいるとしたら、それはやはり私しかありえないと思います」
L「最初にキラを捕まえると挑発したのはこの私なのですから」
総一郎「竜崎……」
L「皆さん。そういう次第ですので……どうかご了承頂けないでしょうか」
一同「…………」
月「……分かったよ。竜崎」
総一郎「! ライト」
月「前に父さんも言っていたが……今日までこの本部の指揮を執ってきたのは竜崎だ。なら最後の作戦の遂行においても竜崎の意思を尊重すべきだ」
月「僕はそう考える」
総一郎「…………」
L「ありがとうございます。月くん」
松田「分かりました」
相沢「松田」
松田「僕達がここまで死なずにやってこれたのも、竜崎がずっと指揮を執ってくれていたおかげですから。僕も竜崎の意思を尊重します」
相沢「……そうだな。なら俺も信じて、任せよう。……よろしく頼む。竜崎」
L「お二人とも、ありがとうございます」
総一郎「…………」
L「夜神さん」
総一郎「……分かった」
総一郎「だが、少しでも危険を感じたらすぐに作戦を中止してくれ。たとえ命を懸けるのだとしても、『やすやすと命を捨てるような行動を取るべきではない』……これは他ならぬ、あなたが言った事だ。竜崎」
L「ありがとうございます。それは勿論そのつもりです。夜神さん」
月「…………」
L「それから、当日の監視要員の件ですが……夜神さん。警察庁内から有志を募って頂く件はどうなりましたか」
総一郎「ああ。二名志願してくれた」
L「そうですか。ありがとうございます。では、明日は朝9時にこのホテルに来るように伝えておいて下さい」
総一郎「分かった」
L「よろしくお願いします。それと私も二人ほど、別口で応援要員を呼ぶことができましたので……明日は会場に向かう前に全員で最後の打ち合わせをしようと思います」
L「では、いよいよ泣いても笑っても明日です。頑張りましょう」
一同「はい!」
月「…………」
【同時刻・海砂の自室】
海砂「…………」
海砂(あの撮影の日以来、ライトからも美希ちゃんからも何の連絡も無いまま……明日は、765プロのアリーナライブの日)
海砂(ミサは……うん。行かない方が良いよね)
海砂(美希ちゃんから特に指示が無い以上……それが賢明のはず)
海砂(第一、美希ちゃんの傍にはあの死神が居るんだろうし……あんなの見ながら、ライブ中ずっと平静を装うなんて絶対無理)
海砂(それにライトなら、ミサの様子がおかしいことにすぐ気付いちゃうだろうし……)
海砂「…………」
海砂(……ライト……)
海砂(っと、いっけない。また弱気に……)
海砂(しっかりしなきゃ。ライトならきっと大丈夫)
海砂(だってライトは、ミサにとっての白馬の騎士……ナイトなんだから)
海砂(そうだよ。だから今のミサにできることは、ライトの事を信じ続ける事だけ)
海砂(……大丈夫。たとえこの先何があっても、ライトとミサの未来はきっと明るい)
海砂(そう。きっと……)
海砂「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】
(部屋のベッドの上で仰向けになっている星井父)
星井父「…………」
星井父(明日はアリーナライブの日か……)
星井父(そういえば少し前に……美希に『パパにも来てほしかった』って言われたっけ)
星井父(……ごめんな。美希。パパ、観に行ってやれなくて)
星井父(本当……ごめんな)
星井父「…………」
【二時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(他の捜査員の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)
月「……思いの外、上手くいったな」
L「そうですね。むしろ夜神さんが先に『自分一人で逮捕する』と言い出してくれたおかげで自然な流れが作れたともいえます」
月「確かに。運が良かったな」
L「……でも、本当に良いんですか?」
月「? 何がだ?」
L「お父さんや他の皆に嘘をついてまで、ライブ後に私と共に二人の逮捕に向かうことが……です」
月「…………」
L「確かに、私が死神に殺されるとした場合、おそらく月くんもほとんど同時に殺されるでしょうが……それでも、その場に居る場合と居ない場合とでは可能性の程度が異なります」
L「それをわざわざ高めるような真似は……今更ながら、やはりお勧めできることではありません」
月「本当に今更だな。その話ならもうしただろう」
L「……どうせ死ぬなら、その死の瞬間まで勝つ可能性を探求し続けたい……ですか」
月「そうだ。だから僕は、たとえ殺されるとしても最期の最後まで現場を見届けて死にたい。死の間際でも、父達に何かしらのメッセージを残すくらいの事はできるかもしれないしね」
L「……月くんがそこまで強い意志を持っておられるのであれば、私の方からはもう何も言うことはありません。それに……」
月「? それに?」
L「今のこの状況ですと、『私が死んだら月くんにLの名を継いでもらう』という計画もあまり意味が無いものになってしまいましたしね」
月「ああ。竜崎の死と僕の死がほぼ同義になってしまったからな」
L「はい」
月「だが、そもそもこの前の話だと……竜崎の後継者は既に別にいるってことだろう? ならあえて僕に継がせる必要も無かったんじゃないか?」
L「いえ。あの時も言いましたが、彼らはまだ幼い。だからもし今、私一人だけが死んだとしたら……Lの名を継ぐことができるのはやはり月くんしかいません」
月「じゃあ数年後なら?」
L「それなら……分かりませんね。ただ……」
月「ただ?」
L「私の生死は別にしても……近い将来、月くんと私の後継者となりうる者達とが、次代の“L”の座を巡って争うとしたら……ちょっと面白いかもしれませんね」
L「……少しだけ、そんな未来を見てみたくなりました」
月「一応言っておくが……僕が『Lの名を継ぐ』と言ったのは、あくまでも『今、竜崎が死んだら』の話だ」
月「竜崎が死ぬことなく、キラ事件を解決に導くことができれば……僕は当初の予定通り、父の後を追って警察に入るよ」
月「それが僕の夢であり、目標だからね」
L「……そうでしたね。少し残念ですが……でも」
月「?」
L「警察に入った月くんが、私と、または私の後を継いだ者達と組んで、より難解な事件に立ち向かう……」
L「私は、そんな未来も見てみたいですね」
月「……ああ。それは僕もだよ。竜崎」
【同時刻・美希の自室】
美希「…………」
ピリリリッ
美希「……春香」ピッ
美希「ミキなの」
春香『美希。まだ起きてた?』
美希「うん。どうかした?」
春香『……美希に一言だけ、言っておきたくって』
美希「? 何?」
春香『明日のライブ、絶対成功させようね』
美希「!」
春香『そして必ず、765プロの皆と一緒に―――トップアイドルになろう!』
美希「春香」
春香『他の誰でもない、私達自身の力で』
美希「…………」
春香『ね? 美希』
美希「……うん」
美希「もちろんなの。春香」
美希「絶対にトップアイドルになろう」
美希「ミキ達自身の力で」
春香『……うん!』
美希「…………」
春香『…………』
春香『じゃあ、また明日ね』
美希「うん。また明日」
春香『……おやすみ。美希』
美希「……おやすみ。春香」
(春香との通話を終えた美希)
美希「…………」
リューク「いよいよだな。ミキ」
美希「うん」
美希「ミキ達の邪魔は、誰にもさせない」
続き
美希「デスノート」 3冊目【3】

