一つ前
美希「デスノート」 2冊目【2】
【一日前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
L「では早速お願いします。月くん」
月「ああ」ピッ
月「…………」
海砂『ライト?』
月「ミサ。今ちょっと話せるか?」
海砂『うん、いいよ! 今日は随分早いんだね』
月「まあね」
海砂『あっ! もしかして、もうミサの声が聞きたくて聞きたくて仕方無かったってカンジ?』
月「まあね」
海砂『もー。だったらもっといっぱい電話してきてくれてもいいのにー』
月「まあね」
相沢「……月くん、さっきから『まあね』しか言ってないが……」
松田「ミサミサと付き合うことになってから、毎日必ず電話してるそうっすけど……大体いつもこんな感じらしいっすよ」
相沢「……弥はいいのか? それで……」
松田「いいんじゃないっすか? イケメン大正義ってことで」
相沢「そういうもんなのか」
松田「そういうもんっすよ……はぁ」
海砂『……っていうか、ライト……』
月「ん? どうした? ミサ」
海砂『ミサ達が付き合ってから明日で二週間になるけど……まだ、会えないの……?』
月「ああ。今日はその事で電話したんだ」
海砂『! じゃあ……もう会えるようになったってこと?』
月「ああ」
海砂『! やったぁ! ねぇねぇ、じゃあいつ会えるの? もしかして今日?』
月「今日は無理だが……ミサの都合さえつくようなら、明日にでも会いたいと思ってる。どうかな?」
海砂『うん、もちろんオッケーだよ! ホントは今すぐにでも会いたいところだけど……でもきっと、ライトにも事情があるんだよね?』
月「ああ……すまない」
海砂『ううん。ミサ、平気だよ。二週間も我慢してたんだから、あと一日くらい何てことないって』
月「ありがとう。……ところで、ミサ」
海砂『? 何? ライト』
月「少し大事な話がある。驚かないで聞いてくれ」
海砂『えっ。ら、ライト……まさかもうプロポーズ? それはいくらなんでも気が早過ぎるような気がするけど……ううん。でも、ライトが望むならミサはいつでも……』
月「……そうじゃない。ミサ。今まで黙っていたが……僕は君の秘密を知っている」
海砂『え?』
月「君のご両親の事。そして……君がキラを崇拝している事をだ」
海砂『!』
海砂『……そっか。知ってたんだ』
月「ああ」
海砂『……まあ、秘密ってほどでもないけどね。両親の事なら普通にネットに出てるし……キラの事も、ミサ、たまにブログとかに書いてるし』
海砂『流石に大っぴらに書いちゃうとヨッシーに怒られるから、さりげなくだけどね』
月「…………」
海砂『でもライト、何で今になってその事を……?』
月「…………」
海砂『もしかして、ミサが今まで黙ってたから怒ってるの?』
月「違うよ」
海砂『じゃあ、ミサがキラを崇拝してることを良く思ってないとか……? ライトのお父さんは刑事さんだし、ライトの将来の夢も同じ……』
月「違うよ」
海砂『じゃあ』
月「それは僕がキラだからだ」
海砂『!?』
月「…………」
海砂『ら、ライト。今、何て……?』
月「僕がキラ。そう言ったんだ」
海砂『…………』
月「信じられないか? まあ無理も無い」
海砂『あ、いや……信じられないっていうか、その、ちょっとびっくりしたっていうか……』
月「…………」
海砂『えっと、冗談……じゃないんだよね?』
月「もちろん」
海砂『…………』
月「まあ、すぐに言われても信じられないのは仕方が無い。詳しい事は明日改めて伝えるよ。……高田さんと一緒に」
海砂『? 清美ちゃん? 何で?』
月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」
海砂『!』
海砂『清美ちゃんも、キラを……』
月「そうだ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」
海砂『! じゃあそれがミサと……清美ちゃんってこと?』
月「そうだ」
海砂『……じゃあ、ライトがその、ミサと……』
月「でも」
海砂『!』
月「君への気持ちは嘘じゃない」
海砂『! ……ライト……』
月「高田さんにも協力は依頼するが、それはあくまでもキラの仲間としてだけで、特別な感情は無い」
海砂『…………』
月「だがミサ。君は違う」
海砂『! …………』
月「君にもキラの仲間として協力してもらいたいのは事実だが……それ以上に、僕のパートナーとして……ずっと傍に居てほしい」
海砂『ライト……』
月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」
海砂『……分かった』
月「ミサ」
海砂『正直、まだだいぶ混乱してるけど……でも、ライトがミサのことをすごく大切に想ってくれてるってこと……それだけは信じるよ』
月「ありがとう。ミサ。ただ僕との関係についてはまだ誰にも言わないでくれ。便宜上、高田さんには僕の方から伝えるが」
海砂『うん。分かったよ』
月「じゃあミサ。また明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」
海砂『ありがとう。……ねぇ、ライト』
月「ん?」
海砂『たとえライトが何者でも、何をしようとしていても……ミサはライトのこと、ずっと大好きだからね』
月「……ああ。僕もだよ。ミサ」
月「…………」ピッ
月「……ふぅ」
L「お疲れ様です。月くん。では続けてお願いします」
月「……ああ。分かってるよ」ピッ
松田(竜崎、容赦無いな……)
清美『夜神くん?』
月「高田さん。急にごめんね。今ちょっといい?」
清美『え、ええ……いいけど。どうしたの?』
月「実は君に……確かめておきたいことがあって」
清美『? 何?』
月「高田さん。君は……キラを崇拝しているね?」
清美『! …………』
月「…………」
清美『……流石ね。夜神くん。この前、少しキラについて話しただけで……分かってしまったのね』
月「ということは、やはり……」
清美『ええ、そうよ。あなたの言うとおり……私はキラを崇拝しています』
月「……そうか」
清美『でも、どうしてわざわざそんなことを?』
月「…………」
清美『夜神くんは警察志望……そんな夜神くんからすればキラは悪。ゆえにキラに賛同している私の考えを正そうと?』
月「違う。そうじゃない」
清美『じゃあ』
月「いいかい。清美……僕がキラなんだ」
清美『!? 夜神くんが……キラ?』
月「そう。僕がキラ……ただそれだけの事だ」
清美『…………』
月「信じられないか?」
清美『い、いえ……ただ少し、驚いたというか……その、唐突だったから……理解が追いついていなくて』
月「そうだな。無理も無い。ただ口で言っただけで信じろというのも酷な話だ」
清美『…………』
月「だから清美。明日僕と会ってくれないか?」
清美『! あ……明日?』
月「ああ。明日直接会って……全てを君に話したい」
清美『……分かったわ』
月「ありがとう。それともう一つ、言っておくことがある」
清美『? 何?』
月「明日会うのは二人きりじゃない。弥海砂も一緒だ」
清美『えっ。み、海砂さん? ……何で?』
月「……僕は今、弥海砂と付き合う形を取っている」
清美『!? そ、それはどういう……?』
月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」
清美『! 海砂さんも……?』
月「そうだ。詳しい情報はネットにも出ているが……彼女は両親を強盗に殺されており、その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝している」
清美『……そうだったの……』
月「ああ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」
清美『それが私と……海砂さんということ?』
月「そうだ。僕が弥と付き合う形を取ったのはまさにそのためだ」
清美『! …………』
月「今から二週間ほど前、彼女は僕に告白をしてきた。正直言って、僕は彼女に特別な感情などは全く無かった。だが自分の目的を果たすためには、彼女の好意を無下にするわけにはいかなかったんだ」
清美『……じゃあ、夜神くんはその『やろうとしている事』のために海砂さんと付き合う形を取っているだけ……ということ?』
月「そうだ。そして……」
月「僕が本当に想っているのは君だ。清美」
清美『! …………』
月「今から一か月ほど前……君が僕に告白してくれたときは本当に嬉しかった」
月「だが僕は自分の目的のために弥に接触し、彼女と信頼関係を築いておく必要があった。だから君の告白を受けるわけにはいかなかったんだ」
清美『…………』
月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」
清美『……分かったわ』
月「清美」
清美『正直、まだ完全には頭の整理ができていないけど……今話してくれた夜神くんの気持ち……これだけは信じるわ』
月「ありがとう。清美。だが今話したことは絶対に弥には秘密にしてくれ。また便宜上、これからは弥も含めて三人で会う時は弥のことを下の名前で、君のことはこれまで通り名字で呼ぶが許してほしい」
清美『分かったわ。海砂さんの前では、私とあなたはあくまでただの友人関係ということね』
月「その通りだ。流石は清美。理解が早くて助かるよ。ではまた明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」
清美『あっ』
月「ん?」
清美『……夜神くん。私は全部あなたの言うことに従うわ。でもこれだけは約束してくれる?』
月「何だい? 清美」
清美『夜神くんの目的が全うされて、もう海砂さんと付き合う形を取る必要が無くなったときは……その……』
月「ああ。分かっている。そのときはちゃんと弥との関係にけじめをつけて……今度は僕の方から君に想いを伝えるよ」
清美『! 夜神くん……』
月「それでいいか? 清美」
清美『……はい』
清美『楽しみに待っています。その日が来るのを』
月「……ああ。僕もだよ。清美」
月「…………」ピッ
月「……ふぅ」
L「お疲れ様です。月くん」
月「ああ。ありがとう。竜崎」
松田「なんていうか……流石は月くんって感じっすね……。現役のアイドルとミス東大候補の二人を同時に相手取るなんて……」
相沢「二人に言ってる台詞ほとんど同じだったけどな……」
松田「いいんすよ、言ってる内容なんて何でも。結局はイケメン大正義なんすから」
相沢「お前それ、言ってて虚しくならないか?」
松田「……なります」
相沢「……すまん」
総一郎「しかし今更だが……やはりライトがキラを名乗るというのは……」
L「夜神さん。お気持ちは分かりますが、少なくともキラ崇拝者である二人に対して『キラを追う者』を名乗るよりは遥かに安全な策かと」
総一郎「それはまあ……そうだが」
L「それに何より、弥海砂と高田清美はどちらも月くんの虜……この二人が星井美希・天海春香の両名に月くんを売ることはまずありえません」
総一郎「そうだな……そもそも、私も事前に承諾していた策だ。もうこれ以上とやかくは言うまい」
L「ありがとうございます。では月くん。明日、よろしくお願いします」
月「……竜崎」
L「? はい。何でしょう」
月「……仮にキラを捕まえられても、僕がミサか高田に殺されるような気がするんだが」
L「月くんなら大丈夫です」
月「何を根拠に……まったく、そのときはお前も一緒に頭を下げてくれよ。場合によっては土下座でもだ」
L「もちろんです。地獄の果てまでお付き合いすることを約束します」
月「……それ結局死んでるだろ」
【現在・都内某駅近くのホテルの一室】
月「僕は―――キラだ」
月「いや、正確には……『キラだった者』……か」
海砂「……『だった』?」
月「ああ」
清美「どういうことなの? それは……」
月「簡単な事だ。僕はかつてキラとして活動し、犯罪者裁きをしていたが……今はそれをしていない」
月「なぜなら……今の僕は、キラとしての能力の大半を別の者に奪われてしまっているからだ」
海砂「!」
清美「能力を……奪われている?」
月「そうだ。では、もう少し詳細に説明しよう」
月「僕がキラの能力を得たのは……昨年の11月の半ば頃だった」
月「『直接手を下さずに心臓麻痺で人を殺せる』という超常的な力を得た僕は、その力を使って世にはびこる犯罪者達を一斉に裁き始めた」
海砂「…………」
清美「…………」
月「だが……今年の2月頃」
月「僕の能力が何者かによって奪われた」
海砂「!」
清美「…………」
月「より正確に言うと、僕が奪われたのは『能力の大部分』であり……キラとしての力を全く使えなくなってしまった、というわけではなかった」
月「だがそれまでと比べ、僕のキラとしての殺傷能力は大幅に制限されることになってしまった。そのため、以前のように……この世にはびこる凶悪犯を軒並み粛清する、などといったことはできなくなってしまったんだ」
月「僕は焦った。僕の理想とする、真面目で心の優しい人間だけの世界をつくること――すなわち、新世界の創世――が、道半ばにして頓挫してしまうのではないかと」
海砂「ライト……」
月「そして僕は考えた。自分に残された僅かな力をどう使っていくべきか……少なくとも、これまでと同じペースで犯罪者を裁き続けていくことなどはもうできない」
月「結局、当面の間の暫定措置として……既に起訴されており、僕が手を下さずとも裁判で有罪判決を受ける可能性が高い者などは見逃すことにした」
月「自分の手で犯罪者を裁けないことに対する悔しさはあったが、自身の置かれた状況を鑑みると仕方無かった」
月「……しかし」
清美「? しかし?」
月「そうやって、裁きの範囲に制約を掛けるようにした直後……『僕が裁いていない犯罪者』が心臓麻痺で死んだ」
海砂「!」
清美「それって……」
月「そう。そこで僕は気付いたんだ。『僕から能力を奪い、僕に代わって犯罪者裁きを行っている者がいる』ということに」
月「つまりその者が……今のキラだ」
海砂・清美「! …………」
月「二人とも……もう大体の事は飲み込めたか? 今日、君達にこんな話をしたのは……僕が今のキラから力を取り戻し、そしてもう一度、僕の手で犯罪者裁きを再開する……これを実現するための協力を頼みたいからだ」
海砂「! ……今のキラから力を取り戻す……」
清美「そして夜神くんが、犯罪者裁きを再開する……つまり……」
海砂「ライトがキラに……戻る」
月「そうだ」
海砂「で、でもそれ……もう誰か分かってるの? その……ライトからキラの力を奪った人……って」
月「ああ」
海砂「! だ……誰なの? それ……」
月「その話より先に……しておくべきことがある」
海砂「え?」
月「僕がキラであることの……いや、キラであったことの証明だ」
海砂・清美「!」
月「正直言って、二人とも……まだ半信半疑といったところだろう? 僕がキラの能力を持っている、ということについては」
海砂「そ、そんなこと……ミサはライトの事、信じてるし……」
清美「……私もよ。夜神くん」
月「ありがとう。ただ理性と感情は別だからね。君達が信じたいと思ってくれる気持ちは嬉しいが、やはり言葉だけでは完全に信じ切るのは難しいだろう」
月「だから、今からそれを証明する」
海砂「い、今から?」
月「そうだ。……高田さん」
清美「えっ。は、はい」
月「君は以前、言っていたね。将来アナウンサーになるための勉強の一環として、キラ事件についてのニュースを研究していると」
清美「え、ええ……そんなに大したことはできていないけど……」
月「では、そんな君の目から見て……最近のキラの裁きに何か不審な点は無かったか? どんな些細な事でもいい」
清美「最近? 最近……あっ」
海砂「? 何?」
清美「ここ数日の話だけど……本来ならキラが裁いているはずの凶悪犯が数名……何故か未だに裁かれていないわ」
月「! …………」
海砂「え? そうなの?」
清美「ええ。先週の水曜日から一昨日までの四日間で報道された犯罪者のうち……一日あたり一人ずつ、計四人の犯罪者が未だに裁かれていない」
清美「これまでキラは、遅くとも犯罪者の報道がされてから24時間以内には裁いていたわ。それがこの四人については、いずれも最初の報道時から既に24時間以上が経過している……これまでのキラの裁きの傾向を考えると明らかに不自然」
月「…………」
月「……正解だ。流石は高田さん」
清美「夜神くん」
月「ちなみに、以前にも同じようなことは無かった?」
清美「以前……ええ。そういえば以前にもあったわ。確か、名前を間違われて報道された犯罪者と、顔写真を取り違えられて報道された二人の犯罪者……この三人については、最初の報道の後には裁かれず、数日後、正しい名前と顔写真での訂正の報道がされた後に三人とも裁かれていたわ」
月「その通り。これも正解だ」
海砂「へー、そんなことあったんだ……全然知らなかった」
月「今、高田さんが説明してくれた間違った報道の件は、まだ僕がキラとして裁きをしていた頃の話だが……最初の報道の時に裁けなかったのは、殺すための条件が足りていなかったからだ」
清美「殺すための条件……誤っていた報道の内容を考えると……『名前』と『顔』?」
月「そうだ。キラの裁きにはその二つの条件が必要となる。だからそれらが間違って報道されていた犯罪者については、僕はすぐに裁くことができなかった」
海砂「へー」
清美「ということは……今回、まだ裁かれていない四人の犯罪者についても同じ……? つまり、名前や顔が間違って報道されている……?」
月「いや、この四人についてはそうではない。全員、顔も名前も報道された通りで合っている。特殊なルートで照会を掛けたから間違い無い」
海砂「特殊なルートって?」
月「それについては後で話すよ」
海砂「もー、ライトったらさっきからそればっかじゃん」
月「そう言うなよ、ミサ。物事の説明には順序ってものがあるんだ。……で、この四人の犯罪者については名前も顔も合っているのに、何故裁かれていないのか、ということだが……その理由は極めて単純なものだ」
清美「単純?」
月「そう。一言で言えば……単なる裁き漏れ」
海砂「えっ」
清美「裁き……漏れ?」
月「ああ。これも後でまとめて説明するが……先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定される。ゆえに本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった」
海砂「見逃してしまった、って……」
清美「…………」
月「ともあれ、結果的にこの四人の犯罪者は今も生きている。これを利用して……僕は今から君達に証明する」
月「僕がキラの力を持っている、ということを」
海砂・清美「!」
月「さっきも言ったが……能力の大部分を奪われてしまったとはいえ、それでも力が完全に失われたわけではない」
月「四人程度なら造作も無い」
海砂「じゃ……じゃあライト、その、今から……」
清美「…………」
月「では、悪いが二人とも向こうを向き、そのまま目を閉じてくれ」
月「僕がいいと言うまで絶対に振り返らないように」
海砂「わ、分かった……」スッ
清美「…………」スッ
(月に背を向け、目を閉じる海砂と清美)
月「よし。では少しの間、そのままで」
海砂「…………」
清美「…………」
月「…………」
月(そろそろいいか)
月「いいよ。二人ともこっちを向いて」
海砂・清美「!」クルッ
月「――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した」
海砂・清美「! …………」
月「おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう」ピッ
(部屋にあるTVをつける月)
月「悪いが、このままもう少しだけ待っていてくれ」
海砂「…………」
清美「…………」
【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
月『――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した』
月『おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう』
総一郎「模木。今の時間は」
模木「17時31分です」
総一郎「分かった」ピッ
総一郎「……もしもし。警察庁の朝日です。ええ。以前お伝えしていた件で……」
総一郎「そうです。四人まとめて……はい。死亡時刻は本日17時30分頃とし、速報のテロップは18時頃にお願いします」
総一郎「はい。ご協力感謝します。それでは」ピッ
総一郎(後は……)
総一郎「…………」ピッ
総一郎「朝日だ。捜査ご苦労。星井美希の動きはどうだ?」
松田『松井です。お疲れ様です。今日は仕事はオフだったようで、学校からまっすぐに帰宅しました。今は在宅です』
総一郎「分かった。今から30分後に例の報道を流すから、一応18時半……いや、19時頃までは張っておいてくれ。それまでに目立った動きが無ければ今日はそのまま直帰していい」
松田『分かりました。後、さっき相原さんから連絡がありまして、はるる……天海春香は、今日はロケでずっと新宿のスタジオにいるそうです』
総一郎「分かった。ではいつものように帰宅までは見届けるように伝えておいてくれ」
松田『分かりました』
総一郎「よろしく頼む。では」ピッ
模木「局長。1番から6番のモニターを各テレビ局の画面に切り替えました。月くん達がいる部屋の監視カメラの映像は7番のサブモニターに」
総一郎「分かった。さて……」
星井父「…………」
【三十分後・都内某駅近くのホテルの一室】
(無言でTVの画面を見つめ続けている月、海砂、清美)
月「…………」
海砂「…………」
清美「…………」
月「あっ」
海砂・清美「!」
(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)
海砂「! ……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……」
清美「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これ、さっき私達が話していた……」
海砂「ってことは、これ、今、ライトが……?」
月「もちろん、これで100%の証明になるというわけではないが……でもある程度は、信じてもらえたんじゃないかな」
海砂「……うん。信じる……信じるよ。ライトがキラなんだって」
清美「私も信じます。夜神くんが……キラなのだと」
月「ありがとう。二人とも。ただ正確には『キラだった』だけどね」
海砂「ううん。ライトはキラ……いや、キラはライトだよ」
月「えっ?」
海砂「だって、ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのはライトでしょ? あれ、去年の11月だったから」
月「ああ。それは……そうだが」
海砂「だから、ミサにとってのキラは……ライトしかいないんだよ。初めからずっと……ね」
月「……ありがとう。ミサ」
清美「私も……」
月「高田さん」
清美「どんな事情があったにせよ、四人もの凶悪犯を裁き損ねるようなキラはキラとは呼べません。私の信じるキラはあなた一人よ。夜神くん」
月「……ああ。ありがとう。――ミサ。高田さん」
海砂「? 何? ライト」
清美「夜神くん?」
月「僕は今ここで、君達に約束しよう」
月「僕は必ず、今キラの力を行使している者から力を取り返し……再び自らの手で犯罪者を裁いていく。そして悪人のいない、心の優しい人間だけの世界をつくる」
月「それが僕の……キラの目指す理想の世界の創世」
海砂「ライト」
清美「夜神くん」
月「そして僕は……新世界の神となる」
【同時刻・美希の自室】
(所在無げにTVを見ている美希)
美希「…………」
リューク「ククッ。随分退屈そうにしてるな。ミキ」
美希「別に退屈なんてしてないの」
リューク「そうか?」
美希「考えることは山ほどあるの。リンゴ食べて寝るだけの死神風情と一緒にしないでほしいって思うな」
リューク「…………」
美希(今、ミキがすべきことは……)
美希(アリーナライブを絶対に成功させる事と……そして)
美希(Lから春香を守る事)
美希(……そのためには……)
(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)
美希「? ニュース速報?」
美希「……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……!?」
美希「何で……? だってミキ、今日の分の裁きはまだ……」パラパラ
美希「! まさか春香が……? いや、でも春香がミキに何も言わずに勝手に裁きをするはずは……」
美希「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これって……」
リューク「あれ? これ……合宿中にミキが裁いたのに報道されなかった、って奴らじゃないか?」
美希「…………」
リューク「何で今更になって報道されてるんだ? 警察が情報を隠してたってことか?」
美希「違う……」
リューク「え?」
美希「確かに今更になって報道されたのも気になるけど……一番注目しないといけないのはそこじゃないの」
美希「『本日17時30分頃』……今、テロップには確かにそう出ていた」
リューク「? それがどうかしたのか?」
美希「単に報道が遅れてされたってだけなら、まだ何か事情があったのかもしれないって思えるけど……」
美希「『犯罪者が死んだ日時』まで実際と違う日時にされてるのは……流石に意味が分からないの」
リューク「ああ、そういうことか」
美希「あの四人の犯罪者は、確実に合宿期間中にミキが裁いている……全員、裁いた後に春香に死神の目で死んでいる事を確認してもらったから間違い無いの」
美希「ということは……『実際は数日前に裁かれていた犯罪者を、今日裁かれたことにした』……そういう情報操作が――おそらくはLによって――されたってことなの」
リューク「でも、そんな面倒な事して……一体誰が得するんだ?」
美希「それが分かったら苦労しないの。黙ってて死神」
リューク「…………」
美希(分からない……分からないけど……)
美希(なんだか、とても嫌な予感がするの)
美希「…………」
【同時刻・都内某駅近くのホテルの一室】
海砂「ライトが、新世界の神に」
清美「夜神くんが」
月「そうだ。そして君達には……そのための協力をしてほしい」
月「……頼めるか?」
海砂「当たり前だよ。さっきも言ったけど、ミサにとってのキラはライトしかいないもん。ミサに出来ることなら何でもするよ」
月「ミサ」
海砂「それに何より、ミサは……誰よりもライトの事を愛してるからね」
月「ありがとう。ミサ。……高田さんは?」
清美「そうね。私は海砂さんとは違って、あくまでもお友達として、ですけど……夜神くんのことは尊敬していますし、私がキラの……夜神くんの考えに同調していることも事実です」
清美「だから私にとっても、キラである夜神くんの力になれるのならこの上なく嬉しいことだわ。喜んで協力させて頂きます」
月「ありがとう。高田さん」
清美(これでいいのよね。夜神くん。そして全てが終わった後には、海砂さんではなく、私と……)
月(そうだ。高田。それでいい……これならミサも疑わないだろう)
海砂(ライトが新世界の神になったら、ミサは女神になるのかな? 女神系アイドル……うん! なんかこれ売れそう!)
月「……では、二人とも僕をキラと信じ、協力してくれるということになったので……ここでもう一人、僕の協力者をこの場に呼びたいと思う」
海砂「えっ。もう一人?」
清美「他にも協力者がいたの?」
月「ああ。少し待っていてくれ」ピッ
月「……僕だ。ああ。二人とも協力してくれることになった。すぐに来てくれ」ピッ
月「別室に待機させていたから、すぐに来る」
海砂「…………」
清美「…………」
ガチャッ
月「来たか」
海砂「! えっ」
清美「あなたは……」
L「どうも」
海砂「竜崎さん……? 何で? え? ってことは、まさか……」
清美「彼が……?」
月「そう。竜崎ルエ……彼は僕の最初の協力者であり……」
月「君達と同じく、キラ崇拝者だ」
海砂・清美「! …………」
L「…………」
海砂「竜崎さんも、ライトの協力者で……」
清美「キラの崇拝者……ですって?」
L「はい」
海砂「全然知らなかった……てっきりただの春香ちゃんの大ファンの人だとばかり」
L「それは嘘です」
海砂「えっ」
清美「嘘?」
L「はい。私が今まで天海春香のファンだと言っていたのは嘘です」
海砂・清美「! …………」
L「それだけではありません。私の両親が交通事故で死んだということも、学校でいじめられていたということも、祖父の形見の面の話も、ずっと家にひきこもっていたということも、面を着けないと外出することもままならなかったということも、自殺しようと思っていたところを天海春香に救われたという感動的なエピソードも、そして月くんとオンラインゲーム上で出会ったということも……全て嘘です」
海砂「え……ええぇ!?」
清美「そ、それじゃあ……全部作り話だったってことですか? あの日……学祭の日に、私達に話したことは……」
L「はい。そうです」
海砂・清美「! …………」
月「二人とも……今まで騙していてすまなかった」
海砂「ライト」
清美「夜神くん」
月「…………」
海砂「……ライトは知ってたんだよね? 竜崎さんの話が……全部嘘だってこと」
月「ああ。勿論知っていた。知った上で……ずっと話を合わせていた」
海砂「…………」
清美「どうしてそんなことを……?」
月「簡単な事だ。竜崎は誰よりも早く僕に……キラに辿り着いた人間だったからだ」
海砂「キラに……辿り着いた?」
清美「どういうこと?」
月「その通りの意味さ。あれは……僕が今のキラに能力を奪われる一か月ほど前だった。竜崎はある日突然僕の前に現れ……こう言ったんだ」
月「『キラはあなたですね』と」
海砂・清美「!」
L「…………」
月「流石に焦ったよ。報道された犯罪者しか殺していないはずなのに、何故僕がキラだと特定できたのか……」
月「だが竜崎の話を聞いて納得した……いや、せざるを得なかった」
月「実は僕は……キラの能力を得てすぐの頃に、能力を試す意味も込めて……近所のコンビニの前で若い女性に絡んでいた、バイクに乗った不良風の男をキラの能力を使って殺していたんだ」
海砂・清美「!」
月「そしてその結果を目の当たりにした僕は……自分の能力に確証を得て犯罪者裁きを始めた」
月「僕はすぐに世間から『キラ』と呼称されるようになった。君達も知っての通りだ」
月「しかしその一方で、竜崎は『キラ』による犯罪者裁きが始まる直前の『心臓麻痺による犯罪者以外の死亡者』を独自に調べていた」
月「『キラが犯罪者裁きを始める前に手近な人間で能力を試していた可能性』を疑っていたからだ」
月「結果、僕が殺したバイクの男まで竜崎は辿り着いた。そしてその時の目撃証言を洗い出して僕を特定した」
海砂「! すごっ」
清美「そんなことが……」
月「後は簡単だ。竜崎は僕の家に忍び込み、僕の部屋に監視カメラを仕掛け……僕が犯罪者裁きをする瞬間を証拠として押さえた上で、僕に声を掛けてきた」
海砂「ちょ、ちょっと……人の家に勝手に忍び込んだ上に監視カメラって……完全に犯罪じゃん」
L「そうですね」
海砂(そうですねって……)
月「そこまで話を聞き、さらに自分が裁きをしている瞬間の映像まで見せられ……僕はもう言い逃れができなくなった」
月「もうこの男を殺すしかない。そう思った」
清美「…………」
月「だが次の竜崎の言葉は、僕の予想だにしないものだった」
海砂「? 何て言ったの?」
月「『私はあなたを崇拝しています。どうかあなたの協力をさせて下さい』と」
清美「! じゃあ、それで……」
月「ああ。少し迷ったが……僕は竜崎の言葉を信用することにした」
月「何せ、竜崎は僕が犯罪者裁きを始めてからたった二か月ほどで僕をキラだと特定したほどの人物……味方につけても損は無いだろうと思ったし、そもそも僕を欺く気なら、わざわざ殺される危険を冒してまで僕の前に顔を出す必要は無かったからだ」
月「それこそ、匿名で僕宛てに監視カメラの映像を送れば……それで脅迫でも何でも自由にできたはずだからね」
海砂「確かに……」
海砂「じゃあ結局何者なの? 竜崎さんって」
L「探偵です」
海砂「探偵?」
L「はい」
海砂「……って終わり!?」
L「探偵ですから探偵ですとしか言いようがありません」
海砂「いや、でももうちょっとなんかさー……」
月「まあ一口に探偵と言っても、竜崎の場合は普通の探偵というのとは少し違う。裏の世界のプロ、とでも言うのか……とにかく様々な業界に広く通じていて、僕も想像もつかないほどたくさんのネットワークを持っている」
海砂「へー、そうだったんだ。確かに普通の人っぽくないもんね。竜崎さんって」
L「…………」
月「それに二か月でキラの正体を突き止めたくらいだから腕も確かだしね」
清美「では、その裏の世界のプロの竜崎さんが何故キラである夜神くんの協力を?」
清美「それこそさっき夜神くんが言っていたように、夜神くんがキラである証拠を使えばいくらでも自分の得になることに使えそうな気がしますけど。ましてや色んな業界に顔が利くのなら尚の事」
L「それは月くんが言ったとおりの理由です」
海砂「キラを崇拝していたから……ってこと?」
L「はい。元々、私はずっと裏の世界で生きていました。人の闇も汚い部分も、数え切れないほど見てきました」
L「そんな人間の醜悪さに嫌気が差していた頃……世の中にはびこる凶悪な犯罪者を片っ端から裁いていく『キラ』が現れました」
L「私は思いました。これが正義だと。これが正義の行いなのだと」
L「腐り切った世の中を、もう一度正しい方向へ、あるべき姿へと導いていく事。それは私が心のどこかで憧れながらも追い切れなかった夢、希望でもありました」
L「私の心は決まりました。自分の持てるすべてを使って、必ずや『キラ』を見つけ出し……」
L「そして『キラ』にこの命を捧げようと」
海砂「…………」
清美「…………」
月「――そういう経緯で、竜崎は僕の協力者として動いてくれることになった」
月「具体的には、探偵としてのネットワークを使って、世に報道されていない……『裏の世界』に棲む悪人達の情報を僕に渡してくれた」
月「ちなみにさっき言った『特殊なルートを使って行った、犯罪者の名前と顔が合っているかどうかの照会』というのも、竜崎のネットワークを使って行ったものだ」
海砂「ああ、なるほどね」
月「こうして僕は、従前よりもさらに裁きの範囲を広げることができるようになった……が、そう思ったのも束の間」
月「竜崎と出会ってから一か月ほどが経過した頃……僕はキラとしての能力の大半を何者かによって奪われた」
海砂「そこでそうつながるってわけね。で、誰なの? その何者かって」
月「ミサ。僕がさっき話したことを覚えているか?」
海砂「え?」
月「先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定され……ゆえに、本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった、という話だ」
海砂「あ、ああ……それは覚えてるけど……」
月「何か思い当たることは無いか? 先週の水曜日から一昨日までの間にあった出来事について」
海砂「え? 先週の水曜から……土曜だよね。何かあったっけ? ちょうど、美希ちゃん達が合宿で福井に行ってた頃だと思うけど……」
月「…………」
海砂「え?」
清美「まさか……?」
月「普段と違う土地での合宿生活……生活リズムも大きく変わっていたとしても不思議ではない」
月「たとえば……『いつもは漏らさず裁いている犯罪者を、つい漏らしてしまった』としても……さほどおかしくはない」
海砂「! じゃあ」
月「そう。僕と竜崎が『僕からキラの能力を奪った者』――つまり『今のキラ』として特定している人物――は、765プロダクション所属のアイドル」
海砂・清美「!」
月「そして今現在、僕と竜崎が直接接触して探りを入れている人物だ」
清美「! それって……」
月「そう。―――星井美希および天海春香の二名だ」
海砂「!」
清美「嘘……」
月「この二人はいずれもキラの能力を持っており、今は互いに連携してキラの裁きを行っている」
月「つまり僕達が君達二人に頼みたいことは……この二人からキラの能力を取り返すことに対する協力だ」
海砂・清美「! …………」
海砂「な……何でこの二人がキラって分かったの?」
L「詳しい方法は明かせませんが……私が月くんをキラだと特定したときと大体同じようなやり方です」
清美「ということは……天海さん達も、夜神くんのように能力を試すために犯罪者以外の人間を殺した……ということですか?」
L「ご想像にお任せします」
海砂・清美「…………」
月「とにかく、二人をキラとして特定した竜崎の推理は僕を納得させるに足るものだったし……何より竜崎自身、僕をキラとして特定して突き止めていたわけだから信用しない理由は無かった」
清美「じゃあ今、夜神くんと竜崎さんは……キラとして特定した上であの二人と接触し、直に探りを入れている状況……ということ?」
月「そうだ」
海砂「あ、じゃあ……」
月「何だ? ミサ」
海砂「確か、ライトって……私達と知り合うより前に、春香ちゃんの家庭教師を始めてたんだよね? それももしかして……」
月「いや、それは完全に偶然だよ。あれはあくまでも粧裕経由で頼まれた話だったし、その時はまだキラの能力を奪ったのが誰かは分かっていなかったからね」
海砂「そうなんだ」
清美「じゃああの日……学祭の日に、海砂さんのステージに夜神くんと竜崎さんが来ていたのは? そこで結果的に夜神くん達は私達や天海さん達と知り合ったわけだけど……それも偶然だったの?」
月「あの場で星井美希・天海春香と出会ったのは偶然だ。もちろん高田さんもね。……だが、僕達がミサのステージに来ていたこと自体は偶然ではない」
海砂「えっ。じゃあもしかして……ライトって元々私のファンだったの?」
月「違う」
海砂「そんなバッサリ」
月「僕と竜崎がミサのステージを観に来ていたのは……星井美希と親しい友人であるミサと接触するためだ」
海砂「!」
清美「海砂さんと……?」
月「そうだ。僕達は星井美希と天海春香が現在キラの能力を保有していることの証拠をずっと探していた。そして遂に……その手がかりとなりうる物を一つだけ見つけた」
月「さらにその後、僕達は、二人のうち星井美希だけが『それ』をほとんど常に肌身離さず持ち歩いているということまで突き止めることができた」
月「つまり『それ』を押さえることで、星井美希と天海春香がキラであることの証拠を掴む……それが僕達の策」
月「だが見ず知らずの他人が肌身離さず持ち歩いている物を押さえるというのは容易な事ではない。ましてや相手は現キラだ。下手な動きを見せれば即殺される」
月「そこで……ミサ。僕達は君に協力を頼むことを思いついた」
海砂「! …………」
月「君と星井美希との間に交友関係があることについては既に竜崎が調べていた。そして星井美希と親しい友人である君なら、彼女が常に持ち歩いている『それ』を押さえることも容易だろうと考えたんだ」
月「それがあの日、僕と竜崎が君のステージを観ていた理由だ」
海砂「…………」
清美「で、でもそれ……海砂さんが殺されてしまう危険があるんじゃ……」
月「ああ。そうだ。いくら星井美希と親しい友人のミサといえど、絶対に殺されないという保証までは無い」
清美「!」
海砂「…………」
月「でもそれは……あくまで星井美希をキラとして捕まえようとするのであれば、の話だ」
清美「え?」
月「僕はさっき『二人からキラの能力を取り返す』と言った。その目的は、僕の手でもう一度犯罪者裁きを行えるようにするため……ただそれだけだ」
月「つまり僕は二人をキラとして捕まえようとか、警察に突き出そうなどとは微塵も考えていない」
月「そもそも形はどうあれ、今、あの二人がしていることはかつて僕がしていたことの模倣だ。よって彼女達もまた、僕……キラの理念や価値観に共感して行動しているものと考えられる」
月「君達と同じようにね」
海砂・清美「…………」
月「だから僕は……あの二人が今キラの力を行使していることの確証を得た後は、彼女達に接触して能力を僕に戻すよう働きかけ……それが叶った暁には、彼女達も僕の協力者として迎え入れようと思っている」
清美「! ということは……星井さんと天海さんも私達の仲間に……?」
月「ああ。そういうことになる」
海砂「…………」
月「だがそれはあくまでも能力を全部僕に戻させてからの話だ。二人に接触するにしても、彼女達が能力を持っている状況下ではこちらの正体は絶対に明かせない」
月「もし彼女達が『自分達こそが真のキラだ』と考え、能力を『前のキラ』に戻す意思など微塵も持っていなければ……自分達の障害になると判断した場合、たとえそれが『前のキラ』であっても躊躇無く排除するものと考えられるからだ」
清美「じゃああくまでも夜神くんに完全に能力が戻るまでは……星井さん達の前ではこれまで通り、私達はキラの事など何も関係していないように振る舞うということね」
月「そうだ。それまでは絶対に、能力を取り返そうとしているのが僕達であるということを知られてはならない。二人に接触し能力を戻すよう働き掛ける際も、絶対に発信元が特定されないような手段を使って連絡を取る」
清美「できるの? そんなことが」
L「はい。できます」
清美「そ、それならいいですけど……」
海砂「…………」
月「ミサ」
海砂「ライト」
月「……どうだ? やっぱり怖いか?」
海砂「……ううん」
海砂「ミサ、やるよ。言ったでしょ。ミサはキラ……ライトの為なら何でもするって」
月「ミサ」
海砂「それに美希ちゃんは、ミサにとっても大事な友達だから……もしこれで美希ちゃんがキラの仲間になってくれるんなら、ますますミサが協力しない理由は無いよ」
月「……ミサ。ありがとう」
月「君が絶対に危険な目に遭うことが無いよう……僕達も全力でサポートするよ」
海砂「えへへ……ありがとう。ライト。心配してもらえてうれしい」
清美(海砂さん、本当に嬉しそう……。流石にちょっと罪悪感を覚えるわね……)
海砂「ところで、ライト」
月「何だ? ミサ」
海砂「その……美希ちゃんがいつも持ち歩いている物っていうのは一体何なの? キラが裁きをするのに必要な道具ってこと?」
月「ああ、そういえばまだ説明していなかったな。星井美希と天海春香の二人が連絡用に使っているノートだよ」
海砂「ノート? 連絡用の?」
月「ああ。そこには二人がキラとして裁きを行ってきたことに関する秘密の連絡内容が記されている。これまでの調査の結果から考えて間違いない」
海砂「じゃあ、そのノートさえ押さえてしまえば……それがそのまま二人がキラであることの証拠になるってこと?」
月「そうだ」
清美「そしてそれを押さえた上で、二人にキラとして特定していることを匿名で伝え、『前のキラ』に能力を戻すよう要求する……ということね」
月「そういうことだ。もし抵抗するようなら、『キラの正体をその証拠とともに世間に公表する』とでも言って脅せばいい」
海砂「なるほど……」
月「ということなので、要は二人がキラであることの証拠さえ押さえてしまえば後はどうとでもなるということだ」
月「能力を全部僕に返させ、こちらが殺される危険をゼロにした上で―――僕達も正体を明かし、二人を正式にキラの仲間として迎え入れればいい」
海砂「でも……具体的にどうやって美希ちゃんからそのノートを押さえるの? 美希ちゃんの家に侵入するの?」
月「ミサにそんな危ない橋を渡らせるわけないだろ。心配しなくてももっと安全な策を考えてある」
海砂「ライト……」
清美「ではどうするの?」
L「ミサさん。直近で星井美希と共演する仕事はありますか?」
海砂「? 美希ちゃんと? 今の所は別に無いけど」
L「じゃあ作りましょう」
海砂「えっ」
L「ミサさんの所属事務所に手を回し、星井美希と共演する仕事の場を作ってもらいます」
海砂「うちの事務所に手を回すって……そんなことできるの?」
L「できます。こう見えても私は芸能界にも顔が利くので」
海砂「マジで?」
L「マジです」
月「さっき言っただろ? 竜崎は様々な業界に広く通じている、って」
海砂「でもうちは良くても、美希ちゃんの事務所の方がオーケーするかどうかわかんないわよ。あっちは今や、うちなんかとは比べものにならないくらいの超人気アイドル事務所だし……」
L「それも大丈夫です」
海砂「マジで?」
L「マジです。ミサさんは何も心配せず、担当マネージャーから新しい仕事の話を聞くのを待っていて下さい」
海砂「まあそれなら任せるけど……じゃあミサは、そのお仕事のときに美希ちゃんの持っているノートを押さえればいいってことね?」
L「そういうことです。よろしくお願いします。作戦の詳細はまたおってご説明します」
海砂「分かった」
清美「夜神くん。私は特に何もしなくていいのかしら?」
月「いや、高田さんには……ミサが星井美希からノートを押さえるときに天海春香を見張っておいてほしい」
清美「天海さんを?」
月「ああ。天海春香もまたキラの力を持っている。ミサの動きに気付いた星井美希が咄嗟に天海春香に連絡を入れないとも限らない……動きを押さえておけるなら押さえておくに越したことは無い。やってくれるかい?」
清美「ええ、それは勿論。でも単に見張っておくだけでいいの?」
月「無論、可能であれば直接相対してほしいところではあるが……高田さんはまだそこまで天海春香と親しい間柄じゃないだろう? いきなり呼び出したりしてかえって怪しまれるのも良くないしね」
清美「それなら大丈夫よ。夜神くん。ついこの前、天海さんの家でお菓子作りを教えてもらったところだから」
月「えっ。そうなのか?」
清美「ええ」
海砂「えー何それ楽しそう! 私も呼んでくれたらよかったのに」
清美「では次は是非海砂さんもご一緒に」
海砂「やった」
月「でも、何でまたお菓子作りを?」
清美「特に深い理由は無いけど……前々から、趣味でも何でも、色んな分野に挑戦することで自分自身の幅を広げたいと思っていたの」
月「なるほど。流石は高田さん。向上心があるね」
清美(本当は夜神くんにお菓子を手作りしてあげたかったからだけど)
L「では、高田さんは既に天海春香とある程度親しくなっているということですか?」
清美「そうですね。お互いに下の名前で呼び合うほどには」
L「そうですか。ではこれで天海春香の動きも問題無く押さえられそうですね。どうかよろしくお願いします」
清美「分かりました」
海砂「でもこれで上手くいったら、美希ちゃんと春香ちゃんも晴れてミサ達キラ一味への仲間入りを果たすのね。まあ二人とも元々『竜ユカ』のメンバーだからあんまり新鮮さは無いけど……」
清美(キラ一味って……)
月「ああ、そのことなんだが……ミサ」
海砂「何? ライト」
月「そろそろまた会合の招集を頼んでもいいか?」
海砂「会合って……『竜ユカ』の?」
月「ああ。前に『765プロの合宿後にまた集まろう』という話になっていたからね。二人から不審に思われないためにも集まっておいた方が良い」
海砂「オッケー。じゃあ行き先はどうする? 確か、次はピクニックか遊園地か……って話だったと思うけど」
月「そうだな……あくまでカムフラージュのようなものだから、なんでもいいともいえるが……」
L「遊園地で良いんじゃないでしょうか」
月「竜崎?」
L「遊園地だと乗り物などで二人一組になったりしやすいですので……常に全員でまとまって行動するより、星井美希・天海春香の様子を観察しやすくなります」
月「なるほど……確かに」
L「まあ観察したからといって、その場でどうこうするということは無いですが……ただ、情報は少しでも多くあった方が良いですので」
月「それもそうだな。じゃあ具体的にどこの遊園地にするかは僕と竜崎の方で考えよう。決まったらミサに連絡するよ」
海砂「分かった。じゃあミサはそのライトからの連絡を受けて全員宛てにメールすればいいのね」
月「ああ、頼む。……では二人とも、僕達から指示があるまでは今までと変わりなく生活してくれ。星井美希・天海春香とも普通に連絡を取ってもらって構わない」
月「特にミサは……まあ今更心配は無いだろうが、星井美希と今まで通り良好な友人関係を維持しておいてくれ」
海砂「うん。それは大丈夫。ミサと美希ちゃん、本当に仲良しだからね」
月「そうか。助かるよ。ミサ」
海砂「えへへ……」
清美「でもあの二人もキラの理念に共感していたなんて……今まで全然気付かなかったわ」
海砂「あー、それはミサも思った」
L「まあ考えてみれば別に不思議でも何でもないですけどね……今やネット上じゃキラ支持派の方が圧倒的に多いですし」
海砂「でも共感や支持だけならともかく、あの二人が実際にキラとして裁きをやってたなんてね。本当に驚いちゃった。……あ、ていうか今更なんだけど……ライト」
月「? 何だ? ミサ」
海砂「結局の所……キラの能力ってどんななの?」
月「!」
海砂「しかも美希ちゃん達はそれをどうやってライトから奪ったの? それも全部じゃなくて一部だけ残してって……一体どうやって?」
月「……それは……」
海砂「なーんて、ね」
月「? ミサ?」
海砂「秘密なんでしょ? そのへんのことは」
月「……ああ。悪いが、いくら君達にでも教えられない」
海砂「だよねー。さっきライト、例の四人の犯罪者を裁く時、ミサ達に見えないようにしてたし」
清美「まあ仕方無いでしょうね。むしろ秘密を知る人間の数は必要最低限にしておいた方が良いと思います。どこから秘密が漏れるか分かりませんから」
海砂「一応言っておくけど、ミサはもしキラの秘密を知っても絶対に誰にも言わないよ。たとえ死んでも」
清美「それは私も同じ気持ちですけど……でも自白剤とかもあるでしょう?」
海砂「あー……確かに」
L「ポリグラフ……いわゆる嘘発見器などもありますしね。高田さんの仰るとおり、万が一の時に備えてリスクを極小化しておくための措置です」
月「そういうことだ。すまないが、どうか分かってほしい」
海砂「うん。大丈夫だよ。ミサは何があっても……ライトの事、信じてるから」
清美「私もです」
月「二人とも、ありがとう」
L「あの、一応私もいるんですが……」
海砂「うん。竜崎さんの事も信じてるよ。一応」
清美「私もです。一応」
L「……どうも」
海砂「あ、でも……竜崎さんが実は春香ちゃんのファンじゃなかった、っていうのは地味にショックだったなー。ミサ、あの話結構感動してたのに」
清美「確かに。私も同感です」
L「それはすみませんでした」
海砂「……っていうかさ、別にわざわざ『春香ちゃんのファン』なんて言う必要無かったんじゃないの? 竜崎さんの見た目的にも、単に引きこもりってことさえ言っておけば、実はキラの正体を探っている探偵だった、なんてまず疑われないと思うんだけど」
清美(見た目的にもって……)
L「……念の為です。もし何らかのきっかけにより私の素性を疑われかねないような状況が生じても、とりあえずファンだということにしておけば最悪殺されることはないだろうと考えました」
海砂「あー……まあアイドルにとってファンは一番大事にしないといけない存在だもんね」
L「はい。そういうことです」
海砂「あ、じゃあ美希ちゃんじゃなくて春香ちゃんのファンってことにしたのは何で? 単なる好み?」
L「いえ。単に天海春香が既に月くんと接点を持っていたため、信憑性のある話を捏造し易かったからです」
海砂「あー……なるほど」
清美「でもあの日、夜神くんと竜崎さんが天海さん達に出会ったのが偶然だったということは……あの竜崎さんの一連の身の上話は、全てあの場で……即興で作ったものだったということですか?」
L「はい。完全に即興……アドリブです。さっき月くんも言っていましたが、あの日はあくまでもミサさんへの接触が目的でしたので……まさか星井美希・天海春香の二人と一気に直接接触することになろうとは思いもしていませんでした」
海砂「それであのアドリブかあ。すごいよね。……あっ。でもさ、あの時の話が全部嘘なら、何でお面着けてたの?」
L「あれも念の為です。キラの殺しの条件は『顔』と『名前』ですから。いくら『名前』を知られない限りは殺されないといっても、キラがどこにいるか分からない以上、隠せるのであれば『顔』も隠しておいた方がいいだろうと思いました」
海砂「へー、随分慎重なのね」
L「ただ、とある事故の所為でキラ容疑者の前で素顔を晒す羽目になりましたので……その後はもう着けていませんが」
海砂「……その節は本当に申し訳ありませんでした」
L「いえ。そのことはもういいです。むしろ結果的に星井美希・天海春香の両名により近付くことができましたし……どのみち『名前』が知られない限りは殺されませんので」
海砂「あ、じゃあやっぱり『竜崎ルエ』は偽名なのね」
L「はい。あの日私がした話の中で、その名前が偽名だったということだけは本当です」
清美(ややこしい……)
L「そもそも殺される殺されない以前に……現状、私があの二人から何か疑われているということも無いでしょうから、特に心配はしていません」
海砂「それもそうね。さっきも言ったけど、ぶっちゃけた話、あなたはただの引きこもりにしか見えないし」
L「…………」
海砂「あっ」
月「? どうした? ミサ」
海砂「もしライトにキラの力が戻って、美希ちゃんと春香ちゃんも正式にキラの仲間としてメンバーに加わったら……」
清美「加わったら?」
海砂「このサークルの名前も変えないといけないわね! 『竜崎と愉快な仲間達』から『キラと愉快な仲間達』に!」
月・L・清美「…………」
海砂「あ、あれ? もしかして『キラキラの会』とかの方が良かった?」
月「いや、別に何でもいいが……」
L「とりあえずミサさんのセンスは相変わらず壊滅的であるということを再認識しました」
清美「同感です」
海砂「皆ひどい!」
月「まあ二人を仲間に入れるためにも、まずは彼女達がキラであることの証拠を押さえる事が先決だ」
海砂「うん。ノートね。ミサがんばる」
清美「そして私は天海さんの動きを見張っておく……」
月「そうだ。二人とも、大変かもしれないがよろしく頼む。そして今後、くれぐれも彼女達に勘付かれたりすることのないよう、慎重に行動してくれ」
海砂「大丈夫だよ。ライト。ミサ、こう見えて女優路線も狙ってるから」
清美「私はあまり演技には自信が無いけど……やれるだけのことはやってみるわ」
月「ああ。出来る範囲で構わない。そして出来ない部分はお互いに補い合っていこう」
L「チームワーク第一、ということですね」
月「そうだ。では今日はこのへんで。キラの理想の新世界……その実現の為に、皆で力を合わせて頑張ろう」
海砂・清美「はい!」
【翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
【アリーナライブまで、あと36日】
L「皆さんにもご覧になって頂いていたとおりですが、昨日、無事に弥海砂および高田清美の協力を取り付けることに成功しました」
L「これをもって、『計画』は第二段階……星井美希の持つノートを弥に押さえさせるためのシチュエーション作りに入ります」
松田「あの……竜崎。ちょっといいですか?」
L「はい。何ですか? 松田さん」
松田「ミサミサも高田清美も、二人とも月くんに惚れているのみならずキラの崇拝者でもある……こんな二人にあんな報道操作までして月くんがキラって信じさせたんですから、協力を得られたのはある意味当然だと思いますけど……でもこれ、作戦としては結構危ないっすよね?」
L「そうですか?」
松田「え、だってミサミサに殺人の道具とおぼしきノートを押さえさせるわけじゃないっすか。直前になって『やっぱり怖い』って言い出したりとか……十分ありえる事だと思いますけど」
L「それは大丈夫です。そういう事態を防ぐために『ノートは連絡用の道具です』と説明したわけですから」
松田「あ、そういえばそうでしたね……。いや、でもやっぱりいざっていう段になると……」
L「もちろん100%の保証まではできないですが、それでも私は、シチュエーションさえ用意できれば弥がノートを押さえることはほぼ問題無く可能だろうと考えています」
L「理由として、まず第一に彼女は心底月くんに惚れています。つまり月くんの力になれることなら何だってする」
月「…………」
L「第二に、彼女は知っての通りのキラ崇拝者でもあります。今回はあくまでも『自分が崇拝していたキラである月くんにキラの能力を取り戻させるため』という目的の下での行動ですから、彼女がそれを躊躇する理由はありません」
L「逆に『キラである星井美希と天海春香を捕まえるため』という本来の目的を明かしていたら、いくら月くんの頼みといえど、松田さんの言うように、実行直前になって躊躇してしまっていた可能性はあったでしょうね。あの二人……特に星井美希は、弥にとって相当親しい友人ですから」
総一郎「しかしだからこそ、その親密な関係を利用して、星井美希に自然とノートから離れるほどの隙を作らせることができる……か」
L「その通りです。夜神さん。以前にも言いましたが……星井美希はほとんど常に肌身離さずノートを持ち歩いているほどの警戒心を持っているにもかかわらず……自身の家族や同じ事務所の仲間など、真に信頼している者達に対しては堂々と隙を見せています」
星井父「…………」
L「この点、星井美希と弥との間には、765プロダクションのアイドル同士の間におけるほどの強固な信頼関係まではまだ無いと考えられますが……それでも十分、互いに信頼し合っている友人同士と言っていい関係だと思います。またこれは私と月くんが例の会合の際に自らの目で確かめたことでもあります」
月「そうだな。その点については僕も異論は無い。よく二人で会っているようだしね」
L「はい。なので後は、自然と星井美希がノートを置いて場を離れることができるようなシチュエーションを作ることです。そしてそこを弥に押さえさせる」
相沢「だが……竜崎」
L「はい。何でしょう? 相沢さん」
相沢「我々の……というより、竜崎と月くんの推理通りなら……天海春香もまた、星井美希とは別に『黒いノート』を所持している……ということになるんだよな?」
L「そうですね」
相沢「そして星井美希とは違って、天海春香には常にノートを持ち歩いているような気配は無い。だとすれば、ノートは基本的に家に置きっぱなしにしてあるはず……押さえるなら、こちらの方が簡単なのでは?」
L「確かにその手もあります。ただその場合はこちらで隠し場所を捜さないといけないですし……必ずしも家にあるとも限りません」
相沢「? 家じゃないとすればどこに?」
L「それは分かりません。ただ、犯罪者裁き自体はノートが一冊あれば足りるでしょうから……極端な話、実際に裁きに使っているのは星井美希のノートのみで、天海春香のノートはどこかの山にでも埋めている可能性すらあります。もしそうならそちらのノートを押さえるのは極めて困難です」
総一郎「確かに。他に何らかの物的証拠があるなら、逮捕した上でノートの隠し場所を自白させるという手もあるところだが……」
L「はい。流石に何の物的証拠も無い現段階での逮捕は不可能です。また一か八かで家宅捜索を強行するという手もありますが、発見に手間取り勘付かれた場合、星井美希に連携され、即座にここにいるメンバーの何名かが殺されてしまう危険があります」
相沢「もし殺されるとすれば、現時点でキラ事件の捜査に関与している事が知られている者……つまり局長と模木……か。後は……」
星井父「俺もだろうな。例のメールの件が疑われているとすれば、だが」
模木「係長……」
L「まあそうですね。そういう理由からも、そこにあるかどうかも分からない天海春香のノートを押さえるよりは、確実にそこにあると分かっている星井美希のノートを押さえる方が簡単ですし、何より安全です」
相沢「ふむ……確かに状況さえ作り出せればその方が確実か……」
総一郎「また同じタイミングで高田清美に天海春香を見張らせておくから、仮に星井美希から連携がなされても天海春香がすぐに何らかの行動を起こすことはできない。その場でノートを所持されでもしていたら話は別だが、天海春香ならその心配も少ない。そのような点からも、今の作戦の方が安全性としては高いといえるな」
松田「ただ、作戦自体の安全性は保証されても、月くんの安全性は全く保証されてないっすけどね……真面目な話、月くん、キラ事件が終わったらしばらくの間は外国に高飛びでもしといた方がいいんじゃないっすか? じゃなきゃ、キラは捕まえられてもミサミサか高田清美に殺されちゃいますよ……」
L「その点については心配無用です。キラ事件が解決した翌日から、月くんには半年間の海外留学に行ってもらいますので」
松田「えっ。そんな手筈になっていたんですか。流石竜崎」
月「いや、僕も知らなかったが……そうなのか? 竜崎」
L「はい。月くんは将来の日本警察を背負って立つ人物……そう簡単に死なれては困りますので。もちろん、必要であれば私もお供します」
月「いや、それは別にいいが……ありがとう。竜崎。そういうことなら、心置きなく行かせてもらうよ」
L「はい。ただもちろん、生きてキラ事件を解決することが大前提ですけどね」
月「ああ。分かっている」
総一郎「後はいつ、この作戦を実行に移すか……か」
L「そうですね。ただ率直に言って、もうあまり時間は無いと思っています」
L「現状、星井美希と天海春香がどの程度“L”の存在に近付いているのかは分かりません。ですが、やはり星井美希が私と星井さんを対面させた件から考えると、少なくとも星井美希は私の……“竜崎ルエ”の素性をある程度は疑っている可能性があると考えるのが自然です」
相沢「疑っているというのは……竜崎がキラ事件の捜査に関与しているのではないか、というレベルでの話か?」
L「はい。そうです」
一同「!」
L「理由としては……以前にも言いましたが、天海春香はともかく、少なくとも星井美希は、自分が“L”に疑われているということに気付いていると考えられるからです」
L「つまりもし星井美希が、何らかのきっかけにより私の素性を疑い始めたのだとすれば……“L”にキラではないかと疑われている自分――その身近にいる怪しい人間――であるところの私を、『“L”または“L”の関係者』……すなわち『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかと疑うのは自然な思考の流れです」
一同「…………」
L「また同時に、私の素性が疑われることは、必然的に、月くんに対する疑念にもつながります」
L「月くんは、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』である私と常に話を合わせていたということになりますから……私と同様に『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかとの疑いを掛けられることになると考えられます」
L「さらに、もし天海春香がこちらの推理通り、『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたと仮定した場合、彼女は事務所に聞き取り調査に来た夜神さんの顔を見ているため……夜神さんの本名を知っているということになります」
L「このことから、天海春香と星井美希の二人は、『あの時事務所に来た刑事は夜神月の父親だった』ということには既に気付いているということになります。『夜神』という珍しい名字の刑事がそう何人もいるとは通常考えにくいですから」
総一郎「うむ……」
L「この事実は、月くんが将来警察志望であるということもあわせて考えると、月くんが『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかという疑惑をさらに強めることとなる事情といえます」
L「なので現状、私と月くんはキラ事件の捜査関係者ではないかと……いえ、むしろ、私達のいずれかが“L”なのではないかとすら……疑われていたとしてもおかしくはありません」
月「もしそうなら、僕と竜崎が殺される候補の筆頭として一気に躍り出ることになるな」
L「そうですね。あまり名誉な事ではありませんが」
月「はは。まったくだ」
松田「いや、月くん。笑ってる場合じゃ……」
L「…………」
L(それにもし、天海春香の持つ能力が私の推理通りなら……私の本名も二人に知られているということになる)
L(それも情報として加味すれば……現状、“L”である可能性を最も強く疑われているのは私だろう)
L(にもかかわらず、まだ私が殺されていないのは……今殺すことで足がつくことを恐れているのか……)
L(あるいは……星井美希と天海春香との間では、まだ“L”の正体についての最終的な意見の一致はみられていない……?)
L(ありうる一つの可能性として、現在、私は二人の前では天海春香のファン――それも熱狂的な――を演じている)
L(星井美希が私を“L”ではないかと疑っているとしても……天海春香がまだ私の嘘を何ら疑わずに信じており、その点で二人の考えが相違している、とすれば……)
L(いや、だが仮にそうだとしても、その状態がいつまで続くかなど分からない……結局、少しでも早く決着をつけなければならないということに変わりはない)
L「…………」
相沢「竜崎? どうかしたか?」
L「ああ、いえ……何でもありません。後は……先ほどご自身でも言われていましたが、合宿中のメールの件が疑われているとすれば……星井さんも、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』として疑われていてもおかしくないでしょうね」
星井父「…………」
松田「じゃあ結局、安全そうなのは僕と相沢さんだけってことですか」
相沢「俺達だって分からんさ。いくら尾行時にはマスクとサングラスを着けているとはいえ、絶対の保証ってもんでもないからな」
松田「それはまあ……そうっすね」
L「……以上のような状況ですので、あまり長く時間を掛けるのは危険です」
L「少しでも早くキラとしての証拠を挙げ、キラを捕まえる事……それが、私達が全員揃って生き残ることのできる唯一の策です」
松田「で……そのためにミキミキとミサミサが共演できる仕事の場を作るってことですね」
L「そういうことです。裏で我々が動いていることには絶対に気付かれないように作ります」
総一郎「しかし今回もまた我々が警察として動き、弥の所属事務所と765プロのそれぞれに捜査協力を要請するのだとすれば……前の空港の時のように、『犯罪の一般予防』という理由で通すのは難しいだろうな。絶対に極秘とすることを条件として、ある程度の事情は話さねば……」
相沢「そうですね。特定の個人の所持品を捜索するための協力を求めるわけですから……」
松田「でもミサミサの事務所……ヨシダプロはそれで良くても、765プロにそれをするのは危なくないっすか? 完全に身内なわけですし……情報が事前に本人達に伝わってしまう可能性も十分……」
相沢「確かに……いや、待てよ。ならヨシダプロにだけ事情を明かし、765プロにはヨシダプロから、あくまでも普通に仕事の話として持ち掛けてもらえばいいんじゃないか? それならあえて765プロ側に事情を伝える必要も無いだろう」
松田「でもその場合、ミサミサも言ってましたけど……765プロ側が仕事を受けないかもしれないじゃないすか。今や、ヨシダプロと765プロとじゃ所属アイドルの人気も売れ方も比べものになりませんし、ましてや765プロはアリーナライブも近い時期ですからね。ここでいきなり新規の仕事って言っても受けてくれるかどうかは……」
相沢「なるほど……それは確かにそうか……」
総一郎「そのあたりは一体どう考えているんだ? 竜崎」
L「……そういえば、まだ皆さんにはこのあたりの具体的な方法については説明していませんでしたね。月くんとは話していたのですが」
総一郎「ということは、もう何か具体的な策があるのか?」
L「はい。まず今回は皆さんに警察として動いてもらおうとは思っていません」
相沢「? じゃあ誰が動くんだ?」
L「私が直接“L”として動きます」
総一郎「! 竜崎が直接?」
L「はい。ただそれでも、今松田さんが仰ったように、ヨシダプロダクション側はともかく……765プロダクション側に事情を伝えるのは極めて危険です。星井美希達本人に伝えられてしまえばそれで終わりですから」
L「しかし、かといって事情を誰にも伝えなければ……これも松田さんの仰ったとおり、今度は765プロダクション側に普通に仕事を断られてしまう可能性があります」
L「さらにいえば、仮に仕事自体は受けてもらえたとしても、765プロダクション側の誰にも事情を伝えていなければ、いざという時の対処が困難となる場合がありえます。たとえば弥が星井美希の所持品を捜索している間は、当然、星井美希本人はその場から遠ざけておかなければなりませんが、それを確実に担保できる状況が作れなければリスクとして高過ぎます」
相沢「じゃあ……一体どうするんだ? その前提だと、どうやっても何らかのリスクが残るように思えるが……」
L「いえ。大丈夫です」
L「要は、765プロダクション側に事情を伝えても、そのことが星井美希や天海春香に伝わらなければいいわけです」
L「ただそうは言っても、765プロダクションは極めて強固な絆に支えられている組織体です。それはアイドル同士のみならず、社長その他従業員についても基本的には同じです。もしこの中の誰か一人にでも『星井美希と天海春香がキラとして疑われており、その捜査を目的とした仕事が入った』という情報が伝われば、その内容は即、星井美希および天海春香本人に伝わる可能性があるといえます」
松田「それじゃあ、結局無理ってことじゃないっすか。要は誰に伝えてもミキミキやはるるんに伝わっちゃうっていう……」
月「いや……一人だけ『例外』がいる」
松田「? 『例外』?」
L「はい。今私は『アイドル同士のみならず、社長その他従業員についても基本的には同じ』と言いましたが……文字通りそれは『基本的には』です」
L「月くんの言うとおり、ただ一人だけ……『例外』にあたる人物がいます」
相沢「? 一体誰なんだ? それは……」
L「それは……極めて強固な絆に支えられている765プロダクション……その組織体の中にいて唯一、『こちら側』に引き込むことのできる可能性のある者」
L「もちろん、その者も765プロダクションの絆の一つを構成しているであろうことは間違いありませんが……説得の仕方次第では十分『こちら側』に引き込めます」
総一郎「! ……そうか。『彼』か」
L「はい。キラ事件の開始当初から登場していながら、これまでその出自・属性ゆえにほとんど我々が着目することのなかった―――『彼』です」
【二日後・961プロダクション本社ビル前】
【アリーナライブまで、あと34日】
P「それにしても、随分久しぶりだな」
P「―――ここに来るのも」
【961プロダクション本社ビル内】
P「しかしあんま変わってないな……」
P「まあ俺が移籍してからまだ一年も経ってないし、そんなもんかもな」
961社員「……あれ? ○○さん?」
P「ん? おお。久しぶり」
961社員「な、何でこんなとこに……? あっ。もしかしてまたうちに戻って……?」
P「違う違う。一昨日、急に黒井社長に呼ばれたんだよ。何の用かは知らんけど」
961社員「えっ! それってもしかして……『もう一度私の下で働いてくれないか』的なやつっすか?」
P「いや、それは無いよ。俺の765への移籍自体、黒井社長が決めたんだから」
961社員「あー、それって確か、765プロのプロデューサーが急死しちゃったから○○さんを急遽移籍させることにしたっていう……」
P「そうそう。高木社長は黒井社長の昔馴染みだったからな。困ってるのを放っておけなかったんだろう」
961社員「でも……それって本当にそういう理由だったんすかね?」
P「? どういう意味だ?」
961社員「だって黒井社長、ずっと765プロの事目の敵にしてたじゃないすか。それなのに急に助けるって……なんか違和感ありますけど」
P「そりゃまあ昔は色々あったんだろうよ。でもやっぱりいざっていう時には見捨てられなかったって事だろ」
961社員「そういうもんなんすかねぇ」
P「あとアイドル業界全体を活性化させるため、っていう理由もあったんだろ。実際、俺が社長から直に言われた理由はそっちだったし」
961社員「あー、ありましたね。アイドル事務所の関係者ばかりが事故や自殺で次々と死んでいった怪事件」
P「そうそう。轡儀さんも亡くなったしな」
961社員「あの時の黒井社長の落ち込みっぷりったらなかったっすよね」
P「独立する前からずっと一緒に働いてたらしいからなぁ。うち……いや、961プロでも事実上の右腕だったし」
961社員「でも轡儀さんが亡くなった後も業績には影響出さなかったあたり流石っすよね。黒井社長」
P「ああ。961プロって一見社長のワンマンに見えるし、外でもよくそういう風に言ってるけど……実際は轡儀さんのサポート無くして今の地位は無かっただろうからなあ」
P「だから轡儀さんが亡くなった後も業績を維持してたのは……黒井社長がそれこそ死に物狂いで頑張ったからなんだろうな。多分」
961社員「多分って……○○さん、その頃まだうちにいましたよね?」
P「ああ。でもほら、俺はジュピターの活動報告の時くらいしか社長と話す機会無かったからさ」
961社員「そうなんすか。……あ、そういえば知ってます? ○○さんの後任のプロデューサー、××さんになったんすよ」
P「へー、あいつに。そうなのか。知らなかった」
961社員「あれ? もしかして○○さん、ジュピターのメンバーとはあんまり連絡とか取ってない感じすか?」
P「ああ。俺が移籍して以来、仕事でもかぶってないしな」
961社員「そうなんすか。なんか意外だなあ」
P「? そうか?」
961社員「ええ。だって○○さんとジュピターの三人って、すごく強い絆で結ばれてるように見えてましたから」
P「あー……まあ、な」
961社員「? なんかワケありな感じっすか?」
P「いや、別に何も無いよ。ただ中途半端な所でプロデュースやめちまったのと、急な話で碌に挨拶もできないまま別れちまったから……正直、後ろめたい気持ちはあるかな」
961社員「あー、なるほど。じゃあ折角ですし、会っていったらどうです? 今日は三人とも社内にいると思いますよ」
P「そうだな……まあ時間があればそうするよ」
961社員「今、結構忙しい感じすか?」
P「まあな。今日の黒井社長の件も『できるだけ早く来てほしい』って言うからスケジュール無理矢理割いて来たようなもんだし」
961社員「ははは。それはお疲れ様です」
961社員「ところで、○○さんが移籍してもう半年以上になりますけど……実際どんな感じなんすか? 765プロって」
P「あー……まあ色んな意味で961とは全然違う感じかなあ。事務所の規模にしても社風にしても」
961社員「へー、やっぱそうなんすか」
P「ああ。あと社長の性格も全然違う」
961社員「はは。でも765プロのアイドルの躍進ぶりって半端無いっすよね。今やジュピターに勝るとも劣らない人気ぶり……」
961社員「それってやっぱり○○さんの功績っすよね?」
P「……別に俺は何もしてないさ。俺が入った時点であいつらはもうかなりの人気アイドルになってたからな」
961社員「いやいや、そんなことないっすよ。そりゃ元々の人気もあったでしょうけど、○○さんが入ってから、一層その勢いに拍車が掛かったっていうか……たとえばほら、765プロのアイドル二名が主役と準主役を務めた舞台『春の嵐』の大ヒットとか。あれって確か全国公演もやってましたよね?」
P「ああ。ちなみに夏からの追加公演も決まったよ。今日ちょうどここに来る前、そのインタビュー記事の取材があったから出演する二人に付き添ってきたところだ」
961社員「えぇ! またやるんすか? すごいなあ……」
P「まあでも今度は東京公演だけだけどな。8月頭にあるアリーナライブが終わった後、秋には美希……星井美希がハリウッドに行っちまうから、その間だけだ」
961社員「そうそう、それらもっすよ! アリーナライブにハリウッドって……本当、すごいっすよ○○さん」
P「いや、だからそれも別に俺の力じゃ……」
961社員「あとその『春の嵐』主演の天海春香のアイドルアワード受賞なんてのもありましたし……“歌姫”如月千早の二度にわたる海外レコーディングなんかも」
961社員「その他のアイドルもテレビや舞台に引っ張りだこ……今や街を歩いていて765のアイドルの顔を見ない日は無いっすからね」
961社員「それもこれも、やっぱり全部○○さんの功績っすよ! いやあ、本当にすごいなあ」
P「いや、だから」
961社員「っと! いっけね、もう会議の時間だ。じゃあ○○さん、また今度ゆっくり聞かせて下さいね。○○さんの武勇伝! それじゃ」ダッ
P「あ、おい……」
P「……言うだけ言って行っちまいやがった。まったく……」
P「まあいいか。さっさと社長の所に……」
ドンッ
P「わっ」
「っと」
P「すみません」ペコリ
冬馬「ああ、こちらこそ……ん?」
P「?」
冬馬「あ……あんた!」
P「! 冬馬」
冬馬「…………」
P「…………」
翔太「わぁ、びっくりした。○○ちゃん。なんでこんなとこにいんの?」
北斗「これはこれは……御無沙汰してます」
P「翔太。北斗。……何、ちょっと野暮用でな」
冬馬「…………」
翔太「? 冬馬君?」
北斗「おい、冬馬。久しぶりにお会いしたんだ。挨拶くらい……」
冬馬「――――!」
(突然、プロデューサーの頬を殴りつける冬馬)
P「ッ!」
翔太「ちょっ!」
北斗「冬馬!?」
P「……って……」
冬馬「…………」
翔太「何してんのさ冬馬君!」
北斗「お前!」
P「……いいよ。翔太。北斗」
翔太「! ○○ちゃん」
北斗「しかし……」
冬馬「…………」
P「いいんだ。これくらい……俺がお前らにした仕打ちを思えば当然の事だ」
P「お前らのプロデュース、まだ途中だったのに……いきなり辞めちまって悪かった」ペコリ
翔太「いや、でもそれは○○ちゃんのせいじゃ……」
北斗「そうですよ。黒井社長の指示でしょう?」
冬馬「…………」
P「だが最終的に決めたのは俺の意思だ。だから責任は全部俺にある」
翔太「○○ちゃん」
北斗「おい。冬馬。何か……」
冬馬「…………」
P「冬馬」
冬馬「……どんな理由があれ、あんたがいきなり俺達をほっぽり出したことには変わりねぇ」
冬馬「たとえそれが仕方の無い事だったとしても……俺は……」
P「…………」
冬馬「ああもう、くそっ! もっと色々言ってやりたいことがあったはずなのに……忘れちまった」
翔太「あんだけ思いっ切り殴っといてまだ文句があるの? 冬馬君」
北斗「いや……多分文句じゃないだろうな」
翔太「え?」
北斗「冬馬。本当はお前だって分かってるんだろ?」
冬馬「…………」
北斗「今、自分がこの人に……何を言う、いや、伝えるべきなのかを」
冬馬「…………ああ」
P「冬馬」
冬馬「……言っとくが、殴ったことについては謝らねぇぞ。あれはけじめみてぇなもんだからな」
P「ああ。分かってるよ」
冬馬「だから、それとは別に……まあその、なんだ」
P「…………」
冬馬「俺達の事、プロデュースしてくれて……ありがとな」
P「……冬馬……」
冬馬「……あーもう! 二度と言わねぇからな! こんなこと!」
翔太「なんだ、お礼を言いそびれたまま765プロに移籍されちゃったから怒ってたの?」
北斗「別に外国に行ったわけでもないし、会おうと思えばいつでも会えたのにな」
冬馬「うるせぇ!」
P「……冬馬」
冬馬「あぁ? 何だよ」
P「……それに北斗。翔太も」
北斗「はい」
翔太「うん」
P「俺の方こそ……ありがとう。お前らのプロデュースをさせてくれて」
P「長い間ではなかったけど、楽しかったよ」
冬馬「……ふん」
北斗「こちらこそ、未熟な俺達を高みに届かせて頂いたこと……感謝しています」
翔太「うん。やっぱり○○ちゃんがいないと今の僕達は無かったからね。どうもありがと!」
P「ああ。俺もお前ら三人のプロデューサーでいられて……本当に良かった」
北斗「さて、では過去のわだかまりも解けたところで……○○さん。今日は一体、何の用でこちらへ?」
P「ああ。黒井社長に呼ばれたんだ。一昨日、急に電話が掛かってきてな」
冬馬「……おっさんが? 何だって今更……」
P「さあな。『用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい』って言うから、スケジュールの隙間を縫って来たよ」
翔太「ふぅん。一体何なんだろうね? まさかもう一度961プロに戻って来いとか、そういう話?」
P「さっきも聞かれたが……それは無いと思うがな」
冬馬「ふん。今更戻って来たって入れてやんねーよ」
北斗「お前は小学生か」
P「まあ何の用かは分からんが、黒井社長ともここを辞めて以来会ってなかったからな。昔話に花を咲かすにはちょうど良い機会だと思って来たよ」
冬馬「……別に言うほど昔じゃねーだろ」
北斗「まあ確かに、あなたがここを出られてからまだ一年も経ってないですしね」
P「でもお前らは……あれから一年も経っていないとは思えないほど成長したよな。この前出した最新のアルバム、流河旱樹を抑えてチャート1位だったし」
翔太「あっ。知ってくれてるんだ」
P「当たり前だろ。俺達765プロにとって、お前らは超えるべき存在……いわばライバルだからな」
冬馬「“俺達765プロ”……か」
P「冬馬」
冬馬「…………」
P「……そういや、俺の後任のプロデューサー、××になったんだってな。さっき聞いたよ」
冬馬「……ああ」
P「ちゃんと上手くやれてるか? 困らせたりしてないだろうな? あいつああ見えて結構繊細なところあるから……」
冬馬「ああもう! うるせーな! 別に何の問題もねぇよ」
P「そうか? ならいいんだが……」
翔太「まー冬馬君、時々愚痴ってるけどねー。『チッ……こんな時、あいつだったらもっと上手くやんのによ……!』とか」
冬馬「ば、バカ翔太! お前何言ってやがる! しかも何で妙に似てんだ!」
北斗「まあでも、概ね上手くやってますよ。これといって大きな不満もありませんしね」
P「……ああ。そうなんだろうな。今のお前らを見てるとそれがよく分かるよ」
冬馬「まるでもう自分には関係ねーっていう口ぶりだな」
P「!」
北斗「おい、冬馬」
冬馬「まあ無理もねぇか。何せ“俺達765プロ”なんて言葉が自然と口を衝いて出てくるくらいだもんな」
北斗「冬馬!」
翔太「もうやめなって。せっかく良い感じになってたのに」
P「…………」
冬馬「……じゃあ、見せてもらおうじゃねーか」
P「えっ」
冬馬「あんたら765プロの……実力ってやつをよ」
P「!」
冬馬「今度……アリーナでライブするんだろ?」
P「ああ」
冬馬「あんたらが俺達に差を見せつけてやるっていうなら……挑戦状、受けて立ってやるよ」
P「! ……冬馬」
冬馬「ふん」
P「分かった。今度持ってくるよ」
P「……ライブのチケット」
翔太「お、通じた」
北斗「流石……と言うべきか。当然、と言うべきか」
P「いいんだろ? それで」
冬馬「……おう。ライブ、成功させろよ」
P「ああ。任せとけ。……っと、じゃあそろそろ行くわ。またな」
北斗「ええ。また是非近いうちに」
翔太「バイバイ、○○ちゃん」
冬馬「…………」
北斗「冬馬。それにしてもお前……本当にツンデレだな」
冬馬「は、はぁ!? 何で俺が! 気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇ!」
翔太「あはは。でも良かったー」
冬馬「? 何がだよ。翔太」
翔太「だって○○ちゃんが移籍してから、冬馬君、ずっと無理してるように見えたから……これでようやく、吹っ切れたんじゃないかなって」
冬馬「なっ……。お、俺は別に無理なんか……!」
北斗「はいはいツンデレツンデレ」
冬馬「だから違うっつってんだろ!」
【961プロダクション本社ビル内/社長室】
コンコン
P「……黒井社長。○○ですが」
黒井「入りたまえ」
ギィッ
P「失礼します」
黒井「……久しぶりだな」
P「ええ。俺がここを出た時以来……ですね」
黒井「ああ。実に久しい。またその節は苦労を掛けたな」
P「いえ。社長にもお考えがあっての事だったんでしょうし……俺は何とも思っていませんよ」
黒井「そうか」
P「はい」
黒井「ところで……その頬はどうした? 少し腫れているように見えるが」
P「ああ……実はついさっき、昔飼ってた……ちょっとやんちゃな子犬に噛み付かれちゃいまして」
黒井「ほう。それはまた災難だったな」
P「ええ、まあ。ははは……」
黒井「……で、上手く和解できたのかね? そのやんちゃな犬コロやらとは」
P「ええ。それはなんとか」
黒井「そうか。それは何よりだ」
P「はい」
黒井「……で、本題の方だがな」
P「ええ。どういった御用向きでしょう」
黒井「まず先に詫びておこう。この度は急に呼び付けてすまなかった」
P「いえ」
黒井「そしてこれから私が話す事は……絶対に誰にも話さないでほしい」
P「? はい」
黒井「では早速だが……君は“エラルド=コイル”という人物を知っているかね?」
P「エラルド=コイル……? 海外の俳優か何かですか? 生憎、存じませんが」
黒井「そうか。では……」
P「…………」
黒井「“L”なる人物を知っているか?」
P「……L……?」
黒井「ああ」
P「……どこかで聞いたことがあるような気もしますが……すみません。少し記憶が……」
黒井「そうか。ならばいい。両者いずれも、表社会に名が知られているような者ではないからな。君が知らないのも無理は無い」
P「あの、社長。話が読めないのですが……」
黒井「ああ。そうだな。これ以上勿体ぶるのはやめておこう」
黒井「実は今……私の前にあるこのPCは外部の者と接続された状態になっている」
P「!」
黒井「黙っていてすまない。今からの話は主にその者からしてもらう」スッ
P「…………?」
(机上のPCのディスプレイをプロデューサーの方へ向ける黒井社長)
(そのディスプレイには『L』の文字が映し出されている)
P「……L……?」
PC『――はい。Lです』
P「!」
【二日前・961プロダクション本社ビル内/社長室】
黒井「…………」
黒井(キラから『“L”の写真を961プロのホームページに載せろ』と指示を受けてからもう四か月……)
黒井(あの時以降、キラから“L”の写真を載せるように指示されたページには、コイルの助言に従い、今日に至るまでずっと『只今更新中です。今しばらくお待ちください』という文章を掲載したままだが……あれ以来キラは私に対し、追加の指示はおろか何の連絡もしてきていない)
黒井(また一方コイルからも、“L”の正体に関する連絡は特に無い)
黒井(もっとも実際のところ、私にとっては『“L”の正体』などどうでもいい事……ゆえにもしキラが『黒井崇男からは“L”の情報を得られない』と判断し私に見切りをつけたのだとしても、それ自体は何の問題も無いが……)
黒井(……しかし……)
黒井(それならそれで、なぜキラはまだ私を殺さずにおいている……?)
黒井(キラは765プロの関係者……それはこれまでの私に対する脅迫内容から考えてまず間違い無いし、何よりも動機がある)
黒井(つまりそれは――……私が他のアイドル事務所をも巻き込んで行っていた“765プロ潰し”……これに対する“復讐”)
黒井(その首謀者が私であったことは少し調べればすぐに分かる事だろうし、また私としてもあえてこの事を隠そうとはしていなかった)
黒井(わが社が経営を支配している投資会社を通じて、765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーの件にしても……いずれは気付かれるであろうことを承知の上でそうしていた)
黒井(もし仮にそこまで気付かれたとしても……当時はまだ弱小貧乏事務所でしかなかった奴らにとって、私が件の投資会社を通じて行っていた出資に頼らざるを得ない状況であったことに変わりはない。つまり奴らにとって、私に抗する選択肢など最初から無く……ただ私の圧倒的な力の前に屈服するしかないのだと……そう思っていたからだ)
黒井(それがまさか……こんな形で“復讐”を受けることになろうとはな)
黒井(……それにしても……)
黒井(果たして“キラ”は誰なのか……高木なのか、他の従業員なのか、または所属アイドルの中の誰かなのか)
黒井(あるいは……765プロ全体で一丸となって、私を追い詰めようとしているのか)
黒井(―――まあいい。いずれにせよ、“キラ”が765プロの中にいる誰かであることは間違い無い)
黒井(そしてその者……または組織体としての765プロが……私の右腕であった轡儀や、“765プロ潰し”に加担していた他のアイドル事務所の関係者達を軒並み殺し……さらには、私が765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーまでをも殺した事)
黒井(加えて、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、ジュピターの担当プロデューサーだった○○を765プロに移籍させるよう命じた事)
黒井(そして今まさに、私に対し『“L”の正体を明かせ』と命じてきている事……)
黒井(これらも全て間違い無い)
黒井「…………」
黒井(だが私としてもキラにいつ殺されるか分からない以上……この事は誰にも言うことはできない)
黒井(唯一、キラと同様の手法で私を脅迫してきたコイルに対してだけは、全てを話さざるを得なかったが……)
黒井(しかしコイルもなぜ、私を脅迫してまで……また、あれだけ拘っていた報酬の増額を諦めてまで……私が“L”捜しの依頼をしてきた本当の理由、背景……さらには真の依頼人がいるとすればそれは誰なのか、などという事まで知ろうとしたのか……)
黒井(いや、だがコイルにしてみれば仕事を請ける前に依頼人をはっきりさせるのは当たり前の事……)
黒井(とすれば当然、形式上の依頼人が私であることなどはすぐに突き止める。それができない様では探偵として無価値だし、ましてやコイルは人捜しで名高い)
黒井(そして形式上の依頼人が私だと分かれば次は私という人間を調べる。これも当然の事だ)
黒井(形式上の依頼人が株式会社961プロダクションの代表取締役社長……ただコイルはここで留まらなかった)
黒井(おそらくコイルは、エージェントを介さずに直接私に連絡を取った時点で――……私がキラと何らかの繋がりがある者、という事までは分かっていたのだろう)
黒井(だが私がキラと仲間として繋がっている者なのか、それとも単にキラに脅されているだけの者なのかまでは分からなかった)
黒井(だからコイルは、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、私を嘘のつけない状況――犯罪者として報道されれば、キラの裁きの対象となり殺されてしまうかもしれない状況――に追い込んだ上で、私自身にその真相を語らせた)
黒井(そして私がキラと仲間として繋がっている者ではなく、あくまでもキラに脅されているだけの者だったと確認できたので……依頼を受けることにしたのだ)
黒井(もし私がキラと仲間として繋がっている者なら、私の依頼を受けることはキラから直接依頼を受けることと同じ……最終的に“L”の正体を掴めなければ、コイル自身も殺されてしまう危険が生じる)
黒井(ただそうは言っても、私がキラと仲間として繋がっていた場合なら、どのみち依頼を断った時点で殺されてしまう可能性が高かったともいえる……とすればこの場合でも、結局は私の依頼を受けざるをえなかっただろうともいえるか)
黒井「…………」
黒井(しかし……“L”……か)
黒井(名前も居場所も顔すら誰も知らないが……“エラルド=コイル”、“ドヌーヴ”と並び称される“世界の三大探偵”の一人であり……)
黒井(世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札……)
黒井(私は裏の世界にもよく通じていたから……前々からその存在は知っていた)
黒井(ゆえに、キラ事件の開始当初に“リンド・L・テイラー”と名乗る男が行った公開生中継……)
黒井(あれを見た時、私はすぐにピンと来た。『こいつは“L”の替え玉だ』と)
黒井(これまで誰も顔も名前も知らなかった“L”が、あんな風に全世界に自分の素顔を晒す筈がない)
黒井(つまりあれは、ああしてキラを挑発することで自分の身代わりの者を殺させ……それによってキラの存在を証明し、さらには殺しの手段をも特定しようとした“L”の策)
黒井(“L”を名乗る者が公の場に姿を晒したのはあの一回だけだったが……私のように元々“L”の存在を知っていた者にとってはそれだけで分かった)
黒井(もう既にあの時点から、“L”はキラを捕まえるための行動を起こしていたということが)
黒井(そしてまたキラも……そのことに気付いた)
黒井(だからこそ私をして――自分を捕まえようとしている――“L”の正体を明かさせようとした)
黒井(その役に私を選んだのは……単純に私に対する“復讐”という動機もあるのだろうが……おそらくはキラ自身が『自分の力では“L”の正体を掴むことはできない』と判断したからだろう)
黒井(だからこそ、金も権力も人脈も……自分より豊富に持っているであろう私を使うことを思いついた)
黒井(しかしそう考えると……キラは高木ではないということか? ……金や権力はともかく、あいつにもそれなりの人脈はあるはず……)
黒井(またあいつなら、あらゆる業界に広く通じている善澤とのつながりもある。わざわざ正体を知られるリスクを冒してまで私に頼るくらいなら、まずは善澤を使って“L”の正体を探ろうとする方が自然に思える)
黒井(それにキラ自身は別の者だとしても、765プロ全体が組織体として“キラ”としての活動を行っているのならば……やはり当然、高木の持つパイプを使うことはできるはず)
黒井(にもかかわらず……キラはあくまでも私をして“L”の正体を明かさせようとしている)
黒井(……とすれば、キラは高木以外の者であり……)
黒井(かつ、765プロが組織体として“キラ”としての活動を行っているわけでもない……ということか?)
黒井(もっとも、仮にそうだとしても……それ以上には絞り込みようがないが)
黒井「…………」
黒井(……まあいい)
黒井(キラが誰であろうと私には関係無い)
黒井(なぜなら、キラがこれまでに裁いてきた犯罪者の報道のされ方をみるに……キラの殺しに必要な条件は『顔』と『名前』)
黒井(この点、961プロダクションの代表取締役である私は、当然の事ながら『顔』も『名前』も広く一般に知られている)
黒井(つまりキラが765プロの誰であれ……私はいつ殺されてもおかしくない状況にあるといえるからだ)
黒井(ならば今、私にできることはただ一つ)
黒井(警察であれ“L”であれ、早くキラを捕まえてくれるようにと祈ること。……それだけだ)
黒井「…………」
黒井「…………」
ピピピピッ
黒井「! 通知不可能」
黒井「……コイルか」ピッ
黒井「はい」
『株式会社961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男さんですね』
黒井「? ああ……そうだが。お宅は?」
黒井(人工音声のようだが……コイルが使っていたものとは違う……?)
『私はLです』
黒井「!? え……Lだと?」
『はい。私はLです』
黒井「…………」
黒井(ば……馬鹿な。いくらなんでもこんなタイミングで……)
『あなたはキラに脅されて、探偵エラルド=コイルに私の正体を明かすよう依頼をしていますね』
黒井「! …………」
『ですが、あなたは絶対に私の正体を知ることはできません』
黒井「…………」
黒井(な、なんだこいつ……まさか本当に……)
『なぜなら、私はエラルド=コイルの動向を完全に把握しているからです』
黒井「!」
『探偵が最も用心する相手はマフィアでも殺し屋でもありません。自分の正体を探ろうとする同業者です』
『ゆえに私は、コイルやドヌーヴといった自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしています』
『よって私は、あなたがコイルに依頼した内容、その際に話したことなど全て仔細に把握しています』
『したがって、あなたがこのままコイルからの報告を待っていても私の正体は永久に掴めません』
黒井「…………」
黒井(こんな話……素直に信じていいものかどうか……そもそもこいつ本当に“L”なのか?)
黒井(いや、今そんなことを考えていても真相が分かるわけではない……。とにかく現状、こいつは私がコイルに依頼している内容を全て把握しているとまで言ってきている……無視はできない……)
黒井(ならば今、私がこいつに聞くべきことは……)
黒井「……目的は何だ?」
『ご理解が早くて助かります』
『あなたはもう知っていると思いますが……私はキラを追っています』
黒井「…………」
『そして私はついに、キラをある個人に特定することができました』
黒井「! 何だと」
『ですがこの先、実際にキラを捕まえるには私一人の力では少し難しい』
『そこで黒井さん。どうかあなたの力を貸して頂きたい』
黒井「! …………」
『あなたの協力があれば、必ずやキラを捕まえることが出来ます』
黒井「…………」
『そしてまた……今現在キラに脅迫されているあなたにとっても、この話は渡りに船のはず』
黒井「! …………」
『キラも今は沈黙しているかもしれませんが、あなたがいつまで経っても“L”の……つまり私の正体を掴めなければ、いつか必ずあなたを殺すでしょう』
黒井「…………」
『しかし今、あなたが私に協力して頂ければキラを捕まえることが出来る。つまりあなたの命は助かる』
黒井「…………」
黒井(確かに、今の話が本当なら……この者が“L”かどうかは別にしても……キラにいつ殺されてもおかしくない状況にある私にとってはまさに渡りに船)
黒井(だが、もし私がこの自称“L”についたことがキラに分かったら……その時点で殺される)
黒井(しかし一方で、このまま何もしなければ、私はずっと『いつキラに殺されるか分からない』という不安に苛まれながら生きていくことになる……)
黒井(それならばいっそ……)
黒井「……分かった」
『! 黒井さん』
黒井「あなたが本当に“L”なのかどうか……それはこの際どうでもいい」
黒井「あなたが本当にキラを捕まえてくれるのなら、私がその申し出を断る理由は無い」
黒井「私にできることがあるのなら、協力させてもらう」
『ありがとうございます』
『では早速……一つ頼みたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?』
黒井「ああ。何だ?」
『半年ほど前まであなたの会社に在籍していた○○という者を、今日以降、できるだけ早くあなたの会社に呼んで下さい』
黒井「! ○○……だと?」
『はい。お願いできますか?』
黒井「可能ではあると思うが……何故だ?」
『理由は彼が来た時にお話しします』
黒井「……分かった。ではすぐに連絡しよう」
『ありがとうございます。なお、彼を呼ぶ場所は他の者が絶対に入って来れない所……そうですね。できればあなたの部屋……社長室にして下さい』
黒井「分かった」
『では彼が来る日程が決まったら、これから伝える番号に電話して下さい。番号は――』
黒井「――了解した。ではこれからすぐに連絡する」
『はい。よろしくお願いします。それでは』プツッ
黒井「…………」
黒井(ここで○○……か)
黒井(自称“L”の発言によれば、奴は私がコイルに話した内容を全て把握しているとのこと)
黒井(とすれば当然、○○がうちから765プロへ移籍した……いや“させられた”経緯についても知っているということになるが……)
黒井(しかしその上で○○をここに呼べ、というのは……?)
黒井「…………」
黒井(……まあいい)
黒井(奴の意図がどうあれ、今は言われたとおりにするだけだ)
黒井「…………」ピッ
黒井「……ああ、私だ。久しぶりだな」
黒井「いや、何。少し急用ができてな」
黒井「ああ……そうだ。本当に急ですまんが、今日以降、できるだけ早く来てもらえないか? ……ああ。うちの会社にだ」
黒井「……ああ。用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい」
黒井「……そうか。すまんな。では明後日の14時に」
黒井「ああ。よろしく頼む」ピッ
黒井「…………」
黒井(さて、どうなるか……)
【現在・961プロダクション本社ビル内/社長室】
(『L』の文字が映し出されているPCのディスプレイを凝視しているプロデューサー)
P「…………」
PC『この度は御足労頂き、誠にありがとうございました』
PC『今回、あなたをここに呼んでもらうよう黒井社長に頼んだのは私です』
P「…………」
PC『では早速、あなたをお呼びした理由のご説明からさせて頂こうと思いますが――……』
P「……ああ、そうか」
PC『? どうかされましたか?』
P「いや、今……思い出した」
P「キラ事件の開始直後、TVの生中継で“L”と名乗る男が現れ、“キラ”に対して挑発を行ったということがあった……あれがあんたなのか?」
PC『はい。ある意味そうです』
P「? ……ある意味?」
PC『はい。あの時TVに映っていた男は私ではありませんが、あの男が演じていた“L”は私ですので』
P「……演じていた?」
PC『はい』
P「……なるほど。つまり身代わりってわけか」
黒井「!」
P「あんたが“L”本人であり、あの男はその身代わり。そしてあの男は確か、TVで『“キラ”を必ず捕まえる』などと発言していた」
P「つまり“L”と名乗るあんたが何者なのかは分からんが……とにかくあんたはキラを捕まえようとしている何者かであり……」
P「キラを捕まえるという目的のため、TVを通じてキラを挑発して自分の身代わりを殺させ……」
P「キラの実在性と殺人の手段を証明しようとした……ってとこだろう」
PC『……ご明察です』
黒井「フン。相変わらず聡い男だ」
P「いやいや……ここまでヒント出されたら誰だって分かりますって」
P「で? そのキラを捕まえようとしている“L”とやらが俺に何の用なんだ?」
P「一応断っておくが、俺はキラじゃないぜ」
PC『はい。それは勿論分かっています』
PC『今回私があなたをお呼びした理由、そしてこれから先、あなたにお願いしたいこと……全てご説明させて頂きます』
P「…………」
PC『ではまず、前提の確認からですが……○○さん』
P「ああ」
PC『あなたの事は、ある程度事前に調べさせて頂きました』
P「…………」
PC『あなたは現在の職場である765プロダクションに来る前は、この会社……961プロダクションに勤めておられましたが……』
PC『961プロダクションの前にも……あなたはまた別の事務所でプロデューサーとして働いていた』
P「!」
黒井「…………」
PC『あなたは新卒で入ったその事務所でめきめきと頭角を現し、入社数年にして先輩社員達をごぼう抜きにするほどの卓越した成績を収めた』
PC『しかし妬み嫉みは人の常……あなたの躍進を妬んだ先輩社員達から、あなたは自身が全く関与していなかったプロジェクトの失敗の責任を強引になすり付けられた』
P「…………」
PC『その後も社内であなたを陥れようとする動きは続き……あなたは自分に落ち度の無い失敗ばかりをいくつも押し付けられた』
PC『最終的には、当時の社長までもがあなたを陥れようとする者達によって言いくるめられてしまい……あなたは、種々の失敗の責任を取って退職するよう勧告された』
PC『そしてあなたは、自主退職という形で事務所を去らざるを得なくなった』
P「…………」
PC『そうして職を失い、路頭に迷いかけていたあなたを救ったのが……黒井社長だった』
黒井・P「!」
PC『黒井社長は、かつて仕事で提携した際にあなたの働きぶりを目にしており、その能力を高く評価していた。隙あらばヘッドハンティングを持ち掛けようと思うほどに』
黒井「…………」
PC『そんな黒井社長にとって、いかなる事情があれど、あなたが前の事務所を離れたのは僥倖というほかなかった。黒井社長は、すぐにあなたを自分の事務所に来るように誘った』
PC『961プロダクションは、業界ナンバーワンといっても過言ではない地位にあるアイドル事務所……断る理由などあるはずもない』
PC『そしてあなたは961プロダクションに入社し、その後すぐに、当時結成されたばかりだった男性アイドルユニット『ジュピター』の担当プロデューサーに任じられた』
PC『その後の『ジュピター』の躍進ぶりについては……あえて今ここで語る必要は無いでしょう』
PC『―――とりあえずここまでで、何か事実相違等はありませんか?』
黒井・P「…………」
P「……黒井社長。今の……話してたんですか? この“L”に」
黒井「いや、話していない。この“L”には勿論、エラルド=コイルにもだ。私も今聞いて驚いている」
P「そうでしたか。……ん? エラルド=コイル? そういえばさっきもそんな名前……一体誰なんですか? それ」
黒井「ああ。それはだな……」
PC『……すみません。そのあたりは後でちゃんと私の方から説明しますので、今はここまでの事実確認をお願いします』
黒井「ああ、それなら私の方は特に認識相違は無い」
P「同じく」
PC『ありがとうございます。では次に、○○さんに二つほど質問をさせて頂きます」
P「質問?」
PC『はい。……○○さん。あなたは黒井社長に恩義を感じていますか?』
P「!」
黒井「…………」
P「……愚問だな」
PC『…………』
P「さっきあんたが言ったとおり……黒井社長が、あの時路頭に迷いかけていた俺を拾ってくれた」
P「今の俺があるのは黒井社長のおかげだ。恩義を感じていないわけがないだろう」
黒井「…………」
PC『ありがとうございます。では次の質問ですが……○○さん。たとえば、黒井社長に命の危険が迫っているとした場合……』
黒井「!」
P「?」
PC『もし自分がその助けになれるとしたら、あなたは迷わず協力することが出来ますか?』
P「……答えるまでもない。さっきも言ったが、俺にとって黒井社長は恩人だ。その黒井社長に命の危険が迫っている状況において、俺が協力しない理由なんてあるわけがないだろう」
P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対に黒井社長を助ける。絶対にだ」
黒井「……お前……」
PC『ありがとうございます。その言葉が聞けて良かったです』
P「…………」
PC『では次に、今の質問の意図をお話ししたいと思います』
PC『二つ目の質問で、私は“たとえば”と前置きしましたが……実はこれはたとえ話でも何でもありません』
PC『現実に、今、黒井社長は命の危険に晒されています』
P「! 何だと?」
黒井「…………」
PC『では、前置きが長くなりましたが―――これから、あなた方二人に全てをお話しします』
PC『これまで私がしてきたこと。そして今、私がしようとしていること』
PC『その―――全てを』
黒井・P「…………」
(PCから流れる“L”と名乗る人工音声は、『自分がこれまでキラを追ってきた捜査の結果』として次の内容を二人に伝えた)
(現在、“L”がキラとして特定しているのは、765プロダクション所属アイドルの星井美希と天海春香の二名であること)
(そのように判断するに至った理由として、キラ事件の開始と同時期に、星井美希が765プロダクションの前のプロデューサーおよび昨年の自身のクラスメイト一名を殺害している可能性が高いこと)
(また昨年発生した『アイドル事務所関係者連続死亡事案』もキラと同じ能力を持つ者による犯行であると考えられ、それが天海春香によるものであった可能性が高いこと)
(さらにキラ事件の開始直後、天海春香はどこからか入手した情報により961プロダクションに関する違法・犯罪行為をネタに黒井社長を脅迫し、当時961プロダクションにプロデューサーとして在籍していた○○を765プロダクションに移籍させるように命じたこと)
(そして、当初はこのように別々に活動していたと思われる星井美希と天海春香の二名だが、今は互いに連携してキラとしての活動を行っていると考えられること)
(またキラの裁きとは別に、星井美希および天海春香の二人は黒井社長を脅迫する形で『“L”の正体を明かせ』とも命じており、そのため黒井社長は、人捜しで名高い“エラルド=コイル”という探偵に“L”の正体を明かすよう依頼をしていること)
(他方、“L”はキラを追う一方で、黒井社長が依頼した内容も含め、自分の同業者にあたる“エラルド=コイル”の動向は全て把握していること)
(そして“L”は、現在、星井美希および天海春香がキラであることの証拠を押さえるための作戦を遂行中であり、黒井社長とプロデューサーにはその協力を頼みたいということ)
PC『―――これが今、私があなた方に伝えられる全てです』
黒井「…………」
P「…………」
PC『今すぐに全てを信じ、また受け入れるのは難しいだろうと思います』
PC『しかし信じて頂きたい。信じた上で……私に協力して頂きたい』
PC『これが今日、あなた方にこの場に参集して頂いた目的です』
P「…………」
黒井「……私はこれまでの脅迫の内容から、キラが765プロの中にいるのであろうことは分かっていた。しかしまさか、もうここまで特定していたとは……」
P「美希と……春香が……キラ?」
黒井「…………」
P「は、ははっ……これは、流石に……ちょっときついな」
黒井「…………」
P「……一応聞きますが、黒井社長……これ、ドッキリとかじゃないですよね?」
黒井「……気持ちは分かるが、流石の私もそこまで悪趣味ではない」
P「は、はは……そう、ですよね……ははっ、そっか……」
黒井「…………」
P「そういえば今年の初め頃……二人組の刑事が、キラ事件の捜査でうちの事務所に来たことがあったっけ」
P「その後は特に何も無かったから、そんな事……今日まですっかり忘れていたけど」
P「それがまさか……俺達の知らないところで、こんな事になっていたなんて」
黒井「…………」
PC『……胸中には様々な思いが去来していることと思います。しかし、もうあまり時間が無いのも事実です』
PC『今、黒井社長がキラに殺されていないのは、黒井社長がキラにとって唯一の“L”……つまり私の正体を掴むための足掛かりとなっているからです』
PC『しかし、キラが最初に黒井社長に『“L”の正体を明かせ』と命じてからもう既に五か月ほどが経過し……未だに“L”の正体は掴めていない状況……』
PC『またそもそも、この先どれだけ時間が経とうが、コイルが私の正体を掴むような状況自体生じえません。よってキラが“L”の正体を掴むことは永久にできません』
PC『つまりはっきり言って、今後、いつキラが痺れを切らして黒井社長を殺害するか分からないという状況です』
PC『いくら脅迫によって口止めしているとはいえ、『765プロダクションの中にキラがいる』ということには確実に気付いている黒井社長をずっと生かしておくことはキラにとってもリスクですから』
PC『かといって、私も自分の命は惜しいですので……大変申し訳ありませんが、黒井社長の代わりに私の命を差し出すという事も出来ません』
黒井「…………」
P「身代わり、という手は使えないのか? 既にあんたは一度、TVを通じてそれをやったはずだ」
黒井「!」
PC『……あれはあなたが仰ったとおり、あくまでもキラの実在性と殺しの能力を証明するために取った手段です。もう既にキラの実在性と『直接手を下さずに人を殺せる』というキラの能力がほぼ確証されている現在の状況下においてなおそれをするのは、もはやただキラに生贄を差し出すだけの行為でしかありません』
PC『たとえ誰かの命を救うためであったとしても、そのために他の誰かの命を犠牲にしてもいいということには決してなりません。そのように生かすべき人間と死んでもいい人間とを選別するのであれば、それは神を気取って犯罪者を裁いているキラと同じ行いです』
P「…………」
PC『また仮にその手段を取ったところで、何らかのきっかけによりそれが身代わりであったこと……つまり“L”本人でなかったことに気付かれれば、どのみち黒井社長はキラに殺されてしまうでしょう』
PC『よってその点からもリスクとして高過ぎますので、いずれにしてもその案は採用できません』
P「じゃあそうなると……王道だが、黒井社長が殺される前にキラを……つまり、美希と春香を……捕まえるしかないってことか」
PC『はい。そういうことになります』
P「…………」
PC『……どうされますか? ○○さん』
P「…………」
PC『言うまでもない事ですが……現状、既に自身の命が危険に晒されている黒井社長はともかく、あなたの場合はそうではない……むしろ私に協力することで自分がキラに殺される危険が生じるだけともいえます』
P「…………」
PC『それに加えて、私が現在キラとして特定しているのは二名ともあなたの担当アイドルなのですから……協力を躊躇されるのも無理からぬことだと思います』
P「…………」
PC『ですので……やはり協力できない、ということであれば仕方ありません。黒井社長には申し訳無いですが、その場合は他の協力者をあたって……』
P「……いや、待ってくれ」
黒井「!」
PC『…………』
P「やるよ。“L”。協力……させてくれ」
黒井「! ……お前……」
P「黒井社長。さっき言ったとおりです。いかなる事情があれど、あなたに命の危険が迫っている状況において、俺があなたを助けるための協力をしない理由はありません」
P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対にあなたを助けます」
P「……そう。たとえ自分の担当アイドルがキラとして捕まることになったとしても……ね」
黒井「! …………」
PC『……よろしいんですね?』
P「ああ。全て今言ったとおりだ。二言は無い」
PC『ありがとうございます。○○さん。それでは早速――……』
黒井「……すまん。少しだけ待ってくれ。“L”」
PC『? はい』
P「黒井社長?」
黒井「……考え直せ」
P「!」
黒井「さっき“L”も言っていたが、私はともかく……お前がこの件に協力したところで得られる利益は何も無い。むしろ自分の命が危険になるだけだ」
P「…………」
黒井「移籍の経緯はどうあれ……今、お前は765プロで十分に成功を収めている。ならばわざわざ、あえて今の自分を危険に晒す必要など――……」
P「黒井社長」
黒井「…………」
P「俺の身を案じてそう言ってくれていることは、本当にありがたく思います」
黒井「…………」
P「でも、俺の気持ちは変わりません」
黒井「! お前……」
P「……あなたは、俺が961プロにいる間……“765プロ潰し”の件も含め、961プロが裏で行っていた様々な悪事には俺を一切加担させようとしなかった。むしろそういった961プロの闇の部分から、意図的に俺を遠ざけていた……そうですよね?」
黒井「! 気付いていたのか」
P「ジュピターの活動報告をしに社長室を訪れた際、偶然にも、あなたと轡儀さんの会話を立ち聞きしてしまったことがありまして」
黒井「……そうだったのか」
P「あなたは……もし961プロに関する違法・犯罪行為が公になり、自分や轡儀さんが社内外から責任を問われる事態になったとしても、俺にだけは絶対に責任が及ばないようにしてくれていた」
黒井「…………」
P「あなたと轡儀さんは961のツートップ……二人が会社を追われるような事態になれば、社内の勢力図は大きく変わる」
P「また社内には、中途入社したばかりでいきなり新ユニットの担当プロデューサーを任された俺を疎んじるような向きも少なからずあった」
P「だからあなたは、もし自分と轡儀さんが急にいなくなったとしても……残った俺が誰からも何一つ言いがかりをつけられたりすることがないように……俺を961プロの“裏の顔”には一切関与させなかった」
黒井「…………」
P「あなたは、前の事務所で俺が退職に追い込まれた経緯を知っていたから……もう絶対に、俺を同じ状況には置かせまいと……考えうる限りの最善の措置を取ってくれていた」
P「全て俺のために」
黒井「…………」
P「そんなあなたが、俺のためにそこまでしてくれていたあなたが……今、命の危険に晒されているのに……」
P「それを黙って見ているなんてありえない」
P「それが、俺の答えです」
黒井「…………」
黒井「……いいんだな。本当に」
P「はい。それに……」
黒井「? それに?」
P「俺は765プロに対する私怨はありません。高木社長にしても、あなたとはかつて色々あったのかもしれませんが……俺から見れば人格者ですし、何の不満もありません」
P「それに何より……俺はうちのアイドル達が好きです。大好きです」
黒井「…………」
P「皆素直で、真面目で、良い子で……どこに出しても恥ずかしくない、自慢のアイドル達なんです」
P「だから俺は胸を張って言えます。今の俺は765プロのプロデューサーとして……うちのアイドル達を愛していると」
黒井「……そうか」
P「はい。だからこそ……本当に美希と春香にキラとしての疑いが掛かっているのなら……その検証に協力するのも、あいつらのプロデューサーである俺の役目だと思うんです」
黒井「…………」
P「プロデューサーとして、あいつらを愛しているからこそ……もしあいつらがキラでないのなら、俺はその疑いを晴らしてやりたい。だから俺にできることがあるなら、どんなことであっても協力したい。今はそう思っています」
P「もし“L”の推理が間違っていたことが分かれば、それはすなわち、美希と春香の潔白を証明することになるはずですから」
PC『…………』
P「しかし一方で、考えたくはありませんが……もし本当にあいつらがキラで、“L”が推理したとおりの罪を犯してきた、あるいは今も犯しているのなら……罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない。俺はそうも思うんです」
P「……轡儀さんの件もありますしね」
黒井「……確かにそうだな。死んでいった轡儀の為にも……我々には、真相の解明に協力する義務がある」
P「はい」
PC『……そうですね。かくいう私も、まだ100%の確証までは持っていません。だからこそ、それを確かめるためにこうしてお二人に協力を依頼しているわけですし……』
PC『また今○○さんが仰ったように、私の推理が間違っていて、星井美希および天海春香はキラではなかったのなら……それもまたこの検証によって明らかになります』
P「……ああ。なら俺はそれでいい。あいつらがキラではない可能性が1%でもあるのなら、俺はそれを信じたい」
P「だからそのためにも、あんたに協力させてくれ。……L」
PC『はい。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします』
黒井「……○○」
P「? はい」
黒井「……恩に着る」ペコリ
P「や、やめて下さいよ。黒井社長。これくらい当然の事です。俺があなたにしてもらったことを思えば……」
黒井「……すまん」
PC『―――それではこれより、お二人に協力して頂く具体的な内容についてご説明します』
黒井「そういえばさっき、『星井美希と天海春香の二人がキラであることの証拠を押さえる』などと言っていたな」
P「つまりもう具体的な証拠のアテがあるってことか?」
PC『はい。その証拠とは……私がキラの殺しの能力そのものと考えているものです』
黒井「! キラの殺しの能力そのもの……だと?」
P「そんなものが……? 一体何なんだ? それは……」
PC『はい。それは―――『黒いノート』です』
P「『黒いノート』……?」
黒井「それが『キラの殺しの能力そのもの』とは……一体どういう意味だ?」
PC『はい。今から全てご説明します。『黒いノート』に関する私の推理を――……』
(“L”は、PCのディスプレイ越しに『黒いノート』に関する次の推理を二人に伝えた)
(これまでの捜査結果から、“L”がキラの殺しの能力の正体として推理しているのは、星井美希と天海春香が各々一冊ずつ所持していると考えられる『黒いノート』であること)
(その『黒いノート』とは『顔を知っている人間の名前を書くことでその人間を殺せるノート』であると考えられること。特に星井美希は常にこれを持ち歩いているものと考えられるため、まずは彼女の持つ『黒いノート』を押さえることが当面の目標となること)
(他方、天海春香は『顔を見れば名前が分かる能力』を持っているものと考えられるため、キラを追う者は『顔を知られたら殺される』可能性があること)
PC『―――以上が、現在私が推理しているキラの殺しの能力の正体です』
黒井「名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート……だと……」
P「常識では考え難いですが……でも確かに、今キラが行っている『裁き』については合理的に説明ができますね……」
黒井「うむ……。それに私も、これまでの犯罪者裁きの傾向から、キラの殺しには『顔』と『名前』の二つが必要なのだろうと考えていたが……何故キラは私に対し『“L”の顔写真だけでも入手してほしい』と言っていたのか、それがずっと気になっていた。だがそれも、天海春香が『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたのだと考えれば納得がいく」
P「それに……キラの能力の正体が『ノート』という物体そのものなのだとすると、今キラが“L”の正体を探ろうとしていることとも辻褄が合いますしね」
黒井「? どういうことだ?」
P「簡単な事ですよ。もしキラが何らの物的証拠を残すことなく――たとえば頭の中で念じるだけでなど――人を殺せるのなら、たとえ自分を追う者がいたとしてもその者を殺す必要は全く無い。いくら調べられても足がつくはずがないからです」
黒井「! …………」
P「だがキラは自分の正体を知られるリスクを冒してまで……黒井社長をして、自分を捕まえようとしている“L”の正体を明かさせ、殺そうとしている。それは捜査の手が迫ればキラだという証拠を見つけられ捕まるからということに他なりません」
P「逆に証拠が無いのならいくら捜査されても困らず、“L”を殺す必要も無いはず……だから証拠は必ずあるって事です」
黒井「……なるほどな」
黒井(こいつ、今聞いただけの説明でもうここまでの思考を……)
PC『そうですね。○○さんの仰る通りです』
PC『キラが“L”の……すなわち私の正体を探り、殺そうとしているということこそ……キラが能力を行使する際には必ず何らかの物的証拠が残る、ということの証左です』
P「……しかし、空港の所持品検査時のX線写真か……まさかあの合宿の時に、裏でそんな捜査がされていたとはな」
PC『はい。この事件の捜査は警察の力も借りていますから』
P「……ってことは、前にうちの事務所に聞き取りをしに来た二人組の刑事……あれもあんたの差し金か?」
PC『はい。あれもキラ事件の捜査の一環として私が指示して行かせたものです』
P「なるほどな。もうここまでくると……といっても、今日これまでに聞いた話からもうほとんど疑ってはいなかったが……やはりあんたが本物の“L”ってことで間違い無さそうだ」
黒井「そうだな。私も信じよう。この画面の向こうにいる……あなたこそが“L”なのだと」
PC『はい。最初に申し上げました通り―――私はLです』
P「……で、L」
L『はい』
P「本題の、美希が持ち歩いている『黒いノート』を押さえるって話だが……具体的にはどうするんだ?」
P「一応先に言っておくが、いくら担当プロデューサーとはいえ……俺が押さえるのは多分無理だぜ」
P「うちの事務所ではアイドル達に個人別の鍵付きロッカーを貸している。勿論、事務所にはそのマスターキーもあるが……美希に限らず、アイドルがこのロッカーを使っているのはそのアイドル自身が事務所にいる間だけだ。外出中は当然、鞄を持って行っているからな」
P「だから、俺が美希のロッカーを探っているところを美希本人に見つかりでもしたらもうそれで終わりだし……そもそも美希本人でなくても、男の俺がアイドル専用のロッカースペースをうろうろしているところをアイドルの誰かに見られでもしたら確実に不審に思われる」
P「まあ同性の律子や音無さんに探ってもらうってのなら、まだ誤魔化しようもあるのかもしれないが……」
L『いえ。あなた以外の765プロの人間は駄目です』
P「! …………」
L『あなたにそれが無いという意味ではありませんが……アイドルと従業員の垣根を越えて、765プロ全体を強く結び付けている“絆”……そして互いの間にある強固な信頼関係から考えて、『星井美希と天海春香がキラかもしれない』などという推理自体、受け入れてもらえるとは思えません』
L『ゆえにそれを前提として行う捜査に協力してもらうことなどまず不可能です』
P「……確かにな。俺もショックではあったが……少なくとも今は『美希と春香がキラかもしれない』というLの推理自体は受け入れることができているつもりだ。そしてその上で、自分が取るべき最善の行動を選択できていると思う」
L『はい。私もそう思いますし、またあなたならそうしてくれるだろうと思っていました』
L『だからこそ私はあなたに全てを打ち明け、捜査協力をお願いすることにしたわけですから』
P「……ありがとう。L。確かにあんたの言う通り、俺以外の765プロのメンバーの場合はそうはいかないだろうと思う。そもそも皆、事務所のアイドルの人気が出始めてから移籍してきた俺とは違い、もうずっと以前からの付き合いだ。共に過ごした時間の長さが俺とは全然違うし、文字通り苦楽を共にしてきた仲でもある。それこそ美希や春香本人の自白でも無い限りは……二人がキラなどという考え自体、絶対に生まれないだろう」
L『そうですね。またもし仮にそれがあったとしても、『二人は真のキラに洗脳され操られている』などと考え、最後まで二人をキラとして疑うことはないものと思われます』
P「そうだろうな。……というか、さっきから気になっていたが……L」
L『? はい』
P「……あんた、妙にうちの事務所の事情に詳しいんだな」
L『捜査に必要な情報だと思ったので調べたまでです』
P「……なるほど。流石“世界の三大探偵”と言われるだけの事はあるな」
L『どうも』
黒井「しかし、○○も含め……765プロ関係者は使えないとなると……一体誰をして、星井美希の持つ『黒いノート』とやらを押さえさせる気だ?」
L『はい。それは――……○○さんが以前に会った事がある人物です』
P「!」
L『また黒井社長にとっては、その人物の所属事務所にかなり馴染みがあるはずです』
黒井「? 誰だ?」
L『―――ヨシダプロダクション所属アイドル・弥海砂です』
黒井・P「!」
P「弥海砂……だと?」
L『はい。ずばり彼女を使って……星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせます』
P「! …………」
黒井「お前は知っているのか? その弥海砂とかいうアイドルを」
P「あ……ええ、はい。俺が961プロに居た頃、ヨシダプロの女性マネージャー……吉井氏といいますが、よく彼女と互いに仕事先を紹介しあったりしていたんです」
黒井「ほう」
P「そのツテを使って、俺が765プロに移籍してすぐの頃……今からもう半年以上も前になりますが……元々はヨシダプロの所属アイドルに来ていたCM撮影の仕事を、美希……星井美希も一緒に出演させてもらえないか、と吉井氏に頼んで企業側に推してもらい、無事共演を果たしたということがあったんです」
P「その時に、美希と共演したヨシダプロの所属アイドルというのが……弥海砂なんです」
黒井「なるほどな。とすると、お前と……星井美希も、その際にその弥海砂というアイドルと知り合っていたということか」
P「はい。ただ俺は、そのCM撮影以降は弥海砂との接点は特に無いですけどね。吉井氏とは今も定期的に連絡を取りあっていて、先月も映画『眠り姫』のチケットを何枚か渡したりしましたが」
P「ちなみに美希の方は、CM共演を機に弥海砂と仲良くなり、今ではプライベートでもちょくちょく会う仲だそうです」
黒井「そうだったか。しかしヨシダプロダクション……か。まさかこんなところでその名を聞くことになるとはな……」
P「あっ。そうか……黒井社長は確か、ヨシダプロの前の社長と……」
黒井「ああ。私はヨシダプロの前社長と懇意にしていた。だからこそ……彼も轡儀同様、キラによる“復讐”の対象となったわけだが……」
P「……“765プロ潰し”……ですか」
黒井「そうだ。もっともそれ以前から、彼とはよく共謀して弱小事務所を抑圧していた。裏で手を回して芸能企画のスポンサーから外したりな」
P「…………」
黒井「だが今にして思えば、それもキラの逆鱗に触れたのだろう。私宛てに来た最初の脅迫文書にも、確か……『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』などと書かれていた」
P「……黒井社長は、今のヨシダプロの社長とも親しいんですか?」
黒井「ああ。彼は前社長の時代には副社長を務めていたからよく知っているし……彼の方も、私と前社長が裏で共謀して行っていた数々の所業についてはよく知っている」
P「…………」
黒井「だが、件のアイドル事務所関係者連続死亡事案……いや、もうLに倣って『アイドル事務所関係者連続殺人事件』と呼んでおこうか。この事件によって、轡儀やヨシダプロの前社長を含めたアイドル事務所の関係者が三か月で八人も殺害された……そしてそのいずれもが“765プロ潰し”計画の主要人物だった」
黒井「世間的には、『複数のアイドル事務所関係者が短期間に相次いで死亡した不可解な出来事』といった程度の扱われ方だったが……“765プロ潰し”計画に関与していた者達だけは……私も含め、誰もがこう思った。『これは我々が765プロを陥れようとしたがために起きた“天罰”なのだ』と」
P「…………」
黒井「ゆえに、その後は私も765プロに対する妨害工作は行わないようにし、また他の事務所にもそのような指示を出すのはやめた。結果、“765プロ潰し”計画は事実上の終焉を迎えた」
黒井「しかし、キラの“復讐”はそれでは終わらなかった。その後、私がスパイとして送り込んでいた765プロの前のプロデューサーも殺され……また私もキラから直接脅迫を受けることとなった」
P「……で、その脅迫の結果、765プロへ移籍させられたのがこの俺……というわけですね」
黒井「そうだ。そしてその当時のヨシダプロの副社長……つまり今の社長は、そのような経緯も全て知っている。……私がキラに脅迫されてお前を移籍させたこと、そして今もキラから脅迫を受けているということ以外はな」
P「…………」
L『……そういう意味においても、弥海砂は、星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせるにはうってつけです』
黒井「? どういうことだ?」
L『ある程度ヨシダプロ側に事情が伝わっていた方が、黒井社長から話を通して頂きやすいということです』
黒井「ということは……私がヨシダプロの社長に頼めばいい、ということか? 『“L”が行っているキラ事件の捜査の協力をしてほしい。ついては弥海砂にキラ容疑者の持つ『黒いノート』を押さえさせてほしい』と」
L『いえ。黒井社長からヨシダプロの社長に話をして頂きたいのはその通りですが、流石に全ての事情をヨシダプロ側に打ち明けるわけにはいきません』
L『今黒井社長が仰ったように、ヨシダプロの現社長は“765プロ潰し”計画の事を知っていたわけですから……おそらく今でも、自社の前社長も含め、“765プロ潰し”計画の主要人物達は次々と“天罰”により死んでいったと思っているはずです。とすれば、そんな人に『あれは“天罰”ではなくキラによる犯行だった。だからキラを捕まえることに協力してほしい』などと言ったところで、協力を得られるはずがありません。“天罰”だろうがキラだろうが、みすみす自分が殺される危険を負うはずがないからです』
黒井「……確かにな。ではどのように伝えれば?」
L『はい。それではこの計画の全体像を含めて、今からご説明させて頂きますが……』
L『まずそれに先立って、最初にあなた方にお伝えしておくことがあります』
黒井・P「?」
L『実は……私はもう弥海砂に直接接触しており、今は計画の概要を伝達した上でその承諾を得ているという状況です』
黒井「! 何?」
P「直接接触……だと?」
L『はい。あくまでもまだ概要ですが……『近日中に星井美希と共演する仕事の場を作るので、そこでノートを押さえてほしい』と伝えてあります』
黒井「星井美希と共演する仕事の場……? そこで押さえさせるだと?」
L『はい。考えうる中で最も成功率の高い作戦です』
L『これを実現するために……黒井社長には、キラ事件の捜査であることは伏せて、あくまでも『普通の仕事の紹介』という体でヨシダプロの社長に話をして頂きたい』
黒井「!」
P「……そうか。かつてヨシダプロの前社長と親交があり、また現社長の事もよく知っている黒井社長からの仕事の紹介なら何の不自然さも無い」
L『そういうことです。そしてその後、ヨシダプロから765プロへ、あくまでも『普通の仕事』として話を持ち掛けてもらいます。『うちの弥とお宅の星井美希を仕事で共演させてもらえないか』と』
黒井「なるほど……」
P「そこで予め美希の担当プロデューサーである俺にも話を通しておけば、765プロとしてもスムーズに応対できるってわけか」
L『その通りです』
P「……なるほど。確かに事務所間のやりとりはそれで何の問題も無いだろう……だが、L」
L『? はい』
P「何で弥海砂なんだ?」
L『…………』
P「あんたはさっき、『弥海砂はうってつけ』と言った。しかし黒井社長が……961プロが仕事を紹介しても不自然ではないアイドル事務所なら他にいくらでもある……何でヨシダプロの弥海砂を選んだんだ?」
L『……元々、ヨシダプロということ自体に大きな意味はありませんでした。私が先に着目したのはあくまでも弥海砂個人であり、結果、その所属事務所がたまたま黒井社長とつながりのある事務所だったので、今回の作戦を思いついたという次第です』
P「弥海砂個人に着目した……? それは一体どういうことだ?」
L『……私が弥海砂を選んだ理由は、大きく分けて二つあります』
L『まず一つ目は、『星井美希との間に親交があること』です』
P「!」
L『先ほど○○さんも仰っていましたが……弥海砂は星井美希とCM撮影で共演して以来、彼女とはプライベートでも親交のある仲です』
L『この関係を利用します』
P「! …………」
黒井「関係を利用……とは、どういうことだ?」
P「……そういうことか」
黒井「! 分かるのか?」
P「ええ。おそらくですが……美希が常に持ち歩いているような私物……もしそれを押さえる隙があるとしたら、美希と相当親密な関係にある者でなければまず不可能……」
P「ゆえに、その役に一番うってつけなのは……一緒に暮らしている家族か、または同じ事務所のアイドル仲間などとなるが……さっきも言ったように、そんな者達に『美希がキラかもしれない』などと言ったところで受け入れられるはずもない」
黒井「うむ」
P「とすれば、次に考えるのは……そこまでの親密さは無くとも、美希がそれなりに信頼している者であり、ノートを押さえることのできる隙が生まれそうな者……」
P「そこでLが目を付けたのが……所属事務所こそ違うが、美希の親しい友人である“弥海砂”……ということなんでしょう」
黒井「! ……なるほどな」
L『ご理解が早くて助かります。○○さんの仰る通りです』
P「だが弥海砂にしたって、美希の親しい友人であることには変わりない……『美希がキラかもしれない』などという話をそう簡単に受け入れるとは思えないし、また仮に受け入れたとしても、『美希をキラとして捕まえる』ことに積極的に協力するとはとても思えない……だが、L」
L『…………』
P「あんたはさっき、『弥海砂からはもうこの計画の承諾を得ている』と言った。……一体どう説明したんだ? 弥海砂に」
L『はい。それは、私が弥海砂を選んだ理由の二つ目と大きく関係します』
P「…………」
L『実は彼女は……キラの崇拝者です』
黒井・P「!」
L「彼女は今から一年半ほど前に両親を強盗に殺されており……その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝しています」
P「! ……そうだったのか」
黒井「キラ崇拝者のアイドル……か」
P「いや、しかしそれなら……尚の事、『美希をキラとして捕まえる』などということには協力しないんじゃないか? キラ崇拝者がキラを捕まえようとするはずがない」
L『はい。ですので私も、キラの崇拝者を装って弥海砂に接触しました』
P「!」
黒井「キラの崇拝者を装った……だと?」
L『はい。私と共に捜査をしている別の者をキラと見せかけ、信じさせ……その上で、『今、星井美希と天海春香はこの者からキラの能力を奪い、キラとして犯罪者裁きを行っている』『ゆえにこの者が二人から能力を取り戻すことの協力を頼みたい』『それが無事に終わったら星井美希と天海春香も我々の、つまりキラの仲間に加える』……こう言って協力を求めました』
黒井「! …………」
P「……なるほど。『二人をキラとして捕まえるため』ではなく、あくまでも『元のキラに能力を戻させるため』という体にして協力を取り付けたのか」
L『はい』
黒井「……いや、だが待てよ。そうだとしても、『今は星井美希と天海春香の二人がキラとして裁きを行っている』と説明している以上、『今のキラから能力を取り戻す』という目的は、キラ崇拝者である弥の思想に適うといえるのか?」
P「多分ですが……弥が崇拝しているキラ――すなわち、弥の両親を殺した強盗を裁いたキラ――は、『今のキラ』ではなく、Lが仕立て上げた『前のキラ』だったということにしたんでしょう」
黒井「!」
P「つまりそうすることで、Lは『前のキラ』に弥の崇拝心を取り付けた」
L『…………』
P「それでも弥の心情としては、当然の事ながら、友人である美希をキラとして捕まえるとか、あるいは警察に突き出したりすることに対しては抵抗があるはず……だからLは『前のキラに能力を戻すことができれば、美希もキラの仲間に加える』と予め伝えておくことで、弥が安心してこの計画に協力することができるように取り計らった……」
P「そんなところじゃないのか? L」
L『……はい。その通りです』
P「だが……『黒いノート』についてはどう説明したんだ? いくらアイドルといっても、その点を除けば普通の女子高生に過ぎない美希と春香が『前のキラ』からこれを奪ったとする説明はかなり無理があるように思えるが……」
P「また弥にしても、自分の手で殺人の道具そのものを押さえるというのは……美希がどうこう以前に、純粋な恐怖心から躊躇してもおかしくないと思うが」
L『それは大丈夫です。弥には『キラの能力とは何か、それがどう二人に奪われたのか』などの説明はぼかしてありますので。また『黒いノート』についても『キラとしての活動に関する連絡用の道具』としか説明していません』
L『これは万一の情報漏洩を防ぐためでもありますが……最大の目的は、今○○さんも仰ったように、いざノートを押さえる段になって躊躇されてしまうのを防ぐためです』
P「なるほど。つまり弥は『黒いノート』については『連絡用の道具』という認識しか持っていない……」
L『はい。目的はあくまでもノートを物理的に押さえさせることですので、それで何の問題もありません』
P「確かにな」
黒井「……で、そのために『弥海砂と星井美希が共演する仕事の場』というシチュエーションを用意する……ということか」
L『はい。そうです』
P「そして……さっきのおさらいになるが……黒井社長がその仕事をヨシダプロに紹介し、その紹介を受けたヨシダプロが、うち……つまり765プロに、『弥と美希の共演の話』を持ち掛けてくる……」
L『はい。弥は星井美希と一度CM撮影で共演していますし、前の時は765プロ側から共演の申入れをしているわけですから、今度はヨシダプロの方から同じ申入れをしても何らおかしくはないでしょう』
L『また建前上、ヨシダプロとしても、まだアイドルとしての知名度が高くはない弥をより効果的に売り出すために、今人気絶頂にある765プロのアイドルと共演させてその集客力を利用しようとする考えは商業戦略として極めて自然です。不審に思われる要素は微塵もありません』
P「確かに」
黒井「では、L。私は具体的にどのような仕事をヨシダプロに紹介すればいいんだ?」
L『そうですね。私としては……金庫のある控室やロッカールームなど、星井美希が安心して荷物を置き、その場を離れることができるようなスペースさえ確保できるのであれば、仕事の内容自体は何でもいいと思っています』
L『もちろん不審に思われないように、アイドルの仕事として相応しいものである必要はありますが』
黒井「なるほど。では期間としてはどの程度を考えている?」
L『そうですね。『黒いノート』を押さえることができ、かつそれが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきたことの証拠』だと断定できれば、すぐにでも二人の逮捕に踏み切る予定ですが……たまたまその日に限ってノートを持って来ていなかった、という事態になる可能性も否定はできませんので……予備日を含め、少なくとも二日間は欲しいですね」
黒井「分かった。なら確か……ちょうどわが社の女性アイドルにオファーのあった、10~20代の女性向けのファッション誌の撮影の仕事があったはずだ。元々付き合いのある出版社からのオファーなので、回そうと思えばすぐにでもヨシダプロに回せる」
L『なるほど。撮影場所は屋内ですか?』
黒井「ああ。スタジオでの撮影と聞いている」
L『分かりました。それなら当然、衣装に着替えるための部屋もあるでしょうし、またその中にはロッカーか何かもあるはずです。それでいきましょう』
黒井「分かった。ではその仕事をヨシダプロに紹介する事とし……具体的な撮影期間については、スケジュール調整の際に出版社と765プロ、ヨシダプロの間で調整すれば良いだろう」
P「そうですね。ただヨシダプロ側には事情を説明できないので、出版社にはうちの方から調整の打診をすることになるでしょうが……幸いにも、今うちはアリーナライブを控えているのでその手の打診はしやすい。美希の方にも特に怪しまれることは無いでしょう」
L『ありがとうございます。ではそれでお願いいたします』
P「……だが、L。『ノートを押さえる』というのは……具体的には、弥がノートに接触できた場合、そのままノートを持ち去らせるということか? もしそうなら、そのことが美希に気付かれた場合、弥が殺される危険があるのでは……」
黒井「? 殺しの道具そのものであるノートを持ち去る以上、仮にそのことに気付かれたとしても、もはや弥が星井美希に殺される危険は無いのではないか?」
P「……いえ。Lの推理を前提にすれば、美希だけではなく春香も同じノートを所持しているということになる。つまり美希の方のノートを持ち去っても……美希から春香に連絡されれば、春香の方のノートで殺されてしまう危険がある」
黒井「! そういうことか」
L『はい。そこは○○さんの仰る通りです。なので現段階の想定では、予定通り弥がノートに接触できたとしても、そのままその場から持ち去らせることはしません。弥にしてもらうのはその場でノートの外観、中身を全て写真に撮り、そのデータを私に送る事までです。またもちろんその部屋には予め監視カメラと盗聴器を付けておき、不測の事態が発生した場合にも備えます』
黒井「だがそれでも、弥がノートを手に取っているところを星井美希に見られたらアウトだな」
L『はい。ですから――……』
P「その間、美希の行動を見張っておき、その場に近付けないようにするのが俺の役目ってわけか」
L『……その通りです。○○さんは、何があっても星井美希をその場に近付けないようにしてください』
L『そして弥がノートを撮影し、元あった場所に戻した後は……星井美希から不審に思われないように気を付けながら、弥だけ先に現場から帰らせます』
L『他方、私の方では弥から送られてきたノートの写真のデータの検証を即時に行い……それが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきた証拠である』と断定できた時点で、現場に警察を向かわせ―――星井美希を逮捕します』
P「! …………」
L『同時に、星井美希との共謀容疑で天海春香も逮捕します』
P「…………」
L『ですので○○さん。あなたは弥が帰った後も星井美希とともに現場に残って頂き……警察が着くまでの間、星井美希が外に出ないように見張っておいて頂きたい』
L『それがあなたに頼みたい最も重要な任務です』
P「……分かった」
L『もっとも、今もそうですが……当日も警察には星井美希の尾行をしてもらい、そのまま撮影スタジオの近くで待機しておいてもらうつもりですので……ノートが証拠だと断定できた時点で、ほとんど間を置かずに逮捕できるだろうとは思いますが』
P「なるほど。……というか、今もう既に警察に美希を尾行させているのか。ということは春香もか?」
L『はい。もう二か月近くになりますが……警察には、星井美希と天海春香の二名を尾行してもらっています』
P「……ということは当日、美希と同時に春香にも尾行を……」
L『はい。天海春香も星井美希と同時に逮捕しますから当然です。なお天海春香は一旦は星井美希との共謀容疑での逮捕となりますから、彼女が持つ方のノート……物的証拠の確保は後回しでもいいでしょう』
P「だが俺が直接見張ることのできる美希とは違い、春香の方は、いくら警察が尾行しているとはいえ……常にすぐ逮捕できる状況にあるとは限らないんじゃないか?」
L『大丈夫です。当日は弥とは別の協力者に天海春香と直接対面の上、彼女の動きを牽制してもらうよう頼んでいます』
P「! 別の協力者だと?」
黒井「ということは、その者も……」
L『はい。弥同様、キラ崇拝者です。名前は高田清美。東応大学の一年生で、天海春香とも既に友人になっています』
黒井・P「!」
L『天海春香は今年の4月から東大生の男子に家庭教師をしてもらっているようですので、どうやらそのつながりで知り合ったようですね』
P「ああ、そういえばそんな話を聞いたことがあったな。確か春香と……あとやよいが、東大の首席入学者に家庭教師をしてもらっていると……なるほど、そういうつながりか」
L『はい。また言うまでもありませんが、高田清美の存在をあなたが知っているのは不自然ですので、くれぐれも天海春香の前では……』
P「分かってる。当然言わないさ。しかしその高田清美とかいう人物も、あんた……Lが直接接触して協力を取り付けたのか?」
L『はい。そうです。高田清美もキラ崇拝者なので、弥と同じ理由を用いて協力を取り付けています』
P「なるほど。つまり『美希または春香と親交があり、かつキラの崇拝者』という条件で協力者のあたりをつけ……それに適合したのが弥海砂と高田清美だったという事か」
L『その通りです』
L『では、まずは黒井社長。先ほどの仕事の件をヨシダプロの社長にお伝え頂けますか』
黒井「ああ。すぐに連絡しよう。……しかし……」
L『? どうかされましたか?』
黒井「いや、その……Lのやり方に異論を差し挟むつもりは毛頭無いのだが……たかだか、女子高生の持つノート一冊を押さえるのに随分大がかりだと思ってな」
黒井「もう既に警察も自由に動かせるような状況にあるのであれば……それこそ、任意での所持品検査などでも事足りそうに思えるが」
L『確かにそれができれば一番簡単ですが……任意は文字通り『任意』でしかないので拒否されたらそれまでですし……』
L『また仮に捜査令状を取り、意思制圧の上強制的に検査を行うとしても……『ノートが殺人の道具である』というのは、あくまでも現状における推理として、最も可能性が高いというものでしかありません」
L『つまり、実はノートはキラの殺しとは無関係で、本当は全く別の能力――それこそ、念じるだけでその場にいる人間を皆殺しにできるような能力――を持っている可能性だってあるわけです。『キラの殺しには顔と名前が必要』という推理も、あくまでも、これまでの捜査から得られた状況証拠を積み重ねた結果に過ぎません』
L『ゆえに……もし仮にそうだとすると、無理な捜査を強行することで捜査員の何人かが犠牲となってしまう可能性が高い。殺しの方法が完全に特定できていない状況で強硬策に踏み切るのは危険というわけです』
黒井「……なるほどな」
L『ただそうは言っても、先ほど○○さんが仰っていたように、キラが“L”を殺そうとしていることからすれば、キラの殺人に関しては何の証拠も残らない、という事はまず無いだろうとは思いますが』
P「……………」
L『まあいずれにせよ、まずは『黒いノート』が殺人の道具である事の確証を得ることです』
L『それさえ得られれば、後は強行突破で構いません。ノートに名前を書かれない限りは殺されないわけですから……ノートを所持していない事を確かめた上で、堂々と逮捕に踏み切ればいい』
黒井「うむ」
L『そして、黒井社長にヨシダプロの社長に連絡を取って頂いた後は、先ほども言ったように、ヨシダプロから765プロに仕事の話を持ち掛けてもらう流れになりますが……その際には961プロ、いや……黒井社長の名前は765プロ側には伝わらないようにさせた方がいいでしょうね』
黒井「? どういうことだ?」
L『……黒井社長はキラに脅され、当時961プロに居たプロデューサー……つまり○○さんを765プロに移籍させたいとの話を高木社長に持ち掛けた際、その前提として“765プロ潰し”の件を謝罪しており、高木社長もこれを受け入れた……そうでしたね?』
黒井「ああ」
L『とすれば、建前上……“765プロ潰し”の件は黒井社長の謝罪という形で幕を引いている。その前提であれば、黒井社長がさらに贖罪の気持ちから仕事の斡旋をしたということが765プロ側に伝わっても、高木社長やその他従業員・所属アイドル達から何か疑われる、ということは基本的にはないでしょうが……』
P「……美希と春香については話が別、ということか」
黒井「!」
L『そういうことです。何と言っても、彼女らは今も黒井社長を脅迫している張本人……もし仮に彼女らが、高木社長経由で黒井社長が“765プロ潰し”の件について謝罪したことを聞いたとしても……当然、それは本意からのものではなく、あくまでも自分達が脅迫した結果に過ぎないと考えるでしょう』
黒井「…………」
L『加えて、彼女達にしても、これまでの脅迫の内容から、黒井社長が『キラは765プロの中にいる』と考えるであろうことは当然想定しています。そのような状況において、自分達が指示したわけでもないのに、黒井社長が『キラが内部にいる』と分かっているはずの765プロに対して何らかの働き掛けを行った、と知れば……間違いなく訝しみます』
L『たとえそれが、表向きはただの仕事の斡旋であったとしても』
黒井「…………」
L『もちろんそれだけで、即、黒井社長の背後に“L”である私がいること……また黒井社長の協力を通じて私がやろうとしていることに気付けるとは思えませんが……念の為です』
黒井「分かった。ではヨシダプロにはどう説明する? いっそもう一つ別の会社を挟み、そこからヨシダプロに紹介させるという形にしてもいいが……」
L『いえ。情報漏洩防止の観点からも、あまり関与する者の範囲が増えるのは好ましくありませんので……ヨシダプロの社長には黒井社長から直接話をして下さい。その際は『“765プロ潰し”の件については既に高木社長に謝罪をしており、その詫びの一環で仕事を斡旋することにした。765プロの現プロデューサーは自分の元部下でもあるのでもう先に話を通している』という形で説明して頂いて構いません』
L『その上で、自分からの紹介である事を765プロ側には伝えないよう、口止めを頼む理由としては……『既に一度謝罪している以上、さらに仕事の斡旋までするとなると、かえって高木社長が気を遣って仕事を断るかもしれない。でも自分としてはどうしても贖罪を尽くしておきたい』とでも言ってもらえればいいです。黒井社長は高木社長と旧知の仲でありその人となりもよく分かっているはずですから……そのような理由付けも不自然ではありません』
黒井「分かった。だがそうなると、ヨシダプロの他の従業員には別の説明を考えた方がいいな。“765プロ潰し”の件は社長以外の者は知らないはずだ」
L『では……そうですね。他の従業員には、単に『昔のツテで仕事を紹介してもらった』とだけ伝えてもらうよう、社長に言っておいて頂けますか? それで特に従業員から追及されるようなことも無いでしょう』
黒井「分かった」
L『それを受けての話ですが……○○さん』
P「ああ」
L『実際にヨシダプロが765プロに話を持ち掛ける際には、おそらく吉井氏から○○さんに連絡があると思われますが……今述べた理由から、吉井氏は何も事情を知らないことになりますので、あなたも、あくまでも普通に仕事の話を聞くという体で応対してください』
P「分かった」
L『また撮影当日はもちろん、事前の打ち合わせにおいても、あなたは吉井氏のみならず弥とも顔を合わせることになるでしょうが……私から指示のある場合を除いて、この件に関して弥に何か話したりはしないでください。弥にはあなたが事情を知っているということは伝えておきますが、そのことを星井美希に勘付かれたらまずいですので』
P「ああ。俺が弥と顔を合わせる時は必然的に美希もその場にいるだろうからな」
L『はい。ではそれでよろしくお願いします』
P「じゃあ一旦、俺は吉井氏から来るであろう、件の仕事の連絡を待っておくだけでいいのか? 他にも何か備えておくべきことがあればやっておくが……」
L『そうですね……では一つだけ、質問をさせて頂いてもいいですか?』
P「質問? 別にいいが……何だ?」
L『○○さん。あなたは星井美希と天海春香のどちらとより親しいですか?』
P「? ……別にどちらと、という事もないが……。二人に限らず、アイドルに対しては全員平等に接しているつもりだ」
L『なるほど。では少し聞き方を変えます。二人のうち、あなたをより慕っている……またはあなたにより懐いていると思われるのはどちらですか?』
P「それなら……春香かな。強いて言えば、だが」
L『どのあたりからそう思われますか?』
P「……美希に限らず、他のアイドルと比較しても、相対的に声を掛けてくる回数が多いのと……あとよくお菓子を作って来てくれたりもするからな。クッキーとか」
L『なるほど。まあ元々、天海春香は仕事で一度面識があっただけのあなたの能力を高く評価し、黒井社長を脅迫してまで765プロに移籍させたくらいです。あなたに対する好感度は最初から相当程度高かったはずですので……それくらいの振る舞いは特に不自然ではないですね』
P「…………」
L『では……○○さん』
P「何だ?」
L『天海春香を、今以上にもっと……あなたを慕わせるようにできますか?』
P「? どういう意味だ?」
L『たとえば、あなたに恋愛感情を持つくらいに』
P「! …………」
黒井「…………」
L『…………』
P「……春香を俺に惚れさせて、少しでも“L”に対する意識を削がせる……ってことか?」
黒井「!」
L『……あなたは本当に頭の回転が速い方ですね。その通りです』
P「確かに、あんたの話が真実なら、春香は……いや、今は美希もそうだということになるのかもしれないが……“L”の正体を探り、殺すことに相当拘っているということになる……ならば自衛手段として講じることのできる策は全て講じておきたい、というのは十分理解できる。しかし……」
L『しかし?』
P「それは今の春香には無理な相談だ。あいつがキラかどうかにかかわらず……今の春香の頭の中はアリーナライブの事でいっぱいのはず……とても恋愛の事なんて考えている暇は無いだろう。相手が俺であろうとなかろうと関係無くな」
L『…………』
P「そしてそれは、L……あんたの言う、『春香がキラである』とする推理とも矛盾はしないはずだ」
L『……そうですね。私の推理では、彼女は765プロの利害に直結する形でキラの力を行使している。つまりその根底にあるのはアイドルとしての成功を望む極めて強い想い……ならば眼前のアリーナライブに注力するのは至極当然の事です』
P「そういうことだ。そしてそれは、春香の中で“L”に対する意識が相当程度薄らいでいるであろうことを推測させる。現にもう四か月もの間、黒井社長に対して何の指示も出していないという事実もそれを裏付けているといえる」
L『…………』
P「ならば今、俺が下手に動く必要は無い……どころか、むしろ俺が動くことで、かえって俺の行動自体に不信感を抱かれる可能性もあるんじゃないか?」
L『……確かにそうですね。現状を鑑みると、あなたから天海春香に対しては必要以上に接触しない方が良さそうですね』
P「ああ。その方が良い」
L『……では、星井美希はどうですか? これまでに私が行ってきた捜査の結果からして、彼女のアイドルに対する思い入れは天海春香ほどには強くないものと考えられます。そういう意味では、むしろ星井美希の方が“L”に対する意識を削がせる必要性は高いともいえます』
L『また先ほどの話を前提にすると、星井美希は、天海春香ほどにはあなたに懐いていないのかもしれませんが……ただそうは言っても、全くの無関心というわけでもないのでしょう?』
P「まあ、そうだな。普通に慕ってくれてはいると思うが……やはり春香ほどの距離感ではないかな」
P「……ただ……」
L『? ただ?』
P「もしかしたらそれは……さっきあんたから聞いた、俺の前のプロデューサー……黒井社長がスパイとして765プロに送り込んでいた男による、セクハラ行為が原因なのかもしれない」
L『…………』
黒井「確かに。それにLの推理通りなら、星井美希はそれが理由で前のプロデューサーを殺していることになるしな」
P「そういうことです。その男からのセクハラ被害に継続的に遭っていた結果、男性恐怖症……とまではいかなくとも、年上の男性に対し、無意識のうちに距離を取るようになっていたとしても不思議ではない。ただまあ春香のような例もあるから、一概にどうとも言えないが……」
L『……確かにその可能性はありますね。ちなみに今更ながらの確認ですが……黒井社長」
黒井「? 何だ?」
L『765プロの前のプロデューサーが行っていたというアイドル達へのセクハラ行為は、あなたの指示だったのですか?』
黒井「いや、それは私の指示ではない。『765プロを内部から崩壊させろ』とは指示していたが、具体的な方法は奴に一任していたし、逐一具体的な報告もさせていなかったからな」
黒井「勿論、奴なりに考えた結果、『765プロを内部から崩壊させる』方法としてそれを実践していたという可能性も一応はあると思うが……それよりはむしろ、単にその機に乗じて自分の欲求を満たしていただけの可能性の方が高いと思う」
L『なるほど。……それと、私が少し気になっていたのは、彼……765プロの前のプロデューサーは、天海春香によってアイドル事務所関係者が軒並み殺害された後――つまり“765プロ潰し”計画が事実上終焉した後――も、アイドル達へのセクハラ行為や事務所内での適当な仕事ぶりは変わらなかったらしい、という点です』
L『なおこの事は、件の765プロ関係者に対して行った聞き取り調査によって裏付けられています』
P「…………」
L『黒井社長。あなたは“765プロ潰し”計画の終焉後、前のプロデューサーに対し……765プロ内での振る舞いを改めるように指示しなかったのですか?』
黒井「いや、それは当然指示していた。『今後、これ以上“天罰”による犠牲者を出さないためにも、当分の間、765プロ内で派手に動く事は控えるように』とな」
黒井「……しかし結果的に、奴の行動を制御することはできていなかったようだ。これはただの言い訳にしかならないが……当時は私としても、“765プロ潰し”計画の首謀者である以上……いつかは自分にも“天罰”が起こるのだろうと思っていたため、奴の行動をそこまで注視する余裕も無かった」
L『なるほど。ご事情は理解しました』
L『確かに、星井美希が前のプロデューサーを殺害したのは、彼から受けていたセクハラ行為がその直接的な理由であろうということを考慮すると……星井美希に対しても、○○さんが無理に距離を縮めようとはしない方が良いでしょうね』
P「ああ。俺もその方が良いと思う」
L『……では今後、○○さんは、星井美希・天海春香のいずれに対しても、特にこれまでと変わりなく接して頂き……件の弥との共演の仕事についても、その他の仕事と同じように進めてください。くれぐれも、星井美希から何か不審に思われたりすることがないように』
P「ああ。分かっている」
L『そして仕事の進捗状況については、都度私に報告するようにしてください。私の連絡先は既に黒井社長に伝えていますので』
P「分かった」
L『では早速……黒井社長はヨシダプロの社長への連絡をお願いします。話の伝え方は先ほどご説明した通りに』
黒井「ああ。任せてくれ」
L『それでは今日はこの辺で。また何かあれば連絡を――……』
P「……ちょっと待ってくれ。L」
L『? はい。何でしょう』
P「これはキラ事件の捜査には直接関係の無い事だが……一つだけ、ずっと気になっていた事があるんだ。今、それを確認させてもらってもいいか?」
L『? はい。どうぞ』
P「あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?」
黒井「!」
P「そしておそらくは……“ドヌーヴ”も」
L『…………』
L『……何故、そう思うのですか?』
P「いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ」
黒井「…………」
P「黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ」
L『…………』
P「もし本当にそんな状況を許しているのなら、コイルやドヌーヴは探偵としてあまりに無能過ぎるし……情報の無いドヌーヴの方は何とも言えないが……少なくともコイルは、黒井社長がエージェントを二人も介して依頼をしていたにもかかわらず、黒井社長が依頼人であったことをすぐに突き止め、さらには依頼があってから僅か二日で961プロに関する違法・犯罪行為を17件も洗い出している」
黒井「…………」
P「これほどの芸当ができる探偵“エラルド=コイル”が、自分と依頼者とのやり取りを同業者に筒抜けにさせるようなミスを犯す……いや、犯し続けているとは到底思えない」
P「それよりはむしろ、Lもコイルもドヌーヴも、皆、顔も名前も分からない者同士……ならば単純に、同じ人物が名義を使い分けているだけだと考えた方がこの状況を合理的に説明できるし……」
P「またこうしておけば、このうちの一人の正体を探ろうとした者が他の二者のいずれかにその旨の依頼をする、ということも必然的に起こりうる……つまり自分の正体を探ろうとしている者がすぐに分かる」
P「黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ」
黒井「! …………」
P「これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?」
L『……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません』
L『私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです』
P「まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない」
L『…………』
黒井「…………」
P「でも安心してくれ。L。今のは本当に、俺が個人的に気になっていたから聞いてみただけで……別に俺にとってはどっちだっていいんだ。あんたがコイルであろうとドヌーヴであろうと……あんたが“L”であることに変わりはないからな」
L『…………』
P「それに当然、俺はあんたの立案した作戦に協力する方針も変える気は無い。だからもし不愉快なことを言ったのなら謝るよ。L。だが……」
L『? ……何ですか?』
P「美希と春香はキラではない」
L『…………』
P「やっぱり今でも俺はそう信じているし、またそのことを証明したいと思っている」
P「だから俺はあんたを信じて、協力する」
L『……ありがとうございます。私もあなたの事を信じています。でなければ、先ほども同じようなことを言いましたが……これまでの捜査状況と推理を全て打ち明けたりはしません』
P「そうだな。ここまで全て話してくれたことが信頼の証だ。互いに信じ合い、助け合うことで、互いの目的を果たそう」
L『そうですね。……私は星井美希と天海春香がキラであることを証明するために』
P「そうだ。そして俺は、美希と春香がキラではないことを証明するために」
L『はい』
P「……目的は真逆だが、俺達の利害は一致している」
L『そうですね。いずれにせよ、この作戦を遂行することでしか、いずれの証明も果たせない……』
P「ああ。だからこそ俺達は互いに裏切れないし、また裏切る意味も必要も無い」
L『はい。それは私も完全に同意見です』
P「だから改めて……これからもよろしく頼む。L」
L『はい。こちらこそよろしくお願いします』
黒井「…………」
L『黒井社長も、改めてよろしくお願いします』
黒井「……ああ。そうだな。よろしく頼む」
L『――それでは、今日はこの辺で。また何かあればいつでも連絡してください』
P「ああ。とりあえず、例の仕事の話が俺の所まで来た段階でまた連絡するよ」
L『分かりました。お待ちしております。では』ブツッ
(Lとの接続が切れ、PCのディスプレイは真っ黒になった)
黒井「…………」
P「黒井社長」
黒井「ん? あ、ああ……何だ?」
P「これから忙しくなりそうですが、一緒に頑張っていきましょう」
黒井「ああ。そうだな」
P「それから、改めて言わせて頂きますが……」
黒井「? 何だ?」
P「あなたは絶対に死なせません」
黒井「! …………」
P「ついさっき、Lにも同じ事を言いましたが……俺は美希と春香がキラではないと信じています」
P「美希と春香がキラではないことを証明したうえで、さらに出来ることがあればLに協力し……本当のキラを捕まえることに貢献することで、あなたを助けたいと思っています」
P「だから一緒に……頑張りましょう」
黒井「……ああ。そうだな。共に頑張ろう」
P「はい。では、今日はこの辺で失礼させて頂きます。また何か動きがあれば連絡させて頂きますので」
黒井「ああ。ではすまんがよろしく頼む」
(社長室からプロデューサーが去り、黒井社長だけが残った)
黒井「…………」
黒井(相変わらずだったな。あの男の独特の勘の鋭さ……“野性”とでもいうのか……)
黒井(まさにあれこそが、私があの男を拾い上げた理由に他ならない)
黒井(そして、L……)
黒井(この際、Lがコイルと同一人物かどうかはどうでもいい。○○も言っていたように、あの画面の先にいた者が“L”であることは間違い無い)
黒井(これなら、星井美希と天海春香がキラであろうと、なかろうと……)
黒井(そう遠くないうちに、本当にキラを……)
黒井「…………」
【同時間帯・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
(画面越しに黒井社長およびプロデューサーと通信しているL)
(Lの周囲では月達捜査本部のメンバーがその様子を見守っている)
P『――あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?』
一同「!」
P『そしておそらくは……“ドヌーヴ”も』
L「……何故、そう思うのですか?」
P『いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ』
P『黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ』
L「…………」カチッ
(手元のマイクのスイッチをオフにするL)
総一郎「な、なんだ? この男……」
松田「さっきから思ってましたけど、なんか妙に鋭いっていうか……」
相沢「なんというか、竜崎の思考を先読みしているような感じがするな」
月「…………」
L「あまりこういう表現を使いたくはないですが……」
L「率直に言って、私や月くんに似たにおいを感じます」
月「! …………」
松田「そ、それって竜崎や月くん並の天才的な頭脳の持ち主……ってことですか?」
相沢「いや、まあ流石にそこまでではないにせよ……それに近い存在……ってところじゃないか」
総一郎「しかし、私と模木が765プロの事務所で対面し、聞き取りを行った際にはそこまで特別な印象は持たなかったが……。どう思う? 模木」
模木「そうですね……確かにあの時は特に印象に残るような応答はありませんでしたが……ただそもそもあの時は、聞き取りの内容自体が765プロの前のプロデューサーの事が中心で、彼が知っていた情報がほとんど無かったため、それはある意味当然かと……」
総一郎「うむ。確かに……」
L「まあ、私も何か明確な根拠があって言っているわけではありません。ただ……今日の彼の一連の言動、そして今の発言からはそのように感じました」
月「…………」
L「月くんはどう思いますか?」
月「そうだな……自分に似ているかどうか、というところについてはなんともいえないが……少なくとも、常人離れした思考速度を持っているのは間違い無いだろう。彼にとってはほとんどの情報が今日聞いたばかりのもののはずなのに、この短時間で、ここまで思考を組み立てられているのは尋常ではない。それも竜崎と会話しながらだ。……もっとも、元々プロデューサーとしては優秀な能力を持っていたという話だったから、そこまで驚くことでもないのかもしれないが……」
L「そうですね。確かにそう考えれば、そこまで意外な事でもないのかもしれません」
相沢「それに、それならそれで……こちらとしても願ったり叶ったりだしな。こちらの協力者として動いてもらう以上、能力が高いに越したことはない」
松田「そう言われてみれば……そうっすね。彼が優秀であることは僕達にとってはむしろかなりの好都合……」
総一郎「うむ。あと、天海春香がジュピターと共演した番組の撮影現場で機材のトラブルがあった際、彼の的確な対応と現場スタッフへの助言により、ほとんどタイムロス無く収録を終えられた……などという話もあったな」
L「はい。おそらくはその件が、天海春香が彼を自分の事務所に移籍させることを決めた直接的な理由だと思われますし……またこれから我々が実行しようとしている『計画』においても、現場での的確な判断能力が何よりも求められる……そういう意味でも彼は適任です」
総一郎「うむ」
L「それにやはり彼は、自分の恩人である黒井氏を助けたいと思う一方で、自分の担当アイドルである星井美希と天海春香の容疑を晴らしたいとも思っています」
L「だからこそ、彼は“L”には協力せざるを得ない……いや、むしろ積極的に協力したいと思うはず」
L「またそうであるからこそ、我々としても彼を信用し、これまでの捜査状況についてもそのほとんど全てを包み隠さずに伝えることにしたわけですから」
月「ああ。それにこうして僕達と利害が一致している以上、最後の最後で裏をかくという事も無いだろう」
L「そうですね。もし彼が本当にそうする気なら、今ここでわざわざ“L”に警戒心を生じさせるような言動をする意味は無い。むしろ馬鹿を演じてやり過ごす方が得策でしょうし、彼ならそれができるだけの才覚があるように見えます」
月「そうだな。それにそもそも、そのような僅かな可能性まで逐一潰し込んでいては一向に先へは進めない。キラの逮捕など夢のまた夢だ」
L「その通りです。もうここまで来た以上、多少のリスクは覚悟の上で先へ進んで行くしかありません」
P『――黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ』
P『これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?』
L「…………」カチッ
(手元のマイクのスイッチをオンにするL)
L「……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません」
L「私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです」
P『まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない』
L「…………」
(数分後・黒井社長およびプロデューサーとの通信を終え、二人との接続を切断したL)
L「……とりあえずここまでは思惑通り、といったところですね」
月「そうだな。これで『計画』の第二段階も無事終了……残すは遂に……」
L「はい。『計画』の第三段階としての『黒いノート』の検証。そして最終段階としての……」
月「星井美希および天海春香の逮捕……か」
L「はい。もうゴールはすぐそこです」
星井父「…………」
総一郎「しかし、竜崎。あのプロデューサーの過去……よくあそこまで詳細に調べられたな」
L「あの程度の情報、ワタリにかかればものの数時間で収集可能です。ワタリはあらゆる業界に詳しく、顔も少し利きますので」
松田「流石ワタリ……」
相沢「ある意味、竜崎以上に素性が知れない人物だな……」
L「――さて、皆さん。この『計画』が滞りなく進行し、『黒いノート』がこちらの推理通りに殺人の道具だったというところまで断定できれば、もう王手です」
L「その後速やかに、星井美希の所持する『黒いノート』を証拠として押収した上で、星井美希と天海春香の両名を逮捕……これで詰みです」
L「後は取調べにより自白を促し、並行して天海春香が所持している方のノートも押収する……こんなところでしょう」
L「ただ、いくら詰みまでの手順が見えていたとしても、一足飛びに王将を詰ませることはできません。着実に一手ずつ、駒を進めていきましょう」
月「では、まずはプロデューサーからの連絡を待ち……それがあり次第、『計画』の残りのスケジュールの詳細を決定し、速やかに実行……だな」
L「はい。頑張りましょう。そして必ず……勝ちましょう」
松田「勝つって……そんなゲームか何かみたいに」
L「ゲームですよ? ですが、これは命を懸けたデスゲーム……」
一同「…………」
L「キラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先か……これは最初からそういう戦いだったはずです」
松田「それはまあ……そうっすね」
相沢「ゲームというのは些か不謹慎だが……言ってることはその通りだな」
総一郎「うむ……」
星井父「…………」
総一郎「だが、竜崎。勝ち負けでいうなら……キラ容疑者の二人に顔を知られてしまったという事があなたにとってキラに負けた事にはなっていないか?」
L「そうです。二人に顔を知られてしまった事も、そして名前を知られてしまったかもしれないという事も……負けです」
総一郎「…………」
L「しかし……最後は勝ちます」
月「竜崎」
L「私も命を懸けた勝負は初めてです。ここに集った命懸けの人間で見せてやりましょうよ」
L「正義は必ず勝つという事を」
【二時間前・都内某所】
(プロデューサー付き添いの下、『春の嵐』追加公演決定のインタビュー記事の取材を受けている美希と春香)
記者「――では、最後にファンの方に向けたメッセージをお一人ずつお願いします。まずは天海さんから」
春香「はい。季節はもう夏ですが、まだまだ『春の嵐』は吹き荒れます! 精一杯頑張りますので、劇場まで足を運んで頂けたら嬉しいです!」
記者「ありがとうございました。では、星井さんお願いします」
美希「はいなの。えっと、ミキも春香も、前の公演の時よりもっとも~っとパワーアップしてるから、ぜぇ~ったい、観に来ないと後悔しちゃうって思うな! だから、絶対ゼッタイ、皆で観に来てほしいの! よろしくね。あはっ」
記者「はい。ありがとうございました。それでは、インタビューは以上で終了です。どうもありがとうございました」
P・美希・春香「ありがとうございました(なの)!」
記者「では、ゲラが出来た段階で一度お送りいたしますのでご確認のほど、よろしくお願いします」
P「はい。よろしくお願いします」
(記者と別れ、建物の外に出たプロデューサー、美希、春香)
P「じゃあ俺は14時に人と会う約束があるから、一旦ここで別れよう」
美希「もしかしてデート? プロデューサー」
P「んなわけあるか。昔世話になった人と会うだけだ。それよりお前ら、もしこの後少し時間があるようなら――……」
春香「『レッスンスタジオでダンサー組とダンス合わせてやってくれないか』……ですよね?」
P「あれ? 俺言ってたっけか?」
春香「いえ。ただ14時から二時間、きっちり私と美希のスケジュール空けてもらってましたから、多分そういうことなんだろうなって」
美希「しかもこれまた都合の良いことに、ここからレッスンスタジオまでは歩いて行ける距離なの」
P「……あー」
春香「今のインタビューがあったレンタル会議室……出版社さんの方じゃなくて、プロデューサーさんの方で予約してくれてたんですよね? おそらくは、私達の移動の負担を少しでも減らすために……」
P「……ああ、そうだよ。ったく、そこまで見抜かれちゃってたらかっこつかないなあ。こういうのは相手に気付かれないようにさりげなくやっておくのが俺のポリシーなのに……」
美希「随分地味なポリシーなの」
P「地味ってお前……」
春香「プロデューサーさん! ドンマイですよ! ドンマイ!」
P「……ありがとう。春香の笑顔が眩しくて辛い」
春香「でも、こうやってお仕事の合間にダンサーの子達と合わせられるようにスケジュールを調整してもらえると、本当に助かります!」
美希「ミキ達だけじゃ、なかなかここまで上手く調整できないしね。流石は敏腕プロデューサーなの」
P「何、お前達とダンサー組との合同レッスン自体、元々は俺が言い出して始めたことだからな。これくらいは当然さ」
春香「プロデューサーさん……」
P「……って、やべ。もう行かなきゃ。じゃ、また後で事務所でな。春香。美希。レッスン頑張れよ」ダッ
春香「はい! 天海春香、精一杯頑張ります!」
美希「ミキもがんばるのー。あふぅ」
(去って行くプロデューサーの背中を見送る美希と春香)
春香「……うーん。やっぱりプロデューサーさんは流石だなぁ。こういう気遣いが出来る人って良いよね」
美希「あれ? もしかして春香、プロデューサーに気があったりするの?」
春香「いや、別にそういうんじゃないけど。ただプロデューサーさんは765プロに必要不可欠な人材だったなあって改めて思ってさ」
美希「ああ……それはまあ、そうだね。前のプロデューサーが酷過ぎたっていうのもあるけど……」
春香「まあね。でもやっぱり、黒井社長を脅迫してプロデューサーさんをうちに移籍させたのは正解でしたよ! 正解!」
美希「そんな溢れんばかりの笑顔で言われても反応に困るの」
春香「そういえば、美希」
美希「何なの」
春香「黒井社長で思い出したんだけど……彼、もうそろそろ殺そうと思うんだけど、どうかな?」
美希「えっ」
春香「だって『Lの正体を明かせ』って最初に命じてから、もう五か月も経ってるんだよ? 『Lの顔写真を載せろ』って指定したページも、毎日チェックしてるけど、『只今更新中です。今しばらくお待ちください』っていう文章が掲載されたまま何の動きも無いし」
美希「…………」
春香「だからもうこれ以上待っても無駄だろうし、殺そうかなって」
美希「…………」
春香「まあ本当はもっと苦しめてからでもいいのかもしれないけど……彼も流石に『765プロの中にキラがいる』ってこと自体には気付いてるだろうから、あんまり長く生かしておくのもリスクあるしね」
美希「…………」
春香「あと、一連のアイドル事務所関係者殺しの件からももう一年近く経つし……今になって黒井社長が事故か何かで死んだところで、警察はおろか、Lにだって……その件と何らかの関連性があるとはまず疑われないはず」
美希「…………」
春香「それに元々、一連のアイドル事務所関係者殺しの件自体、キラ事件とは無関係のものとして扱われているだろうしね」
美希「……やっぱり春香的には、黒井社長は殺すしかないんだ?」
春香「え? 何言ってるの? 美希」
美希「…………」
春香「彼は私達765プロを陥れようとした張本人なんだよ? 死刑ですら生温いくらいだよ」
美希「…………」
春香「私にとって、765プロは人生の全てなの。だから私は、『高木社長との昔の因縁』なんていう下らない理由で私達765プロを陥れようとした黒井社長を絶対に許さない」
美希「…………」
春香「彼の犯した罪は、彼自身の死をもってしか贖えない」
春香「彼自身の死をもってしか、彼の“償い”は終わらないんだ」
美希「…………」
春香「それに、キラ的にも黒井社長は裁きの対象でしょ? 公になっていないだけで彼はいくつもの犯罪を犯してるんだし」
美希「……ミキは一応、悪意をもって人を殺した人しか裁いてないの」
春香「でも、美希。黒井社長のせいで……私達は事務所自体潰されていたかもしれないんだよ?」
美希「…………」
春香「『765プロの皆で一緒にトップアイドルになる』……その私達の理想の妨げをするなんて、殺人以上の重罪だよね? だから殺すしかないんだよ」
美希「…………」
春香「それに“765プロ潰し”計画に関与していた黒井社長以外の主要人物達は皆、去年軒並み殺したのに……首謀者の黒井社長だけは最後まで殺さないなんて、ちょっと不平等じゃない?」
美希「……それは、まあ……そうかもしれないけど……」
春香「でしょ? だからもう殺そうかなって。いいよね? 美希」
美希「……待った方がいい」
春香「え?」
美希「今はまだ、待った方がいいよ。春香」
春香「……何で?」
美希「もしLが前のプロデューサーの事を調べていたとしたら……彼が黒井社長からスパイとしてうちに送り込まれていた事……それが“765プロ潰し”計画の一環だった事に気付いている可能性は十分あると思うの」
春香「…………」
美希「これらの事は、いくら名うての記者とはいえ、所詮一般人に過ぎない善澤さんでさえ調べられたような情報なんだから……“全世界の警察を動かせる”Lなら当然すぐに突き止める……」
美希「だとしたら、その“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達が、軒並み事故死や自殺で死んだ事にも……Lは間違いなく気付いてると思うの」
春香「…………」
美希「また一方、Lは、時期的な近接性から……前のプロデューサーを殺した人物と、今犯罪者裁きを行っている人物――つまり、キラ――は同一人物だと考えているはず……」
美希「これらの事を前提に、もしLが、キラによる前のプロデューサーの殺害と“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達の不審死との間に、何らかの関連性がある可能性を疑っているとしたら……」
春香「! ……もしかして、Lは『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ということに気付いている可能性がある……?」
美希「……うん。ミキ的にはむしろその可能性の方が高いって思うな」
春香「…………」
リューク「…………」
リューク(……なるほどな)
リューク(去年のファーストライブの日にハルカのファンが心臓麻痺で死んだ件から、そのほとんどすぐ後に発生した一連のアイドル事務所関係者殺しの件の話をすると……どうやっても、『Lがハルカをミキと同程度に疑っている可能性』について言及せざるを得なくなる……)
リューク(だがミキはハルカにその可能性を悟らせたくなかった……だからあえて別の角度から説明することで、『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ということにLが気付いている可能性が高い、という点のみを端的に伝えた)
リューク(ククッ。なかなかやるじゃないか……ミキ)
リューク(それでこそ『覚醒』した眠り姫だぜ)
春香「……じゃあ、やっぱり今はまだやめとこうか。ライブ前に下手に動いて、Lに勘付かれでもしたら厄介だしね」
美希「うん。それがいいの」
春香「これ以上、Lの美希に対する疑いを強めるわけにはいかないもんね」
美希「…………」
春香「それに今は何より、アリーナライブの成功が最優先……765プロの皆のためにも。ファンの皆のためにも」
春香「そして……ジェラスのためにも」
美希「…………」
春香「大体、その気になれば黒井社長なんていつでも殺せるわけだしね。ライブの前であろうと、後であろうと」
美希「……まあね」
春香「でも、美希」
美希「ん?」
春香「もし、また前の時みたいに……少しでも不安を感じるようなことがあったら、すぐに私に言ってね」
春香「何に代えても、私が美希を守ってあげるから」
美希「……うん。ありがとうなの。春香」
美希「…………」
春香「……ん? メールだ」ピッ
美希「…………」
春香「海砂さんから? ……ああ、『竜ユカ』のお誘いか。美希にも来てるよ」
美希「…………」
春香「なんだかんだでこの集まりも定着しつつあるよね。どれどれ……へー、今度の行き先は遊園地だって。じゃあお弁当作って行かないとね」
美希「…………」
春香「……美希?」
美希「え?」
春香「大丈夫? なんかさっきからボーっとしてるけど……」
美希「あ、ああ……うん。ごめん。大丈夫なの。ただ、ライブも近いからスケジュール的にどうかなって思って」
春香「美希がスケジュールの心配だなんて……明日は銀河系最後の日かもね」
美希「たとえの規模デカ過ぎなの。春香はミキの事何だと思ってるの」
春香「あはは。冗談冗談。まあでも確かにライブ前だから……行くとしても、オフの日の昼頃から夕方くらいまでかな? いくらライブが近いっていっても適度な休息は必要だし、それくらいならむしろちょうどいい息抜きになりそう」
美希「うん。そうだね」
春香「で、海砂さんから都合の良い日程聞かれてるけど……今、私の方で美希の分もいっしょに返信しとこうか?」
美希「あー、ミキは後でいいや。事務所に戻ってスケジュール確認しないと」
春香「美希もいい加減手帳買ったら? あった方が絶対便利だよ」
美希「うーん。でもミキ、そういうのすぐ使わなくなっちゃいそうなの」
春香「じゃあいっそデスノートに予定書くようにするとか。美希、いつも持ち歩いてるんだし」
美希「……それ、うっかり会う予定の人の名前書いちゃったりしたらシャレにならないの」
春香「あはは。冗談ですよ。冗談。じゃあそろそろスタジオ行こっか」
美希「うん」
春香「ダンサー組は誰が来てるのかな? 私、合宿が終わってからダンサーの子達と合わせるの、今日が初めてなんだ。だからすっごく楽しみ。美希は?」
美希「ミキも、合宿後にダンサー組と合わせるのは今日が初めてなの。とりあえず可奈がいたらみっちりしごいてやるとするの」
春香「あはは。美希はすっかり可奈ちゃんの専属トレーナーだね」
美希「まあね」
美希「…………」
【三時間後・765プロ事務所】
(ダンサー組との合同レッスンを終え、事務所に戻って来た美希と春香)
(二人は事務所の入口へと続くビル内の階段を並んで上っている)
春香「ん~っ。やっぱり二時間みっちりレッスンすると疲れるね~」
美希「うん。流石にミキもちょっとお疲れモードなの……あふぅ」
春香「でも、合宿が終わってからまだ四日しか経ってないのに、すごい気合の入りようだったね。ダンサー組の皆」
美希「そうだね。特に可奈に至っては正直暑苦しいくらいだったの」
春香「あはは。ま、それだけ合宿での美希の個別レッスンが効いたってことじゃない?」
美希「ああ、あの春香が応援以外特に何もしてなかったときのやつね」
春香「そっ、そういえばプロデューサーさん、もう事務所に戻ってるのかな!?」
美希「……この上なく下手な話の逸らし方なの」
春香「じゃ、じゃなくて! ちょっと聞きたいことがあるから」
美希「? 『昔お世話になった人に会うだけ』って言ってたから、もう戻ってるとは思うけど。聞きたいことって?」
春香「うん。さっきの練習中に皆で話した、全体曲のフォーメーションを一部変更した方がいいんじゃないかって話、プロデューサーさんにも意見を聞いてみた方がいいんじゃないかなって」
美希「ああ、間奏中の移動の話?」
春香「うん。今のままじゃ移動時間ギリギリになる場面が多いし、最悪、曲の再開までに所定の位置に戻れないこともあるかもしれない。それに戻れたとしても、移動中の余裕がほとんど無いから、見た目にも慌ただしげに見えちゃうし、何よりお客さんに対するアクションが全然できない。やっぱり間奏中とはいえ、お客さんを蔑ろにするような動きは避けた方がいいと思うんだ」
美希「…………」
春香「どうしたの? 美希」
美希「ああ、いや……なんか春香、まるでリーダーみたいだなって思って」
春香「いやリーダーですからね!? 正真正銘!」
美希「あはっ。冗談なの」
春香「もー……あっ、言ってる間に着いたね」
美希「なの」
ガチャッ
春香「ただいま戻りました」
美希「ただいまなのー」
小鳥「お帰りなさい。春香ちゃん。美希ちゃん」
社長「レッスンご苦労だったね。二人とも」
春香「ありがとうございます。小鳥さん。社長さん」
P「……おう。お帰り。春香。美希」
春香「プロデューサーさん! 戻られてたんですね」
P「……ああ。少し前にな。……で、どうだった? レッスンの方は」
春香「はい! 今日は可奈ちゃんと志保ちゃん、それに杏奈ちゃんと百合子ちゃんが来てたんですけど、皆、とっても一生懸命でしたよ! 私もたっくさん刺激を受けて、ついつい張り切り過ぎちゃいました!」
P「…………」
P「……そうか。それは何よりだったな。美希はどうだった?」
美希「んー。全体的にはまあまあ、ってカンジ? でも可奈はまだまだかな。気合だけはすごく伝わってきたけど」
P「……はは。手厳しいな。……あと、ダンサー同士はちゃんとコミュニケーション取れてたか?」
春香「はい。皆、活発に意見を言い合ったり、休憩中もお喋りしたりしてて、雰囲気はすごく良かったですよ。特に志保ちゃんが少し変わったかなって。自分から他の子にドリンク渡したりしてましたし」
美希「確かにあの子、合宿の時はずっと一人でいたもんね」
P「そういえば……お前らは休憩中で見てなかったと思うが、合宿の三日目だったか……練習中、志保が可奈を責めるようなやりとりがあったな」
春香「えっ。責めるような……ですか?」
P「ああ。確か……『ついてこれないようなら、早めに他の人に代わってもらった方がいいんじゃないか』とか言ってたな。激しく責め立てるってほどでもなかったから、その場では静観してたんだが」
春香「あ……そっか。それで……」
P「ん?」
春香「ああ、いえ。私、可奈ちゃんから……他の子からそういうこと言われたって話、聞いてたんで。……そっか。それ、志保ちゃんだったんですね」
P「ああ。でも最終日のレッスンの時、可奈が最後に『もう一度、自分達ダンサーチームも合わせて通してほしい』って律子に言っただろ? 多分あれで、志保も可奈の事を認めるようになったんじゃないかな」
美希「あー。あれね」
春香「なるほど……っていうか、プロデューサーさん、相変わらずすごい観察眼ですね……私達だけじゃなく、ダンサー組の子達の事まで、そこまで細かく観ていたなんて」
P「……まあ、俺にはそんなことくらいしか出来ないからな。お前らだけじゃなく、ダンサー組のレッスンにもつきっきりで指導してくれていた律子の方がよっぽどすごいよ」
美希「律子……さんも確かにすごいけど、プロデューサーのフォロー範囲もちょっと普通じゃないって思うな」
P「……別にそんな大層な事じゃないさ。お前らも、自分のレッスンもしながらで大変だとは思うが……これからもダンサー組の皆の事、できる限りフォローしてやってくれな」
春香・美希「はい(なの)!」
P「……ありがとう」
春香「あ、ところでプロデューサーさん。今ちょっといいですか?」
P「? 何だ? 春香」
春香「実は、ちょっとご意見を伺いたいことが――……」
ピリリリッ
P「……ん? ああ、吉井さんか。悪い、春香。ちょっと待っててくれ」ピッ
P「はい。お世話になっております。○○です」
美希「吉井さん……? ああ」
春香「? 美希、知ってるの?」
美希「うん。海砂ちゃんのマネージャーさん。ミキ、前に会った事あるよ。眼鏡掛けてて、ちょっと律子に似てる女の人なの」
春香「あ、そっか。美希は海砂さんと一緒にCM出てたもんね」
美希「そうなの」
P「……えっ。本当ですか?」
P「ええ。それは願ってもないお話です。……はい。……はい。ええ。もちろん、喜んで受けさせて頂きます」
春香「……どうやら、新しいお仕事のお話みたいだね」
美希「ってことは、また海砂ちゃんと一緒にやるお仕事なのかな?」
春香「そうかもね。もしそうなら今度は私がやりたいなあ」
美希「それはミキ達が決めることじゃないって思うな」
春香「それは分かってるけどさ。私だって海砂さんと一緒にお仕事したいもん」
P「……はい。……はい。では……そうですね。来週ですと……木曜の午後なら空いてますが……ええ、ありがとうございます。……はい。では、来週の木曜に」
P「はい。それでは失礼します」ピッ
P「……美希。新しい仕事が入ったぞ。またヨシダプロの弥さんとの共演だ」
美希「! またミキなの?」
P「ああ。先方からのご指名だ。何でも、前の“ミキミキ・ミサミサ”のダブルアイドルを売りにした○×ピザのコラボCMが好評だったから、また是非美希に弥さんと共演してもらえないか、だとさ」
春香「えーっ。美希ばっかりずるーい!」
P「そう言うな、春香。こればっかりは仕方ない」
春香「ぶー」
P「……社長。そういうことで、たった今、美希に新規の仕事が一件入りました。ただアリーナライブ前でもあるので、スケジュールは既存の予定を優先して調整します」
社長「うむ。よろしく頼むよ。それにしても、星井君は相変わらずモテモテだねぇ」
小鳥「ホント、色んなジャンルのお仕事で引っ張りだこですもんね。果てはハリウッドにまで行っちゃうし」
P「……はは。そうですね」
美希「あはっ」
春香「ちぇーっ。私だって海砂さんと一緒にお仕事したかったのに……」
P「……? 春香も、弥さんと面識があるのか?」
春香「はい。美希経由で仲良くなって、プライベートでもよく一緒に遊んだりしてるんです」
P「……へぇ。そうだったのか」
美希「ねぇ、プロデューサー。今度のお仕事もまた○×ピザのCMなの?」
P「いや、今度は10~20代の女性向けのファッション誌の撮影だそうだ」
美希「ふぅん。でも10代はともかく20代って、いいの? ミキまだ15歳だよ」
P「弥さんはもう20歳だろ」
美希「あ、そっか。海砂ちゃんって童顔だから忘れてたけど……そういえばそうだったの」
P「お前な……まあ、とりあえず来週の木曜に打ち合わせを入れたから、そこで今後のスケジュールの詳細を詰める予定だ。いいな?」
美希「はーいなの。……あっ。じゃあ早速、海砂ちゃんにこの事メールしとこうっと。レッスンの前に来てたメール、まだ返信してなかったからちょうど良かったの」
P「…………」
春香「? どうかしました? プロデューサーさん」
P「……いや、なんでもないよ。早く春香にも指名の仕事来たらいいな」
春香「いや、結構来てますけどね!? その『早く春香も美希みたいに売れたらいいな』みたいな言い方やめてくれません!?」
P「ははは。冗談だよ。今や二人とも人気アイドルだもんな」
春香「……えへへ。それはプロデューサーさんのおかげですよ」
P「……いや、俺は何もしてないよ」
P「全部、お前達の実力さ」
春香「もー、またそんなこと言って」
社長「うむ。勿論、アイドル諸君の実力あっての事ではあるが……しかし君がいなければ、今の彼女達の輝きもまた無かっただろう」
P「社長」
社長「君はもっと自分を誇っていいんだよ。今やもう、君は我が765プロにとって掛け替えの無い存在となっているのだからな」
P「……ありがとうございます」
小鳥「あれ? もしかして泣いてます? プロデューサーさん」
P「! な、泣いてませんよ! 何言ってんですか音無さん!」
小鳥「えー? でも目が少し赤く……」
P「そ、そんなことより! 春香、さっき電話の前に俺に何か言い掛けてたよな? あれ、何だったんだ?」
春香「え? あ、ああ、はい。えっと……」
小鳥「あー! 話逸らしたー! ぶーぶー!」
P「あーあー、聞こえませーん」
小鳥「もー! ……なんてね、ふふっ」
社長「はっはっは。実に愉快だ」
春香「あはは……あ、すみません。プロデューサーさん。えっと、ライブの全体曲のフォーメーションの事なんですけど……」
P「…………」
春香「? プロデューサーさん?」
P「え? あ、ああ……すまん。全体曲のフォーメーションがどうかしたのか?」
春香「はい。あのですね、間奏中の移動時間の事とかを考えると――」
美希「…………」
【三十分後・ヨシダプロダクション事務所】
(仕事先から戻って来た海砂)
海砂「ただいま戻りました~。あ~っ、疲れた~っ」
吉井「お疲れ様、ミサ。どうだった? ラジオ収録」
海砂「ヨッシー。うん、ばっちりだったよん。4月から始まってもう三か月になるから、だいぶ慣れてきたしね」
吉井「それは良かったわ。同行できなくてごめんね」
海砂「いーっていーって。ヨッシーも忙しいしね」
吉井「ありがとう。ところで今日、新しい仕事が入ったわよ」
海砂「本当? 何のお仕事?」
吉井「ファッション誌の撮影ね。社長の昔のツテで紹介してもらえたらしいわ」
海砂「へー。いいじゃん、いいじゃん」
吉井「でね、前の○×ピザのCMが好評だったから、また765プロの星井さんと共演してもらったらどうか、って提案が社長の方からあったのよ」
海砂「! …………」
吉井「もちろん、それが実現したらうちにとっては願っても無い話だけど……向こうはもうすぐアリーナライブがあるでしょ? そんな時期に新規のお仕事なんて受けてくれないんじゃないかと思ったんだけど……まあ社長の提案でもあるから、ついさっき、一応ダメ元で765プロのプロデューサー……ああ、あなたも前に会った事があったわね。彼に連絡してみたのよ」
海砂「…………」
吉井「そしたらね、なんと二つ返事でOKしてもらえたの。『喜んで受けさせて頂きます』って。それで早速、来週の木曜に打ち合わせをすることになったわ」
海砂「…………」
吉井「いやあ、本当に驚いたわ。てっきり断られるものとばかり思っていたから……言ってみるものね」
海砂「…………」
吉井「まあこれも、昔からのよしみってやつのおかげなのかもしれないけど……何にせよ良かったわ。これでまたミサの知名度も一気に……」
海砂「…………」
吉井「? どうしたの? ミサ」
海砂「え?」
吉井「ずっと押し黙っちゃって。嬉しくないの? 星井さんとの共演」
海砂「そ、そんなことないよ! 美希ちゃんとの共演でしょ? 嬉しいに決まってるじゃん! あ、そうだ。早速美希ちゃんにメールしようっと。……あっ、ちょうど美希ちゃんから来てる」
吉井「……本当に仲良くなったわね。あなた達」
海砂「うん。美希ちゃんはミサの憧れのアイドルであり、大の親友でもあるからね!」
吉井「そういえば、あなた……うちのオーディションを受けに来たとき、言ってたわね。『憧れのアイドルは765プロの星井美希ちゃんです』って」
海砂「うん。よく覚えてるね。ヨッシー」
吉井「オーディションで、わざわざ他の事務所のアイドルの名前を出す子はあまりいないからね。それが印象に残ったからっていうのも選考理由の一つだし」
海砂「えっ! そうだったの?」
吉井「もちろん、それだけじゃないけどね。でもそれがあなたを採用する際の決め手の一つになったのは本当よ」
海砂「そうだったんだ……」
吉井「ところで、ミサ」
海砂「? 何?」
吉井「今まで聞いたことなかったけど……あなたが星井さんに憧れるようになったのって、何かきっかけとかあったりするの?」
海砂「あー……うん。実はね、私……友達に誘われて、去年の765プロのファーストライブに行ったの」
吉井「へぇ。そうだったの」
海砂「うん。でね、そこで美希ちゃんの桁外れのパフォーマンスを見て……『美希ちゃんみたいなアイドルになりたい』って思ったんだ」
吉井「なるほど。そういうことだったのね」
海砂「うん。……それにほら、その頃はさ、私……両親の件からまだ立ち直ってなかったから」
吉井「あ……」
海砂「だからね。美希ちゃんを見て、私も頑張って生きよう! って思えたの」
吉井「……そうだったのね」
海砂「うん。だから美希ちゃんは私が最初に憧れたアイドルで……一番の目標なんだ。今でもね」
吉井「……じゃあ、早くミサも星井さんみたいな人気アイドルにならないといけないわね」
海砂「うっ……それ言われると辛いけど……が、頑張ります……」
吉井「はい、よろしい」
海砂「……あははっ」
吉井「ふふっ」
海砂「…………」
海砂(本当に、美希ちゃんとの共演の仕事の話が来た……!)
海砂(しかも、あれからまだ三日しか経ってないのに)
海砂(一体何者なの? 竜崎って)
海砂(ライトは彼の事、『裏の世界のプロ』って言ってたけど……)
海砂(……まあ、いいか。とにかくこれで、ミサはライトの役に立つことができるわけだし)
海砂(それにこれは、美希ちゃんと春香ちゃんをキラの仲間に加えるための活動でもあるしね)
海砂(よし! 頑張ろうっと!)
【三十分後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】
ワタリ『……竜崎。765プロのプロデューサーから着信です』
一同「!」
L「つないでくれ」
ワタリ『はい』
L「Lです」
P『ああ、俺だ。○○だ』
L「あなたから連絡があったということは、もう……?」
P『ああ。ついさっき、吉井氏から例の件で連絡があった』
L「! 随分早かったんですね。では……」
P『ああ。美希と弥の共演については二つ返事で快諾し……早速、来週の木曜に打ち合わせをすることになった。スケジュールの詳細はそこで決める』
L「分かりました。迅速にご対応頂きありがとうございます。ちなみに、星井美希本人にはもう伝えられましたか?」
P『ああ。ちょうど吉井氏からの連絡を受けた時に事務所にいたからその場で伝えたが……特に不審に思っているような様子も無かったよ。まあ表向きは普通の仕事の話なんだからある意味当たり前だが……』
L「そうですか。それなら良かったです」
P『で、相談なんだが……撮影日……もとい、作戦の実行日はいつ頃にすればいいんだ? 今日の話から、期間としては予備日を含めて二日間は確保するようにするつもりだが』
L「そうですね……早い方が良いのは勿論ですが、不自然に既存のスケジュールを変更したりして、星井美希に疑われては元も子もありませんから……あくまでも自然体で決めて頂いて構いません」
P『分かった。一応、俺の方でも『スケジュールは既存の予定を優先して調整する』とは言ってある』
L「ありがとうございます。ただ、一つだけ注文があるのですが……星井美希の撮影中は、天海春香に仕事の予定が入らないように上手く調整して頂けませんか?」
P『ああ。分かっている。高田清美とやらが、その間春香を見張れるようにするためだろう? もう既に、その条件を満たす候補日・時間を複数ピックアップしている』
L「……流石の対応力ですね。どうもありがとうございます」
P『別にこれくらい大したことじゃないさ。じゃあその中でできるだけ早い日、でいいな?』
L「はい。よろしくお願いいたします」
P『了解。ではまた日程が決まったら連絡する』
(プロデューサーとの通話を終えたL)
L「…………」
月「まさか、今日中にここまで進捗するとはな」
L「はい。やはり黒井氏とプロデューサーをこちら側に引き入れたのは正解でした」
総一郎「うむ。これで後は、星井美希に訝しまれないように気を付けながら着々と準備を進めるだけだな」
L「はい。ただ表向きはあくまでもただのファッション誌の撮影ですし、黒井氏の影も完全に消していますから……まず怪しまれることはないと言っていいでしょう」
相沢「しかしこのまま順調に進めば……今建設中という新しい捜査本部のビルは、一度も使うことの無いまま、キラ事件は終結を迎えるかもしれないな」
月「? 新しい捜査本部のビル? ああ、そういえば……僕が最初にこの捜査本部に来た日に竜崎がそんなことを言っていたな」
L「はい。まあ使わずに済むならそれに越したことはありません」
松田「個人的には、一度くらいハイテク設備の超高層ビルに勤務してみたかったっすけどね~」
相沢「松田。お前な……」
松田「じょ、冗談っすよ! 冗談!」
月「……ちなみに、いつ完成する予定なんだ? そのビルは」
L「はい。8月1日を予定しています」
月「! 8月1日……か」
L「…………」
総一郎「? 何かあるのか? その日に」
L「……ええ。ただの偶然に過ぎませんが、その日は―――765プロダクションのアリーナライブ開催の日です」
【同日夜・春香の自室】
春香「……ねえ、レム。今度のアリーナライブの日って、8月1日でしょ?」
レム「ああ。そうだな」
春香「これってさ、偶然にしてはすごいと思わない?」
レム「? 何の話だ?」
春香「もう。レムったら忘れちゃったの? 一年前のこの日……8月1日は、私達765プロのファーストライブがあった日なんだよ」
レム「! ……そうか。そういえば、そうだったな」
春香「うん。つまり……私が本来死ぬはずだった日」
春香「そして……ジェラスに命をもらった日」
レム「…………」
春香「だから私にとっては……特別な日なんだ」
春香「もっとも、今年のライブも同じ日付になったのはただの偶然みたいだけどね」
レム「…………」
春香「でも、ただの偶然でも……私にとっては意味のある偶然だと思ってるの」
春香「だって、私がジェラスに命を救われて……もう一度、アイドル・天海春香として生きていけるようになった日……その一年後の同じ日に、一年前よりもっと大きな舞台でライブができるなんて……アイドルとして、こんなに幸せな事ってない」
春香「そう思わない? レム」
レム「……ああ。そうだな」
春香「確かに、Lの事は今でも気になるけど……現状、美希にはまだ何も仕掛けられていないみたいだし……」
春香「今日も美希には、少しでも不安を感じたらすぐに私に言うように伝えておいたしね」
レム「…………」
春香「大丈夫。美希は必ず私が守る。……いや、守ってみせる」
レム「ハルカ」
春香「それにもうここまで来たんだ。誰にも邪魔はさせない」
春香「私は、美希と、皆と……アリーナライブを成功させて、トップアイドルになるんだ」
春香「……必ず!」
レム「ああ。頑張れ……ハルカ」
【同時刻・美希の自室】
美希「…………」
リューク「なあ、ミキ」
美希「何? リューク」
リューク「やっぱり教えてやった方がいいんじゃないか? ハルカに」
美希「……春香もミキと同じくらいのレベルで、Lにキラとして疑われてる可能性が高い……って?」
リューク「ああ。だってあいつ、今日も、黒井って奴を殺すかどうかをお前と話してたとき、『Lのミキに対する疑いを強めるわけにはいかない』っていう言い方をしていたからな。多分、未だに自分に掛かってる容疑は『その他大勢』レベルとしか思ってないだろ」
美希「……いいの。リュークだって分かってるでしょ。今はアリーナライブ前の大事な時期……それが春香にとってどういう意味を持っているか」
リューク「…………」
美希「春香は春香らしく、トップアイドルを目指して走り続けてくれたらそれでいいの」
美希「春香は……誰よりもアイドルなんだから」
美希「だから今、春香がすべきことは全力でライブに取り組むこと……Lの相手なんかをしている暇は無いの」
リューク「……でも今、Lが色々と仕掛けてきているのは間違い無いんだろ? 合宿中のお前の父親のメールの件に、例の四人の犯罪者の不自然な報道の件……」
美希「まあね」
リューク「もっともハルカは、お前の父親のメールの件は知らないし……犯罪者の報道の方も特に気付いてはいなかったみたいだけどな」
美希「……春香は元々、犯罪者裁き自体にはそこまでの関心は無いからね。単にミキがやってるから色々協力してくれてるってだけで」
リューク「確かにそうだな。あいつはあくまでも765プロの全員でトップアイドルになれればそれでいいっていう考えだからな」
美希「うん。だから……」
リューク「だから?」
美希「Lの相手は……ミキ一人でするの」
リューク「ほう」
美希「元々、犯罪者裁きはミキが一人で始めたことだし……Lがキラを追い始めたのもそれが理由なの」
美希「つまり、これは最初から……Lとミキとの一対一の戦いだったの。だからミキ一人で決着をつけるのが筋なの」
リューク「ククッ。なるほどな」
リューク「でも『決着をつける』ってことは……もうミキの中でも、Lは殺す対象として確定してるってことか?」
美希「そうだね」
リューク「ウホッ」
美希「何? その反応……」
リューク「いや、今までのミキに比べて、随分あっさり認めたと思ってな」
美希「もちろん、ミキ的には……やっぱり今でも犯罪者以外は殺したくない、っていうのが本音だけど……」
美希「でも、もうそんな悠長なことも言ってられないの。さっきリュークが言ってた、例の四人の犯罪者の報道の件にしても……目的は不明だけど、ミキ達が合宿に行っている間だけピンポイントで行われていた事からして……明らかにミキと春香を狙った動きなの」
リューク「? 何で合宿中だけピンポイントで……って分かるんだ?」
美希「だって合宿の後、今日までの間にミキが裁いた犯罪者は、皆、裁いた通りに普通に報道されていたの」
リューク「ああ、そういうことか」
美希「あと、これもさっきリュークが言ってたけど……合宿中のパパからのメールの件もあったしね」
リューク「ああ。合宿中のミキの生活時間を探ろうとしてたってやつな」
美希「そうなの。それに合宿から戻ったら戻ったで、尾行も復活したみたいだし」
リューク「……正直、あれはもう勘弁してほしいぜ。気持ち悪くって仕方がない。幸いにも今日はついていなかったようだが……」
美希「とにかく、今もLがこうして色々と仕掛けてきている以上、ミキはもちろんだけど……いつ春香にも危険が迫るか分からない」
美希「そんな状況で、呑気に静観なんてしてられないの」
リューク「それが……お前がLを殺す理由なのか? ミキ」
美希「そうだよ」
美希「ミキは死んでも春香を守る」
美希「ミキがLを殺す理由は、ただそれだけでいいの」
リューク「! ……なるほどな。でもLを殺すってことは、当然、捜査本部に居る他の奴らも一緒に殺すんだよな?」
美希「……ううん。色々考えたんだけど……ミキが殺すのはLだけにするの」
リューク「? 何でだ?」
美希「今の時点で、確実に捜査本部に居ると思われるのは……夜神総一郎と模木完造、そして竜崎と夜神月の四人」
美希「そしてパパは……キラ事件の捜査本部に居るか、居ないけど捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあるか……のどっちかなの。いずれにしても合宿中のメールの件があるから、今は全くキラ事件の捜査に関わっていない……ってことはないはず」
リューク「ふむ」
美希「ただ、仮に今名前が挙がった人達を――パパも含めて――全員殺したとしても、まだ捜査本部内に他の捜査員が居たら……ミキか、または春香に対する疑いが強まるだけなの」
美希「そこにLが残っていようがいまいが関係無く……ね」
リューク「……いや、待てよ。なら死の前の行動を操ったらどうだ? 捜査本部に居る捜査員全員の情報を明かさせてから殺す……みたいな。前にハルカが似たようなことやってただろ」
美希「うん。それは当然ミキも考えたの。たとえば、既に顔と名前が分かっている捜査員の名前をノートに書き……捜査員全員の顔と名前をネットに掲載するように操ってから殺す……とかね」
美希「でもこの場合でも……やっぱり、『捜査本部内の誰にも顔と名前を知られていない者』が一人でも捜査本部の中に居たら……その人だけは生き残っちゃうの」
美希「また、仮にこのやり方で捜査本部の捜査員を全員殺せたとしても、既にキラ事件の捜査情報が捜査本部外に渡っていたら結局同じ事……どうやったって足がつくの」
リューク「なるほどな。……でも、そう考えると……仮にLが誰なのかを特定して、そいつだけをピンポイントで殺したとしても……あんまり意味無くないか? その場合は言うまでもなく、L以外の奴らはそのまま生き残るわけだから……結局、ミキやハルカに対する疑いを強めるだけのように思えるが……」
美希「ううん。意味はあるよ。それが本当にLならね」
リューク「? どういうことだ?」
美希「もしミキがLを特定できたら、事故死か何か……少なくとも心臓麻痺以外の死因で殺すの」
リューク「まあ心臓麻痺じゃキラによる殺人って言うようなもんだからな。せめてものカモフラージュってことか」
美希「うん。ただ今日も春香と話したけど、Lは……つまり捜査本部は、『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ってことに気付いてる可能性があるの」
リューク「…………」
美希「でもそうは言っても、死因が心臓麻痺じゃなく、しかも死んだのも一人だけなら……それがキラの犯行であるという確証まではまず持てないはず」
美希「もちろん、その場にLが生き残っていたら……それをキラの犯行と断定してミキの、あるいは春香の逮捕を強行しようとするのかもしれないけど……」
リューク「Lを殺した後だから、それは無いってことか」
美希「そう。つまりLの死をキラの犯行だとする確証が無い以上、ミキや春香の逮捕に踏み切ることは基本的にはできない」
美希「ただそれでも、残った捜査員達は『Lはキラに迫ったがゆえに殺されたのかもしれない』と思うはず」
リューク「ふむ」
美希「つまり“全世界の警察を動かせる”ほどのLでさえ、キラに殺されたのかもしれない……そんな状況で、自分の命の危険を顧みず、捜査を続けられる人なんてそう多くはいないと思うの」
リューク「……なるほど。要するに、捜査本部で一番力を持っているであろうLのみをピンポイントで殺す事で……捜査本部全体の勢いを削いじまうってことか」
美希「そう。誰だって死ぬのは嫌だもん。『Lがキラに殺されたかもしれない以上、自分も殺されておかしくない』って普通の人間なら考えるはずだし……たとえ自分が死んでもキラ逮捕を、なんて思えるのは聖者か何かくらいなの」
美希「だからそうなれば、きっともう誰もキラの核心に迫るような捜査はしなくなる。結果、捜査本部は形骸化するの」
リューク「…………」
美希「そうすれば世界は一気にキラに傾く。悪人のいない、心優しい人間だけの……皆が笑って過ごすことのできる世界がつくれる」
美希「それがキラとしての完全。ミキが望んだ理想の世界なの」
リューク「……ククッ。なるほどな」
リューク「……だがそのためには、Lが誰なのか、100%の確度で特定する必要があるってことだろ?」
美希「そうだね。下手に『Lっぽい人』を殺しちゃって、結果、『本物のL』からミキや春香がより疑われるようになっちゃったら何の意味も無いの」
リューク「でも、それって何気に相当ハードル高くないか? こっちは捜査本部の内情も全く分からないのに……」
美希「まあね。でもミキ的には……実はもう、Lが誰かのアタリはほとんどついてるの」
リューク「! ……ってことは、やっぱり……竜崎か?」
美希「うん。やっぱり本名が“ L Lawliet ”なのと……あとあまりにそつが無いところから……彼がLである可能性が一番高いって思うな」
リューク「そつ?」
美希「うん。リュークも知っての通り……竜崎は、ミキ達の前では『熱狂的な春香のファン』を演じている。その演技はあまりにも完璧過ぎて、とても演技とは思えないくらいなの」
リューク「…………」
美希「そしてまた、彼はうちでパパと対面した時にも完璧に演技をしていた。そこには何の不自然さも無かったの」
美希「もし仮に、『パパが竜崎の椅子の座り方を見たときにどんな反応をするか』ってとこまで対策されていたら……多分ミキも、それ以上には彼を疑えなかったと思うの」
リューク「そうなのか?」
美希「うん。ミキもよくお仕事で演技するから分かるんだけど……普通、演技をしてる時って、絶対に挙動や表情に何らかの変化が出るものなの」
リューク「ほう」
美希「だから今にして思えば、竜崎と対面した時のパパの様子も、いつもと少し違ったような気がするの。竜崎との会話の内容自体には何ら不自然な点は無かったけど、なんていうか……全体的な雰囲気とかがね」
リューク「へぇ。俺には全然分からなかったが……そういうもんなんだな」
美希「うん。でもその時の竜崎にはそういう要素が一切無かったし、今も無い」
美希「だから……竜崎が一番怪しいの」
美希「あまりにも完璧過ぎるし、あまりにもそつが無さ過ぎるから」
リューク「……なるほどな。じゃあ、あいつはどうなんだ? 夜神月。竜崎の演技が完璧過ぎて怪しいっていうなら、その竜崎と自然に演技を合わせている夜神月も大概怪しいといえるんじゃないか?」
美希「うん。確かにミキも、夜神月がLかも? って思ったこともあったけど……でも彼の場合、竜崎と違って素性がはっきりしてるからね。何より、少し前まで普通に高校生やってた人がLとはちょっと思えないの」
リューク「あー……まあそれはそうか」
美希「そうなの。それとあとは……」
リューク「あとは?」
美希「女の勘、かな」
リューク(勘かよ……)
美希「あっ。リュークってば、なんかちょっと馬鹿にしたような顔になってるの」
リューク「いや、別に……」
美希「むー。こう見えても結構当たるって評判なんだよ? ミキの勘」
リューク「はいはい、分かったよ。……で、結局どうするんだ? 勘で竜崎を殺すのか?」
美希「ううん。流石にそこまで危ないことはしないの」
美希「竜崎が本当にLなら良いけど……もしそうじゃなかったら、Lにミキがキラだと言うようなものなの」
リューク「? お前だけか? ハルカは?」
美希「“キラ”としての疑いの程度はミキも春香も同じくらいだと思うけど……もし竜崎が死んだら、確実にミキの方が疑われると思うの」
リューク「? 何でだ?」
美希「ミキは竜崎をパパと対面させてるから。キラ事件の捜査本部に居る――か、居ないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあるであろう――パパと」
リューク「……ああ。そういうことか」
美希「それとあと、竜崎は『熱狂的な春香のファン』を演じてるからね。正直言って、春香がその竜崎の嘘を見抜いて殺すっていうのは、ちょっと想像し難いと思うの」
リューク「? そうか?」
美希「うん。だって春香は誰よりもアイドルで……また誰よりもファンの事を尊重し、大切に思ってるからね」
美希「そんな春香が、『自分の熱狂的なファン』である竜崎の事を疑えるはずがないし、ましてやその嘘を見抜けるはずがない。……実際、今も春香は竜崎の事、微塵も疑ってないしね」
美希「また竜崎にしたって、そうなるであろうことを見越して……春香のファンを演じることにしたんだと思うし」
リューク「なるほどな」
美希「だから……春香に竜崎は殺せない。Lが竜崎であれ、他の誰かであれ……きっとそう考えるはずなの」
リューク「じゃあ結局、竜崎がLである可能性が一番高いとしても……今はまだ殺せないってことか」
美希「……うん。今のままじゃ……ね」
リューク「ククッ。そりゃ残念だな」
美希「…………」
美希(そう。今はまだ竜崎を殺せない)
美希(だから今は確証……そう、確証が欲しい)
美希(竜崎がLであるとする、たったひとつの確証が)
美希「…………」
続き
美希「デスノート」 2冊目【4】

