一つ前
美希「デスノート」【1】

290 : 以下、名... - 2015/07/27 23:35:46.64 OG427H770 110/963

【三日後の夜・キラ対策捜査本部/資料室(都内のホテルの一室)】


(星井美希に対する監視・一日目)

ワタリ「竜崎。取り付けた監視カメラと盗聴器は全て正常に作動しています」

「よし。よくやってくれた。ワタリ」

総一郎「…………」

「夜神さん」

総一郎「何だ? 竜崎」

「まだ完全には納得されていませんか?」

総一郎「……まあな。だがやると言った以上は徹底的にやる覚悟でいるつもりだ」

「ありがとうございます。心から感謝します」

総一郎「…………」

ワタリ「竜崎。星井美希が帰宅したようです」

総一郎「!」

美希『ただいまなのー』

星井母『お帰り、美希』

菜緒『お帰りー』

美希『今日、パパは?』

星井母『遅くなるって』

美希『そっか』

菜緒『でもパパ、もうキラ事件の担当じゃなくなったんでしょ? なのに何でまだ帰って来るの遅いんだろ?』

星井母『さあ』

美希『ミキ的には、前に比べたら家に居る時間が大分増えたから、とりあえずは良いんじゃないかなって思うな』

菜緒『まあねぇ』

「……星井さん、ご家族にはある程度捜査の事について話しているようですね」

総一郎「そのようだな。だが竜崎……」

「分かっています。ここで明らかになったことをもって星井さんを問い詰めるようなことはしませんし、そもそもできません」

総一郎「ああ。それをすれば、我々がこうやって極秘に家の中を監視していることまで分かってしまうからな」

「はい」

「…………」

(星井美希がキラだとしたら……父親から捜査本部の情報を得ることができていた……?)

307 : >>291訂正 - 2015/07/28 22:54:57.58 ifNjPMRn0 111/963

菜緒『あっ。美希のCM』

星井母『あら、ホント』

美希『なんか未だにTVの中の自分を観るのは慣れないの』

菜緒『ねぇ、この一緒に出てる子誰?』

美希『海砂ちゃんなの』

菜緒『ふーん。かわいいね』

星井母『ミキミキとミサミサって、なんかダジャレみたいね』

美希『それはちょっと失礼って思うな』

「…………」

総一郎「…………」

「一家団欒、といった感じですね」

総一郎「……うむ」

「ところで、今日報道された犯罪者の中でキラの裁きの対象になりそうな者はいましたか?」

総一郎「ああ。老夫婦を殺害し、金品を奪った強盗殺人犯が一名。これまで同様なら、おそらく本日中に裁かれるだろう」

「キラの殺しの時間帯は平日は一貫して19時頃から22時頃……そろそろですかね。そちらの準備は大丈夫ですか?」

総一郎「ああ。警察庁にいる部下に、キラによる裁きが行われたらすぐに私に一報を入れてもらうように頼んである。『キラの動きをリアルタイムで捕捉しておきたいから』と言うと二つ返事で快諾してくれた」

「! 警察庁……もしかして、あの時の……?」

総一郎「ああ。伊出と宇生田だ」

「そうでしたか」

総一郎「キラを追っている者はこの捜査本部の者だけではないからな。彼らも彼らで懸命にやってくれている」

「……はい」

293 : 以下、名... - 2015/07/27 23:52:50.06 OG427H770 112/963

【同日・21時頃】


「…………」

(夕食後、星井美希はすぐ風呂に入り、その後はずっと自分の部屋でくつろいでいる……)

(今のところ、特に目立った行動はみられないが……)

 ピピピピッ

総一郎「! 伊出だ」ピッ

「!」

総一郎「私だ。……そうか。分かった。わざわざすまんな」ピッ

「夜神さん」

総一郎「ああ。今日報道された強盗殺人犯が留置場内で死亡したそうだ」

「!」

総一郎「死因はおそらく心臓麻痺。死亡推定時刻は今から約30分前」

「30分前……!」

(監視カメラの録画映像を巻き戻すL)

「…………」

総一郎「……星井美希は今と同様、自分の部屋でくつろいでいた時間帯だな……」

「はい。ベッドに寝そべり、手にはスマートフォン……念の為、天井に仕掛けたカメラの映像を拡大し、スマートフォンの画面を確認してみます」

総一郎「うむ」

「……ずっと同じアプリゲームをやっていますね」

総一郎「…………」

294 : 以下、名... - 2015/07/28 00:03:55.98 QdriXF1k0 113/963

「…………」

(星井美希がキラだとすれば……今、この状態で人を殺したというのか?)

(キラの殺人には顔と名前が必要……そして、先ほど殺された強盗殺人犯の顔と名前は今日の昼には報道されていた)

(星井美希は今日、家に帰ってからはニュース等を一切観ていなかったが……日中、家の外でこの犯罪者の情報を得ることは十分可能だっただろう)

(とすると日中、家の外でこの者の顔と名前の情報を得ておき、今殺した……ということか?)

(しかし、仮に念じるだけで人が殺せるとしても……生身の人間であれば殺しを行う際、挙動や表情に何らかの変化はあっていいはず……)

(だがこの監視カメラの映像を観ている限り、星井美希にはとてもそのような変化は……)

「…………」

総一郎「! 部屋の電気を消した」

「遠赤外線カメラに切り替えます」

美希『…………』

総一郎「……普通に寝ているようだな……」

「そうですね」

(午後10時過ぎに就寝……以前私が推理したキラの人物像に当てはまってはいる、が……)

(…………)

296 : 以下、名... - 2015/07/28 00:32:49.43 QdriXF1k0 114/963

【翌日夜・キラ対策捜査本部/資料室(都内のホテルの一室)】


(星井美希に対する監視・二日目)

「…………」

総一郎「…………」

(今日報道された犯罪者のうち、三日前に下校中の小学生を包丁で刺殺した疑いで逮捕された者がつい先ほど……21時頃に心臓麻痺で死亡した)

(同時刻、星井美希はバスルームでシャワーを浴びていた)

(……本当に可能なのか? こんな日常の動作を当たり前にこなしながら人を殺すなどということが……)

(それに昨日も今日も、犯罪者が死んだとされる時刻に星井美希に挙動や表情の変化は一切みられなかった)

(…………)

(犯罪者が死んだとされる……時刻……?)

「……夜神さん」

総一郎「? 何だ? 竜崎」

「私は今まで思い違いをしていたのかもしれません」

総一郎「思い違い?」

「はい。これまで私は、キラによって殺された犯罪者の死亡推定時刻=キラが裁きを行った時刻、と思い込んでいました」

「それは、殺された犯罪者の死亡推定時刻が平日では19時頃から22時頃の間、土日は昼頃から22時頃までと固定していたからです」

「しかしキラは、顔と名前が分かる者ならいつでも自由に殺すことができる……。つまり、人の死そのものを自由に操ることができる」

「ならば、その死の時間をも操ることができるとしても不思議ではない」

総一郎「つまり……殺しの行為自体は先にしておいて、実際に犯罪者が死ぬ時間は後の時刻にずらしておくことも可能……ということか?」

「はい。そしてそれが可能であるとすれば、犯罪者が死んだ瞬間の挙動を観ていても意味は無い」

301 : 以下、名... - 2015/07/28 01:11:43.49 QdriXF1k0 115/963

総一郎「確かにな。日中、家の外で殺しの行為をしておけば、後は夜になって犯罪者が勝手に死ぬだけということか」

「ええ。ですから、明日以降はその可能性……日中、外で殺しの行為をされてしまう可能性を排斥して監視をする必要があります」

総一郎「うむ。しかし具体的にはどうする気だ?」

「夜神さん。明日以降、星井美希の監視を終えるまでの間……キラの裁きの対象となりうる凶悪犯の報道は21時以降に限定して行うよう、報道機関に要請してもらえますか?」

総一郎「! …………」

「キラの殺人には顔と名前が必要……仮に死の時間を操ることができるとしても、少なくとも殺しの行為をする際にはその二つの条件が備わっていることが必要だと考えられます」

「そうであるとすれば、夜まで報道がされなかった犯罪者に対して、昼の間に殺しの行為をしておくことはできないはずです」

総一郎「なるほどな。では、我々が監視している間に新たな犯罪者が報道された場合……」

「はい。殺しの行為は、その後……つまり、我々が監視している状況下においてしかできないはず」

総一郎「いやだが、星井美希が必ずしもその報道された情報を得るとは限らないのでは? 少なくとも昨日と今日、21時以降にニュース等は観ていなかったぞ」

「それはそれで構いません。星井美希が報道された情報を得ず、そして報道された犯罪者が死ななければ、結果的に星井美希がキラであるという疑いが強まりますし……」

「逆に、星井美希が報道された情報を得ていないにもかかわらず、報道された犯罪者が死ねば、星井美希以外の者がキラであるという可能性が高くなります」

総一郎「なるほど……星井美希が報道された情報を得なければ、彼女がキラである可能性とそうでない可能性、そのいずれであってもある程度の確度をもって判断することができる。また彼女が報道された情報を得て、報道された犯罪者が死んだ場合、彼女がキラならその殺しの方法を観察できるかもしれない……ということか」

「はい。お願いできますか? 夜神さん」

総一郎「分かった。今回は前のような偽名での報道などに比べれば人道上の問題も少ない。早速、要請しよう」

「ありがとうございます。助かります」

「…………」

(さあ、どう出る? キラ……)

309 : 以下、名... - 2015/07/28 23:07:10.20 ifNjPMRn0 116/963

【翌日夜・キラ対策捜査本部/資料室(都内のホテルの一室)】


(星井美希に対する監視・三日目)

美希『…………』

「今日は夕食後、風呂に入ってからはずっと勉強していますね」

総一郎「アイドルといえど中学三年生だからな。受験勉強ってことだろう」

「一応、天井と机に仕掛けたカメラからの映像を拡大したものをサブモニターに映していますが、ごく普通に問題集を解いているようです」

総一郎「勉強している様子に特に不審な点は無し……と。やはりこの後の報道待ちか」

「はい。お願いしていた通りにできそうですか?」

総一郎「ああ。今日捕まった連続放火魔の報道が21時ちょうどに、同じく今朝起きた通り魔殺人の犯人の報道が21時30分に、それぞれ予定されている」

「ありがとうございます。これで上手くいけば、星井美希が報道を観た場合と観なかった場合の両方のパターンを観察することができます」

総一郎「うむ。まあ昨日と一昨日の様子からするとニュース自体観ないかもしれないが……」

「そうですね。ただでさえ今は勉強中ですし」

総一郎「だがそれならそれで、明日は報道の時間を夕食の時間帯にでもずらせばいいか。夕食時は家族でテレビを観ているようだしな」

「ええ。そうしましょう」

総一郎「……と。そろそろ時間だ」

「では、サブモニターの一つをテレビ画面に切り替えます」ピッ

TV『ニュースの時間です』

「………」

総一郎「…………」

TV『本日、都内北部の民家五軒に相次いで放火し十三人を殺害した疑いで、白身正亜希容疑者が逮捕されました』

「星井美希は……ずっと机に向かって勉強していますね」

総一郎「ああ。携帯電話にも触れていない」

「…………」

(もしこのまま、今報道された者が死ねば……)

310 : 以下、名... - 2015/07/28 23:15:57.63 ifNjPMRn0 117/963

 ピピピピッ

総一郎「! もしもし」ピッ

「! …………」

総一郎「ああ、そうか。分かった。ありがとう」ピッ

「夜神さん」

総一郎「先ほど、21時のニュースで初めて報道された連続放火魔が心臓麻痺で死亡した」

「! ということは……」

総一郎「星井美希が報道された情報を得ていない間に、犯罪者が死んだということになるな……」

「…………」

総一郎「竜崎。これは……」

「もうすぐ21時30分のニュースです。今はとりあえず監視を続けましょう」

総一郎「うむ……」

「! 星井が動いた」

美希『…………』

総一郎「ベッドの方へ……もう寝る気か?」

美希『…………』

総一郎「寝ている……」

「…………」

総一郎「竜崎。もう21時30分になるぞ」

「……はい」

311 : 以下、名... - 2015/07/28 23:25:47.90 ifNjPMRn0 118/963

TV『今朝、都内路上で三人を殺傷した疑いで、南原海軽十容疑者が逮捕されました』

美希『…………』

「完全に寝ていますね」

総一郎「うむ……」

「…………」

(顔は布団から出している……本当に睡眠しているかどうかまでは分からないが、少なくとも目を閉じていることは確か)

(布団の中に何かを持ち込んだ形跡も無い)

(先ほどの勉強中もそうだったが、この状態で報道された情報を得ているとは到底思えない)

(しかし21時に報道された犯罪者は確かに死んだ)

(これはつまり……)

 ピピピピッ

総一郎「! もしもし」ピッ

「…………」

総一郎「ああ、分かった。何度もすまんな」ピッ

「…………」

総一郎「竜崎。21時30分のニュースで報道された通り魔も心臓麻痺で死亡したそうだ」

「…………」

総一郎「そしてニュースが報道される前から今までずっと、星井美希はベッドで寝ていた……」

「…………」

総一郎「竜崎。これはもう完全に白と言っていいのでは……」

「……まだ三日です」

総一郎「しかし」

「明日は先ほど夜神さんが言っていたように、夕食の時間帯に合わせて報道を流します」

総一郎「…………」

312 : 以下、名... - 2015/07/28 23:32:17.03 ifNjPMRn0 119/963

【翌日夜・キラ対策捜査本部/資料室(都内のホテルの一室)】


(星井美希に対する監視・四日目)

「…………」

総一郎「竜崎……」

「…………」

(今日は星井家の夕食の時間帯に合わせて報道を流したが、結局、星井家はその時間はバラエティ番組を観ていたため、星井美希が報道された情報を得ることは無かった)

(しかしそれにもかかわらず、夕食後……星井美希がシャワーを浴びている時に、彼女が情報を得ていない、報道されたばかりの犯罪者が心臓麻痺で死んだ)

(もうこれで三人連続……いくらキラでも、顔も名前も知らない、それどころかその存在すら認知していない犯罪者を殺せるはずがない……)

(星井美希はキラではない……もうそう考えるしか……)

総一郎「どうする? 竜崎……」

「…………」

総一郎「私はもう、これ以上監視を続けても結果は同じ……それどころかむしろ、星井美希がキラでない可能性が裏付けられていくだけのように思えるが……」

「そうですね……」

総一郎「…………」

「ですがあと三日……あと三日だけ観させてください。それでも同じなら、速やかにカメラと盗聴器を外します」

総一郎「……分かった……」

「…………」

313 : 以下、名... - 2015/07/28 23:53:24.72 ifNjPMRn0 120/963

【三日後の夜・キラ対策捜査本部/資料室(都内のホテルの一室)】


(星井美希に対する監視・七日目)

「…………」

総一郎「竜崎……」

「…………」

(この三日間、報道を流す時間帯を色々変えてみたが……)

(結局、星井美希が報道された情報を得たのは監視を始めて六日目の夜……姉が大学の飲み会でおらず、母親と二人きりとなった夕食の時のみ)

(それは地方公務員でもある母親が『たまにはニュースでも観なさい』と言ってテレビのチャンネルを変えてくれたおかげだが……)

(しかし結果的には、その時報道された犯罪者も、他の日にそうであったのと同様、星井美希が夕食後にシャワーを浴びている時に心臓麻痺で死亡した)

(その際も、星井美希の挙動や表情に何ら変化は見られず……他の日と全く同じようにシャワーを浴び、身体を洗っているようにしか見えなかった)

(そして五日目と七日目は、いずれも星井美希が報道された情報を得ていない間に、報道された犯罪者が心臓麻痺で死亡した)

(これでは『星井美希が報道された情報を得ていようが得ていまいが、彼女とは全く無関係にキラが犯罪者を裁いている』と判断するほかない……)

総一郎「竜崎。これでもう星井美希に対する監視は……」

「……分かっています。明日にでも、カメラと盗聴器は全て外します」

総一郎「ああ、よろしく頼む。しかしこれでまた振り出しか……」

「…………」

315 : 以下、名... - 2015/07/28 23:59:20.61 ifNjPMRn0 121/963

【翌日夜・美希の自室】


リューク「おいミキ。やっぱりカメラ取れてるぞ。全部だ全部」

美希「! …………」

リューク「おいミキ。聞いてるのか?」

美希「…………」トントン

(自分の耳を軽く指差す美希)

リューク「ああ、そうか。まだ盗聴器は付いてるかもしれないのか」

美希「…………」コクッ

リューク「じゃあ早速、明日にでも探知機買ってきて調べようぜ」

美希「…………」コクッ

リューク「そして盗聴器も無いことが分かったら……その時は頼むぜ、例のヤツ」

美希「…………」コクッ

317 : 以下、名... - 2015/07/29 00:03:23.32 8pBVSawj0 122/963

【翌々日・765プロ事務所】


リューク「しかし盗聴器も無いことが分かってスッキリしたな」

美希「まあね」

リューク「これも全部あの子のおかげだな」

美希「……まあね」

 ガチャッ

美希「おはよーございますなの」

「おう。おはよう、美希」

小鳥「おはよう、美希ちゃん」

春香「……おはよ、美希」

美希「! …………」

「? どうした? 美希」

小鳥「まだ寝ぼけ眼なのかしら?」

美希「えっ、ううん。違うの」

春香「…………」

318 : 以下、名... - 2015/07/29 00:10:23.20 8pBVSawj0 123/963

美希「……ねぇ、春香」

春香「ん?」

美希「あのね、ミキ……」

春香「…………」

美希「今日、久しぶりにぐっすり眠れたの! あはっ」

春香「! ……そう。良かったね。美希」

美希「はいなの!」

「?」

小鳥「睡眠報告……?」

春香「さて、じゃあ私はレッスンに行ってきまーす!」

「おう、行ってらっしゃい」

小鳥「頑張ってね」

春香「はーい」

美希「春香」

春香「ん?」

美希「……また、後でね」

春香「……うん。また後で」

 ガチャッ バタン

「おーい美希。お前もすぐCM撮影に向かうから、準備しとけよー」

美希「はいなの! すぐ支度するの!」

美希「…………」

美希「……ありがとうなの。春香」

「? 何か言ったか?」

美希「んーん。何でもないの!」

「?」

332 : 以下、名... - 2015/07/31 00:30:13.38 Ud9CoRTw0 124/963

【同日夕刻・765プロ事務所近くの公園】


(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている春香と美希)

春香「じゃあ本当にカメラは全部取れてたんだね? それと盗聴器も」

美希「うん」

春香「そっか……良かった。本当に」

美希「これも春香のおかげなの」

春香「私は別に何も……あ、じゃあこれ返しとくね」スッ

(美希にデスノートを渡す春香)

美希「……うん。ありがとうなの。春香」

春香「どういたしまして。美希」

美希「でも、やっぱり不思議な感じなの」

春香「不思議って?」

美希「だってまだあれから……十二日しか経ってないのに、ミキ達、十二日前までとはまるで違う関係になってるの」

春香「そうだね」

美希「十二日前までは、同じ事務所のアイドル仲間で、仲の良い普通の友達だったのに。今は……」

春香「……うん。本当にね」

美希「十二日前は夢にも思わなかったの。まさか春香と、こんなことを話すようになるなんて――……」

333 : 以下、名... - 2015/07/31 00:46:02.36 Ud9CoRTw0 125/963





――――遡ること、十二日前。





【十二日前・765プロ事務所からの帰路】


春香「美希って、さ」

春香「いつデスノートを拾ったの?」

美希「…………え?」

春香「…………」

美希「は、春香? 今、なんて……?」

春香「……ああ、そっか。やっぱり美希は目を持ってないんだね」

美希「え?」

春香「そっか、そっか。そういうことね。いや、もしかしたらって思ってさ」

美希「…………」

春香「もし美希もそうなら、私のことも当然気付いてて、その上で黙ってるんだろうなーって。まあでも持ってないなら分かりっこないもんね。うんうん」

美希「は、春香? さっきから、一体何を言ってるの?」

春香「まあそういうことなら、見せた方が早いよね」

美希「え?」

春香「えっと……」キョロキョロ

(周囲を見渡し、他に人がいないことを確認する春香)

春香「よし。今なら大丈夫そう。美希。これ」スッ

美希「えっ……」

春香「触って。あ、でも絶対大きな声とか出さないでね。まあ初めてじゃないから大丈夫だろうとは思うけど」

美希「これって……」

美希(デス……ノート? でもこの表紙の文字は……何語?)

春香「ほら美希。早く早く。人来ちゃうよ」

美希「えっ、ええっと……」

春香「美希」

美希「わ、分かったの」サッ

美希「!」

(美希が春香の持つノートに触れた瞬間、春香の背後に白い化け物が姿を現した)

美希「きゃ……」

春香「ダメッ!」バッ

(素早く両手で美希の口を塞ぐ春香)

美希「…………!」ムグムグ

春香「もう。だから言ったのに」

334 : 以下、名... - 2015/07/31 00:59:43.17 Ud9CoRTw0 126/963

美希「…………」

春香「もう大丈夫かな?」

美希「…………」コクコク

春香「よし」パッ

美希「…………」

春香「えっと……じゃあとりあえず、レム。自己紹介」

「……名乗らせるなら先に名前言うなよ」

春香「あっ。ごめんごめん。ついうっかり」

「まったく……」

美希「…………」

美希(黒いノート……触ったら化け物が見えた……これはもう間違い無く……)

「私は死神のレム。この子が持っているノートの落とし主だ」

美希「…………!」

美希(やっぱり、死神……! ということは……)

美希「じゃあ、そのノートは……」

春香「うん。デスノートだよ」

美希「…………!」

美希(春香が、デスノートの所有者……! でも、な、何で……?)

美希(しかも……これまでの会話からして、ミキが所有者だってことも知っている……?)

美希(何で? どうして?)

美希(何が何だか分からないの……)

美希「…………」

春香「ありゃりゃ。流石の美希も固まっちゃったか」

レム「まあ仕方無いだろう。この様子だと、今まで全く気付いてなかったみたいだしな。お前のこと」

春香「そうみたいだね。でもそうすると一から説明しないといけないからちょっと時間かかるな……ここだと人目につきそうだし……」

美希「…………」

春香「よし、美希。とりあえず公園行こう」グイッ

美希「え? あっ、あの……」

春香「大丈夫大丈夫」

美希「な、何が大丈夫なの……」

春香「全部話してあげるから」

美希「……全部……?」

春香「そ。ぜーんぶ、ね」

美希「…………」

335 : 以下、名... - 2015/07/31 01:15:23.82 Ud9CoRTw0 127/963

【765プロ事務所近くの公園】


(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている春香と美希)

春香「とは言ったものの、一体どこから話そうか……」

美希「………」

レム「やっぱり最初から順を追って話してやった方がいいんじゃないか?」

春香「まあそうか。そうだよね。うん。じゃあ美希……」

美希「は、春香!」

春香「ん? 何?」

美希「えっと……春香がデスノートを持ってて、その死神……」

レム「レムだ」

美希「……レムが、そのノートの落とし主……」

レム「そうだ」

美希「ってことは……今は春香がそのデスノートの所有者で……それでレムが憑いてるってことだよね?」

春香「そうだよ。流石美希。飲み込みが早いね」

美希「じゃあ……何で春香がデスノートを持ってるのかってことも気になるんだけど、それより先に……」

春香「?」

美希「何で、ミキもデスノートを持ってるって分かったの?」

春香「ああ、その事。そっかそっか、それも知らなかったんだね」

美希「え?」

春香「えっとね。死神の目を持つと他の人の寿命と名前を見る事ができるようになるんだけど、ノートを持ってる人だけは寿命の方が見えないの」

美希「そ……そうなの?」

春香「そうなんだよ。その理由は……何だっけ? レム」

レム「……デスノートを持った人間は命を取られる側から取る側になる為、殺す人間の寿命だけが見えていればいいからだ。ゆえに死神の目を持った人間は、自分を含め、他のデスノートを持った人間の寿命は見る事ができない」

春香「そうそう、そういうこと」

美希「なるほど……って!」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「じゃあ春香……目の取引したってことなの!?」

春香「うん。したよ」

美希「! ……じゃあ、それと引き換えに残りの寿命の半分を……」

春香「うん。まあそういうことになるかな」

美希「! ……何で、そんなこと……」

春香「それは……後で、詳しく話すよ」

美希「…………」

376 : 前々スレ>>336再訂正 - 2017/01/21 11:30:49.55 BTrwrj0k0 128/963

春香「それよりさ、美希はいつからデスノートを持ってたの?」

美希「え?」

春香「いやほら、前のプロデューサーさんが心臓麻痺で亡くなったって聞いた時にさ、私はすぐに『これはきっとデスノートだ』って思ったんだよね」

美希「! …………」

春香「で、もしそうだとしたら、絶対765プロの皆の中に他のデスノートの所有者がいるって思ったの。前に他の皆との話でも出てたけど、あの人の悪い一面を知ってるのは私達だけだったからね」

春香「それで、レムに他のノートの所有者を見分ける方法は無いかって聞いたら、さっきの方法を教えてもらえて」

美希「じゃあ、それで目の取引を……?」

春香「ううん。目自体はもっと前から持ってたの。ただその見分け方は知らなかったってだけで」

美希「……そうなんだ……」

春香「それでその翌日、前のプロデューサーさんのお通夜で美希に会ってすぐに分かったよ。寿命が見えなかったからね」

美希「じゃあ、あの時から気付いてたんだ……」

春香「うん。でも実際のところ、美希がいつからノートを持っていたのかまでは分からなくて。ほら、毎日何十人何百人って人の名前と寿命が見えてたし、寿命が見えない人もいるなんて知らなかったから、そこまでちゃんと意識して見てなかったんだよね」

春香「だから私が気付いてなかっただけで、本当はもっと前から美希はノートを持ってたのかなって思って。それでさっき、最初にその質問をしたってわけ」

美希「ミキがノートを拾ったのは……ミキが前のプロデューサーの名前を書いたその日だよ」

春香「そうなんだ。ちなみにそのときって、死の日時指定とかってした?」

美希「ううん。ただ名前を書いただけ」

春香「そっか。じゃあ結局、私は美希がノートを持ってからほとんどすぐ後に気付いてたってことだね」

美希「うん。でもその時から気付いてたなら、何で今までずっと黙ってたの? そして何で今になって言う気になったの? 春香」

春香「それは……」

美希「…………」

春香「うん。じゃあ……そのことも含めて、改めて今から全部話すよ」

美希「! …………」

春香「私がデスノートを拾った経緯、目を持った理由、これまでデスノートを使ってしてきたこと……そして、今になって美希に全てを打ち明けようと思った理由。その、全部を」

美希「…………」

345 : 以下、名... - 2015/08/01 15:46:28.05 2DuHhpa60 129/963

春香「あ、でもその前に」

美希「?」

春香「美希に憑いてる死神さんも私に見せて」

美希「……わかったの」スッ

春香「へー。英語でタイトル書いてあるんだ。なんかかっこいいね。でも美希、いつもこれ持ち歩いてるの?」

美希「うん」

春香「なんか危なくない? それ……」

美希「ミキの場合、家の中に置いてる方がアブナイの。お姉ちゃんとかに触られちゃいそうで」

春香「なるほどね。では早速……」サッ

(春香が美希のノートに触れた瞬間、美希の背後にいるリュークが春香にも視認可能となった)

春香「へえー。死神っていってもレムとは全然違うタイプなんだね。あっ、名前だけは聞いてるよ。リューク。これからよろしくね」

リューク「ああ、よろしく」

美希(春香とリュークが普通に会話してる……なんかすごい光景なの)

春香「じゃあ改めて……えっと、最初は……」

レム「最初のくだりは私から話そう」

春香「レム」

レム「いいね? ハルカ」

春香「うん。じゃあお願い」

レム「あれは今から一年と少し前……死神界にジェラスという死神がいた」

美希「…………」

リューク「…………」

レム「ジェラスは死神界からずっと一人の少女を眺めていた」

レム「最初、私はジェラスがその子に恋をしているのだと思った。今の死神界じゃ大笑いされることだがありえない話ではないからな」

レム「しかしジェラスを見ているうち、私は、ジェラスがその少女に抱いている感情はいわゆる『恋愛感情』と呼ばれる類のものとは少し性質が異なるのではないか、と思うようになってきた」

346 : 以下、名... - 2015/08/01 16:01:29.53 2DuHhpa60 130/963

美希「? 恋じゃなかったってこと?」

レム「まあ広い意味では『恋』といえるのかもしれないが……分かりやすく言うと、ジェラスはその子のファンになっていた」

美希「ファン?」

レム「そう。その子は当時、デビューして間もない、いわゆる新人アイドルってやつだった。まだ名も売れておらず、自分のCDを手売りで販売したりしていた」

レム「ジェラスに詳しく話を聞いてみると、元々は、殺す人間を適当に探している時に、偶然その子を見つけたらしい。最初はなんとなく見ていた程度だったらしいが、その子が健気に、前向きにアイドル活動を頑張る姿を見ているうち、段々と情が湧いてきて……気が付けば、寝ても覚めても彼女の事を考えてしまうようになっていたそうだ」

美希「へー。でもそれはやっぱり恋っていえそうな気もするの」

レム「まあそうだったのかもな。だがジェラスとしても人間にそのような感情を抱くこと自体初めてだっただろうから、自分の感情が何に分類されるものなのか、おそらくはっきりとは自覚できていなかったのだろうと思う」

美希「なるほどなの」

春香「……………」

レム「だが確かにその少女は、メスの私から見ても魅力的だった」

美希(レムってメスだったんだ。っていうか、死神に性別ってあったんだ……)

レム「何より明るく、元気が良くてね。少しドジなところもあったが、そこもまた魅力だった」

春香「ちょ、ちょっとレム。そのへんの話は今別にいいんじゃない?」

レム「そうか? だがジェラスの話をする上では結構重要な部分だと思うが……」

春香「うー……でもやっぱりちょっと恥ずかしいよ……」

美希「? 何で春香が……って、あ! もしかして……」

レム「そう。ジェラスがファンになっていた、当時まだデビューして間もない新人アイドルだったのがこの子……天海春香というわけだ」

美希「! 春香の、ファン……」

春香「……………」

347 : 以下、名... - 2015/08/01 16:16:15.45 2DuHhpa60 131/963

レム「日を追うごとに、ジェラスはよりハルカの虜となっていった。最初は死神界から眺めているだけだったんだが、いつしかそれに飽き足らず、ハルカの出演するイベントがある日にははるばる人間界に降りて、実際にそのイベントに参加するようにまでなった」

美希「えっ! そんなことしていいの? 死神が」

レム「まあ本当はダメなんだがね。ただ死神界の掟で、『ノートを渡す人間を物色する目的なら、一定時間人間界に居てもいい』というものがあってね。ジェラスはこれを理由に死神大王を騙し、しばしば人間界に降りてはハルカの出演するイベントに参加していた」

美希「すごい根性なの」

リューク「ククッ。まさか人間のためにそこまでする死神がいたとはな」

美希「少なくともリュークは絶対しなさそうなの」

リューク「まあな」

レム「そうしてジェラスは、ハルカが出演するミニライブはもちろん、村祭りイベントや芸能事務所対抗大運動会など、765プロ全体が参加するイベントにも可能な限り足を運んでいた」

美希「えっ! 来てたの? あの村祭りや運動会に」

レム「ああ。ちなみに私も、ジェラスに付き合ってそれらのイベントに同行していた」

美希「! そ、そうだったんだ……」

レム「私もジェラスほどの入れ込みではなかったが、死神界から長い間眺めているうち、ハルカに対して陰ながら応援してやりたいという気持ちは芽生えていたからね」

美希「へー。死神を二人もファンにしちゃうなんて、やっぱり春香はすごいの」

春香「うぅ、恥ずかしい……ていうか本当にこのくだり必要なの?」

348 : 以下、名... - 2015/08/01 16:36:20.88 2DuHhpa60 132/963

レム「だがもちろん、どんなに近くで応援していてもジェラスの姿はハルカからは見えない。まあ当然だがね。しかしそれでもジェラスは満足だった。『好きなアイドルを間近で応援できる』……ただそれだけで、ジェラスの心は満たされていたんだ」

美希「ファンの鑑ってカンジなの」

レム「しかしそこまでジェラスが入れ込んでいた理由は、ハルカのアイドルとしての魅力以外にもう一つあった」

美希「? 何なの?」

レム「ジェラスがハルカを見つけたとき、ハルカの寿命はもうあとわずか……およそ一年ほどしか残っていなかったんだ」

美希「!」

春香「…………」

レム「デビューからわずか一年余りでの死……その予定された運命の儚さが、そんなことは知る由も無いままひたむきに頑張るハルカの魅力をより一層引き立たせ、またジェラスの心を惹きつけてやまなかった」

美希「…………」

レム「またハルカを観察しているうち、ジェラスの胸の内には様々な感情が生まれていた。たとえば、ハルカが前任のプロデューサーから受けていた度重なるセクハラ被害……お前もハルカ自身から聞いて知っていると思うが、ハルカはその男から日常的に身体を触られるなどしており、精神的にも相当参っているようだった」

美希「…………」

レム「その男に身体を触られ、辛そうな表情を浮かべるハルカを見るたび、ジェラスは何度も自分のノートにその男の名前を書こうとした。しかし結局、ジェラスはその男を殺さなかった」

春香「…………」

レム「自分はあくまで一ファンであり傍観者……ハルカの人生に直接介入すべきではないと考えていたからだ」

美希「そうだったんだ……」

レム「いずれにせよハルカの寿命はもうあとわずか。ならば自分がファンとして出来ることは、彼女がその人生を全うするまで見守ることのみ……ジェラスはそう決意し、胸の内に押し寄せる様々な感情を押し留めてハルカの応援をし続けた」

レム「そしてついにハルカの寿命の日が来た。奇しくもその日は、今から五か月ほど前……765プロファーストライブの日だった」

美希「!」

349 : 以下、名... - 2015/08/01 16:51:00.21 2DuHhpa60 133/963

【(回想)765プロファーストライブの日/ライブ会場】


レム「まさかファーストライブの日が寿命の日とはね」

ジェラス「……なんで、よりによって今日なんだろう……」

レム「人の元々の寿命は我々が決めるものではないからな……こればかりはどうしようもない」

ジェラス「…………」

レム「まあいずれにせよ、今日がハルカの最後のステージだ。精一杯、悔いの無いよう応援してやりなよ」

ジェラス「……うん……あっ」

レム「? どうした?」

ジェラス「あそこに居るの……あの子がまだ駆け出しだった頃からずっと応援してるファンだ。今まであったほとんどのイベントで見かけたから覚えてる」

レム「そうか……。そいつはまだハルカの運命なんて知らないだろうが、知ったらさぞ悲しむだろうな」

ジェラス「……うん……」

レム「お、もうそろそろ始まる頃だな」

ジェラス「…………」

350 : 以下、名... - 2015/08/01 17:11:00.15 2DuHhpa60 134/963

【数時間後・ライブ会場の外】


レム「良いライブだったな」

ジェラス「うん」

レム「竜宮小町が遅れると聞いたときはどうなることかと思ったが……ハルカはじめ、他のアイドル達が上手くカバーしていた」

ジェラス「うん」

レム「今日のライブを皮切りに、竜宮小町以外のアイドル達のファンも増えるかもしれないな」

ジェラス「でも、もう、あの子は……」

レム「……ああ。そうだな。しかし今日はもう後残り何時間も無いが……これからどう死ぬんだろうな……」

ジェラス「…………」

レム「今日のライブの様子を見る限り病気とかではなさそうだったし……普通に考えれば事故か何かか。かわいそうではあるが……」

ジェラス「……レム」

レム「ん?」

ジェラス「……本当はこのまま死神界に帰ってあの子の最期を見届けるつもりだったけど……やっぱり最後は、この目で直接見届けてやりたい。……だめかな?」

レム「ああ、お前ならそう言うだろうと思っていたよ。幸い、あと数時間ならまだこのまま人間界に居ても大丈夫だ。私も一緒に見届けよう」

ジェラス「……ありがとう。レム」

351 : 以下、名... - 2015/08/01 17:27:51.25 2DuHhpa60 135/963

【同日深夜・春香の家の最寄駅の構内】


春香「…………」ピッ

(駅の改札を通り、家路へと向かう春香)

レム「事務所での打ち上げでも、特に変わった様子は無かったね」

ジェラス「……うん……」

レム「しかし今日はもう後残り二十分も無いが……本当に今日死ぬんだろうか?」

ジェラス「……あっ」

レム「?」

ジェラス「あれ……今日、ライブ会場に居た……」

ファンの男「…………」

レム「……ああ。ハルカがまだ駆け出しだった頃からずっと応援しているっていうファンか……でも何でこんな所に? いや、というかあいつ……明らかにハルカの後を……」

ジェラス「…………」

春香「…………」

ファンの男「…………」

レム「ハルカの方は気付いていない……」

ジェラス「…………」

ファンの男「――――」ダッ

レム「! 走り出した!」

ジェラス「! …………」

ファンの男「ねぇ!」ガシッ

春香「!?」

(ファンの男が突然背後から春香の腕を掴む)

春香「や、ちょっ……」バッ

(反射的に、思わずその手を振りほどく春香)

ファンの男「あっ」

春香「! あなたは……」

ファンの男「…………」

春香「……私がデビューした頃からずっと、ライブやイベントに来てくれてる……」

ファンの男「! 覚えててくれたんだ……嬉しいよ」

春香「…………」

352 : 以下、名... - 2015/08/01 17:50:03.96 2DuHhpa60 136/963

ファンの男「ねぇ……春香ちゃん」

春香「!」ビクッ

ファンの男「君も覚えてくれていたとおり、僕は君がデビューしてすぐの頃から、ずぅっと君の事を応援していた」

春香「…………」

ファンの男「嫌な事があった日も辛い事があった日も……君の笑顔が、声が、歌が……君という存在の全てが、僕を元気づけてくれた」

春香「…………」

ファンの男「……でも」

春香「……?」

ファンの男「君は今、人気アイドルとしての階段を着実に上り始めている」

春香「…………」

ファンの男「今はまだ、世間一般での知名度はそこまで高くはないけど……今日のライブを観て、僕は確信した」

春香「…………」

ファンの男「そう遠くない未来、君は今よりもっと多くの人に愛されるアイドルになる。そしていつか、本物のトップアイドルになるって」

春香「…………」

ファンの男「天海春香を応援するファンの一人として、それは大いに喜ぶべきことなんだろう。いや、心の底から待ち望んでいた瞬間の到来といっても過言ではない」

春香「…………」

ファンの男「でもそのことは同時に……君が今より、ずっとずっと遠くの世界に行ってしまうということを意味する。今僕の居るこの世界から、ずっとずっと遠くの世界に」

春香「! …………」

ファンの男「それは僕には耐えられない。これ以上、遠い世界に行ってほしくない。今のまま、僕と同じ世界に居る君のままでいてほしいんだ」

春香「えっ、と……」

ファンの男「だから……春香ちゃん」

春香「! な……何?」

ファンの男「僕と結婚して、アイドルは今日限りで引退してほしい」

春香「!」

ファンの男「そして、僕だけのアイドルになってほしい。そうすれば、僕と君はずっと同じ世界に居られる」

春香「…………」

ファンの男「……ね? 春香ちゃん……」

353 : 以下、名... - 2015/08/01 18:04:18.27 2DuHhpa60 137/963

春香「……ごめんなさい」

ファンの男「! …………」

春香「私はまだ、アイドル続けていたいんです」

ファンの男「…………」

春香「これからも、765プロの皆と一緒に、沢山ライブやったり、色んなお仕事したりして……私達の事、もっと多くの人に知ってもらいたいんです」

ファンの男「…………」

春香「そしてより多くの人を笑顔に、幸せにしてあげられるような……そんなアイドルになりたいんです。だから……」

ファンの男「…………」

春香「……私は、あなたのお気持ちにお応えすることはできません。どうかこれからもファンの一人として、私……いえ、私達765プロ皆の事を、温かく見守っていて下さい」ペコリ

ファンの男「…………」

春香「…………」

ファンの男「……分かった。じゃあ仕方ない」

春香「はい。本当にごめんなさ……」

ファンの男「今ここで君を殺して、僕も死ぬ」

春香「……え?」

(持っていた手提げ鞄から包丁を取り出すファンの男)

春香「! ちょ……」

ファンの男「そうすれば、君はこれから先もずっと、永遠に僕と一緒の世界に居られる。そうだろ?」

春香「や……やめて……」


レム「まさか……こんな結末だったとはな……」

ジェラス「…………」

レム「今日はもう後残り十分も無い。この男に殺されるのがハルカの寿命だったということか……」

ジェラス「…………!」バッ

レム「ジェラス!? おい、何を……」 

ジェラス「…………」

354 : 以下、名... - 2015/08/01 18:23:43.69 2DuHhpa60 138/963

ファンの男「さあ、僕と永遠になろう。春香ちゃん」

春香「い……いやっ!」ダッ

ファンの男「! 待て!」ダッ

春香「誰か……誰か!」

ファンの男「フフッ、春香ちゃん。そんなに急いで走ると転んじゃうよ? そう、いつもみたいに――……ッ!?」

春香「……え?」クルッ

ファンの男「……あっ……ぐっ……!」

春香「な……何?」

ファンの男「……あ……が……」ドサッ

春香「!」

ファンの男「――――」

春香「…………え?」


レム「ジェラス。お前……」

ジェラス「……レ、ム……」ボロボロ

レム「! ジェラス! お前、身体が……」

ジェラス「……あの子の、事……たの、む……」

レム「ジェラス!」

(次の瞬間、ジェラスは砂とも錆ともわからぬ物に変わった)

レム「……ジェラス……」


春香「…………」

(恐る恐る、倒れたファンの男に近付く春香。男は目を見開いたまま仰向けに倒れており、ピクリとも動かない)

春香「……し、死んでる……?」

春香「何が起きたのか分からないけど、助かった……のかな……」

春香「えっと、こういう場合、どうしたら……。とりあえず、警察……?」

 ドサッ

春香「?」

春香「何? この黒いノート……」スッ

「そのノートはお前の物だ」

春香「……え?」

(春香の目の前に舞い降りるレム)

春香「!? な……!」

レム「おっと。大きな声を出すんじゃない」

春香「…………!」

レム「私は死神のレム。今から、お前の身に起こったことを教えてやる」

春香「…………?」

375 : >>355訂正 - 2015/08/05 00:13:51.32 UPMoMXPu0 139/963

【(回想終了)765プロ事務所近くの公園】


レム「……そして私は、今までお前達に話してきたのと同じことを全てハルカに教えてやり……ジェラスの使っていたノートをそのままハルカに与えた」

美希「じゃあそれが、今春香が持ってる……」

春香「そう。これね」スッ

美希「そうなんだ……って、あれ? じゃあ結局、春香の寿命はどうなったの? それに何でジェラスは死んじゃったの?」

レム「……死神は本来、人間の寿命を短くする……頂く為だけに存在している。人間の寿命を延ばすなんてもっての他」

レム「ゆえに死神は人間の寿命を延ばす目的でデスノートを使ってはならない。それをすると死神失格……死神は死ぬ」

レム「死神が死ぬと、その死神の命が助けられた人間に見合った寿命として与えられる。だから本来、あのファーストライブの日に終わるはずだったハルカの寿命は、ジェラスの命が与えられたことによって延長された」

美希「そうだったんだ……」

レム「もっとも、死神が死ぬのは特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす為にデスノートを使った時だけだ。ジェラスの場合、それが恋愛感情と呼べる類のものだったかどうかまでは分からないが……少なくとも、ジェラスはハルカに対して明確に好意を持っており、そのハルカの寿命を延ばすためにファンの男を殺したから、死んだ」

リューク「ククッ。なるほどな。それが噂に聞く『死神の殺し方』ってやつか」

レム「そういうことだ」

美希「でも、その後ジェラスのデスノートが春香に与えられたってことは……死神が死んじゃっても、死神が使ってたデスノートはそのまま残るってこと?」

レム「そうだ。死神が死んだ場合、死神は消えるがデスノートは残る。このような場合、常識的には死神大王に返上するものとされているが、私は常識よりジェラスの遺志を尊重し、ジェラスの遺したノートをハルカに渡した」

レム「このノートをハルカの幸せのために使わせてやってほしい……ジェラスはきっとそう思って死んでいっただろうからね」

美希「なるほど。すごい愛なの」

春香「…………」

356 : 以下、名... - 2015/08/01 19:04:06.00 2DuHhpa60 140/963

レム「ただハルカも、全ての事情を理解してからも本当にノートを使うべきかどうかは最後まで悩んでいた。あくまでも人間を殺す為の道具……悩むのも当然だ」

春香「…………」

レム「私はハルカが要らないと言うのなら、すぐにでもノートを返してもらうつもりでいた。しかしハルカは……悩みに悩んだ末、最後にはデスノートを使うことを決めた」

美希「……春香……」

春香「さっき、レムも説明してくれてたけど……私は本来、あのファーストライブの日に死ぬはずだった」

美希「…………」

春香「でもそれが、一人のファンの……それも、私がデビューして間も無い頃からのファンのおかげで、死なずに済んだ」

春香「そしてその一人のファンの命が、私の寿命として与えられ……そのおかげで、私は今日もこうして生きている」

春香「つまり、今の私が在るのは、そのたった一人のファンの……ジェラスっていう死神のおかげなの」

春香「もちろん私は見たことも会ったこともないけど……でも私にとって彼は命の恩人であり、かけがえのないファンの一人」

春香「そんな彼が、自分の命を犠牲にしてまで私の寿命を延ばしてくれたのに、そのことに気付かないふりをして、忘れたつもりになって与えられた寿命を生きていくなんて……そんなこと、私にはできない」

春香「だから考えた。今私ができることは何なのか。ジェラスがファンになってくれたアイドルとして……私は何をすべきなのか」

春香「そうやって考えたら、答えは自ずと見つかった。ジェラスはアイドルとしての私を応援してくれていた。ならばジェラスのくれた命を使って、私がすべきことはただ一つ」

春香「アイドルとしての夢を実現すること。つまり、765プロの皆と一緒に、より多くの人を笑顔に、幸せにしてあげられるようなアイドル……トップアイドルになることなんだって」

美希「! 春香」

春香「その時から、私にとって“夢”だった『トップアイドルになること』は私にとっての“使命”になった。これが私に命を与えてくれたジェラスに対して私ができる、たった一つの恩返し」

春香「だから私は、その為に……いや、その為だけにデスノートを使おう。そう決めたんだ」

美希「……春香……」

377 : 以下、名... - 2015/08/05 00:27:42.18 UPMoMXPu0 141/963

美希「でも春香。デスノートを使ってトップアイドルになるって、一体どういう……?」

春香「美希はさ」

美希「? 何?」

春香「今の私達のままで……いや、正確には少し前の私達のままで……トップアイドルになれたと思う?」

美希「? どういう意味?」

春香「確かに、この世界は実力がまず第一。実力が無ければ上にはいけない」

美希「それはそうなの」

春香「でも実力さえあれば必ず上にいけるかというと、必ずしもそうではない」

美希「っていうと……運とか?」

春香「それもあるけど……一番大きい要因は、外圧の有無」

美希「外……圧?」

春香「そう。もう半年以上も前になるけど……さっきレムの話にも出た、去年私達765プロが出場した芸能事務所対抗大運動会。覚えてるよね?」

美希「もちろんなの。だってその運動会、ミキ達が女性アイドル部門で優勝したんだから」

春香「そう。私達が優勝した。……『空気を読まずに』ね」

美希「あー……そういえばあの頃、ちょくちょくそういうこと言われてたね。弱小事務所のくせに、みたいな」

春香「そしてあの頃から、徐々に私達、765プロの仕事先で変な事が増えてきた」

美希「変な事?」

春香「美希は気付かなかった? あったはずの仕事の予定が何故かキャンセルになっていたり、逆にダブルブッキングしてたり」

美希「それは確かにあったけど……。でも前のプロデューサーって元々全然仕事できない人だったし……」

378 : 以下、名... - 2015/08/05 00:49:38.08 UPMoMXPu0 142/963

春香「確かにそうだね。でもあの運動会以降、その傾向は明らかに強くなった。それまでは社長さんや小鳥さん、律子さんのフォローがあったからなんとかなっていたけど、それも追いつかないくらいに」

美希「あー……言われてみればそうだったかもなの。正直その頃ずっと、前のプロデューサーからのセクハラがひどくて、そこまで気が回ってなかったけど」

春香「そうだね。でもそれだけじゃない。明らかにこちらの落ち度じゃない場合……たとえば律子さんが担当していた竜宮小町のラジオ収録なんかでも、いざ現場に行ったら知らないうちに収録時間が変更されていた、なんてこともあったみたい」

美希「ああ、それは覚えてるの。でこちゃんすっごく怒ってたよね」

春香「それと似たようなことが、私達のほぼ全員の仕事先で起こっていた。これだけでも十分変なのに、より違和感があったのが、前のプロデューサーさんの態度」

美希「? っていうと?」

春香「私が彼と一緒に現場に行ったときにも、さっき言った竜宮小町の件と同じようなことがあったの」

春香「本当は16時からの収録のはずだったのに、30分前に現場に着いたら『15時からの収録なのに、30分も連絡無く遅刻するなんてどういうことだ』ってすごく怒られて」

美希「言ってたね。事務所では小鳥も事前にスケジュール確認してくれてたから間違えてるはずないのに、っていう」

春香「そう。でも私が気になったのは、現場でそれを告げられた際、前のプロデューサーさんが、微塵も表情を変えなかったこと」

美希「え? そうだったの?」

春香「うん。眉一つ動かしてなかった」

美希「んー。でもそれは、単純に興味が無かったんじゃない? 事務所のお仕事そのものに」

春香「仮にそうだとしても、普通、全く予想していない事態に不意に直面したら、少なからず動揺が表に出ると思わない?」

美希「まあ……それはそうかもなの」

春香「でも彼にはまったくそんな素振りが無かった。現場でそう告げられて『ああ、どうもすみません』って、まるで台詞を棒読みするように一言謝っただけだった。まるで、そうなることが最初から分かっていたかのように」

美希「うーん。でもやっぱり、単純に事務所のお仕事に興味が無かっただけなんじゃないかなって気もするけど……」

春香「まあね。ただ私はその違和感がずっと心に残ってて、彼が裏で何かしてるんじゃないかという疑念がどうしても消せなかった」

美希「裏で?」

春香「うん。私達を陥れようとする何者かと、裏で手を引いてるんじゃないかって」

379 : 以下、名... - 2015/08/05 02:06:25.15 UPMoMXPu0 143/963

美希「あー……でもミキ的には、なんかあんまりそういうずる賢そうなことするタイプには見えなかったの。セクハラするし、仕事はできないし……」

春香「もしそれらがカモフラージュだったとしたら?」

美希「え?」

春香「アイドルにはセクハラ、仕事はいい加減にこなす……表立ってそんなことをする人間が、裏で私達を『さらに』陥れようとしているなんて普通思わない。今美希が言ったみたいにね」

春香「現に美希は当時、さっき言っていたみたいに、彼によるセクハラの方に意識が向いていて、仕事の方の不自然な出来事にまでは気が回ってなかったんでしょ?」

美希「うん、まあ……。でも今までの話からすると、春香はそうじゃなかったってことだよね?」

春香「まあね。私もセクハラ被害は受けてたし嫌だったけど、こっちの方も同じくらい気にはなってた」

春香「誰かが故意に私達を陥れようとしているのでなければ、説明のつかないくらい、不自然な出来事が多く起こり過ぎてたからね」

美希「まあ確かに、そう言われてみれば……なの」

春香「またそうだとすれば、これらの出来事は、どれも私達の内部情報……誰が、いつ、どこで、どういう仕事をするのかといった情報が入手できなければ起こせないことばかりだった。仕事予定の変更にしろ、ダブルブッキングにしろ」

美希「そっか。うちの事務所に全然関係無い人にはそもそも出来ないってことだね」

春香「そう。だから私の中ですぐに答えが出た。『ああ、この人が私達の情報を流してるんだ』って。言うまでもないけど、彼以外にそんなことをするような人はうちの事務所にはいないからね」

美希「そこは確かに納得なの」

春香「そう考えると、普段の様子も実は全部演技だったんじゃないかって思えてきて」

美希「じゃあ……わざと仕事できないふりしてたってこと? セクハラも?」

春香「多分ね。まあ流石に100%そうだったとまでは断定できないけど。でももし私の考えの通りなら、前のプロデューサーさんはどこかのスパイだったわけで、本当に無能な人だったらスパイなんて任せられないでしょ」

美希「確かに。すぐ失敗してばれちゃいそうだしね。でもそうだとすると、一体どこのスパイだったんだろう?」

春香「美希も聞いたことあったよね。前のプロデューサーさんがどういう経緯でうちに来たのか」

美希「あー、うん。確か、うちの事務所に出資してる大きな会社の社長の息子で、就職先が決まらなかったから、父親のゴリ押しでうちのプロデューサーになったって……小鳥からそう聞いたの」

春香「そう。ちなみにその大きな会社って、どういう会社か知ってる?」

美希「んーん。知らないの」

春香「その会社はね。実はとあるアイドル事務所と密接なつながりがある会社だったんだよ」

美希「? とあるアイドル事務所?」

春香「うん。その事務所の名前は―――961プロダクション」

388 : 以下、名... - 2015/08/05 22:34:03.28 PrqJHgcD0 144/963

美希「961プロって……あのジュピターとかの?」

春香「そう」

美希「なんでそんなこと分かったの? 春香」

春香「うん。私一人で考えていても本当のところは分からないままだろうから、思い切って社長さんに聞いてみたの」

美希「? 何て?」

春香「『プロデューサーさんは私達を陥れるためにどこからか送り込まれてきたスパイなんじゃないですか?』って」

美希「春香は時々すごいの」

春香「そしたら社長さん、目に見えてうろたえちゃって。『そ、そんなことはないぞ』とかなんとか言ってたけど、もうみえみえでさ」

美希「実に社長らしいの」

春香「でも結局その時は、否定されたままで『すまないが私は用事があるのでこれで』って逃げられちゃったの」

美希「よっぽど言いたくなかったんだね」

春香「うん。でもおかげで私は自分の推測に確信を持てた」

美希「社長がウソをつけないタイプの人で良かったね」

春香「そうだね。ただ同時に、これ以上直接聞いても真相は教えてもらえないだろうなとも思ったから、少し作戦を変えることにしたの」

389 : 以下、名... - 2015/08/05 22:48:26.33 PrqJHgcD0 145/963

美希「というと?」

春香「多分だけど、小鳥さんもある程度事情を知ってるんじゃないかなって思ったんだよね。そもそも前のプロデューサーさんがうちに来るようになったいきさつを私達に教えてくれたのも小鳥さんだったし」

美希「確かに。じゃあ次は小鳥に聞いたんだ?」

春香「ううん。それはしなかった。小鳥さんに聞いても上手くはぐらかされるだろうと思ったし、そのことが社長さんに伝わったらかえって警戒されるだろうなって思ったから」

美希「なるほどなの」

春香「でももし社長さんと小鳥さんが事務所で二人きりになるタイミングがあれば、もしかしたらその関係の話をすることがあるかもしれない。だから私はその可能性に賭けることにした」

美希「ってことは……」

春香「毎朝事務所に行く時と、夕方以降また事務所に戻る時、いつも必ずドアを少しだけ開けて、中の会話の内容を確認してから入るようにした」

美希「流石春香なの」

春香「まあね」

美希「でもそれで上手くいったの?」

春香「もちろんそう簡単にはいかなかった。でも社長さんと小鳥さんが事務所で二人きりになるタイミングって比較的多いから、いつかはボロを出すんじゃないかと思って繰り返し試みてみたら……案の定だった」

美希(春香が悪い顔になってるの)

390 : 以下、名... - 2015/08/05 22:55:37.13 PrqJHgcD0 146/963

【(回想)765プロファーストライブの二週間前/765プロ事務所】


(仕事を終え、事務所に戻ってくる春香。事務所のドアの前で立ち止まり、ドアを少しだけ開く)

春香(今日この時間は、事務所にいるのは社長さんと小鳥さんの二人だけのはず……)

春香(そろそろうっかり喋ってくれてもいいと思うんだけどな……)

社長「……まったく、あの男にも困ったものだ」

春香「!」

小鳥「もう何回目か分かりませんね。仕事がいつのまにかキャンセルされてるの」

社長「うむ。今まではまだ我々の事務所内だけでの問題だったが、最近は明らかに外部の者と裏で連携しての工作がなされている」

小鳥「どうします? もう流石に本人に言っても……」

社長「いや……確たる証拠があるわけではないし、言ったところでどうにもならん。この事務所はまだ資金的には苦しい……今もし出資を打ち切られでもしたら……」

小鳥「でも社長。このままだと会社自体が……」

社長「確かに、今のこの状況が続くようでは何らかの手を考えねばなるまい」

小鳥「ファーストライブも二週間後に迫っていますし……。もし妨害とかがあったら、あの子達が……」

社長「そうだな。ライブ当日、彼の動きは極力監視するようにして……後は黒井か。まああいつが直接動くとは考えにくいが――……ん?」

春香「…………」

社長「!? あ、天海君!?」

小鳥「春香ちゃん!?」

春香「…………」

391 : 以下、名... - 2015/08/05 23:01:07.19 PrqJHgcD0 147/963

社長「き、君、いつから……」

小鳥「春香ちゃん。今の話……聞いてた?」

春香「……はい」

社長「…………」

春香「社長さん。小鳥さん。……教えて下さい」

社長「…………」

小鳥「…………」

春香「あの人は……プロデューサーさんは、やっぱりスパイなんですね? 私達を陥れようとしている……」

社長「…………」

春香「そして彼をこの事務所に送り込んだのは……黒井……というと、もしかして、あの961プロの黒井社長ですか?」

社長「! …………」

春香「お願いです。教えて下さい。もうここまで聞いているんです」

社長「しかし……」

春香「さっき小鳥さんも言いかけていましたけど……実際にお仕事をできなくされたりして辛い思いをするのは私達、アイドルなんです」

社長「! …………」

小鳥「春香ちゃん」

春香「だから私には……私達には、聞く権利があるはずです。あの人は……プロデューサーさんは何者なのか。そして何故うちに送り込まれてきたのか」

社長「…………」

春香「そしてそれをしたのが黒井社長なのだとしたら……何故そんなことをしたのか」

社長「…………」

春香「お願いします。教えて下さい」

社長「…………」

392 : 以下、名... - 2015/08/05 23:13:24.92 PrqJHgcD0 148/963

社長「……分かった」

春香「! 社長さん」

小鳥「社長」

社長「君が言うように、今この状況で一番憂き目に遭っているのは他ならぬ君達アイドルだからな」

春香「社長さん。……ありがとうございます」

社長「ただそうは言っても、これから私が話すことには推測や憶測も多分に含まれる。ゆえに今はまだ君の心の中だけに留めておいてほしい。時が来れば、他の皆には私の方から改めて話す」

春香「……分かりました」

社長「ではまず……そうだな。私と黒井……961プロの黒井社長のことから話そうか」

春香「じゃあやっぱり、さっきの『黒井』というのは……」

社長「ああ。君の言うとおり、961プロの黒井社長のことだ」

春香「…………」

社長「私と黒井は、かつて一緒に仕事をしていた仲でね。同じ頃この業界に入り、良きライバル、そして友人として一緒に頑張ってきた」

社長「しかし、やがていつしか私と黒井はアイドルの育て方で意見がぶつかるようになってしまってね。彼のやり方が目に余るようになり、私は彼と話し合ったんだが、思いは受け入れてもらえなかった」

社長「そして結局、私達はそのまま袂を分かつことになったんだ」

春香「そうだったんですか……」

社長「それ以来、私と黒井は絶縁状態となった。またそれと共に業界における私達の立場も大きく異なっていった」

社長「アイドルを売るためならどんな手でも使う黒井は、まさに圧倒的なスピードでこの業界の頂点にまで上りつめた」

社長「一方私は私で、自分の信念にもとづいてアイドルの育成に力を注いできた。確かに今も、資金的には潤っているとはいえない状況だが……それでも私は、自分の選んだ道に間違いは無かったと思っている」

小鳥「社長……」

春香「…………」

393 : 以下、名... - 2015/08/05 23:41:10.99 PrqJHgcD0 149/963

社長「そうして私と黒井は別々の道を歩むこととなり、もう交わることは無いだろうと思ったまま、二十年近くの歳月が流れた」

春香「…………」

社長「そんな中、とある大手の投資会社から、うちの事務所に出資をさせてもらえないか、との申し出があった」

社長「なんでも、うちの事務所のアイドルに将来性を見出したとかなんとか……。最初は訝しんだが、その会社の社長に会って話を聞くうち、信頼に足る人物だと判断できたので、私は彼の申し出を受け入れることにした」

春香「…………」

社長「それから三年ほどの月日が流れた。事務所の利益はあまり上がらなかったが……それでもその社長はうちの事務所を見放さず、『いつか必ず芽が出ますよ』と言っては私を励ましてくれた」

社長「私は単純に嬉しかった。自分の会社を応援してくれる人がいるというのは、経営者としてこの上ない喜びだと……心の底からそう思った」

社長「ところがその頃、その社長がばつが悪そうな顔をして、ある話を切り出してきた。『実は息子が今年大学を出るのだが、まだ就職先が決まっていない。もしよかったらそちらの事務所に入れさせてもらえないか』と……」

春香「! …………」

社長「正直、私は当惑した。まずそもそも、うちの事務所には新たに人を雇うほどの資金的な余裕は無かったし……。何より、いくら世話になっている人の息子さんとはいえ、全く知らない人物をいきなり迎え入れろと言われても……」

社長「しかし先方の意思は強かった。何度も何度も頭を下げられ……結局、最後には根負けした。もちろん背後には、ここまでされて断った場合、もし出資をやめられては……という危惧があったのだが」

社長「そうしてその社長の息子がうちの事務所に入った。何の経験も無い新人だったが、経緯を踏まえると、当然ぞんざいに扱うことはできない……たとえ名ばかりとなってもやむを得ない。そういう思いで、私は彼に『プロデューサー』という役職を与えた」

春香「そうだったんですか……」

社長「その後の彼の働きぶりは……まあ、君達も知っての通りだ」

小鳥「正直言って、仕事と呼べるレベルじゃないですよね……」

春香「…………」

社長「とはいえ、その後は君達アイドル諸君の頑張りもあって、事務所としては大きく成長を遂げることができた」

社長「律子君も途中でプロデューサーに転向してくれたため、彼の分の穴を一層強固にカバーすることができるようになった」

社長「そして今年の夏には念願のファーストライブ開催も決まり、更には先日の芸能事務所対抗大運動会での女性アイドル部門優勝と……いよいよ、我が765プロダクションが勢いに乗ってきたところで……だ」

春香「……ここ最近の、仕事先での相次ぐトラブルですね」

社長「そうだ」

394 : 以下、名... - 2015/08/05 23:59:48.24 PrqJHgcD0 150/963

社長「元々、プロデューサーの彼のミスで仕事が上手くいかないことは間々あった。しかし最近頻発している数々のトラブルは、明らかに性質が従来のそれとは異なっている」

社長「どう考えても、彼一人のミスだけで発生したものとは思えない……明らかに、外部にこのトラブルを惹起している者がいる」

社長「そしてそれはおそらく、事務所内の情報が外部に伝えられることによって起こされている……この可能性に気付いた時、私は天海君と同じ推測をした」

春香「プロデューサーさんが、スパイ……」

社長「そうだ。確証は無いが、しかし仮にそうであるとすれば、情報を外に漏らしているのは彼としか考えられない。だから私は彼の身辺を調べることにした」

社長「彼の父親が経営している投資会社……この会社も、これまでの社長の態度からある程度は信頼していたが、この状況では調べないわけにはいかない」

春香「でも調べるって……一体どうやって?」

社長「善澤君のことは知っているね?」

春香「えっ。はい。よく社長さんと一緒にお茶を飲んでる……」

社長「そうだ。彼はああ見えても名うての記者でね。あらゆる業界の事情に通じている」

春香「そうだったんですか」

社長「そして私の昔馴染みでもある。だからその縁で、件の投資会社についても調べてもらった」

社長「その結果……驚くべき事実が明らかになった。件の投資会社は、裏で961プロから多額の資金提供を受けており、さらにその事業活動のほぼ全てを961プロに牛耳られていたんだ」

春香「えっ!」

社長「しかし961プロとその投資会社との間に資本関係は無く、表面的にはまるで無関係に見えるようにされていた」

395 : 以下、名... - 2015/08/06 00:23:08.57 bZ6p6l810 151/963

社長「もっとも、これだけなら単なる偶然とも思える。しかし善澤君がさらに調べてくれたところによると……ここ最近のうちの事務所に対する数々のトラブルも、どうやら961プロが主体となって仕組んでいるものらしい、ということだ」

春香「! …………」

社長「961プロは、今やこの業界の絶対的王者といっても過言ではないほどの地位にいる。同業者の多くはそんな961プロに目を付けられることを恐れているが、同時に、あわよくばその利権にあずかれないかと目を光らせている者も少なくない」

春香「それは……どういうことですか?」

社長「ここ最近、うちの事務所で頻発している数々のトラブル……そのいずれについても、我々の内部情報と、それを利用できる立場にいる者の存在が必要だ」

春香「利用できる立場にいる者……ですか?」

社長「たとえば、本来君達がするはずだった仕事を、たまたま他の事務所のアイドルが代役を務めることになった……とかね」

春香「あっ」

社長「つまり我々を外しても、その穴埋めができなければ結局仕事に穴が出る。でも逆にそれを埋めることができるならば問題は無い、ということだ」

春香「じゃあ……私達を陥れようとしていたのは……」

社長「そう。961プロのみならず、その利権にあずかろうとしている他のアイドル事務所――つまり、961プロに協力することで何らかの見返りが得られることを期待している連中――も関与している可能性が極めて高い。またそれらの事務所は件の運動会で我々765プロに出し抜かれたという恨みもあろう」

春香「そんな……」

社長「だがこれはまだ確定的な情報ではない。黒井もしたたかな男だ。そう簡単にボロは出すまい。善澤君も『765プロ周辺でここ最近起こっていることを総合すると、961プロとそれに追随する複数のアイドル事務所による“765プロ潰し”が行われているとみるのが最も自然だ』と述べるに留めている」

春香「でももしそうだとすると、それを可能にしているのは……」

社長「ああ。彼が持ち出していると思われる我々765プロの内部情報だ」

春香「…………」

396 : 以下、名... - 2015/08/06 00:47:52.01 bZ6p6l810 152/963

社長「繰り返すが、確証は無い。あくまでも状況的にそうである可能性が最も高いというに過ぎん」

春香「…………」

社長「しかし私には、確証は無いが確信はある。私は黒井の性格をよく知っているからね」

春香「というと?」

社長「これはあくまでも私個人の考えだが……あの日袂を分かってから、奴はずっと、自分の考えに同意しなかった私を恨んでいたのだろうと思う」

社長「そしてずっと、私の考えを根本から否定し、圧倒的な権力で私を叩き伏せることを目論んでいたのだろう」

春香「…………」

社長「やがて奴は力をつけ、業界トップの地位に君臨した。そしてその潤沢な資金にものをいわせて、件の投資会社を支配するに至った」

社長「さらにいつかスパイを送り込むことまでを企図して、その会社にうちの事務所に対する出資までさせた」

社長「そして彼をうちの事務所に送り込み……事務所の仕事をいい加減にこなさせ、内部からうちの事務所を瓦解させようとした。同時に、彼に『いい加減な人間』を演じさせることで『スパイ』などという狡猾な側面を我々に察知されないようにしていた」

春香(あっ。私と同じ考え……。じゃあセクハラも黒井社長の指示だったのかな? まあ社長さんはセクハラの事は知らないから聞きようがないけど……)

社長「それで我々を内部から崩壊させられればよし。させられなければ……」

春香「次は外部から……ですか」

社長「そうだ。我々がそれにも動ぜず力を伸ばし始めると、黒井は、今度は彼をして自分の考えに同調するであろう他の事務所に我々の内部情報を流させ、組織ぐるみで我々を潰しにかかった」

社長「それが今の状況……私はこう考えている」

春香「…………」

小鳥「もし本当にそうだとしたら……。なんでそこまで……」

社長「さあな。ただ奴にも曲げられない信念があるのだろうとは思うよ」

397 : 以下、名... - 2015/08/06 01:15:04.94 bZ6p6l810 153/963

春香「でも仮に社長さんの考えが正しいとしても……黒井社長はこんな遠大な計画を、全部たった一人で考えたんでしょうか?」

社長「いや、おそらくそうではない。実は私と黒井が同じ事務所で仕事をしていたとき、黒井が自ら他の事務所から引き抜いてきた部下の男が同じ事務所にいてね。その男は文字通り黒井の右腕ともいうべき人物で、黒井が私の元から去ったとき、迷わず黒井について事務所を出て行ったんだ」

社長「そしてその男は今もそのまま961プロの取締役として在籍している……いわば黒井の側近、参謀だ」

社長「この男が今も黒井の右腕として、黒井と共に“765プロ潰し”を画策しているとみてまず間違い無いだろう」

春香「なるほど」

小鳥「でも社長。これからどうするんですか? さっきも言いましたが、彼に情報を持ち出されているとほぼ分かっていながら放置というのは……」

社長「これも同じく先ほど述べたとおりだ。仮に今、下手に動いて件の投資会社に出資を打ち切られでもしたら、事務所の経営がたちゆかなくなるおそれがある」

春香「でも……その出資自体、黒井社長の計画の一部なんだとしたら、どのみちいずれなくなるんじゃ……?」

社長「おそらくはな。だが今はまだこのままでいい。我々は黒井の策には気付かぬふりをして、黒井側の出資がなくなっても持ちこたえられるよう、力をつけられるようにすればいい」

春香「社長さん」

小鳥「社長」

社長「そのために最も必要なのは、君達アイドル諸君の更なる躍進だ。幸いにも二週間後にはファーストライブがある。これで風向きが変われば、黒井の妨害工作など関係無くなるはずだ。そうすればもう何も怖くはない。彼を追い出すことも含めて、前向きに考えられるようになるだろう」

社長「だから今はとにかく、二週間後のファーストライブに全力を注いでくれたまえ」

春香「……分かりました」

398 : 以下、名... - 2015/08/06 01:31:24.15 bZ6p6l810 154/963

【(回想終了)765プロ事務所近くの公園】


春香「そして二週間後のファーストライブ……結局、この日は特に妨害は無かった。多分だけど、これで更に私達の人気を一時的にせよ上げさせて、私達の反対勢力となるアイドル事務所の数を増やしたかったんじゃないかな?」

美希「なるほどなの。でも春香。この日って……」

春香「そう。このファーストライブがあった日……さっきレムが話してくれた経緯で、私はデスノートを手に入れた」

美希「…………」

春香「そしてその後、五日間ほど悩みに悩んで……結局最後には、私はデスノートを使うと決めた。私に命をくれたジェラスのためにも、私は絶対に765プロの皆と一緒にトップアイドルになるんだって」

美希「じゃあ、その為にノートを使うっていうのは……」

春香「うん。今のままじゃ、どんなに実力があっても私達はトップアイドルにはなれない。実力とは無関係の力を使って、私達に害をなそうとする人達がいる限り」

美希「…………」

春香「だから私は決意した。私達765プロに害なす全ての者を、このデスノートを使って排除しようと」

美希「! …………」

春香「そしてそのうえで……765プロの皆と一緒にトップアイドルになる。それが私の使命であり、私に命を与えて死んでいったジェラスの夢」

美希「……春香……」

422 : 以下、名... - 2015/08/08 10:08:34.80 AGJrYSFv0 155/963

春香「一度そう決意すると、もう迷いは無かった」

春香「まずは私達765プロを潰そうとしている人達の情報を得る事……でもこの時点で私に分かっていたのは、“765プロ潰し”計画の首謀者が黒井社長であるらしいということと、彼には側近がいること。その計画には961プロに追従している他の複数のアイドル事務所も関与していると思われること」

春香「そして前のプロデューサーさんは黒井社長によってうちに送り込まれたスパイであり、うちの内部情報を外部に持ち出していると考えられること……これだけだった」

春香「デスノートで殺すには顔と名前が必要……このとき私にその両方が分かっていたのは黒井社長と前のプロデューサーさんの二人だけだった」

美希「あれ? 春香って黒井社長と会ったことあったの?」

春香「いや、無いけど。でも961プロのホームページに普通に写真載ってたから」

美希「あー。まがりなりにも社長だもんね」

春香「そういうこと。あと、黒井社長の側近の人の名前も、社長さんに『もし何かの機会に出会った時に警戒できるようにしておきたいから』って言ったらすんなり教えてもらえた」

美希「流石春香。あざといの」

春香「何か言った?」

美希「なんでもないの」

春香「でも他の人については何の手がかりも無かった。情報を探ろうにも、そもそもどのアイドル事務所が計画に関与しているのかすら分からなかったしね」

美希「確かにね。じゃあどうしたの?」

春香「……ねぇ、美希」

美希「? 何? 春香」

春香「デスノートのルールで、『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』っていうルールがあるのは知ってるよね?」

美希「うん。リュークが書いてくれてたルールの中にあったの。ミキは一回も使ったことないけどね」

リューク「めんどくさいって言ってたもんな」

美希「まあね」

春香「あはは。美希らしいね」

427 : >>426訂正 - 2015/08/08 10:48:53.96 AGJrYSFv0 156/963

春香「でもこのルール、実はすごく便利なんだよ」

美希「死の時間指定ができるってやつでしょ? ミキでもそれくらいは知ってるの」

リューク「俺が教えたからな」

春香「もちろんそれもできるけど……でも実はもっとすごいことができるんだよ」

美希「?」

春香「まあこれは実際に見せた方が分かりやすいかな」パラッ

(自分のデスノートを開き、その1ページ目を美希に見せる春香)

美希「! これは……」


--------------------------------------------------

轡儀 柳次  事故死

誰にも気付かれない場所、
怪しまれない行動範囲の中で、

現在765プロダクションを陥れようとしている計画に関する情報
およびその計画に関与している者達に関する情報のうち
自分が閲覧することのできる全ての情報のデータと、

これらの情報に関連する情報および961プロダクションがこれまで行ってきた悪事に関する情報のうち
自分が知っている全ての情報を書き込んだテキストのデータを
私物のUSBメモリにコピーし、

そのUSBメモリと『はるるんにうちの可愛いペット達の写真を見てもらいたいので送ります。
はるるんだけに見てほしいので家で一人の時に見て下さい』と書いた手紙を封筒に入れ、
差出人名を「はるるんの大ファンより」とだけ書き、
東京都大田区矢口2丁目1番765号 株式会社765プロダクション
はるるん 宛てに出す。

20××年○月○日より23日間以内にこれらをすべて実行した後、
この事は誰にも言う事なく不慮の事故に遭い死亡。

--------------------------------------------------

429 : 以下、名... - 2015/08/08 10:57:07.28 AGJrYSFv0 157/963

美希「これって……」

春香「どう? ここまで人間の死の前の行動を操ることができるんだよ。デスノートは」

美希「じゃあ、全部ここに書かれた通りになったってこと?」

春香「うん。これを書いてから五日後くらいに、私はここに書いてある情報を全部手に入れることができたからね」

美希「すごいの。デスノートってなんでもありなんだね」

春香「いや、なんでもかんでも操れるってわけじゃないよ。物理的に不可能な事をさせたり、その人が知りもしない情報を書かせたりすることはできない」

美希「そうなんだ。じゃあ万能ってわけじゃないんだね」

春香「まあでも逆に言えば、その人がやってもおかしくない行動ならほぼ完全に操れるから、実際上の不都合はほとんど無いけどね。たとえば『自殺』だって、ほぼ全ての人間にとって可能性がある事とされているから、死因として書けば有効だしね」

美希「へー。で、この轡儀って人は誰なの?」

春香「さっき言ってた黒井社長の側近の人だよ」

美希「ああ、春香が社長から名前だけは聞いてたっていう」

春香「そう。この人なら、黒井社長が持ってるのとほぼ同じ情報……つまりこの“765プロ潰し”計画に関するほぼ全ての情報を持ってると思ったからね。最初に操り、情報を送らせてから殺すにはうってつけだった」

美希「なるほどなの」

432 : 以下、名... - 2015/08/08 11:12:38.36 AGJrYSFv0 158/963

春香「そして情報さえ送らせれば後は簡単……住所さえ合っていれば確実にうちの事務所に届くし、『はるるんの大ファンより』と書かれた封筒が『はるるん』宛てに出されていれば小鳥さんは何の疑いも持たずに私に渡してくれる。本名をノートに書くと私が死んじゃうからね」

美希「あー。それでこういう書き方なんだ」

春香「もちろん、防犯上の理由から封は一回開けられるけど……この内容が書かれた手紙が同封されていれば、小鳥さんもあえて私より先にUSBメモリの中身を見るようなことはしない」

美希「すごいの春香。それでまんまと“765プロ潰し”計画の情報を手に入れたってわけだね」

春香「まあね」

美希「でもこれ、何で『23日間以内』なの?」

春香「ああ、デスノートで死の前の行動を操れるのはノートに名前を書いた日から23日間以内だけなんだよ」

美希「へー。そうなんだ。よく知ってるね」

春香「レムが知る限りのルールをほぼ全部教えてもらったからね。ノートを実際に使い始める前に」

美希「ふーん。レムは随分優しいんだね」

レム「私もある意味ハルカのファンだからね。ジェラスの件もあるし、できる限りの協力はしてやりたいと思っている」

美希「同じ死神なのに、基本的にミキのことほったらかしなリュークとはえらい違いなの」

リューク「ククッ。俺は別にミキの敵でも味方でもないからな」

453 : >>433訂正 - 2015/08/08 23:47:52.35 xoBCbWZB0 159/963

美希「じゃあこれで春香は“765プロ潰し”計画の情報が一気に入手できて……って、あれ?」

春香「ん?」

美希「春香は、この黒井社長の側近の人の顔って知ってたの?」

春香「ううん、知らなかったよ。ホームページに写真が載ってたのは黒井社長だけだったしね」

美希「ってことは……」

春香「うん。だからこの人の顔は直接確認するしかなかった」

美希「直接って……961プロに行って、ってこと?」

春香「まあそういうことだね。要は張り込みですよ。張り込み」

美希「張り込みって、刑事ドラマとかでよく見る、あれ?」

春香「そう、あれ。オフの日や仕事の合間の空き時間とかを使って、961プロ本社の正面玄関が見える位置でひたすら張り込みしてたんだ。目当ての人物が現れるまでね」

美希「えっと……でも側近の人って、名前しか分からなかったんだよね? 春香は」

春香「うん」

美希「じゃあ実際にその人が現れても、その人がそうだって分からなかったんじゃない?」

春香「そこでこれですよ。これ」

(自分の目を指差す春香)

美希「目……あっ」

春香「そう。私は961プロへ張り込みをする前に、レムと目の取引をした」

美希「! ………」

434 : 以下、名... - 2015/08/08 11:28:07.76 AGJrYSFv0 160/963

春香「死神の目を持った人間は顔を見た人間の名前が分かる……。私はこの目を使って、可能な限り、961プロに出入りする人間の名前を確認し続けた」

美希「…………」

春香「そうして張り込みを始めてから……五日目くらいだったかな? ようやく、お目当ての名前を持つ人――つまり、黒井社長の側近――を見つけ、その人の顔を知ることができたってわけ」

美希「……なるほどね。でも春香、その為に残りの寿命の半分を……」

春香「まあね。でもこの人の為だけってわけじゃないよ。“765プロ潰し”計画に関与している人達の情報を得ても、その全員の顔まで分かるようになるとは限らなかったし」

春香「それにこの業界、皆が皆、本名で活動しているとも限らないしね。明らかな芸名を名乗ってる大手事務所の社長とかもいるし」

美希「それはまあ、そうかもしれないけど。でも……」

春香「あのね。美希」

美希「…………」

春香「確かに、名前が分かっている人の顔くらいなら、地道に調べていけばいつかは分かるかもしれない。あるいは芸名を使っている人の本名も」

春香「でも私には、その時間がもったいないの」

美希「……時間……」

435 : 以下、名... - 2015/08/08 11:39:32.03 AGJrYSFv0 161/963

春香「そんな時間があるなら、私は今しかできないことをしたい」

美希「今しかできないこと?」

春香「うん。たとえば少しでも多くの時間、皆と一緒にレッスンしたい。もっと多くのお仕事をこなしたい。そうやって可能な限り、アイドルとしての実力を磨きたい」

美希「春香」

春香「私がデスノートを使ってしようと思ったのは、あくまでも私達に害をなす人達を排除することだけ」

春香「そしてそれもすべては、正真正銘、本当の実力のみで――……トップアイドルになって、皆と一緒のステージに立ちたいから」

美希「…………」

春香「でもその為には圧倒的に時間が足りない。私がアイドルでいられる時間なんて、きっともう後何年も無い」

春香「だから、今の私には無駄にしていい時間なんて無い。今アイドルとして活動できる一週間を得る為なら、私は将来の十年を捨ててもいい」

美希「! …………」

春香「トップアイドルになれないまま50年を生きるより、トップアイドルになって25年で死ぬ方が、私は良い」

春香「ジェラスもきっと、それを望んでいると思うから」

美希「…………」

春香「私はそういう気持ちと覚悟で……レムと目の取引をしたの」

美希「……春香……」

437 : 以下、名... - 2015/08/08 12:00:59.61 AGJrYSFv0 162/963

春香「で、話の続きだけど……」

美希「…………」

春香「……そうやって私は、まず黒井社長の側近の人を操って殺し、“765プロ潰し”計画の情報を得ることに成功した」

春香「得た情報の内容としては、社長さん伝いに聞いていた善澤さんの予想と同じだった。首謀者は黒井社長で、その利権にあずかろうとしている他の複数のアイドル事務所がそれに協力して、私達765プロを組織ぐるみで潰そうとしていた」

春香「運動会以降、急増した私達の仕事先での不自然なトラブル……不意打ち的な予定のキャンセルやダブルブッキング等、全部彼らの差し金だった」

美希「…………」

春香「そして961プロが件の投資会社を通じてうちに出資していたのも……前のプロデューサーさんがスパイとしてうちに送り込まれていたのも、すべて黒井社長の指示によるものだった」

春香「さらに黒井社長は、前のプロデューサーさんにうちでの仕事をいい加減にこなすように命じ、うちを内部からも崩壊させようとしていた。スパイと察知されないためのカモフラージュも兼ねてね」

美希「じゃあ、やっぱりわざとだったんだ。前のプロデューサーのあのテキトーな仕事ぶりは……」

春香「うん。そういうことになるね。もっとも私達に対するセクハラに関しては私が入手した情報にも記載が無かったから、おそらく前のプロデューサーさんの独断によるものだったんだろうと思うけど……」

美希「なるほどね。でも黒井社長は一体何のためにそこまで……」

春香「その動機は、復讐。かつて自分と袂を分かった高木社長に、自分の考え、やり方の正当性を見せつけ、敗北感を味わわせるため。……まあ、これもほぼ社長さんが予想していた通りだったってことだね」

美希「そんなことのために……」

春香「そして前のプロデューサーさんがうちの情報を持ち出し、黒井社長ら、“765プロ潰し”計画のメンバーに渡していたことも事実だった。それが計画を実行していく上での基礎情報として用いられていたことも」

美希「じゃあ本当に……善澤さんが予想していた通りだったんだね」

春香「そういうことだね」

439 : 以下、名... - 2015/08/08 12:16:12.02 AGJrYSFv0 163/963

美希「でも春香。それ、何で側近の人じゃなくて黒井社長でやらなかったの? 黒井社長なら最初から顔も名前も分かってたのに」

春香「……黒井社長は私達を一番苦しめてきた首謀者……いわば黒幕だからね。ただ殺すだけじゃ割に合わない。少なくとも私達765プロに十分な“償い”をしてもらってからじゃないと」

美希「“償い”……?」

春香「だからこそ、側近の人には“765プロ潰し”計画とは直接関係の無い『961プロダクションがこれまで行ってきた悪事』についての情報も送らせたわけだしね」

美希「? どういうことなの? 春香」

春香「まあ……そのへんについては後でまた詳しく話すよ」

美希「…………」

春香「ともあれそういう経緯で、私は“765プロ潰し”計画に関するほとんど全ての情報を得ることができ、どこの事務所の誰が計画に関与しているのかもほぼ完全に把握することができた」

春香「その中には顔のデータがある人もいれば無い人もいたけど……少なくとも計画の主要人物は皆、大手アイドル事務所の社長や会長ばかりで、何らかのメディアに顔が出てる人ばかりだった。だから、最初の時のように張り込みをする必要は無かった」

美希「そうなんだ」

春香「ただ、顔は分かっても芸名を使ってる人は何人かいたからね。やっぱり死神の目は持ってて正解だったよ」

美希「…………」

春香「そうして顔と名前が分かった計画の主要人物を……私は次々と事故死や自殺で消していった。その数は、最初の側近の人も含めると実に三か月で八人にも上った」

美希「……主要人物だけ? 関与した人全員じゃないんだ?」

春香「まあ別にそうしてもよかったんだけど、明らかに雑魚っぽい人を殺しても意味無いしね。それにあんまり多く殺して足がついても面倒だったし」

美希(春香が氷のような目をしているの)

春香「何か言った? 美希」

美希「ううん。なんでもないの。って……ん?」

春香「? 何?」

441 : 以下、名... - 2015/08/08 12:30:15.09 AGJrYSFv0 164/963

美希「事故死や自殺……? それに大手アイドル事務所の社長や会長ばかり……?」

春香「…………」

美希「あっ! じゃああれ、もしかして春香がやってたってことなの? アイドル事務所のお偉いさん達がばたばた死んじゃったっていう……」

春香「そうだよ! っていうか美希、気付くの遅いよ!」

美希「ご、ごめんなさいなの。そっか、そうだったんだ……」

春香「いやいや、もうとっくに気付いてるもんだと思ってたよ……ここまでの話の流れからして」

美希「あはは……。あっ、ってことはヨシダプロの社長さんも?」

春香「? ヨシダプロ?」

美希「ほら、ヨシダプロダクション。ミキが最近、そこの所属アイドルの弥海砂ちゃんって子と○×ピザのCMでコラボ出演した……」

春香「ああ、あそこね。うん、確かにあそこの社長も私が消したよ」

美希「……そうだったんだ」

春香「元々、ヨシダプロと961プロは密接な提携関係にあったみたいだね。よく同じ芸能企画のスポンサーになったりしてたみたい」

美希「そうなんだ。あっ、そうか。それで……」

春香「? 何?」

美希「えっと、うちの今のプロデューサー、海砂ちゃんのマネージャーと昔から知り合いだったみたいなの」

春香「そうなの?」

美希「うん。961プロに居た頃から、よくお互いに仕事先を紹介しあったりしてたって言ってた」

春香「ああ、なるほどね。まあ提携関係にある会社同士だから、社員間でも交流はあったんだろうね。もっとも、トップ同士の裏のつながりについては末端の社員は知らなかっただろうけど」

美希「? 裏のつながりって?」

春香「簡単に言うと、裏でグルになって弱小事務所をいじめたりとか、色々やってたみたい。たとえばさっき言った芸能企画のスポンサーの件でも、弱小事務所はスポンサーにさせないようにしたりとかね」

美希「……それって、黒井社長の側近の人に送らせたっていう『これまで961プロがしてきた悪事』の情報の一部?」

春香「そういうこと。まあでも、その海砂さんのマネージャーさんの事はよく知らないけど……少なくとも、うちの今のプロデューサーさんは信頼できると思うよ。側近の人に送らせた情報の中にも名前出てこなかったしね」

美希「そうなんだ。確かに今のところかなり良い人っぽい感じなの」

442 : 以下、名... - 2015/08/08 12:47:19.95 AGJrYSFv0 165/963

美希「あ、でも春香。なんで死因を事故死や自殺にしたの? 心臓麻痺じゃなくて」

春香「だって同じ業界の人が急に何人も心臓麻痺で死んだりしたら怪しまれるでしょ。流石に」

美希「あー。まあ確かにそれはそうかもなの」

春香「ただ三か月で八人ってのはちょっと急ぎ過ぎだったかもね。結局『アイドル事務所関係者が短期間に相次いで死亡』って感じでニュースになっちゃったし」

美希「でも流石に誰も、あれが実は殺人事件だったなんて思ってなかったの」

春香「まあね。当時はまだキラもいなかったしね」

美希「! …………」

春香「……それから、前のプロデューサーさんの事だけど」

美希「…………」

春香「私は正直、前のプロデューサーさんを殺すかどうかは最後まで迷ってた。黒井社長が送り込んだスパイだし、セクハラの事もあったから……本心では一刻も早く殺してやりたかったけど」

春香「でも現実問題として、彼の父親の会社を通じて黒井社長がうちの事務所に出資をしている、という事実があったから」

美希「あー……確かに」

春香「もし彼が死ねば、黒井社長がうちに対する出資を続ける意味は無くなる。その出資は、私達に彼の振る舞いに口出しさせないようにするための、いわば口止め料としての意味しかなかったからね」

春香「そして少なくとも私がノートを手に入れた頃……つまり、ファーストライブが終わった直後の頃のうちの事務所は、まだその資金に頼らざるを得ない状況だった」

春香「でもそれから三か月……私が“765プロ潰し”計画の主要人物のほとんどを殺害したこともあってか、私達に対する妨害工作はほぼ無くなった」

444 : 以下、名... - 2015/08/08 13:15:52.27 AGJrYSFv0 166/963

美希「確かに……ファーストライブの後はそういうのはほとんど無かったような気がするの。まあ、前のプロデューサーの適当な仕事ぶりとセクハラは相変わらずだったから、やっぱりどうしても、そっちの方に意識が向いちゃってはいたけど……」

春香「そう。要するに外圧は収まり、また以前のような事務所内部の問題だけが残った」

春香「そしてライブで勢いをつけた私達は、妨害が無くなったこともあり一気に人気が上昇した」

美希「うん。ファーストライブの後は本当に世界が変わったみたいだったの。次から次へと新しいお仕事が舞い込んできて……」

春香「そうだね。だから私も思った。『もうそろそろ、プロデューサーさんを殺してもいいんじゃないか?』って」

美希「! …………」

春香「仮にこの人が死んで、うちの事務所に対する例の出資が無くなっても……もう、うちの事務所は十分やっていけるんじゃないか。ファーストライブの前に社長さんが言ってた、『黒井側の出資がなくなっても持ちこたえられるよう、力をつけられるようにすればいい』という言葉は、もう現実のものになっているんじゃないか、って」

美希「…………」

春香「ただそうは言っても、ファーストライブが終わってからまだ三か月ほどしか経過していない。もう少し様子を見てからでも―――そんな事を考えていた矢先だった。突然、前のプロデューサーさんが心臓麻痺で死んだ」

美希「…………」

春香「美希が、殺した」

美希「! …………」

春香「念の為、もう一度だけ確認するけど……それで間違い無いんだよね? 美希」

美希「……うん」

春香「そしてそのすぐ後に現れた“キラ”」

美希「…………」

春香「やっぱりこれも……美希なんだよね?」

美希「…………」

春香「…………」

美希「……うん」

春香「…………」

455 : 以下、名... - 2015/08/09 00:01:50.51 1IHdPtnK0 167/963

春香「まあそりゃそうだよね。いくらなんでも、デスノートを拾った人間が同じようなタイミングでそう何人も現れるはずないし」

美希「…………」

春香「でも、美希の口から直接聞けてスッキリしたよ。正直、まだ100%の確信までは無かったからね」

美希「? そうなの?」

春香「うん。動機から考えても、前のプロデューサーさんを殺したのは美希で間違い無いと思ってた。でも実はキラの方はそこまでの確信は無かったんだ」

美希「…………」

春香「なんというか、犯罪者を次々と裁く“キラ”のイメージと、いつものゆるゆるっとした“美希”のイメージが、どうしても上手く結びつかなくて」

美希「あー……それはまあそうかもなの」

春香「美希はキラなのか? それとも違うのか? この二か月間、私はずっとそれを考えてた」

美希「…………」

春香「あと、美希が目を持っているのかどうかも気になってた。もし持ってるなら当然私の事も気付いているはず。でも美希は何も言ってこない……」

美希「ミキは目の取引もしてないし、デスノートの所有者の見分け方も、さっき春香に教えてもらうまで知らなかったの。だからまさか、春香もデスノートを持ってたなんて夢にも思わなかった」

春香「そうなんだよね。おかげで私は独り相撲だったよ。美希がキラかどうか確かめようと思って、色々カマ掛けたりもしてたのに」

美希「えっ。そうだったの?」

春香「ほら。美希が犯罪者裁きを始めてからすぐの頃、皆で事務所から帰ってる時にさ」

美希「……あっ」


――えっと、そういえば……プロデューサーさんの死因も『心臓麻痺』だった……よね。

――もしかして、プロデューサーさんも、キラに……。

――ま、それもそうか。それにもし仮にそうだとしたら、私達の中にキラがいるってことになっちゃうもんね。


美希「……本当なの。ミキ、全然気づかなかったの」

春香「あはは……まあ、それだけ信頼されてたってことかな」

456 : 以下、名... - 2015/08/09 00:17:13.38 1IHdPtnK0 168/963

春香「そんな感じで、多少想定外ではあったけど、とにかく前のプロデューサーさんが死んで……私は次に何をするべきか考えた」

美希「えっと、ミキ達に害をなす人でまだ殺してないのって……黒井社長? あ、でもさっき“償い”がどうこうって……」

春香「そう。いずれにせよ、黒井社長には私達への“償い”をしてもらうつもりでいたから、このタイミングで美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたのは私にとってはむしろ好都合だった」

美希「? 好都合?」

春香「うん。まあもっともその後、美希が犯罪者裁きまで始めたのは完全に予想外だったけどね」

美希「…………」

春香「でもそれも大した問題じゃなかった。それにそのときはまだ美希が犯罪者裁きをしているっていう確証も無かったしね」

春香「とにかく、美希にせよ他の誰かにせよ、犯罪者裁きが始まったのなら、それも当初の計画に組み込んでしまえばいいだけ……私はそう考えて、美希による犯罪者裁きが始まってから数日後、黒井社長宛てに一通の手紙を送った」

美希「手紙?」

春香「そう。今度は難しい工作は必要無い。指紋とかが付かないようにだけ注意して、後は普通に961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男宛てに匿名で送るだけ」

春香「ただその手紙の内容は、黒井社長にとっては絶対に無視できないものだけどね」

美希「? どういうことなの?」

春香「黒井社長の側近の人をデスノートで操って得た『961プロがこれまで行ってきた悪事』に関する情報……私はそのうちのいくつかを手紙に書いて、黒井社長を脅迫した」

美希「あー。それでその情報を送らせてたの」

457 : 以下、名... - 2015/08/09 00:30:40.37 1IHdPtnK0 169/963

春香「そういうこと。そしてその情報の中には、もしそれらが表に出たら961プロが完全に社会的信用を失うであろうものもいくつかあった」

美希「それで『これらの事をばらされたくなければ言うことを聞け』って言ったんだね」

春香「うん。そしてこうも言った。『これまで複数のアイドル事務所関係者を事故死や自殺などに見せかけて殺してきたのは私です。今は犯罪者達を裁いています』ってね」

美希「ああ、組み込むってそういう……」

春香「そ。美希には悪いけど、勝手に使わせてもらっちゃった。もっとも、そのときはまだ裁きが始まってすぐの頃だったから、“キラ”っていう名前は浸透してなかったけどね」

春香「それから手紙には続けてこう書いた。『私は離れている人の心を読むことができるしその人を自由な手段で殺すこともできます。ゆえにあなたの考えていること、これまで行ってきた悪事については全て分かっています。死にたくなければ、また過去の悪事をばらされたくなければ私の言うことに従って下さい』ってね」

美希「あはっ。春香ったら嘘八百なの」

春香「まあね。でもこれくらい書いてもばれっこないし、本当に殺されるかは別にしても、どのみちばらされたくない秘密がある以上黒井社長は従うしかない」

美希「確かにね」

春香「まあでも結果的には美希がやってくれてた犯罪者裁きにかなり助けられたかもね。私がやってたアイドル事務所関係者殺しの方だけだと、偶然性を完全には否定しきれず、脅迫材料としては少し弱いかな、って思ってたから。実際、世間的には偶然に見せかけるために死因を事故死や自殺にしてたわけだしね」

春香「そういう意味で、『今現在、犯罪者だけが次々と心臓麻痺で死んでいっている』という事実は、黒井社長をして私が手紙に書いた指示内容に従わせるのに十分だった」

美希(春香がまた悪い顔になってるの)

484 : >>459訂正 - 2015/08/11 02:33:05.27 bfZ8z8/l0 170/963

美希「で、春香は黒井社長になんて指示したの?」

春香「えっと、まず『あなたの弱者をいたぶる姿勢は正義として見過ごせません。今後はあなたの命を賭して、これまであなたが踏み付けてきた弱者に贖罪をしなさい』と」

美希「へえ」

春香「それから『まず手始めに、あなたが長年痛めつけてきた765プロダクションに対し、今あなたの下で働いている○○というプロデューサーを移籍させなさい』って」

美希「えっ! それって……」

春香「うん。そういうこと」

美希「春香が……移籍させたんだ。今のプロデューサーを、961プロから。……でも、何で?」

春香「今のプロデューサーさんとは、前に一度、歌番組の収録でジュピターと共演した時に会ったことがあってね。現場での対応力を見る限り有能そうだったし、当時彼が担当していたジュピターの人気ぶりをみるに、その実力も申し分無いだろうと思って」

美希「そうだったんだ」

春香「それにさっきも少し言ったけど、今のプロデューサーさんは961プロが行ってきた過去の悪事にも絡んでいないようだったしね」

美希「でも、春香。流石にそれってちょっとあからさま過ぎない? 黒井社長に『765プロの中にキラがいます』って言ってるようなものなの」

春香「別にそう思われてもいいんだよ。いずれにせよ黒井社長は手紙の内容は絶対に口外できないし、もし少しでも不審な動きを見せたらデスノートで殺せばいいだけ」

美希「…………」

春香「いい? 美希。私達が捕まる証拠があるとしたらこの『デスノート』しか無いんだよ。これを直接押さえられでもしない限り、絶対に捕まりっこないんだから」

美希「それはまあ、そうだけど……」

リューク「ククッ。どっかで聞いたことのあるセリフだな。ミキ」

美希「…………」

462 : 以下、名... - 2015/08/09 01:17:03.41 1IHdPtnK0 171/963

春香「まあでも、流石に最低限のカモフラージュはするように指示したよ。移籍させるプロデューサーさんに対しても高木社長に対しても、絶対に脅迫されていることを悟られないように、極力自然な形で話を切り出せってね」

美希「それだけ? もっと具体的に指示しなかったの?」

春香「うん。そこはもう黒井社長の判断に任せた方がいいかなって」

美希「でもプロデューサーの方はともかく、うちの社長は絶対警戒すると思うんだけど……前のプロデューサー自体、黒井社長が送り込んだスパイだったわけだし」

春香「まあね。でも元々、黒井社長は高木社長とは旧知の仲だったから、どういう言い方をすれば自然に受け取られるかも熟知しているだろうし、何より黒井社長は自分の命と会社の社会的信用がかかっているからね。まず下手を打つようなことはしないだろうと思ってた」

美希「なるほど。じゃあ結果的には上手くいったってこと?」

春香「うん。今のプロデューサーさんがうちに来てから、あくまでも元々一連の事情を知っていた立場として、社長さんに話を聞いたんだけど……黒井社長は、“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーさんが相次いで死んでいったのを見て、『765プロを潰そうとしていたから天罰が下った』と思ったんだってさ」

美希「へぇ。一応それっぽい理由なの」

春香「でしょ? それで、黒井社長はこれまでの経緯も全て認め、謝罪し、そのお詫びとしてプロデューサーさんをうちに移籍させることを申し出たってさ。さらにこれまで例の投資会社を通じて行っていた出資も継続するし、これまでの妨害工作でうちに発生した損害も全部補填するとまで言ったらしいよ」

美希「へー。そこまで言ったんだ」

463 : 以下、名... - 2015/08/09 01:35:31.13 1IHdPtnK0 172/963

春香「もちろん、事情を知らない他の皆の前では、社長さんも、『黒井社長がかつての仕事仲間だった高木社長を助けてくれたらしい』っていう形にして説明してたけどね」

美希「ああ、確かにそんなこと言ってたね。今のプロデューサーがうちに来た日に。でも実際のところ、この件はそれでもうおさまったの?」

春香「うん。黒井社長がそこまで言えば、後は我らが高木社長だからね。全てを信じて、水に流すことにしたってさ」

美希「そっか。実に社長らしいの」

春香「まあ実際、アイドル事務所関係者がもう九人も死んでる上、犯罪者裁きまで始まってたからね。黒井社長の立場上、『次は自分の番だ』と思ってもおかしくないし、その黒井社長の言葉を社長さんが信じても不自然じゃないよ」

美希「確かにね。で、他には何か指示したの? 黒井社長に」

春香「他には……そうだ。『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』みたいなことも書いたね。要は961プロと裏でつながってる事務所にも、弱小事務所いじめをさせるなってことだけど」

美希「あー……それは、ミキが海砂ちゃんと例のCMにコラボ出演できたことに関係ありそうな気がするの」

春香「? どういうこと?」

美希「えっと、今のプロデューサーがね。そのCMのコラボ出演の件、うちの方からヨシダプロにお願いしたって言ってたの。でも元々、ヨシダプロの社長さんが黒井社長と裏でつながってたのなら……」

春香「ああ、そうだね。確かに、以前ならそういう話も黒井社長の指示で確実に断られていたと思う」

美希「ってことは……ミキが海砂ちゃんと共演できたのは春香のおかげだったんだね。どうもありがとうなの」ペコリ

春香「あはは……どういたしまして」

464 : 以下、名... - 2015/08/09 02:01:31.93 1IHdPtnK0 173/963

春香「で、こんな具合に、私は黒井社長に対しては最大限の脅迫をしつつ、今後もまた利用できそうな場面があればいつでも利用できるようにしてるってわけ」

美希「なるほど。それでずっと殺さずにおいてるんだね」

春香「うん。“償い”はまだ終わってないからね。まあ、終わりがあるのかどうかも分からないけど」

美希「…………」

春香「でも、いくら脅迫したりするにしても、黒井社長がやってたみたいに、他のアイドル事務所を実力以外の力で蹴落とすような真似だけは絶対にしないよ。それをしたら黒井社長と同じになっちゃうし」

美希「うん。そうだね」

春香「ただ961プロ時代にプロデューサーさんが担当していたジュピターに対してだけは、ちょっと悪いことしちゃったかなって思わないでもないけど……まあでも961プロの資金力なら、すぐに有能な人を雇えると思うし。実際、人気も落ちてないしね」

美希「むしろ前より人気出てるような気もするの」

春香「ともあれ、そんな感じでようやく、私も美希のことは気になりつつも、“765プロ潰し”の危機が事実上去ったことから、とりあえずはまたアイドルの本業に集中しようと思い始めた。そんな矢先だった」

春香「今から一週間前……突然、二人組の刑事さんがキラ事件の捜査でうちの事務所に来た」

美希「! …………」

春香「警察手帳を出されたとき、目を持つ私にはすぐにそれが偽名だと分かった」

美希「えっ! あれ偽名だったんだ。二人とも?」

春香「うん。流石にちょっと考えたよ。こんな物まで用意してるってことは、警察は既にキラの殺しの条件がある程度分かってるんじゃないかって」

美希「…………」

春香「それに何より、警察がうちの事務所に来た……この事実は大きい。確かに前のプロデューサーさんの死因と死亡時期を考えたら、たとえ一応でも確認しようとするのは分かるけど」

美希「…………」

465 : 以下、名... - 2015/08/09 02:38:16.84 1IHdPtnK0 174/963

春香「でも一方で、これはチャンスかとも思った。美希がキラなのかどうかを確かめられるかもしれないと思ったから」

美希「! …………」

春香「そして実際、先に聞き取りを終えた美希の顔を見てほぼ確信したよ。『ああ、やっぱり美希がキラだったんだ』って。美希は一見、平静を装っているように見えたけど、明らかに普通の様子じゃなかったからね」

美希「…………」

春香「まあ、それでも美希自身の口から聞いていない以上、99%ってとこだったけどね。そして残りの1%が今日やっと埋まったって感じ」

美希「じゃあ、それがさっきの……」

春香「うん。そういうこと。で、その後に自分の聞き取りがあったんだけど、正直もう美希のことが気になって気になって仕方なかったよ。とにかく怪しまれないようにすることだけを考えて、無難に答えて終わったけど」

美希「…………」

春香「それで、その日の帰りになっても美希の様子がおかしいままだったから、もういっそ何もかも全部話そうか、って思ってご飯に誘ってみたんだけど、あっさり断られちゃって」

美希「あー……うん。ごめんなさいなの。あの日はもうそれどころじゃなくて……」

春香「ううん、いいの。気にしないで。でもそれからというもの、美希は日に日に憔悴していっているように見えた。私はもう、いつ言おうか、いつ言おうかということばかり考えていたんだけど、いざ言おうとするとなかなかタイミングが無くて」

春香「でも、昨日。いよいよ思い詰めたような表情を浮かべていた美希を見て、『もう四の五の言っていられない。美希がキラであろうとそうでなかろうと、自分の秘密を全部話して、美希の話も全部聞こう。そのうえで、私にできることがあれば何が何でも協力しよう』……そう思った」

美希「……春香……」

春香「それで今日、自分のノートを持参して美希に話しかけ、今に至る……ってわけ」

美希「そうだったんだ。……でも、春香」

春香「ん?」

485 : >>466訂正 - 2015/08/11 02:35:13.92 bfZ8z8/l0 175/963

美希「なんで……そこまでしてくれるの?」

春香「なんで、って?」

美希「さっき春香も言っていたように、デスノートによる殺人は、ノートそれ自体を押さえられない限り証拠は出ない」

春香「うん」

美希「でももし、デスノートを持っていることを他の人に知られてしまったら、当然、知られた方は不利になる」

春香「…………」

美希「つまり、今日ミキにデスノートの所有者であることを話してしまったことで、春香は……」

春香「……バカだなあ、美希は」

美希「えっ?」

春香「そんなこと、いちいち考えてるわけないじゃん。それに私は、美希も既に目を持ってて、とっくに私がノートを持ってる事に気付いてるっていう可能性も考えていたわけだし」

美希「…………」

春香「まあでも、そんな理屈じゃなくて……私が美希の力になろうと思った理由は、ただ一つ」

美希「…………」

春香「仲間だから、だよ」

美希「……仲間……」

春香「ずっと前から言ってるでしょ? 私達765プロはずっと仲間だって。それはノートを持っていようが持っていまいが一緒だよ」

美希「春香」

春香「それに私の目指す先は、あくまでも『765プロの皆と一緒に』トップアイドルになることなんだから。もし誰か一人でも欠けてしまったら……そこには絶対たどり着けない。それは美希も同じなんだよ」

美希「! …………」

春香「だから……美希」

美希「…………」

春香「私は、もし美希が困っていたら必ず助ける。そしてもし美希が誰かに捕まえられそうになっていたら全力で阻止する。たとえこのデスノートを使ってでも……ね」

美希「……春香……」

487 : 以下、名... - 2015/08/11 02:43:10.18 bfZ8z8/l0 176/963

春香「ただまあそうは言っても、実際のところ、現時点で美希がそこまで疑われてるとは思えないけどね」

美希「! …………」

春香「確かに、前のプロデューサーさんの死因が心臓麻痺で、死亡時期がキラが裁きを始める直前だったから……前のプロデューサーさんの死がキラ事件と何か関係があるんじゃないか、と思われても仕方の無いところではあるけど……」

美希「…………」

春香「でも、流石にこの一件だけをもってキラ事件との関連性を見出すのは無理があるし、仮に強引にそう決めつけたとしても、容疑者はせいぜい私達765プロ全員だよ。美希一人を疑えるはずがない」

美希「…………」

春香「だから、美希。不安な気持ちになるのは分かるけど、もう少し落ち着いて……」

美希「……違うの。春香」

春香「えっ?」

美希「……ミキが犯罪者以外で殺したのは……前のプロデューサーだけじゃないの」

春香「! …………」

美希「…………」

春香「じゃあ、美希。誰を……?」

美希「……ミキの、クラスメイトの男子」

春香「! それ……いつ?」

美希「前のプロデューサーを殺した日の……翌々日」

春香「! …………」

488 : 以下、名... - 2015/08/11 02:48:44.55 bfZ8z8/l0 177/963

春香「美希。それは、何で……?」

美希「えっと……デスノートを拾って、すぐに前のプロデューサーの名前を書いて……そしたらその次の日に、心臓麻痺で死んだって聞いて……」

春香「…………」

美希「でもその時はまだ、ノートが本物かどうか分かってなくて」

美希「たまたまその日、新宿の通り魔が人質を取って保育園にたてこもってたから……試してみる意味で、そいつの名前もノートに書いたの」

美希「そしたらその通り魔も死んで……もうノートが本物だって、その時点でほぼ確信したの」

美希「それで、その日は一睡もできずに一晩過ごして……翌日。学校で、朝、その男子にからかわれて……」

春香「…………」

美希「いつもなら適当にあしらうんだけど、その時はもう精神的に大分参ってたのもあって、すごくイライラして……もうどうでもいいや、って投げやりな気持ちになっちゃって……」

春香「……書いたんだ」

美希「うん。デスノート、家に置いておくのが怖くて学校に持って来てたから、つい……」

春香「……そっか」

美希「…………」

春香「この事、刑事さん達には?」

美希「一週間前の聞き取りの時に話したよ。警察が調べたらいずれ分かることだし、それにパパはもう知ってたから……」

春香「パパ……? あっ、そうか。美希のお父さんって……」

美希「うん。警察官。しかも……少し前まで、キラ事件の捜査本部に入ってた」

春香「!」

489 : 以下、名... - 2015/08/11 02:59:08.98 bfZ8z8/l0 178/963

春香「キラ事件の捜査本部に……? 美希はその事を知ってたの?」

美希「うん。『学校の友達とかには言っちゃだめ』って言われてたから、事務所の皆には言ってなかったけどね」

春香「そうだったんだ……。でも、『少し前まで』ってことは、今は違うってこと?」

美希「多分……。刑事さん達がうちの事務所に来た日の夜に、パパにその事を話したんだけど、『今は別の仕事をやってる』ってことだけ言われて……。結局、パパはそれ以上何も言わなかったし、ミキにも何も聞いてこなかったの」

春香「…………」

美希「その時、なんとなく、パパが何か隠してるようにも思えたんだけど……」

春香「…………」

春香(もしかして、警察はもう美希をかなりの程度まで疑っている……? だからこそ、美希のお父さんはその事を美希に言えなかった……?)

春香(いや、今美希から聞いた話を前提にすれば、むしろ……)

春香「……キラ事件の開始とほぼ同じタイミングで、美希と接点のある人間が心臓麻痺で死亡……それが一人だけならまだしも、二人」

美希「…………」

春香「そして当然、二人とも犯罪者ではない……」

美希「…………」

春香「ねぇ、美希。この二人の両方と接点があるのは……おそらく美希だけだよね」

美希「うん。多分……」

春香「…………」

490 : 以下、名... - 2015/08/11 03:09:33.77 bfZ8z8/l0 179/963

春香「だとしたら……はっきり言って、警察が美希をキラとして疑っている可能性はかなり高いと思う」

美希「! …………」

春香「美希」

美希「な、何? 春香」

春香「リュークが美希の前に姿を現したのはいつ頃?」

美希「? リューク?」

春香「うん」

美希「えっと……確か、そのクラスメイトの名前を書いた日の夜……かな。時間的には、前のプロデューサーのお通夜の後くらい」

春香「前のプロデューサーさんのお通夜の後……つまり、私が美希がデスノートの所有者だと知った直後ってことだね」

美希「うん。そういうことになると思う」

レム「確かに、あの通夜の時点ではリュークはまだミキに憑いていなかった。ハルカの言うとおり、ノート自体は既に持っていたようだが」

春香「……リューク」

リューク「? 何だ?」

春香「あなた……何で、美希にノートを渡してからすぐに姿を現さなかったの?」

リューク「え?」

春香「あなたがすぐに美希の前に姿を現していれば、美希は何ら疑うことなくノートを本物だと信じただろうし、結果、身近な人間を二人も殺すことはなかった。そうでしょう?」

美希「春香……」

リューク「いや、そんなことを言われてもな……。そもそも人間にノートを渡した場合、すぐに姿を現さないといけないなんて掟は無いし……そうだよな? レム」

レム「ああ。死神は通常、人間がノートを使った日から39日以内に使った者の前に姿を現すものとされている」

リューク「ほら。俺なんてミキがノートを使ってから二日だぜ? むしろ褒めてもらいたいくらいだ」

春香「…………チッ」

リューク(舌打ち!?)

491 : 以下、名... - 2015/08/11 03:23:56.71 bfZ8z8/l0 180/963

春香「まあ今更過ぎたことを言っても仕方無いか。とりあえず現状を正確に把握した上で、次にどんな対策を取るべきかを考えよう。……美希」

美希「! は、はいなの」

春香「さっき、お父さんが少し前までキラ事件の捜査本部に入ってたって言ってたけど……何か具体的な捜査情報とかを聞いたことはあった?」

美希「う、うん。えっと……」

春香「…………」

美希「春香。ミキが裁きを始めてすぐの頃、テレビの生中継に“L”って名乗ってた人が出てたの覚えてる? あのイケメンの……」

春香「ああ、覚えてるよ。確か……通称“L”、リンド・L・テイラーって人だったよね。あの後、結局出てこなくなっちゃったけど」

美希「うん。あの人ね、実は替え玉だったんだって。本物の“L”の」

春香「……替え玉?」

美希「うん。そうらしいよ」

春香「ってことは……“L”は自分の身代わりをテレビに出演させて、キラがその身代わりを殺すかどうかを見ようとしてた……ってこと?」

美希「うん。多分……」

春香「何てやつ……! 人の命を何だと思ってるんだろう」

美希「…………」

春香「? どうかした?」

美希「ううん。なんでもないの」

春香「じゃあ……そのLって人が警察を動かしてるっていうのは本当なの? 確か、あのときの中継ではそう言ってたと思うけど」

美希「うん。それは多分本当。パパが、その替え玉の生中継も、警察はほとんど関わってなくてLが独断でやったって言ってたし」

春香「なるほど。確かにそこまでの事ができるとすれば、警察を自由に動かせる……いや、警察を従えられる人でないと無理だろうね。つまり捜査本部の実質的トップ……か」

美希「あと、Lの推理が捜査本部に伝えられたりしたこともあったみたい」

春香「Lの推理? どんなの?」

美希「えっと……裁きが行われている時間帯が遅い日でも夜10時までだったから、キラは子どもじゃないかって推理してたみたい。で、これは実際当たってたの」

春香「……一体何者なの? そのLって」

美希「さあ……パパは探偵って言ってたけど」

春香「探偵……」

492 : 以下、名... - 2015/08/11 03:38:14.53 bfZ8z8/l0 181/963

春香「じゃあ、今一番気を付けないといけないのは警察よりもそのLって人かもね。今聞いた話からすると、Lが実質的にキラ事件の捜査指揮を執っている可能性が高そうだし」

美希「そうだね。ただ、ミキがパパから聞けてた情報はそれくらいで……Lについて、それ以上詳しいことは分からないの」

春香「…………」

春香(しかし、いくらなんでも自分の身代わりをテレビ出演させて殺させようとするなんて普通じゃない……)

春香(目的の為なら手段を選ばないタイプか……厄介だな)

春香(それに一週間前に事務所に来た刑事さん達が偽名を使っていたことを考えると……少なくとも、『キラの殺しには名前が必要』ということはばれていると考えた方が良い)

春香(また普通に考えて『顔が分からない人間でも殺せる』というのは無理がある……殺す対象として特定しようがない)

春香(ならばもう『キラの殺しには顔と名前の両方が必要』というところまでばれていると考えるべき)

春香(でも『顔と名前だけで人を殺せる』……そんな人間がいたとして、一体どうやって確保する?)

春香(もし私がLの立場なら……名前が知られなければ殺されない、ならば顔は見られても構わないと考え、直接相対して確保する?)

春香(いや……別に顔だって、フルフェイスのヘルメットでも被ればそう簡単には見られない。ましてや警察の装備が使えるならそんな手段はいくらでもあるはず……)

春香(しかし実際には美希は確保されていない。だとすれば……)

春香(Lは、たとえ美希がキラだと分かっていても、確保するのはその証拠を挙げた上で……と考えている?)

春香(Lは仮にも探偵……もし彼が、パズルを解くようにこの事件の謎を解き明かそうとしているのであれば、あるいは……)

春香(そしてもしそうなら……Lが次に考えることは、美希からキラとしての殺しの証拠を挙げる事)

春香(しかし『顔と名前が必要』という殺人の条件は分かっているとしても、具体的な殺人の方法については何も分かっていないはず)

春香(それは当たり前……『ノートに名前を書くだけで人が死ぬ』なんて、想像できるわけがない)

春香(そんな状況の下、キラとしての殺しの証拠を確実に挙げるには……美希が実際に殺しをしている現場を押さえるしかない)

春香(ならばまず、今この場で確認すべきことは……)

493 : 以下、名... - 2015/08/11 03:49:56.08 bfZ8z8/l0 182/963

春香「……レム」

レム「? 何だ? ハルカ」

春香「今、美希を尾行している人が周囲にいないかどうか……少し上の方から、ぐるっと見渡して確認してみてくれる?」

美希「!?」

レム「……ああ。いいだろう」バサッ

美希「び……尾行?」

春香「うん。もしLが美希の殺しの現場を押さえる気でいるなら、それくらいはしていてもおかしくはないかな、と」

美希「あー。なるほどなの」

春香「…………」

春香(正直な所、美希はほぼ無防備と言っていい……今の反応からしても、自分が尾行される可能性なんて考えてもいなかっただろうし、実際に尾行されていたとしてもまず気付かないだろう)

春香(もっとも、尾行の可能性に気付いたとしても……『尾行されていないかどうかを確認する』という素振りを見せただけで、本当に尾行されていた場合、それはそれで結局怪しまれてしまうから……実際できることなんて何も無いんだけどね)

春香(ただでもそれはあくまで……死神なんかが憑いていない、普通の人間の場合の話)

春香(この点、死神のレムなら……上空をどれほど飛び回り周囲を見渡そうが、絶対に誰にも気付かれない。つまり本当に尾行者がいたとしても、何の支障も無くその存在を確知できる)

レム「……少なくとも周囲100メートルほどの範囲にはそれらしき奴はいないな」バサッ

春香「分かった。ありがとう。レム」

美希「一安心なの」

494 : 以下、名... - 2015/08/11 04:06:48.93 bfZ8z8/l0 183/963

春香「…………」

春香(とすれば後、考えられる『証拠を押さえる為の手段』としては……)

春香(考えろ。もし私がLなら……キラを追う者なら……)

美希「? 春香?」

春香「…………」

春香(キラは顔と名前だけで人を殺せる……としても、もし自分の意思で選べるなら、普通は他に誰もいない状況で殺しを行うだろう。というより、あえて人前でそれをする必然性が無い)

春香(つまりキラが殺しを行う場所として、一番考えられるのは自分の家の中……より正確に言えば、自室)

春香(そしてLは目的の為なら手段を選ばない性格……だとすれば……)

春香「美希」

美希「! は、はいなの」

春香「もし私がLなら……美希の部屋に監視カメラを付ける、くらいの事はすると思う」

美希「えっ! か、監視カメラ!?」

春香「いや、それだけじゃない。殺しの手段が何なのか、全く見当もつかないとすると……たとえば呪文か何かを唱えて殺す可能性などもあると考えて……盗聴器も仕掛ける」

美希「盗聴器!?」

春香「まあ、あくまで可能性だけどね。でもそれくらいの事はしないと、キラとしての証拠は挙げられないと思う」

美希「で、でもそういうのって犯罪じゃないの? プライバシーの侵害っていうか……」

春香「自分の身代わりを殺させようとする人に、そんな当たり前の理屈が通じるとは思えないけど」

美希「そ、それは、まあ……。でもパパが同じ捜査本部にいるのにそんな事……」

春香「でも多分、もう外れてるんでしょ?」

美希「……そうだったの」

495 : 以下、名... - 2015/08/11 04:19:55.88 bfZ8z8/l0 184/963

春香「そして、美希のクラスメイトの件がLにも伝わっているとしたら……もう今頃、仕掛けられているとしてもおかしくはないね」

美希「えっ!」

春香「現時点で尾行が無いのなら、なおさらそっちでケリをつけるつもりなのかも……」

美希「そ、そんな……」

春香「ねぇ、美希。美希が最後に裁きをしたのはいつ、どこで?」

美希「昨日の夜……普通に、自分の部屋でしたの」

春香「ならもしもうカメラが付けられているとしたら、それは当然Lに観られていたことになるね」

美希「!」

春香「ただもしそうなら、今頃美希は捕まっていてもおかしくないはず……」

美希「あっ。それは確かにそうなの。じゃあまだ……」

春香「いや、何日か様子を見てから……ということも考えられるし、安心はできないよ」

美希「そっか……」

春香「まあそうは言っても、もしもう観られていたとしたら仕方無い。その場合は今更どうしようもないから、考えるだけ無駄」

美希「…………」

春香「だから考えるなら、『まだ』付けられていない可能性の方で考えるべきだよ」

美希「そ、そうだね。春香」

春香「で……美希。たとえば今日、美希の家の人が全員家に居ない時間帯ってあった?」

美希「えっ、うん。うち共働きだし、お姉ちゃんも大学生だから、今日に限らず、基本的に平日の昼は誰も家に居ないの」

春香「そっか。じゃあもう今日の昼には付けられている……最悪のパターンを想定するなら、今からその前提で動いた方が良いね」

美希「!」

春香「まあ本当の最悪のパターンは昨日以前に付けられていて、もう美希の裁きの場面もばっちり撮られているってことだけど」

美希「…………」

496 : 以下、名... - 2015/08/11 04:48:44.81 bfZ8z8/l0 185/963

春香「じゃあとりあえず、今日からしばらくの間、犯罪者裁きは私が代わりにやるよ」

美希「えっ」

春香「だってカメラの可能性を考えたら、当然美希の家ではできないでしょ? かといって家の外じゃ、夜に報道された犯罪者を翌日以降にしか裁けなくなり、今までと裁きの傾向が変わってしまう」

美希「……なるほどなの。でも、いいの? 春香」

春香「もちろん。言ったでしょ? 美希が困っていたら必ず助けるって。しかもこれでもし本当にカメラが付けられていたとしたら、美希が何もしていないことが明白な状況で、犯罪者裁きが起きることになる。つまり美希を捕まえるために仕掛けられたカメラによって、逆に美希の身の潔白が証明されることになる」

美希「! ……春香……」

春香「そういうわけで当面の間、裁きは私が代行する。それでいいね? 美希」

美希「……もちろんなの。ありがとう。春香」

春香「どういたしまして。あと、美希のデスノートも一旦預からせてもらっていいかな? もしカメラが付けられていた場合、うっかり映っちゃうかもしれないし」

美希「なるほどなの。こんな黒いノート、見るからに怪しいもんね」

春香「そういうこと。あ、ちなみにレム。私がノートを預かるだけなら、美希の所有権に影響は無いよね?」

レム「ああ。その場合はミキのノートの隠し場所がハルカってことにしかならない」

春香「だってさ。じゃあ、美希」

美希「分かったの。はい、春香。よろしくお願いしますなの」スッ

春香「うん。あ、でも……」

美希「?」

春香「…………」ピリリ

(美希のデスノートから、その1ページ分をきれいに切り離す春香)

春香「はい、これ。一応持ってて」

美希「? なんで?」

春香「この先何があるか分からないから、念の為に。それに、これならもしカメラに映っても怪しまれないでしょ。切り取ったノートの1ページ分くらい」

美希「でも、春香。これって普通にデスノートとして使えるの? もうノートから完全に切り離されちゃってるのに」

春香「……切り取ったページや切れ端でも全て、デスノートの特性は有効だよ」

美希「そうなんだ。知らなかったの。へー」

春香「…………」ジロッ

リューク「いや、そんな風に睨まれても……。別に死神には全てのルールを人間に教える義務は無いし……」

497 : 以下、名... - 2015/08/11 04:55:46.51 bfZ8z8/l0 186/963

春香「ただそれでも、『カメラが付いているかもしれない』という状態でずっと過ごすわけにもいかないよね。あるならある、無いなら無いとはっきりさせておいた方が良いに決まってる」

美希「それは……そうなの。『誰かに観られてるかもしれない』って思いながらじゃ、くつろごうにもくつろげないし」

春香「盗聴器だけなら、それを探す探知機を買ってくれば探せるけど……カメラが付けられている可能性がある以上、カメラ自体は勿論、盗聴器もカメラの有無を確かめない限りは探せない」

美希「そっか。探してること自体が観られちゃうと、それだけで怪しまれちゃうもんね」

春香「そういうこと。カメラに映らないように探すことができればいいけど、でもそのためにはカメラの位置が分かっていないといけないわけで、これじゃ堂々巡りに……ん?」

美希「? 春香?」

春香「カメラに映らないように探す……そうか、それだよ」

美希「え?」

春香「さっき、私がレムにしてもらったことをすればいいんだ」

美希「?」

春香「……リューク」

リューク「ん?」

春香「今日帰ったら、美希の部屋にカメラが仕掛けられていないか、確認してみてくれない?」

リューク「……はあ? 何で俺がそんなことをしないといけないんだ?」

春香「だってリュークなら、どんなに探し回っても絶対カメラには映らないでしょ?」

美希「ああ、なるほどなの」

リューク「……あのな、ハルカ。俺は明らかにお前の味方をしているレムとは違って、別にミキの味方ってわけじゃないんだ。だからそんな、あるかどうかも分からないカメラを探すなんて面倒な手伝いはしない」

春香「…………」

498 : 以下、名... - 2015/08/11 05:06:56.47 bfZ8z8/l0 187/963

リューク「それに今お前が言った通り、俺はカメラがあったとしても絶対にそれには映らないからな。何も気にすることなく、いつものようにのんびりリンゴでも食いながら、高みの見物を決め込ませてもらうぜ」

春香「……リンゴ?」

レム「リンゴは死神にとっての嗜好品……人間でいう、酒や煙草みたいなものだ。私はあまり食べないがね」

春香「リュークはリンゴをよく食べるの? 美希」

美希「そうだね。毎日ってわけじゃないけど、それなりによく食べてるの」

春香「…………」

美希「?」

春香「ねぇ、リューク」

リューク「ん?」

春香「もし美希の部屋にカメラが付けられていた場合……リュークがリンゴを食べている様子はどう映るの?」

リューク「……あっ」

美希「?」

リューク「確かに……俺の口の中に入ってしまえばリンゴは見えなくなるが……手に持っている間は宙に浮いているように見えるな……」

春香「いくらなんでも、そんなB級ホラーじみた映像をLに見せるわけにはいかないってことくらいわかるよね? 今のこの状況で」

リューク「ちょ、ちょっと待て。じゃあ俺にリンゴ食うなって言うのか? ハルカ」

春香「じゃあ逆に聞くけど、もしリュークがリンゴを食べなかったらどうなるの? 」

リューク「……俺が長時間リンゴを食べなかった場合……体をひねったり、逆立ちしたりとか……人間でいう禁断症状が出るな」

春香「なるほどね。まあそれはそれで面白そうだけど」

リューク「…………」

春香「でも、要はカメラさえ無ければ安心して食べられるわけだから、食べる前に確認すればいいんだよ。美希の部屋にカメラが付けられていないかどうか」

リューク「何?」

春香「リュークなら問題無くできるはずだよ。だって絶対にカメラに映らないんだから」

リューク「そ、そうか……確かに俺なら絶対にカメラには映らない。つまりリンゴが食いたくなったら、事前にミキの部屋を一通りチェックして……カメラが付けられていないことさえ確認できればそれでいいってわけか」

春香「そういうこと。流石リューク。理解が速いね」

リューク「ククッ。ならそうさせてもらうぜ。……って、あれ? 何か騙されてるような……?」

美希(春香って、案外詐欺師とかに向いてそうな気がするの)

541 : >>499訂正 - 2015/08/17 00:36:31.70 fcJjFqGA0 188/963

春香「さて……そういうわけで、美希」

美希「はいなの」

春香「とりあえず、当面の間は最悪の事態……『今もう既に美希の部屋にはカメラと盗聴器が付けられている』という前提で行動するように。いいね」

美希「うん。分かったの」

春香「とはいっても、別に特別なことをする必要は無いし、むしろ何もしない方が良い」

美希「…………」

春香「あくまでも自然に、ノートを拾う前と全く同じように生活をする」

美希「うん」

春香「リュークはその場に居ない者として扱い、家の中では一言たりとも会話をしない」

美希「うん」

リューク「…………」

春香「そしてもし……リュークによって本当にカメラが発見されたら、その時はできるだけ早く私にも教えてね」

美希「分かった。すぐ言うようにするの」

春香「あ、でもメールや電話は無しね。そんなの、その気になれば後からいくらでも履歴とか調べられちゃうから。あくまでも事務所で会ったときに、口頭で」

美希「うん、分かったの。本当に色々ありがとう。春香」

春香「いえいえ。どういたしまして」

500 : 以下、名... - 2015/08/11 05:28:29.76 bfZ8z8/l0 189/963

春香「あ。ところで……美希」

美希「? 何? 春香」

春香「まだ肝心な事を聞いてなかったんだけど……」

美希「?」

春香「……何で美希は、犯罪者裁きをしようと思ったの?」

美希「! …………」

春香「どうして美希は、“キラ”になったの?」

美希「…………」

春香「…………」

美希「……最初は、ね」

春香「…………」

美希「ただただ、前のプロデューサーが憎くて、嫌いで……『死んじゃえばいいのに』って思ってて……」

美希「そんな時に、偶然デスノートを拾って……何の気無しに、そのノートに名前を書いた」

春香「…………」

美希「もちろん、本当に効果があるなんて思ってなかったけど……でも現実に、前のプロデューサーは死んだ」

美希「そして、その次の日に名前を書いた新宿の通り魔も死に……」

美希「さらにその次の日に、半ばやけになって名前を書いたクラスメイトの男子も……死んだ」

美希「このノートは間違い無く本物……ミキはそう確信するとともに」

美希「自分がこの手で、三人もの人を殺してしまったという現実……正直もう、自分でもどうしていいのか分からなくなった」

春香「…………」

美希「でも」

美希「それは本当に間違っていることなのかな、とも思った」

美希「『人を殺すのはいけないこと』……そんなことは分かってる。でも現実には、『死んだ方が良い』人間も確実にいる……」

春香「…………」

美希「確かに、新宿の通り魔に比べれば、前のプロデューサーやクラスメイトの男子は、死刑になるほどの悪人じゃなかったかもしれない」

美希「でも彼らが死んだことで、救われた人は確実にいる」

美希「前のプロデューサーに散々セクハラされていた765プロの皆。彼のいい加減な仕事ぶりに頭を抱えていた社長や小鳥、律子」

美希「クラスメイトのAに性的な言動でからかわれていた女子たち」

美希「彼らが死んだことで……皆、心のどこかでほっとしたに違いないの」

春香「…………」

501 : 以下、名... - 2015/08/11 06:01:22.90 bfZ8z8/l0 190/963

美希「でもだからといって、ミキは今後もそういう人たち――犯罪者とまではいかないけど、他の人に迷惑を掛けるような人たち――まで、殺していこうとは思ってないの」

美希「なぜならきっと、凶悪な犯罪者達を地道に消していくことで……そういう人たちも、やがていつかは自分の行動を見直すようになると思うから」

美希「そしてその結果、他人に迷惑を掛けたり、嫌な思いをさせたりすることは極力しないようになる」

美希「そうすれば、皆がもっと他人を思いやれるような……優しい世界になる」

美希「皆が、笑って毎日を過ごせる世界になる」

美希「そういう世界になればいいなって思って……ミキはこの裁きを始めたの」

春香「……美希」

美希「うん」

春香「……ぬるいね」

美希「えっ」

春香「はっきり言って、そう簡単に何もかも思い通りになるほど……この世の中は甘くないと思うよ」

美希「…………」

春香「でも」

美希「?」

春香「……私は嫌いじゃないよ。そういうの」

美希「春香」

春香「そもそも世の中が平和じゃなかったら、アイドルもファンも成り立たないし、それに……」

美希「?」

春香「私がトップアイドルを目指す理由も、少しでも多くの人に笑顔になってもらいたいからだしね」

美希「……春香……」

春香「それに当然、美希だって目指してるんでしょ? トップアイドル」

美希「! もちろんなの」

春香「じゃあ、私達の目指す先は同じだね。少しでも多くの人が笑顔になれる……そんな世界を作ること」

美希「うん」

春香「じゃあ二人で一緒に頑張ろう。平和な世の中を作って……そして765プロの皆と一緒に、トップアイドルになろう!」

美希「はいなの!」

543 : 以下、名... - 2015/08/17 00:51:38.88 fcJjFqGA0 191/963

春香「あ。あとそれから、美希も明日来るよね?」

美希「明日? 何かあったっけ?」

春香「ほら、雪歩と真のセンター試験お疲れ様会。明日で二日目終了だから」

美希「ああ、うん。行くの。正直行く気無かったけど、今日、春香の話が聞けてすごく気分が楽になったから」

春香「それなら良かった。二人もきっと喜ぶよ」

美希「他には誰が来れるんだっけ?」

春香「えーと、千早ちゃんと響ちゃんに、伊織とやよいかな。他の皆はお仕事だね」

美希「そっか……ふふっ」

春香「? どうしたの?」

美希「なんていうか……さっきまでデスノートがどうとか死神がどうとか言ってたのに……765プロの皆の名前が出た途端、まるでいつもの春香みたいなの。それがちょっとおかしくって」

春香「お、おかしいって……そもそも私はいつも通りですよ! いつも通り! さっきも言ったけど、デスノートがあろうが無かろうが、死神さんが憑いていようがいまいが、私達765プロがずっと仲間なのには変わりないんだからね」

美希「うん、そうだね。実に春香らしいの」

春香「何よそれ。まあとにかく今はこんな状況だけど、それはそれとして明日は楽しもうよ」

美希「うん。最近こういう機会も少なかったしね」

春香「そうだね。前のプロデューサーさんが亡くなってから暫くの間は、どうしてもこういうのやりづらかったし……あっ」

美希「…………」

春香「……ごめん」

美希「ううん。いいの」

春香「あ、あとカメラの事だけは忘れずにね」

美希「うん。もちろんなの」

春香「じゃあお願いね。リューク」

リューク「ああ。俺もリンゴがずっと食えないままなのは困るからな」

春香「それじゃあね。美希。また明日」

美希「はいなの。またね、春香」

959 : 前スレ>>544訂正 - 2016/08/06 14:03:03.06 jizsduFN0 192/963

(レムと共に去って行く春香を見送る美希)

美希「……こんな偶然ってあるんだね」

リューク「ん? 偶然?」

美希「うん。だってミキのこんな身近に他のデスノートの所有者がいて、しかもノートを拾った時期もミキとたった三か月くらいしか違わないなんて……ミキ的にはすごい偶然だって思うな」

リューク「……ククッ」

美希「? 何で笑うの? リューク」

リューク「……偶然なわけないだろ」

美希「えっ」

リューク「ミキ。お前はもう少し人……といっても俺は人じゃないが……疑った方が良いと思うぞ」

美希「……どういうこと? リューク」

リューク「まあもうお前もここまで知ってしまったんだ。これを機に教えておいてやろう」

美希「…………?」

リューク「俺がお前にノートを渡したのは偶然なんかじゃない」

美希「!」

リューク「今から五か月くらい前のある日……死神界で噂になった。名前の書き忘れでもないのに死んだ死神がいると」

美希「それって……」

リューク「そう。ジェラスのことだ」

美希「! …………」

リューク「その話に興味が湧いた俺は、事情を知ってそうな奴に手当たり次第聞いて回った」

美希「…………」

リューク「そうこうしているうち、俺は死神界からその時の様子、つまりジェラスが死んだ時の様子を偶然観ていた奴を見つけることができた。だがそいつも『ジェラスは人間界に居て、そこで人間の名前を書いた後に死んだ』以上の事は分からないようだった」

リューク「名前を書かないで死ぬならともかく、名前を書いたのに死んだとはどういうことなのか……俺はジェラスが死んだ理由にますます興味が湧き、さらに何匹かの死神に聞いて回った」

リューク「その結果、ジェラスは生前、レムとよく行動を共にしており、ジェラスが人間界で死んだ時もレムが一緒に居たらしいということが分かった」

美希「! …………」

リューク「そこで俺はレムに詳しく話を聞いてみようと思った。ジェラスが死んだ後もレムはまだ人間界に残っているようだったから、俺は死神界からレムの居場所を探してみた。……すると、驚いた」

リューク「なんとレムは人間にノートを渡していて、その人間に憑いていた」

美希「! ってことは……」

リューク「そう。俺はもうその時点から、レムがハルカに憑いていることを知っていた」

美希「! …………」

545 : 以下、名... - 2015/08/17 01:18:54.65 fcJjFqGA0 193/963

リューク「しかし死神界の掟によって、死神は必ずデスノートを一冊は所有していなければならないとされている。レムの性格的に、死神大王を騙してまで二冊目を持つようになったとは思えなかったし、また死神が死んでもその死神が使っていたデスノートは残ることから、詳しいいきさつは分からなかったが、状況からみて、レムがハルカにジェラスの使っていたデスノートを使わせているであろうことは推測できた」

美希「…………」

リューク「その後、俺は暫くレムとハルカの様子を死神界から観察することにした。死神が人間に憑くことなんて滅多に無いからな。この後どうなるのか、単純に興味があった」

リューク「そして俺が観始めてからすぐ、ハルカの寿命が減った。どうやらレムと目の取引をしたらしいと分かった」

美希「! …………」

リューク「自分の残りの寿命の半分を差し出してまで死神の目を手に入れた人間……俺はますますハルカの行動に興味が湧いた」

リューク「もっともその後の話は、さっきハルカ自身が話していたとおりだ。ハルカはレムから渡された元ジェラスのノートを使って、何人もの人間を殺していった」

リューク「自分の夢のため、仲間達の夢のためにだ」

美希「…………」

リューク「夢のために、自分の残りの寿命を減らしてまで他の人間を殺す……ハルカのそのさまを観ているのはとても面白かった」

リューク「ただ、そうやって他の人間を殺していくハルカを観ているうち、俺も死神界から観ているだけでは飽き足らなくなってきた」

リューク「いつしか俺は、『自分も人間にデスノートを使わせてみたい』……こう思うようになっていた」

美希「! …………」

リューク「たださっきも言ったように、死神は必ずデスノートを一冊は所有していなければならない。俺は人間に使わせるため、なんとかして二冊目のデスノートを手に入れようと思い、死神界をうろうろしていたんだが……」

リューク「ちょうどその頃、偶然にも、どっかの間抜けな死神がデスノートを落としたらしく、それが死神大王の元へ届けられているという話を耳にした」

リューク「俺は早速大王の元へ行き、しれっと『そのノートを落としたのは自分だ』と言い、大王から二冊目のデスノートを貰うことが出来た」

美希「! じゃあ、それが……」

リューク「そう。今、お前が使っているデスノートだ」

美希「…………」

546 : 以下、名... - 2015/08/17 01:30:31.97 fcJjFqGA0 194/963

リューク「こうして二冊目のデスノートを手に入れた俺は、次にどの人間にこれを渡したら一番面白くなるだろうかと考え……」

リューク「またどうせなら、既にノートを持っているハルカの身近な人間に渡してやろうと思った」

美希「! 何で……」

リューク「まず第一に、俺がデスノートを渡した人間がそれを使い、ハルカの身近な人間を殺したりした場合、ハルカが何を考え、どう動くのか興味があったし……」

リューク「また互いにノートを持っていることに気付かないまま、各々ノートを使い続けるのか……あるいはそのうち、何らかのきっかけでどちらかが相手もデスノートの所有者であることに気付くのか……そのあたりも非常に興味深かったからだ」

リューク「もっとも、死神の目を持っていたハルカはすぐにミキもノートの所有者だってことに気付いちまったみたいだがな。俺もそんな見分け方があったなんて今日まで知らなかった」

美希「…………」

リューク「ともあれその後、俺はノートを渡す人間を物色する為に人間界に降りることにした。やはり実際に近くで観て決めた方が良いと思ったからだ」

美希「それって、ジェラスが春香のイベントに参加するために使ってたっていう……」

リューク「そうだ。まあそいつのは嘘の理由だったみたいだがな」

美希「…………」

547 : 以下、名... - 2015/08/17 01:47:50.30 fcJjFqGA0 195/963

リューク「しかし、死神がノートを渡す人間を物色する目的で人間界に居ていい時間には限りがある。俺はあまり時間をかけずに、ハルカの身近に居る人間で、かつ実際にノートを使いそうな人間を見定めないといけなかった」

リューク「その中で最も有力な候補に挙がったのは……お前ら765プロ所属のアイドル達だった」

美希「! …………」

リューク「俺は死神界からハルカの様子を観ていた時、ついでにその周囲の人間達の事もよく観察していたが……お前らは皆、前のプロデューサーに恨みを抱いているようだったからな。その中の誰にノートを渡しても、そいつの名前を書く可能性は高いだろうと思っていた」

美希「…………」

リューク「その中でも特に使う可能性が高そうなのは誰か……そこで俺が絞りをかけたのは、前のプロデューサーから直接身体を触られ、他のメンバーより強い嫌悪感を抱いているように見えた人間……つまり、ミキと萩原雪歩だった」

美希「! …………」

リューク「しかし観察している限り、萩原雪歩はかなり消極的な性格のようだった。ノートを落としたところで、そもそも拾わないかもしれない」

リューク「一方、ミキは比較的何事にも物怖じしない性格……ノートを拾いそうだったし、実際すぐに使いそうな気もした」

リューク「またミキは、一度何かに興味を持つと没頭するタイプのようだった。俺はミキのこの性質がデスノートの持つ特性と上手くハマれば、より面白くなるかもしれないと思った」

美希「…………」

リューク「こうした理由から、俺はミキ……お前をノートを渡す第一候補として決めた」

美希「! …………」

リューク「そして今からおよそ二か月前。俺が、ミキにデスノートを渡した日――……」

548 : 以下、名... - 2015/08/17 01:54:49.03 fcJjFqGA0 196/963

【(回想)765プロ事務所からの帰路】


(事務所からの帰路を歩く美希を上空から眺めているリューク)

リューク(星井美希……今日もプロデューサーから身体を触られて辛そうにしていた。きっと殺意も相当程度募っているだろう)

リューク(後はノートを落とすタイミング……できれば一番殺意が高まっている時が良いが……)

リューク(ん? 何か独り言を喋ってるな……)

美希「もー……今日もプロデューサーにセクハラされたの」

美希「意味も無くミキの身体あちこち触ってきて……本当嫌いなの。死んじゃえばいいのに」

美希「そういえば最近、アイドル事務所のお偉いさん達がばたばた死んじゃってニュースになってたし……」

美希「プロデューサーもどさくさに紛れて死んでくれたらいいのに」

リューク(! 今だ)パッ

(手にしていたデスノートを美希の前に落とすリューク)

 ドサッ

美希「……ん?」

美希「何だろ、この黒いノート」スッ

美希「『DEATH NOTE』……『デスノート』?」パラッ

美希「わっ。なんか英語で色々書いてある」

美希「『The human whose name ……』うーん。面倒なの。今辞書持ってないし」

美希「……でもなんか気になるの。妙に作りとか凝ってるし」

美希「とりあえず持って帰ろう」

リューク(さあ……殺れ。俺を楽しませてみせろ。星井美希)

549 : 以下、名... - 2015/08/17 02:02:47.80 fcJjFqGA0 197/963

【同日夜・美希の自宅】


美希「ふーん。要するにこのノートに名前を書かれた人は死ぬ……と」

美希「……ばっかみたい」

美希「こんなの今時小学生でも騙されないの」

美希「まあでも、せっかく頑張って翻訳したんだし……」

美希「…………」カキカキ

美希「……よし! これであのセクハラプロデューサーは40秒後に心臓麻痺で死ぬの! あはは」

リューク(……ククッ! 本当にやりやがった!)

リューク(やっぱりこいつを選んで正解だったな)

リューク(さて、この後どうするか。もう姿を現してやるべきか?)

リューク(いや、どうせならもう二、三日様子を見るか。この調子なら後何人か殺すかもしれないしな)

リューク(しかし、こうも簡単に他人を殺しちまうとは……)

リューク(あのハルカって人間を死神界から観ていた時も思ったが―――)

リューク(やっぱり人間って……面白!)

550 : 以下、名... - 2015/08/17 02:05:39.33 fcJjFqGA0 198/963

【二日後・美希の自室】


リューク(結局、こいつはあれからさらに二人殺した)

リューク(もう流石にデスノートの効力を疑ってはいないだろう)

リューク(よし。そろそろ行くか)バサッ

美希「ふ、ふふふ……」

リューク「気に入っているようだな」

美希「!? きゃ、きゃあっ……!」

リューク「何故そんなに驚く。そのノートの落とし主、死神のリュークだ」

美希「し……しにがみ……?」

リューク「ああ。それにお前、さっきの様子だともうそれがただのノートじゃないってわかってるんだろ?」

美希「…………」

リューク(さあ……星井美希。俺にもっと面白いものを見せてくれ!)

551 : 以下、名... - 2015/08/17 02:26:57.95 fcJjFqGA0 199/963

【(回想終了)765プロ事務所近くの公園】


リューク「……そういう経緯で、俺はお前にノートを渡した」

美希「じゃあ、じゃあ……全部……」

リューク「そうだ。全ては偶然なんかじゃない。お前がデスノートを拾ったことも、お前のすぐ近くに他のデスノートの所有者がいたことも……全部、俺の仕組んだ必然だ」

美希「……だったら何で、英語でノートの説明なんて付けてたの? 最初から春香の身近な人間に使わせるつもりでいたなら、何で……」

リューク「あれは拾った人間にノートを信じさせるためのカモフラージュだ。日本語で『どうぞ使って下さい』と言わんばかりに説明文が書いてあったらかえって怪しまれるんじゃないかと思ってな」

美希「……じゃあ全部、ウソだったの? 退屈だったから落とした、とか言ってたのに……」

リューク「いや、それは本当だ」

美希「…………」

リューク「俺はあの日言ったはずだ。『退屈だったからノートを落とした』『人間界に居た方が面白いと踏んだ』……いずれも本当だ。詳しい経緯の説明は省いたけどな」

美希「…………」

リューク「さて、どうする? ミキ。これでお前は、これまで自分の周りで起こっていた出来事を全部知った。俺の事をどう思おうがお前の自由だし、デスノートを使い続けるかどうかもお前の自由だ」

美希「…………」

リューク「もし『今までずっと騙されてた。もうこんなノート使いたくない』って言うなら、今すぐデスノートの所有権を放棄することだってできる。その時は最初に言った通り、お前のデスノートに関する記憶だけ消させてもらう」

美希「……所有権を、放棄……」

リューク「ああ。ちなみにその場合、所有権は今お前のノートを預かっているハルカにそのまま移ることになる」

美希「…………」

リューク「もしそうするつもりなら、後はもう全部ハルカに任せて――……」

美希「……なんて、するわけないの」

リューク「! …………」

552 : 以下、名... - 2015/08/17 02:37:45.38 fcJjFqGA0 200/963

美希「ここまできて……それに春香にもあそこまでしてもらって……今更全部を無かったことになんて、そんなのできるわけないの」

リューク「…………」

美希「それにリュークだって……ミキがそんなことするはずないって分かってるから、これまでの事、全部教える気になったんでしょ?」

リューク「……ククッ。まあな」

美希「いいよ。ミキがやることはこれまでと何も変わらない。デスノートで悪い人達を消していき……皆が笑って過ごすことのできる、心優しい人達だけの世界を作るの」

リューク「ああ。そうこなくっちゃな。ミキ」

美希「じゃあそういうわけで、リューク。今日帰ったら、早速カメラ探しよろしくなの」

リューク「え? でも俺昨日もリンゴ食ったし、今日はまだ別に……」

美希「……ミキの事、今までずっと騙してたくせに……」ジトー

リューク「……分かった分かった。別に騙してたつもりはないが……今日だけは特別に探してやるよ」

美希「! 本当?」

リューク「ああ。でも次からは俺がリンゴを食いたくなった時だけだからな」

美希「うん! ありがとうなの。リューク」

リューク「はいはい。どういたしましてなの」

美希「もー。ミキのマネしちゃ、ヤ!」

リューク「ククッ。悪い悪い」

553 : 以下、名... - 2015/08/17 02:46:25.14 fcJjFqGA0 201/963

【その翌日・765プロ事務所近くのファミレス】


春香「えーそれではこれより、真と雪歩のセンター試験お疲れ様会を開きたいと思います! 皆、ジュースは手に持ったね? では……」コホン

春香「お疲れ様でしたーっ! イエーイ!」

一同「お疲れ様でしたー!」

雪歩「はぁ……これでやっと肩の荷が下りた気分だよ……」

千早「お疲れ様。萩原さん」

雪歩「ありがとう。千早ちゃん」

千早「萩原さんはセンター利用で出願するのよね」

雪歩「うん。いくつか出してみて、通ったとこに行くつもりなんだ」

千早「そう。受かるといいわね」

雪歩「ありがとう。結構難しかったからあんまり自信は無いんだけど……でもとりあえず暫くは受験の事は忘れて、リフレッシュすることにするよ」

千早「それがいいわね。どこか旅行でも行くの?」

雪歩「お仕事もあるから旅行は難しいけど……今度、自分へのご褒美として一人焼肉でも行こうかなって」

千早「一人焼肉?」

雪歩「うん。今度千早ちゃんも行ってみたら? 一人だと一枚一枚のお肉と深く向き合えるからお勧めだよ。もちろん皆と行くのも楽しいけど」

千早「そ、そう……。考えておくわ」

雪歩「ああ、今から楽しみだなあ……何食べようかなぁ……うふふふふ……」

千早「…………」

554 : 以下、名... - 2015/08/17 02:57:20.87 fcJjFqGA0 202/963

「ねぇねぇ聞いてよ伊織! ボク、ついに運命の王子様と出会っちゃったかも! それもセンター試験の会場で!」

伊織「はぁ? 何なのよいきなり」

「実は昨日も今日も、隣の受験生がなかなか来なくてさ。試験5分前くらいに教室に入って来たんだよね」

伊織「ふぅん。それで?」

「でもその人、いざ試験が始まったら解くのめちゃくちゃ速くてさ……どの科目も半分以上時間残して、残りずっと寝てたんだよ」

伊織「それ、単に解けなくて諦めただけじゃないの?」

「いや、あれは違うね。絶対超天才君だよ!」

伊織「なんでそこまで断言できるのよ」

「だってすっごくイケメンだったし! 背も高くてすらっとしてて、まるで王子様みたいだったな~」

伊織「どういう根拠よ……って、ああ、それで運命の王子様って……そういうこと?」

「そうなんだよ! ああ、あの人と一緒の大学に行けたらな~」

「いや、でも確か真の志望校って女子大じゃなかったっけ?」

「うん、そうなんだよね。だから今からでも国立出してみようかなって。あの王子様は多分国立……それもきっと東大とかだと思うし!」

伊織「いやいや、あんた東大舐めすぎでしょ……」

雪歩「それ以前に、そもそも真ちゃんの受験科目じゃ国立受けられないと思うけど……」

「え? そうなの?」

雪歩「だって理科とか受けてないよね? 真ちゃん……」

「うん。だってボク文系だし……え? もしかして、国立だと文系でも理科って要るの?」

「思いっきり要ると思うぞ……」

「えーっ。そうなの? 知らなかったよ。ちぇっ、残念だなぁ」

雪歩「真ちゃん……」

千早「とても受験生とは思えない発言ね……」

555 : 以下、名... - 2015/08/17 03:10:56.53 fcJjFqGA0 203/963

「はー。でもいよいよ自分達も受験生かー。頑張らないとなー」

千早「そうね。アイドルのお仕事との両立は大変だと思うけど、頑張りましょう。萩原さんも真も、こうして乗り切ったのだし」

雪歩「まあ私達の場合、夏くらいまではそこまでお仕事が忙しくなかったっていうのはあるけどね」

「確かにね。今の忙しさに加えて受験勉強もってなると、かなり大変かも……」

「そうだなー。特にファーストライブ以降、学校休む回数もちょっとずつ増えてきてるし」

千早「私も……海外レコーディングで大分休んでしまったから、追いつくのが大変だわ」

伊織「それでもやっぱり、皆大学には行くもんなのね」

「まあ一応ね。ボクも父さんから、大学行くのを条件にアイドル続けても良いって言われてるし」

雪歩「私も同じような感じかな」

やよい「皆さん大学とかすごいです……私なんか高校に行けるかどうかも怪しいのに……」

「でもやよいは確か、友達のお兄さんに家庭教師してもらえるんでしょ? すっごく頭良いっていう噂の」

やよい「はい。それはそうなんですけど……前に春香さんが言ってたみたいに、私の頭でついていけるかどうか不安になってきて……」

千早「高槻さんなら大丈夫よ」

やよい「そうでしょうか……」

千早「ええ。高槻さんなら大丈夫だわ」

やよい「……えへへっ。千早さんにそう言ってもらえると、なんだか大丈夫なような気がしてきたかも! ありがとうございまーっす!」

千早「ふふっ。そういえば、春香もその人に家庭教師してもらうって言ってたわよね」

春香「うん。私は学校での勉強は基本捨てて、そのお兄さんに教えてもらう時間だけで受験を乗り切るつもりだよ!」

伊織「何もそこまで割り切らなくても」

春香「だって今は一分一秒が惜しいっていうか……極力多くの時間をアイドルのお仕事に使いたいからさ」

美希「! …………」

「ま、確かに最近、ボク達のお仕事も増えていく一方だしね。ところで伊織と美希は大丈夫なの? 受験もうすぐだけど」

伊織「私は問題無いわ」

美希「ミキも多分大丈夫なの」

春香「よーし。じゃあ全員無事に合格したら、また改めて祝勝会をしないとね! 響ちゃんの奢りで!」

「えぇ!? なんで自分!?」

春香「いや、なんとなくこういう役回りは響ちゃんかなって」

「なんでだよ! おかしいでしょ!」

春香「まあまあ。あ、じゃあ私ちょっとお手洗いに……」チラッ

美希「! ミキも行くの」

564 : >>556訂正 - 2015/08/17 19:27:35.81 Js0LmzIP0 204/963

【ファミレス内・トイレ前の通路】


春香「美希」

美希「春香」

春香「ごめんね。なかなか二人で話せるタイミング無さそうだったから……」

美希「ううん、大丈夫なの。ミキもそろそろどっかで春香と二人で話したいなって思ってたし」

春香「そっか。……で、カメラはあった?」

美希「ううん。昨日帰ってからリュークが部屋中探してくれたけど、無かったの」

春香「そう。じゃあとりあえず一昨日までの裁きについては観られてないってことだね。良かった」

美希「うん。それから春香、昨日早速ミキの代わりに裁きしてくれてありがとうなの」

春香「いえいえ。まだカメラは無いってことだけど、当面はこのまま私が裁きをするってことでいいよね? 今後いつ付けられないとも限らないし」

美希「うん。よろしくお願いしますなの。カメラもまたリュークに探してもらうようにするの」

リューク「まああくまでも俺がリンゴを食いたくなった時に、だけどな」

春香「分かった。じゃあ暫くはこのままで。引き続き頑張ろう! 美希」

美希「はいなの! 春香」

566 : 以下、名... - 2015/08/17 19:33:45.46 Js0LmzIP0 205/963

【その二日後・星井家】


美希「ただいまなのー」

星井母「お帰り、美希」

菜緒「お帰りー」

美希「今日、パパは?」

星井母「遅くなるって」

美希「そっか」

菜緒「でもパパ、もうキラ事件の担当じゃなくなったんでしょ? なのに何でまだ帰って来るの遅いんだろ?」

星井母「さあ」

美希「ミキ的には、前に比べたら家に居る時間が大分増えたから、とりあえずは良いんじゃないかなって思うな」

菜緒「まあねぇ」

美希「…………」

美希(三日前、リュークがミキの部屋を調べてくれた時はまだカメラは無かったけど……今はどうか分からない)

美希(このリビングにだって、カメラや盗聴器が仕掛けられているかもしれない)

美希(家の中では、常に観られている可能性を考えながら行動しなきゃ……)

菜緒「あっ。美希のCM」

星井母「あら、ホント」

美希「なんか未だにTVの中の自分を観るのは慣れないの」

菜緒「ねぇ、この一緒に出てる子誰?」

美希「海砂ちゃんなの」

菜緒「ふーん。かわいいね」

星井母「ミキミキとミサミサって、なんかダジャレみたいね」

美希「それはちょっと失礼って思うな」

美希(自然に……自然に……決して怪しまれないように……)

567 : 以下、名... - 2015/08/17 19:37:07.69 Js0LmzIP0 206/963

【同日22時頃・美希の自室】


美希「…………」

美希(とりあえず今日はひたすらスマホのアプリゲームをしてやり過ごすの)

美希(リュークはまだ探してくれる気配は無いし……)

美希(でも大丈夫。何も心配することは無いの。裁きは毎日、春香が代わりにやってくれてるし……)

美希(大丈夫……大丈夫……)

美希「…………」

美希(もう10時過ぎか……そろそろ寝ようっと)

(部屋の電気を消す美希)

美希(でも正直、ここ最近は寝つき良くないんだよね……常にこんなことばっかり考えてるから)

美希(本当にカメラなんて付けられたりするのかな? 春香の考え過ぎじゃないのかな……)

美希(まああと一か月くらいの間何も無ければ、春香にノート返してもらって、また自分で裁きするようにしよう)

美希(あんまり春香にばかり迷惑掛けられないしね)

美希「……あふぅ」

568 : 以下、名... - 2015/08/17 19:50:32.75 Js0LmzIP0 207/963

【その二日後・美希の自室】


美希「…………」

美希(カメラで観られている可能性を意識しながら生活するのもなんとなく慣れてきたの)

美希(今日は夕食の後はずっと勉強するって決めてたし、このまま寝る前まで集中して……)

美希「…………」チラッ

リューク「…………」ウネウネ

美希(そういえば、今日のリュークはなんだか少し様子がおかしいの)

美希(さっきからずっと体をひねったりして……あっ)


――俺が長時間リンゴを食べなかった場合……体をひねったり、逆立ちしたりとか……人間でいう禁断症状が出るな。


美希(禁断症状……!)

美希(確かに、もう五日も食べてない……ということは……)

リューク「あー。ダメだ。もうそろそろリンゴ食わないと……」

美希(! やっぱり……)

リューク「正直、カメラ探すのが面倒だから我慢してたんだが……そうも言ってられないな」

美希「…………」

リューク「じゃあ探すぞ。ミキ。無いことが分かったら後でちゃんとリンゴくれよ」

美希「…………」

美希(大丈夫、大丈夫……。もし本当にカメラがあったとしても、今まで常にその可能性を意識しながら生活してきた)

美希(絶対にボロは出さない……。裁きは春香がやってくれてるし……)

美希(だからミキが不安になる要素は、何も……)

リューク「……おい。ミキ」

美希「!」

リューク「落ち着いて聞けよ。エアコンの中にカメラがあった」

美希「! …………」

リューク「ククッ。まさか本当に仕掛けられてるとはな。ハルカに救われたな、ミキ」

美希「…………」

リューク「じゃあ俺はとりあえずこの部屋にあるカメラを全部探し出す。こんないきなり見つかったんだ。どうせ一個や二個じゃないだろう。ま、せいぜいお前は平静を装って勉強を続けてくれ」

美希「…………」

美希(ほ、本当に……仕掛けられていた……!)

美希(じゃあ今のこの状況も、全部、Lに観られている……?)

美希(手、手が震え……)

美希(あ、焦るな……焦っちゃダメ……今変な動揺が顔に出ると、それだけで怪しまれちゃう……!)

美希(リュークの言うとおり、平静を装わないと……!)

美希(大丈夫。大丈夫……。ミキはただの受験生……。ミキはただの受験生……)

美希(ごく普通に方程式を解いて、ごく普通に答え合わせをすればいいだけ……)

美希(この状況だけで、疑われるはず、ないの……!)

569 : 以下、名... - 2015/08/17 19:59:44.18 Js0LmzIP0 208/963

リューク「おっ。天井の照明の中にも発見。机の上はここからのカメラだけでもバッチリだ」

美希「! …………」

美希(机の上……つまりこの真上から、Lが……)

美希(ああ、まずい。まずいの。頭がパニックになりそう)

美希(ええっと、問題……問題を早く解かないと、怪しまれ……あっ、そうだ。解けなくても怪しまれないように、発展問題を……)

美希(いや、違う。いきなりそんなことしたら余計変に思われるから……ああ、なんかこんがらがってきたの)

リューク「ククッ。大丈夫か? ミキ。顔が青ざめてきてるぞ」

美希「! …………」

リューク「まあ勉強中で良かったな。これなら多少表情が強張っていてもそんなに違和感は無い。ただ問題に手こずってるようにしか見えないからな」

美希「…………」

リューク「しかしLも大したもんだな。もう6個も見つけたぜ」

美希「! …………」

美希(もう、6個も……)

リューク「この分だとまだまだありそうだな……ていうかこれ、俺がリンゴ食える死角なんてあるのか?」

美希「…………」

美希(大丈夫……大丈夫なの……)

美希(カメラがどれだけ仕掛けられていようが、今の状況でミキが怪しまれるようなことは絶対に無い……!)

美希(今はただ、目の前の問題だけに集中……集中……)

570 : 以下、名... - 2015/08/17 20:07:14.44 Js0LmzIP0 209/963

【同日21時頃・美希の自室】


リューク「はぁ……はぁ……」

美希「…………」

リューク「み……ミキ……。カメラ多分全部探し出したぜ……。死神も頑張ると疲れるんだな……」

美希「! …………」

リューク「えっと……ああ、カメラの場所と向き、全部口で説明するんだったな……。ちょっと大変だからよく頭に入れてくれ。二度説明するのはごめんだからな」

美希「…………」

(カメラの場所と向きを美希に伝えるリューク)

リューク「……以上、全部で64個。カメラ付けてる奴は見つかるの覚悟で付けてるとしか思えない」

美希「! …………」

美希(64個……! まさか、ここまで……!)

美希(これはもう、完全にミキをキラとして疑ってるとしか……)

美希(ど、どうしよう……どうしよう……)

リューク「で……この状態で俺どこでリンゴ食うの?」

美希(リュークが何か言ってる……ああ、だめなの。何も頭に入ってこない)

リューク「あっ……家の中じゃ喋れないんだったな。明日外に出たときに教えてくれ」

美希「…………」

美希(怖い……怖いよ……)

美希(そうだ! 春香、春香に早く知らせなきゃ……!)

美希(……あっ)


――でもメールや電話は無しね。そんなの、その気になれば後からいくらでも履歴とか調べられちゃうから。あくまでも事務所で会ったときに、口頭で。


美希(そうだった……今春香に伝えるわけにはいかない)

美希(怖いけど……不安に押し潰されそうになるけど……今は、今は我慢しなきゃ……)

美希(明日、事務所で春香に会うまで……)

美希(今は……まだ9時半前か。少し早いけど……)

(部屋の電気を消し、ベッドに入る美希)

美希(早く明日になってほしい。早く春香に会いたいよ……)

美希(……春香……)

571 : 以下、名... - 2015/08/17 20:22:06.70 Js0LmzIP0 210/963

【その翌日・765プロ事務所の屋上】


春香「ろ……64個!?」

美希「は、春香。声大きいの」

春香「ご、ごめん。でもそれ……美希の部屋だけで?」

美希「…………」コクッ

春香「カメラの設置自体は想定の範囲内だったけど……まさかそこまで……」

春香(やっぱりLはこういう性格……目的の為なら手段を選ばない。それのみならず……限度ってものを知らない!)

美希「ねぇ、春香。これって多分、盗聴器も……」

春香「うん。カメラを付けずに盗聴器だけ付けるとは考えにくいと思ってたけど……カメラがあった以上は、普通に考えてまず盗聴器もあるだろうね」

美希「! …………」

春香「カメラの場合、どんなに小さいものでも必ずレンズがこっちからも見える位置にあるはずだから、まだ探しやすいけど……盗聴器の場合はそうはいかない。つまりリュークでも探しきれるとは限らない。万全を期すなら、探知機を買ってきて入念に調べないと」

美希「…………」

春香「でもそれをするのは当然、カメラが全て外されたのを確認してから……だから今はとにかく、何も気付いてないふりをしつつ、これまで通りの生活を続けるしかないね」

美希「ねぇ、春香……」

春香「ん?」

美希「ミキ、やっぱり捕まっちゃうのかな……?」

春香「美希」

美希「今までは、ずっと『大丈夫、大丈夫』って自分に言い聞かせてたんだけど……でもそれは多分、心のどこかで『実際そこまではされないだろう』って思ってたからで……」

春香「…………」

美希「だから、いざ現実にこうやってカメラとか仕掛けられると、不安が一気に込み上げて来て……もうどうしたらいいのか、分からなくなってきちゃって……」

春香「……大丈夫だよ。美希」ギュッ

(美希の身体を抱きしめる春香)

美希「! ……春香……」

572 : 以下、名... - 2015/08/17 20:36:57.05 Js0LmzIP0 211/963

春香「何があっても、私が絶対に美希を守ってあげるから」

美希「……春香……」

春香「それに裁きも、美希がやっていた時と全く同じように続けていく」

美希「…………」

春香「そうすれば、そのうち美希が情報を得ていない犯罪者も裁かれることになるから、やがてはLもカメラを外さざるを得なくなる。だから、その時までの辛抱だよ」

美希「……そうだね。ありがとうなの。春香」

春香「…………」

春香(実際、そういう状況になってもLが本当に全部のカメラを外すかは分からないけど……今はとにかく、美希を安心させることを優先すべき)

春香(それにしても、L……まだ十五歳の美希をここまで追い詰めるなんて……絶対に許せない)

春香(もし何らかの手段によって、私がLの顔を知ることが出来たなら、そのときは必ず――……)

美希「……春香?」

春香「ううん。なんでもない。それより落ち着いた? 美希」スッ

美希「うん。春香のおかげなの」

春香「そう。良かった」

春香(……殺す。美希の為にも……そして、私の為にも)

春香(美希の敵は私の敵……そして、765プロの敵だ)

春香(私達765プロの邪魔は、誰にもさせない。私達765プロに害をなす者は、いかなる手段を用いてでも必ず排除する)

春香(それが私の使命……ジェラスに貰ったこの命を使って、私が為すべき事)

573 : 以下、名... - 2015/08/17 20:50:17.43 Js0LmzIP0 212/963

春香「……リューク」

リューク「ん?」ウネウネ

春香「今日から、家に帰ったらまず美希の部屋に付けられたカメラのうち、任意の一個の有無を確認してみてくれる?」

リューク「何?」

春香「その一個が付いたままなら、残りの63個も付いたままと判断して良い。でも逆にもしそれが外されていれば、次の一個、さらに次の一個……と、取り外されずに残っているカメラに当たるまで確認を続けてほしいの」

リューク「…………」

春香「『無い』ことを確認するより、『ある』ことを確認することの方が容易いはずだから……お願い」

リューク「……まあ、いいだろう。今のままじゃいつまで経ってもリンゴ食えそうにないしな」

春香「ありがとう。リューク」

春香(リュークがリンゴ食べるだけなら、今ここで私があげてもいいんだけど……それをするとカメラの確認してくれない可能性高いしね。この死神の場合……)

春香「で、美希は……完全には難しいかもしれないけど、カメラの事はあまり意識しないようにして、なるべく普通の生活を送ること」

美希「うん」

春香「そして美希が情報を得ていない犯罪者が死んでいき、美希の潔白が証明されているのにもかかわらず、何日もカメラが外されないようなことがあれば……その時は、偶然に見つけてもおかしくないような位置にあるカメラを美希がたまたま見つけたふりをして、美希のお父さんに言って外してもらう」

美希「分かったの」

春香「それでももしまた辛くなったら、いつでも……ってわけにはいかないけど、こうやって私に相談して。できる限りのことはするから」

美希「ありがとう、春香。正直、ミキ一人だと頭がおかしくなりそうだったけど……こうして春香に話を聞いてもらえて、すごく気分が楽になったの」

春香「美希」

美希「それにミキ達の夢のためにも……こんなところで、挫けるわけにはいかないもんね」

春香「その意気だよ、美希。じゃあそろそろ戻ろっか。もうすぐレッスンの時間だし」

美希「うん」

575 : 以下、名... - 2015/08/17 21:02:06.68 Js0LmzIP0 213/963

【その四日後・美希の自室】


リューク「じゃあ今日も確認するか」

美希「…………」

リューク「でももう何日もミキが情報を得ていない犯罪者が裁かれてるんだから、そろそろ外されてもいい頃だと思うんだが……」

美希「…………」

リューク「俺もいい加減リンゴ食いたいし……ん?」

美希「?」

リューク「……無い。無くなってる。天井の照明の中のカメラ」

美希「! …………」

リューク「おっ。ベッドのやつも無くなってる。ちょっと待ってろよ、ミキ。この分だと全部取れてるかも」

美希「…………」

美希(や、やっと……いや、まだ安心しちゃ駄目。全部外された事を確認するまで、たとえ一瞬でも表情を緩めちゃ駄目なの)

美希(それにまだ盗聴器だってあるかもしれない。その場合、もしカメラが全部外されていたとしても、うっかりリュークと会話したりしたら全てがパーになっちゃう)

美希(大丈夫……今まで何度もイメージしてきたの。こういう場合にどのように振る舞うべきかは……)

リューク「おいミキ。やっぱりカメラ取れてるぞ。全部だ全部」

美希「! …………」

美希(やった! とりあえずはこれで……)

リューク「おいミキ。聞いてるのか?」

美希「…………」トントン

(自分の耳を軽く指差す美希)

リューク「ああ、そうか。まだ盗聴器は付いてるかもしれないのか」

美希「…………」コクッ

リューク「じゃあ早速、明日にでも探知機買ってきて調べようぜ」

美希「…………」コクッ

リューク「そして盗聴器も無いことが分かったら……その時は頼むぜ、例のヤツ」

美希「…………」コクッ

美希(良かった……まだ完全には安心できないけど、これでとりあえず声さえ出さなければ……)ドサッ

(ベッドに倒れ込む美希)

美希(つ……疲れた……自分でも思った以上に気を張ってたみたい……)

美希(でもこれで一旦は、ミキは少なくともキラ容疑者の最有力候補からは外れたはず……)

美希(春香……本当にありがとう)

576 : 以下、名... - 2015/08/17 21:23:25.64 Js0LmzIP0 214/963





――――そして時間はその二日後――――現在へと戻る。





【現在・765プロ事務所近くの公園】


(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている春香と美希)

春香「……本当に、色んな事があったね。この十二日間は」

美希「うん。でも本当、春香には感謝してるの」

春香「美希」

美希「もし春香が全部、話してくれてなかったら……ミキは確実にLに捕まってたと思うし。まさに命の恩人なの」

春香「私はただ……当然の事をしただけだよ。美希の友達として……また、765プロの仲間として、ね」

美希「春香……」

春香「まあでもとりあえずは良かった。これでまた、裁きも美希が自分でできるようになったわけだしね」

美希「うん。あ、でも春香」

春香「ん?」

美希「今、ミキのノート返してくれたけど……春香は元々、ノートは持ち歩いてないんじゃなかった?」

春香「ああ……うん。自分のノートは部屋に隠してあるよ。机の引き出しを二重底にしてね」

美希「二重底?」

春香「うん。開けたところにはダミーの日記を入れてあるの。その下に板を一枚敷いて、底との隙間にノートを入れてるってわけ」

美希「へー。そこまでしてるなんて流石春香なの」

春香「でも、そこはノート一冊分のスペースしか無かったし、他に良い隠し場所も無かったから、美希のノートは常に持ち歩くようにしてたの。だから結構ドキドキしてたんだ」

美希「そうだったんだ……ごめんね。ミキのために」

春香「いいって。さっきも言ったでしょ? これくらい当然だって」

美希「春香……」

577 : 以下、名... - 2015/08/17 21:52:34.90 Js0LmzIP0 215/963

春香「でも、美希。これからどうする?」

美希「ん? これからって?」

春香「裁きはまたこれまで通り美希が行うとしても……Lの方」

美希「あー……」

春香「流石に今回の件で、Lも、少なくとも『美希が情報を得ていない犯罪者が死んだ』ってことは認めざるを得ないだろうから、美希一人だけを疑い続けることはできなくなったと思うけど……」

美希「うん」

春香「でも『キラと同じ能力を持つ者が他にもいるのかもしれない』って疑われる可能性はあるからね。さらに前のプロデューサーさんに限って言えば、私達765プロの全員に彼を殺す動機があったわけだし」

美希「そうだね。でも……」

春香「でも?」

美希「ミキ的には、それでもやっぱり……Lを殺したりするのは抵抗があるってカンジかな……」

春香「……それは、Lが犯罪者じゃないから?」

美希「うん……。そういう意味ではむしろ、ミキ達の方が犯罪者になるって思うし……」

春香「…………」

美希「あっ。でもミキ達が間違った事をしてるとは思ってないよ? ただなんていうか、法律とかを考えたらっていう意味で……」

春香「……分かってるよ。美希の言うとおり、今の法律の下では私達の方が犯罪者であり、それを捕まえようとするLの方が正義になる……それは間違い無い」

美希「うん。だからそういうこととかも考えたら……せいぜい、Lに『これ以上キラの邪魔をしたら殺す』みたいな脅迫をするのが精一杯かなって」

春香「…………」

美希「まあでもそれも、Lの顔と名前……あ、春香は死神の目を持ってるから顔だけでいいのか……Lの顔が分かってないと、意味が無い事だけどね」

春香「……そうだね。じゃあとりあえずはLの顔を知る手段を考えよう。そしてそれが分かったら、Lを脅迫して私達を追わないようにさせる……」

美希「うん。それが良いって思うな」

春香「…………」

578 : 以下、名... - 2015/08/17 22:18:16.39 Js0LmzIP0 216/963

【同日夜・春香の自室】


春香「…………」

春香(やはり美希は甘い……というより、純粋すぎる)

春香(自分の正義を貫くには、相反する他のすべての正義を悪とみなし、それらを遍く排斥していくだけの覚悟が必要……その意味で、私達と異なる正義を掲げるLは悪でしかない)

春香(それに今までのやり方を見る限り、Lがたかが脅迫程度で止まるとは到底思えない)

春香(仮に一旦は止まったように見せたとしても、必ず私達の目を欺いて捜査を続け、いずれは私達を捕まえようとするに違いない)

春香(だから本当にLを止める手段があるとしたら……ただ一つ)

春香(Lを……殺すしかない)

春香(それに私個人としても、美希をここまで追い詰めたLを許してはおけない)

春香(美希も今日は普通に振る舞っていたけど、これまで内心、どれほどの不安と恐怖に駆られていたことか……)

春香(いや今だって、『もしもLに捕まったら』という恐怖感と戦い続けているはず)

春香(あそこまでのことをされたんだから、それは至極当然の感情)

春香(だから、美希を本当の意味で安心させてあげるためにも……私は、一刻も早くLを消さなければならない。……たとえそれが、美希の意思に反することになるとしても)

春香(そしてその為には、Lの顔を知ることが必要条件……でも一体、どうやって知ればいいんだろう)

春香(今のままでは、あまりに手掛かりが無さすぎる)

春香(美希のお父さんはLと直接会ったことがあるのかもしれないけど……でもだからといってLの写真なんて持ってるはずないだろうし、そんな物を美希から求めさせるのもおかしい)

春香(何か別の手段を考えないと……でも相手は警察を従えられるほどの力を持った探偵……ただの一高校生に過ぎない私じゃとても……)

春香(……ただの一高校生に過ぎない……?)

春香(! ……そうか。別に探るのは私じゃなくても……)

春香(何で、今まで思い当らなかったんだろう)

春香(お金も権力も人脈も……私よりもずっと豊富に持っている人がいるじゃないか)

春香(こういう時のために生かしておいてよかった)

春香(まさかもう、私達に対する“償い”を終えたつもりじゃないですよね)

春香(ね? ……黒井社長)



続き
美希「デスノート」【3】


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