1 : 名無しさ... - 23/04/01 04:13:25 LRVm 1/37【デレマスSS】森久保乃々「旅くぼ」モバP「リトルバスツアーズ!」
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随分前ですがこの辺りの世界観で……
元スレ
【デレマスSS】並木芽衣子「さるクマ鹿ベアー」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1680290005/
気になるあの人とふたり旅。
なんて甘美な響きだろう。
少し前までの私なら想像もつかない世界。
大人の世界。
ひとりで。
友人と。
旅先で出会った人と連れ立って。
色々あったけれど、よく知る男の人と自分の意思で旅に出るのは初めての経験だ。
この旅路。
何があるのだろう。
2人の関係にどんな変化が訪れるのだろう。
そんな期待に胸を膨らませ、彼の助手席に身を委ねて早1時間。
現地で借りた白い車は…
並木芽衣子「なんでPと遠出するといつもこうなるのかな~!」
P「穴場の宿泊施設探してたら高確率でこうなるんだよ。
まぁ、実質直通一方通行だから道に迷わなくて……いいじゃん?」
芽衣子「道交法上一方通行じゃないっぽいのに、すれ違えない狭さの山道を走ってる時点で良くない気がする!」
ガタガタとその車体を揺らしながら険しい山間部の車道を進んでいた。
P「……選んだルートがまずかったんじゃないか?
やっぱりさっきの道をもう少しすすんでから山道に入るべきだったのかな~?」チラ
芽衣子「ぐっ……。確かにあそこで曲がってって言ったのは私だけど……!
けど、ほら! ナビ見る限りだと目的地にはちゃんと向かってるしっ」
P「対向車来たら詰むよな、これ。
ごくごく稀に車体押し込めれそうな空間あったから、思いっきりバックして戻ったらなんとかなるけど……」
芽衣子「ドキドキわくわくするね!」
P「どちらかというとハラハラひやひやって感じだけどな」
「…………」
「…………」
芽衣子「なによ~。私が悪いって言うの~?」
P「こらこら。運転手の頬をつねらない。危ない」
芽衣子「甘つねりだから! それにPのドラテクなら大丈夫!」
P「甘つねりって何だよ……。
いや、それはそれで気持ちいいから危な」
「ちょっと! 助手席は譲ったケド、正妻の前でダーリンといちゃいちゃしないで欲しいワ!」
「ドラ……テクって……なに? てくてく…?」
P「おーう。後部座席。良い子だから大人しくしような。
あといちゃいちゃしてないよ。マイハニー」
芽衣子「メアリーちゃんのダーリンなのは否定しないんだ。
ドラテクっていうのはドライブ、つまり運転のテクニック……つまり運転の技術のことだよ、雪美ちゃん。ドライビングテクニック!」
メアリー・コクラン「ならいいワ。余裕を持って構えるのも大事って、まゆさんも言ってたし!」
佐城雪美「前……座りたい……。P……遠い……」
P「ごめんなー。これでも一応旅慣れた大人だから横にいると助かるんだ」
メアリー「ビジネスの関係っテやつネ!」
雪美「助かる……べんり……カーナビ……?」
芽衣子「色々酷くない!?」
ていうか、ふたり旅じゃないし!
なんか小さい子達いるし!
雪美「私たち……お仕事……むしろ芽衣子が」
メアリー「そういえばそうだったワ! ビジネスはワタシ達。芽衣子は……おまけ?」
芽衣子「そうだった! けどもう少し言い方!
ほら、私だけはプライベートな関係とか!」
メアリー「ノン!」
雪美「……のん」
P「仲いいなー、お前達」
芽衣子「そうかなぁっ!?」
P「いやぁ。芽衣子は子供受け良くて助かる。
オマケでも連れて来て良かった」
芽衣子「Pまでオマケって言わないで!」
P「それにしても視界悪い。一応車道だけど、ほとんど獣道だ」
雪美「……けもの……みち?」
P「獣達が山や森の草木を掻き分けて通った跡の事かな。本来は。
それくらい険しいってことだ」
メアリー「チョット失敗したら崖の下に落ちちゃいそうだワ」
P「なー」
雪美「なー……」
芽衣子「なーって……あれっ?」
P「げ」
メアリー「?」
雪美「……向こうから……車……きた」
P・芽衣子「……来たねぇ」
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「よーし!生還っ!」
P「体力と精神力をゴリゴリ削り取られたわ……」
雪美「……後ろ向きに……いっぱい……走った」
メアリー「ワタシはダーリンを信じていたワ!」
P「ありがとなーマイハニー」
芽衣子「……うりゃ」
P「つつくな、つつくな。徐行とはいえまだ運転中だ」
メアリー「さっき門みたいなところを通り過ぎたわネ。もう着いたノ?」
P「まぁ、もう敷地内だな。目的地……今回拠点にする宿泊施設だ」
メアリー「旅館っぽくないワ。ホテルなのカシラ?」
P「ふっふっふ。それがどちらでもないんだなー」
雪美「どちらでも……ない?」
P「今回泊まるのはだな……ほら、横を見てみろ」
芽衣子「おーっ!」
雪美「……おうち?」
メアリー「ログキャビンッ!」
雪美「……ろぐ?」
P「そ。いわゆるログハウス……いや、コテージってやつかな。
各種建材や造りは簡易だけど二階建ての一軒家みたいなものだ」
メアリー「アメイジンッ!」
雪美「……すごい……りっぱ」
P「だろー?」
芽衣子「へーっ。広い土地……山の斜面に間隔を空けていくつも……ここに私達が泊まる所もあるんだ?」
P「そうそう。だだっ広いところに設置されてるから多少騒いでも近所迷惑になりにくい利点もあったりな」
メアリー「周りは……ゴルフ場?」
雪美「あっちに……池?」
P「そうだな。本来は金持ち共がゴルフの練習に使う宿泊施設だ。だから池もある。
ここをオフシーズンに借りたら便利だしお得だって知り合いに聞いてな」
芽衣子「へぇーっ」
P「よし着いた。俺達が借りてるのはここだ」
メアリー「ちゃんと駐車場もあるのネ」
雪美「……はやく」
P「ちゃんと停まるまで降りるなよー。……っと、よし!」
芽衣子「着いたっ!」
メアリー「ズルいっ!」
雪美「……!」
P「最年長が真っ先に飛び出すのか……」
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「うわー。部屋だーっ!」
雪美「……へやだー」
メアリー「……当たり前ジャないノ?」
芽衣子「入ってすぐにソファー!テレビ!」
雪美「……奥に……キッチン……冷蔵庫」
メアリー「結構広いワ。あ。リビングの隣に和室もあるノネ」
P「ちなみに二階もあるぞ。一階角の和室と上階の部屋が寝室扱いだな」
芽衣子「へぇ!」
雪美「……おー……」
メアリー「豪華ネ!」
P「だろ? ってかテンション高いなー」
雪美「……お風呂……こっち?」
P「普通の風呂場の奥に露天風呂もあるぞ。建物ごとに1つずつあるから貸し切りだ」
芽衣子「おおっ。すごっ!」
P「お湯を溜めて入る擬似的なヤツだから情緒は微妙かもだけどな」
メアリー「素敵ネ! ダーリン! あとで一緒入りまショ?」
P「おう! 仕事から帰ってきて夜にな!」
芽衣子「ちょっと!」
メアリー「お風呂に水着は邪道カシラ?」
P「邪道だな!」
芽衣子「このロリコンっ!」
雪美「……お風呂に……水着は……邪道」
芽衣子「覚えなくていいからねっ!?」
メアリー「ゲド、裸ははずかしいワ」
P「恥じらいこそジャスティス!」
メアリー「Justice?」
雪美「……はじらいこそ」
芽衣子「がーーーっ!!」
P「ぐはっ!? なぜ首を絞めるっ!?」
メアリー「……また、イチャイチャしてるワ」
P「タップタップ」
芽衣子「教育に悪い~っ!」
雪美「……首……ぎゅー……」
メアリー「昼メロみたいネ!」
雪美「……めろ……?」
※ ※ ※ ※ ※
山の中
森久保乃々「……ここは……どこなんでしょうか……」
高峯のあ「……山ね」
有浦柑奈「山中ですね!」
乃々「なんでもりくぼはこんな所に……」
のあ「……その答えは……既に貴女の中にあるはずよ」
柑奈「地図上はすぐ隣っぽかったんですけどね。やっぱり素直に乗り継いでいくべきでしたねー」
乃々「誰ですか! 旅費節約の為、残り二駅くらい歩こうって言ったのは!」
のあ「乃々」
柑奈「乃々ちゃん」
乃々「そうですけど! そうなんですけど!」
のあ「……今のはもしかして……遭難と掛けたのかしら」
柑奈「かれこれ三時間は彷徨ってるのに乃々ちゃん余裕ですね!」
乃々「掛けてないんですけど!? 言い掛かりなんですけど!
ていうか、中学生のお財布事情を察して『このまま電車で行きましょう。お金は気にしないで』くらい言って欲しかったかもしれないんですけど!」
柑奈「今月は松坂牛のコンビーフを箱買いしたのでお金ないです!」
乃々「なんでっ!?」
のあ「今月は……傘を買ったわ。
……らしくないわね。どんな傘も降りそそぐ悲しみから身を守ってはくれないというのに……」
乃々「………………………」
のあ「5万6千円もしたわ……」
乃々「悲しみそのものになってるじゃないですか」
柑奈・のあ「だから他の人の旅費まで出すのはちょっと……」
乃々「保護者が頼りないんですけど!」
のあ「……そもそも計画性なく唐突に『Pさん達を追い掛けるんですけど……!』と一人で飛び出した貴女にも問題はあったと思うわ」
乃々「う」
柑奈「まぁまぁ、たまにはこういうアウトドアなのもいいじゃないですか。
天気もいいし! 絶好の山歩き日和!ラブ&ピースなハイキング!」
乃々「……それは……まぁ……」
のあ「ええ……。それに調べた限り、この辺りの熊等猛獣の出没率はそれ程高くないわ。年間十数件ってところね。……安全よ」
乃々「結婚多くないですか!?」
柑奈「もしクマに遭遇したら……死んだフリ?」
のあ「……それは迷信だったはずよ」
柑奈「ですよね!」
乃々「確かクマに遭ったら目を合わせて逸らさずに、後ずさるように……そっと……離れるの……が……」
柑奈「目を合わせてってところからして乃々ちゃんにはハードル高そうですね~……うん?」
のあ「どうしたの……乃々?
……まるで私たち2人の後ろにクマでも見つけたかのような顔をして……」
乃々「………………………」
柑奈「………………………」
のあ「………………………」
乃々「………………………」
柑奈「………………………」
のあ「………………………」
くるっ
乃々「く」
柑奈・のあ「!!」
熊「グルルルルルルルルル……」
乃々「く、く、くまくまくまっ……べ、ベアーなんですけどーーっ!?」
熊「グルァ!」ブン
柑奈「ちっ!」
乃々「バック転でよけたっ!?」
のあ「……ナイスよ。柑奈」
柑奈「くっ!ギターが重くて動きにくいっ」
乃々「なんで山登りに持ってきましたっ!? ていうかなんでそれでバック転できるんですかっ!?」
のあ「……このサイズ……ヒグマね。
……乃々っ、柑奈!」
柑奈「!」
乃々「!?」
のあ「合わせなさい。……フォーメーションBよ……!」
乃々「聞いてないんですけどっ!?」
※ ※ ※ ※ ※
P「……ん?」
芽衣子「どうかした?」
P「いや……今、悲鳴みたいな……気のせいかな」
メアリー「ダーリン!こっち。こっちヨ。すごいワ。人がイッパイ!」
雪美「……いっぱい。コップとか……たぬき?」
P「おー。やってるな」
芽衣子「へぇー。果てが見えないくらいずっと向こうまで一面に市場……のぼりもいっぱい……陶器市?」
P「そ。ここらで時々開かれてる陶器市。
この土地名産のものを中心に各種器やら動物の置物やらがずらり勢揃い」
芽衣子「あー。そういえば新聞で見かけたかも。そっか。あれの開催地かー」
P「今日の仕事と直接は関係ないんだけどな。せっかくだから見てみたいだろ?
何か掘り出し物があるかもしれないし」
雪美「……たぬき。たぬきが……いっぱい」
メアリー「Turtle! 小さな亀もたくさんいるワ!」
P「縁起ものだからなー。きっと猫もいるんじゃないか」
雪美「……ねこ……!」
P「気にいるものもが見つかるといいな。
お仕事頑張ったら何か一つくらいなら買ってやるぞ」
雪美「…………!」
メアリー「Really?」
P「一人ひとつだけなー」
芽衣子「わぁい!」
P「おい。そこの大人!」
メアリー「Raccoon dog! すごい! あれ、30 ft はあるワ !」
P「電話ボックスの三倍近い高さの狸は勘弁してください」
メアリー「欲しいとは言ってないワ」
雪美「……ネコ……ネコ……にゃーにゃー……」
P「おーい。待て待て。人混みに入ったらはぐれちゃうぞ。あんまり遠くには行くなよー。
お。お茶っ葉や団子なんかも売ってるな。
お土産に買って帰ったらちょうど良さそうかも…」
芽衣子「……ていうかさ、お仕事の方は時間、大丈夫なの?」
P「あ」
※ ※ ※ ※ ※
ガッ!
乃々「のあさんがクマに殴られて吹っ飛んだんですけどっ!?」
のあ「…………」
のあ「…………」
のあ「………ふっ!」
乃々「着地したっ!?」
柑奈「シャオリー……!」
乃々「消力!? 武の極みなんですけど!?
アイドルですよねっ!?」
のあ「Pの机にあった格闘漫画を読んでおいたお陰で助かったわ……」
乃々「そんな理由で!?」
柑奈「私も昨日ボクシングの漫画を読んだので……あの熊に勝てるかも?」
乃々「無理です!むぅーりぃー!!
ていうか、さっきから牽制するみたいにちょくちょくギターで殴りかかるのやめてくれません!?
クマさん怒りでビキビキなんですけどっ!?」
柑奈「じっちゃんの形見が……ぼこぼこに……」
乃々「よりによってそんな大切なものでっ!?」
柑奈「じっちゃん生きてますけどねー」
乃々「そうでした!知ってますけど! 知ってましたけどっ!」
熊「ガァァァァァァァァァァッッ!!」
乃々「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
※ ※ ※ ※ ※
P「………?」
芽衣子「どうしたの?」
P「……いや……気のせいだよな?」
芽衣子「何が?」
P「いや……おっ? きたきた」
芽衣子「うん……? おおっ!?」
メアリー「ジャーーーン!」
雪美「……じゃん」
P「おー。いい感じいい感じ可愛い可愛い」
芽衣子「ほんとだ!可愛いやったー!それが撮影用の衣装かー。
……ってあれ? 確かに可愛いけど……。よく見たら普通の男性用スーツ……かな?」
雪美「……帽子も……ある」
メアリー「これを被れば!」
芽衣子「おおっ!これは!」
雪美「運転手……さん」
メアリー「車掌さんヨ!」
芽衣子「なるほど!」
P「今回の仕事はポスターの撮影だ。鉄道会社さんからの依頼でな」
芽衣子「………………………」
芽衣子「………………………」
P「どした?」
芽衣子「いや、2人とも可愛いし、すごく良いお仕事だとは思うよ。
思うんだけどさ?」
P「うん?」
芽衣子「こういうお仕事って……私向きじゃない?」
P「あー」
芽衣子「なんでただの助手?」
P「助手というか運転手補佐というか」
芽衣子「………………………」
P「まぁ……俺の趣味だ!
雪美達に車掌さんコスプレ……もとい衣装を着せたかった!」
芽衣子「コスプレ言うな! でもまぁ正直でよろしい! よくないけど!」
P「本当は2人にオリジナルの制服デザインしたんだけどなー」
芽衣子「Pさんデザインの制服……倫理的にヤバそう」
P「一緒に推したラッピング電車の企画とともに却下された。
ちひろさんと鉄道会社さんに。お金がないって」
芽衣子「あー。なる。せちがらいね……」
P「けど、これはこれで可愛いな!
アンバランスさというか謎の背徳感というか!」
芽衣子「言いたいことはわかるけど、それ、言われた側の判断次第で公判へ続く!ってなるやつだよ!」
P「あー。これもセクハラかー。世知辛いなー……」
雪美「?……かわいい……うれしい」
メアリー「ワタシは訴えないわヨ?」
P「いい子だなー! 天使だなー!」
芽衣子「どさくさに紛れて抱きつかない!
人の目もある! コンプラコンプラ。
それにほら、カメラマンさんたちも待ってるから!」
P「あ。すみませんすみません。この度は……」
芽衣子「私ついて来てなかったらどうなってたんだろ……」
※ ※ ※ ※ ※
のあ「……ふっ! 奥義『無拍子』!」
柑奈「ギターミサイルゥゥゥゥゥッ!!」
熊「ガァァァァァァァァァッ!?」
乃々「おうちかえるーーーー!!」
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「………………………」
芽衣子「………………………」
P「よっ。何見てるんだ?」
芽衣子「あれ? Pさん。こっち……市場の方に出てきていいの?」
P「ああ。ここからはしばらくプロのカメラマンさん達にお任せだな。
何かあったらすぐ連絡が来る。
で、何見てたんだ? ……湯呑み?」
芽衣子「うん。いいなーって」
P「ほー。確かにいい感じだな。
趣深いというかなんというか……わびさび? みやび?」
芽衣子「また適当なことを……」
P「いやいや、ほんとに。俺も欲しいくらいだ。
てか、それ2つセットなのな。いいじゃん。
買おうか? 俺が」
芽衣子「えっ?」
P「言ったろ。何か1つって。買って片方が俺の分。もう一方を芽衣子ぶんにさ」
芽衣子「あー………えっと」
P「結構いい値段するが別に遠慮しなくても……っと。あれ? 駅から呼び出しだ。
終わるのにはまだ早いし……なんかあったのかな?」
芽衣子「………………………」
※ ※ ※ ※ ※
柑奈「ふぅー。やっと着きましたね。陶器市!」
のあ「結構人がいるわね……」
乃々「あの………。これどうにかして欲しいんですけど」
のあ「どうにか?」
柑奈「何を?」
乃々「もりくぼを咥えてる熊さんなんですけどっ!?
なんでお口で襟首咥えてぶら下げてくれてるんですかっ!?」
柑奈「気に入られたっぽいですね」
のあ「よかったわね……」
乃々「何も良くないんですけどっ!? 何が良いと思ったんですかっ!?」
柑奈「ほら、自分で歩く必要なくて楽そうですし」
乃々「ぶら下げられるの結構辛いんですけどっ!?
ていうかその熊さんにまたがってる人には言われたくないんですけどっ!?
そもそも何でまたがってるんですか?金太郎さんなんですか?」
熊「………………………」
のあ「とどめが柑奈の全力耳元シャウトだったから……上下関係を認めたようね」
乃々「えぇ……」
柑奈「そんなことよりも、乃々ちゃん。
ちゃんとその看板、前に見えるように構えておいて下さい」
のあ「そうね……他の方が驚いてしまうわ」
乃々「……これ、本当に意味あるんでしょうか?」
乃々「『これは着ぐるみです』」
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「え? 撮影ですか? 私も?」
カメラマン「急ですみません……」
P「座席に乗客のいる絵も撮りたいだとかでな。
ちょっと予定外ではあるけれど、お願いできないか?」
芽衣子「それは別にいいけど……」
P「あとなんか駅長さんが個人的にめっちゃファンらしい。芽衣子の」
芽衣子「それは何というか……嬉しいけど」
P「いやー。こんなことになるなんて意外だな。良かった良かった」
芽衣子(………本当に予定外なのかなぁ?)
※ ※ ※ ※ ※
事務所にて
千川ちひろ「先方的に予算オーバーな3人目のアイドルを無理やりねじ込む為に道案内として連れて行くとか……相変わらず無茶しますねぇ……。
まぁ、売り出し中のアイドルのプロモーションにはなりますが……。
経費諸々の調整をするこっちの身にもなって欲しいです」
ちひろ「………………………」
ちひろ「こっそりPさんのお給料から90000円くらい引いて回してもバレないかしら……?」
ちひろ「………いえ、ガチャの話ではなく」
※ ※ ※ ※ ※
P「えっっっぶしっ!」
雪美「……P……風邪?」
P「んー? どうだろ。花粉かなぁ?
って、撮影終わったのか。大丈夫だったか?」
メアリー「問題なく終わったワ!」
芽衣子「私は私服だったけど……いいのかなぁ?」
P「観光客役だからな。問題ない……っていうかむしろ自然な感じで良かったんじゃないか?」
雪美「大人っぽくて……かわいい」
P「そうだな~。でも雪美も負けないくらい可愛いぞ~!」
雪美「……ふふ」
メアリー「ワタシは?ワタシはっ?」
P「メアリーはキュートアンドセクシーだったな!魅惑のベリーセクシーガール!」
メアリー「エヘヘ」
芽衣子「………………………」
P「ちょ、スマホ片手に真面目な顔で通報検討しないでもらえませんか?」
芽衣子「サイドボタンと音量ボタン同時押しだったっけ?」
P「エマージェンシーコールも勘弁してつかーさいっ!」
キャァァァァァァァァッッ!
ギャァァァァァァァァァッ!
P「うん?」
芽衣子「えっ!?」
雪美・メアリー「?」
『猿が出たぞーーーーっ!』
P「あー。市場の方で……野ザルが出たのか?」
芽衣子「山が近いから……前にも似たような事があったような……って!
きてる! こっちに走ってきてる!」
P「ちっ。芽衣子!2人を頼む! ここは俺がっ!」
芽衣子(走ってくるのはかなり大型な猿だ。しかも見るからに興奮している。
あんなのいくら成人男性だとはいえ、どうこうできるわけがない。
猿の牙は掌など簡単に貫通し、腕力や握力も人間の比ではないのだ。つまりは)
P「俺のアイドル達には指一本触れさせ……」
芽衣子(Pさんがやられちゃう!)
信じられないほどのバネで飛び上がり、Pの視線より高くから襲い掛かる野ザル
その動きがコマ送りのように映り……。
鋭い爪が、牙がPに届こうとした瞬間、
P「!?」
芽衣子(えっ?)
ふいに、その姿が消えた。
猿「………!!!」
声にならない悲鳴をあげながら、猿は明後日の方向へときりもみ回転しながら飛んで行き……
猿「ギャ」
地面に叩きつけられた。
そして入れ替わるようにPの眼前には……。
P「く」
芽衣子「く」
雪美「………くま?」
熊「………………………」
P・芽衣子「くまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
猿に背を向け雪美とメアリーを抱き、護ろうとしていた芽衣子も、思わずそのままへたり込む。
P「………………………」
必死に初代ウルトラマンのようなファイティングポーズを維持するPではあるが、腰は引け、生まれたての子鹿のように震えている。
P「へ、へ、………ヘアっ!」
そんな涙目のPを尻目に、分厚い毛皮と筋肉の塊はのそりと身を反転させ
熊「………………………」
猿「………………………」
気絶しているらしい猿を咥え、引きずりながらゆっくりと市場の脇、草むらへと姿を消した。
P「………………………」
芽衣子「………………………」
メアリー「………………………」
雪美「………………………」
周囲の客、通行人含め皆が皆、青ざめ黙りこくる中、広場の真ん中には一枚の板切れが転がっていた。
『これは着ぐるみです』
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「あ~。染みるぅ~」
コテージに備え付けの露天風呂に顎までつかり、うめく。
人の目がないことをいいことに、ちょっとおっさん臭く。遠慮なく。
実は本日三度目の入浴なのだが……。
芽衣子「んあ~~~~~~~」
一度目は管理棟にある大浴場、二度目はこの露天風呂、共に雪美ちゃん達の保護者をしながらの入浴だったので、イマイチ羽を伸ばせなかったのだ。
芽衣子「う~~~~~」
目を瞑り。手脚を限界までのばす。
Pさんは夕食後間も無く眠気に耐えられなくなったのか、二階の寝室に上がり、ひとりベッドに沈んでしまった。
おチビちゃん達ふたりも30分ほど前に一階の和室で眠りについた。
芽衣子「………………………」
今日は本当に大変だった。
山道のドライブや急なお仕事だけでも大概過酷なのに、かてて加えてあの猿熊騒動だ。
被害者が出なかったのは幸いだが、それでも事後処理はそこそこ厄介で面倒くさかった。
芽衣子「まぁ、大体はPさんが片付けてくれたんだけどね……」
火照った頬をひんやりとした外気が撫でる。
(俺の芽衣子には指一本触れさせんっ!)
脳裏に浮かぶのは颯爽と猛獣に立ち向かうPさんの姿。
(………………………)
(………………………)
(………………………かっこ良かったな)
現時刻は午後10時過ぎ。
この後自分も就寝し、朝には帰途につく。
(大人のロマンスみたいなものはなかったけれど……)
うん。
楽しかったな。
悪くなかった。
終わってみれば良い旅だった……かもしれない。
(ロマンス………………………)
(………………………)
(この後、Pさんのいる二階に………なんて)
(いやいや、それはさすがに……ね)
邪念を払うようにかぶりを振って、立ち上がった。
※ ※ ※ ※ ※
芽衣子「……で」
一階の和室に戻り、頬が引き攣るのを感じる。
芽衣子「いないし」
お子様ふたりの姿が消えているのに気づき、拳を握る。
芽衣子「さ………先越された」
※ ※ ※ ※ ※
その後、
二階のPさんがシングルベッドで両脇に年少アイドルをはべらせながらもぐっすり眠っているのを確認した芽衣子は、しぶしぶ、隣に並んで設置されているベッドへと潜り込むのだった。
芽衣子「………監視は必要だもんね。起こすのはかわいそうだし……」
日中あんなことがあったのだ。子供達もまだ不安だったのだろう。
Pさんに抱き付き、安心し切った様子で眠っている。
……うん。
いくら最近の子がませているとは言え、不純な思惑はないはずだ。たぶん。きっと。
メアリー「………ダー…リン……あ…………ぃ」
雪美「………P……す……」
二人ともPさんの手を握り、恋人のように指を絡めているように見えるが……親愛の情以外は抱いていないはずだ。たぶん。きっと。
芽衣子「ぐぬぬ……」
普段と変わらぬはずの独りの布団がどうにも冷たく、寒々しかった。
※ ※ ※ ※ ※
帰途。車の中。
P「………………………」
P「……なんだかなー」
メアリー「ダーリン、どうしたノ?」
P「いや、助手席の御方が……めっちゃ大口開けて寝てはる」
メアリー「あー。夜あまり眠れなかったのカシラ?」
雪美「おくち……お土産のおまんじゅう……入りそう。……入れる?」
P「うーん。……命にかかわりそうだからやめたげて?」
雪美「……わかった」
P「………………………」
メアリー「あら?」
P「どしたー?」
メアリー「今……窓の外に何かが走ってたようナ……?」
雪美「……くま?」
P「……もう熊は勘弁してくれ」
※ ※ ※ ※ ※
乃々「ののののののののののののの」
柑奈「乃々々々々々?」
乃々「のののの乗りごこち最悪なんですけどぉぉぉ!」
ガァァァァァァァァァァ!
柑奈「乃々ちゃんの熊吉! 速いですね! 負けるなモン吉!」
キッキィィィィィィィィ!
のあ「帰ったら……この子、ブリッツェンとお見合いさせようかしら」
乃々「その子、鹿なんですけどっ!?
ていうかどこで調達したんですかっ!?」
のあ「名前はトニートニーにしたわ」
乃々「あぶないあぶない! あと、これ愛護団体に怒られたりしませんかっ!?」
柑奈「アイドルがトナカイ乗り回してる世界観で何を今さら……」
乃々「その人とその理屈は身も蓋もないジョーカーなんですけどっ!?」
のあ「乃々」
乃々「はい?」
のあ「……前を見なさい。崖よ」
乃々「……へ?」
のあ「けど、迂回してたらP達の車を見失うわ」
柑奈「つまり……飛ぶんですね!」
乃々「むぅーりぃぃーーーーーー!!」
結局何をしに来たかよく分からないもりくぼの悲痛な叫びが山々にこだました。
※ ※ ※ ※ ※
事務所にて。
乃々「このお茶碗はもりくぼのものなんですけどっ!」
的場梨沙「アンタはこっちの箸置きにしときなさいよ!」
帰ってきた翌日。
Pさんがみんなに用意したお土産を巡り、血で血を洗う……という程ではないにしろ、微妙に真剣で、側から見てるぶんには微笑ましいくらいの争いが勃発。
それはかれこれ小一時間続いたが、やがて皆が各々納得できるお土産を手にした事でほぼほぼ終息した。
今は出遅れたせいで狙い目のお土産を確保し損ねた乃々ちゃんと梨沙ちゃんが、残り物を巡り、両の手で掴み合い、せめぎ合っている所だった。
P「あー……全部一緒にすりゃ良かったかな。お土産」
それはそれで味気ない気もするけれど……。
芽衣子「若いっていいねぇ…」
クラリス「そうですね~」
イヴ「ね~」
P「………………………」
芽衣子「ああ」
色々とあったが、
芽衣子「新しい湯のみで呑む日本茶は……たまりませんなぁ……。ふぉふぉふぉ」
そんな争いを尻目に私は余裕の面持ち。
高みの見物といったところだ。
クラリス「素敵な器ですね」
芽衣子「えっへへ~。お気に入りなんだー!」
イヴ「お茶っ葉もいいモノです~」
芽衣子「旅先で買ってきた名産品だからね~。
他にお土産もたくさんっ! 存分に味わって!」
のあ・柑奈・聖・メアリー・雪美(もくもくとお饅頭を頬張る)
佐久間まゆ「あら……でもその湯呑み……確かさっきPさんも同じものを……」
芽衣子「ぎくっ」
まゆ「………………………」
芽衣子「………………………」
まゆ「………こんなところに外箱が」
芽衣子「あっ。ちょっ」
まゆ「………………………」
まゆ「………めおとゆのみ」
まゆ「………………………」
まゆ「……夫婦……」
まゆ「…………………夫婦?」ユラリ
芽衣子「……ひぇ」
クラリス「ああ、主よ…」
イヴ・P「…………」
クラリス「今日も平和をありがとうございます」
芽衣子「助けてぇっ!?」
平和な事務所エンド。
P「…‥庭に新しい小屋が欲しい?」
渋谷凛「うん。そうブリッツェンが」
P「……なんで?」
凛「さすがに急に熊や猿や鹿が増えたら手狭だからって」
P「なんでっ!? 俺の家、動物園!?」
凛「……雌扱い……か」
P「お前のことじゃねーよ!?」
熊は発信器を付けて山に返すものらしいですよエンド。
36 : 名無しさ... - 23/04/01 08:08:03 LRVm 36/37
サービス終了を看取れたので、5年くらい前に書きかけて放置してたものを発掘、供養させていただきました。
今までありがとうございました!
お疲れ様でした!
37 : 名無しさ... - 23/04/01 08:09:10 LRVm 37/37
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