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678 : VIPに... - 2013/10/13 00:15:43.97 wMbs8pGKo 417/712


<妹友と・・・・・・?>




(もう朝か。今日は休日だから少しゆっくりできるな)

(・・・・・・二度寝しようかな。最近あまり夜眠れないし)

(じゃないよ。何言ってるんだ俺。今日は塾講のバイトの面接じゃんか)

(姫に一緒に暮らそうって言ったのはいいけど、姫がOKしてくれたとしても今のままじゃどうにもならないしな)

(ちょっと早いけどもう起きて準備しよう。このまま寝ちゃったら遅刻するかもしれないし)

(・・・・・・女友を傷つけちゃったな。せっかくぼっちの俺と仲よくしてくれてたのに)

(でもあれしかないよな。家がこんな有様なのにこれ以上グダグダやってられないし。女や妹友のことだってあんな曖昧にしたのはよくなかった)

(・・・・・・姫。何で迷っているんだろう。お互いに浮気しあって離婚するような両親にまだ未練があるのか)

(姫を大切にしてきただ? 姫のことを特別にちやほやなんかしなくてよかったんだ。普通の浮気しない離婚しない両親でさえいてくれればよかったんだ。その方がよほど姫だって幸せだったはずなのにな)

(姫は俺と二人で暮らすのはやっぱり不安なんだろうか。それはそうだよな。姫だって自分の学校とか進学とか生活が心配になっても不思議はないし)

(・・・・・・面接に行こ)



(よかった。採用してもらえた。研修はあるけど来月から週3コマ担当か。俺も先生と呼ばれるようになるのか)

(とりあえず二つ目のバイトは確保できた。とにかくこうやって少しづつ前進していくしかないんだし)

(カプセルホテルの夜のバイトと週3コマの授業を入れると講義の方がやばい気がするけど、今はしかたない。とにかく講義とバイト以外を極力排除して頑張るしかないんだし)

(姫のためだと思えば俺は頑張れる・・・・・・と思う)

(とにかく帰ろう)

(しかし周りの高校生たちが何か幼く見えるな。何でだろう? 姫だって高校生なのにな)

(・・・・・そういや姫って塾とかに行ってないよな。うちの大学を受けるなら学校の授業だけじゃ厳しいのに)

(あれ? あの子って)

679 : VIPに... - 2013/10/13 00:16:12.00 wMbs8pGKo 418/712


(妹友?)

(何であいつが・・・・・・まあ不思議はないか。それこそ受験勉強のために塾に通ってるんだろう)

(なんかやだなあ。高校二年生のクラスを持つって言われたけど、まさか俺の授業に妹友がいたら。何か気まずい)

(あのとき。妹友と彼氏君は・・・・・・)

(レイプだって言ってたけど。でも正直とてもそうは見えなかった。俺には抱き合っているように見えた)

(・・・・・・どうでもいいか。妹友は今日は授業が終ったみたいだ。塾の出口に向ってる)

(今は何だか顔を合わせたくないな。少し時間を置くか)

(・・・・・・出て行った)

(帰るか。今日は姫からメールが来ないかな)

(さて。スーパーにでも寄って買物しとかないと今夜の飯さえないな)

(あれ? あの車って)

(それにあの車に乗り込んだのって妹友じゃんか。つうかあれ。うちの車だ)

(いったい誰が運転してるんだ。まさか彼氏君が?)

(もう薄暗くなってきて車内がよく見えない。それに彼氏君がうちの車のキーを持ってるわけないし)

(でもナンバーは見える。あれはうちの車のナンバーじゃんか)

(よし。車が出ちゃう前にもっと近寄って)

(・・・・・・もう気が付かれてもしかたない。思い切り近づいてやる)

(妹友。やっぱあれは妹友に間違いないな)



妹友「迎えに来てくれてありがとう」

「いや。どうせついでだからね」

妹友「・・・・・ママとパパと会った?」

「会ったよ。ついさっきまで話をしてた」

妹友「そうか。うまく行ったの?」

「どうかな。まだわからんよ」

妹友「何でママは一緒に来なかったの?」

「君のパパと二人で話がしたいってさ」

妹友「・・・・・・そうか。そうでしょうね」



(父さん。つうかこいつらいったい何を話してるんだ。何で父さんと妹友が親しく話しているんだ)

(どうなってるんだよ。全く)

680 : VIPに... - 2013/10/13 00:17:04.78 wMbs8pGKo 419/712


「だから君のお迎えを頼まれたんだよ」

妹友「うん。ママからメールもらったから知ってる」

「君のママは今日は帰りが遅くなると思う。お兄さんは?」

妹友「今日は友だちの家で勉強だって。帰るの遅くなるって言ってた」

「お兄さんと仲直りできた?」

妹友「微妙」

「仲直りした方がいいよ」

妹友「まあそうだけど」

「じゃあ食事してから送っていくよ。何が食べたい?」

妹友「そうだなあ」



(ちくしょう。車を出されちまった)

(何で父さんが妹友を車に乗せてるんだ? てか妹友の両親と父さんの話し合いっていた何だよ)

(あいつらの離婚と関係ありそうだけど。だけど何で妹友と)

(! ま、まさか。父さんの浮気相手って)

(まさか・・・・・・妹友の母さんなのか)

(何でだ。よりによって何で姫の親友の母親なんかと)

(いや。何かの間違いかもしれない。決め付けるのはまだ早い)

(離婚した後の姫のケアを姫の親友の妹友に頼んでいたとか)

(いや。ねえだろ。父さんが単独で妹友を迎えに来るなんて状況は考えられない)

(・・・・・・ただ。前から父さんと妹友が知り合いだったのなら話は別だ)

(いやいや。普通に考えればそれだってあり得ないだろ。もし父さんの浮気相手が妹友の母さんだったとしたら、妹友にとっては父さんは自分の家庭を壊す元凶じゃねえか。仲良く車なんかに乗るもんか)

(いくら考えてもわからん。いっそ姫に相談・・・・・・)

(バカか俺は。ただでさえ両親の離婚やこの先誰と暮らすのかで悩んでいる姫にこんなこと話せるか。妹友は姫の親友なんだぞ)

(こんなとき相談できる相手は)

(いねえ。俺今ぼっちだし。女も女友にだって相談できる状況じゃねえし)

(あ)

(一人だけいた。俺のことはまだ怒っているかもしれないけど。父さんの浮気相手のことなら)

681 : VIPに... - 2013/10/13 00:18:16.67 wMbs8pGKo 420/712


<それでも親かよ>




「や、やあ」

「・・・・・・」

「突然連絡してごめん。でも来てくれてよかったよ」

「・・・・・・何の用」

「いや。そのさ」

「まさか、あたしがあなたに会いに来たからって許されたつもりじゃないでしょうね」

「・・・・・・そうじゃねえよ」

「自分の妹に欲望をぶつけてあの子を汚したことが、そんなに簡単に許されるとでも思ってたの?」

「俺と姫は愛し合って・・・・・」

「何ですって」

「いや。何でもない(今はこんなことを言っても無駄だ。それよりも本題を話さないと)

「あたしさ。仕事を抜け出してきているんだけど。だいたいあなたは勘当されてるのよ? 何を勘違いして偉そうに会いたいなんて連絡してくるのよ」

「(今は我慢するんだ)聞きたいことがあって」

「何」

「・・・・・・離婚するって聞いたんだけど」

「誰から? まさかあなた。こそこそと妹に会ってるんじゃないでしょうね」

「・・・・・・妹が連絡してきたんだよ。父さんと母さんが離婚するって。本当なのかよ」

「・・・・・・あなたはもう勘当されてるんだから関係ないでしょ」

「ふざけんなよ。俺のことはともかく姫のことを傷つけてもいいのかよ」

「だってしかたないじゃない。あたしだってあの子のために頑張ったのよ。お父さんが浮気しているらしいって知ってからも、妹のために無理に仲のいい家族を演じてたの。あなたにわかる? 自分の夫に浮気されながら楽しそうに香港への家族旅行の話をしなきゃいけないあたしのつらさが」

「・・・・・・母さんにも男がいるって聞いたんだけど」

「それはそうだけど。でも最初に浮気したのはお父さんなの。あたしはそれまでは誰に対しても恥かしいことはしていなかったのよ」

「父さんと母さんの勝手な浮気なんかどうでもいいよ。母さんの言うとおり俺は勘当されたんだし今さら文句を言う気もないし」

「じゃあ、何でお母さんを呼び出したの? あたしだって仕事が詰まってて忙しいのに」

「(こいつ自分の母親ながら本気でむかつく)だから聞きたいことがあったからだよ」

「離婚のことでしょ? だから本当だよ。心配しなくていいよ。大学を卒業するまでは学費と生活費は出してあげるから。それで卒業したら後は好きに生きなさい」

「・・・・・・それでも親かよ」

682 : VIPに... - 2013/10/13 00:19:24.55 wMbs8pGKo 421/712


「聞いた風なこと言わないでよ。妹に手を出す息子にそんなことを言われる筋合いはないわよ」

「まあ、どう思ってくれてもいいよ。たださ、妹は相当悩んでたぞ。精神が壊れそうなくらい。あれは俺のせいじゃなくて母さんたちのせいだよな」

「あの子、結局あんたに頼ったの?」

「頼ったっていうか。まあ、泣きながら相談してきた」

「・・・・・・そうなんだ。結局そうなるのよね」

「何だよ」

「あの子があなたのことを好きなことは何となくわかってたよ。お父さんは認めたくなかったみたいだけど。あたしにはわかってた」

「何言ってるんだよ」

「許したわけじゃないのよ。でも、あの子にはあんたが必要なんだろうなとは思ってたよ」

「・・・・・・マジかよ」

「うん」

「じゃ、じゃあ。何で」

「自分の子どもたちがお互いに愛し合っていたとしても、それを笑って許す親なんかいると思うの?」

「・・・・・・ああ」

「お父さんとは価値観も何かも合わない。正直顔を見るのも会話をするのもいや。でもね、あの夜お父さんが言ったことにはあたしも賛成よ。あなたは妹の将来を、あるべき明るい将来を閉ざしたの」

「・・・・・・」

「でもね。お父さんと違ってあたしにはあの子はやっぱり最後にはあなたが必要なんだろうなって思ってはいた。自分では認めたくなかったけど」

「(え)・・・・・認めてくれるの?」

「そんなわけないでしょ。自分の娘が不幸になるのを黙ってみている親がいると思う?」

「・・・・・・離婚だって十分姫を不幸にしていると思うけどな」

「・・・・・・それは」

「もういい。それよか、父さんの浮気相手だけど」

「それを聞いてどうするの? もう勘当されたあなたには関係ない話でしょ」

「まさか、姫の親友の妹友の母さんじゃないだろうな」

「・・・・・・あなた」

「どうなんだよ」

「何であなたが知ってるの」

「やっぱりそうなのか」

「あのね。あたしもお父さんも最初から家族で香港に行く気なんかなかったのよ。もちろん、連休中に仕事があったなんていうのも嘘なの」

「(ふざけんな)あの旅行をどれだけ姫が楽しみにしていたか知らないのかよ」

「知ってたよ。そんなこと。あれは今にして思えばお父さんとの最後の共同作業だったのかもね」

683 : VIPに... - 2013/10/13 00:22:34.19 wMbs8pGKo 422/712


(何笑ってやがる。悲劇のヒロインのつもりかよ)

「だからせめてもの償いとしてお父さんはあの子に旅行に行くように言ったの。あたしも笑って賛成した。それがお父さんとの最後の共同作業ね。でもさ。連休中はお父さんもお母さんもそれぞれの相手と・・・・・・・」

「もういい。そんな汚い話はこれ以上聞きたくない」

「どうしたの? もうあなたには関係のない話でしょ。あなたの学費と生活費は面倒みるって言ってるのだし」

「そうじゃねえだろ」

「何が言いたいの」

「何で父さんが妹友の母さんと付き合ってるんだよ。知ってるんだろ? 妹友は姫の親友なんだぞ」

「それってお母さんの責任なの?」

「・・・・・・・そうは言わねえけど」

「あたしが仕事ですごく忙しかったことがあってね。妹の学校行事に行けないことがあったの」

「ああ」

「お父さんは妹が大好きだったから。保護者がいないんじゃあの子が肩身の狭い思いをするだろて言ってね。自分が学校行事に参加するって言ったことがあったのよ。お父さんだって忙しかったのにね」

「それで?」

「妹は喜んだわ。大好きなお父さんが学校に来てくれたって。でも、そのときにお父さんは同級生のママと、妹友ちゃんのママと知り合ったの」

「・・・・・・それって」

「うん。それからその二人の不倫が始まったらしいよ。まあ、今となってはどうでもいいけど」

「どうでもいいって」

「お母さんにも今は彼氏がいるしね。会社の上司で離婚している人だけど」

「そんなこと聞いてねえよ。どうでもいいって言ったよな? 姫の気持もどうでもいいのかよ。父親が親友の母とできてるんだぞ」

「・・・・・・まだ妹はそのことは知らないはずだし」

「アホか。いつかはばれるに決まってるだろうが。いったいこの先姫のことをどうするつもりだよ」

「あたしが引き取りたい。でも、父さんも同じことを言ってるから」

「だからって姫に選ばせるのかよ。何でそんな残酷なことができるんだよ」

「・・・・・・もう、そうするしかないのよ。知ったようなこと言わないで!」

「それによ。妹友のところにだって実の父さんはいるんだろ? そっちはどうなる」

「そんなことは知らない。知りたくもない」

「・・・・・・結局、妹はどうなるんだよ。母さんを選んでも父さんを選んでも他人と一緒に暮らすことになるじゃねえか」

「あの子があたしを選んでくれたら、絶対に不幸にはしない。彼だって大事にするって言ってくれてるし」

「それ本気で言ってるの?」

「・・・・・・」

「家族大好きな、何よりもうちの家族が大好きな姫がそれで幸せになれると本気で思ってるの?」

684 : VIPに... - 2013/10/13 00:23:55.92 wMbs8pGKo 423/712


「それは」

「父さんと一緒に暮らすのだってあり得ないだろ。親友の妹友と姉妹になる? ねえよそんなの」

「ねえ?」

「何だよ」

「あなたさ。本気で妹を泣かせないで幸せにする自信ある?」

「何だよ突然」

「真面目に答えて。とりあえずあなたのしたことは一時忘れてあげるから」

「あるよ。それが妹の兄としてでも、妹の彼氏としてでも」

「・・・・・・そうか」

(何なんだ)

「それが本気なら、あの子のことお願いしようかな」

「え?」

「あなたの言うとおり、あたしたちは取り返しの付かないほど妹をないがしろにして傷つけた。本当はわかってたよ。だから、もう妹のためにはあなたに頼るしかないのかもしれないね」

「そんなに相手のこと好きなの? そいつと別れて姫と二人で暮らすことは考えられない?」

「ごめんね。でも無理。だから、勝手な言い分だけど、あなたがあの子を救ってくれるならあたしは味方になるよ」

(どういうことだよ。俺と姫の仲を認めるってことか。それとも単純に姫のことが邪魔なのか)

(でも。これは姫を救うチャンスだ。うまくいけば生活の心配とかなく姫と暮らせるかもしれない)

「よく聞いて。お父さんは絶対に反対するかもしれないけど。もうこうなったらあんな人に遠慮する必要なんかないから。あなたはこうするの。いい?」

691 : VIPに... - 2013/10/14 00:11:38.18 RcyYiRjKo 424/712


<お父さんを本気で嫌いにはならないであげてね>




「どうすればいいの」

「明日土曜日でしょ。妹の外出許可を取っておくから、あんた妹に会いなさい」

「それで?」

「あなた、妹のことを説得しなさい」

「説得? 何をだよ」

「一週間後にお父さんとあたしはあの子に会うの。そのとき、これからはお母さんと一緒に暮らすって妹に言わせるようにするのよ」

「何でだよ? 俺は父さんの味方じゃないけど、別に母さんに味方する気もないよ」

「そんなことわかってるよ。いいから最後まで聞きなさいよ。妹と一緒に暮らしたくないの?」

「・・・・・・わかった。続けて」

「あたしと暮らすことになったら、あなたと妹用に新しく部屋を借りてあげる。あなたたちは二人でそこで暮らしなさい」

「本気なの?」

「もうそれしかないでしょ。二人きりになんかしたらあなたたちがまた変なことするかもしれないけど。でも、もうそれしかないのね」

「母さん」

「あなたの言うとおりよ。あの子がお父さんや母さん、それにあなた以外の他人と一緒に暮らして幸せになるなんて多分無理でしょう。まして、親友の子と姉妹として一緒に暮らすなんて」

「・・・・・・それは多分間違いないよ」

「だからもうしかたない。父さんと暮らしたら妹は幸せになれないから。だからあの子にあたしを選ぶと言わせて。そしたら父さんには黙ってあなたちを二人きりで暮らさせてあげるから」

「わかった。でも説得するときってさ。二人で暮らせるっていうことを姫に言ってもいいの?」

「言わなきゃ妹はどっちかを選んだりはできないでしょ。あの子はあたしのこともお父さんもどっちも大好きなんだから。でもね。認めたくはないけど妹はあなたのことが大好きだからね。多分、あたしやお父さんのことよりも」

「・・・・・・ああ」

「だからあなたは明日妹を説得しなさい。お母さんと一緒に暮らすって言えばあなたと一緒に暮らせるって。あたしは味方だってあの子に説明して」

692 : VIPに... - 2013/10/14 00:13:02.02 RcyYiRjKo 425/712


「わかった。やるけどさ」

「けど、何?」

「これ、父さんにばれたらどうなるの」

「ばれないようにするのよ。父さんは忙しいから妹を監視したりはできないわ。定期的に妹と面会はしたがると思うけど、そこで妹がうまく誤魔化してくれれば大丈夫よ。それにね」

「何?」

「多分、あの子はお父さんが自分の親友の母親と浮気していたことを知ったら、お父さんのことを嫌いになると思う」

「・・・・・・」

「妹を溺愛しているお父さんには気の毒だけど、でも自業自得よね。本当に妹のことが好きなんだったら、娘の友だちのお母さんに手なんか出すべきじゃなかったし」

「嫌いになるくらですめばいいけどね(姫、相当ショックを受けるだろうな。かわいそうに)」

「だからあなたに任せるんでしょ。しっかりしなさい」

「勝手なこと言うんだな」

「勝手なことを言っているのはわかってるよ。あたしとお父さんが悪いのも自覚している。でもさ、あなただってあの子を傷物にしたじゃない」

「・・・・・・(そうじゃない。俺と姫は愛し合って)」

「わかるでしょ? あたしたちはみんなで妹を傷つけたの。よりによって妹が一番信頼していたあたしたちがね」

(一緒にするなって言いたいけど。俺と姫以外の人が見たらそうなるんだよな、きっと)

「だからあたしは今日あなたに決めたの。少なくともあなたはあたしたちの離婚で傷付いている妹のことだけを本気で心配しているようだったから」

「俺の今のアパートは?」

「引き払いなさい。あんな遠いところから妹を学校に通わせるつもり?」

「わかった。いつでも出られるように準備しておく」

「そうなさい。引越費用とかは出してあげるから」

「ねえ?」

「何よ」

693 : VIPに... - 2013/10/14 00:15:10.63 RcyYiRjKo 426/712


「仮にだけど。仮に俺が妹の説得に失敗したらどうなるの」

「あの子はあたしも父さんもどっちも選べないって言うでしょうね」

「そうしたらどうするんだよ」

「今までどおり富士峰の寮で暮らすしかないでしょ」

「戸籍とか親権とかは?」

「・・・・・・・どうしようもないね。最終的には調停とか裁判で決めるしかない」

「夫婦で妹を取り合って裁判か。どろどろだな」

「そんなことはわかってる。でもしかたないでしょ。あたしも父さんも妹の意思を尊重することでは合意してるの。でも肝心のあの子が選べないならもうそうするしかないでしょ」

「うまくいったとしても、いつか父さんにばれたら俺、今度こそ本当に嫌われちゃうな」

「・・・・・・ごめんね」

「え?」

「でもきっと大丈夫だよ。お父さんも母さんもあなたのしたことは許せないけど。それでも息子には変わりないから」

「・・・・・・」

「お父さんの悪口をいっぱい言っちゃったけど。でもあのときお父さんだって言ってたでしょ」



『私たちにとっては兄も姫もどちらも大事な子どもだろ?』



(そういやそんなこと言ってたかな)

「まあ、あなたはあのときはそれどころじゃなかったでしょうから、気にしてもいないだろうけどね。あなたが家を出てからときどき、兄はどうしてるかなってお父さんは言ってたのよ」

(まじかよ)

「あたしはお父さんはもう一緒には暮らせないけど。それでもあなたと妹のことを一緒に心配できるのはお父さんだけだしね」

「・・・・・・うん」

「でも、お父さんが妹友さんのお母さんと浮気したのは事実だから。だからそれとこれとは別。あなたは妹を救いなさい」

「わかった」

「それでもさ。それでもお父さんを本気で嫌いにはならないであげてね」

「・・・・・・」

694 : VIPに... - 2013/10/14 00:15:42.22 RcyYiRjKo 427/712


<場所を考えてよ。周りの人が見てるって>




(姫には母さんから待ち合わせ場所と時間を連絡しておくって言ってたな。いったい何を伝えたんだろうか)

(今日の本題なんか電話でできる話じゃねえだろうしな)

(しかし姫も混乱してるだろうな。いきなり母さんから電話で俺と会えなんて言われたら)

(・・・・・・正直あのくそ両親のことは許せない。母さんはああは言ったけど、あいつらが少しでも俺のことを気にかけていたとかもうどうでもいいんだ。むしろ姫にしたことが許せないんだから)

(それでも母さんの提案に乗ろう。うまくいくかどうかはわからない。いつまでも父さんに隠しておけることでもない。でも、姫と一緒に暮らせて生活の面倒もある程度母さんが見てくれるなら、賭けてみる価値はある)

(もちろん姫が了解してくれたらだけど。正直姫の反応が不安だ。あのときあいつは)



『姫が混乱して傷付いているのならもう俺の彼女としてじゃなくてもいい。妹としてでもいいから俺と一緒にいてくれ。姫。一緒に暮らそう』

『・・・・・・考えさせて』

『何でだよ。まだあんな嘘つきの親なんかに未練があるのかよ』

『ごめん。考えさせて』

『・・・・・(何でだよ)』



(・・・・・・姫がもし俺と一緒に二人で暮らすことに気がすすまないならこの話は終わりだ。母さんがいくら応援してくれたとしても)

(そうしたら姫はどうするんだろう。姫が父さんの浮気相手が誰だか知ったら、母さんと一緒に暮らすことを選ぶのだろうか)

(いや。それはないな。母さんを自分から奪って大好きな家庭を崩壊させる原因を作った浮気相手となんか姫が一緒に暮らすわけがない。ということは姫は高校卒業まで寮生活になるんだろうか)

(・・・・・・そろそろ家を出よう。遅れたらまずい。それに今まで行ったこともない場所を母さんに指定されたしな。迷うとまずい)

(父さんに目撃されることを心配してるのかな。とにかくここから遠い場所だし、もう行かないと)

695 : VIPに... - 2013/10/14 00:16:13.42 RcyYiRjKo 428/712


(・・・・・・この駅って初めて降りたな。通過したことは何度もあったけど)

(確か駅前のファミレスって言ってたな。ああ、あれだ)

(何か緊張してきた。今日でこの先のおれと姫の生活が決まるんだと思うと)

(・・・・・・いた。姫だ)

(私服姿の姫って久し振りに見た。こんなときだけどやっぱり可愛い)

「待った?」

「・・・・・・お兄ちゃん」

「待たせて悪かったな」

「・・・・・・」

「何で泣くんだよ」

「何でだろ。何かお兄ちゃんの顔見たら涙が出ちゃった。ちょっとだけ待ってすぐに泣き止むから」

「いいよ」

「だってうざいでしょ? お兄ちゃん」

「いいって」

「・・・・・・うん」

「俺さ。ここの駅って初めて降りたよ」

「あたしは二度目」

「来たことあるの? この町」

「だってママの会社があるところじゃん」

「あれ? そうだっけ(マジかよ)」

「一度だけママに会いに会社に行ったことがあって。そのときに来た」

「そうか(俺って姫のことはいろいろ知ってるのになあ。考えてみれば両親のことには無関心だったな。俺もあいつらのことをとやかく言えないのか)」

「昨晩ママから電話があって、ここでお兄ちゃんと待ち合わせして会いなさいって。大事な話だからって」

「そうか」

「うん」

「あのさ。俺と一緒に住むって話だけど」

「・・・・・・」

「つまりさ。姫さえよかったらだけど」

「・・・・・・うん」

「姫が迷っていることはわかるよ。俺なんかと暮らすのは不安だろうし、それに姫は父さんたちが大好きだったから。だから返事は姫が決めるまでは待っているつもりだったんだけど」

「ごめんなさい」

「いや。だけどさ。事情が変わったんでもう一度だけ言わせてもらう」

「事情って」

「姫。俺と二人で暮らそう。ずっと一緒に」

696 : VIPに... - 2013/10/14 00:16:44.66 RcyYiRjKo 429/712


「・・・・・・無理だよ」

「何で。俺ってそんなに頼りない? やっぱりあいつらと一緒の方がいいの」

「お兄ちゃんのこと大好き。多分、パパとママよりもお兄ちゃんを愛してる」

「・・・・・・だったら」

「だからだめ」

「どういうこと?」

「お兄ちゃん絶対あたしのために無理するから」

「無理って? 俺は姫のためならそんなことは全然苦にならないって」

「あたしと一緒じゃなければお兄ちゃんは大学を卒業できるし、就職だってできるでしょ。でもあたしと暮らしたらパパもママもきっとすごく怒ると思う。お兄ちゃんへの仕送りだってやめるはずだよ」

「それでも俺は」

「お兄ちゃんは絶対にあたしに富士峰を卒業させて大学に入らせるためなら、中退して働くとか言い出すもん。そんなのだめ。お兄ちゃんの方があたしより頭いいのに」

「ひょっとして。姫はそれを心配して一緒に住むって言ってくれなかったの?」

「うん。だってお兄ちゃんの将来を閉ざしちゃうなんてあたしがいやだから。あたしのためなんかに、あたしが愛している人には苦労させたくないから」

「姫」

「・・・・・・・ちょっと。場所を考えてよ。周りの人が見てるって」

「やっぱりおまえは俺の大事なお姫様だよ」

「だから。恥かしいよ」

「愛してるよ姫」

「こら離せ・・・・・・。しょうがないお兄ちゃんだなあ全く」

「姫」

「あたしも愛してる。大好きだよ、お兄ちゃん」

697 : VIPに... - 2013/10/14 00:17:15.14 RcyYiRjKo 430/712


<あたしがお婆さんになっても>




「ちょっと話があるんだ。聞いてくれるかな」

「聞くよ。だから手を離してよ」

「これでいいか」

「全くもう。少しはTPOをわきまえなさいよ」

「どうでもいいよ。それよかさ」

「何よいったい。大学を中退してあたしを養う話なら受け付けないよ」

「そうじゃねえんだよ。昨日母さんと会ったんだ」

「ママと? 昨日の夜は何にも言ってなかったけど」

「母さんが言ったんだよ。俺に姫を任せるから一緒に住めって。姫を守れって」

「・・・・・・嘘でしょ?」

「こんな大切なことで嘘言うわけねえだろ。あいつらのしたことは許せないけど、少なくとも母さんは姫にひどいことをしたって言う意味のことは言ってたよ」

「そうか・・・・・・」

「姫がどっちを選んでも不幸になるってこともわかっていたみたいだ。だから、急に俺に言ったんだ」

「なんて言ったの? ママは」



『あなたさ。本気で妹を泣かせないで幸せにする自信ある?』

『それが本気なら、あの子のことお願いしようかな』

『あなたの言うとおり、あたしたちは取り返しの付かないほど妹をないがしろにして傷つけた。本当はわかってたよ。だから、もう妹のためにはあなたに頼るしかないのかもしれないね』

『あなたがあの子を救ってくれるならあたしは味方になるよ』

698 : VIPに... - 2013/10/14 00:17:46.29 RcyYiRjKo 431/712


「ママがそんなことを」

「ああ。母さんも少しは自分の浮気相手以外のことも考えてたみたいだな」

「やめて」

「あ。悪い」

「でもそんなの絶対にパパが許すわけないよ」

「そうだな。だから父さんには黙って二人で暮らすことになる。母さんは新しいアパートを用意してくれるって言ってた」

「それにしたって。いったいどうすればいいのよ。あたしは寮に入れられてるし、そもそも来週にはパパとママに会ってどっちと一緒に暮らすのか返事しなきゃいけないし」

「母さんと一緒に暮らしたいって言うんだ」

「・・・・・・何で?」

「とにかく父さんと一緒に暮らしちゃだめだ」

「だから何でなの」

「(こいつはまだ妹友の母さんが父さんの浮気相手だってしらない。さすがに今この場じゃそれは言えないな)母さんの提案だからだよ」

「どういうこと?」

「おまえが父さんのところに行ったらそれで終わりだ。でもおまえが母さんを選べば、母さんは俺に姫を任せるって言ってた。新しいアパートで二人で暮らせって。俺に姫を守ってくれって」

「お兄ちゃん!」

「嫌なのか? 俺たちの学費や生活の面倒はみるて言ってたし」

「嫌なわけないじゃん。すごく嬉しい」

「・・・・・・姫」

「今でも離婚なんか考えるだけでも気持悪くなるけど。でも、それでも」

「うん」

「あたしって冷たい人なのかな。お兄ちゃんと一緒に暮らせるって考えたらあまり悲しく泣くなっちゃった」

「姫」

「こら。またそれか」

「もうずっと一緒にいよう。姫が生まれたときから一緒なんだ。こうなったら俺が死ぬときまで一緒に暮らそうぜ」

「ばか。勝手に死んだら怒るからね」

「ずっと先の俺が爺さんになったときの話だって」

「それでもだよ。あたしがお婆さんになってたって先に死んだら怒るからね」

「ああ」

704 : VIPに... - 2013/10/16 00:17:01.88 EPQ126Ffo 432/712


<デートじゃないって>




(妹と母さんのメールによると最初はごねてた父さんも最後は納得したようだな。最初から姫の意思には従うと母さんとお互いに約束してたこともあるんだろうけど)

(それよりも姫に引け目を感じてるんじゃないかって母さんは書いてたな。それはそうだ。姫の親友の母親を寝取るとか正気じゃ考えられないことをしでかしたんだからな)

(クソなのは母さんも同じだとは思うけど。不倫とか浮気しているって意味では父さんと変わらないんだし。でもやっぱり妹友の家庭を崩壊させるって、いくら何でも父さんがしていることの罪はでかいよな)

(それに自分勝手なようだけど。母さんは俺に姫を任せてくれたし)

(今日は妹は創立記念日で休み。そして母さんが外出許可を取ってくれたらしい。俺も今日は講義は午前中でパスして姫と)

(まだまだ油断できる段階ではないけど。それでも今日は姫に会えるだけでもわくわくする。久し振りに気分が軽く感じるな)

(いい天気だな。もうすぐ夏って感じだ)

(っていかん。気を抜かずに講義に集中しないと。姫を幸せにするために頑張らなくちゃいけないことは、前と全然状況は変わっていないんだし。それに。姫を守るって母さんに約束したんだしな)

(・・・・・・まあその約束は幼い頃から父さんともしてたんだけど。でも、もうあれは破棄だ。もちろん姫のことは全力で守るけど、それはもう父さんとの約束とか関係ない。父さんなんかに姫を守れなんて言う資格はない。これからは誰に言われたからじゃなく、自分の意思として、俺の全てを姫のためにだけにささげるんだ)

(姫を傷つけて他の男と再婚するとか言っている母さんだけど、少なくとも今は俺と姫の味方なんだし、母さんだけはもう少しだけ信用してみようか)

(今日は姫と会って。そして新居を見に行く)

(何か新婚みたいじゃんか)

(いや。浮かれてる場合じゃないな。両親の離婚から痛手をおった姫を俺が守って癒してやらなきゃいけない。彼氏とか言う以前に俺は姫の兄貴だ。家族大好きな姫が唯一今でも頼れる家族の最後の一人なんだから)

(・・・・・・って全然講義に集中出来てないじゃんか。あ。講義が終っちゃったよ)

女友「何か嬉しそうだね」

「おまえ。いたのかよ」

女友「何かちょっと前とはうって変わって元気そうじゃん。まあ、相変わらずぼうっとしているけど」

「別に元気とかじゃねえけど」

女友「人のこと振っておいて元気とはどういうこと?」

「あ、いや。だから別に元気じゃなくて」

女友「冗談だよ。そんなにびびるなよ」

「・・・・・・ごめん」

705 : VIPに... - 2013/10/16 00:17:35.18 EPQ126Ffo 433/712


女友「だから冗談だって。何よ、あたしが君を引きずって暗い方がいいの?」

「そんなことは」

女友「重い女なんてやでしょ? そんなに敬遠しないでよ」

「そんなんじゃねえよ」

女友「まあ俺がこいつを振ったんだとか思わないで気楽に付きあってよ。あたしだって学内では君と女しか友だちはいないんだしさ」

「あ、うん。悪い」

女友「謝るなって。あたしはプライドは高いけどさ。君に告って振られたことにはそんなに傷付いてないからさ」

「・・・・・・何で?」

女友「うーん。何でかなあ。多分、君の相手が普通の女の子でさ。その子と比べられて負けたのならすごくプライドが傷付くかもしれないけどさ」

「相手って」

女友「わかってるよ。君は、どうせ妹ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「いやその」

女友「あたしは確かに外見ではこの大学の誰にも負けないくらい綺麗だし、性格も可愛いいよ?」

「・・・・・・(自分で言うか。それに外見はともかく性格は)」

女友「でもさ。君と妹ちゃんって十七年間の積み重ねがあるみたいだし、いくらあたしが可愛くてもそれには勝てないや」

「何言ってるんだ」

女友「あはは。君、今日は珍しく表情が明るいけどさ。もしかしてこれから妹ちゃんとデート?」

「別にデートじゃねえけど。ちょっと用事があって妹と会うことは会う」

女友「君ってどんだけ自分の妹のことが好きなのよ」

「・・・・・・」

女友「まあいいいや。君に振られたおかげで結果的に女と気まずい仲になることもなさそうだし」

「前向きだなおまえ」

女友「まあ、いい男なんか他にもいっぱいいるしね。つうかあたしが惚れた歴代の男の中では、あんたみたいな男は珍しいし」

「どういう意味だよ」

女友「そのとおりの意味だよ」

「あの・・・・・・(泣いてるのか?)」

女友「じゃ、じゃあね。これからも友だち。OK?」

「ああ、そうだな」

女友「さっさと妹ちゃんとデートしてこい」

「デートじゃないって」

706 : VIPに... - 2013/10/16 00:18:06.79 EPQ126Ffo 434/712


「・・・・・・お兄ちゃん」

「今日は俺の方が早く来てだろ?」

「何張り合ってるのよ。大人気ない」

「これでこの間待たせた借りは返したぜ」

「・・・・・・本当にバカなんだから」

「行こうぜ。もう鍵は母さんからもらってるし」

「うん」

(姫が両手で俺の片腕に抱きついてきた。何か幸せだ)

「どうしたの?」

「何でもねえよ。行くぞ」

「偉そうに」

「そんなんじゃねえよ」

「何マジになってるのよ。冗談だって」

「わかってるって。とにかく行こうぜ」

「はいはい」

「ここかな」

「外観は思っていたより綺麗だよね」

「何か新築っぽいな」

「中を見ないと何とも言えないよ」

「それはそうだ。じゃあ、見に行こう」

「そうだね」

「2DKかな」

「中も新築っぽいよよね。壁とかきれい」

「お。これってユニットバスじゃないじゃん」

「それって重要なの?」

「当たり前だろ。おまえは何もわかってない」

「何でよ」

「ユニットバスっていうのはトイレと一緒なんだって。一人暮らしなら別に問題ないけどさ。一緒に暮らすなら」

「訳わかんない」

「俺がシャワー浴びてるとき姫がトイレに行きたくなったらどうするんだよ」

「ちょっとごめんねって言ってトイレに行くけど」

「・・・・・・おい」

707 : VIPに... - 2013/10/16 00:18:44.45 EPQ126Ffo 435/712


<ごめんね。でももうパパとママは一緒に暮らせないから>




「でもここいい部屋だよね。新しいし、ここならお兄ちゃんの大学もあたしの学校にもそんなに遠くないし」

「まあ、母さんはその辺を考えてここを選んだんだろうな」

「でもさ、ちょっと部屋が変だよね」

「変って? 2DKだぞ。俺たちにはちょうどいいじゃん」

「六畳間二つよりもっと広い部屋一つでいいのにね」

「え? だって二人暮しなんだし」

「どうせ一緒に寝るんだし一部屋無駄じゃん」

「おい」

「あ、でも。一部屋は荷物置き場にしよう。あたしの服とか置く場所にしてさ。今の寮って収納スペース最悪だし」

「そう(何? いつも一緒に寝るってこと?)」

「部屋は二人一部屋だし。まあ、同室の子とは仲良くなったんでいいんだけどさ、とにかく収納スペースがないのよ。だから六畳間一部屋あるくらいがちょうどいいね」

「それってさ。普段とか寝るときとか俺と一緒の部屋でってこと?」

「うん」

「うんってさ。まあいいか」

「嫌なの?」

「そんなわけねえよ。でもさ」

「でも?」

「いや。何でもない」

「・・・・・・お兄ちゃん。今日は意地悪だよ」

「そんなことないって。でも、ごめん」

「このキッチンが問題かな」

「何で?」

「シンクとか小さいし。コンロも一口しかないよ」

「それって問題なの?」

「だって使いづらいじゃん」

「・・・・・・母さんに文句言う?」

「・・・・・・言わない。お兄ちゃんと一緒に暮らせるだけでもう何も文句なんてないからね」

「ならよかった」

「・・・・・・夢みたい」

「何が?」

「パパとママが離婚するって言って。あたし、どうしていいかわからなくて。寮にいるから誰にも自由に連絡できないし。でも、突然お兄ちゃんと一緒に暮らせることになって」

708 : VIPに... - 2013/10/16 00:19:15.66 EPQ126Ffo 436/712


「あのさ」

「うん」

「答えづらいかもしれないけど。おまえ土曜日に父さんと母さんと話し合いしたんだろ?」

「うん。した」

「どんな感じだったの?」

「あのね」



『姫』

『妹ちゃん』

『・・・・・・』

『姫。本当にすまない』

『ごめん』

『どうしてもあたしがどっちか選ばなきゃいけないの』

『すまん。パパもママも姫と一緒に暮らしたいんだ。だから、もう姫が選んでくれないと何も決まらないんだよ』

『ごめんね。でももうパパとママは一緒に暮らせないから。妹ちゃんが好きな方を選んでね』

『・・・・・・ママ』

『どちらを選んでも姫に不自由はさせない。ママの相手のバカ男もそれは保証しますって言ってたしな』

『・・・・・・パパの相手のふしだらな既婚女も同じことを言ってたみたいよ。どこまで本気か知らないけど』

『何だと』

『あなたが最初に言い出したんでしょ! あたしの彼は独身です。あなたのW不倫相手と違ってね』

『何が独身だ。不倫がばれて奥さんに離婚されただけじゃないか』

『もうやめて』

『・・・・・・ごめん』

『姫。悪かった。こんなことを言うつもりじゃなかったんだ』

『パパもママもあなたにはひどいことをしているのはわかってるのよ』

『そうだな』

『そのうえであなたに聞くけど。あなたはどっちと一緒に暮らしたい?』

709 : VIPに... - 2013/10/16 00:19:45.01 EPQ126Ffo 437/712


「最初はあれだけ事前に言うことは準備してたのに。それでもいざというときパパが気になって」

「(それは姫が父さんの相手を知らないからだ)うん」

「でも迷うまでもないよね。お兄ちゃんと、少なくともママの公認で一緒に暮らせるんだもの」

「母さんと一緒に暮らすってちゃんと父さんに言ったのか」

「言ったよ。パパはそれを聞いてつらそうだったけど」

(まあそうだろうな。でも、内心じゃほっとしているのかもしれない。妹友と一緒に暮らすことになるんだし)

(・・・・・・そうとも限らないか。彼氏君と妹友が父親の方を選ぶ可能性だってあるし)

(いや。塾で見かけた父さんと妹友の様子だとそんなことはないかもな)

(それよりよく考えれば下手したら彼氏君と姫が一緒に暮らすことになってた可能性があるんだよな)

(それに比べたら今の状態は天に感謝したいくらいなんだよな)

「パパって嫌なこと言ってたよ」

「どんなこと?(あいつめ。浮気だけじゃ足りなくて更に姫に嫌がらせをしたのか)」

「ええとね。ママの再婚相手にあたしが変なことをされたり虐待されたとしたら、ママもその相手もただじゃおかないって」

「・・・・・・(正直、姫くらい可愛いとそういう心配もないわけじゃない。でも、あのクソ親父が言えた立場か)」

「あとね。これはパパとママで少し言い合いになったんだけど。あたしはパパと一月に一回は面会するんだって」

「言い合って?」

「ママはあたしがパパに会いたいならいつでもパパと面会させるけど、あたしの意思に反して面会の頻度を決めるべきじゃないって」

「まあ正論だよな」

「でもパパは、ママが嘘を言うかもしれないって。ちゃんと決めておかないとあたしがパパに会いたいのに間に入ったママが邪魔をする可能性があるからって」

「どろどろだな」

「・・・・・・うん。パパとママの言い争いなんて初めて見たよ。こんな思いをするならパパにもママにも会いたくない」

「姫」

「もうお兄ちゃんだけそばにいてくれたらそれでいいよ。あたしが信じられるのはもうお兄ちゃんだけだし)

「姫。かわいそうに」

「どっか行っちゃやだ」

「何が?」

「あたしには、もうお兄ちゃんしかいないの」

「行かないよ。ずっと一緒にいるよ」

「何で。何でこうなるんだろう。もういやだ」

(・・・・・・これで父さんの相手が妹友の母親なんて知ったら姫は)

(でも、早晩姫はそのことを知ることになるんだ)

(・・・・・・)

710 : VIPに... - 2013/10/16 00:20:17.97 EPQ126Ffo 438/712


<『お兄ちゃん好きだよ』>




「・・・・・・どこにも行かないから」

「うん」

「落ちついた?」

「もっと強く抱いてくれたら落ち着くと思う」

「おまえなあ」

「本当だって」

「それで? 父さんとの面会は結局どうなったの」

「あたしが会いたいときにパパに電話することになった。それならママに邪魔もされないしあたしの意思にも沿えるからってパパがそう言って」

「母さんも同意したわけか」

「うん。それでいいでしょって」

「姫ってさ。父さんとこの先会いたいとか思う?」

「・・・・・・よくわかんない」

「まあ、そうだよな」

「でもしばらくはパパにもママにも会いたくない」

「そうか」

「自分の中で整理がつくまでは。だってあたしのこれまでの人生の目標とか生き甲斐が突然なくなっちゃったんだもん。そんなにすぐには割り切れない」

「姫にとってはまあそうだろうな。無理もないよ」

「お兄ちゃんは?」

「え?」

「お兄ちゃんはパパとママが離婚しても平気なの?」

「そんなわけはないけど」

「お兄ちゃんの親権とかってどうなってるの?」

「どうもこうもないだろ。父さんと母さんがいつ離婚するかによるけど、成人しちゃえば親権も何もないし。まあ、大学卒業までは金の面倒は見てくれるみたいだしね」

「・・・・・・お兄ちゃんとパパやママって、お互いに未練とかないの?」

「どうだろう? 両親が大切なのは姫のことだろうし。俺にとって大切なのも姫だしね」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど。お兄ちゃんだって本当は悲しんじゃないの」

「わからん。あまり考えないようにはしている。むしろ、姫のことばかり考えているよ」

711 : VIPに... - 2013/10/16 00:20:49.04 EPQ126Ffo 439/712


「あたしと一緒だね」

「そうだね。とにかく姫と一緒に暮らせるんだから。俺には今はその他のことはどうでもいいよ(・・・・・・妹友の母さんと父さんとのこと以外はだけど)」

「あたしもそうかも。もう割り切らなきゃいけないのかもね」

「とにかくさ。うちの家族は全てが崩壊したわけじゃない。俺と姫だけでも家族を続けよう」

「うん。お兄ちゃん好きだよ」

「ちょっと前なら姫からそんな言葉を聞くことなんか期待できなかったのにな」

「そんなことないよ。あのときだってあたしは」



『嫌いじゃないという感情を表わす単語を次の中から一つ選べ』

『あたし国語は苦手だよ』

『1好き 2好き 3好き』

『・・・・・・ふふ』

『何笑ってるんだよ』

『ベタなジョーク。そんなにあたしに好きって言わせたいの?』

『言わせたい』

『お兄ちゃん好きだよ』



「あのときは姫に振られたんだよな」

「うん。でも、ちゃんとお兄ちゃん好きだよって言ったじゃん」

「そうだったな」

「付き合えるかどうかは別として、あたしの気持ちはあのとき正直に言ったんだよ」

「そうだな」

「・・・・・・いい部屋だね」

「不満はねえよな」

「じゃあ、そろそろ帰ろう。門限もあるし」

「来週で退寮するんだろ」

「うん。ちょうど月末だしね」

「荷物は?」

「たいしてないの。かさばるのは宅急便で送るから」

「じゃあ俺は自分のアパートを引き払ってから、先にここで住んでるな」

「うん。散らかさないでよ」

「わかってる。早く来い」

「うん」

「じゃあ送ってくよ」

「ありがと」

712 : VIPに... - 2013/10/16 00:21:19.48 EPQ126Ffo 440/712


「じゃあな」

「送ってくれてありがとう」

「先にあの部屋で待ってるよ」

「うん。お兄ちゃん?」

「・・・・・・校門の前だぞ」

「誰もいなかったからね。じゃあね」

「ああ」

(・・・・・・姫。別れるのは寂しいけど、すぐに一緒に暮らせるんだから)

(帰ろう)

(・・・・・・メール?)

(彼氏君? いったい今さら何だって言うんだろう)

(・・・・・・どれ)

718 : VIPに... - 2013/10/20 23:47:44.73 TvJiHvs/o 441/712


<後悔してるの?>




(・・・・・・ノック? 妹だ)

(いや。用心してし過ぎることはない。これだけ危ないことをしているんだし)

(・・・・・・)

「お兄ちゃん?」

「(姫だ)今開けるよ」

「・・・・・・来たよ」

「うん」

「・・・・・・何?」

「いや。入ったら?」

「・・・・・・うん」

(おかしい。一緒に暮らせることになって、俺も姫もあんなにテンションが高かったのに。緊張するっていうか何かぎくしゃくするな)

「座っていい?」

「うん。つうか、いいのも何も今日からはおまえの家じゃねえか」

「そうか」

「そうだよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「これ」

「何?」

「ママからお兄ちゃんに渡してって。通帳みたい」

「ああ(仕送りしてくれるっていう通帳か。どれどれ)」

(・・・・・・何だこれ。七桁って。一括でくれたのかよ。いくら何でも子どもを信用しすぎだろ)

「どうしたの?」

「おまえ、通帳の中見た?」

「見てないけど。何で?」

「これ、俺たちの生活費っていうか、姫と俺の大学卒業までの学費分の金額が入金されてるぜ」

「そうなの? じゃあ無駄遣いしないようにしないとね」

「感想はそれだけかよ」

「他に何て言えばいいの?」

719 : VIPに... - 2013/10/20 23:48:47.83 TvJiHvs/o 442/712


「いやさ。母さんだって世間的にまずいと思っているだろうし、必ずしも積極的に俺と姫の関係に賛成したわけじゃないと思うんだよな。つまり、他に選択肢がないと思ったから消極的に賛成してくれたわけで」

「うん」

「それなのにこの金額っつうのはさ。よほど俺たちを応援しているか、それとももう俺たちなんかと縁を切りたいのかどっちかじゃないかな」

「・・・・・・どっちでもないんじゃない?」

「何で」

「何となく」

「そうか」

「うん」

「そうかもな」

「荷物整理するね」

「手伝うよ」

「うん」

「おまえの部屋あっちな。こっちは俺の荷物を入れたから」

「・・・・・・」

「おまえはこっちの部屋に・・・・・・って、どうした?」

「・・・・・・」

「何で泣いてるの」

「・・・・・・」

「・・・・・・悪かったって」

「・・・・・何よ」

「・・・・・・冗談だって」

「・・・・・・」

「そうだよな。一緒の部屋で暮らすんだったよな」

「何で意地悪するの・・・・・・本当は嫌なの?」

「悪かったって」

「・・・・・・どきどきして。心配で。いっぱいいっぱいで」

「姫」

「それでもやっぱり嬉しくて。パパとママがあんななのにこんなに嬉しいあたしって変なんじゃないかって」

「うん」

「こんなに胸が変になりそうなのに。一生懸命ここまで来て頑張ってこの部屋のドアをノックしたのに」

「・・・・・・ごめん」

720 : VIPに... - 2013/10/20 23:49:26.31 TvJiHvs/o 443/712


「一緒に住むって決めたこと、後悔してるの?」

「してないよ」

「だったらもう勝手にいろいろ悩むのはやめて。お兄ちゃんはいつもそうじゃない。いつも行動したあとに、決めたあとに勝手に悩んで自滅しちゃうの」

「・・・・・・」

「あたしも決めたの。そう決めてくれたお兄ちゃんの気持が嬉しかったから。なのに何であたしが決めたあとにお兄ちゃんは勝手に悩んで勝手に後悔するのよ」

「悪かったよ」

「もうやだ」

「通帳の金額を見て、ちょっと不安になっただけだよ。後悔なんかしてないよ。ごめん」

「・・・・・・」

「姫とずっと一緒に暮らせることが本当に嬉しいんだ」

「・・・・・・」

「これからはずっと俺が姫を守れることがさ」

「・・・・・・お兄ちゃん」

「本当だよ。すげえ嬉しい。通帳のこととか悪かった。俺は考えなしだから、これは姫に預けるよ。姫が管理してくれ」

「本当?」

「本当に本当だ」

「・・・・・・うん」



「そろそろ姫の荷物を何とかしよう」

「あたしのセリフでしょ。それは」

「まあそうだけど」

「これからは時間だけはいっぱいあるじゃない。一緒にいる時間は」

「そうだな」

「だから急がなくてもいいの。何もかも」

「そうだね」

「でも、そうだね。お兄ちゃんの言うとおりそろそろ片付けよう。お夕飯の支度もしないといけないし」

「買物に行かないと何もないぞ」

「途中で買物してきたよ。今日はオムライスだよ」

「やった」

「じゃあ、あっちの部屋は荷物部屋ね」

「わかった」

721 : VIPに... - 2013/10/20 23:50:12.00 TvJiHvs/o 444/712


<青い鳥>




「とりあえずこれくらいでいいかな。お兄ちゃん」

「うん。いいんじゃね」

「今、何時」

「そろそろ七時になるな」

「いけない。本当にもう夕ご飯作らないと」

「無理しなくてもいいよ。外で何か食いに行くか?」

「ううん、最初の日だし。あたしが作りたい」

「・・・・・・そうか」

「じゃあ、お兄ちゃんはご飯できるまで少し休んでて」

「ありがと」

「・・・・・・お礼なんて」

「・・・・・・そうだね」



from:彼氏
to:お兄さん
sub:無題
『本当にすいませんでした。でもこんなつもりじゃなかった。ごめんなさい。旅行に誘ってくれてありがとうございました』



(・・・・・・何なんだいったい)

(謝っていることだけはわかったけど。それ以外は何にも理解できねえ)

(返信しようがない。姫に見せれば意味がわかるのかな。何と言っても姫はあいつの彼女だったんだし)

(・・・・・・だった、でいいんだよな。ちゃんと別れたって話は聞かないけど)

(いや。もう先走って勝手に悩まないと決めたんだ。姫が俺の彼女のつもりでいるかどうかは、今となってはよくわからんけど。一緒に暮らすって姫が決めた以上、余計なことは考えないようにしないとな)

(もう彼氏君も妹友も女もどうでもいい。誰に避けられたっていいじゃんか。姫が俺と暮らすことを選んでくれたんだから)

(幼い頃の父さんとの約束なんかどうでもいいけど、母さんとの新しい約束は絶対に守る)

(姫を守ろう。姫を不幸にしないようにしよう。両親の離婚で傷付いている姫を癒そう)

(それだけで十分だろ。つうかそれだって生半可な覚悟でできることじゃねえよ)

(・・・・・・もう迷わない)

722 : VIPに... - 2013/10/20 23:50:50.38 TvJiHvs/o 445/712


「お兄ちゃん、テーブル片付けて」

「ああ? うん」

「何ぼうっとしてるの。オムライス運ぶんだからテーブル!」

「わかった」

「ほら。スマホどけて」

「おう」

「はい。どうぞ」

「オムライス、久し振りだよ」

「そんなに好きなら外で食べればよかったのに」

「俺が好きなのはこのオムライスだからさ」

「そうか」

「そうだよ」

「じゃあ、はい。いっぱい食べてね」

「うん。いただきます」

「どうぞって。そんなに慌てなくても」

「何笑ってるの。つうか姫は食わねえの」

「食べるよ。いいからお兄ちゃんは冷めないうちに食べてよ」

「ああ」

「そういう風に食べてくれると作りがいがあるよ」

「・・・・・・本当に美味しいよこれ」

「食べながら喋っちゃだめだって・・・・・・はい」

「はいって。姫の分がなくなるじゃん」

「お腹空いてないし。それよか食べてくれる方がうれしい」

「じゃあ遠慮なく」

「ふふ」

「何?」

「お兄ちゃん子どもみたい。小学生の頃を思い出すなあ」

「何懐かしがってるんだよ」

「顔にケチャップ付いてるよ・・・・・・はい」

「・・・・・・」

「どきってした?」

「した」

723 : VIPに... - 2013/10/20 23:51:22.13 TvJiHvs/o 446/712


(何この幸せなシチュエーション。こういうことなんだよな。姫と二人で暮らすって)

(考えてみたら別に目新しいことはない。エプロン姿の姫でさえ。いや、可愛いし思わず手を伸ばしたくはなるんだけど)


(でもこれって、今までの俺たち二人の過ごしてきた生活の再現だよな)

(もともと夕飯なんか家族全員で食べることは滅多になかったから、姫が小学生の頃までは近所の蕎麦屋の出前かコンビニ弁当だったし)

(そんで姫が富士峰に合格して中学生になったある日、突然料理を始めたんだよな。部活で習ったからって)

(あのときキッチンに立った姫のエプロンを着けた後姿のシャメは今でも俺のお姫様フォルダーの中にある)

(考えてみたらすごく恵まれてたんだよな、俺って。大好きな姫といつも夜二人きりだったんだし。今にして思えばもっと大切に時間を過ごすんだった)

(あの頃から俺は姫のことが大好きだったんだから、もっと姫に優しくしてやればよかったんだ。あの頃は当たり前だと思っていた姫との暮らしがこんなに貴重で得がたいものになるなんて、あの頃の考えなしの俺は思いもしなかったんだよな)

(母さんに感謝しよう。父さんに浮気されて対抗して自分も男を作ったどうしようもない母親だけど。少なくとも俺と姫のことは心配して応援してくれたんだから)

(姫が前に言ってたけど、幸せっていうのは身近なところにあるんだな。ただ、当たり前すぎてなかなかそのことに気がつかないだけで)

(青い鳥か。大学に入るとかそういうことで環境を変える必要なんかないんだ。自分では気がつかなかった幸せは身近な日常に潜んでいた)

(俺はばかだ。姫に告白して困らせたり、勝手に家を出て一人暮らしをしたり)

(女の告白に答えたり妹友を気にしたり。そんなことのどこに俺の心の平穏があった? そのどこに妹と一緒に飯を食うそれだけで得られる安らぎがあった?)

(ねえじゃん。だからもういいじゃんか。彼氏君が何を悩んで何で謝罪のメールをしてきたかなんて。女が何で俺を避けてるかなんて)

(姫と二人でささやかに暮らせる日々を奇跡的に取り戻せただけで十分すぎるじゃねえか)

「お兄ちゃん?」

「あ、ああ」

「まさか。また勝手に考え込んで悩んでいるんじゃないでしょうね」

「違うよ」

「それならいい。食べ終わったみたいだし、あたし洗い物しちゃうから先にお風呂に入って」

「うん」

「あたしは明日のお弁当の下拵えしたらお風呂に入るから。先にベッドに行ってもいいけど、勝手に寝ちゃったら怒るよ」

「・・・・・・え」

「一緒に寝るんだし。お兄ちゃんが寝てたら寂しいじゃん」

「・・・・・・寝ねえよ、ばか。姫が来るのを待ってるって」

「それならいい」

724 : VIPに... - 2013/10/20 23:54:27.94 TvJiHvs/o 447/712

<蜜月>


(夢を見ているのかもしれない)

(これは覚めることのない夢だ。すごく日常的でありながら、いつまでも続いて欲しいと心底から願えるような夢)

(とりあえず、昨日は姫が俺のベッドにそっと入ってきた。そして俺に寄り添って・・・・・・・。Tシャツ越しの姫の華奢な骨格)

(まあ、俺と姫はもう結ばれているので別にああいう状況が始めたと言うわけじゃないんだけど)

(でもなんか違った。抱くとか抱かないとか、寝るとか寝ないとかじゃねえんだ)

(そういうことじゃない。腕の中の姫は細くて小さくて。普通ならあるべき親の庇護を亡くした姫のことが俺は何よりもいとおしくて)

(姫を好きだというだけなら昔からそうだ。でも、ここまで姫を守りたいと思ったのは初めてだ)

(身近な幸せに気がついた俺だけど。前みたいに姫と寄り添って有頂天になるというより、もっと真面目で静かな思いを込み上げてくる。俺が姫を守るんだなんて、大袈裟に言う気はねえけどさ)

(大学に着いたばかりなのにもう家に帰りたくなってきた。別に帰っても姫は学校だし姫と会えるわけじゃねえけど)

(今日も姫から弁当を渡された。これだけが楽しみだ)

(よし。勉学に励もう。成績をよくしていい企業の内定を勝ち取ろう。姫に不自由させないために。父さんなんかに負けないために)



女友「おーい」

(負けちゃだめだ。負けちゃ)

女友「一限から寝るなよ」

「負けちゃ・・・・・・むにゃ」

女友「君が何と戦っているのか知らないけどさ。とりあえず目の前の一限の講義と戦ったらどうかな」

「逃げちゃだめだ・・・・・・ってあれ。女友か」

女友「逃げちゃだめってあんたは碇シンジか」

「何言ってるの? おまえ」

女友「それはこっちのセリフだって。何でいきなり寝てるのよ」

「つい」

女友「そして君は夢の中で何と戦ってたのかな」

「・・・・・・何でもいいじゃん」

女友「君もわけわかんないよね」

「何で?」

女友「前に会ったときはこの世の春みたいな明るい顔してたくせにさ」

「別に今だって暗いわけじゃねえよ」

女友「うん。それはそうだ。何か複雑な表情で寝ぼけてたよ」

「複雑なって」

女友「何か大人の表情っていうの? ちょっとだけ格好よかった。あの表情だけならモデルになれるかも」

「何なんだよ。それに表情だけって」

女友「やべ。教授が見てる。ほれ、テキストに集中しろよ」

「あいよ」

725 : VIPに... - 2013/10/20 23:54:59.33 TvJiHvs/o 448/712


女友「君、お昼はどうするって・・・・・・それ、お弁当?」

「うん」

女友「何かいいことがあったみたいね」

「別に」

女友「・・・・・・あんたらさあ。もう本当に付き合っちゃえば?」

「何の話だよ」

女友「・・・・・・それとももうとっくに男女の仲なのかな」

「・・・・・・」

「女友~。やっほ」

女友「ああ女か。やあ」

「一緒に学食行かない? って。あ」

(女か)

「・・・・・・ごめん。あたし行くわ」

女友「こら待て。あんたはいったい何に対して謝ってるんだよ」

「いや、その。ごめん」

(何言ってるんだこいつ)

女友「だから逃げるなって。ちょっと待て」

「あの・・・・・・あたし」

女友「あんたさ。あたしから逃げようとしているの? それとも兄君から逃げたいの?」

「ううん。違くて。っていうかそんなんじゃなくて」

女友「ちょっと落ち着け。っておい! 逃げるなって」

「手を離してよ」

女友「だって。手離したらあんた逃げるじゃん」

「・・・・だって」

女友「だってじゃない。何で親友のあたしから逃げようとするのよ」

「女友から逃げたいなんて言ってないでしょ」

女友「じゃあ兄君から逃げたいのか」

「ち、違う」

女友「表情から察するに図星か

「・・・・・・そうじゃ」

女友「あんたさあ。誤解も解けて兄君と友だちまで巻き戻したんじゃなかったっけ」

「・・・・・・うん」

女友「じゃあ何で兄君を避けるのよ」

「・・・・・・親友だから」

女友「はあ?」

「あんたはあたしの親友だから」

女友「何言ってるのよあんた」

(何言ってるんだこいつ)

729 : VIPに... - 2013/10/23 22:54:57.53 bIPHYdQMo 449/712


<やっぱりこの二人、怪しいな>




妹友(何かイライラする。何でだろう)

妹友(別におかしいことじゃないのに。お兄ちゃんに好きな人ができたって。それがあたしの友だちだって別に全然変なことじゃないのにね)

妹友(・・・・・・まさか)

妹友(ありえない。でも・・・・・・そうなのかな)

妹友(とりあえず。してしまったことは取り返しがつかないよね)

妹友(あの反応を見る限りうちのお兄ちゃんが好きだってことはなさそうだけど)

妹友(・・・・・・何であたし。ほっとしているんだろう)

妹友(妹ちゃんって誰か好きな男の子いるのかな)

妹友(他校の男の子に今までいっぱい告白されてたのは知ってるけど。でも全部断っていたよね)

妹友(・・・・・・)

妹友(まさか。そういえば今日は用事があって部活はお休みだっけ)

妹友(家の用事って言ってたけど)

妹友(あ・・・・・・妹ちゃんが校門から出て行く)

妹友(・・・・・・別にたいしたことじゃないよね。ちょっと確かめてみるだけだし)

妹友(よし)



妹友(あ~あ。やっぱりか。部活をサボって向う先が明徳高校って。何かやだなあ)

妹友(別にいいのよ。妹ちゃんがお兄ちゃんに興味がないことさえ確認できればそれでいいの)

妹友(・・・・・・なのに。何でかわからないけどいらいらする)

妹友(校門で誰かを待っている。違ってていてほしいけど多分そうなんだろうなあ)

妹友(やっぱりむしゃくしゃする。親友が間違った方向に目を瞑って歩いていくのを見なきゃいけないことに対して)

妹友(見てらんない。何よあのそわそわした様子。今まで誰にだってあんな表情を見せたことなんかないくせに)

妹友(お兄ちゃんのことを何とも思っていないことにほっとしたけど。それでも妹ちゃんのああいう姿を見ると何かむかつく)

妹友(自分のお兄さんなのに。妹ちゃんは昔からお兄さんには紹介してくれないけど。それでもどう考えてもうちのお兄ちゃんの方が格好いいと思う。妹のあたしから見てもお兄ちゃんって格好いいし、昔からもててたし)

妹友(・・・・・・じゃなくて。あたし、何考えてるんだ)

妹友(あそこの木陰まで近づこう。会話が聞こえるかもしれないし。気づかれたら気づかれたでいいや)

妹友(もう、何かどうでもいい。とにかく見届けよう)

730 : VIPに... - 2013/10/23 22:55:26.96 bIPHYdQMo 450/712


妹友(しかし妹ちゃんのあの様子ったら。確かにあの子は可愛いけどさ)

妹友(でもあれって自分の兄貴を待っている姿じゃないでしょ。まるで付き合い出したばかりの彼氏と待ち合わせしているみたい)

妹友(あ。あの人って)




「遅い」

「遅いと言われても。何時に来てれば遅くなかったかすらわからんのに」

「何でそんな簡単なことがわからないのよ。お兄ちゃんもしかしてバカ?」



妹友(やっぱりあの人が妹ちゃんのお兄さんか)

妹友(うちのお兄ちゃんの方が全然イケメンなのに)



「それはそうかもしれないが、少なくとも偏差値が痛いおまえに言われる筋合いはないと思う」

「そう言えばたまにいるよね。成績だけはやたらいいけど、常識とか社会性とかが欠けている男子って」

「ちょっと待て」

「あ、社交性もだ」

「・・・・・・」

「そういう男の子に限って必ずぼっちなんだよね。何でだろう?」



妹友(・・・・・・妹ちゃん。何か楽しそうだな。あんなに楽しそうにお兄さんをからかってる。男の子とあんなに楽しそうに話をする妹ちゃんって初めて見たな)

妹友(何か言い合いながら歩き出した)

妹友(初々しい付き合いたてのカップルって感じじゃないね。何というか)

妹友(何というか。昔からずっと一緒に暮らしてきた夫婦みたい)

妹友(・・・・・・)

妹友(いやいや。だから二人は本当に兄妹なんだからそれじゃだめだってば)

妹友(妹ちゃんって、本当に異性としてお兄さんのことが好きなのかな)

妹友(何かただ仲のいい兄妹のような気もするし)

妹友(とりあえずストーキングしよう・・・・・・じゃない。後をつけよう)

妹友(さすがに会話が聞こえるほどは接近できないか)

妹友(なんか微妙な距離感。兄妹にしてはお互いに近すぎるような気がするし、恋人同士にしては離れすぎている気がする)

妹友(あれ? なんか妹ちゃん、少し怒っているみたい)

妹友(お兄さんはあまり慌てている様子はないけど・・・・・・)

妹友(ひょっとして妹ちゃんの片想いだったりして)

妹友(気になるんだけど会話が聞こえない。もう少し近づかないとだめかなあ)

妹友(・・・・・・)

妹友(もういっそ声かけちゃおうか。偶然に出合った振りをすればいいんだし)

妹友(そうよね。そうしよう。じゃあ、あっちの道から先回りして)

妹友(ちょっと駆け足で)

731 : VIPに... - 2013/10/23 22:55:58.52 bIPHYdQMo 451/712


妹友(はあはあ)

妹友(あ、いた・・・・・・よし)

妹友「妹ちゃんだ。妹ちゃーん」

「妹友ちゃん」

妹友「わあ、偶然だね」

「そうだね。今、帰り? 部活終ったの」

妹友「うん。今日はミーティングだけだったから。それよか今日はお家の事情で部活休んだんじゃなかったの」

「え。ああ、うん」

妹友「じゃあ、何でまだこんなとこにいるの」

「そ、それはさ」

「初めまして。いつも妹がお世話になってます」

妹友「(お兄さんの方が話しかけてきた。ちょっと軽い人なのかな)ああ。妹ちゃんのお
兄さんですか。こちらこそ妹ちゃんにはいろいろお世話になってます」

「こんなやつにあいさつしなくていいから」

妹友「こんなやつって」

「こんなやつって」

「いいからお兄ちゃんは黙ってて」

妹友「(やっぱお兄さんがあたしと知り合うのが嫌なのかな)なあんだ。妹ちゃんの用事
ってお兄さんと一緒に帰ることだったのかあ」

「違うよ」

「違うのか」

妹友「違うの?(違わないでしょうが)」

「違うって」

「だって明らかに俺の学校の校門前で俺を待っていて、しかも俺が来るのが遅いって怒ってけど、なんだ、あれてって待ち合わせじゃなかったのか」

「だからあんたは黙ってろ」

妹友「じゃ、じゃあ。家の用事を邪魔したら悪いしあたしはこれで(何が家の用事よ)」

「ぷ・・・・・・って痛え」

「じゃあまた明日学校でね。妹友ちゃん」

妹友「うん。お兄さん失礼します」

「またね」

「またねって言うな。会ったばっかなのに図々しい」

妹友「ふふ。妹ちゃんもお兄さんもまたね(やっぱりこの二人、怪しいな)」

732 : VIPに... - 2013/10/23 22:56:29.58 bIPHYdQMo 452/712


<おまえが犠牲になることはないって>




妹友「ただいま」

彼氏「おかえり。遅かったじゃん。今日も部活だっけ」

妹友「うん(サボって妹ちゃんを尾行したなんて言えないよね)」

彼氏「今夜も親父たち帰り遅いって」

妹友「そうなんだ。あ、夕ご飯まだでしょ」

彼氏「コンビニで適当に買っておいた。こういうのでよかった?」

妹友「・・・・・・あたしが作ったのに」

彼氏「いいよ、そんなの。おまえが母さんの替わりをすることはないよ」

妹友「だって。お兄ちゃんコンビニのお弁当嫌いでしょ」

彼氏「うん。でも、おまえが犠牲になることはないって」

妹友「犠牲って」

彼氏「だってそうだろ? 仕事かなんか知らないけどさ。夫婦で顔を合わせたくないからって仕事に逃げている親の犠牲に、何でおまえがならなきゃいけないんだよ」

妹友「だって。パパとママは仕事が忙しいからしかたないじゃん」

彼氏「何が仕事だよ。たまに家に帰ってくるときは示し合わせたように互いに一緒にならないようにしているじゃないか。あの二人は家で一緒にいたくないんだよ」

妹友「何でそんなこと言うの? 家族はお互いがお互いを好きで・・・・・・」

彼氏「真っ当な家族ならね。うちはそうじゃない」

妹友「でも。ママもパパもあたしたちに優しいじゃん」

彼氏「僕たちにはね。あの二人は僕たちがいなければまともに夫婦さえやってられないようだけどな」

妹友「お兄ちゃん、パパとママが嫌いなの」

彼氏「むしろ、あいつらがお互いに嫌いあってるんだろ。それにさ」

妹友「それに?」

彼氏「あいつら、俺とおまえのことだって本当には気にしてないんじゃないのか」

妹友「そんなこと」

彼氏「好きの反対は無関心だって言うしな」

妹友「・・・・・・妹ちゃんのおうちは真っ当な家族なのかな」

彼氏「何だよ突然」

妹友「別に何でもない。お風呂入るね」

彼氏「うん」

733 : VIPに... - 2013/10/23 22:57:00.07 bIPHYdQMo 453/712


妹友「お兄ちゃん、お風呂空いたよ」

彼氏「ああ」

妹友「・・・・・・何でご飯食べないの」

彼氏「コンビニ弁当嫌いだから」

妹友「だからあたしが作るって言ったのに」

彼氏「いや」

妹友「お兄ちゃん?」

彼氏「・・・・・・ああ」

妹友(こんなのやだ。お兄ちゃんが落ち込んでいるのなんてやだ)

妹友(お兄ちゃんを元気にするためなら)

彼氏「うん?」

妹友「(・・・・・・よし)あのさ。この間の話ね」

彼氏「何だよ」

妹友「お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きだって話」

彼氏「・・・・・あれは考えさせてって言われたんだろ」

妹友「そうだけど。でも」

彼氏「何だよ。思わせぶりなこと言うなよ」

妹友「うん。でも少し期待してて」

彼氏「訳わかんない。風呂入ってくる」

妹友「うん(多分、今晩か明日には電話かメールがあるはず)」

妹友(あたしはいったい何がしたいのだろう)

妹友(本当にお兄ちゃんと妹ちゃんをくっつけたいのかな)

妹友(・・・・・・現実逃避しているだけかも。パパとママの仲が悪くて。お兄ちゃんは妹ちゃんに片想いしていて)

妹友(あたしのいる場所ってどこかにあるのかな)

妹友(お兄ちゃんと妹ちゃんを付き合わせることに一生懸命なうちはいい)

妹友(でも。二人が恋人になっちゃったら。あたしはどこにいればいいのかな)

妹友(・・・・・・今さらだよね。今になってそんなこと考えたってしかたない。今はお兄ちゃんのためにできることをしよう)

妹友(・・・・・・あ)

妹友(妹ちゃんから電話・・・・・・・)

734 : VIPに... - 2013/10/23 22:57:51.94 bIPHYdQMo 454/712


『遅い時間にごめんね』

妹友「別にいいよ。まだそんなに遅いわけじゃないし」

『ちょっと話せる?』

妹友「いいよ」

『ちょっと相談してもいい?』

妹友「マジな話?」

『うん』

妹友「・・・・・・どうしたの? 真面目な声で」

『実はね・・・・・・』

妹友「・・・・・・はあ」

妹友「何だ。真剣な声で相談とか言うから何かと思ったじゃん」

『結構マジで悩んでるのに』

妹友「だってさあ。お兄さんとのトラブルとか相談されてもねえ。せめて好きな人のこととか相談されたんなら真面目に相談に乗ろうとか思うけどさ」

『あたしにとっては大問題なの!』

妹友「・・・・・・誇らしげにブラコンを公言するのはいい加減にしなって」

妹友(お兄さんが自分と二人で歩いていたのに。お兄さんは自分以外の女の子を見つめていた・・・・・・)

妹友(そんなこと普通友だちに相談する? まさかこの子。本当に自分のお兄さんのことが好きなのかな。お兄さんに嫉妬しちゃうくらいに)

『そんなんじゃないよ』

妹友「昨日妹ちゃんとお兄さんのデートを邪魔したのは悪かったけどさ。妹ちゃんの部活を休むほどの用事が、お兄さんと一緒に帰ることだったとはねえ」

『・・・・・・別にいいじゃん。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし』

妹友「まあ、いいけど。それにしても何? いったい夜中に電話してきて相談って何かと思ったら。自分と一緒に歩いているのにお兄さんが他の女の子をガン見してるのどうしようって。そんなことで一々電話して来るなよ」

『だってさ』

妹友「まさか兄妹喧嘩の相談をこんな夜中に受けるとは思わなかったよ」

『ごめん』

妹友「で? 妹ちゃんはどうしたいの?」

『どうって』

妹友「じゃあ聞き方を変えるけど、お兄さんとどうなりたいの(まさかお兄さんの彼女になりたいとか。さすがにそこまでは言わないか)」

『どうって・・・・・・。仲のいい兄妹になりたい』

妹友「それなら今でも仲良すぎるくらいじゃん。それ以上仲良くなってどうすんのよ」

『って。せっかくあたしがお兄ちゃんの学校に迎えに行ってあげたのに、他の女の子のことばかり見てるとかあり得ないじゃん』

735 : VIPに... - 2013/10/23 22:59:21.95 bIPHYdQMo 455/712


<策略>




妹友(・・・・・お兄ちゃんのためだ)

妹友(無理があるのはわかっているけど、今なら何とか妹ちゃんを言いくるめられるかもしれない)

妹友(よし。言うだけ言ってみよう)

『妹友ちゃん?』

妹友「何であり得ないって言い切れるのかよくわかんないけど。じゃあさ。いっそ妹ちゃんもお兄さんに嫉妬させてみたら?」

『どういうこと?』

妹友「そろそろさ。うちのお兄ちゃんの告白にも返事してやってよ。断るなら断るでいいからさ。このまま保留じゃお兄ちゃんだって落ちつけないじゃん」

『彼氏君のことは嫌いじゃない。でも、男の人と付き合うのってあたしにはまだ早いような気がする』

妹友「(何言ってるのよ。これまで告白してきた男の子を振ったのだって、お兄ちゃんの告白を保留しているのだって、全ては自分のお兄さんが好きだから、ただそれだけでしょうが)もうすぐ高校二年になるのに付き合うのが早すぎるって」

『あたしにとってはだよ。あたしは家に帰って家族と一緒にいるのが一番好きだから、男の人とデートとかしたいとも思わないし。だからあたしはまだ子どもなんだと思う』

妹友「しょっちゅう他校の男の子に告られてくるくせに、いつも断っていたのはそういう理由だったのか(どうせこれもフェイクだ。妹ちゃんが、この子がそんなに幼いわけないじゃん)」

妹友(何でうちの家族がぎくしゃくしてるのに、妹ちゃんの家族はみんな仲がいいんだろう。何か不公平だよね)

妹友(・・・・・・別に妹ちゃんのせいじゃない。そこは混同しちゃだめ)

『うん』

妹友「でもさ。あたしがうちのお兄ちゃんの気持ちを伝えたときは、少し考えさせてって言って保留したよね?」

『彼氏君は中学一年の頃からの知り合いだし、何よりも妹友ちゃんのお兄さんだし』

妹友(ふざけんな)

妹友「何を気にしてるのか、よくわかんないなあ。結局振るんだったら早いか遅いかの差だと思うけどなあ。つうか待たされた分お兄ちゃんも余計につらいと思うけど」

『・・・・・・』

736 : VIPに... - 2013/10/23 23:00:43.56 bIPHYdQMo 456/712


妹友「そしたらさ。お兄さんに嫉妬させてみたら? それでお兄さんの妹ちゃんに対する気持もわかるんじゃないかな」

『どうやったらお兄ちゃんが嫉妬なんてするんだろ』

妹友(何この子。まじで食いついてきた。というか本気でお兄さんに嫉妬させたいの?)

妹友「他の男の人と一緒にいるところを見せればいいだけでしょ」

『そんな人あたしにはいないもん』

妹友「うちのお兄ちゃんでいいじゃん」

『え』

妹友「お兄ちゃんなら喜んで妹ちゃんと一緒にいようとすると思うな」

『それはだめでしょ』

妹友「何で?(少しお兄ちゃんに悪いと思ってくれてるのかな)」

『だって・・・・・・彼氏君を利用するようなことはできないよ』

妹友「お兄ちゃんは妹ちゃんが好きなんだから別にいいじゃん」

『それって本当のことを話して彼氏君に協力してもらうってこと?』

妹友「さすがにそれは無理。お兄ちゃんには珍しく妹ちゃんが一緒に登校したいって言ってるよって言う」

「それじゃまるで・・・・・・」

妹友「お兄さんの反応が見たいんでしょ?」

『彼氏君に悪いよ』

妹友「妹ちゃん、お兄ちゃんの告白を断るって決めたの?」

『・・・・・・それはまだ』

妹友(まだ大丈夫なのかも)

妹友「まだ決めてないならいいじゃん。心を決める参考になるかもしれないよ?」

『だって』

妹友(このまま押し切ろう)

妹友「じゃあ、決まりね。早い方がいいから明日の朝お兄ちゃんに学校まで送ってもらってね。お兄ちゃんにはこれから話しておくから」

『本当にやるの』

妹友(お兄ちゃんの気が晴れるなら。別に妹ちゃんとお兄さんに迷惑をかけるわけじゃないし)

妹友「そうだよ。明日の朝七時に妹ちゃんの家の前の公園で待ち合わせね。それであたしは別なところから妹ちゃんの家を監視してるから。それでお兄さんが出てきたら妹ちゃんにメールするね。そしたらお兄ちゃんと一緒に駅の方まで歩いて行って」

『あたしが彼氏君と一緒のところをお兄ちゃんが見たら傷つくかも』

妹友「そうかなあ。それなら妹ちゃんと一緒にいるのに他の女の子なんかをよそ見したりしないんじゃない?」

『・・・・・・まあそうかも』

妹友(これくらいはしてもいいよね。妹ちゃんの家族は仲が良くて幸せみたいだし。お兄ちゃんを救うためだもん)

妹友「お兄ちゃんと手くらいつないでね。お兄ちゃんにも言っておくけど」

『・・・・・・』

妹友(さすがに返事なしか。ちょっと言い過ぎたかな)

737 : VIPに... - 2013/10/23 23:01:14.56 bIPHYdQMo 457/712


妹友「お兄ちゃん、おきてる?」

彼氏「うん」

妹友「何してたの」

彼氏「受験勉強」

妹友「そうか・・・・・・そうだよね」

彼氏「何か用か」

妹友「あのさ」

彼氏「うん」

妹友「お兄ちゃんって志望校、A判定なんでしょ」

彼氏「そうだけど」

妹友「お兄ちゃんってすごいよね」

彼氏「・・・・・・別に」

妹友「志望校、余裕なんでしょ」

彼氏「何がおこるかわからないから。油断はできないけどね」

妹友「それでもさ。お兄ちゃんのいつもの朝の勉強時間だけど」

彼氏「何?」

妹友「たまにはしなくても平気じゃないの」

彼氏「だから油断はできないって」

妹友「妹ちゃんと一緒に登校できても?」

彼氏「え」

妹友「それでも習慣になってる朝の勉強を一度もやめる気はない?」

彼氏「ちょっと。何の話をしてるんだよ」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんと二人で一緒に登校したいって」

彼氏「・・・・・・嘘だろ」

妹友「嘘って何で?」

彼氏「だって、妹は俺のことなんか」

妹友「・・・・・・お兄ちゃんってさ」

彼氏「うん」

妹友「何でそんなに妹ちゃんのことが好きなの」

彼氏「何でって。好きになるのに理由が必要なのか?」

妹友「・・・・・・」

彼氏「どうした?」

妹友「明日、妹ちゃんと一緒に登校したくない?」

彼氏「妹がそんなこと言うわけねえだろ」

妹友「そう思うならそれでいいよ。じゃあお休み」

彼氏「ちょっと待てよ」

妹友(あたし・・・・・・いったい何がしたいんだろう)

妹友(・・・・・・)

740 : VIPに... - 2013/10/26 22:23:02.31 GgjWI25Po 458/712


<偽装デート>




妹友(・・・・・思っていたよりぎくしゃくしてないよね)

妹友(結構いい雰囲気じゃない)

妹友(妹ちゃん、お兄さんの気持を試すために演技モードになっちゃったのかな)

妹友(それともまさかお兄ちゃんに本気に?)

妹友(それはないよね)

妹友(あ・・・・・・)

妹友(妹ちゃんの家からお兄さんが出てきた)

妹友(作戦開始か。迷ってもしかたない)

妹友(連絡しないと)



from:妹友
to:妹
sub:無題
『お兄さんが家を出てきたよ。妹ちゃんはお兄ちゃんと寄り添って、なるべく仲よさそうな振りをして駅に向って』



妹友(動き出した)

妹友(・・・・・・何かやたらに寄り添ってる。つうか妹ちゃんの方からだし)

妹友(よくわかんないな。お兄さんに見せつけようとしているのか、それとも)

妹友(まさかね)

妹友(いけない。見失わないように尾行しないと)

妹友(会話が聞ければなあ)

妹友(あれ? 何、あの女)

妹友(お兄さんに声をかけた)

妹友(誰だろう。何かやたらに親密そうなんですけど)

741 : VIPに... - 2013/10/26 22:24:58.17 GgjWI25Po 459/712


妹友(あの人。何かお兄さんのこと楽しそうにからかってるって感じだよね)

妹友(いや。単なる仲のいい同級生かもしれないし)

妹友(でも。それにしてはあの女の人の笑顔ってすごく嬉しそう。あの人、お兄さんのこと、本気で好きなのかな)

妹友(・・・・・・)

妹友(いけない。約束は約束だし)

妹友(てか。二組のカップルを尾行しながらメールうつって何でよ。面倒くさい)



from:妹友
to:妹
sub:緊急事態
『お兄さんは予定どおり妹ちゃんたちの後ろを歩いて駅に向っているけど、何か途中で結構綺麗な女の人と出合って一緒に歩いてるよ』

『女の人の方も親し気にお兄さんに笑いかけてるし。ひょっとしてお兄さんってあんなに綺麗な彼女がいたの?』

『気がつかれないように背後を見ることができるなら、ちょっと見てみ』



妹友(・・・・・・)

妹友(妹ちゃんが振り返った)

妹友(さすがに表情までは見えないね)

妹友(少し慌ててるのかな。まあ、嫉妬させるつもりでお兄ちゃんと一緒に登校してて、逆にお兄さんとあの女の仲を見せつけられたらね)

妹友(妹ちゃん・・・・・・うん?)

妹友(お兄ちゃんに今までより近づいて寄り添った)

妹友(あれがお兄さんへの当てつけだったとしたら)

妹友(・・・・・・)

妹友(あたしはいったいどういう結果を望んでいるのかな)

妹友(妹ちゃんとお兄ちゃんが付き合うこと?)

妹友(それとも)

妹友(わかんない)

妹友(とりあえずどっちを尾行しよう。妹ちゃんとお兄さん? それともお兄さんとあの女の人?)

妹友(・・・・・・もう少ししたら決めないといけないね。別れ道になるし)

「ちょっといい?」

妹友「はい? 誰ですかあなた」

742 : VIPに... - 2013/10/26 22:27:22.93 GgjWI25Po 460/712


「あのさ。ひょっとしてあんた、俺の彼女のこと尾行してる?」

妹友「はあ?(げ。何か見るからにチャらくて危なそうな人だ)」

「いやさ。明らかにあんた、あの二人の後をつけてるだろ」

妹友「何の話ですか? というかあたし誰の後もつけてませんけど」

「いやいや。いくら何でもそれは無理があるっしょ」

妹友「・・・・・・(変な人に絡まれちゃったな。どうしよう)」

「そんなに睨まなくてもいいじゃん。意外と話し合うんじゃね? 俺たちって」

妹友「・・・・・・失礼します(何でこんな人に絡まれなきゃいけないのよ)」

「君ってさ。兄と女を追いかけてたの? それとも妹ちゃんとあの男子校の生徒の方?」

妹友「え? な、何で」

「俺さ。兄友って言うの。あんたがストーカーしてた兄の親友で一緒にいた女の彼氏ね」

妹友「はい?」

兄友「ぶっちゃけさ。俺は彼女の浮気調査の途中なんだけど、あんたもそう?」

妹友「・・・・・・お話をお聞きしてもいいですか」

兄友「もちろん大歓迎だよ。カラオケ行く? それともファミレスでお茶でする?」

妹友「これから授業ですから。登校中にお話を聞かせてください」

兄友「何だよ。つまんねえの」

妹友「これってナンパなんですか」

兄友「何でそうなるのよ。つうか俺はあんたとお知り合いになりたいだけだって」

妹友「やっぱりナンパですか」

兄友「ちゃうって。つうかさ。多分俺もあんたと一緒だと思うよ」

妹友「何言ってるんですか。わけわかんないです」

兄友「お互いに失恋しそうなとこみたいじゃん?」

妹友「(この人。チャラそうな人なのに)・・・・・・何でいきなりシリアスに修羅場みたいな
こと言ってるんですか」

743 : VIPに... - 2013/10/26 22:28:29.38 GgjWI25Po 461/712


<兄友>


妹友「妹ちゃんお疲れ」

「・・・・・・もう。本当に疲れたよ」

妹友「しかし意外な邪魔が入ったね」

「・・・・・・女さんね」

妹友「知ってるの?」

「うん。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ」

妹友「嫌な女って」

「妹友ちゃんはお兄ちゃんの後をつけたの?」

妹友「うん。女さんっていう人と一緒になったんだけど、会話は聞けたから」

「・・・・・・」

妹友「よかったね。妹ちゃん。お兄さんは妹ちゃんに嫉妬全開だったよ」

「・・・・・・それ本当?」

妹友(お兄さんが自分で嫉妬したって聞いて嬉しそうよね)

妹友(・・・・・・何か面倒くさいことになってきた)



兄友『あんたさ』

妹友『・・・・・・』

兄友『いや。君ってさ』

妹友『何ですか』

兄友『君ってよく見ると可愛いね』

妹友『・・・・・・ふざけないでください』

兄友『ふざけてねえけど』

妹友『何なんですかいったい・・・・・・』

兄友『可愛いって言われたらちょっとくらい赤くなった方がもっと可愛いのに』

妹友『・・・・・・ふん』

兄友『ちょっとお茶してかない?』

妹友『あと三十分で始業時間です。兄友さんも同じでしょ』

兄友『そうだった。じゃメアド教えて』

妹友『お断りします』

兄友『これ、俺のメアドね。あと携番』

妹友『何で最初からメモにして準備してるんですか』

兄友『一々交換するのって面倒くさいじゃん』

妹友『・・・・・・あなたってわかりやすい人ですね』

兄友『おう』

妹友『別に誉めてはいないですけど』

兄友『君、照れてる?』

妹友『むしろイラついています』

兄友『あはは。そんなに俺のメアドゲットして嬉しかった?』

妹友『誰が喜んでいるんですか・・・・・・死ね』

744 : VIPに... - 2013/10/26 22:31:23.13 GgjWI25Po 462/712


兄友『死ねってひでえな。あはは』

妹友『・・・・・・意外とタフなんですね』

兄友『こう見えても結構傷付いてるんだぜ』

妹友『そんなに繊細そうには見えませんけどね』

兄友『・・・・・・上辺だけはな』

妹友『え』

兄友『浮気調査中なんだぜ。空元気に決まってんだろ。ははは』

妹友『(何かこの人・・・・・・)浮気って何ですか?』

兄友『さっき兄と一緒にいた女の子がいたでしょ?』

妹友『・・・・・・はい』

兄友『あれ俺の彼女』

妹友『はあ?』

兄友『だから女は俺の彼女なの!』

妹友『あの女の人、兄友さんの他に彼氏がいるようには見えなかったですけど。何か楽しそうに言い合いしてましたよ。あの二人』

兄友『そうなんだよな。だから浮気なんじゃねえかって』

妹友『それを疑って二人の後を追跡してたんですか』

兄友『いや。最初は登校中に女を見つけたんだけどよ』

妹友『はい』

兄友『ちょっとさ。最近女のこと怒らせててさ』

妹友『はあ』

兄友『そしたら女のやつ、兄と一緒に登校してるもんだからよ』

妹友『あの。あたしもう学校に行かないと』

兄友『それにしたって何も俺の親友とあんなにいちゃいちゃすることはねえじゃん。あれじゃさ。女って、まるで俺に振られるのを待ってたみたいだ』

妹友『・・・・・・(この人。何言ってるのよ)そろそろ遅刻しちゃいそうなんですけど』

兄友『俺が悪いんだと思ってたよ、本当に』

妹友『あの・・・・・・始業時間がですね』

兄友『でも俺が悪いだけじゃないのかもしれんね』

妹友『・・・・・・・どういうことですか』

兄友『あいつもさ。俺が浮気とかするの待ってたんじゃねえかな』

妹友『あの。あたしには全然関係ないんですけど(何なのよ全く。こっちだってお兄ちゃんとのこととかぐちゃぐちゃなのに)』

745 : VIPに... - 2013/10/26 22:33:33.02 GgjWI25Po 463/712


「・・・・・・それだけ?」

妹友「それだけって」

「それだけじゃ本当にお兄ちゃんがあたしと彼氏君に嫉妬してるかなんてわかんないじゃん」

妹友「あのさ。この際本気で聞かせてもらうけどさ」

「何よ」

妹友「あんたさ。本当にお兄さんと仲のいい兄妹に戻りたいだけ?」

「そうだけど」

妹友「・・・・・・とてもそうは思えないんだけど」

「何でよ」

妹友「わからないんならいい」

「何よ」

妹友「別に何でもない」

「・・・・・・」

妹友「あのさ」

「何?」

妹友「・・・・・・あの、さ」

妹友(いや。今は言えないね。事実かどうかすらわかんないだし)

妹友(・・・・・・兄友さんともう少し話してみようかな)

妹友(兄友さんって。あ、思い出した)

妹友(いきなり初対面の美少女の手を握るとは)

妹友(なんて図々しい。自分の顔を見てからそういう行動しなさいよ)

妹友(・・・・・・まあ、そんなに格好悪いというほどじゃないけど。つうか結構イケメンだったけど)

妹友(・・・・・・それにしたって)

746 : VIPに... - 2013/10/26 22:36:00.68 GgjWI25Po 464/712


兄友『あれ?』

妹友『はい?』

兄友『君。本当に可愛いじゃん』

妹友『はあ? ・・・・・・!』

兄友『あ、ごめんごめん・・・・・・て、痛いって』

妹友『最低』

兄友『だから悪かったって。ついさ』

妹友『・・・・・・会ったばかりなのに。何でいきなり手を握るんですか』

兄友『いやだからつい』

妹友『ついって何ですか。』

妹友(何なのよこの人)

兄友『悪い癖なんだよな』

妹友『いきなり人の手を握っておいて悪い癖で済ませる気ですか』

兄友『悪かったって言ったじゃん』

妹友『あなたの言葉は軽すぎです。誠意が全く感じられません』

兄友『君ってさ。兄のこと知ってるの?』

妹友『話を変えて誤魔化す気ですか? つうか知りませんし』

兄友『ブーブー。嘘だね』

妹友『嘘じゃないです(実際、昨日会っただけだしね)』

兄友『今さら隠さなくっていいじゃん。ストーカーするくらい兄のこと好きなんでしょ』

妹友『だから(この人。あたしがお兄さんのことを好きだって思い込んでいる)』

妹友(・・・・・・女さんの彼氏は兄友さん。どうも浮気しているらしいけど)

妹友(女さんが本当はこの人じゃなくて、お兄さんのことが好きだとしたら)

妹友(そしてお兄さんが妹ちゃんじゃなくて女さんを選べば)

妹友(そうなったらお兄ちゃんは妹ちゃんと・・・・・・)

747 : VIPに... - 2013/10/26 22:37:10.50 GgjWI25Po 465/712


<浮気してるんだよねこの人>




妹友(部活をさぼってしまった)

妹友(昨日の妹ちゃんと行動が被ってるし)

妹友(しかし、お兄さんも昨日今日と続けて二日連続で美少女のお迎えとは)

妹友(いったい何様のつもりなんだろう)

妹友(まあ、押しかけてるのはあたしの方だから文句を言えた義理じゃないけど)

妹友(・・・・・・そんなことはどうでもいい。自分が本当はどうしたいのかわからないけど)

妹友(とにかくお兄さんの気持を探らなきゃ。妹ちゃんはどう見ても怪しいし)

妹友(兄妹間の恋愛なんて・・・・・・)

妹友(でも。お兄ちゃん・・・・・・)

妹友(あ。お兄さんだ。心を入れ替えて笑顔を作らないと)



妹友「こんにちは~。お兄さん」

「・・・・・・はい?」

妹友「(何よこの反応)こんにちは」

「はあ」

妹友「(あいさつくらいしろ)こんにちは」

「・・・・・・こんにちは」

妹友「昨日は妹ちゃんとのデートを邪魔しちゃってすいませんでした」

「はい?」

妹友「(可愛い女の子がわざわざ迎えにきたのに何よこの反応)今、ちょっと時間ありま
す?」

「はい?」

妹友「ちょっとお話しませんか」

「・・・・・・わざわざ校門前で待っていてくれたの?」

妹友「はい」

「えと~」

妹友「行きましょ。駅までは一緒に帰れますよね」

「はあ(何なんだ)」

妹友「お兄さん」

「うん」

妹友「お兄さん?」

「何?」

748 : VIPに... - 2013/10/26 22:38:52.91 GgjWI25Po 466/712


妹友「お兄さん、何か悩んでいるみたい」

「べ、別に」

妹友「・・・・・・(とりあえず仕掛けてみようか)」

「何でそんなこと言うのさ」

妹友「ひょっとしたら、お兄さん目撃しちゃいましたか?」

「・・・・・・何を」

妹友「今朝、初めて妹ちゃんと彼氏が一緒に登校したんですけど、お兄さんもしかして」

「・・・・・・彼氏?」

妹友「はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに彼氏の気持ちを伝えたんですね」

「そ、そうだったんだ」

妹友「はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺しみたいで彼氏も気の毒で」

「それで?」

妹友「何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよって」

「・・・・・・そう」

妹友「それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登校させたってわけです」

「・・・・・・」

妹友「お兄さん?」

「うん?」

妹友「余計なことしてごめんなさい」

「何で俺に謝るの?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんが好きでしょ(否定しなさいよ。このシスコン)」

「・・・・・・何言って」

妹友「好きでしょ(あなたが否定さえしてくれれば余計なことしないですむのよ!)」

「ま、まあ」

妹友「(・・・・・・何認めてるのよ)それが間違っていると思います」

「え?」

妹友「お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌えているだけだと思います」

「・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど」

妹友「(自分だって何言ってるかわからないよ。あたしいったい何がしたいんだろう)お
兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身にまとっ
た抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?」

妹友(何言ってるんだあたし。もうわけわかんない)

「中ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ」

妹友「お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するというラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃないんですか?」

「だから意味が」

妹友「別にそれは妹ちゃん本人じゃなくても『妹』というラベルが貼ってあれば誰でもい
いんじゃないですか? 例えばそれがあたしでも」

妹友(あたし何でお兄さんに向って微笑んでいるんだろう)

749 : VIPに... - 2013/10/26 22:43:48.60 GgjWI25Po 467/712


兄友「あのさあ」

妹友「何ですか」

兄友「さっそくメールしてくれたのは嬉しいけどさ」

妹友「嬉しいならもっと喜んだらどうでしょうか」

兄友「・・・・・あのさ。ま、いいか。つうかまだ名前知らないんだけど」

妹友「名前?」

兄友「そう。君の名前」

妹友「何であなたなんかに名前を教えなきゃいけないんですか」

兄友「・・・・・・人のこといきなり呼び出しておいてそれはねえだろ」

妹友「メアドとか携番を教えるっていうのは連絡が来ることを期待したからじゃないんですか」

兄友「まあどうだけどよ」

妹友「まあいいか。妹友といいます」

兄友「妹友ちゃんかあ。可愛い名前だね」

妹友「名前をほめられても別に嬉しくないですけど。両親が勝手に決めただけですし」

兄友「いや。妹友ちゃんは外見も声も何もかも可愛いよ」

妹友「そうですか」

兄友「そうですかって。いや、まあいいけど」

妹友「さっきまでお兄さんと会ってました」

兄友「・・・・・・そうなの?」

妹友「はい。お兄さんの気持を確認しようと」

兄友「・・・・・・どうだった」

妹友「え」

兄友「兄の気持を確認したんだろ」

妹友「(どうって。お兄さんが妹ちゃんのことが好きなことは確定でしょ。それを知ったら兄友さんは喜ぶだろうな)」

妹友(でも、浮気してるんだよねこの人。そんな人の気持なんかどうでもいいか)

妹友(それに。お兄さんに彼女ができたらお兄ちゃんと妹ちゃんは親密な関係になれるかも。そのためには)

妹友「お兄さんと女さんって愛し合ってるいると思いますよ」

兄友「・・・・・・え」

妹友(何かマジな反応。ちょっとまずかったかな。でも今さら話は変えられないし)

妹友「あの二人、兄友さんが身を引けばその日にでも付き合うんじゃないですか」

兄友「・・・・・・」

妹友「兄友さん?」

兄友「マジかよ」

 あたしの話を聞いた兄友さんはもうあたしの方なんか見もせずに、何か真剣な表情で俯
いて何かを考えているようだった。

 自分が何を始めてしまったのか。そのときのあたしにはよくわかっていなかったのだ。

754 : VIPに... - 2013/10/31 20:42:04.11 2kh/r0c7o 468/712


<想像以上にクズですね>




妹友「最近あなたと毎日会ってますよね。とっても不本意です」

兄友「自分の方から呼び出しておいてそれかよ」

妹友「それでも律儀に来てくれるんですね。ひょっとしてあたしのことが好きなんですか」

兄友「・・・・・・」

妹友「ちょっと。何で黙ってるんですか。変に誤解しちゃうじゃないですか」

兄友「誤解って何だよ」

妹友「本当にどうしたんですか。今のは冗談ですって」

兄友「うん。冗談ね、冗談」

妹友「・・・・・・何かあったんです?」

兄友「さっき女を振ってきた」

妹友「はい?」

兄友「あーあ。いざ現実となると結構きついなこれ」

妹友「・・・・・・あなたはバカですか」

兄友「うん。今はそれには反論できる気がしないよ」

妹友「いったい何でそんなこと」

兄友「女のため。妹友ちゃん言ってただろ? 俺が女と別れればその日にでも女と兄は付き合うんじゃないかって」

妹友「言いましたけど。なら浮気とか止めて女さんの心を取り戻すように頑張ればいいじゃないですか」

兄友「・・・・・・よく言うよ」

妹友「え」

兄友「兄と女をくっつけたいくせに」

妹友(ばれてた。でもあたしって本当にそうしたいのかな)

兄友「まあ妹友ちゃんのせいにする気はないよ。こんなことになってるのも自業自得だしな」

妹友「・・・・・・浮気のことですね」

兄友「それだけなら良かったんだけどな」

妹友「他にも余罪があるってこと?」

兄友「妊娠させちゃった」

妹友「・・・・・・はい?」

兄友「浮気して付き合ってた部活の後輩の子を妊娠させたみたい」

妹友「・・・・・・想像以上にクズですね。兄友さんって」

兄友「まあ、妊娠させるようなことをしてたことは確かだからそう言われてもしかたがないけど」

妹友「けど何です? (こんなにクズな男に初めて会ったよ。ちょっとだけ感じていた罪悪感が吹き飛んじゃった)」

兄友「あいつの妊娠ってなんだか怪しいんだよな」

妹友「(うわあ。最低)クズもここまで来るといっそすがすがしいので、そう現実逃避を
した理由くらいは聞いてあげましょう」

兄友「別にいいよ。無理に聞いてもらえなくても」

755 : VIPに... - 2013/10/31 20:42:32.11 2kh/r0c7o 469/712


妹友「聞いてあげましょう」

兄友「わ、わかったって。そんなに睨まないで」

妹友「・・・・・・ふん」

兄友「妹友ちゃんみたいな子にこんな話をするのはどうかとは思うんだけどさ」

妹友「あたしみたいな子ってどういう意味ですか」

兄友「だってさ。君、処女でしょ」

妹友「・・・・・・死ね。セクハラですよそれ」

兄友「悪いな。話すの止めようか」

妹友「いいからさっさと話してください。今のセクハラ発言は特別に今日だけは目をつぶってあげますから」

兄友「おかしいんだよな。俺だってばかじゃない。毎回きっちりゴムを付けてたし」

妹友(な、何言ってるのこの人。ゴムって。ゴムって)

兄友「確かに俺はそれなりに遊んできたよ。でも女には手一本だって触れちゃいない」

妹友(さっきから何言ってるのこの人)

兄友「後輩ちゃんは可愛らしかったし、部活でも健気に俺を支えてくれたよ。正直くらくらした」

妹友「はあ」

兄友「でさ。女は相変わらず固いばっかで全然いろいろと許してくれないし。そんなときに好きって言われて好きにしていいって言われりゃさ。男だったら行っちゃうだろ」

妹友(やっぱりこの人最低だ)

兄友「だから後輩ちゃんと浮気した。あいつを抱いた。でもよ、本当に好きだったのは女だったし、もちろん後輩ちゃんとするとときはしっかり避妊だって」

妹友「・・・・・・もういいです。結局何を言いたいんですか」

兄友「後輩ちゃんが本当に妊娠したかどうかなんて今は確かめようがないけどさ。そんなことより、女が本当は兄のことを好きならさ」

妹友「好きなら?」

兄友「まあ、俺らしくはないんだけどさ。でも浮気してたってこともあるし、女のことが好きだから身を引いてやろうかなって思った」

妹友「何かわけわかんないですよ。妊娠は嘘だと思うなら何でです?」

兄友「俺にだってわからねえよ。でも、女のことは大好きだし、兄は俺の親友だしな。これで本当にあの二人は付き合って幸せになれるんだろ?」

妹友「・・・・・・あたしに聞かれても(とても言えない)」

兄友「何だよ。妹友ちゃんがそう言ったんだろうが」

妹友(今朝あたしがお兄さんに告白したなんて。この人には絶対に言えない)

妹友「はい。あたしはそう思いますけど」

兄友「それならいいや。妊娠はともかく後輩ちゃんを抱いちゃったのは確かだしな。責任は取らねえとな」

妹友「そうですか。兄友さんはそれでいいんですね」

兄友「ああ。後悔したってしかたない。もうしちゃったんだし」

妹友(どうしよう。まさかここまでの話になるとは思わなかった)

妹友(・・・・・・正直、お兄さんのことを好きって言っちゃったのも半ば勢いだったし)

妹友(冷静に考えよう。そもそもあたしは何がしたかったの?)

756 : VIPに... - 2013/10/31 20:43:12.78 2kh/r0c7o 470/712


妹友(兄妹の恋愛なんかだめだってことはずいぶん前から考えていた)

妹友(それでお兄ちゃんのことは諦めたけど、それでもお兄ちゃんのことは好き)

妹友(だからお兄ちゃんには悩んで欲しくない。たとえお兄ちゃんがあたしを好きじゃないとしても)

妹友(お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きなら、お兄ちゃんの願いはかなってほしい)

妹友(どう考えても妹ちゃんはお兄さんが好き。お兄さんも妹ちゃんが好きみたいだし)

妹友(そんな将来のない未来のない関係なんて間違っている)

妹友(だからあたしはお兄さんに告白した。お兄さんがあたしに振り向いてくれるかどうかはわからないし、勢いだけで告白したのも確かだけど)

妹友(あれ? 別にあたしがお兄さんと付き合わなくてもいいってこと?)

妹友(・・・・・・お兄さんと女さんが付き合い出しちゃえば、それで妹ちゃんの失恋は決定じゃない)

妹友(あたしがお兄さんと付き合う必要なんかないんだ。正直、自分でもお兄ちゃんの妹ちゃんへの恋愛のためにあたしがお兄さんと付き合うなんて不安だったけど)

妹友(兄友さんが身を引いてくれたせいで。多分だけどあの二人は付き合い出す)

妹友(失恋した妹ちゃんはそのままなし崩しにお兄ちゃんと結ばれるかも)

妹友(そうなったら。お兄ちゃんもまた元気が出て昔みたく明るい性格に戻ってくれるかも)

妹友(お兄ちゃん)

兄友「あのさ。俺の話、ちゃんと聞いてる?」

妹友「もちろん聞いていますよ。それでこれからどうするんですか」

兄友「もう女とは別れたしね」

妹友「後輩さんと付き合うんですか」

兄友「あいつが本当に妊娠していたら責任取るけど」

妹友「妊娠って嘘だと思っているんですよね」

兄友「正気そうだな。証拠も何にもない。妊娠検査キットとかっていうのの結果も見せてくれないし、一緒に産婦人科行こうって言っても拒否されるしな」

妹友「そうですか」

兄友「後輩と付き合うかどうかなんてどうでもいいよ。それよかさ。あいつは、女は本当に兄と付き合うんだろうな。それで女は本当に幸せなんだよな」

妹友「(どうだろう。あたしが身を引けばおそらく)・・・・・・多分」

兄友「そうか。それならよかった」

妹友「兄友さん?」

兄友「それなら女を振ったかいはあったんだよな」

妹友「・・・・・・」

兄友「そうか。それならよかった。俺ってひどい彼氏だったけど、最後くらいはあいつのためになることできたならいいや」

妹友「・・・・・・うん」

757 : VIPに... - 2013/10/31 20:43:53.58 2kh/r0c7o 471/712


<どうしてもと言うならあたしがお兄さんを引き受けても>




妹友(あそこではうんと言うしかなかったよね)

妹友(兄友さんには悪いことしたかもしれないけど)

妹友(でも妊娠したかどうかなんて結果論だ。そういうことをしてたのは兄友さんだし。だから本人だって女さんと別れたんでしょ。きっと罪悪感があったのよ)

妹友(そうじゃないなら。兄友さんのあの軽い性格なら女さんとお兄さんのために身を引くなんて考えられないじゃない)

妹友(問題はお兄さんの気持だよね。ああは言ったけどお兄さんが本当は女さんのことを好きだなんて確信は持てないし)

妹友(たとえ女さんがお兄さんのことが好きだったとしても)

妹友(今日はお兄ちゃんと妹ちゃんが一緒に図書館で勉強する日だ)

妹友(あたしの出番はまだ終わってないよね。確実にお兄さんと女さんが結ばれるならともかく)

妹友(とにかく妹ちゃんとお兄ちゃんが結べれるまでは)

妹友(あたしがお兄さんを好きな振りを続けなきゃ)

妹友(・・・・・・保険的な意味でもそうしなきゃ)

妹友(まだ休めないよね。まだ行動しなきゃいけない)

妹友(うん)



兄友「また君かよ~」

妹友「・・・・・・何でそんなに嫌そうな表情をするんですか」

兄友「いや。君みたいな可愛い子と二人きりで会えるんだから嫌なわけないけどさ」

妹友「思いきり嫌そうな態度で言わないでください」

兄友「それしても毎日呼び出すことはねえだろ」

妹友「嫌じゃないんでしょ」

兄友「だってファミレスで話をするだけだろ? 俺だって今はそれどころじゃないんだ」

妹友「女さんと別れたんだから時間はあるんじゃないんですか」

兄友「今、後輩ちゃんと修羅場なんだよ」

妹友「それは自業自得です。で? 産むって言い張ってるんですか」

兄友「そうじゃねえよ」

妹友「じゃあ何なんです?」

兄友「あいつさ。結局妊娠なんかしてないってよ」

妹友「ああ・・・・・・やっぱりね」

758 : VIPに... - 2013/10/31 20:44:26.67 2kh/r0c7o 472/712


兄友「まあそんなことだろうとは思ってたんだけどよ」

妹友「見事にはめられましたね」

兄友「別に。前にも言ったろ? ちゃんと避妊してたって。どうせこんなことじゃないかって思ってたよ」

妹友「後輩さんは何て言ってるんですか」

兄友「想像妊娠だったって。別に騙したわけじゃないってさ」

妹友「・・・・・・それでどうするんですか。まさか」

兄友「まさかって?」

妹友「女さんに復縁話をする気ですか」

兄友「ねえよ。だいたい妊娠してなくたって、後輩ちゃんと妊娠するようなことをしてた時点で女的にはアウトだろ」

妹友「・・・・・・わかってはいるんですね」

兄友「あいつと兄がお互い好きなら応援するしかねえだろ。兄だって俺の親友だし」

妹友「浮気とかあなたのしたことは本当にクズですけど」

兄友「うるせえな。だから自分でもわかってるよ」

妹友「でもお兄さん・・・・・・」

兄友「うん?」

妹友「女さんのことを、いえ女さんとお兄さんのことを本気で好きなんですね」

兄友「・・・・・・さあな」

妹友「兄友さんって結構いい人なのかな・・・・・・」

兄友「本人を目の前にしてそういうこと呟くなよ。いいやつは浮気なんかしねえだろ」

妹友「・・・・・・まあ自分でわかっててやってる分たちが悪いとも言えますけどね」

兄友「何だよ。誉めてるんじゃねえのかよ」

妹友「どうでしょう」

兄友「それよか妹友ちゃんはどうなの? 君も兄のこと好きなんじゃねえのか」

妹友「・・・・・・それは」

兄友「女と兄が付き合い出してもいいのかよ」

妹友「・・・・・・」

妹友(・・・・・・お兄さんと)

妹友(手を繋いでキスしちゃった)

妹友(余裕ぶっていたけど。本当は胸がどきどきしてた)

妹友(何であんなこと・・・・・・)

妹友(何であんなに大胆なことができたんだろ)

妹友(妹ちゃんがお兄ちゃんと親密そうだったせいで、お兄さんは何か一人で納得して帰っちゃったけど)

妹友(あたしのしたことって。後輩さんという子が兄友さんにしたことと同じなんじゃ)

妹友(そんなことないよね。あたしはそんなつもりじゃない。ただ、お兄ちゃんと妹ちゃんの仲を何とかしたいだけだし)

妹友(そのためには。お兄さんが女さんと付き合えばいいんだけど)

妹友(・・・・・・まあ。どうしてもと言うならあたしがお兄さんを引き受けても。もうキスまでしちゃった仲だし)

妹友(でもそうしたら、兄友さんのしたことはまるで意味がなくなる)

妹友(うーん)

759 : VIPに... - 2013/10/31 20:44:58.08 2kh/r0c7o 473/712


「もう一月以上も連絡がないし」

妹友「電話もメールも何もないの?」

「ない」

妹友「ご両親のところにも?」

「それはわからない。最近はパパもママもあまり家に帰ってこないし」

妹友「え? それじゃ妹ちゃんいつもは家に一人きり?」

「うん」

妹友「だって食事とか掃除とか」

「それは平気。というかそれくらいしていないと気が紛れなし」

妹友「(あたしのせいなのかな?)だって寂しいでしょ」

「別に」

妹友「(そうだ)うちも普段両親遅いし。帰ってこないときもあるんだけど」

「うん?」

妹友「だから、ご両親がいないときはうちに来ない?」

「・・・・・・」

妹友「そしたら二人で一緒にいられるし」

「ありがと。でもいいや」

妹友「何で? 一人でいるよりいいでしょ」

「もしお兄ちゃんから家電に電話があったり、万一家に帰って来たときには家でお迎えしたいから」

妹友「何言ってるの。一月も連絡ないんでしょ?」

「でも」

妹友(兄友さんが言ってた。お兄さんと女さんは付き合い出したらしいって。大学でもいつでも一緒にいるみたいだって笑ってた)

妹友(どうしよう)

妹友「ひょっとして、うちに来るとお兄ちゃんがいることが気詰まりなの? それならあたしが妹ちゃんの家にお泊りしてもいいけど」

「ごめん。そういうわけじゃないんだ。あ、先生来たね」

妹友「うん」

760 : VIPに... - 2013/10/31 20:45:30.53 2kh/r0c7o 474/712


<・・・・・・女さんって嫉妬深い人ですか>




兄友「・・・・・・また君か」

妹友「迷惑でしたか」

兄友「そうは言ってない。ここまで来ると逆に意地でも君に付き合おうかって思えてくるから不思議だ」

妹友「・・・・・・」

兄友「それで今日はどうしたの」

妹友「今日は腹を割って兄友さんに相談したくて」

兄友「何だよ。告白なら間に合ってるぞ」

妹友「それはそうでしょうね。あなたには後輩さんという彼女がいるんですから」

兄友「俺のことはどうでもいいだろ」

妹友「妊娠とかって嘘をついて男を略奪するような女の子と何で付き合っているのか理解に苦しみますけど、まあ他人事なのでそれはどうでもいいです」

兄友「どうでもいいなら口にするなよ。しかもファミレスで他人に聞かれるような声量でさ」

妹友「それは失礼しました」

兄友「そんなに簡単には別れてくれねえんだって。こっちにもいろいろ事情があるんだよ。つまりだな」

妹友「いえ。別に聞かなくてもいいです。それよりあたしの相談を方を聞いてください」

兄友「君ってさ・・・・・・。まあいいや。それで相談って?」

妹友「・・・・・・本当にお兄さんと女さんって仲よくお付き合いをしているんですか」

兄友「うん。なるべく顔を会わせないようにしてるけど、もう付き合い出して一月は経っているんじゃねえかな」

妹友「・・・・・・そうですか」

兄友「何だよ。今日はやけに暗いじゃん。やっぱり君は兄のことが気になるのか?」

妹友「・・・・・・な! 何言ってるんですかこの低脳」

兄友「低脳ってひでえ」

妹友「あたしの相談はそんなことじゃありません。妹ちゃんのことなんですけど」

761 : VIPに... - 2013/10/31 20:46:01.75 2kh/r0c7o 475/712


兄友「妹ちゃんがどうかしたのか」

妹友「お兄さんから全然連絡がないみたいで。あの家ってあまり両親が帰ってこないから、妹ちゃんいつも学校が終ると家で夜一人でいるみたいなんです」

兄友「家で一人って。高校生の女の子がかよ」

妹友「はい」

兄友「それはひでえな。妹ちゃんかわいそうに」

妹友「ちょっと待ってください。あなたは妹ちゃんのこと知ってるんですか」

兄友「知ってるに決まってるじゃん。俺は高一の頃から兄の親友なんだし」

妹友「そうでした。じゃあ会ったこととか話したことも」

兄友「あるよ。つうか口説いたこともあるし」

妹友「・・・・・・あるんですか」

兄友「ちょ。こええよ妹友ちゃん。落ち着けって。それに妹ちゃんには相手にされなかったし」

妹友「納得しました」

兄友「納得されてもなあ。昔のことだけど何かへこむぜ」

妹友「全くあなたときたら。まあ、女さんという彼女がいるのに浮気したり、浮気相手を妊娠させるような男にあの妹ちゃんが振り向くはずはないですけど」

兄友「だから妊娠はしてないって。まあいいや。妹ちゃんは気の毒だけど相談ってそのことか?」

妹友「・・・・・・女さんって嫉妬深い人ですか」

兄友「何言ってるんだよ。・・・・・・まあ普通じゃね。でも何で?」

妹友「あのシスコンのお兄さんが一月も妹ちゃんを放置するわけないんですよね」

兄友「女が妹ちゃんに嫉妬して兄に連絡させないようにしていると言いたいのか」

妹友「そうとしか思えないんですよね」

兄友「それはないだろう。いくら何でも彼氏の妹にまで連絡させないとかありえねえよ。まあ確かに昔からあの兄妹は仲が良すぎるくらいではあるけどさ」

妹友「確かですか」

兄友「おう」

妹友「・・・・・・そうですか。おかしいなあ」

兄友「兄妹喧嘩でもしたんじゃねえの?」

妹友「そんなことなら妹ちゃんはあたしにそう言うはずですけど」

兄友「そうかな」

妹友「そうです!」

兄友「いくら君と妹ちゃんが親友だって言えないことだってあるんじゃねえかな」

妹友(言えないこと。やっぱり妹ちゃんって)

762 : VIPに... - 2013/10/31 20:46:34.52 2kh/r0c7o 476/712


兄友「じゃあな」

妹友「兄友さんまたです」

兄友「また? また俺を呼び出す気かよ」

妹友「嫌なんですか」

兄友「だからそのセリフは何度も聞いたって。いったい君は何をしたいの?」

妹友「・・・・・・何をって。それは妹ちゃんもお兄さんも幸せになってほしくて」

兄友「本当に?」

妹友「本当です。あたしが嘘をついているとでも?」

兄友「まあいいや。じゃあ、俺はこれから修羅場だから。じゃあな」

妹友「さりげなく修羅場って言いましたね」

兄友「全く胃が痛えよ。俺、ちゃんと後輩ちゃんと別れられるのかな」

妹友「別れてどうするんですか」

兄友「・・・・・・わからねえ」

妹友「まさかここにきて女さんに未練が出てきたんじゃないでしょうね」

兄友「・・・・・・」

妹友(え? 何黙ってるのよ。まさか本気で)

妹友(確かに妹ちゃんの現状は気の毒だし何とかしたいけど)

妹友(・・・・・・でも。女さんとお兄さんが別れちゃったら。そしたら)

妹友(そしたら。もしかして妹ちゃんはお兄ちゃんと別れてお兄さんのことを)

妹友(そんなことになったら目も当てられない。何のためにこんなことまでしたのかわからないじゃない)

兄友「じゃあ俺は帰るわ。またな」

妹友「またです」

妹友(あ)

妹友(そしたら・・・・・・)

妹友(そしたら。あたしがお兄さんと)

妹友(あたしなら女さんみたいにお兄さんと妹ちゃんに嫉妬して引きはがしたりしないし)

妹友(・・・・・・)

768 : VIPに... - 2013/11/03 23:05:44.61 HfBJyoWso 477/712


<あたしって可愛いですか>




兄友「いやあ、まいったっすよ」

妹友「あのですね」

兄友「おう」

妹友「あなた。本気であたしが好きなんですか」

兄友「な、何言ってるんだよ。やめろよ」

妹友「というかつまらない冗談に真剣に反応しないでください。あと顔を赤くするのも止めてください。気持悪いです」

兄友「・・・・・・おまえの冗談は心臓に悪い」

妹友「何であたしたち毎日のように会ってるんでしょうね」

兄友「・・・・・・・あのな。それは俺のセリフだ。昨日まではずっと妹友ちゃんが俺を呼び出してたんだろうが」

妹友「で? 何で昨日に引き続きあたしを呼び出したんですか」

兄友「いや、だから昨日はおまえの方が俺を呼び出して」

妹友「そんなことはどうでもいいです。っていうか、あたしのことをおまえって?」

兄友「へ?」

妹友「あたしのことをおまえって・・・・・・。兄友さんいきなりそんな」

兄友「・・・・・・何言ってるの?」

妹友「ごめんなさい。お気持は嬉しいけど、あたしは浮気するような人とはお付き合いできません」

兄友「俺さ。おまえのことを一言だって誘ったか?」

妹友「じゃあ何であたしをおまえって呼んだんです?」

兄友「だから。いや、もういい」

妹友「で。今日はどんなご用件ですか」

兄友「自分は平気で俺を呼び出すくせに。何で俺にだけ厳しいんだよ」

妹友「いいから用件をどうぞ」

兄友「・・・・・・言いづらいんだけどさ」

妹友「はい」

兄友「衝動的に女に復縁を申し込んじゃった」

妹友「はあ?」

兄友「そんなつもりじゃなかったんだけどさ」

妹友「・・・・・・あなたって人は。いったい何のために女さんを振ったんですか。自分のしていることがちゃんとわかってます?」

兄友「それはそうだけどよ。つい」

妹友「どういう状況だったか聞かせてもらいましょうか」

兄友「つまりだな」

769 : VIPに... - 2013/11/03 23:06:27.05 HfBJyoWso 478/712


妹友「・・・・・・つまりお兄さんと女さんが付き合っていることを知らない振りをしてお兄さんに近づいたと」

兄友「近づいたというか。まあ、もともと親友だしさ。兄の口から女との関係を言わせようと思って」

妹友「何でそんな面倒くさいことを」

兄友「君の言うとおり女は多分兄のことが好きだとは思ったんだけどさ。兄の方はどうかと思って」

妹友「付き合い出したんだから好きに決まってるじゃないですか」

兄友「俺は兄のことをよく知ってるから。あいつは状況に流されやすいし、目の前で誰かが泣いていれば自分の意思を曲げてでも慰めようとするところがあるからな」

妹友(へえ。よく見てるじゃん)

妹友「でも復縁を申し込んだ結果は? まあ、女さんに振られたんでしょうけど」

兄友「うん。でもそのこと自体は思ってたとおりだったんだよね。女は君の言うとおり兄にベタ惚れみたいだから」

妹友「だからそう言ったじゃないですか」

兄友「でもさ」

妹友「何です?」

兄友「女が一生懸命兄に抱きついてるのに、兄の反応はいまいち薄いんだよな」

妹友「お兄さんが女さんを慰めようと自分の意思に反して付き合っているということですか」

兄友「そうとしか見えなかったなあ、正直に言うと」

妹友(妹ちゃんとお兄ちゃんとの仲が深まるのはいいことだけど。でも、そのために妹ちゃんやお兄さんを不幸にしちゃいけない)

妹友(お兄さんが妹ちゃんを失っても女さんと付き合えたらそれでいいのかと思ってたけど、お兄さんが女さんのことを本当は好きじゃないなら)

妹友(・・・・・・お兄さんはまだ不幸なままじゃない)

妹友(おまけに普通の仲のいい兄妹に戻るどころか、女さんの嫉妬のせいでお兄さんは妹ちゃんに連絡もせず、妹ちゃんは辛い思いをしている)

妹友(このままじゃだめだ)

妹友(でも。じゃあ、どうしたらいいんだろ)

妹友(それなら。それならいっそ)

妹友「兄友さん?」

兄友「どうした」

妹友「あたしって可愛いですか」

兄友「はい?」

妹友「大学生の男の子から見て、あたしって女性として魅力的ですか」

兄友「いきなり何の話だよ。だから、俺は君のことなんか」

妹友「一般論でいいですから、ちゃんと答えてください」

770 : VIPに... - 2013/11/03 23:06:59.25 HfBJyoWso 479/712


兄友「・・・・・・可愛いんじゃねえの。見た目も清純な美少女だし。まあ、性格は小悪魔だけどな」

妹友「そうですか」

兄友「いきなりどうしたんだよ」

妹友(あたしがお兄さんに好きですと言ったとき。お兄さんはあたしの気持ちを否定しなかった)

妹友(もちろん、受け入れてもくれなかったけど、それは妹ちゃんがいたからだ。でも、今ではもうお兄さんは妹ちゃんのことは諦めているはず)

妹友(・・・・・・女さんの彼氏でいるよりは、あたしの彼氏でいる方がお兄さんにとっても妹ちゃんにとっても幸せなんじゃないの?)

兄友「急に恐い顔で黙っちゃってどうしたよ。小悪魔っていうのは軽いジョークだって。ジョーク」

妹友(お兄ちゃんと妹ちゃん。あたしとお兄さん)

妹友(これが実現したら誰も不幸にならない)

妹友(いつも四人でいられるし。ダブルデートだって)

妹友(・・・・・・いや。もう誤魔化すのはやめよう。最初はお兄ちゃんを諦めるために始めたことだけど。今では多分あたしもお兄さんのことを)

妹友(嫉妬から妹ちゃんに連絡させない女さんなんかに同情する必要はない。それに)

妹友(女さんも救済してあげればいい。多分、兄友さんはまだ女さんに未練があるようだし)

妹友(女さんがお兄さんのことを好きだったとしても、もともとは兄友さんと付き合っていたんだし、兄友さんと復縁する可能性はあるよね)

妹友(まあ、このバカが思ったとおりに行動してくれればだけど)

兄友「また何か考え込んでる。俺といるとそんなに退屈かなあ」

妹友「あのですね」

兄友「おお」

妹友「兄友さんが女さんを想うその気持にあたしは感動しました」

兄友「え? って何々」

妹友「確かにあなたの浮気は誉められたことではないですけど、その後の行動は立派でした」

兄友「君に誉められると気持悪い」

妹友「本心ですよ。復縁の要請だって女さんのことを想ってのことなんでしょ?」

兄友「・・・・・・いや。それは100%女のためというよりは」

妹友「わかってますよ。お兄さんは本当は女さんのことを好きではない。このままじゃいずれは女さんが不幸になると思ったからなんでしょ」

兄友「え? あ、ああ。そう・・・・・・かな」

妹友「今日は帰ります。どうすればいいか少し考えてみますから、その間は兄友さんはおとなしくしててくださいね」

兄友「考えるって何を」

妹友「また連絡します。それじゃあ、失礼します」

兄友「なんなんだよ」

771 : VIPに... - 2013/11/03 23:09:31.05 HfBJyoWso 480/712


<不機嫌な朝食>




妹友「お兄ちゃんおはよう」

彼氏「おはよう。今朝は遅いんだな」

妹友「まあ、ちょっと考えごとしてて寝不足で」

彼氏「珍しいな。寝つきのいいおまえが寝不足なんてさ」

妹友「たまにはね」

彼氏「早く食事しないと遅刻するぞ」

妹友「お兄ちゃんはもう食べちゃったの」

彼氏「今何時だと思ってるんだよ。とっくに食い終わったって」

妹友「待っててくれてもいいのに」

彼氏「遅刻の道連れはごめんだ。じゃあ、行ってきます」

妹友「冷たいなあ。あ。ひょっとして今日も妹ちゃんと」

彼氏「違うよばか。じゃあな。おまえも急いだ方がいいよ」

妹友「違うのか。行ってらっしゃい」

妹友(とにかくさっさと食べて出かけないと遅刻しちゃう)

妹友(考えの続きは授業中にでも)

妹友(寝不足で食欲がないなあ。もう朝ごはんはいいや。出かけちゃおう)

妹友(支度もできたし。あれ、ママとパパの声?)

「いい加減にしてよ。あなたはいったい何の証拠があってそんなことを」

「証拠とかって言い出すこと自体が怪しいじゃないか。後ろめたいことがあるからだろう」

「言いがかりです。私は仕事で忙しいしあなたの言うことなんかあるわけないでしょ。自分の妻を信じられないの」

「信じたかったさ。でもなあ、富士峰の保護者会でも噂になっているって聞いたぞ」

「いったい何のことだかわかりません。私が不倫って、あなたは私が誰と不倫しているって妄想しているの」

「・・・・・・池山さんという人だそうだな」

「・・・・・・! 何であなたが」

「何で知っているかって? 隠せてると思っているのはおまえだけだ。もう保護者の間でも噂になっているんだよ。どういうつもりだ? 妹友や池山さんのお嬢さんに申し訳ないと思わないのか」

「・・・・・・」

772 : VIPに... - 2013/11/03 23:10:01.24 HfBJyoWso 481/712


「否定しないんだな。そして言い訳すらなしか」

「こそこそ嗅ぎまわっていたのね。卑怯者」

「こそこそ娘の友だちの父親と浮気していた君には言われたくないね」

「あなただって。あたしが知らないと思ったら大間違いよ」

「何を言っているのかわからん。私にはやましいことは全くないよ」

「あなたの部下の女の子、まだ二十五歳なんですってね。あたしより妹友の方が年齢が近いじゃないの」

「・・・・・・彼女とは何でもない」

「何でもない? 子どもたちを放っておいて残業だと嘘をついて二人でいたくせに。あなた、恥かしくないの?」

「それはおまえだけには言われたくないな。 妹友の親友のお父さんといい仲になっているような女には」

「いい機会だし、ちゃんと話し合いましょうか」

「私にはやましいことはないよ。でもそうだな。話し合うか」

「離婚してください。そして子どもたちは私が育てます」

「いい加減にしないか。離婚とか子どもたちに何て説明するつもりだ」

「あの子たちならわかってくれる。あなたのような横暴な父親から解放されるんなら、子どもたちは私と一緒に暮らしはずよ」

「本気なんだな」

「そうです」

「わかった。私だって夫以外の男と不倫している君なんかいらない」

「ここ十年間で初めて意見が一致したわね」

「だが、親権の話は別だ」

「あはは。あの子たちが仕事以外に興味のないあなたについていくとでも思ってるの」

「・・・・・・それは聞いてみなければわからないだろう」

「いいわよ。子どもたちに決めさせましょう。それでいいわね?」

「いいだろう」

773 : VIPに... - 2013/11/03 23:11:23.46 HfBJyoWso 482/712


妹友(な、何よこれ)

妹友(直接聞き出して)

妹友(・・・・・・きゃ!)

彼氏「いいから行くぞ。今あいつらと話したってどうしよもない」

妹友「お兄ちゃん!?」

彼氏「大きな声を出すなよ。あいつらに気づかれる」

妹友(何でお兄ちゃんが)

彼氏「おまえにはまだ知られたくなかったな」

妹友「もう家の外だからいいでしょ。パパとママって離婚するの?」

彼氏「さあ。そこまでは知らない。でも、どうも母さんが浮気しているのは確かみたいだな」

妹友「そんな・・・・・・。まさかその相手って」

彼氏「おまえも聞いてたんだろ」

妹友「妹ちゃんのお母さん・・・・・・」

彼氏「どうもそうみたいだ」

妹友「・・・・・・」

彼氏「母さん最低だ」

妹友「パパは本当に妹ちゃんのお母さんと」

彼氏「どうもそうみたいだね」

妹友「何で? 何でよ。お兄ちゃんは前から知っていたの?」

彼氏「正直に言うと・・・・・・知ってた。前に母さんと父さん以外の誰かが腕を組んで一緒に歩いているのを見かけたことがあったから。それから注意していると、家でも父さんと母さんが深刻な表情で言い合いをしていることにも気がついた。内容はさっきおまえが聞いたとおりだよ」

妹友「何でよ」

彼氏「何でかなんか僕にはわからないよ。きっと父さんにだって。いや、母さん自身にだってわかっていないかもしれない」

妹友「離婚しちゃうの? あたしたちはどうなるの」

彼氏「さあな」

妹友「さあなって・・・・・・。お兄ちゃんは兄妹が離れ離れになっても平気なの?」

彼氏「平気じゃないけど。でも僕たちにはどうしようもないだろ」

妹友「ずいぶん冷たいのね。今のお兄ちゃんの目には妹ちゃんしか写っていないのかな」

彼氏「そうだね」

妹友「・・・・・・!」

彼氏「僕が今いろいろな意味で一番何とかしたいのは妹ちゃんだからね」

妹友「そんなに好きなの? 家族がバラバラになることも気にならないくらいに?」

彼氏「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃんん?」

 そんなわけないだろ。身体の深いところからぎりぎり振り絞ったような低い声でお兄ち
ゃんは言った。

「そんなわけないだろ。悲しくて悔しくてたまらないよ。このままじゃ済ませない」

 お兄ちゃんの剣幕に驚いたあたしは黙ったままだった。今まで見たことのないお兄ちゃ
んの恐い表情。お兄ちゃんの口調。

「妹ちゃんに罪はないけど、妹ちゃんは僕の彼女になってもらう」

774 : VIPに... - 2013/11/03 23:11:55.22 HfBJyoWso 483/712


 それは以前からお兄ちゃんの願望であったはずだった。今さら力説することではないのに。

「妹ちゃんには悪いけど。僕は妹ちゃんの父親に思い知らせてやるんだ。自分の大切な人が突然知らな人間に奪われる辛さをね。妹ちゃんにはちょっと苦しい思いをさせちゃうけどしかたないよね。悪いのは彼女の父親なんだしさ」

 そのときのお兄ちゃんの表情は、以前顔を赤くして妹ちゃんが気になるんだと言ったとき、照れた様子で少し笑っていた表情とは全く違っていて、暗いけど一切の口出しを許容しそうにない強い意思が感じられた。そんなお兄ちゃんをあたしは初めて見たのだ。

 放課後、機械的に授業を済ませて真っ直ぐ家に帰ったあたしの携帯が鳴った。

 それは妹ちゃんからの着信だった。

775 : VIPに... - 2013/11/03 23:12:25.92 HfBJyoWso 484/712


<最低な行動>




『どうしたの? 今日はお兄さんのところに行くんじゃなかったっけ?』

『行ってきた』

『それにしちゃずいぶん早く帰ってきたのね。お兄さんと喧嘩でもした?』

『・・・・・・』

『まさか、お兄さんにその。無理矢理変なことを』

『・・・・・・違うよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がるようなことをする人じゃないもん』

『じゃあ、どうしたの』

 最初、妹ちゃんは俯いているだけで何も話してくれなかったけど、辛抱強く質問を繰り返しているとようやくぽつぽつと話し出してくれた。

 お兄さんに告白されてそれを断ったこととか。

『だって。二人きりの兄妹だしお兄ちゃんのことは大好きだけど、ずっと家族として生きてきて、それは何よりも大事な家族だけど、それでもやっぱり恋人として付き合ってくれって言われても素直にはいって言えなかった』

『まあ、それが普通だよね。妹ちゃんが悩むことじゃないじゃん』

 あたしは妹ちゃんがお兄さんの告白を断ったことにはほっとしていた。でも、やはりお兄さんが妹ちゃんのことを、自分の実の妹のことを好きだという事実に、あたしは少し動揺していた。

『・・・・・・でも。お兄ちゃん、あたしが妹友ちゃんのお兄さんと手をつないでいるところを見たらしくて』

『そうか』

『タイミングが悪いよ。これじゃまるであたしがお兄ちゃんじゃなくて、妹友ちゃんの彼氏の方を選んだって思って傷つけちゃったのかも』

『だってそれ、別にもう誤解じゃないんじゃ・・・・・・』

 あたしは思わず我慢できずにそう言った。きっかけはともかく今となっては妹ちゃんもお兄ちゃんのことが気になっているはずなのだ。図書館での妹ちゃんの告白をお兄ちゃんから聞く限りは。でも妹ちゃんは黙ってしまった。

 あたしはしかたなく話を進めた。

『・・・・・・』

『そんなことをお兄さんに言われたの? それで泣いて帰って来たの』

『お兄ちゃんの部屋に行って、お兄ちゃんに謝って今までどおりの兄妹の関係でいてくださいってお願いしようと思ったんだけど』

『うん。それで』

『お兄ちゃんの部屋に女さんがいた』

『女さんって誰だっけ』

 もちろん彼女のことは知っている。そして、兄友さんが未練たっぷりに再び一度振った彼女に言い寄ったことも。でもそこまでは妹ちゃんも知らないようだった。

『妹友ちゃんは多分知らないと思う。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ』

『そんで?』

『女さんに怒られた。あたしがお兄ちゃんを振ったくせにのこのこ慰めに来るなんてって。あたしには彼氏がいるくせに女さんに嫉妬するなんてって』

『お兄さん最低。彼女がいるのに妹ちゃんに告白するなんて』

『・・・・・・あたしに断られてから付き合い出したっぽいけど』

『そっか』

776 : VIPに... - 2013/11/03 23:12:54.45 HfBJyoWso 485/712


『女さんに言われた。どうせあたしに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを慰めてあげよとかって軽い気持で来たんでしょって。そしたらお兄ちゃんの部屋に彼女がいたんでかっとなったんでしょ、自分は彼氏がいて兄を振ったくせに、その兄に彼女ができることが許せないんでしょ。どこまで身勝手なのよって」

『う~ん』

 正直に言うと女さんの言うことの方が筋が通っていると思う。でもあたしはそれを妹ちゃんには言えなかった。

『あと女さんに言われた。どうせお兄ちゃんのところに来るなら、彼氏と別れて兄に告白するくらいの覚悟で来いって』

『いやいや。それはおかしいでしょ。妹ちゃんが好きなのはうちの兄貴なのに』

 そのとき一瞬、お兄ちゃんが暗い表情で口にした言葉が脳裏をよぎった。あれはひどい内容だった。自分の親友を待っているその辛い境遇を勧めるなんて、親友の行動としてはありえないだろう。そう思ったけど、もう言葉は止まらなかった。口ごもった妹ちゃんにあたしは畳み掛けるように言った。

『何とか言いなさいよ』

『しばらく妹友ちゃんのお兄さんとは会わないほうがいいのかも』

『ちょっと待ってよ。あんたら付き合ってるんでしょ。何でそんな女に言いがかりを付けられたくらいでそういうことになるのよ』

『でも・・・・・・』

『でも、何よ』

『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで何も問題ないじゃない』

『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』

『それはそうだけど』

『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬したの』

『・・・・・・』

『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

『・・・・・・違うよ』

『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

『多分』

『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あんた。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

『・・・・・・』

『何か言ってよ』

『わからない。ちょっとよく考えてみる』

『・・・・・・妹ちゃん』

 ママの不倫の事実はショックだった。自分の居場所である家庭が崩壊しようとしているのだから。それでもそのときのあたしは、妹ちゃんがお兄さんにこれ以上接近することが許せなかった。お兄ちゃんのためなのか。あたしのお兄さんへの恋のためなのか。それとも。家庭が崩壊しそうなのは妹ちゃんとお兄さんの家族も一緒だ。二人に罪がないこともあたしたち兄妹と同じなのだ。

 あたしは翌日、お兄さんに会いに行くことにした。住所は妹ちゃんが不審そうな様子すら見せずに教えてくれていた。もう、迷っている場合ではなかった。

777 : VIPに... - 2013/11/03 23:14:00.26 HfBJyoWso 486/712


 このときのあたしは精一杯努力して、普段の軽くちょっと口の悪い女の子を装えたと思う。

「今開けるよ」

「おはようございます」

「何でいるの」

「お兄さんに会いに来たからです。いちいち聞くことですか? それって」

「いやいや。おかしいだろ。だいたい何で俺の住んでいる場所を知ってるんだよ」

「ふふ」

「ふふじゃねえ」

「世の中にはお兄さんが知らない方が幸せな特別なコネとかルートとかがあるんですよ」

「妹から聞き出しやがったか」

「なぜそれを? まあそうなんですけど。お兄さん、部屋には入れてくれないんですか」

「いったい俺に何の用だよ」

妹友「それとも部屋に入れるとまずいことでもあるんですか」

「別に何もねえよ」

妹友「よくそんなことが言えますね。どの口が言ってるのかな」

 あたしはお兄さんの口にはもうキスしたことがある。それでも久し振りの肉体的な接触はあたしをどきどきさせた。

「って痛てえよ。口を手でひねるな」

「本当にお兄さんは洞察力とかないんですね」

「何だ」

778 : VIPに... - 2013/11/03 23:15:37.93 HfBJyoWso 487/712


「あたしが妹ちゃんから聞いたのがお兄さんの住所だけだったと思っているのですか」

「え」

「妹ちゃん泣いてましたよ。どういうわけか今日のお兄ちゃんとのデートまでキャンセルしちゃったし。おかげでお兄ちゃんまで落ち込んで大変でした。いったいどうやってこの責任を取るつもりなんですか」

「責任って言われてもなあ。妹とあいつの彼氏ことなんか俺には関係ねえし」

「無責任もいいところですね」

「何でだよ」

「お兄さんは年上なんだから譲歩してください」

「譲歩って何だよ。それに兄貴なんだから妹より俺が年上なんて言うまでもないことじゃんか」

「ずっとここで立ち話も何ですから部屋の中で話しましょう」

「おい、勝手に入るなよ」

 お兄さんの部屋には女さんの痕跡はなかった。なぜかあたしはそのことにほっとしていた。

「お気遣いなく」

「むしろおまえがもっと気を遣えよ」

「ホストはお兄さんの方ですから」

「まあいい。適当に座れよ」

 諦めたようにお兄さんが言った。その口調や表情にあたしはなぜかいらいらしたのだった。それは半ばは自分に向けられた感情だったのかもしれない。

 双方の家族が崩壊しそうだというのに、あたしはいったい何をしているのだろう。お兄ちゃんが考えていることは妹ちゃんとその家族にとってはひどいことだけど、少なくともそんなことを考えつくだけお兄ちゃんは苦しんでいるのだ。

 それに比べてあたしはどうだろう。家族の崩壊のことをよそにお兄さんへの自分の恋心を追及しているあたしは、お兄ちゃんからはどう見えるのだろう。

 四人全員が幸せになる。あたしはそれを目標にしてきた。でもお兄ちゃんが妹ちゃんのお父さんへの敵意をむき出しにしている今、それでもお兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うことが二人の幸せなのだろうか。後悔するのはもう遅い。

 あたしは次にすべき行動を心の中で準備しながら、お兄さんの勧めてくた場所に腰をおろした。

783 : VIPに... - 2013/11/07 23:47:47.01 /jDgoB6To 488/712


<お兄ちゃんが好きです>




 あたしが朝早く起きて作ってきたオムライスはあたしが事前に考えていたほどお兄さんの歓心を得ることはできなかったようだった。というか、朝の五時に起きて作ったと言ったらマジで引かれてしまった。冗談のつもりだったのに。でもそんなことはどうでもいい。今日はあたしのお兄さんへの願望をかなえようとしてきたのではない。

 妹ちゃんはお兄さんと女さんのことを知って傷付いている。そして、あろうことかあたしのお兄ちゃんの妹ちゃんへの気持ちすら無視してでもお兄さんへの気持を再考しようとすらしている。

 双方の両親の浮気とお兄ちゃんの復讐心のことは心の底で重苦しくあたしを悩ませていたけど、それでもあたしのすることは一つだった。

 あたしはお兄さんに言った。

「妹ちゃんが彼氏を好きな気持を理解してあげてください」

「理解しろと言われても。妹とおまえの兄貴が好きなようにすればいい話じゃねえの」

「昨日、妹ちゃんは泣いてました」

「おまえ妹と会ったの?」

「はい。泣き腫らした目で電車から出てきたところを見かけたんで、とりあえずスタバに連れて行って話を聞きました」

「それで妹ちゃんを宥めているとようやく彼女が泣いていた理由を話してくれました」

「と言われても何がなんだかわからん」

「妹ちゃんが自分のことを好きかも!? やったー! って単純に考えなかったのはお兄さんにしては立派です」

 あたしは妹ちゃんがお兄さんのことで悩んでいるのを聞いてもそれほど動じなかったお兄さんの態度に励まされ、言葉を畳み掛けた。

「お兄さんには女さんという彼女がいますしね。今さら妹ちゃんに告られても困りますよね」

「・・・・・・うん。まあそう・・・・・・かな」

 お兄さんは不得要領に答えた。

「その女さんって兄友さんっていう人から別れたばかりだって聞きましたけど、そのうえお兄さんにまで振られたら自殺しかねませんよね」

 これはひどい言い方だったけど決して嘘ではなかったと思う。

「うちのお兄ちゃんだってそうです。できたばっかの彼女に会えないって言われて落ち込んでますし、このうえ振られでもしたら」

「そうだけど」

「年上の男の余裕を見せてください」

「どうすればいいの」

「妹ちゃんと仲直りしてください。単なる仲のいい兄妹として」

 お兄さんは黙ってしまった。

「そんで、お兄さんは女さんと、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと付き合えば何の問題も生じないじゃないですか」

「そうかもな」

「そうですよ」

「妹のことはわかった。俺だって一度は振られてるんだし妹に付きまとう気なんかねえよ。ちょっと意地になってたけど、妹とは普通に話せるように努力するよ」

「それが一番いい解決策だと思います。誰も傷付かないし」

「じゃあ、善は急げだな。妹にメール出すぞ」

784 : VIPに... - 2013/11/07 23:49:34.25 /jDgoB6To 489/712


 お兄さんが考えたメールは確かこういう内容だったと思う。



『昨日は悪かったな。いろいろおまえを悩ましちゃったことを後悔している。おまえの言うとおり、俺とおまえはいい兄妹の仲に戻るべきだ。それがようやくわかったよ』

『もうおまえと彼氏の仲に嫉妬したりもしない。だからおまえも俺と女の仲を祝福して認めてくれ』

『これからはなるべく実家に帰るようにするし、おまえが寂しかったらいつでも電話して来い。まあ、おまえには彼氏がいるから余計なお世話かもしれないけど』

『じゃあ、もうわだかまりはなしな。また昔のようにバカな冗談を言い合おう』

『あ、そうだ。おまえのオムライス美味しかったよ。彼氏のを作るついでいいから、たまには俺にも作ってな』



 あたしが思うにこれはあたしにとって完璧なメールだと思った。でも、あたしはお兄さんのことを見くびっていたのかもしれない。自分が恋愛感情を抱き抱いたこの人の洞察力を。

「こんなメールでどうだろう」

「何か微妙にうちのお兄ちゃんを引き合いに出して拗ねている雰囲気が感じられるのですが」

「それはおまえの思い過ごしだ」

「まあいいでしょう。じゃあ、早速送信しちゃってください。それで兄貴も妹ちゃんも女さんもみんな幸せになれますから」

「そうだな。でもその前に聞かせてくれ」

「はい?」

「俺のことはいい。これで俺が幸せにあるかどうかはどうでもいいけど、おまえはこれで幸せになれるの?」

「頭沸いてるんですか?」

「おまえ、前に言ってなかったっけ? 俺のことが大好きだって。妹なんかに俺は渡さないって」

「それは」

 あたしが仕掛けているこのゲーム。なのに何であたしの方がお兄さんに追い詰められているのだろう。

「あれ、嘘だよな?」

「嘘じゃないです・・・・・・。何でそう思うんです?」

 あたしは手玉に取っていると思っていたお兄さんに追い詰められていた。本当にその気持は今となっては真実になっていたのに。

「あれが本当だったら、俺と女の仲を固めようなんてしないはずだろ」

「あたしは」

「何を企んでるんだ」

「別に。妹ちゃんやみんなが不幸になるのは嫌だから、自分がお兄さんから身を引く方がいいのかと。それだけです」

「半分は嘘だな。身を引く気になったのは本当だろうけど、俺からじゃなくておまえの兄貴からだろ」

「・・・・・・何言ってるんですか」

「おまえ、自分の兄貴のことが好きだろ?」

785 : VIPに... - 2013/11/07 23:52:22.68 /jDgoB6To 490/712


 お兄さんに自分の行動の理由がばれたかと覚悟したこのとき意外な救いが訪れた。お兄さんの思考は、あたしのお兄さんへの好意を追求するのではなく、あたしのお兄ちゃんへの好意を追求する方に向いたのだ。

 あたしはこのとき正直ほっとした。そして急に自分の意思を取り戻したようで、お兄さんに答える言葉も脳裏にしっかりと浮かぶようになって、あたしは狼狽した状態から自分を取り戻すことができた。

 あたしが好きなのはお兄さんだったから、端的に言えば目の前のお兄さんに迫ればいいだけの話だ。お兄ちゃんとか妹ちゃんとか女さんのことを考えないでいいなら、あたしのしたいことは今では明白になっていた。

「それは兄妹ですから」

 とりあえずお兄さんの的外れとは言えないけど、今ではもう興味を失っている話題に答えるしかなかった。

「異性として好きだろ?」

「頭」

「沸いてねえよ。何で俺の妹とおまえの兄貴の仲を取り持ったりしたんだ? おまえがつらくなるだけってわかっていたのに」

「・・・・・・本当に無駄に察しがいいんですね。恋愛スキルもないくせに」

「お互い様だろ。俺もおまえも自分の実の妹とか兄とかしか見てこなかったんだから。おまえを見てるとまるで鏡を見てるようだしな」

「覚えていたんですね。前にうっかり失言しちゃったことを・・・・・・」

 ここであたしは泣き出した。演技でなく場合でも、頑張れば涙は出るものだとあたしはこのとき悟った。それはお兄さんの言っていることが的外れではなかったせいもあるだろう。確かについこの前まであたしはお兄ちゃんのことが好きだったのだ。

 いや。世間体とかがなければ今でもあたしはお兄ちゃんのことを好きなままだったかもしれない。

「お兄ちゃんが好きです」

 あたしは自分の意思に関らず、そうお兄さんに答えてしまったようだった。それがよかったのかどうかは今でもわからない。

786 : VIPに... - 2013/11/07 23:53:20.78 /jDgoB6To 491/712


<夢の中みたい>




 そこから先は夢の中にいるようだった。お兄さんと交わした会話は今でも記憶の中に鮮明に残ってはいたけど、自分がどんな気持でお兄さんとそんな会話を交わしたのかはよくわからない。夢うつつで本能的に話していたのだと思うから、多分それは自分の本音だったのだろう。



「あたしの秘密がばれた以上は、もういろいろ誤魔化すのはやめます」

「そうしてくれるとありがたい」

「妹ちゃんのお兄さんへの感情が異性への思慕なのか仲のいい兄貴への想いなのかは、多分誰にもわかりません」

「そうかもな」

「というか、妹ちゃん本人にだってよくわかってないんじゃないですか」

「何でそう思う」

「お兄さんのことが本気で異性として好きなのか、あたしが妹ちゃんに聞いたとき、彼女はわからないからよく考えてみるって言ったましたけど、あれは多分本音だと思います」

 お兄さんは黙ってしまった。

「お兄さん?」

「ああ」

「年上の余裕を見せてください」

「まだ、それを言うのか」

「隠していた自分の秘密をお兄さんには気がつかれてしまったわけですけど、やっぱりお兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うのが一番うまくいくと思います」

「あたしもお兄さんも、自分の気持を追求していってもその先は行き止まりです。仮に相思相愛になれたとして、ラブラブな恋人同士になったとしてもそこから先には行き場所はありません」

「・・・・・・どういうこと」

787 : VIPに... - 2013/11/07 23:54:39.74 /jDgoB6To 492/712


「解説なんていらないでしょう。お兄ちゃんと妹さんなら、あるいはお兄さんと女さんなら恋人同士の先にはいろいろと行く先があるんですよ。実際にそこまで行き着けるかどうかは別としてですが。可能性としては、婚約して結婚してパパとママになって孫ができて」

「まあな」

「あたしやお兄さんの恋は違いますよね? 奇跡的に想いがかなったとして、恋人同士にはなれるかもしれない。でもその先はどうなるんです?」

 心の底ではこの質問に対するあたしの答が用意してあった。いや回答というよりは望みだったのかもしれない。

 あたしとお兄さんが付き合えばそんな不毛な将来はない。お兄ちゃんと妹ちゃんだってそうだ。二組の恋人たち。

 もうそれでいい。恋愛関係にはなれない組み合わせはできてしまうけど、それであたしたち四人は親しいままこの先の人生を送っていける。ひょっとしたら、お互いの両親の不倫さえ克服できるかもしれない。この関係によって。

「あくまでも仮定の話だけどさ。別に結婚とか出産とか育児とか、それだけが目標じゃないカップルがいたっていいんじゃね」

「一生恋人同士、それも人には言えない関係でっていうのもあるのかもしれませんけど、他の選択肢があるのにわざわざそんなつらい一本道に入ることを選ぶ必要なんてないでしょう」

「いろいろお兄さんを騙してしまってごめんなさい。あたしは別にお兄さんを好きでも何でもないです」

「それは別にいい。俺だっておまえを好きになったわけじゃないし」

「正直なのも過ぎると罪悪ですよ」

「何だって?」

「まあいいです。でも、その上でやっぱりあたしはお兄さんにお願いします。うちのお兄ちゃんのためだけではなく、お兄さんとあたしのためにも」

「何だよ」

「そのメール。今すぐ送信してください。お願いします」

 本当はここでお兄さんが好きだと言ったほうが良かったのだろうか。でも、お兄ちゃんが好きだと言ってしまったばかりだったあたしは、自分の言葉に束縛されていたのだった。

788 : VIPに... - 2013/11/07 23:55:52.88 /jDgoB6To 493/712


妹友「で。その後の様子はどうですか」

兄友「どうって。何か良心が痛むよ」

妹友「浮気して妊娠させるようなことをする人が何言ってるんです。それに兄友さんの心境を聞いたんじゃないです。女さんとかお兄さんの様子ですよ」

兄友「それがさあ。正直に言うとさ。俺、君の言うことを信じたわけじゃなかったんだよね」

妹友「そうですか」

兄友「でも、まあ。前にも言ったけど女と兄のカップルって女の方は本気で兄のことを好きみたいだけど、兄の方はそれほど女のことが好きなようには見えなかったんだよね」

妹友「それはもう何度もお聞きしました。だからあたしの提案に乗ることにしたんですよね」

兄友「まあね。俺は女が幸せになるなら本当に身を引くつもりだったけど、君の言うように兄が妹ちゃんに振られた反動で自棄になって女と付き合っているとしたら女がかわいそうすぎるしな」

妹友「あたしのことを信じていなかったとはどういうことです?」

兄友「兄がそれほど女のことを好きじゃないにしても、まさか本気で自分の妹に告って振られたとは思えなかったんだよなあ」

妹友「でも、結局女さんに言ったんでしょ? 妹ちゃんがお兄さんのことを振って後悔しているみたいだって」

兄友「ああ。そうしたらびっくりだよ。あいつ、あれだけ騙してきた俺の言うことなのにさ。妹ちゃんのことを話したらいきなり真剣な表情になっちゃって。やっぱりとかって俯いて呟いてたよ。俺、また女にひどいことしちゃった気分だ」

妹友「それで珍しく良心が痛んでいるわけですね」

兄友「いや、珍しいって言われるほどでもないと思うけど」

妹友「話が逸れましたけど、お兄さんを避けだしてからの女さんの様子はどうですか」

兄友「表面上は明るくしている。兄とは目を合わせないようにしてるのがわかるしね。普段は学内では俺と一緒に過ごしているよ。あと、女友っていうあいつの友だちと。やっぱり内心では相当落ち込んでいると思う」

妹友「やはり女さんはお兄さんと妹ちゃんに遠慮して身を引いたんでしょうか」

兄友「それ以外は考えられないだろう。俺が話をする前は兄にベタ惚れだったみたいだし」

789 : VIPに... - 2013/11/07 23:56:50.07 /jDgoB6To 494/712


妹友「そうですか」

妹友(妹ちゃんとお兄さんの部屋で鉢合わせしたときにはずいぶん強気だったみたいなのに。お兄さんの気持が自分の方に向いていないことに気がついたんだろうか)

妹友「お兄さんの様子はどうですか」

兄友「どうって・・・・・・・普通にぼっちしてるよ。女のことをあまり気にしている様子もないな」

妹友「やっぱり。お兄さんと話はしたんですか」

兄友「いや。その勇気がなくて」

妹友「勇気がないって。兄友さんってそういうキャラでしたっけ」

兄友「兄のやつ見かけによらず喧嘩強いんだよ。昔空手を習ってたとかでさ」

妹友「じゃあ、お兄さんとは何の連絡もやりとりもないんですか」

兄友「いや。一応メールしたことはした」

妹友「・・・・・・はい?」

兄友「女がもう兄には会えないって言うからさ。俺が何とかしなくちゃと思ってさ」

妹友「メールで済む話ですか。どこまで考えなしなんですか」

兄友「だって怒るとあいつ恐いんだもん」

妹友「はあ。そのメール見せてください」

兄友「いや。それはまずいというか」

妹友「どうしてです?」

兄友「どうしてっつうか」

妹友「見せてください」

兄友「・・・・・・はい」

790 : VIPに... - 2013/11/07 23:57:20.97 /jDgoB6To 495/712


from:兄友
to:兄
sub:悪かった
『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話するのはちょっと敷居が高いからメールした』

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女にメールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれた』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれた』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わりに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的におまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれないので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの付き合いをしようぜ』

『じゃあな』

791 : VIPに... - 2013/11/07 23:58:25.07 /jDgoB6To 496/712


<計算外>




妹友「・・・・・・・何ですかこれ」

兄友「いやその」

妹友「まず女さんは兄友さんとやり直すなんて一言も言ってないですよね」

兄友「うん」

妹友「そして女さんは兄友さんを選んだわけではなく、多分お兄さんのためを思って身を引いたんですよね」

兄友「俺もそうだと思うんだ」

妹友「そしたらこのメール、一つだって真実が書かれてないじゃないですか」

兄友「だってよ。これくらい書かないとひょっとしたら兄が女に説明を求めるかもしれないし。それにさ」

妹友「それに?」

兄友「兄の妹ちゃんへの気持を俺が女にばらしたなんて兄には言えねえよ。もしそれを兄が知ったら俺はボコボコにされる」

妹友「あんたはアホですか」

兄友「・・・・・・」

妹友「こんな穴だらけの嘘。いつばれてもおかしくないじゃないですか」

兄友「そうかな」

妹友「そうですよ。こうなったら兄友さんにできることは一つしかないですね」

兄友「それって?」

妹友「このメールを本当にしてしまうことです。つまり本当に女さんと復縁することですね」

兄友「俺、自信ねえよ」

妹友「しっかりしてください。何が何でもやるしかないでしょう」

兄友「そうは言っても」

妹友「幸い女さんは今心身ともに辛い状況でしょうから、その状態に付け込むんです」

兄友「それは卑怯じゃないかな」

妹友「あなたにはそんなことが言える権利も余裕もないと思いますけど」

兄友「・・・・・・そうかもだけど」

792 : VIPに... - 2013/11/08 00:00:28.10 XlsGKDV0o 497/712


妹友「まあ、でも今は女さんも自分の心の痛みしか見えてないでしょうけど、そのうちに気がつくと思いますよ。自分が一番つらかったときに自分の横でそっと支えてくれた人の存在を」

兄友「それって俺のこと?」

妹友「そういう存在になるように頑張ってください。あんまり早まって迫らないようにして、いい友人として女さんを支えるようにするんです。そうしたらいつかは女さんは気がつくでしょう。つらい自分を無償の愛で包んでくれていた人の存在を」

兄友「それって時間かかるんじゃね?」

妹友「それはしかたないでしょ。焦ったっていいことはないですよ」

兄友「その間は他に女を作っちゃだめかな」

妹友「あなたという人は。どんだけ危機感がないんですか。また後輩さんのときと同じ過ちを犯すつもりですか」

兄友「そうじゃねえよ。後輩ちゃんとは本当に切れたんだ。つうかぶっちゃけ女友っていう女の友だちがすげえ綺麗でさ。雑誌の表紙モデルとかやってるほどの子なんだけどさ」

妹友「・・・・・・本当にいっぺん死ね」

兄友「・・・・・・わかったよ。そんなに睨むなって。女を支えることに専念する」

妹友「全く。一瞬兄友さんに殺意すら覚えましたよあたしは」

兄友「それにしてもよ。君は何で俺にそこまでしてくれるの?」

妹友「お兄さんと女さんが付き合っていると、お兄さんも含めてみんなが不幸になるからです」

兄友「そうかな」

妹友「はい。だからそのためには兄友さんと女さんの復縁を応援しているわけです」

兄友「妹友ちゃんっていい子だよな」

妹友「はい?」

兄友「いや。俺なんかに言われても嬉しくないだろうけどさ。君はすごく一途でいい子だ」

妹友「気持悪いから止めて下さい。それともまさかあたしのことを狙ってるんです?」

兄友「いや。好きな子は女なんだけど。女と知り合う前に妹友ちゃんと出会っていたらマジで惚れて君のこと口説いていたかもしれない」

妹友「そういう寝言はあたしがいないところで寝てから言ってください。あたしは浮気相手を妊娠させるような男の人とは絶対に付き合いません」

兄友「だから妊娠はしていなかったんだって」

妹友「うるさい。そういう問題じゃないでしょ」

793 : VIPに... - 2013/11/08 00:02:11.84 XlsGKDV0o 498/712


妹友(女さんのことはこのまま兄友さんに任せるしかない。あたしはもっとお兄さんと仲良くしよう)

妹友(親友として妹ちゃんの悩みを解決してあげたのはいいけど、実は今まで以上に危険な状態に戻ったのも確かなんだし)

妹友(お兄さんのメールを妹ちゃんが正しく理解して納得してくれれば、普通に仲のいい兄妹に戻るだけのはずだ。今のあたしとお兄ちゃんみたいに)

妹友(でも。お兄さんが女さんと疎遠になってから、妹ちゃんがお兄ちゃんと会わなくなってしまたのも事実だ)

妹友(一月以上仲のよかったお兄さんに放置されてたんだから、今頃妹ちゃんがその反動でお兄さんの方を優先しても不思議じゃない)

妹友(それでも平日はお兄さんは下宿先にいるんだし、妹ちゃんがお兄ちゃんのために割ける時間は十分にあるはず)

妹友(まさかあのメールのせいで、二人の仲が必要以上に接近しすぎたんじゃないよね)

妹友(・・・・・・)

妹友(いや。ありえる。妹ちゃんとお兄さんの仲なら何がおきても不思議じゃない)

妹友(お兄さんに早急に会って釘を刺しとかないと。まだ間に合うはず)

妹友(・・・・・・間に合うよね?)

妹友(あ。メールだ)



from:妹
to:妹友
sub:無題
『いろいろお兄ちゃんのことで相談しちゃってごめんね。おかげでお兄ちゃんと無事仲直りすることができました』



妹友(うん。ここまではいいよんえ)



『妹ちゃんはいっぱい心配してくれて、相談にも乗ってくれてありがと。あたしとお兄ちゃんは家族としてこれからも普通に仲良くやっていくことになりました。全部妹ちゃんのおかげです。本当にありがとね(はあと)』

794 : VIPに... - 2013/11/08 00:03:50.59 XlsGKDV0o 499/712


妹友(取り越し苦労だったかな。家族として仲直りしたのならあたしが望んでいたとおりの結果になったんだ)

妹友(あとは女さんに裏切られたと思っているだろうお兄さんをあたしが癒してあげればいい)



『明日の朝もお兄ちゃんはあたしに会いに実家に帰って来てくれるって。あたしがお願いしたらそうするって言ってたの。何かこれまでの一月の憂鬱な気分が嘘のように幸せ』

『それでね。彼氏君には申し訳ないんだけど、少し彼氏君と二人きりで会うのは止めようと思うの。せっかくお兄ちゃんと仲直りしたのに、お兄ちゃんが彼氏君のことを気にしすぎているようなんで』


妹友(え・・・・・・・?)



『ごめんね。そういうわけなんで彼氏君にもそれとなく話しておいてくれないかな?』

『勝手なお願いでごめんなさい。少しだけあたしに時間をください』

『それじゃまた学校でね』



妹友(しばらくお兄ちゃんと会うのを止める? お兄さんが彼氏君のことを気にしているから?)

妹友(何よこれ)

妹友(これじゃ話が違う)

妹友(お兄さんと会って話さなきゃ・・・・・・明日の朝、お兄さんが帰ってくる)

妹友(何時かわからないけど構わない。早朝に駅前で待ち構えていよう)

妹友(お兄ちゃんの気持は妹ちゃんのパパへの復讐で占められてるけど、お兄ちゃんはそういうのとは別に本当に妹ちゃんを愛しているはず)

妹友(・・・・・・お兄ちゃんを不幸にだけは)



続き
妹と俺との些細な出来事【7】


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