【関連】
妹と俺との些細な出来事【1】
妹と俺との些細な出来事【2】
<あたしの勝ちだ>
女友「隣に座ってもいい?」
兄「迷惑です」
女友「そう? じゃあお言葉に甘えて」
兄「おまえちょっとは人の話を聞けって」
女友「聞いてるって。何カリカリしてるのよ。ひょっとして生理?」
兄「おまえってそんなにひどいの」
女友「まあ、わりと重い方かな。って何で人の生理の事情をさりげなく聞いてるのよ」
兄「おまえが勝手にペラペラ喋ったんだろうが」
女友「変態、セクハラ男」
兄「おまえに言われたくねえよ」
女友「あんたさあ。そのお弁当の彼女にもそんなセクハラ発言してるの?」
兄「してねえよ(あれ? ちょっとはしてるかな。つうかしてたよな)」
女友「あんた最低だね」
兄「つうかさ。俺は女を手ひどく振ってなんていねえし。その話を聞きたいならここにいるだけ無駄だぞ」
女友「あ、それはもういいや」
兄「何だって」
女友「どうでもいい。あたしはあんたに興味を持ったんだから」
兄「いい加減にしろ」
女友「え」
兄「俺はこれから大切な人が作ってくれた弁当を食うんだからおまえは邪魔。どこかに行っちゃって」
女友「へえ」
兄(とにかく弁当を食おう。まずベジータの髪の海苔の部分を)
女友「その女の子って君にとってそんなに大切な子なんだ」
兄「おまえ、まだいたの」
女友「うん」
兄「うんって、おまえ」
女友「まだ、感想を聞いてないし」
兄「感想って言われても、まだ食ってないし」
女友「あんたねえ。誰が他の女が作った弁当の感想を聞いたのよ? 表紙のあたしの写真の感想だよ。どう? 可愛いかな」
兄「可愛いいんじゃねえの」
女友「投げやりだなあ」
兄(正直に言えばクソビッチとしか思えんわ。うちの姫のセーラー服姿とかこいつに見せて、絶望させてやりたいくらいだ。可愛いって言葉の意味を思い知らせてやりたい)
兄(いかん。とにかく弁当を食って妹に感想メールを送らないと)
兄(・・・・・・食ってはいるが落ちつかん。せっかくの姫の手づくり弁当なのに、何でこんな雰囲気で食わなきゃいかんのだ)
兄(女友って何考えてるんだろ)
女友「あはは。やっぱり我慢できないであたしの方を見た」
兄「何だよ」
女友「あたしの勝ちだ」
兄「何言ってるんだよ」
女友「あたしは彼女の手作り弁当に勝ったのね」
兄「・・・・・・意味わかんないんだけど」
女友「だってさ、あんたお弁当に集中できないであたしの方をちらっと見たじゃん。だから、あたしの勝ち」
兄「真面目な話、そろそろ一人にしてくれないかな」
女友「何で?」
兄「何でって、ゆっくり飯を食いたいし、おまえだってこれから昼飯だろ」
女友「ダイエット中なんだ」
兄「それ以上やせる必要なくね?」
女友「エッチ」
兄「何でだよ」
女友「ねえねえ。そのお弁当作った子の写メとかないの?」
兄「・・・・・・何で?」
女友「女ちゃんだってそれなりに綺麗じゃない? 黙ってれば」
兄「(よほど自分に自信があるのか、失礼な言い方だな。でもまあ黙ってればと言うのは正しいかもしれん)まあそうだね」
女友「そんな女ちゃんを振るくらいに君を夢中にさせた子を見てみたいから」
<お姫様フォルダー>
兄「だから振ってねえって」
女友「じゃあ、まだ女ちゃんと付き合っているの? ひょっとして二股かけてるんだ」
兄「違うって」
女友「じゃあどういうことよ? だってもう付き合ってないんでしょ」
兄「うるせえなあ。俺が女に振られたんだよ」
女友「本当かなあ。兄友君の話と全然違うじゃん」
兄(やっぱり兄友が変な噂を言い触らしてたのか。あいつ昨日は必死に俺に謝ろうとしてたから、兄友にも罪に意識があるんだって思ったけど。兄友をはねつけた妹の判断の方が正しかったのか)
女友「まあいいか。君のいうことが本当ならそのお弁当の子ってそんなに可愛くないんだろうなあ」
兄「(姫が可愛くない? ふざけるな)何でそう思う?」
女友「だって女に振られたからしかたなく二番目の子で我慢してるってことじゃない?」
兄「(もう我慢できん。許せ妹)可愛くないとかふざけんな。ほら、写メだ」
女友「どれどれ。スマホ貸してよ。よく見えないじゃん」
兄「・・・・・・」
女友「・・・・・・うそ」
兄「何が?」
女友「超可愛いじゃんこの子。セーラー服ってことは高校生か。やだ、すっぴんなのにこんなに可愛いんだ」
兄「(それ見ろ)まあな」
女友「この子、本当にあんたの彼女なの?」
兄(え)
女友「君のことちょっといいなって思ったのは本当だけどさ。それにしてもこんなに可愛い子が好きになるほどの男とは思えないんだけどなあ」
兄「言いたい放題言いやがって(でも本当のことだ。実際俺は妹に振られたんだし)」
兄(そろそろこいつは妹だって種明かしするか。)
兄「まあ実はそいつは」
女友「あ、体操服だ。何々、この子こんな写真まであんたに送ってくるの? マジ信じられないし」
兄「何勝手に人の写真フォルダーを開いてるんだよ」
女友「このフォルダー名、『お姫様フォルダー』って言うんだ。あははは」
兄「おいやめろ・・・・・・」
女友「何だか私服とか制服とかいっぱい画像があるんだね。カメラ目線だから隠し撮りってわけじゃなさそうだし」
兄「もういいだろ。返せよ(いや。それは妹が送ってくれたやつだけど最初の方のはほぼ全て隠し撮りだし)」
女友「はいはい。ほら返すよ」
兄「全く」
女友「でも確かに彼女可愛いわ。女ちゃんじゃ敵わなかったのもわかるなあ」
兄「さっきから一々上から目線だよなおまえって」
女友「本当はこの高校生の子と付き合いたかったから、女ちゃんを振ったんじゃないの」
兄「違うって」
女友「でもまあこれだけ可愛い子と付き合ってると他のことなんかどうでもよくなっちゃうかもね」
兄「何の話? つうか本当はこいつは俺の」
女友「君って大学で友だち作ろうとしないし、合コンも断ってるらしいじゃん」
兄「そういうのに興味ねえの。だいたい俺ってぼっちだし」
女友「この子ってどこに住んでるの?」
兄「(どこって同じ家だよ)いや、ここから電車で一時間半くらいのところ」
女友「紹介して」
兄「何だって?」
女友「彼女に会わせて」
兄「何でだよ」
女友「うちの事務所に紹介したいから。これだけ可愛ければすぐに人気モデルになると思うよ」
兄「そういうの興味ねえから」
女友「あんたになくてもこの子には興味あるかもしれないじゃん」
兄「断る」
女友「ははーん」
兄「何がははーんだよ」
女友「やっぱり紹介できないんだ。本当はこの子、彼女でも何でもないんでしょ。君が勝手に片想いしてるだけで」
兄「何だと(いや、それって本当のことだな)」
<姫を舐めるなよ>
女友「どういう関係なのかなあ。ひょっとして君はこの子の家庭教師をしてるとか?」
兄「違うね」
女友「じゃあ、親戚の女の子だ。単なる仲のいい従姉妹なんでしょ」
兄「(う。だんだん真実に近づいてきた)違うよ・・・・・・」
女友「紹介できないなんて何か怪しいじゃん。彼女じゃないから紹介できないんでしょ? あたしに見栄を張っちゃたんじゃないの」
兄「そこまで言うなら紹介してやろうじゃねえか(俺、何言ってるんだ)」
女友「やった。じゃあ、平日は彼女も高校があるだろうから今度の土曜日でどう?」
兄「今度の土曜日って、明後日じゃねえか(つうかこいつは実は妹だよって言うつもりだったのに)」
女友「いいじゃん別に。どうせデートなんでしょ。ちょっとだけデートの時間を割いてくれればそれでいいのよ」
兄「とにかく聞いてみるよ」
女友「そうして。じゃあ話がまとまったら連絡してね」
兄「連絡って言われても」
女友「ああ、そうか。じゃあアド交換しようか」
兄「・・・・・・」
女友「感謝しなさいよ。大学の男にアドレス教えるの、君が初めてなんだから」
兄「そんなこと知るか」
女友「強気だねえ。自分の彼女が美少女だとこうも強気になれるのかなあ。別に彼女が可愛いのなんて君の手柄でも何でもないのにね。まあ彼女が君の本当の彼女だとしたらの話だけどね」
兄「いちいちムカつくやつだな。おまえ友だち少ないだろ」
女友「こう見えても男の子のファンが多いのよあたし」
兄「モデルって同性に支持されなきゃいけないんじゃねえの」
女友「・・・・・・へえ。よくわかってるじゃん」
兄「いや、何となくだけど」
女友「写真のあたしは女の子にも人気あるから平気だよ。生身のあたしの方はともかく」
兄「(うん? 何かちょっと真面目な顔したぞ)そうなんだ」
女友「じゃあね。連絡して」
兄「・・・・・・」
兄(どうしよう。売り言葉に買い言葉で変なことを約束しちゃったよ)
兄(ここまで来たら今さら妹でした何て言えねえ)
兄(土曜日は妹が忙しいことにしようそうしよう)
兄(・・・・・・)
兄(いや。もう姫に嘘をつくのはやめだ。本当のことを言って、その上で女友に怒らればかにされれば済む話だ)
兄(よし。そうしよう。もう小細工は弄さない)
兄(ベジータのキャラ弁食おう)
兄(・・・・・・おいしい)
妹「あ、おかえりお兄ちゃん」
兄「・・・・・・ただいま」
妹「どうだった?」
兄「決まってるだろ。すげえおいしかったよ」
妹「そうか。あれベジータなんだよ」
兄「それくらい見ればわかるって」
妹「お兄ちゃん好きだったもんね」
兄「うん。ありがとな」
妹「・・・・・・」
兄「じゃあシャワー浴びてくるかな」
妹「・・・・・・」
兄「えーと」
妹「何があったの? 女さんか兄友さんに何か言われた?」
兄「今日はその二人とは顔を会わせてもいねえよ」
妹「じゃあ何があったの」
兄「何もないけど」
妹「姫を舐めるなよ」
兄「え」
妹「何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるのよ」
兄「・・・・・・」
妹「何年お兄ちゃんと家族でいたと思ってるの」
兄「それは多分十六年か十七年間だと思うけど」
妹「それだけ妹やってるとね。ベテランの妹になるのよ」
兄「何だそれ」
妹「さっさと話しなさいよ。何でお兄ちゃんが悩んでいるのか」
兄「別に悩みなんかないって」
妹「うそ。今のお兄ちゃん悩んでるときの雰囲気だもん」
兄「・・・・・・何なんだよいったい」
妹「女さんにひどいことでも言われたんでしょ」
兄「だから今日はどの講義にも女はいなかったって」
妹「じゃあ兄友さん関係?」
兄「いや。あいつとも今日は会ってねえ」
妹「じゃあ何で悩んでるの?」
兄「・・・・・・」
妹「・・・・・・あたしにだけは何でも話してよ。二人きりの兄妹じゃない」
兄「(そうだな。妹には嘘をついちゃいけなんだ)わかった。実は」
妹「何だそんなことか」
兄「売り言葉に買い言葉でさ。ついおまえのこと妹だって言えなくなっちゃってさ。本当にごめん」
妹「そんなに謝らなくてもいいよ。それに女友さんにそんなに可愛いって誉められるなんてちょっと嬉しいし」
兄「おまえ女友のこと知ってるの?」
妹「あたしの年齢くらいの女の子ならみんな知ってると思うよ。ほら、この人でしょ」
兄「ああそうそう。この表紙を見せられたんだよな」
妹「最近人気が出てきているモデルだよ。大学生とは知ってたけどお兄ちゃんと同じ大学だったんだ」
兄「こんなのが人気あるのかよ。これなら姫のほうが何百倍も可愛いのに」
妹「・・・・・・」
兄「あ。悪い」
妹「謝るな。むしろもっと誉めてって言ったでしょ」
兄「そうだった」
妹「じゃあ、女友さんにメールして土曜日の時間と待ち合わせ場所を決めて」
兄「はい?」
妹「はいじゃない。さっさとメールしちゃってよ」
兄「一緒に行ってくれるの」
妹「当然じゃない」
兄「何でまた。あ、ひょっとしておまえモデルとか芸能界とかに興味があるのか」
妹「んなわけないでしょ。そんな時間はないよ。ただでさえお兄ちゃんと同じ大学に行くのに偏差値が足りないのに、そんなことしてたら勉強時間がなくなっちゃうじゃん」
兄「じゃあ何で女友に会おうなんて思ったんだよ」
妹「気に食わないから」
兄「へ」
妹「お兄ちゃんが女友さんにばかにされるなんて我慢できないから」
兄「いや、でも女友の言っていることは嘘じゃねえし」
妹「何が」
兄「俺、おまえに振られてるしさ。きっと兄貴じゃなかったら、俺なんかじゃおまえとは口を聞くことすらできなかったろうし」
妹「いい加減にしないと怒るよ」
兄「だってよ」
妹「さっきからデモデモダッテとかうじうじ言うはよしなよ」
兄「う、うん」
妹「あとさ。土曜日はお兄ちゃんはあたしの手を握ったり肩を抱いたりしちゃだめだよ」
兄「・・・・・・え」
妹「あたしの方から手をつなぎに行ったり抱きついたりじっと見つめたりするからね」
兄「何で?」
妹「あたしの方がお兄ちゃんに夢中だっていうことを女友さんにわからせるためだよ。お兄ちゃんはそんなあたしに半分うんざりしているようなクールな雰囲気を出してね」
兄「無理だよ」
妹「それくらいできるでしょ」
兄「おまえにそんなことされたらきっと嬉しくてにやにやしちゃうと思う」
妹「・・・・・・もう。仕方ないお兄ちゃんだ」
兄(姫よ。何でそこで真っ赤になる)
妹「早くしないと待ち合わせに遅れちゃうよ」
兄「う、うん」
妹「お兄ちゃんちょっと緊張しすぎ」
兄「だってよ。おまえと俺が恋人同士なんて」
妹「・・・・・・お兄ちゃんさ。まさかあたしたちが本当の恋人同士の関係になるなんて期待してるんじゃないでしょうね」
兄「ば、ばか。そんなこと考えてるわけねえだろ」
妹「それならいい」
兄「大切な妹にそんな変な感情を抱くわけねえだろ」
妹「だってお兄ちゃんには前科があるし」
兄「だからあれは謝っただろ。もう二度と変なことは考えないって」
妹「本当?」
兄「誓って本当だ」
妹「じゃあ何で今朝あたしが起きたとき、あたしの身体はベッドの上でお兄ちゃんの手と足でがっちりとホールドされてたのかな?」
兄「言い訳してもいいか」
妹「いいよ」
兄「俺はもともと姫から三十センチ以上離れていようと努力してたんだ。これは本当だぜ」
妹「努力とかどうでもいいし。結果が全てでしょ」
兄「とにかくそうやって努力してたらおまえが突然俺の手を引いて自分の体の方に俺を引き寄せ」
妹「まあ、寝ぼけてるときのことまでは責任持てないよね」
兄「・・・・・・なあ」
妹「意識のないときの自分の行動を律することはできないしね。まあ自分でも知らない真の願望が無意識に行動に出てしまうということはあるのかもしれないけど」
兄「おまえ本当によかったのか」
妹「何よ。お兄ちゃんに抱きしめられることくらいもう慣れたよ」
兄「恋人の振りをするなんてさ。万一彼氏君に知られたらおまえだってまずいだろ」
妹「あ、お兄ちゃんが気にしてたのはそっちか」
兄「別に俺が女友にバカにされようが放っておけ。おまえが心配することはねえよ」
妹「放っておかないし。心配もするよ。大切な兄貴のことだもん」
兄「え」
妹「あの人じゃない?」
兄「ああ、そうだな」
妹「お兄ちゃんは何もしなくていい。と言うか何もしないほうがいい」
兄「お、おう」
<土曜日のデート>
女友「こんにちは。兄君」
兄「よう」
女友「偉い偉い。すっぽかさずにちゃんと来たんだ」
兄「何でだよ。来ない理由なんてないじゃん」
女友「強気だねえ。まあ無理もないか」
兄「・・・・・・」
女友「こんにちは」
妹「どうも」
女友「あれ? どうして兄君の背中に隠れちゃうの? あたしってそんなに恐いかなあ」
兄(姫め。おまえが初対面の女相手に俺の後ろに隠れるような殊勝な性格かよ。何企んでるんだ)
女友「ちょっと。ちゃんと紹介してよ」
兄「ああ。こいつは俺のいもう・・・・・・(って痛っ)」
女友「今何って言ったの」
兄「・・・・・・俺の彼女。妹っていう名前ね」
妹「・・・・・・こんにちは」
女友「こんにちは。兄君の親友の女友だよ」
妹「・・・・・・」
兄「誰が親友だ誰が。おまえとは昨日知り合ったばかりだろうが」
女友「妹ちゃんっておとなしくて本当に可愛いなあ。何かお人形さんみたい」
兄「まあね(性格はそんなにおとなしくないんだけどな)」
女友「それにしても兄君なんかがよくもこんなに可愛い子をゲットできたね。とっても不思議」
兄「うるせえ(全くもってそのとおりだけど)」
妹「・・・・・・」
女友「やだ。冗談だって。そんなに恐い目で睨まないでよ。兄君は十分に格好いいよ」
妹「・・・・・・」
女友「でも、おとなしいお人形さんみたいな子かと思ったら意外と気が強いのね。ますます気に入っちゃった」
兄「じゃあ、約束どおり紹介もしたことだし、俺たちもう行くわ」
女友「何言ってるのよ。まだ会ったばっかじゃん。話もこれからだし」
兄「話って何だよ(嫌な予感しかしねえ)」
女友「ね? ちょっとお茶でも飲もうよ妹ちゃん」
妹「・・・・・・はい」
女友「やった」
兄(え? 何でだよ。いったい姫のやつ何を考えてるんだ)
女友「無理言っちゃったからここはあたしがご馳走してあげるね。何でも好きなもの頼んでいいよ」
兄「いいよ。俺がおごるよ(こんなやつにご馳走されたら後が恐い)」
女「そう? じゃあ遠慮なく」
兄「おまえはどうする?」
妹「・・・・・アイスティー」
兄「何か食えばいいじゃん」
妹「あまりお腹空いてないし」
兄「じゃあ、この間一緒に食べたフルーツパフェにしろよ。あれ、美味しかったろ」
妹「だってあれすごく量が多いし・・・・・・じゃあ兄君も一緒に食べてくれる?」
兄「そうしようか」
女友「へえ。君たち仲がいいねえ」
妹「はい」
兄(おい)
女友「あたしもここの名物のジャンボフルーツパフェにしよっと。あとコーヒーね」
兄「(おいおい。遠慮しねえやつだな)おまえダイエットしてるんじゃねえの」
女友「今日はお休みする」
兄「あそ」
女友「そんなことはどうでもいいのよ。くだらない」
そう吐き棄てるように言った彼女は、突然今までのような気楽な様子とは一変した表情
を隠さなくなった。
<いい加減に嘘付くのはやめようよ>
兄「くだらないって何だ。おまえが誘ってきたんだろう」
女友「あんたは知らないでしょうけどね。あたしは女ちゃんとは友だちなの」
兄「それは聞いたよ」
女友「親友と言ってもいいかも」
兄「大学に入って知り合ったのにもう親友なのかよ」
女友「悪い? モデルなんかやってるから学内でもサークルでも浮きまくっていたあたしに、自然に声をかけてくれて一緒にいてくれたのが女ちゃんなんだよ」
兄「そうなのか(女からはそんな話聞いてねえけど)」
女友「モデル仲間ともそんなに仲良くないしさ。大学で友だちができるかなと思ってたら、何か知らないけどみんなに敬遠されちゃって。こんなに見た目がいいのに実はぼっちなの。あたしは」
兄(そういうこともあるんだな。リア充の典型みたいな女なのに)
女友「だからあたしに声をかけてくれた女ちゃんには感謝してるし、あたしは彼女のことを勝手に親友だと思ってるよ」
兄「・・・・・・そうか」
女友「それでも最初の頃はあまり彼女とは一緒にはいられなかった。その頃の女ちゃんには彼氏がいたからね」
兄「・・・・・・」
女友「それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの」
兄「でも女にはそのとき別の男がいたんじゃねえかな。確か兄友とかっていうチャらい男がさ」
女友「兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだって。女ちゃんはそう言ってたけど?」
兄(何言ってやがる。ふざけんな)
女友「その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだってさ」
兄(・・・・・・ここまで酷い筋書きを仕組まれるともう反論する気すらしねえ)
女友「さて。君は女ちゃんに振られたって言ってたよね? 君が振ったんじゃなくて君が振られたってさ」
兄「そのとおりだよ」
女友「それで傷心の君はすぐに新しい恋を見つけた。その相手がこの妹ちゃんって訳なんでしょ」
兄「・・・・・・ま、まあ。そうかな」
女友「今、気まずそうに目を逸らしたね」
兄「してねえよ」
女友「いい加減に嘘付くのはやめようよ」
女友「時系列が逆でしょ。あんたは妹ちゃんと付き合いたかった。そのためには女ちゃんが邪魔だった」
兄「おまえさあ。妄想もそこまで行くと行き過ぎだぞ」
女友「・・・・・・そうかもね」
兄「何だって?」
女友「女ちゃんと別れたいけど自分が悪者になりなくなかった君は、自分が振られたと言い触らすことにしたんでしょ。だから、兄友君にも自分が振られたってアピールまでしたのよね」
兄「事実無根だよ。おまえ、いったい何の証拠があって」
女友「たださあ。それって君がこの可愛い子と付き合いたかったからかなって思ってたんだけど、どうも二人の様子を見るに全然そうじゃないかもって今日になって思った」
兄「何言ってるんだ(何言ってるんだこいつ)」
女友「純粋に女ちゃんがうざくなったんでしょ? 確かに女ちゃんって好きになるとのめり込みそうだもんね」
兄「・・・・・・・(こいつ何かややこしい誤解をしてるな。どうしたら目を覚まさせることができるのか)」
女友「今日わかったよ。自分は女ちゃんに振られて傷心だったけど、今では好きな子と付き合えた。だからもう自分を振った女ちゃんには未練がない。女ちゃんにももう俺に構うなって。あんたはそうアピールしたかったのね」
兄「何言ってるんだ」
女友「そこまでして女ちゃんを諦めさせたかったのか。わざわざ偽装カップルまで仕込んでさ」
兄(発想が斜め上過ぎて反論する気力すらおきねえ)
女友「妹ちゃん。あなたは誰? 何で兄君のためなんかに恋人役まで引き受けたの。お金でももらったのかな。それともこいつに弱みでも握られた?」
妹「・・・・・・」
女友「何か言ってごらんよ。あんたのせいで今でも毎日泣いている女がいるんだよ」
兄「誤解だって。もうよせよ」
女友「何か本当のカップルって感じがしないのよね。君たちって」
妹「モデルの人って綺麗だけど頭の中身はちょっと残念な人が多いんでしょうか」
女友「・・・・・・どういう意味?」
兄(妹よ。煽ってどうするんだよおい)
妹「あなたって何がしたいんですか?」
女友「それは・・・・・・女ちゃんのために」
妹「女さんのために?」
女友「女ちゃん可哀想だしさ。元気になって欲しいし」
妹「兄君と女ちゃんを復縁させようとしてるんですか」
女友「それは、まあそうなればいいと」
妹「兄君の方にはそんな気がなくてもですか」
女友「そんなのは不誠実でしょ。勝手に振って勝手に女ちゃんを泣かせて」
妹「そんなことは聞いてないですよ。兄君にはもう女さんへの気持がないのに、形だけでも女さんとやり直す振りをしろって言いたいの?」
女友「そんなことは言ってないでしょ」
妹「何か大袈裟に推理小説の謎解きみたいな話をするから、もっとちゃんと考えてるのかと思ったのに。やっぱり見た目しか武器のない可愛そうな人なんですね。女さんって」
兄「おい。もうよせ」
妹「黙っててよ。だいたい兄君が女さんを振ったって何か証拠でもあるの? 女さん自身は何も話してないんでしょ? 結局あのチャらい兄友さんの伝聞証拠だけで勝手に人のことを決め付けてるけなんじゃない」
兄(姫こええ)
女友「じゃあ聞くけど、あんたは誰なのよ。兄君とはそういう関係? そうだお互いに自己紹介しましょう。これがあたしの学生証ね。あと、この雑誌のプロフィールにはモデルとしてのあたしの名前と写真。さあ、あなたは誰なの? 家庭教師の兄君の教え子かな? それとも従姉妹? 後輩じゃないよね。写メの制服って女子校だもんね」
妹「まあ、しかたないか。はい、あたしの高校の生徒手帳」
女友「・・・・・・これって」
兄(どうなってんだよ。恋人の振りをしてくれるんじゃなかったのか)
<お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから>
女友「・・・・・・兄君の学生証見せて」
兄「何でだよ」
妹「この人に見せてあげて」
兄「(もうどうなっても知らないぞ)ほれ」
女友「苗字が同じだね。池山兄と池山妹か。これって偶然?」
妹「あなたの考えているとおりですよ。あたしたちは兄妹です」
女友「・・・・・・え」
兄(あーあ。言っちゃったよ)
女友「あは」
妹「・・・・・・」
女友「あははははは。兄妹なのかあ。何だ、そうだったのか」
兄(ちょっと笑いすぎだろ。でも、妹は冷静だな。少しも動揺していない)
女友「なるほどねえ。兄君って偽装カップルする相手すら妹しか調達できなかったのかあ。あははは」
兄(・・・・・・何か惨めだ)
女友「ああ、おかしい。昨日はあたしに、妹以外に見せられる写メがなかったんだねえ。それで妹に頭を下げて恋人の振りをしてもらったのかあ」
兄「もういいだろ。俺たちはもう帰るぞ」
女友「待ちなさいよ。こんな嘘つくほど女ちゃんのこと嫌いなの?」
兄「(ここまでこじれると説明する気力すらわかねえ)もういいよ」
女友「もういいって何でよ。ここまでして女ちゃんをコケにすることはないでしょ」
妹「あなたって本当に面倒くさい人だなあ。お兄ちゃん何でこの人と知り合いなの」
女友「お兄ちゃんだって。お兄ちゃんだってさ。ふふふ。何が恋人よ」
妹「恋人って嘘じゃないんだけどなあ」
女友「何でよ」
妹「・・・・・・お兄ちゃん」
兄「お、おい」
女友「あ、あんたたち何してるのよ!」
妹「キスですけど」
兄(こら。俺の首に廻した手をほどけ)
女友「何でここまで必死なの? 兄妹だってばれてるのに」
妹「だから嘘なんか付いてないって言ってるじゃないですか」
女友「どういうこと」
妹「お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから」
女友「自棄になって見え透いた嘘を付くのはやめたら?」
妹「お兄ちゃん・・・・・・」
兄(う)
女友「こらよせ。人前でベロチューしてるんじゃないわよ」
妹「ここまでしないとわかってもらえないかと思って」
女友「・・・・・・本当なの?」
妹「こんなこと冗談でできると思いますか」
女友「兄妹なのにお互いに好きなの?」
妹「いけませんか? あなたに迷惑をかけるわけじゃないでしょ」
女友「兄君? 本当なの」
兄(げ。もちろん妹の嘘だけどここは合わせたほうがいいのかな)
女友「どうなのよ」
妹「お兄ちゃん?」
兄「ああ(また姫の可愛い上目遣いが)」
妹「お兄ちゃんのお姫様は誰だっけ」
兄「妹に決まってるだろ(あ、素で答えちゃった)」
妹「お兄ちゃんがこの世の中で一番大切な女の子は誰?」
兄「おまえ」
妹「・・・・・・というわけです」
女友「マジで引くわー。あなたせっかくこんなに可愛いのに、何で好き好んで禁断の愛なんかにのめり込むわけ?」
妹「あなたには関係ないですよね」
女友「もういい。わかったから、あたしの目の前で兄貴にべったり抱きつくのはやめてよ」
妹「あなたに指図されるいわれはありません。目障りならあなたが消えたらいいでしょ」
女友「いつからなの」
妹「あなたには関係ないけど特別に教えてあげます。お兄ちゃんが女さんに振られて落ち込んでいて、それを見てあたしもすごく辛くなって。そのとき、初めて自分が本当にお兄ちゃんが好きなんだって気が付きました」
女友「マジなの?」
妹「お兄ちゃんもようやくあたしの気持に応えてくれて。あたしたち、恋人になることにしたんです」
兄(これも演技でフェイクだよな? まさか本当にそう思っているわけじゃないよな)
兄(・・・・・・女とか兄友とか女友なんて今さらどうでもいいし、悪く言われたって構わないけど)
兄(妹の気持が気になってしかたねえ。俺、せっかくいい兄貴になると決めたのに何でこんなに気持が揺れるんだろ)
<こんなに可愛い年下の彼女が>
女友「まあ、そこまでしちゃうところを見ると嘘じゃないみたいね」
妹「口開けて」
兄「俺はいいって」
妹「あたし一人じゃ食べきれないもん。ほら」
兄「ああ、わかったから。ちょっと待って」
妹「はいどうぞ・・・・・・。美味しい?」
兄「う、うん」
女友「あたしを無視すんな」
兄「ああ悪い」
妹「ほら、お兄ちゃん。これも食べて。メロン好きでしょ」
兄「うん」
妹「へへ」
女友「わかった、わかった。君たちが恋人同士なことは認めるから、少し落ちつけ」
妹「落ちついてますよ。いつもどおりにしてるだけですけど。というかまだいたんですか女友さん」
女友「あのさあ。何でこんな結構な秘密をあっさりとカミングアウトした?」
兄(そうだよな。妹は俺が女にバカにされないように彼女の振りをしてくれただけだ。兄妹ってばれた時点で普通は諦めるのに)
兄(兄妹だってばれちゃって、それでも恋人だと言い張る意味なんかねえのに。しかも本当は恋人でも何でもないのに。わざわざ嘘を言って自分たちを追い込んでるんじゃねえの? これ)
妹「あなたがお兄ちゃんをバカにしたからです。お兄ちゃんには妹以外にこんなことを頼める子がいないって言いましたよね」
女友「・・・・・・言ったけど」
妹「お兄ちゃんにはこんなに可愛い年下の彼女がいたんですから訂正して謝ってください」
女友「可愛いって自分で言っちゃうの?」
妹「それが何か?」
女友「まあいいや。でもさ、結果的に間違ってないんじゃないかな。あたしの言ったこと」
妹「・・・・・・どういうことですか」
女友「やっぱり兄君ってもてないんだね。だってそうじゃん。彼女にできる候補が自分の妹しかいなかったんでしょ。近親の恋愛なんて外でもてない同士が手近なところで手っ取り早く恋愛欲求を満たしあっているだけなんじゃないの?」
兄(もてないって・・・・・・姫に向ってよくもそんな)
兄(あ、やべ。妹、本気で怒っているときの顔だ。例えて言えば鬼のような)
兄(知らねえぞ。妹は昔から男には告白されまくってたし、こないだ聞いた話ではどうも街中でもよくナンパされてるというのに)
妹「何も知らないでよくそんなふざけたことが言えますね」
兄(落ちついた冷静な口調。これは姫が怒っているときによく見られる現象である)
妹「うちのお兄ちゃんは女の子には不自由していないですよ」
女友「はい?」
兄(え? 姫が怒ってるのって自分のことじゃなくて俺のこと?)
妹「あなたが親友だと言った女さんだって彼女の方から昔からお兄ちゃんが好きだったと言って告白してきたんだし」
女友「何だ。自分のことじゃなくて兄貴のことでムカついてたのか。まあ、女ちゃんのことは認めるよ。兄君に振られて落ち込んでいたくらいだし」
妹「それだけじゃありません。あたしの親友だって前からお兄ちゃんを紹介しろってうるさいし。彼女がうちの家に遊びに来たがるのを阻止するのにずっと苦労してたんです」
兄(妹友が? いや。あいつが好きなのは俺じゃなくて自分の兄貴だろうに)
女友「わかったよ。訂正するよ」
妹「わかってもらえたならそれでいいです。ちなみにあたしの方も昔から男の子によく告白され続けて今に至っています。まあ、全部断ってきたんですけどね」
兄(嘘付け。おまえは彼氏君の告白にOKしたんだろうが)
兄(・・・・・・いかん。何をエキサイトしてるんだ俺は。これは全部妹の俺を想ってのフェイクなんだ。嘘があって当たり前だ。妹友のことだってそうだ)
女友「つまりそんなにもててるあなたち兄妹が、本気で選んだ相手が実の兄であり妹であったと言いたいわけね」
妹「よくわかりましたね。物分りが悪そうだからもっと理解させるのに時間がかかるかと思ってたのに」
女友「言いたい放題言ってくれるね。ちょっとばっかし可愛いからって」
兄(ここまで来ると何が真実でどれがフェイクなのかわからなくなってきた)
<でもでもだって>
女友「そこまではわかった。でも本当にあたしが聞きたいことは全く聞けてないね」
妹「ちょっと、そうじゃないでしょ」
兄「あ、悪い」
妹「パパが娘の手を引いてるんじゃないんだから。もう。彼女の手を握るときは恋人つなぎしろって言ったじゃない」
兄「すまん」
妹「あと手を握るついでにスカートの上からあたしの足をそろっと撫でるのはやめてよ」
兄「それは本当に不可抗力だぞ」
妹「どうだか。お兄ちゃんにはいろいろ前科があるし」
兄「マジでおまえの勘違いだって」
女友「ちょっとは人の話聞けよ! このバカップルが」
妹「ああ、ごめんなさい。何のお話でしたっけ」
女友「・・・・・・もしかしてわざとあたしのことをおちょくってる?」
妹「そんなことないですよ。お兄ちゃんとあたしはお互いに相手のことしか見えてなかっただけで。ごめんなさい」
女友「まあいいや。で、どうなのよ。女ちゃんは本当は振ったの? それとも振られたの」
兄「だから何度も言ってるだろうが。女は兄友とよりを戻して俺を振ったんだって」
女友「何か証拠はあるの」
妹「お兄ちゃん、あれ見せてあげて」
兄「そうか。そうだったな。これ見てみ」
女友「メール?」
兄「兄友から来たメールだよ」
女友「・・・・・・」
女友「・・・・・・これって」
妹「ようやく理解できましたか」
女友「でも。でもだってさ」
妹「でもでもだってとか言い出すときは自分の中でいろいろ整理がついていないときですよね。何がわからないんです? こんなにはっきりとした証拠があるのに」
女友「女ちゃんが泣いてた。泣きながら兄君と別れたって言ってた」
妹「別れたって言ってたんですよね? 振られたじゃなくて」
女友「そうだけど。でも泣いていたくらいだから、てっきり兄君に振られたんだと」
妹「はい。証拠のない思考停止の思い込みが一つはっきりしましたね」
女友「それに・・・・・・兄友君だって」
妹「あなた頭悪いでしょ」
兄(客観的に言うとモデルをしながらうちの大学に合格した女友の方が、姫よりも偏差値は高いと思うのでその言い方はどうかと思うが)
女友「妹ちゃんさ。さっきから兄貴が大切なのはわかるけど、少し言い過ぎじゃないの? 何であたしの頭の出来の問題になるのよ」
妹「兄友さんのメールを見たばかりでしょ。それとあなたがさっき言ってたことと比べたらどんな結論が出るんですかね。あなたもちょっとは頭使ってみたら?」
女友「どんな結論って」
兄(どんな結論って・・・・・・。兄友は俺に女とやり直すことにしたっていうメールを送ってきた。そしてさっきの女友の話は)
女友『それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの』
女友『兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだって。女ちゃんはそう言ってたけど?』
女友『その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだってさ』
兄(兄友は俺には女とやり直すことになった、悪いってメールして。で俺に振られたと思って悲しんでいたらしい女を優しく慰めた)
兄(これは・・・・・・)
女友「あ」
妹「やっと理解しました? あたしはさっきのあなたの話を聞いてすぐに思いつきましたよ。兄友さんがお兄ちゃんに女さんを取られたくなくていろいろ頭の悪い策略を仕掛けたんだって」
女友「じゃ、じゃあ」
<姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ>
妹「女さんもお兄ちゃんもお互いが知らない間に、お互いを振ったことにされちゃったんでしょうね」
女友「まさか。兄友君が」
妹「他に誰がいるんですか」
兄(嘘だろ。こ、これも妹のフェイクなのか)
兄(いや・・・・・・。偽の恋人の話と違って、この話には筋が通っている。講義が終わったときに俺が女に話しかけたときの女の不安そうな態度。そして俺と女を引きはがすように女を連れ去って行った兄友の行動)
兄(妹の言っていることは多分真実だ)
兄(女に振られたと思っていたのに・・・・・・。あれ、何だ。体が勝手に震えてるぞ)
兄「ちょっとごめん。トイレ(何か気持悪い)」
妹「お兄ちゃん?」
兄(・・・・・・トイレで吐いてしまった。もう吐けねえな。胃には何も残ってないし)
兄(十五分以上トイレで篭もっちゃったからな。そろそろ行かないと妹が心配する)
兄(立てるかな)
兄(・・・・・・何とか大丈夫そうだ)
兄「妹?」
妹「お兄ちゃんごめん」
兄「何が」
妹「ショックだった?」
兄「・・・・・・ちょっとだけな」
妹「ごめん。女友さんを懲らしめようと思ってちょっとやり過ぎた」
兄「姫のせいじゃねえよ。それにいつかは知らなきゃいけなかったんだよ、多分」
妹「お兄ちゃん」
兄「泣くなって」
女友「兄君、大丈夫?」
兄「ああ。悪かったな」
女友「ごめんなさい」
兄「へ?」
女友「妹ちゃんの言うとおりだ。あたし、頭を使わないで思考を停止してあんたが全部悪いんだって思い込んでた」
兄「おまえが俺に話しかけてきたのって」
女友「うん。女ちゃんを泣かせた男を懲らしめようと思って、あんたに近づいた」
兄「そうだったんだ」
女友「もう一度女ちゃんと話してみる。そのメール、彼女に見せてもいいかな」
兄(どうなんだろ。確かに俺は吐くほどショックは受けたけど、今さら女に理解してもらったってしかたないしな)
妹「女さんにメール見せてみたら」
兄「え?」
女友「妹ちゃんはそれでもいいの? 兄友君が本当に二人の間に割り込んだんだとしたら・・・・・・」
妹「したらどうなるんですか」
女友「・・・・・・兄友君の意図を知ったら、きっと女ちゃんは兄君と復縁しようとすると思うけど」
妹「・・・・・・いいんじゃないですか。それでお兄ちゃんの気持を持っていかれたら、それはあたしとお兄ちゃんの仲なんてそれまでだってことだし」
女友「それ本気?」
妹「本気ですよ」
女友「兄君もそれでいいの? やっぱり女ちゃんに未練がある?」
兄「ええと(正直言えばもう女に未練はない。というかもう誰とも付き合う気はない。妹の幸せを兄として見ていられればいい)」
女友「ええとじゃないでしょ。君は妹ちゃんを選んだんでしょ? たとえそれが禁断の関係であったとしても、そんなことは承知のうえで」
妹「・・・・・・」
兄「何言ってるんだ。おまえは女の親友なんだろうが」
女友「それでもさ。あたしって頭悪いかもしれないけど、直感は結構間違ってないと思うんだ」
兄(間違いだらけだったじゃねえか)
女友「妹ちゃんのさっきの話さ。君が振られて落ち込んでいたときに自分の好きな人は君だとわかったって言ってたじゃん。あれが嘘じゃないことくらいはわかった。本当は君たちがベロチューするまでもなく、あの話を聞いたときにもうわかったんだ。妹ちゃんの気持ち嘘じゃないって」
兄(んなわけねえだろ。姫は優しいから俺のことを気遣って演技してるだけなのに。こいつって本当に人の心が見抜けねえのな)
妹「・・・・・・」
兄「まあ、俺と女って結局縁がなかったんだと思うよ。兄友のやつが余計なことを仕掛けたとしても、本当にお互いを信じてればとっくに会って話し合っていたはずだしな」
女友「それでいいならいいけどさ。あーあ。結局女ちゃんが傷付くのは一緒か。兄君に振られたんじゃないとわかったとしても、兄君を妹ちゃんに取られちゃうんだもんね。兄友君の勝ち逃げか」
妹「結果なんて話してみないとわからないですよ。あたしだって自分にそんなに自信なんてないですし。それにたとえそうなったとしても、少なくとも不誠実な兄友さんから女さんを守ることはできますよね?」
女友「まあそうだね。とにかく兄友のやつは許せない。女ちゃんの目を覚まさせよう」
妹「それがいいと思います」
兄(妹の気持がよくわからん。こいつって前に俺が一生独身で姫を見守るって言ったらすげえ怒ってたし)
兄(女友には誤解させちゃったけど、俺と妹は仲のいい兄妹以上の関係は何もない。今日の妹の態度はちょっとやり過ぎだったけど、それは兄貴のことをバカにされたくない一心でしてくれたことだ)
兄(そう考えると結論は一つだな。妹が女に兄友からのメールを見せたらって言うのは、俺と女を復縁させたいからだ)
妹『引越しの途中に女さんが、お兄ちゃんにごめんとか、本当に愛しているのは兄友じゃなくて兄なのって復縁を迫ってきてもちゃんとあたしが女さんを撃退してあげるからね』
兄(妹がこう言っていたのは女が俺を振ったと思ってたからだろうな。それが今日そうじゃないらしいことがわかったんで、きっと軌道修正したんだろう)
兄(女が俺のことを振ったんじゃないと知って、姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ。自分も彼氏君と付き合っているからとか思ってるんだろう)
兄(そうじゃねえのに。俺の今の心境はもう父さんや母さんと一緒の域にまで達しているのに)
妹「じゃあ、決まりね」
兄「おい」
女友「まあ、君たちがいいなら女ちゃんにこの兄友君のメールを見せるよ。そんで兄友君は絶対にお灸をすえてやる。女ちゃんの気持を弄んだ罰はきっと受けさせるから」
兄(女友は俺と妹のことを本当の恋人同士だと思っているからこの場じゃ言えねえ。俺は本当に妹と彼氏君の仲を応援するなんて)
兄(でも俺にはもう一生彼女なんていらねえって。姫を守って行くためだけにこの先の人生を捧げるんだって。大声でそう言いたいのに。つうか妹には何度もそう言ってきたのに。まだわかってもらえてないのか)
女友「じゃあそのメールあたしに転送して」
兄「・・・・・・」
妹「・・・・・・お兄ちゃん?」
<自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ>
兄「なあ」
妹「どうしたの」
兄「あれで本当によかったの」
妹「何が」
兄「いや。メールの方はともかく、女友のやつ本気で俺たち兄妹が恋人同士だって信じ込んでるぜ」
妹「だってそういう風に仕向けたんだもん。成功したってことでしょ。何を浮かない顔してるの? それともまさかとは思うけど、お兄ちゃんあたしの演技をマジで受け取ったりしてないよね」
兄「え」
妹「あたしとお兄ちゃんは恋人でも何でもないのよ。女友さんの前で恋人同士の振りをしただけ。最初からそういう話だったでしょ」
兄「だってよ。あれは兄妹だっていうことを隠した上での話だったじゃん」
妹「そんなの隠せるわけないでしょ。女友さんが女さんとか兄友さんにあたしの名前を言ったら、それで兄妹だってすぐにわかっちゃうじゃん」
兄「もしかしておまえ。今日はこうなるってわかってて」
妹「そうだよ。もうこうなったら兄妹で禁断の恋人関係になってるって言うしかないと思ってた。もちろん、そんなのは本当のことじゃないけど」
兄「・・・・・・何でそこまでするの?」
妹「さあ? それよりあたしとお兄ちゃんの関係を知った女さんはどう考えると思う?」
兄「どういうこと」
妹「あたしたちにが嘘を言ってると見抜くかな。それともお兄ちゃんをあたしに取られたと思って悲しむかな」
兄「見抜くんじゃねえの。俺が姫に告って玉砕したことを女は知ってるし」
妹「その方がいいんだけどね」
兄「まあそうだな。あいつが信じちゃったら、おまえが変な誤解をされるってことだし」
妹「こんな演技した時点でそんなことは織り込み済みだよ。誰に何を言われたって構わないよ。真実は一つなんだし。あたしはお兄ちゃんにだけ誤解されなければそれでいい」
兄「・・・・・・よくわからん。万一噂が広がって彼氏君とかにまで知られちゃったらどうすんだよ」
妹「本当のことを言うよ。それを信じられないならそれだけの仲だったんだよ」
兄「まあ、女は信じないとは思うけどね」
妹「噂とか誤解なんかどうでもいいけど、でも女さんにとってもその方がいいよね」
兄「何で?」
妹「女友さんの話でわかったじゃん。女さんはお兄ちゃんを積極的には振ってなかったんだって」
兄(ああ、そうだった。多分兄友のアホが仕掛けたことだったんだな)
妹「だからさ。あたしたちが付き合ってるなんて女さんが信じちゃったら、彼女可哀そう過ぎるよ。お兄ちゃんを振ったって思ってたときは女さんなんかどうでもよかったけど、今となってはね・・・・・・」
兄「いろいろ面倒くさいことになったな」
妹「もうちょっと情報があれば恋人同士の振りなんかしなかったのにね」
兄「今日早速女の家に行くって言ってたな、女友」
妹「今頃は会って話している頃かもね」
兄「おまえさあ。ひょっとして俺と女を復縁させようとかしてねえ?」
妹「すればいいなってちょっと思っただけ」
兄「だから兄友のメールを女に見せていいって言ったの?」
妹「少なくともそれで兄友さんの正体は理解するでしょ。あとは女さんがあたしとお兄ちゃんの仲をどう判断するかだよね」
兄「俺は女にはもう恨みはないけど、女とやり直す気はないよ」
妹「それならあたしは彼氏君と別れるだけだよ?」
兄「何でそうなる。俺はいい兄貴として」
妹「じゃあ、あたしはいい妹として、一生お兄ちゃんの幸せな結婚を祈りながら一生独身で過ごすことにした」
兄「ふざけんなよ。そんなのは俺が嫌だ」
妹「自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ」
兄「・・・・・・」
兄「なあ」
妹「なあに」
兄「いつまでもこの店にいてもしかたないし、とりあえずどっか行こうぜ」
妹「何か注文して」
兄「うん? あのパフェ食ったのにもうお腹空いた?」
妹「そうじゃないけど」
兄「何なんだよ」
妹「ここいいた方がいいと思う。どうせすぐに女友さんから連絡入ると思うし」
兄「・・・・・・アイスマンゴーハーブティー?」
妹「うん。それでいいや」
兄「わかった」
兄(メールだ)
兄「メール来たよ」
妹「読んだら」
兄「うん」
兄「・・・・・・」
妹「・・・・・・」
兄「これから会いたいって」
妹「お兄ちゃんに?」
兄「君たちにって書いてあるから俺と姫にじゃね」
妹「誰と誰が」
兄「女と女友がだって」
妹「ここにいるからって返信して」
兄「本当に今日あいつらに会うの?」
妹「嫌なことを先送りしたり優柔不断なのってお兄ちゃんの悪いところだよ」
兄「まあ姫がいいなら」
妹「じゃあ早く返事して。あと今日は間違ってもあたしのことを姫って呼ばないでね。あたしもお兄ちゃんにべたべたしないから」
兄「わかった」
<あたしバカだった>
女友「まだここにいてくれて良かったよ。君たちの住んでるところまで行くんじゃ遠すぎるしね」
兄「ああ」
女友「じゃあ、お邪魔するね」
兄「・・・・・・」
女友「ほら。女ちゃんも座って」
妹「こんにちは女さん」
女「こんにちは」
兄「よう」
女「・・・・・・」
兄(俺にはあいさつなしかよ)
女友「さっきからずっとここにいたの?」
兄「そうだけど」
女友「いい加減、お店も迷惑だったんじゃないの」
兄「今、追加注文しようとしていたところだ」
女友「ちょうどいい。一緒にオーダーしようか」
店員「いらっしゃいませ」
女友「女は何にする?」
女「じゃあアイスマンゴーハーブティーを」
女友「それ美味しい? あたしもそれにしてみよ」
兄「じゃあ俺たちも」
妹「あたしは普通のアイスティーをください」
兄「・・・・・・俺もアイスティーで」
兄(さっきから女のやつ俺と妹と目を合わせないようにしてるな)
女友「さっきまでさ。女と話してた」
兄「ああ」
女友「結論から言うとさ。あんたが女を振ったわけじゃないことは完全に理解した。誤解してごめん」
兄「それは別にいいけど」
女友「でもさ。女だって考えなしだったとは思うけど、一種の被害者であることは間違いないの」
兄「そうなんだ・・・・・・」
女友「女ちゃんどうする? あたしから話そうか」
女「いい。自分で話せるから」
女友「大丈夫なの」
女「・・・・・・うん」
女友「じゃあ任せる」
女「兄」
兄「お、おう」
女「いろいろごめん」
兄「何で謝るんだよ」
女「あたしバカだった」
兄「・・・・・・」
女「あんたの部屋で一緒にいたときに妹ちゃんが来たでしょ」
兄「うん」
女「あたし妹ちゃんに嫉妬してた。あんたが昔から妹ちゃんのことを好きだったことは知ってたし」
兄「うん」
女「そんなことは承知のうえであんたに告ったのにね。あのときは冷静でいられなくて、妹ちゃんに酷いこと言っちゃった。妹ちゃんもごめんなさい」
妹「・・・・・・」
女「あんたに何となく顔を合わせたくなくて、あんたを避けてたら偶然学内で兄友に会って」
女「無視しようとしたんだけど。あいつ、話があるって言ったの。別におまえと復縁したいとかおまえに謝るとかそういう話じゃなくて、兄のことで相談があるって」
兄「俺のこと?」
妹「・・・・・・」
女「うん。それで兄のことだって言うから思わずわかったって言っちゃって」
兄「どんな話だった?」
女「あんたと妹ちゃんの話」
兄「何だって」
女「あいつは言ったの」
兄友『おまえには悪いことをしたって思ってる。それについては言い訳のしようもないし、もうおまえにやり直してくれって頼むのも諦めた』
女『やっと理解できたか。まあ、もう許すって言ったんだしそれはもういい。つか兄のことで話があるんでしょ』
兄友『兄と付き合い出したばかりのおまえには言いづらいんだけどよ』
女『・・・・・・何よ』
兄友『ちょっと相談されちゃってさ。どうしたらいいのかまるでわからないんでさ』
女『相談って誰から? まさか兄からじゃ』
兄友『違うよ。妹ちゃんから』
女『妹ちゃんがあんたに相談?』
兄友『今度のことが起こるまでは俺は兄の親友だったし、妹ちゃんともそれなりに親しかったから』
女『・・・・・・彼女何だって?』
兄友『兄貴に告白されて断ったって』
女『そうか』
兄友『驚かねえのな』
女『兄に聞いていたからね』
兄友『そうか。それを知ったうえでおまえと兄は付き合い出したんだな』
女『うん。振られた者同士くっついたって誰も傷付かないしね』
兄友『それがそうでもなかったみたいだな』
女『あんたのこと?』
兄友『・・・・・・俺は傷付いたって自業自得だよ』
女『じゃあ誰が』
兄友『妹ちゃん』
女『そんなのおかしいよ。妹ちゃんには年上の彼氏がいるんだし、そもそも兄の告白を断ったんじゃない』
兄友『いきなり兄貴に告白されて、両親の顔とか世間体とかが浮かんじゃって反射的にお兄ちゃんとは付き合えないって言ちゃったんだって』
女『何よそれ』
兄友『今は後悔してるって。彼氏よりも誰よりも兄貴のことが好きなのにって泣いてたよ』
女『・・・・・・ふざけんな』
兄友『まあ、俺からおまえにどうしろとか言う資格はねえからさ。ただ、俺一人の胸に収めておくにはでか過ぎる話だからな』
女『あんたの相談ってこのこと?』
兄友『ああ悪い。相談っていうより聞いて欲しかっただけかな』
女『それを聞かせてあたしにどうしろって言うの』
兄友『だからそんなことを言う資格なんて俺にはねえよ』
女『・・・・・・』
兄友『あ、これはどうでもいいことだけど。俺も後輩と別れたから』
女『どうでもいいよ』
兄友『そうだよな。じゃあ本当に悪かった。それじゃな』
<・・・・・・死んじゃいたい>
女友「まあそういうわけだったみたいだよ」
兄「姫・・・・・・じゃない。妹?」
妹「あたしは兄友さんにそんなくだらない相談をした覚えはないよ」
女「そうだよね」
妹「だいたいお兄ちゃんには言わなかったけど、あたしはこんなことが起きる前から兄友さんって大嫌いだったし」
兄「そうなの?」
妹「兄友さんに身の危険を覚えたことだって何度もあったし」
兄「おい何だって? 兄友め、ふざけやがって。今度会ったらぶん殴ってやる」
女「・・・・・妹ちゃんのことになるとそんなに必死になるんだね」
女友「こら。今はそんなことを言っている場合か。話を続けなよ」
女「兄友は別にあたしに何をしろとか言わなかった。でも、あたしはそれを聞いてから兄と顔を合わせづらくなって、何となく兄と避けるようになったの」
兄「そうだったんだ」
女「きっと兄はあたしの態度に悩んでいるかなって思うこともあったし、逆にあたしがいなくなって妹ちゃんとやり直しているかもっていう気持もあって。もう心の中はぐちゃぐちゃだった」
女「兄友はその後もあたしに言い寄って来たりはしなかった。それどころかさりげなくあたしの側にいてあたしを慰めてくれた。正直、あたしは前にひどいことをされたことを忘れてあいつに感謝し出したくらいに。かといってよりを戻す気なんて全然なかったけど」
女「そんなある日。あたしが講義に行く気すら失って家で引きこもっていると、廊下から兄友の声がしたの」
兄友『女~、いるか』
兄友『女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ』
女(兄友・・・・・・もしかしてあたしを心配して来てくれたのかな)
兄友『よう兄』
女(え? 兄?)
兄『おう』
兄友『・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?』
兄『まあな』
兄友『おまえも気まぐれだよなあ』
兄友『あ。妹ちゃん、久し振り』
妹『・・・・・お久し振りです』
女(お久し振り? ついこの間、兄友に兄のこと相談したんじゃないの?)
兄友『相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは』
妹『どうも』
兄友『今日は兄の手伝い?』
妹『はい』
兄友『兄のことが好きなんだねえ』
妹『はい。大好きです』
女(やっぱりそうなんだ)
兄友『そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな』
妹『そうです』
兄友『しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?』
兄『実家に戻る』
女(・・・・・・)
兄友『何で? 通学つらくなるだろ』
兄友『ちょっと待て』
兄『何だよ。俺なんか邪魔だろ?』
兄友『俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ』
女(はい?)
兄友『本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ』
女(何の話? あたしが兄と会わなくて兄を傷つけたから? それであたしが謝るの? でも何で兄友とあたしが一緒に謝るのよ)
兄『そういうのいらないから』
兄友『だってよ』
妹『余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは』
兄友『そうじゃないよ』
妹『罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って』
兄友『俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし』
妹『お兄ちゃんの心のケアはあたしがします。あなたと女さんなんかに期待なんかしていません。まして自分たちの心の安定のためにお兄ちゃんを利用なんかさせませんから』
兄友『何か誤解してるよ妹ちゃん』
妹『そう言うのならそれでもいいです。でも一つだけお願いがあります』
兄友『何?』
妹『二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください』
女(何で? いったい何でよ)
兄友『・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから』
妹『お兄ちゃん?』
兄『兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言っておいてくれな』
兄友『・・・・・・待てよ』
兄『じゃあ、作業中だから』
兄友『おい。冗談だろ』
妹『冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃんにしたんですよ』
兄友『そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ』
妹『じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね』
兄友『せめて女を入れてもう一度だけ話を聞いてくれ。兄を傷つけたままじゃ俺も女も』
女「何かひどく話が変だった。あたしは兄と距離を置いたのだけど、それが何で兄友とあたしが兄を傷つけたことになっているのかわからなかった」
女「それでも妹ちゃんが兄のケアは自分がするから、兄友とあたしには二度と兄に話しかけないでくださいと言った言葉だけは本当はよく理解できたの。理解することを拒否してただけで。妹ちゃんの気持はやっぱりそうだったんだって」
女「そしてあたしが兄を取り返しのつかないほど傷つけてしまったことも」
女「それからは兄友にも不信感を覚えて距離置いた。いつもは女友ちゃんとだけ一緒にいるようにした。彼女にだけはあたしは本音が言えた。入学して知り合ったばかりだけど親友だと思っていたから」
女友『何? 何でいきなり泣き出すの?
女『・・・・・・死んじゃいたい』
女友『いきなりどうしたのよ』
女『大好きだったのに。彼のこと昔から大好きだったのに』
女友『・・・・・・失恋でもした?』
女『うん。大好きだった彼氏と別れた。悲しくて寂しくて死にたい』
女友『そうか』
女『何でこうなっちゃったんだろう』
女友『でもさ。女ちゃんには兄友君がいるじゃん。彼ってよく君に話しかけたりお昼に誘ったりしてるよね』
女『彼はあたしの元彼なの。何かあたしに同情してくれて慰めてくれているだけだよ』
女友『そうなの? あんたの好きだった子って誰?』
女『兄』
女友『同じ学科の? いつも一人で過ごしている無愛想なあいつ?』
女『・・・・・・うん』
兄「もういいよ。それで兄友のメールは見た?」
女「うん。あたしはあいつにまた騙されたんだね。自分でもどうしようもないほど情けないよ。二股かけられた時点であいつのことは二度と信用しないって決めてたのに」
女友「まあ、そういうわけね。それでさ・・・・・・」
兄「うん」
女友「女はすごく後悔している。あんたを傷つけてしまったことも、引越のときの会話で十分に理解して反省もしている」
兄「まあ、兄友が全部悪いんだしな」
女友「たださ。結果として君が傷付いて悩んでいたところを妹ちゃんが慰めてケアしてさ。そんでその」
<傷つけちゃって本当にごめん>
女友「・・・・・・つまりさ」
妹「あたしとお兄ちゃんがそれをきっかけに男と女として付き合い出したってことを言いたいんですね」
女友「うん。まあそういうこと。それを女ちゃんに話したら君たちに会いたいって」
妹「そうですか」
女友「ほら。言いたいことがあるんでしょ。言っちゃいなよ」
女「うん。あのさ、兄」
兄「ああ」
女「傷つけちゃってごめんなさい。あんたのことを考えたつもりだったけど、自分でも何がなんだかわからなくなっちゃって」
兄「もういいよ。どっちかっていうとおまえだって兄友の被害者だしな」
女「だけど。あたしにいきなり振られたと思ったんでしょ」
兄「それは、まあそうだけど」
女「本当にごめん」
兄「もういいよ。今は立ち直ったし」
女「・・・・・・あのさ」
兄「おう」
女「女友ちゃんにさ。その・・・・・・妹ちゃんは兄と付き合っているって言ったって」
女友「確かに聞いた。つうかいろいろ見せつけられた」
女「・・・・・・」
妹「女さんが言いたいことってそのこと?」
女「え。あ、まあ。あたしには聞く資格はないかもしれないけど」
妹「女さんって今でも本当にお兄ちゃんのこと好きなの」
兄(おい。何を言い出すんだよ)
女「うん、大好き」
妹「そうなんだ」
女「妹ちゃん本当に兄と付き合ってるの」
妹「女さんはどう思うの?」
女「それは」
妹「兄友さんが言ったようにあたしがお兄ちゃんの告白を拒否したのは世間体を考えてだったと思う?」
女「・・・・・・ううん。思わない」
妹「何でそう思うの?」
女「あたしは妹ちゃんとはそんなに親しくはなかったけど。それでも兄とは昔から知り合いで、あなたのこともずっと見ていたし兄から話もきいていたから」
妹「それで?」
女「だから。妹ちゃんの性格からして、本当に兄のことが好きだとしたら世間体とか両親への配慮とかで兄のことを振るような子じゃないと思ってたから」
妹「じゃあ何で兄友さんごときの嘘に乗せられちゃったんですか」
女「うん。自分でも変だと思うけど、きっと妹ちゃんに嫉妬して目が見えなくなっていたんだと思う」
妹「そうなんだ。本当にバカな女」
兄(それはちょっと言いすぎなんじゃ)
女「うん。自分でもそう思うよ」
女友「妹ちゃんさ。さっきのベロチューはいったい何だったのよ」
女「ベロチュー?」
女友「そ。ベロチュー。あと、あ~んとか肩を抱いたりとか恋人にぎりで手をつないだりとか」
女「何だ、そんなことか」
女友「何だってどういうことよ。普通の兄妹はそんなことはしないよ?」
女「だって兄と妹ちゃんは昔からすごく仲がいいもん。っていうかおじさんとおばさんも含めて家族全員がすごく仲がいいんだよ」
女友「だからってベロチューはねえだろ。おい、兄君」
兄「何だよ」
女友「あんたんのところの仲のいい家族ではさ。あんたとあんたのお母さんもベロチューしたりするの?」
兄「するわけねえだろ。気持悪いこと言うな」
女友「妹ちゃんとあんたの父親もベロチューしてるの?」
妹「パパはあたしにそんなことはしません」
女友「じゃあ何で君たちはしてるんだよ。仲のいい家族以上のことをしてるじゃん」
妹「パパとママに比べて、お兄ちゃんはまだ修行が足りないからかな」
兄「面目ない。でも俺だって学習して父さんたちの領域に入ったと思ってるぜ」
女友「入ってねえだろ。君たちはついさっき人の目の前で、つうか公衆の面前でベロチューしてたくせに」
妹「女さんは? あたしとお兄ちゃんが付き合っていると思う?」
女「思わないよ。兄を大好きな妹ちゃんが恋人の振りをしただけだって思ってる」
妹「はい。よくできました。正解」
女友「あんたらなあ。あたしをおちょくって何が楽しいのよ」
女「それは多分、女友ちゃんが兄のことを煽ったからだと思うよ。妹ちゃんは家族が大好きだし、あんたにバカにされたお兄ちゃんの名誉のために兄の恋人の振りをしたんだと思う」
妹「ふふふ。あたしがそんなに感情に動かされる性格の女だと思います?」
女「ごめん妹ちゃん。でもそう思う」
妹「まあ、いいでしょう。女さんの言うとおりです。あたしとお兄ちゃんは恋人でも何でもありません。仲のいい兄妹ではあるけど」
女友「あんたらは~・・・・・・こら。よくもあたしを騙したな。ベロチューまでしてさ」
妹「お兄ちゃんがバカにされないためならチューくらいしますよ。つうか、もっとすごいことだってできると思います。したことはないけど」
兄(それはいくらなんでも言いすぎだろ)
妹「あたしとお兄ちゃんは仲がいいのでそれくらいは全然平気ですし、そんなことで気まずくなったりはしませんから」
兄(いやそんなことねえよ。少なくとも俺は)
妹「女さん」
女「うん」
妹「あなたがお兄ちゃんを積極的に振ったんじゃないことはわかりました」
女「・・・・・・ごめんね」
妹「それでもお兄ちゃんを傷つけたことには変わりありません」
女「わかってる」
妹「お兄ちゃんにどう落とし前をつけるつもりですか」
女「落とし前って。あたしにできるのは謝ることくらいで。あと嫌われても我慢することとか」
<あなたはバカですか>
妹「あなたはバカですか」
女「今となっては否定できないけど」
妹「傷付いたお兄ちゃんを癒す方法なんて一つしかないでしょ」
女「え」
女友「ちょっと待って」
妹「何ですか」
女友「妹ちゃんは・・・・・・。君は本当にそれでいいの?」
妹「何言ってるんですか」
女友「何って。あたしの勘はよく当たるんだけど」
妹「あたしもう帰る。彼氏にも電話してあげないとかわいそうだし」
女「妹ちゃん」
兄「じゃあ帰ろうか」
妹「お兄ちゃんってバカ?」
兄「何でだよ。おまえが帰るって言うから」
妹「一人で帰れるよ。お兄ちゃんは話し合いが終ったら帰ってきて」
女「妹ちゃん・・・・・・」
妹「本当に丸一日無駄にしちゃったよ。ここってドリンクはまずいし最低」
兄「だからアイスマンゴーハーブティーはよせって言ったろ」
妹「あたしが飲んだのはただのアイスティーだよ。じゃあ先に帰るからね」
兄「ちょっと待てって」
妹「じゃあね」
兄「・・・・・・」
女「・・・・・・」
女友「あちゃー。女ちゃんのためだったんだけど、妹ちゃんには酷いことしちゃったかなあ」
兄「どういう意味だよ」
女「・・・・・・女友ちゃんまで巻き込んじゃってごめん」
女友「いいって。じゃあ、あたしもそろそろ行くね。実は今晩は撮影があるんだ。そろそろ行かないと間に合わないし」
女「お仕事の邪魔しちゃってごめん」
女友「いいよ。あたしたちは友だちじゃん。じゃ兄君?」
兄「何だよ」
女友「ここの支払いはよろしくね」
兄「え?」
女友「今日は君のおごりだったでしょ。それに君と妹ちゃんにはすっかり騙されたしね」
兄「悪い」
女友「・・・・・・謝ることなんか本当はないのかもしれないね。じゃあね。ふたりともバイバイ。女ちゃんうまくやれよ」
女「・・・・・・」
兄「・・・・・・」
女「あの・・・・・・さ」
兄「お、おう」
女「本当にごめん」
兄「おまえのせいじゃねえだろ。兄友のアホのせいだし」
女「でも、あんた。あたしに振られたと思って傷ついたんでしょ」
兄「まあ、そうかな?(本当はそのせいで俺も目が覚めたし、実際のところあんまり悩んでねえんだけどな。まあ兄友の策略を知ったときは動揺してトイレで吐いたりもしたけど)」
女「そうだよね。あんたのこと傷つけちゃった」
兄「もう気にするな」
女「あのさ」
兄「おう(何かやばい気がする)」
女「あたしにはもうそんな資格なんてないのかもしれないけど」
兄「何言ってるんだよ(やばい)」
女「兄友のバカに騙されたあたしなんかにはもう愛想も尽きたと思うけど」
兄「・・・・・・何だよ」
女「あたしがあんたの部屋でオムライスを作った夜まで戻って、またやり直せないかな? あたしたち」
兄(やっぱりそうなるか)
女「・・・・・・妹ちゃんに嫉妬しちゃったこと。そのせいで兄友に付け込まれたことは否定しないよ」
兄「それはもういいって(問題はそうじゃねえんだよ)」
女「それでもさ。あたしやっぱり兄のことが好き。せめて友だちからでもやり直してくれないかな」
兄「ええと」
兄(俺はもう一生恋なんかしないと自分に誓った。もっと言えば妹スキー同盟の父さんと母さんにも誓った。心の中でだけだけど)
兄(一生を姫の幸せを見守るために捧げようと思った。姫の恋愛も結婚も出産も育児も全てを陰ながら応援しようと思った。それが我が池山家の家風だからだ)
兄(幼稚園のことから、俺はいや俺たちは妹に夢中だった。妹は我が家に光臨した天使だった。お姫様だった。あいつがいるだけで我が家はすごく幸せだったんだ)
兄(その姫が俺と女を復縁させようとしている。しかも俺と女が復縁しなければ自分も彼氏君と別れるって脅迫までして)
兄(女のことは嫌いじゃない。っていうか女に振られたんじゃないってわかったときはすごく嬉しかった。あれだけ妹に女のことはもう気にならないって言ってたくせに)
お願い。
そう言って女は俺を見つめて涙を流した。どういうわけかその顔に俺はいつぞや少しだけ泣き顔だった姫の顔を重ねてしまっていたようだ。俺が見たくないものの頂点に立つのが姫の悲しそうな表情だ。俺が女と付き合えば全てがうまく行くのだろうか。姫も彼氏君と別れずに済むのだろうか。言ってしまえばこれは二度目の過ちということになる。姫に振られた反動で最初に女の告白を受け入れたことに続く再度の過ちだ。
でも前回俺が女を受け入れたのは半ば衝動からだった。女には申し訳ないけど妹と付き合えないのならと俺は自棄になっていたのだ。今度はそれとは違うのだろうか。根源的には一緒かもしれないじゃないか。それに今さらだけど、俺は本当に女のことが好きなのだろうか。憎からず思っていることは確かだけど、それは二度目の告白に応えるほどの好意なのか。
俺は迷った。でも、結局妹が俺の想いを否定したときのことが頭に浮かんだだけだった。それは姫に振られて拒絶されたことではない。それとは別な機会に妹はこう言ったのだ。それは俺が一生彼女なしで妹を見守ると言ったときだった。
そんな人生なんてあり得ないよ。お兄ちゃんがよくてもあたしがいや
もうやだ。あたし彼氏と別れるから
兄「俺たちやり直してみようか? 仲のいい友だちからになるけど」
女「・・・・・・嬉しい。ありがと」
兄「仲のいい友だちは抱きついたりしない・・・・・・っておい」
女「好き・・・・・・兄のこと大好き」
兄「うん・・・・・・」
<ゴールデンウィーク>
父「姫と兄はちょっと来なさい」
母「はい、あんたたち。ちょっと集合して」
兄(普段はいないくせに何が姫だ)
妹「ほらお兄ちゃん。パパたちが呼んでるよ」
兄「そんなことはわかってる」
妹「じゃあ早くリビングに行こうよ」
兄「ちぇ」
妹「お兄ちゃん、どうしたの?」
兄「父さんめ。普段は家に寄り付かないで放置しているくせに何が姫だ」
妹「何だ。パパにヤキモチ焼いて拗ねてたのか」
兄「拗ねてねえって」
妹「お兄ちゃんも堂々とあたしを姫って呼ぶといいよ」
兄「俺はいいよ」
妹「ほら、はい」
兄「・・・・・・あいつらの前で手をつないでいいのか」
妹「別にいいんじゃない? 兄妹が仲良くしてるんだから。つうかパパとママをあいつらって言うのよしなよ」
兄「・・・・・・わかったって」
妹「拗ねないでよ。ほら行こ」
兄「うん(手を離されちゃった。俺ってバカだ)」
父「おまえたちようやく来たか」
兄「何か用?」
父「うん。とっても言いづらいんだけどな」
妹「どうしたの」
母「それがねえ。せっかく予約もしたし妹ちゃんも楽しみにしていた旅行なんだけどね」
父「申し訳ない。パパもママも休み中出社しなきゃならなくなってな」
母「本当にごめんね」
妹「え~。初めての海外旅行だったのに。そんなのないよ」
父「妹姫には本当に悪いことをしたな。すまん」
母「妹ちゃんごめんね」
兄(だから父さんは妹姫妹姫ってうるさいって)
妹「・・・・・・でもお仕事だから仕方ないよね。わがまま言ってごめんなさい」
母「妹ちゃんが謝ることなんか何にもないのよ」
父「そうだよ。悪いのは私たちなんだから」
兄(まさかその私たちの中には俺まで含まれてるんじゃないだろうな)
妹「わかった。じゃあお兄ちゃんと一緒に留守番してるね」
父「それじゃあんまり姫がかわいそうだ。留守番は兄に任せて姫はどこかに遊びに行ったらどうだ」
母「お友だちとお出かけでもしたら? 海外は無理でもどこか近いところで」
妹「無理だよ。友だちはみんな家族と予定があるし、だいたいゴールデンウィーク直前なのに宿とか予約できるわけないじゃん」
父「あ、そうだ。伯父さんの別荘なら空いてるんじゃないかな。兄貴のとこも家族で海外に行くって言ってたし」
母「そうそう。あそこなら海辺だし遊びに行くにはちょうどいいわね。ほら、兄は昔行ったことあるでしょ」
兄「別荘ってあれのことかよ。単なる古い平屋じゃない。あの当時で既に半ば老朽化してたような」
父「別荘には変わりないだろ」
妹「だからいいって。こんなに急に一緒に行ける友だちなんかいないし」
母「聞くだけ聞いてみたら? お仕事で休めないご家庭だってあるんじゃない」
妹「それはいるかもしれないけど、でもそしたらお兄ちゃんが一人になっちゃうし」
兄「俺は別にいいよ。気が楽だし」
父「・・・・・・本当に姫は優しい子に育ったなあ。兄のことを心配するなんて」
兄(だからそこで涙ぐむなよ。父さんを見ているとまるで自分を見ているような溺愛ぶりだ。こういうのを同族嫌悪って言うんだろうな)
母「じゃあ、ついでだから兄も一緒に連れて行ってあげたら?」
兄(ついでって)
父「それがいい。姫に何かあったら困るからボディーガード代わりに連れて行きなさい」
母「兄は免許も取ったことだしパパの車を使えばいいわね。運転手兼ボディーガードってところかしらね」
兄(ふざけんな。誰が行くか)
妹「だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ」
父「おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか」
兄「嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)」
妹「・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん」
兄「おまえが兄貴と一緒でもいいならな」
妹「あたしは嬉しいけど」
兄「そ、そう(嬉しいのか)」
妹「じゃあちょっと友だちに聞いてみるね」
父「そうしなさい。パパは伯父さんに電話をしておくから」
妹「気が早いよパパ。まだ一緒に行ける友だちが見つかるかわからないのに」
母「そうしたら兄と二人で一緒に行っておいで。連休中に家にいるよりはいいでしょ」
妹「それもそうか。じゃあ、電話してみる」
兄(しかし買ったエロゲの妹ルート以外は全く攻略しないってのも俺くらいだろうな)
兄(正直どんなに可愛くても後輩ルートとか同級生ルートとか幼馴染ルートとか全然興味が持てないもんな)
兄(まあ、今では俺は姫のいい兄貴なんだけどせめてエロゲの中くらいでは妹ルートを攻略したっていいだろう)
兄(初恋の杏ルートのシナリオはマジで名作だな。これはもはやゲームの域を超えている。親バレ、親離婚とかやたらにリアルなのもいい。普段は兄のことをからかいまくっている杏が実は密かに兄ラブだったっている設定も俺好みだしね)
兄(個人的には連休中は部屋に引きこもってずっとゲームしてても不満はないんだけどな。でも妹にしてみれば大好きな家族と一緒に海外に行きたかったんだろうなあ)
兄(妹と妹の友だちの女子高生と一緒にお泊まり旅行か。あるいは妹と二人きりでお泊り旅行。何かどっちにしても嫌な話はないじゃんか)
<意外といいやつかも>
兄「どうしてこうなる」
彼氏「お兄さん運転上手ですよね」
兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ」
彼氏「いやあ。本当に上手ですよ。初心者とは思えません」
兄「(俺にお世辞を言うなよ。どうせ妹のことしか頭にはないくせに)そういやさ」
彼氏「はい」
兄「おまえらって連休中は予定なかったの?」
彼氏「はい。父はホテルマンなんで」
兄「ああそうなんだ。じゃあ人が遊んでいるときに忙しくなる職業なんだな」
彼氏「そうなんですよ。だから妹ちゃんから誘ってもらって僕も妹も嬉しかったです」
兄「それならよかったけど(しかし何で助手席に姫じゃなくてこいつがいるんだ。何で姫と妹友が後部座席なんだよ)」
彼氏「別荘なんてすごいですよね。楽しみです」
兄「伯父さんの別荘なんだけどさ。あまり期待しない方がいいぜ」
彼氏「何でですか」
兄「俺、昔そこに行ったことがあるんだけどさ。当時でさえ築百五十年くらい経ってるんじゃないかと思ったほどの古い平屋の家だぜ」
彼氏「そうなんですか」
兄「まあ、別荘とは名ばかりの廃屋くらいに考えておいた方がいいな」
彼氏「何だか別な意味ですごそうですね」
兄「・・・・・・あのさ」
彼氏「はい」
兄「(後部座席の妹たちには聞こえないように)この前図書館脇の公園でおまえらと会っ
たじゃん?」
彼氏「はい。あのときは妹が失礼しました」
兄「それはいいんだけどさ。あのとき妹と妹友って喧嘩みたくなったじゃんか」
彼氏「そうでしたね」
兄「もう仲直りしたのかな」
彼氏「したんじゃないですかね。だってほら」
兄(後部座席で妹と妹友が楽しそうにお喋りしてる。ポテチとか食いながら)
彼氏「今日のお誘いだって妹は二つ返事だったみたいだし、妹ちゃんだってまっ先に妹に声をかけてくれたみたいだし。とっくに仲直りしてるんでしょうね」
兄「それならよかった」
彼氏「お兄さんにご心配をおかけしてしまってすいません」
兄(・・・・・・何かこいつ。意外といいやつかも。妹の彼氏だっていうだけで偏見を持っていたのかもしれん。兄として考えるに兄友みたいなチャラいアホなんかより妹の彼氏としては全然ましだよな。ちょっと空気読めないところはあるけどとりあえず真面目そうだし、礼儀正しいし)
彼氏「お兄さんすいません。僕が免許を持ってれば運転を代われたのに」
兄「無茶言うな。高校在学中に免許なんか取れるかよ。そもそも受験生だろうが」
彼氏「はい」
兄「どこ受けるの?」
彼氏「お兄さんと同じ大学志望です」
兄「そうなんだ」
彼氏「ええ。妹ちゃんがそこを狙っているので」
妹「ねえ。お兄ちゃん」
兄「どうした?」
妹「まだ着くまでに時間かかるの?」
兄「ああ。渋滞してるしな。海が見えるまであと二時間くらいはかかるかもな」
妹「じゃあ、どっかでお昼食べようよ。その後は買物だってしなきゃいけないし」
兄「じゃあ次のファミレスで休憩しようか」
妹「うん。お腹空いちゃった。妹友ちゃんもそれでいい?」
妹友「うん」
彼氏「お兄さん」
兄「どした」
彼氏「あそこにファミレスがありますよ」
兄「おお。じゃああそこに入ろう」
妹「あー疲れたあ」
彼氏「おつかれ」
妹「彼氏君こそ疲れたでしょ? ずっとお兄ちゃんの隣で気を遣ったんじゃない?」
彼氏「そんなことないよ。お兄さんって話し上手だし」
妹「こら。嘘言うな。そもそもそういうのを気を遣うって言うんだよ」
彼氏「本当だって」
妹「まあそういうことにしておいてあげるよ」
兄(・・・・・・車内で妹とはほとんど会話できなかった分、車を降りたら姫と話せるかと思ってたのに)
妹「四人です。禁煙席をお願いします」
兄(まあそれは彼氏君も一緒だったんだけど。車を降りたとたんに妹と彼氏君が肩を並べて歩き出した。楽しそうに会話しながら)
兄(まあ、こいつらは付き合ってるんだしそれが自然なんだろう。だいたいいい兄貴になるって決めた俺がこんなことくらいで動揺することがおかしい)
妹友「・・・・・・お兄さん」
兄(俺が姫と仲良くしてどうする。姫が彼氏と一緒で楽しそうならそれで本望じゃねえか)
兄(父さんと母さんが言ってたとおりだ。俺は運転手兼ボディーガード。それで十分だろ)
<座席の並び方>
妹友「お兄さん」
兄「あ、悪い」
妹友「どうかしましたか」
兄「いや、大丈夫だよ」
妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんは先に行っちゃいましたよ。あたしたちも席に行きましょう」
兄「そうだな」
妹友「そっちじゃないです、お兄さん。そっちは喫煙席ですから」
兄「お、おう悪い」
妹友「あそこみたいですよ」
兄「そうだな」
妹友「お待たせ」
妹「妹友ちゃんもお兄ちゃんも遅いよ。何してたのよ」
兄「何って別に」
妹「早く座って。お腹空いたってば」
彼氏「まあまあ。お兄さんは一人で運転してくれて疲れてるんだから。あんまりわがまま言っちゃだめだって」
妹「だってさあ」
兄(あれ)
兄(奥に妹、その隣に彼氏君が並んで座っている)
兄(それはそうだよな。彼氏君と妹が並んで座るなんて当たり前じゃんか)
兄(何で妹が俺の隣に座るなんて思い込んでたんだろう)
兄(・・・・・・何かこの旅行って辛い気持になるばかりだな)
兄(いかんいかん。いい兄貴になるんだろ? 今さらこんなことくらいでダメージを受けてどうする)
妹友「お兄さん奥に行きますか?」
兄「いや、妹友ちゃんが先に座りなよ。妹の向かいの方が話しやすいでしょ」
妹「・・・・・・」
妹友「それじゃあ」
兄「うん」
彼氏「お兄さんメニューをどうぞ」
兄「ありがとう。じゃあ、妹友ちゃん一緒にメニューを見ようか」
妹友「そうですね。二つしかないみたいだし」
彼氏「妹ちゃんは何にする?」
妹「・・・・・・」
彼氏「妹ちゃん?」
妹「ああ、ごめん。どうしようかなあ」
兄「このリゾットって何だろ」
妹友「ああ、それはイタリアのお米を使った料理ですよ」
兄「雑炊みてえだな」
妹友「味は大分違いますけど、まあイメージはそんな感じです」
兄「雑炊ならいいや。何か肉食いたいな」
妹「・・・・・・今夜は海岸でバーベキューするんだよ。お昼からお肉を食べてどうすんのよ」
兄(何だよこいつ。ようやく話しかけてくれたと思ったら文句かよ)
妹友「まあ、でもお兄さんは運転で疲れてるでしょうし、好きなものを食べた方がいいですよね」
兄「ありがと妹友ちゃん」
妹「・・・・・・」
彼氏「妹ちゃんは何食べるの?」
妹「どうしようかなあ。彼氏君は?」
彼氏「僕はこの渡り蟹のトマトソースパスタにしようかな」
妹「美味しそう。じゃあ、あたしは違うパスタにするね」
彼氏「何で?」
妹「違うやつにすれば二人で二種類のパスタを食べられるじゃん」
彼氏「え?」
妹「あたしは和風明太マヨスパゲッティーにしようかな」
妹友「じゃあ、お兄さんはこのサイコロステーキセットにするんですね」
兄「いや、ちょっと待ってくれ」
妹友「今度はいったい何ですか」
兄「こっちのステーキセットと同じグラム数なのにサイコロの方は何でこんなに安いんだろ」
妹友「多分、成型肉を使ってるから安いんだと思いますよ」
兄「成型肉って何?」
妹友「肉の切れ端の部分は普通は棄てるんですけど、それを集めて圧力をかけてサイコロ状にしたのがこのサイコロステーキだと思います。廃棄するところを使っているから安いんですよ」
兄「そんなのを食うのはやだなあ」
妹友「じゃあこっちのヒレかロースのステーキにしたらどうですか」
兄「どう違うの?」
妹友「いちいち解説したらきりがないです。ロースの方が脂身が多い。それでいいでしょ」
兄「解説の手を抜くなよ」
妹友「お兄さんはロースステーキで決まりですね」
彼氏「・・・・・・妹ちゃん」
妹「何ひそひそと小さな声で話してるの?」
彼氏「また怒られちゃうかもしれないけど、うちの妹とお兄さんって結構お似合いだよね」
妹「え」
兄「勝手に決めるな。俺はヒレの方が」
妹友「ヒレは赤身中心の肉なので、ギトギト系が好きなお兄さんが満足できないんじゃないですか」
妹「・・・・・・」
兄「え? そうなの。 じゃあ、ロースでいいや」
妹友「本当にそれでいいんですね?」
妹「・・・・・・いつまで選んでるのよ。いい加減に決めてよ!」
兄「え?」
彼氏「妹ちゃん?」
妹友「あ、ごめんなさい」
妹「あ。あたしの方こそごめんなさい」
兄(おまえが切れるなよ。彼氏と楽しそうにメニューを眺めてたくせに)
兄(いや。それでいいんだった。何で妹が切れたのかはわかんないけど、この座席順は結果オーライだ。そう考えよう)
<ラブシャッフルかよ>
兄「どうしてこうなる」
妹友「お兄さん運転上手ですよね」
兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ・・・・・・って、おまえらって本当に兄妹なんだな」
妹友「どういう意味です」
兄「彼氏君にもさっき同じことを言われたからさ」
妹友「単なる偶然ですよ」
兄「そうだろうけど」
妹友「あたしたちが本当に兄妹であることには残念ながら一点の疑義もありませんけどね」
兄「残念なのかよ」
妹友「義理ならよかったんですけどね」
兄「・・・・・・後ろに聞こえちゃうぞ」
妹友「そんな心配はないですよ」
兄「狭い車内なんだしさ」
妹友「だってほら」
兄「(仲良くお昼寝かよ。まあ密着しているわけじゃないことがせめてもの救いだけど)
なるほど」
妹友「今朝は早起きして出発しましたし、お腹もいっぱいになれば眠くなりますよね」
兄「まあそうだな。つうかおまえも眠かったら寝ちゃっていいぞ」
妹友「あたしは自分の身が可愛いですから」
兄「おまえなあ。居眠り運転なんかしねえよ。てか初心者でそんな余裕なんてねえよ」
妹友「そうじゃないです」
兄「じゃあ何だよ」
妹友「自分の傍らで寝入っているあどけない美少女の肢体に対してお兄さんがついつい悪戯心を出してしまったらあたしの身が危険ですから」
兄「そんなことを心配してたのかよ。俺は性犯罪者じゃねえぞ。そもそもあどけない美少女なんてどこにいるんだよ」
妹友「お兄さんに身体を悪戯されるくらいは許してあげてもいいのですけど、それ以上に運転中に淫らな行為をしているお兄さんが運転を誤ったら生命維持的に大変なことになってしまいます」
兄「そっちかよ」
妹友「冗談ですよ」
兄「おまえの冗談はたちが悪い。心臓にも悪い」
妹友「真面目に言うとお兄さん一人に運転させてあたしが寝ちゃうなんて申し訳なくてできません」
兄「後部座席の二人にはそんな気遣いはさらさらなさそうだけどな」
妹友「後ろの人のことは知りません。少なくともあたしは嫌なんです」
兄「んな気を遣わなくてもいいのに」
妹友「・・・・・・」
兄「・・・・・・だんだんと道が空いてきたな」
妹友「そうですね」
兄「それにしても何でいきなり席替えしたんだろうな」
妹友「その方が楽しいじゃないですか」
兄「そうかなあ」
妹友「あたしよりお兄ちゃんが隣にいた方が嬉しかったのですか」
兄「そうじゃねえけど」
妹友「・・・・・・え? まさかお兄さんってそっちの趣味が」
兄「何の話だよ」
妹友「冗談ですよ。お兄ちゃんと妹ちゃんだって隣にいたいんじゃないかと思って」
兄「おまえが提案したのか」
妹友「はい。二人からは言い出せないだろうと思ったので、あたしが犠牲になろうかと」
兄(・・・・・・俺の隣に座るのって犠牲とか言われるほどの苦行なのか)
妹友「自らお兄さんの隣に座りたいって妹ちゃんに駄々をこねてみました」
兄「・・・・・・そう」
妹友「せっかくそこまでして気を遣ってあげたのに二人して寝てしまうとはバカですよね」
兄「さあ。俺にはよくわかんねえけど」
妹友「まあ、次の休憩でまた席替えをしましょう」
兄「ラブシャッフルかよ」
妹友「またずいぶんと懐かしいドラマのことを」
兄「おまえさ」
妹友「何でしょう」
兄「いつの間に妹と仲直りしたの」
妹友「今日のお誘いの電話をもらったときです」
兄「え? 喧嘩状態だったのに妹はおまえを旅行に誘ったんだ」
妹友「妹ちゃんも仲直りしたかったんじゃないですか。それで誘ってくれたんだと思います」
兄「も?」
妹友「はい。あたしも同じでしたから」
兄「そうか。まあ、これがきっかけになったのならよかった」
妹友「お兄さんにはご迷惑をおかけしました」
兄「おまえに謝られると気持悪い」
妹友「・・・・・・お兄さんひどい」
兄「口の悪さはお互い様だ」
妹友「ふふ。そう言えばそうでしたね」
兄「自覚くらいはしてたのか」
妹友「はい。わかっててやってますから」
兄「本当にたちが悪いな」
妹友「まあ次のシャッフルでは助手席に座るのは妹ちゃんだからあんまり落ち込まないでくださいね」
兄「俺は別に落ち込んでねえぞ」
妹友「態度でバレバレでしたよ。お兄さんが妹ちゃんと仲良くできなくて拗ねていることが」
兄「それはおまえの誤解だ」
妹友「そうですか」
兄「おまえはどうなの」
妹友「え?」
兄「おまえだって大好きな兄貴の隣で一緒にいたいんじゃねえの」
妹友「まあ否定はしません。でも意外と楽しいんですよね」
兄「何が」
妹友「ファミレスでお兄さんの注文を手伝ったり、ドライブ中のお兄さんの隣の席にいることがです」
兄「え(何言ってるんだこいつ)」
妹友「あたし、どうしちゃったんでしょうね。今までお兄ちゃん以外の男の人と一緒にいて楽しいなんて思ったことはなかったのに」
兄「まあ何と言っていいのかわからんけど、それはそれでよかったのかもな(兄妹じゃどうせ結ばれないんだしな)」
妹友「どういう意味?」
兄「(こいつ何赤くなって目を潤ませてんだ)いや、どういう意味って」
妹友「お兄さんもそうなんですか」
兄「いや。ほらさ、おまえ前に言ってたじゃん。兄妹の関係なんか行き場のない行き止まりの関係だって」
妹友「言いましたけど」
兄「だからさ。人のことは言えねえけどおまえも前を向き出してるってことじゃゃねえの」
妹友「お兄さんには言われたくないです」
兄「・・・・・・俺はもう割り切ったし。これからは姫のいい兄貴になるって決めたしね」
妹友「え?」
兄「何だよ。おまえに言われて気がついたことなのに何を意外そうに」
妹友「ぷ。ひ、姫だって」
兄(げ。やば)
妹友「姫って呼んでたんですね。妹ちゃんのこと。あははは」
兄「おい。ちょっと声がでかいって。後ろが起きちゃうだろうが」
妹友「おかしい~。ひ、ひ、ひ」
兄「ちょっと笑い過ぎだ」
妹友「ひ、姫かあ」
兄「もういいだろ」
妹友「ご、ごめんなさい」
兄「・・・・・・」
妹友「妹ちゃんって幸せだなあ」
兄「・・・・・・そうかな」
妹友「あたしのお兄ちゃんとは大違い」
<海辺の夕暮れ>
兄「そうなのか」
妹友「まあ、いいんですけどね」
兄「海が見えた」
妹友「本当ですね。綺麗」
兄(・・・・・・こいつの横顔、結構綺麗だな)
兄(って俺は何を考えてる)
兄(でも。こいつもこいつの兄貴もそんなに嫌なやつじゃないのかもしれないな)
妹友「まだ時間かかるんですか」
兄「ここまで来たら、もう少しだと思う」
妹友「どこかで食材を調達するって妹ちゃんが言ってましたけど」
兄「今夜は庭でバーベキューをしたいんだって」
妹友「いいですね」
兄「もう少し海辺を走ったら街中に出ると思うから、そしたらスーパーを探さないとな」
妹友「それは任せてください」
兄「ああ頼むよ」
妹友「何か夕暮れになってきましたね」
兄「昼飯が遅かったからな」
妹友「ステーキ美味しかったですか」
兄「まあまあかな」
妹友「せっかく選んであげたのに」
兄「だって筋が多くて固かったし」
妹友「・・・・・・オムライスは?」
兄「へ」
妹友「あたしが作ったオムライスはどうでしたか? 考えてみればまだ感想を聞いてなかったです」
兄「美味しかったよ(あの日は三食連続オムライスだったわけだけど)」
妹友「よかった」
兄(何か微妙な雰囲気。例えて言えばお互い振られた同士が傷を舐めあっているような)
妹友「何か落ちつきますね」
兄「そう?」
妹友「はい。お兄ちゃんのことばかり考えていらいらしたり、妹ちゃんと口喧嘩になってたときよりは、今の方が全然いいです」
兄(どういう意味だ)
妹友「前方にスーパーを発見しました」
兄「よし。ここで買物して行こう」
妹友「はい。じゃあ、そろそろ二人を起こしますね」
兄「そうして」
妹友「お兄ちゃん起きて。妹ちゃんも。買出しに行くよ」
妹「・・・・・・あれ? ここどこ」
兄(何言ってる)
彼氏「寝ちゃってたのか。お兄さんすいません」
兄「いいよ別に」
妹友「二人が寝ている間はあたしがお兄さんの話し相手をしてたから大丈夫だよ」
彼氏「そうか。妹も悪かったな」
妹友「いいって。海辺の道の景色すごくきれだったし。ねえ? お兄さん」
兄「まあな」
妹「・・・・・・」
兄「じゃあさっさと今夜のバーベキューの買物しちゃおうぜ」
妹友「そうですね」
妹「そんなに早く買物が終るわけないじゃん」
兄「何で? 肉と野菜を買えばいいんだろ」
妹「明日の朝食はどうすんの? お昼ご飯は」
兄「ああそうか」
妹「食材以外でも買うものはいっぱいあるの。簡単にさっさとか言わないでよ」
兄「え?」
妹「もういい。お兄ちゃんなんか頼りにならないや。妹友ちゃん、あたしたちで買物しちゃおう」
妹友「う、うん」
兄「おい(何怒ってるんだ)」
<逆切れするな>
彼氏「妹ちゃん機嫌悪かったですよね」
兄「ああ。いったい何が気に入らないんだろうな」
彼氏「何でしょうねえ。ファミレスまでは機嫌よかったのに」
兄「寝起きだからかな」
彼氏「そうでしょうか」
兄「おまえも彼氏なら何とかしろよ」
彼氏「無理ですよ。自信ありません」
兄「全く頼りにならないやつだな」
彼氏「お兄さんこそお願いしますよ」
兄「何で俺なんだよ」
彼氏「十七年間もずっと妹ちゃんと一緒に生きてきたんですよね。それくらいはできるはず」
兄「てめえ(何かだんだんこいつ調子に乗って馴れ馴れしくなってきてるな)」
彼氏「お願いします」
兄「しかたねえなあ。よし、俺の実力を見せてやる(何だかんだ言ってこいつら兄妹のことが憎めなくなってきているような気がする)」
彼氏「はい!」
兄「よし。店内に入って妹たちを探すぞ」
彼氏「了解です」
兄「で。どこにいるんだ」
彼氏「さあ」
兄「バーベキューなんだから生肉売り場に行けばいるだろ」
彼氏「そうですね。あ、いました」
兄「よし。おまえは妹友ちゃんを妹から引き離せ」
彼氏「・・・・・・どうすればいいんですか」
兄「おまえの妹だろ? それくらいは自分で考えろよ」
彼氏「そう言われても」
兄「・・・・・・じゃあ、おまえがうちの妹の機嫌を直す役をするか」
彼氏「妹を何とかします」
兄「全く最初からそう言えって」
彼氏「妹、ちょっと」
妹友「お兄ちゃん? どうしたの」
彼氏「歯ブラシとか忘れちゃってさ。買っときたいんで一緒に来て」
妹友「何で一緒に行く必要があるの?」
兄(あのばか。もっとましな理由を作れねえのかよ)
彼氏「いや、どういうのがいいのか僕じゃよくわからないし」
兄(んなわけあるか。歯ブラシなんてどれでも一緒だろ。全く使えないやつだ)
妹友「もう。あたしがいないと歯ブラシも買えないんだから。しようがないなあ」
兄(え? マジなの)
妹友「妹ちゃんちょとだけごめん。お兄ちゃんの買物に付き合ってくるね」
妹「うん」
兄(マジかよ。つうか彼氏君もこんなことくらいで誇らしげに俺を見るなよ)
兄(・・・・・・よし。いつまでも妹と気まずいわけにはいかん。父さんと母さんに頼まれてるんだし)
兄「何買ってるの」
妹「見てわからない?」
兄「いや、肉だよね」
妹「・・・・・・」
兄「あ。俺カート押すよ」
妹「・・・・・・」
兄「押させてくださいお願いします。つうかおまえにカートを押させてたなんて知れたら父さんに殺される」
妹「別にいいけど。はい」
兄「籠の中は。肉はだいたい買ったのな」
妹「・・・・・・うん」
兄「じゃあ野菜売り場に行こうぜ」
妹「わかってるよ」
兄「・・・・・・ほら」
妹「何よ」
兄「これ。おまえの好物じゃん」
妹「アスパラ?」
兄「昔さ。家族で庭でバーベキューした時はおまえアスパラばっか食ってたじゃん」
妹「・・・・・・・・まあそうだけど」
兄「母さんが買い忘れると、おまえすげえがっかりしてたもんな」
妹「・・・・・・そんなこと今まで忘れてた。よく覚えてたね」
兄「姫のことだからな」
妹「・・・・・・」
兄「じゃあこのアスパラ籠に入れるな」
妹「・・・・・・別にいいけど」
兄「ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも」
妹「勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね」
兄「本当は和食がいいのに妥協したんだぜ」
妹「当たり前でしょばか」
兄「・・・・・・やっといつもどおりの姫になった」
妹「・・・・・・」
兄「じゃあ、パンを買いに」
妹「何でよ」
兄「え」
妹「何で今日はあたしに構ってくれなかったのよ。もうあたしを放置するなって言ったでしょ」
兄「してねえよ。つうか俺はいい兄貴になるんだから」
妹「今日のお兄ちゃんは全然いい兄貴じゃないじゃん。あたしのこと放っておいて妹友ちゃんとベタベタして。だいたいお兄ちゃんは女さんとやり直すんでしょ」
兄「・・・・・・女とは仲直りしただけだよ。この先どうするかなんてまだわかんない」
妹「だからって。あたしを無視することないでしょ。何よ。あたしと隣になるのも避けてたくせに」
兄「おい。いい加減にしろよ」
妹「逆切れするな」
兄「いい兄貴としてはおまえと彼氏君の邪魔なんかできないだろうが。それは俺だって寂しかったけど」
妹「何でファミレスで車を降りたときにあたしの側に来てくれなかったの?」
兄「おまえが彼氏君と一緒にいたから」
妹「弱虫」
兄「何だって?」
妹「・・・・・・本当に寂しかったの?」
兄「本当だよ。今日はおまえと全然仲良くできてないし」
妹「お兄ちゃんは見栄とか張らないでもっと素直になった方がいいと思う」
兄「(何か表情が和らいだ)でもさ」
妹「何」
兄「俺一度おまえに振られてるからさ。臆病になるくらいは理解してくれよ」
妹「そんなこと」
妹友「じゃあ買い忘れはないよね」
妹「大丈夫だと思う」
彼氏「まあ、忘れてたらまた買いに来ればいいんだしね」
兄「・・・・・・誰が運転すると思ってるんだよ」
妹友「じゃあ出発しましょう。もう薄暗くなってきちゃったし」
妹「そうだね。お兄ちゃん?」
兄「うん?」
妹「別荘まであとどれくらいかかる?」
兄「もう一時間もかからないかな」
妹「じゃあ行こう。妹友ちゃん、ついたらすぐに食事の支度ね」
妹友「うん。じゃあ、本日最後のシャッフルです」
彼氏「え」
妹「何々?」
妹友「席替えね。今度は妹ちゃんが助手席であたしとお兄ちゃんが後部座席ね」
彼氏「了解」
兄「・・・・・・」
妹「・・・・・・うん」
兄「おまえはここに来るの初めてだっけ」
妹「うん」
兄「そうか」
妹「ねえ。伯父さんの別荘ってそんなに汚いの」
兄「昔の記憶だけどな。ぼろぼろだった印象がある」
妹「そうなんだ」
兄「うん。でもリフォームしたらしいな。出がけに父さんから聞いたけど」
妹「よかった」
兄「それに家はともかくロケーションは最高だぞ。寝室や庭から海が見えるし」
妹「寝室って何部屋あるの」
兄「寝室って言っても確か六畳の和室が二つだけだけど」
妹「・・・・・・さっきはごめんね」
兄「いや、拗ねてたのは俺の方だし」
妹「そうか。お兄ちゃんあたしと話せなくて拗ねてたのか」
兄「そうだよ、悪いか」
妹「でも、夜になったらいっぱいお話できるじゃん」
兄「どういうこと」
妹「あたしとお兄ちゃんで一部屋、彼氏君と妹友ちゃんで一部屋でしょ。今日は一緒に寝るからいっぱい話せるよ」
兄(・・・・・・マジで?)
妹「・・・・・・はい。どうぞ」
兄(運転中なんだけど。手つなぐの?)
<BBQ>
妹「ほら彼氏君、この肉取っちゃって」
彼氏「ありがと」
妹友「少し肉とか野菜を載せすぎじゃないかな」
妹「そうかな? この方が景気がいいじゃん」
妹友「食べる方が忙しい気がする」
妹「お兄ちゃん?」
兄「うん」
妹「何でそんなに隅っこで座ってるの」
兄「ちょっと疲れた」
妹友「ずっと一人で運転してくれたんですものね」
兄「おまえにそんな優しい言葉をかけられると混乱するわ」
妹友「何言ってるんですか。お皿出してください」
妹「・・・・・・」
兄「うん」
妹友「お肉とソーセージですよ。ちょうどよく焼けてますから」
兄「ありがとな」
妹「・・・・・・肉ばっかじゃん。ほら」
兄「何だよ」
妹「お皿貸して」
兄「ちょっと待て。ピーマンとか入れ過ぎだろ。玉ねぎももうそれくらいでいいって」
妹「子どもじゃないんだからちゃんと野菜も食べなよ」
兄「・・・・・・わかってるよ」
妹「彼氏君もソーセージ食べる?」
彼氏「うん。ありがと」
妹友「お兄ちゃんも野菜食べてないよね。ちょっとお皿貸して」
彼氏「食べるのはいいけど、ちょっと野菜だけ山盛り過ぎじゃない」
妹友「子どもじゃないんだよ。それくらい食べなさいよ」
彼氏「わかったよ」
妹友「海からのいい風が来るんだね」
妹「そうだね。風のせいで炭火なのに煙くなくっていいよね」
妹友「暗くてよく見えないけど、すぐ前はもう海岸なんでしょ」
妹「そうみたい。周りに人家もないし海水浴場でもないからプライベートビーチ状態だってパパが言ってた」
妹友「さすがに泳ぐにはちょと早すぎるよね」
妹「どうだろう。少し冷たいかもね」
妹友「海辺に行くって聞いたんでさ。無駄かもと思いながら実は水着持ってきちゃった」
妹「え? マジで」
妹友「まず使わないだろうと思ったんだけどさ」
妹「・・・・・・実はあたしも」
彼氏「何か野菜のバーベキューみたいですね」
兄「おまえだけじゃないぞ。俺だってほら」
彼氏「たいしたことないじゃないですか。僕の皿に比べたら」
兄「ばか言え。俺の皿の方が大量のピーマンや玉ねぎが」
彼氏「いや。僕なんかこんなに人参とキャベツが」
兄「・・・・・・食うか」
彼氏「それしかないですね」
兄「・・・・・・」
彼氏「・・・・・・お兄さんっていい人ですよね」
兄「何を言ってる」
彼氏「何かお兄さんとは気が合うような気がします」
兄「そうか(妹ともっと深い仲になるための策略か。将を射んとせば先ず馬を射よとはよく言ったもんだ)」
兄(確かに姫と俺の関係では姫が大将で俺はせいぜい姫の乗馬だもんな)
彼氏「何か妹がいるところとか境遇が似てますよね」
兄「逆に言うと妹がいる以外で似てるところはあるの?」
彼氏「さあ。それはわからないですけど。妹への距離感とかがすごく似ている気がします」
兄「・・・・・・どういう意味だよ」
彼氏「仲がいいというか。良すぎるというかそういうところですね」
兄「おまえと妹友ちゃんって仲いいの?」
彼氏「ええ。昔から仲が良すぎるくらいで、両親に変な心配をされるくらいでした」
兄「変な心配って」
彼氏「まあ、さすがにそれは親の誤解なんですけどね。それでもそう言われてもしかたがないくらい、昔から妹とは仲良しでしたね」
兄「妹との仲のいいことを恥じることはねえよ。それが変な関係じゃねえんだったらなおさらだ。むしろ誇ってもいいと思うぞ」
彼氏「そうですよね。僕もそう思ってましたけど、お兄さんからもそう言ってもらえて嬉しいです」
兄「彼氏君さ。おまえ本当に俺の妹のことが好きなの?」
彼氏「本当です。妹ちゃんに告白して、OKしてくれてすごく幸せです」
兄「おまえの妹はどうなんだよ」
彼氏「・・・・・・お兄さんだから正直に言いますけど。妹は多分僕と妹ちゃんの仲に割り切れない想いを抱えているんだろうと思います」
兄「やっぱりな。妹ちゃんってどう考えてもブラコンだもんな」
彼氏「さすがですね。やはりわかりますか」
兄「何がさすがかわからんけど、妹友と話しているとそんな気配がぷんぷんしてるもんな」
彼氏「妹に慕われていることは嬉しいのですけど、恋愛感情となるとまた別です」
兄「まあおまえはうちの妹のことが好きなんだからしかたないね」
<おまえの前じゃ猫被ってんだよ>
彼氏「だからお兄さんのところの兄妹関係が僕の理想です。できれば妹とはそういう関係になりたいんです」
兄「うちの関係?」
彼氏「はい。妹ちゃんはすごくお兄さんを尊敬していますし、信頼もしています。まだわずかな間だけのお付き合いしかしていませんけど、それでもそれは十分に理解できました」
兄「そうなんだ」
彼氏「それでもお兄さんと妹ちゃんは心からいい兄妹で、そこには変な感情は一切ないし」
兄(ついこの間まで俺の方には変な感情が全開であったんだけどな)
彼氏「ある意味、仲のいい兄妹の理想像ですよ」
兄「・・・・・・そうか」
彼氏「妹ちゃんは恋愛感情とかじゃなくて純粋にお兄さんのことを慕っていますよね。うちの妹にもその境地に至って欲しいんですけどね」
兄「妹友ちゃんは頭がいい子だし。おまえが心配しているような近親相姦みたいな関係を本気で望んだりはしないと思うけどな」
彼氏「はい。最近ではようやく僕もそう思えるようになってきました」
兄「そうか。それならよかったじゃんか」
彼氏「今まではだめだったんですよ。あいつは僕が言うのも何ですけど見た目は可愛いじゃないですか」
兄「まあ確かに見た目はすごく可愛いよな(確かに可愛い。俺の姫には劣るけれども、女とどっこいどっこいなくらいに)」
彼氏「そうでしょう。妹選抜総選挙があったとしたら、センターは確実ですよね」
兄「何、得意気に妹の自慢してんだよ。おまえの妹は見た目はいいが言動が痛すぎる」
彼氏「そうですか? その辺も普通に可愛いとしか思えませんけど」
兄(おまえの前じゃ猫被ってんだよ。その点、俺の妹は)
兄(俺の妹は・・・・・・。まあ、俺の前で猫被ったりはしないな。いろいろ問題はあると思うけど、少なくとも俺の前では素直だと思う)
兄(つまり、わがままだったり俺のこと振ったくせに俺に嫉妬じみた行動したり、俺を放っておいて彼氏君と仲良くした挙句、俺に放置されたと逆上したり)
兄(人から見たら最悪の妹だけど。面倒くささでいったら女友とか女とか妹友とかよりもっと面倒くさい訳わかんない女だけど)
兄(俺が大切に思っている姫ってそういう女だからさ。別に俺が振り回されたっていいんだ)
彼氏「こんなこと言うとまたお兄さんや妹ちゃんに怒られちゃうかもしれませんけど」
兄「何だよ」
彼氏「妹はお兄さんと知り合ってから少し変わったような気がします」
兄「何だって」
彼氏「さっき、妹ちゃんが寝ちゃたんで僕もうとうとしてたんですけど」
兄「ああ。ドライブ中の話ね」
彼氏「寝ちゃってすいません」
兄「それはいいけど」
彼氏「うとうとしてたら妹がお兄さんに話しかけてる声が聞こえて」
兄「うん」
彼氏「何かいい雰囲気でした。妹が僕以外の男に甘えたような口調で話すのを初めて聞きました」
兄「そ、そう」
彼氏「ちょうど海が見えた当たりですかね。夕暮れの中で妹がお兄さんに話している言葉は全く聞こえなかったんですけど、その口調だけはわかりました」
兄「考えすぎじゃないのか」
彼氏「さあどうでしょうか。でもファミレスで妹がお兄さんとメニューを見ながら楽しそうに話しているのを聞いたときから、何かそんな予感がしていたんですね」
兄「まさか、おまえさ。本当に好きなのはうちの妹じゃなくて妹友ちゃんのことじゃねえだろうな」
彼氏「はい?」
兄「はいって」
彼氏「あいつは実の妹ですよ。そんな感情は全くないです」
兄「おまえら見てると何となくそういうのもありそうで恐い」
彼氏「でも。妹の方は正直よくわからなくて不安だったんですけど、少なくとも今は妹の好きな男はお兄さんだと思います」
兄「違うと思うけどなあ(てめえの妹の好きな男は実の兄貴のおまえだっつうの。もっとも妹友は近親相姦なんてありえないって考えているけど)」
兄(そうか。だから妹友は悩んでるんだ。ありえないって思いきれるほどの常識があるのにもかかわらず、本当に好きな男が実の兄だっていう矛盾を抱ええて)
彼氏「お兄さん、妹のことをよろしくお願いします」
兄「ちょっと待て」
彼氏「別に妹と付き合ってくださいと言っているわけじゃないです。でもせめて妹を興味半分に弄ばないでください」
兄「そんなことするかよ。それにそんなことできるほど女に慣れてないっつうの」
彼氏「変なこと言ってすいません」
兄「おまえの方こそ」
彼氏「え」
兄「えじゃねえよ。万一妹を悲しませたらマジで殺すぞ」
彼氏「はい。そんなことは絶対にありません」
兄「(即答かよ)それならいいけどよ」
<変なことをするのは禁止ね>
妹「ほら。お肉が焦げちゃうからさっさとお皿持ってきて」
兄「ほら行け。彼氏君」
彼氏「はい。行って来ます」
兄(・・・・・・いいやつだ。こういうちゃつなら妹を任せてもいいのかもしれないな)
兄(姫の彼氏が兄友みたいなどうしようもないクズじゃなくて幸運だったのかもしれない)
兄(姫も兄友君のことは好きみたいだし)
妹『もうやだ。あたし彼氏と別れるから』
兄(好きな相手と別れるなんて言わせちゃいけない。いくら姫が俺のことを兄として大事にしてくれていたとしても)
妹友「お兄さんも来て下さい。このままじゃ肉が焦げてしまいます」
兄「ちょっと一度に載せすぎじゃねえの」
妹「何よ。その方が景気がいいじゃん。彼氏君、お皿出して」
彼氏「ありがと」
妹「美味しい?」
彼氏「うん。すげえ美味しい。妹ちゃんが焼いてくれてるからかな」
妹友「誰が焼いたって同じじゃん」
彼氏「俺には違いがわかるの」
妹友「ほう。じゃあこの肉を焼いたのはあたしか妹ちゃんか答えてみ?」
彼氏「え?」
妹友「違いがわかるんでしょ」
彼氏「お腹空いたからこの人参を食おう」
妹友「逃げたな」
妹「ちょっとトレイに行くね。妹友ちゃんあとお願い」
妹友「いいよ。ってこらお兄ちゃん誤魔化すな。誰が焼いたか言え」
妹「お兄ちゃん」
兄「どうした」
妹「トイレって言って出て来ちゃった」
兄「・・・・・・そうか」
妹「また拗ねてるの? あたしと彼氏君の仲がいいことに」
兄「いや」
妹「あたしだってお兄ちゃんとなるべく一緒にいたい」
兄「そんなに俺に気を遣うなよ」
妹「本当だって」
兄「まあ、正直に言えば俺も姫をあいつに取られたみたいで寂しいことは寂しいけど」
妹「・・・・・・うん。お兄ちゃんがあたしたちに嫉妬してたことはわかってた」
兄「おまえトイレ行かなくていいの」
妹「単なる口実だもん」
兄「・・・・・・」
妹「お兄ちゃん」
妹「・・・・・・」
兄「・・・・・・ふは」
妹「ふふ。またお兄ちゃんにキスしちゃった」
兄「・・・・・・おい。あいつらに見られたらやばいだろ」
妹「もう女友さんには見られてるじゃんん」
兄「あのときと違って今は恋人同士の振りをする必要なんてねえだろ」
妹「何よ。お兄ちゃん嫌なの?」
兄「・・・・・・」
妹「・・・・・・」
兄「俺、確かにおまえに振られたんだよな?」
妹「うん。そうだよ」
兄「・・・・・・俺がいい兄貴でいようと我慢するにも限度があるんだけど」
妹「こんなことでもう限界なの?」
兄「・・・・・・何考えてるんだよ」
妹「さっさとバーベキューを終らせようよ。そんで後片付けしてお風呂に入って」
兄「・・・・・・そんで何だよ」
妹「伯父さんの別荘って寝室は二部屋しかないんでしょ」
兄「ああ」
妹「じゃあ。話の続きは一緒に寝てからしようよ」
兄「・・・・・・」
妹「あ。でも変なことをするのは禁止ね」
兄「・・・・・・わかった」
<寝室にて>
妹友「洗い物もだいたい終ったね」
妹「結局お兄ちゃんも彼氏君もバーベキューセットをしまったくらいで義務を果たした気になってるし」
妹友「あはは。でも男の子なんてそういうもんだって」
妹「だってそんなの不公平じゃん」
妹友「そう言われてもさ。そういう風に育てられて来てるからね。お兄ちゃんも。きっとお兄さんもそうだろうし」
妹「うちのお兄ちゃんはうざいくらいあたしの台所仕事を手伝いたがったけど」
妹友「うちのお兄ちゃんとは大違いだ」
兄「運んできたぞ。多分、これで洗い物は最後だ」
妹友「意外とお兄さんってまめなんですね」
兄「男女間の性差に基づく議論なら今からでも相手になってやるけど?」
妹「やめなよ。大人気ない」
妹友「いつでも相手になってあげます。けど、今は洗い物があるので」
兄「逃げたな」
妹「お兄ちゃん!」
兄「風呂入ってくる」
妹「お風呂から二度と出てくるな」
兄「遅かったな」
妹「普通はお客さんから最初に入ってもらうもんでしょうが」
兄「だってあいつらなかなか風呂に行かないんだもん」
妹「遠慮してるに決まってるでしょ。」
兄「風呂はリフォームしてあったな。思っていたよりだいぶ綺麗だった」
妹「お布団くっつけて」
兄「・・・・・・あいよ」
妹「お兄ちゃん。あたしを彼氏君に取られちゃったと思って寂しかった?」
兄「別にそんなことは」
妹「あたしたち兄妹なのに」
兄「わかってるって」
妹「単に妹にすぎないあたしと今日はあんまり話せなくて寂しかった?」
兄「いや、まあ。妹友が相手してれくたし」
妹「お兄ちゃんは妹友ちゃんが好きなの?」
兄「(何か姫が怒ってるし)いや。男女の仲って意味ならそこまでじゃない」
妹「女さんは? やり直そうって言われたんでしょ」
兄「そんなのわからねえよ」
妹「お兄ちゃんって本当に人を好きになったことあるの」
兄「何だよ」
妹「何が何でも、あたしを彼氏君から奪おうとか思ったことないでしょ」
兄「・・・・・・・何それ」
妹「何でもない。ごめん」
兄「・・・・・・」
妹「ごめん。もう寝るね」
兄(・・・・・神様。もう許してくれよ)
<君が義理ならどんなにいいか>
兄(まだ夜明け前か。すいぶん早く目を覚ましてしまったな)
兄(・・・・・・妹が抱きついてるんじゃないかと期待したんだけどそんなことはなかった)
兄(何キモい期待してんだ俺。俺自身がちゃんといい兄貴の意識を持ててないから、妹も混乱して矛盾だらけの行動を取っちゃうんだろうな)
兄(いい加減に落ちつかなくっちゃ。妹と彼氏君の仲に嫉妬とかして拗ねてる場合じゃねえ。明日は適度に妹と彼氏君を二人にしてやろう)
兄(姫の不機嫌を招くかもしれないけど、それは俺がうじうじとした態度だったからじゃねえかな)
兄(妹友と一緒にいると姫が微妙に不機嫌だったのはちょっと気になるけど)
兄(今はいろいろお互いの関係とか距離感が不安定だからだろうな。現に女には俺に告ることを勧めるようなことを言ってたし)
兄(ずっと一人でいいと思ってた。一人で姫を見守ろうと。でもそれじゃあ姫のほうが安定しないみたいだ)
兄(どうすっかなあ)
兄(しかし可愛い寝顔だな)
兄(・・・・・・君が義理ならどんなにいいか)
兄(まあ、兄貴でなかったら俺なんか姫には全く相手にされてなかったろうけどさ)
兄(とりあえず女とは仲直りしたけど、姫の言うとおり女と復縁した方がいいのかなあ)
兄(付き合ってた頃だって気は合ってたしな)
兄(それにそうすれば姫だって安心して彼氏君と付き合えそうだし)
兄(・・・・・・だめだもう眠れねえ)
兄(そろそろ明るくなるだろうし海辺でも散歩して頭を冷やすか)
兄(姫を起こさないようにそっと)
兄(・・・・・・行ってくるよ姫)
兄(・・・・・・)
兄(記憶よりずっと海が近いな。波のざわめく音がすぐ間近で聞こえる)
兄(さすがにまだ暗いから足元が危ないな。・・・・・・確か庭を出てそこの斜面を少し降りればもう海岸だったはず)
兄(少し明るくなってきたな。あ、海が見えた)
兄(しかし確かに周囲を崖と丘に囲まれてるし他に家もないから完全にプライベートビーチ状態だな)
兄(夏なら泳げたのに)
兄(・・・・・・姫の水着姿か)
兄(いかん。邪念を払わないと)
兄(あれ?)
兄(何だ誰かいるじゃん。一人でゆっくり散歩しようと思ってたのに)
兄(気づかれるのも何か気まずいな。でもこんなに小さなビーチじゃ隠れようもないし。しかたないから家に戻るか)
兄(あれ)
妹友「・・・・・・あ」
兄「妹友か」
妹友「おはようございますお兄さん」
兄「ずいぶん早起きなんだな」
妹友「たまたまです。何か目が覚めたら眠れなくなっちゃって」
兄「俺と同じだ」
妹友「そうなんですか」
兄「眠れないから少し散歩でもしようかと思ってさ」
妹友「何か意外です」
兄「意外って何が?」
妹友「お兄さんのことだからきっと少しでも長く妹ちゃんの側にいたいのかと思ってました」
兄「・・・・・・」
妹友「あ。ごめんなさい。あたし・・・・・・」
兄「別にいいよ。てかおまえがそんな殊勝な態度を俺に見せるなんてそっちの方が意外じゃんか」
妹友「そんなことないですよ」
兄「何だよ。実はツンデレでしたとでも言う気か」
妹友「・・・・・・」
兄「いやあの。冗談なんだけど」
妹友「今までのあたしは必死でしたから。必死になって強気を装って毒舌を吐くようにしてましたから」
兄「何のこと?」
妹友「いいです。別に何でもないです」
兄「そうか」
妹友「お兄さん」
兄「うん」
妹友「海が見えてきました。大分明るくなりましたね」
兄「そうだな」
妹友「もっと海の近くに行きたいな」
兄「行ってみるか。つってもその靴じゃ砂浜を歩くのは厳しいかな」
妹友「大丈夫です。行きましょう」
兄「あまり走ると危ないぞ」
妹友「わあ。日の出ですよ。海から直接お日様が昇るんですね」
兄「本当だ」
妹友「きゃっ」
兄「おい危ないって、あ」
妹友「・・・・・・」
兄「・・・・・・大丈夫?」
妹友「はい。支えていただいたので転ばないですみました」
兄「いや。いったいどうしたの?」
妹友「波が靴にかかって冷たくてびっくりしちゃった」
兄「これで転んでたら全身びしょ濡れになるとこだったな」
妹友「ええ。ありがとう」
兄「いや別に」
妹友「あ、あの」
兄「どうした」
妹友「多分もう手を離していただいても大丈夫だと思います」
兄「あ、悪い」
妹友「・・・・・・いえ」
<おまえが罪悪感を感じることはないんだ>
兄「・・・・・・・(さっきから妹友が俯いて俺の顔を見ようとしないんだが)」
兄(とっさに転びそうになった妹友を抱きかかえてしまったんだが、あれに怒っているのかな)
兄(だけどかかえなきゃ転んでたよな)
兄(それにしても抱きしめるようにしたのはまずかったか)
兄(・・・・・・こいつも妹と同じだった)
兄(女や女友は多分C、いやひょっとしたらDくらいはあるかもだけど)
兄(妹と妹友はBマイナスってとこか)
兄(貧乳、スレンダー、華奢好きな俺にとっては別に問題はないけれど)
妹友「お兄さん」
兄「うん」
妹友「これまでいろいろとごめんなさい」
兄「何で謝ってるの」
妹友「お兄さんの気持を左右したり変えたりする権利なんかあたしにはないのに」
兄「・・・・・・ああ」
妹友「妹ちゃんが公園で言ってましたよね。何で自分と自分の兄の気持ばっかり優先するのって」
兄「言ってたな」
妹友「本当は妹ちゃんの言うとおりなんです。あたし、お兄さんの気持ちとか妹ちゃんの気持とか全然考えてなかった」
兄「俺に年上の余裕を見せろって言ったことか」
妹友「はい。すごく勝手なことを言いました」
兄「・・・・・・」
妹友「本当にごめんなさい。あたしのお兄ちゃんに対する感情を解決するために、お兄さんと妹ちゃんまで巻き込んじゃいました」
兄「まあ、あまり気にしなくてよくね」
妹友「だって」
兄「おまえが言ってたことは間違ってないしな。確かに兄妹の恋愛に行き場なんかないしさ」
妹友「お兄さん・・・・・・」
兄「それにそもそも妹には全然その気がなかったんだしさ。おまえのおかげで俺も目が覚めたよ」
妹友「本当にそうなんでしょうか」
兄「何がだよ」
妹友「昨日の夜、あたし見ちゃいました」
兄「見たって何を?」
妹友「バーベキューの途中で妹ちゃんがトイレに行くと言っていなくなったんですけど」
兄(え)
妹友「お兄さんにお肉を持って行こうと思って。少し離れたところにいたお兄さんのところまで行ったら、妹ちゃんがお兄さんにキスしていました」
兄「見られてたのか」
妹友「はい。お兄ちゃんが見てなくて本当によかった」
兄「・・・・・・言い訳していい?」
妹友「そんな必要はないですけど、話してくれるなら聞きます」
兄「妹はおまえの兄貴のこと好きだと思うよ」
妹友「はい」
兄「あいつが変になったのって俺があいつに告るなんて常識のないことをしたせいだと思うんだ」
妹友「・・・・・・」
兄「あいつは常識的な行動をしたよ。俺の告白を断るという」
妹友「はい」
兄「だけど俺は、そのことに拗ねた俺は突然引越して家から消えたんだよな。それがどんなにあいつを寂しがらせ傷つけるかなんてちっとも考えずに」
妹友「新学期になってから妹ちゃんは学校でも全然元気がありませんでした。元気付けようとしても慰めようとしても、大丈夫だからと言うばかりで」
兄「そうか。うちの両親は都心に小さなアパートを借りててな。平日の夜はそこに泊まることが多いんだよ。仕事で忙しいからさ」
妹友「じゃあ、お兄さんが家を出た後の妹ちゃんは」
兄「いつも一人で家にいたんだろうな」
妹友「あの寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃんがいつも夜一人で・・・・・・」
兄「ああ。確かそれからだよ。おまえに言われて妹にメールして仲直りしてさ。これからは普通の兄貴として接するからって言ったんだけど」
妹友「だけど何ですか?」
兄「いやさ。妹らしくないんだけど、俺と一緒に寝ようとしたり手をつなぎたがったりとかさ。そういう行動が始まったんだよな。これまではそんことは素振りさえなかったのに」
妹友「お兄さんに対してデレだしたんですね」
兄「うん、まあ。でもさ、それって兄貴としての俺を失いたくなくて無意識にやってるんじゃねえかと思うんだ」
妹友「昔から仲の良かったお兄さんを一月以上も失った。その原因は自分がお兄さんからの求愛を断ったせいだって、妹ちゃんはそう考えたんですね」
兄「まさにそれだと思う。男としての俺を欲しているわけじゃない。でも女として俺に接していないといい兄貴としての俺が自分から放れていっちゃうと思ったんじゃねえかな」
妹友「妹ちゃんかわいそう」
兄「そうだな。こんなことになるなら、こんなに妹を傷つけるくらいなら告白なんてしなきゃよかった」
妹友「・・・・・・」
兄「だからさ。おまえが罪悪感を感じることはないんだ。全部俺のせいなんだから」
妹友「それが正しいとしてもですけど」
兄「何だよ」
妹友「いい兄貴をつなぎ止めるためだけのために、普通キスまでしますかね」
兄「あいつは家族が大好きだからな。それくらいしても不思議じゃない」
妹友「そうかなあ」
兄「何か間違っていると言うのか」
妹友「あたし、前にお兄さんに言ったじゃないですか」
妹友『妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ。ただ、それは異性に対する愛情じゃない』
妹友『お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性として好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自分の兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対するものじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思います』
妹友『聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは言えなかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思ったから。だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄さんを振ったんでしょうね』
兄「そうだったな。全くそのとおりだったけど」
妹友「でも妹ちゃんはこうも言いました」
<お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ>
妹友「お兄さんの部屋で女さんっていう人からひどいことを言われて傷付いていた妹ちゃんが言ったんですけど。ってもうこれは話しましたね」
妹『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』
妹友『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで何も問題ないじゃない』
妹『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』
妹友『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』
妹『それはそうだけど』
妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬したの』
妹『・・・・・・』
妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』
妹『・・・・・・違うよ』
妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』
妹『多分』
妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あんた。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』
妹『・・・・・・』
妹友『何か言ってよ』
妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』
妹友「これがもし妹ちゃんの本音だったとしたら」
兄「違うよ」
妹友「それならいいんですけど。それならあたしが傷つけたのはお兄さんだけで、妹ちゃんからお兄さんを引きはがしたことにはならないですし」
兄「・・・・・・おまえは悪くないよ」
妹友「でも結果的には引き離したのと同じことですね」
兄「・・・・・・もうやめようぜ」
妹友「はい」
兄「すっかり明るくなったな」
妹友「景色、綺麗ですね。今までは暗かったからわからなかった」
兄「久し振りにここに来たなあ」
妹友「今日って気温はどうなんでしょう」
兄「さあ。何で?」
妹友「その・・・・・・。ひょっとしたら泳げるかなと思って水着を」
兄「持ってきたの?」
妹友「ちょっと。どこ見てるんですか」
兄「ああ、すまん」
妹友「・・・・・・どうせあたしは胸はないです」
兄「へ? ああ、問題ない。その方が好みだから」
妹友「お兄さんのエッチ」
兄「ちなみにどんな水着なの」
妹友「教えてあげません」
兄「けち」
妹友「全くもう。今の今までシリアスな話をしてたというのにお兄さんときたら」
兄「おまえがいかにも俺に水着を見せたがっているような発言をするからだろ」
妹友「誰がそんなことを言いました。そんなわけないでしょ。どこまで自己中なんですか」
兄「おまえとはキスした仲だしな(そうだ。これでいい)」
妹友「あ、あれは。妹ちゃんに発見されそうだったから偽装工作として」
兄「いやあ。でも女の子の唇って柔らかいのな(全部冗談にしてしまえば妹友だって悩まないで済む)」
妹友「・・・・・・マジで殺す」
兄「つれないなあ。何ならもう一度してくれてもいいんだぜ(それで妹とも軟着陸するように頑張ろう。昔みたいなただ仲のいい兄妹に戻れるように)」
妹友「・・・・・・うっさい。死ね」
兄「おまえ顔真っ赤だぜ(あんな告白のせいでこんなに大変なことになるとはな。まさにするは一瞬、戻すは百年だ)」
妹友「・・・・・・知りません」
兄「そろそろ戻るか。あいつらも起きる頃だろうし」
妹友「はい」
兄「じゃあ、行こうって・・・・・・!! おい!!!」
妹友「・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ」
兄「お、おまえなあ」
妹友「どっちかと言うとお兄さんの方が真っ赤じゃないですか」
兄(どういうつもりだ)
妹友「今日はどっかに遊びに行くんですか」
兄「・・・・・・妹は近くにある水族館に行こうって行ってたけど(いったい何なんだ)」
妹友「そうですか。一つお願いがあるんですけど」
兄「何だよ」
妹友「今日はあたしとずっと一緒にいてください」
兄「何で?」
妹友「その方がきっとお互いに楽ですよ」
兄「・・・・・・姫が嫉妬すると思う」
妹友「それに動揺しないで、いいお兄さんとして振る舞ってください」
兄「まあ、そうなんだが」
妹友「勝手言ってごめんなさい。あたしまた前と同じことをしようとしているのかもしれないけど」
兄「まあ、正直に言えばそんな気もする」
妹友「でも動機は前とは全然違うんです」
兄「そうなの」
妹友「ええ。前はお兄ちゃんを諦めるためというのが主な理由だったんですけど」
兄「今は違うのか」
妹友「はい。今のお願いはどちらかというと自分の願望をかなえるためです。あたしのわがままですね」
兄「どういう意味?」
妹友「こういう意味です」
妹友は爪先立って俺の首に手を巻きつけた。その朝、俺は妹友から二度もキスされたの
だった。
<朝食>
妹「あ、お兄ちゃん」
兄「おはよ」
妹「いったいどこ行ってたのよ。彼氏君と二人で家中探しちゃったじゃない」
兄「妹友と一緒に海岸を散歩してた。綺麗な景色だったぜ」
妹「え」
兄(これでいいんだよな妹友)
妹友「おはよう妹ちゃん」
妹「おはよ。二人で海まで行ってたの?」
妹友「早起きしちゃったから砂浜に下りたら偶然お兄さんと会ったの」
妹「そう」
妹友「お兄さんといっぱいお話しちゃった」
妹「・・・・・・どんなことを話していたの」
妹友「どんなって・・・・・・いろいろだけど。ね、お兄さん」
兄「うん」
妹「そうなんだ」
妹友「すごく綺麗な景色だったよ。妹ちゃんもお兄ちゃんと見てきなよ」
妹「後でね。それより朝ごはんの支度ができているから食べよ」
妹友「あ、ごめん。妹ちゃん一人にさせちゃって」
妹「慣れてるから平気だよ。気にしないでいいよ」
妹友「本当にごめん」
妹「いいって。じゃあ、食べよう。彼氏君はどこに行ったんだろう・・・・・・あ、いた。彼氏君、妹友ちゃんたちいたよ」
彼氏「よかった。おまえいったいどこ行ってたんだよ。探しちゃったじゃないか」
妹「二人で海岸に行ってたんだって」
彼氏「二人? ああ、そうか。よかったな妹」
妹友「別にそんなんじゃ」
妹「・・・・・・」
兄「あれ? これって」
妹友「どうしたんですか」
兄「いや(何でご飯と味噌汁と干物なんだ? 旅先じゃあ面倒くさいからパンにするんじゃ)」
妹「・・・・・・お兄ちゃんもさっさと食べちゃってよ。遊びに行く時間が減っちゃうじゃん」
兄(だって)
兄『ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも』
妹『勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね』
兄『本当は和食がいいのに妥協したんだぜ』
妹『当たり前でしょばか』
兄(黙って干物とか買って用意してくれたんだ)
兄(・・・・・・)
妹「・・・・・・何よ」
兄「いや。ありがとな」
妹「別にそんなことはいいからさっさと食べて」
妹友「・・・・・・」
妹「いったいどんだけお代わりするのよ。もうご飯ないよ」
兄「じゃあこれでいいや。ごちそう様」
妹「ほうじ茶飲む?」
兄「うん」
妹「妹友ちゃんと彼氏君は?」
彼氏「僕はいいや。ごちそう様」
妹「彼氏君、朝食はいつもパンだって言ってたから口に合わなかったでしょ」
彼氏「ううん。おいしかったよ。たまには朝の和食もいいよね」
妹「それならよかった。妹友ちゃんほうじ茶は」
妹友「・・・・・・あ、ごめん。ぼんやりして。あたしもいいや」
兄「で。今日はどうすんの」
妹「水族館と爬虫類パークと熱帯植物園に行きたい」
兄「それ全部回るの?」
妹「全部近い場所に固まってるから大丈夫じゃない?」
妹友「面白そう。ヘビとかトカゲとかワニとかがいるんでしょ」
兄「そりゃまあ、爬虫類パークっていうくらいだからな」
妹友「あたし、爬虫類って大好き」
兄「そらまた変わった趣味だな」
妹友「変わってないですよ。今、流行ってるんですよ」
妹「そうだよ。イグアナとか飼っている人、うらやましいな。あたしも一匹飼いたい」
兄「却下。俺はそんなのと同じ家で暮らしたくない」
妹「可愛いじゃん。ねえ彼氏君」
彼氏「いやあ。僕もちょっと遠慮したいなあ」
兄「ほれ見ろ」
妹「あの可愛さがわからないんなんて」
妹友「だよねえ」
兄「じゃあ、片づけしたら出かけようぜ。連休中だから多分すげえ混むと思うよ」
妹「そうだね。じゃあ洗い物しちゃおうか」
妹友「うん」
<水族館にて>
兄「チケットを買うだけでもう三十分以上もかかってるぞ」
妹友「連休中なんだからしかたないですよ。それに並んでくれてるのは妹ちゃんたちじゃないですか」
兄「それはそうだけど、待っている方もつらい」
妹友「それよりお兄さん」
兄「どうした」
妹友「海辺での約束、覚えてくれてますよね」
兄「・・・・・・それはまあ」
妹友「妹ちゃんはきっと四人皆で行動しようと思っているでしょう」
兄「そうかもな」
妹友「この人混みですから水族館の中はきっと観光客でごった返しているはずです」
兄「それは容易に想像できるな」
妹友「はぐれましょう、わざと」
兄「はい?」
妹友「ですから妹ちゃんとお兄ちゃんとはぐれましょう」
兄「・・・・・・何でそんな手の込んだことをしなきゃいけないんだよ」
妹友「四人で見て回ろうって言われてるのにわざわざ二人きりになりたいなんて言いづらいじゃないですか」
兄(こいつ、本当に俺のことが好きなのかな)
妹友「それに本心では妹ちゃんだってお兄ちゃんと二人きりになりたいに決まってます」
兄「そうかなあ(今朝、二回もキスされたしな。やっぱりこいつに好かれてるのかなあ)」
妹友「あたしたちに遠慮して、二人きりになりたいなんて言い出せないだけですよ」
兄「まあ、妹友がそこまで言うならそうしようか」
妹友「・・・・・・」
兄「妹友?」
妹友「お兄さん、ひょっとしてあたしと二人きりになるのが嫌なんですか」
兄「そんなことねえけど」
妹友「それともやっぱり妹ちゃんのことが気になりますか」
兄「いや。それはやっぱり気にはなるけど、気にならないようにしなきゃいけないと思ってるよ。だからおまえと二人でも全然嫌じゃない」
妹友「そうですか」
兄「おまえはどうなの?」
妹友「どうと言いますと?」
兄「兄貴を取られちゃうみたいで落ちつかないんじゃねえの」
妹友「今はもう全然そんな気はなくなってしまいました。以前を考えるとまるで嘘のように」
兄「どういうこと」
妹友「前は確かにお兄ちゃんと妹ちゃんが二人でいると落ちつかなかったんですけど」
兄「ブラコンだもんな。おまえ」
妹友「お兄さんにだけは言われる筋合いはこれっぽっちもないと思います」
兄「・・・・・・まあ、そうかもしれん。で、今はどうなの」
妹友「今はお兄さんと妹ちゃんが二人きりでいる方が心配で落ちつきません」
兄「どういう意味だよ」
妹友「そのままの意味ですよ」
兄「おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって前に言ってなかったっけ」
妹友「言いました」
兄「じゃあ何で」
妹友「そんなのわかりません。気になるんだから仕方がないでしょ」
兄「おまえひょっとして俺のこ」
妹「お待たせ。やっと買えたよチケット」
彼氏「チケットを買うだけで四十分ですからね。中は相当混雑しているでしょうね」
妹「はぐれないようにしないとね」
妹「順路に沿って行こうよ」
彼氏「最初にいきなり水槽の中を通るトンネルがあるんだって」
妹「見たい。早く行こう」
妹友「まだですよ」
兄「ああ(耳元で囁くなよ)」
妹「わあすごい。頭の上にも横にも魚がいる」
彼氏「ほら。あのエイすごく大きいよ」
妹「本当だ。あたしより大きいんじゃない?」
彼氏「僕の背丈と同じくらいの長さかな」
妹「もうトンネル終わっちゃったね」
彼氏「ここには何がいるんだろう。人が多すぎてよくわかんないね」
妹「あそこに人だかりがある。何かいるんじゃない」
彼氏「でかい水槽だね」
妹「あ、ペンギンだ。もっと近くに行こうよ」
彼氏「うん」
妹友「今ですお兄さん」
兄「あ、ああ」
妹友「二人はペンギンの方に向っています」
兄「そうだね」
妹友「この人が少ない地味な水槽の陰であの二人をやり過ごしましょう」
兄「地味な水槽って。なんだ、くらげか」
妹友「もう少し水槽の背後に回ってください。見つかってしまいます」
兄「ああ」
<罪悪感>
兄(妹の小さな背中が見える)
兄(夢中になってペンギンを眺めているんだろうな、きっと)
兄(別に俺のことを気にしている様子もないし。これならきっと妹友の言うとおり、二人きりにしてやった方が親切なのかもしれん)
兄(そう考えると姫も成長したんだなあ)
兄(あいつが小学生の頃は俺にべったりだったもんな。親があまり家にいなかったせいもあって、俺がちょっと視界から離れるとパニックになって泣いて俺のことを探してたのにな)
兄(きっと妹も正しく成長してるってことなんだろう。いつも兄貴に頼っていた小さな女の子はもういないんだ)
兄(これでいい。妹友には感謝しないとな)
妹友「お兄さんちょっと顔を出しすぎです。もっとあたしの方に寄ってください」
兄「これくらい離れてりゃ大丈夫だよ」
妹友「万一ということもありますから。ほら」
兄「こら、手を引っ張るな」
妹友「しばらくこうしていましょう」
兄「・・・・・・何で俺の腕に抱きついてるの?」
妹友「知りません。そんなこと一々聞かないでください、バカ」
兄(バカって)
兄(こいつ真っ赤だ。やっぱり俺のこと好きなのか)
兄(妹はいいとして、女のこともあるしなあ)
兄(これで妹友に走ったら今度こそ本気で俺が女を振ったことになっちまう)
兄(かと言って手を振り解くのも妹友を傷つけそうだし)
兄(あーあ。また俺の優柔不断ぶりが遺憾なく発揮されてしまうのかよ)
兄(こんなに胃が痛い思いをするならやっぱ一生一人身で姫を見守っていた方がよほど気が楽だ)
兄(あれ?)
兄(妹がきょろきょろ周囲を見回している。俺たちがいないことに気がついたか)
妹友「妹ちゃんが気がついたみたいですね」
兄「どうもそのようだな。あっちこっちを探しているし」
妹友「すぐ諦めて二人で行っちゃいますよ。少しここで待ちましょう」
兄「うん」
兄(何か姫、すげえ勢いで周りを探してるな)
兄(彼氏君が宥めているみたいだけど)
兄(きっとすぐに会えるから先に行ってようとか言ってるんだろう)
妹友「あ」
兄「・・・・・・妹友が彼氏君の手を振り払った」
兄(何か普通じゃないな、姫の慌てようは)
兄(あいつパニックになってるんじゃ)
兄(スマホを取り出した。電話する気なんだ。って俺の携帯鳴ってるな)
兄「妹から電話が来てるんだけど」
妹友「着信に気がつかなかったことにしましょう。これだけ人だらけで周囲もうるさいので説得力もありますし。だから出ないでください」
兄「ああ」
兄(電話が切れた。ってまた着信だ)
兄(・・・・・・あの様子って、昔妹が俺とはぐれたときの様子と一緒じゃねえか)
兄(また着信だ)
兄(もう無理だ。妹友の言うことももっともだと思うけど、俺にはもう無理だ)
兄(妹を泣かすなんて一番してはいけないことじゃねえか)
兄(彼氏君のこととはまた別問題なんだ。あいつは昔から家族が大好きでしかも寂しがりやだし)
兄(連休は久し振りに家族で一緒に旅行する予定だったのが、急にキャンセルになって)
兄(せめて俺とは一緒にいたかったんだろうに)
妹『だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ』
父『おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか』
兄『嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)』
妹『・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん』
兄『おまえが兄貴と一緒でもいいならな』
妹『あたしは嬉しいけど』
兄(姫に振られて勝手に引っ越したときの間違いをまた犯すところだった。妹友は何も悪くないけど、やっぱり俺は妹を守らないと)
兄(着信が途絶えた。遠目ではよくわからないけど、あいつ俯いてるし泣いてるんじゃ)
兄「俺やっぱやめるわ」
妹友「・・・・・・何でですか」
兄「妹を宥めてやらないと」
妹友「それはもううちのお兄ちゃんの役目です」
兄「そうだけど・・・・・・そうだけど少なくとも今は違うんだよ。彼氏君じゃ無理だ」
妹友「どういう意味ですか? 妹ちゃんは本当はお兄さんの方が好きだとでも言いたいんですか」
兄「そうじゃねえよ。そういう問題じゃなくて、あいつには家族と一緒にいたい時があって、そういうときに側に家族の誰かがいないとパニックみたいになることがあるんだよ。だから今は彼氏君じゃ無理だ。俺の両親か俺自身じゃないと」
妹友「全くブラコンとシスコン同士はたちが悪いです」
兄「・・・・・・」
妹友「わかりました」
兄「悪い」
妹友「この埋め合わせはしてもらいますからね」
兄「おう」
妹友「じゃあすぐに行きましょう。妹ちゃんを救いに」
兄「よう姫」
妹「・・・・・・」
兄「悪い悪い。お前ら歩くの早いから見失ってたよ」
妹「・・・・・・バカ」
兄「え・・・・・・」
妹「お兄ちゃんのバカ。いったいどこをほっつき歩いてたのよ。人の気も知らないで!」
兄「(妹に思い切り抱きつかれた)わかってるよ。連休中は家族と一緒にいたかったんだ
もんな、おまえ」
妹「バカ。あたしのこと放置するなってあれだけお願いしたのに」
兄「悪かった。でも今はちゃんとおまえの側にいるだろ」
妹「・・・・・・」
兄「あ、悪い。髪が乱れちゃうな」
妹「・・・・・・いい」
兄「うん?」
妹「そんなことどうでもいい。もっと頭を撫でて」
兄「ああ(こいつ震えてる)」
妹「お兄ちゃんのお姫様は誰?」
兄「おまえ」
妹「・・・・・・だったらもう二度とこういうことしないで」
兄「悪かった」
妹「お兄ちゃん電話にも出てくれないし。あたし何度も電話したのに」
兄「気がつかなかったんだ。ごめんな」
妹「わかった。今回だけは許してあげる。一緒にペンギン見ようよ」
兄「そうだな(抱きつかれたまま歩くのはつらいけど)」
彼氏「・・・・・・いったいどうなってるの?」
妹友「今だけは放っておいてあげて」
彼氏「それはいいけど」
妹友「お兄ちゃんにはあたしが抱きついてあげるから」
彼氏「それはよせ」
妹「ほら見て。あのペンギン泳ぐのすごく早いよお兄ちゃん」
兄「そうだな」
兄(これでいいんだよな?)
兄(・・・・・・)
続き
妹と俺との些細な出来事【4】