いつものように出社して、いつものようにみんなと笑顔で過ごす。
そして悲しいかないつものように1人の家に帰ってくる。
そんな日々がもうしばらく続くと思っていた。
始まりはいつも唐突だ。
物語だってそうだし、現実もそう。
P「音無さん、少しお話があるんですが……。」
小鳥「はい、なんでしょう?」
私たち裏方の朝は早い。
アイドルの子たちが来る前に私たちはある程度の事務仕事をしておかないと、みんながすんなりお仕事に入れないから。
だからこの事務所にいるのも今は私、プロデューサー、律子さんの3人。
なのに、そんな話しにくそうに私に話ってなんなんだろう。
P「えっと……申し訳ないんですが、プロデューサー業をお手伝いできないでしょうか?」
え……?
プロデューサー?
事務員の私が?
そこそこ付き合いも長くなって来た。
でもプロデューサーにお願い事された数なんかたかが知れてた。
だから少し、お願い事を言われるのは嬉しかったりもしたのだけど、このお願いは予想外すぎて頭がついて来なかった。
P「あ、いきなり…ですよね。すいません。」
小鳥「えっと…、はい…、ちょっと整理します。」
P「はい。」
小鳥「誰が?」
P「音無さんが。」
小鳥「何を?」
P「プロデュース業を。」
小鳥「どうする?」
P「お手伝いしていただきたいなー…と。」
理解はできました。
でも何で?
今までプロデューサーは1人で9人の子を上手くまわしていた。
みんなも売れて来た今、何故私が?
P「えっと、いきなりすぎたので順を追って話しますね…。」
プロデューサーの意見はこうだった。
いい感じにアイドルの子たちも軌道にのり、売れて来て765プロも大きくなってきた。
しかし、売れて来たおかげでプロデューサー1人では全員に目を向けられなくなってきた。
そして売れ方にも差が生まれどうしても売れてる子優先になってしまい、そこに至って無い子に対してなかなか時間が取れない。
だからプロデューサー業を3人担当にしたいということだった。
小鳥「む、無理ですよ! 私、事務しかやってこなかったんですから!!」
売れてきたからこそ、いきなり私なんかがついてダメにしてしまう。
それはせっかくのみんなの努力を無にしてしまう。
そんなことしたくない。言い方は悪いけど、私はみんなが売れる前から一緒にいた。
つらいときも、嬉しいときもずっと一緒に。
そんな子たちを私が原因でつぶすわけにはいかない。
P「今、いきなり新しい人をいれてその人にやってもらう。そっちの方がリスクが高いと思ったんです。引き継ぎも必要ですし、信頼関係も1から作らないといけない。」
小鳥「わ、わかりますけどぉ……。」
P「元々俺が見きれないのが悪いんですが、すいません、少し事情がありまして……。」
プロデューサーにしては歯切れが悪い。
でも、今私の頭にそんな事を見抜く余裕なんてありませんでした。
小鳥「い、一応聞きますよ? 社長には……。」
律子「『確かに! きっと音無君なら上手くやってくれる! キミもいい案をありがとう! それならしばらくは私が事務をやるが、急いで新しい事務の子を入れないとねぇ! いやぁ、現場復帰なんて何年ぶりだろう!』でしたっけ?」
さっきまでずっと事務仕事をしながら聞く専門だった律子さんが口をはさんできました。
み、味方だと思ってたのに……。
この言い分を聞くと律子さんはプロデューサーの味方のようです。
社長にも律子さんにも頼れないということは四面楚歌です。
というか社長テンション高いですね……。
演技入りでやる律子さんもですけど。
小鳥「り、律子さぁん……。」
律子「いきなりだとは思います。でも、トップアイドルを目指すあの子たちが会社のせいで私たちは売れない、なんて言われるより先に手をうつのはプロデューサーの仕事だと思います。」
私だって羽ばたかせてあげたい。
私じゃ見れない景色をあの子に見せてあげたい。
だから裏方の事務も毎日頑張れた。
結局の所怖いんです。
P「アイドルの子たちとずっと接してきた音無さんなら大丈夫だと思って相談させていただきました。」
そう言って頭を下げるプロデューサーさん。
ここまでされると弱い。
小鳥「わ、私が原因で未来をつぶしてしまう。それだって……。」
無駄だろうけどわずかながらの抵抗をしてみる。
P「では、次のオールスターライブまでお手伝いという形でお願いしたいんです。それならどうですか? それまでにみんなで話し合って今後どうするかを考えるという形で。」
オールスターライブは半年後。
半年間か。
それでも長い。
逃げ道がないので、もうこの時には覚悟を決めていた。
不安でしかなかったけど。
小鳥「はぁ……。わかりました……。最悪私は首をくくります……。」
P「や、やめてください……。」
半泣きです。
律子「本当にごめんなさい、小鳥さんありがとうございます!」
P「ではみんなが来るまでに会議室で今後の事を3人で話しましょう」
気分はドナドナ。
今まで経理や、契約のことばかりしていた私がいきなり営業やレッスンを見るようになるなんて。
昨日給料が入って浮かれてお酒を飲んでいた自分に伝えたい。
早く逃げなさいと。
P「アイドルの振り分けはこのような形でやりたいと考えています。」
律子:竜宮小町
P:千早・フェアリー・やよい・真美
音無:春香・雪歩・真
プロデューサーと律子さんの間でだいぶ悩んでいたようで、この形になるまで何日もMTGしていたようです。
小鳥「3人ですかぁ……。大丈夫かなぁ……。」
1人だけならなんとかなるかなぁーなんて淡い期待を持っていたんですが見事に粉砕されました。
律子「私は引き続き、竜宮小町を見るとして、美希はもうあの性格だからプロデューサーじゃなくなったら辞めかねないので動かせないものとして、気難しいけど事務所一番の売れっ子である千早もプロデューサー担当に。」
P「貴音と響は美希とユニットの関係上一緒に見ざるを得ないので俺で。やよいは特に問題がないし、真美まで任せると音無さんが倒れかねないので俺で見る事しました。」
まぁ、比較的大人しい子が多いし、大丈夫よね……。頑張るのよ、小鳥!
小鳥「具体的にはどうすればいいのでしょうか?」
P「基本的にはレッスンと営業、可能ならばライブです。フェスやライブはいろいろ大変なので、基本はレッスンと営業でお願いします。ライブを行う場合はクインテットであれば俺か律子が手伝えますので、それでお願いします。」
律子「この後、みんなを集めて発表しようと思います。その時には社長も来れると言ってましたので。」
さすが765プロが誇る敏腕プロデューサー2人。
私に逃げ場なんて最初から残されてなかったわ。
P「わからないことがあれば随時俺か律子に聞いてください。音無さん、大丈夫でしょうか?」
律子「……もし上手くいけば給料アップ&ボーナス月かけ4って社長言ってましたよ(こそっ)」
小鳥「大丈夫です! 頑張ります!!!」
何故それを最初に言わないんですか!!
P「という訳で、平等に見てやれなくて本当に申し訳ない。」
プロデューサーがこれまでの経緯を説明して、みんなに謝っていた。
みんないきなり集められた事に深妙な顔つきでプロデューサーを見つめている。
これから自分がみんなの前に立つとなるとドキドキしてきた。
春香「そ、そんな! 私たちのがもっと頑張ればよかったんですから頭を上げてください!」
雪歩「うぅ……。私がちんちくりんでだめだめだからプロデューサーに迷惑が……。」
響「あーっ!? 雪歩、スコップ直して!! 落ち着くさー!」
千早「あの、そのことはわかったのですが、そのためだけに集められたのでしょうか?」
さすが千早ちゃん。落ち着いてるし、空気が違う事を感じ取ってる。
ああ、ついに言われるのか……。
春香ちゃんや雪歩ちゃんには悪い事になったなぁ……。
P「それでだ、今後担当を分けようと思ってる。」
真「えーっ!?」
真美「ついに真美も竜宮小町入り!?」
律子「それは無いから安心なさい。」
美希「ミキはハニーじゃないとやる気がでないの!! 絶対離れるなんてヤダ!!」
あずさ「新しいプロデューサーさんが来るのね~」
響「うー……。不安だぞ……。」
ほら、やっぱり大変なことになった。
みんなプロデューサーが大好きだから離れるなんてなったらどうなることか。
P「美希、離れなさい。お前は俺の担当だから。」
抱きついた美希ちゃんを引きはがしながらプロデューサーが言う。
その瞬間泣きそうだった美希ちゃんの顔が輝いた。
まるで褒めてもらった子犬のような心の底から嬉しい笑顔。
美希「やっぱりハニーはハニーなのぉおおおおお!!」
P「だから抱きつくなって!!」
改めて抱きつこうとする美希ちゃんを律子さんが引きはがしながら、やれやれと言った表情で続きを告げる。
律子「竜宮小町はこれからも変わらず、私の担当でやらせてもらうから安心して。」
亜美「ほっ。よかったよー、竜宮小町クビとか言われないでー。」
あずさ「よかったわ~」
伊織「まぁ、当たり前ね。このスーパーアイドルを途中でほっぽり出すなんてありないし!」
P「そして、他のみんなを今まで俺が見ていたが、今後は春香、雪歩、真は新しいプロデューサーの下で活動してもらう事になった。」
春香「え……。」
雪歩「あ……。」
真「ぼく……も……?」
自分は当然プロデューサーの担当のはず。
きっとそう思ってたんだと思う。
プロデューサーから担当を外れた3人は一様に固まった。
そして対照的に残りのみんなは安堵していた。
P「千早、プロジェクト・フェアリーの3人、やよい、真美は引き続き俺の担当になる。俺たち765プロの目標は全員トップアイドルだ。そのための試練だと思ってほしい。」
美希「やっぱりハニーとミキは赤い糸でつながってるの!」
響「これまで通りで安心したさー!」
貴音「そうですね。これまで以上に頑張らないと。」
千早「よかった……。」
真美「しゃーないな! プロデュースされてあげるよっ!」
やよい「よろしくお願いしますっ!」
ああ、これから私はどうなるんだろう……。
落ち込む3人を見て不安がさらに増す。
そんな中、春香ちゃんが口を開いた。
春香「なんで……。」
P「え?」
春香「なんで私たち3人はプロデューサーさんじゃないんですか!? 今まで上手く行かなかったかもしれないけど、プロデューサーさんとならトップが目指せると思ってたんですよ!」
P「すまないとしか言えない。結果を出せなかった俺が悪い。」
春香「私はプロデューサーじゃなければダメなんです! だから私も見てください! 今まで以上に頑張りますから!!」
雪歩「わ、私もプロデューサーがいいです!」
この様子を見て、私は少し違和感を覚えた。
なんていえばいいかわからないけど、見過ごせない違和感を。
P「真はなにかあるか?」
プロデューサーは悪役になるつもりが最初からある。
だからどんな事を言われようとうろたえない。
じゃなかったらプライドの塊みたいなプロデューサーが私に途中で放り投げるなんてしないとわかっています。
真「……。わかりました。ボク頑張ります。」
雪歩「真ちゃん!?」
うつむいていた真ちゃんの目は真っ直ぐを向いていた。
ああ、かっこいいわ、真ちゃん。
P「ありがとう、真。期間は次のオールスターライブまでを考えている。それが終わったらまた今後の765プロのあり方を考える。」
まだ春香ちゃんや、雪歩ちゃんがうろたえる中、プロデューサーは言葉を進めて行く。
P「文句は後で個人的に聞く。その前に新しいプロデューサーを紹介する。」
真美「どんな人だろうねー?」
亜美「ちょっと楽しみだよねー。」
やめて、ハードルをあげないでー!
P「新プロデューサーの音無小鳥さんだ。」
その瞬間、時が止まった。
そう言っても差し支えないくらい、音がやんだ。
小鳥「ご、ご紹介されました音無小鳥です……。」
「「「「「「「「「「「「えーーー!!!???」」」」」」」」」」」
もちろん、そうなるわよねぇ……。
美希「ハニー、どういうこと!?」
P「いきなり知らない人間にプロデュースされるのは嫌だろうと思って、一番みんなの事を知ってる人を選んだんだ。音無さんならみんなの事を熟知してる。だから任せれると思ってお願いした。」
あはは、私だってこの年になって異動させられるなんて思ってなかったわよー。
それなりに事務員歴長いんだから。
真「小鳥さんなら安心です! よろしくお願いします!」
小鳥「あはは……。真ちゃん、よろしくね……。」
P「今日の報告事項はこれだけだ。今後はこの体制で行くのでよろしくお願いします。」
春香ちゃんはまだ動かない。雪歩ちゃんもうつむいたまま。
いいのかしら……。
やっぱり裏切られた、って気分なのかしら……。
P「音無さん、一言お願いします。」
小鳥「は、はい。きっといろんな思いがあると思います。でも、任された限り私も頑張りますのでよろしくお願いします。」
真美「ピヨちゃんかっこい→!」
亜美「頑張って→!」
律子「ちゃかさない。」
伊織「大丈夫なのかしら……。」
それは私が一番思ってるわよぉ!
そして引き継ぎの為、私と担当になることになった3人とプロデューサーが会議室に残った。
春香「……」
雪歩「……」
あれから2人は一言も話してくれません。
私もどうなるのか不安になってくる。
プロデューサーもどういう方向でプロデュースするのかだけ説明して、後は私に任せてお仕事に行ってしまいました。
小鳥「あ、あの……。」
春香「なんで、私……、プロデューサーじゃないんですか……。」
こんなに落ち込んだ春香ちゃんを見たのははじめてかもしれない。
あれだけプロデューサーに恋心を向けて、いきなり裏切られたような形になってしまったからか、もう今にも泣き出しそうな表情だ。
春香「ずっと頑張ってきたのに……。全部無駄だったのかぁ……。」
春香ちゃん……。
真「ボクはこれは最後のチャンスだと思ったよ。ここで頑張らないともうプロデューサーと一緒には二度と出来ないって。プロデューサーはボクたちのこと嫌いになったわけじゃなさそうだし。」
春香「みんな私の思い知ってるでしょ! いきなりこんな形で……っ!」
雪歩「…ひっ! は、春香ちゃん……。」
春香ちゃんが大声で叫んだ。
でも、雪歩ちゃんもそれによって冷静さを取り戻したようです。
小鳥「春香ちゃん、あなたからプロデューサーを引き離してしまった私には何も言えないかもしれないけど、一つだけいい?」
春香「なんですか……?」
小鳥「春香ちゃんは誰の為にアイドルをしてるの?」
私が感じていた違和感。
何を目指しているのか、私には見えなくなっていた。
春香ちゃんが始めてきたときはそんなことはなかった。
トップアイドルになりたいんです!って胸を張って言ってた。
でも今はわからない。
春香「え……?」
私が嫌われたわけではないようで、苦しそうな顔を私に向けて目を合わせてくれた。
小鳥「プロデューサーの為?」
春香「…………はい。プロデューサーが喜んでくれる。上手く行けば褒めてくれる。上手くやらないと美希に取られちゃう。だから頑張ってきたんです。小鳥さんはいつも協力してくれてましたよね!? だから小鳥さんからもプロデューサーに…っ!」
ああ、だからプロデューサーは……。
私にこの子たちを預けたんだ……。
改めてあの人のすごさを知った気がする。
小鳥「じゃあ春香ちゃん、アイドルなんて止めなさい。」
厳しいかもしれないけど、言ってあげないといけない。
不本意でも今は私がプロデューサーなんだから。
春香「……え?」
目を見開いて驚いた表情を見せた後、すぐさま親の敵のような表情で私をにらんだ。
アイドルにこんな評定させちゃうなんてやっぱり私じゃ上手く出来ないですよ……。
この人も私を裏切るんだ。
明らかに失望と敵意むき出しの表情で。
小鳥「プロデューサーとお付き合いしたいならアイドルじゃない方がきっと振り向いてくれるわ。ほら、それなら春香ちゃんの目標はかなうかもしれないでしょう? プロデューサーはそういう線引きはしっかりしてるからアイドルのままじゃきっと振り向いてくれないわ。」
言いながら自分の心をナイフで切ってるような感覚に襲われる。
つらい。
でも言ってあげなきゃいけない。
春香ちゃんが間違わないように。
私は、大人なんだから!
小鳥「春香ちゃん、アイドルって何だと思う?」
春香「……」
ようやく気づいてくれたのかさっきまでの表情からうってかわってうつむいてしまう。
小鳥「私はファンに笑顔や楽しさを届ける存在だと思うの。今のあなたはプロデューサーしか見えてないわ。そんなままレッスンしたりしても無意味よ。そんな歌声やダンスは絶対に届かない。」
昔を少しだけ思い出していた。
でも、今は違う。
あの頃の私じゃない。
みんなをトップアイドルにしてあげたいという夢は私だって一緒なんだから。
小鳥「雪歩ちゃんも一緒よ?」
雪歩「はい……。」
プロデューサーは理解してたんだ。
この子たちに足りないもの。
理解してるから自分で言えなかった。
本当に、あの人はすごいなぁ。
小鳥「改めて聞くわね? 春香ちゃんはトップアイドルになりたいの? それともプロデューサーの彼女になりたいの?」
どれだけ悩んでもいいわ。
ちゃんと自分で答えを出して。
もしかしたら才能ある子をここでつぶしてしまうかもしれない。
さっきまで感じていた不安なんかもうとっくになかった。
この子たちをもっと成長させて上げたい。
トップアイドルにしてあげたいという気持ちの方が強かった。
春香「…………ごめんなさい、小鳥さん。私、間違ってました。」
小鳥「うん」
春香「私トップアイドルになりたくてここに来たのに、アイドルって何か忘れてました。」
恋するってことはそういうことなのよ。
何かを放り出しても一直線になってしまう。
だから間違えないように苦い経験してきた大人が教えてあげなきゃいけない。
同じ間違いをして、悲しまないように。
春香「私は、トップアイドルになりたいです!」
さっきまでの沈んだ顔も一転、彼女も吹っ切れたようです。
春香「でも、プロデューサーのこともあきらめません! 誰よりも先にトップアイドルになってプロデューサーに告白します!」
小鳥「あらあら、雪歩ちゃんはそれでいいの?」
雪歩「ひぁっ!? わ、私は……。」
ふふっ、このままじゃ負けちゃうわよ。
こうなったらきっと春香ちゃんはあっという間にトップアイドルになっちゃうでしょうし。
雪歩「…………私も、負けません」
そうよね、雪歩ちゃんはホントは強いんだから。
真「ボクたちはみんな仲間だけど負けてられません。プロデューサーを見返してやります!」
この3人を見て、私もなんとかやっていける気がした。
たった半年だけど頑張ってみようって思った。
きっとプロデューサーもこういう気持ちなんだろうなって。
私のプロデューサー業はここから始まりました。
私たちが活動しはじめて、しばらくが経った。
最初はさぐりさぐり行っていた活動も、ようやく軌道に乗り始めた。
小鳥「じゃあみんな。レッスンに行くわよ。」
3人も私がわからなかったりするとフォローしてくれたりと自発的に考えて活動してくれるから本当に助かってる。
レッスン場の予約の取り方や、作曲家、作詞家さんへのお願いなど、はじめましてな出来事ばかり。
昔はこんな事知らなかったなぁ。
ついに3人ともCDを出す事が出来るようになったのだ。
いろんなところに挨拶に行って、曲を作る毎日。
プロデューサーや、律子さんが良好な関係を作り上げてくれてたから多少ミスしてもなんとかなっている。
春香「早く完成しないかなぁ~。楽しみだよねっ!」
雪歩「うん。どんな曲なんだろう……。」
真「可愛らしい曲がいいよね!」
わいわい盛り上がる車内。
営業に行くようになって律子さんに言われて車の免許も取った。
プロデューサーや、律子さんはこんなに大変な事をしてたんですね。
特にプロデューサーは1人で何人もを見ているなんてすごい。
慣れて来たとはいえ、これがさらに増えると目が回る。
目が回るなら妄想の中だけにしたい。
車の中って妄想するのにすごいいい空間。
助手席に彼氏に座ってもらって~なんて考えちゃう。
春香「小鳥さん! あ、危ないですよ!」
小鳥「ふぉぉっ!?」
危ない危ない。
レッスン場に行くと律子さんがいた。
律子「ほらっ、もっと足をあげて! 動きはキビキビ!」
す、すごい気迫ですね……。
しかし、アイドルたちの様子を見ると、竜宮小町だけじゃない。
小鳥「あれ? 真美ちゃんとやよいちゃん?」
竜宮小町の3人と一緒に真美ちゃんとやよいちゃんも踊っていた。
P「あ、音無さん。おはようございます。」
小鳥「おはようございます。」
春香「あ、プロデューサーさん、おはようございます! どうです? そろそろ私が恋しくなってきました?」
雪歩「おはようございますぅ。」
真「おはようございます!」
P「あはは、そうだなー。一番最初にトップアイドルになるんだろ? 楽しみにしてるよ。」
春香「こっ……、小鳥さんっ!!?」
実はこっそり教えちゃいました。
真「なんで真美とやよいもいるんです?」
P「今度クインテットライブをするんだ。で、特別ゲストにあの2人を呼ぶことにしたんだ。今日はリハーサルだよ。」
その言葉に3人がうらやましそうな顔をする。
自分たちに回って来なかった仕事。
私だから回せないお仕事。
みんな、ごめんね……。
口には出さないけど憧れてる。
あのステージに立つ自分の姿を。
律子「じゃあ、これで今日はおしまい! 亜美、真美、伊織はこの後営業よ!」
亜美「うえぇ~……。」
律子さんはキビキビとすごいですね。
現場で頑張ってる姿を見るのははじめてです。
やっぱりこういう姿を見れるのも新鮮です。
自分もプロデューサーになったんだなって実感しちゃう。
律子「ああ、小鳥さんすいません、譲りますんで。」
小鳥「いえいえ、ゆっくりで大丈夫ですよ」
特にやよいちゃんと真美ちゃんがお疲れっぽいし。
真美「ピヨちゃん! ダーイブ!」
小鳥「ぐぇっ!?」
ま、真美ちゃんは元気ね……。
みぞおちに飛び込んできた真美ちゃんをモロに受け、咳き込んでる間にプロデューサーに真美ちゃんが怒られていた。
雪歩ちゃんはすぐに背中をさすってくれて優しいわぁ……。
でも、年寄り扱いされてる気が……。
小鳥「じゃあレッスン始めるね。今日はボーカルレッスンよ。」
みんながトレーニングウェアに着替えて、準備に入る。
ああ、なんか懐かしい気がするなぁ。
春香「がんばりまっす!」
雪歩「がんばります!」
小鳥「ではトレーナーさん、お願いします。」
その光景を部屋の隅で見守るのがお仕事。
今日は私のプロデューサー姿を見るためか、プロデューサーもレッスンを見つめている。
P「頑張ってますね、3人とも。」
小鳥「はい。あなたに捨てられたのがショックだったようですよ?」
P「や、やめてくださいよ……。」
冗談まじりに言ってみる。
さすがにプロデューサーも心苦しいようです。
小鳥「今日この後はいいんですか?」
P「やよいと真美は律子が見てくれるので、俺は特に無いですね。まぁ、春香にあそこまで言われてしまったので今日くらいは見るだけはいようかなと。」
見るだけなんですね。
P「後、音無Pが敏腕らしいので、先輩から参考にさせていただこうと。」
あ、仕返しですか?
こうやって2人で話していると昔を思い出す。
P「音無さん、先輩なんですから俺にさん付けじゃなくていいんですよ?」
小鳥「うーん、でも律子さんもあずささんもさん付けですから……。」
P「音無さんが俺の事プロデューサーって呼んでくださったら俺も小鳥さんって呼ぼうかなぁ~。」
小鳥「ぴよっ!?」
あの頃はまだそこまで忙しく無くて、千早ちゃんのCDの売り上げが765プロ唯一の収入といっても差し支えないくらいで毎日社長がどうしようどうしようって言ってた頃でした。
まだ竜宮小町も軌道に乗ってなくて、律子さんも少し焦り気味で……。
でもプロデューサーだけが元気で、落ち着いていた。
そういえばこの頃だったなぁ。プロデューサーに竜宮小町に対抗してユニットを作ろうと思うんですがどうでしょうかって相談されたの。
律子さんには言えませんけど、万が一竜宮小町がダメだった場合という事で社長が提案し、プロデューサーが実現させようとした。
あの頃のやる気のなかった美希ちゃんをあそこまで鍛え上げたプロデューサーはすごかったなぁ。
小鳥「じゃ、じゃあ……。プロデューサー、……さん。」
P「じゃあ呼んであげませーん。」
小鳥「い、いまさらすぎて恥ずかしいんですよ……。ぷ、プロデューサー……。」
P「あ、ちょっと距離が近くなった気がしますね。」
今の765プロの中ではプロデューサーが一番キャリアが短い。
ちょっとそういう距離感を感じてたとしたら悪い事をしたなぁと反省しました。
小鳥「じゃあ、呼んでください! ほらっ! ピヨちゃんでも小鳥でも小鳥ちゃんでもっ!」
P「あ、響が呼んでる。いかないと」
小鳥「あ、ちょっと!!ずるいですよ~っ!!!」
あの頃はまだ危機感はあっても私はずっと事務所にいたし、みんながいて楽しかったなぁ。
今は今で充実してるし楽しいけど、なかなかみんな一緒に顔あわせることが出来ないから……。
ちょっと寂しかったり。
小鳥「プロデューサー? あれから私ずっとプロデューサーって呼んでますよ? いつになったらピヨちゃんって呼んでくれるんですか?」
P「あー、そうですね……。」
あ、プロデューサー顔赤い。
もしかして恥ずかしかったり?
小鳥「じゃあ壁にドンっ! って手をついて『小鳥、俺のものになれ』って言ってください!」
P「ちょ!? ハードルあがってるじゃないですか!?」
雪歩「じー……。」
小鳥「ひゃうっ!?」
P「うおっ!?」
気づかなかった……。
雪歩「私たち頑張ってるのに、遊んでるなんてぇ……。真ちゃん!」
真「任されたっ!」
真ちゃんに抱えられ、トレーナーの下に連行される。
ちょ、手際よすぎっ!?
小鳥「ちょ、プロデューサーぁあ……!!」
つれられると春香ちゃんのデビュー曲、『I want』を口ずさんている。
あ、当てつけですよね……?
春香「そこに跪いて~♪」
小鳥「はい。」
春香ちゃん、顔が笑ってない。
言われたとおり、正座する。
雪歩「もっと鳴いてみせて~♪」
小鳥「遊んでいてごめんなさい。」
雪歩ちゃんも目が笑ってない。怖いわ……。
真「じゃあ、トレーナーさん、小鳥さんも一緒にレッスンお願いしますね!」
プロデューサーもあっちで笑ってるし……。
小鳥「……。がんばります……。」
遊んでた私が悪いです、ごめんなさい。
だって久しぶりにプロデューサーと話出来て嬉しかったんですもん。
そして3人と一緒にレッスンを受ける事になった。
さすが真ちゃんはいい声。
雪歩ちゃんは綺麗だし、春香ちゃんは可愛らしい。
そんな中におばさんいれないでよぉ……。
おなかから声だすのって久しぶりかも。
ふ、腹筋が……。
最近ぷにってきたお腹が悲鳴をあげてる。
年を感じるなぁ……。
小鳥「~~~♪ …あれ?」
気づくと誰も歌ってなかった。
それどころかみんなすごい驚いた表情で見てる。
春香「小鳥さん、すっごい上手いじゃないですか!!」
雪歩「ま、負けてますぅ~」
真「千早とどっちが上手いんだろう!?」
え、ええ?
トレーナーさんにまで歌手を目指しませんか?って言われてしまいました。
もう、こんなおばさんつかまえて無理ですよ。
あの頃の私はもういないんですからね。
小鳥「あ、あはは……。」
でも、久しぶりにちゃんと歌ったかも。
楽しい。
あの頃には感じられなかったけど、今なら……。
みんながちょっとうらやましいわね。
そうこうしてるウチにレッスンが終わりました。
プロデューサーにまでアイドルになりましょう! って言われちゃった。
プロデューサーにしてすぐにアイドルにさせようとするなんてもう……。
レッスンが終わるとみんなを帰して、私だけレーベル会社に営業に行きます。
今度発売されるCDの打ち合わせ、発売記念ライブに関して打ち合わせです。
小鳥「ありがとうございます。では、このスケジュールでよろしくお願いします。」
プロモーションとリリースのタイミング、私たちが可能な限り一番世に伝えれると考える時期に出せるように調節する。
小さい箱を押さえてもらって、3人メインの初ライブ。もちろん765の誰かをゲストに来てもらうように調節はしてる。
まだまだ無名だから少しでも集客を増やすように力を借りようと思ってる。
でも、これだと予算をペイ出来ないから、何か考えないと……。
事務員として予算や契約の事も考えると、足りない。
小鳥「見積もりが下に見過ぎな事を祈りたいわね。」
さて、帰りましょうか。
ん? あれ?
伊織「ちょっと、答えなさいよ!」
伊織ちゃんとプロデューサー?
なんだか言い争ってるみたいだけど……。
小鳥「伊織ちゃん、プロデューサー、こんなところでどうしたんですか?」
P「音無さん!?」
伊織「小鳥!?」
伊織「どうもこうもないわ、こいつがはぐらかしてばっかりだから問いただしてるのよ!」
あらあら、そうとう伊織ちゃんはご立腹のようね。
伊織「最近、竜宮小町の方針に口だしてるらしいじゃない。それに何故か真美とやよいを律子が見てる事が多くなってきたわ。どういうことよ、アンタが2人を見るんじゃなかったの!?」
そういえば確かに今日も竜宮小町と一緒に2人はレッスンしてたわね。
でも竜宮小町の方針に口を出してるって……?
P「それは誤解だ。IUを制覇寸前の竜宮小町に関して俺なんかが口を出せるわけないじゃないか。」
そう。竜宮小町はもうIUの決勝の前だ。
伊織「じゃあ真美とやよいの件はどうなのよ!」
ああ、伊織ちゃんちょっと落ち着きましょう。
小鳥「伊織ちゃん、ちょっと落ち着いて。場所を変えましょう?」
伊織「ちょっと、小鳥! 邪魔しないでよ!」
ああ、そうとうストレス溜まってるのね……。
小鳥「伊織ちゃん、落ち着きなさい。」
ちょっと強めに言う。
ここじゃよくない。
伊織「……っ!?」
P「音無さん?」
小鳥「まず、外の会社でプロデューサーをあんたって呼んじゃダメ。」
伊織「こんなやつアンタで充分よ!」
小鳥「じゃあ事務所的な立場で言うわね。765プロのプロデューサーがアイドルにあんた呼ばわりされてる。外の会社の人にそれを聞かれたら765プロはアイドルが好き勝手している、プロデューサーの言う事を聞かないなんて噂を立てられるかもしれない。そうなると仕事が取りにくくなるのよ?」
伊織「あ……。」
小鳥「仲のいい証だから少なくともプロデューサーが嫌がってないなら事務所ではいいわよ? でも、外の印象としては765プロに取ってマイナスにしかならない。わかる?」
伊織「……うん。」
小鳥「うん、ならいいわ。」
P「音無さんもしっかりプロデューサーですね。」
小鳥「プロデューサーもしっかり教えてあげないとダメですよ? この子たちはまだまだ若いんですから。」
P「いや、めんぼくない……。」
小鳥「次にあんまりプロデューサーに強く言っちゃダメよ? 誰が見てるかわからないんだから記者に書かれちゃまずいような事もあるでしょ?」
伊織「……わ、悪かったわ。」
小鳥「『悪かった』じゃなくて?」
伊織「……ごめんなさい。」
はい、よろしい。
P「すいません、音無さん。ありがとうございます。」
小鳥「じゃあ続きは事務所に帰ってやりましょうね?」
伊織「……うん。小鳥もしっかりプロデューサーになってきたわね。」
小鳥「頑張ってるからね♪」
3人で事務所に帰って来ると律子さんとあずささんが話していた。
小鳥「ただいま戻りました。」
P「戻りました。」
伊織「あら? あずさ?」
律子「お帰りなさい。」
かすかにおりゃーとか聞こえてくる。
亜美ちゃん、真美ちゃんもいるのかしら?
あずさ「おかえりなさ~いプロデューサーさん、小鳥さん、伊織ちゃん。」
律子「じゃああずささん、また今度話し聞かせてくださいね!」
あずさ「はい♪ じゃあ帰りますね~。お疲れさまでした~。」
私たちと入れ違いにあずささんが帰って、私たちは残り仕事に戻ります。
プロデューサーになって事務作業が0になるわけじゃないですが、社長が頑張ってくれているので、私の元の仕事はだいぶ少なくなっている。
P「伊織、さっきの事だが……。」
伊織「もういいわ。何か動きがあるっぽいけど教えてくれないって事は言えないんでしょ? でもね、いきなりはやめてよね?」
確かに。
伊織ちゃんは敏感だからこの空気に気づいてるんだろうなぁ。
後、プロデューサーに近い千早ちゃんや、勘の鋭い美希ちゃん、貴音ちゃんも気づいてそうね。
ちゃんとした報告が出来るようになるまで、私たちも頑張らないと。
私のプロデューサー生活はまだまだ続きそうです。
頑張ります!
オールスターライブまで後1ヶ月となりました。
私たちのライブも無事に終わりました。
竜宮小町はIUを受賞し、千早ちゃん、やよいちゃん、雪歩ちゃん、春香ちゃん、真ちゃん、真美ちゃんはIAの地域賞を受賞、プロジェクト・フェアリーはIA大賞を受賞。
北から南まで制覇して名実共に765プロはトップアイドルになった。
小鳥「いろいろ大変だったわね……。」
春香「小鳥さん、本当にありがとうございました!」
真「でも、まだまだこれからですよっ!」
ここに来るまでプロデューサーって本当に大変だと思いました。
雪歩ちゃんと真ちゃんが喧嘩しちゃったり。
ゲストがなかなか決まらなかったり。
セットリストも私で考えなくちゃ行けなかったりして、人を導く事の大変さを学びました。
雪歩「優秀なプロデューサーさんがついてくれてるんだから当然だよ!」
そんな、優秀だなんて……///
私なんて至らない所ばっかりなのに。
みんなが一生懸命頑張ってくれたからこその結果よ。
私はあくまで足を引っ張らないようにしただけ。
プロデューサーさんも律子さんが切り開いて、舗装してくれた道を私は走っただけです。
春香「後は、これでみんなそろってオールスターライブで夢が叶うんですね!」
みんなの興奮をよそに私はこの後の事を思うとあまり喜べなかった。
でもまぁ、この後とんでもない発表があるのよねぇ…。
『竜宮小町解散! 三浦あずさは芸能界引退!』
ニュースや新聞に載るほどの大きなニュースになりました。
でも私たちは前からずっと話し合いも続けてきましたし、いろいろ考えた結果でした。
伊織「ついに公表されたわね。」
真美「大変だったよぉ……。」
あずさ「ごめんね、2人とも……。」
律子「謝らなくていいですよ。あずささんの新しい旅立ちなんですから。」
小鳥「そうですよ。抜かれちゃいました……。」
今日はあずささんお疲れさま会。竜宮小町+裏方メンバーで食事会です。
プロデューサーは後ほど来るそうです。
律子「後はオールスターライブだけですね、長かったような短かったような気がします。」
あずさ「律子さんには本当にお世話になりました……。」
伊織「でも、あずさは目標も達成したし、辞めるのは残念だけど応援してるから。」
真美「ね→! でもたまには一緒に歌ったりしようね!」
うう……。この3人の信頼関係は美しいわ~。
うらやましい気持ちもどこかへ行ってしまいました。
P「おお、すまん。遅くなった。」
律子「ほら、あずささん、旦那さんが来ましたよ。」
あずさ「あら、照れちゃいます///」
P「なんかそう言われると恥ずかしいな……。」
伊織「アイドルに手を出す鬼畜が来たわ。」
真美「逃げろー!」
P「ひどっ!?」
ふふっ、そう言いながら2人は私の傍に逃げてくる。
私がプロデューサーになる本当のきっかけはIAノミネートプロデューサーの海外留学の為です。
社長はプロデューサー、もしくは律子さんがIAを取ったら、海外に行くということで1人減る事を懸念してプロデューサーを増やす事にした。
でも、奇跡的に私もノミネートされてしまいましたが、1事務所1枠の為、プロデューサーにお願いしました。
結果、プロデューサーが海外留学する事になりました。
さらにそれがきっかけであずささんも着いて行くという事であずささんの引退。
小鳥「本当ですよー。おかげで私いきなりプロデューサーにさせられちゃいましたし。」
P「それは本当にご迷惑をおかけしました。」
律子「本当はいつから付き合ってたんですか?」
真美「にーちゃん! 馴れ初め教えてよ! 馴れ初め!」
あずさ「ちゃんとしたお付き合いをしたのは実はIUの決勝戦の前なんですよ。ずっと片思いでしたから……。」
あずささんが恋心全開になったのはちょうど私がプロデューサーになったころ。
みんなに見えない所で頑張ってたんですね。
伊織「やっぱりアイドルに手を出したんじゃない。」
P「反論の余地ありません……。」
ふふっ、今日はプロデューサーをいぢめちゃう会になっちゃいましたね。
でもあずささんに負けちゃうなんて……。正直落ち込みます……。
でもあずささんの最後を有終の美で飾れるように、最後のライブのセットリストや衣装について打ち合わせを始めます。
小鳥「ここで千早ちゃんにバラードを歌ってもらって休憩するよりも、ダンサンブルな曲で攻めましょう。今のあの子たちなら連続して出来ると思います。この流れは過去3回続いてますしファンにも読まれてると思いますし。」
律子「確かに……。じゃあここは響と真に頑張ってもらって……。」
ホワイトボードに書いて消して書いて消しての繰り返し。
かれこれ2人でもう2時間ほど。
ライブについては春香ちゃん、雪歩ちゃん、真ちゃんと何度もやって勉強させてもらいました。
小鳥「うーん、30曲超えちゃいましたね。減らさないと。」
律子「あずささんをちょっと優遇し過ぎでしょうか?」
1人だいたい2~3曲だけどあずささんは最後という事で5曲用意している。
小鳥「あずささんが大丈夫ならですけどやっていただきたい気持ちはありますね。でもこことかみんなで歌う曲もあわせたら4曲連続出っぱなしになっちゃいますよ。」
律子「あー、そこ変えなきゃいけないですね……。」
今回はプロデューサーには頼らず、2人で頑張ろうと決めました。
プロデューサーが海外にいっても765プロは大丈夫ですって安心させる為に。
春香「おつかれさまで~す。クッキーお持ちしました!」
あ、じゃあちょっと休憩しましょうか。
雪歩「お茶ですぅ。」
律子「ありがとう。」
小鳥「ありがとう2人とも。」
そういえば、営業とか一緒に行っても雪歩ちゃんもびくびくしなくなったわね。
本当に成長したわね……。
私も少しは力になれたのかしら。
春香「お二人とも無理しないでくださいね?」
律子「いつも1人でこの規模のライブを回してたプロデューサーがすごいと本当に思うわ……。」
小鳥「2人でやっていっぱいいっぱいですしね……。」
雪歩「私たちも頑張りますからいいライブにしましょう。」
うん、私が勉強してきた事すべて出すつもりで頑張るわ!
小鳥「千早ちゃん、ちょっと遅れてるわ!」
千早「はぁ、はぁ……すいません!」
ある日はレッスンの付き添い。
みんなプロデューサーとあずささんの新しい旅立ちと応援する為に頑張ってる。
小鳥「1、2、3、4! 1、2……。真ちゃん、響ちゃん少し早いわ、千早ちゃんとあわせて!」
真「はいっ!」
響「わかったぞー!」
自然と力が入る。
それだけ今度のライブはみんなにとって特別なんだ。
小鳥「じゃあ3人は少し休憩しましょう。その間に伊織ちゃん、亜美ちゃん、真美ちゃんいける?」
伊織「おっけー! 見せちゃうわよ!」
亜美「ピヨちゃん任せなさーい!」
真美「すんごいの見せちゃうからね!」
小鳥「はーい、じゃあ『Do-Dai』からの『L・O・B・M』ね」
亜美・真美「はーい!」
伊織「ちゃんとついてきなさい!」
最近この3人でやることが増えたし、竜宮小町が終わった後、この3人はユニットになるのかもね。
まぁ、それは律子さんのみぞ知るだけどね。
小鳥「うーん、これだとこう振り付けしたときに邪魔になったりしません?」
デザイナー「うーん、ではここを切って……。こっちから回すような形にしてリボンをつけるのはどうでしょう。」
ある日は衣装の相談。
デザイナーさんと今回のライブ衣装を決めて、作ってもらう為の企画会議。
プロデューサーに教えてもらった見栄え、動きやすさ、はや着替えが可能かどうかを確かめながら打ち合わせる。
図面だけではわからない部分はパターンを作ってもらって、試着して試す。
小鳥「ではAパターンはこんな感じに直すとして、やよいちゃん、美希ちゃんBパターンの服を着て踊ってみて。」
美希「わかったの!」
やよい「はいっ!」
実際に仮段階の衣装をアイドルの子たちをつれてきてテストもする。
やっぱり私だけの感性で作ってしまうと、若い子の感性とはあわなくて持っていってはじめて不満が出てしまうこともあるからだ。
なんどか真ちゃんとは戦ったなぁ……。
美希「んー、美希的にはここのワンポイントいらないと思うな。」
やよい「すいません、スカートこの長さだと……ちょっと……。」
こういう意見も取り入れて私たちはステージを作る。
MC「それでは次のライブの見所は?」
あずさ「そうですね~、私は最後になっちゃうので、私の歌♪ なんて言っちゃいましょうか? ふふっ。」」
貴音「前回とはまた違った催しも考えておりますので楽しみにしてもらいたいと思います。」
プロモーションも積極的にやっていかないといけない。
ラジオもテレビも出来るなら全部使って行く。
ユニットなんて関係ない。今の765プロオールスターとしては最後になるから大きく派手にしたい。
小鳥「ふふっ。この2人なら着いて来なくても大丈夫だったかもしれないわね。」
P「あずささんをつれて帰らないといけないので、来てもらわないと困りますよ?」
この後私とあずささんは事務所に帰って契約周りの書類作成。
プロデューサーと貴音ちゃんは引き続き番組出演のためテレビ局に。
小鳥「あずささんはプロデューサーのお仕事でしょ~?」
P「公私は混同しません。」
小鳥「手は出したくせに~♪」
P「うぐっ……。」
小鳥「私にしとけばそんなこと言われなかったんですよ?」
P「そろそろ許してくださいよ……。」
私を差し置いて先に幸せになったので許してあげませ~ん♪
小鳥「あれ? あずささん?」
あずさ「こ、い、ご~ころ~♪ あ、小鳥さんに律子さん?」
こんな遅くまでレッスンしてたの?
レッスン場との契約の話をしていたら遅くなったんですけど、あずささんが1人でまだレッスンを続けていました。
あずさ「あら~。気づいたらこんな時間です。」
それだけ熱心にしてたのね。
もう本番も近いんだからそこまで無理する時期じゃないのに。
律子「頑張るのはいいんですけど体調は崩さないでくださいね?」
小鳥「そうですよ? もうすぐ本番なんですから。」
あずさ「うふふ、は~い。あ、でも……。」
律子「どうしました?」
あずさ「最後に思い出にこの歌今から一緒に歌ってくれませんか? 3人で♪」
いたずらっぽい笑みを浮かべて彼女が提案する。
思い出になんて言われたら断れないですよ……。
アイドルの中でもあずささんとは一番付き合いが深いかもしれない。
一緒にお酒を飲みに行ったりもしましたし、相談にのってもらったことも。
だからそう言う事言われちゃうと涙が……。
小鳥「わかりました。一回だけですよ?」
あずさ「ありがとうございます♪ あ、ちゃんとフリもつけてくださいね~♪」
律子「お、覚えてませんよ!?」
あずさ「なんとなくで大丈夫ですから~♪」
そう言いながら音源のスイッチを入れて、曲が始まった。
誰もいないレッスン場で3人だけのライブ。
年甲斐も無くはしゃいでしまいました。
そしてライブ当日。
ついにこの日が来ました。
入念に準備してきた。心配なんてない。
大変な事もいっぱいありましたけど、離れてしまう仲間を
小鳥「みんな、楽しんできてね?」
あずさ「みんな、今まで本当にありがとう。今日をいっぱい頑張ります!」
P「みんな、あずささんはこれが最後かもしれない。でもこれが終わりじゃない。ここから新しい765プロが始まるんだ。だから目一杯楽しもう!」
「「「「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」」」」
『ARE YOU READY~♪』
小鳥「はじまっちゃいましたね。」
P「ええ。音無さん、本当に無理をお願いしてすいませんでした。」
小鳥「いえ、最初は確かに怖かったですけど、今は胸はって言えますよ。あの子たちのプロデューサーですって。」
P「本当にありがとうございます。小鳥さん」
あ……。
満面の笑顔にその言葉。
今見せるなんて……、本当にずるいんだから……。
P「小鳥さんのおかげで全員を埋もれさせる事無く輝かせてあげられました。」
小鳥「その夢は私の夢でもありましたから。」
ああ、私顔があつい。
本当に、この人は……。
P「だから今、お礼をいいたかったんですよ。」
彼女たちの歌に混ざって聞こえてくるプロデューサーの言葉。
今そんな事言われたら私泣いちゃいますよ。
プロデューサー、いっぱい私の事支えてくれたじゃないですか。
でも、あの子たちが笑ってる今私が泣く訳にはいかない。
必死に泣きそうになる顔を耐えて、あの子たちを見つめる。
まだ、終わってないんだから。
亜美「じゃー、つぎはー!」
真美「まこちんと千早お姉ちゃんだよー!」
『ねえ 消~えてしま~っても探し~てく~れ~ます~か~♪』
小鳥「亜美ちゃん! はい、お水!」
律子「汗吹いて。すぐに着替えるわよ」
亜美・真美「ガッテン!」
舞台が入れ替わると、裏は大急ぎで次の準備に進む。
時間が押してたり、早すぎたりしても調節しないといけない。
怪我させるわけにもいかないからアイドルたちの体調もしっかり見ないといけない。
小鳥「美希ちゃん、2番の頭から入りよ? スタンバイ出来てる?」
美希「ばっちりなの!」
事務員としていつも見ていた場所からは想像もできない世界。
でもみんな楽しそうに歌い、踊り、笑ってる。
私こそこんな楽しい世界を教えてくれたプロデューサーに感謝しています。
そしてライブも最後を迎えました。
本当にこれで終わりです。
あの激動の日々もおしまい。
あずささんはいなくなり、プロデューサーも海外にいってしまう。
楽しい時間はあっという間。
あずさ「最後にこんな楽しい時間を本当にありがとうございます。でもこれで終わりじゃないです。だって、『私たちはずっと…でしょう?』!」
P「最後の曲ですね。」
小鳥「は……い…………。」
もう涙は止められなかった。
感動と寂しさで。
彼女たちのパワーと、それを支えてきた思い出が全部溢れ出してしまった。
入社した日の事。
律子さんがアイドルを辞めた日。
プロデューサーが来た日。
みんなで海に行った思い出。
いろんな事が頭を駆け巡った。
P「必ず帰ってきます。」
小鳥「はい……。待っでまずから……。」
お別れなんて言わない。
また必ずそろうって信じてる。
でも今だけは泣かせてください……。
春香「お疲れさまです!」
全部の曲が終わった。
オールスターライブは大成功のまま終わりを迎えたのだ。
P「お疲れさま! 最高だったよ!」
真美「兄ちゃん兄ちゃん、真美たち輝いてた?」
P「ああ!」
興奮冷めやらぬまま、みんなが笑顔で戻ってくる。
でも、最後の曲が終わっても、退場アナウンスが流れてもアンコールはやまみませんでした。
律子「まだ、お客さん望んでるんですね。」
あずさ「じゃあ、出ちゃいましょう♪」
小鳥「えっ……?」
そのままステージにあずささんが1人で走り出してしまった。
その姿にファンの怒号とも取れるような大歓声が巻き起こる。
律子さんが止めに入ろうとするのをプロデューサーが止めました。
あずささんに任せる、ということのようです。
あずさ「最後に私のわがまま一つ叶えてもいいですか?」
嫌な予感がする。
まさか……。
プロデューサーを見るとすごい嫌な笑いかたをしていた。
ああ……。
あの夜の練習はこの為に……。
伊織「にひひ♪ ほら、律子着替えて♪」
律子「あ、あんたたち~っ!!!」
あずさ「最後にこのステージを作り上げてくれた美人プロデューサー2人と3人で歌っちゃいます♪」
P「ほら、小鳥さんも着替えて。」
小鳥「ステージにあげられるなんて聞いてないですよ!」
春香「真ちゃん、雪歩ちゃん!」
真「あいあいさ!」
雪歩「任せてっ!」
2人に腕をつかまれ袖で強引に着替えさせられ、ステージに引っ張られていきました。
袖ではプロデューサーが笑ってて、後ろでは社長まで笑っていました。
あずさ「曲は『ラブリ』っ♪」
…
……
………
最後にこんなハプニングはありましたが、無事に765プロオールスターライブは大成功のまま終わりを迎える事が出来ました。
最近では私宛にファンレターが届く事まで増えて困ってます。
何度言われようともうアイドルはしません。
私はみんなの笑顔を見てる側が好きなんです。
だから、新しい希望をこの場所からまた作り上げようと思います。
律子さんと私の2人で、プロデューサーが帰ってくるまで。
そして私は緊迫した空気の部屋に入る。
初々しい少女たちが不安な表情を浮かべながらその時を待っている。
さぁ、新しいお仕事の始まりです。
「はじめまして、私が765プロのプロデューサーの音無小鳥です。」
終わり