1 : 以下、?... - 2024/02/15 22:03:47.298 x1Tj/+DC0 1/29

「おおあああぁー……」

魔族「……」

「暇ね。それに白い」

魔族「いきなりどうした」

「いきなりってことはないでしょーよ。何もないんだからここには」

魔族「そうか?」

「あたしの見える範囲にはちっちゃなティーテーブルくらいしかないけど?あとあたしたちが腰かけている椅子」

魔族「十分ではないか」

「せめてあとティーセットくらいあるべきだとは思わない?」

魔族「思わん」

「用意してよおねがーい」

魔族「必要ない」

「愛と風情がないー」

魔族「それも必要ない」

元スレ
勇者「この身をもってお前を封じる!」魔王「ぐおおおおおおおおお!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1708002227/

2 : 以下、?... - 2024/02/15 22:04:26.872 x1Tj/+DC0 2/29

「それにしてもいい天気ね」

魔族「そうだな」

「抜けるような青空。涼しい風。あともう少しで夏になるわ」

魔族「確かにな」

「ねえ、夏になったら海に行かない?きっとすごく気持ちいいわよ」

魔族「そうだな」

「もっと大きく反応してよ」

魔族「すまん、興味がないんだ」

「えーひどい。せっかく無理して嘘ついたのに」

魔族「しいて原因をあげるならその嘘のせいだ」

「ちぇー」

4 : 以下、?... - 2024/02/15 22:05:31.697 x1Tj/+DC0 3/29

「ねえ、あれから何年?」

魔族「十年くらいじゃないか?」

「げーっ、もうそんなにたったの?」

魔族「わたしにとってはたった十年だよ」

「嘘つかないでよ」

魔族「すまんな」

「カッコつけちゃって。意味のない嘘は罪が重いんだからね」

魔族「知らんて」

5 : 以下、?... - 2024/02/15 22:07:02.494 x1Tj/+DC0 4/29

「罰金代わりになんか面白い話してよ」

魔族「面倒くさい」

「お願いー」

魔族「嫌だ」

「お願いお願いお願いお願いお願いお願いー」

魔族「駄々っ子か」

「なんなら転がるわよ」

魔族「勝手に転がってろ」

「なるべくうるさく転がるよー」

魔族「はいはい」

「うきゃあああああ!」

魔族「……」

「とりゃあああああ!ぐおおおおおおお!」

魔族「はあ」

「観念した?」

魔族「ちょっとな」

7 : 以下、?... - 2024/02/15 22:09:39.775 x1Tj/+DC0 5/29

魔族「しかし面白い話か……難しいな」

「わくわく」

魔族「ではわたしが昔出会ったある魔物の話をしようか」

「どんな魔物?」

魔族「とても弱くて寂しがりやな奴だ。わたしがそいつと出会った時、そいつは仲間たちに爪はじきにされて一人ぼっちだった」

「ふむふむ」

魔族「友達の作り方を知らない奴だった。怖がりで何もできなかった。わたしはそいつに頼まれて友達の作り方を教えてやった」

「あんたが?へえ?どんなふうに?」

魔族「大したことじゃない。そいつにはある特技があったからな。他人の魂を写し取った人形を作ることができたんだ」

「人形?」

魔族「つまりその人そっくりに動いてしゃべる人形を作らせて友達にするように言った」

「げっ……自分に都合のいい友達ってこと?そんなの友達って言えるの?」

魔族「さあ。だがおかげでその魔物は一人ぼっちじゃなくなった」

「あんたサイテーね」

魔族「その通りだ」

8 : 以下、?... - 2024/02/15 22:10:36.185 x1Tj/+DC0 6/29

「それで?」

魔族「それでとは?」

「それで終わりじゃないんでしょ?」

魔族「ああ、まあそうだな。そいつはたくさんの友達を作り、たくさんの友達を混ぜ合わせた」

「混ぜ合わせる?」

魔族「文字通り人形同士を混ぜて新しい人形を作ることだ」

「怖気度が増してる」

魔族「最終的に魔物はこれ以上ないという最高で最強の人形を作りだした。これで怖いものはなくなった」

「いびつ」

魔族「そこでようやく魔物は人形じゃない誰かと会ってみようと思い立った」

「急ね。どうなったの?」

魔族「友達ができた」

9 : 以下、?... - 2024/02/15 22:11:35.281 x1Tj/+DC0 7/29

「マジ?」

魔族「マジだ。仲間のところに行って話した。時間はかかったがある男の子が友達になってくれた」

「すごいじゃん」

魔族「わたしも信じられなかったよ。魔物はそれから幸せに過ごしましたとさ」

「ホント?」

魔族「本当だ。めでたしめでたし」

「ホントにホント?」

魔族「なぜ疑う」

「まだ面白くないもの」

魔族「性格悪いぞ」

10 : 以下、?... - 2024/02/15 22:13:22.152 x1Tj/+DC0 8/29

魔族「だがまあその通りだ。魔物は幸せにはなれなかった」

「なんで?」

魔族「自分の友達を信じられなかったからだ。いつか自分を嫌いになるんじゃないか。そう思えてならなかった」

「疑心暗鬼ね」

魔族「男の子の魂を写し取った人形に何度も自分を好きかたずねた。何度も肯定してもらって何度も安心して、その後もっと不安になった」

「そういうのってきりがないもんね」

魔族「魔物は友達ができる前よりも孤独感を募らせた。猜疑心にさいなまれた。そして」

「そして?」

魔族「それに反応した最強の人形の暴走によって友達を失った」

11 : 以下、?... - 2024/02/15 22:14:13.855 x1Tj/+DC0 9/29

「死んだの?」

魔族「直球で聞くな」

「気になるもの」

魔族「生きてるよ」

「ちぇーよかったあ」

魔族「本当性格悪いな」

12 : 以下、?... - 2024/02/15 22:16:15.603 x1Tj/+DC0 10/29

魔族「だがまあとにかくそうだ。友達は死ななかった。だが友達ではなくなった」

「怖がられたのね」

魔族「そういうことだ。魔物はまた一人ぼっちになった」

「残念」

魔族「めでたくなしめでたくなし」

「それでその後は?」

魔族「その後とは?」

「その魔物ちゃんはどうなったの?」

魔族「噂を聞きつけたお偉いがやってきて連れていかれて」

「ふむふむ」

魔族「……今では魔王になっているよ」

「どこかで聞いたような話ね」

魔族「まあな」

13 : 以下、?... - 2024/02/15 22:17:07.662 x1Tj/+DC0 11/29

魔族「さて以上だ」

「まあぼちぼち面白かったかしらね」

魔族「どうも」

「じゃあ次はあたしが話すわねー」

魔族「いらんよ」

「フェアじゃないじゃない」

魔族「わたしは静かな方がありがたい」

「あたしが話したいのよ」

魔族「はじめからそう言え」

14 : 以下、?... - 2024/02/15 22:18:52.728 x1Tj/+DC0 12/29

「わたしはある教育施設の出身なの」

魔族「へえ」

「聞いて驚きなさい。なんと王都のど真ん中にあるのよ!」

魔族「都会人のつまらん自慢来た」

「いなかっぺの嫉妬気持ちいい!」

魔族「はいはいそれで?」

「まあ実質孤児院なんだけどね。身寄りのないたくさんの子供が集められて教育を受けるの」

魔族「教育ねえ」

「足音の消し方、武器や毒の使い方、素手で人を壊す方法」

魔族「ろくなもんじゃないな」

「あんたみたいな魔族をなぶり殺す方法も教わったわよ?」

15 : 以下、?... - 2024/02/15 22:19:54.806 x1Tj/+DC0 13/29

「過酷だったわあ。協力しないと生き残れないけど絆が芽生える間もなく次の瞬間には敵になるかもしれないんだもの」

魔族「そういうものか」

「だからあたしたちに基本友達はいないの」

魔族「互いに利用し合うような関係ではな」

「でもどんなケースにも例外はあるでしょ?特別はいたのよ」

魔族「へえ?」

16 : 以下、?... - 2024/02/15 22:21:44.408 x1Tj/+DC0 14/29

「暗い目をした子だったわね。そこの誰もが明るくふるまう難しさを知っていたけど、その子は輪をかけて暗かった」

魔族「ふうん」

「誰とも手も組まないし誰にも干渉しようとしない。何かにおびえてるみたいに」

魔族「……」

「でも不思議なことに誰ともぶつからない子だったわね。誰にも気にされない位置取りを心得ているって感じ」

魔族「なぜだ?」

「あたしも気になってある時声をかけてみたの。たわいもない挨拶をした気がするわ。そしたら……」

魔族「?」

「全部先取りされた。おはようもいい天気ねも調子いい?もちょっと気に食わないから死んでくれる?も」

魔族「は?」

「言おうと思ってたこと全部先に言われてびっくりしてるうちに逃げられちゃった」

17 : 以下、?... - 2024/02/15 22:22:42.608 x1Tj/+DC0 15/29

魔族「読まれていたのか」

「そういうことみたい。それから注意深くその子のこと見ることにしたの」

魔族「そしたら?」

「暗いうつろな目をしてると思ってたけど、案外周りのことよく見てるんだなってわかった」

魔族「ふむ?」

「みんなの一挙手一投足をつぶさに観察して、だからこそ目立たない位置取りができたのね」

魔族「観察……」

「そう。もう一度声をかけたらその子は待ってたって言ったわ。きっと来るって思ってたって」

魔族「……」

「それからその子とは友達なの」

魔族「今そいつは?」

「勇者になったわ」

魔族「どこかで聞いたような話だ」

「まあねー」

18 : 以下、?... - 2024/02/15 22:24:32.313 x1Tj/+DC0 16/29

「暇ね」

魔族「いまくだらない話をしたばかりだが」

「何もないから暇なの」

魔族「はあ。そうか」

「さっき話した子のことだけど」

魔族「ん?」

「今何をしてると思う?」

魔族「さあな」

「……」

魔族「……多分だが、自分の身を犠牲にして魔王を封印してでもいるんじゃないか?」

「勇敢だわ」

魔族「迷惑なことにな」

19 : 以下、?... - 2024/02/15 22:26:35.140 x1Tj/+DC0 17/29

「あたし心配なの。あの子寂しがってるんじゃないかって」

魔族「……」

「何もない白い世界で、ひとりぼっちで。お腹はすかせてないかしら」

魔族「どうだろうな」

「優しい子なのよ。怖がりのくせに責任感は強くて。泣き虫だけど」

魔族「……」

「故郷に大事な幼馴染がいるって言ってたわ。彼のために自分は戦うんだって」

魔族「……」

20 : 以下、?... - 2024/02/15 22:27:21.028 x1Tj/+DC0 18/29

「ねえ、あの寂しがりやの魔物はどうなったの?」

魔族「どうとは?」

「元気なの?あなたの友達なんでしょう?気にならないの?」

魔族「友達ではない」

「嘘をつくのはやめて」

魔族「……元気だよ」

「そう、それならよかったわ魔王さん」

魔王「……」

21 : 以下、?... - 2024/02/15 22:29:25.770 x1Tj/+DC0 19/29

魔王「なあ」

「なに?」

魔王「君は元気かな」

「何変なこと言ってるの」

魔王「一応聞いておこうと思って」

「元気なわけないじゃない。あたしは死んだのよ」

魔王「……そうだったな」

「……」

魔王「わたしが殺したんだ」

23 : 以下、?... - 2024/02/15 22:30:52.354 x1Tj/+DC0 20/29

魔王「雨の日だった」

魔王「わたしたちはいつものように外で訓練を受けていた」

魔王「悪天下での戦闘を想定した訓練だ」

魔王「使っていたのは真剣だ。かすかに悪い予感はあった」

魔王「というよりあそこの生活は危険がいつも隣にあったんだ」

魔王「わたしは対峙する君の構えを観察し、次に起こるであろうことを予想した」

魔王「油断はないはずだった。君が何をしようとも危険を避け、二人とも無事にその日を乗り切れるはずだった」

魔王「だが君は死んだ」

魔王「ほんの少し、君の踏み込みの足がぬかるみで滑ったんだ」

魔王「刃が君の首に食い込んだ時わたしの手に伝わった鈍い手ごたえは、今でも夢に見る……」

「……」

26 : 以下、?... - 2024/02/15 22:31:49.406 x1Tj/+DC0 21/29

魔王「いまさら許してなんて言わない。だが本当にすまなかった」

「あたしに言っても仕方ないでしょう」

魔王「ああそうだな。人形に言ってもな」

「魂を写し取った人形なんてよく言ったものね」

魔王「記憶を頼りに生み出した幻だものな」

「あなたにしか見えない聞こえない」

魔王「……」

29 : 以下、?... - 2024/02/15 22:33:10.093 x1Tj/+DC0 22/29

「これからどうするの?」

魔王「どうもこうもない。これまでと同じだ」

「ずっとここに引きこもるの?」

魔王「無論だ」

「あなたはそれでいいの?」

魔王「わたしの意志など関係ない。聞かれたこともない」

「ならあたしが聞くわ。あなたここから出たくないの?」

魔王「やめてくれ」

「待ってる人がいるのよ」

魔王「やめて……!」

「今ならまだ間に合う」

魔王「わかったようなこと言わないでよ!」

32 : 以下、?... - 2024/02/15 22:34:05.338 x1Tj/+DC0 23/29

魔王「わたしはもう魔王だ……魂ごと混ぜて一緒にしてしまった……もう戻れやしない……」

「……」

魔王「わたしの指はこんなにねじくれてしまった。口が耳まで裂けて醜い角も生えてしまった……」

「……」

魔王「もう誰もわたしがわたしだなんてわからない……あの人だってわかりはしない……」

「わかるわよ」

魔王「やめてよ。あなたはわたしの理想の人形なんだから都合のいいことしか言わないのに」

「それでもわかるんだよ」

35 : 以下、?... - 2024/02/15 22:34:59.225 x1Tj/+DC0 24/29

「思い出して。あの日のこと」

「あなたが村を出る日のこと」

「彼はあなたになんて言っていた?」

「本当にあなたのことを怖がっていた?」

「ねえ寂しがりやの魔物さん?」

魔王「……」

37 : 以下、?... - 2024/02/15 22:35:56.993 x1Tj/+DC0 25/29

……



少年「なあ!」

少年「おい聞こえるか!聞こえるよな!」

少年「俺待ってるからな!絶対帰って来いよ!」

少年「お前のこと怖いのは本当だけど!ずっと待ってる!ジジイになっても待ってるから!」

少年「帰って来たらいろいろ聞かせてくれよ!魔王を倒す旅のこととか、新しくできた友達のこととかさ!」

少年「あと前に本当は友達たくさんいるなんて嘘だろって言っちゃってごめん!」

少年「また最高で最強の友達のこと、聞かせてくれよー!」



……

39 : 以下、?... - 2024/02/15 22:36:24.936 x1Tj/+DC0 26/29

魔王「ふぐっ……えぐっ……」

「……あなたはどうしたい?」

魔王「ぐすっ……帰りたい……」

「もっと大きな声で」

魔王「帰りたい……!帰らせて……!」

「よく言えました」

魔王「……ごめんね?」

「しゃんとしなさい。あまりみっともないようだと怒るわよ?」

魔王「うん……」

「じゃああたしからプレゼント。あっちを見て」

魔王「……扉?」

「出口よ」

41 : 以下、?... - 2024/02/15 22:37:26.417 x1Tj/+DC0 27/29

魔王「なんであんなものが……」

「あんまり考えない。さっさと行きなさい」

魔王「ありがとう」

「頑張んなさいよ。あたしができるのはここまでだからね」

魔王「うん、わかってる」

「じゃあね」

魔王「また会いに来てね」

「気が向いたらねー」

43 : 以下、?... - 2024/02/15 22:37:56.899 x1Tj/+DC0 28/29

キィィ……バタン


「……」

「本当に頑張んなさいよ」

「最高で最強の友達の期待を裏切んないでよね――」

45 : 以下、?... - 2024/02/15 22:38:14.103 x1Tj/+DC0 29/29

以上

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