~岡崎泰葉6歳の冬/某劇場搬入口付近~
マネージャー「さあ、着きましたよ岡崎さん。ここです」
岡崎泰葉(6歳)「こんどの公演は、ここで?」
マネ「ええ。実際の公演開始は来月の事になりますけどね」
泰葉(6歳)「わたし、いっぱいれんしゅうします!」
マネ「お願いします。岡崎さんは今回初の主演ですからね」
泰葉「……(キョロキョロ)」
マネ「……どうしました?」
泰葉「……あの、おおきいなあって」
マネ「都内ではさほど大きい方ではないですね。それより、あまりキョロキョロ見てはダメです。皆仕事中ですから」
泰葉「は、はいっ」
元スレ
岡崎泰葉(6歳)「安部菜々さん、17歳ですか?」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1607347113/
マネ「では、私は舞台事務所に挨拶に行ってきます。しばらくそこのソファにかけて待っていてくださいね。その後でご両親のところまでお送りしますから」
泰葉「はいっ(チョコン)」
マネ「そうそう、もし劇場の人に声をかけられたら」
泰葉「きちんとごあいさつしてなまえとおかおを覚えておくんですよね」
マネ「よくできました。この業界は、人の名前を覚えるのがとても大事ですからね」
泰葉「はいっ」
マネ「いいお返事です。では(スタスタ)」
泰葉「……」
泰葉(マネージャーさんは、すたすたといってしまいました。私はろうかのイスにこしかけて、マネージャーさんをまちます)
泰葉(おしごとのじゃまをしては、いけません)
泰葉(マネージャーさんは私のことを、ようちえんの先生みたいに『やすはちゃん』なんて呼びません)
泰葉(きちんと『おかざきさん』て呼ぶのです)
泰葉(私をいちにんまえとして認めているからだそうです)
泰葉(だから私も大人らしく、聞き分けよくしてなくちゃだめなのです)
泰葉(えへん)
泰葉「……」
泰葉「……」
泰葉(あしぶらぶら)
泰葉「……」
泰葉「おおきいところだなあ……」
泰葉「ひと、いっぱい……」
泰葉「おそいなあ……」
泰葉「……(キョロキョロ)」
泰葉「はっ、だめだめ。おとなしくしてないと」
泰葉(……たくさんのひとが、私のまえをとおってゆきます)
泰葉(みんな、私をみもしません)
???「あのー、もしもしー?」
泰葉(みんないそがしそうで、みんなちょっとこわいかおをしていて)
???「こんにちはー。こんにちはー?」
泰葉(わたしは、なんだかちょっと……)
???「こんにちは。こんなところでちいさい子がひとりで、どうしたんですか?(にゅっと泰葉の前に出てくる顔)」
泰葉「わあっ!?(サッ)」
???「あーっ防犯ブザーは勘弁してください、防犯ブザーは勘弁してください! ナナ怪しいものではありませんから! ほんとですから!」
泰葉「そのすごい大にもつとウサミミがあやしいです!」
???「これは仕方ないんですよう! ナナ、夜のステージまでに機材を運び込まなくちゃいけないんですから」
泰葉「ウサミミは?」
???「あ、こっちはナナのトレードマークです」
泰葉「せつめいになってない気が……大どうぐの人なんですか?」
お姉さん「ちちち違いますよ! ナナこれでもアイドルなんですからね」
泰葉「アイドル? の、ナナさん?」
安部菜々「はい。歌って踊れる声優アイドルを目指して地球にやってきたウサミン星人、ナッナでーす☆」
泰葉「うさみんせいじん(ジトー)」
菜々「ううう、小さな子供の冷ややかな視線がナナに突き刺さる……(ショボーン)」
泰葉「ええと、フルネームをうかがってもよろしいでしょうか」
菜々「うわあすごいスンッとした真顔で対応されてる……はい、ええと安部菜々です、17歳です……」
泰葉「安部菜々さん17歳、ですか?」
菜々「はい、ええまあはい」
泰葉「私は岡崎泰葉、ろくさいです。よろしくおねがいします」
菜々「あらあら、小さいのに丁寧なご挨拶が出来て偉いですねえ」
泰葉「ところでほんとうのご職業はなんですか」
菜々「ご挨拶ですねえ!? 本当にアイドルですー!」
泰葉「だって、テレビでみたことないです」
菜々「うぐう、ま、まあナナはまだ高校生で地下アイドルですからねー。確かにふつう見たことないですよねえ」
泰葉「ちかアイドル?」
菜々「はい、地下アイドル」
泰葉「ちかアイドルとふつうのアイドルは、ちがうんですか?」
菜々「えーと、小さな事務所に所属してたり、セルフプロデュースだったりで、ライブ中心に活動してるのが地下アイドルです。ナナはセルフプロデュースで活動してるんですよ」
泰葉「セルフプロデュース」
菜々「はい、セルフプロデュース」
泰葉「つまりじしょうアイドルなんですね」
菜々「ひどい! まあ確かにオーディション落ちまくってますけど! ち、ちゃんとCDだって作ってるんですよほら!」
泰葉「ウサミン……ええと……」
菜々「ウサミン伝説序章・その1です。アルバイトして友達に手伝ってもらって自主制作したんですよー」
泰葉「じぶんで作って売るならどんな内容でもだせるからいいですよね」
菜々「わあん最近の6歳児って怖いぃ!!」
泰葉「それはもう、プロのせかいはきびしいものですから」
菜々「ははあ、プロですか」
泰葉「はい、私プロのこやくなんですよ(フンス)」
菜々「えーっ、そうなんですか、すごーい!」
泰葉「マネージャーさんだってつけてもらってるし、こんどの公演でしゅえんだってするんです」
菜々「へえー! ほんにとすごい……そっか、じゃあ今日はお仕事でここに?」
泰葉「はい。こうえんの前に、いちどごあいさつにってマネージャーさんが」
菜々「なるほどー。それでこんな所に居たんですね」
泰葉「そうなんです」
菜々「あれっ、でもそのマネージャーさんはどこに」
泰葉「たんとうの人にあいさつしてきますって」
菜々「えっ、泰葉ちゃんを置いて?」
泰葉「わたしはいちにんまえ扱いしてもらってますから。大人らしく、聞き分けよく待てるんですよ(フンス)」
菜々「どのくらい待ってますか?」
泰葉「もう、えーと……いちじかんくらい? です」
菜々「……」
泰葉「どうしたんですか?」
菜々「あ、いえいえ。泰葉ちゃんはもう時計が読めるんですね。偉いなあ」
泰葉「えへへ(テレテレ)」
菜々「それにマネージャーさんが居るなんてすごいなあ、いいなあって思って。ナナは基本、1人で全部やらなくちゃいけませんからねー」
泰葉「ひとりで?」
菜々「はい。お金、ないですから!」
泰葉「えがおで言うことでしょうか」
菜々「悲しい顔して言うとほんとに辛くなっちゃうので……」
泰葉「……どんなことをしないといけないんですか?」
菜々「えーとまずアルバイトしてお金を貯めてー、会場の確保してー、チラシをいろんなとこに置いてもらってー」
泰葉「そこからですか」
菜々「そこからですよー。今回は他の地下アイドルと合同なんで会場費の負担が小さくてありがたかったです」
泰葉「たすけあいなんですね……」
菜々「だってやっぱりみんな大きな会場、いい音響で歌いたいですからね――で、業者さんを雇うと高いですから。自分の荷物や機材は出来る限り自分で運び込まないといけません」
泰葉「それでどろぼうさんみたいな大荷物なんですね」
菜々「うぐぐ、表現は悪いけど否定できない……!」
泰葉「そんないっぱい担いで、腰とかいたくなったりしませんか?」
菜々「あはははは、実はこのごろちょっと曲げ延ばしが――ってまあそれはいいんですよ。で、衣装の用意も自分でしますし、セットリストも自分で考えて、当日手伝ってくれる人を手配して」
泰葉「いっぱいあるんですね……!!」
菜々「そうですよー、いっぱいですよー。それに当日までにちゃんと会場の人と打ち合わせをして、事前にステージの下見もしておかなくちゃいけないし」
泰葉「打ち合わせに、したみ」
菜々「はい。たぶん今、泰葉ちゃんのマネージャーさんがそれをしてくれるんだと思いますよ……ステージのコンディションは事前にみておかないと危険ですし、準備に使える時間とか設備の状態とか、機材の操作とか、ちゃんと確認しておかないと、手伝ってくれる人に説明できませんからね」
泰葉「それは、そうですね」
菜々「それに案外、観客席側から見るのとステージ側から見るのって違って見えるものですから。両方の見え方を知っておかないと」
泰葉「……それ、全部ひとりで?」
菜々「はい。セルフプロデュースですからね!」
泰葉「……たいへんじゃないですか?」
菜々「大っ変ですよ……!!」
泰葉「じっかんがこもってる……!!」
菜々「でも、まあ、必要なことですからね。ナナはまだどこの事務所にも拾ってもらえない自称アイドルですけど、ナナも、みんなも、なんちゃってのステージがしたいわけじゃないですから」
泰葉「……」
菜々「ステージの状況を見ておかなくちゃお客さんを楽しませられないし、劇場の担当さんとちゃんと打ち合わせして、どんな人かも知っておかないとトラブルの元ですから」
泰葉「……たいへんそうなことを」
菜々「?」
泰葉「ななさんは、大変そうなことを、とてもたのしそうに話すんですね」
菜々「えへへ、大変は大変ですけどね……でも、観客席に喜んでくれてる人の顔がひとつ見えると、やっぱりがんばりたい、続けたいって思っちゃうんですよねえ」
泰葉「……」
菜々「あれ、どうしたんですか泰葉ちゃん」
泰葉「私も、そういうこと、したいなって」
菜々「そういうこと?」
泰葉「ちゃんとごあいさつをしたり、したみをしたり。わたし、ななさんがするようなこと、何もしていないです」
菜々「泰葉ちゃんは小さいですから。大人同士の難しい話もありますから、そこはマネージャーさんやスタッフさんが助けてくれているんですよ」
泰葉「でも、それでも、できることはあるでしょう? ……私、こんど、主演なんです」
菜々「そう、言ってましたね」
泰葉「私も、なんちゃってをしたいわけでは、ないんです。もちろん、難しいお話は、わからないと思うけど……」
菜々「では、まず、ご挨拶から始めてみてはどうでしょうか」
泰葉「ごあいさつ?」
菜々「はい。大人の人が難しい話をする前に、ちゃんと挨拶させてもらうんです。それだけで、相手がどんな人かもちょっとわかるし、スタッフさんたちだってかわいい泰葉ちゃんが一生懸命ご挨拶したら、きっと嬉しいです。いろいろお話もできるかも」
泰葉「なるほど……」
菜々「それと、気になること、確かめたいことがあったら、マネージャーさんとかが打ち合わせする時に確認してもらうようお願いしてはどうでしょう」
泰葉「めいわくでは、ないでしょうか」
菜々「まずやってみたらいいんですよ。で、ダメだったらまた考えてみればいいんです」
泰葉「いきあたりばったり……!」
菜々「あはは……まあ、聞く必要もないことならマネさんが答えてくれますよ。でも、大事なことならちゃんと確かめてくれるはずですし、それは無駄になりません。泰葉ちゃんがどうしたいか、どうなりたいかを伝えるのは、きっと大事な事だと思いますよ」
泰葉「……やってみます!(フンス)」
菜々「泰葉ちゃんは可愛いですねえ(ナデナデ)あ、でも、楽しくやるのが一番ですよ?」
泰葉「そういうのやめてくださいわかってます……あっ、マネージャーさんがでてきました」
菜々「ああ。それじゃナナもそろそろ行きますね――あ、そうだ!」
泰葉「どうしたんですか?」
菜々「お近づきの印にナナの初CD『ウサミン伝説序章・その1』をプレゼント」
泰葉「あ、それはしゅみにあわなさそうなのでいらないです(スンッ)」
菜々「うわーん!!」
~岡崎泰葉15歳の冬/社用車中~
マネージャー「……次の現場は15時からの予定です。時間にかなり余裕がありますから、到着してから仮眠時間を取りましょうか」
泰葉(15)「いえ、結構です。ホンを再確認する時間がほしかったですし」
マネージャー「そうですか」
泰葉(15)「……」
マネージャー「……」
泰葉「……あの」
マネ「はい」
泰葉「聞いても、いいですか」
マネ「何でしょう」
泰葉「私は、成功しました」
マネ「……突然、何を」
泰葉「私は、成功しました」
マネ「……その通りだと、思います」
泰葉「私は、たくさん仕事をしています」
マネ「今や『岡崎泰葉』は引く手あまたです」
泰葉「私は、たくさんの人の評価されました」
マネ「昨年の主演作品も高い評価を得ています」
泰葉「私は、たくさんの人に応援されています」
マネ「ファンレターはたくさん届いていますし、岡崎さんの出演作品を観るために、皆が劇場に詰めかけます」
泰葉「私は、役者として、成功の階段を上っています」
マネ「岡崎さんの、役者としての意識の高さと努力の故ですよ。小さな事もおろそかにせず、スタッフとの連携を密に取る。岡崎さんはどの現場でも評判が高いです」
泰葉「そうですね。私は、恵まれていますよね」
マネ「岡崎さんの積み重ねがあればこそですよ。そうしたいと思わせるものがあるからです」
泰葉「……なのになぜ、私はこんなに、寂しいんでしょう」
マネ「……」
泰葉「楽しいと思えないのは、なぜでしょう」
マネ「岡崎さん」
泰葉「成功して、たくさんの人に応援されているはずなのに、だんだん苦しくなるのは、どうしてでしょう」
マネ「……それは」
泰葉「……まるで、高い山の上に、1人でいるみたい。私が目指したかったのは、こういう所でしょうか。私がほしかった成功って、こういうものだったでしょうか」
マネ「……成功には責任や立場がつきまとうものです。大きな責任のある仕事は、決して楽しいばかりではありません」
泰葉「そう、なんでしょうね」
マネ「それは成功者が皆、抱えている苦しさだと思います」
泰葉「……」
マネ「……岡崎さんは疲れているんですよ」
泰葉「そうかもしれません」
マネ「少し、休暇をとるのはどうでしょう。今度の映画のクランクアップ後なら、数日休暇を捻出できると思いますが」
泰葉「ありがとうございます。リフレッシュしてみますね」
マネ「……先ほども言いましたが、次の仕事まで時間に余裕があります。少し気晴らしをして来られてはどうですか?」
泰葉「……そうですね。では、ちょっとCDショップに寄らせてください。売れ筋の動向を確認しておきたいので……」
◇
泰葉「なるほど、今はこのあたり。やっぱり765プロが強いんだなあ」
泰葉「あっ、共演の○○さん、シングル出すんだ。これは今度の制作発表で話を振られるかも」
泰葉「こっちの棚はインディーズかな。えーと……」
泰葉「え」
泰葉「ウサミン伝説第5章・その4……?」
泰葉「……」
泰葉「……」
泰葉「あの、店員さん、今よろしいですか?」
~数日後の夜/某ライブハウス~
安部菜々(17)『みなさーん!! 行っきますよー!!』
泰葉(――ステージの上で、輝くように笑っているのは、確かにあの時のお姉さんでした)
泰葉(小さな会場、まばらな観客)
泰葉(CDショップの店員さんに、聞きました。ウサミン星人安部菜々は、古参の地下アイドル)
泰葉(『ウサミン伝説第5章・その4』は、6歳の私が見たときと同じ安いケースに入っていました)
泰葉(決して、けっして、成功しているとは言い難い。決して、けっして、皆に支持されているとは言えない。CDひとつ、ライブの光景ひとつ見れば、それが手に取れるようでした)
泰葉(あの日からこれまでの、お姉さんの歳月がどんなものだったのか、見て取れるようでした)
泰葉(それはきっと、失敗と、挫折と、失意に満ちたものだったはずです)
泰葉(そしてまだお姉さんは、きっとそんな日々から抜け出す目処も立っていないはずなのです)
泰葉(そう、たしかに、そのはずなのに――)
菜々『1! 2! ナナー!!』
泰葉(ステージで歌うお姉さんの笑顔は、輝いていて)
泰葉(まるでそんな歳月を、感じさせなくて)
泰葉(小さな会場。観客からの声援ひとつひとつが、本当に嬉しそうで)
泰葉(たくさんの苦労があるはずなのに。たくさんの焦りがあるはずなのに。私のほうが、確かに成功しているはずなのに)
泰葉(手の届く距離からの声援が、お姉さんを何より輝かせているように見えて)
泰葉(私は――ああ、私は、その時本当に、心の底から思ってしまったんです)
泰葉「いいなあ……」
泰葉(こぼれ落ちた言葉は、自分でも驚くほど、羨望に満ちていました)
泰葉(あの日、劇場でお姉さんと交わした言葉が、ありありと思い出されました)
泰葉(初主演。たくさんの人が私を見て笑顔になってくれたこと。たくさん、拍手をしてくれたこと。そのとき6歳の私が思ったことが、ほんの昨日の事のように思い出されました)
泰葉(私はお姉さんのステージを見ながら、泣いていました)
泰葉(そして、その涙が止まるころ)
泰葉(私はもう、決心を固めていたのです)
~岡崎泰葉16歳の冬/某アイドル事務所~
プロデューサー「おーい、皆集まってくれ」
千川ちひろ「どうしたんですか、突然」
岡崎泰葉「新しいお仕事の話ですか?」
P「いや、新しくウチに来ることになった子の紹介だ」
泰葉「新人アイドルって事ですか?」
ちひろ「あっ、さてはまたティンと来てどこかで女の子スカウトして来たんですね?」
P「はっはっはっその通りです……さ、入って」
???「し、失礼しまーす!」
泰葉「あっ」
P「というわけで今日からウチで世話することになってた安部菜々さんだ。皆先輩として、しっかり面倒見てあげてくれ」
菜々(17?)「みみみ皆さん初めまして! 歌って踊れる声優アイドルを目指して地球にやってきたウサミン星人、ナッナでーす☆」
泰葉(16)「初めまして安部先輩。同じ事務所になれて嬉しいです(ピシー)」
菜々「事務所に来て初日からあの岡崎泰葉ちゃんに先輩って言われて凄い丁寧なお辞儀をされている!? どどどどうして!?」
泰葉「それはもちろん」
泰葉「安部さんが、大事な人生の先輩だからですね」
菜々「うわーん、わけがわからないー!!」
(おしまい)
~おまけその1/岡崎泰葉の疑問~
菜々「そうかあ、あの時の。実はナナすっかり名前忘れちゃっててお恥ずかしい……というか一度会っただけなのに、よくナナのこと覚えてましたね?」
泰葉「ふふ。この業界は名前と顔を覚えるのがとっても大事ですからね。マネージャーの言いつけ、守ってて良かったです……そんなことより」
菜々「?」
泰葉「ひとつだけ教えてもらっていいでしょうか、安部先輩」
菜々「ナナでいいですよう落ち着かないから! ……で、なんでしょう。ナナに答えられることならなんでも」
泰葉「あれから随分経ってるのに、どうしてむしろあの頃より若々しい感じなんですか!?」
菜々「そそそそれは日々の努力の成果としか!」
泰葉「もっとちゃんと教えてください。重要な事なんですから! ほんと謎なんですから!! どうして本当に17歳に見えるんですか!?」
菜々「うわーん、そんなの菜々にもわからないですよーう!!」
~おまけその2/15歳の幕間~
千鶴母「千鶴ー。電話よー」
千鶴(14)「はーい……もしもし、松尾千鶴です」
泰葉(15)「松尾千鶴さんですか? 私、岡崎泰葉と申します」
千鶴「ええっ!? あの有名子役としてたくさんのテレビ番組や映画に出演してる九州の誉れ・岡崎泰葉ちゃん!?」
泰葉「はい。あの有名子役としてたくさんのテレビ番組や映画に出演してる九州の誉れ・岡崎泰葉です」
千鶴「あの有名子役としてたくさんのテレビ番組や映画に出演してる九州の誉れ・岡崎泰葉ちゃんが一体私に何の御用でしょうか……(ビクビク)」
泰葉「……千鶴さんは博多を中心にアイドル活動を始められたと聞きましたが」
千鶴「あ、はい」
泰葉「松尾さんはもともと、人前で目立ちたいタイプではなかったと聞きました。実際どうなんでしょう。そんな貴方が、アイドル活動をして」
千鶴「……」
泰葉「……失礼な事を聞いてしまって、申し訳ありません」
千鶴「いいえ。その……あのですね」
泰葉「はい」
千鶴「……元々は私、アイドルになりたいと思っていなかったんです。母が、勝手に申し込んでしまって」
泰葉「まあ」
千鶴「私なんて、可愛くなくて。アイドルできるなんて、とても思えなくて。でも」
泰葉「でも?」
千鶴「……私のステージを観てくれる人が、喜んでくれるのが、嬉しくて」
泰葉「……」
千鶴「始めたばかりで。全然うまくできてなくて。でも、私を見てくれる人が、喜んでくれる顔を間近で見ていると、私がなりたいカワイイ自分に、ちょっとだけ近づける気がして……」
泰葉「よく、解りました。松尾さん、ありがとうございます。このお礼はいつか、必ず(ブツッ)」
千鶴「……切れちゃった」
千鶴「一体、なんだったんだろう……」
(こんどこそおしまい)