卯月「おはようございます!」
「あ、卯月ちゃん……」
卯月「どうかしたんですか?」
「実は……やめちゃったんだ。もう一人の子」
卯月「そうですか……。残念ですね……」
「これで卯月ちゃんの同期みんなやめちゃったね……。大丈夫?」
卯月「私ですか? 大丈夫ですよ! アイドル目指して頑張ります!」
「卯月ちゃんは変わらないね。じゃあレッスン始めようか」
卯月「よろしくお願いします!」
元スレ
モバP「幼年期の終わり」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443445038/
「はい、休憩! 十分後に再開するよ!」
卯月「わかりました!」
スミマセーン
「あら、なにかしら。ちょっと行ってくるわね」
卯月「はい、わかりました」
卯月「……みんないなくなっちゃいました」
卯月「あんなにいたのに今では私一人」
卯月「やはりアイドルはそう簡単になれないってことですね」
卯月「ハッ、だめです! こんな落ち込んでちゃ!」
卯月「卯月、ファイトです!」
「あの、卯月ちゃん……?」
卯月「はいっ!?」
「お客さんが……」
卯月「私にですか?」
「ええ」
卯月「一体どんな人が……」
卯月「プロデューサーさん?」
P「はい。此度はこちらの養成所に我々の欲する人材がいると聞き、やってまいりました」
卯月「それで私を?」
P「そうです」
卯月「もしかしてアイドルになれるんですか? 私」
P「一応こちらの契約書のほうを読んでいただいて、ご理解の上でサインを頂ければ我がプロダクション所属のアイドルということになります。最も契約してすぐにライブですとかそういったメディアでの露出が出来るわけではなく、こちらに通っていたときと同じようなレッスンや裏方の仕事が最初はメインになると思います」
卯月「でもなんで私なんですか?」
P「勘」
卯月「へっ?」
P「と経歴を読み、ガッツがあると思ったからです。この業界は生半可な覚悟では打ちのめされる世界です。ですので気持ちがめげない、ガッツのある子がいいんですよ。あなたみたいにね」
卯月「ガッツですか……」
P「どうしますか? 無論何か問題があるようでしたら断ってもらっても構いません。あなたならおそらく私のところ以外にも他のところからも声がかかるでしょうから」
卯月「でも今までオーディションとか一度も受かって無くて……」
P「それは審査員の目が節穴なのでしょう。あなたならなれますよ。あなたの理想とするアイドルに。きっと」
卯月「……わかりました! 島村卯月! 一人前のアイドルを目指して頑張ります!」
P「これからよろしくお願いします」
卯月「はいっ!」
卯月「というのが私とプロデューサーさんとの最初の出会いでしたね……」
桃華「猫を被る、とはこのことですわね」
みく「猫にひどい風評被害にゃ」
雪美「私と……同じ……」
卯月「最初は敬語で眼鏡も掛けてましたし、すごい真面目な人に見えたんですよ」
桃華「詐欺と同じですわね」
P「ちょっとー、それはひどいんじゃないかなー」
みく「契約後に豹変するような人間が何を言うにゃ」
P「じゃあスカウトするときに『お、そこのねーちゃんいいカラダしてるねぇ。アイドル、どう?』なんて言ってみろ。警察呼ばれたからな」
雪美「やったの……?」
P「あの時は危なかった」
卯月「で、でも私をスカウトしたときの理由は嘘じゃないですよね?」
P「このご時世アイドルなりたい奴なんて腐るほどいるし、ぶっちゃけスカウトする理由は外見と勘だね。中身なんて見てられないから。マジで」
みく「それで他のプロダクションのアイドルを勧誘したり」
P「すごい怒られた」
桃華「大企業の娘をスカウトしたりしたわけですわね」
P「殺されるかと思った」
雪美「でも……成功してる……」
P「そうそう。結果良ければ全て良し! 今日は次の仕事の発表だぞ!」
みく「ついにみくのCDデビューの時にゃ」
桃華「わたくしの活躍をみなが待ってますわね」
雪美「ペロと……一緒に……」
卯月「私、頑張ります!!」
P「やる気たっぷりなのはいい事だけど先走りしないでね。今回の仕事は……」
四人「「「「ごくり……」」」」
P「……杏のライブだ!!」
杏「え、またか」
P「四人にはバックダンサーしてもらうから頑張ろうねー」
杏「ちょ、ちょっと待ってよ。この前もライブしたよ? CD発売記念だとかで」
P「次は大ヒット感謝の記念ライブだよ」
杏「そのうち今日はサラダがおいしいからライブするとか言いそう」
みく「もーまた杏チャンのライブにゃー。みくのCDデビューまだー?」
P「一応考えてはいるんだけどCD出すのって金かかるからな。色々と。だからここは杏に頑張って稼いでもらって、そのお金でCD作ろうな?」
桃華「自転車操業すぎますわ」
杏「それってこれからも稼ぎ頭として頑張れってことじゃ……」
卯月「杏ちゃん、一緒に頑張りましょう!」
杏「うえぇ……」
雪美「……頑張る」
杏「あんずのうたなわけだし踊らなくてもいいと思うんだ」
みく「なに真面目な顔で言ってるにゃ」
桃華「踊らないで何をしますの?」
杏「そりゃ布団に入ってごーろごろだよ。ね、雪美ちゃん」
雪美「そういうのは……良くないと思う……」
みく「雪美ちゃんはこう仰っているにゃ」
桃華「従うしかありませんわね」
杏「ぐぬぬ……。卯月ちゃーん。卯月ちゃんはどう思う?」
卯月「え、あ、すみません。なんですか?」
桃華「もう。休憩中ですのよ? ちゃんと休まないと」
卯月「まだ全部覚えて無いのでみなさんに迷惑かけないように頑張らないと……」
雪美「大丈夫……慌てないで……」
みく「そうそう。まだライブまで時間もあるしゆっくり覚えるにゃ」
杏「もっと簡単なダンスでいいと思うんだけどね」
桃華「いい加減諦めなさいませ」
P「何諦めるんだ?」
卯月「プロデューサーさん! お疲れ様です!」
みく「どうしたの? 事務所潰れた? クビになった?」
P「不吉なことを言うな。レッスン見に来たついでに送ってやろうと思ったんだよ」
杏「プロデューサー、杏、ダンスをもっと簡単にすることを希望しまーす」
P「ほー。具体的にどうするんだ?」
杏「全員同じ布団で寝る」
P「それは個人的にみたいから今度事務所でやれ。トレーナーさん戻ってきたな。レッスン頑張れよ」
卯月「頑張ります!」
雪美「頑張る……ます」
桃華「……」
雪美「……」
P「……」
みく「……」
杏「……これってさ」
P「うん」
杏「マジ?」
P「俺もさ、聞き返したり、直接赴いたりして訊いたんだけどさ」
杏「うん」
P「マジっぽい」
杏「マジかー……」
卯月「おはようございます! あれ、みなさんどうしたんですか?」
P「卯月、先のライブは覚えているな?」
卯月「もちろんですよ! 私の初めてのステージでしたから!」
P「あれがな、結構好評でな。いろんなところから反響が来てるんだ」
卯月「頑張ったかいがありましたね!」
P「で、テレビ出演のオファーまで来た」
卯月「テレビですかぁ。それはまた……え、テレビ? 誰にですか?」
杏「全員」
卯月「……す、すごいじゃないですか!! テレビに出られるんですか!!」
みく「みくと卯月チャン、桃華チャンと雪美チャンと杏チャンで二組に別れるみたいにゃ」
桃華「とときら学園……新しい番組のようですわね」
雪美「学園……学校で勉強するの……?」
杏「うーん、バラエティみたいだけど。杏も桃華と雪美と同じ学生枠なのはなぜだろう」
卯月「わあ! 出演者に十時愛梨ちゃんがいますよ!」
P「みくと卯月の番組はまた別のだけど……。何にしてもテレビ出演とはな」
桃華「ビックリですわね」
みく「何にしろ、これが本当ならこのチャンスを逃す手はないにゃ!! ここからアイドルとして一気に駆け上がるにゃ!!」
杏「あ、杏は別に……」
P「出演料も結構高いなぁ」
杏「仕方ないなぁ。ちゃんとおいしい飴、用意してね?」
卯月「みなさん頑張りましょう!!」
「「「「おー!」」」」
卯月「お疲れ様でした!」
オツカレサマデース
卯月「えっと、この後は……」
P「卯月」
卯月「あ、プロデューサーさん!」
P「事務所に忘れ物取りにいくんだろ? 送ってくよ」
卯月「ありがとうございます!」
P「どうだった? ラジオは」
卯月「緊張しましたけど凛ちゃんと未央ちゃんに助けてもらいながら頑張りました」
P「それはいいことだ。他の事務所の子と一緒にラジオのパーソナリティなんていい経験にもなるだろう」
卯月「声だけで伝えるのって大変なんですね」
P「テレビなら視覚もあるが、ラジオは聴覚だけだからな。話術を鍛えないと」
卯月「頑張ります!」
P「……ここまであっと言う間だったな。数ヶ月前まで養成所にいた訓練生が今では雑誌に載る新星アイドルだもんな」
卯月「桃華ちゃんも雪美ちゃんもみくちゃんも杏ちゃんも……みんな載りましたよ」
P「どうだ、今。振り返って見て」
卯月「うーん、なんだか実感が湧きませんね。毎日が一生懸命だったので」
P「そうか。実感が湧かないか。卯月の夢が叶ったわけだけど」
卯月「え、私の夢ですか?」
P「一人前のアイドル。なりたかったんだろ? テレビにもラジオにも出た。CDの発売だって控えてるし、それに伴ってのソロライブもある。卯月はもう一人前のアイドルだ」
卯月「そう……ですね」
P「さぁ、着いたぞ。車置いてくるから先に事務所行っててくれ。まだ杏がいるはずだから鍵は開いてるぞ」
卯月「あ、わかりました」
卯月「ただいま戻りました」
杏「おつかれー」
卯月「お疲れ様です」
杏「……ん? どったの?」
卯月「え、何がですか?」
杏「なんかぼーっとしてる感じ」
卯月「あ、多分……実感が湧かないせいだと思います」
杏「実感?」
卯月「はい。私、一人前のアイドルになりたかったんですよ。プロデューサーさんにもうなれただろって言われて……。杏ちゃんには私が一人前のアイドルに見えますか?」
杏「卯月ちゃんは杏よりよっぽどアイドルしてると思うけど」
卯月「そんな私は……」
P「戻ったぞー」
杏「おつかれー」
卯月「あ、お疲れ様です」
P「卯月、先に忘れ物回収しとけよ。事務所に戻ったんだから」
卯月「そうですね。ちょっと行って来ますね」
杏「プロデューサーさー。卯月ちゃんに変な事言わないでよ」
P「変な事?」
杏「なんか悩んでるみたいだから」
P「言ってないさ。大事な事だ」
杏「大事なことねぇ……」
卯月「よかった、どうしても今日中に持って帰りたかったので……どうしました?」
P「卯月、話があるんだ」
卯月「はい……?」
P「さてと、これからどうする?」
卯月「これから……ですか。えっと家に帰って……」
P「いや、今日の予定じゃなくてな。今後のアイドルとしての活動だ」
卯月「それは……CD発売のライブに向けてのレッスンと今あるお仕事を頑張ります」
P「それから?」
卯月「それからは……プロデューサーさんの持ってきてくれたお仕事をこなして……その後は……」
P「まぁ確かにそうだな。そういうのが普通だし悪くは無い。ただ卯月自身はそれでいいのか?」
卯月「私自身、ですか」
P「一人前のアイドルという夢が叶った今。卯月は何を目標にして今後アイドルをするんだ」
卯月「目標……」
P「そう重く考えなくてもいい。漠然としていても何かがあったからアイドルを目指したんだろ?」
卯月「……」
P「えーっと……そうだな。俺はアイドルというのは二種類いると思う。一つはアイドルそのものに意味を見出す者。もう一つはアイドルを通して何かを見出す者だ。例を上げるとみくが前者で、杏が後者だ」
卯月「私は……」
P「……卯月の場合、一人前のアイドルになりたいというのは前者に近いものだと思う。ただあくまで近いだけ。なぜならばこの二つともがアイドルになることが前提だからだ。卯月の夢は本来通過点でしかないんだ。そこを終着点にしてしまったから今、悩んでいる」
卯月「通過点、ですか」
P「目標とは手近に置くのではなく、叶うかどうかわからないほど遠くの物にするものだ。そしてもしもそれに到達したとき、次の目標を作れるようにしないとそれを達成したときに立ち止まってしまう。常に先へ進むには、先へ目標を作り続ける必要がある」
卯月「そ……それなら私、ライブのお仕事を……成功させて……」
P「うん、とりあえずそれでもいいかもしれない。だけど卯月。もしもこれからもアイドルをやっていくのならばもっと大きな目標を作ってくれ。それに向かってずっと歩いていけるような大きな目標を」
卯月「はい……」
P「なんかごめんな。変な事言って。そうだ、他の奴に聞いてみるのもいいかもしれんぞ。……まぁ多分何か参考になることを言ってくれるかもしれないから。多分。きっと……」
卯月「わかりました……。杏ちゃんに訊いてみますね」
P「うん……」
卯月「あの、杏ちゃん……」
杏「話は聞かせてもらった」
卯月「えっ」
杏「いや、聞き耳を立ててたわけじゃなくてね。いくら別室でも割りと聞こえてくるもんなんだよ。ほんとだよ?」
卯月「それで、あの……杏ちゃんはなにか目標あるんですか?」
杏「お金だね」
卯月「お金」
杏「卯月ちゃん。生涯でお金っていくらぐらいかかると思う?」
卯月「生涯ですか? えっと……一億円ぐらいでしょうか」
杏「それがね。まぁ杏が計算したわけじゃないけど……三億ぐらいかかるらしいんだよ」
卯月「さ、三億?」
杏「うん。まぁ多分家買ったりとか車買ったりとか子供育てたりとかそんなのも含めてると思うけどさ。でもそれってつまり三億ぐらい稼げばある程度のやりくりで一生働かなくて済むってことじゃん?」
卯月「まぁそうなります……か? あれ、これ何の話でしたっけ」
杏「アイドルの話だよ。だからね、杏は考えたの。もしも若いうちに若いパワーと引き換えにお金を稼ぎまくればあとの人生遊べるんじゃないかな、と」
卯月「つまりアイドルで稼いで、後は一生遊ぼうってことですか」
杏「それがね、杏は今働きたくないの」
卯月「へっ?」
杏「将来のことはよくわからないけど今、現在、進行形で働きたくないの。じゃあどうすればいいか。世の中にはね、すごくいい言葉があるの。不労取得という素晴しい言葉がね」
卯月「不労取得」
杏「働かずともお金が手に入る。なんて素晴しいシステム。そしてアイドルになればCDを出したり、本を出したりでこのシステムが利用出来る!」
卯月「えーっと……確かにそうですけど……でも確か印税ってそんなに」
杏「そう、雀の涙なんだよ」
卯月「ですよね」
杏「騙されたんだ。プロデューサーに。印税で儲かるってさ。あいつ詐欺師だから」
卯月「その、ご愁傷様といいますかお気の毒といいますか……」
杏「でもね、もしも杏が超人気アイドルになればだよ? きっと話は変わるんだよ。CDもバカスカだして本もドンドンだして、有名だから印税もどっさどっさ入ってそのお金で土地なんか買って、マンション立てて家賃で不労所得がガッポガッポ」
卯月「それじゃあもっと頑張らないとですね」
杏「でもなー、杏は働きたくないんだよー」
卯月「それに戻るんですね」
杏「ほら、こんなもん」
卯月「えっ?」
杏「卯月ちゃんはすっごく悩んでるみたいだけど杏にとってはこんなもんなんだよ。あまり参考にはならないだろうけど、少しは気が楽になったんじゃない?」
卯月「そうですね。少しだけ……」
杏「もっとちゃんと考えるんだったら他の人に訊いてね。杏のお役目はここまで。明日はレッスンなんでしょ? 他の子にも会えると思うし」
卯月「そうしてみます。ありがとうございました」
杏「まぁ卯月も頑張ってね。杏は頑張らないけど」
卯月「杏ちゃん、それ」
杏「ん?」
卯月「私のこと、初めて呼び捨てにしてくれましたね」
杏「え、あ、嫌だった?」
卯月「いえ、なんだか嬉しいです。お疲れ様でした」
杏「ん、お疲れ」
P「……杏ちゃん照れてるー」
杏「人がフォローしてあげたのにその態度?」
P「本当にすみませんでした。ありがとうございます」
杏「なんかさ、もっと言い方なかったの? 私なんか守銭奴みたいになっちゃったよ?」
P「でも不労所得が欲しいのは本音だろ?」
杏「まぁね」
P「……いずれわかることなんだ。アイドルというのは過酷な道だって」
杏「そういえば前はもっと大きな事務所にいたんだっけ」
P「ああ。あっちでは色んなモノを見てきた。だから卯月にはこれからくじけずに歩いていける大きな目標を見つけて欲しかったんだ。そして同時に気づいて欲しかった。夢を見続けるだけの時間は終わってしまったんだと」
杏「夢の終わり、かー。杏の野望も水の泡と消えたりして」
P「仕事、しよ?」
杏「えー……」
桃華「アイドルとしての目標、ですの?」
卯月「はい、お二人はどう考えているのかと」
桃華「目標ねぇ……。わたくしはないですわ」
雪美「私……ある……」
卯月「どんな目標ですか!?」
雪美「ペロとお揃いの……お洋服が着たい……」
桃華「ペロって……雪美ちゃんのペットの猫でしたわね。服を着ているのを見た事はありませんけど」
雪美「黒くて……耳のあるお洋服……着たい……」
卯月「プロデューサーさんに頼めば着れそうですけど……」
雪美「……!」
桃華「『その手があったか』みたいな顔してますわ」
雪美「私……いつもPが持ってくるお仕事だけやってた……。自分からやりたいって言った事……ないから……。頼むなんて……考えた事ない……」
桃華「わたくしもそうですわね。進んでやってみたいと思う仕事は特にありませんわ」
卯月「それじゃあ……なんでアイドルになったんですか?」
桃華「わたくしはとあるパーティに参加してましたら、Pちゃまにスカウトされたんですの」
雪美「私も……学校帰りに……スカウトされた……」
卯月「二人ともスカウトされて、アイドルになったんですね」
桃華「あと杏さんもスカウト組ですわ。わたくし達は一般人からのスタートでしたの」
雪美「でも……みくは違う……。元からアイドル……だった……」
卯月「他の事務所のアイドルでしたっけ」
桃華「卯月さんも候補生からスタートでしたからわたくし達と根本から違いますわね」
卯月「根本ですか?」
桃華「ええ。だってわたくし達と違って、卯月さんやみくさんはアイドルを目指していた人間ですもの。アイドルに対する考え方もまた別のものでしょう。とりあえずわたくしは今この時を楽しむ。それを目標にしますわ」
雪美「私も……今はアイドルが楽しいから……それでいい……」
卯月「楽しいだけでもいいんでしょうか?」
桃華「ダメと言われたら困りますわ。それに自分が楽しいと言うのは何事にも大事だと思いますの。自分が楽しんでいないのに、周りを楽しませることなんて出来ませんわ」
卯月「……」
桃華「何か思い悩んでらっしゃるようですけど、わたくしが力になれるのは多分ここまでですわね」
雪美「もっと力になりたい……けどまだ難しい……」
卯月「……いえ、ありがとうございます。なんだか少しずつわかってきた気がします!」
桃華「それは良かったですわ。そういえばみくさん、この後ここに来る予定ですわね」
卯月「私、待ってみます」
雪美「頑張ってね……」
卯月「はい!」
卯月「私、ここまでずーっと走ってきて気づかなかったんです。自分がどこにいるのか」
卯月「プロデューサーさんに言われて初めて立ち止まって、それで気づいたんです。自分はステージの上にいるんだ。もう下で見ていた私じゃないんだって」
卯月「あのステージの上に立ちたい。それが私の夢でした。だからここまで来れたんです」
卯月「でもここに立って、何がしたかったのか。それを考えて無くて。不安になったんです」
卯月「それでみんなとお話して、考えてみたんです。私はこれからどうすればいいのかを」
卯月「アイドルのお仕事は楽しいです。でも違うんです。それはアイドルになれたから楽しいのであって、アイドルを目指していた私は別の何かを見つけなきゃいけないんじゃないかって」
卯月「それで同じアイドルを目指していたみくちゃんとお話をしたくなったんです」
みく「それで?」
卯月「あの……みくちゃんはどうしてアイドルになったんですか?」
みく「簡単にゃ。一番可愛い女の子になるためにゃ」
卯月「一番可愛い女の子ですか」
みく「もしもアイドルで一番になれば、それはもう一番可愛い女の子と言ってもいいわけだにゃ。だから可愛い女の子になりたかったみくはアイドルになって一番を目指しているにゃ」
卯月「すごい目標ですね」
みく「道のりは険しいにゃ。でもみくはまだ諦めてないにゃ。いつか必ずこの足にガラスの靴を……!」
卯月「ガラスの靴……」
みく「卯月チャンはどうするの? 夢が叶ったからこれでおしまい?」
卯月「そんなこと! ……そんなことないです。これからもアイドルとして……。でも私、アイドルとして頑張れるのでしょうか。ただ楽しいってだけで、何も持ってない普通の私がアイドルを続けても……いいのでしょうか」
みく「卯月チャン!!」
卯月「うわっ、なんれふか。ほおをふねらないでくらはい」
みく「楽しいだけの何が悪いの! いいじゃん、楽しいならさ! 他人に迷惑かけてないでしょ!?」
卯月「そーれふけど」
みく「それに何も持ってないなんてことないよ! 今まで途中で挫折した人見てきたでしょ!? もしも卯月チャンが何も持ってなかったらアイドルになれなかった子みんな何にも持ってない子以下の人だって言うの!?」
卯月「そ、それは……」
みく「しかもみくは! 猫のアイドルとして! 頑張っているのに! ここまでして何も持ってない卯月チャンと同格なのはどういうことなの!!」
卯月「うー」
みく「何も持ってないだなんて言わせない! 卯月チャンにはちゃんと持ってるにゃ!!」
卯月「なにほ……」
みく「笑顔にゃ!」
卯月「ふぁなしてくらはい!」
みく「いてっ」
卯月「あ、ごめんなさい。でも私もほっぺ痛いんでおあいこです」
みく「ごめんにゃ」
卯月「それはともかく笑顔なんて誰でも出来るじゃないですか! そんなのが強みに」
みく「なる!」
卯月「な、なりませんよ」
みく「なる!! 卯月チャンの笑顔は他の人と違う! みんなを笑顔にする魔法なの!!」
卯月「魔法、ですか」
みく「誰にでも出来ることが誰よりも強いっていうのに何も持ってないとか言って……。だったらみくにその笑顔を寄越すにゃ!」
卯月「いらいいらい! ふねらないでくらはい! もうっ!」
みく「みくは卯月チャンより長い間アイドルしてたにゃ。それなのに今は同格にゃ。ずるいにゃずるいにゃ」
卯月「それは桃華ちゃんと雪美ちゃんも一緒ですよね」
みく「でも二人は自分は何も持ってないとか言わないにゃ」
卯月「うっ、そうでしょうけど」
みく「……まぁちょっとみくも興奮しすぎたにゃ。ごめんね」
卯月「いえ……。でもどうしてあんなに、えっと、怒ったんですか?」
みく「……少なからず尊敬している相手が自分の目の前で卑下し始めたらああなるにゃ」
卯月「尊敬? みくちゃんが? 私を?」
みく「みくはね、さっきも言ったけど猫アイドルとしてやってきたにゃ。猫というキグルミを着る事でやっとアイドルとしてのステージに立てたにゃ。でも卯月チャンはその笑顔で、みんなを魅了し、笑顔にしてきたにゃ。正直羨ましいし嫉妬もした。けどそんな笑顔が出来る卯月チャンに憧れたにゃ」
卯月「みくちゃん……」
みく「ねぇ、卯月チャン。笑って」
卯月「えっ」
みく「ちょっとみく泣きそうだから笑って」
卯月「え、えっと……こうですか?」
みく「……いい笑顔にゃ。これからもその笑顔でみくを……みんなを笑顔をしてほしいにゃ」
卯月「私に出来るでしょうか」
みく「出来るにゃ。卯月チャンなら」
卯月「わかりました。じゃあ私――」
P「みんなを笑顔にするために頑張る、と」
卯月「はいっ!」
P「そうか。……なんかごめんな。俺のせいで色々と」
卯月「いえ、プロデューサーさんのおかげで大事なことがわかった気がします。多分私はみくちゃんの言う通り……みんなを笑顔にしたくてアイドルになったんだと思います」
P「そうか。なら良かった」
卯月「プロデューサーさん! 島村卯月、これからもよろしくお願いします!」
以上