絵里「あー……生徒会の仕事終わったぁ。少ないから結構すぐにできちゃった」
にこ「お疲れ様」
絵里「……」
にこ「どうしたの」
絵里「今、夏休みよね」
にこ「そうね」
絵里「なんでにこが生徒会室にいるの……?」
にこ「えっ、今更?」
絵里「だって今日は練習もないし、生徒会の仕事もちょっとだけなのに……」
にこ「いや、今日は生徒会の仕事だ、って私にメールしてきたじゃない」
絵里「うん」
にこ「1人で片付く量だけど暇だ、って……」
絵里「したわね」
にこ「……はっきり言わなきゃ伝わらないわけね」
絵里「?」
にこ「あんたと一緒にいたかっただけよ」
絵里「わーい、にこがデレた!」
にこ「あんたが鈍いだけよ……」
絵里「この後どうする? にこは何か予定ある?」
にこ「別にないけど」
絵里「じゃあみんなでどこか遊びに行ったりする?」
にこ「ちょっと待って」
絵里「え? 何?」
にこ「恋人と2人きり……それ以外に何か思いつくことはないの?」
絵里「……デートだ!」
にこ「それよそれ」
絵里「でも今からだと、きっと外暑いわよ?」
にこ「そうね。真夏日になるとか言ってたし」
絵里「じゃあ室内でデートしましょう」
にこ「なにそれ。学校探検でもするの?」
絵里「ううん、生徒会室だけ使います」
にこ「?」
絵里「にこ、こっちに来て」
にこ「はいはい」
絵里「さあさあ、私の膝の上にどうぞ」
にこ「……あんた、本当にそれ好きよね」
絵里「だって1番近くにいられるでしょ?」
にこ「わかったわよ」
絵里「あー……にこの匂い」
にこ「汗くさくない?」
絵里「ううん」
にこ「そっか」
絵里「……どうしたのにこ、何だか耳が赤くなってきたけど」
にこ「いや、ね。あんたの中では普通のことなんだろうけど、緊張するのよ、これ」
絵里「ほんとだ。ドキドキしてる」
にこ「さりげなく胸を触るんじゃない」
絵里「えへへ、恋人特権?」
にこ「まあいいけど……」
絵里「……もし冷房効いてなかったら、こんなにくっつけなかったわよね」
にこ「そうね」
絵里「はー……にこかわいい」
にこ「ちっちゃいから?」
絵里「それもあるけど……なんかかわいい!」
にこ「言葉にできないって?」
絵里「そういうことよ。にこは魅力の塊だからね……誰かに取られないよう気を付けなくちゃ」
にこ「……」
絵里「あれ? にこ、どうしてうつむくの?」
にこ「あんたの方が十分取られそうで心配なのよ」
絵里「にこ、抱きしめていい?」
にこ「嫌って言ってもするんじゃないの?」
絵里「嫌って言ったらしない」
にこ「ふーん」
絵里「許可が出るまで何回も訊ねる」
にこ「それ、ほとんど強制じゃない」
絵里「でもにこは嫌って言わないでしょ?」
にこ「……言わないけど」
絵里「ぎゅーっ」
にこ「……」
絵里「にこエネルギー吸収中」
にこ「私のエネルギーをとるんじゃない」
絵里「じゃあ代わりに絵里エネルギーを注入」
にこ「アホがうつる」
絵里「ひどい」
にこ「あはは」
絵里「私はこれでも生徒会長なのよ?」
にこ「それなのに生徒会室でこんなことしてるし」
絵里「うっ」
にこ「生徒の会の長って感じじゃないわよ?」
絵里「いいもん。にこには自分を包み隠さず見てほしいから」
にこ「……何で?」
絵里「好きだから」
にこ「……耳元で囁くのはやめて」
絵里「あ、わかった。にこは照れてるのね?」
にこ「今更?」
絵里「うん、だって今気づいたもん」
にこ「そりゃ、ね。好きな人と2人きりだから」
絵里「へー、にこも照れるんだぁ……」
にこ「だからあんたが鈍すぎるのよ」
絵里「そう?」
にこ「そうよ」
絵里「だからドキドキしてたの?」
にこ「そうよ」
絵里「かわいい」
にこ「うるさい」
絵里「でも私はあんまりドキドキしないわね……にこのこと好きなのに」
にこ「あんたの中ではこうすることが普通なのよ」
絵里「そうなんだ。にこって私のことに詳しいわね」
にこ「当たり前でしょ、ずっと見てきたんだから」
絵里「……にこは私のどこが好き?」
にこ「バカなところ」
絵里「うっ……じゃあ嫌いなところは?」
にこ「バカなところ」
絵里「一緒じゃない!」
にこ「よく考えなさい」
絵里「……わかんない」
にこ「そこが私の好きなところよ」
絵里「私のにこが好きなところはね……」
にこ「え? 自分から言うの?」
絵里「うん」
にこ「で、好きなところは?」
絵里「鈍いところ!」
にこ「あんたに言われたくない」
絵里「えへへ、冗談です」
にこ「はいはい」
絵里「私の好きなところは……思いやりがあるところかしら」
にこ「思いやり?」
絵里「そう。みんなのことを見てるところ」
にこ「ふーん……」
絵里「その視線を今、私は1人占めしてるわけよね」
にこ「あんたが気付いてないだけで、ずいぶん前からそんな感じよ」
絵里「え? そうなの?」
にこ「本当に鈍いのね」
絵里「にこ、今日は何する?」
にこ「今日も、じゃないの?」
絵里「あ、そっか。いつも遊んでるもんね」
にこ「……もしかして、デートって認識はなかったの?」
絵里「うん」
にこ「……」
絵里「えっ、どうしたのにこ。またうつむいて」
にこ「はぁ……」
絵里「にこ、そんなに落ち込まないで。何回だってデートするから」
にこ「そうじゃなくて、今までなんだと思ってたのよ」
絵里「……遊び?」
にこ「私とは遊びだったのね」
絵里「それはないわ。本気よ、すごく真摯で真面目な交際をしているつもり」
にこ「じゃあなんでデートじゃないのよ……」
絵里「にこが教えてくれなかったから……ごめん」
にこ「今度からデートのときはデートって叫ぶわ」
絵里「……お腹すいてきた」
にこ「じゃあ外に出る?」
絵里「でもにこを膝の上に置いておきたい……」
にこ「外ではさすがにダメよ?」
絵里「うん、だから……よし、今日は私の家に来て」
にこ「えっ」
絵里「今日は1人なのよ。だからちょうどいいでしょ?」
にこ「ちょうどいいって……えっ」
絵里「ほら、家ならできるじゃない」
にこ「いや、それはそうだけど……」
絵里「あとほら、いつもはできないあんなことやこんなこととか」
にこ「……何するつもり?」
絵里「肩車とか膝枕とか」
にこ「……期待した私がバカだったわ」
絵里「?」
にこ「じゃあ早く連れて行きなさい」
絵里「えー、もう少し膝を堪能したい」
にこ「家に行けばできるでしょ」
絵里「それもそうか……じゃあ最後にもう1回」
にこ「え?」
絵里「ぎゅー」
にこ「……」
絵里「あれ……にこ? どうしたの?」
にこ「……今のは油断してた」
絵里「行きましょうか」
にこ「……うん」
絵里「にこ、元気ない」
にこ「照れてるのよ、あんたのせいで」
絵里「なんで?」
にこ「もう知らない」
絵里「許してください」
にこ「鈍感を治さない限り許しません」
絵里「ど、どうしたら治るんだろう……」
にこ「そんなこと言ってる時点でダメよ」
絵里「ぐぬぬ」
にこ「ほら、とっとと行くわよ」
絵里「はーい」
にこ「……デート!」
絵里「何? どうしたの急に」
にこ「あんたが好きって言ったのよ」
おわり