千早「かべどん……? ごめんなさい、聞いたことないわ」
春香「えーっとね、たしか漫画の中に……あったあった。こういうの」
ペラッ
千早「……これがかべどん?」
春香「そう。壁に『ドンッ』って手をついてるから壁ドン」
春香「最近、女子の間で流行ってるんだ~。夢のシチュエーションだって」
千早「たしかに、こんな風に壁際へ追い込まれたら……ドキッとしそう」
春香「今度収録するドラマで私が演じる役の子が、彼氏に壁ドンされちゃうの」
春香「けっこう重要なシーンらしくて、今のうちに練習したいなって思ってるんだけど……」
春香「なかなかいい練習相手が見つからなくて」
千早「プロデューサーに頼んでみたらどうかしら」
春香「プロデューサーさんか……うん、いいかも」
元スレ
春香「ねえ千早ちゃん。壁ドンって知ってる?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1407065539/
春香「プロデューサーさ~ん」
P「ん? どうした。春香、千早」
春香「プロデューサーさんは壁ドンって知ってますか?」
P「ああ、もちろん。それがどうしたんだ?」
千早「今度のドラマ収録で、春香が彼氏に壁ドンされる役を演じるらしいです」
P「なんだそりゃ」
春香「重要なシーンらしくて、きちんと演じなきゃと思ってるんですけど」
春香「そのぉ……練習に付き合ってもらえませんか?」
P「練習? いいけど……彼氏が彼女に壁ドンって、妙なシチュエーションだな」
春香「そうですか? 最近流行ってるから、取り入れたんだと思いますけど」
P「えっ、壁ドンが流行ってるのか?」
春香「はい。CMでもやってるし、情報番組でも紹介されてますよ」
千早「私は知らなかったんですけど……女の子が壁ドンに惹かれる気持ちはなんとなくわかります」
P「へぇ。皆が出演してる番組はチェックしてるけど、CMは飛ばしてるからなぁ」
P「まさか壁ドンが流行ってるなんて知らなかった。それならドラマで起用されるのも納得だ」
春香「そうなんです。だけど私……今まで壁ドンされるような相手がいなかったので……その」
P「だろうな(実家暮らしだし)」
春香「だ、だろうなって……ちょっと傷ついちゃうな……」
千早「……プロデューサー。もっと言葉を選んだほうがいいです」
P「え? なんで?」
千早「なんでって……今のはデリカシーに欠ける発言だと思いますけど」
春香「い、いいよ千早ちゃん。そこまで気にしてないから……」
P「そうかな……。だって、春香は壁ドンされるような子には見えないしな」
春香「……」
千早「プロデューサー!」
春香「どうせ私、壁ドンされるような魅力なんてないもんっ」
P「? なんで怒ってるんだ?」
春香「プロデューサーさんには分かりませんよ。女の子の気持ちなんて。ふんだ」
P「お、おいおい、怒らないでくれよ」
P(なんで春香は怒ってるんだ? 世間では壁ドンされることがステータスになってるのか……?)
P「……ん? そういえば、千早は壁ドンされたことがあるんじゃないか?」
千早「えっ!? わ、私が!?」
P「ああ、マンションで独り暮らしだったよな。一度や二度、壁ドンされた経験がありそうだが」
春香「そうなの!? 千早ちゃん!」
千早「な、ないわよっ! あり得ません! だいたい、マンションで独り暮らししてたらなんで壁ドンされるんですか?」
千早「ま、まさか……私が部屋に連れ込んでいるとでも……? 酷いです! ……私、そんなふしだらじゃありません!」
P「ええっ!? なんで千早まで怒りだすんだよっ。壁ドンされることが名誉だったんじゃないのか?」
P「だいたい、マンション暮らしなら壁ドンされた経験があってもおかしくないだろ?」
千早「おかしいですっ……!」
春香「プロデューサーさんの常識を疑いますよ!」
P「えぇ~。俺はアパート暮らしだが、毎晩のように壁ドンされるぞ」
春香「え!? プロデューサーさん、壁ドンされてるんですか!?」
千早「しかも毎晩……!?」
P「ああ」
春香「あ、相手の人は……その、女性ですか……?」
P「男だけど」
千早「男同士で……!?」
春香「プロデューサーさんは嫌じゃないんですか!? 毎晩男の人からそんなことされて……!」
P「嫌に決まってんだろ」
千早「け、警察には相談しましたか?」
P「いや、そこまでするのはな……。大家さんにも『自分たちで解決してくれ』って言われたし」
千早「酷い……!」
P「まあでも、家賃の安いアパートで暮らすなら覚悟のうえさ。壁ドンされたらやり返せば怒りも収まるし」
春香「え!? やり返してるんですか!?」
P「そんなに驚くことじゃないだろ。やられたらやり返すもんだ」
春香「ひえぇ……///」
春香「その男の人は……どこに住んでる人なんですか?」
P「どこって、隣に決まってるだろ」
千早「お付き合いしてる……ってわけじゃないんですよね?」
P「付き合い? 引っ越してきた日に挨拶したぐらいだな。親しいわけじゃない」
春香「それだけの関係なのに、毎晩壁ドンしてくるんですか!? どうしてそんな……!」
P「ボロいアパートだからな。俺の部屋のテレビの音とか、目覚ましのアラームが気に入らないんだろ」
千早「そんな理由で壁ドンしてくるんですか!?」
P「ちょっと神経質だよな。こっちも気をつかって音量を小さめにしてるってのに」
P「だから少しムカッとする。昨晩も激しく壁ドンし合ってたぞ。ハッハッハ」
春香「は、激しく……///」
千早「やだ……///」
春香「そんなに壁ドンに詳しいなら、良い練習になりそうです」
P「ああ、任せてくれ。さっそくレクチャーしてやるか」
千早「こ、ここでやるんですか?」
P「んーたしかに……事務所じゃちょっとな」
春香「(皆に見られるのは恥ずかしいけど、どうせ全国に放送されるんだから……!)大丈夫です!」
P「そうか? ならここでいいか。壁ドンされた時のリアクションを練習したいんだよな?」
春香「は、はいっ」
P「じゃあ春香は社長室へ行ってくれ」
春香「……? え?」
P「ちょうど社長はでかけてるし、ドラマ出演のためな許してくれるだろ。ほら」
春香「は、はい(社長室でプロデューサーさんとふたりきり……? やだ、どうしよう……!)」
P「壁際で待機しててくれ」
P「そろそろいいかな。よーし、景気よくぶっ叩いて」
千早「あの……」
P「ん? どうした、千早」
千早「わ、私も……その、壁ドンされてみたいんですけど……」
P「ああ、いいよ」
千早「じゃあ、ここで……その、軽く」
P「え? ここで? 壁ドンは壁越しじゃないと……」
千早「お願いします。ちょっと、ちょっとだけどんな感じか経験しておきたいだけですから……」
P「うん、だからさ」
千早「私に、壁ドンしてくださいっ」
P「えっ、千早に……?」
千早「はい……! 私に……!」
P「……分かったよ。軽くだぞ?」
コツン
千早「……」
P「……」
千早「……え?」
P「ど、どうした?」
千早「な、なんで私の胸を……触ったんですか……!?」
P「え、いや、触ったんじゃなくて、叩いたんだ。まあ結果的に触ったんだが、いやらしい意味でなくてだな」
千早「どうしてこんなことを……!」
P「だって、千早が『私に壁ドンしてくれ』って言うから……」
千早「どういうことですか!?」
P「壁ドンしたんだけど……」
千早「ふざけないでください!」
P「ま、待ってくれ、落ち着こう」
ガチャ
春香「あの~、さっきからずっと社長室で待ってるんですけど~。何してるんですか?」
千早「プロデューサーが……私の胸に……グスン」
春香「ホントに何してるんですか!?」
P「いや、だって千早が!」
千早「酷い……! 私は壁ドンされたかっただけなのに……こんな乱暴……!」
春香「プロデューサーさん!」
P「いやいやいや!」
P「え!? 壁際に女の子を追い込むこと!?」
春香「そうですよ! 壁を叩いて隣人に抗議するなんて、聞いたことありません!」
P「いやいや、壁ドンってそういうもんだろ!?」
春香「違いますよ! こういうのです! ほら!」
ペラッ
P「え~、知らないよそんなの。俺の言う壁ドンのほうが正しいと思うけどなぁ」
春香「もう、まさか勘違いしてたなんて……どうりでおかしいと思ったよ。ね、千早ちゃん」
千早「……」
春香「千早ちゃん?」
千早「壁ってことですか?」
P「えっ」
千早「つまり、プロデューサーは私の胸が壁だって言ってるんですね」
P「あ、いや……」
千早「だってそうでしょう? 私の胸が壁だから叩いたんですよね?」
春香「千早ちゃん……? 誰もそんなこと……」
千早「くっ……!」
ダッ
春香「あ、待って千早ちゃん!」
P「千早、俺が悪かった! カムバック!」
響「春香たちは何を騒いでるんだー?」
真「なんか壁ドンの話をしてたみたいだけど」
響「壁ドンか~。自分もあれには困ってるぞ。なんかこう、ドキッとするよね」
真「えっ、もしかして響、壁ドンされたことがあるの!?」
響「うん」
真「えぇ! す、すごいなぁー。ボクなんか……全然」
あずさ「憧れのシチュエーションよね~、でも実際にやられたら困っちゃいそう」
響「困るぞっ! こっちはぐっすり寝てたのに、壁ドンされてビックリするんだから」
あずさ「あ、あらあら。寝ている間に……?」
真「それって……」
亜美「ねえねえーお姫ちーん。かべどんってなに?」
真美「もしかしてー、怪獣の名前とか?」
貴音「いえ、おそらく……うどんの一種でしょう」
貴音「かべどん……」
亜美「お姫ちんがうどんを食べたそうな顔してるねぇ~」
真美「じゃあ食べにいこうよー! ねえりっちゃん、真美たちうどん食べにいってくるねー」
貴音「かべどんを求め……いざ!」
律子「え? ちょ、ちょっと! あんたたちはこの後仕事が入ってるでしょーが!」
響「亜美真美は相変わらずだなー」
真「ね、ねえ響? その、壁ドンの話をもう少し詳しく聞かせてもらえないかなーって」
響「? いいけど」
あずさ「夜寝てる間に壁ドンされちゃうって……どんな感じなのかしら」
真「その……相手は、響の恋人……とか?」
響「違うよ。単なる隣人」
あずさ「た、単なる隣人に壁ドンを……!?」
響「うん。モモ次郎が夜行性なんだけどね、夜中に飛び回るもんだから怒ったいぬ美とよく喧嘩するんだー」
響「その時の鳴き声が隣の部屋まで響いてるらしくて、抗議するために壁ドンしてくるんだと思う」
真「そんなことで!?」
響「ペットOKのマンションだし、とりあえず防音だから聞こえても小さな音だと思うんだけど」
響「毎晩のように壁ドンしてくるんだー。自分、そっちのほうが迷惑だと思うぞー」
真「響が嫌がってるのに壁ドンしてくるの!? それは駄目だよ。全然キュンとしない!」
あずさ「それに……それって犯罪なんじゃ……?」
響「え!? 犯罪なの!?」
真「そ、そうだよ! だって響の恋人でもなんでもないただの隣人なんでしょ!?」
響「う、うん。そうだけど……でも壁を叩かれただけだし……」
真「そんな、赤の他人が眠ってる響に壁ドンを……不法侵入だよ!」
あずさ「警察に相談したほうがいいんじゃないかしら……」
響「えぇ!? 自分、知らない間に犯罪に巻き込まれてたのか!?」
真「相手は男性?」
響「た、たぶん男の人……」
真「プロデューサーに相談しよう。そうしたほうがいい!」
あずさ「ええ。そうね」
響「うう……なんだか不安になってきたぞ……」
貴音「かべどんをひとつ」
亜美「亜美はきつねー」
真美「真美もー」
店員「あいよ! そちらさん、壁ドンひとつね! じゃあ壁際に立って!」
貴音「……?」
店員「……」
ドンッ
貴音「……っ」ビクッ
店員「お前、俺以外のヤツ好きになるの禁止」
貴音「面妖な……!」
亜美「お姫ちんが襲われたー! 警察屋さーん!」
店員「えっ! ちょ、ま!
真美「変態がいるよー!」
P「ほんとすまなかった、千早」
千早「もういいです……」
春香「このケーキおいし~」
プルルル
P「あ、真から電話だ。ちょっと待っててくれ」
ピッ
P「はいもしもし。……なに? 変態!?」
真『はい。毎晩響の部屋へ侵入して、響を壁際へ追い込む人がいるらしくて』
P「なんだって!? ひ、響は無事なのか!?」
真『はい……。今あずささんが慰めてますけど……』
P「毎晩って……いつごろから続いてたんだ?」
真『数か月前からだそうです』
P「なんで俺に相談してくれなかったんだ……」
真『混乱してるみたいです。「壁を叩かれただけだし」とか意味わからないことを言ってましたけど』
真『ボクたちの話を聞いて我に返ったみたいです。震えてますよ。恐かったんだと思います』
P「くそ、許せない……今すぐ警察へ相談しよう」
真『はい』
P「律子に事情を説明して、響を警察署まで連れてきてくれ。なるべく、他の皆に知られないようにな」
P「俺もすぐに向かうから、それじゃ」
ピッ
P「すまん、用事ができた。ちょっとでかけてくる」
春香「はい。いってらっしゃい」モグモグ
千早「春香、あんまり食べすぎると……」
律子「さ、行きましょう」
響「う、うん……」
真「大丈夫大丈夫」
小鳥「元気出して……」
伊織「どうしたのかしら。なんか様子が変ね」
やよい「かべどんー、とか言ってたよー?」
伊織「かべどん……? かべどんってなに?」
やよい「んー……たぶん、ゆるキャラなんじゃないかなぁ」
伊織「ああ、ゆるキャラ」
雪歩「ふふ、違うよ。伊織ちゃん、やよいちゃん」
やよい「えっ、違うんですかー?」
伊織「じゃあ何なのよ」
雪歩「かべどんは、壁ドンのことだよ。壁に、ドンで、壁ドン」
雪歩「建物を解体するときにハンマーで叩いて壁を破壊することを『壁ドン』って言うんだよ」
やよい「へぇ~、そうなんですか~」
伊織「さすが実家が建設業を営んでるだけあるわね」
雪歩「えへへ、この前お父さんが解体作業の現場を視察するときに」
雪歩「『この壁壊しちまおう。ハンマーでドンって。これがホントの壁ドンだな』って言いながら笑ってたから」
やよい「業界用語です~! かっくいい~!」
ガチャ
春香「ただいまー」
千早「あら……人が少なくなってるような……」
やよい「あ、おかえりなさーい!」
春香「他の皆は?」
雪歩「真ちゃんたちはどこかへでかけちゃったよ? 何をしにいったかは知らないけど……」
春香「ふーん。プロデューサーさんもいなくなっちゃったし、どうしようかなぁ」
伊織「何か困ってるの?」
春香「壁ドンの練習がしたくて……」
やよい「それなら雪歩さんが先生になってくれます~!」
春香「え? 雪歩が?」
千早「荻原さん、壁ドンについて詳しいの……?」
雪歩「う、うん」
やよい「壁ドンを知らない私たちに、わかりやすく説明してくれました~」
春香「へえ! じゃあお手本を見せてもらいたいなぁ」
千早「ええ、是非」
春香「ドラマ出演の参考にさせてもらいたいから」
伊織「いいじゃない。やりなさいよ雪歩」
雪歩「うん……いいけど、壁を強く叩くことになるし……」
春香「プロデューサーさんが社長室の壁を使っていいって言ってたよ」
千早「ええ。ドラマ出演のためなら、社長も許してくれるって」
雪歩「そっか……それなら。危ないから離れててね?」
ドガァァァァン
美希「うあっ!? な、なにごとなの!?」ガバッ
雪歩「てーいっ!」
ズゴォォォォン
春香「」
千早「」
やよい「うっうー! すごいですー!」
伊織「狭かった事務所が広く感じられるわね」
美希「なーんだ、リフォームだったの。あふぅ」
雪歩「えへへ。えーいっ」
ズガァァァァン
春香「ちょ、ちょっとストップ!」
千早「何をしてるの!?」
雪歩「え? 何って……」
伊織「壁ドンじゃない」
やよい「ハンマーで壁をドーンってやるから壁ドンなんですよねー」
春香「えぇえぇぇぇえぇ!?」
P「いやー、勘違いでよかった」
響「うー、自分恥ずかしいぞ~」
真「まさか壁ドンにふたつの意味があったなんて……」
律子「まったく人騒がせな。貴音たちもうどん屋で騒ぎを起こすし……」
小鳥「まあまあ、大事にならなくてよかったです」
ガチャ
P「ただいまー……なんだこの粉塵」
雪歩「ごめなさいぃい!」
P「おっわ! なんだこりゃ!」
春香「雪歩が壁ドンの意味を勘違いして社長室の壁を破壊しちゃいました……」
律子「はぁ!?」
あずさ「あらあら」
雪歩「お詫びに穴掘って埋まってますぅ~」
P「もう壁ドンなんてこりごりだぁ~い!」
~完~