1 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 22:48:11.99 7rsY9P8g0 1/18


――事務所

ガチャ

速水奏「あら、プロデューサーさんだけ?」

デレP(以下P)「うん? ああ、奏。おはよう」

「おはようございます」パタン

「まあ、俺もこの後出るけど……今日はラジオだったな」

「ええ。他には特になし」

「特にないのに事務所きたのか?」

「ふふ」

「あなたに会いに来たの」


元スレ
速水奏「あなたの迂闊なプレゼント」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719755291/

2 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 22:53:52.90 7rsY9P8g0 2/18


「それは、どうも」

「ほら、明日はさらに用が無いでしょう? なら、会う予定もつくれないなって」

「そうか。まぁ、確かにな」

「今日は営業終わって帰ってきたら、いい時間になってるだろうし」

「いい時間って、8時とか、9時とか?」

「そんなもんかな? 日付変わるほどじゃない。幸い明日は休みだし……」

「ふふ、あまり根を詰め過ぎないでね」

「ああ。 ……じゃあ奏、1日早いんだけど」

「ちょっと待って、ストップ」

「おっと?」

「……なにか、用意してくれているのは嬉しいのだけれど」

「でも、それはまだ。私が誕生日を迎えてから渡してもらう方が、嬉しいわ」

「あー、そういうものか? じゃあ、分かった、そうしておく」

「ありがとう。……ふふ、でもね」

「本当に分かっているかしら?」

「……?」

3 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 22:57:27.71 7rsY9P8g0 3/18


(ほどなくして奏は仕事に向かった)

(6月30日。まだ梅雨の明けないこの時期は、雨が降っていなくても空気がじっとりとしている)

(だからというわけではないけど……そんな予感はしていた)

---

(営業の外出を終えて事務所に戻ると、今日の仕事をまとめ、明日のスケジュールをチェック。そろそろ帰ろうかという頃に――)

ピコン

(社用のではない、自分のスマホにメッセージが入った)

「…………」

『迎えにきて』

「んー……」

4 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 22:59:59.50 7rsY9P8g0 4/18


(……さて)

(ラジオ収録はとうに終わっており、仕事完了のメールも届いた)

(それとは別に、俺の仕事が終わるころを想定してのメッセージ送信)

(具体的な場所の指定はなし)

「……」

『どこにいるんだ?』

「……」

ピコン

『教えてあげない』

「んん~……」

(そうなるとこれは謎かけか。いや、試されているのか)

(こんな返しをしてきているということは、ある意味ヒント無しでもわかる場所ということか)

5 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:02:37.98 7rsY9P8g0 5/18


(前にも同じように、夜に迎えにいったことがある)

(と言っても、彼女の家の近くだったが…… 果たして同じところだろうか)

「……まさかあの海岸じゃないだろうな」

(いや、ラジオが終わってからでは、まだ着ける時間じゃない)

(移動しながらメッセージを書いているとしたら?)

(それはさすがに何でもありになるな。奏は着いてから連絡するタイプだろう)

『安全な場所なんだな』

「…………」

ピコン

(フレデリカさんの顔をしたチューリップのスタンプが送られてきた)

(こんなスタンプあるのかよ)

(よく分からないけど、特に問題ないと判断しよう)

(さて。速水奏はどこに行ったか)

(荷物をまとめつつ、考えを巡らせる)

6 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:08:11.96 7rsY9P8g0 6/18


(奏が行きそうな場所。……奏と行った場所?)

(奏が仕事終わってから、ここまでの時間で行けそうな場所……)

(都内の交通は便利すぎて困るな)

(……撮影で行った、タワーの見えるビル)

(あそこは閉館時間にもなってないし、一番先にいってみるか)

(閉館時間というとあの水族館は?)カチャカチャ カチ

(……もう閉まっている、と)

『迎えにはいくけど』

(ラジオ局から出た時間と……連絡してきた時間で、行けそうな場所か)

『待っていてくれよ』

(既読はついた)

(行けるところ、片っ端から行くしかないか)

7 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:12:29.35 7rsY9P8g0 7/18


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

(会ったらとりあえず夕食だろうか。いや、もう食べてるか)

(家に帰す前に、俺が帰れないような時間にならなければいいけど……)

(そんな危惧が頭をよぎる)

「……ここじゃないか」

(思いついた展望台にはいなかった)

---

(買い物に付き合わされたショッピングストリートを通り抜け)

---

(バレンタインに待ち合わせをした喫茶店を覗きこみ)

---

(そういえば映画を見たのはこの近くだったか)

(気が付けば)

(近場ですらこんなにも、奏との思い出が増えていた)

「……」

(それはそれとして)

「いねぇー……」

(気が付けば人通りは減り始め、夜が深まり始めている)

(大抵の仕事場やスタジオも閉鎖されていく時間)

(……あとは、あそこか)

(居てくれと願いながら)

(あの公園を目指した)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

8 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:17:39.12 7rsY9P8g0 8/18


――奏の自宅近くの公園

「なんだ」

「やっぱりここか」

「うん。……やっぱりあなたは来てくれる」

「でも、今日は結構時間かかったかしら」

「どこにいるか教えてくれなかったからなぁ……」

「……うん」

「来てくれるの、分かっていたのに、また呼んじゃった。……ごめんなさい」

「まぁ、それはいいよ…… 見つかってよかった。何か起きていたら俺の監督責任だ」

「仕事としての心配だけ?」

「……アイドルでなくても、こんな時間にひとりで出歩くもんじゃない」

「ふふ。そうね、そうだわ」

9 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:21:09.15 7rsY9P8g0 9/18


「ベンチ、横いいか」

「ええ」

ギシッ

「ねぇ。どこまで探しに行ったの?」

「え? まぁ、行けるところまで」

「全部?」

「全部、かなぁ。この時間だから、行けない場所も結構あったな」

「閉館して締め出されていたら、ちょっと面白かったかもしれないけど」

「それは締まらない話だわ」

「場所を教えなかったのは……」

「まっすぐ来てほしくない理由があったんだろ」

「……あーあ」

「気付いてほしく無い時に、そういうのって気付かれちゃうのよね」

「……」

「……誰よりも早く」

「誕生日になった瞬間に、あなたにいて欲しかった」

「なんて言ったら、怒る?」

「別に怒りは……いや、場所くらい教えてくれても問題なかったんじゃないか」

「ダメよ。そしたら、日付が変わる前に帰されるもの」

「ああ、だから時間かかるようにわざと」

「そう」

「そこまで織り込み済みだってんなら、怒ろうが反省しないじゃないか」

「ふふっ、そうね。その通りだわ」

10 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:28:48.83 7rsY9P8g0 10/18


「俺が日付変わるのに間に合わなかったら?」

「別に? プロデューサーさんが来てくれるまで待てばいい話だわ」

「そうすれば、一番に祝ってもらえるでしょう?」

「俺が行くのは疑わないのか」

「だって来てくれているもの」

「……そうだな」

「わかった、日付変わるまでは付き合うよ」

「奏の家も近いしな」

「……我儘でごめんなさいね」

「相手は選んでるんだろう。ならいいんだ」

「奏は、手がかからないから」

「ここまで付き合わせて?」

「アイドルとして。仕事で俺が苦労したことはないんじゃないかってくらいだ」

「だから、これくらいの我儘でちょうどいいんだろう」

11 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:39:26.72 7rsY9P8g0 11/18


「……そういうの、ズルいわ」

「あなただけ大人みたい」

「俺だけ大人だよ」

「……そうね」

ピピ

「日付変わったか」

「……」

「……」ジッ

「……誕生日おめでとう」

「ふふ……」

「ありがとう」

12 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:43:36.74 7rsY9P8g0 12/18


「満足したかー?」

「ええ。……でも、あなたにここまでさせるほどじゃなかったかな」

「来年からはちゃんと場所を言ってくれよ」

「あはっ、付き合ってくれるのね。……うん。そうする」

「……さて、プレゼントは何がいい、と訊こうと思っていたんだけど」

「……? ……用意してくれていたんじゃないの?」

「してない」

「え」

「じゃあ、お昼に渡そうとしたのは……?」

「何が欲しいか聞こうとしていたんだよ」

「何か用意していたっていうのは、奏が勝手に思い込んだんだ」

「…………」

「ちょっと、これじゃ私が悪いみたいじゃない」

「奏が悪いよ」

「むぅ……」

13 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:44:31.63 7rsY9P8g0 13/18


「そうだな…… 俺への迷惑料と、罰としてリクエストは無しだな」

「代わりに、俺の決めた誕生日プレゼントだ」

「別に……最初からそれで良かったけれど…… なに?」

「権利をひとつ」

「権利……?」

「どこかに連れていく権利」

「どこか、に」

「奏が行きたいところに。場合によっては時間もかかるだろうけど、この先、どこでも、どこであろうと」

「……街でも、国でも?」

「世界のどこへでも」

「ドームのステージでも」

「必ず、連れていこう」

14 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:45:56.32 7rsY9P8g0 14/18


「……」

「それって、ステージ以外を答えられる空気?」

「バレたか」

「野暮な人。そう言われたら、もう他に……」

「……Pさんの家、なんて言ってもいいのかしら?」

「ああ、いい」

「……ふぅん?」

「奏がそれを、本当に望むなら」

「そう」

「そうね」

「これ、答えるのはいつでもいいの?」

「ん? まぁ……期限は付けなくてもいいけど」

「それなら……」

「Pさんの家には、いずれ自力で行くとして」

「佐久間さんみたいなこと言うな……」

「どこかテーマパークとか、海外とかかしら」

「え、普通に行先選ぶのか」

「だって、どこでもいいんでしょう?」

「いや、うん、そう言ったけど…… ここはドームのステージにってところじゃ」

「そうね。でも、そっちは」

「あなたに着いていくだけで、叶いそうだから」

「……はは、これは一本取られたな」

「ふふ……」

15 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:48:32.33 7rsY9P8g0 15/18


「あ」

「うん?」

「この権利って、プロデューサーさんにも有効?」

「俺……ってどういうことだ?」

「あなたも一緒に来てくれるのかってこと」

「あー…… 連れていくっていうなら、俺も行くことになるのか」

「それなら…… この日に休みを取ってくれるかしら」

「えーと、平日か? 予定は……んー、調整はつくか」

「なに、どこに行きたいんだ?」

「私の学校」

「うん?」

「その日体育祭があるの」

16 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:50:25.75 7rsY9P8g0 16/18


「体育祭って……」

「ね。来てよ」

「保護者ですって顔できてくれれば大丈夫だから」

「そういうのは、親御さんが…… ……いや、そうか」

「でしょう。来ないもの、うちは」

「あなたでいい、なんて言わない」

「あなたに来てほしいの」

「体育祭で頑張る私を見てくれるだけでいい」

「ステージで見ているでしょう? いつもと同じよ」

「……そうか。わかった」

17 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/06/30 23:57:03.38 7rsY9P8g0 17/18


「でも、それだけでいいのか、本当に」

「ええ、もちろん。今日、無茶なことに付き合わせてしまったもの」

「迂闊なプレゼントなわりには、奥ゆかしいところを見せられたでしょう?」

「迂闊?」

「それはもう」

「そうだったか……?」

「だって」

「連れていくの、新婚旅行、なんて言わないだけよかったでしょう?」

「げ、げほっ、ごほっ……」

「ふふっ、ふふ」

「気を付けてね、Pさん」

(奏が人差し指をたてて)

「次同じ権利が来たら」

(そっと俺の唇に触れた)

「月の裏側、なんて言っちゃうから」





おわり


18 : ◆WO7BVrJPw2 - 2024/07/01 00:00:06.82 AXDvJ+KX0 18/18



お読み頂きありがとうございました。

奏、誕生日おめでとう!
[クリアブルーに誘われて]速水奏 を無事引けたので、
どうにか絡ませたくなって、書いている途中で軌道修正しました。



過去の奏SSです。よろしければどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
https://ayamevip.com/archives/53893754.html

速水奏「とびきりの、キスをあげる」
https://ayamevip.com/archives/53910133.html

速水奏「特別な、プレゼント」
https://ayamevip.com/archives/53955111.html

速水奏「今年のチョコが、渡せない」
https://ayamevip.com/archives/54316119.html

速水奏「恋愛映画は苦手」
https://ayamevip.com/archives/54605033.html

速水奏「月の丘の裏側まで」
https://ayamevip.com/archives/54783524.html

速水奏「ずるいひと」
https://ayamevip.com/archives/55568204.html

速水奏「練習はキスシーンの後で」
https://ayamevip.com/archives/55883848.html

速水奏は癒したい
https://ayamevip.com/archives/56334984.html

速水奏「眠り姫には口づけを」
https://ayamevip.com/archives/56782582.html

速水奏「私がなりたい、アイドル」
https://ayamevip.com/archives/57442211.html


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