1 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:39:01.37 fYPfd2cg0 1/14

・モバマス・高垣楓さんのSS
・超短い
・誕生日に間に合わなかった(前後半年は誤差)
・雰囲気オンリー

2 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:40:53.51 fYPfd2cg0 2/14



 私は、幸せです。
 私は、貴方に出会えて、幸せです。
 私の今は、貴方と歩み、色を帯びました。

 私は、しあわせ。



3 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:41:55.78 fYPfd2cg0 3/14




   ――シアワセってどんなだろう シアワセってどこにある
   ――きっとみつかるシアワセは きみのまわりの シアワセ



5 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:44:16.03 fYPfd2cg0 4/14


「Pさん?」

「ふぁい?」

 いつもの居酒屋で、Pさんと私と。いつものとおり杯を交わす。
 Pさんは肉じゃがの芋をほおばっていました。

「あ、ごめんなさい」

「いへいへ、ひょっひょあって……んぐ……あ、お待たせです」

「物入れたまましゃべるのは、めっ、ですよ……ふふっ」

 6月14日。特別な日に、特別なことは何もなく、ただこうして日々を過ごす。
 そんな、しあわせ。

「で、どうしたんです?」

「いえ。なーんか、いつもどおりで」

「それはまあ、楓さんのリクエストですから」

「それがいいなあって、思ってます」

「でも、なんでまたいつもの居酒屋って?」

「それは、ですね」

6 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:46:25.43 fYPfd2cg0 5/14


 今までどおりなら。
 きっとファンのみんなの祝福がいっぱいあって。アイドル仲間のお祝いをいっぱい受けて。
 そしてPさんは、きっとこの日のために特別な場所を用意して、私を祝ってくれる。
 それはとても幸せなことと、十分にわかってる。

 けれど。

「Pさんにプロデュースしていただいて、もう5年じゃないですか」

「ああ、もうそうなりますね」

「なんか、山あり谷ありでしたし」

「そうですか? 順調だと思いますけど」

「私すっかり『だじゃれ温泉お姉さん』から抜け出せなくなってますし」

「それは楓さんが望んでやったことでしょう? 僕はもっとこう、ミステリアスな雰囲気を売りにしたかったんですよ?」

「それは、えっと……なんか恥ずかしかったんで」

「もう路線変えられませんから。甘んじてその評価受けてくださいね」

「あ。しらたきうめぇ」

 Pさんはしらたき結びをつまみ。私はもう一杯日本酒を味わい、語る。

7 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:48:41.42 fYPfd2cg0 6/14


「毎年毎年、ファンの皆さんからたくさんの祝福をいただいて」

「そりゃあ楓さんの人徳でしょう」

「事務所のみんなからも、いっぱい祝われてるじゃないですか」

「みんな楓さんが好きなんですよ」

「……ですから、たまには」

「たまには?」

「なにもないのも、いいかな、って」

「なにもない、ですか……」

「ええ。なにもない、いつもどおりで」

「いつもどおりねえ……」

 なにもない。それがどんなに貴重でかけがえなのないことか。
 私もPさんも、知っている。

 Pさんは箸を止め、私を見つめた。そして。

「それもまた、楓さんらしいですね」

 そう言って笑った。

8 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:49:59.50 fYPfd2cg0 7/14


 そのとき「焼き物おまちー!」と声がかかり。
 ちょうどのタイミングで、焼き鳥が運ばれてくる。

「お、きたきた。さ、食べましょうか」

 Pさんは軟骨を手に取り、私に勧めた。

「よくおわかりですね」

「そりゃあ、ね。だてに長いお付き合いじゃないですから」

 今日もまたPさんと私と。いつもの飲み会が、続く。

 私たちアイドルはハレの化身。非日常に降り立ち、歌い舞う。
 それは、さながら祝祭。
 だから、こうして日常を運んでくれるPさんが、いとおしい。

「どうしてなにもないのが、いいんです?」

「んー。だって、日常ってとても大事じゃないですか?」

「ふーむ」

「私は、そんな気がするんです」

 それはたぶん、Pさんといるから。
 Pさんとの何気ないやりとりが、私の日常。

9 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:52:00.95 fYPfd2cg0 8/14


「Pさん」

「ん? なんです?」

「私、幸せですよ?」

「そっか。幸せですか」

 私とPさんは、手酌の酒を互いにあおる。

「そりゃあ、よかった」

「ええ。ほんとに」



10 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:53:07.58 fYPfd2cg0 9/14




   ――シアワセっていってると ほんとにシアワセになるんだね



11 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:54:51.72 fYPfd2cg0 10/14


「でも楓さん。こうしてるときよく『しあわせー』って、言ってますよね」

「そうですか?」

「ええ。てっきり口癖かと思ったこともあったんですよ」

「でも、決まってここで呑んでるときだけなんですね」

「まあ、そうでしたか」

『しあわせ』って言葉が、好き。声に出すだけで、温かい気持ちになれるから。
 ため息を吐くたびに、しあわせが逃げていくと言うけれど。
 声に出しても、しあわせは逃げない。

「だって、声に出せばほんとうに、しあわせって気持ちになれるじゃないですか」

「私も、Pさんも」

「……なるほど。ほんとですね。うん、僕もしあわせだ」

 ほら、ね。
 しあわせって言葉を口にするごとに、みんなにしあわせを、おすそ分け。

「Pさんにもおすすめしますね?」

「しあわせ、って、言うことですか?」

「ええ」

「そっか。うん、そうですね」

 時間が過ぎる。私たちはただいつもどおりに過ごし、語らい、笑う。

12 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:57:46.56 fYPfd2cg0 11/14


「楓さん」

「はい?」

「ほんと、僕はしあわせです。ありがとう」

「さっそくですか?」

「ええ。いいと思ったことは即実行です」

「ふふっ……いい心がけですね」

「そうですかね」

「そうですよ」

 そんななにもない時間に、ふと挟み込まれる隙間。

「でもほんとに、僕はしあわせですよ……楓さんが僕に、人生を預けてくれて」

「……」

13 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:58:39.29 fYPfd2cg0 12/14


「僕と一緒に、歩いてくれて」


  ――すてきなことば おぼえたよ


「結婚してくれて、感謝してます」


  ――それはね『シアワセ』



14 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 17:59:56.63 fYPfd2cg0 13/14


「……私のほうこそ」

「Pさんとともに生きていけること、とてもしあわせですよ」

 ファンのみんなの祝福があって。アイドル仲間の、事務所の祝福があって。
 私たちは『なにもない』普通の時間を、こうして穏やかに過ごしていける。

 それはかけがえのない、しあわせ。

「これからもこうして、なにもないしあわせ、感じていきましょう。ね」

「お願いしますね」

「はい。任させました」

 夜も更ける。私たちのささやかな宴は、続く。

「しあわせですか」

「ええ、しあわせですよ」

 6月14日の、とある場所で、とあるふたりのいつもの風景。


  ――それはね
  ――『シアワセ』



(おわり)

15 : ◆eBIiXi2191ZO - 2015/06/19 18:00:57.89 fYPfd2cg0 14/14


おわりです。
ラブストーリーが、好きです。

お読みいただき、ありがとうございます。では ノシ

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