1 : 以下、名... - 2020/05/13 18:11:48 m02YmRm. 1/168けいおん!!の放送から丁度10周年となったので、SSを投下させて頂きます。
キャラ崩壊にも程がありますが、それでも良い、という方のみ温かい目で見守っていてください。
律「これぐらい何とかなる」
律(いや、何とかしなきゃダメだよな)
律「なるようになる!」
律(もうこりごりだ)
律「…」
律「はぁ…自分を励ますのもう疲れた。自然に何とかならないもんかな~…」
律(いや、あたしが何とかしなきゃどうにもならないんだ)
律(周りが変わってくれるとか、そういう期待をしちゃ、田井中律という一人の人間としてもう終わりだ…)
律「あたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃあたしが頑張らなきゃ」
律(あ、もう12時か…さっさと寝よ…)
律(こんな頼りない人間が部長に立候補してごめんなさいそもそも頑張っても人並みになれないのに生きててごめんなさい……)グスッ
夢
「田井中さんっていちいち話に割り込んできてウザいよね」
「それ、笑顔のつもりかもしれないけどキモいよ…」
「うわっ、何か汗臭くない?これ田井中さんの臭いでしょ…」
「死んでもいいよね、ああいう人」
ジリリリリリ…
律「あぐっ……!!?」
律「…何だ、夢か…」
律「おっはよ~!」
澪「おはよ」
律「んん~?浮かない顔しちゃって~、何でもこの律お姉様に言ってごらんなさ~い??」
澪「朝から元気だなあ」
律「そーお?へへへ~!毎日バナナ食べてるからかな~っ♪」
澪「あはは、律らしいな」
律「今どこ見て言った!?ねえ!!」
澪「さあな」クスクス
律「む~…!まあ許す!」
律「さてさて、さっきの澪本当に悩んでそうに見えたんだけど…」
澪「うん…まあ後で言うよ」
律(正直こういうの面倒くさい……けど、澪に嫌われたくない…。友達はともかく、『親友』はもっと大切にしなきゃ……)
律「おう!ったく、澪ちゃんは悩み多き乙女ですなぁ~」ウリウリ
澪「べっ、別に乙女じゃないし…!」カアアッ
律「…で、どした?その悩みというのは」
澪「………私、さ…」
律「うん」
澪「後輩との関わり方、未だにわかんなくて…」
律「…あー、梓のこと?」
澪「うん……私、唯みたいに梓と親しくなれてないのかも…しれなくて……」
律「大丈夫、大丈夫!『ウブな梓は、憧れの先輩、澪に髪の毛一本触れられただけでもドキドキしちゃう…!だからなかなか近寄れないの…!』ってことだと思う!私的に!」
澪「き、傷つけてないかな………?」ウルウル
律(な、泣く!?ここ、笑うとこだと思ったんだけどなあ…どう励ませばいいのやら…)
律「だ、大丈夫だーって!!梓も『澪先輩とこんなに近い距離で関わることができて光栄です!今度こそは私から距離を縮めてやるです!』って思ってるはず…!」アセアセ
澪「………そうだと、いいな」
澪「いつもネガティブなことばっか言っちゃってごめん…」シュン…
律「いいっていいって!かわいい澪ちゃんの為なら、これぐらいお安い御用さ☆(イケボ)」
澪「ありがとう…りづうぅ!!」グスン
律「よーしよーし」ナデナデ
帰宅後
律「はぁ…」
律(今日、澪にちゃんと言葉返せたかな………)
律(もしかしなくても、今もあたしの言葉で傷ついてたりして………)
律(…やっぱり、人と関わるのは面倒だなー…)
律(正直もう、誰とも関わりたくない)ハァ…
律(けど、ちゃんと休日があるから大丈夫…!)
律(学校の外でも遊ぶ深い付き合いの友達なんて、澪以外ムギと唯ぐらいしかいないし…)
律「み~お~!」ガバッ
澪「律」
律「今日も寒いな~!せっかくなんで~、この優しい律さんが、あなたのカイロになってあげましょうかぁ~?」ニヤニヤ
澪(いかにも変質者だ…)
澪「何が『せっかくなんで』だ…こっちは頼んでないぞ」ハァ…
律「手だけじゃなくて、心も冷たいなあ。澪さんは」
ボカッ!
律「……はい、すいやせーん…」
唯「!」
唯「あ!澪ちゃんにりっちゃんだ~!」タタタ
律「お、唯か!おっはよ~!」
唯「おはよ~りっちゃん!澪ちゃん!」
澪「おはよう、唯」
律「ムギと梓もいれば放課後ティータイムが全員揃ったんだけどな」
唯「ハッ…!そうだよりっちゃん!今度二人も呼んで、皆で登校しよーよ!」
澪「私も賛成っ」
律(しまった…!その場しのぎの言葉だったけど……人数多いの苦手なんだよな~…けどあたし、部長だし…)
「じゃ、後で誘おうぜ~!」
唯「わーい!今から楽しみ~♪」ルンルン
放課後
律(もし昨日の夢みたいに、皆があたしの悪口で盛り上がってたらどうしよう…)ドッ…ドッ…
律(い、やいや!!あたし、部長だし…、皆をもっと信用しなきゃ)
律(大丈夫、大丈夫…………)プルプル…
ガラガラ…
律「よっ!」シャキッ
唯「りっちゃん…!」ダキッ
律「お~お~、寂しかったかい?子猫ちゃん」ナデナデ
澪「ホストかよ」
紬「うふふ♪」
律「…そういえば梓は?」
唯「あずにゃんなら風邪で休んでるって、憂から聞いたよ~」
律「そうか…、お大事にな、梓…!」ナムナム
澪「勝手に梓を極楽浄土させるな!」
紬「ケーキ持ってくるわね~♪」
唯「あずにゃん…」ナムナム
澪「唯まで…」
紬「じゃーん♪」
唯「わあ!今日も美味しそう~♪」
紬「因みに梓ちゃんの分は明日用意しておくから、遠慮せずに食べてね~」
唯・律「はーい!」
律(澪はきっと、梓が自分のせいで休んだと思い込んでしまうに違いない…)パクパク
律(部員…いや、それ以前に幼なじみであるからして、ここはあたしがどうにかしなきゃ………)ソワソワ
澪「さて、皆食べ終わったところだし、そろそろ練習しよう」
唯「えー!まだお腹いっぱいだから動けないよ~!」
律「そーだそーだー!」
澪「…梓にいいとこ見せるチャンスだと思って、今日は頑張ろうな」
唯・律「はぁ~い…」
~♪
紬「うーん…」
澪「全体的にまだまだだなぁ…」
紬「そうね…あと3ヶ月だしね…」
律「確かにこれはちょっと……」アハハ
唯「そ、そうだね……」ハハ
律(あ~~~~~~~~!!!!!)
律(何も上手くいかねえ!!!)
律(あたし、仮にも部長なのに、今日、誰よりも下手クソだった………)
律(色々考えすぎて、練習に身が入ってなかったのか…?)
律「もう疲れた…」
律「誰かに気を使いながら話すのも、空気を読まなきゃって思いながら誰かの為に限りある勇気を使って行動するのも、誰かに気を使って同調するのも、ふざけるのも、幼なじみのネガティブな話を何十分も聴くのも、出されたものは食べなきゃいけないからって食べたくないときまでケーキを食べるのも」
律「もう、無理だ……!」ドスッ
ガチャ
聡「…姉ちゃん、いい加減壁叩くの止めろ」
律「…ごめん」
律(壁叩くのがやめられるぐらいなら、あたしも聡や親に辛いことも相談できてる…!)
律(どうしたらいいの………)グスッ
律(…そういえば)
律(『リスカ』をすれば気持ちがスッキリするって、ゲーム中で誰か言ってたなぁ……)
律(けど、『リスカ』って何だ…?)カチカチッ
律「…」
『リスカとは、リストカットの略であり……』
『リストカットとは、手首を切ることであるが…………』
律(…なるほど、『リストカット』のことだったのか…)
律(しかも、手首を切るって……)ゾクッ…
律「痛そう、だなぁ…」ボソリ
律「やめとこ」
律(そんなことしてまでストレス解消しなくったって、あたしは平気!明日も皆を盛り上げてこーぜっ!おー!)
律(でもイライラが止まらん…いつものように『ドラムの練習』って誤魔化しながら壁叩きたい…………)
律「リストカット、かぁ……」ボソッ
律(怖いものみたさで、ホントに少ぉーしだけやってみようかな…)
律(とりあえず、カッターさえあればいいもんな)
律「…」ガサゴソ…
律(お~…、こわっ)ドキドキ
律(…にしても、カミソリのなんかでスパッと切れるもんなのか…?)
律(念の為、工具用のも持ってこよ……)
ガサッ
律「ふう…これでどうにか……ならないか、アハハ……」
律(さーてと、皆よりも一足お先に自傷行為を吟味しちゃいますか。なーんてな!)
シュッ…
律「…」
律(いてえ!クソ痛いよ何だこれ!!?そのくせ切れたようには見えないや…おのれカミソリ………)
律(えいっ)
シュッ…シュッ…
律「あ…」
律(同じとこ何度も切ってたら、赤黒い血が少し出てきた…)
律(けど既に手首がジンジンして………耐えられない……)
律(今日はこのぐらいにしておこう…)
律(どうしても怖くて、工具用には手を出せなかった…)
律(あ~…けどこれ、明日から隠し通せるかなぁ………)
律(夏はドラムのとき腕捲らないと、実力発揮しにくいというか…)
律(リスカしてる他の人達は、一体何で隠してるんだ……?)カチカチ…
律(絆創膏…リストバンド…)
律(絆創膏ずっと付けてると怪しいから、リストバンドでいっかぁ……)
ガチャッ
律「おーい聡、あたし買い物行ってくるから留守番頼む!」
聡「は~い…」ピコンピコン…ギュイイン
律「じゃーな」バタン
200円ショップ
律「う~ん…」
律(あんまり「これ!」といったデザインがないな…ま、リストバンド自体もう流行じゃないから仕方ないか…)ガサガサ…
律(ん?ギース・ムーン……?)
律(これだ!)
朝
律「よっ」
澪「おはよ」
律(良かった…気づかれてないっぽい?)
教室
律「よっ!」
唯「おは~!」
紬「おはよう~。りっちゃんそれって……」
律「さっすがムギ!よく気がついた!」
唯「おお~…!」ワクワク
律「このリストバンドには、ワタクシの憧れ『ギース・ムーン』のサインが刺繍されているのです…!」エッヘン
紬「まあ、格好いいわりっちゃん…!」キラキラ
唯「サイコーにイケてる~!ヒューヒュー!」
律「だろ~?唯!もっと盛り上げろ!」
(ムギ、本当に流石だわ…)
律「たっだいま~!」
律(いちいち人の話に感情移入しちゃうなんて、あたしって本当に面倒くさいな……)スタスタ
律(自殺しちゃえばこの生きづらさもなくなるけど……あたし絶対地獄行きそうだからそう簡単に死ねないや……あと、地縛霊もやだし…)バタンッ
律(これからはこれにお世話になりそうだ)
シュッ………シュッ……シュッ…シュッ……
律(血は出たな…)
律(もっと)
ジッ……ジッ…!
律(前よりは…深く切れたな。皮膚から黄色の凸凹がこんにちはしてらぁ……)
律(それに、前より赤黒い……って、血が止まる気配なし!!?と、とりあえず吐血しないと……!)ハワワワワ
律(…前と同じくティッシュでいいよな?)
フキフキ
律(ふ~…にしても、いつまで出続けるんだ?この血…)
律(夕飯前に止まらなかったらどうしよ………)ドッ………ドッ………
律母「ご飯よ~!降りてきなさーい!」
律(!?)
「はあい~」
律(どどどどうしよう!?)ドッ……ドッ……
律(早速これかよ!!?)ドッ…ドッ…
律(な、何か隠せる物………!)チラッ
律(!)
律(……あたしって、本当は天才かも?)フフン
バタン
律(ひゅ~……何とか誤魔化せたぁ………)
律(そろそろ湿布剥がそ…)ペリ…
律「ヒッ!?」
律「いだだだだだだだだだ!!!!」
ガチャ
聡「姉ちゃん大丈夫!?」
律「あ……はは………さっき言った通り、この怪我したとこが痛くってさ~……だから気にしないでよ」ハハ…
聡「ったく、相っ変わらずお騒がせだな……一応お大事に」
律「一応ってなんだ一応って!!」プンスカ
律「…」
澪「どうした?」
律「…」
澪「おーい…」ユサユサ…
律「…」
澪「これだけ反応ないってことは、きっと爆睡してるんだろうな…」
澪「…そうだ」
澪「…律がぼーっとしてるなんて、珍しいな~?」ニヤニヤ
ガバッ!!
律「ほぇ!?あ、あたしはぼーっとなんてしてないからな!!」
澪「あ、起きた」
律「え、えーと……?」アセアセ
澪「今は勉強中だぞ」
律「へ…?」パチクリ
澪「居眠りしたらもう忘れたのか?」クスッ
律「え、え?みおしゃ……。その居眠りと勉強会?って…何時(いつ)から………?」
澪「!?」
ガタッ
澪「おい、本当に記憶がないのか!?」ユサユサ
律「!!?…な、一体何の話だよ!?」
律(どうしたんだ澪のヤツ…てかさっきの質問に答えてくれ…)
澪「…はぁ。ということは、本当なんだな」
律「?」
澪「3時間前に起きたことを話すぞ」
律(そこまで遡るのか…)
澪「律が『期末近いし、今日から受験するまで澪に勉強教えてもらいたい~』って言ってたから律の家で勉強会することになったんだけど」
澪「それから2時間…後、律が数学解いてる内に急に『あ~~~!!もうダメだ~…あたしにゃぁこーゆー複雑なの向いてない……』って机に突っ伏し出してから、全く動こうとしなくてさ」
澪「それに私が気づいて、何十分も前からから起こそうとして、やっとさっき起きたところだ」
律「はは~ん?もしかしてだ・け・どぉ…、あたしが起きなかったこと、心配してくれたの~?」ニマニマ
澪「しっ、心配なんかしてないっ!」カアアッ…
律(わかりやすっ)
律「ふーん…?じゃあなんでかな~?」ニヤニヤ
澪「と、友達なんだから……、寝てたら起こすぐらい当たり前だろ………」ドキドキ
律「そっか~」ニヤニヤ
澪「な、何だよ…」
律「何でも♪」
律(澪は口調キツいときも少なくないけど、根は結構優しいんだよな…。ま、寝てた本当の理由言ったら幻滅されそうだけど)
律(リスカしてたら急に眠くなって、それで爆睡…なんて言えるわけないや)
律「ありがと、澪」
澪「ああ」
澪「…律」
律「ん?」
澪「さっきからずっと手を動かしてないじゃないか、本当にどうした?」
律(あ~…)
律「…澪がスパルタすぎたから、手が疲れちゃった~…のかも?」ハハハ
澪「おいおい、そんなんで受験勉強6時間できてるのか~?」
律「できてまへん!」テヘッ☆
澪「胸を張るな!」
律「お?無い胸を張るなって?」ゴゴゴ…
澪「ち、ちが…」
律「ほーん?澪しゃんの胸はこ~んなに大きくて羨ましいこと……」モミモミ
澪「揉むな!」ゴチン!
律「ピィ…」
澪「さ、勉強するぞ」
澪の帰宅後
律(起きてる間、血が乾いたか確かめた後、すぐ隠したからバレてないといいけど…)
律(…)モミモミ
律(はは、揉めるほどねーや…)
部室
唯「ハローエブリーワン!」
澪「よっ。あ、唯」
澪「丁度良かった、ちょっといいか…?」
唯「は~い……よいしょっ!」ボスッ
唯「澪ちゃんが私に相談なんて珍しいね、どうしたの?」
澪「言われてみるとそうかもな………最近の律、ぼーっとしてることが多くないか?」
唯「そう?」ポケーッ
澪「い、いや、私の気のせいかもしれないんだけどな……」
唯「ん~、普段りっちゃんの近くにいる澪ちゃんだからわかるのかもしれないよ?」
澪「確かにそれも…あるかもしれないな」
唯「それに、私が鈍感なのかもしれないし!」
澪「否定はしないぞ?」
ガチャ
律「よっ!」
唯「噂をすれば!」
律「ほ~う?『りっちゃんが美少女過ぎて直視できない!』って?」フフン…
澪「私達はもう受験近いし、ムギたちが来るまで勉強しよう」
唯「は~い…」シュン…
律「あれ?スルー?」
律「ああ~……集中力がもだないぃ…」
唯「わかる~…、ふあぁ…澪ちゃんは集中できて凄いね……」
澪「そうか?2人とも受験生なんだから、毎日最低6時間は勉強しないと志望校には受からないぞ」
律「流石休日10時間やってる人の助言だけあって説得力あるな…」
唯「わ、私未だに帰ったらすぐ寝ちゃうよぉ…」
律「実はあたしもなんだ…唯」
ガシッ!
唯・律「受験は運に任せた!」
澪「そこで意気投合してどうする!」
唯・律「てへーっ☆」
唯「でもでも~、見て見て!これ7月の河合での偏差値なんだけど、ここ10も上がったよ!!」
律「すげー!」
澪「ああ。唯は集中力さえあれば偏差値すぐ上がるから、このまま頑張れ」
唯「えへへ…そんなに誉めても何も出ないよ…」
律「何だ?誉められたかったんじゃないのかー?」
唯「そうだけど~、いざ誉められると照れちゃう!デレデレ!テレテレ!」
律「そんなにテレテレなら、今からテレテレ坊主にしてやろーかぁ、このこの~っ♪」ウリウリ
唯「そんなぁ~っ!りっちゃんのおでこの方がテレテレだよ~♪」ツンツン
律「誰がおでこ照る照る坊主やねん!」ビシッ
ギャハハハ
澪「同じ受験生として、何だか私も恥ずかしくなってきた…」
ワイワイガヤガヤ
ガチャ…
紬「おまたせ~、日直が長引いて遅れちゃったの…ごめんね」
律「いや、うちらも今来たとこやし、気にせんといてやじょー!」
唯「そのネタ古いね!」
澪「今日は梓見た?」
紬「さぁ…見なかったわ」
澪「まあその内来るだろう、練習す」
梓「遅れてすみませーん!」
バタン
唯「あずにゃ~ん!」ダキッ!!
梓「にゃっ!?」ビクッ!
唯「ざびじがっだよお」ズビッ…
梓「あはは…。すみません、短い風邪だったみたいで」
澪「あまり無理するなよ?」
梓「ありがとうございます…!」
澪「おーい、梓も揃ったことだし、練習始めるぞー」
律(風邪になる前から、梓の遅刻が増えた)
律(軽音部に嫌いなメンツがいるから?)
律(それとも体調の問題なのか?)
律(梓の場合、もし訊いたとしても「本当に何でもないので大丈夫です」って答えるだろうな…)
律(もしあたしのことが嫌いだったらどうしよう……)
律(…弱気になるな、あたし!)
律(明日、ダメ元で梓に訊いてみよう)
律「おーい!梓~」
梓「!?」ビクッ
梓「な、なんだ…律先輩でしたか……」
律「そう!あたしだよ~ん☆」
梓「てっきりそこらの不良かと…」ボソッ
律「あぁん?中野ォ……?」ジリジリ…
梓「すすすすみましぇん…」
梓「…で、どうしました?」
律「単刀直入に訊きたいことがある」
梓「はい…」
律「ここ最近、部活に1時間以上遅刻して来てるよな?」
律「何か悩みがあるなら、部長であるあたしや唯達に遠慮なく相談してくれ」
梓「…」
梓「悩み…というか……」
律「うん」
梓「…勿論、学祭も大事なんですけど、頑張っている先輩達の受験勉強の邪魔になりたくないとも思ってたんです…」
梓「……まだ、学際まで数ヶ月ありますし、今までみたく先輩達に練習を強いてしまったら…私のせいで先輩達が大学に落ちてしまうかもしれない」
梓「そう考えると、敢えて遅刻しよう、というよりは、どうしたらいいかわからなくなって……」
梓「部室へと運ぶ足が重くなっていって、気が付くとこんなに遅刻していました」
梓「でも、そのことで先輩達に心配をかけていたんですよね……?」
梓「それに関しては本当に申し訳ございません…!これからどう詫びればいいか……」
ナデナデ
梓「!」
律「梓はいい後輩だな…」
梓「ぜ、全然、そんなことない、です…」ウルウル
律「そうか?こんなに先輩思いな後輩、なかなかいないと思うぞー」
梓「…」グスッ
律「…あたし達はさ、梓がどれだけ練習に熱心でも、そのせいで大学落ちたなんて思わないよ」
律「受験の失敗なんて、後で話のネタになるから全然気にしないっていうか」
律「梓が放課後ティータイムで一緒に青春してくれた方が、絶対一生の思い出になって、あたし達ももっと幸せになれるよ」
律「正直、受験勉強もかったるくてね~…」ハハハ…
律「ま、とにかく息抜きが必要なのさ」
律「…だから、梓は何も気にしないでいてくれ」
梓「ほ、んとうに…いいんですか…?」グスッ
律「おう!」
梓「…律先輩」
梓「ありがとうございます…」ズズッ…
律「いいってことよ!さ、これで涙拭いて」
梓「ほんとうに、あひがとおごじゃぃまひゅう……」グスッ…ズビッ……
律(梓が風邪っていうのまで疑っている、あたしの方が謝らなきゃいけなかった…)
律(先輩思いな優しい後輩に、最低な先輩)
律(どう考えてもあたしは存在価値ナシ)
律(部長はともかく、ドラムなんて慣れれば他の方ができるんじゃないか?はは……)
スッ…
律(今日はもっと切らなきゃ)
ジッ……ジッ……
律(もっと)
ギリッ…!
律(…あれ?)
律(全然痛くない…!)
律(せっかくだし、もっとやろっかな)
ジッ……ギッ……
律(…)
律(結構奥まで切れた…)
律(前回より黄色いのがボコボコしてる…)
律(ここまでくると、どうやって処理するんだっけ…)カチカチ…
律(包帯、か)
律(家にはないや…もっと目立たないものがいいな)カチカチ…
律(…)
律(ま、処理してなくてもそのまま皮膚がくっついた人もいるし、今見たくリストバンドでもしとけば大丈夫だろ…)
律(しっかし、床にすげー垂れてるな…)
律(…)フキフキ…
律「!?」
律(いたた……!)
律(急に神経痛っぽいのがきた………)
律(……ああ、そうか)
律(あたしが梓に本心を隠してるから、これは罰なんだ)
律(梓、本当はあたし、誰よりも執念深い人間だよ…)
律(こう見えても、あたしは部長だ。それらしいことさえまともにできていないが)
律(だから、せめてもの罪滅ぼしにと、メンタルケアぐらいは部長らしくやっている…つもり)
律(澪たちの話に感情移入しすぎて自分が保てなくなりそうだけど、あたしは明るいキャラでいなきゃ、と呪文を唱えることで、何とかやってきている)
律(本当は何にも向いてない)
律(演奏も誰よりも下手。飲み込みの早い唯ならまだしも、同じブランクの澪にすら、現に圧倒的な差をつけられている)
律(早くしなきゃと思うと、自分で制御できなくなってしまうからだ)
律(要するに、感情からその他諸々に関するものの制御ができないってことだ)
律(澪もそういうのは下手だと思うけど、あたしも表に出してないだけで、ずっと心にモヤを抱えている)
律(受験勉強すらもそういったものに押しつぶされて、まともに3時間もやってられない)
律(あたしがただの自己中で根暗KYな奴だって知られたら、皆に距離置かれちゃうかな…)
律(ごめんね、皆。とにかく明るく振る舞ってないと、皆の言葉に振り回されちゃいそうなんだ)
律(だからあたしは、明日も繊細な部分は見せないように頑張るよ)
授業中
律(ねむ…)ウトウト…
律(でも、テスト近いし………)
律(起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ起きなきゃ駄目だ)カキカキ…
律(………)バタッ
ざわ…ざわ…
左隣の席の子「!?」
左隣の席の子(律……!!?た、体調悪いのかな……?)
先生「えー…、ここにαを代入して……」
左隣の席の子「先生!!田井中さんが倒れてます!」
先生(あ、あの田井中が…!?嘘だろ!!?)
先生「あ…あなたはまず、田井中の姿勢を仰向けにしてあげて」
先生「そして保健委員の人!私も手伝うから一緒に田井中を保健室に運んでくれ」
先生「できればあと一人ぐらいに手伝ってほしいところだが…」
唯「はいっ!私が行きます!」
先生「じゃあ、平沢も宜しく頼む」
唯「はい!!」フンスッ!
唯(りっちゃんどうしたのかな…?大丈夫かな……?)
教室
「田井中さん、大丈夫かな…」
「今日は嵐が起こりそう!」
「不謹慎だよっ」
「律が倒れたこと、今まであった…?」
「ないない。一体何があったんだろ……?」
保健室
律(…)
律(ここは…)チラッ
唯「あ!りっちゃんが目開いた!」
律(ゆ……い)
養護教諭「平沢さん、お静かに…」シーッ
唯「はーい…」エヘヘ…
唯「ところでりっちゃん、体調大丈夫…?」
律「………た、い調…?」
唯「うん…、授業中急に隣の席の子の膝に倒れてきたって聞いたの」
律「そうだったのか……。あの子に後でお詫びしないとな~っ」
唯「りっちゃん、まだ授業あるけど大丈夫?6限受けれそう?」
律「だ、大丈夫だぜっ!体調ならこの通り、もうピンピンだっ」
唯「嘘」
律「へ…?」
唯「さっきまで口開けるのがやっとだったのに、そんなすぐに調子が戻るわけないよ……。ねえりっちゃん」
唯「無理してるでしょ」
律「…」
律(言えない、言える訳ない…)
律「な~に言ってんだよ~唯っ、あたしはいつもこんな感じだろ?」ヘラヘラ…
律(ごめん、唯)
律「あたしの生命力を見くびられちゃあ困る!」フフンッ
唯「そっか~、でも私は無理してると思う。りっちゃんが気づいてないだけで」
律(気づいてるよ…)
唯「中間テストと受験、それに学祭。こんなにあるとストレス溜まるよね~。私も夜遅くまで悩むことあるけど、憂に相談すると心がすっと軽くなるんだ~」
律(…自慢かよ)
唯「だから、りっちゃんにも今以上に悩みを話せる人ができたらいいなって!澪ちゃんみたいな!」
唯「澪ちゃんなら悩み聴いてくれそうだと思うんだけどな~…。あとムギちゃんもいいと思うよ!私は…大したこと言えないけど…」アハハ…
律(唯には何でもわかり合える仲に見えるんだろうな…。でも実際には、澪にすら…伝えられないことだらけなんだよ………!)ギュッ…
唯「あれ?りっちゃん?」
律「悪い、先戻っててくれ……。今は一人になりたい気分なんだ」
唯「え」
唯「でも…その………」
律「?」
唯「な、ぬぁんでもない!りっちゃんお大事にね~!」
唯「ではでは!失礼しましたっ」ガララ…バタンッ!
唯(私、変なこと言っちゃった?それともりっちゃんの気に障るようなこと言っちゃったのかな…)スタスタ…
唯(絶対あれ怒ってたよね……)
唯(私がりっちゃんをここまで怒らせちゃったの、多分初めてだと思う…)タッタッタッタッ
唯(明日からどんな顔でりっちゃんに会えばいいんだろ……!?)ハア…ハア…
律(どうしよ…)
律(唯、明らかに動揺してた)ゴロ…
律(明るくしてなきゃ離れられちゃうのに……、これじゃあただのKYに成り下がっちゃうじゃんか)
律(あ………)
律(こうやって自分のことばっか可愛がってるからあたしは駄目人間なんだ)
律(まずは唯と向き合おう…。そんなことで許されるとは思えないけど……いや、許されなくてもいい)
律(あたし、部長だし)
律(唯の心の不安を取り除くのも義務だ)
律「おっはよ~!」
澪「おはよ…あれ?唯は?」
律「ん~、どうしたんだろうな?」
澪「最近はこの時間には和に勉強を教えてもらってるはず…となると…」
澪「唯のことだし、遅刻ギリギリに来るか風邪だと思うけど」
律(あ…昨日のことバレてなさそう……)ホッ…
律「あたしはその二択に100万賭ける!」
律(唯が休んだ時点で大方私のせいだと思うけどな…)
紬「二人ともおはよう~」
律「おう!おっはよ~!」
澪「ムギ、おはよう」
紬「藪から棒なんだけれど、唯ちゃん、今日体調悪いらしいの。このメールを見て」
律「ほほ~う、どれどれ…?」
律・澪 ジー…
『今日は体調が悪いから部活行かないって、りっちゃんに伝えといてm(_ _)m』
律(あ……、あ…………!)プルプル…
澪「それぐらい直接律にメールすればいいだろ?何でムギに…」
律「そ、そうそう!なんだよ~、唯のヤツ。私とはただの遊びだったの!?なんつって……」ハハハ…
紬「…実は、そのことなんだけど…」
紬「唯ちゃん、昨日保健室から出て教室に戻った後、涙目だったの」
紬「だからね…もしかしたらの話だけど、唯ちゃんのこと……何か知らない?」
紬「りっちゃん」
澪「え?律……」
律(澪もいるし…もう逃げ場はない)
律「………落ち着いて聴いてほしい」
律「昨日、保健室で唯に体調のこと訊かれたんだけど、あたし…寝起きだったからかイライラしちゃって。今考えると、唯に八つ当たりしちゃってたのかもしれない……」
律(話の内容についてはほぼ触れてないけど、あながち間違いではないはずだ…)プルプルプルプル…
紬「そうだったの…。じゃあ後でちゃんと謝りましょ。唯ちゃんならきっと許してくれるわ」
澪「ああ。だからそんなに震えなくて大丈夫だって、律」
律「へ………?」プルプルプルプル…
律(あたし、今震えてるのか………そっか…)プルプルプル…
律「あ~、あたしも今、風邪かもなあ~?」ヘラヘラ…
澪「おい…それは流石に不謹慎だぞ。まだ唯は風邪と決まった訳じゃな……」
~♪
澪「もうSHR前なのに…って、唯か…」
律(唯………ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?)ガタガタガタ……
律(頭がおかしくなるおかしくなるおかしくおかしくなるおかしくおかしくなるおかしくおかしくなるおかしくなる!!!!!もう何も聴きたくない!!!何も見たくない!!!!!!できることなら、今すぐこの場から消え去りたい!!!!!!!!!)ガタガタ……
『今日はお腹痛いの良くなったら学校行くってさわちゃんに伝えてくれる?💦』
紬「…唯ちゃん、何て?」コソッ
澪「ああ…腹痛で学校にいつから行けるかわからないそうだ」
紬「そう…。大丈夫かしら、唯ちゃん……」
澪「唯なら大丈夫だよ、きっと…」
律「…」
キーンコーンカーンコーン
律(やっぱり、あたしのことを避けてる)
日直「起立!」
スタッ
律(懐かしいな…唯と遊んでた頃が)
日直「礼!」
ペコッ
律(…)チラッ
律(あの空の中に消えたいな……)
律(本当にただの腹痛だったらお見舞いに行く必要はないけど、今日ばかりはとりあえず行ってみよっかな…)
澪「律…何もそんなに落ち込むことないだろ…」
律「だって、まさか唯が腹痛で休むなんて……」
澪「その気持ちはわかるぞ。でも、律がそんなんだと唯まで辛くなるだけだ」
律(わかってるよ…)
澪「…律はそのままでいいんだよ」
律(そのまま、か…)
律(あたしですらあたしのことなんかこれっぽっちもわかっちゃいないから、よくわからないや………)
律(それに……澪が言ってるのは、明るい私のことだよな…)
律「ああ……」
澪「私もお見舞い行くよ」
律「…」
律「え?」
澪「律、このまま唯の家に行くとこだったんだろ?」
律「ど……うし…て」
澪「何年の付き合いだと思ってるんだよ」フフフッ
律(……澪の、こういうところがあたしを安心させる)
律「…澪っ!」
ピンポーン…
律「こんばんはー。平沢唯さんのお見舞いに来ました、田井中と秋山と申します~」
憂「あっ、は~い!」
ガチャッ
憂「律さんに澪さん、こんばんは~。こんな寒い中来てくださって、本当にありがとうございます」ペコリ
律「いやいやぁ、それほどでもぉ~?」
澪(どこのK市のキャラだよ…)
澪「こちらこそ、寒い中わざわざ出迎えてくれてありがとう。今日はすぐ帰るから、あまり迷惑にならないつもりだよ」
憂「そうですか…。お姉ちゃんも暫く澪さん達がいた方が喜ぶと思ったんですが……残念です。ではまた今度、宜しくお願いします」ニコッ
律「ううっ…よくできた子じゃあ……。此方こそ宜しくお願いします…」
澪(どこから目線だよ、とも思ったけど、私も同じこと思ってたから突っ込まないでおこう…)
澪「私からも宜しくね。ありがとう、憂ちゃん」ニコッ…
憂「いえいえ、そんな………あっ!玄関で長話させちゃってすみません!どうぞ中へ…」カアア…
律「大丈夫!それぐらいお茶の子さいさいだ!そんじゃ、お言葉に甘えてお邪魔しまーす」
澪「お邪魔します…」
律(流れのままに行かなきゃ、とてもじゃないけど唯と顔合わせられないよ………)
コンコン
律「お待たせしました唯隊員!りっちゃん隊員と澪隊員のお出ましです!」
唯「へ…?」
ガチャッ
澪「ちょっ、律……!いいのか?唯の許可なく勝手に入って…」
律「こうでもしなきゃ入れてくれないと思ってさ」ボソッ
律「お邪魔しま~す」
澪「お邪魔します……」
唯「やあやあ…ようこそ平沢家へ…」エヘヘ…
澪「唯、体調は大丈夫か?」
唯(実は初めて仮病使っちゃったんだけどね…)
唯「う、うん!大分良くなってきたよ~……。ありがとう、澪ちゃん」
澪「うん」
律(今だ…!)
律「…あのさ、昨日はごめん」
唯(ああどうしよう…隣に澪ちゃんいるからりっちゃんが怒ってたのか聞きづらいよ……)
唯「…大丈夫!ノープロブレムってとこだよ!」
律「そうか、ならいいんだけど…。唯、あたしが怒ってると思った?」
唯「!」
律「こんな状況じゃ言いづらいよな…。澪、一旦出て。また呼ぶから」
澪「…ああ」
バタンッ
唯「あ…」
律「大丈夫、今のあたしは何聞いても怒らないよ」
唯「ほほ、ほんとに…?」
律「ん。何でも言ってみ」
唯「………怒ってると思ったよ」
律「やっぱり?」ハハ…
唯「そうだよ…、だって私が話してるとき、いつもみたいに笑ってなかった。怖い顔してたよ、りっちゃん」
律(あれでも笑ってたつもりだったんだけどな……やっぱ唯は人の感情を見抜くのが上手いな)
律「あー…あたしさ」
律「唯に憂ちゃんみたいに何でも相談できる人がいるの、すっごく羨ましかったんだ」
律「だから、その話を聞き続けたら唯に嫉妬しちゃいそうで、あたしは唯を遠ざけた」
律「こんなくだらないことで唯を傷つけちゃって本当にごめん………!謝っても謝りきれないけど……」
唯「…そうだったんだ。私こそ無神経に一方的な話続けちゃってごめんね……」
律「いいよ、もう気にしてないから。さ、顔上げて上げて!」
唯「りっちゃん…!」ウルウル
律「唯ぃ…!」ウルウル
唯・律「うわあああん!!」
澪「…やれやれ」
律「今日は唯に会えて良かった~!これでまた唯とたっくさん遊べるぞ~!」
澪「ああ、良かったな。けど…本当に体調大丈夫かな…」
律「それなら心配はいらない!実はあの後、唯が『あれは仮病だったんだ~。心配かけちゃってごめんね』って、こっそり言ってたんだぞ~♪」
澪「ええっ!?」
澪(わ、私だけ仲間外れ…みたいじゃないか…)ガーン
律「なーんてな!その後に『澪ちゃんとムギちゃんには直接謝りたい』って言ってたぞ~」
澪「…それって今言っていいのか?」
律「あ~…確か『澪ちゃんとムギちゃんにはまだ言わないでね!』とも言われたような……?」アハハ…
澪「り~~つ~~~~!?」
律「ヒャイッ!!?」
ボコッ!
澪「全く…お前はそろそろ口が軽いのを治した方がいいぞ」
律「……すみません…」
律(デンジャラス・クイーンの名は伊達じゃないな…いででで……)
唯(りっちゃんは……)
唯(何も考えてないように見えて、結構鋭いとこあるし、強引だけど優しい……)
唯(えへへ…またりっちゃんとお話できるんだ……)
唯(今度こそはりっちゃんを無理させないようにしよう!)
唯(……と思いたいんだけど…、本人が自分だけで抱え込んじゃうから難しいとこだよね~)
チラッ
唯(あ!もうこんな時間!?澪ちゃんとムギちゃんにメールしなきゃ…!!)アワアワ…
律(あたしって、トラブルメーカーすぎだろ……)
律(今までも物忘れが酷すぎてよく怒られてたし、些細なことであたしがすぐ腹立てて喧嘩になる)
律(自分で撒いた種だけど、日々の心労が凄いや…)
律(しかも澪やムギにあたしの震えてるとことかおかしな言動とか見られたり聞かれたりしたし、明日からどうやって学校行けばいいのかわかんないよ…)
律(澪もそうだけど、特にムギ、唯のこと凄い心配してたよな…)
律(ムギにも謝ろう……)
律(そしてあたしは断罪の為に)
シュッ…シュッ…シュッ…
律(あ~…だんだん痛みが気持ち良くなってきたぁ)
律(骨の近くまで切ったらどうなるんだろ?あへは)
ジジジ……シッ…シュッ……
律(まだまだだな、瘡蓋が思った以上に固くて、血も殆ど出ねえ…)
律(もっとデカいカッターにしよっかな)
ガサゴソ…
律(あった~!)
律「よぉし…!」
律(このカッターは初めてだから、ゆっくり当てながら切ろう…)
シッ……シッ……
律(これだけなのに滅茶苦茶いてえな!!?)
律(……待てよ、逆に素早く切った方が、もっと血も出るし痛くないんじゃないか…?)
シュッ!シュッ!
律(いだだだだだああぃだだだたたたたああああ!!!?!??!!!)
律(ひぃ、ヒリヒリが酷い………)
律(結局黄色の断片が見えただけだったけど、あたしは一応満足した)
律(…あたし、ドMなのかな?)
律(まー澪の方がいじり甲斐はありそうだけどね~)
夢
澪「おい、何が断罪だよ」
唯「りっちゃんって、本っ当に自分のことしか考えられないよね~」
紬「自分が気持ち良くなるためだけに、手首を切ってるんでしょう?」
梓「あーあ。そんなんじゃドラムもできなくなるのに」
澪「お前は本当に駄目な奴だよ」
梓「能無しにも程がありますね」
律「あ………」ビクビク…
唯「も~、やめてあげなよ二人とも。いくらりっちゃんだって、それぐらいは自覚してると思うよ?」
澪「そうだよな。じゃあこれからは、身の程を弁えて雑用係になってくれないか?」
紬「いいわね、雑用係!私、人に雑用を押し付けるのが夢だったの~♪」
梓「確かに律先輩は部長らしいこと今まで何もしてこなかったので、私も賛成です」
唯「よ~し!それじゃあ早速雑用係の任命式を始めま~す!」
澪・紬・梓「…」パチパチパチ…
律「やだっ…や……めてく」プルプル……
唯「まずは私だよっ!えーいっ!!」
ベシッ!!
律(!?)
ガッシャーン!!!
唯「あ~あ。それ、ムギちゃんのお皿なんだよ?」
紬「りっちゃんなんかがいくらで弁償できるの?」
澪「そうだぞ、律。いい加減にしろよ。次は私な」
ガッ!!!
ガバッ!
律「あ………っ!!」
律「……何だ、夢か」
律(さっさと起きてご飯食べよ)
律(…ん?まだ5時?)
律(早く起きちゃったんだ………)
律(今までこんなこと、なかったはず…なのに)
澪「よ、律」
律「…」スタスタ
澪「律…?」
律「…」スタスタ…
澪「…」スタスタ…
教室
ガララッ…
律「…」スタスタ…
「律、おはよー!」
律「っはよー!」
律「…」スタスタ…
唯「りっちゃん隊員、おはようございます!…にしても、今日は一段とお早い時間に……」
律「…」ガタッ
唯「ど……うしたの、りっちゃん………」
唯「あ、澪ちゃんおはよ~!」
澪「ああ、唯か。おはよう」
唯「もうっ!他に誰がいるというのさ!」プンプンッ
澪「ムギ?」
唯「あ…それもそうでしたん…」エヘヘ…
唯「澪ちゃん、実は昨日は仮病でした。心配をおかけしたこと、申し訳ございませんっ!!」ペコッ
澪(デジャヴ…)
澪「私もたまに仮病使いたくなるし、気にしなくていいよ。それより、律と仲直りできたみたいで良かったな」
タタッ
唯「澪ちゃん澪ちゃん」ボソッ
澪「何?」ボソッ
唯「そのことで話があるんだけど、支度終わったらすぐ、空き教室に来てくれない?」ボソボソ…
澪「あ、ああ…わかった」ボソッ
澪(もしかして唯も…)
紬「皆、おはよ~」
唯「ムギちゃんおはよ~っ!」
澪「おはよ、ムギ」
紬「そうそう、唯ちゃん、体調は良くなった?」
唯「あのぉ…そのことなんだけど…」
唯「実は仮病でした!心配をおかけしたこと、誠に申し訳ございませんっ!!」ペコッ
澪(ムギが本物のお嬢様だからか、私に対してよりも丁寧な敬語使ってる…)
紬「…そうだったの。別に1日ぐらいなら謝らなくても大丈夫よ」
紬「3日以上なら怒るけどね」
澪「仏の顔も三度まで、ってことだな」
唯(ムギちゃん、笑顔なんだけど、底知れぬ圧力を感じる…)
唯「わわわわかった…3日以上はやらないようにするよ…」
唯「…澪ちゃんもムギちゃんも……本当にありがどお…」ウルウル
澪「これこれ、泣くな泣くな…」ポンポン
紬「んふふ…♪そういえば今日は、唯ちゃんに澪ちゃんって組み合わせね。意外とありそうで少ない…斬新…♪」
唯「そうかな?」キョトン
澪「た、多分ムギの世界観での話だ…。気にするな」
唯「あはは…ムギちゃんったら…」
紬「……あら、私ったら…。また自分の世界に入ってたみたいでごめんなさい…」
澪「だ、大丈夫…」
澪(あと、もう慣れたし…)
唯「うんうん!」
紬「それなら良かった…」
唯「えへ…」
紬「あら?りっちゃんが……」スタスタ…
唯・澪(あ…!)
唯(ムギちゃんがりっちゃんに…)アワワ…
紬「おはよ~、りっちゃん」
律「…」
紬(聞こえなかったのよね…?)
紬「りっちゃん!お、おはよう…!」
律「…」
紬(…ぼーっとしてるだけ、よね??)
紬「りっちゃ~ん…」オテテフリフリ
律「…」
紬(ええ…?私、りっちゃんに無視されちゃったの…?)ガーン…
紬(何か気に障るようなこと言っちゃったかしら…)
紬(…あれ?澪ちゃんと唯ちゃんは…?)キョロキョロ…
空き教室
唯「実は朝、りっちゃんに挨拶したんだけど無視されちゃって…」
澪「こんなときに使いたくないが…奇遇だな。私もだ」
唯「澪ちゃんもか~。じゃあムギちゃんも今、無視されちゃってるのかな…」
澪「そうかもな…」
唯「ムギちゃんに何も言わずに来ちゃったけど、いいのかな…?」
澪(私も断りを入れるの忘れてた…)
澪「ま、まぁ、ムギなら大丈夫だろう…、多分…」
唯「ムギちゃんなら何とかしてくれそうだよね…、多分…」
唯「……りっちゃん、もしかして本当は、昨日のこと怒ってるのかな…?」
澪「いや、律に限ってそんなことは…」
唯「そ、そうだよ、ね……」
唯「澪ちゃんは何か思い当たることない?」
澪「いや……私もないな」
唯「どうしたんだろうね、りっちゃん…」
澪「…」
律「…」
ガチャッ
律「…」
澪「律…」
澪「どうしたんだよ」
律「…」ストンッ
澪「…」
律「……ぁ」
澪「!」ビクッ
律「…」
澪「…」
澪「り、律……」
澪「私たち、何かした…?」
律「…」
律「覚えてないのか」ボソッ
澪「え…?」
律「…」イライラ
澪(何のことだか教えてくれたっていいだろ…馬鹿律)イライラ
澪(こういうとき、どうしたらいいの!?助けて唯!ムギ!梓あぁ……)
律「…」
澪「な、あ…」
律「…」ギロッ
澪「ヒッ!?な、何でもないっっ!!!」ビクビク…
律「…」イライラ
澪「わ、私はこれで帰るから…」
澪「またな、律………」
バタンッ
律「…」
澪「はあっ、はーっ…!」
唯「あ!澪ちゃん」
紬「そんなに急いでどうしたの…?」
澪「さささささささっき…」
紬「そう…そんなことが…」
唯「りっちゃん…」
澪「縁切られちゃうかな………」ウルウル…
紬「でも、りっちゃんに何かした訳じゃないでしょ?」
澪「それは…そうだけど…」
紬「なら大丈夫よ。今までも私たちはすぐに仲直りしてきたじゃない…」
澪「ムギぃ…」ウルウル…
紬「よーしよーし…」ナデナデ
紬「今朝のりっちゃん、心なしか目が濁ってたように感じたの」
唯「言われてみれば確かにそうかも…」
紬「…やっぱり、そう感じたのは私だけじゃなかったみたいね」
紬「今のりっちゃんは…まるで一匹狼のよう」
紬「あえて周りを突き放しているのかもしれないわね」
澪「でも…何で……」
紬「…ここからはあくまでも私の予想に過ぎないんだけど…」
紬「りっちゃんね、多分、悪夢を見たんだと思うの。しかも、私たちに虐げられるような」
澪「あの律が…!?」
紬「そう。もしかしたら、の話だけどね」
唯「りっちゃんが心にダメージを受けるような夢って、どれだけ酷い夢なのかな…?」ゾクッ
紬「いいところに気づいたわね、唯ちゃん…。そんな計り知れない程の残虐な夢を、りっちゃんは現実と思い込んでいるのかもしれない…」
唯「そんな……」
澪「解決策はあるのか?」
紬「それはまだわからないわ…。でも、澪ちゃんや唯ちゃんが気に病むことはないから、安心して?」
澪「…っ、でも……!」
紬「暫くはそっとしておきましょう……。様子を見に行こうと家に行ったりすると、下手な刺激になりかねないわ」
澪「刺激…」
紬「りっちゃんがパニック状態に陥ることよ。人間はパニック状態になると、自殺してしまうこともあるのよ」
澪「そんな……」
唯(ムギちゃん、詳しいなぁ…)
唯「じゃあ、部活は…」
紬「勿論、停止よ」
澪「律が復活するまで?」
紬「ええ。私達で先生にも許可を貰いに行きましょう」
唯「………もしりっちゃんが学祭までに出なかったら、私達どうすればいいんだろう………」
紬「唯ちゃん……そんな先のことは後で考えましょ?まず、りっちゃんのことを一番優先しなきゃいけないわ」
唯「うん…」
澪(あれから、律は私達のことを認識していないかのように振る舞っていた)
澪(クラスメートは一瞬戸惑ってたけど、律のことだから、すぐ別のグループに溶け込めたみたい)
澪(私含めたこの3人でも十分楽しいけど、あと一人、お気楽思考だけど、周囲に気を配れるようなヤツがいれば……もっと楽しいんだろうな)
唯「澪ちゃん、どうかした?」
澪「んええ!?」ビクッ!
紬「さっきからずっと上の空だったけど…」
澪「そ、そっか……。別に、何でもないよ…」
唯(…澪ちゃん、本当はりっちゃんがいなくて寂しいんだよね……?)
紬(澪ちゃん…)
澪(何週間か前、梓に部活停止の理由を説明したら、凄く驚いてた。そりゃあそうだよな…)
澪(『律先輩…どうしちゃったんですか?このまま私達のこと、嫌いになっちゃうんですか!?』)
澪(梓の声は、今にも泣き出しそうな声だった。唯は震える梓を黙って抱きしめ、慰めていた)
澪(私たちは…何だかんだ言っても、律がいないと活動できないんだ)
澪(それを身を持って教えてくれて、ありがとう)
澪(…でも、もういいだろ。早く帰ってこいよ…!)
澪(馬鹿律…!)グスッ
モブ「律~、また明日ね~!」
律「おう!じゃーなっ!!」
スタスタ…
律(はは…)
律(何故かコーヒー飲みたい気分になってきた…)
ピロリロリロ♪
紬「いらっしゃいませ~♪」
紬(あ…れは)
律「…」
律(今のって、ムギの声だよな…?)
律(…でも、もういいんだ)スッ…
律「…」
紬「こちらへどうぞー」
律「…お願いします」ゴトッ
紬「…」ピッ
紬「お会計、172円です」
律「…」ジャラ…
紬「えーと…、172円丁度お預かりします」
チャラーン
紬「レシートはお付けしますか?」
律「いえ、大丈夫です…」
紬「畏まりました。レジ袋はお付けしますか?」
律「いえ、大丈夫です」ゴッ
紬「ありがとうございました~♪」
ピロリロリロ♪
店員「紬ちゃん、お疲れ~」
紬「ありがとうございます、店員さんもお疲れ様です~」
店員「ありがとう紬ちゃん。じゃ、また来週宜しくね~」
紬「了解です、ではまた…」
店員「はーい。紬ちゃんかわいいから、夜道には気をつけるんだよ~」
紬「いえいえそんな…毎日迎え来てるので大丈夫ですよ。店員さんこそ気をつけて帰ってくださいねっ」
紬(りっちゃん…!)タッタッタッタッ…
紬(迎えは今日は来ないように言った。今すぐりっちゃんに会わなきゃいけない気がして…)ハアッ、ハアッ…
紬(それにしても、あのコンビニにいるとは思わなかったわ……)ハア…!ハアッ…!
紬(きっと、家族か友達と遊んでいたに違いないわね…)ハアッ…ハアッ
紬(……ところで、ここら辺に公園なんてあったかしら……?)ゼーッ、ゼーッ…
律「プハーッ!!!やっぱブラックは最高だわ!って、にっが!!!」ブーッ!
紬(あ…あんなとこに…)サッ…
律「もう何も怖くない!」
紬(!?)
律「全ては自分の保身の為!!そんなあたしが手にしたのは…」
律「あ…あれ………大切な…思い出と…………それとあと……」
律「もうわかんないや!だからわかんない!!とにかく明日死んでもいい!アハーッ!!?」
紬(…りっちゃん、こんな性格だったっけ……?)
ガサッ!!
紬「…こんな遅くに空き地で大声出してたら、近所迷惑よ?りっちゃん」
律(………ムギ……何で………)ビクビク…
律「…………んんんんんん~~~~!!!!????びゃあああああはっはっはっ!!!!!!カフェインどぶどぶリスカだのじいぃ~~~~~~!!!!う゛ぷっ!ぎもつぃいいぃぃッッッ!!!!!!」ハアッ…!ハアッ…!
紬「やめて!!!血がいっぱい出てるわ……!とにかく、今手首を切るのはやめて!!!!!」ガシッ!!!
律「むごの俺をッッ!!?止められるヤヅァ!!どこぬぃもいなぁいッッッッ!!!!!!熱く燃え上がるッ!!!?血いいいいいいいいいいい!!!!!!!????ンゲエエエェエボッ!!!!エボッ!!!!!!!!」バタバタ!!
ピピピ…ピッ
紬「…もしもし、警察ですか?」
病院
パチッ…
さわ子「……りっちゃん、気がついた?」
律「…」
さわ子「ここは…精神病院よ」
律「あ………、たしが………!!?何で……!」ビクビク…
さわ子「そりゃあ私もびっくりしたわよ。まさかりっちゃんが精神病院になんて……」
さわ子「確か……、ムギちゃんによると、一昨日の21時頃だったかしら?貴方が空き地でリストカットをしながら騒いでいるのを見たから、ムギちゃんが貴方を取り押さえながら警察に通報したらしくて、その後警察から精神病院に身柄が引き渡されたのよ…」
さわ子「何があったのか詳しくは知らないけど、ここのところ様子がおかしかったのもあって、りっちゃんはここで3ヶ月入院することになったわ」
律(そんな淡々と告げられても、とても信じられないな…)
律「まさか、あたしが外でリストカットするような人間だったなんてな……」アハハ…
律(しかも大騒ぎしてたなんて…)
さわ子「………やっぱり、あの夜の記憶はないのね」
律「…はい」
さわ子「病院生活は不自由な面も多いし、それで逆に精神状態が悪化することも少なくはないわ」
さわ子「でもね、私含めて軽音部の皆は……りっちゃんがこの試練を乗り越えられると信じてるから、頑張ってね!りっちゃん!」グッ!
律「…ありがと、さわちゃん!それに皆…!」
律「あたし、これもあって、皆に迷惑かけまくっちゃったから…今まで通りに戻って、皆に恩返ししなきゃ。だから頑張るよ」グッ
さわ子「そうそう、その意気よ!りっちゃん!…けど、焦りは禁物よ?本当に無理しないでね?」
律「はーい、気をつけますっ!またね、さわ…」
律「…あ!さわちゃん!そういやあたし、学校は…」
さわ子「…」
さわ子「そのことは、明日伝えるわ。あまり心配しないでね」
律「は…はい……」
律(も、もしやこれは、聞いちゃマズかった系…?)
律「じゃ、さわちゃんも元気でな」
さわ子「わ、私はりっちゃんに負けないぐらいピッチピチだから大丈夫よ!…じゃあ、お大事にね」
律「ありがとーう!」
バタン
律「おいおい、マジかよ…」
律(家でひっそりとやってただけ…な、はずなのに……。いつの間にか警察とか精神病院だとか…)
律(それまで澪達のこといないように接してたから仕方ないけどね…)
律(あの日からあたしは、必ずといって良い程、軽音部の皆から嫌われる悪夢を見ていた)
律(最初はショックで、皆があたしのことをこんな風に思ってるんじゃないかと不安を重ねた結果、無視する形になってしまった……)
律(あと、現実と夢の狭間で混乱していたのもあって、やっとの思いで出た部活で、澪に何か酷いことを言ってしまったのを覚えている)
律(澪達はそれから何かを察したように、あたしから離れていった。澪があのとき嘘をついているように見えたあたしは、相当捻れてるんだろうな……)
律(部活すらも、最初は行ってみたものの、夢か現実かどうかわからない、あたしのことを嫌いで虐げる澪達が怖くて行けなくなっていった………)
律(途中からは、皆と距離を置けばこの悪夢が無くなるんじゃないかと勝手に期待して、認識しないようにしてた)
律(あの日から、軽音部の皆からのメールも内容を見ることはおろか、返信すらもしてない)
律(でも、悪夢を見続ける度に、皆とどれだけ距離を置こうが、だんだん皆が怖くなってきたんだ。たとえ現実であろうと)
律(あたしの中では、どれもリアルで、どれが夢なのかは判別しにくい)
律(どうせ皆を絶望させるぐらいなら、カフェイン中毒で死んだ方がマシだったな…)
律(あたしは物心ついたときから、どこでもキャラを作っていた。多分、家族と澪ぐらいしか本当のあたしを知らなかったと思う)
律(幼い頃から、弟の聡にいいところを見せたかったのもあって、聡にすら虚勢を張っていた)
律(自己中で、神経質で、粘着質で、豆腐の角にぶつかっただけで死ぬようなメンタルで、空気が読めないのをごまかす為に明るく振る舞っているあたしを、本当は誰かに見つけてもらいたかった)
律(あたし、心は全然元気じゃないんだよ…)
律(誰にもそんなこと言えなかったけど、澪は年を重ねるにつれてわかってきたようだった)
律(澪はたまに察しが良い。中学の頃、澪にすら悩み事を相談したことがなかったあたしに、澪は、『律は一人で抱え込みすぎなんだよ』と言った)
律(ただ本当に明るくて悩みがない人だっているのに、澪だけは、それを見抜いてくれた)
律(…でも今は、そんな親友も失っている。他に失うものなど何もない)
律(…なーんてのは言い訳で、本当は…)
律(あたしが皆と離れたかったから、自分勝手に無視してただけ)
律(軽音部の初めは、本当に楽しかったんだ。澪も今ほど悩んでなかったし、ムギにもまだそれほど紅茶とかお菓子とかケーキとか…負担させてなかったし)
律(そこに、ふわふわでぽけーっとした、つかみ所のない性格の唯が入ってきてから、更に賑やかになった)
律(けど、人数が増えれば、意見だって衝突する。それぐらい、馬鹿なあたしでもわかってた)
律(元々澪とは、似たような性格でも、行動は真反対。昔っからちょっとした衝突はしてた。仲直りも早かったけど。ただ、高校生にもなって、唯やムギの前でもそれが顕著になると、当然今まで以上に空気を気にしなきゃならなくなる)
律(後輩の梓まで入って、梓が溶け込めるような空気にするのも大変だった。それに関して一番悩んでたのは唯だったと思うけどさ)
律(最初の梓は、頑固で、しかもあたしらなんかよりも断然演奏技術があって、扱いが大変だった。多分、皆がいなかったら、梓はこんなに丸くなってなかったと思う)
律(でも、卒業が近づく度に、皆で負担してたストレスが、部長であるあたしに重くのしかかってきた気がした)
律(逆に今までが脳天気過ぎたんだと思ってる)
律(要するに、あたしはストレスフリーになりたかったんだ)
律(元々ストレスに弱いタチだったけど、負荷がかかる度に、極限までストレスを無くしたかったんだ)
律(理由はわからない。例え些細なことだったとしても、とにかく、あのままじゃいられなかったんだ)
律(だからってこれは、許されることじゃない)
律(死ぬまであたしが責任を持って、罪を償ってかなきゃならない)
律(今まで自己利益優先で生きてたから、罰が当たったんだ)
律(それにあたしのこと、皆嫌いになっちゃったに違いないよ)
律(カフェインを摂ろうとしたのまでしか覚えてないけど…)
律(…皆が今あたしのとこにいないのは、どう考えても、あたしが要らない人間だからだよな…)
律(さっさとあの手すりに手をかけて…ははは…)
グワングワングワングワン…
律(~~~~~~~~!!!)
律(目眩が…酷くて、動けな…い)
コンコンコン…
律(…聡かな?)
律「はーい」
ガラッ…
憂「律さん、おじゃましまーす…」
和「私も失礼するわね」
律「え!?あ、ああ…。いらっしゃい、どうぞごゆっくり~♪」
和「『え!?』って、何よ。私達が来ないとでも?」
律「は、はは……。まー正直心外だったわ…」
和「…律らしくて安心したわ」クスッ…
和「唯なら明日、軽音部の人達と来るわ。山中先生が来た後にだけどね」
律「そ、そうなんだ…、わかった」グワングワン…
律(もう来ないのかと思ってた…でも…)
憂「…律さん、顔色悪いですけど、体調大丈夫ですか?」
律「…あ、あ~。とは言っても目眩と軽い頭痛ぐらいだから安心してっ」
和「『ぐらい』じゃないわよ。それって結構悪い状態じゃない!」
律「え…?そうなの?」キョトン
和「え、知らなかったの…?入院後すぐに来ちゃってなんだけど、私達が来たからって無理矢理身体を起こさない方がいいわ。いくら精神病院とはいえ、貴方は患者なんだから、とにかく安静にしてなさい」
律「の、和しゃん…ありがとう…」バタッ
憂「面談の日が限られてるとはいえ、私たちも早く来すぎちゃってごめんなさい…」
律「ま、まあ、私も少し寂しかったから、来てくれて嬉しいよ!ありがとう憂ちゃん」
憂「そうですか?えへへ…、此方こそありがとうございます」
憂「あの、律さん、粗品ですが…」
律「ん?」
律「…………す、すごっ…!凄いね!!高校生でこんなの買えるなんて……!!!」
憂「お姉ちゃんのギターに比べたら全然なんですけどね…。和さんと選んだものでもあるので、気持ちだけでも受け取ってくれると嬉しいです」
律「わかった、大切にするよ。ありがとう、憂ちゃん!和!」
和・憂「…」ニコッ
和・憂「どういたしまして」
律(二人から貰ったのは、新しいスティックと高級菓子諸々。総額1万円弱といったところだろうか)
律(特に、スティックはかなり消耗していたせいで先が割れていたから丁度良かった。流石気が利く二人だ。唯達に訊いてなくてここまでくると、気が利くどころかエスパー並みの能力を持っているレベルだが…)
律(………ところで、あの二人は、あたしがどのような騒動を起こしたか、紬やさわちゃん達から訊いていないんじゃないかという気がしてきた)
律(言われても、『りっちゃんが精神的な疲れから倒れた』ぐらいなんだろうな…。実際倒れたかはわからないけどさ)
律(軽音部なりの配慮なんだろうけど、あたしの行ったコンビニ周辺には、桜ヶ丘の連中をちらほら見かけるから、いずれ知れ渡ること。意味はあまりない)
律(あの二人が何も疑わないのはおかしい。あえて訊かないように、もしくは言わないようにしているとしか思えない)
律「…皆、こんなに優しいのにな……」
律(あたしは皆の好意を踏みにじって、何て最低な人間なんだろう)
律(空が綺麗だ、なんて思える気力はない)
律(点滴で繋がれた手首からは、一本だけ、紫色の線が見える)
律(人にバレたくないあまり、一本だけに集中して切っていたからだ)
律(でも…多分和や憂ちゃん、さわちゃんには丸見えだったと思う。点滴につながれた姿を見られた時点で、あたしがリストカットしてるの、バレてたんだ)
律(やめたい。やめたい。やめたい。やめたい。やめたい)
律(でも、辛いことも忘れたい…)
律(‥…学祭…出たかったなぁ)
律(あたしが『1・2・3・4!』の合図で、皆を引っ張っていきたかった)
律(弱気なあたしが、ドラムに触れているときだけは、本当に強気になれた)
律(だから、現実でも強くなれた気がした)
律(でも、ダメでした)
律(こんなに綺麗なスティックを渡されても、ただ見つめることしかできない)
律(学祭どころか、学校にすら行けない。受験もできない。そんな状態なんだから)
律(あとは死を待つのみだ)
律(澪…ごめんな。二人でバンドやろうって夢、あたしが先に壊しちゃって。もうあたしがいなくても、澪はやってけるよ)
律(紬…純粋で優しくて、いつも傍にはムギがいるんじゃないかって気がしてたよ。皆を見守ってくれて、本当にありがとう)
律(梓…初対面でとっつきにくい奴なんて思っててごめんな。お前はいい後輩だよ。これからも唯のこと、宜しくな)
律(唯……、唯がいなければ軽音部は成り立たなかったから、軽音部の恩人だと思ってる。無理矢理入部させちゃったようなもんだけど、入部してくれて本当にありがとう。)
律(最初お前を見たときは、トロくて使えないドジっ子だと思ってたけど、それだけじゃないってことがわかったよ)
律(普段何考えてるのかわからないようなぽわぽわした性格だけど、それなりに空気読めるし、次第に読もうと頑張ってるとこも見えてきた)
律(ノリも意外といいし、唯といるとき、すっごく楽しかった。それに、やればそれなりに物事をこなせるとこ、少し……じゃないけど憧れてたよ。かなり)
律(軽音部は、私の中では不滅。あの世で待ってるぜ…。地獄で、だけどな!)
律(…)
律(ここ、1階じゃね?)
よくじつ!
律「ふぁぁ…!」
律(慣れない場所だから、あんま寝れなかったなぁ‥…)
律(…もう9時か)
律(早く起きて…どうすんだっけ?)
律(説明された気がしなくもないけど……とりあえずナースコール押してみるか…)
~♪
律(飯……)グウウゥ…
律(ごはんはおかず…)
律(なんて歌詞を唯が書いてたような…あれ?澪だったっけ?)
律(忘れっぽいのは相変わらずだな、あたし)
ここでたんぺん!
唯「いや私全然天然じゃないから!寧ろ養殖!」
梓「そうなんですね、初耳です」
唯「そうなんだよあずにゃん」
梓「じゃあ腹の中真っ黒なんですね」
唯「何で?」
梓「…天然じゃないですか」
律「あずにゃん!あずにゃん~!」
梓「唯先輩!?」
律「残念!律先輩でした!」
梓「声似すぎです!」
律「へへーん!」
梓「う゛…」
律「唯じゃなくて悔しい?ん?悔しい??」
梓「く、悔しくなんて…」
律『愛しの唯先輩にぎゅーされたかったな♪唯先輩、早く来てください♡』
梓「そんなこと思ってません!」
律「律先輩にはぎゅーされたくないって顔してたけど?」
梓「…」
梓「色々と悔しいので、ぎゅーぐらいやってやるです!!」
律「あはーっ♪」
律「みーお♪」
澪「りーつ♪」
律「みーお♪」
澪「りーつ♪」
律「バカバカバカ!好き!!!」
澪「完全に中の人化しやがって!私も好きだ!!!」
唯「私達が全員正反対の性格だったら、絶対軽音部廃部のままだったよね」
律「唯に急にネガティブなこと言われると反応に困る」
唯「じゃあ澪ちゃんだったら?」
律「ん~、唯のとき程は驚かないし反応に困らないかな」
唯「それって差別だよ!酷いよりっちゃん…!!」グスンッ
律「んな大袈裟な…」
唯「りっちゃんに虐められた!」
律「何で今日そんな後ろ向きなんだ?」
唯「…寿命だから」
律「そっかぁ…」
唯「もっと悲しんでよ!」
律「いや、唯ならあり得るかもって思って」
唯「あり得ないよ!死ぬときまで私は前向きだよ!」
澪「ふわふわ時間歌ってると、他の人にお気に入りのうさちゃん抱いてるって思われないかな」
律「今更かよ…」
澪「ええ!?じゃあもうとっくに思われてるってこと!!?」
律「そゆこと~」
澪「何でそんな重要なことを教えてくれなかったんだ~!!!」
律「い、いや、教えるも何も…先に歌詞書いたの澪だし…」
澪「ああもうお嫁に行けない…!」プルプル…
律「まー、澪の見た目とのギャップがあっていいんじゃない?ギャップ萌えってゆーしさっ」
澪「本当に…?」ウルウル
律「うん、鏡見て」
梓「田井中ァ!」
律「な、中野先輩っ…!」
梓「チンタラ食ってんじゃねーぞオラ!はよ練習しろや!!」
律「うう…練習します…」
梓「意外と先輩役って難しいですね…」
律「そ、そうだな…。けどそれって不良の先輩だよな?」
梓「私、律先輩をしごくのが夢だったんです♪」
律「ムギの真似しても許さないからな中野ォ!!」
律「梓のツインテールって取れるの?」
梓「あ、はい。今外してみましょうか?」
律「今日は私が外したいんだ」
梓「わかりました」
スポッ!スポッ!
律「へー、意外と重いんだな。このツインテール」
梓「律先輩のドラムスティックとどっちが重いんでしょうか?」
律「よーし、これでドラムを叩いてみよーっ!」
ドコドコドコ…
梓「どうでした?」
律「ドラムスティックの方が軽かったよ…」
律(やっぱり、あたしが説明を忘れているようだった。看護士さん達は、あたしにご飯だけでなく、新しい衣服も何着か持ってきてくれた)
律(母に病院食は不味いと聞いたが、これが意外と美味しい)
律(たまたまそういう病院に来ただけかもしれないけど…)
律(家族はまだ来ない。早く会いたいな…)
コンコンコン…
さわ子「おはよう、りっちゃん」
律「おはようさわちゃん!」
さわ子「ここに座っていいかしら?」
律「どうぞ」
さわ子「ありがとう。じゃあ、これから辛い話するけど、りっちゃんなら受け止めてくれるって信じて話すからね」
律(さわちゃんの言った通り、あまり考えないようにしてたけど…遂に、この時が来た)
律「わかった。もう逃げないよ」
さわ子「まず学校は…2月まで出席停止になったわ。あと、りっちゃんの目指してるN女子大やその他の大学の受験は………2月からの復帰だと、偏差値的に難しいわ。諦めるのが無難よ」
律「そんな……」
さわ子「出席停止は覚悟してたわよね?あと、何も皆と同じ大学に行かなくったって、また会えばいいじゃない。一つの大学に拘りすぎると良くないわ」
律「うん…でも何で…」
さわ子「周りから置いてけぼりにされるからよ」
律「もう既に置いてけぼりじゃん……」
さわ子「だから、もっと周りと差ができてしまうってことよ」
律「…」
さわ子「まぁ、受験に関することは、これからも私やりっちゃんの両親から連絡がくると思っといてね」
さわ子「とりあえず、進路についてはゆっくり考えなさい。まだ実感沸かないだろうけど、貴方は一浪の身になったんだからね」
律「………はい」
さわ子「あと、学祭についてなんだけど…代わりにドラムをやってくれる子が見つかったの。勿論、皆は反対してた。特にムギちゃんや梓ちゃんなんて、『じゃあドラム抜きでやればいいじゃないですか』って…。でも、それじゃバンドとして成り立たないでしょ。だから仕方ないけど、その子にやってもらうことになったわ」
律「……いいんじゃないですか、それで」
さわ子「…」
さわ子「私の目の前で領収書食べてた子はどこへやら…」
律「それとこれとは別に関係ないだろ!」
さわ子「関係あるわよ」
律「…」
さわ子「普段のりっちゃんなら、あの時の強情さを考えれば『やだ!絶対にあたしがやる!!』って言いそうだもの。今日のりっちゃんは、他の人にドラムを代わってもらうのを聴いても、それに関して全く噛みつかなかった」
律「…」
律「考えてみてくださいよ。あたしの身を」
律「あたしは皆のことが好きだから、辛いことも我慢してた。皆が盛り上がれば、自分のことなんてどうでも良かった」
律「けど、だんだん良くないってわかってきちゃったんですよねぇ。承認欲求が抑えられなくなっちゃったんで」
律「それが爆発して、このザマですよ」
律「大したことないことで、人は簡単に壊れる」
律「つまり、あのとき先生に噛みつかなかったのは、私が壊れてしまったからなんですよね」
さわ子「そうよね。りっちゃんの一人称がブレていた時点でそう判断できたわ。それに敬語とタメ語が混ざってるの、りっちゃんらしくないから…」
律「じゃあ、もういいじゃないですか?」
律「さわちゃん先生の言葉で諦めがつきました。進学も。単位も。それと同様にってことですよ」
さわ子「ごめんなさい…」
律「何で謝るんですか?あたしは別に構いませんって」
さわ子「……私のこれから言う言葉に向けての謝罪よ」
さわ子「病人を追い込むようなこと言っちゃって悪いんだけど…」
さわ子「軽音部は…どうするの?」
律「…学祭、出れないんですよね?それに、あたしは皆を失望させてしまいました。だから私は責任取って、部長も部活も辞めます。退部届ならここで書きますから、用紙」
さわ子「何言ってるの!!」
律「…」
律「まーまーそう言わずに。教え子の遺言ぐらい、一応最後まで聴いてやってくださいよ」
さわ子「無理!!貴方のそういう、意見が二転三転するところが鬱陶しいのよ!!!」
さわ子「皆の為に生きるって言ったかと思えば、責任取って部長も部活も辞めるって言い出したり、挙げ句の果てにはこれは遺言ですって言い出したり………!!」
さわ子「貴方が悟るのも理解できなくはないわ。だからといって、皆の気持ちを疎かにするなんて……、部長としては最低よ!最低最悪の部長!!」
律「だから…辞めるって……」
さわ子「貴方の戯れ言は聴いてられないわ!!」
さわ子「本当に皆の気持ちや、皆との思い出がどうでも良くなったら、退部届の用紙を持って来るわ。仲間のことを大事にしない人は部長には向いてないもの」
さわ子「貴方が繊細なところは、軽音部の皆は薄々気づいていたはずよ。だから貴方と本音で向き合うのを避けてきた」
さわ子「これはチャンスなのよ!りっちゃんが本音を言える機会が、この3ヶ月間に何度もある」
さわ子「りっちゃんの本音を、皆、りっちゃんから聞きたがってるわ」
さわ子「さっき言ってたわよね?『もう逃げません』って」
さわ子「部長なら、まずは自分の発言に責任を取りなさいよ…!!!」
律「…」
さわ子「…って、もう部活辞めるんだっけ?それならこの話は意味なかったかもしれないわね。話はこれだけよ。じゃあね、りっ…」
律「先生……!」
律「わたし…諦めきれてません……」
律「私の我が儘でこうなっちゃったけど、本当は、まだ皆と一緒にいたかった…!」
律「皆といるのに疲れても、楽しいことも多かった……。そして、いっぱい救われてきた…支えられてきたんだ………」
律「…続けたかったよぉ、ドラムも、部長も……」
さわ子「…」
さわ子「貴方の戯れ言は聴いてられないわ…」ハァ…
律「!」
さわ子「あの子達に聴かせてあげなさい」
律「…ありがとう………さわちゃん!」
さわ子「礼なら要らないわよ。さ、これからあの子達が来るわ。その間、りっちゃんは何をすべきか考えてなさい」
律(しっかり、聴いてくれてたじゃんか…)
さわ子「……因みに、代わりにドラムをやってくれる人がいるっていうのは嘘。皆、部活停止で満場一致したわ」
さわ子「そのことについてはごめんなさい」
さわ子「じゃあ、また来るわね。残りの数ヶ月、悔いの残らない選択をしてくれると信じてるわ」
律「はい……ありがとうございます」
さわ子「ふふふ、しおらしいりっちゃんも悪くないわね。それじゃ」
…バタン
律(…さわちゃんには、大切なことに気づかせてもらえた)
律(あたしが皆と本音でぶつかり合えることが、皆の幸せだってことに)
律(…だからまだ、ドラムも部長も、続けさせてもらうよ)
律(根が目立ちたがりだから?それもそうかもしれない)
律(でも、こんな我が儘が通るのは)
律(あたしが部長だから…!)
コンコンコン…
律「はーい」
唯「りっちゃん!!」ガバッ!!
律「ゆ…唯……!」
紬「あらあら♪」ウフフ…
梓「律、先輩………!」ウルウル…
唯「…ねえ!りっちゃんが喋ったよ!!」
紬「聞いたよ~、良かったわ…」
梓「グスッ…全く、お騒がせなんですから……ぁ!」
律「あたしは一体何だと思われてんだ…?ってツッコミは置いといて……皆、本当にごめん!!!」
紬「…次回からは許さないからね?」ニコッ
律「はあい…」
唯「も~!不安で夜も眠れなかったんだからねっ!!」プンスカ
律「確かにクマひでーなー…本当に悪かったよ」
梓「…律先輩の馬鹿っ!!」
唯「あ、あずにゃん…!」
紬「まあまあまあまあ…?」
唯(4回)
梓「貴方がいなきゃ、演奏だってちゃんと纏まらないし、ティータイムだって……!楽しめないんですよ…!!」
律「…梓は優しいなぁ」ナデナデ
梓「…撫でられる程優しくないです」
律「まーそう言うと思ってた!ありがとな、梓」ワシャッ
梓「…どういたしまして、です」カアアッ…
唯(あずにゃん、林檎みたい…♪)
紬(あらあらあら…♪)
梓(いいこと言ったはずなのに、先輩達私の顔ばっか見て…!)
唯「りっちゃん、憂達から体調あまり良くないって聞いたのに…急に抱きついちゃってごめんね………」
律「…本当に大丈夫!お陰様で、この通りピンピンだぜっ!!」シャキーンッ
唯「クスッ…プーッ!本当だぁ…!良かったあああ!!!!」
紬「それ何のポーズ?」
律「仮面ヌイダーのエンディングのダンスに、こういうポーズが出てくるんだよ」
唯「仮面ヌイダーのダンスにそんな変なポーズないよ!」
梓「た、確かに変かも…ププッ!」
紬「ちょっと…、梓ちゃんまで……!クスッ」
律「わー!!!ああいう細かいダンスとか苦手なんだよ!!わーらーうーなーっ!!!」
唯「とにかく、本当に元気そうで安心したよ~」
律「えへへ~…」
律「…あれ?澪は?」
紬「澪ちゃんのこと…言っていいのかしら?」ボソッ
唯「やめた方が…」コソッ
梓「いや、ここはちゃんと言った方が良いですよ」コソッ
紬「…そうよね。りっちゃん、鋭いとこあるし…」コソッ
紬「あのね、りっちゃん」
律「……澪まで精神的に?」
紬「そうなの…」
唯「りっちゃんが無視するのは、全部私のせいなんだ…って」
梓「あのときの澪先輩、顔だけでなく、手もやつれてた感じありましたよね……」
律「……そんなことがあったのか」
紬「ええ…。ショックだと思うけど、りっちゃんが今ちゃんと話してくれるようになったって聞いたら…すぐ元に戻るはずよ」
律「…悪いな。澪達にも重荷を課しちゃって…」
唯「何言ってるのりっちゃん?私達は仲間だよ!嬉しいことも辛いことも、皆で分け合ってこ!!」
紬「唯ちゃん…」
梓「唯先輩…」
紬「……わかったわ。りっちゃんの重荷、私達にも背負わせて?」
律「…うん」
律「…信じてもらえるかどうかは期待できないけど……」
梓「冒頭からそれですか!?…大切な仲間がこんな状態で信じない訳、ないじゃないですか」
律「ありがとう…」
律「………悪夢を見たんだ」
律「それまでも悪夢は見続けてたけど、今度は軽音部全員から虐げられる悪夢を見た」
律「本当は今まで、軽音部にいると疲れる。そう思ってたんだ…」
律「最低だよな、あたし」
律「部長なのに、そういう責任から逃れようとしてたなんてな」
唯「…少なくとも、私達からしたら、りっちゃんは最低じゃないよ…」
律「…だといいんだけどね」
律「実はあの悪夢の前から、あたしは自分だけがストレスを感じないようにする為だけにリストカットを始めてた」
唯「リストカット?」
律「手首を刃物で切ることだよ」
唯「ヒイイッ!!?」ビクッ!
律「怖いぞ~?澪が見たら、一瞬で卒倒するだろうな?」
梓「わ、わかりましたから!続けてくださいっ!」
律「んで、リストカットを始めてから、あたしはぼーっとするようになった」
紬「βエンドルフィン等の作用によるものね」
律(経験者のあたしより詳しいな…)
律「その作用とは…?」
紬「私も詳しくは知らないんだけど、リストカットをすると、痛みが脳内で快楽物質に変化するらしいの。それが…、例えばさっき言ったβエンドルフィンとかが眠気を催すこともあるらしいわ」
唯「なるほど、わからん!」
梓「今だけは唯先輩黙っててください」
律「そうそう、多分その眠気でぼーっとしてた。記憶がよく無くなったりもした。それから例の悪夢を見るようになったんだよ」
律「最初はそれを見て、ああ、夢なのかなって認識だったんだよ」
律「でも、あたしが普段、周囲に色々悪く思ってたからか、それが自分にも現実で向けられてる気がしたんだ」
律「ただ、それだけじゃない。唯達を無視してたのは、このことに便乗して、皆から離れようとしてたからなんだ」
律「あのときのあたしは、本当に最低だと思ってる」
律「皆から離れれば疲れは取れるし、悪夢を見なくなる。そう思ってた」
紬(私の予想、少しは合ってたのね…)
律「でも、失うものしかなくて、メリットはなかった。それに気づいてからこないだの夜、ヤケになったことで、コーヒー飲んでリストカットすることを思いついたのまでは覚えてる。そこで実行して暴れてたらしいあたしを、ムギが取り押さえて、気がついたら点滴でつながれたってこと」
律「ムギには、本当に迷惑をかけたと思ってる。本っ当にすまない…!許さなれなくて当然だよな!!」
紬「そんな…」
律「だから、友達として…やり直してくれないか?」
律「ムギだけじゃなくて、皆も」
律「…元に戻れるとは思ってない。だからやり直すんだ」
律「あたしがドラムで、澪がベース」
律「ムギがキーボードで、唯と梓がギター」
律「部長のあたしの掛け声で、皆の演奏を纏める」
律「そんな毎日を、また新しく作りたい。誰かからの一声で…あたしはそう思えた」
律「……自分で壊しておいて、勝手だと思うよな。だから無理にとは言わない」
律「これが、あたしの重荷、そして本音です」
唯「りっちゃん…」
紬「…正直、私はまだりっちゃんのしたこと、許せてないわ」
律「…だよなぁ、ハハ…謝りきれる気がしないよ」
紬「だから…ね、謝らなくていいの。私達とまた、放課後ティータイムを続けましょうよ……!!」
紬「そうじゃないと、一生許さないわよ?」
唯「…ムギちゃん…」
梓「そうです!私もムギ先輩に賛成です!」
唯「あずにゃん……」
唯「………りっちゃんと放課後ティータイムを続けたい!それが、私達の重荷で、お願いだよ!りっちゃん!!」
律(……でも、まだ…不安が過る)
律「…そんな、いいの……?あたしが幸せになって…」
唯「いいんだよ!りっちゃんの幸せは、私達の幸せなんだよ!!」ガシッ!
律「唯…、にムギ、梓………」
梓「まずは澪先輩の家に行きましょう。放課後ティータイムとしての活動は、それからです」
律「外出……できるかな」
紬「ご両親とお医者様からの許可が下りれば」
律「……なかなかハードル高そー……」
律「…でも、皆の為にも、できるだけ早く退院するからな!」
唯「よっ!頑張れりっちゃん!」
梓「澪先輩も私達も、ずっと、待ってますからね…!」
律(それから1ヶ月程が経ち、あたしは医者からも両親からも退院許可が下りた)
律(この1ヶ月の間に、自分が隔離部屋にいること、週1に看護師さんと同伴でしか外に出られないこと、ケータイも使えないことを知っては、得体の知れない絶望感に打ちひしがれそうになった)
律(それでも自分を失わずにいられたのは、皆のおかげだと思う)
律(この皆というのは、軽音部や憂、和、さわちゃんだけじゃなくてね。家族も含まれてるんだ)
律(両親も2週間に1回、あたしの様子を見に来てくれた。あたしはその度に励まされてた)
律(聡は、1回だけあたしのとこにきたけど、弱ったあたしを見ているのが辛い、と言って、ろくな会話もせずに去ってしまった。それでもあたしは覚えてるよ。『元気になったら、またゲームしようぜ』って最後に言ってたこと)
律「おまたせー!珍しく寝坊しちゃった!」テヘッ☆
唯「りっちゃん遅いよー!」
律「ごめんごめん!」
梓「唯先輩だって遅刻ギリギリじゃないですか」
律「おい!お前人のこと言えないだろ~!」コチョコチョ
唯「あはは!だ、だってぇ、りっちゃんが遅刻なんて、本当に珍しいんだもん♪『これはいじらなきゃ!』って!」
紬「マンボウ!」ム~ッ
唯「あはははっ!む、ムギちゃ…!面白すぎだよぉ~!!」
梓「あの~、楽しんでる中悪いんですが、もう行った方が…」
唯・律「( ゚д゚)ハッ!」
梓「え…今気づいたんですか」
律(あたしが遅れたのは、澪に渡すものがあるからだ)
律(これがどうもリュックに納まらなくてね…)
律「にしても澪のヤツ、まだ引きこもってるのかー?」
梓「1ヶ月も病院に籠ってた律先輩には言われたくないと思いますよ…」
律「アハハ、冗談だって!」
梓「まったく…。冗談でも言っていいことと悪いことがあるんですよ!」
律「いやぁ、かたじけない、かたじけない…」
紬「あれが澪ちゃんの家よね?」
律「そ!とりあえず門まで行こーぜー」
タッタッタッタ…
律「手始めにピンポン押すっと…」
~♪
律「入るぞ~」
ガチャ
唯・紬「お邪魔しまーす」
梓(これが澪先輩の家…!)キラキラ
梓「…お、お邪魔しまーす…」
律「…で、ここが澪の部屋」
唯「りっちゃん、開けないの?」
律「……だって、元はと言えばあたしのせいだし…」
紬「…」コンコン
紬「入っていい?澪ちゃん」
律「ちょ…!」
紬(『まだ、心の準備が…!』とは言わせないわよ、りっちゃん)
澪「…」
梓「…いいんですかね?」
紬「強行突破で♪」ニコニコ
唯「お邪魔~、しましま~!」
律「何だそれ」クスッ
澪「……律?」
律「あ……澪…」
紬「邪魔しちゃ悪いから、私達は外にいましょう」
梓(さっき堂々と『お邪魔しまーす』って言ってたよね!?)
律「その………、ごめん!!!」
澪「…何で律が謝るんだよ」
律「へ!?だだだだってさ!あたしが無視しちゃってたんだよ!?それに澪は悪くない!!!」
澪「でも…私といると疲れるんだと思う。唯達から聞いたよ。それが原因でこうなっちゃったってことを…」
律「澪のバカ!!」
澪「…」
律「確かにあのときまではそう思ったときも何度もある!けど、それはあたしが澪だけじゃなくて、皆を勝手に嫌ってただけなんだ!!」
律「澪が責任感じる必要なんて、これっぽっちもないんだよ…」
澪「……バカ律」ボソッ
律「ああ!そうだよ!あたしはどうしようもなくバカで、澪にゲンコツ食らわなきゃダメな人間なんだよ!!」
律「だから…あたしともう一度、やり直してくれない?友達」
律「…親友、幼馴染として」
澪「……怒ってない?」
律「…それはこっちのセリフだし。で、どうなの?」
澪「せ、急かすなよぉ…」
律「悪い悪い、いくらでも待つよ。因みにムギ達にはもう言ってある」
澪「…」
澪「……私も、やり直したい」
律「澪…」
律「……ありがと、澪」
澪「律こそ…ありがとう」
律「…よし!じゃあまずはあたしを一発殴って!」
澪「…」ボコッ!!
律「…覚悟はしてだげど…、やっばりいだいな……」
律「へへ…仲直り…だなんて、何か恥ずかしいな」
澪「もう…律のアホぉ……!」グスッ
律「どうせりっちゃんはアホの子でちゅよーっだ」
律「…話飛ぶけどさ」
澪「ん」
律「澪が私の家にお見舞いに来てくれたことあったじゃん?」
澪「…うん」
律「あの逆転バージョンだと思うのよ、今」
澪「はああ???どう考えても状況が全然違うんですけど~!!!??」
律「きゅ、急に元気になるな!!!いや、ね?澪だってさっき『怒ってない?』って聞いてたじゃん?だからあれ思い出して、懐かしいな~って思って」
澪「そうだったな。あのときは律が風邪で奇行に走ってて…」
律「だああ!!!そっちに触れるな!!!!」
澪「…私が言いたかったのは、あのときも今も、律がお騒がせなヤツだってことだ」
律「まあね?」
澪「…」
澪「これからは、仮面を外してくれても…」
律「ああ、外すよ。澪とも約束する」
律「今、外してないように見える?」
澪「…外してる」
律「せーかいっ!さっすが澪さ~ん!!!」ダキッ
澪「うわあああああ!!?急に抱きつくな~!!」
澪(…嬉しい)
公園
紬「…」ジー
唯「ムギちゃん、何見てるの?」
紬「いや…想定通り何も見えなかったけど、何か見えた気がしたわ!」キラキラ
唯「?ふーん」
梓「見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込むやつみたいですね」
紬「いや、ニュアンスが若干違うけど…」
梓(まさかの本人から言われるとショック10倍!!)
律「よ!澪をこっちの世界へ連れ戻してきたぜ~!」
唯「でかしたりっちゃん!!」
澪「こっちじゃない世界って逆になんなんだよ…」
律「ムギは…うん、何かいいもの見えたんだな。うん」
梓「現に両手で望遠鏡しっかり握ってますしね…」
律「おっしゃー!今日は久々にタコパするか!!」
唯・紬・梓「おー!」
澪「わ、私運動してないから太っちゃう…」
律「みーおーもー行ーくーよーねー?」
澪「ひっ!?い、行く行く~!!わ~!チョー楽しみ~☆」
梓「今何を吹き込んだんでしょうね…」
唯「え!?もうタコパ始まってるの!!?私もフーフーしなきゃ!」
梓「そっちじゃないです!」
梓(あれから2ヶ月。律先輩の復学をどれほど喜んだでしょうか。そして、学祭に出れるぐらい律先輩も回復しました。練習でも本番でもやっぱり走り気味だったけど、澪先輩のベースと気持ちよく混ざり合い、唯先輩、ムギ先輩、私の音に力をつけてくれました)
梓(先輩、来てますか?今日は、私達の最後の学祭ライブです)
梓(私達『わかばガールズ』は、放課後ティータイムに負けず劣らずの実力を誇ってると、私は胸を張って言えます)
直「…最後となると、やはり緊張しますね……」
梓「大丈夫。直ちゃんがここまで頑張ってきたことは、ここで失敗しても崩れないよ」
直「ありがとうございます…」
梓「どういたしまして」ギュッ
梓(『私達なら、きっと大丈夫』そう思えるのは、あの出来事があったからでしょうか)
梓(それに…)
梓(私が部長だし!)
178 : 以下、名... - 2020/05/15 18:23:27 NwAxDJow 168/168以上です。こんな駄文を見てくれてありがとうございました。けいおんは永久不滅だよおおおおおおおおおおおおおお