杏「ZZZ...」
モバP「おーい、杏~?」
杏「Z...ん、ん?どしたのプロデューサー...ふぁあふ」
モバP「ほら、コレやる」ポイッ
杏「??何これ。飴?じゃないよね。大きいし」ガサガサ
杏「...ぬいぐるみ?」
モバP「おう。ロケ現場の近くにあったファンシーショップに飾ってあったんだよ。どうだ、良い抱き心地だろ?」
杏「うん。モフモフだね」モフモフ
モバP「そうだろうそうだろう」
杏「じゃあこの子は返って家の枕元に飾るとしよう」モフモフ
モバP「なんでだよ!」
杏「は!?」ビクッ
杏「いやだって、レッスン終わったし...杏、今日はサボらず頑張ったよ?」
モバP「そうだな。お疲れ、よく頑張った」ナデナデ
杏「うぇへへ...じゃなくて」
モバP「なんだ」
杏「なんで杏が家に帰っちゃ駄目なの?」
モバP「は?あぁいや、そんな事言ってないぞ。俺が言いたいのはぬいぐるみの事だ」
杏「ぬいぐるみがどうしたの?ありがたく貰うけど」モフモフ
モバP「...持ち歩かないのかい?」
杏「んー、そのつもりだけど」
モバP「...どうしてだい?」
杏「いやだって、コイツいるし」ヒョイ
モバP「そうだよ。そのウサギだよ」
杏「なんだよ」
モバP「杏、そのウサギ、ポイしなさい」
杏「はぁ!?やだよ!」
モバP「なんでだ!お前が雑に扱うからボロボロじゃねぇか!」
杏「コイツはこれで良いの!」
モバP「良くねぇ!プライベートとは言えアイドルなんだから、持ち歩くにしてももっと綺麗なぬいぐるみを...」
杏「あ!まさかプロデューサー、最近杏に何個かぬいぐるみくれたのって...!」
モバP「あぁ、お前にウサギ離れをさせようと思ってな」
杏「ふざけんなー!!!」
杏「コイツは杏の大事な物だ!いくらプロデューサーが可愛いぬいぐるみを寄越そうと、コイツは手放さないぞ!!」ギュッ
モバP「大事な物っつったってなぁ。ゲーセンの景品じゃん」
杏「あ!そんな事言う!コイツの価値が分かってないな!」
モバP「うーん...だってそのウサギ」
杏「杏の故郷北海道は人が少なく、交通の弁が悪かったので...」
モバP「は?何?語るの?」
杏「杏はあまり都会の方へ遊びに行く事も無く、裏の家に住む年上の兄ちゃんとばかり遊んでいました」
───
──
─
─
──
───
杏「兄ちゃん、ベビースター取ってきて」ピコピコ
青年「対戦中によくそんな事言えるな」ピコピコ
杏「だってどうせもう負けるでしょ?ほいほいっと」ティロリロン
青年「くそっ、棒が...棒が来ない...!うわー!何段押し付けんだよお前!」ブブーッ
杏「兄ちゃん棒に頼り過ぎ。だから弱いんだよ。さぁ台所からベビースターを取ってきてよ」
青年「よっこいしょ。そもそも何で俺の家にベビースターがあるの知ってるんだよ...」
TV『目と目が逢う~瞬間に~♪』
杏「......」ボーッ
青年「ほらよ。って何だ、テレビ点けたのか」
杏「...兄ちゃん、この人何て名前だっけ」
青年「如月千早。やっぱ上手いなー歌」
杏「即答。さすがドルオタ...兄ちゃん、これ開けて」
青年「それくらい自分でやれよ」
杏「めんどい」
杏「それにしても、アイドルねぇ...」
青年「お、なんだ、興味あんのか?」バリリッ
杏「まさか。私は何が何でも働かないよ」
青年「またそんな事言って...将来どうするんだよ」
杏「んー...お嫁さん・」
青年「...ほらよ」
杏「兄ちゃん、養ってよ」ボリボリ
青年「やだよ。家事もしない嫁さんなんか」ボリボリ
青年「冗談抜きでどうするんだ?高校もやめちまったし」
杏「だって、メンドかったんだもん...」ボリボリ
青年「そうやってすぐ怠ける」
杏「なんだよ。兄ちゃんだって杏と一緒にダラダラしてんじゃん!」
青年「俺は大学卒業したんだっつーの!」
杏「そりゃ~立派でござんすね~」ボリボリ
青年「お前そんなんだとなぁ、ロクな大人になれないぞ!」
杏「最初からなる気無いもーん」
青年「勿体無いだろ!杏は無駄に色々とポテンシャル高いんだから、それを活かせば...」
杏「あーあー聞こえなーい聞ーこえな~~い」
青年「ちゃんと聞け!」
青年「いいか杏、よく聞け」
杏「...どしたの兄ちゃん。いつにも増してメンドい感じだけど」
青年「...俺な、春から東京行く」
杏「.........は?」
杏「...お、おー、何?卒業旅行?お土産よろしくー...」
青年「ふざけんな。向こうに就職決まった。向こうで一人暮らしするし多分一年は帰ってこない」
杏「......聞いてないけど」
青年「あぁ、今初めて言ったからな」
杏「おばさん達は知ってんの?」
青年「当たり前だ。俺が機会伺って言うからって、おふくろには口止めしてあった」
杏「......ふ」
青年「...」
杏「ふざけんなー!!」ブンッ
青年「って!ベビースター投げんじゃねぇ!」
杏「帰る!」バタバタ
青年「ちょ、待て杏!」
バタンッ
青年「......」
~~~
杏「...」ゴロゴロ
杏「...ふざけんな...」
杏「...ん?」ポロポロ
杏「んっ...ぐしゅっ...ふざげんなぁ......ぼけぇ...」ボロボロ
~~~
翌日
青年「...」ゴソゴソ
ガチャ
青年「?」
杏「...」ズカズカ
青年「...よう」
杏「...コタツ、ついてない」
青年「あぁ、俺使ってなかったからな」カチッ
杏「何してんの?」
青年「荷造り」
杏「...あっそ」
青年「おう」ゴソゴソ
杏「...」
青年「...」
杏「...お母さんがさー」
青年「んー?」
杏「お母さんが、向こう行く前にいっぺんご飯食べに来いって」
青年「おー。杏のかーちゃんの飯美味いもんな」
杏「ん...」
青年「...」
杏「......」
青年「.........」
杏「............」
青年「...あぁーーーーーーっ!!!!」
杏「何!?」ビクッ
青年「杏!遊びに行くぞ!!」
杏「...はぁ?」
~~~
青年「...」
杏「...電車、五分前に出てるんだけど」
青年「...そうだな」
杏「次、五十五分後なんだけど」
青年「...そうだな」
杏「全く、突然遊びに行くとか言い出すからだよ...あーさぶっ...」ポスッ
青年「隣座れよ」
杏「やだよ。ベンチ冷たいもん」
杏「ジム・キャリー」
青年「リリーフランキー」
杏「キム・ガンモ」
青年「モーガン・フリーマン...あっ」
杏「はい杏の勝ちー」
青年「お、電車来たぞ電車」
杏「ちょっと、無視?」
タタン…ガタタン…タタン…
杏「兄ちゃんさ」
青年「ん?」
杏「東京までの新幹線とか、調べてあんの?」
青年「…あー、まだだ」
杏「早めにしないと困るよ」
青年「そうだな…」
杏「うん」
青年「杏はしっかりしてんなー」
杏「…してないよ。兄ちゃんがいないと何にも出来ないから」
兄ちゃん「そんなことないって」
杏「ホントに何も出来ないし…」
~~~
青年「とうちゃーく」
杏「で、何すんの?」
青年「...ゲーセン」
杏「オーケー。何も考えて無いんだね」
青年「悪ぃ」
杏「良いよ別に。適当に何か見ようよ」
青年「おう」
~~~
杏「...とりゃっ」ペタン
スコア『18』パフパフー
杏「…これ低いの?」
青年「さぁ?知らねぇよ」
杏「兄ちゃんやってみてよ」
青年「おう…むんっ!」ドゴン!!!
スコア『99!』ニューレコード!
杏「…これ高いの?」
青年「高いんじゃね。新記録だし」
杏「へーすげーすげー」ペチペチ
青年「適っ当だな…いや別にどうでも良いんだけどさ」
杏「お、新記録の名前を記入しろだって」
青年「ん?ん~……anzuchangっと」
杏「いや何でさ!」
~~~
杏「よっはっ」タタンッ
青年「何だよコレ!どこ踏めば良いの!?」ドタドタ
杏「だから画面のパネルが光った所だって」スタタンッ
青年「知ってるアイドルの曲ならなんとかなると思ったんだがな…!」バタバタ
杏「言っとくけど杏も初見だからねこの曲」タタタンッ
青年「ほんっとただのニートにしとくには勿体無い才能だなおい!」ピョンピョン
杏「疲れた~まだ曲あんの~?」タタタタタタタタ
青年「疲れてる様には見えない足捌きだよ…」ドタタ
~~~
ウィーーーン
青年「…おぉぉ…もうちょい…」
ポテッ
青年「ああ!もっとしっかり掴めよ!」
杏「下手だねぇ兄ちゃん。変わってあげようか」
青年「…いや!コイツは俺が取る!」チャリン
杏「兄ちゃんがそんな可愛いの取ってどうすんの」
青年「待ってろよぴにゃこら太…!」
杏「え!?そのブサイクなの狙ってんの!?」
青年「え?おう」
杏「意味分かんない!手間のウサギの方が百倍可愛いよ!」
青年「え、そう?じゃあコッチで…」
ウィーーーン
ガコンッ
青年「…一発かよ」
杏「あのブサイクな方のぬいぐるみ重たいんじゃない?」
青年「やれやれ…ほらよ」
杏「ん?」
青年「ウサギ」
杏「え、杏にくれんの?」
青年「俺がコレ持っててどうすんだよ」
杏「…じゃあ貰うけど」
青年「アレだよ。それを俺の代わりだと思って大事にしてやってくれ」
杏「…何それ」
青年「はは、そんなウサギじゃあ俺の代わりは務まらないかな?」
杏「…コイツで充分だよ。枕ぐらいにはなるんじゃない?」
青年「俺枕レベル!?」
杏「あははっ」
青年「…帰るか」
杏「うん…」
~~~
青年「それじゃ、行ってくる」
青年「え?あぁ、多分来年だけど、休みとか取れたら連絡するよ。うん」
青年「…杏?まだ寝てるんじゃね?」
青年「分かったって。ちゃんと挨拶ぐらいしてくるから」
青年「うおーさびー…」ガララ
青年「…お?」
杏「…よう」
青年「よう、早起きだな」
杏「全くだよ」
青年「…駅まで来るか?」
杏「……うん」
青年「…そのぬいぐるみ、持ち歩いてんのか?」
杏「うん。兄ちゃんの代わりって言ったじゃん」
青年「そんなに四六時中一緒にいた記憶ねぇけど」
杏「杏からしたら四六時中だよ。生まれた時から一緒でしょ?」
青年「…あぁ」
~~~
青年「…あんまり昼寝ばっかすんじゃねぇぞ?夜眠れなくなるからな?」
杏「大丈夫。コイツ枕にしたら眠れるから」
青年「寝ながら何でもしようとするなよ?ジュースとか零したら大変だからな?」
杏「大丈夫。コイツで拭くから」
青年「寒いからってコタツで寝るなよ?風邪ひくからな?」
杏「大丈夫。コイツと一緒なら寒くないから」
青年「…なんだ、俺いなくても安心じゃん」
杏「うん大丈夫大丈夫。だから早く行け」グシグシ
青年「泣くなよ。あとウサギで拭くなよ」
杏「泣いてないし拭いてないよ…っ!」
青年「…電車来たわ」
杏「うん…」
青年「んじゃあ…また来年な」
杏「うん…」
青年「楽しみに待っとけよ?」
杏「…うん?」
───
──
─
─
──
───
杏「だから、このぬいぐるみは兄ちゃんの形見なのです」
モバP「兄ちゃん死んでねぇだろ。勝手に故人扱いすんな」
杏「とにかくコイツは手放さないから」
モバP「はいはい。そこまで言うなら止めませんよ。ほら、送ってくから車乗れ」
杏「うぃーす」トテトテ
モバP「…やっぱ東京も寒ぃな~…」
杏「…あ、そうそう『兄ちゃん』」
モバP「んー?」
杏「今度帰って来たらご飯食べに来いってお母さんから電話来たよ」
モバP「おー。杏のかーちゃんの飯美味いもんな」
杏「ん…」
~おわり~