2 : ◆PL.V193blo - 2019/02/18 22:17:06 dB7 1/22今まで書いたのは
・ 高垣楓「君の名は!」P「はい?」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/23687926.html
・ 周子「切なさ想いシューコちゃん」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/18688133.html
・ 速水奏「ここで、キスして。」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/23687921.html
・ 【モバマス】P「付き合って2か月目くらいのlipps」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/21109781.html
R18
・高垣楓「甘苦い、35.8℃のメープル」※R18注意
https://ayamevip.com/archives/58150436.html
などです。最近自分でも何を書いてたんだったかよくわからんくなってきた
元スレ
モバマスP「速水奏との答え合わせ」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1550495689/
速水さんに告白された。
好きだと。
「…………」
座りなれたデスクで、企画のファイルを開いてはいるが一向に作業は進まない。企画に関しての構想は頭のなかにあるのだが、形になる前に霧散する。目は、ディスプレイの前を滑るばかりだ。
はっきり言って不謹慎なほどに、全く集中できて居なかった。
それは特別でもない、いつも通りの日常のなかでの一幕だった。
『プロデューサー』
『……あ、速水さん。お疲れさま。レッスン終わりましたか?』
『ええ』
『お疲れさま。なにか気になったことはありました?』
『そうね……あっ、マストレさんに、"プロデューサー殿にたまには速水の稽古を見に来るように伝えておけ"って、こわ~い顔して言われた。ふふっ』
『あはは……それ、いま思い付いたんでしょう。次は必ず見に行きますから。』
『それと、給湯室の麦茶が切れていたから、作っておいたわよ』
『あ、そんな……気になさらなくてもいいのに』
『褒めてくれる? プロデューサーさん?』
『ええ、いつもありがとうございます。速水さん』
『ふふっ、お返しはーーーー』
キスでいいよ? なんて、いつものようにからかってくるんだと思った。
きっかけを自分の作るかのように息を溜めた、彼女の微妙な雰囲気の変化に気づけなかった僕は、プロデューサー失格かもしれない。
『……それとね』
彼女のざくろのような赤い唇が、スローモーションに見えた。
――――私、Pさんの事好きなの。
僕は、えっ、と、聞き返すことも出来なかった。
――――結構前から。
あまりにもあっさりとした伝え方だったというのもあるけれど。
――――……あ、それと明日の土曜日、午前中だけ授業があるんだけど、なにかスケジュール入ってたかしら?
いや、大事なのそこじゃなくて。
いや、確かに大事なんだけど。
ていうか、そんな日常の延長みたいな。
――――別に返事、いらないの。伝えたかっただけだから……私、お昼まだなんだけど、午後の現場に行く前に軽く食べてきても良い?
――――あれから、特に僕たち二人の間で何かが変わることはなかった。ぼくはパンドラの箱に蓋をするように、その事に触れず。
彼女は言葉通り、その後、特にぼくからのリアクションを求める風でもなく、かえっていつも以上に優秀に仕事をこなしていた。
そして日々の多忙を言い訳にその案件を放置してもう三週間になるわけだが、頭の中のハードディスクは大半がその問題で占められたまま、ろくに働いてくれないでいる。
「プロデューサーさん? お仕事、進んでます?」
「ほわぁぁい!?」
肩越しに振りかかってきた千川さんの声に、大袈裟極まりないリアクションをしてしまう。
「……どうしたんですか?」
「はい! あ、いえっ! なにも、なにも。」
「お疲れですか? 最近ちょっと変ですよ?」
可愛らしい見た目のわりに低めの、落ち着いた綺麗な声をもつ人だ。
その上、気遣い上手で愛想も頭も良いときてる。
「お疲れなら、スタドリ飲みます? 今ならなんと! 大特価で」
……しかも、これくらい自分の欲求を相手に伝えることが上手なら。きっとこんなことで悩んだりしなくて済むだろうな。
ホントに良い笑顔するもん、チキショウ。
「おまえな。ドリンクは使いどころ絞った方がいいぞ。そいつはすぐ中毒になる。」
コーヒーの代わりにスタドリを飲んでいると、塩見さんのプロデューサーに野次られた。
そんなことはわかっているのだが、千川さんに押しきられたのだから仕方がない。とにかく疲労感にめっぽう効くので、一度千川さんに成分を訪ねてみたのだが、例の飛びきりの笑顔で無言の回答をされてしまって以来、怖くて聞けないでいる。
そういえばこいつは、スタドリの中身を知っているのだろうか。
「お疲れかよ? 最近、妙に上の空だぞ、お前」
寝不足だと言ってはエナドリをがぶ飲みしている彼に言われるようでは、僕の集中力散漫ぶりもはたから見て看過できぬレベルであるに違いない。
「同期入社と見込んで聞きたいことがあります。」
「おう」
「仮に……たとえば、あくまで仮の話ですが、その……担当アイドルに好意を寄せられた場合は……プロデューサーとしてどうすべきなんでしょうかね。」
「あぁ?」
声色だけでわかるほど怪訝、との表情を浮かべながらも、彼が隣に腰を下ろしたことで、僕の愚にもつかない相談ははじまった。
「アホか、おまえ」
ひとしきり事のあらましを話終えた、僕にたいしての開口一番である。
「あほ、ですか」
「アホウだ、おまえは」
つっけんどんな物言いに思わず聞き返したが、塩見Pは二度同じことをいう。
「アイドルに恋愛はご法度、しかも奏ちゃんは売り出し真っ最中のいっちばんデリケートな時期だろうが? 惚れた腫れた付き合う別れる。
そういう話題が出ること事態、万にひとつも有り得ん。まして一番それを諌めにゃならん担当プロデューサーが当のお相手だと? ンなもん検討の余地無しだろ」
しかめっ面がぐい、とこっちを向く。
「……なんてことは考えるまでもなくわかってるだろうに、そういう相談が出るってこたぁ、本心ではどうしたいってのか、もう決まってるようなモンじゃねえか。」
そこまで、立て板に水のごとき勢いで捲し立てながら、最後にそう結んだあと、うんざり、という風に大きなため息を吐いた。
うんざり。はじめはその態度になにこの、と思わないでもなかったが、最後まで聞けばなるほど、彼のうんざりという調子もわかるような気がした。
彼は彼なりに、最近いかにも心ここにあらずだった僕を気にかけてくれていて、わざわざ声をかけてくれたに違いなかった。
そして、話を聞いてみればなんのことはない、痴話事の延長が悩みの種だったと聞けば脱力もする。
しかも、その中身が極めて始末の悪いタチであったとすれば、うんざりともするだろう。
プロデューサーとアイドルの恋愛、というのは存外、界隈ではまま聞く話であるのだが、実際その当人になってみればこれほど悩ましいというか、始末に困る話も無い。
単なる職場恋愛とは訳が違うのだ、人妻相手の不倫の方がまだ心苦しくない話かも知れなかった。
「……どうしましょうかね」
「そりゃすっぱり断るのが分別ある大人の所作だよ。相手が子供ならその辺の大人の理屈を諭して聞かすのも大人の仕事」
いちいち尤もな意見だった。
そもそも論として、何を間違ったか、本当に何を間違ったか――――あの速水奏が、どうみても平々凡々な男である僕に好きだと伝えてくれた。
はっきり言ってそれは、天変地異とも言うべき、ありえねー事態である。
そりゃ、あらぬ妄想が頭を掠めたことが、ただの一度も無かったのか、と言われれば情けないが嘘になる。
けれど、僕だってこの仕事を昨日今日はじめたばかしのド新人という訳でもない。スカウト専門やマネージャー時代から数えれば、すでに両の指程度のアイドルは担当してきていた。
綺麗な女性に対しては万々が一の「もしや」を期待してしまうのが男の性ではあるにしろ、少なくともアイドルと僕たちは仕事上の関係者に過ぎず、あくまでも同僚以上でも以下でもないものだ。
だからまあ、彼女の悪戯っぽい笑顔やら、不意に見せる無邪気な表情にときめかせられることはあるにせよ。
だからといって彼女と親密になってどうたらなんて考えたこともなかったし、まして彼女が僕のことを男として意識してるかどうかなんて、もっと考えた事はなかった。
だから、どうして良いかわからなかったということもある。
「でも好きなんだろ? おまえも奏ちゃんのこと」
そう。
そしてなにより厄介なのは、その事に向き合わなければならなくなったということだった。
「……否定はしないです」
「歯切れの悪い物言いだな。素直なのはよいことだが」
歯切れよいはずがないだろう、と思った。
正直なところ、僕が彼女に対して特別な感情なんて持っていなかったら、わざわざ同僚に爆弾のような打ち明け話をすることはなかったのだ。
彼女が単にずば抜けて綺麗で、頭もよくて真面目な良い子ってだけなら、大人の分別を建前にしかるべき決着をつけてこの話は終了していた。
自分に好きだと言ってくれた女性の気持ちをそういう風に適当に流してもどうとも思わないくらいな、僕は手前勝手な凡人でしかない。
そんな僕みたいなもんが一回りも年下の彼女に惹かれてたということが、そもそもの問題なのである。
いや、惹かれてたとしても、頭でわかっていたなら分け隔てなく、どうとも思ってない女の子にそうするように、しかるべき決着をつけていれば良かったのだが。
あのとき僕は、それができなかった。出来ないばかりか結論を怖がって引き延ばしている。
つくづく手前勝手な、凡夫そのものと言えた。
「……卑怯者ですよねぇ」
「否定はせんね」
「……そこまではっきり言われると傷付きます」
「まあ悩みもせずにピシャリと結論出すような不粋なやつだったら、ここでぶん殴っていたろうさ。まして"付き合うことになりました"なんてノウノウとのたまう能天気野郎だったら、ぶっ殺していたろうね」
鼻筋の通ったしかめ面がはじめて笑ったが、物騒な物言いにはひとつも冗談は無いと見えた。
「……前に、大先輩の大物Pさんと話してたときの事なんだが――――」
『あれは、絶世の美女だ』
『は?』
『抜群の姿形をしており、気まぐれで聞き分けがなく、ひたむきで傲慢。自分の美しさを他と比較する気持ちすらない』
『……』
『抱き止めてやらねば止めようがない。まさに美しい女そのものだ』
『……』
『答えが如何に明らかなものであろうと白日のもとに晒す。それがアイドルとプロデューサーの関係であろう』
『……』
『どうだP、きみのプロデュースが見えてきたか』
『……』
『塩見P、きみにとって、塩見周子とはなんなのだ』
『……私は、周子が』
『――――豚ァ、私が居ろと言った場所に居ず、何をこんなところで油を売っているのかしら?』
『えっ』
『ククク……アーハッハッハ!! 相変わらず、ここまで私を苛つかせる豚は後にも先にもお前1人でしょうねェ……トロトロするんじゃないわ。さっさと来なさい、ほら、早く』
『ならばよし』
『えっ。ちょっ、先輩、えっ?』
「――――先輩は首輪を付けられ引き摺られて行った。その一件の後だ、先輩Pが無課金でありながら圧倒的資金力を誇る名族Pを下し、官渡liveフェスティバルを制したという報を聞いたのは……」
「何の話だか一気にわからなくなりましたが」
「つまりだな。お前と奏ちゃんは案外、似た者同士ということだ。そつなくなんでもこなしそうだが案外不器用で、真っ向勝負しかできん。そして結構臆病だ」
しようとした反論が、すぼんでしまった。
同時に、いつかの速水さんの姿が頭の裏に立ち上った。
『速水さん、仕上がりはどうですか?』
プロジェクト・クローネのアイドルを勢揃いさせた一大ライブだった。クローネの顔役でもある奏の出番まで、あと2つばかしというところ。
歓声はいつもの事だが、その時の盛り上がりかたはいつもの比ではなかった。超満員のファンの声が、地鳴りか雨あられのように押し迫るがようだった。
『大丈夫よ』
いつも以上の、集中した刃のような目で事も無げにいつも通り。
だが、心を落ち着かせるように吐息を吹き掛けた右手の拳が、白く震えたのが見えてしまった。
『……なに?』
思わずその手を包んでしまった僕に、彼女は氷のような忌々しげな声を向けた。
そう、思い出した。ちょっと前までの彼女は、超然として余裕たっぷりで、他人に弱さを見せず、触れさせるのを拒むかのような、強い人だった。
だが、思わず包んでしまった手が、あまりにもなよやかで、本番前とは思えないほど、血の気が引いたように冷たかった。彼女がその実、不用意に触れたら壊れてしまうほどか弱い少女であることは、僕はデビュー前から知っていた。
『万にひとつも心配などしていませんよ。でも』
ほぐすように、壊さぬように強く握った。
『億が一、舞台がひっくり返ったとしたら、そのときは僕がなんとかしますから。思う存分に奮って来て下さい』
速水さんは猫のような目を真ん丸にさせて、意表を突かれたような顔を浮かべていた気がする。
そのあとは、どうなったでしょうか。不実かもしれないが、実はよく覚えていない。ありがと、と言われた気もするし、余計なお世話よ、なんてつっけんどんにされた気もする。
いや、行ってくるわ、だったかな。
確かなのは、僕がその手を離すころには、彼女の冷たくなった掌に暖かい血の気が戻り、そのあとの彼女の出番はその日、文句なしの最高潮で迎えられ、大成功のまま幕切れしたということだ。
あのときは本当、輝きの向こう側に融けていった、生身の人間ならざる何かのように見えたものだ。
「男はいつだって臆病だ。似た者同士なら、女のほうが強いに決まってる」
すくりと彼が立った。
緩そうに見えて案外に重たるい彼の立ち振舞いはなるほど、よく見れば塩見さんにどこか似ているような気もした。
「飛び込んできたなら、とりあえず抱き締めろ。なんのかんのは、そのあとで良い。」
後ろ姿が格好良かった。
同時にムカつくな、とも思った。
「――――プロデューサーさん?」
すかんと広いレッスン場にひとり、玉のような汗を滴らす彼女が鏡越しの僕に気付いたのは、新曲のAメロのステップを踏んだところだった。
「来てくれたんだ」
「来るって言いましたから」
生真面目にもひとり、黙々と稽古を積んでいたのだろう。
汗が黒髪の先で滴になり、筋の浮く首筋を伝ってデコルテに流れる。
酔うような、甘い香りがした。
月色の瞳を見てると、先頃の塩見Pの言葉が照り返してきた。
彼が使った、ぶっ殺すと言う言葉。無体なようにも聞こえるが、あながちそうでもない、とも僕は思う。
プロデューサーは、アイドルから人生を託されている。決して大袈裟じゃない。僕たちのその時その時の導き次第で、彼女たちのその後の人生は大きく変わる。
ましてその大半は、速水さんのような10代の、これから白くも黒くもなる青葉のごとき少女だ。
プロデューサーにとってアイドルは、生徒であり戦友であり、娘のようなもの。
そういう果報そのもののような存在の真心を、適当にあしらったりなぁなぁで済ますようなやつがいたら僕だって、ぶっ殺したり説教するようなお節介は焼かないまでも、きっと軽蔑するだろうともさ。
「……プロデューサー?」
……だから、誰に宣言するわけでもないが。
プロデューサーがアイドルに掛けた言葉というのは、後から取り消したり出来る軽口じゃ無いってことだ。
「僕は、速水さんと一緒になることは出来ません」
彼女の顔から血の気が引くより早く。僕は、彼女の右手を掴んだ。あの夜のように。
びくりと、細い体が震える。構わず握りしめた。
「でも、僕はあなたが好きです。あなたよりもたぶん、ずっと好きなんです」
心臓がすぼまる。頭がぼうっとして、のぼせる。
当たり前だ、思えばこんなセリフ、10代の頃だって吐いたことはない。
「だから……一緒に探してくれませんか。二人でいられる方法、幸せになれる方法、二人で。」
僕にできることは、握りしめた手に力を込めるだけ。
手錠に鍵をかけるほど確かではないが、決して離さないように。
そこから先は、なんとなれ。
「あの夜と同じね。あなたは」
見上げてくる彼女との距離は、息が掛かるほど近く。
「あのときもあなたは、脂汗を垂らして、手汗びっしょりで、声だって震えていたわ。私よりずっと怖がりのくせに、意地っ張り」
睫毛の奥に震える瞳がきらめく。
「そういうところが、好きよ」
彼女の背伸びと、僕が頬に手を添えるタイミングがちょうど重なったとき、互いの距離は0になった。
「……速水さん?」
お互い、息を止めていたと思う。
やらかく壊れやすいものを扱うように、彼女と慎重に離れると、彼女はうつむいて。
「……ひっ……ひぐっ……グスッ……」
「え!? ちょ、速水さん!?」
泣いていた。
僕はオロオロして、彼女をとりあえず、胸に抱き寄せるばかりだった。
「落ち着きました?」
「……ごめんなさい」
レッスンルームの隅に背を預けて座り込み、速水さんの背中を抱き締める。
大して大柄でもない僕の腕のなかにすら、すっぽりと収まってしまう、華奢な体だった。
この小さな背中に何万人もの歓声やら、海千山千の関係者たちの期待やら、そういう重圧をいっしょくたに背負わせてしまっているのだと、今更ながら思う。
「なんか、ね。安心したら止まらなくなっちゃって」
グス、と鼻をならし、真っ赤になった目だけ除かせ、顔半分隠すようにタオルを当てていた。
人に弱みを見せたくない彼女の事だ。誰にも甘えられず、溜め込んでしまうタチなのは、よく知っている。
そのくせ不安症で甘えたがりで、寂しがり屋なのも、知っていた。
「……泣いてる顔も可愛いので」
思わず、きゅっと腕に力がこもった。
僕の半分くらいしか無いんじゃないか、とすら思う泣き腫らした小さな顔がいとおしかった。
「たまには見せてくださいね。秘密にしておきますから」
「……絶対イヤ」
僕の腕に、タオル越しに歯をたてて、甘噛みしてきた。
「周子にね」
「はい?」
「Pさんの事、話したんだけど」
「え……」
「『押し倒しちゃいなよ』って言われて」
マジかよ、と思った。
「……さすがに、そこまではできなかったんだけど」
胸元に、彼女が頭を預けてくる。
触れ合っているところが、融けるように心地よい。
「女は度胸って本当ね。案外、どうにかなったわ」
こっちを向いて、彼女はくすりと笑った。
(あのやろう)
たぶん塩見Pは、自分の成功体験をそっくり僕に話しただけだったのだろう。
いろんな意味であのやろう、である。
……それにしても、彼女は塩見さんに相談して、僕はそのプロデューサーに相談して。
やはり似ているのかな、と思った。言わないけれど。
「これから……どうしましょうか」
「……そうね、とりあえず」
腕の中の彼女が、くるりと体を僕のほうに向きなおした。
「名前で呼んでほしいかな。私の事」
「……え」
「ふふっ」
『億が一、舞台がひっくり返ったとしたら、その時は僕がなんとかしますから。思う存分に奮って来て下さい』
他人にわかったフリをされるのが嫌いだったの。だからそういう言葉だったら、きっとうんざりしてたと思うわ。
でもあなた、そういうことは言わなかったわね。
それどころか、当の私より、それこそ目でも回しそうなくらい緊張してて、汗なんか額からぼたぼた滴らせて、声だって裏返ってるのに。
すごくまっすぐな目で、自信満々に私にそう言ったわね。
おかしくって、笑っちゃった。
『ちゃんと見ててね、Pさん』
その時かな。一緒にいるならこんな人がいい、って思ったの。
私はちょろいかしら?
でも、恋なんてそんなものだと思うわ。
「はい。いつでもどうぞ」
「……いやあ、いざとなると、照れますね」
「男も度胸よ。ほら」
向き直って、少し大げさに両腕を広げて見せる。
彼は照れ臭そうに、ほほを掻いたり、唇を動かそうとしてつぐんだり。
もう。
しょうがないから、私のほうからその首に抱き着いた。
「……Pさん」
ウィスパーボイスで歌う時のように、濡れた吐息で彼の耳元でささやく。
彼の体が硬直するのが面白い。
ちゅ、と、薄布一枚くらいのところで、キスの音を立てた。
ビクッと、震える。
ふふっ。
ひとつ、わざとらしい咳ばらいをして、彼が私がしたように、そっと耳に唇を寄せる。
私は目を瞑りながら、彼の体温に身を預けて、その声を待った。
・おまけという名のオ○ニー
「社員の立場より役員の椅子にあるものをなにゆえ評価できるのか!それはひとつの問いに発している」
「筆頭株主でありながらなにゆえ社長を称されぬ!」
「なるほど! 貴様の望みも346の主か!」
「望みではない! 天意だ!!」
Cuと呼ばれたアイドルは本当にCuなのだろうか。
Coと呼ばせつつ中身Paだったりしないだろうか。
「美城常務」
「専務だ」
「このアイドル戦国時代、どこまで続くと思われる?」
「アイドル戦国時代? すでに終わっているだろう」
「346のみが天下にあらず! ひとつの事務所が芸能界を統べぬ限りこの大乱は長く燃え続く」
「それが武内Pが貴女の許を去った理由であり。私を選んだ理由でもある」
「ふん……」
「私よりも長く生きる気かッ」
アイドルとは属性だけで割り切れるものではない。
「だーかーらー! Pさんは世の中のアイドルを躍起になってスカウトしてるけど! 実際Pさんは何者も必要としていないだろ!」
「奈緒。天下はちっひをなんと呼ぶ?」
「えっ……そんなの決まって……」
これは名にしおう、THE IDOLM@STERシンデレラガールズの物語である。
「この痴れ犬どもぐぁー!! 晴ちんにドレスを着せ、たくみんをフリフリで辱しめ、幸子を空に放つのは何のためか!! アイドルを迎えてPたらんとするものが、お山を選ぶとは何事だぁーっ!!!!」
時代は三人のPを世に遣わした。
学生の無課金P
家族持ち微課金P
そして独身の廃課金P
「混沌より出でし暗黒の策! この神崎蘭子にのみ使える魔の符よ!!(レッスンの成果、プロデューサーさんに見てもらうんですっ♪)」
廃課金Pはこの中で最もシンデレラガールズに傾倒したプロデューサーである。
「――運営よ、お前が羅刹のごとく上位報酬を乱発するのなら」
そしてその事実が。
「俺も残高の続く限り鬼となろう。」
さらに課金地獄を過熱させた。
「プロデューサーさん! レアやSレアアイドルをお迎えしたいならガチャが一番っ♪」
アケマス生誕より14年、圧倒的スケールを増してP達の意地と万札がソーシャルワールドで乱舞する!
巨大活劇「偶像航路」堂々、開幕!(しません)
24 : ◆PL.V193blo - 2019/02/18 22:40:02 dB7 22/22以上です。ありがとうございました。
即興なりに真剣に書いていたつもりですが、終わってみればおまけの為だけに本編を拵えたような気もしている。
ソシャゲなんて概念すら無かった時代に登場した、ゲーセンの片隅でネタ扱いされていたコンテンツがここまでくるとは感慨深い。
これからも我ら、アイマスと共に。
https://www.pixiv.net/member.php?id=15257491
今まで書いたものはこちらにまとめておりますので、宜しければご一読いただけると幸いです。