凛「たぶん」
北条加蓮「傭兵?」
神谷奈緒「って、あれだよな? 雇われて兵隊として戦う人たち……だよな?」
凛「うん。まあ、ちゃんと聞いたわけじゃないんだけど、どうもそうらしいんだよね」
加蓮「たぶんとからしい、ってどういうこと?」
凛「お父さんもお母さんも、私にはその話をしたくないみたいで、ちゃんと私に教えてくれないんだ」
奈緒「まあ、戦争とかしてたことを娘には知られたくないのかもなあ」
加蓮「それはわかるけど、なんで急にその話を私たちに?」
元スレ
渋谷凛「実は私の両親は、元傭兵なんだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1613629429/
凛「明日、ウチにお泊まりに来る話だったでしょ? それで、もしお父さんやお母さんがその元傭兵って加蓮や奈緒がわかっちゃいそうな話をしても、気づかないふりをしててあげて欲しいんだ」
加蓮「凛に知られたくないって思ってるんなら、私たちも気づかないふりしててもいいよ」
奈緒「ああ、それぐらいはいいよ」
加蓮「大丈夫? 奈緒はほら、ツッコミ体質だから」
奈緒「大丈夫だよ!」
凛「とにかくよろしく頼むね」
~翌日 渋谷家~
奈緒「こんにちはー」
加蓮「今日はよろしくお願いしまーす」
渋谷母「2人ともいらっしゃい。今日はここを自分の兵営……家だと思ってくつろいでね」
奈緒(兵営?)
加蓮(今、兵営って言った?)
凛「ん、ごほん! 奈緒も加蓮も、楽にしてていいから」
渋谷母「奈緒ちゃんも加蓮ちゃんも、凛と同じ歳なの?」
加蓮「あ、えっと私は学年は同じなんですけど、歳でいえば1つ上で」
渋谷母「……え?」
奈緒「あたしは2つ年上の高二なんです」
渋谷母「……へえ、奈緒ちゃんは階級も年齢も上なの……」
凛「あ、やば……」
加蓮(階級?)
奈緒(学年のことか?)
渋谷母「りーん!」
凛「は、はい」
渋谷母「いつも言ってるでしょ! 年功序列をキチンと守りなさいって!!」
凛「いや、あの、ね」
渋谷母「上官に対して名前を呼び捨てにするとは、どういうことなの!!!」
奈緒「あ、い、いや、あたしはそういうの気にしないから……」
渋谷母「いいえ駄目よ。あなた達は組んで活動しているんでしょ?」
加蓮「え? あ、はい」
渋谷母「小隊の中で序列を乱す者がいるとどうなるか、あなたわからないの!?」
奈緒(どうなるんだ?)
加蓮(どうなるんだろう?)
凛「小隊は全滅することになるんだよね」
渋谷母「それがわかっていながら、どうしてあなたは!」
奈緒(あたしたち、小隊じゃなくてユニットなんだけど)
加蓮(そもそも凛は、なんでその回答がスッと出てくるの?)
凛「あ、あの、あのね、その……なんていうか……」
奈緒「あ、お母さん。確かにあたしは年上で学年も上だけど、デビューはほら、凛と一緒だから」
渋谷母「え?」
加蓮「うんうん。ほら、芸能界って実際の年齢よりも事務所に入った順番の方が重視されるっていうか」
渋谷母「あ、なんだ。あなた達、同期入隊なわけね!」
奈緒(入隊?)
加蓮(アタシ、ちゃんと芸能界って言ったよね?)
渋谷母「ごめんねえ、凛。お母さんほら、そういう事情をよくわかってなかったから」
凛「ううん。いいんだよ」
凛「ありがとう、助かった。奈緒、加蓮」ヒソヒソ
渋谷母「同期の桜かあ……お母さんも思い出しちゃうわね……ビル、クリス、デビッド、ジョシュアにミハイル……みんな若かったなあ」
凛「あ、やば……」
奈緒「え?」
加蓮「なに?」
渋谷母「みんな……みんな……どうして……みんないい人たちだったのに……」
凛「お、お母さん。そうだ、レンジ! レンジに!! ね!!!」
渋谷母「え? あ、そうね。じゃあ凛、お客様の相手をお願いね」
凛「うん」
バタン
奈緒「なあ、凛。レンジってなんだ?」
加蓮「電子レンジじゃないよね?」
凛「うん。ウチの地下、シューティングレンジがあってね。お母さんは感情が高ぶると。そこへ行って、ストレス解消をするんだ」
奈緒「シューティングレンジ?」
加蓮「って、なに?」
凛「あ、シューティングレンジっていうのはね」
ズキューン! ズキュンズキューン!! ズキュンズキュンズキューン!!!
奈緒(なんだ?)
加蓮(床下から?)
渋谷母「うおおおーーー!!! ゲリラのクソ野郎どもおおおぉぉぉーーー!!!」
ズキューン! ズキュンズキューン!! ズキュンズキュンズキューン!!!
奈緒「あ、いいや凛。説明しなくて……」
加蓮「うん。なんとなくわかったから、いい……」
凛「そう?」
~15分後~
渋谷母「ごめんなさいね、私ったらお客様をほったらかして。さあ、お茶でもどうぞ」
奈緒「あ、いえいえお気になさらず。お構いなく」
加蓮「でもせっかくだから、いただきまーす」
渋谷母「あなたたちみたいに、明るくて可愛い娘と凛が一緒で私も嬉しいわ。ほら、この娘は無愛想な所があるから」
凛「お母さん!」
渋谷母「ね。家でもこんな調子で、ちょっと心配もしてるんだけど」
加蓮「そうでもないですよ? 一緒にいると結構、笑ったり照れたり」
奈緒「そうそう。あ、これ先週の握手会の時の画像なんですけど」
渋谷母「あら。凛もちゃんと、いい顔で笑ってるの……凛?」
凛「なに?」
渋谷母「あなたこれ……なにしてるの?」
加蓮「いや、なにって握手会だから……」
奈緒「握手をしているだけだか?」
凛「あ、やば……」
渋谷母「……りーん!」
加蓮「え?」
奈緒「また!?」
渋谷母「あなた、どういうことなの!? 自分の利き腕を他人に預けるなんて!!」
凛「う、うん、あの、これは……ね」
渋谷母「利き腕を封じられたらどうするつもりなの!? あなた、そんな自信家だったの!?」
凛「や、いや、あの……加蓮! 奈緒!」ヒソヒソ
加蓮「え?」
奈緒「な、なんだよ」
凛「たすけて。このままだと私、めちゃくちゃ怒られるんだよ」ヒソヒソ
奈緒「怒られるって、どんな風に?」
加蓮「正座させられてお説教、とか?」
凛「M-14を持たされて大声で歌いながら三軒茶屋をグルグルとジョギングマラソンさせられるんだよ」ヒソヒソ
奈緒「M-14?」
加蓮「ジョギングマラソン?」
凛「しかも最悪、2人もそれにつき合わされるんだよ!?」ヒソヒソ
凛「トライアドの水着写真集がでーるぞー!」
奈緒「トライアドの水着写真集がでーるぞー!」
凛「お父さんたちには、ないしょだよー!」
加蓮「お父さんたちには、ないしょだよー!」
加蓮「……」
奈緒「……」
加蓮「あー……あ、あのお母さん? これは大丈夫なんですよ?」
奈緒「そ、そう。この握手してる相手は、ちゃんと事前に手荷物とかのチェックを受けてる人ですから」
渋谷母「え? うーん、でも腕に覚えのある敵兵が相手だと、素手でも危険じゃない?」
奈緒(敵兵ってなんですか、お母さん……?)
加蓮(握手会に敵兵は来ないよ、お母さん……)
渋谷母「こう引いて、こう捻って、こう抱え込まれたら……最低でも利き腕を折られちゃうじゃないの凛!!!」
奈緒「え、えっとですね、大丈夫です! あたしたちも油断はしてませんから」
渋谷母「え?」
加蓮「そ、そうそう! 握手の前に、あぶない人じゃないかはちゃんと私たちも観察してて」
渋谷母「……それはつまり、手の状態から相手の正体を見破る……っていう、揣摩渲染スキルのこと?」
奈緒(出た。意味不明の専門用語)
加蓮(相手の正体はファンの人ですけど……)
凛「2人とも話を合わせて、お願い!」ヒソヒソ
奈緒「そ、そうですそれ! 手から相手の正体を見破るんです!」
加蓮「私たち手を見れば、相手のことが全部わかっちゃうというか!」
渋谷母「そうなのよね! 人間、必要に迫られれば涙だって流せる……相手の目を見てもわからないこともある。でも……手は嘘をつけないのよね!!」
奈緒「あー……はい、そうです」※棒
加蓮「そうそう、そうなんです」※棒
渋谷母「ゲリラとの戦いの合間に、靴を磨かせてくださいって近づいてきた現地の子供がいて、その子も顔はあどけなかったけど、手を見たら銃創やナイフの切り傷でいっぱいでね……」
奈緒(ゲリラかな?)
加蓮(ゲリラでしょ?)
渋谷母「手を見て私も瞬時にわかったわ。ゲリラだって」
奈緒(ゲリラか)
加蓮(ゲリラだよね)
渋谷母「ごめんねえ、凛。お母さん、あなたたちがそんな域にまで達してると思わなかったから」
凛「ううん、いいんだよ」
渋谷母「凛、あなたは私の自慢の娘よ」
凛「ありがとう、おかあさん」
渋谷母「そしてあなたたちも、すばらしい兵士よ」
奈緒「あ、はい……」
奈緒(兵士じゃないんですけど)
加蓮「ありがとう……ございます」
加蓮(アイドルなんですけど)
渋谷母「あら、こんな時間。ごめんなさいね2人とも、私ちょっとお花の配達があるから出てくるわね。すぐ終わるから」
奈緒「あ、お気になさらず」
凛「私もちょっと、積み込みを手伝ってくるよ。すぐだから、楽にしてて」
加蓮「はーい」
prrrrr prrrrr
奈緒「ん? 電話が鳴ってる」
加蓮「でも、よその家の電話に勝手に出るわけにはいかないし。留守電になるでしょ、きっと」
電話「ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後にお名前とメッセージをお入れください」
加蓮「ね」
奈緒「なるほど」
ピー
電話「……ポール?」
奈緒「ん?」
加蓮「あれ? 間違い電話かな」
電話「いいか、用件だけ言うぞ。この電話は盗聴されている」
奈緒「……え?」
加蓮「……間違い電話だよね?」
電話「そこにいると、お前たち全員ヤバいぞ。じゃあな」
ツーツーツー……
奈緒「……」
加蓮「……」
凛「お待たせ。あれ? どうしたの?」
奈緒「凛!」
加蓮「今、変な電話が! 留守番電話に!」
凛「あ、もしかして、ポールとか言ってた?」
奈緒「そう! それ!」
加蓮「盗聴されてるからヤバい、って!」
凛「なんかしょっちゅうかかってくるんだよね。それ」
奈緒「え?」
加蓮「そうなの?」
凛「気にしなくていいから」
奈緒「そ、そうなのか? でも気になるけど」
凛「たぶんイタズラ電話か、あれだよ。この辺り大使館が多いからその関係じゃないかな」
加蓮「そうなの?」
凛「カメルーンとかガボンとかアンゴラとかの大使館」
渋谷父「ん? アンゴラがどうかしたのか?」
凛「あ、お父さん」
奈緒「あ、おじゃましてます」
加蓮「今日はよろしくおねがいいたします」
渋谷父「おお、君たちが凛と同じ小隊の娘か。自分の兵営だと思ってくつろいでくれ」
奈緒(やっぱり小隊か)
加蓮(やっぱり兵営なんだ)
渋谷父「ところで、アンゴラがどうしたって?」
凛「うん。ほら、近くに大使館があるじゃない。それで間違い電話とかかかってくるのかな、って」
渋谷父「間違い電話?」
奈緒「なんか盗聴されてる、とか言ってたんですけど」
渋谷父「ああ、それなら心配する必要はないから」
加蓮「あ、やっぱりそうなんだ」
渋谷父「大事な連絡は、軍用無線を使っているからね」
奈緒「へえ……え?」
加蓮「軍用?」
渋谷父「この電話機も何重にもスクランブルがかけてある」
奈緒(スクランブルってなんだろう?)
加蓮(卵料理じゃないよね?)
渋谷父「アンゴラも、今は平和になったし」
奈緒(今は、ってどういうことだよ……)
加蓮(昔はどうだったの……)
凛「今は、って昔はどうだったの?」
奈緒(おいおい、凛)
加蓮(聞いちゃっていいの? それ!)
渋谷父「お父さんたちがアンゴラにいた頃はな、内戦で……」
ガラッ!
渋谷母「あなた!」
渋谷父「ん? どうした?」
渋谷母「ちょーっと、こっちへ来てくれるかしら」
渋谷父「なんだい?」
渋谷母「凛、あなたは奈緒ちゃんと加蓮ちゃんのお相手をしてあげててね」
凛「うん」
渋谷母「じゃあちょっと失礼するわね」
バタン
渋谷母「あなた! 凛の前では、戦争の話はしないって決めたわよね!!」
渋谷父「え? あ! そ、そうだった……」
渋谷母「よりによって内戦の地にいたことを話して、どうするの!!!」
渋谷父「す、すまない、つい……」
奈緒「……凛」
凛「? なに?」
加蓮「お父さんとお母さん、元傭兵らしいって言ってたよね?」
凛「うん。確証はないけど、どうもそうらしいかな……って」
奈緒「いや傭兵だよ! 傭兵!! 間違いなく!!!」
凛「奈緒は傭兵に詳しいの?」
奈緒「詳しくはないけどわかるよ! 今も廊下で2人が話してるの、筒抜けで聞こえてくるだろ!!」
凛「うん」
加蓮「あれは傭兵だった人の会話だよ。っていうか、話の端々から感じるでしょ?」
凛「やっぱりそうなのかな? 私にとっては、普段のお父さんとお母さんだから、あんまりわからなくて」
奈緒「あ、そうか。凛にとっては、これが普通なのか」
加蓮「だけどね、凛。私たちからするとあれは、傭兵だった人の会話にしか聞こえないの」
凛「まあ私も、うすうすはそう感じてたんだけど。いまひとつ確信が持てないっていうか、もしかしたらジャーナリストとか大使館関係とか国連の仕事とかをしていたのかも、って……」
渋谷母「とにかく! 私たちが傭兵をしていたことは、凛には絶対に内緒にしておくのよ!!」
渋谷父「わかっている! 絶対に凛には、傭兵だったことは秘密にしておこう!!」
奈緒「……得られたな、確証」
加蓮「まあ、良かったじゃない。ハッキリして」
凛「そうだね。なんとなく、そうじゃないかとは思っていたし。でも……」
奈緒「ん?」
加蓮「なに?」
凛「お父さんもお母さんも、私には知られたくないっていう思いがあって、必死に隠そうとしているみたいだから、私も気づかないフリを続けようと思うんだ」
奈緒「うん……まあ、それはわかるよ」
加蓮「端から見てるとバレバレだけど、一生懸命だもんね。2人とも」
渋谷母「これからは絶対に、傭兵だったことを喋っちゃダメよ!?」
渋谷父「安心しろ。俺はあのゲリラどもの尋問と拷問に、三日三晩耐え抜いた男だぞ」
渋谷母「そうだったわね! 頼もしいわあなた!!」
奈緒「まあ、一生懸命なのはわかる」
加蓮「まあ、バレバレだけどね」
凛「だから悪いけど、2人もこのまま気づかないフリをしてくれないかな」
奈緒「わかった」
加蓮「他ならぬ凛の頼みだもんね」
渋谷母「ごめんなさいね、お客さんをほったらかして」
奈緒「いやいや、気にしないでください」
加蓮「どうぞ、おかまいなく」
渋谷父「ええと、2人は奈緒ちゃんと加蓮ちゃんだったかな?」
奈緒「あ、はい。あたしが神谷奈緒で」
加蓮「私、北条加蓮です」
渋谷父「奈緒に加蓮、か。2人ともいい名前だね」
加蓮「ありがとうございます」
奈緒「そういえば、いつも思ってたんだけど凛って名前も素敵ですよね」
加蓮「そうそう。まあ本人にはなかなか言えないんだけど」
渋谷父「そうかい? 嬉しいなあ、実は凛という名前をつけたのは私でね」
奈緒「あ、そうなんですか」
加蓮「どんなエピソードがあるんです?」
渋谷父「あれは……荒廃し、血と硝煙にまみれた戦場でもしっかりと空に向かって、凛と咲いていたあの花……」
渋谷母「あの花を2人で見ながら、この内戦が終わったら傭兵をやめて帰国して花屋をやろうって言ってくれたのよね……私の手を取って」
奈緒(戦場って言っちゃってますけど、お父さん……)
加蓮(傭兵って今言っちゃってたよ、お母さん……)
渋谷母「さあさあ、それじゃあ夕食の準備をしようかしら」
凛「うん、お願い」
奈緒「あ、あたし手伝います」
加蓮「うん、お願い」
奈緒「いや、加蓮も手伝えよ!」
渋谷父「ははははは。では私も、見学させていただこうかな」
凛「お父さんは、手を出さないのが正解だよ。ふふっ」
渋谷母「はいはい。じゃあみんなでやりましょう。キッチンはこっちよ」
prrrrr prrrrr
電話「ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後にお名前とメッセージをお入れください」
ピー
電話「……ポール?」
ツーツーツー……
加蓮「料理に使ってもらおうと思って、ジャガイモ持ってきたよ」
奈緒「それ、自分が食べたいだけだろ?」
加蓮「そうでーす♪」
凛「どうしよう、フライドポテトにする?」
奈緒「いや、折角だから一手間かけてコロッケにでもするか」
加蓮「キャー♪ すてきー♪」
奈緒「じゃあまずは、ジャガイモを茹でて皮を剥く……と」
渋谷母「あら、奈緒ちゃんは手際がいいわね」
凛「奈緒はこういう女の子らしいこと似合うんだよね」
加蓮「お嫁さんにしたいトライアドプリムスNO.1なんだよね」
奈緒「や、やめろよ、そういうの!」
渋谷父「いやいや、確かに可愛いし料理上手みたいだし、そう呼ばれるのもわかるよ」
奈緒「て、照れますね。さて、ジャガイモも潰したし。ここで、下味をつけていくぞ」
渋谷父「え? シュタージを尾行ける!?」
奈緒「そう、下味を」
渋谷父「シュタージを」
大和亜季「ここで不肖この大和亜季がシュタージについて説明するであります!」
亜季「シュタージとは、かつて東ドイツ(ドイツ民主共和国)に存在した諜報機関であり、秘密警察でありまして、東ドイツのみならず西ドイツ国民をも徹底した監視下においていた恐怖の組織。国民の反体制的行動に対する密告を奨励し、その非公式協力者は約190万人ともいわれ、国民の全人口の一割という規模で存在していました。シュタージは、密告により国民を相互監視させていたのであります」
渋谷父「奈緒ちゃん、シュタージを尾行けるのは大変なんじゃないかな?」
奈緒「え? 下味をつけるのなんて、簡単ですよ?」
渋谷父「だが連中は、どこにでも多人数で潜んでいるんだぞ!」
奈緒「え?」
渋谷父「奈緒ちゃん、おじさんはシュタージを尾行けるのは、相当に困難だと思うんだ」
奈緒「いやいや、基本だよ!? 下味なんて」
渋谷父「そうやってなめてかかって、何万人の東西ドイツ国民が犠牲になったかわかっているのかい!?」
奈緒「下味で?」
渋谷父「東西のドイツだけじゃない! 影から世界を監視して主導権を握っていたんだ!!」
奈緒「下味が?」
渋谷父「薔薇の木作戦のことは、奈緒ちゃんも知っているだろう!?」
奈緒「茨城は海水浴に行ったことはあるけど……まあ、とにかくすすめるよ。塩コショウをふるんだけど、下味だから少量な」
渋谷父「シュタージが表立って出てきちゃあまずいもんね」
奈緒「あくまで下味ですからね」
渋谷父「そこにいるのを知られないように……でも、かすかに感じるんだよね、存在を」
奈緒「そう! それが下味なんだよな」
渋谷父「おじさんはシュタージには詳しいからね」
奈緒「そうなんですね!」
渋谷父「プーチンもKGB勤務時代に東ドイツに駐在してたんだけど、その時にシュタージの身分証明書を持っていたんだよ!!!」
奈緒「プーチンってプリンの人だっけ?」
渋谷父「ウラー! タヴァーリシ、ウラジミール!!」
奈緒「あの、続けていいかな?」
渋谷父「あ、どうぞ」
渋谷母「さて。じゃあこちらは、鶏肉を調理していこうかしら」
加蓮「ヘルシーだけど、タンパク質がしっかり摂れていいですよね」
渋谷母「さすがね加蓮ちゃん。鶏肉は天然のプロテインよ」
凛「まあ加蓮は全然、料理とかはしないんだけどね」
加蓮「そんなことないよ? 卵かけご飯とかよく作るし」
凛「それは作ったうちに入るのかな」
渋谷母「じゃあ今日は、この料理を覚えて帰ってね。ささみ肉をラップで挟んで、麺棒で延ばすの」
加蓮「ほうほう」
渋谷母「そしてこの、薄く延ばした鶏肉の間にチーズを挟んで、衣とパン粉を付けて揚げるわけなの」
加蓮「ふうん。あれ、ちょっと待って。これって鶏肉が重なって……」
凛「そうか。重なり合う鶏~肉~♪」
加蓮「フィ~ルド♪」
渋谷母「……え?」
加蓮「あ、実は私たちの持ち歌にTrinity Fieldっていう歌があって」
凛「うん。トリニティ……あ! やば……」
加蓮「え?」
渋谷母「……りーん!」
凛「は、はい」
加蓮「えー……またぁ?」
渋谷母「トリニティっていうことは、あの計画が関係してるのよね?」
加蓮「あの計画?」
渋谷母「トリニティ実験は、マンハッタン計画の一環であったことは歴史が証明しているでしょう!?」
亜季「それではこの大和亜季がマンハッタン計画について説明するであります!」
亜季「マンハッタン計画とは、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの原子爆弾開発に対抗するためにアメリカやイギリス、カナダが科学者、技術者を総動員し原子爆弾開発・製造した計画であります。そしてトリニティは、ニューメキシコ州ソコロの南東にある実験場の名で、人類史上初めて核爆弾の実験が行われた場なのであります」
渋谷母「あなたたち、まさかジラードの手の者になにか吹き込まれたりしていないわよね!」
凛「ジラードが誰かしらないけど、お、落ち着いてお母さん」
加蓮「よくわからないけど、Trinity Fieldは危ない歌じゃないですから」
渋谷母「そうなの? それなら……奈緒ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかしら」
奈緒「はーい。なんです?」
渋谷母「そのTrinity Fieldっていう歌? ちょっと歌ってみてくれるかしら」
奈緒「え? いいですけど」
加蓮(お願い! 奈緒)
凛(当たり障りのない部分を歌って!)
奈緒(加蓮も凛も、なんか必死でこっち見てるけど……ま、いいか)
奈緒「迸る光♪ 螺旋を描いて行き♪ 空を貫くほどにスパークした~♪」
加蓮(奈緒……)
凛(よりによって、そこを……)
渋谷母「……さて、2人とも弁明は?」
加蓮「いや、あの、これは……その、この歌は歌詞に隠されたメッセージがあるんです!」
渋谷母「え?」
凛「そ、そうなんだよ。これは調和と平和の歌なんだよ」
渋谷母「どこが?」
加蓮「え、えっと、その……」
渋谷父「大事な連絡は、軍用無線を使っているからね」
加蓮「そうだ! こ、この螺旋……! これは……む、無線のことを言ってるんです!」
凛「そ、そう! ほら、軍用の」
加蓮「ね、ねえ。スクランブルが、あの、何重にもかけてある!」
渋谷母「え? そうなの? あ、じゃあ迸る光が空を貫くほどスパークしたっていうのは、もしかして……火花式送信機のこと?」
加蓮(火花式送信機ってなんだろう?)
加蓮「そ、そうそう!」
凛(火花式送信機ってなんだろう?)
凛「そうなんだよ!」
奈緒(火花式送信機ってなんだろう?)
奈緒「よくわからないけど、そうなんです!」
渋谷母「あ、待って。もしかしてわざわざ無線を螺旋と言い換えているのは、回転火花式送信機だからなのね!」
渋谷父「なるほど。そしてわざわざスパークという言葉で強調されているところをみると、これは回転火花式送信機の中でもアーク放電の負性抵抗により発振させる、電弧火花式送信機じゃないかな」
渋谷母「私も今、そこに思い至ったところだったのよ」
大和亜季「ここで再度この大和亜季が火花式送信機について説明するであります!」
亜季「火花式送信機とは、間隙を設けた電極間に高電圧を印加して、火花放電による電波を発生させる通信装置でありまして、中でも回転火花式送信機は、円盤の周囲に電極を配置し、その円盤の外側に置いた固定電極を電動機で円盤を回転させ、回転電極と固定電極がちょうど対向する位置に来たときに火花放電を起こすもので、火花式送信機の宿命である火花による電極の加熱を回転電極と固定電極との間に距離ができ、しかも回転によって生じる風によって電極を冷やすことができるのであります!」
渋谷母「ごめんねえ凛。お母さん、あなたたちが通信兵としての訓練も受けているなんて知らなかったから」
凛「い、いいんだよ、お母さん」
渋谷母「あなたたちは、日本のウインドトーカーズよ!!!」
加蓮「わ、わーい!」※棒
奈緒「や、やったー!」※棒
凛「ありがとう、お母さん!」※必死
渋谷母「そういえば今更だけどあなたたちは、歌をうたってるのよね」
凛「うん、そうだよ。前にも説明したけど、たくさんの人に歌を届けて元気を出してもらう仕事なんだ」
渋谷父「なるほどなるほど。つまり……慰問部隊だな」
奈緒「え?」
加蓮「いもん? イモ……?」
渋谷母「違うの?」
凛「ううん! そ、そうだよ!! その、イモの部隊」
加蓮「よくわからないけど、イモの舞台ってなんだかステキ!」
渋谷母「加蓮ちゃんは、どんな歌をうたってるの?」
加蓮「あ、私の持ち歌は薄荷っていう歌です」
渋谷母「発破?」
加蓮「薄荷です」
渋谷母「発火ね」
加蓮「凛」
凛「なに?」
加蓮「泣いちゃってもいい?」
凛「ゴメン、今は我慢して」ヒソヒソ
渋谷父「奈緒ちゃんは? どんな歌をうたってるんだい?」
奈緒「あたしはNeo Beautiful Painっていう持ち歌があるんですけど」
渋谷父「へえ。奈緒ちゃんの歌、ちょっと聞いてみたいな」
渋谷母「あら、私も聞いてみたいわ」
奈緒「え? な、なんだか照れるなあ」
加蓮「いいじゃない、奈緒」
凛「うん、歌ってよ」
奈緒「あー……じゃあ。どこまでも続いた♪ 果てしなく続いた♪」
渋谷父(戦争の歌か?)
渋谷母(戦争の歌かしら?)
奈緒「影を揺らす灯火♪ 闇に消えて♪」
渋谷父(やはり戦争の歌だ。灯火を消されたのは、敵兵の狙撃によるものか?)
渋谷母(やっぱり戦争の歌ねなのね。まずはこちらの目を奪うのが狙いね)
奈緒「心のふち音もなく♪ 流れ落ちた♪」
渋谷父(向こうは手練れの狙撃手だな)
渋谷母(音もなくこちらの灯火係を消された……危険な相手だわ)
奈緒「静寂は♪ いつも刺す針のよう♪ 静かに痛みに変え♪」
渋谷父(なんと的確に深夜の戦闘を歌い上げるんだろう)
渋谷母(闇夜の襲撃……思い出すわね)
奈緒「止め処無く♪ 流れるこの涙は♪ 満ちてあの日を映す♪ ……ど、どうかな?」
渋谷父「いやあ、素晴らしい歌だよ奈緒ちゃん」
渋谷母「本当。私、感激しちゃったわ」
奈緒「え、そ、そうです? いやあ、照れるなあ」
渋谷父「こんなにもしっかりと夜戦を歌い上げるだなんて」
奈緒「……え?」
渋谷母「思い出しちっゃたわねえ。ゲリラとの闇夜の戦闘を」
奈緒「凛」
凛「なに?」
奈緒「そんな風に聞こえた? あたしの歌」
凛「そうは思わないけど、ここはそういうことにしておいて。お願い!」ヒソヒソ
渋谷母「さあ、じゃあ揚がったチキンカツを切り分けていきましょうか」
加蓮「あ、は、はい」
奈緒「えっと、包丁は……」
凛「はい、奈緒」
奈緒「お、サンキュ……って凛! これ包丁じゃなくて、ナイフだろ!! しかもなんかゴツいし!!!」
凛「え?」
加蓮「え、じゃないよ。ナイフでどうやって料理をするの!?」
凛「どう……って、こう右手で持って、左手は腰の後ろに回して固定して……ハッ! ハッ!」
渋谷母「あら凛、なかなかいいナイ……包丁捌きね。ハッ! ハッ!」
凛「お母さんに仕込まれたからね。ハッ! ハッ! ハッ!」
加蓮「……もう、好きにして」
奈緒「すげー、リアル折原臨也&両儀式だ」
加蓮「いやー美味しかったけど、なんか色々と大変だったよね」
奈緒「まあでも、なかなかない体験だったよな」
加蓮「元傭兵の家族と一夜を過ごすなんて、なかなか機会はないよね」
凛「? お父さんとお母さんはともかく、私は元傭兵じゃないよ?」
奈緒「いや、そうかも知れないし自分では気づいてないかも知れないけど、凛もだいぶ影響受けてるぞ」
加蓮「そうそう。あのナイフ捌きとか、小隊が全滅する答えがスッと出てくるところとか」
凛「そうなの?」
奈緒「でもまあ良かったよな。お父さんとお母さんに、凛が元傭兵だって気づいてることバレなくて」
凛「うん。2人には感謝している」
加蓮「まあまあ私たちの仲じゃない。遠慮はナシで……」
prrrrr prrrrr
奈緒「電話だぞ、凛」
凛「うん。でもウチは基本、留守電にして出ないことにしてるんだ」
加蓮「あ、でメッセージ入れようとした声で誰かわかったら、出るんでしょ」
凛「そう。ほら、イタズラ電話も多いし」
奈緒「ああ、例のポールか」
電話「ただ今、電話に出ることができません。ピーっという発信音の後にお名前とメッセージをお入れください」
ピー
電話「……ポール?」
加蓮「あはは、言ってるそばから」
奈緒「そのポールから電話だぞ」
電話「随分、待たせてしまったな。頼まれていたブツの用意ができた」
凛「あれ?」
奈緒「ん?」
加蓮「どうしたの?」
凛「いつもと話す内容が違う……今までは電話が盗聴されてるとか、ここにいるとヤバいとかそんなメッセージなのに」
加蓮「うん。私たちが聞いたのもそれだった」
奈緒「な、なあ凛。あたしさっきも思ってはいたんだけどさ」
凛「なに?」
奈緒「間違い電話って、近所だからってかかってくるもんじゃないんじゃないかな」
加蓮「確かに……間違い電話って、地理的なものじゃなくて番号が近いとかかるものだよね」
凛「そうか。じゃあこの間違い電話って……」
電話「準備はできた。2人の勇姿を俺も楽しみにしている」
凛「おかしいよ。こんなこと、今まで言ったことないのに」
電話「悪いな。今はもう、2人とも娘を持つ親だというのに」
加蓮「それって凛のこと……だよね」
凛「だよね、やっぱり」
電話「今度の戦場はハードだからな。くれぐれもなめてかからないことだ。じゃあな」
ツーツーツー……
奈緒「お、おい、これって……」
加蓮「もしかして凛のお父さんとお母さん、また傭兵になる……ってこと?」
凛「そんな……過去のことはいいけど、今からそんな危険なこと……」
加蓮「凛……落ち着いて」
奈緒「あ、あたしちょっと凛のお父さんとお母さんに話してくる」
奈緒「えっとリビングかな……?」
渋谷父「さあ、今夜もお楽しみタイムがやってきたな」
渋谷母「まあ、あなたったらそんなやる気出しちゃって」
渋谷父「そう言うけど、今日は一日ずっとこの時間を楽しみにしてたんだよ」
渋谷母「あらあら……まあ、私もだけどね」
奈緒「この会話……こ、これってもしかして!? えええっ!!」
渋谷母「でも大丈夫かしら、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんも今夜はいるのに……」
渋谷父「そのために寝室は防音にしてるんじゃないか。今までだって凛に気づかれたことないし、大丈夫だよ」
渋谷母「それもそうね」
奈緒「うわあああ! そ、それってもしかしてもしかしなくても、大人の夜の最終防衛ラインという一線を越え……あああああ!!」
バタン
加蓮「あ、なんて言ってた? 凛のお父さんとお母さん」
奈緒「え、えー……お2人はちょっとお取り込み中で……その、なんていうか……」モジモジ
加蓮「なに言ってるの? この非常事態に。いいよ、私が行ってくる」
奈緒「だ、ダメだ!」
加蓮「え?」
奈緒「加蓮には、まだ早い」
加蓮「なにが?」
凛「じゃあ私が」
奈緒「凛にもまだ早い!」
凛「えー……?」
加蓮「? ともかく、凛のお父さんとお母さんに相談を!」
凛「あ! 加蓮」
奈緒「ま、待てよ! 加蓮」
ガチャガチャ
加蓮「あれ? 鍵がかかってる?」
奈緒「だ、だからな! 話は朝になってから……」
加蓮「ノックしてみようか」
凛「あ、寝室は防音になってるから聞こえないかも」
奈緒「うん。だから、な! 話は朝に……」
加蓮「何か手段はないの?」
凛「そうだ。いい考えがあるよ」
奈緒「え?」
凛「ハナコ」
ハナコ「ワン」
凛「ハナコ、こっちの通風口からお父さんとお母さんの寝室に入って、中から鍵を開けてくれない」
ハナコ「ワンワン」
奈緒「え? ハナコ、そんなことできるのか?」
凛「ハナコは軍用犬としての訓練を受けてるから」
加蓮「軍用犬の訓練? って、それ凛がやったの?」
凛「ううん。お父さんが」
奈緒「いや凛、もう今更だけどよく今まで両親が元傭兵だって確信を持ってなかったよな」
加蓮「じゃあ、お願いねハナコ」
ハナコ「ワン」
奈緒「おお、本当に通風口から……って、待った! ハナコ待った!!」
凛「え?」
加蓮「なんで?」
奈緒「なんで、って……中では今、凛のお父さんとお母さんが……」ゴニョゴニョ
カチャッ
凛「あ、ハナコが開けてくれたみたい」
加蓮「失礼しまーす。あの、変な電話が……」
奈緒「だから待てって、中では今! 夜のギャラクシアンウォーズ(銀河戦争)が……!!」
渋谷母「うおおおーーー!!! ゲリラのクソ野郎どもおおおぉぉぉーーー!!!」ガチャガチャ
渋谷父「撃て! 打て!! 討てえええぇぇぇーーーっっっ!!!」ガチャガチャ
渋谷母「やるわね、あなた! さすがは戦場の狼と呼ばれた男ね!!」ガチャガチャ
渋谷父「俺は今はただの1人の兵士だ!!!」ガチャガチャ
加蓮「え……?」
凛「あの……お父さん、お母さん?」
奈緒「な、なにやってんだよおおお!?!?!?」
渋谷母「え? あ、あれ? あなたたち!?」
渋谷父「いや、これは、その……新作戦場バトルシミュレーションゲームFPS閉牢Ⅶを……」
加蓮「はあ……戦場ゲーム」
凛「あれ、じゃあポールっていうのは……」
渋谷母「あ、ポールっていうのはゲーム配信する時の私の名前ね」
渋谷父「ちなみに俺は、エディだ」
加蓮「配信?」
渋谷父「元傭兵が、戦争ゲームやってみた、っていう配信を3ヶ月ほど前から……」
凛「お父さんとお母さん、そんなことやってたの?」
渋谷母「最初はね、FPSゲーム配信っていうのを見てたんだけど、そこで経験者視点から色々と発言していたら『お2人も配信やってみたらどうデスか?』って言われて」
渋谷父「で、その人に色々とアドバイスをもらって始めたんだけど、やってみるとこれがなかなか楽しくてね」
加蓮「じゃあ、あの留守番電話の相手は……」
渋谷母「ああ、あれは同期だった通称『両手いっぱいのジョニー』ことジョンが電気屋を始めてて、配信機器とかソフトとか用意してくれてるのよね。で、今日新作が出るって事でソフトもインストールとかのセッティングを済ませておいてくれて」
凛「あの留守電電話は?」
渋谷父「ジョニーに頼んでウチのネット速度を上げてもらっててね。LANやルーターや回線の見直しを頼んでいて、そのチェックだ」
加蓮「それをなんで、盗聴とかヤバいとか言うの?」
渋谷母「ジョニーにも困ったものでね。まだ傭兵だった頃の……じゃなくて、昔のクセが抜けないのよ」
渋谷父「もう一般人なんだから、盗聴じゃなくて普通にネット回線使用テストとか、ヤバいじゃなくて通信速度が上がらない、って言ってくれればいいのになあ」
加蓮「いやそれ、2人は言えないと思う」
凛「うん、そうだね……」
渋谷母「?」
渋谷父「?」
加蓮「まあなんにしても、2人がまた傭兵に戻るんじゃなくて良かったよね」
凛「うん。安心したよ」
奈緒「……そうじゃないだろ」
加蓮「え?」
奈緒「そういうことじゃないだろ……」
凛「どうしたの? 奈緒」
奈緒「夜の封神演義仙界大戦じゃなかったのかよおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」
渋谷父「?」
渋谷母「?」
加蓮「?」
凛「?」
渋谷母「まあもうわかっちゃったなら、一緒に配信どう? 3人とも」
渋谷父「そうだな。謎の美少女ゲストということで」
加蓮「え? うーん、ちょっと面白そう……かな」
凛「お父さんとお母さんがどんなことしてるのか、興味あるし」
奈緒「あ、あたしも大戦に興味あったんだ。実は」
渋谷母「じゃあテストプレイも終わったし」
渋谷父「配信開始!」
~翌朝~
加蓮「いやー、夕べは遅くまで盛り上がっちゃったね」
凛「うん。ゲーム配信ってけっこう楽しいね」
奈緒「ほら、朝食ができたぞ」
加蓮「うわ、美味しそうなモーニングディッシュ」
凛「朝のスパムの匂いは格別だね」
奈緒「凛、お父さんとお母さんは?」
凛「まだ寝てる。夕べあの後もずっと配信してたみたいだから」
加蓮「元気だねー」
奈緒「なんかもう途中から、全然普通に元傭兵って名乗ってたよな」
凛「まあ配信自体が『元傭兵が戦争ゲームやってみた』だからね」
加蓮「変に隠し事とか気づかないふりとかより、これをきつかけにオープンになっていったらいいんじゃない?」
凛「そうだね。だから、2人には感謝してるよ」
奈緒「それはいいけど、将来大変なんじゃないのか?」
凛「え?」
加蓮「そうだよー♪ ほら、プロデューサーが凛のご両親に挨拶しに来た時とかどうすんのー?」ニヤニヤ
奈緒「そうだぞー。娘さんを下さいって言いに来て、そのご両親が元傭兵とかだったら面食らったり、怖くなって帰っちゃったりしちゃうんじゃないのか?」ニヤニヤ
凛「あー……いや、それは大丈夫じゃないかな」
奈緒「え? なんでだよ?」
加蓮「プロデューサーを信じてるから?」
凛「それもあるけど、そうじゃなくてね」
奈緒「?」
加蓮「?」
凛「実はプロデューサーも、元傭兵なんだ」
奈緒「え!?」
加蓮「え!?」
凛「たぶん」
お わ り
75 : ◆hhWakiPNok - 2021/02/18 16:39:03.31 vD0rqF300 72/72以上で終わりです。おつき合いいただきまして、ありがとうございました。
凛のお父さんとお母さんのビジュアルから思いついたSSでした。