悪魔「そんなわけがないだろう。人間は欲深いものだ」
少女「本当にない」
悪魔「どんな願いでも叶うのだぞ」
少女「そのための対価は?」
悪魔「魂だ」
少女「魂より大事な願いってある?」
悪魔「……ないかもしれん」
元スレ
悪魔「願いを一つ叶えてやろう」少女「ないよ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1670921117/
少女「あなたは誰?」
悪魔「悪魔だ」
少女「新人さん?」
悪魔「そんなわけがない」
少女「本当は?」
悪魔「入社2年目だ」
悪魔「悪魔としての力を疑っているのか? 願いは本当に叶うぞ」
少女「大丈夫。疑ってない」
悪魔「ならさっさと願いを言え。魂をよこせ」
少女「そうところ本当新人さんだよね」
悪魔「馬鹿にしてるのか」
少女「かわいいと思うよ」
悪魔「それを馬鹿にしてるというのだ」
悪魔「わたしは早く魂を集めねばならんのだ。ノルマがヤバいのだ」
少女「助けてあげたいけどね。本当に願いはないから」
悪魔「この際なんでもいい。必要とあらば足も舐めよう。願いを」
少女「プライドないの?」
悪魔「ない。ノルマ達成の邪魔だ」
少女「マジでないんだね」
悪魔「ぬう。どうしたものか」
少女「メロンでも食べる?」
悪魔「いいのか?」
少女「いくらでもあるし」
悪魔「そっちのぶどうもいいか?」
少女「いいよ。わたしは食べないし」
悪魔「ぬう。腹が膨れると眠くなるな」
少女「隣来る?」
悪魔「いいのか?」
少女「ベッド広いし」
悪魔「職務中だし」
少女「最近は業務に昼寝を取り入れてる会社も」
悪魔「……ぐう」
少女「あるらしいね。って言ってる間に寝てたね」
悪魔「おはよう」
少女「夜中だよ」
悪魔「願いを言え」
少女「ないかな」
悪魔「飲み物欲しい」
少女「水でいい?」
悪魔「暇だ」
少女「夜中だしね」
悪魔「テレビは?」
少女「夜中だからダメ」
悪魔「ぬう」
少女「絵本読んであげる」
悪魔「馬鹿にするな」
悪魔「次は? 次はどうなるのだ?」
少女「一人ぼっちのゾウガメさんは、友だちがほしくてたまりません。ですが体が重くて動けない。そんなときオオワシさんがやってきました」
悪魔「早く。早く続き」
少女「今日はここまで」
悪魔「そんなあ」
少女「おやすみ」
悪魔「おやすみ」
悪魔「メロンうまい」
少女「全部食べていいよ」
悪魔「うわあい」
少女「テレビ見る?」
悪魔「見る」
少女「どのチャンネル?」
悪魔「Eテレ」
悪魔「願いはないか」
少女「ないよ」
悪魔「絵本を読んでくれ」
少女「いいよ」
悪魔「わくわく」
悪魔「そろそろ外で遊びたい」
少女「ムリ」
悪魔「なぜ」
少女「わたしやだ」
悪魔「ずっと寝ていては体に悪いぞ」
少女「そんなこと言われても」
悪魔「さては運動音痴だな?」
少女「怒るよ」
悪魔「何にしろ運動不足はよくない」
少女「そう言われても」
悪魔「まずは立て。そして歩け」
少女「わっ」
悪魔「手をつないでやる。散歩なのだ」
少女「……」
悪魔「いっちに、いっちに」
少女「あんよが、じょうず、あんよが、じょうず」
悪魔「自分でやっててどうなのだそれは」
少女「意外と悪くない」
少女「疲れた」
悪魔「そうか」
少女「もうだめ最悪」
悪魔「ぬう」
少女「ねえ悪魔さん」
悪魔「うん?」
少女「ありがとう」
悪魔「うむ」
少女「一人ぼっちのゾウガメさんは、オオワシさんのおかげでたくさんの友だちができました」
悪魔「うんうん」
少女「本当にたくさん、たくさんの……」
悪魔「うんうんうんうん」
少女「……」
悪魔「?」
少女「悪魔さん。わたしの魂持って行っていいよ」
悪魔「いきなりどうした」
少女「もういいよ。十分だよ」
悪魔「何が何だかわからん」
少女「わたしの願いは叶ったから」
悪魔「ますますわからん」
少女「わたし、ずっと友だちが欲しかったんだ」
悪魔「うん」
少女「ずっとこの病院にいたからずっと一人ぼっちだった」
悪魔「そうか」
少女「今はもう友だちがいるから」
悪魔「なるほどわからん」
悪魔「つまりなんだ。お前の願いはわたしの知らないところで叶っていたのか?」
少女「知らないところじゃないよ」
悪魔「わたしは知らん。わたしの叶えた願い以外で魂を取ることはできん」
少女「……わたしはズルして悪魔さんを引き留めたんだ」
悪魔「……」
少女「願いがないって嘘つけばそばにいてくれるんじゃないかって。ごめん。でも本当に楽しかったんだ」
悪魔「……」
少女「本当にごめん。だましてごめん」
悪魔「聞きたくない」
少女「でも」
悪魔「聞かなかった。だから絵本もう一回読んでくれ」
少女「たぶん今夜死ぬと思う」
悪魔「……」
悪魔「嘘だ」
少女「嘘だったらいいね。でもきっと外れないよ。長く病気してるとわかるんだ」
悪魔「……」
少女「だから持って行ってください」
悪魔「いやだ」
少女「わたしは悪魔さんと一緒がいいな」
悪魔「いやだ。絶対にいやだ」
少女「お願い」
悪魔「!」
少女「これがわたしの願いです」
少女「さあ、連れて行って」
悪魔「……いやだ。わたしはお前の友だちなんかじゃない」
少女「悪魔さん」
悪魔「友だちが欲しいならそういえばよかったんだ。お前はわたしをだました。悪魔をだましたんだ」
少女「悪魔さん」
悪魔「そんな愚か者には罰を与えなきゃならない」
少女「罰?」
悪魔「安易な道に逃げ込んだ者への、長く苦しい刑罰だ」
少女「……」
悪魔「その苦しみの中で考えろ。本当にその願いが正しかったのかを」
少女「……」
悪魔「さらばだ」
少女「それきり悪魔さんはいなくなってしまいました」
少女「わたしに愛想をつかしたのでしょう」
少女「そして、次の日」
少女「わたしはまだ生きていました」
少女「その次の日も、そのまた次の日も死にませんでした」
少女「わたしの体はそれから少しずつ快方に向かい始めました」
少女「少しずつ、少しずつ。退院できるまでになりました」
少女「ああこれなんだな、と、遅れて気づきました。これが罰なんだなと」
少女「わたしはこれから、弱い体を引きずってまた外の世界に入っていかなければなりません」
少女「めまいがします。しゃがみこみたくなります」
少女「それでも頑張ります」
少女「この人生の終わりには、きっと悪魔さんが迎えに来てくれると信じているから」
悪魔「――昔々あるところに一人ぼっちのゾウガメさんがいました」
悪魔「ゾウガメさんは友だちが欲しかったけれど体が重くて動けませんでした」
悪魔「でもオオワシさんが手伝ってくれて、世界中を旅することができました」
悪魔「一人ぼっちだったゾウガメさんには、今ではたくさんの友だちがいます」
悪魔「ゾウガメさんは待っています。いつか、別れたオオワシさんと、最後にまた出会うのを」
悪魔「一番の友だちに出会うのを」
悪魔「めでたしめでたし」