1 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 22:50:48.19 XmvGh9XK0 1/23

「ん? どうした響?」

「え、あいや、うん……き、綺麗だね」

「流石は中秋の名月ってとこかな」

「う、うん……」



元スレ
P「月が綺麗だな」 響「えっ!?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379598648/

2 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 22:51:41.04 XmvGh9XK0 2/23

「しかもちょうど満月なんてなー」

「そ、そうだね……」

「どうした響? なんか今日はやけにおとなしいじゃないか」

「そっ、そんなことないぞっ! 自分、いつもカンペキに元気だし!」

「そうか? それならいいけど」

「…………」


5 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 22:54:23.90 XmvGh9XK0 3/23

~回想~

教師「……このように、子規との出会いは漱石に多大なる影響を与え――……」

「…………。(午後の現文の授業ほど眠いものは無いぞ……しかも文学史とか反則……)」

教師「――そういえば、今日は中秋の名月ですね」

(ん?)

教師「漱石にちなんだエピソードとして、ひとつ面白い逸話があります」

(なんだろう。眠気が吹き飛ぶようなお話だったら聞きたいぞ)

教師「漱石が英語の教師をしていたとき、生徒が「I love you」を「我君ヲ愛ス」と訳したそうですが」

(ふむ)

教師「このとき漱石は『日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい』と言ったそうです」

(お……おお! な、なんかかっこいいぞ! 漱石!)

~回想終り~


6 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 22:58:01.45 XmvGh9XK0 4/23

(つ……つまりプロデューサーのさっきの発言は……)

(こ……こくはk)

「響」

「うっひゃあ!」

「う……うっひゃあ?」

「え、あ、あいや……違うんだぞ」

「違うって……何が」

「今のは……くしゃみだぞ」

「え、響お前『うっひゃあ!』ってくしゃみするのか?」

「するんだぞ」

「そ、そうか……」

(どうやら上手く誤魔化せたみたいだぞ)


11 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:00:37.96 XmvGh9XK0 5/23

「で、プロデューサーは自分に何を言おうとしてたんだ?」

「ん、ああ……」

「…………」

「月が綺麗だな、って」

「ぬっひゃあ!」

「ぬ、ぬっひゃあ?」

「……くしゃみだぞ」

「え……響お前『ぬっひゃあ!』ってくしゃm」

「するの!」

「そ、そうか……」

(今度も上手く誤魔化せたみたいだぞ)


17 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:07:01.17 XmvGh9XK0 6/23

(それにしても……こうも何回も言うってことは……)

(ぷ……プロデューサーはやっぱり、その、自分のことを……)

(……って! そ、そんなわけないだろー!?)

(自分はアイドルで、プロデューサーはプロデューサーなんだし!)

(そんなの……そんなの、あるわけないぞ!)

(……そんなの……)

(…………)

「…………」 


19 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:12:54.38 XmvGh9XK0 7/23

(だ、大体……プロデューサーが漱石の話を知ってるとも限らないし……)

(実際、今夜の月は満月で綺麗だし、ただその感想を言っただけって考える方が自然だよね……)

(……うん、そう、だよね……)

(…………)

「なあ、響」

「! な、なんだぞ」

「お、今度はくしゃみしなかったな」

「じ、自分は花粉症じゃないぞ! そんなしょっちゅうくしゃみばっかするわけないでしょ!」

「そうか? ほ~ら、ネコジャラシこちょこちょ」

「ふぁ!? あ……あ……ぬっひゃあ!」

「あっ」

「もー! 何するんだ!」

「……本当に『ぬっひゃあ』ってくしゃみするんだな……お前」


22 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:17:22.02 XmvGh9XK0 8/23

「もー、プロデューサーのせいで鼻がムズムズするさー」

「ごめんごめん、ほらティッシュ。鼻ちーんしな」

「ちーん」

「スッキリしたか?」

「うん……まあ」

「そっか、よかった」

「…………」

「…………」

「……で、さっきは何を言おうとしてたの? プロデューサー」

「ん? ああ……」

「…………」

「月が綺麗だな、って」


25 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:21:54.46 XmvGh9XK0 9/23

「! も、もう……またそれ?」

「ああ……だめか?」

「さ、流石にちょっと聞き飽きたさー……」

「……そうか」

「……うん」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

(……って、え! 何でいきなり黙るの!?)

「…………」


27 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:26:02.23 XmvGh9XK0 10/23

「ぷ……プロデューサー?」

「ん? ああ……ごめん」

「いや、別に謝らなくてもいいけど……急に黙っちゃうからどうしたのかと思ったぞ」

「…………」

「…………」

「……なあ、響」

「? 何?」

「俺達ってさ」

「うん」

「アイドルとプロデューサー……だよな」

「!」


29 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:29:26.47 XmvGh9XK0 11/23

「…………」

「…………」

「それは……そうだろ! 今更何言ってるんさー、プロデューサーってば!」

「…………」

「…………」

(……あれ? 何だろう……なんか……)

(胸の奥が……痛いぞ……)

「…………」


31 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:34:26.68 XmvGh9XK0 12/23

「なあ、響」

「! な、何?」

「……響がこうやって俺の家に来るようになったのって、いつからだっけ?」

「え? えっと……確か、プロデューサーが風邪引いたときにお見舞いに来たのが最初だったから……半年前くらいからかな?」

「そうか……もう、そんなになるのか」

「……うん」

「この半年……色んなことがあったな」

「…………」

「響に手料理ご馳走になったり」

「…………」

「逆に俺の方が料理を振る舞ったり」

「…………」

「二人で鍋したこともあったよな」

「…………」


37 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:37:42.10 XmvGh9XK0 13/23

「料理だけじゃない。二人で一緒にゲームしたり、テレビ見たり」

「…………」

「それ以外にも――……」

「……てよ」

「え?」

「……やめてよ」

「響……」

「何でそんな……昔のことばっかり振り返るんさ!? こんなの……こんなのまるで……」

「…………」

「まるで……」

「…………」

「うっ……ぐすっ……」


39 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:41:00.96 XmvGh9XK0 14/23

「響」

「あ、あれ? 何で自分……」

「響」

「あれ? おかしいな。なんでこんな……あれ?」

「響」

「ま、まあいいや! ほら、プロデューサーも月見ようよ月! 折角の満月なんだから……」

「響」

「嫌だ!」

「……………」

「聞きたくない! 絶対に聞きたくないぞ!」

「……響……」


42 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:45:53.60 XmvGh9XK0 15/23

「じ、自分は……嫌だからな!」

「…………」

「今までみたいに、プロデューサーの家で、一緒にご飯食べたり、テレビ見たり……」

「…………」

「これからも、ずっとずっと、そうやって……」

「……駄目だ」

「! …………」

「もう……駄目なんだよ、響」

「…………」

「…………」

「……なん、で……」

「……………」


45 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:53:28.35 XmvGh9XK0 16/23

「なんで……なんでダメなんさ!?」

「……………」

「自分がアイドルで……プロデューサーがプロデューサーだからか!?」

「…………そうだ」

「……!」

「響がアイドルで、俺がプロデューサーである以上……もう、これ以上はやめた方がいい。いや、やめなければならないんだ」

「そ、そんな……なんで!? だって自分達、やましいこととか何も……」

「そんなこと分かってる。でも、第三者から見てそう判断されるかどうかは別の話だ」

「……えっ」

「……この前、響が俺の家から出てくるところを見たっていう人から、事務所に電話があったそうだ」

「!」

「幸いにも写真とかは撮られてなかったようだし、音無さんが上手く誤魔化してくれたから大事にはならなかったが……」

「…………」

「でも、次もそうなるとは限らない」

「…………」


46 : 以下、名... - 2013/09/19(木) 23:57:41.64 XmvGh9XK0 17/23

「響はこれから、ますますアイドルとして成長し、売れていくだろう」

「…………」

「でもそれは同時に、スキャンダル等を狙う輩が増えていくことにもつながる」

「…………」

「俺は、響がトップアイドルになる前に……こんな形で、響の大切な夢を壊したくない」

「…………」

「だから、響……」

「……わかったさ」


48 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:02:34.15 26B/Km0J0 18/23

「響」

「プロデューサーの言う通りさ……自分も、アイドルとしての自覚が足りなかったよ」

「響……」

「自分、すごく楽しかったんだ。プロデューサーの家で、二人で同じ時間を過ごすのが……」

「…………」

「だから、つい、その……プロデューサーの好意に、甘えちゃってた」

「……ごめんな、響」

「……ううん。謝らないでよ、プロデューサー」

「……ああ」


51 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:10:24.81 26B/Km0J0 19/23

「まあでも……そういうことなら、今日ここに来る前に言ってほしかったかな……」

「…………」

「この家で言われちゃうと、その……やっぱり、い、色々思い出しちゃって……」

「…………」

「わ、わかってても、やっぱり、つらい…かな……」

「…………」

「……ふっ……うっ、ぐすっ……」

「…………」


54 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:12:49.94 26B/Km0J0 20/23

「うぇええええ……」

「…………」

「うぇええ……」

「…………」

「うぇえ……えぐっ、ぐすっ……」

「……響」

「……な……何?」

「……辛い思いをさせて、ごめんな」

「…………」フルフル

「でも、今日はどうしても……響にここに来てほしかったんだ」

「…………?」


56 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:17:29.22 26B/Km0J0 21/23

「なあ、響」

「……うん」

「俺達は、アイドルとプロデューサーだよな」

「…………うん」

「だからもう、こういう形で二人で会うのは……今日で、終わりにしよう」

「………………うん」

「でもな、響」

「……?」

「俺はどうしても、今日ここで……お前に伝えたいことがある」

「……え……?」


65 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:25:58.57 26B/Km0J0 22/23

「ずっと考えてたよ」

「…………」

「どうやって伝えたらいいのか、って」

「…………」

「直接的な言葉じゃ言えない。それはやっぱり、するべきでないとも思った」

「…………」

「……少なくとも、“今”は」

「…………」


68 : 以下、名... - 2013/09/20(金) 00:28:33.68 26B/Km0J0 23/23

「……それでずっと考えてたんだが……最近、ふと思い出したんだ」

「…………?」

「高校の時、現代文の授業で―――……先生が、雑談交じりに話してくれたこと」

「…………!」

「もしかしたら、響も知ってるかもしれないし、知らなかったらまあ……どっかで調べてくれたらいい」

「ぷ、プロデューサー……!」

「いいか? 響。今日何回も言ったことだけど……もう一回だけ、言うぞ?」

「…………うん!」





「月が綺麗だな、響」









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