関連
男「俺のちんこはこの世で最も強い」【前編】


195 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 01:56:12 0N8H1bqc 164/345

その男の風貌はみすぼらしかった。
衣服もずたぼろで汚い。ズボンの裾は擦り切れており、髪の毛は肩まで伸びきっている。
浮浪者と見まごうような身なりをしている。

うつろに見開いて焦点の定っていない瞳は、覗きこんだ者に、その濁った眼光の奥にたちまち引きずり込まれてしまいそうな得体のしれない不安感を覚えさせる。

靴は履いていない。
ドロで汚れている足は、よく見れば全て爪が完全に剥がれている。
長袖長ズボンの衣服に身を包んでいるが、服の外に出ている、顔、手、足、喉などは生傷だらけである。

彼が発した声に感情はこもっていない。
その低くも高くもない平坦な声色は、声と呼ぶより、喉と舌の稼動音と言ったほうがしっくりくるように感じる。

あらゆる部分が正体不明の不気味さをかもし出している。
だが、その場にかいする全員が背筋を凍らせた最もの理由は、その人物にこびりついているモノに対して。

全身がベットリと、血にまみれている。

「お前が……【あの人】か」

誰に言われるまでもない。
男は、その人物が何者なのかを、瞬時に理解した。

196 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 01:57:12 0N8H1bqc 165/345

【そういうお前は】

「……」

【陰茎術伝承者の息子】

「……」

【その背丈ほどにいきり立つ陰茎を見ればすぐ分かった】

「……」

【当て馬を……】キョロ

デブ男「ッ……」ビク

根暗女「ッ……」ビク

【用意した甲斐があった】

「当て馬?」

美少女「……」

197 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 01:57:44 0N8H1bqc 166/345

【武術家とは儚い】

「……」

【屈強な武術家などこの世には存在しえない】

「……」

【儚いお前に】

「……」

【実戦を知ってもらう必要があった】

「何故お前がいまさら来た?」

【実るのを待っていた】

「……」

【陰茎術伝承者唯一の生き残りのお前は貴重だ】

【未熟なまま……戦ったら】

【圧倒的に儚いお前を、何の感動もなく、すぐに殺してしまう】

198 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 01:58:30 0N8H1bqc 167/345

「自信満々だな。どこで陰茎術を知ったよ」

【……】

「美少女はともかく」

「こいつら他の3人が陰茎術を知っているのはお前の入れ知恵だろ」

「それと。あえて揚げ足をとるけど俺は唯一の生き残りじゃない」

「親父もまだ生きてる」

「何故俺に目をつけた」

【陰茎術一派は俺の流派が壊滅させた】

「……は?」

【お前の父親は生きてはいるが、武術家としては殺したといっていい】

「なに……言っ」

【今日は】

【お前は当て馬との連戦で疲弊しすぎている】

【殺すのは次にとっておく。そのとき高揚感を覚えるかもしれない】フラ

199 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:00:15 0N8H1bqc 168/345

「お、おい待て!!」

【待たない】

フラフラ

「陰茎術を壊滅させたのがお前の流派だとッ……」

「というか親父とたたかったのか!?」

「お前が!? おいッッ!!!!」

【……】

フラフラ

「ッ……はは……」

(なるほど……あるな)

(確かに……得体の知れない不気味さは……ある)

(あるが……)

(こいつにはそれ以上何のオーラも感じない……)

200 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:00:51 0N8H1bqc 169/345

バッッ

「待てっつってんだろうがッ!!」ザザッ

【邪魔だ】

「通さねえ! お前には聞きたい事がある!」

【父の事だろう】

「お前ッ……」

【……】

「親父が捕まる前に……」

【……】

「親父と……最後に……戦った奴だな」

【……】

201 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:01:24 0N8H1bqc 170/345

「親父は何十年も生きてきて……何千回と戦ってきた」

「陰茎術は今の時代、公の場所で使えばアウトさ」

「だが親父は今の今まで捕まったことがなかった」

「周囲の目に触れないように陰茎を扱うすべを熟知していたからな」

【……】

「親父が捕まった時」

「俺は近所の人たちに後ろ指を刺されたよ」

「犯罪者の……変態の息子だと」

「俺は親父が逮捕される瞬間に立ち会ったけど、情けないとは思わなかった」

【……】

「こう思った」

「人目につく場所で……一族秘伝の秘技を『使わざるを得ない状況』にあったんじゃないかと」

「陰茎術の使い手が武器を晒すのは交戦している時だけだから」

202 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:02:44 0N8H1bqc 171/345

「俺の親父は誰かと戦っていたんだと」

「どんな強者相手でも、誰の目にもつかない早業で敵を倒してきた親父が」

【……】

「初めて苦戦させられた相手が」

【……】

「いるのだと――――」

【……】



「――それがお前だった」

【こういう時お前らは感動に打ち震えるのか?】



「……は?」

【俺は不感症だから感じないんだ】

【お前の洞察力はまともだな】

【誰でもいい。俺の代わりに感動してやってくれないか】

203 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:03:38 0N8H1bqc 172/345

「……」

「なんだコイツ……頭おかしいんじゃねえのか」

美少女「……」

デブ男「……」

根暗女「……」

【……】

フラフラ

【根暗女、デブ男、美少女】

根暗女「ッは、はい!!」ビクッ

デブ男「はいィッ!!」

美少女「ッ……」

【晴れてお前らの役目は終わった】

根暗女「え……ぁ……」

根暗女「ッッッッッ……………!!!!」ゾクゾクゾクッッ

204 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:04:10 0N8H1bqc 173/345

デブ男「あ、あのッ……!!」

根暗女「ま、まだです!!」

【まだ?】

根暗女「まだ勝負はついていませんッ!!!!」

デブ男「そそっ、そうよ……私達まだ動けるものッ……!!!!」

根暗女「これからッ」

【……】

根暗女「これから本気で戦うところですからッッ!!!!」

デブ男「私達まだ戦えるわッ……だ、だからっ、だから!!!!」


「……」

美少女「ッ……」ギュゥゥ

「……必死だなアイツら」

205 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:04:41 0N8H1bqc 174/345

【なくなった】

根暗女「ッ……」

デブ男「えッ……」

【お前たちの生きる価値は今さっき、なくなった】

根暗女「ッッ……」ジワッ

デブ男「お、おねがいしますッ……もう一度チャンスを」

【チャンスなら目の前にある】

デブ男「ッえ…………え?」

【死にたくないなら俺を殺してくれればいい】

デブ男「……!!」

根暗女「ッ……」ブルブル

【お前たちで】

【俺が感じる事はなさそうだが】

【でも万に一つという事もあるから】

206 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:05:20 0N8H1bqc 175/345

根暗女「ッッ……ハァ、ハァ、ハァ!!」

デブ男「ッ……!!」

ドックン ドックン ドックン

根暗女「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!!」

デブ男「う、うっ……うっ……」

根暗女「ハァ……ハァッ……!!」

デブ男「ッ……!!!!!」

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン

ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン ドックン


【来ないなら俺が先手だ】

207 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:05:54 0N8H1bqc 176/345

「おいお前何する気だ!!」

【処理】

「させねえぞ」

【なんで】

「なんでってバカかよ……目の前で人殺しさせてたまるか」

【待ってくれ】

「待ってくれじゃねえよテメエに待てって俺が言ってんだよ!!」

【お前を殺すのは早過ぎる】

「殺してみろッ!!」

【……】

「最強最強あの人あの人言ってて、実際のテメーはボソボソ小さい声でしゃべるだけの、ただの気持ち悪い奴じゃねえかよ」

【……】

「俺はお前なんて怖くもなんともないよ、ほら、かかってこいよ」

【じゃあそうするか】

208 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:06:27 0N8H1bqc 177/345

バインッ



「ッ!?」

【あ】

(跳ね飛ばされ……!!)



ザザザァッッ

「わッ……とッ!?」



巨乳女「手を出すな陰茎術ッ!!」



「お、お前……デカチチ!?」

デブ男「巨乳女ちゃんッ!?」

根暗女「あ……め、目を覚ましたの……?」

巨乳女「外でのびていたがなッ!!」

209 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:08:14 0N8H1bqc 178/345

【お前も負けたのか】

巨乳女「【あなた】は……私が勝とうが負けようがもはや関係あるまい」

【うん】

巨乳女「十年間共に過ごした教え子を殺す時すら何も感じない。そういう人だ」

【不感症だからな】

巨乳女「ふ……」

スゥゥゥ

巨乳女「デブ男ッ!!!! 根暗女ッッ!!!!」

デブ男「ッ……」

根暗女「ッ……」

巨乳女「何を地べたに這いつくばっている!!」

デブ男「巨乳女ちゃんッ……」

巨乳女「戦うのだッッ!!!!」

210 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:08:44 0N8H1bqc 179/345

巨乳女「正直に言おう」

巨乳女「私は、我らは……圧倒的に【あなた】に劣っているわけではない、と思っている」

巨乳女「1人ずつ戦っていけば勝ち目はなくとも!」

巨乳女「3対1なら!! 我らの力はあなたに届くッッ!!!!!」

【教えたとおりだ。それでいい】

根暗女「で、でも……巨乳女……」

デブ男「っ……」

巨乳女「怯えるな!! 相手はただの人間だ、私達と同じ人間でしかない!! 立ち上がれ……!!」

「……」

巨乳女「私はこういう日を待っていたのかもしれない」

巨乳女「ずっと牙を研いできた……」

巨乳女「私の武力は誰かに従うために積み上げてきたわけじゃない……!!」

巨乳女「今ッ……【貴様】に下克上を果たすッ」

211 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:09:16 0N8H1bqc 180/345

【俺もこういう日が来るのを待っていた】

巨乳女「デブ男……!」

デブ男「ッ……」

巨乳女「根暗女!!」

根暗女「ッ……」


美少女「……」


巨乳女「美少女……お前はそちら側についたのだな」

美少女「……」

巨乳女「お前がどこかくすぶっていたのは知っていた。驚きもしないさ」

美少女「……」

巨乳女「お前はお前の道を行け」

美少女「巨乳女……さん……」

212 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:21:49 0N8H1bqc 181/345

「デカチチ、俺も手を」

巨乳女「出すなとそう言ったはずだ」

「だけどッ」

巨乳女「これは私達の宿命だ」

「……」

巨乳女「一切関係がないお前に、宿敵といえど、師の首を渡したくはない」

「……」

巨乳女「……これ」

「?」

巨乳女「この上着……私の目が覚めたときかけられていたこれは」

「俺のだな」

巨乳女「きさま……」

巨乳女「どういうつもりだ?」

巨乳女「こともあろうに敗者である私に情けをかけたのか」

213 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:22:33 0N8H1bqc 182/345


巨乳女「と……言いたいところだが」

「……」

巨乳女「……っ」キュッ

「……」

巨乳女「や、優しくされるのは案外……悪くない」

「巨乳女……」

巨乳女「礼は言わん。私はあの結果に納得していない」

「ああ」

巨乳女「もう一度手合わせしてもらう」

巨乳女「【コイツ】を倒したら……その次はお前にリベンジする」

巨乳女「この上着はお前に勝って返す」

巨乳女「それが私なりの借りの返し方だ」

「あはは、正直再戦はごめんだが……待ってるよ」

214 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:23:24 0N8H1bqc 183/345

ザッ……

【……】

巨乳女「……」

【この俺が】

巨乳女「どうした」

【前哨戦扱いか】

巨乳女「そうだ。不満足か?」

【不満はないが満足感もない。不感症だからな】

巨乳女「安心するがいい」

【安心感もない】

巨乳女「違う」

巨乳女「【貴様】が今から覚えるのは無力感と敗北感」

巨乳女「その2つだ」

【2つも……】

215 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:24:06 0N8H1bqc 184/345

デブ男「や……」

ガバッッ

デブ男「やってやるッ……!! やってわるわよッ!!」

巨乳女「デブ男……」

(フラつきのダメージからもう回復したか)

デブ男「もう、こりごりだったわ、ええ……!!」

デブ男「【あんた】の滅茶苦茶なやり方にはッ!!」

デブ男「私も一緒に戦うわ巨乳女ちゃんッ……!!」

根暗女「……」

根暗女「……わっ」

根暗女「私も……! 私もッ、戦う……!!」

巨乳女「根暗女……」

根暗女「私だって……ぶ、武術家の端くれ……!!」

根暗女「いつまでも逃げ腰でいられないから……いたくないからッ……!!」

216 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:24:38 0N8H1bqc 185/345

【もういいか?】

巨乳女「待たせたな……」タユン

デブ男「ッ……」ジリッ

根暗女「……」レロン

【そんなには待ってない】


巨乳女「【貴様】にあえて礼を言おう」

【礼?】

巨乳女「私達がここまで強くなれたのは【貴様】が恐ろしかったから」

巨乳女「【貴様】への恐怖がッ」

巨乳女「【貴様】を討ち取るまでの武力をくれたのだッッ!!!!」

【そうか。早く来い】

217 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:25:10 0N8H1bqc 186/345

巨乳女「我が名は巨乳女!! 流派は『魔乳護身術』!!」

タユンッッ

根暗女「我が名は根暗女……流派は『舌拳』……!!」

ベロンッッ

デブ男「我が名はデブ男ッ、流派は『緊縛拳法』!!」

ムキムキィッッ

【……】

巨乳女「いざ推して参らんッッ!!!!」

ゴォォォォォッッ!!!!

218 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:25:41 0N8H1bqc 187/345

根暗女「舌拳奥義『口淫矢の如し』ッッ…………!!!!」バッッ!!


シュンシュンシュンシュンシュンッッッ!!!!


デブ男「緊縛拳法奥義『強制緊縛・龍縛葬』ッッ!!!!!!!」ズアッッ!!


ゴォォォォォッッ!!!!


巨乳女「うおおおおおおおおッッ!!!!」バインッッ!!!!!


バインバインバインバインバインッッ!!!!!!!!



【……】

【……】

【……】




【俺の】

219 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:26:29 0N8H1bqc 188/345


【俺の名は無い】


巨乳女。根暗女。デブ男。
まさしく三位一体、それぞれが一世一代に放つ、全身全霊。
文字通り命をかけた総攻撃。

それらを目前にして得体のしれない【男】は初めて構えた。
脱力させた手のひらをくにゃりと前に突き出し、もう片方の手は顎の位置に控えさせる。

冷えた視線の目つきも変えず、呼吸を整える。
息を小さく吐いて大きく吸う。繰り返す。
敵の攻撃がすぐ目の前に迫ってきていても焦燥感も危機感もない。

何も感じない。
己が磨きあげた弟子たちが強くなり、最も望ましい形で自らに挑んできている。
そんな状況に充実感もなければ不足感も覚えない。
【男】を動かすのは感情ではない。
体に染み付いた武の欲求。

全身の内功を、つきだした右手のひらへ集中させていく。


【我が流派は『不甲掌拳(ふかんしょうけん)』】

220 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:27:55 0N8H1bqc 189/345

巨乳女「はああああああッッ!!!」

ボインッッッ

【ふんッ】



肥大化、硬質化させた巨乳女の乳房と【男】の右手の平が衝突した。



(終わった……)

巨乳女と先ほど激戦を繰り広げた男は、疑いなくそう思った。
あの乳房はあらゆる物体を跳ね返す。そして巨乳女は高速移動によって【男】へと突進した。
この時相手の運動エネルギーは問題ではない。
愚かにも真正面から鉄壁の乳房にぶつかった【男】の手のひらは、巨乳女が突進してきた速度の倍以上の衝撃で、反対方向に跳ね返される。
少なくとも手首の骨折は免れないだろう。


巨乳女「ッッ……」

【……】


男は――――そう思っていた。

221 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:28:41 0N8H1bqc 190/345

【失格だ】

巨乳女「――――ッ……」

【衝撃を跳ね返すのがお前の技だろう】

巨乳女「……」

【俺の掌底は外部からの衝撃で攻撃するわけじゃない】

巨乳女「……」

【勁を流し込み内部から破壊する】

巨乳女「……き……さ」


右掌が触れているのは左乳房だった。
【男】の内部で練り上げられた内功は右掌を辿って、接触する巨乳女へと伝わる。
そこから強烈な気功が波紋のように広がり、巨乳女の内部を駆け巡っていく。

放たれた勁はやがてそれを突き刺す。
皮膚を通りぬけ、筋肉を通りぬけ、骨を通りぬけ、直接、それを突き刺す。

右掌が触れているのは左乳房だった。


【不甲掌】

222 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:29:42 0N8H1bqc 191/345

バックンッッッ!!!!


巨乳女「ッッ……ごふッ!!!!」


「え――――」


【不甲掌拳はたとえ相手が鎧に身を包んでいようと関係ない】

【人体内部で練り上げた内功を掌底の発勁で送り込み】

【直接敵の内蔵を破壊する武術】

【甲(よろい)を不(うちけす)拳】

【それが不甲掌拳】


巨乳女「っ…………」ゴポッッ

223 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:40:48 0N8H1bqc 192/345


巨乳女の脳裏を今までの自分の人生がフラッシュバックする。
厳しい鍛錬の数々。
師匠である親を早くに亡くし、残された秘伝書だけを頼りに『魔乳護身術』を磨いてきた事。

【あの人】に拾われた日の事。

くぐってきた修羅場の光景。絶体絶命の状況を打破した経験。
孤独だった少女時代。
デブ男、根暗女、美少女と共に繰り返した修行の日々。

最後に頭に思い浮かんだのはつい先程の事だった。


巨乳女「っ、っ……」パクパク

「っ――」

巨乳女「っ、っ……っ」


離れた場所からこちらを見守る男に向かって、巨乳女は何かを喋りかけた。
声はでていなかった。ただ口を動かした。

巨乳女の顔は苦痛に歪んでおらず、場違いなほど、安らかなものに見えた。

224 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:41:20 0N8H1bqc 193/345

【お前の仕事がまだある】グイッ

巨乳女「っ」


根暗女「あッ……!!」

デブ男「待っ……!!!!」


【男】はダランと力のぬけた巨乳女の乳房をそのまま鷲掴みにして、自分の前にかまえてみせた。
根暗女とデブ男にはもう攻撃を止める事はできない。
士気を鼓舞して先陣を切った巨乳女に続いて2人が放った一世一代、全身全霊の一撃は、その巨乳女の背中に命中した。


巨乳女「ッ―――――」ビクンッッ


巨乳女は最早うめき声もあげなかった。
ただその豊満な肉体を、人形のように大きくしならせ、血飛沫を吹き上げた。
【男】は皮肉を言うつもりもなく何の感情もこめないままでぼそりと呟いた。


【盾になれたな。背中でも】

225 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:42:23 0N8H1bqc 194/345

「ッッ……巨乳女……」

「殺しッ……」

美少女「うッ……!!」


【来い。次だ】


デブ男「オッ……」

デブ男「おおッ……」

デブ男「おぉぉおぉぉ……!!」

デブ男「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

デブ男「よくも!!!!!」

デブ男「うわぁああああああ!!! よくもよくもよくもおおおおッッ!!!!」

デブ男「緊縛拳法ォォォォォォォォ!!!!」


バシュッッッ!!!!!!

226 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:45:16 0N8H1bqc 195/345

ギュルルルルッ

ギチチィッ……!!

デブ男「捕らえたぁぁぁッッ!!」

【それでどうした】バッ

ダッダッダッダッッ!!

デブ男「はっ――!?」

デブ男「なんでッ」

デブ男「何故俺の荒縄が巻き付いているのに動けるッッ!!??」

デブ男「人体の経絡を縛っているのに!!!!!」

デブ男「走る力など湧き出ないはずなのにぃッッ!!!!!!」

デブ男「何故こっちへ向かって来れるゥゥゥ!!!???」

ダッダッダッダッッッ!!

【お前の『緊縛拳法』と俺の『不甲掌拳』は近い位置にある】

【双方がともに中国拳法をルーツとし、練功法に重点を置いた武術。人体の経絡を道具で刺激することで気を操作するのがお前の武術だが】

【俺は道具など必要ない】

227 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:46:35 0N8H1bqc 196/345

バッッッ

デブ男「ッッ……」

【道具などなくても自らの内功を完全にコントロール出来る。外部からの干渉は関係ない】

【不干渉で、全身の肉体強化の経絡を、触れることなく刺激できる】

【お前とは練度が違う】

デブ男「ッ――――」

【失格】

根暗女「させないッッ…………!!」

ビュルルルルッッ

ガシッッッ!!!!


根暗女の打ち出した舌は難なく片手で掴み取られた。
高速で跳んでくる鋭利な刃を、まるで野球ボールをキャッチするかのように容易く。


根暗女「ッ……ぁっ」

【たとえ実力に倍の開きがあってもリーチの差は大きい】グググググ……

228 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:47:08 0N8H1bqc 197/345

【なくそう】


ぶちぶちぶちっ。


筋肉が力ずくで引きちぎられる耳障りな音がした。
廃マンションの一室を断末魔が揺らす。
【男】は無表情で、手に握ったそれを床に投げ捨てた。

べちゃっという音と一緒に血が跳ねた。


根暗女「アァアッ、あがあぁあ……ああぁぁぁあ……」ボタボタ

根暗女「あああああ、あぁっ、あぁああぁぁ!」

根暗女「あぁぁっ……あああぁぁぁああぁ……!!」


デブ男「根暗女ッ……根暗女ッ、あぁぁ」

【そんなに悲しいか】

デブ男「はッ……!!?」

【不甲掌】

229 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:47:47 0N8H1bqc 198/345

狼狽するデブ男の右頭部を【男】の左掌底が強く打った。
小気味いい音がパンとはじける。
【男】の内功がデブ男の頭部の奥を、駆け巡っていく。

それを見ていた美少女は思わず目を背けた。
想像したくもない光景が、目の前で広がっていると思ったから。
デブ男や根暗女と特別仲良くしていたわけではなかった。
だが、見慣れた人間の姿が崩れていくのを直視する事が出来なかった。



デブ男「あ……」



美少女(ッ……え?)

美少女(なんで……無傷?)

美少女(巨乳女さんは心臓を直接破壊され、口から大量の血を吹いた)

美少女(デブ男さんは頭を打たれて……)

美少女(脳を破壊されたのでは……なんで鼻血すら流れてない……?)

230 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:48:18 0N8H1bqc 199/345


デブ男「あ……根暗女」


根暗女「はがっ、へふおほほ……あぁっ……」

根暗女「へふほほぉぉ……」ボタボタ


デブ男「舌がない……」

デブ男「根暗女の……舌がない」

デブ男「舌……舌がないわ」


美少女「……ッ?」


デブ男「あ……」

【攻撃したのは】

デブ男「攻撃……」

【脳の右半球】

231 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:49:04 0N8H1bqc 200/345

【とりわけ情動を司る回路】

デブ男「そ……」

【仲間が痛い目にあっても悲壮感を覚えないだろう】

デブ男「かなしみ……」

デブ男「……」

デブ男「かな……しみ………」


【お前も不感症になったな】


デブ男「……あぁ……」


デブ男の顎からヨダレが滴り落ちていく。




【最後か】

232 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:49:48 0N8H1bqc 201/345

根暗女「あっ、あがっ……ああぁぁぁ……」

根暗女「ああ、ああああ、あぁぁぁ」

根暗女「あぁぁぁぁあぁ……」


【舌のない舌使い。もう半分死んでるようなものだが】

【でもとりあえずキッカリ殺しておこう】

スタスタ……


根暗女(こないでッ……こないでッ)

根暗女(こないでッ! こないでッ!!)

根暗女(こっちに来ないで……!!)

233 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:50:20 0N8H1bqc 202/345

【もうあがかないのか】

スタスタ

根暗女(おねがい……おねがいだからこっちに来ないで)

【あがく事もできないのか】

スタスタ

根暗女(こないで……たすけて……こないで……)

【完全に武術家として死んでいる】

スタスタ

根暗女「はふへへ……はふへへっ、は、はふへへ……」ボタボタ

【俺は日本語以外は聞き取れない】

根暗女「ほへはいひはふ……」

【うん】

根暗女「はふへへふははい……」

【ダメ】

234 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:51:22 0N8H1bqc 203/345

ザッ

根暗女「っ……」

【……】

【何故だ】

「そこまでだ」

【お前は何故立ちはだかる】

「二度言わせるな。目の前で人殺しはさせない」

【巨乳女は死んだぞ。デブ男の脳ももう修復不可能だ】

「あいつは手を出すなと言った。武人同士の決闘だから俺は見守る気だった」

【じゃあ何で】

「こいつにもう戦う意志はない」

【ないのか?】チラッ

根暗女「っ、ひっ……ひぃっ」ブルブル

【ああ見えてまだやる気かもしれない】

235 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:52:38 0N8H1bqc 204/345

「テメエふざけるのもたいがいにしろ……」

【武術家同士、それも陰の武術家同士の戦いだ】

「だからなんだ」

【嘘泣きをして命乞いして戦意喪失したフリをするというのは常套手段の戦法】

「どっちにしてもこいつにもう武器はないんだぞ」

根暗女「っ……っ」

ボタボタ

「お前が舌を引きちぎったから……仮にこれが演技だとしても……お前は足のないキックボクサーに負けるのか?」

【どうだろうか】

「お前のそれは武力じゃなく暴力だ」

【なんだそれは?】

「俺の親友の言葉だよ」

【連れて来い。それを殺してお前を矯正する】

「ッ……もう……」

236 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:53:33 0N8H1bqc 205/345







「テメーと交わす言葉はねえッッ……!」

237 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:54:03 0N8H1bqc 206/345

「陰茎術秘技ッ……!」ジャキッッ

【……】ピク

美少女「男さん!!」




「『勃ち鼎』ッッ!!」


ボッッッッッッ!!!!


【……これだ】


ガシィィィッ!!


「ぐッ……!!」

(掴まれた……!!)

238 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:54:34 0N8H1bqc 207/345

ギリギリギリ……!!

「くぅぅぅぅ……!!」

【お前の父親と戦った時】

「っ……!」

【何かを感じかけた】

ギリギリギリ

ググッ……グググググッ……

【俺にとってその感覚は遥かに高い壁の向こうにあるもの】

(なんて怪力だ……こいつッ)

(びくともしない……!!)

(ちくしょうッ……ちくしょう……!!!!)

グググググググッッ……

【結局お前の父親との戦いではその壁の向こう側にはたどり着けなかったが】

【逞しい陰茎だな】

【お前なら俺を連れて行ってくれるのか】

239 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:55:05 0N8H1bqc 208/345

「おおおおおお『流鏑馬』ッッ!!!!」

【それじゃ感じない】



バババババババッ!!!



美少女(陰茎の高速連打を素手で全部さばいている……)

(ありえない……!!)

「くっ……あぁぁぁあ!!」

バババババババッ!!

【壁の向こう側に連れて行ってくれる相手を探しているだけなんだ】

バババババババッ!!

「1人でやってろこの変態インポ野郎……!」

240 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:55:36 0N8H1bqc 209/345

【……】ババッ!!

(こいつ……怪力だけじゃない!!)

(同じ防御にしても)

(巨乳女のように超人的な反射神経とは違う……!)

バババババババッ!!

(読みきっている)

(次の攻撃、次の次の攻撃、そのまた次の攻撃を)

(事前に読みきってさばいている)

バババババババッ!!

(相当な場数を踏んできた経験則から来るものだ)

(簡単に出来る事じゃないというのは確かだが)

【……】

バババババババッ!!

241 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:56:18 0N8H1bqc 210/345

(構えを崩さず、急所を守り、最低限の接触で敵の攻撃をいなす)

(珍プレー好プレーが続いたこの連戦の中において)

(こいつが最も単純な格闘スタイルをとっている)

高速の連打を繰り出す陰茎術秘技『流鏑馬』。
その打撃の雨嵐の中でも【男】の表情は一切の変化がない。
うつろな視線は男と目を合わせたまま離さず、全ての攻撃を両手で受け流している。
それは鋭く突き出た陰茎が【男】の手のひらにあたった瞬間に起きた。


【発勁】

パァンッッ!!!!


「ッッ……!?」グラッ

体勢を崩した。
高速連打の中、軽く触れられただけなのにも関わらず、陰茎は張り手をくらったかのようにガクッと横にそれた。
男が体勢を持ち直すよりも早く【男】は地面を蹴り飛ばし、懐に詰め寄る。


【男】の右掌が今まさに自分の左胸に触れようとしているその瞬間、巨乳女の姿が頭をよぎった。

242 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:57:00 0N8H1bqc 211/345

(こいつの手に触れられたら終わる――)

上体を左側にねじった。
【男】の右掌から1センチでも自分の左胸を遠ざけるため。
右足を軸に左足を後ろに引き、瞬時に右肩を前に出し、左半身をその後ろに隠すように引っ込める。
空を切った【男】の右掌を、自らの右掌底ではねのけた。

(さばい――)

突如、腹部に稲妻がかける。

(たッ――)

防御不可能の右掌ばかり警戒していた男は、下から迫り来る【男】の左膝に意識が向かなかった。
重たい膝蹴りが、男のアバラの隙間に突き刺さっていた。
内蔵を破壊する勁こそ流し込まれなかったが、たとえ間に肉を挟んでいても、肝臓への膝蹴りは生易しいものではない。

距離をとらなければ。
蹲らせようと命令する脳からの危険信号を無視して、男はバックステップを刻む。

【……】ダッッ

(ッ……!!)

離れない。
男のバックステップに合わせて、全く同じ歩幅で【男】も前に進んだ。
2人の距離は一切離れない。

243 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:57:48 0N8H1bqc 212/345

陰茎術は1メートル程の自らの陰茎を振って戦う武術。

その性質は素手の格闘技よりも、槍や棒術に似ている。
陰唇術などに比べれば遥かに近接戦闘向きではある。
だが完全な0距離での戦いなら陰茎術の分が悪いという事を2人が共に知っていた。


(くそッ!)

バッ!!

【……】

バッ!!

バババッ!! ガガッ!!

(攻めこまれている……!!)

【……】ババッ

(陰茎で攻撃する暇がないッ……掌底をさばく事をやめた瞬間負ける!)バッ

【……】ババババッ

(こ、こいつ!!)ガガッッ

(陰茎術を特別視してる割に得意技をつかわせねえつもりか)

(上等じゃねぇかッ)

244 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:58:28 0N8H1bqc 213/345

(正統派の戦法をとってくる奴には)

(奇手で迎え撃つ!!)

(勃起も肥大化もさせない最小サイズまで陰茎を萎縮させるッ)

【……】シュバッ

ガッ ガガガッ

「ぐッ……!!」ババッ

(そして……!!)

(尿道を、敵めがけてじゃなく……地面に向けたままにして)

「陰茎術秘技『乱れ牡丹』ッ!」

ドピュッッ!!!!

何年も使われていない廃マンションの床は、高水圧の精液が着弾した衝撃でガシャンと砕ける。
穴こそ開かないものの、亀裂が走って瓦礫がめくれ上がった。
予期せぬ足場の不安定化は【男】の無駄のない体運びに水を差し、リズムを狂わせる。

【あ】グラッ

(そこだッッ……!!)

245 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:58:58 0N8H1bqc 214/345

男の陰茎が瞬時に突出した。
その方向はまたしても敵めがけてではない。
【男】の両足の間をするりと抜けて、陰茎は【男】の向こう側の地面に突き刺さる。


「陰茎術秘技『松葉くずし』」

それはまるでコンパスのような動きをしている。
敵の股下を抜いて向こう側に突き刺さった陰茎は、地面に固定して軸となる針の役目を果たす。

姿勢をかがめ、右足で地面を蹴り飛ばし、陰茎に全体重を預けることで、男は時計回りの半円を描いて移動した。

『松葉くずし』とは、相手の股下に通した陰茎を軸に、自身が素早く半円移動する事によって、相手の右足を陰茎で刈り上げつつ同時に背後をとる、陰茎術秘伝の足払いである。

だが【男】は右足を上げて難なくこれをかわす。

陰茎術秘伝の奇手も読まれていた。



(問題ない)

246 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 02:59:39 0N8H1bqc 215/345

足払いこそ通じなかったが問題ない。
むしろ男もそれを読んでいた。
こいつなら避けるだろうという確信すらあった。

(この位置が欲しかった)

敵と1メートル程の間合いがある上に背後という絶好の位置。

『松葉くずし』の際、地面に突き刺した陰茎を抜き放つ。
【男】が振り向く。
それとほぼ同時に、即座に陰茎を前へ突き出し、また股下に通した。

「もう一度だッ『松葉くずし』!!」

出す気のない技の名を力いっぱい叫んだ。
今度は地面に突き刺すことはしない。
股下からそのまま切り上げる。
その先は人体の急所である金的。

一度目の『松葉くずし』を避ける際にあげた右足を【男】はまだ地面につけていない。
【男】はハッタリには引っかからなかった。
そう来るだろうなと言わんばかりに、金的を防ぐため、上げたままの右足の裏を急上昇する陰茎に向けて勢い良く振り下ろした。

自然な発想だった。

男はそれを見た時、心の中でこう呟いた。

かかった。

247 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 03:00:15 0N8H1bqc 216/345

【男】の振り下ろした右足と、男の切り上げた陰茎が、衝突する直前だった。
陰茎がわずかに収縮したのだ。
振り上げる勢いは一切変えぬまま20センチほどその長さだけを縮ませた。
【男】の振り下ろした右足と、男の切り上げた陰茎は、衝突する事をやめた。

お互いの勢いは止まっていない。
片一方は来るはずの衝撃が急に無くなったから。右足は陰茎と紙一重にすれ違い、地面を踏み砕いた。
片一方はその先の技を放つため。
長さが足りない陰茎は右足と交差し、金的を素通りし、速度を落とさず上へと跳ね上がる。

陰茎が【男】の頭部を見下ろす最上段まで届いた時。
収縮した陰茎は元の長さに戻った。標的に届く長さを取り戻した。
そして切り返す。
一瞬のうちに急降下する。

(ある部位を打つと見せかけて空振りし)

(切り返した陰茎で別の部位を打つ)

(敵の意表をついて本命をとらえる)

その技を陰茎術一族が使い始めたのは江戸時代初期まで遡る。

岩流佐々木小次郎が編み出した画期的な剣法を、陰茎術が取り入れ、独自に変化させた二段攻撃。




「陰茎術奥義『燕返し』」

248 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 03:08:26 0N8H1bqc 217/345

ゴガッッッ!!!!!


【かッ……】


鉄の塊のように硬く太くいきり立つ陰茎がその【男】の頭部に炸裂した。
血液の雫が2,3滴、男の頬に飛び散った。
2人の『男』は視線を切らない。
目を合わせたまま【男】は徐々に視線を上げていき、男は徐々に視線を下げていく。
やがてガシャンと音がする。
それは足元のひび割れた瓦礫に、【男】が両膝をついた音だった。

「入った……」

美少女「男さんッ!!」



「ふぅぅぅ……」

【……】

「っ……」ズキン

【……】

「ふぅ……ふぅ……っはぁ」

252 : 以下、名... - 2015/06/01(月) 21:51:50 0N8H1bqc 218/345

「はぁっ、はぁっ、はぁ……!!」

(必殺技……)

(武術家は軽々しく『必殺技』などとは曰わない)

(放てば……当たれば)

(確実に……間違いなく)

(『必』ず)

(『殺』す)

(『技』など……)

(そう多くは存在しないし……そう簡単に口に出来るものじゃない)

【……】

(だがこいつは違う)

(1手1手が必殺……ほんとうの意味での必殺技)

(『死』そのものが……ジャブのように軽々しく連発される)

(精神力が……この戦い)

(長引けば精神力がもたない……)

253 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:29:44 Fht/0JHk 219/345

【何故だ】

「……」

【何故……攻撃の手を休めるんだ】

「……」

【膝をついた俺の頭部は今……お前の股間と同じ高さにあるのに】

「立ち上がれ」

【何故追撃しない】

「いいから立ち上がれ」

【何故だ……】

「……」

【もっと……もっと傷めつけてくれ】

【こんなものじゃ足りない】

【もっとだ、俺に有無を言わせず、もっと】

254 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:39:26 Fht/0JHk 220/345

【よこせ……】

【絶望感を】

【無力感を……】

【挫折感】

【敗北感を】

【不幸感を……屈辱感を】

【……俺が】

【生きているという】スッ


(来る……!!)


【多幸感をよこせッ……】バンッ

255 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:39:58 Fht/0JHk 221/345

膝をつく【男】がその両の手も地面に叩きつけた。
惨めなものだった。
とても武術家のとるポーズではなかった。

しかし、まるで土下座のようなその構えから、その技は放たれる。
降伏を象徴する姿勢から、『不甲掌拳』の殺意は暴れだす。



【不甲双掌烈波】



ドンッッ!!!!!!

「――――ッ」

「ぅわッッ!!」

美少女「きゃあっ!!」

その場にいたもの全員が、技の影響を受けた。
足場がぐらつく。
直下型の地震のような振動を感じた。

廃マンションのその一室、床全体がひび割れて砕け、凄まじい轟音と共に【男】の手によって崩壊を始めたのだ。

256 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:40:53 Fht/0JHk 222/345

ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!
バキバキバキッ……!!
ベキャッ!! ズゴゴゴゴ……!!


(馬鹿なッッ!!!!)

【お前はさっき陰茎術の技で足元を砕いてみせたが】

【足場を砕くとは】

【俺ならこうやる】

(床全体を破壊するだとッ……)


ガラガラッッ……!!

「部屋全体が崩れていくッ!? うわッ!?」

グラッ……

美少女「友さん危ないッ!!」ガシッ

「す、すまねえ……!!」


ガラガラガラガラッ……!!

257 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:41:29 Fht/0JHk 223/345

ビキビキビキッ!!


「ッ……」

コンクリートの床が砕けて落ちていく。
美少女に肩をかされて避難しようとする途中、友は、壁にまで走る亀裂を見た。
何年も使われておらず老朽化した廃マンションは、【男】によって受けたダメージを床だけにおさめる耐久性はなかった。

「く、崩れるぞ……!」

美少女「えっ!?」

「男ぉ!! 一旦離れろ!!」

「……」

「建物全体が崩れる!! 崩壊に巻き込まれちまうよ!!」


(悪いな友……避難させてくれそうにない)

【お前が後ろを振り向いた瞬間に不甲掌を打ちこんで殺す】

「発勁を床全体に流して……こんな事まで出来るのか……」


ゴゴゴッ……ビシビシ……

258 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:42:00 Fht/0JHk 224/345

「男ォォ!!」

「お前らは先に避難しろ!! 俺も追いつく!!」

「ッ……そんなッ」

美少女「友さんッ!!」グイッ

「いやだッ……!!」

美少女「もう私達がどうにか出来る状況じゃありません!!」

ガラガラガラッ!!

「ッ!!」

美少女「はやく!!!」

「くそ……くそッ!!」

美少女「ッ……」

美少女(こんな技は今まで見たことがなかった)

美少女(【あの人】は私達の前でも実力を隠して振舞っていた)

美少女(その実力が今……男さん1人に向けられている……)

美少女(男さん……どうかご無事でッ!!)

259 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:42:33 Fht/0JHk 225/345

ガラガラッッ……!!

メキキッ……ベキベキッ……

グラグラ……ビキキ……


【……】スッ

【男】がゆらりと立ち上がる。
自分の足場も安全ではない。今にも崩れ落ちそうにコンクリートがビキビキと悲鳴をあげているのだ。
それをものともせずに構えをとる。
その無表情さは、建物が崩れゆく周囲の背景とあまりにも場違いで、コラージュ写真のような違和感がある。

「……」スッ

友や美少女が避難したのを、背中で感じ取りながら、男も構えた。
良かった。
戦闘の最中に、彼女らの安否を確認して気がそれるのは危険すぎる。
ただでさえこの戦いは精神力を著しく擦り減らす。
今は目の前の標的だけに集中する必要がある。


【強さとは全てを総括した評価であると俺は思う】

「……」

【多対一を可能にする狡猾さと人脈も強さ、倒れた相手を容赦なく踏み殺す非情さも強さ】

260 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:43:27 Fht/0JHk 226/345

【自分に有利な戦場をつくる事も強さだ】

「それは自画自賛か?」

【今この状況じゃない。お前の父親と戦った時の話をしている】

「……何?」

【陰茎術は陰の武術……】

「……」

【人前に晒すことは出来ないし……今の時代……晒せば失うものもある】

「……」

【特にお前の父親には守るべきものが多かった】

「……」

【世間体。表で生きるための社会的地位。代々続く自身の流派を絶えないようにという願い】

「……」

【それらは全てお前という息子の存在のためだ】

「……」

【それを守るためお前の父親は頑なだった。公共の場で陰茎術を晒そうとはしなかった】

261 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:44:15 Fht/0JHk 227/345

【そこを狙った】

【陰茎術伝承者が生き残っているという事実を知った時】

【お前の父親を発見した時】

【ただちに決闘を挑んでも……奴は戦おうとしないだろう】

【公共の場だった】

【周りには家族連れがたくさんいた】

【俺は】

【近くにいた】

【手頃な人間を殺した】

「……」

【お前と同じ年くらいの高校生だった】

【奴は向かってきた】

【衆人環視の中だ……自らの秘術を満足に使うことも出来ないのに】

【そしてお前の父親は俺と戦い、あっけなく敗れた】

262 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:44:47 Fht/0JHk 228/345


(お前のやりたい事はわかってる)

(挑発したいんだろ)

(お前はさっきフェイントの二度がけにまんまとかかった)

(親父を侮辱するような話をして俺を逆上させ、攻撃の軌道を短絡化させたいんだ)

(お前にとってそのほうが読みやすいからな)

(馬鹿野郎が……)

ゴゴゴゴゴ……
メキメキ……ガラガラ……

「ふふ……卑怯者とは言わないけどな」

「強者を求める戦闘狂のような口ぶりをしているくせに」

「やっている事は案外搦め手ばかりなんだな」

【実戦ではそれらを含めて全力だ】

【お前の父親が俺との戦いで全力を出しきれなかったのは弱さだ】

【俺と比べて武への信念に劣ったからだ】

263 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:45:23 Fht/0JHk 229/345


(乗らない)

男は平静を保っていた。
いや、平静を保っているつもりだった。
冷静に状況を分析しているつもりでいた。

【お前の父親はあらゆる点で甘かった】

(安い挑発には乗らない)

事実その構えに隙はない。
話の最中、唐突に【男】が不意打ちをしかけてきても、冷静に捌ける自信があった。
全神経は目の前の【男】に集中していた。
【男】の眼光から呼吸音、指先のピクリとした動きまで何一つ見逃さない。


だがそれこそが【男】の狙い通りだったのだ。


戦いの最中に長話を持ちかけたのは、挑発のためだけではない。
時間稼ぎのため。
刻一刻と2人を取り巻く周囲の状況は変化している。
天井から降り注ぐ小さな瓦礫、1人でに崩れ落ちて大穴を開ける壁面。

そして足元。

264 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:46:06 Fht/0JHk 230/345

(ミシミシ……)

男の足元の床が小さく軋んでいる。
小さなヒビは枝分かれに枝分かれを重ねて、やがて大きな亀裂となっていく。

それは男の足場も程なくして崩壊するという確かな予兆。

しかし男の全神経は目の前の標的に集中している。
足元の変化に気付かない。
どんな方向から攻撃が来ても対処できるように、標的から一切意識を逸らさない。

【男】が挑発をしかけたのは、足場が崩れるまでの時間稼ぎと、もう一つ意味がある。
男の意識を自身に集中させること。
1手ごとの必殺を持つ敵を目の前にして、男の精神力はスポーツ選手が稀に達するゾーンの域に達していた。
周囲の音が一切耳に入らない状態だった。

【男】はそれだけでは不十分と考えた。
廃屋が崩壊する原因を作った大技『不甲双掌烈波』を繰り出した後、男の足場の状況に気付いた時、いかにその場から離れさせないかを思

考した。
そして長話を仕掛けた。自分の言葉に集中させるため。
挑発には乗らないと考えて、目の前の敵に集中するという行為こそが【男】の術中だった。
亀裂が亀裂を生み、床のコンクリートが支えを無くし、その時はやってくる。


【武術家は儚い】

「その台詞はもう――」

【落ちるぞ】

265 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:47:22 Fht/0JHk 231/345

ガラガラッッ……!!

(ッッ――――?)グラッ

(なにが)

(起きて――)

【不甲掌】

その隙をめがけて【男】は踏み込み、繰り出した。

(とんでくる)

『必殺』がとんでくる。

かわさなければ。
足に力が入らない。何故だ。
片足の先に地面がない。
崩れ落ちている。

(やられたッ――――)

瞬間的に【男】の意図を理解した。
その時にはもう遅い。
避ける時間はない。一度重心を失った姿勢はすぐに元には戻らない。
目の前に迫る『必殺』を前にして、あろうことか自分の体は転ぼうとしているのだ。

――――避ける時間はない。

266 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:48:17 Fht/0JHk 232/345

パァンッッ!!!!



「ッ……」



男は寸前で防いでみせた。
内蔵を破壊する右掌底をぎりぎりで防ぐことが出来たのは、巨乳女とデブ男の最後を見ていたから。
【男】が動いた瞬間にはもう、どこを攻撃されるかの予想がついていたから。

だが重心を失った体では、前のように上体をねじって体運びで回避する事は不可能だ。

不意に足場が崩れ、目の前に『必殺』が迫る状況の中で男がとったのは、瞬時に頭の前に左腕を構え、左胸の前に右腕を置く事。
【男】の右掌底は予想通り、自分の左胸に伸びた。
だから、心臓を破裂させられるという最悪のダメージを回避できた。

『不甲掌拳』は防御不可能の攻撃。
苦肉の策だが、この状況ではこうする他なかった。
これが最善の策だった。


【右腕を捨てたか】



「あがぁッ……!!」

掌底を正面から受け止めた男の右腕は、針を刺された水風船のように割れた。

267 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:48:52 Fht/0JHk 233/345

ガラガラガラッ!!
ベキベキッ……ガシャンッ……!!


(足場が完全に砕けたッ!!)


ガラガラッ……!


(落ちるッ……!)

(いやッ)

(落ちていい……)

(こいつから離れられるなら……!!)

(一度距離をとるべきだッ……!!)


血管や筋肉を破壊され、裂けた皮膚から血液を吹き出す右腕を抱えながら、男は瓦礫と共に落下した。

268 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:49:22 Fht/0JHk 234/345

ガシャンッッ……!!



「がっはッぁ……!!」



「ハァッ……ハァッ」

「ハァッ……!」

「さっきまでいたフロアは4階……」

「ここは……3階か」

「あいつは……ッ」

上を見上げたが、天井に空いた穴から【男】の姿は見えない。

「ッ……」

「ハァッ、はぁっ……はぁッ」

「右腕……ちくしょう……!」

「動かない事はないか……はぁっ、ハァ……やりやがって……」

269 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:49:59 Fht/0JHk 235/345

ガラガラ……


「ハァ……ハァ」

「ハァ……」

(血液を失うのはまずい……止血しないと)

(陰茎の硬度を維持できなくなる)

(だが……どうする)

(……あ)

(あれは……)

(巨乳女……)

巨乳女「」

(お前も……足場が崩れてここまで落ちてきていたのか)

(巨乳女)

(お前は【あいつ】には勝てなかったけど……借りは返してもらうよ)

(貸した上着……もらってくな)グイッ

270 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:50:32 Fht/0JHk 236/345

グルグル……ギュッ

「うッ……」ズキン

(止血はッ……出来た)

(痛みがひくわけじゃないが)

(こうなったら持久戦も覚悟するべきだ)

(精神力も……体ももう限界だが)

(それは退く理由にならない)

(友が俺を守るため立ち向かったように)

(巨乳女達が自らの信念のために戦ったように)

(俺は【お前】を倒す)

ガラガラ……
ピシッ……メキメキ……

(降りてこい『不甲掌拳』)

(ここが決戦場だ)

271 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:51:06 Fht/0JHk 237/345

ミシシッ……
ガラガラ……パラパラ……
メキメキ……


【……】

【……】

【……】スタスタ


男が落ちた床の大穴から、自分も降りようとは思わなかった。
待ち構えているのは明らかだと思ったから。
飛び降りて、落下している最中に攻撃を受けたら対処は難しい。
陰茎術には遠距離射撃技『乱れ牡丹』もある。

【男】は徐々に崩壊していく終末的なフロアの中を、マイペースにふらふらと歩きながら、階下へ続く階段に向かった。

敵は連戦で疲労している。
深い傷も多い。右腕も破壊した。
もともと実力的にも経験的にも【自分】のリードは大きい。
だがまだ勝っていないのだ。

【男】は油断していない。慢心もない。
確実に殺すまでが決闘であると思っている。
それが例え一人歩きを覚えたばかりの子供相手であっても確実に殺す。それで勝利とする。
特に信念に燃えている若き武術家を相手取った場合、それ以外の決着はない。

272 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:53:21 Fht/0JHk 238/345

【欠落感だ】

自分が唯一覚える感情。
何をしていても、どんな事をしていても、脳裏にこびりつく感情。
それ以外は空っぽであるのに、空っぽであるからこそ、欠落感だけは離れない。
階段へ向かいながら【男】は考えていた。

【俺は欠けている】

いつから感情を失ったのかはもう思い出せない。
古武術の鍛錬に傾向していた自身の父親との暮らしを思い出していた。
父の修行は厳しかった。血反吐を吐くまで毎日殴られた。
逃げ出すたびに足の爪を剥がされた。

反対に母は優しかった。
厳しい虐待を受けていても、母親のぬくもりが自分を救ってくれていた。
他者から唯一受けた愛情だった。

だがそんな優しかった母親は幼い頃に他界した。
学校から帰った時だった。
食卓で包丁を持ったまま倒れていた。
医師はその死因を『急性心筋梗塞による心破裂』であると診断した。

父は『母親の事は残念だが悔しければ強くなれ』と言った。
母親が病死でない事など知っていた。
何故なら自分が今教えられている武術が、外傷を与えずして内蔵を破壊する技だったから。

母親は自分を守るために父親に包丁を突きつけ、殺されたのだと思った。

273 : 以下、名... - 2015/06/02(火) 00:58:07 Fht/0JHk 239/345

【俺は欠けている】

それがいつからなのかは分からない。
最早それを知るすべはない。
昔の事など遠い記憶の彼方である。

母親が死んだ時からなのか。
父親に強制されて初めて人を殺した時からなのか。
はたまた自らの意志で人を傷つけた時。
もしくはその父親すらも殺した時か。

【俺は欠けている】

気付いた時には自らが持つものは武力だけになっていた。
それも最愛の母を殺した武術。
しかしもう悲しみを覚える事もない。
ああ、欠けてしまったんだなと他人事のように思った。
幼い頃から知っているのは他人の壊し方だけなのだ。
それしか教えられてこなかった
今となっての自分は、ただ戦う事を途方もなく繰り返す、感情の無い機械だ。

【俺は欠けている】

この果て無き欠落感を埋めるにはどうすればよいのか。
ずっと人間の交尾を思い描いていた。雌の欠けた部分に、雄の棒を差し込んで、ぴったりと塞ぐ光景を想像していた。
穴を塞がれた雌は満足そうに喘ぐのだ。
いつしか雌をよがらせる雄の姿を、陰茎術伝承者に重ねあわせていた。
鍛錬の途中に読み漁った古文書の中で、不甲掌拳が打ち破ったとされる陰茎術の、その風変わりな戦法は、自分と相まみえる相手として、不思議と最もシックリ来る相手のように感じた。

【陰茎術伝承者……お前がただ一人、俺の欠落を埋める】

277 : 以下、名... - 2015/06/03(水) 19:01:06 rX2hIzEM 240/345

(降りてこない……)

(警戒しているのか)

(階段から降りてくるつもりか)

(俺も移動……いや……いいか)

ガラガラガラ……
ピシピシッ……ガラガラ……
ズズズズ……

(天井も足場もぐらついてる)

(この建物はそう長くもたない)

(のん気してる時間はないけど)

(陰茎の疲労を回復できる時間は貴重だ)

(俺はここでこのまま待つ……)

ドクン ドクン ドクン

「ふぅ……ふぅ」

(頻脈だ……脈拍数が増加している……アドレナリンのせいか)

(連戦続きだったからな……冷や汗がとまらない)

278 : 以下、名... - 2015/06/03(水) 19:02:25 rX2hIzEM 241/345

(今の時点で限界が近い)

(既に体はぼろぼろだが意識はハッキリしている)

(俺の『燕返し』も確実に【奴】の頭部をとらえた)

(一撃だけだが……)

(それでもほとんど衝撃が逸れずに直撃させた)

(あの一撃はかなり効いたはず)

(大きいダメージを与えてるんだ)

(【あいつ】も元気なわけじゃない)

(本当の限界まで気をぬくな)

(一気に畳み掛けてやる……!)

279 : 以下、名... - 2015/06/03(水) 19:03:19 rX2hIzEM 242/345

ドゴォォォッッ!!!!


「ッ……!」


その破壊音は大穴の下で構える男と正反対の場所で響いた。
フロア反対側の壁面が吹き飛び、瓦礫と共に【男】がフロア内に転がり込んでくる。
【男】は待ちぶせを警戒して階段を使うことをやめていた。床に空いた大穴も利用しなかった。
廃マンションの外壁を伝って4階から3階までを移動していたのだ。


「来たか……!!」

【陰茎術ッ……】ダッッ


【男】は今までのふらふらとした足取りと打って変わって、全速力でこちらに走ってくる。


(奴に遠距離攻撃はない!!)

(近付くまでに少しでもダメージをッ……)

「『乱れ牡丹』ッッ!!」

283 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:40:46 la0tKz3w 243/345

【発勁ッ】

パァァァンッッ!!!
ビシャシャッッ……!!

高水圧の精液を掌底で弾き飛ばす。
走り来る勢いは一切変わらない。
男もそれに構うことなく連射した。

「おおおおおおお『乱れ牡丹』ッ!!」

ドピュンッッッ!!

【発勁ッ】

パァァァンッ!!

「もう一度だッ!!」

【発勁ッ……】

パァァァンッ!!!

「もう一度ッ……!!」

【無駄だッッ】

パァァァンッ!!!!

『乱れ牡丹』による攻撃は足止めにすらならず、2人の距離が僅か5メートル程までに縮まった時、男は射撃する事をやめた。

284 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:41:23 la0tKz3w 244/345

(距離がッ……)


【縮まったッ……】バッッ


(ここから遠距離攻撃を続けることは危険だ)

(至近距離の攻防に備える……!)

ジリッッ……

(触れられたら即死――ではあるが)

(奴の手のひらから毒針が伸びてるわけでも、魔法が使えるわけでもない)

(『不甲掌拳』は太極拳の応用)

(とすればその精密な内臓破壊も、筋群の連動から生まれる作用に過ぎない)

(要するに)

(その腕を骨折させれば【お前】の一撃必殺は封じられるという事……!)

(問題はそれをどうやるかだッ)


【不甲掌ッ……】

285 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:42:13 la0tKz3w 245/345

「ッ……」

必殺の掌底を放つべく突き迫る【男】の右手首に、男は左掌底を合わせて軌道を逸らした。
【男】は弾かれた右手を引かず、そのまま踏み込んで右肘打ちに移行する。
男も同じように、伸ばしたままの左腕の肘関節を上に向けて曲げ、お互いの肘鉄砲をぶつけ合う形でこの攻撃をいなした。

肘がぶつかり合うと同時に、自身の右脇腹にめがけて潜りこむように【男】の左掌底が迫っている。
男は上体を今度は右側にねじった。
左肘を突き上げて相手の右肘を跳ね上げながら、落としこむような右肘で【男】の左手首を打ち落とす。
先ほど破壊された男の右腕であるが、指先こそ動かないものの、肩と肘を稼働させるぶんの障害には至らなかった。

(ここまではッ……)

【読み通りだ】

(ここからッ)

男が即座に陰茎を突出させた。
それは【男】の鳩尾を狙った角度であったが、【男】は左前に体を倒してこれを躱した。
そのまま右膝が上がり、【男】の右中段蹴りが流水のように放たれる。

0距離の攻防の中ならばいつか来るであろうその中段蹴りを、男はあえて防御しない選択で読みを進めていた。
当然腹部への蹴りも警戒すべき危険な攻撃ではあるが、足技は一撃必殺の内臓破壊ではない。
この敵に関してはどうやっても、肉を切らして骨を断つという戦法を取らざるを得ない事は覚悟の上だった。

【男】が中段蹴りに移ったと同じく、男の左手は【男】の右手首を掴んでいた。

中段蹴りが腹筋をえぐる。

286 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:42:55 la0tKz3w 246/345

ズドッッッ!!!!

「がふッッ……」

(蹴り技の威力も並みじゃないッ)

(呼吸がとまるッッ!!)

(だがッ……)

ググッ……!!

「ふぅっ……」

【……】

「掴んだぞ……一撃必殺……!」

【片方が自由だが】

「やってみろ……【お前】の動きは見切った」

【男】の右手首を自身の左手で抑えている。【男】は空いている左手からまだ『必殺技』を打てる。
自分の右手は動かない事はないが指は使えない。【男】の左手首を掴む事は出来ない。
最小の長さまで戻した陰茎の角度を上に向けた。

ハッタリが通じないことは知っている。『見切った』と言いのけたのは策略でも虚栄心でもなく、自身への鼓舞だった。
ここからは一瞬の選択が即死に繋がる。

287 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:43:51 la0tKz3w 247/345


(この際もう右腕は完全に捨てる)

(右腕はハリボテだ、奴の左掌底を防ぐための肉で出来たハリボテだ。筋肉が完全に剥げ落ちるまで働いてもらう)

(痛みはあるが堪えるほかない)

(奴の左掌底は、上段に来れば捨て身の右腕で止める)

(中段下段は角度を上に向けた陰茎を突き上げてさばく)

(この場所で戦うことが重要だ……移動させるな)


グググッ……ググッ


【最初からこの体勢を狙っていたのか】

「へし折ってやる……お前の骨」

【反応速度の成長が著しいな】

「感動したか?」

【感動はない。不感症だからな】

「感じさせてやるよ」

【よく言った……だが】

288 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:44:38 la0tKz3w 248/345

【不甲掌】

【男】の左手がピクリと動く。
男は、それを見て即座に右手へ意識を集中させた。
この位置からなら上段、【男】の狙いは脳であると推測した。

(来るッ――)

ズドンッッ!!!!

(――――ッ!?)

しかし今度は【男】がハッタリを見せた。
防御不可能の掌底ではない。
先程見せた中段蹴りが再度、男の腹部に突き刺さっている。
強烈な悪寒と息苦しさに身をよじった。
体内で何かが逆流するのを感じた。

「かッは……!!」

【俺の左掌底をさばくために、後手の防御にまわらなければならない】

「あッッ……ぐッ」

【この体勢はお前にとってかえって悪手だ】

「ッ……ッ……!!」ググッ

(絶対に離すなッ……!)

289 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:45:28 la0tKz3w 249/345

(死んでも奴の右手首を離すなッ!!)

ズドンッッ!!!!

「がふッッ!!」

【何の意味がある】

ズドンッッ!!!!

「あぎッッ……」

【掴んでいれば俺の手首を握りつぶせるのか?】

ズドンッッ!!!!

ズドンッッ!!!!

ズドンッッ!!!!

強烈な中段蹴りが、幾度も男の腹に炸裂している。
そのたびに全身をこわばらせる。
普段ならこちらも膝をあげて応戦する、もしくは得意の陰茎術で対応するが、攻撃に転じた途端に左掌底を向けられた場合、対処出来ない可能性がある。
それは渡るにはあまりにも危険すぎる橋。
肉を切らせて骨をたつ以前に、骨どころか心臓や脳を破壊されるのだから。

(たえろッ……たえろッ……時間を稼げ!!)

290 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:46:04 la0tKz3w 250/345

【失望させるな】

ズドンッッ!!!!

「ッッ……ごふッ」

ビチャチャッ……

【これがお前の全力か。お前の実力か】

男の吹いた血飛沫が顔を濡らしても、【男】の表情は変わらない。
その奥に何の意志も感じさせない目をうつろに見開いたまま、中段蹴りを続ける。

【失望させるな。陰茎術】

ズドンッッ!!!!

「はッ……ァッ」

【失望させないでくれ】

ズドンッッ!!!!

「がはああッ!!」

【お前は俺の欠落を埋めなければならないッ】

ズドンッッ!!!!

291 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:46:38 la0tKz3w 251/345

【……】

「かはッ……けほ……」

【腕を掴んで離さないのは子供の抵抗か】

「ッ……ハァ、ハァ」

【お前ならもっと他の戦法を思いつくだろ】

「か……買いかぶりも……いいとこ」

ズドンッッ!!!!

「ッッ――――!!」

【くだらない意地で死ぬ気か】

「っ……ハァッ、はぁっ、げほッ!!」

【俺の右手首を離して次の策に移行しろ】

「ハァ……ハァ……うっ」

【それとも】

「ハァ……ハァ」

292 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:47:08 la0tKz3w 252/345

【天井の崩落を待っているのか】

「ッ――――」

【お前はここから動こうとしなかった。距離を取らずに何故か、お前にとっては分の悪い0距離の攻防を受け入れた】

「……!!」

【それはこの場所の天井が、お前が落ちた大穴付近だから】

(バレてるじゃねえか……!!)

【先程崩れ落ちた場所だ】

【時間稼ぎをしていれば、周囲のコンクリート片が自然に崩落しても不思議ではない】

【それを狙っていたか】

「……きづいてたのか」

【瓦礫など掌底で破壊できるがこの零距離なら確かにそれは隙になる】

グイッッ

「ッッ……!!」

293 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:48:33 la0tKz3w 253/345

【男】が掴まれたままの右手を肩側に振りぬき、引き抜こうとした。

(離すかッ……!!)ググッ

細身に見える【男】の肉体とは不釣り合いな程の怪力を感じたが、男は手首を離さない。
その時、ずっと動こうとしなかった【男】の左手が動いているのも把握していた。
5本の指をピンと伸ばし、掌底の構えをとったのが確かに見えていた。

(ッ……)

(違うッ……打ってこない)

(この左掌底はフェイントだッ)

(だがッ……!!)

例えフェイントだという確信があっても万が一に備えなければならない。
それが『必殺技』の恐ろしさ。防ぐためには徹底する必要がある。
男は右腕の脇を閉じた。肘で胸を守り手のひらで顔を守って掌底に備えた。そうするしかない。

読み通り男は左掌底を打たない。
放たれたのは頭突き。頭蓋骨と頭蓋骨の衝突。
男はそれでも身じろぎ1つしなかったが、次いで左足首に命中していた【男】の右下段蹴りで、自らの重心が簡単に揺らいでしまった事に気付く。

掴まれた右手を強く引き抜きながら【男】はバックステップを刻む。
男にはそれを踏ん張る重心はない。

出来る事は、掌底を警戒しながら【男】の後退に合わせて前進するだけ。

294 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:49:49 la0tKz3w 254/345


ザザァァッ……!!

「ッ……」

【移動できたな】

「くそ……くそッ……!」

【この位置なら天井はまだ安定している】

【不意に崩れることはない】

【技を仕掛けた俺だ。お前よりもどの場所が安定していて、どの場所が不安定かは把握している】

「くそッ……」

【策はつきたのか】

「巨乳女と戦った時も似たような手を使った……その時は成功したんだけどな」

【奴と同じ手が俺に通用すると思うとは】

ズドンッッ!!!!

295 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:50:28 la0tKz3w 255/345

「ごぷ……ッ」

【俺を感じさせてくれるんじゃなかったのか】

ズドンッッ!!!!

「ッ……」

(体中の力が抜けていく)

(【奴】の右手首を掴むこの左手だけは絶対に緩めない)

(だが……限界が近い……)

(陰茎さばきは……腹筋を酷使する)

(幼いころより腹部を鍛えていた俺だからまだ立ってられるんだ)

(同じダメージを胸部に食らっていたらとっくに倒れてる)

(親父……)

(腹筋トレーニングは地味だったから……俺はめんどくさがってた)

(助けられてるよ……親父、親父ッ)

ズドンッッ

「ッッ……」

296 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:51:00 la0tKz3w 256/345

【おい】

「……」

ダラン

【この程度か】

「う……」

【お前もこの程度なのか】

(死ぬ)

(死が目前に近づいている)

(まだだ……こらえろ)

【陰茎術】

ズドンッッ

「かふッ――」

(視界がかすんでいく)

(ぼやけて……思考に霧がかかる)

(死……)

297 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:51:32 la0tKz3w 257/345

(まだ手はある……)

ズドンッッ!!!!

(ッ)

(一瞬だけでいい)

(一瞬でもお前に隙をつくる事ができたら反撃に出る)

(だがこいつは、中段蹴りをやめようとはしない、このままじゃ)

ズドンッッ!!!!

(ッ……)

(壊された右腕……から血がしたたってる)

(上着を巻きつけて止血してあるから……致死量の出血じゃないが)

(血がもったいないな……)

(上着に染みこんで……ビショビショに滴り落ちてる)

ズドンッッ!!!!

(ッ……何を、考えてるッ)

(だめだ、意識が……だめだ……意識を強くもて)

298 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:52:05 la0tKz3w 258/345

(親父だ……親父は強かった)

(間違いなく強かった)

(修行をつけてくれている時、いつも俺を心配してくれていた)

(決して強制された事などなかった)

(応えたかった)

(鍛え上げた自分の強さを誰かに見てもらいたかった)

(例えそれが自らの恥部そのものであっても)

(最近になって、陰茎術が恥ずかしく思う時期もあったが)

ズドンッッ

(――――)

(今の……俺に……恥はない)

(親父がくれた陰茎術だ……)

(誰よりも強い……この武術を……誇りに思う)

(俺が……陰茎術を……最強に……)

(す…………る……)

299 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:52:54 la0tKz3w 259/345

ズドンッッ!!!!


「ッッ――――」ガクンッ


【……俺は欠けている】

「――」

【本来なら今は悲しみを覚えるべきなのだ】

「――」

【だが悲しみはない。不感症だから】

「――」

【陰茎術伝承者唯一最後の生き残りも今ここで死ぬ】

「――」

【結局お前も】

「――」

【俺に何の興奮も与えなかったな】

俺はかけている。

300 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:53:29 la0tKz3w 260/345

【お前を殺す】

「――」

【何の感情もなくお前を殺す】

「――」

【あるのは無限の欠落感……それだけだ】

「――」

【俺はお前を殺したら外にいる奴らも全員殺す】

「――」

【それでも何も感じないだろう】

「――」

【俺は不感症だから、これからも、ずっと、死ぬまで】

「――」

【何も感じないぞ】グッッ……

「――」


俺は、かけている。

301 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:54:01 la0tKz3w 261/345

【不甲掌】


「――――」


【男】は、確実に殺すまでが決闘だと思っている。


『もう半分死んでいるようなものだが、でもとりあえずきっかり殺しておこう』。

『こいつにもう戦う意志はない』『ないのか?』『ああ見えてまだやる気かもしれない』。

『嘘泣きをして命乞いして戦意喪失したフリをするというのは常套手段の戦法』。


それが命ではなく、脳を攻撃して廃人にさせるという事でも同義だろう。
相手を必ず仕留めようとする。
その際は掌底を繰り出す可能性が高い。『不甲掌』を打ち込むために。

実際にそうやって仕留めたところをこの目で見たのは二度だけだった。
必ずと言い切れるほどの根拠にはなり得ない。
だがその少ない可能性にかけるしかなかった。

(俺はかけていた)

混濁した意識の中で、【男】が自分にとどめを刺そうと、掌底を繰り出す事に賭けていた。

(――右腕を)

302 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:54:39 la0tKz3w 262/345

(振り上げるッ……)


【何ッ――――】


パァァァンッ!!!!


繰り出された左掌底は男の左胸には届かなかった。
【男】の左掌底を、ボロボロの右腕で受け止めていた。
二度も掌底を受け止めた男の右腕の状態は、止血のために巻きつけた上着で見えないが筋肉が裂けて骨が露出している。
その右腕を勢いにまかせて振り切った。
巻きつけた上着からなおも飛び散る血飛沫が【男】の目にかかったが、【男】は寸前で目をつむることにより目潰しを逃れた。

(目をつむる――だけでいい)

絶好のチャンスの中にあって、男の陰茎は下を向いていた。
ダランとうなだれている。
それは決して降伏しているからではない。

むしろ陰茎の疲労は徐々に回復し始めていた。
脱力した陰茎をそのまま下に伸ばし、先端を地面に密着させる。

(柔と剛の性質を併せ持つ……しなるバネのような硬度に)

【陰茎術ッ……お前まだ】

(残っている力を一回の移動に全てふりしぼれッッ!!!!)

303 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:55:11 la0tKz3w 263/345

「陰茎術秘技『鶯の谷渡り』ッッ!!!!」

【ッッッ】


ドンッッッ!!!!


(床を移動する低空飛行じゃない)

(上に跳ぶッ)

(【お前】の発勁には、【お前】の一撃必殺には)

(重心が必要だろッ!!)

(殺してみろよ……!)

(空中を高速で吹っ飛ぶ中で、俺に一撃必殺を放ってみろッッ!!!!)

【ッ……】


男はまだ【男】の右手首を掴んでいる。
決して離さない。
引っ張られて、【男】も一緒に超高速で宙を舞っている。

真上に跳ぶ2人は、やがて天井に突き当たる。
そのとき男は、掴んでいる【男】の右手首をめいっぱい上に掲げていた。

304 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:55:42 la0tKz3w 264/345

天井をぶち破り、先程戦っていた4階フロアの空中まで吹き飛んで、2人の上昇は止まる。
一瞬の無重力があった。
天井を突き抜けた時に巻き上げた小さな瓦礫や砂埃が2人の周りを浮いている。

その時やっと男は手を離した。
だが自由になった【男】の右手首は反対方向に折れ曲がっている。
言うまでもなく、高速で天井に突き当たった際の衝撃が原因だった。

「もう片腕も――狙うぞ」

重心のない空中ではどんな攻撃も出来ない。
それは『不甲掌拳』も例外ではない。ただ地面に落ちるのを待つしか無い。
だが陰茎術は違う。

陰茎の伸縮は重心を必要としない。


「折られたくなけりゃ防いでみろ」

【お前……】


一瞬の無重力の中で【男】は左腕の前に右腕を構えた。手首の折れた右腕で左腕をかばった。
空中では踏ん張りも効かなければ、受け流す事もできない。
地上なら何の事はない攻撃だろうと全てが致命傷になりかねない。
咄嗟に左腕が攻撃を受ける事を避けようとした。


(やっとハッタリにかかったな)

305 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:56:18 la0tKz3w 265/345

「狙い通りだッッ!!!!」


陰茎が凄まじい勢いで真っ直ぐ突出した。
陰茎の突き出る先は左腕ではない。それを守ろうとする右腕でもない。
【男】は顎を下げている。急所である喉を貫くことは角度的に難しかった。
狙うべき的は、そうして両の手を構えている【男】のその腕の僅か上部分、顎で隠れる喉の下部分にある。


【なッ……】


左鎖骨。
強烈な勢いで突出する、レンガを貫く程に硬化された陰茎が【男】の左鎖骨に直撃し、砕いた。
3階フロアの地面から『鶯の谷渡り』による高速の上昇で天井を突き破り、今に至るまでの時間はわずか一秒半の攻防。
一秒半の攻防の中で、【男】は右手首を脱臼させられ、左鎖骨を砕かれた。

両手が使えなくなったという事はすなわち『不甲掌拳』を封じられたという事。
形勢を逆転させた一瞬が終わる。
浮力を失った2人は重力にその身をまかせて落下する。

薄いガラス板のように脆くなった4階フロアの床を突き破って、3階まで落ちていく。

男は着地の瞬間に受け身を取り、床を転がって衝撃を分散させてみせた。
一方【男】に受け身をとる余裕はなかった。
背中から叩きつけられ、衝撃は一切散ることがなく、【男】の全身を襲った。


元いた場所に戻ってきたが、2人の状況は完全に異なっていた。

306 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:57:23 la0tKz3w 266/345

「ハァッ、ハァッ……ハァッ」

「ハァッ……!」

「一泡吹かせてやったぞ……!」

【う……】

(それが出来たのは偶然かもしれない)

(【奴】が左掌底を繰り出してくれたから)

(あのままジリジリと中段蹴りでなぶり殺しにされたら為す術がなかった)

(天井の崩落を狙っていた事が見ぬかれていた時)

(自らの右腕から血液が滴っていたのを見た時)

(【奴】に不意をつくるにはもうあの手しかないと思った)

(掌底を防ぐ事、血糊を飛ばして隙をつくる事を、腕を振り上げるという一つの動作におさめられたから)

(うまく行かなきゃ俺は死んでいた)

【……】

【っ……】ググッ

【陰茎術……】フラッ

307 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:57:56 la0tKz3w 267/345

4階から落下して床に叩きつけられた時に頭を打ち付けたのだろう、額から多量の血を流しながら【男】は立った。
立ちながら、自分の右手首を右鎖骨と顎で固定して力をこめる。
ガコッという関節音が鳴った。

(ッ……嘘だろ……!)

【動くぞ】

「痛いだろ……ハァ、ハァ、それ……」

【痛みはない。不感症だから】

(骨を入れなおしたとはいえ、脱臼した右手首で掌底がはなてるのか)

(必殺はまだ……生きている、か)

「だが……鎖骨はどうにもならないだろ」

「【お前】は左腕を……動かせない」

「万一動かせたとしても……筋群の精密な連動による……発勁など打てない」ハァハァ

【……】

「仕切り直しだ」

【……】

308 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:58:33 la0tKz3w 268/345

【陰茎術……】

フロアの壁に空いた穴から吹きすさぶ風が冷たい。
違う。自分が熱く火照っているのだ。
頭部からドクドクと溢れる血液は熱く、自らの血液で皮膚が焼けただれるような感覚を覚えた。

感覚?

【感覚か】

思い出していた。
父親に受けた虐待と修行の日々を。
この内臓が煮えたぎるような感覚はあの時以来だ。
この熱は機械が稼働する時の放熱によるものではない。
動物が興奮状態にある時のものだ。

【お前は聞かされてないのか】

「なんだ」

【お前の父親を武術家として殺したといった、その意味だ。それはお前の父親の陰茎を不能にさせたということ】

「……」

【俺の掌底は臓器を破壊するだけじゃなく、微細な神経や回路も攻撃できる、お前の父親はもう】

「つまり天井だろ」

309 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 11:59:48 la0tKz3w 269/345

不意に上で何かが砕ける音がした。
それを合図に2人の『男』は同時に距離をつめる。
【男】は、天井から崩れ落ちる瓦礫に男が気を取られた隙を狙うつもりだった。

(その手はもう食わない……左手は完全に封じてある)

(右手、警戒すべきは右手だけ)

(それなら攻撃するのは上半身じゃない)

ジャキッッ

(右手のカバーが追いつかない【奴】の足の甲へ……陰茎を突出)

ドズッッッ!!!

【っ……】ガクンッ

(体勢を崩して前のめりになる【お前の】)

(顔面にッ)

(飛び膝蹴りを合わせるッッ!!!!)

メシャッッ……!!

310 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:00:27 la0tKz3w 270/345

【ぶッ……】

飛び膝蹴りはすんなり入った。
鼻骨を砕かれた【男】はもんどり打って倒れこむ。
2人の直ぐ側で天井から崩落した瓦礫が潰れて煙を巻き上げていた。

「はぁ、ハァ……【お前】」

【……】

「打たれ……弱いだろ」

【……】

「なまじ先を読む洞察力と経験則があるから……」

「ハァ……ハァ……必殺の一撃があるから」

「泥仕合にもつれこむと……弱いんだ」

【……】

「初めて【お前】を見た時、その生傷を見た時は、泥仕合もなんのそのなタフな敵かと思ったけどな」

【……】

この生傷は全て幼いころ父親につけられたものだった。

311 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:00:59 la0tKz3w 271/345

「【お前】は最強じゃない」

【……】

「強く恐ろしい相手だが……最強なんかじゃない」

【……】

「立てよ……『不甲掌拳』」

【……】

「……俺はまだ……生きている」

【陰茎術……】

【……】

【……】フラッ

自らの体が感覚を覚え始めているのに意識は混濁している。
感覚の世界に足を踏み入れたのに、その景色は霞んでいる。

【お前に目をつけてよかった】

「だが正々堂々戦うべきじゃなかったな」

312 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:01:38 la0tKz3w 272/345

「俺の親父とまともにやりあっていても……【お前】は負けていた」

その言葉を受けて【男】は陰茎術伝承者の父親との戦いを思い出していた。
彼も同じく強かった。
高校生の息子を持つ年齢であり全盛期からは劣るであろうその武力が、予想以上に高かった。

周囲に人がいない状況なら結果は違っていたかもしれない。
陰茎術伝承者のその父親が、人目につかない場所、全く力をセーブされない状態での決闘であればおそらく【自分】はもっと苦戦していただろう。
そしてその時に感覚の扉を開けることが出来たかもしれない。

【それも強さだ】

しかし【男】はどんな搦め手も実力の内と考えている。
相手に決定的な弱点があるのに、そこを狙わないのは『手加減』であるとすら考えている。
足の不自由な人間の車椅子を蹴飛ばして容赦なく頭を踏みつけるのも強さだ。
逆に足の不自由な人間がハンデを逆手にとり周囲を味方に取り巻いて、多勢の利を手にしたならそれがその人間の強さだ。

陰茎術伝承者の父親には完全なる実力で【自分】が勝った。
そこに疑いはない。

【……】

ひっかかっているのはそこではない。
感情の扉を開けた今になって引っかかることがひとつだけある。
【俺】は何故こいつの父親に決定的なトドメを刺さなかったのか。

313 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:02:36 la0tKz3w 273/345

――――――――


ザワザワ ガヤガヤ

『あの2人何やってるんだ!?』

『なにかのパフォーマンス?』

『なんか血でてない!?』


『ちっ……』

【ズボンから一瞬出した陰茎で】

【攻撃直後に、周囲の目が追いつかない速さで収縮させ、またズボンにおさめる】

【その戦法で俺を倒すことは出来ない】

『あいにく俺は世間体を気にするたちでね』

『公衆の面前でイチモツ晒すわけにはいかんよ』

『どれだけ苦戦しようとな……』

【そうか。じゃあ死ね】

314 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:04:09 la0tKz3w 274/345

パァァァンッ!!!!

【不甲掌】

『ッッ――――』

【陰茎に掌底を打ち込んだ】

『……しまったな』

ボロン

『伸縮速度が遅まって……ズボンの中へ戻すのが遅れちまったか』

『きゃー!!』

『あのオッサンちんこ出してるぞ―!!』

『通報だー!! 警察に通報しろー!!』

【複雑な陰茎折症もつくれる……お前の陰茎はもう二度とたたない】

『見られちまったか……警察をよばれるな』

【……】

『息子に悪いぜ……』

315 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:04:41 la0tKz3w 275/345

【息子がいるのか】

『いるとも。独身に見えたか?』

【お前の息子は強いのか】

『強い。まだ実戦経験に劣るがね』

【お前のような父親を薄情者と言うのか?】

『あんだと?』

【子供がいるという事を知らせるべきとは思わない。俺はお前の子供を殺す】

『なんで自慢の息子を隠す必要がある?』

【自慢?】

『あいつは、男は……俺の誇りよ』

『俺から陰茎術の極意を全て教えてある』

『俺は奴に技を教えるとき、必ず言うんだ』

『いいのかと。危険な技だぞと』

『あいつはなんて返すと思う?』

316 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:05:12 la0tKz3w 276/345

『俺は陰茎術を極める男だと』

『リスクはいいから教えてくれと』

『俺はあいつがガキの頃から修行を強制した事なんざ一度もない』

『ただでさえこんな特殊な武術だ』

『だがあいつはついてきた……ずっと俺の背中を見ていた』

『俺はそんなあいつを誇りに思っている』

【……】

『警察がくるぜ』

【俺は欠けている】

『見ればわかる。そうだろうな』

【そいつを殺せば俺は感じるものがあると思うか?】

『殺せんさ』

『だが……戦いたいなら好きにしろ』

『俺の誇りはお前に負けない』

317 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:05:42 la0tKz3w 277/345

――――――――


【……】

「ハァ……ハァ、ハァ」

【……】

「……?」

必ず殺す事。もしくは脳を破壊する事。
そのどれでもない決着のままあの時【自分】がその場を後にした理由が今になってわかる。
陰茎術伝承者の父親の姿に、自身の父の姿を見ていたのだ。
そして虚しくも重なりあう事はなかった。

【……】

似ても似つかない親子関係だった。
似ても似つかない師弟関係だった。
トドメを刺さなかった事、それは一体どんな感情を抱いていたからなのか、機械だった自分には分からない。
だが心の底、意識の範囲外で、確かにその時なにかを感じていた。

【やはりだ】

【父親ではない。やはりお前と戦う事に意味があった】

【陰茎術伝承者……その息子】

318 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:06:38 la0tKz3w 278/345


【俺は】

「あ……?」

【運命を感じている】

「ッハァ……なにが」

【お前と戦っている今この状況に】

「ハァ……ハァ」

【お前はやはり俺を感じさせてくれた……最高に気持ちが良いぞ……わかるか?】

「ッ……変態野郎」

【感動しているよ】

【これは達成感か……高揚感もなくはない】

【陶酔感……あと充足感……満足感】

「ハァッ……ハァッ……ハァッ」フラッ

【……恍惚感か……】

319 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:07:23 la0tKz3w 279/345

「御託はいい……かかってこい」

【あくまで後手にまわりたいのか】

「ハァッ……はぁ、ハァ」

【そんなに俺の掌底を警戒しているのか】

「ッ……ハァ」

【それとも】

「フゥ……フゥゥ……」

【もう攻める力がないのか?】

「ッ…………」

【さっきから呼吸が荒いぞ】

「ハァッ……ハァッ……はぁっ」

ドクン ドクン ドクン

【それに顔も青白い……どうした】

どうしたんだ陰茎術――。

感情を取り戻した事によって【男】が初めて浮かべてみせた笑みは、不気味でいやらしく死霊のようにおぞましかった。

320 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:08:22 la0tKz3w 280/345

「ハァッ……ハァッ、ハァッ……!」

「ッ……なんだ……!!」

(陰茎の硬度が……ッ)

(維持……できない)

グググ……ググ……

グニャァ……

「はあっ、ハァッ……ハァッ……あっ!?」

【萎えたぞ。どうするんだ?】

「ハァッ、ハァッ……何でだよおい……クソっ! なんでだッ……!?」

【お前に教えてやる】

「……!?」

【『不甲掌拳』伝承者の掌底は命中した時、確実に何かを破壊するんだ】

「ハァ……ハァ、ハァ」

【掌底を当てた瞬間、敵のいずれかの臓器もしくは神経を必ず破壊するようにと、幼い頃からの常軌を逸した虐待によって脳裏に刷り込まれている】

【なにか……ひっかからないのか】

321 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:09:01 la0tKz3w 281/345

(汗が……止まらない)

(なんだ、何が起こっている)

(俺の体に何が起こってやがる……ッ)

(陰茎が萎えるのは)

(血液だ……血液が不足しているからだ)

(だが右腕は止血してある……何故だ……何故今になって)


【おかしいと思わなかったのか】


「なッ……」

「なに言ってやがる……」

「ひっかかる……ハァッ、ハァ……見落とす?」

「【お前】ッ」

「何を言ってるッッ……!?」

322 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:10:00 la0tKz3w 282/345


【俺は既にお前の内部を破壊している】

「ッ……!?」

【おかしいと思わなかったのか】

「なにをッ……」

「て、てめぇ、ハァッ……」

「なにをッ……言ってんだ」

【壊したのは右腕だけじゃない】

「俺は受けてないッ……」

「掴まれた事はあってもッ……それ以外……掌底なんか」

(一体なにを……いつだ)

(いつ……こいつは)

(っ……)

(――――あ)

323 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:10:34 la0tKz3w 283/345

――――――――――――――――――――――――――――――――
『それは鋭く突き出た陰茎が【男】の手のひらにあたった瞬間に起きた』。
『発勁』パァンッ!!
『ッッ……!?』グラッ
――――――――――――――――――――――――――――――――

(あの時かッ……!!)

(『流鏑馬』による牽制の際)

(俺は【奴】の掌底で連打を弾かれていた……そのときしかない……!!)

その際の攻防の最中においても男は確かに違和感を覚えていた。
掌底を受けたのに何故自分の陰茎は破壊されていなかったのか、かすかな違和感を覚えていた。
だが無意識下で辻褄を合わせてしまっていた。

『流鏑馬』は高速で陰茎を伸縮させる連打だ。
【男】の掌底が触れたのはほんの一瞬で、十分に力をこめられるような時間はなかったのだろうと推測出来た。
だから弾き飛ばされこそしたが、内部を破壊されるまでには至らなかったのだと。
意識の外でそう解釈していた。

「何故だッ……」

【……】

「何故、いまに……なってッ……!!」

【今になってじゃない】

324 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:11:54 la0tKz3w 284/345

【俺が破壊したのは陰茎そのものじゃないから】

「ッ……なに?」

【そうする事も出来た】

【お前らにとって最大の武器である陰茎そのものを不能にすれば……戦況を圧倒的に有利に進めることも出来たかもしれない】

【だが……それはしなかった】

【何故か?】

【お前がまだ十分に動けて、なおかつ思考能力もある、早期の段階で武器を奪ったとしたら】

【若く知恵のあるお前に策をたてる余地を与えてしまうから】

「ハァッ……はぁっ」

【だから違う臓器を破壊した……あの一瞬の接触では心臓までは届かなかったが……これで十分だろう】

【憔悴し……体捌きも思考能力も衰えた時……お前はやっと気付く】

【そして気付いた時にはどんな対策も取れない】

【決定打は序盤で既に打ち込んだ。俺の勁は陰茎を伝い……下腹部をつたい……それを破壊した】

【後はそれが来るのを……待つだけだった】

325 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:12:43 la0tKz3w 285/345























【俺が攻撃したのは肝臓】

326 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:13:58 la0tKz3w 286/345

【沈黙の臓器と呼ばれている肝臓には、知覚神経がない】

「!!!!」

【だからお前はそのダメージに気付けなかった】

「ハァッ……ハァッ……!」

【前触れがあったはずだ】

【発汗……頻脈……連戦続きの疲労のせいだと思っていたのか?】

【今のお前を見たところ血圧低下、呼吸促迫】

「ハァッ……ハァッ、ハァッ」

【肝臓破裂による出血性ショックに陥っている】

「はぁっ、ハァッ……ハァッ、はぁっ!」

【人体の血液の2割以上が失われている状態で陰茎の勃起を保つことなど不可能だろ】

【それどころか】

【お前は肝臓を破裂させてから動きすぎた……ダメージを受けすぎ、長引かせすぎた】

【放っておいてもお前はじきに死ぬ】

327 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:14:51 la0tKz3w 287/345

(諦めるなッッ……!!!!)

(まだだッ……まだ手はある)

(陰茎は使えなくとも、まだ手はある……ッ)

(瓦礫……)

(目眩まし……不意打ち……)

【無駄だ】

「はぁッ、ハァッ、ハあッ……!」

【出血性ショックに陥った場合……意識は混濁する】

(うそつけッ……)

(てめーが決めるんじゃねえ……!)

(まだあるッ……まだあるんだッ)

【血液が足らずハッキリしない思考で策は練れない】

「だ……黙れッ……」

【俺は感謝している】

328 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:15:44 la0tKz3w 288/345

【俺は紛れも無い全力だった】

【今あるものを全て利用した】

【お前は肉迫し……食い下がり】

【俺に一矢報いた】

【惜しみない拍手を贈ろう】

【連戦続きでお前が疲弊していた事も敗北の一因だろうが】

【それも含めて実力だ】

「ハァッ……はぁっ、ハァッ」

【今になって1つ自分の疑問が紐解けた】

【お前の父親を殺さなかったのは情ではない】

【息子であるお前を殺したかったから……】

【これは俺にとっての復讐戦だった】

【憎き『父親』という存在への復讐】

【奴が誇りとまで言った、お前を殺してそれを成す】

329 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:16:58 la0tKz3w 289/345

「うるせェっ……ハァハァ」

「俺はッ……死なない……」

「お前なんかには、やられ……ないッ」

ド根性。正義の信念。武への執念。
肉体の限界を超える意志の力というものは必ず存在する。
男にもそれはある。
未だに衰えもせずに熱く燃えたぎっている。

「ハァッ、ハァッ……はぁっ、はぁ……!」

そしてそのような意志の力が通じない壁というものも存在する。
絶対的な壁。
それはどんな強固な意志の力も及ばない本当の意味での限界『肉体の果て』。
その完全なる限界が男に近付いている。

(奴が使えるのは右手だけだ……ッ)

(左鎖骨も砕いてある……頭部へのダメージも……)

(4階から3階に落ちた時あいつは受け身をとれなかった……ボロボロなのは同じだッ)

(ダメージは与えてある……勝利はすぐそこにあるッ……!!)

だが有効な打開策が見つからない。
出血性ショックによる意識の混濁が、晴れることのないヘドロのような霧となって、脳の活動にモヤをかけている。

330 : 以下、名... - 2015/06/04(木) 12:18:05 la0tKz3w 290/345

【終わりだ】

(諦めるな……ッ)

【お前にはもう打つすべはない】

(諦めるなッ! 勝負を捨てるな……!)

【俺が感じているのは】

【帰属感】

【俺はやっと俺に帰ることが出来た】

(手がある……)

(絶対になにか手があるッ……俺はお前に勝つんだ……)

(俺は……こんなところで)

【息絶えろ陰茎術】

【お前はここで死ぬ】

【俺の手によって……】バッッ

「く、くそッッ!!!!」

【不甲掌】

333 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:18:43 GYcRRYgE 291/345

「陰唇術秘技『ペニーロイヤルティー』ッッ!!!!」



ドシュンッッ!!!!



【ッ】

「!?」

【発勁ッ……】バッ


パァァァンッ!!!!


トドメを刺そうと男に手を伸ばしたその瞬間だった。
背後から訪れた不意の遠距離攻撃に【男】は左掌底を合わせて防御、弾き飛ばした。



【……お前は】



美少女「男さんは殺させませんッ……!!」

334 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:19:14 GYcRRYgE 292/345

キュッ……
キュキュッ、キュキュキュッ……!!


「っ」

【……何?】

「うおおおおッ!!!!」


その独特なステップの音と共に、もう1人の女が近づいて来る。


【お前は】

「ガゼルパンチッッ!!!!」

ヴンッッッ!!!!



フックともアッパーともつかないその強烈なブローを、【男】は飛びのいて回避し、空を切らせた。



「それ以上男に近付くんじゃあねえッッ!!!!」

335 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:20:09 GYcRRYgE 293/345

「なんッ……で」

【羽虫共】

「ば、馬鹿野郎……何で来やがった」

「止めてくれるなよ男」

「やめろ……ッ」

ジリッッ

美少女「……」

【美少女か】

美少女「【あなた】は多対一をつくる事も強さだと言いましたね」

【言った】

美少女「ならばこれが男さんの力です」

【……】

美少女「窮地における助っ人など、【あなた】のように破壊する事しかしてこなかった人間にはいない」

美少女「守るという事、助けるという事が生んだ」

美少女「男さんが私に見せてくれた武道の、その力です」

336 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:20:40 GYcRRYgE 294/345

【なるほど一理ある】

「やめ……やめろ」

【陰茎術。お前へのトドメは後にまわす】

「ハァッ、はぁ……や、やめろぉッ!!」

【まずは処理だ】

「言ってくれるじゃねーか」

【お前のその戦い方はボクシングか】

「簡単に倒せると思うなよ」

「俺は全国大会の優勝ベルトを持ってる」

「判定はない、全ての試合をKOで勝ってきた……俺のパンチをお前が耐えられるかな」

【ベルトなど強さの指標にはならない】

【多対一は受け入れよう】

【だがお前らじゃ役者不足だ】

【たった2人では烏合の衆とすら呼べない】

337 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:21:12 GYcRRYgE 295/345

「バカヤロウが……!」

「そいつは根暗女やデブ男とは違うッ」

「殺されるぞッ……」

「これは俺の戦いだ、やめろッ……手を出すなッ」

「男」

「友ッ……」

「俺は格闘家である前にお前の友達だ」

「ッハァ……はぁ」

「何度でも助けるさ!」

「友達が殺されそうなのに指をくわえて見てるなんて出来ねえからな!!」

「たとえ相手が誰だろうが関係ねえ!!」

「はぁっ……はぁ」

(違う……ちがうッ)

(ちがうんだ……)

338 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:21:54 GYcRRYgE 296/345

「俺は【テメー】をぶっ飛ばして男を病院につれていく!!」

美少女「もう人殺しはさせませんッ!!」

【弱さだ】

【お前らの死因は】

【身の程を知れないという……弱さだ】

【死ね羽虫共】


スッ……


「お前らッッ!!!! 絶対に手をだすなッ!!!!」

「ッ……男」

美少女「何言ってるんですか……その傷ではもう」

「違うッ……そういう問題じゃない」

「俺が負けようが死のうがッ」

「絶対に手をだすな……加勢することだけは」

「絶対にッ……しないで、くれ」

339 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:22:46 GYcRRYgE 297/345

「うッ……!!」フラッ

「ッ」

「そんな事言ってる場合じゃねーだろっ!!」

美少女「そうですよっ、もう勝ち目なんて!!」

「ハァッ……はぁ」

「勝ち目なら……ある……」

「いや、たとえ……なくても」

「ハァ、ハァ……はぁ」チラッ

【……】

「こいつとだけは」

「絶対に……一対一で戦わなければ、いけない気がする」

「じゃなきゃ、意味が……無いんだ」

「こいつと戦う、意味がなくなってしまう……それで勝っても……俺は一生後悔するッ」

【虚勢だ】

「ハァッ、ハァ……どうとでも言え」

340 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:26:45 GYcRRYgE 298/345

ゴゴゴゴ……
メシメシ……ガラガラ……


「お前らがこの、崩壊しかけのマンションに戻ってきてくれた事」

「こいつ相手に、俺のために立ち向かってくれた事」

「俺の『力』になってくれた事には」

「感謝してる……してもしきれない」

「ッ……」

美少女「男……さん」

「だがッ……!」

「これは俺にとっての指標なんだ」

「こいつに勝つことがッ、一対一で勝つ事が」

「最強への道標ッ……」

「俺の言葉に二言はない……信念を、裏切りたくない」

「友、美少女……ありがとう」

「そして……出来れば見届けてくれ」

341 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:27:18 GYcRRYgE 299/345

「ッ……」

友は動けなかった。
男の懇願を無視して【男】に殴りかかりたかった。
決闘などどうでもいい。
それより何より親友を助けたかった。

友は動けなかった。
廃マンションは今もまさに響きをあげながら崩壊を続けている。
この建物と同じように親友の命が今まさに目の前で終わりに近付いている。
なのに動けない。

「ハァッ、はぁ……はぁっ」

「男……」

それはこれが男にとっての最後の懇願であると思ったから。
その、悲痛だが力強く、確固としているのに風前の灯のような、男の言葉に気圧されてしまっていた。
美少女も同じだった。

美少女「ッ……」

美少女「男さん……ッ」

美少女「うッ……ぅッ……」ジワッ

武術家の最期は常に儚い。
自らのしがらみを断ち切ってくれた武術家のその最期の姿に、美少女は知らずのうち涙を流していた。

342 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:27:52 GYcRRYgE 300/345

「ッ……くそ……!!」

美少女「うっ……ううッ……」


「ハァ、ハァ……」

「ハァ……ごめんな」

「あと……ありがとう……」

【お前は愚かな事をした】

【奴らが2人かかってこようが足止めにしかならないが】

【それでもお前は……自分が助かるための】

【万が一の可能性を今潰した】

「ハァ……ハァッ」

「ふ……ッ」

「もう俺に勝った気でいるのか」

【違うのか?】

「俺はまだやれるよ」

343 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:29:16 GYcRRYgE 301/345

スタスタ


【もうどう足掻いても無駄だ】

【お前の体内で大量の血液が臓器の外にあふれ出している】

【鋼のような陰茎もそのザマだ】

【出血性ショックの中で陰茎を勃起させる事は不可能】

【お前の武器はなくなった】

【お前がたどる運命は】

【絶対に揺らがない】


【男】は崩壊への足音を刻むそのマンションのフロアを、悠々と闊歩して男への距離をつめていった。


「ハァ……ハァッ」

「ハァ……」

「……」

(――ある)

344 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:29:51 GYcRRYgE 302/345

(まだ手は残されている)

(俺なら出来る……陰茎術伝承者なら)

(例え大出血をしていようが陰茎を隆起させる方法はあるんだ)

(だが……)

(それを今この状況でやれば)

(たとえこの勝負に勝ったとしても)


(俺は九割以上の確率で死ぬ)


(……)

(友と美少女……親友と……旧敵)

(俺の意地のせいでお前らにはイヤな思いをさせたかもしれないが)

(でも駆けつけてくれた事は本当に嬉しいんだよ)

(だから……決めた)

(俺は命をかける)

345 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:30:33 GYcRRYgE 303/345

スタスタ

【陰茎術……俺の人生は】

「ハァッ……ハァ」

スタスタ

【お前の死をもって完成する】

(命をかけるんだ)

(後のことなんて一切考えるな)

(【お前】は……戦闘能力を奪った時、その人間を武術家として殺したと言うが)

(俺はそうは思わない)

346 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:31:09 GYcRRYgE 304/345

ダッ……!!

【俺はッ……真の多幸感を得る】

「ッ……」ザッ

(武術家が死ぬ時、それは脳が止まった時でも、心臓が止まった時でもない)

(信念を折られた時だ)

(俺の信念はたとえ肉体が朽ちようと折れないッ……)

【俺は生の喜びに勃起しているッ……俺はもう不感症ではないッッ】

「それを勃起とはいわないッ……」


【男】が踏み込んで右腕を振り上げる。

それを受けて、男も同じく右腕を前に出した。


「男ッッ!!!!」

美少女「男さんッ……!!!!」


それが決着をつける最期の衝突であると、誰もが理解した。

347 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:32:05 GYcRRYgE 305/345

【……】

【男】は勝利を確信していた。
満身創痍の男が、半身にかまえて右腕を前に突き出した時、その勝利への確信はさらに決定的なものとなった。
男のやろうとしている事は分かりきっている。

【(既に破壊されボロ雑巾のようなその右腕で、再度俺の掌底を防ぎ)】

【(控えさせた左手で反撃……か)】

【(だろうな。それしかない)】

【(お前の最大の武器である陰茎はもう使えないのだ)】

【(もう素早く動くことも出来ない)】

【(必殺の掌底を前にして……自分の体勢を崩しやすい足技の攻めはないだろう)】


【男】は、勝利を確信していた。


【(残念ながら、今から繰り出す俺の掌底を、その右腕で受け止めても『防御は出来ない』)】

【(お前は死んだ)】

【(無駄なあがきだったな)】

348 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:32:39 GYcRRYgE 306/345

――――『不甲掌拳』伝承者は、勁の爆発点を自在に操作出来る。


つまり、掌底を入れた打撃点から必ずしも真っ直ぐ奥の場所を破壊させるわけではないという事。
陰茎に掌底を当てて肝臓を破壊出来たのだ。
敵の内部に放った気功を、かなりの距離移動させる事が可能である。

では何故、男に右腕で掌底を受けられた時【男】は爆発点を操作しなかったのか。
1メートル程の長さの陰茎の先端に触れて肝臓までの範囲の移動が可能なら、右腕に掌底を当てて心臓を破壊する事など造作も無い筈。


その理由は、操作しなかったのではなく『操作出来なかった』。
『不甲掌』は事前に、自分の勁が敵体内を移動するその距離を緻密に計算してから打ち込む必要があるから。


男が右腕で掌底を防いだのは2回である。
その2回共が【男】にとっては予想外となる防御の際だった。

左胸に当てて心臓を破壊するために『打撃点から15cm程内部を破壊する』と決めて繰り出した掌底だった。
その時不意に打撃点が左胸から右腕に変わっても、事前に計算していた爆発点を瞬時に変更する事は出来ない。
よって臓器は破壊されずダメージは右腕にとどまった。


しかし今この時、男が右腕で防御する事は事前に分かりきっている。
予想外の防御ではない。


【男】は勁が進む道のりの計算を終えている。

349 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:33:12 GYcRRYgE 307/345

【(お前が愚かにも右腕で防御した瞬間だ)】

【俺の発勁は皮膚をぬけ、橈側手根骨筋から上腕二頭筋に伝わり)】

【(三角筋でカーブし、一瞬で大胸筋まで突き進む)】

【(当然破壊するのは筋肉じゃない)】

【(その奥まで伝達させる)】

【(心臓を潰してやる)】

【(これが復讐だ)】

【(母を奪った『父親』という存在への)】

【(復讐だッッ)】


「とめるッッ……!!」バッッ


【(消毒するッ)】

【(過去の全てを精算するッッ)】

【死ねッッ……】

350 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:33:44 GYcRRYgE 308/345

【不甲掌ッッ】




パァァァンッッ!!!!



「ッッ――――」


美少女「あっ――――」



ビシャァッ……!!



「っ――――」



ビチャチャッ……

351 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:34:15 GYcRRYgE 309/345

【……】

「――」


ポタポタ……


「えっ」

美少女「なっ……」



【っ……ばッ】

「――」

【バカな】

「ッ――――」


接触の瞬間に男は、身を乗り出していた。
そのせいで打撃点がズレた。
【男】の放った掌底が命中したのは、右腕ではなかった。


【俺の掌底をッ……】

352 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:37:04 GYcRRYgE 310/345

男は必殺の掌底を、自らの額で受けていた。


「ハァッ、はぁっ、ハァッ!!」


【頭で受け止めるだと―――】


「ッあぁ……!」

「あぁぁあぁああッッ!!!」

【ッッ……】


ガシッッ……!!


怒号を上げて残り少ない力を振り絞り、またしても【男】の右手首を左手で強く掴みあげた。
男の背中から血が吹き出している。
右腕を打撃点と想定した頸が、予期せぬ変更によって道のりが大きく狂った結果、背中周辺で行き詰まり爆発したのだろう。

男は読んでいた。辿り着いていた。
混濁とした意識の中でもハッキリと刻みつけられた、肝臓を破裂させられたというその痛手によって学んでいた。

『不甲掌拳』の持つ内部破壊の絡繰に辿り着いていた。

353 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:37:42 GYcRRYgE 311/345

「げほッッ!!」ビチャチャッ


「男ッ……そんな、まさか」

美少女「あ、ありえない……」


【お前ッ……気付いて】


――――いたのか、と言うより早く男の足刀が【自分】の足の甲を踏み潰していた。

それは先程陰茎によって攻撃された部分と寸分違わぬ位置であり、蓄積されたダメージによって【男】の舟状骨は粉砕、破壊された。

痛みこそなかったが【男】の思考には今まで覚えた事のないざわめきが走っている。
覚えたての感情たちが濁流のごとく押し寄せて、自己精神をかき乱している。

(気付いたとしてそんな策がとれるのか)
(体内で暴走する勁がどこで爆発するのかもわからないのに)
(そもそも俺が単純に右腕を破壊するつもりだったら即死していたのに)
(穴だらけの……運任せの)


(こんな策に命をかけるのか)


「距離はとらせない……ゲホッ、ゲホ……掌底も封じた……決着だッ」

【ッ……】

354 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:38:15 GYcRRYgE 312/345

【―――だがッ】

【だが武器がないのはお前もおなじだろうッ……】

【近距離でもう一度膝蹴りをあびせて殺してや――】


「同じじゃない」



【る―――――】



ドゴォォォォォォォッッ!!!!!



【ッッッ――――!!!??】


「……」

【ッ……かッ、ふッ】

【なん、でッ……】

【なんでッッ…………】

355 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:38:48 GYcRRYgE 313/345

男の股間から稲妻の如く突き出た陰茎が【男】の鳩尾に深く突き刺さっていた。
陰茎は硬く太く、その一撃は重い。
まるで先端の丸まった槍で力任せに貫かれたような感覚を覚えさせた。


大出血を起こし血液不足の中、男の陰茎ははちきれんばかりに勃起している。


【ごぷッッ】

ビチャチャッ……

「……」

【なんッ……で、勃起、できるッ……】

「勃起する原理は血液の充血」

【ッ……】

「人間が勃起する時は……脾臓という臓器からその血が流入される」

「つまり、脾臓に血液がまわらないような失血状態にある時は、陰茎にも血がまわらないようになってる」

「それが普通の人間の話だ」

【……陰茎術】

「そうだ、俺たちは違う」

356 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:39:20 GYcRRYgE 314/345

「幼い頃から続く……内臓が変わるほどの過酷な修練の効果で」

「脾臓だけじゃない……」

「全身の血液を陰茎に集中させる事が出来るッッ!!」

「心臓や脳にまわるはずの血液までも……たとえ失血状態にあろうと!!」

「それが陰茎術伝承者……最期の奥の手」

「切り札だ……!」

陰茎の硬度を上げて武器にするという事はすなわち血流を操れるという事。
深刻な出血状態に陥っていてなお、ここまで動けるのもその血流操作によるものであると【男】は理解した。
破壊された肝臓や右腕を切り捨て、そこに血を流さないようにコントロールしていたのか。
完全に意のまま1滴も血を漏らさないというわけではないが、陰茎術伝承者以外であれば貧血でとうに倒れているダメージを、血流操作で切り抜けていた。

だが――――。

【そんな事をして、無事でいられる、はずがないッ……命を捨てているのかッ】

「捨ててるわけじゃない……かけてる」

【ッ……】

「【お前】を超えるためにッ……! 最強を目指すためにッ!! それくらい出来なきゃやってられるかよッ!!!!」

【お前ッッ陰茎じゅ――――】

357 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:39:51 GYcRRYgE 315/345

「陰茎術秘技『勃ち鼎』ッッッッ!!!!」



ゴシャァァァァアアッッッ!!!!!



【かッッ――――――】



「これが勃起だッ……」

【がっ……は】

「……」

【はっ、ァ……あ】

「……」

【あ……っ】フラッ

「……」

【――】

358 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:40:31 GYcRRYgE 316/345

足の甲の骨が砕け、鎖骨を折られ、腕を掴まれた状態で【男】にそれを防ぐすべはなかった。

至近距離から繰り出された『勃ち鼎』が頭に炸裂する瞬間、目の前に火花が広がるのを感じた。
ぷつんと何かが切れる音がした。
痛みはなかった。

足の力が抜け落ちて倒れゆく瞬間は無重力のような浮遊感を覚えた。
その中で自身の母の姿を思い出していた。生きていた頃ではない。
食卓で倒れていた時の姿だ。
次いで忌まわしい父親の姿も思い出した。
脳と心臓を破壊して殺した、父親の姿を思い出した。


――――俺はこの親子に嫉妬していたのか。


目の前の青年に自分が負けたのだと理解した頃には、廃マンションのフロアの床に頭を叩きつけていた。

『不甲掌拳』伝承者の自分が陰茎術に敗れたと知ったらあの父親は何を思うだろうか。
きっと悔しがるだろう。いい気味だ。
胸中は敗北感ではなく充足感に満ちている。



多幸感に満ちあふれている。

359 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:41:12 GYcRRYgE 317/345

――】


「ハァ、はぁ……ハァ」


「男……」

美少女「う、うそ……でしょ」

「男っ……」

美少女「し、しんじられ、ませんっ」ジワッ


「ハァッ……ハァッ」


「男ッ……!!」

美少女「【あの人】を、た……倒して、しまう、なんてッ」


「ハァ……はぁっ」

「で……ベルトはどこにあるの……」

「男ぉぉーーーッッ!!!!」ダッ

360 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:41:48 GYcRRYgE 318/345

「俺はずっと信じてたからな!! お前が勝つって!!」

美少女「男さんっ、すごい……すごいですッ!!」

「はぁ、はぁ……へへっ」

「文句なしにお前が最強だよ!! 男ぉ!!」

美少女「ほんとうに、すごい……っあんなに、強い人をっ」ポロポロ

「ははは……」

「あ……ッ」

「っ――」フラッ

どさっ

「お、おい男っ!?」

美少女「っ……」

「男っ、おい、大丈夫か!!」

美少女「無理もありません……目では見えませんが体内で相当出血しているはず」

「おい、まさか、死んじゃわないだろうな……!!」

361 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:42:21 GYcRRYgE 319/345

美少女「ええ、今すぐ病院につれていきましょう!」

「男っ……」グイッ

「――」

「っ、がんばったな……」

「――」

「お前、すげーよ、ほんとにっ」

「最強って言われてる奴を倒したんだからっ、だから」

「絶対こんなとこで死ぬなよな……!!」

美少女「友さんこっちです! こっちに階段がッ!!」

「わかった!!」

「男っ、しっかりしてくれよ」

「俺が病院につれていってやる……! 死なせないから……!!」


ガラガラガラ……
メシメシメシ……バキキ……
ガラガラガラッ……!!

362 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:42:54 GYcRRYgE 320/345

ガシャァァァンッ!!!


「!!」

美少女「!!」

「が、瓦礫が……」

美少女「落ちてきた瓦礫で階段への道がふさがれたッ……!!」

バキャ……ッ!!

「うおっ!!」フラッ

美少女「このフロアもとうとう……いえ、建物全体がっ……」

「お、おいおい……まてよ」

「敵は倒したのにッ……」

「男があれだけ命をかけて敵を倒したってのに、マンションの崩壊と一緒に生き埋めかよ!?」

ガラガラガラ……
ズズズズズ……!!
ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

美少女「ッ……ど、どうすれば……!!」

363 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:44:08 GYcRRYgE 321/345

美少女「ここは3階……男さんを抱えて飛び降りるには高すぎる……!」

「階段以外で降りる場所なんてねーぞ!! エレベーターもとまってんだから!!」

美少女「なにかッ……なにか」

美少女(なにか、何かして脱出しないと……!!)

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

「男ッ、ちきしょう!! なんでっ!!」

美少女「友さん床が崩れていきます!! こっちに!!」

「はぁっ、はぁ、男ぉ!!」グイッ

美少女「だめ……もう時間がない……!!」

「男っ、大丈夫だ、心配するなッ」

「生きて帰るんだ、お前は勝ったんだから!!」

「建物が崩れても、俺が、上にかぶさって、なんとか……!!」

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

美少女「だめです友さんッ……もうどうしようも!!」

「っ……!!」

364 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:44:41 GYcRRYgE 322/345

グルルルルルッッ……!!

「っ」

美少女「キャッ!?」

根暗女「攻撃する気はない……安心して」

「お、お前は……」

美少女「根暗女さん!?」

根暗女「舌を巻きつかせた……建物の外までおろしてあげる」

「お前舌、ちぎられた、はずじゃ」

根暗女「縫合する時間があればだけど……『舌拳』伝承者の舌は容易に組織がつながるから」

美少女「根暗女さん、助けてくれるんですか」

根暗女「……」

「――」

根暗女「……同じ事をやるだけ」

「お前っ……」

根暗女「借りをつくったままはいやだから」

365 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:45:12 GYcRRYgE 323/345

シュルルルルッ……
トサッ

「あ、ありがとう!!」

美少女「こんな、簡単に外に……」

「お前も早く降りてこい!!」

根暗女「……」

ゴゴゴゴゴゴッッ
ガラガラガラッ
メキメキメキ……メキメキッ

根暗女「……」キョロ

【――】

根暗女「……」

「おい!! どうした、早くこないと崩れちまうぞ!!」

根暗女「……」

【――】

根暗女「……私はいいよ」

366 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:45:42 GYcRRYgE 324/345

美少女「根暗女さん……」

根暗女「残る……【この人】の最期を見届ける」

根暗女「美少女は……元気にやってね」

根暗女「きっと……あなたなら表の世界でも生きていける」

美少女「……」

ゴゴゴゴゴゴッッ
ガラガラガラッ……!!
ガシャァァァンッ……!!

美少女「行きましょう友さん」

「えっ、あいつ……いいのかよっ」

美少女「急がないと男さんが手遅れになってしまいます」

「っ……」

美少女「根暗女さんの決めたことです」

「……あぁ……」

「――」

「男っ、もうちょっとの辛抱だからな……!」グイッ

367 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:46:14 GYcRRYgE 325/345

ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!


根暗女「……」

【――】

根暗女「【あなた】についてきたこと……」

【――】

根暗女「後悔してないよ……」

【――】

根暗女「どっちみち……私に表で生きる事できそうになかったし」

【――】

根暗女「過去に縛られて……惨めに固執して」

根暗女「感情を取り戻した瞬間……あっけなく敗けて」

根暗女「ずっと……思ってたけど」

【――】

根暗女「【あなた】……可哀想だね」

368 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:46:46 GYcRRYgE 326/345

壁に空いた大穴から顔をのぞかせていた根暗女は、フロアの奥へと姿を消した。

轟音をたてて崩れゆく廃マンションを背に2人は雑木林を駆ける。

しばらくして友が背中越しに振り返った時、マンションは原型を失い、ガレキの山となっていた。



古き時代の戦争や暗殺において活躍し、時代の流れにともない壊滅していった陰の古武術。

現代社会にいまだ生ける、その武術の伝承者達による戦いが幕を閉じた。

人々に認知されぬまま牙を研ぎ、知られざる力をぶつけあい、そして人知れず散っていった。



崩れ落ちたマンションが、まるで戦国時代に攻め落とされた城のように見えた。

369 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:47:20 GYcRRYgE 327/345

――――――――
―――――――
――――――
―――――














――――陰茎術と不甲掌拳の戦いから一ヶ月後。

370 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:47:52 GYcRRYgE 328/345

スタスタ

「……」

美少女「あ、友さん」

「美少女。先に来てたのか!」

美少女「はいっ、ボクシングの試合帰りですか?」

「うん。何発かいいのもらっちまってさ、いてぇんだよ」

美少女「顔はれてますからね……」

「こんなんじゃまだまだだよなぁ」

美少女「テレビでてたのに」

「何でチェックしてるんだよ、恥ずかしいから見ないでほしいんだけど」

美少女「知り合いがテレビでてるんだから見るでしょう普通!」

371 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:48:25 GYcRRYgE 329/345

「こんなんじゃこいつには絶対追いつけない」

美少女「……」


「――」


「あの日病院で……緊急開腹手術を受けてから」

美少女「今日でもう一ヶ月ですね」

「……」

美少女「生きているのが奇跡と言われましたけど」

「でも男はまだ一度も目を覚ましてない」

美少女「……」

「そりゃ命が助かったって聞いた時は嬉しかったけどな」

美少女「……」


「――」

372 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:48:56 GYcRRYgE 330/345

「俺は諦めてないよ」

美少女「……はい」

「俺の親友は丈夫なんだ」

「……」

「いつか、絶対……目を覚ます」

美少女「……」

美少女「待ちましょう」

美少女「私もちゃんとしたお礼をしたいですから」

「……」

美少女「……」


「――」


「男……」

美少女「……男さん」

373 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:49:31 GYcRRYgE 331/345

「――」


ピクッ


「っえ?」

美少女「どうしました?」

「今……布団が」

美少女「え……?」


「――」


「……」

美少女「……友さん?」

「いや……気のせいかな」

美少女「……今日は休まれたほうがいいと思います」

「はは、疲れてるからな」

374 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:50:13 GYcRRYgE 332/345

「――」


ピクッ


「じゃあ俺今日は帰るよ」

美少女「ええ……私も今日はこのあたりで」

「また来るのは来週くらいか?」

美少女「そうですね、家も遠いですし」

「あんまり無理すんなよ」

美少女「友さんこそ毎日通ってるんですよね?」

「まあ……家近いからな」



「――」



ピクッ―――

375 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:50:46 GYcRRYgE 333/345

「じゃあな美少女」

美少女「はいっ。友さんもお元気で」

「またね」

美少女「はい……またこの病室で」




「っ――」



モゾッ



「……ん?」

美少女「……え?」

「なッ……!!!!」

美少女「あっ」

376 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:51:24 GYcRRYgE 334/345

「う……」


朝起ち。
正式にはその現象は『夜間陰茎勃起現象』と称される。
レム睡眠中に発生する生理現象であり、陰茎が正しく勃起出来うるか否かの無意識なメンテナンス運動とされている。

朝起ちによって1メートル程にいきり立つそれは、自らの身体にかかっている掛け布団をめくり上げ、悠然とその存在を誇示していた。


「……っ!!」

美少女「お、男さんのあれがっ!!」

「ん……」

「お、男っ……!!」



「……んん?」パチッ

「男ぉぉぉッ!!!!!」ガバッッ

ダキッッ

「うわっっ!!!! なんだ!!!?」

377 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:51:54 GYcRRYgE 335/345

「男ぉぉぉっ……お、お前っ、目をっ! 目をさましたのかよぉっ!!」ギュゥゥゥ

「なんだっ、なんだ!?」

美少女「男さんっ……あぁあっ」ジワッ

「えっ、えっ?」

「男っ、ば、ばっきゃろー!!」ギュゥゥゥゥ

「えっ!?」

「し、心配なんてっ、し、しでねえがらなぁっ、グスッ!!」

美少女「男さんっ、うっ、ううっ! うああああ!!」ポロポロ

「……」

「え……?」

「えっと……なんだ……何この状況」

「ぐすんっ、グスンッ! 男ぉぉぉぉおお!!」ギュゥゥゥゥゥ

「あと友お前が抱きついてんの俺のちんこだし」

美少女「ぐすっ、男さん……よかった、よかったですぅ」ナデナデ

「だからそれ俺のちんこ」

378 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:52:25 GYcRRYgE 336/345

グスングスンッ ズビズビッ


「えー……と」

「あ、あはは……お前ら鼻水やばいぞ……ここは病室か」

「俺は……あいつと戦ってて」

「いっかげづ……一ヶ月もっ、ね、ねむっだまんまだったんだがらなぁ」ポロポロ

「え?」

美少女「ぐすっ、もう目覚めないかもしれないっで、おいしゃざんにいわれでっ」

「え?」

「よがっだ、よかっだ……グスッ、うあぁぁぁあぁ」

「そん……なに」

「……」

「そうか……俺生きてるのか」

美少女「あ、あだりまえですよっ! いぎてますよっ!!」

「……『不甲掌拳』は」

379 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:52:56 GYcRRYgE 337/345

「グスッ、あ……【あいつ】は」

美少女「マンションの倒壊に、巻き込まれて……そこからはわかりません」

「……」

「根暗女がたすけてくれたんだ、それで脱出できたんだけど」

美少女「根暗女さんも一緒に……」

「……そっか」

「男っ」

ガシッ

「お前……勝ったんだよ、【あいつ】にっ、やったんだよ!」

「友……」

「よかった……グスン、お前が、生きててくれて」

「……」

「帰ってきてくれて、本当によかったよ……男」

「お前が掴んでるの俺のちんこ」

380 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:53:29 GYcRRYgE 338/345

――――――――


スタスタ


「……」

男父「もう出歩いて大丈夫なのか」

「っ……」

男父「よう」

「親父ッ……出てきてたのか!!」

男父「病室にいなかったから探したが屋上にいるとは……気取り屋だな、ふふふ」

「親父こそもう大丈夫なのかよ!!」

男父「お前が倒れてる間に俺は釈放よ」

「よ……よかった……!」

男父「……迷惑かけたな」

381 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:54:06 GYcRRYgE 339/345

男父「倒したんだってな」

「……あぁ」

男父「【あいつ】はどうだった」

「……」

男父「裏の世界でも名の知れてる野郎だ。実力は本物」

「【あいつ】は強かったよ」

男父「だろうな」

「でもさ……」

「なんだろうな」

「必死な感じでさ」

男父「……」

「最強の武術家って感じはしなかったんだ」

男父「ふっ。言うようになったなオイ」

「い、いや……」

382 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:54:41 GYcRRYgE 340/345

男父「まあお前は俺よりも強くなったよ」

「嘘つけよ」

男父「俺は【あの人】に負けてるんだぜ」

「知ってるよ。全力出せない状態でだろ」

男父「きいてたのか」

「親父……俺はさ」

男父「……」

「その……なんていうか……誇りに思ってるよ」

男父「……」

「親父のくれたこの武術」

男父「……」

「使いあぐねてたし……最近は恥ずかしさもあった」

「でもこの戦いでより確かになったんだ」

「俺は『陰茎術』を最強にしたい」

383 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:55:14 GYcRRYgE 341/345

男父「お前なら出来る」

「……」

男父「ここは冷えるぞ。中に入れよ」

「そうだな」

男父「あと母さんが海外出張から帰ってきてるぞ」

「えっ?」

男父「久々に家族団らんで飯でも食おうぜ」

「う、うん!」

男父「じゃあまたな。息子よ」

「おうっ!」



男父(お前が俺の誇りだよ)

384 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:55:44 GYcRRYgE 342/345

――――――――


陰茎術。

それは日本古来より実在し、歴史を左右する大合戦の折、常にその陰で活躍して勝利を引き寄せた、古武術の一つである。


チンピラ「おらっ!!」

学生「ひぃっ!!」

チンピラ「いいから金だせっつってんだろ」

学生「す、すいませんすいませんっ」

チンピラ「ったく大人しく金さえ出しときゃぁ殴られずに済んだんだよ」

学生「っ……」ブルブル


自らの陰茎を鍛え上げ、鋼の剣と化すその武術の鍛錬はまさに荒行、凄惨を極めた。
男として生まれ落ちたその時から、自らの陰茎にありとあらゆる苦痛を与える。
まだ精通どころか勃起すらできない陰茎に、有刺鉄線を巻きつけながら手淫をする鍛錬。

385 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:56:26 GYcRRYgE 343/345

「そこまでだぜ」

チンピラ「……あぁ?」

学生「っ……?」

「そこまでにしとけって言ってんだよ」

チンピラ「……」

沸騰する熱湯と氷水の中、交互に陰茎を突き入れる鍛錬。
カリの部分に指輪をはめ、その指輪に鉄の重りを吊るす鍛錬。
何度も泣き叫び、苦痛にもだえ、陰茎を切り落としたいとまで願った。

チンピラ「ちっ、正義ぶったバカってたまにいるんだよなぁ」

学生「……」ブルブル

チンピラ「おい、てめえ」

「なんだ?」

チンピラ「お前も財布出せよ。まあどっちみち先にボコるけどな」

「やってみろ」

だがすべての鍛錬を乗り越えた時、陰茎術を体得した時、この世に敵はいなくなる。
そんな最強の武術。

386 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:56:56 GYcRRYgE 344/345

チンピラ「泣いて後悔すんなやっ!!」ブンッ


「……ふっ」


ときは平成、現代日本。

平和の水面下に陰湿な闇が蠢く時代。

そんな時代でも陰茎術の伝承者は―――まだ生き残っており


「後悔するのはどっちだろうな」


まだ見ぬ敵を倒すため


真の最強を目指すべく


今日も人知れず、陰に身を隠し


戦い続ける



「陰茎術秘技――――――」

387 : 以下、名... - 2015/06/10(水) 01:59:32 GYcRRYgE 345/345

おわりちんちん

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