アイドルになってから、たくさんの時間が過ぎたの。たくさんキラキラして、楽しい時間。
でも…。
美希「…いま…なんて言ったの?」ギュッ
そんな言葉、アナタから聞きたくなかったの。
P「分かってくれ…美希…」
あの人は、凄く辛そうで…。でも、ミキの眼をしっかり見てお話してくれる。
美希「ミキの、聞き間違いじゃ、ないんだね」
P「すまない。でもな!これは美希にとってチャンスなんだ!」
元スレ
美希「…キミはいま、幸せ?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1338985624/
二時間のスペシャルドラマ。しかも、ゴールデンタイムに放送される。それは、確かにチャンスなの。
…でもね?
美希「…ミキ、キスはしたくないの」
そう。キス。そのドラマのラストには、キスシーンがある。
P「すまない…」
あの人の手が、ぎゅって握り締められてる。凄く震えてるの。
美希「…ハニーは…うぅん。プロデューサーは、ミキがキスしても、いいの?」
あの人に聞いてみる。だけど、ミキが期待した答えは返ってこなくて。
P「これが台本だ。いいか?一週間後には、ロケが始まる。台本を、じっくり読んでくれ」
――ガチャッ、バタン
美希「…」
――
美希「…」パラッ、パラッ
台本をパラパラ流し読みしてみる。…確かにいい話なの。
幼馴染みとの恋。最初は恋愛感情の無かった幼馴染み同士。だけど、あるきっかけから、お互いを意識するようになって… 。
美希「…あはっ。この娘…ミキとおんなじなの」パラッ
そのきっかけ。トラックに轢かれそうになったヒロインを、幼馴染みの男の子が助ける。
それはまるで、あの時みたいに。
ハニー?ミキ、出来るかな…。
美希「…ミキ、頑張るから…」
台本を読んで、決めたの。ミキ、この娘を演じるって。
――
次の日、ミキはあの人に伝えたの。
美希「ハニー。…うぅん、違うね。プロデューサー」
P「ミキ…」
呼び方を変えたミキを見て、ちょっぴり寂しそうな顔してるあの人。
だけど、これはミキのけじめなの。
美希「…プロデューサー。ミキ、この娘になるね」
P「そうか。すまないな」グッ
苦しそうに、でも、少し嬉しそうに、あの人は笑ってくれた。
美希「うん。ミキ、やるからには本気だから」
だから、キスも。
――
そして、あっという間に一週間が経って、ロケが始まったの。
P「ミキ、大丈夫か?」
美希「あはっ!ミキは大丈夫なの!」
心配させないように、とびきりの笑顔を作る。…初めてかもしれないね。アナタに、笑顔を作るのは。
P「そっか。じゃあ、頑張ってこい」
美希「当たり前なの!」ニッコリ
そうして、ロケは始まったの。
美希「ねぇねぇ、昨日の宿題やってきた?」アタフタ、アタフタ、
――
美希「あ~!私のクレープ、こんなに食べたぁ~!」ムスー
――
美希「ばーか。私がアナタに恋するわけないですよーだ」
――
偽物の幼馴染みとの会話が続く。だけど、ミキの言葉は…。
P「」グッ、フルフル、フルフル、
そうして収録が進み、クランクアップを次の日に控えた夜。
美希「ねぇ、プロデューサー」
P「ん?どうした?星井さん」
星井さん。ロケが始まった夜、あの人は私の事を苗字で呼んだ。
美希「…うん。あのね?ミキ、ちゃんと出来てる?」
明日をクランクアップに…キスシーンに控え、わざとこんなことを聞いてみた。
あはっ!だってミキ、いじわるだから。
P「うん。よく出来てると思うぞ?なんてったってミキは…星井さんはAランクアイドルだからな!」
美希「ッ!」
久しぶりに聞いた、あの人からの『美希』って言葉。
あはっ!凄く嬉しいの。でも、今はダメ。今は、『星井さん』じゃなきゃ、ダメ。
美希「…あはっ!良かったの!じゃあ、プロデューサー!また、明日っ!」タッタッタッタッ
――ガチャッ、バタン
P「美希…」
美希が出ていった後、俺は今までを振り返っていた。
最初はとんでもなく破天荒で、世間知らずで、無茶苦茶で。
だけど、人を…俺を惹き付ける何かがあって。一緒に活動をしていく内に、アイツの事を知っていって…。
そしてあの時。トラックに轢かれそうになったアイツを咄嗟に助けた。
自分の担当アイドルだから?相棒だから?
違うな。いつの間にか俺は、
美希に、恋をしてたんだ。
P「なぁ、美希。俺は、間違ってないよな?」ハァ...
――
美希「…」グスッ
――
次の日、最後のロケが始まったの。
美希「じゃあミキ、行ってくるね!」
P「おう!頑張ってこい!」
その言葉は、あくまで『星井さん』としてのミキへの言葉。
美希「うん…」タッタッタッタッ
――
美希「…私…私ね?キミが私にそう言ってくれるのは、凄く嬉しいの」
最後のシーン。私は、この娘を最後まで演じる。
美希「…だからね?…いいよ?キミの、彼女になってあげる!」ギュッ
主役の男の人と抱き合う。そして、ゆっくりと近付くフタリのくちびる。
美希「…ふふっ。な~んてっ!」バッ
美希「スキで彼女になるのはホントだよ?だけど、ふふっ」クスクス、
美希「…キスは、だめ」
美希「えっ?何でって?だって私は…いじわるだから」ペチンッ
主役の男の人はオデコにデコピンされて、ボーゼンとしてる。監督さんも、スタッフさんも。
そして、あの人も。
「あっはっは!いいじゃあないか!」
監督さんのひときわ大きい笑い声がして、その後に。
「よしっ!撮影終了!」
監督さんのその一言に、皆がまたビックリしてた。
主役の人は何か怒ってたみたいだけど、ミキには関係ないの。元々キョーミ無かったし。
それよりもね?
美希「…ただいま」
美希「プロデューサー。…うぅん、違うね。ハニー」
P「あぁ。おかえり」スッ、
P「美希」ナデナデ、ナデナデ
美希「…あふぅ。やっぱりハニーのなでなでは眠くなるの」クスクス、
――
収録が終わったその日の夜。事務所に二人きり。ピヨちゃんも、律子…さんも気を利かせてくれたのかな?とにかく二人きり。
P「美希…どうしてあんなことしたんだ?」
美希「ん?あんなことって?」
P「キス…しなかったじゃないか」
美希「あぁ。その事なの?ふふっ、ミキ言ったよ?いじわるだから、って」クスッ
P「あのなぁ…」ハァ...
美希「…だから」ボソッ
P「えっ?」
美希「…ミキの相手は…ハニーだけ…だから」ギュッ
そう言って、ハニーに抱き着く。久しぶりのハニーの匂い。
P「バカ」ギュッ
美希「むっ!そんな言い方はヒドいと思うの」ムスー
P「ははっ。だけど、ミキ」
美希「…うん?」
P「ありがとう」
P「最初に俺が断るべきだったな、この話」ギュッ
そう言って、ミキを抱き締めるあの人。
美希「…ねっ?ハニー?」
P「ん?」
美希「…続き、しよ?」
P「続き?」
美希「うん。撮影の、続き」
P「…」ギュッ
美希「…私も、アナタが好きだよ?だからね?」
美希「…彼女になって…あげる」スッ、
美希「それと、ね?」
美希「…私、うぅん。ミキも、ずっとずっと、好きでした」
美希「ちゅっ」チュッ
ミキの、はじめてのキス。ハニーにしかあげない、さいしょのキス。
美希「…ねぇ、ハニー」
美希「…ミキはいま、幸せだよ」
おわり