1 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします - 2014/06/08 22:38:40.61 kW7oUsPb0 1/51
モバマスSS
過去作に
・モバP「女神の休日」
https://ayamevip.com/archives/57607901.html
・モバP「女神と聖夜を」
https://ayamevip.com/archives/57610067.html
がありますが話の繋がりはありません
○月○日 茄子
お仕事の勝手が変わってから1ヶ月が経ちました。
先月、私を担当してくれているプロデューサーさんが、1日も早くデビューしようと努力している我が事務所のレッスン生たちを本格的にプロデュースしはじめることがきっかけでした。
Pさんが私の担当を外れたわけではありません。
それまでは私のお仕事には付きっきりで現場にいてくれたのですが、それがなくなったというだけ。
もちろん今までどおり送迎はPさんがやってくれます。
Pさんと一緒にいられる時間が少なくなって最初はちょっと寂しかったのですが、
だからこそ二人っきりでいられる送迎の時間はとても幸せに感じます。
Pさんの話によると、新人アイドルたちのプロデュースは幸先のいいものになったようで、
今は売り込みに忙しいとのことです。
忙しいと言いつつも、楽しそうにお仕事の話をするPさんはやっぱり素敵です。
どんな時でも一生懸命。アイドルのために全力を尽くしてくれる彼が、私の目にはとても輝いて見えました。
私はこのPさんにスカウトされてアイドルになりました。
初期のレッスン生時代、駆け出しの頃、徐々にお仕事が増えてきた頃、初めてステージで歌った時と、ずっと2人で頑張ってきました。
Pさんのおかげで今の私は、自分で言うのは恥ずかしいのですが、それなりに世間で注目をあびる
アイドルへと成長しました。
どんな時でもPさんは私を応援してくれて、だから私も期待に応えようと努力しました。
私は生まれてからずっと、他の人より少しだけ「幸運」を呼ぶ力が強いようです。
普段特に望まなくても、偶然良いことが起こって得することが多かったり。
これまでの人生であまり「運が悪かったなぁ」と思うことはなかったように思えます。
だから、アイドルというお仕事はとても新鮮でした。
この不思議な力があったから成功したのかな?とも思いましたが、レッスンで身につくアイドルとしての技術は「幸運」という言葉では片付けられません。
地道に努力を重ねてアイドルとしての力を身につけたと思うし、だからこそそれをPさんが「茄子の努力の賜物だよ」と言ってくれたときは本当に嬉しかったです。
Pさんと出逢ったことで、私は「幸運」では片付けられない重要な物事の大切さに気付きました。
Pさんと出逢っていなければ、このような素敵な経験をすることもありませんでした。
私は自身の「幸運」を少しだけ人に分けてあげることもできますが、私に「幸福」を教えてくれたPさんにそれをしてあげたいと今は思います。
(本当は、Pさんと2人でずっと一緒にいられたら幸せだけど・・・)
私の「幸運」が、Pさんの「幸福」になりますように―――
―――――
―――
―
×月○日 P
なにかがおかしいな、と思う。
先日から本格的にプロデュースを始めた新人アイドルの子たちだが、最近になって営業がうまくいかないようになってきた。
デビューCDは新人アイドルとして最低限のラインを超えていたし、新人ながらも大きなミスをせずにここまでやってこれたと思う。
新人のうちの1人が体調を崩したのも芳しくない。深夜の音楽番組に出演する機会があったのだが、それに出演できなかった。まさかその1つの出来事だけが最近の流れの悪さの原因だとは思わないが・・・
それに、その体調を崩した子は新人組の中でもとりわけ健康で「元気がとり得」みたいなところがあった。
性格も明るく華があり、その子がいれば番組でも上手く立ち回れていたかもしれないと思うとやはり悔しい部分がある。
過ぎたことを悔やんでも仕方がないし、その子のせいにすることもできない。
大事をとって自宅で療養させているが、そろそろ元気を取り戻している頃だろう。
明日電話をして、念のため病院にいかせて問題がなければレッスンに復帰させようと思う――
体調が戻らない、という言葉を聞いたときは耳を疑った。
最初に体調の悪さを訴えてから病院にいかせたときはただの風邪だと診断された。
ただの風邪なら、いくら年頃の女の子でも1週間も休めばもとの体調に戻るのではないかと思っていたが・・・
発熱はないが、頭痛や眩暈が残ってるらしい。なにか他の原因があったのでは、と思い再び病院に行くように促したが、医者からは「原因が分からない」とだけ。
他に原因がないのなら風邪の症状が長引いているだけとしか考えられない。
そう判断した医者の言うことを聞き、まだこの子は療養させることにした。
×月×日 茄子
今日の送迎の際に、Pさんはあまり元気がないようにみえました。
おせっかいと思いつつも何かあったのか聞いてみたところ、新人の子の体調が戻らないらしいです。
その子はPさんがとても期待をよせていた子で、私もまだ事務所で会ったことはないけどPさんから何度かお話を伺っていた子でした。
以前も車の中でその子の魅力について目を輝かせながら語っていて、私はPさんがそう言うならきっと素敵な子なんだろうな、と関心していたことを思い出します。
早く元気になってもらいたいです・・・そして、早く一緒にステージに立ちたいですね。
私がそういうと、Pさんは強く頷いて元気を取り戻したようでした。
□月○日 P
件の子は復帰したものの他の子との遅れが明確に現れており、そろって仕事をさせるわけにはいかないなと判断した。
一度に全員の関心を引くことができると思い、できるだけ新人の子は揃って番組に出演させたかったのだが個別に分けて営業することに切り替える。
その分俺の仕事が増えるが、この子たちの可能性を考えればどうってことない。
しかし、俺一人でやることが多すぎるのでどこか時間を削らなければいけないな――
□月×日 茄子
Pさんから、私の送迎ができなくなったと連絡がありました・・・
薄々こうなっちゃうかな、とは思ってはいたんですけどね。最近のPさんは以前にも増して忙しくしているように見えましたから。でも、二人っきりの時間がなくなっちゃうのはやっぱり寂しいですね・・・
・・・寂しいですけど、事務所に戻ってくればPさんと会えるから問題ありません♪
こんなことくらい我慢しなくちゃ、Pさんに迷惑がかかっちゃいますからね。
私もPさんの見てないところで頑張って、Pさんを安心させてあげたいと思います!
・・・それでもやっぱり、寂しいですけどね?
□月△日 P
よく分からない・・・
この事務所に勤めてから、こんなに上手くいかないのは始めてのことだと思う。
自分がプロデューサーとして優れているとは思えないが、これまで担当してきたアイドルは差があるものの全員アイドルとして成功できたし、なによりこんなに長く停滞していた時期はなかったはずだ。
社長は「君だから大丈夫、ゆっくりやりなさい」と穏やかなままだが、何かモヤモヤする・・・
このモヤモヤが何なのかが分からないことが原因だとは思う。
件の子も十分な位置まで戻ってきたし、他の子たちもそれぞれの仕事を新人ながらしっかりこなしている。
これからやっとまとまった営業をかけていけるはずだったのだが・・・
箱をひらけば「出演の枠がない」「企画が倒れてしまった」「今回だけは他の子を使わせてもらうことはできないか」などといった失敗に終わる。
この子たちには何も問題がないのに、いまいちアイドルとして完全に羽ばたく瞬間をつかめない。
すぐそこまできてるのに、最後の最後で「何か」に邪魔されているようで不快で仕方がなかった。
誰が悪いわけでもない、もし悪いのならば、それは俺自身だと思う。
今まで以上に努力しないといけないな・・・
―――――
―――
―
△月○日 茄子
Pさんに代わって私の送迎をしてくれているCuPさんが、出勤途中に事故に巻き込まれたようです。
幸い怪我はなく、運転中、後続車にゴツンと当てられたとのことです。
大事に至らなくて良かったのですが、車が使えなくなってしまったのでしばらく一人でタクシーや電車で移動することになりそうです。
・・・なんだか最近、事務所がバタバタしてるような気がします。
Pさんは依然として新人の子たちに付きっきりですが、それでもなかなか上手く立ち回れていないようだとちひろさんから聞きました。
Pさんに原因があるのではなく、「運が悪い」というようなことが続いていると。
そういうときもありますから、我慢するしかないですね・・・
ちひろさんもPさんを心配しています。ちひろさんはいつも事務所でPさんの仕事をサポートしてくださっていて、Pさんにとってもアイドルにとってもとても心強い存在です。
ちひろさんがいなかったら、今頃事務所はどうなっちゃってたんでしょう。
精神的な支えでもあるちひろさんに心配かけさせるなんて、Pさんったらカッコ悪いですよー?
でも、Pさんも一生懸命頑張ってるんですし、そんなこと言っちゃダメですよね。
はぁ、Pさんに会いたいなぁ・・・
・・・それにしても
ちひろさんはいつも事務所にいるけど、Pさんも普段は事務所にいるわけで。
2人は基本的にはいつも近くでお仕事してるんですよね。
Pさんとちひろさんって単なる同僚だって思えないくらい仲がいいし、傍目から見たらお付き合いしてるのかな?なんて思えちゃうくらいです。
だからなんだってこともないですけど、いつもPさんを傍で支えることができて、ちょっとだけ羨ましいな、なんて思っちゃいますね!
・・・ちひろさんはどうなのか分からないですけど
・・・Pさんは、ちひろさんのこと、どう思ってるのかな・・・?
―――――
―――
―
△月×日 P
・・・はぁ
流石に眩暈がする。
ちひろさんがインフルエンザにかかるとは・・・
いや、ちひろさんは何も悪くないんだ。
事務仕事ができるちひろさんが出勤できなくなるのは本当に痛いが、万が一こういう事態のために留美さんが一通りの事務仕事をちひろさんから教わっていてくれた。元秘書というだけあって飲み込みがはやかったため、最低限事務所が機能できる。
留美さんにはアイドルとの二足の草鞋で迷惑をかけているが、本人が将来アイドルを引退したときのためにとなんの抵抗もなくこなしている。
こんな大変な思いをして、改めてちひろさんの存在がどれほどありがたいのかを思い知る。
いつも文句の一つも言わずに遅くまで仕事をしてくれて、営業に出かける際は栄養ドリンクを差し入れてくれるし、最近は俺の不摂生な食生活を見かねてお弁当まで作ってきてくれていた。
それを思い出すと急にちひろさんが恋しくなる。
インフルエンザだから俺がうつされたらダメなんだが、仕事が終わったらせめてなにか差し入れをしに行ってみようかな・・・
茄子
今日はオフの日なので久しぶりにのんびりお買い物です。
ちひろさんの件を聞いて私も何かお手伝いを、と思ったのですが、留美さんと違ってなにもできない私が忙しい事務所に行っても邪魔になってしまうだけなので・・・
・・・でも、きっと大丈夫だと思います。私の「幸運」は、人に分けてあげることができるものだから。
きっとちひろさんもすぐに治って戻ってきてくれるし、Pさんのお仕事もすぐに順調になるはずなんです。
・・・けど、それにしたって寂しいことが続きます。
私は早くみんなが幸せになってくれればって思うのに、どうして今はこんなにうまくいかないんでしょう。
・・・私自身が幸せじゃないと、人に「幸運」を分けてあげることなんてできませんよね。
よし、暗いことは考えないで前向きに頑張りたいと思います♪
買い物をしてたんですけど、フラフラとして事務所の近くまで来ちゃいました・・・
事務所の邪魔になっちゃうかもって思ったけど、少し顔を見る程度なら大丈夫ですよね?
最近Pさんの顔すらみてないんですもん、邪魔にならないように、ちょっとだけちょっとだけ♪
―――――
―――
―
・・・あら? 事務所にいませんね・・・
ホワイトボードのスケジュールでは・・・今は新人の子たちのレッスンの時間ですか。
もしかしたらレッスンを見にいってるのかもしれません、行ってみましょうー。
‐レッスン場前‐
ちょこっと覗いてみましょう・・・(ヒョコッ
トレーナー<ワン、ツー ワン、ツー!!
P<・・・
あ、いました♪
・・・なんだか元気がないですね、Pさん・・・
アイドルの子たちを見てますけど、目が虚ろというか・・・
なんだか見てて辛そうです、なんとかしてあげられたら・・・
・・・あ! 帰りに事務所の外で待ってましょう、お仕事が終わったあとなら少しだけお話できるかもしれませんしね。
‐外‐
事務所の外でPさんを待ちます、そろそろ就業の時間ですね。
偶然を装いましょうか、それとも「会いたかったから来ちゃいました」って正直に話しちゃいましょうか・・・どうしましょう・・・
・・・あ、Pさん出てきました。
・・・あれ? Pさんが帰るときってあの方向じゃなかったような・・・
寄り道するんでしょうか・・・ちょっと追ってみましょう。Pさんだったら気付いても怒ったりしませんよね♪
P
ちょっとした食材とスポーツ飲料。こんなもんでいいよな?
・・・ここがちひろさんの部屋かぁ、すごいとこ住んでるな。
多分寝てるだろうし、起こすのも気が引けるんだけど外に出る気力もいからな、インフルエンザになると。
これだけ置いて、様子みたらすぐ帰ろう・・・
ピンポーン
茄子
あ、中に入っていきますね・・・立派なアパート?マンション?ですけど、お友達でしょうか・・・
もしかして・・・恋人とか・・・
通りに面してるから玄関が見えちゃいますね、Pさんは・・・
4階・・・で降りたのかな? 肩から上しか見えませんけど・・・
一番端の部屋まで行って・・・
・・・え?
‐P自宅‐
ちひろさんはかなり辛そうにしてたけど、なんとか食事もとれてるとのことだった。
ドアを開けて俺を見るやいなや胸にもたれかかったのは正直びっくりしたが・・・
体調崩して、しかも一人暮らしだから心細かったんだろうな。
体調が戻ったらお礼させてくださいって言って、さっさと帰されてしまった。
そりゃ俺にうつすわけにもいかないって分かってるよな。
・・・俺も早いとこ寝よう、俺が倒れたらもう洒落にならんし。
・・・弱々しいちひろさん、かわいかったな・・・
ケータイ<ブィーン、ブィーン
メールか、誰からだろう・・・
『Pさんお疲れ様です。最近ゆっくりお話できないのでメールしちゃいました!最近忙しいみたいですし、お仕事終わったらすぐに休まないといけませんよ?』
茄子か、わざわざありがたいな・・・気を遣わせてしまってるし、心配ないって伝えておこう。
ピッピッ ピッピッ・・・
よし、寝るか・・・
『ありがとうな、俺も茄子と話せなくて寂しいって思ってたところだ。今日は真っ直ぐ帰って休んでるよ、茄子も無理しないようにな』
・・・・・そうですか、良かったです・・・・・
△月□日 P
ちひろさんが無事復帰してきた。先日のお見舞いのお礼に、ということで俺の部屋にきて夜ご飯を振舞ってくれた。
普段のイメージから想像つかなかった・・・とは口が裂けてもいえないがその腕前は確かなもので、俺が希望した料理を簡単に作ってしまった。
仰天しながらもご飯を食べていると、これで私もお嫁さんになれますかね?なんて冗談めいたことを尋ねてきた。
こちらも冗談で、俺が結婚したいくらいですよ、と返すとちひろさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
非常に反応に困る・・・冗談だって思ってくれてるんだよな・・・?
ケータイ<ブィーン、ブィーン
ケータイが鳴ってるけど放っておく。さっきから縮こまるちひろさんが可愛くて仕方ない。
ご飯を食べ終えたのでちひろさんを送っていこうと彼女を促したが、上目遣いで何か言いたげにしている。
かろうじて聞き取れるくらい小さな声で、泊まっていっちゃダメですか?と言われた瞬間に俺は彼女を抱っこしてベッドに連れていった。
あとで反省したのは、もっと丁寧に段取りができたはずだということ。
あのときの俺は仕事で疲れ果てて、誰かに甘えるなんてこともできなくて、あんなことを言われてすぐちひろさんに飛びついてしまった。
勿論ちひろさんのことは好きで、その場限りになるような無責任なことはしなかった。
彼女の暖かさを感じながら眠りについた俺は、本当に久しぶりに心からの幸福を味わった。
・・・だから、次の出勤の日の朝に、警察からちひろさんが車に撥ね飛ばされたと電話がきたときは一瞬理解ができなかった。
ベッドに横たわるちひろさんの隣で麻酔が醒めるのを待つ俺は、ここ数日の不幸を嘆いた。
命に別状はない、「幸運にも」足腰を強く打っただけで退院も早いとのことだが。
俺にとっては「幸運」でもなんでもない、誰にとっての幸運なんだ。
・・・・・幸運、か。そういえば茄子は人に幸運を分け与えることができる、っていうようなことを言ってたかな。
実際に俺も目にしたことがあるし、あれはもう疑いようもない事実だった。
最近茄子にも会ってないな・・・事務所もかつてないくらいドタバタしてるし、みんなに心配かけさせてばっかりで――
「Pさん?」
呼ばれて振り向くとそこには茄子がいた。だが――
「Pさん、幸せですか?」
意味が、分からない。
今俺の目の前にちひろさんがいて、今朝車に轢かれたのを茄子も知ってるはずなのに。
「私は、Pさんの幸せを願ってたんですけど」
茄子がそう願ったのなら、この状況はどういうことなんだ。
というか、この状況で茄子は何を言っているんだ。
ここ最近俺はなにも上手くいかず、事務所もギリギリ機能してるって状況で。
この様子をみて、幸せですか?は出てこないと思うが・・・
・・・それより、なんなんだ・・・
「今になってようやく気付いたんですよ」
茄子の様子が明らかにおかしい。茄子は人当たりがよくて、もっと穏やかな笑みを浮かべる子のはずだ・・・
茄子は・・・・・
「誰か一人だけが幸せになるのは、いけないことなんだって」
「Pさんだけが幸せになることはできないんです」
「何故かは分かりませんけど、そうなんです」
「Pさんだけの幸せを願ったら、こんなことになっちゃったから」
この茄子は・・・誰なんだ・・・・・
「でも、2人でなら一緒に幸せになれますよ?」
「私の願った幸せがその通りに叶うなら、最初から幸せになる方法は1つだけだったんです」
「だって、本当の私はずっとPさんと一緒にいたいって願ってしまったから」
「つまりそれ以外は幸せじゃないっていうことですよね?」
「あの時から、こうなることが決まってたんです」
「だから、Pさんは私を一緒にいることでしか幸福になれません」
「Pさんの幸福のためにも、これからずっと私と一緒にいましょうね」
「でないと、次はちひろさんが目を覚まさないかもしれませんからね♪」
女神の愛憎 終わり