関連
僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」【1】
長編 偽装結婚式
「……もう、僕とは会わない方がいい」
「何故そんなことを言うの!? 私はあなたのことを……」
「祖国と……君の為だ」
「私のことを思うならてそんなこと言わないで……」
「君と僕が結ばれれば国が傾く! どうしようもないことなんだこれは……」
「一介の兵士が君と結ばれるなんて……やっぱり無理だったんだ」
「……ロミオ」
「ごめん、ジュリエット。君との約束……果たせそうにない」
「……本当に、どうしようもないのかしら」
「もう、神に祈ることしか……僕には出来ない」
────
僧侶「大きいですね~~~ゆーしゃさまっ」
勇者「この中央大陸の中で最も大きい城だからな!」
僧侶「町の皆さんも活気に満ち溢れてますっ」
勇者「港町からどんどん物や食料が入って来てからと言うもの人口も一気に増えたらしい。ルーラ石様々だな」
僧侶「ゆーしゃさまっ! この赤いキラキラした物は何でしょうか?」
勇者「林檎飴だ。林檎を水菓子で絡めたもので甘くて美味しいぞ」
僧侶「ではこっちのはなんでしょうか?」
勇者「綿菓子だな。これも甘くて美味しい」
僧侶「ゆーしゃさま詳しいですねっ!」
勇者「屋台菓子については大陸の中でも上位の詳しさだろうな!」
僧侶「では、私からも問題です。この銅像の人は誰でしょう?」
勇者「わからん!」
僧侶「もう~」
僧侶「大僧侶ルシエルを知らないなんて勉強不足過ぎますよゆーしゃさま!」
僧侶「大僧侶ルシエル様。三代目勇者様と冒険した方で今の僧侶職を確立した人です。この町の出身でもあるんですよ」
勇者「へ~」
僧侶「私もいつかルシエル様のように……」
勇者「おいちゃん林檎飴一つ!」
「毎度!」
僧侶「もうっ」
────
勇者「んじゃ謁見に行ってくる」
僧侶「はい。気をつけて」
勇者「にしてもめんどくさい義務だよな。城がある町に入る時は必ずその代表に挨拶しろ、なんてさ」
僧侶「仕方ないですよ。昔色々あったそうですし。勇者関連での利権の争いを無くすために勇者は全ての国に帰属するものと決められましたから。
中には帰属を断ってる人達もいますけど……」
勇者「まっ、俺には関係ないことだけどな~そんな昔のこと」
僧侶「でもちゃんと謁見はしなきゃ駄目ですよ」
勇者「わあってらぁ」
僧侶「じゃあまた後で、私も報告しに教会へ行ってきますね」
勇者「ああ。終わったらここで待ってるよ」
僧侶「はい、ゆーしゃさま」
城内────
「勇者様がおいでましたよ姫様。…いえ、もう女王様でしたね」
ジュリエット「メイドまでそんなことを言うのね」
メイド「すみません……姫様」
ジュリエット「いいのよ。女王か……私自身は何も変わってないと言うのに」
メイド「……」
ジュリエット「勇者様を待たせてはいけませんね。早く行きましょう」
メイド「……はい、姫様」
────
兵士「さ、勇者様、あちらです」
勇者「(ひえー広れー天井たけーなんだこれー)」
大臣「遠路遥々ようこそいらっしゃいました勇者様」
勇者「ども」
大臣「もうしばらくして女王様もいらっしゃるので」
勇者「あ、はい」
大臣「女王様も今は大変な時期でして……」
勇者「そうなんですか?(いや聞いてないし)」
大臣「先月この中央大陸城の国王様が亡くなられたのはご存知ですよね?」
勇者「そ、そうでしたね(全然知らねぇ…)」
大臣「それから妃様も後を追うように体調を悪くして……この国を守る為にも王女であったジュリエット様がご即位なされたのです」
勇者「へぇ(また話が長くなりそうだなおい)」
大臣「南大陸の王子との結婚式も来月に迫ってまして……女王様は寝る暇もない程に忙しく……」
勇者「(ああ、遅刻口上ね。なるほど)気にしないでください。そこまで急いでるわけではないので」
大臣「さすが勇者様、心がお広い」
勇者「(南大陸の王子と結婚、か。またキナ臭いな。魔王が居ようが居まいが国同士のやり取りはやっぱり一枚岩じゃないか)」
勇者「(ま、俺には関係ないことだけど)」
「ジュリエット女王様の御成りです」
ジュリエット「……(あれが、勇者)」
勇者「(あれが女王、か)」
ジュリエット「ようこそ我が国においでくださいました、勇者様」
勇者「僭越に賜り光栄です、女王様」
ジュリエット「この国はどうでしたか?(見たこともないのに良くも口が回る……自分でもビックリね)」
勇者「とても活気に溢れてて素晴らしいと思いました。また港町では大変歓迎されて……恥ずかしながらそこでやっと自分が勇者なんだな、なんて思いました」
「ハハハ」
メイド「勇者様ったら面白いですわね」
ジュリエット「(違う。あれはきっと本心だ。私にはわかる……多分彼は私と似ている)」
ジュリエット「(でも……彼はそれを受け止めて前に進んでいる。それなのに私は)」
ジュリエット「……あなたは凄いですね」
勇者「はい?」
ジュリエット「いえ、なんでもありません。今は色々立て込んでいて大したもてなしは出来ませんがゆっくりしていってください、勇者様」
勇者「存じております。お気遣いありがとうございます、女王様」
ジュリエット「……」
勇者「(ん……? 何か元気ないな。疲れてるのかな)」
ジュリエット「(私と似ているこの人なら……もしかしたら力になってくれるかもしれない)」
ジュリエット「(でも……勇者様を利用する様な真似なんて……やっぱり、出来ない)」
ジュリエット「(でも……このまま行けば間違いなく私は後悔する……それで本当にいいのだろうか……)」
ジュリエット「最後に一つだけ……聞かせてください勇者様」
勇者「はい?」
ジュリエット「……、あなたは何故、勇者になったのですか?」
どよどよ……
勇者「……」
ジュリエット「神託に選ばれたからですか?」
勇者「いえ、違います」
ジュリエット「なら……」
勇者「……選んだからです。俺自身が」
勇者「この道を」
ジュリエット「!!!」
勇者「まあ選ばれたってのも少しはありますけどね」ハハハ
ジュリエット「勇者様……」
ジュリエット「(この人なら……私達を救ってくれるかもしれない)」
ジュリエット「(勇者様……ごめんなさい。どんな罰も私が後でお受けします……だから、私達を……助けてください)」
ジュリエット「勇者様、私」
勇者「はい?」
ジュリエット「あなたのことを好きになってしまいました」
兵士「ふぁっ!?」
臣下「ぶふっ」
大臣「ぶっふぉ!?」
メイド「まあ、姫様ったら大胆」
勇者「……え?」
「「「ええええええええええっ!!!???」」」
「おい女王様は南大陸の王子と婚約してるのではなかったのか!?」
「確かそうだと聞いていたが……」
「暫定的な話だろあれは。女王様はまだ返事を出していない」
「ってことは……?」
「「「勇者様とのご結婚もあり得るってことだ!!!!!!!!!!」」」
勇者「……」ポカーン
「勇者様と女王様! 確かにお似合いですなぁ!」
「こいつは面白くなってきた!」
大臣「……バカ共め」ボソッ
勇者「……」チラッ
臣下「しかし勇者様には魔王退治と言う何よりも優先すべき事柄が御座います」
大臣「その通りです女王様。勇者様は急がれる身、婚約など……」
ジュリエット「ならば勇者様が魔王を討ち取り、無事帰って来るその日まで……私は待ちましょう。彼を」
「ヒューヒューッ! 良く言った姫様!」
「さすがだぜ女王様!」
「待て待て。まだ勇者様の返事を聞いてない内に盛り上がるのは早かろう」
「確かにな……」
「あんな絶世な美女に婚約を申し込まれて断る輩がいたらそいつはナニがついてねぇな!」
「おい御前だぞ!」
ジュリエット「勇者様……その、お返事は」
勇者「……あっ、その……えっと……」
勇者「頭の整理が追い付かないので……ちょっと考えさせてください」
ジュリエット「急な話ですもの、当然ですよね」
ジュリエット「もしよろしければこの後少しお話をしませんか?」
勇者「は、はあ……」
メイド「場所は私めがご用意致します。ささ、勇者様こちらへ」
記述師「勇者様が来たからって覗いて見たら……こいつはどえらいことになったな! こうはしてられない! 早く新聞を作らないと!
記述師の血が騒ぐぜ!」
臣下「……」
大臣「……」
────
僧侶「お久しぶりです司祭様」
司祭「あらやだ僧侶じゃない! 修道院以来ね、元気してた?」
僧侶「はい。今はここにいると聞いてご挨拶をしに来ました」
司祭「びっくりしたわよもぅっ! まさかあなたが本当に勇者のお付きになれるなんて!
パパ~ママ~ゆ~しゃさま~って泣いてたあの子が……立派になったものね」ホロリ
僧侶「そっ、それは言わないでくださいぃっ」
司祭「ふふっ、相変わらず可愛らしいわねアナタ。私が女じゃなかった即ゲッチュしてるわ!」
僧侶「……司祭様は男では……」
司祭「ああん?」
僧侶「いっ、いえ! なんでもありません!」
司祭「昔から言ってるわよね? 私は女だって……」
司祭「確かに外見は男かもしれない。身長もバカ高いし、声もドス低いわ」
司祭「けどね……心だけは乙女なのよ! そう、乙女なの!」
僧侶「なんで二回言うんですか」
司祭「私が神官になった理由はね……私みたいな心が乙女でぴゅあ~だけど見た目がボーイみたいな人達がいつか気軽に♂達と付き合える……そんなハートフルな世界を創る為なの!」
僧侶「それは修道院時代に嫌って程聞きましたよ……」
司祭「いつか大司教になって性別なんて取っ払う物凄いおふれを出してやるわ!!!」
僧侶「良くわからないけどがんばってくださいね……?」
僧侶「それよりここの司教様はいらっしゃらないのですか? 旅路の報告に来たのですが」
司祭「あ~あの人は旅好きでほとんど留守なのよ。だから報告は私が聞くわ」
僧侶「風変わりな司教様ですね~どんな人なんだろう」
司祭「で? 勇者様とは少しは進展あったの? んん? んんん???」
僧侶「な、な、なんの進展ですかっ!」
司祭「別に~私は別に旅の進展を聞いただけだけど~?」
僧侶「も、もうっ!」
司祭「ふふふ、ほんと可愛らしいわね~お姉さんそっくり」
僧侶「姉上をご存知なんですか?」
司祭「まっ、同期だしね。それに神官やってて彼女を知らない方が珍しいわ」
僧侶「……そう、ですよね」
司祭「100%死者蘇生魔法、ザオリクを産み出した若き天才僧侶……あの頃まだ15歳だったのにね」
僧侶「…凄いですよね姉上は。私と同じ歳にはもうそんな大魔法を作り上げてたんですから……それに比べて私は」
司祭「あなたも負けず劣らず有名じゃないの。なんたってあの勇者様のお付きだもの」
僧侶「……」
司祭「あなたにはあなたのいいところがいっぱいあるわ」
司祭「お姉さんに無いものも沢山持ってる。だからそんな顔しないの!」
僧侶「司祭様……」
司祭「ちょうどいい機会だわ。司祭様なんてかたっくるしい呼び方は今日限りでおしまいにしましょ!」
僧侶「ではなんて呼べば……?」
司祭「そうね……オカマ、なんてどう?」
僧侶「オ、カマ?」
司祭「男が、変わる、魔法。略してオ、カ、マよ!」
僧侶「……何だか良くわからないけどいい気がします!」
オカマ「でしょ? 夢チックな感じでしょ?」
───
オカマ「そう言えば報告だったわね。どう? 旅の調子は」
僧侶「順調です。ちょっと寄り道することもありますけど……きっとゆーしゃさまには必要なことですから」
オカマ「ふ~~~~ん?」
僧侶「な、なんですかっ?」
オカマ「勇者様のことちゃんとわかってあげてるんだな~って思ってさ」
僧侶「……きっと、それだけなら誰にも負けない自信があります」
オカマ「ふふふ。じゃあ黙示録にはおおよそ順調と書いておくわね」
僧侶「はい。お願いしま」
「おい聞いたか!? 女王様が勇者様に婚約を申し出たってよ!!!」
「おいマジかよ!? それじゃあ来月の南の王子との結婚式どうなるんだ!?」
「いくら王子っつったって勇者様に敵うわけあるめぇよ!」
「女は強い男に惹かれるのが道理」
「大僧侶ルシエル様に続き勇者様の銅像も建てねばなるめぇな!」
「しかし本当なのかい? 女王様が勇者様に婚約を申し出たって言うのはさ」
「さっき記述師のボウズが新聞?とやらを撒き散らしながら言ってたから間違いあるめぇ」
「ありがたやありがたや」
僧侶「」パクパク
オカマ「勇者様のことは誰よりも理解してる、のよね?」
僧侶「」パクパク
オカマ「……旅路は順調」
オカマ「でも恋には難ありって所かしら」ウフッ
僧侶「ゆーしゃさまが……婚約ううううぅぅぅぅぅ!?!?!?」
────
メイド「姫様はお色直し中ですので、こちらでしばらくお待ちください」
勇者「は、はい」
メイド「では、私はお茶の準備をして参ります」ペコリ
勇者「あ、ども」
勇者「……しかしえらいことになったな」
勇者「女王様が俺に……告白……」
勇者「いやいや待て待て。さすがにおかしいだろ!」
勇者「出会って数分だぞ……? さすがに出来すぎ……」
勇者「でも女王様綺麗だったな……胸も……うん」
勇者「いやっ、違うんだ! 落ち着け僧侶!」
勇者「っていなかったな……うん」
『勇者様、お待たせしてすみません。どうぞ』
勇者「は、はひっ」
ガチャ──
勇者「失礼します……」
ジュリエット「散らかっててすみません。こちらに腰かけてくださいませ」
勇者「(塵一つないのに散らかっててとは……王宮ジョークか何かだろうか)」
ジュリエット「この度はこんな申し出をしてすみません……」
勇者「いえ……そんなことは」
ジュリエット「……勇者様には謝らなければなりません」
勇者「(……この流れは……)」
メイド「姫様、お茶が入りました」
ジュリエット「ありがとう。その前にお茶にしましょうか」
勇者「(考えろ……女王様があんな場で俺に告白してまでこの場に呼び出した理由を)」ズズズ
勇者「美味い……」
メイド「ふふっ、今日は勇者様と姫様の為により良い葉を用意致しました。気に入ってくださって何よりです」
ジュリエット「ありがとう、メイド。あなたには本当に迷惑かけてばかりね」
メイド「迷惑だなんてこれっぽっちも思ってませんよ、姫様」
勇者「(……やっぱり、思ってた通りか)」
勇者「(となると理由は……)」
勇者「(南の王子と結婚絡みのことか? ……これはまたとんだ当て馬にされたもんだな)」
ジュリエット「勇者様……その、」
勇者「女王様がここに俺を呼び出した理由は大体察しがついてます」
ジュリエット「!」
勇者「南の王子との結婚……それが女王様が望むものではない、と言うことですよね?」
ジュリエット「どうしてそれを!?」
メイド「さすが勇者様です!」
勇者「(うわあ~当たってた~浮かれて女王様に「俺のどこを好きになったんですか?」キリッ とか言わなくて良かったあ~はあ……さらば青春フォーエバー……)」
勇者「女王様のメイドさんに対する気の遣い方を見ればあの場で俺に告白する様な方ではないと思ったんです」
ジュリエット「それは……」
勇者「本当に俺とその……気があったのならメイドさんに手紙でも持たせてひっそりここに来させればいいわけですし」
メイド「バレバレですね姫様」
ジュリエット「……ええ」
勇者「つまり……あの場で婚約を破棄できる様な理由を立てたかったんですね?」
ジュリエット「はい……おっしゃる通りです」
ジュリエット「勇者様にはとんでもない無礼の数々……この身でよろしければ如何様にもしてくださって結構です」
勇者「……頭を上げてください女王様。そちらにも色々と事情があるのでしょう?」
ジュリエット「……」チラッ
メイド「他のメイドも全員下がらせました。この部屋には私達三人しかおりません、姫様」
勇者「?」
ジュリエット「……自国事情で申し訳ないのですが……今我が国、中央大陸は危機に瀕しております」
勇者「と言うと?」
ジュリエット「南大陸の王子との婚約のことは誰から聞きました?」
勇者「大臣が世間話程度にしてくれましたけど……」
ジュリエット「やはりですか……」
メイド「ちっ、あの狸爺が……!」
勇者「(え、こわっ。メイドさんこわっ)」
ジュリエット「この婚約を機に私達中央大陸国と南の大陸国で同盟を結ぼう、と言う話になってるそうです」
勇者「……」
ジュリエット「南の大陸のことはご存知でしょうか?」
勇者「少しなら。確かバリバリの軍事大国で……反勇者国家でもあるとか何とか」
ジュリエット「その通りです。表向きはただの同盟、だけで話は終わってますが……」
メイド「実は私が聞いちゃったんですよ! 大臣と臣下が同盟を組んだ暁には武器をバンバン輸入するって!」
勇者「それはまた……穏やかな話じゃないな」
ジュリエット「武器など輸入したところで使うことなどほとんどありません。この辺りはモンスターの気性も比較的穏やかですし」
勇者「となると……残りの使い道は軍事利用だけになりますね」
ジュリエット「はい……大臣は恐らく……この国に戦争をさせようとさせています」
勇者「……それはもう立派な国家反逆じゃないですか」
ジュリエット「そう……ですよね」
勇者「大臣と臣下を捕まえたり出来ないんですか?」
ジュリエット「無理、だと思います。確証がないのと……私にそんな実権はありませんから……」
ジュリエット「父が死に……母が寝込み……私は悲しみに暮れるしかありませんでした……」
ジュリエット「その時は国のことなどどうでも良かったのかもしれません……それを今頃になってどうにかしようなんて虫のいい話かもしれませんが……」
ジュリエット「けれど、この国を背負ってきた二人の娘として、このままこの国が戦争をするのをよしとは出来ません」
勇者「……しかし国の大臣ともあろう人がわざわざ転覆させるような真似をするでしょうか?」
メイド「勇者様、こうは言ってはなんですが……戦争もある観点から見ればそう悪いものでもないんですよ」
勇者「つまり?」
メイド「非常に儲かるのです。戦争は」
勇者「……」
メイド「港で船を見ましたか?」
勇者「ええ」
メイド「あれに使われている蒸気技術などは元々戦争で使うために南の大陸で産まれたそうです」
メイド「戦争で勝つために技術が産まれ、武器が産まれ、争う度にそれはどんどん進化して行きます。実際工業が一番盛んな国も南の大陸ですから」
勇者「……魔王がいるってのに何やってんだか……」
メイド「目に見えない魔王より目に見える利益を追う人間もいると言うことです」
メイド「恐らくこの南の大陸との同盟自体大臣の発想でしょう。昔から南の大陸の大使とひそひそやってましたから」
勇者「……それで、女王様はそれを食い止めたくて俺に相談した、ってことでいいんですか?」
ジュリエット「姫かジュリエットでいいですよ、勇者様」
ジュリエット「情けない話ですがそうなります……」
ジュリエット「来月の結婚式が終われば同盟は結ばれたも同然ですから。その前に何とかしたかったのです」
メイド「姫様は婚約を何回も断ってらっしゃったのに大臣がもう決定事項ですから、この国の先のことを考えてくださいませ女王様、って押し通したんですよ!
女の敵ですあんなハゲ!」
勇者「酷い言われようだな大臣……」
勇者「でも本当に俺なんかに話して良かったんですか? どこの馬の骨ともしれない輩ですよ?」
メイド「そういう謙虚な所が姫様のハートを射止めたのですよ!」
ジュリエット「メイド?」
メイド「冗談です」
ジュリエット「私、最初はちょっと勇者様と自分は似てるなって思ってたんです」
ジュリエット「生まれた時からその道は定められていて、それに従って生きて行く。私はそれが嫌で仕方なかった」
ジュリエット「でも……あなたは違った。その道を、私より何倍も険しい道を自分で選んだ、と言ったのを見て……凄いなって思いました」
勇者「……」
ジュリエット「私にはそんな強さも……決意もないかもしれない。けれど……このまま何もせず何もかも諦めたくないんです!」
ジュリエット「無理を承知でお願いします! 勇者様……私達に手を貸してはくれませんか?」
勇者「……多分、俺もジュリエット姫と一緒です」
ジュリエット「……?」
勇者「勇者って言われてもイマイチピンと来なくて……最近周りに言われ出してようやく自覚はし始めたんですが……ね」
勇者「勇者になったのだって……約束したからってだけで」
勇者「それでも……今までも、これからも。やって行くことは同じだと思います」
勇者「自分の己向くまま、行くと」
勇者「力になれるかはわかりませんが、協力させてください」
勇者「(きっと僧侶が居ても同じことを言ってたろうしな)」
ジュリエット「ありがとうございます……!」
メイド「良かったですね姫様!」
ジュリエット「ええ……」
メイド「……」
勇者「早速ですが……何か案はあるんですか?」
ジュリエット「……、謁見の間でも言った通り勇者様と婚約して魔王を討つまでの間に……」
勇者「それは色々問題があるかな。まず俺が魔王討伐から帰っても帰らなくても事態が解決しないってのはあっちに取っても都合がいいだろうし」
勇者「最悪ジュリエット姫を排除しにかかるかもしれない」
ジュリエット「そんな……」
メイド「あのゲスならやりかねませんね!」
メイド「ならあの大臣を勇者様が神の反逆者だー! 引っ捕らえろー! って言うのはどうでしょう?」
勇者「一国家の大臣に確証なくそんなことしたら逆に俺が反逆罪で捕まりますよ。勇者って言っても帰属してるから自国の兵みたいなものですよ」
メイド「勇者様も大変なんですね……」
ジュリエット「では……勇者様には何か策が?」
勇者「ん~~~……大臣が南の王子と繋がっていて戦争を起こさそうとしてる確証が欲しいわけですから……」
勇者「…………」ニヤッ
勇者「いっそのこと本当に結婚式を挙げるってのはどうです?」
ジュリエット「えっ?」
メイド「勇者様~? それを阻止するために私達は今こうしてるんですよ?」
勇者「違いますよ。俺とジュリエット姫の結婚式を挙げるんです」
ジュリエット「……は?」
メイド「……は?」
ジュリエット「あの、おっしゃってる意味が……」
勇者「大臣が焦って尻尾を出すように仕向けるにはこれが一番いいと思います。謁見の間での姫様の告白も外にいい感じで広まってるでしょうし」
勇者「このまま結婚式を挙げると言えばまず全力で止めて来るでしょう」
勇者「そこを抑える……!」
勇者「そう、これは偽装結婚式です」ニヤッ
中央大陸城、裏口────
メイド「全く勇者様には感服致しましたわ。まさかあんな大それた作戦を打ち出すなんて」
勇者「まあこれは結構な賭けですけどね。あっちより上手に立って動かないと、ただでさえこの城の中には大臣派も多いでしょうし」
勇者「結婚式と云う華々しい場で民衆に大臣達のやっていることを白日の元に晒さないと……俺達に勝ち目はないですよ」
メイド「……勇者様。一つよろしいでしょうか?」
勇者「?」
メイド「実はもう一つだけ解決して欲しいことがあるのです」
メイド「姫様は言われませんでしたが──」
────
勇者「……(さて、色々厄介なことになったな。まずは役者探しからか……ここが一番問題だな)」
勇者「(でもまあ面白くなりそうではあるな……クククッ)」
勇者「(祭り魂に火がつくぜ……!)」
僧侶「」じ~ぃっ
勇者「うわっとぉ! 僧侶さん居たんですかビックリしたなあもう」
僧侶「ゆーーーーしゃさま~~~?」
勇者「ひぃぃっ」
僧侶「私に言うことがあるんじゃありません?」
勇者「こ、これには深いわけがあってな……ここじゃまずいから後で宿で話すよ」
僧侶「ふぅぅ~~ん? まあ……私なんかどうせゆーしゃさまのただの付き人でしかないですけど~?」
僧侶「では先に宿の方に戻ってますから」プイッ
勇者「そ、僧侶ぉ~」
オカマ「あらぁん見事に嫌われちゃったわね勇者様」
勇者「ひぃっ! あ、あの……どちら様で?」
オカマ「僧侶が修道院にいた頃のシスターよ。今は訳あってオカマって名乗ってるわ! わけは聞かないでね!」
勇者「は、はあ」
オカマ「まあ~勇者様にも色々あるんでしょうし? 深く検索はしないけど~」グイッ
勇者「んぐぅっ!?」
オカマ「あの子泣かしたらこのキンタマ引き抜くからよォ? 覚悟しとけや」
勇者「こ、心得て起きます……」
宿屋──
勇者「ってわけなんだよ……」
僧侶「……」
勇者「だからそういうのじゃなくてさ……」
僧侶「そうだったんですか……。私ったら早とちりしてすみません……」
僧侶「私はてっきりゆーしゃさまと女王様が結婚しちゃうんじゃないかって……ちょっと思っちゃいました」
勇者「」ギクゥッ
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……あの、」
勇者「結婚……することはするんだけど、ね?」
僧侶「……」ムンズッ
ポイポイッ
勇者「無言で枕を投げないで僧侶さんっ」
僧侶「バカ!ゆーしゃさまのバカ!ニフラム!」
勇者「落ち着け僧侶っ! 話を聞けっ」
僧侶「偽装結婚式?」
勇者「そうだ。大臣達を釣るためにデカい餌を仕掛ける」
僧侶「でも……結婚式なんて人生に一回あるかないかのことを騙す為に使うなんて……女王様……」
勇者「さっきから怒ったり悲しんだり忙しないやつだな」
僧侶「乙女心をわからないゆーしゃさまにはわかりませんよね……」ボソッ
勇者「まあとにかくだ。この偽装を仕掛けるに当たって役者が必要なわけだ」
僧侶「と、言いますと?」
勇者「新郎新婦は決まってるとして後は神父と宣伝役と証拠を抑える役が数人……まあこの辺りも目星はついてる」
僧侶「では私は何をすればよいのでしょう?」
勇者「ん? ん~~~……(や、やばい何もない)」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「と、とりあえずは神父の紹介かな?」
僧侶「任せてください! と言いたいところなんですけど……今司教様は出払っているそうなんです」
勇者「ん~参ったな。これぐらいの規模の式になると神父にもかなりの位が必要になるだろう。大臣達にも軽く見られないように司教クラスを立てたかったが……あのおっさんはどうなんだ?」
僧侶「あの方は司祭ですよ」
勇者「あれが司祭……大丈夫か僧侶職」
勇者「まあ最悪あのおっさんに頼むか」
僧侶「酷いですゆーしゃさま! ああ見えても立派な方なんですよ?」
勇者「僧侶も結構酷いぞそれ」
勇者「ともかく、明日から俺は式の為に動くことになるから……」
僧侶「なるから?」
勇者「その……あれだよ。……一緒にいると町中で……ほら、な?」
僧侶「?」
勇者「……結婚するのに他の女の子と一緒にいるってのも怪しまれるって言うか……信憑性が……さ」
僧侶「……そ、そうですね」
勇者「だからしばらく別行動になる……。ごめんな、僧侶。色々と」
僧侶「いえ、……気にしないで下さい。ゆーしゃさま」
僧侶「私はそういうゆーしゃさまらしいところが好きですから」
勇者「おっ、おぉう!」
僧侶「……本当に結婚しちゃ嫌ですからね?」
勇者「あ、あ、たっりまえだろ! 何いってんだよ! さっ! 早く寝るぞ!」バサァッ
僧侶「おやすみなさい、ゆーしゃさま」
勇者「(……ゆーしゃさまらしい……か。それは勇者としてか、俺としてか……一体どっちのことなんだろうな。最近ちょっとわからなくなってきた、自分でも)」
僧侶「(ゆーしゃさまは誰にでも優しい、私が特別だなんて思ったことはない……けど、やっぱり寂しいな、ゆーしゃさま)」
────
勇者達の挙げる結婚式までの日取りを決める為、勇者は姫の元へ来ていた。
ジュリエット「ようこそ、勇者様」
勇者「お会いしたかったです、ジュリエット」
「きゃあ~もう呼び捨てだなんて!」
「勇者様大胆ですわ~!」
「ジュリエット様のあの表情……恋してるって感じね~」
「私もあんな彼氏欲しいわ~」
メイド「はいはい。姫様と勇者様の邪魔しないの」
「「「は~い」」」バタン
勇者「ふぅ……」
ジュリエット「お疲れ様です勇者様。無理を言ってすみません」
勇者「いやいや、確かに効果的ですからね」
メイド「彼女達はお使いで城下町にしっちゅう降りるのでそこで噂話をペラペラペラペラ広げてくれますよ」
勇者「この町には口コミだけで何とかなりそうではありますね。問題は……」
ジュリエット「近隣の村や町の方達に足を運んでもらうには、ですね?」
勇者「はい。やっぱりこの中央大陸全土の問題なので出来るだけ近隣の人達にも足を運んでもらいたいですね」
メイド「それならいいものがありますよ」ピラッ
勇者「これは?」
メイド「新聞、と言うものらしく最近記述師と呼ばれる少年が始めたもので紙に色々あった出来事を書き連ねてるものです」
勇者「何々、勇者様、魔王の前に女王様と結婚!? 余裕の現れか!?」
ジュリエット「もう……こんなもの勝手に。すみません勇者様」
勇者「いやいや……良くできてますよこれ。南の大陸の王子とのことも書かれてるし……」
勇者「これを書いた人はどこに?」
メイド「城下町の東側にある小さな工房に住んでる筈です」
勇者「わかりました。じゃあちょっと交渉に言ってきます」
ジュリエット「彼に宣伝を?」
勇者「ええ。口コミより時間がかかりませんから。では、式は予定通り五の月初め、と言うことで」
ジュリエット「はい……」
メイド「……姫様」
────
勇者「ここか……」コンコン
記述師「ったくまたか? だから嘘八百書くのはごめんだって……あっ!」
勇者「君が新聞?作ってる記述師の人かな?」
記述師「勇者様直々に来店とは! いやはや鼻が高い! じゃないや、どうぞこちらに!」
勇者「あ、ああ」
記述師「いや~またあいつらかと思いまして。すみませんすみません」
勇者「あいつら?」
記述師「いえっ、なんでも。それより……結婚式の日取りは決まったので?」
勇者「ああ。五の月初めにしようかなって。さっき決まったんだ」
記述師「さっき! さっきですか!? つまりこの情報を知るのは勇者様と女王様とその側近と自分だけと!?」
勇者「ま、まあそうなるな(顔近いぞ)」
記述師「勇者様! どうかお願いがございます!」フカブカ~
勇者「お願い?」
記述師「はいっ! どうかそのことを新聞にさせて欲しいのです! 勇者様のサインありで新聞を出したいのです!」
勇者「なんだ。それならこっちからお願いしに来たところだよ」
記述師「なんとっ!!! 勇者様自らこの俺にお願いとは! 勿体無さ過ぎるので末代まで語らせていただきます!」
勇者「(何か色々めんどくさいやつだな)」
記述師「して、何枚ほど用意致しましょう? この町の皆に見てもらうぐらいなら1000もあれば十分だとは思いますが」
勇者「その三倍頼みたい」
記述師「さ、3000枚ですかっ!?」
勇者「ああ。この度の結婚式は中央大陸の未来を決めるもの。故に中央大陸に住む人々になるべく知れ渡り、そして足を運んで欲しい」
記述師「むぅ~しかし3000ですか。五の月初めまで後七の日ほど……三の日前までには終えて配らないと駄目だから……」
勇者「大丈夫、配る方は俺がやるよ」
記述師「そんな! 勇者様にそんなことさせられませんよ!」
勇者「いいからいいから。そういうの得意なんだ。それに港町の方にはだいぶ顔が効くから」
記述師「さすが勇者様! 書き下ろすだけなら何とか……。見出しの指定とかありますか?」
勇者「見出し?」
記述師「まあタイトルみたいなもんです。最初にインパクトある文をドカッと書いておき気にならせた後、小さい文字を読ませるわけです」
勇者「なるほど……考えたな」
記述師「紙も安くありませんからね。全部デカくも書けませんから工夫です」
勇者「ん~そうだな…じゃあジュリエット姫争奪戦!? 軍配は勇者の手に!?で頼むか」
記述師「争奪戦? もう賭けにもなりませんよ。勇者様と南のボンクラ王子とじゃ」
勇者「さて、どうかな」
記述師「?」
記述師「まあそのように致しましょう。では……ふっ」
勇者「おぉっ、筆が黒く光った!」
記述師「これはサイン、といって魔法使いの初歩中の初歩なのですが何もない空間に文字を書いたり出来る魔法です。書法魔法使いは詠唱の代わりにこれを使って呪文を唱えたりするそうです。
もっとも自分は全く才能がなくて魔法職試験も落第でしたけどね」
勇者「……この世界、魔法だけが全てじゃないさ」
記述師「ええ。俺もずっとそう思ってて、ある日ペンの代わりこれで紙に書いたら……」
勇者「これは……文字が下の紙に写ってるのか」
記述師「初めて見た時は驚きましたよ。鉛筆や筆じゃこうは行きませんから。これを見て思い付いたんです。情報や出来事をまとめた情報紙を大量に作ろうって」
勇者「凄いな……一回でどれぐらいの紙に写るんだ?」
記述師「僕の魔力じゃせいぜい一回10枚ってところです」
勇者「……ってことは」
記述師「ええ。1000枚なら100回、3000枚なら300回同じものを書きます」
勇者「すまん……やっぱり1000枚で」
記述師「駄目ですよ! 一回入った注文ですから! もうキャンセル不可です!」
勇者「しかし300回も書かせるのは……」
記述師「……自分は魔力はありません。ですが他の魔法使いより情報と、何よりこの職に命を賭けてます! だから譲れません……これだけは。
書く回数が多いからって諦めてたらすぐ他の魔法使いに仕事持ってかれちゃいますしね!」
勇者「……すまなかった。じゃあ予定通り3000枚、式の三日前以内に頼む」
記述師「了解です!」
勇者「しかし便利だなその魔法。簡単に使えるものなのか?」
記述師「教官の話じゃ癖の強い魔法らしく魔法が使えるからって全員が使えるわけじゃないそうです。魔法職につこうとする人間には傾向的に使える人が多いらしいですけどね」
勇者「そうか……。残念だ」
記述師「ふふふ、実はもうこの魔法と似たような物を作ってましてね。ゴシの実を擦り潰して積め、この固綿に染み込ませたものです」
勇者「なるほど……筆と墨がセットになった感じか」
記述師「その名もズバリ! マジック!」
勇者「マジック?」
記述師「北の大陸の言葉で、魔法って意味らしいですよ」
勇者「ははっ、確かに魔法だな。これは」
────
中央大陸教会────
僧侶「では、祈りましょう。我らが神に」
「ありがたや~ありがたや~」
「新しく入った僧侶様は可愛らしい人だのう」
「孫の嫁に是非来てほしいわぁ」
オカマ「さっ、今日のお祈りは済んだわよ。さっさと帰った帰った」
「うるさいのぅ。今日は念入りにお祈りをしとるんじゃ! 邪魔せんでくれぃ!」
オカマ「うるさいわねクソじじい。あんたはただあの子の尻眺めてるじゃないの」
「バ、バカなこと言うんじゃない!」
オカマ「ふぅ、全く……」チラッ
僧侶「……はあ」
オカマ「何かあったの? 急にここでしばらく手伝わせてくださいだなんて」
僧侶「いえ、なにも……。ただ必要なことなんです」
オカマ「……そ。まあ僧侶がいいならいいんだけどね。こっちも大助かりだし。でも無理はしちゃ駄目よ。あ、ここの部屋は好きに使っていいから」
僧侶「はい。ありがとうございます、司祭様」
オカマ「全く……」
僧侶「……あれ、まだ一人お祈りしてる人が居ますね」
オカマ「ああ彼? ここのところず~とよ。必ず祈りに来ては最後まで居てその後元気なく帰って行くのよね~。何回か私が話聞いてあげようとしたら逃げちゃって」
僧侶「……」
「……」
僧侶「どうかなされましたか?」
「あっ、すみません……。ご迷惑を」
僧侶「いえ。ここのところ毎日来られてると聞きましたので。私で良ければ相談に乗りますよ」
「……。ありがとうございます、神父様」
僧侶「いえ、私はただの僧侶でございます。わけあって今はここに置かせてもらっています」
「そうでしたか。僕はロミオ。ここの城で兵士をやってます」
僧侶「兵士様でしたか」
ロミオ「……僧侶様は恋を……したことはありますか?」
僧侶「こ、こ、こっ、鯉でございますか!? …少しは……その、はい」
ロミオ「私もつい最近まではしておりました……でも」
僧侶「……失恋、ですか?」
ロミオ「……長年寄り添い、ずっと結ばれると思っていました……子供の頃は」
僧侶「……」
ロミオ「ですが大きくなるにつれてお互いの身分の差が壁となり……今やどうしようもなくなったのです」
僧侶「……それで諦めたのですか?」
ロミオ「……はい。自分では彼女に不釣り合い過ぎる、と」
僧侶「それで毎日祈りに?」
ロミオ「はい、せめて彼女には幸せになって欲しいと……」
僧侶「……神は言っています。あなたは馬鹿者だと」
ロミオ「……は?」
僧侶「確かに神は雄大かつ偉大です。だからこそこの世界を創った神に私達は日々祈りを捧げ、この世界の在り方を愛せるのです」
僧侶「しかしあなたは自分の在り方を世界のせいにして、更に神にそれを押し付けようとしています」
僧侶「それではこの世界を創った神もお怒りになりましょう」
ロミオ「……ならばどうしろと!? 何もかも壊し破邪の道を進めと言うのですか!?
僕にはそんな……勇者様みたいな力は、ない」
僧侶「……」
オカマ「ほら、そろそろ給付に行くから閉めるわよ」
ロミオ「……すみません、長居してしまって。では」
僧侶「あのっ」
ロミオ「はい?」
僧侶「明日も来ますよね?」
ロミオ「……わかりません」
僧侶「もし来られたら、またお話をしましょう。私なんかと話して解決する問題じゃないとは思いますけど……」
ロミオ「……ありがとうございます。僧侶様」ペコリ
オカマ「何々? 勇者が構ってくれないからって乗り換えたの? やるわね~あんたも」
僧侶「そっ、そんなんじゃありませんよっ! ただ……ちょっと似てるなって、思ったんです。昔の私に……」
────
────
勇者「──みたいな格好した人見ませんでした?」
宿屋の店主「来てませんなぁ」
勇者「そうですか、ありがとうございます」
宿屋の店主「勇者様! 女王様との結婚式楽しみにしてますよ!」
勇者「はは、どうも」
勇者「いい加減この真面目っぽいキャラも疲れるな……まあ仕方ない、姫様の為だ」
勇者「……」
勇者「なあ、僧侶……」
勇者「あの時言った通りにやれてるかな……俺」
勇者「……いないんだったな」
勇者「はあ……もうちょっと探してみるか」
勇者「またトラップに引っかかってたりしてないだろうな」
────
魔法使い「はあ……」ぐぅ~
戦士「……」ぐぅ~
屋台の親父「安いよ安いよ~中央大陸特製林檎タルト!」
魔法使い「はわぁ……美味しそう」
親父「おっ、どうだいねぇちゃん? 1つ!」
魔法使い「一つ10G……」ぐぅ~
魔法使い「ちょっとだけなら……」
戦士「今夜野宿になるけどいいんだな?」
魔法使い「うっ……」
戦士「ほら、早く行くぞ」
魔法使い「元はと言えばあんたがバカみたいに食料買い込んでお金使ったのが悪いんでしょーが!」
戦士「おま、それはお前の為にだな……」
魔法使い「そんなことしなくても勇者君が助けてくれたもんね~だ!」
戦士「カッチーン。勇者勇者勇者勇者ってよォ! そんなに勇者が好きなら勇者と一緒に旅すりゃいいだろうが!」
魔法使い「なによ!」
戦士「なんだよ!?」
ガヤガヤ ガヤガヤ
「すいません、これ3つ」
親父「これはこれは勇者様! 何言ってんですけぇ勇者様から金なんか取れませんよ!」
勇者「いえ、町の人達にもそれぞれ生活がありますから」
親父「勇者様……! ではせめて、1つおまけしときます」
勇者「ありがとう」
魔法使い「あれ!? 勇者君?」
戦士「ちっ……」
勇者「話がある、ちょっとついてきてくれ」
────
魔法使い「こんな町の隅っこまで来て何の話?」
戦士「てかさっきのはなんだ? 急に勇者様にでも目覚めたのか?」
勇者「うるせぇなこっちも色々あるんだよ」
勇者「ま、とりあえず冷めないうちに食えよ」
魔法使い「え? いいのっ!?」
勇者「ああ。腹減ってんだろ?」
魔法使い「えっへへ、それじゃあ遠慮なく~♪」パクッ
魔法使い「ん~~おいし~い♪」
戦士「けっ」
勇者「ほら、お前も」
戦士「……何企んでんだ?」
勇者「別に食ったからってどうこうしようってわけじゃねぇから安心しろって」
戦士「……ふん」
勇者「で、見たところ路銀に困ってるみたいだな」
魔法使い「そうなのよ~戦士がお金使い込んじゃって」
戦士「だからあれはお前の為にだな……」
勇者「まあまあ。そんな二人にいい話を持って来たんだが……どうだ?」
戦士「いい話? まあこいつの礼に話だけは聞いてやるよ」
魔法使い「稼げるなら何だってやるよっ!」
勇者「話が早くて助かるぜ」
勇者「実はな──」
────
勇者「ってわけで二人には港町でそれを調べてもらいたい」
戦士「……なるほどな」
魔法使い「勇者君結婚しちゃうの!?」
戦士「いや話聞いてたのかお前は」
魔法使い「これ美味しくってあんまり聞いてなかった!」
戦士「はあ……」
戦士「しかし勇者、武器取引の話がガセだとしたら……その偽装結婚式は破綻するぜ?
下手すりゃただの国家反逆者だ」
勇者「確かにな。余りにも裏が取れなさすぎる。それでもこっちから動かなきゃ何もかも終わっちまう。
でも……あの人(メイド)は信じられるよ。俺が保証する」
戦士「そうか……ならいい」
勇者「やけにあっさり納得するんだな」
戦士「別に南の大陸育ちだからって理由なく勇者を毛嫌いするわけじゃねぇ。前の借りもあるしな」
戦士「それに他国に武器を売り付けるとこも珍しいわけじゃないからな。十二分にあり得る話だ」
戦士「そしてこの土地じゃ大砲や銃は確かに必要ない。あるとしたら戦争をするぐらいなもんだろう」
戦士「ただ武器そのものを悪と考えるのはやめることだな。南の大陸がずっとモンスターから街を守って来れたのも武器のおかげだ。
俺達の剣と同じ、使い方によってはみんなを守る力になる」
戦士「勇者に滅ぼされ、見放された後も、ずっと俺達はそうやって来た」
勇者「……肝に命じとくよ」
────
勇者「じゃあよろしく頼むよ」
魔法使い「ふっふ~ん任せときなさい!」
戦士「国絡みの問題だからな。安請け合いするつもりはない」
魔法使い「あれ? そう言えば僧侶ちゃんは?」
勇者「ん、ああ……。偽装がバレないようにちょっと……な」
魔法使い「ふ~ん……」
勇者「なんだよ?」
魔法使い「ううん。何でもない」
魔法使い「ただ、どっちが大切なのかなって……思っただけ。それじゃあねっ」
勇者「……」
勇者「どっちが大切……か」
────
宿屋────
勇者「僧侶ー今戻ったー。これお土産……」
━━━━━━━━━━
勇者様へ
邪魔にならないようしばらく教会の方へ身を置くことにしました。
何かあれば教会の方へお願いします。
ちゃんと食事を取ってくださいね。
頑張ってください、ゆーしゃさま。
━━━━━━━━━━
勇者「……そうだよな」
勇者「俺から言い出したことだ……当たり前だろう」
勇者「なのに何で……こんなに虚しいんだ」
勇者「……食って寝るか」
勇者「俺……僧侶のこと……どう思ってんのかな……」
────
「あのガキ頑なに我々の情報を新聞にするのを拒否しています。このままでは本当に勇者と女王様が結婚することに……」
「ふん、まあいいさ。他に手はいくらでもある。そうだろう?」
「……」
「こやつは?」
「何でも勇者に恨みがあるらしく我々に協力してくれるそうだ」
「なるほど……これは頼もしいですな。よろしく頼みますぞ」
「ふん……」トコトコトコ
「ちっ、偉そうに」
「あんな奴信用出来るのですか?」
「奴は所詮ただの足止め役に過ぎぬ。本当の我らの狙いは別にある」
「ほう……その事をあの方は?」
「知り得ぬことよ。この国を統べるのは我らなのだから」
「カカカ……」
「あなたも人が悪いですな」
「それにしても勇者もは面白いことを考えたものですな……偽装結婚式とは」
「国民を盾にしたつもりだろうが余りにも脆弱な策よ」
「せいぜい最後の花嫁姿を楽しみにするんだな……女王様。カカカ……!」
────
結婚式三日前──
結婚式の準備が進むにつれ、町中はお祭り騒ぎとなって行く。
いち早く話を聞き付けた行商人達が露店を開き、飾り付けがされ、人々が行き交い、今か今かとその時を待ち続けている。
その頃、勇者は結婚式をするに当たって覚えなければならない儀式を練習しにジュリエット女王の所へ訪れていた。
メイド「違います! ハイやり直し!」
勇者「トホホ……」
ジュリエット「勇者様頑張って」
勇者「はい……」
メイド「中央大陸が誇る偉大なる大僧侶、ルシエル様に!?」
勇者「お、終わりなき敬意をー」
メイド「中央大陸が第二十代国王様に!?」
勇者「お、終わりなき忠誠をー?」
メイド「はいそこで2歩下がる!」
勇者「は、はひっ」
メイド「そして膝まずいてー?!」
勇者「中央大陸ジュリエット女王様に、永遠なる愛を」キリッ
メイド「そこだけは覚えてるんですね勇者様……」
勇者「だってだって何かいっぱい手とか足とか動かすのがあってしかも細かくてわかんないんだよー!」
メイド「それでも覚えてもらわないと困ります。来賓の方達もたくさん来るんですから」
勇者「はぁい……」
ジュリエット「ふふふ」
ジュリエット「こうしてると昔を思い出しますね……」
勇者「昔?」
ジュリエット「……昔仲の良い子とメイドとで三人で良くこういう遊びをしたんです」
ジュリエット「……ずっと昔の話ですけどね」
勇者「へぇ」
メイド「姫様……」
ジュリエット「さ、続きをやりましょう。勇者様には後三日でこれを完璧に覚えてもらわないとですから」
メイド「そうですね! じゃあ今まで以上にスパルタで行きましょう!」
勇者「カンベンシテクダサイ……」
────
僧侶「では、祈りましょう……我らが神に」
爺「今日も僧侶ちゃんは可愛いのぅ~」
オカマ「とうとう隠すつもりもなくなったかじじい」
爺「うるさいのぅ! ちゃんと神様にも祈っとるわい! 僧侶ちゃんが幸せになるようにの!」
オカマ「はいはい」
ロミオ「……」
オカマ「ん、彼は…」
爺「騎士団長の倅がどうした?」
オカマ「彼を知ってるの?」
爺「わしが昔いた王国騎士団の団長の息子よ。てっきりわしは姫様と結婚するならあやつだと思っておったがな。昔から良く三人で遊んどった」
オカマ「へぇ~……」
爺「昔は剣技だけなら団長に負けず劣らずだったが団長が亡くなってからと言うもの何もかもに消極的になったそうじゃ。団長候補からも外れたと聞く」
オカマ「……」
爺「それでも姫様だけは守って行くと信じておったんだがの。南のバカ王子と結婚なんてのたまった時はあやつの代わりにわしが直接止めてやるつもりだったが……勇者様ならあやつも安心して任せられるじゃろうて」
オカマ「ふ~ん……彼も大変なのねぇ」
僧侶「……」
ロミオ「……」
オカマ「僧侶と何か話してるわね」
爺「外に出おった」
オカマ「新しい恋の予感ね」
爺「どれ、じゃあせっかくだしわしの武勇伝でも話そうかの」
オカマ「それは聞き飽きたわよじじい」
爺「お前さんには言われたくないのう」
────
僧侶「もう来てくれないかと思ってました」
ロミオ「……そのつもりでした。でも、どうしても……心が落ち着かなくて」
僧侶「どうしてです?」
ロミオ「……三日後、彼女が結婚するんです。……勇者様と」
僧侶「!!?」
僧侶「(もしかして前に言ってた人って女王様のこと……?)」
僧侶「(この人はあれが偽装だってことを知らない……それを私が教えればこの人の悩みは解決するだろう)」
僧侶「(けどそれは頑張っているゆーしゃさまへの裏切り……でも、目の前に悩んでいる人がいるのに知らない振りをする僧侶なんて……!)」
僧侶「……ロミオ様はこのままでいいんですか?」
ロミオ「……。南の王子と半ば政略結婚させられるって聞いた時は気が気じゃなかったですけど、勇者様なら……」
僧侶「……それはあなたの本当の気持ちですか?」
ロミオ「……。」
僧侶「先程心が落ち着かないとおっしゃってたじゃないですか。何で自分の気持ちを偽ろうとするのです」
ロミオ「……どうしようもないことだからさ。持って生まれた者の差、神が与えた天運の差……ってやつです」
僧侶「……どうしようもない、何て言葉は何もかもやった人が使う言葉だと思ってましたよ」
ロミオ「手厳しですね、僧侶様は」
僧侶「僧侶でいいですよ」
ロミオ「なら僕も、ロミオで」
僧侶「……」
僧侶「……私にも長年寄り添って来た相手がいます」
ロミオ「ほぅ」
僧侶「その人は昔ただの少年でした。冒険好きで……毎日私と二人で色々な場所に冒険しては遅くに帰って叱られて……そんなありきたりな」
ロミオ「……」
僧侶「ですがその人が十の歳の頃、両親が復活の兆しを見せる魔王軍討伐の任に辺り……二人とも還らぬ人となりました」
ロミオ「……僕の父親と同じですね」
僧侶「そして彼は私と誓いました……必ず魔王を二人で討つ、と」
ロミオ「……さぞ魔王を憎んだでしょうに」
僧侶「いえ、不思議にも彼にそんな感情はなかったそうです。ただ、守りたい人達がいるから戦った自分の親達は偉大だ、と。自分もそうなりたいと言ってました」
ロミオ「……立派ですね。僕とは大違いだ」
僧侶「それから彼は無我夢中で修行をしました」
僧侶「私も彼との約束を守るために必死に修行しました」
僧侶「そして彼が先に魔王討伐の任に任命されたと聞き、私は凄いな、と思いつつも、どこか諦めていました」
僧侶「修道院の中では良くも悪くも真ん中ぐらいで……とても魔王討伐に選ばれるような位置じゃありませんでしたから」
ロミオ「……それで、諦めたんですか?」
僧侶「……いえ」
僧侶「諦めそうになった時……彼が来たんです。修道院に」
────
僧侶『ゆーしゃさま……凄いな。本当に勇者になっちゃうなんて……私なんて』
僧侶『ゆーしゃさまはあの時約束覚えてるかな? ううん……きっと忘れてるよね。ずっとずっと前のことなんだもん……』
僧侶『なら……もう、諦めても……』
コンコン、コンコン
僧侶『ん? なんだろう』
ガチャ──
修道院の高い窓の下から見下ろすと、そこに一人の青年がいた。
何年振りに見たその姿だけど、面影はあった。
間違いなく、ゆーしゃさまだった。
勇者『よっ! 久しぶり!』
僧侶『ゆ、ゆーしゃさま?! どうして……』
勇者『僧侶の姉ちゃんから聞いたんだよ。ここだって』
僧侶『そう……ですか』
こちらに聞こえるように堂々と、夜明けなのに大きな声で喋るゆーしゃさまは眩しかった。
さっきまで諦めようとしていた私には尚更そう見えたのかもしれない。
僧侶『あの……ゆーしゃさま、私……』
勇者『待ってるからな! 僧侶!!!』
僧侶『!!!』
勇者『それだけ言いに来た。昔からの約束破るんじゃねーぞっ!』
オカマ『ゴルァ! どこのガキじゃ貴様ァ! 朝っぱらから大声出してんじゃねぇぞ!!!』
勇者『やべっ! じゃあな僧侶!』
僧侶『……』
僧侶『ふふ、ふふふっ』
勇者になって彼が果てしなく遠くに行ってしまったと勝手に思ってしまっていた。
自分にはそんな彼に釣り合う力はないと諦めてしまっていた。
けれど、彼はいつまでもそのままだった。
勘違いして、離れて行こうとしてたのは自分だった。
────
僧侶「それを見て私は諦めることをしばらくやめました。するとしてもやってからすることにしました」
ロミオ「やってから……?」
僧侶「人は神じゃありません。成れないもの、やれないことは多々ありましょう」
僧侶「ですがやってもいないことを諦めていては前に進めない。本当にどうしようもなくなります」
ロミオ「!!!」
僧侶「そして今、私は彼と旅をしています。魔王討伐の任を受けて」
ロミオ「……凄いな、僧侶さんは」
僧侶「そんなことないです。私も日々悩んでばかりですから(主にゆーしゃさまのことについてだけど)」
ロミオ「変わったのは自分……か」
ロミオ「確かにそうなのかもしれない。彼女が女王になって変わってしまったと……勝手に思い込んでました」
ロミオ「父が死に、どんなに磨かれた剣も常識を越えた強さの前には意味を成さないと諦めてしまっていたのかもしれない……」
ロミオ「……」
ゴォーン、ゴォーン
ロミオ「白昼の鐘が鳴ったことだし……訓練に行ってきます。話をしてくれてありがとうございます、僧侶さん」
僧侶「いえ、少しでも為になれば幸いです」
ロミオ「僕もあなたのように、まずはやってみることから始めます」
僧侶「はい。応援してます。頑張ってくださいねっ!」ニコッ
ロミオ「はい! では」
僧侶「……そう、ゆーしゃさまは変わらない。あの頃も今も……誰かの為に頑張ってる」
僧侶「だから私も頑張らないと!」
僧侶「……きっとゆーしゃさまはこのことを知らない。けど、話したところでどうにかなる問題じゃないのはわかってる」
僧侶「それでも……ゆーしゃさまなら全部解決しちゃうんじゃないかって……思ってしまう」
僧侶「ゆーしゃさま。どうかあの二人を、導いてあげてください」
────
勇者「出来たか!」
記述師「ええ。自分でも驚く程の出来ですよ!」
勇者「どれどれ……おぉ……いいな。南の王子のことや女王様のことも詳しく書かれてる」
記述師「でしょう?」
勇者「特にこの、この争奪戦に参戦するものは現れるのか!?ってのがいい」
記述師「いるわけないですけど、見出しが見出しですからね。一応入れときました」
勇者「これを見てどう動くか……」
記述師「?」
勇者「じゃあ早速配ってくるよ」
記述師「あっ、勇者様! ちょっと気になることが……」
勇者「?」
記述師「最近勇者様の他にも客が来まして……勇者様とは逆の内容の新聞を出せ出せと圧力をかけられました」
勇者「ほぅ……とうとう乗り出して来たか」
記述師「この結婚を良く思わない層もいるってことですかね」
勇者「まあ急に現れてかっさらおうってんじゃ面白くもない輩もいるだろうな」
記述師「勇者様なら大丈夫だとは思いますが……十分注意してください」
勇者「ああ。忠告ありがとう。君も気を付けてくれ」
記述師「はい」
勇者「(もっと大胆に潰して来ると思ったが……思ったより消極的だな大臣グループは)」
港町────
勇者「この度勇者と女王様が結婚することになりましたー! この中央大陸に住まう皆様にはこの国の行く末を見届け頂くため是非とも結婚式をご覧になってください」
「勇者様が結婚!?」
「そりゃめでたいな!」
「結婚しても魔王討伐はしてくださいよ~?」
勇者「当たり前ですよ!」
「魔王に浮気するなよー?」
勇者「ある意味浮気になっちゃうんですけどね!」
「「「ははは」」」
────
勇者「よ~し次は……あそこか。ちょっと走らなきゃな」
勇者「ルーラって便利だけど行ったことない所に行けないってのは不便なんだよな~って言ってても始まらないか」
勇者「ルーラ!」ビュォーン
「……メラミ」
勇者「なっ」
ルーラ航行中、下から飛んできた炎の塊にぶち当たる直前──
勇者「なろっ」
勇者はそれを体を捻り回避、するも体勢が崩れルーラが解ける。
勇者「うぉぉぉぉ」
地上数十mからの落下、さすがの勇者もこの高さは不味いと冷や汗をかく。
勇者「ベギラマ!」
咄嗟に唱えた呪文の反動の勢いで落ちるポイントを平野から木々にスイッチさせる。
勇者が木々に落ちるとガサガサっと枝木が折れる音がしながら最後に一際大きな落下音が鳴り、そこで静かになった。
勇者「ってぇ……まさかルーラ中を狙って来るとは。しかも狙いもドンピシャと来ればかなり腕が立つ奴とみた」
勇者「なるほどな……町人は傷つけず直接俺を殺りに来たか」
勇者「まあこっちの方が色々手間も省けてやりやすいってもんだ」
勇者「僧侶と離れてて良かったぜほんと……」
「さすがにやるわね。あの状況から避けただけじゃなく生還するとは」
「まあこんな人目ないところで呆気なく殺してもつまらない……勇者には苦しんで死んでももらわないと」
「じゃないとみんなの魂が浮かばれないもの……」
────
宿舎────
「ったくとんだ日に被ったもんだよな~団長戦」
「全くだよ。女王様の晴れ姿見たかったのにな~」
「まっ、早く済むさ。下馬評通りティボルトの一人勝ちだろうし」
「今やうちで彼に敵うやつなんていないもんなぁ」
「……昔はそうでもなかったんだがな」
「ああ、ロミオか」
「今じゃすっかり脱け殻だよな……」
「昔の気迫はどこへ行ったのやら……」
ガチャリ──
ロミオ「……」
「お、おぉロミオ! 今帰りか?」
ロミオ「ああ。団長を知らないか?」
「確か城の方へ行ったと思うが……」
ロミオ「そうか。ありがとう」
「まさかお前団長戦出るつもりか?」
ロミオ「ああ。そのつもりだ」
「やめとけやめとけ。恥かくだけだぞ」
ロミオ「……その時はその時さ。やってから後悔するよ」
「ロミオ……お前」
ロミオ「じゃあ。登録してくるよ」ガチャ
「……あいつ、本気だったな」
「ああ。やっぱり女王様の件があって自棄にやってんのかもな……」
「いや、そんな顔でもなかったと思うがな」
「こりゃ少しはこっちも面白くなりそうじゃないか」
「じゃあ、張り直しってことで。さぁっ張った張った~」
そして時は過ぎ、結婚式前日──
勇者「新聞も配ったし、飾り付けも終わったし、後は明日を待つばかりだな」
メイド「勇者様、まだ儀式の方が完璧ではない気がするのですが?」
勇者「そ、そこはぶっつけ本番でさ……? 本番に強いタイプだから俺」
メイド「全く……最初の頃とは随分印象が変わりましたこと」
勇者「かたっくるしいのは苦手なんだよ」
ジュリエット「ふふ、私はこちらの方が接しやすくて好きですわ」
メイド「でも明日はちゃんとしてくださいよ?」
勇者「へいへい」
ジュリエット「それにしても結局目立った動きはないままこの日を迎えましたね……」
勇者「まあ……な。不気味と言えば不気味だ」
ジュリエット「ええ。今日なんて大臣の息のかかった者達が飾り付けまで手伝ってくれる始末です。何だか疑ってるのが悪い気に……」
メイド「……姫様、それは私達を欺く為の罠です。騙されてはなりません」
ジュリエット「……そうね。まだ終わったわけではないもの。安心するのは早いわね」
勇者「……(この自信は一体どこから来るんだ……? もし何もかも思い過ごしなら……俺は本当に姫様と……)」
勇者「(いや、それはないだろう)」
勇者「(誰よりも姫様を思っているのは間違いなく彼女だ。でなければ俺にあんなことを頼むわけがない)」
勇者「(その自信の根拠はわからないが……あっちにとって俺は邪魔者なのは暗殺されかかって件でわかってんだ。無理に追及することはないか)」
ジュリエット「そう言えば勇者様、司教様はお帰りになられたのでしょうか?」
勇者「あ~、まだっぽいですね。帰って来たら連絡入れてもらうように言ってたんですが」
勇者「仕方ないのでオカ……じゃない司祭様に頼もうと思ってます。これからちょっと行って頼んできますよ」
ジュリエット「そうですか……。それでは仕方ありませんね」
メイド「あの方は面白いもの好きと聞いてたので偽装結婚式! なんて聞いたら飛んで戻って来そうですけどね」
勇者「さすがにバラしたら元も子もないからな」ククッ
勇者「じゃあちょっと言って来ます。明日まで何が起こるかわかりません。戸締まりはキッチリとお願いしますよ」
ジュリエット「はい」
メイド「わかっております」
勇者「では」シュタッ
ジュリエット「……」
メイド「やっぱり気になるのですか? 彼のこと」
ジュリエット「……もう諦めたつもりでした。けど、どうしても考えずにはいられないのです……ロミオのことを」
メイド「姫様……」
ジュリエット「メイド、私はどうするべきなのでしょうか? 勇者様に甘えて助けてもらって……それだけで本当に私自身が変わるのでしょうか?」
メイド「この先幾多の別れ道があろうと……それは姫様自身が決めなくてはなりません。それが、女王の勤めでもありますから」
ジュリエット「そう…よね」
メイド「一晩じっくり考えてください。この国をどうしたいのか、そして、自分がどう在りたいのかを」
ジュリエット「……ええ」
メイド「ではお休みなさいませ、姫様」
ジュリエット「ええ。おやすみなさい…」
メイド「……」
────
臣下「準備は?」
「全て完了致しました」
臣下「うむ」
大臣「……しかしここまでやる必要があるのだろうか……?」
臣下「何を言われます。国を乗っとらんとする暴君を阻止するのは国に、ひいては国王様に忠誠を誓った者の役目でありましょう」
大臣「……しかしあの大量の武器はなんだ? 私は攻めてくるかもしれないという南の大陸と和睦同盟を結んだはずであろう……? なのにあんなもの……一体どうしろと」
臣下「武器と言うものは使わずとも置いておくだけで効果があるものなのです。
なぁに和睦の為と思えば安い買い物でしょう」
大臣「……しかし」
臣下「大臣……下手にあちらの機嫌を損ねれば貿易、ひいては大陸関係にヒビが入るのですよ?
それをわかっておいでか?」
大臣「それは……」
臣下「南の大陸の船がうちの船を沈めにかかった時、何とか私が和睦をつけたのをもうお忘れか?
あの時の苦労を無駄にしないで頂きたい」
大臣「……わかっておる。……そう、国の為……仕方ないのだ、これは」
メイド「……」
教会────
勇者「ちぃーす」
僧侶「ゆ、ゆーしゃさま!?」
勇者「よっ、久しぶり、僧侶。おっさんいる?」
僧侶「え、ええ」
オカマ「なぁに? こんな時間に」ぬぅ
勇者「うわっ! 急に出てくるなよ! ただでさえデカくてこえぇってのに……」
オカマ「なんか言ったか? クソガキ」
勇者「ナンデモナイデス」
勇者「それより明日、神父役任せたぞ。おっさん」
オカマ「オカマだっつってんだろナニ引きちぎるぞ」
勇者「ひいぃぃぃぃっ」
オカマ「あ~ん間に合わなかったのね~彼。残念。ま、そういうことなら仕方ないわね」
勇者「じゃ、そういうことでよろしくぅ」シュタッ
オカマ「待ちなさいよアンタ」ガシッ
勇者「(バカなっ……肩を捕まれただけで全く動けないだと……!)」
オカマ「この子に何か言うことがあるんじゃない?」
勇者「えっ」
僧侶「えっ」
オカマ「あら、何もないの? 僧侶」
僧侶「そ、その……急にだから……あんまり考えてなくて……」ゴニョゴニョ
オカマ「そ。なら男の子の勇者から言ってもらいましょうか」
勇者「お、俺ぇ!?」
オカマ「タマついてんだろがはよせんか」
勇者「えぅっ」
勇者「あ、あのよ……」
僧侶「は、はい……」
勇者「明日、ちょっと結婚してくる」
僧侶「……はい」
オカマ「(こいつぶっ殺してやろうかしら)」
勇者「けど、すぐ終わらせて……また一緒に魔王討伐……頑張ろう、な」
僧侶「は、はいっ!」
オカマ「(ほんと良くわからないわねこの二人は……)」
勇者「そういや前にもこんなことあったな」
僧侶「ええ」
勇者「その時は隣にいたのがこんなおっさんじゃなくて麗しの僧侶の姉ちゃんだったけどな」
オカマ「だまらっしゃい」
僧侶「ふふっ」
「おやおや、なにやら随分と盛り上がってるね。面白い話かい?」
オカマ「あら、帰って来たのね」
「うん、旅先で何やら面白い話を聞いてね。北の大陸からルーラで帰って来たばかりさ」
勇者「どんだけ広まってんだよ……ってあんたは!」
旅僧侶「やぁ、勇者。また会ったね」
僧侶「あの節はお世話になりました」
オカマ「あんた達知り合いだったの」
旅僧侶「旅先で色々あってね。僧侶も久しぶり。しばらくここのこと色々やってくれてたんだって? お爺さんから聞いたよ。ありがとう」
僧侶「いえ。ってあれ? もしかして……」
オカマ「そうよ。ここの司教様がこの人」
僧侶「えぇーっ」
旅僧侶「めんどくさいから旅僧侶でいいよ。司教なんてやっててもつまらないしね」
勇者「適当すぎんだろおい」
勇者「まあ帰って来たならちょうどいい! 明日の結婚式の神父やってくれないか?」
旅僧侶「別にいいけど……普通のかたっくるしい結婚式の神父はやりたくないなぁ」
勇者「安心してくれ、普通じゃないから」
旅僧侶「おっと、中身を全部バラさないでくれよ? 楽しみが減る」
勇者「はいはい」
旅僧侶「あの時の借りをここまで大きくして返してくれるとは、辻ザオラルもやってみるもんだ」
オカマ「まだあんなバカなことやってんのね……ザオリク使いなさいよ使えるでしょうに」
旅僧侶「嫌だよ。絶対成功するなんて面白くないじゃないか」
オカマ「神様も泣いてるわよ」
旅僧侶「君がそれを言うかい」
勇者「さっそくだが色々打ち合わせを」
旅僧侶「よしきた」
勇者「」ゴニョゴニョ
旅僧侶「」ゴニョゴニョ
勇者「をこうする予定なんだが……」
旅僧侶「いや、そこはこうして……」
オカマ「何を楽しそうに話してるんだか」
僧侶「あの二人はちょっと似た者同士な気がします」
勇者「よし、決定だな」
旅僧侶「ああ。しかしまさかあれで全部ではないだろうね?」
勇者「当たり前だろ?」ニヤッ
旅僧侶「いい顔だ。明日は楽しくなりそうだな」
勇者「じゃ、夜も遅いし俺も帰るわ」
僧侶「あ、あのっ、ゆーしゃさま!」
勇者「ん?」
オカマ「さっ、色々明日も早いし私達も休みましょう」
旅僧侶「やだよ面白くなりそうじゃア、痛い、待ってそこ引っ張るところじゃないだろう」ズルズル
僧侶「あの……その」
勇者「ん?」
僧侶「(ロミオさんのことを伝えたい……けど、ゆーしゃさまにこれ以上負担になるようなことは……)」
勇者「……ん、任せとけ」
僧侶「え……」
勇者「勇者様に不可能はねーさ。安心しろよ」ニコッ
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「それに、両方から頼まれちゃ俺も断れないからな」
僧侶「両方?」
勇者「こっちの話さ。明日、なんやかんや頑張ろうぜ!」
僧侶「なんやかんやですか?」
勇者「ああ。俺にもどうなるかわからないからな!」
僧侶「なんですかそれ」フフッ
勇者「はははっ」
やっぱり、ゆーしゃさまはゆーしゃさまのままでした。
その背負っている影すら、私にはもう勇者様としてしか見えなくなっていたことに……気づくこともなく。
────
ジュリエット「……」
コン……コン……
ジュリエット「何の音かしら……窓から?」
ガチャリ──
城の高い窓から下を見下ろすジュリエット。月が彼女を照らし、輝かせる。
ロミオ「やあ、ジュリエット。久しぶり」
ジュリエット「ロミオ!? どうしてここに……」
それとは対照的に暗闇の中に佇むロミオ。木々の下にいる彼には月の光も届かない。
ロミオ「ただ、一つだけ聞きたいことがあってここに来たんだ」
ジュリエット「聞きたいこと? 何かしら……?」
ロミオ「スゥ……ハァ……」
ロミオ「ジュリエット! 君はどうしてジュリエットなんだい?」
ジュリエット「えっ……」
ロミオ「それは国の為かい? それとも両親の為かい?」
ジュリエット「私は……」
ロミオ「ジュリエット、僕は諦めてしまっていた。今いる僕達の場所と同じく、高く暗い壁の前に」
ジュリエット「ロミオ……」
ロミオ「でももうそんなことをするのはやめた! 何故なら僕は僕で生きることにしたから!」
ジュリエット「……!」
ジュリエット「なら、私も問いましょう」
ジュリエット「ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」
ロミオ「僕はただ君を幸せにする為に、この壁を乗り越えて見せる。何があっても」
ジュリエット「ロミオ……」
ロミオ「だから君も誓って欲しい。明日、僕は団長戦に出る」
ジュリエット「……」
ロミオ「それに優勝し、王国騎士団団長になった暁には……結婚してくれ、ジュリエット」
ジュリエット「……」
ジュリエット「でも……私は」
ロミオ「もう誰が相手だろうとこの気持ちは変わらない。例え勇者様と刃を交えることになっても……」
ジュリエット「!」
ロミオ「団長戦は王国湖で行われる……もし、君がまだ僕のことを好きでいてくれるなら……団長になる姿を、見届けて欲しい」
ジュリエット「……」
ロミオ「じゃあ、もう行くよ、ジュリエット」
ジュリエット「ロミオ……待って! ロミオ!」
月は一瞬だけ二人を照らした後、雲に遮られた。
まだ行方はわからないと言わんばかりに。
────
メイド『姫様は言われませんでしたが……あの人には昔から大切に思っている方がいます』
メイド『名はロミオ。ずっと姫様を支えて下さった人です』
メイド『しかし今回の南の王子とのことでロミオは国の為に身を引き、姫様は女王という立場から自由が効かなくなりました』
メイド『でも……二人はずっとお互いを思い合っているのです。ずっと二人の側にいたからわかるんです……』
メイド『だから……どうかお願いです勇者様。叶うことなら、あの二人の柵を取り除いてくださいませ』
メイド『これは姫様じゃなく、私個人の身勝手なお願い……代償はいくらでも払います。勇者様を利用しようとする不届き者と切り捨ててくれても構いません……だから……どうか』
────
勇者「(だから……俺は今回のことを全て信じた。姫様が言えなかったことを、姫様を思い、正直に俺に伝えてくれたあの思いに嘘などあるわけがない)」
勇者「(俺にどこまでやれるかわからないが……自分の力で誰かが幸せになれるなら……いや、救わなくちゃいけないんだ)」
勇者「(俺は……勇者だから)」
神託の証が暗闇の中で一瞬光るも、それはすぐに消える。
勇者もそれに気付いた様子はない。
勇者「(ロミオが本当に姫様を思っているのなら……必ず会いに行ってるはずだ)」
城門前で待ち続けると、やがて一人の青年が歩いてくる。
勇者もそれを見て、歩を進める──
────
ロミオ「……」
勇者「……」
視線がぶつかる。両者何を思っているのかは見てとれない。
二人が通り過ぎる、その時──
勇者「……上がって来いよ、舞台に」ニッ
ロミオ「言われずとも」ニッ
──様々な思惑がある中、
一つの祭典が今……幕を開ける。
──ゆーしゃさま
──ゆーしゃさまはどんな勇者になりたいですか?
…………
──ゆーしゃさまらしいです
──なら、私はそれを支えられる僧侶になります
……
──きっとなれますよ。ゆーしゃさまなら
──ゆーしゃさまらしい勇者に
────
勇者「……夢か」
勇者「ゆーしゃさまらしい……勇者、か」
勇者「……俺らしいって、何だろうな」
勇者「いや、今はやれることをやろう。考えるのはその後だ」
勇者「じゃあ始めるとしますか、偽装結婚式」
───
ガヤガヤ ガヤガヤ
メイド「その料理は三番テーブル、そっちはメインテーブルに並べて! 予定より来客が多くて料理が間に合わない?! とりあえず前菜並べて後から運ぶからさっさと作って!
全く厨房は何やってんの!」
勇者「お~忙しそうだな」
メイド「勇者様! もう遅いですよ! 早くこちらに! あっ、ここ任せたわね」
勇者「姫様は?」
メイド「もうとっくに着付けしてます!全くもう勇者様には新郎の自覚が……」ゴニョゴニョ
勇者「ごめんごめん。自分が言い出したことだけどまさかここまで大きな騒ぎになるとは思ってなくて」
メイド「中央大陸ほとんどの長、港町や山岳の町からたくさんの町民達が来てくれてますよ」
勇者「ありがたいな。偽装だと思うと少し良心が痛むけど」
メイド「姫様のためです。それに勇者様が心を痛めることはありません。全ては私がお願いしたことですから。
だから……もし、失敗しても」
勇者「成功させるさ。姫様の為にも、メイドの為にも、この中央大陸の為にも、な」
メイド「ありがとうございます……勇者様」
メイド「さ、ではこれに着替えてください」
勇者「わかっ、ちょ、自分で着れるからっ! 脱がさないでっ! ヤダッ」
────
旅僧侶「なかなか似合ってるじゃないか勇者」
勇者「うるせー」
勇者「で、会場の方に動きは?」
旅僧侶「特には。ただ知らない顔が何人かこっち(主催側)に混ざってるな。大臣の当て馬だろうね。いやぁ面白い」
勇者「思いっきり異常あるじゃねぇか! ったく暢気なもんだぜ」
メイド「勇者様も人のこと言えませんよ」
勇者「すいません……」
メイド「姫様の方も着付けが終りました。そろそろ入場なので行きましょうか」
勇者「ああ」
メイド「偽装と言えど結婚式、ちゃんとしてくださいね?勇者様」
勇者「信用ないなぁ」
──トントン
ジュリエット「どうぞ」
メイド「失礼します。姫様、そろそろお時間です」
ジュリエット「ええ」
勇者「おぉぅ……(美しいとはまさにこの事か)」
ジュリエット「変じゃありませんか? 」
勇者「とんでもない。きっと今日来てくださった方々はこの姫様の姿を見に来た人ばかりでしょう」
ジュリエット「あらお上手。ふふ、ありがとうございます勇者様」ニコ
メイド「もうこっちの勇者様が演技にしか見えなくなりましたよ」
メイド「じゃあ入場しますよ」
勇者「さて、行くとしますか」
ジュリエット「ええ」
────
メイド「中央大陸第二十代国王が娘、ジュリエット女王様の御成でございます」
ワーーーーーーワーーーーー
女王様ー!
ご結婚おめでとうございます!
お綺麗です女王様!
ジュリエット「ありがとう、みんな」
勇者様ー!
姫様を幸せにしてあげてねー!
勇者と姫様に神の加護を!
勇者「ははは……(やっぱり心が痛いな。でも……)」チラッ
ジュリエット「……」
勇者「(本当に苦しいのは姫様だろうな……。自分の立場と周りの環境に板挟みにされて……本当に居たい場所にさえいられなくなって)」
勇者「(今隣にいるはずなのは俺じゃなくて彼なのに)」
──私、最初はちょっと勇者と自分は似てるなって思ってたんです。
勇者「(確かに似てるな……。だからこそ俺は彼女を助けたかったのかもしれない。今の俺の迷いを断ち切る為にも)」
勇者「(もっとも、居たい場所に居れてる分俺の方が気楽ではあるけどな)」
勇者「(そういや僧侶はどこだろう。確か会場案内をするって言ってたけど……)」
勇者「(お、いた)」
僧侶「会場はこちらになります~、あっ、押さないでください。ゆっくり入場お願いしま~す」アクセク
勇者「(色々大変そうだな向こうも)」
城内から庭園に伸びた真っ赤な絨毯を二人が歩く。
その周りでは惜しみ無い拍手が残響を残さず鳴り響く。
この日の為に庭園に用意された特設の結婚式会場、中央には祭壇、その周りにはいくつもの机と椅子が並ぶ。
座っているのは主に他の町の人でこの町の住民のほとんどは近くで立ち見している。
席は招待状を持った各町村の町長、村長に優先席があり、それ以外の席は来場順だったが遥々この結婚式を見に遠くから来た町の人をこの町の人々は優先して座らせた。
その事をメイドから事前に聞いたジュリエットは、拍手で迎えてくれる町民達に深く頭を下げた。
中央大陸の結婚式にはいくつかのプログラムがあり、その最後、婚姻の儀が終わって初めてその二人は夫婦と認められる。
勇者「(いつ仕掛けて来るか……)」
勇者「(結婚式が終わる前にあいつらが武器輸入の証拠を掴んで来れれば俺達の勝ち、逆に掴めなければこのまま姫様と結婚……か)」
僧侶「(ゆーしゃさま……)」
遥か離れたところで不意に僧侶と目が合う。
勇者「(心配すんな、絶対何もかも成功させてみせるさ。俺は勇者だからな)」
勇者「(勇者に失敗や敗北は許されない……今までそうあって来たのだから)」
勇者「(ってわけで頼んだぜ……魔法使い、戦士)」
───
魔法使い「勇者カッコいい! 姫様も可愛いな~いいな~ドレス」
戦士「そろそろか、よし、行くぞ」
魔法使い「全く……ドレス着たいのか?と か聞くところでしょここは」ボソボソ
戦士「何か言ったか?」
魔法使い「ん~ン。なんでも。まっ、私らにはこっちのがお似合いだよね」
城門から遠ざかり町外れに駆けていく二人。すれ違う人はどんどん疎らになり、とうとう辺りには誰もいなくなる。
魔法使い「ふふっ」
戦士「なにニヤニヤしてんだ?」
魔法使い「こういうのっていいよね。なんか特別任務っぽくて!」
戦士「そうか?」
魔法使い「うん。私はみんなとは違う方向に進んでいたい。後ろを振り返って誰も居なくても……」
戦士「安心しろ、横には居てやる」
魔法使い「ふふ、ありがと。ンじゃ一仕事しますか! ルーラ!」ビュォーン
王国湖──
ロミオ「……(ジュリエット)」
ロミオ「(あんな押し付けをしてしまって……彼女は苦しんでいないだろうか。勇者様と天秤に掛けるような真似をしてしまって……)」
ロミオ「(それでも僕は諦めたくない……諦めるのは……全てをやり終えてからだ!)」
ティボルト「まさか君が出てくるとはな、ロミオ」
ロミオ「ティボルト……」
ティボルト「その剣、曇りをかけてないだろうな?」ニヤッ
ロミオ「ふふ、どうだろうね」ニヤリッ
ロミオ「(自分に出来ることをやろう……この思いが彼女に届くことを信じて!)」
旅僧侶「(全く面白いことを考えたものだよ勇者は)」
旅僧侶「(さて、プログラム通りに進めようか。プログラム通りに進むとは思わないけど、ま、その方が面白いか)」
旅僧侶「(勇者が最後にどうまとめてくるか……楽しみにしてるよ)」
────
メイド「(勇者様にはまだ内緒にしてることがある……、でもこれは姫様にも言ってないこと)」
メイド「(どうしても私の手で終わらせなきゃならない……、だって……)」
メイド「(城内に誰もいなくなった今なら……、チャンスはある)」
────
「(ククク、勇者め……絶対に殺して)」
「ほらボヤっとしない! どんどん料理運んで!」
「……は、はい!」
「(くっ、なんで私がこんなヒラヒラな格好を……!)」
「(全ては勇者を殺す為! つまり勇者のせい! 勇者め……!)」
「料理あがったよ!」
「はっ、はい!」
「(しかしこのメイド服ってやつはどうしてこんな動きにくいんだ!)」
────
「結婚式が始まったようです」
「あの方は?」
「間もなく到着するかと」
「ふふ、好き勝手もここまでだ、逆賊め」
大臣「……」
────
オカマ「何とか収まったみたいね~。このバカ広い庭園も役に立つもんね」
僧侶「ええ……」
オカマ「まだ心配してるの?」
僧侶「そういうわけじゃないです、けど……」
オカマ「わかる、わかるわよ。好きな人が違う人と結婚しようとしてるの見たら誰だって嫌よねぇ」
僧侶「す、好き、って、ちがますよぉ! 何を言うんですかオカマさん!」ポカポカッ
オカマ「本当わかりやすいわね~あんたは」
僧侶「本当に、そういうのじゃなくて。ただ……遠いなって、またちょっと思っただけです」
オカマ「そ……」
────
新郎、新婦に用意された特別席に腰を落ち着ける。
勇者「(まずは一段落、かな)」
メイド「集まってもらった人々に女王様から謝辞がございます」
ジュリエット「皆様、今日は私どもの為にこんなにも集まっていただき誠にありがとうございます──」
勇者「(こんな時でも迷った顔を一切見せない、か。強いな、姫様は)」
ジュリエット「(ロミオ……あなたの思いは嬉しかった、けれど勇者様とメイド……そしてこの中央大陸の民を裏切れない)」
ジュリエット「(両方は得られない。これが定められた私の道と言うのですか……? 神よ)」
────
メイド「続きまして、ご来場の皆様に我が城自慢のシェフによる料理を堪能していただきます」
お~こりゃ美味そうだ。
いい香りね~。
メイド「皆様分ございますのでご安心を。席がご用意出来ず、立ちながらの会食の方もいらっしゃるのは誠に心苦しいですが……その分料理は美味しいので!」
ははは! 気にするな!
立ち食いもおつなもんよ!
食えりゃなんでもいいさ!
違いねぇ!ハハハ!
メイド「(救われる……本当にこの町の人々には。きっとあの二人も同じ気持ちなんだろうな)」
「……どうぞ」
勇者「お~こりゃ美味そうだ」
「……」
勇者「ん? 何か俺の顔についてる?」
「いえ、(早く食え早く食えぇっ!)」
勇者「(さて、久しぶりに使いますか)」
勇者「(修行以来だな~これ使うの。勇者たるもの食べるものには常に毒があると思え、ってな)」
勇者「(インパス!(改良型))」
勇者「(会場は軒並み青……さすがに全員毒殺はないか。姫のもオーケー。俺のは……)」
勇者「(うわ全部赤だ。情けの欠片もねぇ……)」
勇者「うわぁ~手が滑った~」ガシャンッ
勇者「(さらば……ご馳走)」
「!!!」
勇者「すいません……緊張してて」
「いえ、すぐに替えをお持ち」
勇者「いや、今日は緊張しててお腹に何も入りそうにないから、構わないよ(食べないのも不自然かと思ってぶちまけたのにどんだけ食わしたいんだこいつぅぅぅ!)」
「……わかりました」
勇者「(ほっ)」
「失礼します(なら違う方法で殺します)」ペコリ
勇者「あれ? そういや君どこかで……」
「失礼します」
「(私がせっかく持って行った料理を食べないとはっ……!)」
「(何かちょっと腹が立つのは何でだろう)」
「(まあいい、次こそは殺す、勇者)」
メイド「食後にはシェフ自慢の中央大陸城をイメージしたケーキがございます。最初の入刀はそうですね……女王様と勇者様にやってもらいましょう」
夫婦初の共同作業ってか!
まだ夫婦じゃないだろ~?
はっはっ、それもそうか
「」ゴロゴロゴロ
ジュリエット「まあ大きなケーキ」
勇者「(またあいつか!)」
ジュリエット「では、勇者様」
勇者「え、ええ(不味いな……)」
「(果実に爆破魔法を蓄積した特別製ケーキだ。衝撃を少しでも与えれば発動する! さあ弾け飛べ勇者!)」
勇者「(させるかよォォォォ!!!)」
勇者「てやぁっ! とりゃっ! たぁっ!」
ジュリエット「わっ、あっ」
お~勇者様が姫様の手を携えたまま剣技を!
爺「剣技とケーキ(剣技)をかけましたな勇者様!」
オカマ「そう思ってるのはあんただけよじじい」
メイド「ケーキが綺麗にカットされていきます! お見事、勇者様!」
パチパチパチ
勇者「(そして爆弾果実入りは俺の皿にぃぃぃぃ確保! そして端に寄せる)」
勇者「(また食えない……)」
「(勇者め……! もう容赦しない!)」
勇者「(しかし果実に爆破魔法を仕込むなんて高等テクニック……相手はルーラの時の奴か)」
メイド「お色直し後はいよいよ婚姻の儀となります。皆様、暖かい拍手でお二人をお見送りください」
パチパチパチ
メイド「(チャンスはここしかない……)」
勇者「(さて、ここからが本番だな)」
港町 船着き場──
戦士「動きは?」
魔法使い「まだなーい」
戦士「ご苦労。これでも食えよ」
魔法使い「サンキュー」モグモグ
魔法使い「本当に来るのかなぁ」
戦士「ここ数日ここで何回か南の奴等とやり取りしてたんだ。間違いなく来るさ。それが一番勇者を正当に排除出来るやり方だからな」
魔法使い「でもその中に武器があったからって証拠になるのかな?」
戦士「ま、ならないな。モンスター用と言われたらそれまでだ」
魔法使い「じゃあなんでこんなことしてるのさ私達」
戦士「勇者にも色々考えがあるんだろ」
戦士「俺達が頼まれたのはそいつが乗って来た船に大量の武器があるか否か、だけだからな」
魔法使い「まあ楽だからいいんだけどね」
戦士「む、南の大陸の旗印……あの船か?」
魔法使い「やっとお出ましってわけ!」
戦士「あれは……この国の大臣か?」
魔法使い「何か話してるね。あ、誰か降りてきたよ。何かやってるね」
戦士「あれは……」
魔法使い「知ってるの?」
戦士「南の大陸、壁王の息子じゃないか」
魔法使い「誰それ?」
戦士「話せば長いが……南の大陸は武王、壁王、砂漠の王が三大勢力なんだよ」
魔法使い「へ~」
戦士「でも妙だな、壁王の息子は勉学の為に北の大陸に渡る途中で海難事故にあって行方不明になってると聞いていたが……」
魔法使い「そういうことにしといて裏でコソコソやってたとか?」
戦士「なるほど偽装か……あり得るな。南の大陸じゃ他の大陸に武力を持ち込むことを公には禁止されてる。だからやれることと言えば少量の武器密輸ぐらいだが……」
戦士「三大勢力の国の王子が圧力をかければ武器がなくとも他国は動かざるを得ない……こことの同盟がすんなり決まりかけたのもそういう一面があったからかもしれないな」
魔法使い「何か色々な思惑が絡んでそうだね~」
戦士「……行ったな」
魔法使い「結婚式会場に行ったのかな?」
戦士「だろうな。同盟すれば南の大陸の国でも同盟国として中央大陸国に帰属している邪魔な勇者を排除することが出来るわけだし。大方簡易的な調印式でもやってたんだろうな」
魔法使い「伝えなくて大丈夫なの?」
戦士「そこら辺は上手くやるだろう。あの勇者だぜ?」
魔法使い「へ~、随分買ってるじゃん勇者君のこと」
戦士「まあな。お前を助けてもらったのもある。それにあいつは勇者っぽくない勇者だからな」
魔法使い「ふふ、なにソレ」
戦士「さ、中を調べるぞ」
魔法使い「ほいきた!」
城内──
メイド「(お色直し中のこの時間が最後のチャンス……ここでアレを見つけられなければ……)」ゴソゴソ
メイド「(もうっどこにあるのよっ!)」
メイド「(残りは……あそこか)」
ギィ──
メイド「(久しぶりに来たな……ここ)」
メイド「(本ばっかり……。変わってないなぁ)」
メイド「(……確かこの辺りに、あったあった)」ガシャコン
メイド「(隠し扉を開ける本だけ目立ちすぎなのよ相変わらず)」
メイド「(ん……この箱は。あの時はなかったよね……。ナンバーロック式の施錠か……もしかしたら……)」
カチャ
メイド「……何でこの番号なのよ、お父様」
────
メイド「お待たせしました。それでは中央大陸王国、婚姻の儀へ移りたいと思います」
いよいよか!
待ってました!
女王様お綺麗です!
勇者様カッコいいー!
勇者「」ウズウズ
ジュリエット「勇者様、緊張なさらずに」
勇者「ん、ああ。そう見えました? それは失礼」
ジュリエット「?」
旅僧侶「では、これより二人の婚姻の儀を始める」
旅僧侶「中央大陸が産みし偉大なる僧侶ルシエルに」
勇者「」スッスタッ
ジュリエット「」スッスタッ
勇者・ジュリエット「終わりなき敬意を」
旅僧侶「中央大陸第二十代国王に」
勇者「」クルッ ピタッ
ジュリエット「」クルッ ピタッ
勇者・ジュリエット「終わりなき忠誠を」
勇者「」トコトコ、ササッ
勇者「中央大陸第二十代国王が娘、ジュリエット女王様に……永遠なる愛を」
メイド「(か、完璧だわ! さすが勇者様!)」
旅僧侶「ジュリエット女王、彼の愛を……受けとられますか?」
ジュリエット「(私は……)」
「(ドンピシャリ! ここだ! 遠距離型メラミ!)」
ズォッ……ゴァッ
「……メ、ガ、……ンテ」
ゴォォォォォォォッ──
なんだなんだ!?
地面が吹っ飛んだぞ!!?
勇者様の居た辺りだ!!!
ジュリエット「勇者様……!」
「(やったか!?)」
モクモク……
勇者「……」
「(なっ)」
勇者「この様に私の愛は何者にも砕けず、鉄の様に硬い」
「(アストロンだとぉぉぉぉっ! )」
なんだ演出か~
勇者様も凝ってらっしゃるわね~
「(せっかく頑張って爆弾岩まで捕まえて……一生懸命地面掘って仕掛けたのに……)」
「(勇者めぇぇぇぇ!)」
旅僧侶「……彼に答えを、ジュリエット女王」
ジュリエット「……私はっ!」
「茶番もそこまでにしてもらいたい」
ジュリエット「!?」
南の王子「全く、とんだ国賊も居たものだ」
まさか……!
南の王子だ!
乗り込んで来やがった!
南の王子「やれやれ……よもや同盟国の王子の婚約者を略奪するとは……これだから蛮族の勇者は」
ジュリエット「同盟国ですって!? まだ調印はされてないでしょう!?」
南の王子「つい先程大臣に調印してもらいましたよ。これで晴れて中央大陸国と我が国、南の大陸壁の国は同盟国となりました」
ジュリエット「何ですって……?」
メイド「(まさか同盟を姫様なしで済まして来るなんて……!)」
ジュリエット「私は認めた覚えはありません!」
南の王子「今更になって国の代表気取りですか……女王様」
ジュリエット「なっ」
メイド「女王様に向かって失礼な!」
南の王子「こちらの大臣や臣下の方々に聞きましたよ? 国王が亡くなって内政がガタガタになってもあなたはなにもせずただ部屋で塞ぎ込んでるだけだった……」
ジュリエット「っ……それは」
南の王子「王族ならそう生まれた責務を果たさなければならないのに……あなたは逃げた」
ジュリエット「そう生まれた……責務」
南の王子「逆にその責務を果たさないものは……国をまとめる資格もないと言うことです」
ジュリエット「……私は」ガクッ
メイド「姫様!」
南の王子「王が死に、混乱した国をまとめたのは誰です?」
それは……
南の王子「国王が独自に作った貿易ルート、関係、等々一遍に壊れたものを自ら出向き、頭を下げ、これからもよろしくお願いしますと頭を垂れたのは誰です?!」
……大臣だ。
大臣……だよな。
南の王子「その大臣が国の為に同盟国の調印をして悪いとおっしゃられるのかあなた方は!?」
…………。
南の王子「この国は今非常に危機を迎えている。雨がずっと降らないため作物が育たず、故に今大部分の食料は貿易で賄っている」
南の王子「しかし今その航路に巨大なモンスターが出てまともに食料が運べない。そうなるとこの先どうなるか?」
……。
南の王子「大臣や臣下はそのモンスターの討伐を我が国に依頼、その際に同盟を結ぶことになったと言うに……」
ジュリエット「……」
大臣「(上辺ごとだけをペラペラと……)」
南の王子「国は遊びではないのです、女王様」
ジュリエット「それは……!」
南の王子「ならば、決断すべきことは……わかっておられますね?」
勇者「ならばそのモンスター、私が退治して来ましょうか?」
南の王子「なに?」
勇者「ならば女王様の望まない嫌な同盟は組まずとも良いでしょう?」
臣下「おのれ王子に何て口の聞き方を!」
南の王子「まあまあ。勇者君、君にそんなことをしてもらう必要はないのだよ」
勇者「なに?」
南の王子「調印上とは言え私は同盟国の王子。そして君はこの国に帰属している勇者だ」
南の王子「勇者法で勇者がもし、帰属している国に仇なす者な場合……君は勇者を剥奪されることになるが……構わないかい?」
勇者「……そんなわけ」
南の王子「あるんだよ! 同盟国の王子の婚約者を強奪なんて普通打ち首ものだよ? そうならないだけマシに思ってくれ」
南の王子「そしてこの場合どっちが国の意見でどっちがわがままかぐらい……蛮族の君にもわかるだろう?」
ジュリエット「っ…」
南の王子「中央大陸の民もそうだ! 今正しいことを言っているのは我々か? 彼らか?」
それは……なあ?
……貿易が出来なくなるのは困る……な
南の王子「では、せっかくだしこのまま我々の婚姻の儀を始めようか。ジュリエット女王」
ジュリエット「(ごめんなさい……勇者様……ロミオ)」
臣下「ふん……奴め、結局仕留め損ないおって。南の王子に恥をかかしたわ」
「……(所詮こんなものか。勇者)」
勇者「……」
南の王子「勇者の身柄を拘束しろ。結婚式が終わるまで何を仕出かすかわからんからな。
ああ、この場面で勇者と呼ばれるのは不名誉か。今は国に仇なすただの国賊でしかないわけですし」
兵士「勇者様……すみません」
勇者「……」トボトボ
「(こんなものか……私が殺したがっていた、村のみんなの敵の末裔は)」
僧侶「(ゆーしゃさま……!)」
南の王子「女王を、国を守るのには色々な強さが必要なんだよ。勇者君」
「それだけには同意だな、クソガキ」
南の王子「なに!?」
旅僧侶「確かに国は綺麗事だけじゃ回らない。色々な強さが必要だ。国を守る思いの強さ、何者にも物怖じない強さ、そして……姫様を思う心の強さ」
南の王子「何者だ貴様は!?」
旅僧侶「ただの通りすがりの者さ」
ボワァン
勇者「ちょっと好奇心旺盛で祭り好きで、お節介な……な」
ジュリエット・メイド「勇者様っ!」
僧侶「」グッ
オカマ「」グッ
南の王子「勇者が二人……だと!?」
勇者「(クックック……モシャスで入れ替わるとは面白い、最高だよ勇者)」
────
勇者『一番効果的なのは同盟を組んでから俺を帰属した一兵士として追い出すやり方だが……これはこいつで何とかなる』ボワァン
旅僧侶『はっはっは! 確かに勇者が二人居ては法も何もないな』
────
兵士「ゆ、勇者様?」
勇者(旅僧侶)「俺が勇者だ!」キリッ
南の王子「猪口才な……!」
勇者「おっと俺は勇者でもなんでもない。勇者はそこにいる人だからな」
勇者(旅僧侶)「俺が勇者だ!」
勇者「頼みの勇者法か何かが使えなくて泣いちゃいそうか? クソガキ」
南の王子「ぐっ……」
勇者「国や親の後ろ楯がないと何も出来ないお前に姫様はやれんなぁ」ダキッ
ジュリエット「勇者様!?」
南の王子「ジュリエット女王!?」
勇者「姫様が欲しければ強さを示せ! 誰でもいい、その強さを見せれば姫様と結婚する権利をやろう!」
な、なんだってーーー!?
僧侶「むちゃくちゃ過ぎますよゆーしゃさま!」
オカマ「あらぁん、でも面白いじゃない。姫様を賭けて決闘だなんて……熱いわァ!」
南の王子「ぐっ……ぐぅっ」
臣下「ちぃっ! 構わん取り押さえろ!」
兵士「しかし……」
臣下「奴は自分でただの人だと言っているではないか! ならば遠慮はいらん!」
兵士「勇者様……すみません!」
兵士「奴は勇者ではない! 囲んで包囲しろ!」ジリッ…ジリッ…
ジュリエット「勇者様……一体どうするおつもりで?」
勇者「なぁにちょっと舞台に足りない奴がいたから上げてやり行くだけさ」
ジュリエット「それは……まさか!」
勇者「まっ、どうなるかはわからないが……ここまでくりゃ破れかぶれだ。飛ぶぞ、捕まれ」
ジュリエット「は、はいっ」グッ
勇者「姫様と結婚したいものはついてこい! 王国湖にて待つ」
勇者「ルーラ!」ビュォーンビュォーン
兵士「勇者が逃げたぞー! 追えー! 王国湖だ!」
臣下「絶対に逃がすな!」
大臣「(あれが……勇者か)」
僧侶「王国湖はこちらになりまーす。足元に気をつけてください」
「勇者……それでこそ勇者だ! 殺し甲斐がある! ハハッ! ハハハハッ!」
港町 船内──
船員「ぐっ」
魔法使い「ちょろいちょろい~」
戦士「この武器の量は……本気で戦争でも起こさせる気か壁の国は」
魔法使い「この武器は何かな~?」
船員「さ、さあ?」
魔法使い「ふ~ン……白切っちゃうんだぁ~? また地獄のマヌーサかけちゃぉっかな~?」
船員「ひ、ひぃっ! もうあれはやめてくださいっ!」
戦士「じゃあ吐け」
船員「それは……」
船長「吐いたら全員どうなるか、わかってんだろうな?」
船員「そ、それは……」
魔法使い「捕まってるのにまだ船長さん気分なんだね~」
船長「ふんっ。殺すなり何なりすればいい」
船員「そ、そんなぁ~!」
戦士「……(船長のこの落ち着き、覚悟はなんだ? こっちが何もして来ないと思っているのか……同盟を結んだから手出し出来ないと思っているのか)」
魔法使い「あのさぁ……」ボゥ……
魔法使い「あんま舐めない方がいいよ? トレージャーハンター」
手のひらで揺れる炎の塊を船長の近くまで運ぶ。
船長「ぐっ……あつ゛っ」
魔法使い「火傷で済めばいいねぇ~……ねぇ?」ニコニコ
ピカピカッ
戦士「ん、待て魔法使い」
魔法使い「何よ~せっかく殺すのも躊躇わない空気出まくりのいい演技決まってたのに!」
戦士「じゃなくてあの鏡。光ってるぞ」
魔法使い「あ、ほんとだ。胡散臭い骨董屋から買った真実を映し出す鏡です~とか言いながらただの鏡だった鏡が光ってる!」
戦士「騙されたのがよっぽど腹立ってたんだな……」
船長「グァッ……ソレを寄せるな!」
魔法使い・戦士「」
魔法使い「そう言われると?」
戦士「寄せたくなるよな?」
船長「アア……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」
魔法使い「あ」
戦士「あ」
──
団長「両名、よくぞ勝ち上がってきた」
ティボルト「……」
ロミオ「……」
団長「団長をあの人の代わりに継いでもう数年になるのか……」
団長「こんなこと言うのはあれだが……俺は今でもあの人がこの騎士団の団長だと思っている」
ロミオ「団長……」
団長「これより行われる団長戦決勝により、あの人から今度こそ本当に団長の座が移る!」
団長「それはティボルトか、ロミオか! 両名王国騎士に恥じない戦いをしろ! 以上だ」
ティボルト「はい!」
ロミオ「はい!」
ティボルト「恨みっこなしだぜ、ロミオ」
ロミオ「勿論」
ティボルト「なら……遠慮なく行くぜっ!」
ロミオ「ぐぅっ」
ガキィンッ──
ティボルト「どうしたロミオ! こんなものか?!」
ロミオ「(疾くて重い……相変わらずいい剣だ、だが昔から調子に乗ると大振りになる癖が抜けてないぞ!ティボルト!)」
ロミオ「せぁっ!」
ティボルト「なにっ!?」
キィンッ──
ティボルト「ちぃ(大振りになったとこを狙われたか、危なねぇ)」
ロミオ「(あれで剣を離さないとは……さすがだな)」
ティボルト「(やるなロミオ……! さすがあの人の息子だぜ)」
ロミオ「(この団長戦では剣を離した方の負け……ならば!)」
ティボルト「(なに?! 剣を片手持ちに換えただと?)」
ティボルト「そんな握りで……! 舐めてるのかロミオ!」ジリッ……
ロミオ「……」ジリッ……
ティボルト「ならば望み通り振り払ってくれる!」ブォォッ
ロミオ「(来た! 薙ぎ払い! これを待っていた!)」クルッ
ティボルト「なっ……!(剣を体ごと一回転させて俺の一撃を避けただとっ……! 剣だけ狙いに行ったところを逆手に取られたか!)」
ロミオ「はあああああっ!」
回転した勢いと天高く振りかぶったロミオの剣の一撃が……。
ガキィンィィィィッ
ティボルトの剣を見事に叩き折った。
────
ティボルト「完敗だ、ロミオ」
ロミオ「ありがとう、ティボルト」
ティボルト「剣の訓練、続けてたんだな」
ロミオ「何故それを?」
ティボルト「刃を交えればわかるさ。お前の親父さんの下で、二人で訓練してた頃より……ずっとずっと磨かれていた」
ロミオ「……ティボルト」
ティボルト「団長おめでとう、ロミオ」
ロミオ「ああ。ありがとう! ティボルト」
団長「見事な剣技だったぞ、ロミオ」
ロミオ「はい……」
団長「どうした? 元気がないじゃないか。親父さんの跡を継げたんだぞ?」
ロミオ「嬉しいです……けど、この瞬間を見て欲しかった人は……」
ジュリエット「ロミオ……」
ロミオ「ジュリエット!?」
団長「女王様!? 何故こんなところに?」
ジュリエット「先程の戦い拝見させてもらいました。見事でしたわ、ロミオ」
ロミオ「ジュリエット……僕を選んでくれた」
勇者「それはまだちょっと早いな~ロミオ君」
ロミオ「なっ! 勇者様!? 何故ここに!?」
ジュリエット「ちょっと事情が色々ありすぎて……」
勇者「こっちはこっちでてんやわんやってわけだ」
ロミオ「は、はぁ」
ジュリエット「ともかく、団長おめでとう、ロミオ」
ロミオ「ありがとう、ジュリエット」
ヒューヒュー
お熱いな二人とも!
ティボルト「(昔から二人を見てきた騎士団のみんなはやはり勇者様よりロミオとジュリエット王女が一緒になってもらいたいと思っているんだろうな……)」
勇者「さて……そろそろか」
ロミオ「何がです?」
臣下「居たぞ! 勇者だ!」
次の会場はここか~。
わいわい、がやがや
爺「お~騎士団がおるわい。そう言えば今日は団長戦だったかの」
ロミオ「爺さん! これは一体?!」
爺「なんじゃ知らんのか? 今から勇者様に勝ったものが姫様と結婚する権利が与えられるとか何とか……ようするに決闘するみたいじゃな」
ロミオ「なっ……」
勇者「役者が揃ったな、始めるか」
勇者「さあ南の王子! 姫と結婚したいのなら俺にその強さを見せてみろ!」
南の王子「ぐぅ……」
臣下「(クソ……洗脳が切れ始めてるか)」
臣下「見ての通り王子は具合が優れない、よって王子の代わりの者を出す」
勇者「……おいおい。代わりじゃ意味ないだろうよ」
臣下「これも強さではないかな? そう、地位の強さだ」
勇者「けっ」
臣下「ちょうどここにはうち自慢の騎士達がいることだしな。誰か王子の代わりに」
ロミオ「僕が行きます」
ジュリエット「ロミオ?!」
臣下「ロミオだと? そんな名も知らぬやつを行かせるわけにはいかん! ティボルト、君が行きなさい」
ティボルト「お言葉ですが臣下、ロミオは私を下して団長になった男でございます」
臣下「ほぅ……(ぽっと出の雑魚じゃなかったか)」
ティボルト「(妙だな……ロミオの名を聞いてあんな態度を取るなんて。昔と言えど国内では知らぬものはいない程の腕だったのに)」
臣下「ではロミオ、君が行きなさい」
ロミオ「はい……」
ジュリエット「駄目よロミオ!」
ロミオ「ごめんジュリエット……僕は行かないといけない」
ロミオ「結婚する権利をくれてやる……だって? どんな理由があっても君を物のように扱う勇者を……僕は許せない」
ジュリエット「違うのロミオ……彼は!」
勇者「来たか、ロミオ!」
ロミオ「勇者……」
勇者「俺に強さを見せたものに姫様と結婚する権利が与えられる…」
ロミオ「そんなことはどうでもいい……何故君が彼女を幸せにしなかった?」
勇者「……本当にそれで良いと思ってるのか? あんたは」
ロミオ「何が言いたい?」
勇者「まあいいさ。俺はあの三人の為にこうしているまで……あんたに取ってはいい迷惑だったかもしれないがな」
ロミオ「勇者……君はもしかして」
勇者「ただし……簡単に負けるつもりも毛頭ないがな。勇者がすぐ負けたら格好悪いだろ」
ロミオ「ふ、ならば僕は僕として、君に挑戦する!」
ロミオ「君に勝ってジュリエットを幸せにしてみせる!」
ジュリエット「ロミオ……」
臣下「おい! 話が違うぞ! お前はあくまで王子の代わりで……」
勇者「ならばこうしよう。俺が勝てば姫様は南の王子と一緒になる、ロミオが勝てば姫様はロミオと一緒になる……どうだ臣下さん?」
臣下「そんなもの貴様がわざと負ければ……」
勇者「仮にも勇者の名を背負ったものがそこら辺のやつに負けてみろ、もうその者は勇者ではなくなる……違うかい?」
臣下「貴様が勇者ではなくなる……!」ゴクリ
臣下「いいだろう! 認めようじゃないか! 貴様が負ければ神託の証を湖に捨ててもらうからな!(どっちに転んでもこっちには得しかないしな……グフフ)」
勇者「ご自由に。さて、じゃあ南の大陸の為に頑張りますか(棒)」
ロミオ「……行くぞ、勇者!」
ん? ってことは勇者様が勝ったら……
女王様が南の王子と一緒になるってこと?
何か良くわからんがそれは嫌だな……
爺「行けぇロミオ! 騎士団魂見せてやれぃ!」
ロミオってあのロミオか!
やっぱり姫様にはロミオしかいないって思ってたんだよな!
ロミオ!頑張れ!
ロミオ!ロミオ!ロミオ!
オカマ「あんなこと言うからすっかり敵になっちゃったわね、彼」
僧侶「うぐっ……グスッ」
オカマ「何泣いてんのよ」
僧侶「会場、ううん……世界のみんながゆーしゃさまを敵視しても……私だけは絶対味方ですからぁ……」
オカマ「……何でこんな損な役回りしてまで彼はあの二人を……」
僧侶「それは……ゆーしゃさまが勇者だからです」
オカマ「意味わかんないわよ」
僧侶「守りたい人を守って、助けたい人を助ける。それがゆーしゃさまなんです……だから……ゆーしゃさまは……ずっと昔から彼は……勇者だったんです!」
勇者「ルールは?」
ロミオ「団長戦と同じ、剣を離したら負け、でどうだろう」
勇者「さっきみたいに折られても負けか?」
ロミオ「おとなしく負けを認めてくれれば、ね。離してないからとゴネる人もいるんだ」
勇者「はは、いい屁理屈だ」
勇者「そういや魔法はいいのか?」
ロミオ「好きに使いなよ。剣だけじゃ僕が勝つのは目に見えてるしね」
勇者「言うじゃないのロミオ君。なら……」
勇者はギラを唱えた
勇者「遠慮なく行くぜぇ!」
ロミオ「おおおおおっ」
ジュリエット「(ロミオ……勇者様っ)」
勇者が放ったギラをロミオは軽いサイドステップで避ける。
勇者「甘いな!」
ロミオ「くっ」
地面に着弾した瞬間にギラ系の魔法は燃え上がる。魔法に精通していないロミオは魔法の種類が把握しきれていなかった。
勇者「うおぉッ」
その隙に勇者が剣の腹を側面から叩きに行く、
ロミオ「させるか!」
刃を返し、ロミオはこれを受け止める。
ガキィンッという金属同士がぶつかる音が辺りを震えさせた。
勇者「そう簡単に折らせてくれないか」ギリッ……
ロミオ「当然。剣は騎士の証だからね」ギリリッ……
勇者「なら勇者の証はなんだろうな!」
ロミオ「それは君の方が良く知ってるんじゃないか……な!」ギィインッ
勇者「なっ」
ロミオが剣をねじ込み、勇者の剣を掬い上げる。
ロミオ「はあっ!」
そのままロミオは勇者の肩口に向かって袈裟斬り。
勇者「(おいおい直接攻撃ありかよ!)」
勇者は素早く剣を引き戻し体のガードに当てる、
ロミオ「もらった!」
勇者「しまっ──」
急いで体を守った為に不十分な体勢で剣を持つ腕も、姿勢もバラバラだ。
そこにロミオの剣撃が──
ガキイィィィンッ──
勝利を告げる役割の剣は……空中でクルクルと回りながら──
勇者「(負けちまったか……手を抜くまでもなく元々剣じゃ敵わないなこりゃ)」
ロミオ「(僕の勝ちだ……!)」
ジュリエット「(ありがとう……勇者様)」
南の王子「……」
ロミオ「(あれは南の王子……? ジュリエットに向かって何を)」
南の王子「メラミ」
ボォッ──
ジュリエット「え」
ロミオ「ジュリエット!!!」ガバッ
ズォォォォォ──
勇者「なっ……!(直接姫様を狙って来ただと!?)」
ジュリエット「ロミオ……ロミオ……!」
落ちた頃には、結末をがらりと変えていた。
勇者「僧侶!!!」
僧侶「はいっ! ベホイミ!」パァァ
ロミオ「ぐっ……ぐぅっ」
僧侶「ロミオさん……!(火傷が酷い……)」
勇者「どういうつもりだお前!!!」
南の王子「ククク、キヘヘヘへ……魔王様に歯向かうからこうなるんだ」
勇者「魔王……だと?」
臣下「(こいつ……!)き、きっと南の王子は疲れているんだ。今日はもう休ませる。結婚なりなんなり好きにすればいい」ソソクサ
勇者「待てよ! そんな適当な理由で見過ごすわけないだろ!」
臣下「ちっ……大臣! 何とかしろ!」
大臣「私は……」
臣下「南の大陸と戦争になってもいいのか!?」
戦争だって?
一体どういう……
大臣「私は……!」
メイド「いい加減にしてください、お父様」
勇者「お父様!?」
ジュリエット「大臣が……メイドの」
大臣「……メイド」
メイド「あなたが国を思ってあれこれしてるのは認めます。けれどそれが必ずしも国にとって良いことじゃないのです」
大臣「だが……」
メイド「これは武器密輸の調印書です。南の大陸は同盟の際に大量の武器をこの地に持って来ようとしています」
なんだって!?
戦争でもするつもりかやつらは!
これだから南の大陸何かと同盟を組みたくなかったんだ!
大臣「それは……!」
メイド「見つけて欲しかったんでしょう? じゃないとあんな番号をキーナンバー(私が生まれた年なんか)にしませんよ」
大臣「入ったのか……私の書斎に」
メイド「ええ」
大臣「二度と入ることはないと言っていた癖にな」
メイド「人は変わります。でも、変わっちゃいけないものもあると思うんです」
メイド「私はあの二人には……変わって欲しくないんです」
大臣「メイド……」
大臣「国王もそんなお方だった……国がいくら変わって行こうと……あの人だけは変わらない。だからこそ彼には人望があった……そして私には……それがなかった」
メイド「お父様……」
大臣「内政を抑えられず、王の代わりにもなれず……戦争を回避する為に南の大陸との同盟を選んだ。そしてその為に武器の密輸も……私が弱いばかりに」
メイド「ごめんなさい……何もかも押し付けたせいで」
大臣「構わんさ。これからは姫様やロミオ、そしてお前が何とかしてくれる。この国を……きっと元に戻してくれるだろう」
メイド「お父様……」
大臣「この国に武器を密輸させようとしたのは私だ。責任は全て私にある」
ジュリエット「大臣……」
大臣「すみません女王様、私の力が足りないばかりに……この国を間違った方向へ進ませてしまって」
ジュリエット「そんなことはありません。お父様のいなくなった後、頑張ってくれたのは紛れもなくあなたです」
大臣「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
臣下「な、なんだこれは! 大臣!?」
大臣「これでどちらが国の意見か……わかったかな? 臣下。お前は首だ。無論、私もだがな」
臣下「なっ、なぁっ!」
臣下「戦争になっても構わんのか!? こっちには南の王子が……」
魔法使い「ヒュ~~スト~ンっと」
戦士「どうやら間に合ったらしいな」
勇者「おせぇよお前ら!」
魔法使い「なにさ~せっかく武器の密輸の証拠を抑えて来たのに」
勇者「それはもう大体型がついてるよ」
戦士「ほう、じゃあこいつはどうだ?」ドスッ
船長「グッ」
モ、モンスターだ!
ヒィィィィッ
勇者「……どういうことだ?」
魔法使い「この人が武器を密輸していた船の船長さんだったんだよねぇ~…… ねぇ?」
船長「は、はひ!」
臣下「(あのバカ……!)」
勇者「ってことは、」
戦士「ああ。魔物だよこいつは」
魔物……?
バカ! 魔王に忠誠を誓った人間の姿をしたモンスターだよ!
それって人間なのか?モンスターなのか?
元々は人間らしいが忠誠を誓うとモンスターの力を授けられるらしい……。
戦士「つまり今回の一件、全て裏からこいつらが仕組んでたってわけだ」
大臣「そんなバカな……」
勇者「こりゃ……たまげたな。でもどうやって炙り出したんだ? 神託の証もないのに」
魔法使い「これだよ! 古から伝わりし真実を映し出す鏡、ラーの鏡だよ!」
勇者「噂には聞いたことあるが……まさか実在してたとは」
魔法使い「ふふふ~お値段は100000Gからとなっております」
戦士「たかっ! お前それ100Gで骨董屋から買ったものムガッ」
勇者「ってことは……」
戦士「この中にも内通してる魔物がいる筈だな」
臣下「(不味い……だが鏡に近づかなければいいだけ。こっそり逃げ……)」
魔法使い「あっ、また光ってる」
戦士「近いな」
臣下「グギャアアアア」
勇者「やっぱりお前か!!!」
臣下「バレたら仕方ない。我は魔王様に仕えしものなり!!!」
戦士「妙だと思ったぜ。海難事故で行方不明になってた南の王子がひょっこり出てきたりするもんだからよ!」
大臣「まさか南の大陸が戦争を仕掛けて来るという情報も……!」
臣下「全てでたらめよ! 人間達を争わせる為のな!」
大臣「なんてことだ……それでは私は……」
メイド「いつから魔王に魂を売ったのよ! 昔はお父様と一緒に頑張ってくれてたのに……!」
臣下「いつから魂を売っただと? カカカ……そんなもの最初からに決まっておるだろう」
メイド「そんな……」
臣下「魔王様が復活するまでこの国を潰す機会を伺っておったのよ」
臣下「貿易中海賊に襲われた時、海賊船の中でこいつを見つけてな……それで今回のことを思いついたわけだ」
大臣「……あの南の大陸の船がこちらを攻撃して来たと言って逃げ帰って来た時か……!」
臣下「カカカ……海賊に襲われたのを南の大陸の船のせいにし、南の王子を操って戦争を仄めかせし、お前を信用させるのはわけなかったわ」
戦士「操る……だと」
臣下「おっと口が滑ったな、まあよい。こうなった以上ここにいるもの全員殺す他あるまい」ギロッ
ひいぃぃぃぃぃ
お助けぇぇぇぇぇ
バカッ! 押すなッ!
臣下「人間とは哀れよな。脆弱で怯えることしか出来ぬ弱い生き物よ。魔王様に忠誠を誓えば救われると言うのに」
勇者「しかし良く喋る魔物だなおい」ジャキンッ
臣下「勇者よ、貴様ロミオに負けたら勇者をやめるのではなかったのか?」
勇者「あれは途中でうやむやになったからな。それに……今の俺はただの通りすがりだ」
臣下「ふんっ……屁理屈を言いおるわ」
勇者「お前の計画は全部無駄に終わった。後はお前が消えればめでたしってわけだ」
臣下「計画などもはやどうでもよい。勇者、貴様さえ殺せばこの世界は魔王様のものとなるも同然だからな!」
臣下「神託に目覚めていない今なら貴様をやることなど造作もないわ!」
勇者「……(神託に目覚めるだと……? さっき負けたら神託の証を捨てるよう言って来たことに関係あるのか……?)」
戦士「ったく、最初からこいつらに踊らされてのかと思うと腹が立ってくるな」ジャキィッ
魔法使い「まあでもいいんじゃない? こいつを倒せば全て解決、わかりやす~い」スッ
戦士「全くだな、ってわけで加勢するぜ勇者」
魔法使い「報酬アップよろしくね~」
勇者「けっ、ちゃっかりしてんな」
僧侶「ゆーしゃさま!」
勇者「僧侶! ロミオの具合は?」
僧侶「もう大丈夫です!」
勇者「よくやった!」
勇者「んじゃまあとっとと片付けますか」
臣下「カカカ……そう簡単に行くかな?」
臣下「ムゥンッ……ハァァァァァ! 魔王様! 我に力を!!!」
グゥン……ボコッ、ブォッ、ギチョッ
魔法使い「うわぁ何かタコみたいになった!」
戦士「これが魔王に忠誠を誓った成れの果てか……!」
僧侶「皆さん! 離れていてください!」
勇者「今日の晩飯は屋台名物たこ焼きと行くか」
ティボルト「勇者様! 我々も力を貸しますよ!」
「「「おおおおお!!!」」」
臣下「フンッ、雑魚がワラワラと」ピシャッ クイッ
魔法使い「わっ、なっ、なに!?」
戦士「魔法使い!?」
魔法使い「体が勝手に……!」
臣下「カカカ……!」
魔法使い「この詠唱は……やば……! みんな離れて!!!」
戦士「!!! あんたら! 離れろ!!!」
「「「なにっ!?」」」
臣下「……ベギラマッ!」
ブォッ──
「ん……何も……ない?」
戦士「バカ野郎! それ以上前に来るな!」
ゴォアァァァァッ──
「な、なんだぁッ!? 地面から火柱が!!!」
グォォォォォォ───
勇者「ベギラマってレベルじゃないだろこれ……」
臣下「さて、これで雑魚は手出し出来まい。手駒も手に入れたことだし……さっさと片付けるとしよう」
魔法使い「何なのよこれ! んぐっ……動けないぃぃいいい!」
勇者「何で魔法を撃ったんだよ!?」
魔法使い「違うの! 体が勝手に動いて……!」
戦士「さっき奴が操るとか何とか言ってたのに関係あるのか……?」
勇者「それにしたって詠唱しなけりゃ呪文は出ないだろ」
戦士「……いや、そうとも限らない」
勇者「どういうことだ?」
戦士「書法魔法だ。サインを使って中空に詠唱すればいい」
勇者「つまり奴はサインや呪文が発動するトリガーまで操れるってことか?」
僧侶「それだと魔法使いさんの意識そのものを乗っ取らないと無理だと思います」
臣下「死ねぇ勇者! メラミ!」
魔法使い「ごめーん勇者君!」ブォォッ
勇者「ッとォォォ!!! こんのっ!」
臣下「ふんっ!」
魔法使い「わわっ」
勇者「ちぃぃっ! これじゃ迂闊に奴に攻撃したら魔法使いに当たっちまう! このままじゃ埒があかねぇぞ!」
僧侶「……つまり操っているのは体だけ、だとしたら」
僧侶「作戦があります! ゆーしゃさま! 少し時間を稼いでください!」
勇者「任せろ!」
僧侶「戦士さん、この杖を持っていてください」
戦士「どうするつもりだ?」
僧侶「私の考えが正しければ敵はまだこっちを一人は操れます。けれどそれは今出来ません」
戦士「詳しく説明してくれないか?」
僧侶「まず最初に操ったのが魔法使いさんだと言うことです。近くには戦士さんも居たのに敵は魔法使いさんを選んだ」
戦士「たまたまじゃないか? それにまだ操れるなら二人同時に操れば良かったじゃないか」
僧侶「はい。私もそう思いました。けれどしなかった……いや、出来なかったんです。魔法使いさんと戦士さんは同じ側、更に二人とも近くに居ましたから」
戦士「……続けてくれ」
僧侶「つまりあの操れる能力は人が持つマリオネットの様に片手、左右で一つづつじゃないと無理何じゃないかと思うんです。
二人同時に操らなかったのは見えない魔力の糸による絡まりを防ぐ為」
戦士「なるほど」
僧侶「次に魔法使いさんを狙った理由、これは簡単です。魔法が使えるから、です」
戦士「……つまりあの能力には行動範囲があるんだな?」
僧侶「恐らくは。敵はそれを知られたくないが為に遠距離からも攻撃出来る魔法使いさんを選んだ」
僧侶「そして本人の意思に関係なく魔法を撃ってる……と言うことは恐らく遠隔呪文。魔法使いさんを魔力を溜め込んだ杖に見立て、微力の魔力を魔力の糸から流しサインで書法詠唱、呪文発動により魔法使いさんから無理矢理魔力を引き出してる可能性が高いです」
戦士「これだから魔物は厄介だな。モンスターの癖に学が高いと来てる」
戦士「……俺はどうすればいい?」
僧侶「今から私がわざと捕まって囮になります。その隙にこの杖を……」
戦士「わかった」
僧侶「では行きますっ!」タタッ
勇者「うぉっと! 作戦終わったか! 僧侶! 俺の役割は!?」
僧侶「すいませんゆーしゃさま! 今までの囮が役割でした!」
勇者「うっそーん!」
僧侶「決して今回仲間外れにされた仕返し……とかじゃないですからっ」
勇者「(仕返しだったのか)」
僧侶「覚悟!」
臣下「どんな作戦を立てても無駄なことよ!」ググッ
魔法使い「もうっ!」
僧侶「ならこちら側から回り込んで……!」
臣下「(バカめ!)」ピシャッ クイッ
僧侶「あっ……」
臣下「カカカ……コレクションが増えたわ」
戦士「(かかったな!)」
僧侶「(魔力の糸で操ってるのなら魔法で切れるはず!)」
臣下「バカの一つ覚えだな!」ピシャッ
戦士「なっ……!(まだ操れたか!)」
僧侶「そんな……! まだ操れるなんて!」
臣下「残念だったなァ! この体になれば三人までは操れるんだよ!」
戦士「うぉぉぉ!!!」ブンッ
全身を操られるほんの少し前に戦士が僧侶の杖を空高く投げた。
僧侶「(戦士さん!さすがです!)」
僧侶「これで……終わりです!」
僧侶「バギマ!」
僧侶が杖に溜め込んでいた魔力を遠隔呪文で起動、杖から真空刃が舞い踊る。
臣下「ぐぬぅっ……小癪な!」
僧侶「これで動けるはずです! このまま一気に攻撃を……」ガクンッ
僧侶「(右足と左腕がまだ……動かない!)」
臣下「我が秘術、パペットを見破っているとはな。だが糸を全て切るまでには至らなかったようだな!」
戦士「クソッ」
魔法使い「体半分がまだ言うこと聞かないよぉ!」
臣下「惜しかったな小娘よ。だが、ここまでだ」
魔法使い「嘘……ちょっと……やめなさいよ!!!!!」
臣下「まずは貴様からだ、小娘」
魔法使い「動きなさいよ私の右手!!!!!」
臣下「イオラ」
僧侶「あ……」
ズゴォォォォォォ────
僧侶「……」
恐怖の余り目を瞑るも、魔法による衝撃波はいつになっても来なかった。
恐る恐る目を開けると……そこには──
勇者「大丈夫か?」
ゆーしゃさまが、居ました。
僧侶「ゆーしゃさま……。凄い怪我……! 私を庇って……」
勇者「すげぇ痛いが、それだけだ。気にすんな」
僧侶「……私を囮にして敵を倒せたのに……どうして……? ここには優秀な僧侶様達もいっぱいいるから例え死んでも」
勇者「お前より守りたいものなんて俺にはない。だから囮に何か出来ない。例え何があっても」
僧侶「ゆー……しゃさま」
臣下「ちぃ、糸が切れたせいで左手は動けたか! 直撃なら二人とも吹き飛ばせたものを!」
魔法使い「はぁ……はぁ……っぅ……」
戦士「左手で唱えたメラを右手にぶつけて軌道を変えるなんて無茶しやがって!」
魔法使い「勇者君の痛みに比べたら……全然だよこんなの!」
戦士「魔法使い! 俺の上を狙え!」
魔法使い「りょーかい! バギ!」
スパスパッ
戦士「よし! 動けるぞ!」
臣下「させるかァ!」クイッ
魔法使い「くぅっ」
戦士「クソッ! 僧侶! 魔法使いの糸を!」
僧侶「は、はいっ!」
臣下「させるか!!!」グイッ
僧侶「きゃっ」
戦士「ちぃぃっ(勇者も動けそうにねぇ……! どうする!?)」
臣下「死ねぇぇぇぇ!!!」
魔法使い「(させない……!)」
戦士「(魔法使いのやつまた自分の手にメラを当てる気か!?)やめろ! 今度こそ手が焼け焦げるぞ!」
魔法使い「あんたを殺すぐらいなら……こんな手ない方がいい!」
戦士「魔法使い……!」
臣下「イオラ!」
魔法使い「くっ……!」
「魔法使いさん! イオラは止めました! メラなしで!」
魔法使い「っ……」
魔法使い「ほんとだ……出ない。あなたは……?」
「勇者様のピンチってんで駆けつけたただの元魔法使い見習いですよ」
臣下「記述師とか言うガキか……!」
記述師「ガセ記事書けなんて脅しに屈する俺じゃないぜ元臣下さん? 今はタコ野郎か」
臣下「貴様何かに何が出来る! イオラ!」
臣下「……何故出ない!?」
記述師「無駄無駄。書法魔法ってのは少しでも違う意味の文が入れば呪文として完成しない。つまり俺がちょいちょいっと魔法使いさんのにサインで書き加えてやれば呪文は発動しないってわけさ」
記述師「詠唱呪文だけ覚えたって意味ないんだよ」
臣下「ぐぬぅぅぅ」
臣下「猪口才な……!」
戦士「後は魔法使いと僧侶の糸を切るだけだ! 勇者! 動けるか!?」
勇者「……後1分」
戦士「なら……! ウォォォ!」ザンッ
戦士「駄目だ感触がねぇ! クソッ……こういう時魔法戦士じゃない自分が憎いぜ」
魔法使い「戦士! 後ろ!」
南の王子「グッ……グゥゥ……メラ……ミ」
戦士「しまっ……」
シュボッ──
魔法使い「あっ、動けるようになったよ!」
僧侶「私もです!」
南の王子「」ガクリ
戦士「(最初から二人の糸を狙って撃ったのか……?)」
臣下「おのれぇ!(操る人数を増やしすぎたせいで奴の洗脳が解けたか……!?)」
勇者「よし……動けるぐらいには回復したか」
勇者「ありがとな、僧侶。遠隔呪文でずっと回復してくれて」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「僧侶、もうあいつは人間じゃない。魔王に魂を売った人間はその時点で魔物になる……だから、俺はあいつを殺す」
勇者「それが勇者としての俺の使命であり、守りたいものを守るためにやらなきゃいけないことなんだ」
僧侶「……はい。だから私も目を背けません」
勇者「よし、行くぞ。援護頼む」
僧侶「はいっ」
臣下「糸を切ったぐらいで調子に乗るなよ!!?? 勇者、次は貴様を駒にしてくれるわ!!!!」
勇者「へっ、やってみな!」
勇者「うおおおぉぉぉぉォォォォォォォオオオオ」ジャキィィィン
臣下「(全魔力を注ぎ込みありったけの糸で勇者を捕縛、復活出来ぬよう湖の奥深くに沈めてくれるわ!)」
臣下「くらぇぇぇええええええっ!」ブシュゥブシュゥブシュゥ
勇者「なにっ!?」
臣下「避けられるかこの数!!!」
勇者「ぐっ……! 体に巻き付いて……」
臣下「ハッハッハ! このまま湖に放り込んでくれる!」
勇者「──なんてな」
臣下「ぬぅ……?! 勇者が……霞んで」
魔法使い「バぁーカ……」
勇者「ナイス援護(マヌーサ)魔法使い!」
勇者「こいつで終わりだぁぁぁぁぁ!」
臣下「おのれ勇者ァァァァァァァ!!!!!」
僧侶「風よ……彼の者に疾風の加護を」
突然吹き荒れた風が勇者の背を押し、駆けを疾風(はやて)に変える。
勇者「神風一閃──」
サァァァ──
吹き抜ける風と共に、刃が臣下の体を引き裂いた!
臣下「グゴッ……ガハッ……覚えていろ……勇者……め」
臣下「魔王様の……完全復活は…もう……そこまで来て……いる…カカカ……!」サラサラ……
勇者「」チャキン
勇者「魔王……か」
勇者「来るならこい。こっちは10年前から待ってんだからな」
「おおおおおお勇者様が勝ったぞォォォ!」
「さすが勇者様だ!!!」
「他の三人もお見事!!!」
戦士「大丈夫か?」
魔法使い「ん~~魔力がなくて立てそうにないかも」
戦士「ったくしょうがねぇな」ドッコラセ
戦士「あの野郎一撃でキッチリ仕留めるとはな。やるじゃねぇか」
魔法使い「やっぱ勇者君は凄いね~」
戦士「……あぁ、だが先に魔王を倒すのは俺達だ」
魔法使い「あんたも頑固だね。ま、嫌いじゃないケドね、そゆとこ」
僧侶「ロミオさんが目を覚ましました!」
ロミオ「ジュリエット……」
ジュリエット「心配したのよロミオ……」
ロミオ「はは……ごめんよ」
ロミオ「でも、良かった。またこうして君と二人でここに来れて……」
ジュリエット「ロミオ……」
ロミオ「……最初は自分の弱さ、君の立場の高さに負けて何もかも諦めてしまっていた」
ロミオ「あんなに強かった父さんが死に……強くなることに虚しささえ覚えていた」
ティボルト「ロミオ……」
ロミオ「でも、ある人が教えてくれたんだ。強さとは力だけじゃない、そのひた向きな思いこそが強さになるのだと」
僧侶「……」
ジュリエット「私も同じです。お父様が亡くなった時……全てがどうでもよくなりました」
ジュリエット「国のことは大臣達に全て委ね、私は一人で塞ぎ込んで……貴方やメイドに甘えていました」
メイド「姫様……」
ジュリエット「そして言われるままに女王になり、結婚の話が舞い込み……引き留めて欲しいが故に貴方に相談して……」
ロミオ「……」
ジュリエット「何もかも自分で決められず、女王になったのも言われたから、ずっとこのままではいけないと思っていました……。そこに、彼が現れたのです」
ジュリエット「私の何倍もの苦労を背負う勇者に、彼は自分の意思で選んで成ったと言いました」
勇者「……」
ジュリエット「そんな彼に教えられ、助けられ……決心してここまで来ました」
ジュリエット「大臣、本当に苦労をかけました。私が不甲斐ないばかりに」
大臣「姫様……」
ジュリエット「そしてメイド……本当にありがとう。あなたには助けられてばかり」
メイド「私は、昔からお二人のことが大好きでしたから!」
ジュリエット「そして私達を支えて来てくれた町の皆の為にも……私はこの国を守る為にこの命を捧げる覚悟です」
女王様……
姫様……
勇者「国を守って行くためにも、隣で常に支えてくれる人が必要何じゃないか?」
ジュリエット「……そう、ですね」
勇者「そしてそれは俺じゃない……この中で姫様を思う気持ちが一番強い奴がその役を担うべきだ。俺はロミオと戦い、その思いの強さを見た!」
ロミオ「勇者……」
勇者と姫様は結婚しないってことか……?
あの剣技見たろ!? 国のこと考えたらやっぱり勇者様の方が……
剣技ならロミオだって負けてねぇ!
そうよそうよ! 城下町の人間は全員ロミオを推すね!
しかし事は中央大陸全土の問題……意見が別れるのも無理なかろうて
勇者「……」
勇者「聞け!!! 中央大陸の民よ!!!」
ざわざわ……
勇者「勇者とはなんだ!?」
勇者「神からこの証が与えられた者が勇者か!? 違うな! 少なくとも俺はそうは思っていない!!!」
ざわざわ……ざわざわ……
勇者「勇者とは……勇ある者、その全てが勇者だ!!!!!!!」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「姫様を命がけで守り通した彼もまた、この国にとって勇者じゃないのか!!!???」
勇者「勇者とは姿形じゃない!!!!! その心を持つ者こそが……勇者だ!!!!」
────
短編 僧侶の日記 Ⅳ
━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 六の月
この勇者暦、と言う年号は、初代勇者様が魔王から世界を救った時、その栄誉としてつけ始められたものらしいです。
勇者様に纏わる伝説はいくつもありますが、昨日……ゆーしゃさまもとうとうその伝説に名を刻みました!
勇者の証、と銘打たれた内容で発行された記述師さんの新聞にはこうありました。
勇者の証、それは、勇ある者の心だ
と。
ゆーしゃさまらしい言葉だと思いました。
ゆーしゃさまは勇者だから人を守っているわけでもなく、勇者だから魔王を倒しに行っているわけでもない……。
魔王を倒すために勇者にならなければならないから、勇者になった……のがゆーしゃさまなんだと思います!
なんかちょっとややこしいですかね。まあいいのです!
その言葉を聞いた中央大陸に住む皆さんも納得したようで、後日、ジュリエット女王様とロミオさんの結婚式が王国湖にて開かれます!
念を押しますが今度は本物ですよ!
そのせいか昨日は夜通しお祭り騒ぎで……ゆーしゃさまが立ち寄るとどこもお祭りになってしまうんじゃないかと思い始めて来ました。
今回は全て魔物の仕業とされ、大臣さんはまた大臣さんとしていられることになったそうです。
これからは国の為だけじゃなく、民の為に政治をすると言っていました。
民があってこその国ですもんね。がんばってほしいです。
そして南の王子さん。北の大陸へ向かう途中に海賊に捕まった所を元臣下さんに捕まったそうです。
魔物に操られていた被害者でしたが、女王様とロミオさん、中央大陸の皆さんに何度も何度も頭を下げていました。
結婚式会場の時とはまるで別人でちょっとビックリしました。
同盟は一度破棄されましたが今度は助け合いの為にいつかちゃんとした同盟を組みたいと言ってました。
南の大陸に来た時は是非寄って行って欲しいとゆーしゃさまにも言ってました。
南の王子さんは勇者学何かを学んでて、反勇者国家の考え方を何とかしたいと考えてるそうです。
いつかわかり合える日が来るといいな……。
戦士さんと魔法使いさんは女王様から恩賞をたっぷりもらったそうでニコニコしていました。
魔王は先に倒す! と、お酒の席で勇者と張り合ってたのを、私と魔法使いさんは笑いながら見ていました。
一緒の志を持つ仲間みたいで……何だか嬉しいな。
この数日間も色々あって……不安もあったけど。
ゆーしゃさまはそれを全部跳ね返して……何もかも上手く事を運んで……。
本当に凄いな……ゆーしゃさまは。
ジュリエット女王様を支えるのがロミオさんな様に……ゆーしゃさまを支えるのは私でありたいな……なんて///
べ、別に結婚したいとかそういうつもりじゃなくて……したくないわけでもなくてあああっもうねますっ!
━━━━━━━━━━
──ゆーしゃさま
──ゆーしゃさまはどんな勇者になりたいですか?
「俺は俺らしい勇者になりたいな。今のこの気持ちと何も変わらない勇者に」
──ゆーしゃさまらしいです
──なら、私はそれを支えられる僧侶になります
「しかしなれるかな……俺らしい勇者に」
──きっとなれますよ。ゆーしゃさまなら
──ゆーしゃさまらしい勇者に
────
勇者「……夢、か」
勇者「……なれるさ、お前が側に居てくれれば」
勇者「俺らしい勇者って奴に」
────
勇者「おはよう、僧侶」
僧侶「おはようございますゆーしゃさま」
勇者「行くか」
僧侶「はいっ」
僧侶「でも本当にいいんですか? 二人の結婚式に出なくても」
勇者「ん、ああ。もうこの町に俺は必要ないからな」
勇者「今日の主役はあくまであの二人だ、余計な奴はいらんさ」
僧侶「ゆーしゃさま……そんな言い方駄目ですよ!」
勇者「ははっ、何で僧侶が怒るんだよ」
僧侶「だって……この国を救ったのはゆーしゃさまなのに……いらないだなんて言うから」
勇者「あんま恩着せがましいのは好きじゃないからな」
僧侶「ゆーしゃさまがそういうなら……いいですけど」
勇者「讃えられたい、感謝されたいから助けたわけじゃないしな。俺がそうしたいからそうしただけだよ」
勇者「だからもう、後は必要ないさ。祭りもやってくれたしな!」ニヤッ
僧侶「そう……ですね!」
勇者「それにあいつが言ってた魔王の完全復活が近いってのも気になるしな……」
僧侶「いよいよ……でしょうか」
勇者「急がないとな……魔王との決戦の地に」
僧侶「はい!」
勇者「っと、そういや俺達に手紙があるぞ。こっちの二枚は俺、こっちの二枚は僧侶にらしい」
僧侶「誰からだろう」
オカマから僧侶へ──
恋の冒険はまだまだ始まったばかりよ!
勇者を愛の魔法で虜にしちゃいなさい──
勇者「誰からだ?」
僧侶「あ、これはっ、だ、誰からでしょうね! ははは……」
僧侶「(もうっ……オカマさんったら! こっちは誰だろう?)」
親愛なる僧侶さんへ
ジュリエットから勇者様のことを聞きました。お二人には本当に感謝を尽くしきれません。
これから先、また色々な障害があるでしょうがあなたに教えてもらったことを忘れず、二人で乗り越え行きたいと思っています。
あなた達二人にもし困難が立ちふさがった時、あなた達に救われた者達がいると言うことを思い出してください。
二人の旅に祝福があらんことを
ロミオより
僧侶「ロミオさん……」
勇者「こっちは~っと」
勇者様へ
何から何まで助けられちゃいましたね。
本当に何てお礼していいのかわかりません。
他人の為にここまで自分をかけられる人を私は初めて見ました。
おとぎ話に出てくる勇者様と比べても装飾ない程に、あなたは勇者様だと私は思います!
国を……そして、あの二人を救ってくださって……ほんとっっっっうにありがとうございましたっ!
旅の無事を願っています。
メイドより
勇者「俺もいつかおとぎ話になんのかね~なんて」
僧侶「なりますよ、きっと」
勇者「最後のはジュリエット女王からか」
勇者様へ
この度は本当にご迷惑をおかけしました。そして、ありがとうございました。
最後まで勇者様に頼りっきりで情けない自分ですが、これからはロミオやメイド、大臣達と共にこの国を守って行きたいと思います。
またこの町に訪れた時は是非顔を見せにいらしてください。
歓迎します、我らが英雄……勇者様。
お二人の旅路に神のご加護があらんことを。
ジュリエットより
勇者「そんなことないさ。姫様も十分頑張ってた……この国を任せられるぐらいに」
────
旅僧侶「勇者達は居ないか……フフ、あいつらしいな」
オカマ「彼らには彼らの役目があるしね」
旅僧侶「そうだな……。今度会う時もまた面白い厄介事を持ち帰ってくれるといいな」
オカマ「あんた……ほんと好きねぇ」
旅僧侶「クックック」
オカマ「好きついでにそろそろ私の気持ちにも気づいたらどうかしら?」
旅僧侶「な、なんのことかな?」
オカマ「またそうやってシラケるぅ」
旅僧侶「さ、婚姻の儀式に取りかかるぞ」
オカマ「はいはい」
────
旅僧侶「では、これより二人の婚姻の儀を始める」
旅僧侶「中央大陸が産みし偉大なる僧侶ルシエルに」
ロミオ「」スッスタッ
ジュリエット「」スッスタッ
ロミオ・ジュリエット「終わりなき敬意を」
旅僧侶「中央大陸第二十代国王に」
ロミオ「」クルッ ピタッ
ジュリエット「」クルッピタッ
ロミオ・ジュリエット「終わりなき忠誠を」
旅僧侶「……中央大陸の英雄、勇者に」
ロミオ「!」
ジュリエット「!」
ロミオ「終わりなき感謝を」
ジュリエット「終わりなき感謝を」
────
モンスターが現れた!
勇者「僧侶ォォォォ! 魔法だァァァァァ!」
僧侶「はいっ!!!」
ズバシュゥンッ!
モンスターを倒した
勇者「久しぶりのアレやるか!」
僧侶「モンスター落とし物チェックですね!」
勇者「たまにいいもん持ってんだよな……へへっ」クンクンワサワサ
僧侶「ですね……ふへへ」クンクンワサワサ
変わって行くもの、変わらなくてはいけないものは確かにあるけれど、
勇者「なかった!」
僧侶「ですね!」
勇者「じゃああのオカマで競争だ!」
僧侶「丘までじゃないんですかゆーしゃさま!?」
勇者「どっちでもいいさ! よーいどん!」シュタタタッ
僧侶「待ってくださいゆーしゃさまぁ!」
変わらないからこそ良いものもあると、私は信じている。
偽装結婚式 完
続き
僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」【3】