僧侶「ゆ~しゃさま~」トテトテトテ
勇者「おー僧侶。 旅立つ準備は出来たか?」
僧侶「はい~。お弁当と~おやつと~後コンパスです!」クリクリ
勇者「惜しいっ! クルクル回る方なら100点だったんだがな~」
僧侶「残念です」シュン
勇者「だが……これはこれで武器として流用出来る。ナイスだ僧侶!」
僧侶「よかった~」ニコリ
勇者「俺達もとうとう魔王退治に行くんだな……」
僧侶「はい……。幼き頃からの誓いを果たす時が参りました、ゆーしゃさま!」
勇者「俺が勇者で、お前が僧侶! 二人で必ず魔王を討つ!!!」
元スレ
僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1348776181/
僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1368982068/
僧侶姉「僧侶~あんた地図忘れてるわよ! それに教本も!」
僧侶「姉上、かたじけないです」
僧侶姉「全く……ほんとに大丈夫かしら」
勇者「安心してください姉上様! この勇者いる限り僧侶に傷一つつけさせやしませんよ(フリムキリッドヤァァァ」
僧侶姉「(頼りの勇者がこれって言うのも心配の一つなんだけどね……なんでこんな子に神託が降りたのやら)」タユン
勇者「(しかし僧侶の姉ちゃん胸でけぇ……! シスター服押し上げてる感じやっべぇぇぇぇ)」
僧侶「……ムムム。邪気が致します、勇者様。ここは危険です。早く参りましょう」
勇者「え、あっ、ちょっとまっ! 痛っ! 僧侶さん引きずってますよ!?」ズルズル
僧侶姉「ほんとに大丈夫かしら……」
勇者「ここが始まりの大草原かー」
僧侶「広いですねゆーしゃさま!」
勇者「だな! ここでレベルを上げつつ始まりの塔へ向かうわけだ!」
僧侶「わくわくしますねゆーしゃさま!」
勇者「おうよ!」
勇者「さて……この勇者の第一の生け贄になるモンスターは……っと」
スライム「」
僧侶「ゆーしゃさま! あそこにスライムが!」
勇者「……ノンノンノン」チッチッチ
勇者「俺の記念すべき第一号目の生け贄だぜ? 奴ごときが務まる筈がない……!」
僧侶「!!!」
僧侶「さすがゆーしゃさま!」
勇者「クククッ……まあな」
僧侶「ゆーしゃさま! カラスが!」
勇者「違う!」
僧侶「ゆーしゃさま! 角の生えたウサギがおります!」
勇者「小動物を殺る趣味はない……」
僧侶「(ゆーしゃさま優しい)」
そうしてしばらく探すこと数時間。
僧侶「ゆーしゃさま! 悪そうなおっさんがおります!」
悪そうなおっさん「……」
勇者「良くやったあああああ! 如何にも悪そうな奴だな。
こいつなら俺の初陣に相応しい……!」
おっさん「……」
勇者「さあっ! 来なっ!」
ゴスッッ!!!
勇者は死んでしまった。
僧侶「ゆー……しゃさま……?」
†勇者†「」
おっさん「うわ雑魚っ。なにこいつ。勇者とか冗談だろ」
僧侶「勇者様……何故私を置いて先に逝かれるのです……」
おっさん「いや次はお前の番だぞ」
僧侶「幼い頃からいつもこうして私を守ってくれて……いつも助けてくれて……私はいつもその影で震えていることしか出来ませんでした……けど」
おっさん「おーい、攻撃しちゃうよー?」
僧侶「もう、守られるだけの僧侶じゃありません! 私は勇者様を守るためだけにこの数年間を生きて来たのだから!」
僧侶「勇者様の亡骸には指一本触れさせませんっ!」
僧侶「さあ! かかって来なさい悪党め!
例え私達を倒せたとしても神は決して貴方を許さ」
おっさん「なにもうこいつうるさいわ」ガシュッ
僧侶は死んでしまった
おっさん「臭くなるから窓から捨てといてー」
ヒューン
∥∥∥∥∥∥∥∥
†勇者††僧侶†
ドスッ ドスッ
村人「あれは勇者様でねーが! 大変だあー勇者様が死んでおられるだよー
すぐに教会に連れていくだあよ」
────
僧侶姉「……」
†勇者††僧侶†
僧侶姉「はやっ」
僧侶姉「えっ、ていうかここいらで死ぬ要素のあるモンスター居たかな……」
僧侶姉「しかもレベル1だし……」
僧侶姉「まあいっか……おお勇者よ死んでしまうとは情けない以下省略ザオリク」
勇者「ふぁっ!?」
僧侶姉「蘇れ我が妹よザオリク」
僧侶「はっ!」
勇者「ここは……」
僧侶姉「始まりの村の教会」
勇者「……そうか」
勇者「負けちまったんだな……俺」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「俺は……俺はっ……!」
僧侶「勇者様……僧侶はここにおります」
勇者「僧侶……」
僧侶「勇者様……」
僧侶姉「さっさとレベル上げに行かんか」
勇者「はっ! そうだった! 俺としたことが一番大切なレベル上げを疎かにしていたぜ……!」
僧侶「レベルが上がればあんな奴ゆーしゃさまなら余裕ですっ」
勇者「アイシャルリターンと行くか!」
僧侶「はいっ!」
僧侶姉「(絶対意味わかってないだろこいつ)」タユン
勇者「むっ(しかし相変わらずけしからん乳だな僧侶の姉さんは……)」
僧侶「ムムムム...ゆーしゃさま、ここにも邪気が蔓延しております。さっ、早く参りましょう」
勇者「そ、僧侶っ! 足っ! 足引っ張るなって! 協会の固い椅子とかで頭ガンってしちゃうか」ガンッズサーー
僧侶姉「……この世界終わったかもしれないわね」
勇者「ヒャッハー! スライムはおるかぁー!」
スライム「ピィ」
僧侶「たくさんおりますゆーしゃさま!」
勇者「……狩りの時間だ」
僧侶「」ゴクリ
勇者「でぇやぁ!ズバシュゥッ」
バシュ
勇者の攻撃 スライムに2のダメージ
勇者「追撃だああああ僧侶ぉぉぉぉぉ」
僧侶「はいっ! ゆーしゃさま!」ぶんっ
僧侶の攻撃 スライムに2のダメージ
スライム「ピキィッ」
スライムの攻撃 勇者に3のダメージ
勇者「ぐほぉぉぉぉうううぅぅうううあああああばら持って逝かれたあああああっ」
僧侶「ゆーしゃさまあああっ」
勇者「来るなっ!」
僧侶「ゆーしゃさまっ!?」
勇者「覚えておけ僧侶……」
勇者「これが……戦いと言うものだ!!!」ドンッ!
僧侶「非情過ぎますゆーしゃさまっ」
勇者「それより早く奴に止めを!」
僧侶「はいっ!」
僧侶「ふぅりゃゅあ~っ!」ゴスッ
僧侶の攻撃 スライムに3のダメージ
スライムを倒した
勇者「いよっしゃああああああああでかしたぞ僧侶ぉぉぉぉ!!!」
僧侶「やりましたっ!」
勇者「あっはっはっはっは~!」
僧侶「ふっふっふっふっふ~!」
勇者「あっはっはっはっは~……」
僧侶「ふっふっふっ……」
──────
勇者「ふ~、すっかり日が暮れてしまったな」
僧侶「そうですねー」
勇者「今日はこれぐらいにして村に戻るか」
僧侶「はい」
勇者「僧侶……夕陽が綺麗だな……」
僧侶「はい……ゆーしゃさま」
勇者「明日も頑張ろうなっ!」
僧侶「はいっ!」
────
僧侶姉「で、なんでまだこの村にいるわけ」
勇者「いや~ついついレベル上げに夢中になりすぎまして~」テヘヘ
僧侶「まして~」テヘヘ
僧侶姉「まあいいわ。宿代もバカにならないだろうし。今日だけはウチに泊まって行きなさい」
勇者「ありがたき幸せ~」
僧侶姉「何言ってんのよ。あんたも自分家帰るのよ。近いんだから」
勇者「えっ」
僧侶姉「じゃあね」
勇者「嫌だぁっー! 帰ったら絶対親父にぶたれるぅぅぅぅぅ」
僧侶姉「」カチャッ
『聖母様ぁぁぁぁぁどうかお慈悲をォォォォォ』
僧侶姉「はよ帰らんか」
────
僧侶姉「どう調子は? 少しは慣れた?」
僧侶「はい。厳しいけれど……ゆーしゃさまと一緒なら乗り越えられます」
僧侶姉「……」
僧侶姉「あんまり勇者に頼らない方がいいわよ」
僧侶「……」
僧侶姉「いざと言う時は……」
僧侶「……わかっております」
僧侶姉「……代わろっか?」
僧侶「いえ、もう決めたこと。何があろうと私は勇者様と一緒に……魔王を討ちます」
僧侶姉「そっか……」
僧侶「姉上」
僧侶姉「ん?」
僧侶「今夜だけは……一緒に寝かせてください」
僧侶姉「ん。わかった」
────
勇者「……よし」
装備一式の確認をして、ベッドから腰を持ち上げる。
階段を降りて一階から外へ出ると、まだ朝靄が立ち込めていた。
これからの冒険を予感させる、この日が昇りかけた朝暗い感じが昔から好きだった。
村の入口には当たり前の様に立っている僧侶の姿があった。
約束をしていたわけでもないのにいつも彼女はこうして俺を待ってくれていた。
僧侶「あっ、ゆーしゃさま」
俺に気がつくとトテトテと近づいて隣に収まる。
勇者「おはよう僧侶。待ったか?」
僧侶「おはようございますゆーしゃさま。いえ、私もさっき来たばかりです」
勇者「昨日いっぱいレベル上げたからな! 今日こそ奴を倒して見せるぜ!」
僧侶「その粋ですゆーしゃさま。姉上から朝御飯を授かっておりますので食べましょう」
勇者「お、サンドイッチか。いいな! 行きながら食うか」
僧侶「はいっ」
心地よい風が吹き抜ける草原を並んで歩く。
勇者「うまうま。そういや親父がさ~……」
僧侶「ふふっ。相変わらずですねゆーしゃさまのお父様は」
他愛のない話をしながら朝食を頬張る。
こんな何でもない時間が今はとてもいとおしく思えた。
もう二度とあんな思いはさせないからな……僧侶。
────
勇者「いよいよか……」
僧侶「はい……」
勇者「俺が前衛、僧侶は回復やサポートをしつつ隙があれば攻撃してくれ!」
僧侶「わかりました!」
勇者「行くぞォォォォ」
僧侶「はいッッッ!!!」
悪いおっさん「あれ~また来たのかよ雑魚勇者。ちったぁ骨のある奴になったか?」
勇者「そんな悠長に喋っていいのか?」ブゥンッ!
ガギィィィンッ
おっさん「なっ、なにぃっ!?(この力はっ……!)」
勇者「この間合い、もらった!!!」
おっさん「しまった! 魔法か!(防御体制をッ)」
勇者「食らえ! ギラ!」
おっさん「くぅっ……(熱いのやだよぉぉぉ)」
勇者「……の構え」
おっさん「……ん?」
勇者「もらったァ!」ズシャッ
おっさん「ギャアアアアア」
おっさん「汚ねぇぞ!!!」
勇者「ふっ、敵の言葉を信じる方が悪い」
おっさん「ちっ。所詮はこんな小賢しい真似しか出来ないってわけか! もうお前らの実力はわかった。前みたいに返り討ちにしてやる!」
勇者「どうかな? 僧侶!!! 準備はいいか!?」
僧侶「…大気は敵を切り裂くであろう……はいっ! 行けますっ!」
勇者「よしっ! かましてやれ僧侶!!!」
おっさん「ぐぅっ(なんか凄そうな教本持ってブツブツ言ってたぞ……あっちの姉ちゃんは真面目っぽいしヤバい魔法が飛んできそうだな……)」
僧侶「くらいなさい! バギマ!!!」シュバッ
おっさん「ちぃぃっ(斧で防御だ!)」
僧侶「…………の構え」
おっさん「うえぇぇっ!!!???」
勇者「隙ありィ!」ザシュ
おっさん「グギャアアアア」
勇者「ナイスだ僧侶!」bグッ
僧侶「はいっ!」bグッ
おっさん「……てめぇら……もうキレたわ」
おっさん「お遊びはここまでだ。こっからは本気で殺しに行く」
勇者「……」ビリビリ
僧侶「……」ビリビリ
僧侶「凄い殺気です……ゆーしゃさま」
勇者「大丈夫だ、俺の後ろに隠れてろ」
僧侶「ゆーしゃさま……」
おっさん「いくぞ……」シュタッ
勇者「(速いっ!)」
ガギィィィンッ
おっさん「おらっ! どうした! 踊ってんじゃねぇぞ!」
キィンッギィンッカァンッ
勇者「くっ……このっ……!」
僧侶「ゆーしゃさまが……! 何とかしないと……(一瞬でも奴の気を逸らせれば……)」
僧侶「そうだっ!」
僧侶「むぅ~~~んっ」
おっさん「オラオラッ!」キィンッ
勇者「クッソォ!(このまま打ち合ったらこっちの剣が持たねぇっ!)」ギィンッ
僧侶「ゆーしゃさまっ! これを!」ゴロゴロ
勇者「!!!(僧侶の杖……? ……そうかっ!)」
おっさん「そろそろ終わりにしてやるよォ!」ブゥンッ!
勇者「うぉぉぉっ!」
ガギィィッ
おっさん「なっ!!!」
勇者の剣が大きく敵の斧を弾いたと同時に、その剣身が舞う。
おっさん「は、ハハッ! 一度弾いたぐらいで折れるとはな!」
勇者「だが折れたのは俺達じゃない、ただの剣だ」
おっさん「なにぃ?」
勇者は素早く床に転がっている僧侶の杖を蹴り上げる。
おっさん「そんな杖でどうにかなると思ってんのかァ!!!」ブゥンッ!
勇者「僧侶!!!」
僧侶「はいっ!」
僧侶「……バギ!」
真空刃が襲いかかる!
おっさん「ぐぅんっ……何故杖から僧侶の魔法が」
勇者「うちの僧侶は賢いからな、杖に魔力を込めてからの遠隔呪文もお手の物なんだよ!」
僧侶「えへへ///(誉められちゃったっ)」
おっさん「だがっ……まだだッ!」
勇者「いい加減にくたばれってんだよ!」サッ
おっさん「その構えはさっき見たわい! 出せもしないものを!」
勇者「そいつァどうかな!!!」
おっさん「うおおおおおっ!」
勇者「食らえええええええええええっ!!!!!!!!!!!!」
勇者「ギラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼あああああああああ」
おっさん「あづぅい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛…………が……はっ……」バタリ
勇者「はあ……はあ……はあ……」
僧侶「……ゆーしゃさま」
勇者「……やったかっ!?」
僧侶「ゆーしゃさま! それは言っちゃ駄目なやつですよっ」
勇者「そうだったか? まあ何はともあれ始まりの塔攻略だぜっ!!!」
僧侶「はいっ!」
おっさん「(覚えていろ勇者め……! この借りはいつか必ず返すからな!)」
せっかくなので屋上まで登ったようです。
勇者「ひゅぅ~たっけぇ~」
僧侶「高いですね~」
勇者「だな~。しかし攻略した後のダンジョンほどもの悲しいものはないな」
僧侶「そうですか? 私は無事に終われた~って思いますけど」
勇者「勇者だからかな。ここから見える景色ぜ~~んぶ救ってやりてぇっ! てなるのよ」
僧侶「ふふっ、ゆーしゃさまらしいです」
勇者「そういやさっきから一生懸命何書いてんだ?」
僧侶「日記です。いつもは寝る前に書くんですけど今日はこの景色も入れたくて」
勇者「ほ~、僧侶絵上手いな!」
僧侶「そうですか? ありがとうございますっ」
勇者「なになに~? 『ゆーしゃさまとこの前のリベンジに成功ですっ! ボスはとても強かったけどレベルが上がって強くなったゆーしゃさまはもっともっと強かったってことですねっ!
ゆーしゃさまと初めてクリアしたダンジョンの絵図
これからも二人で頑張りましょうね! ゆーしゃさま』」
僧侶「読まないでくださいぃ~っ! 恥ずかしいですから///」
勇者「なんでだよ。良く書けてるじゃん。よ~しじゃあ勇者直筆のありがた~い言葉を」カキカキ
僧侶「もうっ…ゆーしゃさまったら」
────
勇者「僧侶ー次の村まで後どれぐらいなんだ?」
僧侶「ん~…後10kmぐらいですかねー」
勇者「夕刻までには着けそうだな」
僧侶「ですねー」
ガサガサッ──
僧侶「っ! ゆーしゃさま! モンスターです!」
勇者「おうよ!」
カラス「グワァグワァ」
勇者「行くぜぇぇええっ」
勇者「……あ。そういや剣折れたんだった」
僧侶「ゆーしゃさま危ないっ!」
カラス「グワァッ!」
勇者「なんのっ! ホーワッチャァッ!!!」
カラスに16のダメージ。
モンスターを倒した。
僧侶「さすがですゆーしゃさま! 拳でモンスターを薙ぎ払うなんてっ」
勇者「意外といけるもんだな…武闘家に目覚めそうだぜェ」コブシプルプル
僧侶「……でも、やっぱりゆーしゃさまは剣を振るっている姿が一番カッコいいですよ」ニコリ
勇者「そ、そうか? まあ勇者と言えばやっぱり剣で戦うイメージだしな! 次の村にいい剣あるといいなー」
僧侶「そうですね♪」
勇者「なんか楽しそうだな僧侶」
僧侶「ゆーしゃさまの隣にいると毎日が楽しくてしょうがないですよー♪」
勇者「ハハッ、変なやつー」
僧侶「え~普通ですよ~」
────
短編 初夜
勇者「次の村についたぞ~」
僧侶「ついたぞぉー」
勇者「今日はもう遅いし宿屋に行くか」
僧侶「宿屋……ですか!」ドキドキ
勇者「ああ。野宿は色々危険だからな」
僧侶「そ、そうですね……」
勇者「うぃ~っす。部屋空いてる?」
宿屋の主人「これはこれは勇者様。よくぞおいでくださいました」
勇者「あ、わかる? やっぱり勇者ってわかっちゃう?」
主人「それはもう。その身に纏うオーラを見れば一目瞭然でございます(頭につけてる神託の証見りゃ誰でもわかるっつーの)」
勇者「やっぱオーラとか出ちゃってるか~」
主人「お部屋の方はどうなさいますか?」
僧侶「!!!」
勇者「え~と一部屋d」
僧侶「ゆ、ゆ、ゆ、ゆーしゃさまっ?! 確かに私達は共に冒険する身でございます……デ、デ、ですがまだその心の準備があのぅそのぅ……」
勇者「ん??? どうした僧侶」
僧侶「ぅぅん~んぅん~」
主人「一部屋でよろしいですか?」
勇者「えっ、ああ、は「わああああああああああああああ~」タッタッタッ
勇者「僧侶ーッ?!!」
チラッ
壁∥僧「....シングル2つじゃ……ダメですか?」ジーィッ
勇者「いや……別にいいけどさ」
主人「シングル二つですね。かしこまりました(死ねばいいのに)」
短編 お金がない!
勇者「よ~し足りない物補充したりすっか~」
僧侶「はいですっ!」
勇者「何が足りてない?」
僧侶「え~と……まずは薬草ですかね。それとこの辺りは毒を持つ魔物が多いのでどくけしを多目に買っておいた方がいいかもしれません!」
勇者「薬草にどくけしね、おKおK」
────
商人「ラッシャイ」
勇者「薬草とどくけし10づつ頼むわ」
商人「ヘイッ」
勇者「他に何かあるか?」
僧侶「そうですね~……魔法のせいすいや麻痺を治すまんげつそうなんかもあれば良いかもしれません!」
勇者「じゃあそれも買っとくか」
勇者「他には?」
僧侶「アイテムはこのぐらいですかね」
勇者「了解。武器と防具見に行くか」
僧侶「は~い」
────
勇者「ん」
商人「ヤスイヨヤスイヨー」
勇者「お、雑貨屋か」
僧侶「わぁ」キラキラ
勇者「……ちょっと覗いてくか」
僧侶「はいっ」
商人「ヤスイヨヤスイヨー」
僧侶「これもかわいい~あれもかわいい~」キャッキャッ
勇者「(やっぱり女の子なんだよな……)」
勇者「(まだ色々遊びたいオシャレしたい年頃だろうに……ごめんな僧侶)」フゥ…
僧侶「ゆーしゃさまゆーしゃさまっ」
勇者「ん、どした?」
僧侶「この腕輪をつけると力が上がるそうですよっ! ゆーしゃさまに凄く似合いそうですしどうですか!?」
勇者「いや……俺はいいよ」
僧侶「そうですか……」シュン
勇者「それより僧侶が欲しいの言えよ! 買ってやるぞ」
僧侶「ほんとうですかっ」パァ
ひそひそ……ひそひそ……
勇者「ああ。勇者に二言はないぞ」
村人「」ひそひそ
村人「」チラッ
僧侶「……。やっぱりやめておきます。勇者様が買わないものを私がねだるなんてはしたないですから……」
勇者「そんなこと気にしなくていいんだよ」
僧侶「いえ、私達は人々を救うために旅をしているのを忘れてました。こんなわがままが許される立場じゃないんです」
勇者「なら俺も買えば買うんだな?」
僧侶「え、いや、あの…」
勇者「俺が買えって言ったら買うんだな?」
僧侶「そ、その……必要なら」
勇者「よし、じゃあ買うぞ! お揃いだお揃いのやつ買ってやる嫌がらせだハハハ」
僧侶「ゆ、ゆーしゃさまっ」
勇者「人目があるからって畏まることなんかねーんだよバカ」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「親父ぃ! これと似たようなのでかしこさ上がる奴ある?」
商人「アルヨーアルヨー」
僧侶「ゆーしゃさまには何でもお見通しなんですね……」
僧侶「はあ~…ほわぁ~…綺麗ですね~…」ウットリ
勇者「いつまでも見てんなよー。武具見に行くぞ」
僧侶「は、はい」
勇者「」
僧侶「(しかもゆーしゃさまとお揃い……嬉しいなっ)」ニコニコ
勇者「武器見ていいッスか?」
武器屋「おう! 好きなだけ見ていけや」
勇者「ほうほう……」ジィー
僧侶「(武器かぁ……お姉ちゃんにもらった杖があるからしばらく必要ないかなぁ)」
僧侶「(ゆーしゃさまに似合いそうな武器でも探してよう)」
僧侶「(ドラゴンキラー……カッコいいけど高そう)」
僧侶「(常闇の剣……これを持ったゆーしゃさまはきっとカッコいいだろうなー……でもお値段が……レンタルとかないのかな??)」
僧侶「ゆーしゃさま~いいの見つかりました?」
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……銅の剣さえ買えん……」
僧侶「え……?」
勇者「お金がない!」
僧侶「ええええっ! あっ……もしかしてさっき腕輪を買ったから……」
勇者「いや、あれは2つで100Gの安物だから気にしなくていい(ほんとは二つで500Gだったけど)」
僧侶「そ、そうですか……」
勇者「予算的に銅の剣ぐらいは買えると思ったんだが……まさか1000Gもするとは」
武器屋「今銅の価値が上がっててな。銅製品は軒並み高いんだ」
勇者「ぐぬぬ……しかし鉄系は更に高いし……」
僧侶「……ゆーしゃさま! 今いくらぐらいありますか?」
勇者「500Gぐらいかなぁ」
僧侶「ならこの杖を売ればきっと買えますよ! この杖は銅が多く使われてますから。どうですかおじさん?」
武器屋「うむ、確かにいい銅が使われているな。これなら1000Gで買い取ろう」
僧侶「これで剣が買えますねゆーしゃさま!」
勇者「いや、駄目だ」
僧侶「どうしてですか!?」
勇者「姉さんからもらった大事なものだろ。それを売るなんてとんでもない、ってな」
僧侶「でも……」
勇者「なーに500Gなんてちょっとモンスター倒しまくれば楽勝さ。レベル上げにもなるしな」
僧侶「でも……」
勇者「ほら、行くぞ」
僧侶「はい……(ごめんなさいゆーしゃさま、私が無駄遣いをさせてしまったばかりに……)」
僧侶「(なんとか挽回しないとっ)」
────
勇者「ふぅ……(一回の戦闘で平均10G……50回戦闘してようやくってとこか。今夜は野宿だな……)」
勇者「悪い僧侶。今日は野宿でいいか? 見張りは俺がやるから」
僧侶「いえ、交代でやりましょう」
勇者「悪いな」
僧侶「(ゆーしゃさま……私に気を遣いすぎです……。そんなに頼りにならないのかな……私)」
────
勇者「ふ~ちょっと休憩するか」
僧侶「はい」
勇者「さすがに素手だと疲れるなー」グゥゥ~
勇者「(腹減ったなーでも我慢我慢)」
僧侶「ゆーしゃさま、ご飯にしましょうか」
勇者「いや、俺のはいいよ。僧侶はこれでパンとか買って来いよ」
僧侶「もうっ! そう言うと思ってました」ササッ
勇者「ん? 鍋?」
僧侶「ちょっと借りておきました。山菜何かも集めておきましたから」
勇者「おおおでかした僧侶!」
僧侶「金銭の問題はこれからも出てくるでしょうし二人で解決して行きましょうゆーしゃさま」
勇者「……ん、わかった」
僧侶「では、今日も神に感謝していただきましょう」
勇者「ありがたやありがたや」モグモグ
僧侶「もうゆーしゃさまったら! いただきますもせずにー」
勇者「腹減ってたんだからしょうがッ……」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……」
僧侶「料理は姉上の手伝いしかしたことないのですが……その……上手に出来てるでしょうか?」
勇者「ンゴリョ……」ブクブク
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「ゴグゲジ……ハヤ……グ」
僧侶「もう一度お願いしますゆーしゃさま」
勇者「……」ガクッ
†勇者†「」チーン
勇者は死んだ
僧侶「ゆーしゃさま?」ユサユサ
†勇者†「」
僧侶「ゆー……しゃ…さま……?」
勇者は死んでいるようだ
僧侶「そんな……どうして」
僧侶「どうしていつも僧侶を置いて逝くのですっ」メソメソ
僧侶「原因は一体……」
僧侶「……」
僧侶「!」
僧侶「さっき戦ったモンスターが毒を持っていて拳から体に……!」
僧侶「勇者様の体調に気づけない僧侶など僧侶失格です……」
僧侶「かくなる上は私も毒を飲んで同じ苦しみを味わって死にますっ!」
僧侶「薬屋のおばさまから教えてもらったこの毒草を食べて!」モグモグ
僧侶「」モグモグ
僧侶「うぐっ……」モグモグ
僧侶「苦しい……勇者様もこんな思いをなされたのですね」モグモグ
僧侶「……」モグモグ
僧侶「……この毒草と鍋に入ってる草似てるような……あっ」
チーン
†僧侶†
────
アサチュンアサチュン
木こり「ふぅ、今日も仕事がんばるべ」
†勇者††僧侶†
木こり「んごぉっ!? こりゃあ勇者様と僧侶様でねーが!」
†勇者††僧侶†
木こり「し、死んどっぺぇ!」
木こり「協会へ連れてくべ! あ、うちの協会の神父様旅行中だったんだったっぺ」
木こり「始まりの村に送り届けるっぺ」
木こり「ルーラすっぺルーラ」
始まりの村 協会────
†勇者††僧侶†
僧侶姉「……」
僧侶姉「どうしてあんたらはいっつも二人仲良く死んで帰って来るのかしらね」
僧侶姉「しかも外傷なしなんてどうやって死んだのよ全く」
僧侶姉「はあ……身内だからって安くしないわよ」
僧侶姉「勇者の御霊を戻したまえ~ザオリク」
勇者「ふぉぉお!?」
僧侶姉「我が妹よ~蘇れ~ザオリク~」
僧侶「ふぇっ」
僧侶姉「今度はどうしたのお二人さん」
勇者「僧侶ォォォォォ」
僧侶「ごめんなさいごめんなさいっ」
僧侶姉「先に事情、ね?」ニコリ
勇者「は、はい」
────
僧侶姉「なるほどねぇ、まあ旅をする中で金銭問題は避けられないわよね」
勇者「みんな魔王を倒して欲しいなら勇者にもっと優しく(全部ただに)すべきだと思うんだけどな」
僧侶「いけませんよゆーしゃさま。人々にも生活があるのです」
僧侶姉「そうよ。勇者だろうが何だろうがこっちだって生きてく為に商売やってんだから貰うものはキッチリ貰わないと」
僧侶姉「修行時代に溜まった借金だってまだあるんだからさっさと魔王倒してもらわないと困るのよね」
僧侶「修行時代?」
勇者「そ、その話はなしでお願いします」
僧侶姉「全くもう……はいこれ」
僧侶「これは?」
僧侶姉「二つ目の村に設定してあるルーラ石と食べられるもの食べられないもの大百科よ。料理は自分で何とかして覚えなさい」
僧侶「ありがとうございます姉上!」
僧侶姉「それとあんた達、ちゃんとお互いに言いたいこと言ってる?」
勇者「うっ」
僧侶「うぅっ」
僧侶姉「やっぱり図星か……。あのねぇ、これから長旅やって行こうって言うのにそんなんでどうすんのよ」
僧侶姉「久々に再会したからってお互い気遣ってちゃ魔王なんて倒せないわよ?」
勇者「……!」
勇者「僧侶……!」
僧侶「は、はい」
僧侶姉「(と焚き付けてみたものの……)」
勇者「」ドキドキ
僧侶「」ドキドキ
僧侶姉「(早くも告白フラグ来たかこれは)」
勇者「……、俺達は仲間だ。辛くなったり、苦しかったら正直に言ってくれ。我慢だけはするな」
僧侶「はい……」
僧侶「私からもいいですか?」
勇者「おう!」
僧侶「では……。ゆーしゃさまは私に気を遣いすぎです。気を遣ってくれるのは嬉しいですけど……私がこの旅に臨む覚悟を侮らないでください!」
勇者「……わかった」
僧侶「約束ですよ」
勇者「ああ!」
僧侶姉「(まあ……こんなもんか。まだ序盤だしさすがに)」
僧侶姉「(でも……あなた達が思っているような簡単な道じゃないわよ……魔王討伐は)」タユン
勇者「む、邪気がするな……」
僧侶「さすがゆーしゃさま! では早々に旅路に戻り……」
勇者「この辺りから邪気が……」ジーィッ
僧侶姉「……」
僧侶「……ゆーしゃさま」
勇者「どうした僧侶? え、なんだこの石。あ、待って、僧侶さんここ教会の中だからルーラ唱えたら天井にゴンッってなる」ゴンッ
僧侶姉「(駄目だこりゃ……)」
46 : 以下、名... - 2012/09/28(金) 06:22:45 YW5/CI3c 46/1103今日はここまでで
このお話は
短編何個か→長編
構成となっております
短編のお題は随時募集中です
短編 僧侶の日記
勇者「ぐが~すぴ~……」
僧侶「ふふ、ゆーしゃさまの寝顔かわいい」
僧侶「さ、日記書こっと」
━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 二の月
今日も色々なことがありました。
まずはお金を稼ぐ為に二人で村の人のお手伝いをすることにしました。
ゆーしゃさまは私達をお姉ちゃんのところに連れてきてくれた木こりさんと山に薪集めに。
私はモンスターが嫌がる毒草をくださったお婆様のところで店番です。
店番の最中にも色々お話や草木の種類などを教えてもらい凄く為になる時間でした!
ゆーしゃさまも「必殺技を会得したぜ……」腰プルプル
と言って嬉しそうにしてました!
そしてモンスターを倒して得たお金と合わせ1000G貯まり、ゆーしゃさまは無事銅の剣を買うことが出来ました!
今も大事そうにベッドの横に立て掛けています。よっぽど気に入ったんですね!
こういうことが何回もあるだろうからこれからはもう我が侭を言わず部屋も一部屋、お金は大事に!で行こうっ!
でもやっぱりゆーしゃさまと同じ部屋で寝るのはドキドキするな~ぁっ
━━━━━━━━━━
僧侶「これでよしっと」
勇者「んむ」
僧侶「あっ、ゆーしゃさま。起こしちゃいましたか?」
勇者「……ぉ~あんなとこにも薪が……」
僧侶「ふふ、夢の中まで拾うぐらい楽しかったんですね」ニコッ
僧侶「おやすみなさい。ゆーしゃさま」
長編 眠れない村
勇者「ふ~やっとついたな」
僧侶「遠かったです~」
勇者「とりあえず宿から取るか。夜になると混むからなー」
僧侶「ですね」
勇者「すいませーん」店主「」
勇者「ん? もしもーし」
店主「」
勇者「……おーい」
店主「」
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま……これって」
勇者「ああ……」
勇者「死んでる!!!」
僧侶「えぇっ!?」
店主「いや生きてますよ……」
勇者「なんだ生きてたのか。なら早く部屋案内してくれよ」
店主「……他所の方でしたか、すみません。何せ三日も寝てないもので」ボソッ
店主「お部屋は全て空いているのでどこでも好きなとこをお使いください。お代も結構ですから」
僧侶「それって……?」
店主「もう店を閉めようかと思ってるんです。こんなものがあっては村のみんながムシャクシャするだけですから……」
僧侶「何かあったんですか?」
店主「いや……お客さん達は悪くないんです。寝ることなんて当たり前のことなんですから」
勇者「……僧侶、行くぞ」
僧侶「ゆーしゃさま? 話は聞かなくても?」
勇者「いいから」
僧侶「んー……」トボトボ
店主「……はあ」
────
僧侶「どうして話を聞かなかったんですか? ゆーしゃさま」
勇者「それには何個か理由がある」
僧侶「理由、ですか?」
勇者「まず一つは俺の頭につけてる神託の証を見て反応がなかったこと」
僧侶「ゆーしゃさま……いくら気づかれなかったからって」ジトー
勇者「ちがわいっ! まあそれもちょっとあるけど……まあ勇者ってのは万人御礼好かれてるわけじゃないんだよ」
僧侶「……そうでしたね」
勇者「中には反勇者国家もあるぐらいだしな。ここは記録がないから何とも言えないけど」
僧侶「反勇者国家と言うのを警戒して敢えて名乗り出なかった、と言うわけですね」
勇者「ああ。まあ反勇者国家なら神託の証を見た瞬間鬼の首を取ったかの様に責め立てて来るがな」
僧侶「……他の理由は何ですか?」
勇者「さっきの店主の目、見たか?」
僧侶「はい……、瞬きもせずにずっと目を開いてました」
勇者「……多分あれは魔物の呪いによるものだ」
僧侶「魔物っ……ですか」
勇者「僧侶はモンスターと魔物の違い知ってるか?」
僧侶「はい。知識を有して悪を成すものが魔物、本能で人を襲うのがモンスター……と習いました」
勇者「その通りだ」
勇者「つまり魔物は人形(ヒトガタ)足りうる、魔王に魂を売った人間もその中に入るからだ」
僧侶「すると……!」
勇者「この村の中に魔物がいる可能性もある」
僧侶「ゆーしゃさまっ! こうしては居られませんっ! 早く村の皆さんを魔物から解放しないと!」
勇者「落ち着け僧侶。そうやってことを大きくすれば村の中にいる魔物にも見つかる可能性が高い。
そうなれば危険に晒されるのは村人だ。
だから俺達はあくまでも外から来た旅の者を装いつつ魔物を見つけなきゃならない」
僧侶「ゆーしゃさま……だから名乗らなかったのですね」
勇者「そういうことだな」
僧侶「さすがですっ! ゆーしゃさま!」
僧侶「……さっきはちょっとゆーしゃさま冷たい……とか思ってました! ごめんなさい……」
勇者「いいさ。それよりも魔物だ。僧侶、実際に人の目を開いたままにする呪文ってあるのか?」
僧侶「ん~……と、目を覚まさせる魔法何かはありますけど効果も一時的な物ですし」
勇者「店主は三日も寝てないと言ってたな」
僧侶「三日間も目を開けっ放しなんて……」
勇者「ああ。恐らくさっきのは気絶してたんだろう。今の状態なら気絶ですら救いなのかもな」
僧侶「眠れないから気絶なんてぇぇ……悲しすぎますっ」
勇者「何にしても情報が足りない。怪しまれないように手分けして村人に話を聞いて回ろう」
僧侶「わかりました!」
勇者「何かあったらすぐ呼ぶんだぞ、いいな?」
僧侶「はいっ!」
勇者「じゃあ1時間後にまた部屋でな」
僧侶「はい!」
────
店主「お出かけですか?」
勇者「はい。ちょっと買い物に」
店主「何のもてなしも出来ずにすみません旅の方」
勇者「いえ、お構い無く。では」
店主「……」
────
────
僧侶「あの、すみません」
おばあさん「……」
僧侶「すみません」
おばあさん「……なにか?」
僧侶「あの……宿の方に村の方達が眠れない病にかかってしまったとお聞きして」
おばあさん「ッ!!! ほっときなっ! あんたら外者には関係ないことだろうッ!!!」くわっ
僧侶「あのっ、えっと……すみません」
僧侶「……ヒスの葉で作った目薬です。ヒスは目に良いので……良かったら使ってください」
おばあさん「……目薬がなきゃみんな目が渇いて死んでるんだから当然持ってるよ。……でも、ありがたくもらっとくよ」
────
勇者「どうだった?」
僧侶「皆さん気が立ってて目薬を渡すのが精一杯でした……ゆーしゃさまは?」
勇者「俺も似たようなもんさ。聞き出せたのは最近ベッド新調したばかりなのに寝れないとかの愚痴だけだな」
勇者「ま、そうだよな。宿に泊まってこれからグースカ寝る旅の奴見てイライラしない方がおかしい」
僧侶「じゃあ魔物は……」
勇者「……それだがな、実はもう目星はつけてあるんだ」
僧侶「本当ですかゆーしゃさまっ!?」
勇者「ああ。村人を見て唯一共通すること、それはみんな同じ目薬を持ってたことだ」
僧侶「確かに持ってました!」
勇者「多分日頃から差してたんだろうな。魔物はそれをすり替えた」
僧侶「じゃあ……!」
勇者「恐らく薬屋の店主が魔物と見て間違いない……!」
僧侶「では今すぐ乗り込んで退治を!」
勇者「待て待て。もう夜も遅い。闇に乗じて逃げられでもしたら厄介だからな。明日の朝に踏み込もう」
僧侶「っ……! はい……、明日には村の方達みんなゆっくり寝れますよね……ゆーしゃさま」
勇者「ああ。きっと大丈夫だ」
勇者「……きっとな」
━━━━━━━━━━
「…………」
────
勇者「ぐがぁ~すぴぃ~」
僧侶「すぅ……すぅ……」
「……ククク、バカな奴らだ」
「お前達も眠れない恐怖に怯えながら死んで行くがいいわ」
勇者「ぐが~ずぴぃ~」
「ふふ、最後の夢だ……精々楽しむんだな」
勇者「ぐが~……ギラ」ボワッ
「なにっ!!? ぐうぅっ!」
勇者「狸寝入りも楽じゃねぇな全く。いびきのかきかたなんざわからないっての」
「貴様……! 何故!?」
勇者「何故? そんなもん最初から全部わかってたからに決まってんだろ……なあ、宿屋の店主さんよ」
店主「……」
店主「貴様……いつから」
勇者「まず怪しいと思ったのは神託の証に反応しなかったことだ。こう言っちゃなんだが勇者が誕生した御触れってのは知らない人がいないってぐらい人から人に伝わる。それは神託の証も同じだ」
店主「神託の証……だと!? そんなもの……」
勇者「ところが神様は面白いことをしてだな……なぁ、今あんたの目には俺の頭にあるものが見えるか?」
店主「何を……はっ! まさか……!!!」
勇者「その通り。神託の証は魔物には見えない」
勇者「これつけて話を聞いたらみんな快く応じてくれたよ。三日前にみんなベッドを新調してるそうじゃないか。
しかもタダで……。
タダより安いものはない、そのベッドを媒介にして呪いを発動させたんだろう?」
店主「くっ……!」
店主「おのれ……! まさかもう勇者が来たとは……!」
店主「いや……これは寧ろチャンスか。魔王様の完全復活の前に勇者を倒したならその恩恵は計り知れない……!」
勇者「魂を魔王に売ったか……そうした者の結末も知らずに」
店主「何を言うか! この力、この魔力、どれをとっても素晴らしい……!」
店主「魔王サマに忠誠をチカッタカラこソコノ力が手ニ入ったノダ」グチャリ……グシャッ
勇者「ならばせめて人の体(てい)を成したまま逝け」シュタッ、ザンッ
店主「バ、バカ……な。心臓を……」
勇者「……」
店主「まさか……人を殺すとはな……」
勇者「お前はもう人じゃない」
店主「魔物になる前なら人だ……ろう」
勇者「……見た目はな」
店主「……人殺しの勇者め。呪われろ」
勇者「……」
店主「魔王様に栄光あれ、魔王様に永劫あれ!」
勇者「」グシャリッ
店主「ぐふっ……ゆうしゃ……に、のろい……あれ」サラサラサラ……
勇者「……勇者を舐めるなよ、魔物」
勇者「俺はこいつを守るためなら何だってやる。例え本当の人を殺すことになっても……」
僧侶「くぅ……くぅ……」
────
チュンチュン
トントン、トントン
僧侶「ん……」
勇者「ふぁ~……どうした?」
僧侶「お客様みたいですよゆーしゃさま」
勇者「そうりょ~出てくれ。俺はまだ眠いZzz」
僧侶「もう……ゆーしゃさまったら」
僧侶「はーい、どちらさまですか?」ガチャ
村人「あんた旅の人だよなっ!!? 昨日目薬配ってくれたっていう!」
僧侶「えっ、は、はい……そうですけど」
村人「その目薬俺にもくれないか!? 頼むよ! それ使った隣の婆さんが熟睡出来たって自慢しに来てよ!!!」
僧侶「え、えぇぇぇっ!?」
村人B「俺にもくれ! 金ならいくらでも払う!」
村人C「私も! お願いします!」
僧侶「わっ、ちょっ、そんないっぱいは」
勇者「よ~し、じゃあ今から村人全員で僧侶の目薬作製大会でもやりますかー」
村人「そらきた! 材料はなんだい!?」
僧侶「ひっ、ヒスの葉です!」
村人B「家の裏庭にビッシリ生えてら! 取ってくる!」
村人C「私は他の村のみんなに言ってくるわね!」
僧侶「一体何がどうなって……」
勇者「きっと僧侶の目薬が呪いを打ち消したんだな!」
こうして、村の皆さんと一緒に作った目薬により眠れない村は一転して眠りの村と化したのでした。
村の子供「くぅ~」
僧侶「ふふ、気持ち良さそう。きっと良い夢見てるんだね」
勇者「まだ真っ昼間ってのに村人全員爆睡なんてそう見られるもんじゃないな」
僧侶「そうですね……。ゆーしゃさま」
勇者「ん?」
僧侶「……今回のことは、その……」
勇者「いいじゃねーか。こうやって無事解決したんだからさ。終わりよければ全て良しってな」
僧侶「……そう、ですね」
僧侶「本当に良かった」ニコッ
勇者「さっ、起こす前に次の村に行こうぜ」
僧侶「はいっ!」
次の日、村人は全員見た同じ夢を口々に話したそうな。
それは旅をしている勇者と僧侶がこの村を救う夢だったことを、二人は知らない。
短編 旅の扉
勇者「この旅の扉を越えて行けば港町だな」
僧侶「いよいよこの大陸を離れるわけですね! ちょっと寂しいけど確実に前に進んでると思うとやっぱり喜ばしいです」
勇者「……なあ、僧侶」
僧侶「はい?」
勇者「旅の扉って誰が作ったんだろうな」
僧侶「……そう言えば誰が作ったんでしょう。聞いたことがないですね」
僧侶「初代勇者様の冒険譚には既に旅の扉のことは記されてますから、それ以前に出来たものなのは確かですけど」
勇者「作ったのは勇者でも神でもない……なら人なんだろうな」
僧侶「昔は戦争が絶えなかったそうですからその名残かもしれませんね」
勇者「戦争か……旅の扉の中には大陸すら一瞬にして飛び渡る物もあるらしいしな。確かに攻め入るにはいいかもしれない。逆に利用されそうでもあるが」
僧侶「旅の扉って何だかルーラに似てますよね」
勇者「確かに……ってことはルーラは旅の扉を模して作られた呪文なのかもしれないな」
僧侶「でも昔の呪術書にはルーラは古代の神々が移動の為に使ったものと記されていました」
勇者「となるとルーラを模して作ったのが旅の扉なのか……」
僧侶「でも初代勇者様の冒険譚には作り出したのは偉大な魔術師らしいが自分以外に使ってるのを見たことないと表記されてましたよ」
勇者「卵が先が、鶏が先か……か。謎は深まるばかりだな」
勇者「しかしまあその神々の移動手段も今やこの石ころ一つで出来るもんなぁ。ロマンがないと言うか何と言うか」
僧侶「ルーラ石のおかげで貧困の村が減りましたし、商業も著しく発展したんですから良いことじゃないですか。
それに貴重な物には変わりありませんからね!」
勇者「ま、そうなんだけどな」
勇者「うっし、時代も感じたことだし渡るとしますか」
僧侶「はいっ」
勇者「おーぅ……これが噂の旅の扉か。実物を見るのは初だな」
僧侶「何だか風車みたいですね!」
勇者「これに乗っかればいいのか?」オソルオソル
勇者「うおっ」
僧侶「きゃっ」
勇者「視界が歪むっ……」
僧侶「目が回りますゆーしゃさま!」
勇者「ぐにゃぐにゃしながら回転しつつ浮遊感がああああああ」
僧侶「うぐぅぅぅぅ」
勇者「そして重力に引かれるように落ちるううううううううう」
僧侶「」
ズォン……
勇者「……そ、僧侶……無事か?」
僧侶「きもちわるいです……ゆーしゃさま」
勇者「俺もだ……噂には聞いていたがここまでハードとはな……。どこか木陰で休もう」ノロノロ
僧侶「うぅ……歩くのもやっとです……」ノロノロ
勇者「後ちょっと……」
モンスター「ギュエェェェェ」
モンスターが現れた!
僧侶「ゆーしゃさまぁっ! モンスターが!」
勇者「クソォォォォォ何てタイミングの悪い!」
勇者「てかこいつら何匹いやがるんだァァァァァ」
僧侶「きっと焦点が合ってないからいっぱいに見えるんですよ!」
勇者「なるほど! よっしゃあ! ならとっとと片付けるぜ!」ヨロッ……ブンッ
テレレ ミス
勇者「やべぇどれが本物かわかんねぇ!」
モンスターのこうげき
勇者「ぐっふ……そこかァ!」スカッ
勇者「マヌーサかよォォォ」
僧侶「大丈夫ですかゆーしゃさま! ホイミ!」スカッ
僧侶「ゆーしゃさまにホイミが当たらないぃぃ~!」
────
チーン チーン
†勇者††僧侶†
「ん? あれは……」
────
「この者達の御霊を蘇らせたまえ……ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!」
ゴクゴク……
「スゥ……ハァ……御霊を蘇らせたまえ! ハッ!ザオラル!ハッ!ザオラル!ハッ!」
勇者と僧侶はなんと生き返った!
勇者「ぷっはぁっ!」
僧侶「んんっ!」
勇者「すいません違うんです悪いのは旅の扉なんですだから怒らないでください姉上様ァァァァァ……あれ?」
僧侶「さっきの場所のままですね」
「やあ、お目覚めかい?」
勇者「あんたは……?」
「っとメモってなかった。これでザオラル212/1280……っと、今日は調子が良かったな」
僧侶「もしかして私達を助けてくださったのは……」
「ああ。僕だよ。何、金を取るつもりはない。辻ザオラルが趣味でね。旅をしては良くやるんだ」
僧侶「ありがとうございます! 僧侶様でしたか」
勇者「何か僧侶っぽくない格好だな」
「僧侶がみんなノッポ帽被ってると思わないことだね」
僧侶「(これ可愛いのになあ)」
「神託の勇者に、君も僧侶だったか。いいデザインの教服だね」
僧侶「あ、ありがとう」
勇者「何にしても助かったよ。この辺は人通りも少ないし下手したら死体ごとモンスターに食われてたぜ」
僧侶「本当にありがとうございました。何かお礼が出来れば良いのですが……」
「気にしないでくれ。本当に好きでやってるだけだからね」
僧侶「でも……」
「そこまで言うならそうだな……その腕輪を貰おうか」
僧侶「えっ……これ……ですか?」
「ああ。なかなかに造形が気に入ったよ」
僧侶「あの……これは……」
「あれ? さっきまでのお礼をしたいって気持ちは口だけだったのかい?」
僧侶「違います! けど……これだけは……駄目なんです」
勇者「構わねぇよ。命の恩人が欲しいって言ってるんだ。礼儀には礼儀で返さないとな」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「(また買ってやるから、気にすんな」
僧侶「……わかりました」スッ
「……駄目だな、それじゃあ駄目だ」
僧侶「えっ」
「本当に大切な物なら醜くてもいいから守り通さないと。どんどん手から溢れ落ちて行く」
僧侶「あなたは……」
「勇者、君もだ」
勇者「俺も……?」
「次へ次へと捕らわれると後ろを見なくなってしまう。たまには振り返ることも必要だよ」
勇者「一体あんた何者だ?」
「そうだな。旅僧侶と名乗っておこうか」
旅僧侶「では、僕は先を急ぐよ。良い旅を、勇者御一行」
僧侶「あのっ! やっぱり何かお礼を!」
旅僧侶「君も義理堅いね。じゃあそうだな……もし次に会った時、面白い話でもしてくれ」
勇者「それなら任せとけよ、既に何個もあるからな」
旅僧侶「ふふ、期待しとくよ。では」
勇者「変わった奴だったな……」
僧侶「はい……でも悪い人じゃないと思います。これを見てくださいゆーしゃさま」
勇者「小瓶…か?」
僧侶「はい。私達を生き返す為に使ってくれたんです」
勇者「本当……よくわからんやつだったな」
僧侶「そうですね(本当に大切なものは醜くても守り通さなければいけない……確かに、そうなのかもしれません)」
勇者「さ、俺達も行こうぜ。港は目前だ」
僧侶「はいっ」
短編 航海/僧侶音痴疑惑
僧侶「ゆ~しゃさま~海ですよ海ぃ~!」
勇者「深そうだな~おい!」
僧侶「あっ、カモメ! 可愛い~」
勇者「うおっ、さっきなんかデカいのいた! 魚影ヤバかった!」
僧侶「潮風が心地良いですー」
勇者「なんか跳ねた! なあ僧侶さっきそこででっかいのが跳ねたぞっ!」
僧侶「ゆーしゃさま……ムード台無しですっ……」
勇者「いや~海はやっぱいいな~ロマンがあるよなロマンが」
僧侶「もぅ。あ、そうだ。ゆーしゃさま海の歌は知ってますか?」
勇者「お~あれだろ? 海は広いな美味しいなとかいう海の幸に感謝する歌だ」
僧侶「違いますよっ! いいですか?」
僧侶「う~↓み~↑は~↑広い~↓なっ↑~大きい~←→なぁ~ぁ~↑→↓←っは」
勇者「えっ……(おい音痴ってレベルじゃないぞ)」
僧侶「つぅ~↓きぃ~↑が~→のぼるしぃ~↑日はしぃずぅむぅ~↑→↓↑→」
勇者「(最後の伸ばしはなんだろう……旅の扉でも表してるのか?)」
僧侶「どうでしたっ!? ゆーしゃさまっ」ニコニコッ
勇者「(はっ! 童心無垢な笑顔の僧侶さんがこちらを見てらっしゃる……!)」
勇者「(さて……どうしたもんか)」
勇者「(ここは僧侶の為を思って素直にうん下手くそだなと言ってあげるべきだろうか……!)」
シミュレーション──
勇者「うん下手くそだな。てっきりモンスターの鳴き声の真似かと思ったぞ」
僧侶「ゆーしゃさま酷いっ! ならばお望み通り死んで魂を腐らせモンスターとなって差し上げます!」ドボン
勇者「僧侶ォォォォォ!」
────
勇者「(駄目だ僧侶なら本当にやりかねん……ならやはり誉めて伸ばすか……!)」
シミュレーション──
勇者「僧侶は歌が上手だな~」
僧侶「本当ですか!? ふふふっ、ならゆーしゃさまお墨付きの歌声を披露してきますねっ!」
勇者「僧侶ォォォォォ!」
勇者「(これも駄目となると……後は)」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……うっみはーんっ広いなっ大ひぃなぁはっ~」
勇者「月はっ~のぼる~しぃぃ~いいい~日は沈むぅぅぅうううんはっはああああんっ」
僧侶「……」
勇者「……」
僧侶「プッ、ゆーしゃさまって音痴なんですね!」
勇者「(さらば、俺の美声達)」
僧侶「ふふふっ」
勇者「(まあ、これぐらいの気遣いぐらいさせてくれよな)」
僧侶「じゃあちょっと甲板で歌って来ますね!」
勇者「はっはあああああああああんっ」
この後勇者は僧侶に歌の練習を付き合わされたのは言うまでもない。
短編 勇者
僧侶「町が見えて来ましたよゆーしゃさま!」
勇者「あれがこの世界でもっとも大きな港町か。確かにデカいな」
ブッーブッブッー
勇者「ん、なんだこの音」
僧侶「汽笛ですよゆーしゃさま。蒸気の勢いで鳴らしているそうですよ」
勇者「へー蒸気か。さすが都会、技術が進んでるな」
ブーブッブー
ブッブー
勇者「しかしこんな何回も鳴らすもんなのか」
僧侶「ここは貿易も盛んですから。きっと航路の確認とかじゃないですかね」
勇者「なるほど……ん、何か人だかりが出来てるな」
僧侶「ほんとだ。なんでしょうね」
勇者「なんかの祭りか? 祭りなのか!?」
僧侶「ゆーしゃさまはほんとお祭り好きですね」
勇者「早く降りてみようぜ!」
僧侶「あっ、ちょっと待ってくださいゆーしゃさま!」
────
勇者「出店、出店はないのか! 踊り子は!? 練り歩いたりしてないか!?」キョロキョロ
僧侶「そんなキョロキョロしたらお上りさんだと思われちゃいますよゆーしゃさま」キョロキョロ
港民「……様だ」
港民「間違いない! 神託の証だ!!!」
勇者「ん?」
「「「勇者様がこの町に降臨なされたぞ!!!!」」」
勇者「……」
僧侶「……」
勇者「なんか勇者様が降臨なされたお祭りみたいだな」
僧侶「えぇっ!? 反応薄いですよゆーしゃさま!? ゆーしゃさまのことですよゆーしゃさま!」
勇者「え? じゃあこの人だかりは俺が船から降りてくるの待ってたってこと?」
僧侶「そうですよっ!」
勇者「そんなバカな……だって他の村じゃそんなもの一切なかったし……」
僧侶「でも勇者はその時代に一人しか選ばれないので確実にゆーしゃさまのことですよ!」
勇者「マジか(震え声)」
僧侶「マジです(断言)」
勇者「……マジかあああああああああ」
ワアアアアアアアア
「世界の光よ!!!!!」
「本当に勇者様だわ!!! 勇者様が来てくださいました!」
「生きてて良かった……!」
「長生きするもんだの……勇者を二人も見られる者はそうおらんじゃろうて」
「キャーッ! 勇者様ー! こっち向いてくださいませー!」
「お降りになるぞォォォォォ皆の者道を開けろォォォォォ」
勇者「……」
僧侶「……」
「……せ~の!」
ドンドンバフバフドンドンバフバフ
ジャカジャカジャン
ピーヒャララ~
僧侶「わぁ~すごぉいっ」
「「「勇者様! ようこそお越しくださいました!!!」」」
勇者「え、あっ、ども」
港民「勇者! 握手してくださっていいでしょうか!?」
勇者「あ、はい」
港民「ありがたや~!」
港民「勇者様。今月産まれたこの子に名前をつけては下さらないでしょうか?」
勇者「えっ、な、名前!? んー、ん~……女の子ですか?」
港民「はい」
勇者「今は三の月なので……三月(みつき)なんてどうでしょうか?」
港民「大変良い名前ですね! ありがとうございます! この子も喜びます!」
「勇者様ー!」
勇者「ははは...ども」
「キャー勇者様がお手を振ってくれたわ!」
僧侶「(ゆーしゃさま凄いな……さっきの汽笛もゆーしゃさまが来たのを知らせるものだったのかも)」
「勇者様!」
「勇者様ー!」
僧侶「……」
僧侶「(気づいたらゆーしゃさまとだいぶ離れちゃった……)」
僧侶「(……私は、あんなにも眩しいゆーしゃさまの隣に……居ていいのかな……)」
僧侶「(……姉上ならきっと絵になってたんだろうな……)」
僧侶「(ゆーしゃさま……ゆーしゃさま……)」
僧侶「(……遠くに、行っちゃやだ)」
僧侶「(私を……置いて行かないでください……)」
「あ~ちょっとごめんよ~」
僧侶「……」
「ちょっと通してくれないかー」
僧侶「ゆー……しゃ、さま」
勇者「なーに縮こまってんだよ。ほら、行くぞ」
僧侶「え……でも」
勇者「~ったく」
勇者「みんな聞いてくれー。こいつは俺と一緒に魔王討伐の旅をしている僧侶だ」
「おお! 僧侶様!」
「勇者様を頼みますぞ! 僧侶様!」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「毎度毎度……周りを気にしすぎなんだよお前は」
僧侶「でもっ……」
勇者「俺の祭りで俺の大事な仲間が隅っこ歩いてるのは俺が許さん」
僧侶「ふふ……なんですかそれ」
勇者「いいからいいから。町長が美味いもん食わしてくれるらしいし早く行こうぜ!」
僧侶「…はいっ」
僧侶「(ほんとにゆーしゃさまには何もかもお見通しで……。こんな時でもやっぱりゆーしゃさまはゆーしゃさまで……)」
僧侶「(あの頃と変わらない……だから私もこうして側にいられます)」
「僧侶様可愛い~」
「まだ幼いのに凄いわ~」
「勇者御一行万歳!」
僧侶「(……叶うなら、最後まで側に居させてください。ゆーしゃさま)」
「勇者に栄光あれ!」
「無敵の勇者様! 魔王討伐頼みましたぞ!」
勇者「……」
短編 僧侶の日記Ⅱ
━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 三の月
今日はお祭りがありました! それもゆーしゃさまのお祭りです!
この町では昔から勇者が通る度に行われているそうです。
勇者に縁が深い町だとこんなにも歓迎してくれるんだなぁ~ビックリしちゃった。
ゆーしゃさまはあっちこっちに引っ張りだこで大変そうだったけど凄い楽しそうでした。
さっきも酒場のおじさんがいい酒が入ったから町長のところで飲もうと連れ去られて行きました。
私も後1年早く産まれてたらな…。
何でお酒は十六になるまで飲んじゃ駄目なんだろう。
神に仕えるこの身で掟を破ることは叶わないので後一の年の辛抱ですっ。
今日はいっぱい歩き回って疲れちゃった。
ゆーしゃさまといると本当に毎日が楽しくて、自分の立場も忘れてはしゃいじゃう。
ゆーしゃさまは優しいからそんな私を許してくれる。でもそれに甘え過ぎないようにしなきゃ!
しっかりと境界線を見定めて行こうっ(決心!)
━━━━━━━━━━
僧侶「ふぅ。ゆーしゃさま今日は遅いのかな」
僧侶「ふぁ~……」
僧侶「ゆーしゃさまごめんなさい……僧侶は先に……ねま……くぅ……くぅ」
────
ガチャ
ソローリ、ソローリ
勇者「ふぅ……」
勇者「疲れたな……」
僧侶「んぅ……ゆーしゃさま……?」
勇者「起こしちまったか。悪い」
僧侶「いえ。おかえりなさい」ニコリ
勇者「」ドキッ
勇者「お、おう」
僧侶「楽しかったですか?」
勇者「まあ、な」
僧侶「?」
勇者「町長から嫌って程勇者無敵伝説を聞かされたよ」
僧侶「ふふ、町長さんは勇者を見たのは始めてと言ってらしたからきっと嬉しかったのでしょう」
勇者「そんな珍しいもんかね……」
僧侶「珍しいものですよ~」
僧侶「──だって」
僧侶「ゆーしゃさまは勇者なんですから!」
勇者「……」
勇者「……ああ、そうだな」
勇者「今日は疲れたからもう寝るよ。僧侶もゆっくり休めよ」
僧侶「はい。おやすみなさい、ゆーしゃさま」
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[夢を見た]
どうして、こんなことを言ってしまったのだろう。
[私が日記を書いている夢]
愚かな僧侶を許してください……勇者様。
[隣にゆーしゃさまは居なくて、私は一人で泣いている夢]
勇者様……ゆー……しゃ……さま。
[これは夢、だけど、何故かそうは思えなかった]
[でも、起きればきっと忘れているだろう]
[だってこれは、夢なのだから]
短編 賢者、登場
勇者「よしっと、忘れ物ないか?」
僧侶「はい、準備万端ですゆーしゃさま」
勇者「じゃあ次の目的地に向かって出発!」
僧侶「おーっ」
勇者「この町ともお別れか~寂しくなるな」
僧侶「魔王を倒したらまた帰って来ましょう。そうしたら今度は本当にめでたいお祭りが出来ます」
勇者「そうだな。魔王を倒したともなればは一の月丸ごとお祭り騒ぎになってもおかしくないぜ……!」
僧侶「そんなに毎日お祭り騒ぎじゃ飽きちゃいますよぉ」クスッ
勇者「いや、祭りってのは何回やっても飽きないもんで…」
「っはぁ……はぁ……勇者様!」
勇者「ん?」
「良かったぁ~間に合って」タユンタユン
勇者「(で、デカい……! 僧侶の姉ちゃんクラスか……!?)」
僧侶「ムッ……」ジロー
勇者「ピュイ~♪」
僧侶「(ゆーしゃさま惚けるフリが下手で古くさい……そんなことより、まさか……あの教本は)」チラッ
「旅立たれたと聞いて急いで来た次第です。すみませんお見苦しい格好を……」
勇者「いやいや、それでご用件は?」
賢者「はい。私は賢者と申します。この度は是非とも魔王討伐にご協力したいと参った次第です」
勇者「ほー賢者か」
僧侶「けっ、けっ、けっ」
勇者「どうした僧侶、過呼吸か?」
僧侶「違いますぅー! じゃなくて賢者様ですよゆーしゃさま!」
勇者「らしいな」
僧侶「わぁー凄い! やっぱり賢者の教本だったんだ……あ、あの……ちょっと見せてもらっていいですか?」
賢者「チッ」
僧侶「?」
賢者「ごめんなさい、この教本は賢者だけにしか触れないし内容も賢者にしか見れないの」
僧侶「そうですか~……残念です」
勇者「さっきから何騒いでんだ?」
僧侶「ゆーしゃさまは勇者だから知らないかもですが賢者は人がなれる職の中で最も難易度の高い職なんです!
確かこの世界で賢者様は40人程しかいなかったはずです!」
勇者「(多いか少ないか微妙過ぎてわからん)」
賢者「それで……連れていってくださるのですか?」
勇者「ん~どうするかな。僧侶はどう思う?」
僧侶「……(はっ! もしこれで賢者様が仲間になったら私がお払い箱に……アワワ)」
僧侶「(でも魔王討伐の可能性はグッと高まるのは確か……! ここは私欲を捨て世界の為になることを選ぶ場面……!)」
僧侶「私は……」
僧侶「(どんなことになっても私が我慢すればいい……それにゆーしゃさまは戦闘だけで全てを判断するような人じゃない)」
僧侶「(大丈夫……)」
『我慢だけはするな』
僧侶「……嫌、です」
僧侶「(じゃない……です)」
賢者「えっ……」
勇者「……そうか」
賢者「確かに、私が仲間に加わればあなたの価値は薄まるでしょう。賢者とは魔法使いと僧侶を極めし者に贈られる称号ですから」
賢者「しかしだからと言って私欲で魔王を討てる可能性を減らすなんて……正直呆れました」
僧侶「っ……」
賢者「あなた、勇者様の何なのでしょう?」
僧侶「私は……」
賢者「勇者様が魔王を討つために全力でサポートする。それが私達の役目ではないのですか?」
僧侶「それは……」
賢者「それを踏まえた上でもう一度聞きます。私を仲間に」
勇者「嫌だ」
賢者「なっ」
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「さっきから黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって。正論言えば偉いってもんじゃねーよ」
勇者「そもそもお前こそ俺の何なんだ? さっき会ったばかりの癖に今まで旅をしてきた仲間よりも仲間面してんじゃねぇよ」
賢者「っ……!」
勇者「それにどのみちあんたは仲間には出来ない」
賢者「……どうしてでしょう?」
勇者「魂が薄いんだよ。そんな魂じゃ一回死んだらもう戻れないぜ」
賢者「……」
勇者「ってわけだ。悪いな。行くぞ、僧侶」
僧侶「……はい」
賢者「……」
賢者「プランAは駄目…か。そう易々と殺らせてくれないってわけ」
賢者「簡単に籠絡出来ると思ったんだけどな~……意外と曲者だなあの勇者」
賢者「魂が薄い……か」
賢者「誰のせいでこうなったと思ってんだッッッ!!!」
賢者「ふぅ……ふぅ……」
賢者「まあいいや……あのガキは壊すのは簡単そうだし」
賢者「勇者はあのガキのこと気にかけてるみたいだし」
賢者「ふふ、ふへへ」
賢者「絶対に殺してやる……! 勇者……!」
────
────
勇者「……」
僧侶「……」
勇者「全く変な奴に絡まれたな。俺ああいうかたっくるしいの苦手だから断って清々したぜ」
勇者「いくら強かろうがあんなの抱えて毎日冒険してたんじゃ魔王を退治する前にこっちが参っちまうよな」
僧侶「ゆーしゃさま……私」
勇者「ん?」
僧侶「ゆーしゃさまの隣に居ても……いいのですか?」
勇者「……なんだよ急に」
僧侶「最近迷ってばかりなんです……。魔王を討つために最善を尽くしたいって気持ちと、ゆーしゃさまと一緒に居たいって気持ちがぶつかり合って……わからなくなるんです」
勇者「……わからなくなったら俺に聞けよ。そしたら毎回こう答えてやろう」スッ
僧侶「……あっ、帽子」
勇者「当たり前だろ、ってな」ニコッ
ゆーしゃさまに頭を撫でられるなんて……いつ振りだろう。
昔は良くこうやって撫でてくれたっけ。
ゆーしゃさまの手、あったかい……。
僧侶「ゆーしゃさま……」
勇者「ん?」
僧侶「僧侶帽似合いませんね」プフッ
勇者「全くだなっ。僧侶にならなくて良かったぜ」
僧侶「わかりました。……ゆーしゃさまがそう言って下さるのなら、私はいつまでも側に居ます」
勇者「ああ。これからもよろしく頼むぜ、僧侶」
僧侶「(魔王を倒す決心とか……何もかも含めて……ゆーしゃさまと一緒に居たい)」
僧侶「(だって私は……ゆーしゃさまのこと、大好きだから)」
僧侶「(でも、この気持ちだけは我慢しなきゃいけない。魔王を倒すその日までは……)」
長編 冒険の果て
勇者「だいぶ歩いたな」
僧侶「そうですねー」
薄暗い中を二人は歩く。
勇者「町は……まだか」
月の光を頼りに僧侶が地図を照らし見る。
僧侶「地図通りだと……後半日ほどでしょうか」
勇者「この辺りのモンスターにはまだ慣れてないしな……夜間出歩くのは危険か」
勇者「仕方ない、ここらで夜営を……」
僧侶「あっ、ゆーしゃさま! 明かりが見えます!」
勇者「マジか!?」
僧侶「民家でしょうか? 泊めてもらえないか交渉してみましょう」
勇者「久しぶりに暖かい布団で眠れるぜ~」
そこは二人にとっては冒険の途中、
だが、あるものにとっては、冒険の果てであった。
──トントン
僧侶「すみません、どなたか居られますか?」
「おや? こんな夜遅くにどちら様かな?」
僧侶「旅の者でございます。もしよろしければこちらで一晩泊めて頂けないでしょうか?」
「おお、旅の方々でしたか。こんなボロ屋でいいのでしたら是非泊まっていってください」
僧侶「ほんとうですか!? ありがとうございますっ」
勇者「やったなおい!」
「今開けますので」
ガチャリ
「ようこそ、旅の方々」
僧侶「お世話になります」ペコリ
勇者「世話になります!」
「どうぞお上がりになってください」
勇者「ム……」
「今からちょうど晩御飯にしようと思っていた所です。良ければあなた達もどうですか?」
僧侶「何から何までありがとうございます。ささやかながらお手伝いをさせてください」
「これはどうも。では、こちらで野菜を切ってくれますかな?」
僧侶「はい、わかりました」
僧侶「じゃあゆーしゃさまは作ったものを並べてくださいね!」
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「ん? ああ……」
勇者「(魔物か……? いや、それにしては邪気がない。なら……)」
────
僧侶「お料理上手ですね! もし良かったら今度教えてください!」
「いやいや、私のなんてただの受け売りなだけですよ。それでもよろしかったら教えて差し上げますが」
僧侶「是非お願いします!」
「その代わりと言ってはなんですが……旅の話をしてくれませんか?」
僧侶「旅の話ですか?」
「はい。ここにたまに来る旅の方々の話を聞くのが今の私の生き甲斐でして」
「無理にとは言いませんが」
僧侶「わかりました! 一泊一食の恩義、いいですよねゆーしゃさま?」
勇者「……。ああ、もちろん」
───
僧侶「それでゆーしゃさまったら魔王を倒した暁にはお祭りを一の月丸ごと開催する! なんて言っちゃうぐらいのお祭り好きで……」クスクス
「はっはっは、さすがは勇者様ですな。言うこともスケールが大きい」
「しかしまさか勇者様御一行だったとは、気付けず大したもてなしも出来ず申し訳ありません」
僧侶「いえ、こんな暖かな食事を頂けただけで十分です。ね? ゆーしゃさま」
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま? さっきからずっと上の空ですけどどうかしましたか?」
勇者「……じいさん。あんた目が見えないのか?」
僧侶「ゆーしゃさま……? 一体何を……」
「……さすがは勇者様ですな」
僧侶「そんな……だってさっきも」
「家の中のものなら手に取るようにわかっているつもりでしたが、一体どこで?」
勇者「最初は違和感が無さすぎて魔物だと思ったよ。神託の証のことも聞かれなかったしな」
僧侶「失礼ですよゆーしゃさま!」
「いえいえ。魔物が町離れに民家を建てて人を装い、旅の者達を襲う、なんてことは良くある話ですからな。勇者様の疑いはごもっともです」
僧侶「ですが……」
勇者「でも僧侶と話してるの見てそれは違うってわかったよ」
「と、言いますと?」
勇者「魔物はあんなコロコロ笑わないからな」
「……あっはっはっは。違いありませんな!」
勇者「それに俺が声を出す前にじいさん『旅の方々』って言ってただろう? だからもしかしたら心眼の持ち主じゃないかって思って。
それならこの動きも納得行くからさ」
僧侶「心眼……、目が見えないからこそ他のものが見えて来ると言うあれですか?」
勇者「ああ」
「私のはそんな大それたものじゃありませんよ。ただ……叶うならもう一度、ある場所へ行くために日々心眼の真似事のようなことをしております」
勇者「ある場所?」
「……勇者様なら……もしかしたら」
勇者「?」
「勇者様、僧侶様、先程の話のお礼、と言っては何ですが。爺の昔話も聞いてくれませんかな?」
勇者「よしきた」
僧侶「是非」
「あれはもう50年も前になりますかな……」
「私は戦士で、今で言うトレジャーハンターみたいなことをやっておりました」
勇者「元戦士、通りでいい身のこなしだと」
僧侶「ゆーしゃさま静かにしてください!」
勇者「……はい」
「こんな私にも相棒が居て……それは毎日好き勝手をやっておりました」
――――――
戦士「ここが王家の墓か! お宝のいい匂いがするぜ~」
魔法使い「宝の匂い? 私にはカビ臭い臭いしかしないんだが。とうとう犬並みの嗅覚を得たか」
戦士「うるせぇ! 大体ダンジョンに入る前はこういうこと言うのがお約束なんだよ」
魔法使い「墓荒しがお約束を守るなんて変な話だな」
戦士「全くお前はいつもそうやって腰を折るよなぁ」
魔法使い「変な形式に毎回拘る戦士が悪い」
戦士「ヘイヘイ、悪ぅございやした。いいからさっさと行くぞ」
魔法使い「ああ」
[�・遭・笛・妃・捨緣・罹・亢・殕�
戦士「んン!? なんだこりゃ」
魔法使い「……旧王国文字だな」
魔法使い「王家の印をここに。さすれば全てを与えられん」
戦士「はあ~……。死んでからも威張り続けるなんてな。これだから王家ってやつは嫌いなんだよ」
戦士「死ねば誰だろうが一緒なんだよ。王も神も勇者も全員な」
魔法使い「ふふ、そういう価値観は私も好きだぞ、戦士」
戦士「うるせぇ。多分こいつぁ王族の末裔来たときのトラップ解除装置だろう。ってことはこの先トラップ盛りだくさんってこった。
気締めてけよ」
――――――
戦士「おっ! 宝があるじゃねぇか! 魔法使い!」
魔法使い「ん~~~、青だな。開けて大丈夫」
戦士「よっしゃ!」
戦士「うっひょ~こいつはいい鎧だな。売るより着けるか……迷うぜ」
魔法使い「着ける前にのろいチェックしときなよ。この間みたいに半べそかいて教会へ行くのに付き合う私の身にもなってくれ」
戦士「わ、わかってる、わかってるからその事は言うな!」
魔法使い「前から思ってたけど僧侶を雇えばいいじゃないか」
戦士「あ~~、あいつらは駄目だ。神がどうたらこうたらでこういうことはしないからな」
戦士「それに……」
魔法使い「それに?」
戦士「俺はお前と二人で冒険するのが楽しいんだよ! だから他の奴はいらねぇ! なんか文句あるか!?」
魔法使い「ふふ、はっはっは……」
戦士「んだよ」
魔法使い「プロポーズのつもりならもう少し場所を考慮して欲しかったな。まあ戦士らしいけどな」
戦士「うるせぇ/// そういうのよくわからねぇんだよ。許せ」
魔法使い「ああ。知ってる。だから私も安心してついて来られたんだ」
魔法使い「私も同じだよ、戦士。戦士と一緒にいるのが一番楽しい」
戦士「お、おぉ! そうか! 良かった良かった」
魔法使い「(ふふ、可愛らしいな)」
戦士「実はさ、今回の仕事が終わったらこの稼業から足洗おうと思ってたんだ」
魔法使い「ほほう、それはまた何で?」
戦士「最近モンスターもやたら強くなって来てやがるしよぉ……町で聞いた噂じゃ魔王の復活が近いらしいしよぉ……」
魔法使い「らしくないな」
戦士「わかってる……自分でもそう思ってる。だがよ……ずっとこんなことしてたらいつかお前を失っちまうんじゃないかって……不安なんだよ」
魔法使い「……」
戦士「それによ! こないだ出た武闘大会に王様が見に来てたらしくてよ。もし良ければ自国の兵士団の団長になってくれないか?って言われちまってよ」
戦士「稼ぎもいいしそれも悪くねぇかなって思ってんだ」
魔法使い「……王族は嫌いじゃなかったのか?」
戦士「偉そうな奴はだよ。そこの王様はなかなか見込みある奴でな。ちょっと考えも変わったってわけだ」
魔法使い「……そうか」
戦士「勿論魔法使いが良ければの話だけどな」
魔法使い「……そんなに私のことを思ってくれてたんだな、戦士は」
戦士「まあな」
魔法使い「私はただ毎日が楽しくて……戦士と一緒にこうして冒険するのが大好きで」
魔法使い「いつまでもこうやって居たい、って思ってしまっていた」
戦士「魔法使い……」
魔法使い「悪い……。今は答えられそうにない。ただ勘違いしないでくれ」
魔法使い「私も戦士のことは大好きだ。勿論男として。二人で安全に、静かに暮らせれたらどれだけ幸せだろう……そんな気持ちもある」
魔法使い「けど……。まだ戦士とこうしていたいって気持ちもあるんだ……危険だけど、毎日何か発見があって……新鮮で楽しい日々を失いたくないんだ」
戦士「……わかった」
戦士「まあ急に言われても困るわな」
魔法使い「すまない……」
戦士「謝るなよ。それにお前がそんなに俺と一緒に旅するのが楽しいと思ってるなんて思わなかったからよ……嬉しいんだ」
魔法使い「当たり前だろう? あんな田舎臭い町から私を連れ出してくれて……世界を見せてくれて……楽しいに決まってる」
戦士「ならもうしばらく冒険は続行だな。まだまだ見せたいものはあるんだ」
魔法使い「ふふっ、さっきまでの弱気はどこに行ったんだ?」
戦士「犬に食わせろだよあんなもん。俺が強くなってお前を守ればいい話だからな」
魔法使い「頼りにしてるよ、戦士」
――――――
戦士「ふ~頂いた頂いた~」
魔法使い「この先王族に世話になるかもしれないって言うのに大した盗人ぶりだな」
戦士「それとこれとは話が違うからな! それにこんなところで埃被って眠り続けても宝が可哀想なだけだろ」
戦士「価値あるもんは価値ある扱いされねぇとな」
魔法使い「確かにそうだな」
戦士「さてと、帰るとする……お、あんな所にも宝箱発見」タッタッタッ
魔法使い「全く……本当戦士にはこっちの方が似合ってるよ」トットット
戦士「こいつぁでけぇな! 宝箱自体かなり価値がありそうだ」
戦士「んじゃあ早速中身を……」
魔法使い「(さっきまで青ばかりだったし大丈夫だろうけど一応見ておく……紫だとっ!?)」
魔法使い「開けるな! 戦士!」
戦士「なっ」パカッ
戦士「しまっ……」
ガガガガ.....
戦士「何の音だ……?」
魔法使い「……」
魔法使い「!」
魔法使い「部屋の入口だ! 走れ戦士! 閉じ込められるぞ!」
戦士「クソッ! 俺としたことが!」
魔法使い「(駄目だっ……間に合わない!)」
ズゥン――
戦士「すまねぇ魔法使い……俺が無警戒なばっかりに……」
魔法使い「済んだことを言ってもしょうがない。それよりも手分けして出口を探そう」
戦士「あ、ああ!」
――――――
だが、その部屋には出口はなく、俺達はそこに閉じ込められる羽目になった。
戦士「うおおおおおっ!」
ガギィィンッ
戦士「ぬわっ」
魔法使い「無駄だよ。その扉はオリハルコンで出来てる。鉄の剣でどうにか出来る代物じゃない」
戦士「でもよぉ……!」
魔法使い「……!」
魔法使い「……」
魔法使い「それよりこっちに来てくれ戦士」
戦士「何か見つかったのか?」
[ёжкйшыфюя]
戦士「またわけわかんねぇ文字か」
魔法使い「……欲深き者に罰を与えん。欲深き者、汝の命を持ってそれを償うか、またはその代償に汝と共にする者の命を頂く」
戦士「……まさか」
魔法使い「良くあるダンジョントラップだよ。冒険するメンバーは大体前衛と後衛と決まってるからな」
魔法使い「だから恐らく……」
戦士「お、おいっ! そんなとこに腕入れて大丈夫なのかよ?」
魔法使い「大丈夫、心配するな。……はあっ!」
ゴゴゴゴ……
戦士「あっ、開いたぞ!!!」
魔法使い「やっぱりか」
魔法使い「これは魔力に反応するように出来てるみたいだな」
戦士「よぅしじゃあ俺が開けてる間に魔法使いは外に出てくれ!」
魔法使い「いつからお前は魔法戦士になったんだ?」
戦士「ぐっ……」
戦士「ならどうすりゃいいんだよ」
魔法使い「簡単だろう。私を置いて戦士が外に出ればいい」
戦士「そんなこと死んでもお断りだ」
魔法使い「このままじゃ両方死ぬことになるぞ?」
戦士「俺がここでお前に魔法を教えてもらい魔力を身につけて外に出す!」
魔法使い「ふふ、全く頑固だなお前は」
魔法使い「心配しなくても死ぬつもりはないよ。ちゃんと策はある」
戦士「本当か!?」
魔法使い「賢者の石、と云うものを聞いたことがあるか?」
戦士「確かどんな傷も忽ち癒えるって言うあれか?」
魔法使い「ああ。あれは常に魔力を帯びてると聞く。あれをここに置けばその魔力で感知を逃れられるだろう」
戦士「よしわかった! すぐに見つけて来てやるよ!」
魔法使い「お前ならきっとすぐ見つけられるさ。何たって私の戦士だからな」
戦士「ああ! 絶対助け出してやるからな……魔法使い!」
――――――
戦士「そうだ」
魔法使い「ん?」
戦士「これ……早いけど渡しとく」
魔法使い「……指輪?」
戦士「勿論ちゃんと自分で買ったもんだからな! 細工師にすげぇ大枚叩いたんだぞ!」
魔法使い「……ありがとう。嬉しい」
魔法使い「つけてくれないか?」
戦士「お、おぉ」スッ
魔法使い「……綺麗だな」
戦士「もし寂しくなったりしたらよ……それを見て思い出してくれ。俺のこと……。そしたら絶対すぐ帰って来るからさ!」
戦士「絶対に……お前を置いて行ったりしないから……」
魔法使い「良い大人が泣くんじゃない。そんなこと言わなくても信じてるよ」
戦士「魔法使いっ……」
魔法使い「でも、しばらく寂しくなるのは本当だから……その寂しさを消し飛ばせるぐらいのことを……して欲しい」
戦士「……目瞑れ」
魔法使い「うん……戦士……んっ」
魔法使い「(……今までありがとう、戦士。本当に……楽しかったよ)」
――――――
戦士「じゃあ行ってくる」
魔法使い「行ってらっしゃい」
魔法使い「まるで夫婦みたいだな」
戦士「う、うるせぇっ///」
戦士「町で事情話して誰か魔力使える奴に交代でやってくれないか言ってみる。金さえ積めばいい仕事になるだろうしやる奴もいるだろう」
魔法使い「ああ。頼んだよ。さすがに飲まず食わずはしんどいからな」
戦士「魔法使い」
魔法使い「ん?」
戦士「愛してるぞ」
魔法使い「照れるぜ」
戦士「言ってろ」
魔法使い「戦士」
戦士「ん?」
魔法使い「私も大好きだ」
戦士「ああ! 待ってろよ……!」
魔法使い「……うん、待ってる」
戦士「……クソッ!」タッタッタッ
魔法使い「……戦士」
────
「それが私と魔法使いの最後の冒険でした」
勇者「……」
僧侶「グスッ……ズズッ……」メソメソ
「町へ行き事情を話しても誰も来てはくれませんでした。当然です……下手をすれば自分が閉じ込められ、助けられるのを待つ側になるのですから」
「そして頼みの賢者の石は……二代目魔王との決戦時に紛失したままと聞き……私はただただ宛もなくさ迷いました」
「そして一日経ち……餓えているだろう彼女に食料を持って行った時……開かない扉の前で彼女の覚悟を悟りました」
「彼女は最初から賢者の石が手に入らないことも……他人が自分の代わりに犠牲になってくれるという甘い考えもしてなかったのです」
「ただ……、私を外に出す為に。私のせいで彼女は……!」
勇者「……」
僧侶「そんな別れ……悲しすぎます」
「すみません、取り乱して。……もう、終わったことです、お気になさらないでください」
僧侶「グスッ……でも」
僧侶「きっと……魔法使いさんはおじいさんのこと恨んでないと思います」
「……何故、そう思うのですか?」
僧侶「だって……私がそうなっても……きっと恨んだりしないから」
「……凄く気持ちが救われたような気がします。ありがとう、僧侶さん」
僧侶「私みたいなものが意見するのもおこがましいです……」
「いえ、この先冒険を続けるあなた達の言葉だからこそです」
「……冒険の果てを迎えた私の昔話も、あなた達によって生かされた気がします」
勇者「冒険の果て……か」
────
僧侶「グスッ……」
勇者「まだ泣いてんのか僧侶」
僧侶「だってぇ……あまりにも辛すぎるじゃないですか……」
勇者「まあな……。ただ冒険ってのはそういう命を落とす危険があるってことだ」
勇者「俺達だって他人事じゃない。現に何回も死んでる。運が良かったからこうしているけどな……」
僧侶「はい……わかってます」
僧侶「……もし、ゆーしゃさまならどうしますか?」
勇者「戦士の立場なら、か?」
僧侶「はい」
勇者「……少なくとも戦士みたいな優しい答えは選ばなかったかもしれない」
僧侶「優しい……?」
勇者「(魔力があるやつを脅して連れてくればいい。いや、じいさんもやったのかもしれないな……ただ、それも見越して魔法使いは扉を開けなかったのか)」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「なんでもないよ。明日は朝から歩くんだ、寝とけよ」
僧侶「はい…」
勇者「(冒険の果てか……じいさんにとってそれが本当に今なんだろうか)」
────
勇者「色々世話になったなじいさん」
僧侶「お世話になりました」
「いえいえ。お二人の旅に神の加護があらんことを」
勇者「ところでじいさん」
「はい?」
勇者「王家の洞窟ってのはここから近いのか?」
「……。それを聞いてどうなさるおつもりかな?」
勇者「ただの気まぐれだよ」
「……悪いことは言いません。やめておきなさい。あそこには他にもいくつものトラップがあります。いくら勇者様でも危険には変わりありません」
勇者「……忠告ありがたくもらっとくよ」
────
勇者「こんな場所に家を構えてるぐらいだ。洞窟から近いと思ったがどうやら図星だったみたいだな」
僧侶「行くんですか、ゆーしゃさま」
勇者「ああ。どうしても気になるんだよ。魔法使いが最後に残した言葉が」
僧侶「最後に残した言葉……」
勇者「もしかしたら現実を突き付けることになるかもしれない。どれだけ思っていても……」
僧侶「……私は信じます。あの二人の愛が本当のものだったことを」
勇者「答えは何にせよ……それを知らなきゃあのじいさんの冒険に終わりは来ない気がするんだ(そして、俺達がもしそうなった時の参考にもなるかもしれない……なんて言ったら僧侶に怒られるだろうな)」
勇者「予想より近くにあったな……」
僧侶「これが……王家の洞窟」
勇者「じいさんが言ってたようにどこにトラップがあるかわからないからな! 気をつけて進」
僧侶「あっ! ゆーしゃさま! 宝箱がありますよ!」トットット
勇者「マジかあああっ」
僧侶「開けましょう開けましょう!」
勇者「剣来い!剣来い!」
僧侶「杖ですよきっと!」ギィィ
宝箱は空っぽだった
勇者「」
僧侶「」
勇者「……そ、そりゃあそうだよな……もう何人もここに出入りしてるだろうし」
僧侶「で、ですよね……」
勇者「それでもさ……宝箱って開けたくなるんだよな」
僧侶「わかります……。宝箱には夢が詰まってますから」
勇者「……。」
僧侶「……。」
勇者「次からは気をつけて進もう」
僧侶「はい……」
────
僧侶「ゆーしゃさま! また宝箱が!」
勇者「……慎重に開ければ開けてもいいんじゃないか……?」
僧侶「なるほど!」ソローリ
宝箱は空っぽだった
勇者「ぐぅっ……」
僧侶「酷すぎますっ」
勇者「もう開けん!」
僧侶「私も! 神に誓って開けませんっ!」
────
僧侶「ゆ、ゆーしゃさま……」
勇者「……駄目だぞっ」
僧侶「すごい綺麗な宝箱がこっちを見てますぅ……」
勇者「罠だ! 騙されるな!」
勇者「さっき神に誓ったのをもう忘れたのか!? お前の信仰はそんなもんかっ!?」
僧侶「……信仰より大切なものも世の中あるんですよゆーしゃさま」ニヤリ
勇者「そ、僧侶が黒いっ!」
僧侶「もしあの箱に賢者になる為の教本が入ってたらと思うと居ても立ってもいられません……!」
勇者「そんな簡単に手に入るもんなのかよ……」
僧侶「たぁっ!」
宝箱は空っぽだった
────
僧侶「もはや神さえも信じません……」
勇者「もう宝箱はスルーしようぜ。さすがにあれだけ開けて何もないんじゃこの先も一緒だろうし」
僧侶「はい……。でも、もし中身があって……それを売って美味しいご飯食べれたらと思うと開けずにはいられないのです」
勇者「開ける動機飯かよ!」
僧侶「ゆーしゃさまと、を付け忘れました!」
勇者「はいはい……」
勇者「ん、……! 僧侶伏せろっ」ガバッ
僧侶「きゃっ」
シュンッ
シュンッ
勇者「仕掛け矢か……。じいさんの言う通りだな。そこらかしこが罠だらけだ」
勇者「気をつけて進むぞ」
僧侶「はいっ」
────
勇者「ここか……」
僧侶「閉まってますね」
勇者「……」
僧侶「どうしたんですかゆーしゃさま?」
勇者「じいさんがどれだけ魔法使いを助けたかったのかがこれを見て一発でわかったよ」
僧侶「……凄いキズ」
勇者「オリハルコンをこれだけ削るのにどれだけの剣とどれだけの時間がいるか……」
僧侶「……おじいさん」ヒック
勇者「泣くな。俺達は泣くために来たんじゃないからな」
僧侶「……はいですっ」
僧侶「でもゆーしゃさま……魔法使いさんの最後の言葉をどうやって……?」
勇者「中に入れば遺言やら言霊やらが残ってるかもなんだがな」
僧侶「言霊再生なら私の出番ですねっ」
勇者「ただ……、じいさんが何十年経っても突破出来なかった扉だ。そう簡単に開くとは思えん」
僧侶「中からしか開かないとか……?」
勇者「可能性はあるな。この洞窟が造られた目的は十中八九自分の子孫に宝を残す為だろう。
だからあの入口にあった王家の印やらを嵌めない限り開くことがない、とも考えられる」
僧侶「……」
勇者「……僧侶、三日くれ。それで無理なら諦める。……頼む」
僧侶「ゆーしゃさま……」
────
勇者「まずは辺りの詮索だ」
僧侶「港町の町長さんからもらった松明が役に立ちますね」
勇者「ああ」
勇者「」コンコン
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「なるほど」
僧侶「?」
勇者「次だ」
────
勇者「更に奥があったんだな」
僧侶「そうみたいですね」
勇者「この辺りはモンスターも手強い、気を付けるぞ」
僧侶「はいっ」
[∮�・笛・妃・夢緣・浹・浹鶚髻�
勇者「これは……僧侶読めるか?」
僧侶「え~と……」
僧侶「その求めし欲望が自らの大切な者を殺すであろう」
勇者「あの部屋のことを指してんのか……はたまたこの先にあるものを指してるのか」
勇者「ん~……これといって怪しいところはないな」
僧侶「そうですねー。この辺りはおじいさんも調べてる筈ですし」
勇者「じいさんが50年かけて調べて無理なものを俺達がどうこうするって時点で無理なのか……」
僧侶「ゆーしゃさま……」
そのまま時は過ぎ、一日目は何事もなく終わった。
────
バチバチ
僧侶「こんなところで焚火なんかして大丈夫ですか?」
勇者「モンスターは基本的に火が怖いからな。それに強いのは奥のモンスターだけみたいだし、大丈夫だろう」
僧侶「何かわかりましたか?」
勇者「……一つだけな」
僧侶「!! 何がわかったんですかっ!?」
勇者「……」スッ
僧侶「ゆーしゃさま? 剣なんか構えてどうしたんですか?」
勇者「はああっ!!!」
ゴォガギィィンッ
僧侶「わゎっ」
勇者「この部屋一体は全部オリハルコンで出来ているらしい。壁を突き破れば行けるかと思ったんだけどな」
僧侶「びっくりさせないでくださいよもぅ!」
勇者「明日はもっと奥へ行こう。何かわかるかもしれない」
僧侶「でも危ないですよ……?」
勇者「何回か死ぬかもしれないな」
僧侶「そんなっ!」
僧侶「もうやめましょうゆーしゃさま……。こんなことしたって誰も救われません」
勇者「そうかもしれないな。魔法使いの最後の言葉だっていいものとは限らない」
僧侶「なら……」
勇者「それでも……待ってんだ。あのじいさんは」
勇者「50年もずっと……魔法使いの魂を」
僧侶「魂……」
勇者「俺達が死んでもなんで生き返るか知ってるか?」
僧侶「……当たり前です。僧侶になる時に一番最初に習うことですから」
僧侶「肉体が死んでも魂が現世と強く結び付きたいと思えば思うほど肉体を修復した時に魂は現世へ戻り、そして肉体に戻ります」
勇者「まあそんなところだな」
僧侶「……まさか勇者……魔法使いさんが蘇生すると」
勇者「さすがにそこまで俺もバカじゃない。50年も肉体から離れた魂が現世に帰るなんてことはまずあり得ない」
勇者「けど……その魂が残した言葉。言霊は一体どれだけの思いを秘めてんだろうなってさ」
僧侶「魂が肉体に戻れない時、最後に現世に残す言葉が言霊……ですよね」
勇者「ああ。待つじいさんと伝えたい魔法使い、それが出会って初めてあの二人の冒険は本当に終わりを迎えるんだと思う」
勇者「余計なことしやがってって怒られるかもだけどな」ニシシ
僧侶「そんなことないです……きっと。ゆーしゃさまの気持ち、伝わると思います(でも、無理はしないでくださいね。ゆーしゃさま)」
二日目は苛烈を極めた。
勇者「僧侶! 回復!」
僧侶「はいっ!」
奥へ行くほどモンスターが強く、
ガシャン
勇者「なっ……飛べ! 僧侶!」
僧侶「床が……!」
トラップも恐ろしい物へと変化していったからである。
まるで、ここには来るなと言わんばかりに。
勇者「はあ……はあ……はあ……」
僧侶「ゆーしゃさま……もうやめましょう。危険すぎます!」
勇者「……」
僧侶「ゆーしゃさまっ!」
勇者「……見ろ、僧侶。行き止まりだ」
僧侶「えっ」
勇者「どうやら一番奥に来たらしい」
そこには一つの石板だけあった。
[┏╋┻┫┳┣┗┛┓┏]
僧侶「今までとは違う文字ですね……」
勇者「驚いたな……こいつは神記号だ」
僧侶「神記号?」
勇者「昔の人が神様と会話するために使われた文字らしい。魔王が現れてこの世界が混沌に落ちた時に人々はこれで神と会話し、神託を授かった」
僧侶「そんなものがどうして……」
勇者「わからんが……これがもしかしたらヒントかもしれない。さすがのじいさんでも神記号を解読出来たとは思えないしな」
勇者「こいつで50年分稼げるとは思わないが……きっかけにはなるかもしれない」
勇者「神々が残したこの秘宝を託すのに相応しい者は……」
勇者「ちっ……掠れてて読めないな。もっと近くに…………これは!」
ガコッ
僧侶「っ! ゆーしゃさま!」
勇者「しまっ」
シュィッ シュィッ
勇者「(左右からの仕掛け矢……これぐらいなら)」
シュィッ
勇者「(入口からもだとっ!)」
勇者「僧侶っ!!!」ガバッ
ザクッザクッ
勇者「ぐぅっ」
僧侶「ゆーしゃさま!!!」
勇者「(しかもただの矢じゃねぇ……! 神経性の毒か? 口が上手く聞けんっ…!)」
僧侶「私のせいで……。今治しますから!」
僧侶「キアリー!」
勇者「(……駄目か、かなり強い毒ってことか)」
僧侶「ゆーしゃさまっ!」
勇者「……(体力も…もう持たないな……クソッ。後は頼むぜ……僧侶)」ギュッ
僧侶「ゆーしゃさま……? 手がどうかして……」
勇者「……」
僧侶「な、ぞ、は、と、け、た! 凄いゆーしゃさま!」
僧侶「つ、ぎ、の、ま、ち、ま、で、な、ん、と、か、た、ど、り、つ、い、て、く、れ?」
僧侶「次の町って半日ぐらいかかるんですよ!?」
僧侶「す、ま、な、い」バタリ
僧侶「もう……。ゆーしゃさまったら」
────
僧侶「よいしょっと……何とか洞窟は脱出出来たけど」
僧侶「こんな時に蘇生魔法が使えたらな……」
僧侶「無い物ねだりしても仕方ない! とりあえず歩こう!」
僧侶「よいしょ……よいしょ……」
僧侶「勇者様ってやっぱり大きいな……」
僧侶「ふふ、思ったらいつも先に死んでしまうのは勇者様ですよね」
僧侶「今回は私のせいですけど……ごめんなさい勇者様」
僧侶「でも、死んでもこうやっていつも一緒ですよね、勇者様」
僧侶「これからも、きっとそうですよね」
僧侶「私達の冒険にも、果てはあるのでしょうか……」
────
僧侶「はぁっ……はぁっ……後ちょっとなのにっ」
ギャルルゥ
ガウウゥ
「ガルルゥワァッ!」
僧侶「ぐぅぁっ……」
僧侶「くっ……足が」
僧侶「ここまで……か。勇者様、ごめんなさい。情けない僧侶を許してください」
僧侶「もしかしたら、これが最後かもしれませんね」
僧侶「けど、悔いはありません。ここが私達の冒険の果てだとしても……」
僧侶「魔王を討てずに旅が終わるのだけは残念だけど……」
僧侶「大好きな勇者様と一緒に死ねるなら、私は……」
ガウウゥアアアッ
グルゥァッ
グチャッ
ベチャッ
…………
────
勇者「はっ!!!」
僧侶「ふぁっ!!!」
僧侶姉「久しぶりに来たわね~元気してた? ってさっきまで死んでた奴らに言う台詞でもないか」
勇者「僧侶の姉さん!? てかなんでここに!?」
僧侶「中央の町の近くでモンスター達にやられて……」
僧侶姉「勇者の毒がなかなかに厄介な代物だったのとあんた達の死体の破損状況が酷くて普通の神官が匙投げたから司祭の私のとこに来たのよ」
勇者「そうだったのか……すまねぇ僧侶。俺が迂闊だったばっかりに」
僧侶「私こそすみませんゆーしゃさま。無事に町まで運べなくて」
僧侶姉「って言うかあんたいつまでルーラ石持ってってんのよ! 二つ目の村に行くのにこっちはずっと徒歩らなきゃならかったのよ! 全くもう!」
勇者「ごめんなさい……なかなか返す機会がなくて」
僧侶姉「もうルーラぐらい覚えたでしょ? なら返してもらうわよ」
勇者「そういやいつの間にか覚えてたな」
僧侶「おめでとうございますゆーしゃさま!」
勇者「ああ! これでいつ死んでも大丈夫だな!」
僧侶姉「おいこら」タユン
勇者「(……やっぱり大きさもさることながら形がいいな僧侶の姉ちゃんは)」ウンウン
僧侶「(そんなに姉上の胸がいいんですかゆーしゃさまっ! 私だって旅立った頃よりかは大きく……はあ)」ストーン
中央の町────
勇者「やっぱりか……」
僧侶「どうでしたゆーしゃさま?」
勇者「ビンゴだ。やっぱりあそこは昔からかなり死人が出てるらしい」
勇者「しかも仲間を一人失った奴がここへ来て魔力があるやつを探して回るらしい」
僧侶「それって……」
勇者「じいさん達と同じだ。しかも50年も昔の話どころじゃない。つい昨日も来たんだと」
僧侶「昨日ですか?!」
勇者「ああ。俺達が死んでた時に入れ代わりで入ったんだろう。また一つ開けなきゃいけない理由が出来たな」
勇者「まあ……つまりあの扉は開くんだ。しかも思ったより簡単にな」
勇者「しかしそれは皮肉にも冒険の果てを迎えかけた奴には無理な方法で、だ」
王家の洞窟前────
勇者「あの石板にはこう書いてあった」
勇者「『神々が残したこの秘宝を託すのに相応しい者は……常に飽くなき探求心を求める者達なり』とな」
僧侶「……?」
勇者「つまり飽くなき探求心、多分冒険者を差しているんだろうな」
僧侶「でも……おじいさんだって冒険者だったんじゃ……」
勇者「それは魔法使いが閉じ込められるまでは、だ。それからはただ彼女を助けるためだけに動いただろう。冒険もクソもない、思えばそこが盲点だった」
勇者「あの扉は常に冒険を求める者にしか開けられない、つまり」
───
僧侶「また空っぽかー」
僧侶「でも本当にこんなことしてあの扉が開くのかな……」
僧侶「……一つでもいいから中身入ってないかな~♪」
────
僧侶「ゆーしゃさま!」
勇者「全部開けてきたか?」
僧侶「はいっ! そして全部中身は空っぽでした!」
勇者「それでいい。それでこそ冒険者だ!」
勇者「冒険者とそうでない者の違い……それは宝に対する探求心だ」
勇者「つまり、行くときはすんなり入れてしまうのは……」
僧侶「ゆーしゃさま! 扉がっ! 開いてますよ!」
勇者「そう、来る前に宝箱を全て開けているからだ。冒険者のみ開かれる扉なんだよ、こいつは」
僧侶「それで私達の時は開いてなかったんですね」
勇者「ああ。途中で開けるのをやめたからな」
僧侶「どうしてわかったんですか?」
勇者「あの石板もそうだが……奥へ行っておかしいと思ったんだ。入って間近に宝箱がある癖に奥には宝の気配さえないからな」
勇者「それに加えて何人もここへ入って被害に合ってるっていう証言、そしてそのもう一人が帰って来たことがないと言う矛盾」
勇者「その行動の差を照らし合わせた結果、だな」
僧侶「凄いですゆーしゃさま! ……そうですよね……仲間が閉じ込められてるのに暢気に宝箱開ける人なんていないですもん……」
勇者「この宝が与えられる者はそんな犠牲を払ってでも冒険するような狂った奴ってことだな。全く昔の奴らの考えることはわからんな」
「あれっ……? もしかして出れちゃったりする……?」
勇者「ん、あれは」
「やったっ!!! マジ死ぬかと思った~……良かったぁ~」
「あのアホ戦士次に会ったらマジ殺す」
僧侶「何だかかなり怒ってらっしゃいますね……」
勇者「まあ当然だろうな。この開け方を知らない限り魔法が使える方はここで一生監禁だからな」
「あっ!!! もしかしてあんた達が開けてくれたりしてくれたの?」
勇者「まあそうなるな」
「マジありがとうっ! ん~ちゅっ」
勇者「ちょ、うわっ」
僧侶「ゆーしゃさまに何を!?!?!?」
「ん? ゆーしゃさま? あ、もしかして君勇者?」
勇者「まあそうだけど、とりあえずどいてくれ」
「ごめんごめんつい嬉しくってさ~。私は魔法使い! まっ、トレージャーハンター兼魔王討伐隊ってとこね」
僧侶「へ、へ~(ゆーしゃさまにキ、キ、キ、キスしおったぞこやつ許すまじ……! で、でも、ほっ、頬ならノーカンだよね……???)」
勇者「魔王討伐志願とは物好きも居るもんだな」
魔法使い「これでも中級魔法は全部マスターしてるよ!」
勇者「ほ~やるな」
僧侶「へ、へぇ~」
魔法使い「で、モノは相談なんだけどさ」
僧侶「(きたっ)」
魔法使い「私を仲間に」
ササッ 僧侶「ゆーしゃさま! 早く中を調査しないと!」
勇者「そうだな。その為に来たんだから」
魔法使い「調査?」
勇者「ある冒険者の最後の言葉を聞きに来たんだ」
魔法使い「な~んだ言霊チェックか。そういう依頼なの?」
勇者「……いや、俺が好きでやってるだけだ」
魔法使い「ってことはお金も入らないのにこんなことしてるわけ? ひゃ~ビックリ」
勇者「今日俺達が来なかったらお前が言霊を残す羽目になってたけどな」
魔法使い「ちょっとマジにならないでよぉ! ごめんってば!」
────
勇者「開いちまったら案外普通の部屋だな……」
僧侶「でも感じます。報われなかった者達の魂の痕が」
魔法使い「ちょっとぉ~……マジで入っちゃうわけ? 突然閉まったりしたらどうすんのさぁ~」
勇者「その時はその時だ。それに表の仕掛けを考えても中央の宝箱を開けば閉まる仕組みと見て間違いない」
魔法使い「でもさぁ~……」
勇者「と言うかついてこいなんて言ってないだろ。早く仲間のとこに行って自分が無事なのを伝えてやれよ」
魔法使い「……きっと戻って来ないよ。あんなやつ」
勇者「……」
勇者「ま、好きにしろよ」トコトコトコ
魔法使い「ちょ、ちょっと待ってよぉ~!」
「…………勇者、見つけた」
勇者「僧侶、わかるか?」
僧侶「……、少し時間がかかりそうです。余りにも強い言霊ばかりで……」
勇者「そうか……。なら俺達は文字で残した方を探すとするか」
魔法使い「達って……私も入ってるわけ……?」
勇者「助けてやったんだ、それぐらいやってもらわないとな」
魔法使い「さっきと言ってること違うくないっ!?」
勇者「……かなり大量の本があるな」
魔法使い「魔法使いなら手書き詠唱なんかもするからね。紙とペンは大体みんな持ってるよ」
勇者「血文字の中から探し当てたりしなくて助かったぜ」
────
勇者「……」
魔法使い「……」
魔法使い「恨み、妬み、苦しみ、悲しみ、絶望、狂気……たまに愛情ありってとこかな。お目当ての人の遺言は見つかった?」
勇者「……いや、多分どれでもない」
魔法使い「なんでわかるの?」
勇者「こればっかりはなんとなく、って答えるしかないな」
魔法使い「人間死ぬ間際になれば人格なんて吹き飛ぶもんだよ。案外これとかじゃないかな?
魂ごと呪い殺してやるーってやつ」
勇者「僧侶ーどうだ?」
魔法使い「とうとう無視っ!?」
僧侶「……多分、これだと思うんですが」
勇者「見つけたか!」
僧侶「……、でも……余りにも……これは」
勇者「いいからいいから! 聞かせてくれよ」
僧侶「……」ゴニョゴニョ
勇者「……、……クク、はははっ……あっははっはっ!」
魔法使い「勇者君が壊れた!?」
僧侶「こんな言霊この中で一つだけですよ……、でもおじいさんから聞いた話と状況が一致しますし……」
勇者「……本当に彼女は冒険者だったんだな。最後の最後まで」
勇者「これでじいさんをここに連れてこさざるを得なくなったな」
魔法使い「なにさ~っ! そっちだけで盛り上がっちゃって!」
勇者「さ、帰ろうぜ。じいさんのところに!」
僧侶「はいっ!」
魔法使い「もうっ! 私にも教えてくれたっていいじゃん!」
勇者「心配しなくてもここを出たら教え」
ゴゴゴゴゴゴ.....
勇者「なんだ!?」
僧侶「ゆーしゃさま! 扉がっ」
勇者「嘘だろ!? 宝箱には指一本触れてないぞ!!?」
ゴゴゴゴ……ズゥン...
魔法使い「ま、まさか……」
僧侶「閉じ込められた……?!」
勇者「なんて顔してんだよ。開け方さえ知ってれば大した問題じゃないだろ。大方時限で閉まる造りだったかモンスターが宝箱を閉めたかしたんだろ」
勇者「ちょっくら開けに行ってくる」
魔法使い「わ、私は絶対中には残らないわよっ!」
僧侶「では、私が開ける役をしましょう」
勇者「任せたぜ」
僧侶「はい」ニコリ
魔法使い「(なによ……残ることにまるで躊躇いなしじゃない。勇者も勇者で言うまでもなく助けに来るぜ、って顔しちゃってさ!)」
魔法使い「(これが本当の仲間……なのかな。裏切ったり裏切られたりし続けた私にはわからないな……)」
魔法使い「(やっと……次こそは本当の仲間に巡り会えたと思ったのに……バカ戦士!)」
ゴゴゴゴゴゴ....
勇者「手分けして探そう。閉まってる宝箱があったら開けてくれ」
魔法使い「……うん」
勇者「……(何でこんなにも嫌な予感がするんだよ……)」
勇者「(頼む……何事もなく開いてくれよ)」
────
──しかし、勇者の願いとは裏腹に、事態は最悪の方向へと動いていた。
勇者「バカな……嘘だろおい」
勇者「確かにここにあったはずだ……宝箱が」
勇者「それが何で……ないんだ」
──宛もなく、他にあの扉を開く方法を模索するも……見つかる筈がなく。
奇しくも、勇者達は50年前の二人と同じ状況に立たされた。
勇者「……クソッ(もう手がない……後はじいさん達と同じく賢者の石を持って来るか他に魔力を使える奴を生け贄にするしか……)」チラッ
魔法使い「……」
勇者「(……最初から犠牲になるはずだったのはこいつだ。なら……)」
勇者「僧侶、聞こえるか?」
『ゆーしゃさま? どうしたんですか?』
勇者「話がある、一回ここを開けてくれないか?」
『……』
勇者「」ジロ
魔法使い「……」
勇者「(悪く思うなよ、お前と僧侶じゃ天秤で計るまでもない。博愛主義で勇者やってるつもりはないからな。俺はじいさんみたいに優しい選択は選ばない)」
『わかりました。けど、絶対に約束してください』
勇者「なんだ?」
『ここから出るときは三人全員で出ることが絶対条件です。誰一人残さないと、誓ってください』
勇者「……(見透かされてたか。……僧侶のやつ。)」
魔法使い「……(この子……)」
『でなければこのまま私が犠牲になります』
勇者「ったく……、わかったよ。約束する」
『それでこそゆーしゃさまですっ! 今開けますね!』
勇者「……悪かった。ちょっとでもお前を残して行こうって考えちまったよ」
魔法使い「ううん。当然だよ、そんなの。だって二人は仲間で、私は仲間じゃないんだもん」
勇者「……」
手短に僧侶に状況を話す。
僧侶「宝箱が……なんで」
勇者「さあな、それより今はどうやってここを出るかだ」
魔法使い「正直無理だと思う。私も君達が助けてくれるまでに色々試してみたけどどれもこれも駄目だったよ」
勇者「例えば?」
魔法使い「床を爆破系魔法で吹き飛ばして潜って行こうとしても床もオリハルコンだから無理だし」
勇者「となると天井もその可能性が高いな……」
勇者「俺があの扉が下がるのを押さえてる間に二人が抜けると言うのはどうだ?」
魔法使い「それもうちのバカ戦士がやったけど無理だったよ。腕力でどうにか出来るもんじゃないってさ。ミンチになっちゃったら蘇生も危ういしね~」
勇者「……となると、だ。走り抜けるしかないな」ニヤリ
僧侶「ゆーしゃさま何か思い付いたんですね!」
魔法使い「走り抜けるって……そんなに下がって来るのが遅いなら苦労しないって……まさか」
勇者「ああ。一か八かやるしかない」
────
勇者「しっかり捕まってろよ」
僧侶「はいっ」
魔法使い「激突したら三人仲良くこの中で言霊残す羽目になるわね……」
勇者「このまま何もしないよりはマシだろ。それに」
魔法使い「それに?」
勇者「冒険しなきゃ道は開かれねぇらしいしな!!!」
僧侶「行きます! ゆーしゃさま!っ!」
ゴゴゴゴゴゴ.....
勇者「行くぜええぇぇぇぇぇぇぇっ」
勇者「ルーラ!」シュィッ
ゴゴゴゴ……
勇者「(思ったより閉まるのが早いっ)」
魔法使い「ぶつかるっ!」
僧侶「(神様……!)」
勇者「沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
体を反るようにして滑り込む。
三人は扉のギリギリ下をそのまま潜り抜けて行く。
魔法使い「やった! 抜けたよ!」
僧侶「さすがゆーしゃさま!」
勇者「……」
魔法使い「勇者君?」
僧侶「ゆーしゃさま?」
勇者「……ヤバい、止まらん」
「「えええええっ!?」」
「そっちじゃなくて左!」
「ゆーしゃさま右です!」
「「ぶつかるううううううううう」」
「「「うわああああああああ」」」
ドォォォォン……。
勇者「……へへ、へっへっへ」
僧侶「ふふ、あははっ」
魔法使い「あはははっ」
そうだ、これが……冒険なんだ。
泣いたり、笑ったり、痛かったり、気持ちよかったり。
嬉しかったり、楽しかったり、……苦しかったり、辛かったり……でも、
それでも前に進もうとするこの思いこそが……
勇者「あーーー冒険っていいなおい!」
僧侶「はいっ」ニコッ
「……魔法使い……?」ボトッ
魔法使い「えっ……?」
「お、おま……で、出れて……」
魔法使い「遅いわよ全く。て言うか何よその大量の食料……もしかして私に」
「魔法使いっ」ガバッ
魔法使い「ちょっ、戦士っ! あんたなにす」
戦士「良かった……ほんどに゛よ゛がったあ゛」
魔法使い「……何よ、そんな泣くほど心配されたら……(嬉しいじゃない……)」
勇者「こっちも一件落着だな」ニヤリ
僧侶「みたいですね」ニコッ
戦士「本当にありがとう! どれだけ言葉を尽くしても足りないぐらいだ」
勇者「気にしないでくれ、ついでだったから」
魔法使い「ついで扱いって酷くない勇者君!?」
戦士「勇者……だと?」
魔法使い「あ、しまった」
勇者「ん?」
魔法使い「いや、その、こいつさ……あっちの生まれの人間で」
勇者「……ああ、そういうこと」
勇者「行こうぜ僧侶。俺達にはまだやらなきゃいけないことがあるしな」
僧侶「ゆーしゃさま……」
戦士「勇者!!!」
勇者「なんだよ。憎まれ口なら他所で頼むぜ。反勇者国家生まれさん」
戦士「……いや、違う。お前が勇者だろうが何だろうがさっきの気持ちは変わらない!」
戦士「本当にありがとう」
勇者「……変なやつだな」
戦士「けどな! 魔王を倒すのは俺達だ! それだけは譲れねぇかんな!」
魔法使い「ちょっと! 私まで勝手に入れないでよ!」
勇者「ああ! どっちが先に倒すか競争と行こうぜ!」
戦士「おおよ!」
僧侶「ふふっ、ゆーしゃさま嬉しそう」
魔法使い「あれが男の友情ってやつ? って先行かないでよバカ戦士っ!」
勇者「……! ……さて、行くか。俺達も」
僧侶「はいっ!」
勇者「(……あんな場所にあの宝箱が……。偶然にしては出来すぎだな)」
「……ちっ、まあいいや。これぐらいで死んだらつまんないもんね、勇者。でも次こそは……」
短編 僧侶の日記Ⅲ
━━━━━━━━━━
勇者暦○○○年 四の月
この数日間、本当に色々考えさせられることばかりでした。
あるおじいさんとの出会いから始まり、そのおじいさんの冒険の果てを探し、他の冒険者の人達とも出会い、私達はこれからも冒険を続けて行く……。
人それぞれ生きてきた経緯が違うのは当たり前だけど……こうやって混じり合って、終わったり、繋がったり、していくのは何だか凄いことだなって思いました。
終わり、そう……おじいさんは言いました。
……で自分達の冒険は終わったのだと…。
魔法使いさん達と別れた後、私達はおじいさんの所に行きました。
ゆーしゃさまは全てを話した後、こう言いました。
『あんたの相棒の冒険は、まだ続いている』と。
それでおじいさんは決心したのか私達と一緒に洞窟へ来てくれました。
おじいさんはどうやって扉を開けたのかを聞くことはせず、ただ長年閉ざされていた扉が開いてるのを感じたのか、何とも言えない表情をしていました。
それでも、進みました。
そして……、
おじいさんは、
宝物を見つけました。
それは、ずっと、彼女が願っていたことでもありました。
────
「これは……」
「私が彼女に渡した指輪……」
勇者「」コクリ
僧侶「……」
僧侶「……お前の最後の宝物は私だったってことだ」
「!!!!?」
僧侶「探しに来い、一生かけて……私を見つけ出してみろ」
「まさか……魔法使いの……?」
『そして、もし……ここに辿り着いたら。もう一回、指輪を渡しに来てくれ』
『ずっと、待ってるから』
『新しい冒険の舞台でな(あの世でな)』
「ハハッ……あのバカは……本当に……冒険が大好きだったんだなあ……」
そうして、魔法使いさんの指輪を大事そうに握り締めた後、おじいさんはこう言った。
『ここでの自分達の冒険は終わりました』
と。
けど、そう言ったおじいさんの顔は、とても晴れやかでした。
この数日間
私達は……
何を得たわけでもなく
何かを変えたわけでもないけれど……
それでも
勇者「またな~~~じいさ~~~ん! 長生きしろよ~~~!!!」
僧侶「本当にお世話になりましたぁ~~!!!」
「またいつか冒険の話をしに来てくだされーーーー!!!」
たっくさん!たっくさん!冒険しましたっ!!!
冒険の果て 終わり
続き
僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」【2】