もう、疲れた。
人は信じない
まんまるに輝く月を眺めて、深くため息をついた
元スレ
ゾロアーク「……大好き」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1302177850/
私がまだゾロアだった頃
歩き疲れて道端で休んでいた時、マスターと出会った
私を見ると、マスターは優しく手を差し伸べてくれた
初めて人間と触れ合った、
初めて人間の優しさに触れた時だった。
マスターは私にいろんなものを見せてくれた
きれいな海、真っ赤な夕焼け、広い野原、知らない町
そして、戦いの厳しさを知った。
勝つことの喜びを知った
負けることの悔しさを知った。
やがて私はゾロアークに進化し、マスターの為に命を懸けて戦うことを誓った。
マスターとの生活は、私にとって刺激的なものだった
ある日
私達は不思議な街に足を踏み入れた
真っ黒な街
人間の欲望が渦巻く街。
「何だ…この街…」
マスターが漏らした言葉はすぐに薄暗い街に溶けていった。
街の人は皆目がギラギラしていて、皆自分の欲望を満たそうと必死になっている
警戒しながら街を歩いていると、大きな建物に辿り着いた。
この建物は街の中心にあるようだ
「ブラックマーケット…?」
マスターは看板の文字を怪しそうに読み上げた
〈マスター…もう帰ろう〉
"あぁ。"とマスターが言いかけた時、中から一人の男が現れた。
「よぉ、見ていかねーか?なんでも揃ってるぜ」
ここのオーナーなのだろうか
スーツにハット、いかにも怪しげな雰囲気の男だ。
こういう時マスターはなかなか断れない性格。
「あ、……じゃあちょっとだけ」
おそるおそる、私達は店の中に入った
「すげぇ…」
黒と紫を基調とした店内。
キラキラしていてとても綺麗だが、一般人が来るような店には思えない程、怪しい雰囲気だった。
「うわ…こんな物まで売ってんのかよ……」
マスターが手にしたのは大きな真珠。
普通の店では売っているはずのないものだ
他にも色の欠片や星の砂が置いてあった
「あ、あれは!」
そこには、マスターがずっと欲しがっていた進化の石とハートの鱗があった
「1万……っ」
財布を確認するマスター。
だが、わずかに足りなかった
「金が足りねぇのか」
声を掛けたのは先程のスーツの男
なんだか嫌な胸騒ぎがする。
〈マスター、諦めて帰ろう。次の町に行こう〉
私がそう言っても振り向きもせず、マスターは男の次の言葉を持っている。
「外にいるいきのいい奴等を10人倒してきな」
男はいやらしくニヤっと笑った
「いくぞゾロアーク!」
私を引っ張って店の外へ駆け出すマスター。
いつの間にかマスターは、この街の住民と同じ目をしていた。
「あと1人…!」
街中をどれだけ探してもトレーナーは9人しかいなかった
「おい、9人しかいねぇぞ!!」
マスターが男に怒鳴る
「なら明日になるまで待てばいい。ま、せいぜい頑張りな」
ずっと欲しかった進化の石とハートの鱗が目の前にあるのに、あともう少しの所で届かない
そのことがマスターを狂わせたのだろうか。
ふと私を見て、ゆっくりと口を開く
「…このポケモンは いくらで売れるかな」
一瞬で頭が真っ白になった。
〈マスター…?何、言ってr〉
「なぁ、こいつをいくらで引き取ってくれる!?」
「ほぅ、ポケモンを売って金にするってか」
ニヤつくスーツの男
「ここまでする馬鹿は初めてだ!気に入った!5万で買ってやる!!」
声を出して笑いながら男は言った
〈マスター……マスター!!〉
いくら呼んでも、マスターにはもう私の声は届かない。
マスターは嬉しそうに私のモンスターボールを男に渡し、金を受け取って早速買い物を始めている
嘘だ。
あんなに優しかったマスターが、こんなことするはずがない。
そう思いたかったが、マスターは私に声もかけずに店を出ていった
「お前の主人はお前より自分が可愛かったみたいだな。金の力ってすげぇだろ」
はっはっは、と笑いながら男は私に首輪をつける
私は商品となった。
馬鹿な人間の欲望を満たす為の"モノ"になったのだ
あんなに大好きだった、あんなに信頼していたマスターの手によって。
抉られたかのように心が痛む
どうして?
そればかりが頭をめぐった。
「あら、ゾロアークじゃない。これも売り物なの?」
ある女がスーツの男に話しかけた
「あぁ、そうだ。今なら10万にしとくぜ」
マスターから5万で買ったのに、倍になっている。
汚い男だ。
しかしそんな事は知らない女は「本当!」と嬉しそうに言い、財布から金を出した
「必要がなくなったらまたここへ来な。」
そう言って男は金を受け取り、モンスターボールを女に渡した
女は鼻唄まじりに店を出てケンホロウの背中に乗る
「ほら、乗りな」
笑顔で手を差し伸べる
ちょっとしたことだが、今の私にはとても嬉しかった。
私も笑顔でその手をつかみケンホロウに飛び乗った。
どこへ行くのだろう
この人の名前が知りたい
仲良くなれたらいいな。
そんな事を考えてる間に目的地に着いたようだ
「こんにちは、おじいさんおばあさん。この子預かってくれる?」
やって来たのは育て屋。
私はメタモンと一緒に預けられた
あぁ、そうか。
この女が買ったのは私じゃない。
卵を産める私の体を、
ゾロアの卵を買ったのだ。
私は求められていない。
それなのに一人でもっと知りたいだとか、仲良くなりたいだなんて馬鹿みたいに考えて。
もういい。
ポロポロと涙がこぼれる
それと同時に、今まで抑えていた感情が一気に溢れた。
私は必死に声を押し殺して泣いた。
夜になった
今日だけで何度行為をし、たまごを産んだだろう
メタモンは疲れて寝てしまったようだ。
空を見上げる。
数えきれない程の星が瞬いている
とても綺麗なはずなのに、虚しさが込み上げた。
いくら手を伸ばしても掴めない。
マスターを思い出し、また泣きそうになる
どうして私はこんな所にいるの?
昨日まであんなに幸せだったのに。
人間はもう信じない
あの女もスーツの男もマスターも
自分の欲しか見えていない人間なんか。
いっそ、この爪で切り裂いてやろうか。
この牙で噛み砕いてやろうか。
この力で全てを壊してやろうか。
自分の手を見つめ、ため息を漏らす
馬鹿なことを考えるのはよそう。
きつく瞼を閉じて、深い眠りについた。
………────────
『…アーク……ゾロアーク…』
マスター…?
…違う。
『おいでゾロアーク。怖くないよ』
誰…?
横にいるのはポケモン?
マスターよりも優しい顔
マスターよりも優しい声
誰だろう……
────────………
翌朝
マメパトのさえずりと共に朝日が昇り、私の目を刺激する
目を覚ますと真っ先に視界に入ったのはメタモンの姿。
夢の中の人は誰だったのだろう
わかるはずもない。
私はただ行為をして たまごを生む。
それを繰り返すだけの一日。
あの日、あの街に行かなければ
あの時、無理にでもマスターの手を引いていれば
きっと幸せな今日だったはずのに。
メタモンとの虚しい単純作業は、夜まで続いた。
そんな毎日が続いたある日
「おいでゾロアーク」
女が私を呼んだ。
なんだか嬉しそうな顔をしている
育て屋に金を払い、ケンホロウに乗る。
そして、あの街に着いた。
私は必要なくなったということか。
「よぉ、もういいのか?」
スーツの男だ。
「えぇ。いくらで買ってくれる?」
「5万だ」
男は女に金を渡し、私はまたこの店に売られた。
女はじゃあね、と言って店から出ていった
「また会ったな」
再び私に首輪をつける男。
〈また10万の商品になるの?〉
「あぁ。それから次からはレンタルにするかな」
「お前はレベルも高くてかなりいい才能を持ってる。ただ育ち方がよくなかったな」
「売れても育て屋の後すぐボックス行きだろう。それならレンタルの方がいいだろ?今回は運良く帰ってこれたがな」
笑いながら言う男
〈……そう。〉
もうどうでもいい。
しばらくして、一人の客がやってきた
「このゾロアークを買いたいんですけど……」
そう言ったのはマイクと名乗る男
「レンタルで10万だ。1ヶ月以内に返しにくればいい」
「これからジョウトに行くんですけどそれでもレンタルできますか?」
イッシュ地方のポケモンがジョウトに行くことはできない
決められていることだし、船に乗る前に止められる。
わかってて言っているのだろうか
「あぁ、好きにしな」
男は何も言わずに金を受けとり、モンスターボールをマイクに渡した
店を出た。
「ゾロアーク、俺はジョウトでジプシージャグラーをやってるんだ。そこでお前に手伝ってほしいと思う」
人差し指を立てて言うマイク
「お前はイリュージョンで色々なものに化けてほしい。出来るな?」
適当に頷く
「じゃあ人間に化けてくれ。今からヒウンシティに行ってジョウト行きの船に乗る」
そういうことか。
バレなければいいが…
言われた通り適当に人間に化けた。
船に乗る
部屋に入ると「ショーの間は絶対にゾロアークの姿に戻るな」と念入りに言われた
そしてすぐに練習が始まった。
人間の姿からポケモンの姿に、また人間の姿にといったショーを行う予定らしい。
練習はギリギリまで行われ、少しでも間違えると怒鳴られた。
私に逃げ道はない
逆らわず、言われた通りに練習した。
港についた
何もかもが初めての感触。
土、空気、草に水。
知らない土地に胸が高鳴ったが、マイクの声ですぐに現実に戻された。
マイクは港のすぐそばでショーの準備を始めている
暇なので海を覗き込む
海を見て、心臓がどくんと大きく跳ねた。
海に映った私の姿は、マスターそのものだった。
もう見れないと思った顔を、無意識のうちに自分で創っていた。
心のどこかでまだマスターを愛しているのか
どこまで馬鹿なのだ、私は。
落ちた涙の波紋で海の中の顔が歪む
違う人間の姿に化けて、マイクのもとへ戻った。
「さぁ今からショーを始めます!よかったら見ていってくださーい!」
マイクが呼び込みを始めた
徐々に人が集まってくる
念のため練習で言われた事を頭の中で繰り返した。
「よし」
気合いを入れるマイク
「レッツショータイム!!!」
マイクの声と共にショーは開演した。
マイクがジャグリングやバルーンアートで会場を盛り上げる
見物客も増え、賑やかになってきた
そして私の出番がやってきた。
「お次はイリュージョンです!」
マイクの声を合図に舞台に上がる
客を見た瞬間、私は自分の目を疑った。
時が止まった気がした。
客の中に、夢の中で会ったあの人とそっくりな少年がいた。
横にいるほっぺの赤い、黄色いポケモンも一緒だ。
「この人がゴルダックに変わりますよー…1、2、3!」
何故ここにいるの?
あなたは誰?
「…1、2、3!」
マイクの言葉は耳に入って来ない
マイクは真っ赤な顔で私を舞台から引きずり下ろし、ショーを一人で終わらせた
客が帰っていく。
誰もいなくなってから私は元の姿に戻った。
「ゾロアーク…何考えてんだ……」
声を震わせ、私を叩こうとするマイク
「へぇ、ゾロアークってポケモンか。初めて見たな」
「!?」
〈っ…!〉
声のした方を見ると、あの少年と黄色いポケモンが立っていた。
「こいつはどこの地方のポケモン?」
「い、イッシュっていう地方のポケモンで……」
動揺するマイク
ふーん…と言いながら少年は私を見る
やっぱり優しい顔をしている。
すると私の頭を優しく撫で、口を開いた
「こいつ俺に譲ってください」
予想外の出来事にマイクの動きが止まった
私も訳がわからなかった。
〈心配いらねぇよ〉
話しかけたのは黄色いポケモン。
〈あいつはいい奴だから安心しろ〉
そう言って小さい手で私の足をぽんぽんと2回叩いた
2人を見る。
マイクとは反対に少年は余裕の表情をしている
「こ、こいつはレンタルだから譲れないよ」
"レンタル"という言葉に一瞬眉をしかめる少年
「どこからいくらで借りたの?」
「…イッシュのブラックマーケット……12万だ」
年下の少年に嘘ついてどうする…。
そう思ったが、口には出さない
しかしそれを聞いた少年はリュックを探りはじめる
そして手に持ったものをその場にばら撒いた
「20万。俺がその店行って代わりに返してくるからこれで譲ってくれませんか?」
はらはらと地面に落ちていく一万円札。
〈金だけは持ってるんだよなあいつ。ポケモンリーグは絶対甘やかしすぎだと思うぜ俺は〉
口をへの字に曲げ、可愛らしい腕を組んでどこか誇らしそうに黄色いポケモンは言った
「……1ヶ月以内に返しに行け」
マイクはそう言って金を拾い、モンスターボールを置いて遠くへ走っていった。
また別の人間にモンスターボールが渡った
しかし何度主人が変わろうと私には関係ない
"私"は求められていないから。
「さてと…。俺はレッド、普段は山で修行してるんだけど今日はたまたまここにいたんだ。よろしくな! で、こいつはピカチュウ。俺の相棒だ」
〈よろしくな〉
優しく微笑む2人
心が少し温かくなったと同時に、少しだけ怖かった。
「よし、じゃあ今からイッシュ地方とやらに行くか。こっちにいるのはやばそうだし」
確かに誰かに見つかれば騒ぎになるだろう
「行こうぜ」
手を差しのべる少年
しかしなかなかその手を掴むことができない。
人間に裏切られるのはもう慣れた。
ただ、私は優しい笑顔に裏切られる怖さを知っていた。
「おいでゾロアーク。怖くないよ」
一瞬耳を疑った。
それは夢の中のレッドと同じ台詞だった。
やっぱりあれはレッドとピカチュウだったのか
気付けば私はレッドの手を握っていた。
ニッと嬉しそうに笑うレッド
なんだか照れ臭い。
ふとピカチュウを見ると、私たちを見てニヤニヤしていた
「向こうに着くまでのあいだ人間に変身できるか?」
首を縦に振り、人間に化ける
おぉ、と声を漏らす2人
「じゃあ行くか」
私たちはイッシュ行きの船に乗り込んだ
船に乗ると私は少しだけ寝てしまった
その間、頭に温かいものを感じていた。
恐らくレッドが撫でていたのだろう
レッドの手は何故かすごく安心する。
それでも、レッドは人間だ。
信じきることはできない
〈おい、着いたぞ〉
ピカチュウの声で目を覚ます
外はもう暗くなっていた
船を降りる。
「すげー!!!」
レッドとピカチュウは立ち並ぶ高層ビルに目を輝かせている
「どんなポケモンがいるのかな!てかポケモンセンターどこだ!?」
興奮しっぱなしのレッド
〈あっち〉
マスターとこの街に来たことがあるから場所は覚えている
元の姿に戻り、2人を案内した
ポケモンセンターはトレーナーの宿にもなっている
レッドは部屋の鍵をもらい、廊下を進んでいく
「よし、腹へっただろ!俺が今から作ってやる!」
そう言ってキッチンに向かうレッド
〈レッドの飯はうまいぞ〉
ピカチュウはいつの間にか首にエプロンを下げ、ナイフとフォークを両手に持って椅子に座っていた
すでにいい匂いがする
ぐぅ~、とお腹が鳴った
「出来たぞー!」
レッドが大量のご飯が乗った皿を持ってキッチンから現れ、それを3つテーブルに置いた
「〈いただきます!!!〉」
2人はすごい勢いで山を崩していく
〈食わねぇのか?〉
2人を眺めているとピカチュウが私のご飯を一口食べた
私も一口食べる
〈美味しい……〉
手料理なんて初めて食べた
ポケモンフードしか食べたことがなかったし、お腹も空いていたから余計に美味しく感じた。
何よりも、愛情がこもっている
何故だか涙が溢れた。
泣きながらご飯を食べた。
一口一口、味わったことのない愛情を噛み締めた。
「そんなにうまかったか?」
先に食べ終わったレッドは私の横に移動し、冗談混じりにそう言って頭を撫でてくれた。
何度も頷く
私が泣き止むまでずっと撫でてくれた
ピカチュウも何も言わずにずっと待ってくれた。
落ち着いた私は今までの事を全て2人に話した。
マスターのこと、街に行ったこと、商品になってからのこと、夢を見たこと。
「辛かったな…。」
レッドはぎゅっと抱き締めてくれた。
それからレッドは今までの旅の話を聞かせてくれた
はじめてポケモンを貰ったこと、ジムをまわったこと、チャンピオンになったこと、山での修行のこと。
図鑑も見せてくれた。
知ってるポケモンや、見たことのないポケモンなどたくさん載っていた。
私は自然と笑顔になっていた
それを見て2人も笑顔になる
こんなに楽しい夜は何日ぶりだろうか。
「明日ブラックマーケットに行こう」
突然のレッドの言葉に、心臓がばくばく音をたてはじめる
もう売られてしまうのか。
でも、きっと大丈夫。
これだけ優しさをもらったからこれから他の人間にレンタルされても強く生きていける気がする
〈わかった〉
深く頷いた。
「よし、じゃあ寝るか」
レッドは電気を消して、私たちはそれぞれのベッドに入った
船で少し寝たせいか、なかなか寝付けない
窓から外に出る
たった1日だったが、とても楽しかった
またこんなにも人間が好きになれるなんて思っていなかった。
空を眺める
ガラッと窓が開いた音がした
〈よぉ〉
隙間からピカチュウが顔を覗かせた
〈飲むか?〉
ピカチュウの手には2本のサイコソーダ
レッドのリュックから持ってきたのだろう
ひとつ受けとる
〈お前さん、俺たちの夢を見たって言ってたよな〉
〈実は俺もお前さんの夢を見たんだ。俺たちを見て泣いてる、黒いポケモンの夢〉
思わずソーダを落としそうになる
私の頭の上に移動するピカチュウ
〈俺はその夢の事をレッドに言った。で、あのショーを見かけたんだ〉
〈レッドは初めて人間の姿のお前さんを見たとき、「"助けて"って言ってる」って言った〉
レッドには私の心が聞こえていたのか
それだけで嬉しかった。
〈あの夢のポケモンが変身か何かしてんじゃねぇか?って話になって、終わってから見に行ったらそうだったんだ〉
〈お前さんも夢見てたって聞いたときはびっくりしたぜ〉
私たちは夢で繋がっていた。
偶然なのか神様が助けてくれたのかはわからない。
それでも、この2人に会えただけで心が晴れたような気がした。
〈レッドは何であんなに優しいの?〉
ソーダを飲む
〈レッドはポケモンが大好きなんだよ。困ってるポケモンがいたら絶対見捨てれない奴なんだ〉
ピカチュウは私の髪で遊びはじめる
〈そんなレッドが大好きなんだよ。俺達は〉
そう言って照れ臭そうに髪の中に潜り込んだ
〈レッドはいい奴だっただろ?〉
ソーダを飲むピカチュウ
〈うん。…でも、やっぱり信じきることはできない〉
〈……そうか。まぁ無理もねぇな。〉
〈けどあいつはお前さんと仲良くなりてぇようだぜ〉
私と…?
私をポケモンとして見てくれている
それはこんなにも幸せなことだったのか。
〈あっ……〉
〈どうしたの?〉
〈わりぃ、髪にソーダこぼした……〉
〈…………。〉
〈……すまねぇ〉
部屋に入り、水でソーダを洗い流す
ピカチュウは掛けてあった布で濡れた髪を拭いてくれた
〈ありがとう。一日だけだったけど楽しかったよ。次も優しい人にレンタルされたらいいな〉
本当に楽しかった。
〈んー…?〉
ニヤニヤしながら布を元に戻すピカチュウ
〈そうだな〉
何か言いたそうだが、言ってはくれなかった
〈じゃ、そろそろ寝ようぜ〉
〈うん、ありがとう〉
おやすみ、と言って私たちはそれぞれのベッドに横になった
翌朝
赤い大きなポケモンに乗り、ブラックシティを目指す
そして、あの店に着いた。
街の雰囲気に臆することなく中に入るレッド
私とピカチュウも後に続く
「ん?ゾロアークじゃねぇか」
スーツの男が近づいてくる
「こいつをレンタルしてるって聞いたんですけど」
私を背中で隠すように立って言うレッド
「……あぁ」
急に嫌な空気が流れはじめる
「こいつを引き取りたいんです」
「……は?」
まさか…。
心臓が音をたてる
「だから、こいつを引き取りたいんですけど」
「…坊や、さっき自分でレンタルしてるかって聞いたよな?レンタルってのは引き取れないんだよ」
「いくらならいい?」
「はぁ……」
イライラしはじめるスーツの男
店中の人が2人に注目している
「100万だ」
言い放つスーツの男
「わかったらさっさと帰んな」
店の中が諦めたような雰囲気になる中で、レッドとピカチュウは同じタイミングでニヤッと笑った
リュックに手を突っ込むレッド
ドサッという音と共に床に落ちる札束
「カントー・ジョウトチャンピオンなめんじゃねぇよ」
店内は静まり返った。
レッドは帽子を深く被り直し、私の手を引いて店から出た。
〈かっこよかったぜレッド!見たかよあの顔!〉
「おぅ、もっと褒めていいぞ!こーんな顔してたな!」
楽しそうに馬鹿にする2人
〈レッド…ピカチュウ……〉
2人に抱きついた
〈ありがとう…ありがとう……!〉
いくら感謝してもし足りない。
「今までよく頑張ったな」
レッドはまた優しく撫でてくれた。
ピカチュウもまた私の頭の上に上り、ぽんぽんと優しく叩いた
「これからどうする?」
〈新しい主人を探すよ。レッドみたいに優しくて強いトレーナーを。〉
本当はレッドと一緒にいたいが、私はジョウトやカントーで暮すことはできない。
かといってイッシュに住めと言うのは、あまりにも勝手すぎる。
「そうか。俺のこと忘れんじゃないぞ?」
こんな恩人を忘れるはずがない。
ピカチュウはレッドの肩に戻った
ヒウンに戻り、帰る2人を見送る
「いつか旅に来るからな。また会おうな」
〈待ってるよ。ありがとう〉
〈まだ人間は信じれねぇか?〉
ピカチュウの言葉に首を横に振る
〈信じちゃいけない人間はいるけど、信じるべき人間もいるってわかったよ〉
そうか、と言って丸い目を細めて微笑んだ
〈いつかバトルしようぜ〉
〈絶対負けないよ〉
そして小さな手と握手した。
船に向かう2人
その背中に呟いた。
〈……大好き〉
声が届いたのか、背を向けたまま2人は手を振って船の中に入っていった。
あれから何日たっただろう
あの街は潰れたと誰かが言っていたのを聞いた。
噂では、一人の少女がやったらしい
街の人はみんな違う所に引っ越したそうだ。
私は今も主人を探している。
特別なポケモンを捕まえられるくらい強くて優しいトレーナーを
まよいのもりの、車の中で……。
おわり
105 : 以下、名... - 2011/04/08(金) 01:15:18.28 AvbJ8sdAO 62/62
読んでくれた人ありがとう!
支援もありがとう!
あとエーフィのやつ覚えてくれてた人がいて嬉しかった
またスレ立てた時は見てくれるかな?
エーフィ「行こう。」
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