捨てられた
人間に
一番信じてた人間に
「大好きだ」って言ってくれたあいつの目には、私はもう映ってない
私とあいつが出会ったのは、私がまだ卵から生まれる前。
殻を破って出た時のあいつの嬉しそうな顔は今でも覚えている
親の顔は知らない。
それでも、あいつがいたから幸せだった
朝起きたら私があいつを起こして、一緒に散歩に行く
お昼はあいつがパソコンを触る時間
あいつがパソコンを触っている時は近寄っちゃダメらしく、私はお昼寝をする。
夜は一緒にお風呂に入り、一緒に寝る
そんな生活をしていた
そんな生活が楽しかった
ある日
私はレベルが19になったと同時に、エーフィに進化した
これからもっともっと強くなるよ。
そう言おうとして振り向いた
「あーぁ、進化してもうた。ちょっと目ぇ離したらこれや」
「20レベなったらトレーナーに売る予定やったのに、進化したらあかんやん」
残念そうに言うマサキ
何でそんなこと言うの?
私は商品として愛されていたから?
何で、そんな冷たい顔してるの?
愛されてすらいなかったのか。
「おいで」
そう言われてついて行くと、すぐ近くの育て屋でマサキは立ち止まった
マサキは私を育て屋に預けると、家に帰っていった
一度も振り返ることなく
私はこれからただ卵を産むだけの存在になるんだ。
目の前が真っ暗になった気がした。
「お前も進化したのか」
話し掛けてきたのは、ブラッキーだった
「あなたもマサキの…?」
「そうだよ」
この人も私と同じ
大好きだったマサキに預けられた、卵を作るだけの存在
だんだんと涙がこみあげてくる
目からあふれそうになるのを必死で堪えた
それを察したのか、ブラッキーは何も言わずに私の頭を優しくなでてくれた
それが嬉しくて、今の現実を認めたくなくて、悔しくて、悔しくて、声を押し殺して泣いた。
ブラッキーの手は、暖かくて心地よかった
しばらくして泣き止んだあと、私たちは行為をして卵を産んだ
明日になればあいつが笑顔で受け取りにくるだろう
悔しいけど、私にはどうすることも出来ない
それから何回か私たちは卵を作った
ブラッキーはいつも行為が終わると、少し悲しそうな表情で頭をなでてくれる
私にはそれが嬉しくもあり、悲しくもあった
数日後
「エーフィ」
マサキが来た
しかし、卵を取りに来る時と様子が違う
「はい、今日から自由やで。ほなな」
私を育て屋の外に出すと、あいつはそう言って帰っていった
あぁ、そう。
ついに捨てられたんだ
涙は出ない
あいつに流す涙などない。
育て屋を振り返る
柵の向こうで私を見つめるブラッキー
「ブラッキー…」
目の前にいるのに、すごく遠くにいるような気がする
「エーフィ…」
そんな悲しい顔しないで
そんな悲しい声で呼ばないで
ここを離れたくなくなってしまうから、
涙があふれそうになるから。
「これからどうするんだ…?」
私にもわからない
「これから離れ離れになるのか?」
…言わないで。
「エーフィ…!」
ブラッキーの目が潤んでいる
いつのまにか、私たちは惹かれあっていたようだ
互いに近づき、柵の間からおでこと おでこをくっつける。
ゆっくりと離れて、今度は唇を重ねた
初めてのキスは、少ししょっぱかった。
「いけ。」
うつむいたまま声を震わせて言うブラッキー
泣いてる。
私のために涙を流してくれている
「いけ!」
私は走った
前なんか涙でほとんど見えてない
それでも走った。
人間なんか大嫌い
自分のことしか考えてない、人間なんか。
どれだけ走っただろう
いつのまにか知らない町に来ていた
夕日が眩しいくらいに輝いている
これからどうしよう
生まれた時から人間と一緒に育った私は、野生の生活を知らない
少し疲れた。
休憩しようと思い、近くの木の下に移動する
お腹が鳴った
ご飯と寝る所を探さなければ。
「お?誰だ?」
振り向くとラッタがいた
ラッタ「か、かわいい…」
「おーい、ラッタ!」
短パンの男の子がラッタを追い掛けてくる
この人達にどこでご飯が手に入るか聞いてみよう
エーフィ「あの…」
ラッタ「あの、今夜一緒にご飯食べませんか!?」
思ってもみなかった言葉
こんないい話、のるしかない
ラッタは短パン少年に私のことを話し、一緒に少年の家に向かった
ラッタ・少年「ごちそうさまでした!」
ご飯はとてもおいしかった
「エ、エーフィ!今日、と、泊まっていきなよ!」
顔を赤らめて言うラッタ
…なるほど、私の体が目当てか
「いいの?ありがとう」
野宿は嫌だったし、ご飯を食べさせてもらったのでそれくらいは仕方ない
少年が寝静まった頃
ラッタは必死に私の上で腰を振っている
気持ち良さそうに吐息を漏らすラッタに対して、私は何も感じなかった
ただ、少しブラッキーのことを思い出した
疲れ果てたのか、満足したラッタは私の隣に倒れこみ、そのまま眠りについた
窓から月の明かりが差している
『エーフィ』
ふと思い出す、私を呼ぶブラッキーの声。
もう寝よう。
布団に潜り込んだ
翌朝
少年とラッタはまだ眠っている
私は家を出た
何日も世話になったら、少年に捕まえられてしまうかもしれない
それだけは絶対に嫌。
ラッタのおかげでご飯と夜の凌ぎ方はわかった
本当は嫌だけど仕方ない。
人間に捕まるよりはマシだ。
今まで人間に利用されてきた。
その分、今度は私が利用する
ポケモンと一緒に暮らすトレーナーを。
トレーナーとポケモンを見つける
ポケモンをじっと見つめ、視線に気付いた相手を誘うふりをする
それで向こうから声をかけてくれば、ご飯と宿ゲット。
私はただ股を開けばいいだけ
雄って、バカばっかり。
いや、そう思っている私の方が馬鹿か。
体を売って生きている馬鹿なポケモンなんて、私だけ。
宿探しも慣れた
最近は行為中の演技も出来るようになった。
前方には買い物帰りのピカチュウと少年
今日はあのピカチュウを狙おう
いつもの作戦にでる
視線に気付いたピカチュウに誘うふりをする
すると、ピカチュウは少年と何やら話をはじめた
ピカチュウと少年が近づいてきた
少年も一緒だと、夜のことが言いにくい
まあいい。
ご飯さえOKがでればあとはなんとかなるだろう
「お前さん、野生か?」
ピカチュウが話し掛けてきた
「野生のエーフィなんて珍しいな…」
続ける少年
「腹減ってないか?飯作ってやるよ」
人間に誘われるのは初めてだ
少し戸惑う
「遠慮はいらねぇぜ。レッドの飯はうまいぞ」
少年はレッドというらしい
ご飯が食べれるなら、何でもいい
私はレッドとピカチュウについていった
近くのポケモンセンターについた
ポケモンセンターはトレーナーの宿にもなっている
レッドは山盛りのご飯を作って、私とピカチュウの前に並べた
レッド・ピカチュウ「いただきまーす!」
二人はすごい勢いで山を崩していく
「食わねぇのか?」
いたずらな笑顔で私のご飯を一口食べるピカチュウ
それにつられて私も一口食べてみた
…とてもおいしい。
今まで食べたご飯の中で一番おいしかった
ご飯のあとにレッドはきのみジュースを作ってくれた
それを飲んで落ち着く私とピカチュウ
「お前、捨てられたのか?」
レッドから突然の質問
何も言葉が出てこない
「今日俺にやろうとしてたみたいに、ポケモンに体を売って生活してたのか?」
全てバレていたようだ。
悲しそうな顔をするレッド
何で人間のレッドがそんな顔をするの?
ふと、私の頭を優しくなでるピカチュウ
「俺は何もしねぇよ。安心しろ」
ピカチュウの手は暖かくて、ブラッキーの手とよく似ていた
「今日は俺たちと一緒に泊まっていけ。」
レッドの優しい声
捨てられてから一度も流さなかった涙が、二人の優しさに耐えきれなかった
レッドは私を きつく、優しく抱き締めてくれた
レッドの腕の中で、大声をあげて泣いた。
あんなに大嫌いだった人間の腕の中で。
泣きながら私は今までのことを全て二人に話した
マサキとの生活のこと、捨てられたこと、捨てられてからの生活のこと、ブラッキーのこと。
うんうん、と頷きながら二人は最後まで聞いてくれた
話し終える頃には泣き止み、私も落ち着いていた
「レッド」
「あぁ。」
何かを確認する二人
「エーフィ、明日マサキの所に行こう」
ドクン、と心臓が動く
「ブラッキーと一緒に暮らしたいか?」
呼吸が乱れる
何度も頷いた
「よし。俺にまかせろ」
レッドはニッと笑ってみせた
「じゃあ明日に備えて就寝!おやすみ!」
電気を消して、私たちは布団に入った
次の日
私はレッド達と一緒にマサキの家の前にいた
呼び鈴を鳴らすレッド
「はいはーい」
のんきなマサキの声
「あれっ、レッドやん。どうした……」
マサキと目が合う
「…なんや?」
戸惑うマサキ
「イーブイを売って商売してたのか」
レッドの声が怒ってる
「何のことや?」
「とぼけんじゃねぇよ」
険悪な空気が流れる
「このエーフィが何よりの証拠だ」
マサキは悔しそうに舌打ちをした
「ポケモンを使っての商売は禁止されてるよな?」
「コイキング売ってたおっさんが捕まったの知ってるだろ?」
「…頼む。このことは黙っといてくれへんか」
この通り!と頭を下げる
「条件がある」
なんや?と少し嬉しそうに聞くマサキ
「育て屋のブラッキーを譲ってくれ」
「それでええんか?」
驚くマサキ
「あぁ」
レッドが言うと、マサキはレッドが来たらブラッキーを譲るように育て屋に電話した
「またこんなことがあったら、その時は警察に連絡するからな」
念を押して、私たちは育て屋に向かった
もうすぐブラッキーに会える
心臓が鳴り止まない
育て屋に着き、レッドはブラッキーを抱えて出てきた
「エーフィ!」
ブラッキーは駆け寄ってきた
中でレッドに話を聞いたようだ
「これから二人で大丈夫か?」
心配そうなピカチュウ
「大丈夫です」
答えるブラッキー
「じゃあな。元気でな」
レッドは私たちを野生に返し、ピカチュウとどこかに歩いていった
エーフィ・ブラッキー「ありがとうー!!」
声をそろえて叫んだ
人間は嫌い
でも、レッドは好き。
私に初めて優しさをくれたから
「行こう。」
どこか人間のいない森で暮らそう
レッド達と逆方向に、私たちは歩きだした。
おわり

