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【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」【前編】
【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」【中編】
♯40
【西木野家】
♪シャカシャカシャカ
真姫「♪あいせーいっ へい へい へいっ すたーだっ!」
真姫「フフン、名曲ね。親友二人の食事の誘いに後ろ髪を引かれながらも断り、試合前日まで曲の調整。ほんと私ったら優秀よね」
真姫「凛と花陽が行くっていうとんかつ屋さんも庶民の文化として気にはなったけど…大きな勝負の前には家政婦の和木さんに作ってもらったトマトパスタ。これに限るわ」チュルチュル
にこ「…」
真姫「うん。シェフの作ってくれるパスタよりも素朴で優しい味。料理としてはシェフより劣るんでしょうけど、落ち着く味なのよね」
真姫「そしてレモングラスティーをアイスで。涼感ある風味でパスタソースを口中から濯いでくれるの。疲労回復、頭をスッキリさせる効果があるって聞くわ。夏には最適の飲み物ね」ゴクゴク
にこ「……」
真姫「ふう、美味しかった。だけど真姫ちゃんのお楽しみディナーはまだ終わりじゃないのよ。じゃん、トマトソルベ!パパが学会で出向いた先で買ってきてくれたの」
真姫「真っ赤でツヤツヤで素敵。食べる前からわかる。確実に美味しいわ。そして使われているのは自然由来の成分だけ。リコピンも摂れるし体にいいのよ。知性溢れる美貌の真姫ちゃんに相応しい逸品ね」
にこ「………」
真姫「うぅ~ん、トマトの甘みと酸味のこのバランス…滑らかな口溶け…陽の光を燦々と浴びて、健やかに育った味がするわ。とってもデリシャス」
真姫「美味しかったわ、ごちそうさま。さて、作業に戻ろうかしら。球場の音響データに合わせてみんなの歌声をもう少しいじらなないと。素人の歌声だし、しっかり調整しないと人様に聞かせる物にならないものね」
真姫「ヘッドホンを着けて……ふんふんふふーん♪」
にこ「ってぇ!にこを!延々っ!!無視してんじゃないわよおおおおお!!!!」
真姫「ヴェェェェェッ!!??な、な、なんで!なんでにこちゃんが私の部屋にいるのよっ!!」
にこ「はぁあぁぁ!?アンタ本気でにこの存在忘れてたわけ!?しばらくバイト代を受け取り忘れてて食費がピンチだったから貰おうとしたけど真姫ちゃんが財布を家に忘れて来てたから一緒について来てたんでしょうが!!!」
真姫「あ…ご、ごめん、そうだったわね。にこちゃん小さいから視界に入らなくて、すっかり忘れてちゃってたわ」
にこ「ぐぬぬ…人を放置したまま早めの夕食を堪能した挙句ナチュラルにディスってきたわねこいつ…」
真姫「ええと、バイト代。確か三週間分だったわよね。はい、三万円」
にこ「ん…ありがと」
真姫「でも、いいの?一週間にたったの一万円で。最初に言ったみたいに一日一万でもいいんだけど」
にこ「いいのよ。それ以上はもらいすぎだから」
真姫「そうなの?よくわからないわ」
にこ「最初は友達からお金をもらうのに葛藤もあったりしたけど…月に四万ぐらいなら、家計を支えつつ野球に打ち込めて、気持ちにも折り合いを付けられるギリギリのラインだってわかったの」
真姫「と、トモダチ…」
にこ「ちょ、いまさらそこで照れる!?言ってるこっちまで恥ずかしくなるでしょ!それにアンタさっき凛と花陽を親友二人って言ってたじゃない!」
真姫「言うのと言われるのは違うし…っていうか、さっきの独り言、全部聞かれてた…?ヴぇえ…」
にこ「真姫ちゃんって案外抜けてるわよね…。まあとにかく、バイト代として受け取ってるこのお金もいずれ絶対に返すわ。それが友達として、チームメイトとしての礼儀。今だけ、ありがたく借りておくわね」
真姫「にこちゃんがそうしたいのならそうすればいいわ。どうせずっと、と、…友達だから。返済は生涯単位で気長に待っててあげる」
~~~~~
にこ「別に送ってくれなくたっていいのに。帰るまでに暗い道とか危ない場所もないし」
真姫「別に、私の勝手でしょ。少し気分転換で散歩がしたくなって、それがにこちゃんの家と同じ方向だってだけ」
にこ「ハァ、こましゃくれた一年よね。で、帰りはどうすんの?もう一回にこが送って行くとか勘弁なんだけど」
真姫「運転手を呼ぶから平気よ」
にこ「くっ、これだからブルジョアは……」
真姫「…ねえ、にこちゃん」
にこ「何よ」
真姫「にこちゃんは、試合で打てなかったらどうしようとか考えたりする?」
にこ「打てなかったら?ははぁん、鋼メンタルの真姫ちゃんでもそんな殊勝な心持ちになることがあるわけね~」
真姫「ち、違う!参考!参考までによ!挫折知らずの天才マッキーは凡人の苦悩に興味があるの。教えなさい」
にこ「なかなか徹底してるわよね、アンタも…。ま、一応答えておくと、そういうのって考え出したらキリがないわよ。だからにこはマイナスイメージより、活躍して脚光を浴びてるところだけをひたすら夢想してるわ」
真姫「ひたすら夢想…」
にこ「オススメはキャッチフレーズを決めちゃうことね。自分のテンションを上げられる魔法の言葉があると、色々強いから」
真姫「にっこにっこにー、みたいな?」
にこ「その通り!はいっ、まっきまっきまー♪」
真姫「嫌よ、キモチワルイ」
にこ「ひっぱたくわよ!…ったく、もっと別の感じでもいいのよ。自分らしくてテンションの上がる言葉ならなんでも」
真姫「…難しい」
にこ「そうねー真姫ちゃんだったら…『勝利は金で買えるのよ!』うん、これね。」
真姫「い、嫌よ!」
にこ「勝利の部分は改変していいのよ!『審判は金で買えるのよ!』とか」
真姫「絶対にイヤー!!」
シュッ!
パシィン!
にこ「……ん、こんな時間に公園に人?」
真姫「本当ね、しかも野球やってるわ。アンダースローで投げてる、まるでことりみたいね」
にこ「……っていうか!アレことりよ!捕ってるのは海未!」
真姫「はぁ!?あの二人、試合前日に何考えてるのよ!止めなきゃ!」
スパーン!
海未「ナイスボールです、ことり。…もう暗いです、そろそろ切り上げましょう」
ことり「まだだよ。無理…しなきゃ」
海未「……そうですね。あと少し、あと少しだけ…」
海未・ことり((今のままじゃ、綺羅ツバサには投げ勝てない…!))
にこ「ことり!海未!」
海未「にこ、真姫…何故ここに?」
ことり「夜に二人で…もしかしてデート?デートなの?」
真姫「そ、そんなんじゃないから!キラキラした目で見ないで!」
にこ「って、それよりも!なんで試合前日の夜に投げ込みなんてしてるわけ?バカなの!?」
ことり「それは…」
真姫「にこちゃんの言う通り。…やっぱり、肩が熱を持ってる。オーバーワークは逆効果よ?」
海未「にこ、真姫、止めないでください。既に私たちにとってこれはスポーツではありません。あの女…綺羅ツバサとの、存在の意義を賭した生存競争なのです」
にこ「…は?」
ことり「そうだよ。もし勝てなかったら穂乃果ちゃんがいなくなっちゃう…それはことりと海未ちゃんにとって死ぬのと同じなの」
にこ「いやいや…」
ことり「さっきね、穂乃果ちゃんが不安そうにしてたから、二人で励ましたんだ。でもね、本音で言えば、私たちも死ぬほど不安なの…」
海未「もし穂乃果を奪われてしまえば、残りの高校生活…いえ、残りの人生全てです。陸に打ち上げられた魚のように、渇き、澱んだ瞳で空高く…手の届かないところで燦然と輝く太陽に恋焦がれながら、ただ緩慢に朽ちていくだけ…」
ことり「海未ちゃぁん…!ことりそんなの無理だよ…!穂乃果ちゃんと同じ空気を吸えなくなるなんて絶対に耐えられない!自殺しちゃいたいたくなるけど、そしたら穂乃果ちゃんを悲しませちゃうから自殺だってできない!死ぬよりも辛いよ!!」
真姫「…いや、意味わかんない。あなたたちが穂乃果ホノカ穂乃果ホノカなのは知ってたけど…」
にこ「いきなりポエム詠まれたんじゃドン引きよ!!穂乃果を守りたいならしっかり休みなさい!!!」
真姫「正論」
ことり「ごめんなさい…」
海未「すみません…」
真姫「とりあえず、早く冷やしてマッサージをした方がいいわ。すぐに処置すれば明日に疲労を残さずに済むはずよ。どこか、いい場所ないかしら」
にこ「……しょーがないわね。アンタたち、にこの家に来なさい。体のケアしないと」
ことり「え、にこちゃんの家?いいの?」
にこ「今日はマ…お母さんが泊まりの仕事だから、気にしなくていいわ。チビたちがいてちょっと騒がしいけど、それぐらいは我慢しなさいよね」
♯41
【矢澤家】
真姫「冷やして、固定して…よし。しばらくこのまま。熱が引いたら他の処置をするから」
ことり「ありがとう…ごめんね、真姫ちゃん」
真姫「冷静さを失っちゃ駄目よ、分が悪くなるだけ。クールに、クレバーに、勝機を狙いましょう」
ことり「…うん」
こころ「にっこにっこにー♪」
ここあ「にっこにっこにー♪」
海未「に、にっこにっこにー…♪」
こころ「海未さんお上手です!」
ここあ「お姉ちゃんのに比べるとキレがまだまだだけど!」
こたろう「しろうとー」ピコッ
海未「は、はぁ…精進します」
真姫「それにしても、にこちゃんの下の子たちはそっくりね。フフ、ちょっと笑っちゃうぐらい」
ことり「海未ちゃんずる~い…ことりもこころちゃんたちと遊ぼっと」
真姫「あっ、右腕は動かさないようにしなさいよ」
~~~~~
海未「ババ抜き、ラスト一枚…勝負の時ですっ!いざっ!!」
こたろう「こっちー」しゅっ
海未「う゛ぁぁぁぁ!!!」
真姫「海未…ババ抜きでこたろう君に負けるって…」
ここあ「あのお姉ちゃん面白いねー」ケラケラ
ことり「こころちゃんの髪の毛サラサラで気持ちいい~」
こころ「くすぐったいです…」
ことり「見ててね…ここをこうこう、こう結ぶと…はい、プリキュアの髪型~♪」
こころ「わあぁぁぁ!ことりさん凄いですっ!」
ことり「うふふ、気に入ってもらえた?」
こころ「はい!わぁ…すごいなぁ…!しかも片手で!やっぱりピッチャーの方は指先が器用なんですね!流石は二番目に上手な人のポジションです!」
真姫「ん、二番目に上手…?こころちゃん、一番上手な人のポジションってどこなのかしら」
こころ「もちろんセンターです!」
ここあ「センターだよ!」
こたろう「せんたー」
海未「あっ」
ことり「な、なるほど~」
真姫「にこちゃん…」
ガラッ!
にこ「そうよ!にこにーこそが最強センター!何か文句ある!?」
ことり「あ、にこちゃん…ううん、文句はないよ…あははは…」
にこ「ふん、よろしい!」
真姫(開き直ったわね)
海未(以前から疑問でしたが、にこは何故センターにこだわるのでしょう?)
にこ「食事できたわよ。真姫ちゃんはさっき食べてたけど、海未とことりはまだ食べてないんでしょ?たくさん作ったから食べなさい」
海未「い、いえ!そこまでお世話になるわけには」グゥゥ…
ことり「海未ちゃん、お腹鳴ってるよ。お言葉に甘えておこう?」
真姫(おいしそうな匂い…)
にこ「ふふん、真姫ちゃんも食べる~?」
真姫「別に、私はいいわ。お腹減ってないから」(私も食べたい…)
こころ「真姫さん、一緒に食べましょう?」ニコッ
真姫「ヴェ…別に、こころちゃんがそこまで言うなら…///」
にこ(あ、チョロった)
海未(真姫、子供相手に…)
ことり(カワイイもん、仕方ないよねっ♪)
真姫「そ、それじゃ、早く食べましょ。あまり遅くなると消化が悪くなって明日に響くから」
にこ「あ、ちょっと待っててね。こころ、ここあ、こたろう。ご飯の前にお父さんに挨拶するわよ」
ことり「え!お父さんいたの?うるさくしちゃってたかなぁ…」
こころ「はい!お父さまはいつも家にいますよ」
真姫(えっ、働いてないの?)
海未(在宅のお仕事をされているのでしょうか?)
こたろう「こっちー」ガラガラ
海未「あ、お父様はそちらのお部屋に?ご挨拶をしなくては………あっ」
真姫「……これって」
ことり「お仏壇…」
にこ(…気を遣わせて、辛気臭い感じになるから、人を連れてくるのは嫌だったのよね…ま、こいつらならいいけど)
ここあ「お線香用意したよー」
にこ「ありがと、ここあ。それじゃあみんな、お父さんに夜のご挨拶をするわよ」
こころ、ここあ、こたろう「はーい」
にこ「海未、ことり、真姫ちゃん。食事前だけど、ちょっと待っててね」
真姫「……お線香」スッ
にこ「え?どうしたの、手なんか出して」
真姫「私にもお線香ちょうだいって言ってるの」
海未「ええ、私たちにも是非お線香をあげさせてください」
ことり「にこちゃんにはみーんなお世話になってるから、お父さんにご挨拶しておかないとね」
にこ「アンタたち……ここあ、三人の分もお線香出してあげて」
ここあ「うん、わかった!」
真姫「ん、ありがとここあちゃん。…人の家のお仏壇に手を合わせるのって初めてなんだけど…なにかマナーとかあるのかしら」
にこ「そこにお線香を立てて、手を合わせてくれるだけでいいのよ。宗派によっては寝かせて置いたりとかあるらしいけど、うちはそんなに細かくやってるわけじゃないから」
真姫「ん……よし、こうね」
にこ「じゃあみんな、手を合わせてね」
海未(にこのお父様、にこにはいつも、本当に助けられています…)
ことり(みんな、いつも一生懸命なにこちゃんの事が大好きなんです)
真姫(ええと……にこちゃんのお父さん、ずっとにこちゃんたちを見守ってあげてください…)
にこ(パパ、これがにこの大切な友達たちだよ。まだ何人もいるの。今度、みんな連れてきて紹介するからね…)
にこ「…………みんな、ありがとね」
海未「いえ、今日はご挨拶できて本当に良かったです」
真姫「あ、写真…お父さん、にこちゃんたちに似てるわね。特にここあちゃんが似てるかしら」
にこ「そうね、ここあは目元がパパ似だと思う」
ことり「ん…、お仏壇に飾ってあるそれって、サインボール?」
にこ「ああ、それね。見ていいわよ」
真姫「ジャイアンツの…55?」
こたろう「ごじらー」
海未「なるほど、松井選手のサインボールでしたか」
にこ「ええ、パパは巨人ファン…ってより、松井の大ファンでね。にこが連れて行ってもらった時にホームランボールをキャッチして、その後でサインをもらったの。宝物にしてたわ」
ここあ「知ってる?松井は最強なんだよ!」
こたろう「せんたー」
こころ「そう、お姉さまも松井選手と同じセンター!お父さまもきっと喜んでます!」
真姫「センター…」
ことり「そっか…それでにこちゃんはセンターにこだわってたんだね」
にこ「ま、それだけじゃないけどね?スタンドを含めて球場を見て中心に位置するのはセンター!大銀河宇宙の中心たるにこにーにこれ以上相応しいポジションはないわ!」
こころ「流石はお姉さまです!」
ここあ「かっこいいー!」
こたろう「せんたー!」
真姫「……ま、突っ込まないでおいてあげる」クルクル
にこ「さーて!それじゃ食事にしましょうか!にこにー特製!滋養強壮!疲労回復スペシャルディナーよ!」
海未「これはまた…本当に美味しそうですね」
にこ「梅しらすのご飯、鶏胸肉のトマトバジルソテー、タコのカルパッチョ、グレープフルーツ入りサラダよ。全部疲労に効くのばっかりなんだから!」
ことり「わ、プロみたい!でもこんなに色々材料を使ったら高かったんじゃない?」
真姫「予算は私持ちだから。うちのお手伝いさんに電話して買ってきてもらったの」
海未「いつの間に…」
にこ「久々にお金に糸目を付けずに料理を作ったから楽しかったわ!さ、食べましょ!」
~~~~~
海未(にこの料理、絶品でした…。花陽であれば大喜びで、滔々と食レポを聞かせてくれるのでしょうね。また是非、部員みんなでにこの作ってくれた食事をいただきたいものです)
海未(ことりはソファーでにこの指圧を受けています。真姫の見立てでは明日の投球に影響は出ないだろうとの事。良かった…)
海未(真姫はノートパソコンで明日の曲の調整を。私はお手伝いで、こころちゃんたちを寝かしつける役目を。三人とも寝静まったようですね…可愛い子たちです。
お腹がいっぱいなのもあって、私も眠くなってしまいます…。これはいけませんね、立ち上がりましょう。起こさないように…)スッ
海未(西木野家の運転手さんが私とことりを自宅まで送ってくださるとの事。時間もそれなりに遅くなってきていますし、ここは素直にご厚意に甘えさせていただきます)
海未(さて、車を待つ間が暇ですね…。ふむ、真姫の作業が気になります。邪魔をしてはいけませんが、後ろからそっと覗き込むくらいなら良いでしょう)
真姫「♪~」
海未(おや、小さく鼻歌を歌いながらの調整ですか。ふふっ、可愛らしいです)
真姫「…?ヴぇえ!?海未!なんで覗き込んでるのよ!!」
海未「す、すみません!曲の編集というのはどのようにしているのか、気になってしまいまして…」
真姫「……ま、海未の場合は悪気があってじゃないだろうから許してあげる。今調整してたやつ、聴く?」
海未「いいのですか?」
真姫「いいわ、これは完成したから。試しに聴いてみてよ」
海未「では、ヘッドホンを拝借して…ああ、ことりと花陽と穂乃果の曲ですね…」シャカシャカ
海未「流石は真姫、素晴らしい完成度でした。頭がくらくらします」
真姫「ふふん、真姫ちゃんにかかればこれぐらい余裕よ。じゃ、作業に戻るわね」
海未(むむ…ことりの声は聴き慣れていますが、歌声となると一層強烈ですね…。それが花陽と穂乃果と相まって、脳内に砂糖と卵とミルクを入れて攪拌されているような錯覚が…ん?)
海未(居間の時計、秒針の動きが鈍い…疲れで感覚がおかしいのでしょうか…)
にこ「海未、何見てんの?…って、その時計電池切れかけてるんだったわ。替えとかなきゃ」
海未「ああ、電池切れが近くて針の動きが鈍くなっていただけでしたか。私はてっきり…………」
海未「……」
にこ「どうしたのよ、いきなり硬直しちゃって」
海未「止まる秒針……わかった…わかりましたよ!」
にこ「ちょっと!チビたち寝てるんだから大声出さないでよ!」ひそひそ
海未「あ、すみません…」
ことり「何がわかったの?海未ちゃん」
海未「決め球です!思いつきましたよ!!必殺の魔球を!!!」
にこ「静かに!」
海未「すみません…」
♯42
雪穂「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
穂乃果「んー?どしたの雪穂」
雪穂「あ、あのね…玄関の横に、不審者がいる…!」
穂乃果「ぅええ!?ふ、不審者?お、お父さんに…」
雪穂「お父さんは仕入先の人の法事!お母さんは地域の会合!今って家に私とお姉ちゃんとお婆ちゃんしかいないんだよー!」
穂乃果「げげ、それはまずい…まさかお婆ちゃんに頼むわけにもいかないし…」
雪穂「どうしよ…警察?警察?」
穂乃果「わー待った待った!まず本当に不審者なのか確かめないと警察はダメだと思う!」
雪穂「そ、そっか!お姉ちゃん冷静!」
穂乃果「これぞ年の功、フフフ。よ、ようし…私が見てくるよ」
雪穂「えっ、危ないよお姉ちゃん…」
穂乃果「これでも野球始めてからはかなり鍛えてるから大丈夫!…だと、いいなー」
雪穂「す、すぐ後ろで見てるから!何かあったらすぐ警察に連絡できるようにするね!」
穂乃果「まずは窓から見てみよう…あ、いるねいるね…変な人がうずくまってる」
雪穂「でしょ!?なんか様子が変だよね!」
穂乃果「うん、なんか呻いてるっぽい。…でも、結構小柄に見えるね」
雪穂「あ、確かに…女の人?」
穂乃果「っぽく見えるけど…あっ顔上げた。って……ツバサさん!?」
~~~~~
雪穂「お茶、置いておきますね。それじゃごゆっくり~…」(ゆ、有名人だ~!)
ツバサ「いや、助かったわ…。穂乃果さんに会いに来たんだけどね、いざ穂むらの前まで来たところで、迷惑なんじゃないかとか、色々考えちゃって。そしたらお腹痛くなってきちゃって…」
穂乃果「あの、もうお腹は大丈夫ですか?」
ツバサ「ええ、もらった整腸剤がバッチリ効いたわ♪それにしても、妹さんにまで迷惑かけちゃったわね…」
穂乃果「いやそんな!迷惑だなんて全然!」
ツバサ「そうかしら?私こう見えて、多少は常識も持ち合わせてるの。例えば、これは予想なんだけど…私との約束がイヤになったりしてるんじゃない?」
穂乃果「ぅえっバレてる!?あ、あはは…二時間ぐらい前に…」
ツバサ「ま、そりゃそうよね。メチャクチャな話だもの。でも取り下げるつもりはないわ。私はあなたを勝ち取ってみせる」
穂乃果「うん…今はもう大丈夫。負けませんから」
ツバサ「ふふっ、流石ね。あ、そうだ!どうして会いに来たかってね?これを差し入れに来たの!はいどうぞ」
穂乃果「わ、ありがとうございます…。スーパーのビニール袋…?中身は、ああっ!ポケモンパン!しかも何種類も!えっと、これをわざわざ?」
ツバサ「ええ、好きなんじゃないかと思って持ってきたんだけど…そ、そうでもなかったかしら?」ドキドキ
穂乃果「大好きですっ!!パンだし!シールも付いてるし!嬉しい!!」
ツバサ「そう、良かったわ」(喜んでる!よかったぁ!穂乃果さんの笑顔可愛いっ!!)
穂乃果「あの、一つ食べてもいいですか!?」
ツバサ「もちろん、何個でもどうぞ。でも食べすぎて明日のパフォーマンスを下げるのは駄目よ?」
穂乃果「気をつけます!」ガサガサ
穂乃果「ん~うまい」はむはむ
ツバサ(パンを食べてる穂乃果さんも可愛い…)
穂乃果「最近は妖怪ウォッチパンもよく見るんですよね。シールコレクターとしてはそっちも見逃せないっていうかなんというか」もぐもぐ
ツバサ「妖怪ウォッチね、私たちよりは少し世代が下じゃないかしら?」
穂乃果「シールに関してはそういうの気にしてないんです!貼れればなんでもいいかなーって。あ、シールのコレクション見ますか!?」
ツバサ「いいの?見たい見たい!」
穂乃果「えへへ!小さい頃からコツコツ貯めたのが何冊もあって、こっちはお菓子のオマケを集めたやつ、こっちは立体シール、こっちは友達と交換したやつで…」
ツバサ「わあ、すごい量!あ、このキャンディのシール可愛いわね」
穂乃果「あ、それお気に入りなんです!そうだ、ツバサさんにも一枚…」
ピピピピピピピ
穂乃果「あれ、着信音ですか?」
ツバサ「ああ、これね…UTX寮の門限前に設定してあるアラームよ」
穂乃果「え、寮の門限!も、戻らなくて大丈夫なんですか!?」
ツバサ「まあ私ぐらいになると、門限なんて多少は無視しても平気なんだけど…今日は門限通りに帰って英気を養うべきかしらね。穂乃果さん、突然押しちゃってごめんね。そろそろお暇させてもらうわ」
穂乃果「そっか…残念です。もっと遊びたかったなあ…」シュン
ツバサ「可愛い…」
穂乃果「え?」
ツバサ「や、なんでも。フフ、またお邪魔させてもらうわ。……そうだ、帰る前に。ちょっとだけ外に出ない?」
~~~~~
ツバサ「夜風が気持ちいいわね…。ここなら車も通らないかな。ねえ穂乃果さん、少しだけキャッチボールしましょ」
穂乃果「キャッチボール…ですか?えっと、この道路狭いから、強い球は投げられないけど…」
ツバサ「いいのよ、これ使うから」
穂乃果「あ、ゴムボール!懐かしい!」
ツバサ「原色テカテカのゴムボール。どこかの子供が忘れていったの。ちょっとだけ、使わせてもらいましょう」
穂乃果「うん!これなら危なくないですねっ」
ツバサ「思いっきり投げないように気をつけてね?軽いものを投げて肩を痛めるとかあるから。じゃ、投げるわねー」
シュッ ポスッ
ツバサ「ナイスキャッチ」
穂乃果(綺麗な回転。ピッタリ胸元に来る、すごく取りやすい球…)
シュッ パシッ
シュッ パスッ
ツバサ「なんか、いいわね。こういうのって」
穂乃果「うんっ」
シュッ ポス
シュッ パシッ
穂乃果「…やっぱり、ツバサさんは優しい人だね」
ツバサ「どうしてかしら?」
穂乃果「わかるんです。じゃなきゃ、こんなに思いやりのある取りやすいボールを投げられないから。ボールからツバサさんの優しさを感じるんだ」
ツバサ「…あー」ポリポリ
ツバサ「穂乃果さん、あなたって天然で照れること言うのね」
穂乃果「あははっ、照れてるんですか?」
ツバサ「どうかしら?さ、穂乃果さん!もう一球っ!」
―――…穂乃果ちゃん!
穂乃果(ツバサ、さん…?)
穂乃果(小さな、子供の姿…)
ツバサ「穂乃果ちゃん!もう一球いくねっ!」
穂乃果(ツバサちゃん…)
…
ツバサ「どうしたの?ぼうっとして」
穂乃果「あ、、なんでもないです、えへへ…」
穂乃果(目の錯覚…だよね)
穂乃果「あ、そうだツバサさん!!」
ツバサ「どうしたの?」
穂乃果「明日の勝負!私が勝った場合の景品も決めていいよね!」
ツバサ「あっ、確かにそうよね。決めておかないとフェアじゃないわ。何か欲しいものとかある?」
穂乃果「うん、私が勝ったら、私だけじゃなくて音ノ木坂野球部のみんなと友達になってもらいます!」
ツバサ「へぇ…なるほど。面白い景品ね、楽しみ。まあ、その時は来ないのだけど」
ツバサ「それじゃ、お休みなさい穂乃果さん。明日はアキバドーム。最高の舞台で会いましょう」
♯44
【アキバドーム】
にこ「いよいよ、辿り着いたわね…」
希「ここが決勝の舞台…」
絵里「アキバドーム!」
穂乃果「はぇ~…大きいね!」
海未「やはり今までの会場とは段違い。圧倒されてしまいますね…」
ことり「試合まではまだ時間があるのに、入場口にはもうたくさん人が並んでるみたい。凛ちゃん、緊張してなぁい?」
凛「あはは…ちょっとドキドキする…。ことりちゃん、くっついててもいい?」
ことり「凛ちゃんおいでー♪」
凛「にゃー!」だきっ
花陽「はふぁああぁぁあ…アキバドーム!アキバドーム…!もう夢みたいだよぉ」
真姫「花陽ったら、移動バスの中からずっと感動しっぱなしね。でも、観戦で何度も来てるんでしょ?」
花陽「わかってないよ真姫ちゃん!観戦スタンドに行くのと選手通用口を通って内部に入るのとでは全くの別物!試合直前の雰囲気込みで見学ツアーとも似て非なる物!
私たちは今っ!プロ野球選手の日々を疑似体験しているのっ!!感謝すべき!礼賛すべき!この光景を網膜に…否否!エピジェネティクス!遺伝子に刻み込んでおくべきなの!!」
真姫「ヴェエ…」
絵里「ふふ、花陽は平常運転ってところかしら。頼もしいわね♪」(怖いけど…)
にこ(大丈夫…大丈夫…にこにー強靭にこにー無敵にこにー最強にこにーエンジェルにこにーisGOD…)ブツブツ
にこ「よっしモード入ったわ!ぬぅいっこぬぅいっこぬぅぃぃぃぃい!!」
穂乃果「にこちゃん!?どうしたの突然!ついに頭がおかしく…!」
にこ「ついにってどういう意味よ!聞き捨てならないんだけど!?」
花陽「ふふふ、モードに入った瞬間に野球力が飛躍的に上がるにこちゃん…流石ですっ!」
海未「…………」
希「海未ちゃん?なんかえらく静かやね」
海未「の、希……なにか、緊張を和らげる方法など、知っていれば教えてくれませんか…?」
希「うわ、表情怖っ!ガチガチやん!試合に勝てるかで緊張してるの?」
海未「い、いえ、それよりも…360度の大観衆の耳目に晒されるのを想像すると、どうしても身が竦んでしまって…」
希「ふむふむ。それでは希'sスピリチュアルマッサージを施してあげよう。そーれワシワs」
海未「成敗!」ビシィ!
希「痛ぁ!手首を手刀で払われた!?」
海未「あ!す、すみません希…つい反射で」
にこ「主砲の手首に怪我させたらどうすんのよアホ!成敗チョップ!」ビシッ!
海未「すみません!」
絵里「そうよ海未、暴力はいけないわ。成敗っ♪」ビシィ!
海未「ごめんなさい!」
凛「凛も海未ちゃんにチョップ!」バシッ!
海未「痛いです!」
ことり「ことりも便乗っ♪」ぺちっ
海未「今のは痛くありませんね」
花陽「わ、私もチョップ!」ぺしん
海未「可愛らしいものです」フフン
真姫「何よ、そういう流れ?」ピシッ!
海未「鋭い痛み!」
穂乃果「そして真打ち登場!ストロング穂乃果デストロイy」
海未「穂乃果はダメです」ビシィ!
穂乃果「カウンター痛い!」
海未「全く、みんな流れで叩きすぎです!人の頭を手刀でビシバシビシバシとまるで木魚のように!痛いではありませんか!」
凛「海未ちゃん逆ギレは良くないにゃ~」
海未「な、逆ギレではありません!怪我をするほど強く叩いたわけではないのに制裁が過剰なのです!そもそも最初から正当防衛です!」
希「海未ちゃん海未ちゃん」
海未「希!手刀は謝りますが、ワシワシはNGです!」
希「ふふっ、緊張ほぐれたやろ?」
海未「え?あっ……」
穂乃果「えへへ、なんだかみんなで騒いでたら気持ちが軽くなったよ!」
凛「さっすが希ちゃんだにゃー!」
希「ふふふ、気付いたかね皆の衆……これぞ秘技!スピリチュアルセクハラリラクゼーション法なのだー!なんてねっ♪」
真姫(セクハラって言ったわね)
海未「希…ありがとうございます!おかげで全力で戦いに臨む事が出来そうです!」
ことり「やっぱり希ちゃんは頼りになるね♪」
穂乃果「頑張ろうね、ことりちゃん!海未ちゃん!」
ことり「うんっ!」
海未「はいっ!」
希(よしよし、適当にワシワシしようとしただけなのに上手い具合にまとまったやん?流石はウチやね!)
絵里(……って考えてるのがわかるわ。希ったら、ちゃっかりしてるんだから。ふふっ)
♯44
【音ノ木坂応援席】
海未ママ「皆様!いよいよです!今日ここ、アキバドームこそが愛娘たちの輝かしき晴れ舞台!
…今朝の新聞はご覧になりましたか?戦前の下馬評はUTX高校の圧倒的有利……。
笑止!!
名門?最強?UTX何するものぞ!見敵必殺!見敵必殺です!」
亜里沙「雪穂、あれは海未さんのお母さん?」
雪穂「うん、そうだよ。普段は海未ちゃんみたいに物静かで落ち着いた物腰の人なんだけど…」
亜里沙「着物を腕まくりして拡声器で喋ってるね」
雪穂「あはは…スイッチが入った時の感じも海未ちゃんそっくり」
亜里沙「素敵…ハラショー!」
海未ママ「皆様は誰よりご存知でしょう。
我々の娘たちが…音ノ木坂こそが最強であることを!
その最強に我々スタンド保護者一同の大声援の力を乗せれば即ち為虎添翼!無敵ですっ!!」
凛ママ「よっ!いいぞ園田さんっ!」
花陽ママ「かっこいいです園田さーん!」
海未ママ「愛する子供たちより大切な物など何一つなし!
恥や外聞など不要!喉を枯らすのです!潰すのです!!
決死の大声援で音ノ木坂学院を勇気付け!強力に後押しするのです!!
さあ、きぃちゃん!」
穂乃果ママ「みんな、燃え音!行きますよ~!」
穂乃果パパ\ピィーッ!ピッ!/
保護者一同
『♪一番星空塁に出て~!
二番矢澤が送りバント~!
三番高坂タイムリ~!
四番絢瀬がクリーンヒット~!
五番東條ホームラン!いいぞ頑張れ音ノ木坂~!燃えよ音ノ木坂~!』
雪穂「うへぇ、お父さんもお母さんもめちゃくちゃ目立ってるよ…離れて座ってて良かった~。あ、そういえば今日は絵里さんが四番なんだね!」
亜里沙「うん…ちょっと心配」
雪穂「え、そう?ホームランは希さんの方が多いけど、打率は絵里さんも大体同じぐらいじゃん。私から見ればお姉ちゃんが三番な方がよっぽど…」
亜里沙「ううん、違うの。実力が心配なんじゃなくて…今朝のお姉ちゃん、なんだか考え込んでるみたいだったから…」
雪穂「へー、今朝の様子が…うん、妹にしかわからない違いってあるよね。でも、大丈夫!」
亜里沙「雪穂…?」
雪穂「絵里さんにはお姉ちゃんやみんながついてる!私たちの応援もついてる!だからさ、精いっぱい応援しよう!」
亜里沙「…うんっ!」
保護者一同
『六番園田が流し打ち~!
七番小泉ヒットエンドラン!
八番南がスクイズバント!
九番西木野ホームラン!いいぞ頑張れ音ノ木坂~!燃えよ音ノ木坂~!!』
♯45
【球場内トイレ】
絵里(私が四番…本当に、これで良かったのかしら)
絵里(昨日のメール、希は打順の入れ替えに賛成してくれた。希と二人で提案したら、みんなも快く了解してくれた。出塁率の高い私を希の前に置くことでランナーを増やすのは効果的かもしれないと)
絵里(それに、綺羅ツバサだけでなく、希キラーの寺生まれ田中さんもUTX一軍メンバーに昇格している。もちろん、希も対策はしているけれど、実際どうなるかはやってみなければわからない)
絵里(だから、理にかなわない選択というわけじゃない。それでも私の心がどこか晴れないのは…)
あんじゅ「くすくす…甘い。まるでシャルロトカみたいに甘いのね、絢瀬さん」
絵里「……!優木あんじゅ…」
あんじゅ「私のメール、読んでくれたのね。そしてあなたが四番に。嬉しいわぁ」
絵里「……甘いとは、どういう事かしら?」
あんじゅ「あらあら、浮かない顔。賢そうな生徒会長さんは気付いているのかしら?…私の悪意に」
絵里「……その様子、私と和解する気なんてさらさらないようね」
あんじゅ「ふふっ…当然。私ね、結構根に持つタイプなの。ツバサのようには忘れられないし、英玲奈のように合理的に割り切ることもできない。自分で言うのもなんだけれど、面倒な女なの」
絵里「……」
あんじゅ「ツバサを勝利から解き放ってあげて欲しいのは本当。だけど…絢瀬絵里のせいで負ける音ノ木坂、高坂穂乃果との悲しい別れ。そんな絵図を見てみたくもなっちゃったの」
絵里「……」
あんじゅ「決勝になっていきなり、それまで勝ってきた打線の中軸を弄る。良い作用は起こらない。そう思わない?」
あんじゅ「メールの内容に不審を抱いていてなお、私に許された、和解したという証が欲しかったのね。教えてあげるわ絢瀬さん、それは自己満足。わかる?あなたは利己に走ったのよ」
あんじゅ「これは私からのささやかな嫌がらせ。あなたが四番に座ったせいで打線が機能不全を起こし、音ノ木坂は無様に負ける。そんな滑稽なトラジェディを見せてちょうだい?」
絵里「……馬鹿馬鹿しい」
あんじゅ「…なんですって?」
絵里「ペラペラとご高説ありがとう。いきなりのメール、不自然な要求。あなたの意図はなんとなく察していたわ。そうじゃなければいいのに、とは思っていたけど」
あんじゅ「…なら、どうして」
絵里「どうして?答えてあげる。私が四番に座ったのはあなたに許しを請うためじゃない。同じ四番ライト同士、正面から叩き潰してあげるため!今の私はカチンとキレてるエリーチカ!略してKKEよ!!」
あんじゅ「この…ロシアかぶれが!シベリアに帰って木の本数でも数えてなさいよ!」
絵里「陰湿女子力アピール女め!永久凍土の肥やしにしてあげるわ!」
……ガチャ
絵里「え、個室のドアが…入ってる人がいたの?」
あんじゅ「誰?」
ことり「あ、あはは…どうも~」
あんじゅ「南、ことり…」
ことり「ご、ごめんなさい!お話を邪魔するつもりも盗み聞きをするつもりもなかったんだけど、出るタイミングが掴めなくて…」
絵里「いいのよ、ことり。大した話をしていたわけでもないから」
希「絵里ち~、ことりちゃん~、いる?そろそろベンチに戻っとかんと…って、優木さん?」
ことり「あのね、絵里ちゃん。ことりは事情を知らないけど…あんじゅさんを責めないであげてほしいなって…」
絵里「ことり…?」
あんじゅ「あなた、何のつもり?」
ことり「あんじゅさん、すごく悲しい、追い詰められた目をしてる」
希(あっ、これアカン。なんかシリアスな会話が始まってる)
あんじゅ「意味がわからない。何が言いたいの?」
ことり「ツバサさんと英玲奈さんの事が大好きで、自分の気持ちと板挟みになって、どうすればいいのかわからなくなってる」
あんじゅ「…っ!」
希(話の流れわからんし、だからって立ち去れんし…ウチ蚊帳の外やん…)
ことり「考えてる事と気持ちが一致しなくて、心がぐちゃぐちゃになって、めちゃくちゃな事をしちゃってる。よくない事だってわかってるのに。わかるんだ、ことりもそういうタイプだから」
あんじゅ「あなたに…あなたなんかに何がわかるって言うの!!!」
希(うわあ、声張り上げてる…雰囲気ブレイクしてくれそうなにこっちが来ないやろか。にこっちの膀胱に尿意を催す念を送ってみようかな)
あんじゅ「南ことり…あなたも気に食わない!絢瀬絵里も!東條希も!全員全員気に入らない!!」
希(あっウチの存在拾ってくれた!?乗るしかないやん、このビッグウェーブに!)
ペラッ
希「優木さん…『女帝』の逆位置が出てる。感情的、情緒不安定。混乱して、どうすればいいのかわからなくなってるんやね…」
あんじゅ「…~っ!!大キライよ!音ノ木坂学院!」
~~~~~
絵里「……優木あんじゅ、去って行ったわね」
希「これでいいんよ。今、これ以上の会話に意味はない。あとは試合で、野球で語ればいい」
(の、乗り切った…!うーん、タロット万能やね…)
ことり「勝とうね、絵里ちゃん希ちゃん。綺羅ツバサを倒せば、きっとあんじゅさんも救われる。うん、あんじゅさんも、助けてあげなきゃいけない人ですっ!」
♯45
【自販機前】
英玲奈「おや」
花陽「あっ」
英玲奈「また会ったな、小泉さん。君とは昨日から縁がある」
花陽「そ、そんな!私ごときと英玲奈さんが縁があるなんて恐れ多すぎてもう…!」
英玲奈「まあ、そう堅いことを言うな。今は試合前、最後の安らぎの一時さ」
花陽「は、はい…」
英玲奈「何か飲むんだろう?私が二学年上だ、奢ろう」
花陽「あ、う…じ、じゃあ…お水で…」
英玲奈「フフ、一番安い物を選ぶ、か。なんとも小市民的だな。私と似ていて好感が持てるよ」ガシャン
花陽「英玲奈さんみたいなすごい人が小市民…?」
英玲奈「ああ、私は凡人だよ。ほら、受け取れ」
花陽「ありがとうごさいます!!家宝にします!!」
英玲奈「私はコーヒーにしておこう。お、MAXコーヒーがあるじゃないか。私は甘党なんだ」ガシャン
カキョッ
ゴクゴク
英玲奈「む…あまくてうまい。美味いは甘い、甘いイコール美味いだ。そう思わないか?」
花陽「いえ、白米イコール美味いです!」
英玲奈「ハハ、それはまた斜め上の答えだな」ゴクッ
英玲奈「……フウ」
花陽(き、緊張して水の味がわからないよぉ…!あ、水って味しないか…)ごくごく
英玲奈「小泉さん、野球は楽しいか?」
花陽「あ、はい!野球は楽しいです!」
英玲奈「私は楽しくない」
花陽「えっ」
英玲奈「ついでに言えば私は綺羅ツバサというプレイヤーが嫌いだ」
花陽「ええっ」
英玲奈「私の武器は捕手としての技能。とりわけリードだ。どんな投手だろうと持ち味を引き出し、最高のピッチングをさせてみせる自信がある。自負もある。
だがツバサには…リードは必要ない。あの快速球、キレのある変化球。難しい事は考えず、適度に散らしておけば相手は勝手にアウトになる。フフ、捕手としてこれほどつまらない投手はいないぞ」
花陽(そ、そんな。ど、どうしよう…反応しづらいよぉ)
英玲奈「しかし厄介なことに、私は綺羅ツバサという人間は大好きなんだ。同い年だが、まあなんというか…手のかかる妹みたいな感覚だろうか」
花陽「あ、良かった!そうですよねっ!この前サーティワンに行ってた時の英玲奈さんツバサさんあんじゅさんがすっごい仲良さそうで見てて幸せな気持ちになったんですよぉ!
なんていうかファン冥利に尽きるっていうか!アイスをお互いに食べさせあいしてたところなんてもう見てるだけでご飯何杯でも行けちゃうっていうか!オフショットすぎて見ててなんだか背徳的な気分になっちゃったって言うかぁ!」
英玲奈「えっ」
花陽「あっ」
英玲奈「なんでサーティワンに行った時の様子を知っているんだ…まさか…」
花陽「ピャアアアア不審の目!?ストーカーじゃないですっ!!」
英玲奈「あ、ちょっと近寄らないでもらえますか」スス…
花陽「距離を取らないでくださいお願いします!!」
英玲奈「ははは、まあ冗談だ。敵情視察ってとこだろう?気付かなかったな」
花陽「じ、冗談…良かったあ…。はい、海未ちゃんと二人で」
英玲奈「園田海未か。ふむ、いかにも真面目な彼女らしいな。まあ見ていたならわかるだろうが、ツバサはあれで可愛いところがある」
花陽「わかります。失礼かもしれないけど…子供みたいな人ですよね」
英玲奈「それだ。アイツは子供なんだ。プレイヤーとしてのツバサは嫌い。人間としてのツバサは好き。なんともややこしくて、時々疲れる。だからかな?私が甘党なのは」
花陽「あはは、なんだか英玲奈さんって完璧なイメージがあるから…ちょっと意外かも?」
英玲奈「そうか。まあ、思春期なのさ」
花陽「な、なるほどぉ…」
タタタッ
凛「かよちん一緒にジュース飲むにゃ~…あ、統堂さんだ」
英玲奈「やあ、星空さん。昨日はどうも」
凛「えへへ、こんにちは」
花陽(あ、凛ちゃん英玲奈さんにはもう人見知りしないんだ。英玲奈さんいい人だもんね)
英玲奈「さて、私は戻ろう。そろそろ試合の準備をしておかなくてはな」
海未「凛、あまり走ってはいけませんよ…っと、統堂さん…」
英玲奈「おや、園田さんまで来たか。ふむ、音ノ木坂の守備の要たる三人が勢揃い、だな。今日はお手柔らかに…いや、手を緩めずに、頼む」
凛「守備の要だって、えへへ」
花陽「照れちゃうねっ」
海未「……」
海未「統堂さん、一つだけお尋ねしたい事が」
英玲奈「ああ、何だろうか?」
海未「貴女は私たちに綺羅ツバサを倒して欲しいと頼んできた。では、貴女自身は…綺羅ツバサと真っ向から勝負した事はあるのですか?」
英玲奈「……フフ、おかしな事を言う。私ごときにあの天才を止められるとでも?」
海未「やはり、ないのですね。綺羅ツバサを救うため、自らの手を伸ばした事はない…と」
英玲奈「…」
英玲奈「……ふむ、小泉さん、その水を少し飲ませてもらってもいいだろうか?」
花陽「あ、はいっ!買ってもらったものだし…いくらでも」
ゴク…
英玲奈(量はこれでおおよそ半分)
英玲奈「園田さん、君に一つ質問だ。このペットボトルを見てほしい」
海未「富士山のバナジウム天然水…、これがどうかしたのですか?」
英玲奈「“もう半分しか残っていない”。“まだ半分も残っている”。……君はこれを見て、どちらを感じた?」
海未「……“半分しか残っていない”、ですね」
英玲奈「…それだ。君も同じ、優れた捕手というのは総じてペシミストなんだよ」
海未「悲観主義者…ですか」
凛(かよちん、これ何の話してるの?)
花陽(わかんない…きっと高度な話なんだよ)
凛(なんかそれっぽいこと言っとけ的なのじゃなくて?)
花陽(ち、違う…はずだよぉ!)
英玲奈「常に事態を悲観し、最悪を想定し、先手に先手を重ねる。それが捕手の仕事だ。打者も必死、それくらいの意識がなければ通用しない」
英玲奈「そんな悲観主義が、日常にも染み付いているんだ。全く、我ながら嫌になる…。ツバサを負かしてくれと頼み、手を緩めずに頼むと軽口を叩いてみても、本心ではツバサが負け、解放される日が来るとは微塵も思っていない…」
英玲奈「ツバサは、高坂穂乃果の事を太陽だと評した。対してツバサは…さながら天狼星。孤独に輝くシリウスだ。強く、哀しい光で周囲を焼き焦がしていく。凡人…私の手など、届かないさ…」
凛(かよちんかよちん、これ絶対雰囲気だけで喋ってるよ。凛も中二ぐらいの時にやった事あるからわかるよ)
花陽(り、凛ちゃん!失礼だよぉ…!)
海未「間違っています。たとえ遠くても、届かなくても、焼き焦がされようとも。友人であるならば、貴女は手を伸ばすべきだったのです」
英玲奈「なら…お願いだ…。見せてくれ、ツバサが救われる姿を…」
海未「ええ、言われずとも。ただし、救うのは貴女もです。同じ捕手、同じ悲観主義者。私は…今の貴女を他人事には思えません」
英玲奈「……」
海未「約束してください。綺羅ツバサが敗北したその時、彼女へと最初に手を差し伸べるのは貴女だと」
英玲奈「………ああ、約束しよう。その時が来るのならば…」
~~~~~
花陽「英玲奈さん、行っちゃったね。大丈夫かな…」
凛「哀しい目をした人だったね…」キリッ
花陽(ええ…)
海未「これで良いのです。あとは試合で語るだけ…。凛、花陽。必ず勝ちましょう。統堂英玲奈を救うためにも…!」
♯47
【九回裏】
穂乃果「えっ、あれ?試合が始まってる?9回裏!?と、得点は…0-0!ツーアウト満塁で穂乃果の打順!?な、なんだかわかんないけど、よーし!」
【音ノ木坂学院、選手の交代をお知らせします。バッター高坂に代わりまして…】
穂乃果「えっ穂乃果に代打!?き、聞いてないよ!?」
【一二三。高坂に代わりまして、一二三。背番号10】
穂乃果「だ、誰!?」
一二三「ヒデコとフミコとミカだよ!三人でフュージョンして苗字を手に入れたの!」
穂乃果「ええ…」
\グワラゴワガキーン!/
【実況】
『ホームラーン!』
ツバサ「そ、そんなぁ」ガクリ
一二三「穂乃果!ツバサさんからサヨナラ満塁ホームラン打っておいたよ!」グッ
穂乃果「こ、こんな決着イヤだー!!」ガバッ!
穂乃果「はっ…!ゆ、夢…」
フミコ「穂乃果、居眠りしてたと思ったら跳ね起きて…大丈夫?」
穂乃果「フミコ…良かった、フュージョンしてなくて良かった…」
フミコ「へ?ほ、穂乃果…いよいよおかしく…」
真姫「ま、穂乃果がおかしいのは元々でしょ」クルクル
フミコ「それもそっか」
穂乃果「ひどっ!?」
\ワー!ワー!/
穂乃果「おわぁ、なんかスタンドが盛り上がってる?」
ヒデコ「うん、両校とも応援団が気合い入ってるみたい。試合前なのにさっきからずっとあの調子だよ」
穂乃果「はぇ~、うちの家族もあの中にいるんだろうなー」
ミカ「ほら穂乃果、オペラグラスあるよ。探してみたら?」
穂乃果「さっすがミカ!気が利くぅ!あ、前の方で海未ちゃんのお母さんが目立ってる」
ヒデコ「あの着物の人?」
穂乃果「そうそう」
真姫(にこちゃん、さっきからなんだか静かね)
にこ(……今日は、パパの命日)
~~~~~
にこ『ここあとこたろうは寝たか…。こころ、にこが野球部に入ってから寂しい思いをさせる事も多いよね…ごめんね』
こころ『気になさらないでください!お母さまとお姉さまを支えるのが私の役目ですからっ!』
にこ『こころ…。よーし、にこにーがぁ~♪いつも頑張ってるこころのお願い事を聞いてあげちゃうよっ!なんでも言ってごらん?』
こころ『でも…』
にこ『こころ、遠慮はダーメ。お姉ちゃんにしてほしい事、言ってみて?』
こころ『……ホームラン…、パパの命日に、松井選手みたいな、お姉さまのホームランが見たいです…!』
にこ『…っ!それは…』
こころ『あっ…じ、冗談です!私、お姉さまの作ってくださるケーキが食べたいな!イチゴものせてほしいです!』
にこ『……こころ』
~~~~~
にこ(こころ。あの子は子供なのに、ここあやこたろうの面倒も見てくれて…私やママへの気遣いを覚えすぎてる。
かわいそうな事をしてるよね…ホントはもっとワガママを言ったり、たくさん甘えたい歳のはずなのに…
そんなこころが珍しく口にしたお願い事…。『ホームランが見たい』…)
にこ「こころたちも、ママと一緒に観に来てるわよね…」
真姫「……にこちゃん、大丈夫?」
にこ「…大丈夫、大丈夫よ、真姫ちゃん」
ツバサ「ご家族の悩み?色々複雑な環境なのかしら?」
にこ「…そんな事ない。にこは家族に恵まれてる」
にこ「…」
にこ「……」
にこ「………ってツバサさんっ!?!!」ガタタッ!
ツバサ「じ、時間差で来たわね矢澤さん…ちょっと驚いたわ…」
真姫「…ねえ、一応教えてあげるけど、アナタのベンチは向こうよ。わかったらさっさと巣に帰りなさい」
ツバサ「うるさいわね~。……西木野さん、貴女すっごく可愛いわ」
真姫「ヴェヴェェェ…!」チョロローン
にこ「ウッソでしょ…今の雑な褒め方でもチョロるの…?」
ツバサ「穂乃果さん」
穂乃果「ツバサさん」
ツバサ「…」
穂乃果「…」
ツバサ「フ、もう言葉はいらないわね。私たちの場合」
穂乃果「色々考える事もあったけど、ここまで来たら…ただ楽しみなだけだよ!」
ツバサ「上等。それじゃあ…勝負ね」
穂乃果「うん。…勝負だよ」
ザッ、ザッ…
真姫「はっ!動揺してる場合じゃなかった!綺羅ツバサは?」
にこ「自軍ベンチに戻って行ってるけど」
真姫「聞きなさい綺羅ツバサ!穂乃果だけを見てたら大怪我するから!覚えておきなさい…この真姫ちゃんが!アナタからホームランを打ってみせるわ!!!」
にこ「ひたすら空気を読まないスタイル、嫌いじゃないわよ真姫ちゃん…」
♯48
【ベンチ裏】
絵里「さあ、みんな揃ったわね?」
花陽「試合開始まで40分を切りました…!」
凛「いよいよにゃいよいよにゃ!」
海未「破釜沈船、不撓不屈!出陣の覚悟はよろしいですか?さあ、最後の作戦会議ですっ!」
にこ「海未、アンタってほんっ…と仰々しいわね。……嫌いじゃないわ!」
絵里「ハラショー!」
真姫「戦いの直前に再確認しておくべきなのは…綺羅ツバサの情報よね」
海未「その通りです、真姫。以前話したように、私と花陽は一度だけ、綺羅ツバサの球を直接見ています。それを踏まえた上での情報と思ってください」
穂乃果「オッケー、海未ちゃん」
海未「綺羅ツバサ、左投げのオーバースロー。ストレートのMAXは134キロ。女子野球の壁、130キロをコンスタントに超えてくる怪物です」
花陽「幸い、球種はかなりシンプルだよ。ストレート、パワーカーブ、パームボールの三種類です」
ことり「パワーカーブっていうのは?」
にこ「メジャーでよく使われてる球種よ。ハードカーブとも呼ばれるみたい。って言っても、難しく考えなくて大丈夫。要は速いカーブね」
希「パームボールっていうのは落ちる球やっけ?」
花陽「うん、落ちる球が欲しかったけどツバサさんの手のサイズだとフォークが投げられないから、代わりにパームなんだって。雑誌で読んだよ」
にこ「落差は大きいけど、落ち始めが速いから見極めはしやすいわ。緩急を付けるための見せ球として使ってくるケースが多くて、ストライクゾーンにはまず入ってこない。あくまでツバサの決め球はストレートだと忘れないで」
海未「と、ここまでがカタログスペック。ここからは私が実際に間近で見ての感想ですが…まるで見えません」
真姫「ひどい感想ね」クルクル
海未「誇張ではありません。綺羅ツバサは男子のプロ級、それも一軍クラスの投手。そうイメージしてください」
絵里「ぷ、プロの一軍…」
凛「でも海未ちゃん、みんなで真姫ちゃんのお父さんが買ってくれたプロ仕様ピッチングマシンの150キロを打つ練習もしてきたにゃ。それより速いなんてことはないでしょ?」
海未「いえ、断言します。マシンの150よりも体感速度は速い。リリースポイントが見えないというのは恐ろしいものでした」
穂乃果「リリースポイントが見えないってそんなにすごいの?」
海未「そうですね…抜刀の瞬間が見えない居合い。そうイメージしてもらえば脅威がわかっていただけるかと」
希「うーん…その例えでわかるのは海未ちゃんだけやろなぁ…」
にこ「例えが武闘派すぎでしょ…」
真姫「……けど、納得いかない。球速130キロ台って、プロでは打ち頃のバッティングピッチャーみたいなものじゃないの?」
にこ「そんな事はないわよ真姫ちゃん。球速って大事だけど、表示されるのはあくまで初速だけ。実際には終速、フォーム、スピン量もストレートには大切なの」
希「初速と終速の差が小さいのが俗に言う、『ノビのある』ストレートってワケやね」
穂乃果「パワプロのノビ5だね!」
凛「あ、そう言われるとわかるにゃー」
にこ「ま、あんな感じよ」
花陽「それにね、真姫ちゃん。山本昌選手、成瀬選手、内海選手、病気から復帰後の大隣選手、少し昔では星野伸之選手。左投げには130キロ台やそれ以下のストレートで活躍してる一流投手が何人もいるんだよ」
絵里「左の5キロ増し、だったかしら?数字よりも速く感じるのよね」
海未「綺羅ツバサの場合、現在渡米している和田毅選手の日本時代をイメージしてもらえばわかりやすいかと思います。130キロ台半ばから後半の直球で空振りを奪える投手でした。フォームこそ違いますが、リリースポイントのわかりにくさも共通項です」
穂乃果「うん、その人の映像をみんなで何度も見たよね。少しはツバサさんのボールにもイメージが出来てるはず!」
真姫「そんな綺羅ツバサにも弱点はあるわ。聞き出してくれたうちの父親の人脈に感謝するのね」フフン
絵里(真姫…ありがと)
希(真姫ちゃんってほんと、いい子やね…)
花陽「真姫ちゃんのお父さんが調べてくれた弱点その1!クイックに癖あり!」
希「牽制する時だけグローブの角度が違うんやったね。映像で見たけど、教えてもらわないと絶対気づけなかったぐらいの小さな癖やった」
花陽「修正しようとしても直らない根深い癖なんだと思う。凛ちゃん、絵里ちゃん、海未ちゃん。この三人なら、出塁すれば盗塁のチャンスがあるかも…!」
凛「積極的に狙ってくにゃ!」
海未「弱点その2!手抜き癖!」
海未「綺羅ツバサは相手によってあからさまに球威が変化します。中軸へ投げる球と、それ以外への球。良く言えばギアチェンジ、悪く言えば手抜き癖です」
ことり「中軸と、それ以外って言うと…」
にこ「ホームランの可能性があるバッターには本気。それ以外には手抜き。わかりやすく言えばそんなとこね。うちで言えば穂乃果、絵里、希、海未。この四人かしら」
真姫「つまり、試合を決めるのはこの真姫ちゃんのホームランってこと。綺羅ツバサが天才?真の才能を前にひれ伏す日が来たのよ」
希「真姫ちゃん、練習は裏切らない。ウチは本気で期待してるよ。頑張ってね?」
真姫「ヴぇ…と、当然よ!見てなさい!」
ことり「花陽ちゃん、一緒にヒット打とうね♪」
花陽「ことりちゃん、うんっ♪」
穂乃果「ギアチェンジって聞くとかっこいいけどなー。弱点なんだねぇ」
海未「年間を通して戦うプロ野球ならともかく、一戦必勝の高校野球においてギアチェンジは弱点になり得る。舞台が別だということです」
にこ「そして弱点その3!ツバサの弱点ってよりはUTXってチームの欠陥になるけど…ズバリ!監督!」
希「監督が弱点ってのもおかしな話やねぇ」
凛「無能にゃ?無能にゃ?」
にこ「無能とは言わないけど…目立ちたがりで余計な事をするのよ」
絵里(統堂さんはこう言っていたわ)
~~~~~
英玲奈「UTX一軍の新井総監督は自己顕示欲の強い方だ。自らの采配で勝利を掴むのを好まれている。故に、内心ではツバサの事をよく思っていない節がある」
絵里「……どういうことかしら?」
英玲奈「勝てたのはツバサのおかげ。最強エース綺羅ツバサありきのチーム。監督は置き物。そう思われたくないのさ。だから…」
~~~~~
にこ「最低でも1試合に一度。余計なワンポイントリリーフを挟もうとしてくる。そのままツバサに投げさせとけば安泰な場面でもね」
ことり「ん~、それってツバサさんが消耗しないように気遣ってるんじゃなくて?」
にこ「先発は全試合ツバサだから。リリーフを出す時もわざわばツバサを他の守備位置に回して再登板させるのがお決まりのパターン。大差で勝ってる試合は下げてあげればいいのにね」
凛「無能にゃ!無能にゃー!」
花陽「ふふっ、バカにできる相手を見つけた時の凛ちゃんの笑顔、大好き♪」
海未「……それもどうかと思いますが…」
穂乃果「んー、なんでそんな人がUTXみたいに強いチームの監督なの?コネ?」
にこ「監督にも得手不得手があるって話よ。UTXの新井監督は采配は微妙でも、選手育成は最高に上手いの。ほとんどの選手は新井監督が0から育てた、いわば新井チルドレン。だからUTX一軍はアライズなんて呼ばれ方もするのよ」
真姫(響きはともかく新井ズって書くとダサいわね)
ことり「高校野球なのに、ファン発祥でチーム名が付くなんてすごいよねえ…」
海未「新井ズ…やはりその人気は圧倒的…」
希「ん?みんな知らない?最近ウチらも、ネット上ではファンが付けてくれたチーム名で呼ばれたりしてるんよ」
穂乃果「ええっ!すごい!なんてチーム名なの?」
希「9人の音の女神、μ's」
穂乃果「かっ…」
にこ「かっ!」
凛「かっこいいにゃー!!!」
希「にこっちは知ってたやろ。何初聞き風に喜んでるの」
にこ「別にいいでしょ!感動の共有よ!」
絵里「ミューズ…音楽の女神、よね?私たちがやってるのって野球だけど…」
希「音ノ木坂を救う女神、やからね。『音』でかかってて、素敵やん?それに、真姫ちゃんがたくさんの曲を作ってくれたのも、みんなの印象にとっても残ったみたいよ」
ことり「本当にことりたちに、そこまでの人気が…?」
理事長「……ねえみんな。今、そこの画面に応援スタンド全体の様子が映っています。見てみて?」
花陽「スタンドの?…あっ!」
ことり「すごい、すごい…!」
凛「音ノ木坂学院の応援色がたくさんにゃ!」
海未「こんなにもたくさん…私たちのファンが…!」
真姫「UTXの応援と五分五分の数…!これなら…!」
にこ「……っ…!」グスッ
希(にこっち、頑張った甲斐があったね…。ネットを使って一生懸命に人気を広めようとしてくれてたこと、無駄にならんかったよ)
絵里「こんなにたくさんの人たちが…音ノ木坂の勝利を願ってくれている…!」
穂乃果「……みんな!これが音ノ木坂学院野球部の!私たちの最後の戦いだよ!」
穂乃果「よくこういう時、泣いても笑ってもって言うけど…。穂乃果は今日、泣くつもりはありません!」
穂乃果「だってそうだよね。家族、友達、顔も知らないたくさんの人たち……こんなに応援してくれてるんだもん!!負けることなんて考えてたら損だよねっ!!」
穂乃果「打とう、走ろう、捕ろう、投げよう…楽しもう!!そして勝とう!!」
穂乃果「後押ししてくれるたくさんの人たち。その想いも乗せて…」
穂乃果「μ's!!!」
全員『ベースボール!!!スタート!!!』
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(決勝)
UTX高校(東京) 対 音ノ木坂学院(東京)
♯野球力&パワプロ換算能力値
【UTX高校】
佐藤 三 右右 1680 弾3 DBBCDE
田中 二 右右 1663 弾2 CDCDCC
綺羅 投 左左 54802 弾4 BAAACC
優木 右 右右 3645 弾4 AAEDDF
統堂 捕 右左 3513 弾3 ABBCAA
三好 一 右右 2056 弾3 CBDCBB
瀬戸 左 左右 1752 弾2 CCCCBC
長谷 中 右左 1708 弾3 CEBBBB
吉田 遊 右左 1509 弾2 DECCCB
綺羅 左オーバースロー
134km/h コントロールCスタミナA
パワーカーブ5
パーム3
【音ノ木坂学院】
星空 遊 右左 1389 弾2 DDADDC
矢澤 中 右右 1608 弾2 CFDDBA
高坂 三 右右 2965 弾4 CADBCD
絢瀬 右 右左 2724 弾3 ACBACE
東條 一 右右 3641 弾4 BADCCA
園田 捕 右右 1930 弾3 BCCABA
小泉 二 右右 1019 弾3 DEEEAA
南 投 右右 3220 弾2 EEECDD
西木野 左 右左 608 弾4 GCEFBC
南 右アンダースロー
113km/h コントロールBスタミナB
カーブ1
チェンジアップ(スマイルボール)4
シンカー(ことりボール)4
???
絢瀬 右オーバースロー
123km/h コントロールDスタミナB
スライダー2
カットボール2
SFF3
※各能力値はにこ評
※野手能力表記は左からミート、パワー、走力、肩、守備、捕球能力
※女子高校野球の枠内での評価です
プロ野球での評価に変換したら
凛ちゃんでGGCGEF
あんじゅでEDFFFGぐらいのイメージ
♯49
♪~
\I say...!/
\Hey,hey,hey,START:DASH!!/
\Hey,hey,hey,START:DASH!!/
【実況】
『全国高等学校女子硬式野球選手権大会。
142校が集った長き戦いも、いよいよ最後の二校を残すのみとなりました。
共に東京代表、UTX高校と音ノ木坂学院。名門チームと新興チーム、対照的な二校の対決です。
さあ、BGMと共に後攻、音ノ木坂学院の選手たちが守備位置へと走っていきます。
マウンドへ上るはエース南。四国商業戦では見事な完封を見せてくれました。
投球練習を終え…、試合開始です』
『プレイボール!!』
【一回表】
『1番 サード 佐藤さん』
佐藤「さあ来いッ!!」
海未(さて、一人目です。この佐藤さん、先日のUTX二軍戦で打ち込まれて三軍落ちになっていた投手の方ですね)
(・8・) (すごく気落ちしてたみたいだったけど…野手として這い上がって来たんだね)
海未(層の厚いUTXでポジションを変え、再び昇格する努力、並大抵ではないでしょう。そのメンタリティには敬意を覚えます。しかし…)
(・8・) 「やっ!」シュッ!
ズバン!!
ストライク!
佐藤「っ…!」
希「いいよことりちゃん!球がキレてる!」
海未(今日のことりの調子は最高…!にこ、真姫、感謝しますよ。さあ、もう一球ストレートで押しましょう)
(・8・) (わかったよ、海未ちゃんっ)ビシュ!
佐藤「UTXを…舐めるなよ!」
カキィ!
海未「っ、まずい!?低い弾道で右中間を抜ける打球…!」
佐藤「よし!長打コーs」
パシッ
佐藤「…は?」
花陽「と、取りました!」
アウト!!
ことり「花陽ちゃん!!」
海未「花陽っ!!」
【実況】
『あーっとセカンドライナー!二塁手小泉、見事にキャーッチ!
いや、しかし…これはどうした事でしょうか?なんとも不思議です!』
佐藤「なんで!なんでそんな場所を守っているんだ!!」
【実況】
『セカンド小泉、本来の守備位置よりも大きく後方!
外野にまではみ出したポジショニングで守っていました!
理由はわかりませんが、とにかくファインプレー!』
『二番 セカンド 田中さん』
【実況】
『さあそして二番を迎えますが、セカンドの小泉はそのまま後方の守備位置を守ったまま。
どういう意図があっての事か、これでは内野守備が手薄です!』
海未(大丈夫…花陽、信頼していますよ)
田中「摩訶般若波羅蜜多心経」
希(ひえっ…)
(・8・) (ああ、寺生まれの…)
海未(この方、言語能力を実家の寺に置き忘れてきたのでしょうか…)
凛(薬でもキメてるにゃ?)
穂乃果「ばっちこーい!」バシン!
(・8・) (この人は選球眼のいいローボールヒッターだったよね)
海未(その通り。先日の試合でも粘られ、四球をもぎ取られました。早いカウントのうちに、高めの直球で押していきましょう)
(・8・) 「チュンチュン!」ビシュッ!
田中「所得故菩提薩?依般若波羅蜜多…故心!」
ガキン!
【実況】
『打球はセカンドへ!ボテボテのゴロ!
これでは下がっていた小泉の守備が間に合わない?!』
花陽「取ります!」パス
シュッ
希「ナイスプレー花陽ちゃん!」パシッ
アウト!
【実況】
『あっと小泉花陽!定位置へと戻っていた!
いつの間に戻っていたのでしょうか?堅実にゴロを捌いてセカンドゴロ!!』
英玲奈(小泉花陽の守備、これは…ふむ)
海未(よし、ことりボールを引っ掛けさせました!変化球のキレも完璧です!)
(・8・) (でも、ここからが勝負だよ…海未ちゃん)
『三番 ピッチャー 綺羅ツバサ』
ツバサ「フフ、園田さん、南さん。打者として対峙するのは初めてね」
(・8・) (……海未ちゃん)
海未(ええ、相談通りに)
ツバサ「さてと、打者としても穂乃果さんにいいところを見せなきゃね……って、え?」
【実況】
『あーっと、これは?
音ノ木坂バッテリー、立ち上がりました!
初回ツーアウトランナーなしから、まさかの敬遠!敬遠策です!』
ツバサ「いやいや…なによそれ」
海未(硬球をボールペンでスタンドインさせるバカげた打力。ここまでの試合でも二本の本塁打を放っている。
優木あんじゅよりも底知れぬ恐ろしさを感じます。なにも全打席敬遠するつもりはありませんが…)
(・8・) (初回から敬遠。このデコチビの性格ならイライラして、投球に影響が出てくれるかもしれない。やれる事は全部やっていかないとね!)
ツバサ「勝負しなさい!!」
(・8・) 「敬遠宣言イェイイェイェーイ」
ボール!
(・8・) 「あーるこう(笑)」
ボール!
(・8・) 「あーるこう(笑)」
ボール!
(・8・) 「まともに勝負してもらえると思った?(笑)」
ツバサ「…ふぅん?」
海未(効いてます効いてます。さ、ことり。ラスト一球行きましょう)
(・8・) 「オッケー海未ちゃん」
ツバサ『―――勝負しなさい』 ――ビリッ…!
海未(これは…あの時と同じプレッシャー…!)
(・8・) (え、体が重っ…指先のコントロールが…!)シュッ
海未(いけない!ど真ん中に!)
カッキィィン!!!
海未「しまっ…!センター!!」
にこ「……追うだけムダね」
…ガン!
コロコロ…
【実況】
『入ったぁぁぁ!!!
綺羅ツバサ!失投を見逃しませんでした!!
ピッチャー南、手が滑ったか、気が緩んだか!
投げ損ねた一球はど真ん中へと吸い寄せられ、そのまま無情にもバックスクリーンへと一直線!!
UTX高校先制っ!!』
(・8・) 「やられた…!」
ツバサ「恒星の引力からは逃れられない。勝負の選択権は私にあるのよ」
英玲奈(敬遠、悪い選択ではない。普通の選手にならな。だがツバサ相手では…気持ちで逃げれば、あの威圧感に呑まれるだけ。さあ、まだこれからだぞ園田海未)
あんじゅ「……私の出番ね?」
~♪
\Can I do? I take it,baby! Can I do? I make it,baby!/
『四番 ライト 優木あんじゅ』
\ワアアアア!!!!!/
真姫「う゛ぇえ…すごい歓声…」
にこ「応援の圧が…」
凛「押し潰されそうにゃ…」
穂乃果「これが決勝戦…!」
あんじゅ「さあ…ひねり潰してあげるわ…!」
海未(気を取り直していきましょう、ことり。先程のは誤算でしたが…たかがソロ、まだ初回。挽回の機はいくらでもあります)
(・8・) (うん、大丈夫だよ。あんじゅさんに集中してこう)
あんじゅ「思い知らせてあげるわ…音ノ木坂」
海未(ふむ…今日の優木さんからは、何やら鬼気迫る迫力を感じますね。しかしランナーはなし。フルカウントにさえ持ち込ませなければ勝機はあります!
初球はインのボール、直球を厳しいところへ。意識を内に集めて外の変化で仕留めましょう!)サイン
(・8・) (遠慮なしで行くよっ)シュッ!!
海未(よし、最高のコースです!これなら振ってもファールにしか…)
あんじゅ(完全にフルハウス…!)ブンッ!
キィン!!
海未「なッ…どうして!ライト!!」
【実況】
『打った!!強い打球がファーストの頭の上を越える!
ライト線、これは長打コースになる!!』
あんじゅ「ふふ…悠々二塁打ね。そして次は英玲奈…初回でトドメを刺してあげるわ、音ノ木坂」
絵里「させないわ!」
パシッ!
あんじゅ「はぁ!?」
【実況】
『あっ!ライト絢瀬、ライン際の打球にも関わらずワンバウンドで抑えた!?
そしてすぐさま…!』
絵里「希ぃぃッ!!!」ビシュッ!!!
希「絵里ち!」バシィッ!!
アウト!!
【実況】
『ライトゴロ成立~~!!!三年生絢瀬、大ファインプレー!!!
音ノ木坂学院の応援団が沸き立つ!!スタンドからは大喝采が送られます!!!』
あんじゅ「ら、ライトゴロ…!」ワナワナ
希「で、出たァ!絵里ちの鉄砲肩…いや、バズーカ肩!寒気すら感じさせる鋭利な軌道は大陸横断鉄道!スタンドに吹き荒れる戦慄と驚愕の嵐はさながら北のツンドラ!その肩に名前を付けようか!『シベリアンバレットトレイン』!!」
穂乃果「ヒュゥ~!くぁ~っこいいー!」
絵里「ふふ…悲しい悔しいエラーチカの汚名は返上よ!」ドヤチカ
花陽(えっ、悲しい悔しいって…自分で前置きまで考えたの?)
にこ(案外気に入ってたのかしら…)
凛(もっといじってあげるべきだったにゃー)
真姫(シベリアンバレットトレイン…シベリア超特急…?ダサくない?)
ことり(希ちゃん楽しんでるなぁ)
海未「私も絵里の肩に名付けたいです!そうだ、神殺の槍…ロンギヌスと呼んではいかがでしょう!」
希「却下や!」
海未「何故ですっ!」
花陽「ろ、ロンギヌス…?」
凛「かなり寒くないかにゃー」
にこ「ロンギヌスって…」
真姫「ロンギヌスはないわね…」
穂乃果「海未ちゃん…」
ことり「海未ちゃぁん…」
絵里(あら?個人的には悪くないんだけど…言ったら負けな流れかしら…)
海未「むむ…納得がいきませんが…とにかくチェンジです!!」
穂乃果(絵里ちゃんのファインプレーで音ノ木坂応援団が元気になった!この雰囲気…ありがとうみんな!穂乃果たちも頑張れるよ!)
♯50
【一回裏】
♪~
\Dancing,dancing! Non-stop my dancing/
\Dancing,dancing! Non-stop my dancing/
【実況】
『一回の表はUTXが一点を先制!
さあ、BGMと共にマウンドへ上るはそのホームランを放った『魔術師』綺羅ツバサ!
身体は小柄!しかし威風堂々!!
音ノ木坂打線を相手にどのようなピッチングを見せてくれるのでしょうか!』
\Dancing,dancing! /
ツバサ「「――Let me do」
\Party! Shocking Party!!/
ツバサ「始める準備はどう?」
(さあ来て ここに来て)
凛「えっ、見えな…!」
ズバン!ストライクアウト!131km/h
穂乃果「…!」
\Party! Shocking Party!!/
ツバサ「世界が回り出す」
(さあ来て ここに来て)
にこ「は、速…」
ズバン!ストライクアウト!133km/h
ツバサ「誰かのためじゃない」
(私とfreedom)
【実況】
『UTX綺羅!直球のみで1、2番を連続三振!まさに別次元の…~~』
ツバサ「自分次第だから」
(Go,go! we are freedom)
『三番 サード 高坂さん』
ツバサ「誰かのせいじゃない」
(心はfreedom)
英玲奈(ツバサ、過去最高の出来だな…!)
あんじゅ(こんなツバサ…見たことない!)
ツバサ「主役は自分でしょ?わかるでしょ!」
穂乃果「勝負だよっ!!」
\もっと知りたい知りたい 過剰なLife いま夢の夢の中へ
もっと知りたい知りたい 過剰なLife だから…Shocking Party!!/
ズバァン!!!
穂乃果「っ!!」
英玲奈「――ッ!!」ビリビリ
スリーストライクアウト!!!135km/h
【実況】
『135キロ!!!自己最速を更新ーッ!!!
三者連続三球三振ー!!!』
穂乃果(バットに当たらなかった…!)
ツバサ「第1ラウンドは私の勝ち。本日絶好調、ってところかしらね?」
♯51
【二回表】
【実況】
『試合は二回の表、バッターは五番の統堂という場面。
この回もセカンドの小泉は、大変深く、外野の領域近くまで後退しての守備位置です』
英玲奈(さて、今私が見極めるべきは…小泉花陽の守備だ)
花陽「ことりちゃぁぁーん!!!打たせていこぉぉーっ!!!」
ことり「うーんっ!!!花陽ちゃぁん!!!お願いねぇー!!!」
英玲奈(内野手の声掛けだというのに、あれほど声を張り上げなければ聞こえない距離。尋常ではない)
スパーン! ボール!
英玲奈(だが前の回、小泉花陽は外野へ長打コースの当たりと内野浅めのゴロ、両方を捌いてみせた。彼女の守備の正体、それは…)
海未(カーブを低めに)サイン
(・8・) 「えいっ!」シュッ!
英玲奈(これでわかるはずだ。…スイング始動!)
花陽(来る…ライト前コース、打球速度速め!斜め後方に6歩で処理!)タタッ!
英玲奈(なるほどな。スイング停止だ)ピタッ
スパン!
海未「塁審!スイング!」
ストライクツー!
英玲奈「球審、タイム願います」
『タイム!』
英玲奈(ハーフスイングを取られたか。まあそれはいい。小泉花陽の守備の正体…それは私の先読みと酷似した、超広域守備!)
花陽(え、英玲奈さんがすごいこっちを見てる…!気付かれちゃったかな?)
英玲奈(あの不可解な守備位置も、そう考えれば納得は行く。深い位置で構え、スイング始動の瞬間に打球位置まで走り、そしてボールを捌く)
英玲奈(なるほど理に叶っている。人間は前へは走れるが背走が苦手だ。故に、深く守る。動き出しが極端に早いため、浅い打球への対応も間に合う。そして深く守っているため、短い背走距離で右中間へのヒットコースもカバーできる)
英玲奈(そして、小泉花陽が超広域を守っているが故にライトとセンターの守備範囲がそれぞれライン際と左中間にズレている。
あんじゅがライン際の打球を素早く処理されライトゴロを取られたのも、元を正せば小泉花陽の影響!)
海未(そう、あれが花陽の真骨頂。内野と外野の狭間で一人、両方の守備をカバーしている。さしずめ超広域単独守備陣形『孤独なheaven』とでも名付けておきましょうか…フフ!)
穂乃果(まーた海未ちゃんがなんかよくわかんないネーミングする時の顔してる。マスク越しでもわかるもんね)
『プレイ!』
海未(右に打たせて花陽に打球処理をしてもらうのが最善ですが、偏った配球で抑えられるほど甘い打者ではありません。アウトローへことりボールを一球です)
(・8・) (わかったよ海未ちゃん)シュッ!
英玲奈(流石だよ、小泉花陽。だが、私の先読み守備のように他者に指示を出せる域には君はまだ至っていない。ヒットコースはある!)
パキンッッ!!
英玲奈「二遊間中央、センター前へ抜ける打球だ!」
凛「させないよっ!」
ズザザッ!
英玲奈(星空凛…流石の打球反応!だが、そのコースは捕ったとしても体勢が崩れて投げられない!)
バシッ!
凛「かよちん!」花陽「凛ちゃん!」
シュッ!
スパン!
希「ナイス送球!!」
アウトッ!!
英玲奈「何だと…!?」
【実況】
『あーっと音ノ木坂!!またしても超ファインプレーが飛び出しましたぁ!!!
センター前に抜けるかという打球をショート星空が横っ跳びに抑え!駆け寄っていたセカンド小泉が瞬時に星空のグラブからボールを掴み取り一塁送球!
ヒット性の当たりを見事!内野ゴロに仕留めてみせました!!!』
穂乃果「ナイスだよー!凛ちゃん花陽ちゃん!!」
海未「素晴らしいです!!」
ことり「二人ともありがとーっ!!」
花陽「確かに、私一人の守備じゃ限界があるよ…。でも、凛ちゃんと二人なら」
凛「凛はかよちんの動きになら、いくらでも合わせられるから」
花陽・凛「「二人で、ここは絶対に通しません(通さないにゃ)!!」」
英玲奈「なるほど…小泉花陽が支持を出さずとも、星空凛、彼女だけはノーサインで意図を汲み取る事が可能…。
つまりこの試合、二遊間、センターラインから右には、ヒットコースはほぼ存在していない。…そういう事か」
(・8・) 「スマイルボール!」
三振!!
(・8・) 「インローにストレート!」
三振!
【実況】
『素晴らしいボール!二者連続三振!!
南、味方の好守に助けられて調子を上げてきました!!』
海未(よし…!先頭を切った事でことりが落ち着いて投げられました。花陽のおかげです!!)
~~~~~
絵里「ことり!ナイスピッチング!」
ことり「ありがとう絵里ちゃんっ♪」
真姫「凛、花陽。かっこよかったわ」
花陽「えへ、照れちゃうよぉー」
凛「真姫ちゃんのくせに素直にゃ!」
真姫「クセにってなによ!」
海未「……むむむ」
ミカ「海未ちゃんお疲れ!はいタオル。飲み物いる?」
海未「…あ、ミカ。ありがとうございます」
ヒデコ「ん?なんか浮かない顔。気になる事でもあるの?」
海未「ええ…先ほどの回の優木あんじゅですが…、インコースのボール、打ってもファールになる最高のコース。それを容易にライト線へと運びました」
ヒデコ「ああ、すごく上手い打撃だったよね」
海未「はい、体勢は崩していたのに痛打されました。上手すぎる…女子野球のレベルを超えているほどに」
ヒデコ「……まさか、フルハウス打法が発動してた、って事?」
海未「む…、やはりヒデコは勘が良いですね。そう、私はそれを疑っているのです。フルカウント、そして満塁。私たちが想定した前提条件が、そもそも間違っていたのではないかと…」
フミコ「……それか、他にも条件がある。とか」
海未「……なるほど」
ミカ「もしそうだったら、ヤバくない?」
海未「ええ、致命的です。綺羅ツバサは絶好調。大量得点は望めない。この状況下で優木あんじゅに好きに打たせたのでは…絶対に勝てない」
ミカ「そしたら…穂乃果は…」
海未「……っ」
フミコ「わかった。次の優木さんの打席までに、私たちも条件を考えてみるよ」
ミカ「うん、任せといて!こういう時のための私たちだよ!」
ヒデコ「よーし、フミコ!ミカ!私らヒフミトリオの見せ場だよ!」
海未「三人とも…お願いします!!」
【二回裏】
穂乃果「さあさあ、攻撃かけてこう!ツバサさんのボールはやっぱり凄いけど、同じ高校生なんだから打てないはずないよっ!」
花陽「そ、そうだよねっ!頑張って食らいついていかなきゃ!」
真姫(…こういう時に辛辣ちんにしたらどうなるのかしら)
スチャ
花陽「あっ」
絵里「ちょ、真姫…花陽にスカウター眼鏡をかけさせたら…」
ピピピ
花陽「54802…まーたツバサさんの野球力が上がってるよ。はぁ…私たちなんかゴミ虫だよ…。たった9匹のアリが恐竜に勝てると思う方が間違ってたんだよ…」グスッ
真姫「ね、ネガティブちんになった…」
凛「凛はこっちのかよちんもそそるにゃー」
ことり「10000以上を計測しても割れなくなったんだね?」
真姫「西木野グループの技術力で改良したのよ」
絵里「もう、遊んでないで真面目にやるわよ?さて…先頭は希よ!頑張ってね!」
にこ「……今日は四番はアンタでしょ?」
絵里「そ、そうだったわ!」タタッ!
♪ポーペポペーポ パーパパパパパパー
\ガンバラネーバネーバネバギブアップ ナーナーナナーナナーリタイナ/
『四番 ライト 絢瀬さん』
にこ「…ねえ真姫ちゃん、なんで絵里の出囃子をあんな感じの曲に?」
真姫「え?絵里ってあんな感じじゃない?作詞は海未だけど」
海未「私も絵里はあんな感じだと思いますが…」
にこ「……ま、ピッタリよね」
英玲奈(さて、絢瀬絵里。走攻守に優れたオールラウンダー、ロシア打法で精神面の隙も克服している。要警戒打者の一人だ)
絵里(しまった。慌てて出てきたからロシア語を調べてこなかったわ…。で、でもロシア打法を使ってる風に見せないと、統堂さんは必ずその隙を突いてくる…!)
絵里「……マトリョーシカ」
英玲奈(ふむ、ロシアだな)
ツバサ(英玲奈英玲奈、何投げよっか?)
英玲奈(絢瀬絵里は打撃データによると変化球に強い。映像を見ても、バランスを崩されることなく変化についていけている。ボディバランスに優れた元バレリーナらしいと言えるだろう。
となれば、パームを見せ球に、ボールゾーンに変化するパワーカーブでカウントを稼ぎ、ストレートで仕留めるのが最善だろうな)サイン
ツバサ(ふーん?ま、高坂さん以外は任せるわ)シュッ!
絵里(速いカーブ!でもボールね)
スパァン!
ストライク!
絵里(え、今のストライク?)
ツバサ(はは、ラッキー。この審判ヘタクソね)
英玲奈(今日の球審は外のゾーンがやたらと広い。有効に活用させてもらおう)
絵里(えっと…)
絵里「……ペレストロイカ」
英玲奈(モスクワの風を感じる…引き続き、要警戒だ)サイン
ツバサ(パームね~、了解っ)シュッ!
絵里(甘い球…?あ、違うパームだ!)ブンッ!
ストライクツー!!
英玲奈(あからさまな釣り球に手を出した?……まさか)
絵里(ま、まずいわ。統堂さんが疑いの目を向けてきてる。ロシア感を出さなきゃ…ロシア感)
絵里「ペリメニ」
英玲奈(…ロシアなのか?)
絵里「ボルシチ、ピロシキ」
英玲奈(なんだか、浅くないか?)
絵里「は、ハルルァセォォォオ!!」
英玲奈(む、発音が良い。やっぱりロシアだ…)サイン
ツバサ(ストレートね。オッケー、三球勝負は大好きよ)シュッ!
絵里(亜里沙の発音をマネてみたけど…っいうか私、何してるのかしら…集中しな…きゃっ…!)ブンッ!
カキィン!!
ツバサ「わっ」
英玲奈「しまった…ライト!……っ、ヒットか」
穂乃果「ぅ絵里ちゃんやったー!!!」
にこ「初ヒット出たわね!!!」
海未「同じ高校生同士、いつまでもノーヒットが続くはずがありません!」
あんじゅ「ツバサからヒットを…絢瀬絵里!」
絵里「残念、私は足が速いの。ライトゴロなんかにはならないわ。あなたと違ってね?」
あんじゅ「この…!」ギリリ
【実況】
『四番絢瀬!ライト前へクリーンヒット!
前日から続いていた綺羅のノーヒットノーランをここで破りました!!
さあ…ここで五番、ここまでの大会で4本塁打を放っているスラッガー東條が打席へ!
おっと、UTX高校の新井監督がベンチから出て…審判に選手交代を告げていますね』
『UTX高校 選手交代をお知らせします
ピッチャー綺羅に代わりまして、田中。ピッチャー、田中』
にこ「来た、弱点その3!新井監督のワンポイントリリーフ!」
海未「二塁手の田中さんがリリーフ、綺羅ツバサはそのままセカンドに入るようですね」
ことり「けど、田中さんって…」
穂乃果「あの怖い寺生まれの人だよね?」
田中「般若心経般若心経…」
凛「相変わらずキてるにゃー…」
真姫「希、打てるの?」
希「うう…怖い…怖い…」ガクガク
真姫「ちょ、希!?対策したんじゃなかったの?」
『タイム!』
絵里「希ぃぃ!!」
穂乃果「あ、絵里ちゃんがタイムをとってベンチに戻ってきたよ。トイレ?」
絵里「違うわ、穂乃果。今日のためにね、希と二人で田中さん対策をしてきたの」
にこ「た、田中さん対策!?って何よ!」
絵里「タイムの時間は限られてる!説明してる暇はないわ!これを使うのよ!!」
凛「な、なんか神社で見たことあるワサワサしたのと鈴のやつ!」
海未「御幣と神楽鈴ですね」
絵里「希に秘められたスピリチュアルパワーを解放するわ!かぁしこみかしこみぃ!!!!」シャラシャラワサワサ
希「う、うわぁああ!!!スピリチュアル!!!」
審判「ランナー、遊んでいないで早く塁に戻りなさい。遅延行為と見なしますよ」
絵里「あっ、す、すみません!戻ります!希、頑張ってね!」
タタタ…
穂乃果「絵里ちゃんがよくわからない儀式をやった挙句、審判に怒られて塁に帰って行ったよ…」
海未「希…、希?大丈夫ですか?」
希「ふ、ふふふ…」
希「ウチを上回る霊格を持つ寺生まれ田中さんに対抗するための手段、それは…」
希「ウチ自身が大明神になる事や」
―――卍解 東條大権現
ことり「えぇ…」
海未「東照大権現?」
にこ「大明神なのか大権現なのかはっきりしなさいよ」
ピピピ
花陽「えっ……希ちゃんの野球力が消えた!」
凛「違うよかよちん、今の希ちゃんの野球力は凛たちとはランクが違う、だから計る事ができないんだよ…」
真姫「ねえ、ノリで喋るのやめなさいよ」
希「ま、とにかく打ってくるよー」スタスタ
穂乃果「頑張れ希ちゃん!!」
【実況】
『さあ、投手が代わり試合が再開されます。
UTXバッテリー、どう対峙していくか』
希「さあ来いっ!」
英玲奈「……東條さん。その構えは神主打法だろうか?」
希「ん、そうだよ」
英玲奈「君のオカルト打法は故人に限るのだろう?落合博満氏は存命だが…」サイン
田中「一切苦真実不虚故説般若波」シュッ!
希「そこはもうね、ウチ大明神やから。フレキシブルに対応していくことにしたん…よっ!!!」
ガッキィィィィンンン!!!!
ツバサ「うわ、すごい当たり」
英玲奈(…っ、やられたな)
ガン!!
【実況】
『看板直撃!!バックスクリーン横!『財宝』と大きく書かれた看板への直撃弾ー!!!
推定飛距離160メートルっ!!
特大のツーランホームランです!!音ノ木坂学院逆転~!!!』
穂乃果「すごいよ希ちゃんんん!!!」
凛「やったにゃああああ!!!!!」
ことり「かっこいいっ!!」
海未「やりましたね希っ!」
絵里「希っ!ハイタッチ!」
希「絵里ち!」パンっ!
~~~~~
海未「落ち着いて、見極める…」
ズバン!ボール!
フォアボール!
海未(よし、全く見えないわけでもない。150キロマシンでの練習、無駄ではなかったようですね)
ツバサ「ちぇ…」
英玲奈(ここで四球か。新井監督も余計なリリーフを出してくれた…せっかく最高潮だったツバサのテンションがガクリと落ちてしまっている…)
ことり「花陽ちゃん!がんばって!」
にこ「花陽!甘い球が来たら積極的に叩いていきなさい!」
花陽「よし、頑張りますっ…!」
英玲奈(小泉花陽…好守を見せた選手は打撃にも良い影響が出やすい。それなりには警戒すべきだな)サイン
ツバサ(……)シュッ
ズバン!
花陽「は、速い…!」
英玲奈(速い……だが、球威に劣る。下位打線への手抜き癖、さらに監督に邪魔をされた面白くなさ。集中を欠いている。普段のツバサに比べれば、今は棒球…)サイン
ツバサ(早く穂乃果さんの打席にならないかな …)シュッ
花陽(速いけど、なんとか見える…かな?高めストライク、振らなきゃ!)
カキッ!
英玲奈「サード!ゲッツー!」
バシ!シュッ!
アウト!
パシッ!シュ!
アウト!!
花陽「や、やっちゃった…ダブルプレー…!」
穂乃果「ドンマイドンマイ!仕方ないよー!」
絵里「相手が上手かったわね、切り替えていきましょ♪」
佐藤「おい、気を抜いてんなよ、綺羅」
ツバサ「ありがと、ええと…名前わかんないけどサードの人」
佐藤「……」
英玲奈(今の小泉花陽の当たり、打球の勢いがなく内野安打でもおかしくはなかった。瞬時の判断で猛チャージをかけた佐藤さんのファインプレーだ。ツバサ…チームメイトに目を向けてくれれば、お前も…)
~~~~~
ことり「ちゅんちゅん!?」
ズバァン!!
ストライク!バッターアウト!!
スリーアウトチェンジ!!
♯53
【三回表】
海未『花陽、そして凛の超広域守備の影響は非常に大きい。
この回、ことりはテンポ良く、8番長谷をライトフライ、9番の吉田をセカンドゴロ、1番佐藤をセンターフライに切ってとります。
統堂英玲奈は花陽の守備範囲を看破したようでしたが、わかったからと対策を練れる物ではありません。UTXに許されたヒットゾーンは限りなく狭い!
断言しましょう。この試合、ここまでを支配しているのは花陽です!』
【三回裏】
ズドォン!!
ストライクアウト!!
【実況】
『134km/h!!9番の西木野、1番星空と連続三振!!』
真姫「なによあれ、速すぎ…」
凛「ぜ、全然当たる気しないよ~!」
花陽「これでまた三者連続三振…!」
絵里「まだ三回で三振6個…流石に凄いわね、綺羅さんは」
希「けど、次はクセ者にこっち!最初の打席こそ三振やったけど、そうそう簡単に行くバッターやないよ?」
\ニコプリ!ニコニコ!ニコプリ!ニコニコ!/
『二番 センター 矢澤さん』
あんじゅ(うぅん、すごい曲ね…)
ツバサ(ツバプリっ!ツバツバ!的な?罰ゲームレベルじゃない…)
にこ「……」
英玲奈(…?いつもと様子が違うな)サイン
ツバサ(この子は選球眼が良いけどノーパワー。直球でゴリ押すわけね)シュッ
にこ(こころ…ホームランが、見たいのよね。パパのために…)
ブンッ!
ストライク!
にこ(っ、…もっと)
英玲奈(……もう一球、ストレートだ)
ツバサ(了解、了解)シュッ!
ブン!!
ストライクツー!!
にこ(これじゃダメ…もっと、もっと強く…!)
絵里「にこが大振りを…?」
真姫「様子が変ね…いつもの小さく構えるやつもしてないし…」
海未「いえ、にこの事です。きっと何か、策を持った上での撒き餌なのでしょう」
花陽「にこちゃん!頑張ってー!」
穂乃果「にこちゃーん!!」
にこ「みんな…」
にこ(そう、勝たなきゃいけない。穂乃果のために、みんなのために。にこの役目は出塁すること…でも、でも…)
英玲奈(やはり、普段とは違う。葛藤を抱えている。その程度はどれほどか…測らせてもらおう)サイン
ツバサ(思いっきり高めにストレート。なるほどね)
にこ(こころ…パパ…!)
ツバサ「目に迷いがある。そんな選手に打たせるほど…」
ブンッ!!!
ズドン!!!
ストライクアウト!!
にこ「…っっ!」
ツバサ「甘くないわよ?」
スリーアウト!チェンジ!
【四回表】
ガキンッ!
海未「サード!」
穂乃果「わっ、とっ、、捕れないよー!!」
ポトッ
【実況】
『この回先頭の田中、サード後方へポトリと落ちるテキサスヒットで出塁!
そして迎えるは、先ほど先制のホームランを放った三番綺羅ツバサ!』
海未「ふむ、花陽の影響がない位置のヒットゾーンに落としてきましたか。まあ、狙っての打撃ではないでしょうが…」
穂乃果「ランナーありでツバサさん…」
ツバサ「さあ二打席目!…『今度は逃げないでよね?』 ――ビリッ…
海未(っ…!…あの威圧には気を張っていれば耐えられますが、背を向ければ焼かれる…。敬遠は最悪手でした…)
(・8・) 「もう逃げたりしない…!穂乃果ちゃんの唇の仇!!」
穂乃果「く、唇の仇って…」
海未(さて、綺羅ツバサは左打者でかつ、中々の俊足。ダブルプレーは取りにくい…ですが、花陽と凛の連携速度ならばそれも可能。
であれば、やはりインコースを引っ張らせるのが最善。が、問題は彼女の得意コースがイン寄りであるという事。あまり投げさせたくはありません…。
となると、コースではなく遅い球でタイミングを外し、右方向へと打たせるのが理想。
直球で組み立て、ことりボールを見せ球に、スマイルボールで仕留める。よし、これで行きましょう)サイン
(・8・) (ストレート!)ボール!
(・8・) (ストレート!)ファール!
(・8・) (ことりボール!)ファール!
(・8・) (ストレート!)ボール!
ツバサ「あのシンカー、ナックルっぽい揺れ方もしてるのね。面倒臭いから投げないでよ」
海未(相変わらず傍若無人な物言いですね…お望み通り、次はことりボールではありませんよ。……スマイルボール。頼みますよ、花陽、凛!)サイン
花陽(バッターに集中、バッターに集中…)
凛(かよちんに集中、かよちんに集中…)
(・8・) (ハノケチェンの恨み!スマイルボールでことりのおやつにしてやる!)シュッ!
英玲奈(小泉花陽の守備、なるほど素晴らしい。だがすぐに思い知るさ、ツバサには通用しないという事をな…)
ツバサ「ストレート来た!って、…チェンジアップ!?ああもう、面倒臭い…なぁ!!」ブン!
ガギィン!!
海未「セカンド!」(タイミングを外したのに打球が強いっ…しかし、そこには花陽が回り込んでいます!)
花陽(左9歩、足元!すくい上げて送きゅ…っ!?)バチッ!
希「花陽ちゃんが捕れんかった!?」
花陽「ぐ、グラブを弾かれ…絵里ちゃん!」
絵里「大丈夫、フォローしてるわ!けど、ライトゴロとはいかないわね」パシッ
海未(スマイルボール、毒戸さんとの対戦でレフトへの大飛球を打たれたことで危惧していましたが……綺羅、優木、統堂の三人に使うには球質が軽い!
打球の弾道が低かったから単打で済んだものの、少し上がっていればスタンドへ運ばれていかねないほどに強い打球でしたね…)
希「みんな、一回マウンドに集まろ!」
ツバサ「フフン、強襲ヒット。小泉花陽敗れたり…」ドヤッ
英玲奈(……凡人の努力や創意工夫、それを容易く踏みにじり越えていく存在を、人は天才と呼ぶんだ)
あんじゅ「さあ…私の出番ね」
花陽「ごめんなさい、みんな…」
ことり「今のは花陽ちゃんのせいじゃないよ♪ 」
希「うんうん、そもそも普通は追いつけん打球やしね」
凛「かよちん気にしちゃダメだよ!」
穂乃果「そうそう!穂乃果だったらあんな速い打球、グラブを弾いて顔面に当てて鼻血モンだよ!」
海未「練習を始めたばかりの頃は頻繁に打球を当てて鼻血を出してましたよね、ふふ…」
凛「しょっちゅうボタボタ垂らしてたにゃー」
ことり「鼻の形が変わっちゃわなくてよかったよねぇ…」
花陽「ふふふ…」
穂乃果「むう…みんなに余計な事を思い出させちゃったよ。でもまあ、リラックスできたよねっ!」
希「と、そこでみんなに一つ提案があるんやけどね…?」
凛「あ、希ちゃんが悪い顔してるにゃ!」
穂乃果「なになに?」
あんじゅ(あら、まだまだ笑顔の余裕はあるのね。素敵よ…すぐに曇らせてあげるけれど)
【実況】
『さあマウンド上の輪が解け、試合が再開。
ノーアウト一、三塁。打者は先ほどライトゴロに倒れた優木あんじゅ!』
あんじゅ「さっきのライトゴロは私のミス。甘かったわ、グラウンド上に落とすなんて…。スタンドに放り込めば良い、それだけの事よね…!」
海未(恐ろしいまでの怒り…いや、殺気すら感じます!しかし、さて…)
(・8・) (どうなるかな…?)
凛(わくわくにゃー)
ツバサ「フフ、今のあんじゅはヤバいわよ。なんか知らないけど、めちゃくちゃ切れてるんだから」
希「そうなんやね…それは恐ろしい…」
ツバサ「一、三塁。私も盗塁しちゃったりして」スス…
希「ふむふむ…ほいっ」ポン
ツバサ「ん、何よ?」
希「審判さん、これボールね」スッ
ツバサ「………は?」
アウトォ!!
【実況】
『ああっと!ここでまさかのプレー!!
隠し球!隠し球です!ファースト東條の隠し球で一塁走者の綺羅ツバサがタッチアウトー!』
ツバサ「ええ…なによこれ、すっごいムカつくわ…」
ことり「希ちゃんありがと~♪」
花陽「ほ、本当に成功させちゃった…」
穂乃果「よっ!千両役者!」
凛「よっ!卑怯者!」
希「ズルイ!ズルイ!ズルイことは~しちゃダメなのよこーらこら~!…なーんて、弱者のウチらはズルい手も使わせてもらわんとね?凛ちゃんは後でワシワシね」
凛「嫌にゃああああ!!!」
にこ(か、隠し球って、男子の甲子園だったら各方面からブッ叩かれそうね…ま、女子高校野球は面白さ優先だから大丈夫だろうけど)
あんじゅ「つくづく…舐めてるわね、貴女たち」
海未(ここでランナーを減らせたのは大きい…ヒデコたちがベンチ裏で懸命に優木あんじゅの条件別打撃成績を調べてくれていますが、フルハウス打法の謎は未だ解けていません。
もしも今、優木あんじゅのフルハウス打法が発動しているのなら…被弾も覚悟しなければならない)
(・8・) (なんとなく、嫌な予感がする…。海未ちゃん、"あの球"を使ったらどうかな?)
海未(ことり、あの球を使うべき場面はここではありません。あれは『究極の初見殺し』
洞察に長けた統堂英玲奈のいるUTX相手では、すぐに対策を立てられてしまう可能性があります。
今よりも…もっと、一者必殺が必要な、重要な場面が必ず来ます。その時のため、温存しておくべきです)
(・8・) (わかった。海未ちゃんに任せるねっ)
海未(どうせリスクを踏むならば、まずはフルハウス打法が発動しているかの確認をするべき。インハイ、仰け反らせる位置にストレートを。通常の打者なら決して打てない位置です!)
(・8・) (行くよっ!)ビシュッ!!
あんじゅ「ふふっ、完っ全に…フルハウス!!!」
カッ…キィィィン!!!!!
(・8・) 「…!!」
【実況】
『行ったぁぁあ!!!
レフト西木野のはるか頭上を越えていく弾丸ライナー!!!
UTX高校!逆転のツーランホームラン!!!』
穂乃果「あちゃあ…すごい打球…」
真姫「頭の上を越えてく打球ほどムカつく物ってないわよね…」
海未「やられた…!確定です…やはりフルハウス打法は発動している!」
~~~~~
カキィィーン!!!
海未「っ!」
【実況】
『五番統堂!レフトフェンス直撃のツーベースヒット!!』
英玲奈「フフ、先読み守備の弱点を教えてやろう。フェンス直撃とスタンドインだよ」
花陽「うう、ごもっともです…」
フォアボール!
フォアボール!!
ストライクアウト!!
【実況】
『六番三好、七番瀬戸へと連続フォアボール!
八番の長谷は三振も、ツーアウト満塁のピンチが続きます!打席には九番吉田!』
海未(綺羅、優木、統堂以外の打者もスイングが鋭い…選球眼も優れています。少し疲労が出始めましたか?ことり…)
(・8・) (まだまだ♪ここが踏ん張りどころだよっ…)
(・8・) (チュンッ!)シュッ!
海未(…っ、少し甘い!)
吉田「ストレート…叩く!」カキィン!!
海未(左へ鋭い打球っ、まずい!)
「レフト!」
穂乃果「そうは…行かないよっ!!」バシィッ!!!
凛「穂乃果ちゃんがジャンプキャッチにゃ!!」
アウト!
スリーアウトチェンジ!!
海未「サードライナー!穂乃果ぁっ!」
ことり「ハノケチェンっ!」
穂乃果「へへっ、たまには守備でもいいとこ見せないとねっ!」
♯55
【四回裏】
英玲奈(さて、この回の先頭は…)
『三番 サード 高坂さん』
穂乃果「よし…打ってくるよ!」
絵里「穂乃果、気負いすぎないでね」
希「穂乃果ちゃんらしいバッティングをしてくればいいんよ♪」
穂乃果「うんっ!楽しんでくるね!」
ツバサ(ふふ…来たわね、穂乃果さん。ねえ英玲奈、ストレート予告していい?)
英玲奈(やめておけ)
ツバサ(ちぇ…)
【実況】
『先頭打者の高坂、屈伸を一度。ゆっくりと打席へと入り、綺羅を見据えます』
穂乃果(さっきの打席は手が出なかったけど…みんなの打席で速球を見て少しずつ目が慣れてきた…)
スチャ
花陽(前からだけど、穂乃果ちゃんの野球力はあんまりアテにならない。
野球力は状況に応じて数値が変化する。それは誰でもそう。だけど穂乃果ちゃんは、その数値の変化が極端に大きい…)
穂乃果「さあ……勝負だよっ!!!」
英玲奈(…っ!)ゾクリ
英玲奈(これだ、この感覚…やはりツバサと同質の…)
ピピピ…
花陽(野球力6000…8000…11200…まだ上がる…!でも驚かないよ、穂乃果ちゃんは、ツバサさんが見込んだ『太陽』だから)
ツバサ「上等…ねじ伏せるわ!!!」
絵里(っ…ネクストに座ってる私にまで威圧感が…!)
【実況】
『ピッチャー綺羅、第一球、振りかぶって…投げた!!』
ズドンッッ!!!135km/h
英玲奈(……っ~、手が痺れるな)
ツバサ(まだよ、まだ足りない)
穂乃果(そう、これなら見える。叩ける…!)
海未「穂乃果…」
ことり「穂乃果ちゃん…」
ツバサ(もう一球…ストレートっ!!)ビシュッ!!!
穂乃果(さっきと同じスピード…力んだのかな、ほんの少しだけスライドして内に切れ込んできてる。
腕をたたむ意識で…身体を開かずに、
―――振り抜く!!!)
ッキィィィン!!!!
英玲奈「っ!何だと!?レフト!!!」
【実況】
『打った!!!強振した打球が高々と舞い上がった!!
高い打球…滞空時間が長い…レフトが下がる…下がる…!!』
ツバサ「2ラウンド目も…どうやら私の勝ちね」
【実況】
『フェンス際!あと一伸び足りずーっ!!
レフト瀬戸が捕球、同点ホームランとはなりませんでした!!』
穂乃果「ぅあ~~~っ!!!惜っしい~~~!!!」
ツバサ(ほんと、惜っしい。……あと一息で私の居場所に手が届きそう。次の打席のアナタは…どうなってるのかしらね?フフッ)
あんじゅ(ツバサ…笑ってる。楽しいの…?)
英玲奈(ツバサ…)
~~~~~
ボールッ!フォアボール!!
絵里(どうもさっきから私への投球が雑ね。ラッキーだけど)
ツバサ(あっちゃー、さっきからこの人にはダメね。やっぱり穂乃果さんの後じゃ気合いが抜けちゃう)
英玲奈(ツバサのムラっ気は今に始まったことじゃない。元々コントロールで勝負する投手でもないしな)
『五番 ファースト 東條さん』
にこ「ん、希の番ね」
海未「絵里はまた出塁していますので、今度は私があれをやりましょう。かぁしこみかしこみーっ!!」ワサワサシャンシャン
穂乃果(やってみたかったんだ)
ことり(やってみたかったんだね…)
希「大和撫子の海未ちゃんがやってくれるとまた本格派やなぁ。よーし、チャージ完了!」
希「……よっしゃ。おうお前ら、ウチは落合や」
穂乃果「あっ!希ちゃんが独特のふてぶてしい雰囲気を醸し出し始めたよっ!これが落合さんなんだねっ!」
希「嫁と息子、信子と福嗣のためにいっちょぶっ飛ばしてくるわ」
花陽(落合さんってああいうキャラじゃないし関西弁でもないよね…)
にこ(よく知らない人のモノマネに果敢に挑む芸人魂、嫌いじゃないわ)
真姫「今度はあの寺の人、田中には代えないのね」
凛「うん、無能監督でも少しは学ぶんだね」
英玲奈「なぁツバサ、本当にやるのか?」
ツバサ「もちろんやるやる。ほらセカンドの人、それ貸してよ」
田中「波羅僧掲諦…」
真姫「ん…?あっ、見て!希!」
希「おうなんや西木野ォ、ウチは落合や言うとるやろ」
真姫「それ今めんどくさい!とにかく見てよ!綺羅ツバサ!」
希「んー、ツバサさんがどうしたん…って、えっ?」
穂乃果「つ、ツバサさんが…!」
凛「首から数珠を下げてるにゃ~!!?」
ツバサ「東條さん!言ってなかったけどね…私の実家も寺なのよ!!」バァン!
希「なっ、なんやって~!?」
穂乃果「なっ、なんだって~!?」
ツバサ「悪霊とか知らないけど、多分全員抱いたわ!!」ババァン!!
希「ひいいいいっ!!」
にこ「ちょっ!あれ嘘よ!絶対嘘!父親は商社マンで、そこそこ裕福な普通の家庭で育ったって雑誌のインタビューで見たわよ!」
希「ならイケるやん!!」
ツバサ「チッチッチ…甘いわね。うちの寺はあまり騒々しくなるのを好まない檀家さんが多いの。だから隠してるってだけよ」
にこ「そ、そんなっ…!」
希「やっぱり寺生まれのツバサさんなんやあぁぁぁあ!!」ガクガク
真姫「の、希の怯え方が怖い…」
海未「無理もありません…投手としての実力は格下だった田中さんを、大明神と化すことでやっと攻略できたのです。
しかしここに来て、綺羅ツバサが寺生まれだという驚愕の事実…!格上の相手が寺生まれだったとなれば、希が威圧されてしまうのも無理からぬ事…!」
ことり(なんか海未ちゃんがノリノリだぁ…)
穂乃果(後出し能力バトルみたいなの好きだからね、海未ちゃん)
花陽(あれ、多分嘘だよね。にこちゃんの突っ込みにも慌てず、さらりとアドリブで嘘をついてみせるあの精神力と演技力、それは投手としての胆力にも通じている。やっぱりツバサさんは大物です…!)
希「…と、まぁ怯えてばっかもいられないし…ちょっと打ってくるわ!」
希「さ、来い!」
英玲奈(さっきと同じ神主打法…、神社で働く彼女にいかにもしっくりと来る構えだ。打者にとっての自己イメージは大切だからな)サイン
ツバサ(パワーカーブね…)シュッ!
スパァン!
ストライク!
希(速いし、曲がりが鋭い。これをもっと多投されたら本当に手が付けられんね。ストレートばっかを投げたがりなのは不幸中の幸いかな?)
ツバサ(ねえ英玲奈、結局東條さんって何者なの?オカルトだの落合だの)
英玲奈(ああ、要は野球モノマネが上手な女の子だ)サイン
ツバサ(な、なるほど…)シュッ!
希(ウチは落合ウチは落合ウチは落合…)ブンッ!!
ズドン!!!136km/h
ストライクツー!
希(………訂正。ストレートだけでもそうそう打てんね、これ)
英玲奈(空振りは奪えたが、やはりスイングの迫力が他とは一線を画している。パームで一球落として様子を見たいところだが…)
ツバサ(……野球モノマネねぇ、私も穂乃果さんに披露できるように一つぐらい覚えようかな…)
英玲奈(投手の気持ちを上げるのも捕手の務め。ここはツバサを気分良く投げさせるのを優先……ストレートで三球勝負だ)サイン
ツバサ(ベリーグッドよ英玲奈)ビシュッ!!!
絵里(弱点その1、グラブの角度!盗塁を仕掛けるなら今!)ダッ!!
希(絵里ちが走った!直球…スイングや!)ブンッ!
ズドンッッ!!!
スリーストライクアウト!!
希(くっ、三振っ…!でも、よろけたフリをして…)
英玲奈「二塁送球…っ!いや、これは投げても間に合わないな」
絵里(ナイスよ、希)ザッ!
セーフ!
花陽「よし!絵里ちゃんの盗塁成功でランナーが得点圏に!チャンスです!」
ツバサ「上手いこと送球の邪魔されちゃったわね、英玲奈」
英玲奈「む、先ほどの隠し球といい、東條さんはトリッキーなプレイにも長けているな。この手の強打者には珍しいタイプだ」
ツバサ「それにしても今の、私のモーション完全に盗まれてる感じ?」
英玲奈「………ああ、そのようだな」
ツバサ「フーン?ま、お好きに走ってどうぞって感じね。どうせ盗塁だけじゃ点は取れない。打たせなければいいだけよ」
英玲奈「……フ、それでこそお前だよ」
ツバサ「なんで嬉しそうなのよ」
英玲奈「気にするな」
穂乃果「海未ちゃん!チャンスチャンス!」
凛「絵里ちゃんの脚ならヒット一本で帰ってこれるよ!!」
真姫「あのセンターは肩が強い。両翼を狙うべきだけど…とりあえず打てれば御の字よね」
海未「ええ、任せてください。乾坤一擲!ここはなんとしても仕留めます!」
『六番 キャッチャー 園田さん』
海未「よろしくお願いします」
英玲奈「ああ、よろしく頼む」
英玲奈(ツバサ…園田さんの打席だけは、私に全面的にリードを任せてもらいたい)
ツバサ(捕手同士のプライドってとこ?いいわよ。案外熱いとこあるよね、英玲奈も)
英玲奈(現代野球において捕手の評価要因はおおよそ四つ。リード、捕球、フレーミング(ストライク判定を受ける技術)、盗塁阻止。
園田海未は私よりも捕球、フレーミング、盗塁阻止の三要素で上回っている。これは自身を卑下しているのではなく、指標からの判断だ。
ツバサの球を捕れなかったと聞いたが、それも慣れの問題。私も最初から捕れたわけではない。変化球のキャッチング、動体視力、反射神経。園田海未は全国でも屈指だろう。
だが、リード。統計、分析、観察、直感の四項目から成り立つ頭脳戦に、私は絶対的な自信を持っている。決して彼女に負けるつもりはない。さあ、読み合いの時間だ)
海未(綺羅ツバサの様子…サインを待っている?統堂英玲奈が長考している。なるほど、私との正面対決を望みますか。いいでしょう、受けて立ちますよ)
英玲奈(さて、まずは観察だ。優秀な捕手と相対した際のリードというのは普通の打者に向けての物とは一味違ってくる。園田海未ならば私のリードの癖は把握しているだろう。まず初球、変化球の割合が高い)
海未(しかし、それを私が理解しているという点も踏まえているはず。そこで気になるのはもう一つの傾向、審判の癖を利用したリードを好むという特徴。
今日の審判は外角のゾーンが広い…正直言って、技量が不足しています。しかも私と統堂さんの両方がフレーミングで徐々にゾーンを広げているため、外角の極端な部分をストライク判定される恐れまである。
それだけに!アウトに目が向いている今、初球のインコースこそが活きる。この場面、私なら…)
英玲奈(インコースにパーム)サイン
海未(インコースにストレート)
ブンッ!
スパン!
ストライク!
海未(むむ、変化球での入り。考えすぎましたか…?しかしコースは正解、方向としては間違ってはいませんでした)
英玲奈(コースを読み切られたか、恐ろしい奴だ。直前でストレートから変更したのが功を奏したようだな。勘も一つの能力さ、園田さん)
ツバサ(どっちも長考キャラよね…なんかこう、人間の脳内で流れてる文章量ってめちゃくちゃ個人差ある気がするわ)
穂乃果(あ、お腹減ってきた)
凛(かよちん可愛いにゃー)
ガキン!!
ファール!!
海未(低めのパワーカーブ…読みは合っていたのですが、ここまでの変化量だとは思いませんでした。
映像で見るよりも縦への落差がありますね…。しかし今のでイメージは出来ました)
英玲奈(園田さんの前の打席ではパワーカーブは放らせていない。読みこそ見事に合わせられたが、完全な初見でミートできるほど甘い球ではないさ。使う球の取捨選択、これもリードだ)
海未(さて三球目…統堂英玲奈のリードにおける最大の特徴、それは三球勝負を好む事)
英玲奈(と、言っても私が好んでいるわけじゃない。ツバサはとにかくせっかちなんだ。気分良く投げさせてやるためには可能な場面では極力早く仕掛けていきたい…)
海未(しかし、前の打者である希にも三球で勝負を掛けている。データで見ても感覚的にも、ここは流石に一球ボールを挟んでくるポイントのはず)
英玲奈(そう、ここはボール球だ。有利なカウントでのボール球という物は読まれていようが構わないものだ。さて考えるべきは、ボールを挟む事でまたツバサのムラっ気を呼び起こさないかどうか)
海未(綺羅ツバサという人物、あくまで見た限りでの印象ですが、ストレートさえ放らせておけばある程度は機嫌良くしている気がします。となれば、統堂英玲奈の選択する球種は)
海未(インハイ、ボールになるストレート!)
英玲奈(アウトロー、ボールになるストレート。)
ズドンッ!!!
スリーストライク!!!アウト!!!
海未「なっ…」
海未(や、やられた…!ここで外角判定を利用したストレート!しかし、今のをストライクと判定しますか…?この主審、あまりに、あまりに拙い…!これがプロ野球の試合で私が助っ人外人なら確実に張り倒してますよ貴方!)
英玲奈(下手で広い審判は嫌いじゃない。リードが楽だからな。とはいえ、今の判定は流石に酷い…。こっちがやられたらたまったものじゃないぞ。まあ、運もリードのうち、としておくか)
英玲奈「私の勝ちだ、園田さん」
海未「~~~っ!不甲斐ないっ!!」ガンッ!
ツバサ(うーん、なんかすっごい疲れた…)
スリーアウトチェンジ!!
♯56
【五回表】
コツン…コロコロ
海未「なっ…綺羅ツバサがバント!?ことり!」
穂乃果「エンドラン掛けてる!サードもセカンドも無理だよ!
海未「ファースト送球!」
ことり「捕った…けど、間に合わないっ!」
ツバサ「フフ、不意打ちバントも上手くてこそ天才!いきなりセーフティバントって『魔術師』っぽくないかしら!」ドヤ
【実況】
『セーフティバント成功!!ノーアウト満塁~~!!
佐藤のピッチャー強襲ヒット、田中の四球に続けての出塁!音ノ木坂学園大ピンチ!!!
さあそして、ここで登場する打者は…』
『四番 ライト 優木さん』
ツバサ「あんじゅ、ここは花を持たせてあげるわ」
あんじゅ「ありがとう…ツバサ。最高の舞台よ…!」
ことり「ノーアウト満塁で…あんじゅさん…」
海未(考え得る限り最悪の場面…!)
理事長「あの、審判さん。タイム…って、私がお願いしてもよろしいんでしょうか?」
ことり(お母さん?)
『タイム!』
理事長「それじゃあ、伝令をお願いね?」
ヒデコ「わかりましたっ!!」
ことり「タイムって、お母さんどうしたんだろう」
穂乃果「あ、ベンチからヒデコが走ってきた」
ヒデコ「みんなー!っていうか海未ちゃん!」
海未「……!ヒデコ!わかったのですか!?フルハウス打法の条件が!」
ヒデコ「間違いないよ!フルハウス打法の三つ目の条件は……『満員の観客』!!」
海未「……!!」
穂乃果「ねえねえっ、何の話?」
ヒデコ「細かい条件別の打撃成績ばっかり調べてたけど、ふと思いついて会場が満員になるような大舞台に限定した打撃成績を見てみたんだ。打率、十割だったよ」
希「確定やね!」
穂乃果「ねえ、ヒデコってばー」
花陽「そ、そういえば…春大会の決勝でも全打席打ってました…!」
ことり「そっか、それなら常にフルハウス打法が発動してたのにも納得がいくね…」
穂乃果「むぅ…」
希「多分やけど、見渡す範囲一面が観客で埋まってる事で気持ちが上がってゾーンに入れるんやろね」
海未「競技外の部分に要素があったとは…恐ろしい…!」
穂乃果「凛ちゃん凛ちゃん、みんなが説明してくれないよー」
凛「凛知ってるよ。凛と穂乃果ちゃんに細かい話を説明するだけ時間のムダだって」
穂乃果「そっかぁ、凛ちゃんは晩ごはん何食べたい?」
凛「揚げ物にゃ!」
穂乃果「ええっ!凛ちゃんがラーメン以外を…健康的だねっ!」
花陽(ツッコまない…ツッコまない…)
海未「しかし、観客の数が発動条件だなんて、それではどうしようもない…」
ヒデコ「海未ちゃん、私がどうしようもないって伝えるためにマウンドに来たと思ってる?」
海未「ヒデコ…?」
ヒデコ「ふふ、見ててよ…私ら音ノ木坂生徒の結束、思い知らせてやるんだから!」
フミコ・ミカ『LINE一斉送信!!』
【実況】
『音ノ木坂学院、伝令が送られてから長いタイムとなっています。マウンドに集まった選手たちは何を話しているのでしょうか。
……おや、これは?どうした事でしょう!タイムの間に音ノ木坂高校の生徒たちで結成された大応援団が一斉に退席!?
スタンドの一角が荷物だけを残し、ガラリと空席になってしまいました!』
花陽「す、すごい!綺麗さっぱり人がいなくなってる!」
ヒデコ「ふふっ…私、フミコ、ミカの人脈を舐めちゃいけないよ!すぐに全員に連絡を回す事なんて簡単なんだから!」
穂乃果「なんかよくわかんないけどヒデコ最高だよー!」
ヒデコ「おー穂乃果、よーしよしよし」
あんじゅ「……あらあら、フルハウスじゃなくなっちゃったわね」
英玲奈(フルハウス打法発動の第三条件に気付くとは…流石は音ノ木坂だ)
あんじゅ「けど、忘れちゃダメよ?ノーアウト満塁。グラウンド上はまだまだ完っ全にフルハウス…!」
『プレイ!!』
あんじゅ「さあ園田さん、何で来るのかしら?そうだわ、予告してあげる…。
シンカーならライトスタンド、チェンジアップならレフトスタンド、ストレートならバックスクリーンへ。うふ…カーブは論外よ?初球で仕留めてあげる…!』
海未(……その怨讐や良し。怒りも憎悪も精神力。貴女は本当に恐ろしい選手ですよ…。ですが、やりますよ!ことり!)サイン
(・8・) (いくよ、海未ちゃん!)シュッ!!
あんじゅ(トドメを刺してあげる、音ノ木坂……って、ええっ?)
(・8・)「ああっ!!」
海未「なっ…!ことり、何を!!」
【実況】
『ああーっと!!!ピッチャー南っ、大暴投!!!園田ジャンプするも捕れずに後逸ーっ!!!』
あんじゅ「…!?な…さ、サードランナー!帰ってきなさい!」
佐藤「言われなくても行くよ!」ダダッ!
ツバサ(大暴投、ねぇ…)
英玲奈「…!駄目だ!ランナー戻れ!」
【実況】
『三塁ランナーホームイン!!残りのランナーもそれぞれ二、三塁に進塁~!!
得点4‐2!音ノ木坂学院痛恨のワイルドピッチ~!!!』
あんじゅ「くすくす…動揺したのかしら。でも安心して?結局ワイルドピッチなんて関係な……っ、あっ」
ツバサ「ふふ、一杯食わされたわね」
英玲奈「…満塁崩し、成立だ」
海未(肉を切らせて骨を断つ。ここの一点はくれてやります。これでフルハウス打法は崩れました…!)
あんじゅ「っ、やられたわね……でも、忘れてはいないかしら。フルカウントに持ち込むだけでもフルハウス打法は発動する…!」
海未・ことり((フルカウントにされる前に、絶対に仕留める!))
(・8・)(カーブ!)ストライク!
(・8・)(ことりボール!)ストライク!
(・8・)(ことりボール!)ファール!
(・8・)(ことりボール!)ボール!
(・8・)(ストレート!)ファール!
(・8・)(スマイルボール!)ファール!
(・8・)(ストレート!)ファール!
(・8・)(ことりボール!)ファール!
(・8・)(っ、…!ストレート!!)ファール!!
【実況】
『またしてもファール!!粘る、粘る!優木あんじゅ!ピッチャー南の投球は次で11球目!!』
海未(くっ…フルハウス時の豪快な打撃に対してなんと緻密、なんと繊細なバットコントロール…!空振りを奪えません!)
あんじゅ(驚いたかしら?通常時の私はむしろ技巧派なの。フルハウスなら確実に打てる。なら、フルハウスに持ち込むための技術に特化するのは当然の事。
『怪童』なんて、パワーを評価されるのも嫌いじゃないけど…テクニックも捨てたものじゃないでしょう?)
海未(ここはアウトコース…)
(・8・) (ストレートっ!!)シュッ!!
パシィッ!
ボールスリー!
海未「なッ…!!」(その位置…私の打席ではストライク判定をした位置ではありませんか!!)
英玲奈(甘い。判定が安定しないからこそ下手な審判なのさ。さっき取ってくれた位置なら確実にストライクコールをしてくれる…そんな信頼をしてはいけない。
園田海未…ここで経験値の浅さが露呈したな)
花陽「ふ、フルカウント…!」
凛「ま、まずいよ…これ」
あんじゅ「あっはははは!!スタンドの観衆を引かせる?暴投を演じる?無駄な努力!凌遅刑の時間が長引いただけだったわね?!これで!完っっ全にフルハウス!!……さあ、ショーのフィナーレよ?」
海未(……)サイン
(・8・) (………)フルフル
あんじゅ(…あら?初めてね、南さんが首を横に振るのは)
海未(……)サイン
(・8・) (………)フルフル
海未(………)サイン
(・8・) (…)フルフル
あんじゅ(あらあら…なんだか険悪。仲良しバッテリーの呼吸が合わなくなっちゃったの?
ふふ、無理もないわよね、二人揃って断頭台に両足が掛かっているんですもの。冷静でいられるはずがない)
ことり「っ、!!タイム!海未ちゃん!来てっ!!」
海未「ことり…」
あんじゅ「くすくす…ついに南さんご自慢のポーカーフェイスも崩れちゃったわねぇ」
穂乃果「こっ、ことりちゃん海未ちゃん!大丈夫!?」
ことり「穂乃果ちゃんは来ないで!!これはことりと海未ちゃんの問題なの!!」
海未「ことり…」
真姫「ちょっと、何?マウンドで喧嘩…?」
絵里「た、大変…今はタイム中よね、私が行って仲裁を」
希「やめとき、絵里ち」
絵里「どうしてよ希、止めないと…!」
あんじゅ(最っ高の余興ね…。何を喧嘩しているのかしら?)
ことり「海未ちゃんのせいでフルカウントにされたんだよっ!!わかってるの!?」
あんじゅ(配球で揉めてるのね。ふふ、それはバッテリーの共同責任でしょう?南さん、確かに貴女も土壇場で混乱してしまうタイプのようね)
ことり「海未ちゃんの馬鹿っっ!!!」
バチィン!!!
海未「……っぐ」ビリビリ…
ツバサ「うっわ、ビンタした」
穂乃果「こ、ことりちゃん!!ほんとにダメだよ!その辺でもうやめよ?ね!?」タタタッ
【実況】
『あーっとどうした事か!ピッチャーの南、キャッチャー園田の顔を叩いたように見えましたが!?
同じ二年生キャプテンの高坂が慌てた様子で間に割って入り二人を引き剥がします…そして審判に急かされる形で試合が再開。いや、一体どうしたのでしょうか、心配ですね』
『プレイ!』
海未(……これです)サイン
ことり(………)フルフル
あんじゅ(やっぱり合わないのね?南さんが怒った顔してる)
海未(……では)サイン
ことり(…!)コクリ
あんじゅ(ようやく頷いた!あの顔、きっと園田さんが折れたのね。面白い…どうしたものかしら。ええと、確か…スリーボール時の園田さんのリードはストライクゾーンの変化球中心。
普段の配球のパターンから考えるに、ここまで息が合わなかったとなると……ストレート!狙い打つわ…!)
ことり(……!)シュッ!
あんじゅ「えっ…!シンカー…!?」ブンッ!!
スパァン!!
スリーストライクッ!バッターアウト!!
あんじゅ「なんで…!?あんなに揉めて…間違いなくストレートだったはず!!」
(・8・) 「やったねっ、海未ちゃん♪」ニヤリ
海未「ええ、やりましたねことり!」グッ
あんじゅ「!!??」
絵里「えっ、え?どうなってるの?三振?」
穂乃果「な、なんか仲直りしてる?よくわかんないけど良かった良かった!!」
海未(術中に嵌ってくれましたね、優木あんじゅ。タイムを取る前に私が出していたサインは『ストレート』でも『変化球』でもなく、【首を振れ】。
呼吸が合っていない様子を演じ、優木あんじゅに配球を読ませるのが目的でした。ゾーン状態とは集中の極致。フルハウス打法は反応型の打撃スタイル。読み打ちとの相性は最悪!
…ですが、いくら喧嘩の演技をしろとは言ってもビンタまでは頼んでいませんよ、ことり…。
あと、先日穂乃果にやってたビンタよりもやたら強くありませんでしたか?)
ことり(ことりは試合前に海未ちゃんに言われた策の一つをサイン通りにやっただけです♪
でも叩かれた瞬間、海未ちゃんがすごくビックリした顔をして…ほんの一瞬目が潤んで…子供の頃の臆病な海未ちゃんが見えちゃった…。
ことりは穂乃果ちゃんのおひさま笑顔が大好きでぇ…海未ちゃんのうるうるな泣き顔もだぁいすきなのっ!
はぁぁ…まだ手のひらに海未ちゃんのほっぺたを叩いた感覚が残ってるの…あぁっ、クセになっちゃいそうっ…♪)
花陽(やっぱりことりちゃんって性癖歪んでる気がするなぁ…)
凛「あ、スタンドに応援団のみんなが戻ってきたにゃー!」
英玲奈「まんまと嵌められたな、あんじゅ」
あんじゅ「英玲奈っ…これは一体!どうなってるのよ…!まるで意味がわからないっ!!」
英玲奈「さあな。今のお前に説明をするのは面倒だ。下がって一度、頭を冷やしてこい」
あんじゅ「~~っ!!ああっ!もうっ!!」
英玲奈(あんじゅの打撃スタイルはいわば感覚派。思考を伴って打撃をするタイプではない。あの仲違いで雑念を植え付けられ、集中を乱されてしまったようだな。おそらくはあの喧嘩も、全ては演技なのだろう。流石だよ、音ノ木坂バッテリー)
英玲奈「だが、次は私だ。その手の細工は通用しない…!」
【実況】
『ピンチはまだ続きます!ワンナウト、ランナー二、三塁で迎えるは 『精密機械』 統堂英玲奈!!』
英玲奈「今度は私の手番だ。さあ園田海未、君のリードを読み切ってみせよう」
海未(ことり、ここです!“あの球”を使いますよ!!)
ことり(海未ちゃん!ついにやるんだね?あれを!)
海未「理事長、お願いします!」
理事長「えっ…?あ、はい!審判さん!タイムをお願いします!」
【実況】
『音ノ木坂の南監督、ここで審判にタイムを要求します。なにやら、守備位置の変更でしょうか?
と、同時に捕手の園田さんが守備陣に大幅なシフトの変更を通達しているようです』
海未「まず、真姫!内野まで来てください!」
真姫「え、私?内野?なんで…」タタッ…
海未「はい、そして二塁ベース付近、凛と花陽の中間地点を守ってください」
英玲奈(内野五人シフトだと…?)
凛「なんで西木野さんが凛とかよちんの間に入ってくるの!!」
真姫「わ、私だって知らない!っていうかなんで苗字呼びなのよ!」
理事長(ええと、海未ちゃんから渡されたメモ…)ゴソゴソ
理事長「守備位置の変更をお願いします。一塁手の東條を二塁に、二塁手の小泉を一塁に変更で」
希「え、ウチが二塁?まあいいけど…」
凛「かよちんが遠くなったにゃああああ!!?!」
花陽「ごめんね凛ちゃん…必殺技のためなの!」
穂乃果「やるんだね、海未ちゃん!」
ことり「海未ちゃぁん!」
花陽「海未ちゃんっ!」
海未「ええ、お願いしますよ三人とも!あなたたちが鍵なのです!」
『プレイ!』
英玲奈(奇異な守備シフト、守備位置の変更…。ふむ、考えるべき事が多いな。
まず目に付くのは二塁付近を守っている西木野さん。重心の掛け方が明らかに内野手のそれではない。心理的な圧迫のため?いや、シンプルに打球を抑えさせるための壁としてか…?
園田さんたちの雰囲気、表情、何か新しい戦術を仕掛けようとしているのは確定的だ。内野五人から想定されるもの…新たな変化球。確実にゴロを打たせられる、そんな類の球だろうか。
しかしそれなら不可解なのは東條さんと小泉さんの入れ替え。二人ともそれぞれのポジションならば名手。確実にゴロを打たせて打ち取ると言うのならば、どう考えてもそのままで守らせるべきだ。
だとすれば何か他の意図が…」
海未「どぅとぅるとぅとぅー どぅとぅるとぅとぅー」
英玲奈(!?)
(・8・) 「キミニッ トンデケスキスキプワプワ」
英玲奈(!??)
海未「とぅわとぅわぅー とぅわとぅわぅー とぅわわわわわわー わわわわわ~」
穂乃果『スキスキ プワプワプワプワ スキスキ プワプワシチャオウ』ダダダダッ!
(・8・) 『スキスキ プワプワプワプワ スキスキ プワプワシチャオウ』シュッ!
花陽『スキスキ プワプワプワプワ スキスキ プワプワシチャオウ』ダダダダッ!
英玲奈(歌!?えっ園田さんのは伴奏なのか?!高坂さん小泉さんがダッシュ、何を…スクイズ警戒?!!い、一体なんだと…!!あっボール来た!)
スパン!!
ボール!
英玲奈(……ええと、投げてきたのは見た事のない球だ。変化としてはほぼナックルだな。あのチェンジアップを強く弾いてナックルに寄せたものだろう。しかし球威のなさは変わらず。こんなものが新球?いや、考えにくい。それよりも…)
花陽「アイタイ ツバサガビュンビュン モット ビュンビュン…」
英玲奈(歌いながら定位置に帰っていく…なんだあれは、何らかのサインなのか?っ、まずい、歌ってる面子に気を取られてはシフトの謎が解けん)
穂乃果「プワプワプワプワ」
(・8・) 「プワプワプワプワ」
海未(さぁ、仕込みは終わりました。必殺の時間ですっ!!!)
(・8・) 「セカイジュウデ タッタヒトツノラーヴ」
穂乃果『オゥイェス!』ダダダダッ!
(・8・) 『オゥイェス!』シュッ!
花陽『オゥイェス!』ダダダダッ!
英玲奈(投げてきた……!何っ!?)
スパン!
ストライク!
英玲奈「……なんだこれは、どうなっている…?!」
穂乃果『ワーオワーオ!ユメナラバ』ダダダダッ!
(・8・) 『ワーオワーオ!ユメナラバ』シュッ!
花陽『ワーオワーオ!ユメナラバ』ダダダダッ!
スパン!
ストライクツー!!
英玲奈「何故だ…!何故…」
穂乃果『スキスキ プワプワシチャオウ!』ダダダダッ!
(・8・) 『スキスキ プワプワシチャオウ!』シュッ
花陽『スキスキ プワプワシチャオウ!』ダダダダッ!
海未「とぅるるるる びよよ~ん」
スパン!
スリーストライクアウト!!!
英玲奈「何故ボールが消えるんだ!!!」
【実況】
『あーっと五番統堂!変化球を前に手を出せずに見逃し三振ーっ!!
バットを一度を振る事が出来ませんでしたー!!』
海未「これが魔球…『ぷわぷわーお』!」
英玲奈「くっ…!」
ことり「海未ちゃんやったぁ!!」
花陽「海未ちゃぁん♪」
穂乃果「すっごいよ海未ちゃん!!!」
海未(統堂英玲奈…、『クロノスタシス』という現象を知っていますか?意味は時の停滞…。
稀にあるでしょう、「時計が止まって見える錯覚」。アナログ時計に目を向けた際、秒針の動きが遅く、または静止して見える、アレです。
実は人間の眼球は、その動きが止まっている時にのみ物を映しています。我々の見ている視界とは、膨大な連続写真を細かに繋ぎ合わせて作り出されているような物。
クロノスタシスの原因は『サッカード』と呼ばれる、眼球が動いている状態。眼球が動いている間、人間の視界はシャットアウトされているのです。
マウンドから捕手へボールの到達時間は0.5秒ほど。一瞬でもクロノスタシスが起これば消える魔球は完成する!
ならば脳を疲労させ、眼球が動いているサッカード状態を故意に作り出してやればいい。
まずはイレギュラーな事態を複数用意します。不可解な守備シフト、守備位置の変更。思考すべき事が増え、些か混乱したでしょう?
次に、スマイルボールの亜種、ナックルボール。とはいえ、このナックルは常時使える精度の物ではありません。いわば棒球。ただ揺れているだけ。ですがサッカードを招くには十分。
そして何より、ことり、穂乃果、花陽。三人の生歌は脳に甚大な被害を招きます!
左右正面から破滅的な歌声に迫られ、思考回路に負担を掛けられ、揺れるボールを連投され…サッカードが起こらないはずがありません。故に、球は消える!
これこそが、多段構えの魔球『ぷわぷわーお』の正体…!などと、ネタバレをするつもりはありませんがね…ふふ)
希(トチ狂った球やなぁ…)
『六番 ファースト 三好さん』
穂乃果『アイタイ アイタイ ビーマイベイベー』
花陽『アイタイ アイタイ アイニイコー』
穂乃果『アイタイ アイタイ マッテナサーイ!』ダダダダッ!
(・8・) 『アイタイ アイタイ マッテナサーイ!』シュッ!
花陽『アイタイ アイタイ マッテナサーイ!』ダダダダッ!
三好「う、うわああああ!!!」
スパン
ストライクアウト!!
海未(フフフ、穂乃果と花陽のチャージはあくまでバント警戒のため。
正当な建前がある以上、野球規則4・06(b)「打者の目のつくところに位置して、スポーツ精神に反する意図で故意に打者を惑わしてはならない」には該当しません。
まあ、それだけにランナーがいるタイミングでしか使えない球ではありますね)
スリーアウトチェンジ!!
【五回裏】
穂乃果『この回の攻撃は花陽ちゃんから!
だけど、ことりちゃんの消える魔球『ぷわぷわーお』を見たツバサさんがエンジンに再着火。
花陽ちゃんがファーストゴロ、ことりちゃんはキャッチャーフライに打ち取られちゃった。
そして、真姫ちゃんは…』
ズドォン!!!132km/h
スリーストライクアウト!!
真姫「……あれ?」
絵里「くっ、三者凡退ね…」
凛「まーた真姫ちゃんの三振定期にゃー」
真姫(今の、感覚…)
凛「…あれ、瞬間湯沸かし器の真姫ちゃんが言い返してこない?ご、ごめん真姫ちゃん!傷付いた?凛も打ててないから大丈夫!」
真姫「……ん、え?凛、どうかしたの?」
凛「えー聞いてなかっただけ?謝り損にゃー」
真姫「何よ、どうせ減らず口でも叩いてたんでしょ。先払いであと100回ぐらい土下座してくれてもいいのよ」
希(真姫ちゃんのあの表情…さっきのスイング。ついに、イメージと体の歯車が噛み合ったみたいやね。あと少し…あと少しだよ、真姫ちゃん)
真姫「まったく、凛はいつもいつも…!っと、わっ!う゛ぇえっ!」ドサッ
凛「あ、真姫ちゃんがグラブ踏んづけて転んだにゃ」
花陽「だ、大丈夫?真姫ちゃん」
真姫「いったぁ~…ちょっと!誰よ、こんな邪魔なところにグラブを置きっぱなしにしてるのはぁ!」
にこ「…あ、ごめん」
凛「にこちゃん…」
絵里(やっぱり、にこの様子がおかしい…いつもに比べて極端に口数が少ないし…)
真姫「ちょっとにこちゃん!いい加減にしなさいよ、さっきからずっとシケた顔して!」
にこ「……ごめん」
真姫「……!??」
穂乃果「い、言い返さずに謝った…!」
海未「重症ですね…」
希(さっきから何度もスタンドの…音ノ木坂応援席の方を見つめてる。にこっち、ご家族のことなん?もしそうだとしたら、ウチらが言ってあげられる事なんて…)
【六回表】
花陽「凛ちゃんっ!」シュッ アウト!
凛「希ちゃん!!」シュッ アウトっ!!
【実況】
『九番吉田、4-6-3のダブルプレー!!この回、UTXも結果的に三人で攻撃終了となりました。
ピッチャー南、ここまで4失点を喫していますが、準決勝で19得点を挙げたUTX打線を相手に健闘を見せています!』
ことり(ふぅ…)
真姫「ことり、疲れは大丈夫?」
ことり「真姫ちゃん…うん、まだまだ元気ですっ♪」
真姫「そう、ならいいんだけど…ねえ、約束して。“アレ”だけは絶対に使っちゃダメよ?」
ことり「……うん、心配してくれてありがとうね。大丈夫だよ、ことりは大丈夫」
真姫「……使わない、とは言ってくれないのね」
ことり「……」
スリーアウトチェンジ!!
♯58
【六回裏】
絵里「さぁ、この回よ。打順は一番の凛から!二点リードされているのだし、そろそろ点を返していかないとね!」
穂乃果「だよね!ようし、穂乃果も集中していくよ!」
にこ(あ、にこは次か…、打たなきゃ…)
凛(…にこちゃん、暗い顔。どうしちゃったの?いつもみたいに一緒にバカやってくれないと、凛寂しいよ…)
花陽「凛ちゃん…」
凛「…よし、かよちん。アレを使うよ」
花陽「え、まさか凛ちゃん!アレを使っちゃうのぉ!?」
海未「アレ?とは、一体なんなのです?」
凛「うん、凛の必殺技だよ。昨日やっと完成したにゃ」
穂乃果「おお…なんかすごい!」
凛「すごく集中力がいるから、まだ1日1回ぐらいしか使えないんだけど…」
凛(にこちゃん、見ててね。凛の…芸人魂!形態模写…絵里ちゃん!!)
絵里「り、凛…?」
凛「凛?誰かしら、それは。私は生徒会長の絢瀬絵里よ」
絵里「えっ、凛…何を」
凛「学校の許可ぁ?認められないわぁ」
穂乃果「ぅ絵里ちゃんだ!?」
ことり「絵里ちゃん!?」
真姫「エリー!?」
絵里「私そんなイジワルな喋り方したことないわよ!?」
凛「わーるかったわねぇ!似すぎててっ♪」
海未「り、凛…あまりふざけてはいけませんよ?ぷふっ…」
絵里「海未!わ、笑ったわね!?もう!」
凛「悲しい…悔しいっ!エラーチカ!」\チカァ/
希「すごい、絵里ちにしか見えへん…。いや、むしろ絵里ちよりも絵里ちに似てる…」
花陽「はい希ちゃんのお墨付きいただきましたぁ!」パナッ
絵里「似てないってばぁ!」
『一番 ショート 星空さん』
真姫「で、花陽。あのモノマネって何の意味があるわけ?」
スチャ ピピピ
花陽「うん。あのモノマネをすることで、凛ちゃんは絵里ちゃんに近い野球力を手に入れてるんだよ」
スチャ ピピピ
花陽「野球力1000…1500…1800…!すごい、2200まで上昇してる!」
凛「ハラショー」
英玲奈(…なんだ?いきなりどうしたんだ、この子は)サイン
ツバサ(また初球パワーカーブ?英玲奈それ好きよね)シュッ
凛(凛は絵里ちゃん凛は絵里ちゃん)カキィン!!
英玲奈「何っ…レフト!!…む、三塁線を切れていくファールか…」
希「あちゃあ!惜しいわー…」
穂乃果「凛ちゃん!タイミング合ってるよ!」
英玲奈(どうなっている?甘い球ではなかった。今の変化球への対応、まるで…)
凛「……ピロシキ」チカァ
英玲奈(……!そういう事か…ツバサ、侮るなよ。感じるぞ、ヴォルガ川の冷流を!)サイン
ツバサ(英玲奈ってたまに生真面目さが変な方向に行ってるのよね)シュッ!
凛(にこちゃん…凛は出塁するよ。そしたら盗塁して、にこちゃんがバントを決めるか、それかタイムリーを打つにゃ!)ブンッ!
キィン!!
凛「にこちゃんと二人で点を取るんだっ!」
バシッ!!
【実況】
『痛烈ーッ!!あー、しかしサード真正面!
一番星空、サードライナーでワンナウトです!』
凛「ああっ…!」
英玲奈(球速に逆らわない流し打ち。本当に絢瀬絵里のような、技巧的なバッティングだった…が、やはり本家には劣る。パワー、打球速度。いくら技術を真似ようとも、二学年の差は大きいさ)
凛「…っ、凛が出なきゃいけなかったのに…」
にこ(…ありがと凛。アンタの気持ち、ちゃんと伝わってるわ。けど…)
『二番 センター 矢澤さん』
にこ(私は、ホームランが打ちたい…。こころが望んでるから…?もちろんそうだよ。でも、それだけじゃない)
ズドンッ!!ブンッ!!
ストライク!
にこ(ねえパパ、見てくれてる?アキバドームだよ、一緒に野球を観に来たよね。私はまだ小さかったけど、しっかり覚えてるんだよ?
……応援席にね、みんなのパパも、何人か応援に来てたの。普段はこんな事、絶対に考えないけど…寂しいよ、会いたいよ、パパ…!………人間、土壇場で本音が出るってのは本当なのかもね…)
英玲奈(ストレート)サイン
ツバサ(……)コクリ
にこ(こころ、ホームラン見たいよね。うん、わかるよ。…お姉ちゃんも打ちたいから。パパが見てくれるように…!でも、でも!)
ズドォン!!!134km/h
絵里「見逃し…!」
希「にこっち…!」
真姫「にこちゃん!」
にこ「…タイム、お願いします」
にこ(私に、ホームランは打てない…!!もう、どうしたらいいのかわかんないよ……)
\にっこにっこにー!!!!/
にこ「…え?」
凛「あれっ、今の声は?」
花陽「スタンドの方から…あっ、最前列に!」
穂乃果「わ!最前列にちっちゃいにこちゃんがたくさん!?と大きいにこちゃん!」
真姫「あれは…にこちゃんの家族よ!」
ここあ「お姉ちゃんがんばれー!」
こたろう「がんばれー!」
にこ「ここあ、こたろう…」
こころ「お姉さまー!!」
にこ「こころ…!」
こころ「私の、私のお願いを言います!……お姉さまらしくあってください!!私たちは…お姉さまの、にこにーのことが!大好きですからっ!!」
にこ「私、らしく……」
にこママ「にこー!!」
にこ「…ママ!」
にこママ「笑いなさい!!!」
にこ「!!」
にこ(にこ。パパが付けてくれた最高の名前。いつも笑顔でいられますようにって。
そう、私は…にこは…!)
ぱちぃん!!!!
英玲奈(両手で顔を思い切り叩いた!)
スゥゥ…!
にこ「―――にっこにっこにぃぃぃぃぃ!!!!!!」
ツバサ「なっ…」
にこ「……たぁいへん長らくお待たせしたわね綺羅ツバサァ!!
26次元大銀河超宇宙!!
だだっ広い暗黒空間に漂う美しき惑星、地球!!!
その中心!!!
ど真ん中!!!!
センター!!!!!
世界のセンター!!!!!!
スゥゥパァァトゥインクルエゴイスティックヒロイン……
YAZAWA!NICO様の!お出ましよ!!!!!」ドドォン!!!!
凛「にこちゃんがバカに戻ったにゃああああああ!!!」
希「世界のYAZAWAのご登場やぁあああ!!!」
絵里「ハラショー!!さすがにこね!!」
穂乃果「にこちゃあああああんん!!!」
花陽「にこちゃんっ!良かったね…良かったねっ…!」グスッ
ことり「にこちゃん…嬉しそう」
海未「迷いが晴れた目をしています。結局、ご家族の力には敵いませんね」
真姫「……フフッ、いいんじゃない?らしくって」
ツバサ「面白い…で、何を見せてくれるって言うの?」
にこ「粘るわ!!!」ドドン!!
カキッ ファール!
ガギ ファール!
ギィン! ファール!
カンッ ファール!!
……
…
【実況】
『二番矢澤、ツーナッシングから粘る粘る!
なんと驚異の13球!連続でファールを打ち続けています!!』
にこ「にっこにーにっこにーにっこにっこにー…ブリリアントにこにーキュンキュンにこにースパイシーにこにー…」ブツブツ
ツバサ(なによこいつ、超メンドくさいバッターね…)
英玲奈(ツバサのスタミナは折り紙付きだ。だが、流石に13球連続ファールは…精神面で悪影響が出かねない。ここは落とそう、ツバサ)サイン
ツバサ(パームね、了解。今回ばっかりは変化球にも大賛成…よっ!)…スポッ
ツバサ「って、しまっ…!」
にこ(失投!ど真ん中…棒球…っ、ひっぱたくわ!!!)ブンッ!!
カッキィィイン!!!!
ツバサ「あ…!?」
英玲奈「レフト!!」
【実況】
『いい角度で打球が上がった!!!
レフトバック!レフトバック!!入るか!入るか!?
あっ、フェンス直撃!!フェンス最上部に当たった!!打った矢澤、悠々と二塁へ~!!!』
真姫「やった!やったわね!!」
凛「にこちゃんすごいにゃー!!」
花陽「にこちゃぁん!かっこいいよぉ!!」
にこ(今の球、今大会で初めてのツバサさんの失投。パパが打たせてくれた…?なーんて言っても、パパは喜ばないよね?)
にこ「アンタたち!!これがにこの実力よ!!!」
にこママ「せーのっ…」
\にっこにっこにー!!!!/
にこ「にっこにっこにー!!!!」
あんじゅ(……私もカットでの粘りをよくやるからわかる。10球を越えると投手の集中が切れて、はっきりと失投率が上がるわ…。今のはまぐれじゃない。実力で呼び込んだ失投ね)
英玲奈(まあ、入らなかっただけ幸運…そして次は…)
ツバサ「穂乃果さん…!」
『三番 サード 高坂さん』
穂乃果(打つよ、ツバサさん)ググ…
ツバサ(すごい集中。勝負だよ、ってね。行くわ…ストレート!!)
ズドン!!!135km/h
ボール!!!
穂乃果「……」
英玲奈(ピクリともせずに見逃し。先の打席でも感じたが…やはり、高坂穂乃果)サイン
ツバサ(ストライクからボールになる…パワーカーブ!)
穂乃果「……!!」…ブンッ!!
キィンッ!!!
ツバサ「…!!」
英玲奈(…三塁線を切れてファール。だが、鋭い打球。高坂穂乃果…既に、ツバサのボールを見切っている…!)
スパン!
ボール!
穂乃果(パーム、見せ球…)
英玲奈(参るな…少しくらい反応してくれてもいいだろう?)
ツバサ(迫ってくる)
パキィンッ!!
ファール!!
英玲奈(アウトロー、最高のストレート。だが…対応されている)
ツバサ(迫ってくる…!私の領域へ、私の高みへ!)
穂乃果(打つ…っ!!) ――ビリッ!
ツバサ(ああ…穂乃果さん、野球って…)
ツバサ「楽しいわね!!!」 ――シュッ!!!
穂乃果「打つよっ!!」ブンッ
ズバンッッ!!!136km/h
【実況】
『ひ、136km/hっ!!!またしても球速、自己最速を更新っ!!!
空振り三振ーッ!!!
っと、捕手の統堂がボールをこぼしている、振り逃げの形ですが、しかし落ち着いて一塁に送球してアウトです!』
英玲奈(数字の上ではたかが1キロの差…だが、明らかに球の質が違う!
ツバサ、お前はまた…一段上へ足を踏み入れたのか…)
ツバサ「まだまだ…追いつかせないわ、穂乃果さん!」
穂乃果「ツバサさん…!~~ッ、みんな…ごめんっ…!」
にこ「穂乃果!下を向かない!まだアンタの打席はあるわ!絵里の応援に集中しなさい!」
穂乃果「にこちゃん…うんっ!!」
凛「さっきまでずっと下向いてた自分の事を棚に上げてるにゃー…へへ、あれでこそにこちゃんだよねっ!」
希「にこっちにナーバスなんて似合わんよね?ふふっ」
海未「くっ…しかしツーアウト…!」
絵里「みんな、慌てないで。私は比較的だけど、綺羅さんの球と相性がいいみたい。期待しててもらっていいわよ?」
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!お願いしますっ!」
希「ん、向こうのベンチから監督が出てきたよ?」
新井監督「審判、選手交代。ショートの吉田に代えて村上。ピッチャー綺羅をショートへ。ピッチャーは村上」
【実況】
『おっと、ここでUTX高校は三人目の投手を登板させるようです。ピッチャーは村上。左サイドハンドの投手です』
ことり「二度目!UTXの弱点その3!新井監督のワンポイントリリーフ!」
穂乃果「これチャンスだよ!絵里ちゃんならリリーフピッチャーなんて」
にこ「甘いわ!!」
穂乃果「うわっにこちゃん!?ビックリした!!セカンドからわざわざ来たの?」
にこ「向こうの新井監督の継投は確かに弱点…だけど、いくらなんでもバカじゃない。左ピッチャーのツバサに代えて左ピッチャーを出してくるにはそれなりの根拠ってモンがあるのよ!!」
絵里「にこ、あの村上さんという人はどんな投手なの?」
にこ「左のサイドスロー。対左の被打率は.091…超の付く左キラーよ!」
海未「い、一割以下ですか!?」
スチャ ピピピ
花陽「野球力は2110。でも野球力は条件によって変動するものですっ。私の見立てでは…対左時の野球力は10000オーバー!」
真姫「さすがにUTX、選手層には自信アリってワケね…」
にこ「タイプとしては横の変化で揺さぶりを掛けてくる感じ。スライダーとシュートが主な持ち球よ。…絵里、アンタでも正直難敵かもしれない」
凛「そ、そんなぁー」
絵里「あら、そうなのね。…ところで花陽。あの村上さん、対右なら…野球力はどれくらいなのかしら?」
花陽「えっ?右なら…1000あるかないかぐらい、かな?」
絵里「ふふっ、ありがと花陽♪」
『プレイ!』
【実況】
『さあ、リリーフ村上が投球練習を終えて試合が再開!
と、ここで…バッターの絢瀬、なんと右打席に立ちました!出場選手登録では左打者となっているのですが…』
絢瀬「さ、いつでもどうぞ?」
村上(は、話が違う…!)
ツバサ(あーあ、新井の顔面にボールを投げつけてやりたいわね)
英玲奈(……やれやれ。スライダーだ。しっかり腕を振って、低めへな)サイン
村上(うああ!なるようになれ!)シュッ!
絵里(アラベスク、アティチュード、ピルエット…バレエの各種基礎、応用。血の滲むような練習、練習、練習…。比べて、逆打席に立つだけの事がどれだけ簡単か。バレリーナの左右バランスの均整を侮ってもらっては困るわ…ねっ!!!)
パキィッ!!
村上「ああっ!?」
ツバサ「ほーら、打たれた」
英玲奈「センター!!、右中間に落とされたか…」
絵里「よしっ…!やったわよ!みんなーっ!」チカァ
花陽「絵里ちゃんやったぁ!!!」
にこ「ナァイス絵里っ!!アンタ最高よ!!」ザッ
セーフ!
【実況】
『三年生絢瀬、タイムリーヒット!!ベンチに向けて片手を掲げ、満面の笑顔でガッツポーズ!
四番の面目躍如といったところでしょうか!!』
あんじゅ「絢瀬絵里っ、またしても…!」ギリッ
あんじゅ「……っ…」
あんじゅ「………音ノ木坂の人たち、楽しそうね…」
~~~~~
ツバサ「ベンチがアホだと……野球ができないのよっ!!!」シュッ!!!
ズドォォン!!!137km/h
希「は、速っ…!」
スリーストライクアウト!
スリーアウトチェンジ!
ツバサ「ああームカつく!」
英玲奈(監督への怒りがまたツバサのギアを上げたか…)
希「まずいね…あの球を連発されると、ウチでももう…」
【実況】
『六回の攻防を終えて得点は4-3、UTXの一点リード!
試合は終盤へと移ります!』
♯59
【七回表】
(・8・) (ボールからストライクになるカーブ!)シュッ!
田中「波羅蜜多心…!?」
パスン!
ストライク!バッターアウト!
穂乃果「いいよいいよ!ナイスことりちゃん!ツーアウト!」
ことり「うふふ、褒めて褒めて~♪」チュンチュン
にこ「いい感じよことりー!!!ツーアウトー!!!!」
凛「にこちゃんが外野からアホみたいに声出ししてるにゃー」
海未(よし、今のは大きい…。ここに来てカーブの制球が安定してきています。中軸以外には投げられる程度には。
ですが正直、そろそろ疲弊の色が見え始めている…、絵里へのリリーフも考えるべきでしょうか?いや、やはり厳しい…ことりが全力で投げて、ようやく四失点で踏みとどまれているのですから…。
そして、次の打者は…」
\Dancing,dancing! Non-stop my dancing/
『三番 ピッチャー 綺羅さん』
海未(綺羅ツバサ…、ここまでの打席で3安打、1本塁打。俊足を生かしてのバントヒットも決めている。
フルハウス状態の優木あんじゅ > 綺羅ツバサ > 統堂英玲奈 > 通常時の優木あんじゅ。打撃に関してはこういった序列の印象ですね)
ツバサ「……」
海未(打撃条件がはっきりしている優木あんじゅ、整然とした理論打撃の統堂英玲奈。この二人に比べ、やはり最も与しにくいのは綺羅ツバサ)
(・8・) (何してくるか全然わかんないもんね、このデコチビ)
海未(やはり不気味な方です。そうですね…ぶつけますか?)
(・8・) (うふふ…やっぱり海未ちゃんもまだ、穂乃果ちゃんへのキスを怒ってるんだ?)
海未(当たり前です!あのような行為、世が世なら切り捨て御免。いえ、現代も月夜ばかりではないという事を思い知らせてやらねば…)
(・8・) (それじゃあ、まずはインハイにボールのストレート?)
海未(ええ、思い切り仰け反らせてやりましょう)サイン
(・8・) (海未ちゃんその球好きだよねっ)シュッ!!
ツバサ「……」
スパーン!!
ストライク!!
ツバサ「……」
海未(おっ、ストライクですか。まあ、僥倖ですが…今のはボールでしょう?どう考えても。はぁ…つくづくアテにできない審判ですね)
海未(それにしても…)
海未「綺羅ツバサ…黙り込んで、一体どうしたのです?まさかここに来て、お腹でも壊してしまいましたか?」サイン
(・8・) (アウトローにことりボール。ことりが一番得意な球だね、わかったよ)
ツバサ「……飽きたな、って」
海未「え?」
ツバサ「穂乃果さん以外に構うのに…飽きたと言っているの…!」
カッキィィィン!!!
海未「あっ!れ、レフト!!」
真姫「ヴェエ!?こ、これ!スタンドに……っ、良かった…ファールね…」
(・8・) (そ、そんな!今のはことりの最高のボール…それを流し打ちで、あんな位置まで!?)
ツバサ「つまらないボールね。ええと、ピッチャーの…ピッチャーの…?ま、いいか…」
海未「き、綺羅ツバサ……貴女、名前を忘れて…?」
ツバサ「キャッチャーの人、サインを出すなら早くしなさい。……茶番はおしまい。あとは私が穂乃果さんを貰い受ける。それだけよ」
海未(私の名前も…っ、この冷たい威圧…今までとは違う…!仕方ありません、ランナーが不在なので審判に反則を指摘される可能性はありますが、ここは『ぷわぷわーお』で…)
ツバサ「さっきの消える球、あれも無駄だから」
海未「なっ…」
ツバサ「耳栓。英玲奈の指示でチーム全員分が用意されたわ。
細かい理屈はわからないけど、視覚と聴覚から一気に大量の情報を流し込んで、脳だか眼だかをバグらせる球ってとこでしょ?
なら耳栓をして、あの歌を聴かなければいいだけ。英玲奈の受け売りだけどね」
海未(くっ、予想はしていましたが、やはり統堂英玲奈…即座に看破してきましたか。
確かに、耳栓をされては『ぷわぷわーお』は消えず、単なる棒球に。究極の初見殺しですが、見破られればもう使えない球なのです…)
(・8・) (どうしよう、この雰囲気は…)
海未(捕手としての勘でわかります…)
ことり・海未(打たれる…!)
穂乃果「海未ちゃん!ことりちゃん!頑張れ!穂乃果が付いてるよっ!!」
ことり「…そうだよね、頑張らなきゃ」
海未「負けられない…決して負けられません」
ことり(海未ちゃん、“アレ”を使うよ)
海未(私は……止めません。私とことりの立場が逆でも、それを選びますから)
ツバサ「さあ来なさい、ねじ伏せる…それだけだから!」
ことり(……握りはスライダー、本で見たより少し深く、少しだけオリジナルで。
身を屈める、地面が近くなる。みんなの顔が見えなくなる孤独な一瞬、全身の神経を痛いぐらいに尖らせるの。
腕を引く…海未ちゃんの弓みたいに。肩が軋むのも腕が疼くのも気にしない…!
足を踏みしめ腰を捻り、身体中の力のうねりを指先へ、指先へ!
ことりの腕は翼!大きく強く!風を切って空気を裂いて、羽ばたけ!上へ!空へ!!)
ことり(翔ぶ!!!)ビュッッ!!!!
スパァンッ!!!!
ツバサ「―――当たら、ないッ…!」ヨロ…
ことり(……よし…ッ!)ビキッ…
ストライクアウト!!
海未(誰よりも優しく、誰よりも争いを好まないことりが…大切なものを守り戦うために編み出した、一編の悲痛な詩…敢えて、こう呼びましょう)
ことり 『小夜啼鳥葬送詩(ナイチンゲールレクイエム)』
【七回裏】
花陽『あと一点、あとたったの一点なのに、ここに来て試合が膠着してしまいます。
七回裏、私たちの攻撃。先頭の海未ちゃんの打球がイレギュラーして出塁するも、私は進塁打のセカンドゴロを打つのがやっと。
ことりちゃんは三振、立ちはだかるツバサさんの壁…。
そして真姫ちゃんも…。』
スパァン!!
ストライクアウト!!
真姫「~っ!!ああっもう!」
英玲奈(西木野真姫、先の打席で多少なり感覚を掴んだように見えたが…相手が悪い。
天才相手、そうそう楽に打てるのならば苦労はない)
英玲奈「奇跡は容易く起こらない」
希(っ、甘くない…綺羅ツバサは)
真姫「みんな…ごめ…ヴェッ!?」ベシッ
にこ「なぁ~に謝ろうとしてんのよ。九番レフトの一年坊が一丁前に責任感じてんじゃないっての」
真姫「こ、この真姫ちゃんに、デコピン~!?ちょっと!にこちゃんの馬鹿が感染ったらどうしてくれるのよ!」
にこ「んなっ!?言うに事欠いてこの…!」
穂乃果「って二人とも!にこまきやってる場合じゃないよ!ことりちゃん、肘は大丈夫なの…?」
にこ「はっ!そうよことり!あのスライダーは腕の負担が凄いから絶対に使うなってあれだけ…!」
ことり「二人とも心配しないで?案外なんともないよ♪」
穂乃果「そ、そうなの…?」
ことり「うん♪見ててね…」ソロッ…
ワシィッ!!
希「いぎゃあああ!?」
(・8・) 「ほらほら♪希ちゃんにワシワシMAXできるぐらいまだまだ元気!」グワシィ!グワシィ!
希「す、数ヶ月かけて鍛え上げた投手特有の握力がウチの豊満な膨らみを圧搾して内出血しそうなレベルで絶好調やん百合はアカーン!!!」
穂乃果「ことりちゃんの顔がことり神モードに!!」
にこ「え、エグい…!」
絵里「の、希ぃぃぃぃ!?」
凛「うっわ、ことりちゃん強キャラにゃー」
花陽(性癖歪んでる変態さんだもんね…大丈夫、花陽は気にしないよ…)
真姫「……海未。わかってるわよね?あの球、『小夜啼鳥葬送詩』の負担は握力とは関係ない。肩、そして肘」
海未「わかっています。ですが、私は止めません。誰よりもことりの気持ちは理解しているつもりですから」
真姫「……そう」
ことり(…っ)ズキ…
♯60
【八回表】
(・8・) 『小夜啼鳥葬送詩』シュッ!!
スパァン!!!
あんじゅ「なによ、この球…はぁ!!?」ヨロ…
【実況】
『四番優木、南のスライダーを前に空振り三振ーっ!!
ああっと、スイングの勢いあまって足元がよろけたか!バットを杖のように地面に突いてもたれかかります!!』
海未(小夜啼鳥葬送詩…あまりに鋭い変化に対応しようとスイングした打者は必ず体勢を崩し、バットに凭れる形となります。
さながら、枝に突き立てられた百舌の早贄のようだとは思いませんか?)
あんじゅ「こんな、情けない姿…っ…!」
(・8・) (あんじゅさんをことりのおやつ…いや、ことりのいけにえにしちゃいました♪)チュンチュン
『五番 キャッチャー 統堂英玲奈』
(・8・) 『小夜啼鳥葬送詩』シュッ!!
スパァン!!!
英玲奈「なるほど…これは、無理だ…」ヨロっ…ドサ
(・8・) (はいチュンチュン。ことりのいけにえ第三号♪…ッ痛…!)ビキビキッ…!
海未(ことり!…っ、いえ、駆け寄ってはならない、気取られてはいけません…!連投できる球ではないという事を)
英玲奈(南さんの表情、ポーカーフェイスを保っているが…額に滲む脂汗までは隠せていないよ。
ああ、そうだろうさ。そこまでの変化球…鋭利な、まるで、闇より出でた死神の鎌のような…そんな代物を、高校生の…少女の身体で負担もなく投げられるはずもないんだ)
(・8・) (痛い…腕が痛いよ、っ…!にこちゃんと真姫ちゃんの言う通り、これはきっと投げちゃいけない球…でも、っ)
~~~~~
【実況】
『『魔術師』綺羅、『怪童』優木、『精密機械』統堂。全国の強豪たちを相次ぎ沈めてきた最強のクリーンナップ…
その三人を続けて三振に切って取ったピッチャー南!素晴らしい!本当に素晴らしいピッチング!
しかしイニングは八回ツーアウト、流石に疲れが出始めたか。
六番の三好、七番瀬戸に連続フォアボール、そして八番の長谷にデッドボールを当ててしまい満塁!
ここでUTX新井監督、リリーフから九番ショートに入っていた村上に代え、勝負強さに定評のある恩田を打席へと送ります。
さあ南はここが勝負どころ。いつものポーカーフェイスを保ったまま、肩で一息。手首に巻いたリストバンドで汗を一拭いしています』
ことり(えへへ、赤白のリストバンド…穂乃果ちゃん、海未ちゃんとお揃いの。頑張ろうねって、一緒に買ったんだよね。
……大丈夫だよ、ことり。深呼吸をするの。気付かせないで、誰にも、誰にも。
深く…)スゥ…
(・8・)
穂乃果(ことりちゃん…頑張れ、頑張れ!
ことりちゃんの強さは穂乃果たちが一番よく知ってる!)
海未(このイニング、もう小夜啼鳥葬送詩は投げさせたくない…。ことり…あと少し、あと少しです…!貴女ならやれる!)
(・8・) (お願い…!ことりボール!!)ズキン!!
海未(あっ、まずい!!)
恩田「高め!甘い!!」
カキィィン!!!!
海未「ライトっ!!絵里!!」
【実況】
『鋭い打球がライトへー!!
ライト絢瀬バック!ライト絢瀬バック!!フェンス際!速度を緩めない!!』
亜里沙「お姉ちゃんっ!!!」
絵里「絶対に…捕るわっ!!」
ドンッ!!!
【実況】
『ああっ!フェンス激突ー!!!
ライト絢瀬、倒れ込んだまま起き上がれない!UTX、続々とランナーがホームへ!
審判が駆け寄りボールを確認…落としていれば試合を決定付ける三点…判定は…』
アウト!!!
凛「と、捕ってたの!!?やったにゃあああ!!!」
花陽「す、すごいよ絵里ちゃんっ!!!」
希「絵里ち!!」タタッ
にこ「絵里っ!!」タタッ
絵里「希、にこ…ふふ、ファインプレーだったでしょう?守備位置がズレてたから捕れた…花陽のおかげね…」
希「それより怪我は…!」
絵里「大丈夫…頭は打っていないわ。おばあさまが守ってくれたのかも…」
にこ「でも、肩…っ!とりあえずベンチに戻るわよ!希!」
希「うんっ、肩貸すよ…絵里ち…」
【実況】
『大ファインプレーを見せたライト絢瀬、どうやら大丈夫なようです!
同じ三年生の矢澤と東條の二人に支えられるようにしてベンチへと帰っていきます!
ガッツあるプレーにスタンドからは万雷の拍手が送られます!!』
真姫「エリー!!」
絵里「私はいい!私よりもことりを!」
ことり「うっ…ぐう…っ」
穂乃果「ことりちゃん!ことりちゃん大丈夫!?」
真姫「ことり、肘を少し捻るわよ…?」…ググ
ことり「っあ…!痛いっ…」
花陽「こ、ことりちゃん…!」
真姫「花陽、救急箱の中に鎮痛剤があるわ。探してくれる?」
花陽「わかった!」
フミコ「あの、真姫ちゃん…絵里ちゃんの肩、赤く腫れて…」
真姫「…っ!見せて!」
絵里「……」
真姫(打撲…?一応は動かせるみたいだけど、骨にヒビが入ってるかもしれない。いや、それよりも腱が損傷してる可能性だって…)
絵里「真姫、交代はしないわ。とりあえず冷やせば出続けられるわよね?」
真姫「~~~、冷やしなさい!徹底的に冷やしなさい!フミコ、ガンッガンに冷やしてあげて!感覚が鈍るまで!」
フミコ「わ、わかったよ!」
海未「私のせいです…ことりボールではなく他の球を選択していれば、二人とも…」
にこ「海未、そんなの誰にもわからない事よ。アンタの仕事は悔やむ事じゃない。UTXの攻撃はあと一回ある。…抑える算段を立てておくわよ」
海未「にこ……っ、はい!!」
真姫(絵里…試合には出続けるとしても、投手は絶対に無理。だけど、ことりの腕はもう…)
真姫「ことり聞いて。小夜啼鳥葬送詩はこれ以上投げちゃいけない。
アレはことりの人並みはずれた身体の柔らかさ、関節の可動域の広さが相まって生まれた必殺の変化球。
だけど、それを投げる負担は人間の身体の構造…その限界を大きく超えているの。投げ続ければ間違いなく肘が壊れるわ。それも、すぐに」
ことり「真姫ちゃん…私はあと何球、小夜啼鳥葬送詩を投げられるかな?」
真姫「アナタ、まだ投げる気で!!っ…10球。いえ、それすら保証できないわ。次の1球で壊れるかもしれない」
ことり「うん、10球だね。あとアウト3つ。…十分だよ」
真姫「…………わかった。もう止めないわ。肘、ぶっ壊してきなさい。
……私のスポーツドクターとしての最初の患者はアナタになりそうね」
穂乃果「ごめんね…ごめんね…!穂乃果のせいで!」ポロポロ
ことり「穂乃果ちゃん、泣かないで?」
穂乃果「ことりちゃん…っ」
ことり「最初はね、廃校を止めてお母さんを助けるのが目的だった。
次は穂乃果ちゃんを助ける、穂乃果ちゃんを奪われないのが目的になった。
でも今はね…純粋に、負けたくないの。女の子の意地、かな」
海未「……ことり、穂乃果。勝ちましょう、絶対に。絶対に」
穂乃果「うん…うんっ!!」グスッ
♯61
【八回裏】
ズドンッ!!!
ストライクアウト!!
ツバサ「バイバイ、名もなき一年生さん?」
【実況】
『この回先頭の一番星空、カウント1-2から食らいつき三球粘りましたが…
あえなく三振っ!!これで15個目の奪三振~っ!!』
ガン!!
凛「ぐすっ…悔しいっ…!悔しいよぉ…!」
ポンッ
凛「…にこ、ちゃん…?」
にこ「…凛、もう一回お礼言っとくわ。今日一日、ずっとにこの事を気遣っててくれてありがとね」
凛「……にこちゃん」
にこ「それと、もう一つお礼。野球部を結成してからずっとアンタと組んできた一二番コンビ…最っ高に楽しかったわ」
凛「うっ…うう…っ!」ポロポロ
にこ「だから泣かないで。花陽と真姫、二人と一緒に見てなさい?
究極かつ至高の生命体こと、にこにーにこちゃんの!……最高の出塁をっ!!」
『二番 センター 矢澤さん』
ツバサ「有象無象がまた湧いた…今度は私と同じぐらいのおチビさんね」
にこ「にこはあなたのファンだから…全力でもう一度、その脳に名前を刻み込んでみせるわ。綺羅ツバサ」
スパァン!!
ストライク!
にこ「……いつも一人で、ずっと寂しかった」
ズドン!!
ボール!
にこ「そんなにこを、みんなが連れ出してくれた」
ズドォン!!!
ストライク!!
にこ「絵里、希…」
ガギィン!
ファール!!
にこ「穂乃果、海未、ことり…」
ズドン!!!
ボールツー!
にこ「真姫、花陽、凛…」
ギィン!!
ファール!!
にこ「にこに最高の時間をくれたあいつらの!!未来を奪わせたりなんて絶対にしない!!」
ズドンッッ!!!!136km/h
ボールスリー!!!
ツバサ「……小さく構えちゃって。徹底的に四球狙い。そんな華のない野球、何が楽しいの?」
にこ「華がない?はんっ!浅いわね綺羅ツバサ!」
【音ノ木坂応援団】
\ニッコニー!!!!!/
にこ「聞きなさい!!こんなにもたくさんの人がにこの出塁に期待してくれてる!!華がないだなんて言わせないわ!!!」
ツバサ「それじゃあ試してあげるわ!どこまでそのケチなカットを続けられるかを!!!」シュッ!!
\ピョンピョコピョンピョン カーワイー!!!/
―――コツン…
ツバサ「…は?」
英玲奈「ツバサ!セーフティバントだ!捕れ!ファーストへ送球ッ!!」
ツバサ「フルカウントから私の球をセーフティ…?スリーバントの危険があるのに…バカじゃないの?」
コロコロ…ピタッ
【実況】
『ピッチャー綺羅!意表を突かれ反応できず!そしてボールは三塁線でピタリと静止ー!!
二番矢澤、見事にセーフティバント成功っ!!!』
凛「にゃああああああ!!!」
絵里「さすがにこね!!ほんとにね!!」
海未「え、絵里!?まあとにかく凄いですっ!にこ!」
穂乃果「にこちゃーん!!かぁっこうぃいいいい!!!」
にこ「やーってやったわ!!!アンタたちぃ~!褒め讃えなさい!我が名を!!」
【音ノ木坂ベンチ】
『にっこにっこにぃぃぃぃ!!!!!!!!」
にこ「くぅぅぅうっ……!にこにー英雄譚の第1章が今ここに完成を見たわ!!!」
英玲奈「ツバサ…相手を舐めすぎだ!投球が雑になっている!」
ツバサ「関係ない…関係ないの、その他大勢は。……あなたは…あなたは?」
英玲奈「あ…ぁ、ツ、バサ…!」
ツバサ「……そう、英玲奈…英玲奈よね。英玲奈とあんじゅ…フフ…フフフ…大丈夫。だって次は…!!」
『三番 サード 高坂さん』
―――ズバンッッ!!!!137km/h
ストライク!
穂乃果「…最速!」
英玲奈「…!」
英玲奈(怖い…私はどうすればいいんだ…
ツバサの球威がまた増している…だが、進化の速度にアイツの脳が追いついていない…!
ツバサの才能の焔が、ついに自分の身を灼き焦がし始めている…!
頼む…頼むよ、ツバサ…お前に忘れられるなんて、辛すぎるんだ…)
ツバサ(穂乃果さん…私今ね、頭が最高に冴えてるの…なんだろう、どうしたのかな?
色々な事が思い出せなくなっていってる。けど、それでいいの…フフ。
どうすれば、どうすればもっと凄い球を投げられるのか、今なら簡単にわかるから。
息をするよりも!!
心臓を動かすよりも!!!
ずっとずっと簡単に!!!!)
穂乃果(ああ…お腹が空いたな~…
なぁんて、穂乃果は切羽詰まった時には今日の晩ごはんの事を考えようって決めてるんだ。
なんでかって?未来の事だから。
どんなに辛かったり、きつかったり、苦しかったりする時でも、ちょっと未来の楽しい時間の事を考えたら…自然と笑顔が湧いてくるんだよ。
ま、穂乃果みたいにご飯食べるのが大好きじゃないとこの方法は使えないんだけどねっ!
ちなみに今日の晩ごはんは決めてるんだ。試合に勝って、みんなで焼肉パーティー!!
凛ちゃんとにこちゃんがギャーギャー騒いで…
花陽ちゃんがご飯ばっかり食べてて…
海未ちゃんが鬼の焼き奉行で…
希ちゃんが幸せそうにお肉を頬張ってて…
ことりちゃんがデザートばっかり食べてて…
絵里ちゃんが謎のロシアうんちくを言って…
真姫ちゃんがお肉の質にブツブツ文句を言ってて…
穂乃果はそんなみんなの笑顔を見ながら…しゃとーぶりあん?を食べるんだ!真姫ちゃんの財布で!
だから…打つよ。ツバサさん)
ツバサ「ああっ…すごい!!あはははは!!!頭が割れそうッッッ!!!呼吸が辛いの胸が苦しいの!!!
あああ!!!
あなたが!!貴女が私をおかしくしたの!?高坂穂乃果!!!
最ッッ高!!!!
いいわ…!決着を付けよう…私とアナタの全てに!!!!」
シュッ!!!!
穂乃果(――――見える)
138km/h
ッッキィィィィン!!!!
【実況】
『火の出るような当たりーッッ!!!
サードの横を破ったァ!!フェア!フェアです!!打球はそのまま勢いよくレフトフェンスへ!!!
一塁ランナー矢澤は二塁を蹴って…三塁を!!
いや止めた!ランナー止まりました!そしてレフトから好返球!
ああこれはベースコーチの好判断!突っ込んでいればアウトかという送球でした!
そして打った高坂は二塁へ到達ー!!!
綺羅ツバサの自己最速138キロを見事に弾き返しての素晴らしいツーベース!!!』
ピピピ
花陽「穂乃果ちゃんの野球力…ご、55000…っ!!」
穂乃果「やっと…やっと!追いついたよ!!ツバサさん!!!」
ツバサ「………打たれ、た…?私の、今の球が?」
英玲奈(高坂穂乃果、なんて奴だ…。
138km/h、数字だけじゃない。間違いなくツバサのベストピッチ…それを真っ向から…あまつさえ、引っ張ってみせただと…!
…だが、当たりが良すぎた。ランナーは本塁へは辿り着けず。
残念だ。本当に、残念だが…)
ズドン!!!136km/h
スリーストライクアウト!!!
絵里(肩がっ…スイングが鈍って…!)
ズドォン!!!138km/h
スリーストライク…アウトッ!!!
希「っ!!なんで…なんで打てないんやっ!!!」
英玲奈(ここで、行き止まりだよ…音ノ木坂学院)
スリーアウト…チェンジ!!!
~八回裏終了~
UTX高校 4-3 音ノ木坂学院
♯62
【九回表】
ことり(穂乃果ちゃんは見せてくれました。…限界を越えた力を)
(・8・)『小夜啼鳥葬送詩』シュッ
佐藤「うわぁっ!?」ブン!
ワンナウト
ことり(じゃあ、ことりも応えないとね)
(・8・)『小夜啼鳥葬送詩』シュッ
田中「心経っ!??」ブン!
ツーアウト
海未(二者連続、三球三振…!バントさえ許さない究極の球…!ですが、ですがことり…!ボールに血が滲んで…!)
ことり(血は指の皮が擦れただけだよ、心配しないで?
(小夜啼鳥葬送詩)ナイチンゲールレクイエム…海未ちゃんが付けてくれた名前、とっても気に入ってるんだよ。でも…ちょっと皮肉な名前になっちゃったのかも…。
多分だけど、わかるの。この試合でことりの投手としての命はおしまい。
ピッチャー南ことりに捧ぐ葬送詩…になっちゃうのかな。
ふふ、ちょっとかっこつけすぎ?海未ちゃんのが感染しちゃったのかも)
海未(ことり…ことり…!)
ことり(そんな顔しないで、海未ちゃん…。
キャッチャーって女房役って言うんだよね?だからぁ…海未ちゃんは今!ことりの奥さんなのです!黙ってことりについてこい~!なぁんて?
ちなみに穂乃果ちゃんはことりの旦那様♪
実は、子供の頃に二人にサインさせた結婚証明書がことりの机の奥に眠っているのです。切り札は隠しておくもの…ふふふ…。
だから、二人のためなら。ことりはいくらでも頑張れちゃうんだよ?)
ツバサ「打たれた…打たれた…?」
(・8・) 「試合に集中してないなら…あなたも速攻でことりのいけにえにしてあげる」
(・8・) 『小夜啼鳥葬送詩』シュッ
ツバサ「……シナプスを駆け巡る。『どうすれば打てるのか』
バッターボックスの一番前、踏み込んで、…曲がり始めた直後、角度を合わせて上から掬う…」
キィン!
ことり「…えっ」
海未「あ…」
【実況】
『無情…っ!噫無情…!
力投の南、投じた122球目は…!『魔術師』…いや、天才…!天才綺羅ツバサのスイングで舞い上がり、そのままライトスタンドへ…!!
ホームラーン!!
綺羅ツバサゆっくりとホームイン!!UTX高校1点追加!!土壇場九回表…得点は5-3~!!』
ツバサ「……なにをみんな、そんなに騒いでいるの?」
あんじゅ「つ、ツバサ…!すごいわ…!」
ツバサ「……あんじゅ…?…どいて、頭が痛いの」ドン
あんじゅ「ツバサ…」
英玲奈「……」
(・8・) 「まだ、まだ諦めない…!穂乃果ちゃんは諦めてないから…!10球目…これが最後の!」
(・8・)『小夜啼鳥葬送詩!!!』シュッ!!!
(ブチィッ!!!)
ことり「……ッ!!」
スパァンンッ!!!
あんじゅ「……っ」ヨロ…ドサ…
スリーアウト!チェンジ!!
ことり(ごめんね、ごめんね…。ありがとう…ことりの右腕さん…)
【九回裏】
\ソーシーテー ワーターシーターチーハー メグリアウー……/
海未「……参ります!」
カキィィン!!!パシィッ!!!
にこ「打ったっ!?」
希「いや…」
海未「ピッチャー…ライナー…っ」ガクッ…
ツバサ「グラブ越しでも手が痛む。熱い思い、火の出るようなライナーだったわ、六番さん。……何の意味もなかったけれど!!」
海未「今ほど…今ほどっ…!自分をふがいなく思った事はありませんッ!!!」ガンッ!!!
絵里「海未が倒れて…ワンナウト」
にこ「っ…!一番期待の持てる海未が…!」
希「バッティングは悪くなかったんよ…。綺羅ツバサの、天運…」
穂乃果(大丈夫。みんななら絶対に)
花陽「あ…私の番…」
スチャ ピピピ
花陽「……」
花陽(綺羅ツバサの野球力はおよそ54800。そして私の野球力は1000ちょっと。50倍以上?勝ち目なんて…ない)
花陽(私の守備…あれだって、どのチームにでも使えるわけじゃないんだ。
UTXの試合が大好きで、何度も何度も何度も見てたから…UTXのバッターの癖を覚えてたの。
だから、私が英玲奈さんの真似みたいな事をできるのはこの試合だけ。
本当に、本当に、大したことない選手…。ツバサさんなんかとは比べちゃいけないくらいに…)
希(次は花陽ちゃん…なにか、なにか声を掛けてあげんと…!)
凛「か、かよちん…!」
花陽(だけど…)スッ
希(花陽ちゃん…?眼鏡を取って…)
―――グシャッ!!
希「…握りつぶした!?」
花陽「……っ!数字なんて関係あるもんか…!野球なんて所詮は確率と運のスポーツ!ツバサさんが天才だって同じ高校生!金属バットなんだから当たれば飛びます!!絶対なんて!!絶対に存在しません!!!」
凛「かよちん…!そうだよ!その意気にゃっ!!」
海未「花陽…!」
にこ「花陽!自信持っていくのよ……アンタは今日、一度も三振してないんだから!」
絵里「打てるわ。花陽なら絶対に。私とした練習を信じて?」
花陽「打ってきますっっ!!」
『七番 セカンド 小泉さん』
【実況】
『打席に入るのは七番の一年生、小泉。
今日は試合の序盤から、幾度も幾度もUTX打線の猛攻を食い止めるファインプレーを見せてくれました!
さあピッチャー綺羅、モーションに入る。
小泉を見据え…投げた!!』
花陽(軌道、見える…少しだけど…っ
慌てないで、絵里ちゃんに教わった通り…重心を残して、前に突っ込まずに…!
芯に当てる!!!)
キィンッ!!
【実況】
『当てたっ!一、二塁間のゴロ…!
破った!破った!!ライト前へと転がっていく、守備の名手小泉!意地のライト前ヒットー!!』
凛「かよちんが打った!!かよちん!!!かよちーん!!!」
絵里「ハラショー…っ、本当にハラショー…!教えた通り、完璧な動き…花陽っ…!」グスッ
真姫(花陽は七番…ことりが八番…今はワンナウト…その次は…)
ことり「花陽ちゃん、出たんだ…!じゃあ次はことりの番だね…っ」
海未「ことり…!あなたが打席に立つのはもう無理です!」
ヒデコ「ことりちゃん、私が代打に出るよ!それなりにだけど…準備もしてきたから…」
フミコ(一塁コーチ)(ヒデコ…一塁のそばから見ててでも緊張してるのがわかるよ。そうだよね、私たちじゃ多分…無理)
ミカ(三塁コーチ)(準備はしたわ、けど…私たちじゃ経験が足りないよ…)
ことり「ふふ…ありがとう、ヒデコちゃん」スッ
ヒデコ「ことりちゃん…」
ことり「でも、ダメなの。絵里ちゃんが肩を痛めてるのはもうバレてる。ここで私が降板すれば…追い付けても先がない」
希「ことりちゃん…でも、ことりちゃんの肘、もう投げる事は…」
ことり「それでも…それでも、私がいなくなって綺羅ツバサを楽にしてやるつもりはない…そしてアウトをくれてやるつもりもないから…!」
絵里「けど、ことり!」
理事長「……みんな、ことりを行かせてあげて?これは私の監督としての、一つだけの采配」
海未「理事長…」
ことり「お母さん、ありがとう…行ってくるね?」
理事長(本当は…あの腕、もうとっくに親としては見ていられない範囲…
だけど、だけど…子供の頃からずっと、どこか自信を持てずにいたことりが、あんなに強い目で羽ばたいてる…
それなら、行かせてあげるのが…親としての務めよね)
ツバサ「手負いのエース、最後の力を振り絞ってバッターボックスへ。泣かせるわね」
スパンッ…!
ストライクアウト!!
ツバサ「けど、無駄だったわね?」
ことり「パーム…ボールっ…」ガクッ…
【実況】
『南、ストレートに食らいついて9球粘るも三振~!
最後は変化球の前にバットが空を切ってしまいました…!ツーアウトっ!!』
ことり「みんな…ごめん…ごめんね…」ポロポロ
凛「泣かないで…ことりちゃん」
絵里「くっ、ツーアウト!」
海未「バッターは…」
希「真姫ちゃん…!」
真姫「私の…番」
真姫(私が、私が打たなきゃ試合が終わっちゃう…穂乃果がいなくなって、この9人でいられる時間が終わっちゃう…!
打たなきゃ…打たなきゃ打たなきゃ打たなきゃ…!
………ダメ
…ダメよ、私なんかには無理…!
綺羅ツバサのボール…私、一度もバットに当てられてない…なにが天才よ!なにが…
手が…手が震えてバットが…持てない!怖い…!)
花陽「真姫ちゃんっ!」
凛「まーきちゃん!」
真姫「……!凛…、花陽?あなた、一塁ランナーじゃ…?」
凛「うあーやっぱり!真姫ちゃんガチガチだにゃー!」
花陽「私がね、タイムを掛けてもらったの。真姫ちゃんとお話したくって。えへへっ」
真姫「……」
凛「怖いよね。凛にもわかるよ。自分のせいで全部終わっちゃうんじゃないかって、何度も何度も夢で見ちゃった。…でも、真姫ちゃんだけのせいじゃないよ。今日、凛も全然打ててない。もしダメでもアウトの数は一緒だよ」
真姫「…そうね、一緒に責任負ってね?」
花陽「真姫ちゃん」ナデナデ
真姫「う゛ぇえ…!何するのよいきなり」
花陽「打てなくたっていいんだよ……たかが野球、殺されるわけじゃないんだから」
真姫「ちょっと…野球狂いのあなたがそれ言っちゃうの?……でも、ダメ…もし打てなかったら穂乃果が、と思うと」
花陽「もし連れて行かれちゃったら、みんなで毎日会いに行こうよ!」
凛「バット握ってUTXにカチコミ掛けて奪還してもいいにゃ!」
花陽・凛「「だから」」
花陽と凛のあたたかい手が、そっと私の背中を優しく押してくれた。
花陽・凛「「がんばれっ!」」
……うん、ありがとう。震え、止まったよ。
ベンチの段差に片足を掛けて、ベテラン監督みたいに鋭い目のにこちゃん。一瞬、視線が交錯する。にこちゃんは「真姫ちゃん!」と一声、満面の笑顔でにこにーポーズをとって見せてきた。
……ほんと、馬鹿なんだから。
キャッチフレーズ。自分のテンションを上げられる魔法の言葉。にこちゃんが昨日言っていた言葉が脳裏によぎる。試してみる?
『勝利は金で買えるのよ!』…いや、これはないない。
「……まっきまっきまー」
手の形を作って、呟いてみる。もちろん、誰にも聞こえないように小声で。
……何してるんだろ、私。
そんな自嘲で、強張ってた頬の筋肉が自然と弛む。…やっぱりにこちゃんってすごいのかも。
絵里、希、海未、ことり、穂乃果。
みんな力強く優しい瞳で私を見てくれている。誰一人、勝負を諦めてないのね。
真姫「見てなさいよ。打ってくるから」
『九番 レフト 西木野さん』
ツバサ(苦しい…苦しいよ、あんじゅ…英玲奈…穂乃果さん…)
ツバサ「ねじ伏せて…全部終わりよ、九番の名無しさん」
英玲奈(ツバサ…狂気と正気の狭間で苦しんでいる…ツバサ…!)
真姫(綺羅ツバサ、今は何を考えてるのかしら。
……そう、焦っちゃダメ…。さっきの打席、私の打撃理論は完成を見た…!
考えるのよマッキー、クールで冷静沈着、かつクレバーに。
まずは深呼吸。大量の酸素を取り込むことで、優秀極まりない私の脳細胞を活性化させるの。
スゥゥゥ…ハァァァ…、、
オッケー、まず…認めるのはシャクだけど、こいつは私を舐めてる。
真姫ちゃんパパが見つけた弱点その2!手抜き癖!ってね。…ま、本当は絵里が聞いたんだけど。
とにかくそれなら、私の苦手なコースとかじゃなく、自分の得意なコースで決めようとしてくるはず。つまりボールが一番伸びる、真ん中高め…!)
ツバサ(全球ストレート…最高の球で三振させて…終わらせる!!)シュッ!!!
真姫(ボールが見えなくたっていい、掴んだタイミング…!私の完璧な頭脳で割り出したコース!!脳内で構築したマッキー式完全打撃理論に従って体を動かすのよ!
私は天才、西木野真姫なんだから!)ブンッッ!!!
カッ…キィィーーーン!!!!
【実況】
『打ったァーーー!!!!
白球高々と舞い上がる!!!
ライト後方を襲う!!
ライト優木下がる!下がる…!』
英玲奈(完璧なフォーム…理想的なスイング!西木野真姫、君の大きな臀部は紛れもない強打者の資質。あの日、勝負を仕掛けられた瞬間から、私はいつか君に打たれ、敗北する事がわかっていたのかもしれない……)
英玲奈「―――だが、その敗北は今日ではない!
この打球は一伸びが足りない!あんじゅ!フェンス際のライトフライだ!!!」
【実況】
『ライト優木…フェンス際で…こちらを向いた!
伸びない…!』
希「ダメや…もう伸びん…!」
絵里「嘘っ…!」
にこ「真姫ちゃん…!」
穂乃果(まだだよ!まだ…諦めないっ!)
あんじゅ「惜しかったわね、西木野さん…。フェンス際でフルハウスよ」
ツバサ「この回、一本だけ奇跡のヒットが出たけれど…奇跡って物はね、二度は起こらないから奇跡と呼ぶの。これで万事、ゲームセットよ」
真姫「まだよ!!」
真姫(今よパパ!)指パチン!
【アキバドーム空調室】
真姫パパ「今だ、空調をMAXにしたまえ」
ドーム空調係「まきちゃん」オシテポチリー
【空調】
\ゴオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!/
あんじゅ「あら…あらあら…えっ!?」
【実況】
『あっ!落ちかけていた打球が浮き上がって!?不可解なもう一伸びっ!?
は、入った!…?
はっ、は、入りましたぁっ!?!!
伏兵、と呼んで差し支えないでしょう、九番西木野!あの綺羅ツバサから!
土壇場九回!
ライトスタンドへ!!
なんとも不思議な!!!
起死回生!奇跡の!奇跡の!!同点ホームラーン!!!』
真姫(そうだ…私のキャッチフレーズ。決めたわよ、にこちゃん)
真姫「ねえ、知ってたかしら?一億もあればね…」
真姫『奇跡は金で買えるのよ』
穂乃果「やったやったやった!!!!すっごいよ真姫ちゃあああん!!!!」
にこ「やってくれたわね真姫ちゃんんんん!!!!でも今の打球って…」
花陽(ドームランはまずいよ真姫ちゃん!!!でも最高!最高だよぉぉ!!!)
凛「ちょっと(空調が)さむくないかにゃー?」
英玲奈「…参ったな。データにないぞ、こんなのは。ツバサ、気を取り直して…」
ツバサ「………」フラ…ッ
英玲奈「ツバサ…?」
ツバサ「……」ドサッ
英玲奈「ツバサッッ!!!」
あんじゅ「ツバサぁっ!!!」
ツバサ(存在を認めてこなかった『その他大勢』。その一人のホームラン…敗北を喫する事を、私の脳は理解せず…認めてくれなかった。
オーバーヒート。焼けそうに痛む頭、白く明滅する視界。駆け寄ってくる二人、キャッチャーの子と…外野の子。
「ツバサ!」「ツバサぁ!」
一生懸命に呼び掛けてくる。誰だっけ…とても、大切な人たちだった…そんな気がするのだけど。
呼吸の仕方がわからない。心臓ってどうやって動かしていたんだっけ?
結局私って、何がしたかったんだっけ…?
ああ、思い出した…子供の頃の…
【実況】
『場内、未だ興奮冷めやらず!ツーアウトから飛び出した九番西木野の同点ホームラン!
直後、ピッチャーの綺羅がマウンド上に倒れこんで場内が騒然となりました。心配されましたが、しかし立ち上がり続投。どうやら足を滑らせただけとの情報が…~~』
凛(凛でも全然わかるぐらいのボール球ばっかりだ…)
スパン
ボール!
フォアボール!
英玲奈(ツバサ…お前は…)
―――私はどうしてこうなっちゃったんだろう。
綺羅ツバサ、東京某所のサラリーマンの家庭に生まれる。
商社勤めの父親と、そこそこ良い大学を出たらしい母親。それなりに裕福な家庭の一人っ子。
あ、寺生まれはもちろん嘘ね。
私の両親は虚栄心の強い人たちだった。立派な家、良い車、高そうな時計、ステータス、ステータス、ステータス。
それは娘の私に対しても同じ。飾れ飾れ、ステータスを身に付けろ。
習い事で埋め尽くされたスケジュール。ピアノ、水泳、書道、英会話、学習塾、etc.
習い事が終われば次の習い事の準備、予習と復習、学校の宿題だってある。
例えばスイミングスクールで仲良くなれそうな子がいたって一緒に遊ぶ暇がなければ、会ったら会話を交わす顔見知り以上の関係にはなりようがない。
私が住んでいたのは庭付き一軒家、結構良い感じの二階建て。その二階の子供部屋。
ピアノの教本や英単語帳、大量の宿題で埋め尽くされた勉強机のそばの窓からは、近所の公園が見渡せた。
いつもいつも、同い年くらいの子供たちが楽しそうに遊びまわってた。
鬼ごっこ、かくれんぼ、大なわとび、グリコじゃんけん。私はどれもやった事がない。だけどやり方は知ってるの。ずっと窓から見てたから。
そんな私が小学校高学年になった頃、英会話教室の帰り道。偶然足元に野球ボールが転がってきた。
私はそれを投げ返して…始めて野球に触れた。
地元の少年少女野球クラブ…って言っても、リタイアしたお年寄りが暇な子供を集めて野球を教えてるぐらいの、公園のフェンスに囲まれてやってるようなお遊びレベルの、あったかい集まり。
そんなチームのおじいちゃん監督が、私の投げ方をびっくりしちゃうぐらい褒めてくれた。そして、私の両親に野球をやらせるべきだと話をしてくれた。
あのおじいちゃん監督、結構好きだったな。名前は…忘れちゃった。ごめんなさい。
最初は難色を示していた両親も、説得に折れて私が野球を始める事を許してくれた。もちろん、習い事は減らさずに。
父も母も、私を『自慢の娘』にしたくてたまらなかったんでしょうね。
ああ、両親の事が嫌いかって聞かれると、そういうわけじゃないわ。やりすぎな節があっただけで、愛情がなかったわけじゃない。だからって好きかと聞かれると…困っちゃうけれど。
『二番 センター 矢澤さん』
にこ(俊足の凛にストレートの四球…。綺羅ツバサ…なんだか、朦朧としてる?)
―――私はメキメキと頭角を現していった。
何ヶ月も経たないうちに、クラブの中で一番上手い子供になった。
クラブにようやく馴染んで、友達ができそうだと思った頃、両親はその見栄を満たす方法を私の野球の中に見い出したみたい。
クラブを辞めさせられ、リトルリーグの強豪チームへ。
気分一新、そこで友達を作ろう…なんて考えたけど、バカだった。
年下の、しかも女の子。それが上級生顔負けのボールを投げてあっと言う間にエースに。みんなが面白く思うはずがない。
子供の頃から本格的に野球をやってる子って、負けん気の強い子が多いしね?
チームの監督は徹底した勝利至上主義だった。
意図的に偏った起用で子供たちの対抗心を煽り、チーム内の切磋琢磨と上達を促す方針。……たかが子供の野球なのにね。
とにかく強いけど、とても仲の悪いチームだった。だから、私は野球の技術を磨く事に没頭した。
上手くなるにつれ、監督、両親、周りの大人たちが嬉しそうに言葉を掛けてきた。
勝て、勝て、勝て。
野球の才能がある。お前は天才だ。『その他大勢』の選手とは違う。
負けるな、お前の野球には価値がある。お前のピッチングには価値がある。
私の価値は野球にある。野球が上手な事が綺羅ツバサのアイデンティティ。
じゃあ今、『その他大勢』の選手に負けた私の価値は…?
…スパン
ボール!フォアボール!!
【実況】
『連続フォアボール~!!!
ピッチャー綺羅、やはり様子がおかしいか!気落ちは隠せず!制球が定まりませーん!!!』
にこ(114km/h…ボールにまるで体重が乗ってない…)
―――UTXに入ってからも、私の環境は大きく変化しなかった。四軍制の厳しい競争社会。
…いや、少しは違ったのかな。うちの監督…名前はええと…そう、新井。
あいつの事は嫌いだけど、四軍まで全員の顔と名前、誕生日をちゃんと覚えてるらしいし、慕ってるチームメイトも多いから、きっと悪い奴ではないんだと思う。
そして…
理屈屋な英玲奈と、腹黒あんじゅ。
私の何を気にいったのか、二人揃ってやたらと絡んできてくれた。
悪い気分はしなかったし、名前を覚えられるぐらいに野球も上手かったから、ずっと一緒につるんできた。
……初めての友達、と呼んでいいのかな。本当はわからないんだ、友達を作った事がなかったから。
でも…うん、今わかった。私は二人の事が大好き。
大好きだよ、英玲奈、あんじゅ。
でも、二人に素直にそう伝えるには、二人の優しさに応えるには、私の心からは何か大切なものが欠落していて。
『野球が上手い』というアイデンティティを失った私は、あまりにも無価値で。
結局、私は何がしたかったのか。
今、思い出したの。
子供の頃、私がずっと窓越しに眺めていた…公園で遊ぶ三人組の女の子たち…
その中で一番元気で、キラキラしてて、誰にでも「遊ぼうよ」と手を差し伸べてる、太陽みたいな女の子…
10年…もっとかな?…それぐらい昔の記憶、もう決して手に入らない煌めき。
あの日、忘れていったゴムボール。今でもずっと持ってるんだ。
ああ…ずっと、ずっと夢だった…私もあそこに飛び出していって…
穂乃果「ツバサちゃんっ!」
ツバサ「……穂乃果、ちゃん…?」
すぅぅっ…
穂乃果「遊ぼうよっ!!!」
ツバサ「……!うんっ……!!!」
『三番 サード 高坂さん』
わかったよ…わかったんだ、ツバサちゃん。
私たちが遊んでいた公園のすぐそば、おしゃれな屋根のおっきなおうち。その窓からこっちを見てる、お人形さんみたいに可愛い女の子。
あれが、ツバサちゃんだったんだね!
ずっとずっと、言いたかった。一緒に遊ぼうって。
言えなかった…聞こえないだろうと思って。断られるのが怖くって。
ごめんねツバサちゃん…10年以上かかっちゃったけど…。
今、来たよ!
真姫「肘の壊れたことりはもう投げられない。肩を痛めた絵里も同じ!」
にこ「二人だけじゃない。少ない人数で戦ってきたにこたちは、もう全員が体力の限界…!」
花陽「このまま同点でこの回が終われば、次のピッチャーがビッグイニングを作られて勝負が決まっちゃう…!」
希「アルカナの暗示は『世界』(The World)!意味は成就、完成、完全!」
絵里「だからこの打席が、正真正銘この試合の行き止まり!」
凛「やれるよ!絶対に!絶対に!!」
海未「穂乃果なら!」
ことり「穂乃果ちゃんなら!」
穂乃果「ツバサちゃん!!!」
ツバサ「穂乃果ちゃん!!!」
「勝負よ!!!」「勝負だよっ!!!」
―――そして、最後の一球は……
♯エピローグ
凛「それではそれではぁ~?」
花陽「音ノ木坂学院の優勝を祝してぇ~!?」
にこ「決勝戦でマルチヒット&1四球をマークしたウルティメイトにこにー様の武勇伝講演会を開始したいと
全員『かんぱーい!!!!!!!!』
にこ「かんぱぁぁぁい!!!!」
【TV】
\~~で行われた決勝戦は最終回、二年生キャプテン高坂のサヨナラスリーランで…~~/
希「焼肉やん!!焼肉やぁぁん!!」
にこ「しかも食べ放題っ!!食べ放題!!いい響きよねぇ~…庶民の味方!!」
ことり「デザートもいっぱいあるねぇ~♪」
花陽「ごはんも食べ放題!取りに行こっ?ことりちゃんのお皿は私が持ってあげるね♪」
にこ「…で、打撲で済んだ絵里はともかく、ことりは病院に行かなくていいわけ?」
真姫「本人が鎮痛剤を使ってでも祝勝会に参加したいって言うんだから仕方ないでしょ。ま、明日すぐにうちの病院で見るし、もし何かあっても保護者席に私のパパもいるし大丈夫よ」
ことり「うふふ~、スジっぽいお肉を食べたら靭帯が復活したりしないかな?」
にこ「じ、靭帯ジョークやめなさいよ…エグいから…」
希「ヒデコちゃんたちがいないけど、どうしたん?」
穂乃果「んー何度も連絡してるんだけど…なんか広報?とか色々やってくれてるみたいで。忙しいから9人で楽しんでねーって」
にこ「裏方根性が染み付いてんのねー!そんなんじゃダメよ!これからはあの三人もガンガン試合に出てもらう事になるんだから!」
希「次は無理矢理にでも連れてかんとやね。ふふっ、ワシワシしちゃおうっと」
絵里「それにしても、スタミナ野郎…ハラショーな店名ね」
凛「ゼリー焼っくにゃー!!」
絵里「ぜ、ゼリー?」
海未「剥き出しで置いてある取り放題の生肉…衛生面は大丈夫なのでしょうか…」
穂乃果「海未ちゃんってば心配性だなぁ、平気平気ぃ~!」
ペラッ
希「タロットは『死神』…女子高校野球優勝校、祝勝の夜に食中毒で全滅っ…!全滅っ…!」
ガタッ!!
海未「出ましょう!!店を出るのです!!今すぐにッッ!!」
希「ちょ!冗談っ!冗談やってぇ!!?」
凛「穂乃果ちゃん穂乃果ちゃん、卵あったからこっちの甘ダレと生肉で混ぜてユッケにして食べるにゃ~」
穂乃果「おお、組み合わせマジック!凛ちゃんってばアイデアウーマン!!」
海未「いけません!!やめなさい!!やめてくださいっっ!!」
真姫「……品のない店ね。ねぇ、パパがもっと高い店に連れてってくれるって行ってるけど?」クルクル
穂乃果「じゃあ明日はそれに行こう!!」
ことり「お母さんもごちそうしてくれるって言ってるよ」
穂乃果「明後日はそれだね!!!」
理事長「みんな、楽しんでるかしら?」
ことり「あっお母さん!」
穂乃果「理事長カントクぅ!ねえねえ、こっちで一緒に食べようよー!」
にこ「ウェルダン?ミディアム?それともレアで?肉を完全!完璧な焼き具合で提供させていただきますぅ!この矢澤が!矢澤にこが!だから内申点を!」
希「あ、ここ席空けますよ~?」
理事長「うふふ、私はあっちで保護者の皆さんと楽しんでるから気にしないで♪」
ことり「あ、お母さんってばお酒のビンなんて持ってる」
理事長「今日くらいは、ね♪」
絵里「ふふ、ご機嫌ですね」
理事長「ご機嫌よ♪それでね、みんなに伝えておかなければいけないことがあるの…」
穂乃果「えっ…」
絵里「な、なんですか…?」
理事長「廃校は…」
穂乃果・絵里「「廃校は…!?」」
理事長「………なくなりましたぁ~♪」
穂乃果「えっ、ええっ…?」
絵里「ましたぁ~って…」
希「ノリ軽っ!?」
理事長「ふふ…やっぱりね、野球の注目度は凄かったの。来年度の入学に関する問い合わせが殺到。OBからの寄付金も多数。
モチベーションが下がるかもと、伝えていなかったのだけど…本当は決勝よりも前に、廃校の撤回は決まっていたのよ」
絵里「そうだったんですね…良かった…」
理事長「本当に、ありがとうね。あなたたちは音ノ木坂学院の…そして、私たち親の誇りです。
それじゃあ、胃もたれしない程度に楽しんでね。明日か明後日か、私のお金でもっといいお店にも連れて行きますからね。ふふっ」トン
穂乃果「ご機嫌だったねぇ…」
にこ「千鳥足ね」
海未「酒瓶も置き忘れて行きましたね…」
絵里「……さて、今日で私たち三年の野球はおしまい。この9人でこうやってゆっくり集まれる事も少なくなっちゃうのかな…」
海未「絵里…」
凛「絵里ちゃん何言ってるの!夏が過ぎてもやれるスポーツなんていくらでもあるんだよ!」
穂乃果「昨日テレビで見たんだけどね!競歩って奥が深いみたいだよ!」
真姫「なんでよりによって競歩よ…」
海未「穂乃果!凛!三年は受験勉強をしなくてはいけないのですよ!」
にこ「それに、アンタたちは野球まだまだ続けてくんでしょ?練習しなきゃダメよ。追われる立場になるんだから」
穂乃果「うー…」
凛「でも…」
海未「……ですから、受験の合間の息抜きになるよう、野球部と兼ねて!登山部を立ち上げましょう!登山ならば我々の体力底上げにも極めて有効!」
希「ひえっ…」
凛「目がマジにゃ…」
花陽「いえ!料理研究部で白米を極めましょう!野球にも勉強にも良質な食事は大切…まずは究極の土鍋炊きからっ!」
にこ「あ、タッパー持参してよければ料理研究部に一票よ」
希「ウチはオカルト研究部がいいなぁ。絵里ちを先頭にして心霊スポット巡りへGO!」
絵里「そっ、それだけは嫌よぉ!?」
花陽「ご飯おかわりに行ってきまぁす!」モグモグ
凛「はいにこちゃん、葉っぱでお肉包んであげたよ」
にこ「なによ、凛のくせに気が利くじゃない。やっとアンタにも先輩を敬う心ってやつが出てきたのねぇ~!あと葉っぱじゃなくてサンチュっていうのよ。いただきます、はむっ。…って!辛っ!辛ァッ!」
凛「引っかかった引っかかった!この店秘伝の激辛味噌をたっぷり挟んであげておいたにゃー!」
花陽「ご飯おかわりしてくるねっ!」モグモグ
にこ「ギャアア!?口が燃える!熱い!あ、でもコレすごい美味しいかも…やっぱ辛いっ!でもウマイ…ああ辛いぃぃ!」
絵里「最低で最高の辛味噌…」
真姫「…エリー、何言ってるの?」
花陽「ご飯おかわり欲しい人いる?ついでについでこよっか!」モグモグ
希「は、花陽ちゃん…それ何杯目のおかわり?」
花陽「えっと…14?」モグモグ
希「……ま、気にせんとこ。お肉おいし~♪」モグモグ
海未「希!焼きが足りませんよ!食中毒になっては大変です!!赤さがなくなるまでやくのです!!むしろ黒くなるまでっ!!!」
真姫「……こんなものが本当に肉なの?ゴムみたいだし臭みもあるし…」モグ…
穂乃果(えへへ…みんなみんな、穂乃果がイメージしてた通りの事してる。楽しいな、楽しいなっ♪)
穂乃果「……って!ぅ絵里ちゃん!!!」
絵里「なっ、何?穂乃果」
穂乃果「ロシアうんちく言ってよロシアうんちく?!絵里ちゃんだけノルマ未達成なんだよ?!」
絵里「何の話!?え、ええと…マトリョーシカの起源は日本かもしれない、って説があるの。と言うのもね?」
穂乃果「あ、もういいよ!ノルマ達成ありがとうっ!」
絵里「ええっ!?さ、最後まで語らせてよぉ!」
穂乃果「さあ、これで心置きなく…ねえ真姫ちゃん!穂乃果はしゃとーぶりあんが食べたいよ!」
真姫「シャトーブリアン?こんな店には置いてないでしょ」
穂乃果「ええっ!?私の完璧なディナー計画がぁっ!!しゃとーぶりあん!しゃとーぶりあんお願い!!しゃとーぶりあんー!!」
真姫「ヴぇえ!?フザケナイデ!そもそも、なんで私が!」
穂乃果「穂乃果サヨナラホームラン打ったじゃん!ご祝儀だと思って!」
真姫「私だって同点ホームラン打ったわよ!学年で言えば穂乃果が私におごるべき!」
花陽「ご飯おかわり行くねぇ~!」
穂乃果「わかったわかった、後でガムおごるからさぁ~」
真姫「いらない!っていうかそれお会計でもらえるガムをくれるだけのつもりでしょ!?」
ことり「……」
花陽「ことりちゃん、さっきから静かだけど…」モグモグ
凛「大丈夫にゃ?」
真姫「ことり?もしかして腕が痛むの?やっぱりすぐに病院へ行った方が」
(・8・) 「ワタシはことり神」
(・8・) 「一年生の皆さん。そこに並んでください」
花陽・凛・真姫『え?』
(・8・) 「あなたたちは可愛すぎます。重罪です」
(・8・) 「あなたたちをことりのフルコースにします。凛ちゃんは前菜。花陽ちゃんはサラダ。真姫ちゃんはスープです」
花陽・凛・真姫(ガクガクブルブル)
チュンチュンチュンチュンチュンチュン!
ピャアアアア!!!
にゃああああ!!!
ヴェエエエエ!!!
にこ(ちょっ、ことりが悪質なキス魔に…!どうなって…)
絵里(あら?この瓶は何かしら)
にこ(理事長が置いていったやつでしょ?)
絵里(…ええと、紹興酒…)
にこ(……さっきことり、このジュースなんだろ?おいし~♪とか言って…)
絵里(でもこれ、空っぽ…)
希(アカン)
(・8・) 「三年の皆さん」
(・8・) 「可愛すぎます」
ハラァアアア!!!
やぁあああん!!!
にこぉおおお!!!
(・8・) ギロッ
海未「ひっ…こ、ことりがこっちを向いて…!」
穂乃果「さらば海未ちゃん!三十六計逃げるになんとか!!」ダダッ!!
海未「あっ卑怯ですよ穂乃果!あとそこまで覚えてるならちゃんと最後まで言いなさ(・8・) 「海未ちゃん」
う゛ぁああああ!!!
~店外~
穂乃果「おー怖っ。海未ちゃん囮作戦大成功だよっ」
穂乃果「ふぅ、夜風が気持ちいい…」
ツバサ「―――キャッチボールをしたあの夜みたいね…穂乃果さん」
穂乃果「あっ…!ツバサさ…!……じゃなかった、よね」
ツバサ「…そうね、ふふ。間違っちゃった」
穂乃果「ツバサちゃん」
ツバサ「穂乃果ちゃん」
穂乃果「えへへっ」
ツバサ「ふふっ…」
英玲奈「こんばんは、高坂さん」
あんじゅ「こんばんはぁ」
穂乃果「あ、英玲奈さん!あんじゅさん!こんばんは!えっと…今日の試合は」
英玲奈「ああ、本当に…いい試合だった」
あんじゅ「優勝、おめでとう」
穂乃果「えへへ…ありがとう」
ツバサ「……」
ツバサ「あの、ね…?
……穂乃果ちゃん、私とあなたって…」
穂乃果「友達だよ」
ツバサ「……!」
穂乃果「友達だよ、ツバサちゃん!」
ツバサ「うん……うん…っ!
……あの…英玲奈、あんじゅ…二人も、私の…」
英玲奈「当たり前だろう」
あんじゅ「ふふ…今更?」
穂乃果「それにツバサちゃん!穂乃果との約束…まさか忘れてないよね~?」
ツバサ「約束…」
穂乃果「私や英玲奈さんあんじゅさんだけじゃないよ!音ノ木坂のみんなとも友達になろう!そしてまたみんなで!野球をしようよ!」
ツバサ「うん…うんっ…!」
ガシィッ
穂乃果「んん…?もう!爽やかな話をしてるのに背後から肩を掴んで邪魔するのは誰かなぁ!」
(・8・)「唇を捧げよ」
穂乃果「こ……ことり神様!」
海未「……逃げましたね?穂乃果」
穂乃果「なんかキスマークまみれになってて破廉恥な海未ちゃん!」
海未「……希からの言伝です。『高坂脱走兵、貴様に焼肉大食いデスマッチを申し込む!逃げたら…三年生一同、ジェットストリーム生ワシワシ行くよぉ~?』だ、そうです」
(・8・) 「おら、戻るぞハノケ!」ガシィ
穂乃果「ちょ、キャラ!キャラ崩壊やばいよことりちゃん!?海未ちゃんも目が据わってるし!!
ああああああ!!!ツバサちゃーん!今度ご飯行こうねー!英玲奈さんもあんじゅさんもぉぉぉぉ…」ズルズルズル…
ツバサ「……ふふ、嵐みたいに行っちゃった」
あんじゅ「ほんと、楽しそう。いいチームね、音ノ木坂って」
英玲奈「ああ、本当にな…」
英玲奈「そういえばあんじゅ、絢瀬絵里が東條希に付き添われて謝りに来たあの後…二人で話をしていたが、結局どうなったんだ」
あんじゅ「……ジュースをね、奢ってもらったわ」
英玲奈「フフ…そうか、良かったじゃないか。学生らしくて」
ツバサ「……ぅ…っ……」
英玲奈「おい、ツバサ…」
あんじゅ「大丈夫…?また、どこか痛むの?」
ツバサ「…うう…っ…ぐす…ひっく…」ポタ…ポタ
英玲奈「泣いてる…のか…?」
ツバサ「…悔しいよぉ…勝ちたかったよぉ…!」ポロポロ
あんじゅ「ツバサ…っ、そうね…そうだね…っ…」ポロポロ
英玲奈「私も…勝ちたかった…お前たちと一緒に…っ!」ポロポロ
ツバサ「ひっく…ひっく…っ……、ヤケ食いよ…!英玲奈!あんじゅ!それに……佐藤さんや、野球部のみんなと!一緒にヤケ食いに行こうっ!!」
英玲奈「……ツバサ!!名前…っ、ああっ…そうしよう…!そうしよう!」
あんじゅ「ツバサ…!ツバサぁっ…!!よかった…よかったぁ…!本当に…!」
穂乃果「ツバサちゃああああんんんん!!!!!」
ツバサ「え、戻ってきた…?」
英玲奈「口に焼肉がねじ込まれたまま喋ってるな」
ツバサ「ええ…頭にゼリーが乗ってる…」
あんじゅ「器用な子…」
穂乃果「ツバサちゃんっ!」ゴソゴソ
ツバサ「なに?穂乃果ちゃん」
穂乃果「これ!」
ツバサ「あ、ゴムボール!」
穂乃果「キャッチボール!もう一球、行くよっ!!!」
ツバサ「……うんっ!穂乃果ちゃんっ!!!」
fin?
♯おまけ
花陽「た、大変ですっ!!!!」
穂乃果「私たちが…」
全員『アメリカで試合~!!!???』
にこ「し、しかも!μ'sと新井ズの合同チームゥウウ!!!?」
ツバサ「待たせたわね…!不世出の天才スーパースターこと…綺羅ツバサちゃんwith他二名のお出ましよッ!!」
英玲奈「おいこら」
あんじゅ「抓るわよ?」
にこ「若干キャラ被りぃ!!??」
花陽「四六時中パンパンパン!グルテンの塊ばかりを食べ続ける愚鈍な毛唐どもにジャパニーズライスパゥアを思い知らせてやるの!!」
凛「凛はボディビルダーになったかよちんも好きにゃ~」
英玲奈『メインシステム 戦闘モード起動』
海未「英玲奈!貴女まさか!?」
穂乃果「ことりちゃんがロボトミー手術!?」
真姫「トミージョンだって言ってるでしょ!!」
希「せっかくだから色々楽しみなさい、だって」
絵里「だって♪」
あんじゅ「ねえ絵里…あなた今、わかってなかったでしょう?」
絵里「!?」
ことり「もう一度…もう一度…!」
『μ's!!!!!!!!!』
『アンド~?』
『新井ズ!!!』
全員『ベースボール!!!スタート!!!』
穂乃果「野球で廃校を救うよ!」~ワールドシリーズ~ coming soon…\デデェン/
♯おまけ3
音ノ木坂ナイン個人打撃成績
【星空凛】
.310 0本 1打点 6盗塁
【詳細】
打席 30
打数 29
安打 9
二塁打 2
三塁打 1
打点 1
三振 11
四死球 1
盗塁 6
打率 .310
出塁率 .333
長打率 .367
OPS .700
【矢澤にこ】
.263 0本 1打点
【詳細】
打席 29
打数 19
安打 5
二塁打 1
打点 1
三振 4
四死球 7
犠打 3
打率 .263
出塁率 .462
長打率 .316
OPS .778
【高坂穂乃果】
.346 3本 11打点
【詳細】
打席 29
打数 26
安打 9
二塁打 3
本塁打 3
打点 11
三振 8
四死球 3
併殺打 3
打率 346
出塁率 .413
長打率 .808
OPS 1.221
【絢瀬絵里】
.478 1本 5打点 2盗塁
【詳細】
打席 27
打数 23
安打 11
二塁打 3
三塁打 1
本塁打 1
打点 5
三振 3
四死球 4
盗塁 2
打率 .478
出塁率 .556
長打率 .869
OPS 1.425
【東條希】
.423 5本 9打点 1盗塁
【詳細】
打席 28
打数 26
安打 11
二塁打 3
本塁打 5
打点 9
三振 6
四死球 2
盗塁 1
併殺打 1
打率 .423
出塁率 .464
長打率 1.036
OPS 1.5
【園田海未】
.400 1本 6打点 1盗塁
【詳細】
打席 26
打数 20
安打 8
二塁打 1
三塁打 1
本塁打 1
打点 6
三振 4
四死球 3
犠打 2
犠飛 1
盗塁 1
打率 .400
出塁率 .458
長打率 .700
OPS .1.158
【小泉花陽】
.238 0本 2打点
【詳細】
打席 25
打数 21
安打 5
打点 2
三振 2
四死球 2
犠打 1
犠飛 1
併殺打 1
打率 .238
出塁率 .292
長打率 .238
OPS .530
【南ことり】
.250 0本 0打点
【詳細】
打席 25
打数 24
安打 6
三振 6
四死球 1
打率 .250
出塁率 .280
長打率 .250
OPS .530
【西木野真姫】
.091 1本 2打点
【詳細】
打席 25
打数 22
安打 2
本塁打 1
打点 2
三振 15
四死球 2
犠打 1
併殺打 1
打率 .091
出塁率 .167
長打率 .227
OPS .394
384 : 以下、名... - 2015/08/16 02:54:06.64 0o5LO+54o 357/357終わり
>>380のスコアシートを作ってくれた元スレ>>771ありがとう!