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【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」【前編】
♯18
真姫「優木あんじゅの事はわかったわ。で、他にも話があるんでしょ?」
海未「ええ、ここからはにこ、お願いします」
にこ「それじゃあ~?今からぁ~にこにーがあなたたちにぃ~女子高校野球のヒ・ミ・ツをぉ~」
凛「それ寒いからさっさと進めるにゃー」
にこ「ちょっと凛!ひっぱたくわよ!ったく…えーっと、話ね。今からあんたたちに女子高校野球ってものを一から説明してやるわ」
穂乃果「え、にこちゃん何言ってるの?もうみんな野球やってるのに」
にこ「甘い!今の音ノ木坂野球部はただ野球をやってるだけ!女子高校野球のスタートラインにも立てていないわ!花陽、映像プリーズ!」
花陽「了解にこちゃん!」ポチッ
\ワーワーワー ピーッピッ ドンドンドン/
希「これもUTXの試合?でもなんか随分賑やかやね」
花陽「うん、これは春の全国大会の決勝だよ」
絵里「へえ、男子の甲子園とは違ってドーム球場で開催されてるのね」
花陽「うん、女子の大会は決勝だけがアキバドームで開催されるんだ。まだ歴史の浅い大会だから、他の試合は普通の球場でやるんだけどね」
絵里「華やかね…歓声に鳴り物の応援に、なんだか見てるとわくわくするわ」
凛「あ、綺羅ツバサが投げてるよ」
スパァン! ットライック! ワーワーワー!
真姫「131キロ…!流石に速いわね、男子レベルじゃない」
にこ「女子野球での130キロは一つの壁って言われてたの。なのにツバサは平均球速で130オーバー。完全に怪物よ」
花陽「しかも、ツバサさんの球は打席に立つともっと速く感じるんだって。左投手は5キロ増して見えるなんて話もあるし、手元が見えにくいフォームでスピン量も多いから、ストレート自体が魔球なんて言われてるんだよ」
にこ「故に、『魔術師』 綺羅ツバサってね」
ことり「ふぇ~すごいね……あ、三振。チェンジだね」
にこ「ここからよ。UTXの攻撃、よーく見ておきなさい」
『三回の裏 UTX高校の攻撃は 三番 ピッチャー 綺羅さん』
♪ダンシンダンシンノンストップダンシン ダンシンダンシン レッミードゥ!
ことり「えっ、音楽?」
絵里「これって場内放送よね?これは…プロ野球みたいな登場曲ってこと?」
にこ「そうよ、女子高校野球では出囃子の使用が認められているの。それだけじゃないわ」
【UTX応援団】
\モット シリターイシリターイ カジョウナマインッ/
希「わぁ、応援の迫力すごいなぁ…応援も今の曲を使っとるんやね」
花陽「私はこの映像、何度も見てるんだけど…明らかに相手のピッチャーが応援に委縮しちゃってるんです」
海未「確かに、この場にいたら圧倒されてしまうでしょうね…」
キィン!
海未「あっ、ホームラン…」
にこ「……と、まあ映像を見てもらったわけだけど。男子高校野球との違い、わかってもらえたわよね」
ことり「音楽が流せるってところ?」
にこ「それは表面的な部分に過ぎないわ。大事なのは、女子高校野球は男子と比べて、興行性が強いって点」
海未「興行性、ですか?」
にこ「そ、興行性。運営の商売っ気が強くてアイドル的とでも言い換えた方がわかりやすいかしら?
プレーのレベルはどうしても男子に劣る以上、求められてるのはプレーだけじゃない、容姿もなの。その点うちはにこを筆頭に全員ルックスが悪くないから、それは大きな利点よ」
真姫「…誰を筆頭にって?」
にこ「何よ!文句ある!?」
穂乃果「んー、でもにこちゃん、アイドルっぽく人気があってファンが多かったら試合で有利になるってわけじゃないでしょ?」
にこ「はい甘い。いい?穂乃果。私たちアマチュアのプレーってのは研鑽を重ねたプロとは違う、とても不安定なものよ。雰囲気、メンタルに大きく左右されるのなの。アンタ、男子の甲子園大会はよく見る?」
穂乃果「あんまりちゃんと見たことないなぁ。お父さんが夜に熱闘甲子園見てるのをたまに隣で見るぐらいで」
にこ「甲子園でね、沖縄代表って結構勝ち進むことが多いの。指導者がいい、温暖で冬場も練習しやすいとかの理由も大きいんだけど、試合でモノを言うのはあの応援よ」
ことり「あ、それ見たことあるよ。指笛を吹いたり民謡を演奏したり、応援が独特ですごいよね♪」
にこ「そう、それなのよ。ハイサイおじさんが演奏され始めるとガラリと流れが変わっちゃうの。魔曲なんて呼ぶ人もいるぐらいよ」
花陽「他にも智弁和歌山のジョックロック、常総の神風、龍谷大平安の怪しいボレロとか…挙げていったらキリがないぐらいあるんだよ」
にこ「にこ的には横浜高校の第5応援歌がイチオシね~!あの軽快なスネアに乗って延々攻撃が続くんじゃないかって錯覚しちゃうわ!」
花陽「ぅああぁ!横浜の第5いいよねぇっ!あのリズムを脳内再生しちゃうよぉ!うーん私は挙げるならレッツゴー習志野かなぁ!」
にこ「習志野!あれはもう純粋に演奏レベルがズバ抜けてるわよね~!統率された音の暴力って感じ?レッツゴー以外でもエスパニアカーニからのエルクンバンチェロなんかも鳥肌よ鳥肌!」
花陽「ふぁぁああ!たまらないよねえぇぇえ!あ、前橋育英の高速アルプス一万尺とかもいいよね!」
にこ「あれは攻撃力高いわよね~!!個人的にはジョックロック並にエグいんじゃないかと思ってるわ。智弁和歌山だとシロクマもかっこいいわよね~!」
花陽「わっかるなぁあぁ!!!あとあと定番シリーズだとサウスポーも外せないよね!」
にこ「もっちろんよ!ザ・王道よね!!」
真姫「二人で盛り上がってるけど、全然ピンと来ないわね…」
凛「凛は楽しそうなかよちんが好きだよ」
希「応援歌ねー。甲子園の魔物ってやつ?」
にこ「そうね、間違いなく魔物の一種よ!…で、女子に話を戻すわ。さっきの映像、花陽が言ってくれたけど、UTXの応援に相手のピッチャーが萎縮してたでしょ?
アマチュア野球ではね、観客をより多く味方に付けて大声援で相手を威嚇するのも大切な戦術の一つなのよ」
穂乃果「なるほどー、なんとなくだけどわかったよ。あのUTXの曲とかかっこいいなぁ…って思ったもん。っていうかあれって歌ってるのツバサさんたち?」
凛「凛も思った!あれ、あの三人の声だったよね!」
にこ「正解よ。あのshocking partyって曲はツバサ、英玲奈、あんじゅの三人が歌ってるわ」
凛「どういうこと?野球の練習をして歌の練習までしてるの?」
にこ「さすがにそれは無理よ。歌は最低限の練習をして録音、あとはUTXの関係者が音声をミックスして完成版にしてるらしいわ」
穂乃果「ミックスって?」
にこ「ほら、プロの歌手でもライブだとヘタクソとかよくいるでしょ?エフェクトとか音量調整とか色々やって加工して上手な感じにする仕事のプロがいるのよ。
そんな過程を経て、shocking partyはネットで無料公開されててファンの大量獲得に繋がっているわけよ」
穂乃果「な、なるほど~」
海未「なにやら話を聞く限りはすごく大変そうですが…そこまでするメリットはあるのでしょうか?」
にこ「さっきの映像、スタンドを見た?高校生同士の試合なのに、7割以上はUTXファンよ。
出囃子にクオリティの高いオリジナル楽曲を用意、応援も洗練、完成されてて、本人たちはズバ抜けた実力と整ったルックス。これだけ揃えてるからこそUTXは最強なの」
海未「つまり、こういう事ですか?UTXと同じ土俵で対等に戦うためには、あれと同じレベルの楽曲を用意して目立ち、私たちのファンを増やす必要がある、と」
にこ「……必ずしも曲、とは言わないわ。とにかく、なんとかしてファンを増やす必要があるのよ。アキバドームのスタンドの半分を埋められるほどにね」
希「目立ってファンを増やす方法かぁ…練習風景を撮影してネットに上げてみる?」
にこ「やってみてもいいけど、UTXのインパクトには遠く及ばないわね…」
絵里「けど私たちの中に作曲をできる人なんて…」
にこ「…地力で劣ってる以上、せめて応援は同レベルにまで高めないと万に一つの勝ちも拾えないわ。応援の圧は相手への有効な攻撃手段の一つ。高校野球ってのは、スタンドまで含めた学校同士の総力戦なんだから」
海未(くっ、もし負けてしまったら…)
~~~~~
ツバサ『あはははは!私の勝ちね!約束通り穂乃果さんはいただいていくわ!』
穂乃果『海未ち ゃん!ことりちゃん!助けてぇ!』
海未『穂乃果ぁ!』
ことり『ハノケチェン!』
ツバサ『無駄よ穂乃果さん!さあ孕むのよ!綺羅の子を!』
穂乃果『嫌ぁぁあああああ!!!!』ビクンビクン
~~~~~
海未「駄目です!!!!」バァン!
絵里「ひっ!う、海未…いきなり机を叩かないでよ…」
にこ「UTXに負けてから定期的に発作が出るわね…怖いっての…」
希「穂乃果ちゃんを連れ去られるかもしれないってショックは相当深いみたいやね…」
穂乃果「よしよし海未ちゃん、絶対に勝とうね。穂乃果はずっと一緒だからね」ナデナデ
海未「穂乃果ぁ…」
ことり(海未ちゃん…穂乃果ちゃんの事はことりも同じ気持ちだけど、海未ちゃんの頭の中はたぶん、ちょっと変な妄想になってるんだろうなぁ。覗いてみたいなぁ…)
真姫「曲、作れるけど」
にこ「は?」
真姫「作れるって言ったのよ、あれぐらいの曲」クルクル
にこ「いやいや…素人の趣味レベルじゃお話にならないわよ?」
花陽「私と凛ちゃん、真姫ちゃんの作った曲を聴かせてもらったことがあるんだけど、とっても素敵な曲だったよ」
凛「うんうん!歌もピアノも上手だったし、すごく綺麗なメロディーだったにゃー!」
真姫「でっしょー?」フフン
にこ「うーん…地味な曲じゃダメよ?試合中なんだから盛り上がる曲じゃないと」
真姫「楽勝だって言ってるの。JPOPでもレトロでもメタルでも電波でも、どんな曲調だって作ってみせるんだから。この天才マッキーに全て任せなさい?」
穂乃果(真姫ちゃんクラシックとかジャズしか聴かないって言ってたのになぁ)
【数日後】
♪シャカシャカシャカ
凛「うぅ~ん!いい曲だにゃ~!!」
真姫「デッショー?」
絵里「驚いたわね…まさか土日だけで一曲仕上げてくるなんて」
希「クオリティもめっちゃ高いしなぁ、真姫ちゃんってば一体どんな手品を使ったん?」
真姫「そんな難しい事はしてないわよ。趣味で作りためてたメロディーが何個かあったから、その中からノリがいいのを選んでプロに依頼して編曲をしてもらっただけ」
花陽「ええっ!プロにタノンジャッタノォ!?」
真姫「何よ、別に悪い事じゃないでしょ?プロの歌手たちだって編曲は専門の人に任せてるのがほとんどなのよ」
花陽「そ、そうじゃなくて…お金かかっちゃったんじゃ…?」
真姫「お金?ああ、何万かかかったみたいだけど気にしなくていいわよ。パパが出してくれたから」
海未「そんな!それでは真姫のお父様に申し訳ありません!」
真姫「いいのよ、うちのパパ無趣味で、お金を持て余してるから。可愛い娘の助けになれて嬉しかったんじゃないかしら」
海未「そ、そうなのですか…?」
穂乃果「いやー真姫ちゃんお姫様だねえ」
にこ「親バカね」
真姫「あとは歌詞を付けて声を入れてミックスを依頼して完成だけど、誰か歌詞は書ける?私は無理よ」
花陽「歌詞かぁ、私もあんまり得意じゃないなぁ…。 んん、絵里ちゃんとかはどう?」
絵里「えっ私?ううん、正直、全然自信がないわ…」
希「いやー絵里ちには無理やろな」
凛「そうにゃそうにゃ。絵里ちゃんなんかに書かせたらきっと校歌みたいな歌詞になっちゃうよ」
希「もしくは生徒会のスピーチみたいなんになるのが目に見えてるよね。歌なのに、本日はお日柄も良く~で始まったりとか」
絵里「凛~!希~!そんなに言うならあなたたちが書いてみなさい!」
凛「り、凛は遠慮しておきます…」
希「pipipi!スピリチュアル宇宙との交信!上位次元にアセンションプリーズ!キミの心臓キャトルミューティレーション!こんな歌詞で良ければウチが書くけど?」
花陽「心臓抉ラレチャウノォ!?」
希「識れ!畏れよ!人類のカルマ浄化の日は近いのだ!光を!もっと光をぉ~!!」
凛「きょ、教祖さまぁ!」
穂乃果「希様を崇めよ!希様を崇めよ!」
真姫「う、胡散臭い!やめてよね!怪しい団体だと思われちゃうでしょ?!」
海未「希、教団を立ち上げるなら宗教法人の認可をきちんと取らなければいけませんよ」
希「おおう…ガチなアドバイス…」
絵里「まったく…ええと、穂乃果とことりはあんまり向いてなさそうよね。残りは…」
にこ「しょうがないわね~!ここはぁ~ラブリーにこちゃんを褒め称えつつもスーパープリティーな歌詞をぉ~」
海未「ふむ、私で良ければ書いてきてみましょうか?」
にこ「ガン無視ぃ!?」
ことり「ことりも海未ちゃん が書くのに賛成!きっといい歌詞書いてくれるよ~」
希「へぇ、海未ちゃんってそういうの得意なん?」
海未「いえ、得意というわけではないのですが…」
ことり「うふふ、海未ちゃんはね?なんとポエマーさんなの!」
海未「そ、それは昔の話です…恥ずかしいので蒸し返さないでください」
穂乃果「と、言いつつも!海未ちゃんの鍵のかかった机の中には詩を書いたノートが何冊も何冊も!今もなお増え続けているんだよねっ!」
花陽「あっ、現在進行形なんだ…」
絵里「ふふっ、海未がポエム?可愛いところあるのね」
海未「穂乃果、何故あなたがそれを知っているのです…?」ワナワナ…
穂乃果「あっ…か、勝手に見たりしてないよ?海未ちゃんの部屋に行った時に 隙あらば針金でピッキングしたりしてないからね!」
海未「穂乃果ァ!折檻の時間です覚悟なさい!」
穂乃果「ちょ、海未ちゃんごめん!ごめんってば!竹刀はなしだよ!」
ことり「ふふっ、竹刀を振り回してる海未ちゃんも叩かれてる穂乃果ちゃんもか~わいいっ♪」
花陽(ことりちゃん性癖歪んでるなぁ)
真姫「二年組がコント始めちゃったけど、とりあえずポエマー海未に任せるって事でいいのかしら」
絵里「そうね、とりあえず一旦ポエマー海未に任せてみましょうか」
海未「そっ、そのポエマー海未というのはやめてください!」
にこ「ふん、にこにー音頭にすればミリオンセラーも夢じゃなかったのに!」
凛「まあネタとしては聞いてみたかったにゃ ~」
にこ「ケツバットかますわよ」
凛「ひいっ!」
♯19
希「さてさて、曲についてなんとなくまとまったところで。天気もいいし、そろそろ今日からまともに練習再開してかないとやね。と、その前に…絵里ちから大事な話があるんやろ?」
穂乃果「大事な話?」
絵里「ええ…みんな、ちょっと聞いてくれるかしら」
凛「なになに?」
にこ「改まってどうしたのよ」
絵里「ここ一週間、雨であまり練習ができなかったせいもあるけれど、私たちは野球以外の話をする事が多かったわよね。そんな雰囲気で、全員が意識して避けてきた話題があるわ。何だかわかる?」
真姫「……それって」
花陽「あの約束の事、だよね」
絵里「…そう。負けたら穂乃果が転校させられてしまうという約束」
穂乃果「……」
絵里「穂乃果、生徒会長としてもう一度だけ確認しておくわ。夏の大会でUTXに負ける、もしくはUTXと当たる前に敗退した場合、綺羅ツバサとの約束通りにUTXへと転校する。そういう話よね」
穂乃果「いやぁ…あらためて聞くとメチャクチャな話だよね~」
ことり「穂乃果ちゃぁん…どうしてあんな約束を受けちゃったの…?」
穂乃果「場のノリと勢いで、ついつい…」
海未「はあ、これだから穂乃果は…所詮は子供同士の口約束ですし、反故にしてしまう事はできるはずですよ」
穂乃果「えっ、待って待って!約束は約束、ちゃんと守らなくちゃ!」
海未「ですが!」
絵里「ねえ穂乃果、変に律義になる事ないのよ?綺羅さんの言い分には一理もないんだから」
穂乃果「う~ん…ねえ、みんなさ。ツバサさんの事を、どう思った?」
凛「怖い人だなー…って」
真姫「狂人。関わるだけ損なタイプ」
にこ「にこは…やっぱりファンだから、ノーコメント」
穂乃果「あはは…。穂乃果はね、かわいそう。って思ったんだ。助けてあげなくちゃ、って」
穂乃果「私は恵まれてたんだ。家族はみんな優しくて、覚えてないくらい子供の頃からずっと海未ちゃんとことりちゃんがそばにいてくれて、こうしてみんなとも大切な友達になれた」
穂乃果「ツバサさんはどうなんだろう。家族のことはわからないよ?うちみたいに優しい親なのかもしれないし、違うのかもしれない。たぶんだけど、英玲奈さんとあんじゅさんは大切な友達なんだとも思う」
穂乃果「だけど、ツバサさんの心の大事な部分は野球が占めてて、そして野球に関しては、家族や友達…誰にも助けてもらえないぐらいにツバサさんは凄すぎて、孤独なんだよ」
穂乃果「穂乃果がどれだけやれるかは全然わかんないけど、ツバサさんは私が同じぐらいやれるはずだって言って手を差し伸べてきた。それがまるで、助けて、って言ってるみたいに見えちゃったんだ」
穂乃果「英玲奈さんとあんじゅさんが言ってたよね、ツバサを負けさせてあげてほしいって。私もね、一度でも負ければツバサさんの心は解放されるはずだと思う」
穂乃果「だから、自分を賭けて、真剣勝負する。方法は間違ってるのかもしれないけど、穂乃果は頭悪いから、これぐらいしか思いつかなくって。ごめんね、みんなを巻き込んじゃって」
穂乃果「あれ?えっと…あはは、何言ってるんだか自分でよくわかんないや…」
海未「ええ、要領を得ませんね」
穂乃果「だ、だよね~?あはは…」
ことり「だけど、穂乃果ちゃんの気持ちは伝わったよ」
海未「ええ。絶対に、私たちが貴女を負けさせません。綺羅ツバサが敗北で解放されるというのならば好し。苦杯を舐めさせてやりますよ」
穂乃果「海未ちゃんってば言い回しが固いよ~。えへへ、二人ともありがとう」
凛「穂乃果ちゃん!海未ちゃんとことりちゃんだけじゃないよ、凛たちだって穂乃果ちゃんがいなくなったら悲しいよ!出会ってからまだ長くないけど、そんなの関係ないぐらい大好きな友達になれたのに、お別れなんて絶対嫌だ!」
花陽「そうだよ…まだ一緒に遊びに行ったりご飯食べに行ったり、全然できてない!」
にこ「……転校なんてナシよ。野球部の発起人が一抜けなんて許されないんだから。アンタたちいい?UTXを蹴散らすわよ!」
真姫「それに、そもそもの目的の廃校阻止のためには全国優勝ぐらいしなきゃインパクトないわよ。だったらどうせ、UTXに勝つのは絶対条件じゃない。穂乃果が景品にされたぐらいで怖気付いてちゃ論外よ」
希「やっぱりあれやねぇ、元からUTXに喧嘩売ってた組のお二人さんは気合いが違うやん?」
にこ「ふん!いい加減開き直ったわよ!真姫ちゃん、UTXに目にモノ見せてやるわよ!」
真姫「望むところよ!」
穂乃果「よぅし、絶対!絶対勝とうね!みんな!」
全員『おー!!!!』
にこ「気合いが入ったところで今後の練習方針を決めていくわよ!」
穂乃果「方針って、例えば?」
にこ「大会までに練習できる残り期間ってそこまで長くはないでしょ?うちみたいに経験の浅いチームが勝ちあがっていくためには、長所を伸ばして勢いでゴリ押し。これしかないわ」
花陽「確かに…基礎力の積み重ねではどうしたって長く練習してきたチームには劣るよね。だったら個人個人の長所で押し勝つのが正しい判断かも」
凛「個の力ってやつ?」
希「自分たちのサッカー?」
海未「野球です!」
穂乃果「急に打球が来たので…」
海未「試合中に打球から視線を切るなと言ったでしょう!たるんでいます!千本ノックです!」
穂乃果「鬼ぃ!」
絵里「……で、個人の強化って言ってもどうすればいいのかしら?」
にこ「簡単よ。チームを分けて練習するの」
ことり「チームを?どんな感じで?」
にこ「この前の試合の映像を何度も見返して、UTX一軍にそのまま通用しそうだったのは希、絵里、そして私の三人。これは自惚れじゃなくて客観的な意見よ」
海未「そうですね、やはり三年生は攻守に高いレベルでバランスが取れているなと感じました」
にこ「ま、海未とことりのバッテリーもいい線いってるんだけど、求められるレベルも高いから別枠ね。で、それを踏まえて!にこたち三年がそれぞれタイプ別に後輩を直接指導する練習を組み入れようってわけ」
希「ウチらで指導かぁ、上手く教えられるやろか」
にこ「やってもらわなきゃ困るのよ。希は穂乃果と真姫ちゃんを指導して、長打力を伸ばしてやって」
穂乃果「あ、いいねいいね!穂乃果も希ちゃんみたいにホームラン打ってみたかったんだ!」
真姫「にこちゃんったら、この私のアーチストセンスを見抜いて長打を期待してるってワケね。いいわ、やってやろうじゃない」
にこ「穂乃果、アンタ大口叩いてたけど全っ然まだまだ素人に毛が生えたようなもんよ。希にスラッガーのなんたるかを叩き込んでもらいなさい!
真姫ちゃんはまあ…いっそ振り回してもらって出会い頭の一発に期待した方がマシかなって」
希「なるほど、納得やん。それじゃ、穂乃果ちゃんと真姫ちゃんよろしくな?」
穂乃果「うん!よろしくお願いします希先生っ!」
真姫「いい?未完の大器こと、この真姫ちゃんを指導するからには責任をもって最強バッターに育て上げるのよ?」
希「あはは…善処するわ」
にこ「で、絵里。花陽と凛を指導してあげて」
絵里「了解よ。二人には何を意識して教えればいいのかしら?」
にこ「ザックリ言えば巧打力ね。まず凛の課題はバットに当てる事。当たりさえすればその足でなんとかなるんだから、一番ミートの上手い絵里にコツを教えてもらうのよ」
凛「了解にゃ!絵里ちゃんチームで一番綺麗なバッティングしてるもんねー」
絵里「あら凛、褒めたって何にも出ないわよ?ふふっ」
にこ「花陽は凛とは逆。この前の試合と普段のデータを合わせて見て、ほとんど空振りをしてない。コンタクト率がチームでトップクラスなのよね」
花陽「うん…ヒット出てないし、地味な指標だけどね…」
にこ「何言ってんのよ。野球に詳しいアンタならコンタクト率の大切さは理解してるでしょ?あとは芯に当てるだけ。絵里に指導してもらうのね。守備もいいし、頼りにしてるわよ、花陽!」
花陽「にこちゃん…うん、わかった。よろしくお願いします、絵里ちゃん!」
絵里「ええ!よろしくね、花陽!」
にこ「さて、にこは海未とことり、アンタらバッテリー組を指導するわ」
海未「よろしくお願いします、にこ」
ことり「よろしくね、にこちゃん♪」
にこ「ん、よろしく。にこたちは他2チームとは別、実戦的な部分を強化していくつもりだから。特にことりのフィールディングには課題ありね。他にも牽制とかクイックモーションだとか、まあ諸々やってくわよ」
海未「可能であればことりの球種も増やしたいところですが…」
にこ「確かにね。オッケー、そこも一緒にやってみましょう」
♯20
【チーム絵里】
絵里「さて、全員での総合練習を終えてグループ別に別れた訳だけど」
花陽「え、絵里ちゃん、なんでっ…?」
凛「なんで凛たち、トレーニング室の大鏡の前でバレエの服を着てるの~!?」
絵里「ふふふ、よくぞ聞いてくれたわねっ…今から二人にやってもらうのは…」
絵里「エリチカ式バレエレッスンよぉ!」ババッ!
花陽「バレリーナにナッチャウノォ!!?」
凛「なんでぇ!?凛たち野球の練習をしなきゃいけないのに~!」
絵里「あはは、安心して二人とも。何も野球に役立たない事をさせようって訳じゃないわ。この練習の意図はね……っと、言葉よりも実際にやってみた方が早いかもね」
絵里「ストレッチは十分したわよね…よしっ、それじゃ二人とも、今から私が取るポーズをよく見てね?よいしょっ…」
花陽「片足立ちになって…もう片方の脚を後ろに上げて…」
凛「手をすらりと伸ばして…おぉ~!」
花陽「すごい絵里ちゃん!素敵です!」
絵里「ふふ、ありがと。この姿勢、アラベスクって言うの。バレエの基本の一つなのよ。見た事あるでしょう?」
凛「うんうん!テレビとかで見た事あるバレリーナのポーズだにゃ~!」
絵里「それじゃあ、この姿勢を二人もやってみて?」
凛「えっ凛たちが?」
絵里「そうよー。ほら、片足で立って?手を伸ばして…はい!そのままキープ!」
花陽「わ、わわっ!」ドサッ
凛「ふ 、ふらつくにゃ~!」ズテン
絵里「うーん、二人とも思った以上に保たないわね…」
花陽「これ、私には難しいよぉ絵里ちゃん…」
凛「凛も凛もー。走るのとか思いっきり動くのは好きだけど、こういうじいっとしてるのって苦手だよ!」
絵里「そうよね。そしてそこが、二人の強化ポイントってわけ。この意味がわかるかしら?」
凛「えーっ、かよちんお願い!」
花陽「うーんと、もしかして…体幹?」
絵里「ハラショー♪正解よ花陽。それプラス、柔軟性かな」
凛「体幹って何ー?」
花陽「体のバランス力、みたいなものかな」
絵里「私から見て、二人に共通してる弱点は体のブレだと思う。凛は静止時のブレのせいでボールへの目付けが悪くなってる 。花陽は動作時のブレでスイングが安定してなくて、そのせいでボールを芯で打ててない」
花陽「た、確かに…」
絵里「それを改善するために、私が教えてあげられる事は何かしら?そう考えたら、やっぱりバレエしかないなって。そう思ったのよ」
花陽「か、かしこい…」
凛「絵里ちゃん質問!バレエってそんなに体幹を鍛えられるの?」
絵里「ええ、それはもう!バレリーナは姿勢に筋を通して美しく立つのが基本なの。だから日常生活から常に背筋を伸ばしてバランスを意識するのよ。
そんなバレリーナのための練習メニューには、効率のいい体幹トレーニングが山ほど詰まってる、ってわけ。納得してもらえたかしら?」
凛・花陽「「なるほどー」」
絵里「あと、真姫にスポーツ医学的な面から練習メニューを確認してもらったわ。怪我のリスクも低いし理想的って真姫のお墨付き。さ、ビシバシしごいていくから覚悟してね?まずは徹底的にストレッチ!柔軟性を上げる事は全てにつながるわ!」
凛「ううっ、柔軟もバランスも嫌いにゃ~」
花陽「お、お手柔らかにお願いしますっ…」
【チーム希】
希「さてとー、ウチらもグループ練習に取り組んでこっか。二人とも、頑張ろ!」
希・穂乃果「「おー!!」」
真姫「……? ぉ、おー!」
穂乃果「よしよし、真姫ちゃんは可愛いなぁ~」ナデナデ
希「そうやなぁ愛でたくなるわ~」ナデナデ
真姫「ナデナイデ!ほ、ほら二人とも、練習するわよ!」
穂乃果「早速だけど希ちゃんっ!ホームランの打ち方教えてくださいお願いしますっ!」
希「うおお、グイグイ来るなぁ穂乃果ちゃん」
穂乃果「だって羨ましいんだよ~!穂乃果も希ちゃんみたいにバシーッと遠くに飛ばしてゆーっくりダイヤモンドを一周したいよ!」
真姫「それは同感。グラウンド上をパーフェクトに支配できるあの時間、空間…この私にこそ相応しいと思わない?」
希(真姫ちゃんはブレへんなぁ…鋼メンタル。その辺、本人の言う未完の大器っぽさも確かにあるんよね)
希「よーし、それじゃ二人とも、ホームラン打つために筋トレと素振りな?」
穂乃果「うええ!?」
真姫「ヴぇえ!?」
希「え、どしたん?二人揃って驚いたりして」
穂乃果「い、いやー…希ちゃんに教えてもらう感じだったら、もっとガンガン打てるようになる謎のおまじない的なのとか?」
真姫「相手のピッチャーが腹痛をおこす呪文とか。そういうの期待してたんだけど」
希「いやいやいや、ウチ魔女とかじゃないからね?」
穂乃果「あはは…そうだよね~。でもでも!素振りと筋トレって穂乃果たちだって毎日やってるよ?」
希「そやなぁ。ウチの一日のトレーニングメニュー見てみる?はい、書き出したメモ」ペラ
穂乃果「ふむふむ…ほ、ほうほう。ええ、なにこれ!」
真姫「希、こんなのオーバーワーク一歩手前じゃない!影でこんな無茶してたわけ?」
希「組んでくれてるメニューを無視する形になっちゃってごめんな?でも、女子の筋力、体格でホームランが打ちたいならこんぐらいせんとね」
真姫「た、確かに正論かもしれないけど…」
希「ふふ、ホームランは一朝一夕にしてならず。一にも二にもスイングスピードの向上!素振りと筋トレで今より強くバットを振れるように!」
希「二人のスイングスピードを上げるべきってのはにこっちとも相談して決めた事なんよ。穂乃果ちゃんは打席に入る時、ピッチャーが投げるボールを直球か変化球か、どのコースに来るか、予想しながら打ってる?」
穂乃果「え? 来た球をそのまま打ってるだけだよ」
真姫「そんなのでよく打てるわね…」
穂乃果「野球ってみんなそうじゃないの?」
希「うん、やっぱり穂乃果ちゃんは天才タイプやね。大ざっぱなスタイルに対応できるだけの動体視力と反応速度がある。スイングスピードを上げて、もっとボールを長く見る余裕ができればバッチリ安定するはず!」
穂乃果「ホームラン打てるかな!」
希「打てる打てる!少しだけ真芯をずらして打つとか、そういう細かいコツもあるんよ。その辺も教えてくからね」
真姫「……」クルクル
希「ふふ、心配せんでも、真姫ちゃんも打てるようにするからね?」
真姫「べっ!別に心配とかしてない!」
希「その調子その調子。真姫ちゃんは理想のスイングを追及してるってだけあって、フォームの形はいいんよね。ただし、振り遅れてる。ならスイングスピードを上げてくのが一番やん?」
真姫「ふぅん、ま…希の言う通りにしてあげてもいいけど」
穂乃果「よーし、目標!穂乃果たち三人でUTXからホームラン打とう!」
希「うん、ウチらで試合を決めよ!」
真姫「やってやろうじゃない!」
【チームにこ】
にこ「ことり、しっかり汗を拭いときなさい?」
ことり「う、うん…」
にこ「海未、顔を洗った後はしっかり保湿よ?」
海未「はい…」
にこ「スキンケアが終わったら表情の練習よ。いい?にこに続けて…はい!にっこにっこにー!」
海未「に、にっこにっこn」
ことり「って、にこちゃ~ん、これ何の練習なの?」
海未「はっ!そ、そうですよ!これのどこが野球に関係あるのです!それに今は小休憩中とはいえ、まだ練習するのに清潔にしたところで…」
にこ「何よ、今の今までフィールディングの練習をみっちりさせてたから少し休息させてあげようって慈愛溢れる先輩心がわからないとは言わせないわよ?
それと、ピッチャーの顔は大事!練習の合間だって隙あらば洗顔とケアしておくこと!甲子園で斎藤祐樹が大人気だったのとか知らない?物心は付いてた年齢だしなんとなく覚えてるでしょ?」
ことり「し、知ってるけど…ことりはああいう持ち上げられ方はちょっと嫌かな…」
にこ「けど、あの応援に背中を押されて優勝したのも事実よ。まあ高校時代の斎藤は実力もちゃんとあったんだけどね。
まっ、うちの場合はにこがセンターで可愛さをバッチリ担当しておいてあげるけどぉ?あんたたちもせめて肌のケアぐらいはしときなさいよ」
海未「はぁ、にこは計算高いのですね…」
ことり「了解っ♪ スキンケア頑張りまぁす」
にこ「よろしい。じゃ、ぼちぼち変化球の開発でもしてみようかしらね。にこのコレクションしてる野球資料から役に立ちそうな部分をコピーしてきたから」
海未「おや、意外と少ないのですね」
にこ「アンダースローの実践的な指導書みたいなのってあんまり多くないのよね。正直、参考になるかはわかんないわ」
海未「なるほど…確かに書店などにあるプロ選手の変化球バイブルなども上手投げ投手の著書がほとんどですね」
にこ「ついでに男子と女子が手の大きさも身体の構造も違う。難しいとこよねー」
ことり「そうなんだね。うーん、今投げられるのはストレートとカーブとシンカー(ことりボール)。他に覚えるとしたらどんな球かな?」
にこ「ま、ベタなのはスライダーよね。アンダーのスライダーは特殊な回転をするらしいから、上手く習得できれば武器になるかも」
海未「UTXが使っていたツーシーム、あれはアンダーには合わないのでしょうか?」
にこ「投げられない事はないと思うけど、オススメしないわ。ツーシームってね、本来はあんまり高校野球で使われてないの。芯を外したところで金属バットじゃそこまで打球の勢いを殺せないから」
ことり「えっ、じゃあどうしてUTXは使っているの?」
にこ「まあ、女子野球だから男子よりは打球が弱いってのが一つ。そして決定的なのは英玲奈の先読み守備。あれがあるからこそ、少し打球を弱められるだけで十分なのよ」
海未「ははぁ…、なるほど。では導入は無理ですね、私に彼女の真似ができるとも思えませんし」
にこ「気にしない事ね。あんなの誰も真似できないわよ…。ま、変化球に関しては頭で考えるよりは実践よね。色々やってみましょ」
ことり「オリジナルの球を開発するぐらいのつもりでやった方が良さそうかなぁ」
海未「時間は短いですが、焦らずに挑戦してみましょうか」
ことり「うん、頑張りますっ。私たちで穂乃果ちゃんを守るんだから」
海未「ええ、もちろんです!誰もが目を見張る魔球を生み出してやりましょう!」
♯21
【更衣室前】
花陽「はぁ…疲れたなぁ。ふくらはぎとかパンパンだよぉ」
凛「グループ練習始めてそろそろ一週間経つけど慣れないなあ…っていうか絵里ちゃん、バレエ練習だとやたらと厳しいにゃー」
希「お、花陽ちゃん凛ちゃんお疲れー。どう?絵里ちのシゴキはキツいやろ~」
凛「超キツいよー!絵里ちゃんなんかやたらとキリッとしてるし変にかしこそうだし!」
花陽「だねぇ…あ、でも絵里ちゃんのバレリーナ姿、とってもキレイで憧れちゃうなぁ」
希「ふふ、そうやろー?ウチもあの絵里ちはぜひぜひみんなに見て欲しかったんよね」
凛「うんうん、凛もそれは思うな!…けどスパルタにゃ~!希ち ゃんに練習見てもらった方が楽だったかもなあ」
希「ん~、それはどうやろなぁ~?」
ズズ…ズズ…
凛「にゃ?何の音?」
花陽「な、なんだろ?何か…生き物が這いずるみたいな…」
『ゥウ……ゥ゛ェ゛ェアア……』
凛「う、呻き声がするよ?」
花陽「そこの…物陰から…!」
『りぃん…!!はぁなよぉ…!!』(背後から足首ガシィッ!!)
凛「にゃああぁああ!!?!!?」
花陽「ピャアアアアァア!?!?!!」
花陽「…って、真姫ちゃん?廊下にうつ伏せは服が汚れちゃうよ?」
真姫「う゛ぇ、う゛ぇえぇぇ……筋肉痛なのよ……」
凛「あ、そっちの物陰からは穂乃果ちゃんが這い出してきたよ」
穂乃果「も、もう穂乃果は…ふぁいと…できません…っ」ズリ…ズリ…
花陽「ふ、二人とも…大丈夫?」
穂乃果「全身がビキビキ…は、花陽ちゃん…穂乃果の手を握って…」
花陽「こ、こう?」にぎっ
穂乃果「ああ…花陽ちゃんに触れるとなんかこうヒーリング効果がある気がするぅ~…」にぎにぎ
凛「わかるにゃ~」
花陽「そ、そうかなぁ…」
希「ふっふ…今日から高負荷のトレー ニングに切り替えてみたけど、穂乃果ちゃんと真姫ちゃんにはまだちょっときつかったかな?」
穂乃果「の、希ちゃんの…鬼教官っ…!」
真姫「同じメニューを一緒にこなして平然と…化け物よ…!」
花陽「うわぁ、二人ともグロッキーだ…」
希「ま、怪我はしないラインやから平気平気!こんな感じでウチらは『希'sブートキャンプ』してるけど…」
花陽「新兵訓練ナノォ!?」
希「凛ちゃんはウチと練習したかったんやっけ?体験入隊は随時受付中やけどなぁ~?」
凛「り、凛は絵里ちゃんと練習するよ!バレエ楽しいな!エトワール目指しちゃいます!」
希「そっか、残念やなぁ?さーて、自力で動けなさそうな二人にシャワー浴びせてあげんとね。つ・い・で・ にぃ…生ワシワシを堪能しちゃうぞ~♪」
穂乃果「ああ逃れられない!」
真姫「う゛ぇえぇぇえぇ…!」
凛「うわぁ…二人を軽々抱えてシャワー室に去っていったよ…」
花陽「ドナドナされて行っちゃったねぇ…あ、入れ替わりで海未ちゃんがシャワー室から出てきたよ」
海未「おや、二人とも。お疲れ様です」
凛「海未ちゃん~!お風呂上がりのいい匂いがするにゃ~!」ヒシッ
海未「おっと!凛、急に抱きついてきては危ないですよ?」ナデナデ
花陽「ふふふ、凛ちゃんったら。でも、私もちょっと抱きついちゃおうかな?」ぎゅっ
海未「花陽も…まったく、二人は可愛いですね。ふふ」ナデナデ
海未「ところで花陽、明日の土曜ですが、練習を休んで私に付き合ってもらえませんか?」
花陽「明日?うん、いいよ。でも何するの?」
海未「街に出ます。場合によってはお店などに入るかもしれません」
凛「えー!デート!?いくら海未ちゃんでもかよちんに手を出したら許さないにゃー!」
海未「で、デート!?そんな破廉恥なつもりではありません!」
凛「ホントにー?でもデートじゃなくても練習お休みで街に出るとか羨ましい!凛も行きたいにゃー」
海未「もう、遊びに行くのではないのですよ。捕手としての仕事、敵情視察です。私だけでは知識面でおぼつかない事もあるので、花陽についてきてもらえると心強いのですが…」
花陽「敵情視察かぁ、楽しそう!」
凛「あー、そういうやつなら凛はパスにゃー」
花陽「凛ちゃんはデータ集めとか苦手だもんねえ。でも海未ちゃん、私よりもにこちゃんが頼りになるんじゃ?」
海未「にこは練習のまとめ役でもありますし、こちらに残ってもらった方が助かります。それと、私はにこと同じくらい花陽の事も頼りにしていますよ」
花陽「え、えへへ…それじゃあ、私で良ければ一緒にお手伝いしますっ」
海未「ありがとうございます、花陽。では明日の予定は後でLINEしておきますね」
♯22
【街中】
花陽「今日は練習をお休みして海未ちゃんと敵情視察!待ち合わせをして街に出てきたんだけど…なんで私たち帽子マスクにグラサンで物陰に隠れてるのぉモゴモガッ!?」
海未「シッ!静かに花陽!気取られてしまいますよ!」
花陽「モガガ…」
海未「現在時刻は午前11時過ぎ…情報ではそろそろ通りがかるはずです…」
花陽「…グ…。イギ…ガ…!デギナ゛イ゛ヨ゛ォ゛…!」ジタバタ
海未「え、なんですか花陽…って、ああ!ごめんなさい!口を塞いだままでしたね!」
花陽「ぶはぁっ!!ぜぇ、はぁ…はぁ…海未ちゃん…窒息するかと…」
海未「すみません…大丈夫ですか…? っと!隠れて!」
花陽「えっ?」
ブロロロ…キッ
バタン
海未(来ました、ターゲットです)ヒソヒソ
花陽(あれは…ツバサさんたち!)ヒソヒソ
ツバサ「英玲奈、あんじゅ、ほらほら遊ぶわよ。完全オフなんて久々なんだからー」
あんじゅ「あ、待ってツバサ…スカートの裾がめくれてるわ」
英玲奈「ツバサ、ほんの近距離を移動するのにUTXのリムジンを使うのはどうかと思うぞ」
ツバサ「あんじゅは細かい。英玲奈は説教が多い。もっと肩の力抜かなきゃダメよ?あ!アイス食べようアイス!」ダッ!
英玲奈「待てツバサ!財布を落としたぞ!?」タタッ
あんじゅ「走るとコケるわよ~」トットッ
海未「あっ、行ってしまいます!追わなくては!」
花陽「え、ええと!海未ちゃん、敵情視察って…」
海未「ええ、あの三人の休日の観察です。彼女らが今日オフになる事、オフの日は概ねこの界隈に遊びに出てくる事、どちらもヒフミたちが一晩で調べてくれました」
花陽「ツバサさん、あんじゅさん、英玲奈さんの三人の休日をスネーク…!これは、すごくいけない事をしているキ・ブ・ン…!」
海未「相手を抑えるためには野球のデータだけでなく、その人となりを知る事も重要。ですよね?花陽」
花陽「そ、そうだよね…プライバシーの侵害とか、そんなの関係ないよねっ!」
海未「その意気です!さあ追いますよ!ストーキング開始です!」
花陽「おー!」
~~~~~
花陽「あ 、サーティワンに入ったね。今日暑いもんね」
海未「ふむ、甘党なのでしょうか。ともかく店の入り口ギリギリに近付いて会話を聞いてみましょう」
ツバサ「ふーんフフーン……あ、マスクメロンおいしい。サーティーワンは注文前に試食させてくれるのが偉いわよねー」
英玲奈「おい、早く選ばないと。他のお客さんが来て邪魔になるかもしれないぞ」
ツバサ「まだ誰もいないじゃない。店員さん、大納言あずきも味見させて?」
あんじゅ「ねえツバサ、いくらなんでも味見10種類目はどうかと思うの」
ツバサ「えー、でも何種類までって制限が書いてないし」
店員「あはは…大丈夫ですよー」
ツバサ「ほら、店員のお姉さんもこう言ってるじゃない。んー!あずきもおいしいわ!褒めてつかわす!」
英玲奈「何様だ」ペシッ
海未「なかなかの傍若無人ぶりですね。肝が据わっていると言うか、あつかましいと言うか…」
花陽「アイスいいなぁ…おいしそ…」
海未「花陽?しっかり観察してください、アイスなら後で買ってあげますから。あ、やっと注文を終えたみたいです。私たちも店内の目立たない位置へ行きましょう」
花陽「アイス…」
ツバサ「結局二人は何頼んだの?」
英玲奈「私はチョコミントとジャモカコーヒーだ」
あんじゅ「ベリーベリーストロベリーとラムレーズンよ。ツバサはトリプルにしたのね」
ツバサ「ポッピングシャワーとバニラとロッキーロード。私はいつもこれって決めてるの」
英玲奈「あれだけ試食しておいてトリプルか…よく食べられるな」
ツバサ「余裕余裕。英玲奈のコーヒーのやつ味見していい?」ガブッ
英玲奈「あ、こら!返事をする前にかじるんじゃない!ああ、一口が大きすぎる…」
ツバサ「ま、コーヒーも悪くないかな」
あんじゅ「ツバサ、口の周りベチョベチョよ」フキフキ
海未「むむ…あの三人、先日見た印象よりも…」
花陽「うん、仲いいねえ」アイスペロペロ
海未「花陽、それ何味ですか?」
花陽「クッキー&クリームだよ。食べる?」
海未「ええ、私の抹茶もどうぞ。あ、綺羅ツバサの様子が変ですよ?」
ツバサ「………」
あんじゅ「ツバサ?いきなり静かになってどうしたのか しら?」
ツバサ「……お腹が痛いわ」
あんじゅ「あ~、お腹。やっぱり…」
英玲奈「ハァ…。ツバサ、お前はお腹を壊しやすいのに、冷たい物を大量に食べたらどうなるかくらいわかるだろ?」
ツバサ「だって…食べたかったから…」
あんじゅ「可哀想に、お腹が冷えたのね。さすって温めてあげるわね」サスサス
ツバサ「サンキューあんじゅ…あー手があったかい…」
英玲奈「ほら、店員さんにお水をもらってきたぞ。整腸剤あるから飲め」
ツバサ「さすが英玲奈、準備がいいわね…ベリーグッドよ」グッ
英玲奈「お前の腹下しはいつもだからな」
あんじゅ「いつもよねぇ…」
ツバサ「うるさい…あ、薬効いてきたかも…」
英玲奈(え?早くないか?)ヒソヒソ
あんじゅ(プラシーボ効果かしらね…ツバサ、単純だから)ヒソヒソ
ツバサ「ちょっと一回トイレ行ってくるわね…」
英玲奈「ハンカチあるか?」
ツバサ「ないわ」
英玲奈「ほら、これ持ってけ」
あんじゅ「ちゃんと手は洗うのよ~?」
ツバサ「ん、わかった」
海未「ほほう…弱点発見ですね。綺羅ツバサは腹が弱い」メモメモ
花陽「う~ん、抹茶も美味しい…流石はアイス専門店、そこらのコンビニで売ってる抹茶味とは一味違います。程よく抑えられた甘み、口の中にふんわりと広がる香り立つ抹茶のフレーバー。
すぅ…っと溶けていく滑らかな口当たり。なによりの違いは口どけの後、雑味が舌に残らないこと。原材料にこだわりを持っていることを窺わせて…」
海未「花陽…?その食レポは一体誰向けなのです」
花陽「あっ、ツバサさんがお腹壊しやすいって話だったよね。試合の前日に匿名でアイスをたくさん差し入れたら体調壊してくれたりして…」
海未「な、なるほど。スポーツマンシップの欠片もありませんがしかし、今度ばかりは手段を選んではいられないのも事実。穂乃果を守るためなら私は修羅にでも悪鬼にでも…」
花陽「う、海未ちゃん?冗談、冗談だよ?あとUTXってオフの日以外は食生活を完全管理してるから差し入れ作戦は難しいかも…」
海未「え、あ!そうですよね!というか私も冗談ですよ?冗談…あははは」
英玲奈「なぁあんじゅ、ツバサは大丈夫だろうか?その辺のドラッグストアに薬を買いに行っておいた方がいいだろうか?」
あんじゅ「ん~、お腹が冷えただけで病気ってわけじゃないし、大丈夫じゃないかしら?」
英玲奈「む…しかしアイツの事だ、もしかしたら病気で、もっと重篤な症状が出ているのに気が付いてないなんて事も…」
あんじゅ「くすくす、英玲奈は心配性ね~。それくらいツバサが大好きなのよね?」
英玲奈「別に、否定はしないさ」
あんじゅ「私もよ~。さっきのテイスティングで粘りまくるツバサなんて子供みたいで、すっごく可愛かったと思わない?」
英玲奈「可愛いかもしれんが、あれは店員さんが迷惑だろう。まったく気疲れさせてくれる…」
あんじゅ「あ、チョコミント味見してもいいかしら?」
英玲奈「ああ、どうぞ。私もラムレーズン一口もらっていいか?」
あんじゅ「ラムレーズンね。はい、あーん」
英玲奈「あむ…ん、美味いな…」
花陽「ハイ頂きました!あんじゅさんと英玲奈さんの食べさせあいっこ!ふわあああ…!眼・福・ですっ…!」
海未「なるほど、サーティワンにはこういう利点が…私も今度、穂乃果とことりと一緒に来店して二人と食べさせあいを…」
花陽「至福の光景…素敵すぎます!にこちゃんにも見せてあげたかったなぁ…!スマホの無音カメラで撮影しとかなきゃ…」
海未「ではなく!観察、観察です。統堂英玲奈と優木あんじゅ、二人になると綺羅ツバサの話ばかりしていますね」
花陽「うん、だよね。二人とツバサさんってもっとピリピリした関係なのかと思ってたけど、全然そんな感じじゃないね」
海未「むしろあの二人、まるで保護者のような…。ふーむ、友人二人がべったり世話を焼いているからこそ、綺羅ツバサはあのように無軌道な行動を取れるのかもしれませんね…」
花陽(それって穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃんの関係と似てるような気もするなぁ)
ツバサ「大復活!!」ババン!
あんじゅ「もうお腹は痛くない?」
ツバサ「大丈夫よ!二人とも、そろそろ次のお店行きましょう!」
英玲奈「わ、急に引っ張るな!」グイグイ
あんじゅ「あら、危ないわよ~?」グイグイ
花陽「わ、ツバサさんがいきなり二人の手を引いてお店を出ちゃったよぉ!?」
海未「トイレから戻ってきたと思えば、まるで嵐のような方ですね!追いますよ、花陽!」
花陽「うんっ!あ、ツバサさんたちの座ってた椅子も直しておこう…」ガタガタ
海未「あ、偉いですね花陽。私も手伝います……よし、行きましょう!」
~~~~~
花陽「そろそろ日が暮れてきたねえ」
海未「ウィンドウショッピング、ボウリング、映画にゲームセンター。あの三人、随分と遊び歩いたものです」
花陽「貴重なオフだって言ってたもんね。あの映画気になってたからストーキングついでに見られて良かったなぁ。面白かったよねっ」
海未「うう…花陽、あのような破廉恥な映画をよく見られますね…」
花陽「あ、そういえば海未ちゃん途中からずっと顔を伏せてたよね。恋愛描写もあったけど、破廉恥ってほどじゃなかったけどな…」
海未「浜辺でなにやら抱き合ったりしていたではないですか…十二分に破廉恥です。ちなみに映画の間の綺羅ツバサたちの様子はどうでしたか?」
花陽「うん、英玲奈さんは無表情だったけどBGMに合わせて指でリズムを取ってたから楽しんでたんだと思う。あんじゅさんは見るからに楽しそうだったなぁ、終わった後にパンフレットとかも買ってたし。
ツバサさんは開始15分でポップコーンを食べ終えて、後はすやすや寝てたよ」
海未「まるで穂乃果です…」
花陽「ふふ、凛ちゃんも映画によってはそんな感じだなぁ。あ、リムジンが来たみたい」
海未「先程も見ましたが、オフにリムジンで送迎とは…UTXはすごいですね」
花陽「だねぇ…。三人とも乗ったね、これで休日おしまいかな」
海未「そのようですね。はっきりとした収穫はありませんが、彼女たちの性格はなんとなく掴めたような気がします。花陽、ありがとうございました」
花陽「えへへ、少しでもお役に立てたかな?ツバサさんたちを追いかけてだったけど、海未ちゃんと色々回れて楽しかったな」
海未「ええ、私もですよ。また近々、敵情視察など関係なしに遊びに行きましょう!」
花陽「はいっ♪」
海未「さてさて、可愛い後輩に夕食まで奢ってあげるとしましょうか。GOHAN-YAで食事などいかがです?」
花陽「わあぁ!! いいの!?黒酢酢豚定食!ナス味噌炒め定食!ミックスフライもいいなぁ!ふんわり卵焼きと納豆とポテトサラダもつけていいかなぁ?!」
海未「ふふ、凛には内緒ですよ?凛にも奢ってー!と言われてしまっては私のお財布がピンチですからね」
花陽「えへへ、うっかり口を滑らせちゃうかも?」
海未「こら、花陽!」
花陽「あははは!」
ツバサ「フフッ、なら私も奢ってほしいなぁ~。園田海未さん?」
海未「もう、ダメだと言って………なっ!!?」
花陽「え、えええっ!?!!!なんで…!?」
ツバサ「はぁい、元気?」ヒラヒラ
海未「綺羅…ツバサっ!」
ツバサ「そう睨まないでほしいわね?同じ休日を共有した仲じゃない」
花陽 「っ…!き、気付いていたんですか?」
ツバサ「ええ、結構最初の方から。あなたたち音ノ木坂のメンバーは、顔と名前を全員覚えてるの。私にしては珍しくね。だから、近付けば大体気配でわかるのよ、小泉さん」
花陽「わぁ!ツ、ツバサさんに名前を覚えてもらえた…!感・激っ…!じゃなくて…け、気配って、そんな…」
ツバサ「英玲奈とあんじゅは気付いてなかったけどね。だから適当に理由つけて私だけリムジン降りてきたの」
海未「なるほど。それで?私たちに何か御用ですか?」
ツバサ「警戒心MAX、それはそうよね園田さん、貴女にしてみれば私は恋仇みたいな存在だものね?」
海未「こ、恋…!?私は親友を奪われたくないだけです!」
ツバサ「ま、なんでもいいけどね。ねえ園田さん、私の球を受けてみない?」
海未「えっ?」
ツバサ「ミットは用意してある。もし、その気があるならそこの公園で、一球だけ私のストレートを見せてあげる」
花陽「あ、あの…それって、ツバサさんに何のメリットもないんじゃ…?海未ちゃんと私しかいないけど、それでも一応、戦う前に直接ボールを見せちゃう事になるわけで…」
海未(花陽の言う通り、綺羅ツバサにはメリットがない。一体何を考えて?まさかキャッチボールにかこつけて私に怪我をさせるつもりでもないでしょうし…)
ツバサ「別にただの気まぐれよ。今日一日追いかけてきてわかったんじゃない?私は深く考えて行動するタイプじゃないの」
花陽「た、確かに…」
海未(試合前に綺羅ツバサのストレートを見られる…?この上ない幸運!)
ツバサ「やるの?やらないの?ミットさえまともに構えててくれれば怪我はさせない。怖がって目を瞑ったりすればその限りじゃないけど」
海未「受けましょう。断る理由などありません」
花陽「う、海未ちゃん、大丈夫…? 」
海未「絶好の機会、逃す手はありません。ふふっ、心配しないでください花陽。たかがストレート、来るとわかっていて取れない物ではありませんよ」
ツバサ「それは上等ね。はいミット。そっち、壁の前に座って。そう、そこ」
海未「……私の準備はいいですよ」
ツバサ「それじゃ、行くわね」
ツバサ「……」ザッ
海未(構えに入った瞬間……空気が変わった)
花陽(ゆったりとしたワインドアップ…ツバサさんの小柄な身体がすごく大きく見える!)
海未(さあ、見極めてみせます…貴女のボールを。流れるような体重移動からの豪快なオーバースロー…来るっ!)
ツバサ「フッ!」ビシュッ!
海未(え、リリースポイントが見えな……速…いっ!!)
バチィッ!!!!
花陽「うっ、海未ちゃあんっ!!」
海未「……う、…あ」
ツバサ「………。あーあ、目をつぶってボールを弾いちゃったか。つまらないわね」
海未「ああ……ああああ!!!」ガチガチ
ツバサ「園田は生まれて初めて心の底から震え上がった…真の恐怖と決定的な挫折に…恐ろしさと絶望に涙すら流した…これも初めてのことだった…」
海未(勝手におかしなナレーションを入れられているのに…身体が竦み上がって声が出ません…!)ガタガタ
海未(……見えなかった…!球の出所がわからなくて…気付いたら球が目の前に…!怖い…!?怖いっ…!)
花陽「海未ちゃんっ、大丈夫っ!?大丈夫!?」
ツバサ「あーあ、落胆したわ園田さん。穂乃果さんの親友みたいだし、小指の先くらいは期待してたんだけど。言っておくけど今の球、全力では投げてないから」
海未「う…あぁ…」
ツバサ「今の捕り方だと突き指してるかもしれない。小泉さん、指を冷やしてあげておいて」
花陽「はっ、はいっ!」
ツバサ「それじゃ、さようなら。次に会うのは試合かしら。その体たらくで勝ち上がれるのかは疑問だけどね?」
海未「………っ…」
海未(完敗…完膚なきまでに…っ!)
♯23
【本屋】
穂乃果「練習終わりに希ちゃん凛ちゃんと本屋に寄ったはいいけど、いやー散財…一気に4冊も漫画買っちゃったよ~」
凛「新刊がまとめて出てたもんねー。今度凛にも読ませてね!」
希「ウチもウチも。それの続き気になってたんよね」
穂乃果「いいよー、読み終わったら二人にも貸すねっ!」
凛「希ちゃんもなんか雑誌買ってたよね、何の本ー?」
希「ウチはこれ、月刊ムー」
穂乃果「むー?なにそれ?」
希「ふふふ、最高にオカルトでスピリチュアルでクールなスーパーミステリーマガジンやで。読んでみる?」
穂乃果「いいの?どれどれ…地球膨張重力増大…江戸のUFO『虚舟事件』の謎…幻の竜宮城…禁断のボイド時間… 魂活…。 おおう、オカルティック…」
希「今月の付録は【金運・財運を招き、願望を成就させる禁断の最奥義!『奇門遁甲造作法』富本銭型マグネット】二人とも、欲しければ今が買いや!」
凛「ぜっ、全力で胡散臭えにゃー!!」
穂乃果「さ、さすがは希ちゃん…穂乃果にはハイレベルすぎるよ…」
希「ふふ、読みたかったらいつでもバックナンバー貸したげるよ~?」
凛「スピリチュアルとかオカルトも奥が深いんだにゃー…」
希「そうなのだよ凛ちゃん。さてさて、スピリチュアルな話をしてたらちょうど神田明神の近くやし、軽くお参りでもしてかん?」
穂乃果「うん!大会、勝てるようにお祈りしとかなきゃね!」
凛「行くにゃ行くにゃー!」
【神田明神】
穂乃果「平日の夕方だとさすがに人も少ないねー」
希「ふふ、静かにお参りできていいね。さ、お賽銭入れよか」
凛「希ちゃん希ちゃん」
希「ん、どうしたん?」
凛「凛、いつも思うんだけど…神様のところってたくさんの人がお祈りに来るでしょ?来た人たち全員のお願いを聞くのはいくらなんでも無理だよね。その辺、どうなってるのかなーって」
穂乃果「あ、確かに…受験の時、わざわざ遠くの学問の神様にお参りしに行ったのに落ちた~って文句言ってる子もいたなぁ」
凛「だよね、受験の時なんてほとんどの人がお参りに行くのに、落ちる人はいっぱいいるんだもんね」
希「ん~そうやねえ…」
希「ウチの考えやけど、実際んとこ、神様って別にお願いを叶えてくれるわけじゃないと思うんよ」
穂乃果「ええっ!そうなの?」
凛「お賽銭詐欺にゃー!?」
希「あはは、ウチのなんとなーくの考えやから真に受けたらあかんよ?」
凛「じゃあじゃあ、なんで希ちゃんは熱心に神様にお祈りしたりするの?」
希「うーん、そうやなあ。ウチにとってのスピリチュアルっていうのは自分を信じてあげるためのおまじないみたいなものなんよ」
凛「おまじない?」
希「そう。誰でも自信をなくして、自分の力を信じられなくなるような時ってあるやろ?そんな時に、『あの時お参りをしたから神様が守ってくれる』って、そう思えたらちょっぴり気が楽やん?」
凛「気が楽…えー、それだけ?」
希「ご利益っていうのは神様が直接スーパーパワーで助けてくれるってよりも、ほんのちょびっとだけ自信をプラスしてくれるようなイメージやね」
穂乃果「自信を持たせてくれる…かぁ」
希「努力以外でできる事、ってとこかなぁ。それってすごく曖昧なものやけど、試す価値はある。そう思うんよ」
凛「難しい…けど、なんとなくわかるにゃー。お祈りしといて損はない!って事だよね?」
希「うんうん!せっかくお祈りするなら全力でお祈りしとこうって話やね!」
凛「よーし!神様!凛たち頑張ります!」
穂乃果「穂乃果も!神様、私はツバサさんを打ちます。打って、みんなと勝ちます!見ててください!」
希(……なーんて言いつつ、神様に愛されてるような子も世の中にはいるんやけどね?)
穂乃果「南無っ!南無ぅー!」
凛「穂乃果ちゃんそれ宗教違うにゃー」
希(穂乃果ちゃん…統堂さんの守備を破ったあの一打…。この子に憑いてる運はウチのちょっとしたラッキーとはまた違う。天に愛されてる子、そんな感じがするんよ。こういうのって、主人公属性とか言うんかな?)
希(けど、綺羅ツバサちゃん。あの子からも同じ、天運を感じる。同じ主人公属性同士なら、穂乃果ちゃんでも勝てるかはわからない。それなら手助けになってあげたい…)
希(だから神様お願いです。みんなの力になれるよう、私を見守っていてください…もう二度と、この前みたいな無様は晒さない…!)
~~~~~
穂乃果「さてっ。買い物もしたし、お祈りもしたし、そろそろ帰ろっか!」
凛「お腹減ったよー!帰るにゃー!」
希「暗くなり始めてるしね、二人とも気をつけて帰るんよ~」
穂乃果「はーい!」
凛「はーい!」
希(絵里ちは、そろそろあの人らと会ってる時間かな…?)
ペラッ
希(カードのお告げは『正義』の正位置。決して悪いカードじゃないけど…なんだか胸騒ぎがする。おかしな事にならないといいんだけど…)
凛「あ、そうだ希ちゃん。今日の練習中に絵里ちゃんがなんだか暗かったんだけど…なんでかな?」
希「えっ!?あー、ウチは知らんなぁー?(本当は知っとるけど教えるわけには…)」
穂乃果「希ちゃん…?な~んか怪しいような…」
希「全然!全然何も知らんよ!穂乃果ちゃん考えすぎやって~」
穂乃果「ん~?そっかぁ」
凛「希ちゃんでもわかんないかぁ。うーん」
穂乃果「そういえばだけど、穂乃果が話しかけた時もなんだか上の空だったなあ。体調悪かったとか…」
凛「あ、プリンセスの日だったのかな?」
希「そ、その言い方はなんか生々しいなぁ…ええと、たぶん違うんやないかな?」
凛「心配だなぁ。練習中にあんなに落ち着かない絵里ちゃん始めて見たから。誰かと連絡を取ってたみたいだったけど…」
穂乃果「うーん…何かあったなら励ましたいよねえ。やっぱり、絵里ちゃんを元気付けてあげられるのって希ちゃんだと思うな!」
凛「凛もそう思う!希ちゃんがギュッと抱きしめてキスでもすれば一発だよ!」
希「んー、そうや なぁ、キスでも~……って、待ちたまえ!百合は軍務規定違反だぞ凛二等兵!」
凛「にゃにゃ!?」
希「元気づけるために女の子同士でキスというその発想、まさに百合厨!風紀の乱れ、ひいてはサークルクラッシュを引き起こしかねない!」
穂乃果「な、なんだってー!?」
凛「の、希隊長っ!?凛はそんなつもりじゃ」
希「言い訳無用、軍法会議にかけさせてもらおう!穂乃果一等兵、彼女を拘束したまえ!」
穂乃果「イエスマム!」ガシッ
凛「ちょ、穂乃果ちゃ!ひえっ…なんかすっごいマッチョになってないかにゃ!?」
穂乃果「希'sブートキャンプの成果だよっ!」
凛「と、とにかく異議を申し立てるにゃー!凛は百合じゃないよ!」
希「百合じゃないよ!だとぉ~?罪深い……罪深いぞ!どの口がほざいておるのかね!君は花陽ちゃんのバッティンググローブを新品とすり替えて持ち帰り、枕の下に敷いて寝ていたそうじゃあないか!」
凛「え、それの何が悪いの?かよちんの手汗の匂いに包まれて毎晩ぐっすり快眠にゃー」
穂乃果「oh…」
希「ヒエ~ッ!とんだナチュラルボーンガチレズモンスターが隠れとったもんやね!どうやら修正が必要なようだ!ワシワシの刑に処s」
凛「異議ありにゃ!」
\バシィ!/
穂乃果「何ィ?悪あがきは良くないぞ凛二等兵!」
凛「だって絵里ちゃんだって言ってたよ!『希とキス…?アリね♪』って!」
希「えっ……なっ、嘘、絵里ちがそう言ったん?っていうか、どんなシチュエーションでそれ聞いたん?」
凛「練習の合間のたわいもないガールズトークです希隊長!」
希「い、一年生相手になんてヘヴィなガールズトークをしとるんや絵里ち!」
穂乃果「ほほぉう…その件、詳しく聞かせてもらおうか凛二等兵」
凛「続けて爆弾投下するであります、穂乃果一等兵!絵里ちゃんは『どうせキスするなら舌まで入れちゃおうかしらね?ふふっ、ああ見えて希は攻められるのに弱いから♪』とも言っていたであります!エッロい顔して!(脚色マシマシ)」
穂乃果「Foo~!由々しき事態ですな由々しき事態ですなぁ!」
希「えっ、ちょっ、待っ…!?ひ、ひゃあぁぁ…絵里ちのアホ…!」カァァ
凛「ヘイヘイ希ちゃん顔真っ赤だよ~?真のガチレズモンスターは誰かにゃ~?がちゆり、はっじまっるにゃー!」
穂乃果「これは、希隊長……ワシワシの刑だよっ!」ワシィ
凛「執拗にやるにゃ!じっくりと!ねっとりと!!」ワシワシィ
希「うあぁ!!!ゆ、百合はあかーん!!!ブハァ!!!」
穂乃果「あっ、鼻血が!メディック!メディーック!」
♯24
【公園】
絵里「…」
絵里「19時半…そろそろ来る頃かしらね」
絵里「…」
絵里「…来た」
ザッ
ザッ
ザッ…
絵里「……こんばんは」
あんじゅ「はぁい絢瀬さん」
英玲奈「こんばんは、絢瀬さん」
絵里(統堂英玲奈、優木あんじゅ…)
絵里「来てくれてありがとう。試合の時に連絡先を交換しておいて良かったわ」
あんじゅ「うふふ。夜会えないか、だなんて連絡が来るんだもの。びっくりしちゃった」
絵里「ごめんなさい、急に呼び出してしまって」
英玲奈「それで、日も暮れた時分にどのような要件だろうか?」
絵里「…単刀直入に 言います 。綺羅ツバサの弱点を教えて」
あんじゅ「えっ…?あなた、何を言ってるの?」
英玲奈「……絢瀬さん、自分が何を言っているのか理解しているのか」
絵里「問答をする気はないわ。弱点を知っているの?知らないの?」
英玲奈「ツバサも人間だ。弱点も……あるといえば、ある。些細な弱点だがな。しかし、仲間の弱みを敵に話す者がいると思うか?」
絵里「勘違いしないで、これは正当な要求よ。綺羅ツバサを負かして欲しいというのがあなたたちの願い。なら、情報を提供して然るべき。そうでしょう?」
あんじゅ「それは…!」
絵里「それとも、私たちに頼んでそれで終わり?呆れるわ、他力本願もいいところね」
英玲奈「…返す言葉もない。が、それでも教えられる事はない」
絵里「そう。それじゃあ、あなたたち二人の言葉を綺羅ツバサに聞かせてあげようかしらね」
あんじゅ「私たちの言葉…?どういうこと?」
絵里「音ノ木坂が野球をしているのは廃校阻止のため。先日の試合も学校の宣材として使うため、ベンチで録画をさせてもらっていたの。もちろん、UTXの責任者の方から撮影許可は頂いてます」
英玲奈「…」
絵里「録画係をしてくれた子、穂乃果の同級生なんだけど、すごく気の回る子でね。試合が終わった後も撤収ギリギリまで録画を続けてくれていたのよ」
あんじゅ「…!まさか」
絵里「ええ、ハッキリと録画されているわ。あなたたち二人が綺羅ツバサの敗北を願う言葉がね」
英玲奈「…!」
絵里「弱点を教えないと言うのなら結構。綺羅ツバサにダビングした映像を送り付けて、彼女の精神面の動揺と、あなたたちチームの内部分裂を狙わせてもらうわ。勝てる確率を少しでも上げるためにね」
あんじゅ「あっ、貴女…!っ、 卑怯者…!」
英玲奈「……、やめろ英玲奈。元はこちらが迷惑を掛けているんだ」
絵里「穂乃果がいなくなればみんなが悲しむ。大切な仲間を理不尽から守るためなら、私はどんな汚い手段を取ることも厭わない。それで?教えてもらえるのかしら」
英玲奈「わかった…教えよう。教えれば、ツバサにその映像が渡る事はないんだな?」
絵里「約束するわ。映像を送るのは、こちらとしても気分のいい手段じゃないから」
英玲奈「わかった、話そう。あんじゅ、それでいいな?」
あんじゅ「最低よ…絢瀬絵里、あなた最低…っ!許さないから…!」
絵里「……なんとでも言いなさい」
英玲奈「……話すぞ」
~~~~~
絵里「弱点、聞けたわね。……要点だけを話して二人は去って行った」
絵里「………クイック、手抜き癖、そして監督、か」
ガサッ…
絵里「…!誰?」
真姫「…エリー」
絵里「真姫…!どうしてここに?」
真姫「たまたま。ちょっと散歩に出たら、エリーを見かけたから後をついてきたの」
真姫(本当は希が教えてきたんだけど。…っていうか、それなら希が来ればよかったじゃない。この真姫ちゃんを小間使い扱い?なによそれ、イミワカンナイ!)
絵里「……見ていたの?」
真姫「ん、まあ…。詭弁と脅迫で情報を引き出す。流石にやり手ね、エリー」
絵里「真姫、私を軽蔑するかしら?」
真姫「軽蔑?まさか。あなたがやらなきゃ私がやってたわよ」
絵里「……そう」
真姫「だけどエリー、聞き出した情報は私たちの胸に留めておくべきだと思う」
絵里「どうしてそう思うのかしら」
真姫「わかるでしょ…?きっと穂乃果はこのやり方を嫌う」
絵里「…そうね」
真姫「UTXのファンでもある花陽とにこちゃんもいい気持ちはしないでしょうね。海未とことりは勝つために手段を選ばないだろうけど、穂乃果への引け目でぎこちなくなるかもしれない。
凛は…まあ、難しい事を考えさせない方がパフォーマンスがいいし」
絵里「ふふ、そうね」
真姫「でも、希には知っていてもらうべきかも。みんなの中では精神的に大人だし、絵里の事もよく分かってる。合理的な判断をしてくれるはずだわ」
絵里「……駄目よ、希は駄目」
真姫「ハァ ?どう考えたって希が一番理解してくれそうじゃない。一番の親友でしょ?」
絵里「一番の親友だからこそ……希には、私のこういう、汚い面を見てほしくないの…」
真姫「なにそれ…。じゃあそもそも、情報を聞き出した後はどうするつもりだったのよ。はぁ…メンドくさい人たち」
絵里「……ごめんね、ワガママ言っちゃって」
真姫(メールの文面的に、希は大体の事情を察してたみたいだけど。絵里のこの反応も予想してて、それで代わりに私を行かせるような真似をしたって事?ホント、二人揃って面倒)
真姫「いいわ、聞き出せた弱点については私のパパのツテで向こうの関係者から聞いたって事にしましょう。それなら、みんな抵抗なく聞いてくれると思うから」
絵里「…ありがとう、真姫」
真姫「別に……いいわよ」
ブロロロ……キキッ
真姫「もう遅いし暗いわ。家から運転手を呼んだからエリーも乗って行きなさい。家まで送ってあげる」
絵里「う、運転手…?料理人の話は前に聞いたけど、 真姫の家には運転手さんもいるの?」
真姫「…? そりゃ、料理人がいれば運転手くらいいるわよ」
絵里「じ、じゃあ、執事とか侍女とか庭師とか家政婦とか…」
真姫「全部いるけど?ほら、車乗るわよ」
絵里「ほわあ…」チカァ
~~~~~
ブロロ…
絵里「ねえ真姫ぃ…私、統堂さんと優木さんに嫌われちゃったわ…」
真姫「んん」
絵里「せっかく連絡先を交換して、友達になれそうだと思ったのに…」
真姫「そうね」
絵里「特に優木さん…私の事、最低だって…そうよね…最低よね…」
真姫「気にしない事よ」
絵里「そうは言うけど…私の事すっごい睨んでたのよ…」
真姫「あーもう!嫌われるとか承知でやったんじゃなかったの!?めんどくさい!」
♯25
【南家】
ことり「ん~…」
にこ「……」ペラ…ペラ…
ことり「…ね、にこちゃん?」
にこ「……なによ」パラ…
ことり「ちょ~っと休憩してぇ、お菓子でも食べない?ことりが焼いたアップルパイがあるんだよ。アイスを添えて紅茶と一緒に…」
にこ「ん、後でね…」
ことり「うう…」
にこ「集中しなさい。野球漫画でも本でも試合DVDでもなんでもいいわ、資料を徹底的に漁って新たな変化球のヒントを探すのよ!」
ことり「もう疲れたよぉ…にこちゃぁん、せっかくことりの家に遊びに来てくれたんだし、ちょっと何かして遊ぼうよぉ」
にこ「あのねぇ、遊びに来たワケじゃないのよ?にこの家よりことりの家の方が集中できそうだったから来たの。ほら手と目を止めない!」
ことり「ふえぇん…ホノカチャァン…」
にこ「ハノカチャヘアァ~ン…じゃないわよ全く。しっかし、新球種ってやっぱ難しいわねぇ」
ことり「ごめんね、ことりが普通の球種を上手く投げられれば良かったんだけど」
にこ「ん、今使えるストレートとカーブとシンカー(ことりボール)以外でオーソドックスな球種は一通り試したけど上手くいかなかったのよね」
ことり「なんだか上手くイメージができなくって…あ、でもスライダーは!」
にこ「“アレ”は使っちゃ駄目よ。絶対に」
ことり「でも…、うん…」
にこ「ま、こればっかりは向き不向きの問題だし仕方ないわ。投げにくい球を無理に覚えようとしてフォーム崩すのもバカバカしいし。…けど、もう一種類は球種が欲しい。なら新球開発しかないわ。理解オッケー?」
ことり「はぁい…」
ことり(朝から夜まで野球野球野球野球。ことりには無理だよぉ…。もちろん穂乃果ちゃんのために頑張らないとだけど、このままじゃ試合までにことりの脳がパンクしちゃう…な、なにか違う話題を…)
ことり「にこちゃん。かわいいものゲーム、しよう」
にこ「は?なにそれ」
ことり「交互にかわいいものを言っていくゲームです。先に途切れた方が負け。明日クレープおごりね?じゃあスタート!アルパカさん♪」
にこ「ちょっ、ゲームの説明不足!まあ大体わかるけど…えっと、畠山のヒゲ」
ことり「えっ?」
にこ「えっ?」
ことり「畠山、さん?えっ、スワローズの…?あの、かわいいもの…」
にこ「なによ?時間切れになるわよ~。はい3、2」
ことり「あっ待って!チョココロネ!」
にこ「DBスターマン」
ことり「…って?」
にこ「横浜のマスコットよ。タヌキだかハムスターだかの」
ことり「あ、あれならわかるよ。かわいいね。マスコットならバファローベルちゃんもかわいいよね!」
にこ「にこ的には広島のスラィリーと迷うところね」
ことり「えぇ…じ、じゃあことりはぁ~、マンチカン!とっても小型のねこさんだよっ♪」
にこ「中継ぎが炎上した後の切なそうな阪神メッセンジャー」
ことり「~~っ??や、野球から離れようよぉ…。かんかん帽!」
にこ「元ロッテ里崎智也」
ことり「ついに選手名だけに…く、クレームブリュレ! 」
にこ「すぽるとで立浪らPL先輩勢がサプライズ登場した時の元ヤクルト宮本のうろたえ顔」
ことり「マニアックすぎるよぉ…なんか、もういいです。ことりの負けで…」
にこ「はっ、もう降参~?ふふん、あんたのかわいいもの好きも大したことないわねー!」
ことり「うぅぅ…野球…野球が脳を侵食して…野球ってかわいいのかな?高速スライダー…えへへ…高速スライダーってかわいいよね…ビューン、パタパタパター。うふふふふ」
にこ「……あー。……うん、まあ、ちょっと根を詰めすぎたかしらね。ぱ、パイ!アップルパイ食べるわよ!」
ことり「あ、そうだね♪ 食べよっ」
にこ(ふう、目に光が戻ったわね…)
~~~~~
にこ「はむっ、もぐ、、うぅ~ん…美味しい…。アンタのアップルパイ、高級店の味とまでは言わないけど、その辺の適当なケーキ屋には負けてないわよ」
ことり「うふふ、料理上手のにこちゃんにそう言ってもらえると嬉しいなっ。アイスを一緒に口に入れても美味しいんだよ?はい、あーん」
にこ「あーんって、よくもまあ恥ずかしげもなく…ったく、アンタって女子力の塊みたいな子ね」
ことり「ほらほらぁ、アイスがでろでろになっちゃう!」
にこ「あむ。……ん、おいしい」
ことり「よかったぁ♪ えーっと、こっちのカットがみんなに持っていく分と、これがお母さんにあげる分と…分けてもまだ残るなぁ。にこちゃん後でこれ、持って帰らない?」
にこ「いいの?嬉しい。妹二人と弟がいるから喜ぶわ」
ことり「にこちゃんの妹と弟?わぁっ絶対カワイイ!ことりも会いたい!今度にこちゃんの家に行ってもいい?」
にこ「ダメよ」
ことり「え~っ、なんでぇ。おねがぁいっ♪」
にこ「うぐぬっ…、、ふ、ふん。それが通用するのは海未と、まあ穂乃果と…せいぜい花陽ね。少なくともにこには通用しないわ。あ、真姫ちゃんもチョロるか…」
ことり「んん~……にこちゃん、どうしてダメなの?もしかして、ことりの事あんまり好きじゃないとか…」
にこ「バカ、アンタはこのにこにー直属の後輩よ?…す、好きに決まってるじゃない」
ことり「わぁ!にこちゃんっ♪」ギュッ
にこ「えーい暑苦しい!」ゲシッ
ことり「足蹴はひどいよぉ」
にこ「いい?世界のセンターことマジェスティックにこにーは軽々しく人を家に上げたりしないわ。希でも絵里でもアンタら二年組も一年のガキンチョ三人も同じ。プライベートは安売りしない主義なの」
ことり「ん~。残念…機会があったら妹さんたちと弟さんに会わせてね♪」
にこ「ま、いずれね。にこに似て最強カワイイんだから!」
ことり「いいなぁ~!仲良くなりたいなぁ♪」
にこ「そんなに仲良くなりたいんなら……にっこにっこにー!を、せいぜい必死に体得しておくのね」
ことり「ふふっ、にこちゃんはいいお姉さんしてそうだもんね?」
にこ「ほら、リピートアフターミー!にっこにっこぬぃぃぃぃい!」
ことり「にっこにっこに…って、にこちゃん!」
にこ「な、何よ!突然顔近づけないでよね!」
ことり「新球種!イメージが出来たの!外でキャッチボールしてみよ!行こっ?」グイッ
にこ「ちょ、ことり!引っ張らないでよね!あぁーもう、穂乃果じゃあるまいし!」
♯26
【部室】
穂乃果「はぇ~、それじゃことりちゃんの新変化球っていうのは…」
ことり「うんっ!手をね、こう…にっこにっこにーの形にして…こうやってボールを掴んで投げるの!」
穂乃果「にっこにっこにーで握るのかぁ。えーっと、立ててる三本の指でボールを固定して、曲げてる二本の指の爪を立てる、っと…ことりちゃん、こんな感じ?」
ことり「うん♪ 大体そんな感じ!」
海未「穂乃果、真似すると怪我しますよ。ことりの指は人よりも少し長めですから、そのおかげで変則的な握り方でもボールを安定して握り、投げることができるのでしょう」
穂乃果「うん、穂乃果の手じゃなんか握りにくいや…それでそれで、これってどんな変化するの?」
ことり「うふふ~。練習始まったらすぐに見せてあげるねっ」
穂乃果「う~、早く見たいな。一球!一球ここで投げてみてよ!」
ことり「えっ、えぇ!部室で投げたら危ないよぉ」
穂乃果「まだ他のみんな来てないし大丈夫!一球だけ!」
海未「いけません!ダメに決まっているでしょう!こんな狭いところで投げては怪我をしますし散らかりますし、フォームも崩してしまいかねません!」
穂乃果「そっかぁ…無理言ってごめんね、ことりちゃん…」シュン
ことり「こっちこそごめんねハノケチェン…」
海未「全く、堪え性のない…」
穂乃果「むー、海未ちゃんはもう受けてみたんだよね?どんな感じだった?」
海未「そうですね、簡単に言えば沈む遅球、でしょうか。握りはナックルに似ているのですが、実際の軌道や使い方としてはチェンジアップに近いです」
穂乃果「なるほどねー。チェンジアップかぁ」
海未「ストレートとの択一を迫れる素晴らしい球でしたよ。十分に武器の一つとして使えます」
ことり「まだまだこれから精度を上げていかないとだけどね♪」
ガチャッ
穂乃果「あ、にこちゃん」
にこ「ん 、早いわね二年トリオ」
穂乃果「にこちゃん聞いたよー、にっこにっこにーの握りで変化球ができたって」
にこ「ふふん、スーパースター矢澤にこの一挙手一投足全てには大宇宙の意思が宿ってるの。にっこにっこにーの握りで投げればそれ即ち必殺の魔球と化す…世界の摂理よ。覚えときなさい!」
穂乃果(清々しいほどにドヤ顔だなぁ)
海未(にこ…こっちが恥ずかしくなるほどに鼻高々です…)
ことり(得意げなにこちゃんカワイイっ)
にこ「あの球、スーパーにこにーボールと名付ける事を許可するわ」
ことり「え、すーぱーにこにーぼーる?う、うーん…そのネーミングはちょっと…」
にこ「何よ、文句ある?」
穂乃果「はは、ダサい」
にこ「ぬわぁんですってぇ!!?穂乃果ァ!ひっぱたくわよ!!」バシッ!
穂乃果「じ、冗談!冗談っ!ひっぱたいてから言わないでよ!」
ことり「え、えーっと…スマイルボール!にこちゃんだから、にっこり笑顔でスマイルボールはどうかなっ?」
穂乃果「あ、それいいよ!すごいいい!」
海未「ふふ、にことことりの共作にピッタリの可愛らしい名前ですね」
にこ「にこの名前が直接的に入ってないのはちょ~っと不満だけど…ま、それでいいわ」
ことり「それじゃ、新球の名前はスマイルボールでけってーい!」
海未(スマイルボール…確かに、とても効果的に使えそうな球です。ですが、ですが…あの綺羅ツバサと投げ合って、本当に勝てるのでしょうか…)
穂乃果(海未ちゃん、なんだか浮かない顔してる…。なにかあったのかな)
バァンッ!!
花陽「ダレカタスケテェッッッ!!!」
にこ「どわぁ!ビックリしたぁ!」
穂乃果「助けを求めつつ部室のドアを蹴り開けた!?斬新なエントリーだね花陽ちゃんっ!」
海未「ど、どうしたのですか花陽」
花陽「大変!大変なんですっ!これを見てくださいッッ!!」カタカタカタッターン!
ことり「パソコン?えーっと…あ、女子野球のまとめサイトだね」
海未「2525速報、女子野球関連では最大手のアフィリエイトブログですね」
にこ「…」
海未「それで、このサイトがどうしたのです?」
花陽「この記事!一番上のっ!見てくださいっ!」
穂乃果「 これ?なになに…女子高校野球界にダークホース誕生…その名も音ノ木坂学院野球部…」
海未・ことり「ええっ!?」
にこ(ふふふ…)
穂乃果「ダークホースって?」
花陽「隠れた有力校、ぐらいの意味ですっ!」
穂乃果「なるほどー。……ん?じゃあうちの高校が注目されてるって事!?」
花陽「そうです!そうなんです!このサイト、どこだかでこの前のUTX戦の情報を手に入れたみたいで…。しかも、チーム全員についてかなり詳しくまとめてあるんです」
海未「音ノ木坂の頭脳、強肩強打の大和撫子ガール園田海未…。な、なんですかこの記事は…」
穂乃果「あ、写真も載ってるんだね。わぁ、このベンチで汗を拭きながらジュース飲んでる写真とかちょっとセクシーだよ海未ちゃん!」
海未「う、うぁあ!こんなものが全国に晒されているのですか!?恥ずかしすぎますっ…!花陽!そのパソコンを閉じてください!いいえ閉じるだけではダメです!このバットで粉々微塵に破壊を!」
花陽「ピャアアア!?PCにバットを振りおろそうとしないでぇ!」
穂乃果「ちょ、海未ちゃんストップ!落ち着こう!花陽ちゃんのパソコン壊したってその記事は消えないよ!?」
海未「放してください穂乃果ァ!」ジタバタ
ことり「どれどれ、穂乃果ちゃんはぁ…、いつも朗らかチームの太陽、鋭いスイングから放たれる打球は意外性ナンバーワン。わあ!穂乃果ちゃんも可愛く撮れた写真がいっぱい載ってるよっ」
穂乃果「おー、本当だ!この守備のシーンとかカッコよく写ってる!」
花陽「ことりちゃんもベタ褒めだったよ!ほら見て、麗しのサブマリン、美しくしなやかなフォームで打者を幻惑!」
ことり「わぁ、なんだかちょっと照れちゃうなぁ♪」
花陽「小銭拾いしか脳のない腐れブログだと思ってたけど、まさか独自記事で音ノ木坂を取り上げてくるなんて…少しだけ、見直しました」
穂乃果「それにしても詳しい記事だねえ。ん?なんか、にこちゃんの記事だけ長いね。しかも超ベタ褒め…」
ことり「ほんとだぁ。管理人さんは特ににこちゃんのファンなのかなぁ?」
にこ「ま、にこにーの圧倒的オーラに魅了されちゃう管理人がいるのも仕方のない事よね~?あ~ん、にこにーってば、罪深すぎぃ~!」
ガチャ
希「お、みんなパソコンにかじりついて何してるん?」
海未「希ぃ…変な写真が…ネットに私の変な写真がぁ…」
希「どしたん海未ちゃん、足なんて震わせて。アイコラでも作られた?」
穂乃果「これこれ!なんか音ノ木坂野球部がネットで特集されてるんだ!」
希「あー、それにこっちのサイt…モガガ!」
にこ(希!黙ってなさい!)ヒソヒソ
希(なんで?音ノ木坂の知名度アップに役立ってるんだから言ったらいいやん。2525速報は矢澤にこの運営しているサイトですーって。絵里ちもウチも知ってるんやし)ヒソヒソ
にこ(絶対言わないわ)
希(んー?『奥ゆかしさ』なんて、にこっちに一番似合わん言葉やと思うよ?いつもの自己顕示欲全開スタンスで行こうよ)
にこ(なによ自己顕示なんちゃらって!まず海未!海未ににこのブログだって知られてみなさい、夜叉みたいな形相で記事の消去を迫ってくるのが確実よ)
希(なるほど…その光景がありありと目に浮かぶね)
にこ(あと、花陽も…)
希(花陽ちゃん?あ、そういえば花陽ちゃん、ガチガチのアンチアフィやったね。そっか、ふふ。可愛がってる後輩に嫌われたくないもんね?)
にこ(…そ、そうよ。悪い?)
希(んーん、了解♪ じゃ、これはウチら三年生だけのヒミツって事で)
にこ(ん…それでよろしく頼むわ)
希(でも残念。にこっちが書いてるってわかって読むと、また違った面白さがあるんやけどな~)
にこ(なによ、その面白さってのは)
希(だって、ねえ?穂乃果ちゃんをチームの太陽って書いてたり、花陽ちゃんは堅守を誇るチーム1の癒し系少女、凛ちゃんは笑顔きらめく韋駄天キャットガール、真姫ちゃんはクール&キュートな未完の大器、とかやったっけ?)
にこ(書いたけど、それがどうしたのよ)
希(ふふ。なんていうか、にこっちのチームみんなへの愛がこれでもかってぐらい溢れてるんよねぇ)
にこ(うぐっ!ちょ、そういう読み方するのやめなさい!恥ずかしいでしょ !)
希(絵里ちとたぁっぷり楽しませてもらうよ~?)
にこ(やぁめなさいよ!)
♯27
穂乃果『体力の限界、ケガ人が出る寸前まで追い込んでの練習の毎日。
思わず悲鳴を上げちゃいそうになるけど、みんな頑張ってるんだ!って自分を奮い立たせて歯を食いしばります。
掌はもうマメでカチカチ。すっかり女の子っぽくない手になっちゃったかな、えへへ。
あ、試合も色々なチームとしたんだよ!
近隣の女子チームのところに出向いたり、社会人野球のチームと対戦させてもらったり!
社会人には流石に勝てなかったけどね、あはは。
頑張ったのは穂乃果たちだけじゃありません。
ヒデコ、フミコ、ミカの三人は練習を手伝ってくれつつ、合間の休日には関東圏の強豪校のデータを集めてきてくれたんだ!
それより遠い範囲の強豪校には西木野グループの調査員の人たちが。やっぱり真姫ちゃんのお家はすごいなぁ。
あ、私たちの周りでちょっとした変化が一つ!
謎のサイトで取り上げられた影響もあってか、音ノ木坂学院野球部の知名度が上昇!近所のおじさんやおばさん、通りすがりの人なんかが「頑張って」と声をかけてくれるようになったの!
たまにお菓子なんかをくれる人も!
とっても嬉しいんだけど、海未ちゃんは「危険です!知らない人からもらった物を食べてはいけません!」だって。海未ちゃんのケチ~。
そして一ヶ月ほどが過ぎ…
いよいよ、大会が始まります!
参加を表明した全国百数十校で争われる巨大トーナメント!
会場は東京だから、遠征しなくていい分 音ノ木坂は少し有利なのかも 。UTXもそれは一緒だけどね。
期待、不安、焦燥、自信、葛藤…それぞれの胸に思いを抱えて。
自分の運命を賭けて、私たちは大会に臨みます!
一生懸命、全力のプレーで!音ノ木坂学院はこんなにいい学校なんだって全国に広めてみせるんだ!』
【大会版オーダー】
1 遊 星空凛 1030
2 中 矢澤にこ 1450
3 三 高坂穂乃果 1863
4 一 東條希 2855
5 右 綾瀬絵里 2047
6 捕 園田海未 1588
7 二 小泉花陽 772
8 投 南ことり 2540
9 左 西木野真姫 405
♯28
【抽選会会場】
穂乃果「うわぁ…すごい人の数」
にこ「当然よ、地方予選なしのオープン参加で、今回は大会史上最多の142校!それが一堂に会してるわけだから壮観よね!」
絵里「ふう、人酔いしちゃいそうね」ゴクゴク
にこ「絵里、アンタさっきから水ばっか飲んでるけど大丈夫?変な時にトイレ行きたくなるわよー?」
絵里「あはは、なんだか緊張して喉が乾いちゃって。気をつけるわ」
花陽「ああっにこちゃん!大阪桐陽だよ!あっちにいるのは横女!広学もいる!あれは創徳!?かっこいいいぃぃぃ!はあぅっ見て凛ちゃん真姫ちゃん!
徳島に香川に…四国勢がズラリだよ!ことりちゃん見て見て!博多第一のあの二人は今大会の注目バ ッテリーなんだよ!はああぁぁあテンション上がるよぉ~!」
ことり「は、花陽ちゃん揺さぶらないでぇ~」ユラユラ
にこ「最高ね最高ね!こんな機会そうそうないわ!ガッツリ目に焼き付けておくのよ花陽!」
花陽「はいっにこちゃん!」
凛「かよちんもにこちゃんもすごく嬉しそう!」
真姫「会場に入ってからずっとこの調子。水を得た魚って感じね」
凛「この会場に集まってる人たちと今から戦うんだよね。うーっ、凛もテンション上がるにゃー!」
希「うひゃあ、報道陣もいっぱい。流石はテレビ局がメインスポンサーの大会やねぇ」
海未「の、希…気のせいでしょうか、私たちに向けられているカメラがとても多いような…」
希「んー、気のせいやないと思うよ。ネットを中心にウチらの知名度は上がってるみたいやし、廃校阻止のために戦う音ノ木坂学院!いかにもマスコミ好みやん?」
海未「や、やっぱり…!あっフラッシュが!ひいっ !撮らないでください!恥ずかしい…!」
穂乃果「ダメだよ海未ちゃん!何事も度胸度胸っ!海未ちゃんのビボーでファンを増やさないと!」
ことり「そうだよぉ。海未ちゃんの可愛さを全国にお届けしないと、ねっ♪」
海未「無理ですぅ!恥ずかしいぃ!ううぅぅ…」
希「うひひ、照れ屋さんな感じも需要あると思うよ?これはこれで、中々そそるやん?」
ことり「わかるよ希ちゃん…、キレイなお着物を着せて、帯回しとかしたいよねえ。ヨイデハナイカ、ヨイデハナイカ…うふふふふ…」
穂乃果「おお…ことりちゃんが猛禽類の目をしてらっしゃる…」
キャアアアア!!キャアアアー!!!
パシャ!パシャシャシャ!!パシャッ!
凛「なんの歓声にゃ?」
真姫「なにかしら、入り口の方…あっ!」
にこ・花陽「「UTXキタァァァァァ!!!!!」」
真姫「二人とも、すっかりファンの目に戻ってるじゃない…そんなんじゃ困るわよ」
ことり「うふふ、今日ぐらいはいいんじゃないかなっ。花陽ちゃんもにこちゃんも、子供みたいにはしゃいでてカワイイ♪」
絵里(UTXか…)
海未「怖いぃぃ…カメラが怖いですぅぅぅ…」
穂乃果「海未ちゃん、もうカメラ全部あっち向いたから大丈夫だよー」
海未「ほんとですか…?はぁ、怖かったです…」ぎゅっ
穂乃果「よしよし」ナデナデ
凛「あれあれ?なんかUTXの優木さん、こっちすごい睨んでない?」
花陽「え、あんじゅさんが?そんなわけないよ…って、ほ、 本当だ…」
絵里「……っ」
にこ「ちょっと…誰か、あんじゅに失礼な事したんじゃないの?穂乃果、あんたとか怪しいわね…。なんか変な事言ったりしたんじゃないの?」
穂乃果「にこちゃんってば失礼な!穂乃果じゃないよー!……た、たぶん」
絵里「……」ゴクゴク
ことり「絵里ちゃん、そんなに水飲んで大丈夫…?」
絵里「ええ…喉がカラカラなのよ。あ、水なくなっちゃった…」
ことり「ことりの水も飲んでいいよ」
絵里「ありがと、コッティー」ゴクゴク
ことり「えっ?こっ、何?」
花陽「こ、こってぃー?」
希(アカン、動揺しすぎやろ絵里ち。なんやコッティーって…。
あの晩、UTXの二人と絵里ちが会った日のこと、真姫ちゃんに聞いても詳しく話してはくれなかった。きっと絵里ちに口止めされてるんやろね。
まあそれは予想通りとして、なんとなくUTXと一悶着あったっぽい雰囲気やったからなぁ…)
【それではこれより、組み合わせ抽選会を始めます】
海未「あ、始まるみたいですよ」
凛「ねえかよちん、抽選会ってどういう仕組みなの?」
花陽「うん、甲子園だと各チームのキャプテンが前に出て、予備抽選ってので決めた順番にくじを引いて決めるんだけど、この女子大会はチーム数が多すぎる事もあって機械抽選なんだ。
あの大きいスクリーンに初日の組み合わせから順番に発表されていくんだよ」
凛「へぇ~、なんだかハイテクにゃー」
穂乃果「え、そうなんだ。くじ引きしたかったなー」
【大会一日目、第一試合は 音ノ木坂学院 対 樫山南高校!】
穂乃果「あ、一試合が出たね。音ノ木坂と樫山南だってー。ん、音ノ木坂…?って、えええっ!!」
海未「し、初日…一試合目!」
絵里「ハラショー…」
真姫「一番最初って…どうなのかしらね。ん…花陽?どうしたの?」
花陽「樫山南?岡山県立樫山南高校!?そんな…」
にこ「っ、よりによって…」
凛「二人とも、なんで苦い顔してるの?」
ことり「もしかして…すごく強いチーム、とか?」
花陽「ううん、そうじゃないよ…。樫山南はね、音ノ木坂と同じ。廃校になる高校なんだ…」
ことり「えっ、廃校に…そうなんだ」
真姫「それじゃあうちと同じように、廃校阻止をかけて、出場してるって事?」
にこ「違うわ。樫山南はね、もう廃校は決定済みなの」
真姫「決定済み?じゃあ、どうして…」
希「樫山南、ウチも雑誌で見たよ。最後の思い出作りのために…って話やね」
穂乃果「じ、じゃあ…穂乃果たちが倒したら、そこで樫山南の選手たちは…」
にこ「そう。そこで樫山南の野球はおしまい」
ことり「……樫山南の人たち、とっても仲が良さそう」
海未「似た境遇の彼女たちに引導を渡さなければな らない… というわけですか」
凛「なんだか、ちょっと気が引けちゃうね」
絵里「そんな境遇なら、きっと試合にかける思い入れも強いはず。全力で戦わないといけないわね…!」
穂乃果「…うん、似てるからこそ、負けるわけにはいかないよね。みんな、気持ちで負けないように頑張ろう!」
♯29
【抽選会場廊下】
ガヤガヤ…
凛「うー、やっと出られたにゃ~!背中バキバキだよー。ことりちゃん、軽くストレッチしよ」
ことり「うん、いいよ♪ 人が多くてちょっと疲れちゃったねえ。はいっ、腕引っ張るよー!」
凛「にゃー!!」パキポキ
真姫「抽選会ってこんなに時間かかるのね…。椅子の座り心地がイマイチだったせいで腰が痛いわ」
花陽「結局UTXとは反対のブロックだったね。戦えるのは決勝…アキバドーム…!」
穂乃果「アキバドームか…。決勝は地上波で全国に放送されるんだよね。そうすれば廃校も…うん、なんとしても勝ち抜かなきゃだね!」
真姫「ええ、そうね。せっかくなんだからフルに宣伝させてもらわないとね」
絵里「みんな、ちょっと私トイレに行ってくるわ。待っててね?」
にこ「アンタ抽選会の途中からずっとモジモジしてたもんねー。水の飲み過ぎよ」
絵里「うう…漏らさないうちに行ってくるわ…」
海未「あ、待ってください絵里。私も今のうちに行っておきます。穂乃果はいいのですか?」
穂乃果「んー、いいや。ツバサさんたちいないのかな?挨拶しときたかったんだけどなー」
花陽「マスコミに囲まれちゃわないように早めに会場を出たみたい。私も挨拶したかったなぁ」
海未「では行ってきますね」
絵里「急ぐわよ海未!よぅし、トイレまで競争。負けた方ジュースおごりっ!」ダダダ!
海未「あっ、絵里!ずるいですよ!それに走っては危ないです!」タタッ!
花陽「わぁ、猛スピードで行っちゃったぁ。絵里ちゃん、よっぽどトイレ我慢してたんだね」
真姫「エリー、まだジュース飲む気なの…?」
希「……」ペラッ
希(『塔』のカード。事故、トラブルの暗示…。えらく不穏やね…)
希「ごめーん、ちょっとウチ もトーイレ。みんな待っててな」
花陽「あれ、希ちゃんも?」
真姫「二人と一緒に行けば良かったじゃない」
希「いやぁ、後から行きたくなっちゃって。さっきまではなんともなかったんやけどね?あはは」
にこ「…、じゃ、にこも行くわ。希一人じゃ心配だから」
希「え、いいよにこっち。もし迷ったらスマホで連絡するし」
にこ(……表情でわかるのよ。絵里たちに嫌な予感がするんでしょ?なら一人では行かせないわ)ヒソッ
希(あー、鋭いなぁ…にこっちは)
~~~~~
キャーアヤセエリサンヨー!
ソノダウミサンモイルワー!
ステキー!コッチムイテー!ダイファンデスー!
海未「ど、どうしてこんなにファンがいるのですか!まだ公式試合は一戦もしていないと言うのに!」
絵里「それだけ女子野球の人気が上がっているって事ね。ネットで祭り上げられただけかと思ってたけど、現実にこんなにファンがいるなんて驚きだわ」
海未「うう、しかも女性ファンばかり…私は女ですよ?」
絵里「あらっ、海未は男性ファンが欲しいのかしら?」
海未「ち、違いますっ!男性ファンも女性ファンもいらないという意味ですっ!」
絵里「あははっ!冗談冗談、からかってごめんね?それにしてもトイレが遠い…そろそろ限界な感じ…」
海未「え、絵里っ!漏らしてはいけませんよ!?これだけ注目の集まっている中でそれは洒落になりません!あっトイレが見えました」
絵里「ハラショー!駆け込みましょう! 」
タタタタ!バタン!
~~~~~
ザーッ
絵里「はあ…間に合ってよかった…水の飲み過ぎは良くないわね」
カツ、カツ、カツ
絵里(ん、誰かトイレに入ってきたわね)
ガチャッ、ガタガタ…
ドボボボボ
絵里(掃除用具入れから何かを出して、水を…バケツ?掃除の人かしら)
『せーのっ』
バシャーッ!!!!
絵里「きゃああっ!!!」
『ギャハハハハハ!!!』
海未「絵里!?どうしたのですか!」
絵里「な、上から水…!」
バタン!
絵里「誰!?何をするの!」
モヒカン女A「あー、音ノ木坂の絢瀬絵里で合ってる?」
絵里(女なのにモヒカン?制服を着ているから高校生だろうけど、見るからにガラが悪い…それも三人)
絵里「そうだけれど。見ず知らずの相手に水をかけるなんて、一体何のつもり?」
海未「絵里…!個室の上から水を!?何の真似です、貴女方!」
モヒカン女A「なんかチヤホヤされて調子に乗ってるみたいだからさぁ」ヘラヘラ
海未「ふざけるのもいい加減にしなさい。喧嘩なら私へどうぞ。いくらでも買って差し上げます」
絵里「海未!暴力はダメよ。出場停止にされてしまうわ」
海未「っ、ですが絵里!」
モヒカン女B「来ないの?こっちは殴るけど!」ブンッ
海未(な、後ろ手に凶器を隠していた!?まずい!)
ガシッ!
希「ちょいちょい、危ないなぁ。出会い頭に暴力はアカンやろ」
モヒカン女C「誰だよテメエ…あ、東條希!」
絵里「希!」
希「靴下に砂を詰めたブラックジャックね~。傷の証拠を残さんようにご丁寧にこんな凶器作って…ちょーっとタチ悪すぎやないかな?」
ミシ…ブチブチッ… ザーッ
モヒカン女B「あっこいつ、ナイロンを素手で引き裂きやがった…」
にこ「うわっ、モヒカン?ダサッ!?」
絵里「にこ!」
にこ「なによ絵里、ずぶ濡れになっちゃって。ははぁん、トイレ間に合わなかったわけ~?」
絵里「もう、にこったら…」
海未「さて、四対三ですね。それでもやるのなら、私が相手になりますが?」パキポキ…
希「キミらの運勢は…『死神』のカード。さぁて、ウチの親友にそれ以上何かするなら、……大変な不幸が起こるかもよ?」
にこ「え~っ、にこ喧嘩とかムぅリぃ~!警備員さん呼んじゃったぁ~」
モヒカン女A「チッ、色々と面倒だわ。行くよ」
~~~~~
にこ「行ったわね…」
絵里「はぁ…怖かった…」ヘナヘナ
海未「絵里、大丈夫ですか…?こんなに濡れてしまって、風邪を引いては大変です」
希「こんなこともあろうかとタオルと着替えのジャージを持ってきてたんよ。はい、絵里ち。着替えてき?」
絵里「わぁ、ありがとう希!」
にこ「いやいやエスパー!?用意良すぎでしょ!」
希「備えあれば憂いなし!ってね。それにしても、あの人ら誰やったん?」
絵里(もしかして、UTXの二人を怒らせたのと何か関係が…?)
にこ「絵里、表情暗いけど何か心当たりあるわけ?」
絵里「え、いや…そういうわけじゃ…」
にこ「ま、どっちでもいいけど。多分アンタが予想してる相手とは何の関係もないわ」
希「にこっち、どうして言い切れるん?」
にこ「アイツらの制服を見たからよ。京都健英高校、通称『狂犬高校』。女子高校野球ではかなりの強豪だけど、ラフプレーと素行の悪さでも有名なの。まあ要はクソヤンキーよ」
海未「そうだったのですか…」
にこ「他校の有力選手潰しも常套手段。試合中はギリギリグレーゾーンのプレイで怪我人が多発。関わり合いになりたくない連中ね」
希「ははぁ、そんな人たちやったんやねぇ」
絵里「うん…目が怖かったわ。希、にこ。来てくれてありがとう。海未も、守ってくれてありがとう」
海未「いえ、絵里に怪我がなくて本当に良かったです…。それと、今の出来事はみんなには話さずにおきましょう。変に怖がらせてしまってもいけません」
絵里「そうね。ガラの悪い連中もいるから注意するようにとだけさりげなく伝えればいいと思うわ」
ペラッ
希「カードは『節制』。うん、その方がいいみたいやね。よし、みんなが心配したらいかんし戻ろっか!」
~~~~~
絵里「みんな、待たせちゃってごめんね!」
凛「あれっ、絵里ちゃんなんでジャージに着替えてるの?」
絵里「えっ、あ、これはね?ええと…」
海未(絵里!言い訳を考えていなかったのですか!?)
希「みんな、あんまり突っ込まんどいてあげて?絵里ちはな…間に合わなかったんよ」
絵里「え、希?」
花陽「間に合わなか……あっ…!」
穂乃果「ぅ絵里ちゃん…っ!」
凛「お漏らしにゃー!?」
絵里「ち、違っ!」
ことり「大丈夫…いいんだよ、絵里ちゃん。いいんだよ…」ぎゅっ
花陽「恥ずかしがらなくて大丈夫だよ。私もなかなかトイレに行きたいって言えない方だから、気持ちはわかります」なでなで
真姫「ま、生理現象だから。仕方ないわよ」クルクル
穂乃果「穂乃果も六年生の時にやっちゃったよ!大丈夫っ!」
凛「さすがの凛もこれはネタにしないから安心してほしいにゃ!」
海未(仕方ありませんよ、絵里。ここはもう、そういう事にしておきましょう)ヒソヒソ
絵里「ああっもう!みんなの優しさが痛い!さ、最悪よぉ!!」
希(本当はもうちょっとマシな言い訳があった気がするけど…とっさに思いつかんかったし、面白いからまあいっか。ごめんな絵里ち)
にこ(……問題は、あの京都健英高校とは準々決勝で当たる可能性があるって事よね。…これ以上、アンタたちを危ない目には遭わせないから。あいつらは私が止める!)
♯30
【高坂家】
亜里沙「雪穂雪穂!急いで~!」
雪穂「わわ!待って亜里沙!カルピスこぼれちゃうよ!」
亜里沙「もう試合始まってるよ!パソコンの電源入れて…よいしょ!」
雪穂「女子大会はCSかネット中継でしかやってないんだよね~。おせんべいとカルピスここに置くよ?」
亜里沙「ありがと雪穂。はぁ、応援しに行きたかったな…」
雪穂「夏期講習さえなかったらなぁ。勝ち上がったら塾サボってでも行こうね!」
亜里沙「うんっ!」
雪穂「よし、繋がった!」
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(一回戦)
音ノ木坂学院(東京) 対 樫山南高校(岡山)
【実況】
『一回の表、先攻の音ノ木坂学院。流れるような攻撃を見せています。
ヒット、すかさず盗塁で二塁に進んだ星空を二番矢澤が堅実な送りバントでワンナウト三塁の場面。
ここで二年生キャプテンの三番高坂へと打順が回ります』
亜里沙「あっ穂乃果さんだよ!」
雪穂「お、お姉ちゃん~!頑張れーっ!」
【実況】
『バッター高坂、軽く屈伸を一つ、打席へと入ります。
樫山南のエース田村、捕手のサインを見つめて、首を縦に振る。
セットポジションから、投げた。
――キインッ!
打った、高々と上がった。
これは犠牲フライには充分か。三塁走者星空はタッチアップの構え。
レフトが下がって…
いや伸びる、滞空時間が長い、
レフト下がる、レフト下がる…!
……入った、入りました!
大会第一号!スタンド最前列に飛び込むツーランホームラーン!』
亜里沙「ホームラン!ホームランだよ雪穂!すごいすごい!」
雪穂「やった!やったぁ!お姉ちゃんっ!すごいよー!」
穂乃果ママ「やったわね穂乃果!」
亜里沙「あ、雪穂のお母さんが喜んでる声がするよ。あれ、店番してるんじゃ?」
雪穂「あはは、多分今お店のカウンターに誰もいないんだと思う」
【実況】
『ん?打った高坂はまだ全力疾走しています。
おっと、二塁を蹴ったところで立ち止まりました。塁審に何か確認していますね
ホームラン?ホームラン?と尋ねているよ うに見えます。
あっ、ようやく気が付いた模様です。
あー、笑顔でバンザイ!両腕を高々と突き上げています!
素晴らしい一打!音ノ木坂学院2点を先制!』
雪穂「お姉ちゃん…また微妙に恥ずかしい事を…」
亜里沙「穂乃果さんらしくて素敵だよ!ハラッセオ!」
~~~~~
試合終了
音ノ木坂 13-1 樫山南
海未「穂乃果!ことり!完勝でしたね!」
ことり「うんっ!6回からは絵里ちゃんが投げてくれたから疲れもあんまりないし、すごくいい勝ち方だったと思うなっ」
穂乃果「………」
海未「穂乃果…?」
ことり「穂乃果ちゃん?」
穂乃果「樫山南のみんな、泣いてた…」
海未「…そうですね」
穂乃果「でも、最後の挨拶の時、頑張って!って言ってくれたんだ」
ことり「そうだね…」
穂乃果「勝とう。樫山南の分まで。海未ちゃん、ことりちゃん。絶対にやり遂げよう!最後まで!」
海未「ええ!」
ことり「うんっ!」
♯31
【球場控え室】
ことり「わっ、今日はスタンドがかなり埋まってるよ~」
花陽「初戦の快勝で音ノ木坂の注目度がすっごく上がってるみたい…!ちょっと緊張しちゃうね…ことりちゃんは大丈夫?」
ことり「うふふ、ちょっとだけ緊張するかな~。だから花陽ちゃんのほっぺた触らせてね?」
花陽「ぷ、ぷにぷにしないでぇ…」
希「真姫ちゃん、応援曲の評判も凄いみたいよ。全てオリジナルの出囃子と応援曲、音ノ木坂はプロの作曲家を雇っているのか~なんて書き込みがいっぱい」
真姫「トーゼン。この私が作った楽曲群よ。プロにだって負けないんだから。海未の詞も悪くないしね?」
海未 「自作の詞が歌われてるというのはどうにも慣れませんね…。なんだかすごく不思議な気分です」
にこ「真姫ちゃん!にこの専用応援歌はまだ出来てないの!?」
真姫「大体完成したけど…にこちゃんが持ってきた歌詞、あれ正気で書いた?あんなの本当に応援団に歌わせるの?」
にこ「なぁによ!文句ある!?」
真姫「別に…」クルクル
穂乃果「ねえねえ、今日戦う相手はどんな高校なんだっけ?」
希「えっとね、札幌清心高校。北海道にあるキリスト教の高校やね」
バーン!
穂乃果「ドアが蹴り開けられた!?」
札幌清心の選手「絢瀬絵里はいるかしら!!」
海未「貴女!ドアを開ける時はお静かに!」
札幌清心の選手「あ…ごめんなさい」
絵里「絢瀬絵里は私よ。何か用かしら?」
札幌清心の選手「噂通りね…。貴女のそのペンダント、ロシア正教の八端十字架!」
絵里「あぁ、これはおばあさまの…」
札幌清心の選手「ロシア正教会の犬!邪教徒め!」
絵里「むっ…」カチン
札幌清心の選手「勝負よ絢瀬絵里!私は札幌清心エースの北野!正教会の犬には一打席とも打たせるものか!」
絵里「おばあさまへの侮辱は許さない!その勝負、受けて立つわぁ!」ビシィ!
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!?なんでいきなり喧嘩売られてるの!?」
希「絵里ちが身につけてるペンダント、あれはロシア正教の十字架なんよ。対して札幌清心はカトリック系。この二つの宗教はとっても仲が悪いんよ。つまり、この試合は宗教戦争!嵐の予感やね!」
海未「宗教戦争…!血で血を洗う一戦になりそうですね…!」
絵里「私自身は別にロシア正教を信仰してるわけではないんだけれど、おばあさまは熱心な正教徒なの。つまり、札幌清心はおばあさまの敵!絢瀬絵里、容赦しないわ!」
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(二回戦)
音ノ木坂学院(東京) 対 札幌清心高校(北海道)
【実況】
『試合は九回の裏、音ノ木坂の攻撃を迎えます。
双方三点ずつを取り合う展開。
音ノ木坂学院はここまで高坂、東條のタイムリーと小泉の犠牲フライで得点を挙げています。
この回打順は五番の絢瀬から。打席の絢瀬へは大勢の女性ファンからの黄色い声援が』
絢瀬さーん! 絵里さまー! 素敵~!
やるわよほら、お得意の…
バットでベースをチョンチョンチョン!
キャアアアァァ!!!
『対する札幌清心エース、左腕北野は100球を越える熱投。
プレートの一塁側に足を掛ける、シュートピッチャーらしいスタイル。
ロージンに手をやり、打席の絢瀬を鋭く見据えます』
北野(絢瀬絵里との対戦、ここまでは左飛、三失、中安、一ゴ…。勝負が決まるのはこの打席!)
絵里(おばあさま…インターネットで試合中継を見てくれるって言ってた。なら、打つしかないわよね?)
花陽「絵里ちゃん、頑張って!」
凛「絵里ちゃんなら絶対打てるにゃー!」
北野(受けてみろ!内角を抉る私のシュートを!)ビシュッ!
絵里「Кто платит, тот и заказывает музыку.…」
にこ「あ、出た!絵里のロシア打法!」
海未「絵里!」
絵里(今の私には球の軌道がはっきりと見える。内角に食い込んでくるシュート。なら、曲がり切るよりも前で捌く!)
カッ…キィィン!!!
【実況】
『行ったあーっ!!
瞬間、それとわかる打球!
ライトスタンドへ弾丸ライナーが突き刺さるー!!
五番絢瀬!お見事!芸術的なサヨナラホームラン!!』
北野「あぁ…!」ガクッ
絵里「……ダスヴィダーニャ」
~~~~~
試合終了
札幌清心 3-4× 音ノ木坂学院
北野「完敗です、絢瀬さん…」
絵里「ふふ、楽しかったわ北野さん。そちらも宗教とかで思うところはあるんだろうけど、試合も終わった事だし仲直りしましょう?握手、してもらえるかしら」
北野「あ、ええと、あの…本当は宗教とか、結構どうでも良くって、単にファンなんです。覚えてもらおうと思ってあんな事を…サインくださいっ!」
絵里「えっ、ええっ!?」
穂乃果「ヒュー!絵里ちゃんモテるねぇっ!」
真姫「ほんと、大人気ね」
にこ「ぐぬぬ…!に、にこにーのファンはシャイなボーイズ&ガールズが多いみたいね~?」
花陽「にこちゃんは高齢層のファンが多いみたいだよ。プレーが玄人好みだし、孫みたいで可愛いって」
にこ「嫌ァァ!!巣鴨の星なんて嫌よ!フレッシュな声援を浴びたいぃぃぃ!!!」
♯32
【試合前 選手控え室】
海未「試合が始まるまで少し時間があります。相手の情報の再確認をしておきましょう。にこ、花陽」
にこ「相手の浦和女学院は名門校。今大会の優勝候補の一角よ」
スチャ
花陽「平均野球力はおよそ1900。チームの戦力バランスは打力極振り!特に四番の毒戸(ぶすと)さんは二年生にして野球力3000オーバー!さらにキャプテンシーにも溢れる難敵ですっ…!映像ぽちり!」
\ワーワー!カットバセー!ブッスット!/
穂乃果「ぶすとさん?あはは、変な名前!あ、この映像の人?」
凛「えっ…めちゃくちゃゴツいよ。ホントに女の人?」
海未「こら、失礼ですよ凛」
\ガキィイン!!!/
ことり「うわぁ、すごいスイング…」
真姫「二塁打の後、次の打者のヒットでホームに突っ込んで捕手を吹き飛ばしたわね。戦車みたい」
海未「う、これは…捕手としてはゾッとしない映像ですね…」
にこ「毒戸さんのアダ名を教えてあげる。『和製ブストス』よ」
穂乃果「ぶすとす?って何?」
花陽「ブストス!ソフトボール元米国代表のレジェンドですっ!
北京五輪で22打数11安打(打率.500)、6本塁打、10打点、出塁率.607、長打率1.318、OPS1.925の驚異的成績をマークしたのが特に有名なんです!」パナパナ
希「オリンピックで打率五割ってめちゃくちゃやん!バケモノやね」
にこ「容姿、フォーム、そして実力。どれを取っても異名通りの小型ブストスよ。実際、毒戸さんはアメリカ系のハーフらしいし」
絵里「映像を見る限り、他の打者もかなり鋭いスイングしてる。ある程度の打ち合いは覚悟しておくべきかもしれないわね」
海未「ことり、今日の試合は毒戸さんを仮想UTXと考えて挑みましょう。彼女は綺羅、統堂、優木に匹敵する実力の打者。UTXに通用するかの試金石です!」
ことり「うん、こんなところで負けられないっ。全力で行こうね!」
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(三回戦)
音ノ木坂学院(東京) 対 浦和女学院(埼玉)
【実況】
『二回の裏、浦和女学院の攻撃。注目の四番毒戸が打席へと向かいます。
毒戸のここまでの二試合は10打数6安打5打点。初戦で二打席連続の本塁打もマークしています』
毒戸「よろしくお願いします」
海未(審判に礼儀正しく一礼。所作を見るに、人格者との噂は本当のように思えますね)
(・8・) (海未ちゃん、どうしよう?)
海未(一巡目はあまり変化球を見せすぎず、ストレートを軸に回を進めたいところ。しかしこの毒戸さんは別です。持てる球をフルに使っていきましょう)
毒戸「さあ、来いっ!」
海未(この方は状況に応じて強打と軽打を使い分ける柔軟性が長所。今はバットを長く握っていますね…。先頭打者ランナーなし、この場面はやはり長打狙いという事でしょう)
(・8・) (かなり打ち気…かな?)
海未(様子見を兼ねて、ここは基本に忠実に。アウトローギリギリへの直球です)サイン
(・8・) (わかったよ、海未ちゃん。えいっ!)ビュッ!
毒戸「フンッ!」パキンッ!
(・8・) 「あっ!」
海未「ファースト!」
希「一塁線のライナー、これは取れない!…っと、ファールやね」
海未(強い打球でしたね…)
(・8・) (ビックリしたぁ)
海未(構えた場所よりわずかに甘いボールでした。大柄な毒戸さんなら手を伸ばして届くのですね…。要警戒です)
パシッ ストライク!
ズバン! ボール!
海未(低めにことりボールでストライク。釣り球の高めを見逃されてカウント1-2。追い込み、目線を高めに誘導しました)
(・8・)(ここは…)
海未・ことり((スマイルボール!))
(・8・)(行くよにこちゃん、通用して!)シュッ!
毒戸(…?き、軌道が…!)
ブンッ! スカッ!
ストライクスリー!バッターアウト!
(・8・)「よしっ!」グッ
海未「スマイルボール…使えます!」
穂乃果「やった!ことりちゃんナイス!」
にこ「ことりぃー!にこに感謝するのよー!!」
凛「にこちゃんが外野からギャアギャア吠えてるにゃ」
~~~~~
【実況】
『三回表、音ノ木坂の攻撃。一番の星空が二塁打を放ちノーアウト二塁。
二番、三年生の矢澤の打順です』
凛「えへへ、いい感じに打てたにゃー」
穂乃果「右中間に落ちるヒットで一気に二塁打か~。やっぱ凛ちゃんの脚はすごいや」
絵里「脚が早くてベースランニングも上手だものね、走塁では全チームでトップクラスなんじゃないかしら」
真姫「……」
ことり「真姫ちゃん、難しい顔してどうしたの?」
真姫「チャンスでにこちゃんの打席…。来るわ…アレが」
ことり「アレが来る?」
にこ「ふふ、ふふふふ…」
にこ「遂に来たのね、この時が!」
にこ「さあっ!奏でなさい!にこを賛美するあの歌を!」
【音ノ木坂応援団】
\ニコプリ!ニコニコ!ニコプリ!ニコニコ!/
\ニコプリ!ニコニコ!ニコプリ!イェイ!プリティーガール!/
♪ペペレペッペー ペッペペッペー
にこ「にっこにーにっこにーにっこにっこにー!大宇宙ナンバーワンセンター矢澤にこ!イェ~イ!」
ことり「えぇ…」
穂乃果「あの強烈な歌なに?海未ちゃん作詞?」
海未「断じて違います!」
真姫「にこちゃん自作の歌詞よ…キモチワルイ。全国大会で応援団にあの電波ソングを歌わせる図太さは凄いわよね…」
穂乃果「はえ~…、にこぷり、にこにこ…。ねえねえ、ぷりって何だろ?」
希「ふむ、ウチは囚人(プリズナー)と見たね。きっとあれはにこっちが、矢澤にこという偶像の檻に囚われし自分自身を揶揄した歌なのだよ」
花陽「それか、幼稚(プリミティブ)とか?あ、幼稚っていうと悪く聞こえちゃうけど!そういう意味じゃなくって 、にこちゃん子供みたいで可愛いし…」
海未「いえ、教訓(プリセプト)ではないでしょうか。あの難解な歌詞の中にはおそらく苦労人のにこが人生を生き抜いてきて得た教訓が詰まっているのです」
絵里「あら、お姫様(プリンセス)じゃないかしら?にこにピッタリよ」
海未「ふふ、絵里はにこが大好きなのですね」
絵里「あらそうかしら?ふふっ、否定はしないわよ」
穂乃果「はっ!もしや絵里ちゃん、ロリコンっ!?」
にこ「なんでそうなるのよ!プリティーよ!プリティーガールって思いっきり叫んでるでしょうが!」
希「えー安直やん。そこはもっと捻ろうよ」
にこ「うっさい!」
海未「にこ!打席に集中してください!」
にこ「ぐぬぬ…」
\ピョンピョコピョンピョン カーワイー!/
にこ「まあいいわ!降り注ぐ大声援がにこのスポットライト!応援ありがと~!宇宙の果てまでかっとばすからね~っ!……と言いつつの」
コツン、コロコロ…
希「出たぁ!にこっちのお家芸!歌詞の躍動感に反してライン際にピタリと止める送りバントやん!」
海未「いいえ、違いますよ希。にこのプレーは歌詞に反してなどいません…。心眼を研ぎ澄まし、もう一度歌詞をよく聞くのです!」
希「なんやて海未ちゃん、歌詞を!?ぴょんぴょこぴょんぴょんかーわいー…かーわいー…?ハッ!まさか!」
海未「そうです…!ぴょんぴょこぴょんぴょん川相ー!あれはバントの達人こと川相昌弘選手をリスペクトした歌詞なのです!」
絵里「ハラショー! さすがにこね!」
花陽「にこちゃんすごいよぉ!」
ことり(えー、たぶん違うと思うなぁ…?)
穂乃果「よーし穂乃果タイムリー打っちゃうぞー」ブンブン!
穂乃果「どっせい!」カキィン!
希「ほいっ!」カァーン!
絵里「ハラショ!」カキーン!
海未「一刀両断!!」カッキィーーン!!!
【実況】
『音ノ木坂猛攻!クリーンナップの三連打に続き、六番園田の走者一掃タイムリースリーベース!この回一挙四得点ー!!』
【九回裏】
【実況】
『九回裏の攻防は現在ワンナウト、あとアウトカウント二つで音ノ木坂学院の勝利という場面。
ここまでを投げ抜いてきた南、ここでランナーが一、三塁のピンチを背負っています。
そして迎える打者は四番毒戸!
点差は二点、しかし一打同点、ホームランが出ればサヨナラのピンチ。たまらずマウンドへと内野陣が集まります!』
ことり「ごめんねみんな、あと少しなのに手間取っちゃって…」
花陽「そんな、ことりちゃんは頑張ってるよ」
海未「ええ、花陽の言う通りです!しかし、ここで毒戸さんですか…。少しまずい状況になりましたね」
花陽「敬遠、って手もあると思うな。塁は一つ空いてるから」
希「うん、守りやすくもなるしね。けど、五番の篠田さんには三安打されてるんよねえ」
海未「迷いどころですね…」
花陽「んん…凛ちゃんはどう思う?」
凛「り、凛は作戦のことはよくわかんないから、みんなにお任せで…」
ことり「どうしようかなぁ」
希(みんなの表情が硬い…。緊張をほぐさないとエラーや凡ミスが怖いね)
穂乃果「海未ちゃん!ことりちゃん!」
海未「穂乃果、どうしたのですか?」
ことり「なぁに?」
穂乃果「と、トイレに行きたいっ…!」
ことり「えっ!ええっ!?」
海未「な…なぜ表の攻撃時に行っておかなかったのです!!」
穂乃果「海未ちゃんってばまたまた~。表は穂乃果出塁してたじゃん」
海未「それは八回でしょう!」
穂乃果「あっ、さっきは絵里ちゃんと遊んでたんだった!」
ことり「なんだか熱心にあっちむいてホイしてたよね」
穂乃果「あーそうだった。でもさ、絵里ちゃんから挑んできたんだよ。負けた方がジュースおごりねって!」
海未 「試合に集中してください!ああもう、絵里のジュースおごりへのこだわりは何なのです!!」
希「ごめんな、絵里ちの中でブーム到来中なんよ…」
花陽「ぷっ、ふふっ」
ことり「うふふっ…」
凛「おかしな先輩たちにゃー」
希(うん、みんなの表情から硬さが消えた。さすがは穂乃果ちゃんやね♪)
穂乃果「と、とりあえず早く終わらせよう!トイレが~!」
ことり「海未ちゃん、急がないと穂乃果ちゃんが!勝負しよう!」
海未「もう…なんて緊張感のない決め方ですか…」
希「いやいや、これでいいんよ海未ちゃん。ふふっ」
海未「希…。そうですね、私も、覚悟を決めます」
【実況】
『マウンド上の輪が解けて、さあ試合再開!
四番毒戸と音ノ木坂バッテリーの正面対決です!
ここがこの試合の分水嶺!』
毒戸「さあ、来いっ!」
海未(ことりボールでゲッツーを打たせるのが最善。まずは内角高めのボールゾーンへ直球。のけぞらせて布石としましょう)
(・8・)(了解、厳しいとこ行っちゃいますっ)
スパーン!ボール!
花陽(カウント1-0、状況的に次の球で一塁ランナーがディレードスチールを仕掛けてくるかもしれないよね。ランダウンプレーの準備と、三塁ランナーへの警戒と…)
海未(走者の帰塁が遅い!)「喝ッ!」ビシュッ!
穂乃果「海未ちゃん一塁牽制!?」
希「よっ、と!」バシィッ! アウト!
【実況】
『あーっとランナータッチアウト!浦和、これは痛い!!
音ノ木坂にファインプレーが飛び出しました!
キャッチャー園田、チームを救う好送球!ツーアウト三塁へと状況が変わります!』
希「海未ちゃん!ナイス!」
ことり「海未ちゃぁんっ♪」
花陽「す、すごい、矢みたいな送球…!」
凛「海未ちゃーん!ナイスにゃー!!」
穂乃果「海未ちゃんイケメン!結婚してー!」
海未「ほ、穂乃果っ!?人をからかうのはやめなさい!ツーアウトですよ!みんな、締まって行きましょうっ!」
(・8・) (ほんとに助かったよ~。ありがとう海未ちゃん!)
海未(我ながら良い送球ができました。ラブアロー送球。なかなか、格好良かったのではないでしょうか。……と、いけません、集中ですよ!園田海未!)
海未(…さあ、これでゲッツーを狙わずとも良くなりました。たとえホームランを打たれたところで同点止まり。バッター集中…スマイルボールで仕留めましょう!)
(・8・) (ことりボール!)ストライク!
(・8・) (カーブ!)ボール!
(・8・) (カーブ!)ファール!
(・8・) (ことりボール!)ボール!
毒戸(ここまでは変化球中心。そろそろストレートが来る…?)
海未(さて…2-2の平行カウント。毒戸さんの脳裏には初球に放ったブラッシュボールの残像がまだ残っているはず)
(・8・) (スマイルボールはまだ一球しか見せてない。ストレートを警戒しながらスマイルボール(チェンジアップ)に対応するのは難しい…だよね、海未ちゃん)
海未(その通りです。さあ終わらせましょう、この試合を!)サイン
(・8・) (いくよ、スマイルボール!)シュッ!
毒戸(来た、低めストレート!…じゃない…!?チェンジアップ…くそ!)カキン!!
海未「む、上手く当てられましたね…さすがの技術です。しかしこれは凡フライ!レフト!」
花陽「やった、ゲームセットです!」
凛「待って、打球が意外と伸びてるよ…!真姫ちゃんっ!」
【実況】
『体勢を崩された毒戸、軽く合わせただけ!
ですが…しかし!打球が伸びる!伸びていく!
レフト西木野が追う!!』
真姫「抜かせないわ!この真姫ちゃんの頭上を通り過ぎようなんて…許さないんだからぁぁぁっ!!!」
にこ「真姫!!」
真姫「捕まえちゃうっ!!!」ズザザーッ!!
【実況】
『フェンス間際 、ウォーニングゾーン!レフト西木野頭から突っ込むーっ!!!
どうだ!どうだ!?』
穂乃果「真姫ちゃん!」
真姫「………取ってるわ!」バッ!
審判『アウトー!』
【実況】
『ボールを高々と掲げた!取っている!取っているー!
審判がアウトを宣告ー!ゲームセット!試合終了です!
あーレフト西木野の顔はダイビングキャッチで泥まみれ!
センターにショート、サードにセカンド!選手たちが次々に西木野のところへと駆け寄って労をねぎらいます!
泥だらけの西木野選手へと会場から盛大な拍手!素晴らしいプレーでした!』
~~~~~
試合終了
音ノ木坂学院 6-4 浦和女学院
♯33
【帰りのバス車内】
にこ「音ノ木坂学院の三回戦突破!そしてベスト16進出を祝してぇ~!」
一同『乾杯ー!!!』
凛「くぅ~っ!勝利のジュースは最高にゃ!」
絵里「理事長のおごりのジュースは~?」
えりにこほのりん「「「「おっいしぃーなぁーっ♪」」」」
理事長「みんな美味しい?うふふ、良かったわ」
真姫(まさかエリーが理事長にジュースおごりダッシュを仕掛けるとは思わなかったわ…しかも不意打ち…)ヒソヒソ
希(大物すぎるよ絵里ち…まあ、大人やからジュース代ぐらい余裕やろうけど…)ヒソヒソ
ヒデコ「わ、私たちまでありがとうございます理事長!」
フミコ「試合には出てないのに、いいんです か?」
理事長「ええ、もちろんですよ。どんどん飲んでちょうだいね?」
にこ「ちょっと!言っておくけどね、アンタたちの貢献度ハンパないわよ?遠慮せずに頂いときなさい!」
海未「にこの言う通りです。三人がいるからこそ、私たちは全力でプレーできているのですから!」
穂乃果「そうだよそうだよ!」
ミカ「ありがとう、みんなっ。それじゃ遠慮なくいただきます!」
理事長「それにしても、みんな本当に強いのね。初めて数ヶ月で、まさかベスト16まで勝ち抜いちゃうなんて」
ことり「うふふ。お母さんっ、私たちのこと見直した~?」
理事長「見直すどころか、試合のたびに感動してるわ。今日だって、最終回の西木野さんのスーパーキャッチにはビックリしちゃったわ」
真姫「ヴェ、別に、普通のプレーですし…」
穂乃果「照れてる照れてる」
ことり「ふふっ」
にこ「理事長!かったいベンチに座って肩など凝られてませんか~?」
理事長「えっ?そ、そうね。首回りが少し…」
にこ「かしこまりっ!にこがお揉みさせていただきます!にこが!この矢澤にこがっ!」
理事長「あ、ありがとうね矢澤さん…」
絵里「…?にこは何をしているの?」
希「内申点稼ぎに行ってるんやろなぁ…露骨に過ぎるよ、にこっち…」
理事長「お゛ぉ…上手ね矢澤さん…」
真姫(でも意外と好感触ね…)
海未「………」
絵里「海未?浮かない顔ね」
海未「すみません…少し心配で」
絵里「……次の試合、よね」
希「ベスト16、相手は京都健英高校やね」
海未「……前の試合でも巧妙で悪質なラフプレーで、相手チームに二人もケガ人を出していました。あの悪意がみんなに向けられると思うと…気が重くなります」
絵里「捕手の海未は特に危険よね…少し調べてみたんだけど、過去にホームでのクロスプレーで再起不能にされた捕手の子がいるって…」
海未「私には防具がありますし、武術の嗜みもあります。ですが、走塁での交錯プレーが多い二、三塁。花陽や凛、穂乃果が危険な目に遭うかもしれない…」
絵里「っ……それは、何としても避けたいわね…」
希「んー。でもウチは、あんまり心配してないんよ」
海未「希?それは何故です?」
希「 うん、京都健英の子らと揉めた時にウチが引いたカードを覚えとる?」
海未「確か、死神のカードでしたか?」
希「お、記憶力いいね海未ちゃん。あれ、あの子らの運勢を占ってたんよ。正位置の『死神』…。意味は、終末、終焉、ゲームオーバーとか、そんな感じ」
絵里「そ、そうなの?希…」
希「もう一回占ってみよか?現時点の京都健英は…」
ペラッ
希「『審判』の逆位置。行き詰まりとか再起不能、なんて意味があるね」
海未「ゲームオーバーからの再起不能、ですか。それは…京都健英に何かが起こる、という事でしょうか?」
絵里「それも、再起不能になるほどの?そんな事が本当に起こるのかしら…」
にこ「…希。アンタの占い、あながちインチキでもないのね」
海未「にこ…?」
にこ「理事長は…寝たわね。ふふん、トゥインクルエンジェルにこにーの指圧テクでチョチョイとやれば疲れた大人なんてイチコロで安眠よ」
希「にこっち、何か知ってるん?」
にこ「京都健英、ねぇ。クックック…そろそろ、にこが奴らに仕掛けた時限爆弾が炸裂してる頃ね…!」
絵里「なんですって!?」
海未「に、にこ!ついに犯罪に手を染めてしまったのですか!?」
花陽「…~♪」ポチポチ
凛「かーよちんっ!何見てるのー?」
花陽「うん、さっきの試合の反響とか、色々だよっ」
凛「凛にも見せて見せてー!」ギュッ
穂乃果「あ、穂乃果も!」ムギュッ
花陽「せ、狭いよぉ~。ほら見て、凛ちゃんのツーベースも穂乃果ちゃんのタイムリーもたくさんの人に褒められてるよ♪」
穂乃果「ほあー、すっごい…」
凛「実感わかないにゃー…」
花陽「あとはやっぱり最終回だね。海未ちゃんの牽制と真姫ちゃんのダイビングキャッチが話題になって……えっ、ええっ?!」
穂乃果「どしたの?」
花陽「こ、これは……これはぁっ!!?」ワナワナ
花陽「大変ですっ!!!大事件ですっっ!!!」
凛「かよちん!一体何が!」
花陽「京都健英が!!大炎上してるんですっっ!!!」
にこ「来たわね」フフン
海未「だ、大炎上…!京都健英のバスに仕掛けられた爆弾が炸裂してしまったのですか…」
絵里「なんてことなの…!にこが、にこが!殺人犯に~!」
希「あー、二人とも?多分、二人がイメージしてる大炎上とは意味が違うんやないかな?」
にこ「花陽ー!そのニュース、みんなに詳しく聞かせてくれる?」
花陽「うんっ、にこちゃん!
私たちが次に当たる京都健英高校の部員たちの飲酒、薬物使用、暴行、無免許での酒気帯び運転などなど、大量の不祥事が一気に発覚したんです!
レギュラーの選手たちも大勢その不祥事に加担していて、ブログ、SNSの日記、証拠の写真とかがボロボロ掘り出されてるの!
2chは主要な板ほとんどが炎上祭り状態だし、Twitterでも大騒ぎ!
炎上してるところに次々燃料が投下されて、おまけに選手本人っぽいのが降臨して香ばしい発言で火に油を注ぎまくってます!
これは…これは、京都健英は大会を辞退せざるを得ない状況かも…っ!」
穂乃果「ん?京都健英が辞退したら、穂乃果たちは不戦勝?」
花陽「大会規定ではそうなってるよ!こ、これはもしかして…私たち、いつの間にかベスト8!?」
穂乃果「やったああぁぁぁ!!!」
ことり「ハノケチェェェェン!!!」
凛「ラッキーにゃああああ!!!」
花陽「一連のスキャンダルを最初にすっぱ抜いたのは2525速報…むむ、また助けられた形かぁ…。サイト管理人の25…一体何者なんだろう…」
真姫(ほんと、管理人さんは一体何澤にこちゃんなのかしらね。っていうか花陽はネットに強いのになんで気付かないのよ…)
海未「ははぁ、大炎上とはネットでの事だったのですか…」
絵里「ええと、もしかして」
希「あれ、にこっちが仕掛けたん?」
にこ「そ。狂犬高校…、京都健英のスキャンダルはとっくに掴んでたんだけど、不戦勝で一戦休めるように連中が勝ち上がってくる直前まで温めてたってワケよ。うちは選手層が薄いから、少しでも消耗を抑えていかないとね」
絵里「そこまで考えていたなんて…今孔明ここにあり、ってところかしらね…」
海未「姑息とも言いますね…いえ、本当に助かりましたが…」
にこ「普段はラブリーキューティーなにこにーだけどぉ?……ひとたび戦場をネットに移せば情け容赦なき修羅ことヘレティック矢澤と化すのよ!クケケケ!」
希「ひえっ…」
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(四回戦)
音ノ木坂学院(東京) 対 京都健英高校(京都)
京都健英高校の大会辞退により、音ノ木坂学院の不戦勝
♯34
【音ノ木坂応援席】
ツバサ「ねえ見て見て、この2525速報ってサイト音ノ木坂の情報がすごく細かいの。穂乃果さんの趣味はシール集めと水泳なんだって。シール集めってすごい可愛くない?」サクサクサク
英玲奈「ツバサ、あまり大声ではしゃぐな。せっかく変装してるのにバレるだろう。あと口にお菓子を入れたまま喋るな」
ツバサ「なんで変装しなきゃいけないわけ?芸能人じゃあるまいし。はい、じゃがりこあげる」
英玲奈「お前は自分の人気を自覚しろ。む、うまい」サクサク
あんじゅ「……」
英玲奈「あんじゅ、お前もツバサを注意してくれ。私だけでは手に負えない。ツバサ、もう一本くれ」サクサク
あんじゅ「そうね…ツバサ、足をパタパタさせたら前の人に迷惑よ?」
ツバサ「はいはい…あんじゅも、じゃがりこどうぞ」
あんじゅ「おいしいわ」サクサク
英玲奈(なぁ、お前やけに不機嫌だが、まだ絢瀬絵里に怒っているのか?)ヒソヒソ
あんじゅ(当たり前。あんな子、怪我しちゃえばいいのよ…)ヒソヒソ
英玲奈(はぁ。しつこい奴だなお前)
ツバサ「シール集めか…あ、穂乃果さんにポケモンパンとか差し入れしたら喜んでもらえるかしら」
英玲奈「ポケモンパン…まぁ、いいんじゃないか。もう一本もらうぞ」サクサク
あんじゅ(ツバサの発想可愛いわぁ…)
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(準々決勝)
四国商業(愛媛) 対 音ノ木坂学院(東京)
【三回裏】
穂乃果「ことりちゃんナーイス!ここまで一人もランナー出してないじゃん!」
ことり「ふふふ、今日のことりは絶好調なのです♪」
穂乃果「神ピッチングだよ神ピッチング。ぜひこのまま完封してくださいませ、ことり神様~」
(・8・) 「よかろう~。ならばそなたの唇をことり神へと捧げたまえ~」チュンチュン
穂乃果「ぅえっ!穂乃果の唇を!?む、むむ…完封してもらうためならやむなし…」
海未「ダメです!卑怯ですよことり!ほ、穂乃果のファーストキスを奪おうなどと!」
ことり「……海未ちゃん、悲しいけど、認めなきゃ。穂乃果ちゃんのファーストキスはあのデコチビ女に奪われちゃったんだよ…」グスッ
海未「うああああああ!!!!やめてください聞きたくない!!!!」
ことり「海未ちゃん現実を見て!ことりは穂乃果ちゃんがぴゅあぴゅあじゃなくなったことを受け入れて、セカンドキスを狙うよ!」
海未「ことり、貴女は…強いのですね…」
穂乃果「お腹減ったなぁ~」
希「この子らアホやなぁ」
絵里「四国商業は総合バランスに優れたチームね。突出したスターはいないけれど、制球のいい投手にミスのない守備陣」
花陽「四死球、エラーとかで向こうが自滅するのは、あんまり期待しない方が良さそうかも…」
にこ「そうね、こういう試合を動かしていくには先頭打者の出塁が必須よ。集中していきましょ」
花陽「ええと、この回の先頭は…」
凛「星空にゃ!」ブン!ブン!
真姫「トバサナイデ!私からよ!」
凛「え、ワンナウトランナーなしで凛からスタートじゃないの?」すっとぼけ
真姫「りぃ~ん~!!!」
にこ「凛、アンタがツーベース打てば先頭出塁で送りバントしたのと同じ状況よ。狙ってきなさい!」
真姫 「にこちゃん~!!!ちょっとは私に期待しなさいよ!!!」
絵里(うーん、実際、ここまでの数試合で真姫だけがノーヒットなのよね…。希の指導でスイングは格段に良くなってる。あと少しで打てるようになりそうなのだけれど…)
花陽「大丈夫、打てるよ真姫ちゃん♪」
真姫「花陽…!見てなさい、花陽のために打ってくるから。凛とにこちゃんは吠え面かきなさい!」
スチャ
花陽「いい?真姫ちゃん。四国商業の松尾の野球力は990。良く言えばまとまりのあるピッチャー、悪く言えば特徴のない凡ピッチャー。
コントロールこそまともだけど球速は110キロ台後半、持ち球は縦スラとチェンジアップだけ。せっかくサウスポーなのにどうして横変化を覚えなかったのか理解に苦しみます。
だのに右打者へのクロスファイアを多用するでもない。インを抉る勇気がないのか、そこまでの制球力はないのか。どちらにせよ底が知れてるよ。
遠慮なしで言わせてもらえば『左で投げてるだけ』なんだよね。まあ、その程度のピッチャーなわけで、真姫ちゃんでも打てない事はないよ。
と言っても変に期待はしすぎないから、あまり気負わず頑張ってみてね」
真姫「ヴェッ…」
凛「久々の辛辣ちんにゃー」
にこ「アンタのそういうとこ、尊敬するわ…」
絵里(怖いわおばあさま…)
【実況】
『さあ三回の裏、音ノ木坂学院の攻撃。
ラストバッターの西木野から始まる打順です』
真姫(見てなさい…この天才真姫ちゃんがビシッとホームラン打って目にモノ見せてやるんだから!)
\真姫ちゃぁ~ん!頑張ってぇ~!/
真姫(う゛ぇえ…!?い、今の声は!)
真姫ママ「真姫ちゃーん!可愛いわよー!頑張ってー!!」キャッキャ
真姫(ママ…!めちゃくちゃ目立ってるし!は、恥ずかしい!///)
松尾「プッ…」
真姫(わ、笑った!あのピッチャー笑ったわね!?ば、バカにして~!)ピキピキ
松尾(この子ノーヒットだったよね、人数合わせのおみそってとこかな。適当に低めのストレート投げとけばいいや)シュッ
真姫「私のママをバカにしたら…許さないんだからぁ!!」ガギン!
絵里「あっ、打ったわ!」
海未「ボテボテの当たり…ですが三遊間の深いところ!面白い当たりですよ!」
穂乃果「真姫ちゃん!行けぇーっ!」
真姫 「やあーっ!」ズザザザーッ!!!
セーフ!!!
真姫「や、やったぁ!」グッ!
にこ「ぃやったわね真姫ちゃんんんん!!!!」
凛「ナイスバッティングにゃあああああ!!!!」
花陽「真姫ちゃんやったね!!やったねっ!!」
希「ふふ。なんだかんだ言って、一番喜んでるのはあの三人やね」
絵里「真姫のことが好きでたまらないのよね、三人とも♪」
ことり「もちろん、私たちもだけどねっ!」
穂乃果「よーしっ!この回だよ!真姫ちゃんが作ってくれたチャンス!ここで一気に試合を決めるんだ!!」
凛「いっくにゃー!」カァン!
にこ「にっこにー!」カキィン!
【実況】
『音ノ木坂学院!怒涛の三連打~っ!!
ノーアウト満塁!ノーアウト満塁ですっ!!』
松尾「な、なんなのこいつら!急にバッティングが鋭く…!」
穂乃果「よーしっチャンス!大チャンスだよ!真姫ちゃん、凛ちゃん、にこちゃん、ランナーがたくさんだ!ああっ、ワクワクしちゃうよ~っ!!」
松尾(…っ、打たれる…!なんで…なんで!?打たれるビジョンしか見えないっ!)ゾクッ
穂乃果「さぁ、 勝 負 だ よ っ !!」
【音ノ木坂応援席】
ツバサ「……」すっ
あんじゅ「ツバサ?どうしたの、席を立ったりして。大好きな高坂さんの打席よ?」
英玲奈「まさか、また腹を下してトイレか?整腸剤ならあるが…」
ツバサ「行きましょう、二人とも。もう観る価値はないわ」
あんじゅ「え、えっ??」
英玲奈「どうしたんだ急に…まさか、高坂穂乃果に興味がなくなったのか?」
ツバサ「まさか。穂乃果さんの事はもっと好きになっちゃった」
あんじゅ「なら、どうして…」
ツバサ「終わった試合に興味はない。それだけの事よ」
\カィンッ!/
\ワアアアアアアア!!!!!/
あんじゅ「あっ…」
英玲奈「満塁ホームラン、か」
ツバサ(ポケモンパン買って帰ろっと)
~~~~~
試合終了
音ノ木坂学院 8-0 四国商業
♯35
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(準決勝)
博多第一高校(福岡) 対 音ノ木坂学院(東京)
【実況】
『準決勝第一試合、博多第一高校対音ノ木坂学院は白熱の試合展開を見せています。
九回の表を終えて得点は未だ1-1、それぞれの四番、岡野と東條が打ったソロホームランのみ。
さあそして九回の裏、音ノ木坂学院は現在サヨナラのチャンスを迎えています。
ツーアウトながら三塁にはランナー小泉、そしてバッターボックスにはトップバッターの一年生、星空が向かいます!』
にこ「……土壇場でノンキなこと言うようだけど。博多第一のバッテリー、ほーんと美人よねぇ~」
穂乃果「え、いきなりどうしたのにこちゃん?」
にこ「あの二人、ピッチャーの福とキャッチャーの岡野。女子野球界ではずーっと有名だったエリート選手でね、UTXの三人に次ぐスターなの。卒業後はアイドルとしての芸能界デビューも決まってるのよ。Dreamって名前で」
穂乃果「へぇ~、アイドルかぁ…確かに二人とも可愛いね!」
にこ「でしょ?ファンなのよ。部屋にポスターだって貼ってあるわ。……ロクに友達も作らずにバイトばっかりしてた私が、そんな憧れのスーパースターたちを、あと一歩で倒せるところまで追い詰めてるんだな…って思うと、少し感慨深くって」
穂乃果「にこちゃん…」
にこ「穂乃果、アンタがいなかったら、私は本当にやりたいことを我慢したまま大人になっていってた。野球部を作ってくれてありがとう。感謝してる」
穂乃果「えへへ…。なんか、照れちゃうなぁ」
にこ「だから、勝つわよ。決勝に辿り着けずに終わって、アンタがいなくなる。そんなつまんない話は人類70億のセンター矢澤にこ様が許可しないわ」
穂乃果「うん…!絶対に勝とう、にこちゃん!」
にこ「そこで作戦よ!ピッチャーの福、ポニテの方ね。あの右腕から繰り出されるスライダーとフォークは両方がウィニングショット級。そうそうヒットを打てるもんじゃないわ」
穂乃果「うん、ここまで13個も三振させられちゃってるもんね」
にこ「そう、ミートの上手い絵里や海未でさえキリキリ舞い。正直この場面、凛にまともに打たせるのは荷が重い」
絵里「ハラショー」
真姫「まあね」
希「そうかもしれんね」
海未「概ね同感です」
ことり「うんうん」
穂乃果「そういえば、なんでみんなずーっと黙ってたの?」
絵里「その…にこが珍しく良い話をしてたから、邪魔したら悪いかな~って。で、野球の話に戻ったから、そろそろいいかな~って…」
真姫「本当に珍しいものね、にこちゃんがまともな話をするなんて。夏だけど、明日はきっと雪だわ」
にこ「うっさい!感動したなら素直に感動したって言いなさい!あーもう、話戻すわよ。っていうか手短に話す。スクイズ、行きましょ」
穂乃果「んん!?ツーアウトだよ?!」
にこ「だからこそ相手の警戒は薄い。凛の脚ならスクイズは可能よ!」
海未「しかし…あまりにもギャンブル的な攻撃になってしまうのでは?」
にこ「もちろん、凛の脚以外にも理由はあるわ。まずキャッチャーの岡野」
海未「眼鏡を掛けているあの方ですね」
にこ「そう。彼女は頭の良いデータ型の捕手で、リードと打撃は一級品だけど弱点が一つ。捕手にしては肩が弱いの。そしてピッチャー福もバント処理がそれほど上手くない」
絵里「ただの奇策じゃなく、仕掛けるための根拠は充分ってわけね」
海未「ふむ…賭けてみるのも、いいかもしれませんね」
穂乃果「穂乃果は賛成!スクイズって上級者っぽいし!」
真姫「上級者っぽいって、頭の悪そうな感想…」
穂乃果「ひどいよ真姫ちゃんー」
にこ「ここまでの試合はあえてオーソドックスな作戦だけで戦ってきた。奇策のカードを切るなら今ここよ!」サイン
花陽(ここでスクイズ…!なるほど、流石はにこちゃん。走力、フィールディング、肩…複数の要素を考慮した冴えた作戦です! )
凛(す、スクイズのサイン!上級者のやつだにゃ…!ば、バントはないぞって思わせなきゃ!)
凛「よ、よおーし?!りっ、凛がスタンド最上段までかっ飛ばしてさしあげますわよ!」ブン!ブン!
岡野(あっ福ちゃん、これスクイズだ)
福(オッケー)
にこ「あんのバカ!大根!自然にしてなさいよ!相手バッテリーが露骨に警戒してるじゃない!一旦サイン解除よ!」サイン
シュッ スパン!
ボール!
海未「ウエストボールでしたね…危ないところでした」
凛(すべてお見通しってワケか――)アンニュイ
にこ「なーにカッコつけてんのよ、あのバカ!」
絵里「やっぱり、凛に細かい作戦は向かないんじゃないかしら…」
真姫「策士策に溺れる。にこちゃんらしいわね」
にこ「ぐぬぬぬ…好きに打ちなさい!凛!」サイン
凛「オッケーにこちゃん!凛がスカッとタイムリー打つからねー!」
海未「もう…あれでは大声でスクイズはないと教えてしまっているようなものです…」
凛(…かよちん)
花陽(…!)
岡野(ああ、アホの子なんだね。相手ベンチの雰囲気からしてスクイズはなさそうかな)サイン
福(そもそもツーアウトだし、警戒しすぎでしょ?バッター集中で行こ)シュッ
花陽(行くよっ!)スタタッ!
にこ「えっ…」
海未「花陽!なぜ走っているのです!?」
希「単独ホームスチール?む、無茶や花陽ちゃん!」
凛「にゃ」コツン ダダダダッ!
絵里「ええっ!凛がバント!?にこ、サインは」
にこ「出してないわよ!で、でもこれは!」
岡野「福ちゃん!ホームは無理!ファースト送球っ!!」
福「これっ、間に合わない…!」シュッ!
パシッ
セーフ!!!
にこ「ナぁイスゥゥゥゥ!!!!」
穂乃果「サヨナラだあああああ!!!!」
絵里「ハラショー!!!!!」
真姫「凛!花陽!やったー!!!」
花陽「凛ちゃぁぁぁん!!!」ギュッ!
凛「かよちぃぃぃん!!!ギュッ!
岡野「そ、そんな、どうして…どうして…」
凛(凛知ってるよ。人間が最も策に陥りやすいタイミングは、策を看破した直後なんだって)
ことり「ねぇ花陽ちゃん、どうして凛ちゃんがスクイズするってわかったの?」
花陽「えへへ、付き合い長いもん。凛ちゃんの考えることならアイコンタクトでわかるよ」パナっ
凛「かよちん愛してるにゃー!!!」
理事長(これで決勝進出…本当に、本当に、すごい子たちね…)
~~~~~
試合終了
博多第一 1-2× 音ノ木坂学院
♯36
《全国高等学校女子硬式野球選手権大会》
(準決勝)
UTX高校(東京) 対 大阪桐陽(大阪)
【実況】
『準決勝第二試合、UTX高校と大阪桐陽の東西対決は一方的な展開となっています!
現在九回裏ツーアウト、ビハインドの大阪桐陽。
打席には四番、抜群の長打力を誇る永村。
本来であれば逆転を期し、四番のバットに望みを掛ける場面なのでしょう。
しかし、しかし!時既に遅し!
19-0!UTX高校が大差でリード!ここから押し返すのはいかな強豪大阪桐陽でも難しいでしょう!
さあピッチャー綺羅、サインに頷き、振りかぶって…投げたっ!
三振!空振り三振!
綺羅ツバサ!ノーヒットノーラン達成ー!!
大阪桐陽の誇る強力クリーンナップ、深町、永村、林の三人をしても綺羅ツバサを前に手も足も出ず!
積み重ねた三振はなんと22!許したランナーは三つの四死球のみ!
当たらない!掠らない!まさに『魔術師』綺羅ツバサ!!
それをリードしたのは『精密機械』統堂英玲奈!
打撃でもなんとサイクルヒットを記録!凄まじい活躍を見せました!
さらに四番『怪童』優木あんじゅの活躍ぶりもお伝えしなければなりません!
打ちも打ったり三打席連続ホームランを含む9打点!
最強!女子高校野球史上最強のチームと呼んで過言ではないでしょう!』
【西木野家】
大画面テレビ
\女子高校野球史上最強のチームと呼んでも過言ではないでしょう!/
にこ「……」
絵里「……19-0」
凛「……にゃー」
希「…つ、強すぎん?」
海未「まさか…ここまでだとは…」
にこ「どうやら準々決勝までは、本気を出してなかったみたいね…」
ことり「こんな事…ほんとは言っちゃダメなんだけど…本当に抑えられるか、自信がなくなっちゃった…」
海未「ことり…貴女は!……っ!」
希(叱咤しようとした海未ちゃんが口淀んだ…。無理もないよ、ことりちゃんが通用するか、今それを一番理解しているのは海未ちゃんやろうから…)
真姫「…ごめんなさい。私が、家でUTX戦の中継を見ようなんて言ったから…」
海未「そんな…真姫のせいではありません」
凛「そうだよ、試合はどうせどこかで見てたんだから…」
絵里「…私たちじゃ」
にこ「絵里?」
絵里「私たちじゃ…UTXには…」
にこ「絵里…やめなさい。その先を言ったら許さないわよ…!」
希「絵里ち…ダメ…!」
絵里「………勝てな
穂乃果「大丈夫じゃないかな?」
絵里「………穂乃果?」
穂乃果「どしたの絵里ちゃん?ビックリした顔で」モグモグ
にこ「穂乃果、アンタは…UTXに勝てると思うのね?」
穂乃果「まぁ、そりゃ、強いな~!とは思うけどさ。勝てると思うよ?」モグモグ
絵里「強いのね…穂乃果は」
穂乃果「へへ、ダテにチームの太陽やってませんから!ねっ、にこちゃん♪」
にこ「んなっ!アンタ、サイトのこと気付いて!」
穂乃果「それに…勝てると思ってるのは、穂乃果だけじゃないよ」
海未「え…?」
穂乃果「ねっ、花陽ちゃん!」
凛「かよちん…?」
花陽「うん…勝てるよ。勝たせます。私と、凛ちゃんで」
凛「あれっ、凛もなの?」
ことり「花陽ちゃん」
花陽「ことりちゃん、心配しないで。ツバサさん、英玲奈さん、あんじゅさんとの対戦に集中してくれれば大丈夫だから」
海未「花陽…まさか、何か秘策があるのですか?」
ガチャッ
真姫ママ「みんな~、お菓子や飲み物のお代わりは…」
真姫「ま、ママ」
真姫ママ「あら、なんだかお邪魔しちゃったかしら?」
穂乃果「真姫ちゃんのお母さん!このゼリー美味しいです!」
真姫ママ「あら、本当?貰い物でたくさんあるから遠慮せずにどんどん食べてね」
穂乃果「ん~!このビワのやつも美味いっ!」モグモグ
海未「ほ、穂乃果…少しは遠慮をしてください!」
真姫ママ「いいのいいの、ちょっと数が多すぎて処分に困ってたのよ。食べてもらえた方が嬉しいわ♪」
真姫「…本当だから、気にしなくていいわよ。山積みになった贈答品で一部屋潰れてるの」
海未「そ、それは凄いですね…」
穂乃果「ありがとうございます!あ、桃ゼリーも美味しい~!」モグモグ
真姫ママ「それじゃあ、皆さんゆっくりくつろいで行ってね?」
バタン
穂乃果「みんなはゼリー食べないの?すっごい美味しいよ」
凛「あ…凛も貰おうかな」
穂乃果「どのフルーツがいい?オレンジとかマンゴーとかブドウとかなんか色々あるよ!」
凛「うーん、オレンジで!」
ことり「ことりも食べようかな。マスカットにしようっと」
にこ「ふう…細かい話をする雰囲気でもなくなっちゃったわね」
真姫「もう、ママのせいね…」
絵里「みんな、ごめんね。三年生の私は特にしっかりしなくちゃいけないのに、弱気になっちゃって…でももう大丈夫。強い気持ちで戦えるわ」
ことり「ことりもだよ。もう大丈夫、実力はともかく、絶対に気持ちで負けたりしないから!」
海未「私も…どうやら修行が足りなかったようです。戦を前に心で負けるなど園田の恥。必ず勝利を手中に収めましょう!」
希「穂乃果ちゃん、花陽ちゃん。二人のおかげで、みんなが勇気を貰えたよ。本当にありがとね」
花陽「そ、そんなぁ、私は大した事してないよ。私より、穂乃果ちゃんが…」
穂乃果「フッフッフ、希ちゃん!タロット貸して!」
希「ん、タロット?いいよ。はいどうぞ」
穂乃果「ありがとっ!さーて、今日の穂乃果は預言者だよ!私は預言します、決勝で大活躍するのは花陽ちゃん!その運勢は…これだーっ!!!」
花陽「ピャアアアア!?」
ペラッ
穂乃果「……って、そういえばタロットの意味知らないや…。希ちゃん、この絵ってどんな意味?」
希「どれどれ?これは『隠者』の正位置やね。意味は経験則、単独行動、変幻自在とか…」
花陽「あ、なんだか…合ってる、かも?」
穂乃果「おぉ…占えた?もしかして希ちゃんの占いって、このタロットがすごいだけなんじゃ…」
希「ワシワシするよ?」
穂乃果「ごめんなさい!!!」
♯37
【コンビニ前】
穂乃果「ねえ海未ちゃん。穂乃果は思うんだ、パピコは過小評価されてるって」
海未「はぁ、過小評価…ですか?」
穂乃果「だって他のアイスと大体同じ値段なのに1本食べ終わってももう1本残ってるんだよ?これはもう奇跡のお得感だよ!」
海未「分割されているだけで、量的には他のアイスとそれほど変わらないと思いますが…」
穂乃果「チチチ、甘いね海未ちゃん。パピコは美味しさとお得感の二刀流…と見せかけて!第三の刃を隠し持っているのさ!」
海未「そうなのですか?ふむ、隠し小太刀とはやりますね」
穂乃果「興味が出たかい海未ちゃん」
海未「多少は。で、その第三の刃とは一体なんなのです?」
穂乃果「それを語るには、ちょっとした前準備が必要なんだ…。海未ちゃんの雪見大福一ついただきっ!」パクッ
海未「う゛ぁぁぁぁ!!」
穂乃果「うーん…人からもらう雪見大福の美味いこと美味いこと…」
海未「わ、私の雪見大福が…」ワナワナ
穂乃果「そしてそして~?代わりに穂乃果のパピコ一本をあげるっ!友達と交換して楽しい!これがパピコ第三の刃だぁーっ!」
海未「貴女は最低ですっ!」パチーン!
穂乃果「うへぇ痛い!なんでさ海未ちゃん!パピコあげたじゃん!」
海未「ダメです!雪見大福を一つとパピコ一本は決して等価交換ではありません!」
穂乃果「むむむ、パピコだって美味しいのに…じゃあ特別!海未ちゃんにはこっち、穂乃果の食べかけのパピコを進呈しよう!」
海未「な!穂乃果と関節キス…!?……いっ、いけません!破廉恥ですっ!」
ことり「待たせてごめん~!何買うか迷っちゃったぁ。あれ、海未ちゃん顔真っ赤?二人で何の話してたの?」
穂乃果「海未ちゃんが穂乃果とキスをしたがってるって話だよ!」
ことり「ええ~っ、海未ちゃんだいたぁん♪ことりも二人とキスしたいなっ」
海未「そんな話はしていません!ふしだらです!淫奔です!乱れていますっ!成敗ッ!」
穂乃果「海未ちゃんごめん!からかいすぎたよ!わわわ、手刀で首筋を狙うのはやめて!」
ことり「やんやん♪ ハノケチェン逃げて~っ!」
海未「ことり!破廉恥なのは貴女もです!成敗ッ!」
ことり「ぴぃぃっ!?」
~~~~~
穂乃果「あはははは!あははっ…、はぁー、走り疲れたっ!海未ちゃんってば本気で追い回してくるんだもんなー」
ことり「はぁ、はぁ…い、息が上がっちゃったよぉ~」
海未「二人がおかしな事を言うからです!全くもう……ふふっ」
ことり「うふふっ、海未ちゃん笑ってるよ?」
海未「だって、必死の形相で逃げる二人がおかしかったものですから。ふふふ…」
穂乃果「あ、そういえばさ!昔もここで、三人で鬼ごっこしてたよね!」
ことり「うん!まだ海未ちゃんが泣き虫さんだった頃だよね♪」
海未「も、もう…からかわないでくださいよ。私は早生まれですから、幼少期に多少引っ込み思案になるのは普通の事です」
ことり「今はすっかり格好良い女の子になっちゃったよね?」
穂乃果「えへへ、またあの頃の海未ちゃんに会ってみたい気もするよね!」
ことり「うんっ!うさぎさんみたいで可愛かったもんねぇ。今もとっても可愛いけどねーっ♪」
穂乃果「ねーっ♪」
海未「もう…二人とも、私を赤面させるのが生き甲斐だったりします?」
穂乃果「わかってるぅ!」
ことり「否定しませんっ♪」
海未「はぁ、やっぱり…」
穂乃果「あははははっ!あぁ、楽しいなぁ…海未ちゃんもことりちゃんも大好きっ!」
―――ザァァッ!
穂乃果(わ、強い風…)
穂乃果「……」
穂乃果「……決勝、明日だね」
ことり「うん…」
海未「そうですね…」
穂乃果(……あれっ?)
穂乃果(もし明日負けたら…こうやって二人と一緒に帰れるのも、今日が最後?)
穂乃果(負けたら…負けたら、どうなるんだろう?)
穂乃果(別々の高校で、別々に卒業して)
穂乃果(もちろん連絡は取れるけど、会える時間が今とは比べられないぐらい短くなって)
穂乃果(お互いに、お互いの、知らないことが増えて…)
穂乃果(卒業したら、私は大学…行くのかな?それとも、高卒で穂むらを継ぐのかな?)
穂乃果(海未ちゃんもことりちゃんも、高校を卒業したらそれぞれ忙しくなったりするのかな…?)
穂乃果(それに、今はまだ全然イメージできないけど…何年先かわからないけど…二人とも、大切な人ができて、結婚したりする日が来るのかもしれないよね…)
穂乃果(全然会えなくなって…私も、二人も、お互いがすれ違ってもわからないくらい、大人になって)
穂乃果(嫌だ…)
穂乃果「そんなの嫌だよ…!」
海未「穂乃果…?」
穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん…!私、全然わかってなかった。私!大変な事を…!」
海未「穂乃果…」
穂乃果「明日負けたら…負けちゃったら…!」
ことり「穂乃果ちゃんっ!」
ぺちん!
穂乃果「……っ、!ことり…ちゃん?」
海未(こ、ことりがビンタを…!いえ、見るからに痛くなさそうなビンタでしたが…)
ことり「穂乃果ちゃん。ことりは怒ってます」
穂乃果「は、はい…」
ことり「激おこちゅんちゅん丸です」
穂乃果「はい…」
海未(一体何ですか、その威圧感の欠片もない言葉は)
ことり「穂乃果ちゃん、直前になって怖くなるくらいなら、ツバサさんのあんな申し出受けなければ良かったんだよ」
穂乃果「……」
ことり「正直に言います。穂乃果ちゃんはお馬鹿さんです」
穂乃果「……うん」
海未(ことりが穂乃果に説教を…レアすぎます。希ではありませんが録画をしたいぐらいです)
ことり「……でもね、ツバサさんが助けを求めてるのに手を差し出さない。……それは穂乃果ちゃんじゃないとも思うの」
穂乃果「……」
ことり「穂乃果ちゃんはね、そういう人なんだよ。悩んでる人、困っている人、寂しそうな人、苦しそうな人。気付いたら絶対に手を差し伸べちゃうの。助けようとしたら自分に迷惑がかかるとか、そんな事は全然考えずに」
穂乃果「……」
ことり「きっと何度生まれ変わっても、こことは違うパラレルな世界に生まれても、自分のためより人のために、壁を恐れず困難に立ち向かっていく。高坂穂乃果って人間は、そういう人なんだと思うの」
穂乃果「……」
ことり「だから、穂乃果ちゃんはそれでいいんだよ。負けたらなんて考えないで。勝ってツバサさんを助ける、それだけを見てて。そんな穂乃果ちゃんのために、ことりと海未ちゃんがいるんだから」
穂乃果「ことりちゃん…」
海未「穂乃果」ギュッ
穂乃果「海未ちゃん…」
海未「安心してください、必ず。必ず、貴女を守ります」ぎゅうっ
穂乃果「……うん、グスッ…うん…」
海未「勝負に絶対はありません。なので万に一つ!私たちが負けたとして…その時はUTXの警備員を片端から血祭りに上げて、穂乃果を助け出してみせますから」
穂乃果「ぐすっ……えへへ、警察に捕まっちゃうよ…?海未ちゃんってば、ほんと武闘派だなぁ…」
海未「ふふふ、いいのです。私が社会的に失墜したら穂むらで雇ってくださいね?…貴女には私たちが付いています。だから貴女は、前だけを見ていれば良いんですよ、穂乃果」
ことり「ごめんね…叩いてごめんね…穂乃果ちゃんっ…!」ぎゅうっ!
穂乃果「ことりちゃぁん…!」ぽろぽろ
海未(ことりが叱り、私が慰める。たまには役割逆転というのも良いものです。穂乃果を勇気付けてくれた事を感謝します、ことり…)
穂乃果「ありがとう…二人とも、本当にありがとう…!私はもう迷わない。絶対に、絶対に勝とう!これからもずっと…三人で、ずっと一緒にいるんだから!!」
♯38
花陽「つ、ついに来ちゃいました…!私たち以外、女性客なんて一人もいない男の花園…!その名も『とんかつ軍曹』!」
凛「す、すごい、お客さんたちが一心不乱にカツと向き合ってるよ。凛とかよちんの女子高生二人がいるのに誰一人チラリとも見向きしない…」
花陽「三大欲求を食欲に限定した誇り高き求道者たちの集う店…それがこの『とんかつ軍曹』なんだよ!」
凛「凛はこんな店に来ちゃうかよちんも好きにゃー」
花陽「真姫ちゃんは今ごろ頑張ってるのかなぁ。曲の最終調整があるからって来れなかったけど…」
凛「真姫ちゃんも最後まで来るか迷ってたもんね。一緒に食べたかったなぁ」
花陽「でも、ここは西木野家のお嬢様には流石に荷が重い…ひたすら真摯に自らの胃袋と向き合う食の闘士たちだけが存在を許される戦場だから…」
凛「かよちんの目がフードファイターの光を宿した…!」
店員「へいお待ちぃ!超ビッグロースカツ定食ごはんメガメガ盛り一丁!」ズドン
花陽「ふわぁぁぁあ!美味しそうっ!見て見て凛ちゃん揚げたての特大カツが二枚!そして、ツヤっ…ツヤで可愛い白米がさながら剱岳の如くうず高く積み上げられているよぉ!」
凛「へへ、かよちん嬉しそうにゃー♪」
店員「カツカレーラーメン一丁お待たせしました!」ドスン
凛「栄養気にせずラーメンばっか食べてる凛でもチョイ引きしちゃう禁忌のメニューが来たにゃああ!!」
花陽「すごいね!すごいね!美味しそうだね!やたら量が多いね!」
凛「油でギトギト…もしかしたら2000Kcalぐらいあるんじゃ…で、でも今日はいいの!カツで明日の試合に勝つ!食べよっかよちんっ!」
花陽「うんっ!いただきまぁす!うわぁぁあ!カツがサクサクでジューシー…!腹が満たせればいい的なお店の雰囲気に反してお肉は柔らかくて上質なもの!
でもそれでいて、人間がとんかつという食べ物に本能的に求めているいい意味でのチープでジャンクな味わいも…!
そうか、ソース!この特製ソースが美味しいんだよ!付け合せのキャベツにもダバダバかけて口の中に押し込む!ハァァァ!幸せぇ!
そしてそしてぇ?魚沼産コシヒカリ!!王道っ!王道っっ!カツもキャベツも所詮は脇役引き立て役!さぁ、今こそ花陽の口の中へそのつやつやフォルムを…!んぅぅぅ!!美味しい!美味しいよぉぉ!!」
凛「カロリーの味がして美味いにゃー」ズルズル
花陽「凛ちゃん、スープ一口味見させてもらってもいい?」
凛「もちろん…ん?ねえかよちん、あそこに座ってる人って…」
店員「はいお待ち!ヒレカツ重ね盛り定食一丁!」
英玲奈「イタダキマス」
花陽「わ、わ!英玲奈さんっ!?え!間違いない!英玲奈さんだよ!?なんでこんな店に英玲奈さんがイルノォ!?」
英玲奈「ん…?おや、小泉さんと星空さん。こんな場所で会うとは奇遇だな」
凛「こ、こんばんは…。あの、統堂さんもこういうガッツリ系のお店に来るんですね」
英玲奈「大きな試合の前にはよく来る。カツで勝つ。ゲン担ぎというやつだ。フフ」ドヤ
花陽「ふぁわぁあぁ!確固たるデータに裏打ちされた常日頃のクールな面持ちとは正反対の非論理的でお茶目な少女の一面っ!これぞファンにはたまらぬオフショット!」
英玲奈「ここは量だけでなく美味いからな。けほっ!クッ、辛子を付けすぎた…」
花陽「ピャァァァアアア!トンカツにカラシをべったり付けすぎてむせてる!あの高貴な英玲奈さんにこんな庶民派の一面があったなんてぇ!ス・テ・キ!」
凛(多分かよちんUTXの人たちが何やっても感動するにゃー)
英玲奈「しかし、流石だな」
花陽「え、流石?とんかつ軍曹がですか?」
英玲奈「いや、君たち二人がだ。決勝の大舞台を明日に控えてなお、その健啖家ぶり。食事がしっかり胃を通るというのは自信の表れ。君たちは勝てると踏んでいる。そうだろう?」
花陽「はい、勝ちますっ」
凛「凛はかよちんを信じてる。それだけです」
英玲奈「……瞳に一点の迷いもなし。絶対の信頼か。本当に面白いな、音ノ木坂というチームは」
英玲奈「君たちに勝ってもらいたい。だが、手は抜かない。明日の試合、お互い全力を尽くそう」
花陽・凛「「はい!」」
~~~~~
花陽「はぁ~!美味しかったぁ!」
凛「お腹パンパンだよー!さすがに食べすぎちゃった気もするね」
花陽「あの店に行ってみたいって私のワガママに付き合わせちゃってごめんね?」
凛「凛はかよちんのお誘いとあらばどこへでも行くにゃー♪」
花陽「えへへ、次は凛ちゃんの行きたい店に行こうね♪」
凛「じゃあ今度は神保町にできた新しい家系ラーメン食べに行こ!真姫ちゃんも強引に引っ張ってくにゃ!」
花陽「いいよっ!家系は白米と合うから素敵だよねぇ…炭水化物on炭水化物バンザイ!」
凛「ねえかよちん、凛を野球に誘ってくれてありがと!」
花陽「うん!野球、楽しいよねっ」
凛「すっごい楽しいよ!」
花陽「うんうん…凛ちゃんを野球フリークにするための長年の努力が実を結んで嬉しいよおっ…!」
凛「かよちんの家に遊びに行くたびに野球ゲームとか野球の映画とかばっかり見せられてきたからねー」
花陽「夏休みに徹夜で野球映画5本立て上映した時は楽しかったなぁ~」
凛「凛は途中から朦朧としてたから最初の方に見たメジャーリーグとメジャーリーグ2しか覚えてないけどね!」
花陽「え、そうだったの?じゃあまた今度上映会のやり直しだねっ!今度こそ寝落ちは許さないよぉ♪やっぱりマネーボールからかなぁ、がんばれベアーズぐらいが見やすいかなぁ…」
凛「ええーっ!!もう勘弁にゃあああ!!こうなったら真姫ちゃんとにこちゃんも…いや、全員道連れに…」ブツブツ
花陽「ふふっ…りーんちゃんっ!大好き!」
凛「わっ、かよちん!凛も愛してるにゃー!」
♯39
【生徒会室】
ガチャッ
希「絵里ち、いる?」
絵里「あら?希、まだ残っていたの?」
希「それはウチの台詞やん。下校時間はとっくに過ぎてるよ?生徒会の仕事はあらかた終わってたはずやけど…」
絵里「うん…試合の事を考えると落ち着かなくって。生徒会室にいると、別の事を考えられるでしょう?」
希「ふふ、息抜きが生徒会なんて絵里ちらしいね」
絵里「そうね、それに…ここで座ってたら希が来てくれる気がしたの。…なーんて」
希「あっ、そ、そうなん…」
希(あ、あかん…凛ちゃんが言ってたキスがどうのこうのを思い出して、恥ずかしく…!)
絵里「あ、そういえば!この前、希がLINEでネットの面白い記事を送ってきてくれたでしょ?」
希「ぁ、ああ!あれね!面白かったやろ?」(よかった、話が逸れた…)
絵里「うん、すっごく笑っちゃったわ!思わず亜里沙にも見せちゃったぐらい。それで、しばらくあのサイトの色々な記事を眺めてたんだけどね」
希「うんうん、なんか他に面白い記事とかあったん?」
絵里「ああいうまとめサイトって、広告が出るでしょ?バナーっていうのかしら。あれって性的な物が混ざってたりするじゃない?」
希「あー、あれは嫌やね。かなりモロなのもあったりするし…」
絵里「でね、そのバナーの一つに書いてあったフレーズを、今ちょっと思い出しちゃって。男同士、密室~ってやつ。見た事ない?」
希「ん?見た事あるけど…」
カチャン
希「…あの、絵里ちさん?なんでドアの鍵を?」
床ドン!
希「ひええっ!?お、大外刈りで押し倒し…!?」
絵里「女同士、密室、放課後…何も起きないはずもなく…」
希「え、ええええ絵里ち!??!顔がちかちか近っ!!!?」
絵里「……すごく可愛いわ、希」
希「~~~っ!?///」(絵里ちの胸が当たって胸が胸が)
絵里「キス、しちゃおうっと♪」
希(ああお父さんお母さんごめんなさい今日希は禁断の百合道へと堕ちてしまうようですごめんなさい)
バツン!(照明off)
希「わ、電気切れた」
絵里「きゃああああ!??!?!く、暗い!おばけ!おばけ!?いや!怖い!」ギューッ!!
希「ちょ、絵里ち苦しい!大丈夫、大丈夫やから…よしよし、怖くない怖くない」
絵里「希ぃ…なんで電気切れたの?なんで…?おばあさまぁ…」ぷるぷる
希(面白いぐらい震えてるなぁ、ほんとに怖がりなんやから…こういうとこも可愛いんやけど)
絵里「…うう……」
絵里「……ねえ、希」
希「…なぁに?絵里ち」
絵里「………私ね、 統堂さんと優木さんを脅して、無理やりに綺羅さんの弱点を聞き出したわ」
希「…うん」
絵里「それからずっと、心の中の、自分への嫌悪感が拭えないの。いくら勝つためでも…決して許される事じゃないわ」
希「………いいんじゃないかな、たまにはズルしても」
絵里「希、でも、そんな…」
希「今の話だけじゃ細かい状況はわからないけど…絵里ちはみんなを守りたかった。統堂さんと優木さんはツバサさんを守りたかった。それがぶつかってしまった。そういう話でしょ?」
絵里「…うん」
希「やり方は間違ってたのかもしれない。相手も自分も傷付いてしまったのかもしれない。でも、きっとそれでいいんだよ」
絵里「……うん」
希「私たちはまだ高校生。たくさん間違えて、周りと支え合って、少しずつ大人になっていく。それでいいの」ぎゅっ
絵里「希…」ぎゅっ
希「だから、明日は一生懸命戦って、試合の後、ちゃんと謝ろう?」
絵里「うん…うん…ありがとう、希…」
希「なんだったら、ここでキスの一つでもしてあげられたらいいんやけどね…ウチ、結構ヘタレやから…あはは…」
パチン(照明on)
希「…あ、電気点いたよ!良かったぁ。うーん…送電線とかの問題やったんかなぁ?」
絵里「うう…」
希「ん、絵里ち?どうして顔伏せとるん?もう明るいよ、大丈夫だよ」
絵里「違うの…たぶん、涙でヒドい顔だから…見せたくない」
希(か、可愛い…!あ、もうウチ百合でいいかも…)
\~~♪/
希「っと、着信音?絵里ちのスマホかな」
絵里「メール…?誰かしら…」ポチポチ
絵里「あっ…!」
希「差出人、優木あんじゅ…」
【優木あんじゅ】
絢瀬さん、この前はひどい事を言ってしまってごめんなさい。
あの後ね、英玲奈に叱られてしまったの。絢瀬さんの要求には筋が通っている。私の怒りはただの身勝手だって。
英玲奈に理路整然と説教をされて、そうなのかもって思えたわ。
もう一度謝るわね、最低だなんて言ってしまった事、本当にごめんなさい。
だけど本心を言えば、私の心の中にはまだあなたに対するわだかまりが残っているの。
それはきっと絢瀬さん、あなたもそうなんじゃないかしら?
だからね、明日の試合で決着を付けましょう。
私がUTXの四番。そして、あなたが音ノ木坂の四番に座って。
もちろん、私が書いている事がただのワガママだという事は分かってる。
だけどこれが実現するなら、とっても嬉しく思うわ。
続き
【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」【後編】