♯1
理事長「音ノ木坂を廃校にします」
廃校 廃校 廃校 廃校
\廃校/
穂乃果「そんなぁ~!」
~~~~~
穂乃果「ってことで!穂乃果たちで音ノ木坂の廃校を阻止しよう!海未ちゃん、ことりちゃん、なんかいいアイデアないかなぁ?」
海未「アイデア、ですか。そうですね…生徒の手で学校の知名度を上げるには、やはり部活動で好成績を残すのが一番、だと思いますが…」
ことり「えーっと、音ノ木坂で最近活躍した部活は珠算部に合唱部に…」
穂乃果「う、うーん……微妙?」
海未「どちらも全国優勝、というわけでもありませんし…正直、強く注目を集められるタイプの部活動ではないですね」
穂乃果「あっ、じゃあこんなのどうかな!私たち3人でアイドルやるの。現役女子高生スクールアイドルですー!とか言ってさ!♪だって~可能性」
海未「ダメです」
穂乃果「えーっ」
海未「学生の本分は勉学。アイドルだなんて、そんな浮ついたものが部活動として認めてもらえるはずがありません」
ことり「うーん…ことりも無理だと思うなぁ。楽しそうだけどね?穂乃果ちゃんと海未ちゃんがかわい~い衣装を着てるのも見てみたいし!」
海未「き、着ません!そんなものは天地がひっくり返っても着るつもりはありません!」
穂乃果「やっぱ無理かぁ…だと思ったけどさー。あーあ、スクールアイドル!なんてのが存在する世界だったらなぁ… 」
元スレ
【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1439356084/
~~~~~
穂乃果「っダメだぁ~!一日ずっと色々考えてみたけど全然いい案が浮かばないよー!」
ことり「うーん、やっぱり…いきなり始めた部活動でアピールするのは無理かなぁ?」
海未「運動部が華々しい成績を残せれば一番なのですが…。私も弓道で努力してみます。けれど、世間へのアピール力で言えば、本当は団体競技の方が好ましいですね…」
ことり「でも、団体スポーツでってなると私たちじゃどうしようもない話になっちゃうね。そういうスポーツの経験なんてほとんどないし」
穂乃果「ううーん…今から始めても勝てる可能性があって、世間から知られてる有名なスポーツかあ。うーんうーん……うん?」
海未「……はぁ、いいですか穂乃果、そ のような都合のいい競技、あるはずがないでしょう」
穂乃果「……」
穂乃果「いや、あるよ」
海未、ことり「「えっ?」」
穂乃果「野球……野球だよ!」
海未「野球…ですか?」
ことり「確かに野球はとっても人気のあるスポーツだけど、でも私たち、女子だよ?」
海未「いえ、案外…悪い考えではないかもしれません。実は、女子の高校野球にも全国大会があるんです」
穂乃果「そう!最近ね、雑誌で見たの!前までは女子野球って全国で20校もやってないぐらいのマイナー競技だったんだけど、ここ数年で一気に加盟校が増えて人気が高まってきてるんだって!」
ことり「へぇ~!そうなんだね!……で、でもことり、野球なんてルールもちゃんと知らないし、やれる自信 ないなぁ…」
海未「もちろん、いきなり始めて勝つのは簡単な事ではないでしょう。ですが競技の知名度、加盟校の少なさ…わずかな可能性ですが、賭けてみる価値はあるかもしれません…!」
穂乃果「よーし、決めたよ!私たちで野球部を立ち上げよう!そして全国大会で優勝する!やるったらやる!」
穂乃果「ええと……で、野球部を始めるには何からすればいいのかな?」
海未「そうですね、練習をしないことには話になりませんから、まずは練習場所の確保でしょう。バットやグラブ、ボールも用意しなくてはいけません」
穂乃果「そ、そういえば、バットとかって結構高かったよね?うわぁ、どうしよう…穂乃果、今月のお小遣いほとんど残ってないよ …!」
海未「もうお小遣いがないのですか!?今月はまだ半ばですよ?」
穂乃果「あ、あはは…今日もパンが美味いっ!」
海未「そのパンが原因です!買い食いをしすぎなのです!」クワッ!
穂乃果「ひいっ!」
ことり「うーん、道具だけど、体育倉庫に古いやつが一式あったはずだよ。お母さんに使っていいか聞いてみるね」
穂乃果「本当!?ことりちゃん大好きっ!」
ことり「えへへ~、私も穂乃果ちゃん大好き!」チュンチュン
海未「ふむ、とりあえず道具は大丈夫ですかね。あとは練習場所…それと何よりも、野球ですから最低でも9人の部員を確保しなくてはいけませんね」
穂乃果「よーしっ、私ヒデコたちとかに声かけてくるね!善は急げ!行ってきますっ!」ダダダダ…
海未「あっ、穂乃果!もう行ってしまいました…夢中になると人の話を聞かなくなるんですから…」
ことり「そうだね~。でも海未ちゃん、なんだかワクワクするよね?」
海未「ふふ、そうですね。ああなった穂乃果は、いつも私たちを強引に引っ張って、新しい景色を見せてくれますから…」
ことり「ねっ!」
ことり「それで穂乃果ちゃん、勧誘はどうだった?」
穂乃果「ダメでした…全滅だったよ~。ヒデコとフミコとミカも、試合の時に人数埋めでベンチに入るぐらいはしてもいいけど、正式な部員になるのはなしかなー…だって。みんなもっと野球に興味持ってくれてもいいのに!」
海未「まあ、女子校ですからね。私はよく父のテレビ観戦を横で見ていたので、かなり野球好きな方ですが」
ことり「日焼けもしちゃうしね…、部員集めは、知り合いに声を掛けるよりはポスターとかを貼って野球好きの生徒に見てもらった方が早いかもしれないね~」
穂乃果「ことりちゃんナイスアイデア!よーしポスター作ろう!」
海未「穂乃果、ポスターは勝手には貼れませんよ。生徒会に許可を貰わなくてはいけないんです」
穂乃果「げっ、生徒会に!?」
ことり「あー…生徒会長、ちょっと怖い印象あるよね…?」
海未「気持ちはわからないではないですが…どの道グラウンドの使用申請もしなければいけませんからね。丁寧に話せばきっとわかってくれるはずですよ…多分」
【生徒会室】
絵里「それで?部活動の勧誘ポスターを貼りたいのと、グラウンドを使わせて欲しいですって?」
穂乃果「はい!えっと、グラウンドを…」
絵里「…………」ジトッ
穂乃果(ち、沈黙が痛い…!)
ことり「は、端っこの方とか、すみっこの方で、全然大丈夫です…」
海未「ことり…!そ、そうもいかないでしょう。その、野球ですので、可能な限り広めにスペースを頂ければと…」
穂乃果「お、お願いしますっ!」
絵里「…………」ギロリ
穂乃果(ヒイッ睨まれたぁっ!)
絵里「……野球部ってね、学校にとっては意外と色々面倒なの。バットの打球音が響いたり、ボールが校外に出たりするでしょう?近隣住民から苦情が出やすい競技なのよ」
海未「うっ……。そ、それでは…駄目、ということですか…?」
絵里「はいそうですか、と許可を出せるものではないわね」
穂乃果「でも…でも!私たちは野球をしなきゃいけないんです!」
絵里「………それは何のために?」
穂乃果「全国大会で優勝するため!優勝して、廃校を阻止するためです!」
海未(穂乃果…!)
ことり(ホノカチャン…!)
絵里「即答、ね」
絵里「……女子高校野球の現在の加盟校はおよそ150校ほど。ここ数年で大幅に増加したとはいえ、確かにまだ少ない」
ことり(生徒会長、詳しい…?)
絵里「優勝できる可能性、決してゼロではないわね」
穂乃果「はい!優勝、してみせます!」
海未・ことり「「お願いしますっ!」」
絵里「……ハラショー」
穂乃果「え、はら…?」
絵里「素晴らしい、と言ったの。私もね、生徒会長として、廃校を食い止めるための手段を色々考えていたわ。だけど、あなたたちのこの案が一番現実的かもしれない」
海未「そ、それじゃあ…!」
絵里「部員は三人だけ?」
ことり「あ、はいっ、今はまだ三人です」
絵里「いいわ、私が四人目になります」
穂乃果「よに…え、ええっ!?」
絵里「入れてもらえるかしら?」
穂乃果「入ってくれるんですか?!わあ っ、ありがとうございます!絢瀬先輩!!」
絵里「絢瀬絵里よ。絢瀬先輩、じゃなんだか堅いし、下の名前でいいわ」
穂乃果「はい!よろしくお願いしますっ!絵里先輩!」
絵里「うん、よろしくね。ポスターは明日から貼って構わないわ。練習はサブグラウンドに空きスペースがあるからそこを使いましょう……。それと、今から五人目の勧誘に行きましょうか」
海未「五人目…心当たりがあるのですか?」
絵里「ええ、とびっきりのがいるわよ。素直に参加してくれるかはわからないけど、ね」
【神田明神】
希「お、来た来た。放課後にここで会うのはなんだか新鮮やね、絵里ち」
絵里「希、生徒会をサボってこんな所にいたの?それもご丁寧に、ジャージ姿にバットを持って」
希「うん、放課後に絵里ちが会いに来るんはカードが教えてくれとったんよ。後ろの三人と一緒に来ることもね」
ことり「えっ、どうして…?」
希「不思議?ふふ、ウチはスピリチュアルやからね」
海未(雰囲気は穏やかですが…どことなく凄みのようなものを感じさせる方ですね)
穂乃果「あの、東條先輩!野球部に入ってもらえませんか?お願いしますっ」
希「おっ、いきなり本題?ふふ、穂乃果ちゃんはせっかちさんやね。うん、ウチは野球は大好きよ」
穂乃果「わぁ!それじゃあ!」
希「でもなぁ、トントン拍子に五人目加入…ってのも、なんだか面白みがないやん?だから、ちょっとしたイベント」
希「一打席勝負。ウチが打者、そっちが投手。誰が投げてもいいよ。ウチを打ち取れたら野球部に入ってあげる」
絵里「そう来ると思ったわ。穂乃果、海未、ことり、あなたたちは投手ってできる?」
穂乃果「えーっと、ま、まだ練習とかしてないから全然…」
ことり「ことりには無理だと思います…」
海未「私も、キャッチボールくらいしかした事がないですね」
絵里「ふう…そうだとは思ったけど、初心者三人でよく全国優勝を目指すつもりになったわね…。いいわ、私が投げる」
ことり「絵里先輩、ピッチャーできるんですか?」
絵里「ええ、一時期だけど、野球を齧ってたの。そこの希もね」
希「ふふ、やっぱり絵里ちが投げるん?ゆっくり決めていいよ」
絵里「捕手は…海未、やってもらってもいいかしら。なんとなく一番投げやすそうだわ」
海未「わ、私ですか…?わかりました」
穂乃果「海未ちゃん!ファイトだよっ!」
ことり「頑張ってねっ!」
海未「が、頑張ります」
希「ほな、ちょっと近くの広場まで行こっか」
【公園に隣接した広場】
絵里「ちょっとだけ肩慣らしさせてもらうわよ?」
希「うん、急がんでええよー」
絵里「じゃあ海未、何球か投げるわよ。適当に構えててくれればいいわ」
海未「わかりました!」
絵里「久々に投げるわね…。こう、握って…振りかぶって…放る!」ビュッ!
スパァーン!!
ことり「えっ、すごい!」
穂乃果「速っ!絵里先輩のボールすごい速いよ!?」
海未(う、手がヒリヒリします!)
希「絵里ち、すごいやん。久々なのに球が速くなってるんやない?」
絵里「そう、かしら。うん、肩は軽いわね」
希「120キロ近く出てたんやないかな。やっぱり女子では相当イケてると思うよ」
海未「絵里先輩、返球します」
絵里「海未、ナイスキャッチよ。よく目を瞑らずに取ったわね。あなたはやっぱり捕手向きかも」
穂乃果「海未ちゃんすごいよー!」
ことり「海未ちゃん素敵ー!」
海未「穂乃果、ことり…あまり褒めないでください、照れてしまいます…」
希「さて、そろそろ勝負やね。絵里ち、海未ちゃん、よろしく」
海未「よろしくお願いします、東條先輩」
希「さぁて、この打席のカードの暗示は…」
海未(タロットカード、ですか?)
希「『力』か。じゃあここは…『ベブちゃん』で行こか?」
海未(ベブちゃん、ベブちゃん…?とはなんでしょうか。なんだか見慣れない構えですね…クローズドに構えて …まるで外人選手のよ うな…)
絵里「よしっ行くわよ!」
海未「あっ、はい!」
絵里(ワインドアップからの…受けてみなさい希!渾身のストレートよ!)シュッ!
希「……うん、これくらいなら」ブンッ!!
カッキィーン!!!!
絵里「っ!?」
穂乃果「ホームラン!?」
ことり「わぁ…野球ボールってあんなに飛ぶんだね…」
海未(東條先輩のフォーム…現代の選手たちの打撃フォームとは明らかに違います…ベブちゃんとはおそらく、ベーブルース…!かの伝説のメジャーリーガーを模倣してみせたのですか…!)
絵里「く、くうっ…希…!」
希「ふふ、今日はウチの完勝やね、絵里ち」
絵里「そうね…完敗だわ」
穂乃果「あのっ、東條先輩…!すごいバッティングでした!お願いします!野球に入ってもらえませんか?」
希「希でええよ、穂乃果ちゃん。けどね、今日はもう帰り。まだウチが入る時やないってカードも言ってるんよ 」
穂乃果「希先輩…」
希「でも、そうやね…野球部の名簿に名前は使ってもらっていいよ。そしたらとりあえず部活申請通すための5人にはなるやろ?ふふ、楽しかったよ。また誘ってな」
♯2
【音ノ木坂校内 廊下】
花陽「…………」
凛「かーよちんっ!」ぎゅっ
花陽「わっ、凛ちゃん!」
凛「何見てるの?ポスター?」
花陽「う、うん…部活動のやつ」
凛「凛たちも早く何部に入るか決めないとだよねー」
花陽「あれ、凛ちゃんは陸上部に入るんじゃなかったの?」
凛「うん…走るのは楽しいよ?楽しいんだけどね…最近、ただ走るだけじゃなくてプラス、他の要素を求めたい自分に気付いてしまったにゃー」
花陽「走りにプラス…バスケとか?」
凛「うーん、やったら楽しいのかもだけど、バスケ部はほとんどの子が中学からやってるから…」
花陽「そうだよねぇ…うーん、私はどうしよう…」
凛「かよちんもなんかスポーツやろうよー。そしたら凛もそれに入ろっかなー」
花陽「え、ええっ!私こそ高校からいきなりスポーツは無理だよぉ」
凛「あ、かよちんの好きな野球部もあるみたいだよ?」
花陽「え、野球ッッ!?!?嘘っ、音ノ木坂に野球部はないはず!調べてすごく残念だったんだよぉ!!?」
凛「かよちんはお米と野球をこよなく愛してるもんね。きっと最近できたんじゃないかな?」
花陽「凛ちゃん!野球やろう!私もマネージャーやる!凛ちゃんをすぐそばで応援するから!!」
凛「かよちん、いつになく圧が強いよ!でもかよちんマネージャーと一緒なら野球も楽しそう。見学行ってみよっか!」
花陽「うんっ!」
【グラウンド】
海未「ほら穂乃果、ボールから視線を切らない!」カキンッ
穂乃果「う、海未ちゃんの鬼!練習初日から地獄の千本ノックなんて厳しすぎるよ!」バシィ
海未「仕方ないでしょう、私たちは短期間で仕上げないといけないんです!ほら行きますよ!」カキンッ
穂乃果「休憩しようよぉ!!」バシィ
ことり「わぁ、二人とも上手だなぁ…」
絵里「焦らなくていいわよ、ことりは私とキャッチボールからゆっくり慣れていきましょ?」
ことり「はぁい、絵里先輩!」
絵里「ふふ、少しずつ指にかかったボールを投げられるようになってきてるわよ」
海未「穂乃果ァ!」カァン!
穂乃果「う、海未ちゃん!これ、穂乃果そろそろ死んじゃうよ!?」バシッ!
絵里(穂乃果はなんだかんだ言いながら打球を後ろに逸らさないわね…肩もまずまず強いみたいだし、三塁手にいいかもね)
海未「穂乃果ァッ!!」カキィ!
穂乃果「ねえ聞いてる?!もし死んだら枕元にバット持って化けて出るからね!?あっほら天国見えた!天国見えたよ!?」
絵里「えっ、化けて……?ね、ねえ海未、そろそろ少し休憩を入れてもいいんじゃないかしら?」
海未「ふむ。絵里先輩がそう言うなら、ここで一息入れましょうか」
穂乃果「た、助かったぁ…ありがとう絵里先輩!」
絵里「え、ええ。適度な休憩は大切だものね…。だから、化けて出ちゃダメよ?」
穂乃果「え?」
ことり「穂乃果ちゃん海未ちゃんお疲れ様!はいっ、飲み物とタオルだよ!」
海未「ことり、ありがとうございます」
穂乃果「うぉぉ…こんなにアクエリを美味しく感じた事はないよ…」グビグビ…
ことり「ふふっ、糖分とかを摂りすぎないように、粉末のをかなり薄めに作ったやつなんだけどね」
海未「絵里先輩、後で捕球の練習をしたいのですが」
絵里「ええ、私も投げ込みたいからちょうどいいわ。休憩の後にやりましょう。なんとかして希を打ち取れるようにならないと…」
凛「あのーすいませーん!部活の見学がしたいんですけど」
絵里「あら、一年生が来てくれたみたいね」
穂乃果「えっ、やった!海未ちゃんことりちゃん!獲物を逃がすな!フォーメーションデルタ!」
ことり「ラジャー!」シュバッ!
海未「了解です!」バババッ!
絵里「ちょ、ちょっと三人とも…あんまりガツガツ行って引かれないようにね?」
穂乃果「へいらっしゃい!ようこそ野球部へ!お客様は二名様ですか!」
凛「あっ、はい!一年の星空凛です。あの、凛は今まではずっと陸上部で、野球はやったことないんだけど…大丈夫ですか?」
穂乃果「もっちろん!私もまともに野球するのは今日が初めてだよ!」
凛「ええっ?今日初めて!?」
穂乃果「そう!私、高坂穂乃果!よろしくね!」
凛「よ、よろしくお願いします」
海未「園田海未です。よろしくお願いしますね。そちらの方も野球は初めてで すか?」
花陽「……野球力測定」メガネ装着 ピピピ…
海未「あの…どうしました?」
花陽(トサカは5、サイドテールは71、黒髪は107…)
ことり「んー、私の顔に何かついてるかな?」
花陽(野球力たったの5…ゴミめ)
凛「あ、気にしないでください!かよちんは野球の事になるとスカウター眼鏡ちんモードに入っちゃうんです」
穂乃果「すかうたー…?」
凛「ほらかよちんかよちん、挨拶しなきゃ」
花陽「えっ?あっ!ご、ごめんなさい!凛ちゃんと同じ一年の小泉花陽です…えっと、私は野球は大好きだけどやったことはなくて…あ、じゃなくて!私はマネージャー志望なんですけど…」
ことり「わぁ!花陽ちゃんはマネージャー志望なの?花陽ちゃんは可愛いね!もう今すぐ即戦力だよぉ!南ことりです、よろしくね!」チュンチュン
花陽「わ、私!そんな可愛いだなんて!あの、私野球が大好きで、メガネだし、運動神経は悪いんですけど、傍で見ていたいなぁって思って…だから、マネージャーさせてもらえたら嬉しいですっ…!」(このトサカの人優しそうだなぁ…野球力は雑魚だけど…)
穂乃果「もちろん大歓迎だよ!マネージャーかぁ、なんだか野球部らしくなってきたんじゃないかな!」
凛「かよちんかよちん、なんだか優しそうな先輩たちだね」
花陽「うん!人数はまだ足りてないみたいだけど、すごく楽しそうだね」(野球力は軒並み低いけどね…まぁ、今日が初日ならこんなもんか…)
絵里「星空さんと小泉さんね。絢瀬絵里よ、よろしくね?」
花陽「よ、よろしくお願いします」スチャ ピピピ(野球力は…548!この人、出来る)
凛「凛はもう部活ここに決めちゃうにゃー。陸上より楽しいかも!」
花陽「良かった!えへへ、一緒に…って言っても私は応援とお手伝いだけど、頑張ろうねっ」
凛「うんっ!」
凛(でも、かよちん、ほんとはマネージャーじゃなくて参加したいんじゃないかなぁ…?)
♯3
【グラウンド】
花陽「う、うああっ!もう!最悪だよぉ!!!」
絵里「ひっ!す、スマホを見ていたと思ったらいきなり叫んで…。花陽、どうしたの?ちょっとビックリしたじゃない…」
花陽「聞いてください絵里先輩!私、ネットで女子高校野球について語る掲示板を閲覧してたんです!穏やかな流れで良スレとして機能していました!
それが!いきなり湧いて出た対立煽りのせいで荒れに荒れて機能しなくなっちゃったんですッッ!!そしてその流れを即刻まとめたアフィブログがあるんです!
このザ・ベースボールBBSは2chとかよりは規模の小さい野球専門の中堅掲示板でアフィブログに目を付けられてない通好みのオアシスだったのに !
きっとここの管理人が煽ったんです!この2525速報とかいうブログの管理人の向こう脛をバットでフルスイングしてやりたいです!!」
絵里「ハ、ハラショー…。よ、よくわからないけど、落ち着いて花陽……ね?」
ことり「そのサイト、にこにこ速報って読むのかな?なんだか可愛い名前だね~」
花陽「うう、クソアフィめ…なんjでもまとめてればいいのに私のオアシスを侵犯するなんて…ああっ、憤懣遣る方無いです…!」
絵里(どうしよう、花陽が怖いわ)
穂乃果「ネットで女子高校野球について語ってるとこなんてあるんだねー。やっぱり結構人気出てきてるのかな?」
花陽「はい!もうネットでは大人気なんですっ!特に今はUTX高校が熱いんです。
昨年度の夏を制覇し た主力トリオ、投の綺羅、守の統堂、打の優木が今年は最上級生に!実力は男子にも匹敵していて、しかもルックスがアイドル並みなんです!人気が出ない理由がないんですよぉ!!」
穂乃果「お、おおー…、花陽ちゃんの熱がすごいよ」
花陽「穂乃果先輩もルックス可愛いし、たった一週間の練習で野球力もメキメキ伸びて140!どうやらセンスがあるみたいです!もし勝ち上がれれば絶対人気が出るはずですっ!」
穂乃果「ほ、褒められてるのは嬉しいけど圧がすごいよ花陽ちゃん…あと野球力って何!?」
海未「行きますよ凛!!」カァン!
凛「ヘイヘーイ海未先輩!このくらい余裕だよ!」パシッ!
海未「いい根性です!次!」カキッ!
凛「バッチコーイにゃ!」バシ ッ
希「凛ちゃんは身体のバネが凄いなぁ。遊撃手やってもらったらいいんやないかな?」
花陽(希先輩の野球力は、っと…1403!!??えっ、えっ!全国トップクラスなのぉ!?)
絵里「脚も速いのよね、センターもいいんじゃないかしら?」
希「うーん…女子の、それもアマチュア野球やからねぇ、外野に大飛球ってパターンは男子よりかは少なめやし、内野を固めた方が堅実なんやない?」
花陽「の、希先輩が言うなら…私もそう思いますっ」(凛ちゃんの野球力は88…うん、頑張ればきっとすごく伸びるよ凛ちゃん)
絵里「そっか、二人が言うならそれがいいのかもね。それじゃあとりあえずショートは凛で決まりかしら」
穂乃果「おー、じゃあ穂乃果と凛ちゃんで三遊間だね!」
ことり「穂乃果ちゃんと凛ちゃんが内野で並んでたらチームが明るくなりそうでいいね~」
希「元気印コンビでいい感じやんなぁ」
絵里「ところで希、あなたしれっと混ざってるけど、もしかして参加してくれる気になったのかしら?」
希「いやぁ、打ち取られたらってのは変わってないよ。でも一応、ウチも書類上の部員ではあるからね。様子見に来たんよ」
絵里「もう…変にこだわってないで一緒にやらない?楽しいわよ?」
穂乃果「そうだよ希先輩。穂乃果にあのホームランの打ち方教えてよー」
希「うーん、混ざりたい気持ちも山々なんやけどね?今ウチが加わらないのはチームのために必要な事だ…ってカードが告げとるんよ」
ことり「スピリチュアルですか?」
希「そ、スピリチュアルやんな」
絵里「仕方ないわね…また後で勝負しなさい、希。ところで、向こうの方で遠巻きに見てる子…うちに興味あるのかしら?」
希「うん?どの子?」
絵里「ほら、あの物陰になってるとこ。半身隠してこっちを見てるわ」
希「……えっ?」
絵里「えっ?」
希「…絵里ち、そんな子、、どこにもおらんよ?」
絵里「ち、ちょっと希…からかわないでよ。ほら見てことり、私が指差してる方。あの子よあの子」
ことり「……んー。……あのね、絵里先輩?誰も、いないよ?」
絵里「えっ、ちょっ」
希「絵里ちにだけ見えとる…って事?」
穂乃果「なになに!怖い話してるの!?」
絵里「ひ っ!や、やだ…嘘でしょ…!?やめてよ!こ、こっちに向かって歩いてきてるあの子よ!?赤っぽい毛で巻き髪の女の子!!ほら!指で毛先をクルクルって!」
希「……聞いた事ない?…音ノ木坂七不思議、夕暮れのグラウンドに現れる少女の亡霊。…スピリチュアルやねぇ!!!」
絵里「音ノ木坂七不思議ぃ!?」
真姫「ねえちょっと」髪の毛クルクル
絵里「ひいいいっ!!亡霊っ!?」
真姫「う゛ぇえっ!?だ、誰が亡霊よ!!」
ことり「あはは、ごめんね?なんでもないのよなんでも」
絵里「えっ…?ちょっと、ことり、あなた普通に会話して…」
希「ごめん絵里ち、からかっただけなんよ。いやー思いの外ことりちゃんのノリが良くって」
絵里「か、か、勘弁 してよねぇ……?」
ことり「それで、何か用かな?もしかして見学?」
真姫「ん…違うけど。ねえ、そこのノックしてる人」
海未「え、私ですか?」
真姫「そう。ちょっと右腕出してくれない?」
海未「右腕を?」
真姫「ハヤクシナサイヨ」
海未「は、はい」
真姫「……」ギュッ
海未「!?い、痛いですっ!?いきなり肘を捻って…何をするんですか!」
真姫「…あのね、ノックのフォームが少しおかしいのよ。右肘の腱に負担がかかってる。故障しないうちに少し休んだ方がいいわ。あなた、小泉さんよね。救急箱ってあるかしら」
花陽「あ、う、うん!」
真姫「……固定して……これでよし。簡単にだけど、湿布とテーピングをしておいたから。明日ぐらいまではあまり激しく動かさずに安静にしておく事ね」
海未「ありがとうございます。あなたは?」
真姫「お礼はいいのよ、勝手にした事だし。私は一年の西木野真姫。スイングする時はもう少し引き手を意識して振るのをお勧めするわ。それじゃあね」
ことり「行っちゃった…」
穂乃果「か、かっこいい」
花陽「西木野さん、すごいなぁ…。ごめんなさい海未先輩、怪我しそうになってたのはマネージャーの私が気付かなきゃいけなかったのに…」
海未「いえ、気にしないでください花陽。私も少しフォームを見直してみます。それにしても凄いですね…あの西木野さんという方は」
凛「西木野さんは凛たちのクラスメイトだよ。家がお医者さんでね、西木野さんはスポーツドクターを目指してるんだって」
穂乃果「へえー!欲しい!西木野真姫ちゃん、うちのチームに欲しい!」
希「ふふ、必要なピースがまた一枚…やね」
~~~~~
花陽「お疲れ様でしたー!」
凛「穂乃果先輩たちまた明日にゃー!」
穂乃果「ばいばーい!」
希「じゃあ帰ろっか、絵里ち」
絵里「悔しいわ…また希にホームランを打たれるなんて…」
ことり「はぁ~、今日も疲れたねえ」
穂乃果「ホントだよ。素振りのせいでまた手にマメができちゃった」
ことり「日に日に女の子の手じゃなくなっていくよぉ…」
海未「ふふ、いいじゃないですか。努力の証ですよ」
穂乃果「熱血だなぁ海未ちゃんは。あ、でも打つのは楽しいよねっ!」
海未「そうですね…こう、カッと芯で捉えた時の力感はちょっと癖になりますよね」
ことり「穂乃果と海未ちゃんはバッティング得意だよね~!もう絵里先輩の速球についていけるようになったなんですごいよ。ことりはまだまだ…」
海未「ふふ、ことりもそのうち慣れますよ。私も変化球への対応に早く慣れなくては…」
穂乃果「あ、そういえばあっちの通りにバッティングセンターがあるよ!ちょっとだけ寄ってかない?」
海未「いいですね、私は今日は腕を動かせませんが付き合いますよ」
ことり「ことりもあとちょっと練習していきたいかも!」
ガシャン!カァーン!
…ガシャンっ!カキーン!
穂乃果「わぁ、中はこんな感じな んだねー。なんだかレトロな雰囲気でいい感じだね」
海未「屋内で響く打球音はなんだか新鮮に感じますね」
ことり「カウンターで専用メダル買ってきたよ。ことりが先に打ってもいいかな?二人にフォームとか見てほしいんだ」
海未「はい、いいですよ。あ、右打者用の110キロのケージが空きましたね」
ことり「よーし、ヘルメットを被って手袋をして…メダルを入れて…スタート!」チュンチュン
穂乃果「ことりちゃん!ファイトだよ!」
ガチャン…ビュッ!
ことり「きゃあっ!速い!?」
海未「ことり、落ち着いてしっかりボールを見ましょう!大丈夫、打てますよ」
ことり「う、うん!」
にこ「……」
ガチャン…ビュッ!ガキン!
ことり「やった、当たった!な、なんだか手が痺れるけど…」
穂乃果「バットの根っこだったねー、でもタイミングは良かったよ!ファイトファイト!」
にこ「……」
ことり「もう一球…よく見て、えいっ!」
カーン!
穂乃果「おー!前に飛んだ!」
海未「今の打球なら外野の前に落ちたかもしれません!いいですよことり!」
ことり「うふふ、ちょっと楽しいね!」
にこ「全ッッ然、駄目ね!!」
穂乃果「うぇっ?誰?」
にこ「重心が高い!軸がぶれてスイングが泳いでる!腰を落としなさい腰を!脇もキュッと締める!」
ことり「えっ、は、はい」
にこ「顎を引いてボールをよく見る!インパクトの瞬間まで一瞬たりと目を離さない!」
ことり「こ、こうかな?」
カァーン!
穂乃果「おお、いい当たり!」
海未「一二塁間をライナーで抜ける打球です!」
にこ「駄目よ!今のは振り遅れて右に飛んだだけ!自分のタイミングで打ててない!非力でヘッドスピードが遅いのを自覚して、今よりも気持ち早めにバットを出しなさい!」
ことり「チュンチュン!」
パキン!
海未「鋭い打球!」
穂乃果「クリーンヒットだね!」
にこ「それが打撃の基本にして王道!センター返しよ!今の感覚を身体に染み込ませなさい!!」
ことり「すごい、なんとなく打てるようになっちゃったかも!ありがとうございます」
にこ「ふん、ちょっと熱くなっちゃったわ。アンタらが最近音ノ木坂に野球部を作ったっていう二年生?」
穂乃果「うん、そうだよ!あなたも音ノ木坂生?」
にこ「にっこにっこにー!あなたのハートににこにっこにー!笑顔届ける矢澤にこにこー!にこにーって覚えてラブにこっ!」
穂乃果「えっ」
海未「えっ」
ことり(にこにこ…?最近どこかで聞いたような…)
にこ「……私は矢澤にこ。ここのバッティングセンターでバイトしてんの」
穂乃果「そ、そうなんだ!よろしくねにこちゃん!」(最初のは何だったんだろ?)
にこ「ふんっ」
穂乃果「にこちゃんは野球に詳しいんだね。教え方もすごく上手だったし、ねえ、良かったら穂乃果たちと一緒に野球やらない?」
海未「ええ、あなたが入ってくれたらとても心強いのですが…」
にこ「楽しそうだけど、パスよ。ここのバイトがあるし、副業の時間もあるから」
穂乃果「ええ~っ、そんな事言わずに一緒にやろうよにこちゃん!楽しいよ!やろう!」
ことり(副業ってなんだろ…?)
にこ「しつこいわね~。家庭の事情ってもんがあるのよ。あとにこは三年!アンタたちより上級生だから!」
穂乃果「えぇ!嘘でしょ!?」
にこ「なによ!ムカつく反応ね!底抜けに失礼な奴……ま、でも、にこは野球は好きだから許すわ。応援はしててあげるわよ」
ことり「応援、かぁ…」
穂乃果「うーん…にこ先輩、どうしても駄目ですか?」
にこ「無理よ。はい、メダル1枚サービスしてあげるから、この話はおしまい。仕事に戻らなきゃだから、じゃあね」
穂乃果「駄目かぁ…」
海未「どうにか参加してもらえないでしょうか…」
ことり「アルバイト、副業…お金で困ってるのかな?」
穂乃果「うーん……なんとかならないかなー」
♯5
【グラウンド】
凛「にゃにゃにゃ…にゃあっ!」ぶぅんっ
絵里「凛、大振りしすぎよ。しっかりボールを見て、まずは当てないと」
凛「うう、全然当たんないよ!守備の方が楽しいよー」
希「意外やねぇ、運動神経の塊みたいな凛ちゃんがこんなに打撃が苦手だなんて」
ことり「なんだかスイングがぎこちないかな?」
穂乃果「へへ、ボールが飛んでこないから守備も楽でいいね…ふぁあ…」
海未「穂乃果ァ!守備中に打者から視線を切って欠伸だなんてたるんでます!打球が飛んできたら大怪我をしますよ!目覚ましにグラウンドを10周してきなさい!」ビシィ!
穂乃果「ひいっ!海未ちゃんの鬼ィ!ま、真面目にやるから!」
海未「次に目を切ったら走らせますからね!」
絵里「もう一球行くわよー」
凛「よーし、今度こそ花火を打ち上げてやるにゃ!」
絵里「えいっ!」シュッ
凛「やあっ!」ぶんっ!
海未「うーん…空振りですか」
凛「うう、海未先輩…凛、センスないのかな…?」
海未「いえ、なにかきっかけがあれば…感覚を掴めば凛なら必ず打てるはずです。でもどうすれば…」
凛「かよちーん全然打てないよー!」
花陽「がんばって!凛ちゃんなら打てるようになるよ!」
凛「あっ、ちなみに凛の野球力ってどれくらい?」
花陽「えっとね…(ピピピ)」
花陽「野球力95。うん、全然伸びてないね。一言で言えばフリースインガーの雑魚だよ凛ちゃん。運良く当たったところでポップフライが関の山だね」
海未「し、辛辣ですね…」
絵里「そこまで言わなくても…」
凛「り、凛は慣れてるから…かよちんは昔から野球に関してだけはあんな感じなの。凛はこっちのかよちんも好きだよ?」
穂乃果「ねえ花陽ちゃん、野球力ってどれくらいあればすごいの?」
花陽「うーん、すっごくおおまかにですけど、女子では100ぐらいまでが初心者、350ぐらいから試合に出られる程度、1000ぐらいから全国クラス…って感じかな?
ちなみにプロ野球の選手は2軍でも最低で10000ぐらいはある感じです。プロの上の方は青天井かなぁ」
穂乃果「へぇ~!プロってやっぱり凄いんだね!」
海未「その手の強さの数値化みたいなのって結構好きです。ワクワクしますね」
ことり(それを測れる花陽ちゃんの眼鏡って一体どこで売ってるんだろう…)
凛「ええ…凛の95ってクソザコだよね…テンション下がるにゃ~」
花陽「うーん……あのね凛ちゃん、反対側の打席に立ってみたらどうかな?」
凛「えっ、左打席?でも凛は右利きだよ?」
花陽「ううん凛ちゃん、野球の打席に利き手は関係ないんだよ。試しにちょっと立ってみて?」
凛「うん…ええと、グリップは逆だよね…こう?」
花陽「そう、そんな感じだよ凛ちゃん!それでね、何か、さっきまでとの違いに気付かない?」
凛「違い、違い?かよちんが背中側になって見えなくなっちゃって寂しいよ」
花陽「えへへ、凛ちゃんってば……あ、そうじゃなくってね…一塁を見てみて?」
凛「一塁を?……あっ、なんだか、一塁が近い?」
花陽「そう!そうなの凛ちゃん!左打者は一塁が数歩ぶん近くなって有利なんだよ!だから上手な人でもわざわざ左打者になる人がいたりするんだよ!」
凛「そっか、近くなった…これなら…凛の脚なら…」
海未「…!それじゃあ絵里、もう一球お願いします!」
絵里「オーケーよ。行くわよ凛!」
凛「えっ、あ、まだ準備が」
絵里「食らえ!ハラショーストレート!」シュッ
凛「に、にゃにゃっ!」カキッ
海未「当たった!」
凛「でも三塁線、ボテボテのゴロ…」
穂乃果「私が取るよ!」
花陽「一塁に走って凛ちゃん!全力で!」
凛「う、うんっ」ダッ!
穂乃果「焦らず取って…一塁の希先輩に送球!」 シュッ
凛「全力で駆け抜けるにゃー!」ダダダッ!
パシッ
希「穂乃果ちゃん、良い肩してる。鋭い送球やったよ。…けど、これは悠々セーフやね」
花陽「やったやった!凛ちゃんすごいよ!内野安打だよ!ヒットだよっ!」
凛「うう、でも全然当たり良くなかったよ…?」
花陽「違うの凛ちゃん!綺麗なヒットも、ボテボテの内野安打も同じ価値なのが野球の一番いいところなんだよ!だから今の凛ちゃんのバッティングは、最高だったんだよ!」
絵里「その通り。ハラショーなバッティングよ、凛」
希「女子野球でそのレベルの脚で走り回られたら、対応できるチームは少ないんやないかな。ウチも最高のバッティングやったと思うよ、凛ちゃん」
ピピピ
花陽「あっ、野球力も一気に210まで上昇してる…!凛ちゃんっすごいよぉ!」
凛「え、えへへ…あんまり褒められると凛、照れちゃうよ… 」
穂乃果「よかったよかった。凛ちゃんの表情から硬さがなくなったね」
ことり「うん、打席ですごい力んでたもんね。綺麗なヒットとかホームランを打たなきゃと思いすぎてたんだね」
海未「ふふ、花陽は凛の事をよく見ているんですね…私たちが何を言うよりよっぽど効果的でした」
凛「よーし!絵里先輩もう一打席お願いしますにゃ!!」
絵里「その闘志ハラショーよ!次は打たせないわ!」
花陽「よかったね凛ちゃん…!」
花陽(……私も…)
穂乃果(ふふふ、そろそろ花陽ちゃんも、混ざりたいんじゃないかな?)
【バッティングセンター】
キィーン ガシャッ
カキーン
にこ「はい、メダル10枚で2700円でーす!お釣りのお渡しが300円ですっ!ヘルメットはちゃんと着けてくださいね~、にこっ!」
店長「矢澤さん矢澤さん、そろそろ時間だから上がっていいよ」
にこ「あ、はーい!……ふう、疲れた。さーて、更衣室でブログの更新でも…って、140キロのケージに女の子?しかも音ノ木坂の制服?野球部の子かしら…ちょっと見てみようかな…」
ガシャン シュッ
真姫「……ブツブツ」
ガシャン シュッ
真姫「………ブツブツ」
ガシャン シュッ
真姫「ブツブツ……」
にこ(ええ…なによあれ…?バットを持って打席に棒立ち…ずっとボールを見てるだけ…?しかもなんかブツブツ言ってるし…危ない子?)
真姫「……」 かちゃん。
にこ(あ、またメダル入れた…で、また見てるだけ…?ウッソ、あれバラ買いだと300円よ?10枚買いだと1枚分は値引きされるけど…とりあえず、もったいない…)
真姫「……!ちょっと、あなた誰?ジロジロ見ないで!」
にこ「あっごめ……だ、だって気になるじゃない!どう見たってもったいないわよそれ!」
真姫「関係ないでしょー? あのね、私は西木野真姫。天才よ。こうやって日々球筋を見極める事で理想の打撃を追い求めてるの。ま、説明したところでどうせ理解できないでしょうけど」フフン
にこ「いやいや理解できるわけないでしょ! …ええと、真姫ちゃん?今のアンタはハタから見るとちょっと危ない子よ?」
真姫「う゛ぇえ!?なによ危ない子ってイミワカンナイ!えっと…」
にこ「私はにこ、矢澤にこよ。にこも野球好きだから言わせて貰うけどね、振らずに理想の打撃に到達できるわけないでしょ!頭の中でどんなに考えたって再現できなきゃ無意味よ」
真姫「にこ、にこちゃんね。そんなの私の勝手でしょ?」
にこ「ねえ、三年なんだけど」
真姫「え…一年じゃ?そういえばうちのクラスでは見ない顔……べ、別にいいでしょにこちゃんで。見た目的に幼いし。と、とにかく私は大丈夫なの!」
にこ「あーもう、いいからちょっと振りなさいよ!ブンッて!完成してなくていいから現段階の理想の打撃見せてほしいなー!天才の打撃見てみたいなー!」
真姫「ちょ、ちょっとにこちゃん!?ケージにハイッテコナイデ!マナー違反!」
にこ「にこは店員だからいいの。ほらボール来るわよ!あっ、真姫ちゃんってばもしかして、バットも振れないぐらい非力なわけ?」
真姫「なっ、そんなわけないでしょ!振れるわよバットぐらい…見てなさい…!」
ガシャン シュッ ぶんっ
にこ(…ん?)
真姫「い、今のはなしよ。自分のタイミングじゃなかったから」
にこ「う、うん」
真姫(よし…落ち着いてマッキー。あなたは天才、天才よ。知的でクールで可愛くってオマケに野球の才能があるの。真姫ちゃん天才たちつてと!
思い出して、脳内に描いた、理想の、最も効率的な打撃フォームを。バット入射角は…体重移動のタイミングは…腰の回転で…)
ガシャン シュッ
真姫「えいっ!」 ぶんっ
真姫「ちっ、惜しかったわね…やあっ!」
ぶん!
にこ「こ、これは…」
ぶーんっ!
にこ(運動音痴だ…!ネタにするのが申し訳ないくらいの…!)
ぶん!
真姫「……」
真姫「…………運動音痴じゃないから」
にこ「あ、うん…」
真姫「…こう見えてもね、ダンスとかはできるの!球技、球技が苦手なだけなの!だからその気まずそうな顔とノーコメントはやめなさいよ!」
にこ「う、うん…理想の打撃探し、頑張って欲しいにこー。じゃっ、私はこれで」
真姫「うぁぁバカにしないで!あーもう!だからスイングしたくなかったのよ!ヘタクソが野球好きじゃダメなの?私だって野球したい!だけど出来ない!自分でビックリするくらいセンスがないんだもの!私は天才なはずなのに!もうやだ!うう…っ!」
にこ「え?!ちょ、真 姫ちゃん…泣かないでよ…!他のお客さん見てるから、立ってほら、にっこにっこにー!ね?笑って笑って!にこっ!」
真姫「なによそれ…グスッ、キモチワルイ…」
にこ「くっ…慰めてやってるのに、この一年は……ほら、とりあえずケージ出るわよ!外で人待ってるから!すっ、すみませーん、お待たせしちゃってぇ…」
???「おや、まだボールが出ているようだが。次の私がケージに入ってしまってもいいのか?」
にこ「あ、はい!どうぞどうぞ!ちょっとボール散らばってますけど、それでも良ければ残りの球も打っちゃっていいですから」
真姫「……ぐすっ」
???「ふむ、それでは遠慮なく打たせてもらうとしようか」
ガシャン シュッ カキィィーン!!!
テッテレッテレッテー♪
真姫「な、なに?この音…」
にこ「ホームランパネルに当たった音よ。今の人かしら」
カキィィーン!!!
テッテレッテレッテー♪
カキィィーン!!!
テッテレッテレッテー♪
真姫「な、なによあの人…連続でホームランパネルに当ててる……まるで、ロボットみたいに…」
にこ「……ああっ!…焦ってて気付かなかったけど、あれは!UTX高校の五番キャッチャー 『精密機械』 統堂英玲奈じゃない!!すごい!にこファンなのよ!!」
英玲奈「……よし、順に打とう」
カキィィーン!!!
真姫「三遊間!」
カキィィーン!!!
にこ「一二塁間!」
カキィィーン!!!
真姫「センター返し!」
カキィィーン!!!
にこ「左中間!」
カキィィーン!!!
真姫「右中間!」
カキィィーン!!!
にこ「センターオーバー!」
真姫「す、凄い…間違いなくヒットコースごとに狙って打ち分けてる。140キロを…」
にこ「これが女子高校野球の最高峰、UTX高校の主軸…!あの機械みたいな眼光…噂通り…かっこいい!!」
カキィィーン!!!
テッテレッテレッテー♪
英玲奈「よし、今日はこんなところだろうか」
真姫「あ、出てくるわよ」
英玲奈「おかげで少し余分に打つことが出来た。感謝する」
真姫(なんか機械っぽいのよね。試合中ピンチになったら『バカな!データにないぞ!』とか言っちゃうんでしょ、どうせ)
にこ「あ、いえ!あのー …矢澤にこって言います!ファンです!握手してください!あと良かったらサインも…」
英玲奈「おや、嬉しいな。応援してくれてありがとう」キュキュキュ
にこ「う、うわぁ直筆サイン…! 家宝にしますぅ!」
英玲奈「フフ、そんなに喜んでもらえると嬉しいな。それじゃあ私はこれで…」
真姫「ま、待ちなさい!」
にこ「え?」
英玲奈「うん?」
真姫「私は西木野真姫!音ノ木坂学院の天才1年生、西木野真姫よ!覚えておいて、今年あなたたちUTXを倒すのは、この天才マッキー率いる音ノ木坂学院だから!」
にこ「は、はああっ!!??ちょ、真姫ちゃんいきなり何を言ってんのよ!?」
英玲奈「ほう、フフフ…音ノ木坂学院、西木野真姫か。いいだろう、覚えておくよ。そちらの矢澤にこさんと一緒にね」
にこ「えっ、ちょ、にこは違っ」
英玲奈「うちのチームメイトにも教えておこう。宣戦布告…か。あんじゅが喜びそうだ」
真姫「首を洗って待ってなさい!」
にこ「真姫!黙って!シャラップ!!」
英玲奈「それじゃあ失礼するよ、にこさん、真姫さん」
にこ「お、お疲れ様でしたぁっ!!!」
真姫「ちょっとにこちゃん、あなた同じ三年でしょ?そんな畏まらなくたっていいじゃない」
にこ「ばっか!相手は超高校級のスターよ!? しかも、ああ~なんかにこまでセットで宣戦布告したみたいになっちゃったじゃない!? そもそも!アンタもにこも野球部じゃないのに!」
真姫「統堂英玲奈を見て思ったの。あれを超える最適化されたフォームを体現してみたいって。
それにはやっぱり実戦を経ないとダメだって事もわかったわ。だから私は明日野球部に入るの。にこちゃんも一緒に入りなさい」
にこ「はあ!?なぁんでにこを巻き込むのよ!一人で入りなさいよ!」
真姫「……それは無理。にこちゃんも入って、お願い」
にこ「意味わかんない!」
真姫「トラナイデ!」
にこ「は!?って、いや、ホントにね…うちはにこがバイト頑張って家計を支えなきゃいけないの!家庭の事情なんだから無茶言われても困るのよ!」
真姫「なによ、お金の問題なの?じゃあこうしましょう。にこちゃんが野球部に来てくれたら一日ごとに私がバイト代をあげるわ。相場がわからないけど…、一日に一万円ぐらいでいいのかしら」
にこ「は、はぁっ!? いやいや額的にもちょっと多すぎだし、そもそも学生同士で一緒に部活に行くだけで給料って何!? 真姫ちゃん、あんた本気で変よ!?」
真姫「にこちゃんだって野球好きなんでしょ!一緒に来てよ!知らない人だらけの野球部に一人で入るなんて嫌なの!へ、ヘタクソだし!!笑われるかもだし…」
にこ「……なによ、言っとくけど、にこだって人と仲良くするのは苦手よ。大体あんたとも今日会ったばかりじゃない」
真姫「……私の運動能力が、その…ほんの少し劣っているところを見られたんだから、もう他人面はさせないわ。それに…なんか、にこちゃんって喋りやすいから……と、と、トモダチ…に、なりなさい」
にこ「と、友達……?にこと?友達か…友 達……そ、それはいいけど、ここのバイトだってそんな急に辞められるものじゃ」
真姫「大丈夫よ。ここのバッティングセンター、西木野グループの持ち物だから。シフトなんてどうとでもなるわ」
にこ「え…西木野グループ?病院とか、色んな施設を多角経営してるっていう大企業の?アンタそんな金持ちなの!?」
真姫「ほら、問題ないでしょ!二人で野球しましょうよ!」
ウィーン
穂乃果「いやー練習疲れたー!でも今日も打ってから帰るぞっ!」
真姫「あ、野球部の人!ねえちょっと!私とにこちゃんの二人、野球部に入るから!よろしく!」
にこ「ああもう勝手な事を!いいわよ!やってやるわよ!バイト代はしっかりもらうからね!?一日一万は多すぎだけど! 」
穂乃果「う、えぁ!?あ、この前の西木野真姫ちゃんと、にこちゃん?なんかよくわかんないけど、もちろん大歓迎だよ!よろしくね!!」
【グラウンド】
穂乃果「と、いうわけで今日から加入した矢澤にこ先輩と西木野真姫ちゃんです!はい拍手~」
ことり「ぱちぱちぱち~」
真姫「…よろしく」
にこ「先に言っとくけど、三!年!だから」
海未「二人とも知らない顔ではありませんし、とても心強いですね!ところで…さっきからグラウンドに豪華な練習機材が続々と運び込まれているのですが、あれは…?」
真姫「ああ、それはうちのパパが。どうせやるなら最高の環境でやりなさいって」クルクル
海未「そ、そんな、真姫のお父様に申し訳ないです!」
真姫「別にいいのよ。大して高い物でもないんだし」
ことり(えー…、ああいうのって全部で何百万かするんじゃ…?)
スチャ ピピピ
花陽「矢澤先輩は野球力410で即戦力!西木野さんは…野球力3?ふーん、そっかぁ…ふーん…」
凛「あれ、西木野さんにはいつもみたいに辛辣なこと言わないんだね」
花陽「うん、西木野さんはスポーツドクターのスキル持ちだし、現状だと数合わせとしても存在価値はあるから」
凛「財布とか言わなかった事に安堵しちゃうにゃー」
絵里「西木野さんに矢澤さん、よろしくね」
にこ「………」
絵里「…?」
にこ「ふん、にこはアンタの事、あまり好きじゃないけど…ま、よろしくお願いするわ」
絵里「あら…好かれてないのね」
真姫「ちょっとにこちゃん、そんなトゲトゲしたら私まで気まずいじゃない」
花陽「あれ…西木野さんは矢澤先輩の事 、にこちゃんって呼んでるの?」
凛「いいなぁ、じゃあ凛もにこちゃんって呼ぶにゃ!いいよねっ真姫ちゃん!」
にこ「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
花陽「じ、じゃあ私も…真姫ちゃんと、にこちゃんって呼ぶね?」
穂乃果「いいね!真姫ちゃんとにこちゃん!穂乃果もそれでいくね!」
にこ「か、勝手に…」
海未「わ、私はどうにも、ちゃんを付けて呼ぶのが苦手で…真姫と、にこ、と呼んでも構わないでしょうか…?」
にこ「呼び捨てまで来ちゃった!?ああもう、先輩の威厳が…しょーがないわねー!全員好きに呼びなさいよ!」
凛「にこちゃん真姫ちゃんにこちゃん真姫ちゃ~ん!」ギューッ!
真姫「ヴェエッ…!」
にこ「ちょっ、アンタ汗かいてんじゃない!そんなんでベタベタすんじゃないわよ!」
花陽「ふふ、凛ちゃん嬉しそう」
ことり「うふふ、賑やかになって楽しいね~」
穂乃果「さっ、それじゃ練習始めよっか!」
海未「まずはランニングですね!それでは、絵里先輩!号令をお願いします!」
絵里「……るい」
花陽「えっ?」
絵里「……ずるいわ」
ことり「絵里、先輩…?」
絵里「ずるい!どうして!?なんで入って初日の矢澤さんだけが親しげににこちゃんって呼ばれて!私だけちょっと距離を感じる絵里先輩なの!?嫌よ!私だって絵里ちゃんって呼ばれたい!!」
穂乃果「ぅ絵里ちゃん!」
絵里「そう!それよ穂乃果ぁ!」
ことり「絵里ちゃん!」
絵里「はぁあんっ!」
海未「え…、絵里?」
絵里「チカァッ!」
真姫「…イミワカンナイ」クルクル
凛「ちょっとイメージ崩れるにゃー」
花陽「絵里せんぱ…じゃなくて絵里ちゃん、距離を感じてたんだね…気付いてあげればよかった」
にこ「なによあれ、バカバカしい…… あいつにツッパる気も失せたわ…」
真姫「ちゃんと仲良くするのよにこちゃん」
穂乃果「もうこの際だから穂乃果たちのことも先輩って付けなくていいからねー」
凛「了解にゃ!穂乃果ちゃん!」
花陽「えへへ、わかったよ穂乃果ちゃん♪」
♯6
【部室】
にこ「さて、それじゃちょっと部の現状を整理させてもらうわよ。ポジションが決まってる部分から書き出していくから」
投手 絵里 744
捕手 海未 382
一塁
二塁
三塁 穂乃果 339
遊撃 凛 270
左翼
中堅
右翼
未定
ことり 262
真姫 12
にこ 410
にこ「名前の脇の数字は花陽計測の野球力よ。そこそこ信頼できる指標っぽいから書いておいたわ」
真姫「ねえ花陽。私の野球力の桁が間違ってるわよ」
花陽「えっと、真姫ちゃん。とりあえず、キャッチボールをまともにできるようになってから苦情を受け付けるね?」
真姫「う゛ぇえ…」
凛「辛辣モードを解除したい時はお米を食べさせてあげるといいんだよ。はいかよちん、おにぎりあげるね」
花陽「ごはん美味しいよお」mgmg
にこ「絵里、ポジションはこれで合ってるわよね?」
絵里「ええ、大丈夫よ.、にこ。それと、一塁は希がいる日は希、いない日は主にことりにやってもらってるわ」
ことり「だけど、正直ことり一塁はあんまり自信ないなぁ…こぼす事が結構多くて」
にこ「ふぅん、それはまずいわね。プロはともかく、アマチュア野球では一塁守備の重要度が高いのよね。どうしたって内野の送球ミスが出るから、それをカバーできるように安定した捕球能力が欲しいわ」
花陽「横から見てて、希先輩はやっぱり上手だなぁって思います…。送球が逸れても慌てないし、ショートバウンドも柔らかく捌くし…」
絵里「その希だけど、私やにこと同じ感じで呼んでもらって構わないそうよ」
花陽「あ、そうなんだ。じゃあ希ちゃんだね」
にこ「東條希……オカルト打法の東條、か」
穂乃果「え、なにそれ?」
花陽「オカルト打法の東條…?ああっ!聞いた事がありますっ!!
女子中学野球で猛威を奮い、中学2年の頃はあの優木あんじゅと双璧とも称され、にも関わらず野球界から忽然と姿を消してしまったというあのオカルト打法の東條ですか!?」
絵里「そう、それは希の事よ。彼女は元々は全日本級の打者だったの。ご両親の転勤が理由でやめてしまったらしいのだけど…きっと今でも野球に未練はあるはずよ」
海未「そうだったのですね…あの打棒にようやく得心がいきました」
ことり「でもそれなら余計に、どうして参加してくれないんだろう…」
絵里「……人数も増えた事だし、ちょうどいい機会かしら。あのねみんな、私はピッチャーをやめます」
凛「えっ?絵里ちゃんどうしたの?まさか肩とか肘を痛めたとか!」
真姫「慌てないで凛。私の見立てでは絵里の身体に故障はないわ」
海未「それでしたら、何故…?」
絵里「えっと、ごめんなさい、ややこしい言い方しちゃったわね。完全に辞めるわけじゃないわ。ただね…私がエースでは優勝は絶対に出来ない」
凛「それってどういう事…? 絵里ちゃんのボールは女子野球ではかなり凄い方だって…」
絵里「うーん…花陽なら理由、わかるかしら?」
花陽「UTX高校…、ですよね」
絵里「その通りよ、花陽。私の持ち球は120キロ前後のストレートとスライダーだけ。私が何度挑んでも希を打ち取れなかったのは、みんな見ていたわよね?」
穂乃果「うん。希ちゃんには、絵里ちゃんのボールは全然通用してなかった…」
にこ「……UTXにはね、あの希と同格の打者が3人もいる」
海未「綺羅、統堂、優木の3人ですね…」
絵里「そう。だから私じゃダメなの。そして希は言っていたわ。近いうちに必ず、私以上の才能の持ち主が見つかると。
だからね…今日ここで全員!投手としてのテストを受けてもらうわぁ!!」ババッ!
全員『投手テストぉ!!?』
穂乃果「なにそれ楽しそう!穂乃果からやる!マウンド一番乗り!」
海未「こら穂乃果!いきなり投げては怪我をします!まずは念入りにストレッチを」
穂乃果「行くよ海未ちゃん!でやあっ!必殺ナックルボール!」ピョーイ
海未「う、うぁあ!単なる大暴投じゃないですか!」
穂乃果「おっとっと、ごめんごめん~。じゃあ真面目にストレート!160キロでズドーン!」シュッ
海未「あっ、ちょっと!また暴投を!力みすぎです!」
にこ「うん、とりあえず穂乃果はダメそうね」
花陽「投手適性0…時間の無駄ですね」スチャ
真姫(また辛辣ちんになってる…)
~~~~~
真姫「受けなさい海未!この大天才マッキーの魔球を!」ヘロッ
海未「………はい」ポスン
穂乃果「肩弱ぁっ!」
ことり「アイドルの始球式みたいでカワイイっ!」
花陽「おにぎり美味しいね、凛ちゃんっ」
凛(真姫ちゃんがメンタルダメージを負わないようにかよちんはおにぎりタイムだよ)
にこ「はい、真姫ちゃんは失格ねー。次は凛よ」
凛「ほらほら真姫ちゃん、さっさとボールを寄越すにゃ」
真姫「トラナイデ!」
絵里「うーん……今のところ全員ダメねえ」
花陽「穂乃果ちゃん、ことりちゃん、真姫ちゃん、にこちゃんがダメだったね」
絵里「にこは器用に制球できてるんだけど、体格もないしやっぱり球速が足りてないのよね…」
にこ「……まあ、にこよりはアンタが投げた方がまだ打たれないと思うわよ」
凛「超高速ストレートぉ!!」
海未「だああっ!何球投げても大暴投じゃないですか!凛も失格です!」
花陽「ピッチャーでも力んじゃう凛ちゃん可愛いなぁ」mgmg
真姫「花陽、お茶飲む?」
花陽「うんっ、ありがとう真姫ちゃん」
にこ「海未!次はアンタが投げなさい!にこが捕手をやったげるから」
海未「わかりました!」
穂乃果「お、海未ちゃんが投げるの?ファイトだよっ!」
ことり「頑張って~!」
海未「ふふ、お手本を見せてあげますよ、穂乃果!ことり!」
にこ(さ、ここよ)スス
海未「む…いきますよ、にこ」
絵里(地肩の強そうな海未は本命よね…さあ、どうかしら?)
海未「ええいっ!(キャッチャーミットを撃ち抜くぞぉ~!ラブアローシュート!バァン☆)」シュッ!
スパーン!
にこ「おっ、なかなか…いいんじゃ?」
穂乃果「海未ちゃーん!いい感じだよ!」
真姫「さすが強肩。120キロ以上出てたわ」
ことり「キレもあったよ!」
海未「もう一球行きます!」
スパーン!
穂乃果「さっきより速いよ!」
真姫「すごいわね、練習すればプロ並みのスピードボールを投げられるんじゃない?」
にこ「うん、うん……、もう一球!」
海未「やっ!」シュッ!
スパーン!
にこ「んー、ううーん…?」
絵里「これは…」
花陽「はい、駄目ですね」スチャ
穂乃果「えー!海未ちゃん駄目なの?よさそうじゃない?」
凛「かよちん、なんで?凛にはすごくいい球に見えるんだけど」
にこ「肩が強いし、ゾーンにもある程度は正確に投げ込めてるんだけど…問題はシュート回転。そうよね、花陽?」
花陽「うん、にこちゃんの言う通りだよ」
海未「シュート回転…ですか」
花陽「シュート回転が絶対に駄目という訳ではないんだけど、傾向としては、甘く入って痛打を浴びやすい球質なんです…」
絵里「せっかく慣れた捕手から動かしてまで短期間で投手になってもらって、回転の癖を矯正して…ってのは、負担も大きくなるし…あまり賢くないわね」
海未「うーん、力になれず残念です…」(シュート回転…ラブアローシュートとか考えてたせいでしょうか…)
凛「海未ちゃんは捕手が似合ってるし気にすることないよ。信頼できる壁って感じにゃ」
海未「ん、壁?凛…今、私の胸元を見ながら壁と言いましたか?」
凛「え?いや、そういう意図はなかったよ!本当にゃ本当にゃ!
あ、でも今マスク被ってるにこちゃんも海未ちゃんと一緒で壁っぽいね、ふふっ……ああ!ごめんなさい!二人で追ってこないで!バットは人を殴る道具じゃないよ!怖い!助けて真姫ちゃん」
真姫「う゛ぇえ!こ、こっちに来ないで!大体凛!あんたも壁組じゃない!」
凛「くうっ!言われて初めて痛みがわかる!不本意にゃ…!」
海未「私は並です!盛ってもいません!成敗!」
~~~~~
凛「に゛ゃ゛っ゛!に゛に゛ゃ゛あ゛!」ガッシボカッ
希「やぁやぁ諸君、なんや楽しそうな雰囲気やね」
にこ「あ、出たわねオカルト東條!こちとらアンタを打倒する大エース探しの真っ最中よ!」
希「えー、にこっちと絵里ち、ウチの中学時代の話しちゃったん?」
絵里「そりゃ、ねえ。説明が必要だったし」
希「んー、ウチ、過去の話されるのってあんま好きじゃないんよ。これは腹いせにどらちかにわしわしMAXもやむなしやね…」
絵里「ちょ、希!に、にこよ!私よりにこが会話をリードしてたから!」
にこ「途中からは大体あんたが話してたでしょうが!」
希「うーん…位置が近かったし、にこっちの貧相なので我慢しとくわ」
にこ「ちょ!やめ…アンタみたいな強打者の握力でそれは…! 洒落にならないって!! ひぎい゛っ゛!!」ワシィ!
~~~~~
希「やっぱにこっちの反応はいいわぁ…癒される」
にこ「ひ、ひしゃげる…胸揉みとか、そんなチャチなもんじゃあ決して……!く、くうっ、勘弁してよね!……あ、ねえ花陽。あんたも投げてみなさいよ」
花陽「え゛え゛っ!?私っ!?」
絵里「そうね、他は全滅。花陽の実力は未知数。これは明らかに花陽の覚醒ルートに入ってるわ。私はかしこいからわかるのよ」
希「なぁ絵里ち、なんだか発言のネジが緩んどるよ。語尾にチカとか付かんように気をつけんといかんよ?」
絵里「?よくわからないけど…うん、気をつけるわ」
花陽「でも、わ、私は…マネージャーだから…」
凛「ねえかよちん、凛知ってるよ。かよちんが部室でボール磨きをしてる時、楽しそうに変化球の握りを試したりしてるのを。
野球力を測って毒を吐いてる時だって、いっつも楽しそうに笑顔だよね。かよちんは本当に、心の底から野球が好きなんだよね」
真姫(毒吐きながら楽しそうってのは人格的にどうなのかしら)
花陽「り、凛ちゃん…でも…」
真姫「…なにを躊躇う事があるのよ。私なんて正直ド下手だけど楽しめてるし、UTX高校にも宣戦布告済みよ。いい?人間その気になればなんだってできるんだから」
凛「そうにゃそうにゃ!真姫ちゃんなんて最初は強キャラっぽかったのに結局ただの運動音痴だよ?それでも元気に頑張ってるんだから!」
真姫「あら凛…脳を捌かれたいのかしら?」
花陽「ふふっ…。二人とも…」
穂乃果「ねえ花陽ちゃん、穂乃果も花陽ちゃんが野球してるところ、見てみたいなっ!」
ことり「大丈夫、花陽ちゃんならやれるよ♪」
海未「さあ花陽!このミットにあなたの全力をぶつけてきてください!」
花陽「みんな…!うん!いくよ!構えて…やあっ!」シュッ
スパン!
ことり「……ストライクだね!」
穂乃果「うん!いいコントロールだったよ!」
凛「かよちーん!!!輝いてるにゃー!!!」
海未「さあ、もう一球です!花陽!」
花陽「え、えへへ…楽しいね…!」シュッ
パシン!
絵里「ふふ、ハラショーね」
にこ「…………けどさ……ぶっちゃけ、普通よねえ…。絵里の代わりって感じにはならないわよ」
希「ええ、にこっち~、このタイミングでそういう事を言っちゃうん?引くわぁ」
凛「ドン引きにゃ~」
にこ「な、なによ!事実でしょ!花陽には野手として活躍してもらえばいいわ!投手としては私とそんなに変わんないわよ、制球まともだけどスピード不足!打ちごろストレートのバッピよ!バッピ!」
花陽「うん、私もそうだと思うよ。変化球もちょっとだけスローカーブが投げられるだけで、ピッチャーとしての力は全然ないよ。いつも偉そうな事を言ってるけど、野球力も多分200ないぐらい」
花陽「でも……穂乃果ちゃん、みんな。こんな私だけど、一緒に野球させてもらってもいいかな…?」
穂乃果「もっちろんだよ!!改めてよろしくね、花陽ちゃん!」
凛「やったぁ!かよちんがそう言うのが待ち遠しかったよー!かよちんかよちん!凛と二遊間組もうね!」
花陽「れ、練習してみないとわかんないよぉ…。でも、組めたらいいねっ!
私は身体能力が全然だけど野球脳はあるつもりだから、野球脳がなくて身体能力だけで野球やってる凛ちゃんとはいいコンビになれるかも…!」
凛「うんうんっ!今はその毒っ気も心地よいにゃー!」
希「これでついに八人やね」
穂乃果「控え要員ではヒデコたちがベンチ入りしてくれるから…あとは希ちゃんと監督だけ!」
ことり「監督はね、お母さんにお願いしてみてるの。スケジュールを調整してくれるって言ってたよ。忙しいから普段の練習に顔を出したりはできないけど、って」
海未「それはありがたいですね!」
真姫「ふーん…短期間でチームの体になったわね」
凛「よーしっ!誰か早いとこラスボスの希ちゃんを打ち取るにゃ!」
絵里「……」
絵里「……よし。希、明日もう一度私と勝負よ。こうなったら、私が一段進化して見せるわ」
海未「絵里…しかし、一日で何かを変えられるとは…」
絵里「安心して海未。実は、みんなに秘密で新しい球種を練習しててね、あと少しの調整で実戦投入できそうなの。…希、目に物見せてあげるわ」
希「へえ、いいやん。楽しみにしとるよ…絵里ち」
♯7
【帰宅中】
穂乃果「いやー練習後のパンとからあげ君がウマいっ!最近海未ちゃんが食事に関して優しくなったから余計に美味いよー!」
海未「カロリーは練習で嫌でも消費してますからね。体作りも大事ですし、ある程度の食事量は必要です。
ただパンばかりではいけませんよ?家ではしっかり野菜なども摂取してくださいね?」
穂乃果「大丈夫大丈夫!もうお腹が減って減って何食べても最高に美味しいんだー!ピーマンとあんこはともかく、大抵のものはバクバク食べてるよ。
好き嫌いを言うなら海未ちゃんだって炭酸飲めるようになろうよ」
海未「た、炭酸は別に飲まなくてもいい嗜好品ですから!…でも、食事が美味しいのには同感です。花陽なんて夕食時は 自分用の炊飯器を脇に置いて平らげているそうですよ」
穂乃果「おぉー…花陽ちゃんは流石だなぁ」
ことり「……、穂乃果ちゃんも海未ちゃんも、なんとなく体がガッシリしてきたよね…」
海未「私と絵里で色々と調べながら組んだ、高負荷高効率のメニューをしっかりこなしていますからね、努力の成果です。 そういうことりだってほら、上腕二頭筋の張りが美しいですよ」
ことり「うぅ、筋繊維が乳酸でパンパン…」
穂乃果「あっ、二人ともちょっとだけ待ってて!そこのお店でプロテイン買い足してくるから!」
ことり「ハノケチェン…うぅ…な、なんだかことりのイメージしてた学生生活と違うよぉ。理想はカラフルなマカロンとかクレープとかをみんなでチュンチュンっ!でも現実は揚げ物とコーラ…プロテイン…」
海未「ふふ、いいじゃないですか。夕暮れと汗と白球。これ以上の青春はありませんよ」
ことり「うん、楽しいんだけどねっ!」
【南家】
ことり「わぁ…穂乃果ちゃんたちとお喋りしてたらちょっと遅くなっちゃったな…お母さんただいまぁ」
ことり「……あ、お母さん、こんなところで寝てる。やっぱり、廃校とかで疲れてるのかな…。ブランケット、かけてあげよう」
ことり「…んー、何か読んでたのかな?ええと、ドカベン…?あ、確か野球の漫画だよね。…わぁ、古本屋で全巻セットで買ってきたんだ」
ことり「もしかして、野球を覚えようとして…?…期待してくれてるのかな、お母さん。…頑張らなくっちゃ」
ことり「ことりはこういうのって普段は読まないけど、勉強と思って読んでみようかな?」
ことり「ええと、1巻が…これだね」
ことり「………」ペラ…ペラ…
ことり「……2巻…」ペラ…ペラペラ
ことり「…………」ペラペラ…
ことり「……4巻まで読んだけど、柔道しかしてないなぁ…?意外と面白いけど…」
ことり「お風呂入って、ご飯食べてから続きを読もうっと」
【学校】
海未「で、結局一晩かけて読破してしまったのですか…」
穂乃果「ふぇー、ことりちゃんが男の子向けの漫画に熱中するのって珍しいねー」
ことり「うん…普段読まないからかな、すごい面白くって……でね、殿馬の秘打では円舞曲『別れ』のシーンが最高なの。 うぅー…でも眠いよ穂乃果ちゃ~ん」
穂乃果「よーしよしことりちゃん。今日は穂乃果と一緒に爆睡しようね。授業中、みんなで眠れば怖くない。だよ」
海未「なんですか、その自堕落な標語は…。穂乃果は昨日しっかり寝たでしょう、真面目に起きてなさい!
ことり、あまり辛いようなら保健室に行ってもいいと思いますよ?普段は真面目に受けているのですし」
穂乃果「海未ちゃんの鬼!差別主義者!」
ことり「あはは…うん、一時間だけ寝てくるかも~」
【放課後 グラウンド】
ことり「うう、結局保健室から戻ってからもほとんど寝ちゃってたよぉ…」
穂乃果「仕方ないよー、今日は古典とか眠くなる授業ばっかりだったし。いやぁ、最高の仮眠日和だったね!」
花陽「ドカベン面白いよね。ことりちゃんが夢中で読んじゃうのもわかるなぁ……私は三太郎が好きだよ。あと、土井垣と絵里ちゃんってなんだかちょっと通ずるものを感じるよね」
凛「そんなに面白いなら凛も読んでみたいなー」
花陽「うちで読む?それか貸してもいいよぉ」
真姫「あ、絵里と希が来たわよ」
希「絵里ち、準備はバッチリ?」
絵里「ええ、がっかりはさせないつもりよ。今、海未にも捕球の練習がてら新球を見てもらったわ」
海未 「……絵里の新球の完成度は高いです。希、たとえあなたであっても、初見で捉えられるほどは甘くないはずですよ」
希「ふっふっふ、それは楽しみやん。 さーて、カードの暗示はなんやろね? …『恋人』かぁ、それじゃ、軽やかにディマジオで行こか」
ことり「あっ、希ちゃんの動作がなんだか優雅に」
スチャ ピピピ
花陽「野球力1520…!コンディションも抜群…足元を均してるだけなのに…気品が溢れてますっ…!
そう、まるで往年の名選手、あのマリリン・モンローの恋人、ジョー・ディマジオのように!」
にこ「あれが希の『オカルト打法』よ。タロットを引いて、絵柄に併せた往年の名選手を降霊させて打つ…」
希「そう、今のウチにはディマジオの魂が宿っとるんよ。故人しか呼べないのが欠点やけどね」
真姫「なにそれ!非科学的よ!」
希「けど事実やからね。スピリチュアルやろ?」
真姫「魂って…じゃあ英語もネイティブみたいに喋れるの?」
希「それはダメなんよ。貸してもらえるのは野球の力だけ。もっと英語のテストで楽したいんやけどね?TOEICとか」
真姫「 ほらほら!絶対降霊はウソよ!」
希「ふふ、信じるも自由、疑うも自由。どっちにしてもスピリチュアルやろ?」
真姫「もう、また煙に巻いちゃって…エリー!オカルトだか霊魂だかなんだか知らないけどきっちり抑えなさいよ!」
絵里「うう…、降霊だとかなんとか、改めて説明されると怖いわね…」
希「ま、細い事は気にせんと勝負勝負!さ、いつでもええよ!」
にこ「それじゃ、審判はにこがやるわ。別に贔屓はしないから安心して」
海未(絵里、初球は打ち気を逸らしましょう。外角のボールになるスライダーで。色気は出さず、腕を伸ばしても届かない位置に外してもらって構わないですよ)
絵里(む、オーケーよ、海未)シュッ!
ククッ、パシッ!
にこ 「ボールよ」
海未(キレは良し…)
希「ふぅん。慎重な入り方やね、海未ちゃん」
海未「何度も何度も初球を叩かれましたからね、慎重にもなります」
穂乃果「花陽ちゃん花陽ちゃん、絵里ちゃんの野球力は今どれぐらいなの?」
ピピピ
花陽「えーっと、絵里ちゃんは…野球力1061!全国レベルの水準まで引き上げてきてます!」
にこ(なるほど確かに全国水準の球よ。だけど対する希は全国トップレベル。さて、どこまで通用するのかしらね…)
ピピピ
花陽「え、あれ…っ、こ、ことりちゃん…?」
ことり「? 花陽ちゃん、どうかしたの?」
花陽「うっ、ううん、なんでもない…よ?あれぇ、おかしいなぁ…何度測っても……スカウターが壊れちゃったの…?」
真姫「花陽、静かに。そろそろ二球目よ」
海未(さて、外角一辺倒という訳にもいきません。二球目は希のスイングが窮屈になりがちな内角低め、直球でどうでしょうか?)
絵里(ええ、それで問題ないわ)シュッ!
希「……ここでウチの苦手コース、読み通りやん!」
パカァン!!!
海未「しまっ…!!」
絵里「っと……危ない、危ない。左に切れて大ファールね」
希「あー惜しい…でも、また今みたいな半端な球やったら…次で仕留めるよ」
穂乃果「はぁー、すっごい飛んでったね」
真姫(希のフォームも、かなり古臭いけど綺麗で、力学的な無駄が少ない……。 悔しい、私もあんな風に打てたら…)
海未(どうしましょうか、絵里)
絵里(よし、低めに新球、行くわよ。振りかぶって…行けっ!)シュッ!
希(低め、打ち頃のストレート…!? いや違う!)
「ここは見送りや」
ズバン!
にこ「ストライク!」
海未「……追い込みましたよ」
希「なるほど…今の変化球、カットボールが絵里ちの新球なんやね…」
絵里「そうよ!キレキレカットのエリーチカ!略してKKE!見てなさい、このボールで!このカットボールであなたを抑えてみせる!」チカァ!
穂乃果「絵里ちゃんかっくいー!」
真姫(カットの綴りってKじゃなくてCよね…?ま、どうでも いいけど…)クルクル
希「うん、いいボールやね。直球と大差ないスピードで小さく変化。振ってれば多分引っ掛けて凡打やった。でも、ウチに二度通用すると思わん方がいいよ」
海未(そう、その通り。できれば今の球をそのままスイングして打ち取られて欲しかった…!ですが、結果として追い込んでいます。カウント1-2。こちらの圧倒的優位!)
絵里(次、行くわよ海未!遊び球はいらない。これが私の…!本気!!)
絵里「カットボール!希!カットボール行くわよー!くらえっ!」シュッ!
希(さっきと同速度の半速球…、続けてカットボール…? そんなん甘いよ絵里ち!)
海未(手を出した…!これで、決まりです!)
絵里(ダスヴィダーニャ!希!)
希「と、思うやん…?」ググ…
海未(重心を低くした…!?)
希「カットボールと見せかけて…これは落ちる球や!スピリチュアルっ!!」
海未「ああっ…!!」
パッキィーン!!!
穂乃果「あーっこれ行った!」
凛「うわ、綺麗なホームランだにゃー」
海未「そっ、、そんなぁ…」
希「これが絵里ちの秘策、新たな変化球は二つあった。…スプリットやね」
絵里「二つ変化球を用意して、これでも…ダメなの…?」
海未「通用…しなかった…」
希「ほぼ同速度の二種の変化球。うん…絵里ちの狙いは良かったと思う。でも所詮は付け焼き刃。ウチや、UTXには通用せんやろね…」
にこ(っていうか、こいつ本当に化け物なんじゃないの…?プロでもここまで毎打席ホームラン打たないわよ…?)
希(って、絵里ちが直前にわざとらしくカットボールカットボール連呼してなかったら多分普通に引っかかってたけどね…大根役者にもほどがあるよ…。
とはいえ、それでも単なる初見殺し。UTXに通用しないのは事実)
希「残念やけど…ウチを抑えられる投手を見つけるのは無理やったみたいやね…」
真姫「これじゃUTXに勝てない…? ちょっと、それ困るわよ!宣戦布告しちゃったのに!」
ことり「あ、あのー…ことり、もう一回投げてみたいんだけど、ダメかなぁ?」
花陽「ことりちゃん…」
海未「ことり…、どうにかしたいという気持ちはわかりますが、あなたはマウンドに立つと壊滅的なノーコンで…」
ことり「違うの、前とは違うの 。ちょっとだけ、ちょっとだけ試してみたいの!」
海未「しかし…制球が改善されたとしても、とても通用するとは…」
花陽「……海未ちゃん、ことりちゃんを投げさせてあげて」
海未「花陽…?」
ことり「海未ちゃんっ、おねがぁい!」
海未「ううっ…!わ、わかりましたよ…」
穂乃果「なんだかよくわかんないけど!ことりちゃんファイトだよっ!」
ことり「うんっ!見ててね穂乃果ちゃんっ!」
絵里「はいことり、ボールよ。何か考えがあるんでしょう?頑張ってね」
ことり「ありがとう絵里ちゃん!……それじゃ、海未ちゃん投げるよ~」
海未「ええ、いつでもどうぞ!」
花陽(スカウターが間違いじゃなければ…)
ことり「えーっと、ボールをこうやって握って…体を屈めて、腕を引く…!」ガバァッ!
絵里「ええっ、あれは!!」
穂乃果「フォームが変だよ!?」
花陽「まさかっ!アンダースロー!?」
ことり「全身の力を乗せて…指で弾くように押し出すっ!」ピシュッ!
スパーンッ!
海未「!?」
希「…!」
にこ「すっ、ストライクね…しかも、いい球」
ピピピ
花陽「やっぱり…計測は間違いじゃなかった…ことりちゃんの今の野球力は、2069…!!」
絵里「にっ、2069ですって!?」
真姫「すごい…、体の柔軟性をフルに活かしたフォームだわ。男性のアンダースローとはまた違う、独自の投法…! ことり、あなたも天才だったのね…(私と同じように…)」
凛「あなたも?それってまさか真姫ちゃん、自分も勘定に入れてたりする?それはちょっと寒くないかにゃー?」
真姫「う゛ぇぇ…!違うわよ!の、希のことだから!」
希「ついに見つけた…!絵里ちを上回る素材や…!」
穂乃果「すごい!すごいかっこいいよ!ことりちゃん!漫画みたい!」
ことり「えへへっ、褒められちゃった♪ドカベンの里中くんを見ててね、こういう投げ方ならことりにもできるかもって思ったの!」
絵里「ま、漫画で?それはまた、随分とハラショーね…」
希「あれなら、あれなら鍛えればイケる…! ……ねえ穂乃果ちゃん、ウチも野球部に参加させてもらってもいいかな?」
穂乃果「希ちゃん!もう勝負はいいの?」
希「うん、もういいんよ。ピッチャーを見つけるためだけの勝負で、それ以上の意味はなかったの。……それよりもね、早くウチもみんなに混ざりたくって…ちょっと、寂しかったんよ」
穂乃果「希ちゃん…!うんっ!よろしくお願いします!」
希「えへへっ、これでウチを入れて九人や!やっとメンバーが揃ったね!」
凛「テンション上がってきたにゃー!」
穂乃果「よーしっみんなっ!ここからだよ!ここから、この九人で全国優勝を目指すんだ!!」
♯8
【昼休みの部室】
海未「9人揃って一週間が経ちました。ということで、練習の様子と花陽の野球力測定、にこの意見を擦り合わせて暫定のオーダーを組んでみました。昼食を食べながらで構いませんので聞いてください」
1 遊 星空 498
2 中 矢澤 562
3 右 綾瀬 1105
4 一 東條 1590
5 三 高坂 624
6 捕 園田 711
7 投 南 2083
8 二 小泉 388
9 左 西木野 193
海未「例によって名前の横には野球力を書き添えてあります。ではにこ、一緒に説明をお願いしますね」
凛「かよちんと二遊間!これなら凛はなんにも文句ないよー!」
花陽「やったね凛ちゃん!でも私が二塁で大丈夫かなぁ…?」
にこ「アンタたち二人は連携がバツグンだからね、女子野球のレベルで安定してダブルプレーを狙えるのは大きいわ。
それと二塁はベースカバーにランナーのケアに、色々と頭を使うポジションだから、野球知識の深い花陽は適任だと思う。ま、自信持ちなさい」
花陽「えへへ、ありがとうにこちゃん」
真姫「どうでもいいけど花陽…そのバケツみたいな弁当、ご飯何合入ってるの…?」
花陽「10合だよ。持ち運びがちょっと重たいけど、筋トレだと思って持ってきてるんだぁ」
真姫「そ、そう…」
凛「今日のかよちんはごはんを食べながらだから大人しいにゃ」
絵里「凛はカップ麺だけじゃなくて野菜も食べなさい?ほら私のサラダを分けてあげるから」
海未「打順に関してですが、一番に凛。これに異論のある人はいないと思います」
希「文句のつけようなしやね。凛ちゃんなら脚だけで相手にプレッシャーかけられるよ」
海未「ただ選球眼に難があり、早打ちする傾向も見られます。そこで選球眼が良く、バントなどの小技に長けたにこを二番に置いています」
にこ「バントとか四球狙いとか、そういう渋いプレーで輝いてみせるわよ、私は。あと守備位置!センターは絶対に譲らないから!センターはにこよ!」
真姫「別に誰もやりたがってないわよ。勝手にやればいいじゃない」クルクル
にこ「センターはぁ、にこにーで決まりっ!世界のセンター矢澤にこ!イェイ!」
絵里(ただの外野守備にどうしてあんなにこだわってるのかしら…?)
海未「そして三番に絵里、四番が希。この並びが音ノ木坂打線の中核ですね」
絵里「あら、核なんて言われるとちょっぴりプレッシャーね。私は基本的には大振りせず、希への繋ぎ役に徹するつもりよ」
希「気負わんでいいよ、絵里ち。ランナーの掃除はウチに任しとき!」
花陽「希ちゃんは頼もしいねぇ…」mgmg
絵里(食べてる時は可愛らしいわね、花陽は。まぁ、辛辣な花陽もあれはあれでユニークだけど…)
穂乃果「あ、絵里ちゃんの守備はライトにしたんだね」
海未「ああ、それはですね…絵里の外野守備はとてもハイレベルなのでレフトに置こうかと迷ったのですが」
花陽「アマチュア野球ではレフトの方が打球が飛びやすいもんね」mgmg
海未「そうなんです。ただ…絵里の守備と肩なら、女子野球の少し浅めの守備位置ならそこそこの率でライトゴロが取れるんですよ」
希「なるほどなぁ、確かにライト前ヒットをアウトに出来れば相当楽やね」
海未「だから、絵里はライトでお願いしたいと思っています」
絵里「ふふ、ライトってプロではスターが守ってたりするし、結構気に入ってるわ」
にこ「で、希は今まで通り一塁ね。一塁は的の大きさも必要……にことかがやるよりも希の方が安定するから、そのままでよろしく頼むわ」
希「包容力ってやつやね。みんな安心して守っていいからね」
凛「凛は送球が結構ぶれるから…頼りにしてるね、希ちゃん」
希「うんうん、気楽に投げていいんよ」
穂乃果「ねえねえ希ちゃん、そのお弁当なに?」
希「ん?焼肉丼やね。今日は甘辛の韓国風に味付けしてみたんよ。ちょっと食べてみる?」
穂乃果「うん!じゃあ穂乃果のも少しあげるね。唐揚げでいい?」
希「わぁ、美味しそうやね!ありがと、穂乃果ちゃん」
絵里(正式加入は遅れちゃったけど、すっかり馴染めたみたいね、希。良かった…)
にこ「次、五番は穂乃果よ。希が歩かされるパターンも出てくるだろうからチャンスで回る事も多いと思う。だから心臓に毛が生えてそうなアンタを置くわ」
穂乃果「よーしっ全打席フルスイングでホームラン狙うよ!」
海未「ダメです。きちんと考えて打ちなさい」
穂乃果「えー、海未ちゃんのケチー」
にこ「ま、ハナから細かいプレーは期待してないから…」
真姫「ことりのお弁当はサンドイッチ?それだけで足りるの?」
ことり「大丈夫だよ、プロテインバーも食べるから!」
穂乃果「ことりちゃんも最近筋トレに対してふっ切れたよね!肩回りとかいい感じに筋肉してるよ!」
ことり「うんっ、もうかなり日焼けもしちゃったし…筋肉とかも気にしたら負けかなって…あ、真姫ちゃんにトマトとチキンのサンドイッチをおすそ分けするね」
真姫「わぁ、トマト…!あ 、ありがとう…」
ことり「どういたしましてっ」
にこ「穂乃果の後は海未、ことりと続けてるわ。あんたたち三人はなんとなく並べた方が機能しそうなイメージあるのよね」
ことり「それ正解っ。ことりと穂乃果ちゃん海未ちゃんは三人揃って完全体なの」
穂乃果「うんうん!だよねっ!」
海未「ふふ、そうですね」
にこ「あっそ、仲良いわね……六番の海未はクリーンナップがランナーを一掃した後のチャンスメイク、ランナーが溜まってる状態での強打、臨機応変に打ってもらう感じになると思う。まあアンタならやれるわよね」
海未「そうですね、善処してみます」
にこ「ことりは投手だし、楽に打ってくれればいいわ。野球力は高いけど打撃はまぁまぁってとこだしね」
ことり「はぁい、了解です♪」
にこ「さて、八番は花陽ね。打撃に自信ないみたいだけど…アンタは自分で思ってるよりもセンスがある」
花陽「そ、そうかなあ?」
にこ「うん、ハマれば長打を打てる実力があるわ。あれだけご飯を食べてるし、しっかりミートできれば球威に負けたりしないはずよ。ま、下位だし変に気負わなくて大丈夫だから」
花陽「が、頑張りますっ」
真姫「……ねえ、にこちゃん。なんだか私が打順でも守備でも余り物っぽいのはなんでなの?」
にこ「九番は真姫。野球力を参照よ。以上」
真姫「ちょっと!雑!にこちゃん見る目がないのよ。私は天才よ?」
にこ「はいはい。ま、外野守備は意外と悪くないわよね。フライの目測を誤ったりもしないし、クッション処理も落ち着いてる。
ただ、肩が弱いのをちゃんと自覚しとくのよ?返球は変な色気を出さないでちゃんと内野を中継すること。わかった?」
真姫「ヴェエ…言われなくたってわかってるわよ…」
にこ「あと……真姫ちゃんはそれなりに振れるようになってきてるから、その調子で頑張りなさい。……その、練習ぐらいはいつでも付き合うから」
真姫「ん………ありがと」クルクル
希「ふふふ、仲良しやね?」
にこ「………いっ、以上よ!なんかオーダーに文句はある!?」
穂乃果「ないです!なんかすごいよ!にこちゃん!」
凛「矢澤カントク!矢澤カントク!」
絵里「さすがにこね」
にこ「ふふん!矢澤ID野球に死角なし!はいっ、ご一緒に!にっこにっこに~!」
凛「海未ちゃんその卵焼き一口味見させてー」
穂乃果「あ、穂乃果も!」
海未「いいですよ、はいどうぞ」
にこ「軽く持ち上げてからのガン無視とかやめなさいよ!!」
絵里「ほんとにね」
にこ「その雑な相槌もいらないから!」
真姫「にこちゃんうるさい。カルシウム足りてないんじゃないの?」
にこ「ぐぬぬ…!どいつもこいつも…イラつくわね!」
絵里「さて、オーダーが固まったところでみんなにお知らせよ!再来週…練習試合をやるわぁ!」
花陽「し、試合っ!?」
ことり「わぁ、緊張するなぁ…」
穂乃果「やっと試合ができるんだねっ!よーし、楽しもう!で、相手はどこどこ?」
絵里「ふふっ……UTXよぉ!」ドヤチカァ
にこ「ゆっ…」
凛「ゆっ?」
穂乃果「UTXぅ!?」
【試合当日、朝】
穂乃果「うー、遅刻遅刻…ことりちゃん海未ちゃんごめーん!」
海未「もう、遅いですよ穂乃果」
穂乃果「いやー試合のこと考えてたら中々眠れなくってさぁ」
ことり「うふふ、朝ごはんはちゃんと食べた?」
穂乃果「花陽ちゃんを見習ってご飯を10合!…とはいかないけど、ばっちり食べてきたよっ!二人は?」
海未「ええ、干物や卵焼きなどをいただきました。お母様が少しばかり豪勢な朝食を用意してくれましたので」
ことり「ことりはパンとサラダと、ポタージュとかを食べてきたよ♪」
穂乃果「ふっふ、準備万端だね!」
海未「それでは、まず学校に向かいましょうか。真姫が用意してくれた西木野グループのバスが待っています。それに乗ってUTX高校のグラウンドへ向かいます」
ことり「真姫ちゃんのお家って割となんでもありだよね?」
穂乃果「球場も持ってたりして…!西木野スタジアムとか言っちゃってさ」
海未「馬鹿を言ってないで、ほら行きますよ」
~~~~~
凛「それにしても、絵里ちゃんがいきなり…UTXと練習試合よぉ!って言い出した時はビックリしたにゃ~」
真姫「正しくはUTXの二軍と、だったわね。エリーったら唐突よね。でも二軍なんかと試合したって参考になるのかしら?」
花陽「あのね真姫ちゃん、UTX の二軍ってかなりすごいんだよ?あそこは四軍までチームを持ってるの」
真姫「へえ、四軍まで?ムダに多いのね」
花陽「普通、うちみたいな新興チームは試合を組んでもらえたとしても相手は四軍、良くて三軍。いきなり二軍と試合をさせてもらえるのは理事長とUTXの校長が知り合いだったからで、すっごくラッキーな事なんだよ」
凛「二軍でもかなり強いんだよね?楽しみだにゃー」
真姫「ふーん。まあ二人とも見てなさい。このマッキーが華麗な放物線を描いてみせるわ」
スチャ
花陽「失点に繋がるようなエラーだけはしないでくださいね、野球力200未満の九番レフト西木野真姫さん」
真姫「急な辛辣モードはやめなさいよ!花陽だって八番で大差ないでしょ!?」
~~~~~
絵里「さて…着いたわね。UTX高校!」
にこ「噂には聞いてたけど、本当に学校の隣に専用の球場が併設されてるのね…」
希「はぁー、豪華やねえ……まるでプロのスタジアムやん」
絵里「ベンチ裏に無料のドリンクサーバーまで置いてあるんだって」
希「ベンチ内の飲食オッケーなん?」
絵里「大丈夫みたい。清掃の業者さんを雇ってるらしいわ。なんかちょっと圧倒されちゃうわね…」
にこ「た、確かに…あ、グッズまで売ってるのね。帰りに買っていかなきゃ」
希「にこっち、観光やないんよ?」
にこ「わ、わかってるわよ!」
海未「あっ、見てください。あそこにいる方々が」
穂乃果「お、UTXの二軍チームだね?」
凛「かよちん、スカウターの出番にゃ!」
スチャ ピピピ
花陽「平均野球力はおよそ1040…さすがUTX、二軍とはいえ全国と互角に戦えるレベルのチームですっ!名前は投手からポジション順に佐藤、鈴木、高橋、伊藤、山本…」
真姫「花陽、名前はもういいわ。覚えなくていいって事はわかったから」
凛「清々しいほどにモブネームだにゃ」
あんじゅ「ねえ、あなたたちが音ノ木坂学院野球部の皆さんかしら?」
絵里「えっ?はい、そうです。あなたは…」
にこ「ああっ!ゆ、優木あんじゅさん!絵里!頭が高いわよ!UTX高校の一軍の四番なんだから!ファンです!大ファンです!」
スチャ
花陽「や、野球力2580…!さすがは 『怪童』 こと打の優木、圧倒的オーラ!これぞ最高峰っ…!サインください!」
にこ「あっ花陽っズルいわよ!」
あんじゅ「うふふ、サインね?いいわよ(野球力って何かしら?)」サラサラ
あんじゅ「はい、どうぞ」
花陽「はぅあぁぁあ…!感動ですっ…!」
あんじゅ「そのツインテール…矢澤にこさんよね。英玲奈から聞いてる。うちに宣戦布告したんだってね」
にこ「そ、それは違うんです!誤解で!」
真姫「違わないわ。UTXなんてケチョンケチョンにやっつけてみせるんだから、見てなさい」
凛(凛知ってるよ。弱い犬ほどよく吠えるんだよね)
あんじゅ「そして…巻き髪さんが西木野真姫さん。あら、聞いてた通り。かわいい」
真姫「かっ、かわい……?ふ、ふん。当然よね」クルクル
にこ「なに動揺してんのよ」
真姫「してない!」
穂乃果「それであのー、なんで一軍のあんじゅさんがここにいるんですか?」
あんじゅ「うふふ、敵情視察?私も二軍に混ざって試合に出ようと思って」
穂乃果「ぅええっ!で、出るんですか!?」
にこ「嘘ぉ!?あんじゅと試合できるの!?うちみたいな新興チームが!?」
あんじゅ「うふふ…だって気になるんだもの。『オカルト打法の東條希』がいるチームは、ね」
希「そ、そんなん買い被りすぎです…私はブランクだって長いし…」
あんじゅ「謙遜しちゃって。お話しするのは初めてだけど、中学の頃はライバルって呼ばれてたじゃない。私たち」
花陽(そう言いつつも希ちゃんの野球力は1970… !今日に合わせてコンディションを今までのピークにまで高めて来てる。気合い入ってるね、希ちゃん…!)
あんじゅ「それじゃあ、試合で会いましょうね。うふふ」ヒラヒラ
穂乃果「行っちゃった…なんかふんわりした人だったね」
海未「そうですね、まさかいきなり対戦する事になるとは予想外でしたが…」
絵里「そうね…、優木さんが出場するとなると、多少のマスコミも入るはずよ。みんな、そういうのは気にせず、固くならずにやりましょうね」
ことり「あ、お母さんが来たよ」
理事長「みんなお待たせ。向こうの責任者の方に挨拶をしてきました。今日は私が監督としてベンチに入りますね」
絵里「理事長、ありがとうございます」
理事長「気にしなくていいのよ、絢瀬さん。作戦とかはあなたたちに任せて口出しはしないから、怪我にだけ気を付けてプレーしてくださいね」
にこ「じゃ、ベンチに入りましょ。もうすぐこっちの練習時間よ」
♯9
ヒデコ「次!セカンド行くよー!」カキン!
花陽「は、はいっ!」パシっ!シュ
希「お、ナイスプレーやね」スパン
ヒデコ「よしラスト!海未ちゃんにキャッチャーフライ!」カンッ!
海未「オーライオーライ…よし、取れました!」パシッ
ヒデコ「オッケー、練習時間終わりだね。みんなお疲れ様ー」
穂乃果「ヒデコ、ノッカーやってくれてありがとねー」
ヒデコ「はは、これくらい余裕余裕。じゃ、頑張ってね。ベースコーチとか雑用は任せといて」
フミコ「試合の録画は私がしておくからね」
ミカ「怪我だけには気をつけるんだよ!」
希(内外野に完璧に打ち分ける熟練のノック技術…あの子どこで練習したんやろ?)
にこ(あの子を試合に出せば普通に主力として行けるんじゃ…ってのは、きっと気にしたら負けよね…)
絵里「さて!初試合よ!気合い入れていきましょう!それじゃあキャプテンの穂乃果!号令を!」
穂乃果「うん!絵里ちゃん!それじゃあみんな…」
穂乃果「音ノ木坂ー!!!」
全員『ベースボール…スタート!!!』
真姫(なんかしっくり来ないわね…)
【一回表】
海未「さて、こちらの先攻です。トップバッターは凛!お願いしますね!」
希「リラックスしてね。あんまり力んだらあかんよ?」
花陽「が、頑張ってね凛ちゃぁん…!応援してるから…!(スチャ)相手ピッチャーの佐藤は野球力955で絵里ちゃん以下。
所詮UTXでは二軍に甘んじてるモブだから凛ちゃんでも打てないことはないよ。あ、初球ポップフライだけはやめてね、萎えるから」
絵里(花陽…怖いわ…)
ことり(ジキルとハイドかな?)
凛「かよちんの辛辣評は落ち着くなぁ。よーし!行ってくるにゃー!」
審判『プレイボール!』
佐藤「…」シュッ!
凛(初打席かぁ…緊張してたけど、かよちんのおかげでほぐれたよ)スパーン! ボールッ!
にこ「お、珍しく初球見たわね。落ち着いてるじゃない」
希「肩に力も入ってなさそうやね。いい感じに見えるよ」
凛(絵里ちゃんより少し速いかな?でも全然見えるレベルだよ)
佐藤「……」シュッ!
凛(甘め!叩くにゃッ!)パキン!
佐藤「あっ!?」
絵里「打った!いい当たり!」
海未「一塁線を破りました、長打コースです!」
絵里「見て!ライトの優木さんが打球処理にもたついてるわよ!?」
凛(あっチャンス!凛の脚なら…全力で走るよっ!)
穂乃果「二塁を蹴った!凛ちゃーん!回れ回れ!!」
凛(ヘッドスライディングにゃ!)ザザッ!
セーフ!!
花陽「やったぁ!!凛ちゃんすごいっ!いきなりスリーベース打っちゃったよぉ!」
ことり「凛ちゃんかっこいい~!」
ミカ(三塁コーチ)「ナイスバッティング凛ちゃん!」
凛「えへへ、ありがとにゃー。このまま一点取っちゃいたいね」
海未「いきなりランナー三塁、理想的な展開ですね!それにしてもライトの優木さんはどうしてあんなに守備でもたついていたのでしょうか?」
花陽「ああ、あれはね、あんじゅさんは守備が…その、かなり微妙なの。絵里ちゃんのライトとは違う、下手くそのライトなの」
穂乃果「はえ~、一軍なのに苦手もあるんだね」
絵里「意外ね…UTXの一軍なんて万能プレイヤーばかりかと思ってたわ。 ふふっ、 実はUTXって大した事ないのかしら?」
花陽「絵里ちゃん馬鹿ナ゛ノ゛ォ゛!!!?!?」
絵里「ひいっ!!?ごめんなさい!!」ビビリチカ
ことり「花陽ちゃん、どういう事なの?」
花陽「うん…絵里ちゃんの言う通り、UTXの1軍は隙のない選手ばっかりだよ。そんな中であんじゅさんは守備があんなに下手なのに一軍の主力になってる。
それはつまり、守備に目を瞑ってまで起用されるほどの圧倒的な打撃力…って事なんですっ」
絵里「そ、そうだったのね、よくわかったわ。ごめんなさい花陽…ごめんね?」ビクビク
海未「なるほど…想像するだに恐ろしいですね」
穂乃果(朝ごはんもうちょっと食べてくればよかったなぁ…)グゥゥ
希「穂乃果ちゃんこれ食べる? 」
穂乃果「それなに?」
希「ヒマワリの種だよ。メジャーの外人さんはこれをようベンチで食べとるんよ」
穂乃果「うんっ!いるいる!」
海未「穂乃果!試合に集中してください!希も食べ物を与えないで!」
にこ「さーて!ここはにこにーの華麗なる一打で先制点を挙げさせてもらわなきゃね!にっこにっこにー!」
ボール!
ボール!
ボール!
ボール!フォアボール!
にこ「ちょっと!振れる球が来なかったんだけど!?あのピッチャー動揺しすぎでしょ!」スタスタ
ことり「にこちゃん選球眼いいなぁ…」
海未「それなりに際どい球もあったのに、確信を持って見逃してましたね…流石です」
希「とりあえずチャンス拡大やね。ノーアウトで一、三塁。絵里ち、がんばってな」
絵里「ザ・ベースボール…今見せてあげるわ」ウフフフ
穂乃果「ぅ絵里ちゃん何言ってるの?とりあえずファイトだよ!」
海未「ご武運を祈っています、絵里」
佐藤「……!」シュッ!
絵里(この人、立ち上がりが悪いタイプなのかしらね。せっかくのチャンスなんだし、しっかり叩かせてもらわな くっちゃ…ねっ!)
カキーン!!
花陽「あっ鋭い打球!センター前に抜けましたっ」
穂乃果「おおーすごい!」
希「絵里ち!やるやん!」
凛「やったー!凛が先制のホームインだにゃ!」
希「次はウチの打席やね。さーて、絵里ちに続かんとね」
―――コツ、コツ、コツ…
英玲奈(おや…もう試合は始まってしまっていたか)
英玲奈(たまにはスタンドから眺める試合というのも悪くないものだ。責任も重圧もない。気楽でいい)
ノゾミチャーン カットバスニャー! ミセツケテヤリナサイ
英玲奈(打者は東條希。先取点を取られ1-0…)
カッキイィィーン!!!!
……
コーン、コーン…コロコロ
英玲奈(外野スタンドにボールが弾んで…スリーランホームラン。4-0になったか。なかなかどうして…やるじゃないか、音ノ木坂)
ヤッタニャー スゴイヨノゾミチャーン サスガデス! ヤハリヤキュウリョクハウソヲツキマセン!
フフ、スピリチュアルヤロ?
英玲奈(全く、楽しそうに野球をする……羨ましいものだな)
英玲奈(……なあツバサ、私は少し……疲れてしまったよ)
♯10
スパーン!
ストライクスリー!バッターアウト!
スリーアウトチェンジ!
ことり「あーん見逃し三振~…駄目だったよハノケチェ~ン」チュンチュン
穂乃果「おーよしよしことりちゃん。穂乃果と海未ちゃんも三振だったから気にしなくて大丈夫だよー」
海未「ううーん、初打席が三振とは…流れに乗れず申し訳ないです」
にこ「三振は別に仕方ないけど……アンタたち三人は打順を並べない方がいいかもしれないわね」
穂乃果「ええっ!なんでさにこちゃんっ!」
にこ「まず穂乃果の雑ぅ~な三振は論外として!後の海未とことりは穂乃果の結果に釣られすぎ!穂乃果が三振した時点で二人ともあからさまに集中が途切れてたわよ!」
海未「そ、それは穂乃果が …」
ことり「穂乃果ちゃんがチームの初アウトになっちゃってシュンとしてたから慰めてあげないとって思って…」
海未「そうなんです(迫真)」
穂乃果「えへへ~」
ことり「あと三振して悔しがってる海未ちゃんの写真も撮りたいなって」
穂乃果「あ、わかる!ああいう海未ちゃんは珍しくて可愛かったよね!」
海未「な、何を言いだすんですか二人とも!破廉恥です!」
穂乃果「別に破廉恥じゃないよー」
ことり「普通の事だよね~」
にこ「そのグダグダ感が駄目だっつってんの!次からアンタたちの打順はバラすわ!」
希(逆に穂乃果ちゃんが打った場合はつるべ打ちしてくれそうやけどね)
真姫「ねえ、そろそろ守備についた方が良さそうよ」
絵里「さ、行きましょう?」
花陽「ことりちゃん、投球がんばってね!」
ことり「ことりの球が通用するかなぁ~…不安だよぉ」チュンチュン
凛「凛たちが守ってあげるから大丈夫!落ち着いて投げてね!」
ことり「うっ、うん…頑張るからお願いねっ?」
ことり「(・8・) 」
海未(ことり…マウンドに立つと普段のキャラが嘘のように真顔になりますね)
海未(あの表情、なんと表現すればいいのでしょうか。例えば…にこ、花陽、ことりの三人でミシンで裁縫をしている時に垣間見せる鉄面皮の表情というか…。
いやいや、どんなシチュエーションですかそれ。いけないいけない、雑念よさらば。集中ですよ園田海未)
海未「みなさん!!!締まっていきましょう!!!」
守備陣『おおーっ!!』
(・8・) ストライク!バッターアウト!
(・8・) ストライク!バッターアウト!
穂乃果「連続三振であっという間にツーアウト!すごいよことりちゃん!」
ことり「ハノケチェ~ン!もっと褒めて褒めてっ!」チュンッ
(・8・) 「……」
海未(あ、あの表情はどうも威圧感が…)
海未(しかしこれは嬉しい誤算です。ことりの球が実戦でここまで通用するとは)
海未(ことりの持ち球は現状で三種。まずストレート。110キロは出ない程度ですが、下手投げ特有の軌道で武器になっています)
海未(次にカーブ。これはまだ制球が怪しいのであまり多投したくはありません。使用は目付けを変えるための見せ球に留めておきたいですね)
海未(そして、もう一つ…)
三番 佐藤「来いっ!」
海未(さてこの打者、先ほどまで投げていた投手の方ですね。出足をくじかれての4失点、からの三連続奪三振。さぞ気持ちが昂ぶっているところでしょうね。ことり、ここは…)サイン
(・8・) 「…」コクッ
(・8・) シュッ!
佐藤(…!な、なんだ…この変化球は!)ガキンッ
海未(よし!完璧です!第三の球種『ことりボール』! 打者のバランスを崩して詰まらせました!しかし、これは…!)
海未「ショーt…いやセンターッ!?」
にこ「ちょっ、この打球はにこには浅い…!」
凛「凛も追いつけないよー!」 ポトリ
穂乃果「あぁー惜しいっ!完全に打ち取ってたのにポテンヒットだよ~」
希「飛んだ場所が良くなかったね。ま、内容は勝ってたんやし気にしない気にしない!」
ことり「うん♪ どんどん打たせてくからみんな、お願いっ」
花陽「ことりちゃん気をつけて…次、来ますっ!」
あんじゅ「うふふ、私の出番みたい。南さん、園田さん、よろしくね?」
海未(『怪童』優木あんじゅ!)
(・8・) 「……」
海未(うう、打者よりもことりの顔が気になります…)
あんじゅ「私にはどんな攻めでくるのかしら?園田さん」
海未「長打に警戒!外野は下がってください!」(この方は捕手と雑談を交えるタイプなのでしょうか。ペースを乱されないようにしなくては)
あんじゅ「私にはだんまりなの?寂しいわ」
海未「……ボールが来ますよ」スパーン!
ストライク!
あんじゅ「ふふ、いいストレートね。癖のある軌道が素敵」
海未「それはどうも。試合後にでも本人に言ってやってください、喜びます」
あんじゅ「そうね。でも…私が打ちたいのはそれじゃないの」
海未(低めにカーブを。浮かないように、ワンバウンドで構いませんよ)
(・8・) 「…」シュッ
パシィ ボールッ!
あんじゅ「それでもないわ。ほら、さっき投げたアレ」
海未(一度、目付けを上にずらしましょう。高め、ボールゾーンに直球です)
スパーン! ボール!
あんじゅ「園田さんは真面目なのね?配球でわかるわ」
海未「……歩かせても構わない、と思っていますから」
海未(と、言うのは嘘ですが。これはあくまで勝敗度外視の練習試合。ことりの球が全国区の打者にどれだけ通用するのか見極める絶好の機会、逃げの手はありません。仕留めさせてもらいますよ…優木あんじゅ)
花陽(……雑誌で見た。あんじゅさんは最近、打ち方を変えたらしい。フォームの細部が変わったのか、ルーチンを変えたのか、それとも心構えを変えたのか…素人目にはよくわからない。
ただ一つわかるのは、自分の打法を『フルハウス打法』と名付けているということ…!)
あんじゅ「あら、私追い込まれちゃったの?」
海未「振らないからですよ」
あんじゅ「ん~…そうよねえ」
海未(ふむ…捉えどころのない方です。さてことり、勝負を掛けますよ。『ことりボール』です)サイン
(・8・) 「……!」コクリ
(・8・) シュッ!
あんじゅ(来たわ…打つ!)
海未(手を出しましたね…ですが『ことりボール』は…あなたが思っている以上に『球が来ない』!)
(・8・) 「ニヤリ」
あんじゅ(このボール、遅い…!そして、軌道がブレる…!)
海未(『ことりボール』とは遅くて揺れるシンカー!投げ方はことり曰く、深く握り込んでリリースの瞬間に指先をチュンチュンさせる…とのこと。理屈を聞かされてもよくわからない、ことり独自の変化球です!勝った!)
あんじゅ(…と、思うでしょう?まだよ…まだ溜めて…!)
あんじゅ「ここよ!」
カシィーン!!!!!
(・8・) 「!?!」
海未「あっ!そんな!?」
ヒュー… ポーン、コロコロ…
ファール!
穂乃果「うわっ、ビックリしたぁ…ホームランかと思ったよ」
凛「左の方にポールギリギリで切れていったにゃー」
真姫「ちょっと…大丈夫なの?スタンド最上段まで飛んで行ったわよ?」
あんじゅ「あら~…今のタイミングでも早いの?まるで魔球ね」
海未(き、肝が冷えました…スイング始動のタイミングでは完全に打ち取ったと思ったのに、なんという粘り腰…!)
あんじゅ「やっぱり駄目ね、フルハウスじゃないと」
海未「……フルハウス。ああ、あなたの打法でしたか…?」
あんじゅ「あら、あなたから話しかけてくれたのは初めてね。嬉しい」
海未(……やはり下手に話すと煙に巻かれそうですね)
スパーン ボール!
海未(カウント3-2まで来てしまいましたか…よし、もう一度ことりボールです!)
あんじゅ「ふふっ…これでやっと、完っ全にフルハウスね」
海未(完全にフルハウス!?ど、どういうことです!)
あんじゅ「あ、そうだわ。さっき私、ちょっと恥ずかしいエラーしちゃったでしょ?だからぁ…同じライトさんに、恥ずかしいエラーをしてもらおうかしら?」
(・8・) 「…!」シュッ!
カッキィーッ!!
海未「あ、打ち上げた!やった、打ち取りましたよ!」
希「ウチと花陽ちゃん後方のフライや!」
花陽「た、高い!すごく高いフライです!意外と…外野まで流れてます!」
絵里「私が取るわ!!」
海未(む…滞空時間の異様に長いフライですね…優木あんじゅは全力疾走、もう二塁を回って…)
海未(あっ…上空の風に打球が煽られて…?打球が脇に流れて…!)
絵里「 ああ~」ポロッ
凛「あーっ!絵里ちゃん打球が逸れるのを追いきれずに落としちゃったにゃ!」
花陽「だっ、打球が外野を転々としてますっ」
にこ「アホぉ~!」パシッ
海未(ま、まずい!既に一塁走者の佐藤がホームインしています!そして優木あんじゅが三塁を蹴りました!)
海未「にこ!バックホーム!!!」
にこ「どぉりゃあああああっ!!!!」ビシュッ!
ズザザッ! パシッ!
セーフ!
海未「やられた…!き、記録はヒット…ランニングホームラン…!」
あんじゅ「あら、エラーにならなかったの?残念っ」
海未「あなたは…!今の打球を狙って打ったというのですか…!?」
あんじゅ「うふふ…完全にフルハウスなら、これくらいは簡単なこと」
海未(なんて方です…これが『怪童』!あと、完全にフルハウスってなんなんですか…!)
花陽(うわぁ…つ、通天閣打法だ…生で見られるなんて…)
絵里「ご、ごめんなさい!みんなごめんなさい!私のせいで!」
希「落ち着き絵里ち…今のは難しい。ウチでも多分落としとったよ」
にこ「はは、今のはダっサいわね~」
絵里「もうやだ!エリチカベンチ帰る!」
希「か、帰ったらあかんてぇ!!」
真姫(はぁ、三塁側は暇ね…)
穂乃果(うーん、なんか空気だなぁ…)
♯11
英玲奈(二回以降、試合はどこか落ち着かない展開のままで進んでいった。UTXの佐藤は三回表、調子を上げられないままに東條希との勝負から逃げてストレートの四球。
その動揺に付け込まれ、高坂、園田、南の三連打で1点を失ってしまう)
英玲奈(対して音ノ木坂の南ことり。牽制やクイックなどに粗は目立つものの、持ち前のコントロールと緩急を駆使してUTX二軍打線をかわしていく)
英玲奈(南ことりと優木あんじゅ、二度目の対戦は四回の裏、先頭打者で。あんじゅが高めの釣り球を叩いてしまう。
センターへの大飛球だったが、矢澤にこが背走キャッチの攻守を見せて南に軍配。あんじゅめ、明らかに集中を欠いていた。ムラっ気の激しいやつだ)
英玲奈(そして五回の表。試合は一つの転換点を迎えていた)
【五回表】
絵里「ことり、ナイスピッチよ。四回まで二失点は上々じゃないかしら」
ことり「えへへ、ありがと絵里ちゃんっ」
にこ「くぅ~っ!やっぱにこにーって最強ね!見たでしょさっきの背面キャッチ!ほらほらことり!遠慮なくにこにーを讃え崇めなさい!」
ことり「う、うん!ありがとね、にこちゃん!」
真姫「はぁ…そう自画自賛されたんじゃスーパープレーの価値もダダ下がりよね」クルクル
にこ「真姫ちゃん!うっさいわよ!」
ことり「あ、あはは…ホントにありがとね?」
穂乃果「いやーそれにしてもことりちゃんはすごいなー……大会前にメジャーからスカウトされても渡米しちゃダメだからね?」
ことり「ええっ、メジャーって海外?…そんなわけないよぉ。いきなりどうしたの穂乃果ちゃん」
穂乃果「えっ、いやぁー、なんとなく…」
ガッキィイイイン!!!!!
海未「希が打ちました!」
花陽「ああっ!!打席に向かう前に死神のタロットカードを引いてからなんだか悪い顔になって、スパイクを研いでヒマワリの種の殻を吐き散らしながら打席に向かい、
fuck youと暴言を吐き、球聖(球畜)ことタイ・カッブを憑依させていた希ちゃんの打球が弾丸ライナーでレフトスタンドに飛び込んだよぉ!!」
凛「凛は説明台詞役と化したかよちんも好きだよ」
英玲奈(東條希、流石によく飛ばす。これで得点は6-2。ふふ、このままだと負けそうじゃないか。こちらは二軍…とはいえ、新興チームに負けてやるわけにはいかないな)
スッ
希「はい、ホームインっ!これでちょっとはことりちゃんを援護できたかな」
にこ「希!ハイタッチよ!」
穂乃果「ヘーイ!」
凛「ヘイヘーイ!」
希「穂乃果ちゃんヘーイ!凛ちゃんヘーイ!にこっちヘイヘーイ!」パシパシパシーン!
海未「希、私ともハイタッチを!……おっと、向こうのマウンド に選手が集まっていますね。投手交代でしょうか」
絵里「外野手まで集まって、なんだか慌ただしい雰囲気ね」
穂乃果「話し合ってるみたいだけど、どうしたんだろ」
~数分経過~
凛「タイム長いねー。待つのに飽きてきちゃったよ」
花陽「ほんとの試合なら審判が急かしたりするんだけど、今は練習試合だからね。凛ちゃんもおにぎり食べる?」
凛「んー、一個もらおっかなぁ」
希「お、ベンチから誰か出てきたで。一人やなくて二人?みたいやね。片方は投手っぽいね。もう一人はキャッチャー姿…。ん、あれは…」
真姫「……統堂英玲奈ね」
英玲奈「審判、選手の交代を願います。ピッチャー佐藤に代えて加藤。キャッチャー鈴木に代わり統堂」
あんじゅ「あら英玲奈。来てたのね」
英玲奈「ああ、ここからは私が出よう。それと佐藤さん、新井総監督からの通達だ。試合終了後、三軍へ移るようにと」
佐藤「……っ」ギリッ
英玲奈「ただの伝言役だ、そう睨まないでほしい。さて、捕手が私に代わるからにはもう一点も与えるつもりはない。守備陣、気を引き締めて守ってもらいたい」
スチャ ピピ…
花陽「英玲奈さん流石だなぁ…野球力2418もあるよぉ…!かっこいいですっ!」
ことり「リリーフで出てきた加藤って人、背が高いねぇ。投球練習のフォームは普通な感じかな?」
絵里「それほど球速が出てるようにも見えないわね。花陽、加藤さんの野球力も見られるかしら?」
ピピピ…
花陽「えっと、970 だよ。さっきまでの佐藤と大差ないね。でも背が高いからそこは注意した方がいいかも…」
真姫「大したことないわね。それにしてもややこしいのよ…佐藤だの加藤だの」
ことり「でも、なんだかUTXチームの雰囲気が変わったね。 統堂さんが入ってからピリッと引き締まった感じがするなぁ」
海未「攻守ともに警戒する必要がありそうですね。リリーフ投手の出鼻を挫けるように…穂乃果、頑張ってくださいね」
穂乃果「まっかせてよ海未ちゃん!よぅし、今度は五番らしいところを見せるぞー!」ブン!ブン!
審判『プレイ!』
英玲奈「途中出場だが、よろしく頼む」
穂乃果「あ、こちらこそよろしくお願いします!」(礼儀正しい人だなー。同じキャッチャーだし、なんだかちょっとだけ海未ちゃんみたい)
穂乃果「さ、こーい!!」
英玲奈(打ち気満々、だな)サイン
加藤「……」シュッ
穂乃果(あっ、いきなり穂乃果の大好きなインロー! 逃さずに打つ!)キィン!
ことり「いい当たりっ!」
バシィッ!
穂乃果「ああっ!取られちゃったぁ!?」
絵里「惜しい!サードライナーね…」
真姫「あんな三塁線寄りの打球を取られるなんてついてないわね。抜けてれば楽々ツーベースだったのに」
穂乃果「ごめんみんなー、塁に出られなかったよ」
希「いやー気にせんでいいよ。今のはサードのファインプレーやね」
穂乃果「だよねっ?むー、ヒット損しちゃったなぁ」
海未「穂乃果、あの投手の特徴などは何かありませんか?」
穂乃果「あ、ごめん!初球を打っちゃったからよくわかんないや」
海未「ふむ…、まあ仕方ありませんね。それでは私が見極めてきましょう」
凛「海未ちゃんガツンとかましてくるにゃー!」
花陽(……ねえにこちゃん、今の穂乃果ちゃんのって…)
にこ(花陽、気付いた? まあもう一人、海未が打つまでは様子を見ましょ)
海未「よろしくお願いします」
英玲奈「ああ、よろしく」
海未(状況は一死走者なし。敵の守備シフトは通常通り…。加藤投手に球数を投げさせることは念頭に置きつつも…、ある程度は好きに打って問題のない場面ですね)
英玲奈(園田海未、捕手か。おそらくは思考を伴って打撃をするタイプ。だが…)サイン
加藤「……」シュッ!
海未(外寄りのやや高め…打ち頃のストレート!私の最も得意とするコース、見逃す手はありません!)
英玲奈(さあ、キミ好みの球だろう?)
海未(引きつけて…逆らわずに右へ!)キーン!
絵里「打ったわ!」
希「鋭い打球や!」
パシッ!
海未「なっ…セカンドゴロですか…!?」
シュッ アウト!
凛「ええー?今の絶対に一二塁間を抜けてライト前のコースだったよ!なんで取られちゃうの?」
海未「くっ、初球打ちで偵察も出来ずにおめおめと…申し訳ありません…」
ことり「なんだか、向こうの守備がいきなり上手になったみたいな気が…?」
にこ「……上手くなった、とは少し違うわ。あれはね、英玲奈の力なのよ」
絵里「統堂さんの?にこ、どういうことなの?打球を取ったのはサードとセカンドだけど…」
にこ「穂乃果、海未。自分の得意なコースに打ち頃の球が来たでしょ?」
穂乃果「うん。内角低めにあんまり速くないストレートが来たよ」
海未「私は中寄りのアウトハイ、穂乃果と同じく得意コースへのストレートでしたね」
穂乃果「なんでわかるの?にこちゃん」
にこ「まず、あんたたち二人が打ったのはストレートじゃないわ。手元ギリギリで小さく変化するツーシーム。芯を少しだけ外された事で打球の勢いが微妙に殺されてたのよ」
穂乃果「つぅしぃむ?」
花陽「元はメジャーリーグでよく使われてる球なんです。最近は日本でもよく投げられてるんだよ。シュートとも似てるんだけど、握りをずらして投げるファストボール系をツーシームって呼ぶ事が多いんです」
穂乃果「はぇー、そんなややこしい球があるんだね」
絵里「シュートに比べて肘への負担が少ないって聞くわよね」
花陽「うん、捻らないから肘に優しいみたい。それでね、先進野球を掲げてるUTXではツーシームの習得が推奨されてて、持ち球にしてる人がたくさんいるんです」
希「打たせて取るのがUTXの基本戦術、って事なんやね」
にこ「そこよ。それが英玲奈が得意とする仕掛けなの。英玲奈はね、あらかじめ打球の飛ぶ場所を予測して守備陣に伝えてあるの」
絵里「えっ、あらかじめ予測!?」
にこ「そうよ。投手が投げ、バッターが打つ前に英玲奈が合図を出す。打者が打つよりも前に守備陣は定位置から英玲奈から伝えられていた守備位置に動き始める。
得意コースに打ち頃のスピードの球を投げられた打者は、気持ちよくスイングして少し芯をずらされた打球を打って、守備の真正面に打球が飛んでアウトになるの」
真姫「なによそれ…言ってる事めちゃくちゃじゃない。打つ方も投げる方も毎打席同じ動きをするわけじゃないんだから、打つ前に打球の予測なんてできるわけないでしょ?」
にこ「それが出来るから『精密機械』統堂英玲奈、なんて呼ばれてんのよ。どうやってるかなんて細かい理屈は英玲奈以外の誰にもわからないわ」
花陽「英玲奈さんはね、全国の女子チームの、ほとんど全選手のデータを記憶してるんだって。得意コ ースや苦手コース、コースや球種別の打球方向まで。それに洞察力をプラスして、独自の分析で打球予測をしてるんじゃないかな…?」
真姫「……化物ね。そんなデータどうやって集めたのよ」
海未「つまり私と穂乃果は、まんまと術中に嵌ってしまったわけですか…」
穂乃果「えっと、あんまり理解できなかったけど…とりあえずなんだか悔しいなぁ。っていうか!にこちゃんも花陽ちゃんも知ってたなら先に教えてくれればよかったのにー!」
花陽「ご、ごめんね?穂乃果ちゃん」
にこ「まあ海未はともかく、穂乃果はどうせ先に説明したってピンとこなかったでしょ!」
穂乃果「うっ…そ、それはそうだけど…」
ことり「ふっふっふ…みんな!ことりは攻略法を思いついちゃいました!」
穂乃果「えっ!すごいやことりちゃん!」
海未「本当ですか?ことり!」
ことり「論より証拠だよね?バッチリ打ってくるから見ててね~!」
キィン! パシッ アウト!
スリーアウトチェンジ!
ことり「ふぇぇん…全然ダメだったよ穂乃果ちゃぁん…!」
穂乃果「おーよしよし」
真姫「平凡なショートゴロだったわね…」
ことり「ことりの打球はセンターから右に飛ぶ事が多いから、ちょっと強引にでも引っ張れば守備の逆を付けるかと思ったんだけどなぁ」
にこ「ま、そう考えるわよね。でも今のことりみたいに不自然な打撃をしようとしても、英玲奈は打席での仕草で見抜いてくる。その場合は英玲奈が先読み守備の合図を出さないから、守備陣は定位置通りに守るだけ」
絵里「うーん、厄介ね…頭が痛くなりそう」
希「堅牢な先読み守備との正面対決か、自分の打撃を崩してでも先読み守備を避けるか。統堂さんの対戦相手は常に理不尽な二択を迫られるってわけやね」
花陽「下手に逆を狙ったりすると、自分のフォームが崩れちゃう心配もあるんです…」
穂乃果「うへぇ、なんか難しいねえ。考えるのはみんなに任せるよ~」
凛「凛もそういう頭を使うのはパスにゃー」
希「じゃ、ウチもパス~」
海未「待ちなさい!穂乃果と凛はともかく、希はちゃんと考えてください!」クワッ!
希「ちょ、冗談やって!海未ちゃん目が怖い怖い」
凛「あれ?凛たち今ディスられたにゃ?」
絵里「とりあえず、考えるのは後回しね。守備に行かなきゃ」
海未「そうですね…気持ちを切り替えなくては」
穂乃果「んー。なんかみんなちょっと暗くないかな? 四点リードしてるんだから大丈夫! このままみんなで力を合わせて逃げ切ろう!」
絵里「うん、そうよね…穂乃果の言う通りだわ。このまま勝つのは私たちよ!」
♯11
花陽『みんなで意気込んではみたけど、英玲奈さんの守備を破るのは簡単じゃありませんでした。
私はあえなくセカンドゴロ。真姫ちゃんは三振。色々策を出してみるものの、突破口をみつけられないままに淡白な攻撃が続きます…』
~~~~~
凛「いくら守備が堅くたって高くバウンドした打球は処理できないよね!叩きつけ打法にゃ!」
英玲奈「脚をフルに活かせる打法だが、そのフォームは極端に目付けが悪くなる。速球を高低のボールゾーンに散らせば当てるのは難しいだろう」
凛「にゃにゃっ!?」ぶぅん!
空振り三振
~~~~~
にこ「打つわよ~!スタンドにブチ込むわよ~!」
英玲奈「…」
にこ「打ち気…と見せてのセーフティバント!」
英玲奈「…」
にこ「と見せかけてのバスターよ!バットを引いて打つ!」
英玲奈「策を弄するのは結構だが、やりすぎだな。その半端なスイングでは球威に圧されてまともな打球は飛ばせないさ」
セカンドフライ
~~~~~
絵里「……私の特長は広角への打ち分け。先読み守備は通用しないわ」
英玲奈「バランスの良い一流の打者だ。確かに先読みは使えない。が、絢瀬絵里には明確な弱点がある…」
加藤「…」シュッ!
絵里「えっ!ランナーもいないのに、クイックモーションで投げてきた!?」
英玲奈「予期していない出来事への対応力が低い。少し揺さぶってやれば」
絵里「う、打たなきゃ!」ガキッ!
英玲奈「打撃を崩すのは容易だ」パシッ
絵里「し、しまった…」チカァ
キャッチャーフライ
~~~~~
海未『こちらの攻撃時間が短くなるにつれ、UTXの打者陣の集中力が増していきます。各打者に粘られ、出塁され、ことりの体力と球威が削られていくのが目に見えてわかります。
五回、下位打線にタイムリーを浴びて一失点。さらに六回、優木あんじゅにレフトフェンス直撃の二塁打を打たれ、ツーアウトながら得点圏にランナーを置いて統堂英玲奈と対することに…』
~~~~~
英玲奈「さて、点差を縮めておかなくてはな。仕留めさせてもらう」
海未(統堂英玲奈…聞きしに勝る鉄面皮。流石の威圧感です)
(・8・)「…」
海未(が、ことりだって平静ぶりでは劣りませんよ。 幸い、走者の優木あんじゅはそれほど足の速いタイプではありません)
(・8・)(ランナーは気にせず打者に集中。だよね、海未ちゃん)
穂乃果「頑張れことりちゃん!」
海未(さあ、全力のボールを!)サイン
(・8・)(いくよ海未ちゃん…!あっ、しまった!」シュッ
英玲奈(この軌道、南ことり独自の変化球か?いや、落ちない…ならば打つまで!)カキン!
海未「ことりボールが落ちなかった!?くっ、鈍い当たりの打球が三遊間を抜けます…」
穂乃果「届かない…真姫ちゃんお願い!」
真姫「ヴぇえ…!ランナーが三塁蹴ってる!?」パシン
にこ「やばっ!真姫ちゃんの弱肩じゃ間に合わないわ!」
凛「凛が中継するよ!」パシッ
凛「海未ちゃんっ!!」
海未「いえ凛!投げずにそのまま!これは間に合いません!」
あんじゅ「あら、冷静ね。それじゃ、遠慮なくホームインさせてもらうわ?」
英玲奈「ふふ。バックホームしてくれれば二塁を狙いたかったところだが…」
海未「統堂英玲奈、ワンヒットで帰れるように弱肩の真姫を狙ってきましたか。流石にシュアなバッティングをしますね…」
ことり「ごめんね、指に引っかかって失投しちゃった…」
穂乃果「ことりちゃんのせいじゃないよ。頑張れば穂乃果が捕れる打球だったような気がするなぁ…ごめん」
海未「いえ、二人が謝るような事ではありませんよ。野球ですから打たれもします。ここからもう一度、引き締めて行きましょう!」
~~~~~
真姫『この真姫ちゃんを狙い打つなんて舐めたマネしてくれるわよね。ことりは統堂英玲奈に打たれて以降はランナーを出して苦しみつつも、どうにか無失点で回を進めていったわ』
にこ『スコアは6-4の二点差。……勝ってこそいるけど、正直、地力の差は感じる展開ね』
希『だったらウチが援護や。どんなに堅牢な守備を敷こうと、スタンドに放り込んでしまえば関係ないやん? そう思っとったんやけどね』
絵里『希の打席、統堂さんは迷いなく立ち上がり、二死走者なしからの敬遠を選択したわ。残念そうな希を見ているとUTXに少し腹が立ったけど、これも野球の奥深さなのかしらね…』
穂乃果『だけど久々のランナーだよ!希ちゃん、私が絶対にホームまで返すからね!』
~~~~~
穂乃果「よーし来ーい!」
英玲奈(表情、視線の揺れ、声のトーン、ルーティーンからの構えに細かな仕草。全てが平常。高坂穂乃果は細工を弄するタイプではない、か)
穂乃果(守備がなんかすごいらしいけど関係ない!思いっきり振って、捕れないぐらいの打球を打ってやるんだから!)
英玲奈(ならば、こちらも平常通りやらせてもらうまでだな)サイン
加藤「…」シュッ
穂乃果(ツーシームぅ…! )
穂乃果(じゃなくてスローカーブだったぁ!スイング停止!)
ストライク!
穂乃果「えー今のストライクかぁ…」
英玲奈(打ち気を逸らす遅い変化球。際どい位置だったが、ストライク判定は幸運だった。オーソドックスな配球だが、大きな変化の残像が目に残ったはず。さて次は)
ことり「ハノケチェ~ン頑張って~!」
真姫「ちょっとことり、ケアしてるんだから指先動かさないで!」
ことり「あっ、真姫ちゃんごめんね」
真姫「もう、気をつけてよね。爪にヒビが入ってたわよ?」
ことり「ほんとだ、気付かなかったなぁ。まだ投げても大丈夫かな?」
真姫「ヤスリを掛けて、液体絆創膏とマニキュアで補強しておいたから大丈夫よ。けど、何かおかしい感じがしたらすぐに言うのよ?」
ことり「うん、ありがと♪ 真姫ちゃんお医者さんみたいだね~」
真姫「べっ、別に!誰だってできるわよこんなの!ほら、水分でも摂ってなさい!」
ズバンッ!
ボール!
穂乃果(外角に速いまっすぐ、ボール球。ふふーん、さすがに穂乃果でもそんな見え見えのには釣られないよ?)
英玲奈(引っ掛けてくれればと思ったが、ピクリとも動かず。存外冷静、か。平行カウントからの仕掛け…さて)サイン
加藤「…」コクリ
穂乃果(打つ…打つ…)
穂乃果(勝負だよっ!!!)
英玲奈「…!」ゾクッ
英玲奈(この雰囲気、まるでツバサ……いや、馬鹿げている。ツバサと同じ空気を纏う選手などいるはずがないだろう…)
加藤(統堂さん…?投げても大丈夫ですか?)
英玲奈(ああ、サインはそのまま。しっかり腕を振って、低めを意識だ)
加藤(了解です)
希(んー?なんだかこの打席の穂乃果ちゃん、雰囲気あるなぁ…おかげでバッテリーのウチへの警戒が薄れてる…ならここは)
希「なぁヒデコちゃん。ウチ、ちょっと仕掛けてみよかな?」ヒソヒソ
ヒデコ(一塁コーチ)「え、盗塁?うん、行けたら行っちゃっていいと思うよ」ヒソヒソ
加藤「……」シュッ!
希(行くよ!)タタッ!
海未「あ!希が走りましたよ!」
にこ「え、盗塁!?でもタイミングはバッチリだわ!」
穂乃果(来た!インローにツーシーム!)
英玲奈(ランナーが走ったか。だがここは打者との勝負に専念すべき場面。守備陣形!)サイン
穂乃果(守備が左にずれて…三塁線も三遊間もヒットコースがすごく狭まってる!でもそんなの気にしない!)
穂乃果「強く振るだけ!!!」 ッカキィーン!!! !
凛「打ったよ!」
花陽「三塁線へ低いライナー!これだと前の打席の再現にっ…!」
英玲奈(よし、強い打球だが打ち取った……。いや、これは!?)
凛「あっ!打球がサードベースに当たって跳ね上がったにゃ!!」
花陽「そのまま逸れて…ファールゾーンを転々としてますっ!」
絵里「ハラショー!!」
英玲奈「馬鹿な!!」
真姫「こ、これってフェア扱いになるのよね?!」
にこ「れっきとしたフェアよ!しかもランエンドヒットになってる!希ー!ホーム行けるわよ!!」
ミカ(三塁コーチ)「希ちゃん回れ回れ!ホーム突入ゴー!」
英玲奈「レフト!バックホームだ!」
希(これはクロスプレーになりそうやね、こういうんは下手に躊躇するとお互いに危ない。全力で突っ込む!)
英玲奈(よし、いい返球だ。ギリギリのクロスプレーになるな…受けて立とう!)
パシィ!ズザザッ!
………アウトォッ!!!
穂乃果「うああっ!惜っしい~!」
希「あちゃあ…間に合わんかったか」
英玲奈「レフトからの返球が完璧だったな。少しでも逸れていればセーフだっただろう。立てるか?手を貸そう」
希「あ、どうもありがとう。……あっ…」
英玲奈「?、どうかしたか」
希「い、いえ、なんでも。それじゃ、ウチは守備に行きますね」
希「……」
絵里「ドンマイ希、惜しいプレーだったわ!はい、ミットよ」
にこ「なァに浮かない顔してんの。いい走塁だったし、今のは向こうが上手かっただけよ」バシバシ
希「絵里ち、にこっち、そうやないんよ。英玲奈さんの手、マメでカチカチやった。ウチらとは積み重ねてきた練習量が違うんやろなぁ…なんて思っちゃって」
絵里「希…」
にこ「ふん、いくら練習してたって負ける時はコロリと負けるのが野球よ。にこはUTXの選手たちはリスペクトしてるけど、だからって委縮してやるつもりはないわ。
英玲奈とあんじゅはともかく、他はUTXって言ったって二軍!バシっとやっつけて帰るわよ!」
絵里「さすがにこね」
希「ふふ、にこっちが言うとなんとなく含蓄ある風に聞こえるね」
にこ「おだてたってアンタたちには何も出さないっての。さ、残りイニングも下級生どもを引っ張ってくわよ!」
絵里・希「「おーっ!」」
~~~~~
凛『希ちゃん、穂乃果ちゃん、とっても惜しいプレーだったにゃ…ここからまた、どっちも点が入らなくなったよ』
ことり『疲れはあったけど、真姫ちゃんがケアしてくれたおかげで何とか7回8回と無失点で乗り切れました!そして6-4のまま、試合は最終回を迎えます』
♯13
【九回表】
真姫「フゥ…ロングリリーフのあなた、加藤さんだっけ?いい加減そのツーシームも見飽きたわ。この真姫ちゃんの天才的打撃で引導を渡してア・ゲ・ル」 スパン! ぶんっ
空振り三振
凛「凛知ってたよ」
花陽「定期だね」
真姫「もう!なんで当たらないのよ!イミワカンナイ!」
~~~~~
凛(で、凛の打席だけど…どうすればいいのかイマイチわかんないにゃ~!)
英玲奈(叩きつけを狙うつもりはないか。ならば、守備を動かすまで)
ガキン! パシッ アウト!
希「うーん、ポップフライかぁ。凛ちゃんはすっかり打撃を狂わされちゃったみたいやね」
にこ「アホなくせに考えすぎなのよ、あの子は。同じアホでも穂乃果の方が突き抜けてる分優秀ねー」
穂乃果「にこちゃんってばー、そんな褒めたら穂乃果照れちゃうよ」
真姫「……バカね」クルクル
海未「なかなかランナーを出せませんね…」
ことり「そうだね~。でも、みんな心配しないでね。ことりが次の回も抑えるから。海未ちゃん、キャッチボールの相手おねがいっ」
にこ「……」
海未「ことり…疲労は大丈夫ですか?」
ことり「うんっ!あと一回だし、大丈夫だよ」
にこ「………ことり!」
ことり「なぁに?にこちゃん」
にこ「にこは絶対に出塁するわ。だから、アンタはもうちょっと座って休んでなさい」
ことり「……うんっ、ありがとね、にこちゃん♪」
~~~~~
英玲奈(さて、二番の矢澤にこか。情報からイメージしていたよりも優秀な打者だ。非力ではあるが、選球眼は一流)
にこ(真姫、凛が凡退ですんなりツーアウト。捕手が英玲奈に代わってから出塁できたのは敬遠の希とラッキーヒットの穂乃果だけ…。ことりの体力もそろそろ限界、テンポよく三者凡退ってのだけは避けたいところね)
英玲奈(先の打席では策を弄して自滅してくれたが、それよりも厄介なのは…)
にこ(ちょっと不格好だけど、なりふり構ってられないわ)スッ…
穂乃果「あれ、にこちゃんのフォーム変じゃない?」
真姫「本当ね。なによあれ、元々ちっちゃいくせに、さらに小さく構えちゃって」
希「なるほどなぁ…考えたやん 、にこっち」
スチャ ピピピ
花陽「……1085。すごい…にこちゃんの野球力が倍近くまで跳ね上がってます!」
穂乃果「ええ?あの構えで野球力が上がるの?」
海未「おそらく、見ていればすぐに違いがわかると思いますよ」
英玲奈(……ふむ)サイン
加藤「……」シュッ
スパン ボール!
加藤「……!」シュッ
パシィ ボール!
加藤「……くっ!」シュッ
スパーン! ボール!
凛「あれっ、スリーボール?なんだか、あのピッチャー急にコントロールが悪くなったにゃ」
穂乃果「これって…あの構え方のせい?」
海未「その通り。ストライクゾーンはおおよそ打者の胸元から膝まで。体格によって流動的に変化するものです」
真姫「なるほど。身体の小さいにこちゃんのストライクゾーンは元々狭い。それが更に縮こまって構えたら、いくらUTXでも二軍投手のコントロールじゃ対応できないって訳ね」
希「ふふ、にこっちは見つけたんやね、自分に合ったスタイルを」
真姫(自分に合ったスタイル、か…)
英玲奈(さて、困ったな。スリーボールから二球、甘めのストライクで誘ってみたが、まるで手を出す気配はない)
加藤「………」イライラ
英玲奈(加藤さんは二軍とはいえ、決して制球力の低い投手ではない。だが、ここまで小さいゾーンに生きた球を投げ込めるかと言うと…、だ。そして…)サイン
加藤「ッ!」シュッ
にこ「…甘いわ」
カキッ コロコロ… ファール!
英玲奈(置きにいったストライクをカットされてファール。完全に出塁だけを狙っている。プラス、南ことりを休ませるための時間稼ぎか。カット狙いだが、振り切っているからバント判定にもならない…)
にこ(ふん、我ながらスーパースターとは程遠いプレースタイルね…。でも、後輩が頑張ってる。そんな時に格好つけてなんかいられないってのよ)
スパン ボール! フォアボール!
にこ「…よしっ!」
ことり「やったぁ!にこちゃんすごーいっ!」
穂乃果「有言実行だね!にこちゃんイケメーン!」
花陽「単なる四球じゃありません!英玲奈さんが出てきて以降で初の、完全な実力でもぎ取った出塁!しかもフルカウントに持ち込んでくれたおかげでことりちゃんに少しの休息時間も生まれています!これはとっても大きいです!」
絵里「ハラショーね!さあ続かせてもらうわよ、にこ!」
英玲奈(ふむ。矢澤にこ、なかなかの好選手だ。もっとも、投手がツバサならば力でねじ伏せるのも容易だろうがな…)
絵里「さぁ、来なさい!」
英玲奈(さて、絢瀬絵里との対戦に集中しなければ)
海未「ふむ…重要な場面ですね。ここで絵里が出塁すれば希に回ります。そして、五番の穂乃果も先程の打席で結果を出しています。仮にランナーが一二塁の場面で希に回ったとすれば、そう易々と希を敬遠もできないでしょう」
凛「……」モジモジ
花陽「もし希ちゃんを敬遠したとしても、塁が埋まると先読み守備を使いにくくなるもんね。絵里ちゃん次第では大チャンスです!」
絵里「Все под богом ходим…」
英玲奈(………?)
真姫「あっ、絵里がいきなりロシアぶってるわ」
海未「おや、なにやら統堂さんが困惑しているようです!いけますよ絵里!」
凛「……が、我慢できないにゃー!穂乃果ちゃん、凛トイレ行ってくるね!」タタッ
穂乃果「ん、ちゃんと手も洗うんだよー」
絵里「Береженого Бог бережет…」
希「絵里ち、なんて言ってるんやろ?真姫ちゃんわかる?」
真姫「ロシア語はわからないわ。でもさっき、熱心に何かをスマホで調べてたから、きっとロシア語の慣用句とかじゃない?」
ことり「あ、今覚えたんだね…」
希「なるほど、これは絵里ちがいくつ慣用句を暗記してるかが勝負やね。呟いてるロシア語が尽きたらきっとあの集中が途切れて、いつもの揺さぶりに弱い絵里ちに戻ってしまうと見たよ」
海未「ふむ、絵里に関して希が言うのなら、それで間違いないのでしょうね。であれば、長期戦は不利…という事ですか」
絵里「Хорошо…」
真姫「……ねえ、今のって」
穂乃果「今のは穂乃果でもわかるよ。ハラショー!」
希 「ウソやろ絵里ち!もうロシア語ストックなくなってもうたん!?」
カキィン!
ことり「あっ打った!」
海未「一二塁間、セカンドに打球を抑えられましたが深い位置です!これは間に合うか!」
ズザザッ!
穂乃果「ヘッドスライディングだ!………やった!セーフ!セーフ!!内野安打だ!」
真姫「ロシア語がちょうど尽きる直前に決められて良かったわね…」
花陽「ここで希ちゃん!チャンス!大チャンス到来ですっ!」
ことり「希ちゃんおねがいっ」
希「よっしゃ!ウチに任しとき!」
穂乃果「穂乃果にランナー残しておいてくれてもいいからね!」
希「ふっふー穂乃果ちゃん、それはできん相談やなぁ。綺麗に掃除してくるよ!」
穂乃果「頼れるぅー!」
希「さてさて、カードの暗示は…『吊るされた男』…? ふぅん…、ま、とりあえずバッチリ点入れて、試合決めてくるからね!」
花陽「楽しくなってきたね凛ちゃん!って、あれ…凛ちゃん?」
穂乃果「あ、凛ちゃんトイレに行くって言ってたよー」
海未「え、トイレですか?全く、ツーアウトだと言うのに…」
真姫「この球場、ベンチからトイレまで地味に距離があったわよね。凛ったら、迷ったりしてないかしら?」
花陽「ち、ちょっと心配かも…私、迎えに行ってくるね」
真姫「私も行くわ、花陽」
~~~~~
ジャー
凛「ふんふんふ~♪にゃんにゃんにゃ~♪…ってあれ、かよちんと真姫ちゃん。二人もトイレ?」
真姫「手を洗いながら鼻歌なんて歌っちゃって呑気なもんね…凛が道に迷ってないか心配して二人で探しに来てあげたんだから」
凛「えー?凛、そんな迷ったりしないよ!トイレを出て左に戻るだけだし」
花陽「り、凛ちゃん。左に行ったらベンチと反対方向だよ?」
凛「あ、あれ?そうだったっけー?」
真姫「ハァ、まったくー…早く戻りましょ。絵里が出塁してね、今は希の打席なのよ」
凛「おー大チャンスにゃ!」
花陽「……えっ?…えええっ!?」
真姫「花陽?」
凛「かよちんどうしたの?」
花陽「希ちゃんの野球力が…消えた…!」
凛「え、ええっ?」
真姫「野球力が消える?そんなことがあるの?」
花陽「そんなはずは…スカウターの故障?でも他のみんなの野球力はちゃんと表示されて……あ…まさか、デッドボールで大怪我とか…!」
凛「かよちん真姫ちゃんっ!急いで戻ろう!」
♯14
穂乃果「の、希ちゃん…」
ことり「嘘…こんなのって…」
タタタッ
凛「希ちゃーん!」
真姫「希!」
花陽「希ちゃん!大丈夫!?って…あれ?」
真姫「なによ、希は普通に打席に立ってるじゃない。心配して損したわ」
花陽「待って?なんだか希ちゃんの様子が…」
英玲奈「…」サイン
ピッチャー田中「…」コクリ
シュッ スパン! ストライク!
真姫「え、見逃し?」
穂乃果「ああっ!追い込まれちゃったよー!」
ことり「希ちゃ~ん…!」
凛「の、希ちゃんどうしちゃったの?今のなんて希ちゃんなら簡単にホームラン打てそうなボールだったよ?」
真姫「ピッチャーが代わってるわね。リリーフ?」
穂乃果「う、うん。あのピッチャーの田中って人に代わった途端、希ちゃんの様子がおかしくなっちゃって…」
スチャ ピピピ…
花陽「田中さんの野球力は910…そしてあの投げ方、たぶん本職の投手じゃないはずです。希ちゃんが打てないような投手には見えないのに、どうして…」
英玲奈「カウントは0-2。振らなくていいのか?東條さん」
希「駄目…駄目や…ウチじゃ打てない…」ガタガタ
英玲奈(どうやら、投手交代の効果は覿面だったようだな)サイン
絵里「おかしい…あんな風に怯えた希なんて見た事がないわ。一体どうしちゃったの…?」
にこ「希ぃ!!振るのよ!なんでもいいから振りなさい!!」
希「そ、そうや、振らんと… 」
ブンッ ストライクスリー! バッターアウト!!
希「うう…」ガクッ
絵里「嘘…、希がど真ん中のストレートを掠りもせずに空振りなんて…」
海未「統堂英玲奈!貴女は…希に一体何をしたのです!!!」
英玲奈「園田さん、そう怒鳴らないでくれ。少しばかりの分析と、対策をさせてもらっただけだ」
海未「分析と対策、ですか…?」
英玲奈「オカルト打法の東條希。打席前にタロットを引き、アルカナに沿った大打者をその身に憑依させて打つ。なるほど、恐ろしい打者だ。だが、一度冷静になるべきだ。現実に、そんなオカルトが有り得るのだろうか?」
英玲奈「野球というのは運の要素も大きく絡む競技だ。故に、験を担いだり、ジンクスに従って行動する選手は少なくない。一流のプロであってもだ」
英玲奈「その一環として、打席前のルーティン動作がある。かのイチローが腕を掲げる動作を知らない者はいないだろう。
ルーティンというものは、一定の動作を行う事で自身の雑念を払い、集中力を高める目的で行われる事が多い。いわば、一種の自己暗示といったところ」
英玲奈「そこで私は考える。東條希のタロットによる憑依、オカルト打法。その実態はオカルトではなく、自身の運動能力を飛躍的に高める程に強力な自己暗示行為なのではないかと」
英玲奈「その仮説から導き出される東條希の人物像……情緒豊かでイメージ力が高く、自身への抑圧傾向。総じて、被暗示性が高い性格と見て取る事ができる」
英玲奈「で、あれば。彼女の被暗示性を逆手に取ってやればいい。東條希がオカルト、スピリチュアルを信奉し、強烈な自己暗示を施すための精神的基盤とは何か?
それはおそらく、神田明神で巫女として働くことで、神の加護を受けているという意識だろうと予想できる」
英玲奈「さて、それを崩すためにはどうすべきか。幸運なことに、UTXの二軍には田中とい う選手がいる。彼女の実家は都内有数の大きな寺だ。
かたや神社の従業員、かたや住職の実子。仏教と神道の違いはあれど、神格は後者の方が高いのではないだろうか?」
英玲奈「田中さんをマウンドへ登らせ、ユニフォーム下に数珠を覗かせる。怪訝な様子の東條希に、田中さんは寺の子供であると囁いてみせる。結果はご覧の通り。オカルト崩し、完成だ」
海未「なんと…そんな方法で希を抑えてくるとは!」
穂乃果「な、長い…何を言ってるのかわかんないよぉ…」
田中「摩訶般若波羅蜜多心経」
絵里「えっ、何?」
田中「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳…」
英玲奈「フッフ、田中さんの徳の高さをその身に受けるがいい」
希「うあぁぁぁあウチのスピリチュアルパワーが浄化されてうぐあああぁぁぁ!!!」
絵里「ひぃいいッ…怖い!!」
凛「な、なんか怖いにゃ~!!」
にこ「浄化って何よ!あと絵里と凛までビビってんじゃないわよ!」
真姫(般若心径を唱え始めるピッチャーって普通に怖いけどね…)クルクル
~~~~~
希「みんな、ほんとごめんな…せっかくにこっちと絵里ちが作ってくれたチャンスやったのに…ウチのせいで」
海未「気にしては駄目ですよ、希。全ての打席で打てる選手なんてプロにもいないのですから」
凛「そうにゃそうにゃ~」
希「それはそうなんやけどね…」
ことり「のーぞーみーちゃんっ♪」ワシッ
希「きゃああっ!?こ、ことりちゃんっ!?」
ことり「心配しなくたっていいんだよ?希ちゃんが四点も取ってくれたおかげで、ことりはここまで投げてこられたんだから♪」ワシッ
希「ちょっ、うぁっ!あ、あんま揉んだらダメ…って…あれ?」
ことり「ん~?どうかした?」ワシワシ
希(……ことりちゃん、右手の握力が弱くなってる。当たり前やけど、やっぱりすごく疲れてるんよね…。なのに、凡退したウチに気を遣って明るく振る舞って…)
希「ことりちゃん…ありがとな?」
ことり「…? うん、こちらこそっ♪」
穂乃果「さあっ!あとアウト三つだよ!みんな気を引きしめて守っていこうねっ!」
全員『おおーっ!』
にこ(けど正直、大会前に希のオカルト打法が崩されたってのは痛いわね…どこにでも真似できる方法じゃないけど…)
♯15
田中「礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神咒是大明咒是無上…」
スパーン! ボール フォアボール!
海未(なっ!い、今のは入っているでしょう!?)
(・8・)「ッ……」
花陽「内野安打、サードフライ、センター前ヒット、三振、そして田中さんへの四球…」
凛「ツーアウトだけど…満塁はちょっとヤバくないかにゃ?」
希(ことりちゃん、やっぱり疲れは隠せんね…ウチが打ててれば、ってのは今は言いっこなしや。守備に集中せんと!)
絵里「代わってあげたい…だけど練習試合なんだし、ことりが投げ切りたいと言った意思を優先すべきよね」
穂乃果「ことりちゃん、 あと一息!三塁に打たせていいからねっ!」
真姫(き、緊張する…出来ればこっちには打球を飛ばさないでほしいわ…)
にこ「二点リードの九回裏、ツーアウト満塁。ここで回っちゃうのね…」
海未「優木あんじゅ…。審判、タイム願います」
『タイム!』
あんじゅ「あら、私の出番なのね」
英玲奈「そうだ。おあつらえ向きの舞台だろう?」
あんじゅ「うふふ…楽しんでくるわね」
『プレイ!』
海未(この場面…二点差…打者は優木あんじゅ)
(・8・)(これは練習試合だけど…)
海未(勝ちに行かせてもらいます!)スッ
あんじゅ「あらあら、立ちあがっちゃって」
英玲奈「ほう、敬遠か」
海未(満塁ですが、ここは敢えて敬遠の押し出しを選択しましょう。それでもまだ一点リード。今の状態で優木あんじゅと対戦するよりは賢明なはず!)
スパン ボール! スパン ボール! スパン ボール!
あんじゅ「ん~、本当に敬遠なのね。このまま歩かされるっていうのも、なんだかつまらないわ?」
海未(貴女の雑談には付き合いませんよ、優木あんじゅ。これでスリーボール。敬遠球を失投、というのもままある事。気を抜いてはいけませんよ、ことり)
(・8・)(大丈夫、わかってるよ海未ちゃん)シュッ
あんじゅ「えい」 ブンッ スパン ストライク!
海未(えっ、振った?)
あんじゅ「う~ん、当たらないわね?」
海未(なんですか、この方は…一体何を考えて)
(・8・)(ダメだよ海未ちゃん、惑わされずに。もう一球行くよ)シュッ
あんじゅ「やあっ」 ブン! スパン ストライーク!
あんじゅ「当たらないわね?うふふ…」
海未(ふむ…勝負しろ、と言いたいのでしょうか。誘いには乗りませんよ)
穂乃果「ことりちゃん海未ちゃん!ツーストライクだよ!ラッキーラッキー!」
(・8・)(ふふ、穂乃果ちゃんかわいいなぁ)
海未(難しく考えてしまいそうな場面、穂乃果の明るさには本当に救われます…。シンプルに、シンプルに)
海未(さあことり、もう一球ボール球です!)
(・8・)(わかったよ、海未ちゃん!)
あんじゅ「ツーアウト満塁 、そしてフルカウント」
海未(優木あんじゅの動きは気にせず敬遠するまでの事。振るなら振りなさい、バットが届かず三振でゲームセット。それまでの事です!)
(・8・)「えいっ!」シュッ
あんじゅ「これ以上ないほど完っ全にフルハウス…!」
海未「な、完全にフルハウス…!?」
英玲奈「…勝ったな」
カキィィィィン!!!!!!
海未「そんなっ!」
希「片足をラインギリギリまで踏み出して、片腕を伸ばして敬遠球を叩いた!?あ、ありえんやろ!」
花陽「ライトに打球がぐんぐん伸びて!絵里ちゃん!」
絵里「お、追い付けないっ…っていうか、これ…!」
ガツンッ
絵里「……打球がファールポールに当たったわ。これは…」
にこ「……ホームラン。逆転満塁サヨナラホームランよ」
ことり「あ、ああ…」ガクッ
海未「や…やられ、ました…っ」ガクリ
あんじゅ「劇的ね~。嬉しいわぁ」
英玲奈「よくやったぞ、あんじゅ」
海未「ごめんなさい、ことり…私が敬遠などと言い出さなければ、こんな事には…」
ことり「……ううん、海未ちゃんのせいじゃないよ…。私も敬遠に賛成したんだから…」
タタタッ
穂乃果「海未ちゃんっ!ことりちゃんっ!」
海未「穂乃果…っ」
ことり「…ごめん、打たれちゃったよぉ」
穂乃果「二人とも……お疲れ様っ!!」ギューッ
海未「ほっ、穂乃果っ!?」
ことり「穂乃果ちゃぁん?」
穂乃果「初めての試合でこんなに頑張れるなんて二人ともすごい!すごいよ!まあ、最後は打たれちゃったけどさ?でもでも、とっても格好良かったよ!」
海未「……ありがとうございます。穂乃果にそう言ってもらえると、幾分慰められます…」グスッ
ことり「っ……悔しい…穂乃果ちゃん、悔しいよぉ…」ポロポロ
穂乃果「よしよし…青春青春!……あんまり泣くと、穂乃果まで泣きたくなっちゃうよ?」グス
絵里(良かった、穂乃果が上手にフォローしてくれたわね…。さすがキャプテンね)
にこ「ほらアンタたち、試合終わりの挨拶よ。整列行くわよ!」
♯16
全員『ありがとうございましたっ!!!』
~~~~~
絵里「さて、挨拶も終わったし、使わせてもらった場所の片付けをしてから帰りましょうか」
海未「学校へ戻ったら反省会ですね。敗戦を糧にしなければ!」
穂乃果「うええ、海未ちゃん真面目~。今日は疲れたし明日で良くない?」
海未「駄目です。鉄は熱いうちに叩け!今胸の中にある悔しさが冷めないうちに自らを省みる事で一層の成長が得られるのです!」
穂乃果「ええ~…」
凛「かよちん真姫ちゃん、ベンチ裏のジュース美味しかったからもう一杯飲んでおこうよ」
真姫「ちょっと、今から片付けって時にゴミを増やしてどうするのよ」
花陽「あはは、すぐに片付ければ大丈夫じゃないかな」
英玲奈「ああ、どうせ掃除は業者がやってくれる。片付けなどは気にしてもらわなくて構わないぞ」
花陽「ほら、英玲奈さんもこう言って……って英玲奈さんっっ!!?」
真姫「む…なによ、敗者に慰めの言葉でも掛けに来たわけ?そんなのいらないわよ」クルクル
英玲奈「そんなつもりではないさ、西木野さん。少しばかり、君たちに話があってね」
絵里「話、ですか?」
あんじゅ「そ。あと、宣戦布告のお返事もね?」
ことり「宣戦布告って…」
希「にこっちと真姫ちゃんがしたんやったね」
にこ「生意気な口利いて申し訳ございませんっしたぁっ!!」ゲザァ
凛「出たァ!にこちゃんのフライング土下座にゃ!」
花陽「すごい速い!残像が見えたよぉ!?」
にこ「真ァ姫ちゃん!アンタも頭下げなさい!」
真姫「いッ、嫌よ!悪い事なんてしてない!っていうかにこちゃん卑屈すぎ!」
英玲奈「頭を上げてほしい、矢澤さん。我々に対して真っ向勝負を挑んでくるその姿勢、とても嬉しかったんだ」
あんじゅ「そして、口だけのチームでもなかった。今日の試合、とっても楽しかったわ」
英玲奈「君たちチーム全員に見るべき点があった」
花陽「えっ、全員…?わ、私にもですか…?」
英玲奈「小泉花陽。見るべきは正確無比な守備時のポジショニング。自身では気付いていないかもしれないが、通常ならばヒット性の当たりを二本アウトにしていた。
難度の高いプレーをシンプルにこなしてみせている。おそらくは、その深い野球観から成せる技術なのだろう」
花陽「ほ、ほ、褒められちゃったぁ…英玲奈さんに…」
ことり「花陽ちゃん、良かったね~♪」
英玲奈「南ことり。改めて挙げつらうまでもないかもしれないが、絶対数の少ないサブマリン。それ自体が既に価値を成している。
加えて独自の変化球、あれの精度が上がれば初見で捉えられるチームは多くはないはずだ。マウンド上でのポーカーフェイスも投手としての高い資質、評価されるべき点だ」
ことり「わぁ、ありがとうございます!」
英玲奈「全員逐一挙げていたのではキリがないが、本当に、それぞれに特徴のある良いチームだと感じたよ。お世辞などではなくな」
あんじゅ「うふふ、まだまだ粗削りだったけどね?」
穂乃果「えへへ、チームを褒められて悪い気はしないね~!」
海未「それで…お話がある、というのは?」
英玲奈「ああ。私とあんじゅから、君たち音ノ木坂学院に頼みたい事がある」
真姫「私たちに頼み?」
―――カツン カツン カツン
希「ん、足音?」
あんじゅ「あら…?ベンチ裏の通路から誰か出てき……えっ?」
ツバサ「英玲奈、あんじゅ、ヤッホー♪」
希「……綺羅、ツバサ?」
にこ「え?……きっ、きゃあああああ!?ツバサ!ツバサよ!!!」
花陽「ほ、ほ、ほ、ほ、本物の生ツバサさんッ!!!??生ツバサさんの生声を拝聴させていただいてもよろしいんですかッ!??」
真姫「二人ともうるさい」
絵里(これが綺羅ツバサ…以外と小さいのね。身長…にこと同じぐらい?)
海未(『魔術師』 綺羅ツバサ、ですか…)
ツバサ「来ちゃった!」エヘッ
あんじゅ「え…な、なんで!?」
英玲奈「つ、ツバサ…!君は完全休養日のはず…何故ここに?」
ツバサ「なによその反応はー。腐れ縁のチームメイト二人が二軍戦に出てるって言うから寮からすっ飛んできたんだから?」
英玲奈「……そうか…あ、ありがとう」
希(え、なんや…これ。英玲奈とあんじゅの二人が怯えてる…?)
ツバサ「で、で?なんとか学園とは何回コールドだったの?」
英玲奈「音ノ木坂学院、だ」
あんじゅ「あ、あのねツバサ…試合はコールドじゃなくて…」
ツバサ「えーっと、スコアボードは~……8対6…?なにこれ、大接戦じゃない。二人とも出てたのよね?」
英玲奈「……私は五回から」
あんじゅ「わ…私は最初から…でもホームランは二本打ったのよ」
ツバサ「ふーん……ま、打つ方は8点取ってるなら最低限かしら。物足りないけど。で、英玲奈が出場した五回以降は無失点、か」
あんじゅ「そ、そうなの!私と英玲奈はベストを尽くしたわ!」
ツバサ「あー初回に4点も取られちゃったのね。で、もう2失点…」
英玲奈「……佐藤さんが立ち上がりを打ち込まれてしまった。彼女には既に三軍への降格が通達されている」
佐藤「………」
ツバサ「え、佐藤さん?誰だっけ、それ」
佐藤「……ッ!?」
英玲奈「……おいツバサ、同級生の佐藤さんだ。一年の頃から切磋琢磨してきただろう?」
ツバサ「へぇ~」
あんじゅ「つ、ツバサ…そんな、へぇ…って」
ツバサ「佐藤さんね…忘れちゃった。ま、いいわよね。三軍なんて覚えてなくっても」
佐藤(ブチッ!)
佐藤「綺羅ツバサぁぁア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!」
英玲奈「やめろ!佐藤!」
佐藤「死゛ね゛ェェッ!!!」シュッ!!
にこ「あっ顔面にボールを!」
あんじゅ「ツバサ!危ない!!」
ツバサ「え、何が?」パキッ!!
…………コーン、コーン…コン…
あんじゅ「……嘘ぉ」
佐藤「そ、そんな…っ…!」
英玲奈「至近距離から顔面への速球を…おもむろにボールペンで打ち返してスタンドへ、か……。相変わらず、凄まじい」
ことり(えっなにちょっとあれありえなくない?ボールペンだよ?硬球だよ??)
海未(し、信じられません…)
絵里(…なんで内ゲバの現場に居合わせちゃってるのかしら…気まずいわ)
希(この発言権のない雰囲気、苦手やなぁ…)
穂乃果(お腹減ったなぁ…)
凛(穂乃果ちゃん穂乃果ちゃん、帰りラーメン行こうよ)
穂乃果(凛ちゃん!直接脳内に!?)
ツバサ「あっぶなー…このボールペンが金属製じゃなかったら怪我しちゃってたかも。そこの投げてきた人、あなた誰?危ないじゃない!硬球って石みたいに硬いんだから!」
佐藤「あ…ああ…あ…」ガクッ
あんじゅ(佐藤さん…心が壊れちゃったのね。可哀想だけれど…もう駄目ね)
英玲奈(…ツバサは決して嫌がらせで発言しているわけではない。本気で佐藤さんの事を記憶していないんだ)
英玲奈(自分が興味を持てないものへの記憶に脳の容量を一切割いていない。そうして、常人よりも大幅に余った脳の力の全てを野球の能力に注ぎ込んでいる)
あんじゅ(そしてそれはもちろん、私と英玲奈も対象。ツバサから取るに足らない存在だと思われてしまったその時…私たちはツバサの認識から消える)
あんじゅ(私も英玲奈もツバサの事は好き。子供みたいに楽しそうに野球に向き合うツバサをそばで見ているのが大好き。この小柄な天才がどこまで行けるのかをずっと見守っていきたい)
英玲奈(だからこそ、私たちはツバサが恐ろしい。忘れられないため、切り捨てられないために……私たちは確実に結果を残し続けなければならない)
ツバサ「もう、二人ともなんか表情硬いわよ?試合で疲れちゃった?」
あんじゅ「大丈夫、大丈夫よ…うふふ」
ツバサ「そう?ならいいけど。……ん?」
ツバサ「そこのアナタ」
英玲奈(な!?ツバサが見ず知らずの他人に興味を示した!?)
穂乃果(ねえ、穂乃果は今日はピリ辛の担々麺な気分だよ、凛ちゃん)
凛(凛は二郎でガツンと大豚W気分なんだけどなー)
穂乃果(あ、それもいいかも?)
ツバサ「ねえアナタ、サイドテールのアナタよ」
穂乃果「ふぇあ!?ごめんなさい!ラーメンの事を考えるのはやめます!!」
真姫(何言ってるのよ、穂乃果…)クルクル
ツバサ「ねえあなたの名前は?」
穂乃果「わた、私ですか!こ、高坂穂乃果です!」
ツバサ「学年は?ポジションと打順は?打席と利き腕は?パン派?ごはん派?」
穂乃果「え、ええ!?二年で五番サードで右投右打で断然パン派です!」
ツバサ「そうなんだ!そうなのね!ね、ラーメン食べたいの?」
穂乃果「えっ食べさせてくれるの!?」
英玲奈「おいツバサ…その辺りにしておけ」
海未「こら!穂乃果!失礼はやめなさい!」
凛「い、いいなー!凛もラーメン食べたいです!」
ツバサ「私は高坂さんと話をしているの。その他は黙っててね」
凛「え…あっ…ごめんなさい…」
ムカッ
花陽「い、いくらツバサさんでも凛ちゃんに失礼な口を利いたら許しませんよ!測定してやる!(スチャ)」
ピピピ…ピピピピピ!!
花陽「野球力2000…いや2500…3000…!5000…!?13000…?!!ええっ!まだ上がっちゃうのぉ!?」パリンッ!
凛「ああっ!かよちんのスカウター眼鏡が粉々に!」
真姫「は、花陽…!?野球力13000以上って…な、なによそれ、桁が違うじゃない!」
ツバサ「穂乃果さん、お友達になりましょ?UTXのカフェテリアに美味しいラーメンがあるの。ご馳走するわ」グイッ
穂乃果「え、ええ、えっ?でもみんなが…」
ツバサ「穂乃果さん、あなたUTXに入ってよ。私が働きかければすぐに転入手続きも済むわ」グイグイ
穂乃果「つ、ツバサさん!?なにを、ほ、穂乃果…頭がついていかないんだけど…ひ、引っ張らないで…」
ダンッ!
海未「あなた、いい加減にしてください。私の友人が困っています」ギロッ
ことり「ほ、穂乃果ちゃんから手を離してください!」
ツバサ「………」
穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん…なんかよくわかんないけど助けてー…」
にこ「あの、ツバサさん。このアホ、これでも音ノ木のキャプテンなんで。引き抜きとかそういうのは困るんです。うちとそちらは、敵!なんですから。おら穂乃果!こっち来なさい!」
希「お、にこっち言うやん!ほら穂乃果ちゃん、ウチの後ろに隠れとき」
穂乃果「うう、希ちゃーん…」
ツバサ「……ちょっとちょっと穂乃果さん。私は仲良くしたいだけよ?みなさん退いてもらえる?そんなバリケードみたいに立ち塞がっちゃって」
絵里「ねえ、やめてもらえますか?穂乃果は困っているわ。それ以上音ノ木坂の生徒を困らせるようなら、私は生徒会長として穂乃果を守ります」
真姫「いきなり転入とか…頭沸いてる?」クルクル
あんじゅ「ね、ねえツバサ…いきなりどうしちゃったのよ…迷惑かけちゃってるわ?」
ツバサ「…はー、めんど」
ツバサ『 全員、黙ってて 』
シィ… ン…
絵里(な、なんなの…!この人の迫力は!?)
希(なんや…これ!気圧されて…体が痺れたような!)
真姫(ヴェエ…!なんかあいつだけ世界観違うんだけど?!)
花陽(こ、声が出ないよぉ…!)
ツバサ「……穂乃果さん」
穂乃果「っ、つ、ツバサさん…?なんで、穂乃果の顔に手を…?」
ツバサ「クスッ…やっぱり。あなたは動けるのね、私のプレッシャーの中で」スッ
にこ(えっ?ちょ、穂乃果の顔にツバサさんの顔が近付いて…!?)
ことり(えっ!えっ?えっ!?やめてやめてやめて!!!)
海未(嘘でしょう!?嘘でしょう!!?やめてください後生ですから!!!)
あんじゅ(つ、ツバサぁ!?)
英玲奈(やめるんだ!ツバサ!)
……チュッ
穂乃果「!!??!?!??!?!」
ことり(ぴいいっ!!?!このアマっ!!やりやがった!!ビッチ!!アバズレ!!ことりのおやつにしてやろうか!!?)
海未(あああああ…このチビ女…このデコ女…!私の穂乃果になんてことを…!穂乃果がに、に、妊娠してしまいます…!!!)
凛(凛たち、野球しにきたんだけどなぁ)
穂乃果「え、あ…あ…ぅ…/////」
ツバサ「穂乃果さん。私、ようやく見つけたの。私と同じ高みに立てる人を」
穂乃果「たか…み…?」
ツバサ「試合の中で、英玲奈やあんじゅのプレーを見て、あなたも思わなかった?大したことないなって」
英玲奈・あんじゅ(ッ…!)
穂乃果「た、大した事ないとは思わないけど……同じぐらいのことなら、穂乃果もそのうち出来るよ…って」
希(そ、そうなん…!?)
ツバサ「でしょうね。あなたの潜在能力は私に匹敵するんだもの。当然よ」
絵里(穂乃果が!?そうなの!?)
ツバサ「英玲奈、あんじゅ。勘違いしないでね?決して二人を貶めているんじゃないの。二人の事は大好き。プレイヤーとしても尊敬している。……けどね、二人と私は、決して同格じゃない」
英玲奈(………その通りだ、残念だが)
ツバサ「私はね、恒星なの。英玲奈とあんじゅ、他のチームメイトたちは私に連なる惑星。種類が違う。だけど見つけたわ、穂乃果さん。あなたも私と同じ恒星。自ら光を放てる太陽よ」
希(『太陽』…穂乃果ちゃんのタロット…)
穂乃果「……太陽とか惑星とか…よくわかんないけど…」
ツバサ「わからなくていいわ。私が言いたい事はただ一つ。一緒に来なさい、穂乃果さん」
穂乃果「………」
穂乃果「……ツバサさんの気持ちはわかりました。多分だけど…私なら、ツバサさんと高めあう存在になれる」
ツバサ「穂乃果さん!わかってくれるのね!じゃあ!」
海未「ぅ、うう!うぁあ゛!」
英玲奈(園田海未!プレッシャーを破った!?)
海未「穂乃果!!行かないでください!」
ことり 「チ゛ュ゛ン゛ッ゛!そうだよ穂乃果ちゃんっ!ダメっ!行っちゃだめ!!」
あんじゅ(南ことりも!?)
穂乃果「……私は、ツバサさんの孤独、なんとなくだけど、わかってあげられると思います」
ツバサ「そうよね穂乃果さん。あなたも本質は私と同じよ」
穂乃果「……だから!私はツバサさんを倒してみせます!音ノ木坂のみんなと一緒に!」
ツバサ「え…?は!?話の前後が繋がってないわ!ダメよ、UTXに来なさい!」
穂乃果「だって、一緒の学校じゃ、大会でツバサさんと勝負できませんから!」
ツバサ「……勝負?」
穂乃果「多分だけどツバサさん…、野球は大好きでも、野球での勝負を楽しんだ事ってないよね?」
ツバサ「勝負を楽しむ?ええ、ないわ。負けるはずのない相手を圧倒し、ねじ伏せて、叩き潰し、勝つべくして勝つ。それが勝負よ」
穂乃果「やっぱり!それってすっごくもったいないよ!私がツバサさんに勝負の楽しさを教えてあげる!それでね、もし負けたらツバサさんの言う通り、UTXに転入します!」
絵里(穂乃果…何を…)
ツバサ「…勝負。……ねえ穂乃果さん、それじゃ大会が終わっちゃうの。一緒に野球ができないわ」
あんじゅ(そう、私たちは三年。次の夏の大会で引退…)
穂乃果「私ね、野球じゃなくたってツバサさんとは友達になれると思うんです」
ツバサ「……友達に」
穂乃果「だから、約束します!もし負けて穂乃果が転入したら、ツバサさんが卒業するまでの残りの半年を最高に楽しい時間にしてみせるって!」
ツバサ「………」
穂乃果「けど、負けません!絶対に!」
ツバサ「ふぅん…?要するに、負ける気はないってワケだ。その素人の寄せ集めチームで」
穂乃果「うん、負けません。穂乃果がいなくなったら寂しくて死んじゃうかもなあって感じの、愛が重い幼馴染みが二人もいるから」
海未「穂乃果ァァ!!」
ことり「ハノケチェェン!!」
ツバサ「ふふ…あっはははは!穂乃果さん、言ってる事はよくわからないけど、やっぱりアナタって面白い!いいわ、その条件飲んであげる」
希(なんか偉そうやけど…この子、終始めちゃくちゃな事しか言ってないなぁ…)
ツバサ「そして、約束するわ。必ず音ノ木坂を叩き潰して、貴女を迎えに行くと。それじゃあ、また大会で会いましょ」
穂乃果「勝負だよ、ツバサさん。私、負けませんから!」
ツバサ「ふふっ……あ、そうだ。参考までに教えてあげる。私の野球力は53000よ」
凛(ご、53万!?)
花陽(53,000だよ凛ちゃん。フリーザじゃないよ)
ツバサ「バイバイ」
――― スタ スタ スタ …
英玲奈「……ツバサは野球に、自身の才能に取り憑かれている。私たちから恥を忍んで頼む」
あんじゅ「ツバサを…敗北させてあげて。お願い…」
♯17
【部室】
凛「暇だよ~…」
穂乃果「暇だね~…」バリ…ボリボリ…
ことり「雨、止まないねえ」ギッチョギッチョギッチョギッチョ
真姫「……」イライライライラ
絵里「今週はずっと雨ね…せっかくUTX戦で色々な経験が積めたのに…」カリカリ…カリ…
凛「テンション下がるにゃ~」カション
希「筋トレも今日の分は終えちゃったしなぁ。オーバーワークは逆効果やし……(パキン)あ、ホームラン」
凛「ま、またやられたにゃー!?」
穂乃果「おお~」バリボリ
ことり「希ちゃん野球盤上手だねぇ」ギッチョギッチョギッチョギッチョ
真姫「………」イライライライラ
ことり「真姫ちゃん?体調悪いの?」ギッチョ…ギッチョギッチョギッチョ
真姫「あんたたち全員うるさいのよっ!!穂乃果はせんべい!凛と希の野球盤!ことりのハンドグリッパー!絵里の宿題!」
絵里「私は宿題やってるだけなのに!?」
真姫「あ…ま、まあ、絵里の宿題はいいわ。他よ!特にことり!それうるさい!」
ことり「ご、ごめんね?でも、試合終盤に変化球のキレが落ちてたから握力を鍛えなさいって言ってこれをくれたのは真姫ちゃん…」
真姫「今はうるさいの!」
希「あれやんな?真姫ちゃんはここ数日にこっちと全然会えてないからイラついてるんよね?」
真姫「べっ、別に !違うわよ!なんでにこちゃんなんか!」
凛「なぁんだ、いつものかにゃ。それなら凛だって、かよちんと放課後バラバラで寂しいよ~」
穂乃果「だったら穂乃果だって!海未ちゃんが視聴覚室に籠っちゃってて寂しい!」
ことり「だよね~…」
絵里「この雨で練習できないしで、野球に詳しいにこと花陽、捕手の海未の三人でずっと色んな映像とかデータをまとめてくれてるのよね」
希「ウチはさっき差し入れ持っていったけど、あの部屋には長居できないなぁ…スクリーンで試合の映像が延々と流れてて、大量のスコアシートとかが机の上に散乱してたよ」
凛「凛はあんな数字とかデータまみれの部屋にいたら一時間もしないで頭がおかしくなっちゃうよ!」
真姫「UTXのここ数年の試合データとかを全部集めたみたいね。どこから持ってきたんだか…」
絵里「作業を手伝おうとしたんだけど、OPS、IsoDとかWHIPだとか、データが細かすぎてね…にわか知識じゃかえって邪魔になりそうで退散したわ」
穂乃果「数字の海って感じだったね。ぞっとしないや…。あーもう、海未ちゃんと会いたいよ~!」
ガチャッ
海未「私がどうかしましたか?」
穂乃果「あっ、海未ちゃんっ!」
ことり「うふふ、穂乃果ちゃんは海未ちゃんが大好きって話だよ」
海未「なっ、わ、私のいないところで何の話をしているのですか!」
穂乃果「海未ちゃんっ!君を愛してるぅっ!」ギュッ
ことり「ことりも~」ギュッ
海未「は、恥ずかしいです!やめてください!」
希「と、言いつつ頬がゆるゆるやね」
にこ「ほら、どいたどいた!ったく、アホの二年生トリオは入口でイチャついてんじゃないわよ」
花陽「みんなお待たせ~。試合データとかのまとめがやっと終わったよ!」
凛「かーよちーん!!寂しかったよぉお!」ギュウゥゥ!
花陽「り、凛ちゃぁん!ごめんねぇ!」ギューッ!
真姫「別に、毎日教室で会ってるじゃないの…」
絵里「ほら、真姫もにこに抱きつかなくっていいのかしら?」
真姫「う゛ぇぇ!?わ、私は別にっ!」
にこ「なに?真姫ちゃんったら、にこにーと会えなくて寂しがってたわけ?」
真姫「チガウワヨ!」
にこ「ふふん、可愛いとこあんじゃないの。まっ、にこにー分を摂取できなくて禁断症状を起こしちゃうのは当然っちゃ当然だし?別に驚かないっていうか?とりあえず頭撫でといてあげる。ほら真姫ちゃーん、よしよーし♪」
真姫「ヴェエ…!イ、イミワカンナイ!」
希「嬉しそうやねぇ」
にこ「さて、全員で視聴覚室に行くわよ。映像見せながら説明する事が色々あるから」
【視聴覚室】
海未「えー、ゴホン!それでは、先ほど花陽が言ったようにデータの解析が終わりました。その多くは捕手である私と、投手のことり、絵里が知っておけばいい内容なので、それについては後で二人に資料を渡そうと思います」
ことり「はーい」
絵里「了解よ」
海未「と、それは一旦置いておきまして。優木あんじゅの『フルハウス打法』 の概要が掴めましたので、全員で共有しておこうかと思います。花陽、映像をお願いします」
花陽「ええっと…じゃあみんな、スクリーンを見てね」
穂乃果「お、あんじゅさんの打席の映像だ」
希「これはこの前の試合?」
にこ「そうよ。まあ映像はイメージしやすいように流してるだけだから、しっかり見なくても大丈夫よ」
ことり「あ、これは最初の打席だね」
にこ「絵里の落球は面白かったわよね~」
絵里「もう、にこ…からかわないでよ。あれ恥ずかしかったんだから…」
穂乃果「あはは、あの打球はしょうがないよ~」
真姫「………エラーチカ」ボソッ
希・ことり「ブフッ!」
絵里「ちょ、ちょっと真姫!希とことりも!」
真姫「ご、 ごめんエリー。思いついちゃって、つい」
希「いやぁ…ごめんごめん」
ことり「ごめんね絵里ちゃん、ついつい…」
絵里「はぁ…」
海未「さて、説明を始めますね。長々と講釈を垂れてもみんなが疲れるだけでしょうし、結論から述べます。『フルハウス打法』とは、フルカウント時、または満塁時の打率が十割となる、というものです」
真姫「ええっ!?なにそれ!嘘でしょ!」
にこ「本当よ。にこも知らなかったけど…っていうか、メディアでもまだ取り上げられてないはずよ」
花陽「あんじゅさんが新しい打法を完成させたって雑誌のインタビューで書かれて以降の試合結果を集めて、三人で調べてみたんだ。そしたら満塁の時と、フルカウントの時の打率が十割だったの」
穂乃果「十割? …って、100%でいいんだよね?すごっ!なんで有名じゃなかったんだろ」
にこ「女子高校野球の細かい指標まで見てるメディアってあんまりないから。今まで知られてなかったのはそのせいよ」
真姫「十割って、バカげてる!そんなの超能力じゃない!」
海未「ええ、私たちも最初はそのような感想を抱きました。
……ですが、統堂英玲奈は希のオカルト打法を破った時に「そんなオカルトなどありえない」と言いました。つまりは優木あんじゅの能力もオカルトではないということ」
ことり「なるほど~。チームメイトのあんじゅさんの事はよく知ってるはずなのに、英玲奈さんがオカルトはないって言うって事はそういう事だよね」
海未「ええ、その通りです。さらに綺羅ツバサの言動、統堂英玲奈と優木あんじゅの態度。あれらを見るに、優木あんじゅは綺羅ツバサの球をあまり打てないと見て問題はないはず」
凛「なんか怖がってたもんねー」
海未「ですね。となれば、優木あんじゅの『フルハウス打法』は超能力ではなく、相手が優れていれば打てなくなる、常識の範囲内の能力だと考えられます。“女子野球レベルの球であれば”ほぼ十割打てるという事でしょう」
希「なるほどなぁ…確かにホームランを打った二打席はどっちもフルカウントとか満塁やったね。でも、フルカウントと満塁でだけめちゃくちゃ打てるようになるってのはどういう事なん?」
海未「これは野球に限っての話ではありませんが、ある特定の状況を想定したイメージトレーニングをひたすらに繰り返す、という練習方法があります。そうすることでその条件下に置かれた時の超集中を可能とするのです。
いわば、恣意的に作り出す絶好調。俗に言う『ゾーンに入った』状態でしょうか。」
凛「そういう細かいイメージトレーニングって陸上でもするよ。頭の中でゴールまでの歩数を何度も何度も考えてみたり、順風の時と逆風の時をイメージして走ってみたり」
穂乃果「はえー、そんなことするんだね」
海未「ええ、弓道でも似た事はしますよ。長々と話してしまいましたが、要約すると『フルカウント、満塁時に超集中してゾーンに入る』。おそらくは、それが『フルハウス打法』の正体です」
絵里「なるほど…超集中、ね…」
花陽「あ、でも絵里ちゃんの『ロシア打法』もすごく集中して見えたし、ゾーンに入ってるような感じだったと思うよ」
絵里「えっなにそれ」
真姫「エリー、この前の試合でいきなりロシアぶってたじゃない。で、ヒット打ってたでしょ?あれ、私たちで勝手に『ロシア打法』って呼んでるの」
絵里「やっ、やめてよ!なんか格好悪いじゃない!」
穂乃果「嫌なの?じゃあ…ハラショー打法!」
絵里「それもなんか嫌よ!やっぱり格好悪いわ!」
ことり「そうかなぁ?絵里ちゃんらしくてかわいいと思うけどなぁ」
絵里「ね、ねえみんな、一旦冷静になりましょう?全部になんとか打法って名付けなくっていいのよ?」
海未「私はその手のキャッチフレーズって大好きなのですが…」
にこ「まあ海未はね…」
凛「とりあえず絵里ちゃんは知ってるロシア語をもっと増やすべきだと思うにゃー」
希「すぐハラショーやったもんなぁ」
絵里「もう!この話はおしまい!話を進めてちょうだい!」
続き
【ラブライブ】穂乃果「野球で廃校を救うよ!」【中編】