関連
穂乃果「うるせーババア!」【前編】


170 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:21:30.49 wSzHfVWm0 162/238

にこ「やっほー、元気?」

「また来た」

にこ「何回来たっていいじゃない、どうせ暇でしょ」

「ふーんっ」

にこ「なにそっぽ向いてんのよ」

「矢澤は飽きたにゃ」

にこ「またそんなこと言って。ほら、バナナ持ってきたわよ」

「めんどくさ……何本持ってくるつもり?」

にこ「でも、前のやつ無くなってるわよ。ちゃんと食べたんじゃない」

「病院のクソ不味いメシよりはマシってだけだよ」

にこ「やっぱり欲しいんじゃないの、ここ置いとくわよ?」

「……」

にこ「なによ」

「べつに」

にこ「へ」


「あ、そうだ……昨日さ、どうなったの、矢澤も行ったんでしょ」

にこ「はぁ?穂乃果たちから何も聞いてないの?」

「さっきまで寝てたから知らないよ、かよちんと穂乃果ちゃんにケガがないのは知ってるけど。矢澤、見てたんでしょ」

にこ「私は食中毒で倒れてたわ」

「えっ、食中毒?……ぷくく……ダサっ……」

にこ「一日で治るあたりがすごいでしょーやるでしょー」

「生命力だけはゴキブリ並だにゃ」

にこ「また減らず口を叩く」

「何食べたの」

にこ「マグロの生ガキ乗せよ」

「うぷっ……なにそれ、きもちわる」

にこ「……確かに」


171 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:22:15.50 wSzHfVWm0 163/238

「じゃあさ、矢澤もなんにも聞いてないの」

にこ「絵里から聞いたわよ、ちゃんと」

「早く。その絵里って人はどうなったの」

にこ「ピンピンしてるわ」

「うそ」

にこ「本当よ、ちょっとだけケガはしたみたいだけど」

「じゃあ、真姫ちゃんが負けたの」

にこ「そうよ、残念だけどね」

「うそ……」

にこ「そんなに期待してたの」

「……」

にこ「ショック?」

「……最悪でも相討ちくらいだと思ってたのに」

にこ「まぁ、もう一回やったら結果はどうなるか知らないけどね」

「もちろんリベンジするよ、真姫ちゃんなら当然!」

にこ「……さあね、本人にその気があるか聞いてみないとわかんないわよ、そこは」

「絶対やるよ!真姫ちゃんは狙った獲物は逃がさないんだから!」

にこ「獲物って……」

「……ていうか、矢澤ってその絵里って人、同級生なんでしょ、連れてきてよ」

にこ「連れてきてどうするのよ」

172 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:22:46.67 wSzHfVWm0 164/238

「真姫ちゃんがやらないなら……凛がボコボコにしてやる」

にこ「あんたじゃ無理よ、やめときなさい」

「凛だって戦いの中で成長して、もう真姫ちゃんを抜かしたくらいに……」

にこ「なに妄想に浸ってんの、一撃でやられるわよ」

「うるさい、クソザコ矢澤になにがわかるにゃ」

にこ「なぁにぃ!クソザコですって!?」

「実際クソザコでしょ、じゃあさ、絵里って人と戦ってよ」

にこ「無理に決まってんじゃない」

「ほら、やっぱり」

にこ「……今は、ね」

「?」

にこ「それじゃ、もう帰るわ、またバナナ持ってきてあげるから」

「もういらないってば」

にこ「似合ってるわよ、バナナ」

「べー」

にこ「……煽り方が古いのよ、あんた」

173 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:23:15.57 wSzHfVWm0 165/238

…………………………………………………………





キーンコーンカーンコーン


穂乃果「……」

花陽「帰ろ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「あ、うん」

花陽「どこか寄ってく?」

穂乃果「んー……今日はいいかな」

花陽「……そっか」

穂乃果「なんかダルいし……家で寝とく」

花陽「……わかった」

174 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:23:53.38 wSzHfVWm0 166/238

カラカラカラ


海未「おかえりなさい、穂乃果」

穂乃果「……ん、ただいま……」

海未「今から夕飯のおかずを買いに行くんですけど、何か食べたいものありますか?」

穂乃果「……別に、無いかな」

海未「何でもいいんですよ」

穂乃果「……じゃ、からあげ」

海未「唐揚げですね!わかりました、買ってきます」

穂乃果(……今日の花陽ちゃんの弁当に入ってたから、テキトーに言っただけなんだけど)

穂乃果(……ま、いっか、唐揚げで……)

175 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:24:24.38 wSzHfVWm0 167/238

カリカリカリカリ

ことり「んー……なんかバランスが……」ゴシゴシ

穂乃果「……」

ことり「あ、おかえり!」

穂乃果「……ただいま……なんか今日帰ってくるの早いね」

ことり「なんか、体調悪くて……早退してきたの」

穂乃果「……その割には、仕事してるけど」

ことり「持って帰ってきたの、納期、迫ってるし……」

穂乃果「……ふーん、絵描くんだ」

ことり「うん、最初はデザイン案をこうやって紙に描いて……顧客の人に見てもらってから実物を作るの」

穂乃果「へー……」

ことり「あはは……もうかなり溜まっちゃってて……けっこう大変かな……」

穂乃果「……休んだら?」

ことり「こういうのは、信頼関係だから……もうちょっとだけ頑張らないとね」

穂乃果「……大変なんだ」

ことり「よしっ!まだまだ元気!いけるっ!」

穂乃果「……」


176 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:25:11.91 wSzHfVWm0 168/238

穂乃果「……ねぇ」

ことり「どうしたの」

穂乃果「補色ってわかる?」

ことり「うん、補色って、色の話?」

穂乃果「そうだけど」

ことり「?」

穂乃果「……オレンジの補色は?」

ことり「オレンジの補色……青だよ」

穂乃果「……ふーん」

ことり「……?どうしたの?」

穂乃果「いや、わかるかなーって思って」

ことり「はぁ、青色……あ、ちょうど、海未ちゃんの色だね、オレンジは穂乃果ちゃんだ」

穂乃果「……」

ことり「すごい、偶然だね、オレンジと青は補色……あれ、分かってて言ったの?」

穂乃果「……いや、別に」

ことり「えへへ、面白いね……」



穂乃果「……じゃあさ、ハレーションってわかる?」

ことり「うん、さっきの補色みたいにね……鮮やかな色同士をくっつけちゃうと、ギラギラしちゃって、見栄えが良くないの」

穂乃果「どうすればいいの」

ことり「お互い主張しすぎないように、片方の彩度を下げるか……間に、なにか挟むか」

穂乃果「挟むのは何色?」

ことり「うーん……薄い色ならいいんだけど……やっぱり白かな、よく使うのは」

穂乃果「……ふーん……白、かぁ」



ことり「ね、どこから聞いたの?こういう話」

穂乃果「……忘れた」

ことり「デザイン関係の人かなぁ、誰だろ?」

穂乃果「多分違うと思うよ」

ことり「んー……」

穂乃果「あ、もう一つ」

ことり「どうしたの?」

穂乃果「ハラショーって何?」

ことり「……」

穂乃果「……知らない?」

ことり「……ごめん、ちょっとわかんないや……あはは」

穂乃果「まあ、いいけど……(あとで検索してみよ……)」


177 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:25:48.30 wSzHfVWm0 169/238

海未「ただいま」

ことり「おかえり」

海未「……ことり、どうしても今やらないとダメですか?」

ことり「ちょっと、しょうがないかな、これだけは……大丈夫、その辺りの余力も考えてるから」

海未「すみません、苦労ばかりかけてしまって……」

ことり「ううん、お互い様だから」

海未「ありがとうございます……、ご飯、食べられますか?」

ことり「少なめにして欲しいな」

海未「わかりました、唐揚げもありますけど、食べますか?」

ことり「うーん……いいかなぁ」

海未「それじゃあ、お粥でも炊きましょうか」

ことり「うん、お願い」

178 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:26:17.82 wSzHfVWm0 170/238

穂乃果(……)

穂乃果(あの日から3日たったけど)

穂乃果(なんだか、胸にぽっかり穴が空いたような……)

穂乃果(変な気分だ)

穂乃果(最近、変だ)

穂乃果(……)


海未「穂乃果」


穂乃果(……)


海未「穂乃果ーっ、ご飯出来ましたよ、降りてきてください」


穂乃果(……んっ)

179 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:26:48.55 wSzHfVWm0 171/238

海未「どうぞ」

穂乃果「……あれ、一人?」

海未「ことりは先に寝ました」

穂乃果「……おかゆ、全然食べてないね」

海未「ええ、作ったんですけど……食欲がわかないみたいで」

穂乃果「……だからさ、休みとれないの?」

海未「今が一番忙しいから、これを乗り切れば、と言ってますが……」

穂乃果「……」

海未「……心配です」

穂乃果「……ん」

海未「……」



穂乃果(……肩を落として、うつむいて……)

穂乃果(……おかしいなぁ)

穂乃果(……こんなんだっけ)

穂乃果(もう二人とも、私とあんまり身長変わらないけど……)

穂乃果(ついこの間までは……)

穂乃果(……もう少し……大きかったような)


180 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:27:16.57 wSzHfVWm0 172/238

海未「穂乃果」

穂乃果「……どうしたの」

海未「……いえ、お願いが」

穂乃果「なに?」

海未「……ことりに、優しくしてあげて下さい」

穂乃果「……」

海未「何か不満があったなら……私の方に言ってください。何でも構いません、私になら……」

穂乃果「……」

海未「私に、私になら何を言ってもいいです……ちゃんと聞きます、ですから……」

穂乃果「わかったよ」

海未「……」

穂乃果「……わかった」

海未「……お願いです」

穂乃果「……うん」

海未「約束してください」

穂乃果「……うん」



181 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:28:10.04 wSzHfVWm0 173/238

……………………………………………






花陽(……)

花陽(どこ行こっかな)

花陽(もう12時だし、どこも閉まってるし……)

花陽(……あとでもう一回穂乃果ちゃん呼んでみよっかな)

花陽(うーっ……寒い寒い)




「おっ」

花陽「……?」

「音ノ木坂の制服やー、何年生?」

花陽「一年だけど」

「一年?そっかぁ」

花陽「……」

「ちょ、ちょっと待って、行かんといてよ」

花陽「今、忙しいから」

「忙しい?嘘はあかんよ、そんなゆっくり歩いてるのに……」

花陽「何?……確かに、家に帰るつもりも無いけど……」

「あはは、やっぱり不良や。いや、うちも音ノ木坂の卒業生やから。その制服見たら懐かしくなって。あ、でももう随分前やけどなー」

花陽「それじゃ、私には関係……」

「穂乃果ちゃんの知り合い?」

花陽「……!」

「もしかして、知り合いどころじゃなくて、友達?」

花陽(えっ、ちょ、ちょっと……もしかして、この人が……)


182 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:28:41.70 wSzHfVWm0 174/238

穂乃果『とにかく、ヤクザとかそんなんじゃなくても……世の中には、ヤバい大人がたくさん潜んでるんだよ!』

花陽『ヤバいって、どうヤバいの?』

穂乃果『なんていうかー……パッとみた感じじゃ分からなかったりするからタチが悪いの』

花陽『へぇー……』

穂乃果『前にも見たから花陽ちゃんもよくわかったでしょ!……絵里ちゃんみたいな人のことだよ!』

花陽『あの人はパッと見た感じからしてすでにヤバかったけど……』

穂乃果『それは私が散々言ってたからでしょ!……なんの予備知識も無かったら、騙されてるよ』

花陽『騙されたの?』

穂乃果『だって、外交官だよ?……まともな大人だと思うじゃん、普通……』

花陽『んー……まぁ……』

穂乃果『でもさ、絵里ちゃんに実際に会ってわかったでしょ』

花陽『うん……分かったよ、世の中には、ヤバい人がいる……』

穂乃果『とにかく、花陽ちゃんは突然わけわかんない挑発することあるから……今後も気をつけた方がいいよ』

花陽『むっ、わけわかんない挑発って!?』

穂乃果『身を守るためだよ、友達としての警告!』

花陽『ううん……』

穂乃果『元に、絵里ちゃんにケンカ売ろうとしたのは花陽ちゃんが初めだったじゃんか!』

花陽『うう……あのことは、ごめん……ちょっと、調子乗っちゃった……』

穂乃果『それはいいんだけど……花陽ちゃん、とにかくひとつだけ……「東條希」には近寄らないほうがいいよ』

花陽『東條希?誰?それ……』

穂乃果『学校の帰り道に神社あるでしょ?あそこに住んでるの。超ヤバい人』

花陽『超ヤバいって、どのくらい?』

穂乃果『もう、とにかくヤバいの!とにかく!』

花陽『なにかされたの?』

穂乃果『なにもされてないけど、危なかったの!』

花陽『そんなにヤバい人が……』

穂乃果『会ったら逃げたほうがいいよ!向こうから話しかけて来るかもしれないから、変な関西弁には気をつけて……』

183 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:29:09.72 wSzHfVWm0 175/238

花陽(ああ、忘れてたぁ!)

花陽(穂乃果ちゃんがあんなに注意してくれてたのに……!)

花陽(ヤバいよぉ、目の前にいる。射程圏内……私一人じゃ、どうしようも無いよ……)

花陽(もうケンカはしないって、決めたのに……)

花陽(どうしよう、今から突然ダッシュで逃げても捕まるかな……)

花陽(捕まったら、どうなるんだろう、全身の骨を折られて、鍋にされて食べられるかも……)

花陽(ああ、あの日、負けた時以来……どうも、ネガティヴな考え方が抜けない……)

花陽(とにかく、とにかく私一人じゃどうしようもない、隙を見つけて、逃げ出さなくちゃ……)





花陽「えーっと、と、東條……希……さん、ですか?」

「おっ、知ってるん?やっぱり、穂乃果ちゃんの友達やろ?」

花陽「は、はい、え、で、でも、あのー……私、早く家に帰らないと行けなくて、もう夜も遅くて、あはは……」

「さっきは帰らへんって言ってたけど?」

花陽「うっ」

「嘘ついたん?」ズイッ

花陽(あ、ダメだ、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいよ)

「……」


184 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:29:46.46 wSzHfVWm0 176/238

花陽(あああああ)

「ほんとは?」

花陽「ひ、ひ……暇、です」

「そうなん? やった!ウチもここで一人で寂しいから……ちょっとだけ話し相手になって欲しいなぁ」

花陽「わ、わかりました」

「じゃあ、あがって?外、寒いから。お茶出すよ」

花陽「お、おじゃまします(ダメだ、連れこまれた……)」

(穂乃果ちゃんの友達……それにしては、妙に礼儀正しいというか……あ、もしかして穂乃果ちゃん、ウチの昔のこと喋ったなぁ……道理で……)







「そこ、座って」

花陽「は、はい」

「すぐお茶持ってくるから」


花陽(……どうしよう、逃げるなら今のうち?)

花陽(いやいやいや……ダメだよ、そんなの怒るに決まってる)

花陽(通学路で待ち構えられて……電柱の裏から現れて、ボコボコに……そして鍋にされて……)

花陽(やっぱり、ここは穏便に話を聞いて……なんとか、平穏無事にすませないと……)

花陽(過剰にビビって情けないけど……実際会ってみたら、やっぱりわかる)

花陽(この人も、やっぱり……ヤバい人だって……そんな雰囲気がプンプン漂ってくるよ……発言の節々から……)



「お待たせ」

花陽「あ、ありがとうございます」

「そんな緊張しなくてもええんよ」

花陽「いや、別に、緊張、して、ないです」

「……」

花陽(沈黙、マズイよ、なにか喋らないと)

花陽「……ほ、穂乃果ちゃんとはどこで知り合ったんですか?」

「穂乃果ちゃん?ちょうど、境内の石段に座ってたんよ、それをウチが見つけたのが最初やね」

花陽(全てのはじまりはそこに……)

「それで、帰るとこ無いっていうから、ウチが泊めてあげたんよ(無理やりやけど)」

花陽「は、はぁ……それじゃ、穂乃果ちゃんは何日もここで」

「そう」

花陽(……大変だっただろうなぁ)

「最初は文句ばっかりやったけど……なんだかんだ言って、よく働いてくれてたで」

花陽(穂乃果ちゃんが?……ほんとかなぁ)

「最後は、家の人が迎えに来たけどなぁ、そこでお別れ。一回その後も来てくれたけどね、嬉しかったなぁ」


186 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:31:58.48 wSzHfVWm0 177/238

花陽「そうだ、希さんは絵里って人とは……」

「えりち? 友達やで」

花陽「……穂乃果ちゃんと引き合わせたのも、希さん?」

「違うよ、絵里ちはここにふらっと遊びに来ただけ。そのとき色々話したら、泊めてる穂乃果ちゃんの話に食いついて……」

花陽「興味って……それで、穂乃果ちゃんはロシアに連れて行かれて……」

「穂乃果ちゃんのこと話したら、家が無いなら何日か預かってみたいって言われたんよ。ロシアに行ったのはただの絵里ちの仕事の都合」

花陽「……そんな軽く」

「……軽い?……それは違うけど、まあ、ええかな……ところで、あの日以来……穂乃果ちゃん、何か変わったかな?」

花陽「いや、そんな変わったって程じゃないですけど……ちょっとだけ」

「ちょっとだけ?」

花陽「前より、大人しくなっちゃった気が……」

「そう思う?」

花陽「はい、あくまで、少しだけ……」

「ふうん……えりち、とりあえず上手くいったってことなんかな?」

花陽「……?あの、上手くいったって……?」

「えりち、すごく不器用やから、あはは……何回聞いても、全部ただの気まぐれって返してきたけどなぁ」

花陽「なにか考えがあったんですか?」

「……最後の夜、帰る前に教えてくれたんよ」

花陽「穂乃果ちゃんに何かしたかったんでしょうか」

「そう。穂乃果ちゃんにも……その友達にも、な」

花陽「私も」

「あの日、絵里ちに会ったんやろ?」

花陽「……はい」

「最初は、穂乃果ちゃんだけのつもりだったみたいやけどね。呼ばれたから追加しただけで……」

花陽「……」

187 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:32:46.31 wSzHfVWm0 178/238

「花陽ちゃん、やったっけ?」

花陽「はい」

「一番、人間を変えるものって何やと思う?」

花陽「……わかりません、やっぱり……失敗とか?」

「失敗もあるけど……それはあくまで自分の中での出来事。一番人間を変える出来事はいつも他人からやってくる。外からの強烈なショック……そう思うんよ」

花陽「ショックですか……」

「そう。それもとびきり大きなやつ。お説教とか、ちょっとしたイザコザとか、その程度のものじゃなくて……もっともっと、目が醒めるような出来事」

花陽「……」

「まぁ……みんなじゃなくて、これはウチらみたいな、どうしようもない……鈍い人間くらいの話かも知れへんなぁ」

花陽「どうしようも無いって、そんな……」


「花陽ちゃんも、えりちに会って何か変わった?」

花陽「……もう、ケンカはやめようかと」

「おっ……すごい、前進やね」

花陽「違います、後退です……いろいろ粋がってたけど……私はやっぱり、こういうの、弱いって、わかったから……」

「でも、えりちに挑んだんやろ?」

花陽「自分の小ささを知らなかっただけ……いわゆる、飛んで火にいる夏の虫ってやつです」

「……ええよ、それでいい。立派な前進や」 


188 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:33:18.96 wSzHfVWm0 179/238

花陽「どの方向に行っても……中途半端なんです。なにもかも」

「……ふぅん」

花陽「小さい頃は、友達が一人しかいなくて……その子と、ずっと一緒にいたんです」

「今も一緒なん?」

花陽「はい、今は怪我で入院してますけど」

「その子と一緒にいて……今みたいな感じに?」

花陽「その子は悪くないんです!……見栄を張って、ただ合わせている私が、カッコ悪いだけで……」

「無理に友達に合わせてる……嫌われるのが怖いん?」

花陽「違います!……いや、でも……もしかしたら、違わないかもしれません……」

「……」

花陽「でも……もういいんです、もう……」

「……少しずつ、気付いていったら大丈夫。今の自分がダメと思えたなら、それは最高のチャンスなんよ」

花陽「……」

「それでいい。ショックを受けて、その後は、どう動くか自分の頭で悩んで、考えて……もう一回、自分で進むこと」

花陽「じゃあ、ショックって、もしかして……」

「えりちは、具体的には何も教える能力も無いし、そんな立場の人間でも無いって、ちゃんと自覚してた」

花陽「……」

「だったらどうすればいいか……全部、一度白紙に戻してあげること、その手伝いをするのが一番だって、考えた」

花陽「白紙に……」

「思いっきり、転ばせてあげる仕事……そして、もう一回、考える時間を与える仕事。酷い汚れ役やろ?」

「でも、それ以上に……自分より汚れた人間になって欲しく無い……誰よりも、そう思ってた」

「信頼してたんよ。後輩たちを。音ノ木坂の生徒を、穂乃果ちゃんたちを……」

「必ず、立ち上がれるって。ギリギリのところでも……それから、自分の頭で考えて、新しい道を進めるって。何せ、賢い子たちやからね……」

189 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:33:44.08 wSzHfVWm0 180/238

花陽「……それじゃあ、あれは全部、考えて」

「そう」

花陽「穂乃果ちゃんを酷い目に合わせたのも、私とまともに戦ってくれなかったのも、真姫ちゃんをあれだけ追い詰めたのも……」

「……えりちのしたことが、正しいことか、ウチには分かれへん。でも、間違ってるか、それも分からへん」

花陽「……」

「……どうなんかな?社会人として、大人として、まともな行動では無いことは確かやね」

「でも、今は少なくとも……良くも悪くも、何かが変わり始めてる」

「……とにかく、ここからどうなるか、それはもう、えりちの仕事じゃない」

「……あとは、一人一人……次の一歩を、どう進み始めるか。そこが問題なんよ……」

花陽「……」





花陽(ふざけた人だよ、本当に……)

花陽(自分のことは棚に上げて、私たちをどうにかしようなんて……)

花陽(……でも)

花陽(……自分の今の立場があるのに)

花陽(……どうして、そこまでするのか、それが一番わからない)

花陽(ただの後輩の人生に、自分の人生もかけて突っ込んでくるなんて……)

花陽(穂乃果ちゃんの言う通りだよ……)

花陽(世の中には、ヤバい大人がいる)

花陽(強いとか怖いとか、そんなのじゃなくて……)

花陽(理解を超えたレベルの意志を持った……そんなヤバい大人が……)

191 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:36:22.24 wSzHfVWm0 181/238



「……なんか……ごめんな」

花陽「えっ」

「ううん、やっぱり、勝手なことした気がするから」

花陽「勝手なことって……」

「楽しそうにしてる子たちをひっ捕えて、どうにかしようなんて……」

花陽「……」

「この歳になってもまだ、わがままな所が治ってないような……あかんなぁ」

花陽「……でも、きっと、そんなこと無いと思います」

「……?」

花陽「いや、なんでも無いです……」

「ふふふ……いいんよ、無理にフォローしてくれなくても」



192 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:36:48.32 wSzHfVWm0 182/238


花陽「ところで……希さんってなんでここに住んでるんですか」

「んー、何というかお仕事……かな」

花陽「お仕事?」

「色々あるんよ、その辺りは」

花陽「ふぅん……」

「花陽ちゃんもやってみたい?」

花陽「いや、私はべつに……」

「まぁ、普通の子は興味ないよなぁ」

花陽「希さんは興味あったんですか」

「……まあね」

花陽「ふぅん……」

「いい仕事やで?たまにちょっと寂しいけど……」

花陽「……」

「花陽ちゃん、何かやりたい仕事とかある?」

花陽「特に……」

「それじゃあ、自分に出来そうな仕事は?」

花陽「……わからないです」

「まだ高校の一年やもんな、わからへんよね」

花陽「……」

「大人になりたい?」

花陽「……」

「まぁ、なりたくなくても、いつかはなるんやけどね……年とれば」

花陽「どうなるのか、わかりませんから……自分が」

「これからのこと?」

花陽「今は……楽しいです、友達もいるし……」

「これからも出来るよ、友達くらい」

花陽「……今がいいんです」

「今が?」

花陽「……今の友達が好きなんです」

「そっかぁ」

花陽「……これからどうなるかなんて、わかりません……私には……」



193 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:37:21.51 wSzHfVWm0 183/238


「……大丈夫。今が好きなら、これからも好きになれるから」

花陽「……どうしてですか」

「花陽ちゃんだけが今から離れていくわけじゃないから」

花陽「……」

「時間が進むのは、みんな一緒。そうやろ?」

花陽「……はい」

「うちに残ってるのはそんな友達だけやけど……でも、それだけでうちは十分」

花陽「……」

「十分すぎるくらいに……な」

194 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:37:48.61 wSzHfVWm0 184/238



花陽「あっ……雨」

「あれ、降ってきたなぁ」

花陽「傘持ってきてない……」

「色々喋ってくれてありがと。……そろそろ帰る?傘なら貸してあげるで?」

花陽「……」

「どうしたん?」

花陽「止むまでいてもいいですか?」

「……もちろん」

花陽「……もう少し、聞いてみたいです」

「うちの話?」

花陽「……帰っても、仕方ないですし……」

「悪い子やなぁ……」

花陽「悪いんですかね、私って……」

「いいや、悪い子やね」

花陽「……そうなんですかね」






195 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:38:14.75 wSzHfVWm0 185/238





…………………………………………………………





「真姫」

真姫「……」

「起きてるんだろ」

真姫「……」

「ケンカか?」

真姫「……ん」

「誰とやったんだ?」

真姫「忘れた」

「……治療費、持ってないだろ」

真姫「……友達に借りるから」

「どうやって返すんだ」

真姫「……」

「……その金はどうやって返すんだ」

真姫「……なんとかするわよ……もう帰って」

「だめだ」

真姫「……帰って」

「娘だ」

真姫「……ちがう」

「娘が入院している」

真姫「……」

「俺は親だ」

真姫「……」




196 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:38:43.05 wSzHfVWm0 186/238


「泣いてるのか」

真姫「泣いてない」

「こっちを向いてみろ」

真姫「嫌」

「……泣いてるんだろ」

真姫「……」

「悔しいのか」

真姫「……」

「負けたのが悔しいか?」

真姫「……ちがう」

「何が悔しいんだ」

真姫「……」

「退院はいつだ」

真姫「……明日の朝」

「……迎えに行く」

真姫「……」

「帰るぞ」

真姫「……」

「また明日な、おやすみ」

真姫「……」



197 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:39:12.07 wSzHfVWm0 187/238




真姫「………」

真姫「うぐっ……ぐっ、くっ……」

真姫「クソっ……クソっ……クソっ!!クソっ……!」

真姫「何が……何が娘よっ……」

真姫「何がっ……!」

真姫「くそっ……」

真姫「あああっ……」

真姫「……」

真姫「……はぁ……はぁ」

真姫「なによ……」

真姫「くそっ……」

真姫「……くそっ!」

真姫「………」


198 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:39:39.66 wSzHfVWm0 188/238



真姫「……」


ガチャン


真姫「……」

「……起きてる?」

真姫「……」

「あ、起きてる!やった!」

真姫「……凛、動けるの」

「松葉杖使ったらね。真姫ちゃんいくら待っても来てくれないし、こっちから来たにゃ」

真姫「……後にしてくれる?」

「後で?何かあるの?」

真姫「……気分じゃないの」

「えー……せっかくこの前の話聞こうとしたのに」

真姫「この前って?」

「もちろん、真姫ちゃんが戦った相手の話!」

真姫「……後にして」

「えーっ、聞きたいよお、約束したのに」

真姫「約束なんかしてない」

「絶対したよー!負けちゃったみたいだけど……それでも!カッコいい戦いざまを話すって……」

真姫「……何が、カッコいいよ……ふざけてる」

「え?」

真姫「……こんなにカッコ悪いやつ、いるわけないでしょ……」

「……?まぁ、そんなに嫌ならいいけど、後ならいいんだよね、後っていつ?明日?」

真姫「……明日もだめ」

「なんで?」

真姫「退院、明日の朝だから」

「えっ!もう退院!?いいなぁ」

真姫「……」


199 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:40:17.35 wSzHfVWm0 189/238



「あっ、でもでも、真姫ちゃん、家ないんだから、凛の病室でまた泊まってよ」

真姫「……」

「そしたらさ、また色々喋れるし……」

真姫「……うん」

「……どうしたの?」

真姫「……凛、お金持ってる?」

「お金?200円くらいしか無いよ」

真姫「ふふふ……200円、ね」

「あーっ!笑った!」

真姫「あははははは……たったの200円……たったの!あははは……」

「……変だよ」

真姫「……何がよ」

「……何かあったの?」

真姫「何かって……変?退院できるのが、嬉しくて嬉しくて堪らないから……だから笑ってるに決まってるじゃない」

「……」

真姫「いいでしょ、お先に失礼するわ……あはは……」

「……違うよ、嘘ついてる……」

真姫「嘘?何の嘘よ」

「わかんないけど、嘘ついてる」

真姫「だから、何の根拠があるの」

「……見たよ」

真姫「……何を」

「さっき、真姫ちゃんのお父さんがこの部屋から出てくるの、見たよ」

真姫「……」


200 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:40:45.84 wSzHfVWm0 190/238


「真姫ちゃん、退院したら家に帰るの?」

真姫「……」

「……そうなの?やっぱり!」

真姫「……そうね」

「……もう!だと思ったよー、まあ仕方ないよね、凛だって家追い出されたらいつかは帰らないと餓死するし……」

真姫「……」

「結局、お金に困るんだよねー」

真姫「……」

「はあーあ、面倒くさいにゃー、色々と」

真姫「……惨めよね」

「?」

真姫「馬鹿馬鹿しい……」

「真姫ちゃん、さっきから何言ってるの?」

真姫「……出て行って」

「……えーっ」

真姫「……いいから出て行って!」

「……わかったよ、じゃあ、凛はもう少し入院してるから……また遊びに来てね」

真姫「……」

「おやすみー」

真姫「……」



ガチャン



201 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:43:09.70 wSzHfVWm0 191/238



真姫(……)

真姫(……親とか、家とか)

真姫(……一番、嫌いなのに)

真姫(私は、そこから結局……)

真姫(……くそっ!)

真姫(……強くなってやる)

真姫(一人で、一人だけの力で……)

真姫(今度は、誰にも負け無いように……)

真姫(誰よりも、強く……)

202 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:43:38.22 wSzHfVWm0 192/238


………………………………………





にこ「やっほ」

「んー」

にこ「バナナ持ってきたわよ」

「ん」

にこ「待ってたでしょ」

「別に待ってないけど……」

にこ「もうだいぶ良くなったみたいじゃない、そろそろ退院?」

「もうちょっとね」

にこ「早く退院してまた暴れたいってところかしら」

「んー……」

にこ「真姫はいつ退院したんだっけ」

「おとつい」

にこ「じゃあ暇になったでしょ」

「もう慣れた」

にこ「ふーん……」

「それより!……あの絵里って人は……」

にこ「まーたそれ?しつこいわね」

「だから!真姫ちゃんの仇を!」

にこ「やめときなさいって言ってるでしょ」

「なんで!」

にこ「いつもの4人で話し合ってみなさい、きっと止められるから」

「……なんでそこまで」

にこ「絵里は強いわ」

「知ってるよ」

にこ「わかってないわよ、どれほどか」

「いくら強いっていっても人間でしょ」

にこ「そうね……まぁ、人間ね」

「だったらやってみなくちゃ……」

にこ「強いって、そういう意味じゃないわよ」

「どういう意味?」

にこ「……」

「ねぇ!」

203 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:44:07.79 wSzHfVWm0 193/238


にこ「……やればわかるわ、だから前もって忠告しておくの」

「なにその言い方、まるで戦ったことあるみたいな……」

にこ「あるわよ」

「えっ」

にこ「ずっと前だけどね」

「いつ!」

にこ「ちょうど、高2の冬……いまぐらいの季節ね」

「……どっちが勝ったの」

にこ「どっちでもいいわ、そんなの」

「負けたんでしょ」

にこ「勝ったわよ」

「……矢澤が?」

にこ「そう」

「……」

にこ「でも、あのときはたまたまというか……」


204 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:44:44.26 wSzHfVWm0 194/238



「……すごい!」

にこ「えっ」

「すごい、すごい、すごいにゃー!矢澤!思ってたよりすごい!ねぇねぇ、そのときどんな風に勝ったの!?どうやって戦ったの!?」

にこ「ちょ、ちょっと、引っ張らないでよ」

「教えてよー!気になるんだって!」

にこ「あー、もう」

「早くー!」

にこ「昔の話はしないって決めてるの」

「なんでー!出し惜しみしないでよー」

にこ「かっこ悪いからよ」

「かっこ悪くなんかないよー」

にこ「はあーあ……まだまだ子供ね……」

「あっ、なにその言い方……」

にこ「賢い人間はケンカなんかしないわけ。ケンカ自慢なんて頭の悪さを言いふらしてるようなものじゃない」

「凛はバカだからいいもんねー、矢澤もそんなに頭良くないくせにー」

にこ「いっとくけど公務員試験って結構難しいのよ、そのへんわかってる?」

「そういうのはいいから、教えてよー、暇なんだから」

にこ「暇には慣れたんじゃないの」

「やっぱり一生慣れないよ、面白い話はすぐ聞きたい、そんなの当たりまえでしょ!」

にこ「面白くないってば」

「知的好奇心がビンビンだにゃ」

にこ「……」

「教え子の頼みだよー話してよー」




205 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:45:11.02 wSzHfVWm0 195/238



にこ「……」

「じゃあ、始めっ!まず、ケンカの原因は?」

にこ「なんとなくよ」

「えっ……なんとなく?」

にこ「なんとなくね」

「へー……?」

にこ「それだけ」

「えー」

にこ「ただちょっとお互いピリピリしててね」

「なんで?」

にこ「もう一人、友達に希ってやつがいてね」

「ふんふん」

にこ「そいつがいなくなったの」

「いなくなった?」

にこ「まあ実際は一人旅に出てたみたいだけど……黙って行ったからわかんなかったわ、突然のことだったし」

「ふーん、自分探しってやつ?」



206 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:46:02.90 wSzHfVWm0 196/238



にこ「知らないけど、色々悩んでたみたい、」

「思春期ってやつだね」

にこ「そうかもね」

「でも、それとなにが関係あるの?」

にこ「バランスの問題よ」

「バランス?」

にこ「私と絵里と希……三人だったから、仲が良かったのかもしれないの」

「んー?」

にこ「絵里も私も、なんていうか……意地張るっていうか、素直じゃないっていうか……そんなところがあったからね。ちょくちょく言い合いになったりしてたの」

「へー」

にこ「でも、いつも危なくなったら希が止めてくれたの」

「殴り合いになる前に?」

にこ「そう。せめて三人くらいは仲良くしようって言ってね……」

「あはは、せめてって……まるで他に仲いい人がいないみたい」

にこ「いなかったわよ」

「誰も?」

にこ「いなかったわ」

「……」

にこ「変なヤツらだったからね」

「ふーん……」

にこ「それに、多けりゃいいってもんでもないでしょ」

「あっ、そこにはちょっと賛成ー」

207 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:46:33.22 wSzHfVWm0 197/238



にこ「希がいなくなって、しばらくは二人だったわ」

「二人になったからケンカ?」

にこ「すぐじゃないわよ。最初は穏やかだったわ」

「へー」

にこ「でも、口数はいつもより少なかったけどね」

「それも希って人のせい?」

にこ「わかんないけど、もともと私と絵里が知り合ったのは希経由だから……二人になると、そうなるのも当然だったかも」

「あはは、気まずい関係」

にこ「そうね、実は気まずかったのかもしれないわね」

「それで、照れ隠しで殴り合い?」

にこ「原因はなにか忘れたけど……またちょっとした言い争いになってね……そこからヒートアップ」

「おーおー」

にこ「ストッパーがいないからね……そのままどんどんお互い興奮していって……最初で最後よ、あそこまでいったのは」

「おー!いよいよだね!」


208 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:46:59.06 wSzHfVWm0 198/238


にこ「……今でも若干後悔してるの」

「なんで?」

にこ「先に手を出したのは私だから」

「そんなのいいじゃん、別に……やらなきゃやられるんだよ」

にこ「大事なのよ、そこは」

「そんなに重要?」

にこ「約束だったの」

「三人の?」

にこ「そう。絶対に三人では喧嘩しないって」

「ふぅん」

にこ「希が約束させた。私たちはそれを守ることにして……破ったのは私」

「だからさ、そんなのどっちでもいいんじゃないの?何回も言うけど、先にやらなきゃ、やられて……」

にこ「絵里は約束を守るわ。絶対に先に手を出したりしない」

「そんなのわかんないじゃん」

にこ「わかるわよ」

「なんで」

にこ「そう信じてるから。私が」

「……よくわかんないや」



209 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:47:29.60 wSzHfVWm0 199/238




にこ「そこから私がもう一発。絵里は殴り返して来なかった」

「それも約束があったから?」

にこ「……そうかもね。だけど、しばらく固まって……覚悟したのか……突然動き出したわ」

「おおっ」

にこ「二発分。食らってやったわよ」

「わざと?」

にこ「わざとね。だってそうしないと不公平じゃない」

「ひえーっ」

にこ「でもさすがに効いてね。たった二発だけど、クラっと来たの。でもこれでお互い二発ずつ……勝負はそこからよ」

「ごくり」

にこ「……でもあんまり覚えてないわ、そっからは」

「えー」

にこ「とりあえず、頑丈さがウリだから、私は……ボコボコにされながら、なんとか食らいついて押し倒して……」

「おお」

にこ「そこから、馬乗りになってね。3発。顔に思いっきり……それでおしまい」

「おわり?」

にこ「倒れながらぼそっと……絵里が言ったわ……負けた。って」

「へぇぇ……」



210 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:47:57.11 wSzHfVWm0 200/238



にこ「……それ以上、何もできるわけないでしょ。そこで終わりよ。私は立ち上がって、絵里を起こして……その後、しばらくぼーっと横に並んで座ってたわ」

「何してたの」

にこ「ぼそぼそ喋ってた気もする」

「ふーん」

にこ「……あれ以来、やめようと思ったの」

「ケンカを?」

にこ「……ちっともいいものじゃないわ、あんなの」

「勝ったのに」

にこ「勝ったのかどうか、怪しいといえば怪しいし……しかも先に手を出したのは私だし……スッキリしないの」

「……」

にこ「私は絵里に早く負けてって言って欲しかったし……絵里も、その気持ちがわかってくれたんだと思う。考えてみれば、あそこから逆転くらいできたはずなのに……」

「でもやめたんだよね」

にこ「お互い、もうやりたくなかったから」

「じゃあ勝っても嬉しくなかったの」

にこ「ぜんぜん」

「そのあとは?」

にこ「ちょっとの間絵里とは会わなくなったわ……希が帰ってくるまで」

「いきなり帰ってきたの?」

にこ「いきなりよ。ただいまって言って……私たちは、おかえりって言って……それで、もう一回三人で合流したの」

「へぇー」

にこ「……希は知らないわ、このことは。だけど、多分どこかで察してたんだと思う。元どおりの三人になったけど……三人とも、もうどこか変わってた」

「変わったって、どんなふうに」

にこ「よくわかんないけど、もう前みたいにずっと一緒ってわけじゃなくなった。そのまま卒業したわ」

「ふーん……仲悪くなったんだ」

にこ「違うわよ。ずっと仲は良かった」

「でもあんまり会わなかったんでしょ」

にこ「お互いから離れられたの……それって、必ずしも仲が悪いこととイコールじゃないわ」

「ふーん……よくわかんないや」

にこ「そのうちわかるわよ、いいタイミングがあればね」


211 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:48:23.60 wSzHfVWm0 201/238



「あ、でもさ、どちらにしろ……矢澤が絵里って人に勝ったことに変わりはないんだよね」

にこ「……まぁ」

「じゃあさ、なんで戦っても勝てないとかいうの」

にこ「殺す気で来られたらどうなってたかわからないから」

「殺す気で?」

にこ「……それに、あの時より今の方がずっと強いし、シロートじゃ逆立ちしても無理。勝てないわ」

「戦ったことがないと強さがわからないって言ってたよね」

にこ「殺気を感じるわ。ありふれた表現だけど、本物のね。……でも私と戦った時にはそれはほとんどなかった。それでも十分恐ろしかったわ」

「……」

にこ「あとは当事者から……真姫から聞いてみなさい。直接ね」

「……」

にこ「それからどうするか決めなさい」

「考えとく」

にこ「そう、よく考えた方がいいわ」

「……」

にこ「考えることは大事よ。……動く前に、何事も……それができたらケンカなんてバカなことには……」



212 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:49:00.71 wSzHfVWm0 202/238



「あっ」

にこ「何?」

「むふふ」

にこ「何よ」

「アイドルになりたかったってのは?」

にこ「……その話はやめなさい」

「これが一番気になるよー、教えてよー」

にこ「……若い頃の話よ」

「今でもなりたい?」

にこ「当たり前じゃない」

「……」

にこ「何よ」

「いや……うん」

にこ「はっきり言いなさいよ」

「……」


213 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:49:26.97 wSzHfVWm0 203/238


にこ「そろそろ帰るわね、お大事に」

「あー最後にもうひとつ」

にこ「何」

「なんでセンセーになったの」

にこ「あんたらみたいな生徒をどーにかするためよ」

「なにそれ」

にこ「生徒の種類だけ教師も種類がいるって話」

「んー……?」

にこ「これだけ。それじゃね」

「えー、もうちょっといてよ」

にこ「……初めてね、そんなこと言われたの」

「暇だもん」

にこ「仕事残ってるの」

「そんなのあとでいいじゃん」

にこ「どぅめどぅめどぅめ」

「あははは」

にこ「そんじゃあね」

「次は?次はいつ来るのー」

にこ「バナナ食べ終わったらね」

「へーい」

にこ「補給しにきてあげるわ、それじゃ」



214 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:49:59.72 wSzHfVWm0 204/238



……………………………………………………………






ガシャンッ

海未「……!」

ことり「……」

穂乃果「……?」

ことり「……あれ?」

海未「ことり!……大丈夫ですか!?」

ことり「……あはは、ちょっと倒れちゃった、かな?……平気だよ、お皿割っちゃった、片付けとくね」

海未「私がやりますから、片付けは!……平気なはずがないでしょう!」

ことり「ありがとう、でも大丈夫だから……」

穂乃果「……熱あるんじゃないの」

海未「ええっ」

穂乃果「息、荒いよ」

ことり「……」

海未「本当ですね、熱い……」

ことり「風邪ひいちゃったかな……ほら、寒いし、最近……」

海未「穂乃果……寝室まで連れて行くので、片付けをお願いします」

穂乃果「……ん」

ことり「ごめんね、ごめんね」

穂乃果「……」


215 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:50:25.59 wSzHfVWm0 205/238



穂乃果(……ただの風邪)

穂乃果(……ただの風邪に決まってるよ)

穂乃果(……)

穂乃果(……ただの風邪で倒れる?)

穂乃果(……)

穂乃果(……やめてよ)

穂乃果(……めんどくさいじゃんか)

穂乃果(こんなの、別に私、望んでないのに)

穂乃果(……)

穂乃果(……やめてよ)


216 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:50:51.61 wSzHfVWm0 206/238


海未「穂乃果」

穂乃果「どうしたの」

海未「救急車を呼びます、それから病院まで一緒に行きます」

穂乃果「……私も」

海未「穂乃果も」

穂乃果「私も行くよ」

海未「ええ……準備をしてください、行きましょう」









穂乃果(……)

穂乃果(……なにそれ)

穂乃果(救急車……)

穂乃果(大げさだなぁ、いちいち……)

穂乃果(ちょっと倒れたくらいで……)

穂乃果(大げさだよ、大げさ……)

穂乃果(……)



217 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:51:19.34 wSzHfVWm0 207/238




ことり「はぁー、はぁーっ」

海未「しっかりしてください、大丈夫です、大丈夫です、私がいます」

穂乃果「……」

海未「……私がいます……穂乃果も……そばにいますから」

穂乃果「……」

海未「大丈夫です……」

穂乃果「……」


218 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:51:48.12 wSzHfVWm0 208/238


「疲労が溜まるようなことが」

海未「仕事が忙しかったみたいです」

「そうですか」

海未「大丈夫なんでしょうか、容態は!」

「少々、お待ちください」

海未「お願いします」

「……最善を尽くします」

海未「……お願いします」

「……わかりました」


219 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:52:14.16 wSzHfVWm0 209/238



穂乃果「や」

「……」

穂乃果「寝てる?」

「……」

穂乃果「お見舞いって言いたいけど……、たまたま用事ができちゃって……」

「……」

穂乃果「家の一人がね、ぶっ倒れちゃって」

「……」

穂乃果「また乗っちゃったよ、救急車さ」

「……」

穂乃果「凛ちゃんも一回乗ったよね?……あー、あのときは覚えてないかぁ」

「……」

穂乃果「まいったよ……突然だからね、こんな夜に……」

「……ここにいていいの」

穂乃果「あ、起きてるじゃん……なんか今どっかの部屋に連れて行かれてて、やることないし……」

「……」

穂乃果「……戻った方がいいと思う?」

「うん」

穂乃果「……なんだろ、戻りたくない」

「……」

穂乃果「……なんでかな」

「……」

穂乃果「……わかんないや」

「……」

穂乃果「ごめん、眠いよね、出て行くよ」

「……」

穂乃果「じゃあね、また……」



220 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:52:43.97 wSzHfVWm0 210/238




穂乃果「どうなの」

海未「わかりません」

穂乃果「……」

海未「待ちましょう、今はただ、祈りながら……」

穂乃果「過労ってやつかな」

海未「……バカです、私は、バカです……こんな風になるまで……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「ねぇ」

海未「……」

穂乃果「私のせいかな」

海未「……そんな」

穂乃果「ほら、いつも帰ってくるの遅いし……学校もあんまり行かないし……それで、何か……」

海未「……」

穂乃果「私と住むと……疲れるんじゃないかな、って……」

海未「……」

穂乃果「……あのまま、出て行ってたほうが……」

海未「……二度とそんなこと言わないで下さい」

穂乃果「……」

海未「……絶対にです」

穂乃果「……わかったよ」



221 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:53:09.86 wSzHfVWm0 211/238




穂乃果「……長いね」

海未「……」

穂乃果「……いつまでかかるのかな」

海未「……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「……熱、下がったかな」

海未「……」

穂乃果「……どうなるのかな」







穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「そろそろかなあ……」

海未「……」

穂乃果「……まだかな」

海未「……穂乃果」

穂乃果「……なに?」

海未「……手を」

穂乃果「……」

海未「……握らせてください」

穂乃果「……ん」

海未「……」

穂乃果「……」

海未「……ありがとうございます」

穂乃果「……」


222 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:53:56.75 wSzHfVWm0 212/238

……………………………………………





カチン


穂乃果「ふーっ……」

穂乃果「……」

「あれっ」

穂乃果「……」

「穂乃果ちゃん、どうしたん?」

穂乃果「……」

「んー?」

穂乃果「病院、こっから案外近いね」

「そうやなぁ、歩いてすぐやね」

穂乃果「……」

「お見舞いの帰り?」

穂乃果「ちがうよ」

「……」

穂乃果「……なんで私、ここにいるのかな、あはは……」

「何かあったん?」

穂乃果「……」


223 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:54:24.48 wSzHfVWm0 213/238



「タバコやめり」

穂乃果「……ん」

「……」

穂乃果「ここが本堂?」

「そうやね」

穂乃果「ふーん……」

「お祈りしに来たんかな、と思ったんやけど、ちがう?」

穂乃果「……信じてないよ、そんなの」

「じゃあ何しに来たん?」

穂乃果「……」

「手を合わせて」

穂乃果「……」

「目閉じて」

穂乃果「……」

「静かに、お願いするんよ、こうやって……」

穂乃果「……」



224 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:54:51.37 wSzHfVWm0 214/238



「……ちゃんとやった?」

穂乃果「……うん」

「……じゃあ大丈夫」

穂乃果「……」

「……あとは、自分次第や」

穂乃果「……意味あるの?」

「無くてもいいんよ」

穂乃果「……どういうこと」

「強くお願いすることで、そのぶんだけ自分の中のお願いも大きくなるから」

穂乃果「……」

「お祈りはその儀式。ほら、そう考えてもいいんと違うかな?」

穂乃果「……」



226 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:56:08.09 wSzHfVWm0 215/238

「あがってく?」

穂乃果「ううん」

「ええの?」

穂乃果「戻らなくちゃいけないところが」

「家?」

穂乃果「んー……」

「友達のところ?」

穂乃果「……」

「それとも、家族のところ?」

穂乃果「……ん」

「……そっか、それじゃ、今度はみんなで遊びに来てな」

穂乃果「……」

「待ってるでー」

穂乃果「……」

「ばいばーい」

穂乃果「……!」

ダッ

「あれれ……走らんでもいいのに……」


227 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:56:37.43 wSzHfVWm0 216/238



穂乃果(……)

穂乃果(……少しずつでいい)

穂乃果(……近づいていってやる)

穂乃果(……正しくなくてもいい)

穂乃果(……自分が納得するように……自分が、やりたいように)

穂乃果(今なんかよりずっと……楽しく生きてやるっ……!)

穂乃果(少しずつ……少しずつ……!)

穂乃果(今なんかより、ずっと……!)


228 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:57:06.34 wSzHfVWm0 217/238



穂乃果「はぁーっ、はぁーっ」

海未「穂乃果!」

穂乃果「はぁ、はぁ」

海未「なにやってたんですか!」

穂乃果「はぁーっ……はぁ……ことりちゃんは」

海未「……」

穂乃果「どうなったの!」

海未「点滴を受けています、この部屋で……」

穂乃果「それじゃあ……」

海未「……そっと、寝かせてあげてください」

穂乃果「……!」

ガチャッ

海未「穂乃果!」




229 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:57:44.75 wSzHfVWm0 218/238




穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「……」

穂乃果「……ううっ」

ことり「ほのか……ちゃん」

穂乃果「行かないでよ」

ことり「……うん」

穂乃果「……お願い」

ことり「……大丈夫、どこにも行かない」

穂乃果「……」

ことり「……迎えに来てくれたんだね」

穂乃果「……」

ことり「……名前、久しぶりに呼んでくれたね……ありがとう」

穂乃果「……」

ことり「……帰えろっか……三人で、また……」

海未「……」

穂乃果「……うん」

ことり「……三人で」


230 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:58:42.65 wSzHfVWm0 219/238













…………………………………………………………………………








231 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:59:09.21 wSzHfVWm0 220/238


にこ「こらっ!」

真姫「げっ……」

「矢澤!」

にこ「あんたら、またコソコソと……タバコ吸ってたでしょ!」

穂乃果「吸ってないってば!」

花陽「いいがかりだよお!」

にこ「本当に?持ち物チェックするわよ」

バッ

にこ「あーっ、なんで隠すのよ」

「乙女のプライバシーの侵害だにゃー」

にこ「ぬぅわにが乙女よ、バカじゃないの」

「べー」

にこ「やましいことがあるんでしょ、結局」

真姫「もーいいからあっち行ってよ」

にこ「2年にもなったのに……後輩に恥ずかしいところ見せないでよね」

穂乃果「あはは」

にこ「はーい、授業そろそろ始まるわよ、解散解散!」パンパン

真姫「……ん」

「へへん、サボっちゃうにゃ~」

花陽「行こっか、凛ちゃん」

「えーっ、最近なんかみんなまじめ……」

穂乃果「別に今まで通りだって、今まで通り……」

「むー」


232 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 04:59:37.50 wSzHfVWm0 221/238




真姫「……」

花陽「どうしたの、真姫ちゃん」

真姫「……春は眠いわ」

「また単語帳持ってる……」

真姫「いいでしょ、勉強したって……」

「それじゃ、今日は遊べないね」

花陽「えへへ」

真姫「……なによそれ」

「かよちんとパフェ食べに行くんだー」

真姫「……」

花陽「……真姫ちゃんも来る?」

真姫「ふんっ」

「来る?」

真姫「……」

花陽「ね」

真姫「……なによ、行かないなんて言ってないでしょ……それに、たまには息抜きもいいわ」

「やっぱりね」

花陽「あはは」

真姫「……あれ、穂乃果は?」

「用事あるって」

花陽「何の用事かなぁ……」

真姫「さぁ」

「よーし、それじゃゴーっ!」



233 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:00:04.15 wSzHfVWm0 222/238




絵里「どうするの?」

穂乃果「んー……」

絵里「長いわね……」

穂乃果「だって、初めてだからわかんないし……」

絵里「まあ、頑張りなさい」

穂乃果「えーっ……絵里ちゃん、選んでよ、詳しそうだし……」

絵里「アドバイスはするけど、一から選ぶのは穂乃果の仕事よ」

穂乃果「なんで」

絵里「そういうものだから」

穂乃果「んー……定番なら、花、とか……?わかんないけど……いやいや、なんか違うなぁ……花って……」

絵里「そうかしら」

穂乃果「……じゃあ、食べ物……なんかあるかな」

絵里「食べ物……あの辺に色々売ってるけど」

穂乃果「あっ、じゃあ、これは?」

絵里「いいじゃない」

穂乃果「うう、でも高いなぁ……」

絵里「はい」

穂乃果「えっ」

絵里「お小遣い」

穂乃果「……いいよ、そんなの」

絵里「いいから受け取りなさい、税金は国民を幸せにするためのもの……違うかしら」

穂乃果「教科書通り……」

絵里「じゃあ問題ないでしょ。ほら」

穂乃果「……ありがと」

絵里「喜ぶわよ」

穂乃果「そうかなぁ」

絵里「思ってる以上にね」


234 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:00:30.74 wSzHfVWm0 223/238






穂乃果「えーっと、これ、ふたつ……ください」






235 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:01:09.69 wSzHfVWm0 224/238

……………………………………




穂乃果「だからうるさいって!」

海未「なんですかその態度は!!」

穂乃果「ふんっ、出掛けてくるね」

海未「待ちなさい!どこに行くんですか!」

穂乃果「ちょっとした用事だよ!ふん!」

バタン

ことり「……また出て行ったの?」

海未「ううう、ことり……少し行儀を注意しただけであの怒りよう……」

ことり「ふふっ……」

海未「……どうしたんですか」

ことり「……恥ずかしかったんだよ、きっと」

海未「……何がですか?」

ことり「台所に置いてたの、見た?」

海未「……ケーキ、ですか?あれ、なんでしょうか」

ことり「海未ちゃんが買ってきたの?」

海未「……?違いますけど」

ことり「じゃあ、やっぱり穂乃果ちゃんだ」


236 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:01:35.76 wSzHfVWm0 225/238


海未「……?なんで、急にケーキなんて……穂乃果、そんなに好きでしたっけ」

ことり「あはは……」

海未「……しかもふたつ……こんなに食べたら太ってしまいますよ……」

ことり「もう、海未ちゃん、鈍いんだから……」

海未「?」

ことり「今日はなんの日でしょう?」

海未「……?」

ことり「えへへ」

海未「あっ……」

ことり「そうだよっ」

海未「……母の日」

ことり「さ、食べよっか!……紅茶いれるね」

海未「……穂乃果」

ことり「………」

海未「……うっ、うっ……」

ことり「ありゃりゃ…」

海未「うっ……ううううう……」

ことり「嬉しいね、海未ちゃん」

海未「……本当に、本当に……しょうがない子です、本当に……」

ことり「……うん」

海未「……帰ったら、お礼を言いましょう」

ことり「うん」

海未「……ありがとうございます、と……」


237 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:02:10.54 wSzHfVWm0 226/238






………………………………………………………………


雪穂「……」

穂乃果「……それで、今さっき出掛けてきて……おしまい」

雪穂「ふぅん」

穂乃果「……長かったかな」

雪穂「……ちょっとね」

穂乃果「どう思う?」

雪穂「んー……あんまり、周りの人に迷惑かけないようにね」

穂乃果「むぅ……」

雪穂「でも、色々あったんだね」

穂乃果「そうだよ、色々あった……どれどれ、雪穂も何があったのか話してみなさい……」

雪穂「私はそんなに話すことないよ……お姉ちゃんと違って、真面目だから」

穂乃果「えー」




238 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:03:49.41 wSzHfVWm0 227/238




雪穂「……それに、久しぶりすぎて、どこから話せばいいのか……」

穂乃果「小学校一年のときから!」

雪穂「覚えてないよ、そんなの」

穂乃果「えー、でも雪穂と会ってないのはそこからだし……」

雪穂「施設を出て行ったのはお姉ちゃんの方でしょ。そっちが脱走者だよ、脱走者」

穂乃果「む……」

雪穂「とにかく、高坂家の恥にならないように……それだけ気をつけてね。ねー、お父さん、お母さん」

穂乃果「恥なんかじゃないって……」

雪穂「そうだ、お供え物、買って来た?」

穂乃果「まんじゅう」

雪穂「……ありゃ、被った」

穂乃果「……まあ、仕方ないでしょ、それは」

雪穂「もしかして、いつも腐ったまんじゅう置いていってたの……」

穂乃果「腐ったやつ?私かな」

雪穂「やっぱり……あれはね、ちゃんと供えたら回収しないとだめなんだよ」

穂乃果「へー……」

雪穂「へーじゃないってば……」

239 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:06:14.62 wSzHfVWm0 228/238



雪穂「………」

穂乃果「………」

雪穂「お父さん、お母さん……雪穂です、それと、お姉ちゃんです……」

穂乃果「……」

雪穂「……二人とも、元気です……」

穂乃果「………」

雪穂「……何やってるの」

穂乃果「お願い事」

雪穂「神社じゃないんだよ」

穂乃果「わかってる。でもいいの」

雪穂「……ふーん……さ、掃除するよ、掃除」

穂乃果「え、今やるの?お盆とかじゃなくて……」

雪穂「せっかく二人揃ったんだから、今やろうよ」

穂乃果「はいはい……」

雪穂「周りのゴミ拾って。私は磨くから」

穂乃果「んー……」


240 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:06:43.86 wSzHfVWm0 229/238



「やあ」

穂乃果「わっ!」

「……お墓まいり?」

穂乃果「そうだけど……本当、どこにでも現れるね……」

「スピリチュアルやろ?」

穂乃果「神社と墓地って関係ないでしょ……墓地は寺じゃないの」

「おっ、よく覚えてるね、感心感心……」

穂乃果「おかげさまでね……」

「……あの子は?」

穂乃果「妹」

「あれ、妹いたっけ……」

穂乃果「一緒に住んでないの。久々に連絡とれて、それで今日会ったわけ……10年ちょいぶりに」

「ふーん……色々あるんやね」

穂乃果「そういうこと、色々あるの……」



241 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:07:10.74 wSzHfVWm0 230/238



穂乃果「はぁー……」

「えりちが今日穂乃果ちゃんと会うって言ってたけど」

穂乃果「会ったよ」

「何してたん?」

穂乃果「……いいでしょ、別に。会うくらいたまにはするよ」

「うんうん……それと、にこっちは元気?」

穂乃果「うるさいくらいにね」

「花陽ちゃんは?」

穂乃果「……あれ、会ったことあったっけ……」

「いわゆる『まぶだち』やで?」

穂乃果「死語……」

「他の友達も元気かな?」

穂乃果「まあね」

「穂乃果ちゃんの家族は?」

穂乃果「元気だよ」

「南さん、大丈夫?」

穂乃果「また心配して……大丈夫だってば」

「優しくしてあげらなあかんよ」

穂乃果「大丈夫だって」

「ほんまに?」

穂乃果「約束したから」

「そっか」

穂乃果「……納得したの?」

「約束したなら大丈夫」

穂乃果「……」

「その人が大切であればあるほど……な」



242 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:08:07.29 wSzHfVWm0 231/238


雪穂「お姉ちゃん、ちゃんとやってる?」

穂乃果「あー、はい、はい、はい!」

「行ってあげり」

穂乃果「ん!じゃ、また!」

「うん……また。」








雪穂「もう、すぐサボるし……」

穂乃果「知り合いに会ったんだって」

雪穂「誰、あの人」

穂乃果「変人」

雪穂「またそんなこという……」

穂乃果「本当に変人なんだってば……世の中にはね、いろんな大人がいるの」

雪穂「いろんな大人がいれば、お姉ちゃんみたいにいろんな子供もいるけどね」

穂乃果「……イヤミだなぁ」

雪穂「大人だって、大人になる前は子供なんだから、当たり前でしょ」

穂乃果「……まあ、そうだけどさ」


243 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:08:36.31 wSzHfVWm0 232/238


穂乃果「雪穂」

雪穂「なに」

穂乃果「友達はいる?」

雪穂「いるよ、たくさん」

穂乃果「そっか」

雪穂「お姉ちゃんは?」

穂乃果「たくさんじゃないかもしれないけど、いるよ」

雪穂「ふうん」

穂乃果「……どうしようもない友達かもしれないけど、でも、大切な友達が。」

雪穂「そっか」

穂乃果「楽しい?」

雪穂「何が」

穂乃果「毎日」

雪穂「まあね」

穂乃果「よかった」


244 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:09:05.76 wSzHfVWm0 233/238



花陽「おいしー!」

真姫「んっ……そうね」

「穂乃果ちゃんも来れば良かったのにねー」

花陽「何やってるのかなぁ」

真姫「寝てるんじゃないの」

「あはは……あ、かよちん、このパフェ……バナナ食べてくれる?」

花陽「え、嫌いだっけ」

「嫌いじゃないけど……入院中に矢澤に100本くらい食べさせられたから……ちょっとのあいだ見たくないにゃ」

真姫「……お大事に」



245 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:11:03.01 wSzHfVWm0 234/238



絵里「もしもし」

にこ「あ、絵里」

絵里「今こっち帰ってるの、三人で会いましょ」

にこ「いいわよ、三人でね」

絵里「どこ行く?」

にこ「美味しいものが食べたいわ」

絵里「んー、何にする?」

にこ「絵里が決めていいわよ」

絵里「なにそれ、丸投げ?」

にこ「信用してるの」

絵里「……なにそれ」

にこ「いいもの食べてるんでしょー普段からー」

絵里「そんなことないわよ」

にこ「こっちはソーメンばっかりよ、なんとかしてよね」

絵里「……まず、無駄遣いをやめなさい」

にこ「……してないわよ」

絵里「本当?」

にこ「本当に」

絵里「信用してるわよ」

にこ「……はいはい」



246 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:11:29.63 wSzHfVWm0 235/238



雪穂「お姉ちゃんは?」

穂乃果「楽しいよ」

雪穂「ふうん……」

穂乃果「時々、嫌なこともあるけど、全体としてみれば……悪くないかも」

雪穂「私、音ノ木坂うけるよ」

穂乃果「えっ!?」

雪穂「受かればいいけどね。受かったら後輩になるよ、よろしく」

穂乃果「……」

雪穂「どうかした?」

穂乃果「まいったなぁ……」

雪穂「不都合でも?」

穂乃果「……いいとこ見せないとね」

雪穂「そんなに意識しなくてもいいよ」

穂乃果「お姉ちゃんは妹の前で見栄を張りたがるものなの。」

雪穂「……何それ」

穂乃果「……まあ、子供にはわかんないよね、ふっふっふ……」

雪穂「何それっ!」

穂乃果「あはは……はぁー……」

雪穂「いい天気だね」

穂乃果「……うん、いい天気……」


247 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:12:35.52 wSzHfVWm0 236/238







穂乃果(…………少しずつでいい)

穂乃果(少しずつ、昨日より、前に)

穂乃果(正しくなくても、褒めてくれなくてもいい)

穂乃果(ただ、自分が納得できる方に)

穂乃果(昨日より、楽しい方に)

穂乃果(……少しずつ、少しずつ……)







248 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:13:26.07 wSzHfVWm0 237/238

おわり

251 : ◆b6eNU0rznQ - 2015/08/03 05:17:31.30 wSzHfVWm0 238/238

長くなってすみません
設定いろいろ違いますが、μ'sが役者の劇みたいな感じで読んでもらえればと思います

では

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