P「へー……暇つぶしにフリーゲームを探してみたけど、」
P「今はこんなのが流行ってるんだなぁ」
P「クッキーを作るだけのゲームかぁ」
P「なんか微妙そうだけど……」
P「『隣の部屋にラスボスがいる』とか、『星探』みたいに、ブラウザゲームってのはいいな」
P「いちいちダウンロードやインストールをする必要がないのはありがたい」
P「ま、とりあえずやってみるか」カチカチッ
元スレ
P「クッキークリッカー?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395723494/
P「なるほど、この大きなクッキーをクリックすると、」カチカチ
P「1クリックで1枚、クッキーが焼けるわけか」カチカチ
P「はー……」
P「おっ、焼けたクッキー15枚で何か買えるみたいだな」
P「『カーソル』……おっ、買ったら大きなクッキーに変化が出たぞ」
P「毎秒0,1枚と表示されている」
P「そして、何もしなくてもクッキーが焼けていく」
P「なるほど、右の画面のアイテムを買うと、自動で焼けていくクッキーの数が増えるのか」
P「ふむふむ、クッキーを増やして、アイテムを買う」
P「そして、効率を上げてクッキーを焼いていくわけだな」
P「って、やっぱり目的はクッキーか」
P「RPGみたいに魔王を倒すとか、目的があればよかったんだけど……」
P「ん? 何か表示されたぞ?」
P「実績? ……ああ、『統計』画面の下にあるこれか」
P「なるほど、これが目的なんだな」
P「まだ『?』表示が多いけど……」
P「これを全部埋めることがゴールなんだろうな」
P「まあ、暇つぶしだし、適当にやってみるか」カチカチ
P「おっ、カーソルの次のアイテムが出た」
P「『グランマ』……なるほど、このお婆さんがクッキーを焼いてくれるわけか」
P「クリックしたらクッキーができる、ってのよりは分かりやすいな」
P「って、うわっ!? 間違えてグランマを売ってしまった!?」
P「せっかく買ったのに……あーあ、『背徳』って変な実績を得てしまった」
P「まあ、いいや。すぐに買い戻せるだろ」カチカチ
P「グランマの次は『ファーム』」カチカチ
P「農場でクッキーが採れるってどういうことだよ」カチカチ
P「うわっ!? 今、なんかトナカイが飛んできた!?」カチカチ
P「何だったんだ、あれ……」カチカチ
P「今度は金色のクッキーが出てきたぞ?」カチカチ
P「とりあえず、クリックを……」カチ
P「おお!? クッキー生産量が7倍になった!?」
P「あ、でも、時間制限つきか……」カチカチ
P「なるほど、コツがつかめてきたぞ」カチカチ
P「増やしたアイテムはなるべく新しいアイテムに回して、」カチカチ
P「余裕で買えるようになったら『アップグレードアイテム』も買う」カチカチ
P「そして、基礎生産力を上げておいて……」カチカチ
P「ゴールデンクッキーでバースト!!!!」カチカチカチカチカチカチカチカチカチ!
P「トナカイはクリックしてつかまえたら、クッキーをくれるんだよな」カチカチ
P「ゴールデンクッキーの効果中につかまえたら、これも7倍になるから」カチカチ
P「なるべく、ゴールデンクッキーは消えるギリギリで発動させるようにして……」カチカチ
P「あっ、来た! ゴールデンクッキー発動だ!」カチ!
P「ぐあああ!? 7倍効果じゃなくて、クッキーゲット効果が出た!」
P「くそー……次のチャンスを狙うぞ……」カチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチ……
P「おはようございまーす」
小鳥「はい、おはようございます」
小鳥「って、あれ? 寝不足ですか? クマができていますよ」
P「ははは……実は、あるゲームにはまっちゃいまして」
小鳥「あるゲーム?」
P「クッキークリッカーってフリーゲームでして」
小鳥「ああ、あれですか」
P「小鳥さんも知っているんですか?」
小鳥「ええ。話題になった時にやってみました」
小鳥「意外にはまるんですよね、あれ」
小鳥「くだらないとは思いながらも、気がついたら夢中になっていました」
P「そうなんですよね」ハハハ
P「ゴールデンクッキーやトナカイを見逃さないために、昨夜はずっとモニターに注視してて……」
P「キリがいいところまで、キリがいいところまでってやっていたら、気づけば三時を回っていました」
P「慌ててベッドに横になってからも、クッキーのことが気になって……」
P「おかげで、あんまり眠れませんでしたよ」ハハハ
小鳥「分かります、分かります」
小鳥「私もアチーブメントのために、クリックの鬼と化していました」
小鳥「特に、777倍バーストの時は、16連打もかくやという勢いで……」
律子「へえ、そうですか」
小鳥「ピエッ!?」ビクッ!?
律子「仕事をしている割には、クリック音が激しいと思いましたが……」
律子「まさか、職場でゲームをしていたなんて、ね」
小鳥「あわわわわわわ……」ガタガタ
律子「もう許しませんよ!」
律子「小鳥さんのパソコンにはフィルターをかけさせてもらいます!」
小鳥「それだけはー! それだけはー!!」
律子「問答無用!!」
ドタバタ……
P「やれやれ。小鳥さんは相変わらずだな」
P「とはいえ、俺もゲームで仕事に支障をきたしたらいけない」
P「今日は張り切っていくぞ!!」
春香「その意気ですよ、プロデューサーさん!」
P「おっ、春香か。おはよう」
春香「はい、おはようございます!」
P「春香は今日も元気がいいな」
P「それに、今日も甘い匂いがする」
P「何を作ってきたんだ?」
春香「はい、クッキーです」
P「クッキー、なあ」ククッ
春香「?」
春香「どうかしたんですか?」
P「いや、なに。今、クッキーのゲームにハマっててな」
P「それに、小鳥さんが律子に怒られているのも、そのクッキーのゲームのことでだ」
P「タイムリーだなと思ってな」ププッ
春香「そうですね」ウフフ
春香「でも、クッキーのゲームって珍しいですね」
春香「パズルものですか? それとも料理もの?」
P「いや……あれは何というか」
P「クッキーを作るゲームだ。うん」
春香「うん? だとすると、料理ものですか?」
P「いや、そうじゃないんだ」
春香「ええ?」
P「確かに、雇ったお婆ちゃんがクッキーを焼いてはくれるんだが……」
P「農場でクッキーを採取したり、宇宙船を飛ばして、クッキー星からクッキーを取ってきたりするんだ」
春香「は、はい?」
P「他にも、錬金術で金をクッキーに変えたり、クッキー次元からクッキーを取り出したりもするんだが……」
春香「ちょ、ちょっと待ってください」
春香「クッキーの話ですよね?」
P「ああ、そうだ」
P「秒間数万、数億と焼き上がるクッキーの話だ」
春香「」
P「そして、焼き上がったクッキーを通貨代わりに、工場を建てたり宇宙船を作ったりするわけだが」
P「次の目標は反物質コンデンサーだな」
P「反物質を凝縮してクッキーを作る機械なんだが、」
P「これ一台で、秒間999,999枚もクッキーを作ることができるんだ!」
P「どうだ、ワクワクするだろう?」
春香「何だか、話だけで胸やけしそうです……」
春香「まあ、ゲームもいいですけど、現実のクッキーもいいものですよ」
春香「はい、どうぞ」
春香「私のは秒間数万枚の大量生産品じゃなくて、手作りクッキーですよ」ニコッ
P「おお、ありがとう」
P「うん、うまい。やっぱり春香のクッキーはおいしいな」
春香「えへへ。ありがとうございます」
P「よーし、元気出た!」
P「今日も一日、仕事を頑張るぞー!」
春香「おー!」
律子「あっ、こら! 小鳥さん!?」ドタバタ
小鳥「フィルター反対! フィルター反対ー!!」ドタバタ
~その夜~
P「ふー、今日も疲れた」
P「昼飯を食べるヒマもなかった」
P「春香のクッキーがなければヤバかったな……」
P「っと、そうだ。クッキーといえば!」
P「どれどれ……おお、一日放置していたら、こんなにクッキーが溜まるのか!」
P「パソコンのつけっぱなしなんて、電気がもったいないと思ったけど……」
P「これだけのクッキー量を前にすると、細かいことが吹き飛んでいくな」
P「よしよし、これで反物質コンデンサーが買える」
P「しかも複数台買えるぞ」ムフフ
P「これで一気にクッキー生産量を増やして……」
P「おおお、すごい。秒間生産量が何倍にもなった」
P「これでクッキー作りがはかどるな……」
P「って、んん? なんだ、このアップグレードアイテム」
P「『ビンゴセンター/研究施設』……?」
P「グランマの生産力が4倍になる……すごいアイテムだな!」
P「これは買わない手はない。ぽちっとな」カチ
P「よーし、よしよし。それじゃ、今夜もクッキーを焼くか!」
P「ふんふんふーん♪」カチカチ
P「ん? 統計ページの『スペシャル』に新しい項目が増えているな」
P「『29分』? 29分経つと、どうなるんだ?」
P「ちょっと待ってみるか」カチカチ
P「29分経ったが……おっ、新しいアップグレードアイテムが増えた!」
P「そして、項目の数値が30分になった」
P「なるほどな……研究施設でクッキーの研究を行っているわけだな」
P「それで、成果が出るのが30分ごとってわけか」
P「ふふふ、さすがクッキークリッカー」
P「ここに来て、飽きさせない仕組みの発動とは恐れ入る」カチカチ
P「特殊チョコレートチップを購入!」
P「三十分後、デザイナーココア豆を購入!」
P「どんどん増えるぞ! 次の研究アイテムは……」
P「……ん? 儀式的のべ棒?」
P「なんか、いきなり悪魔的なアイテムになったな」
P「説明文も物騒だし……まあ、いいや」カチッ
P「それで、次のアイテムは……地獄のオーブン?」
P「これ、買うとやばいやつじゃなかろうか」
P「まあ、買うけど」カチッ
P「ふふふ、どんどん生産効率が上がっていく」
P「次々とできあがっていくクッキーを見るのは気持ちいいな」
P「悪魔の手を借りてでも、もっともっと増やしたいものだな」フフフ
P「さて、また30分経ったぞ」
P「次のアイテムは……ワン・マインド?」
P「『我は個にして全。全にして個』……説明文だけ見るとわけ分からんな」
P「まあ、買ってみるか」カチッ
『警告! ここから先はずっと下り坂です!』
『それでもこのアイテムを購入しますか?』
P「っ!?」ビクッ
P「何だこれ……どういうことだ?」
P「下り坂って……ええい、臆病者にはクッキーは焼けない!」
P「ここまで来たら購入あるのみだ! でないと、次の研究アイテムが買えない!」
P「ワン・マインド、購入だ!」カチッ
P「……」
P「ふー、何も起きないじゃないか」
P「ハッタリか。ははは」
P「さーて、生産効率が上がったグランマでも増員するか」
P「グランマは、っと……」
P「っ!?」ビクッ
P「何だこれ……!?」
P「グランマの目が赤黒く光っている……!?」
P「さっきの研究アイテムのせいか?」カチカチ
P「うわっ、統計ページにまた新しい項目が増えてる!」
P「グランマの状態……『覚醒』」
P「何に目覚めたっていうんだよ……」
『医師ら、目に生気がなく口から泡を出す老婦人の集団に囲まれる!』
『診断書、老婦人の周囲に「奇妙なクッキー生地の臭い」!』
『数百万人もの老婦人が失踪!』
P「画面に表示されるニュースも物騒なものになってるし……」
P「もしかして、あれは本当に買っちゃいけないアイテムだったのか?」
P「って、うわっ!?」
P「クッキーに変な怪物がたかりはじめたぞ!」
P「うわわわわ……! この化け物、クッキーを喰ってるのか?」
P「クッキーの生産効率が下がっている!」
P「それに、何だ、この赤いクッキーは!?」
P「ゴールデンクッキーじゃないのか!?」
P「と、とりあえずクリックしてみるか……」オソルオソル
P「ぐわあああ!? 生産効率が7倍になるどころか、逆に半減したぞ!?」
P「なんだこれ!? これ、全部あのアイテムのせいか!」
P「くそー……警告に従っておけばよかった」
P「てっきり、冗談か何かと思ったのに……」
P「……ええい、でも、毒を食らわば皿までだ!」
P「こうなったら、最後まで研究アイテムを買ってやる!」
グランマの状態……『覚醒』から『不満』へ
『各地でギラついた目をした恐ろしい老婆の集団を目撃!』
『混乱した町では奇妙な老婆たちが幼児を連れ去り、クッキー用の調理器具を強奪しようと住宅に侵入!』
『ストリートで硬直した老婆、生暖かい砂糖の液体を分泌する!』
P「……」カチカチ
グランマの状態……『不満』から『怒り』へ
『肉の建造物に変貌している最中の硬直した「老婆」の残骸が発見される!』
『悪夢は続く、驚異的な速度で萎びた大量の肉塊は拡大する!』
『大陸の巨大な「肉のハイウェイ」の痕跡は各地のクッキー施設を繋いでいた!』
P「……」カチカチ
P「……」カチカチ
P「……」カチカチ
P「……と、とんでもないことになったぞ」
P「研究アイテムを買うにつれ、グランマの見た目が崩れていって……」
P「今では、グランマは萎びた肉の怪物とも呼べる姿に変わってしまっている」
P「ニュースを読む限りでは、こうなったグランマたちが世界を蹂躙しているみたいだけど……」
P「それでもクッキーを焼き続けているのは、逆に怖いところだな」
P「でも、最後の最後に希望は残されていた」
P「『誓約』と『契約』。怒れるグランマを元に戻すアイテムだ」
P「研究アイテムの最後が、このふたつだなんて……本当に助かったよ」
P「これで、グランマの生産効率はそのままに、この悪夢を終わらせることができる」
P「よーし、それじゃさっそく、『契約』を……」
P「ああ、ダメだ。これを買うと総生産力がグッと下がってしまうらしい」
P「時間制限つきだけど、『誓約』の方を買うか……」カチッ
P「ああ、よかった」
P「グランマは元のおばあちゃんに戻って……」
P「クッキーにたかる怪物も出なくなった」
P「赤いクッキーも、ゴールデンクッキーに戻ったぞ」
P「これで心置きなくクッキーづくりに励めるな」カチカチ
P「って、うわっ!? もうこんな時間か」
P「誓約の効果時間がまだ残っているから、ここで放置するのはもったいないけど……」
P「ええい、でも、寝ないと明日、もたないぞ!」
P「それじゃ、寝るか」
P「……」
P「ちょっとだけなら……」
P「いや、いかんいかん」
P「さっさと眠ってしまおう」ガバッ
P「……」
P「……zzz」
????『始まったわ』
グ?ン?『もうすぐすべてが終わる』
グランマ『止めることもできたはずよ』
~一週間後~
P「いやー、順調、順調♪」
小鳥「プロデューサーさん、ご機嫌ですね」
小鳥「何かいいことでもあったのですか?」
P「いやあ、実はですね。とうとうクッキークリッカーで、『ファイナル・クロース』を買えまして」
P「ここまでが長かったのですが……その分、感慨もひとしおでしたね」
小鳥「ああ、続けていたのですね、クッキークリッカー」
P「そうなんですよ。自分でもびっくりです」
P「まさか、クッキーを焼くだけのゲームにここまでハマるとは」
P「寝ても覚めてもクッキーのことを考えてしまいます」
小鳥「妙な中毒性がありますよね、あれ」フフッ
小鳥「私も一時期、クッキーの生産力を伸ばすことしか考えていませんでした」
P「ははは、ですよね」
小鳥「それにしても、最近、クッキーの話題が多いですね」
小鳥「春香ちゃんもすっかりクッキー作りにハマっちゃったみたいです」
小鳥「今日もほら、あんなにクッキーを焼いてきて……」ウフフ
P「春香、ですか?」
春香「千早ちゃん、今日はチョコチップクッキーを焼いてきたよ!」
春香「遠慮しないで、たくさん食べてね!」
千早「ええ、ありがとう春香」
千早「でも、ちょっと多過ぎじゃないかしら」
千早「バスケットいっぱいのクッキーって……」
春香「大丈夫だよ! もっと焼けるから」
千早「いえ、そういうことじゃ……」
小鳥「そのうち、事務所がクッキーで埋まっちゃいそうですね」フフッ
P「……」
小鳥「プロデューサーさん? どうかしましたか?」
P「いえ、その……春香なんですが」
P「先ほど、レッスン場で別れたばかりなんです」
P「用事を済ませてから戻るって言ってましたけど……」
P「もう戻ってきたのか?」
P「いや、それにしては早すぎるような……こっちは車で直帰だぞ」
小鳥「考えすぎじゃないですか?」
小鳥「現にここにいるってことは、何かしらの移動手段があったんですよ」
P「ですかね」
P「まあ、本人に聞けば分かることか」
P「おーい、春香。ちょっと聞きたいことが」
P「って、あれ? いなくなってる」
P「千早。春香はどこに行ったんだ?」
千早「あれ? そういえば、いませんね」
千早「先ほどまでそこにいたのですが……」
P「……そうか、ありがとう」
千早「いえ……?」
P「……」
P「……」
P「まさか、な」
P「考えすぎだよ、考えすぎ」
P「春香がワープできるだなんて……」ハハハ
プルルルル、プルルルル
春香『はい、もしもし?』
P「あっ、春香か? 俺だ、プロデューサーだ」
P「ちょっと聞きたいことがあってな」
P「今、どこにいるんだ?」
春香『まだ帰り道の途中です』
春香『もうすぐ事務所に着きますけど……急ぎましょうか?』
P「いや、いいんだ。ゆっくり帰ってきてくれ」
春香『はい!』プツッ
P「ははは、そうだよな」
P「そうだよ。当然、春香はまだ帰り道のはず」
P「事務所にいるわけないよな」ハハハ
P「……あれ?」
P「じゃあ、さっきの春香は……!?」ゾクッ
~夜・プロデューサー宅~
P「きっと、何かの勘違いだろうな」
P「ドッペルゲンガーでもあるまいし、春香が2人いるだなんて」
P「バカバカしい。クッキークリッカーでもやって、さっさと忘れてしまおう」
P「さーて、グランマのアポカリプス……グランマポカリプスにも慣れてきたぞ」
P「萎びた肉の怪物になったグランマにも見慣れたし、」
P「赤いクッキー、レッドクッキーの使い方も分かった」
P「効率で言えば、グランマをおかしくさせた方がいいんだよなぁ」
P「始めは驚いたけど、今ではこっちの方が基本になってしまった」
P「さーて、今夜もクッキーを焼くか……」プルルルル
P「ん? 誰だ? ……春香か」
P「こんな時間に何か用か?」
P「まあ、出てみるか。もしもし?」
春香『あっ、プロデューサーさん。夜分遅くにすみません』
P「おう、構わないぞ。どうした?」
春香『今日は事務所でおかしなことがあったみたいで……』
春香『プロデューサーさんも気にしていたって、小鳥さんから聞きましたから』
P「ああ、あのことか」
P「すまないな。あれは俺の勘違いだ」
P「まさか、春香が2人もいるだなんて……」
P「亜美真美じゃないんだから、そんなことあるわけないよな?」ハハハ
春香『そうですよ』
春香『私たちは、1人しかいません』
春香『たくさんいるけど、天海春香は1人しかいないんです』
P「……えっ」
P「それってどういう……」
ピンポーン!
P「っと、お客さんみたいだ」
P「すまん、春香。ちょっと待っててくれ」
春香『はい』
ピンポーン!
P「はーい、今出ます!」
P「こんな時間に誰だ?」
P「宅配便かな……」
ピンポーン!
P「はいはい、今開けます」ガチャ
春香「こんばんは、プロデューサーさん!」
P「………………え?」
春香「ふふっ、どうしたんですか、そんな顔しちゃって」
春香「私ですよ、私! 天海春香です!」
春香「こんな時間にどうかと思いましたけど……」
春香「とっても美味しいクッキーが焼けたので、持ってきちゃいました!」エヘヘ
春香『プロデューサーさん。もしもし?』
春香「あっ、私と電話してたんですよね」
春香「もう切っちゃっていいですよ」
春香「私が会話すれば、私にも伝わりますから」
春香「あっ、それとも……」
春香『たくさんの私と話したいのなら……』
春香×2【もっと呼んできますよ?】
P「……ぅ、ぅわぁあああああっ!?」
プルルルル、プルルルル
ドンドン、ドンドン!
ピンポーン! ピンポーン!
P「夢だ……これは夢だ」
P「春香が何人もいるはずがない」
P「そうだ、きっと、録音した声か何かを使って……」
P「俺を驚かせようとしているんだ」
P「ラジオ……ラジオでも聞いて気分を紛らわせよう」
P「765ラジオ……みんなの声が聞きたい」
P「誰でもいい。誰か、声を聞かせて――」
春香『今夜も生放送! 765ラジオ、始まりますよー!』
P「ひいっ!?」ビクッ!
春香『今日のラジオは、私こと天海春香と』
春香『この私、天海春香でお送りします!』
春香『今日も我らが765プロの歌と、』
春香『リスナーから寄せられた素敵なお便りを紹介していくのですが……』
春香『ここでなーんと! サプライズゲストの登場です!』
春香『それでは、さっそく登場していただきましょう』
春香『今夜のゲストは……天海春香ちゃんです!』
春香『はーい、みなさん、こんばんは!』
春香『春香ですよ、春香! 765プロの天海春香です!』
春香『わー、私! これはサプライズだー!』
春香『私と私。今夜もよろしくね♪』
春香『それでは、今夜も765ラジオ!』
春香『私と私と私で、盛り上げていきま――』
P「もういい! もうたくさんだ!」ガシャ!!
P「これは夢だ……夢なんだ」ブツブツ
P「寝て起きたら覚める夢……」ブツブツ
P「そうさ、今日もクッキークリッカーをして」ブツブツ
P「たくさんクッキーを焼いて」ブツブツ
P「疲れたらベッドで眠ろう」ブツブツ
P「これまでと同じことをしていたら、同じような明日がやってくる」ブツブツ
P「そうに違いないんだ」ブツブツ
P(俺のささやかな願いとは裏腹に――)
P(世界は、春香とクッキーで満ちていった)
P(あのラジオを皮切りに、春香は次々と現れて――)
P(彼女たちは、目を疑うような勢いでクッキーを焼き上げていった)
P(世界は、グランマポカリプスのように、肉と生地とに埋もれていった)
P(地球に、甘い匂いが充満していった――)
P「いやあ、クッキークリッカーは楽しいなあ」カチカチ
P「まさか、ここまでハマるとは思わなかった」カチカチ
P「たかがクッキーを作るだけのゲームなのにな」ハハハ
春香『そうですね、プロデューサーさん』
P「……」
春香『でも、現実のクッキーもいいものですよ』
春香『ほら、今の私なら、たくさんクッキーを作れます』
春香『いっぱい食べてくださいね♪』
P(そう言って、触手からクッキーを生み出す、春香の顔をした『何か』)
P(ボトボトと湿った音を立てて床に――肉とクッキーに覆われた床に落ちるクッキー)
P(俺が手をつけないそれは、やがて肉に呑み込まれていって――新たなクッキーを生み出す原動力に変わる)
春香『プロデューサーさん』
春香『私、頑張ってクッキーを作りました』
春香『一枚でもいいので、食べてくれませんか?』
P(化け物が『産んだ』クッキーなぞ食べるものか)
P(食べてしまえばどうなるのか――俺は知っているし、)
P(そもそも、俺はとっくの昔に、甘い匂いに吐き気を催すようになってしまっている)
P(おかげで胃液は空っぽだ。涙さえも、もう出ない)
千早「クッキー! もっともっとクッキーを!」
律子「やったわ、クッキーよ! クッキーの山よ!」
響「幸せだー。自分、幸せだぞー」
P(部屋の外からは、みんなの声が聞こえる)
P(俺を堕とすために集められたアイドルたちの声がする)
P(春香は決して、無理やりクッキーを食べさせない)
P(飢えと渇きと――こうした搦め手を使って、自発的にクッキーを食べさせようとする)
P(でも、いやだ。俺はいやだ)
P(たとえ飢え死にしたとしても、世界にクッキーしかなかったとしても)
P(俺はクッキーなんて……食べたくない!)
P(クッキーはこうして作るものだ)カチカチ
P(食べ物じゃないんだ……)カチカチカチ、カチカチカチ
春香『プロデューサーさん! クッキーを食べないと死んじゃいますよ!』
春香『せめて、一枚だけでも……食べやすいように、柔らかめのクッキーを焼きましたから』
春香『意地をはっていないで、楽になりましょう? ね?』
P「……」カチ……カチ……
P(もう、ダメかもしれないな)カチ……
P(最後の食料と水が尽きて……もう、何日経ったかな)カチ、カチ……
P(クッキーを食べて、楽になるか)カチ……
P(いや、それは嫌だ……)カチ……
P(俺は最後まで俺でいたい……)カチカチ……
P(……)カチ、カチ
P(はは、バカみたいだ)カチ……
P(何でこんなになっても、クッキークリッカーなんてやってるんだろ)カチ……
P(思えば、これが原因かもしれないな)カチ……
P(何もかもがおかしくなったのは……)カチ……
P(これと関わったことを、なかったことにしたい)
P(これまで焼いてきたクッキーを、全部消してしまいたい)
P(そうしたら、春香も世界も、元に戻るのだろうか……)
P(……)
P(…………)
P(…………そんなこと、できるわけ――)カチ
-Reset-
P(……あ?)
P「く、くくく……」
P「あるじゃないか、リセットボタン」
P「これを、これを押せば……」
春香『っ!?』
春香『ダメッ! プロデューサーさん、ダメ!!』
春香『リセットナンテユルサナイ!!!!』グワッ!
P「はは……」
P「お前らの動きよりも、俺のクリックの方が早いに――」
P「決まってるだろ……」カチ
―――――――――
―――――――――
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―――――――――
P「ふー、久しぶりの休みだな」
P「丸一日、ゆっくり休めるぞ」
P「とは言っても……何をしていいのやら」ハハハ
P「ここまで来るのに、必死だったからな」
P「この半年、ろくに休んだ覚えがないぞ」
P「休日の過ごし方さえ忘れてしまったような気がするが……」
P「まあ、適当に遊ぶとするか」
P「どれ、半年前、買ったまま放置してたゲームでも引っ張り出すか」
P「……うーん、そんな気分でもないな」
P「今日やったところで、クリアできそうにもないし……」
P「ちょっと摘まむ程度のゲームなんてないものか」
P「……そうだ、フリーゲーム!」
P「あれなら無料だし、ちょっとする分には十分楽しめる」
P「しばらくぶりだけど、かえって新鮮でいいだろう」
P「そうと決まれば、さっそく、パソコンを起動して……」
P「フリーゲームを紹介しているブログに行って、っと」
P「ここで面白いと評価されているものをやってみよう」
P「さて、何がオススメなのかな……」
P「……ん?」
P「クッキークリッカー?」
~おわり~