1 : ◆nv1kPr3aqINd - 2014/07/30 03:18:08.71 hqbIO2mh0 1/50ことまきです
時系列などは特にありません。パラレルです。
呼称はアニメ基準です。
その他オリジナルの設定も若干入っています。
長くなりません。
よろしくお願いします。
真姫「……な」
真姫「どういうことお母さん!!!」
真姫「え……? いや、友達なの?」
真姫「理事長と?」
真姫「知らなかったんだけど……」
真姫「だからって、なんでこういうことになるの!?」
ことり「――あはは……よろしく」
真姫「うぅ……」
真姫「誰かをウチに泊めるの初めてなんだけど……」
ことり「あ、そうなんだ。わ、私で大丈夫かな……」
聞くところによると、お母さんと理事長は友達だったらしい。
今までは会う機会も少なかったけれど、私が音ノ木に入学したことでまた繋がりが出来て、そうしたら何故かことりが泊まりに来た。
真姫「べ、別にいいんじゃないの!?」
ことり「本当!?」
真姫「え、ええ……」
ことり「私も海未ちゃんと穂乃果ちゃん以外の人の家に泊まるのは初めてなんだ!!」
真姫「そ、そうなの?」
ことり「うん!」
ことり「真姫ちゃんでよかった!」
真姫「あ、あっそ……///」
真姫「……」
ことり「……」
ことり「そういえば私たち、あんまり話したことなかったね。あはは……」
真姫「そ、そうね……」
真姫「……」
ことり「……」
真姫「そ、そろそろ夕ご飯みたいよ!」
ことり「そ、そうなんだ!」
真姫「確かバーベキューするとかなんとか聞いた気が」
ことり「バーベキューかぁ、いいね!」
ことり「真姫ちゃんの家は広いからそういうのも出来るし」
ことり「羨ましいなーなんて」
真姫「……」
ことり「あ、あれ……?」
ことり(会話……続けてくれない)
真姫(どどどどどうしよう。言葉が出てこない)
真姫(ことりとは全然話したこともなかったし、正直二人きりとか初めてなんだけど)
真姫(こ、ことりはこんなに話しかけてくれるのに、私はそれに対して……。人見知りすぎでしょ……)
真姫(µ’sのメンバーとしてずっと一緒に居たのになんで言葉が出てこないのよ!)
真姫(そうだにこちゃんの時みたいにちょっと馬鹿にする感じで……)
ことり「……?」
真姫(ど、どう馬鹿にすればいいの!?)
真姫(身長も普通だし私より胸も大きいし、可愛いし、女の子らしいし。ああああああああ)
ことり「真姫ちゃん?」
真姫「なんでもない……」
ことり「……」
ことり(……なんだか壁を感じる)
真姫「ご飯食べいきましょ。庭でやるから」
ことり「うんっ!」
◇◇
ことり「うわーすごい! 広いお庭!」
真姫「まったく走り回らないの」
ことり「えへへ」
真姫「意外とはしゃぐのね」
ことり「あはは、そうかな?」
真姫「なんだかもっと落ち着いてるのかと思った」
ことり「穂乃果ちゃん達と一緒にいる時は落ち着いてなんかいられないから、それが染み付いちゃったのかも」
真姫「ああ……穂乃果と海未が一緒に居るとうるさそうだしね」
ことり「うるさいってわけじゃないんだけどね」
真姫「あ、炭の準備できたって」
ことり「うんっ」
ゴオオオオオッ
ことり「なかなか暑いね……」
真姫「そうね……」
ことり「あ、真姫ちゃんのお母さん!」
ことり「お久しぶりです」
真姫「会ったことあるの?」
ことり「小さい時は」
真姫「え、私も理事長に昔会ったことある?」
真姫「まったく覚えてないんだけど……」
真姫「……もしかしてことりとも?」
ことり「あるらしいよ……?」
真姫「嘘……」
真姫「良く遊んでた!?」
真姫「絶対嘘でしょ……」
ことり「私も覚えてないんだ」
ことり「じゃあ……もしかして、私たち幼馴染……?」
真姫「いや……それは違うんじゃない?」
ことり「そ、そうだね」
ことり「――あ、これなに?」
真姫「トマトの肉巻き」
ことり「初めて見た……」
真姫「なかなか美味しいのよ」
ことり「へーそうなんだぁ」
ことりが串に刺さっているトマトの肉巻きを手に取る。
ことり「おぉ……」
ことり「あぁ!!」
トマトは中がグチャグチャとしているため、串に刺したものを持ち上げてそのままにしておくと中のものがドロドロと溶けてくる。
ことり「は、早く食べないと! んんぅ……じゅぶぅ」
ことりは小さな口を最大限開けてかぶりつく。
ことり「あちゅっ……うぅっ!!」
真姫「あはは、そんな一気に頬張ったら当たり前でしょ?」
口元を抑えつけてその場で地団駄を踏む。
なんだかことりって思った以上に面白い人。
ことり「あーもう……言ってよぉ……」
真姫「ごめんごめん」
ことり「もぉ……」
ことりがぶつぶついいながらまたトマトの肉巻きを、手に取る。
今度は垂れないように工夫しながら。
真姫「あらまた食べるの。美味しいでしょ」
ことり「えへへ、美味しかったよ!」
そう言いながらことりはそれを私に差し出してくる。
真姫「え?」
ことり「あーん」
真姫「は!? い、いや……そういうのは……///」
ことり「……?」
真姫「うぅ……分かったわよ! 勝手にすればいいでしょ!!」///
全く……なによこの子……。
そういえば海未がことりのお願いは断れないって言ってたのを聞いたことがあるわね……。
なるほど。
真姫「あーん、ぱくっ」
ことり「おいしい?」
真姫「そ、そりゃ私が好きなものだし……」
ことり「あははそれもそうだね」
ことり「あれ真姫ちゃんてトマト好きなの?」
真姫「ええ、言ってなかったかしら」
ことり「初めて知ったー」
真姫「トマト嫌いな人ってわりといるけど理解出来ないわ」
ことり「中のグチャグチャの部分が嫌いな人が多いよね」
真姫「そこがいいのに……」
真姫「じゃあ次はなに焼こうかしら」
ことり「あ、これがいいよ」
真姫「たまねぎか……まあ妥当なとこよね」
たまねぎを手にとって、網の上に並べる。
やっぱりいいわね。
真姫「――あれ、ことり?」
ことり「うわあ凄い木」
真姫「……なにしてんの?」
ことり「いや庭見回してたらおっきな木があったから」
ことり「これどうしてるの?」
私は少し離れたところにいたことりのところへ向かう。
真姫「それは確か業者さんとかが――きゃぁっ!!!」
ことり「真姫ちゃん!?」
真姫「いった……ぁあもう!」
転んだ。
何もないところで。
足がもつれたんだから仕方が無い。
あれ、私ってこんなに運動神経なかったっけ。
ことり「大丈夫!?」
ことりが私のところに駆け寄る。ハンカチを取り出して私の傷口に。
ことり「膝か……」
真姫「あーもう本当馬鹿……たまねぎも落としちゃったし」
ことり「仕方ないよ」
ことり「――それより膝は大切にしてね」
真姫「……どうしたの急に?」
ことり「ううんなんでもない」
真姫「いたっ……」
ことり「ごめんね? 真姫ちゃんの家消毒あるよね」
真姫「そりゃあ」
ことり「じゃあ私が取ってきて……」
ことりが取りに立とうとした時、お母さんがことりに消毒液を渡した。
ごめんなさいね娘がおっちょこちょいで、なんて言って。
悪かったわね。
真姫「家に取りに戻ったの? 早いわね」
真姫「誰かが怪我するんじゃないかと思って置いてた? なるほどね……悔しいけど、正解だったのね」
お母さんの思惑に乗ってしまったのが凄く悔しい。
ことり「真姫ちゃんあんまり怪我とかしたことないでしょ?」
真姫「動かないしね」
ことり「そうだと思ったすっごい足綺麗だね」
真姫「と、当然でしょ!」
ことり「そうだね!」
そう言ってことりは笑う。満面の笑みで。そこには悪意などないように思えた。
すっごいやりにくい。
◇◇
ことり「あ真姫ちゃんの部屋で寝ていいんだよね」
真姫「え!?」
いや考えてなかった。そんなこと。
一応空き部屋用意したらしいんだけど……。
ことり「あれ……違った?」
仕方が無い。一緒の部屋でいいか。
真姫「……こっち」
ことり「ありがと!」
◇◇
ことり「うわー、真姫ちゃんの部屋ひろーい」
真姫「何も無いだけよ」
私はそうそうにベッドに座りこむ。
ことり「うーんそうかな」
真姫「そうそう」
真姫「本当、何もないだけ」
ことり「そうかな。これなに?」
ことりが歩みよったのは、私のピアノコンクールで入賞した時の賞状だった。
真姫「ピアノのやつ」
ことり「――やっぱり真姫ちゃんは凄いね……」
真姫「え?」
ことりはそれを見て、なんだか悲しい微笑みを浮かべたようなそんな気がした。
真姫「ことり?」
ことり「だから作曲とか出来るのかな!」
一転いつもの明るいことり。気のせいだったのかしら。
真姫「どうかしらね。慣れれば誰でも作曲なんて出来るっていうし」
真姫「ほらことりだって作詞したじゃない」
ことり「あれはたまたまだよ」
真姫「ふーん、たまたまねえ」
ことりはそのまま私が座っているベッドの隣に腰を降ろす。
ことり「真姫ちゃんはなんでも出来るね」
真姫「……出来ないわよ。運動なんて全く出来ないし」
ことり「凜ちゃんみたいに動ければ楽しそうだよね」
真姫「本当ね、羨ましいわ」
あれ、私ことりと普通に話してる。
もう慣れたのかな、きっとこれもことりのおかげ。
ことり「なんだかね、私がここに来た時ちょっとだけ壁を感じたんだ」
真姫「ああ……それ私のせいよ」
真姫「すっごい人見知りだから。二人きりの空間て苦手なの」
ことり「えー、私人見知りされてるの? ショック……」
真姫「ごめんて」
真姫「――ことりってさ友達で困ったことある?」
ことり「え、いや……そういうことはあんまり」
真姫「私ね、中学の時ほとんど友達が居なかったの」
ことり「そうなんだ……」
真姫「まあ正直今も凜と花陽がいないとまともに話せる人なんていないんだけど」
ことり「どうして……?」
真姫「……なんとなくわかるでしょう?」
ことりは私が言ったことに対して少し考えたあと、俯いてしまった。
きっと察したんだろう。
自分が友達が作れない理由なんて大体わかる。
穂乃果みたいに積極的でもないし、海未みたいに頼りがいがあるわけでもない、ことりみたいに安心するような雰囲気があるわけでもない。
それを変えようとする努力をしないところも、きっとそうだ。
友達なんていらないって当初は思っていたのもある。
真姫「別にいいんだけどね。今はことりや他のみんなもいるし」
ことり「……私は真姫ちゃんが優しい子だってこと知ってるよ」
真姫「ありがと」
真姫「……ごめん、私なんでこんなこと話しちゃってるのかしら。愚痴ってごめんね」
ことり「ううん、全然」
また笑う。
なんだか安心する。
この雰囲気を作り出せるのもきっと才能。幸せになっていくような。
真姫「お風呂入ってきて」
ことり「真姫ちゃんも一緒に――」
真姫「それは嫌! 誰に頼まれてもいや!」
ことり「えぇ?」
真姫「裸見られるの嫌いなの」
ことり「ぶー」
真姫「早く行ってきて!」
ことりはしぶしぶと部屋を出ていった。
あれ以上粘られて海未が言ってたことりの必殺おねだりが出たら終わりだったわね。良かった。
それにしても一緒にお風呂入るとかわけわかんない。
なんでそんなことするのかしら。
◇◇
真姫「くっつかないでよ」
ことり「いいじゃん」
真姫「ねえ……こんなこと聞きたくないんだけど、ことりって声作ってる?」
ことり「え?」
真姫「あ、いやなんでもない。聞かなかったことにして」
私なんてこと考えてるのよ。
ことり「――たまにそれ言われるんだ」
真姫「え?」
ことり「中学の時とかは良く言われてたなぁ」
ことり「常に作り声出してて気持ちが悪いとか」
真姫「……ごめん」
やっぱり、最低。
ことり「ううん」
真姫「私はことりの声、好きよ」
ことり「ありがと」
真姫「私もことりみたいに可愛い声が良かった」
ことり「えー? 別にいいと思うけど」
真姫「私の声低いじゃない」
ことり「そうかなあ」
真姫「……私にこんなこと言わせるなんて、ことりは凄いわ」
ことり「どういうこと?」
真姫「……わかんない」
ことり「なにそれ」
真姫「なんかことりって不思議」
ことり「今日の真姫ちゃんの方が不思議だよ」
真姫「ふふっ、そうかもね」
◇◇
「……きちゃん……まきちゃん」
真姫「うぅん……ことり……」
ことりが耳元で囁く優しい声で私は目が覚めた。
なんだか小鳥のさえずりみたい。
真姫「そっか……今日学校なんだっけ」
ことり「そうだよ」
真姫「全く……次の日が休みの日に来なさいよ」
ことり「ごめんごめん」
ことり「一応夏休みなんだから休みだよ」
真姫「……夏休みの日に登校するなんて本当面倒」
ことり「練習なんだからそんなこと言わないで」
真姫「……ごめん、私、朝機嫌悪くて……」
◇◇
ことり「あっついねー」
真姫「……死ぬ……とける」
ことり「それは大げさだよ」
真姫「……」
こんな暑いというのに、ことりは汗一つ書いていなかった。
なんだろう、なんだかことりはふわふわとしていてまるでこの世の人じゃないみたい。
ことり「何か一緒に行動って幼馴染っぽいね」
真姫「……///」
特に意識するわけじゃないけど、なんだか照れる。
そのままことりを主体に会話を続けながら校門を通過した。
やっぱり夏休みということで、人はまばら。
ことり「あ、海未ちゃん!」
海未「ことり、真姫珍しいですね」
真姫「おはよう」
ことり「昨日色々あって真姫ちゃんの家に泊まってたの」
海未「へぇ……珍しい」
真姫「あれ、穂乃果は?」
海未「体調崩したとかなんとか」
真姫「ふーん珍しい」
真姫「早く部室行きましょ死んじゃう溶けちゃう」
◇◇
部室についても人は誰もいなかった。
そんなに早い時間に来たというわけではないのに、珍しい。
真姫「誰もいないのね」
私はすぐに椅子に座ってうちわでパタパタと仰ぐ。
ことりも海未も汗をほとんど掻いていない。
おかしくない? 汗だくになってる私が馬鹿みたい。
真姫「海未は暑いの慣れてそうだけど、ことり全然汗かかないのね」
ことり「かいてるよー?」
そう言って少し前髪を上げてみせる。いやいや少し滲んでる程度じゃない。
真姫「……私めちゃくちゃ暑いんだけど」
海未「今まで暑い時は部屋に篭っていたからです」
真姫「ま、まあそりゃ」
ことり「――みんな遅いね」
海未「ああそういえば三年生はオープンキャンパスに行ったとか」
真姫「……そういえばもうその時期ね」
海未「……そうですね」
三年生は進路のことできっとµ’sどころじゃなくなることも容易に想像出来る。
卒業か。
ことり「この話はやめよ?」
海未「……そうですね」
真姫「――私もオープンキャンパス行かないと」
海未「一年生からですか?」
真姫「どこの医学部にするかもう決めて、勉強しておきたいの」
ことり「凄いね……」
真姫「……やらなきゃいけないことなの」
海未「凜と花陽は」
ことり「……あ、メールきてる」
ことり「……二人とも用事があって行けないって」
海未「なぜことりに?」
怒られたくないからだ。やめて海未、怖いから。
ことり「それは……うん」
海未「明日、本気で怒ります」
真姫「……」
ことりと目を合わせて、少し笑う。
海未「今日はなにを……」
真姫「……作詞作曲衣装がみんないるんだから、別れて作業すればいいんじゃない?」
海未「でも私と真姫は一緒に作業した方が」
真姫「確かにそうね」
ことり「私は一人でも大丈夫だよ!」
真姫「でも……」
ことり「いいからいいから!」
◇◇
海未「どうしてことりが真姫の家に?」
海未はペンを頭にあてながら、そんなことを聞いてくる。
なんだか優越感。
海未達が知っていても私が知らないことはあったけど、私が知ってて海未が知らないことは多分なかったから。
真姫「……秘密」
海未「え?」
真姫「冗談よ」
真姫「なんだか理事長と私の親が友達だったらしいの」
海未「初耳ですね」
真姫「私も知らなかったの」
でもそのおかげで少しだけことりと仲良くなれたんだから良かった。
真姫「ことりってなんだか不思議よね」
海未「どういうことですか?」
真姫「……なんだかことりと居ると幸せな気分になるっていうか……」
海未「……」
真姫「な、なによっ」
海未「いや……真姫がそんなこと言うの初めてだと思いまして」
海未「それだけでことりが不思議なのがわかりますね」
どういう意味だ。そんなことを口走りそうになったけれど、なるほど、理解は出来た。
真姫「……」
海未「ことりは昔からそうですからね」
海未「居て欲しい時に居て、私たちを支えてくれる。きっと私と穂乃果だけだったらこんなにも長くて強い関係にはなってなかったんじゃないでしょうか」
真姫「……」
幼馴染か……なんだか羨ましい。
ことり『私たち幼馴染……?』
やっぱり決定的に違う。穂乃果海未ことり、本物の幼馴染には勝てない。
海未「でも時々寂しそうな顔をするんです」
真姫「なんで?」
海未「よくわからなくて……」
ふと、昨日のことりの顔が浮かんだ。
私のコンクールの賞をみて、寂しそうというか悲しそうというか、そんな表情をしていた。
真姫「……」
海未「私たちに知らない何かがあるのかもしれませんね」
真姫「そうね……」
ガチャ
ことり「――二人ともお疲れさま」
真姫「ことり」
海未「もうおわったのですか?」
ことり「うん、ひと段落ついたから」
ことりは私たちにジュースを差し出してくる。それは自動販売機で見たことがあるやつだった。
真姫「それ今買ってきたの?」
ことり「うん」
海未「悪いですよ。お金を」
ことり「このくらいいいから。曲作りなんかµ’sのことに直結すること。ね、これくらいのことはさせて」
真姫「ことりの衣装だってそうじゃない」
海未「そうですよ」
ことり「そうでもないよ」
そう言って私に炭酸、ことりは普通の、海未に――炭酸?
え? 海未はそれに気がついていないようでプルトップを開ける。
海未「すみません、頂きます」
なんでこんなことを、海未が炭酸苦手なのは知っているはず。
海未「ぶふぉっ!!」
海未「な、な!! 炭酸じゃないですか!!!!」
当然の反応。
それに対してことりは――笑っていた。
ことり「あはははは、海未ちゃん面白い!」
なるほど、わざとか。
持ち運ぶ時、少しでも衝撃を抑えたのだろう。炭酸特有のぷしゅっという音はほとんどしなかった。
海未「なんでこんなこと!」
ことり「ちょっとイタズラしたくなって……。みんなの前でするのは海未ちゃん的にもいやでしょ?」
海未「いやどっちにしても嫌ですよ」
……意外な一面を見た。穂乃果がやりそうなことを二人きりだとことりがやるんだ。
二人の力関係を垣間見た気がした。
そのあと炭酸はことりが飲んで、未開封のジュースは海未の手に渡った。
ことり「はぁ……」
海未「どうしたのですか」
ことり「夏だねぇ」
海未「そうですね」
ことり「ダイエットしなきゃねえ」
ジュースの缶を握りしめてことりはしみじみと呟く。
真姫「どう考えても必要ないでしょ」
ことり「真姫ちゃんに言われても……」
真姫「どういう意味よ……」
海未「真姫は逆に細すぎます。身長が二番目に高くてウエストが一番細いとか事件ですよ」
真姫「なによそれ……」
海未「蹴ったら折れてしまいそうです」
真姫「もやしとでもいいたいの?」
海未「いやそういうことではないのですが」
真姫「――とにかくことりにダイエットは必要ないから!」
ことり「うーん、そうかなぁ」
ことり「タイト系の履くとお腹のお肉が……」
真姫「……それならダイエットじゃなくて筋トレした方がいいわ」
とりあえず無意味なダイエットの話は終わらせて、私と海未とことりというなんだか珍しい組み合わせで時間を潰していた。
作詞とか作曲とかはもう手についていなかった。
ことり「あ、そういえば真姫ちゃん何か歌ってよ」
真姫「なによいきなり」
ことり「私聞いたことないもん!」
真姫「嫌よ」
ことり「お願い」
真姫「嫌」
ことり「お願――」
真姫「嫌!!」
ことり「ぅ……」
海未「ま、真姫! そのくらいにしないと……」
真姫「なに?」
なんだか海未がソワソワとしている。一体なにかしら。
ことりは少し俯いていたが、勢いよく顔を上げた。
その瞬間、海未が目を逸らしたのに気がついた。
ことり「――真姫ちゃん、おねがぁい」ウルウル
海未「遅かった……」
真姫「なっ……」
くっ……これが海未の言っていた!? 助けて、助けなさい海未。
どうして目を逸らすの、あなたの武道はこういう時に使うんじゃないの?
やめてことりこっちを見るな……!
真姫「わ、わかったわよ!!」
海未「……やはり」
ことり「ありがとう!!」
……狙ってやってるのかしら。
真姫「なにがいい?」
ことり「……何があるの?」
真姫「µ’sの曲ならなんでも」
ことり「うーん……」
ことり「snow halationがいい」
真姫「この時期に!?」
ことり「この時期だから!」
真姫「……ふーん、不思議な人ね」
私はピアノに向き直り、すっと深呼吸。
歌詞は多分大丈夫、一番だけだし。
鍵盤に指を沈みこませる。短い前奏が終わって、歌詞を口に出す。
ことり「……」
海未「……」
曲を歌い終わる。
……なぜ無言?
歌い終わった後が一番嫌いなのよね。なんの反応もなかったりすると特に。
海未「凄いです、流石ですね」
ことり「……やっぱり凄いや」
まただ。また……ことりのあの表情。
――一体なんなの?
◇◇
真姫「本当最悪」
私は家に帰っていた時、思いきりカバンを忘れていたのに気がついた。
暑さは人をおかしくするとか言う。カバンごと忘れるとかもう暑さのせいじゃないような気もするけれど、きっと暑さのせいだ。
手ぶらで帰ってて気がつかないってヤバイかな。というか、海未とことりも途中まで一緒だったんだから教えなさいよ。
真姫「暑い……」
真姫「校舎の廊下も冷房つけなさいよ全くー国立でしょー?」
真姫「流石に無理ね……」
私が部室のドアを開ける。
そこには私のカバンが置いてある。こんなに堂々と置いてあって忘れるとかヤバイかも。
真姫「ん?」
もうひとつカバンがあった。
真姫「これ、ことりのよね」
カバンの隣には開かれたノートがあった。何気なしに覗いてみる。
真姫「衣装のノート……」
開かれたところには衣装が書き込まれてあった。
今作っている衣装だろうか。メモ書きの所にことりが言っていたことが書かれているような気がした。
真姫「ふふ……意外と字汚いのね」
メモ書きだからなのかもしれないが、少し意外な面もまた発見出来た。
真姫「海未と一緒に帰ったんじゃ」
少し考える。
そして私はそのまま被服室へと向かった。
◇◇
鍵があいている。もしかしてことりがいるかも、なんて。
真姫「誰かいる」
慎重に開けて中を伺う。ミシンの音が聞こえてきた。
少し開けただけなので奥まで見渡せない。でも誰かいる。
私は普通に扉を開けて、被服室の中に入り込む。
真姫「――ことり」
奥にはことりがいた。
ミシンを使って作業をしている。
私には気がついていないようだ。ことりは黙々とミシンで糸を縫い付けている。
真姫「……」
綺麗だと思った。
真剣な横顔も、時々垂れてくる汗も。
普段はふわふわニコニコしていることりの、真剣な表情。汗ひとつかいていなかったのに、衣装のことになると汗をダラダラと流しながら作業をしている。
真姫「っ……」キュンッ
ことり「ふぅ――え?」
作業がひと段落したのか、私と目があった。
ことり「真姫ちゃん!?」
タオルで顔をふきながら驚いた表情を見せる。
真姫「忘れものがあってね」
ことり「そうなんだ」
真姫「――汗掻くのね」
ことり「え……」
真姫「さっきは全然掻いてなかったのに」
ことり「あー、ミスしたらダメだしね」
それだけ真剣に、物事に取り組んでいるんだ。
真姫「終わったんじゃないの?」
ことり「海未ちゃんと帰ってる時に、思い出したんだ」
真姫「海未もついてきそうだけど、珍しいわね」
ことり「あー……海未ちゃんが家に入るのみてから来たから」
真姫「わざわざ?」
ことり「だって私一人で出来ることだしね」
真姫「……」
ことり「このくらい私がしないと」
ああ、分かった。なんだろう、そっか、ことりは……。
真姫「……ことり、あなた何で自分の行動にそんなに自信を持たないの? 過小評価してるの?」
ことり「え?」
真姫「そうでしょ? なんでもこれくらいは、とかそうでもないとか、少しくらい誇ってもいいんじゃない?」
ことり「私は……」
まただ。またあの表情。
ことり「みんなに比べて何もできないの」
ことり「海未ちゃんみたいに強いわけでもないし、穂乃果ちゃんみたいに明るいわけでもない」
ことり「なら私が出来ることは、自分でしないと。本当に何も出来ない人にはなりたくないもん」
真姫「ことり……」
ことり「真姫ちゃんの歌聴いて凄いって思った。ピアノの賞状見て凄いって思った」
ことり「こんなに誇れるものがあるって、凄いって」
ことり「羨ましいって」
なるほど。
そういうことだったのね。
真姫「本当馬鹿ね」
真姫「二年生のなかじゃ一番まともかと思ってたけど、案外そうでもないのかも」
ことり「え……」
真姫「そうやって人と比べても意味ないでしょ?」
真姫「私だって海未みたいに強くないし、穂乃果みたいに明るくもない」
ことり「でも……」
真姫「私ね昨日と今日で分かったことがあるの。ことりってこんなに明るいんだ、こんなにはしゃぐんだって意外な面ばかり」
ことり「それは穂乃果ちゃんがいない時だけで」
真姫「別に居る時ももっとはしゃげばいいじゃない。まああの二人と一緒の時は難しいかもしれないけどね」フフ
真姫「――でもそれでいいんじゃないの? 海未も言ってたわよ、居て欲しい時に居てくれるって」
ことり「海未ちゃんが……」
真姫「衣装作りは勿論だけど――それも立派なことりにしかない誇れるもの、なんじゃない?」
真姫「誰かのことを想って行動したり、本当に小さいことを何の文句も言わずにやったり。さっきの海未のこともそう、私なら気がついた時点で学校戻るわ」
ことり「……でもそういうのなら希ちゃんの方が」
真姫「……はぁ、本当馬鹿ね」
ことり「えぇ?」
真姫「そこまで違いを語らないとわからない?」
真姫「希も確かにことりみたいに小さいことに気がついたり人を導いたりするけれど……でもやっぱり違う」
真姫「昨日友達について愚痴った時、きっと希だったら私を変わらせよう、変わらせてあげようと助言してきたんじゃないかな」
真姫「でもことりは何も言わず、でもそれは責任放棄なんかじゃない。ありのままの私を肯定してくれて……それはことりにしか出来ない大きな優しさ、なんじゃない?」
真姫「ふぅ……なんだかことりといると安心するっていうか……口が緩くなっちゃうのよね、ごめんなさい」
真姫「私だってことりが羨ましいわ。ふわふわしててなんだか安心出来る。私の雰囲気とは大違い。隣の芝は青く見えるって言うでしょ? 私の人見知りもすぐ溶かしちゃうし、それに……」
ことり「……?」
真姫「――わ、私にこんなこと言わせるなんて、ことりにしか出来ないわよ///」
ことり「真姫ちゃん……」
ことり「うん……ありがと」
つまるところ、ことりという人間は自信というものがほとんど無いんだ。
細いのにダイエットだーとか、誇れるものがない、とか。
自信がないなんて、人が羨ましく思うなんて、至ってありふれた悩み。ありふれすぎて、もう馴染みあるものだけど、その悩みがそれほど私たち高校生にとっては深刻なんだろう。
それに悩むのもきっとことりらしさっていうもの、なのかもしれないけれど。
真姫「何かあったらいつでも相談して?」
ことり「いいの?」
真姫「構わないわよ。だって……ほら……」
ことり「ん?」
真姫「――わ、わ、私達、幼馴染……だし?」カミノケクルクル
自分で言って自分で恥ずかしい。ちょっと様子を見てみると、きょとんとした表情で私を見ている。
真姫「な、なんとか言いなさいよ!」
ことり「……ふふ」
ことり「真姫ちゃん大好きーっ!!」ギュー
真姫「なっ!!!! ちょ、ちょっとやめなさいよ、暑いでしょ!!」
ことり「そんなの知りません!」
――夏は人をおかしくする。
ふふ……それは案外本当、なのかもしれない。
いや……ことりのせい、かしら?
◇☆◇☆
夏の暑さにも少しだけ慣れてきた。
ますます練習にも熱気が入ってきている。こんなに充実した夏休みは初めてだ。
夏とはいっても早朝は少しだけ涼しく感じる。日中の温度差のせいなんだけど。
真姫「あれ、朝に弱くなくなってる?」
すっきりと目覚め、そんなことを思う。
真姫「準備しなくちゃねー」
今日も練習だ。まずは荷物のチェック。
真姫「あ、洗濯だすの忘れてた……」
カバンのなかには乱雑に入れられた練習着。
真姫「汗くさ……最悪」
カバンに匂いが染み付いちゃう。そんなことを思いながら練習着やタオルを取り出していく。昨日の練習はとても疲れたから、カバンを放りなげてそのまま寝ちゃったんだ。
真姫「……ん?」
普段は使っていないポケットが膨らんでいることに気がついた。
真姫「なにかしら」
ファスナーを開けて、取り出してみる。
真姫「これは……」
赤い髪の毛、わかりやすいようにか、過剰なほどつり上げられている目、季節外れのsnow halationの衣装。
真姫「――私のぬいぐるみ……?」
それは手作りされたと思われる小さなぬいぐるみだった。
誰がこんなもの。
ぬいぐるみが入っていたところを良く見てみると折りたたんである紙が目に入った。
真姫「手紙?」
この前のお礼だよ!
真姫「……」
たった一文だった。
――でもこの字を私は見たことがあった。あんまり綺麗とは言えない字を。
真姫「ふふ……全く……」
真姫「――こんなにつり目じゃないわよ」
真姫「……こんなじゃないわよね……?」
鏡を取り出して少し確認。
気がつけば小鳥のさえずりが一日の始まりを告げていた。
おわり
61 : ◆nv1kPr3aqINd - 2014/07/30 12:53:49.17 hqbIO2mh0 50/50ここまで読んでくれた皆様ありがとうございました。使い回されたネタだとは思いますが、個人的に楽しかったです。
ことりの膝のことは触れないでおきました。
ありがとうございました。
穂乃果「センチメンタルな足取りで」
https://ayamevip.com/archives/57419903.html
前書いたやつです、お暇が出来た時にでも見て頂けると嬉しいです。