1 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:04:18 /kk7iBG2 1/101

表向きは花屋を営む私の実家には、誰にも言えない裏の顔があった。

「これが不老不死の秘薬だ」

父は純潔種の魔法使い。
この世界の万物をも歪める力を持っている。

母は誇り高きエルフ族。
エルフの血には不老不死の力が宿っているという。

私は生まれながらにして、不死の存在となった。

齢二十歳を過ぎれば、私の成長は止まり、以降永遠に老いることなく生き続けるのだろう。

魔法使い……無意識に世界の真理に触れる者。

元スレ
凛「私が魔法使いだって言ったら……信じる?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1423400658/

2 : モバマスSS - 2015/02/08(日) 22:06:18 /kk7iBG2 2/101

私達は別に戦ったりなんてしない。
戦う必要もない。

ファンタジーで耳にする魔法使いとは違うのだ。

たった一人の魔法使いが生を冒涜し、死すら凌駕していく。

だからその数は、世界に僅かしか存在しない。

魔法使いには、永久の孤独が付き物。

魔法使いの敵は孤独だ。

幸いにも父には永遠を共にする相手がいる。

だが……、私にはいない。

やがて自立する時がきて、誰かを愛することがあったとしても……

愛した人は、私を残して必ず先に逝くだろう。

私には耐えられない現実。

3 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:07:21 /kk7iBG2 3/101

「私と母さんはこの世界の人間ではない。やがては元の世界に帰る。だが凛、お前は自分で選択するんだ」

ひとりきり?そんなのやだ

母が私を抱き締める。

「どちらを選択しても、凛には辛い未来が待っているかもしれない」

「この秘薬を口にすれば、誰もが簡単に不老不死を得るだろう。だが覚えておけ、凛」

「不老不死となった者は、これまで人として生きた証……記憶を全て失うことになる」

「記憶を……?」

「いつかお前も、その薬を使う時が来るかもしれない。しかしそれは、お前を苦しめる地獄の選択となるだろう」

「永遠の苦しみを与えられた者は、いつか必ず、お前への憎しみで心を支配されてしまう」

「あなたの愛した人は……きっとそこにはいないわ」


「でもさ、生きててくれたほうがいいよ。もう会えないよりはさ」

この頃の私は、まだ誰かを好きになったこともなく、恋愛というものを想像で語ることしかできなかった。

4 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:09:19 /kk7iBG2 4/101





マセた私の10歳の誕生日プレゼントは、人を地獄に導く禁忌の薬。

5 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:09:48 /kk7iBG2 5/101

それから果てしない時が過ぎ……私は運命に出会った。


「ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね」


魔法使いがアイドルやってるなんて誰も思わないよね。

6 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:10:28 /kk7iBG2 6/101

最初のアイドルとして事務所に所属した私は、彼……プロデューサーに対して特に思うことはなかった。

ただの上司、世話役、便利な奴、仕事仲間。

そんな風に考えていたのだ。

いくらでも「代わり」のきく存在だね。

その認識はすぐに覆されたけれど。

私が事務所で一番驚いたことは、私以外にも魔法使いがいたこと。

7 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:11:30 /kk7iBG2 7/101

千川ちひろは魔法使いだった。(本人談)

彼女の販売するスタミナドリンクとエナジードリンクは、彼女自ら調合したものだろう。

その効果は絶大。

そしてそれこそが、人間離れした仕事量をこなすプロデューサーの秘密。

私はプロデューサーの横顔を見つめる。

普段は凛々しいくせに、不意に出る笑顔が可愛い。ふふっ。

8 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:15:01 /kk7iBG2 8/101

モバP「ほんとに大丈夫なのか?」

加蓮「私は大丈夫だって。Pさん心配しすぎ」

プロデューサーがまた加蓮を心配してる。

北条加蓮。私の幼なじみで親友。

本当ならば、彼女の生はとっくに終わっていなければならない。

加蓮は身体が弱いだけではなかったから。

彼女を不老不死にしたのは同情なんかじゃない。

私が辛かったから。親友の死を黙って見ているなんて、耐えられないもの。

彼女を病よりも苦しめるのは私。

彼女を殺したのも私。

だからこれは……罪の記憶だ。

9 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:16:24 /kk7iBG2 9/101

加蓮「ほんとはアタシ死ぬんだ」

そう告げられたとき、私はこう返した。

「もし……さ。加蓮が助かるとしたら、どうする?」

加蓮「……どういうこと?」

希望持たせるようなこと言わないで。
やめてよ。

加蓮は口にしなかったけど、私にはわかった。

加蓮は不機嫌そうに、「生きたいよ」とだけ口にした。

10 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:17:10 /kk7iBG2 10/101

「一生老いることなく、死ねないとしても?」

加蓮「それでも……生きたいって。当たり前じゃん……アタシまだやりたいことあるし……」

「加蓮が今までの記憶を代償に捧げるなら、アナタを不老不死にしてあげるって言ったら?」

加蓮「……凛、いい加減にして」

「お願い。……真面目な話なの。答えて」

加蓮はうんざりした顔をして、それでも私に付き合ってくれた。

11 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:18:06 /kk7iBG2 11/101

加蓮「……記憶、か。ずっと病室で寝たきりの人生だったなぁ。でも……凛のことも忘れちゃうんだよね?」

「……そうだね」

加蓮「それはイヤかな……」

「…………」

私もだよ。そう口にしたかった。

「また出会いからやり直せばいいよ。私は何も知らない顔をして、加蓮とまた出会うの」

加蓮「えー、記憶失ったアタシに優しく説明してよ~。親友だったとか言ってさ」

12 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:18:46 /kk7iBG2 12/101

「それじゃダメだよ。真の友情は0から始めなきゃ」

加蓮「あはは、なにそれ」

何も知らない加蓮に、アナタの親友だよって言ってもさ。

それは押し付けの友情だよ。

加蓮はきっと喜ぶ。雛鳥が最初に目にしたものを、自分の親と感じるように。

そして私に縋り、私を頼るだろう。

でもそれは多分、私が造った友情。

生を得た加蓮は、もう今の加蓮じゃないんだから。

13 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:21:43 /kk7iBG2 13/101

加蓮から親友だって思われたい。

『アナタの親友だよ』なんて口にしなくても、自然とまた……

……そんなのは嘘。
綺麗事だよ。

不老不死になった加蓮は、いつか絶対に私を恨み、憎むだろう。

殺したいほど憎んで憎んで……でも殺せなくて。

私はただ、そんな罪悪感から逃げたいだけ。

加蓮に永遠を与えて、私の巻き添えにしようとしてる。

孤独という恐怖を紛らわせるための道具として。

子供みたいなわがままでゴメン

ごめんなさい

14 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:22:37 /kk7iBG2 14/101

加蓮「ならさ、またアタシと親友になってくれる?」

「……なるよ。絶対なる」

加蓮は「ありがとう」と微かに微笑んだ。

痩せ細った姿が痛々しくて、私は加蓮を抱きしめた。

加蓮「消えていく命だから。きっと……きっと記憶は天国へは持っていけないんだ。だからね、未練なんてないよ?」

「私さ。加蓮に内緒にしてることがあるの」


「私が魔法使いだって言ったら……信じる?」

15 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:23:18 /kk7iBG2 15/101



加蓮「……信じてあげる」

『だって親友じゃん』
声に出さなくても通じたよ?

16 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:24:16 /kk7iBG2 16/101

「この薬を飲めば……加蓮は不老不死になる。救われる。でも忘れないで。不老不死を得るかわりに、アナタは記憶を失うことになる」

加蓮「……それでも飲むよ。凛と普通の女の子みたいに遊びたいから」

「そっか」

加蓮「そうだよ」

あはは
二人で馬鹿みたいに笑う。

加蓮の目に迷いはない。

「不老不死になれば、加蓮の大切な人は誰もいなくなる。未来永劫、あなたと共にいられるのはきっと私だけ……。それは死ぬより辛いよ?」

加蓮「でも一人じゃないんでしょ?」

17 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:24:54 /kk7iBG2 17/101

加蓮「凛、約束」

加蓮「必ず、アタシの親友になって」

「当然じゃん。……ばか」

加蓮「あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに」

「安心して。加蓮を一人になんてしてやらないから。つきまとってやるんだ」

加蓮「ストーカー」

「聞こえなーい」

18 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:28:47 /kk7iBG2 18/101

それから一週間後。
容態が悪化した加蓮は、自ら禁忌を口にした。

その日は加蓮の誕生日だった。

私にとっては最初の別れとなる、親友の命日。

加蓮「私……誰?何も……何も思い出せない……!」

病が突然完治した加蓮を見て、医師は口々に奇蹟と語った。

それほど手の施し様がなかったのだろう。

19 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:29:37 /kk7iBG2 19/101

ドン
不安そうに病院内をフラつく加蓮とぶつかる。

加蓮「あっ……!ごめんなさい」

「別に。ねぇ、アンタ入院患者?」

加蓮「……はい。そう……ですけど……」

加蓮、ビビりすぎ。

「家族と知り合いの見舞いに来たんだけどね。私さ、今退屈してて」

「よかったら話し相手になってよ」

加蓮「……いいですよ?」

それが、私と北条加蓮の『最初』の出会い。

20 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:30:19 /kk7iBG2 20/101

余談だけどね。子供の頃からアイドルに憧れていたのは私。

ずっと私の話を聞かされて、加蓮もアイドルに憧れるようになっていったんだ。

どうしてか加蓮は、アイドルに憧れていたことだけは覚えていた。

奇蹟ってあるのかもしれないね。

同時に、加蓮に薬を与えた私は、この世界で生きていくことを決意する。

両親は寂しそうに頷いてくれた。

ごめん

21 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:32:48 /kk7iBG2 21/101

加蓮と仲良くなって

時が流れていった。

そして私達は、共通の親友を得ていた。

神谷奈緒。

アニメが好きな女の子だ。

22 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:33:21 /kk7iBG2 22/101

奈緒「Pさんは過保護すぎる」

加蓮「奈緒顔真っ赤」

「プロデューサーは私達が心配なだけだよ」

奈緒「限度があるだろ!」

ああ、昨日の送り迎えの時の話か。

23 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:34:07 /kk7iBG2 23/101

私達3人を事務所に送る途中、奈緒が一人で寄り道をしようとしたんだ。

行きたい場所があるからって、車から降りてさ。

するとプロデューサーが、「一人でなにかあったらどうするんだ」と、奈緒の頭をクシャクシャと撫でた。

ボサボサになった奈緒の髪を見て、私と加蓮は笑ってしまった。

奈緒は真っ赤な顔で、プロデューサーに文句を言っていたっけ。

照れ隠しか、髪をボサボサにされたことを怒ったのか、それがわからないほど私達は鈍くはない。

頭を撫でるのはプロデューサーの悪い癖だ。

彼の指で、奈緒の乙女が顔を見せる。

いいな。

24 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:34:50 /kk7iBG2 24/101

私はプロデューサーが好き。

きっと加蓮も。

奈緒「あたし一人で帰れるって!」

加蓮「あれは奈緒の我が侭だよね」

「アニメショップに寄りたいから車を降りたんだっけ?」

奈緒「ま……まぁ、そうなんだけど」

昨日の出来事を思い出して奈緒に嫉妬するなんて……私重症かな……

25 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:35:35 /kk7iBG2 25/101

加蓮「Pさん優しいんだから、あんまり心配かけちゃダメだよ」

奈緒「わかってるけどさ……」

「確かに最近のプロデューサーは過保護だよね」

奈緒「!?……だろ!?」

加蓮「私にはいっつも過保護」

奈緒「加蓮は身体が弱いからなぁ」

「ふふっ」

加蓮「なによぅ、凛」

「なんでも?」

加蓮「むぅぅ」

「怒らないの」


どうして彼を好きになったのだろう?

26 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:36:58 /kk7iBG2 26/101

「ねぇ、プロデューサー」

彼の名を口にする。
愛しくて震えた。

「なんだ?」

最近おかしいんだ

優しくされるたび
触れられるたび
胸が痛い

どうしようもなく疼くんだ

叶わない恋を突きつけられて

心が張り裂けそう

27 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:39:23 /kk7iBG2 27/101

プロデューサーが好き。

でも、無理なんだ。

私が好きになったのは『今』のあなただから……。

私には……あなたの記憶は奪えない。

こんなに人を好きになるなんて、思わなかった。

ううん、違うね。
きっと気づかない振りをしてただけ。

あなたの優しさに触れて、あなたの笑顔を感じて、私はとっくに恋してたんだ……。

辛いよ。
愛してる。

28 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:40:18 /kk7iBG2 28/101

ある日の帰りの車内のこと。

久しぶりに二人きり。

モバP「最近元気ないみたいだけど、何かあったのか?」

「……大丈夫だから。心配してくれてありがとね」

彼の手が私の髪を撫でる。

私は怒ったような表情で、「子供扱いして」と口にする。

そんなこと思ってもいないのに。

プロデューサーは、困ったような顔で、手を引っ込める。

私は無言で、窓の外を見つめてる。

流れていく風景。
あの店は加蓮オススメの店だ。なんて無理矢理考えながら。

ホントはプロデューサーのことで頭はいっぱい。

29 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:41:01 /kk7iBG2 29/101

モバP「どこか寄るか?」

「いいよ。遅くなったら悪いし」

モバP「気にしなくていいって」

なら、力ずくで私を奪ってよ。
ホテルでも連れ込めばいいじゃん。

そんなことはありえない。

プロデューサーは責任感の強い人だから。

我が侭を言って嫌われたくない。

他人への甘え方がわからない。

私不器用だね。

邪険にしてごめん。
大好きだよ、プロデューサー。

30 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:41:34 /kk7iBG2 30/101



永遠なんていらない。

あなたと生きていきたい。

31 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:42:24 /kk7iBG2 31/101

プロデューサーへの想いを誤魔化すために、私はアイドル活動に必死になった。

逃げと言われても仕方ないだろう。

気づけば私は、シンデレラガールになっていた。

加蓮「おめでとー、凛」

奈緒「凛、よかったな!」

「二人とも……ありがと」

卯月と未央が駆けてくる。

他の仲間たちも。

私は幸せ者だ。

光を浴びて、スターへの道を歩き始める。

そして知る。私には未来はないのだと。


未来は夢だ。
限りある時間が連れていく。

33 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:47:08 /kk7iBG2 32/101

私は書類上、15年しか生きていない。

両親は私の老いが止まるのが早すぎるという。

私が二十歳の外見を得るのに、最低数百年は掛かるのだと。

そんな残酷な真実を告げた……。

認識の齟齬を埋めるため、父が周囲の意識を操作し、それからの私は何度も15歳を繰り返している。

16歳でも17歳でもいい。
人の認識は曖昧だ。

ねぇ、永遠の価値ってなんだろう?


このスポットライトの光も、いつしか当たり前として受け入れるようになるのだろう。

34 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:47:56 /kk7iBG2 33/101

世界はいつまで色鮮やかなのだろう。

百年後の私は笑っているかな?

加蓮「凛、大丈夫?」

ごめんなさい。
ずっと思ってる。

終わりのない不安。
私は加蓮を巻き込んでしまったんだ……。

彼女の成長も止まっている。

私はいつまで、親友を騙し続けるのだろう。

出口のない人生という迷路に、加蓮を送り込んだ私の罪を。

私の過ちを。

いつか死ぬことを願う日が来るのだろうか。

先への不安が神経をすり減らせていく。

らしくないね。

35 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:49:31 /kk7iBG2 34/101

私が普通に生まれていたら、きっと前だけ向いて突き進んでいたと思う。

振り返らず前を向いて。

加蓮「好きなの?」

「うん?」

加蓮「プロデューサーのこと」

気づかないわけないよね。

「べつに」

加蓮「嘘」

「まあ、どちらかといえば好きかも」

加蓮「素直じゃないね」

36 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 22:51:23 /kk7iBG2 35/101

素直か……。

「プロデューサーの迷惑になりたくないし」

加蓮「私、Pさんが好きだよ」

「そうなんだ」

加蓮「うん」

泣きそうになる。

37 : 一旦中断 - 2015/02/08(日) 22:52:06 /kk7iBG2 36/101

叶わない恋は私だけじゃないんだ。

「ごめん、加蓮」

加蓮「なにが?」

「私も好き」

加蓮「知ってた」

「ごめん」

加蓮「なんで?」

言えないよ。

「…………」

加蓮「最近溜め息ばかりだね、凛」

「……そうかな?」

加蓮「そうだよ」

加蓮「私、知ってるんだ」

「え?」


加蓮「不老不死、なんでしょ?……私たち」

38 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:39:21 /kk7iBG2 37/101

頭を殴られたような衝撃で、目の前が暗くなる。

……どうして?
ありえないよ……

加蓮「伝えようか迷った。私だよね?凛を苦しめてるの」

手紙を取り出す加蓮。

加蓮「ずっと渡せなかった」

加蓮「凛の親友は私だって、自分への嫉妬かな」

加蓮「……渡せなかった。凛を傷つけるって知ってたのに……」


加蓮「けどそれも今日で終わり。……許してね、加蓮」

39 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:39:48 /kk7iBG2 38/101

未来の親友へ。

それはありえないはずの……

過去からの手紙

40 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:40:51 /kk7iBG2 39/101

凛はさ……きっと私に対して罪悪感とか感じてるよね。苦しんでるんじゃない?

自分が独りになりたくないから私を巻き込んだーって。

だからこの手紙を遺します。

今の私から凛への、最後の友情の証として。

親友を理解してる私に感謝してよぉ?

私はね、凛。
不老不死になったからって、絶対に凛を恨んだりしないよ?
だって薬を飲んだのは私の意思なんだもん。

凛は私に明日をくれた。

絶望しかない私の人生に、光と希望をくれたのはあなただよ。

凛が私に与えたのは生きるチャンス。

凛は私に不老不死になれなんて命じてないでしょ?

私は自分で考えて選択した。
生きたいってね。

41 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:42:13 /kk7iBG2 40/101

だから私に対して罪悪感を抱いてるなら、それはお門違い。

私をあまり舐めないで。

私が私でなくなっても、私が凛を恨むなんて一生ありえないって。

生まれ変わっても(言い方がおかしいかな?)、また胸を張って凛の親友でありたいから。

ずっと対等でいて。あなたは私の親友、渋谷凛だって。いつもみたいにクールで。

42 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:43:03 /kk7iBG2 41/101

約束を破ってごめん。
未来の私に、私の一部を託します。

あはは、これくらい許してよ?

未来の私。どうせこれ読んでるんでしょ?

あんたに一つ自慢したい。
私の親友は魔法使いなんだ~ってね。

凄いでしょ~。

凛は死の淵にいた私を救ってくれたの。

迫り来る死の恐怖を追っ払ってくれたんだ。

だから……あんたが不老不死になったのは私のせい。

あんたがもし将来苦しむようなことがあったら、そのときはこの私を恨みなさい。

その頃には私はもう死んでるけどぉ~。私無責任!?

43 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:46:05 /kk7iBG2 42/101

あんたに辛い役目を押し付けた代わりに、私が夢見た明日をあげる。

凛の隣を譲ってやるんだから!感謝しなさいよ?

お願い。凛を恨まないで。凛を支えてあげて。

凛を理解して、支えられるのは……きっとさ、あなただけだから……

私は凛が大好き。未来の私も凛を好きになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。

44 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:46:45 /kk7iBG2 43/101

凛、あなたを悲しませてごめんなさい。

あなたと過ごした記憶を、あなたとの時間を……私は今から殺します。

忘れないで。私はきっと加蓮の中にいるから。

長くなっちゃったね。
最後に

一緒にアイドルできなくてごめんね



永遠の友 北条加蓮

45 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:48:08 /kk7iBG2 44/101

「……ぅっ……加蓮……かれん……あああああっ……」

私は泣いた。みっともなく大声で。

加蓮「私が目覚めたときさ。これを読んで勝手だなって思った」

加蓮「誰かも知らない相手を頼むって手紙でしょ?無責任にさ。自分のこともわからない私に……色々重荷背負わせて……ほんと勝手だよ」

「…………うん……ぐすっ……」

加蓮「でも今は……感謝してる」

加蓮が私を抱きしめる。いつかの時とは逆の状況。

加蓮「言われなくたって支えるわよ。凛は私の……親友なんだから」

加蓮「私は私。たとえ記憶を失っても、凛が大切な親友だって気持ちだけは変わらない」

加蓮「それは私にも殺せない。きっと魂とかに刻まれた感情なんだよ」

46 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:48:52 /kk7iBG2 45/101

加蓮「って!うわぁぁ……なんて青臭いことしてんだろ私たち」

「……言わないで」

加蓮「はやく泣きやめ。クールな凛はどこ行ったの~?」

「……ばか」

加蓮「あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに」

『あー、ひっど~い。人が真面目に言ってんのに』

「ふふっ」

そっか
加蓮は確かに遺していたんだね。友情の証を。

加蓮「なにニヤニヤしてんの!」

「何でもなーい」

47 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:49:45 /kk7iBG2 46/101

私は、プロデューサーが好き。

彼を不老不死にしたいと思ってる。

最悪のワガママだよね。

でもそれはしない。
彼は優しいから。

選択を迫れば……彼は苦しむ。

きっと将来、事務所が落ち着いたら、私と加蓮のために彼は薬を飲むだろう。

私の隣にいるという約束を守るために。

私たちを孤独から守るために。

自惚れじゃないよ。

そんな自己犠牲がさ、彼の不器用な優しさだって知ってるから。

だから選択を与えない。

私には……
あなたの人生を否定することはできないから。

48 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:55:01 /kk7iBG2 47/101

あなたの中の功績を、記憶を、人生を、思い出を……

愛しているから奪えない。

冗談じゃない。あなたの中から私たちが消えるなんて。

……耐えられるわけないじゃん。

これから先の数十年、私と加蓮は今の姿のまま、弱っていくプロデューサーの隣に居続けるだろう。

彼が生涯を終えるときまで。

その時は思いっきり泣こう。

泣いて泣いて泣き疲れて。それでも繰り返される明日に苦笑しながら。

私たちは生きていく。

49 : 以下、名... - 2015/02/08(日) 23:58:32 /kk7iBG2 48/101

加蓮に私の気持ちを打ち明けた。
彼女は笑って許してくれた。

加蓮「私だってPさんの記憶は奪えないよ。それは死ぬより辛いもん……」

「私たちってワガママだね」

加蓮「女の子はワガママなくらいがいいんだよ」


奈緒「ああ?あたしも仲間に入れろって!」

どこかに隠れていた奈緒が、いつの間にか背後に立っていた。

「奈緒……」

奈緒「あ、あたしだって親友だから!凛の様子がおかしいことくらいわかるっていうか……仲間外れは嫌っていうか……くそっ!わかれよ!」

加蓮「今の話は冗談だって。不老不死なんてあるわけないじゃない」

奈緒「嘘かほんとかなんてわかる。だって友達だろ?」

加蓮「……記憶失っちゃうんだよ?」

奈緒「そん時は支えてくれんだろ?あたしの親友たちがさ」

50 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:00:00 cfPyWE5g 49/101

「ダメだよ……今の奈緒は消えちゃうんだ」

奈緒「また親友になればいい。生きてるなら何度でもやり直せる」

加蓮「…………」

奈緒「あたしは二人との絆を信じてるから。神谷奈緒は生まれ変わっても照れ屋で、アニメ好きで、凛と加蓮の親友だ」

「今はダメ」

加蓮「うん」

「奈緒が大人になって、お姉さんになったとき。その時に改めて聞かせてよ」

奈緒「いやいや、今でも最年長だろ。あたしは二人よりお姉さんだっ!」

51 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:00:42 cfPyWE5g 50/101

加蓮「私たち奈緒よりずっと年上だよ?」

「うん」

奈緒「嘘……だろ……」

加蓮「ほんと」

「不老不死は二十歳で成長が止まる……って思ってたんだけど違ったみたい」

加蓮「途中から成長が緩やかになる感じ」

「たぶん最終的に二十歳の外見になるんじゃないかな。……数百年後に」

奈緒「はぁ!?反則だろそれ!」

52 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:02:09 cfPyWE5g 51/101

「うちの両親年々若返ってる気がする……」

加蓮「つーまーりー、逆に多少老いたとしても、二十歳の外見に戻るってこと。…………たぶん」

奈緒「無茶苦茶じゃねぇか!」

「だから焦ることはないんだ」

加蓮「ゆっくり考えて。後悔しないように」

奈緒「……しねぇよ。後悔なんて」

「約束する。20年後、奈緒が今みたいに不老不死を望むなら、私はあなたの記憶を貰う」

奈緒「なんだよそれ……。全部忘れちまうなら、早いほうがいいに決まってる……」

加蓮「今の奈緒を大切にして」

奈緒「……わかったよ。くそっ!」

加蓮「ふふっ、奈緒可愛い」

奈緒「うるせぇー」

ごめんね

53 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:06:05 cfPyWE5g 52/101

不老不死なんて、簡単に決めちゃいけないことだから。

取り残される悲しみに押し潰されないように。

私のエゴだよ。


時は過ぎていく。

プロデューサーは若作りが上手い。

アイドルに老いを感じさせないのは凄いと思う。

最近では、「俺はまだまだ若いって」が口癖。

加蓮「禿げたPさんなんて見たくないよね」

なんて笑い話にしてたっけ。

認識を操作するのも限界で。

私たちは世間では有名な化物アイドルになっていた。

54 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:10:55 cfPyWE5g 53/101

いつまでも劣化しない。整形疑惑など。

週刊誌だけではなく、テレビでも騒がれる。

ファンからは永遠のアイドルとか呼ばれているらしい。

奈緒はアイドルを引退した。

紛らわしい言い方だったね。
今は女優。

映画とかで活躍しているよ。

そうそう、アニメ映画では声優も務めたんだっけ。

素人の芸能人が吹き替えなんかするな!っていつも怒ってたのに。

奈緒は一生懸命頑張っていたよ。


映画は大ヒットを記録した。

55 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:12:37 cfPyWE5g 54/101

時間は止まらない。

奈緒は毎日輝いていた。

後悔はあるよ。あの時奈緒を不老不死にしなかったことに。

加蓮「でもそれが人生なんだよ。一度きりの花火のような、儚いもの」

「……後悔してる?」

加蓮「どうだろ。私は『加蓮』の恐怖が理解できるから。責められないし、責めたくない」

加蓮「運命だって割り切ってるよ。せっかくの人生、『加蓮』の分まで楽しまなきゃね」

「……そうだね」

加蓮「凛、ありがとう。私に時間をくれて」

「果てしなく永いけどね」

加蓮「あはは」

56 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:13:10 cfPyWE5g 55/101

「もうすぐ20年か」

加蓮「奈緒がどちらを選ぶか賭ける?」

「不謹慎」

「奈緒の人生だから。奈緒の選択に任せよう」

加蓮「……ばーか」

57 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:14:11 cfPyWE5g 56/101

そして約束の日。

奈緒「凛、加蓮。ありがとう」

「私は何もしてない」

加蓮「ほんとにね」

奈緒「あの時止めてくれたからよ」

私にはその言葉だけでわかってしまった。

彼女との別れを。

奈緒「不老不死って凄いと思うわ。断るなんて愚かよね」

加蓮「だね」

奈緒「ごめんなさい。私は不老不死にはなれません」

奈緒の口調はあの頃とはすっかり変わった。

女らしくなったよ。

いい女って奈緒みたいな人を言うのかも……なんて。

58 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:15:15 cfPyWE5g 57/101

「理由……聞かせて?」

奈緒「私は普通の人間として、精一杯自分を磨いてきたわ。……成長したでしょう?」

少しだけ羨ましい。

奈緒「若いっていいわよね。私も日々若返りたいって思うもの」

「……奈緒は綺麗だよ」

奈緒「ありがとう」

加蓮「私たちには得られないもの……か」

奈緒「永遠を得たあなた達は変わらないわね。姿も……心も……成長が止まってしまっている」

そう。私たちの時間は止まっている。十代の頃のまま。

「……うん」

奈緒「不老不死の代償は記憶なんかじゃない。向上心よ」

永遠に時間は続く。
シンデレラガールに選ばれた頃の私は必死だった。

自分に厳しく、特訓を欠かさず。

でも……約束された永久のなかで、努力し続けることは難しい。

59 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:22:46 cfPyWE5g 58/101

明日がある。来年がある。永遠がある。

頑張ろう。
いつしかその当たり前の気持ちすら忘れていたんだね。

時間という枷に囚われていたのは私なのだ。

奈緒「私は進みたい。一度しかない人生のなかで、私が出来る精一杯を、この一身で」

加蓮「かっこいいね。かっこいいよ、奈緒」

「いいの?」

奈緒「ええ。今ならわかる。運命に逆らうのは反則なのよ。人は一度しかない人生を精一杯生きるべきだわ」

奈緒「人が成長を止めてしまっては、世界は堕落する一方でしょう?」

「……私たちは本来存在してはいけないんだ。わかっていたのに……」

成長しない生命に、何の価値があるのだろう?

60 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:26:24 cfPyWE5g 59/101

「加蓮。約束するよ。いつになるかわからないけど、私たちが死ねるように」

奈緒「その約束が叶うよう、私は祈ってる。私はあなた達より先に逝くけれど、私の友情は変わらないから」

奈緒「あなた達の永い時間のなかの、本当に一瞬に過ぎないけれど。確かに二人を理解し、愛していた親友がいたと……」

奈緒「たまにでいいから思い出してあげて。そして笑ってよ。神谷奈緒って親友をネタにしてさ」

「……うん」

加蓮「……忘れられるわけないって」

奈緒「あたしたちは一生友達だ。それと、あたしがトライアドプリムスのお姉さんだからな!」

昔の奈緒と重なる。

ははっ……奈緒だって変わってないじゃん。

いいお姉さんになったね、奈緒。

61 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:30:02 cfPyWE5g 60/101

奈緒と話してから、私たちは一つの答えを出した。

劣化も成長も止まった私たちよりも、夢を語る後輩たちに道を譲るのは正しい判断だと思う。

引退発表は大きく話題となった。

まだ私たちのファンはたくさんいたみたい。

アイドル冥利につきるってやつだね。

でも、ステージは独占していい場所じゃないんだ。

進みたいと願う者の立つ場所だから。

62 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:30:57 cfPyWE5g 61/101

「加蓮、巻き込んでごめん」

加蓮「私はいいよ。『加蓮』と凛の約束を果たしただけ」

『一緒にアイドルできなくてごめんね』

あの手紙、律儀に守ってくれていたんだね。

加蓮「アイドル好きなのは本当だけど。もう未練はないかな」

「20年も続けられたし?」

加蓮「そうそっ♪」

これ以上は誤魔化せない。

老いないアイドルなんて、ただ気持ち悪いだけだから。

63 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:31:41 cfPyWE5g 62/101

無人のステージに立つ。

観客はいない。

モバP「長い間ご苦労様」

プロデューサーはあの頃のままの姿で、いや……きっと私の贔屓目だね。まだ若いって思いたいだけかもしれないけど。

彼から労いの言葉を受けて、私は無意識の涙を止めることができなかった。

「あれ……?」

おかしいよ。

「なんで……だろ……」

64 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:32:44 cfPyWE5g 63/101

頭を撫でる彼の手の温かさは、私をあの頃へと引き戻す。

ずっと隣で見ててね


「ここまで連れてきてくれて……ありがとう。プロデューサー」

この言葉にどれだけの感謝を込めたか……きっとあなたにはわからないでしょう。

加蓮「……凛」

モバP「凛と加蓮は俺の夢を叶えてくれた。お前たちは、確かにシンデレラだったよ」

「そう?」

モバP「ああ」

「嬉しいよ」

加蓮「私はもう忘れない。凛や奈緒、Pさんに仲間たち。みんなで目指した景色を」

65 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:33:27 cfPyWE5g 64/101

「プロデューサー。最後のお願い、聞いて」

耳元で囁くと、プロデューサーは無言で頷いた。

そして観客席に移動する。

『私と加蓮の最後のステージは、プロデューサーのためだけにやりたいんだ』

過ぎていく時間取り戻すように。

今の精一杯を届けるから。

66 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:36:38 cfPyWE5g 65/101

私と加蓮の歌が終わる。

加蓮「今までありがとうございました。私がアイドルを続けられたのは、Pさんのおかげだよ!」

「今日まで隣で見ていてくれてありがとう。プロデューサー。これからは……他の子を見てあげて」

「あなたを待ってるシンデレラがたくさんいるから」

私はきっと忘れないだろう。

プロデューサーが流した一筋の涙を。

「「お世話になりました!」」

モバP「……元気で」

「プロデューサーもね」

加蓮「困ったらいつでも頼って。私はずっとPさんの味方だから!」

モバP「俺の台詞だろそれ……ははっ」

67 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:37:07 cfPyWE5g 66/101

それがプロデューサーとの最後の会話。

別れは辛いから。




渋谷凛と北条加蓮は、その日消息を絶った。

68 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:38:41 cfPyWE5g 67/101

数十年、様々な世界を見て回った。

厄介な境遇のせいで、私も加蓮も、男の人とは一度も付き合ったことがない。

加蓮「私、菜々さんも魔法使いだと思ってたよ」

「それはある。私もそんな気がしてたし」

加蓮「老いた菜々さんは見たくなかったなぁ」

私たちが身勝手に消息を絶った理由。

数多くの仲間たちがいたけれど、彼女たちが老いていく様を……。
目にしたくなかった。

私たちの姿を見られたくなかった。

卯月や未央はいつまでもあの頃のままでいてほしい。せめて私の中だけでも。

老いた二人を前にして、変わってしまった彼女たちとのズレに、耐える強さはない。
今の私には。

不老不死でも弱くなるものだね。

69 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:41:04 cfPyWE5g 68/101

命が無限でも、心は有限。

きっとどんな生き物でも、心の寿命からは逃げられない。

懐古とは過去を見続ける夢だ。

輝いていたあの日々に取り残された私と加蓮の。

前だけを見続ける。後ろは振り返らない。

それが昔の私。

思えば、後ろを振り返った瞬間、私に死が訪れたのだ。

人は弱い。

70 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:42:30 cfPyWE5g 69/101

奈緒との親交は続いた。

あるとき、奈緒が倒れたと聞いて、私たちは病院に駆けつけた。

奈緒「……凛、加蓮。私はすっかり老いてしまいました」

彼女に身寄りはいない。

栄光の人生だった。
ファンも大勢いた。

加蓮「……奈緒、どうして結婚しなかったの?」

奈緒「どうして……でしょうね」

奈緒「私の中にはいつもいましたよ。大切な人が」

奈緒「その方は結局振り向いてはくれなかったのだけれど……」

「……っ!」

奈緒「私は生涯、恋をしていたんです」

加蓮「もう、少女漫画の読みすぎ……」

奈緒「その人に見てほしいと……私は頑張ることができた…………Pさん……」

71 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:46:30 cfPyWE5g 70/101

奈緒「子も孫もいないけれど……私には胸を張って誇れるものがあった……」

「うん……うん……」

奈緒の手を強く握る。

奈緒「永遠を誓った親友たち……」


奈緒「……凛、加蓮。今までありがとう」

72 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:47:24 cfPyWE5g 71/101

「薬ならここにある!私を憎んだっていい!飲んでよ!飲んでよぉ……!」

私、最低だ。

奈緒「ごめんなさい。そして、ありがとう」

奈緒「死は平等だから。私の人生は悔いのないものでした。この大切な思い出は、全て私が得た宝です」

私は知っていたはずなのに!

気付かされる。軽はずみの一言が、どれだけ残酷だったか。

「……ごめんなさい!うっ……奈緒っ……奈緒っ……」

言わずにはいられなかった。
大好きな親友。

73 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:48:07 cfPyWE5g 72/101

奈緒「おい!なに……泣いてんだよ……!あたしが死んだって……親友やめてやらないからな……っ!」

あたしたちは一生友達だ!

17歳の奈緒

74 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:48:54 cfPyWE5g 73/101

加蓮「奈緒は可愛いなぁー」

16歳の加蓮

時が還っていく。

75 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:51:40 cfPyWE5g 74/101

「……二人とも騒がしいよ。ここは病室なんだから」

15歳の私

76 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:52:39 cfPyWE5g 75/101

奈緒「凛はクールすぎるぜ……」

涙は隠せてる?

今を忘れない。
焼きつける。

きっと今生の別れだから。

「何言ってるの。二人が騒ぐからだって」

三人で声に出して笑う。

77 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:53:19 cfPyWE5g 76/101

奈緒「……久しぶりにあの頃に戻れたよ」

加蓮「だね」

奈緒「未来を見ろ、凛。あたしの知る渋谷凛は強かったぞ」

「あ……」

振り返らず前を向いて。

奈緒「お前いつから弱くなった?」

シンデレラガールになって。

プロデューサーへの想いを絶ったとき。

奈緒「げほっ……げほっ……」

加蓮「大丈夫!?」

78 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:55:26 cfPyWE5g 77/101

奈緒「……友達が迷ったときは、道を戻してやるのが親友の務めだ」

「……ありがとう」

奈緒「これが最後の願いだ。凛」

奈緒「過去に囚われるな」

奈緒「加蓮。凛を頼む」

加蓮「痛いとこ突かないでよ……」

奈緒「加蓮はしぶといから大丈夫だろ?」

加蓮「奈緒ひどーい」

奈緒「うるせぇ……」

奈緒は、最期まで私たちの知る神谷奈緒を貫いた。

私たちのために。

79 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:56:22 cfPyWE5g 78/101

奈緒の訃報が発表されたのは、それから数日後のこと。

加蓮「大丈夫?」

「うん。もう大丈夫」

神谷奈緒という女の子がいた。

照れ屋でツッコミ気性で、赤い顔をしながら新しい衣装に身を包み、そしてからかわれる。

そんなアイドル。

墓前に花束を捧げる。

加蓮「奈緒、あんた早く化けて出なさいよ」

「同感」

80 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:58:58 cfPyWE5g 79/101

加蓮「あと20年もしたらさ、私たちの知り合いは誰もいなくなるね」

「そうだね。父さんと母さんとちひろさんくらいか」

加蓮「いつか会いに行く?」

「うん?」

加蓮「ちひろさん」

「今はいいかな」

加蓮「あらら」

「もう過去に縋るのはやめたの。奈緒との約束だし」

加蓮「数十年無駄にして後悔?」

「前を見続けたとしても引退はしてたよ。私たちは老いないから」

加蓮「奈緒から言わせれば私たちが化けて出てるようなものだからね」

「化けて……か。次は卯月と未央の墓参りだね」

81 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 00:59:35 cfPyWE5g 80/101

加蓮「そういえばさ。二人とも凛の大親友なのに、どうして正体明かさなかったの?」

「卯月は素直だから信じてくれるだろうね。それでも薬は飲まかったと思うけど」

加蓮「どういうこと?」

「奈緒と一緒でまっすぐだから。間違った道は選ばない」

加蓮「うわ……私への皮肉?」

「加蓮は別だし。早く死にたかったの?」

加蓮「はは……」

82 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:00:15 cfPyWE5g 81/101

「未央は適当に聞き流して面白半分で飲んだだろうね」

加蓮「酷い評価!でも否定できない!」

「よくも悪くも人の中心……というかエンターティナー?ノリでやっちゃうみたいな」

加蓮「たしかに!」

ここにはいない奈緒も、きっと隣で笑っている。

さよならは言わない。

またね、奈緒。

83 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:04:13 cfPyWE5g 82/101

あれから100年が過ぎた。

私は加蓮と二人で生活している。

加蓮とは同じベッドで眠るのが日課になっているけど、それは魔法使い固有の特性。つまりは寂しいのだ。

孤独への恐怖は、絡み合う指が解きほぐしていく。

加蓮の体温を感じて、私は安堵する。

それはきっと加蓮も同じ。

恋愛感情なんてない、純粋な友愛だ。

84 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:05:17 cfPyWE5g 83/101

もういいかな
いい人見つけて適当に付き合っちゃおうか?なんて笑い話にしたり。

けれど実際に行動することもなく。

シンデレラは魔法使いの魔法で変身する。

魔法使い(私)は臆病だ。

それでも後ろは振り返らない。

親友との約束だから。

85 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:07:06 cfPyWE5g 84/101

加蓮「そろそろだね」

「ここが今の事務所かぁ」

まるでお城だ。


一月前。

加蓮「プロデューサーになる?」

「うん」

「私たちは渋谷凛と北条加蓮の子孫ってことにしてね」

加蓮「あー、だから待ってたんだ」

「今度は裏方。シンデレラに魔法をかける魔法使い(プロデューサー)になりたいなって」

加蓮「いいんじゃない?」

「付き合ってくれる?」

加蓮「当然」

86 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:07:25 cfPyWE5g 85/101

拳と拳が触れ合う。

「プロデュースの勉強はしてきたからね」

加蓮「もう嫌ってほどね」


行こうか

87 : エピローグ - 2015/02/09(月) 01:08:15 cfPyWE5g 86/101

ちひろ「お久しぶりですね」

「千川さんもお変わりなく」

ちひろ「あら、ちひろでいいわよ?」

「私は渋谷凛の曾孫です」

加蓮「アタシは……北条加蓮の曾孫だよっ」

ちひろ「……やはり、魔法使いとは悲しい生き物ですね」

「まあね」

88 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:11:54 cfPyWE5g 87/101

ちひろ「私は千川ちひろ。この事務所でアシスタントをしています」

加蓮「それで面接は?」

ちひろ「あなた方には必要ありません」

「依怙贔屓はダメだよ?」

ちひろ「社長の判断ですから」

「今の社長か」

加蓮「茂場(もば)さんだっけ?」

ちひろ「いいえ。茂場は実在しません」

加蓮「えっ?」

89 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:12:33 cfPyWE5g 88/101

ちひろ「社長が来ました」

……そんな

…………嘘


社長「凛、加蓮。久しぶり」


それは私たちのよく知る人物で

加蓮「Pさん!?」


プロデューサー……モバPさんだった。

90 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:13:10 cfPyWE5g 89/101

モバP(社長)「俺、社長になったんだよ」

「どう……して……」

モバP「俺が人間離れした体力してたの知ってるだろ?」

加蓮「いやいや、それはちひろさんの魔法ドリンクのおかげだって、ちひろさん本人に聞いたんだけど!昔!」

ちひろ「あれ嘘です」

「はい?」

91 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:13:50 cfPyWE5g 90/101

ちひろ「あなたたちのプロデュースをする前から、いえ、最初からプロデューサーさんは既に不老不死だったんですよ」

加蓮「はあ!?」


ちひろ「はじめまして。私は魔法使いによって造られた人造人間、ホムンクルスの千川ちひろです」

「最初からって……まさか……」



モバP「……俺も魔法使いだったんだよ」

92 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:14:52 cfPyWE5g 91/101

加蓮「はぁぁ!?なんで黙ってたの!?凛がどれだけ傷ついたと!」

「加蓮……ありがと」

加蓮の肩に手を置く。

プロデューサー……社長に掴み掛かろうとする加蓮を止める。

加蓮は言いたいことを堪えて、唇を噛む。

加蓮だってPさんが好きなのに。

私のために怒ってくれて、ありがとう。

モバP「……すまん。依存してほしくなかったんだ」

「わかるよ」

魔法使いは臆病だ。

93 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:17:52 cfPyWE5g 92/101

「孤独は人を弱くするから」

加蓮がいなければ、私は廃人になっていただろう。

モバP「長い時間を生きる俺たちの敵は、孤独だ」

加蓮「私にはわからない。孤独なら支えてよ。優しく……してよ」

モバP「いつまでも」

プロデューサーが口を閉ざす。

目を閉じて、再び口を開く。

94 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:19:45 cfPyWE5g 93/101

モバP「君たちを見たとき、俺は感動した。俺と同じ境遇でありながら、未来を目指すその姿に」

モバP「俺は一度挫折したから。孤独を恐れ、生命を造り出すという禁忌をも犯した」

モバP「申し訳ないと思っているよ。彼女の身体は人間と同じではないのだから」

ちひろ「謝らないでください、マスター。たとえそれが過ちでも、私は感謝しています。生まれてきて……よかったと」

モバP「ちひろ、ありがとな」

ちひろ「はい」

95 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:20:51 cfPyWE5g 94/101

モバP「課金ガチャの存在を不思議に思わなかったか?」

「あー、あったねそういえば」

加蓮「Pさん金ない金ない言いながら必死に回していたっけ」

モバP「あれはちひろ、ホムンクルスに魔力を注ぐ行為なんだ。定期的にガチャを回さなければ、ちひろは止まってしまう」

「そういうシステムだったんだ……」

モバP「アイドルカードはその副産物だ。人工生命を無理矢理世界に定着させてるからな。その歪みが新しいアイドルを呼び寄せてしまうのさ」

加蓮「なにそれ怖いよ」

96 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:21:44 cfPyWE5g 95/101

モバP「話を戻そう。俺はそんなことをしてまで、永遠を共にする会話相手を造った」

「私たちがプロデューサーが不老不死だって知ったら……」

モバP「キラキラと輝く君たちの表情は、俺だけに向けられるようになっていただろう」

「否定はしない」

加蓮「かもね」

モバP「俺がプロデューサーになった理由を明かすよ」

モバP「何を見ても感動できない。どこか過去で見た出来事と思ってしまう。新鮮さがないんだ」

「…………」

97 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:23:43 cfPyWE5g 96/101

モバP「もう500年は生きたかな。死ぬ方法を模索していた。そんな頃だった」

モバP「全てが色褪せて見えていた俺を、一人のアイドルが変えたんだ」

モバP「それは胸に宿る光だった。日高舞。伝説のアイドル」

「凄い人だったのは覚えてる」

モバP「彼女は普通の人間だ。魔法も使えず、実力だけで人々を魅了した。俺も凛と同じで凄いと思ったよ。同時に感動した」

モバP「人間の生きる力、輝こうとするエネルギーに」

「だからなんだね。プロデューサーになったの」

加蓮「もう一度、感動……したかったから?」

モバP「……ああ」

98 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:26:42 cfPyWE5g 97/101

モバP「そのためには、誰かに依存なんてしてほしくなかった。二人きりでも、前を向いて輝き続けてほしかった……」

「……私たちは感動させられた?」

モバP「最高だったさ。シンデレラに選ばれた凛、魔法使いでありながら輝こうとする姿。加蓮との友情、そして引退。君たちの人生はずっと見守ってきたんだ」

加蓮「ストーカー発言だね」

モバP「まあな。ある意味そうなのかもしれない。……偉そうに言ってるが、君たちに執着し、依存していたのは俺なんだ……」

「嬉しい」

加蓮「変態」

99 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:31:34 cfPyWE5g 98/101

モバP「君たちを誰よりも愛しているのは自分だと……今思えば傲慢で恥ずかしい考えだ」

「あなたを狂わせた正体を、私も知ってるから」

加蓮「百年以上生きればね……」

モバP「君たちから成長を奪ったのは俺だ。未来を奪ったのも」

「それは違うから」

加蓮「それこそ傲慢だよ」

「私の人生は私のもの。だから、私の失敗は私のもの」

加蓮「誰かに押しつけていいものじゃない。責任っていうものは自分たちで背負うものだから」

モバP「……強くなったな」

「仲間のおかげかな」

加蓮「だね♪」

100 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:36:17 cfPyWE5g 99/101

だって、今告白されても、私はきっと断るからさ。

長い時間のなか、互いの嫌な面を知って、嫌いになってしまうかもしれないから。

永遠に恋していたいんだ。

だから一緒にはいられないと願った。

いたくないと思ってしまった。

愛してるから。

嫌いになりたくない。

いつか消える気持ちでも、あなたに対してはいつまでも新鮮でいたいから

あなたへの恋じゃなくて、あなたに恋している私が好きだから。

身勝手でごめん。

それが百年経って出した結論……のはずだった。

後ろ向きに前向きに。

それこそが、私たちの心を守る手段。

102 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:39:12 cfPyWE5g 100/101

モバP「これからは仲間として、よろしく頼む」

差し出された手に、私の結論は簡単に歪む。

一緒にいてもいいの?渋谷凛?

嫌な面くらい普通に生きてる人でも見てる。

駄目な部分だって受け入れようと努力してる。

綺麗なところしか見ないなんて、それこそ偽りの恋だ。

いつまで逃げるんだ?

奈緒の声が私の背中を押す。

現金だね、私。

「ふーん、アンタがこの事務所の社長?まあ、悪くないかな……なーんて」

加蓮「北条加蓮、改めてよろしくー」

私たちの恋愛は

今、始まったんだ。


おしまい

103 : 以下、名... - 2015/02/09(月) 01:50:59 cfPyWE5g 101/101

終わらない時の中で、私たちは生きていく。

これからもたくさん笑い、たくさん絶望するだろう。

それでも私たちは、一日一日を大切に。

まだ見ぬ明日を夢見て、駆けていく。

さあ、プロデュースをはじめよう。

シンデレラの魔法はまだ、終わらない。





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