設定のねつ造あり、百合、えりのぞ
「希、私と付き合って」
私の口からそんな言葉が出るなんて。私自身、どこか俯瞰して言った。
いつものランニングが終わり、階段の最上段で休憩している時のことだった。
今までも何度か言いかけては止め、言いかけては止めを繰り返してきた。今日、ついにその練習の成果が発揮された。
なぜ、私がそんなことを今頃になってやっと言ったのかというと、夕日に照らされる希があまりに綺麗だったから。
それだけの理由で、口は勝手に言葉を紡いでいた。
「えりち……」
希は少し驚いていた。それもそうだろう。友達からの突然の告白だ。
「あ……やっぱり男の子がいいかしら?」
それは、ごく普通のことだった。私は希が何か話す前に、言い訳のように言った。心臓は早鐘を打っていた。希に聞かれてしまうのではと思った。
「ううん」
希は首を振る。
「男の人はね、苦手なんよ」
希の口元がわずかに動いた。笑っているようだ。彼女はゆっくりと手を伸ばす。胸を張って背伸びをする。そして、ぽつりと言った。
「好きなん? ウチのこと?」
「え、ええ……」
せめて堂々としていよう。強がりな私が、意地を張っていた。こちらを見つめる希は、それを見透かしているようにも思えた。
希の頬にたらりと汗が流れる。私は喉を鳴らした。
「ありがとう、えりち。付き合おっか」
包み込むような笑顔に、私は思わず安堵の溜息をもらす。
「ふふ‥…緊張してたん?」
「当たり前でしょ……」
「頑張ったんやね。ありがと」
「もうなによ、それ」
私と希は、そんな風にごく平凡なスタートを切った。
元スレ
絵里「希と付き合うことになったけど、やだもうお家かえる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401352795/
それから数週間が経った。
その日、早めに部室に来てもらったにこに、私はとある相談をしていた。
「へえ、それで」
目の前の小学生のような高校生―――にこがあぐらをかいて肩肘を付いて言った。
「そう、興味なさそうに言われるとさすがに傷つくのだけれど……」
「知んないわよ! どうして、にこがお惚気聞かされなきゃいけないのよ」
にこが机を3度叩く。
「だ、だって他に言える人がいないのよ」
「んなわけないでしょ……あんたらが付き合ってんのは周知よ、とっくの昔に。むしろ、なんで付き合ってなかったの今まで? なくらいよ」
「タイミングとか、色々あったの……って、相談したいことはそういうことではなくて」
「まだ、あんのッ」
にこはあからさまに時計を見る。分かっているもうすぐ練習に行かなければならない。
「それが……希、キス以上させてくれないの」
「へ、へー……そうなんだ。希もまだまだお子ちゃまね」
「うーん、なんだろ。恥ずかしがってるわけではないし……」
「あんたのキスが下手っぴなんじゃないの」
「……そうなのかしら。ちょっと、にこ頬っぺたを」
「は?! 貸さないわよ!? 何言ってんの、にこは真姫ちゃん専用なんだから!」
ガタ――ッ
外で物音がした。私とにこは喋るのを止め、顔を見合わせた。音を立てずに扉に近づき、互いに無表情で扉を開ける。
「……真姫ちゃん」
「花陽、凛……」
一年トリオは誤魔化すように笑っていた。
「部長、躾がなってないわね」
「え、にこのせいなの?」
私は縮こまっている三人を見下ろした。一年生達は、小さく悲鳴を上げていた。
「正直なところ、誰かと付き合うってよくわからないの。ねえ、にこは真姫とどこまでいきたいのかしら?」
「このロシア崩れ、一年坊の前で何を言い出してんの」
「いえ、むしろこういった経験があるなら一年生でも構わないわ」
「凛はそういうのわからないにゃー」
「わ、わたしもそういった経験は皆無で……」
「そうなのね。日本の高校生はもっと進んでいるとばかり」
「それはそっくりそのまま返すわよ」
にこは呆れた声で言った。
「まずは希の気持ちが大事でしょうが」
「真姫ちゃんがまともなこと言ってるにゃ」
「失礼ね、私はいつもまともなことしか言ってないでしょ」
「で、でも確かに希ちゃんに聞いても、はぐらかされてしまいそうというか……本心を見せてはくれなさそうだよね」
「そうなのよ。嘘を吐いてるってことはないと思うの。でも、やっぱりどこか壁を感じてしまう……」
「それか、いっそのこと押し倒しちゃえば? にこちゃんはそれで言うこと」
「真姫ちゃん、何言ってんの!?」
「にこちゃん、やっぱり……そうだったんだにゃー」
「あまり参考にならないわね……」
話もまとまらないまま、希が部室に現れてその場は解散になった。
「ワン・ツー・スリー・フォー――――!」
海未の手拍子で、8人がステップを踏む。ラブライブ本選に向けて、練習にも一層熱が入っていた。
私自身、恋愛に現を抜かしている場合ではなかった。
「花陽、もう少し左につめてかまいませんよ!」
「はいィ」
「ことり、穂乃果にひっつきすぎてます、離れてください」
「こ、こうかなあ」
「そう、オッケーです」
私は希の方を横目で盗み見る。ステップを踏むと、彼女のふくよかな胸が揺れていた。
希と目が合う。希が微笑む。私もつられて笑う。はッ、いけない、何をしているのだろう。
「絵里」
「な、なに」
「燃やしますよ」
「ごめん」
数時間後――
「じゃ、今日はここまでにしましょう」
みんなへとへとになりながらも、それぞれ今日の内容を振り返りつつ片づけを始めた。私は希の元へ駆け寄る。
「ねえ、希……」
「なん?」
「今日、家に行ってもかまわないかしら」
「ええよ。ちょうど、新しい茶葉もらってな。一緒にお茶したいって思ってた所なんよ」
付き合ってから、希と私は特に今までと変わらなかった。もちろん、キスくらいはするようになったが、それはいつも私からだった。日本には惚れた弱み、などと言う格言があるようだが、まさにそれなのだろう。こちらばかりがヤキモキとさせられている。
「絵里、ちょっといいですか」
海未だった。手招きされる。私は希に一言断って、少し離れた場所に移動させられる。穂乃果も一緒だった。
「なに?」
まさかさっきの練習中のことだろうか。
「希、何か変じゃないですか」
「え?」
「そうなんだよ」
穂乃果が相槌を打つ。まさか、希の方だとは。
「今日ね、廊下ですれ違った時に声かけたらぼーっとしてたみたいでさ、数秒後に気付かれたんだけど……何か心ここにあらずって感じだったよ」
穂乃果は心配そうに、眉根を寄せた。
「私もそれを聞いて練習中、希の様子を伺っていたんですが、特にこれといっておかしなところはなかったので……絵里、何か知りませんか?」
「わからないわ……」
「付き合い始めて、浮かれていると言う線も少し考えてみたのですが……絵里はあったとしても、希はないなと……」
「なかなか失礼なことを言うじゃない……否定はしないけど」
「絵里ちゃん可愛いー」
「穂乃果……あなたね」
「本選も近いので、体調を崩していることを黙っていたりなんてことがないように……希ならしかねませんし」
「そうね。それは、同感だわ」
「希ちゃんのことは、絵里ちゃんが一番分かってると思うんだ。私たちからはあえて何も言わないから、お願いね!」
穂乃果はそう言って、親指を立てた。
「ええ」
そう、返事したものの、穂乃果の言ったことに対して、自信があるわけではなかった。
映画を見に行ったり、買い物に行って服を選び合ったり、カフェに行って美味しいものを食べたり。
そんなことは今までも普通にしてきたことだ。
前と変わったのは、触れ合う濃さ、密度が増したということ。私の中で、付き合うということの定義が明確にあるわけではないけれど。
ある友人に、付き合うっていうのは、その人とキスやエッチができるか、と言うことだと言われ、なんとなく納得してしまった。
私は、そこで希を思い描いてしまっただけだ。希は果たして私を思い浮かべてくれるだろうか。
「えりち、お茶どうぞ」
「ありがとう」
「叔父にもらったもんなんやけど、今、静岡からこっちに来てて、そのお土産にって」
「へー……頂くわね」
香り高いものだった。お茶のことは良くわからないが、希の入れたお茶が美味しいのは知っている。
一口、口に含む。喉から胃へと流れていく。どことなく、ほっとした。
「ハラショー」
「くすくす……」
「なによ、希ってば」
「えりち、様になってるなあって」
「なにがよ」
「縁側に座ってるご隠居さんみたいや」
「それは、褒め言葉なの?」
「うん……くすくす」
「ありがとう」
私は片目を閉じて、呆れながらお礼を述べた。しばらく、時間が緩慢に流れていたた。希はいつも通りだった。
いつも通りを装っているのかとも思ったが、それを見抜くことはできなかった。やはり、穂乃果達の思い過ごしかもしれない。
「私な、そうやって味わって飲んでくれるえりちが好き」
にこにこと、希は言った。そう言って欲しくて飲んでる所もあったので、少し後ろめたい。何より、ここに居られる時間も長くなるような気がした。希は私を招くことはあっても、泊めることはなかったから。
キスの続きは、耳たぶをかんだり希の胸を揉んだりで、それ以上には進まない。希は恥ずかしいから、と言う。恥ずかしがる希は可愛かった。
「ねえ、希。今日……」
「ごめんな。今日はちょっと」
「そっか、じゃあ、また今度ね」
言葉を詰まらせないように、その時考えていたのはそんなことだった。時折、希に完全に気を許されていないような気がして、寂しかった。
私の独り善がりに、希が付き合ってくれているのか。そんな疑心暗鬼が少しだけ芽を出し始めていた頃。
街で、男性と話している希を見た、と凛と花陽が教えてくれた。
「楽しそうに、してました!」
「花陽、あなた絵里が今にもそこの窓から飛び降りそうな顔してるって気が付いてる?」
「す、すいません。でも、これは由々しき事態ですッ……浮気かもしれませんしッ……」
「浮気かどうかはわからないけど、親しい仲っぽかったにゃー」
「ていうか、当の本人が部室に来てないってのはどういうことよ、あんた、何か聞いてないわけ?」
「聞いてたら、こんな風にならないと思うけど。ねえ、にこちゃん、絵里、息してるの?」
「絵里ちゃん……おーい、パンだよー。ほら、パン」
「穂乃果じゃあるまいし……やめてあげてください」
「だ、大丈夫だよ。希ちゃんに限って、浮気なんてすはずないって……私は思うな」
「でもさ、ことりちゃん。男が寄ってくるのは良い女の証拠なんじゃうあば」
「穂乃果、あなたって人は! 止めを刺すようなことを」
やいのやいのと、メンバーが口々に勝手なことを言っている。
「希……うッ……」
「ちょ、絵里あんた泣くんじゃないわよ」
「にこちゃん、泣かせたらダメだよー」
「穂乃果に言われたくないわ!」
「エリチカ……お家帰る……」
「帰んなバカ」
「にこちゃん、それはひどいよ」
「穂乃果、絵里を笑わせなさい」
「え、えーっと、べろべろばー」
「うッ……」
周りが騒ぎ立てれば立てる程、まさかと思うことも真実味が増してくる。と、ドアノブが回された。全員が一斉に扉を注視した。
「遅れてごめんな……って、な、なんや」
希は少し後ずさった。
「あー、みんなお待たせの所申し訳ないんやけど……今日、用事ができてもうて……ごめんな、明日は行けると思うんよ」
希はそう言って、ぱたりと扉を閉めた。
「……怪しい」
穂乃果がぼそりと呟いた。
「いつかのにこちゃんみたいね」
「真姫ちゃん、にこがどうしたって?」
「尾行するにゃー?」
「え、絵里ちゃん、息してる?」
「尾行! やろう!」
「穂乃果ちゃん、本当にたまたま用事があるだけかもしれないよ?」
「ことりが言うように、そうだった場合、せっかくの練習時間を無駄にしてしまいかねませんね」
「じゃあ、尾行するグループと練習するグループに分かれようよ」
穂乃果は指を差した。
「絵里ちゃんと、にこちゃんと真姫ちゃんは尾行班で、それ以外の人は練習!」
「その心は?」
海未が尋ねる。
「みんな恋愛経験ゼロだから!」
穂乃果が満面の笑みで言った。
尾行なんて、希を疑っているような気がして嫌だった。でも、こうでもしないと、彼女が何を考えているのか分からない気もした。なにせ、直接聞くのも怖かったのだ。
こういう方法にしか頼れない自分が嫌だったけれど、にこと真姫の後押しもあり、お家に帰りたくなる気持ちをこらえ、今、私はとある病院のロビーにいた。
「総合病院……あいつどっか悪いんじゃ」
「でも、おかしいわ。受付素通りしてるし」
「希……」
「あんた、やっと喋ったわね」
「にこ、私……」
「泣き言は後で聞くから……ほら、いっちゃうでしょ」
「ええ……」
希は売店で立ち止まり、花を買っていた。
「誰か、知り合いのお見舞いじゃないの? 」
「そういう話を聞いたことはなかったけれど……」
私は希の家族の事を知らない。何も。彼女は一人暮らしをしていて、それで? 両親は何をしている?
いつも、休みの日は何をしている? 彼女は私の事をどう思っている?
「こっちは……精神科?」
気が付けば、希はとある病室の前にいた。
「あいつ……動かないわね」
五分程経って、漸く希はその病室の扉を開けた。
完全に扉が閉まってから、私たちも部屋の前に移動した。
にこが、扉に耳を当てる。
「にこちゃん……」
「しッ」
私も習って、耳を当てる。真姫がジト目で見ていたが、そうも言ってられない。ここに、彼女がいるのだ。
――希、どこに行っていたの
――ごめんね。トイレだよ
――そうなの。危ないから、外に出たらだめよ
――うん、わかってる。おかあさん、りんご食べる?
――ああ、だめよ。私が向いてあげる
――ひとりでもできるよ
――だめよ。さみしいこといわないで
絵里はその声を目を閉じて聞いていた。まるで、幼い子ども達が話しているようだった。
「これ、希の声よね」
にこも動揺していた。
――ほら、貸して
――やめて、おかあさん。それ、りんごじゃないよ!
――何言ってるの、こんなに赤いじゃない
――やめて!
ナースコールのブザーが鳴った。
「な、なに」
にこが立ち上がる。私はとっさに、病室の扉を開けていた。
まばゆい光に包まれ、視界が一瞬奪われた。
「希!」
私は愕然とした。
「え」
「なによ……これ」
いたるところにスタンドライトが置かれてあった。奇妙な光景。
「えりち……!?」
上半身を真っ赤に染めた希がこちらを振り返った。血だ。
「の、希……血が」
「あなたち……だれ? 出て行って! 希を外に引きずりだそうとしてるのね!? 希、大丈夫よ! お母さんが守ってあげる!」
希の母親らしき人物も、顔に血しぶきがかかっていた。彼女は立ち上がろうとして、ベッドから転げ落ちた。
「おかあさん!」
腕や鼻についていた管が抜けていく。
「お願い、出て行って!」
希が言った。
「わ、わたしは……」
私は、何。何を言おうとしている。希が私たちを外へ出す前に、医者が駆けつけた。続いて何人かのナース。ナースは全員を外に出すよう医者から指示を受けて、希も含め部屋の外へと追い出された。
病室の外で、希は何も言わなかった。沈黙に耐え切れなかったのはにこだった。
真姫は唖然としていたし、私は、情けないことにかける言葉すら見当たらなかった。
「希、あんたとりあえず拭きなさいよ、それ」
にこは自分のカバンから、タオルを取り出して希に放り投げた。彼女はそれを受け取って、にこを見た。
「ありがとおな」
いつもの関西弁。
「それと、つけてきて悪かったわね」
「ええんよ……いつか、分かることやった。カードも言うとったし……ただ、心の準備が私もできてなかっただけなんよ。怒鳴ってごめんな。みんな、私の事心配して来てくれたんやろうに……他のみんなにも近々説明するから。だから、今日はもう帰って……」
希は背中を向けた。彼女は、私の方をちらりとも見てはくれなかった。
次の日、希は学校を休んだ。担任なら何か知っているかと思い聞いてみたが、家庭の事情の一点張りだった。
放課後、希の姿を探して、私はふらふらと部室に向かった。
「……あ、えりち」
「希!?」
「昨日はごめんな。変な所見せてもうて」
部室には希だけだった。聞くと、私に話があるということで、他のみんなには屋上に行って練習をしてもらうよう頼んだらしい。
「私こそ、ごめんなさい」
「なんで謝るん? えりちは何も悪くないやん。それに、ウチだってこういう状況やったらたぶんえりちのこと知りたいって思うんよきっと」
希は私の手を取る。おもむろにタロットカードをカバンから取り出した。それを私の手に乗せた。
「なに?」
「これ、もっといて欲しいんよ」
「どういうこと?」
「ウチ、ラブライブ参加できん」
希は申し訳なさそうに、頭を下げた。
「……希?」
これは、自分の代わりだとでも言うのだろうか。
「他のみんなには説明してきた……ウチの母親、ちょっと病気でな。父親も仕事忙しいし……叔父がたまに面倒見るの手伝ってくれてるんやけど、やっぱり身内がするべきことやんか……こればっかりは」
みんなは納得したというのか。
「あなたの家の事情が大変なのはわかる……。たぶん、あなたが色々思い悩んで決めたんだってことも分かる」
「うん……」
「でも、あなたはそれでいいの?」
「どうしようもないんよ」
「9人でって言ったのは、希、あなたじゃないッ」
思わず叫んでしまった。希は動じてはいなかった。
「私に、ううん、私たちにできることがあるなら言って。力を合わせればできないことはないでしょ?」
「えりち……そうやね。それは本当。でも、そうじゃないのも本当なんよ。私の都合でμ'sを8人にしてしまうのを許して欲しい」
「許せなんて……やめてよ」
希はなんでこんなことを言うのだろう。何を諦めてしまったのだろうか。
「希、お願いだから、私にできることがあるなら言って。お願いよ」
「えりち……ありがと。付き合ってくれてほんまにありがと。短い間やったけど、楽しかった……」
「希、あなた何を言ってるの?」
「でもな、やっぱりえりちに私はもったいない。もっとええ人たくさんおる」
「あなた以上に、いい人なんていない。希、分からないの……?」
希を止められない。彼女の言葉を止められない。聞きたくないのに。でも、家庭の事情だけではなかったら?
その言葉が希から出たものだったら?
「別れて欲しいんよ」
「いや、いやよ」
「わがまま言わんといて。これからは会う機会も減ると思う」
「そんな、付き合った時は希そんなこと言ってなかったじゃない」
「事情が変わったんよ……分かってや、えりち」
希は、私から離れると、窓の外に視線を逸らした。
それから、彼女はぽつりぽつりと語り始める。
引っ越しばかりで、母親も頼れる人を作れず育児に疲れてしまったこと。
心身症を患い始めたのは、希が小学生の時だった。
その頃から、母親は宗教にのめり込む。占いや、心霊現象などと言ったオカルトにも手を出していった。
希も大いにその影響を受けて育った。
父親は、仕事が忙しいのを理由に、家庭をかえりみることをしなかった。
今もほとんど家に帰っては来ない。母のお見舞いに来たのも、何か月も前だという。
「やっぱり、目を離すと何するかわからんやん?」
小さく希は息を吐く。
「それで、この間みたいなことになったらしゃれにならんしね……ナースも昼間は看てくれるけど、いつもっていうわけやない」
「そうだとしても、父親に言うべきよ……希は、希の人生があるんだから」
「ううん、これも運命なんやと思うんよ……ああ」
希は時計を見た。
「時間や。もう行かな」
「の……」
「何も言わんといて。ね」
希は私の口を手で抑えた。それがあまりにも切なくて悲しかった。私は何もできないまま、希を行かせてしまったのだった。
屋上への階段を登る。扉の前で、穂乃果達が待っていた。
「みんな……」
彼らは納得したわけではなかったのだと、絵里は思った。
「絵里ちゃん……」
私なら、説得できる。そう思って、私と希だけにしてくれたのだ。
だが、どうだろう。私を見る期待に満ちていた目が徐々に暗くなる。諦めの色が広がる。私は期待を裏切ってしまった。
「ごめんなさい……希を止められなかった」
「謝らないで、絵里ちゃん」
「そうですよ……絵里に説得できないのに、私たちなんて……」
「ううん、違うよ。諦めちゃうの、絵里ちゃん?」
「穂乃果……私」
「ラブライブは、9人で出る。一人でも欠けたら、それはもうμ'sじゃないよ」
「分かってるわよ、そんなこと……でも」
「一人でも諦めたら、何も叶わない。でも、諦めなかったから、絵里ちゃんが諦めなかったから、μ'sは誕生したんだよ。なら、絵里ちゃんが諦めなければ、希ちゃんは絶対に戻るはずだよッ」
穂乃果の言葉には、根拠などない。けれど、彼女の言葉はまっすぐに自分に突き刺さった。
「ですが、穂乃果……希をどうやって説得するんですか……」
海未の言うことはもっともだった。彼女の気持ちを変えたとして、彼女を取り巻く状況を改善することはできない。
「そうだよね……何も考えてないけど、何か考えるから!」
「ったく、見てらんないわね」
にこが言った。
「まずは、父親の所に行って状況を説明するってのはどう?」
にこの提案に、凛が弱弱しく突っ込む。
「でも、お父さんは家に帰ってこないって言ってたにゃー……」
「あ、で、でも希ちゃんに頼んで職場を教えてもらえば」
「ですが、希が教えてくれるでしょうか……」
「希の性格なら、絶対に教えないと思うわよ。先生に聞くって言うのは、どう? まあ、無理があるかもしれないけれど」
真姫が答えた。
「いいね、それ。なんでもいいから思いついたら、みんな言ってって」
穂乃果はそう言って私を見た。
「たぶんだけど……希ちゃんの気持ちを変えるのは、たぶん絵里ちゃんにしかできない……。だから、私たちは絵里ちゃんが絶対に諦めないように頑張るよ!」
「穂乃果……みんな……」
「じゃあ、凛、ひとっ走り先生の所に」
「待ちなさい、行くなら全員で行く。数でおしゃあ勝てる」
「にこちゃん、職員室狭いからみんなは無理だよ……」
「ことり、あんた……そう言えば理事長の娘だったわよね……?」
「え、あ、うん」
「「「「「「「それだ!」」」」」」」
挫けそうになっていた。彼らがいなければ挫けていた。
私は伏せていた顔を上げ、目の前にいる理事長を見据えた。
「…東条希さんの件は、担任の先生から聞いているわ。学校に来れない日も、あるかもしれないと」
「お母さんなら、分かるよね? 希ちゃんのお父さんの職場」
「気持ちはわかるけれど、それを教えることはできない立場なのも分かるわよね?」
「うん。だから、どうやったら教えてもらえるかな、っていう相談なんだけど」
「それをお母さんに聞くの?」
「うん、ダメ?」
「こ、ことりちゃん、強い」
「穂乃果、しッ」
「お母さんは、連絡がとれる立場だよね? お母さんから、お願いしてもらえないかな。私たちに連絡先を教えてもいいように」
「お願いです、理事長ッ」
「綾瀬さん……」
「私は希に諦めて欲しくないんです。自分のやりたいこと、自分のことを」
「ふう……あなたたちは、いつもそうね。諦めなければ、こちらが折れると思っているの?」
「お願いですッ」
「私を説得するのは容易いかもしれないけれど、東条さんのお父さんはかなり骨が折れるわよ」
「理事長、そこをなんとか」
穂乃果が頭を下げる。
「まあ、いいでしょう。あなたたちには借りもあることですし……それに、あなたたちならもしかしたら」
「お母さん?」
「いえ、ちょっと待っていなさい」
理事長はそう言って、承諾してくれた。
次の日――
ことりが転がるように部室に入って来た。その場にいた私と海未は何事かと首を傾げる。
「た、大変!大変だよ!」
「ことり、落ち着いてください。どうしたんですか?」
「希ちゃんの、お父さんが来たの!」
「はい?」
「失礼」
中肉中背のスーツ姿の男性が一礼して部室へ足を踏み入れる。
どこか眠たげな表情だった。シャツはよく見ると少しよれていた。
「な……」
私と海未はその場で立ち上がった。
「希がお世話になっています。理事長から、お話を聞かせてもらいました。希の進路にも関わってくる話ですので、直接出向かせてもらいました」
「あの、私は綾瀬絵里と申します」
「私は、園田海未です」
「初めまして、希の父です」
私は、とりあえず彼に席に座るよう促した。若い。30代に見える。
滅多に家に帰らないというのに、なぜ今回は理事長の話に応じたのだろう。そもそも、理事長は何と言って父親を呼び出したのだろうか。疑問はすぐに解決した。
「希がね、スクールアイドルをしているというのは、弟から聞いていました。進路にも大きく関わってくるので今回の件、非常に私としても困るんです」
「どういうことですか?」
「綾瀬さん、あなたがリーダーですか? 希が抜けるとスクールアイドルも解散ということですよね。希にはどうにか抜けないように説得しますから、解散させないでくさい。希にもこちらに顔を出すように言っておきますから」
解散? 何の話をしているのだろうか。私はことりを見た。アイコンタクト。話を合わせて、と言っているようだった。
「希は、母親のそばをなかなか離れられないと聞いています。どのようになされるおつもりなんですか?」
「まあ、家政婦を一人雇いますよ。妻を見るのは、希じゃなくても構わないので」
そうだろうか。あの様子だと、そうでもないような気がする。
「あの、あなたが奥さんを見るというのは難しいのでしょうか?」
海未がおずおずと質問した。
「私? 私にはそんな時間はありませんよ」
「ですが、実際にこうやってここに来る時間はありますよね? 交代で見ることはできないんですか? 希は、家族で見るべきだと言っていましたが」
海未はちらりと私を見た。少し、震えていた。
「希がそんなことを?」
「ええ」
私は頷く。
「まだ、そんなことを言ってるんですね。妻は、希かどうか区別なんてついてないのに……可哀想な子だ」
「どういうことですか?」
「希から聞いていないんですか? 妻は、誰が来ても希しか言わないんですよ」
「そんな……」
「だから、家族で見ようが親戚で見ようが、全く赤の他人で見ようが変わらないことなんですよ。まあ、私も何年も前に分かったことで、今はどうかさえ知りませんが。さて、こんな話をしに来たんじゃないんです。希を妻から引き離しますので、μ'sを存続させ、ラブライブに出場しなさいな。応援してますよ。今の実力なら、ラブライブの上位もおかしくないでしょうし」
理事長がどうも一計を案じたようだ。そして、この男はまんまとそれに嵌った。
「なるほど、希のためと仰るんですね」
「ええ、あなたたちも青春をしっかり謳歌してください」
希のため。この男は、希がなぜお母さんを見ようとしているのか、知っているのだろうか。それは、家族だからではないのか。
「あなたの仰ることは分かりました」
「ああ、良かった」
「ですが、希が戻ったとしても、ラブライブには出ませんし、μ'sも解散させます」
「?!」
彼は目を見開く。自分の思い通りにならなかった、そんな表情だった。
海未もこちらを見る。内心はらはらしているに違いない。
「それは困るな。いや私ではなく、希がなんですがね。君たちもそんなことをすれば、名に傷が残るでしょう」
「そんなことは些細なことなんです。私たちは、希が本当にやりたいことをさせてあげたい。だから、無理に戻してもらう必要はありません」
「な、何を言っているんですか? 希が戻らなくて困るのはそちらの方でしょう?」
汚い人だ。あたかも、こちらの分が悪いかのように話を進めてくる。
「それは、あなたもですよね? 自分の名に傷がつくのを恐れてますよね。子どもを自分のステータス、くらいにしか思っていないんですか?」
「何を言っているんだ!」
声を荒げる。図星か。ハラショー。
「やめてください。そうやって脅せば私たちが言うことを聞くとでも思っているんですか? 自分の娘もそうやって脅すつもりなんですか?」
「……ああ、すみませんね。怒鳴るつもりはなかったんです。脅すなんて、そんな」
「話を戻しますね。私たちがμ'sを解散させない条件は、あなたが奥さんの世話をする。それだけです」
「……だから、私には時間が」
突如、部室のドアが勢いよく開いた。
「さっきから、なんなのあんた!」
「に、にこちゃんってば?!」
「てやんでい、こっちだって言いたいことあるぞ!」
「ほ、穂乃果?!」
「凛も良くわからないけど、にゃー!!」
「アホだ、アホがいる!」
「な、なんですか? 君たちも、μ'sのメンバーなんですか?」
父親は面食らっていた。どかどかと、残りのメンツが蟻の子のように入ってくる。
「希は、家族がいいって言ってるのに、どうして分かってやんないのよ」
「ていうかさ、時間時間って、たんに自分が忘れられてるのが怖いだけでしょ」
「ま、真姫ちゃんそれ言ったらだめだよ……」
「お父さん!」
「な、何ですか」
穂乃果が言った。
「希ちゃんは、お母さんを諦めてない。なのに、あなたは逃げるんですか? 伝えてあげてください、諦めなければ家族でいられるって。希ちゃんに諦めないことを伝えてください。お願いします。いたッ」
彼女は頭を下げた。下げすぎて、机におでこが当たった。
「私からもお願いします。保身のためではなく、家族のためにあなたが希を説得してくれることを願います」
私も頭を下げた。私には、この男が許せなかった。この男のためではない。希の家族のためだ。
メンバーの全員が頭を下げた。
そして、穂乃果が顔を上げた。
「私は、あなたを応援します。頑張って、お父さん!」
そこにいる誰もが、予想しなかった穂乃果の一言だった。海未の肩が少しこけた。
「……そんな、そんな風に言われたのは初めてですよ……はは」
父親は、少し疲れた表情を見せた。
「確かに、臆病風に吹かれて……妻に会わなくなりました。いつの間にか、自分のことばかり考えていましたよ。まさか、女子高生にそれを指摘されるなんてね……情けない」
私は、彼の苦労を知らない。穂乃果のように素直に応援することはできない。ただ、彼は自分の姿によく似ていた。過去、自信の無くなった自分が、自分を守るために作り上げようとしていたものに。それは、誰からも愛されない自分。誰からも傷つけられないように。
「情けなくないです。頑張ってたら誰だって苦しいです。逃げたくなります。自分の事守りたくなりますよ」
穂乃果の言葉を聞き、彼は少し笑った。
私は他のメンバーの推薦もあり、希の父親と一緒にまたあの病室の前にいた。
病室をノックする。
「はい?」
20代くらいの若い男性が出てきた。
「なんだ、来てたのか」
「兄さん、久しぶりだね」
「すまない、時間を作ってこれからは妻を見ようと思う……ありがとう」
「いいよ……そちらは?」
「こんにちは。希さんの同級生の綾瀬絵里と申します」
「希ちゃんの……へー。希ちゃん、今買出しに行ってるから」
「妻はおとなしいな。寝ているのか」
「うん、寝てる。静かにね。起きるとややこいから」
弟は人差し指を口元に当てる。ガサガサとビニール袋のこすれる音。振り返る。希だった。
「えりち……お父さん」
希は袋を取り落としそうになって、慌てて掴む。
「希……お父さん、これからは一緒に看病するから、普通に学校に行きなさい。今の時期は特に、練習で忙しいだろう」
「それは、お父さんもでしょ……?」
半信半疑と言った様子で、希は言った。
「すまなかった……怖かったんだ。妻に忘れられたのも、自分の妻がそうなってしまったのも……許さなくてもいい。せめて、そばにいさせてほしい」
「そんなの……いいに決まってる……」
希は頭を下げる父親に、ぽつりと言った。それを聞いて、彼は妻の眠るベッドに静かに歩いて行った。
「希……良かったわね」
「なに、えりち何したん……?」
「お父さんと話しただけよ……」
「嘘……そんなんで」
「お父さんも、諦めの悪い人だった……そういうことよ」
「えりち、何を……ううん、えりちがここおるってことは、ウチを呼び戻しに来たんやね」
「ご名答」
私は希の腕を掴む。
「あなたのやりたいこと、聞かせて希」
「こらこら、静かにって言ったよね」
希の腕を掴んでいた腕を、若い叔父が舐めるように握った。ぞくりとして、私はとっさに腕を引いた。何?
「希ちゃん、可愛いお友達だね、クオーターかな?」
「ええ、ロシア人の血が少し」
「通りで髪の毛の色が違うわけだ。目も顔の形も」
「叔父さん、そろそろ帰らなくていいんですか?」
希が言った。
「ああ、そうだね。もうこんな時間か。希ちゃんといると、時間が経つのを忘れちゃうから困る。それじゃあ、また綾瀬さん」
「はい」
彼はひょうきんな笑顔を向けて、手を振る。それを見送ってから、希の方を見る。怒っていた。
「えりち、ちょっと来てくれん?」
37 : VIPに... - 2014/05/30 00:43:05.94 KMqBquNr0 31/66えりちは絢瀬なんやで
38 : VIPに... - 2014/05/30 00:47:46.37 /8VZOX7B0 32/66あ、しまった
病院のロビーに陳列されたソファーに二人腰かける。
「なあ、えりち。どういう風にお父さんを説得してくれたんかは知らんけど……私は、もうμ'sにはおれん」
「なんで、そうなるのよ……?」
私は愕然とした。そんな風に返されるとは、思っていなかった。
「ここまでや、えりち。ここからは、えりちに踏み入って欲しくない。お願いやから…構わんといて」
父親が戻れば元に戻る、そう思っていた。しかし、希は私を受け入れなかった。
「教えてよ、希? 何を隠してるの?」
「聞かんといて、お願いや。えりちにだけは知られたくないんよ。それだけは、知ってほしい……」
「何よそれ。そこまで言っておいて……」
「他のみんなにもよろしく伝えて……女神はもうおらんて」
「……希!」
思わず、手が出ていた。乾いた音が、ロビーに木霊する。
周りの人間がこちらを窺っていたが、そんなものを気にする余裕はなかった。
「痛いやんえりちの……愛のムチ」
「バカにしてるの?」
「そんなんやない」
「私は、希の力になれない……そういうこと? 私には相応しくない?」
「そんなこと言ってないやろ?」
「ねえ、希。私があなたのことをどう思ってるか知ってる?」
「……」
「大好き、愛してるわ。バカ希」
「ありがとう」
私はそれだけ言い残して、そこを去った。それ以上は辛かったのだ。諦めたわけではない。自分にそう言い聞かせていた。
希の心をこれっぽちも揺らすことができない。私の中心に希はいても、彼女の中に私はいない。
そう、言われているようだった。
次の日、私はメンバーに事の顛末を話、そして部室の隅で蹲っていた。
「誰かあれ粗大ゴミに出してきてよ、うっとおしい」
にこの声だ。ちらりと顔を上げる。
「……ッはあ」
「にこの顔を見てため息? 言い度胸ね」
「止めなよ、にこちゃん。もう少しそっとしておこう」
「……ちッ。真姫ちゃん」
「なによ」
「行くわよ」
「どこに」
「分かってるでしょ、希のアパートよ」
「……はいはい。そう言うと思ってた」
私はそれを聞いてにこを見た。
「あんたはここにいなさいよ。希はあんたに知られたくないことがあるんだから」
「うッ……えりちかお家帰る」
「勝手に帰れ」
「に、にこちゃん、絵里ちゃん息してないよ」
「知るか」
「荒療治だにゃー」
45 : VIPに... - 2014/05/30 12:47:19.75 mHPfCWAno 36/66のんたんは東條やで
48 : VIPに... - 2014/05/30 22:41:24.41 /8VZOX7B0 37/66苗字間違えすぎてごめん。脳内変換よろしく
もう、どうして私がこんな役回りをしているのだろう。
「にこちゃん、ちょっと」
「何よ」
私が横断歩道を渡ろうとすると、真姫ちゃんに肩を掴まれた。
「そっち、希の家と逆」
「真姫ちゃん、早く言いなさいよ」
「さっきから言ってたわよ。聞いてなかったのはにこちゃんでしょ」
「わ、悪かったわね」
焦っているのかもしれない。希がμ'sから離れていくことに対して。いや、違うか。腹が立っている。一発お尻を叩いてやりたい気分だ。絵里にしろ希にしろ、互いに何を遠慮しているのだろう。
「にこちゃんが怒ってもしょうがないでしょ。希は絵里が叱ってやんないと」
真姫ちゃんが見透かしたように言った。
「あのロシアン人形が拭抜けちゃってるから、こうしてにこが直々に出向くことになった。全て、ロシアが悪いわけよ」
「いや、ロシアは悪くないわよ?」
「はいはい」
分かってる。場を紛らわすジョークだ。
「あった、あのマンションだわ」
真姫ちゃんが指を差した。見覚えのある建物。
あの箱の中に、一人でいるのは寂しいことだ。それだけは分かってやれる。
「……たく」
「にこちゃん?」
「甘えられずに育ったやつってのは、ほんと厄介ね」
「にこちゃんてさ、意外とお姉ちゃんしてるわよね……」
「まあね。意外とは余計よ」
「希の気持ち、少しだけ分かる気がする……」
マンションの入り口の前に来て、真姫ちゃんが立ち止まる。
「……希の気持ちね」
「分かってほしいから、分かってくれない時辛い。先の事を考えると、結局何も言えない。それに、だって、自分のことだから自分でしかどうにもできないでしょ」
「何それ、めんどくさいわね。言いたいことがあるならすぱっと言いなさいよね」
「私にこちゃんのそういう所好きよ」
「迷うくらい言いたいことを言わないから迷うのよ。ほんと、にこがいないとダメダメね、うちの3年は」
ふと、真姫ちゃんの視線を感じた。
「こら、見下ろすな」
「ごめんごめん」
運命に任せて、良い時と悪い時があるじゃない。今は、悪い時。神頼みが期待外れを招く。
エレベーターに乗って、希の部屋の前についた。ここに来るのは、これで2度目か。
「何か聞こえない?」
「さあ、何も聞こえないけど」
耳が良いのか、そう言って、真姫ちゃんはドアに耳を当てる。
「……なにかしら……変な物音が……言い争ってるッ?!」
「!?」
とっさにドアノブに手をかけた。鍵が閉まっている。インターホンを押す。押す。押す。
「……あ、聞こえなくなった」
「ちょっと、ちょっと! やばいんじゃないの、これ」
ドアを打ったたこうとした時、
「……足音が、玄関に近づいてくる」
「え?」
と、ロックの解除音が聞こえた。
「ととッ」
「どなた?」
出てきたのは若い男だった。
「あんたこそ誰よ」
「僕? 僕は希の父親の弟、叔父さん」
「そう、どうも。あんたに用はないの。希は? いるんでしょ、出しなさい」
「いるけど、会いたくないってさ」
「希! にこが言うこと素直に聞くと思ってんの?!」
無理やり入ろうとしら、
「ちょっと、ちょっと。ご近所迷惑になるから叫ばないでくれる? 乱暴だね、最近の女子高生は」
希の叔父が、慌てて私の体を押し戻す。真姫ちゃんが素早く、その手を払いのけた。
「ちょっと、にこちゃんに気安く触らないで。だいたい、さっき言い争ってる声が聞こえたんだけど」
「言い争い? ああ、テレビの音だよ。サスペンスもの」
「それが本当だとして、友達が心配して来てるんだから、少しくらい会うように配慮したらどうなの? あんた、ほんとに叔父?」
「失礼だな。ちゃんと叔父だよ。とにかく、会いたくないって言ってるんだから、希ちゃんの気持ちを優先させるべきじゃない?」
「じゃあ、本人に直接聞くわ。希! あんた――」
叫ぼうとして、
「にこっち!」
希の声に遮られた。
「お願いやん……帰って」
姿の見えない彼女の言葉。
「帰って、と言われて帰れるか!」
「そうよ、希はめんどくさいやつなんだから。100回くらい聞かないと、本当の事なんて言わないわよ」
「にこっち……真姫ちゃんもいるん? また学校で会えるやん、そん時に話すって、な?」
「叔父さんも、可愛い姪がああ言ってるから断れないんだよ」
「ッ……」
「……にこちゃん」
私は真姫ちゃんに目配せした。彼女は頷いた。さすが、私の真姫ちゃん。
「ああ、もう、分かったわ。諦めるわよ。また明日でもまた明後日でもまた来週でも好きなようにすればいいわ! 帰るわよ、真姫ちゃん!!」
「ちょっと、にこちゃん?!」
「行くわよ、真姫ちゃん!!」
「で、でも」
「ごめんね、また今度遊びにおいで」
叔父は笑いながらドアノブから手を離し、こちらに手を振る。
「なんて! 今度なんて言うかああああ!」
私は振り返って、叔父に猫だましを食らわした。そして、とにかく勢いよく、叔父に頭突きを食らわしてやった。彼はよろめいて、廊下の壁に背中を打ち付ける。
「ごめんあそばせ!」
「っつあ!?」
その間に、真姫ちゃんを部屋の奥へ行かせた。
私も続けて、希の所へ向かった。
「……希」
「にこっち……ッ」
希の衣服は乱れていた。なにより、上着がはさみでばっさりと切られたかのように、切断されていた。髪もぼさついていた。乱雑に床に散らばる雑誌や、化粧品。ベッドの上で、唖然としてこちらを見る彼女は怯えたウサギのようだった。
「なにこれ……あんた、何されたの」
希は答えない。
「……ちょっとしたおままごとだよ」
足音もなく叔父がよろめきながら言った。
「ままごと?」
希を見る。顔を伏せていた。
「さっきサスペンス見てたって言ってたわよね? テレビすらついてないんだけど」
私の方へ向き直る。彼は、しらばっくれたように、
「そんなこと言ったっけ」
首を傾げた。顎を痛そうにさする。無表情が逆に不気味だった。
「希ちゃんの友人、乱暴だよね。おじさん、顎われちゃうかと思ったよ? ねえ、希ちゃんからも言ってよ。ただの遊び、いつもの遊び」
「……そうやね、そうなんよ……」
「ほらね」
「何が、ほらねよ」
私は吐き捨てるように言った。
「真姫ちゃん、希の制服出して。着せてやって」
「了解よ」
希は何も言わない。代わりに叔父が止めに入った。クローゼットを開ける真姫ちゃんの肩を掴む。
「ちょっと、ちょっと、なにする気」
「何って、学校に行くだけよ、見れば分かるでしょ」
「ほんと、口の悪いガキどもだね……」
パン――!
何かが破裂したような音。目の前の真姫ちゃんがよろめいた。
「は? ちょ」
次の瞬間、叔父の腕が彼女の腹部に突き刺さっていた。悶絶しながら、真姫ちゃんが膝をついて床に蹲る。
「げほぉッ……つッ」
「真姫ちゃん!」
「お返しね。軽くしといたから、子どもはちゃんと産めるよきっと」
「叔父さん!?」
希が叫ぶ。
「ごめんごめん」
「乱暴はやめてください!」
「先に乱暴したのは、この子たちだよ?」
一瞬の事で思考が混乱したが、数秒後には殺意が沸いた。しかし、それを行動で示す前に、叔父は私の髪を素早く掴んで引き寄せた。
「きゃッ!?」
「小学生みたいだね……軽い。さすが、アイドル近くで見るとほんと可愛い。顔だけは最高」
「ざけんなッ! 離せ!」
「女の子はね、希ちゃんのようにしおらしく、おしとやかでないと」
手足を上から抑え込まれ、身動きがとれない。
「ねえ、希ちゃん。この子どうしたい?」
「離してくださいッ。お願いです。許してあげてくださいッ」
「どうしよっかなあ」
「なんで、あんたに許されなきゃなんないのよ!」
男の腕力というものがいかに女、それも子どもと差があるのかということを初めて思い知らされた。
「威勢がいいね。恐怖心とかないわけ?」
「は?」
太ももがぞわりとした。叔父に撫でられていた。
「やめッ?!」
「ねえ、怖い?」
息づかいが荒い。左手で、胸をまさぐられた。
「叔父さん、やめて!」
「にこちゃんにッ―――」
後ろから声がした。
「触るなって言ったでしょ!!!」
「があッ!?」
鈍い音とともに、生暖かくて気持ち悪かった叔父の動きが止まった。私は叔父を払いのける。彼は頭部を抑えながらクローゼットにもたれかかった。
ついで、真姫ちゃんを見る。痛みのせいか恐怖のせいか涙をぼろぼろ流して、右手には分厚い辞書を持っていた。その角はひしゃげていた。
「やるわね、真姫ちゃん! 」
私はクローゼットから素早く制服を取り出した。それから、希の手を掴む。
「行くわよ!」
彼女はすぐに動かない。動けないと言った方がいいのだろうか。真姫ちゃんが希の体を無理やり立たせた。覚束ない足。真姫ちゃんは、希に着ていたジャケットを羽織らせた。
「真姫ちゃんタクシー呼んで、タクシー!」
私はそう指示して、叔父を見た。まだ蹲っている。こんな叔父の言うことを、なぜ希は聞いていたのか。疑問の多くを飲み込んで、希の肩をひっぱる。
「にこっち……」
「……」
私の名前を呟く希の声を背に受け、何も答えずに彼女の腕を引いて、部屋を後にした。
その後、タクシーで学校に向かおうとしたら、希に止められた。確かに、こんな姿では希が好奇の目に晒される。私もかなり混乱していたから、仕方ないが。
にこの家にも、妹達がいる。しばし頭を捻らせ、結局真姫ちゃんの提案で、彼女の別荘へと向かうことにした。
「はああッ……」
私は別荘のリビングでソファの背にもたれかかり深く息をついた。張りつめていた神経がふっと緩んだ。真姫ちゃんはちょっと顔を洗ってくると言って、その場を離れた。
「にこっち……」
「あによ……」
「えりちに言わないで」
「……」
「お願い、えりちにだけは知られたくないんよ」
「んなこと言っても……」
私は頭をぽりぽりと掻いた。
「悪い、もう来てる」
「え」
床が軋む音。希は恐る恐る振り返った。私も視線だけ入口に向けた。真姫ちゃんの隣に、絵里が立っていた。
「えりち!?」
弾けるように、希は立ち上がった。上着がずり落ちてしまい、希は慌てて両手で体を隠した。
「希……どうしたの……それ」
絵里は途切れ途切れに言った。
「見んといて! お願いや、見んといて!」
希は後ずさってしゃがみ込む。絵里の視線から逃れるようにソファーの陰に身を隠した。私はソファーから身を起こす。リビングの入り口に移動して、絵里の背中を押した。
「後は、二人でやんなさいよ」
まだ目の赤い真姫ちゃんを見る。痛みのせいか、少し顔を歪ませている。
「おいで、真姫ちゃん」
こっちはこっちで慰めないといけないのだ。後は、勝手にやってくれ。
「にこ……ありがと」
「ええ、ええ。お礼なら後で死ぬほどしてもらうわよ。さっさと行きなさいっての」
「うん」
一歩踏み出した彼女の足音を聞いてから、私と真姫ちゃんは別の部屋に移動した。
「希……」
どうして、にこと一緒に行かなかったのだろう。行けば何か変わっていたかというと、それは分からないが。
希がこんな状態になってしまって、その後に、のこのこと現れた私。
「あの、叔父さん……」
「……ッ」
希の肩が震えた。
「許さない……希にこんな……ひどい」
私は希の肩を抱いた。希が抵抗する。
「はなしッ……」
「希……ごめん……ごめんなさい。怖かったわよね……」
「やめてッ……無理せんでええよ、えりち……気持ち悪いやろ? 叔父にいたずらされよったんよ?」
「希……」
「子どもの時から、ずっと! えりち……触ったらあかんてッ……えりちが汚れてしまう」
希は私を押しのける。冷たい指。震えている。
「今日はな、服の着せ替えやって……新しい服は買ってやるって……ハサミでちょきちょきと切られてな……あの人、そういうんが好きなんよ。おままごとみたいなのが……何々ごっことか……」
希は自嘲気味に笑った。ふと、先日もらったお茶の味が喉に蘇ってきて吐き気をもよおした。それをこらえる。
「人にこんなこと言ったら、みんな気味悪がるし……言えんかった。でも、もうバレてもうたしな……はは」
「そんなことない。こんなことをされても、誰にも泣き言を言わなかった。あなたは、強い人間だわッ……」
両親にも言えず、友人にも言えず、ずっと一人で耐えてきた。
「なあ、えりち……えりちは綺麗なまんまでおってな。良い人見つけて……幸せになってな」
「私は…………」
「ええて、こんなのと一緒におったら汚いの移ってしまうやろ?」
「汚くなんかないわよ……ッ」
「叔父の手垢でべとべとや……」
なぜそんな言い方をするのだろう。なぜ、私から離れていこうとするのだろう。
「綺麗とか汚いとか、そんなことで私は希から離れないから」
私は、彼女の母親のことを思い出す。まだ、私には彼女の全てを理解し分かち合うことはできない。それは、悔しいが事実だった。
「希……」
彼女の頬を優しく包み込む。顔をこちらに向けさせると、涙をとめどなくなく流す彼女と視線が合う。
「えりち……離して」
「どうして」
希が弱弱しく首を背けた。指の腹で涙をぬぐってやる。
「あなたが泣いてるときに……」
彼女の顔は熱があるかのように火照っていた。
「こうやって慰めて……」
唇を寄せる。おでこと頬に触れるだけのキスをした。
「キスをするのは私じゃなきゃいや……いやよ」
「そんなん……そんな……んッ……ッんむ」
続く言葉は言わせなかった。無理やり飲み込ませるように、私は希の唇を覆った。
後日――
希の母親の病室の前は騒がしかった。私は、穂乃果達が買ってきたバラの花束を受け取って、ため息をついた。
「ちょっと、みんな……誰がそんなに花を買って来いって言ったのよ。しかもみんなバラって」
「まあまあ、えりち。お母さんどんなお花も好きやで」
「けちくさいはね、あんた」
「なんですって?」
「穂乃果を止めなかった私の責任です……」
「海未ちゃんは悪くないよ、ことりも止めなかったし……」
「ご、ごめんね、みんな。たはは」
「で、でも確かに花瓶足りるかな……」
花陽が花束をしげしげと見て言った。そう、そこが問題だ。
「その時は、かよちんがこう……口をあけてだにゃ」
「え、私が花瓶になるの?!」
「静かにしなさいよね」
真姫がたしなめる。
「希ちゃん……」
穂乃果が、希に何か耳打ちしている。希がそれを聞いて、笑っていた。こちらに視線を向ける。
「な、なに?」
「いんや……ズみたいやなって」
「え? ごめんなさい聞こえなかったわ」
「なんでもあらへんよ……ふふ」
部屋の扉が開く。ナースが手招きして、
「今、落ち着かれてますからどうぞお入りください」
そう言った。
「あ、はい。失礼します」
希がなんて言ったかは分からなかったが、まあいい。
彼女が笑ってくれれば、それでいい。
おわり
81 : VIPに... - 2014/06/01 13:13:49.26 nO9Bmzc00 54/66めっちゃ長くなるかと思ったら結構早めに終わったのね
叔父のこととか解決したんだろうか。
面白かった。
83 : VIPに... - 2014/06/01 13:17:51.30 YWFB1aNu0 55/66>>81
そこまで書く気力がなかったけど、一応叔父はパパンにぼこぼこに制裁を加えられて懲りてもうきましぇんってとこまでは考えた
84 : VIPに... - 2014/06/01 13:21:50.32 sVmwmayXo 56/66>>83
逮捕されないんですかね…
85 : VIPに... - 2014/06/01 13:26:40.35 YWFB1aNu0 57/66>>84
希の父「弟が逮捕されれば、こちらもレッテル張られるから」
おまけ
希から叔父の処遇についてどうなったか聞き終わり、私はため息を吐いた。
部室には3年生しかおらず、他のメンバーはまだ来ていない。
「叔父さん、もう来ないって? 良かったじゃない」
「ええ、でも希の傷を癒すのにはきっと時間がかかるわ……」
「えりち、あんま思い詰めんといてって」
「あら、あんたらが永久就職すればいいだけの話しでしょ」
「ちょ、にこっち……何言って」
「どういうこと、永久就職って」
「あらーん、そんなことも知らないのぉ? まあ教えないけど」
「ちょっとにこっち、あんまえりちに変な事教えんといて」
「何焦ってんのよ。なに、そういうことも考えた事あるの?」
「あるわけないやん……何言って」
私は希の服の袖を引っ張る。
「私を置いて話を進めないでよ」
「もー、ほらえりちが食いついてきたやん」
「しーらない」
二人は何について話しているのだろうか。
「それよりさ、にこの武勇伝を」
「あー、にこっち先日は本当にありがとうございました。おかげさまでこうして無事にえりちと元鞘に戻れました」
「でしょお? にこの偉大さを思い知った?」
にこは人差し指で鼻をこする。
「あなたって人は、まるで小学生よ」
「まあまあ。でも、ウチ叔父さんの前やと体がすくんでしまって……なんもできんかったんよ……だから、あの時はほんまに尊敬したんやで」
「おほほ、もっと崇め立てなさい」
「あのにこっちはホンマかっこ良かった。あの時、にこっちに惚れかけたで」
希はそう言って笑った。
「ちょ、え、ちょっと希!?」
「……えっとー」
頬をぽりぽりと掻くにこ。
「にこも何まんざらじゃない顔してるのよッ」
「真姫ちゃんはええなー、いっつもあんな感じで守られとんやろな」
「の、希?」
「やーん、にこをめぐって争わないでッ。醜いわ!」
にこが体をくねらせる。何と腹の立つ仕草か。
「惚れかけたってだけでしょ。希が惚れてるのは……わ」
言いかけて、希を見る。え、間違ってないわよね。
「なに、えりち?」
「わ……何よ。続き気になるじゃない。早く言いなさいよ」
「……あなたたち口元緩みすぎなんだけど」
「そ、そんなことないって、そやろ、にこっち?」
「そーにこッ」
にこの語尾が意味不明だった。疲れたから、突っ込まないけど。
「……もしかして言わせようとしてない? 希?」
希が目を逸らす。おかしい。空気がおかしい。
と、机の下から物音。
「あいたッ」
「はいッ?」
私は机下をのぞき込んだ。
μ's一同がしゃがみ込んでこちらを気まずそうに見ていた。
「ひいい!?」
「わああ!?」
「ひゃああい!?」
「きゃああ!」
「にゃああ?!」
「!?」
私の声に驚いたのか、みな一斉に叫んでいた。
「あーあ、見つかったか」
にこが残念そうに言った。
「な、な、あなたたち何して……」
「聞くつもりでした!」
穂乃果が開口一番にそう言った。
「穂乃果、正直過ぎです!」
「ごめんな、えりち……騙すつもりしかなかったんよ」
「希!?」
「二人がラブラブなん見せつけてやろうぜ?」
「希のばかああ!」
「えりち!!」
――えりち
―――えりち!
「え?」
体を揺すられている。気だるい瞼を開くと、目の前には希がいた。
「変な夢……見てたわ」
「そうなん?」
「バカらしくて言葉にできないけど……」
「なにそれッ」
希は口元で手を隠して笑っている。
「そっか、私練習の後に寝ちゃってたのね……」
西日が屋上に差し込んでいた。希の叔父のことや練習、受験などで、色々と疲れが溜まっていたのかもしれない。
「あ、希」
「なに?」
「永久就職って意味わかる?」
「結婚するってことやな……」
「け、結婚……」
夢とはいえ大胆な会話をしてしまった。やはり、疲れているのだろう。
「する?」
そう真顔で問いかける希。固まる私。
「えりち? 冗談やで?」
「あ、うん、そうよね……」
あ、ちょっとだけ悲しい。
「……えりち百面相」
「?」
「よしよし」
よく分からないけれど、希が頭を撫でてきた。
それが気持ちよかった。だから、もう少しこのままでいようかと思う。
「えりちは良いお嫁さんになるよ」
「ええ?!」
「ウチの」
「希ってばもおっ」
「ふふっ」
まだ、お家には帰りたくない。
おわり
98 : VIPに... - 2014/06/01 17:46:57.42 L2Feywcco 65/66乙
途中胸糞だったけどハッピーエンドでよかった
なんでノゾーは黙って従ってたの?
99 : VIPに... - 2014/06/01 17:58:30.59 YWFB1aNu0 66/66>>98
一番は子供のころからのトラウマだから、条件反射的に逆らえない。
あと、自分がそんなことになっているのを知られて、周囲が自分を避けるのが嫌。
それと、希自身抵抗しても無駄だって諦めてた