部長「そうだ、地域住民との触れ合いと警察のイメージアップを兼ねての催しだ」
両津「それなら毎年バザーや祭りをやっているじゃないですか」
部長「うむ…例年ならば確かに野外での催しをやる所なんだが、その後どうしてもゴミが散らばったり、声がうるさいとの苦情が入るようになってな…だから今年は屋内で出来る催しをということになったのだ」
両津「無視すりゃ良いんですよそんなもん」
中川「そんなわけに行かないですよ先輩」
元スレ
両津「え!葛飾署で演劇を?」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1422015171/
両津「黙れ!そもそもそういう行事に対して事後に苦情を入れて来ることが間違ってるんだ!」
両津「人が集って何かをすればどうしてもゴミは散らばる!声も大きくなる!そんな予想出来ることは先に話し合いをしに来れば良いんだ!」
中川「そ、それは確かにそうですけど」
麗子「でも、いくら話し合いをしても対策をし切れない事ってあるわよ」
両津「それは大きな問題ではない!」
中川「え?」
両津「話し合いをしたという事実だけ残れば良いんだ。‘一応、善処は致します’というな」
両津「テレビのバラエティなんかで、出演者が食べ物を粗末に扱うシーンがあるだろう」
中川「はい」
両津「あれも何の前置きや説明なしにやっていた頃は苦情の嵐だったが、たった一言‘このあとスタッフが頂きました’とテロップを入れるだけで苦情の数は激減したんだぞ」
麗子「まあ、そうなの」
両津「食べ物をコンクリートにぶちまけて土足で踏み付けてもそのテロップを入れるだけで苦情の数が減るんだぞ、そんなものいちいちスタッフが食っていたらテレビ局は食中毒でみんな死ぬぞ」
中川「そ、それは……」
両津「だから葛飾署の催しも事前に近隣住民や自治体と話し合いでも何でもして、そして催し後は我々が清掃活動をしますとでも言っておけば良いんだ」
両津「対策委員会の設置でも良い。市民はそういう委員会やらという言葉に弱い!」
両津「と言うわけで部長、それを踏まえて今年もバザーをやりましょう」
中川「面倒な事をしたくないだけじゃ……」
両津「おっと中川君ネクタイが緩んでいるよ」メキ
中川「ぐええっ!」
部長「うーむしかしもう既に市民ホールも予約してしまった!」
両津「」ズルッ
中川「ゲホッゲホッ酷いなあもう」
両津「早過ぎですよ部長!演目だってまだ決まっていないんでしょう!」
部長「しかし市民ホールの空きを問い合わせたらもうその日しか空いてないと言われてしまって……」
両津「全く……それで、いつに予約したんですか?」
部長「一週間後だ」
両津「」ズルッ
両津「ぶ~ちょ~、演劇がそんな直ぐに出来ると思っているんですか?」
部長「出来んのか!」
両津「出来ませんよ!台本はどうするんですか!?スタッフは!?キャスティングは!?ポスターやフライヤー等の作成は!?それを踏まえてもセリフを覚えたりスタッフワークの確認だったり、一週間なんて準備だけで消化し得る期間ですよ!」
麗子「確かに、一週間はちょっとね……」
両津「ちょっとどころではない!」
部長「うーむ、しかしもう我々が主体となって何とかすると署長と約束してしまった」
両津「なんてことを!」
部長「両津~、なんとかならんか、お前のそのずる賢さをわしは買ってるんだ」
両津「バカにしているでしょうそれは!」
部長「中川も麗子君も何とか協力してくれないか、今更出来ない等となっては署長からの信頼に関わる」
両津「そんなものあって無いような物でしょう」
麗子「両ちゃん!……しょうがないわねぇ、部長さんからのお願いだし、何とかしたいけど……」
中川「問題は公演までの期間の短さだね」
麗子「こんなのはどうかしら!同じ演目を、地方を巡りながらやっている劇団ってあるじゃない?そういう人達を招いてやってもらうの」
中川「それなら確かに良いかもしれないね。先輩ならそういう知り合いの方がいるんじゃないですか?」
両津「駄目だ、確かに知り合いにそういった劇団はあるが、奴らはかなりタイトなスケジュールで地方を巡っているからな。縫う合間などない」
部長「そこを何とかならんか両津」
両津「仮に呼べたとして、ギャラや滞在費はどうするんですか?市民ホールの費用だけでもなかなかの額になっている筈です。奴らも非営利でやっている訳じゃないんですから、タダでは来てくれませんよ」
中川「それは確かにそうですね……」
両津「まあ諦めて他の催しでも……」
部長「頼む両津!!」ガバッ
両津「ぐお!?ぶ、部長、首を……!」
部長「そもそも署長からの信頼が落ちているのはほとんどお前が原因なんだ!こんな時くらい役に立たんか!!」ブンブン
中川「ほとんど脅迫だ……」
両津「わ、わかりました……ぶちょう、やります、やります……」
部長「そうか!やってくれるか両津!!いやー良かった良かった!はっはっはっ!」
両津「ぐええ、本気で締めやがって……落とされる所だったぞ」
部長「ではわしは署へ行って来る!中川と麗子君も両津に協力してやってくれ!」
麗子「えぇ……」
中川「は、はい」
両津「くそう、最初から力づくでやらせる気だったんじゃないかちくしょう!」ゴホゴホ
次の日
本田「ええ!?それで、先輩が中心になってやることになっちゃったんですかぁ!?」
麗子「そうなの、今日も準備をするって言って休んでるんだけど……」
中川「さすがの先輩でも無理なんじゃないかなあ、一週間でやるっていうのは……」
本田「でも、演劇って楽しそうですよねぇ、友達が劇団に入っててたまに観に行くんですよ」
麗子「あら、そうなの?」
本田「はい、それで、その劇団が面白いんです。凄く残酷なシーンとか、ちょっと怖いシーンがあったりするんですけど、そこが他の演劇と違って新鮮なんですよねぇ」
両津「確かにそうだな」
麗子「両ちゃん!
中川「先輩!準備は出来たんですか!?」
両津「うむ」
中川「それで、どんな演劇を?」
両津「ああ、その前に今本田が話していた事だがな」
本田「友達の劇団の話ですか?」
両津「そうだ。お前の言う残酷なシーンや怖いシーンとは、猟奇的な殺人が起きたり非現実的な事柄が起きたりする事だろう?」
本田「はい、そうです。普通の恋愛やSFっぽさはなくて、ドラマや映画で見られないような雰囲気があるって言うか……」
両津「恋愛にしても変わった価値観や性癖のある役が出てくるだろう」
本田「そうなんですぅ~!それがまたゾクゾクするんですよ!」
中川「どういうことですか?先輩」
両津「うむ、本田が観た演劇というのは‘アングラ演劇’と呼ばれるジャンルの物だ」
麗子「アングラ演劇?」
両津「本田が話していたように、ドラマや映画、舞台演劇でも宝塚や劇団四季のように王道的なストーリーとは対極にあると言っても良いジャンルだな」
本田「そうです、だからインパクトがあって……」
両津「確かにアングラにはインパクトがある!そしてある種の中毒性もあるな」
両津「物語の中で、非現実な事件が起きれば当然強い印象を残す。そして賛否共に反響も来る。王道的なストーリーで強い印象を与えるより簡単だ」
中川「確かに、王道物は掘り尽くされてしまった感じはありますね」
麗子「じゃあ、今回もそのアングラ演劇をやるの?ちょっと怖いわね」
両津「いや、やらん」
本田「えぇ?」
両津「確かにインパクトは強く芸術性も高いが大衆向けではない。今回は地域住民向けの演劇だからな。そんな演劇をやったら下手すると死人が出るぞ」
麗子「年配の方も来るものね」
両津「そもそもアングラなど‘ちょっと普通と違う自分達’に酔いしれた劇団と‘ちょっと普通とは違う自分’に酔いたい客の慰め合いだ。わしはそんな物をやるつもりはない」
中川「じゃあ、何をやるんですか?」
キキーッ
麗子「あら?車が来たわ」
中川「誰だろう?」
纏「勘吉!来たよ」
両津「おう!待ってたぞ!よし行くぞお前達」
中川「え!?でも派出所が無人になっちゃいますよ!」
両津「臨時休業にしておけば良い!今はとにかく時間がないのだ!」
麗子「むちゃくちゃね……」
擬宝珠家
中川「あれ、部長に、左近寺さんにボルボさん」
部長「おお中川!」
両津「よし、みんな来ているな」
左近寺「どうしたんだ両津、寿司屋のバイトでもやらせるつもりか?」
ボルボ「寿司など握ったことないぞ」
両津「違う6日後の演劇に向けてお前達をここに呼んだんだ」
部長「なに!まさかわしも出るのか!?」
両津「ぶちょ~、そもそも部長が安請け合いしたから私がこんなに苦労しているんです。それくらいやってもらわないと」
部長「う、う~むしかし演技など……」
中川「でも先輩、脚本がないと演劇もなにも……」
両津「脚本ならもう出来ている」
本田「そうなんですか!?」
檸檬「おお、みんな集まっているの」
麗子「檸檬ちゃん?」
纏「檸檬、最終チェックは終わったのか?」
檸檬「うむ、完璧じゃ」
中川「最終チェックって……」
本田「先輩、もしかして」
両津「うむ、今回の脚本は檸檬に書いて貰った」
麗子「え!?」
部長「子供が書いた脚本をやるのか!?」
纏「私も昨日勘吉に言われた時は驚いたけどさ、何の演目をやるか聞いて納得したんだよ、それなら檸檬が適任だってね」
檸檬「うむ」
本田「な、何をやるんですかぁ?ま、魔法少女物とか……?」
両津「やるかそんなもの!……今回はここにいるメンバーで‘水戸黄門’をやってもらう!!」
中川「み、水戸黄門ですか!?」
両津「そうだ、葛飾署の催しに来る年齢層的に時代劇はウケが良い、そして水戸黄門はストーリーの雛形がわかりやすくオリジナルストーリーも作りやすい。中川と麗子が出演する事でビジュアル的にも客を飽きさせずに済む」
纏「30分くらいで収められるからセリフもそんなに多くないし、展開が王道な分複雑なセリフもないからね。短期間で作るにはうってつけだよ」
中川「確かに時代劇をやるなら檸檬ちゃんが適任ですね……」
麗子「部長さんより時代劇の知識が豊富だものね」
両津「もうポスター、フライヤー、パンフレットまで出来上がっている。無料公演だからチケットの必要はない。あとはセリフを覚えて形にするだけだ」
ボルボ「さすが仕事が早い!」
両津「中川は美男子だから助さん、格さんは柔術の使い手だから左近寺にやってもらう」
両津「中川は高学歴だからセリフを覚えるのなど朝飯前だろう、そして格さんは寡黙だからセリフは少なめで左近寺も安心だ」
左近寺「なるほど」
両津「お色気担当お銀は麗子だな。まあ入浴シーンくらいしかないから安心しろ」
麗子「安心出来ないわよそんなの!!」
両津「うっかり八兵衛は本田だ、中川との掛け合いがあるから引っ張ってもらえ」
本田「え~僕もっとかっこいい役が良かったなぁ……」
両津「弥七は忍者だからボルボだ。なに、適当に忍術を見せて風車を投げとけばそれだけで客は満足する」
ボルボ「良いのかそれは!」
部長「両津、わしは何をやるんだ?」
両津「部長は光圀ですよ」
部長「な!なに!?主役じゃないか!」
両津「大丈夫です!マスコットみたいな物ですから。はっはっはと笑いながら印籠出すだけですから!」
部長「……そう言われるとあまり良い役じゃない気がする」
両津「とにかく!あと6日しかない!今日から擬宝珠家に泊り込みで稽古をするから覚悟しろ!」
中川「まいったなあ……」
麗子「やだ、本当にお風呂シーンがあるわ」
両津「ああ、あと今回の演出は……」
夏春都「私だよ」
纏「お婆ちゃんも時代劇のプロだからね」
夏春都「無料の催しだからって水戸黄門をやるからには生半可な気持ちでやらせやしないよ!覚悟しておきな!!」
左近寺「大変なことになってしまったな」
部長「とりあえずセリフを覚えなくては!」
両津「さて、わしらは署へ行って衣装小道具大道具を作るぞ」
纏「女子プラモ研にも協力してもらおうか」
そしてそれから本番まで、夏春都による地獄のような稽古が続いた……
本番前日
部長「おお、もう舞台セットが出来上がっている」
中川「映画村以上の本格さですよ……」
ボルボ「凄いなこれは!」
麗子「一回しかやらないのがもったいなく感じるわね」
両津「今日は本番前ラストの稽古として、署長を始めとした関係者のみ客席へ入れて本番とほぼ同じ環境で最初から最後まで通してもらう」
部長「なに!署長が来るのか!」
両津「出来はどうだ?」
夏春都「まあまあって所だよ。人に見せるには値するくらいにはしたつもりさ」
両津「うむ、多少難がある事は想定内だ。その為に衣装小道具大道具を豪勢にしたんだからな」
両津「よし!じゃあ客席に署長達を入れます。部長達は舞台袖で待機していて下さい」
部長「う~む、緊張するな……」
演劇の出来は素晴らしく、そこまで期待していなかった署長達からは惜しみない拍手が送られた
署長「いやぁー素晴らしかったよ大原君!!やはり君に任せて正解だった!!」
部長「しょ、署長、そうですか!はっはっはっはっ!!」
署長「これならば地域の皆様にも胸を張ってお見せ出来る!毎年やっても良いかもしれんな!はっはっ!」
両津「署長、この芝居は私が……」
部長「いやあー苦労しましたよ!人の手配から何から初めてのことばかりでしたからな!」
両津「な!?ちょっぶちょ……」
部長「しかし署長の顔に泥を塗ってはならんとこの大原、誠心誠意今回の催しに取り組ませて頂きました!」
署長「うむ!さすが大原君だ!!」
二人「わはははは!!」
両津「……」
両津(ぐぐぅー部長め!わしがどれだけ苦労したと思っていやがる!!)
両津(くそお!見ていろ……!)
纏「あれ?勘吉、小道具と衣装がどうかしたのかい?」
両津「いや、本番前の最終チェックをしているだけだ」
纏「アンタってほんと顔に似合わず細かいよなぁ」
両津「余計なお世話だ!」
両津(よし、これでいい、明日が楽しみだふふふ……)
本番当日
雑兵A「え?殺陣では黄門様だけを狙うんですか?」
雑兵B「でもそれだと助さん格さんが……」
両津「部長は剣道の達人だ、そういう相手と切りあった方がリアリティがある」
雑兵C「確かに」
本番
部長「助さん格さん、やっておしまいなさい!」
雑兵「うおおお!」
雑兵「うおー!!」
中川(え!?なんでみんな部長の方へ!?)
左近寺(どういうことだ!?)
部長「な、なんだお前達!稽古と違……」
雑兵「おりゃあああ!!」
スパッ
部長「な!し、真剣!?」
客「おおー本格的じゃのうー」
客「黄門様ー!!がんばれー!!」
中川(よくわからないけど盛り上がってる……)
部長「き、昨日までは模造刀だったのに……」
雑兵「おりゃ!」
部長「うお!」
客「おお!避けた!さすが黄門様じゃ!!」
部長「演出に変更があったのかもしれん!行きますよ!助さん格さん!!」
両津(まだまだ終わらん!)
ガチムチ雑兵軍団「うおおおおー!!!」
部長「うお!!な、なんでこんなにたくさん雑兵がいるんだ!?」
中川「ひいい!」
客「おおー!!凄い殺陣じゃあー!!」
殺陣終了、舞台袖
部長「はあ、はあ、なんとか切り抜けたが一体何だったんだ……」
中川「結局僕達何もしませんでしたね」
左近寺「みんな部長へ向かって行ったからな」
部長「まあいい…もう後は印籠を見せて終わるだけだ……」
中川(何事もなく終われば良いけど……)
両津(うーむ、まさか真剣を持った雑兵を全員倒すとは……まあ良い、クライマックスだ……ふっふっふ……)
左近寺「この紋所が目に入らぬかー!?」
悪役「は、ははぁー!!」
悪役「お、お許し下さいー!!」
中川(やれやれ、何事もなく終わりそうだな……)
部長「これにて一件らくちゃ」
両津(よし!今だ!)ポチッ
部長「く!」パラパラッ
中川「な!?」
左近寺「うお!?」
部長(ん?なんだ?)「どうしましたか?助さん格さん」
客「きゃあああああー!!」
部長「え?」
中川「ぶ、部長!い、衣装が!!」
部長「衣装?……な、なに!?ぎゃあ!?」
左近寺「パ、パンツまで……」
纏「ま、幕を降ろすんだ!早く!!」
纏「勘吉!照明を落とせ!暗転……って、いない!?どこ行ったんだ!?」
本番は混乱のうちに終わり、部長は署長に呼び出されこってりと絞られるのだった。
次の日
両手浣腸鎧武者部長「両津の肛門野郎は何処だ!?」
中川「世直しの旅をすると言って出ていきました!!」
終わり